平成20年1月21日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成17年(ワ)第24889号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成19年10月1日判決主文 被告は,原告に対し,440万円及びこれに対する平成15年10月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は,これを10分し,その1を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求被告は,原告に対し,5001万6790円及びこれに対する平成15年10月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,被告の開設するa病院(以下「被告病院」という。)において左変形性膝関節症の治療として人工膝関節置換術を受けた原告が,被告病院の担当医師には,人工膝関節置換術やこれに引き続いて行われた血栓摘除術,バイパス術において注意義務違反があり,これにより原告は左大腿切断に至ったと主張して,被告に対し,不法行為(使用者責任)又は診療契約の債務不履行に基づき,損害賠償を請求する事案である。 前提事実(証拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)(1)当事者ア原告は,昭和5年○月○○日生まれの女性である。 イ被告は,東京都○○区に被告病院を開設する医療法人社団である。 被告病院には,整形外科にb医師(以下「b医師」という。),外科にc医師(以下「c医師」という。),d医師(以下「d医師」という。)らが勤務していた。 (2)診療経過ア平成11年12月3日,原告は,左膝痛のために,e病院への通院を開始し,b医師の診察を受け,左変形性膝関節症との診断を受けた。その後,原告は,1週間に1回程度の頻度でe病院 。 (2)診療経過ア平成11年12月3日,原告は,左膝痛のために,e病院への通院を開始し,b医師の診察を受け,左変形性膝関節症との診断を受けた。その後,原告は,1週間に1回程度の頻度でe病院でヒアルロン酸の注入,湿布塗布等の治療を受けながら,経過観察を受けた。 イ平成15年2月7日,原告は,b医師から,人工膝関節置換術の適応があると診断され,同手術の施行を勧められた(以下,特に年を示さない限り,すべて平成15年のことである。)。 ウ7月19日,原告は,人工膝関節置換術を受ける目的で,b医師の勤務する被告病院を受診し,ここに原告と被告との間で,原告の左変形性膝関節症についての診療契約が成立した。 エ8月13日,原告は,人工膝関節置換術施行のため,被告病院に入院した。 オ8月14日(ア)8月14日午前10時から,原告に対し,b医師の執刀により,左下肢につき人工膝関節置換術(以下「本件置換術」という。)が施行された。本件置換術においては,駆血のためにターニケット(駆血帯)が使用された。手術時間は1時間30分であり,出血量は545ccであった(乙A2・12ないし14頁,17頁)。 (イ)本件置換術終了後,ターニケットを解除してから,原告の足趾の皮膚色が悪かった(乙A2・17頁)。 (ウ)同日午後零時45分,原告は,手術室から病棟へ帰室した。その際, 原告の左足背動脈は触知されなかった(乙A2・121頁)。 (エ)同日午後2時28分,MRAが施行された。原告の左大腿動脈には途絶像が認められ,閉塞所見が認められた(乙A2・17頁,乙A12,13)。 (オ)同日午後3時40分,c医師らを術者として,血栓摘除術(以下「本件血栓摘除術」という。)が開始された(乙A2・20頁,109頁)。同日午後3時58分,下肢動脈造影で左大腿動 12,13)。 (オ)同日午後3時40分,c医師らを術者として,血栓摘除術(以下「本件血栓摘除術」という。)が開始された(乙A2・20頁,109頁)。同日午後3時58分,下肢動脈造影で左大腿動脈の閉塞像が確認され(乙A18,19),フォガティーカテーテルが挿入された(乙A2・109頁)。その後,午後4時12分,左大腿部付け根付近で造影剤が血管外に流出し(乙A20),左大腿動脈断裂が確認された(乙A1・1頁)。 (カ)同日午後5時55分,d医師らを術者として,大腿動脈から膝窩動脈へのバイパス術(以下「本件バイパス術」という。)が開始された。 同手術においては,膝関節後部に末梢吻合が置かれた(乙A2・15,111頁)。 (キ)同日午後9時40分,原告は,全身色不良,冷感あり,左患肢チアノーゼ著明であった(乙A2・121頁)。 カ8月15日,原告は,左足の皮膚色不良,足背動脈が触知できない状態が続き(乙A2・18頁),9月5日,足趾先端に壊死が認められ,同日以降,左下肢壊死が進行した(乙A2・26,27頁)。 キ9月16日,原告は,左足が壊死状態となった。同月17日,原告は,f病院(以下「f病院」という。)の血管外科外来を受診し,切断を要するとの説明を受け,被告病院を退院してf病院に転院した(甲A1の4・279,289頁,乙A2・27頁)。 ク10月21日,原告は,f病院において,左大腿切断術を受けた(甲A1の1・19頁,甲A1の3・265頁)。 ケe病院におけるその余の診療経過は,別紙「e病院診療経過一覧表」(略)のとおりであり,被告病院におけるその余の診療経過は,別紙「診療経過一覧表」(略)のとおりである(ただし,いずれも当事者の主張に争いがある部分を除く。)。 争点 (1)注意義務違反の有無ア人工関節置換術に 被告病院におけるその余の診療経過は,別紙「診療経過一覧表」(略)のとおりである(ただし,いずれも当事者の主張に争いがある部分を除く。)。 争点 (1)注意義務違反の有無ア人工関節置換術における手技上の注意義務違反の有無(原告の主張)被告病院の担当医師は,本件置換術において,不適切な手技により,誤ってメス又は鋏等の器具により,原告の膝窩動脈を断裂,離断させたものであり,被告病院の担当医師には,同手術にあたり,膝窩動脈を断裂,切断させた手技上の注意義務違反がある。 また,仮に原告の左大腿動脈の損傷が人工関節置換術における伸展によって生じたものであるとすれば,被告病院の担当医師には,通常ではあり得ない異常な外力を加えたことにより,血管を損傷させるような形で伸展させた手技上の注意義務違反がある。 (被告の主張)人工関節置換術の際は,前十字靱帯を切離して,頸骨を十分前方に引き出したうえで後十字靱帯を直視下に頸骨付着部で切離しているので,その後方にある関節包やさらに後ろにある血管を損傷することは考えられない。 被告病院の担当医師は,本件置換術において,手術操作である膝の曲げ伸ばし以外に外力を加えていない。血管に伸展ストレスが生じて,損傷が引き起こされたのは,動脈硬化症により血管の伸縮性が少なかったところに,トライアルや人工関節の挿入により,膝後方が開いた状態になったためであると考えられる。 よって,本件置換術において,手技上の注意義務違反はない。 イ閉塞性動脈硬化症の合併の有無を事前に確認すべき注意義務違反の有無(予備的主張)(原告の主張)(ア)原告が閉塞性動脈硬化症に罹患していたことについて原告は,本件置換術前から,基礎疾患として閉塞性動脈硬化症に罹患していた。 a臨床症状原告には,本件塞栓術前から,夏でも靴下を履かな 張)(ア)原告が閉塞性動脈硬化症に罹患していたことについて原告は,本件置換術前から,基礎疾患として閉塞性動脈硬化症に罹患していた。 a臨床症状原告には,本件塞栓術前から,夏でも靴下を履かないと眠れないというような冷感,しびれがあり,Fontaine分類によれば,閉塞性動脈硬化症Ⅰ度の状態であった。 b画像所見(a)閉塞性動脈硬化症の病変は,血管壁の不整像であるところ,8月14日午後3時58分撮影の左下肢レントゲン写真(乙A18)によれば,大腿動脈の血管壁に凹凸が認められ,閉塞性動脈硬化症の存在が推測される。 (b)また,同レントゲン写真(乙A18)によれば,大腿動脈が大腿中央部で閉塞し,その閉塞の上端の形が上に凸状になっていることが認められ,同部位に血栓が形成され,閉塞が生じたことが示されている。 そして,上記閉塞部位は,本件置換術の際にターニケットを巻いて大腿動脈を一時的に閉塞させた部位と一致している。ターニケットで一時的に閉塞した部位に血栓が生じたということは,動脈に閉塞を生じやすい病態,すなわち動脈硬化性病変,閉塞性動脈硬化症が存在していたことを推測させるものである。 (c)健常人は,下腿に3本のほぼ同じ太さの動脈が走行しているが,8月14日午後2時28分撮影のMRA(乙A12)には,下腿に 動脈が1本しか写っていない。これは,他の2本の動脈が閉塞しているためであり,閉塞性動脈硬化症が存在していたことを示している。 c診療情報提供書の記載被告病院の担当医師は,f病院に宛てた診療情報提供書(甲A1の4・289頁)に「大腿動脈は粥状硬化が著しく内腔が狭小化していた」旨記載した。その状態は,まさに閉塞性動脈硬化症そのものである。 (イ)注意義務被告病院の担当医師は,原告が当時73歳と高齢であったことから, に「大腿動脈は粥状硬化が著しく内腔が狭小化していた」旨記載した。その状態は,まさに閉塞性動脈硬化症そのものである。 (イ)注意義務被告病院の担当医師は,原告が当時73歳と高齢であったことから,動脈硬化症状を発症している可能性を念頭におく必要があった。その上で,人工関節置換術を施行するに当たり,原告が閉塞性動脈硬化症を合併しているか,足の動脈拍動が消失しているかについて,足背動脈や後脛骨動脈の触診を行うなどして,事前に確認すべき注意義務があった。 (ウ)注意義務違反にもかかわらず,被告病院の担当医師は,上記確認をしないまま本件置換術を施行し,原告の閉塞性動脈硬化症を急性増悪させた。 (被告の主張)被告病院の担当医師には,人工関節置換術を施行するに当たり,足の動脈拍動を確認すべき注意義務はなかった。 (ア)原告は,基礎疾患として閉塞性動脈硬化症に罹患していたものではない。 a臨床症状について(a)原告には,間欠性跛行等の閉塞性動脈硬化症を診断する際に出現する症状がなかった。 (b)原告には,高血圧,糖尿病,高脂血症,喫煙,高尿酸血症,肥 満等の閉塞性動脈硬化症におけるリスクファクターがなかった。 (c)原告の主張する冷感,しびれは,腰椎疾患由来のものと考えることができ,閉塞性動脈硬化症の症状と断定できるものではない。 b画像所見について(a)8月14日撮影の各MRA(乙A12ないし17)では,いずれも障害部位(血管の部分断裂部位)以外に,血管の閉塞,狭窄像が認められておらず,閉塞性動脈硬化症の症状を表していない。 なお,原告は,MRAで下腿に動脈が1本しか写っていないことを閉塞性動脈硬化症が存在していたことの根拠とするが,MRAは,太い血管をみるためのものであり,膝下の細い血管を正確に評価することはできないし,膝下 は,MRAで下腿に動脈が1本しか写っていないことを閉塞性動脈硬化症が存在していたことの根拠とするが,MRAは,太い血管をみるためのものであり,膝下の細い血管を正確に評価することはできないし,膝下の血管の写りが悪いのは加齢によるものであり,上記各MRAから閉塞性動脈硬化症の診断をすることはできない。 (b)8月14日午後3時58分撮影の左下肢レントゲン写真(乙A18,19)には大腿動脈の途絶像が認められ,途絶部位には血栓が形成されているが,途絶部位及びその近位で血管が細くなっている部分はないので,閉塞性動脈硬化症由来の血栓とは考えられない。 (c)むしろ,以下の点からすれば,本件置換術により人工関節を入れるトライアルの時,原告の膝窩動脈から大腿動脈の下部までの間の血管に伸展ストレスが加わったことによって,途絶部位より末梢側に血管の部分断裂(損傷)が生じ,そこで形成された血栓が血管を逆流する形で大腿動脈が途絶したと考えることができる。 本件置換術前に撮影されたレントゲン写真(乙A3)によれば,ⅰ大腿骨後方の増殖した骨棘の上縁から脛骨後方の下縁までの距離は6cmであるが,本件置換術後に撮影されたレントゲン写真(乙A11,22)によれば,上記距離は11.5cmに伸びて いる。これによれば,後方の軟部組織(筋肉,神経,血管)が5. 5cm伸びたことが認められ,血管及び神経が5.5cm伸ばされたことによる伸展ストレスが働いたと推認される。 本件置換術前20度であった膝屈曲拘縮が本件置換術により伸ⅱ展0度まで改善している。 (d)原告は,閉塞性動脈硬化症の基礎疾患があったところに,ターニケットが原因で血栓が形成され,閉塞が生じたと主張するが,血栓形成にターニケットが関与したとすれば,血栓はターニケットの上端及び下端に形成されるはずであ 動脈硬化症の基礎疾患があったところに,ターニケットが原因で血栓が形成され,閉塞が生じたと主張するが,血栓形成にターニケットが関与したとすれば,血栓はターニケットの上端及び下端に形成されるはずである。ところが,8月14日午後3時58分撮影の左下肢レントゲン写真(乙A18,19)によれば,血栓が形成されたのはターニケットのある位置のほぼ中央であるから,ターニケットによって血栓が形成され,閉塞が生じたとは考えられない。 c術中の出血量について本件置換術において,ターニケットを解除したとき,原告は,500ccも出血しているが,閉塞性動脈硬化症ではこのような短時間での多量の出血は考えられない。 d側副血行路,下肢の血行について(a)閉塞性動脈硬化症が存在していたとすれば,側副血行路の発達により,急性の動脈閉塞が生じても足の壊死は起こらないと考えられるが,f病院における血管造影所見(甲A2ないし4)でも,膝下には側副血行路はなく,原告が閉塞性動脈硬化症に罹患していたとは考えられない。 (b)f病院の診療録(甲A1の1・9頁)に,健側の右下肢血行を示す記載があるが,年齢相応の変化であり,足背動脈も触れている。 閉塞性動脈硬化症は全身性疾患であるので,閉塞性動脈硬化症があ ったとすれば,健側の血管が年齢相応の変化しかないとは考えにくい。 (イ)血行障害を疑わせる臨床症状がない場合には,理学所見をとったり,検査を行ったりする必要はない。そして,原告は,血行障害を疑わせる訴えや所見がみられなかったものである。 ウ術前に心臓血管外科医に相談し,ターニケットを使用しないで手術をすべき注意義務違反の有無(予備的主張)(原告の主張)(ア)注意義務被告病院の担当医師には,原告が閉塞性動脈硬化症を合併している場合,人工関節置換術を施行するに ーニケットを使用しないで手術をすべき注意義務違反の有無(予備的主張)(原告の主張)(ア)注意義務被告病院の担当医師には,原告が閉塞性動脈硬化症を合併している場合,人工関節置換術を施行するに当たり,術前に心臓血管外科医に,人工関節置換術の手術の適応の有無やターニケット使用の有無について相談するなどして,ターニケットを使用しないで手術をすべき注意義務があった。 (イ)注意義務違反にもかかわらず,被告病院の担当医師は,漫然とターニケットを使用して本件置換術を実施したため,原告の閉塞性動脈硬化症を急性増悪させた。 (被告の主張)原告は,前記イ被告の主張(ア)のとおり,閉塞性動脈硬化症を合併していなかったものである。 よって,被告病院の担当医師には,心臓血管外科医に人工関節置換術の手術適応の有無等を相談すべき義務はなく,本件置換術においてターニケットの使用を避けるべき義務もない。 エ血栓摘除術前に心臓血管外科医に相談するか,転送し,ドップラー血流計で血流の有無を的確に診断し,適応の有無を判断してから本件血栓摘除 術を行うべき注意義務違反の有無(原告の主張)(ア)注意義務被告病院の担当医師は,本件血栓摘除術に先立ち,心臓血管外科医に相談ないし転送し,血栓摘除術の適応の有無,血栓溶解療法等の保存的治療の適応の有無等について助言を得るべきであった。また,ドップラー血流計で血流の有無を確認し,保存的療法の適応の有無を判断すべきであった。 (イ)注意義務違反にもかかわらず,被告病院の担当医師は,上記義務をいずれも怠り,漫然と本件血栓摘除術を施行して,原告が血栓溶解療法等の保存的治療を受ける機会を失わせた。 (被告の主張)(ア)ドップラー血流計の使用についてaドップラー血流計は,再現性に乏しく,客観的な評価法ではないから, 除術を施行して,原告が血栓溶解療法等の保存的治療を受ける機会を失わせた。 (被告の主張)(ア)ドップラー血流計の使用についてaドップラー血流計は,再現性に乏しく,客観的な評価法ではないから,これにより血流の有無を診断することは,何らかの血管造影を行うかどうかについての判断材料にはなるが,それのみで血栓摘除術の適応の有無は判断できない。 b人工関節置換術後に突然の下肢の冷感,血流障害を示唆する皮膚色変化,足背動脈触知不能を認めた際には,急性の動脈閉塞を考えるのが一般的である。これは,下肢切断に至る可能性を含んでおり,早急な診断,治療が必要な病態である。 そして,早急な診断が求められる状況では,MRAが最も有用な検査である。被告病院の担当医師は,侵襲が少なく,かつ,客観性と再現性に富むMRAを施行したものであり,注意義務違反はない。 (イ)保存的治療の適応について前記イ被告の主張(ア)のとおり,原告は閉塞性動脈硬化症に罹患していた ものではなく,側副血行路は存在していなかった。そして,側副血行路のない急性動脈閉塞の場合には保存的治療は第一選択とはされないから,被告病院の担当医師には,保存的治療の適応の有無を確認すべき義務はなかった。 オ本件血栓摘除術におけるカテーテル手技上の注意義務違反の有無(原告の主張)(ア)注意義務被告病院の担当医師には,本件血栓摘除術において,カテーテルを適切に使用すべき手技上の注意義務があった。 (イ)注意義務違反にもかかわらず,被告病院の担当医師は,本件血栓摘除術において,カテーテル手技を誤り,無理に強く押し込むなど不適切な使用をしたため,それまで閉塞していなかった左大腿動脈を損傷させ,また,下肢に流れていた側副血管までも損傷させた。 (被告の主張)(ア)カテーテル手技について被告 無理に強く押し込むなど不適切な使用をしたため,それまで閉塞していなかった左大腿動脈を損傷させ,また,下肢に流れていた側副血管までも損傷させた。 (被告の主張)(ア)カテーテル手技について被告病院の担当医師は,愛護的にカテーテルを挿入しており,不適切な手技を行ったものではない。 (イ)左大腿動脈損傷の原因について前記ア被告の主張に記載のとおり,左大腿動脈の部分損傷は,本件置換術において,膝窩動脈から大腿動脈の下部までの間で,血管に伸展ストレスが加わったことにより,既に生じていたものであり,本件血栓摘除術によって新たに生じたものではない。 上記部分損傷があったため,本件血栓摘除術において,愛護的にカテーテルを挿入したが,血管断裂が生じたものであり,手技上の注意義務違反はない。 カバイパス術に先立ち,心臓血管外科医に相談又は転送すべき注意義務違 反の有無(原告の主張)(ア)注意義務大腿動脈-膝窩動脈バイパス術は難易度Cであって,難易度の高い手術であるから,被告病院の担当医師には,バイパス術を行うに先立ち,保存的治療の可能性,バイパス術の適応の有無,バイパス術をする場合には末梢吻合部はどこに選択するのが適切か,使用するバイパスグラフト材料は人工血管にすべきか自家静脈を用いるべきかなどの注意点について,専門医である心臓血管外科医に相談するか,あるいは原告を心臓血管外科医に転送すべき義務があった。 (イ)注意義務違反にもかかわらず,被告病院の担当医師は,心臓血管外科医に相談することなく自ら本件バイパス術を施行し,不適切な部位を末梢吻合部としたため,人工血管を開存部に吻合することができず,本件バイパス術に失敗した。 (被告の主張)被告病院の担当医師には,バイパス術に先立ち,心臓血管外科医に相談し,又は原告を転送すべき義務は 吻合部としたため,人工血管を開存部に吻合することができず,本件バイパス術に失敗した。 (被告の主張)被告病院の担当医師には,バイパス術に先立ち,心臓血管外科医に相談し,又は原告を転送すべき義務はなかった。 (ア)大腿から膝上までのバイパス手術は,難易度Bである。被告病院は,慢性腎不全患者の大腿動脈バイパス手術や大腿動静脈シャント手術の経験数も多く,被告病院におけるバイパス術の施行に不都合はなかったから,専門医である心臓血管外科医に相談したり,原告を転送したりする必要はなかった。 (イ)下肢の急性動脈閉塞後,虚血により組織が不可逆性変化を起こし,壊死するのは,虚血発症後6~8時間以降であり,それ以前に血行が再開されれば虚血肢が救済される可能性が高い。 しかし,下肢動脈造影で大腿動脈の閉塞像を確認し,フォガティーカテーテルを挿入した8月14日午後3時58分の時点で,心臓血管外科医に連絡 をとり,転送の了承を得て,搬送からバイパス術終了までスムーズに進んだと仮定しても,被告病院において本件血栓摘除術が終了した午後4時45分から起算して,最低でも,受入れ先までの搬送に30分,手術準備に1時間,バイパス術に2時間30分,合計4時間を要したと考えられる。被告病院における本件バイパス術が終了したのは午後8時45分であり,心臓血管外科医へ転送したとしても,バイパス術終了までの所要時間が短縮されたとは考えられない。 むしろ,病院の人員交代の時間帯である夕方において,搬送から手術準備,手術終了までがスムーズに進むとは考えにくく,かえってバイパス術終了までに長時間を要したと考えられること,出血性ショックなどにより搬送中に急変する可能性もあることなどからすると,転送が適切な処置であったとはいえない。 キバイパス術に先立ち,末梢血管の開存を確認し,適 に長時間を要したと考えられること,出血性ショックなどにより搬送中に急変する可能性もあることなどからすると,転送が適切な処置であったとはいえない。 キバイパス術に先立ち,末梢血管の開存を確認し,適式な術式により適切な末梢吻合部につなぐべき注意義務違反の有無(原告の主張)(ア)注意義務被告病院の担当医師には,バイパス術を行うに当たり,血管の末梢がどこまで開存しているかを確認し,適式な術式により適切な末梢吻合部につなぐべき注意義務があった。 (イ)注意義務違反ところが,被告病院の担当医師は,末梢血管の開存を確認せず,適切な末梢吻合部位を把握しなかったため,本来は膝関節より下方で下腿の内側を切開して膝窩動脈を露出して,ここに末梢吻合を置くべきであったにもかかわらず,膝関節の後面から膝窩動脈を露出し,膝関節の裏を末梢吻合部位とし,バイパス術に失敗した。 また,バイパス術では,人工血管より自家静脈を使用すべきところ, 自家静脈を使用しなかった。 なお,8月14日午後4時12分撮影のレントゲン写真(乙A20)では,大腿動脈が損傷され,閉塞を生じていることは確認できるが,下方の動脈閉塞がどこまで伸展し,どこから開存しているかを確認できないため,適切な末梢吻合部位を確認したものとはいえない。 (被告の主張)被告病院の担当医師は,適切な末梢吻合部位を選択しており,末梢血管の開存確認についての注意義務違反はない。 (ア)本件のように,外傷による動脈の高度な損傷が生じた症例において,損傷されたと考えられる膝窩動脈に膝窩面から直接的にアプローチすることは,損傷された動脈を処理しやすく,手術時間を最短にできるなどの点で合理性がある。 また,手術体位を左側臥位としたのも,大腿動脈-膝窩動脈バイパスが必要となる場合を想定したものであり,手術創を清潔 は,損傷された動脈を処理しやすく,手術時間を最短にできるなどの点で合理性がある。 また,手術体位を左側臥位としたのも,大腿動脈-膝窩動脈バイパスが必要となる場合を想定したものであり,手術創を清潔に保てば,容易に患者を仰臥位にすることができるから,問題はない。 (イ)原告は,膝関節より下方で下腿の内側を切開して膝窩動脈を露出して,ここに末梢吻合を置くべきであったと主張するが,原告は閉塞性動脈硬化症に罹患していたものではないから,上記アプローチを用いる必要はなかった。 ク術後早期に心臓血管外科医に相談するなどして,再度のバイパス術を施行すべき注意義務違反の有無(原告の主張)(ア)注意義務原告は,本件バイパス術施行後も,左足背動脈は触知しない状態であったが,早期に再度バイパス手術を施行していれば,大腿切断を免れた可能性があった。 よって,被告病院の担当医師には,本件バイパス術に失敗してバイパスが閉塞したことが明らかになった時点で,心臓血管外科医に相談して再度バイパス手術を行うか,又は原告を心臓血管外科医に転送してバイパス手術を受けさせるべき注意義務があった。 (イ)注意義務違反にもかかわらず,被告病院の担当医師は,本件バイパス手術後,約1か月間,心臓血管外科医に相談をせず,また,原告を転送しもせず,再度のバイパス術を施行しなかった。その結果,原告の血管の状態はさらに悪化し,左下腿壊死,左膝創癒合不全の状態となり,左大腿切断を招いた。 (被告の主張)被告病院の担当医師が再度のバイパス術を行わなかったのは,以下のような事情があったからであり,再度のバイパス術を施行すべき義務はなかった。 (ア)虚血発症から6~8時間までのゴールデンタイム内に血行が再開されれば虚血肢が救済される可能性が高いが,これを過ぎてから虚血肢の血流が からであり,再度のバイパス術を施行すべき義務はなかった。 (ア)虚血発症から6~8時間までのゴールデンタイム内に血行が再開されれば虚血肢が救済される可能性が高いが,これを過ぎてから虚血肢の血流が再開した場合は,MNMS(血行再建後症候群)発症の可能性が高い。本件バイパス術が完了した午後8時45分ころの時点で,すでに虚血発症から8時間30分が経過しており,血行を再開すればMNMSを発症させる危険性があった。 (イ)また,原告は,すでに2回の全身麻酔及び手術による侵襲のために,全身状態が不安定であった。 ケ説明義務違反の有無(原告の主張)(ア)注意義務被告病院の担当医師は,本件バイパス術の失敗が明らかになった後である8月15日の時点において,原告に対し,本件バイパス術が失敗に終わり, 手術をした血管の血行が途絶していることなど,病状を正確に説明すべき義務があった。 (イ)注意義務違反にもかかわらず,被告病院の担当医師は,本件バイパス術後,原告に対し,「一応拍動は触れているので,生きるための最低限の血は流れている。このままだと切断なんて話になってしまうところだった。後遺症は残らない。」,「血流は,少しはよくなりました。最低の血流は流れていると思います。」などと事実に反する説明をし,病状を正確に説明しなかった。そのため,原告は,心臓血管外科医に転院して再手術を受ける機会を逸し,下肢切断を免れる可能性を失った。 (被告の主張)原告の主張は争う。 被告病院の担当医師が,原告に対し,切断には至らないとか,後遺症が残らないなどと説明したことはなく,血流がよくなったと話したこともない。 (2)因果関係の有無(原告の主張)ア人工関節置換術における手技上の注意義務違反(争点(1)ア)と左大腿切断との因果関係原告は,被告病院の ことはなく,血流がよくなったと話したこともない。 (2)因果関係の有無(原告の主張)ア人工関節置換術における手技上の注意義務違反(争点(1)ア)と左大腿切断との因果関係原告は,被告病院の担当医師が,本件置換術において,メスや鋏等の操作を誤ったことにより,膝窩動脈が離断し,その後の不適切な止血処置により血栓が生じ,大腿動脈を閉塞し,左下肢壊死,左大腿切断に至ったものである。 よって,前記(1)アの手技上の注意義務違反がなければ,原告が左大腿切断に至ることはなかったのであり,同注意義務違反と左大腿切断との間には因果関係が認められる。 イ閉塞性動脈硬化症の合併,動脈拍動の消失等を確認すべき注意義務違反(争点(1)イ)と左大腿切断との因果関係(予備的主張)被告病院の担当医師が,本件置換術の施行に当たり,原告が閉塞性動脈硬化症を合併しているか,足の動脈拍動が消失しているかを確認していれば,閉塞性動脈硬化症の診断をすることができ,ターニケットを使用して本件置換術を実施することはなかった。そして,ターニケットを使用せずに本件置換術を施行していれば,閉塞性動脈硬化症が急性増悪することはなく,下肢虚血から壊死,左大腿切断に至ることを回避できた。 よって,前記(1)イの注意義務違反と左大腿切断とには因果関係が認められる。 ウ心臓血管外科医に人工関節置換術の手術適応の有無やターニケットの使用の有無について相談するなどして,ターニケットを使用しないで手術をすべき注意義務(争点(1)ウ)と左大腿切断との因果関係(予備的主張)被告病院の担当医師が,心臓血管外科医に人工関節置換術の手術適応の有無やターニケットの使用の有無について相談するなどして,ターニケットを使用しないで本件置換術を施行していれば,閉塞性動脈硬化症が急性増悪することはなく,下 臓血管外科医に人工関節置換術の手術適応の有無やターニケットの使用の有無について相談するなどして,ターニケットを使用しないで本件置換術を施行していれば,閉塞性動脈硬化症が急性増悪することはなく,下肢虚血から壊死,左大腿切断に至ることを回避できた。 よって,前記(1)ウの注意義務違反と左大腿切断とには因果関係が認められる。 エ心臓血管外科医に相談するなどして,ドップラー血流計で血流の有無を的確に診断し,適応の有無を判断してから本件血栓摘除術を行うべき注意義務(争点(1)エ)と左大腿切断との因果関係被告病院の担当医師が,心臓血管外科医に相談するなどして,ドップラー血流計で血流の有無を的確に診断し,血栓摘除術の適応の有無を確認していれば,血栓溶解療法等の保存的治療を選択し,これにより症状が軽快して,左大腿切 断に至ることを回避できたと考えられる。 よって,前記(1)エの注意義務違反と左大腿切断とには因果関係が認められる。 オ本件血栓摘除術におけるカテーテル手技上の注意義務違反(争点(1)オ)と左大腿切断との因果関係被告病院の担当医師が,本件血栓摘除術において,適切なカテーテル手技を行っていればそれまで閉塞していなかった左大腿動脈を損傷することはなく,左下肢虚血の重篤化,左大腿切断を回避することができた。 