平成14(ネ)337 株主代表請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成15年3月19日 広島高等裁判所 山口地方裁判所 平成11(ワ)46
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判決文本文28,594 文字)

主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は,控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人は,A株式会社(本店・山口県防府市ab丁目c番d号)に対し,金3000万円及びこれに対する平成11年3月26日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 訴訟費用は第1,2審とも,被控訴人の負担とする。 2 被控訴人(1) 本件控訴を棄却する。 (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 次項に当審における当事者の主張を付加するほか,原判決「第2 事案の概要」欄に記載のとおりであるからこれを引用する(ただし,「施行隊」とあるのを「施工隊」と,「原告の損害」とあるのを「A株式会社の損害」と,各改める。)。 2 当事者の主張(1) 控訴人ア被控訴人は取締役会に対して付議し決議すべき事項について付議せず,報告すべき事項を報告せず,取締役会の権能を無視したのであり,その結果,取締役会に適切な経営判断を行う機会を与えなかったのであるから,そのことがA株式会社の取締役としての忠実義務ないし善管注意義務に反することは明白である。 イ被控訴人はA株式会社取締役を退任した直後に,eにおいてBを,山口県防府市においてCを,それぞれ設立してA株式会社と競合する事業を行っている。Bには,Dの総経理(社長)であった者及び施工管理者であった者も加わっている。これ以外にも被控訴人は取締役在任中にA株式会社従業員に対してA株式会社を辞めて被控訴人が設立する予定の会社に来るよう勧誘していた。 こうした被控訴人の退任前後の行動は,控訴 加わっている。これ以外にも被控訴人は取締役在任中にA株式会社従業員に対してA株式会社を辞めて被控訴人が設立する予定の会社に来るよう勧誘していた。 こうした被控訴人の退任前後の行動は,控訴人が問題とする各支出,回収管理等に関し,忠実義務違反を強く推認させる。 (2) 被控訴人被控訴人は海外事業について直属の上司である社長に報告し,また全取締役が出席する営業会議において報告していたのであり,仮に重ねて取締役会に報告すべきであるとすれば,社長専務その他の取締役からでも,その旨を被控訴人ないし社長に促すべきであったが,そのようなことは全くなかった。にもかかわらず,控訴人は社長始め他の取締役の責任を追及していない。A株式会社自らの不注意又は怠慢を棚に上げて被控訴人の責任のみ追及するもので,信義則に反する。損害賠償請求は許されないか,過失相殺すべきである。 控訴人はただ取締役会の報告を怠ったなどというのみで,被控訴人の経営判断の前提となった事実認識にどのような重要かつ不注意な誤りがあったというのか,ついに主張していない。 第3 当裁判所の判断 1 本件訴えの適否について(1) 証拠(甲1ないし3,甲29,乙6,原審証人E,同F,原審被控訴人本人)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。 ア控訴人は,亡H(本訴係属後死亡)が創業したH’グループの中核会社(商社)であり,本社は大阪市にある。 イ A株式会社は,昭和32年ころ,H’グループの傘下に入った会社であり,資本金2億円で40万株の株式を発行している。株主は92名(平成11年12月末日現在)であるが,控訴人はそのうち約30パーセントの株式を保有しており,ほかに,Hやその家族において約4パーセントの株式を保有している。 ウ控訴人の代表 。株主は92名(平成11年12月末日現在)であるが,控訴人はそのうち約30パーセントの株式を保有しており,ほかに,Hやその家族において約4パーセントの株式を保有している。 ウ控訴人の代表取締役会長であるHはA株式会社の代表取締役会長を兼ねていた。控訴人の代表取締役社長であるIも少なくとも平成9年3月以前からA株式会社の取締役を兼任している。両名を含め,本訴提起当時,A株式会社の取締役7名のうち3名が控訴人の取締役を兼任していた。 エ Fは平成9年3月末に社長を退任するまで14年間A株式会社の代表取締役社長を勤めていたが,同人はA株式会社がH’グループの傘下に入ったときに,控訴人からA株式会社に派遣された者である。 オ Fの後を受けたEも,昭和33年に控訴人の従業員となり,昭和61年から控訴人の取締役であった者であり,平成9年3月に控訴人から派遣され,A株式会社の取締役に就任すると同時に代表取締役社長に就任した者である。 カ以上のとおり,A株式会社は,控訴人の支配下にあり,控訴人の事実上の子会社である。 キ本訴は,A株式会社の社長に就任したEが,A株式会社のDに対する債権が不良債権であるなどとHに報告したところ,Hが「H’グループ」全体の問題と考え,控訴人において被控訴人に対する責任追及を行うよう指示したことから,控訴人が訴えを提起することになったものである。控訴人は本訴提起前,平成10年12月10日A株式会社に到達した書面で,同社監査役宛に被控訴人に対して訴えを提起すべきことを求める手続は取ったが,A株式会社は,Hの指示どおり,控訴人が予定する株主代表訴訟に委ねて,訴えを提起しなかったものである。 (2) 取締役がその任務を懈怠し,会社に損害を与えた場合に,取締役が賠償責任を負うのは会社に対してで ,Hの指示どおり,控訴人が予定する株主代表訴訟に委ねて,訴えを提起しなかったものである。 (2) 取締役がその任務を懈怠し,会社に損害を与えた場合に,取締役が賠償責任を負うのは会社に対してであり,これを訴えによって追及することも,本来は,会社が自ら行うべきことである。株主代表訴訟は,上記の会社が行うべき訴訟を株主が自ら会社を代表して訴訟を担当することを認めた制度であるが,株主に会社を代表する権限が付与されるのは,株主の要求にもかかわらず,会社が取締役の違法行為を不問に付し,取締役に対して損害賠償を求める訴えを提起しないからである。 ところで,訴訟提起の手数料は,訴訟によって当事者が得る利益金額を基準として算定するのが原則であるところ,平成5年の商法改正により,特に,取締役に対する株主代表訴訟における訴訟の目的の価額の算定については,財産権上の請求に非ざる請求に係る訴えとみなされることとなり(商法267条5項),現行の民事訴訟費用等に関する法律によれば,一律に8200円で足りることとなった。これは,株式会社が,資本を広く国内外から集め,大量,巨額の経済活動を行っていて,今日の経済社会における中心的役割を果たしていることから,その会社経営を適法公明正常に行わせることが公益上も必要であるところ,株主が株主権に基づき,会社経営に対する監視手段として代表訴訟を提起することに,公益的な価値を認めることができるからであるといえる。従前のとおり会社が賠償請求訴訟の結果得る利益の金額を基準として手数料を算定すると,取締役が巨額の損失を会社に与えた場合ほど,提訴における株主の費用負担が多額となり,提訴が制約される結果となり,健全な企業経営の監視手段としての活用が阻害される。即ち,法がこのような特別の配慮をしたのは,会社と対立しながらも,経 場合ほど,提訴における株主の費用負担が多額となり,提訴が制約される結果となり,健全な企業経営の監視手段としての活用が阻害される。即ち,法がこのような特別の配慮をしたのは,会社と対立しながらも,経営の監視のための困難な訴訟に出ようとする株主の意欲を失わせないようにするためであるということができる。 従って,この手数料に関する特別規定は,株主が会社の意向と対立しつつなお,取締役の違法行為を是正するための訴えを提起することを促すための,特殊な配慮ということができ,取締役に対する責任追及一般における訴訟提起の手数料が減額されたわけではない。この法改正により,本制度が,取締役に対する責任追及に関する,株主と会社の態度の相違が存在することを前提とするものであることが,より一層明確になったというべきであって,そうした対立がない場合には会社が自ら取締役に対して損害賠償の訴えを提起すべきであり,株主が会社を代表して訴えを提起することを予定していないものというべきである。