主文 1 被告は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成25年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 4 この判決は1項に限り仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告に対し,200万円及びこれに対する平成25年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件は,平成25年8月11日に,訴外Aに暴行を加え,傷害を負わせたとの傷害事件の被疑者として警察官から取調べを受けた原告が,同事件の捜査を担当した警察官らが違法な捜査を行ったと主張して,被告に対し,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき慰謝料200万円及びこれに対する平成25年11月7日(最終行為日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(争いのない事実あるいは後掲各証拠により容易に認定できる事実)(1) 当事者等ア原告は,平成25年(以下,平成25年については同年の記載を省略する。)9月当時,79歳であった。原告は,定年を迎えるまで,小学校の教員などとして勤務していた。〔甲2〕イ B巡査長(以下「B警察官」という。)及びC巡査部長(以下「C警察官」 という。)は,9月当時,いずれもD警察署に所属する警察官であった。 (2) 捜査の経緯ア Aは,8月11日午後0時43分,D警察署に,「原告から殴られた,自宅に来てほしい。」旨通報し,同署の警察官がA方に赴いた。 イ Aは, する警察官であった。 (2) 捜査の経緯ア Aは,8月11日午後0時43分,D警察署に,「原告から殴られた,自宅に来てほしい。」旨通報し,同署の警察官がA方に赴いた。 イ Aは,駆けつけた警察官に対し,「今日の午後零時頃,車に乗って田んぼの近くにある納屋にゴミを置きに行くと,原告が私の方に歩いてきた。そしていきなり「油流し込んだやろ。」と言って,私の車に積んでいたプラスチック製のコンテナを掴み,私に殴りかかろうとしました。私がコンテナを押さえると,今度は私の胸ぐらを掴み,右のげんこつで一回殴ってきたのです。私は避けきれず,そのまま顎を殴られ出血しました。」旨申告した。 ウ Aは,8月16日,D警察署を訪れ,医師が作成した,診断名「下顎部打撲」と記載された診断書を提出するとともに,被害の届出をしたため,D警察署は,傷害事件(以下「本件傷害事件」という。)として受理して捜査に着手した。 (3) 原告の取調べ原告は,9月9日,同月11日,同月12日,11月5日及び同月7日,D警察署において,本件傷害事件についての取調べを受けた。 9月9日と同月11日の取調べは,B警察官によって行われ,同月12日以降の取調べは,B警察官とC警察官によって行われた。 なお,原告は,9月11日の取調べを録音した。〔甲14の1ないし5,15,34〕(4) 原告の処分状況等ア D警察署は,平成26年2月19日,本件傷害事件の関係書類を検察庁に送致した。 イ検察庁は,平成26年7月11日,原告を被告人として,本件傷害事件を起訴した。 ウ裁判所は,平成27年2月6日,原告は無罪である旨の判決を宣告し,同判決は,同年2月20日の経過をもって確定した。〔甲1〕(5) を被告人として,本件傷害事件を起訴した。 ウ裁判所は,平成27年2月6日,原告は無罪である旨の判決を宣告し,同判決は,同年2月20日の経過をもって確定した。〔甲1〕(5) 原告とAとの境界紛争原告は,平成17年8月31日,Aを相手方として,裁判所に境界確定等請求事件を提起し,平成19年3月14日に判決が言い渡された。〔甲25,30〕 3 争点及び当事者の主張(1) 供述拒否権を告知しなかった違法の有無(争点1)【原告の主張】B警察官は,9月9日及び同月11日の取調べの際,原告に対し供述拒否権を告知しておらず,違法な取調べである。 【被告の主張】ア B警察官は,9月9日の取調べの際,原告に対し,「言いたくなかったら話さなくてもいいですよ。」「でもこちらは聞きますよ。」と告げて供述拒否権を告知している。 イ B警察官は,9月11日の取調べの際,原告に対して供述拒否権を告知していないが,9月9日の取調べの際に原告に対し供述拒否権を告知しており,その2日後に同じくB警察官が取調べに当たっていることからすれば,供述拒否権の告知を行わなかったことは違法ではない。 (2) 9月9日の取調べの違法性(争点2)【原告の主張】ア B警察官は,9月9日の取調べの際,原告に対して,「あなたは犯罪者,犯罪者には黙秘権はないので,早く答えろ」などと発言しており,これは原告の黙秘権を侵害する違法な取調べである。 イ B警察官は,9月9日の取調べの際,原告に対し,原告が少し横を向いたところ,「なぜ横を向くのか」「横を向くのはあんたに非があるからと違 うか。」「下を向くな。」「下を向くのは非があるからだ」「犯罪者はよくそんなことをする」と言い,原告が両手の指を自然に組んだところ,「なぜ,そんな か」「横を向くのはあんたに非があるからと違 うか。」「下を向くな。」「下を向くのは非があるからだ」「犯罪者はよくそんなことをする」と言い,原告が両手の指を自然に組んだところ,「なぜ,そんなことをするのか,自分に非があるからか」と言い,時間を確認するために腕時計を少し見ようとしたところ,「なぜ時計を見るのか。時計を見るな」と言い,一定の動作又は姿勢をとるよう強く要求した。このようなB警察官の取調べは,一定の動作又は姿勢をとるよう強く要求することを禁じた警察捜査における取調べ適正化指針(以下「適正化指針」という。)に反する違法な取調べである。 ウ B警察官は,9月9日の取調べの際,原告に対し,頻繁に声を荒げ,原告に対して命令したりするなど,恫喝的・脅迫的な取調べをした。 【被告の主張】ア B警察官は,9月9日の取調べの際,原告に対し,「犯罪者には黙秘権はないので,早く答えろ」等の発言はしてない。 イ B警察官は,9月9日の取調べの際,原告に対し,取調べ中に下を向いたり壁を向いたりしてよそ見をする原告に対して前を向くように注意したことがあり,その際に「答えに困って下を向くのは非があるからではないのか。」と申し向けた事実はあるが,一定の動作又は姿勢を取るよう強く要求することに当たるものではない。 (3) 9月11日の取調べの違法性(争点3)【原告の主張】ア B警察官による9月11日の取調べにおける以下の言動は,原告の黙秘権を侵害し,また,被疑者の尊厳を著しく害するような言動をすることや,殊更不安を覚えさせ,又は困惑させるような言動をすることを禁じた適正化指針に反する違法な取調べである。 イ供述を強要する言動(ア) B警察官は,原告に対し,「答えたらどうですか。命令じゃないとだ めや,答えろと言わんとあ な言動をすることを禁じた適正化指針に反する違法な取調べである。 イ供述を強要する言動(ア) B警察官は,原告に対し,「答えたらどうですか。命令じゃないとだ めや,答えろと言わんとあかん。黙れっていうのん守るんやったら,命令の答えろは守れるよな」「答えろ,答えろ,あんたがそうまでしてやってないと言い切る理由は何や。答えろ。答えろ。」「考えろ。これ命令やで。」「命令しなければ答えれませんか。答えろ。黙らなくていいから答えろ。」「こうしようか,黙るなよにしようか」などと,黙秘権侵害であることが明らかな言動を繰り返した。 (イ) B警察官は,原告に対し,Aが嘘をついているのかと執拗に問いただし,「言い切ろや。」「そこ,言い切ろうやって言うてんねん」「そこは言い切りよや,言い切ってよ。」「言い切れや」などと畏怖するような強い口調で供述を命令した。 (ウ) B警察官は,原告が知らないことを知らないと言ってはいけないのか,と発言したことに対し,「あかんよ」と言って黙秘権を侵害し,供述拒否権を否定する言動を行った。 ウ自白を強要する言動B警察官は,9月11日の取調べの際,「すいませんやりましたって一言言うたら,すぐ済む話やで。」「さっさと認めろ」「素直に認めることもまたしかり。別にいつでもええんやで。いつ認めてくれても。すいません,やりましたて,一言言うてくれればそれで済む。あんまり言うと自白の強要になるな。やったと思ったんやったら,すいません,やりました,そんな記憶がちょっとありますて言うてくれてもいい。」などと,自白を強要する発言を繰り返した。 エ原告の尊厳を著しく害する言動(ア) 名前に関する侮辱的言動等B警察官は,原告のことを「あんたみたいなじいさん」といい,その後,「●●さん 要する発言を繰り返した。 エ原告の尊厳を著しく害する言動(ア) 名前に関する侮辱的言動等B警察官は,原告のことを「あんたみたいなじいさん」といい,その後,「●●さん,■■さんやったっけ。どっちでもいいけど。」などと,故意に名前を間違え,名前をどうでもいいという趣旨の発言をし,さら には,原告の名前を呼び捨てにした上で,「名前呼ぶのもおっくうや。不毛や。ちゃんちゃらおかしいわ。」などと言い,「ばかでもわかるやろ,こんなもん。」と原告を「ばか」呼ばわりまでするなど,原告の人権を無視した許し難い侮辱的言動を繰り返した。 (イ) 元教師であることを侮辱した言動B警察官は,原告に対し,「小学校の先生やってて,はずかしいと思いませんか。」「あんた,教師やろ,元。」「わからんもんはわからんと言うてるやつにわからんままでええんかと聞いてんねん。ええ。先生さんよお。元。ちゃう。ええ。わからんもんはわからんままでええんかて聞いてんねん。どっちや。」「あんた,どうやって物事を教えてきたんや,人に。ガキやから,適当に言うとったら,あしらっとったんちゃうん。ええ,12歳のガキまで,適当にあしらっとったら,先生,先生言うてくるから,適当に答えとったんやろ。あんたがそういう回答するんやったら,あんたの人生そういうふうにしか見いへんで。ああ」などと言い,原告を侮辱する発言を繰り返した。 (ウ) これまでの人生を全否定するかのような侮辱的言動B警察官は,原告に対し,「あんた今まで図星付かれたら,あ,そうですかあて言うたやろ。あんたそうやって生きてきたやろ。ちゃうん。」「あんた,そうやって言うてきてんやろて。これからも,今までも。」