平成14(ワ)9 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成15年7月25日 前橋地方裁判所
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判決文本文38,434 文字)

平成15年7月25日判決言渡し・同日原本領収裁判所書記官高瀬美喜男平成14年(ワ)第9号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成15年3月7日判決 主文 1 被告Aは,原告Bに対し,10万円及びこれに対する平成14年3月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告Aは,原告Cに対し,10万円及びこれに対する平成14年3月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らの被告Aに対するその余の請求及び被告国に対する請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,原告らに生じた費用の20分の1及び被告Aに生じた費用の10分の1を被告Aの負担とし,原告らに生じたその余の費用,被告Aに生じたその余の費用及び被告国に生じた費用を原告らの負担とする。 5 この判決は,第1,2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは,原告Bに対し,連帯して100万円及び内金50万円に対する平成14年1月24日から,内金50万円に対する平成14年3月8日からいずれも支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告Cに対し,連帯して100万円及び内金50万円に対する平成14年1月24日から,内金50万円に対する平成14年3月8日からいずれも支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,①原告Bが群馬県外1名を相手に提起した損害賠償請求訴訟(以下「別件訴訟」という。当庁高崎支部平成8年(ワ)第82号,第207号事件。原告Cが原告Bの訴訟代理人の一人になっていた。)において,同訴訟の裁判長である被告Aのなした期日指定,期日変更申立ての却下,弁論の終結及び判決の言渡しにより精神的苦痛を被ったとして,また,②原告らが上記精神的苦痛に対する慰謝を求めて被告らを相手に提起した本件 の裁判長である被告Aのなした期日指定,期日変更申立ての却下,弁論の終結及び判決の言渡しにより精神的苦痛を被ったとして,また,②原告らが上記精神的苦痛に対する慰謝を求めて被告らを相手に提起した本件訴訟において,その第1回口頭弁論期日で陳述擬制された被告Aの答弁書における主張内容が原告らの名誉を毀損したとして,原告らが,被告Aに対しては民法709条に基づき,被告国に対しては国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償を求める事案である。 1 争いのない事実等(1) 当事者ア原告Bは,高等学校の教師であるが,平成8年3月,原告Cらを訴訟代理人に選任した上,群馬県外1名を相手に当庁高崎支部(以下「高崎支部」という。)に別件訴訟を提起した。 イ被告Aは,高崎支部の裁判官であるが,平成11年4月2日,別件訴訟を審理する裁判所の裁判長となり,同訴訟の判決言渡しに至るまでその地位にあった。 (2) 別件訴訟の経過ア原告Bは,平成13年4月3日,別件訴訟につき被告Aを忌避するとの忌避申立てをしたが,同忌避申立事件は,同年9月4日,最高裁判所において特別抗告棄却決定がなされたことにより完結した。 イ別件訴訟の担当書記官であるDは,同訴訟における原告Bの訴訟代理人で弁護団長を務めるE弁護士に対し,平成13年9月18日夕方に同訴訟の口頭弁論期日の照会書を送付した。同照会書には同年10月11日から同年12月27日までの期日が記載され,同年9月28日までに高崎支部へファックスで返送するよう求める旨記載されていた。 しかし,別件訴訟における原告Bの訴訟代理人らは,高崎支部に対し,同年9月28日の期限までに,口頭弁論期日の希望日を示した回答書をファックスで送信しなかった。 ウ D書記官は,平成13年10月1日,E弁護士に対し別件訴訟の口頭弁論期日が同月11日午後 部に対し,同年9月28日の期限までに,口頭弁論期日の希望日を示した回答書をファックスで送信しなかった。 ウ D書記官は,平成13年10月1日,E弁護士に対し別件訴訟の口頭弁論期日が同月11日午後1時30分に指定されたので出頭するよう求める旨記載された期日呼出状を送付し,同呼出状は,同月3日,E弁護士の事務所に到達した。別件訴訟における原告Bの訴訟代理人である原告Cらは,上記の指定された期日に出頭することができないことから(甲3の1,2),同月4日,「差し支え」との記載のある期日変更申立書を証人申請書や書証の申出書とともに高崎支部あての内容証明郵便で郵送し,同内容証明郵便は,同月5日,高崎支部に到達した。 エ被告Aは,他の2名の陪席裁判官とともに,平成13年10月11日午後1時30分から別件訴訟の第19回口頭弁論期日を実施し,上記ウの原告Bによる期日変更申立てを口頭で却下した上,弁論を終結し,15分間休廷した後,直ちに別件訴訟の判決を言い渡した。 なお,被告Aは,上記期日変更申立却下の理由について,①期日変更申立書に「差し支え」としか記載されていないこと,②期日変更申立ては裁判所の定めた回答期限を経過した後に行われたから,時期に後れた申立てと評価すべきであること,③原告Bは意図的に裁判所の定めた回答期限を逸した後に期日変更申立てをしたのであるから,期日変更申立権の濫用と評価すべきであることとし,別件訴訟の第19回口頭弁論調書にその旨記載された。 (3) 本件訴訟における被告Aの答弁書での主張内容ア原告らは,平成14年1月9日,別件訴訟における被告Aの一連の行為により多大な精神的苦痛を被ったとして,かかる精神的苦痛に対する慰謝を求めて被告らを相手に当庁に本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著な事実)。 イ被告Aは,当裁判所に対し,「本件 る被告Aの一連の行為により多大な精神的苦痛を被ったとして,かかる精神的苦痛に対する慰謝を求めて被告らを相手に当庁に本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著な事実)。 イ被告Aは,当裁判所に対し,「本件訴訟は,裁判所の適法な訴訟活動に対し,因縁をつけて金をせびる趣旨であり,荒れる法廷と称する現象が頻発した時代にもあまり例がないような,新手の法廷戦術である。」との記載のある平成14年2月15日付け答弁書を提出し,同答弁書は,平成14年3月8日に実施された本件訴訟の第1回口頭弁論期日において,被告Aが欠席したため,陳述擬制された(当裁判所に顕著な事実)。 2 争点(1) 裁判官の職務行為に関し裁判官個人に対して損害賠償請求訴訟を提起することが,定型的に訴権の濫用となるか。 (原告らの主張)裁判官の職務行為に関し裁判官個人に対して損害賠償請求訴訟を提起することが,定型的に訴権の濫用となることはない。 被告Aの主張はいずれも,実定法上の根拠を持たない,あるいは法の趣旨を著しく誤解した誤った解釈に基づくものであるから,当然排斥されるべきである。 (被告Aの主張)本件訴訟のうち被告Aに対する50万円及びこれに対する平成14年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払請求の部分(以下「甲部分」という。裁判官の職権の行使に対応する。)は,裁判官が職権を行使して裁判事務を遂行する過程でなした行為の違法性を主張して,民法709条の不法行為に基づき,裁判官個人を被告として損害賠償を請求する民事訴訟(以下,この種の訴訟を「裁判官個人責任訴訟」という。)である。裁判官個人責任訴訟は,以下に述べるとおり,一般に,「裁判官の全体の奉仕者性」に反する行為を誘発する,裁判官の独立を侵害する,裁判官の免責特権を侵害するという,文字どおりの国家統治の基本原理をあか 裁判官個人責任訴訟は,以下に述べるとおり,一般に,「裁判官の全体の奉仕者性」に反する行為を誘発する,裁判官の独立を侵害する,裁判官の免責特権を侵害するという,文字どおりの国家統治の基本原理をあからさまに侮蔑し,蹂躙する反憲法的所業であり,加えて,裁判官個人責任訴訟の提起は,一般に,訴えの必要性がなく,「裁判官個人に対する報復感情の満足」のような不当目的を内包し,勝訴の見込みが皆無であるといった致命的な不当事由がある。 したがって,裁判官個人責任訴訟の提起は定型的に訴権の濫用に該当するというべきであり,本件訴訟のうち甲部分に係る訴えは却下されるべきである。 ア裁判官個人責任訴訟は贈賄と同質である。 公務員は,全体の奉仕者であるから,公務の執行に際しては,公益(公共の利益)を追求すべきである(日本国憲法15条2項,国家公務員法96条1項,地方公務員法30条)。逆に,公務員が公務を執行するに際し私益を追求する(私腹を肥やす)ことは,「公務員の全体の奉仕者性」に反する反憲法的所業である。「公務員の全体の奉仕者性」は,単に公務員制度の基礎というにとどまらず,日本国憲法自らが明文をもって宣言する国家統治の基本原理である。 ここでいう公務員による私益の追求の代表例は,賄賂の収受であろう。単純収賄罪(刑法197条1項前段)の法定刑が5年以下の懲役,受託収賄罪(同項後段)の法定刑が7年以下の懲役,加重収賄罪(同条の3第1項)の法定刑が1年以上の有期懲役とされている。各反社会性は,くどくど論ずるまでもあるまい。公務の内容を自己の望むようにすべく,賄賂を供与する行為は,贈賄罪(刑法198条)として,3年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処せられる。 公務員が公務を遂行する過程でなした行為の違法性を主張して,民法709条の不法行為に基づき,公務員個人を被 為は,贈賄罪(刑法198条)として,3年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処せられる。 公務員が公務を遂行する過程でなした行為の違法性を主張して,民法709条の不法行為に基づき,公務員個人を被告として損害賠償を請求する民事訴訟(以下「公務員個人責任訴訟」という。)の提起は,公務員を萎縮させる。 公務員個人責任訴訟が提起される可能性があるだけでも,萎縮の効果がある。その萎縮の心理を問えば,自己(公務員個人)の損害を回避したいという人として共通の感覚である。自己の損害を回避すれば,自己の私益を追求することとなる。すなわち,公務員が公務を執行するに際し公務員個人責任訴訟の提起による自己(公務員個人)の損害を回避しようと図ることは,「公務員の全体の奉仕者性」に反する反憲法的所業となる。公務員個人責任訴訟の原告は,このような反憲法的所業の誘発者であり,贈賄罪の犯人に対するものと同様の強い社会的非難が浴びせられるべきである。要するに,贈賄も公務員個人責任訴訟の提起も,公務員が公務を執行するに際し私益を追求する(私腹を肥やす)という「公務員の全体の奉仕者性」に反する反憲法的所業を誘発する点において,同質なのである。 裁判官は,公務員の一種であり,上記の結論は,裁判官個人責任訴訟においてもそのまま妥当する。