平成11(行ウ)29 保険医療機関指定取消処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成13年12月5日 名古屋地方裁判所 その他
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判決文本文27,545 文字)

主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告がしたものとみなされる平成11年6月24日付けで原告に対してなした医療法人健生会桜山ホスピタルにつき保険医療機関の指定を同年7月1日をもって取り消す旨の処分を取り消す。 第2 事案の概要本件は,原告が,医療法人健生会桜山ホスピタル(以下「本件病院」という。)において,保険医療機関及び保険医療養担当規則(平成12年3月17日号外厚生省令第30号による改正前のもの。以下「担当規則」という。)2条の3に違反する診療報酬の請求(以下「本件不正請求」という。)を行っていたとして,愛知県知事が,健康保険法(平成11年法律第87号による改正前のもの。以下「法」という。)43条の12第3号に基づき,本件病院の保険医療機関の指定を取り消す旨の処分(以下「本件処分」という。)をしたところ,本件処分は裁量権を逸脱濫用するものであって違法であるなどとして,原告が愛知県知事の権限を承継した被告に対し,同処分の取消しを求めた抗告訴訟である。 1 争いのない事実等(1) 当事者ア原告は,昭和35年12月15日に設立された医療法人であり,本件病院の開設者である。 イ被告は,平成12年4月1日施行の「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」に基づき,本件処分に関する権限を愛知県知事から承継した者であり,同知事は,法43条の3及び同条の12に基づき,保険医療機関の指定及びその取消しの権限を有していた者である。 (2) 監査の実施ア第1回監査愛知県民生部(以下「民生部」という。)は,本件病院の診療報酬の請求に不正又は著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとして,「保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について」(平成 監査愛知県民生部(以下「民生部」という。)は,本件病院の診療報酬の請求に不正又は著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとして,「保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について」(平成7年12月22日保発第117号厚生省保険局長通知)別添2の監査要綱(乙31,以下「本件要綱」という。)に基づき,平成10年4月28日,原告に対し,平成7年6月診療分についての監査を実施したところ,同月分の診療報酬の請求に不正があったことが判明した。同監査において判明した不正請求の具体的内容は別紙1のとおりであり,不正な診療報酬明細書は14枚,不正請求金額の合計は64万2716円である(乙16)。 イ第2回監査民生部は,平成10年9月17日及び18日,本件要綱に基づき,原告に対し,再度監査を実施したところ,更に平成7年1月分から平成9年5月分までの診療報酬の請求に不正があったことが判明した。同監査において判明した不正請求の具体的内容は別紙2のとおりであり,不正な診療報酬明細書は27枚,不正請求金額の合計は369万5863円である(乙17)。 (3) 不正請求に係る診療報酬の自主返還民生部は,上記監査結果に基づき,原告に対し,不正な診療報酬請求について自主点検を指示したところ,平成11年6月2日,原告から民生部に4050万3544円分の診療報酬を返還する旨の同意書が提出され(甲15,乙18の1ないし4),その後に返還された(甲17,18)。 (4) 厚生省(現厚生労働省)への内議等民生部は,上記監査結果等を踏まえて,本件要綱に基づき,厚生省へ内議を行ったところ(乙42,43),厚生省保険局長から平成11年5月28日付けで保険医療機関の指定取消しを適当と認める旨の通知(保文発第491号,乙44)があった。 また,愛知県知事は,平成11年 を行ったところ(乙42,43),厚生省保険局長から平成11年5月28日付けで保険医療機関の指定取消しを適当と認める旨の通知(保文発第491号,乙44)があった。 また,愛知県知事は,平成11年6月14日,原告への聴聞を実施し(甲43,乙36),同日,本件要綱に基づき,愛知県地方社会保険医療協議会に対し保険医療機関の指定取消しについて諮問したところ,同協議会は,同月21日,取消しは妥当である旨の答申を行った。 (5) 本件処分愛知県知事は,平成11年6月24日,本件病院は,「保険医療機関は,その担当する療養の給付に関し,厚生大臣又は都道府県知事に対する申請,届出等に係る手続及び療養の給付に関する費用の請求に係る手続を適正に行わなければならない」と規定する担当規則2条の3に違反し,健康保険法43条の12第3号の規定する「療養ノ給付ニ関スル費用ノ請求…ニ付不正アリタルトキ」に該当するとして,原告に対し,同年7月1日付けで本件病院の保険医療機関の指定を取り消す旨の本件処分を行った(甲22,乙27)。 なお,本件要綱は,監査後の措置として行う保険医療機関等の指定取消し等の行政上の措置についての基準につき,都道府県知事は,保険医療機関等又は保険医等が下記のいずれか一つ(以下「要件①」などという。)に該当するときは,取消処分を行うものとされている(乙31)。 ① 故意に不正又は不当な診療を行ったもの。 ② 故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの。 ③ 重大な過失により,不正又は不当な診療をしばしば行ったもの。 ④ 重大な過失により,不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったもの。 2 本件の争点本件処分の適法性本件処分は,裁量権を逸脱濫用してなされた処分であるか。具体的には,本件病院において行われていた診療報酬の不正請求が要件② な診療報酬の請求をしばしば行ったもの。 2 本件の争点本件処分の適法性本件処分は,裁量権を逸脱濫用してなされた処分であるか。具体的には,本件病院において行われていた診療報酬の不正請求が要件②又は④に該当するか。 (被告の主張)(1) 保険医療機関の指定の取消事由について,法43条の12第3号は,「療養ノ給付ニ関スル費用ノ請求…ニ付不正アリタルトキ」と規定し,故意又は故意に準じるような悪質な態様で不正請求を行った場合に限定するかのような規定は存在しないところ,本件病院における診療報酬請求に総額約4000万円に達する不正があった事実は原告による自白が成立している(原告は,訴状にて「水増分約4000万円」であることを自認している。被告は,この主張に対して「不知」との認否をしているが,その趣旨は,水増分が4000万円を超える可能性のあることを留保したものであり,少なくとも4000万円は存在している事実は援用しているというべきである。)。ところで,本件要綱は,保険医療機関の指定の取消事由として,要件①ないし④を規定しているところ,本件不正請求は,以下のとおり,要件②に該当し,そうでないとしても,要件④に該当するというべきであるから,本件処分は本件要綱にも合致している。もっとも,本件要綱は,厚生省がその裁量に任された保険医療機関の指定に関する取消権限の行使に関して,その裁量権行使の準則を定めたものにすぎず,国民との関係で法規としての効果を有するものではないから,仮に当該処分が当該準則に違背して行われたとしても,原則として当不当の問題を生ずるにとどまり,当然に違法となるものではない(最高裁昭和53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁参照)。 