「それで真っ当に生きた,誠実に生きたと言えますか。 ら,あ,そうですかあて言うたやろ。あんたそうやって生きてきたやろ。ちゃうん。」「あんた,そうやって言うてきてんやろて。これからも,今までも。」「それで真っ当に生きた,誠実に生きたと言えますか。」などと,これまでの原告の人生を全否定するかのような侮辱的言動を繰り返した。 (エ) 高齢者である原告を侮辱する言動B警察官は,原告に対し「うるさいな,人の揚げ足ばかりとって。80まで生きてきてそれか。くだらんな,不毛や。俺もこんなんなんのかなー,うちの親父見てると。」「人間やっぱり年っていうたらプライドだけが残るな」などと,高齢者である原告を侮辱する言動を行った。 (オ) 否認を認めない侮辱的言動B警察官は,否認を続ける原告に対し,否認を認めず,「ぐじゅぐじゅ否認」「いっちょまえに否定」などと言い,原告を侮辱した。 (カ) 被疑者を犯人であるとする言動B警察官は,原告に対し,「あなたは被疑者です」「犯人です。」と,被疑者イコール犯人との信じ難い言動をした。 (キ) 以上のようなB警察官による侮辱的取り調べは,被疑者の尊厳を著しく害するような言動をすることを禁じた適正化指針に違反するとともに,困惑させるような言動をすることを禁じた適正化指針にも違反する取調べである。 オ原告を困惑させる言動B警察官は,9月11日の取調べの際,原告に対し,Aが嘘をついているかどうか,なぜAが嘘をついているのかを執拗に何度も何度も繰り返し質問してきた。これに対し,原告はAでしか答えることができない質問であり,答えることはできないと供述しているにもかかわらず,B警察官は,グリム童話や小学生を例に出すなどして原告を責め続けた。このようなB警察官の取調べは,殊更不安を覚えさせ,又は困 ができない質問であり,答えることはできないと供述しているにもかかわらず,B警察官は,グリム童話や小学生を例に出すなどして原告を責め続けた。このようなB警察官の取調べは,殊更不安を覚えさせ,又は困惑させるような言動をすることを禁じた適正化指針に違反する言動である。 カ恫喝的・脅迫的な言動上記各取調べに際し,B警察官は,原告に対し,頻繁に声を荒げ,原告に対して命令したりするなど,恫喝的・脅迫的な言動を行った。 キ被告は,原告がB警察官に向けて揚げ足取りをするような発言や挑発をするような発言をしたなどと主張するが,原告がそのような発言を行ったことはない。B警察官は,原告に対し,取調べの開始から侮辱的な態度を取り続け,執拗にAが嘘をついているのかなどと問い詰めている。しかし,Aが嘘をついているか否かなどは,原告が答える立場にある質問ではなく, Aに確認すべき質問であり,原告がB警察官に対して知らないと答え続けるのは当然である。それにもかかわらず,B警察官は,原告の対応に逆上し,違法な言動に及んだのである。 【被告の主張】ア B警察官は,Aが原告と会ったときに殴られて怪我をしたとして,その直後に警察に被害申告しており,原告もAと諍いがあったことを認めていることから,原告が殴っていないというなら,Aが嘘をついていることになるので,「Aが嘘をついているのか。」という点を繰り返し問いただした。 これに対し,原告は,「Aが嘘をついている」と言わず,あくまで「知らない。」とのみ言い通していたことから,B警察官は,気負いや経験不足から冷静さを欠き,また,原告が録音を意識して行った揚げ足取りをするような発言,挑発をするような発言もあったために,誤解を招く発言をしたところはある。しかし,B警察官としては,その状況を や経験不足から冷静さを欠き,また,原告が録音を意識して行った揚げ足取りをするような発言,挑発をするような発言もあったために,誤解を招く発言をしたところはある。しかし,B警察官としては,その状況を打開して取調べを継続する努力を重ねていたのであり,取調べ全体の流れからみて,取調べの相当性の範囲を逸脱したものとはいえない。 イ供述を強要する言動について(ア) B警察官が,原告に対し,「考えろ,これ命令やで。」等の言動を行ったのは,B警察官が話しているのを,原告が「聞かない」「私の話を聞いてくれ」と言ったことから,B警察官が,原告に対して,「黙れよ。」と言ったところ,原告がこの発言を執拗に取り上げてくってかかってきたので,B警察官が「黙れといったことを守るというのなら,答えろと命令するから答えろよ。」と述べ,その延長線上での問答として行ったものである。したがって,B警察官が原告の黙秘権を侵害しようとしたものでないことは明らかである。 (イ) 「すいませんやりましたって一言いうたら,すぐすむ話やで」等のB警察官の発言は,発言の流れからして,原告に自白を促す発言であって, 自白を強要する発言には当たらない。B警察官が,原告に対し,自白を促すこと自体は違法ではない。 ウ原告の尊厳を著しく害する言動について(ア) 名前に関する侮辱的言動B警察官は,原告の名前を故意に間違えたものではない。名前の呼び捨てもその前からの不毛な問題に区切りをみつけるための発言であり,人権を無視した侮辱的な発言とまでいえるものではない。 (イ) 元教師であることを侮辱した言動,これまでの人生を全否定するかのような侮辱的言動,高齢者を侮辱する言動原告が指摘するB警察官の発言は,取調べに対して不誠実な態度や不合理な返答を繰 ) 元教師であることを侮辱した言動,これまでの人生を全否定するかのような侮辱的言動,高齢者を侮辱する言動原告が指摘するB警察官の発言は,取調べに対して不誠実な態度や不合理な返答を繰り返す原告に対し,その是正を促すためになされたものであり,発言の流れからして,原告を侮辱する意図があったとまではいえない。 (ウ) 否認を認めない侮辱的言動取調べにおいて否認する者に否認が認め難いことを述べることは非難されることではなく,原告が指摘するB警察官の言動が,原告を侮辱したものとまではいえない。 (エ) 被疑者を犯人であるとする言動原告がB警察官の姿勢をとがめ,「立場が違うの。」と問われたことに対して述べたことであり,原告の尊厳を著しく害する発言ではない。 エ原告を困惑させる言動について本件傷害事件では,原告の言い分が正しければ,Aが嘘を言っていることにならざるを得ないのに,原告があくまで「知らない。」と言い張るので,B警察官において,グリム童話や小学生を例に挙げて,その不合理さを説明しているのであり,原告を困惑させるようなものではない。 オ恫喝的・脅迫的な言動について B警察官が語気強く追及したり,命令口調で反省を促す言動はあったものの,原告によるB警察官に対する挑発的言動や不合理な弁解に終始する態度に対するものであり,恫喝的・脅迫的な言動とはいえない。 (4) 先入観に基づく違法な捜査の有無(争点4)【原告の主張】B警察官は,Aの申告内容とAの怪我の状態が医学的に整合しないことを容易に判断できたにもかかわらず,何ら証拠を精査しようとせず,Aの供述を過信し,9月11日の取調べにおいて,原告に対し,「何でいきなりあんたにどつかれな 容とAの怪我の状態が医学的に整合しないことを容易に判断できたにもかかわらず,何ら証拠を精査しようとせず,Aの供述を過信し,9月11日の取調べにおいて,原告に対し,「何でいきなりあんたにどつかれなあかんねん,何であんな怪我しなあかんねん,言うてみいや。」などと先入観に基づく違法な取調べを行っているが,これは,先入観に基づく捜査を禁止する犯罪捜査規範4条2項に違反する違法な捜査である。 【被告の主張】D警察署では,本件当日,110番通報によりA宅に赴いた警察官が,Aから暴行を受けた状況を聴取していることや,その際,同人の顔面に暴行によるものと思われる負傷を認めていること,さらには同人が提出した医師の診断書や自治会をはじめとする関係者の供述等から,合理的疑いがあると認めて所要の捜査を行ったのであり,先入観に基づく捜査を行ったわけではない。 (5) 違法な取調状況報告書への指印の強要の有無(争点5)【原告の主張】ア原告が9月11日の取調べ状況報告書に押印しようとしたところ,B警察官は,原告に対し,「印鑑あかんで。」「印鑑あかんねん。印鑑あかんねん,これ。」「指印押して。」と言い,原告が,「昨日いけたのに。」と尋ねると,「今日は印鑑あかん。ちょっとやり方変えるわ。」と言い,原告に指印を押すことを強要した。 イ B警察官は,刑事訴訟法等では指印が要求されていないにもかかわらず, 原告が自らの思うような供述をしないため,嫌がらせとして,取調状況報告書への指印を強要したものであって,これは被疑者の尊厳を著しく害するような言動をすることを定める適正化指針に違反する違法な取調べである。 【被告の主張】原告は,取調べ状況報告書に指印を押すことを拒否する態度を示しておらず,B警察官の申し出に く害するような言動をすることを定める適正化指針に違反する違法な取調べである。 【被告の主張】原告は,取調べ状況報告書に指印を押すことを拒否する態度を示しておらず,B警察官の申し出に素直に従って指印を押印していることからすれば,B警察官が原告に指印を強要したとはいえない。 (6) D警察署による組織ぐるみの違法な証拠隠滅行為の有無(争点6)【原告の主張】原告代理人は,9月11日,D警察署のB警察官宛に抗議文をファクシミリで送信した上,同月12日,D警察署の警察官に対し,抗議文の内容を確認したかを尋ねたところ,白紙のものしか届いていないなどという信じ難い回答をしてきた。このように,D警察署は,組織ぐるみで違法捜査の証拠を隠滅しようとしており,このような行為は違法である。 【被告の主張】D警察署が,原告代理人から抗議文をファクシミリで受け取ったという事実はない。原告代理人がファクシミリで送信したと主張する9月11日の午後8時頃,白紙の紙が数枚ファクシミリ送信されてきたが,送信前の事前連絡や送信後の確認の連絡もなく,宛先や差出人等もわからなかったために廃棄したことがあったのみである。 (7) 原告の承諾を得ずに行った違法な所持品検査の有無(争点7)【原告の主張】ア C警察官は,9月12日の取調べを開始するに当たり,原告が了承していないにもかかわらず,着衣の上から原告の体を触って所持品検査を開始し,最終的には原告の靴の中にまで指を入れて確認するという行為に及ん だ。 イ原告の承諾を得ずに行われた上記所持品検査は,被疑者の身体に接触することを禁じた適正化指針に違反するものであって,違法である。 