主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求北大阪労働基準監督署長が,原告に対して平成17年2月14日付けでした労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付及び障害補償給付を支給しないとする処分を取り消す。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は,原告が,長時間かつ深夜の過酷な労働という業務上の過重負荷に起因して,心筋梗塞を発症したとして,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づいて北大阪労働基準監督署長(以下「原処分庁」という。)に対して療養補償給付及び障害補償給付の支払を求めたところ,原処分庁がいずれの支払もしない旨の決定処分(以下「本件処分」という。)をしたため,その取消しを求める事案である。 2 前提事実(ただし,文章の末尾に証拠等を掲げた部分は証拠等によって認定した事実,その余は当事者間に争いのない事実)(1) 当事者原告(昭和▲年▲月▲日生)は,平成12年9月1日,居酒屋のチェーン店を経営するマルシェ株式会社(以下「本件会社」という。)に就職し,「八剣伝」A店(以下「A店」という。)でアルバイトとして就労した後の同年10月1日,正社員として雇用され,同店舗で研修を受けた後の平成13年1月16日以降,大阪府枚方市<以下略>所在の同社直営に係る「八剣伝」B店(以下「本件店舗」という。)の店長として稼働するようになった。 (甲1の62頁,乙6)(2) 本件会社の所定労働時間及び休日等(甲1の63頁)原告の所定始業時刻は,午後4時30分, 「本件店舗」という。)の店長として稼働するようになった。 (甲1の62頁,乙6)(2) 本件会社の所定労働時間及び休日等(甲1の63頁)原告の所定始業時刻は,午後4時30分,所定終業時刻は,翌日午前2時,所定労働時間は,8時間,休憩は,食事時間を含め,交代で分散して1時間以上とされていた。 また,休日は,月に8日間から9日間とされていた。 (3) 原告の発症原告,平成13年3月13日(火曜日)午後8時ころ,店内で胸の痛みを感じるとともに呼吸が苦しくなり,更衣室で休憩してもよくならなかったため,妻に連絡を取り,妻とともに救急外来でC病院で診察を受けたところ,急性心筋梗塞(以下「本件疾病」という。)と診断され(以下「本件発症」という。),直ちに同病院に入院して治療を受け,同年4月7日退院し,翌平成14年3月4日まで同病院に通院した。本件発症時,原告は,35歳であった。 原告は,大阪府高槻市から兵庫県尼崎市に転居したこともあって,同月27日,兵庫県立D病院(以下「D病院」という。)に転医し,そこでは上記疾病について,陳旧性心筋梗塞及び狭心症と診断された。 (4) 職場復帰と退職(原告,弁論の全趣旨)原告は,C病院を退院した後の平成13年4月下旬,職場復帰して,本件会社の6店舗で順次勤務したものの,平成15年9月17日,再び胸の痛みを感じたこともあってD病院に入院して治療を受け,同月20日に退院した。 原告は,長時間の深夜労働に耐えられないと考えたこと,体調の不安感及び退職勧奨があったこと等から同年12月末ころ,本件会社を退職した。 (5) 本件処分及び審査請求ア原告は,平成16年7月20日,原処分庁に対し,本件疾病について,D病院で療養した期間 退職勧奨があったこと等から同年12月末ころ,本件会社を退職した。 (5) 本件処分及び審査請求ア原告は,平成16年7月20日,原処分庁に対し,本件疾病について,D病院で療養した期間のうち,平成14年3月27日から平成16年6月 9日までに係る療養補償給付の請求とその後の後遺障害について,障害補償給付の請求をしたところ,原処分庁は,平成17年2月14日,本件疾病は業務との間で相当因果関係が認められない(ただし,平成14年3月27日から同年7月20日までの間については,労災保険法42条の規定により時効が完成していることも理由である。)として,上記各給付についていずれも支給しない旨の決定処分(本件処分)をした(甲1の7頁)。 イ原告は,本件処分を不服として,平成17年3月8日,大阪労働者災害補償保険審査官に対し,審査請求をしたところ,同審査官は,平成17年5月31日,審査請求を棄却する旨決定した。 ウ原告は,上記決定を不服として,平成17年6月10日,労働保険審査会に対し,再審査請求をしたところ,同審査会は,平成20年3月14日,再審査請求を棄却する旨の裁決をした(乙17)。 (6) 厚生労働省では,脳血管疾患及び虚血性心疾患等(以下「脳・心臓疾患」という。)の発症が業務上か否かを判断するための認定基準を行政通達の形で示しているところ,平成13年12月12日には「脳血管疾患及び虚血性心疾患の認定基準」(同日付け基発第1063号。以下「新認定基準」という。)を策定している。 3 争点本件疾病が業務上の事由によるものか否か(業務起因性の有無)。 4 争点に関する当事者の主張(原告)(1) 業務起因性が認められる要件業務起因性が認められるためには,発症した疾病と業務との 事由によるものか否か(業務起因性の有無)。 