令和4年5月27日判決言渡同日原本交付裁判所書記官令和2年(ワ)第13326号、第13331号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日令和4年3月17日判決 原告 中外製薬株式会社 同訴訟代理人弁護士 末吉剛 同訴訟代理人弁理士 髙橋聖史 同補佐人弁理士 一宮維幸 被告 沢井製薬株式会社 日医工株式会社 上記両名訴訟代理人弁護士 森本純 同芳賀彩 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告沢井製薬株式会社は、別紙被告製品目録1記載の各医療用医薬品を生産し、輸入し、譲渡し又は譲渡の申出をしてはならない。 2 被告沢井製薬株式会社は、別紙被告製品目録1記載の各医療用医薬品を廃棄せよ。 3 被告日医工株式会社は、別紙被告製品目録2記載の各医療用医薬品を生産し、輸入し、譲渡し又は譲渡の申出をしてはならない。 4 被告日医工株式会社は、別紙被告製品目録2記載の各医療用医薬品を廃棄せよ。 第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は、発明の名称を「エルデカルシトールを含有する前腕部骨折抑制剤」とする特許の特許権を有する原告が、被告らがそれぞれ製造販売承認を得た医薬品が、いずれも上記発明の技術的範囲に属するとして、被告らに対して、特許法100条1項、2項に基づき、同医薬品の生産 とする特許の特許権を有する原告が、被告らがそれぞれ製造販売承認を得た医薬品が、いずれも上記発明の技術的範囲に属するとして、被告らに対して、特許法1 00条1項、2項に基づき、同医薬品の生産、輸入、譲渡、譲渡の申出及び廃棄を請求する事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠(明示しない限り枝番号を含む。)及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)ア原告は、医薬品の研究、開発、製造、販売及び輸出入等を目的とする株式 会社である。(弁論の全趣旨)イ被告らは、いずれも日本及び外国における医薬品の製造、販売及び輸入等を目的とする株式会社である。被告らは、後発医薬品(ジェネリック医薬品)を製造、販売している。(弁論の全趣旨)原告は、以下の特許権(以下「本件特許権」といい、本件特許に係る明細書 及び図面を「本件明細書」という。)を有している。(甲4、5)特許番号特許第5969161号発明の名称エルデカルシトールを含有する前腕部骨折抑制剤出願日平成22年4月28日優先日平成21年4月28日(以下「本件優先日」という。) 登録日平成28年7月15日 本件特許について、無効審判(無効2019-800112。以下「本件無効審判」という。)が請求され、原告は、本件無効審判の手続において、令和2年11月30日付け訂正請求書により、本件特許の特許請求の範囲のうち、請求項4について、新たな請求項4(訂正事項2)と請求項5(訂正事項3)とすることを含む訂正の請求をした(以下、この訂正の請求を「本件訂正」と いい、訂正事項2の訂正を「本件訂正4」、訂正事項3の訂正を「本件訂正5」という。また、請求項1、2、 項5(訂正事項3)とすることを含む訂正の請求をした(以下、この訂正の請求を「本件訂正」と いい、訂正事項2の訂正を「本件訂正4」、訂正事項3の訂正を「本件訂正5」という。また、請求項1、2、4に記載された発明をそれぞれ「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明4」といい、本件発明1、2、4を総称して「本件発明」といい、本件訂正後の請求項4、5に記載された発明をそれぞれ「本件訂正発明4」、「本件訂正発明5」といい、本件訂正発明4、5を総称して「本 件訂正発明」という。)。(甲3、4、9、弁論の全趣旨)本件発明1、2、4及び本件訂正発明4、5の特許請求の範囲は次のとおりである(甲4、41)。 ア本件発明1エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部骨折を抑制する ための医薬組成物。 イ本件発明2投与される対象が原発性骨粗鬆症患者である、請求項1に記載の組成物。 ウ本件発明4エルデカルシトールが0.75μg/日の用量で経口投与される、請求項 1~3のいずれか1項に記載の組成物。 エ本件訂正発明4エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部骨折を抑制するための医薬組成物であって、投与される対象がI 型骨粗鬆症患者であり、エルデカルシトールが0.75μg/日の用量で経口投与される、上記組成物。 オ本件訂正発明5 エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部骨折を抑制するための医薬組成物であって、投与される対象が、非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる原発性骨粗鬆症患者であり、エルデカルシトールが0. 75μg/日の用量で経口投与される、上記組成物。 本件発明1、2、4及び本件訂正発明4、5の特許請求の範囲を分説すると 次のとおりになる( 原発性骨粗鬆症患者であり、エルデカルシトールが0. 75μg/日の用量で経口投与される、上記組成物。 本件発明1、2、4及び本件訂正発明4、5の特許請求の範囲を分説すると 次のとおりになる(以下、分説された構成要件の符号に従い「構成要件1A」などという。)ア本件発明11A エルデカルシトールを含んでなる1B 非外傷性である前腕部骨折を抑制するための 1C 医薬組成物。 イ本件発明22A 投与される対象が原発性骨粗鬆症患者である、2B 請求項1に記載の組成物。 ウ本件発明4 4A エルデカルシトールが0.75μg/日の用量で経口投与される、4B 請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。 エ本件訂正発明44C エルデカルシトールを含んでなる4D 非外傷性である前腕部骨折を抑制するための医薬組成物であって、 4E 投与される対象がI 型骨粗鬆症患者であり、4F エルデカルシトールが0.75μg/日の用量で経口投与される、4G 上記組成物オ本件訂正発明55A エルデカルシトールを含んでなる 5B 非外傷性である前腕部骨折を抑制するための医薬組成物であって、 5C 投与される対象が、非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる原発性骨粗鬆症患者であり、5D エルデカルシトールが0.75μg/日の用量で経口投与される、5E 上記組成物被告沢井製薬株式会社は、令和2年2月17日、別紙被告製品目録1の医薬 品について製造販売承認を得た。また、被告日医工株式会社は、同日、別紙被告製品目録2の医薬品(以下、両医薬品を総称して「被告製品」という。)について製造販売承認を得た。被告らは、被告製品につき販売を開始している。(甲3、16、弁論 、被告日医工株式会社は、同日、別紙被告製品目録2の医薬品(以下、両医薬品を総称して「被告製品」という。)について製造販売承認を得た。被告らは、被告製品につき販売を開始している。(甲3、16、弁論の全趣旨)骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨 格疾患である。被告製品の有効成分はエルデカルシトールであり、その効果効能を、骨粗鬆症とする医薬品である。よって、被告製品は、構成要件1A、1C、4C、5Aを充足する。また、骨粗鬆症は、原発性骨粗鬆症(閉経や加齢によって起きる病態)と続発性骨粗鬆症(骨に悪影響を与える病気や薬によって生ずる病態)に分類されるところ、被告製品は原発性骨粗鬆症を含む骨粗鬆 症を効果効能としているため、構成要件2Aを充足する。被告製品は、その添付文書によれば、その用法・用量として、通常、成人にはエルデカルシトールとして1日1回0.75㎍を経口投与し、症状により適宜1日1回0.5μgに減量することとされている。被告製品目録1記載1の医薬品及び被告製品目録2記載1の医薬品は、いずれも0.5μgの医薬品であり、1日1回0.5 ㎍を服薬する患者に用いられると認められるため、構成要件4F、5Dを充足しないが、被告製品目録1記載2及び被告製品目録2記載2の医薬品は、1日1回0.75㎍を服薬する患者に用いられると認められるため、構成要件4F,5Dを充足する。(甲2、弁論の全趣旨) 3 争点 被告製品が「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」(構成要件1B、 4D、5B)医薬品であるといえるか(争点1)本件発明1、2、4は、井上大輔ほか「骨粗鬆症治療薬:ED-71」(「ホルモンと臨床」第55巻7号69~75頁。平成19年7月1日発行)。乙1。 以下「 D、5B)医薬品であるといえるか(争点1)本件発明1、2、4は、井上大輔ほか「骨粗鬆症治療薬:ED-71」(「ホルモンと臨床」第55巻7号69~75頁。平成19年7月1日発行)。乙1。 以下「乙1文献」という。)に記載された発明(以下「乙1発明」という。)に基づき新規性を欠如するか(争点2) 本件発明1、2、4は、乙1発明に基づき進歩性を欠如するか(争点3)本件訂正4、5によって、本件発明4に係る新規性欠如、進歩性欠如の無効理由が解消されるか(争点4)本件訂正発明4はサポート要件に違反するか(争点5)被告製品の投与される対象がI 型骨粗鬆症患者である(構成要件4E)とい えるか(争点6)被告製品の投与される対象が非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる原発性骨粗鬆症患者である(構成要件5C)といえるか(争点7)被告製品の用途が公知の技術であるといえるか(争点8)差止めの必要性(争点9) 4 争点に対する当事者の主張被告製品が「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」(構成要件1B、4D、5B)医薬品であるといえるか(争点1)について(原告の主張)被告製品は、原告が販売するエルデカルシトールを有効成分とする医薬品 (以下「原告製品」という。)の後発医薬品であり、原告製品と同様、エルデカルシトールを有効成分とし、適応症を骨粗鬆症とする。したがって、被告製品は、原告製品と同様の用途で使用されることが予定されている。 前腕部骨折は、骨粗鬆症の中では、若くかつ活動性の高い年齢層で生じやすいという特徴を有し、統計資料によれば、65歳未満の骨粗鬆症患者群では、 他の部位に比して前腕部の骨折リスクが高い。また、I 型骨粗鬆症(多くのI 型 骨粗鬆症の患者 層で生じやすいという特徴を有し、統計資料によれば、65歳未満の骨粗鬆症患者群では、 他の部位に比して前腕部の骨折リスクが高い。また、I 型骨粗鬆症(多くのI 型 骨粗鬆症の患者は、65歳未満である。)では、前腕部骨折の抑制が求められているのに対し、II 型骨粗鬆症(II 型骨粗鬆症の患者はI 型骨粗鬆症よりも高齢である。)では、前腕部骨折に代わって大腿骨近位部骨折の抑制が求められている。そのため、65歳未満の患者群及びI 型骨粗鬆症の患者群では、前腕部骨折の抑制が求められる。 そして、整形外科医に対するアンケート結果によれば、前腕部、椎体及び大腿骨のそれぞれについて、骨折を予防すべき患者像として、閉経から65歳未満の患者群を選んだ医師の割合は、前腕部にて最も高い値を示した。さらに、エルデカルシトールに関し、医師が前腕部、椎体及び大腿骨の各部位の骨折に対する効果を期待して使用する度合いは、前腕部が最も高い値を示した。 よって、原告製品は、骨粗鬆症全般の治療又は予防に用いられているとともに、65歳未満の骨粗鬆症患者群、I 型骨粗鬆症患者群では、他の部位に比して前腕部骨折の抑制が特に重要とされているため、これらの患者群において、骨粗鬆症全般の治療又は予防とは別に、本件発明の用途である前腕部骨折の抑制の用途(本件発明の用途)に使用されている。そして、被告製品も同様の用 途に用いられる。 (被告らの主張)ア被告製品の添付文書には、前腕部骨折の抑制効果に関する記載はないから、原告が主張する用途に用いられるとはいえない。 イ骨粗鬆症は全身的な骨疾患であり、特定の部位において罹患、あるいは主 として特定の部位で罹患するような疾病ではない。このことは、本件優先日前からの技術常識である。そうすると はいえない。 イ骨粗鬆症は全身的な骨疾患であり、特定の部位において罹患、あるいは主 として特定の部位で罹患するような疾病ではない。このことは、本件優先日前からの技術常識である。そうすると、骨粗鬆症の治療において、特定の部位の骨折のみを抑制することを目的とした治療は想定されない。 