【被告の主張】ア B警察官は,9月12日の取調べに先立ち,所持品検査を実施した事実は た上記所持品検査は,被疑者の身体に接触することを禁じた適正化指針に違反するものであって,違法である。 【被告の主張】ア B警察官は,9月12日の取調べに先立ち,所持品検査を実施した事実はあるが,危険物等の所持の有無を確認するためのものであって,その方法も原告の承諾を得た上で,原告自身に着衣のポケット内の所持品を取り出させた後,着衣の上からポケット等を確認するという程度のものであり,靴の中に指を入れてまでの検査を行った事実はない。 イ危険物等発見のために所持品検査を行うことは正当な行為であって,適正化指針に定めるやむを得ない場合における行為に当たるものであるから,違法ではない。 (8) 原告の承諾を得ずに行った違法な写真撮影の有無(争点8)【原告の主張】B警察官は,11月5日の取調べの際,原告の承諾を得ていないにもかかわらず,令状発付も受けずに,取調室に在室している原告の写真を撮影した。 これは,原告の肖像権を侵害するものであって,憲法13条に反する違法捜査である。 【被告の主張】B警察官は,11月5日の取調べの際,原告が供述調書を閲覧している状況を写真撮影したが,取調べに対する紛議を防止するとともに,供述調書を適正に読み聞かせていることを担保する目的で,原告の承諾を得た上で撮影を行っており,違法捜査とはいえない。 (9) 刑事訴訟法198条4項に反する違法な増減申立て拒否の有無(争点9)【原告の主張】ア原告は,11月7日の取調べの際,B警察官に対し,Eに確認した事実 を供述調書に追記するよう求めたが,B警察官はこれを拒否した。これは,刑事訴訟法198条4項に反する違法な行為であるイ原告は,事件当日である8月11日,Aから,以前(平成21年)の油は菜種 供述調書に追記するよう求めたが,B警察官はこれを拒否した。これは,刑事訴訟法198条4項に反する違法な行為であるイ原告は,事件当日である8月11日,Aから,以前(平成21年)の油は菜種の油であるとEから聞いていると言われたため,同月14日にEに会って直接確認したところ,Eは,そのようなことを言ったことはなく,そもそも原告の田んぼにも行ったことがないとのことであった。そこで,原告は,事件当日にAが虚偽の説明をしていることの事情として供述調書への追記を求めたのであり,原告が追記を求めた事項は,前記Aの発言の信用性及び事件当日に関する一連のA供述の信用性に関連することが明らかな事項であり,当日の取調べ内容と関連性がないものではない。 【被告の主張】ア刑事訴訟法198条4項の申立ては,取り調べた事項と関連する事項に限られ,関連のない事項についての増減等の申立てを記載する必要はない。 イ B警察官は,本件事件当日である8月11日の出来事に関して作成した供述調書について,原告が,同月14日の出来事を追記するように申し出てきたが,当日の取調べ内容とは関連性がないため,これに応じなかったものであり,刑事訴訟法198条4項に違反するものではない。 (10) 身柄引請書を利用した違法な捜査の有無(争点10)【原告の主張】ア B警察官は,11月7日の取調べ終了後,原告に対して,原告の妻から身柄引請書を貰うために原告方に訪れることを伝えた。原告は,その理由を確認したが,B警察官は説明しようとしなかった。 イ B警察官は,同日午後3時半頃,原告方を訪れ,原告の妻に対し,「これ,書いてもらわないかんのです。」「逮捕されたときに必要なんです。だから持ってきたんです。」などと,書類の内容及び必要性を説明することなく,逮捕 午後3時半頃,原告方を訪れ,原告の妻に対し,「これ,書いてもらわないかんのです。」「逮捕されたときに必要なんです。だから持ってきたんです。」などと,書類の内容及び必要性を説明することなく,逮捕をほのめかして身柄引請書への署名・押印を求めた。 原告の妻が署名しなかったところ,B警察官は,原告が犯人であると決めつけたような強圧的な口調で,「書けたら持ってきて下さい」「嫌だったら,書かんでもいいですよ」などと,身柄引請書がいかにも必要であるかのような言動をして,原告らを不安に陥れる発言を残したまま立ち去った。 ウ B警察官が原告の妻に渡した身柄引請書には,「ただ今貴署で取調中の下記の者の身柄の引請をしましたが,今後は責任をもって監督しますとともに,将来貴署又は関係官署から本人に呼び出しのあるときには,必ず出頭させるようにします。」と記載されており,本件における処理とは整合しない内容となっている。 エ上記のとおり,B警察官は,原告や原告の妻に対し,本件に整合しない身柄引請書を渡し,内容について十分な説明をしないまま同書類の提出を求め,逮捕をほのめかして心理的不安を与えるという捜査手法を取っているが,これは殊更不安を覚えさせ,又は困惑させるような言動をすることを禁止する適正化指針に違反する違法な取調べである。 【被告の主張】ア B警察官は,11月5日の取調べの際,原告に対し,取調べ等の捜査が終われば,事件を検察庁に送致することになり,後日検察庁からの呼び出しがあるかもしれないので,その際に出頭を確約するという意味で,身柄引請書という書類を作成してほしい旨を説明した。 イ原告は,上記説明に対して弁護士に依頼する旨述べていたが,11月7日の取調べの際には,弁護士には伝えていないと述べた するという意味で,身柄引請書という書類を作成してほしい旨を説明した。 イ原告は,上記説明に対して弁護士に依頼する旨述べていたが,11月7日の取調べの際には,弁護士には伝えていないと述べた。そこで,B警察官は,原告から原告の妻の足が悪いと聞いていたため,原告方に赴いて身柄引請書の作成を依頼することとし,その旨を原告に伝えた。 ウ B警察官が,11月7日午後,原告方に赴いたところ,原告及びその妻が在宅していたので,身柄引請書を手渡して事情を説明し,検察庁から呼び出しがあるかもしれないので,連絡が取れなかったときなど,代わりに 連絡の取れる人に記載して貰う書類であること,原告の妻が嫌だというのなら,他に誰か検討すること,逮捕しないで任意の呼び出しで捜査しているため身柄引請書が必要となること,逮捕されているのであれば必要ない場合が多いことを説明した。 エ B警察官は,原告の妻から,弁護士が書いても良いといえば書く,できあがれば持って行けばよいかと尋ねられたので,書いて持ってきれくれるのであれば,書いて持ってきて下さい,弁護士から書かなくてもいいと言われれば結構ですよ,そのときはその書類を回収に来ますと述べて原告宅を後にした。 オ身柄引請書は,不拘束又は身柄を釈放する場合に作成する書類であるし,その記載内容からしても逮捕に必要な書面ではないことは明らかであることからすれば,捜査員であるB警察官が逮捕されたときに必要などと説明することはない。 (11) 損害(争点11)【原告の主張】B警察官は,黙秘権を侵害して自白及び供述を強要し,原告の人格を全否定するような侮辱的,屈辱的な違法な取調べを繰り返し,否認していたことの嫌がらせとして,取調べ状況報告書に指印までさせるという屈辱的な取調 は,黙秘権を侵害して自白及び供述を強要し,原告の人格を全否定するような侮辱的,屈辱的な違法な取調べを繰り返し,否認していたことの嫌がらせとして,取調べ状況報告書に指印までさせるという屈辱的な取調べまで行ったのである。このような一連の違法な捜査によって原告が被った精神的苦痛はあまりにも大きいものであり,原告が被告による不法行為によって被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料額は200万円を下らない。 【被告の主張】原告が主張する違法事由は,いずれも違法とまでは認められるものではなく,そのことによって原告に精神的損害が生じたとする慰謝料請求は失当である。 第3 当裁判所の判断 1 供述拒否権を告知しなかった違法の有無(争点1)について(1) 原告は,9月9日の取調べの際,B警察官が供述拒否権を告知しなかったと主張し,これに沿う供述をする(原告本人)。 しかし,B警察官は,同日の取り調べに当たって,原告に対し,「言いたくないことは言わなくていいですよ」,「ただし,こちらも聞きますんでね」と言って供述拒否権についての説明をしたと証言していること,供述拒否権の説明は,被疑者取調べの冒頭に定型的に行われる性質のものであり(刑事訴訟法198条2,犯罪捜査規範169条1項,甲33),取調官がその告知を失念するとは直ちには考え難いこと,その他,B警察官が,原告に対し,故意に供述拒否権を告知せずに,原告の供述を獲得しようとしたことを窺わせる事情までは見受けられないことからすれば,原告がB警察官から前記説明を受けたことを亡失してしまった可能性を否定できず,原告の供述のみをもって,9月9日の取調べの際に,B警察官が原告に対して供述拒否権を告知しなかったと認めることはできない。 (2) また,B警察官は,9 とを亡失してしまった可能性を否定できず,原告の供述のみをもって,9月9日の取調べの際に,B警察官が原告に対して供述拒否権を告知しなかったと認めることはできない。 (2) また,B警察官は,9月11日の取調べの際,原告に対し供述拒否権を告知していないが(争いのない事実),被疑者が供述を拒み得ることを既に十分知っている場合には,改めて供述拒否権を告知しなくとも刑事訴訟法198条2項に反するものとはいえないと解される(最高裁昭和28年4月14日第三小法廷判決・刑集7巻4号841頁)。 本件について見るに,同月9日と同月11日の取調べは,いずれもB警察官による本件傷害事件についての取調べであり(前記前提事実(3)),同月9日に供述拒否権を告知していたと推認できること,同月11日の取り調べにおいて,原告は「黙らしてもらいます」とか「私は言わない」などと述べて供述を拒否する場面が見受けられること(甲15,16,34)からすれば,原告は,同日の取調べにおいても供述を拒み得ることを十分知っていたと認められる。 したがって,同月11日にB警察官が供述拒否権を告知しなかったことが刑事訴訟法198条2項に反し,国賠法1条1項の適用上違法であるともいえない。 (3) したがって,原告に対する取調べにおいて,供述拒否権を告知しなかった違法がある旨の原告の主張は採用できない。 