すなわち,株主の有する権利は,本来,会社の経営を支配しあるいは参画することであり,それによって利益を得ることであって,直接に会社に代わってその権利を行使することができる権利ではない。ただ,株主代表訴訟は,株主の意思に反して,会社が取締役の違法行為を見逃そうとする場合に,これを防ぐ方法として認められたに過ぎない。そして会社が自ら訴えを提起する場合には,請求額を基準として算定される通常の申立手数料が必要であることはいうまでもない。 (3) こうしてみると,本訴は,株主代表訴訟制度の本来の目的を明らかに外れたものである。A株式会社は株主たる控訴人と意思を相通じているばかりか,株主たる控訴人の支配下にある。そのような支配力を有する控訴人としては,株主等としての通常の権利行使の方法によ 的を明らかに外れたものである。A株式会社は株主たる控訴人と意思を相通じているばかりか,株主たる控訴人の支配下にある。そのような支配力を有する控訴人としては,株主等としての通常の権利行使の方法によりA株式会社の経営を監督し,A株式会社として取締役の責任を追及させることが可能であり,これを妨げる事情は見当たらない。株主代表訴訟制度は,このような場合に,株主が自ら訴訟に当たることを予定した制度ではない。 (4) 確かに,本訴請求額である訴額3000万円に対する訴訟提起手数料は13万円程度であり,代表訴訟を利用することでA株式会社ないし控訴人が得られる利益は,A株式会社が直接訴えるのに比べてさほど大きくはない。従って本訴が手数料を免れるための訴訟であるとは断定はできない。けれども,だからといって,本訴が制度の趣旨に背馳する訴訟であることに変わりはなく,そのことは手数料の多寡で左右されるわけではない。 (5) 従って,本訴は,制度の本来の目的を逸脱するものであり,制度を濫用するものとして本来は不適法として却下すべきものである。ただし,本件では,既に本案につき攻撃防御が行われ,第1審が実体判断をして請求を棄却しており,当裁判所も本案判決をなすに熟していると考えるので,不適法として却下するのではなく,本案の判断を行うこととする。仮に訴えが不適法であるとして却下すると,その判断は既判力や参加的効力を有しないと解されるから,A株式会社において再度訴えを提起する可能性があり,被控訴人にとってかえって不利であり,いたずらに係争期間を長引かせることになる。他方,会社と株主とは意思を相通じていてその間に対立はなく,その意味で本訴は会社のする訴訟とは実質的には同一であって,その判決の効力を会社が受けたとしても会社にとっては特段の不利益はないからである。 方,会社と株主とは意思を相通じていてその間に対立はなく,その意味で本訴は会社のする訴訟とは実質的には同一であって,その判決の効力を会社が受けたとしても会社にとっては特段の不利益はないからである。 2 本案に関する判断(1) 当裁判所の本案に関する判断は,以下に,当審における控訴人の主張に関して付言するほかは,原判決21頁9行目以下の理由説示のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決24頁6行目「営業を強化して」の後に「受注を増やし」を加え,29頁7行目「タイでの」を「タイに送り込むことができる」と改める。)。 (2) 控訴人は,被控訴人がA株式会社取締役会に無断で,DやJを設立し,無断で資本金を送金し,かつその後の融資を行ったかのような主張をするが,被控訴人がDの設立準備段階からF社長には報告していたこと,資金の送金はF社長の決裁なしにできるものでないことは上記引用の原判決認定のとおりであるうえ,証拠(証人F,被控訴人本人)によると,A株式会社の経営に関する重要事項は会長であるHの了解なしに決定実行することはできない実情であったこと,A株式会社の営業内容については,毎月1回会長であるHがA株式会社を訪れ,同人の面前で,全取締役が出席した部長会が開かれ,各部の営業内容が報告されていたこと,海外事業部の営業内容(主として海外での工事の受注状況であるが,その受注の実行のための海外子会社の設立を含む。)もその際に当然に報告されていたことが認められるのであって,Fの後任として社長になり初めてA株式会社に関わることになったEが調べた限りで,Dに対する出資や融資について取締役会の記録に記載がないことが判明したとしても,被控訴人が他の取締役に無断で勝手に出資や融資を行ったことを示すものとはいえず,非が被控訴人にあるということはで りで,Dに対する出資や融資について取締役会の記録に記載がないことが判明したとしても,被控訴人が他の取締役に無断で勝手に出資や融資を行ったことを示すものとはいえず,非が被控訴人にあるということはできない。 (3) 控訴人は,Dへの出資や融資が,A株式会社の内規に定めた取締役会の稟議事項であるのに,その報告すら行われなかったことが,忠実義務違反,善管注意義務違反であるという。そして,その内規(甲25)には,関係会社に対する融資,出資は,起案を総務部長が行い,経理部長に回議し,社長が決裁し,会長には報告することになっており,取締役会には稟議することとされている。 しかし,稟議がいちいち取締役会の決議を経ることであるとすると,社長の決裁や会長への報告を定めた意味がなくなるし,この決裁や報告がせいぜい議案提出に関するものであるとすると,経営判断が迅速に行われるべきであることと矛盾する(取締役会は数ヶ月に1度開催される程度であった。)。結局,この内規は実際は遵守されていなかったものと解され(これを定めたというF前社長自身が認めている。),稟議というのは事後報告文書を取締役に回覧するという程度の意味で実行されていたにとどまるものと解される。そうであれば,被控訴人が取締役会の決議を得なかったとしても,違法不当ということはできない。もとより,子会社であるDに対する数百万円から1000万円程度の出資や融資が,A株式会社の重要な資産の処分などに当たるとは到底解されない。 なお,控訴人は,Dに対する送金が,被控訴人の指示のみで,内規に定める総務部長の起案,経理部長の決裁を経ていないことが問題であるとも主張するが,当該送金に関するA株式会社の送金手続資料は一切提出されておらず(被控訴人からの送金指示を受けた海外事業部の職員の陳述書(甲31))が提出さ 経理部長の決裁を経ていないことが問題であるとも主張するが,当該送金に関するA株式会社の送金手続資料は一切提出されておらず(被控訴人からの送金指示を受けた海外事業部の職員の陳述書(甲31))が提出されているが,その記載からは,起案をその職員がしたことが窺えるのみで,当該送金が総務部長,経理部長,社長の決裁を経ていないことを裏付け得るものでないことは明らかである。控訴人も,起案を総務部長にさせなかったことが違法であるなどと主張するものとは考えられない。),その主張を認めることはできない。 また,たとえ社長の了解の下に決定し実行したうえ,営業会議や部長会で報告されていても,取締役会に報告せず決議されていない以上,A株式会社の内規に反するといい得るとしても,内規違反の事実は,A株式会社がDやJから融資金や立替金を回収できないことと因果関係があるとはいえない。 (4) なお,被控訴人がA株式会社取締役を退任した後,中国e市においてA株式会社と同様のライニングを業とするBを,山口県防府市においてCをそれぞれ設立しており,それらの業種がA株式会社と競合すること,Bには,Dの総経理(社長)であった者及び施工責任者であった者も加わっていることは,被控訴人の認めるところである。また,これ以外にも被控訴人はA株式会社取締役に在任中に,A株式会社従業員に対して被控訴人が設立する予定の同業会社に来るよう勧誘していたことも甲26,被控訴人本人から認めることができる。 しかし,被控訴人がeに設立した会社は,DがEの指示で閉鎖されたのちに,同社で働いていた人物の就業先とすることを目指して設立されたものであり,Cも,外国でそうした事業を行うためには国内会社との合弁である必要があるため設立した会社であり(被控訴人本人),被控訴人が海外事業部長として在 人物の就業先とすることを目指して設立されたものであり,Cも,外国でそうした事業を行うためには国内会社との合弁である必要があるため設立した会社であり(被控訴人本人),被控訴人が海外事業部長として在任中からA株式会社と敵対する事業を行うつもりであったことを窺わせる事情ではない。