令和6(行ケ)10030 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年9月11日 知的財産高等裁判所 2部 判決 請求棄却
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判決文本文8,115 文字)

令和6年9月11日判決言渡 令和6年(行ケ)第10030号審決取消請求事件 口頭弁論終結日令和6年7月10日判決 原告 エンカクジャパン株式会社 同訴訟代理人弁護士西野弘起 被告 特許庁長官 同指定代理人 山根まり子 旦克昌 真鍋伸行 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求特許庁が不服2022-17185号事件について令和6年2月28日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要本件は、商標出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は、本願商標が商標法4条1項7号に掲げる商標に該当するか否かである。 1 特許庁における手続の経緯(争いのない事実、甲2の1) (1) 原告は、令和3年12月27日、別紙1「商標目録」記載の商標(以下「本願商標」という。)について商標登録出願をした(商願2021-162042)。 (2) 原告は、令和4年7月29日付けで拒絶査定を受けたため、同年10月27日、拒絶査定不服審判を請求した。特許庁は、上記請求を不服2022-17185号事件として審理を行い、令和6年2月28日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(本件審決)をし、その謄本は同年3 不服審判を請求した。 特許庁は、上記請求を不服2022-17185号事件として審理を行 い、令和6年2月28日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(本件審決)をし、その謄本は同年3月11日原告に送達された。 (3) 原告は、同月29日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 本件審決の理由の要旨別紙2「本件審決(抜粋)」のとおりであり、要するに、「シャンパン」の 文字を含む本願商標をその指定商品に使用するときは、著名な「シャンパン」の表示が備えた多大な顧客吸引力へのただ乗り(フリーライド)及び同表示の希釈化(ダイリューション)を生じさせるおそれがあるばかりでなく、国を挙げて「シャンパン」の原産地統制名称の保護に努めているフランス国民の感情を害し、国際信義に反するものであって、公の秩序を害するおそれがあるから、 本願商標は、商標法4条1項7号に該当する、というものである。 3 原告主張の審決取消事由商標法4条1項7号該当性の判断の誤り第3 取消事由に関する当事者の主張(原告の主張) 1 「遠隔シャンパン」の意味「遠隔シャンパン」は、著名な原産地統制名称の表示である「シャンパン」とは異なる意味合いがあるから、「シャンパン」の表示が備えた多大な顧客吸引力へのただ乗り(フリーライド)及び同表示の希釈化(ダイリューション)を生じさせるおそれがあるとはいえない。 (1) 「遠隔シャンパン」とは、キャバレークラブ、ホストクラブなどの特定の- 3 -店舗のキャスト(接待するスタッフ等)等に対して、ゲストが実際に店舗に来店しなくても、シャンパン等をプレゼントとして贈る行為を意味する(甲4)。「遠隔シャンパン」の文化は、新型コロナウイルス感染症が蔓延し、実店舗での酒類等の ッフ等)等に対して、ゲストが実際に店舗に来店しなくても、シャンパン等をプレゼントとして贈る行為を意味する(甲4)。「遠隔シャンパン」の文化は、新型コロナウイルス感染症が蔓延し、実店舗での酒類等の提供ができない店舗が、ゲストが実際に店舗に来店しなくても提供できるサービスとして、インターネット上でシャンパン等の酒類 等の提供を通じてコミュニケーションするものとして発展してきた。 (2) 原告は、インターネットを通じて、ゲスト(客)が店舗のキャスト又はオーナー(店長等)に対し、シャンパン等をプレゼントするための「シャンパる」という名称のアプリケーションを提供している。これは、店舗ごとに遠隔シャンパンが行われていたものを、スマートフォンのアプリケーションを 用いて、全国各地の店舗を検索してシャンパン等を注文することができる日本初のサービスを提供するものであって、原告は「遠隔シャンパン」の商標を取得するに値する。 (3) 我が国では、キャバレークラブ等を含むいわゆる夜の接客業において、「シャンパン」という言葉に「祝杯や祝福の象徴」という意味合いがあり、 単に酒類の名称を意味するものではない(甲5参照)。 