2 9月9日の取調べの違法性(争点2)について(1) 「あなたは犯罪者,犯罪者には黙秘権はないので,早く答えろ」との発言について原告は,9月9日の取調べの際,B警察官が原告に対し,「あなたは犯罪者,犯罪者には黙秘権はないので,早く答えろ」と発言した旨主張し,これに沿う供述をする(原告本人)。また,原告が9月10日に作成したメモ(甲31:以 調べの際,B警察官が原告に対し,「あなたは犯罪者,犯罪者には黙秘権はないので,早く答えろ」と発言した旨主張し,これに沿う供述をする(原告本人)。また,原告が9月10日に作成したメモ(甲31:以下「本件メモ」という。),原告代理人が9月11日に原告から聞き取った内容を記載した同日作成の抗議書(甲17:以下「本件抗議書」という。)及び同月12日作成の抗議文(甲18:以下本件抗議書と併せて「本件抗議書等」という。)には,B警察官が,9月9日の取調べの際,原告に対し,「あなたは犯罪者,犯罪者には黙秘権はないので,早く答えろ」と述べた旨の記載がある。これらの証拠からすると,原告は,9月9日の取調べの直後である9月10日の時点において,B警察官から「あなたは犯罪者,犯罪者には黙秘権はないので,早く答えろ」という趣旨の発言をされたと認識していたものと推認される。 しかし,B警察官は,9月11日の取調べにおいて,原告に対し,原告が犯罪者であるから原告には黙秘権が認められないとまでは述べていない(甲15,34)。このようなB警察官の取調べの態様からすると,B警察官が,9月9日の取調べの際,原告に対し,「あなたは犯罪者,犯罪者には黙秘権はないので,早く答えろ」などと発言するとは直ちには考え難い。そうすると,B警察官が,原告の発言を促すために行った何らかの発言を,原告が「犯罪 者には黙秘権はない」旨誤解して受け止め,これを本件メモに記載し,さらには原告代理人に説明した可能性は否定できず,原告の供述並びに本件メモ及び本件抗議書等の記載をもって,B警察官が原告に対し,「あなたは犯罪者,犯罪者には黙秘権はないので,早く答えろ」と発言したとまでは認められない。 したがって,B警察官の原告に対する「あなたは犯罪者,犯罪者には黙秘 ,B警察官が原告に対し,「あなたは犯罪者,犯罪者には黙秘権はないので,早く答えろ」と発言したとまでは認められない。 したがって,B警察官の原告に対する「あなたは犯罪者,犯罪者には黙秘権はないので,早く答えろ」との発言が違法である旨の原告の主張は,その前提を欠き採用できない。 (2) 一定の動作及び姿勢をとるよう強く要求するなどした行為についてア証拠(甲15,31,34,B証人,原告本人。ただし後記認定に反する部分を除く)及び弁論の全趣旨によれば,B警察官は,9月9日の取調べの際,原告に対し,「下を向くな。」「下を向くのは非があるからではないか。」「横を向くな。」「指を組むな。」「時計を見ないように。」という趣旨の発言を行ったと認められる。 また,本件メモ及び本件抗議書等には,B警察官が,原告に対し,「犯罪者はよくそんなことをする」旨述べた旨の記載があること(甲17,18,31),及び,B警察官は,上記のとおり,「下を向くのは非があるからではないか。」との発言を行っていることからすると,B警察官は,原告に対し,原告の横を向くといった態度を捉えて,「犯罪者はよくそんなことをする」という趣旨の発言をしたと認められる。 イ被疑者に対する取調べは,被疑者に対する一定の身体的,心理的負担を伴うことに鑑みれば,事案の性質,被疑者に対する容疑の程度,被疑者の態度等諸般の事情を勘案して,社会通念上相当と認められる方法ないし限度において任意捜査として適法に行い得るものであり,社会通念上相当と認められる方法ないし限度を超える態様で行われた場合には,国賠法1条1項の適用上違法となると解すべきである。 前記前提事実(2)のとおり,Aが原告から殴られた旨を警察に申告し,現に下顎部打撲の傷害を負っていたことからすると 行われた場合には,国賠法1条1項の適用上違法となると解すべきである。 前記前提事実(2)のとおり,Aが原告から殴られた旨を警察に申告し,現に下顎部打撲の傷害を負っていたことからすると,かかるAの申告について,その信用性を直ちに否定することはできず,本件傷害事件について,原告には一定の嫌疑が存したといえる。また,B警察官は,前記アのとおり,原告に対し一定の姿勢をとるよう要求したと認められるが,B警察官が,自らの発問に対する原告の態度や,原告の供述態度を観察するために,原告に対し,下や横,時計を見ずに,自らの方を見て,また,指を組むなどせず姿勢を正して発問を聞き,これに答えるように求めることは,取調べの方法として合理性を欠くとまではいえず,また,これによって原告に対し,大きな身体的負担を課すとも言い難い。そうすると,B警察官が,前記アのとおり,原告に対し一定の姿勢を取るように要求したことは,社会通念上相当と認められる方法を超える態様であるとまではいえない。 また,B警察官が,下又は横を向いて,視線を逸らすといった原告の態度を捉え,原告に対し,「下を向くのは非があるからではないか。」「犯罪者はよくそんなことをする」との趣旨を述べて,原告に犯行を行ったのではないかと追及することも,前記のとおり,原告には一定の嫌疑が認められることに加え,真実発見のための取調べの方法として全く合理性を欠くとまではいえず,また,原告対し,大きな精神的苦痛をもたらすものであるとまでは言い難いことからすると,当該発言のみをもって直ちに社会通念上相当と認められる方法ないし限度を超える態様であるとはいえない。 (3) 恫喝的・脅迫的な取調べの有無について原告は,9月9日の取調べの際,B警察官が恫喝的・脅迫的な取調べを行った旨主張し,これに られる方法ないし限度を超える態様であるとはいえない。 (3) 恫喝的・脅迫的な取調べの有無について原告は,9月9日の取調べの際,B警察官が恫喝的・脅迫的な取調べを行った旨主張し,これに沿う供述をするが(原告本人),その具体的な態様等は原告の供述によっても明らかではなく,本件抗議書等においても,威圧的・高圧的な取調べを行っていると指摘しているにとどまることからすれば,恫喝的・脅迫的な取調べがあったとは認められない。 (4) 以上より,B警察官の9月9日の取調べが国賠法1条1項の適用上違法である旨の原告の主張はいずれも理由がなく採用できない。 3 9月11日の取調べの違法性(争点3)について(1) 証拠(甲15,34,証人B,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告に対する9月11日の取調べは,概要以下のとおりであったと認められる。 ア B警察官は,同日の取調べにおいて,原告に対し,過去に原告の田んぼに油が浮いているという出来事があった際に,この田んぼに浮いている油について原告がAの母親と話をした件について説明を求め,その後,主として8月11日の原告の行動について説明を求めた。 イ B警察官が,原告に対し,8月11日の行動について説明を求めたところ,原告は,9月9日の取調べにおいてB警察官から注意を受けた姿勢をB警察官自身がとっていたことから,その旨を指摘し,「あなたは何してもかめへんの。」と抗議した。これに対し,B警察官は,「あなたは被疑者です。」と応じ,原告が「被疑者?」と聞き返したのに対し,「犯人です。」と答えた。これを受けて,原告が,「だから,あなたは何してもいいんですね。」と確認したことに対し,B警察官は「この取調べの刑事です。」と答え,さらに原告が「だからこんなんしてもいいんですね。私 」と答えた。これを受けて,原告が,「だから,あなたは何してもいいんですね。」と確認したことに対し,B警察官は「この取調べの刑事です。」と答え,さらに原告が「だからこんなんしてもいいんですね。私にはするなと言うたことを,あなたはしてもいいんですね」と確認したところ,B警察官は,「はい」と答えた。 ウその後,B警察官は,原告に対し,再び8月11日の行動について説明を求めるなどし,さらに,原告の話を前提とするとAが怪我をする理由がないにもかかわらず,Aが怪我をしている理由について考えるように求めた。原告は,これに対し,考えてもわからない旨答えたが,B警察官は,推測でも構わないから答えるように繰り返し求めた。 続いて,B警察官は,原告に対し,Aは原告から殴られたと言っているが,原告は殴っていないと言っているのであるから,どちらかが嘘をつい ていることになると述べ,「そうでしょうね」と答えた原告に対し,Aが嘘をついて原告を陥れる理由について考えるよう求めた。これに対し,原告は分からないと答えたが,B警察官は,繰り返しその理由を考えるよう求めた。 エその後,B警察官は,原告に対し,Aの怪我の状況や,原告がAの当時の服装を正確に記憶していないことを指摘しながら,「何ぼ,頑固に通すのもかまわんけどさあ,すみませんやりましたって一言言うたら,すぐ済む話やで。俺に対して言いたくないんやったら別にかまわんけど。」と申し向けた。 これに対し,原告が,言いたくないのではなく,犯行を行っていないのである旨答えたところ,B警察官は,原告がAを殴っていないのであれば,Aが嘘をついているのかと発問した。原告が,Aが嘘をついているか否かについては分からない旨答えたところ,B警察官は,「言い切ろや。」「そこ,言い切ろうやって言うてんねん。」 ていないのであれば,Aが嘘をついているのかと発問した。原告が,Aが嘘をついているか否かについては分からない旨答えたところ,B警察官は,「言い切ろや。」「そこ,言い切ろうやって言うてんねん。」「そこは言い切りよや,言い切ってよ。」などと述べた。これに対し,原告は,「言い切ってて,私は知らない。Aさん何したか,何考えたか,そんなん,私分からない。」などと答えたが,B警察官は,その後も繰り返し,Aが嘘をついているのか,Aが嘘をついているのであればその理由は何であるのかについて,原告に答えるよう求めた。 オ原告は,前記のようなB警察官の質問に対し,知らないなどと答えていたところ,B警察官は,「冤罪事件かなあ,これは」などと述べながら,「やることやったからなあ,後は●●さん,あなたがやりましたと一言言や済む話やねんけどね。やりました,すいません,余りにもAさんの態度に腹が立ったんです。右手で一発,どつきました。違う?」などと申し向けた。 カその後も,B警察官は,原告に対し,本件傷害事件について原告が犯行を行った旨の自らの見立てを説明するなどしながら,原告がAを殴ったの ではないかと追及し続けた。