すなわち,裁判官個人責任訴訟は贈賄と同質である。 イ裁判官個人責任訴訟の提起は裁判官の独立を侵害する。 (ア) 裁判官の独立の位置付け日本国憲法76条3項は,「すべて裁判官は,その良心に従ひ独立してその職権を行ひ,この憲法及び法律にのみ拘束される」と規定する。裁判官は,職権の行使について拘束されるのはただ「この憲法及び法律」だけであり,その他のすべての事物から独立すべきであるとされた。その普遍性は,世界各国の憲法に同趣旨の規定が設けられている 定する。裁判官は,職権の行使について拘束されるのはただ「この憲法及び法律」だけであり,その他のすべての事物から独立すべきであるとされた。その普遍性は,世界各国の憲法に同趣旨の規定が設けられていることからも,納得することができよう。その趣旨は,裁判は認定した事実に法令を適用して導出するものであるところ,その間の思考作業は他からの干渉のない環境の下で最もよくなし得る性質を有し,実際上も,裁判干渉のため裁判がゆがめられた幾多の歴史上の事実を踏まえその反省の上に立って,改めて裁判干渉のない環境を裁判官に保障し,もって公正な裁判を確保しようというにある。このように,この裁判官の独立の要請は,司法の本質に由来し,司法制度の根幹を形成する。一般職国家公務員をはじめ,民間企業を含め,社会の組織のほとんどは上命下服の関係にあり,それを組織の維持の基本原理としているから,裁判官の独立の要請は,社会全体の中で極めて特殊な地位を占める。このような社会の普通の在り方をあえて排斥し,裁判官に極めて特殊な地位を保障し,しかもその保障を国の最高法規である憲法規範にまで高めたということは,その重要性を国家的レベルで承認したことを意味する。かくして,裁判官の独立の要請は,国家統治の基本原理の一つとして理解するのが相当である(裁判官の独立の趣旨やそれが国家統治の基本原理であって極めて重要な事柄であることは,義務教育の中でも教えられていて,現在の社会では,もはや国民一般の基礎知識となっているということができる)から,民法90条が「公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スル事項ヲ目的トスル法律行為ハ無効トス」というときの「公ノ秩序」を構成する。同条は,直接には法律行為の効力について規定したものにすぎないが,権利の濫用の規定(民法1条3項)とともに,私法の分野はもちろん,広く法律論 法律行為ハ無効トス」というときの「公ノ秩序」を構成する。同条は,直接には法律行為の効力について規定したものにすぎないが,権利の濫用の規定(民法1条3項)とともに,私法の分野はもちろん,広く法律論一般を指導する基本原理として理解するのが一般である。民法90条のこれまでの解釈と運用によれば,「公ノ秩序ニ反スル」として同条が適用されるのは,極めて反社会性が高い場合とされている。 (イ) 裁判官個人責任訴訟の場合さて,このような見地から,裁判官個人責任訴訟の提起を評価の対象としてみよう。ここで,その請求の手段に改めて着目すべきである。その手段とは,民事訴訟制度及び強制執行制度を利用して,裁判官個人からその意思に反してまで強制的に金銭を奪取することである。被害者を自称する者が裁判外で裁判官個人に対し任意の履行を催促する場合ですら,裁判官の独立を侵害する契機を有する。裁判官個人責任訴訟の提起は,これとは本質的に異なり,裁判所という国家権力機関を介在させてこれを裁判官個人と対峙させ,裁判所という国家権力機関の権威と実力により,裁判官個人を圧倒しようということに外ならない。このような事態は,裁判官個人にとって相当の苦痛である。まず,裁判官が個人として被告の席に座らされること自体精神的苦痛を被るし,さらに,応訴の煩がある。それにも増して,金銭を現実に奪取される(可能性でもよい)ことを思えば,その負担は格別である。裁判官は,日本国憲法80条2項により,その報酬を減額されないという保障を受けている。これは,裁判官の独立を擁護するために,裁判官の身分保障として規定されたものである。一般職国家公務員には,懲戒の一種として減給が規定されている(国家公務員法82条1項)のとは,著しい対照を示す。裁判官の懲戒としては,戒告又は1万円以下の過料とされている(裁判 定されたものである。一般職国家公務員には,懲戒の一種として減給が規定されている(国家公務員法82条1項)のとは,著しい対照を示す。裁判官の懲戒としては,戒告又は1万円以下の過料とされている(裁判官分限法2条)。裁判官個人責任訴訟による請求金額が,その元本だけで数十万円に上るとすると,上記過料の上限を数十回受けたのと同様の経済的負担を意味する。以上のような負担を裁判官個人にかけることは,上記裁判官の身分保障を実質的に無効ならしめ,裁判官に萎縮効果をもたらすおそれがあることは,何人も否定することはできない。その萎縮効果とは,裁判官が職権を行使して裁判事務の遂行に当たる際,後日自己を被告とする裁判官個人責任訴訟を提起されることをおそれ,それを回避すべく職権の行使に手加減を加えることである。これは,裁判官が自己の個人的な利益を優先させて公務である裁判の内容を左右することであり,背任的事態である。それは,すなわち,裁判官が職権を行使するに際して法令以外のものに左右されたということであり,端的に言って,裁判官の独立が侵害され,裁判の公正が失われた事態である。結果として,このような背任的事態に立ち至らなかったとしても,そのおそれが惹起されただけで裁判官の独立が侵害されたと評価すべきである。 (ウ) 以上のとおり,裁判官個人責任訴訟の提起は,裁判官の独立という国家統治の基本原理を侵害する明らかな憲法違反行為であるとともに,「公ノ秩序」ないし公益を侵害する極めて反社会性の強い行為である。 ウ裁判官個人の免責特権を侵害する。 裁判官個人は,前記裁判官の独立や身分保障の規定から,その職権の行使については対外的に(国の組織の外部に対して)賠償責任を負わないという特殊な法的地位を有すると観念すべきである。後記のとおり(カの(ア)及び(イ)),公権力を行使す 分保障の規定から,その職権の行使については対外的に(国の組織の外部に対して)賠償責任を負わないという特殊な法的地位を有すると観念すべきである。後記のとおり(カの(ア)及び(イ)),公権力を行使する公務員一般が個人責任を負わないというべきであるが,これとは別に,更に強固な理由によって,裁判官個人は個人責任を免れるべき特殊な法的地位を有するわけである。その特殊な地位は,講学上「裁判官の免責特権」ということができよう。この裁判官の免責特権は,前記裁判官の独立や身分保障の規定から必然的に導出されることから,これもまた憲法的保障と理解すべきである。 裁判官個人責任訴訟の提起は,裁判官個人の免責特権を侵害し,同特権に擁護された裁判官の個人責任の心配から解放されて安んじて職権の行使に邁進することができるという法的地位を奪ったものと評価すべきである。 エ訴えの必要性がない。 裁判官個人責任訴訟の原告は,同訴訟において裁判官個人に対し金員請求をしなくても,国に対し同額の国家賠償請求訴訟を提起し,これが認容されれば,それで損害の回復はなされるわけであるから,更に裁判官個人に対してまで金員請求の訴訟を提起する必要性はない。 オ不当目的では,損害の填補という経済的充足の必要がないのに,あえて裁判官個人責任訴訟を提起する目的は何であろうか。その目的は,「経済的充足だけでは満たされない国民の権利感情」と総称することができよう。 さて,ここで,「経済的充足だけでは満たされない国民の権利感情」とは,何であろうか。例えば,裁判官個人に対する報復感情がこれに含まれるであろう。それゆえ,「経済的充足だけでは満たされない国民の権利感情」は,「裁判官個人に対する報復感情等」と言い換えてもよかろう。 一般に,損害賠償の方法は,金銭による賠償と原状回復の二つがあるが,裁判官個 。それゆえ,「経済的充足だけでは満たされない国民の権利感情」は,「裁判官個人に対する報復感情等」と言い換えてもよかろう。 一般に,損害賠償の方法は,金銭による賠償と原状回復の二つがあるが,裁判官個人責任訴訟における裁判官個人に対する請求の法律上の根拠である民法709条による損害賠償の方法としては,金銭による賠償の方法によるべきものと規定された(民法722条1項による同法417条の準用)。この金銭による賠償とは,無論経済的充足である。つまり,民法709条は,「裁判官個人に対する報復感情等」のような「経済的充足だけでは満たされない国民の権利感情」は法律効果の対象から駆逐した上,金銭による賠償という経済的充足のみを法律効果として採用したということである。そうすると,「裁判官個人に対する報復感情等」のような「経済的充足だけでは満たされない国民の権利感情」を充足する目的で,裁判官個人に対し,民法709条による損害賠償請求訴訟を提起することは,およそ同条の予定するところではなく,実際にこのような訴訟が提起されれば,それは,不当目的といわざるを得ない。 カ裁判官個人責任訴訟は勝訴の見込みがない。 (ア) 法理論的検討公務員による公権力の行使に違法があり他人が損害を被った場合に公務員が個人責任を負うかの点(以下「個人責任の論点」という。)につき,個人責任を否定するのが正当であることを,法理論的に(数学で常用される背理法を念頭に置くとよい。)論証しよう。 国家公務員による公権力の行使に違法があり他人が損害を被った場合に公務員は民法709条により個人責任を負う(個人責任の肯定)と仮定すると,同法715条1項により,国は使用者責任を負うから,国家賠償法が不存在であったとしても,国の賠償責任を認めることができる。しかし,民法709条の施行は明治31年である 個人責任の肯定)と仮定すると,同法715条1項により,国は使用者責任を負うから,国家賠償法が不存在であったとしても,国の賠償責任を認めることができる。しかし,民法709条の施行は明治31年であるのに日本国憲法17条(国及び公共団体の賠償責任)を具体化した国家賠償法の施行された昭和22年10月27日以前は国家無答責の原則が支配し国の公権力の行使について国の賠償責任は全面的に否定されていたこと,すなわち,この種の国の賠償責任は国家賠償法が施行されて初めて肯定されるに至ったこと(これは歴史上の真実であり,今更証明するまでもあるまい。)と矛盾する。この矛盾の原因は,個人責任を仮定したことにある。よって,個人責任の仮定は誤りであり,個人責任は否定するほかはない。 また,個人責任を肯定すると,前記のとおり,国は使用者の責任を負うから,国家賠償法6条の相互保証主義の規定が無意義と化する矛盾(同主義により国家賠償法上の賠償を受けられない外国人もまた,使用者の責任を追及すれば同様の賠償を受けられることとなる。)からも,同様の結論を導くことができる。 元来,民法709条は私法であり,国の公権力の行使という典型的な公法の場面では,適用がないというわけである。つまり,裁判官個人責任訴訟の訴訟物たる損害賠償請求権は,一般に,元来,不存在なのである。 以上のとおり,個人責任の論点については,これを否定するのが実定法の体系的解釈として採用し得る唯一の方途である。 (イ) 確定した最高裁判所の判例個人責任の論点について,最高裁判所第二小法廷昭和53年10月20日判決・民集32巻7号1367頁は,「公権力の行使に当たる国の公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,国がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって,公務員 32巻7号1367頁は,「公権力の行使に当たる国の公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,国がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって,公務員個人はその責を負わないものと解すべきことは,当裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和28年(オ)第625号同30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号534頁,最高裁判所昭和46年(オ)第665号同47年3月21日第三小法廷判決・裁判集民事105号309頁等)。」と判示している。この判断が,以後,確定した最高裁判所の判例となっている。 この確定した判例に反して公務員の個人責任を認めたその後の下級審の裁判例として東京地裁平成6年9月6日判決(判例時報1504号40頁。いわゆる日本共産党幹部宅盗聴損害賠償訴訟)があるが,これは稀有の例であり,この判決は,その控訴審である東京高裁平成9年6月26日判決(判例時報1617号35頁)によって上記判断を覆され,公務員の個人責任は否定された。裁判実務上は,公務員の個人責任を否定する上記確定した最高裁判所の判例が裁判の基準として不動の地位を占めている。 (ウ) 判例を変更すべき特段の事情はない。 最高裁判所の判例といえども,法理論的な矛盾を抱えていたり時流に遅れたためその事件での適用を契機としてこれを改めるべき場合とか,当該事件限りの特殊事情を考慮すると一般論とは別の結論こそが具体的正義に合致すると目すべきであるのでその一般論の当該事件への具体的適用を控えるべき場合がないでもない。しかし,裁判官個人責任訴訟一般では,このような場合であることをうかがわせる事情は一切ない。考えても見れば,前記のとおり,この種の訴訟は,元来必要性のないものであり,あえて確定した判例を変更してまでその原告(自称被害者)を救済 では,このような場合であることをうかがわせる事情は一切ない。考えても見れば,前記のとおり,この種の訴訟は,元来必要性のないものであり,あえて確定した判例を変更してまでその原告(自称被害者)を救済すべき特段の事情がないというのは当たり前である。 (エ) 勝訴の見込みを考える基準日本国憲法上,思想,表現や学問の各自由が認められているので,ある法律上の論点について,多様な考え方が提案され,学者が学説を唱えるのは,もとより自由であるし,サイバースペースを舞台とする仮想の世界での適用を論じるのも勝手である。しかし,裁判の行方を占うのであれば,そうそう自由な発想に任しておけばよいというものではない。ここでいう裁判とは,地球内の日本国内の裁判所を舞台とし,現在の法令に従い,現在の社会の中で行われるという制限の下にある。裁判とは,このような時空の制約内に成立する。このような制約の中で勝訴の見込みを思案するとなれば,おのずから裁判外の自由な発想とは別の現実的判断が必要となる。 (オ) 裁判官個人責任訴訟の場合そういう目で個人責任の論点について裁判所の判断の行方を占えば,同責任を全面的に否定するのが実定法の体系的解釈として採り得る唯一の方途であり,それと同じ結論をいう確定した最高裁判所の判例があり,裁判官個人責任訴訟に限り前記確定した判例を変更してまでその原告(自称被害者)を救済すべき特段の事情はどこにもないから,同訴訟においても前記最高裁判所の判例の見解が採られ,裁判官個人に対する請求は,公務員の個人責任はないとの理由で棄却されること必定である。これが,実定法に基づく客観的かつ現実的な判断である。よって,裁判官個人責任訴訟において原告(自称被害者)が勝訴する見込みは,一般的に,皆無である。 (2) 別件訴訟における被告Aの一連の行為について,被告 定法に基づく客観的かつ現実的な判断である。よって,裁判官個人責任訴訟において原告(自称被害者)が勝訴する見込みは,一般的に,皆無である。 (2) 別件訴訟における被告Aの一連の行為について,被告Aに故意又は重過失が認められる場合,被告Aが民法709条に基づく不法行為責任を負うか。 (原告らの主張)国家賠償法1条1項に基づき国が責任を負う場合でも公務員個人の不法行為責任を否定すべき理由はなく,特に,公務員に故意又は重過失が存する場合には,以下に述べる理由から,公務員個人も責任を負うべきである。 ア公務員の個人責任を否定する説は公務員個人の直接責任を認めると公務員の職務執行を萎縮させてしまうことを根拠とするが,民法では機関個人又は被用者自身が被害者に対する直接責任を負うとされていることと対比すると,公務員の場合にそれと別異に解釈して取り扱うべき合理的理由を見いだし難い。 イ加害公務員に対する責任追及は,公務員に対する国民の監督的作用にとって極めて有効な手段であり,本来国民全体の奉仕者であるべき公務員が故意又は重大な過失によって国民の権利を侵害する場合にすら公務員個人に対する直接責任の追及を認めないのであれば,経済的充足だけでは満たされない国民の権利感情を著しく阻害する結果を招来するおそれがある。 ウ国家賠償法1条2項が,民法715条3項と異なり,加害公務員の軽過失の場合の求償権の行使を制限している。 (被告Aの主張)ア被告Aの個人責任を肯定すべき根拠として原告らが主張するところは,「①個人の直接責任を認めると公務員の職務執行を萎縮させてしまうというが,民法では機関個人又は被用者自身の被害者に対する直接責任を負うとされていることと対比すると,公務員の場合にそれと別異に解釈して取り扱うべきだとする合理的理由が見いだし難いこと,②加害 まうというが,民法では機関個人又は被用者自身の被害者に対する直接責任を負うとされていることと対比すると,公務員の場合にそれと別異に解釈して取り扱うべきだとする合理的理由が見いだし難いこと,②加害公務員に対する責任追及は,公務員に対する国民の監督的作用にとって極めて有効な手段であり,本来国民全体の奉仕者であるべき公務員が故意あるいは重大な過失によって国民の権利を侵害する場合にすら公務員個人に対する直接責任の追及を認めないのであれば,経済的充足だけでは満たされない国民の権利感情を著しく阻害する結果を招来するおそれがあること,③国家賠償法1条2項の規定が民法715条3項と違って加害公務員の軽過失の場合の求償権の行使を制限していること」の3点である。 イ原告らの上記主張のうち,①と②は,実定法に根拠を置かない単なる意見(実質論というか立法論というか)にすぎず,実定法の解釈に依拠すべき裁判の場では,およそ無益である。また,③の求償権についての規定は,国又は公共団体と公務員との間の内部関係の処理に関する規定であり,個人責任の論点とは連動しないから,これまた,ここでの議論とは関係ない。よって,原告らの前記主張は,誤りである。 (3) 別件訴訟における被告Aの一連の行為について,被告Aないし被告国に賠償責任を負わせるほどの違法性があるといえるか。 (原告らの主張)ア別件訴訟における期日指定,期日変更申請却下,弁論終結及び判決言渡しの違法性(ア) 期日指定の違法性期日指定を行う際には,これに先立って期日照会を行い,その回答を待って,あるいは,回答が遅れている場合には電話等で回答を促し,その上で両当事者が出廷できる日時を指定するというのが,民事訴訟法93条1項の通常の運用である。そして,このような運用は,全国の裁判所において永く定着しており, れている場合には電話等で回答を促し,その上で両当事者が出廷できる日時を指定するというのが,民事訴訟法93条1項の通常の運用である。そして,このような運用は,全国の裁判所において永く定着しており,一種の慣習を形成していると評価することができる。 被告Aの行った期日指定は,この慣習に違反して,期日照会に対する回答を催告することもなく,しかも,原告B及びその訴訟代理人らが出廷できないことが明らかな期日を指定したものである。 なお,被告Aは,平成13年9月28日に原告Bの訴訟代理人らのうち5名が前橋地方裁判所で顔を合わせる機会があったから,期日の調整は可能であったはずであり,また,調整未了であったならばその旨の回答はできたはずであると主張する。しかし,原告Bの訴訟代理人らの中には大阪の弁護士3名も含まれており,その3名が出廷を希望していたとの事情があったため,調整に時間が掛かっていたのである。また,調整未了である旨の回答を平成13年9月28日までに提出することができなかったのは確かに原告Bの訴訟代理人らのミスではあるが,正にそのような場合に回答を催告するというルールが慣習として確立しているのであるから,この点は期日指定の違法性を否定する理由とはなり得ない。 (イ) 期日変更申請却下の違法性a 被告らは,別件訴訟における期日変更申請には,期日変更の理由及びその説明がなされていないので,却下は当然である旨主張する。しかしながら,平成13年10月4日に期日呼出状を受領し,同年10月11日の期日に出頭できる弁護士がほとんどいないことは,裁判所に顕著な事実であり,「差し支え」の中身は,当然,他の裁判所に期日が入っているか,既に法律相談等の予定が入っているかしていて,裁判所に出頭できないということである。したがって,上記却下決定は違法というほかない。 あり,「差し支え」の中身は,当然,他の裁判所に期日が入っているか,既に法律相談等の予定が入っているかしていて,裁判所に出頭できないということである。したがって,上記却下決定は違法というほかない。 さらに,被告Aは,次のような行為をとるべきであった。 すなわち,第1に,期日変更のより具体的理由及び説明につき,原告らに釈明権を行使すべきであり,第2に,期日変更申請を却下するのであれば平成13年10月11日の期日よりも前に行うべきであった。 第1の釈明があれば,訟廷日誌の提出等により,期日変更申請の理由とその疎明は簡単にできたのである。実務上,ここまで要求される例はまれであり(原告Cはこれまで一度もない。),だからこそ,別件訴訟のような理由で却下するのであれば,釈明権の行使が強く要求されるのである。 第2の期日前の却下があれば,原告らは他の予定をキャンセルするなどして期日に出頭した。したがって,原告らの期日出頭の利益が確保されたことは明らかである。平成13年10月11日の期日に期日変更申請を却下する合理的理由は全く存しない。 b 通常,期日変更申請がなされる場合の理由として挙げられるのは,他の予定等のため出廷できないことであるが,これに対して裁判所は,より詳細な理由の説明を求めるなどの措置を執ることなく,直ちにこれをいれて期日を変更するのが通常であり,これも広く裁判実務における慣習として確立している。本件期日変更申請の理由も,期日呼出状を受領した日と指定された期日が極めて接近していること,「差し支え」との理由が記載されていることなどから,他の予定があって出廷できないことが期日変更申請の理由であることは一義的に明らかであるから,被告Aによる期日変更申請の却下は上記慣習に反するものである。 また,被告Aは,「差し支え」がある旨主張したのはE弁護士 って出廷できないことが期日変更申請の理由であることは一義的に明らかであるから,被告Aによる期日変更申請の却下は上記慣習に反するものである。 また,被告Aは,「差し支え」がある旨主張したのはE弁護士だけであると主張するが,弁護団長として裁判所との種々の連絡の窓口になっていたE弁護士の名前で申請がなされれば,他の代理人らを代表して申請を行ったものと解釈すべきことは当然である。 