平成14(ネ)3617 養親子関係確認請求控訴

裁判年月日・裁判所
平成14年12月25日 東京高等裁判所
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判決文本文5,630 文字)

主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は,補助参加によって生じた費用を含め,控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴の趣旨(1) 原判決を取り消す。 (2) 控訴人と亡A(外国人登録原票上の通称・A。本籍台湾省屏東縣(以下省略)。1918年1月1日生,1993年12月12日死亡)との間に養親子関係が存在することを確認する。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。 2 控訴の趣旨に対する被控訴人補助参加人の答弁(1) 主文1と同旨。 (2) 控訴費用は,控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,死亡した中国人によって認知された日本人の子が,認知無効の判決が確定した後,検察官を被告として当該中国人との間に養親子関係があることの確認を求めた事案である。 2 前提となる事実(1) 亡Aは,大正7年(西暦1918年)1月1日,台湾省屏東縣(以下省略)で生まれた男性であり,戦前,我が国に来日し,戦後も我が国に居住していたが,平成5年(西暦1993年)12月12日,我が国において死亡した。亡Aは,生前,外国人登録原票に「国籍に属する国における住所又は居所」として,台湾省屏東縣(以下省略)と記載していた。(甲1,丙1ないし3,17,弁論の全趣旨)(2) 控訴人は,昭和25年5月18日にBの子として生まれた日本人である。(甲2)(3) 亡Aは,昭和32年9月26日,控訴人を認知する旨の届出をしたが,平成5年,控訴人と共に認知無効の訴えを提起され,平成9年9月26日,血縁上の父子関係がないことから認知は無効である旨の第1審判決が言い渡され,控訴人が控訴,上告をしたが,いずれも容れられず,平成12年6月8日,上記第1審判決は確定した。(甲2, 平成9年9月26日,血縁上の父子関係がないことから認知は無効である旨の第1審判決が言い渡され,控訴人が控訴,上告をしたが,いずれも容れられず,平成12年6月8日,上記第1審判決は確定した。(甲2,丙18ないし20) 3 争点(1) 亡Aと控訴人との間の養子縁組の成立を認めることができるか(争点1)。 ア控訴人の主張(ア) 亡AとBは,昭和25年当時内縁関係にあったが,亡Aは,控訴人が生まれたときから控訴人を養育し,昭和32年9月26日,控訴人につき認知届を出し,以後控訴人を自分の子として育ててきた。 (イ) 亡Aの本国法である当時の中華民国民法(1985年6月3日改正前のもの。以下「旧中華民国民法」という。)の1079条によれば,「養子をするには書面をもってこれを行うことを要する。ただし,幼時から子として撫養(養育)している場合は,この限りでない。」とされており,亡Aが控訴人を幼時から子として養育してきたことは明らかであるから,遅くとも認知届が出された昭和32年9月26日ころには,亡Aと控訴人との養子縁組が成立した。なお,日本民法においては,未成年者の養子縁組には家庭裁判所の許可が必要であるが(民法798条),これを欠いても取り消し得るにすぎず,控訴人は,養子縁組を追認したから,もはや取り消すこともできない(同807条ただし書)。 イ被控訴人補助参加人らの主張(ア) 亡AとBが一時内縁関係にあったこと,亡Aが昭和32年9月26日に認知届を出したことは認めるが,その余は否認する。 (イ) 旧中華民国民法に控訴人主張の規定があることは認めるが,その余は争う。台湾における「撫養」とは,自分の子として親族に紹介したり,先祖の墓に墓参りさせたりすることを要するものであるところ,亡Aは,一度も控訴人を親族に紹介した 張の規定があることは認めるが,その余は争う。台湾における「撫養」とは,自分の子として親族に紹介したり,先祖の墓に墓参りさせたりすることを要するものであるところ,亡Aは,一度も控訴人を親族に紹介したことはなく,台湾の先祖の墓に連れて来たこともなかった。また,控訴人は,日本国籍を有するから,日本民法においても養子縁組の成立要件を充足しなければならないところ,日本民法は,未成年者の養子縁組には家庭裁判所の許可を必要とし,また,養子縁組には届出を必要としている。 