平成29(ワ)3251 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和4年3月11日 大阪地方裁判所
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判決文本文38,053 文字)

主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告らは、原告に対し、連帯して6500万円及びこれに対する平成29年5月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、刑事事件の被告人であった原告が、当該刑事事件において鑑定書を提出するなどした被告らに対し、①被告らによる虚偽の鑑定書の提出等が不法行為に該当し、②被告らによる記者会見での発言が原告の名誉を毀損するなどと主張して、共同不法行為に基づき、損害賠償金6500万円(慰謝料6000万円、弁護士費用500万円)及びこれに対する不法行為の日の後である平成29年5月10日(訴状送達の日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「旧民法」)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である 2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は末尾括弧内記載の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者ア原告は、平成10年7月25日に発生したいわゆる和歌山カレー事件(以下「本件刑事事件」という。)等の犯人であるとされて死刑が確定し、本件刑事事件等につき無罪であるとして再審を請求している者である(甲6、36、乙18、弁論の全趣旨)。 イ被告らは、本件刑事事件に関し、和歌山地方検察庁検事等から鑑定を嘱託されて鑑定し、また、本件刑事事件等の刑事裁判において証人として証言した者である。平成10年頃当時、被告Aは東京理科大学教授、被告B は聖マリアンナ医科大学助教授であった(甲1、4)。 ウ C(以下「C教授」という。)は、京都大学工学部の教授であり、「和歌山カレー砒素事件鑑定資料:蛍光X線」等の論文 教授、被告B は聖マリアンナ医科大学助教授であった(甲1、4)。 ウ C(以下「C教授」という。)は、京都大学工学部の教授であり、「和歌山カレー砒素事件鑑定資料:蛍光X線」等の論文を執筆し、後記再審請求事件において、同事件を担当する弁護士(原告訴訟代理人ら)に対し、意見書(鑑定書)等を提出するなどしている(甲10、32、乙13)。 ⑵ 被告Aの鑑定書の提出等ア被告A第1鑑定書被告Aは、和歌山地方検察庁検事から鑑定を嘱託され、平成11年2月19日付け鑑定書(以下、「被告A第1鑑定書」といい、同鑑定書作成の基礎となる鑑定を「被告A第1鑑定」という。)を提出した。 被告A第1鑑定書には、別紙鑑定資料一覧記載第1の鑑定資料1ないし鑑定資料7(以下「資料①」ないし「資料⑦」という。)、鑑定資料10-1(以下「本件カレー内の白色結晶粒子」という。)が同一物、すなわち、同一の工場が同一の原料を用いて同一の時期に製造した亜砒酸(以下、三酸化二砒素等について、単に「亜砒酸」ということがある。)である旨記載されている。(甲1・8頁、51)イ被告A第2鑑定書被告Aは、和歌山地方検察庁検事から鑑定を嘱託され、平成11年7月23日付け鑑定書(以下、「被告A第2鑑定書」といい、同鑑定書作成の基礎となる鑑定を「被告A第2鑑定」という。)を提出した。 被告A第2鑑定書には、別紙鑑定資料一覧記載第2の鑑定資料である原告の頭髪(後記本件毛髪)から砒素が検出された旨記載されている。(甲44・3頁)ウ被告A第3鑑定書被告Aは、和歌山地方検察庁検事から鑑定を嘱託され、平成12年3月28日付け鑑定書(以下、「被告A第3鑑定書」、同鑑定書作成の基礎とな る ・3頁)ウ被告A第3鑑定書被告Aは、和歌山地方検察庁検事から鑑定を嘱託され、平成12年3月28日付け鑑定書(以下、「被告A第3鑑定書」、同鑑定書作成の基礎とな る鑑定を「被告A第3鑑定」、被告A第1鑑定から被告A第3鑑定を併せて、「被告A各鑑定」という。)を提出した。 被告A第3鑑定書には、別紙鑑定資料一覧記載第3の鑑定資料①ないし㉕の蛍光Xスペクトルを比較すると、ロットの違いによってアンチモンのピークの高さが変化する傾向が認められており、同一の製造工場で製造された純度の高い亜砒酸でも、ロットによって不純物重元素の組成が変動することを示しており、このことは、亜砒酸に含まれる不純物重元素組成の特徴から亜砒酸の異同識別を行うことの妥当性を示すものと考えられる旨記載されている。(甲2・4頁)エ被告A証言平成12年7月13日(甲3、53)、同年10月3日(甲97)、同月4日(甲37〔甲98も同じ〕)、和歌山地方裁判所において、被告Aに対する証人尋問が実施されたが、このうち、同年7月13日に実施の証人尋問において、被告Aは、「鑑定資料(後記被告A第1鑑定資料)が同一であるというふうに結論付けられた」、「ロットの違いというものが、こういうような高純度のものでも、微量元素の組成から分かる」旨証言した(以下、同日の被告Aの証言を「被告A証言」という。甲3、53・113頁)。 ⑶ 被告Bの鑑定書の提出等ア被告B鑑定書被告Bは、和歌山県警察本部長から鑑定を嘱託され、平成11年3月29日付け鑑定書(以下「被告B鑑定書」といい、同鑑定書作成の基礎となる鑑定を「被告B鑑定」という。)を提出した。 被告B鑑定書には、原告の頭髪(後記本件毛髪)につき、超 、平成11年3月29日付け鑑定書(以下「被告B鑑定書」といい、同鑑定書作成の基礎となる鑑定を「被告B鑑定」という。)を提出した。 被告B鑑定書には、原告の頭髪(後記本件毛髪)につき、超低温捕集-還元気化-原子吸光光度計での砒素測定において、亜砒酸汚染を確認し、蛍光X線分析でも、高濃度の砒素を検出し、これらの結果から、原告の頭 髪(後記本件毛髪)に一般健常者には認められない亜砒酸曝露(外部付着)が存在していたものと判断する旨記載されている。(甲4・5頁、52)イ被告B証言平成12年8月9日(甲5、54)、同年10月26日(甲99)、同月27日(甲100)、同年12月22日(甲101)、和歌山地方裁判所において、被告Bに対する証人尋問が実施されたが、このうち、同年8月9日に実施の証人尋問において、被告Bは、「一般の方の髪の毛から無機の三価砒素が検出されるということはございません」、「この被検者に関しましては右側前頭部から0.090という値が得られております。このAs(Ⅲ)という物質は三価砒素でありまして、これは亜砒酸及び亜砒酸化合物を意味いたします。ですから、この髪の毛には、亜砒酸及び亜砒酸化合物が外部付着していたということを意味いたします」旨証言した(以下、同日の被告Bの証言を「被告B証言」といい、被告A各鑑定、被告A証言及び被告B鑑定と併せて、「本件各鑑定等」という。甲5、19、54・75頁)。 ⑷ 本件記者会見被告らは、平成10年12月26日、東京理科大学において、記者会見を行った(以下、この記者会見を「本件記者会見」という。)。 被告らは、本件記者会見において、鑑定結果の概要等を公表した。すなわち、本件記者会見において、被告Aは、原告の関係箇所から発見された6 った(以下、この記者会見を「本件記者会見」という。)。 被告らは、本件記者会見において、鑑定結果の概要等を公表した。すなわち、本件記者会見において、被告Aは、原告の関係箇所から発見された6つの容器在中の亜砒酸と青色紙コップ及びカレー鍋にあった亜砒酸が同じ工場で同時期に製造された中国製の同一物である旨の事実を摘示し、被告Bは、原告の前髪から検出された砒素は、3箇月以上前に毛髪の表面に付着し、亜砒酸に由来する無機砒素であった旨の事実を摘示した。(甲7、8、弁論の全趣旨)⑸ 本件刑事事件等の経緯等 ア本件刑事事件等の経緯原告は、平成14年12月11日、和歌山地方裁判所において、本件刑事事件等につき、死刑に処する旨の判決宣告を受け、原告は控訴したが、大阪高等裁判所は、平成17年6月28日、原告の控訴を棄却した。これに対し、原告は上告したが、最高裁判所は、平成21年4月21日、原告の上告を棄却し、原告による判決訂正の申立ても同年5月18日に棄却され、同年5月19日、前記第1審判決が確定した(以下、上記刑事事件における和歌山地方裁判所の審理・判決を「確定第1審」・「確定第1審判決」、その控訴審の審理・判決を「確定控訴審」・「確定控訴審判決」といい、確定第1審から最高裁判所までの審理・判決を、単に「確定審」・「確定審判決」ということがある。)。 これに対し、原告は、同年7月22日、本件刑事事件等につき、再審を請求したが(以下、同再審請求事件を「再審請求事件」という。)、和歌山地方裁判所は、平成29年3月29日、請求棄却の決定をし(同裁判所平成21年(た)第2号。以下、その審理・決定を「再審第1審」、「再審第1審決定」という。)、大阪高等裁判所は、令和2年3月24日、原告の即時抗告を棄却する決定を 9日、請求棄却の決定をし(同裁判所平成21年(た)第2号。以下、その審理・決定を「再審第1審」、「再審第1審決定」という。)、大阪高等裁判所は、令和2年3月24日、原告の即時抗告を棄却する決定をした(同裁判所平成29年(く)第121号。以下、再審第1審決定と併せて、その決定を、単に「再審各決定」ということがある。)。原告は、その後、最高裁判所に対する特別抗告を取り下げたため、再審請求事件は終了した。(甲6、36、乙18、証人C〔第6回49頁〕、弁論の全趣旨。以下、C証人及び被告らの尋問調書を示すときには、口頭弁論期日の回数と頁数をもって、「証人C〔第6回49頁〕」等と表示する。)イ確定第1審判決が認定した本件刑事事件の罪となるべき事実の要旨確定第1審判決が認定した罪となるべき事実のうち、本件刑事事件(和歌山カレー事件)に係る部分(確定第1審判決の罪となるべき事実の第1) の要旨は、以下のとおりである。 原告は、平成10年7月25日午後零時20分頃から同日午後1時頃までの間に、和歌山市所在のガレージ内において、人が死亡するに至るかもしれないことを認識しながら、あえて、2つ置かれていた寸胴鍋のうち、東側の寸胴鍋内のカレーに亜砒酸を混入し、同日午後5時50分頃から同日午後7時ころまでの間、同市所在の空き地の自治会の夏祭り会場において、情を知らない同自治会員らをして、住民ら67名に前記カレーを用いたカレーライスを提供させ、そのころ、同所等において同人らにこれを食べさせ、よって、住民ら67名を急性砒素中毒にり患させ、うち4名を殺害したが、その余の63名については死亡させるに至らなかった(甲6、36、乙18)。 ⑹ 本件訴訟の提起等原告は、平成29年1月16日付けで、被告らに対し、本件各鑑定等や本 うち4名を殺害したが、その余の63名については死亡させるに至らなかった(甲6、36、乙18)。 ⑹ 本件訴訟の提起等原告は、平成29年1月16日付けで、被告らに対し、本件各鑑定等や本件記者会見などにより精神的苦痛を受けたなどとして、損害賠償を請求した。 