平成25(行ケ)10266 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成26年9月25日 知的財産高等裁判所 3部 判決 審決取消
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平成26年9月25日判決言渡平成25年(行ケ)第10266号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成26年6月26日判決 原告 X訴訟代理人弁理士江森健二同吉田雅一 被告株式会社ブリヂストン 訴訟代理人弁護士田中成志同板井典子同山田 徹同杉本賢太訴訟代理人弁理士江藤聡明同野村悟郎同高橋修平同倉脇明子主文 1 特許庁が無効2012-800053号事件について平成25年8月28日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文と同旨 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)被告は,発明の名称を「透明フィルム」とする特許第4768217号(平成15年7月7日出願,平成23年6月24日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。 原告は,平成24年4月9日,特許庁に対し,本件特許を無効にすることを求めて審判の請求をし,特許庁は,この審判を,無効2012-800053号事件として審理した。被告は,この過程で,平成25年6月3日,本件特許の特許請求の範囲及び明細書について訂正(以下「本件訂正」という。)の請求をした。 特許庁は,平成25年8月28日,「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。審判費用は,請求人の負担とする。」との審決をし,審決の謄本を,同年9月5日,原告に送達した。 原告は,同月30日,上記審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。 2 特許請求の範囲本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の請求項1 決をし,審決の謄本を,同年9月5日,原告に送達した。 原告は,同月30日,上記審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。 2 特許請求の範囲本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし8の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」,請求項2ないし8に係る発明を「本件発明2ないし8」といい,これらの発明を総称して「本件発明」という。ただし,いずれも,請求項5及び6を除く。また,本件訂正後の本件特許の明細書を,以下「本件明細書」という。)。 【請求項1】エチレン/酢酸ビニル共重合体,及び該共重合体中に分散された受酸剤粒子を含む透明フィルムであって,受酸剤粒子が,金属酸化物(ただし,Sn,Ti,Si,Zn,Zr,Fe,Al,Cr,Co,Ce,In,Ni,Ag,Cu,Pt,Mn,Ta,W,V,Moの金属酸化物を除く),金属水酸化物又はこれらの混合物であ り,受酸剤粒子の含有量が共重合体に対して0.01~0.5質量%で,且つ受酸剤粒子の平均粒径が5μm以下であり,そしてエチレン/酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有率が20~36質量%であり,エチレン/酢酸ビニル共重合体が,さらに架橋剤により架橋されており,さらに当該透明フィルムは太陽電池用封止膜又はガラスと透明フィルムとの間に蒸着金属膜を挿入した熱線反射用の合わせガラス用透明接着剤層として使用されることを特徴とする透明フィルム。 【請求項2】受酸剤粒子の含有量が0.01~0.2質量%である請求項1に記載の透明フィルム。 【請求項3】受酸剤粒子が,MgO,Pb3O4,Ca(OH)2,Al(OH)3,及びFe(OH)2から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の透明フィルム。 【請求項4】 ム。 【請求項3】受酸剤粒子が,MgO,Pb3O4,Ca(OH)2,Al(OH)3,及びFe(OH)2から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の透明フィルム。 【請求項4】ヘイズが2以下である請求項1~3のいずれかに記載の透明フィルム。 【請求項5】(削除)【請求項6】(削除)【請求項7】エチレン/酢酸ビニル共重合体が,さらに架橋助剤により架橋されている請求項1~4のいずれかに記載の透明フィルム。 【請求項8】エチレン/酢酸ビニル共重合体が,さらにシランカップリング剤を含んでいる請求項7に記載の透明フィルム。 本件訂正前の本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし8の記載は,次のとおりである(これらの発明を総称して,以下「本件訂正前発明」という。 また,本件訂正前の本件特許の明細書を,以下「本件訂正前明細書」という。)。 【請求項1】(これに係る発明を,以下「本件訂正前発明1」という。)エチレン/酢酸ビニル共重合体,及び該共重合体中に分散された受酸剤粒子を含む透明フィルムであって,受酸剤粒子が,金属酸化物,金属水酸化物又はこれらの混合物であり,受酸剤粒子の含有量が共重合体に対して0.5質量%以下で,且つ受酸剤粒子の平均粒径が5μm以下であり,そしてエチレン/酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有率が20~36質量%であり,さらに当該透明フィルムは太陽電池用封止膜又は合わせガラス用透明接着剤層として使用されることを特徴とする透明フィルム。 【請求項2】受酸剤粒子の含有量が0.2質量%以下である請求項1に記載の透明フィルム。 【請求項3】受酸剤粒子が,MgO,ZnO,Pb3O4,Ca(OH)2,Al(OH)3,及びFe(OH)2から選択される 剤粒子の含有量が0.2質量%以下である請求項1に記載の透明フィルム。 【請求項3】受酸剤粒子が,MgO,ZnO,Pb3O4,Ca(OH)2,Al(OH)3,及びFe(OH)2から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の透明フィルム。 【請求項4】ヘイズが2以下である請求項1~3のいずれかに記載の透明フィルム。 【請求項5】水による沸騰加熱還流により抽出される酢酸が200ppm以下である請求項1~4のいずれかに記載の透明フィルム。 【請求項6】エチレン/酢酸ビニル共重合体が,さらに架橋剤により架橋されている請求項1~5のいずれかに記載の透明フィルム。 【請求項7】エチレン/酢酸ビニル共重合体が,さらに架橋助剤により架橋されている請求項6に記載の透明フィルム。 【請求項8】エチレン/酢酸ビニル共重合体が,さらにシランカップリング剤を含んでいる請求項6又は7に記載の透明フィルム。 3 審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,①本件訂正に係る訂正の請求は,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正ないし明瞭でない記載の釈明を目的とし,特許法134条の2第9項の規定により準用する同法126条4項ないし8項の規定に適合する,②本件発明は,特開平3-137145号公報(甲1。以下「甲1文献」という。)及び特許第3135477号公報(甲2。以下「甲2文献」という。)に記載された発明ではないから,特許法29条1項3号に該当するとはいえない,③本件発明は,甲1文献及び甲2文献に記載された発明並びに審決が引用するその他の文献に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許法29条2項に該当するとはいえない,④本件発明が発明の詳細な説明に記載さ 発明並びに審決が引用するその他の文献に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許法29条2項に該当するとはいえない,④本件発明が発明の詳細な説明に記載されていないということはできないから,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないとはいえない,⑤本件発明に係る請求項の記載が明確でないとはいえないから,特許法36条6項2号に規定す る要件を満たしていないとはいえない,⑥本件明細書の記載が特許法36条4項1号に規定する実施可能要件を満たしていないとはいえない,というものである。 審決が上記②及び③の結論を導くに当たり認定した甲1文献に記載された発明(以下「甲1発明」という。)及び甲2文献に記載された発明(以下「甲2発明」という。)の各内容,本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点,並びに本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 ア本件発明1と甲1 発明との対比甲1発明の内容酢酸ビニル含有量が0.5~40重量%のエチレン・酢酸ビニル共重合体に,平均粒子径が5μm以下の塩基性金属水酸化物を重量基準で10~5000ppm添加したエチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂組成物を加工したフィルムであって,酢酸ビニル含有量が1~10重量%の場合,重袋用又はドライラミネーション用原反であり,酢酸ビニル含有量が5~15重量%の場合,インフレーション用であり,酢酸ビニル含有量が10~30重量%の場合,農業用である,フィルム。 