平成17(行ウ)19 議員報酬支給差止請求事件

裁判年月日・裁判所
平成19年2月21日 水戸地方裁判所 住民訴訟
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判決文本文19,903 文字)

- 1 -主文 本件訴えのうち,被告に,P1,P2,P3,P4,P5,P6,P7,P8,P9,P10,P11,P12,P13及びP14に対して議員報酬を支給したときは,同人らに対して支給した議員報酬の返還請求をするよう義務付けることを求める部分をいずれも却下する。 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1当事者の求めた裁判 原告ら(1)被告は,P1,P2,P3,P4,P5,P6,P7,P8,P9,P10,P11,P12,P13及びP14に対し,議員報酬を支給してはならない。 (2)被告は,P1,P2,P3,P4,P5,P6,P7,P8,P9,P10,P11,P12,P13及びP14に対して議員報酬を支給したときは,同人らに対し,支給した議員報酬の返還を請求せよ。 (3)訴訟費用は被告の負担とする。 被告(1)本案前の答弁ア本件訴えをいずれも却下する。 イ訴訟費用は原告らの負担とする。 (2)本案の答弁ア原告らの請求をいずれも棄却する。 イ訴訟費用は原告らの負担とする。 第2事案の概要本件は,土浦市の住民である原告らが,土浦市と新治村とが合併するに際し- 2 -ての合併協議会(以下「本件合併協議会」という。)においてなされた市町村の合併の特例に関する法律(昭和40年3月29日法律第6号,以下「旧合併特例法」という。)7条1項(以下「在任特例」ということがある。)を適用して新治村議会議員(P1,P2,P3,P4,P5,P6,P7,P8,P9,P10,P11,P12,P13及びP14の14人。以下,まとめて「旧新治村議会議員」という。)を土浦市の市議会議員として引き続き在任させることとした決定(以下「本件決定」という。)は,合併前の土浦市民の投 P11,P12,P13及びP14の14人。以下,まとめて「旧新治村議会議員」という。)を土浦市の市議会議員として引き続き在任させることとした決定(以下「本件決定」という。)は,合併前の土浦市民の投票価値の平等を害し違憲・無効であるため,旧新治村議会議員に対して議員報酬を支出することは地方自治法2条16項,138条の2及び203条並びに地方財政法4条1項に違反すると主張して,土浦市長である被告に対し,地方自治法242条の2第1項1号又は4号に基づき,旧新治村議会議員に対する議員報酬の支出の差止め及びこれが支出された場合に被告が旧新治村議会議員に対して議員報酬の返還を請求することの義務付けを求める事案である。 前提事実(末尾に証拠等の引用がない事実は,当事者間に争いがない。)(1)当事者ア原告ら原告らは,土浦市に居住する住民である。 イ被告被告は,土浦市の執行機関である市長であり,同市を統括してその事務を管理・執行している。 (2)土浦市と新治村との合併の経緯等ア土浦市と新治村は,平成16年5月28日,合併を目指して,土浦市・新治村合併協議会(本件合併協議会)を設置した。 その後,合併協議が継続されたが,合併方式については,新治村を土浦市に編入合併することで合意が成立した。 イ平成16年12月22日,本件合併協議会において,旧合併特例法7条- 3 -1項2号に規定する在任特例を適用し,新治村議員14人全員(旧新治村議会議員)を合併後の土浦市議会議員とすることが決定された(本件決定)。 ウ合併の期日が平成18年2月20日と決定された後,平成17年2月28日,土浦市と新治村との間で,合併協議書が調印された。 その後,土浦市議会及び新治村議会における合併の決議並びに合併の申請がなされた。 エ土浦市と新治村は,平成18年2 された後,平成17年2月28日,土浦市と新治村との間で,合併協議書が調印された。 その後,土浦市議会及び新治村議会における合併の決議並びに合併の申請がなされた。 エ土浦市と新治村は,平成18年2月20日,合併(土浦市が新治村を編入)した(顕著な事実)。 オ現在の土浦市議会議員の任期は,平成19年4月30日までである(甲2)。 土浦市と新治村との合併後,上記任期が満了するまでの約14か月の間に,旧新治村議会議員14人に対し,議員報酬1億1634万3710円等の合計1億3618万3810円が支出されることが予定されている。 (3)土浦市及び新治村の選挙人数及び議員数等平成14年当時,土浦市においては10万8034人の選挙人及び32人の市議会議員が,新治村においては7785人の選挙人及び14人の村議会議員が,それぞれ存在した(議員1人当たりの選挙人数は土浦市が約3376人,新治村が約556人であり,その比は6.07対1であった。)。 平成12年当時,土浦市においては13万4702人の住民及び32人の市議会議員が,新治村においては9404人の住民及び14人の村議会議員が,それぞれ存在した(議員1人当たりの人口は土浦市が約4209人,新治村が約672人であり,その比は6.26対1であった。)。 (4)住民監査請求等ア原告らは,平成17年11月21日,土浦市監査委員に対し,要旨以下のとおり記載した監査請求書を,記載にかかる事実を証明する資料を添付- 4 -した上で提出して,住民監査請求を行った(甲7,以下「本件監査請求」という。)。 (ア)監査請求の対象とする財務行為土浦市と新治村が平成18年2月20日に合併した後,本件決定に基づき土浦市議会議員となる旧新治村議会議員に対して議員報酬等を支出すること。 (イ)行為を違法・不当とする 査請求の対象とする財務行為土浦市と新治村が平成18年2月20日に合併した後,本件決定に基づき土浦市議会議員となる旧新治村議会議員に対して議員報酬等を支出すること。 (イ)行為を違法・不当とする理由旧新治村議会議員全員を土浦市議会議員とする本件決定は投票価値の平等を害し憲法14条1項に違反する違憲・無効なものであるため,本件決定に従って土浦市議会議員となる旧新治村議会議員に対して議員報酬等を支給することは違法・不当である。 (ウ)この行為により市に生ずる損害旧新治村議会議員に議員報酬等を支払うと,議員報酬9972万円,行政視察旅費336万円,政務調査費420万円,費用弁償116万円及び年金負担829万円など合計約1億2000万円の損害が生ずる。 (エ)請求する措置の内容監査委員が上記支出につき厳正な調査を行い,議員報酬等の支出の差止勧告等の措置を講ずること。 イ土浦市監査委員は,平成17年11月29日付けで,本件監査請求について,当該地方公共団体の機関又は職員による具体的な違法又は不当な財務会計上の「行為の前提となる法令及びその適用が憲法に適合するか否かの判断を求めるもの」と解した上で,そのような判断については「地方自治法に定める監査委員の職務権限になじまない」という理由で却下し,そのころ,その旨を原告らに通知した(甲8)。 (5)訴えの提起等ア原告らは,平成17年12月26日,本件訴えを提起した(顕著な事- 5 -実)。 イ原告らは,平成18年2月22日,当裁判所に対して,訴えの変更申立書(同月21日付け,同月24日に被告に送達,同年3月22日の本件第2回口頭弁論期日において陳述)を提出し,請求の趣旨第2項にかかる請求を追加する訴えの追加的変更を申し立てた(顕著な事実)。 争点 (1)本件訴えの適法性(2) に送達,同年3月22日の本件第2回口頭弁論期日において陳述)を提出し,請求の趣旨第2項にかかる請求を追加する訴えの追加的変更を申し立てた(顕著な事実)。 争点 (1)本件訴えの適法性(2)土浦市長が旧新治村議会議員に対して議員報酬を支出することが違法・不当であるか否か。 争点に関する当事者の主張(1)争点(1)(訴えの適法性)について(被告の主張)ア監査請求の欠如(本件訴え全体について)地方自治法242条の2第1項は,住民訴訟につき監査請求を前置すべき旨を定めているが,本件においては,本件監査請求について,土浦市監査委員が,平成17年11月29日付け書面で却下の結果とその理由を通知している。 したがって,原告らが提起した本件住民訴訟(原告らが提訴後に追加した請求の趣旨第2項にかかる請求も含む。)は,地方自治法242条の2第1項に規定する要件を欠いており,不適法である。 イ提訴期間の徒過(請求の趣旨第2項にかかる請求について)訴えの追加的変更における追加部分は新訴の提起にほかならないが,土浦市監査委員は平成17年11月29日付けの書面で本件監査請求につき却下という結果とその理由を通知しているから,原告らによる訴えの追加的変更(平成18年2月22日に申立書が提出されている。)は,地方自治法に定める通知を受けた日から30日以上経過した後に行われたもので- 6 -ある。 したがって,原告らの訴えの追加的変更が住民訴訟の提訴期間を徒過していることは明らかであるから,この変更にかかる請求(請求の趣旨第2項にかかる請求)については却下されるべきである。 (原告らの主張)ア監査請求の欠如について監査委員が適法な住民監査請求を不適法であるとして却下した場合,当該請求をした住民は,適法な住民監査請求を経たものとして直ちに住民 却下されるべきである。 (原告らの主張)ア監査請求の欠如について監査委員が適法な住民監査請求を不適法であるとして却下した場合,当該請求をした住民は,適法な住民監査請求を経たものとして直ちに住民訴訟を提起することができる旨は,最高裁の判例で判示されており(最高裁平成10年(行ツ)第68号同年12月18日第三小法廷判決・民集52巻9号2039頁参照),また,学界の通説でもある。 本件監査請求は,対象とする行為として具体的な公金の支出という財務会計行為を取り上げており,その特定・認識に欠けるところはない。その行為の違法・不当性についても,法令上求められている程度に具体的な理由を指摘している。監査委員からの通知にある「その内容が憲法に違反するやいなやの判断を求めている云々」は請求の理由に関するものであり,監査請求の適法性には影響しない。 それにもかかわらず,土浦市監査委員が,本件監査請求を不適法と扱ったことは誤りといわざるを得ない。他に何ら手続上不適法な点は存在しないから,土浦市監査委員は監査を実施すべきであったと考えられる。 以上のように,本件監査請求は客観的に適法であったのに,監査委員が誤ってこれを不適法なものとして却下したに過ぎないから,本件監査請求に続いて行われた本件住民訴訟(原告らが提訴後に追加した請求の趣旨第2項にかかる請求も含む。)は監査請求前置の要件を充たしている。 イ提訴期間の徒過(請求の趣旨第2項にかかる請求)について(ア)本件訴えのうち訴えの追加的変更に係る部分(請求の趣旨第2項に- 7 -かかる請求)については新たな訴えの提起にほかならないから,この部分について提訴期間の制限が加わり,通常であればその提訴日を基準として提訴期間が遵守されているか否かを決すべきことは当然である。しかし,変更後の新請求と変更前の旧 えの提起にほかならないから,この部分について提訴期間の制限が加わり,通常であればその提訴日を基準として提訴期間が遵守されているか否かを決すべきことは当然である。しかし,変更後の新請求と変更前の旧請求との間に存する関係から,提訴期間の遵守の点において,変更後の新請求に関わる訴えを当初の提訴の時に提起されたものと同視し得る特段の事情があるときには,当初の訴えの提起のときに新請求の訴えの提起があったものとみなして,提訴期間の遵守において欠ける点がないと認めるのが相当であり,その特段の事情としては,変更前後の訴えが極めて近い関係にあり,かつ,変更前の訴えにおいて変更後の訴えにおける不服の内容が主張されている,すなわち,前訴に後訴の趣旨が実質的に含まれている場合が該当するものである(最高裁昭和59年(行ツ)第70号同昭和61年2月24日第二小法廷判決・民集40巻1号69頁参照)。 (イ)これを本件についてみると,公金支出を違法として事前にその差止めを求める請求(本件における当初の請求)と,差止訴訟が適法に係属している間に公金の支出がなされたときに支出された公金の返還を命ずることを求める請求(本件請求の趣旨第2項にかかる請求)とは,被告及び対象とする財務行為が同一で,かつ,中心的争点を共通とするのみならず,差止めが求められている公金の支出が行われた後に,これに対する返還請求が行われることは当然予測できることからして,表裏一体のものといえる。 また,監査請求との関係においては,同一住民は同一の財務行為を対象として再度の監査請求をすることが許されていないから,仮に旧請求のための監査から30日以内に新請求も提訴しなければならないとすると,差止請求は公金の支出前に行わなければならないのに,他方で,公金の支出が監査から30日以上後に行われた場合には いから,仮に旧請求のための監査から30日以内に新請求も提訴しなければならないとすると,差止請求は公金の支出前に行わなければならないのに,他方で,公金の支出が監査から30日以上後に行われた場合には,その支出に対す- 8 -る監査請求も,公金の支出に関する住民訴訟の提起もできなくなるという不合理な結果となる。これは本件請求の趣旨第2項にかかる請求(将来給付の訴え)についても同様であり,差止請求は公金の支出前に行わなければならないが,他方で,将来給付の訴えの要件である「権利発生の基礎となる事実上及び法律上の関係」が生ずるまでは新請求について提訴することができないのに,これが具備されたのが当初の訴え提起から30日以上経過した後であるため,公金支出について新たな監査請求も住民訴訟の提起もできない不合理な結果となってしまうのである。 (ウ)以上のような事情の下においては,提訴期間との関係では,訴えの変更後の新請求(請求の趣旨第2項にかかる請求)を当初の訴えの時に提起されたものと同視し,新請求につき提訴期間の遵守について欠けるところがないものと解すべき特段の事情があるものとするのが相当である。 (2)争点(2)(議員報酬を支給することの違法・不当性)について(原告らの主張)ア在任特例の適用による投票価値の不平等の発生合併前の土浦市における市議会議員1人当たりの選挙人数及び人口はそれぞれ約3376人,約4209人であり,合併前の新治村における村議会議員1人当たりの選挙人数及び人口はそれぞれ約556人,約672人であったから,土浦市と新治村との間における議員1人当たりの選挙人数の比は6.07対1,議員1人当たりの人口の比は6.26対1となっていた。このような状況下で,旧新治村議会議員14人全員が在任特例の適用によって土浦市議会議員となっ における議員1人当たりの選挙人数の比は6.07対1,議員1人当たりの人口の比は6.26対1となっていた。このような状況下で,旧新治村議会議員14人全員が在任特例の適用によって土浦市議会議員となった場合には,同一議会内の旧新治村議会議員と旧土浦市議会議員との間での議員1人当たりの選挙人数又は人口の較差は6倍以上となり,旧土浦市民の投票価値は旧新治村民の投票価値と比較して6分の1ということになる。 - 9 -上記のように議員1人当たりの選挙人数・人口の違い(投票価値の較差)が大きいまま合併し,合併前に議員であった者全員が合併後に同一議会の議員となると,投票価値が小さい方の自治体の住民の権利を侵害し不平等な結果となる可能性が存在する。このことは,甲4の模擬例に示されているように,投票価値の較差が10倍の場合(模擬例1)には明確な形で権利の侵害が起こりうること,投票価値の較差が60倍の場合(模擬例2)には選挙人数の98パーセント以上を占める編入を受け入れた側の住民の権利侵害の可能性が著しいことからも明らかである。 イ不平等な投票価値の較差とその違憲性最高裁は,衆議院議員選挙につき,同一議会内で等しい議決権を行使する議員1人当たりの選挙人数が大きく異なるとすれば,投票価値の平等は保たれておらず,それを正当化する特別の理由がない限り,憲法14条1項に違反すると判示して,結論として4.40倍の投票価値の較差を違憲と判断し(最高裁昭和59年(行ツ)第339号同60年7月17日大法廷判決・民集39巻5号1100頁参照),また,参議院議員選挙についても,二院制に由来する特異性を考慮しても,6.59倍という投票価値の較差は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態であると判示している(最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集 二院制に由来する特異性を考慮しても,6.59倍という投票価値の較差は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態であると判示している(最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁参照)。 地方議会議員選挙に関しては,公職選挙法15条8項が,各選挙区における議員の定数は原則として人口に比例して条例で定める旨を規定して,投票価値の平等が強く意識されており,最高裁も,この規定を,人口比を最も重要かつ基本的な基準として各選挙人の投票価値が平等であるべきことを強く要求するものと指摘している(最高裁昭和58年(行ツ)第115号同59年5月17日第一小法廷判決・民集38巻7号721頁参照)。 