原告は、同年4月3日、本件訴えを提起し、本件訴状は、同年5月10日、被告らに送達された。(甲33、顕著な事実)⑺ 消滅時効の援用被告らは、同年12月8日の本件第2回弁論準備手続期日において、原告に対し、本件記者会見に係る名誉毀損による損害賠償請求権について、消滅時効を援用するとの意思表示をした(顕著な事実)。 3 争点及びこれに対する当事者の主張本件の主な争点は、⑴被告らの鑑定書・証言が虚偽であって、原告に対する共同不法行為を構成するか、⑵争点⑴における原告の主張が許されないものであるか、⑶本件記者会見が原告に対する名誉毀損に当たるか、⑷争点⑶における原告の主張が許されないものであるか、⑸名誉毀損行為の違法性阻却の有無、⑹本件記者会見に係る名誉毀損による損害賠償請求権の消滅時効の成否、⑺因 果関係及び損害額であり、当事者の主張は以下のとおりである。 ⑴ 争点⑴(被告らの鑑定書・証言が虚偽であって、原告に対する共同不法行為を構成するか)について(原告の主張)ア被告らの鑑定書・証言が虚偽であること被告らの鑑定書・証言は虚偽である。なお、原告のいう鑑定不正とは、過失による鑑定の誤りではなく、故意的な要素を含む鑑定の誤りを意味するものである。 被告A第1鑑定書の虚偽被告A第1鑑定書は、記載された根拠からはおよそ「同一物」であるとの結論を出すことができないのに、そのような 含む鑑定の誤りを意味するものである。 被告A第1鑑定書の虚偽被告A第1鑑定書は、記載された根拠からはおよそ「同一物」であるとの結論を出すことができないのに、そのような推論を行って、同一物であるとの結論を出している点で、虚偽である。(甲10等参照) 被告A第2鑑定書の虚偽被告A第2鑑定書は、原告の頭髪(後記本件毛髪)から砒素が検出されていなかったにもかかわらず(実際に検出されたものは鉛であった。)、砒素が検出されたとする点で、虚偽である。(甲42、43の1・2参照) 被告A第3鑑定書の虚偽被告A第3鑑定書は、ロット番号(製造番号)が異なっていても不純物重元素の組成を同じくするものがあるのに、不純物重元素組成の特徴から「同一物」であるか否かを判断できるとしている点で、虚偽である。 (甲10等参照) 被告A証言の虚偽被告A証言は、上記、の点で、虚偽である。 被告B鑑定書の虚偽被告B鑑定書は、①測定試料作製の過程で3価砒素が全て5価砒素に なることを看過した点、②3価砒素の検出数値自体が検出限界を超えている点、③健常者から3価砒素が検出されることはないという誤った前提に立っている点で、虚偽である。 被告B証言の虚偽被告B証言は、上記の点で、虚偽である。 イ被告らの鑑定書・証言が原告に対する共同不法行為を構成すること被告らの鑑定書・証言は、司法官憲から鑑定を依頼された鑑定人の職責に明らかに反する。特に、上記ア及び被告Aが「当時日本に流通していた他の亜砒酸に同一の特徴をもつものがなければ」という鑑定外の仮定条件を付加した上で鑑定の結論を出した 鑑定を依頼された鑑定人の職責に明らかに反する。特に、上記ア及び被告Aが「当時日本に流通していた他の亜砒酸に同一の特徴をもつものがなければ」という鑑定外の仮定条件を付加した上で鑑定の結論を出したことを自認したことは、「鑑定不正」が行われた可能性、すなわち、意図的に虚偽の結論が出された可能性を示している。したがって、被告らの行為は共同不法行為に該当する。 (被告らの主張)ア被告らの鑑定書・証言が虚偽であることについて原告の主張は否認する。 イ被告らの鑑定書・証言が原告に対する共同不法行為を構成することについて原告の主張は否認し、又は争う。 ウ原告の損害(被侵害利益)について原告の損害(被侵害利益)の存在について、否認し、又は争う。 原告は、被告らの誤った鑑定及び証言によって、原告が死刑判決を受けた旨主張する。この主張は、原告が本件刑事事件について無罪であること(すなわち、有罪とされるべきではなかったこと)を前提としている。しかし、原告が本件刑事事件について有罪判決を受けるべきでなかったのに、有罪判決を受けたという事実がないから、原告が主張する損害(被侵害利益)が発生していない。 エ原告の損害(被侵害利益)と被告らの加害行為との因果関係原告は、被告らの誤った鑑定及び証言がなければ、原告が有罪とされることはなかった旨主張する。しかし、被告らの鑑定及び証言については、本件刑事事件の確定審及び再審請求事件の再審請求審において重要な争点とされ、原告からその不当性又は虚偽性がるる主張されたものの、他の鑑定の結果(後記科学警察研究所〔以下「科警研」という。〕の異同識別鑑定及び後記DE鑑定)や間接証拠(関係住民らの供述、原告方の台所の排 され、原告からその不当性又は虚偽性がるる主張されたものの、他の鑑定の結果(後記科学警察研究所〔以下「科警研」という。〕の異同識別鑑定及び後記DE鑑定)や間接証拠(関係住民らの供述、原告方の台所の排水管内の汚泥等から顕著に高濃度の砒素が検出されたこと等)を含めた総合的認定によって、原告が有罪であるとの結論が導かれており、仮に、被告らの鑑定や証言に原告が主張する誤りがあるとしても、当該鑑定及び証言によって、原告が有罪とされたとはいえない。 ⑵ 争点⑵(争点⑴における原告の主張が許されないものであるか)について(被告らの主張)ア争点⑴における原告の主張は、実質的には私法上の責任追及に名を借りて刑事裁判手続における証拠の評価等についての紛争を蒸し返し、その判断の変更を求めることになり、ひいてはその判決等の意義を損ない、刑事司法の安定性を阻害することになるから、原則として許されないというべきである。 イ原告は、本件訴訟において、有罪判決という刑事裁判の結論自体を損害とみることにより、有罪判決の不当性を主張する。 そうすると、検察官、被告人(原告)及び弁護人が攻撃防御を尽くし、刑事手続において収集された証拠(被告らの鑑定や証言のみならず、他の鑑定受託者による鑑定結果、近隣住民の目撃証言、本件刑事事件前の原告の言動等を含めた多くの証拠)を、厳格な証拠調べ手続の下で取り調べ、それらを総合的に評価した上でされた刑事裁判所の判断が適切であったかどうかが審理対象となる。このような審理は、民事裁判手続において提出 された証拠のみに基づき、民事裁判所として原告が本件刑事事件の犯人と認定するものとは性質が異なり、刑事裁判における上訴手続又は再審手続によって行うのが日本の司法制度の根幹である。 ウこ された証拠のみに基づき、民事裁判所として原告が本件刑事事件の犯人と認定するものとは性質が異なり、刑事裁判における上訴手続又は再審手続によって行うのが日本の司法制度の根幹である。 ウこれに対し、原告は、実際に同一事件で民事裁判と刑事裁判で結論が異なる事例があることを摘示する。しかし、当該事例は、その訴訟の対象が犯罪被害の回復としての損害賠償義務の存否であるのに対し、本件における訴訟の対象は有罪判決を受けたこと自体を損害とした損害賠償請求であるから、本件と事案を異にする。したがって、原告の主張は理由がない。 (原告の主張)不法行為に基づく損害賠償請求が認められるか否かという問題は、訴訟における判決の効力の問題とは、次元の異なる問題である。そのため、訴訟に関連する行為がそれ自体として不法行為を構成して損害が発生した場合は、当該訴訟の再審による救済のみでは不完全であり、具体的な被害回復の必要性があるから、裁判を受ける権利を実質的に保障するという観点からも、当該不法行為に基づく損害賠償請求が認められるべきである。 すなわち、本件の争点は被告らの鑑定書・証言が独立した不法行為を構成するか否かであって(上記争点⑴参照)、この点が肯定されれば、被告らの鑑定書・証言が刑事裁判における証拠であるとの一事をもって直ちに私法上の損害賠償請求が許されなくなるものではない(実際に同一事件で民事裁判と刑事裁判で結論が異なる事例も存在するところである。)。 ⑶ 争点⑶(本件記者会見が原告に対する名誉毀損に当たるか)について(原告の主張)本件記者会見における被告らの事実の摘示(上記2⑷)は、本件記者会見当時、直接証拠がないと過熱報道がされていたことに照らせば、原告が本件刑事事件の犯人である旨を摘示するもので 原告の主張)本件記者会見における被告らの事実の摘示(上記2⑷)は、本件記者会見当時、直接証拠がないと過熱報道がされていたことに照らせば、原告が本件刑事事件の犯人である旨を摘示するものであって、被告らの事実の摘示(上記2⑷)以外の被告らの発言内容(「科学の力を真相究明に役立てたかった。」 等)も併せ考慮すると、原告の名誉を毀損するものである。 刑事訴訟法47条、196条違反の事実は、名誉毀損行為について、被告らによる真実性の抗弁に対し、公益目的・公共利害性の不存在を基礎付ける事実である(後記争点⑸参照)とともに、名誉毀損行為の態様等の悪質性を基礎付ける事実として慰謝料算定の際に考慮されるべき事実である(後記争点⑺参照)。 (被告らの主張)本件記者会見における被告らの説明内容は、被告らが作成した鑑定書と同じ内容であり、それを超えて原告が本件刑事事件の犯人であると決め付けるものではなく、原告の社会的評価を低下させる名誉毀損行為には該当しない。 原告は、本件記者会見が、マスコミだけでなく、広く全国に、原告が本件刑事事件の犯人であるとの心証を形成させた旨主張する。しかし、本件刑事事件の確定控訴審判決において、「公表した内容も、客観的、一般的な事項であって、捜査の秘密を冒したり、不当な予断偏見を生じさせたりするものではない。」と、本件記者会見が、原告が本件刑事事件の犯人であるとの心証を形成させるような性質のものではなかった旨判断されている。したがって、原告の主張は理由がない。 ⑷ 争点⑷(争点⑶における原告の主張が許されないものであるか)について(被告らの主張)争点⑶における原告の主張は、実質的には私法上の責任追及に名を借りて刑事裁判手続における証拠の評価等についての ⑶における原告の主張が許されないものであるか)について(被告らの主張)争点⑶における原告の主張は、実質的には私法上の責任追及に名を借りて刑事裁判手続における証拠の評価等についての紛争を蒸し返し、その判断の変更を求めることになり、ひいてはその判決等の意義を損ない、刑事司法の安定性を阻害することになるから、原則として許されないというべきである。 (原告の主張)本件記者会見に係る名誉毀損行為は、本件刑事事件による起訴前に、検察官からの鑑定書等の扱いに関する注意を無視してされたものであり、本件刑 事事件とは全く独立した行為であるから、本件刑事事件による影響を受けるものではない。 ⑸ 争点⑸(名誉毀損行為の違法性阻却の有無)について(被告らの主張)ア公益目的・公共利害性を前提とする真実性の抗弁仮に、原告が主張する名誉毀損行為が存在したとしても、被告らが行った本件記者会見は、公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認められ、また、摘示された事実が真実であるから、違法性が阻却される(公益目的・公共利害性を前提とする真実性の抗弁)。 イ原告の主張に対する反論これに対し、原告は、①再審第1審決定において既に被告Aの鑑定書・証言の信用性が大きく減殺されていることに照らせば、刑事確定判決の事実のみによって、摘示された事実の真実性の立証がされたことにはならない、②被告らの行った本件記者会見は、刑事訴訟法47条、196条に違反するものであること等から、公益目的・公共利害性がない旨主張する。 