作用機序からみても、エルデカルシトールは、骨吸収を抑制し、かつ骨形成を促進する薬物であり、その適用により海綿骨及び皮質骨の双方に対する 骨量増加作用がみられるものである。その上、エルデカルシトールは活性型 ビタミンD3製剤であり、ビタミンD受容体に結合して作用を発揮する。ビタミンD受容体は全身の様々な臓器に分布しているから、エルデカルシトールは、その投与後には全身の各臓器の受容体に結合して全身で薬効を発揮するのであり、生体内で特定の部位においてのみ効果を発揮するような薬剤ではなく、全身の骨に対し効果を発揮する薬剤である。したがって、作用機序 からみても、エルデカルシトールは、骨粗鬆症の治療において、特定の部位の骨に対する効果のみを期待して投与されるものではない。 ウ原告は、骨粗鬆症全般の治療又は予防の用途とは別に、「65歳未満の骨粗鬆症患者群が前腕部骨折のリスクの高い骨粗鬆症患者群であるとして、同患者群において非外傷性の前腕部骨折を抑制する用途」という用途が存在す ると主張するが、前腕部は、骨粗鬆症患者に対する骨粗鬆症治療において、骨折予防の対象に当然に含まれている部位であり、骨粗鬆症全般の治療と区別される用途は存在しない。 骨粗鬆症の発症機序やエルデカルシトールの作用機序に照らしてみても、前腕部骨折の発生及び前腕部骨折の抑制について、他の部位には見られない ような特別な発症機序や作用機序がみられるものではない 骨粗鬆症の発症機序やエルデカルシトールの作用機序に照らしてみても、前腕部骨折の発生及び前腕部骨折の抑制について、他の部位には見られない ような特別な発症機序や作用機序がみられるものではない。 そもそも、「65歳未満の骨粗鬆症患者群では、他の部位に比して前腕部の骨折リスクが高い」という事実はなく、前腕部の骨折よりも椎体骨折の発生率の方が高い。また、骨粗鬆症の治療目的に照らし、前腕部骨折抑制という独立した用途を導く根拠となるものではない。原告のアンケートは質問形式 も内容も結論付けも不適切である。前腕部骨折の抑制を主たる目的とした骨粗鬆症治療は通常行われていないから、骨粗鬆症治療薬について、原告が主張するような用途は認められない。 エルデカルシトールについても、全年齢層の骨粗鬆症患者に対して、主として椎体骨折を予防する用途で投与される製剤であって、原告が主張するよ うな用途で投与されているものではない。 特許請求の範囲に記載された医薬用途と、それ以外の医薬用途とを区別せずに、それらを包含する上位概念の用途のみで特定して製造販売された場合には、同行為は、当該特許発明にかかる出願前に可能であった従来技術にすぎないから、特許請求の範囲に記載された用途に使用する「ために」製造販売されたものではない。 本件発明1、2、4は、乙1発明に基づき新規性を欠如するか(争点2)について(被告らの主張)ア本件発明1について乙1文献には、「エルデカルシトールを含んでなる骨粗鬆症治療薬とし て骨折を抑制するための医薬組成物」が開示されている。 本件発明1が「エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部骨折を抑制するための医薬組成物」であるのに対し、乙1発明では、「非外傷性である前腕部骨折 るための医薬組成物」が開示されている。 本件発明1が「エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部骨折を抑制するための医薬組成物」であるのに対し、乙1発明では、「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」医薬組成物であることは、直接的かつ明示的には示されていない。しかし、本件優先日当時の技術常識 として、①骨粗鬆症が全身的な骨疾患であり、前腕部が、椎体、大腿骨近位部とともに、骨粗鬆症で骨折を起こしやすい主な部位であることが知られていた。また、②骨粗鬆症治療薬であるエルデカルシトールには、骨吸収を抑制し、かつ骨形成を促進する作用機序があることが知られていて、かかる作用機序は、前腕部の骨折抑制にも当然に妥当すると理解されてい た。 したがって、骨粗鬆症患者に対する骨粗鬆症治療において、前腕部は、椎体及び大腿骨近位部とともに、当然に、骨折抑制の対象部位とされていたものであり、骨粗鬆症治療薬であるエルデカルシトールについて、これが「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」医薬組成物となること は、骨粗鬆症治療薬として、当然に予定されていたものでしかない。 よって、乙1文献に、「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」医薬組成物であることが直接的かつ明示的には示されていないことは、本件発明1と乙1発明の相違点にはならず、本件発明1は、乙1発明に対し、新規性が欠如したものである。 原告は、一般に、公知の用途をさらに限定することにより新規性が認め られると解すべきであると主張するが、エルデカルシトールについて、「非外傷性である前腕部骨折を抑制するため」という用途は、骨粗鬆症治療薬に内在する用途として、当然に予定されていたものにすぎない。 しかも、①前腕部は、幅広い年齢層の骨粗鬆症患者にお ールについて、「非外傷性である前腕部骨折を抑制するため」という用途は、骨粗鬆症治療薬に内在する用途として、当然に予定されていたものにすぎない。 しかも、①前腕部は、幅広い年齢層の骨粗鬆症患者において、椎体、大腿骨近位部とともに、骨折を起こしやすい主な部位であり、②エルデカル シトールの作用機序は当然に前腕部の骨折抑制に妥当するものであり、さらに、③骨粗鬆症患者において、前腕部骨折は、転倒により生ずる可能性が高く、活性型ビタミンD3製剤(エルデカルシトールは活性型ビタミンD3製剤の一つである。)には転倒防止効果があることが本件優先日時点において技術常識であった。 それ故、エルデカルシトールによる骨粗鬆症治療において、前腕部骨折の抑制は、同治療に内在する用途として含まれているだけでなく、骨粗鬆症全般の治療の用途のなかで当然に企図されてきたものである。また、骨粗鬆症全般の治療という用途と前腕部骨折抑制という用途とを客観的に区別することは困難である。 それにもかかわらず、骨粗鬆症治療の用途から、前腕部骨折抑制という独立した用途を立てて、これに排他的独占権を付与することが認められてしまうと、パブリックドメインである骨粗鬆症全般の治療の用途でのエルデカルシトールの利用が不当に制限されることになる。 公知の用途をさらに特定した用途発明について新規性が認められる場合 があり得るとしても、新規性が認められるためには、例えば、特定の患者 群に限って特異な生理学的又は病理学的な状態が顕れる等により、当該用途と、既存の公知な用途とを客観的に区別することができて、これが新たな独立した用途として認められることが必要である。このような客観的な区別が困難なものにまで保護を拡張すると、公知技術の利用であるにもかかわら の公知な用途とを客観的に区別することができて、これが新たな独立した用途として認められることが必要である。このような客観的な区別が困難なものにまで保護を拡張すると、公知技術の利用であるにもかかわらず、常に、当該用途発明の特許に対する抵触の危険が内在すること になってしまい、公知技術の自由な利用を不当に制限することになる。 本件発明について、骨粗鬆症の発症機序やエルデカルシトールの作用機序に照らしてみても、前腕部骨折の発生及び前腕部骨折の抑制について、他の部位には見られないような特別な発症機序や作用機序がみられるというものではない。 したがって、骨粗鬆症治療薬について、骨粗鬆症全般の治療の用途とは別個に、前腕部骨折抑制という独立した用途を観念することはできない。 また、骨粗鬆症治療薬について原告が主張するところの前腕部骨折抑制という用途を観念することが一応できたとしても、骨粗鬆症全般の治療の用途と前腕部骨折抑制の用途とを客観的に区別することは困難であり、それ は、骨粗鬆症全般の治療の一環として、前腕部骨折抑制も目的に含まれるといったものでしかない。 なお、原告は、65歳未満の患者群及びⅠ型骨粗鬆症患者群が、前腕部骨折の治療が特に必要な患者群である旨主張するがそのような事実はない。 原告は、前腕部骨折のリスクが高い患者には、前腕部骨折の抑制が特に求 められると主張するが、他の部位にも骨折の抑制が同様に求められる。 イ本件発明2について本件発明2は、本件発明1に対し、投与される対象を原発性骨粗鬆症患者に限定したものであるところ、本件発明1は、骨粗鬆症治療薬である乙1発明に対し、新規性が欠如した発明であるから、投与される対象を原発性骨粗 鬆症患者に限定した本件発明2も、当然に、新規性が欠如したものである。 るところ、本件発明1は、骨粗鬆症治療薬である乙1発明に対し、新規性が欠如した発明であるから、投与される対象を原発性骨粗 鬆症患者に限定した本件発明2も、当然に、新規性が欠如したものである。 ウ本件発明4について本件発明4は、本件発明1~3に対し、これを0.75μg/日の用量で経口投与される組成物に限定したものであるが、エルデカルシトールを0. 75μg/日の用量で経口投与することは、乙1文献に開示されている。したがって、本件発明4も、乙1発明に基づき新規性が欠如したものである。 (原告の主張)ア本件発明1について本件発明1の医薬組成物は、「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」との特定を有するのに対し、乙1発明の医薬組成物には、そのような特定がないという点が相違する。 本件発明1は、前腕部の骨折を既存薬剤の効果を上回って予防できる医薬組成物を提供することを目的としているところ、乙1文献には、エルデカルシトールを含んでなる前腕部骨折を抑制するための医薬組成物の発明は開示されていない。まして、乙1文献には、エルデカルシトールによる前腕部の骨折抑制という効果がアルファカルシドールの当該効果を上 回っていることまでは、具体的に記載されていない。 被告らは、乙1文献記載のエルデカルシトールが、骨密度を増加させて骨強度を増加させることで、骨折抑制するための医薬組成物となることが技術常識であったことを前提に、乙1発明が「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」医薬組成物に関する発明であると主張する。しかし、 骨密度が増加することと、それによって骨折が抑制されるか否かは別の問題である。「骨粗鬆症用薬の臨床評価方法に関するガイドライン」(「臨床評価方法ガイドライン」)(平成 と主張する。しかし、 骨密度が増加することと、それによって骨折が抑制されるか否かは別の問題である。「骨粗鬆症用薬の臨床評価方法に関するガイドライン」(「臨床評価方法ガイドライン」)(平成29年7月7日薬審発0707第1号厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知(「本件厚労省通知」)には、「骨量の減少を抑制するまたは骨量を増加させる作用が示されたとし ても、必ずしもそれらが骨の強度を高め、骨折の防止に結び付くわけでは ない。従って、骨折抑制効果については、骨量に対する効果とは別に有効性を示すことが必要である。」と記載されている。実際、骨粗鬆症薬であるリゼドロネートに関して、非推体骨折発生率とBMD(骨密度)が相関しなかったことが知られている。 一般に、公知の用途を更に限定することにより新規性が認められると解 される。物質Xを有効成分とする組成物が疾患Aの治療又は予防に有用であることが公知であったとしても、疾患A及びその患者群aは、様々なサブグループに区分されることがあり、異なる機序により同じ症状が生ずることもあり、同じ症状であっても、体の異なる部位に生ずることもある。 そして、特定のサブグループの疾患Ai又はその患者群aiについて、当該 医薬組成物が特に優れていることが見出されることもある。その場合、新たに見出された属性に応じ、用途を更に特定することにより、新規性及び進歩性が肯定される。 本件において、仮に、エルデカルシトールを有効成分とする骨粗鬆症を治療するための医薬組成物の発明が公知であり、骨粗鬆症の症状が前腕部 以外の部位に生じ、エルデカルシトールを含有する医薬品組成物を骨粗鬆症全般の治療又は予防のために投与することが知られていたとしても、本件優先日時点において、エルデカ 、骨粗鬆症の症状が前腕部 以外の部位に生じ、エルデカルシトールを含有する医薬品組成物を骨粗鬆症全般の治療又は予防のために投与することが知られていたとしても、本件優先日時点において、エルデカルシトールを含有する医薬品組成物を前腕部骨折の抑制のために投与することは、知られていなかった。骨粗鬆症の患者は、同じ箇所にて繰り返し骨折が生じやすい。前腕部骨折のリスク が高い患者には、前腕部骨折の抑制が特に求められる。