判決平成14年7月3日神戸地方裁判所平成13年(ワ)第1170号損害賠償請求事件 主文 1 被告は,原告に対し,金3776万1934円及び内金3436万1934円に対する平成12年2月12日から,内金340万円に対する平成13年6月15日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを5分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。 4 この判決の第1項は仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 原告の請求被告は,原告に対し,金5099万8127円及び内金4636万1934円に対する平成12年2月12日から,内金463万6193円に対する平成13年6月15日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告の傷害致死行為によって長男を死亡させられた原告が,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。 1 請求原因(1) 当事者原告と被告は小学校の同級生で,平成7年7月ころ再会し,交際するようになった。 その当時,原告は,前夫Aと離婚し,女手一つでその間の長男B(平成5年3月17日生。)を育てていたものであり,被告は,離婚経験を有し,単身生活をしていたものである。 (2) 本件不法行為に至る経緯ア原告は,平成8年2月ころには,被告との交際を辞めようと思うようになった。そして,原告は,そのころその旨を被告に告げ,以後は被告の誘いを断るようになったが,これに対し,被告は,原告宅の窓ガラスを割って原告宅に侵入し 月ころには,被告との交際を辞めようと思うようになった。そして,原告は,そのころその旨を被告に告げ,以後は被告の誘いを断るようになったが,これに対し,被告は,原告宅の窓ガラスを割って原告宅に侵入し,原告の顔面や頭部を手拳で殴りつけるといった行為に出たため,原告は,恐怖のあまり謝罪し,別れ話を撤回した。 イそれ以後,原告は,被告から繰り返し暴力を振るわれるようになり,また,被告は,Bに対しても,「男らしくない,はきはきしない。」などと言って暴力を振るうようになった。 原告は,平成9年春ころには,被告に投げられて頭部を打ち,失神したことがあり,同年9月にも,被告から右下腿挫創,右前腕・上腕打撲,右眼打撲といった傷害を受けるほどの暴力を振るわれた。 ウしかし,一方で,原告は,被告に結婚を申し込まれ,平成11年末ころには,これに応じ,結婚をしてもいい旨を返答していた。 エところが,被告は,平成12年1月10日ころ,Bが算数の足し算をするのに指を使ったことを責めて,「指をちょん切る。」と脅しながら,包丁の背でBの指を叩き,Bの顔面や頭部を手拳で何度も殴りつけ,その陰茎をいたぶり,さらには両耳を掴んで体を持ち上げ,その体を繰り返し床に投げつける等の暴行を繰り返した。Bは,その恐怖のあまり脱糞をし,また,被告の前記暴行によって受けた傷のため3日間小学校を休まざるを得なかった。 オ原告は,被告の上記暴力をきっかけに,やはり被告とは結婚できないと考え,再度被告に別れ話を持ち出した。これに対し,被告は,「結婚の約束をしたのに結婚をしないのだから,慰謝料として200万円を支払え。」と要求し,200万円の慰謝料を支払う旨の念書を書かせた。その後,被告は,原告を呼びつけて200万円をどうやっ 被告は,「結婚の約束をしたのに結婚をしないのだから,慰謝料として200万円を支払え。」と要求し,200万円の慰謝料を支払う旨の念書を書かせた。その後,被告は,原告を呼びつけて200万円をどうやって捻出するのかなどといったことを問いただすなどしたため,原告は,被告と別れることはできないとの心理状況に追い込まれ,仕方なく被告に従う日々を送っていた。 (3) 本件不法行為被告は,平成12年2月11日午後10時ころから翌12日午前零時30分ころまでの間,兵庫県明石市a町b丁目c番の当時の被告住居において,Bに対し,その顔面,頭部等を手拳,平手,書籍の背表紙等で多数回殴打し,その腹部,臀部等を多数回踏みつけ又は足蹴にし,その体を持ち上げて多数回畳に投げつけ,その陰茎に文化包丁の背を押しつけ,その頭部を多数回柱に打ちつけ,その頸部を締めつけるなどの暴行を加え,その結果,Bに急性硬膜下血腫,高度脳腫脹等の傷害を負わせ,同12日午前10時11分ころ,同市d町e丁目f番g号所在のC病院において,Bを脳腫脹を伴う急性硬膜下血腫により死亡させた。 (4) 損害ア Bの逸失利益のうち原告の相続分 1422万4249円(ア) Bは,平成5年3月17日生まれの男子で,その死亡当時満6歳であった。 Bは,本件不法行為による死亡がなければ,18歳から67歳までの49年間就労可能であった(その期間に対応するライプニッツ係数は10.117)。また,賃金センサス平成11年第1巻第1表による男子労働者の学歴計の年間給与額は,562万3900円である。 上記に基づき,その生活費控除を5割としてBの逸失利益を算定すると,次式のとおりであって,その逸失利益は2844万8 労働者の学歴計の年間給与額は,562万3900円である。 上記に基づき,その生活費控除を5割としてBの逸失利益を算定すると,次式のとおりであって,その逸失利益は2844万8498円となる。 562万3900円×(1-0.5)×10.117=2844万8498円(イ) Bの相続人は,母である原告と父であるAの2名であるので,原告は,上記Bの逸失利益の2分の1の1422万4249円を相続により承継した。 イ慰謝料 3000万円原告は,被告の暴力によって,6歳の小学校生活を始めたばかりの息子を,その目の前で死亡させられたものであり,言語に絶する精神的苦痛を被った。 その苦痛に対する慰謝料は3000万円が相当である。 ウ葬儀費用 213万7685円原告は,Bの葬儀費用として213万7685円を支出した。 小学校生活を始めたばかりの愛くるしい年齢のBは,何の落ち度もないのに,被告の暴力によってむごくも生命を奪われたものであり,死に至るまでのBの恐怖と苦痛は察するに余りある。このようなBの霊を慰めるための葬儀費用として,上記金額は相当なものである。 エ弁護士費用 463万6193円原告は,本件訴訟の遂行を原告訴訟代理人弁護士に依頼した。 その弁護士費用は,上記損害合計4636万1934円の1割が相当である。 オ以上合計 5099万8127円(5) よって,原告は,被告に その弁護士費用は,上記損害合計4636万1934円の1割が相当である。 オ以上合計 5099万8127円(5) よって,原告は,被告に対し,上記損害合計5099万8127円及び弁護士費用を除いた損害4636万1934円に対する本件不法行為日である平成12年2月12日から,弁護士費用463万6193円に対する本件不法行為後であることが明らかな平成13年6月15日(本件訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 2 請求原因に対する認否(1) 請求原因(1)の事実は認める。 (2) 同(2)の事実については,本件不法行為に至るまでの経緯は以下のとおりであり,これに反する原告の主張は否認ないし争う。 ア被告は,平成7年7月再会以降,原告(Bを含め)と真剣な付き合いをしていたもので,オーストラリアへ3人で旅行するなどしていた。また,原告と結婚し,Bを養子にする意思であった。 イ被告は,このようなBに対して,元気さに欠ける傾向があると考えていたことから,その躾の意思でときどき平手で軽く叩くようなことはあった。なお,このような問題意識は,原告と被告とが共通して持っていたもので,原告と被告とで役割分担をしながら,Bに対する躾を行っていた。 ウ平成12年1月9日(原告は同月10日と主張するが9日である。)の件も,Bが算数の計算がうまくできなかったことから,被告においてBを叱ると共に,平手で何度かBの頬を叩くなど若干の体罰を加えたが,原告が主張するような,Bの指を包丁の背でとんとん叩いたり,両耳を持って体を持ち上げたりなどはしていない。 エ被告と原告は,翌日の10日に上記体罰 Bの頬を叩くなど若干の体罰を加えたが,原告が主張するような,Bの指を包丁の背でとんとん叩いたり,両耳を持って体を持ち上げたりなどはしていない。 