しかし、上記①については、本件における真実性の抗弁の対象となる事実は、原告の犯人性であって本件鑑定等の真実性ではない。そして、上記決定に のであること等から、公益目的・公共利害性がない旨主張する。 しかし、上記①については、本件における真実性の抗弁の対象となる事実は、原告の犯人性であって本件鑑定等の真実性ではない。そして、上記決定において、原告の犯人性は否定されていない。また、上記②については、被告らの行為が刑事訴訟法47条、196条に直ちに違反する行為とはいえない。そして、被告らの本件記者会見を行った動機に照らすと、公益目的がないとはいえない(仮に、検察官に記者会見を反対されていた事情や実費程度の写真代を徴収したという事情があったとしても、これらの事情は、「悪事は裁かれるという科学の力を示すことで、全国の毒物混入事件に対する抑止力になる」、「SPring-8は共同利用施設で、得られた成果は公表する義務がある」、「報道にまちがった表現もあり、正確な情報 を伝える必要性がある」〔甲29〕などと考えた被告らの動機が公益を図る目的であったことを左右するものではない。)。したがって、原告の上記の主張は理由がない。 (原告の主張)ア公益目的・公共利害性の不存在被告らの行った本件記者会見は、刑事訴訟法47条、196条に違反するものであり(刑事裁判外での私的な記者会見である。)、かつ、原告を犯人と断定して公表したものであるから、公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったとはいえず、違法性は阻却されない(公益目的・公共利害性の不存在)。 公益目的の不存在検察官は、被告らが本件記者会見を行った当時、被告らが本件記者会見を行うことに反対していた。また、本件刑事事件の起訴がされる前の時点において、被告らが本件記者会見を行う必要性も緊急性もなかった。 公共利害性の不存在 被告らが本件記者会見を行うことに反対していた。また、本件刑事事件の起訴がされる前の時点において、被告らが本件記者会見を行う必要性も緊急性もなかった。 公共利害性の不存在刑事訴訟法47条は、訴訟に関する書類が公判開廷前に公開されることによって訴訟関係人の名誉を毀損し、公序良俗を害し、裁判に対する不当な影響を引き起こすことを防止するための規定であるとされていることからすると、これに該当する事実が公衆の正当な関心事であるとはいえない。すなわち、被告らが行った本件記者会見が刑事訴訟法47条に違反するものであることに照らせば、公共利害性があるなどとはいえない。 イ真実性の不存在再審第1審決定において既に被告Aの鑑定書・証言の信用性が大きく減殺されていることに照らせば、刑事確定判決の事実のみによって、摘示された事実の真実性の立証がされたことにはならない(真実性の不存在)。 被告らは、本件における真実性の抗弁の対象となる事実は、原告の犯人性であって本件鑑定等の真実性ではないなどと主張する。しかし、本件記者会見当時、本件刑事事件に関し直接証拠がないとの過熱報道がされていたこと、その中で被告らが本件記者会見を行ったことに照らせば、本件における真実性の抗弁の対象となる事実は、本件鑑定等の真実性である。 ⑹ 争点⑹(本件記者会見に係る名誉毀損による損害賠償請求権の消滅時効の成否)について(被告らの主張)ア本件記者会見は平成10年12月26日に開かれ、その内容は同月27日に新聞報道されたところ(甲7、8)、原告は、同日頃には、本件記者会見に係る名誉毀損による損害及び加害者を知ったと認められる。そして、平成13年12月27日は経過した。 イこれに対し 日に新聞報道されたところ(甲7、8)、原告は、同日頃には、本件記者会見に係る名誉毀損による損害及び加害者を知ったと認められる。そして、平成13年12月27日は経過した。 イこれに対し、原告は、被告らの鑑定書・証言が虚偽であることを現実に認識し、本件記者会見による損害の発生を現実に認識したのは平成26年1月26日である旨主張する。しかし、被告らの鑑定書・証言が虚偽であるか否かは本件記者会見による名誉毀損の成立・不成立とは関係がないから、原告の主張は理由がない。また、原告の支援者によって開設されているブログ内の「過去の更新履歴」欄には平成25年4月10日更新として「捜査段階に行われたヒ素の鑑定を再分析した結果、『原告宅で見つかったとされるヒ素』と『現場にあったヒ素』が同一の物ではなかったと弁護団が先日公表したが、その分析を行った京都大学のC教授による分析内容をまとめた論文の掲載誌が発売されました。」旨の記載がある(乙1)。そうすると、仮に、前記の被告らの主張が認められないとしても、原告は、遅くとも同日には被告らの鑑定書・証言が虚偽であることを現実に認識したことになり、消滅時効の起算点も遅くともその頃であったというべきである。 (原告の主張)ア原告は、再審請求事件におけるC教授による平成26年1月26日付け鑑定書(甲32)に始まる一連の意見書作成によって、被告らの鑑定書・証言が虚偽であることを現実に認識し、本件記者会見による損害の発生を現実に認識した。そして、原告は、平成29年1月16日付け内容証明郵便による損害賠償請求を経て、同年4月3日に本件訴訟を提起した。したがって、本件記者会見に係る名誉毀損による損害賠償請求権の消滅時効は完成していない。 イ被告らが引用するC教授の論文は、初期 による損害賠償請求を経て、同年4月3日に本件訴訟を提起した。したがって、本件記者会見に係る名誉毀損による損害賠償請求権の消滅時効は完成していない。 イ被告らが引用するC教授の論文は、初期段階のものであって、被告らの鑑定結果が信用できないことを中心とするものにすぎず、同論文をもって原告の権利行使が直ちに現実に可能になったということはできない。 ウ最高裁判例の中には、損害賠償請求が現実に可能な状況になった時点(消滅時効の起算点)を、①被害者が損害の発生を現実に認識したとき、②無罪判決が確定したときをもって加害者を知ったときに当たる旨判示したものがある。すなわち、判例上、「無罪判決が手続的に確定していなくても、当該被告人は自らが無罪であることは知っているのであるから権利行使が可能であったとして、無罪主張の時点をもって消滅時効の起算点である」、とはされておらず、飽くまでも、「無罪判決が確定したときが、損害賠償請求が現実に可能な状況になった時点(消滅時効の起算点)である」、とされている。 そして、本件において権利行使が現実に可能となった時点は、C教授の意見書(甲32)が、正式に再審請求事件で新証拠として提出された時点を指すというべきである。 ⑺ 争点⑺(〔因果関係及び〕損害額)について(原告の主張)ア慰謝料 6000万円 被告らの鑑定書・証言による慰謝料 5000万円原告は、死刑判決を受けたことによって、①毎日他人に殺されるかもしれないと思って過ごすこと、②原告の子どもらに対し、母親と会えない苦痛や世間から大量無差別殺人者の子として後ろ指を指される辛い思いをさせたこと、③拘禁された状態で再審請求事件を維持していかざるを得なくなったことといった精神的苦 告の子どもらに対し、母親と会えない苦痛や世間から大量無差別殺人者の子として後ろ指を指される辛い思いをさせたこと、③拘禁された状態で再審請求事件を維持していかざるを得なくなったことといった精神的苦痛及び困難を被った。これに対する慰謝料としては、5000万円が相当である。 本件記者会見による慰謝料 1000万円本件記者会見は、原告を本件刑事事件の犯人と決めつけるものであって、原告の名誉を著しく害するものである。これにより、原告は甚大な精神的苦痛を被った。これに対する慰謝料としては、1000万円を下らない。 イ弁護士費用 500万円(被告らの主張)原告の主張は否認し、又は争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実に加え、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ⑴ 本件刑事事件の発生平成10年7月25日の午後5時50分頃から同日午後7時頃までの間、自治会の夏祭り(以下「本件夏祭り」という。)の会場において、亜砒酸が混入したカレーライスを食べた者のうち、4名が急性砒素中毒により死亡し、63名が急性砒素中毒にり患するという事件(本件刑事事件)が起きた(甲6、36、50、乙18)。 ⑵ 本件記者会見までの経緯 ア和歌山県警察は、平成10年8月2日、死亡した被害者の胃吸引液等から砒素が検出され、同月3日、カレー等からも砒素が検出されるなどしたことから、本件の凶器が砒素であると判断し、その後、原告が容疑者(被疑者)として浮上した(甲50・1、20、21頁)。 イ原告の実兄であるFは、和歌山県警察に対し、平成10年8月30日、①緑色ドラム缶及び在中の灰白色粉末(以下、同ドラム缶在中の灰白色粉末を「資料① て浮上した(甲50・1、20、21頁)。 イ原告の実兄であるFは、和歌山県警察に対し、平成10年8月30日、①緑色ドラム缶及び在中の灰白色粉末(以下、同ドラム缶在中の灰白色粉末を「資料①」ということがある。)、②育児用ミルク缶及び在中の灰白色粉末(以下、同ミルク缶在中の灰白色粉末を「資料②」ということがある。)及び③上蓋に「重」と記載された白色缶及び在中の灰白色粉末(以下、同白色缶在中の灰白色粉末を「資料③」ということがある。)等を、同年9月30日、④茶色プラスチック容器及び在中の灰白色粉末(以下、同容器在中の灰白色粉末を「資料④」ということがある。)等を任意提出した(甲1、50・30、31頁)。 ウ和歌山県警察は、平成10年10月13日、原告の元居住先(G方)及びそのガレージにおいて、⑤雪印ネオミルク缶及び在中の灰白色粉末(以下、同ミルク缶在中の灰白色粉末を「資料⑤」ということがある。)の任意提出を受け、同月4日から同月12日までの間、原告宅等において、⑥プラスチック製容器(以下、これの付着物を「資料⑥」ということがある。)等を差し押さえた。 なお、同年7月25日、領置された本件夏祭りの会場のゴミ袋から、青色紙コップ(以下、これの付着物を「資料⑦」ということがある。)が発見された(甲1、50・31頁)。 エ原告は、平成10年10月4日、殺人未遂、詐欺容疑で逮捕され(同月25日起訴)、同月26日、殺人未遂、詐欺容疑で逮捕され、同年11月18日、殺人未遂、詐欺容疑(以上はいずれも本件刑事事件とは異なる容疑)で逮捕(同年12月9日起訴)された(甲50・3、57、58頁、 弁論の全趣旨)。 オ被告Aは、平成10年12月2日付けで(ただし、検事から具体的に依頼を受けたのは、同年12 疑)で逮捕(同年12月9日起訴)された(甲50・3、57、58頁、 弁論の全趣旨)。 オ被告Aは、平成10年12月2日付けで(ただし、検事から具体的に依頼を受けたのは、同年12月13日の夜頃であった。)、和歌山地方検察庁検事から、資料①ないし資料⑦等の各粉末ないし各付着物(亜砒酸)の異同鑑別、本件夏祭りで提供されたカレー(和歌山市衛生研究所長から任意提出を受けたカレールー。以下、「本件カレー」という。)の亜砒酸含有の有無、本件カレーと資料①ないし資料⑦等の異同鑑別に係る鑑定の嘱託(被告A第1鑑定に係る嘱託)を受けた。 