したがって、本件発明の用途と、骨粗鬆症全般の治療という従来技術の用途とは区別される。 実際、少なくとも65歳未満の患者群及びI 型骨粗鬆症患者群への投与において、前腕部骨折の抑制が特に意識されている。よって、前腕部骨折抑制の用途は、骨粗鬆症全般の治療の用途とは客観的に区別されている。本 件発明1の対象を前腕部骨折の抑制に限定することにより新規性が生ず る。 骨粗鬆症では、体の各部位において骨折が生ずるとしても、上記のとおり、患者群によって、どの部位で骨折が生じやすいのかには違いがある。 その状況を踏まえ、骨粗鬆症の薬剤については、患者に応じた使い分けが進んでおり、各患者がその状態に適した治療が受けられるようになってい る。各患者に適切な治療を提供するためには、特定の部位の骨折抑制を特に抑制するという知見は有用であり、特許により保護されるべきである。 イ前記アと同様の理由により、本件発明2、4についても新規性が認められる。 本件発明1、2、4は、乙1発明に基づき進歩性が欠如するか(争点3)に ついて(被告らの主張)ア仮に、本件発明1について、本件発明1の医薬組成物は「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」との特定を有するのに対し、乙1発明の医薬組成物にはそのような特定がない いて(被告らの主張)ア仮に、本件発明1について、本件発明1の医薬組成物は「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」との特定を有するのに対し、乙1発明の医薬組成物にはそのような特定がないという点が相違点になるとしても、次の事 項が技術常識であったことに照らせば、本件発明1は容易に想到することができた。 前腕部が、椎体、大腿骨近位部とともに、全身的な骨疾患である骨粗鬆症において骨折を起こしやすい部位であり、骨粗鬆症治療において当然に骨折抑制の対象部位とされていたこと。 本件優先日当時、骨粗鬆症の発症機序については、骨吸収(骨の破壊)と骨形成(骨の構築)のバランスが崩れ、相対的に骨吸収が優位になることが原因と考えられていて、エルデカルシトールは「骨吸収を抑制し、かつ骨形成を促進する作用機序」を有することが知られており、その作用機序は、前腕部にも当然に妥当すること。 骨粗鬆症患者において、前腕部骨折は転倒により生ずる可能性が高いと ころ、天然型および活性型ビタミンD3(これにエルデカルシトールも含まれる)には転倒防止効果があることが知られていたこと。 エルデカルシトールについては、従前の活性型ビタミンD3製剤に比べて骨に対する作用が高いことが知られており、アルファカルシドールと比して椎体骨折抑制効果が高い薬剤であることが知られていたこと。 イ原告は本件発明1について顕著な効果があると主張するが、エルデカルシトールについては、本件優先日当時、既に、椎体について優れた骨折抑制効果が確認されていて、その効果は前腕部にも及ぶものと合理的に理解されたものであるから、エルデカルシトールの前腕部骨折の抑制効果は、当業者の予測の範囲を超えるようなものではない。 また、原告が顕著な されていて、その効果は前腕部にも及ぶものと合理的に理解されたものであるから、エルデカルシトールの前腕部骨折の抑制効果は、当業者の予測の範囲を超えるようなものではない。 また、原告が顕著な効果がある根拠として提示する本件明細書の実施例1の臨床試験(以下「本件試験」という。)は、事前に前腕部骨折の発生率を評価項目として定めて実施されたものではなかった。本件試験の実施時には、前腕部骨折の発生率を評価することは想定されておらず、本件試験の実施後に、事後的に、椎体以外の部位別に骨折発生率を解析して、結果の中から、 前腕部骨折のみを取り上げたものである。このような事後解析については、統計学上、検定の多重性や検出力の低下の問題があるため、結果の再現性が乏しく、客観的な評価とは認められない。 さらに、本件明細書では、椎体骨折と前腕部骨折それぞれのハザード比を対比することにより、本件発明に顕著な効果があるとしているが、ハザード は、ある時点まで当該部位を骨折していなかった者が、その時点において当該部位を骨折する確率(当該部位についての瞬間骨折確率)であり、ハザード比は、2群のハザードの比である(【0061】)。このようなハザード比の比較(ある時点における瞬間骨折確率の比の対比)は、そもそも、どの程度の差があれば効果の顕著性が認められるのかということ自体が不明であ る。 また、ハザード比は、比例ハザード性の仮定(ハザード比が時間によっ て変わらないという仮定)が成立することを前提とするものであるが、本件明細書のハザード比の算定は、その前提を欠いている。さらに、ハザード比の数値を適切に解釈するためには、比の算定において基礎となる参照値、すなわち、対照群のハザードをみる必要がある。ところが、実施例1では、アルファ 比の算定は、その前提を欠いている。さらに、ハザード比の数値を適切に解釈するためには、比の算定において基礎となる参照値、すなわち、対照群のハザードをみる必要がある。ところが、実施例1では、アルファカルシドール投与群(対照群)のハザードが不明なまま、単に、ハザ ード比のみを対比して、効果の顕著性を導いているのであって、このような評価には客観性は認められない。その上、本件明細書に記載されたハザード比の比較は、①各部位について、アルファカルシドールとエルデカルシトールとの間で相対的な評価を行った上で、②さらに、椎体骨折と前腕部骨折との間で相対的な評価を行ったものであるから(プラセボとの対比でなく、① ②と相対評価を重ねている。)、アルファカルシドールが各部位の骨折発生をどの程度抑制したかをみないと、ハザード比について適切な評価をすることは困難である。ところが、本件明細書の記載では、これをみないまま、単に、ハザード比の数値のみを比較している。このような単なるハザード比の数値の比較から、エルデカルシトールが前腕部の骨折抑制に対し有効である との評価をすることは困難である。また、統計学上、特に症例数が少ない場合には、相対的な指標(ハザード比等)のみで評価すべきではないとされている。本件臨床試験について、椎体、前腕部それぞれにつき、アルファカルシドール投与群に対するエルデカルシトール投与群の骨折発生の絶対リスク減少率(対照群における発症率と治療群における発症率の差)をみると、む しろ、椎体骨折の方が前腕部骨折よりも大きく、ハザード比による評価と結果が逆転している。加えて、本件明細書の記載によれば、前腕部骨折のハザード比と椎体骨折のハザード比とは、その90%信頼区間が一部重複している。したがって、前腕部骨折のハザード比と椎体骨 よる評価と結果が逆転している。加えて、本件明細書の記載によれば、前腕部骨折のハザード比と椎体骨折のハザード比とは、その90%信頼区間が一部重複している。したがって、前腕部骨折のハザード比と椎体骨折のハザード比の間には大きな差がない可能性も十分に認められる。以上によれば、前腕部骨折と椎 体骨折のハザード比の差異のみでは、効果の顕著性を導くこと自体が困難で あり、本件発明に顕著な効果を認めることはできない。 ウ本件発明2について、本件発明1は、骨粗鬆症治療薬である乙1発明に対し、進歩性が欠如した発明であるから、投与される対象を原発性骨粗鬆症患者に限定した本件発明2も、当然に、進歩性が欠如したものである。 本件発明4は、本件発明1~3に対し、これを0.75μg/日の用量で 経口投与される組成物に限定したものであるが、エルデカルシトールを0. 75μg/日の用量で経口投与する発明は、乙1文献に開示されており、進歩性が欠如した発明である。 (原告の主張)ア前記アで主張した通り、本件発明1について、本件発明1の医薬組成物 は、「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」との特定を有するのに対し、乙1発明の医薬組成物には、そのような特定がないという点が相違点になる。 イ原告が主張する技術常識アについては、前腕部が骨粗鬆症で骨折を起こしやすい部位の1つであるとしても、他の部位と比較して特に前腕部におい て骨折抑制を実現する動機付けの根拠は見当たらない。 原告が主張する技術常識アについては、先行技術文献に記載されているにすぎない事項であり、技術常識であるとはいえないし、前腕部において骨折を抑制する動機付けを提供するものでもない。 原告が主張する技術常識アについては、活性型ビタミンD3製剤 献に記載されているにすぎない事項であり、技術常識であるとはいえないし、前腕部において骨折を抑制する動機付けを提供するものでもない。 原告が主張する技術常識アについては、活性型ビタミンD3製剤全般の 効果にすぎない。前腕部骨折の抑制には、様々な要素が寄与し得るのだから、被告らの主張する「技術常識」も、前腕部において骨折を抑制する動機付けを提供するものではない。まして、エルデカルシトールが前腕部骨折の抑制においてアルファカルシドールを上回る効果をもたらすことは、被告の主張する「技術常識」から予測できるものではない。 原告が主張する技術常識アは、単に先行技術文献に記載されているにす ぎない事項であり、技術常識であるとはいえないし、前腕部骨折の抑制と関連するものでもない。 ウ本件発明1については、既存の治療薬であるアルファカルシドールとの対比において、前腕部骨折を著しく抑制することができる。この効果は、当業者であっても予測することはできない顕著な効果である。このことは、臨床 試験である国内第Ⅲ相試験(原発性骨粗鬆症患者を対象としアルファカルシドールを対照としたエルデカルシトールの有効性に関する無作為割付二重盲検群間比較試験。本件明細書記載の実施例1)という信頼性の高い試験の結果から明らかである。 本件試験では、前腕部の骨折は、当初からサブグループ解析が予定されて いて、前腕部の骨折が臨床試験のデザインの際に全く無視されていたわけではない。被告らは、事後解析に関する一般的論理や単なる可能性を述べて試験結果を非難しているにすぎず、本件明細書の実施例1の具体的な事情に基づいた主張をしていない。本件試験の解析方法も統計解析上一般的に用いられている手法である。本件明細書の実施例1及び比較例では、前 験結果を非難しているにすぎず、本件明細書の実施例1の具体的な事情に基づいた主張をしていない。本件試験の解析方法も統計解析上一般的に用いられている手法である。本件明細書の実施例1及び比較例では、前腕部骨折の ハザード比が0.29(前腕部骨折危険率は71%減少)であり、椎体骨折のハザード比が0.74(椎体骨折危険率は26%減少)であるのだから、両者の間に大きな差があり、顕著な効果があることは明らかである。アルファカルシドールは、本件優先日当時、骨粗鬆症の治療薬として有効性が認められ、現実に使用されていた医薬品である。また、既存の活性型ビタミンD 3 製剤(アルファカルシドール及びカルシトリオール)には、椎体骨折及び非椎体骨折のいずれについても、骨折の発生を抑制するとの報告があり、アルファカルシドールは適切な比較の対象である。エルデカルシトールは、既存の医薬品であるアルファカルシドールと比較して、前腕部骨折を特に抑制できるのだから、その比較から(つまり、ハザード比により)、エルデカルシ トールが優れた医薬品であることがわかる。 本件訂正4、5によって、本件発明4に係る新規性欠如、進歩性欠如の無効理由が解消されるか(争点4)について(原告の主張)ア本件訂正発明4と乙1発明は、乙1発明では、「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」医薬品との特定がされていないことに加え、①「投与 される対象がI 型骨粗鬆症患者」との特定がされていない点、②「エルデカルシトールが0.75μg/日の用量で経口投与される」との特定がされていない点が相違する。 ①について、仮に、エルデカルシトールの骨粗鬆症患者全般への投与が公知であり、それに際し、一定の確率でI 型骨粗鬆症患者への投与が行われて いたと 」との特定がされていない点が相違する。 ①について、仮に、エルデカルシトールの骨粗鬆症患者全般への投与が公知であり、それに際し、一定の確率でI 型骨粗鬆症患者への投与が行われて いたとしても、Ⅰ型骨粗鬆症患者では、体の各部位の骨折の中でも、前腕部骨折抑制が特に意識されていたことなどから、前記で主張したのと同様の理由により、投与対象をI 型骨粗鬆症患者に特定することにより、新規性が生ずる。 また、進歩性についても、①について、乙1文献には、原発性骨粗鬆症患 者の中から、特にⅠ型骨粗鬆症患者を投与対象とすることについて、記載も示唆もない。本件明細書の実施例1が示すとおり、エルデカルシトールは前腕部骨折の抑制に顕著な効果を奏する。そして、I 型骨粗鬆症患者では、前腕部骨折が生じやすい。その一方、Ⅱ型骨粗鬆症では、前腕部骨折でなく、大腿骨骨折が生じやすい。