また,A株式会社の従業員に,退職の意向を告げて一緒に仕事をしないかと声をかけたのも,海外事業部長を解かれたのち,退職後の自らの世すぎのために,これまで従事していた仕事で身につけた知識や技術を生かす道を考えたものであり,それが競業回避義務に反するとはいい難く,この事実があるからといって,海外事業部長在任中の業務処理が忠実義務・善管注意義務に反する違法なものであったと推認することはできない。 (5) 控訴人は,このほか,Dに送金された金額のうち8000万円が行方不明となっている旨主張し,Eの証言中には,Dの支出には交際費が異常に多かったなどという供述もあるが,それらについての客観的で的確な証拠は一切提出されていない。 (6) よって,被控訴人に取締役としての忠実義務違反,善管注意義務違反があり,それによってA株式会社に損害を与えたとの控訴人の主張はこれを認めることができないから,その余の点につき検討するまでもなく,本件請求は理由がなく,失当である。 3 結論以上によれば,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとし,控訴費用の負担につき民事訴訟法67条1項,61条を適用して,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第3部裁判長裁判官下司正明裁判官檜皮高弘 裁判官齋藤憲次(参考) 裁判長裁判官下司正明裁判官檜皮高弘 裁判官齋藤憲次(参考)原判決引用部分「原判決第2事案の概要」欄部分 1 本件は,A株式会社の元取締役である被告が,その在職中,取締役会決議を経ることなくA株式会社から多額の金員を支出させ,あるいは,取締役としての忠実義務ないし善管注意義務に違反する行為を行い,よって,A株式会社に対して合計4280万5320円の損害を被らせたことにより,商法266条1項5号もしくは民法709条によりその損害を賠償する責任があるとして,A株式会社の株主である原告が,被告に対し,商法267条に基づき,上記損害の内金3000万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成11年3月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金をA株式会社に支払うよう求めた株主代表訴訟である。 2 前提事実(当事者間に争いがない。)(1) 商法267条の要件ア原告は,昭和32年2月11日のA株式会社設立時から現在までA株式会社の株主である。 イ原告は,平成10年12月8日,A株式会社の監査役に対し,被告の責任を追及する訴えを提起すべく書面で請求し,同書面は,同月10日に到達した。 しかし,A株式会社は,上記書面が到達した日の翌日から30日以内に訴えを提起しなかったので,原告は,平成11年3月12日に本件訴えを提起した。 (2) 被告のA株式会社における地位被告は,平成5年3月23日から平成10年2月20日までの間,A株式会社の取締役の地位にあり,また,平成9年6月までは海外事業部長の地位にあった。 (3) DについてA株式会 被告は,平成5年3月23日から平成10年2月20日までの間,A株式会社の取締役の地位にあり,また,平成9年6月までは海外事業部長の地位にあった。 (3) DについてA株式会社は,平成5年12月27日,中華人民共和国雲南省e市において,K及びLとの間でDを設立し,被告は,同日,Dの副董事長(副会長)に就任した。 (4) Jについてア A株式会社は,昭和62年1月,シンガポールにおいて,原告及び現地法人との間で,Mを設立し,被告が同社の代表取締役に就任した。 イ Mは,平成4年4月,現地法人との共同出資により,Jを設立した。 (5) Dに対する融資等についてア A株式会社は,Dに対し,平成7年1月に500万円の融資金,同年2月及び平成8年6月にそれぞれ500万円ずつの仮払金を支出した(以下,上記の合計1500万円の支出を「本件支出」という。)。 イ A株式会社が本件支出を行うことについては,A株式会社の取締役会における承認決議を経ていない。 ウ A株式会社は,Dから,上記の合計1500万円の返済を受けていない。 (6) Dに対する原材料の販売についてア A株式会社は,Dに対し,平成5年12月の設立当初から平成9年6月ころまでの間,継続的に,原材料を販売した。 イ上記の売掛債権の一部が未払いとなっている。 (7) 施工隊の人件費についてア Jが,平成8年から同9年にかけて,タイ国におけるライニング工事(NFCプロジェクト。以下,「タイNFC工事」という。)を受注した際,Dは,そのワーカーをJに施工隊として派遣した。 イ A株式会社は,そのころ,Dに対し,上記施工隊の人件費664万6490円を支払った(なお,後記3・(5)・イ・(ア)・a・③記載のとお た際,Dは,そのワーカーをJに施工隊として派遣した。 イ A株式会社は,そのころ,Dに対し,上記施工隊の人件費664万6490円を支払った(なお,後記3・(5)・イ・(ア)・a・③記載のとおり,これがA株式会社がJに代わって立替払いしたものか否かは,争いがある。)ウ A株式会社が施工隊人件費を支払うことについては,A株式会社の取締役会において承認決議を経ていない。 エ A株式会社は,Jから施工隊人件費の一部の支払いを受けていない。 3 争点(1) 本件の争点は,次のとおりである。 ア本件訴訟は訴権の濫用に当たるか否か(本案前の抗弁)。 イ本件支出について(ア) 本件支出は,被告が独断で行わせたものであるか否か。 (イ) 本件支出は,商法及びA株式会社の内規に照らし,取締役会の承認を得る必要がある事項にあたるか否か。 (ウ) 本件支出を行わせたことについて,被告に忠実義務違反ないし善管注意義務違反があったか否か。 (エ) 本件支出を回収しなかったことについて,被告に忠実義務違反ないし善管注意義務違反があったか否か。 (オ) 取締役会ないし営業会議における報告に関し,被告に忠実義務違反ないし善管注意義務違反があったか否か。 (カ) 被告の行為と原告の損害の間に因果関係があるか否か。 ウ原材料の販売代金について(ア) Dに対する原材料の販売は,被告が独断で行わせたものであるか否か。 (イ) Dに対して原材料の販売を行わせたことについて,被告に忠実義務違反ないし善管注意義務違反があったか否か。 (ウ) 原材料の売掛債権を回収しなかったことについて,被告に忠実義務違反ないし善管注意義務違反があったか否か。 (エ) 取締役会ないし 務違反ないし善管注意義務違反があったか否か。 (ウ) 原材料の売掛債権を回収しなかったことについて,被告に忠実義務違反ないし善管注意義務違反があったか否か。 (エ) 取締役会ないし営業会議における報告に関し,被告に忠実義務違反ないし善管注意義務違反があったか否か。 (オ) 売掛債権の未回収額はいくらか。 (カ) 被告の行為と原告の損害の間に因果関係があるか否か。 エ施工隊人件費について(ア) Dに対する施工隊人件費の支払いは,被告が独断で行わせたものであるか否か。 (イ) 施工隊人件費の支払いは,商法及びA株式会社の内規に照らし,取締役会の承認を得る必要がある事項にあたるか否か。 (ウ) Dに対して施工隊人件費を支払わせたことについて,被告に忠実義務違反ないし善管注意義務違反があったか否か。 (エ) Jから施工隊人件費の回収を受けなかったことについて,被告に忠実義務違反ないし善管注意義務違反があったか否か。 (オ) 被告の行為と原告の損害の間に因果関係があるか否か。 (2) 争点ア(本案前の抗弁)についてア被告の主張(ア) 原告は,A株式会社の30パーセント以上の株式を持つ株主であり,原告の代表取締役会長はA株式会社の代表取締役会長の地位にあり,原告の代表取締役はA株式会社の取締役であり,原告の取締役がA株式会社の代表取締役であるなど,A株式会社は原告のいわゆる子会社であって,原告の意思はA株式会社の意思と一致する。 (イ) そして,本件訴えは,A株式会社が権利行使をする意思があるにもかかわらず,申立手数料の節約を図ることを目的として,原告による株主代表訴訟という形式をとったものであるから,訴権の濫用に当たるものであって不適法であり却 ,A株式会社が権利行使をする意思があるにもかかわらず,申立手数料の節約を図ることを目的として,原告による株主代表訴訟という形式をとったものであるから,訴権の濫用に当たるものであって不適法であり却下すべきである。 