令和5年12月15日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和4年(行ウ)第5001号行政処分取消等請求事件口頭弁論終結日令和5年9月29日判決 原告エムシーシーアイコーポレイション 同訴訟代理人弁護士葛和百合絵同補佐人弁理士葛和清司 被告国処分行政庁兼裁決行政庁特許庁長官 同指定代理人安實涼子 同大谷恵菜同中島あんず 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求 1 特許庁長官が特許第5281402号について令和3年4月8日付けで原告に対してした令和元年7月25日付け提出の特許料納付書に係る手続の却下の処分を取り消す。 2 特許庁長官が令和4年5月31日付けで原告に対してした原告の令和3年7月27日付け審査請求(令和3年行服第14号)を棄却する旨の裁決を取り消す。 3 特許庁長官が特許第5281402号について令和4年8月3日付けで原告に対してした令和2年6月1日付け提出の特許料納付書に係る手続の却下の処分を取り消す。 4 特許庁長官が特許第5281402号について令和4年8月3日付けで原告に対してした令和3年5月20日付け提出の特許料納付書に係る手続の却下の処分を取り消す。 5 特許庁長官が特許第5281402号について令和5年4月25日付けで原告に対してした けで原告に対してした令和3年5月20日付け提出の特許料納付書に係る手続の却下の処分を取り消す。 5 特許庁長官が特許第5281402号について令和5年4月25日付けで原 告に対してした令和4年5月20日付け提出の特許料納付書に係る手続の却下の処分を取り消す。 第2 事案の概要等 1 事案の要旨本件は、①特許第5281402号の特許権(以下「本件特許権」という。) を保有していた原告が、本件特許権の第6年分及び第7年分の特許料及び割増特許料(以下「特許料等」という。)を特許法(令和3年5月21日法律第42号による改正前のもの。以下同じ。)112条1項により追納することができる期間に納付することができなかったこと(以下「本件期間徒過」という。)について、同法112条の2第1項の「正当な理由」があるとして令和元年7 月25日付けで特許料納付書(以下「本件納付書1」という。)を提出したが、特許庁長官は令和3年4月8日付けで本件納付書1に係る手続の却下の処分(以下「本件却下処分1」という。)をし、これに対して、②原告は本件却下処分1の取消しを求める審査請求(以下「本件審査請求」という。)を行ったが、特許庁長官は同審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。) をし、その後、③原告は本件特許権の第8年分ないし第10年分の特許料納付書(以下、第8年分ないし第10年分特許料納付書を「本件納付書2」ないし「本件納付書4」という。)を提出したが、特許庁長官は、令和4年8月3日付けで本件納付書2及び3に係る手続の却下の処分をし、令和5年4月25日付けで本件納付書4に係る手続の却下の処分(以下、本件納付書2ないし本件 納付書4に係る手続の却下の処分を「本件却下処分2」ないし「本件却下処分 4」といい、 をし、令和5年4月25日付けで本件納付書4に係る手続の却下の処分(以下、本件納付書2ないし本件 納付書4に係る手続の却下の処分を「本件却下処分2」ないし「本件却下処分 4」といい、本件却下処分1ないし4を併せて「本件各却下処分」という。)をしたため、原告が、本件各却下処分及び本件裁決はいずれも違法であると主張して、被告に対し、これらの取消しを求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) ⑴ 当事者(弁論の全趣旨)原告は、ソフトウェア・IT関連の開発を行うアメリカ合衆国所在の外国法人である。 ⑵ 本件各却下処分及び本件裁決に至る経過ア本件特許権については、平成25年5月31日に特許権の設定の登録が 行われ、原告が特許権者となった(甲1)。 イ本件却下処分1及び本件裁決について原告は、本件特許権の第6年分の特許料等について、その納付期間の末日である平成30年5月31日までに納付をせず、また、その追納期間の末日である同年11月30日までにも納付を行わなかった(本件期 間徒過)。 そのため、本件特許権は、特許法112条4項により、上記納付期間の末日(平成30年5月31日)経過のときに遡って消滅したものとみなされた。 原告は、令和元年7月25日、特許庁長官に対し、特許法112条の 2による特許権の回復を求めて、本件特許権の第6年分及び第7年分の特許料納付書(本件納付書1)及び本件期間徒過には正当な理由がある旨を主張する回復理由書を提出した(甲2、12)。 特許庁長官は、令和2年2月20日付で、原告に対し、本件期間徒過について正 許料納付書(本件納付書1)及び本件期間徒過には正当な理由がある旨を主張する回復理由書を提出した(甲2、12)。 