したがって、エルデカルシトールは、I 型骨粗鬆 症患者において、前腕部骨折を抑制する顕著な効果を奏する。これらによれば、①に係る構成は、当業者が容易に想到し得た事項ではない。 イ本件訂正発明5と乙1発明は、乙1発明では、「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」医薬品との特定がされていないことに加え、①「投与される対象が、非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる原発性骨粗 鬆症患者」である点が特定されていない点、②「エルデカルシトールが0. 75μg/日の用量で経口投与される」との特定がされていない点が相違する。 ①について、前腕部が骨粗鬆症で骨折を起こしやすい部位の1つであるとしても、他の部位と比較して特に前腕部において骨折抑制を実現する動機付けの根拠は見当たらない。しかも、エルデカルシトールは、前腕部骨折の抑 制に予想外か 症で骨折を起こしやすい部位の1つであるとしても、他の部位と比較して特に前腕部において骨折抑制を実現する動機付けの根拠は見当たらない。しかも、エルデカルシトールは、前腕部骨折の抑 制に予想外かつ顕著な効果を奏する(本件明細書の実施例1)ため、進歩性が認められる。 (被告らの主張)ア本件訂正発明4について乙1発明では、後期第Ⅱ相試験の投与対象が原発性骨粗鬆症患者であり、 Ⅰ型骨粗鬆症患者(閉経後骨粗鬆症患者、段落【0023】)は、原発性骨粗鬆症患者の典型例であるから、これは、乙1発明が投与対象として含むことを当然に予定していたものであり、投与対象がⅠ型骨粗鬆症患者であることは、本件訂正発明4と乙1発明との間で実質的な相違点となるものではない。 また、本件明細書に記載された発明は、原告が主張するⅠ型骨粗鬆症患者 及びⅡ型骨粗鬆症の区別なく、エルデカルシトールを投与し、原告が主張するところの前腕部骨折抑制効果を確認したというものであり、「Ⅰ型骨粗鬆症患者に限って、特別な前腕部骨折抑制効果がみられる」といった発明ではない。したがって、本件訂正発明4は、対象患者をⅠ型骨粗鬆症患者に限定することによって、技術的特徴点が認められるような発明ではない。 原告は、Ⅰ型骨粗鬆症患者では、体の各部位の骨折の中でも、前腕部骨折抑制が特に意識されている旨主張するが「Ⅰ型骨粗鬆症患者」における主たる骨折部位は、脊椎骨(椎骨)及び前腕部(橈骨遠位端)である。したがって、仮に、「Ⅰ型骨粗鬆症」及び「Ⅱ型骨粗鬆症」という分類が本件優先日当時に存していたとしても、Ⅰ型骨粗鬆症の患者に対する骨粗鬆症治療におい て、前腕部骨折の抑制のみが特に重要とされていたといった事情はなく、椎 体骨折の抑制も重要とされていた。 仮 に存していたとしても、Ⅰ型骨粗鬆症の患者に対する骨粗鬆症治療におい て、前腕部骨折の抑制のみが特に重要とされていたといった事情はなく、椎 体骨折の抑制も重要とされていた。 仮に、Ⅰ型骨粗鬆症患者に限定したことが相違点になるとしても、本件訂正発明4について、乙1発明では、後期第Ⅱ相試験の投与対象が原発性骨粗鬆症患者であり、Ⅰ型骨粗鬆症患者(閉経後骨粗鬆症患者、段落【0023】)は、原発性骨粗鬆症患者の典型例であるから、これは、乙1発明が投与対象 として含むことを当然に予定していたものである。したがって、乙1発明に接した当業者において、乙1発明をⅠ型骨粗鬆症患者に適用する動機付けが十分に認められる。 また、本件優先日前には、51歳以後の骨粗鬆症患者において、主たる骨折部位として椎体及び前腕部の骨折リスクが高く、その発生の抑制が重要で あり、また、骨折の予防及びQOLの維持において、最初の椎体骨折の予防と進行の阻止が重要であること、転倒が椎体骨折の大きな要因であることが技術常識となっていた。そのなかで、ビタミンD3製剤は、最初の椎体骨折の予防のための骨粗鬆症治療薬の一つとして推奨されていた(エルデカルシトールはビタミンD3製剤の一種である。)。また、骨粗鬆症の早期段階から 骨粗鬆症治療薬の投与を開始すると、当該骨粗鬆症治療薬を長期投与することになり、その安全性が問題となるが、エルデカルシトールは、長期間安全に使用可能な骨粗鬆症治療薬として期待されていた。したがって、エルデカルシトールをⅠ型骨粗鬆症患者、あるいは、65歳未満の骨粗鬆症患者に投与することは、本件優先日前において、当業者が当然に想到し、当然に予定 されていたことでしかない。 さらに、大半が65歳未満であるⅠ型骨粗鬆症患者は、本件明細 は、65歳未満の骨粗鬆症患者に投与することは、本件優先日前において、当業者が当然に想到し、当然に予定 されていたことでしかない。 さらに、大半が65歳未満であるⅠ型骨粗鬆症患者は、本件明細書の実施例1と患者年齢層を異にする(エルデカルシトール投与群:72.2±6. 6歳、アルファカルシドール投与群:72.1±6.6歳)から、本件明細書には、Ⅰ型骨粗鬆症患者についての試験結果が示されておらず、Ⅰ型骨粗 鬆症患者について、本件明細書の実施例1と同様の効果がみられるか否かは 不明である。 したがって、Ⅰ型骨粗鬆症患者について、前腕部骨折を抑制するという効果に顕著性を認める根拠はなく、本件訂正発明4の前腕部骨折抑制効果に顕著性を認めることができない。よって、本件訂正発明4に訂正することをもって本件発明4に係る新規性欠如、新補性欠如の無効理由は解消されない。 イ本件訂正発明5について前腕部骨折は、骨粗鬆症患者が骨折を発生しやすい主な部位の一つであるから、当然に、「非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる」のであって、そのような限定を付したところで、これは、乙1発明との実質的な相違点となるものではない。よって、本件訂正発明5に訂正したことをもって本 件発明4に係る新規性欠如、新補性欠如の無効理由は解消しない。 本件訂正発明4はサポート要件に違反するか(争点5)について(被告らの主張)原告は、エルデカルシトールの前腕部骨折抑制について顕著な効果が認められる旨主張するとともに、Ⅰ型骨粗鬆症患者の大半が65歳未満である旨主張 する。しかし、本件明細書の実施例1の試験では、エルデカルシトール投与群及びアルファカルシドール投与群(対照群)の患者背景(年齢)が、エルデカルシトール投与群:72. 65歳未満である旨主張 する。しかし、本件明細書の実施例1の試験では、エルデカルシトール投与群及びアルファカルシドール投与群(対照群)の患者背景(年齢)が、エルデカルシトール投与群:72.2±6.6歳、アルファカルシドール投与群:72. 1±6.6歳であり、大半の患者が65歳以上であると理解される(【表1】)。 そうすると、原告がⅠ型骨粗鬆症患者の大半が65歳未満であると主張する ことを踏まえると、Ⅰ型骨粗鬆症患者は、本件明細書の実施例1と患者の年齢層を異にするから、本件明細書には、Ⅰ型骨粗鬆症患者についての試験結果が示されておらず、Ⅰ型骨粗鬆症患者について、本件明細書の実施例1と同様の効果がみられるか否かは不明である。 したがって、本件明細書には、本件訂正発明4について、Ⅰ型骨粗鬆症患者 に対する前腕部骨折抑制効果を認識することができるだけの記載がない。 よって、本件訂正発明4は、サポート要件に違反する。 (原告の主張)エルデカルシトールは前腕部骨折の抑制に顕著な効果を奏する(本件明細書の実施例1参照)。そして、I 型骨粗鬆症患者では、前腕部骨折が生じやすい。 そのため、エルデカルシトールは、I 型骨粗鬆症患者において、前腕部骨折を 抑制する効果を奏する。 したがって、本件訂正発明4について、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 被告製品の投与される対象がI 型骨粗鬆症患者である(構成要件4E)といえるか(争点6)について (原告の主張)Ⅰ型骨粗鬆症の患者群では、前腕部骨折のリスクが高く、その予防が求められていることから、I 型骨粗鬆症の患者群は前腕部骨折の抑制が必要な患者群と概ね一致する。 そのため、被告製品は、I 型骨粗鬆症患者に対して用いられており、「 部骨折のリスクが高く、その予防が求められていることから、I 型骨粗鬆症の患者群は前腕部骨折の抑制が必要な患者群と概ね一致する。 そのため、被告製品は、I 型骨粗鬆症患者に対して用いられており、「投与さ れる対象がI 型骨粗鬆症患者であり」(構成要件4E)を充足する。Ⅰ型骨粗鬆症及びⅡ型骨粗鬆症は、その原因及び機序はともかく、骨の減少の仕方において区別できる。 (被告らの主張)「Ⅰ型骨粗鬆症」及び「Ⅱ型骨粗鬆症」は、過去に提案されていた骨粗鬆症 の分類の一つにすぎず、現在では使用されていない。また、「Ⅰ型骨粗鬆症」と「Ⅱ型骨粗鬆症」とは明確に区別することができず、臨床の現場において、この分類のとおりに病型を分けて診断することはできない。したがって、被告製品が「Ⅰ型骨粗鬆症患者」に投与されることは、具体的に観念することができず、この意味において、被告製品は、本件訂正発明4の技術的範囲に属するも のではない。 また、骨折部位について、「Ⅰ型骨粗鬆症」の主たる骨折部位は、脊椎骨及び橈骨遠位端であり、前腕部骨折の抑制のみが特に重要とされているわけではない。仮に被告製品が「Ⅰ型骨粗鬆症」に対し投与される場合であっても、これは、前腕部の骨折抑制のみを特に目的としたものではなく、椎体の骨折予防をはじめ骨粗鬆症全般の治療として投与されるのであって、骨粗鬆症全般の治療 の用途と区別された「前腕部骨折の抑制なる独立した用途」のために投与されるものではない。よって、被告製品は、本件訂正発明4の技術的範囲に属するものではない。 被告製品が投与される対象が非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる原発性骨粗鬆症患者である(構成要件5C)といえるか(争点7)につい て(原告の主張)閉経後から65歳 ない。 被告製品が投与される対象が非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる原発性骨粗鬆症患者である(構成要件5C)といえるか(争点7)につい て(原告の主張)閉経後から65歳未満の原発性骨粗鬆症患者では、非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる。そして、被告製品は、原告製品と同様に、前腕部骨折の抑制の必要性を踏まえ、閉経後から65歳未満の原発性骨粗鬆症患者にも 投与されている。 したがって、被告製品は、非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる原発性骨粗鬆症患者に投与されているので、構成要件5Cを充足する。 (被告らの主張)争う。 被告製品の用途が公知の技術であるといえるか(争点8)について(被告らの主張)本件の出願日において、エルデカルシトールを有効成分とする骨粗鬆症治療薬は公知技術であった。被告製品は、エルデカルシトールを有効成分とする骨粗鬆症薬であるから、公知技術でしかない。 仮に処方の現場において、一部の患者について前腕部骨折の抑制をも考慮し てエルデカルシトールが選択されることがあったとしても、これは、あくまで医師の裁量に基づくものであって、自由技術の範疇において処方されるにすぎない。 (原告の主張)エルデカルシトールを有効成分とする骨粗鬆症治療薬が公知であったとし ても、用途を限定することによって、新規性、進歩性が肯定されて特許が成立する。被告らは、骨粗鬆症の治療又は予防全般だけでなく、前腕部骨折の抑制の用途についても被告製品を製造販売しているのであるから、単なる自由技術の実施とは異なる。 医師は、閉経後から65歳以上の患者に類型的にみられる危険因子や病態を 踏まえ、特に当該年齢層では前腕部骨折の抑制を主要な目的 造販売しているのであるから、単なる自由技術の実施とは異なる。 医師は、閉経後から65歳以上の患者に類型的にみられる危険因子や病態を 踏まえ、特に当該年齢層では前腕部骨折の抑制を主要な目的として原告製品を投与しており、この用途は自由技術ではなく本件特許権の対象である。被告製品も原告製品と同じ用途で使用されるから、自由技術の抗弁は成立しない。 差止めの必要性(争点9)について(原告の主張) 被告らは、本件につき過剰差止めであると主張するが、仮に被告製品に適法な用途と侵害用途が存在するのであれば、侵害用途での使用がされないように被告らにおいて、被告らの責任と判断において、適切な措置を講じるべきである。にもかかわらず、被告らは漫然と過剰差止めであると主張するにとどまり、何らの手段も講じていないのであるから、請求の趣旨記載の全部について差止 めの必要がある。 (被告らの主張)被告製品が本件発明の技術的範囲に属し、本件特許権に対する侵害が成立するとしても、被告製品は、骨粗鬆症治療薬として、骨粗鬆症全般の治療という適法な用途を有している。 