一致点「エチレン/酢酸ビニル共重合体,及び該共重合体中に分散された受酸剤粒子を含むフィルムであって,受酸剤粒子が,金属酸化物(ただし,Sn,Ti,Si,Zn,Zr,Fe,Al,Cr,Co,Ce,I エチレン/酢酸ビニル共重合体,及び該共重合体中に分散された受酸剤粒子を含むフィルムであって,受酸剤粒子が,金属酸化物(ただし,Sn,Ti,Si,Zn,Zr,Fe,Al,Cr,Co,Ce,In,Ni,Ag,Cu,Pt,Mn,Ta,W,V,Moの金属酸化物を除く),金属水酸化物又はこれらの 混合物であり,受酸剤粒子の平均粒径が5μm以下であり,そしてエチレン/酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有率が20~36重量%である,フィルム。」である点。 相違点a 相違点1本件発明1は,「太陽電池用封止膜又はガラスと透明フィルムとの間に蒸着金属膜を挿入した熱線反射用の合わせガラス用透明接着剤層として使用する」透明フィルムと規定しているのに対し,甲1発明は,本件発明1で規定する用途を規定していない点。 b 相違点2本件発明1は,受酸剤粒子の含有量を「共重合体に対して0.01~0.5質量%」と規定しているのに対し,甲1発明は,フィルム中の受酸剤粒子の含有量が10ppmを超えない点。 c 相違点3本件発明1は,エチレン/酢酸ビニル共重合体が「さらに架橋剤により架橋されている」と規定しているのに対し,甲1発明は,架橋剤を配合すること及びエチレン/酢酸ビニル共重合体が架橋されることに関する規定がない点。 d 相違点4本件発明1は「透明」フィルムと規定しているのに対し,甲1発明は,そのような規定がない点。 イ本件発明1と甲2発明との対比甲2発明の内容光変換部材としての半導体光活性層,光入射側表面に設けられた透明 な充填材と表面層を含む表面被覆材,及び補強板を有する太陽電池モジュールにおいて,前記充填材がアルキル化された第3級アミンを有する光安定化剤を有する太陽電 性層,光入射側表面に設けられた透明 な充填材と表面層を含む表面被覆材,及び補強板を有する太陽電池モジュールにおいて,前記充填材がアルキル化された第3級アミンを有する光安定化剤を有する太陽電池モジュールにおける透明な充填材フィルムとして,ベースポリマーとしてEVA(エチレン-酢酸ビニル共重合体)100部,架橋剤として有機過酸化物(ペンウォルト社製,商品名ルパゾール101)1.5部,酸化防止剤として(ユニロイヤル社製,ナウガードP)0.2部,光安定化剤としてテトラ(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)ブタンテトラカルボナート0.1部,紫外線吸収剤として酸化亜鉛(住友セメント社製,超微粒子酸化亜鉛,商品名ZnO-200)を0.1部,シランカップリング剤としてγ-メタクリルトリメトキシシランを0.25部配合して押し出し機(由利ロール社製,商品名GPD)で押し出し,460μmのEVAフィルムを作製し,次に,真空ラミネターを用いて,真空度は1mmHg以下で,加熱は150℃で100分間処理した透明な充填剤フィルム。 一致点「エチレン/酢酸ビニル共重合体を含む透明フィルムであって,エチレン/酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有率が20~36質量%であり,エチレン/酢酸ビニル共重合体が,さらに架橋剤により架橋されており,さらに当該透明フィルムは太陽電池用封止膜又はガラスと透明フィルムとの間に蒸着金属膜を挿入した熱線反射用の合わせガラス用透明接着剤層と して使用されることを特徴とする透明フィルム。」である点。 相違点a 相違点1本件発明1は,受酸剤粒子を配合することを規定しているのに対し,甲2発明において,受酸剤を用いる旨の規定がない点。 b 相違点2 徴とする透明フィルム。」である点。 相違点a 相違点1本件発明1は,受酸剤粒子を配合することを規定しているのに対し,甲2発明において,受酸剤を用いる旨の規定がない点。 b 相違点2本件発明1は,「金属酸化物(ただし,Sn,Ti,Si,Zn,Zr,Fe,Al,Cr,Co,Ce,In,Ni,Ag,Cu,Pt,Mn,Ta,W,V,Moの金属酸化物を除く),金属水酸化物又はこれらの混合物」を配合することを規定しているのに対し,甲2発明は,「酸化亜鉛」を用いる旨の規定を有するものの,本件発明1が規定する化合物を用いる旨の規定がない点。 c 相違点3本件発明1は,「受酸剤粒子の含有量が共重合体に対して0.01~0.5重量%」と規定しているのに対し,甲2発明は,受酸剤粒子に関する配合割合に関する規定がない点。 d 相違点4本件発明1は,「受酸剤粒子の平均粒径が5μm以下」と規定しているのに対し,甲2発明は,受酸剤粒子に関する平均粒径に関する規定がない点。 第3 原告の主張審決には,本件訂正の適法性判断の誤り(取消事由1),本件発明の認定の誤り(取消事由2),審理上の適正手続違反(取消事由3),甲1発明に対する本件発明の新規性,進歩性判断の誤り(取消事由4),甲2発明に対する本件発明の新規性,進歩性判断の誤り(取消事由5),本件発明のサポート要件具備に関する判断の誤り(取消事由6),本件発明の明確性要件具備に関する 判断の誤り(取消事由7)及び本件発明の実施可能要件具備に関する判断の誤り(取消事由8)があり,これらの誤りはいずれも審決の結論に影響を及ぼすものであるから,審決は取り消されるべきである。 1 取消事由1(本件訂正の適法性判断の誤り)被告は,本件訂正において,いわゆる「除くクレ あり,これらの誤りはいずれも審決の結論に影響を及ぼすものであるから,審決は取り消されるべきである。 1 取消事由1(本件訂正の適法性判断の誤り)被告は,本件訂正において,いわゆる「除くクレーム」による訂正を行い,本件訂正前の請求項1の「金属酸化物」を「金属酸化物(ただし,Sn,Ti,Si,Zn,Zr,Fe,Al,Cr,Co,Ce,In,Ni,Ag,Cu,Pt,Mn,Ta,W,V,Moの金属酸化物を除く)」と訂正している(この訂正事項を,審決に倣い,以下「」という。)が,このような訂正は,次の理由から認められるべきではない。 は,特開平8-259279号公報(以下「甲4文献」という。)に基づく進歩性欠如の無効事由を回避するために,同文献の請求項7等に機能性超微粒子として記載された金属酸化物を除いたものであるが,同文献の実施例において用いられているATO(導電性アンチモン含有スズ酸化物)超微粒子には,アンチモン酸化物が相当量含まれている。そうすると,ら全て除いたことにはならない。 このように除かれていない金属酸化物が存在する以上,本件訂正は,従来技術と重なる範囲を全て除いて差別化する場合に認められる訂正の趣旨を逸脱するものである。 本件訂正前明細書の【発明の実施の形態】に記載された金属酸化物は,MgO,ZnO及びPb3O4のみであり,【実施例】に記載された金属酸化物は,MgO及びZnOのみである。 これに対し,による訂正の結果,本件発明における受酸剤としての金属酸化物として,周期律表を考慮すると73種類のものが具体的に該当することとなる。そして,その中には,エチレン/酢酸ビニル共重合体の 加水分解を助長する強アルカリ成分の金属酸化物であるLiO,NaO,KO,RbO等の物質や,極めて科学的に安定で 的に該当することとなる。そして,その中には,エチレン/酢酸ビニル共重合体の 加水分解を助長する強アルカリ成分の金属酸化物であるLiO,NaO,KO,RbO等の物質や,極めて科学的に安定で所定の受酸効果を発揮するとは考え難い酸化金,猛毒であり受酸剤として使用することができない酸化水銀が含まれることになる。 よって,本件訂正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」の制限を逸脱して新たな技術的事項を導入するものである。 本件訂正前明細書の記載によれば,本件訂正前発明において受酸剤として使用できる金属酸化物は,MgO,ZnO及びPb3O4のみと考えるのが極めて自然であり,被告は,による訂正の結果,本件発明における受酸剤に該当することになった相当数の金属酸化物については,受酸効果を発揮することを確認しておらず,受酸剤として使用できることを認識していなかった。 よって,かかる金属酸化物につき機能上等価であることに関する技術的事項が導き出せない以上,本件訂正は新たな技術的事項を導入するものである。 による訂正は,本件訂正前発明が甲4文献に記載された発明とは技術的思想が顕著に異なり明確に差別化されるような発明ではないにもかかわらず,同文献を引用例とする進歩性欠如の無効事由を回避するために行われたものである。 よって,本件訂正は,新規性等の確保のために従来技術と重なる範囲を除くためにのみ認められるべき訂正の手法を逸脱しており,これによって明細書等の記載を信じた第三者が不測の不利益を被る可能性があり,特許法134条の2の趣旨にも反する。 2 取消事由2(本件発明の認定の誤り)前記1のとおり本件訂正が認められるべきではない以上,本件訂正が認められることを前提に審決がした本件発明の認定は誤っている。 3 取 趣旨にも反する。 2 取消事由2(本件発明の認定の誤り)前記1のとおり本件訂正が認められるべきではない以上,本件訂正が認められることを前提に審決がした本件発明の認定は誤っている。 3 取消事由3(審理上の適正手続違反) 審決を行った審判合議体が作成した審理事項通知書には,本件発明と甲1発明及び甲2発明との恣意的かつ誤った対比等が記載され,被告は,これに沿って自らの主張内容を変えている。 このように被告の主張内容に影響を与えた同通知書は,請求人である原告に極めて不利なものであり,無効審判における手続の適正を欠くものである。 4 取消事由4(甲1発明に対する本件発明の新規性,進歩性判断の誤り)甲1発明の認定の誤り審決は,甲1発明のエチレン/酢酸ビニル共重合体含有フィルムの用途を,「酢酸ビニル含有量が1~10重量%の場合,重袋用又はドライラミネーション用原反であり,酢酸ビニル含有量が5~15重量%の場合,インフレーション用であり,酢酸ビニル含有量が10~30重量%の場合,農業用である,」と認定した。 