ましてや、「遠隔」という言葉と組み合わさることによって、ゲストが実際に店舗でシャンパン等を飲まないにもかかわらずシャンパン等を注文する行為は、「祝杯や祝福」として「祝う」行為そのものを指しており、酒類としてのシャンパンそのものとは全く別の意味合いを有することになる。 したがって、本願商標は、必ずしも原産地統制名称のシャンパンに通じる語として使用されているとはいえない。 2 本願商標が国際信義に反すると評価すべきではないこと「CHAMPAGNE」の原産地統制名称を保護する等の活動を行っているシャンパーニュ ャンパンに通じる語として使用されているとはいえない。 2 本願商標が国際信義に反すると評価すべきではないこと「CHAMPAGNE」の原産地統制名称を保護する等の活動を行っているシャンパーニュ地方ぶどう酒生産同業委員会から現に無効審判の請求や登録異 議の申立てがあれば、「フランス国民の感情を害し」ていることが具体化して- 4 -いたともいえるが、本願商標については、同委員会の具体的な活動が予見されているわけではない。 現在、「シャンパン」の文字が含まれ、私人が現在も商標登録を継続している登録商標(「シャンパンのひ」など)は、14件確認できる(甲6)。このように、実際に「シャンパン」の文字を含む商標が登録、使用されている以上、 同委員会からの無効等の主張がない時点で国際信義に反すると評価することは、抽象的な危険を理由に私人の事業活動を著しく制限するものとなり、産業の発展に寄与するという商標法の法目的に反する。 (被告の主張)争う。本願商標の構成、指定商品の内容、「シャンパン」の文字がフランス において有する意義や重要性、我が国における周知著名性等を総合的に考慮すると、本件審決が判断するとおり、本願商標は商標法4条1項7号に該当する。 第4 当裁判所の判断 1 本願商標の商標法4条1項7号該当性について(1) 証拠(以下の各項に掲げる。)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認 められる。 ア 「シャンパン」は、「フランスのシャンパーニュ地方原産の発泡性ぶどう酒」を意味し、フランスの「原産地統制名称法」に基づき定められた、生産地域、製法、生産量など所定の条件を備えたぶどう酒についてのみ使用できる原産地統制名称として、長年にわたり、厳格な品質管理がなされ るとともに、同国内外における 称法」に基づき定められた、生産地域、製法、生産量など所定の条件を備えたぶどう酒についてのみ使用できる原産地統制名称として、長年にわたり、厳格な品質管理がなされ るとともに、同国内外における名称の保護が図られてきており、これらのことは、日本においても、酒類に関する書籍等を中心に、国語辞典、用語辞典を含む書籍に記載されている(甲1の1~4、乙4~16)。 イ前記活動の具体的内容としては、フランスのシャンパーニュ地方ぶどう酒生産同業委員会(コミテアンテルプロフェッショネルデヴァン ドゥシャンパーニュ)、原産地名称国立研究所(INAO)といった機- 5 -関、団体が、「CHAMPAGNE(シャンパン)」との名称を使用することができる発泡性ぶどう酒(スパークリング・ワイン)について生産地域、製法、生産量等の基準を定め、その品質を厳格に管理するとともに、その名称の使用を厳格に制限し、同国外においても、名称の使用制限やその名称を使用した発泡性ぶどう酒の販売の差止めを求めて法的措置を講じ るなどし、我が国においても、「CHAMPAGNE(シャンパン)」の文字をその構成に含む商標の登録に対し、登録異議や無効審判を申し立て、実際に多数の商標の登録が取消又は無効とされるに至っている。そのほか、フランスは、国際的な貿易交渉において、同様の産地表示制限の厳格化を求めるなどしている。(甲1 の5~15、乙9~12、乙15~49) ウその結果、「シャンパン」の表示及び表示が示す発泡性ぶどう酒については、世界的に高い名声、信用、評判が形成され、フランス及び同国民の文化的所産というべきものとなっており、我が国においても、本願商標の指定商品の取引者、需要者のみならず、一般国民の間に広く知られ、多大な顧客吸引力が備わっている 評判が形成され、フランス及び同国民の文化的所産というべきものとなっており、我が国においても、本願商標の指定商品の取引者、需要者のみならず、一般国民の間に広く知られ、多大な顧客吸引力が備わっている。 (2) 本件商標は、「遠隔シャンパン」の文字を標準文字で表してなるところ、「遠隔シャンパン」の語は、広く一般的に認識されているとは認めるに足りず、「遠くへだたっていること」等を意味する「遠隔」と「シャンパン」を組み合わせた造語であると認識される。 そして、前記のとおり「シャンパン」の語が有する著名性と多大な顧客吸 引力を考慮すると、本件商標からは、「エンカクシャンパン」の称呼とともに、「シャンパン」の称呼及び、前記のとおり著名で多大な顧客吸引力を有する「シャンパン」の観念が生ずると認められる。 (3) 以上を総合考慮すると、「シャンパン」の文字を含む本願商標をその指定商品に使用することについて我が国の商標法上の保護を与えるときは、著名 な「シャンパン」の表示が備えた多大な顧客吸引力へのただ乗り(フリーラ- 6 -イド)及び同表示の希釈化(ダイリューション)を生じさせることを許容する結果となるおそれがあるのであって、国を挙げて「シャンパン」の表示の保護に努めているフランス国民の感情を害し、我が国とフランスの友好関係にも影響を及ぼしかねないものであるから、国際信義に反するものといわざるを得ない。 したがって、本願商標は、商標法4条1項7号に該当する。 2 原告の主張に対する判断(1) 原告は、「遠隔シャンパン」の語は、キャバレークラブ、ホストクラブなどの特定の店舗のキャスト(接待するスタッフ等)等に対して、ゲストが実際に店舗に来店しなくても、シャンパン等をプレゼントとして贈る行為を意 味 ンパン」の語は、キャバレークラブ、ホストクラブなどの特定の店舗のキャスト(接待するスタッフ等)等に対して、ゲストが実際に店舗に来店しなくても、シャンパン等をプレゼントとして贈る行為を意 味し、著名な「シャンパン」とは意味合いが異なると主張する。 しかし、原告提出の証拠(原告が提供するアプリケーションを紹介するウェブサイト(甲3)、検索エンジンにおける「遠隔シャンパン」の検索結果(甲4))によっても、「遠隔シャンパン」が原告の主張する意味で用いられる例があることは認められるが、一般的に認識されているとまでは認めら れないし、生産地域、製造方法や品質等が厳格に管理された発泡性ぶどう酒のみに使用することができるものとしてフランスで組織的に管理されてきた著名な「シャンパン」の名称を、それ以外の商品や役務を示す名称の一部として利用していることに変わりはない。原告主張の「遠隔シャンパン」の意味自体、著名性かつ顧客吸引力を有する「シャンパン」の存在を前提とする ものと解され、本願商標の構成からは、「エンカクシャンパン」以外に、カタカナ部分に基づき「シャンパン」の称呼及び概念が生ずることを否定することはできない。 原告は、いわゆる夜の接客業において「シャンパン」という言葉には「祝杯や祝福の象徴」という意味合いがあり、単に酒類の名称を意味するもので はないとも主張するが、原告が提出したインターネット記事(甲5)は、酒- 7 -類である「シャンパン」が「祝杯や祝福の象徴とされ」ると説明しているにすぎない。その他、原告の主張を裏付ける証拠はない。 (2) 原告は、「シャンパン」の文字を含む登録商標がなお存在し、フランスの関係機関等からの無効審判請求等がない時点において、国際信義に反すると評価することは、抽象 告の主張を裏付ける証拠はない。 (2) 原告は、「シャンパン」の文字を含む登録商標がなお存在し、フランスの関係機関等からの無効審判請求等がない時点において、国際信義に反すると評価することは、抽象的な危険を理由に私人の事業活動を著しく制限するも のとなり、産業の発展に寄与するという商標法の法目的に反すると主張する。 しかし、前記1の認定判断は、現時点で「シャンパン」の文字を含む登録商標がほかに存在することや、(商標登録前であるから当然であるが)本願商標についてフランスの関係機関等から未だ登録異議の申立てや、無効審判請求等がなされていないことによって左右されるものではないから、原告の 主張は採用することができない。 3 結論以上のとおり、本願商標は商標法4条1項7号に該当し、原告主張の取消事由は理由がないから、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官清水響 裁判官菊池絵理 - 8 - 裁判官頼晋一 - 9 -(別紙1)商標目録 【商標登録を受けようとする商標】遠隔シャンパン(標準文字) 【指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分】(注)令和4年10月27日付け補正後のもの第9類シャンパーニュ地方産の発泡性のワインを注文するためのコンピュータソフトウェア用アプリケーシ 【指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分】(注)令和4年10月27日付け補正後のもの第9類シャンパーニュ地方産の発泡性のワインを注文するためのコンピュータソフトウェア用アプリケーション(電気通信回線を通じてダウンロード により販売されるもの)、シャンパーニュ地方産の発泡性のワインを注文するための電子計算機用プログラム以上 - 10 -(別紙2)本件審決(抜粋) 第6 当審の判断 1 商標法第4条第1項第7号該当性について (1)本願商標は、上記第2のとおり、「遠隔シャンパン」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字は、「遠くへだたっていること。」の意味を有する「遠隔」(広辞苑第七版(株式会社岩波書店)「遠隔」の項参照)の文字と、「シャンパン」の文字とを組み合わせたものと容易に認識、把握させるものである。 (2)ところで、「シャンパン」の文字は、別掲1(注:省略。以下同じ。)のとおり、フランス北東部シャンパーニュ地方産の発泡性白ワイン・ロゼワインを指称する語として、我が国で親しまれている。 そして、別掲2(注:省略。以下同じ。)のとおり、当該「シャンパン」(「Champagne」)は、フランスの法令によって規定され、所定の条件 を備えた発泡性ぶどう酒についてだけ使用できるフランスの原産地統制名称であって、フランス(同国の生産者委員会や国立酒類原産地表示規制機構(INAO)等を含む)が、その品質を厳格に管理し、同国の国内外において、その名称の使用を厳格に制限し、不正使用を防止する、また、その名称を使用した、条件を備えない発泡性ぶどう酒の販売の差止めを求め法的措置を講じるなど、当該商品や その名称の保護を図っているもの その名称の使用を厳格に制限し、不正使用を防止する、また、その名称を使用した、条件を備えない発泡性ぶどう酒の販売の差止めを求め法的措置を講じるなど、当該商品や その名称の保護を図っているものである。 また、我が国の数多くの国語辞典等、新聞などにおいて「シャンパン」の語が当該ぶどう酒を指称するものとして掲載、紹介されており(別掲1及び別掲2)、「シャンパン」は、世界的な名声のある発泡性ぶどう酒として、我が国において、取引者、需要者の間に広く知られているものであって、前記のフランス における国を挙げた「シャンパン」の厳格な品質管理、原産地統制名称の保護へ- 11 -の努力を考慮すると、「シャンパン」の表示には多大な顧客吸引力が備わっているというのが相当である。 (3)以上によれば、本願商標は、「遠隔」及び「シャンパン」の文字を組み合わせてなるところ、これは、その構成全体をもって特定の意味合いを有する語として知られているものとはいえないのに対し、その構成中の「シャンパン」の 文字は、前記のとおり、取引者、需要者の間に広く知られている原産地統制名称を指称する語であると認識、理解できる。 そうすると、「シャンパン」の文字を含む本願商標をその指定商品に使用するときは、著名な「シャンパン」の表示が備えた多大な顧客吸引力へのただ乗り(フリーライド)及び同表示の希釈化(ダイリューション)を生じさせるおそ れがあるばかりでなく、国を挙げて「シャンパン」の原産地統制名称の保護に努めているフランス国民の感情を害し、我が国とフランスの友好関係にも影響を及ぼしかねないものであるから、国際信義に反するものであって、公の秩序を害するおそれがある。 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。 ランスの友好関係にも影響を及ぼしかねないものであるから、国際信義に反するものであって、公の秩序を害するおそれがある。 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。 2 請求人の主張について(1)請求人は、本願の指定商品は、酒類とは全く関係がないコンピュータソフトウェア用アプリケーション等であり、本願商標を、請求人が当該商品に使用しても、ワインの「シャンパン」にフリーライドするものではなく、フランス国民やフランス国のぶどう生産者およびぶどう酒製造者の感情を害することもない から、本願商標は、公序良俗に反する商標ではなく、商標法第4条第1項第7号に該当しない旨を主張する。 しかしながら、上記1のとおり、「シャンパン」は、フランスにおいて、国を挙げた厳格な品質管理、原産地統制名称の保護への努力がなされているものであり、世界的な名声のある発泡性ぶどう酒として、我が国において、取引者、 需要者の間に広く知られているものであって、多大な顧客吸引力が備わっている- 12 -表示であり、それは必ずしもワインや酒類の分野に限定される事情とはいえないから、たとえ、本願の指定商品が酒類そのものではないとしても、「シャンパン」の文字を含む本願商標を、一私人が自己の商標として登録し、その指定商品に独占的に使用するときには、著名な「シャンパン」の表示が備えた多大な顧客吸引力へのただ乗り(フリーライド)及び同表示の希釈化(ダイリューション)を生 じさせるおそれがあり、加えて、国を挙げて「シャンパン」の原産地統制名称の保護に努めているフランス国民の感情を害し、我が国とフランスの友好関係にも影響を及ぼしかねないものでもあるから、国際信義に反するものであって、公の秩序を害するおそれがあるというべきである 統制名称の保護に努めているフランス国民の感情を害し、我が国とフランスの友好関係にも影響を及ぼしかねないものでもあるから、国際信義に反するものであって、公の秩序を害するおそれがあるというべきである。 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するといわざ るを得ない。 以上

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