仮に、65歳未満の骨粗鬆症患者について、前腕部骨折抑制という用途が存 在し、その用途のために被告製品が選択される場合があったとしても、これは、骨粗鬆症患者全体のうちごく一部を占める65歳未満の骨粗鬆症患者のうち、さらにその一部に対する投与でしかない。 したがって、被告製品に対する販売等の差止請求は、いわゆる過剰差止めに当たり、認められるものではない。 第3 当裁判所の判断 1 本件明細書について本件明細書の記載(甲4)【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】本発明は、エルデカルシトール(ED-71)を含んでな 第3 当裁判所の判断 1 本件明細書について本件明細書の記載(甲4)【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】本発明は、エルデカルシトール(ED-71)を含んでなる、前腕部骨折を抑制するための医薬組成物、有効量のエルデカルシトールを投与することを含んでなる前腕部骨折の抑制方法、および該医薬組成物の製造におけるエルデカルシトールの使用に関する。 【背景技術】【0002】高齢者の骨折は、「高齢になると骨がもろくなるために自然で避けがたいもの」とされているが、高齢者の生命予後にも間接に影響するのみならず、生存期間中の自立を低下させ、QOL(生活の質)を直接に悪化させるため、その抑制もし くは予防が望まれている。特に高齢者の増加と平均寿命の延長が顕著となって高齢者の骨折増加が著しく多くなるに従い、それは強く求められている。 【0003】高齢者がほとんどまたは全くの外傷なしに骨折する(脆弱性骨折)基礎疾患のひとつとして骨粗鬆症がある。骨粗鬆症は、骨強度の低下により、骨折のリスク が増大しやすくなる骨格疾患である。わが国の骨粗鬆症患者は2002年時点で 約1100万人と推計されており、80%以上が女性である。今後、人口の高齢化率が急激に高まることから、骨粗鬆症患者数は急激に増加すると推測されている。 【0004】骨粗鬆症では、骨の脆弱化により、主に脊椎(椎体)、大腿骨近位部、前腕部が 骨折しやすく、特に、大腿部及び前腕部骨折は、交通事故などの高度な外力はもとより、一般的な日常生活で起こる転倒などによる軽微な外力によって起こる。 【0005】これら骨折の発生頻度は、大腿骨頸部は155人/10万人、前腕部はそれを上回る196人/10万人程度で とより、一般的な日常生活で起こる転倒などによる軽微な外力によって起こる。 【0005】これら骨折の発生頻度は、大腿骨頸部は155人/10万人、前腕部はそれを上回る196人/10万人程度である。さらに、本邦の女性における前腕部骨折 の場合、50歳から急激に増加し、55歳以降は年間300~400人/10万人となり、80歳以降からさらに増加する傾向にある。 【0006】前腕部骨折の予後に関しては生命予後に影響は少ないとされているものの、大腿骨頸部骨折と同等以上の骨折発生数と、骨折期間中の著しいADL (Activitiesofdailyliving;日常生活動作)及びQOL(Qualityoflife;生活の質)の低下からみて、その骨折を予防することは極めて重要である。 【0007】一方、2006年骨粗鬆症の予防と治療GL作成委員会編のガイドラインによれば、本邦における骨粗鬆症の治療に際しては、カルシウム製剤、女性ホルモン 製剤、活性型ビタミンD製剤、ビタミンK製剤、ビスホスホネート製剤、SERM製剤、カルトシトニン製剤、イソフラボン製剤、蛋白同化ホルモン製剤等が主に使用されている。海外における治療ではそれらに加え、PTH及びそのアナログ、RANKL阻害剤、ストロンチウム製剤などが使われている。 【0008】 これら現行治療剤のうち、現在最も高い頻度で使用されているのがビスホスホ ネート製剤である。ビスホスホネートのひとつであるアレンドロネートは、10mg/日による継続的な治療で閉経後の骨粗鬆症患者の椎骨の骨折の危険性を減少し、BMDを増加させる。また、近年、非椎体骨折のリスクの減少や、大腿骨頚部骨折後における二次骨折の予防または低減化の効果も報告されている(特 的な治療で閉経後の骨粗鬆症患者の椎骨の骨折の危険性を減少し、BMDを増加させる。また、近年、非椎体骨折のリスクの減少や、大腿骨頚部骨折後における二次骨折の予防または低減化の効果も報告されている(特許文献1、特許文献2)。 【0009】しかしながら、ビスホスホネートは、骨粗鬆症の治療薬としてBMDを上昇させるものの、同時に、微小な骨損傷の蓄積など、骨質の低下をもたらす可能性が示唆されている。さらに、アレンドロネートでは厳しい服用規則や副作用のために患者のコンプライアンスが悪いという報告がある。一般に、ビスホスホネート は、食事中のカルシウムとのキレート形成によりその吸収が阻害されるため、空腹時に服用すべきことや、食道炎や食道潰瘍予防のために立位あるいは坐位で十分量の水とともに服用し服用後30分以上は横たわらないこと等の厳しい服薬規制がなされている。現在、それら規制が少なくなる新たなビスホスホネート剤が開発されてはいるものの、近年、ビスホスホネート服用時に歯科処置の際の顎 骨壊死の問題がクローズアップされ、その外、骨関節痛などの筋骨格系副作用も報告されており、安全上の問題がある。 【0010】そのほかの骨粗鬆症治療薬に関しても、SERM製剤の有効成分である塩酸ラロキシフェンでは静脈血栓塞栓症の発作や梗塞といった血管運動症状リスクの 増加、PTHでは動物での骨肉腫発生リスク増加の報告等、それぞれに重篤な安全上の問題を有している。さらに、PTH及びRANKL阻害剤は皮下あるいは静脈内注射剤であり、長期投与に不向きであるなどのコンプライアンス上の問題もある。 【0011】 一方、ビスホスホネートのほかに、非椎体骨折予防の効果が認められている薬 剤としてビタミンD化合物があり 向きであるなどのコンプライアンス上の問題もある。 【0011】 一方、ビスホスホネートのほかに、非椎体骨折予防の効果が認められている薬 剤としてビタミンD化合物があり、カルシトリオールとアルファカルシドールはそれぞれ非椎体骨折に対して有意な抑制効果を示すことがメタアナリシスにより報告されている(非特許文献1)。ビタミンD化合物は、他の同効薬に見られるコンプライアンス低下や重篤な副作用等の問題がない点で、長期の服用が必要とされる骨粗鬆症治療剤のような薬剤として非常に優れていると言える。 【0012】そうしたビタミンD化合物の一種であるエルデカルシトールは、1985年に物質発明が出願されて以来、数多くの特許・非特許文献の報告があり、そのひとつにエルデカルシトールを有効成分として含有する「骨癒合促進剤」に関する特許第3789956号(特許文献3)がある。ここに言う骨癒合促進とは、骨延 長、骨切り、骨折、骨移植などの後に必要な骨の再接合を伴う骨修復過程を促進するものであるから、そうした再接合を伴わないところの骨折の抑制又は予防とは異なる。また、「新規ビタミンD3誘導体を有効成分とする医薬」に関する特許第1974453号(特許文献4)は、エルデカルシトールを有効成分として含有するビタミンD代謝異常を伴う疾患の治療剤を開示する。その疾患に骨粗鬆症 が含まれる。 【0013】前腕部は、人が転倒する際に最初に地面や床に接触して体重負荷を最も大きく受ける部位であるから、高齢者や骨粗鬆症患者など骨がもろくなっている人は転倒により骨折し易いところ、それが骨折せずに転倒による体重負荷を充分に受け 止めることができれば、前腕部のみならず、転倒による体全体の損傷を最小限にすることができる。 もろくなっている人は転倒により骨折し易いところ、それが骨折せずに転倒による体重負荷を充分に受け 止めることができれば、前腕部のみならず、転倒による体全体の損傷を最小限にすることができる。 【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0016】 従って、本発明は、前腕部の骨折を既存薬剤の効果を上回って予防できる医薬 組成物を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】【0017】本発明は、エルデカルシトールを含んでなる、前腕部骨折を抑制するための医薬組成物または前腕部骨折抑制剤を提供する。好ましくは、本医薬組成物は、原 発性骨粗鬆症患者に投与され、更に好ましくは、大腿骨骨密度が若年者平均骨密度(YoungAdultMean、 YAM)の80%未満、好ましくは70%未満、より好ましくは60%未満のヒトに投与される。好ましくは、原発性骨粗鬆症患者に、エルデカルシトールが0.75μg/日の用量で経口投与される。 【0018】 上記のように、骨折の抑制又は予防は、骨の再接合を伴わない点で骨癒合促進とは異なるから、エルデカルシトールで前腕部骨折を抑制する用途は、本発明者らが初めて見出したものである。また、上記の、エルデカルシトールを骨粗鬆症の治療剤とすることは、前腕部という特定部分の骨折抑制の用途を示唆するものではないから、エルデカルシトールで前腕部骨折を抑制する用途は、やはり本発 明者らが初めて見出したものである。 【発明の効果】【0019】本発明により、従来から使用されている医薬品に比べ大きく前腕部骨折を抑制できる。本発明における前腕部骨折抑制効果は、同種同効薬であるアルファカル シドールより有意に上回り、当業者の常識から予想され 明により、従来から使用されている医薬品に比べ大きく前腕部骨折を抑制できる。本発明における前腕部骨折抑制効果は、同種同効薬であるアルファカル シドールより有意に上回り、当業者の常識から予想されるレベルをはるかに超えるものである。 【図面の簡単な説明】【0020】【図1】図1は、カプラン-マイヤー(Kaplan-Meier)法によるエルデカルシト ール/アルファカルシドール投与時の非外傷性前腕部骨折発生頻度の経時的推 移を示す。 【発明を実施するための形態】【0021】本明細書および請求の範囲全体に渡り、以下の定義が適用される。 エルデカルシトール(eldecalcitol)とは、開発コード「ED-71」の化合 物であり、化学名:(1R、2R、3R、5Z、7E)-2-(3-ヒドロキシプロピルオキシ)-9,10-セココレスタ-5,7,10(19)-トリエン-1、3、25-トリオールを有する化合物である。 【0022】前腕部は、橈骨と尺骨からなる。 骨折を抑制するための医薬組成物は、骨折を予防することができるので、骨折を予防するための医薬組成物とも言うことができる。抑制あるいは予防は、骨粗鬆症に罹患していない者あるいは骨粗鬆症患者のいずれにおいても、新たな骨折が発生しないことを意味する。 【0023】 骨粗鬆症は、原発性骨粗鬆症と続発性骨粗鬆症に分類される。原発性骨粗鬆症は、更に、特発性骨粗鬆症、I型骨粗鬆症、及びII型骨粗鬆症を含む。 特発性骨粗鬆症は、小児や正常の性腺機能のある男女の青年に起こり、I型骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症)は、51~75歳の間に発生し、女性は男性の6倍ほどかかりやすいが、性腺摘除後または血清中のテストステロン濃度の低い男性に 児や正常の性腺機能のある男女の青年に起こり、I型骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症)は、51~75歳の間に発生し、女性は男性の6倍ほどかかりやすいが、性腺摘除後または血清中のテストステロン濃度の低い男性に も発生する。II型骨粗鬆症(退行性または老人性骨粗鬆症)は、老化の正常な経過などに関連し、一般的に60歳以上の患者に発症する。高齢女性ではI型とII型がしばしば一緒に起こる。 【0024】本発明の医薬組成物の投与対象は、高齢者、好ましくは骨減少症患者および骨 粗鬆症患者、より好ましくは骨粗鬆症患者、さらに好ましくは原発性骨粗鬆症患 者である。 高齢とは、年齢が60以上であることを意味する。 【0025】本発明の医薬組成物が投与されるべき対象の骨密度は、好ましくはYAMの80%より低く、より好ましくはYAMの70%より低く、特に好ましくはYAM の60%より低い。 【0026】骨密度(BMD:BoneMineralDensity)とは、レントゲンや超音波測定により、骨に沈着しているカルシウムが若年成人(骨密度が最大に達する20~44歳)の平均(YoungAdultMean、 YAM)と比べどのくらいあるかを数値化(%) したものである。 【0027】現在の日本の骨粗鬆症の診断基準では、脆弱性骨折がない場合、骨密度がYAMの80%以上なら「正常」、70~80%なら骨がもろくなってきている状態「骨減少症」、そして70%以下なら「骨粗鬆症」で骨が折れやすい状態とされて いる(骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編、代表:折茂肇)。 