4 争点に関する当事者の主張(原告)(1) 業務起因性が認められる要件業務起因性が認められるためには,発症した疾病と業務との間の条件関係が認められるだけでは足らず,業務と発症した疾病(結果)との間に法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)があることを要するところ,一般経験則上,以下の3要件が認められれば,従事した業務に よる負荷が基礎疾患をその自然経過を超えて増悪させ,脳・心臓疾患を発症させたと認められる。なお,新認定基準によっても,本件疾病の業務起因性は認められる。 ア被災者の従事した業務が,同人の基礎疾病を自然的経過を超えて増悪させる要因となり得る負荷(過重負荷)のある業務であったと認められること。 イ被災者の基礎疾患が確たる発症の危険因子がなくても,その自然経過により脳・心臓疾患を発症させる直前まで増悪していたとは認められないこと。 ウ被災者には他に確たる発症因子はないこと。 (2) 原告の就労の実態及び労働時間からみた負荷の程度ア原告の就労の実態原告は,平成13年1月18日以降,本件店舗の店長として稼働していたところ,その実態は以下のとおりである。 なお,原告は,初めて店長となり,「この会社でがんばろう,一生懸命やろう。」と意欲満々で,売り上げを伸ばし,経費を抑えるという気持ちを持っていたほか,本件会社の指示はできるだけ忠実に守って店舗運営することを心がけていた。 (ア) 原告の業務内容について① 本件店舗の営業開始時刻は,午後5時であったところ,原告は,本件会社から午後4時までには入店するようにとの指示を受けていたこともあって基 (ア) 原告の業務内容について① 本件店舗の営業開始時刻は,午後5時であったところ,原告は,本件会社から午後4時までには入店するようにとの指示を受けていたこともあって基本的には午後4時までに入店し,以下のとおりの開店準備作業を1人で行っていた。 a 店舗を開け,前日の売り上げを送金する。 b 店舗外周の清掃c 納品のチェックd 厨房の準備e 客席レジの準備 f 食材の仕込み等本件店舗では,原告のみが正社員であり,その他はアルバイトであった。原告は,開店準備作業をアルバイトに行わせるとアルバイト代金が発生し,経費を要することとなるため,一人でその作業を行っていた。なお,アルバイトの出勤時刻は,営業開始時刻の午後5時直前であった。 ② 開店後,原告は,調理・接客等,店舗運営全般を行っていた。 ③ 原告は,最後の客が退店後,閉店作業を行うが,清掃,洗い物,厨房の片付け等を行った時点でアルバイトにタイムカードの打刻,日報の作成・FAXを行ってもらい,アルバイトが退店後,原告は残された片付け等を行っていた。経費を抑えるために,できるだけアルバイトを先に帰宅させていた。なお,本件店舗の閉店時刻は午前2時(料理のラストオーダーは午前1時30分)である。 (イ) 休憩時間について休憩時間は,出勤から退勤までの間にとることになっていたが,新米店長としての緊張感と,平成13年2月15日付けでベテランアルバイトが退職した結果,比較的経験の浅いアルバイト(男性3名,内1名は新人と新人女性1名)しかいなかったため,たまに食事の時間をとることができる日がある以外は,ほとんど休むこと 日付けでベテランアルバイトが退職した結果,比較的経験の浅いアルバイト(男性3名,内1名は新人と新人女性1名)しかいなかったため,たまに食事の時間をとることができる日がある以外は,ほとんど休むことなく働いていた。休憩時間は多くても1日当たり15分程度であった。 このことは,1日あたりの注文数の概算からも理解できる。すなわち,本件店舗の商品単価の平均は331円であり,毎日の売り上げを当該平均単価で割ると1日あたりの注文数の概算が算出されるところ,同算出にしたがって計算すると,同年1月16日から同年3月12日までの間,1日当たり,少ない日でも97件の,多い日には431件もの注文があったことになる。仮に一つの注文に5分の作業を要したとすれば,注文 の少ない日でも約500分(8時間20分)の作業を要することとなる。 なお,本件店舗の営業時間が午後5時から午前2時までの9時間であった。 (ウ) 店長会議について原告は,本件店舗に出勤するだけでなく,店長になってから本件発症をするまでの間,本件会社の本社で開催される店長会議に出席していた。 原告は,店長会議のある日は,本件店舗での勤務を終えると睡眠をとることなく店長会議に出席し,店長会議が終わるとそのまま本件店舗に出勤することにしており,店長会議がある日は全く睡眠をとらずに再び本件店舗での勤務に就いていた。 (エ) 平成13年2月末から3月にかけて① 原告が本件発症をした平成13年3月13日を遡る2週間は,入社後店長として初めて経験する棚卸しのため閉店後早朝までその作業に追われたり,自宅に持ち帰って報告書を作成したり,また上司から急な書類の作成の指示があり,睡眠時間が少なくなった時期で,報告書作成と店長会議が重なっ めて経験する棚卸しのため閉店後早朝までその作業に追われたり,自宅に持ち帰って報告書を作成したり,また上司から急な書類の作成の指示があり,睡眠時間が少なくなった時期で,報告書作成と店長会議が重なった際には,一睡もせずに店長会議に出席し,その後,本件店舗での通常勤務を行うという状態であった。また,本件発症直前には,チラシ配布を命じられ、店舗出勤前に行わなければならなかった。 ② 同期間における勤務状況等は,以下のとおりである。 原告は,平成13年2月28日の閉店後,午前6時頃まで商品棚卸し作業を行い,帰宅後には自宅において,原価率の計算を行い,棚卸しの報告書を作成する等しており,就寝時間は同年3月1日の午前10時であった。 