よって,前記(1)オの注意義務違反と左大腿切断とには因果関係が認められる。 カバイパス術に先立ち,心臓血管外科医に相談又は転送すべき注意義務違反(争点(1)カ)と左大腿切断との因果関係被告病院の担当医師が,本件バイパス術を施行するにあたり,事前に心臓血管外科医に相談し,又は原告を転送していれば,不適切な部位で末梢吻合をしてバイパス術に失敗することはなく,左下肢壊死,左大腿切断に至ることを回避できた。 よって,前記(1)カの注意義 ,事前に心臓血管外科医に相談し,又は原告を転送していれば,不適切な部位で末梢吻合をしてバイパス術に失敗することはなく,左下肢壊死,左大腿切断に至ることを回避できた。 よって,前記(1)カの注意義務違反と左大腿切断とには因果関係が認められる。 キバイパス術に先立ち,末梢血管の開存を確認すべき注意義務(争点(1)キ)と左大腿切断との因果関係被告病院の担当医師が,本件バイパス術を施行するに当たり,末梢血管の開存を確認していれば,不適切な部位で末梢吻合をしてバイパス術に失敗することはなく,左下肢壊死,左大腿切断に至ることを回避できた。 よって,前記(1)キの注意義務違反と左大腿切断とには因果関係が認められる。 ク術後早期に心臓血管外科医に相談するなどして,再度のバイパス術を施 行すべき注意義務(争点(1)ク)と左大腿切断との因果関係被告病院の担当医師が,本件バイパス術に失敗してバイパスが閉塞したことが明らかになった時点で,心臓血管外科医に相談して再度バイパス手術を行うか,又は原告を心臓血管外科医に転送してバイパス手術を受けさせていれば,左下肢壊死,左大腿切断に至ることを回避することができた。 よって,前記(1)クの注意義務違反と左大腿切断とには因果関係が認められる。 ケ説明義務違反(争点(1)ケ)と左大腿切断との因果関係被告病院の担当医師が,8月15日の時点において,原告に対し,病状を正確に説明していれば,原告は,心臓血管外科医に転院して再度のバイパス術を受けたと考えられ,これにより左下肢切断を回避することができたといえる。 よって,前記(1)ケの説明義務違反と左大腿切断とには因果関係が認められる。 (被告の主張)原告の主張する注意義務違反は,いずれも左大腿切断と因果関係がない。 ア原告は,前記(1)イ被告の主張(ア)のとおり,閉 1)ケの説明義務違反と左大腿切断とには因果関係が認められる。 (被告の主張)原告の主張する注意義務違反は,いずれも左大腿切断と因果関係がない。 ア原告は,前記(1)イ被告の主張(ア)のとおり,閉塞性動脈硬化症に罹患していたものではないから,これが急性増悪したことにより左下肢虚血に至ったとは認められない。 よって,原告の主張する前記(1)イ及び同ウの注意義務違反と左大腿切断との間に因果関係はない。 イドップラー血流計で血流の有無を診断したとしても,側副血行のない急性動脈閉塞に,保存的治療は第一選択とはされない。 よって,原告の主張する前記(1)エの注意義務違反と左大腿切断との間に因果関係はない。 ウ本件血栓摘除術によって結果的に左大腿動脈の完全断裂が生じたとしても,これがその後のバイパス術に悪影響を及ぼしたとは考えられない。 よって,原告の主張する前記(1)オの注意義務違反と左大腿切断との間に因果関係はない。 エ前記(1)カ被告の主張(イ)のとおり,本件血栓摘除術後に原告を心臓血管外科医に搬送していたとしても,バイパス術終了までの所要時間が短縮されたとは考えられない。 よって,原告の主張する前記(1)カの注意義務違反と左大腿切断との間に因果関係はない。 (3)損害(原告の主張)ア治療費98万0558円イ休業損害152万2946円賃金センサス女子労働者学歴計全年齢平均年収351万8200円を基礎とすれば,家事従事者の入院期間158日(平成15年8月13日から平成16年1月17日まで)分の休業損害は,次のとおり152万2946円である。 351万8200円×158日÷ 365日=152万2946円ウ逸失利益2116万9924円原告は,一下肢を膝関節以上で失ったものであり,後遺障害等級4級(労働能力喪失率92% 46円である。 351万8200円×158日÷ 365日=152万2946円ウ逸失利益2116万9924円原告は,一下肢を膝関節以上で失ったものであり,後遺障害等級4級(労働能力喪失率92%)に該当する。 よって,賃金センサス女子労働者学歴計全年齢平均年収351万8200円を基礎に,労働能力喪失率を92%,労働能力喪失期間を平均余命の2分の1である8.12年(症状固定時73歳)とし,ライプニッツ方式(8.12年のライプニッツ係数6.5405)により中間利息を控除すれば,原告の逸失利益は,次のとおり2116万9924円である。 351万8200円×0.92×6.5405=2116万9924円 エ傷害慰謝料358万円入院5か月(平成15年8月13日から平成16年1月17日まで)及び通院36か月(平成16年1月18日から平成18年12月25日まで)の傷害慰謝料は,358万円が相当である。 なお,原告は,現在も通院継続中であり,上記は,一部請求として平成18年12月25日までの入通院に応じた傷害慰謝料を請求するものである。 オ後遺症慰謝料(後遺障害等級4級)1670万円カ装具購入費100万7064円キ家屋改造費43万8900円ク付添看護費合計159万3623円(ア)介護保険利用料17万3923円原告は,今後も付添看護を必要とし,介護保険利用料負担の損害が発生するが,上記は,一部請求として平成17年8月ないし平成19年4月までの利用料を請求するものである。 (イ)入院付添看護費102万7000円6500円×158日=102 万7 000円(ウ)通院付添看護費39万2700円 3 3 00 円×119日(平成18年12月25日まで)=3 9万27 00円ケ入院雑費23万7000円1500円×1 58日=102 万7 000円(ウ)通院付添看護費39万2700円 3 3 00 円×119日(平成18年12月25日まで)=3 9万27 00円ケ入院雑費23万7000円1500円×158日=23万7000円コ切断部位火葬費1万6555円サ弁護士費用500万円シ損害の填補▲132万4885円(ア)高額医療費支給39万5098円(イ)住宅改修・福祉用具・義足費支給92万9787円 ス請求のまとめ前記アないしサの損害額合計は5224万6570円であるところ,前記シの損害填補額132万4885円を控除すると,5092万1685円となる。 よって,原告は,被告に対し,不法行為(使用者責任)又は診療契約の債務不履行に基づき,一部請求として,上記損害賠償金の内金5001万6790円及びこれに対する不法行為の後である平成15年10月21日(左大腿切断に至った日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)原告の主張は争う。 第3当裁判所の判断 認定事実前記前提事実のほか,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告の診療経過について,以下の事実が認められる。 (1)8月13日までの経過ア平成11年12月3日,原告は,左膝痛のために,e病院への通院を開始し,b医師の診察を受け,左変形性膝関節症との診断を受けた。その後,e病院で注射療法を受けながら経過観察を続けていたが,屈曲拘縮が進行してきたため,平成15年2月7日,b医師から,人工膝関節置換術の適応があると診断され,同手術の施行を勧められた(甲A5,乙A1・3頁,乙A2・3頁,乙A23・1ないし99頁,乙A26,証人b反訳書1・1,2頁,原告反訳書2・1,2頁)。 イ7月19日,原告は,左膝痛を主訴に,人工 同手術の施行を勧められた(甲A5,乙A1・3頁,乙A2・3頁,乙A23・1ないし99頁,乙A26,証人b反訳書1・1,2頁,原告反訳書2・1,2頁)。 イ7月19日,原告は,左膝痛を主訴に,人工膝関節置換術を受ける目的で,b医師の勤務する被告病院を受診した。同日,原告に対し左膝のレントゲン検査が施行され,同画像上,変形性膝関節症の所見が認められた。 人工膝関節置換術の適応と判断され,8月13日に入院し,同月14日に同手術を行うこととされた(乙A1・2頁,乙A3ないし5)。 ウ8月13日,原告は,人工膝関節置換術施行を目的として,被告病院に入院した。同日,原告には,膝関節水腫,他動伸展-20度,他動屈曲100度の屈曲拘縮が認められた。胸部,左大腿部,左膝,左下腿のレントゲン検査が施行された(乙A2・3,17,87頁,乙A6ないし9)。 (2)8月14日の経過ア本件置換術の施行(乙A2・12ないし14,17,83,102,113頁,乙A25,27,証人b反訳書1・3ないし6頁)。 午前10時から午前11時30分まで(麻酔は午前9時30分から午後零時25分まで),原告に対し,b医師を術者として,本件置換術が施行された。本件置換術ではPS型(後十字靭帯代償型)の人工膝関節が用いられ,屈曲拘縮の改善のために後十字靭帯の切離や後方関節包の剥離が行われた。術中出血量は545mlであった。 本件置換術の具体的な手順は以下のとおりであった。 (ア)皮膚切開膝前面に25cmの直線上の皮膚切開を行った。 (イ)軟部組織の切離,剥離傍内側からアプローチした。膝屈曲110度とし,膝蓋骨を反転し,エレバを用いて関節と膝蓋骨の間にスペースを置いた。さらに,脛骨粗面の膝蓋腱を一部カットした。上方は四頭筋まで一部切り込んだ。関節包,前十字靭帯,後十字靭 した。膝屈曲110度とし,膝蓋骨を反転し,エレバを用いて関節と膝蓋骨の間にスペースを置いた。さらに,脛骨粗面の膝蓋腱を一部カットした。上方は四頭筋まで一部切り込んだ。関節包,前十字靭帯,後十字靭帯,半月板を切除した。骨棘も一部切除し,内外側の靭帯も一部剥離した。 (ウ)骨切り後十字靭帯の上方1cmのところに丸ノミで穴を開けた。IMドリルを用いた後,ロッドを挿入した。 外反角を7度とし,IMプッシングガイド7度を選択した。アンテリアーリセクションガイド(前方部分のガイド)を使用し,前面の骨切りを行った。 遠位部分の骨切りガイドで遠位の骨切りを行った。ここでテンプレートを当て,Sサイズに決定した。 次に,多方向の骨切りガイドを使用し,前方,後方チャンファー部(突出部)の切除を行い,後方の骨切りも行った。 脛骨アライメントガイド(軸ガイド)を用いて,脛骨後方傾斜10度となるように骨切りし,脛骨内側面の一番低いところに合わせた。 (エ)トライアル,セメンティング,コンポーネントの設置等スペサーを挿入し,内外側のバランス,可動域を確認した。 脛骨ドリルガイドを用いて,ステムドリル,ペグドリルで穴を作成した。 大腿骨トライアルを置き,ペグドリルで穴を作成した。 トライアルにより安定性,可動域を確認した。 パテラ切除用のガイドを用いて膝蓋骨の骨切りを行った。10mmの骨を残しておいた。セメント用のドリルで穴を作成した。 ここでターニケットをゆるめた際,軟部組織,骨切りした骨髄から出血し,これを電気メスで止血した。出血量は400ccであった。 再びターニケットをかけ,ジェット洗浄を行った。 セメントを用い,脛骨,次に大腿骨と膝蓋骨に2回にわけてインプラントをセメンティングした。 外側支帯の切開を加えた。 ジェット洗浄後,ドレーンチューブを留置し,縫 ケットをかけ,ジェット洗浄を行った。 セメントを用い,脛骨,次に大腿骨と膝蓋骨に2回にわけてインプラントをセメンティングした。 外側支帯の切開を加えた。 ジェット洗浄後,ドレーンチューブを留置し,縫合した。 イ本件置換術後の経過(ア)午後零時10分,b医師は,原告の左下肢を観察したところ,足部 の冷感と色調の異常に気付き,足背動脈が触れないことを確認し,血行障害が生じていると判断した(乙A2・17頁,乙A29,証人b反訳書5・1,2頁)。 (イ)午後零時45分,原告は,手術室から病棟へ帰室した。その際,原告は,左足趾を動かすことができず,左足背動脈は触知されず,冷感,知覚鈍麻が認められた(乙A2・121頁)。 (ウ)b医師は,原告の足背動脈が触れなかったことから,血管閉塞を考え,c医師に原告の診察を依頼した。c医師は,原告を診察して,血流障害の症状を認め,血流を調べるために,MRAを施行することとした(証人b反訳書1・6頁,反訳書5・7頁,証人c反訳書2・1頁,反訳書6・1,2頁)。 (エ)午後2時28分から,MRAが施行された。原告の左大腿動脈中央部には途絶像が認められた。c医師は,MRA上,途絶像の断端が血栓で切れたような形をしていたことなどから,原告の左大腿動脈に何らかの原因で血栓が生じてこれが急性に動脈を閉塞したと考え,血流を早期に回復させるために本件血栓摘除術を行うこととした(乙A2・17頁,乙A12ないし17,28,証人c反訳書2・2頁)。 ウ本件血栓摘除術の施行(ア)午後3時40分,c医師らを術者として,本件血栓摘除術が開始された(乙A2・20頁,109頁)。 (イ)午後3時58分,c医師は,下肢動脈造影で左大腿動脈の閉塞像を確認した。その後,c医師がフォガティーカテーテルを挿入したところ,カテーテル 摘除術が開始された(乙A2・20頁,109頁)。 (イ)午後3時58分,c医師は,下肢動脈造影で左大腿動脈の閉塞像を確認した。その後,c医師がフォガティーカテーテルを挿入したところ,カテーテルを膝よりやや上のあたりまで挿入した際,カテーテルの先に,通常の血栓より固い抵抗を認めた。c医師は,その際,カテーテルの先が血管壁に当たっている可能性があるとも考えたが,ここで解決しない場合には手術的治療に進まざるを得ないと考え,そのまま可及的な力を 入れてカテーテルを押し込み,抵抗部を通過させたうえ,予定どおりバルーンを膨らませた。そして,バルーンを膨らませた状態でカテーテルを引き,抵抗を認めたところでバルーンを少ししぼませ,その状態でカテーテルを引く操作を2,3回繰り返した。しかし,それでも血栓が引けなかったため,その後はバルーンを膨らませた状態でカテーテルを引き抜いた(乙A18,19,28,証人c反訳書2・4,5頁,反訳書6・19,20頁)。 (ウ)午後4時12分,下肢動脈造影を行ったところ,左大腿部付け根付近で造影剤が血管外に流出していることが確認された。本件血栓摘除術は,午後4時45分終了となった(乙A2・20頁,乙A19,20,証人c反訳書6・14頁)。 エ本件バイパス術の施行(ア)午後4時45分,被告病院の担当医師は,外科的な血行再建を行うために原告を手術室に移動させ,午後4時55分,全身麻酔を開始した(乙A29)。 (イ)d医師は,本件置換術の術野の最も近くに存在する膝窩動脈が損傷された可能性が大きいと考え,原告を腹臥位にして膝窩の皮膚を切開し,膝後部において膝窩動脈を露出させ,動脈損傷の状態,出血の程度を観察した。