被告Aは、平成10年12月4日、被告A第1鑑定に関し、粉末X線解析による検査を実施した。(甲1、37・68ないし71頁、97)カ原告は、平成10年12月9日、本件刑事事件に係る殺人、殺人未遂容疑で逮捕され、毛髪(左右の前頭部、左右の後頭部の計4か所。以下、併せて「本件毛髪」という。)を採取された(甲4、50・3、58頁、52)。 被告Bは、平成10年12月11日付けで和歌山県警察本部長から、本件毛髪中に過剰な砒素が存在するか、存在する場合、体内砒素か外部付着のものか等について、鑑定の嘱託(被告B鑑定に係る嘱託)を受けた。 被告Bは、同日、被告B鑑定に関し、本件毛髪(左右の前頭部、左右の後頭部の4か所)に係る「超低温捕集-還元気化-原子吸光光度計」による砒素の化学形態測定を実施した。(前提事実、甲4、52。具体的な内容は後記参照)。 キ被告Aは、被告A第1鑑定に関し、平成10年12月11日ないし同月13日、並びに、同月18日及び同月19日、SPring-8(財団法人高輝度光科学研究センターが管理する放射光施設)による蛍光X線分析検査、同月14日ない 定に関し、平成10年12月11日ないし同月13日、並びに、同月18日及び同月19日、SPring-8(財団法人高輝度光科学研究センターが管理する放射光施設)による蛍光X線分析検査、同月14日ないし同月16日、フォトンファクトリー(高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所が管理するもので、BL-4Aなど がある。)による蛍光X線分析検査を実施した。 具体的には、蛍光X線分析とは、物質に一定以上のエネルギーを持つX線を照射することで励起(励起とは、原子や分子が外からエネルギーを与えられ、元のエネルギーの低い安定した状態からエネルギーの高い状態へ移ることをいう〔乙2・3頁〕。)等が生じ、それにより発生する固有X線(蛍光X線)を利用し、元素固有のエネルギーのX線強度(光子の数)から構成元素等を計測するものであり、被告Aは、SPring-8による蛍光X線分析により得られた結果を、縦軸に蛍光エックス線の強度、横軸に蛍光X線のエネルギー(keV)を記載して折れ線グラフ様の図(以下「スペクトル図」という。)で表した。(甲1、45ないし47〔枝番を含む。〕、乙2)ク被告Bは、平成10年12月14日から同月16日、被告B鑑定に関し、被告Aを測定者として、フォトンファクトリー(BL-4A)による蛍光X線分析検査(本件毛髪中の砒素の測定等)を実施した(甲4)。 ケ科警研のHらは、平成10年11月5日付けの鑑定の嘱託を受け、資料①ないし資料⑤及び資料⑦に係る異同識別等について鑑定した結果(以下「科警研の異同識別鑑定」という。)、同年12月15日付けで鑑定書を作成し、資料⑦と資料①ないし資料⑤の亜砒酸が同一のものに由来すると考えても矛盾はしないと判断した(甲9)。 ⑶ 本件記者会見ア被告らは、平成 う。)、同年12月15日付けで鑑定書を作成し、資料⑦と資料①ないし資料⑤の亜砒酸が同一のものに由来すると考えても矛盾はしないと判断した(甲9)。 ⑶ 本件記者会見ア被告らは、平成10年12月26日、東京理科大学において、本件記者会見を行い、鑑定結果の概要等を説明して公表し、日刊新聞等は、同月27日以降、本件記者会見の概要を報道した。 イ本件記者会見に関する記事には、被告らが、「最新の機器を駆使すれば、消えかけた犯罪の痕跡も見えてくる。先端科学の力が犯罪抑止力になることを訴えたい」(甲23)、「これと同じ成分の亜ヒ酸をほかで見つけてく ることは不可能でしょう。もし、どなたか探してきたら降参しますよ」、「悪事は裁かれるという科学の力を示すことで、全国の毒物混入事件に対する抑止力になる」、「SPring-8は共同利用施設で、得られた成果は公表する義務がある」、「報道に間違った表現もあり、正確な情報を伝える必要性がある」(甲29)などと述べた旨記載されており、被告らは、上記鑑定結果の概要と併せて、上記記事に記載の内容の説明をしたものと認められる。(前提事実、甲7、8、22、23、26ないし31、114)なお、被告らは、警察や検察から承諾を得ずに、本件記者会見において資料等を配布した(甲37・181、182頁)。 ⑷ 原告が起訴された後の経緯ア原告は、平成10年12月29日、本件刑事事件につき、起訴された(甲24、50・3、58頁)。 イ被告Aは、前記平成10年12月2日付けの鑑定の嘱託に対し、平成11年2月19日付けの鑑定書(被告A第1鑑定書)を作成した。 被告A第1鑑定書では、本件カレーには、亜砒酸が含まれている、資料⑥、資料⑦及び本件カレー内の白色結晶 鑑定の嘱託に対し、平成11年2月19日付けの鑑定書(被告A第1鑑定書)を作成した。 被告A第1鑑定書では、本件カレーには、亜砒酸が含まれている、資料⑥、資料⑦及び本件カレー内の白色結晶粒子は、いずれもモリブデン、アンチモン、スズ及びビスマスという4つの重元素不純物を含有しており、資料①ないし資料⑤も、モリブデン、アンチモン、スズ及びビスマスという4つの重元素不純物を含有しており、資料⑥、資料⑦及び本件カレー内の白色結晶粒子に含まれている重元素の組成の特徴(いずれもスズとアンチモンの含有量がほぼ同一であり、ビスマスはスズ及びアンチモンの数倍多く含まれているという特異的な特徴)と一致した、他方、紀北家畜保健衛生所等から入手した亜砒酸は、上記組成的特徴とは異なるものであった、モリブデン、アンチモン、スズ及びビスマスという重元素が製造後の環境から汚染により混入し、上記の組成上の特徴が偶然一致する可能性はほと んどなく、亜砒酸の不純物の含有割合が製造工程、精製過程により容易に変化することが実験的にも認められることから、資料①ないし資料⑦及び本件カレー内の白色結晶粒子(以下、資料①ないし資料⑦及び本件カレー内の白色結晶粒子を併せて、「被告A第1鑑定資料」ということがある。)は、同一物、すなわち、同一の工場が同一の原料を用いて同一の時期に製造した亜砒酸であると判断された。(前提事実、甲1)ウ被告Bは、前記平成10年12月11日付けの鑑定の嘱託に対し、平成11年3月29日付けで鑑定書(被告B鑑定書)を作成した(前提事実、甲4、52)。 被告B鑑定では、頭髪(本件毛髪)約50㎎を耐熱性のプラスチック試験管に取り、これに2N―水素ナトリウム溶液2㎖を加え、100℃で3時間加熱分解し、これが測定資料とされ、「 4、52)。 被告B鑑定では、頭髪(本件毛髪)約50㎎を耐熱性のプラスチック試験管に取り、これに2N―水素ナトリウム溶液2㎖を加え、100℃で3時間加熱分解し、これが測定資料とされ、「超低温捕集-還元気化-原子吸光光度計」での砒素の化学形態測定等により鑑定が実施された結果、原告の右側前頭部から0.090㎍As/gの3価砒素が検出され、原告の「頭髪に一般健常者には認められない亜砒酸暴露(外部付着)が存在していたもの」と判断された(甲4)。 エ被告Aは、平成11年4月19日付けで和歌山地方検察庁検事から、本件毛髪について、砒素付着の有無、毛髪に付着した砒素が長期間残存する可能性の有無等に係る鑑定の嘱託(被告A第2鑑定に係る嘱託)、工場で製造された亜砒酸13点と被告A第1鑑定資料との異同識別等に係る鑑定の嘱託(後記被告Aその他鑑定に係る嘱託)を受けた(前提事実、甲44、48)。 オ平成11年5月13日、原告の本件刑事事件等についての第1回公判期日が行われた(甲25)。 カ被告Aは、前記平成11年4月19日付けの鑑定の嘱託に対し、同年7月23日付けで鑑定書(被告A第2鑑定書)を作成した(前提事実、甲4 4)。 被告Aは、被告A第2鑑定において、蛍光X線分析による方法で、伸長方向に沿って1㎜ステップで分析をしたとして、本件毛髪の切断面から50ないし53㎜部分に砒素の局在が認められ、毛髪に付着した砒素は長期間残存することが確認できたと判断した(甲44。なお、被告Aは、平成12年3月28日付で、被告A第2鑑定書の内容を追加する鑑定書〔亜砒酸を付着させた被告Aの毛髪を鑑定資料として、毛髪に付着した砒素が長期間残存する可能性の有無等を鑑定事項とするもの〕を作成している〔甲49〕。)。 、被告A第2鑑定書の内容を追加する鑑定書〔亜砒酸を付着させた被告Aの毛髪を鑑定資料として、毛髪に付着した砒素が長期間残存する可能性の有無等を鑑定事項とするもの〕を作成している〔甲49〕。)。 キ被告Aは、前記平成11年10月15日付けの鑑定の嘱託に対し、平成12年3月28日付けで鑑定書(被告A第3鑑定書)を作成した。 被告Aは、被告A第3鑑定書において、同一の製造工場で製造された純度の高い亜砒酸でも、ロットによって不純物重元素の組成が変動することを示している、このことは亜砒酸に含まれる重元素組成の特徴から亜砒酸の異同識別を行うことの妥当性を示すものと考えられる旨判断した。(前提事実、甲2)ク被告Aは、前記平成11年4月19日付けの鑑定の嘱託(工場で製造された亜砒酸13点と被告A第1鑑定資料との異同識別等)に対し、平成12年3月28日付けで鑑定書(以下、「被告Aその他鑑定書」といい、同鑑定書作成の基礎となる鑑定を「被告Aその他鑑定」という。)を作成した。 被告Aは、被告Aその他鑑定書において、鑑定資料の亜砒酸13点は、不純物として含まれる重元素の特徴が異なっており、被告A第1鑑定資料とは異なる亜砒酸である、亜砒酸に含まれる重元素の化学組成の特徴が製品毎にきわめて多様であることを示しており、亜砒酸に含まれる重元素の化学組成の特徴から亜砒酸の異同識別を行うことの妥当性を支持するもの と考えられると判断した。(甲48)⑸ 被告らの本件刑事事件公判での証言を含むその後の経緯ア被告Aは、平成12年7月13日、和歌山地方裁判所(確定第1審)で証人として、被告A第1鑑定資料につき、「鑑定資料が同一であるというふうに結論付けられた」、「ロットの違いというものが、こういうような高 Aは、平成12年7月13日、和歌山地方裁判所(確定第1審)で証人として、被告A第1鑑定資料につき、「鑑定資料が同一であるというふうに結論付けられた」、「ロットの違いというものが、こういうような高純度のものでも、微量元素の組成から分かる」旨証言した(被告A証言)(前提事実、甲3、53)。 イ被告Bは、平成12年8月9日、和歌山地方裁判所(確定第1審)で証人として、「As(Ⅲ)という砒素は、一般人から検出するということは通常はございません」、「この被検者に関しましては右側前頭部から0.090という値が得られております。このAs(Ⅲ)という物質は実は無機の三価砒素でありまして、これは亜砒酸及び亜砒酸化合物を意味いたします。ですから、この髪の毛には、亜砒酸及び亜砒酸化合物が外部付着していたということを意味いたします」旨証言した(被告B証言)(前提事実、甲5、19、54)。 ウ大阪電気通信大学工学部教授のD及び広島大学大学院工学研究科助教授のEは、確定第1審において、平成13年7月13日付け鑑定請求採用決定に基づき、和歌山地方裁判所(確定第1審)から、被告A第1鑑定資料等の異同識別鑑定を命じられ、鑑定を実施した(以下、この鑑定を「DE鑑定」という。)。 