また,同日の出勤については,閉店後,翌日の午前5時前ころまで,棚卸し金額の計算を行い,帰宅後自宅において棚卸しに関する報告書, 1か月の行動計画書,2月の売上に対する分析と反省のための報告書を作成し,就寝時間は翌日の午前9時頃であった。 さらに,同年3月2日の出勤について,原告は,午後1時に起床した後,午後4時前に本件店舗に入って稼働し,閉店後も午前4時頃まで原価報告書(やり直しを指示されたもの)を作成し,帰宅後3月の行動予定表等を作成し,更に,睡眠をとらないまま同年3月3日午前11時30分,店長会議に出席し,そのまま,本件店舗に出勤して通常の勤務を行い,翌日午前3時30分まで勤務した。その結果,原告は,同月2日午後1時に起床してから,同月4日午前5時に帰宅し,同日午前6時に就寝するまで一睡もしていなかった。 同月5日から同月9日までの原告の退店時刻は,午前2時41分から午前3時9分までの間であった。 また,同月10日,原告 同日午前6時に就寝するまで一睡もしていなかった。 同月5日から同月9日までの原告の退店時刻は,午前2時41分から午前3時9分までの間であった。 また,同月10日,原告は,午後1時39分に出勤して本件店舗で稼働した後,A店の応援に行き,午前5時12分まで稼働していた。 同月11日及び同月12日の両日とも午後4時までに本件店舗に出勤し,退店時刻は,同日は午前2時38分,同月13日は,午前2時25分であった。 イ原告の労働時間本件店舗では,タイムカードによる労働時間管理が行われていたところ,原告は,以下のとおりタイムカードの打刻前後も仕事をしていた。 (ア) 始業時刻について原告は,本件店舗に出勤後,始業のタイムカードを打刻する前に,前日の売上金を本社に送金するために銀行に行き,戻ってからタイムカードを打刻していた(出勤から打刻までは約20分である。)。 原告は,同送金後,本件店舗に戻り,タイムカードを打刻した後,開店準備業務をはじめ,それに引き続いて営業業務に従事していた。原告 の始業時刻は,タイムカードを打刻した時間ではなく,一旦,本件店舗に赴き,前日の売上金を送金するため銀行に向かった時点であり,少なくとも送金した時刻には始業していたと言える。ところが,送金時刻が不明であるため,原告の勤務開始時間については,少なくとも基本的に午後4時とし,タイムカードの打刻時間がそれ以前であればその時間を勤務開始時間とすべきである。 なお,原告のタイムカードの打刻には午後4時を過ぎ,午後5時直前の時間が記されている日もあるが,それは入店後に打刻を忘れたもので,そうした日も開店準備作業を行っていることを考慮すれば,勤務開始時間を午 ,原告のタイムカードの打刻には午後4時を過ぎ,午後5時直前の時間が記されている日もあるが,それは入店後に打刻を忘れたもので,そうした日も開店準備作業を行っていることを考慮すれば,勤務開始時間を午後4時とすることに何ら問題はない。 (イ) 終業時刻について終了時刻については,原告とアルバイトとの打刻時間に大きくずれがある場合には,タイムカードの打刻時間を勤務終了時間とし,ほぼ一致しているときは,打刻時間から閉店作業のための時間として20分程度を加算して勤務終了時間とすべきである。 (ウ) 休憩時間は,上記のとおり多くても15分程度であったため,計算の便宜上,一律15分とする。 (エ) その他店長会議のある日の勤務開始時間は,店長会議の開始時間である。店長会議があったのは,3月10日,3月3日,2月22日,2月15日,2月3日,1月17日である。 (オ) 労働時間について以上を前提に平成13年1月12日から同年3月12日までの原告の労働時間,時間外労働時間を算出すると以下のとおりとなる。(なお,以下の記載の場合も含めて時間外労働時間とは週40時間を超える部分の労働時間とする。) 時期時間外発症前1ヶ月 127時間08分発症前2ヶ月 93時間12分殊に,2月27日から3月12日までの発症直前2週間をみると,初めて行う店長としての棚卸し,そのための書類作成,店長会議等で,1週間40時間を超える時間外労働時間は,72時間58分(発症前1週間の時間外労働時間は,28時間2分,発症前2週間目の労働時間は,44時間56分)にも及んでい ,そのための書類作成,店長会議等で,1週間40時間を超える時間外労働時間は,72時間58分(発症前1週間の時間外労働時間は,28時間2分,発症前2週間目の労働時間は,44時間56分)にも及んでいる。 したがって,発症前1ヶ月だけでも,時間外労働時間が100時間を優に超えており,新認定基準でも業務起因性が認められる労働時間数である。原告の労働が量の面において過重であったことは明らかである。 (カ) B店に勤務する以前の労働時間についてタイムカードをもとに休憩時間を1時間として計算した場合でも,原告の時間外労働時間は,45時間を超えるものとなっており,それ以前の勤務から深夜帯での労働への変化を考慮すれば,原告にとって過重な労働となっている。 ウ原告の業務上の負荷の程度原告は,本件会社に就職する前は,午前9時から午後6時までの間,営業職の仕事に従事していたが,本件会社に就職して以降,勤務時間が夕方から深夜帯へ変わり,睡眠の質が低下する明け方から午前中に睡眠をとらざるを得なくなった。 原告の勤務は,所定労働時間をとらえても午後4時から翌日午前2時であり,夕方から深夜にわたる勤務を予定している労働である。