審決の上記認定は,①フィルムの用途を狭く認定して太陽電池用封止膜等の用途を排除した点,②フィルムの作成法に着目したインフレーションフィルムと,フィルムの用途に着目したドライラミネーション用原反フィルム及び農業用フィルムとを,それぞれ独立のもののように認定している点,③酢酸ビニル含有量について,甲1文献には0.1重量%以上のものであればよく0.5ないし40重量%のものが好ましいとの記載があるにもかかわらず,従来技術の記載等を根拠に,極めて狭く認定した点において,誤っている。 相違点の認定の誤りア相違点1について甲1文献には,エチレン/酢酸ビニル共重合体組成物をインフレーションフィルム 従来技術の記載等を根拠に,極めて狭く認定した点において,誤っている。 相違点の認定の誤りア相違点1について甲1文献には,エチレン/酢酸ビニル共重合体組成物をインフレーションフィルム,ドライラミネーション用原反,押出フィルムに使用できる旨記載されている。そして,甲2文献や特開2000-91610号公報(以下「甲11文献」という。)には,インフレーション法,ドライラミネーション法,押出法等により太陽電池用封止膜を製造できる旨が記載さ れている。 そうすると,甲1発明のエチレン/酢酸ビニル共重合体組成物の用途について太陽電池用封止膜等を排除する特段の事情はなく,甲1発明と本件発明1との間に用途に関して相違点1があるとした審決の認定は誤りである。 イ相違点2について審決は,甲1文献に,甲1発明の受酸剤粒子の含有量に関して10ないし5000ppmとの記載があるにもかかわらず,その意味を恣意的に解釈し,フィルムにおける残存量としては10ppmを超えない量になると推認した結果,甲1発明と本件発明1との間に相違点2があると認定したが,このような審決の認定は誤りである。 甲1文献の記載に照らせば,塩基性金属水酸化物が最も消費される理論量の反応が生じたと仮定しても,塩基性金属水酸化物が相当量残存していると判断するのが,当業者の技術常識である。 そうすると,両発明における受酸剤粒子の含有量の数値範囲は重なるから,この点について両者の間に相違点があると認めることはできない。 仮に,配合した受酸剤の一部がフィルムへの加工過程で減少するとしても,甲1発明における受酸剤の配合量が10ないし5000ppmのいずれの場合でも加工後のフィルム中の量が10ppm未満になるとは考え難い。原告作成の実験報告書(甲24。以下 加工過程で減少するとしても,甲1発明における受酸剤の配合量が10ないし5000ppmのいずれの場合でも加工後のフィルム中の量が10ppm未満になるとは考え難い。原告作成の実験報告書(甲24。以下「原告報告書」という。)によれば,フィルムに残留する受酸剤の量はエチレン/酢酸ビニル共重合体組成物への受酸剤の配合量に影響されるのであって,配合量にかかわらずフィルム中の残留量が10ppm未満になるわけではない。 また,本件発明1では受酸剤はフィルム加工後も相当量残留するのに,甲1発明では一律に10ppm未満になるとも考え難い。 ウ相違点3について 甲1発明のフィルムを「非架橋」とすべき特段の理由はなく,「架橋剤により架橋されている」フィルムとしてはならない旨の阻害事由もない。 むしろ,耐熱性や耐久性等の向上の観点からすれば,エチレン/酢酸ビニル共重合体の太陽電池用封止膜の用途において,「架橋剤により架橋されている」フィルムとすることは,技術常識である。よって,甲1発明には架橋の有無について記載がないとして,これを本件発明1との相違点3とした審決の認定は誤りである。 エ相違点4について甲1発明のフィルムは,受酸剤粒子の粒子径も配合量も,酢酸ビニル含有率も本件発明1と一致する一方,着色剤を含んでいないから,「透明」であることはいうまでもないし,本件発明において「透明」についての明確な定義はないから,本件発明1のフィルムと甲1発明のフィルムとの間に「透明」に関して実質的な差異はない。よって,審決の相違点4の認定は誤りである。 進歩性判断の誤りア本件発明が当業者において容易想到であること本件発明1の構成は,当業者であれば,甲1文献,甲2文献及び特開昭57-196747号公報(以下「甲3文献」という。)の記 進歩性判断の誤りア本件発明が当業者において容易想到であること本件発明1の構成は,当業者であれば,甲1文献,甲2文献及び特開昭57-196747号公報(以下「甲3文献」という。)の記載に基づき容易に想到でき,その効果(腐食防止効果や透明性の向上等)についても予期することができる。 また,甲4文献にも,エチレン/酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有率及び架橋剤による架橋の点を除く本件発明1の構成要件の全てが直接的に記載されており,これに甲1文献ないし甲3文献の記載を組み合わせれば,本件発明1の構成に至ることができる。 よって,本件発明1の進歩性は否定されるべきであり,本件発明2ないし8についても,本件発明1と同様,甲1文献ないし甲4文献の記載に基 づき容易に想到し得るから,これらの進歩性も否定される。 したがって,これと異なる審決の判断は誤りである。 イフィルムの用途(相違点1)についてエチレン/酢酸ビニル共重合体組成物が太陽電池用封止膜等の用途に使れ,又は示唆されている。 よって,甲1発明のエチレン/酢酸ビニル共重合体組成物を,太陽電池用封止膜や合わせガラス用透明接着剤層を含む各種フィルムに使用することは,当業者にとって容易に想到し得ることである。 ウ架橋剤の配合(相違点3)及び透明性(相違点4)について甲1文献に架橋剤についての直接の記載がないとしても,太陽電池用封止膜の技術分野において,エチレン/酢酸ビニル共重合体に架橋剤を配合することは,甲2文献や,「合せガラス」の発明に関する甲3文献,本件明細書が従来技術として引用する特開2000-174296号公報等に,所定のエチレン/酢酸ビニル共重合体の樹脂に所定の架橋剤を配合する旨の記載があることからすれば,技術常識であり容易 甲3文献,本件明細書が従来技術として引用する特開2000-174296号公報等に,所定のエチレン/酢酸ビニル共重合体の樹脂に所定の架橋剤を配合する旨の記載があることからすれば,技術常識であり容易に想到し得ることである。 そして,エチレン/酢酸ビニル共重合体に架橋剤を配合してフィルム化した場合,接着力,耐久性,耐候性等が向上するという効果があること,これによってフィルムの透明度が向上することは,いずれも周知事実である上,本件発明において架橋剤の配合によりフィルムの透明度が飛躍的に向上しているとはいえないから,当業者の予期し得ない顕著な効果があるとはいえない。 エ本件発明の効果について審決は,本件発明の効果に関し,受酸剤粒子として特定の粒径を有する金属酸化物又は金属水酸化物を特定量含有するフィルムとすることによっ て金属部分の錆の発生を抑制できるという効果を,公知文献の記載から予測することは困難であると指摘する。 しかしながら,甲1文献等に,太陽電池用封止膜にも使用可能なフィルムにおける受酸剤の腐食防止効果について記載がある以上,審決の上記指摘は誤りである。 5 取消事由5(甲2発明に対する本件発明の新規性,進歩性判断の誤り)相違点1について審決は,本件発明1は受酸剤粒子を配合することを規定しているのに対し,甲2発明においては受酸剤を用いる旨の規定がないとする。 しかしながら,酸化亜鉛等の同一の金属酸化物が,本件発明1では受酸剤粒子として,甲2発明では紫外線吸収剤として,それぞれ配合されているのであるから,これを相違点として認定するのは不当である。 相違点2について審決は,配合される金属酸化物の種類を相違点2として認定したが,本件発明1の金属酸化物について行われた本件訂正が認め であるから,これを相違点として認定するのは不当である。 相違点2について審決は,配合される金属酸化物の種類を相違点2として認定したが,本件発明1の金属酸化物について行われた本件訂正が認められるべきではないことは前記1のとおりであるから,これを前提に相違点2を認定することはできない。 また,本件訂正の結果,本件発明1から酸化チタンや酸化スズが除かれたとしても,これらはあくまで無機系紫外線吸収剤の例示であり,MgOなどの他の受酸効果を発揮する金属酸化物が残されている以上,甲2発明に受酸剤との言葉がないからといって,本件発明1との相違点2を認定することはできない。 以上に加え,甲2文献には,本件発明の構成要件が全て記載されていると認められるから,本件発明は甲2発明に対して新規性を有さず,また,本件発明は,少なくとも甲2発明に対して進歩性を有しない。 6 取消事由6(本件発明のサポート要件具備に関する判断の誤り) 仮に本件訂正が認められるとすると,本件発明における受酸剤としての金属酸化物として,73種類のものが具体的に該当することとなり,その中には,技術常識から判断して受酸剤として使用することができないLiO,NaO,KO,RbO等の物質が多数存在する。このことは,金属水酸化物についても同様である。 よって,本件発明はサポート要件を具備していない。 7 取消事由7(本件発明の明確性要件具備に関する判断の誤り)審決は,本件発明における受酸剤の平均粒径について,上限だけを示せば開示として十分であると判断した。 しかし,受酸剤の平均粒径が過度に小さくなると,すぐに消失してしまい受酸効果を長期間にわたり発揮しないことや,過度に凝集しやすくなり,光錯乱によりヘイズ値が大きくなることは,いずれも容易に 。 しかし,受酸剤の平均粒径が過度に小さくなると,すぐに消失してしまい受酸効果を長期間にわたり発揮しないことや,過度に凝集しやすくなり,光錯乱によりヘイズ値が大きくなることは,いずれも容易に推認することができる。 したがって,受酸剤の平均粒径に関して,上限だけでなく下限を制限しない限り,受酸剤の効果の是非は議論できず,下限を特定していない本件発明は明確性に欠ける。 8 取消事由8(本件発明の実施可能要件具備に関する判断の誤り)特開2009-40951号公報(甲12)の実施例及び比較例のデータによれば,本件特許の実施例よりも過酷な温度及び湿度条件下で,受酸剤としてMg(OH)2を用いた場合,酢酸の発生が抑制されている。過酷な条件下の方が受酸剤としての効果を発揮しやすいことは技術常識であるから,過酷な条件下で他の金属水酸化物よりも受酸効果が良好なMg(OH)2であれば,それよりもマイルドな条件下でも他の受酸剤粒子と比較して優れた受酸効果を発揮すると考えられる。