ア要件②の該当性について(ア) 本件不正請求は,本件病院の事務長であったP1と共謀して, り,当然に違法となるものではない(最高裁昭和53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁参照)。 ア要件②の該当性について(ア) 本件不正請求は,本件病院の事務長であったP1と共謀して,原告代表者である理事長(以下「理事長」という。)自らがレセプトに架空の投薬や診療内容を記載した付せんを貼付して指示するなどの方法により行われていたものであり,本件不正請求が原告の故意に基づくものであることは明白である。 本件不正請求について,理事長が関与していたことは次の事実からも裏付けられる。 a 理事長の母親であるP2に関する平成7年2月及び3月分の入院に係る診療報酬について架空の請求があること。 理事長が,レセプトの内容がカルテどおりであるか否かの確認をして不当な請求がされないように厳重に管理していたとすれば,実母の入院レセプトを見落とすはずがなく,裏を返せば,このことが理事長が不正請求に関与していたことの証左である。 b 理事長の友人について,架空の診療報酬請求がなされていること。 保険者に不正が露見しないようにしようとすれば,架空請求の対象となる被保険者の他の病院の入通院状況を把握していなければならないところ,架空請求の対象となったP3は理事長の友人であり,同人から入通院状況を確認するためには理事長の積極的関与が不可欠である。 (イ) 原告が主張するように,仮にP1が病院の主導権を握ることを目的として,本件不正請求を行っていたとしても,それだけではP1には何ら利得は発生しないのであって,本件不正請求による利得を得ようとすれば,病院の経理を何らかの形で操作する必要があるところ,本件病院の経理は理事長が管理していたのであるから,P1の独断で利得を得ることは困難である。加えて,本件不正請求を開始してから2年5か月もの間,P1が不正請求 何らかの形で操作する必要があるところ,本件病院の経理は理事長が管理していたのであるから,P1の独断で利得を得ることは困難である。加えて,本件不正請求を開始してから2年5か月もの間,P1が不正請求の事実を理事長に明かして本件病院の主導権を握る行動に出ていないことの合理的説明もつかない。したがって,原告の主張は,それ自体極めて不自然なものというべきである。 イ要件④の該当性について(ア) 重大な過失について保険医療機関は,適正な診療報酬手続を確保する責務がある(担当規則2条の3)から,医療法人を代表し,その業務を総理する理事長(医療法46条の3第3項)は,診療報酬の請求内容と診療の事実に不一致が生じないよう,自ら適正な診療報酬請求を確保する責務がある。また,少なくとも,事務長,医師,事務職員等に注意を喚起し,認識を深めさせ,報告を求めるなど,不正請求が発生しないようなチェック体制を講じなければならない。しかるに,理事長は,以下のとおり,少なくとも重大な過失により本件不正請求が行われることを阻止し得なかった。 a 本件病院において,理事長は,自ら入院患者のレセプトのチェックをしていながら,その際に重要な作業であるはずのカルテとの突き合わせを全く実施していない。また,看護婦に対しても,カルテの記入漏れかどうかも確認していない。 b 前記のとおり,理事長にとって極めて身近な者についても,虚偽のレセプトが作成され,これに基づいて不正請求がされているところ,毎月の入院の診療報酬請求書に理事長印を押す際にその事実を認識できたにもかかわらず,理事長は,添付のレセプトも確認せず,漫然と事務処理を行っていた。 c 本件不正請求が平成7年1月分から平成9年5月分までの長期間にわたっていることからすれば,理事長が不正請求が発生しないようなチェック体制を全く のレセプトも確認せず,漫然と事務処理を行っていた。 c 本件不正請求が平成7年1月分から平成9年5月分までの長期間にわたっていることからすれば,理事長が不正請求が発生しないようなチェック体制を全く講じていなかったことは明白であり,その任務違背は重大である。 (イ) 「しばしば」について本件不正請求が,前記のとおり,長期にわたっていることや付け増し請求等の不正請求の態様も同様の手法が繰り返されていることなどからすれば,「しばしば」の要件に該当することは明白である。 (2) 行政処分が違法となるのは,それが法の認める裁量権の範囲を超え又はその濫用があった場合に限られるところ,本件は,平成7年1月から平成9年5月に至るまでの長期間にわたって,合計29回という多数回の不正請求を続けた事案であること,その金額も合計4000万円を超える多額のものであって,かつ,本件病院の収入の約5パーセントにも相当するものであること,また,その態様も,仮に理事長が本件不正請求に関する認識を有していなかったとしても,事務長という重職にある者を実行行為者とする悪質なものであること等の事情からすれば,その権限行使に関する裁量権の逸脱あるいは濫用があったといえないことは明白である。 また,原告は,①水増し請求の一方で,多額の請求漏れもあるから,実質的な水増し額は少なくなること,②本件発覚の端緒が原告自身による申告にあること,③水増し分について自主返還を申し出て,返還していることを本件処分に当たって考慮すべきであったと主張するが,①については,請求漏れの金額や請求漏れが生じた事情等の詳細は全く明らかでない上,多額の不正請求との整合性を保つために,他方であえて本来請求し得る保険診療費用を請求しないことも十分に考えられるのであって,請求漏れの事実のみで処分の不当性を基礎づ 事情等の詳細は全く明らかでない上,多額の不正請求との整合性を保つために,他方であえて本来請求し得る保険診療費用を請求しないことも十分に考えられるのであって,請求漏れの事実のみで処分の不当性を基礎づけることにはならないし,②については,本件において原告が当局に申告することを決意するに至ったのは,本件不正請求の証拠となるべき書類がP1から原告に送付され,本件が公になる蓋然性が極めて高くなったためであって,原告に対する情状酌量の一要素となる性格のものではなく,③についても,本件のように不正が証拠上明白な事案であれば,処分を避けたいとの一心で,情状酌量を求めようとして,このような態度に出ることは通常よくあることであるから,これらを考慮しなかったからといって,本件処分が不当となるわけではない。 (原告の主張)(1) 法及び本件要綱は,保険医療機関指定の取消事由として,故意又は故意に準じるような悪質な態様で不正請求を行った場合を想定しており,本件はそのような場合に当たらない。 なお,被告は,不正請求額が約4000万円であるとの事実につき,原告の自白が成立している旨主張するが,訴状に「水増分約4000万円」と記載したのは,民生部から具体的な根拠を示すことなく,約4000万円の不正請求があるとの指摘を受けたため,保険医療機関の指定の取消処分を免れたいとの一心で,指摘に係る金額を自主返還したとの事実を主張したにすぎない。仮にそうでないとしても,上記事実は処分事由の主要事実ではないから,自白の拘束力は生じないというべきである。 ア要件②の該当性について要件②の故意は,当該医療機関の代表者について存することが必要というべきところ,本件不正請求に理事長が関与した事実はない。本件不正請求は,本件病院の事務長であったP1が,本件病院を混乱に陥れ,不正請求 件②の故意は,当該医療機関の代表者について存することが必要というべきところ,本件不正請求に理事長が関与した事実はない。本件不正請求は,本件病院の事務長であったP1が,本件病院を混乱に陥れ,不正請求の事実が存することを材料にして本件病院の主導権を握ることを目的として独断で行ったものである。 なお,理事長が診療報酬明細書(レセプト)に薬品名・数量,診療内容等が記載された付せんを貼付していた事実はあるが,これは,①事務員に対し,診療,投薬内容に対応する病名の入力漏れがある場合に,カルテをチェックしたり,医師に確認するなどして,病名を確認し,追加入力するよう指示するとともに,②医師,看護婦に対し,病名から考えて当然なされるはずの診療行為,投薬がなされていないと思われる場合に,今後,そうした診療行為,投薬を行うよう提案,助言するためのものであり,付せんの記載は不正請求の指示ではない。