令和3(わ)1112 地方自治法違反

裁判年月日・裁判所
令和6年4月19日 名古屋地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-92951.txt

判決文本文9,758 文字)

- 1 -主文 被告人を懲役2年に処する。 この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、愛知県選挙管理委員会が令和2年8月25日、Aらを解職請求代表者として告示した同県県知事の解職請求に関し、解職請求者の署名を偽造しようと考え、分離前相被告人B並びにC及びDらと共謀の上、ほしいままに第1 同年10月23日、佐賀市a・b丁目c番d号Eにおいて、Fをして、愛知県知事解職請求者署名簿の氏名欄に、別紙1(以下、別紙はいずれも省略)記載のとおり、いずれも同県知事の選挙権を有するGほか38名の各氏名を記載させ、第2 同月25日から同月26日までの間、前記Eにおいて、Hをして、愛知県知事解職請求者署名簿の氏名欄に、別紙2記載のとおり、いずれも同県知事の選挙権を有するIほか15名の各氏名を記載させ、第3 同月下旬頃、前記Eにおいて、Jをして、愛知県知事解職請求者署名簿の氏名欄に、別紙3記載のとおり、いずれも同県知事の選挙権を有するKほか15名の各氏名を記載させ、もって解職請求者の署名を偽造した。 (争点に対する判断)第1 争点関係証拠によれば、被告人が共犯者らと共謀の上、愛知県知事の解職請求者の署名を偽造したことが優に認められ、この点は被告人、弁護人ともに争っていない。 他方、弁護人は、判示各事実に係る愛知県知事解職請求者署名簿(以下、総称して「本件署名簿」という。)及びその派生証拠につき、いずれも違法収集証拠として証拠排除されるべきであり、その結果、被告人は証拠上無罪であると主張する(争 - 2 -点1)ほか、情状に関する主張として、被告人には判示の署名偽造によって愛知県知事に対する解職請求(以下「本件リコール」という。 あり、その結果、被告人は証拠上無罪であると主張する(争 - 2 -点1)ほか、情状に関する主張として、被告人には判示の署名偽造によって愛知県知事に対する解職請求(以下「本件リコール」という。)を成立させる意図はなかったと主張する(争点2)ので、順次検討する。 第2 争点1(違法収集証拠排除の主張)について1 関係証拠によれば、次の事実が認められる。 ⑴ 令和2年6月頃(以下、特に断りがない限り、日付は令和2年のそれを指す。)、愛知県知事の解職請求運動をするための政治団体Lが設立された。代表者はAであり、被告人も請求代表者37名のうち一人となった(甲1、4、232)。 ⑵ 被告人は、共犯者らと相通じて、令和2年10月に愛知県知事の解職請求者の署名を署名簿に代筆させるなどして偽造した上、11月4日、各署名簿を愛知県内の64市区町村の選挙管理委員会(以下「市区町村選管」という。)に仮提出した(甲106)。 ⑶ 同月7日、Aは、政治団体Lの署名収集活動の中止を発表し、同月10日から14日にかけて、署名簿が選挙管理委員会から返却された場合にはそれらを公開消却(溶解)する予定であることをSNS上で公言した(甲242・5頁等)。 ⑷ この間、愛知県選挙管理委員会(以下「県選管」という。)には、本件署名簿につき、自己情報開示請求をした一部の県民から書いた覚えのない自分の署名があった旨の訴えが寄せられていたほか、上記請求代表者の一部からも不正な署名が多数存在すること等が報告されていた(証人Mの供述、甲257等)。これらを受け、県選管は、12月21日、市区町村選管宛てに、「愛知県知事解職請求に係る署名簿の調査について(依頼)」と題する文書(以下「本件依頼文書」という。職1)を発出した。 同文書は、市区町村選管に対し、①有効とは認められな 1日、市区町村選管宛てに、「愛知県知事解職請求に係る署名簿の調査について(依頼)」と題する文書(以下「本件依頼文書」という。職1)を発出した。 同文書は、市区町村選管に対し、①有効とは認められないと判断する署名の件数等を確認するよう依頼する(以下「本件調査依頼」という。)とともに、②県からの指示があるまでは請求代表者からの署名簿の返付には応じず、厳重に保管することを依頼(以下「本件保管要請」という。)するものであった。 - 3 -⑸ 本件調査依頼を受けた市区町村選管は、仮提出された署名簿について署名の筆跡の同一性等を確認する調査を実施し、令和3年1月、市区町村選管から県選管にその調査結果の回答が寄せられた。