これに対し,原告は,Aを殴っていない旨述べたところ,B警察官は,原告に対し,再び,それではAが嘘をついているのかと質問した。B警察官の質問に対し,原告は知らないと答えたところ,B警察官は,「知らない,知らないじゃないんや。」と述べ,原告が「知らんから知らん言うたら,それ言うたらあかんのですか。」と述べたのに対し,「あかんよ。」と答えた。 キ原告がB警察官の上記発言に対し,「今あかんて言うたね」などと指摘したところ,B警察官は「聞き飽きた」「不毛」などと答え,さらに原告がB警察官に対し,ごまかしていると指摘したのに対し,冷静さを キ原告がB警察官の上記発言に対し,「今あかんて言うたね」などと指摘したところ,B警察官は「聞き飽きた」「不毛」などと答え,さらに原告がB警察官に対し,ごまかしていると指摘したのに対し,冷静さを失い,「ごまかしてんのはあんたや,さっさと認めろ。殴ったやろ。」と強い口調で申し向けた。 クその後,B警察官は,原告に対し,再び8月11日の行動について説明を求めるなどしながら,「あの状況でAさん殴りつけれるのは,あんたしかおらへんの,他に誰かおったかい」などと述べ,原告が「私は説明したとおり。」と答えたことに対し,「説明したとおりちゃうで。なあ。考えることやめたらあかんで。素直に認めることも,人の,な。思い出すことも,またしかり。素直に認めることもまたしかり。別にいつでもええんやで。 いつ認めてくれても。すいません,やりましたて,一言言うてくれればそれで済む。あんまり言うと自白の強要になるな。やったと思ったんやったら,すいません,やりました,そんな記憶がちょっとあります言うてくれてもいい。聞いてる?上の空?」などと申し向けた。 ケ B警察官の上記発言に対し,原告が「聞いてるよ」と答えたところ,B警察官は,原告に対し,「やろ?この声のトーンやったら,あんた聞こえんねん,分かりません,聞こえませんじゃないねん,都合の悪いことは,あんた,聞こえませんて言うねん。」「あんたは都合の悪いこと耳に入れたくないんや。」などと述べ,原告が「そうですか」と答えたことに対し,「あ んたが,ふん,そうですかと言えるのは,あんた,これ肯定やで,多分,な。認めん,図星やけど認めたくない」「図星やけど,認めたくないんや。 違うけ。」などと述べた。B警察官のこのような発言に対し,さらに原告が「そうですか。」と答えたところ,B警察官は,「ほら,きた。あんた今 めん,図星やけど認めたくない」「図星やけど,認めたくないんや。 違うけ。」などと述べた。B警察官のこのような発言に対し,さらに原告が「そうですか。」と答えたところ,B警察官は,「ほら,きた。あんた今まで図星突かれたら,あ,そうですかあて言うたやろ。あんたそうやって生きてきたやろ。ちゃうん。」「あんた,そうやって言うてきたんやろて。これからも,今までも。」などと述べた。 コその後,B警察官は,原告に対し,後日身上関係について説明を求めるため,記憶を喚起しておくよう求めた後,再び,原告に対し,犯行を認めるよう追及し,また,Aが嘘をついているのか,なぜAが嘘をつくのかについて説明を求め続けた。その中で,B警察官は,原告に対し,「グリム童話の話してよ,じゃあ。作家●●にやられてる。どっちの作者が嘘ついてんかなあ。」と述べたり,「ある小学生が,先生,この問題わかりませんと言いました。何でや。考えたくないです。分からないです。どうしようか。 その問題はこういう問題です。aさんが殴られたと言いました。bさんは,私は嘘ついていないと言っています。aさんは嘘をついているのかいないのか。さあ,この問題,分からないと答えた生徒がおりました。考えたくないとも言っています。先生どうする。」などと質問するなどした。原告は,このような質問に対して知らない,分からないなどと答えていたところ,B警察官は,原告に対し,「なあ,小学校の先生やってきて,よう挙句これですか。」「恥ずかしいと思いませんか。」「それで真っ当に生きた,誠実に生きたと言えますか」などと述べた。 サ原告は,このようなB警察官の質問に対しても,知らない,分からないなどと答えていたところ,B警察官は,原告に対し,「あんた,どうやって物事を教えてきたんや,人に。ガキやから,適当に言うとった サ原告は,このようなB警察官の質問に対しても,知らない,分からないなどと答えていたところ,B警察官は,原告に対し,「あんた,どうやって物事を教えてきたんや,人に。ガキやから,適当に言うとったら,あしらっとったんちゃうん。ええ,12歳のガキまで,適当にあしらっとったら, 先生,先生言うてくるから,適当に答えとったんやろ。あんたがそういう回答するんやったら,あんたの人生そういうふうにしか見いへんで。ああ?」などと述べた。 シその後,B警察官は,さらに,Aがなぜ原告に殴られなければいけないのか,なぜ怪我をしなければいけないのか,その理由を知らないのであれば考えて答えるよう求めた。 B警察官は,原告に対する追及を続けるなかで,「いいですか,あなたは物事を推測でしか考えられんのです。それを他人に押し付けてるから今の状況で押し切ってるんですよ,違う」と述べた。これに対し,原告は「違う」と答え,さらに説明をしようとしたが,B警察官はこれを遮り,原告が「聞きなさいよ。」と述べたことに対しても,聞かないと答えた。原告は,B警察官の言動を受けて,B警察官が原告の話を聞かないのであれば,話さないと述べた。B警察官は,続けて「あんたは自分の推測を他人に押し付けてんねんて。あんたは自分の推測を他人に押し付けるから他人は理解できへんねん。そらそうやろ,あんたの推測なんやから。そら怒るわ。それをあんたは自分の言葉が理解されてないと思て解釈するわけやろ。だから腹立つねん。だから油の件にしても,こんなにだらだら,だらだら不毛の争いが続くねん。あんたは何やったら納得できるんや。誰かが出頭してきたら納得するんか。私が油撒きましたって。ええ?言うてみいや,どうやったら納得すんねん,あんたは。油の件しかり。どうよ。私は誰かにこうこう,こうこ あんたは何やったら納得できるんや。誰かが出頭してきたら納得するんか。私が油撒きましたって。ええ?言うてみいや,どうやったら納得すんねん,あんたは。油の件しかり。どうよ。私は誰かにこうこう,こうこうこう言われたら納得できますて一言言うたらどうですか。」などと述べた。これに対して原告は,B警察官が原告の話を聞かないと言ったことを理由に,供述しない旨伝えたところ,B警察官は,「うるさいな。人の揚げ足ばっかりとって。80まで生きてそれか。くだらんな,不毛や。俺もこんなんなんのかな。」「人間やっぱり年っていうたらプライドだけが残るな。」などと申し向けた。 スその後,B警察官は,原告に対し,「もうちょっと中身のある話したらどうですか。くだらんわ」「Aさんという被害者のためにやった税金で働いとる仕事がこれですか。ええ?皆さんが汗水流して,そこからむしりとった税金で仕事してる僕のこの仕事がこれですか。」「あんたみたいなじいさん見てきたけど,大概あんたみたいなこと言うなあ」「あんたがここまでぐじゅぐじゅ,ぐじゅぐじゅ否認たれるんやったら,否認ていうのは認めんてことね。ぐじゅぐじゅ,ぐじゅぐじゅ認めへんねんやったら,裁判まで行くで。ええ」「裁判ちゅうのはいろんな人が見に来るねん。何言うてん,あのじいさんてなるねん。ああ,認めたくないだけなんやろな,この人はて。 悔しいけ。悔しいか。自分の意見が通らんのが。●●さん,■■さんやったっけ。どっちでもいいけど。何か反論してよ。必要のない不必要なことを,俺,今言うてるはずやで,あんたに。黙りこくるちゅうことはどういうことや。」などと申し向けた。 セこれに対し,原告は,B警察官が黙れといったことを理由に供述を拒否したところ,B警察官は,「答えたらどうですか。命令じゃないと駄目や,答えろと とはどういうことや。」などと申し向けた。 セこれに対し,原告は,B警察官が黙れといったことを理由に供述を拒否したところ,B警察官は,「答えたらどうですか。命令じゃないと駄目や,答えろと言わんとあかん。黙れっていうのん守るんやったら,命令の答えろは守れるよな。」と述べ,さらに原告を威圧するような口調,声量で「答えろ,答えろ。あんたがそうまでしてやってないと言い切る理由は何や。 答えろ。答えろ。やってないという理由を答えろ」と申し向けた。 ソこれに対し原告がやっていない旨答えたことから,B警察官は,「じゃあ,誰が嘘ついてんや。」「知らんは通さん。」「考えろ。これ命令やで」などと申し向けた。原告は,これに対しても,B警察官が黙れといったことを理由に供述を拒否する旨伝えたところ,B警察官は,「●●」「名前呼ぶのもおっくうや。不毛や。ちゃんちゃらおかしいいわ」などと述べた後,原告に対し,原告とAのどちらが嘘をついているのか答えるよう求めた。 タ原告は,引き続きB警察官が黙れと言ったことから供述しない旨答えて いたところ,B警察官は,威圧的な口調で「答えろ。黙らなくていいから答えろ」と述べ,さらに,「あんたはそうやねんて。黙れて言われて,自分の都合のええことしかそうやって理解して,そうやって生きてきたんや,そうやって主義主張通すつもりやねんて,大いに結構や。別に,あんたの生き様なんやから好きにしろや。別にあんたが憎くてやってんちゃうねん。 半分腹立ってるけどな。」「どっちが嘘ついてんやと聞いてんねん。私は嘘ついてないと主張するんはええけど,じゃあ相手が嘘ついてるんかと聞いたら,いや,それは知らん,馬鹿でもわかるやろ,こんなもん」などと述べるなどし,その後,取調べを終了した。 (2)ア前記のとおり,B警察官に するんはええけど,じゃあ相手が嘘ついてるんかと聞いたら,いや,それは知らん,馬鹿でもわかるやろ,こんなもん」などと述べるなどし,その後,取調べを終了した。 (2)ア前記のとおり,B警察官による原告の取調べが違法であるか否かについては,社会通念上相当と認められる方法ないし限度を超える態様であるか否かによって判断すべきである。 イ供述を強要する言動について前記(1)で認定したとおり,B警察官は,原告に対し,原告が犯行を否認する理由や,Aが虚偽の被害申告をする理由を説明することを何度も求めており,また,その態様も,威圧的な口調,声量であることからすれば,このような態様での追及は,原告を混乱させ,相当の恐怖感を与えるものであったといえる。 