イ原告の主張(ア) 原告は,A株式会社の株式の約30パーセントを保有するに過ぎないことや,A株式会社の取締役7名のうち,原告の取締役をも兼任しているのは3名であり,過半数に満たないことからすれば,原告の意思がA株式会社の意思と常に一致するという関係にはない。 (イ) また,本件は,大阪市に本店所在地を有する原告が,山口地方裁判所に訴えを提起したものであるから,同裁判所に出廷するのに必要とされる代理人の旅費等を考慮すれば,本件訴えの方式は何ら費用節減にならない。 (ウ) 実質的にも,A株式会社は被告の職務権限規定違反を看過し,被告の独断行為に歯止めをかけることができなかったのであるから,A株式会社には厳正かつ適切な訴訟提起及び遂行が必ずしも期待できず,原告が株主代表訴訟を提起する必要があったものである。 (エ) したがって,本件訴訟は訴権の濫用には当たらず,被告の本案前の抗弁は理由がない。 (3) 争点イ(本件支出)についてア原告の主張(ア) 取締役会決議事項であるのに被告が独断で本件支出を行わせたことa 被告の独断行為であること被告は,平成5年3月23日から平成10年2月20日までの間,A株式会社の取締役の地位にあり,また,平成5年3月から平成9年6月までの間,同社の海外事業部担当の地位にあって,海外事業部の実権を握っていた。 そして,被告は,このような地位にあることを奇貨として,独断で,A株式会社をして本件支出を行わせた。 月までの間,同社の海外事業部担当の地位にあって,海外事業部の実権を握っていた。 そして,被告は,このような地位にあることを奇貨として,独断で,A株式会社をして本件支出を行わせた。 b 取締役会決議事項であること(a) 商法260条2項は「重要なる財産の処分」を取締役会決議事項と定め,また,A株式会社の平成2年11月21日制定の職務権限規定(甲25)には「関連会社及びその他の会社への出資,融資」については取締役会に付議すべきものと定められている。 (b) 加えて,A株式会社の取締役会において過去に付議された事例,本件支出の金額とA株式会社の資本金や経常利益の金額の比較からしても,本件支出を行うことが取締役会決議事項であったことは明らかである。 c 以上のとおり,被告は,本件支出が取締役会決議事項であるにもかかわらず,A株式会社の取締役会の承認決議を経ることなく,独断でA株式会社をして本件支出を行わせたものである。 (イ) 被告の忠実義務違反ないし善管注意義務違反a 被告の忠実義務及び善管注意義務の内容被告は,A株式会社の海外事業担当の取締役として,同社に対して忠実義務を負っており,具体的には,A株式会社に損害を被らせることを回避し,又はA株式会社が被る損害を可及的に最小限に抑えるよう適切な措置をとるべき義務を負っており,更に,Dの副薫事長を兼任し同社の経営状況を熟知しているものとして,A株式会社がDに対して回収を見込めない資金投入を行わないよう,また,A株式会社がDに対して有する債権等については適切な回収措置をとり得るよう,A株式会社に対してDの経営状況を適宜,正確に報告すべき義務を負っていたものである。 なお,被告は,上記のうち報告 式会社がDに対して有する債権等については適切な回収措置をとり得るよう,A株式会社に対してDの経営状況を適宜,正確に報告すべき義務を負っていたものである。 なお,被告は,上記のうち報告義務の点について,被告は業務執行権を有していなかったから取締役会に対する報告義務を負う取締役ではないと主張するが,被告は,Dに対する債権を回収する権限やDに対する原材料の売却を指示する権限を有し,Dの設立に際する合弁契約をA株式会社の授権代表との立場で調印するなど海外事業部担当の取締役として具体的な業務執行権を有していたのであるから,取締役として取締役会に対して報告義務を負っていたことは明らかであり,また,被告は,海外事業部の実権を握る立場にあったのであるから,取締役会の構成員でありながら,その担当する海外業務について報告義務を負わないというのは不合理であり,更に,そもそも,被告はA株式会社の取締役である以上,忠実義務の履行としてA株式会社に不利益を与えないためにDに関する正確な情報を報告すべき義務を負っていたものである。 b しかるに,(a) 仮払金500万円を支出させたことについて被告は,平成8年5月には直属の部下からDの銀行預金が底をつき,入金予定金額が支払予定金額を大幅に下回っているとの報告を受けていたほか,そのころ,A株式会社にはDに対する融資金や原材料の売却代金など2000万円を超える未収金が発生し,Dが危機的な状況にあることを知っていたにもかかわらず,平成8年6月に,A株式会社をしてDに対して仮払金500万円を支出させた。 (b) 本件支出を回収しなかったことについて被告は,海外事業部担当の取締役として,本件支出の回収について責任を負っていたにもかかわらず,具体 500万円を支出させた。 (b) 本件支出を回収しなかったことについて被告は,海外事業部担当の取締役として,本件支出の回収について責任を負っていたにもかかわらず,具体的な回収計画も立てず,単にDの売上げで返済するという抽象的かつ漠然とした考えの下,具体的な回収措置を何ら取らなかった。 なお,被告は,Dから本件支出の回収を図ろうとすれば同社を破綻に至らせることになるので不可能であったと主張するが,Dは原材料費その他の支払いができないという状態が設立以来3年間も継続していたのであるから,A株式会社に対して忠実義務を負っていた被告としては,A株式会社が被る損害を可及的に少なくするように具体的な回収計画を立てて実行すべきであったのである。 (c) 正確な報告をしなかったことについて被告は,前記のとおり,平成8年6月ころにはDが危機的な状況にあることを知りながら,A株式会社の取締役会において,Dの経営状況等について何ら報告しなかった。 また,仮に,被告がA株式会社の営業会議においてDの経営状況について何らかの報告をしていたとしても,正確な報告をしていなかった。 (ウ) 被告の行為と原告の損害との間の因果関係a 被告はA株式会社をして平成8年6月に仮払金500万円を支出させ,更に,本件支出の回収を行わなかったが,その後,A株式会社はDから本件支出の返済を受けられず1500万円の損害を被っており,被告のこれらの行為とA株式会社の損害の間に因果関係があることは明らかである。 b また,被告がA株式会社の取締役会ないし営業会議においてDの正確な経営状況を報告していれば,A株式会社としては,平成8年6月の仮払金500万円の支出をしないで済ん ことは明らかである。 b また,被告がA株式会社の取締役会ないし営業会議においてDの正確な経営状況を報告していれば,A株式会社としては,平成8年6月の仮払金500万円の支出をしないで済んでいたであろうし,また,本件支出に関しても,Dが売掛先から回収予定の金員をA株式会社に対する返済に充てるように指示するなど適宜何らかの措置を取ることにより,本件支出の回収不能という損害を被らずに済んだはずである。 イ被告の主張(ア) 前記ア・(ア)(取締役会決議事項であるのに被告が独断で本件支出を行わせたこと)についてa 同aの事実(被告の独断行為であること)について① 同主張の事実中,被告が独断で本件支出を行わせたとの点を否認する。 ② 当時,A株式会社の海外事業部は社長直属の部署であり,被告は,本件支出を行うことについて,当時の社長であるFの決裁を受けており,被告が取締役として独断で本件支出を行わせたものではない。 また,内規の決裁表(甲25)を見ても,関連会社に対する融資は,社長が取締役会の決議を得るか,あるいは報告の上,決裁となっており,使用人や業務執行権のない取締役が独断で行うことはできないのである。 b 同bの事実(取締役会事項であること)について(a) 同(a)の事実は,認める。 (b) 同(b)の事実は,知らない。 (c) 同(c)の事実について重要な財産の処分に当たるか否かは,財産の価額,その会社の総資産に占める割合,当該財産の保有目的,処分行為の態様及び従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきところ,本件支出の各500万円はA株式会社の総資産の約0.1パーセントに過ぎず,しかも,本件支出は, める割合,当該財産の保有目的,処分行為の態様及び従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきところ,本件支出の各500万円はA株式会社の総資産の約0.1パーセントに過ぎず,しかも,本件支出は,子会社同様の会社への貸付及び工事の仮払いであり営業のため通常行われるものであるから,重要な財産の処分には当たらない。 (d) 同(d)の事実は,争う。 c 同cの事実は,争う。 (イ) 前記ア・(イ)(被告の忠実義務違反ないし善管注意義務違反)についてa 同a(被告の忠実義務ないし善管注意義務の内容)について(a) 同主張は,争う。 (b) なお,被告は,A株式会社の取締役であるとともに,Dの副董事長でもあったのであり,A株式会社の利益を図ると同時に,Dの利益をも図らねばならない立場にあったのであるから,Dを破綻に至らせるような決定を独断ですることはできず,そのような決定はA株式会社として行うべきものである。 また,商法260条3項の取締役会に対する報告義務は,業務執行権を有する取締役が負うものであるところ,被告は,A株式会社の取締役ではあるが,業務執行権を有する取締役ではないから,被告には取締役会に対する報告義務はない。 b(a) 同b・(a)(仮払金500万円を支出させたこと)について① 同主張の事実は,否認ないし争う。 ② 前記のとおり,平成8年6月の仮払金の支出は,被告が独断で行わせたものではない。 また,原告は,平成8年6月当時,Dが危機的な状況にあったと主張するが,当時の被告の認識としては,Dは,工事も受注しており,業績も徐々に上向き,将来的には黒字経営が可能であると考えていた。そもそも,どのような ,平成8年6月当時,Dが危機的な状況にあったと主張するが,当時の被告の認識としては,Dは,工事も受注しており,業績も徐々に上向き,将来的には黒字経営が可能であると考えていた。そもそも,どのような事業でもすぐに充分な売上が上がり,利益が出るものではなく,まして,海外における事業であるから,日本国内と異なる苦労があり,多少の見込み違いがあっても,短兵急に投資した見返りを求めべきものではないのである。したがって,平成8年6月にA株式会社が仮払金500万円を支出した当時,将来返済可能と判断できたのであれば,500万円の支出は不当な支出ではない。 (b) 同b・(b)(本件支出を回収しなかったこと)について① 同主張の事実は,否認ないし争う。 ② 被告は,Dから本件支出等の債権を回収することが可能であるのにしなかったのではなく,当時,Dには支払う余裕がなく,あえて返済を求めれば,Dが破綻に至ることは必定であったので回収することができなかったのである。 被告は,Dから債権を回収するためには,Dの営業を強化して利益を上げ,しかる後に回収するしかないと考えていたものであり,そもそも,A株式会社の子会社ともいうべきDとの取引において,中国という社会制度の異なる外国で創業して間もない時点で,貸付債権や売掛債権を回収しようというのは通常の経営判断とはいえない。 (c) 同b・(c)(正確な報告をしなかったこと)について① 被告がA株式会社の取締役会においてDの経営状況等について報告しなかったことは,認める。 しかし,前記のとおり,被告には取締役会において報告する義務はない。 ② また,被告は,海外事業部担当の取締役あるいはDにおいてA株式会社の なかったことは,認める。 しかし,前記のとおり,被告には取締役会において報告する義務はない。 ② また,被告は,海外事業部担当の取締役あるいはDにおいてA株式会社の利益代表の地位にあった間は,Dの経営状況,業績見通し及び決算等を当時のA株式会社のF社長に報告していたし,取締役全員及びその他のものを構成員とし毎月1回開催されていた営業会議においても,海外事業に関する必要な報告は行っていた。 (ウ) 前記ア・(ウ)(被告の行為と原告の損害の間の因果関係)についてa 原告は,Dから本件支出の回収ができず同額の損害を被ったと主張するが,これは,A株式会社の現在の社長であるEが回収不能となることを覚悟の上でDの事業を休止させたからであって,被告の行為と原告の損害のと間に因果関係はない。 b また,A株式会社がDから債権を回収しようとしても,結局は,Dの営業活動により利益を上げて,しかる後に回収するしか方法はなかったのであるから,仮に,被告のDに関する報告が不十分であったとしても,やはり被告の行為と原告の損害との間に因果関係はない。 (4) 争点ウ(原材料の販売代金)についてア原告の主張(ア) 被告の忠実義務及び善管注意義務の内容前記(3)・ア・(イ)・aと同じ。 (イ) 被告の忠実義務違反ないし善管注意義務違反a 原材料を売却させたこと被告は,平成8年6月ころにはDが危機的な状況にあることを知っていたにもかかわらず,その後も平成9年6月までの間,独断で,A株式会社をして,Dに対して原材料の販売を行わせ,A株式会社にとって回収見込みのない売掛債権を増大させた。 b 売掛債権を回収しなかったこと被告 9年6月までの間,独断で,A株式会社をして,Dに対して原材料の販売を行わせ,A株式会社にとって回収見込みのない売掛債権を増大させた。 b 売掛債権を回収しなかったこと被告は,前記(3)・ア・(イ)・b・(b)と同様に,Dに対する売掛債権について具体的な回収措置を何ら取らなかった。 c 正確な報告をしなかったこと前記(3)・ア・(イ)・b・(c)と同じ。 (ウ) 売掛債権の未回収額A株式会社は,平成9年6月までDに対して原材料を売却したが,その売掛債権のうち2155万8830円が回収不能となっている。 (エ) 被告の行為と原告の損害との間の因果関係a 被告は,A株式会社をしてDに原材料を継続的に売却させ,その売掛債権の回収も怠ったが,その後,A株式会社はDから売掛債権残金2155万8830円の支払いを受けられず,同額の損害を被っており,被告のこれらの行為とA株式会社の損害との間には因果関係があることは明らかである。 b また,被告がA株式会社の取締役会ないし営業会議においてDの正確な経営状況等を報告していれば,A株式会社としては,少なくとも平成9年になってからの合計877万8590円の原材料の売却については出荷停止の措置を取ることにより損失を免れることができたであろうし,また,売掛債権の回収に関しても適宜何らかの措置を取ることにより,2155万8830円の回収不能という損害を被らずに済んだはずである。 イ被告の主張(ア) 前記ア・(ア)(被告の忠実義務及び善管注意義務の内容)について前記(3)・イ・(イ)・aと同じ。 (イ) 前記ア・(イ)(被告の忠実義務違反ないし善管注意義務違反)についてa )(被告の忠実義務及び善管注意義務の内容)について前記(3)・イ・(イ)・aと同じ。 (イ) 前記ア・(イ)(被告の忠実義務違反ないし善管注意義務違反)についてa 同a(原材料を売却させたこと)について(a) 同主張の事実は,否認ないし争う。 (b) 前記(3)・イ・(イ)・b・(a)・②と同様に,Dに対する原材料の売却は,被告が独断で行わせたものではなく,また,当時,Dが危機的な状況にあったものでもない。 また,A株式会社がDに対する原材料の売却を停止すれば,Dはその業務を行うことができなくなり,破綻に至ることは必定であったから,そのような決定を被告が単独で行うことはできない。 b 同b(売掛債権を回収しなかったこと)について(a) 同主張の事実は,否認ないし争う。 (b) 前記(3)・イ・(イ)・b・(b)・②と同様に,当時,Dから売掛債権を回収することはできなかったし,すべきでもなかったのである。 c 同c(正確な報告をしなかったこと)について前記(3)・イ・(イ)・b・(c)と同じ。 (ウ) 前記ア・(ウ)(売掛債権の未回収額)について同主張の事実は,否認する。 (エ) 前記ア・(エ)(被告の行為と原告の損害との間の因果関係)についてa 同主張の事実は,否認ないし争う。 b 前記(3)・イ・(ウ)と同様に,被告の行為と原告の損害との間に因果関係はない。 (5) 争点エ(施工隊人件費)についてア原告の主張(ア) 取締役会決議事項であるのに被告が独断で施行隊人件費の支払いを行わせたことa 被告の独断行為であること ) 争点エ(施工隊人件費)についてア原告の主張(ア) 取締役会決議事項であるのに被告が独断で施行隊人件費の支払いを行わせたことa 被告の独断行為であること被告は,Jが請け負ったタイNFC工事において,DからJに施工隊を派遣するに際し,前記のとおり,A株式会社の海外事業部の実権を握っていたことを奇貨として,A株式会社をして,Jに代わって,Dに対し,次のとおり,施工隊人件費合計664万6490円を支払わせた。 (a) 平成8年11月5日  252万円(b) 平成8年12月18日 252万円(c) 平成9年3月3日 160万6490円b 取締役会決議事項であることA株式会社が立て替えた施工隊人件費は,平成8年末から同9年にかけて支出されており,当時のA株式会社の資本金及び経常利益の金額と比較すれば,重要な財産の処分にあたることは明らかであり,取締役会決議事項に当たる。 c 以上によれば,被告は,施工隊人件費の立替払いが取締役会決議事項であるにもかかわらず,A株式会社の取締役会の承認決議を経ることなく,独断で,A株式会社をして立替払いを行わせたものである。 (イ) 被告の忠実義務違反ないし善管注意義務違反a 被告の忠実義務ないし善管注意義務の内容前記(3)・ア・(イ)・aと同じ。 b しかるに,(a) 施行隊人件費を支払わせたこと① 被告は,Jの代表取締役を兼任しており,施工隊が派遣された平成8年末から同9年にかけてのころ,Jが資金的に行き詰まり,A株式会社に立替金を返済することは不可能であることを熟知していたにもかかわらず,独断で,A株式会社をしてJに ており,施工隊が派遣された平成8年末から同9年にかけてのころ,Jが資金的に行き詰まり,A株式会社に立替金を返済することは不可能であることを熟知していたにもかかわらず,独断で,A株式会社をしてJに代わって施工隊人件費をDに対して支払わせた。 ② また,被告は,Dの副董事長とJの代表取締役を兼任していたことを奇貨として,施工隊1人当たりの人件費を月額1万元という相場の10倍以上の高額な価格に設定した上,必要もないのに敢えてDのワーカーを施工隊としてタイNFC工事に派遣した。 しかも,被告は,Jの担当者から,Dから派遣された施工隊の技量が極めて低く,タイのワーカーを増やすべきであるとの提言を受けていたにもかかわらず,これを聞き入れず,Dの施工隊を派遣し続けた。 ③ 更に,仮に,DからJに対して施工隊を派遣する必要があったとしても,A株式会社がJに代わって施工隊人件費をDに支払う必要性は全くなかったのであり,それにもかかわらず,被告はA株式会社をして立替払いを行わせた。 ④ 以上によれば,本件は,被告がA株式会社から不当に資金を引き出すために仕組んだものであり,そうでないとしても,A株式会社をして施工隊人件費の立替払いを行わせたことは,A株式会社をして,取得する必要がなく,かつ,回収不可能な債権を取得させたものであり,A株式会社の取締役としての忠実義務に違反することは明らかである。 (b) 施行隊人件費の立替金を回収しなかったこと被告は,前記(3)・ア・(イ)・b・(b)と同様に,Dに支払った立替金をJから回収するための具体的な措置を何ら取らなかった。 (ウ) 被告の行為と原告の損害との間の因果関係a 被告は,A株式会社をして施行隊人件費の (b)と同様に,Dに支払った立替金をJから回収するための具体的な措置を何ら取らなかった。 (ウ) 被告の行為と原告の損害との間の因果関係a 被告は,A株式会社をして施行隊人件費の立替払いを行わせ,更に,Jからその回収を行わなかったが,その後,A株式会社はJから立替金の支払いを受けられず,664万6490円の損害を被っており,被告のこれらの行為とA株式会社の損害との間に因果関係があることは明らかである。 b なお,被告は,A株式会社が平成9年以後もJに対して貸付けなどを行っていることから,Jは破綻しておらず,回収不能ではないと主張するが,これは,A株式会社が,Jの関連会社として政策的に責任をとるためやむなく行ったものであり,Jが破産状態であることに変わりはない。 イ被告の主張(ア) 前記ア・(ア)(取締役会決議事項であるのに被告が独断で施行隊人件費の支払いを行わせたこと)についてa 同aの事実(被告の独断行為であること)について① 同主張の事実中,被告が独断で664万6490円を支出させたとの点を否認する。 ② 前記(3)・イ・(ア)と同様に,被告は,Dに対して664万6490円を支払うことについて,当時の社長であるFの決裁を受けており,被告が取締役として独断で支払わせたものではない。 ③ なお,タイNFC工事のゴム及びレンガの施工は,Jが現代重工から受注し,その一部をA株式会社が1800万円で受注した上,これをDに請け負わせたものであり,DがA株式会社から工事費を受け取るのは当然であり,原告が主張するようにJが負担すべき施行隊人件費を立替払いしたものではない。 b 同bの事実(取締役会決議事項であること)について前記(3 ら工事費を受け取るのは当然であり,原告が主張するようにJが負担すべき施行隊人件費を立替払いしたものではない。 b 同bの事実(取締役会決議事項であること)について前記(3)・イ・(ア)・b・(c)と同様に,Jに対する664万6490円の支払いは,取締役会決議事項には当たらない。 c 同cは,争う。 (イ) 前記ア・(イ)(被告の忠実義務違反ないし善管注意義務違反)についてa 同a(被告の忠実義務ないし善管注意義務の内容)について前記(3)・イ・(イ)・aと同じ。 b(a) 同b・(a)(施行隊人件費を支払わせたこと)について① 同主張の事実は,否認ないし争う。 ② 前記(ア)・aと同じく,Jに対する664万6490円の支払いは,被告が独断で行わせたものではないし,当時,Jが資金的に行き詰まっていたものでもない。 また,当時,タイにはタイNFC工事を施工する人員がおらず,人員の余裕の有無などの点からしてDのワーカーを派遣するのが適当であったのであり,人件費の金額についても,企業が仕事を請け負って労働者を国外に出張させる場合には,そこでの生活費,管理費,技術料,企業の利益等を考慮して決定されるのであり,中国国内の賃金水準と単純に比較すべきではない。 更に,仮に,Dに対する664万6490円の支払いが,原告が主張するようにJに代わって立替払いしてものであったとしても,親会社が子会社に代わってとりあえず立替払いするということは何ら違法・不当なことではない。 (b) 同b・(b)(施行隊人件費の立替金を回収しなかったこと)について① 同主張の事実は,否認ないし争う。 ② いうことは何ら違法・不当なことではない。 (b) 同b・(b)(施行隊人件費の立替金を回収しなかったこと)について① 同主張の事実は,否認ないし争う。 ② 被告がJから664万6490円の返済を受けなかったのは,Jには支払う余裕がなかったからである。 c 前記ア・(ウ)(被告の行為と原告の損害との間の因果関係)について同主張の事実は,否認ないし争う。 「原判決21頁9行目以下の理由説示」部分 2 争点イ(本件支出)について(1) 「取締役会決議事項であるのに被告が独断で本件支出を行わせた」との主張についてア被告が独断でA株式会社をして本件支出を行わせたか否かについて(ア) 原告は,被告が独断でA株式会社をして本件支出を行わせたと主張し,A株式会社の代表取締役社長である証人Eは,要旨,「A株式会社の従業員から,被告から本件支出を行うように指示があったと聞いている。」と証言しており,また,A株式会社の従業員であるNの陳述書(甲31)には,要旨,「平成7年2月の仮払金と同年5月の融資金は,被告の指示に基づき,自分が送金手続を行った。」との記載がある。 (イ) 他方で,被告は,本件支出は被告が独断で行わせたものではなく,当時のA株式会社の代表取締役社長であったF(以下「F元社長」という。)の決裁を受けていると主張し,本人尋問においても,要旨,「海外に送金するときは,海外事業部からF元社長に稟議書を回し,F元社長が決裁して,経理部に送金を指示し,経理部が銀行で送金手続きを取るということで処理されていたのであり,本件支出も同様である。」と供述し,また,証人Fも,要旨,「海外送金に限らず,支出はすべて社長決裁であったから,決裁を受けずに支出がなされると で送金手続きを取るということで処理されていたのであり,本件支出も同様である。」と供述し,また,証人Fも,要旨,「海外送金に限らず,支出はすべて社長決裁であったから,決裁を受けずに支出がなされるということは考えられない。出資とかは役員会に諮ったが,工事関係での貸付けや仮払いといった工事を推進するための支出は社長権限でやっていた。」と証言している。 (ウ) そこで検討するに,証人Eの証言内容は,伝聞証拠であるから,確たる証拠ということはできず,また,Nの陳述書(甲31)も,陳述書という証拠の性質上確たる証拠ということはできない上,その内容をみても,具体性に乏しく信用性は低いといわざるを得ない。 