DE鑑定では、資料①ないし資料⑤は同種であり、資料⑥は資料①ないし資料⑤と同種と考えても矛盾はない(ただし、いずれも極めて量が少なく、微量元素の定量は困難であり、同種であるとは判断できない)、資料⑦は、資料①ないし資料⑤と同種であるなどと判断された。(甲36・50ないし53頁、乙18、弁論の全趣旨)。 ⑹ C教授による本件刑事事件に係る論文の発表等 原告の支援者によって開設されているブログ内には、「2013年4月10日更新」として「捜査段階 53頁、乙18、弁論の全趣旨)。 ⑹ C教授による本件刑事事件に係る論文の発表等 原告の支援者によって開設されているブログ内には、「2013年4月10日更新」として「捜査段階に行われたヒ素の鑑定を再分析した結果、『原告宅で見つかったとされるヒ素』と『現場にあったヒ素』が同一の物ではなかったと弁護団が先日公表しましたが、その分析を行った京都大学のC教授による分析内容をまとめた論文の掲載誌が発売されました。」と記載されている(乙1)。 なお、C教授は、平成22年9月頃以降、再審請求事件を担当する弁護士(原告訴訟代理人ら)から本件刑事事件の鑑定書等についての解説等を依頼され、少なくとも、平成24年1月頃から平成25年4月頃までに、「和歌山カレー砒素事件鑑定資料:蛍光X線分析」、「和歌山カレーヒ素事件鑑定資料の軽元素組成の解析」、「和歌山毒物カレー事件の鑑定の信頼性は十分であったか」などの論文を出版している(甲72、乙13、証人C〔第3回43頁、第6回20頁〕)。 2 争点⑴(被告らの鑑定書・証言が虚偽であって、原告に対する共同不法行為を構成するか)、争点⑵(争点⑴における原告の主張が許されないものであるか)について⑴ 刑事裁判手続における鑑定人等の行為につき、民事裁判手続において損害賠償を請求することの可否等について(争点⑵参照)刑事事件について有罪判決の言渡しを受け、これが確定した者が、その判決の成立過程における鑑定人(以下、捜査機関から鑑定の嘱託を受けた鑑定受託者を含め、単に「鑑定人」という。)による鑑定や証人による証言に虚偽があり、これにより、不利益かつ不当な有罪判決を受けたことそれ自体により損害を被ったことを理由として、鑑定人等に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をすることは、刑事訴訟法で定 や証人による証言に虚偽があり、これにより、不利益かつ不当な有罪判決を受けたことそれ自体により損害を被ったことを理由として、鑑定人等に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をすることは、刑事訴訟法で定められた不服申立手続である再審手続によることなく、確定した有罪判決の結論を基礎付けた証拠の評価等についての争いが蒸し返され、刑事事件の確定した有罪判決を実質的に無意義 なものとするものであって、刑事裁判手続の法的安定を著しく害する結果となるから、原則として許されるべきではなく、刑事裁判手続に関与した鑑定人等が、害意をもって、鑑定等の虚偽に関与し、裁判所の判断を誤らせるなどの不正な行為を行い、その行為につき虚偽鑑定罪や偽証罪等の有罪判決が確定するなど、鑑定人等のその行為が著しく正義に反し、刑事裁判手続の法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情がある場合に限って、許されるものと解するのが相当である。 以下、本件につき上記特別の事情が認められるかについて検討する。 ⑵ 被告A第1鑑定、被告A第3鑑定及び被告A証言についてア原告は、被告A第1鑑定は、記載された根拠からはおよそ資料①ないし⑦(鑑定資料1ないし7)と本件カレー中の白色結晶粒子(鑑定資料10-1)が「同一物」であるとの結論を出すことができないのに、そのような推論を行って、「同一物」であるとの結論を出している点、被告A第3鑑定は、ロット番号(製造番号)が異なっていても不純物重元素の組成を同じくするものがあるのに、不純物重元素組成の特徴から「同一物」であるか否かを判断できるとしている点で虚偽であって、被告A証言も同様の点から虚偽である旨主張する。 この点、被告Aは、製造された亜砒酸は、製造時期(製造日)ごとに特定のロット番号が付され、製造時期( るか否かを判断できるとしている点で虚偽であって、被告A証言も同様の点から虚偽である旨主張する。 この点、被告Aは、製造された亜砒酸は、製造時期(製造日)ごとに特定のロット番号が付され、製造時期(製造日)が同じ亜砒酸については同一のロット番号が付される、製造時期(製造日)が異なれば製造に用いる原料も異なることを前提にしていたところ(乙2・9、10頁)、実際にはドラム缶に亜砒酸を詰める際には2トンで1ロットと管理しているため(すなわち、日を単位としてロットを区別しておらず、1ロット分の亜砒酸を製造するには数日かかるとされている。)、ロットの最後のドラム缶内の不純物等の含有割合と次のロットの最初のドラム缶内の不純物等の含有割合が同じ値となることがあり、他方、1ロットを製造する場合には複数 回分操作をするところ、1ロットを製造する中で調合の異なった原料を使用することもあるため、1ロット内においても不純物等の含有割合に若干のばらつきが生じることがあることからすれば(甲36・80、81頁、90)、被告A第3鑑定書における「ロットによって不純物重元素の組成が変動する」旨の記載(甲2・4頁)は正確性を欠くといえる(原告が指摘する被告A第3鑑定の鑑定資料の⑤〔図5〕及び⑥〔図6〕や⑳〔図20〕及び㉑〔図21〕は、鑑定資料のロット番号は異なるものの、これらのモリブデン、アンチモン、スズ及びビスマスといった不純物重元素の含有割合〔組成〕は同じないし近しいとうかがわれるが〔甲90・24枚目〕、被告Aは、これらの不純物重元素の含有割合〔組成〕が異なる旨判断しており〔甲53・143ないし145頁。被告A本人〔第3回5、6、63ないし65頁〕も参照。〕、被告Aが、同鑑定に際して、前提となる事実を正確に認識していなかったことを裏付ける。)。そして、こ 断しており〔甲53・143ないし145頁。被告A本人〔第3回5、6、63ないし65頁〕も参照。〕、被告Aが、同鑑定に際して、前提となる事実を正確に認識していなかったことを裏付ける。)。そして、このような観点から、被告A第1鑑定書における「同一物、すなわち、同一の工場が同一の原料を用いて同一の時期に製造した」亜砒酸である旨の記載も一部前提を欠くものであったと認められる(再審第1審決定においても、ロット番号に依拠して同一時期という前提に基づいて判断した過程については妥当性を欠くところがある旨判断されている〔甲36・81、82頁〕。)。 もっとも、上記の点は、被告Aが事前に誤った説明を受けたまま鑑定を実施したものとも考えられるから(乙2・9、10頁参照)、被告Aが、被告A第1鑑定、同第3鑑定及び同証言時に、亜砒酸の製造過程等を正確に把握していなかったとはいえても、原告のいう虚偽の鑑定を実施する意図、鑑定不正の意図があったと直ちに推認することはできず、原告の主張は採用できない。 イ原告は、被告A第1鑑定及び同第3鑑定について、被告Aの鑑定手法は、スペクトル図を比較して似ているか視覚的に判別するもので専門知 識が不要な主観的なものである(客観的数値とも乖離している)、不純物の含有割合を論じずに強度のみを比較している点で誤りである、被告A第1鑑定書のスペクトル図の縦軸には目盛りがなく、また、被告A第3鑑定書のスペクトル図の縦軸は、目盛りの単位を変更しており、縦軸の目盛りを変更することで異なるものでも同じであるかのように調整しているなどと主張する。 この点、被告Aが、鑑定の結果をスペクトル図で表現したのは、微量の亜砒酸中の微量元素の分析であり、スペクトル図で誰でも見て分かるように、亜砒酸の組成を特徴づけるモリブデン、アンチモ どと主張する。 この点、被告Aが、鑑定の結果をスペクトル図で表現したのは、微量の亜砒酸中の微量元素の分析であり、スペクトル図で誰でも見て分かるように、亜砒酸の組成を特徴づけるモリブデン、アンチモン、スズ及びビスマスの4元素に着目し、このピークの高さ(相対的強度)をパターンとして認識・分析等するためであるが(以下、この手法を「パターン認識」ということがある。乙2・12頁)、パターン認識による分析手法には一定の限界があるとは認められるものの(被告Aも、人為的に縦軸のスケールを変化させたため、混乱が生じている旨供述している〔被告A本人〔第3回64、65頁〕〕。)、確定第1審判決や確定控訴審判決において、その限界も含め、相当性、合理性が確認されているとおりであって(乙18・37頁参照)、被告Aがパターン認識の手法を用いたこと、同手法に伴うスペクトル図の記載方法等から被告Aが虚偽の鑑定をする意図を有していたとは推認できない。 また、被告Aが元素の濃度を数値化せずに、アンチモン、スズ及びビスマスを分析している点も、これが同鑑定の精度が良いとはいえない根拠となるとしても、より精度の高い分析がされた科警研の異同識別鑑定及びDE鑑定においても、同一ないし矛盾しない結果が確認され、これらの鑑定は亜砒酸の由来に関する関係者の供述とも符合していると評価されていることなどからすれば、原告が指摘する点は、被告Aが恣意的に鑑定を行ったことを裏付けるものとはいえず、ひいては、被告Aが虚 偽の鑑定を行う意図があったと推認することはできない(甲36・108、109頁等参照)。 原告は、被告A第1鑑定につき、測定データが不正確で分析数値の誤差が大きすぎ、異同識別の根拠たり得ない旨主張する。 しかし、原告の主張は、専ら被告A第1鑑定の証拠価値に関する問 09頁等参照)。 原告は、被告A第1鑑定につき、測定データが不正確で分析数値の誤差が大きすぎ、異同識別の根拠たり得ない旨主張する。 しかし、原告の主張は、専ら被告A第1鑑定の証拠価値に関する問題であって、直ちに被告Aが虚偽の鑑定を行う意図を有していたことを推認できるものではない。また、被告Aも、被告A第1鑑定につき、測定機器を深夜に車に積んで出発し、現場で装置を組み立てて測定条件を確立するなど、ぎりぎりの状況で行われたチャレンジングな測定であり、用意周到な条件で行われたものではなく、「鑑定書を学術論文を批評される眼で見ていると感じるところが少なくないC氏からみれば、不十分と感じられるのも無理もないと思われる。」旨述べるほか、確定第1審においても「測定結果の精度が十分でないと思われる。」旨述べるなど、被告A自身もその正確性については一定の留保をしていること(甲21・80頁、乙18・36、37頁)などからしても、被告Aに虚偽の鑑定を行う意図があったとは認められない。 原告は、被告Aが本件訴訟内も含め、場当たり的、恣意的、客観性を欠く姿勢を示していること、被告Aが本件記者会見を開いて結果を発表するという異常な行動に出たのは、名声を得るためであったなどとして、被告A第1鑑定、同第3鑑定及び同証言が、鑑定不正、虚偽証言であるなど主張する。 a この点、被告Aは、C教授の指摘に対し、論文において、「亜ヒ酸のAs(ヒ素)をSb(アンチモン)やBi(ビスマス)原子が原子レベルで置換(固溶)しているため、亜ヒ酸は、純物質ですので、試料のどこにX線を照射しても量比は一定に保たれます。結果として、Sb(アンチモン)の隣接元素であるSn(スズ)もSb(アンチモ ン)と同様の挙動をとり、製造過程ではほぼ均一に分散していた」と記載し(甲 を照射しても量比は一定に保たれます。