発症前の原告のタイムカードによっても午前4時を過ぎる打刻も多数存在している。 原告の深夜勤務は,人間の本来の生活リズムからずれたものであって,深夜勤務を終えてからの睡眠が浅いものにしかならないことは言うまでもな い。 また,原告は,終業後宣伝広告のために本件店舗のチラシを配布したり,店長会議等のため本社に就業させられたりしており,睡眠時間が確保できない時もある等不規則な業務であった。 時間外労働時間という量的な側面だけでなく,深 ために本件店舗のチラシを配布したり,店長会議等のため本社に就業させられたりしており,睡眠時間が確保できない時もある等不規則な業務であった。 時間外労働時間という量的な側面だけでなく,深夜勤務であること,店長業務等を考慮すれば,質の面においても業務の加重性は明らかである。 さらに,原告は,本件店舗における唯一の正社員として,売り上げ管理,仕入れ管理,アルバイトの労務管理を行い,店舗営業のために準備,営業,調理,接客,後片付け等閉店作業等の業務を行っており,その責任者としての負担は大きかった。 エしたがって,原告の業務上の負荷は,量的にも質的にも過重なものである。 (3) 本件疾病の業務起因性(本件疾病の発症原因)ア本件疾病について本件疾病は,急性心筋梗塞であるところ,冠動脈攣縮による心筋虚血が強く関係したタイプの心筋梗塞であった可能性が高い。 冠動脈の攣縮の一般的な特徴として,①動脈硬化の初期病変が存在していること,②若年者にも起こること,③遺伝的な危険因子が関係していること,④自律神経のバランスの崩壊と失調が強く関係していることがあげられる。冠動脈攣縮の発症機序は,詳細に解明されてきており,冠動脈の攣縮部位には,初期の動脈硬化病変が存在していることが判明してきた。 ところで,動脈硬化病変が存在するため,血管の内皮が損傷されて,NO(一酸化窒素)活性が低下し,自律神経のバランスの崩壊あるいは失調の影響を受けやすくなり,冠動脈攣縮が発生するというものである。 したがって,冠動脈攣縮についても,「血管病変が形成,進行および増悪した」結果として発症したものと解される。 また,長時間の労働しかも深夜帯の労働は,自律神経の失調状態を招来 する原因となる。なお,十分な休養・睡眠が保 ,「血管病変が形成,進行および増悪した」結果として発症したものと解される。 また,長時間の労働しかも深夜帯の労働は,自律神経の失調状態を招来 する原因となる。なお,十分な休養・睡眠が保証されていれば,深夜労働であっても,自律神経の失調を回避しうる。 イリスクファクターについて原告は,喫煙(日に20本弱)や飲酒(週に2,3日缶ビールを1,2本程度)をしているが,本件会社に入社するまで心臓病等,特段の既往症はなく,親族にも心臓病の既往者はいないため,本件疾病の発症原因としては,業務上の過重負荷しか考えられない。 (4) まとめ原告の場合,深夜の長時間労働が,通常業務を著しく超えた過重業務であったため,本来なら発作が頻発する前に修復,収束していたはずの血管病変が,著しく増悪し,かつ,自律神経の失調状態となり,冠動脈攣縮による急性心筋梗塞を発症したものであり,業務と本件疾病の発症との間には密接な因果関係が存在する。 よって,本件疾病の発症は,過重な業務に起因する業務上のものといえ,本件処分は取り消されるべきである。 (被告)(1) 脳・心臓疾患の業務起因性ア労働者が脳・心臓疾患を発症した場合に,これを業務上のものというためには,当該労働者が当該業務に従事しなければ当該結果(疾病等の発症)は生じなかったという条件関係が認められるだけでなく,さらに進んで両者の間に法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)が認められる必要がある。したがって,業務と脳・心臓疾患発症との相当因果関係は,脳・心臓疾患が業務に内在する危険の現実化として発症したと認められるか否か,具体的には当該業務による負荷が,当該労働者と同程度の年齢・経験等を有し,通常の業務を支障なく 疾患発症との相当因果関係は,脳・心臓疾患が業務に内在する危険の現実化として発症したと認められるか否か,具体的には当該業務による負荷が,当該労働者と同程度の年齢・経験等を有し,通常の業務を支障なく遂行することができる程度の健康状態にある者を基準として,①医学的経験則に照らし, 脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得る程度のものと認められること(危険性の要件)及び②その他の業務外の要因に比して相対的に有力な原因となって,当該脳・心臓疾患を発症させたと認められること(現実化の要件)が必要であると解するのを相当とするイそこで,この要件充足性の判断であるが,最新の医学的知見を踏まえて発出された以下の内容を有する厚生労働省通達たる新認定基準(乙1)に基づいてなされるべきである。 (ア)① 発症直前から前日までの間において,発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇し,あるいは,発症に近接した時期において,特に過重な業務に就労したこと(短期間の過重業務)② 発症前の長期間にわたって,著しい疲労の蓄積をもたらすような,特に過重な業務に就労したこと(長期間の過重業務)(イ) 上記(ア)の事実によって,明らかな過重負荷を受けたことにより発症した場合に脳・心臓疾患と業務災害との相当因果関係を肯定し,労働基準法施行規則35条別表第1の2第9号に該当する疾病と扱うべきである。 (2) 原告の就労の実態及び労働時間からみた負荷の程度ア原告の就労の実態原告が本件店舗の開店前に行う業務は,30分もあれば,概ね終了する業務であった。時に30分を超えることがあっても,業務の性格からして,開店後に引き続き行えば足りるものであった 就労の実態原告が本件店舗の開店前に行う業務は,30分もあれば,概ね終了する業務であった。時に30分を超えることがあっても,業務の性格からして,開店後に引き続き行えば足りるものであった。 営業時間中の主な業務は,客の注文に応じて調理し商品を提供するものである。商品は,ほとんどが冷凍品であったほか,焼き鳥等の串焼きは店内で焼きさえすれば客に提供でき,なまこ等の生ものも自然解凍して客に 提供できるようになっていた。 休憩時間も連続で60分とることは制度的には確保されていなかったが,本件店舗の立地条件が影響して客数が少なかったことから,交替で合計60分の休憩をとることは十分可能であった。 イ原告の労働時間原告の所定労働時間は,午後4時30分から翌日の午前2時15分までであった。 午後4時30分に出勤すれば開店前準備は十分に行えるものであったことからして,原告の労働時間は,通常の勤務の場合,午後4時30分を始業時刻とし,タイムカードに印字された時刻が午後4時30分よりも遅い場合にはその時刻を始業時刻とすべきである。また,終業時刻にあっては,タイムカードに印字された時刻として計算し,休憩時間は60分として計算すべきである。さらに,店長会議等,本件会社からの指示が認められるものについては労働時間に算入すべきである。 なお,原告が本件店舗の店長となる前に勤務をしていたA店での労働時間も同様に計算すべきである。 以上を前提に原告の労働時間を計算すると,原告の発症前6か月間の労働時間は多くとも以下のとおりである。 発症前総労働時間時間外労働時間平均時間外労働時間1週間45時間42分5時間42分1か月 234時間15 告の発症前6か月間の労働時間は多くとも以下のとおりである。 発症前総労働時間時間外労働時間平均時間外労働時間1週間45時間42分5時間42分1か月 234時間15分 66時間15分2か月 223時間49分 55時間49分61時間02分3か月 231時間43分 55時間43分59時間15分4か月 214時間57分 46時間59分56時間11分 5か月 225時間51分 57時間51分56時間31分6か月 160時間50分 17時間27分50時間00分 ウ原告の業務上の負荷の程度本件発症は業務上の事由によるものではない。 (ア) 本件発症当日及び前日において,原告が業務に従事するに際し,強度の精神的又は身体的負荷を引き起こすような突発的又は予測困難な異常事態は発生していたことはない。したがって,原告が業務に関連する異常な出来事に遭遇したことはない。 また,本件発症当日及び前日の原告の業務が特に過重なものであったこともない。 (イ) 本件発症前1週間において,日常業務と比較して特に過重な身体的,精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務に従事した事実はない。 (ウ) 本件発症前6ヶ月間において,業務量,業務内容,作業環境等の観点から,原告が発症前1ないし6か月間に従事した業務を検討しても,以下のとおり原告に過重な身体的,精神的負荷がかかった事実はない。 ① 原告の業務は,住宅地に立地する客席35席の小規模な居酒屋(本件店舗)の店長であった。そこで提供する商品のうちかなりのものは冷凍品で,自然解凍をすれば客に出せるものであったし,主力商品である焼き 原告の業務は,住宅地に立地する客席35席の小規模な居酒屋(本件店舗)の店長であった。そこで提供する商品のうちかなりのものは冷凍品で,自然解凍をすれば客に出せるものであったし,主力商品である焼き鳥等も加工が完了した状態で配送されてくることから,注文に応じて炭火で焼くことで客に提供できるものであった。本件店舗は居酒屋といってもそこでの調理作業は,野菜や果物を切る程度のものであった。また,店長のみに課された業務はなかった。売上金の管理や送金業務も,店長の業務として指示されたものではなく,実際にも 原告の休日の日には,アルバイトがこれらの業務を行っていた。 このように,原告の業務内容は,特に困難なものではなく,また,店長として課された特別な業務もなく,比較的楽な業務であった。 ② 原告の本件発症前6か月における1月ごとの総労働時間数及び時間外労働時間数及び発症前2か月間ないし6か月間にわたる1か月当たりの平均時間外労働時間数は,上記イに述べたとおり,時間外労働時間は,17時間27分~66時間15分で,80時間を下回っている(なお,発症前2か月目から同5か月目においては,休日も1か月に5日間から8日間確保されている。)。 したがって,原告には本件発症前1か月間に概ね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たり概ね80時間を超える時間外労働はなく,過重で疲労が蓄積していたとは考え難い。 ③ 原告の勤務には深夜勤務が含まれているものの,原告が本件会社に採用されて以降,その勤務形態に変更はなく,短期間ではあるが勤務形態に沿った生活サイクルが形成されていたものと考えられる。 