原告の膝窩動脈は離断しており,動脈内腔の連続性はなく,離断した動脈は数条の細いらせん状の組織片で連 して膝窩の皮膚を切開し,膝後部において膝窩動脈を露出させ,動脈損傷の状態,出血の程度を観察した。原告の膝窩動脈は離断しており,動脈内腔の連続性はなく,離断した動脈は数条の細いらせん状の組織片で連なっていた。離断した動脈の中枢側断端は,動脈を覆う大腿筋等の組織を移動させれば断端の状態を観察できたものの,血管吻合を行えるようなスペースはなく,また,ほとんど閉塞している状態で縮んでおり,動脈性の出血はなかった。末梢側断端は,中枢側断端から5~6cm離れて縮んだ状態で見出されたが,断端は不整形で内膜や中膜など数条の組織片が血管内腔へ入り込んでいて,出血はなかった。断端を開くと,軽い逆行性の血液流出があっ たが,バネ圧の弱い血管鉗子で容易に止血ができた(乙A29,34,被告代表者反訳書3・2ないし4頁,反訳書7・2,4,5,14頁)。 (ウ)d医師は,前記(イ)のとおり,膝窩動脈の損傷,離断が高度であったことから,大腿動脈から膝窩動脈へのバイパス術が血行再建の唯一の方法であると考えて,同手術を施行することとした。 バイパス手術は午後5時55分から午後8時54分まで行われた(麻酔は午後4時55分から午後9時20分まで)。その際,d医師は,内径6mm,長さ40cmの人工血管を用いて,末梢側は端々吻合を行った。吻合を行うに際し,不整形な断端を鋭利に切離したが,動脈壁に強い粥状硬化や血管内腔の狭窄,石灰化を示唆する所見は見られなかった。 末梢吻合終了後,大腿側面内側に小さい皮膚切開を行い,人工血管を術野から皮下を通し,人工血管の中枢側を切開の穴を通して皮膚の外に留置し,膝窩部の手術創を縫合閉鎖し,原告を仰臥位にした。そして,中枢側の人工血管を鼠径部の血栓摘除術創部に皮下を通して誘導し,この部位で人工血管と浅大腿動脈の端側吻合を行った。吻合直前に 膚の外に留置し,膝窩部の手術創を縫合閉鎖し,原告を仰臥位にした。そして,中枢側の人工血管を鼠径部の血栓摘除術創部に皮下を通して誘導し,この部位で人工血管と浅大腿動脈の端側吻合を行った。吻合直前に人工血管からは,正常な場合に比してかなり弱い逆行性の血流が認められた。また,鼠径部にて人工血管の拍動が確認された。午後8時54分,d医師は,本件バイパス術を終了した(乙A29,被告代表者反訳書3・4頁,反訳書7・6,10,14頁)。 オ本件バイパス術後の所見午後9時40分,原告は,手術室から病室へ帰室した。全身色不良で,左下肢に冷感,チアノーゼが認められ,左足背動脈は触知不良であった。 また,午後11時,創痛が自制できない状態であった(乙A2・121頁)。 (3)8月15日以降の経過ア8月15日,原告は,左足の皮膚色不良であり,足背動脈は触れなかっ た。壊死の範囲は左足関節から足趾にかけての部分のみであった(乙A2・18,121頁,証人b反訳書1・7,8頁)。 イ8月16日午前10時,原告は,左足背動脈が触れず,ドップラーにても聴取されなかった(乙A2・122頁)。 同日,b医師は,原告の夫に対して,「血流は少しは良くはなりました。 熱は創があるためにあります。最低の血流は流れていると思います。疼痛に対しては注射で対処していきたいと思います。人工血管,創の部分が化膿していかないようにしていきたいと思います。」との説明を行い,下肢切断に至る可能性については説明しなかった(乙A2・103頁,乙A27,証人b反訳書5・13ないし15頁)。 ウ原告は,8月17日以降,左下肢痛や左足背動脈が触れない状態が続き,8月20日,下腿に水疱形成が出現し始め,8月22日,創部辺縁部に壊死が認められた(乙A2・23頁)。 エその後も,原告の左下肢痛は 告は,8月17日以降,左下肢痛や左足背動脈が触れない状態が続き,8月20日,下腿に水疱形成が出現し始め,8月22日,創部辺縁部に壊死が認められた(乙A2・23頁)。 エその後も,原告の左下肢痛は増強し,左足背動脈は触れず,左下肢のチアノーゼ,冷感が著明であった。8月30日,左足の爪が全て黒く,足趾から足底にかけて赤黒くなっているところが確認され,8月31日,左足の爪から左足趾にかけてが色調不良で,黒色様であり,9月4日,左足趾が黒くなった(乙A2・26,92,93頁)。 オ9月5日,原告は,左足趾先端に壊死が認められた。以後,9月6日にはかかとにも壊死が認められ,9月8日には足底の壊死も確認され,9月10日には左足先の壊死が著明となった(乙A2・26,97頁)。 カ9月16日,原告は,左足趾から左足関節にかけて壊死が認められた。 b医師は,f病院宛の診療情報提供書を作成し,その中で,「大腿動脈は,粥状硬化が著しく,内腔が狭少化していたため,人工血管置換術後も足背動脈が触れず,下肢の血行は改善しませんでした」,「大腿動脈血栓の原因は,ターニケットによる圧迫か,術中に膝の曲げ伸ばしをしますので, これが原因となっているのではないかと家族に話しをしてあります」と記載した(甲A1の4・289頁,乙A1・4,5頁,乙A2・27頁,証人b反訳書1・8頁)。 (4)f病院での経過ア9月17日,原告は,f病院の血管外科外来を受診し,切断を要するとの説明を受け,被告病院を退院してf病院に転院した(甲A1の4・279,289頁,乙A2・27頁)。 同日,原告に対し,血圧脈波検査が行われた。その結果,右腕と右足首のPWV(脈波伝播速度。13.5m/s以上で動脈硬化の疑いありと評価される。)は13.4であり,「血管の硬さは60代後半に相当します 日,原告に対し,血圧脈波検査が行われた。その結果,右腕と右足首のPWV(脈波伝播速度。13.5m/s以上で動脈硬化の疑いありと評価される。)は13.4であり,「血管の硬さは60代後半に相当します。」との指摘がされた。右足のABI(足関節上腕血圧比。0.9未満は狭窄又は閉塞の疑いありと評価される。)は1.11で正常範囲であった(甲A1の4・280ないし284頁)。 イ9月18日,原告に対し,血管造影が施行された。左浅大腿動脈,膝窩動脈は完全閉塞していたが,大腿深動脈からの側副血行で後脛骨動脈が足関節まで造影された。足関節以下には血管像がみられなかった(甲A1の1・7頁,甲A1の4・279頁,甲A2ないし4)。 ウ10月21日,原告は,左大腿切断術を受けた。(甲A1の1・19頁,甲A1の3・265頁)。 エ平成16年1月7日,原告は,「手術をしなければ良かったのかと色々考え,前向きに考えることができない」と訴えてf病院の精神科神経科を訪れ,軽症うつ病と診断された(甲A1の5・291,300頁)。 争点(1)ア(人工関節置換術における手技上の注意義務違反の有無)について(1)メス又は鋏等により原告の膝窩動脈を断裂,離断させた義務違反について 原告は,被告病院の担当医師には,本件置換術において,不適切な手技により,誤ってメス又は鋏等の器具で原告の膝窩動脈を断裂,離断させた注意義務違反があると主張する。 そして,本件血栓摘除術後,d医師が膝後部にて原告の膝窩動脈を露出した際,膝窩動脈が離断していたことは前記認定(1(2)エ(イ))のとおりである。 そこで,原告の膝窩動脈が離断した機序について検討する。 アg医師は,人工膝関節置換術時の伸展ストレスによって膝窩動脈が離断することはあり得ず,フォガティーカテーテルの操作によって離断 りである。 そこで,原告の膝窩動脈が離断した機序について検討する。 アg医師は,人工膝関節置換術時の伸展ストレスによって膝窩動脈が離断することはあり得ず,フォガティーカテーテルの操作によって離断することもあり得ないから,本件バイパス術前に膝窩動脈の離断があったとすると,本件置換術の段階でメスあるいは鋏等の操作により離断されたと考えざるを得ない旨の意見書を提出する(甲B17)。 そして,膝窩動脈は人工膝関節置換術中に最も危険にさらされる血管であり,後十字靭帯や半月板を切除する際の後方関節包の穿通により膝窩動脈の損傷が起こり得るとする文献(甲B21・319頁,甲B24)や,人工膝関節置換術中に膝窩動脈を損傷したとの症例報告(甲B22,23)が存在することが認められる。また,人工関節置換術における術中出血量が,通常200g程度であるとの文献が存するところ(甲B33),本件置換術においては,545mlとやや多量に出血していることが認められる。 イしかしながら,この点については,以下のとおり指摘することができる。 (ア)メスや鋏等による血管の離断の可能性について前記1(2)アに認定した事実によれば,本件置換術中には545mlの出血があったものの,動脈性の出血や大量出血があった形跡は認められず,止血操作が行われた形跡もない(乙A39)。仮に本件置換術の際に血管が離断したのであれば,ターニケットをはずした際に大量に出 血し,止血処置を講じることなく手術を終了することは難しかったと考えられるところ,本件ではそのような対応がとられた形跡は認められないのであるから,メスや鋏等の器具により膝窩動脈が切断され,あるいは鋭的に損傷されたとは認めることはできない。 (イ)メスや鋏等による血管の損傷の可能性について本件では,バイパス手術前に膝窩動脈の いのであるから,メスや鋏等の器具により膝窩動脈が切断され,あるいは鋭的に損傷されたとは認めることはできない。 (イ)メスや鋏等による血管の損傷の可能性について本件では,バイパス手術前に膝窩動脈の離断があったことは間違いないところ,健常な血管の外膜が,フォガティーカテーテルの操作のみによって直ちに離断に至ることまでは考えにくいことは原告,被告とも争わないところであるから,本件血栓摘除術前に,原告の血管にいかなる損傷が生じていたかが問題となる。 この点につき,原告は,f病院のh医師(以下「h医師」という。)及び匿名の整形外科医師からの陳述録取書を提出し,その中には,本件置換術時に血管をメスやノコギリ等で損傷し,そこに血栓ができた状態にあった可能性が一番合理的である旨の記載がある(甲B30の1,2,甲B32の1,2)。 しかしながら,①前記(ア)のとおり,本件置換術中に,動脈性の出血があった形跡が認められないこと,②この点は,g医師も,出血の所見がないことからすると,血管に穴が開くような損傷ではなく,血管が潰れる損傷などがあり得ると思う旨証言していること(証人g反訳書4・16頁),③本件血栓摘除術後,血管の断端と断端とは数条のらせん状の組織片でつながっており(乙A34),鋭利な手術器具で切断されたものと言えるかには疑問があること,④本件血栓摘除術に際し,c医師は,血管壁と思われる通常の血栓より固い抵抗を認めた旨述べていること(証人c反訳書6・15,16,20,21頁),⑤後述(ウ)のとおり,本件では,血管に対する伸展ストレスによる損傷が加わっていた可能性も考えられることからすれば,原告の血管が,メスや鋏等で損傷さ れていたと直ちに推認することはできず,前記h医師らの陳述録取書は,採用することができない。 なお,本件置換術中,出血に いた可能性も考えられることからすれば,原告の血管が,メスや鋏等で損傷さ れていたと直ちに推認することはできず,前記h医師らの陳述録取書は,採用することができない。 なお,本件置換術中,出血に至らない些少の損傷が生じた可能性については一概に否定はできないけれども,これがあったと認めるに足りる証拠もない。 よって,原告の膝窩動脈は本件置換術の段階でメスあるいは鋏等の操作により離断されたと考えられる旨のg医師の前記意見は,直ちに採用することができない。 (ウ)伸展ストレスによる損傷の可能性についてa他方で,原告の左膝のレントゲン画像を経時的に比較してみると,本件置換術前である7月19日の時点では,原告の大腿骨後方の骨棘の上縁から脛骨後方の下縁までの距離は6cmであったものが(乙A3,27),8月14日,本件置換術後には,11.5cmに開いていたことが認められる(乙A11,22,27)。これによれば,本件置換術中の操作により原告の膝後方の組織がおよそ5.5cm伸展されたことが認められ,膝窩動脈にも伸展によるストレスが加わったと推認することができる。 また,本件置換術後,原告は一時的に左足趾を動かすことができなかったことが認められ(乙A2・121頁),これは,伸展ストレスにより,頸骨腓骨神経に弛緩が生じていたことを推認させる事実と言える(乙A31,41)。 更に,原告の左膝には,本件置換術前,20度の屈曲拘縮が生じていたのが,本件置換術後,伸展0度まで改善した際,膝後方の癒着が著しく,本件置換術では後十字靭帯を切離し,後方の関節包に手を付けない状態でトライアルや人工関節を挿入したことで,予想外に膝後方が開いた状態となってしまったことが認められ(乙A38),通常 よりも強い一期的な外力が加わったものと推認することができる(証人 けない状態でトライアルや人工関節を挿入したことで,予想外に膝後方が開いた状態となってしまったことが認められ(乙A38),通常 よりも強い一期的な外力が加わったものと推認することができる(証人b反訳書5・31ないし33頁)。 そして,血管の伸展により,血管の内膜,中膜が損傷する場合があり,それらが内側に解離することにより,そのめくれ上がった箇所に血栓が生じ,動脈が閉塞する場合があり得ることは,文献でも指摘されているところである(甲B11・37頁,証人g反訳書4・3,4頁)。 以上によれば,本件置換術においては,トライアルを入れた際,原告の膝窩動脈に大きな伸展ストレスが加わったことにより,その内膜,中膜が損傷され,これにより損傷箇所に血栓が生じて,急激に動脈閉塞が生じたものと考えることが可能である(乙A27,証人b反訳書1・4,5頁)。 この点については,g医師も,伸展ストレスによって血管の内膜,中膜が損傷し,そこにカテーテルで力が加わって外膜を穿破し,さらにバルーンを膨らませたままカテーテルを引っ張ることにより,動脈内腔の連続性がなく,離断した動脈が数条の細いらせん状の組織片で連なっている状態に至るという機序があり得ることを認めているところである(証人g反訳書4・6,8頁,反訳書8・9,19,20頁)。 bこの点につき,g医師は,一般論としては前記機序があり得ても,原告がそのような機序によって膝窩動脈断裂に至ったとは考えられない旨の意見書を提出し(甲B27),i医師(以下「i医師」という。)も,屈曲拘縮20度は人工関節手術では普通の程度の拘縮で,一般的な剥離で十分伸展させることが可能であり,この程度の屈曲拘縮矯正で,膝窩動脈が伸張させられることはあり得ない旨述べ,膝窩動脈から血栓が生じて大腿動脈まで閉塞したとすれば,それは手 度の拘縮で,一般的な剥離で十分伸展させることが可能であり,この程度の屈曲拘縮矯正で,膝窩動脈が伸張させられることはあり得ない旨述べ,膝窩動脈から血栓が生じて大腿動脈まで閉塞したとすれば,それは手術時 の骨切除等の操作で膝窩動脈を損傷したと考えられる旨の意見を述べる(甲B27,28)。 しかしながら,これらは本法廷での人証調べ終了後に提出されたものであり(当裁判所に顕著な事実),反対尋問を経ていないなど,その証明力には限界があると言わざるを得ない。 