したがって,亡Aと控訴人との養子縁組は成立していない。 (2) 亡Aのした認知の届出をもって養子縁組の届出と認めることができるか(争点2)。 ア控訴人の主張亡Aは,控訴人を幼時から我が子として養育し,控訴人が7歳の時に認知届を出した。その後も,亡Aは,控訴人の養育を続け,終生親としての自覚を持ち続けていた。したがって,亡Aと控訴人との間だけでなく,広く社会的にも控訴人が亡Aの子であると公認されてきたのである。 このように,虚偽の認知届によって認知者である亡Aと被認知者である控訴人間に親子としての生活実体が形成され,長年にわたって親子としての生活が継続した場合には,無効行為の転換の法理により,認知届に養子縁組届としての効力を認め,養子縁組の成立を認めるべきである。 イ被控訴人補助参加人らの主張控訴人の主張は,争う。 第3 当裁判所の判断 1 適用すべき法律について(1) 平成元年法律第27号によって改正された現行の法例20条によれば,養子縁組は縁組の当時の養親の本国法によるとされているが,その経過措置を定めた附則によれば,施行前に生じた事項については,なお従前の例によるとされているところ,本件では,日本人である控訴人と中国人である亡Aとの養子縁組の成否が問題となっており,控 いるが,その経過措置を定めた附則によれば,施行前に生じた事項については,なお従前の例によるとされているところ,本件では,日本人である控訴人と中国人である亡Aとの養子縁組の成否が問題となっており,控訴人の主張するところによれば,この養子縁組は,昭和32年9月26日に亡Aが認知届を出したころに成立したというものである。 したがって,本件については,平成元年法律第27号による改正前の法例(以下「旧法例」という。)の規定が適用されるべきところ,旧法例19条1項は,「養子縁組ノ要件ハ各当事者ニ付キ其本国法ニ依リテ之ヲ定ム」と規定し,いわゆる配分的適用主義を採用していた。そして,この規定によれば,養子縁組の実質的成立要件については,日本人である控訴人については我が民法の規定が,中国人である亡Aについては台湾において現に行われている法律の規定が,それぞれ適用されることになる。 (2) また,養子縁組の方式については,これを直接規定した旧法例の規定はないが,旧法例8条1項が「法律行為ノ方式ハ其行為ノ効力ヲ定ムル法律ニ依ル」とし,同法19条2項が「養子縁組ノ効力及ヒ離縁ハ養親ノ本国法ニ依ル」と規定していたことからすると,旧法例下における養子縁組の方式は養親の本国法によることになると解される。また,同法8条2項本文の「行為地法ニ依リタル方式ハ前項ノ規定ニ拘ハラス之ヲ有効トス」の規定によって,養子縁組は行為地法の方式によることもできると解される。したがって,養子縁組の方式については,原則として亡Aの本国法である台湾において現に行われている法律の規定が適用され,補則として我が国の民法の規定によってもよいことになる。 そして,甲第7号証の3及び弁論の全趣旨によれば,昭和32年9月当時,台湾において現に行われていた旧中華民国民法1079条の規定では,「養子をするには して我が国の民法の規定によってもよいことになる。 そして,甲第7号証の3及び弁論の全趣旨によれば,昭和32年9月当時,台湾において現に行われていた旧中華民国民法1079条の規定では,「養子をするには書面をもってこれを行うことを要する。ただし,幼時から子として撫養(養育)している場合は,この限りでない。」とされていたことが認められるから,亡Aと控訴人の養子縁組は,同条の規定により,原則的には書面ですることを必要とするが,我が民法とは異なり,届出を要件としていないものといえる(民法799条,739条参照)。また,旧中華民国民法1079条ただし書による場合には,幼時から子として養育するという事実行為によって養子縁組が成立するものと解されるが,甲第7号証の1によれば,この規定は,事実上の養子を認める台湾の慣習法を成文化したものと解されていることが認められる。 2 争点1について(1) 控訴人は,亡Aは,内縁の妻Bの子である控訴人を生まれたときから養育し,昭和32年9月26日,控訴人を認知して,以後は自分の子として控訴人を育ててきたので,旧中華民国民法1079条ただし書の規定により,遅くとも認知届が出された昭和32年9月26日ころには亡Aと控訴人との養子縁組が成立したと主張する。 しかしながら,控訴人と亡Aとの養子縁組の成立については,前記1でみたように,日本人である控訴人については我が民法が適用されるので,民法の規定する実質的成立要件を充足することが必要であると解すべきところ,本件については,未成年者であった控訴人の養子縁組につき家庭裁判所の許可(民法798条)がなかったことは明らかである。