結果として、Sb(アンチモン)の隣接元素であるSn(スズ)もSb(アンチモ ン)と同様の挙動をとり、製造過程ではほぼ均一に分散していた」と記載し(甲65・30、31頁。平成25年8月)、再審請求事件に提出された意見書においても「私の鑑定で着目したアンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)は、原子レベルで亜砒酸に製造時から含まれているので、蛍光X線スペクトルのSb、Bi、Snの示すパターンは、試料の状態(たとえば試料量や不均質性)や測定条件(たとえば測定日)に左右されない。」と記載している(甲70・7頁。平成26年12月)のに対し、本件訴訟においては、「すず(Sn)とアンチモン(Sb)の化学的性質がかなり異なり、釜の中で均一に混合されないため、生成した亜砒酸の中のSn/Sb比が場所により不均一となる」などと陳述しており(乙2・14頁。被告A本人〔第3回19ないし21頁〕も参照)、亜砒酸の製造過程における不純物重元素の均一性について、一見すると矛盾する判断をしているとも評価し得る。しかし、原告が指摘する被告Aの論文の記載や陳述は、被告A各鑑定後のC教授の指摘を踏まえた反論をする中で、それぞれ異なる観点や趣旨で記載等したものと考えることもできるものであるから、各記載部分のみを取り出して、被告Aの検討が整合性を欠いているとは評価できず、ひいては、被告Aが虚偽の鑑定を行う意図を有していたと推認することも困難である。 また、原告は、本件訴訟において、被告Aが「パターンを目で判断することは無理」と供述した点を指摘するが、被告Aの同供述は、被告A第3鑑定書の図(スペクトル図)を見て、厳密な高さの違い(数値)をその場で判断することは無理である趣旨の供述と考えられるから(被告A本人〔第3回4 と供述した点を指摘するが、被告Aの同供述は、被告A第3鑑定書の図(スペクトル図)を見て、厳密な高さの違い(数値)をその場で判断することは無理である趣旨の供述と考えられるから(被告A本人〔第3回4、5頁〕)、原告の主張は前提を欠く。 b その他、被告Aは、被告A第3鑑定に関する被告A証言(特にスペクトル図におけるアンチモンのピークの高低に係る証言〔甲53・1 43ないし145頁〕)において、同証言には実際のピークの高さと整合性がとれていない部分があることを認めている(被告A本人〔第3回6、7頁〕)ものの、被告Aは、上記被告A証言でも、ピークの高さにつき「あんまり変わらない」、「同程度」などと表現するなど(甲53・144頁)、ピークが異なることのみを証言しているものでもないから、この点をもって被告Aの虚偽鑑定や偽証の意図があったなどとはいえない。 また、後記のとおり、被告らの本件記者会見は、中立性や公正さが特に求められる鑑定人の行動として軽率と評価されても仕方のないものであるが、これのみで虚偽鑑定や偽証の意図があったとまでは推認できない。 原告は、特に被告A第1鑑定につき、被告Aが科警研の異同識別鑑定の結論をなぞり、捜査機関にとってより有利な結果を出す目的や予断を持って鑑定を実施し、科警研の異同識別鑑定で識別できなかったものを識別できたことにしたなどとして、鑑定不正、虚偽証言である(証人C〔第6回50頁〕も参照)など主張する。 この点、被告Aが、被告A第1鑑定時に、科警研の異同識別鑑定の内容等をどの程度認識していたかは明らかでない部分は残るものの(甲65・27頁、69、119の2、乙2参照)、仮に、事前に他の鑑定の手法や結果を知っていたとしても、直ちに虚偽の鑑定をする意図を有していたと推認できるものでもないし、依頼 でない部分は残るものの(甲65・27頁、69、119の2、乙2参照)、仮に、事前に他の鑑定の手法や結果を知っていたとしても、直ちに虚偽の鑑定をする意図を有していたと推認できるものでもないし、依頼を受けた際に「2週間で結果を出してほしい」と伝えられた(甲34・2枚目)、「起訴のために鑑定の依頼から3週間という限られた時間で結果を出さねばならなかった」(甲65・31頁)などの論文等に記載された被告Aの発言も、鑑定の結果を返答する期間が短かったことを述べるものと評価でき、被告Aが、科警研の異同識別鑑定の結果に沿う形で恣意的に鑑定意見を述べたなど と直ちに推認させるものとは言えない。 ウ以上を踏まえて検討するに、被告A第1鑑定書、同第3鑑定書及び同証言につき、一部正確性を欠く前提や表現があり、これらの点についての原告の指摘は正当なものがある。 しかし、鑑定内容の正確性等は、専ら鑑定の信用性(証拠価値)の問題であって、これをもって直ちに虚偽鑑定等の動機を有していたことを推認することは困難である上、これらの鑑定等については、科警研の異同識別鑑定及びDE鑑定と相まって、結果としてその妥当性・相当性等は担保されていることからすれば(再審請求事件においても、C教授の意見書を踏まえて検討されたが、一部を除き、その信用性は否定されていない〔甲36、乙18〕。)、被告Aが虚偽鑑定や偽証をする動機を有しており、ひいては、虚偽鑑定や偽証の意図をもって、被告A第1鑑定、同第3鑑定及び同証言を行ったとは認められない。 そうすると、被告Aが、被告A第1鑑定、同第3鑑定及び同証言につき、害意をもって、鑑定等の虚偽に関与し、裁判所の判断を誤らせるなどの不正な行為を行い、その行為につき虚偽鑑定罪や偽証罪等の有罪判決が確定しているとは認められないところ、 、同第3鑑定及び同証言につき、害意をもって、鑑定等の虚偽に関与し、裁判所の判断を誤らせるなどの不正な行為を行い、その行為につき虚偽鑑定罪や偽証罪等の有罪判決が確定しているとは認められないところ、上記検討を踏まえても、本件につき、著しく正義に反し、刑事裁判手続の法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情があるとは認められない。よって、被告A第1鑑定、同第3鑑定及び同証言が、虚偽鑑定、偽証であるとして、損害賠償を求める原告の請求は理由がない。 ⑶ 被告A第2鑑定についてア原告は、被告A第2鑑定は、本件毛髪から砒素が検出されていなかったにもかかわらず(実際に検出されたものは鉛であったにもかかわらず)、砒素が検出されたとする点で、虚偽である旨主張する。 このうち、原告は、被告Aが、被告A第2鑑定書の図2及び被告B鑑 定書の図1に係る蛍光X線分析(平成10年12月14日ないし同月16日に測定のもの)の際に用いたX線のエネルギーが、鉛が励起される20ないし21keVであるとして(甲37・37ないし39頁参照)、被告A第2鑑定書の図2及び被告B鑑定書の図1のピークは砒素ではなく鉛であったなど主張する。 同蛍光X線分析(平成10年12月14日ないし同月16日のもの)の際に使用したX線のエネルギーについて、被告A第1鑑定書には、20ないし21keVと記載されており(甲1・6頁)、被告Aは、確定第1審においては、20ないし21keVで測定した旨の証言していた(甲37・37ないし39頁)。ところが、被告Aは、本件訴訟においては、15keVで測定した旨陳述書に記載し(乙3・6、7頁)、本人尋問では、確定第1審における証言が正しい趣旨の供述をした後、15keVで測定した、21keVで測定することはあり得ない旨供述す いては、15keVで測定した旨陳述書に記載し(乙3・6、7頁)、本人尋問では、確定第1審における証言が正しい趣旨の供述をした後、15keVで測定した、21keVで測定することはあり得ない旨供述するに至っており(被告A本人〔第3回23ないし35、46ないし53、59ないし62頁〕)、使用したX線のエネルギーに係る被告Aの認識等が一貫していないともうかがわれる。そうすると、上記の被告Aの測定結果に依拠して評価を行った被告B鑑定書の図1については、その正確性に疑問があるというべきである。もっとも、被告Bは、自ら測定を行ったものではないことに照らすと、これをもって直ちに虚偽鑑定等の意図をもっていたと認めることはできない。 また、被告A第2鑑定については、フォトンファクトリー(BL-4A)による蛍光X線分析(平成11年5月17日測定のもの)によって、鉛が励起されない12.2、12.9keVのX線エネルギーを用いて、鑑定資料である本件毛髪について砒素付着の有無及び本件毛髪に付着した砒素が長期間残存する可能性の有無等を主たる鑑定事項とするものであり(甲44)、原告が指摘する被告A第2鑑定書の図2は、別の測定 日(平成10年12月14日ないし同月16日測定)の測定結果の分析が参考として添付されたものにすぎず、被告A第2鑑定に直接関係するものとはいえないから、原告指摘の点をもって、被告A第2鑑定が虚偽の鑑定であるなどとは認められない。 原告は、そのほかに、被告A第2鑑定書の図1(本件毛髪につき、砒素が切断面から50ないし53mm に局在しているとの1次元分析の結果)につき、スペクトルが測定されておらず、使用したX線のエネルギーも不明である、同図3及び図4(対照資料である被告Aの頭髪に関する分析)は、マルチチャンネルアナライザでスペ いるとの1次元分析の結果)につき、スペクトルが測定されておらず、使用したX線のエネルギーも不明である、同図3及び図4(対照資料である被告Aの頭髪に関する分析)は、マルチチャンネルアナライザでスペクトル図を添付しているのに対し、同図1(本件毛髪に関する分析)はシングルチャンネルアナライザでスペクトル図を添付していない、被告A第2鑑定においては迷光(光学機器の内部に発生する、不必要な光の反射や散乱)が発生しているなどを根拠に、同図1のピークが砒素であるとは判定できず、被告A第2鑑定の結論は誤りである旨主張する。 しかし、原告の主張する点は、現時点で検討した際に、蛍光X線分析の実施方法が適切でなかった(より適切な方法があった)、時間の制約を踏まえて選択した方法が適切でなかったなどと評価することが可能なものであって、これをもって直ちに被告Aが当時、虚偽鑑定の意図を有していたとは推認し難く、原告の主張は採用できない。 イ以上によれば、前記⑵と同様に、鑑定内容の正確性等は、専ら鑑定の信用性(証拠価値)の問題であって、手法の妥当性等の問題にとどまると評価できるものであり、虚偽鑑定等の動機を有していたことを推認することは困難であることなどからすれば、被告Aが本件記者会見を実施していることを踏まえても、被告Aが虚偽鑑定の動機を有し、ひいては、虚偽鑑定の意図をもって、被告A第2鑑定を行ったとは認められない。 そして、被告Aが、被告A第2鑑定につき、害意をもって、鑑定等の虚 偽に関与し、裁判所の判断を誤らせるなどの不正な行為を行い、その行為につき虚偽鑑定罪等の有罪判決が確定しているとは認められないところ、上記検討を踏まえても、本件につき、著しく正義に反し、刑事裁判手続の法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情があると き虚偽鑑定罪等の有罪判決が確定しているとは認められないところ、上記検討を踏まえても、本件につき、著しく正義に反し、刑事裁判手続の法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情があるとは認められない。