さらに,もし裁判所が,例外的に,期日変更のより具体的,詳細な理由の説明が必要だと考えたのであれば,釈明権を行使すべきであったし,その不行使は釈明義務違反と評価されるべきである。 本件の場合も,上記慣習と異なる扱いをしようとするのであるから,そのままでは原告らに期日変更の具体的,詳細な理由を付しこれを疎明するという訴訟活動を期待することは無理である。そして,そのような訴訟活動がなされていないことを理由に期日変更申請を却下し,しかも直ちに弁論を終結して判決を言い渡したことにより,原告らの訴訟追行権を完全に奪ってしまい,裁判を受ける権利の侵害という重大な不利益をもたらしたものであるから,釈明義務違反は明らかである。 (ウ) 弁論終結及び判決言渡しの違法性民事訴訟法243条1項の裁量といえども絶対無制限なものではなく,法の趣旨及び実務慣行等から裁量の範囲にはおのずと限界があるはずである。 別件訴訟における平成13年10月11日の期日は忌避の裁判のため長く中断した後の初めての期日であるという事情や,通常の裁判実務では当事者に主張を出し尽くさせ,争点整理を行い,最終準備書面を提出させた上で弁論を終結し,判決言渡期日は別途設けるという慣行又は慣習が確立していることなどから,別件訴訟における被告Aによる弁論終結及び判決言渡しは,裁量の限界を超えたものであり権限逸脱ないし権限濫用の 上で弁論を終結し,判決言渡期日は別途設けるという慣行又は慣習が確立していることなどから,別件訴訟における被告Aによる弁論終結及び判決言渡しは,裁量の限界を超えたものであり権限逸脱ないし権限濫用の違法があるといわざるを得ない。もしも全国の裁判所で同様のことが行われたなら,司法の機能は事実上麻痺し,多くの国民から厳しい批判を受けることになるであろう。 加えて,被告Aは,平成13年10月11日の期日にいきなり判決を言い渡した。判決の言渡しは判決書の原本に基づいてなされるものであり,合議及び判決書の作成は,上記期日の時点で既に完了していたことになる。したがって,被告Aは,上記期日に判決を言い渡す意図の下にその準備を進めていたことになり,原告らに最終準備書面の提出をさせる意思は存在しなかったことになる。この点においても被告Aの行為の違法性は甚だしいものである。 イ裁判を受ける権利の侵害被告国は,裁判を受ける権利の侵害とは裁判の拒絶の禁止を意味するのであり,別件訴訟では裁判が拒絶されたものではないから裁判を受ける権利の侵害に当たらない旨主張する。 しかし,裁判を受ける権利の内実は単なる裁判の拒絶の禁止にとどまるものではなく,また,被告Aの行為は裁判の拒絶にも等しい。 また,被告Aは,原告らが自ら裁判を受ける権利を放棄したなどと主張するが,これは,原告らが「意図的になしのつぶての対応をし」た,「形式的な要件を欠くことが一見して明らかな期日変更申立てをし」,「指定された口頭弁論期日を無視するかのような欠席戦術に出た」など,誤った事実認識を基礎にしたものであり,考慮に値するものではない。特に,平成13年10月11日の期日が開かれることは,原告らは全く予想していなかったことであり,「期日を無視」して「欠席戦術に出た」などというのは,事実無根のきめつ であり,考慮に値するものではない。特に,平成13年10月11日の期日が開かれることは,原告らは全く予想していなかったことであり,「期日を無視」して「欠席戦術に出た」などというのは,事実無根のきめつけである。 ウ被告Aの行為ではないとの主張について被告Aは,別件訴訟における期日変更申請却下,弁論終結及び判決言渡しは裁判所の権限事項であって被告Aの行為として行われたものではないこと,また,期日指定は裁判長の権限として被告Aがなした行為であるが合議体の評議に基づいてなされた旨主張する。 しかし,不法行為において問題となるのは,現実の行為者がだれであるかということであり,その行為が法的にどの機関の権限に属するかということではない。合議体の中で裁判長が事実上強い影響力を持ち,裁判長の意向に従って裁判所の各権能が行使されるという事態がままあることは,裁判所に顕著な事実である。 エ国家賠償法上の違法性被告らは,最高裁昭和57年3月12日判決等を引用し,裁判官の職務行為が国家賠償法上違法となるのは,「当該裁判官が違法,不当な目的を持って裁判したなど,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特段の事情がある場合」に限られるところ,別件訴訟においては,被告Aの行為に違法性はなく,特段の事情も存在しないと主張する。 しかし,被告Aの行為の違法性は,前述したように明らかである。また,上記最高裁の立場である違法性限定説は十分な根拠を持たないばかりか,憲法17条の趣旨及び国家賠償法1条1項の要件についての解釈を誤ったものといわざるを得ない。 すなわち,そもそも憲法17条が,公務員の不法行為について国又は公共団体に対する損害賠償請求権を定めているのは,明治憲法の下で国の賠償責任を認める法律もなく,権力に対する忍従を強 いわざるを得ない。 すなわち,そもそも憲法17条が,公務員の不法行為について国又は公共団体に対する損害賠償請求権を定めているのは,明治憲法の下で国の賠償責任を認める法律もなく,権力に対する忍従を強いられてきた国民に対し,国又は公共団体の違法な権力行使による被害の救済を権利として保障しようとの趣旨である。この趣旨を受けて制定されたのが国家賠償法であるから,その解釈・適用についても,被害者の救済という趣旨が貫徹されなければならない。そして,国家賠償法1条1項の構成要件の吟味に当たっては,公務員の故意・過失という要件と,損害を与えた違法な公権力の行使についての要件は,混同されることなく峻別されるべきである。 この点,上記最高裁の見解は,これら二つの要件を混同させ,その結果,過失により損害を与えた場合を除外し,また,「故意」を「悪意」に限定することとなり,公務員の違法行為の多くを免責し,違法な権力行使による被害者の救済という法の趣旨から遠く離れてしまっているのである。 仮に,上記最高裁の立場を採るとしても,被告Aがその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したことが明らかであることは,前述したとおりである。 (被告Aの主張)ア期日指定について原告らは,「10日間という短期間に期限を定めて期日希望日の指定を強要した」点を論難する。 まず,第1に,期日指定の要件として,あらかじめ当事者の希望を聴取することは,法律上要求されていない。裁判所がした原告らへの照会は,原告らへの手続保障を厚くするため,法律の要求する以上の配慮をしたあかしである。 原告らは,「そもそも期限を定めずに期日照会を行う方が実務上多いと見られる」というが,別件訴訟の進行の特殊性を知るべきである。すなわち,裁判所書記官の2度にわたる電話による期日の照会に対し,原告Bの訴 告らは,「そもそも期限を定めずに期日照会を行う方が実務上多いと見られる」というが,別件訴訟の進行の特殊性を知るべきである。すなわち,裁判所書記官の2度にわたる電話による期日の照会に対し,原告Bの訴訟代理人らは,だれ一人として期日の希望日を回答せず,なしのつぶての状態であった。実務上,裁判所の問い合わせに対しなしのつぶてというのは,礼を失する所業であり,稀有の例である。しかし,2度までもなしのつぶての対応を経たため,これ以上同様の事態の繰り返しにより手続の進行を無為に遅らせることのないことを願って,裁判所は,上記期日照会には回答期限を付した次第である。 10日間では原告Bの訴訟代理人らの希望日の集約に必要な期間として不足である旨の主張は,失当である。確かに,原告Bの訴訟代理人らは合計10名であり,うち3名が大阪に,うち1名が東京に,残りが群馬に事務所を有する。しかし,携帯電話,ファクシミリ,電子メール等の情報機器が発達した今日,事務所の遠いことは希望日の集約に支障となることは少なく,代理人らが10名に上ることを考慮しても,10日間で希望日の集約をするのに時間不足ということは考え難い。また,原告Bの訴訟代理人らのうち5名は,照会回答期限である平成13年9月28日に前橋地方裁判所で顔を合わせる機会があったのであり,その際,直ちに期日の調整を完了することはできたはずである。仮に,特段の事情により照会回答期限までに調整がつかなかったとしても,その旨の回答をすることはできたはずである。 原告らは,「裁判所が,いわば一方的に設定した日を1日経過したら,直ちに原告らにとって最も出頭が困難と思われる期日を勝手に指定した点」を論難するが,失当である。原告らは,上記期日の照会により法律の要求する以上の手厚い手続保障を裁判所から与えられたにもかかわらず,期 に原告らにとって最も出頭が困難と思われる期日を勝手に指定した点」を論難するが,失当である。原告らは,上記期日の照会により法律の要求する以上の手厚い手続保障を裁判所から与えられたにもかかわらず,期日の希望日を述べる機会を自ら喪失せしめた。このように手続保障が与えられたのにそれに応じた行動をとらなかった当事者には,自己責任が課せられるというのが民事訴訟の基本原則である。同原則により,原告らは,裁判所が期日を指定するのに先立ちその希望日を述べる機会を自ら放棄したものと認め,別件訴訟の被告ら代理人の希望する平成13年10月11日に期日を指定したわけである。その結果,原告らに不利益が及ぼうとも,それは自己責任として自ら甘受すべきである。 原告らは,「FAXのみの照会であるから,10月に入ってから電話による問い合わせ等があってしかるべきである」と主張するが,失当である。上記の平成13年9月18日のD書記官による期日照会は,期日の候補日が12もあり,電話での口頭の告知をしても聞き違い等による過誤が生じかねないことを慮り,より慎重な手段であるファクシミリを用いたのである。原告らはファクシミリのみの照会では不足があるから重ねて電話による照会をすべきであったと主張するが,上記のファクシミリによる期日照会に対してなしのつぶての原告らに対し,何故裁判所が重ねて電話による期日の照会をしなければならないのであろうか。 イ期日変更申立て却下決定について別件訴訟における期日変更申立ての理由は,ただ一言「差し支え」というに尽きる。 期日変更の申立ては,期日の変更を必要とする事由を明らかにしてしなければならず(民事訴訟規則36条),口頭弁論期日の変更には「顕著な事由」があることを要する(民事訴訟法93条3項本文)から,期日の変更を必要とする事由とは,裁判所が「顕 する事由を明らかにしてしなければならず(民事訴訟規則36条),口頭弁論期日の変更には「顕著な事由」があることを要する(民事訴訟法93条3項本文)から,期日の変更を必要とする事由とは,裁判所が「顕著な事由」の要件を充足するか否かを審査するに足りる程度に具体的であることが要求される。「差し支え」というだけでは具体的事情は不明であり,上記要件に足りないこと一見して明白である。 期日の変更は,「当事者の一方につき訴訟代理人が数人ある場合において,その一部の代理人について変更の事由が生じたこと」に基づいては許してはならない(民事訴訟規則37条本文1号)。別件訴訟では,「差し支え」がある旨主張したのは10名いる原告Bの訴訟代理人のうちE弁護士ただ一人である。よって,裁判所は,別件訴訟における期日変更申立ては,許可したくとも法律上できないわけである。なお,民事訴訟規則37条ただし書は,やむを得ない事由があるときはこの限りでないと規定するが,別件訴訟における期日変更申立てを幾ら精読しても,やむを得ない事由を発見することはできない。 