他方で,証拠(乙13,証人F,被告本人)によれば,本件支出がなされた当時,海外事業部はF元社長直属の部署であったことが認められるところ,海外送金に関する上記(イ)の被告の供述内容及び証人Fの証言内容は,A株式会社の会社組織に照らしても,合理的であり,何ら不自然な点はなく,本件では,他に,社長の決裁がなく海外送金がなされたことを窺わせるような確たる書証も提出されていないことなどに照らすと,上記(イ)の被告の供述及び証人Fの証言は,十分信用することができる。 そして,信用できる上記(イ)の被告の供述及び証人Fの証言によれば,本件支出は,被告が独断で行わせたものではなく,F元社長が被告の申出を受け,決裁の上,本件支出を指示したものと認めるのが相当である。 イ以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の主張は理由がない。 (2) 「被告が独断で本件支出を行わせたことが,忠実義務違反ないし善管注意義務違反に当たる」との主張についてア前記(1)・アで認定・判断したとおり,被告が独断でA株式会社をし がない。 (2) 「被告が独断で本件支出を行わせたことが,忠実義務違反ないし善管注意義務違反に当たる」との主張についてア前記(1)・アで認定・判断したとおり,被告が独断でA株式会社をして本件支出を行わせたと認めることはできないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の主張は理由がない。 イなお,原告の主張が「被告の独断行為でなかったとしても,A株式会社が平成8年6月に仮払金500万円の支出を行ったことについて,被告に忠実義務違反ないし善管注意義務違反がある」との趣旨を含むものであったとしても,証拠(甲21,被告本人)によれば,Dは,当時,資金繰りに困窮しており,Dを破綻させないためには「親会社」であるA株式会社が資金援助する必要があったと認められるところ,後記(3)・ウで認定した各事実に照らせば,被告がF元社長に対して500万円の支出を求めた点について,忠実義務違反ないし善管注意義務違反があったということはできない。 (3) 「被告が本件支出を回収しなかったことが,忠実義務違反ないし善管注意義務違反に当たる」との主張についてア被告は,A株式会社の取締役として,A株式会社に損害を被らせることを回避し,又はA株式会社が被る損害を可及的に最小限に抑えるよう適切な措置をとるべき一般的な義務を負っていたものと認められる。 イそして,前提事実のとおり,被告は,平成9年6月までA株式会社の海外事業部長の地位にあったものであり,証拠(証人F)によれば,被告は,平成9年6月までの間,Dに対する債権の回収について第一次的に責任を負うべき立場にあったことが認められるが,被告が,Dに対して本件支出を回収するための具体的な措置を取らなかったことは,被告も本人尋問において自認するところである。 ウしかし,証 次的に責任を負うべき立場にあったことが認められるが,被告が,Dに対して本件支出を回収するための具体的な措置を取らなかったことは,被告も本人尋問において自認するところである。 ウしかし,証拠(甲21,甲23,乙13,証人F,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,①海外事業部は,F元社長直属の部署であり,被告は,海外事業部に関する重要事項はF元社長に報告し,その指示を受けながら海外事業を行っていたこと,②F元社長の海外事業部に関する方針は,目先の利益を考えるのではなく,将来展望が大事というものであり,実際,F元社長は,在任中,被告に対し,Dに対する債権を回収する措置をとるように具体的な指示をしたことはなかったこと,③Dは,平成5年12月の設立以来,受注状況が思わしくなく,資金不足の状態にあり,そのような状況の中で,本件支出を回収しようとすれば,Dを倒産に追い込むことになりかねなかったこと,④被告は,海外事業部長在任中,Dから債権を回収するためには,Dの営業を強化して利益を上げ,しかる後に回収するしかないと考えていたこと,⑤被告は,A株式会社の取締役であるとともに,Dの副董事長(副会長)でもあったのであり,A株式会社の利益を図ると同時に,Dの利益をも図らねばならない立場にあったこと,以上の事実が認められ,これらの事実に照らすと,被告において,F元社長の指示ないし取締役会の決議もないにもかかわらず,Dが破綻するのが必定であるのに,独断で,本件支出その他のDに対する債権の回収を実行すべき義務があったとまではいうことができない。 エ以上によれば,原告の主張は理由がない。 (4) 「被告が正確な報告をしなかった」との主張についてア取締役会に対する報告について(ア) 原告は,被告は,A株式会社の取締役として,その担 よれば,原告の主張は理由がない。 (4) 「被告が正確な報告をしなかった」との主張についてア取締役会に対する報告について(ア) 原告は,被告は,A株式会社の取締役として,その担当する海外事業部に関する事項を取締役会において報告する義務があるところ,平成8年6月にはDが危機的な状況にあることを知っていたのであるから,そのころ,Dの経営状況を取締役会において報告すべき義務があったと主張する。 そして,被告が,A株式会社の取締役会において,Dの経営状況について報告したことがなかったことは,被告も本人尋問において自認するところである。 (イ) しかし,①前記認定のとおり,海外事業部は,F元社長直属の部署であり,被告は,海外事業部に関する重要事項はF元社長に報告し,その指示を受けながら海外事業を行っていたこと,②証拠(証人F,被告本人)によれば,海外事業部に関する事項について取締役会に上程するか否かは,F元社長が指示していたことが認められること,③証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,A株式会社の代表取締役ではなく,職制上も,専務や常務といった肩書きを有しない平取締役であったことが認められること,④証拠(証人F,被告本人)によれば,被告は,F元社長に対して,適宜,Dを含む海外事業に関する事項について報告していたほか,A株式会社の全役員も構成員となっている営業会議において,海外事業の受注状況,受注予定等を報告していたことが認められること,以上によれば,海外事業部に関する事項について取締役会に対する報告義務を負っていたのはF元社長であるというべきであり,被告は,海外事業部長として,F元社長に対して報告義務を負っていたとはいえるが,取締役会においてDの経営状況等を報告すべき具体的義務があったとまではいえ 負っていたのはF元社長であるというべきであり,被告は,海外事業部長として,F元社長に対して報告義務を負っていたとはいえるが,取締役会においてDの経営状況等を報告すべき具体的義務があったとまではいえない。 イ営業会議における報告について(ア) 原告は,被告が営業会議においてDの経営状況等について報告をしていたとしても,不正確な報告をしていたと主張する。 (イ) 確かに,平成9年度の海外子会社の状況に関する報告書(乙2の2)に記載されているDの売上高及び損失の数字は不正確であったことは,被告も本人尋問において自認するところであるが,証拠(証人F)によれば,F元社長は,Dのバランスシートその他でDの経営状況を把握し,その経営状況が芳しくないことも十分認識していたことが認められることからすれば,被告は,F元社長や営業会議において正確な報告をしていたものと推認することができ,前記の報告書(乙2の2)の存在のみで,被告が営業会議においてDの経営状況について不正確な報告をしていたと断定することはできない。 ウ以上によれば,被告に取締役会ないし営業会議に対する報告に関して,忠実義務違反ないし善管注意義務違反があったとは認められず,原告の主張は理由がない。 3 争点ウ(原材料の販売代金)について(1) 「被告が独断で原材料を売却させたことが,忠実義務違反ないし善管注意義務違反に当たる」との主張についてア原告は,被告が独断でA株式会社をしてDに原材料を売却させたと主張し,Nの陳述書(甲31)には,要旨,「Nは,被告に対し,原材料の出荷停止を進言したが,聞き入れてもらえなかった。」との記載がある。 イしかし,Nの陳述書はその性質上,確たる証拠とはいえない上,仮に,その内容が事実であったとしても,この事実の し,原材料の出荷停止を進言したが,聞き入れてもらえなかった。」との記載がある。 イしかし,Nの陳述書はその性質上,確たる証拠とはいえない上,仮に,その内容が事実であったとしても,この事実のみからは,被告がF元社長の決裁も受けずに独断で原材料の売却を指示したとまでは認められない。 