このことは,付せんの記載の中に「併用禁忌薬」,「病名整理」,「病名不一致」等,不正請求の指示と考えることができない記載があることからも明らかである。 また,理事長の母であるP2と同じく友人であるP3の架空請求についても,P1が独断で行ったものであって,理事長が本件不正請求に関与していたことを示すものではない。 仮に被告主張のように理事長とP1が本件不正請求について共謀していたのであれば,付せんによる指示などという迂遠な方法を採ることなく,それぞれが付け増ししたり,レセプトに直接書き込めば足りるはずである。また,付せんによる付け増し分は,「超音波検査」,「心拍監視」,「心電図検査」,「X-P(胸部レントゲン検査)」に限られているが,これらの診療報酬の請求点数は少額であり,その程度の金額を得るために不正請求という危険を冒すとは考えられない。さらに,理事長が記載した検 図検査」,「X-P(胸部レントゲン検査)」に限られているが,これらの診療報酬の請求点数は少額であり,その程度の金額を得るために不正請求という危険を冒すとは考えられない。さらに,理事長が記載した検査,投薬等の事項については,検査名,投薬名の記載しかなく,その回数,数量の記載がないから,不正請求の指示としては不十分である。 そして,理事長が本件不正請求に関与していたとするP1の証言等は,付せんに記載された内容と実際に不正請求された内容とが一致しないこと,理事長から依頼を受けた際の会話の内容等が,その時々によって矛盾し,かつ不明確であることからすれば,到底信用に値するものではない。 イ要件④の該当性について(ア) 重大な過失について一般にレセプトとカルテとの突き合わせば,医師又は事務員によって行われており,代表者自らがこれを行っている病院は皆無であることなどに照らすと,理事長が突き合わせを行わず,又は看護婦に確認しなかったとしても,重過失の根拠となるものではない。 次に,理事長が診療報酬請求書に押印する際に,レセプトが添付されていた事実はなく,また押印の際に代表者がレセプトを再チェックしている病院も皆無であるから,それをしなかったからといって理事長を責めることはできない。 さらに,P1は,医療事務主任であるP4と共謀し,理事長,院長がレセプトをチェックした後に,そのレセプトを不正請求用のレセプトに差し替えて提出するという巧妙な方法を用いて本件不正請求を行っており,それが事務方のトップ2人のみによって行われ,他の医療事務職員は全く関与していなかったことから,P1から本件不正請求の事実を知らされるまで,理事長はその事実を認識し得なかったものであり,本件不正請求について,原告に重大な過失があったとはいえない。 (イ) 「しばしば」につい なかったことから,P1から本件不正請求の事実を知らされるまで,理事長はその事実を認識し得なかったものであり,本件不正請求について,原告に重大な過失があったとはいえない。 (イ) 「しばしば」について長期間にわたって多額の診療報酬の不正請求を行った他の病院に対する処分に照らすと,長期間にわたって多額の不正請求がなされているからといって,それだけで直ちに「しばしば」不正請求を行っていたとされるわけではない。 不正請求を「しばしば」行った場合とは,重過失による不正又は不当な診療報酬請求を行ったことにつき,行政機関から請求業務の改善指導を受けるなどして不正請求の再発を防ぐ措置を講じる機会を与えられたにもかかわらず,そのような措置を講じず,不正又は不当な診療報酬請求を繰り返した場合をいうと解すべきであるところ,本件において,原告は,本件不正請求がなされる以前においては,診療報酬を不正に請求するなどの不正な行為を行ったことはなく,本件不正請求を認識するや否や直ちに愛知県にその旨を報告して指導を仰ぎ,本件不正請求後は不正請求を行った事実はないのであるから,原告が不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったとはいえない。 (2) 法43条の12第3号に基づく保険医療機関指定取消処分については,その処分要件の判断に当たり,専門技術的知見は全く必要なく,行政庁の個別具体的な政策判断が介在する余地もほとんどないから,処分権者に裁量判断を認める余地はほとんどないというべきである。 したがって,本件要綱の定める取消処分の基準に合理性が認められるとしても,処分理由がその基準に適合せず,あるいは形式的には基準には適合しても,比例原則,平等原則に反する場合には,直ちに裁量権の逸脱,濫用と評価すべきところ,本件病院における診療報酬の請求については,水増し請求がある その基準に適合せず,あるいは形式的には基準には適合しても,比例原則,平等原則に反する場合には,直ちに裁量権の逸脱,濫用と評価すべきところ,本件病院における診療報酬の請求については,水増し請求がある一方で,多額の未請求分も存在し,実質的な水増し額は低いものになること,水増し請求額については,不正の発覚当初から返還を申し出,これを履行していること,本件不正請求の事実は,原告の自主申告により愛知県知事が認識するに至ったものであること等の事情に加え,病院ぐるみで故意に1億円以上の水増し請求をした保険医療機関でさえ,その指定の取消しを免れている場合があることを考慮すれば,本件処分は他病院に対する処分との権衡を欠いた重きにすぎる処分であって,裁量権を逸脱濫用した違法な処分というべきである。 第3 当裁判所の判断 1 法43条の12第3号の「…請求ニ付不正アリタルトキ」とは,社会通念上,不正請求が当該医療機関自体の行為としてなされたと評価することができる場合を指すものと解される。したがって,不正請求の実行行為が常に当該医療機関の代表者自身によってなされることまで要するわけではないが,反面,その従業員たる事務職員が,その任務に背き,自己の利益を図る目的で実行した事案において,代表者がその者に対する選任監督上の注意義務を著しく怠ったとはいえない場合は,個人的な不正請求との評価にとどまるから,上記要件を充足しないと解するのが相当である。 そうすると,本件要綱が保険医療機関の指定取消処分の基準として定める要件①ないし④は,上記第3号の要件を具体的に明らかにしたものと首肯でき,その一つでも代表者について認められる場合は,特段の事情が存しない限り,同取消処分の適法性を基礎づけると解される。そこで,以下においては,この見地から検討を加えることとする。 2 証拠 と首肯でき,その一つでも代表者について認められる場合は,特段の事情が存しない限り,同取消処分の適法性を基礎づけると解される。そこで,以下においては,この見地から検討を加えることとする。 2 証拠(甲19の1,2,20,21,28ないし30,38,39,42,43,46ないし48,51ないし53,56の1ないし7,57の1ないし3,59の1ないし4,64ないし67,71の1ないし3,73ないし75,78,79の1ないし29,乙1,2の1ないし9,3,8ないし10の各1,2,11の1ないし3,12の1,2,13ないし15の各1ないし3,16,17,24ないし26,29の1ないし6,35の1,2,42,43,48ないし50,51の1ないし23,54の1ないし4,58の1,2,62の1,2,証人P1,原告代表者,ただし,認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨並びに前記争いのない事実等を総合すれば,以下の事実が認められる(なお,後記(2)シで示す不正請求の総額については,自白の成否を巡って当事者間に争いがあるので,事実認定の前提問題としてこの点につき判断するに,原告が,訴状において,その金額が約4000万円であると主張していたのに対し,被告が,答弁書で不知と認否した状態が続くうち,原告が,準備書面(一)において,訴状における上記記述は,同金額の不正請求が存在した事実を認める趣旨ではないと主張して,事実上の撤回に及んでいることが本件記録上も明らかであるから,自白が成立したとみることはできない。