別件訴訟における期日変更申立て却下決定の理由の(1)は,「申立ての理由は『差し支え』としか記していない」というものであるが,上記二つの根拠により,既に別件訴訟における期日変更申立てが不適法であることは明らかであり,却下の理由としては十分すぎるくらい十分である。 原告らは,前記却下決定の理由(2)「時期に後れた申立て」の中で,「やむを得ず,本日の期日を指定するに至った」という点を論難するが,失当である。 原告らから回答期限までに回答が寄せられなかったため原告らの期日の希望を聞くことなく期日指定に至った点が「やむを得ない」というのである。その理由は前述した。 原告らは,「時期に後れた申立て」という理由を論難するが,回答期限を守 寄せられなかったため原告らの期日の希望を聞くことなく期日指定に至った点が「やむを得ない」というのである。その理由は前述した。 原告らは,「時期に後れた申立て」という理由を論難するが,回答期限を守らずなしのつぶてであった原告らが,期日指定の告知を受けてから後になって期日の希望(10月11日は差し支え)を述べてきたから,もう遅すぎるといったまでのことである。それが,社会通念というものであろう。 さらに,原告らは,別件訴訟における期日変更申立て却下決定の理由(3)「期日変更申立権の濫用」について,「原告は,次回口頭弁論期日の指定について意見を述べる機会がありながらこれを意図的に逸した後になって期日変更の申立てをしたことになり」とあるうちの「意図的」とあるのを偏見であると論難し,「一たびこれを許せば,以上の繰り返しにより,原告は意のままに期日を引き延ばすことができることになる」とあるうちの「一たびこれを許せば」なぜ「原告は意のままに期日を引き延ばすことができることになる」のか理解し難いという。ここで,前記のとおり,裁判所から原告Bの訴訟代理人への期日の照会に対しなしのつぶてが3回連続し,しかも,前記のファクシミリによる照会に原告Bの訴訟代理人らが回答(「調整未了」との内容をも含めて)を寄せることは可能であったから,「原告は次回口頭弁論期日の指定について意見を述べる機会がありながらこれを意図的に逸した」と推認するのが自然であることは,既に触れたとおりである。さらに,この推認をする理由が別にもある。 すなわち,原告Bは,別件訴訟において,被告Aの関与に対し2度にわたる裁判官忌避申立てをした(2度とも排斥された。)。すなわち,原告らは,本人としても代理人としても,被告Aが別件訴訟に関与する状態で審理が進行することに反対していたわけである。この主観的 2度にわたる裁判官忌避申立てをした(2度とも排斥された。)。すなわち,原告らは,本人としても代理人としても,被告Aが別件訴訟に関与する状態で審理が進行することに反対していたわけである。この主観的立場からすれば,期日の照会に対しなしのつぶてを続けて日時を空費すれば,被告Aが裁判官の定期異動により他に転出し,結果として,裁判官忌避申立てが認容されたと同一の結果が得られることを期待したとしても,それはもっともなことである。かくして,原告らには,期日の照会に意図的に回答しない動機があったわけである。以上の点を総合考慮すれば,別件訴訟の裁判所が期日の照会を意図的に回答しなかった旨認定したのも合点がゆく。 さらに,期日変更申立てをいれて平成13年10月11日の期日を取り消せば,次回期日の照会を原告らにしてなしのつぶての果てに裁判所から被告ら代理人の希望に合わせて期日指定をした後になって,再び期日変更申立てをすれば,事態は一巡し,原告らの前記主観的立場に基づく期日の引き延ばしの目的を達成するわけである。このような事態を期日変更申立権の濫用といわずしていかなる評価があるというのか。 以上のとおり,別件訴訟における期日変更申立ては,民事訴訟規則36条,37条本文1号により,形式的に見て一見して明白に不適法であり,実質的に見ても期日変更申立権の濫用であって,その不当性は明白であり,「顕著な事由」はどこにも見当たらない。総じて,別件訴訟における期日変更申立ては,却下されて当然なのである。 ウ弁論終結決定について裁判所は,訴訟が裁判をするのに熟したときは,終局判決をする(民事訴訟法243条1項)。「訴訟が裁判をするのに熟した」との判断は,裁判所の裁量による。したがって,その点について当事者の納得が得られなくとも,最終的には,裁判所の責任で決定すべきもの 決をする(民事訴訟法243条1項)。「訴訟が裁判をするのに熟した」との判断は,裁判所の裁量による。したがって,その点について当事者の納得が得られなくとも,最終的には,裁判所の責任で決定すべきものである。原告らは,盛んに,原告らの納得しない弁論の終結であった旨論難するが,元来,当事者の主観的満足は,法律上,弁論終結の要件ではないことを忘れた主張である。 別件訴訟は,平成8年の提起以来,5年に及ぶ審理を続け,平成13年10月11日の期日は第19回口頭弁論期日に達し,それまでに人証のうち判決に必要であると認められる分は既に証拠調べを終了した上,採否未了の人証はなく,裁判所の心証が十分に達したゆえ,弁論終結決定をしたものであって,その判断に何らの違法はない。原告らは,最終準備書面を陳述する機会を奪われた旨論難するが,裁判所は,別段,原告らの最終準備書面の陳述をさせないつもりはなかった。ただ,原告らが,適法に開かれた口頭弁論期日に自らの判断で欠席したため,事実上その陳述の機会を喪失したまでのことであって,その不利益は,手続保障を受けたことに対する自己責任として,原告らが自ら甘受すべきである。 エ弁論終結後判決言渡しまでの時間が15分であることについて判決言渡しの時期についての法律上の規制を見ると,「判決の言渡しは,判決書の原本に基づいてする」(民事訴訟法252条)とあるので,判決原本が作成されてから後である必要があるほか,「判決の言渡しは,口頭弁論の終結の日から2月以内にしなければならない」(同法251条1項本文)とあるのみである。弁論終結後判決言渡しまでの時間が15分であるからといって,その判決の言渡しが違法となることはない。 オ裁判を受ける権利について原告らは,別件訴訟における合議体のした一連の訴訟行為によって,原告Bの裁判を受ける 渡しまでの時間が15分であるからといって,その判決の言渡しが違法となることはない。 オ裁判を受ける権利について原告らは,別件訴訟における合議体のした一連の訴訟行為によって,原告Bの裁判を受ける権利を侵害し,かつ,原告Bの訴訟代理人であった原告Cの弁護士業務の遂行を妨げられたと主張する。 しかし,裁判を受ける権利(憲法32条)とは,基本的人権一般と同様に,無制限の性質は有さず,飽くまで,手続保障を受けたことに対する自己責任の関係により制約される。当事者は,主観的に納得するまで訴訟行為をすることができるわけではない。この点について別件訴訟の経過を鳥瞰すると,原告らは,度重なる裁判所からの期日の照会に対し毎回意図的になしのつぶての対応をし,裁判所がやむなく次回口頭弁論期日を指定すると,形式的な要件を欠くことが一見して明らかな期日変更申立てをし,さらに,指定された口頭弁論期日を無視するかのような欠席戦術に出たものである。このように,原告らは,裁判所から口頭弁論の希望日を述べる機会や口頭弁論期日に出頭して訴訟行為をする機会を丁寧に与えられながらこれを自らの判断で放棄し,結果として,自己に不利益な訴訟状態を自ら招いたわけである。よって,手続保障を受けたことに対する自己責任(俗にいう自業自得)として,このような不利益な訴訟状態は,自ら甘受すべきであって,別件訴訟の合議体あるいは裁判長個人の責任に転嫁することはできない道理である。 (被告国の主張)ア裁判官による訴訟指揮権の行使等の職務行為について,それらの措置が国家賠償法1条1項の規定する違法な公権力の行使となるのは,その制度の目的,範囲を著しく逸脱し,又はその方法が甚だしく不当であるなどの特段の事情がある場合に限られ,また,裁判官がした争訟の裁判について,国家賠償法1条1項の規定する違法な の行使となるのは,その制度の目的,範囲を著しく逸脱し,又はその方法が甚だしく不当であるなどの特段の事情がある場合に限られ,また,裁判官がした争訟の裁判について,国家賠償法1条1項の規定する違法な公権力の行使となるのは,裁判官がした職務行為について上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在するだけでは足りず,当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特段の事情がある場合に限られるというべきである。 イしかるに,別件訴訟においては,平成13年8月15日以降,高崎支部の書記官から,第19回口頭弁論期日の希望日につき,3度にわたって連絡をしたにもかかわらず,原告Bの訴訟代理人らが適切にこれに応じなかったため,期日変更申立てを却下したものであり,判決言渡しについても適正に行われた。 また,原告らは,裁判を受ける権利を侵害されたとも主張するが,裁判を受ける権利とは裁判の拒絶の禁止を意味するものであるところ,別件訴訟においては裁判が拒絶されたものではないから,被告Aの措置をもって,原告らの裁判を受ける権利を侵害する違法なものとはいえない。 さらに,原告らは,期日指定,期日変更,争点整理,準備書面の作成,提出,陳述等に関し,十分な訴訟追行を行うことにより,委任者の権利救済に加えて法の支配を実効あらしめ憲法価値の実現に資するという弁護士の使命を全うすることができるという法的利益を侵害しないよう配慮する義務に違反したと主張する。しかし,別件訴訟の審理の経過から見ると,原告らの上記主張は原告らの主観的評価の範囲にとどまるものであって,前記アの特段の事情について主張するものとはいえない。 また,原告らの主張によると,原告Bの訴訟代理人らは,別件訴訟 経過から見ると,原告らの上記主張は原告らの主観的評価の範囲にとどまるものであって,前記アの特段の事情について主張するものとはいえない。 また,原告らの主張によると,原告Bの訴訟代理人らは,別件訴訟の期日変更申立書に「差し支え」と記載していたとのことである。そもそも,口頭弁論期日の変更は,顕著な事由がある場合に限り許されるべきものであり(民事訴訟法93条3項),「当日東京に出張の為」との記載があるだけでは顕著な事由に該当しないとする最高裁判例も存在するのであって(最高裁昭和55年2月14日第一小法廷判決・判例時報958号60頁参照),原告らの主張はそれ自体被告Aの行為の不当性を指摘するにとどまっており,これをもって国家賠償法上の違法と評価することは到底できない。また,原告らの主張する「慣習」は,上記民事訴訟法の条文解釈に明らかに反するものであり,独自の見解であって,そのような慣習は存在しない。したがって,かかる慣習の存在を根拠として裁判官に釈明義務を認めることは到底できないから,釈明義務が認められる余地もない。よって,かかる釈明義務の存在を前提に国家賠償法上の違法を主張する原告らの主張は,前提を欠くものであり,明らかに理由がない。 (4) 本件訴訟における被告Aによる答弁書の陳述は,国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」としての職務に当たるか。 (原告らの主張)本件訴訟は,被告Aの公務員としての職務行為の違法性を問うものであり,当該公務員としてこれに応訴する行為も公務員としての職務の執行,すなわち「公権力の行使」に当たるというべきである。 (被告国の主張)国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」は,純然たる私経済作用と国家賠償法2条所定の営造物の設置管理作用を除く,国又は公共団体のすべての作用と解されているところ,被告Aの本件訴訟 (被告国の主張)国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」は,純然たる私経済作用と国家賠償法2条所定の営造物の設置管理作用を除く,国又は公共団体のすべての作用と解されているところ,被告Aの本件訴訟における答弁書での主張行為は,被告Aの個人責任を追及した訴訟において,被告Aが個人として応訴行為を行い,その中で被告A個人の意見を表明した行為にすぎず,およそ「公権力の行使」に該当する余地はないから,被告Aの上記行為が「公権力の行使」としての職務に該当することを前提とした原告らの主張は,被告国に対する請求の関係では主張自体失当である。 (5) 本件訴訟における被告Aの答弁書での表現により,原告らの名誉が毀損されたか。 (原告らの主張)ア被告Aの「本件訴訟は,裁判所の適法な訴訟活動に対し,因縁をつけて金をせびる趣旨であり,荒れる法廷と称する現象が頻発した時代にもあまり例がないような,新手の法廷戦術である。」とする答弁書における主張は,訴訟上主張する必要のない事実を主張して原告らの名誉を損なう行為に及ぶものであり,違法性は阻却されない。 すなわち,被告Aは,原告らが問題とした訴訟活動が適法である旨及び原告らの請求が棄却されるべき旨主張すればよいのであって,殊更「因縁をつけて金をせびる」旨主張する必要は全くないのである。 原告らが本件訴訟を提起した趣旨は「因縁をつけて金をせびる趣旨」ではなく,50万円を請求するのに本件訴訟を提起しても訴訟への労力等を考えると金銭的に割が合わないことも明らかである。 原告Bの職業は教師であり,原告Cの職業は弁護士であるから,原告らが「因縁をつけて金をせびる」者だということが広まれば,その職業が成り立たないことは明らかであろう。 イ(ア) 被告Aは,「因縁をつけて金をせびる」との表現について,日本国語大辞典及び広辞苑 原告らが「因縁をつけて金をせびる」者だということが広まれば,その職業が成り立たないことは明らかであろう。 イ(ア) 被告Aは,「因縁をつけて金をせびる」との表現について,日本国語大辞典及び広辞苑を引いて,「無理な理屈をつけて相手を困らせ,金を無理に求める」ほどの意味であると主張するが,奇弁というほかない。 「無理な理屈をつけて相手を困らせ,金を無理に求める」という表現自体,人に対する社会的評価を低下させるものであり,名誉を害するものであることは明白である。 さらにそれにとどまらず,被告Aの上記主張は次の意味で誤っている。 日本語の辞書がある言葉を説明するのに,他の言葉に置き換える方法がとられるのは当然であるが,言葉にはそれぞれの持つニュアンスや印象というものがあり,言葉の置き換えによってニュアンス,印象は異なってくるものである。辞書の説明とは,元来そのような限界を内包するものなのである。そして,「因縁をつけて金をせびる」という言葉の持つニュアンス,印象は,「著しく反社会的な行為や人,例えていえば『やくざ』『ごろつき』といったたぐいのもの」であろう。 (イ) 被告Aは,原告らが「因縁をつけて金をせびる」との箇所を独立してあげつらい,文章の前後関係を評価しない旨主張するが,前後関係を幾ら検討しても,当該表現の名誉毀損性が払拭されるはずのないことは明らかである。 (被告Aの主張)以下に述べる理由により,本件訴訟における被告Aによる答弁書の陳述は,原告らの名誉を毀損するというに当たらない。 ア字義(ア) 「因縁をつける」について日本国語大辞典(平成13年小学館から刊行の第2版,全13巻で日本最大の国語辞典)の「因縁をつける」の欄を見ると,「無理な理屈をつけて相手を困らせる」とある。広辞苑(平成10年岩波書店から刊行の第5版。 全1冊の手軽 成13年小学館から刊行の第2版,全13巻で日本最大の国語辞典)の「因縁をつける」の欄を見ると,「無理な理屈をつけて相手を困らせる」とある。広辞苑(平成10年岩波書店から刊行の第5版。 全1冊の手軽なものであるが,その信頼の厚さは国民的とさえいえる。)の「因縁をつける」の欄を見ると,「言いがかりをつける」とあり,さらに,「いいがかりをつける」の欄を見ると,「口実を設けて人を困らせること」とある。また,大辞林(昭和63年三省堂から刊行。全1冊の手軽なものであるが,広辞苑同様の信頼が置ける。)の「因縁をつける」の欄を見ると,「ささいなことを理由にして無理を言い,相手を困らせる」とある。 (イ) 「金をせびる」について日本国語大辞典の「せびる」の欄を見ると,「無理に求める。しいて頼む」とある。そうすると,「金をせびる」とは,「金を無理に求める」ほどの趣旨となる。広辞苑の「せびる」の欄を見ると,「しいて頼む。無理にねだる」とある。また,大辞林の「せびる」の欄を見ると,「金や品物をくれるよう,無理に頼む」とある。 (ウ) 「因縁をつけて金をせびる」について以上の字義によれば,「因縁をつけて金をせびる」とは,「無理な理屈をつけて相手を困らせ,金を無理に求める」ほどの趣旨をいうと理解すべきである。 イ本件訴訟のうち被告Aに対する50万円及びこれに対する平成14年3月8日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払請求の部分(以下「乙部分」という。名誉毀損に対応する。)への具体的適用(ア) 本件訴訟の甲部分は無理攻めである。 原告らは,甲部分について,本件訴訟の訴状中で,被告Aが別件訴訟の裁判長としてした期日指定の命令,合議体の一員として関与した期日変更却下決定,弁論終結決定及び判決の言渡しに違法があると主張するものの,原告らの上記違法性の主張はこ 訟の訴状中で,被告Aが別件訴訟の裁判長としてした期日指定の命令,合議体の一員として関与した期日変更却下決定,弁論終結決定及び判決の言渡しに違法があると主張するものの,原告らの上記違法性の主張はことごとく誤りであり,甲部分の両請求は,被告国及び同Aに対する関係で認容の余地がなく,しかも,その結論は,実定法に根拠を置く客観的評価により,明白である。本件訴訟の甲部分は,無理攻めの典型である。また,このような無理攻めの相手が困惑することは,当然のことである。よって,本件訴訟の甲部分の提訴をもって「無理な理屈をつけて相手を困らせる」というのは,もっともというべきである。 (イ) 本件訴訟の甲部分は金をせびるものである。 「金をせびる」とは,「金を無理に求める」ほどの趣旨である。原告らは,被告Aに対して有すると主張する金銭債権の強制的実現のために国家権力による強制を伴う民事訴訟制度を利用しようというのであるから,上記の表現は,その実態に良く適合している。 (ウ) 総括総じて,本件訴訟の甲部分の提起を「因縁をつけて金をせびる」ものであるとした被告Aの表現(以下「当該表現」という。)は,実定法に根拠を置く客観的評価を日常の用語例に準拠して表記した結果にすぎず,正当な言論である。無論,原告らの名誉を毀損するというに当たらない。 ウ文章の前後関係当該表現は,何の検討もなく突然出現したのではなく,被告Aの答弁書中,「第3 当被告の主張」の「4 違法性を欠く」の欄に詳述したとおりの慎重な法的検討の果てに自信を持って達した結論である。その間の事情は,その論旨の展開に十分なスペースを割いた前記欄を一読するだけで明らかであろう。 当該表現は,前記の「4 違法性を欠く」欄の直後に位置する「5 本件訴訟の公共性」欄の冒頭にある。当然のことながら,「5 本件訴訟の公共 に十分なスペースを割いた前記欄を一読するだけで明らかであろう。 当該表現は,前記の「4 違法性を欠く」欄の直後に位置する「5 本件訴訟の公共性」欄の冒頭にある。当然のことながら,「5 本件訴訟の公共性」欄の冒頭にある当該表現は,その直前に位置する「4 違法性を欠く」の欄に詳述した内容を理論的前提としてなされている。したがって,当該表現の評価は,その直前の記載である「4 違法性を欠く」の欄に詳述した内容を理解して初めてよくなし得る。 ところが,当該表現を名誉毀損であると原告らが評価するとき,その「因縁をつけて金をせびる」という箇所を独立してあげつらうばかりで,肝心の上記「4 違法性を欠く」の欄に詳述した内容との関係に言及していない。言葉じりをとらえるとはこのことである。これは,当事者本人が弁護士を付けてする,あるいは,弁護士が本人や訴訟代理人としてする主張としては,余りに不自然である。原告らは,当該表現が名誉毀損に該当しないことを(少なくとも未必的に)知っているというべきである。そうでなかったとしても,上記のとおり,言葉じりをとらえるだけで上記答弁書中の前後の記載を含めた総合的評価をしないまま漫然と名誉毀損と評価して公開法廷で主張したことは,社会通念上軽率のそしりを免れないから,ここに原告らの過失を認めることができる。 エ主張の必要性原告らは,被告Aが当該表現をする必要がないと主張するが,失当である。民事訴訟の審理が能率的に進行するように,当事者は,裁判所にそのために必要な情報を提供するなどの協力をすべきである。答弁書の陳述という審理の初期の段階で事案の要点を的確に指摘して,裁判所が事案の概要の把握にまごつくことのないように配慮するのは,その一環である。本件訴訟の甲部分は,前記のとおり,典型的な無理攻めである。換言すれば,本件訴訟の 段階で事案の要点を的確に指摘して,裁判所が事案の概要の把握にまごつくことのないように配慮するのは,その一環である。本件訴訟の甲部分は,前記のとおり,典型的な無理攻めである。換言すれば,本件訴訟の甲部分は,「因縁をつけて金をせびる」ものである(すなわち,当該表現)ということができる。この簡潔にして的を射た至言を答弁書にて陳述することは,裁判所が本件訴訟の甲部分の大局観を正確かつ迅速に把握するのに有用であるからこそ,わざわざコメントしたのである。その必要性を欠くとの原告らの主張は,訴訟の現実を忘れている。 (被告国の主張)前記(4)(被告国の主張)で述べたとおり,被告Aの本件訴訟における答弁書での主張行為はおよそ国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」に該当する余地はないから,被告Aの上記行為が「公権力の行使」としての職務に該当することを前提とした原告らの主張は,それによって原告らの名誉が毀損されたかどうかを判断するまでもなく,被告国に対する請求の関係では主張自体失当である。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(裁判官の職務行為に関し裁判官個人に対して損害賠償請求訴訟を提起することが,定型的に訴権の濫用となるか。)について(1) 訴えが訴権を濫用する不適法なものといえるためには,当該訴えが,実体的権利の実現ないし紛争解決を真摯に目的とするのではなく,専ら相手方当事者を被告の立場に置き,審理に対応することを余儀なくさせることにより,訴訟上又は訴訟外において相手方当事者を困惑させることを目的とし,あるいは訴訟が係属,審理されていること自体を社会的に誇示することにより,相手方当事者に対し,有形・無形の不利益や負担若しくは打撃を与えることを目的として提起されたものであり,その訴訟を維持することが民事訴訟制度の趣旨・目的に照らして著しく相当 的に誇示することにより,相手方当事者に対し,有形・無形の不利益や負担若しくは打撃を与えることを目的として提起されたものであり,その訴訟を維持することが民事訴訟制度の趣旨・目的に照らして著しく相当性を欠き,信義に反すると認められることが必要であると解するのが相当である。 