発症前6か月間において,このような生活サイクルを乱すような不規則な勤務が ,その勤務形態に変更はなく,短期間ではあるが勤務形態に沿った生活サイクルが形成されていたものと考えられる。 発症前6か月間において,このような生活サイクルを乱すような不規則な勤務が行われた事実はなく,原告に不規則勤務による負荷が生じていたとはいえない。 ④ 原告の従事していた業務内容は,概ね定型的で,業務による精神的緊張の程度が特に著しかったことはない。また,原告の勤務には深夜の接客勤務が含まれているが,原告ひとりで行う勤務ではなく,過度に精神的緊張が生じていたとは考え難い。 (エ) 原告には出張の事実もなく,また,作業環境に取り立てて問題もなかった。 エまとめ以上によれば,原告が従事した業務は,業務量や業務内容等の点からみ て特に過重な業務とはいえない。 (3) 本件疾病とそのリスクファクターについてア本件疾病の発症原因について本件疾病は,冠動脈の攣縮による心筋虚血が原因となって起こる急性心筋梗塞であった蓋然性が高い。 イリスクファクターについて急性心筋梗塞を含む虚血性心疾患のリスクファクターとしては加齢,家族歴(遺伝性素因),性別(男性)の外,高血圧症,高コレステロール症,喫煙,糖尿病,高尿酸血症等がある。 なお,冠攣縮性狭心症例と労作狭心症例それぞれの危険因子を比較検討した成績では,労作狭心症例では総コレステロール値,高血圧,糖尿病,喫煙等の動脈硬化の危険因子がほぼ一致して有意に関連していたのに対し,冠攣縮性狭心症では喫煙のみが高い関連性を呈していた。 (4) 業務起因性について原告の心筋梗塞(冠攣縮性心筋梗塞)発症(本件発症)に業務起因性を認めることは困難であ いたのに対し,冠攣縮性狭心症では喫煙のみが高い関連性を呈していた。 (4) 業務起因性について原告の心筋梗塞(冠攣縮性心筋梗塞)発症(本件発症)に業務起因性を認めることは困難である。 ところで,脳・心臓疾患について業務起因性が認められるためには,業務上の負荷により,同疾患の基礎にある血管病変等がその自然経過(加齢等に伴い徐々に血管病変が形成,進行及び増悪すること)を著しく超えて増悪し,脳・心臓疾患の発症に至ったことを要する。そこで,本件であるが,原告に発症した心筋梗塞は冠攣縮によって生じた蓋然性が高いところ,その発生機序は,動脈硬化性病変に随伴する血管内血栓形成とは大きく異なり,冠攣縮が疲労の蓄積によって誘発され易くなるか否かという点も現時点では,医学的に解明されていない。原告の本件発症について,長期にわたる業務上の負荷が発症原因になったとする医学的根拠は乏しい。 仮に冠攣縮と業務における短期的あるいは長期的な身体的・精神的負荷と の間に何らかの関連性があると仮定しても,原告の発症前6か月の月毎の時間外労働時間は,17時間27分ないし66時間15分程度にとどまっており,原告の業務に量的過重性はなく,その業務内容も比較的軽易なもので質的過重性もなく,発症直前に異常な出来事に遭遇した事実もない。 したがって,本件発症について,業務起因性はない。 第3 争点に対する判断 1 業務起因性の判断基準について(1) 業務起因性被災労働者に対して,労災保険法に基づく療養補償給付ないし障害補償給付が行われるには,当該労働者の疾病が「業務上」のものであること(労災保険法7条1項1号,12条の8第1項,2項,労働基準法75条,77条,75条2項)を要するところ,本件では,労働基準法施行 償給付が行われるには,当該労働者の疾病が「業務上」のものであること(労災保険法7条1項1号,12条の8第1項,2項,労働基準法75条,77条,75条2項)を要するところ,本件では,労働基準法施行規則35条に基づき別表第1の2第9号「その他業務に起因することの明らかな疾病」により本件疾病が発症し,これが治癒した後もその身体に障害が存することが要件となる。 ところで,労災保険制度が使用者の過失の有無を問わずに被災者の損失を填補するという危険責任法理に基づく制度であることを踏まえると,労働者の発症等を「業務上」のものというためには,当該労働者が当該業務に従事しなければ当該結果(発症等)は生じなかったという条件関係が認められるだけでは足りず,業務に内在ないし随伴する各種の危険が現実化して労働者に疾病の発症等の損失をもたらしたという相当因果関係(業務起因性)があることが必要であると解するのが相当である。 (2) 脳・心臓疾患と業務起因性脳・心臓疾患は,その発症の基礎となる動脈硬化等による血管病変又は動脈瘤,心筋変性等の基礎的病態(以下「血管病変等」という。)が加齢や一般生活等における通常の負荷ないし種々の要因によって長い年月の間に徐々 に血管病変等が形成・進行・増悪する経過(自然経過)を経て発症に至るものであり,本来,業務に特有の疾病ではない。しかし,上記発症に至る過程において,労働者が従事した業務の負荷が過重であったため,発症の基礎となる血管病変等がその自然経過を超えて増悪し,その結果,脳・心臓疾患が発症した場合は,業務に内在する危険が現実化して脳・心臓疾患等の疾病が発症したとして,業務起因性(相当因果関係)を認めることができる。 なお,専門医師らを含む専門家会議によって検討された結果を受けて定められた新認定 に内在する危険が現実化して脳・心臓疾患等の疾病が発症したとして,業務起因性(相当因果関係)を認めることができる。 