また,前記2(2)イのとおり,原告には本件傷害事件について一定の嫌疑は認められたものの,Aの供述の外に原告の犯行を裏付ける客観的な証拠はないこと,原告とAとの間には,過去に土地の境界に関する紛争が生じており,虚偽申告の動機も否定し難いことからすると(前記前提事実(5)),その供述の信用性は慎重に検討されるべきであり,原告に対する嫌疑の程度が当初から高いものであったとはいえない。それに加えて,原告には供述拒否権が認められ,原告が供述を拒否すること自体,特段非難される態度ではないことからすると,B警察官が原告に対し,威圧的な口調,声量 で原告に対して「答えろ,答えろ。あんたがそうまでしてやってないと言い切る理由は何や」などと申し向けた行為は,もはや社会通念上の相当性を逸脱したものというべきである。 ウ自白を強要する言動について前記2(2)イのとおり,原告には一定の嫌疑が認められたことからすると,原告に対する取調べにおいて,自白に向けて説得を行う を逸脱したものというべきである。 ウ自白を強要する言動について前記2(2)イのとおり,原告には一定の嫌疑が認められたことからすると,原告に対する取調べにおいて,自白に向けて説得を行うこと自体は許されるものと解される。 B警察官は,原告に対する取調べにおいて,「すみませんやりましたって一言言うたら,すぐ済む話やで。」(前記(1)エ)とか,「素直に認めることもまたしかり。別にいつでもええんやで。いつ認めてくれても。すいません,やりましたて,一言言うてくれればそれで済む。」(前記(1)ク)と発言しているが,これらは自白を強要するものとまではいえず,また,Aの怪我の状況や,原告の8月11日の行動について説明を求める中で発言したものであることからしても(前記(1)エ及びク),原告に対し自白に向けての説得を試みるものであって,社会通念上相当な方法及び限度を逸脱する態様での取調べであるとは認められない。 しかしながら,B警察官の「さっさと認めろ。殴ったやろ。」(前記(1)キ)と強い口調で発言していることについては,何らの合理的な根拠・理由を示すこともなく,単に自白するよう命ずるものであって,説得の域を超えるものというべきである。また,B警察官は,原告に対し,上記発言の直前に,知らないことを知らないと言うことは「あかんよ。」などとも発言しており(前記(1)カ),客観的な証拠との不整合を指摘したり,理詰めで事実関係を追及・確認するような発言ともいえない。これらの事情からすると,B警察官の「さっさと認めろ。」との上記発言は,供述の任意性に疑義を生じさせかねない発言であって,前記イのとおり,原告の嫌疑がそれほど高いものではないことに照らしても,取調べとして社会通念上相当 な方法を超えた態様による取調べであったというべきである。 を生じさせかねない発言であって,前記イのとおり,原告の嫌疑がそれほど高いものではないことに照らしても,取調べとして社会通念上相当 な方法を超えた態様による取調べであったというべきである。 エ原告の尊厳を著しく害する言動について(ア) 名前に関する侮辱的言動B警察官は,原告のことを「あんたみたいなじいさん」と呼んだり,「■■さんやったっけ。」と名前を間違えるなどしているが(前記(1)ス),このような発言自体が原告を侮辱するものであるとまでは即断できない。 しかし,B警察官が,自らが黙れと言ったことを理由に原告が供述を拒否していることに対して,「●●」と呼び捨てにした上で「名前呼ぶのもおっくうや。不毛や。ちゃんちゃらおかしいいわ」などと発言している点については(前記(1)ソ),原告の人格を不当に貶める発言といわざるを得ない。 さらに,B警察官は,同じくB警察官が黙れと言ったことを理由に原告が供述を拒否していることに対し,「どっちが嘘ついてんやと聞いてんねん。私は嘘ついてないと主張するんはええけど,じゃあ相手が嘘ついてるんかと聞いたら,いや,それは知らん,馬鹿でもわかるやろ,こんなもん」と発言しており(前記(1)タ),これについても不当な人格攻撃といわざるを得ない。 なお,被告は,前記「●●」と呼び捨てにしたことについて,その前からの不毛な問題に区切りをみつけるための発言であると主張する。しかし,当該発言の経緯からして,B警察官が黙れと言ったことを理由に原告が供述を拒否していることに対して述べられたものであることは明らかであるし(前記(1)ソ),問題に区切りをつけるために,「名前呼ぶのもおっくうや。不毛や。ちゃんちゃらおかしいいわ」などと発言する必要も 述を拒否していることに対して述べられたものであることは明らかであるし(前記(1)ソ),問題に区切りをつけるために,「名前呼ぶのもおっくうや。不毛や。ちゃんちゃらおかしいいわ」などと発言する必要もなく,これらの発言の前後を通じて,原告とAのどちらが嘘をついているかを問い糺し,押し問答を繰り返しているのであるから,このような取調べの経緯に照らして被告の主張は採用できない。 (イ) 元教師であることを侮辱した言動等B警察官は,原告が嘘をついていないのであれば,Aが嘘をついていることにならないかという質問に対し,原告が知らない,分からないなどと答えたことに対し,「あんた,どうやって物事を教えてきたんや,人に。ガキやから,適当に言うとったら,あしらっとったんちゃうん。ええ,12歳のガキまで,適当にあしらっとったら,先生,先生言うてくるから,適当に答えとったんやろ。あんたがそういう回答するんやったら,あんたの人生そういうふうにしか見いへんで。ああ?」などと発言している(前記(1)コ及びサ)。このような発言の経緯からすると,かかる発言は,Aが嘘をついていると認めない原告の態度を非難するために,原告の教員としての人生を否定する趣旨でなされたものであり,原告の人格を不当に非難する発言であるといえる。 なお,被告は,B警察官の発言が,原告の不誠実な態度を是正するためになされたと主張するが,前記のとおり,Aが嘘をついていると認めない原告の態度が不誠実とまではいえないし,仮に原告の態度を是正するためであったとしても,教員であった原告の人生を侮辱することを正当化する理由とはならず,被告の主張は採用できない。 (ウ) 原告の人生を全否定するかのような侮辱B警察官は,前記(1)ケのとおり, ,教員であった原告の人生を侮辱することを正当化する理由とはならず,被告の主張は採用できない。 (ウ) 原告の人生を全否定するかのような侮辱B警察官は,前記(1)ケのとおり,「ほら,きた。あんた今まで図星突かれたら,あ,そうですかあて言うたやろ。あんたそうやって生きてきたやろ。ちゃうん。」とか,前記(1)コのとおり,「それで真っ当に生きた,誠実に生きたと言えますか」などと発言しているところ,取調べの経緯からすると,Aが嘘をついていると認めるよう,原告の良心に訴えようとする意図から出た発言であると解する余地はあるが(前記(1)コ),この発言を受けた者にとっては,自らの人生を否定されたとも受け取れることからすれば,その発言の相当性については疑問があるといわざるを 得ない。 (エ) 高齢者である原告を侮辱する言動B警察官は,前記(1)シのとおり,「うるさいな。人の揚げ足ばっかりとって。80まで生きてそれか。くだらんな,不毛や。俺もこんなんなんのかな。」「人間やっぱり年っていうたらプライドだけが残るな。」などと発言しているところ,発言の経緯からすると,B警察官が話を聞いてくれないから供述しないと述べた原告の態度を非難するために,原告が高齢者であるからプライドだけが残っているなどと侮辱したものというべきである(前記(1)シ)。原告は,B警察官の見立てに対して反論しようとしたところ,B警察官から反論を聞かない旨言われたのであって(前記(1)シ),かかる経緯からすれば,原告が自らへの嫌疑を否定するために,B警察官が言い分を聞いてくれるまで供述を拒否することは,不当なものとはいえず,B警察官の発言の揚げ足をとるものであるともいえない。そして,B警察官の上記発言が,前記(ウ)のような原告の人 ために,B警察官が言い分を聞いてくれるまで供述を拒否することは,不当なものとはいえず,B警察官の発言の揚げ足をとるものであるともいえない。そして,B警察官の上記発言が,前記(ウ)のような原告の人生を全否定するような発言に引き続いてなされていることも考え併せると,殊更に原告の人格を攻撃する態様でなされた不当な取調べであったというべきである。 (オ) 否認を認めない侮辱的言動B警察官は,前記(1)スのとおり,「ぐじゅぐじゅ,ぐじゅぐじゅ否認たれる」などと発言しているところ,その文言や,その前後の発言からして,犯行を否認する原告の態度を蔑み,その人格を非難するものというべきである。 被告は,否認が認め難いことを述べることは非難されることではない旨主張するが,B警察官は,被害者の供述内容と食い違いがあることを指摘するものの,それ以外に客観的証拠を示したり,理詰めで追及するなどして,原告が被疑事実を否認することに合理性がないことを具体的 に指摘しているわけではなく,前記(ア)ないし(エ)にみられるとおり,単に人格攻撃に終始しているのであり,このような取調べ方法は,真実発見のための手段として何ら合理性があるとは認められない。 (カ) 被疑者を犯人であるとする言動前記(1)イのとおり,B警察官は,原告に対し「犯人です。」と発言している。そして,前記(1)イの取調べの経緯からすると,B警察官の発言は,原告に対し,原告が犯罪者であるから,警察官であるB警察官より下の立場にあると申し向け,原告の尊厳を害するものであって,このような発言をする必要性も何ら認められない。 B警察官は,原告が被疑者という言葉を理解していなかったため,分かりやすいように犯人と言う言葉を使った ,原告の尊厳を害するものであって,このような発言をする必要性も何ら認められない。 B警察官は,原告が被疑者という言葉を理解していなかったため,分かりやすいように犯人と言う言葉を使った旨供述するが(証人B),被疑者と犯人とは明確に異なる概念であり,原告においても,犯人を被疑者の意味で理解するとは到底考えられないのであって,被疑者を犯人と説明することに何ら合理性は認められない。 オ原告を困惑させる言動B警察官は,前記(1)コのとおり,原告に対し,グリム童話の話を求めたり,小学生の例を出すなどして,Aが嘘をついているか否かなどについて追及しているが,発言の趣旨が不明であり,原告を困惑させる発言であって,その相当性には疑問があるといわざるを得ない。 (3) 以上判示したところからすれば,B警察官による9月11日の取調べは,社会通念上相当性を逸脱した態様で原告に供述や自白を強いるものであり,また,原告に対して不当な人格攻撃に及ぶ発言を繰り返すものであって,全体として社会通念上相当性を逸脱した違法な取り調べであったというべきであり,国賠法1条1項の適用上違法と認められる。 なお,被告は,原告が録音するためにあえて揚げ足を取ったり,挑発するような発言をしたなどと主張する。証拠(甲15,16,34)によれば, B警察官による威圧的・侮辱的な言動に対して,原告から同警察官の不遜な態度を咎めたり,強く言い返すこともあったと認められるものの,原告が録音を意識して,あえてB警察官の違法な言動を誘発したとまで認めるに足りる証拠はなく,B警察官の違法な取調べが原告の態度によっても正当化されないことは前記のとおりであるから,被告の主張は上記結論を左右しない。 4 先入観に基づく違法な捜査の有無(争点4 認めるに足りる証拠はなく,B警察官の違法な取調べが原告の態度によっても正当化されないことは前記のとおりであるから,被告の主張は上記結論を左右しない。 4 先入観に基づく違法な捜査の有無(争点4)について前記前提事実(2),証拠(証人B)及び弁論の全趣旨からすると,B警察官は,9月9日に原告の取調べを開始するまでに,本件傷害事件について,Aが原告から殴られたと被害申告していること及びAの下顎部に打撲傷が生じていることなどを確認した上で,原告を被疑者として取調べを行ったと認められる。 そうすると,B警察官は,このような事情を踏まえ,原告に一定の嫌疑が認められると考え,原告の取調べを行っているのであるから,Aの申告内容とAの怪我の状態との医学的な整合性を確認していないからといって,原告の取調べを行うことが社会通念上相当と認められる方法及び限度を超えるものとはいえず,先入観に基づく違法な捜査であるとはいえない。 したがって,原告の上記主張は採用できない。 5 違法な取調べ状況報告書への指印の強要の有無(争点5)について(1) 証拠(甲14の1ないし5,15,34)によれば,原告が9月11日の取調べ後に,取調べ状況報告書に押印しようとしたところ,B警察官は,原告に対し,「印鑑あかんで。」「指印押して」「あなたに後で無理やり勝手に印鑑押さされたってたまらんからな」と申し向け,原告が「昨日いけたのに。」と述べたところさらに,「今日は印鑑あかん。」などと申し向け,原告が取調べ状況報告書に指印するに至ったこと,及び同日の取調べ以外の取調べ状況報告書には押印がなされていることが認められる。 (2) 原告は,B警察官が原告に指印を要求した行為について,9月12日以降の取調べにおいては押印がなされていることから,原告に 以外の取調べ状況報告書には押印がなされていることが認められる。 (2) 原告は,B警察官が原告に指印を要求した行為について,9月12日以降の取調べにおいては押印がなされていることから,原告に対して屈辱感を与 える目的で強要したものである旨主張する。しかし,B警察官は,9月11日に原告に指印を要求するに際し,「あなたに後で無理やり勝手に印鑑押さされたってたまらんかなら」と後日取調べ状況報告書に警察官が勝手に押印したと原告が主張することを防止する目的であると説明しており,その他原告に対して指印を押すことについて屈辱感を与えるような言動を取ったとも認められないことからすると,原告に対する屈辱感を与える目的で指印を強要したとまでは認められない。 (3) しかし,指印の要求は,指紋の押なつを求めることに他ならず,何人もみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有すると解されるところ,犯罪捜査規範では,取調べ状況報告書への指印について,取調べ状況報告書を作成した場合において被疑者がその内容を確認したときは,それを証するため当該取調べ状況報告書の確認欄に署名押印を求めるものとされ(犯罪捜査規範182条の2),被疑者が取調べ状況報告書に押印することができないときは指印させなければならず,被疑者が取調べ状況報告書に署名又は押印を拒否したときは,警察官がその旨及びその理由を記載して署名押印すること(犯罪捜査規範182条の2,同181条)とされているにすぎないのであるから,被疑者の承諾なしに指印をさせることは社会通念上の相当性を欠くものと解すべきである。 そして,本件では,B警察官は,原告に対し「印鑑あかん。」「指印押して」と申し向け,「昨日いけたのに。」と述べる原告に対し,更に「今日は印鑑あかん」と申し向けており,押印しようとし すべきである。 そして,本件では,B警察官は,原告に対し「印鑑あかん。」「指印押して」と申し向け,「昨日いけたのに。」と述べる原告に対し,更に「今日は印鑑あかん」と申し向けており,押印しようとしている原告に対して,押印は許されず,指印以外の方法は許されない旨を言い渡していると認められる。そうすると,原告は,B警察官の上記発言により,押印が許されないものであると誤信し,指印したものと認められるから,原告が指印することを拒否していないとしても,原告の承諾なしに指印をさせたものと同視すべきであり,よって,国賠法1条1項の適用上違法というべきである。 6 D警察署による組織ぐるみの違法な証拠隠滅行為の有無(争点6)について原告は,原告の代理人が9月11日に本件抗議書をD警察署にファクシミリ送信したところ,D警察署の警察官がこれを隠滅した旨主張する。 しかし,D警察署の警察官において,原告代理人からファクシミリで送信された抗議書をあえて廃棄する動機があることを窺わせる事情は見受けられない。また,D警察署の警察官が,9月12日,原告の代理人からファクシミリ送信された本件抗議書を確認したかと尋ねられた際,白紙のものしか届いていない旨説明していること(争いのない事実)からすると,原告の代理人が,誤って本件抗議書の裏面をファクシミリで送信した,あるいは宛先を誤った可能性を否定できない。確かに,原告の代理人事務所からファクシミリを送信した場合,受信した用紙には,原告代理人事務所名及びファクシミリ番号が印字されると認められるが(甲35),ファクシミリ送信の有無を確認したD警察署の警察官において当該記載を見落として白紙であると誤認した,あるいは印字が鮮明になされずに,記載が読み取れなかったなどの可能性も考え得るのであ が(甲35),ファクシミリ送信の有無を確認したD警察署の警察官において当該記載を見落として白紙であると誤認した,あるいは印字が鮮明になされずに,記載が読み取れなかったなどの可能性も考え得るのであるから,かかる事実をもって,D警察署の警察官が,原告の代理人から抗議書を受領しておきながらこれを破棄するなどして隠滅したと認めることはできない。 したがって,原告の主張は採用できない。 7 原告の承諾を得ずに行った違法な所持品検査の有無(争点7)について(1) 原告は,C警察官が,9月12日の取調べを開始する前に原告が了承していないにもかかわらず,着衣の上から原告の体を触って所持品検査を開始し,最終的には原告の靴の中にまで指を入れて確認するという行為に及んだ旨主張し,これに沿う供述をする(甲42,原告本人)。しかし,C警察官及びB警察官は,着衣の上から触る所持品検査を行い,靴については原告に靴を脱いでもらい靴の中を確認したにすぎない旨供述していること(証人C,証人 B),靴の中に危険物等を隠匿していないか確認する場合,履いたままの靴に指を入れて確認するよりも,靴を脱がせて,その中を確認する方が合理的であることからすると,前記原告の供述のみをもって,C警察官が,原告の承諾を得ないで靴の中に指を入れて所持品検査をしたと認めることはできない。 (2) そして,被疑者の取調べに際して,危険物の持ち込みの有無等を確認するために,被疑者の承諾を得た上で着衣の上から触る程度の所持品検査を行うことは,任意捜査として相当な限度にとどまるといえるから,C警察官による所持品検査が国賠法1条1項の適用上違法であるとはいえない。 8 原告の承諾を得ずに行った違法な写真撮影の有無(争点8)について原告は,B警察官が撮影した取調室におけ いえるから,C警察官による所持品検査が国賠法1条1項の適用上違法であるとはいえない。 8 原告の承諾を得ずに行った違法な写真撮影の有無(争点8)について原告は,B警察官が撮影した取調室における原告の写真(甲43:以下「本件写真」という。)について,B警察官が,11月6日の取調べの際に,原告の承諾を得ずに,取調室の外から透視鏡越しに撮影したものであると主張し,これに沿う供述をする(甲42,原告本人)。 しかし,B警察官は,原告に対して承諾を得て本件写真を撮影した旨供述しており(証人B),B警察官において,原告に対し原告の写真を撮ることについて承諾を求めることができなかったことを窺わせる事情は見受けられない。 また,本件写真と原告代理人が取調室の中から直接原告を撮影した写真(甲36の写真①・②)及び取調室の外から透視鏡越しに撮影した写真(甲36の写真③・④)を子細に比較しても,本件写真が透視鏡越しに撮影されたと的確に認めることはできず,B警察官が,原告の承諾を得ずに,透視鏡越しに本件写真を撮影したと認めることはできない。 したがって,本件写真の撮影について,国賠法1条1項の適用上違法な行為があったとはいえない。 9 刑事訴訟法198条4項に反する違法な増減申立て拒否の有無(争点9)について(1) 証拠(甲33,42,証人B,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以 下の事実が認められる。 ア B警察官は,11月7日の取調べの際,原告に対し,8月11日のAとの出来事について説明するよう求めた。 イ原告は,前記B警察官の取調べに対し,概要以下のような説明を行い,B警察官はこれを調書に記載した。 (ア) 原告は,田んぼで米を作ったりしており,8月11日の朝,田んぼの様子を見に行ったところ,田ん 記B警察官の取調べに対し,概要以下のような説明を行い,B警察官はこれを調書に記載した。 (ア) 原告は,田んぼで米を作ったりしており,8月11日の朝,田んぼの様子を見に行ったところ,田んぼに油が浮いていた。 (イ) 原告の田んぼには,それまでに3回,油が浮いていたことがあり,その件については警察にも相談していたが,油が特定できなければ受付できないと言われていた。