特許庁長官は、令和2年2月20日付で、原告に対し、本件期間徒過について正当な理由があるとはいえず、特許法112条の2第1項の要 件を満たしていないため、本件納付書1に係る手続は同法18条の2第 1項の規定により却下すべき旨の却下理由通知書を送付し(甲17)、原告は、同年8月4日、上記却下理由に対する弁明書を提出した(甲13)。 特許庁長官は、令和3年4月8日付で、上記の却下理由により、本件納付書1に係る手続の却下の処分をした(本件却下処分1。甲3)。 原告は、令和3年7月27日付けで、本件却下処分1の取消しを求めて審査請求(本件審査請求)を行った(甲4)。 これに対し、特許庁長官は、審理員意見書の提出及び行政不服審査会の答申を受けた上で、令和4年5月31日付けで、本件審査請求を棄却する旨の裁決をした(本件裁決。甲5、乙1)。 ウ本件却下処分2及び3について原告は、令和2年6月1日に本件特許権の第8年分の特許料納付書を(本件納付書2。甲7)、令和3年5月20日に第9年分の特許料納付書(本件納付書3。甲9)をそれぞれ提出した。 特許庁長官は、令和3年6月10日付けで、原告に対し、本件納付書 2及び3に係る手続については、権利消滅後の特許料の納付であるため、不適法な手続として却下すべき旨の却下理由通知書を送付し(甲18、19)、令和4年8月3日付で、上記の却下理由により、本件納付書2及び3に係る手続の却下の処分をした(本件却下処分2及び3。甲8、10)。 エ本件却下処分4について原告は、令和4年5月20日、本件特許権の第10 上記の却下理由により、本件納付書2及び3に係る手続の却下の処分をした(本件却下処分2及び3。甲8、10)。 エ本件却下処分4について原告は、令和4年5月20日、本件特許権の第10年分の特許料納付書(本件納付書4)を提出し(甲11)、令和4年12月1日には、本件却下処分1ないし3及び本件裁決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。 特許庁長官は、令和4年12月19日付けで、原告に対し、本件納付 書4に係る手続については、権利消滅後の特許料の納付であるため、不適法な手続として却下すべき旨の却下理由通知書を送付し(甲29)、令和5年4月25日付で、上記の却下理由により、本件納付書4に係る手続の却下の処分をした(本件却下処分4。甲30)。 原告は、令和5年5月23日付けの訴えの追加的変更申立書により、 本件却下処分4の取消しを求める訴えを追加した。 ⑶ 本件期間徒過に至る経緯(甲12、16の2)ア原告は、ComputerPackagesInc.(以下「米国年金管理会社」という。)に対し、本件特許権に関する期間管理及び特許料の納付業務を委託し、AA特許事務所(以下「日本代理人事務所」とい う。) のAA弁理士(以下「AA弁理士」という。)及びB弁理士(以下、両者を併せて「本件担当弁理士ら」という。) は、米国年金管理会社から委託を受け、米国年金管理会社と協働して特許料納付の期間管理をし、米国年金管理会社を代理して特許料の納付業務を行っていた。 イ AA弁理士は、平成30年5月18日、米国年金管理会社から納付依頼 書を受領し、その内容の確認依頼を受けた。この納付依頼書には、特許料納付リストと題する書面(以下「本件特許料納付リスト」という。)や特許料納付のための書式集(以下「 年金管理会社から納付依頼 書を受領し、その内容の確認依頼を受けた。この納付依頼書には、特許料納付リストと題する書面(以下「本件特許料納付リスト」という。)や特許料納付のための書式集(以下「本件特許料納付書式集」という。)が添付されていたが、本件特許料納付リストには、本件特許権に関する記載がなかったため、本件特許権の第6年分の特許料納付書が作成されず、同年 分の特許料は納付されなかった。 ウ AA弁理士は、平成30年10月1日、米国年金管理会社から支払確認リスト(以下「本件支払確認リスト」という。)を受領し、その内容の確認依頼を受けた。本件支払確認リストには、米国年金管理会社が特許料納付の指示をしたもののうち、特許庁の受領書を受け取っていないものが列 記されており、本件特許権に関する記載も含まれていた。 エ本件担当弁理士らは、平成30年10月8日から同月10日までの間、本件支払確認リストを紙に印刷し、印刷された全7ページの紙のリスト(以下「本件紙リスト」という。)と日本代理人事務所が保有する特許庁への特許料納付記録及びJ-PlatPat(独立行政法人工業所有権情報・研修館が提供する特許情報プラットフォーム)等とを照合して、支払 が確認できた権利については、本件紙リストに報告送付日等を記入し、支払が確認できなかった権利については、本件紙リストの左余白にチェックマークを記載する作業を行った。この際、本件担当弁理士らは、本件特許権の特許番号が記載された左余白にもチェックマークを記載していた。 