もっとも,原告代表者尋問の結果によれば,不正請求に係る資料に基づいて不正請求の総額を算出せよとの処分権者側からの指導に基づき,原告の事務担当者と支払側の担当者とが打ち合わせながら作業を行った結果,その総額が4050万3544円となった事実は優に認められ に基づいて不正請求の総額を算出せよとの処分権者側からの指導に基づき,原告の事務担当者と支払側の担当者とが打ち合わせながら作業を行った結果,その総額が4050万3544円となった事実は優に認められる。)。 (1) 原告は,昭和35年12月15日,本件病院(当時の名称は「久嵜病院」)を開設し,内科,呼吸器科,消化器科,小児科,放射線科,アレルギー科の各診療科目を設けているが,特に気管支喘息,慢性気管支炎等の呼吸器疾患,糖尿病,アレルギー疾患等の内科医療の充実に取り組んでおり,公害指定病院(名古屋市特定呼吸器疾患医学的検査指定医療機関)の指定を受けている。 本件病院の病床数は31床であり,現在,同病院には10名の勤務医(常勤医師2名,非常勤医師8名)の外,看護婦13名,薬剤師4名,レントゲン医師4名,栄養士1名及び一般事務職員1名が勤務している。本件病院の管理者は理事を兼ねているP15院長である。なお,原告代表者である理事長は,平成2年に亡父の後を継いでその地位に就いたものであるが,医師資格を有していない。 (2) P1の採用から解雇に至るまでの経緯ア原告は,平成6年8月,本件病院のレセプト業務を行わせるため,P1を非常勤扱い(月額手当2万円。ただし,医療費免除)で採用するとともに,P1から紹介を受けたP4を医療事務職員(医療事務主任)として採用した。採用当初のP1の肩書きは「顧問」であった。 P1は,平成4年秋ころ,糖尿病治療のために本件病院に来院したことから原告との関係を生じたものであり,平成5年4月から高血圧症等の治療のため本件病院に通院し,さらに同年12月から平成6年6月まで原告の病院に入院していたが,その入院中に理事長から本件病院の経営等のいろいろな相談を受けるようになり,以前に国民健康保険団体連合会の職員であったこともあっ 院し,さらに同年12月から平成6年6月まで原告の病院に入院していたが,その入院中に理事長から本件病院の経営等のいろいろな相談を受けるようになり,以前に国民健康保険団体連合会の職員であったこともあって,原告に採用されることになったものである。 イ理事長は,P1採用後まもなく,P1に対して,本件病院の経営について具体的に相談を持ちかけるようになり,「病院経営が苦しい,何とかしたい。」などといった愚痴をこぼしたり,他の病院では不正請求をやっているなどの話をするようになったが,この時点では,P1に対して,明示的に不正請求の指示をすることはなかった。 ウ P1は,平成6年10月ころから,本件病院のレセプト業務に携わるようになったが,レセプト作成事務を担当していたP4がその作成をするに当たって本件病院で以前から使っていたコンピュータでは不都合であったことから,理事長に対して新しいレセプト作成用のコンピュータを購入するよう依頼した。理事長は,後日,この依頼を承諾したが,その際,P1に対して,コンピュータの月々のリース料の支払資金の捻出をどうにかしてほしいとの要望を述べた。前記のとおり,P1は,以前に理事長から診療報酬の不正請求の話が出ていたことから,理事長が自分に対し不正請求をするよう暗に示唆しているものと考え,理事長に対して,「それは不正請求のことですか」と問いかけると,理事長から「そうだ」との回答があったので,さらにP1が「じゃ不正請求をやりましょう」と言葉を返したところ,理事長から「それじゃやってくれるか」と言われたことから,P1は不正請求をしようと決意するに至った。 エ原告は,平成6年11月ころ,前記のレセプト作成用のコンピュータを導入し(ただし,当初リース会社が原告が希望する型式のコンピュータを持っていなかったため,代用品として上記 と決意するに至った。 エ原告は,平成6年11月ころ,前記のレセプト作成用のコンピュータを導入し(ただし,当初リース会社が原告が希望する型式のコンピュータを持っていなかったため,代用品として上記型式に近い型のものが納入され,株式会社名古屋リースとの間で正式にリース契約が締結されたのは平成7年1月20日になってからである。なお,リース料は,ソフトウェアのそれを含めて合計で1か月当たり4万6200円(税抜き)であった。甲39),P4はそのコンピュータを用いてレセプトの入力作業をするようになった。 ところで,P4は,そのころまで実家のある小牧市から本件病院へ通勤していたが,早朝からの出勤となることなどに不満を抱き,P1に対して原告を辞めたいとの相談を持ちかけたところ,当時同人と親密な関係にあったP1が,かかる事情を酌んで理事長に対して対処策を相談した結果,本件病院の近くに原告の負担でP4の住居を借り受けることになり,原告は,平成6年11月1日,貸主P5との間でマンション(3LDK)の賃貸借契約を締結し,その賃料等(月額10万8000円)を原告が負担することとなった(乙26)。ただし,上記賃料等の半額5万4000円については,寮費としてP4の給与から控除されている(甲71の1ないし3)。 オ P1は,平成6年12月,翌1月請求分を手始めに不正請求を開始したが,その際,P1は,その事実を理事長に事前に伝えている。このころの不正請求の方法は,カルテを基に仮案として作成されたレセプト(以下「仮レセ」という。)にP1が追加の書き込みをし,それを基に再度提出用のレセプト(以下「本レセ」という。)をP4に作成させるというものであり,平成7年6月まで続いた。P1は,当初仮レセを廃棄していたが,支払基金や国民健康保険団体連合会からの照会があったときに備え 用のレセプト(以下「本レセ」という。)をP4に作成させるというものであり,平成7年6月まで続いた。P1は,当初仮レセを廃棄していたが,支払基金や国民健康保険団体連合会からの照会があったときに備える目的で,仮レセ及びそれに書き込みをしたもののコピーを取ってロッカーに保管しておいた。 カ理事長は,平成7年6月ころ,P1に対して「1人では大変だろうから,私も見よう。」と言って,自ら国民健康保険関係の入院レセプトのチェックを行うようになった。理事長のチェックの方法は,P1らによって作成された仮レセに指示事項を記載した付せんを貼付するというものであったが,指示事項を記載するに当たってカルテの内容と突き合わせをすることはせず,誤記や記載の不整合等の形式的なチェックを行って付せんに記載する(例えば,「入院年月日?」,「蛋白分画病名?」,「病名整理」)ほか,仮レセに記載された病名等を参考にして,付け増しをしても不自然と思われないような検査や薬剤等を付加するよう指示した内容を付せんに記載していた(例えば,「腹部エコー加」,「抗ガン剤加」,「X-P(胸部)加増」)。そして,P1はその付せんに記載された指示内容を参考にしながら,従前と同様に仮レセに追加の書き込みを行って本レセを作成したが,このころから追加の書き込みはP4が行うようになった。 キ P1は,平成7年7月以降,仮レセの作成とそれへの書き込みという作業に替えて,レセプト作成の際に付け増しする内容を「指示書」と呼ばれる用紙に各患者ごとに毎月書き留め,その書き留めておいた内容を基に,直に本レセを作成し,これを理事長によるチェック用のレセプトとして渡すようになり,結果として,理事長は前記のような内容を記載した付せんを本レセに貼付することになった。理事長の貼付した付せんによって,レセプトに追加する内容 れを理事長によるチェック用のレセプトとして渡すようになり,結果として,理事長は前記のような内容を記載した付せんを本レセに貼付することになった。理事長の貼付した付せんによって,レセプトに追加する内容が増えた場合,P1は再度P4に本レセを作成させ,それを支払基金等への提出用とした。P1は,提出した本レセについてはコピーを取り,そのコピーに付け増しした事項を手書きした上,指示書とともに保管しておいた。また,P1は,前記指示書については,当該月の不正請求の内容を原則的には翌月分にもそのまま引き継ぐ形で指示書に記載していたが,前月分の理事長の指示による不正請求の内容の全部又は一部についても指示書に反映させることがあった。 