また,原告の場合,屈曲拘縮が20度開いたのみでなく,さらに前記のとおり,組織を5.5㎝伸展させるストレスが加わったこと,9月17日,f病院で計測された原告の右足の脈波伝播速度は,動脈硬化の疑いがあると評価される数値に近い数値であり,血管の硬さは60代後半相当とされていたこと(前記1(4)ア)等に鑑みれば,当時の原告の血管の強度に比し,過剰な伸展ストレスが加わった可能性は否定することができず,上記g医師,i医師の意見は直ちに採用することができない。 cまた,g医師は,過度の伸展が加わることによって,内膜と中膜がちぎれ,解離により中枢側に血栓により閉塞を起こすことはありうるけれども,その場合も,血栓による閉塞が動脈の枝より上に伸展することはあり得ず,大体数センチのところでとまるのが通常であり,原告のように,大腿部の中央部まで動脈が閉塞することはあり得ない旨陳述する(甲B16,27,乙A18,証人g反訳書4・4頁)。 しかしながら,伸展ストレスによる血管損傷は,メス等による一点の損傷よりもむしろ幅を持った範囲で生じ得ると考えられること(甲B11・37頁),本件では,ターニケットの使用による血流遮断という要因も加わっていることからすれば,血栓の上端が大腿中央部まで及んでいることから,直ち 幅を持った範囲で生じ得ると考えられること(甲B11・37頁),本件では,ターニケットの使用による血流遮断という要因も加わっていることからすれば,血栓の上端が大腿中央部まで及んでいることから,直ちに本件閉塞が伸展ストレスによるものではないと断定することもできない。 dさらに,g医師は,伸展ストレスにより血管の内膜及び中膜が損傷 したとすると,損傷箇所は1箇所であり,弱っているところを針金入りカテーテルを入れて突き破ったとしても,突き破る箇所は1箇所であり,完全に離断することはあり得ない旨の意見書を提出する(甲B27)。 しかしながら,伸展損傷は,血管の全周にわたって生じ得ると考えられること(甲B11・37頁),c医師は,突き破った後,バルーンをふくらませた状態でカテーテルを引き抜いたことが認められること(前記1(2)ウ),前記aのとおり,g医師も,証人尋問では,伸展ストレスによって血管の内膜,中膜が損傷し,そこにカテーテルで力が加わって外膜を穿破し,さらにバルーンを膨らませたままカテーテルを引っ張ることにより,動脈内腔の連続性がなく,離断した動脈が数条の細いらせん状の組織片で連なっている状態に至るという機序が一般的にはあり得ることを認めていたことからすれば,伸展ストレスの場合には,完全離断があり得ないとの意見も採用することはできない。 (エ)術中出血量について人工膝関節置換術においては,術中出血量が通常であれば200g程度であるところ(甲B33),原告の場合は545mlとやや多量であったことは前記認定のとおりである。 しかしながら,出血量は,麻酔,血圧の状態,素因なども影響すること(乙A39)からすれば,545mlとの数値から,直ちに動脈の損傷があったと推認することはできない。 ウ膝窩動脈離断の機序について以上によれば ,出血量は,麻酔,血圧の状態,素因なども影響すること(乙A39)からすれば,545mlとの数値から,直ちに動脈の損傷があったと推認することはできない。 ウ膝窩動脈離断の機序について以上によれば,膝窩動脈離断の機序については,本件置換術において,トライアルを入れた際,原告の膝窩動脈に大きな伸展ストレスが加わったことにより,その内膜,中膜が損傷され,これにより損傷箇所に血栓が生 じて,急激に動脈閉塞が生じた機序を考えることができる。 そして,前記のとおり,そこに本件血栓摘除術において,c医師が,カテーテルの先に血管壁と考えられる若干の抵抗を認めたが,そのまま可及的に力を入れてカテーテルを押し込んで,抵抗部を通過させ,それにより膝窩動脈の外膜を穿破し,さらに,バルーンを膨らませた状態でカテーテルを引き抜いたことにより,膝窩動脈が外膜ごと引きちぎられ,離断したものと考えることができる(乙A28,30,31,証人c反訳書2・4ないし6頁,反訳書6・10ないし12頁)。 したがって,膝窩動脈が離断した事実から,被告病院の担当医師が,本件置換術において,メス又は鋏等の器具により,原告の膝窩動脈を断裂,離断させた事実を推認することはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 (2)過伸展による血管損傷を引き起こした義務違反についてさらに,原告は,仮に被告病院の担当医師がトライアルを挿入したことにより,過伸展による血管損傷を引き起こしたのだとすれば,被告病院の担当医師には,通常ではあり得ない異常な外力を加えたことにより血管を損傷させた手技上の注意義務違反があるとも主張する。 しかし,前記のとおり,トライアルを入れた際に強い外力が加わったのは,20度の屈曲拘縮が生じていたこと,後十字靭帯を切除していたこと,膝後方の部分の癒着がひどかったことな 務違反があるとも主張する。 しかし,前記のとおり,トライアルを入れた際に強い外力が加わったのは,20度の屈曲拘縮が生じていたこと,後十字靭帯を切除していたこと,膝後方の部分の癒着がひどかったことなどが影響していたと考えられるが,b医師がこのような事態に至るのを事前に予見できなかったと述べていること(証人b反訳書5・32,33頁),事前に予見できたと認めるに足りる証拠がないことに鑑みると,トライアルの挿入について手技上の注意義務違反があったと直ちに認めることはできない。 争点(1)イ(閉塞性動脈硬化症の合併の有無を事前に確認すべき注意義務違反の有無)について (1)原告は,被告病院の担当医師には,人工関節置換術を施行するに当たり,原告が閉塞性動脈硬化症を合併しているか,足の動脈拍動が消失しているかについて,足背動脈や後脛骨動脈の触診を行うなどして,事前に確認すべき注意義務があったと主張する。 (2)この点について,g医師は,意見書において,高齢者の歩行時の下肢痛には,関節疾患によるものと,動脈閉塞によるものとがあり,高齢者の数%(70~74歳では約7%)に潜在的に閉塞性動脈硬化症の病態が存在していることからすれば,高齢者の歩行時下肢痛の診断においては,常に閉塞性動脈硬化症の合併を念頭におく必要があるが,本件では,診療録にその診断についての記載がなく,閉塞性動脈硬化症を念頭においた確認がされていない旨の意見を述べている(甲B16)。 そして,被告病院初診時における原告の主訴は左膝痛であったこと(乙A1・2頁,乙A2・5頁),入院時(8月13日)の看護記録に「左大腿部しびれ軽度あり」との記載があること(乙A2・87頁),しびれ感は閉塞性動脈硬化症の初期症状の一つであること(甲B2・374頁,甲B8)が認められる。 (3)しか 月13日)の看護記録に「左大腿部しびれ軽度あり」との記載があること(乙A2・87頁),しびれ感は閉塞性動脈硬化症の初期症状の一つであること(甲B2・374頁,甲B8)が認められる。 (3)しかし,原告が訴えていた下肢痛,しびれ感は閉塞性動脈硬化症に特有の症状ではなく,変形性膝関節症でも疼痛は生じること(甲B1・139頁),しびれ感は腰椎疾患による可能性もあったこと(乙A23・21頁,乙A24),前記看護記録には「左膝痛歩行時あるも自制内」との記載もあること(乙A2・87頁),原告は閉塞性動脈硬化症の典型症状である間欠性跛行(甲B2・372頁,甲B8,16)を訴えておらず,糖尿病,高血圧,高脂血症等の既往,喫煙習慣といったリスクファクターもなかったこと(甲A1の2・2頁,乙A1・2頁,乙A2・3,5,6頁,乙A27,証人b反訳書1・2頁,原告反訳書4・2頁)からすれば,原告が高齢であったことを考慮したとしても,被告病院の担当医師において,前記(2)の各訴 えから閉塞性動脈硬化症の可能性を念頭におき,触診等によりその合併の有無を確認すべき義務があったとまでは認められない。 (4)さらにこの点に関し,g医師は,下肢関節障害があって症状発現までの十分な歩行ができない患者では,時に閉塞性動脈硬化症による下肢痛が被覆され,これを自覚しないことがあり,原告についても,変形性膝関節症による歩行能力の低下のために閉塞性動脈硬化症の症状が出現しなかった可能性が十分にある旨の意見を述べている(甲B16)。 しかし,原告が,本件置換術前は,歩こうと思えば1kmくらいは歩くことができ,買い物等のために徒歩で外出した際も,途中で立ち止まったり,座って休みたくなるほどのことはなかった旨供述していること(原告反訳書4・1,2頁)に鑑みると,原告が閉塞性動脈 mくらいは歩くことができ,買い物等のために徒歩で外出した際も,途中で立ち止まったり,座って休みたくなるほどのことはなかった旨供述していること(原告反訳書4・1,2頁)に鑑みると,原告が閉塞性動脈硬化症の特徴的症状である間欠性跛行等が出現しないほどに歩行能力が低下していたとは認められない。 よって,被告が,原告から間欠性跛行等の訴えがなかったことをもって閉塞性動脈硬化症を疑わなかったとするところも合理的であると言え,g医師の上記意見は採用できない(なお,原告の陳述書には,長く歩くことはなかった旨の記載があるが(甲A5),上記原告本人尋問の結果に照らして採用できない。)。 (5)したがって,被告病院の担当医師に,閉塞性動脈硬化症を疑うべき特徴的な症状を認識し得たと認めるに足りる事情が存しない以上,閉塞性動脈硬化症の合併の有無を事前に確認すべき注意義務があったとは認められない。 争点(1)ウ(術前に心臓血管外科医に相談し,ターニケットを使用しないで手術すべき注意義務違反の有無)について(1)原告は,原告が閉塞性動脈硬化症を合併している場合,被告病院の担当医師には,人工関節置換術を施行するに当たり,術前に心臓血管外科医に,人工関節置換術の手術の適応の有無やターニケット使用の有無について相談するなどして,ターニケットを使用しないで手術をすべき注意義務があった と主張する。 (2)そこで,原告が閉塞性動脈硬化症に罹患していたかについて検討する。 ア閉塞性動脈硬化症とは,動脈硬化により,腹部大動脈以下の下肢動脈,弓部大動脈分枝が狭窄または閉塞をきたし,慢性の血行障害が生じ,四肢の冷汗,しびれ感,間欠性跛行,疼痛,末梢皮膚の壊死,潰瘍等の症状を有する病態である。Fontaine分類によれば,冷感・しびれ感の症状があればⅠ度,間欠性跛行 をきたし,慢性の血行障害が生じ,四肢の冷汗,しびれ感,間欠性跛行,疼痛,末梢皮膚の壊死,潰瘍等の症状を有する病態である。Fontaine分類によれば,冷感・しびれ感の症状があればⅠ度,間欠性跛行があればⅡ度,安静時疼痛があればⅢ度,潰瘍・壊死があればⅣ度とされる(甲B2・372,374頁)。ABI0. 7以下,動脈造影で壁不整を伴う狭窄・閉塞性病変があれば診断が確定する(甲B8)。 イこの点に関し,証拠によれば,①下腿には,膝窩動脈から分岐した前脛骨動脈,後脛骨動脈,腓骨動脈が走行しているはずであるが,原告は,8月14日午後2時28分撮影のMRA画像上,下腿に動脈が1本しか写っていないこと(乙A12),②8月14日午後3時58分撮影の左下肢レントゲン画像上,大腿動脈の血管壁に凹凸が認められ,その中央部は血栓により閉塞していること(乙A18),③被告病院の担当医師がf病院に宛てた診療情報提供書に「大腿動脈は粥状硬化が著しく内腔が狭小化していた」旨記載したこと(甲A1の4・289頁)がそれぞれ認められる。 また,原告は,本件置換術前は,歩くと足の痛みがあり,正座はできず,足はいつも冷えていて,しびれもあった旨陳述する(甲A5)。 そして,g医師は,以上の点から,原告は閉塞性動脈硬化症を合併していたとの意見を述べている(甲B16,証人g反訳書8・1,2頁)。 ウしかし他方で,この点については,以下の各事実を指摘することができる。 (ア)画像所見について閉塞性動脈硬化症は,広範囲に連続する虫食い像が特徴とされており, 側副血行路が発達していることが多いとされている(甲B12の2・44,45,48頁)。 8月14日午後2時28分から撮影された各MRA画像によれば,原告は,いずれも障害部位(血管の部分断裂部位)以外に,血管の閉塞,狭窄像 ことが多いとされている(甲B12の2・44,45,48頁)。 8月14日午後2時28分から撮影された各MRA画像によれば,原告は,いずれも障害部位(血管の部分断裂部位)以外に,血管の閉塞,狭窄像は認められていない(乙A12ないし17,証人c反訳書2・7頁)。 また,8月14日午後3時58分撮影の左下肢レントゲン写真には大腿動脈の途絶像が認められ,途絶部位には血栓が形成されていることが認められるが(乙A18,19),途絶部位及びその近位に狭窄像はみられない。 この点については,g医師も,上記凹凸部分及び途絶部位以外は不整像を呈していないことを認めているところである(証人g反訳書8・3頁)。 確かに,8月14日午後3時58分撮影の左下肢レントゲン画像上,血管壁の一部に凹凸が認められる部分があるけれども,これをもって直ちに狭窄とまで評価することはできない。 また,8月14日午後3時58分撮影の左下肢レントゲン画像上,一部側副血行路の存在が認められる。しかしながら,これをもって,直ちに側副血行路が発達しているとまで評価することはできない。 (イ)臨床症状について前記3(3),(4)のとおり,原告には,閉塞性動脈硬化症の特徴的症状である間欠性跛行の主訴がなかった。 また,高齢であるという点以外には,糖尿病,高血圧,高脂血症等の既往,喫煙習慣といったリスクファクターもなかった。 (ウ)本件置換術における出血量について本件置換術中,原告に545mlと,やや多量の出血が見られたこと は前記認定のとおりである(前記1(2)ア)。 したがって,術中,膝部までの血流は良かったと考えられ,閉塞性動脈硬化症があったとは考えにくい(甲B30の1,2,乙A27)。 (エ)f病院での所見9月17日,原告の右下肢は,60代後半相当程度の動脈硬化しか進んでお までの血流は良かったと考えられ,閉塞性動脈硬化症があったとは考えにくい(甲B30の1,2,乙A27)。 (エ)f病院での所見9月17日,原告の右下肢は,60代後半相当程度の動脈硬化しか進んでおらず,また,ABI1.11と正常範囲であった(前記1(4)ア)。このように,健側である右下肢には年齢に相応した変化しかみられず,閉塞の疑いもなかったことからすると,左下肢につき,全身性疾患である閉塞性動脈硬化症が存在していたとは考えにくい。 なお,9月18日,f病院での血管造影により,大腿深動脈からの側幅血行で後頸骨動脈が足関節まで造影されたことが認められる(前記1(4)イ)。しかしながら,8月14日の動脈閉塞から1か月以上も経過した後の検査結果であって,その間に側幅血行路が発達した可能性も存するから,上記検査結果から,8月14日時点でも側副血行路が発達していたと推認することはできない。 (オ)MRA画像上,下腿に動脈が1本しか写っていないことについて下腿には,膝窩動脈から分岐した前脛骨動脈,後脛骨動脈,腓骨動脈が走行しているはずであるが,原告は,8月14日午後2時28分撮影のMRA画像上,下腿に動脈が1本しか写っていないこと(乙A12)は前記認定のとおりである。 しかしながら,大腿動脈に焦点を合わせたMRAにおいて,膝下の枝別れして細くなっている動脈の抽出能力が低下していることはあり得ることであって(乙A27),上記画像から,原告が閉塞性動脈硬化症であったと認定することはできない。 (カ)本件置換術後の大腿動脈の閉塞像について8月14日午後3時58分撮影の左下肢レントゲン画像上,大腿動脈 の中央部は血栓により閉塞しているところ(乙A18),原告は,この閉塞はターニケットによって生じたものであり,その素因には閉塞性動脈硬化症が存した 58分撮影の左下肢レントゲン画像上,大腿動脈 の中央部は血栓により閉塞しているところ(乙A18),原告は,この閉塞はターニケットによって生じたものであり,その素因には閉塞性動脈硬化症が存したと考えるのが自然である旨主張する。 しかしながら,前記説示のとおり,血栓の生じた理由としては,血管の伸展ストレスによる中膜,内膜の損傷が考え得ること(前記2),ターニケットが関与したとすれば,ターニケットで巻いた部分の中枢側に血栓が形成されると考えられるところ,上記血栓像は,膝のあたりから大腿部の中央付近までの間に形成されており,ターニケットの中枢側とは整合しないこと(乙A27,28)に照らせば,上記血栓がターニケットにより生じたことを前提とする原告の主張は採用できない。 (キ)診療情報提供書の記載についてb医師がf病院に宛てた診療情報提供書には,「大腿動脈は粥状硬化が著しく内腔が狭小化していた」旨の記載が存することは前記のとおりである。 しかしながら,本件バイパス術に際し,離断した血管の断端を直接確認したのはd医師であったこと,d医師が,動脈壁に強い粥状硬化や血管内腔の狭窄を示す所見はなく,年齢相応の動脈硬化との印象を持ったと述べていること(乙A29)に照らせば,上記b医師の診療情報提供書の記載は採用することができない。 (ク)原告の症状について原告は,本件置換術前は,歩くと足の痛みがあり,正座はできず,足はいつも冷えていて,しびれもあった旨陳述する(甲A5)。 しかしながら,足の痛み,正座ができないことについては変形性膝関節症の症状と捉えて矛盾はなく,冷え,しびれが続いていたことについては,これを裏付けるに足りる証拠がないことに照らせば,直ちに採用することはできない。 エ以上の点を考慮すれば,前記イの点から,直ちに原告が閉塞性 盾はなく,冷え,しびれが続いていたことについては,これを裏付けるに足りる証拠がないことに照らせば,直ちに採用することはできない。 エ以上の点を考慮すれば,前記イの点から,直ちに原告が閉塞性動脈硬化症に罹患していたと推認することはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 (3)したがって,原告が閉塞性動脈硬化症を合併していたことを前提とする原告の前記主張は,これを採用することができない。 争点(1)エ(血栓摘除術前に心臓血管外科専門医に相談ないし転送し,ドップラー血流計で血流の有無を的確に診断し,適応の有無を判断してから本件血栓摘除術を行うべき注意義務違反の有無)について(1)原告は,被告病院の担当医師には,本件血栓摘除術に先立ち,心臓血管外科医に相談ないし転送をすべき注意義務,及びドップラー血流計で血流の有無を確認して,保存的療法の適応の有無を判断すべき注意義務があった旨主張する。 (2)そして,g医師は,本件血栓摘除術を行う前に心臓血管外科医に相談すべきであったし,ドップラー血流計は,血流感知において最も鋭敏であり,足が壊死に陥るか否かの判断においては第1選択の検査器具であって,ドップラー血流計で血流を評価すべきであった旨の意見を述べている(甲B16,27,証人g反訳書4・10,11頁)。 また,i医師は,本件置換術後,足背動脈を触知できないなどの血行トラブルがあった場合,整形外科医は,直ちに血管外科の専門医に相談し,適切な処置を受けられるように取り計らうべきであるとの意見書を提出する(甲B28)。 (3)心臓血管外科専門医に相談ないし転送すべき義務についてアc医師は,消化器一般外科が専門であって,血管外科の専門医ではないから(証人c反訳書6・1頁),血栓摘除術を行うに当たっては,本来,血管外科専門医が担当 専門医に相談ないし転送すべき義務についてアc医師は,消化器一般外科が専門であって,血管外科の専門医ではないから(証人c反訳書6・1頁),血栓摘除術を行うに当たっては,本来,血管外科専門医が担当することが望ましいのは原告主張のとおりである。 しかしながら,被告病院には,血管外科専門医がいなかったのであるから,整形外科のb医師が,原告の足背動脈が触知されなかったため血管閉 塞を疑った際,外科一般を担当するc医師に相談したことはやむを得ぬ措置であったと言うべきである。 そして,c医師が,MRA画像上,途絶像の断端が血栓で切れたような形をしていたことや,皮膚の色調不良等から,血栓による急性の動脈閉塞を疑い,これに対する緊急の対応を検討したことも正しい対応であったと言うべきである。 イそこで,この時点で,原告を血管外科専門医に相談ないし転送すべきであったかが問題となるところ,本件では,以下の事実を認めることができる。 (ア)原告は本件置換術前には下肢の虚血症状を呈しておらず,本件置換術を契機に急激に動脈閉塞が生じたものであり,これは急性動脈血栓症になじむ経過であった。 (イ)急性動脈血栓症では,動脈閉塞による虚血は経時的に進行し,通常6~8時間程度で不可逆性変化となるため,ゴールデンタイムとされる6~8時間内に血行を再開する必要性があるとされており(乙B1),緊急の対応が要請されていた。 (ウ)c医師は,血管外科が専門ではないものの,10年ほど前に,フォガティーカテーテルによる下肢動脈血栓の摘除術に2例携わった経験を有していた(証人c反訳書6・1頁)。 以上に加え,この時点では,未だ原告の転送先が確実に確保されていたわけではないこと,仮にこの時点で原告を転送するとすれば,転送先を確保したうえ,移送に相当程度の時間を要すると考えられ 書6・1頁)。 以上に加え,この時点では,未だ原告の転送先が確実に確保されていたわけではないこと,仮にこの時点で原告を転送するとすれば,転送先を確保したうえ,移送に相当程度の時間を要すると考えられることからすれば,被告病院の担当医師らにおいて,転院先を捜す間にゴールデンタイムとされる時間が経過する危険を避け,可及的速やかに血栓を除去することを意図して,被告病院での血栓摘除術を選択したとしても,やむを得ぬ面があったと言うべきであり,これをもって義務違反とすることはできない。 また,この時点で,血管外科専門医に相談すべき事項が具体化していたわけでもなく,相談先が確保されていたわけでもないことからすれば,被告病院の担当医師らに相談義務があったということもできない。 ウよって,被告病院の担当医師らに相談ないし転医義務違反は認められない。 (4)ドップラーで血流の有無・程度を確認し,適応の有無を判断してから本件血栓摘除術を行うべき注意義務についてア本件血栓摘除術の適応について動脈血栓症については,フォガティーカテーテルによる血栓摘除術が標準的な治療法の1つとされている(甲B2・370ないし372頁,甲B5,甲B12の1・41頁,甲B20・77頁,甲B25・171頁)。 そして,発症8時間以内で,膝窩動脈より中枢が閉塞している場合には,血栓溶解療法でなく,血栓摘除術をすべきであるとの文献も存在する(甲B12の3・109頁)。 したがって,浅大腿動脈の急性動脈血栓症を発症した原告に対しては,血栓摘除術の適応があったと認められる。 この点につき,原告は,被告病院の担当医師らにおいて,ドップラー血流計により血流の程度を確認し,血栓溶解療法の適応を検討すべきであったと主張する。しかしながら,原告は,前記のとおり,突然足背動脈の触知不能,冷感, 告は,被告病院の担当医師らにおいて,ドップラー血流計により血流の程度を確認し,血栓溶解療法の適応を検討すべきであったと主張する。しかしながら,原告は,前記のとおり,突然足背動脈の触知不能,冷感,知覚鈍麻が認められ,MRA画像でも浅大腿動脈に動脈の完全閉塞が認められたこと,原告は,前記のとおり,閉塞性動脈硬化症であったとは認められず,したがって側副血行路が発達していたとも認められないこと,ウロキナーゼによる血栓溶解療法では,効果が現れるまで早くとも数時間から通常24時間程度を要し(甲B12の1・43頁),血栓摘除術に比べ,奏効した場合の血流再開までに長い時間を要すること(証人c反訳書6・16,17,21頁)などに鑑みれば,c医師が,M RA画像で完全閉塞が認められた原告に対し,早期の血行回復を図る目的で本件血栓摘除術の施行を決定したことにも合理性があったということができる。 イドップラー血流計での検査義務について前記認定のとおり,c医師は,原告に対し,血流障害の症状を認めてMRA検査を実施し,左大腿動脈の途絶像を認めて,本件血栓摘除術を決定したこと(前記1(2)イ(ウ),(エ)),本件血栓摘除術にあたっては,動脈造影で大腿動脈の閉塞像を確認していること(前記1(2)ウ(イ))が認められる。 以上に加え,ドップラー血流計で更に血流の有無を調べるという選択肢もあり得たところではあるけれども,①MRAには再現性,客観性という点でドップラー検査にはないメリットがあり,一概にドップラー検査の方が優れているとは言い切れないこと,②急性動脈閉塞症の診断,検査のポイントとしては,ドップラー検査の外,MRAなどの画像診断もそれぞれの病態の鑑別に重要とされており,最終的には血管造影に勝るものはないとされていること(甲B2・371頁),③ドップラ 診断,検査のポイントとしては,ドップラー検査の外,MRAなどの画像診断もそれぞれの病態の鑑別に重要とされており,最終的には血管造影に勝るものはないとされていること(甲B2・371頁),③ドップラーの結果だけで保存的治療の適応が決まるものとも解されないこと(証人c反訳書6・14頁)からすれば,被告病院の担当医師らにおいて,更にドップラー血流計で血流の有無を確認すべき注意義務があったとも認められない。 ウなお,「下肢閉塞性動脈硬化症の診断・治療指針Ⅱ」には,急性下肢虚血に対するドップラーでの評価や血管専門医による診察が推奨事項として掲げられているけれども,いずれも推奨グレードCであり,十分な科学的エビデンスがあるとまでは解されないこと(甲B20・69,70頁)に照らせば,上記指針の記載を根拠に原告の主張する前記各注意義務があったと認めることもできない。 争点(1)オ(本件血栓摘除術におけるカテーテル手技上の注意義務違反の有 無)について(1)原告は,被告病院の担当医師には,本件血栓摘除術において,カテーテルを無理に強く押し込むなどして,それまで閉塞していなかった左大腿動脈を損傷させ,また,下肢に流れていた側副血管までも損傷させた手技上の注意義務違反がある旨主張する。 (2)この点については,前記2に判示したとおり,本件置換術においてトライアルを入れた際,強い伸展ストレスが加わったことにより,原告の膝窩動脈の内膜,中膜に伸展損傷が生じていたと考え得るところ,本件血栓摘除術の際,c医師がカテーテルに少し力を入れて押し込んだ際に外膜を穿破し,さらに,バルーンを膨らませた状態でカテーテルを引き抜いた際,血管が離断したことが認められる。 (3)そこで,上記の点について手技上の注意義務違反が認められるか検討する。 証拠によれば,① 破し,さらに,バルーンを膨らませた状態でカテーテルを引き抜いた際,血管が離断したことが認められる。 (3)そこで,上記の点について手技上の注意義務違反が認められるか検討する。 証拠によれば,①c医師は,本件置換術後,血管に何らかの損傷が生じて急性閉塞が生じたのではないかと考えて本件血栓摘除術に臨んだこと(証人c反訳書6・16頁),②血管の損傷が想定される場合には,抵抗があったら無理にカテーテルを押し進めないで,愛護的に扱う配慮が必要であったこと(証人g反訳書8・12頁),③フォガティーカテーテルを挿入するにあたっては,通常は中の針金ははずして使うべきであるところ,c医師は,針金を入れたままフォガティーカテーテルを使用したこと(証人c反訳書6・8頁,証人g反訳書8・10,11,20頁),④針金を入れたままフォガティーカテーテルを使用する場合には,血管を損傷しないよう,慎重な手技が求められること(証人g反訳書8・10,11頁),⑤しかるに,c医師は,挿入したカテーテルの先に抵抗を認めた際,通常の血栓よりは固い感触を感じて,カテーテルの先は血管壁に当たっている可能性が高いと考え,そのまま力を加えれば損傷が生じている可能性の高い血管壁を穿破してしまう おそれがあると認識したにもかかわらず,ここで解決しない場合には手術的治療に進まざるを得ないと考え,そのまま可及的な力を加えて押し込んだことが認められる(乙A28,証人c反訳書6・6,9,16,17,19,20頁)。 以上の点に照らせば,c医師には,カテーテルの先に抵抗を認めた時点で,血管損傷を引き起こす危険のある本件血栓摘除術を中止し,他の治療法の可否を判断するために,血管造影を施行して,閉塞部位,閉塞の範囲,末梢への血流の有無等を評価すべき注意義務があったと認めるのが相当である(証 引き起こす危険のある本件血栓摘除術を中止し,他の治療法の可否を判断するために,血管造影を施行して,閉塞部位,閉塞の範囲,末梢への血流の有無等を評価すべき注意義務があったと認めるのが相当である(証人g反訳書8・18,19頁)。この点は,d医師も,保存的療法を実施する可能性があるのであれば,血管造影により,末梢の血流を確認するのが望ましいことを認めているところである(被告代表者反訳書8・22頁)。 (4)この点に関し,c医師は,いきなりバイパス術等のより侵襲性の大きい手術を行うよりは,本件血栓摘除術で症状が改善すればそれに越したことはなく,少しでも血流が改善することを期待してカテーテルの手技を進めたものであり,本件血栓摘除術が奏効しなければいずれにせよバイパス術等へ移行せざるを得ないのであるから,血管を穿破したことはその後の結果に影響を与えてはいない旨証言する(証人c反訳書2・6,7頁)。 しかしながら,仮に血栓溶解療法等の保存的治療の適応がなく,バイパス術等の外科的手術へ移らざるを得ない状況であったとしても,血管損傷があれば,その部位,程度によってバイパス術を行う際の吻合部位やバイパスの範囲が変わり,その手技の難易に影響を与えると考えられるうえ,出血によって手術の緊急性,側副血行の血流の状況にも影響を与えると考えられることからすれば,血管を穿破しても影響はない旨のc医師の前記証言は採用することができない。 (5)以上によれば,c医師には,カテーテルの先に抵抗を認めた時点で,本件血栓摘除術を中止し,血管造影を実施して末梢の血流等を確認すべき注意 義務があったにもかかわらず,これを怠って,そのままカテーテルを押し進めると共に,その後バルーンを膨らませたまま引き抜いたことにより,血管を離断させた過失があるというべきである。 争点( 義務があったにもかかわらず,これを怠って,そのままカテーテルを押し進めると共に,その後バルーンを膨らませたまま引き抜いたことにより,血管を離断させた過失があるというべきである。 争点(1)カ(バイパス術に先立ち,心臓血管外科医に相談又は転送すべき注意義務違反の有無)について(1)原告は,被告病院の担当医師には,バイパス術を行うに先立ち,保存的治療の可能性,バイパス術の適応の有無,バイパス術をする場合には末梢吻合部はどこに選択するのが適切か,使用するバイパスグラフト材料は人工血管にすべきか自家静脈を用いるべきかなどの注意点について,専門医である心臓血管外科医に相談するか,あるいは原告を心臓血管外科医に転医させるべき注意義務があった旨主張する。 そして,g医師は,バイパス術をする前に心臓血管外科医に相談するか転送すべきであったとの意見を述べている(甲B16)。 この点については,d医師も,時間的余裕があれば移送した方が良いであろうと述べているところである(乙A29)。 (2)しかしながら,①急性動脈閉塞による組織の虚血性変化は経時的に進行し,発症後6~8時間がゴールデンタイムと呼ばれており,この時間内に血行を再開させないと組織の不可逆的変化が進み,救肢が困難になること,②そのため,限られた時間内での速やかな診断及び治療法の選択が求められること,③組織の不可逆的変化が進行すると組織中に壊死物質や酸性代謝産物が産生されるようになり,これらの物質が血流の再開によって大量に全身循環に環流されるとMNMS(血行再建後症候群)を発症する危険があること,④重篤なMNMSの予後は不良であり,急性動脈閉塞における主要な死因となっていることが認められる(甲B2・370ないし372頁,甲B3・372頁,甲B12の1・40,41,43頁,甲B12 ること,④重篤なMNMSの予後は不良であり,急性動脈閉塞における主要な死因となっていることが認められる(甲B2・370ないし372頁,甲B3・372頁,甲B12の1・40,41,43頁,甲B12の2・47,49頁,甲B12の3・108頁,乙A29,乙B1・40,41,43頁)。 そして,下肢動脈造影により左大腿部付け根付近で造影剤が血管外に流出していることが確認された8月14日午後4時12分の時点では,すでに,b医師が血行障害を認めた同日午後零時10分から起算して4時間以上が経過していたこと(前記1(2)イ(ア),ウ(ウ)),被告病院には血管外科医がいないため,血管外科医にコンサルテーションをするには他院への搬送が必要であり,そのためには搬送先への依頼,搬送,搬送先における準備等に相応の時間を要すると考えられたこと(乙A29),血栓摘除術の失敗による動脈の損傷も高度であり,受入れに手間取った場合には移送中の出血の影響も懸念されたこと(乙A29),他方,d医師は,それまで慢性腎不全の患者に大腿動脈のバイパス手術や,大腿動静脈シャント手術等を180例以上,骨折に伴う膝窩動脈損傷に対する自家静脈置換術を1例経験しており,膝窩動脈へのバイパス術の経験があったこと(乙A29,被告代表者反訳書7・10頁)が認められる。 以上によれば,ゴールデンタイムの残り時間に余裕がなく,迅速な対応が必要であった中で,膝窩動脈へのバイパス術の経験を有するd医師が,自ら直ちにバイパス術を施行すると判断したことに不適切な点があったということはできない。 (3)したがって,被告病院の担当医師に,バイパス術に先立ち,心臓血管外科医に相談又は転送すべき注意義務があったとは認められない。 争点(1)キ(バイパス術に先立ち,末梢血管の開存を確認し,適式な術式によ がって,被告病院の担当医師に,バイパス術に先立ち,心臓血管外科医に相談又は転送すべき注意義務があったとは認められない。 争点(1)キ(バイパス術に先立ち,末梢血管の開存を確認し,適式な術式により適切な末梢吻合部につなぐべき注意義務違反の有無)について(1)原告は,被告病院の担当医師には,バイパス術を行うに当たり,血管の末梢がどこまで開存しているかを確認し,適切な術式により適切な末梢吻合部につなぐべき注意義務があったと主張する。 (2)末梢血管の開存を確認すべき義務についてア証拠によれば,血行再建術の良好な適応が認められるためには,末梢動 脈に狭窄や閉塞がなく,吻合部より末梢側のrunoffが良好に保たれていることが重要であり,大腿動脈-膝窩動脈バイパス術については,膝下を流れる前脛骨動脈,後脛骨動脈,腓骨動脈のうち,2つ以上が開存していることが望ましいとされていることが認められる(甲B3・412頁,甲B15・255,256,260頁,甲B16,甲B20・81頁)。これによれば,バイパス術を行うに当たっては,その適応の有無,適切な吻合部位等を判断するために,動脈造影により,末梢の血流を確認すべき注意義務があったと認めることができる(甲B16,証人g反訳書4・12,15頁,反訳書8・23ないし25頁)。 具体的には,被告病院の担当医師らは,血栓摘除術を施行して,カテーテルの先に抵抗を認めた時点で,血栓摘除術を中止し,大腿深動脈の方にも造影剤を入れて,血管造影を行うべき義務があったと言うべきである。 イこの点につき,本件では,前記認定のとおり,本件バイパス術開始以前に2回下肢動脈造影が実施され,午後3時58分には左大腿動脈の閉塞像が確認され(乙A18,19),また,午後4時12分には左大腿部付け根付近で造影剤が血管外に流出 定のとおり,本件バイパス術開始以前に2回下肢動脈造影が実施され,午後3時58分には左大腿動脈の閉塞像が確認され(乙A18,19),また,午後4時12分には左大腿部付け根付近で造影剤が血管外に流出していることが確認されている(乙A20)。 しかしながら,前記各血管造影は,閉塞が生じた浅大腿動脈をみるために,浅大腿動脈の起始部から造影剤を注入して膝より上の部分の造影のみを行ったものであり,膝より末梢部分の状況は確認できず,また,大腿深動脈へは造影剤が十分に流れておらず,これらによっては末梢の血流を適切に評価することはできない。浅大腿動脈が閉塞している場合には,大腿深動脈からの側副血行により下腿への血流が維持されている可能性が十分に考えられることに照らせば,大腿深動脈の起始部よりも中枢側から造影剤を注入した血管造影による必要があったというべきである(証人g反訳書4・11,12頁)。 よって,本件バイパス術開始以前に前記各血管造影が施行されていたことをもって,バイパス術施行に当たって,動脈造影により末梢の血流を確認すべき注意義務が尽くされていたとみることはできない。 ウ以上に対し,d医師は,動脈造影にて左大腿部付け根付近で造影剤が血管外に流出していることが確認された後に,末梢側を評価するために他の部位からカテーテルを入れ直して造影をやり直すのは危険であるし,本件では,ゴールデンタイムのリミットが迫っている中で早期の血行再建を終了するため,新たに血管造影を行う時間はなかった旨供述する(乙A40,被告代表者反訳書3・9,12,13頁,反訳書8・23,24頁)。 しかし,血栓摘除術を試み,カテーテルの先に抵抗を認めた午後4時ころには,ゴールデンタイムとしてなお4時間程度を残していたこと,血管内治療である本件血栓摘除術を施行しても血行の再建 23,24頁)。 しかし,血栓摘除術を試み,カテーテルの先に抵抗を認めた午後4時ころには,ゴールデンタイムとしてなお4時間程度を残していたこと,血管内治療である本件血栓摘除術を施行しても血行の再建を得られなかった以上,血流を回復させるためにはバイパス術を成功させるしかない状況であったこと,前記のとおり,バイパス術によって良好な結果が得られるためには,末梢の血流状況を把握したうえ,適切な吻合場所を選択するのが重要であることからすれば,造影検査をやり直してでも,末梢の血流を慎重に確認することが必要であったというべきである(証人g反訳書8・24,25頁)。 よって,d医師の前記供述を採用することはできない。 エ以上によれば,被告病院の担当医師には,バイパス術を行うに当たり,その適応の有無,適切な吻合部位等を判断するために,血管造影により,末梢の血流を確認すべき注意義務に違反した過失が認められる。 (3)バイパス術式選択における義務違反について原告は,本件バイパス術において,被告病院の担当医師には,人工血管より長期開存性に優れている自家静脈を使用すべき義務があったと主張し,g医師も,同趣旨の意見を述べる(甲B29)。 しかしながら,人工血管の使用が不適切とされる場面とも認められないこと,自家静脈を使用するためには,静脈採取に更に1時間ほどの時間を費やしたであろうと考えられること(乙A29),前述のとおり,ゴールデンタイムとされる6~8時間のタイムリミットが存したことからすれば,d医師において,血流の早期再開を優先した判断が誤りとは言えず,本件バイパス術において自家静脈を使用すべき義務があるとまでは言えない。 (4)吻合部の不適切性について原告は,被告病院の担当医師には,本件バイパス術において,下腿の内側からアプローチすべきであった バイパス術において自家静脈を使用すべき義務があるとまでは言えない。 (4)吻合部の不適切性について原告は,被告病院の担当医師には,本件バイパス術において,下腿の内側からアプローチすべきであったにもかかわらず,膝関節の裏面からアプローチした義務違反があると主張し,g医師も同趣旨の意見を述べる(甲B29)。 しかしながら,d医師は,損傷されたと考えられる膝窩動脈に膝窩面から直接アプローチすることで手術時間を最短にできると考えたものであって(乙A29),そのことが不適切な吻合場所の選択につながったとも言えないから,直ちに不合理とは言えない。 また,原告は,被告病院の担当医師には,中枢側において,大腿中央部からの吻合が可能であったのに,鼠径部に吻合した義務違反があると主張し,g医師も同趣旨の意見を述べる(甲B29)。 しかしながら,d医師が本件バイパス術に際して離断した動脈の断端を確認したところ,中枢側は血管の吻合を行うスペースがなかったこと(乙A34),鼠径部は,本件血栓摘除術を行った際,動脈を切開した部位で,大腿動脈を露出する時間が省けると考えたこと(乙A40)が認められるから,鼠径部に吻合したことが義務違反であるとの意見も採用できない。 よって,被告病院の担当医師らに不適切な吻合部を選択した義務違反も認められない。 争点(1)ク(術後早期に心臓血管外科医に相談するなどして,再度のバイパ ス術を施行すべき注意義務違反の有無)について(1)原告は,被告病院の担当医師には,本件バイパス術に失敗してバイパスが閉塞したことが明らかになった時点で,心臓血管外科医に相談して再度バイパス手術を行うか,又は原告を心臓血管外科医に転医させてバイパス手術を受けさせるべき注意義務があったと主張する。 (2)この点につき,前記認定のとおり,本件バイ で,心臓血管外科医に相談して再度バイパス手術を行うか,又は原告を心臓血管外科医に転医させてバイパス手術を受けさせるべき注意義務があったと主張する。 (2)この点につき,前記認定のとおり,本件バイパス術が終了して原告が病室に帰室した8月14日午後9時40分の時点で,原告は,全身色不良で,左下肢に冷感,チアノーゼが認められ,左足背動脈は触知不良であり,本件バイパス術によっても血流が改善しなかったことが明らかになったものということができる(前記1(2)オ)。 また,9月18日にf病院で施行された血管造影の結果によれば,同時点において,原告は,大腿深動脈から後脛骨動脈足関節部分までの側副血行が発達していたことが認められる(前記1(4)イ)。 そして,g医師は,バイパスが閉塞したことが明らかになった段階で可及的早期に心臓血管外科医に相談ないし転送していればバイパス術をやり直すことにより下肢切断を免れた可能性が高いとの意見を述べている(甲B16)。 (3)しかしながら,この点に関しては,以下の事実が指摘できる。 ア前記認定事実によれば,本件バイパス術の不成功が明らかとなった8月14日午後9時40分の時点で,b医師が血行障害を認めた同日午後零時10分からすでに9時間30分が経過しており,ゴールデンタイムとされる6~8時間を超過していた。下肢の動脈の急性閉塞後,6~8時間が経過すると,組織の虚血性変化が不可逆的となるとされている(乙B1・40頁)。 イまた,前記のとおり,9月18日の時点で大腿深動脈から後脛骨動脈足関節部分までの側副血行が存在していたことが認められるけれども,8月14日の時点でその側副血行がどれほど発達していたかは明らかでなく, 血行再建が可能な程度に末梢の血流が保たれていたと直ちに推認することはできない。 ウ虚血により組 が認められるけれども,8月14日の時点でその側副血行がどれほど発達していたかは明らかでなく, 血行再建が可能な程度に末梢の血流が保たれていたと直ちに推認することはできない。 ウ虚血により組織の不可逆的変化が始まると,組織中に壊死物質や酸性代謝産物が産生されるようになり,これらの物質が血流の再開によって大量に全身循環に環流されるとMNMSを発症する危険が生じる。MNMSの予後は不良で,急性動脈閉塞における主要な死因となっている。臨床的には,虚血に陥った組織の量や,臨床症状より,血行を再開したときのMNMSの発生頻度とその程度を予測して治療の適応を決定する必要があるが,明確な指標が少ないのが実情であるとされている(乙B1・41,43頁)。 以上の点を考慮すれば,8月14日午後9時40分の時点では,MNMS発症の危険を考慮せざるを得ず,原告に再バイパス術の適応があったと認めることはできない。 (4)この点につき,g医師は,①ゴールデンタイムが6~8時間以内とされているのは最も短い場合の時間であり,また,②原告については,大腿部での閉塞であるため,壊死が生じるのはそれよりも下の下腿の部分だけであり,その程度の壊死ではMNMSが起こるおそれはない旨証言する(証人g反訳書8・13,14頁)。そして,下腿以下に限局した急性動脈閉塞例ではMNMSは見られなかったとの報告例が存すること(甲B25・176頁),急性動脈閉塞発症に血行再建術を施した場合,発症後6時間を経過した後も,2日までは64.3%,7日までは51.9%の成功例が存するとの報告例も存すること(甲B3・376,377頁)が認められる。 しかしながら,原告の動脈閉塞部位は大腿部であって,下腿以下に限局した急性動脈閉塞症例に該当するとは認められないこと,原告は8月14日午後9時40 すること(甲B3・376,377頁)が認められる。 