【0028】また、世界保健機構(WHO:WorldHealthOrganization)の診断基準によれば、骨粗鬆 いる(骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編、代表:折茂肇)。 【0028】また、世界保健機構(WHO:WorldHealthOrganization)の診断基準によれば、骨粗鬆症の重症度は、骨密度及び脆弱性骨折数によって定義される。この基準において、YAMに対して骨密度のTスコアが-1SD以内なら「正常」、骨密 度のTスコアが-1~-2.5SDなら「低骨量(骨量減少)」、骨密度のTスコアが-2.5SD以下なら「骨粗鬆症」、そして、骨密度のTスコアが-2.5SD以下で、かつ1箇所以上の脆弱性骨折を有するなら「重症骨粗鬆症」と定義される。ここで、SDは標準偏差値である。 【0035】 外傷性骨折とは、交通事故などの大きな外力により生じた骨折を示し、非外傷 性骨折とは、転倒などの一般的な日常生活で起こる軽微な外力により生じた骨折を示す。脆弱性骨折とは、低骨量(骨密度がYAMの80%未満、あるいは脊椎X線像で骨粗鬆化がある場合)が原因で、軽微な外力によって発生した非外傷性骨折をいう。 【0036】 骨強度とは、骨密度と骨質の2つの要因からなり、単位体積当たりの骨の量である骨密度は、骨強度のほぼ70%の要素を説明するとされており、残り30%の要素は、微細構造、骨代謝回転、微小骨折、石灰化の要因からなる骨質が説明するとされている。 【0042】 本発明の化合物は、哺乳類、特にヒトの前腕部骨折予防に用いることができる。 投与量および投与間隔は、患者の身長、体重、年齢、性別または医学的症状、治療すべき症状の重篤度、投与経路、患者の腎肝機能、病歴、並びに用いられる特定の化合物又はその塩を含む多様な要素に応じて、医師の判断により適宜選択される。 【0045】 学的症状、治療すべき症状の重篤度、投与経路、患者の腎肝機能、病歴、並びに用いられる特定の化合物又はその塩を含む多様な要素に応じて、医師の判断により適宜選択される。 【0045】有効量とは、少なくとも骨折のリスク率を減少させるのに必要な量であるが、但し毒性量未満のエルデカルシトールの量を意味する。 相当な期間とは、患者の骨密度および骨強度を増大させて骨折しにくくさせるのに十分な長さの時間量を意味する。本発明における相当な期間とは、好ましく は24週以上、より好ましくは48週以上、さらに好ましくは144週以上である。 【0047】本発明の化合物は、前述の本発明の化合物が有効性を示すと考えられる疾患の種々の治療剤又は予防剤と併用あるいは循環使用することができる。併用とは、 2以上の薬剤を同時に服用することと、同服用期間中、時間をずらして服用する ことの両方を含む。循環使用とは、患者が所定の期間、エルデカルシトールの投与を受け、次いで第二期にはエルデカルシトールの投与を休み(追加の骨形成促進剤若しくは骨吸収抑制剤及び/またはホルモン療法を受けても受けなくてもよい)、次いで、エルデカルシトール療法に戻ることである。一般に、骨粗鬆症の病因は多岐にわたるので、ある患者においてどのような病因で、どのような病態 をとっているのかを解析することは困難なことが多い。また、病期も多様であり、骨粗鬆症は未だ多様な状態の患者の集団として一括して取り上げられて治療が行われている。そのため、臨床の場では作用機序の異なる2剤若しくは3剤以上を組み合わせた多剤併用療法あるいは循環使用療法が行なわれることもある。この併用療法あるいは循環使用療法は、作用機序の異なる薬剤の組み合わせによる、 副作用の軽減や 異なる2剤若しくは3剤以上を組み合わせた多剤併用療法あるいは循環使用療法が行なわれることもある。この併用療法あるいは循環使用療法は、作用機序の異なる薬剤の組み合わせによる、 副作用の軽減や骨折抑制作用の増強を目的とする。当該併用あるいは循環使用は、所望の時間間隔をおいてもよい。同時投与製剤は、配合剤であっても別個に製剤化されていてもよい。 【0049】臨床試験データの解析により、有効量のエルデカルシトールを相当な期間、実 質的に毎日投与すると、前腕部骨折のリスクを減少させうることが示された。 以下に示す実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらはいかなる意味においても限定的に解釈されない。 【実施例】【0050】 実施例1原発性骨粗鬆症患者を対象として、エルデカルシトールの有効性を、アルファカルシドールを対照とした無作為割付二重盲検群間比較試験により検討した。 【0051】患者数: エルデカルシトール(ED-71)投与:526人 アルファカルシドール(ALF)投与:523人診断及び包含基準:46~92歳の原発性骨粗鬆症患者用量及び投与:エルデカルシトール(ED-71):0.75μg/日、経口投与アルファカルシドール(ALF):1.0μg/日、経口投与 試験に使用した製剤は、それぞれWO2005/074943、及び特許4070459号に基づいて調製された。 【0052】投与期間:エルデカルシトール(ED-71)、アルファカルシドール(ALF)ともに144週継続投与(後観察4週間) 検討方法:X線撮影により既存椎体骨折個数を測定し、DXA法により大腿部骨密度を エルデカルシトール(ED-71)、アルファカルシドール(ALF)ともに144週継続投与(後観察4週間) 検討方法:X線撮影により既存椎体骨折個数を測定し、DXA法により大腿部骨密度を測定した。患者大腿部骨密度は以下のように計算および表示した。すなわち、大腿部骨密度測定にHologic 社の骨密度測定器であるQDRを用いた場合は、100%YAM値として原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)折茂肇; 林泰史他 :日本骨代謝学会雑誌18(3):76-82、2001 に記載されてい る0.863g/cm2 を使用した。また、Lunar 社の骨密度測定器であるDPXを用いた場合は、その測定器により得られる値を、やはり原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)折茂肇; 林泰史他 :日本骨代謝学会雑誌18(3):76-82、2001 に記載の下記換算式により、QDRを用いた場合の測定近似値へ変換したのち、100%YAM値として0.863g/cm2 を使用した。これらの患 者測定値を0.863g/cm2 を100%として%表示した。以下の表1にYAMに相対させて示した大腿骨骨密度は、QDRまたはDPXのいずれかを使用して得られたものである。 【0053】【数2】 【0054】そして、血液検査によりにより25(OH)D値及びCa摂取量を測定した。 投与開始時から投与終了時に認められた前腕部、椎体部について、骨折時期、骨折原因等のインタビュー聴取、X線撮影、発生頻度計測を行い、統計解析を行った。尚、 発生頻度はカプラン-マイヤー推定による。 【0055】表1は、エルデカルシトール/アルファカルシドールを投与するにあたり、各投与グループの患者背景を示したもの 統計解析を行った。尚、 発生頻度はカプラン-マイヤー推定による。 【0055】表1は、エルデカルシトール/アルファカルシドールを投与するにあたり、各投与グループの患者背景を示したものである。 【0056】 【表1】 【0057】交通事故などの大きな外力により起こった外傷性の骨折を除く、転倒などによる非外傷性の前腕部骨折の3年間の発生頻度は、既存の活性型ビタミンD3製剤であるアルファカルシドール投与群では523例中17例(3.63%)に発生したが、エルデカルシトール投与群では526例中5例(1.07%)であった。 【0058】表2は、エルデカルシトール/アルファカルシドールを投与することによる非外傷性前腕部骨折頻度を層化ログランク検定および層化コックス回帰により比較したものである。 【0059】 【表2】 【0060】層化ログランク検定とは、結果に影響を与えそうな因子(予後因子)の偏りを防ぐため、比較する2群でそのような因子が均等になるように割り付けることであり、 用いた予後因子で層の中で群間差を計算しこれを重みつき平均することで層別調整し、その上でログランク検定を行うことをいう。ログランク検定とは、基本的にはすべての日にわたる相対危険度を平均して、この平均相対危険度(RR)の統計学的に有意かどうかカイ二乗検定を行うものである。 【0061】層化コックス回帰とは、イベントが起こるまでの期間に何らかの別の要因が与える効果を調べたいときに用いる方法であり、それらが基準となる個体のハザードに対して、比例定数の形でかかるとする比例ハザード性を仮定する方法である。ハザードとは、ある時点まで前腕部を骨折していなかった者が、その時点 いときに用いる方法であり、それらが基準となる個体のハザードに対して、比例定数の形でかかるとする比例ハザード性を仮定する方法である。ハザードとは、ある時点まで前腕部を骨折していなかった者が、その時点において前腕 部骨折する確率(瞬間前腕部骨折確率)を表す。ハザード比とは、2群のハザードの比をいう。すなわち、一方を基準にした場合に他方が何倍の前腕部骨折確率であるかを表している。 【0062】層化ログランク検定の結果、アルファカルシドール投与群に対するエルデカルシ トール投与群の明らかな優越性が認められた(ハザード比:0.29、90%信頼区間(confidenceinterval(CI):0.13-0.67、片側p=0.0048)。 すなわち、アルファカルシドール投与群の骨折確率を1とすると、エルデカルシトール投与群のそれは0.29であり、前腕部骨折危険率は71%減少したことが判明した。 【0063】図1は、エルデカルシトール/アルファカルシドールを投与することによる経時的な非外傷性前腕部骨折割合をカプラン-マイヤー(Kaplan-Meier)法により表したものである。この方法は、観察開始よりエンドポイント(前腕部骨折)まで、前腕部骨折発生時点ごとにリスク集合に対する前腕部骨折者数を計算し積算して前 腕部骨折の累積発生率を計算することで、薬剤の効果を解析するものである。ここに、リスク集合とは、前腕部骨折が発生する直前の、その事象が起きていない時の個体数(患者数)を指す。 【0064】図1の経時的な解析によれば、エルデカルシトールの前腕部骨折抑制効果は投与 初期より認められ、144週間に渡り持続したことが判明した。 表3は、図1に示した未骨折患者数と前腕部骨折発生数 解析によれば、エルデカルシトールの前腕部骨折抑制効果は投与 初期より認められ、144週間に渡り持続したことが判明した。 表3は、図1に示した未骨折患者数と前腕部骨折発生数の数値を示したものである。 【0065】【表3】 【0066】表4は、エルデカルシトール/アルファカルシドール投与前大腿部骨密度背景別に患者群をグループ化後の薬剤投与後前腕部骨折発生率を比較したものである。 【0067】【表4】 【0068】表4の薬剤投与前大腿骨骨密度背景別の前腕部骨折発生件数比較によれば、エルデカルシトールの前腕部骨折抑制効果は、大腿骨骨密度が70%より低いグループにおいてアルファカルシドールよりもさらに著しく高いという結果が得られた。す なわち、アルファカルシドール投与群では157例中、7例に前腕骨骨折が見られたのに対し、エルデカルシトール投与群182例では前腕部骨折の発生は全く見られなかった。 【0069】比較例 層化ログランク検定および層化コックス回帰を非外傷性椎体骨折について行った結果、アルファカルシドール投与群に対するエルデカルシトール投与群の椎体骨折発生の危険性は、前腕部骨折発生の危険性ほど低いものではなかった(層化ログランク検定:p=0.046、ハザード比:0.74、90%信頼区間(CI:0. 56-0.97)。すなわち、アルファカルシドール投与群の骨折確率を1とする と、エルデカルシトール投与群のそれは0.74であり、椎体骨折の危険率は26%減少に留まることが判明した。 【図1】 本件発明の意義本件明細書の記載によれば、本件発明は、骨粗鬆症の既存の治療薬であるアルファカルシドール 骨折の危険率は26%減少に留まることが判明した。 【図1】 本件発明の意義本件明細書の記載によれば、本件発明は、骨粗鬆症の既存の治療薬であるアルファカルシドールとの比較において他の部位に比べて前腕部の骨折抑制効果が優れていることに関する発明であるといえる。 2 本件優先日における技術常識骨粗鬆症について ア骨粗鬆症の定義骨粗鬆症は、平成6年の国際骨粗鬆症シンポジウムにおいて、「骨量の低下と、骨の微細構造の劣化を特徴とする疾患であり、そのために骨折の危険が増した状態」と定義され、平成13年に米国立衛生研究所によって、「骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」と定義さ れた。