反対に,過酷な条件下においても受酸効果を発揮しないAl(OH)3やFe(OH)2は,よりマイルドな条件下において所定の受酸効果を発揮しないことが容易に推認できる。 よって,本件発明において,受酸剤粒子としてAl(OH)3やFe(O H)2が記載されている以上,本件発明は実施可能要件を欠いている。 第4 被告の主張 1 取消事由1について本件訂正は,次のとおり適法であり,これを認めた審決の判断に誤りはない。 によって,甲4文献に記載された金属酸化物は全て除外されている。すなわち,甲4文献にはSb(アンチモン)単独の酸化物を機能性超微粒子として用いるとの記載はなく,においてSn(スズ)を含む金属酸化物を除いたことで,少なくともSnの酸化物が 全て除外されている。すなわち,甲4文献にはSb(アンチモン)単独の酸化物を機能性超微粒子として用いるとの記載はなく,においてSn(スズ)を含む金属酸化物を除いたことで,少なくともSnの酸化物が含まれるATOも除外されたと解される。 「受酸剤粒子」は,本件特許の出願当時,その機能及び特性が当業者に慣用されているものであるから,被告が本件特許出願の際に「受酸剤粒子」として記載した金属酸化物及び金属水酸化物には,その当時当業者が「受酸剤粒子」として把握できる金属酸化物及び金属水酸化物が含まれる。 そして,は,このような受酸剤粒子としての金属酸化物及び金属水酸化物のうち,甲2文献及び甲4文献に全く異なる用途で開示されていた金属酸化物を除外したものであり,新たな技術的事項を導入するものではなく,これによって,当業者が,通常受酸剤粒子として使用しない金属酸化物が受酸剤粒子に含まれるに至ったと把握することはあり得ない。 よって,本件訂正により,受酸剤としての使用が考え難い金属酸化物や,被告が意識せず,機能上等価であることが確認されていない金属酸化物が,本件発明における受酸剤粒子に含まれるに至ったということはできない。 は,甲4文献に記載された先行技術と技術的思想において顕著に異なり,本来進歩性を有する発明である本件発明から,たまたま同先行技術と重複する部分を除いたものであるから,訂正の手法を逸脱したものではないし,新たな技術的事項を導入するものではない以上,これによって第三者が不測の不利益を被る可能性もなく,特許法134条の2の趣旨に反する ともいえない。 2 取消事由2について本件訂正が適法にされたものであることは前記1のとおりであり,これを前提とする審決による本件発明の認定に誤りはない。 3 取消事由 に反する ともいえない。 2 取消事由2について本件訂正が適法にされたものであることは前記1のとおりであり,これを前提とする審決による本件発明の認定に誤りはない。 3 取消事由3について審判合議体が審理事項通知書においてした甲1発明及び甲2発明の認定は,これらの文献から引用発明を明確に認定しない原告に代わり,特許・実用新案審査基準に則り,各文献に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から当業者が把握できる発明を認定したものである。上記審査基準に則って刊行物に記載された発明を認定することは,発明の新規性・進歩性の判断において公平性を担保する上で必須であり,審判における審理に何ら手続上の問題はない。 4 取消事由4について甲1発明の認定の誤りについて甲1文献に太陽電池用封止膜及び合わせガラス用透明接着剤層の用途が記載されていない以上,これらの用途が甲1発明として認定されないのは当然であり,原告の主張するその余の点も含め,審決の認定に誤りはない。 相違点の認定の誤りについてア相違点1について甲1文献に押出フィルムやインフレーションフィルム等が開示され,甲2文献に太陽電池用封止膜の製造方法として押出フィルム法やインフレーション法等が記載されているとしても,製造方法が共通するというだけであり,甲1文献における具体的な用途は同文献の記載内容から把握できるものに限られると解すべきである。 そして,甲1 文献には,エチレン/酢酸ビニル共重合体組成物の具体的用途として,農業用フィルム,重袋用フィルム及びドライラミネーション 用原反フィルムが記載されているにすぎないから,同文献における用途に,本件発明1が規定する太陽電池用封止膜や合わせガラス用透明接着剤層の用途を規定してい 用フィルム及びドライラミネーション 用原反フィルムが記載されているにすぎないから,同文献における用途に,本件発明1が規定する太陽電池用封止膜や合わせガラス用透明接着剤層の用途を規定していない旨の審決の判断に誤りはない。 イ相違点2について甲1文献の記載によれば,甲1発明は,塩基性金属水酸化物の平均粒子径を5μm以下として遊離酢酸との反応性を高めるとともに,塩基性金属水酸化物を従来技術のように過剰に添加することなしに,添加時の遊離酢酸の理論量に応じて配合することにより,フィルム加工時までに発生した遊離酢酸と塩基性金属水酸化物とを十分に反応させ,得られたフィルム中には遊離酢酸と塩基性金属水酸化物がほとんど残存しない状態にすることで,フィルム中に残存する余剰な塩基性金属水酸化物による白傷の発生や新たな臭気の発生という問題を解決するものであると把握される。 また,甲1文献の実施例に「インフレーション加工時,スパークによる白傷発生は全く起こらなかった」との記載があることからすれば,甲1発明のフィルム中に,遊離酢酸との反応に与らない余剰分の塩基性金属水酸化物が残存しない状態にすることができることが,実証されている。被告が行った検証実験についての分析結果報告書(乙7。以下「被告報告書」という。)によっても,エチレン/酢酸ビニル共重合体に水酸化カルシウムを添加し,混練して得た組成物中の水酸化カルシウムは,一定の条件において,水酸化カルシウムと酢酸が中和して酢酸カルシウムとなる結果,存在しなくなることが確認されている。 したがって,甲1文献から把握されるフィルムの発明における塩基性金属水酸化物の含有量は,甲1文献のエチレン/酢酸ビニル共重合体組成物の発明において規定された有効な塩基性金属水酸化物の含有量である10ないし て,甲1文献から把握されるフィルムの発明における塩基性金属水酸化物の含有量は,甲1文献のエチレン/酢酸ビニル共重合体組成物の発明において規定された有効な塩基性金属水酸化物の含有量である10ないし5000ppmの下限である10ppmを超えないものと推認し,本件発明1のフィルムにおける受酸剤粒子の含有量との相違点とした審決 の判断に誤りはない。 原告報告書は,用いるエチレン/酢酸ビニル共重合体の種類やフィルムへの加工条件が甲1文献の実施例のものと異なるから,同実施例を再現するものではなく,甲1発明の認定に影響を与えるものではない。 ウ相違点3について甲1文献には,エチレン/酢酸ビニル共重合体組成物について,「この共重合体は,この種の共重合体に通常配合し得る補助成分例えば安定剤,着色料,充填剤などを含むものであってもよい。」と記載されているだけで,技術常識を参酌しても,架橋剤を配合することや,エチレン/酢酸ビニル共重合体が架橋されていることは記載されていない。よって,その点を本件発明1との相違点とした審決の判断に誤りはない。 原告は,エチレン/酢酸ビニル共重合体に架橋剤を配合することは周知であると主張する。しかし,一般に,架橋剤は太陽電池用封止膜等の接着性が要求される用途に配合する添加剤であると考えられているが,甲1 文献には太陽電池用封止膜等の接着性を必要とする用途が一切記載されていないから,技術常識を考慮しても,当業者が甲1 発明のフィルムに架橋剤を配合する理由はない。 エ相違点4について甲1文献にはフィルムが透明であるとの記載は一切ないから,透明フィルムと規定していない点を本件発明1との相違点とした審決の判断に誤りはない。 進歩性判断の誤りについてア本件発明が当業者において容易想到で ィルムが透明であるとの記載は一切ないから,透明フィルムと規定していない点を本件発明1との相違点とした審決の判断に誤りはない。 進歩性判断の誤りについてア本件発明が当業者において容易想到ではないこと本件発明1は,甲1文献及び技術常識に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。 また,甲2文献ないし甲4文献の記載を参酌しても,甲1文献に記載さ れたフィルムを甲2文献ないし甲4文献に記載された用途に転用する動機付けはなく,甲1文献の塩基性金属水酸化物の含有量を,甲1発明の技術的思想に反して,本件発明1の含有量とする動機付けもない。 よって,本件発明1は,甲1文献に甲2文献ないし甲4文献を組み合わせて,当業者が容易に想到し得たものではない。 さらに,本件発明2ないし8は,いずれも本件発明1の特定事項を全て含むものであるから,本件発明1と同様,甲1文献ないし甲4文献に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イフィルムの用途(相違点1)について甲1文献にある「農業用フィルム」,「重袋用フィルム」及び「ドライラミネーション用原反フィルム」は,本件発明1の太陽電池用封止膜や合わせガラス用透明接着剤層のように,フィルムを接着剤層として複数の部材間に狭持させ,架橋剤により架橋・硬化することで接着力及び耐久性を発揮するという接着性を必要とする用途とは全く異なるものである。また,甲1文献にある「押出フィルム」及び「インフレーションフィルム」は,製造方法からフィルムを特定する記載であり,具体的な用途の記載ではないから,甲2文献等に太陽電池用封止膜が「押出しフィルム法」や「インフレーション法」で製造できることが記載されていても,甲1文献における用途とは何の関係もない。 し ,具体的な用途の記載ではないから,甲2文献等に太陽電池用封止膜が「押出しフィルム法」や「インフレーション法」で製造できることが記載されていても,甲1文献における用途とは何の関係もない。 したがって,甲1文献には,太陽電池用封止膜や合わせガラス用透明接着剤層の用途について一切記載も示唆もなく,甲1発明の「フィルム」を太陽電池用封止膜等の接着性を必要とする用途に用いることの動機付けは存在しない。 ウ受酸剤粒子の含有量(相違点2)について甲1発明は,フィルム加工時までに発生した遊離酢酸を塩基性金属水酸化物と十分に反応させ,得られたフィルム中には遊離酢酸と塩基性金属水 酸化物がほとんど残存しない状態にすることで課題を解決するものである。 