そして,千葉県議会議員選挙における特例選挙区の設置について,特例選- 10 -挙区の人口が議員1人当たりの人口の半数を著しく下回る場合にはその設置を認めないとして,設置に関する裁量権の行使に限界があることが示され(最高裁昭和63年(行ツ)第176号平成元年12月18日第一小法廷判決・民集43巻12号2139頁参照),1対3.81倍という較差について,特別の理由もなく合理的裁量の限界を超えているとして,投票価値の平等に反する旨判示されている(最高裁平成元年(行ツ)第15号同年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2297頁参照)。 上記各判例は「選挙における議員1人当たりの選挙人数」の不平等を扱ったものであるが,「議会内での議員1人当たりの選挙人数」と「選挙における議員1人当たりの選挙人数」とは,議会に在籍する議員についてその選挙区の定数と選挙人数から計算するか,選挙区の定数と選挙人数から計算するかの見かけ上の違いがあるだけであり,「選挙における議員1人当たりの選挙人数」は,選挙後の「議会内での議員1人当たりの選挙人数 挙区の定数と選挙人数から計算するか,選挙区の定数と選挙人数から計算するかの見かけ上の違いがあるだけであり,「選挙における議員1人当たりの選挙人数」は,選挙後の「議会内での議員1人当たりの選挙人数」と同じであるから,上記各判例が本件にも妥当するものであることは明らかである。 土浦市と新治村の合併においては,投票価値について6倍以上の較差が存在するが,上記のとおり違憲と判断された3.81倍という較差を遙かに超えていることからしても,これを正当化する特別の理由のない限り,本件決定は合理的裁量の限界を遙かに超えており違憲・無効である。 ウ6倍の較差を正当化する特別な理由の不存在と合理的裁量からの逸脱(ア)本件における投票価値の較差の当不当を検討する前提として,在任特例の選択・適用が無制限に許容されるか否かを検討すると,甲4の模擬例2(議員1人当たりの選挙人数の較差が60倍の場合)にあるとおり,選挙人2000人で12人の議員が存在するB村が,選挙人数10万人で10人の議員が存在するA市に編入合併されるに際して,在任特例の規定が適用されるとすると,議員数22人の合併後のA市議会で旧- 11 -B村出身の議員が議長をとり多数派を占めることができ,旧A市住民と旧B村住民との利害が対立した場合には,50倍も選挙人が多いにもかかわらず,議会ではA市住民の利益が守られないことになってしまう。 旧合併特例法の在任特例の規定がこのような事態をも許容するものであるとしたら,それは投票価値の平等を規定した憲法14条1項に違反することが明白であり,この規定自体が憲法違反の瑕疵を持つことになってしまうから,在任特例の適用が無制限に許されるものではなく,その選択・適用には裁量権の合理的な行使が求められていることは明白である(なお,合併後は議員は選出地域とは無関係 反の瑕疵を持つことになってしまうから,在任特例の適用が無制限に許されるものではなく,その選択・適用には裁量権の合理的な行使が求められていることは明白である(なお,合併後は議員は選出地域とは無関係であり,出身地域を分けて考える議論は成立しないとする主張も形式的には可能であるが,在任特例が選択された理由の根本に,編入された地域を特別に処遇する考え方があることを考えれば,そのような議論が無意味であることは明らかである。)。 (イ)そこで,裁量権の合理的行使として,6倍の投票価値の較差を生む本件決定を正当化できる特別な理由があるか否かについて考察する。 このように住民の権利を制限する重大な問題であれば,当然そのことに関して本件合併協議会で充分な議論がなされていなければならないが,本件決定をした際に,この違憲状態を招く不平等の問題やこれを容認する特別の理由などに関して議論は行われていなかった(甲6)。特別な事情のある重要事項に関して議決があったというためには,特別の事情が存在することを前提に議論がなされた上,それを認める議決がなされることが必要であるが(最高裁平成15年(行ヒ)第231号同17年11月17日第一小法廷判決・集民第218号459頁参照),本件においては,投票価値の平等を大きく侵し,違憲状態を生ずるおそれがあるという特別の事情の存在を認識し,それを前提とした議論が行われていないから,違憲状態の発生を容認する議決がなされたものとは認め難- 12 -い。 また,編入される側の議員の処遇については旧合併特例法上いくつもの選択肢が用意されており,編入地区の住民の意向を反映する手段としても,旧合併特例法上の合併特例区並びに地方自治法上の地域協議会及び地域自治区などの選択肢が用意されており,あえて違憲の疑いがある選択肢(在任特例を適用 おり,編入地区の住民の意向を反映する手段としても,旧合併特例法上の合併特例区並びに地方自治法上の地域協議会及び地域自治区などの選択肢が用意されており,あえて違憲の疑いがある選択肢(在任特例を適用して旧新治村議会議員全員を土浦市議会議員とする方法)を選ぶべき理由は存在しないのに,本件合併協議会においては,他の適法な選択肢についてあまり議論が行われていない。本件決定は,多くの判例の事例において較差発生の原因となっていた人口の変動や地理的な問題がないにもかかわらず,本来存在しなかった不平等を,その理由を真摯に議論することもなく,新たに,安易に,あえて作り出したのである。在任特例の選択に際して,憲法で定められた投票価値の平等を守る努力がなされていないことからも,本件決定を合憲とする理由がないことは明らかである。 (ウ)以上のとおり,他の選択により違憲状態を回避することができたにもかかわらず,充分な議論もなく,土浦市民の権利を侵害し違憲状態を新たに生む在任特例をあえて選択した本件決定は,その結果として生ずる不平等を正当化する特別の理由もないため,旧合併特例法の適用を誤ったものであり,合理的裁量の限界を超えており,憲法14条1項に違反し無効である。 (エ)なお,被告は,①在任特例の規定が違憲・無効でないため,これを適用した本件決定に違憲・違法の問題が生ずる余地はない(主位的主張),②本件決定が一見極めて明白に不合理であるとはいえないことから,違憲・違法ではない(予備的主張)と主張するが,いずれも失当である。 