【判示事項の要旨】日本郵政公社職員による業務上過失傷害等事件について,罰金刑にした一審判決を破棄し,懲役刑にした事例 主文 原判決を破棄する。 被告人を懲役1年に処する。 この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。 原審における訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 1 本件控訴の趣意は,仙台地方検察庁検察官宇井稔作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は,弁護人小野寺義象作成の答弁書に各記載のとおりであるから,これらを引用する。控訴趣意は,量刑不当を主張し,本件一連の犯行は,酒気帯び運転をし,交通事故の被害者を救護するなどせずに,そのまま走り去り,赤信号で停止せずに,青信号に従って横断中の自転車に乗った人をはねた,という危険かつ悪質なものであって,懲役刑に処すべき事案であるにもかかわらず,原判決が,公務員である郵便局職員の職を失うことは余りに酷であるとして,罰金刑に処したのは,その量刑が著しく軽すぎて不当である,というのである。それに対する答弁は,本件では,被害者らがいずれも宥恕し,被告人の職場復帰を望んでいるという特殊な情状があり,原判決後も,検察官の控訴を望んでいなかったことからすれば,原判決の量刑は妥当である,というのである。 2 記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。 本件は,酒気帯び運転の上(原判示第1),前方を走行する自動車に自車を追突させ,相手車両の乗員3名に加療約2週間から3週間を要する傷害を負わせる交通事故を起こしたのに,救護義務及び報告義務を尽くさずにそのまま逃走し(同第2),さらに,後方に気を取られて対面信号機の表示に留意せず,赤信号を見落として走行し 3週間を要する傷害を負わせる交通事故を起こしたのに,救護義務及び報告義務を尽くさずにそのまま逃走し(同第2),さらに,後方に気を取られて対面信号機の表示に留意せず,赤信号を見落として走行した過失により,青信号に従い道路を横断してきた自転車に自車を衝突させ,自転車の男性に加療約2週間を要する傷害を負わせた(同第3),という道路交通法違反,業務上過失傷害の事案である。 本件での被告人の一連の行動及び犯行の状況を見ると,被告人は,郵便局の勤務終了後同僚らと飲酒し,午後7時ころから午前0時ころまで2軒の居酒屋でビール,焼酎等を飲み,その後同僚らと別れて帰宅しようとしたが,携帯電話を忘れて代行運転業者の電話番号も分からなかったことから,勤務先近くの駐車場に停めていた自己の自動車のところへ行き,そのまま自動車を運転して,原判示第1の酒気帯び運転の罪を開始し,途中注意力が散漫になって前方を走行する自動車に追突する事故を起こし,衝突の衝撃も覚えながら,酒を飲んでいて事故を起こしたことが発覚するのを恐れて,そのまま走り去って原判示第2の救護義務違反等の罪を犯し,引き続き次の交差点の赤信号も無視するなどして走り続けて,先方に横断歩道があることは知っていたものの,先の追突事故のことが気になり,ルームミラーで後方から来る自動車等に気を奪われて前方注視がおろそかになり,対面の赤信号や横断歩道上を進んでくる人に気づくのが遅れて,自転車で横断中の人をはねる原判示第3の業務上過失傷害の罪を犯し,飲酒運転の上2度も事故を起こしてしまったことから,なお逃走しようとして,そのまま走り続けたが,交差点の赤信号にかかって停車した際,2度目の事故ではねた被害者のことが気になって,その場で下車し,被害者のところに戻って救護等の措 まったことから,なお逃走しようとして,そのまま走り続けたが,交差点の赤信号にかかって停車した際,2度目の事故ではねた被害者のことが気になって,その場で下車し,被害者のところに戻って救護等の措置を取った,というのである。 さらに,各犯行について考察すると,原判示第1の犯行は,かなりの時間にわたり相当量の飲酒をしており,果たして運転開始から約1時間後の検査でも,呼気1リットル当たり約0.62ミリグラムの多量のアルコール量が検出されているのであって,通常人の感覚からすれば運転は控えるのが当然と思われる状況であったにもかかわらず,事故を起こしたり取締りを受けなければよいだろうという極めて安易な考えで運転を開始し,それから2分ほどで原判示第2の事故を起こし,更に赤信号を無視するなどして走行した上,同第3の人身事故を起こしており,こうした運転態度や事故惹起には酒気帯びが影響していることは明らかであり,被告人の酒気帯び運転は,他人の生命や身体に危害を及ぼす恐れの非常に大きい危険かつ悪質なものであったといえる。 原判示第2の救護義務違反及び報告義務違反は,酒気帯び運転の上事故を起こしたことから,職場をくびになるのを恐れて逃げ出したというのであり,誠に身勝手で人の生命や身体の安全を無視した犯行といわねばならない。 原判示第3の業務上過失傷害は,自らが起こした追突事故の現場から逃走を図って後方に気を取られ,酒気帯びの影響も手伝って前方注視がおろそかになり,信号表示や横断者に注意を払わなかったというのであるから,その過失の原因及び内容のいずれにおいても悪質であり,事故の態様も,時速約60キロメートルで走行中のところ,青信号に従い自転車に乗って横断していた被害者に対し,急ブレーキを掛けたものの止まらずに, 過失の原因及び内容のいずれにおいても悪質であり,事故の態様も,時速約60キロメートルで走行中のところ,青信号に従い自転車に乗って横断していた被害者に対し,急ブレーキを掛けたものの止まらずに,自転車の前輪に自車の右前部角付近を衝突させ,被害者を約6メートルはね飛ばしているのであって,被害者には相当の衝撃を与えており,わずかの時間のずれで被害者の生命,身体に重大な侵害を及ぼした可能性の高い非常に危険なものであったといえる。