原告は,この油は誰かが撒いたものであると思っている。 (ウ) 原告は,同日昼頃,もう一度田んぼの様子を見に行ったところ,Aが田んぼにいた。以前,Aの田んぼに油が浮いていたことがあったので,原告は,Aが油のことについて何か知っていると思い,油のことを聞くこととした。 (エ) 原告が,Aに対し,詳しくは覚えていないが,「あんたの田んぼのところから,油が流れてうちの田んぼに入ったけど誰が撒いたか知らんかな」「私に恨みがあるんやったら,直接,言うてくれたらええのにな」「陰で,わからんところで,あんなことすんのは,本当に卑怯だ」「許せんわ」などと聞くと,Aは,原告に対し,「なんでそんなこと言うんや,俺が撒いたって言うんか」などと怒鳴り返してきた。 (オ) そして,Aは,いきなり原告の両肩の辺りを両手で交互に突いてきた。 Aから2回ほど突かれ,1回目は両手で振り払い,2回目はよろけてトラックの荷台にもたれた。その後,Aは,原告に対し「どこにあるんや」と言い,原告の田んぼを見に行った。 (カ) Aは,戻ってくると,原告に対し,「あれは草が腐って出るもんや」「前 の油は,菜種の油や」「Eさんが言うてたんや」「あんたも聞いてるやろ」などと言った。 (キ) 原告は,菜種から油が出てくることは信じられず,そもそも,原告の田んぼには菜 」「前 の油は,菜種の油や」「Eさんが言うてたんや」「あんたも聞いてるやろ」などと言った。 (キ) 原告は,菜種から油が出てくることは信じられず,そもそも,原告の田んぼには菜種が生えていないので,Aが油の件について嘘をついていると思った。 (ク) 原告は,Aに対し,「お互い誠実になって,仲良くしていこうや」などと言うと,Aは原告に「そやな」と言ったので,原告は自宅に帰ることにした。 ウ原告は,B警察官に対し,概要前記イの旨が記載された調書について,原告が,8月14日,Eに対し,Aが話していた内容について真実か否かを確認したところ,Eはそのようなことは話していない旨述べた旨を追記するよう申し立てた。 エ B警察官は,前記原告からの申立てに対し,取調べは8月11日の出来事について確認したものであり,8月14日の出来事は関係ない旨を述べ,追記を拒否した。 (2) 被告は,11月7日の取調べでは,8月11日のことについて取り調べたのであり,原告が追記を求めたのは8月14日の出来事であるから,取調べた事項と関連性が無く,これを拒否することは違法でない旨主張する。 しかし,原告が加筆を申立てた事項は,8月14日の出来事ではあるが,Aが8月11日にEから聞いたと説明していた内容について,後日,原告がEに対して確認したというものであり(前記(1)イ(カ),(1)ウ),B警察官が原告の供述調書に録取した8月11日におけるAの発言内容の信用性に関するものであるから,事実的な関連性がないとはいえない。また,Aは,8月11日,警察に対し,同日午後零時頃,原告がいきなり「油流しこんだやろ」と言って,殴りかかってきた旨申告していること(前記前提事実(2)イ)からすると,原告が追記を求めた事項は,原告 た,Aは,8月11日,警察に対し,同日午後零時頃,原告がいきなり「油流しこんだやろ」と言って,殴りかかってきた旨申告していること(前記前提事実(2)イ)からすると,原告が追記を求めた事項は,原告から殴られたというAの申告内容 の信用性の判断にも影響を与え得る事情である。加えて,被疑者の供述録取書は,刑事訴訟法322条の要件の下に,公判において証拠とすることができることをも併せ考慮すると,供述調書に録取して然るべき事項であったといえる。 そして,刑事訴訟法198条4項が,被疑者の供述を録取した調書について,被疑者が増減変更の申立をしたときは,その供述を調書に記載しなければならないと定められていることからすると,取調官は,被疑者が増減変更を申し立てた事項が,取り調べた内容と関係がない事項であるなどの事情がない限り,被疑者が申し立てた増減変更内容を調書に記載する義務を負っていると解すべきであるから,B警察官が,原告からの追記の申立てを拒否したことは,同条項に反するものであり,国賠法1条1項の適用上も違法というべきである。 身柄引請書を利用した違法な捜査の有無(争点10)について(1) 原告は,B警察官が,11月7日,原告方を訪れ,原告の妻に対し,身柄引請書への署名・押印を求めた際,「逮捕されたときに必要なのです」などと逮捕をほのめかし,原告に心理的不安を与えたと主張し,これに沿う供述をするとともに,原告の妻も,原告の主張に沿う証言をする。 しかし,B警察官が,原告の妻に署名を求めた身柄引請書(甲23:以下「本件身柄引請書」という。)には,「ただ今貴署で取調中の下記の者の身柄の引請をしましたが,今後は責任をもって監督しますとともに,将来貴署又は関係官署から本人に呼出しのあるときには,必ず出頭させる 「本件身柄引請書」という。)には,「ただ今貴署で取調中の下記の者の身柄の引請をしましたが,今後は責任をもって監督しますとともに,将来貴署又は関係官署から本人に呼出しのあるときには,必ず出頭させるようにします。 また,本人の住居の変更または旅行等の場合は,直ちに貴署にお知らせします。」と記載されており,かかる記載内容からすると,本件身柄引請書は任意捜査において出頭確保のために作成されるものであり,逮捕された場合に必要となるものでないことは明らかであって,B警察官が,逮捕されたときに必要であるなどと誤った説明をしたとはにわかに考え難い。そもそも,原告 の妻は,「逮捕されたときに必要だからこれ書いてもらわないけない」と言われたと証言する一方,「『逮捕されたら』というような言葉を聞きましたので」「『逮捕できるんだ』というように私は聞き取りました」などとも証言していることからすると,原告及び原告の妻は,B警察官が,本件身柄引請書への署名の必要性について,逮捕した場合には必要ない旨を説明したこところ,逮捕されたときに必要であると誤って理解した可能性は否定できない。したがって,原告及び原告の妻の供述をもって,B警察官が,原告及び原告の妻に対し,身柄引請書について「逮捕されたときに必要なのです」と説明したと認めることはできない。 (2) また,原告は,B警察官が,11月7日の取調べ終了後,突然原告に対し,原告の妻から身柄引請書を貰うために原告方を訪れることを伝え,原告が理由を確認してもB警察官は説明しようとしなかった旨主張し,これに沿う供述をする。 しかし,B警察官は,11月5日の取調べの際,検察庁から呼出しがあるかもしれないので,親族や近しい方に署名を貰う書類になっている旨説明したと証言しているところ,大阪府警察の内部規 をする。 しかし,B警察官は,11月5日の取調べの際,検察庁から呼出しがあるかもしれないので,親族や近しい方に署名を貰う書類になっている旨説明したと証言しているところ,大阪府警察の内部規定において不拘束の場合には引請者に身柄引請書を提出させることとされていることからすると(乙2),B警察官が,身柄引請書の提出について,原告に対し何らの説明も行わなかったと直ちには考え難く,原告の供述のみをもって,B警察官が,原告に一切理由を説明することなく,突然原告の妻から身柄引請書を貰うために原告方を訪れると伝え,その理由も説明しなかったと認めることはできない。 原告は,原告が原告の妻は足が悪いので警察署に来ることができないと述べていたので原告宅を訪れることにした旨のB警察官の証言について,原告の妻は外出することができるので,原告がそのような説明を行うことはあり得ず,B警察官の供述は虚偽である旨主張する。しかし,現に原告の妻は歩行の際に杖を利用していることからすると(原告本人),B警察官の上記証言 が客観的事実と整合していないものとはいえず,虚偽であると認めることはできない。 (3) 原告は,本件身柄引請書は原告宅で交付されたにもかかわらず,「ただ今貴署で取調中の下記の者の身柄の引請をしましたが」と交付された状況と異なる記載がされている旨主張するが,同文言は不動文字で身柄引請書に予め記入されているものであること(甲23)も踏まえると,かかる不整合のみをもって原告に殊更不安を覚えさせるとも認められない。 (4) 以上より,B警察官が本件身柄引請書を利用して,逮捕をほのめかすなどして原告に殊更心理的負担を与えたと認めることはできず,国賠法1条1項の適用上違法な行為があったと認めることはできない。 損害(争点11)に 官が本件身柄引請書を利用して,逮捕をほのめかすなどして原告に殊更心理的負担を与えたと認めることはできず,国賠法1条1項の適用上違法な行為があったと認めることはできない。 損害(争点11)について上記のとおり,原告は,9月11日の取調べにおいて,B警察官から供述や自白を強いられるような言動を受け,自らの人生を否定するかのような侮辱的で不当な人格攻撃にわたる発言を受けたこと,また,同日の取調べ後に,自らの意思に反して指印を強いられ,11月7日の取調べにおいて,供述調書への追記も不当に拒絶されたことなど,国賠法条1条1項の適用上違法というべき行き過ぎた犯罪捜査により,その人格権を侵害されたものと認められる。ただし,証拠(甲15,16)によれば,9月11日の取調べにおいて,原告は,その持ち前の精神的な強さをもって若いB警察官と対峙し,丁々発止のやり取りを展開する場面もあり,自白するまでに精神的に追い込まれたとはいえないこと等をも併せ考慮すれば,原告が人格権を侵害されたことにより受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては,100万円を認めるのが相当である。 第4 結論以上によれば,原告の請求は100万円及びこれに対する最終の不法行為の日である平成25年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却する こととし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法64条本文,同法61条を,仮執行宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第16民事部 裁判長裁判官森木田邦裕 裁判官北岡裕章 裁判官塚上公裕 地方裁判所第16民事部 裁判長裁判官森木田邦裕 裁判官北岡裕章 裁判官塚上公裕
▼ クリックして全文を表示