その概要は、仮提出された署名簿中の署名の多くが有効とは認められず、同一人の筆跡による署名が多数含まれているというものであった(証人Mの供述等)。 2 本件調査依頼について⑴ 弁護人は、県選管が行った本件調査依頼は専ら犯罪捜査に供する目的で行われた違法な行政調査であり、かつ、これに基づき市区町村選管が行った調査の手法も、署名者の生死などのプライバシー情報や政治思想を調査するなど、事実上の検証ないし鑑定処分を無権限で行ったという重大な違法があると主張するので、以下検討する。 ⑵ そこでまず、本件調査依頼の目的や根拠についてみる。 ア 本件当時、県選管事務局の局長補佐を務めていた証人Mは、本件調査依頼につき、直接請求制度が適正に運用されるようにするための検討材料とするとともに、その検討結果により現行の直接請求制度の問題点や課題等を総務省に対して提案・提言する目的で、地方自治法(以下「法」という。)245条の4第1項に基づいて行ったものであると供述し、本件依頼文書の名義人である証人Nも、本件調査依頼の目的について同旨の供述 総務省に対して提案・提言する目的で、地方自治法(以下「法」という。)245条の4第1項に基づいて行ったものであると供述し、本件依頼文書の名義人である証人Nも、本件調査依頼の目的について同旨の供述をする。 本件調査依頼の目的については、本件依頼文書にも同旨の記載がなされている。 また、証人Nによれば、県選管は、本件調査依頼に基づく調査結果を受け、総務省に対して現行制度における方法に問題がないか調査・研究するよう求める文書を発出し、同省からその回答を得たというのであって、同供述の信用性を疑わせる事情は見当たらない。そうだとすれば、本件調査依頼は、証人Mらが供述するとおり、法245条の4第1項に基づき「都道府県の執行機関」である県選管が「その担任する事務」である直接請求手続につき「普通地方公共団体の事務の適正な処理に関する情報を提供する」目的で「必要な資料の提出」を求めたものとみて、何ら不合 - 4 -理な点はない。 イ 弁護人は、本件調査依頼が専ら犯罪捜査に供する目的で発出されたことは、本件依頼文書の記載自体から明らかであると主張する。 確かに、本件依頼文書には、地方自治法上の罰則の適用に向けた動きになることも想定されることや、その際には本件署名簿が重要な証拠物件となることが記載されていることからすれば、県選管において、同依頼に基づく調査の結果が刑事手続の証拠となる可能性をも想定していたことは明らかである。もっとも、そうであるからといって、直接請求制度の適正な運用のための検討材料の収集等を目的としていたことと何ら矛盾するものではなく、前記のとおり、本件依頼文書には最初にその目的が記載されているほか、現にその調査結果が同目的に沿う形で利用されていることからすれば、それが本件調査依頼の目的の一つであったことに疑いはない。 専ら犯罪捜査 のとおり、本件依頼文書には最初にその目的が記載されているほか、現にその調査結果が同目的に沿う形で利用されていることからすれば、それが本件調査依頼の目的の一つであったことに疑いはない。 専ら犯罪捜査に供する目的で行われたとの弁護人の主張は、合理的な根拠がなく採用できない。 ウ また、弁護人は、法245条の4第1項において「都道府県の執行機関」が依頼をすることのできる客体は「普通地方公共団体」(都道府県及び市町村)と定められており、普通地方公共団体の執行機関である市区町村選管は客体とはなり得ないから、同条に基づく調査依頼は不適法であって、県選管が本件調査依頼の真意を糊塗しようとしていることはこのことからも明らかであると主張する。 そこでまず、法245条の4を含む地方自治法第11章第1節第1款の構造を見ると、そもそも同款は、関与の法定主義(法245条の2)の原則の下で、行政庁としての国(具体的には各大臣)や都道府県(具体的には知事やその執行機関)が主体として普通地方公共団体に関与する際の在り方を法定したものと解され、実際に同款においては、関与の主体たる行政庁については上記のような厳密な書き分けがされているのに対し、関与の客体についてはそのような厳密な書き分けをしておらず、むしろ、普通地方公共団体については、選挙管理委員会等の執行機関を包含するものとして位置付けているものと解される(例えば、普通地方公共団体に対す - 5 -る是正の要求について定めた法245条の5は、各大臣は、「市町村選挙管理委員会」の担任する事務に関して是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを当該「市町村」に求めるよう都道府県選挙管理委員会に指示をすることができる[第2項3号]と定めるとともに、そのような指示を受けた都道府県選挙管理委員会は、当該「市町村」に対 要な措置を講ずべきことを当該「市町村」に求めるよう都道府県選挙管理委員会に指示をすることができる[第2項3号]と定めるとともに、そのような指示を受けた都道府県選挙管理委員会は、当該「市町村」に対して、そのような是正等の要求をしなければならない旨規定している[第3項]。)