また,被告人は,転倒した被害者を放置してその場からいったんは逃走しており,人身の安全に対する意識が欠けていることがうかがわれる。 以上の本件での被告人の行動及び各犯行の内容・性格からすると,被告人については強い非難がなされるべきであって,その刑事責任が相当に重いといわなければならない。特に指摘しなければならないことは,被告人には自動車運転による人身への危険に対する意識及び自動車を運転する者としての社会的責任の自覚が希薄であることである。すなわち,本件のごとく高い程度の酒気を帯びて自動車運転を行うことが,人身事故を起こす高度の危険性があり,社会に対する犯罪として非難が高まっているにもかかわらず,安易にそれを敢行し,また,最初の追突事故を起こして運転状態が危ないことを認識していながら,逃走を図って赤信号を無視する走行をし,その上前方注視が散漫となって2度目の人身事故を起こし,更にその被害者を無視して逃走を図っているのであって,こうした被告人の行動には,単に交通法規の軽視にとどまらず,人の生命や身体の安全に対する意識の希薄さが認められる,といえる。 したがって,被告人については,その責任の重さを問い,規範意識と人身の安全に対する意識の改善を図り,同種犯罪を繰り返すことを防止 生命や身体の安全に対する意識の希薄さが認められる,といえる。 したがって,被告人については,その責任の重さを問い,規範意識と人身の安全に対する意識の改善を図り,同種犯罪を繰り返すことを防止するためには,自由刑を科する必要性が相当にあると認められる。なお,原判決は,その(量刑の理由)において,「各犯行は,・・・(中略)・・・被告人のとっさの判断の誤りも加わってなされたものであり」あるいは「各犯行に常習性があるとは認められず」と判示するが,その趣旨は必ずしも明確でないものの,本件一連の犯行の状況や各犯行の内容からすると,とっさの判断の誤りという点は是認できず,また,原判示第2の救護義務違反等及び同第3の人身事故については,常習性の欠如が,その責任を軽減するものではない,といえる。 なるほど,被告人のために酌むべき事情として,原判示第3の業務上過失傷害の被害者及び同第2の交通事故の被害者らの傷害は,幸いにしていずれも比較的軽微であったこと,被告人は,同第3の業務上過失傷害の犯行後,いったんは逃走を図ったものの現場に戻っていること,原審及び当審において反省の態度を示し,各交通事故の被害者らに対しても謝罪するなど誠意を尽くしていること,上記被害者らとはいずれも示談が成立し,各被害者らは,書面を作成し,あるいは原審公判廷で自ら証人として証言するなどして,被告人に対し寛大な処分を望む意思を明示していること(なお,弁護人が主張するように,被害者らの嘆願や寛大な処分を望むとの意思表示があるものの,それは,酒気帯び運転の関係ではその責任を軽減するものではないといえる。),両親が監督を誓っていること,速度違反による罰金前科1犯以外には前科がないことの各事情が原判決当時存在し,また,原判決後に,上記各被 運転の関係ではその責任を軽減するものではないといえる。),両親が監督を誓っていること,速度違反による罰金前科1犯以外には前科がないことの各事情が原判決当時存在し,また,原判決後に,上記各被害者らが,重ねて被告人が職場復帰できるような判決を望む旨の嘆願書を作成していること,被告人はボランティア活動に従事するなどして更に反省を深めていることが認められる。 しかしながら,上記のとおり,被告人については自由刑を科する必要性が相当にあり,上記酌むべき事情をもってしても,その必要性が著しく減弱されるものではないというべきであり,被告人が,国家公務員たる日本郵政公社職員で(日本郵政公社法50条),禁錮以上の刑に処せられると当然に失職する(国家公務員法76条)不利益を受けることがあったとしても,罰金刑を選択する余地は本件ではないといわざるを得ない。 したがって,被告人を罰金130万円に処した原判決の量刑は軽すぎるから,論旨は理由がある。 3 よって,刑訴法397条1項,381条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により,被告事件について更に次のとおり判決する。 原判決認定の事実に原判決と同一の罰条を適用し,また,原判示第2については原判決と同じ観念的競合の処理をした上,原判示第1ないし第3の各罪につき各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い原判示第3の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役1年に処し,同法25条1項を適用してこの裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予し,原審における訴訟費用を被告人に負担させることにつき刑訴法181条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。 平成15年10月9日 を適用してこの裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予し,原審における訴訟費用を被告人に負担させることにつき刑訴法181条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。 平成15年10月9日仙台高等裁判所第1刑事部裁判長裁判官松浦繁裁判官根本渉裁判官髙木順子
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