すなわち,①については,合憲の法令であっても,それが違憲的に運- 13 -用・適用され違憲状態を生ずるのであれば,その適用結果は違憲であり,適用違憲の問題を生ずることは明らかであるし,②については,在任特例を適用した結果が違憲状態 っても,それが違憲的に運- 13 -用・適用され違憲状態を生ずるのであれば,その適用結果は違憲であり,適用違憲の問題を生ずることは明らかであるし,②については,在任特例を適用した結果が違憲状態にあるか否かを判断するには,現状の投票価値の不平等が違憲状態にあるか否かを検討することが必須であるのに,これを慎重に吟味・検討せずに問題を議論する独自の判断基準であり,また,投票価値の平等という憲法上の要求を裁量権の行使における考慮事項と同列視してはならないことを明確にした最高裁判例(最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁参照)に反するものであるから,いずれも論理性に欠ける独自の理論に基づく主張である。 エ公金支出の違法性及び議員報酬の不当利得明示的に公金の支出を禁止した条項が存在する場合のみならず,支出の原因となる行為に憲法違反がある場合にも当該公金の支出は違法となるが(最高裁昭和46年(行ツ)第69号同52年7月13日大法廷判決・民集31巻4号533頁参照),本件決定は,憲法14条1項に違反するため違憲・無効であり,旧新治村議会議員は土浦市議会議員の地位にないから,被告が同決定に従って旧新治村議会議員に対して議員報酬を支出することは,地方自治法2条16項,138条の2及び203条並びに地方財政法4条1項に違反する。 また,本来土浦市議会議員の資格を有しない旧新治村議会議員に対して支給される議員報酬は,法律及び条例に基づかないものであるため,旧新治村議会議員による不当利得となる。 オよって,地方自治法242条の2第1項1号又は4号に基づき,被告が旧新治村議会議員に対して議員報酬を支出することの差止め,及び,将来給付の訴えとして,これが支出された場合に被告が旧新治村議会議員に対して議員報酬 治法242条の2第1項1号又は4号に基づき,被告が旧新治村議会議員に対して議員報酬を支出することの差止め,及び,将来給付の訴えとして,これが支出された場合に被告が旧新治村議会議員に対して議員報酬の返還を請求することの義務付けを求める。 - 14 -(被告の主張)ア主位的主張いわゆる合併特例法は,読んで字の如く特例であって,市町村行政の広域化の要請に対処し,合併市町村の建設に資するために,当分の間の措置として定められた時限法であって,その位置付けは特殊である。しかも,いわゆる在任特例は,自主的な市町村合併を推進する目的から,編入合併の場合においては,編入される合併関係市町村議会の議員で,当該合併市町村議会議員の被選挙権を有する者について,合併関係市町村の協議により,編入をする合併市町村議会議員の残任期相当期間,引き続き合併市町村議会議員として在任できることを定めた規定である。したがって,在任特例は,上記のような合理的な目的の達成のため,市町村合併という極めて特殊な場面において,合併市町村議会議員の残任期相当期間等の極めて限定した期間においてのみ,その特例を規定したものであって,その趣旨からすれば,在任特例の規定が違憲無効ということはありえない。 そうだとすれば,被告がこの規定を適用して,在任特例を採用したからといって,何ら違憲ないし違法な状態が生ずることはない。 イ予備的主張仮に,在任特例の採用について違憲・違法の問題が生じうるとしても,以下のとおり,本件決定に違憲・違法はない。 (ア)旧合併特例法についての違憲審査基準一般に法律ないし議会の決定行為については,立法権を持つ議会において合憲と判断された上で,制定ないし決定されるものであるから,合憲性の推定が働く。そのため,法律が違憲とされるのは合憲性の推定が覆る場合に限られ いし議会の決定行為については,立法権を持つ議会において合憲と判断された上で,制定ないし決定されるものであるから,合憲性の推定が働く。そのため,法律が違憲とされるのは合憲性の推定が覆る場合に限られる。 このことを踏まえて,規制立法の目的,形態・方式や人権の性質等に鑑みて判断するならば,本件においても,裁量権の限界を判断する基準- 15 -としては,一見極めて明白に不合理な場合に初めて違憲と判断されるという基準が採用されるべきである。すなわち,市町村の合併にかかる要件や手続,合併に伴う経過措置などについては様々な選択肢がありうるが,憲法は地方公共団体の合併については何ら一義的に語っていない。 合併の要件や手続,合併に伴う経過措置などが地方自治の本旨に従ったものでなければならないことはいうまでもないが,憲法は,これらが住民自治や団体自治に適ったものとなるよう広範な立法裁量に委ねるとともに,どの方式を採用するかについても,各地方公共団体の広範な裁量に委ねたものと考えるべきである。 したがって,旧合併特例法に関する措置についての違憲審査基準は,一見極めて明白に不合理な場合に初めて違憲と判断されるという基準が採用されるべきである。 (イ)あてはめaこれを本件についてみると,まず,在任特例を採用した目的については,以下のとおり,充分な合理性がある。 すなわち,旧合併特例法は,効率的な事務ないし予算の執行の実現のために市町村行政の広域化が要請されるのに地方自治法の規定が充分ではないため,これを補う目的で,各地方の実情を生かせるように合併の際に採り得る選択肢を複数残すような形で,その手続や経過措置を定めたものである。土浦市と新治村の合併も上記のような要請のもと,旧合併特例法の制度を活用してなされたものである。 そして,この合併に際しても,合併前 選択肢を複数残すような形で,その手続や経過措置を定めたものである。