エ被告と原告は,翌日の10日に上記体罰のことで喧嘩をしたが,被告は,その後,すぐに原告及びBの3人で住むために県営住宅の申込手続をしているし,同年2月7日,8日には被告は原告宅で泊まってもおり,当時,被告と原告は結婚を前提に付き合っていたもので,原告が主張するように原告が被告といやいや付き合っていたものではないし,被告が原告に慰謝料請求をしたといったような事実も存在しない。 オ本件不法行為当日の平成12年2月11日に原告とBが被告宅に来たのも,原告からやって来たものである。そして,原告は,その際,「地球の暮らし方カリフォルニア」という本を持参し,それとともに,被告との間で,現地の小学校の送り迎えの話など具体的な話をしており,原告が,当時,被告と結婚のうえ,親子3人でアメリカで暮らすことを具体的かつ真剣に考えてその準備を始めていたことは,以上の点からも明らかである。 (3) 同(3)の事実のうち,被告が行為を行った時間及びその行った行為の内容については,以下の点を除き認める。被告は,Bに対する躾をする意思で数回にわたって叱責を行い,叱責のたびに数度体罰を加えたが,その行為自体で脳腫脹を伴う急性硬膜下血腫が発生するような体罰は加えていない。 ア行為の開始時刻は,平成12年2月11日午後10時ころではなく,午後10時50分ころである。 イ Bの顔面及び頭部等を殴打したのは数回であり,多数回ではない。 ウ Bの腹部及び臀部等を踏みつけたことはない。 エ Bの臀部を足蹴したのは数回であり,多数回ではない。 オ B 及び頭部等を殴打したのは数回であり,多数回ではない。 ウ Bの腹部及び臀部等を踏みつけたことはない。 エ Bの臀部を足蹴したのは数回であり,多数回ではない。 オ Bの腹部を蹴ったのは1回であり,多数回ではない。 カ Bの体を持ち上げて畳に投げつけたことはない。ただし,Bの体を持ち上げて,畳の上に2回落としたことはある。 キ Bの頭部を柱に打ちつけたことはない。 ク Bの頸部を締めつけたことはない。 なお,被告が,体罰としてBの臀部を右足甲で蹴った際,Bがよろけて石油ファンヒーターにぶつかったことが2度あり,そのときにBの頭部に強度の衝撃が発生した可能性があるが,被告は,蹴ることによりBが石油ファンヒーターにぶつかるとは考えていなかったし,脳腫脹を伴う急性硬膜下血腫はもとより,何らかの傷害が発生するとは考えていなかった。もっとも,体罰によりこのような重大な傷害及び死亡の結果を発生するかもしれないことに十分に注意すべきであったことは当然であり,深く反省はしている。 (4) 同(4)の事実のうちア(Bの逸失利益と原告の相続)については認めるが,その余の損害については争う。 3 抗弁(過失相殺)被告の行為は,躾の意思ではあったとはいえ,その程度が過ぎたものであった。そして,原告は,被告と一緒にBに対する躾を行い,被告の本件行為の際にはそばにいたのであるから,原告においても,被告の躾行為に行き過ぎがあった場合にはこれを止めるように注意すべき義務があった。しかし,原告は,一度は止めに入ったものの,当時,警察へ電話したり,被告宅から外へ出て近所の人に助力を求めたりすることは容易であったにもかかわらず,これをしなかった。したがって,原告にも過失がある しかし,原告は,一度は止めに入ったものの,当時,警察へ電話したり,被告宅から外へ出て近所の人に助力を求めたりすることは容易であったにもかかわらず,これをしなかった。したがって,原告にも過失があるから,4割の過失相殺がなされるべきである。 4 抗弁に対する認否否認ないし争う。被告の行為は躾行為と言えるようなものではないし,原告が被告と一緒にそれら行為をしたようなこともない。逆に,被告は,原告の制止,哀願にもかかわらず,原告に暴行を加えてこれを封じ,Bに対する暴行を執拗に続けたものである。 第3 当裁判所の判断 1 請求原因(1)ないし(3)の事実について請求原因(1)の事実は当事者間に争いがなく,同(2),(3)の事実は証拠(甲1ないし6,14,15,19ないし24,26,28,29,33,原告本人)及び弁論の全趣旨によってこれが認められる(ただし,同(3)の事実のうち,被告が行った行為についての時間及び内容については,前記請求原因に対する認否(3)で主張の点以外は当事者間に争いがない。)。 被告は,上記認定と異なり,Bに対する躾をする意思で数回にわたって叱責を行い,叱責のたびに数度体罰を加えたが,その行為自体で脳腫脹を伴う急性硬膜下血腫が発生するような体罰は加えていない旨を主張し,これに沿う供述等(甲7ないし13,16の2,25,被告本人)をする。