なお,専門医師らを含む専門家会議によって検討された結果を受けて定められた新認定基準は,発症前1か月ないし6か月間にわたって,1か月あたり概ね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど,業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できるとしている。さらに,新認定基準は,発症前1か月に概ね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって,1か月あたり概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合は,業務との関連性が強いと評価できるとしている(乙1~3)。 2 認定事実前提事実及び証拠(甲1,2,乙4~6,7の①~⑨,8~14,17~19,証人E,原告)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 本件疾病の発症前における原告の勤務状況等(甲1,2,乙5,6,7の①~⑨,原告,弁論の全趣旨)原告は,平成12年9月1日,本件会社に雇用され,A店でアルバイトとして就労した後の同年10月1日,正社員として雇用され,平成13年1月16日以降,本件店舗の店長として稼働していた。 なお,原告は,平成2年5月から同5年10月までF株式会社に,同年11月から同6年7月までは割烹Gに,同年11月から同9年7月まではH不動産に,同年9月から同11年2月までは株式会社Iに,同年10月から同12年6月までは株式会社Jに勤めていた(なお,飲食店での勤務経験は約5年である)。 原告は,本件発症当時,共稼ぎの妻と2人で生活していた。 (2) 原告の就労の実態(甲1,2,乙4,7の①~⑨,8~11,13,17~19,証人E,原告,弁論の全趣旨)ア本件店舗の概要(甲1,2 当時,共稼ぎの妻と2人で生活していた。 (2) 原告の就労の実態(甲1,2,乙4,7の①~⑨,8~11,13,17~19,証人E,原告,弁論の全趣旨)ア本件店舗の概要(甲1,2,乙4,10,13,14,17,証人E,原告,弁論の全趣旨)(ア) 本件店舗は,原告が店長をしていた当時,本件会社の直営店であり,α駅から直線で約1.4キロメートル離れた住宅街に立地していた。 本件店舗の客席数は,カウンター席13席,和テーブル席22席,合計35席の小規模な居酒屋であって,繁華街や駅前等に立地する他の店舗に比べて,客数,売上高とも少ない店舗であった。 また,本件店舗の営業時間は,午後5時から翌日午前2時までであり,ラストオーダーは料理が午前1時30分,飲み物が午前1時45分,会計が午前2時であった。 なお,原告の自宅から本件店舗までは,車で約50分(帰りは30分程度)の距離であった。 ところで,原告が本件店舗の店長となる前に勤務をしていたA店は,β駅の駅前にあって,座席数が57席で,営業時間は,平日が午後5時から午前4時まで,金曜日・土曜日・祝日前日が午後5時から午前5時までの店舗であった。 (イ) 本件店舗で提供する商品は,主として焼き鳥等の串焼きであり,他に酒類や揚げ物,生ものがあった。商品の多くは,ある程度加工された物を注文に応じて焼く,揚げる,蒸す,解凍する等して提供するもので,調理をする場合もマニュアル等に基づいて比較的簡単に提供できるものであり,同提供業務は定型的な業務というべきものであった。 (ウ) 本件店舗では原告及びアルバイトについて,タイムカードによる労働時間管理が行われていた。 (エ) 原告が店長を務めていた当時, 供業務は定型的な業務というべきものであった。 (ウ) 本件店舗では原告及びアルバイトについて,タイムカードによる労働時間管理が行われていた。 (エ) 原告が店長を務めていた当時,金曜日,土曜日及び日曜日が比較的忙しく,平日は,それほどでもなかった。 また,来店した客の滞在時間は通常,2時間ないし3時間程度であって,来客の程度は,1週間を通じて,一般的には,徐々に来店し,午後7時から午後10時ころまでがピークとなり,午後10時ないし午後11時ころ会計を済まして客が帰るため,同時刻以降急に客が少なくなるという状況であった。 イ原告の業務内容(甲1,2,乙12~14,17,18,証人E,原告,弁論の全趣旨)(ア) 原告が担当していた業務は,以下のとおりであるが,必ずしも原告のみが担当していたわけではない。 売り上げ管理 (売り上げチェック,現金チェック,売り上げ報告,送金業務等)仕入れ管理 (食材仕入れ,発注業務,食材在庫管理,棚卸し業務等)アルバイトの労務管理(シフト作成,労働時間管理等)清掃及び料理の仕込み等の開店準備調理作業接客作業後片付けや清掃等の閉店作業宣伝のチラシ配布店長会議への出席なお,店長会議は,本件会社の本社(大阪市<以下略>)において,月に2回程度,午前11時から午前12時ころに開催され,午後2時ころに終了する会議である。 店長は,店長会議に出席するにあたり,月末棚卸し表,GTジャー ナル(レジから出力するもの),原価率チェック票,タイムカード,給与報告書,行動計画書を提出することとなっていた 店長は,店長会議に出席するにあたり,月末棚卸し表,GTジャー ナル(レジから出力するもの),原価率チェック票,タイムカード,給与報告書,行動計画書を提出することとなっていた。 (イ) 原告の所定労働時間は,午後4時30分から翌日午後2時とされていたが,原告は,本件店舗の引き継ぎを担当した前店長のEから,午後5時の営業開始に間に合うよう,できれば午後4時までには入店することが望ましい旨伝えられていた。