オ AA弁理士は、平成30年10月10日、米国年金管理会社に対して、 電子メールを送信し、本件支払確認リストに記載のあった権利のうち、本件紙リストの左余白にチェックマークを記載した特許権及び意匠権のうち、本 平成30年10月10日、米国年金管理会社に対して、 電子メールを送信し、本件支払確認リストに記載のあった権利のうち、本件紙リストの左余白にチェックマークを記載した特許権及び意匠権のうち、本件特許権を除く特許権7件及び意匠権2件について、本件特許料納付リストに含まれていなかったことを報告するとともに、米国年金管理会社に対して支払指示の再確認を依頼したが、その際、本件特許権について は、上記チェックマークを見落とし、特許料の納付を確認できなかったことを報告しなかった。 カ本件担当弁理士らは、平成30年10月31日、米国年金管理会社から、前記オで報告した権利に関する料金の支払指示を受け、同年11月1日には、本件特許料納付リストと本件支払確認リストとの間に齟齬が発生した 理由が記載された電子メール(以下「本件電子メール」という。)を受領した。 本件電子メールには、以下の記載が存在する(原文は英語であり、以下の内容はその日本語訳である。当方、当社は米国年金管理会社のことを、貴所は日本代理人事務所を指す。なお、本件電子メールの記載の趣旨につ いては、当事者間に争いがある。)。 「当方がこれらの支払いについて生じた混乱を突き止めましたことをご了承ください。当社は当社のファイル(添付電子メール参照)に特許と意匠のための書式を含めていましたが、貴所に送付した年金インデックスファイルのリストは予備的リストであって、2018年5月に作成された実際の「真のリスト」ではありませんでした。 今後、貴所が当社のファイルとそれに対応する書式集の間の相違に遭遇した場合にはお知らせください。書式の数は、年金インデックスファイルのリストの入力数に対応するはずです。 貴所が該インデックスファイルから漏れていた料金を現在 とそれに対応する書式集の間の相違に遭遇した場合にはお知らせください。書式の数は、年金インデックスファイルのリストの入力数に対応するはずです。 貴所が該インデックスファイルから漏れていた料金を現在は支払い済みであることをご確認ください。」 キ AA弁理士は、平成30年11月7日、米国年金管理会社に対して、前記カで支払指示を受けた権利に関する料金を支払った旨を報告する電子メールを送信した。同メールには、特許庁の受領書の写し等が添付されていた。 ク本件担当弁理士らは、米国年金管理会社が、令和元年5月25日、本件 特許権の第7年分の特許料納付依頼書を送付したことを契機として、同月28日、本件期間徒過を認識した。 ⑷ 特許庁作成の「期間徒過後の救済規定に係るガイドライン【四法共通】(平成28年4月1日改訂版)」(以下「本件ガイドライン」という。)について(甲24の1) 本件ガイドラインには、「正当な理由」(特許法112条の2第1項)に関する基本的な考え方として、「手続をするために出願人等が講じていた措置が、状況に応じて必要とされるしかるべき措置(相応の措置)であったといえる場合に、それにもかかわらず、何らかの理由により期間徒過に至ったときには、期間内に手続をすることができなかったことについて「正当な理由」 がある」と判断する旨の記載がある(17頁)。 また、出願人が手続をするために講じていた措置について、「人為的なミスを起因とする場合」の考え方として、以下のとおり記載がある(20頁)。 「期間徒過の原因となった事象が、出願人等による人為的なミスにより発生したものであるといえる場合、通常の注意力を有する者であれば、当該ミスによる事象の発生を回避すべく措置を講ずべきであることから、 「期間徒過の原因となった事象が、出願人等による人為的なミスにより発生したものであるといえる場合、通常の注意力を有する者であれば、当該ミスによる事象の発生を回避すべく措置を講ずべきであることから、その事象 の発生を回避できなかったことをもって、原則、出願人等は、相応の措置を講じていなかったものとされます。 しかし、出願人等が講じていた措置により、通常であれば当該ミスによる事象の発生を回避できたにもかかわらず、特殊な事情があったことによりそれを回避できなかったといえるときは、その措置は相応の措置であったと判 断されることもあります。」 3 争点⑴ 本案の争点ア本件期間徒過についての「正当な理由」の有無(争点1)イ本件各却下処分の違法性(争点2) ウ本件裁決の違法性(争点3)⑵ 本案前の争点(本件裁決の取消しの訴えに係る予備的主張)本件裁決の取消しを求める訴えの利益の有無(争点4)第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件期間徒過についての「正当な理由」の有無)について (原告の主張)⑴ 本件却下処分1の基礎とされた重要な事実に誤認があること本件却下処分1の却下理由通知書(甲17)では、「さらに、同月31日、米国年金管理会社から、平成30年5月18日に送付の特許料納付依頼書における特許料納付リストが適正なものではなかったため、当該リストと特許 料納付書式集に相違が生じてないか確認を依頼する電子メールも受領してい ます。」