そして,未成年者の養子縁組についての家庭裁判所の許可は,養子縁組の実質的成立要件と解されるから,仮に亡Aの控訴人養育の行為が旧中華民国民法1079条ただし書の 98条)がなかったことは明らかである。そして,未成年者の養子縁組についての家庭裁判所の許可は,養子縁組の実質的成立要件と解されるから,仮に亡Aの控訴人養育の行為が旧中華民国民法1079条ただし書の場合に当たるとしても,この養子縁組は実質的成立要件を欠いていたものといわなければならない。 (2) 控訴人は,この点について,家庭裁判所の許可を欠いた養子縁組も取消事由があるにとどまり,控訴人は民法807条ただし書による追認をしたから,もはや取り消すこともできない旨主張する。 しかしながら,我が民法上の養子縁組は,届出によって成立するものであり(民法799条,739条1項),実質的成立要件を欠いても,誤って受理されてしまえば成立したものとして扱われ,取り消されるまでは有効とされるのが原則である(例外的に無効とされるのは民法802条に規定される場合のみである。)。他方,旧中華民国民法1079条ただし書の規定による養子縁組は,幼時からの養育という事実行為のみによって養子縁組の成立を認めようとするものであるから,そこには法律行為又はこれに類する行為があることを前提とする取消しという観念は入れる余地がないものと解される。したがって,旧中華民国民法1079条ただし書の規定による養子縁組は,実質的成立要件を充たして成立したと解するか,これを欠いているがゆえに成立していないと解するかのいずれかであって,成立はしたが取消し得るというものはないと解さざるを得ない。 本件においては,前述のとおり,控訴人について我が民法の規定する養子縁組の実質的成立要件を欠いているのであるから,仮に控訴人が主張するような養育の事実があったとしても,養子縁組は成立しなかったものと解さざるを得ないのである。控訴人の上記主張は,採用することができない。 (3) したがって,旧中華民国民 から,仮に控訴人が主張するような養育の事実があったとしても,養子縁組は成立しなかったものと解さざるを得ないのである。控訴人の上記主張は,採用することができない。 (3) したがって,旧中華民国民法1079条の規定により亡Aと控訴人との間に養子縁組が成立したとする控訴人の主張は,その余について判断するまでもなく,失当というべきである。 3 争点2について控訴人は,虚偽の認知届によって認知者である亡Aと被認知者である控訴人間に親子としての生活実体が形成され,長年にわたって親子としての生活が継続した場合には,無効行為の転換の法理により,認知届に養子縁組届としての効力を認め,養子縁組の成立を認めるべきであると主張する。そして,養子縁組の方式については,補則として我が国の民法の規定が適用されることから,養子縁組の届出という我が国の方式による養子縁組も有効と解すべきことは,前記1で判示したとおりである。 しかしながら,仮に養子縁組をする意思で他人の子について虚偽の認知届をし,その後長年にわたって親子としての生活が継続した場合であっても,この認知届に養子縁組の届出としての効力を認めることはできないものと解するのが相当である。けだし,養子縁組の届出は,これを受理するに際しては民法の規定する実質的成立要件を具備しているか否かが審査され,これが具備されていなければ受理されないものであるところ,養子縁組の実質的成立要件を審査しない認知届に養子縁組の届出の効力を与えるとすると,実質的成立要件を具備しているか否かを審査しないまま養子縁組の届出を受理せざるを得ないに等しい結果となり,そうなっては実質的成立要件を定めた民法の趣旨にもとる結果となるからである(最高裁昭和49年12月23日第二小法廷判決・民集28巻10号2098頁参照)。 4 よって,当裁判所の 等しい結果となり,そうなっては実質的成立要件を定めた民法の趣旨にもとる結果となるからである(最高裁昭和49年12月23日第二小法廷判決・民集28巻10号2098頁参照)。 4 よって,当裁判所の上記判断と結論を同じくする原判決は結局相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第20民事部裁判長裁判官久保内卓亞 裁判官大橋弘裁判官長谷川誠

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