さらには,Bに対する躾は被告と原告とが一緒に行っていたものであり,これに行き過ぎがあった場合には,これを止めるべきであったのに,一度止めに入っただけで,これを止めるための措置を十分に行わなかった原告にも過失がある旨をも主張する。 しかし,解剖結果等により明らかなBの受傷状況(甲19ないし24)及び原告の供述等(甲3,5,14,15,原告本 を止めるための措置を十分に行わなかった原告にも過失がある旨をも主張する。 しかし,解剖結果等により明らかなBの受傷状況(甲19ないし24)及び原告の供述等(甲3,5,14,15,原告本人)との対比からして,被告の供述等はにわかに措信できず,かえって,前掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件犯行は,原告とともに被告宅を訪れていたBが眠くなったため,被告に対し,寝てよいかを尋ねたのに対し,被告がこれを了承せず,かつ,その際のBの応答が気に入らないとして,いわば言いがかり的な契機から執拗な暴行が長時間にわたり加えられたものであり,かつ,その間,何回も原告において暴行を止めるよう哀願したにもかかわらず,まったくこれを聞き入れず,逆に原告にまで暴力を振るって,Bに対する暴行を続けたものであったことが明らかであり,被告の前記主張はこれを認めることができない。 また,被告は,本件不法行為前の原告との関係及びBとの接し方についても,原告は本件不法行為時被告といやいやつき合っていたのではないし,Bに対しても,躾の趣旨で若干の体罰を加えたことがあったに過ぎない等と主張し,前掲被告の供述等の中にはこれに沿うかのような部分があるが,前掲原告の供述等と対比してにわかに措信できず,他にこの点の被告主張を認めるに足りる証拠はない。 2 請求原因(4)(損害)についてそこで,以下,原告の被った損害につき検討する。 (1) Bの逸失利益のうち原告の相続分 1422万4249円Bの逸失利益が2844万8498円であり,母である原告がその2分の1の1422万4249円を相続したことは,当事者間に争いがない。 (2) 慰謝料 1800万円原告は,前 あり,母である原告がその2分の1の1422万4249円を相続したことは,当事者間に争いがない。 (2) 慰謝料 1800万円原告は,前夫との離婚後,女手一つで育ててきた小学校生活を始めたばかりのBを,その制止及び哀願にもかかわらず,暴力を振るい続けた被告によって,目の前で死亡させられたものであり,その被った精神的苦痛は,到底言語では言い表せないものがある。そして,被告は,反省の言葉は口にするものの,現在においてもその行為は躾の意思に出たものであった等として自己弁護に終始する姿(被告本人)からは,真摯な反省がなされているとは言い難いことや,その他本件に表れた一切の事情を総合すると,その慰謝料は1800万円と認めるのが相当である。 (3) 葬儀費用 213万7685円原告は,Bの葬儀費用として213万7685円を支出し(甲17,18の1・2),同額の損害を被ったものと認められる。 (4) 弁護士費用 340万円本件事案の内容,認容額に鑑みると,弁護士費用は340万円と認めるのが相当である。 (5) 以上合計 3776万1934円なお,被告は,過失相殺の主張をするが,これが認められないことは,前記1で認定したところから明らかである。 3 結論以上のとおりで,原告の本件請求は,3776万1934円及び弁護士費用を除いた損害内金3436万1934円に対する平成12年2月12日から,弁護士費用相当損害金340万円に対する平成13年6月15日から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理 損害内金3436万1934円に対する平成12年2月12日から,弁護士費用相当損害金340万円に対する平成13年6月15日から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度でこれを認容することとし,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第4民事部裁判官上田昭典
▼ クリックして全文を表示