。そうすると、法245条の4第1項の文理に照らして、本件調査依頼のように県の執行機関が普通地方公共団体の執行機関を名宛人として同項に基づき資料の提出を求めることが排除されていると解すべき理由は見当たらない。 さらに、実質的にみても、普通地方公共団体の執行機関は、当該普通地方公共団体の機能の各部分を分掌して担当しているという性質に照らして、法138条の3第2項は「執行機関相互の連絡を図り、すべて、一体として、行政機能を発揮するようにしなければならない。」と規定している。したがって、県選管が担任する事務に関する資料の提出を普通地方公共団体に求めるに当たり、当該事務を担任している市区町村選管をその「窓口」たる名宛人とすることには十分な合理性があると認められる。 以上によれば、県選管が法245条の4第1項に基づき市区町村選管宛てに本件調査依頼を発出したことは、法令の根拠を欠いた違法な行政調査であるとは評価できないから、弁護人の主張はその前提を欠き採用できない。 ⑶ 次に、本件調査依頼に基づく調査手法についてみる。 ア 証人Mの供述その他の関係証拠によれば、本件調査依頼は、依頼を受けた全ての市区町村選管において有効とは認められない署名の件数等を明らかにして県選管に回答を求めるものであるところ、その調査手法は、仮提出された署名簿の中の全署名に関し、選挙人名簿への登録の有無や生死、署名簿への必要的記載事項の記載の有無のほか、同一人による筆跡やぼ印ではないかといった事項を確認すると るところ、その調査手法は、仮提出された署名簿の中の全署名に関し、選挙人名簿への登録の有無や生死、署名簿への必要的記載事項の記載の有無のほか、同一人による筆跡やぼ印ではないかといった事項を確認するというものであって、第三者への聞き取り調査などは実施せず、各市区町村選管内部で完結させることが想定されていたことが認められる。 - 6 -イ 弁護人は、このような調査手法につき、検証ないし鑑定処分の実質を有すると主張する。しかし、その調査手法は、署名簿自体から明白な事実や、同選管自身の責任と権限において利用できる資料の範囲内で署名の有効性を判断するというものであって、この調査のために各市区町村選管がその権限を超えて個人の生死等のプライバシー情報や政治思想を調査するといったものではない。そうすると、本件調査依頼に基づく調査を行うことによって、署名者らが新たなプライバシー侵害を被るものではないから、既にみた調査目的の正当性に照らし、その調査手法が相当性を欠く違法なものとは評価できない。 ⑷ 以上によれば、本件調査依頼は専ら犯罪捜査に供する目的で行われたものとは認められないし、また、それに基づく調査手法も実質的な検証又は鑑定処分に当たるような違法な行政調査とは言えないから、この点に関する弁護人の主張は採用できない。 3 本件保管要請について⑴ 弁護人は、本件保管要請は、本件署名簿が犯罪捜査の重要な証拠物件となることを唯一の理由として行われた事実上の押収処分に該当すると主張するので、次にこの点について検討する。 ⑵ア 本件保管要請の趣旨について、証人M及び証人Nはいずれも、署名簿を返却することを含む直接請求の一連の手続が合同行為と解されることを前提に、当時、請求代表者間で政治団体Lの活動の継続について意見が分かれていたことから、市区町 、証人M及び証人Nはいずれも、署名簿を返却することを含む直接請求の一連の手続が合同行為と解されることを前提に、当時、請求代表者間で政治団体Lの活動の継続について意見が分かれていたことから、市区町村選管にそのような状況を伝えた上で本件署名簿について慎重な取扱いをするよう要請するものであったなどと供述する。 イ これに対して弁護人は、本件保管要請はその文言自体から調査の結果を罰則適用に当たっての証拠物件とする目的で返還しないよう求めたものであることは明白であると主張する。 そこでみるに、関係証拠によれば、Aが政治団体Lの活動中止を発表した11月7日以降も、請求代表者間において署名収集活動の継続や署名簿の返還につき意見 - 7 -の分かれている状況にあったことが認められる。