そうすると,甲1発明のフィルムにおいて,受酸剤の含有量を増加させて本件発明1の含有量とすることは,甲1発明の趣旨に反するから,フィルム中に塩基性金属水酸化物を所定の範囲で添加させることについて阻害事由がある。 また,甲2文献には,受酸剤に関する規定は一切記載されていない。 よって,甲1文献その他の公知文献の記載及び技術常識から,甲1発明との相違点2を補うことはできない。 エ架橋剤の配合(相違点3)及び透明性(相違点4)についてエチレン/酢酸ビニル共重合体を取り扱う当業者にとっては,甲1文献の実施例のようにエチレン/酢酸ビニル共重合体組成物に架橋剤を配合しない場合もあるとおり,用途に応じて添加剤の種類を検討することこそが技術常識である。一般に,架橋剤は,太陽電池用封止膜等の接着性が要求される用途に配合される添加剤であると考えられているが,甲1文献には,太陽電池用封止膜等の接着性を必要とする用途について一切記載も示唆もないから,技術常識を考慮しても,当業者が,甲1発明 着性が要求される用途に配合される添加剤であると考えられているが,甲1文献には,太陽電池用封止膜等の接着性を必要とする用途について一切記載も示唆もないから,技術常識を考慮しても,当業者が,甲1発明の「フィルム」に架橋剤を配合することを想到するということはできない。 また,甲1文献には,フィルムの透明性についての記載は一切なく,甲3文献等から当業者に透明性の向上が把握される架橋剤に関する記載もないことから,技術常識を考慮しても甲1発明の「フィルム」の透明性を向上させるという動機付けはない。 オ本件発明の効果について本件発明1は,太陽電池用封止膜や合わせガラス用透明接着剤層において,受酸剤粒子,架橋剤,エチレン/酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有率の各構成要件を組み合わせることで,導線や電極あるいは蒸着金属膜の腐食の防止とフィルムの透明性とを両立させた透明フィルムであり,そ の効果については,本件明細書の実施例において立証されている。 5 取消事由5について相違点1について甲2文献における紫外線吸収剤と本件発明1における受酸剤粒子とは技術的思想としては顕著に異なるし,どちらの用語も樹脂組成物の技術分野において当業者に慣用されており,明確に対比することができる。したがって,受酸剤やそれを用いる課題について何ら記載のない甲2発明において,受酸剤を用いる旨の規定がない点を本件発明1との相違点とした審決の判断に誤りはない。 相違点2について本件発明1が本件訂正により適法に訂正されているのは前記1のとおりであり,受酸剤粒子として含有される金属酸化物から,酸化亜鉛,酸化スズ,酸化チタン等の金属酸化物が除外されている。そして,甲2文献には,その他の金属酸化物及び金属水酸化物の記載はない。したがって,甲2 あり,受酸剤粒子として含有される金属酸化物から,酸化亜鉛,酸化スズ,酸化チタン等の金属酸化物が除外されている。そして,甲2文献には,その他の金属酸化物及び金属水酸化物の記載はない。したがって,甲2発明に本件発明1が規定する「金属酸化物(ただし,酸化亜鉛,酸化スズ,酸化チタン等を除く),金属水酸化物又はこれらの混合物」を用いる旨の記載がない点を本件発明1との相違点とした審決の判断に誤りはない。 前記ることからすれば,本件発明は甲2発明に対して新規性を有する。 また,甲2文献には,太陽電池用封止膜や熱線反射用合わせガラス用透明接着剤層のエチレン/酢酸ビニル共重合体が経時的に加水分解して酢酸が発生することにより導線や電極又は金属膜が腐食することを防止するという課題について,記載も示唆もない。さらに,他の公知文献を参酌したとしても,甲2発明の太陽電池モジュールの充填材に受酸剤を配合することの動機付けとなる記載や示唆はない。 したがって,本件発明は甲2発明及びその他の公知文献に基づき当業者が 容易に発明をすることができたものではないとの審決の判断にも誤りはない。 6 取消事由6について特開2002-12813号公報(乙2)及び審決の引用する公知文献によれば,種々の金属酸化物又は金属水酸化物が受酸剤として同様の作用効果を有すると当業者に認識されており,また,少なくとも受酸剤として用いられる金属酸化物及び金属水酸化物がいずれも塩基として酸と作用することは技術常識である。 本件発明の技術的思想は,太陽電池用封止膜等に用いる透明フィルムに,出願時に用いられていなかった受酸剤粒子を用いるために,受酸剤粒子の含有量及び平均粒径を調整したことにある。したがって,受酸剤粒子として用いられる金属酸化物又は金属水酸化物のうち る透明フィルムに,出願時に用いられていなかった受酸剤粒子を用いるために,受酸剤粒子の含有量及び平均粒径を調整したことにある。したがって,受酸剤粒子として用いられる金属酸化物又は金属水酸化物のうちのいずれかの物質の作用が認められれば,受酸剤粒子として用いられる金属酸化物及び金属水酸化物までは,拡張ないし一般化できると考えられる。 そして,本件明細書の実施例には,受酸剤粒子として金属酸化物であるMgOが開示され,平均粒径1μm,3.5μm及び5.5μmのMgO粒子を用いた透明フィルムを評価した結果に基づいて,受酸剤粒子の平均粒径の上限及び受酸剤粒子の含有量の上限を規定しており,これについて発明の作用効果が認められることからすれば,本件発明1において,受酸剤粒子について,「金属酸化物(ただし,一部の物質を除く。),金属水酸化物又はこれらの混合物」まで拡張ないし一般化した記載とすることは許されるべきものである。 さらに,技術常識に照らせば,当業者が,本件発明1における受酸剤粒子について,通常は受酸剤粒子として使用しない金属酸化物や金属水酸化物まで含まれると把握することはない。 よって,本件発明は本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたもので,サポート要件を具備しており,この点に関する審決の判断に誤りはない。 7 取消事由7について 本件発明1における受酸剤粒子の平均粒径については,上限値「5μm以下」の規定が重要であり,本件明細書の記載からも,平均粒径が小さいほど,本件発明1の効果が得られることは明らかである。そして,本件発明1が「受酸剤粒子を含む」ものである以上,透明フィルム中に,ある平均粒径を有する受酸剤「粒子」が含まれていることは明確である。 したがって,本件発明1において,受酸剤粒子の平均粒径の上 本件発明1が「受酸剤粒子を含む」ものである以上,透明フィルム中に,ある平均粒径を有する受酸剤「粒子」が含まれていることは明確である。 したがって,本件発明1において,受酸剤粒子の平均粒径の上限値だけを示すような数値範囲の限定であっても,発明の範囲は明確であり,この点に関する審決の判断に誤りはない。 8 取消事由8について受酸剤の種類によって本件発明の効果に差があって,配合量等を調整することは,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や高度な実験等を行う必要があるものではなく,当業者の通常の創作能力の発揮である。 したがって,本件発明は実施可能要件を具備しており,この点に関する審決の判断に誤りはない。 第5 当裁判所の判断当裁判所は,審決には,甲1発明に対する本件発明の新規性及び進歩性についての判断に関して誤りがあり(取消事由4),この誤りは審決の結論に影響するものであるから,審決は取消しを免れないと判断する。 その理由は以下に述べるとおりであるが,判断に当たっては,まず,本件訂正の適法性判断の誤りをいう取消事由1,これを前提とする本件発明の認定の誤りをいう取消事由2,審理上の適正手続違反をいう取消事由3について判断した上で,取消事由4について判断することとする。 1 取消事由1(本件訂正の適法性判断の誤り)について本件訂正の適法性について特許法134条の2第1項ただし書は,特許無効審判の被請求人による訂正請求は,①特許請求の範囲の減縮,②誤記又は誤訳の訂正,③明瞭でない 記載の釈明,若しくは④他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること,を目的とするものに限ると規定している。そして,特許法134条の2第9項が準用する同法126条5項は,「第1項の明 求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること,を目的とするものに限ると規定している。そして,特許法134条の2第9項が準用する同法126条5項は,「第1項の明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」と規定しているところ,ここにいう「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,訂正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものと解することができる。 本件訂正における訂正事項は,本件訂正前発明1に係る請求項1の「金属酸化物」を「金属酸化物(ただし,Sn,Ti,Si,Zn,Zr,Fe,Al,Cr,Co,Ce,In,Ni,Ag,Cu,Pt,Mn,Ta,W,V,Moの金属酸化物を除く)」と訂正するものである(甲15)。そして,「受酸剤粒子が,金属酸化物…であり」との請求項1の記載に照らすと,本件訂正の前後を通じて,この「金属酸化物」は受酸剤として使用される金属酸化物を意味すると解されるところ,は,このように受酸剤として使用される金属酸化物から,その一部である「Sn,Ti,Si,Zn,Zr,Fe,Al,Cr,Co,Ce,In,Ni,Ag,Cu,Pt,Mn,Ta,W,V,Moの金属酸化物」を除外するものであると認められる。 ここに,「受酸剤」とは,酸を捕捉(吸収ないし中和)する作用を有する物質を意味するから,本件発明1において受酸剤として使用される金属酸化物とは,そのような機能を有する金属酸化物であれば れる。 