そして,①前記認定のとおり,被告は,海外事業部に関する重要事項はF元社長に報告し,その指示を受けながら海外事業を行っていたことや,②証人Fも,要旨,「Dから原材料売却代金の回収ができていないことは知っていたが,原材料の出荷を停止することはDを破綻させることになるから,将来の仕事量等などから判断して,あまりやかましく言わなかった。」と証言していることに照らせば,被告は,F元社長の在任中は,同人の承認を得て,Dに原材料を売却していたものと認めるのが相当である。 また,F元社長退任後,被告が海外事業部長の地位を離れた平成9年6月までの原材料の売却についてみても,証人Eは,要旨,「平成9年4月及び5月にもDに原材料を売却している。就任直後で事情が良くわからなかったが,仕事を続けていて材料がないと大変なことになるというので送ったものである。」と証言していることからすれば,少なくとも,被告が独断で行わせたものということはできない。 ウ以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の主張は理由がない。 エなお,原告の主張が「被告の独断行為でなかったとしても,A株式会社がDに対して原材料を売却したことについて,被告に忠実義務違反ないし善管注意義務違反がある」との趣旨を含むものであったとしても,証拠(甲21,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,Dは,A株式会社が原材料を供給しなければ,仕事が出来ず破綻してしまう状況にあったこと 善管注意義務違反がある」との趣旨を含むものであったとしても,証拠(甲21,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,Dは,A株式会社が原材料を供給しなければ,仕事が出来ず破綻してしまう状況にあったことが認められるのであり,前記2・(4)・イにおいて認定した各事実に照らすと,被告として,Dが破綻してしまうような行動を取ることはできなかったというべきであるから,被告がF元社長の承認の下,Dに対する原材料の供給を継続させたことについて,被告に忠実義務違反ないし善管注意義務違反があったということはできない。 (2) 「被告が原材料の売却代金を回収しなかったことが,忠実義務違反ないし善管注意義務違反に当たる」との主張について前記2・(3)で認定・判断したところによれば,被告がDから原材料の売却代金を回収する措置を取らなかったことについて,被告に忠実義務違反ないし善管注意義務違反があるとはいえないから,原告の主張は理由がない。 (3) 「被告が正確な報告をしなかった」との主張について前記2・(4)で認定・判断したとおり,原告の主張は理由がない。 4 争点エ(施工隊人件費)について(1) 「取締役会決議事項であるのに,被告が独断で施工隊人件費の支出を行わせた」との主張についてア被告が独断でA株式会社をして施工隊人件費の支出を行わせたか否かについて(ア) 証拠(甲22の1ないし3,証人F,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,Jが受注したタイNFC工事にDのワーカーが施工隊として派遣されたことに関連して,A株式会社からJに対し,平成8年11月5日から平成9年3月3日までの間,合計664万6490円が支払われていることが認められる。 (イ) しかし,証人Fは,要旨,「タイNFC工事の関係で,Dからタイ らJに対し,平成8年11月5日から平成9年3月3日までの間,合計664万6490円が支払われていることが認められる。 (イ) しかし,証人Fは,要旨,「タイNFC工事の関係で,Dからタイに人員を派遣したことは知っている。」と証言していることに加え,前記2・(1)で認定・判断したところによれば,A株式会社が海外に送金するためには,F元社長が決裁の上,送金を指示しなければできなかったのであるから,同様に,A株式会社がDに合計664万6490円を送金したことも,F元社長が決裁の上,送金を指示したものと推認することができ,この認定を覆すに足りる証拠はない。 (ウ) 以上によれば,A株式会社がDに対して合計664万6490円を送金したことは,被告が独断で指示したものではなく,F元社長が被告からの申出を受け,決裁の上,送金を指示したものと認めるのが相当である。 イ以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の主張は理由がない。 (2) 「被告が施工隊人件費を支払わせたことが,忠実義務違反ないし善管注意義務違反に当たる」との主張についてアまず,原告は,被告が独断で施工隊人件費の立替払いを行わせたと主張するが,前記(1)で認定・判断したとおり,A株式会社がDに対して664万6490円を送金したことは,被告が独断で行わせたものとは認められない。 また,原告は,A株式会社が立替払いした当時,すでにJはこれを返済することができるような状態にはなかったと主張するが,Jは,タイNFC工事を受注して,工事を行っていたのであり,また,破綻に瀕していたと認めるに足りる証拠もないから,支出時点においてすでに回収不能であったとは認められない。 イ次に,原告は,被告がDのワーカーをタイNFC工事に派遣する必要 たのであり,また,破綻に瀕していたと認めるに足りる証拠もないから,支出時点においてすでに回収不能であったとは認められない。 イ次に,原告は,被告がDのワーカーをタイNFC工事に派遣する必要性がないのに,これを派遣したと主張するが,被告は,本人尋問において,要旨,「インドネシアやマレーシアのワーカーは,すべてチェコの方に派遣されていたので,タイでのワーカーが不足していた。そして,タイでは中国人のビザが取れるというので,Dのワーカーが遊んでいたので,これを使うことにした。」と供述していることや,また,JのOから被告に宛てた,Dから派遣されたワーカーに関して述べた書面(甲20)には,Dのワーカーの問題点も指摘されているが,これにより助かっているとの記述もあり,その記載内容からは,派遣の必要性がないのに敢えて派遣したという事実は窺えないことに照らすと,派遣する必要がないのに派遣したとは認められない。 また,原告は,Dから派遣されたワーカーの人件費は,相場の10倍以上の高額に設定されていたと主張するが,中国国内の人件費と単純に比較することはできないことや,派遣にかかる諸経費のことも考えると,異常な高額であったとの立証があるとはいえない。 更に,原告は,被告が,JのOからDのワーカーの技量が低く,タイのワーカーを増やすべきであるとの指摘を受けていたにもかかわらず,Dのワーカーを派遣し続けたと主張するが,被告は,本人尋問において,要旨,「指摘を受けた後,可能な範囲でタイのワーカーも使っている。」と供述しており,この供述内容を覆すに足りる確たる証拠はない。 ウそしてまた,原告は,Dから派遣された施工隊の人件費をA株式会社がJに代わって支払う必要性はなかったと主張するが,証拠(甲30,証人F)によれば,Jには,当時, に足りる確たる証拠はない。 ウそしてまた,原告は,Dから派遣された施工隊の人件費をA株式会社がJに代わって支払う必要性はなかったと主張するが,証拠(甲30,証人F)によれば,Jには,当時,施工隊人件費を支払う余裕がなかったことが認められ,他方で,これまで認定したとおり,Dも資金繰りに窮していたものであるから,「親会社」のA株式会社としては,このような行動をとることによりD及びJを支援したことに特段の問題はないというべきである。 キその他,DからJに施工隊が派遣され,A株式会社がその人件費として664万6490円を送金したことについて,被告に忠実義務違反ないし善管注意義務違反があるとはいえない。 (3) 「被告が施工隊人件費を回収しなかったことが,忠実義務違反ないし善管注意義務違反に当たる」との主張についてア前記認定のとおり,Jは,破綻に瀕していたものではないが,すぐに支払う余裕がなかったことが認められるのであり,敢えて,回収しようとすれば破綻に至ることは必定であったと考えられるから,前記2・(3)・ウで認定したF元社長の海外事業についての方針に照らし,被告が,その海外事業部長在任中にJから回収措置を取らなかったことについて,忠実義務違反ないし善管注意義務違反があるとはいえない。 (4) 以上によれば,原告の主張は理由がない。

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