- 1 -主文 原判決を取り消す。 被控訴人の各請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1当事者の求めた裁判 控訴の趣旨主文同旨 控訴の趣旨に対する答弁(1)本件控訴を棄却する。 (2)控訴費用は控訴人の負担とする。 第2事案の概要本件は,被控訴人の夫であった亡P1が平成11年12月1日,勤務先において午後5時から行われた飲酒を伴う会合(以下「本件会合」という。)からの帰宅途中,営団地下鉄α線β駅入口階段から転落して死亡した事故(以下「本件事故」という。)に関し,被控訴人が処分行政庁に対し,本件事故は労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)7条1項2号の通勤災害に該当するとして,療養給付,遺族給付及び葬祭給付の各請求をしたところ,処分行政庁が本件事故は通勤災害に当たらないとして,被控訴人の上記各請求につき不支給の決定(以下「本件各処分」という。)をしたため,被控訴人が審査請求,再審査請求をし,これらがいずれも棄却されたため,控訴人に対し,本件各処分の取消しを求めた事案である。 控訴人は,(1)亡P1の本件会合への出席は業務としてなされたものとはいえず,亡P1の帰宅行為は,本件会合が介在することにより,通勤災害認定の要件である「就業に関し」(労災保険法7条2項)て行われたものとはいえない,(2)亡P1は,本件会合において相当量飲酒しており,亡P1の帰宅行為は- 2 -通勤の方法として合理的なもの(労災保険法7条2項)と認めることができないから,亡P1の帰宅行為は労災保険法にいう通勤に該当するとはいえず,(3)本件事故は通勤災害に該当しないと主張した。 原審は,(1)本件会合は,酒類の提供を伴うものであるが,業務の円滑な遂行を確保することを目 の帰宅行為は労災保険法にいう通勤に該当するとはいえず,(3)本件事故は通勤災害に該当しないと主張した。 原審は,(1)本件会合は,酒類の提供を伴うものであるが,業務の円滑な遂行を確保することを目的としたもので,相応の成果を上げていたものであり,本件会合は業務としての性格を有し,本件会合を主催する事務管理部の事実上の統括者である亡P1にとって,本件会合への出席は職務であり,亡P1は本件事故当日に開催された本件会合においても本件会合の趣旨に従った業務に当たっていた,(2)亡P1は飲酒後帰途についているが,その飲酒量や飲酒後の経過時間にかんがみ,また,当日は降雨があったため足元が滑りやすい状態であったことからすると,飲酒の影響で本件事故が生じたとまで認めることはできないから,本件事故が通勤に伴う危険により生じたものには当たらないということはできない,(3)したがって,本件事故が通勤災害であることを否定した本件各処分は違法であるとして,本件各処分を取り消したところ,控訴人が不服を申し立てた。 そのほかの事案の概要は,次のとおり訂正し,又は,付加するほかは,原判決の事実及び理由欄の「第2事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。 原判決3頁25行目から同26行目にかけての括弧部分全体を「(亡P1の本件会合への出席は業務であるか。また,亡P1の飲酒後の帰宅行為は,就業に関し,合理的な方法により行われたものといえるか。)」に改める。 原判決8頁6行目末尾の次に行を改め,次のとおり加える。 「(ウ)控訴人は,亡P1が本件事故後に入院し治療を受けた聖路加国際病院の退院時要約(以下『サマリーシート』という。乙54の2)に『エタノール378.5』との数値が記載され,この数値は亡P1の血中エタノール濃度が,378.5mg/dlであ し治療を受けた聖路加国際病院の退院時要約(以下『サマリーシート』という。乙54の2)に『エタノール378.5』との数値が記載され,この数値は亡P1の血中エタノール濃度が,378.5mg/dlであったことを示すものである- 3 -旨主張するが,上記サマリーシートには『378.5』という数字は記載されているものの,その前の文字をカタカナの『エタノール』と読むことはできない。死体検案調書(乙58,3頁)には,『なお,搬送時の飲酒酩酊の定量なし』と明確に記録されている。亡P1が聖路加国際病院に搬送された時点で血中エタノール濃度の測定が行われていなかったことは明白である。 (エ)控訴人は,血中エタノール濃度378.5mg/dlに相当する酒の量は,日本酒1升以上,ビール大瓶10本以上で,亡P1の状態は泥酔期であるという。 しかしながら,本件会合において提供された全体の酒の量からして亡P1が1人で上記の量の飲酒をしたとは考えられない。 また,『378.5』を病院搬送時(午後11時ころ)の血中エタノール濃度とすれば,2時間遡った午後9時ころの血中エタノール濃度は4.185~4.025mg/mlとなり,そのときの酒酔いの程度は,泥酔期よりも強い昏睡期に当たるところ,昏睡期の症状は,昏睡,呼吸麻痺,血管運動中枢麻痺,大小便の垂れ流し(乙57の参考資料4)となっている。 しかしながら,亡P1はそのような昏睡期の状態になっておらず,部下と議論をしているほどであった。 (オ)控訴人は,亡P1が千鳥足であり,同僚が肩を貸す状態であったと主張する。 しかし,亡P1は,当日会社からβ駅手前の信号までは事務管理部の主任であるP2(以下『P2主任』という。)の,信号を渡り駅入口までは事務管理部の課長であるP3(以下『P3課長』という。)の傘に相合い傘の状態で入 は,当日会社からβ駅手前の信号までは事務管理部の主任であるP2(以下『P2主任』という。)の,信号を渡り駅入口までは事務管理部の課長であるP3(以下『P3課長』という。)の傘に相合い傘の状態で入れてもらっており,P2主任,P3課長とも,肩を貸してもいないし,足元がふらつくこともなかったと供述しているので- 4 -あり,控訴人の主張するような状態ではなかった。 (カ)本件事故当時β駅階段入口は降雨により足元が滑りやすくなっていた。しかも,亡P1の履いていた靴は革靴で滑りやすかった。 本件事故現場の階段は,幅が狭く,大人がやっとすれ違えるほどの幅しかない。本件事故当時は,降雨のため,階段入口付近に人がたまり,かなり混んでいた。階段を上がってくる人,降りる人,傘を広げようとする人などがごった返しており,亡P1に他人がぶつかり,そのはずみでバランスを崩し,足を踏みはずした可能性もある。 亡P1が酒に酔って転落したということはできない。」 原判決10頁19行目末尾の次に行を改め,次のとおり加える。 「なお,亡P1が本件事故後に入院し治療を受けた聖路加国際病院のサマリーシートには『エタノール378.5』との数値が記載されている(乙54の1・2)が,この数値は亡P1の血中エタノール濃度が,378.5mg/dlであったことを示すものである(乙54の1・2,55,56)。 そして,上記血中エタノール濃度は,医学的には昏睡状態となる泥酔,又は重度の急性エタノール中毒の域値に達しており,時間の経過に伴って,歩行麻痺,昏睡状態となり,諸反射の消失や体温の低下,吐物の吸引など死に直結する症状を呈する状態である。 亡P1の死体検案調書(乙58)に,亡P1が千鳥足であり,同僚らが肩を貸す状態にあったと記載されていることは,上記酩酊度と符合する。亡P1は,強度 物の吸引など死に直結する症状を呈する状態である。 亡P1の死体検案調書(乙58)に,亡P1が千鳥足であり,同僚らが肩を貸す状態にあったと記載されていることは,上記酩酊度と符合する。亡P1は,強度酩酊よりも酩酊の程度は強く泥酔期にあったといえる。 このような多量の飲酒を伴う本件会合を,業務の円滑な遂行を確保することを目的としたものとは評価し得ないし,また,泥酔期に至るほど多量の飲酒に及んだ亡P1が業務に当たっていたと評価することも困難である。 なお,前記血中エタノール濃度に相当する飲酒量は,日本酒で一升以上,ビール大瓶で10本以上に相当するものとされている(乙56)。亡P1の- 5 -飲酒量について,正確な量を把握することは困難であるが,本件事故時の血中エタノール濃度から推測される飲酒量に照らせば,これまで判明している缶ビール3本位,ウイスキー紙コップ半分をロック3杯という量よりも更に多量の飲酒をしていた可能性も否定できない。」 原判決10頁21行目冒頭から同11頁3行目末尾までを次のとおり改める。 「(3)本件会合終了後の帰宅行為の通勤該当性ア亡P1の本件会合への出席は,業務としてなされたものとはいえない。 そして,業務である主任会議終了後の酒食を伴う本件会合への出席は5時間余りに及ぶものであることなども考慮すると,亡P1の帰宅行為は,本件会合が介在することにより,『就業に関し』て行われたものとはいえなくなる。 イまた,本件事故は,亡P1の飲酒による酩酊が重大な原因となったものであり,通勤に伴う危険により生じたものには当たらない。 (ア)すなわち,本件事故当日の亡P1は,少なくとも,缶ビール3本,ウイスキー紙コップ半分をロック3杯飲んでいる(乙21)。これだけでも,強度酩酊の域に達するとされており(乙53),このような場合,言 すなわち,本件事故当日の亡P1は,少なくとも,缶ビール3本,ウイスキー紙コップ半分をロック3杯飲んでいる(乙21)。これだけでも,強度酩酊の域に達するとされており(乙53),このような場合,言語は支離滅裂,著しい運動失調,協調運動障害により座位保持が困難で,独歩不能,認知や判断が困難となり,危険回避ができないなどの症状が発現するとされている。そして,本件事故時の亡P1の血中エタノール濃度が378.5mg/dlで,これが本件事故当時亡P1が泥酔状態であったことを示すものであることは前記のとおりである。 (イ)そして,亡P1の心身の状態については,本件事故当日の本件会合において,①午後9時前後から会議テーブルの椅子に座ったまま眠ってしまい,午後10時15分ころ残っていた者が退社する際に声をかけられてようやく目覚める状況にあったこと,②午後10時1- 6 -5分ころ,退社した亡P1は,会社の者らと一緒にβ駅に向かったが,相当具合が悪い様子で,P2主任が傘を差して亡P1を支えてやっと歩いている状態であった。 (ウ)本件事故当時雨が降っていたが,本件事故現場の階段が雨に濡れて滑りやすい状態にあったと断定することはできない。そして,亡P1は階段から転落して後頭部に致命的な挫創を負ったが,足を踏み外した直後に反射的に頭部を守る身構えの姿勢を取るならば,顔面や側頭部などを打ち付けてもその衝撃は緩和されるから,亡P1が階段を転落して後頭部に挫創を負ったというのは,転落直後に頭部,顔面への直撃を避ける反射的な防御姿勢をとることができなかったためである。 亡P1が転落し,防御の姿勢をとることができずに,後頭部に致命的な挫創を負ったというのは,亡P1が前記のとおり本件会合において極めて多量の飲酒に及び,泥酔期の状態のまま帰路に就いたためで ある。 亡P1が転落し,防御の姿勢をとることができずに,後頭部に致命的な挫創を負ったというのは,亡P1が前記のとおり本件会合において極めて多量の飲酒に及び,泥酔期の状態のまま帰路に就いたためである。 (エ)通勤災害は,通勤に伴う危険が顕在化したとみられる事故を対象とするものであるところ,本件事故は,亡P1が強度酩酊状態になるまで飲酒しなければ生じなかった可能性が極めて高く,通勤に伴う危険が顕在化したと評価することは困難である。」第3当裁判所の判断 当裁判所は,被控訴人の本訴各請求はいずれも理由がないものと判断する。 その理由は,次のとおり訂正し,又は,付加するほかは,原判決の事実及び理由欄の「第3争点に対する判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1)原判決15頁6行目冒頭から同16頁2行目末尾までを次のとおり改める。 - 7 -「ア本件会合の開催東京支店では,毎月月初めに主任会議が開催され,関東近県から建設現場の主任以上の者,事務管理部の主任以上の者などが参加し,全社的な徹底事項の概要説明及び質問,各部からの通達,連絡事項の報告等がされていた。参加人数は80名程度であった(甲11,乙49,争いのない事実)。 主任会議は午後5時には終わるが,その後,毎回,事務管理部が主催する本件会合が開かれていた(乙15)。 本件会合は,午後5時ころ開始され,用意されたアルコールがなくなる午後8時から午後8時30分ころまで続けられることが多かった(甲11,乙15,50。なお,P2主任は,東京労働局労働者災害補償保険審査官宛の『亡P1事務管理部次長の通勤災害認定についての陳述書』《乙50の2頁》においては,本件会合の終了時刻は午後8時ないし午後8時半ころと述べているのに対し,原審の証人尋問においては,上記陳述書作成の際 亡P1事務管理部次長の通勤災害認定についての陳述書』《乙50の2頁》においては,本件会合の終了時刻は午後8時ないし午後8時半ころと述べているのに対し,原審の証人尋問においては,上記陳述書作成の際には,普段は残業が多く退社時刻が遅かったため,本件会合のある日は早く帰ると心がけていたので,午後8時か午後8時半くらいかなという認識で終了時刻を記載したが,勤務表を確認したところ午後7時になっていたので午後8時ないし午後8時半を午後7時に訂正する旨証言した。