ここに,「受酸剤」とは,酸を捕捉(吸収ないし中和)する作用を有する物質を意味するから,本件発明1において受酸剤として使用される金属酸化物とは,そのような機能を有する金属酸化物であれば種類を問わないと解され,訂正事項は,そのような性質を有する金属酸化物のうち具体的に列挙された一部の金属酸化物を除外するものであると解される。そして,除外さ れるもののみが受酸剤として何らかの特有の性質を有するとか,除外後に残ったもののみが受酸剤として何らかの特有の性質を有するなど,本件訂正の前後で,受酸剤粒子として使用される「金属酸化物」の技術的内容を変更するような事情は見当たらない。 したがって,は,特許請求の範囲に記載された「金属酸化物」の種類を訂正前より限定するものであり,これによって新たな技術的事項を導入するものではないから,これに係る訂正は,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」するものということができる。 原告の主張についてア除いたことにはならないから,訂正の趣旨を逸脱すると主張する(前記第 かかる原告の主張は,本件訂正によっても本件発明1は甲4文献との関係で新規性を欠き,独立特許要件を具備しないとの主張とも解される。しかし,甲4文献にはエチレン/酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有率及び架橋剤による架橋についての開示がないことは原告も前提とするところであり(前記第3の4本件発明1は,少なくともこれらの点において,甲4文献に記載された発明に対して新規性を有することとなるから,本件訂正によって甲4文献に記載された金属酸化物が全て除かれたかどうかを問わず,原告の上記主張は採用することができない。 イ難く,あるいは,本件訂正前明細書に受酸剤として挙げられ ととなるから,本件訂正によって甲4文献に記載された金属酸化物が全て除かれたかどうかを問わず,原告の上記主張は採用することができない。 イ難く,あるいは,本件訂正前明細書に受酸剤として挙げられたMgO,ZnO及びPb3O4と機能上等価であると確認されていない相当数の金属酸化物が,「金属酸化物」に含まれることになるから,本件訂正は新たな技 しかしながら,本件訂正の前後を問わず,「金属酸化物」とは,受酸剤としての作用を有するものであることが前提であることは前であり,原告の上記主張は採用することができない。 ウ原告は,本件訂正は進歩性欠如の無効事由を回避するために行われたものであるから訂正の手法を逸脱しており,これによって第三者が不測の不 しかるに,訂正は,特許法134条の2第1項ただし書に掲げる事項を目的とし,これによって新たな技術的事項を導入するものではなく,訂正後の発明がいわゆる独立特許要件(特許法134条の2第9項の準用する同法126条7項)を具備するなどの所定の要件を満たす場合に許容されるものであり,進歩性欠如の無効事由を回避するために行われたか否かはそれ自体として訂正の適否を左右するものではない。そして,による訂正の結果,本件発明1における金属酸化物の種類に関して,受酸剤として用いられる金属酸化物の中から特定の種類のものが除かれたと容易に理解することができるから,これによって第三者が不測の不利益を被るともいえない。 したがって,原告の上記主張も採用することができない。 小括以上によれば,審決における本件訂正の適法性判断に,原告の主張する誤りがあるということはできない。 2 取消事由2(本件発明の認定の誤り)について前記1のとおり,審決における本件訂正の適法性判断に原告の主張 決における本件訂正の適法性判断に,原告の主張する誤りがあるということはできない。 2 取消事由2(本件発明の認定の誤り)について前記1のとおり,審決における本件訂正の適法性判断に原告の主張する誤りがあるということはできないから,その誤りを前提として,審決がした本件発明の認定に誤りがあるとの原告の主張(前記第3の2)は,採用することができない。 3 取消事由3(審理上の適正手続違反)について 原告は,審決を行った審判合議体が,本件発明と甲1発明及び甲2発明との恣意的で誤った対比等を記載した審理事項通知書を作成して被告の主張内容に影響を与えたとして,無効審判における審理上の適正手続違反があると主張する(前記第3の3)。 特許庁審判長作成の平成24年11月16日付け審理事項通知書(甲17。 以下「本件通知書」という。)は,審判合議体が,本件発明の無効事由の有無について審決において判断する前提となる事実として,同合議体がその時点で認定した引用発明である甲1発明及び甲2発明の内容や,これらの発明と本件発明1との一致点及び相違点を開示した上,かかる認定の適否や,原告の主張の不明点について,原告に対して意見の提出を促すなどするものである。 上記のような本件通知書の内容や,その作成時期等に照らすと,本件通知書は,原告に対する不意打ちを防止しようとするものであるということができ,また,審判合議体が開示したこれらの認定については,最終的にはその適否を審決取消訴訟において争うべきものであることからしても,その認定に誤りがあるからといって,あるいはその内容が被告に有利なものであり被告がそれに応じて自らの主張を変えたからといって,直ちに審理上の適正手続違反があるということはできない。そして,他に,上記審理を違法とするような事情 いって,あるいはその内容が被告に有利なものであり被告がそれに応じて自らの主張を変えたからといって,直ちに審理上の適正手続違反があるということはできない。そして,他に,上記審理を違法とするような事情も見当たらない。 よって,本件通知書の作成及び発出について審判手続上の適正手続違反があるとは認められず,原告の上記主張は採用することができない。 4 取消事由4(甲1発明に対する本件発明の新規性,進歩性判断の誤り)について甲1文献の記載内容原告は,審決には甲1発明の認定に誤りがあり,これを前提とする本件発明1との相違点の認定や相違点に係る進歩性の判断に誤りがあると主張する(前記第3の4)。 そこで,審決による甲1発明の認定及び本件発明1との相違点の認定の適否について判断するため,甲1文献の記載内容を検討する。 甲1文献(甲1)は,発明の名称を「エチレン・酢酸ビニル共重合体組成物」とする発明の公開特許公報であり,次の記載がある。 「2.特許請求の範囲(1) エチレン・酢酸ビニル共重合体に,平均粒子径が5μm以下の塩基性金属水酸化物を重量基準で10~5000ppm添加したことを特徴とするエチレン・酢酸ビニル共重合体組成物。」(1頁左欄4行目ないし8行目)「3.発明の詳細な説明〔産業上の利用分野〕本発明はエチレン・酢酸ビニル共重合体組成物に関し,特にフィルム加工性の改善されたエチレン・酢酸ビニル共重合体組成物に関するものである。 〔従来の技術〕エチレン・酢酸ビニル共重合体は有用な高分子材料であり,例えば酢酸ビニル含有量が1~40重量%程度のものが日用成形品として,また,酢酸ビニル含有量が10~30重量%程度のものは農業用フィルムとして,さらに,酢酸ビニル含有量が1~10重量 子材料であり,例えば酢酸ビニル含有量が1~40重量%程度のものが日用成形品として,また,酢酸ビニル含有量が10~30重量%程度のものは農業用フィルムとして,さらに,酢酸ビニル含有量が1~10重量%のものが重袋用フィルムやドライラミネーション用原反フィルムとして,それぞれ利用されている。 しかし,当該共重合体には,その製造当初からの,或はその加工工程などで加えられる熱や力によって発生した遊離酢酸が含まれていることが避け難く,この遊離酢酸はロール,バンバリー,押出機等の通常の混練機を用いた処理工程で大半(80~95%)は飛散するとはいえ,なお残存ないし新たに発生するものもあり,そのため,臭気の発生やこれと接触する機器での腐食の誘発等の問題がある。 この臭気の発生や機器に対する腐食の誘発の原因である遊離酢酸量の低減を目的として,従来でも例えば水酸化カルシウム,水酸化マグネシウムなどの塩基性金属水酸化物を当該共重合物に添加することによって,遊離酢酸を酢酸塩にする方法が提案されている…。 これらの方法は,エチレン・酢酸ビニル共重合体の遊離酢酸含有量の低減に効果的であるが,実際の添加に当たっては,添加された塩基性金属水酸化物のすべてが遊離酢酸と反応して酢酸塩となるとは限らないので,一般的には,効果の安全性を見込んで,酢酸塩にするために必要な理論量の1.5~2倍程度の,過剰の塩基性金属水酸化物が添加されている。 〔発明が解決しようとする課題〕しかしながら,上記の配合組成物では,粒子径の大きい塩基性金属水酸化物が,遊離酢酸との反応に与らない余剰分としてそのまま残存しており,そのため,フィルム加工時にフィルム加工機のダイ出口において摩擦帯電し,このものからフィルム中の塩基性金属水酸化物からダイにスパークしてフィル 酸との反応に与らない余剰分としてそのまま残存しており,そのため,フィルム加工時にフィルム加工機のダイ出口において摩擦帯電し,このものからフィルム中の塩基性金属水酸化物からダイにスパークしてフィルムに白傷が発生することが判明した。…また,フィルム中に残存する余剰の塩基性金属水酸化物は,新たな臭気発生源となることも判明した。この臭いは,塩基性金属水酸化物の粒子径にあまり影響されず,フィルム中に残存する塩基性金属水酸化物の余剰量が多くなるほど顕著となる。 本発明の目的は,このような問題点を解決し,加工性,臭気の点で改善されたエチレン・酢酸ビニル共重合体組成物を提供することにある。 〔課題を解決するための手段〕本発明は,上記の問題が,エチレン・酢酸ビニル共重合体に添加する塩基性金属水酸化物の粒子径に関係し,特定の粒子径以下のものを用いることにより上記の問題を解決したものである。 すなわち,本発明の組成物は,エチレン・酢酸ビニル共重合体に平均粒 子径が5μm以下の塩基性金属水酸化物を重量基準で10~5000ppm添加したことを特徴とするものである。 エチレン・酢酸ビニル共重合体本発明で用いるエチレン・酢酸ビニル共重合体としては,酢酸ビニル含有量が0.1重量%以上のものであればよく,0.5~40重量%のものが好ましい。…特に押出フィルム用としては,この共重合体のMFRが0. 1~30g/10分のものが好ましい。 塩基性金属水酸化物本発明に用いる塩基性金属水酸化物は,例えば水酸化カルシウム,水酸化マグネシウムが好適であり,平均粒子径が5μm以下,好ましくは3μm以下のものであればよい。