土浦市と新治村の合併も上記のような要請のもと,旧合併特例法の制度を活用してなされたものである。 そして,この合併に際しても,合併前の各々の市町村の意向が合併後においても最大限反映されなければならないことは当然であり,とりわけ人口が少ないという理由で直ちに議員数が激減するということになると,その地域の実情が反映されないこととなるおそれがあり,円滑な合併が不可能となることは明白である。また,合併の目的は,- 16 -今後の人口減と社会の高齢化等に備えて,規模拡大に伴うスケール・メリットに着目して,県南地域をリードする豊かな町作りを実現するというものであった。さらに,合併に際しては,P15公社運営の方向性,土浦市道と新治村道のアクセスの問題など新治村住民の意向も最大限尊重しなければならない問題が非常に多かった。 このような観点からすれば,在任特例を採用した目的に充分な合理性があるというべきである。 b次に,在任特例という手段を選択した点についても,以下のとおり,合理性がある。 すなわち,仮に原告らが主張するような人口比のみを基準として議員数を決定した場合には,反対に新治村の地域を代表する議員が少なくなってしまい,合併後においては当該地域の実情が反映されずに合併事業が進行してしまうおそれが強い。また,在任特例は,合併に伴う段階的な制度統一の中で,期間を限定して議員資格を認めるものであり,土浦市議会議員の任期が満了する平成19年4月30日には定数不均衡なる状態が解消されることが確実である。さらに,茨城県内における他の市町村の合併において,土浦市と同程度以上の議員1人当たりの有権者数の較差が生じる場合についても在任特例が採用されていることは,このような在任特例の選択が格別不 である。さらに,茨城県内における他の市町村の合併において,土浦市と同程度以上の議員1人当たりの有権者数の較差が生じる場合についても在任特例が採用されていることは,このような在任特例の選択が格別不合理なものではないことの証左である。 cしたがって,在任特例を採用することとした本件決定が一見極めて明白に不合理であるとはいい難いから,本件決定には違憲はもちろん,違法すらない。 ウ以上のとおり,在任特例を適用することとした本件決定に違憲・違法はないから,旧新治村議会議員に議員報酬を支給することが何らかの違憲・違法を帯びることはない。また,旧新治村議会議員は土浦市議会議員とし- 17 -ての資格を得る以上,議員報酬の支給は法律上の原因を有するものであり,不当利得とはなり得ない。 第3当裁判所の判断 争点(1)(訴えの適法性)について(1)本件訴え全体についてア住民訴訟は地方自治法242条1項に規定する住民監査請求をした後でなければ提起することができず,住民監査請求を経ずに提起された住民訴訟は不適法なものとなるが(同法242条の2第1項),本件においては,原告らによる本件監査請求が土浦市監査委員により不適法なものとして却下されている。 そこで,本件においては,地方自治法242条1項に規定する住民監査請求が前置されていないという理由により本件訴え自体が不適法なものとなるか否かが問題となるが,以下のとおり,この観点から本件訴えが不適法となることはない。 イすなわち,監査委員が適法な住民監査請求を不適法であるとして却下した場合には,当該請求をした住民は,適法な住民監査請求を経たものとして直ちに住民訴訟を提起することができるものと解すべきであるが(最高裁平成10年(行ツ)第68号同年12月18日第三小法廷判決・民集52巻9号203 求をした住民は,適法な住民監査請求を経たものとして直ちに住民訴訟を提起することができるものと解すべきであるが(最高裁平成10年(行ツ)第68号同年12月18日第三小法廷判決・民集52巻9号2039頁参照),本件においては,原告らは,前提事実(4)アのとおり,①監査請求の対象とする財務行為として,本件決定に基づき土浦市議会議員となる旧新治村議会議員に対して議員報酬等を支出すること,②行為を違法・不当とする理由として,本件決定が投票価値の平等を害し憲法14条1項に違反する違憲・無効なものであるため,本件決定に従って土浦市議会議員となる旧新治村議会議員に対して報酬等を支給することは違法・不当であること,③当該行為により市に生ずる損害として,旧新治村議会議員に議員報酬等を支給することにより議員報酬9972万円,- 18 -行政視察旅費336万円,政務調査費420万円,費用弁償116万円及び年金負担829万円など合計約1億2000万円の損害が生ずること,④請求する措置の内容として,監査委員が上記支出につき厳正な調査を行い,議員報酬等の支出の差止勧告等の措置を講ずることを,それぞれ具体的に摘示・記載して,その記載にかかる事実を証明する資料を添付した上で,本件監査請求を行っているのであるから,本件監査請求に何ら違法な点は存在しないというべきである。 これに対して,土浦市監査委員は,前提事実(4)イのとおり,本件監査請求について,上記議員報酬等の支出の前提となる法令及びその適用の憲法適合性という監査委員の職務権限に馴染まない事項につき判断を求めるものであるとして不適法なものと判断している。しかし,憲法上「この憲法は,国の最高法規であって,その条規に反する法律,命令,詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は,その効力を有しない。」と規定 あるとして不適法なものと判断している。しかし,憲法上「この憲法は,国の最高法規であって,その条規に反する法律,命令,詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は,その効力を有しない。」