同年7月ころ,理事長からP1に対して,本件病院の経営が大分楽になってきたので同人の給料を増額するとの話があり,P1は同月16日付けで本採用されるとともに,翌8月から給料を32万円に増額され,肩書も正式に事務長になった。 なお,原告の平成6年事業年度(同年4月1日から平成7年3月31日まで)の営業利益が1276万5151円であったのに対し,平成7年事業年度(同年4月1日から平成8年3月31日まで)の営業利益は4831万9730円と大きく伸びている(甲51,52)。 ク理事長は,平成8年4月ころ,本件病院を退院した患者が保健所等で本件病院に対する不平を言っているとの話をP1から聞き,それが原因となって本件病院に行政上の不利益が及ぶことを阻止しようとして,工作費の趣旨でP1に対して2回にわたり合計250万円の金員を交付した。もっとも,理事長がその使途について確認を求めたことはなく,P1は,同金員は自分が不正請求をしていることに対する見返りであると考えていた。なお,同金員については,税理士の助言に従い,原告の会計上,仮払金とする 事長がその使途について確認を求めたことはなく,P1は,同金員は自分が不正請求をしていることに対する見返りであると考えていた。なお,同金員については,税理士の助言に従い,原告の会計上,仮払金とする処理がされているが,P1に対して格別の返還請求の措置は取られていない。 ケ平成8年7月ころ,P1が女性事務員に対してわいせつ行為を行ったことが問題となり,被害女性の家族が本件病院の責任を問う姿勢を示したので,最終的に原告がP1に代わって同事務員に対し,示談金として100万円を支払った(甲78。会計上は,P1に対する仮払処理がされているが,この金額についても返還請求の措置は取られていない。)。この件に関し,原告はP1に対して何の処分も行っていない。上記のわいせつ事件以降,原告は,理事長の事務の補助や病院内の業務報告等をさせるために秘書を1人採用している。 コ理事長は,平成8年末ころになって,それまで行ってきた入院レセプトのチェックを中止したが,それ以降もP1によって不正請求は続けられた。このころから,理事長は,本件病院の経営について,医療コンサルタントをしているP8に相談をするようになり,当直医師の紹介を依頼するなど同人との関係を深めていった(なお,医師の紹介依頼に応じて,P8はP9医師とP10医師の2名を非常勤医師として紹介している。)。一方,理事長とP8との関係を知ったP1は,次第に理事長との関係に不安や疑念を抱くようになっていった。 なお,原告の平成8年事業年度(同年4月1日から平成9年3月31日まで)の営業利益は1076万5881円となり,前年度に比べて低くなっている(甲53)。 サ平成9年4月ころ,P1が理事長の不在中に理事長室に入り無断で理事長印を押そうとしたことがあり,これを現認した理事長は,P1を厳しく叱責し,事務長職を解 年度に比べて低くなっている(甲53)。 サ平成9年4月ころ,P1が理事長の不在中に理事長室に入り無断で理事長印を押そうとしたことがあり,これを現認した理事長は,P1を厳しく叱責し,事務長職を解くことも検討する旨を通告した。 シ P1は,平成9年5月ころ,同月分を最後に不正請求をすることをやめたが,その時点で不正請求の総額は4050万3544円に達していた。P1は,そのころ理事長に対し,「一度人間関係が崩れたため,過去の清算をしておきたいと思う。」と述べ,愛知県へ不正請求の事実を申告したいとの内容の話をしたところ,理事長から,不正請求分については自分が返済をするので,不正請求の内容や額を明らかにするよう求められた。その後,P1は,不正請求の内容を明らかにするため,手持ちの資料で不正請求の一覧表(甲20,後に理事長あてに送った手紙に添付したもの)の作成を始めた。 ス理事長は,P1からの前記申出を受け,その対応策をP8に相談したところ,P8は,P1の真意,目的を確認するため,平成9年6月初旬ころ,2度にわたって同人と面談したが,P1は理事長を非難したり,本件病院の経営が成立しているのは自分の功績であるなどと述べてまとまりのない話に終始した。P8から面談の内容について報告を受けた理事長は,P1とP4を解雇することとし,そのための手続をP11弁護士に依頼するとともに,P8に対してP1の後任として適当な人物を紹介してほしいとの依頼をした。 一方,P1は,理事長が不正請求の責任を自分一人に押しつけようとしているのではないかと考え,平成9年6月ころから,理事長が不正請求に関与していることを示す証拠を残すべく,たまたま自分の机の中に残しておいた付せん(理事長の指示が記載されたもの)や保管しておいた仮レセのコピー,指示書及び本レセのコピー(提出用 ,理事長が不正請求に関与していることを示す証拠を残すべく,たまたま自分の机の中に残しておいた付せん(理事長の指示が記載されたもの)や保管しておいた仮レセのコピー,指示書及び本レセのコピー(提出用の本レセに付け増しの内容を書き加えたもの)を本件病院の外に持ち出し始めた。 セ理事長は,平成9年7月12日付けでP1とP4を懲戒解雇することとし,P1に対しては,本件病院の事務長室において,P11弁護士立会の下で直接懲戒解雇通知書(甲19の1)を手渡し,P4に対しては,解雇通知書(甲19の2)を郵送して通知した(なお,P4は,同年6月15日,同年7月15日付けで退職したい旨の退職届(甲42)を事前に提出しており,解雇通知書が郵送されたときは,病気療養中であった。)。P1は,通知書を受け取った後,レセプトのコピー等を病院の外へ持ち出そうとしたが,そのうちの一部(平成9年1月分及び同年2月分)については理事長によって持ち出しを阻止された。 (3)P1解雇後の経緯ア P1は,原告を解雇された後,P7外科病院に入院したが,理事長は,P1に対して本件病院から持ち出したレセプトの返還等を求めるため,数回にわたって調査会社のP6なる人物を出向かせた。P6は,P1に対して,「どこの会社でも,多少,大なり小なり悪いことをやっておる」,「重箱の隅をつつくようなことを言っとってもしようがない」,「外注先としてお付き合いをしたい」などと懐柔かたがた不正請求を明るみにすることを思いとどまるよう説得したが,P1は,理事長本人と話し合うことを強く求めたため,話合いは平行線をたどり,説得は奏功しなかった。その間,P1は,平成9年9月17日,未払給与等合計117万円の支払催告(甲57の1)を,同じくP4は,平成9年8月27日に解雇予告手当等合計35万円の支払催告(甲57 どり,説得は奏功しなかった。その間,P1は,平成9年9月17日,未払給与等合計117万円の支払催告(甲57の1)を,同じくP4は,平成9年8月27日に解雇予告手当等合計35万円の支払催告(甲57の2)を,同年10月24日に再度慰謝料25万円を加えた合計60万円の支払催告(甲57の3)を,それぞれ原告あてにした。 イ P1は,前記のP6らとの話合いが決裂したことから,平成9年10月16日,理事長あてに不正請求に関する資料を添えた同月15日付けの手紙(甲20)を送付した。その手紙には,P1は理事長の代理人と数回にわたって話合いをしてきたが,代理人の意見が各機関に書類を提出した上で,公の場ですべてのことについてけじめを付けたいとのことであったので,その希望どおりに不正請求に関する資料を書類を整えた旨,また,不正請求の指示者が理事長である旨が記載され,全体として本件不正請求の事実を暴露することを通告する内容となっている。 理事長は,上記の手紙を受領した当日,P1から郵送された関係資料の写しを民生部社会保険管理課に提出し,その経緯を届け出るとともに,不正請求の事実が判明すれば,その金額を返還する旨を申し出た。 また,理事長は,同年10月下旬ころ,P1との交渉をP12弁護士に依頼した。P12弁護士が2度にわたってP1と話合いを行ったところ,P1から,本件不正請求は理事長承知の上でのことであると非難された上,同人の未払給与及び退職金並びにP4の未払給与等として合計500万円の支払の要求と持ち出したレセプトのコピーの返還の申出があったが,理事長はこれを拒否し,P12弁護士も理事長の関与の有無につき判断が付かなかったので,それ以上の交渉から手を引くことにした。 