と記載されており、本件却下処分1においては、本件電子メールの存在が正当な理由を否定する事情として考慮されているものと解される。 しかし、本件電子メールは、今後、特許料納付リストと特許料納付書式集との間に不一致が生じた場合には 1においては、本件電子メールの存在が正当な理由を否定する事情として考慮されているものと解される。 しかし、本件電子メールは、今後、特許料納付リストと特許料納付書式集との間に不一致が生じた場合には米国年金管理会社に連絡されたい旨の記載がされているだけであり、本件特許権の特許料の納付状況の再確認を求める ものではなかった。このことは、本件電子メールにおいて、「Goingforward(今後)」という表現が使用されていることからも明らかである。 したがって、本件電子メールの存在は正当な理由を否定する根拠とはならず、本件却下処分1はその基礎とされた重要な事実に誤認がある。 ⑵ 本件期間徒過には「正当な理由」(特許法112条の2第1項)があることア本件却下処分1が国際的な考え方に反する本件ガイドラインに基づいてされたものであること本件ガイドラインでは、従前の期間徒過の救済規定の判断について、 「欧米等と比して、非常に厳格であって、実質的な救済が図られていない」という指摘があったことを踏まえ、一部の手続における要件が緩和された旨の記載があるところ、同ガイドラインに関して特許庁が公開したQ&Aでは、「正当な理由」の判断について、「EPOの採用するDueCare(相当な注意)等の考え方を参考に規定されたものですので、大きな違 いはありません。」とされている。 そして、同様に「DueCare」の基準を採用しているEPO(欧州特許庁)では、期間徒過が例外的な状況又は通常は有効に機能している期間管理システムにおける「孤立したミス(isolatedmistake)」であれば、救済対象になり得るものとしており、このようなミ スであるかは、本人の宣誓供述書があれば十分とされていた。 ムにおける「孤立したミス(isolatedmistake)」であれば、救済対象になり得るものとしており、このようなミ スであるかは、本人の宣誓供述書があれば十分とされていた。 しかし、本件ガイドラインでは、「DueCare」の基準を採用している諸外国と比較して厳格すぎる基準が採用されており、このような基準は当時の国際的な考え方に反するものであった。 本件処分1は、このような本件ガイドラインに基づいて判断されたものであって、著しく妥当性を欠くものである。 イ原告は期間徒過を防ぐための相応の措置を講じていたこと原告においては、本件期間徒過が発生した当時、米国年金管理会社と日本代理人事務所が協同して特許料等を適切に納付するためのフローを構築していた。 すなわち、米国年金管理会社は、通常、日本代理人事務所に対して、納 付期限直前に1回、納付済み報告を受けていない件については納付期限から5か月後(追納期限の1か月前)にもう1回の合計2回、その特許料等の納付手続が行われているかの確認を依頼する手続をとっていた。さらに、日本代理人事務所では、上記の確認依頼を受けて、送付されたリストを印刷し、特許料等の納付漏れがないかについて、本件担当弁理士ら二人がか りで二重、三重のチェックを行っていた。 このように、原告においては、期間徒過を防ぐための相応の措置が講じられていた。 ウ本件期間徒過を認識することは困難であったことこの点、本件期間徒過が生じた原因は、①当初送付された本件特許料納 付リストには、本件特許権に係る記載がなかったため、通常、合計2回行われるはずの確認作業が1回しか行うことができなかったこと、②本件支払確認リストを印刷した本件紙リストにおいて、本件特許権に係る記載 付リストには、本件特許権に係る記載がなかったため、通常、合計2回行われるはずの確認作業が1回しか行うことができなかったこと、②本件支払確認リストを印刷した本件紙リストにおいて、本件特許権に係る記載が分かれて印刷されていたことから、本件担当弁理士らが本件特許権の記載を見逃してしまったことにあると考えられるところ、これまで印刷の切れ 目に案件が紛れるなどして特許権の存在を見落としたことは一度もなかっ た。 そうすると、米国年金管理会社及び日本代理人事務所のいずれにおいても、本件支払確認リストや本件紙リストを再確認する動機は存在せず、本件期間徒過を認識することは困難であった。 エ小括 以上のように、原告は期間徒過を防ぐための相応の措置を講じており、また、米国年金管理会社及び日本代理人事務所が本件期間徒過を認識することは困難であったことからすれば、本件期間徒過には「正当な理由」が存在するといえる。 (被告の主張) ⑴ 本件却下処分1の基礎とされた重要な事実に誤認はないこと本件電子メールにおいては、①本件特許料納付リストが適正なものでなかった旨とともに、②本件特許料納付リストの入力数と本件特許料納付書式集の数が相違するものであるかの確認と、③本件特許料納付リストから除外された権利の特許料の納付状況について確認を求める旨が記載されている。 