と規定されていること(憲法98条1項)に照らせば,公金の支出等につき違法・不当の存否を監査するに当たっては,法令の適用結果が憲法に適合するか否かも含めて違法・不当な点が存在するか否かが監査されなければならないのであり,本件においても,土浦市監査委員は,議員報酬等の支出の前提となる本件決定について,憲法違反を含む違法・不当が存在するか否かを監査する義務を負っていたものというべきである。にもかかわらず,こうした監査を「監査委員の職務権限になじまない」とした監査委員の判断は是認することができず,土浦市監査委員は適法な住民監査請求を不適法であるとして不当に却下したものといわざるをえない。 ウしたがって,本件においては,原告らは適法な住民監査請求を経たものとして直ちに住民訴訟を提起することができるのであり,本件訴えが監査請求前置の観点から不適法となることはないものである。 (2)請求の趣旨第2項にかかる請求について- 19 -ア監査委員が適法な住民監査請求を不適法であるとして却下した場合,当該請求をした住民が提起する住民訴訟の出訴期間は,地方自治法242条の2第2項1号に準じ,却下の通知があった日から30日以内と解すべきであるが(最高裁平成10年(行ツ)第68号同年12月18日第三小法廷判決・民集52巻9号2039頁参照),原告らが当裁判所に訴えの変更申立書(平成18年2月21日付け)を提出して請求の趣旨第2項にかかる請求を追加する訴えの変更を申し立てたのは,原告らが土浦市監査委員から本件監査請求却下の通知を受けた後30日以上経過した同年2月22日 (平成18年2月21日付け)を提出して請求の趣旨第2項にかかる請求を追加する訴えの変更を申し立てたのは,原告らが土浦市監査委員から本件監査請求却下の通知を受けた後30日以上経過した同年2月22日である。そこで,上記訴えの変更が出訴期間を遵守したものといえるか否かが問題となるが,以下のとおり,出訴期間は遵守されていたものというべきである。 すなわち,訴えの変更は,変更後の新請求については新たな訴えの提起にほかならないから,当該訴えにつき出訴期間の制限がある場合には,当該出訴期間遵守の有無は,変更前後の請求の間に訴訟物の同一性が認められるとき,又は両者の間に存する関係から,変更後の新請求に係る訴えを当初の訴え提起の時に提起されたものと同視し,出訴期間の遵守において欠けるところがないと解すべき特段の事情があるときを除き,当該訴えの変更の時を基準としてこれを決すべきであるが(最高裁昭和54年(行ツ)第129号同58年9月8日第一小法廷判決・判例時報1096号62頁参照),本件における当初の請求である旧新治村議会議員に対する議員報酬の支出の差止請求と,訴え変更にかかる新請求である議員報酬が支給されたことを停止条件とする旧新治村議会議員に対する議員報酬の不当利得返還請求とは,いずれも同一の違法原因に基づき,同一の公金支出を問題とするものであり,また,議員報酬の支出につき差止請求訴訟が提起された後に,当該支出の執行後の問題として不当利得返還請求訴訟が提起されることは当然に予想しうるところであるから,その請求の性質・関係- 20 -に照らして,変更後の新請求に係る訴えを当初の訴え提起の時に提起されたものと同視し,出訴期間の遵守において欠けるところがないと解すべき特段の事情があるというべきである。 したがって,本件においては,請求の趣旨第2項に係 新請求に係る訴えを当初の訴え提起の時に提起されたものと同視し,出訴期間の遵守において欠けるところがないと解すべき特段の事情があるというべきである。 したがって,本件においては,請求の趣旨第2項に係る請求が,出訴期間の観点から不適法となることはないものである。 イしかし,請求の趣旨第2項に係る請求については,以下の理由から,不適法たるを免れない。 原告らは,請求の趣旨第2項において,被告が旧新治村議会議員に対して議員報酬を支給することを停止条件とする将来給付の訴えとして,被告が旧新治村議会議員に対して議員報酬の返還を請求することの義務付けを求めるものであるが,口頭弁論終結時までに履行期が到来しない給付請求権について,現在においてあらかじめ給付判決を受けることを求める将来給付の訴えについては,あらかじめその請求をする必要がある場合に限り,提起することができるものとされている(民事訴訟法135条)。 ところが,原告らは,請求の趣旨第2項にかかる請求について,あらかじめその請求をする必要があることを基礎付ける事情を何ら主張・立証していないし,また,仮に原告らの請求が理由があるものとされた場合には,請求の趣旨第1項にかかる差止めの請求が認容されることにより,以後,旧新治村議会議員に対して議員報酬が支給されることはなくなるのであるから,その返還を請求するということ自体が想定できない。 したがって,請求の趣旨第2項にかかる請求については,将来給付の訴えの利益を欠き不適法であるというほかない。 (3)以上より,請求の趣旨第2項にかかる請求は不適法であるから,却下すべきである。 争点(2)(議員報酬を支給することの違法・不当性)について(1)原告らは,本件決定は憲法14条1項により保障された合併前の土浦市民- 21 -の投票価値の平等を侵す違 却下すべきである。 争点(2)(議員報酬を支給することの違法・不当性)について(1)原告らは,本件決定は憲法14条1項により保障された合併前の土浦市民- 21 -の投票価値の平等を侵す違憲・無効なものであり,これに従って旧新治村議会議員が土浦市議会議員としての地位を取得することはないので,旧新治村議会議員に対して土浦市議会議員としての報酬を支出することは違法・不当である旨主張するが,以下のとおり,理由がない。 