このものは30μm以上,特に20μm以上の粒径物を実質的に含まないものが好ましい。平均粒子径が上記より大きい ネシウムが好適であり,平均粒子径が5μm以下,好ましくは3μm以下のものであればよい。このものは30μm以上,特に20μm以上の粒径物を実質的に含まないものが好ましい。平均粒子径が上記より大きいと効果が奏されない。また,30μmより大きい粒子径物は,遊離酢酸との反応性が劣る傾向にあり,そのまま残存しやすい。そのため,前記した理由により問題を発生させることとなり易い。 …配合本発明の組成物において,エチレン・酢酸ビニル共重合体に対する塩基性金属水酸化物の具体的な添加量は,当該共重合体中の酢酸ビニル含有量,当該共重合体の重合後の処理の度合い,添加方法などにより異なるので,添加時の対象共重合体中の遊離酢酸量に応じて決定すべきであるが,通常は,当該共重合体に対し10~5000ppm(重量基準),好ましくは15~4000ppmの添加が有効である。…添加は,当該共重合体製造時の造粒工程,混練工程,フィルム加工工程のいずれにおいても可能である。…〔実施例〕 実施例1及び2エチレン・酢酸ビニル共重合体A及びB(MFR0.5g/10分,酢酸ビニル含有量がそれぞれ5重量%及び15重量%)のそれぞれに,混練ロールを用いて平均粒子径が5μmで最大粒径が19μmの水酸化カルシウムをそれぞれ500ppm(重量)添加し,混練して組成物A及びBを得た。 これらの組成物を90mm径のインフレーションフィルム加工機を用いて,200℃でダイ出口のシェアレート70sec-1にて各50μm厚みのインフレーションフィルムに加工した。 組成物A及びBともインフレーションフィルム加工時,スパークによるフィルムの白傷発生は全く起こらなかった。また組成物A及びBのフィルム中の酢酸濃度はそれぞれ10ppm及び25ppmの少 した。 組成物A及びBともインフレーションフィルム加工時,スパークによるフィルムの白傷発生は全く起こらなかった。また組成物A及びBのフィルム中の酢酸濃度はそれぞれ10ppm及び25ppmの少量であった。 実施例3及び4実施例1及び2において,水酸化カルシウムの代わりに平均粒子径が2μmで最大粒径が8μmの水酸化マグネシウムを用いた他は実施例1及び2と同様の方法で組成物C及びDのインフレーションフィルムをそれぞれ得た。 組成物C及びDともインフレーションフィルム加工時,スパークによるフィルムの白傷発生は全く起こらなかった。また組成物C及びDのフィルム中の酢酸濃度はそれぞれ12ppm及び28ppmの少量であった。 比較例1~2実施例1及び2において,水酸化カルシウムを平均粒子径が10μmで最大粒径が50μmの水酸化カルシウムに変更した他は実施例1及び2と同様の方法で,組成物E及びFのインフレーションフィルムをそれぞれ得た。 組成物E及びFは,どちらもインフレーションフィルム加工時,スパー クによるフィルムの白傷発生が起こった。また組成物E及びFのフィルム中の酢酸濃度はそれぞれ50ppm及び110ppmと多量であった。」(1頁左欄9行目ないし3頁左下欄5行目)甲1発明の認定について審決は,甲1発明のエチレン/酢酸ビニル共重合体含有フィルムの用途を,「酢酸ビニル含有量が1~10重量%の場合,重袋用又はドライラミネーション用原反であり,酢酸ビニル含有量が5~15重量%の場合,インフレーション用であり,酢酸ビニル含有量が10~30重量%の場合,農業用である,」と認定した。 前記の甲1文献の記載内容からすると,審決が認定したフィルムの酢酸ビニル含有量及び用途は,「重袋用」,「ドライ であり,酢酸ビニル含有量が10~30重量%の場合,農業用である,」と認定した。 前記の甲1文献の記載内容からすると,審決が認定したフィルムの酢酸ビニル含有量及び用途は,「重袋用」,「ドライラミネーション用原反」及び「農業用」については同文献の〔従来の技術〕の項の記載から,「インフレーション用」については同文献の〔実施例〕の項の記載から認定されたものと認められる。 しかるに,甲1文献の〔従来の技術〕の項には,審決が認定したほかに,「酢酸ビニル含有量が1~40重量%程度のものが日用成形品として」との用途が記載されている上,そもそも〔従来の技術〕の項に記載された用途はいずれも例示にすぎないから,この記載自体,フィルムが他の用途に用いられることを排除するものではないと解される。 そうすると,甲1発明に係るエチレン/酢酸ビニル共重合体組成物を用いたフィルムが審決の摘示した用途に用いられること自体は否定することができないものの,これらの記載から,酢酸ビニル含有量毎に用途を限定的に認定するのは妥当であるとはいえない。むしろ,甲1文献の全体の記載に照らしても,甲1発明に係るフィルムについて,特定の用途を認定することはできないものというべきである。 よって,審決が,甲1発明に係るフィルムについて,酢酸ビニル含有量毎 に特定の用途を認定したのは誤りというべきである。 相違点の認定についてア相違点1について前記のとおり,甲1発明に係るフィルムについて,特定の用途を認定することはできないから,相違点1は,「本件発明1は,「太陽電池用封止膜又はガラスと透明フィルムとの間に蒸着金属膜を挿入した熱線反射用の合わせガラス用透明接着剤層として使用する」透明フィルムと規定しているのに対し,甲1発明は,用途が限定されてい は,「太陽電池用封止膜又はガラスと透明フィルムとの間に蒸着金属膜を挿入した熱線反射用の合わせガラス用透明接着剤層として使用する」透明フィルムと規定しているのに対し,甲1発明は,用途が限定されていない点。」(以下「相違点1’」という。)と認定するのが相当である。したがって,審決による,これと異なる相違点1の認定には,誤りがあるというべきである。 被告は,甲1発明に係るフィルムの用途は,甲1文献の記載内容から把握できるものに限られるべきであると主張する(前記第4の4ア)が,甲1文献に記載された用途が例示にすぎず,他の用途に用いられることが排除されるものではないのは前述のとおりであるから,被告の上記主張は採用することができない。 イ相違点2について審決の認定の適否についてa 審決は,相違点2の認定に当たり,甲1文献の記載に照らすと,フィルム成形後に臭気発生源となる塩基性金属水酸化物はフィルム中に極力存在しないことが好ましく,フィルム成形後にはもはや酢酸を捕捉する必要はないことから,フィルムにおける塩基性金属水酸化物の含有量は,酢酸を捕捉するために必要な最低量である10ppmを超えることはないと推認し(審決書15頁17行目ないし22行目),甲1発明に係るフィルム中の受酸剤粒子の含有量は10ppmを超えないと認定している(前記第2の3アb)。 そこで,かかる認定の適否について,甲1文献の記載に照らして検 討する。 b 甲1文献は,エチレン/酢酸ビニル共重合体中の遊離酢酸量の低減を目的として添加される塩基性金属水酸化物の問題点として,〔発明が解決しようとする課題〕の項において,フィルム加工時の白傷の発生や新たな臭気発生の原因となることを指摘する。そして,臭気に関しては,「この臭いは,塩基性金属水酸化物の 酸化物の問題点として,〔発明が解決しようとする課題〕の項において,フィルム加工時の白傷の発生や新たな臭気発生の原因となることを指摘する。そして,臭気に関しては,「この臭いは,塩基性金属水酸化物の粒子径にあまり影響されず,フィルム中に残存する塩基性金属水酸化物の余剰量が多くなるほど顕著となる。」としており,かかる記載は,フィルム成形後に臭気発生源となる塩基性金属水酸化物がフィルム中に余剰に存在しないことが望ましいことを示唆するものということができる。 しかしながら,甲1文献は,〔課題を解決するための手段〕の項において,「本発明は,上記の問題が,エチレン・酢酸ビニル共重合体に添加する塩基性金属水酸化物の粒子径に関係し,特定の粒子径以下のものを用いることにより上記の問題を解決したものである。」としており,専らエチレン/酢酸ビニル共重合体に添加する塩基性金属水酸化物の粒子径に着目し,その平均粒子径を5μm以下とすることを問題の解決手段として提示している。 そして,甲1文献は,「配合」の項において,その「具体的な添加量は,当該共重合体中の酢酸ビニル含有量,当該共重合体の重合後の処理の度合い,添加方法などにより異なるので,添加時の対象共重合体中の遊離酢酸量に応じて決定すべきであるが,通常は,当該共重合体に対し10~5000ppm(重量基準),好ましくは15~4000ppmの添加が有効である。」と記載しており,対象共重合体中の遊離酢酸量を基準としつつも,添加量の決定のための具体的手段は何ら開示せず,10ないし5000ppmという相当に幅のある数値範囲を提示している。 また,特許請求の範囲上は,添加時のエチレン/酢酸ビニル共重合体中の遊離酢酸量に応じて塩基性金属水酸化物の添加量を決定するとの記載はない。 c この点 る数値範囲を提示している。 また,特許請求の範囲上は,添加時のエチレン/酢酸ビニル共重合体中の遊離酢酸量に応じて塩基性金属水酸化物の添加量を決定するとの記載はない。 c この点,エチレン/酢酸ビニル共重合体中に発生する遊離酢酸量を的確に算定することは実際には困難であるというべきであり,そうすると,当該共重合体中に添加する塩基性金属水酸化物の添加量を的確に定めることもまた困難であるといわざるを得ない(なお,甲1文献の〔従来の技術〕の項には,「酢酸塩にするために必要な理論量」との記載があるが,かかる「理論量」自体の的確な算定も困難であることは,上記と同様である。)。 また,エチレン/酢酸ビニル共重合体中の遊離酢酸は,加工後も新たに発生するものであることは,甲1文献の〔従来の技術〕の項に「この遊離酢酸は,…なお残存ないし新たに発生するものもあり」と記載されているとおりである。したがって,審決が,フィルム成形後にはもはや酢酸を捕捉する必要はないと解しているのは誤りというべきである。そして,加工後に新たに発生する遊離酢酸の量は,対象共重合体中の酢酸ビニルの含有量や加工後に加えられる熱や力の程度に応じて異なるということができるから,これを捕捉するために必要な塩基性金属水酸化物の量を一律に定めることも困難であると考えられる。 