よって、被告A第2鑑定が、虚偽鑑定であるとして、損害賠償を求める原告の請求は理由がない。 ⑷ 被告B鑑定書及び被告B証言についてア原告は、被告B鑑定書は、測定試料作製の過程で3価砒素が全て5価砒素になることを看過した点、3価砒素の検出数値自体が検出限界を超えている点、健常者から3価砒素が検出されることはないという誤った前提に立っている点などで、虚偽であり、被告B証言も同様の点から偽証である旨主張するから、以下検討する。 原告は、被告Bが、測定試料作製の過程で3価砒素が全て5価砒素になることを看過している旨主張する。 この点、原告が指摘する文献において、3価砒素は、pH>10ではかなり速やかに酸化される(甲13・413頁)、2N―水素ナトリウム溶液で85から110℃で、3時間加熱しアルカリ分解した場合に、「ほとんどの3価ヒ素がアルカリ分解のために5価ヒ素に酸化する(甲16〔枝番を含む。〕)旨の記載があるものの、「かなり速やかに」(甲13)の記載内容は抽象的であって、同記載を踏まえても被告B鑑定における酸化の程度は不明であるし、文献内には、2N―水素ナトリウム溶液で85℃で、3時間加熱した場合には「一部」(「someof」)の「3価ヒ素が5価ヒ素に酸化する」旨の記載もあるなど(甲16の1・3枚目、16の2・5枚目)、文献内においても記載内容は一致していない。また、原告主張のとおり、5価砒素に全て酸化していたとすれば、被告B鑑定において、右側前頭部からのみ3価砒素が検出されたことも説明し 難い(この点、 内においても記載内容は一致していない。また、原告主張のとおり、5価砒素に全て酸化していたとすれば、被告B鑑定において、右側前頭部からのみ3価砒素が検出されたことも説明し 難い(この点、原告は、5価砒素に由来するアルシンが3価砒素に由来するアルシンとして誤検出された旨主張するが、同主張を前提にしても、右側前頭部からのみ3価砒素が検出されたことを説明できているか、疑問なしとしない。)。 以上によれば、被告B鑑定において、3価砒素が全て5価砒素になっていたかは不明というほかない。また、仮に、そのような可能性があるとしても、被告Bの処理の手法が適切ではなかったことによるものとしても説明が可能なものであって、被告Bの虚偽鑑定の意図を推認するものとは認められない。 原告は、3価砒素の検出数値が検出限界を超えていない、すなわち、被告Bが、砒素の検出限界を1mL当たり0.5ng(0.0005μg)と述べていることからすれば(甲106・11、12頁)、被告B鑑定(検液32mL、頭髪50mg)における検出限界は、0.32μg/頭髪1gであり、同鑑定内の数値は検出限界を超えていない旨主張する。 しかし、C教授は、上記検出限界については、通常500mgの頭髪を分析しているにもかかわらず、50mgの頭髪では、感度が10倍悪くなることを主眼として指摘しているとも考えられる上(証人C〔第2回32頁〕)、C教授は、超低温捕集-還元気化-原子吸光光度計によって毛髪中の砒素の濃度を測定した経験はなく、被告Bが実際にどのように砒素を測定するかについては認識していない(証人C〔第3回19頁、同第6回48頁〕)などの事情を踏まえると、被告B鑑定において採用された超低温捕集-還元気化-原子吸光光度計における検出限界(検出下限値)に係る原告主張の正当性は明 ていない(証人C〔第3回19頁、同第6回48頁〕)などの事情を踏まえると、被告B鑑定において採用された超低温捕集-還元気化-原子吸光光度計における検出限界(検出下限値)に係る原告主張の正当性は明らかとは言い難く、被告Bが検出限界を超えていない数値を計測したとは認めるに足りない。 原告は、被告Bが健常者から3価砒素が検出されることはないという 誤った前提に立っている旨主張する。 このうち、原告は、被告B自身が健常者から3価砒素を検出したことがある旨主張するが、被告Bが、人の毛髪から0.03ないし0.07μgAs/gの3価砒素が検出された旨発表したとする論文は、1980年のものであって、当時使用したガラス製の試験管から3価砒素が混入した結果と考えられるから(乙4)、被告Bが、被告B鑑定を実施した時点で、同論文を根拠に一般人から3価砒素が検出されたことを前提に判断すべきであったとはいえず、原告の主張は認められない。また、被告B鑑定書記載の数値は、他の論文(J論文)の数値を意図的に改ざんしたものである旨の原告の主張についても、仮に、同論文の数値を引用していたとしても、それを改ざんしたと評価できるか疑問であるし、原告の主張(C教授の見解)によっても、他の論文(J論文)では3価砒素については未解析であったものを、被告B鑑定書において「-」(不検出)と記載しているにとどまる。そして、被告B鑑定において本件毛髪のうち右側前頭部から検出されたとする3価砒素(0.090μgAs/g)が、一般人から検出される範囲内であることを裏付ける根拠はなく(すなわち、被告Bが、本件毛髪から検出されたとする3価砒素の値が、一般人から検出される範囲のものにとどまっていたにもかかわらず、一般人から検出される値をあえて「-」〔不検出〕と記載したとは認めら (すなわち、被告Bが、本件毛髪から検出されたとする3価砒素の値が、一般人から検出される範囲のものにとどまっていたにもかかわらず、一般人から検出される値をあえて「-」〔不検出〕と記載したとは認められない。甲16の1、16の2も参照)、被告Bに虚偽鑑定や偽証の意図があったとは認められない。 原告は、3価砒素を特異的に測定するためには、pHを4ないし5に設定しなければならないにもかかわらず(甲95・(68)、(69)頁)、被告BはpHの設定を誤った旨主張する。 この点、被告Bも、3価砒素を測定するためには、反応溶液として、pH4ないし5のフタル酸水素カリウム溶液を用いること自体は認めた 上で、被告B鑑定においても、pHを4ないし5に設定した趣旨とも考えられる陳述等をするものの(甲71・5頁、乙4・8、13頁)、被告B鑑定書には、「シュウ酸溶液(pH1.5)」、「フタル酸カリウム(pH3.5)」と記載されているのみで、溶液のpHを4ないし5に調整した旨の記載はなく(甲4、被告B本人〔第3回23ないし25頁〕)、被告Bが、フタル酸水素カリウム溶液のpHを4ないし5に設定したとは認められない(被告B本人〔第2回8、9頁〕も参照)。 もっとも、原告が主張の根拠として引用する各文献においては、pHを4ないし5とすべきであったとする文献のみならず(甲95)、pHを4とした場合でも5価砒素が一部検出される旨記載されている文献もあるなど(甲127・149頁の図)、3価砒素と5価砒素を区別して回収するための手法(適切なpHについての知見)がどの程度確立しているかについて不明確な点も残る。また、原告は、被告B鑑定につき、pHの設定を誤った結果、3価砒素と5価砒素の分別定量ができておらず、pH1.5に設定した場合には、3価砒素の回収率が100 確立しているかについて不明確な点も残る。また、原告は、被告B鑑定につき、pHの設定を誤った結果、3価砒素と5価砒素の分別定量ができておらず、pH1.5に設定した場合には、3価砒素の回収率が100%、5価砒素の回収率が24%であり、pH3.5に設定した場合には、3価砒素の回収率が100%、5価砒素の回収率が5%であるなど主張するが(原告準備書面⒀54、55頁)、同主張を前提としても、被告B鑑定の方法では、3価砒素のみならず5価砒素が回収される可能性があるから、同鑑定の結果が正確でないとはいえても、これが虚偽鑑定の意図があったことを推認するものとは言い難い。 そのほか、原告は、被告B鑑定において、左側前頭部の無機砒素(うち5価砒素)が他より特異的に高い点を説明できていない旨主張するが、被告B鑑定の鑑定事項や目的、本件訴訟までの時間の経過等を踏まえれば、仮に、被告Bが、現時点で、原告が指摘する点を的確に説明できていないとしても、これをもって、鑑定当時、故意に虚偽の鑑定を行なっ たと直ちに評価できるものではなく、原告の主張は採用できない。 イ原告は、そのほかに、被告Bの経歴や業績に虚偽があるなどと主張するが、これをもって鑑定当時に虚偽鑑定や偽証の意図があったとはいえず、原告の主張は採用できない。 ウ以上によれば、前記⑵、同⑶と同様に、鑑定内容の正確性等は、専ら鑑定の信用性(証拠価値)の問題であって、手法の妥当性等の問題にとどまると評価できるものであり、虚偽鑑定等の動機を有していたことを推認することは困難であることなどからすれば、被告Bが本件記者会見を実施していることを踏まえても、被告Bが虚偽鑑定や偽証の動機を有し、ひいては、虚偽鑑定や偽証の意図をもって、被告B鑑定及び同証言に臨んだとは認められない。 そして、被告B 、被告Bが本件記者会見を実施していることを踏まえても、被告Bが虚偽鑑定や偽証の動機を有し、ひいては、虚偽鑑定や偽証の意図をもって、被告B鑑定及び同証言に臨んだとは認められない。 そして、被告Bが、被告B鑑定及び同証言につき、害意をもって、鑑定等の虚偽に関与し、裁判所の判断を誤らせるなどの不正な行為を行い、その行為につき虚偽鑑定罪や偽証罪等の有罪判決が確定しているとは認められないところ、上記検討を踏まえても、本件につき、著しく正義に反し、刑事裁判手続の法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情があるとは認められない。よって、被告B鑑定及び同証言が、虚偽鑑定、偽証であるとして、損害賠償を求める原告の請求は理由がない。 ⑸ 小括ア以上のとおり、本件につき、著しく正義に反し、刑事裁判手続の法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情があるとは認められないから、この点に係る原告の請求は理由がない。 イなお、念のため、因果関係及び損害(争点⑺)の観点から検討しても、原告の請求には理由がない。 すなわち、原告は、被告らの鑑定書の提出や証言によって生じた損害として、5000万円の慰謝料(及び弁護士費用)の支払を求めているとこ ろ、原告は、この点につき、死刑判決を受けたことによって、毎日他人に殺されるかもしれないと思って過ごすこと、原告の子どもらに対し、母親と会えない苦痛や世間から大量無差別殺人者の子として後ろ指を指される辛い思いをさせたこと、拘禁された状態で再審請求事件を維持していかざるを得なくなったことといった精神的苦痛及び困難を被った旨主張するが、これは、結局、本件各鑑定等によって、確定審において、有罪判決を受けたことを理由として慰謝料を請求するものである。しかし、確定審判決や再審各決 たことといった精神的苦痛及び困難を被った旨主張するが、これは、結局、本件各鑑定等によって、確定審において、有罪判決を受けたことを理由として慰謝料を請求するものである。しかし、確定審判決や再審各決定で判断されているとおり、問題となっている亜砒酸の同一性については、そもそも本件各鑑定等の結果からのみならず、科警研の異同識別鑑定やDE鑑定の結果等を踏まえて認定されたものであること、同事実のほか混入機会の希少性、本件当時の原告の行動、原告と亜砒酸とのつながり(本件で問題とする毛髪鑑定〔被告A第2鑑定、被告B鑑定〕の結果はその一部にすぎない。)