ア旧合併特例法7条1項に規定する議会の議員の在任に関する特例(在任特例)は,市町村の合併に際して,合併関係市町村(市町村の合併によりその区域の全部又は一部が合併市町村〔市町村の合併により設置され,又は他の市町村の区域の全部若しくは一部を編入した市町村〕の区域の一部となる市町村)の議会の議員で当該合併市町村の議会の議員の被選挙権を有することとなる者について,合併関係市町村の協議により,①新たに設置された合併市町村にあっては,市町村の合併後2年を超えない範囲で当該協議で定める期間に限って,また,②他の市町村の区域の全部又は一部を編入した合併市町村にあっては,その編入をする合併関係市町村の議会の議員の残任期間に相当する期間に限って,引き続き合併市町村の議会の議員として在任することができるとするものである。 このような在任特例の制度は,効率的な事務ないし予算の執行を図るため市町村行政の広域化を進める必要があり,そのための市町村合併に伴う段階的な制度統一の中で,あくまでも上記の期間に限定して議員資格を認めるというものであって,合理性が認められるものであり,原告らが主張するように合併関係市町村の議会の議員1人当たりの選挙人数ないし人口を単純に比較して,この点のみを強調して本件合併協議会が在任特例を適用したことを違憲ないし違法と 認められるものであり,原告らが主張するように合併関係市町村の議会の議員1人当たりの選挙人数ないし人口を単純に比較して,この点のみを強調して本件合併協議会が在任特例を適用したことを違憲ないし違法とすることは相当でない上,そもそも合併関係市町村の協議によって,合併関係市町村の議会の議員が,引き続き合併市町村の議会の議員として在任できることとされた場合であっても,それはあくまで合併後の合併市町村の議会の議員として在任するのであって,合併前の合併関係市町村の議員・代表として在任するものではないこと- 22 -(市町村の合併が合体〔2つ以上の地方公共団体を廃してその区域をもって1つの地方公共団体を置くこと〕又は編入〔地方公共団体を廃して,その区域を既存の地方公共団体の区域に加えること〕のいずれの形態をとる場合であっても,合併前の合併関係市町村を合併後の合併市町村という1つの法人格に合一化するものである以上,在任特例が採用されて,その結果,合併関係市町村の議会の議員が引き続き合併市町村の議会の議員として在任する場合であっても,それは合併前の各合併関係市町村の議会の議員全員が,合併後の合併市町村全体を代表する関係にある。)から,合併前の各合併関係市町村の住民の間において,原告らが主張するような投票価値の較差・不平等が生ずるものではないと考えられる。 イ原告らは,在任特例によって合併市町村の議会の議員となった合併関係市町村の議会の議員が,その出身母体である合併関係市町村の利益のみを優先した活動をすることにより,当該合併関係市町村の区域外に居住する合併市町村の住民の利益が害されるおそれがある旨主張するが,上記のとおり,各合併関係市町村の議会の議員であった者も,合併市町村の議会の議員となった以上は当該合併市町村全体の代表としての地位を有するので 市町村の住民の利益が害されるおそれがある旨主張するが,上記のとおり,各合併関係市町村の議会の議員であった者も,合併市町村の議会の議員となった以上は当該合併市町村全体の代表としての地位を有するのであり,そのような地位にある合併市町村の議会の議員がいかなる政治活動を行うかは,各議員の政治責任に委ねられているというべきである。仮に,当該合併市町村の住民の中に,在任特例によって合併市町村の議会の議員となった者による政治活動について不満を持ち,あるいは自らに不利益になると感じる者がいたとしても,それは当該合併市町村議会議員の選挙の際における投票,議会の解散の請求(地方自治法76条)ないし議員の解職の請求(同法80条)などの手段を通じて民意を地方政治に反映させる方法によって解消されるべきものであり,上記のような不満等を根拠として原告らが主張するような投票価値の較差・不平等を論ずることは相当ではない。 - 23 -原告らは,在任特例が選択される理由の根本に編入された地域を特別に処遇する考え方があることからして,在任特例が適用された場合における合併市町村の議会の議員の地位を,各議員の出身母体である合併関係市町村から切り離して考えることは無意味な形式論であるとも主張する。しかし,これは,実際に在任特例が採用される際に検討される考慮要素のみに着目し,そもそもの前提である市町村合併の効果(合併関係市町村が1つの法人格に合一化する。)及び在任特例が適用された場合における議員の地位の性質(合併関係市町村の議会の議員が合併市町村の議会の議員として在任する。)などの市町村合併に関する基本的な法律関係を踏まえないものというべきである。 ウ土浦市と新治村との合併に関しては,本件合併協議会において,在任特例を適用することが相当であるとして,編入をする合併関係市町 市町村合併に関する基本的な法律関係を踏まえないものというべきである。 ウ土浦市と新治村との合併に関しては,本件合併協議会において,在任特例を適用することが相当であるとして,編入をする合併関係市町村である土浦市の市議会議員の残任期間である平成19年4月30日までと期間を限って,合併関係市町村である土浦市及び新治村の議会の議員を引き続き合併市町村である土浦市の議会の議員とすることが決定されたものであるところ,その決定に格別違法・不当な点は認められない。 したがって,土浦市と新治村との合併により,旧新治村議会議員は土浦市議会議員としての地位を取得しているから,被告が旧新治村議会議員に議員報酬を支出することについても,何ら違法・不当な点は存在しない。 (2)よって,その余について論ずるまでもなく,原告らの差止請求は理由がない。 第4 結論 以上の次第で,原告らの請求のうち,将来給付の訴えとしての義務付けの訴えに係る部分は不適法であるから,これらをいずれも却下し,その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 - 24 -水戸地方裁判所民事第1部裁判長裁判官志田博文裁判官中川正充裁判官佐藤康憲

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