ウ民生部は,理事長から提出された関係資料を調査分析した結果,診療報酬の付け増し請求の疑い ,P12弁護士も理事長の関与の有無につき判断が付かなかったので,それ以上の交渉から手を引くことにした。 ウ民生部は,理事長から提出された関係資料を調査分析した結果,診療報酬の付け増し請求の疑いが濃厚となったため,平成9年12月25日、事実関係を確認するため,原告に対して個別指導を実施した。個別指導の結果,付け増し請求の疑いのある14件の患者のうち,5件についてはその疑いが一層濃厚となったが,残り9件についてはその確認ができなかったため,その日の個別指導を中止し,後日事実関係を詳細に確認することとした。 その後,民生部は,平成10年1月20日,P1から事実関係を聴取するとともに,関係資料の提出を受けた。なお,P1から民生部に提出された不正請求に関する資料一切は,後に原告に返却された。 エその後の原告に対する監査の実施及び本件処分に至る経緯は,前記第2の1(2)ないし(5)のとおりである。 なお,P6は,理事長から事実調査の依頼を受け,平成13年2月6日ころ,本件病院にかつて勤務していた元事務員にして事件に関わりたくないとの態度を表明していたP13に対し,当方(原告側)からの質問に応じない場合は,刑事事件の共犯者として提訴(告訴)することにもなり,その場合は逮捕されるかもしれないとの脅迫文言を記載した文書(乙48)を送付している。 3 以上の認定に対し,原告は,P1の証言及び供述は信用性が全くなく,一方で理事長の供述は信用性が高いから,P1の証言等を根拠とした被告の主張には理由がない旨主張している。そこで,以下においては,上記認定に至った経緯,なかんずく本件不正請求についての理事長の関与に関する理事長及びP1の証言等の信用性について検討したところを敷えんする。 (1) 理事長の供述の信用性についてア P1は,前記認定のとおり,国民 緯,なかんずく本件不正請求についての理事長の関与に関する理事長及びP1の証言等の信用性について検討したところを敷えんする。 (1) 理事長の供述の信用性についてア P1は,前記認定のとおり,国民健康保険の入院患者については,理事長自身がカルテから作成された仮レセあるいは本レセに付せんを付して,これに「~加」,「~増」と標記し,カルテには記載がない検査,薬剤等を付け増しするようP1に対して指示し,これに基づいて,提出用のレセプトが作成され,不正な診療報酬請求がされた旨を証言している。 これに対して,理事長は,その代表者尋問において,当該付せんの「加」の意味につき,看護婦に対してカルテの記載漏れ又はレセプト作成時の入力漏れを指摘し,あるいは医師が必要な検査等を指示し忘れていることに対して,「是非積極的にやっていただくことを医師に要請するためのもの」であると供述するが(なお,当該付せんの記載について,理事長は第9回弁論準備手続において,自署であることを否認していたが,理事長の本人尋問においては,「フォイパン~」「イセパシン~」との記載を除いては,同人の筆跡であることを否定しておらず,明確に自署であることを認めなかったものについても,同人が自署であることを認めた筆跡との比較対照をすれば,同一人の筆跡であることは容易に認められる。),P1は,当該付せんの記載について,理事長から上記のような指示・説明はなかったことを明言するので,理事長の上記供述について検討する。 イまず,証拠(乙16,17)によると,理事長は,第1回目の監査(平成10年4月28日実施)の際,処分権者側の係官に対し,レセプトに貼付された付せんに記載された3名の筆跡のうち,P1とP4の両名を挙げるのみで,残る1名について誰の筆跡か分からないと述べて,自己の筆跡であることを強く否 施)の際,処分権者側の係官に対し,レセプトに貼付された付せんに記載された3名の筆跡のうち,P1とP4の両名を挙げるのみで,残る1名について誰の筆跡か分からないと述べて,自己の筆跡であることを強く否認する態度に終始した事実が認められるが,他人の筆跡については氏名を特定して指摘しながら,自己のそれについて判別できないということは考えられず,でき得れば責任を免れようとする態度の現れと推認することができる。 次に,理事長は,付せんに記載された筆跡が自己のものであることを前提に,それらはカルテの記載漏れ,レセプトの入力漏れの指示であると供述するが,前記認定のとおり,理事長自身はレセプトのチェックをする際にカルテとの突き合わせ作業を何ら行っていないのであるから,そのような作業を経ることなくカルテの記載漏れやレセプトの入力漏れを的確に指摘することができるとは考え難く,また付せんに記載された内容は同一の内容のものが多く,理事長の供述を前提とすれば,看護婦や事務員は同じような事項について,同じミスを何度も繰り返していたことになるが,付せんに記載された事項が重要な検査や薬剤であることを考えれば,そのようなことはおよそ想定し難い上,理事長は記載漏れ等の事実について,看護婦らに対し,口頭で注意したことは一切ないし,確認もしていないとも供述しているのであって,理事長の上記供述は極めて不自然かつ不合理であるといわざるを得ない。 もっとも,カルテとの突き合わせ作業を行っていなかったことについて,理事長は,上記作業が煩雑で時間がかかるため,それを行う時間的余裕がないことや医師や事務職員が事前ないし事後に突き合わせ作業を行っているので,理事長自らが行う必要性が乏しいとの供述をするが,正確なチェックに不可欠と考えられる作業に要する時間を惜しむ一方で,医師や事務職員に 医師や事務職員が事前ないし事後に突き合わせ作業を行っているので,理事長自らが行う必要性が乏しいとの供述をするが,正確なチェックに不可欠と考えられる作業に要する時間を惜しむ一方で,医師や事務職員に対して明確な根拠を有しない指示を繰り返すことは,理事長自らレセプトチェックを行うことにより事務職員らの意欲を高めるとの理事長の供述に符合しないものであって,理事長が突き合わせ作業を行っていなかったことの理由としては不合理といわざるを得ない。 以上の判断は,レセプトの入力作業をしていたP14(旧姓〇〇)がレセプトの入力漏れのチェックの付せんは横長の細長いタイプのものが別にあり,上記で問題となっているような大きな付せんは見たことがないと述べている(乙1)ことからも裏付けられる。この点についても,原告は,P14は平成7年7月1日をもって退職しているから,問題となっている大きな付せん(同月10日に入力作業を行う仮レセに貼付されている)を見ていないとしても当然であり,同人の供述は裏付け根拠とならないと主張するが,P14は,退職した後も平成7年7月10日までは本件病院が繁忙期であるため,引き続き手伝いでレセプトの入力作業を行っていた旨明言しているのであるから,原告の主張は,その前提を欠くものとして採用できない。 ウさらに,理事長は,医師が必要な検査等をオーダーし忘れていることに対して,積極的に検査等の診療行為をするよう事務長を通じて医師に要請するためのものでもあると供述するが,そもそもどのような検査を行い,あるいは投薬を指示するかは医師でなければ本来なし得ない事柄であり(理事長が医師の資格を有していないことは前記のとおりである。),また,実際に診察を行い,個々の患者の症状等を把握した医師にこそできるものであって,前記のとおり,カルテとの突き合わせ作 い事柄であり(理事長が医師の資格を有していないことは前記のとおりである。),また,実際に診察を行い,個々の患者の症状等を把握した医師にこそできるものであって,前記のとおり,カルテとの突き合わせ作業さえ行っていない理事長が上記のような指示をするというのは余りにも不自然である。仮に,理事長が本件病院の経営者の立場から高額な費用を掛けて購入した医療機器等の積極的活用を医師に要請するものであったとしても,そのような要請は口頭で直接要請すれば足りることであって,わざわざ付せんを貼って,しかも理事長と同じく医師の資格のないP1を通じて要請するというのは極めて不自然といわざるを得ない。