すなわち、請求代表者の一人であるOは、県選管事務局主査(当時)の証人Pに対して、同月9日、請求代表者を辞退しないことを宣言し、同月中旬には署名簿未提出であった4市1町について請求代表者一同として署名活動を継続する旨の書面を交付するなどして署名簿を返却しないよう求めていたし、同月30日、同じく請求代表者の一人であるQは、13の市区町に対し、仮提出された署名簿に大量の不正な署名があることやリコール中止による署名簿の返還について証拠保全のために慎重な取り計らいを求める旨の要望を各選挙管理委員会に文書で伝えていたことが認められる(甲257・7頁)。このように、本件依頼文書の発出当時請求代表者間において署名収集活動の継続や署名簿の返還につき意見の分かれている状況にあったことは、証人Mらの上記供述とよく整合する。 また、関係証拠によれば、県選管は、本件保管要請をする前から、被告人を含む関係者に対し、請求代表者ら全員の一致した意思によらなければ本件署名簿を返還することはでき Mらの上記供述とよく整合する。 また、関係証拠によれば、県選管は、本件保管要請をする前から、被告人を含む関係者に対し、請求代表者ら全員の一致した意思によらなければ本件署名簿を返還することはできないとの姿勢をとっていたことが認められる。すなわち、証人Pは、11月中旬頃に被告人から本件署名簿の返却について相談を受けた際、法的には直接請求の手続が継続中であることから、請求代表者の全員から請求手続を辞退する旨の届出がなければ応じられない旨回答したと供述するところ、被告人自身も、政治団体Lの関係者やAの秘書らに対し、県選管からそのような説明を受けたことや、勝手に署名活動を続けている人たちがいるのですぐに署名簿を回収するのは無理である旨を説明するなどしていたものであって(甲242、249、252)、証人Pの上記供述を裏付けている。 したがって、証人Mらの上記供述は十分に信用できるから、県選管が本件保管要請を発出した直接の理由は、本件署名簿の返却要請を合同行為と捉えた上で、請求代表者の意思が一致していない当時の情勢に照らして市区町村選管に対して慎重な対応を求めることにあったと認められる。なお、直接請求手続に関して請求代表者が複数いる場合、その意思の合致による合同行為になると解されているところ、本 - 8 -件署名簿の返却要請は実質的に見れば直接請求の取下げと同視できるから、県選管の上記判断は関係法令に照らし不合理なものとはいえない。 ウ 以上によれば、本件保管要請発出の趣旨は犯罪捜査に供することを唯一の目的としたものとは認められないから、これを事実上の押収処分であるとする弁護人の主張はその前提を欠き採用できない。 4 結論以上のとおり、県選管等による各依頼や要請の違法をいう弁護人の主張はいずれも理由がないから、本件署名簿及びその派生 実上の押収処分であるとする弁護人の主張はその前提を欠き採用できない。 4 結論以上のとおり、県選管等による各依頼や要請の違法をいう弁護人の主張はいずれも理由がないから、本件署名簿及びその派生証拠はいずれも違法収集証拠に当たらない。 第3 争点2(本件リコールの意図や目的)について1⑴ 弁護人は、被告人が政治家としての知名度や後援に対する訴求力を維持すべく、法定署名数には届かないが数十万票を集めたという「惜敗」の状況を演出するために本件犯行を敢行した合理的疑いがあり、本件リコールを成立させる意図はなかった旨主張する。この点、本件当時、被告人は衆議院議員選挙への出馬の意向を有しており、政治団体Lの事務局員であるDに対し、「(政治団体Lの代表を務めていた)A先生に、今回、認めてもらって、バックについててもらえれば、選挙やるにしても、何やるにしても強い。」(甲244・7頁)と述べるなどしていたことからすれば、来たる国政選挙の際、Aの支援を得ることを期待して政治団体Lの活動に従事していたこと自体は否定し難い。 ⑵ もっとも、関係証拠によれば、本件リコールを成立させるために必要な法定署名数は86万7133人であったところ、被告人は、10月6日、次男である共犯者Bをしていわゆる名簿業者から愛知県在住の20歳以上の者の名簿80万件分を購入させた上で、署名偽造のための場所や作業人員の確保等を依頼していたCに対し、「Rをリコールするためには、80万人くらいの署名が必要なんだけど、その数に達するか分からんから、念のためにね」(甲215・15頁)などと述べ、また、10月20日にCから書き写すべき署名数について尋ねられた際にも、「俺も総数 - 9 -までは分からないんだけど、70万とか80万とか、多くても100万くらいかな。 