なお、骨強度とは、骨密度70%、骨質30%で説明できるとされ、骨質は主に「材質」と「微細構造」で規定されるとされている。(甲13、乙4、9)イ骨粗鬆症によって生ずる骨折骨粗鬆症の主な臨床症候は、脆弱性骨折(通常は骨折を生じさせないささ いなきっかで生ずる骨折)とこれに続発する機能障害や慢性疼痛とされていた。骨粗鬆症に伴って起きる骨折の部位としては、大腿骨顎部(大腿骨近位部骨折)、椎体(椎体圧迫骨折)、前腕骨遠位部(橈骨遠位端骨折)、肋骨が知られていた。骨折は、骨に加わる力と骨強度のバランスによって生ずるが、骨折に至る外傷の原因としてもっとも重要なのが転倒であり、大腿骨近位部、 橈骨遠位端骨折のほとんどが転倒で生じていた。(乙2、4、10、弁論の全趣旨)ウ骨粗鬆症の原因骨は、成長が完成した後も、破骨細胞による骨の吸収、骨芽細胞による新たな骨の形成によって形や量を一定に保っているが、骨粗鬆症は、骨吸収(骨 の破壊)と骨形成(骨の構築 ウ骨粗鬆症の原因骨は、成長が完成した後も、破骨細胞による骨の吸収、骨芽細胞による新たな骨の形成によって形や量を一定に保っているが、骨粗鬆症は、骨吸収(骨 の破壊)と骨形成(骨の構築)のバランスが崩れ、相対的に骨吸収が優位になって骨量が減少することが原因と考えられていた。(乙4、6、8)エ骨粗鬆症の種類原発性骨粗鬆症は、閉経や加齢が原因で起きる骨粗鬆症である。そのうち、閉経後骨粗鬆症では、エストロゲン欠乏などによって、異常に高まった骨吸 収によって失った骨量を、骨形成によって十分に埋めることができず、急速 な骨密度の減少を招くとともに、骨梁に深い吸収窩が数多くできることで、骨の連結性の低下や断裂から力学的強度が弱まり、脆弱性骨折のリスクが高まると考えられていた。(甲17、乙2)続発性骨粗鬆症は、特定の疾患、病態や薬物が原因で骨強度が低下することによって生ずる骨粗鬆症である。(乙2) なお、昭和58年以降に、女性における退行期骨粗鬆症について、閉経後の最初の15~20年に生じ、皮質骨と比較して海綿骨の過度かつ不均衡な減少を特徴とするI型骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症)と、その後に生ずるⅡ型骨粗鬆症(老人性骨粗鬆症)に分類することが提唱されていたことが認められる。もっとも、本件優先日当時においても、Ⅰ型骨粗鬆症とⅡ型骨粗鬆症 を区別しないで、これらを一括して閉経後骨粗鬆症とする案が提唱されており、本件優先日において、当業者においてⅠ型骨粗鬆症及びⅡ型骨粗鬆症が確立した分類方法であったことを認めるに足りる証拠はない。(甲43、44、乙2)骨粗鬆症の診断、骨粗鬆症薬の評価方法について 骨粗鬆症による骨折の頻度は、骨の量的、質的変化に関係するものではあるが、薬剤の骨折に 認めるに足りる証拠はない。(甲43、44、乙2)骨粗鬆症の診断、骨粗鬆症薬の評価方法について 骨粗鬆症による骨折の頻度は、骨の量的、質的変化に関係するものではあるが、薬剤の骨折に対する効果を直接証明することは容易ではないため、一般的には骨折の代用指標として骨量を測定して評価していた。また、骨量と骨折リスクとの間に関連が見られ、骨量の評価によって骨折リスクを効果的に評価できると考えられ、骨粗鬆症の診断においても、骨折リスクの高い骨量の閾値が 定められるようになった。(乙3)原発性骨粗鬆症の診断は、若年青年の骨密度の平均値(YAM)との比較で行われており、骨密度を測定する部位としては腰椎が用いられ、これを用いることができないときに大腿骨、これも用いることができないときに橈骨などが用いられることとされていた。(乙9、25) 骨粗鬆症の治療薬について アビタミンD及び活性型ビタミンD体内のビタミンDは、肝臓及び腎臓で代謝されて1,25-ジヒドロキシビタミンD(一般に活性型ビタミンDと呼ばれている)になる。活性型ビタミンDは、細胞内の核内にあるビタミンD受容体と結合し作用し、小腸におけるカルシウム(骨の材料になる)の吸収、腎臓の尿細管におけるカルシム 再吸収を促進し、骨においては、直接、骨芽細胞活性を促進することによって骨形成を促進することが知られていた。このような機序を基礎として、カルシトリオール(活性型ビタミンD3(活性型ビタミンDの一種))や、活性型ビタミンDの前駆体である、ビタミンD、アルファカルシドール(1αヒドロキシビタミンD3。肝臓で代謝されて活性型ビタミンD3になる。)が骨 粗鬆症の治療薬として用いられていた。このうち、少なくともアルファカルシドールにつ ミンD、アルファカルシドール(1αヒドロキシビタミンD3。肝臓で代謝されて活性型ビタミンD3になる。)が骨 粗鬆症の治療薬として用いられていた。このうち、少なくともアルファカルシドールについては、骨吸収抑制作用の存在も示唆されていた。(乙26)イその他の骨粗鬆症薬骨粗鬆症治療薬としては、ビスホスホネート製剤等が骨吸収抑制剤として位置付けられ、主に骨吸収を抑制することによって効果を発揮するとされて いた。他方で、副甲状腺ホルモン(PTH)は、骨形成促進剤に分類され、その効果は主に骨形成を促進することによって効果を発揮するとされていた。 ビタミンD及び活性型ビタミンDの転倒予防効果ビタミンD及び活性型ビタミンDについては、転倒自体を予防して減少する 効果があることが知られていた。その機序としては、筋肉に直接作用するものと考えられていた。(乙11) 3 争点2(本件発明1,2,4は、乙1発明に基づき新規性を欠如するか)について乙1文献の記載 乙1文献は、「骨粗鬆症治療薬:ED-71(判決注:エルデカルシトールを 意味する。)」と題する論文であり、次の内容が記載されている(乙1)。 ED-71は、1α,25-dihydroxyvitamin D3(活性型ビタミンD3のこと)の2β位にヒドロキシプロポキシ基を導入した化合物である。 ED-71は、ラットの卵巣摘出骨粗鬆症のモデルを用いたスクリーニングで見出された活性型ビタミンD3の誘導体である。ラットを用いた検討では、 破骨細胞数を減少、骨吸収マーカーを低下させ、用量依存性に骨密度を増加させた。アルファカルシドールと同様もしくはやや強い血清カルシウム上昇作用を示したが、同程度のカルシウム上昇作用をもたらす用量で比較す 細胞数を減少、骨吸収マーカーを低下させ、用量依存性に骨密度を増加させた。アルファカルシドールと同様もしくはやや強い血清カルシウム上昇作用を示したが、同程度のカルシウム上昇作用をもたらす用量で比較すると骨密度増加効果がアルファカルシドールよりも強力であった。ED-71による骨密度の増加は、骨強度の増加を伴っており、健常な骨質が保持されていると考え られる。 ラット骨髄除去モデルにおいて、ED-71が回復初期の骨吸収を抑制して骨形成を高め、血管新生も促進することが示された。この効果は、同用量の活性型ビタミンD3では認められなかった。 原発性骨粗鬆症患者109例に対して行われた前記第Ⅱ相臨床試験におい ては、0.25、0.5、0.75、1.0㎍/日の連日経口投与により、用量依存的に骨密度の増加が認められた。0.75㎍/日で2.5~3%の椎体骨密度の上昇という、従来の活性型ビタミンD3では見られなかった強力な骨量増加作用が示された。 この結果を受けて原発性骨粗鬆症患者219例を対象に、臨床推奨用量の決 定を目的とした後期第Ⅱ相臨床試験が行われた。骨代謝マーカーはいずれも有意に低下し、骨代謝回転の抑制効果が認められた。この検討ではED-71の強力な効果が認められたが、ビタミンD非充足状態の症例が多かったため、ビタミンD補充効果が強く作用している可能性が考えられる。しかしながら、試験開始時の25(OH)D濃度が下位1/4と上位1/4の例における骨密度 変化を検討したpost-hoc 解析では、0.75㎍/日以上の投与群における骨 密度の上昇はビタミンD充足状態にかかわらず同等に認められた。したがって、ED-71はビタミンD補充効果に依存せず強力に骨密度を増加させたものと考えられた。 現 与群における骨 密度の上昇はビタミンD充足状態にかかわらず同等に認められた。したがって、ED-71はビタミンD補充効果に依存せず強力に骨密度を増加させたものと考えられた。 現在、新規椎体骨折発生頻度を主要評価項目として、ED-71とアルファカルシドールの効果を比較する3年間の大規模な無作為二重盲検試験が進行 中である。活性型ビタミンD3誘導体として開発されたED-71であるが、全く新しい機序を介して作用を発揮している可能性もあり、今後の基礎・臨床研究の進展がますます注目される。 本件発明1についてア本件発明1は、「エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部 骨折を抑制するための医薬組成物」であるところ、前記によれば、乙1文献には、エルデカルシトールを骨粗鬆症治療薬として用いることが記載されており、本件発明1と乙1発明とは、構成要件1A、1Cにおいて一致している。他方、本件発明1は、「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」(構成要件1B)医薬組成物であるところ、乙1発明は骨粗鬆症治療薬であ り、この点において本件発明1と乙1発明が相違するといえるかが問題になる。 イ本件明細書によれば、「非外傷性骨折とは、転倒などの一般的な日常生活で起こる軽微な外力により生じた骨折を示す」(【0035】)とあり、「前腕部は、橈骨と尺骨からなる」(【0022】)とされ、また、「抑制あるいは予 防は、骨粗鬆症にり患していない者あるいは骨粗鬆症患者のいずれにおいても、新たな骨折が発生しないことを意味する。」(【0022】)とされている。 したがって、本件発明1の「非外傷性である前腕部骨折を抑制する」とは、骨粗鬆症にり患していない者及び骨粗鬆症患者のいずれについても、転倒などの一般的な日常生 する。」(【0022】)とされている。 したがって、本件発明1の「非外傷性である前腕部骨折を抑制する」とは、骨粗鬆症にり患していない者及び骨粗鬆症患者のいずれについても、転倒などの一般的な日常生活で起こる軽微な外力によって橈骨又は尺骨に新たな 骨折が発生しないようにすることを意味しているといえる。 ここで、骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴として骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患であり(前記2ア)、骨粗鬆症治療薬は、骨粗鬆症を治療することを目的とする薬物なのであるから、骨折のリスクを低下させること、すなわち、新たな骨折を発生させないようにすることを目的としているといえる。そして、本件優先日当時、骨粗鬆症においては、骨強度の低下により、 通常は骨折を生じさせない些細なきっかけで生ずる骨折である脆弱性骨折が生ずることが問題とされており、骨折が生ずることがある具体的な部位としては、大腿骨、椎体等と並んで、橈骨が含まれていたことが知られていたと認められる(前記2イ)。 そうすると、乙1発明の骨粗鬆症治療薬とは、骨強度の低下によって通常 は骨折を生じさせない些細なきっかけで大腿骨、椎体、橈骨等に新たな骨折を発生させないようにすることを目的とする治療薬であり、この中には、骨粗鬆症患者に対する、通常は骨折を生じさせない些細なきっかけで橈骨に新たな骨折を発生させないようにすることについても用途として含まれることは明らかである。 これに対し、乙1発明の骨粗鬆症治療薬について、原告は、エルデカルシトールに骨折抑制効果があることは知られていなかったと主張する。しかし、乙1文献の表題は「骨粗鬆症治療薬」というものであり、その表題からも、そこに記載されたエルデカルシトールが骨粗鬆症の治療薬であること、すなわち 効果があることは知られていなかったと主張する。しかし、乙1文献の表題は「骨粗鬆症治療薬」というものであり、その表題からも、そこに記載されたエルデカルシトールが骨粗鬆症の治療薬であること、すなわち、エルデカルシトールが骨粗鬆症患者に対する骨折抑制効果があること に関する文献であることが理解できる。そして、乙1発明のエルデカルシトールは活性型ビタミンDの誘導体であり、活性型ビタミンDが体内のビタミンD受容体と結合して作用するのと同様にビタミンD受容体に結合して作用するという、活性型ビタミンDと同一の機序によって骨粗鬆症に作用することが想定されていた。活性型ビタミンDは、前腕部を含む骨における骨形 成を促進し、骨破壊を抑制することによって骨量を増やして骨密度骨強度を 増加させるとともに、転倒自体を抑制するといった作用を有することが知られており(前記2ア、)、実際に、乙1文献には、エルデカルシトールが骨密度を上昇させる効果を有することが記載されている。さらに、当時、一般に、骨量が多いほど骨折しにくくなり、骨量の多寡が骨折リスクの指標になると考えられていた(前記2)。