原告は、本件電子メールは「今後」の確認を求めるものにすぎないと主張するが、上記のとおり、同メールは本件特許権の特許料の納付状況の再確認を求めたものと解するのが相当である。 したがって、本件却下処分1に事実誤認はない。 ⑵ 本件期間徒過には「正当な理由」(特許法112条の2第1項)があると はいえないことア本件ガイドラインの記 するのが相当である。 したがって、本件却下処分1に事実誤認はない。 ⑵ 本件期間徒過には「正当な理由」(特許法112条の2第1項)があると はいえないことア本件ガイドラインの記載について本件ガイドラインは、特許庁の判断の指針、運用手続等を示したものであって、法令等のような法規範性を有するものではない。 そして、特許庁長官は、本件ガイドラインを根拠として本件却下処分1 をしたのではなく、諸般の事情を考慮し、本件期間徒過につき正当な理由 がないと判断したのであり、その判断には何ら誤りはない。 したがって、原告が指摘する本件ガイドラインの記載の存在は、本件却下処分1が違法であることを裏付けるものではない。 イ本件期間徒過は本件担当弁理士らの不注意によるものであること本件支払確認リストの確認及び報告における不注意があったこと 本件担当弁理士らは、平成30年10月1日、米国年金管理会社から送付された本件支払確認リストを受領しているが、本件支払確認リストには、本件特許権に関する記載も含まれていたのであるから、本件担当弁理士らとしては、本件特許権を含め、本件支払確認リストに列記された権利についての実際の特許料の納付状況を確認し、それを報告するこ とが求められていた。 しかしながら、本件担当弁理士は、本件特許権については特許料が未納であることを確認し、本件紙リストの左余白にチェックマークを記載していたにもかかわらず、米国年金管理会社に対して報告する際に、本件特許権を含めない内容で報告したのであるから、本件担当弁理士らの 不注意は明らかである。 本件電子メールによって指示された確認における不注意があったこと本件担当弁理士らは、平成30年11月1日、本件 報告したのであるから、本件担当弁理士らの 不注意は明らかである。 本件電子メールによって指示された確認における不注意があったこと本件担当弁理士らは、平成30年11月1日、本件電子メールを受信しているところ、前記⑴で主張したとおり、本件電子メールは、当初に送付された本件特許料納付リストから漏れた権利の特許料の納付状況の 確認を求めるものであった。 しかしながら、本件担当弁理士らが、同時点において、本件特許料納付リストから漏れた権利の特許料の納付状況を確認するために、本件特許料納付リストの入力数と本件特許料納付書式集の数が一致するかどうかの確認作業を行ったとは認められないし、他の方法で確認をした事実 も認められない。 そうすると、本件担当弁理士らは、本件電子メールの指示に従わなかった結果、本件特許料納付リストから漏れた本件特許権の特許料等の納付の機会を逸し、本件期間徒過に至ったのであるから、この点からしても、本件担当弁理士らには不注意があったといえる。 ウ小括 以上のように、本件期間徒過については、特許権者である原告として、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみて法定の追納期間内に特許料等を納付することができなかったとは認められず、かつ、特段の事情があったとも認められないから、「正当な理由」があるとはいえない。 2 争点2(本件各却下処分の違法性)について(原告の主張)⑴ 本件却下処分1の違法性について前記1(原告の主張)のとおり、本件却下処分1においては、その基礎とされた重要な事実に誤認が存在する上、本件期間徒過には「正当な理由」 (特許法112条の2第1項)があるから、判断内容としても社会通念に照らし著しく妥当性を欠いている。 おいては、その基礎とされた重要な事実に誤認が存在する上、本件期間徒過には「正当な理由」 (特許法112条の2第1項)があるから、判断内容としても社会通念に照らし著しく妥当性を欠いている。 したがって、本件却下処分1は違法である。 ⑵ 本件却下処分2ないし4の違法性について前記⑴のとおり、本件期間徒過には「正当な理由」があるから、本件特許 権は本件納付書1による追納に基づき回復し、本件納付期間の経過の時に遡って有効に存続していた(特許法112条の2第2項)。そして、原告は、本件特許権の第8年分ないし第10年分の特許料をその納付期限までに納付している。 したがって、本件納付書2ないし4に基づく納付手続は「不適法な手続」 (同法18条の2第1項)ではないから、本件却下処分2ないし4はいずれ も違法である。 (被告の主張)⑴ 本件却下処分1の適法性について前記1(被告の主張)のとおり、本件却下処分1には事実誤認はなく、本件期間徒過に「正当な理由」(特許法112条の2第1項)はないから、本 件納付書1に基づく納付手続は「不適法な手続」であり、その補正ができないものといえる(同法18条の2第1項)。 