届けた署名簿は、 べ、また、10月20日にCから書き写すべき署名数について尋ねられた際にも、「俺も総数 - 9 -までは分からないんだけど、70万とか80万とか、多くても100万くらいかな。 届けた署名簿は、全部やってほしい。」などと述べ(甲218・12頁)、さらに、Cから代筆作業のための人員確保等を依頼されたSに対しても「不備書類が出てくることを考えたら、少なくとも110万人分の署名は必要なんだよね。」などと述べていたこと(甲253・12頁)が認められる。このように、被告人は、わざわざ名簿業者から名簿を購入した上で、本件リコール成立に必要な法定署名数に匹敵する数の署名を偽造するようCに依頼しているのであるから、そのこと自体から、本件リコールを成立させることを意図して判示の署名偽造に及んだことが強く推認できる。このように考えるのが、自らの選挙の際にAの支援を得るためという被告人の動機に照らしても自然であるし、被告人が、政治団体L事務局スタッフに対して「そもそも86万いかんかったら、タダの紙切れや。」などと法定署名数を超えなければ意味がないかのような発言をしていたこと(甲246・7頁)からもより一層明らかである。 2⑴ これに対して弁護人は、被告人らは同一人が多数の代筆作業を担うことを前提に本件署名簿を作成しており、実際にもそれが容易に看破されるほど粗悪な出来であったことからすれば、本件署名簿により有効性審査を通過して本件リコールを成立させられるとは考えておらず、あくまで政治家としての知名度や後援に対する訴求力を維持するための行動であったと主張する。 しかし、そのような目的であれば、わざわざ名簿業者から名簿を購入する必要はないし、法定署名数にこだわる必要もないのに、被告人は随所において法定署名数を目指す言動に及んでいる。また、弁護人は偽造署名が粗 かし、そのような目的であれば、わざわざ名簿業者から名簿を購入する必要はないし、法定署名数にこだわる必要もないのに、被告人は随所において法定署名数を目指す言動に及んでいる。また、弁護人は偽造署名が粗悪で容易に看破されること必至であったことを指摘するが、被告人は共犯者から署名の代筆をして大丈夫なのかと問われるや、「前回の市議会のリコールのときもやってたはずだから、大丈夫、大丈夫」「ばれないから大丈夫」(甲220・23頁)、「選管は数を数えるだけだから」「筆跡鑑定とかしないから」「大丈夫」(甲235・3~4頁)などと発言するなどしていたものである。このように、被告人は署名偽造が発覚することはないもの - 10 -と高を括っていたのであるから、弁護人の上記指摘は被告人においてリコールを成立させる目的がなかったことをうかがわせる事情とはなり得ない。 ⑵ その他弁護人がるる指摘する点を検討しても、上記推認を覆す事情は見当たらない。 3 以上の次第で、被告人は本件リコールを成立させる意図をもって判示の行為に及んだものと認定できる。 (量刑の理由)本件は、被告人が、共犯者らと共謀の上、愛知県知事の解職請求に関し、解職請求者の署名71筆を偽造したという事案である。 被告人らは、いわゆる名簿業者から地域住民の氏名等を多数入手するとともに、犯行に当たっても、それが露見しにくいように遠方の施設を確保した上で、アルバイトを募るなどして判示のとおり解職請求者の署名を偽造させたものである。組織性、計画性が認められることはもちろん、住民自治の実現に不可欠な直接請求制度に対する社会の信頼を失墜させ、ひいては地方自治の運営そのものを揺るがしかねない悪質な犯行である。 その中で被告人は、政治団体Lの会長を務めていたAの歓心を得て、自身の政界進出への足場 接請求制度に対する社会の信頼を失墜させ、ひいては地方自治の運営そのものを揺るがしかねない悪質な犯行である。 その中で被告人は、政治団体Lの会長を務めていたAの歓心を得て、自身の政界進出への足場を作ろうなどと考え、本件では政治団体Lの事務局長として共犯者らを差配し、犯行に必要となる物品・人員・会場を手配するとともに署名偽造の進捗状況を管理するなどしていた。まさに首謀者として犯行を主導していただけでなく、その動機も誠に利己的で厳しい非難に値する。以上によれば、結果的に本件犯行が県知事の解職請求には結びつかなかったこと等の弁護人の指摘を踏まえてもなお、被告人の刑事責任は軽視できない。 そこで、見るべき前科がないこと等も考慮し、主文の刑を定めた。 (検察官の求刑:懲役2年)令和6年4月22日名古屋地方裁判所刑事第5部 - 11 - 裁判長裁判官 大 村 陽 一 裁判官 遠 藤 圭 一 郎 裁判官 田 中 彩 友 美

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る