しかしながら,事務管理部課長P4が東京労働局労働者災害補償保険審査官に対し,毎回アルコールがなくなる午後8時ころ終了していた旨供述していること《乙15》や日特建設東京支店支店長の労働保険審査会会長宛の回答《甲11》の内容,さらには,P2主任は本件事故のあった日には午後10時15分に退社しているが,勤務表上は,本件会合を残業扱いせず,午後6時30分退社としていること《乙21,37の3》に照らすと,同人の上記証言は信用できない。)。 亡P1は平成11年4月以降,本件会合のある日は午後7時ころ退社す- 8 -ることが多く,同年11月2日は午後8時30分であった(乙28の13~16・18~20,原審被控訴人準備書面(1)の表)。 なお,本件事故当時,日特建設では,残業手当の支払は自己申告による勤務表に基づいて計算されていたが,職種毎に残業目標時間を定め,その範囲内で残業手当の支給をしていたところ,本件会合に関しては残業時間として申告している者といない者がおり,申告された場合にはそれが目標時間内のものであれば残業手当が支払われるという扱いになっていた(甲11)。」(2)原判決16頁24行目冒頭から同17頁4行目末尾までを次のとおり改める。 「P5部長は,5階及び6階のいずれにも少し顔を出すが れば残業手当が支払われるという扱いになっていた(甲11)。」(2)原判決16頁24行目冒頭から同17頁4行目末尾までを次のとおり改める。 「P5部長は,5階及び6階のいずれにも少し顔を出すが,営業や工事の担当者が集まる5階にいることが多く,亡P1は事務管理部員が中心の6階にいるのが常であった。亡P1はほぼ毎回参加していたが,前記のとおり午後7時ころには退社していた。」(3)原判決20頁7行目冒頭から同10行目の「ことがあった。」までを「しかし,本件会合はもともと主任会議終了後の慰労会的なものとして開催されていたもので,参加は自由であるが,会社としてはアルコールが用意された席で社員からきたんのない意見を聞く良い機会と位置付けていた。」に,同11行目の「乙49・1頁,」を「乙12,15,49・1頁,」にそれぞれ改める。 (4)原判決23頁11行目の「缶ビールを約3本飲み,」を「正確な飲酒量は不明であるが,少なくとも,缶ビールを約3本飲み,」に,同14行目の「なお,」から同16行目の「控えめであった。」までを「なお,亡P1が本件事故後に入院し治療を受けた聖路加国際病院が入院後間もなくして採取した亡P1の血液中からは,378.5mg/dlのエタノールが検出された(乙54の1・2)。」に,同17行目の「50・3頁,」を「50・3- 9 -頁,54の1・2,55,61,64の1・2,」に,同18行目の「証人P314頁」を「証人P314頁,当審証人P6」にそれぞれ改める。 (5)原判決29頁9行目末尾の次に行を改め,次のとおり加える。 「亡P1はβ駅に向かう途中P2主任に支えられてやっと歩いている状態であった。亡P1はβ駅入口の階段を降りる際に階段下にある踊り場まで墜落した(乙13の4頁,58の3頁)。亡P1は,聖路加国際病院に 亡P1はβ駅に向かう途中P2主任に支えられてやっと歩いている状態であった。亡P1はβ駅入口の階段を降りる際に階段下にある踊り場まで墜落した(乙13の4頁,58の3頁)。亡P1は,聖路加国際病院に搬送され,頭部CTにより後頭部骨折と前頭葉脳挫傷(対側),急性硬膜下出血が確認され,手術の適応はなかった。亡P1の死体検案調書(乙58の3頁)には,『外表の外傷は目立たず,すべりおちるのではなくダイブするように一気に落下したのでは,という証言と一致』との記載がされている。また,同死体検案調書には死亡の原因として『骨折を伴う頭蓋内損傷』が記載されている。」(6)原判決29頁12行目の「50・3頁,」を「50・3頁,58,」に改める。 (7)原判決29頁26行目冒頭から同32頁4行目末尾までを次のとおり改める。 「2判断(1)本件会合の業務性本件会合は,毎月1回開催される日特建設の重要な会議である主任会議の終了後に会社の施設内において開催されるもので,主催者は事務管理部であること,費用も一般管理費会議費から支出されていること,また,日特建設としては社員のきたんのない意見を聞く良い機会と位置付け,現実に,本件会合において業務に係る意見交換がされたり上司が部下の不満を聞くなどされ,さらには,本件会合において社員から聴取された提案が実現することもあったことからすると,本件会合を業務と無関係な社員同士の純然たる懇親会とみることはできな- 10 -い。 