したがって、本件却下処分1は適法である。 ⑵ 本件却下処分2ないし4の適法性について上記のとおり、本件期間徒過に「正当な理由」はないから、本件特許権は、 第6年分の特許料に係る納付期間の末日である平成30年5月31日の経過をもって消滅したとみなされる(特許法112条4項)。 そうすると、本件納付書2ないし4に基づく納付手続については、そもそも納付の対象となる特許権が存在しないから、これらに係る手続は「不適法な手続」であり、「その補正をすることができないもの」といえる(同法1 付書2ないし4に基づく納付手続については、そもそも納付の対象となる特許権が存在しないから、これらに係る手続は「不適法な手続」であり、「その補正をすることができないもの」といえる(同法1 8条の2第1項)。 したがって、本件却下処分2ないし4は適法である。 3 争点3(本件裁決の違法性)について(原告の主張)本件裁決は、本件各却下処分の違法性に関する十分な審理を経ることなく行 われたものであるから、行政不服審査法41条1項の「必要な審理」を行ったとはいえない。 また、本件裁決は、本件審査請求における請求人(原告)の主張を踏まえたものといえず、同法50条1項4号の「理由」が記載されているものとはいえない。 したがって、本件裁決は違法である。 (被告の主張)裁決の取消しを求める訴えにおいては、原処分主義(行訴法10条2項)が妥当するため、原告は裁決固有の瑕疵のみを主張し得るにとどまるところ、原告の主張する違法事由は、結局のところ、本件却下処分1の実体的判断(「正当な理由」(特許法112条の2第1項)の有無)に対する不服を述べているも のにすぎないから、これらの主張は裁決固有の瑕疵に当たらない。 また、裁決において、請求人(原告)の主張を逐一取り上げて判断しなかったからといって、直ちに当該裁決の理由に不備があるとはならない。そして、本件裁決は行政不服審査法の規定に沿った形で行われたものであり、本件において、裁決固有の瑕疵の存在を基礎づけるような事情は認められない。 したがって、本件裁決は適法である。 4 争点4(本件裁決の取消しを求める訴えの利益の有無)について(被告の主張)本件裁決の取消しを求める訴えは、本件却下処分1の取消しを求めるために提起さ したがって、本件裁決は適法である。 4 争点4(本件裁決の取消しを求める訴えの利益の有無)について(被告の主張)本件裁決の取消しを求める訴えは、本件却下処分1の取消しを求めるために提起されたものと考えられるところ、仮に本件却下処分1の取消しを求める訴 えが認容された場合、本件裁決の取消しを求める訴えの利益は失われる。 (原告の主張)争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(本件期間徒過についての「正当な理由」の有無)について ⑴ 特許法112条の2第1項の「正当な理由」の解釈について特許法112条の2第1項においては、平成23年法律第63号の改正(以下「平成23年改正」という。)によって、追納期間経過後に特許料等を追納することができる場合の要件が、特許権者の「責めに帰することができない理由により…納付することができなかつたとき」から、「納付するこ とができなかつたことについて正当な理由があるとき」に変更されている。 上記の改正は、国際的調和の観点から権利救済の要件を緩和しようとする一方で、第三者の監視負担等の反対利益を考慮して、PLT(特許法条約)において選択が認められている「DueCure」の概念が採用され、条文の文言としては「正当な理由があるとき」と規定したものと解される。 このような平成23年改正の経緯や趣旨等に鑑みると、同条項の「正当な 理由があるとき」とは、原特許権者(代理人を含む。)として相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみて追納期間内に特許料等を納付することができなかったときをいうものと解するのが相当である。 ⑵ 「正当な理由」の有無についてア前提事実⑶ウ、エ及びオによれば、本件担当弁理士らは、平成30年1 0月1日、米国年金 ることができなかったときをいうものと解するのが相当である。 ⑵ 「正当な理由」の有無についてア前提事実⑶ウ、エ及びオによれば、本件担当弁理士らは、平成30年1 0月1日、米国年金管理会社の担当者から本件支払確認リストの確認依頼を受け、それを印刷した本件紙リストの本件特許権の特許番号が記載された左余白にチェックマークを記載したにもかかわらず、同担当者に対して、本件特許権について特許料の納付を確認できなかったことを報告しなかったという経緯が認められる。 この点、本件担当弁理士らが、上記の機会に本件紙リストの内容について通常の注意を払って確認及び報告の作業を行っていれば、チェックマークの記載を正確に反映した報告を行うことは容易であったはずであり、そうだとすれば、本件担当弁理士らは、上記の時点で、追納期間内に特許料等を納付するために相当な注意を尽くしていたと認めることはできない。 