、砒素使用歴、第三者の亜砒酸混入の可能性等の事実が総合考慮された結果、有罪と認定されていることなどを踏まえれば(甲36・15ないし17、150ないし157頁、乙18・52、53頁)、被告らの共同不法行為により、原告主張の損害が生じたとは認められない。 ウ以上のとおり、本件各鑑定等につき、共同不法行為を理由とする原告の請求は理由がない。 3 争点⑶(本件記者会見が原告に対する名誉毀損に当たるか)について⑴ 前記前提事実、認定事実、後掲の各証拠によれば、本件記者会見は、原告が本件刑事事件の容疑者(被疑者)である旨報道され、実際に本件刑事事件の被疑者として逮捕、勾留されており、被告らもこれを認識する中、実施されたこと(認定事実⑶、甲22、37・72頁、50)、本件刑事事件につき社会的関心が強く、報道により被告らの研究活動に支障が生じていたことに加え、同様の毒物を使用した犯罪に対する抑止効果等を目的として実施さ れたこと、記者会見の主な内容は、被告A第1鑑定及び被告B鑑定の結果概要の説明であり、参加者は70ないし80名ほどの記者や大学関係者であったことが認められる(甲23、29、37・172 れたこと、記者会見の主な内容は、被告A第1鑑定及び被告B鑑定の結果概要の説明であり、参加者は70ないし80名ほどの記者や大学関係者であったことが認められる(甲23、29、37・172、173頁。乙5も参照)。そして、被告らは、本件記者会見において、鑑定結果(資料①ないし⑦の亜砒酸の異同識別及び本件毛髪中の砒素測定)の概要の説明と併せて、「悪事は裁かれるという科学の力を示すことで、全国の毒物混入事件に対する抑止力になる」という趣旨の説明をしたものと認められる(以下「本件説明」という。前記認定事実⑶イ、甲29、99・28、29、31頁)。これらの事実を前提とすると、被告らによる本件記者会見における本件説明は、鑑定結果の概要の説明と併せて、当該鑑定結果から原告が本件刑事事件の犯人であることが導かれることを示す意味で、原告が行った「悪事」が裁かれるとの事実を摘示したものと認められる。 ⑵ 以上によれば、被告らは、本件記者会見において、鑑定結果の概要の説明と併せて、当該鑑定結果から原告が行った「悪事」が裁かれるとのを表現することによって、原告が本件刑事事件の犯人であることを摘示するものであることを認識した上で、これを摘示したと評価できるから、被告らによる本件記者会見における本件説明は、原告の社会的評価を低下させるものであったと認められる(付言するに、被告らは、本件刑事事件の公判開廷前〔しかも、本件刑事事件について起訴もされておらず〕、かつ、被告A第1鑑定書及び被告B鑑定書が完成していない時点において、被告Aは検察官から鑑定書等を第三者に見せることは禁止されている旨指摘されていたにもかかわらず〔甲37・166、167頁。被告Bも鑑定の内容を発表することに問題がある旨認識していた。甲99・24、25頁〕、検察官等の積極的な賛成を に見せることは禁止されている旨指摘されていたにもかかわらず〔甲37・166、167頁。被告Bも鑑定の内容を発表することに問題がある旨認識していた。甲99・24、25頁〕、検察官等の積極的な賛成を得ることなく〔乙5・2頁〕、本件記者会見を実施し、警察や検察から承諾を得ずに資料等を配布するなどしている〔前記認定事実⑶イ〕。このような事実を踏まえると、本件記者会見は訴訟に関する書類が公判開廷前に公開 されることによって訴訟関係人の名誉を毀損したり、裁判に対する不当な影響を引き起こすことを防止するために、訴訟に関する書類について非公開を原則とする旨定めた刑事訴訟法47条や捜査における名誉の保護と捜査妨害の禁止について定めた刑事訴訟法196条にも反し得るものである。)これに対し、被告らは、確定控訴審において、本件記者会見が、原告が本件刑事事件の犯人であるとの心証を形成させるような性質のものではなかった旨判断されていると主張するが、確定控訴審判決は、本件記者会見について、鑑定書の証拠能力への影響という観点から検討されたものとうかがわれるから、上記評価を左右するものではない。 4 争点⑹(本件記者会見に係る名誉毀損による損害賠償請求権の消滅時効の成否)について以下、他の抗弁ないし争点に先行して、先に消滅時効の抗弁について判断することとする。 ⑴ 旧民法724条前段にいう「損害及び加害者を知った時」とは、被害者において、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度にこれらを知った時を意味するものと解するのが相当であり(最高裁判所昭和45年(オ)第628号同48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照)、同条にいう被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解すべ 最高裁判所昭和45年(オ)第628号同48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照)、同条にいう被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解すべきである(最高裁判所平成8年(オ)第2607号同14年1月29日第三小法廷判決・民集56巻1号218頁参照)。 これを本件についてみると、本件記者会見の内容は日刊新聞等で報道されているところ、原告が本件記者会見の内容を認識した時期は必ずしも明らかではないが、平成12年10月4日の確定第1審における被告Aに対する尋問において、本件記者会見についての質問がされていることからすれば(甲37)、原告は、遅くとも同時点において、被告らによる本件記者会見の存 在を知り、加害者のほか、損害の発生を現実に認識したといえる。 そうすると、原告は、遅くとも平成12年10月4日において、損害及び加害者を知ったといえ、本件訴え提起までに3年の消滅時効(旧民法724条前段)が完成していると認められる。 ⑵ この点、原告は、無罪判決が確定した時から損害賠償請求が現実に可能な状況になる旨主張するが、原告が主張の根拠とする判例(最高裁判所昭和58年(オ)第484号同年11月11日第二小法廷判決・集民事140号453頁)は、交通事故の被害者が、業務上過失致死傷罪で起訴され、有罪判決を受けた後、第2審で無罪判決を受け、同判決が確定した後に、交通事故の相手方に損害賠償を請求した事案であって、本件とは事案を異にし、原告の主張は採用できない。 また、原告は、早くてもC教授が鑑定書を作成し、再審請求事件において新証拠として提出された平成26年1月26日時点が消滅時効の起算日である旨主張するが、原告は、本件訴訟において、被告らの本件記者会見における本件説明が名誉毀損に該 定書を作成し、再審請求事件において新証拠として提出された平成26年1月26日時点が消滅時効の起算日である旨主張するが、原告は、本件訴訟において、被告らの本件記者会見における本件説明が名誉毀損に該当する旨主張して損害賠償を求めており、本件記者会見に係る請求と本件各鑑定等の違法性を理由とする請求とは内容を異にするものであるから(原告はこれらが全く別の訴訟物である旨主張している〔原告準備書面⑶・7頁〕)、本件記者会見に係る認識と本件各鑑定等の違法性に関する認識とを同一に考えることはできず、原告の主張は採用できない。 ⑶ 以上によれば、仮に、被告らの本件記者会見における本件説明が名誉毀損に該当する違法な行為と評価されるものであったとしても、これを理由とする共同不法行為に基づく損害賠償請求権は、消滅時効完成後、被告らがこれを援用したことにより消滅したものと認められる。 5 まとめ以上のとおり、本件各鑑定等が虚偽鑑定ないし偽証である違法である旨の原告の主張については、鑑定人等のその行為が著しく正義に反し、刑事裁判手続 の法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情が認められないし、損害及び因果関係の観点からも原告の主張は認められない。 また、本件記者会見に係る原告の主張についても、仮に、被告らの本件記者会見における本件説明が名誉毀損に該当する違法な行為と評価されるものであったとしても、本件訴え提起までに消滅時効が完成しており、被告らの時効の援用により、原告の被告らに対する名誉毀損を理由とした共同不法行為に基づく損害賠償請求権は消滅したといえるから、原告の主張は認められない。 したがって、原告の請求はいずれも理由がない。 第4 結語よって、原告の請求は、いずれも理由がないからこれらを棄却することとし 権は消滅したといえるから、原告の主張は認められない。 したがって、原告の請求はいずれも理由がない。 第4 結語よって、原告の請求は、いずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第19民事部 裁判長裁判官田口治美 裁判官甲元依子 裁判官丸林裕矢(別紙)第1被告A第1鑑定(甲1)の鑑定資料番号鑑定資料本判決中の略称等 Fから任意提出された緑色ドラム缶(中華人民共和国制造等と記載されたもの)在中の灰白色粉末資料①(緑色ドラム缶) Fから任意提出されたミルク缶(和光堂育児用ミルクレーベンス+2)在中の灰白色粉末資料②(Fミルク缶) Fから任意提出された白色缶(上蓋に「重」と記載されたもの)在中の灰白色粉末資料③(重記載缶) Fから任意提出された茶色プラスチック製円柱状容器在中の灰白色粉末資料④(Fタッパー) G方ガレージで押収されたミルク缶(雪印ネオミルク「つよいこ」)在中の灰白色粉末資料⑤(Gミルク缶) I方台所から押収されたプラスチック製容器(「白アリ薬剤」と記載されたもの)の付着物資料⑥(プラスチック製容器) 平成10年7月25日に和歌山市a地区において行われたa第14自治会夏祭りの会場で領置したゴミ袋(和歌山市指定家庭用半透明のビニール袋で、記号エと付したもの)内から発見された青色紙コップの付着物資料⑦(青色紙コップ) 紀北家畜保健衛生所から任意提出された500グラム容器入り亜砒酸試薬1級 紀北家畜保健衛生所から任意提出された25グラム容器入り亜砒酸試薬特級 上記夏祭りで参加住民に提供されたカレー(和歌山市衛生研究所長から任意提出を受けたカレー ラム容器入り亜砒酸試薬1級 紀北家畜保健衛生所から任意提出された25グラム容器入り亜砒酸試薬特級 上記夏祭りで参加住民に提供されたカレー(和歌山市衛生研究所長から任意提出を受けたカレールー既食分)10-1上記10のカレー中の白色結晶粒子本件カレー中の白色結晶粒子第2被告A第2鑑定(甲44)の鑑定資料平成10年12月9日に身体検査令状に基づきIの右側頭前部から採取した頭髪(数十本)本件毛髪(一部)第3被告A第3鑑定(甲2)の鑑定資料①~㉕亜砒酸の入った各瓶(合計25瓶)(プラスチック製容器に在中で、それぞれ異なるロット番号が付されたもの)第4被告B鑑定(甲4)の検査資料超低温捕集-還元気化-原子吸光光度計での測定に関しIの頭髪4点(左右の前頭部、左右の後頭部)本件毛髪放射光蛍光X線分析での測定に関しIの頭髪1点(右の前頭部)本件毛髪(一部) 鑑定資料一覧

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