しかしながら,本件会合は通常の勤務時間終了後に開催されていること,参加が自由であること,実際,主任会議の参加者の多くは本件会合に参加していないこと,参加する場合でも,参加する時間,退出する時間は自由であったこと,本件事故当時の日特建設の残業手当の支給が残業目標時間内に限って支払うという ,主任会議の参加者の多くは本件会合に参加していないこと,参加する場合でも,参加する時間,退出する時間は自由であったこと,本件事故当時の日特建設の残業手当の支給が残業目標時間内に限って支払うという運用がされていたこともあり,本件会合に参加した時間につき残業と申告する者と申告しない者がおり,一律に本件会合への参加が残業と取り扱われていたわけではないこと,本件会合については開催の稟議や案内状もなく,また,毎回,議題もなく,議事録が作成されることもないこと,本件会合開始時から飲酒が始まり,アルコールがなくなる午後8時ないし午後8時30分ころに終了することが多く,アルコールの量も少なくはないこと,会社内では本件会合は『ご苦労さん会』と称されていたこと,もともとは主任会議後の慰労会として開催されたことからすると,本件会合は慰労会,懇親会の性格もあり,また,拘束性も低いから,本件会合への参加自体を直ちに業務であるということはできない。 (2)亡P1についての業務性上記のとおり本件会合への参加自体を直ちに業務ということはできないが,本件会合の主催者は事務管理部であり,事務管理部の社員が料理,アルコールの調達や会場の設営をしているところ,亡P1は事務管理部の次長の地位にあり,事務管理部を実質的に統括していたこと,現実に,亡P1は本件会合にはほぼ最初から参加していること,日特建設では本件会合を社員のきたんのない意見を聞く機会と位置付け,亡P1は本件会合において社員の意見を聴取するなどしてきたことからすると,亡P1については,本件会合への参加は業務と認めるのが相当である。 - 11 -しかしながら,亡P1が本件会合に参加しても従来午後7時ころには退社していること,本件会合は飲酒を伴うもので終了もアルコールがなくなるころであったという実情にあるこ のが相当である。 - 11 -しかしながら,亡P1が本件会合に参加しても従来午後7時ころには退社していること,本件会合は飲酒を伴うもので終了もアルコールがなくなるころであったという実情にあることや開始時刻からの時間の経過からすると,午後7時前後には本件会合の目的に従った行事は終了していたと認めるのが相当であるから,亡P1にとっても業務性のある参加はせいぜい午後7時前後までというべきである。 (3)本件事故の通勤遂行性,通勤起因性前記認定のとおり,亡P1にとっても本件会合への参加が業務性を有するのは午後7時前後までというべきであるところ,本件事故当日の本件会合について業務性のある時間を延長すべき特別な事情はないから,本件事故当日についても亡P1の業務性のある本件会合への参加は午後7時前後には終了したというべきである。 しかし,亡P1はその後も約3時間,本件会合の参加者と飲酒したり,居眠りをし,退社して帰宅行為を開始したのは午後10時15分ころである上,その際,亡P1は既に相当程度酩酊し,部下に支えられてやっと歩いている状態であったというのであり,また,本件事故が階段から転落し,防御の措置を執ることもできずに後頭部に致命的な衝撃を受けたというものであることや入院先で採取された血液中のエタノール濃度が高かったことからすると,本件事故には亡P1の飲酒酩酊が大きくかかわっているとみざるを得ない。 以上,亡P1の帰宅行為は業務終了後相当時間が経過した後であって,帰宅行為が就業に関してされたといい難いし,また,飲酒酩酊が大きくかかわった本件事故を通常の通勤に生じる危険の発現とみることはできないから,亡P1の帰宅行為を合理的な方法による通勤ということはできず,結局,本件事故を労災保険法7条1項2号の通勤災害と認めることはできない。 - 常の通勤に生じる危険の発現とみることはできないから,亡P1の帰宅行為を合理的な方法による通勤ということはできず,結局,本件事故を労災保険法7条1項2号の通勤災害と認めることはできない。 - 12 -(4)なお,被控訴人は,当裁判所が事実認定の資料とした乙第54号証の1,2(サマリーシート)について,被控訴人に行政内部の資料が開示されたのは労働保険審査会での審理が開催された平成14年9月12日の約1か月ほど前であり,その時点で不支給決定の理由が判明し,それに対しその不支給には理由がないと意見を述べたが,亡P1の飲酒量が極度に多いことが不支給の理由になっていなかったので,被控訴人は飲酒量についての調査をしなかった。ところが,控訴人は原審段階から,審査請求,再審査請求では全く問題にしてこなかった飲酒量が大量であった旨の新しい主張をし出し,当審においてサマリーシートを提出した。仮に,審査請求,再審査請求の段階で大量の飲酒の主張があれば,その時点で聖路加国際病院に照会してサマリーシートを見ることもできたし,さらに,原始資料である診療記録,検査伝票を確認することができたのであるから,当審における乙第54号証の1,2の提出は時機に後れた証拠の申出で許されない旨主張する。 しかしながら,審査請求,再審査請求において,本件事故が通勤災害に当たるのかという点に関し亡P1の飲酒量が問題とされていたのみならず,亡P1が多量の飲酒をしている可能性があり,その場合には通勤災害とはいえないとの指摘もされており(甲4,5),原審において突然亡P1の多量の飲酒が主張されたのではなく,また,証拠(乙62)によれば,東京労働局労働基準部労災補償課地方労災補償訟務官は原審の審理の過程で聖路加国際病院における治療等を確認するため平成17年11月同病院に診療録等の保存 れたのではなく,また,証拠(乙62)によれば,東京労働局労働基準部労災補償課地方労災補償訟務官は原審の審理の過程で聖路加国際病院における治療等を確認するため平成17年11月同病院に診療録等の保存年限を電話で確認したところ廃棄済みであるとのことであったため記録の入手を断念していたこと,その後,平成19年3月28日に原判決がされ,控訴人敗訴の判断がされたため,同年4月24日診療録等の保管方法を尋ねるため直接同病院に赴き,担当者に確認している際にサマリーシートの- 13 -話が出たため,サマリーシートの存在を知り,これを入手することができたことが認められ,上記認定事実によれば,サマリーシートの提出につき信義に反する点があるとまではいえず,時機に後れた証拠の申出ということはできない。 また,被控訴人は,本件会合において提供された全体の酒の量からして亡P1が大量の飲酒をしたとは考えられないと主張するが,本件会合で実際に提供されたアルコール類の量がどの程度であったのか詳細は不明であるし,前記認定の他の参加者の飲酒量からして,亡P1が相当量の飲酒をしたことを否定することはできない。 さらに,被控訴人は,『378.5』を病院搬送時(午後11時ころ)の血中エタノール濃度とすれば,2時間遡った午後9時ころの血中エタノール濃度は4.185~4.025mg/mlとなり,そのときの酒酔いの程度は,泥酔期よりも強い昏睡期に当たることになる。 昏睡期の症状は,昏睡,呼吸麻痺,血管運動中枢麻痺,大小便の垂れ流しとなっているが,亡P1はそのような昏睡期の状態になっておらず,部下と議論をしているほどであったから,エタノール濃度が『378.5』であった旨の控訴人の主張は理由がない旨主張する。 なるほど,エタノール濃度378.5mg/dlが血中エタノール濃度として極め ず,部下と議論をしているほどであったから,エタノール濃度が『378.5』であった旨の控訴人の主張は理由がない旨主張する。 なるほど,エタノール濃度378.5mg/dlが血中エタノール濃度として極めて高い数値であることは被控訴人主張のとおりであるが,サマリーシートの上記記載が亡P1の病院搬送時のころ採取された血液に含まれていたエタノールの濃度であったことは,これを裏付ける証拠(乙55,61,64の1・2,証人P6の証言)に照らし,動かし難いところであるし,亡P1が同僚に支えられてやっと歩いていたことや本件事故において防御をすることができないまま後頭部を強打したことからすると,亡P1の本件事故当時の血中エタノール濃度が上記の程度であったことを否定することはできない。」- 14 - 以上のとおりであって,当裁判所の上記判断と結論を異にする原判決は不当であるからこれを取り消し,本訴請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第20民事部裁判長裁判官宮崎公男裁判官山本博裁判官藤岡淳
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