イまた、前提事実⑶カのとおり、平成30年10月31日に送付された本件電子メールには、①「貴所に送付した年金インデックスファイルのリストは予備的リストであって、2018年5月に作成された実際の「真のリスト」ではありませんでした。」、②「今後、貴所が当社のファイルとそれに対応する書式集の間の相違に遭遇した場合にはお知らせください。書式 の数は、年金インデックスファイルのリストの入力数に対応するはずで す。」、③「貴所が該インデックスファイルから漏れていた料金を現在は支払い済みであることをご確認ください。」と記載されていることが認められるところ、上記①は、当初に送付された本件特許料納付リストが予備的リストであって適正なリストではなかったこと、上記②は、今後送付される納付リストや書式数の間に相違があった場合は連絡してほ が認められるところ、上記①は、当初に送付された本件特許料納付リストが予備的リストであって適正なリストではなかったこと、上記②は、今後送付される納付リストや書式数の間に相違があった場合は連絡してほしいこと、上 記③は、本件特許料納付リストに記載されていなかった特許料等を支払済みであることを確認してほしいことをそれぞれ意味するものと解される。 このような本件電子メールの記載からすれば、米国年金管理会社の担当者及び本件担当弁理士らは、遅くともこの時点で、本件特許料納付リストの内容が不正確なものであることを認識しており、かつ、米国年金管理会 社は、本件担当弁理士らに対して、本件特許料納付リストに記載されていない特許権等の料金を支払済みであることを確認するように求めたと認めるのが相当である。 そして、前提事実⑶キのとおり、本件担当弁理士らは、平成30年11月7日、米国年金管理会社に対し、本件特許権以外の複数の権利に関する 料金の追加の納付手続が終了したことを電子メールにより報告しており、同電子メールには、特許庁の受領書の写し等が添付されていたことから、米国年金管理会社において、本件特許権に係る特許料の追加納付がされていないことを確認する材料を取得していたものといえる。 そうすると、上記のメールのやり取りが行われている間に、本件担当弁 理士らが本件紙リストの内容を確認し、米国年金管理会社の担当者が本件担当弁理士らから送付された受領書等の内容と本件支払確認リストの内容の整合性を確認するなどの作業が行われていれば、本件期間徒過を認識できたものと考えられるが、実際には、令和元年5月25日に本件特許権の第7年分の特許料納付依頼書を送付するまでの間に、両者の間で上記の追 加納付に係るやり取りが行われたことはうかがわれない 識できたものと考えられるが、実際には、令和元年5月25日に本件特許権の第7年分の特許料納付依頼書を送付するまでの間に、両者の間で上記の追 加納付に係るやり取りが行われたことはうかがわれないから、本件では上 記の確認作業も行われていなかったものと推認される。 したがって、上記の時点においても、追納期間内に特許料等を納付するために相当な注意が尽くされていたと認めることはできない。 なお、原告は、本件電子メールについては、今後の確認を求めたものにすぎず、本件特許権の特許料の納付状況の再確認を求めるものではないか ら、同メールの存在は「正当な理由」を基礎づける事情とはならないと主張する。 しかしながら、上記のとおり、本件電子メールには「貴所が該インデックスファイルから漏れていた料金を現在は支払い済みであることをご確認ください。」と記載されており、「該インデックスファイル」とは本件特許 料納付リストのことを意味するものと解されるところ、本件特許権の特許料等は「本件特許料納付リストから漏れていた料金」であるといえるから、本件電子メールの記載が、本件特許権の特許料の納付状況の再確認を求めるものではないとはいえない。 また、本件電子メールにおいては、本件特許料納付リストの内容が不正 確なものであったことが明記されており、そうだとすれば、同メールが本件特許権の特許料の納付状況の再確認を求める趣旨のものであったか否かにかかわらず、本件担当弁理士らや米国年金管理会社の担当者においては、上記の確認作業を行うべきであったと解される。 いずれにしても、原告の上記主張は採用できない。 ウ以上によれば、原告(その代理人も含む)が、前記ア及びイの時点において、相当な注意を尽くしていたとは認められず、本件全証拠によって る。 いずれにしても、原告の上記主張は採用できない。 ウ以上によれば、原告(その代理人も含む)が、前記ア及びイの時点において、相当な注意を尽くしていたとは認められず、本件全証拠によっても、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみて追納期間内に特許料等を納付することができなかったと認めることはできないから、本件期間徒過について「正当な理由がある」(特許法112条の2第1項)と は認められない。 ⑶ 原告の主張についてア原告は、①米国年金管理会社は、通常、日本代理人事務所に対して、納付期限直前に1回、納付済み報告を受けていない件については納付期限から5か月後(追納期限の1か月前)にもう1回の合計2回、その特許料等の納付手続が行われているかを確認しており、②また、日本代理人事務所 では、特許料等の納付漏れがないかについて、二人がかりで二重、三重のチェックを行っていたから、本件期間徒過を防ぐための相応の措置を講じていたもので、③本件期間徒過が生じたのは、本件紙リストにおいて、本件特許権の記載が印刷の関係で分断されていたことなどが原因であり、このようなことはこれまで一度もなかったことなどを理由として、「正当な 理由」が認められると主張するので、以下、検討する。 イ ①については、単に米国年金管理会社の担当者が二度の確認依頼をしていたことのみをもって、原告が本件期間徒過を防ぐために相当な注意を尽くしていたと認めることはできない。 また、②については、本件支払確認リストや本件紙リストに関するやり 取りを見ても(前提事実⑶ウないしク)、本件担当弁理士らが、具体的にどのようなチェック方法により確認作業を行っていたのかを認めるに足りる証拠はなく、仮に、原告が主張するような二人がか るやり 取りを見ても(前提事実⑶ウないしク)、本件担当弁理士らが、具体的にどのようなチェック方法により確認作業を行っていたのかを認めるに足りる証拠はなく、仮に、原告が主張するような二人がかりでの二重、三重のチェックを行っていたとすれば、通常、一度確認したはずの本件紙リストのチェックマークを見逃すとは考え難い。そうだとすれば、日本代理人事 務所において、本件期間徒過を防ぐために相当な注意を尽くしていたと認めることはできない。 ウ ③について、本件担当弁理士らは、本件紙リストの本件特許権の特許番号の左余白にチェックマークを付しており、少なくともその時点で本件特許権について特許料が納付されていないという事実を認識できていたはず である。そうすると、本件紙リストにおいて、本件特許権の記載が印刷の 関係で分断されていたことと、それを報告しなかったこととに因果関係を見出し難いといわざるをえず、③は相当な注意を尽くしていたことを裏付ける事情とはならない。 エ以上によれば、原告の前記アの主張は理由がないというべきである。 2 争点2(本件各却下処分の違法性)について ⑴ 本件却下処分1の違法性について前記1で説示したとおり、本件期間徒過に「正当な理由がある」(特許法112条の2第1項)とは認められないから、本件納付書1に基づく納付手続は「不適法な手続であつて、その補正をすることができないもの」といえる(特許法18条の2第1項)。 したがって、本件納付書1に係る手続を却下した本件却下処分1が違法であるとは認められない。 ⑵ 本件却下処分2ないし4の違法性について前記⑴のとおり、本件期間徒過に「正当な理由がある」とは認められないから、本件特許権は、第6年分の特許料に係る納付期間の末日である平 とは認められない。 ⑵ 本件却下処分2ないし4の違法性について前記⑴のとおり、本件期間徒過に「正当な理由がある」とは認められないから、本件特許権は、第6年分の特許料に係る納付期間の末日である平成3 0年5月31日の経過をもって消滅したとみなされる(特許法112条4項)。 そうすると、本件納付書2ないし4に基づく納付手続については、そもそも納付の対象となる特許権が存在せず、これらに係る手続は「不適法な手続であつて、その補正をすることができないもの」(特許法18条の2第1項) といえる。 したがって、本件納付書2ないし4に係る手続を却下した本件却下処分2ないし4が違法であるとは認められない。 3 争点3(本件裁決の違法性)について原告は、本件裁決には、審理不尽や理由付記の不備といった取消事由が存在 すると主張する。 しかしながら、本件全証拠によっても、本件裁決の審理において、必要な審理が行われていなかったとは認められない。また、証拠(甲5)によれば、本件裁決では審理員意見書を一部引用する形で理由が記載され、同引用箇所においては「正当な理由」の有無等についての具体的な判断が記載されていることが認められる一方、理由付記の不備を基礎づける事実を認めるに足りる証拠は ない。 したがって、本件裁決の取消しを求める原告の主張は理由がない。 4 結論よって、その余について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないからこれらをいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 部 裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 バヒスバラン薫 裁判官 木村洋一
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