d 前記b及びcの説示に照らせば,甲1文献は,理論的には,塩基性金属水酸化物の添加量は対象共重合体中の遊離酢酸量に応じて決定すべきではあるものの,実際上は,その的確な算定が困難であることを踏まえ,対象共重合体中の遊離酢酸量にかかわらず,平均粒子径5μm以下の塩基性金属水酸化物を10ないし5000ppm添加することによって,発明の作用効果が奏せられることを開示するものである ということが 重合体中の遊離酢酸量にかかわらず,平均粒子径5μm以下の塩基性金属水酸化物を10ないし5000ppm添加することによって,発明の作用効果が奏せられることを開示するものである ということができる。 そうすると,甲1発明に係るフィルム製造の際にエチレン/酢酸ビニル共重合体中に添加する塩基性金属水酸化物の具体的な添加量次第では,本件発明1が開示する受酸剤粒子の含有量の範囲内となるような量の塩基性金属水酸化物が,フィルム中になお残存することとなる可能性は極めて高いというべきであり,これによれば,本件発明1と甲1発明との間に,受酸剤粒子の含有量において重複する範囲が生ずることとなる。 以上によれば,審決が,甲1発明に係るフィルム中の塩基性金属水酸化物の含有量は一律に10ppmを超えないと推認したのは誤りであり,これを前提とする審決による相違点2の認定にも誤りがあるというべきである。 被告の主張について被告は,①甲1発明は,塩基性金属水酸化物の平均粒子径を5μm以下とすることで,フィルム加工時までに発生した遊離酢酸と塩基性金属水酸化物とを十分に反応させ,得られたフィルム中には遊離酢酸と塩基性金属水酸化物がほとんど残存しない状態にするものであると把握される,②甲1文献の実施例や被告報告書の各記載によって,加工後のエチレン/酢酸ビニル共重合体組成物中に塩基性金属水酸化物が残存しなくなることが実証ないし確認されている,と主張する(前記第4の4イ)。 しかしながら,甲1発明を被告が主張するように把握することができないのは,前記のとおりである。 また,甲1文献の実施例は,白傷の有無やフィルム中の酢酸濃度については検査ないし測定しているものの,臭気の有無については検査されておらず,フィルム中の塩基性金属水酸化 ,前記のとおりである。 また,甲1文献の実施例は,白傷の有無やフィルム中の酢酸濃度については検査ないし測定しているものの,臭気の有無については検査されておらず,フィルム中の塩基性金属水酸化物の量も直接測定されてはい ないから,これらの結果のみによって,エチレン/酢酸ビニル共重合体組成物中に塩基性金属水酸化物が残存していないことが裏付けられたということはできない。さらに,被告報告書(乙7)は,特定のエチレン/酢酸ビニル共重合体に水酸化カルシウム500ppmを添加して混練した組成物中に残存する水酸化カルシウムの有無についての分析結果にすぎず,これをもって,甲1発明に係るフィルム中の塩基性金属水酸化物の含有量が一律に10ppmを超えることがないことが裏付けられたということはできない。 したがって,被告の上記主張はいずれも採用することができない。 ウ相違点3について原告は,甲1発明のフィルムを非架橋とすべき特段の理由はなく,エチレン/酢酸ビニル共重合体の太陽電池用封止膜の用途において,架橋剤により架橋されているフィルムとすることは技術常識であるなどとして,審決が,架橋の有無に関して,本件発明1と甲1発明との間に相違点3を認定したのは誤りであると主張する(前記第3の4ウ)。 しかしながら,甲1文献は,フィルムの用途を特定するものではなく(前記),エチレン/酢酸ビニル共重合体組成物に架橋剤を配合する旨の記載や,エチレン/酢酸ビニル共重合体組成物が架橋されている旨の記載はないから,技術常識を考慮しても,審決による相違点3の認定に誤りはなく,原告の上記主張は採用することができない。 エ相違点4について原告は,審決が,フィルムの透明性に関して,本件発明1と甲1発明との間に相違点4を認定したのは誤りで 違点3の認定に誤りはなく,原告の上記主張は採用することができない。 エ相違点4について原告は,審決が,フィルムの透明性に関して,本件発明1と甲1発明との間に相違点4を認定したのは誤りであると主張する(前記第3の4エ)。 しかしながら,甲1文献にはフィルムが透明であるとの記載がない以上,審決による相違点4の認定に誤りはなく,原告の上記主張は採用すること ができない。 進歩性判断の誤りについてア相違点1’,3及び4に係る構成の容易想到性について甲1文献によれば,エチレン/酢酸ビニル共重合体は,従来から,有用な高分子材料として,様々な分野において,用途に適した酢酸ビニルの含有量のものを用いることが広く行われてきたと認められる。そして,甲1文献には,エチレン/酢酸ビニル共重合体の問題点として,これに含まれる遊離酢酸がこれと接触する機器での腐食を誘発するとの記載があり,エチレン/酢酸ビニル共重合体が機器と接触する部材として用いられることが示唆されている。 一方,甲2文献(甲2)や甲11文献(甲11)には,従来より,太陽電池用充填材層(本件発明の太陽電池用封止膜に相当する。)に用いられる熱可塑性透明有機樹脂として,エチレン/酢酸ビニル共重合体が好んで使用されてきたこと(甲2文献【0006】,【0033】,【0036】,甲11文献【0035】),太陽電池モジュールにおいて用いる際にはエチレン/酢酸ビニル共重合体を架橋することが好ましいこと(甲2文献【0034】,【0040】)が記載されており,これらの記載に照らせば,太陽電池用封止膜の材料として,架橋された透明なエチレン/酢酸ビニル共重合体を用いることは周知であったと認められる。 これに加え,太陽電池用封止膜が,甲1文献に示唆のある機器と接触す らせば,太陽電池用封止膜の材料として,架橋された透明なエチレン/酢酸ビニル共重合体を用いることは周知であったと認められる。 これに加え,太陽電池用封止膜が,甲1文献に示唆のある機器と接触する部材であることに照らすと,甲1文献に接した当業者にとって,甲1発明のフィルムを,架橋された透明なものとして太陽電池用封止膜の用途に用いることは,容易に想到し得ることであるということができる。 よって,相違点1’,3及び4に係る本件発明1の構成は,甲1発明及び周知技術に基づき当業者が容易に想到し得たものと認められる。 イ被告の主張について 被告は,相違点1に関して,甲1文献には太陽電池用封止膜や合わせガラス用透明接着剤層の用途について一切記載も示唆もなく,甲1発明に係るフィルムを太陽電池用封止膜等の接着性を必要とする用途に用いることの動機付けは存在しないと主張する(前記第4の4イ)。 しかしながら,前記アのとおり,エチレン/酢酸ビニル共重合体を太陽電池用封止膜に用いることが周知であると認められることなどからすれば,甲1発明に係るフィルムを太陽電池用封止膜に用いることの動機付けは存在しないとの被告の上記主張は採用することができない。 被告は,相違点3及び4に関して,甲1発明に係るフィルムに架橋剤を配合することを当業者は想到し得ず,また,その透明性を向上させることの動機付けはないと主張する(前記第4の4エ)。 しかしながら,甲1発明に係るフィルムの用途として太陽電池用封止膜が容易想到である以上,架橋することや透明なものとすることも容易に導き得る事柄である。 なお,被告は,甲3文献等に,当業者に透明性の向上が把握される架橋剤に関する記載がないとも主張する。しかるに,エチレン/酢酸ビニル共重合体を,太陽電池 とすることも容易に導き得る事柄である。 なお,被告は,甲3文献等に,当業者に透明性の向上が把握される架橋剤に関する記載がないとも主張する。しかるに,エチレン/酢酸ビニル共重合体を,太陽電池用封止膜に用いる場合の架橋剤については,甲2文献には一般的に用いられる有機過酸化物の具体例が多数列挙されており(【0043】ないし【0049】),太陽電池用封止膜として用いる場合に特有の架橋剤が存在したとは認められない。そして,本件発明1においても,請求項1において架橋剤の種類は特に限定されていないことからしても,架橋剤が透明性の向上に寄与するとしても,透明性との関係で架橋剤の選択に格別の創意工夫が必要であったとは認められない。 よって,被告の上記主張は採用することができない。 被告は,本件発明1は,受酸剤粒子,架橋剤,エチレン/酢酸ビニル 共重合体の酢酸ビニル含有率を組み合わせることで,腐食の防止とフィルムの透明性とを両立させた透明フィルムであると主張する(前記第4の4オ)。 かかる被告の主張を,当業者の予測し得ない顕著な効果を主張するものと解したとしても,エチレン/酢酸ビニル共重合体から発生する遊離酢酸による,これと接触する機器の腐食を防止するために,該共重合体に塩基性金属水酸化物を添加することは,甲1文献に開示されているところであり,これを用いたフィルムを透明なものとすることが当業者の容易に想到し得たことであることは,前記のとおりである。よって,これらの効果を両立させることも,当業者の予測を超えるものではない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 小括以上のとおり,甲1発明に対する本件発明1の新規性及び進歩性に関する審決の判断については,相違点1に関してはその認定及びこれに係 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 小括以上のとおり,甲1発明に対する本件発明1の新規性及び進歩性に関する審決の判断については,相違点1に関してはその認定及びこれに係る本件発明1の構成の容易想到性の判断に誤りがあり,相違点2に関してはその認定に誤りがある。 そして,これらの誤りを前提とする審決による本件発明2ないし8についての新規性及び進歩性の判断についても,誤りがあることとなる。 5 結論以上によれば,審決には,甲1発明に対する本件発明の新規性及び進歩性についての判断に関して誤りがあり,この誤りは審決の結論に影響するものであるから,取消事由5ないし8について判断するまでもなく,審決は取消しを免れない。 よって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官石井忠雄 裁判官田中正哉 裁判官神谷厚毅

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