しかしながら,原告の動脈閉塞部位は大腿部であって,下腿以下に限局した急性動脈閉塞症例に該当するとは認められないこと,原告は8月14日午後9時40分に帰室した時点で,既に全身色不良で,左下肢に冷感チアノーゼが認められ,重篤な状況であったこと,本件バイパス術の際,原告の逆行 性の血流は正常な場合に比してかなり弱く(前記1(2)エ(ウ)),これによれば,原告には,本件バイパス術時に既に吻合部の末梢側にも血栓が生じていた可能性が存すること,上記血栓摘除術における成功率の報告例にもかかわらず,一般的には,ゴールデンタイム経過後は,MNMSの発症頻度が高まり,MNMSと判断された場合には早期に切断を決意すべきである旨の文献が複数存すること(甲B2,甲B12の1,2,甲B13,乙B1)からすれば,本件でゴールデンタイムを経過した後にも,原告に手術適応があった蓋然性を認めることはできない。 よって,g医師の前記意見は採用できない。 (5)したがって,本件バイパス術後,原告に再バイパス手術を行う適応があったと認めることはできず,被告病院の担当医師に,心臓血管外科医に相談して再度バイパス手術を行うか,又は原告を心臓血管外科医に転医させてバイパス手術を受けさせるべき注意義務があったとは認められない(ただし,被告病院担当医師らは,本件バイパス術後,本件バイパス術が不成功に終わり,もはやゴールデンタイムを経過して被告病院ではなすべき手だてがないことを認識したのであるから,血管外科専門医でないことを踏まえて,更に残された手だての有無を血管外科専門医に確認するため,相談ないし転医を検討する余地は十分にあったと考えられる。)。 争点(1)ケ(説明義務違反の有無)について(1)原告は,被告病院の担当医師 された手だての有無を血管外科専門医に確認するため,相談ないし転医を検討する余地は十分にあったと考えられる。)。 争点(1)ケ(説明義務違反の有無)について(1)原告は,被告病院の担当医師には,本件バイパス術の失敗が明らかになった後である8月15日の時点において,原告に対し,本件バイパス術が失敗に終わり,手術をした血管の血行が途絶していることなど,病状を正確に説明すべき義務があった旨主張する。 (2)証拠によれば,原告は,8月15日,足背動脈が触知されず,8月16日午前10時,ドップラーにて足背動脈が聴取されなかったこと(乙A2・18,83,122頁,証人b反訳書1・7頁,反訳書5・12頁),b医師 は,本件バイパス術後,原告の足背動脈が触知されなかった時点で,本件バイパス術が失敗に終わり,原告が下肢切断に至るのは避けられないと判断したこと(乙A27,証人b反訳書5・14頁)が認められる。そして,医療機関は,患者に対し,診療行為の受任者としての報告義務を負っているものと解されること,仮に原告が病状の正確な説明を受けていれば,その時点で血管外科専門医の診察を受けた可能性も十分にあること,血管外科専門医における検査,診断の結果,その数値等によっては,原告が再バイパス手術により下肢切断を免れた可能性も皆無とは言えないことに照らせば,b医師は,遅くとも,原告の足背動脈が触知されず,本件バイパス術が失敗に終わったと判断した8月15日の時点で,原告に対し,本件一連の手術が成功せず,下肢切断が免れない状態に至ったことを説明すべき義務があったと認めるのが相当である。 この点につき,b医師は,8月16日,原告の夫に対して,「血流は少しは良くはなりました。熱は創があるためにあります。最低の血流は流れていると思います。」との不適切な説明を行 認めるのが相当である。 この点につき,b医師は,8月16日,原告の夫に対して,「血流は少しは良くはなりました。熱は創があるためにあります。最低の血流は流れていると思います。」との不適切な説明を行い,下肢切断に至る可能性については説明しなかったものであり(乙A2・103頁,乙A27,証人b反訳書5・13ないし15頁),前記説明義務を怠ったものと認められる。 (3)なお,b医師は,本件バイパス術後,原告の足背動脈は触れなかったが,ゴールデンタイムが過ぎた後に行える処置はなく,原告の足の不可逆的変化がどこまで進行するかをみるために術後も被告病院での経過観察を続けた旨証言する(証人b反訳書1・7,8頁)。 しかしながら,医師は,前記のとおり,患者に対して診療契約上の報告義務を負っており,結果の善し悪しやさらなる処置の有無にかかわらず,その結果をできるだけ速やかに患者ないし患者の親族に説明すべきであること,当該病院での治療継続と他院への転院のいずれを選択するかについては患者ないし患者の親族の意思が尊重されるべきであることなどからすれば,b医 師の述べる前記事情は,前記(2)の説明義務を否定する理由とはならない。 また,b医師は,原告に対して,本件一連の手術後急に悲観的な結果をすべて話してよいのかというジレンマがあったとも述べる(証人b反訳書5・14頁)。しかし,そのような主観的事情によって前記説明義務が否定される場合とも解されない。 (4)よって,b医師には,原告に対して下肢切断に至る可能性について説明しなかった点で,説明義務違反があったと認められる。 争点(2)(因果関係の有無)について(1)本件血栓摘除術におけるカテーテル手技上の注意義務違反と左大腿切断との因果関係ア前記6のとおり,c医師には,カテーテルの先に抵抗を認めた れる。 争点(2)(因果関係の有無)について(1)本件血栓摘除術におけるカテーテル手技上の注意義務違反と左大腿切断との因果関係ア前記6のとおり,c医師には,カテーテルの先に抵抗を認めた時点で,本件血栓摘除術を中止し,保存的療法の可否を判断するために,血管造影を施行して,閉塞部位,閉塞の範囲,末梢への血流の有無等を評価すべき注意義務に違反した過失が認められる。 この点について,前記認定のとおり,9月18日にf病院で施行された血管造影の結果によれば,同時点において,原告は,大腿深動脈から後脛骨動脈足関節部分までの側副血行が発達していたことが認められる(前記1(4)イ)。 イしかしながら,8月14日午後3時58分の血管造影にも側副血行は写し出されているところ,画像上,その側副血行が9月18日の血管造影で認められている側副血行ほど発達しているとは認められない(被告代表者反訳書8・22,23頁)。この点は,g医師も,9月18日の血管造影で認められた側副血行が本件バイパス術以降に新たに派生したものである可能性を否定していないところである(証人g反訳書8・23頁)。 さらに,原告は,本件血栓摘除術開始前の午後零時45分の時点で,すでに左足趾を動かすことができず,左足背動脈は触知されなかったこと (前記1(2)イ(イ)),本件バイパス術において,末梢側断端を開いた際,逆行性の血液があったが,バネ圧の弱い血管鉗子で容易に止血できる程度の弱い血流しかなかったこと(前記1(2)エ(イ)),本件バイパス術終了直後の午後9時40分の時点で,原告は,左下肢に冷感,チアノーゼが認められ,左足背動脈は触知不良であったこと(前記1(2)オ)からすれば,本件バイパス術を開始する前に,血栓により末梢の動脈が閉塞していた可能性を否定することはできない(被 下肢に冷感,チアノーゼが認められ,左足背動脈は触知不良であったこと(前記1(2)オ)からすれば,本件バイパス術を開始する前に,血栓により末梢の動脈が閉塞していた可能性を否定することはできない(被告代表者反訳書7・6ないし8,14,15頁)。 以上の点からすれば,本件血栓摘除術が施行された時点で,大腿深動脈からの側副血行により,末梢のrunoffが保たれていたと認定することまではできないと言うべきである。 したがって,c医師が,カテーテルの先に抵抗を認めた時点で,本件血栓摘除術を中止し,血管造影を施行していれば,保存的療法の適応が認められ,その施行により血行が回復し,左大腿切断に至るのを回避できた高度の蓋然性があるということはできず,前記注意義務違反と左大腿切断との間に因果関係を認めることはできない。 ウもっとも,8月14日午後3時58分の血管造影に側副血行の存在が写し出されていることはd医師も認めているところであり(被告代表者反訳書8・22頁),本件血栓摘除術が施行された時点で,大腿深動脈からの側副血行が全く存在していなかったということもできない。 また,触知されなかった足背動脈は血栓により閉塞していた可能性が高いとしても,他の末梢動脈が開存していた可能性はあったといえる(なお,d医師も,末梢の血流が完全に失われていたとまでは述べていない。被告代表者反訳書3・14頁)。 これらの点に鑑みれば,本件血栓摘除術が施行された時点で,大腿深動脈からの側副血行により,末梢のrunoffが保たれていた可能性もあった とみることができ,c医師が,前記注意義務を尽くしていれば,保存的療法の施行により血行が回復し,左大腿切断に至らなかった相当程度の可能性があったと解するのが相当である。 (2)バイパス術に先立ち,末梢血管の開存を確認すべき注 前記注意義務を尽くしていれば,保存的療法の施行により血行が回復し,左大腿切断に至らなかった相当程度の可能性があったと解するのが相当である。 (2)バイパス術に先立ち,末梢血管の開存を確認すべき注意義務違反と左大腿切断との因果関係ア前記8のとおり,被告病院の担当医師には,バイパス術を行うに当たり,その適応の有無,適切な吻合部位等を判断するために,血管造影により,末梢の血流を確認すべき注意義務に違反した過失が認められる。 しかしながら,本件バイパス術を開始する前に,血栓により末梢の動脈が閉塞していた可能性を否定することはできず(被告代表者反訳書7・6ないし8,14,15頁),大腿深動脈からの側副血行により,末梢のrunoffが保たれていたとまで認められないことは,前記(1)イに判示したとおりであり,被告病院の担当医師がバイパス術を施行するに当たり,血管造影を行っていたとしても,バイパスに適した末梢の吻合部が判明したかは不明である。 よって,血管造影により末梢の血流を確認していれば,バイパス術が奏効し,左大腿切断に至るのを回避できた高度の蓋然性があるということはできず,前記注意義務違反と左大腿切断との間に因果関係は認められない。 イもっとも,大腿深動脈からの側副血行により,末梢のrunoffが保たれていた可能性も考えられることも前記(1)ウに判示したとおりである。したがって,この点に照らせば,被告病院の担当医師が前記注意義務を尽くしていれば,適切な部位にバイパス術が施行され,これにより血行が再建し,原告が左大腿切断に至らなかった相当程度の可能性があったと認められる。 (3)説明義務違反と左大腿切断との因果関係ア前記10に判示したとおり,b医師には,本件バイパス術後,原告に対 して,下肢切断に至る可能性を説明しなかった点で 可能性があったと認められる。 (3)説明義務違反と左大腿切断との因果関係ア前記10に判示したとおり,b医師には,本件バイパス術後,原告に対 して,下肢切断に至る可能性を説明しなかった点で説明義務違反が認められ,これにより,原告は,他院にて下肢の状態や今後の治療方針についてのセカンドオピニオンを聴き,あるいは他院における治療を受ける機会を喪失したものと認められる。 しかしながら,前記(1)イのとおり,本件バイパス術施行の時点で,大腿深動脈からの側副血行により,末梢のrunoffが保たれていたとまで認められないことに加え,本件バイパス術が終了した時点ですでにゴールデンタイムを経過しており,再バイパス術の適応があったとは認められないこと(前記9(3))からすれば,原告が,本件バイパス術の翌日である8月15日,b医師から下肢切断に至る可能性についての説明を受けた上で,他院に転院していたとしても,再バイパス術の施行等により左下肢壊死,左大腿切断を避けることができた高度の蓋然性があるとはいえず,前記説明義務違反と原告の左大腿切断との間に因果関係を認めることはできない。 イもっとも,病状の正確な説明を受けていれば,原告が,8月15日時点で,血管外科専門医の診察を受けようと考えた可能性は十分にあると考えられること,前記のとおり,急性動脈閉塞発症に血行再建術を施した場合,発症後6時間を経過した後も,2日までは64.3%,7日までは51. 9%の成功例が存するとの報告例も存すること(甲B3・376,377頁),8月15日時点の原告の下肢の血流の状況は明らかでなく,大腿深動脈からの側副血行により,末梢のrunoffが保たれていた可能性もあったと言えることからすれば,b医師が説明義務を尽くしていれば,再バイパス術の施行等により,原告が左大腿切 明らかでなく,大腿深動脈からの側副血行により,末梢のrunoffが保たれていた可能性もあったと言えることからすれば,b医師が説明義務を尽くしていれば,再バイパス術の施行等により,原告が左大腿切断に至らなかった相当程度の可能性があったと認められる。 争点(3)(損害)について(1)前記11のとおり,被告病院の担当医師の各注意義務違反と左大腿切断との間に因果関係があるとは認められないから,原告が左大腿切断によって 被った損害を認めることはできない。 (2)もっとも,前記11(1)ウ,(2)イ及び(3)イに判示したところによれば,原告には,被告病院の担当医師の各注意義務違反により,左大腿切断に至らなかった相当程度の可能性を侵害されたことに対する慰謝料が認められるものと解するのが相当である。 そして,その慰謝料額については,①原告の負った後遺障害は左下肢を膝関節以上で喪失したという重いものであり,原告が受けた精神的損害も大きいと認められること,②被告病院の担当医師らには3点にわたる注意義務違反があり,それらのいずれの点についても,注意義務を尽くしていれば左大腿切断に至らなかった相当程度の可能性があったと認められること,③説明義務違反については,単に下肢切断に至る可能性を説明しなかっただけでなく,血行が回復したかのような誤解を与える不適当な説明をしたものであり,その義務違反の程度は重大であるというべきこと,④原告は,平成16年1月,手術をしなければ良かったのかと色々考え,前向きに考えることができないと訴えてf病院の精神科神経科を受診し,うつ病と診断されていること,その他本件に現れた一切の事情を考慮して,400万円が相当であると認める。 また,本件事案の内容,上記認容額に照らせば,40万円の弁護士費用が本件と相当因果関係のある ,うつ病と診断されていること,その他本件に現れた一切の事情を考慮して,400万円が相当であると認める。 また,本件事案の内容,上記認容額に照らせば,40万円の弁護士費用が本件と相当因果関係のある損害と認められる。 (3)以上によれば,被告は,原告に対し,不法行為(使用者責任)に基づき,損害賠償金440万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成15年10月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。 第4 結論 よって,原告の請求は,主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第30部裁判長裁判官秋吉仁美裁判官大嶺崇裁判官渡邉隆浩
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