特に,理事長は,果たして事務長がそのような要請を医師に伝えてくれたのか(P15院長が付せんを見ることがなかったことは,乙17によって認められる。),その反応はどうであったかを確認した形跡がないにもかかわらず,長期間にわたって付せんによる要請を続けたというのは,理解し難いところである(理事長は,その代表者尋問において,腹部エコーや抗ガン剤の使用については確認し,要請を拒否するとの回答を得たことがある旨供述するが,そのような拒絶を受けながら,なおも付せんによる要請を繰り返したというのはますますもって不自然であり,上記供述は採用できない。)。この点,理事長は,本件病院のP15院長は離婚直後で精神的に不安定であったことなどを理由にやむなく上記のような方法を取った旨弁解するが,いかなる診療行為をするかは医師の裁量に属するものであって,医師が必要と判断した検査,投薬等の診療行為の内容を超えて,医師に上記のような指示をすることは越権行為と考えられるだけでなく,過剰診療の指示とのそしりを免れず(仮にそのような指示が実行に移されたならば,本件要綱の定める要件①又は③に該当し得ると考え 超えて,医師に上記のような指示をすることは越権行為と考えられるだけでなく,過剰診療の指示とのそしりを免れず(仮にそのような指示が実行に移されたならば,本件要綱の定める要件①又は③に該当し得ると考えられる。),そのような指示を受けた医師が快く思わないことは想像に難くない。とりわけP15院長が精神的に不安定であったというのであればなおさらであると考えられるから,理事長の上記弁解はその裏付けを欠くものであり,到底信用できない。 エ以上のとおり,付せんの記載の意味に関する理事長の供述は,極めて不自然かつ不合理なものであって,採用することができない。 (2) P1の証言等の信用性についてア原告は,P1がその証人尋問等において,理事長自らが付け増し請求する内容を付せんに標記してレセプトに貼付し,それを参考にして不正請求を行っていると証言している点について,①理事長とP1が共謀の上,不正請求を行っていたとすれば,上記のような迂遠な方法を採るのではなく,それぞれが付け増しすれば足りるはずである,②理事長が不正請求に関与していたとすれば,レセプトに直接書き込みをすれば足りるのであり,付せんを使用する必要はないはずである,③理事長の付せんに基づきなされた付け増し分は,「超音波検査」,「心拍監視」,「心電図検査」,「X-P(胸部レントゲン検査)」に限られているが,これらの診療報酬の請求点数はいずれも少額であり,その程度の金額を得るために不正請求という危険を冒すとは考えられない,④理事長が記載した検査,投薬等の事項については,検査名,投薬名が記載されているのみで,その回数,数量の記載がないから,不正請求の指示としては不十分である,などを理由としてP1の上記証言は信用性がないと主張する。 しかしながら,上記の①,②の事実については,最終的に診療報酬の手続 ,その回数,数量の記載がないから,不正請求の指示としては不十分である,などを理由としてP1の上記証言は信用性がないと主張する。 しかしながら,上記の①,②の事実については,最終的に診療報酬の手続を行うのは病院の事務方であり,事務長の立場にあるP1が不正請求の内容を取りまとめるのが便利かつ自然であること,そもそも本件不正請求は,理事長の了解を得た上でP1が中心となって実行行為を行うことを前提として始められたものであり,付け増し行為が共同で行われる必然性はないこと(P1は,証人尋問や甲第29号証において,理事長の具体的指示を受けず,あるいは付せんによる指示を無視して不正請求した分も存在することを認めている。),原告の代表者である理事長自らが診療報酬の不正請求に関与する場合,理事長自身が関与していることを示す証憑を残さないような方法を取ろうとすることはむしろ自然であって,付せんの貼付という,一般には容易に隠滅することができる方法を選択したとも考えられること,などからすれば,P1の供述の信用性が弾劾されるとはいえない。また,③,④の事実については,理事長が付せんに記載した検査等は,ある特定の疾病に対する診療行為としてその必要性にかかわらず定型的に行われることが多いと考えられるものであって,付け増しのしやすい事項(裏を返せば,付け増しをしたとしても疑われにくい事項でもある。)であるともいえること,回数,数量の記載をしなかったことについても,理事長が付け増しした事項が前記のとおり定型的なものであって,指示を受けるP1としては従前の内容等を参考にしながら付け増しすることができるため,特に不都合は考えられないことからすれば,同様にP1の証言に信用性がないことの理由とはならないというべきである。 イまた,原告は,P1の証言によれば,理事長が付せんに 付け増しすることができるため,特に不都合は考えられないことからすれば,同様にP1の証言に信用性がないことの理由とはならないというべきである。 イまた,原告は,P1の証言によれば,理事長が付せんに記載した内容が指示書に反映されていなければならないところ,平成7年7月以降の不正請求の基礎となった指示書の内容と理事長が付せんに記載した内容が合致しないものがあるなどの疑問点,矛盾点が多々あり,同人の証言は信用できないと主張するが,前記のとおり,P1は,付せんの内容を指示書に反映させることもあるが,理事長が付せんに記載したものの全てを採用しているわけではないと証言し,また,証拠として提出されている本レセ(平成7年7月以降のもの)に貼付されている付せんは,本レセの写しとは別に保管していたものを,P1において,不正請求の当時,当該付せんが付されていたと思われる本レセに貼付し直したもので,再貼付の際,別の本レセに誤って付した可能性があることを認めているから,平成7年7月以降の本レセの記載と付せんの記載が合致していないことによって,P1の証言の信用性が直ちに失われるものではない。 ウさらに,原告は,P1は,その証人尋問において,理事長から明確な言葉で不正請求の依頼を受けた旨を証言しているが,同証言は,本訴提起以前の被告からの聴取に対して回答したことと矛盾しているほか,供述している理事長が不正請求を依頼した時期,場所,具体的な会話の内容等について極めて不明確であって,信用できないと主張するところ,確かに,P1の上記回答が「私は,理事長からはっきりと不正請求をするよう指示を受けたわけではありませんでした。」(乙24)とか,「私が少し何とかしましょうかと話をしたときに,暗黙の了解をされたものと思った。」(甲29)などというものであった事実が認められる。 するよう指示を受けたわけではありませんでした。」(乙24)とか,「私が少し何とかしましょうかと話をしたときに,暗黙の了解をされたものと思った。」(甲29)などというものであった事実が認められる。 しかしながら,P1の理事長との謀議に関する証言及び供述は,両者の間で明示的な謀議が形成された時期,場所,具体的な内容等について不明確な部分はあるものの,理事長と謀議を形成するに至った大まかな経緯,すなわち,P1が事務長に就任後,理事長がP1に対し本件病院の経営が苦しいと愚痴をこぼしていたこと及び他の病院では不正請求が行われているとの話をしたこと,それを聞いたP1が理事長が自分に対して不正請求をやるように示唆していると感じたこと,その後新しいコンピュータを導入するに当たって,理事長がP1に対しその購入資金の捻出を要望したこと,P1はその要望を不正請求の指示であると理解し,理事長に対してその真意を確認したところ,理事長から否定する回答がなかったため,P1は不正請求をする決意をするに至ったこと,以上の事実について同人の供述は一貫しており,謀議の成立したときから供述あるいは証言時までに既に数年が経過し,事実の詳細については記憶が薄れていることを考慮すれば,謀議の形成時期及び場所やその際の具体的な会話の内容の細部について不明確な部分がある(もっとも,時期や場所については概ね特定されている。)としても,証言全体の信用性に影響を与えるものではない。 また,前記の本訴以前のP1の供述は,当初,理事長の側から明確な言葉でもって働きかけがあったわけではないことを示していると解され,その点では本訴における証言と概ね一致しているから,同様にP1の証言全体の信用性を失わせるものであるとはいえない。 