令和6年12月10日宣告保護責任者遺棄致死被告事件(令和6年(わ)第19号) 主文 被告人を懲役9年に処する。 未決勾留日数中160日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は、A(当時5歳)の実母としてAを保護する責任のあったもの、分離前相被告人Bは、Aらと生活を共にするなどし、被告人とともにAを保護する責任のあったものであるが、被告人は、Bと共謀の上、令和6年1月7日午後5時過ぎ頃、青森県八戸市(住所省略)当時の被告人及びB方において、Aを暖房設備のない浴室に連れて行き、着衣を身につけたままのAを水で濡らした上、着衣が濡れた状態のAを同浴室に置き去りにし、その頃から同日午後9時30分頃までの間、Aを同浴室に放置して遺棄し、よって、同日午後10時48分頃、搬送先である同市(住所省略)C病院において、Aを低体温症による急性循環不全により死亡させた。 (量刑の理由) 1 本件犯行の態様は、当時5歳のAが自宅居室の床面で尿を漏らしたことをすぐに認めなかったことなどから、しつけのために罰を与えるなどと称して、真冬で外気温がマイナス約1.2度ないしマイナス約0.9度の中、嫌がるAの手を引っ張って暖房設備のない浴室に無理やり連れて行き、着衣を身に着けたままのAの身体を水で濡らした上、約15センチメートルの水位まで水がたまっていた浴槽内に「立ってろ」などと命じて置き去りにし、約4時間半もの長時間にわたり消灯した浴室内に放置したという、むごたらしいものであり、後述のようにAが従前から虐待を受けており、指示に逆らって自ら浴室外に出ることは困難であったと考えられることも踏まえると、Aの健康を害する危険性 が非常に高い悪質な犯行である。被告人及び共犯者Bは、本件以前からA ら虐待を受けており、指示に逆らって自ら浴室外に出ることは困難であったと考えられることも踏まえると、Aの健康を害する危険性 が非常に高い悪質な犯行である。被告人及び共犯者Bは、本件以前からAに暴行を加えるなどの虐待を繰り返しており、とりわけ、令和5年11月頃からは、Bが断続的にAの身体に外傷を生じさせるほどの暴行を加えたり、本件同様にAを寒い浴室内に放置したりするなど虐待をエスカレートさせ、被告人もこれを黙認する中で、本件犯行に至ったというものであり、悪質性が高い。 元々明るく元気で優しい子であったAを理不尽にも死亡させた結果は重大である。Aは自分の身を守るすべを持たない幼児であり、母親である被告人とその内縁の夫であるBしか頼る人がいない閉鎖的な環境に置かれ、日常的に虐待を受けた挙げ句、本件犯行により暗くて寒い浴室の中で立たされ、「ごめんなさい、ごめんなさい」と繰り返し謝っても誰も助けてくれない状況の中、徐々に衰弱していき、ついに亡くなったのであり、とてもつらくて悲しかったと思われる。 そして、本件犯行において被告人が果たした役割等をみると、被告人は、Bが嫌がるAを無理やり浴室に連れて行く状況を現認し、BがAを水で濡らして置き去りにするかもしれないと認識しながら、Bの行為を黙認しBとともにAを浴室内に放置している。加えて、被告人は、途中で浴室内の状況を確認しに行った際、Aが下を向いた様子で水のたまった浴槽の中で立っている状況を現認しており、その時点で既に前記置き去りから約2時間半ないし約3時間も経過していたにもかかわらず、Aに声掛けをしたりその容態を確認したりすることもなく、そのままAを浴槽の中に置き去りにし、その後も約1時間半ないし約2時間もAを漫然と浴室内に放置し、死亡させている。このような被告人の一連の行為は、A 掛けをしたりその容態を確認したりすることもなく、そのままAを浴槽の中に置き去りにし、その後も約1時間半ないし約2時間もAを漫然と浴室内に放置し、死亡させている。このような被告人の一連の行為は、Aの死亡結果の実現に大きく寄与したものと認められる。 2 本件犯行に至る経緯等をみると、当時若干21歳の被告人は、Bに誘われて実家を離れ、地縁のない慣れない環境の中で生活を始めたが、Bが無責任にも働かなくなり、次第に生活苦に陥り、当時1歳の長男の育児や自身の妊娠、うつ病の影響による心身の不調も重なり、Aの育児等に相当のストレスを感じる などしていたと認められる。加えて、被告人は、肉体的にも精神的にも優位な立場にあったBから暴力を振るわれることもあったというのであり、Bに逆らうのが怖かったという心境は理解できる。しかし、被告人は、客観的には、周囲から必要な助力を得るのが困難な状況にあったわけではなく、自ら実家の手助けや児童相談所、警察の介入を拒んで遠ざけていたのであり、本来母親としてAのことを大切に考えて行動すべきであったのに、Bのことが好きだった自分の気持ちを優先するなどし、母親として無責任な選択を積み重ねた結果、本件犯行を招いたといわざるを得ない。そうすると、本件犯行に至る経緯等には、被告人のために酌むことができる点はあるものの、その程度には限界がある。 以上の事情からすれば、本件は、同種事案(保護責任者遺棄致死、共犯、処断罪と同一又は同種の罪の件数:1件、被告人から見た被害者の立場:子)の中で、やや重い部類に属する事案と評価すべきであり、前述したように、Aを浴室に連れて行き、水で濡らした上、浴槽の中に置き去りにしたのはBであることや、本件犯行に至る経緯等には被告人のために一定程度酌むべき事情があることなどを考慮しても、被告人の刑事 述したように、Aを浴室に連れて行き、水で濡らした上、浴槽の中に置き去りにしたのはBであることや、本件犯行に至る経緯等には被告人のために一定程度酌むべき事情があることなどを考慮しても、被告人の刑事責任は重く、長期間の実刑を免れない。 3 その上で、被告人に前科前歴はなく、自己の責任を認め、反省の態度を示しており、公判直前に被告人の母親から被告人を気遣う内容の手紙が届いたことがうかがわれ、被告人も社会復帰後は母親や行政に相談するなどして二度と罪を犯さない旨述べていることなどの事情も併せ考慮して、被告人に対しては、主文の刑に処するのが相当と判断した。 (検察官の求刑:懲役12年、弁護人の科刑意見:執行猶予付き判決)令和6年12月10日青森地方裁判所刑事部 裁判長裁判官藏本匡成 裁判官小澤光 裁判官大井俊哉
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