これらからすると、当業者は、乙1 発明の骨粗鬆症治療薬について、前腕部骨折予防効果があると理解すると認められる。原告が指摘する文献や記載は、上記技術常識等に照らし、当業者に対して乙1発明のエルデカルシトールが上記骨折抑制効果を有することに対して疑念を抱かせるものとは認められない。 以上によれば、本件発明1のうち、骨粗鬆症患者において一般的な日常生 活で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことを用途とする構成は、乙1発明のエルデカルシトールの用途と一致すると認められる。 ウ原告は、公知の用途であってもその用途を限定す 活で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことを用途とする構成は、乙1発明のエルデカルシトールの用途と一致すると認められる。 ウ原告は、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認められると主張する。 しかし、本件発明1のうち、骨粗鬆症患者において、一般的な日常生活で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことを用途とする構成について、前記イに述べたところにより、乙1発明のエルデカルシトールにおいても、当然に当該部位に係る骨折予防についても有効であることが具体的に想定されていたと認められる。また、乙1文献には、エルデカ ルシトールを活性型ビタミンD3製剤であると記載されていて、乙1発明においても、既存の活性型ビタミンD製剤と同様の機序、すなわち、ビタミンD受容体への作用による骨強度の上昇及び転倒防止(前記2ア、)が想定されていたと認められる。本件明細書には、本件発明1について、技術常識から認められる上記機序と異なる機序によって作用していることについ ての記載もなく、本件発明1も、乙1発明と同一の作用機序を前提にしてい ると認められる。仮に年齢等によって第1選択として投与される薬剤の種類が異なるとしても、エルデカルシトールが投与されたとき、乙1発明のエルデカルシトールが投与されたのか、本件発明1のエルデカルシトールが投与されたのかを区別することができるものではない。本件発明1の一部の用途は、作用機序の点からも、乙1発明の用途と区別することはできない。 なお、原告は、本件発明1において、エルデカルシトールの前腕部骨折抑制に関する顕著な効果が初めて見出されたとも主張する。原告が本件明細書で明らかにされた医学的に有用であると主張する具体的な なお、原告は、本件発明1において、エルデカルシトールの前腕部骨折抑制に関する顕著な効果が初めて見出されたとも主張する。原告が本件明細書で明らかにされた医学的に有用であると主張する具体的な知見は、①前腕部の骨折予防の観点からは、アルファカルシドールよりもエルデカルシトールの方が顕著に優れていること、②前腕部以外の部位においては、エルデカル シトールとアルファカルシドールの効果の差は前腕部における差ほど顕著ではないという2点である。しかし、仮に原告が主張する上記評価が統計学上正当であると認められるとしても、①については、本件明細書で明らかにされているのは、エルデカルシトールがアルファカルシドールに比べて骨折抑制効果が高いことのみであり、このことのみからは、エルデカルシトール がプラシーボに比べて顕著に優れている可能性も、アルファカルシドールがプラシーボに比べて顕著に劣っている可能性も、どちらともいえない可能性もある。さらに、乙1発明において、エルデカルシトールの骨折抑制効果がアルファカルシドールを上回ること自体が想定されていたことも認められる(前記3)。②についても、本件明細書の実施例で記載されている前腕部 骨折以外に関する分析結果は椎体骨折に関するもののみ(【0069】)であり、前腕部についてのみ良好な結果が得られたのか、椎体についてのみ良好とはいえない結果が得られたのかすら明らかにされていない。これらによれば、何らかの顕著な効果の存在を理由に乙1発明に対する新規性等が認められる場合があるか否かは措くとしても、本件においてはその前提となる顕著 な効果を認めることはできない。 さらに原告は、65歳の患者群やI型骨粗鬆症患者群においては前腕部における骨折抑制が特に求められており、独立の用 においてはその前提となる顕著 な効果を認めることはできない。 さらに原告は、65歳の患者群やI型骨粗鬆症患者群においては前腕部における骨折抑制が特に求められており、独立の用途を構成するなどと主張する。しかし、乙1発明のエルデカルシトールにおいても、一般的な日常生活で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことに有効であることが具体的に想定されていたと認められるなど、上記に述べた事情 に照らせば、原告が主張する上記知見は、本件において、乙1発明の用途を前腕部の骨折予防に限定することに新規性を付与すべき事情に当たるとはいえない。 エ以上によれば、本件発明1は、乙1発明で想定される橈骨の骨折抑制、大腿骨の骨折抑制といった複数の骨折抑制部位に係る用途のうち、前腕部の効 果に着目したものと認められる。本件発明1において「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」と限定した部分は乙1発明との相違点になるとはいえず、本件発明1は、乙1発明と同一であり、本件発明1は、新規性が欠如しているといえる。 本件発明2について 本件発明2は、本件発明1について投与される対象を原発性骨粗鬆症患者に限定したものである。前記で説示したとおり、本件発明1のうち、少なくとも骨粗鬆症患者を対象とし、橈骨の骨折予防を用途とする構成については、乙1発明と同一であるといえる。また、原発性骨粗鬆症患者とは、閉経や加齢が原因で起きる骨粗鬆症であり(前記2エ)、原発性骨粗鬆症患者は骨粗鬆症 患者のうちの一部であるといえる。なお、本件明細書には、投与対象として乙1発明が対象とする骨粗鬆症患者から原発性骨粗鬆症患者を区別することによって新たな効果が生ずることなどの記載はない。 そうすると、本件発明2のうち、 といえる。なお、本件明細書には、投与対象として乙1発明が対象とする骨粗鬆症患者から原発性骨粗鬆症患者を区別することによって新たな効果が生ずることなどの記載はない。 そうすると、本件発明2のうち、少なくとも橈骨の骨折予防を用途とする構成については、乙1発明と同一であり、新規性が欠如している。 本件発明4について 本件発明4は、本件発明1~3について、これを0.75μg/日の用量で経口投与される組成物に限定したものである。乙1文献には、エルデカルシトールを骨粗鬆症治療薬として用いるに当たって、0.75μg/日の用量で経口投与される構成が記載されている。そうすると、本件発明4のうち、本件発明1及び本件発明2について0.75μg/日の用量で経口投与される構成に ついては、、で説示したのと同様の理由により、乙1文献に記載された発明と同一であるというべきであるから、新規性が欠如している。 4 争点3(本件訂正4、5によって、本件発明4に係る新規性欠如、進歩性欠如の無効理由が解消されるか)について本件訂正発明4について ア本件訂正4による訂正後の本件訂正発明4は、本件発明1について、①投与される対象をI 型骨粗鬆症患者に限定し、②投与方法を0.75μg/日の用量で経口投与されるものに限定するものである。 イ前記3で説示したとおり、本件発明1のうち、少なくとも骨粗鬆症患者を対象とし、橈骨の骨折予防を用途とする構成については、乙1発明と同一 であるといえる。 ウ投与される対象をⅠ型骨粗鬆症患者に限定する点について、本件優先日当時、女性における閉経後の最初の15~20年に生ずる、皮質骨と比較して海綿骨の過度かつ不均衡な現象を特徴とする骨粗鬆症をⅠ型骨粗鬆症として分類することが提唱さ 患者に限定する点について、本件優先日当時、女性における閉経後の最初の15~20年に生ずる、皮質骨と比較して海綿骨の過度かつ不均衡な現象を特徴とする骨粗鬆症をⅠ型骨粗鬆症として分類することが提唱されていた(前記2エ)。このように提唱されてい たⅠ型骨粗鬆症は、骨粗鬆症の一種であることは明らかである。他方、本件明細書には、投与対象として、乙1発明が対象とする骨粗鬆症患者からI型骨粗鬆症患者を区別することによって生ずる効果等についての記載は一切ない。 そうすると、投与対象をⅠ型骨粗鬆症患者に限定することは、乙1発明で 想定されていた用途と評価されるべきであり、乙1発明との相違点になると はいえない。 エまた、②投与方法を0.75μg/日の用量で経口投与されるものに限定している点については、前記3で説示したとおり、乙1文献に記載された発明との相違点になるとはいえない。 オそうすると、本件訂正発明4のうち、少なくとも橈骨の骨折予防を用途と する構成については、乙1文献に記載された発明と同一であるというべきであり、新規性が欠如している。よって、本件訂正4によって新規性欠如の無効理由が解消するとはいえない。 本件訂正発明5についてア本件訂正5による訂正後の本件訂正発明5は、本件発明1について、①「投 与される対象が、非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる原発性骨粗鬆症患者」に限定し、②投与方法を0.75μg/日の用量で経口投与されるものに限定するものである。 イ前記3で説示したとおり、本件発明1のうち、少なくとも骨粗鬆症患者を対象とし、橈骨の骨折予防を用途とする構成については、乙1発明と同一 であるといえる。 ウ投与される対象を「非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とさ 件発明1のうち、少なくとも骨粗鬆症患者を対象とし、橈骨の骨折予防を用途とする構成については、乙1発明と同一 であるといえる。 ウ投与される対象を「非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる原発性骨粗鬆症患者」とする点について、これは、投与される対象を原発性骨粗鬆症患者のうち、非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる者に限定するものと認められる。一般に骨粗鬆症は、骨折のリスクが増大すること を問題とする疾患であり、(前記2ア)、骨粗鬆症において想定される骨折部位も橈骨等も含む全身の骨なのであるから、骨粗鬆症患者については、他の部位と並んで、前腕部の骨折について抑制が必要とされているといえるのであって、このことは原発性骨粗鬆症患者についても同様である。そうすると、原発性骨粗鬆症患者であれば、前腕部骨折の抑制が必要とされるとい える。他方で、本件明細書には、投与対象として、乙1発明が対象とする骨 粗鬆症患者から原発性骨粗鬆症患者を区別することによって生ずる効果等についての記載は一切なく、投与対象を原発製骨粗鬆症患者に限定することは、乙1発明で想定されていた用途と評価されるべきであることは、前記 で説示したとおりであり、乙1発明との相違点になるとはいえない。 エまた、②投与方法を0.75μg/日の用量で経口投与されるものに限定 している点については、前記3で説示したとおり、乙1文献に記載された発明との相違点になるとはいえない。 オそうすると、本件訂正発明5のうち、少なくとも橈骨の骨折予防を用途とする構成については、乙1文献に記載された発明と同一であるというべきであり、新規性が欠如している。よって、本件訂正5によって、新規性欠如 の無効理由が解消するとはいえない。 第4 結論 とする構成については、乙1文献に記載された発明と同一であるというべきであり、新規性が欠如している。よって、本件訂正5によって、新規性欠如 の無効理由が解消するとはいえない。 第4 結論以上のとおりであって、本件発明1、2、4はいずれも乙1発明に基づき新規性が欠如し、本件訂正4、5によってもその無効理由は解消されない。よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求にはいずれも理由がない ため棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官柴田義明 裁判官佐伯良子 裁判官仲田憲史 別紙被告製品目録1 1 販売名を「エルデカルシトールカプセル0.5μg「サワイ」」とする医療用医薬品 2 販売名を「エルデカルシトールカプセル0.75μg「サワイ」」とする医療用医薬品 別紙被告製品目録2 1 販売名を「エルデカルシトールカプセル0.5μg「日医工」」とする医療用医薬品 2 販売名を「エルデカルシトールカプセル0.75μg「日医工」」とする医療用医薬品
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