エそこで更にP1の証言について検討するに,P1の証言は,不正請求の方 ると解され,その点では本訴における証言と概ね一致しているから,同様にP1の証言全体の信用性を失わせるものであるとはいえない。 エそこで更にP1の証言について検討するに,P1の証言は,不正請求の方法,態様等について具体的であり,かつ同人しか知り得ない内容(仮レセ,指示書の存在)が明らかにされていて,その証言に沿った客観的証拠も存在するほか,理事長が付せんによる付け増し行為を行っていなかった時期(平成6年12月から平成7年5月,平成9年1月から5月)やその内容の一部について,自己の判断で付け増しを行っていたことを認めるなどの不利益供述が進んでなされており,証言全体について相当程度の信用性が認められる。また,前記のとおり,理事長との謀議が段階的にされるに至ったことについて同人の供述は一貫していること,最終的な謀議の成立がレセプト作成用のコンピュータの導入に関連するとしている点について,コンピュータの導入された経緯に関する理事長の供述とP1の証言とは一致すること,付せんに標記された「~加」の記載はレセプトに記載がないものを加えるとの意味であると理解するのが自然であり,現に理事長が付せんに標記した事項の多くが現実に付け増し請求されており(乙8ないし10の各1,2,11の1ないし3,12の1,2,13ないし15の各1ないし3,なお,付せんに記載のある抗ガン剤については当時本件病院において扱われていなかったため,現実には請求されていない。),P1が理事長の付せんの内容を参照して不正請求を行っていたとの同人の証言内容と客観的に合致すること,理事長が付せんによって指示を行っていた時期が平成7年6月から平成8年末までであることは理事長も認めていることに加え,前記で検討したように,付せんの意味に関する理事長の供述が不自然で,合理性を欠くものであることな よって指示を行っていた時期が平成7年6月から平成8年末までであることは理事長も認めていることに加え,前記で検討したように,付せんの意味に関する理事長の供述が不自然で,合理性を欠くものであることなどを併せ考えると,理事長が不正請求に関与していたとするP1証言の信用性は高いというべきである。 オかてて加えて,理事長が不正請求に関与していたとのP1証言の信用性を補強する以下のような事情も存在する。 (ア) そもそもP1が本件不正請求を始めた動機について,原告は,本件病院を混乱に陥れ,その主導権を握る目的であったと主張する。しかしながら,前記認定のとおり,P1が原告に対して具体的な金員を要求したのは懲戒解雇された後であり(理事長の供述によっても,平成8年10月になって,理事長の地位を要求したのが初めてであり,かつ理事長が拒否するや,在職中は何らの要求をしていない。),平成6年12月から不正請求をしていることに照らすと,自己の利益を得る目的でのみ,不正請求を行っていたとは考え難い。むしろ,P1が証言するように,理事長からの要請を受けたことが主たる動機であったと理解するのが自然である。 (イ) 前記認定のとおり,理事長は,P1から事務員として推薦されたP4を医療事務主任に抜擢した上,同人について,平成6年11月,原告名義でマンション(3LDK)を借り,その賃料(月額10万8000円)を原告が負担している。 本件病院において何の実績もなく,過去の実績,経験等についても明らかでない新入りの事務員にすぎないP4について,このような破格の待遇をするには特別の理由があるものと考えられるところ,P1証言によれば,上記賃貸借契約の少し前に理事長との間で不正請求を行うことについての謀議が成立したとされており,上記事実は,実際にレセプト入力作業を行うP4を重用する があるものと考えられるところ,P1証言によれば,上記賃貸借契約の少し前に理事長との間で不正請求を行うことについての謀議が成立したとされており,上記事実は,実際にレセプト入力作業を行うP4を重用することにより,P1が不正請求を始めるに当たって同人の便宜を図ったことをうかがわせる。 この点,理事長は,その代表者尋問において,上記月額賃料等の半額は,寮費としてP4の毎月の給与から控除されていること,半額賃料負担の条件として残業手当は支給しないことなどを理由に,P4に対して破格の待遇を行っていたわけではないと供述している。しかしながら,P4は,上記のとおり,何らの実績がないにもかかわらず,役職手当5万4000円の支給を受けていたのである(甲71の1ないし3)から,残業手当を支給しないことがP4に対して破格の待遇をしたことを否定する理由とはならないことは明らかである。 (ウ) P1が起こしたセクハラ事件の示談金100万円を原告が負担し,かつ,その事件に関しP1に対しては何の処分も行わないなどP1に対して特別の便宜を図っている。同様に,工作費の趣旨で提供したとする250万円についても,その使途を確認することもなく,また仮払金処理をしているにもかかわらず,返還を求めた形跡がない。これらの事実は,事務長に対する単なる厚遇というには過ぎていると考えられ,理事長がP1を極めて重視していたことを推認させるものである。 4 以上検討したとおり,本件病院における不正請求は,原告代表者である理事長の要請及び了承に基づき,事務長の地位にあったP1を実行行為者として行われたものであると認められるから,要件②の「故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの。」に該当する(なお,甲第43号証によれば,平成11年6月14日に本件処分に先立って行われた聴聞手続において,当 ものであると認められるから,要件②の「故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの。」に該当する(なお,甲第43号証によれば,平成11年6月14日に本件処分に先立って行われた聴聞手続において,当時の処分権者側から本件不正請求は要件④に該当するとの見解が示された事実が認められるが,法43条の12第3号は,処分事由としての不正請求を要件①ないし④に細分化しておらず,現に甲第22号証,乙第27号証によれば,本件処分は上記法条の第3号に基づくものであるとしてなされていることが認められるので,いわゆる処分理由の差替えの問題は生ぜず,被告が本訴において要件②の充足を主張し,裁判所がこれを認定するにつき何らの支障もないというべきである。)。 この点,原告は,不正請求を行った他の医療機関に対する処分との不均衡を主張し,これに沿うかのごとき証拠(甲31,43ないし45)もあるが,反面,不正請求に係る金額が少額であるにもかかわらず,被告によって保険医療機関の指定の取消処分を受けた例が存在する事実も認められる(乙32,34)から,結局は個々の事案の内容によると考えられ,本件処分が直ちに行政処分における比例原則,平等原則に違反するとはいえない。かえって,本件不正請求が平成7年1月から平成9年5月までの長期間にわたって繰り返し行われたものであること,不正請求金額が約4000万円もの多額にのぼること等を考慮すれば,原告が不正請求の事実を自主申告し,不正請求分を自主返還した事実を考慮したとしても(なお,原告の自主申告は,P1が不正請求に関する資料を原告あてに送付し,P1が同じ資料を愛知県に提出して不正請求の事実を告発することが確実となったため,同告発に先んじて行われたものと認められ,自主申告の事実があるからといってことさらに原告の有利に斟酌することはできない。 が同じ資料を愛知県に提出して不正請求の事実を告発することが確実となったため,同告発に先んじて行われたものと認められ,自主申告の事実があるからといってことさらに原告の有利に斟酌することはできない。),愛知県知事が行った本件処分は相当であって,その裁量権を逸脱ないし濫用したものといえないことは明らかである。 第4 結論以上の次第で,本件処分は適法であり,原告の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部裁判長裁判官加藤幸雄裁判官橋本都月裁判官富岡貴美

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