被告Aは,裁判官個人責任訴訟の提起は定型的に訴権の濫用に該当すると主張する。しかし,訴権は国民の重要な基本的人権の一つであるから,訴権の濫用に当たるとして訴権の行使を排除するという重大な不利益を課すことを正当化する事情の有無を個々の事案ごとに審理,判断すべきであり,裁判官個人責任訴訟のような特定の類型を考えた上,その類型の訴訟が定型的に訴権の濫用に該当するかどうかというような思考方法を採るべきものではない。 (2) 本件訴訟は,前記争いのない事実等に記載されたとおりの経過をたどって判決の言渡しがなされた別件訴訟の原告本人及び原告訴訟代理人であった原告らが,被告Aの別件訴訟における一連の行為の違法性を主張して提起したものであるところ,被告Aの上記行為は,長らく進行が中断していた別件訴訟の再開された最初の期日に原告ら不出頭のまま結審し,その15分後に直ちに判決を言い渡した点等において,極めて異例であり,適法な訴訟指揮権の行使であったとしても強引なものであったことは否めないところである。そうすると,原告らが,被告Aの上記行為を違法なものであると考えた上,本件訴訟を提起することによってそのことを明確にしたいと考えることも理解できないことではなく,本件訴訟の提起が実体的権利の実現ないし紛争解決を真摯に目的とするものでないとまでは断定することができない。加えて,加害公務員個人の賠償責任を肯定した下級審裁判例が散見されることも併せ考えると,本件訴訟のうち被告Aに対し別件訴訟の一連の 争解決を真摯に目的とするものでないとまでは断定することができない。加えて,加害公務員個人の賠償責任を肯定した下級審裁判例が散見されることも併せ考えると,本件訴訟のうち被告Aに対し別件訴訟の一連の行為が違法であるとして損害賠償を求める部分を維持することが,民事訴訟制度の趣旨・目的に照らして著しく相当性を欠き,信義に反するとまでもいえず,上記部分に係る訴えの提起が訴権の濫用に当たり不適法であるともいえない。 2 争点(2)(別件訴訟における被告Aの一連の行為について,被告Aに故意又は重過失が認められる場合,被告Aが民法709条に基づく不法行為責任を負うか。)について(1) 原告らは,国家賠償法1条1項に基づき国が責任を負う場合でも公務員個人の不法行為責任を否定すべき理由はなく,特に,公務員に故意又は重過失が存する場合には,公務員個人も責任を負うべきである旨主張する。 しかしながら,公権力の行使に当たる国の公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,国がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって,公務員個人はその責を負わないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和28年(オ)第625号同30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号534頁,最高裁判所昭和49年(オ)第419号同53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁等参照)。現時点で上記各最高裁判例の解釈を変更すべき合理的理由を見いだすことはできず,原告らの上記主張は採用することができない。 (2) 以上を前提に検討すると,本件訴訟のうち被告Aに対し別件訴訟の一連の行為が違法であるとして損害賠償を求める部分は,原告らが,別件訴訟の裁判長である被告Aのなした期日指定,期日変更申立ての却下,弁論の終結及び判決の言渡しにより精神 のうち被告Aに対し別件訴訟の一連の行為が違法であるとして損害賠償を求める部分は,原告らが,別件訴訟の裁判長である被告Aのなした期日指定,期日変更申立ての却下,弁論の終結及び判決の言渡しにより精神的苦痛を被ったとして,被告Aに対し,民法709条に基づき損害賠償を求めるというものであり,公権力の行使に当たる国の公務員である被告Aが,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に原告らに損害を与えたとして,当該公務員個人である被告Aに対して損害賠償を求めるものであるから,このような場合,被告Aは原告らに対し賠償責任を負うものではない。 したがって,本件訴訟のうち被告Aに対し別件訴訟の一連の行為が違法であるとして損害賠償を求める部分に係る請求は,いずれも理由がない。 3 争点(3)(別件訴訟における被告Aの一連の行為について,被告国に賠償責任を負わせるほどの違法性があるといえるか。)について(1) 裁判官の行為と国の国家賠償法に基づく責任について裁判官がした争訟の裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在したとしても,これによって当然に国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任の問題が生ずるわけのものではなく,同責任が肯定されるためには,当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である(最高裁判所昭和53年(オ)第69号同57年3月12日第二小法廷判決・民集36巻3号329頁参照)。 原告らは,本件において,別件訴訟についての裁判の瑕疵ではなく,その審理の過程における裁判官の行為を理由として国の責任を追及するが,この場合においても,国の責任を肯 ・民集36巻3号329頁参照)。 原告らは,本件において,別件訴訟についての裁判の瑕疵ではなく,その審理の過程における裁判官の行為を理由として国の責任を追及するが,この場合においても,国の責任を肯定するには,裁判官に上記特別の事情があることを要すると解するのが相当である。 (2) 別件訴訟における期日指定について前記争いのない事実等(2)の別件訴訟の経過によれば,別件訴訟の担当書記官であるD書記官が,同訴訟における原告Bの訴訟代理人で弁護団長を務めるE弁護士に対し,平成13年9月18日,同訴訟の口頭弁論期日の照会書を送付したものの,別件訴訟における原告Bの訴訟代理人らは,高崎支部に対し,同月28日の回答期限までに口頭弁論期日の希望日を示した回答書をファックスで送信しなかったため,被告Aは,同年10月1日,別件訴訟の口頭弁論期日を同月11日午後1時30分に指定したというのである。 そもそも,期日は,申立てにより又は職権で,裁判長が指定するものであり(民事訴訟法93条1項),裁判長が期日を指定するに当たり当事者の希望を聴取することは法律上要求されていないところ,上記のとおり,被告Aは,原告らに対し期日の希望の聴取を試みた上で期日指定を行ったのであるから,その期日指定には何ら違法な点はなく,前記(1)の特別の事情は認められない。 この点,原告らは,期日指定を行う際には,これに先立って期日照会を行い,その回答を待って,あるいは,回答が遅れている場合には電話等で回答を促し,その上で両当事者が出廷できる日時を指定するというのが,民事訴訟法93条1項の通常の運用であり,このような運用は,全国の裁判所において永く定着しており,一種の慣習を形成していると評価することができるところ,被告Aは,この慣習に違反して,期日照会に対する回答を催告しなかったなどと主 運用であり,このような運用は,全国の裁判所において永く定着しており,一種の慣習を形成していると評価することができるところ,被告Aは,この慣習に違反して,期日照会に対する回答を催告しなかったなどと主張する。しかしながら,原告らの上記主張は,自ら回答期限を遵守しなかったことによる責任を被告Aに転嫁するものにすぎず,上記のとおり,そもそも,裁判長が,期日を指定するに当たり,当事者の希望を聴取することは法律上要求されていないことにもかんがみると,到底採用することができない。 (3) 別件訴訟における期日変更申立ての却下について前記争いのない事実等(2)の別件訴訟の経過によれば,別件訴訟における原告Bの訴訟代理人である原告Cらは,指定された平成13年10月11日の期日に出頭することができないことから,同月4日,「差し支え」との記載のある期日変更申立書を高崎支部あての内容証明郵便で郵送し,同内容証明郵便は,同月5日,高崎支部に到達したが,被告Aは,他の2名の陪席裁判官とともに,同月11日午後1時30分から別件訴訟の第19回口頭弁論期日を実施し,その際,上記期日変更申立てを口頭で却下したというのである。 ところで,口頭弁論の期日の変更は,顕著な事由がある場合に限り許すべきものであるところ(民事訴訟法93条3項),上記期日変更申立書に記載された「差し支え」との記載が顕著な事由を記載したものとはいえず期日変更申立てに理由がないことは明らかであるから,被告Aが上記期日変更申立てを却下したこと自体は適法であり,さらに,期日変更申立ての却下を口頭弁論期日に行うことについて法律上何らの制限もないから,結局,被告Aによる期日変更申立ての却下には違法な点はなく,前記(1)の特別の事情は認められない。 原告らは,被告Aは,①期日変更のより具体的理由及び説明につき,原告 ついて法律上何らの制限もないから,結局,被告Aによる期日変更申立ての却下には違法な点はなく,前記(1)の特別の事情は認められない。 原告らは,被告Aは,①期日変更のより具体的理由及び説明につき,原告らに釈明権を行使すべきであったし,②期日変更の申立てを却下するのであれば平成13年10月11日の口頭弁論期日よりも前に行うべきであったなどと主張する。しかしながら,別件訴訟において,原告Bは弁護士を訴訟代理人に選任しており,原告Cは,弁護士として訴訟を追行していたのであるから,口頭弁論の期日の変更には顕著な事由の存在が必要であることを当然知るべき立場にあったといえ,これを前提とすると,被告Aが期日変更のより具体的理由及び説明につき原告らに釈明権を行使しなかったことが違法であるとはいえず,原告らの上記①の主張は採用することができない。また,上記のとおり,期日変更申立ての却下を口頭弁論期日に行うことについて法律上何らの制限もないことに加え,そもそも期日変更の申立てをいれて指定済みの期日の取消し・変更がなされるまでは,既に指定済みの期日が依然として有効なのであって,それを前提として当事者は行動すべきものであり,原告らについても別件訴訟における平成13年10月11日の期日が開かれることを前提として行動すべきものであったといえるから,それを怠った原告らが不利益を被ることもやむを得ない。そうすると,被告Aが平成13年10月11日の口頭弁論期日よりも前に期日変更の申立てを却下しなかったことに何ら違法はないといえるから,原告らの上記②の主張も理由がない。 (4) 別件訴訟における弁論終結及び判決言渡しについて前記争いのない事実等(2)の別件訴訟の経過によれば,被告Aは,他の2名の陪席裁判官とともに,平成13年10月11日午後1時30分から別件訴訟の第 別件訴訟における弁論終結及び判決言渡しについて前記争いのない事実等(2)の別件訴訟の経過によれば,被告Aは,他の2名の陪席裁判官とともに,平成13年10月11日午後1時30分から別件訴訟の第19回口頭弁論期日を実施し,原告Bによる期日変更申立てを口頭で却下した上,弁論を終結し,15分間休廷した後,直ちに別件訴訟の判決を言い渡したというのである。 そもそも,裁判所は,訴訟が裁判をするのに熟したと判断したときは,終局判決をすることができるのであり(民事訴訟法243条1項),いつ弁論を終結して判決を言い渡すかは,裁判所の裁量に属するものである。そして,甲4,5,弁論の全趣旨によれば,別件訴訟の第19回口頭弁論期日が開かれた時点では,採否未了の人証のないまま半年以上も期日が開かれない状態が継続していたことが認められ,これによれば,別件訴訟の裁判所が,第19回口頭弁論期日が開かれるまでの間に,裁判をするのに熟したと判断した上,判決原本を作成したことに裁量の逸脱,濫用はないものといえる。確かに,長らく進行が中断していた別件訴訟の再開された最初の期日に原告ら不出頭のまま結審し,その15分後に直ちに判決を言い渡したことは,極めて異例であって強引な訴訟指揮であったものといわざるを得ないが,そうであるからといって,別件訴訟における弁論終結及び判決の言渡しについて裁量の逸脱,濫用はなかったとする上記結論を左右するものではなく,被告Aについて,前記(1)の特別の事情は認められない。 原告らは,被告Aは,別件訴訟の第19回口頭弁論期日に判決を言い渡す意図の下にその準備を進めていたことになり,原告らに最終準備書面の提出をさせる意思は存在しなかったことになるから,被告Aの行為の違法性は甚だしいなどと主張する。しかし,前記のとおり,原告らは,第19回口頭弁論期日が開 を進めていたことになり,原告らに最終準備書面の提出をさせる意思は存在しなかったことになるから,被告Aの行為の違法性は甚だしいなどと主張する。しかし,前記のとおり,原告らは,第19回口頭弁論期日が開かれることを前提に行動すべきであったにもかかわらずこれを怠ったのであるから,自ら最終準備書面を陳述する機会を逸したものと評価せざるを得ず,結局のところ,被告Aに最終準備書面の提出をさせる意思が存在しなかったものとは認められないから,原告らの上記主張は採用することができない。 (5) 裁判を受ける権利について原告らは,別件訴訟における被告Aの一連の行為により,裁判を受ける権利が侵害されたと主張する。しかしながら,裁判を受ける権利の保障とは,国民による司法制度の利用の保障を意味するものに外ならず,審理の手続に存する違法のゆえに請求が認容されなかった場合,我が国の司法制度の下においては,上訴によりその是正を図る機会が制度的に保障されているのである。そして,別件訴訟において,上記のような意味での原告らの裁判を受ける権利が侵害されたと認めるべき事情は見当たらない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 (6) したがって,別件訴訟における被告Aの一連の行為について,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があるとは認められないから,本件訴訟のうち被告国に対し別件訴訟における被告Aの一連の行為が違法であるとして損害賠償を求める部分に係る請求は,いずれも理由がない。 4 争点(4)(本件訴訟における被告Aによる答弁書の陳述は,国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」としての職務に当たるか。)について(1) 国の公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法 る被告Aによる答弁書の陳述は,国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」としての職務に当たるか。)について(1) 国の公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたことを理由に,国に対して損害賠償を求めることができるためには,当該公務員の違法行為が「公権力の行使」(国家賠償法1条1項)に当たることが必要であるところ,「公権力の行使」とは,国又は公共団体がその権限に基づく統治作用としての優越的意思の発動として行う権力作用のみならず,国又は公共団体の非権力的作用も含まれるが,国又は公共団体の純然たる私経済作用及び同法2条に規定する公の営造物の設置管理作用は含まれないと解するのが相当である。 (2) 原告らは,本件訴訟は,被告Aの公務員としての職務行為の違法性を問うものであり,当該公務員としてこれに応訴する行為も公務員としての職務の執行,すなわち「公権力の行使」に当たるというべきであると主張する。しかしながら,被告Aの本件訴訟における答弁書での主張行為は,被告Aの個人責任を追及した訴訟において,被告Aが個人として応訴行為を行い,その中で被告A個人の意見を表明した行為にすぎず,同行為はいかなる意味においても国の作用とは無関係であるから「公権力の行使」に該当しないことは明らかである。したがって,被告Aの上記行為が「公権力の行使」としての職務に該当することを前提とした原告らの主張は,被告国に対する請求の関係では主張自体失当であるといわざるを得ない。 (3) したがって,原告らの請求のうち,被告国に対し本件訴訟における被告Aの答弁書での表現により名誉を毀損されたとして損害賠償を求める部分は,いずれも理由がない。 5 争点(5)(本件訴訟における被告Aの答弁書での表現により,原告らの名誉が毀損された 訴訟における被告Aの答弁書での表現により名誉を毀損されたとして損害賠償を求める部分は,いずれも理由がない。 5 争点(5)(本件訴訟における被告Aの答弁書での表現により,原告らの名誉が毀損されたか。)について(1) 本件訴訟における被告Aの答弁書の記載内容は,別紙「答弁書」(略)のとおりである。 (2) ところで,民事訴訟は,私的紛争を対象とするものであることから,必然的に,当事者間の利害関係が鋭く対立し,個人的感情の対立も激しくなるのが通常であり,したがって,一方当事者の主張・立証活動において,相手方当事者やその訴訟代理人その他の関係者の名誉や信用を損なうような主張等に及ばざるを得ないことが少なくない。しかしながら,そのような主張に対しては,裁判所の適切な訴訟指揮により是正することが可能である上,相手方には,直ちにそれに反論し,反対証拠を提出するなど,それに対応する訴訟活動をする機会が制度上確保されているのであり,また,その主張の当否や主張事実の存否は,事案の争点に関するものである限り,終局的には当該事件についての裁判所の裁判によって判断され,これによって,損なわれた名誉や信用を回復することができる仕組みになっているのである。 このような民事訴訟手続における訴訟活動の特質に照らすと,その手続において当事者がする主張・立証活動については,その中に相手方やその訴訟代理人等の名誉を損なうようなものがあったとしても,それが当然に名誉毀損として不法行為を構成するものではなく,相当の範囲において正当な訴訟活動として是認されるものというべく,その限りにおいて,違法性を阻却されるものと解するのが相当である。 (3) 本件で原告らが問題としている被告Aの答弁書における表現は,「本件訴訟は,裁判所の適法な訴訟活動に対し,因縁をつけて金をせびる趣旨であ おいて,違法性を阻却されるものと解するのが相当である。 (3) 本件で原告らが問題としている被告Aの答弁書における表現は,「本件訴訟は,裁判所の適法な訴訟活動に対し,因縁をつけて金をせびる趣旨であり,荒れる法廷と称する現象が頻発した時代にもあまり例がないような,新手の法廷戦術である。」というものである(以下「本件表現」という。)。 本件表現のうち,取り分け「因縁をつけて金をせびる」という部分は,社会通念上,その表現部分から暴力団組員等の反社会的人物が金銭をゆすり取るかのごとき印象を与えるものといえるから,これによって原告らの名誉は毀損されたものと認めることができ,被告Aには,本件表現により原告らの名誉を毀損したことについて,少なくとも過失があるものというべきである。 被告Aは,「因縁をつけて金をせびる」の字義は「無理な理屈をつけて相手を困らせ,金を無理に求める」という程度の意味にすぎないから,本件訴訟の実態の下においては,名誉毀損に当たらないと主張する。しかしながら,名誉毀損という社会的評価の低下が問題とされている本件においては,本件表現の字義にとどまらず,それが社会に与える印象等の内容を問題とすべきであるから,被告Aの上記主張は採用することができない。 (4) そこで,以下,本件表現が正当な訴訟活動として是認され名誉毀損についての違法性が阻却されるかどうかについて検討する。 本件表現から受ける印象は上記(3)に記載したとおりであり,その表現は著しく穏当を欠くものといわざるを得ない。 また,本件表現が被告Aの答弁書中になされた経緯を見ると,被告Aの答弁書の「第3 当被告の主張」中の「1 判決に必要な事実」,「2 公務員の個人責任はない」,「3 行為を欠く」,「4 違法性を欠く」に続く「5 本件訴訟の公共性」の項の冒頭に本件表現が記載されて 答弁書の「第3 当被告の主張」中の「1 判決に必要な事実」,「2 公務員の個人責任はない」,「3 行為を欠く」,「4 違法性を欠く」に続く「5 本件訴訟の公共性」の項の冒頭に本件表現が記載されており,本件表現は,別件訴訟における被告Aの行為が違法であることを理由とする原告らの損害賠償請求が理由のないことを個々の根拠を挙げて主張した後のまとめの部分の冒頭でなされたものである。このような場合,被告Aは,原告らが問題とした別件訴訟における訴訟指揮が適法である旨及び原告らの請求を棄却すべきである旨主張すればよいのであって,あえて本件表現のような著しく穏当を欠く表現を用いて主張をする必要はないものというべきである。被告Aは,裁判所が本件訴訟のうち被告Aの別件訴訟における訴訟指揮が問題となっている部分の大局観を正確かつ迅速に把握するのに有用であると考えて,本件表現をわざわざ記載したなどと主張するが,本件表現の目的が被告Aの主張するとおりであったとしても,上記のとおりの表現内容や必要性の乏しさに照らすと,正当な訴訟活動として是認される範囲を逸脱しているものといわざるを得ない。 そうすると,本件表現行為は,正当な訴訟活動として是認されるものとはいえず,名誉毀損についての違法性が阻却されることはないものというべきである。 (5) よって,本件表現行為は,原告らの名誉を毀損する不法行為に該当するところ,本件表現の内容,原告らの職業その他諸般の事情を総合考慮すると,原告らが本件表現によって被った精神的苦痛を金銭をもって慰謝するには,原告ら各自につきそれぞれ10万円が相当である。 第4 結論以上によれば,原告らの請求は,被告Aに対し各10万円及びこれに対する不法行為日(本件表現が陳述擬制された日)である平成14年3月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割 が相当である。 第4 結論以上によれば,原告らの請求は,被告Aに対し各10万円及びこれに対する不法行為日(本件表現が陳述擬制された日)である平成14年3月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれらを認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 前橋地方裁判所民事第2部裁判長裁判官東條宏裁判官原克也裁判官高橋正幸

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