もっとも,原告は,本件店舗では午後5時直ぐに客が来店することは少なく,午後4時30分ころに入店した場合でも開店準備に特段支障が生じない場合もあって,必ずしも午後4時に入店していたわけではなく,午後4時30分以降に入店することもあった。 原告が行っていた開店準備作業は以下のとおりである。ただし,原告が全ての開店準備作業を行っていたのではなく,アルバイトが行うこともあった(原告が休日の日はアルバイトがその全てを行っていた。)。 ① 本件店舗を開け,前日の売り上げを送金する。 本件会社は,売上金を平成13年1月24日までは当日夜間金庫に投入する扱いをし,それ以降は,本件店舗から直線で約200メートルの距離(徒歩約3分)にあった近畿大阪銀行K支店で,ATMを操作して送金することとしていた。 ② タイムカードの打刻③ 店舗外周の清掃④ 納品のチェック(配送されている食材・酒類を伝票と照らし合わせながらチェックし,同時にその日に必要なものを解凍作業しながら日付を入れる,その他の食材は冷凍庫,酒類は所定の場所へ置く。)⑤ 厨房の準備(ガスで炭に着火する,湯を沸かす,フライヤーに油を入れてガスをつける等。)⑥ 作業しながら日付を入れる,その他の食材は冷凍庫,酒類は所定の場所へ置く。)⑤ 厨房の準備(ガスで炭に着火する,湯を沸かす,フライヤーに油を入れてガスをつける等。)⑥ 客席及びレジの準備 ⑦ 食材の仕込み(キャベツやタマネギを切る。ご飯炊き,湯沸かし,自家製タルタルソース作り,ホイル焼きのセット,鍋物の具材の用意等)ただし,これらは営業時間中に行うことも可能である。 (ウ) 原告は,閉店前後にアルバイトともに以下のとおりの業務を行っていた。 ① 本件店舗の片付け・清掃ラストオーダー時に客がいる場合は,最後の注文を聞いて,調理や酒類の提供をした後,調理場の片付け・清掃を終える。 なお,午後12時から一部できる範囲で閉店準備作業に入ることとされており,午前1時30分前後ころにはトイレやホール中の客がいない部分から掃除を始めていた。さらに,客が早く帰った場合には,オーダーストップの前であっても,調理場,客室の片付け・清掃を行っていた。また,本件店舗の立地状況や客数,売上高からして,遅くとも午後11時以降は,さほどの注文があとは窺えず,そのような場合には,早い時刻からある程度,調理場の片づけや清掃等がされていた(ただし,証拠[甲1の45頁]によれば,本件疾病の発症時も平日であり,客が少なかったことから,原告は午後8時よりも前に店内掃除を始めており,しばらくして発症したことが認められる。)。 ② 売上高を確定し,業務日報を作成すること業務日報(一枚ものの用紙に,主に売上金額,客数及びアルバイトの時間数を記入するもの)は,記載可能な箇所から作成を始め,遅くとも午前1時45分から午前2時ころには店内の 作成すること業務日報(一枚ものの用紙に,主に売上金額,客数及びアルバイトの時間数を記入するもの)は,記載可能な箇所から作成を始め,遅くとも午前1時45分から午前2時ころには店内の客に会計を依頼して売上を確定させ,現金等との突合せを行った後に,業務日報の売上欄に売上高を記載していた。なお,原告は,ほとんど毎日,アルバイトにタイムカードの打刻や業務日報の作成(タイムカードに基づいてア ルバイトの労働時間を計算し,これを業務日報に記載する等),業務日報のファクシミリ送信を任せていた。 ③ 本件店舗を施錠すること売上金を本件店舗の金庫にしまい,本件店舗を施錠し,退勤する。 ウ本件店舗の売り上げ等(乙8~10,13,14)原告が本件店舗に勤務することになった平成13年1月16日から本件発症前日の同年3月12日までの56日間における本件店舗の①客数は,多い日でも概ね60人以下であり,少ない日では8人,平均36.8人,②客単価は,概ね1人あたり2200円から2500円,③売上高は,多い日で14万2990円,少ない日で2万0600円,平均8万4737円であった。 本件店舗の客席数は35席であるところ,上記期間において,その2倍を超える客数の日は2日あり,他方,客席数以下の日は原告が本件店舗の店長となって以降,本件発症までの57日間のほぼ半分にあたる29日であった。 エ本件店舗の従業員数及びアルバイトの稼働状況について(甲2,乙7①~⑨,9,13,19,証人E,原告本人,弁論の全趣旨)アルバイトをどの時間に何人使うか,いつ,どの程度休憩時間を取らせるかについては,店長である原告が権限を持っていた。なお,アルバイトは,営業時の接客,調理,給仕等のほか,タ 告本人,弁論の全趣旨)アルバイトをどの時間に何人使うか,いつ,どの程度休憩時間を取らせるかについては,店長である原告が権限を持っていた。なお,アルバイトは,営業時の接客,調理,給仕等のほか,タイムカードの打刻や報告書の送信を行っており,原告が休みのときは,売上金の管理や送金を含む全般的なことを行っていた。 (ア) 従業員数本件店舗の業務は,店長の原告とアルバイトで行われていたところ,アルバイトは,常時,4,5名が確保されており,原則として2名ないし4名の者が交替で出勤していた。なお,平成13年1月18日までは, 原告以外に正社員が1名いた。 (イ) アルバイトの稼働状況についてアルバイトの稼働状況は,多い日で4人,少ない日で1人,1日平均2.9人であり,アルバイトが出勤しなかった日はなかった。 本件店舗の来客が多い時間帯は,概ね午後7時から午後10時までであり,57日間(なお,原告の出勤日は,52日間)のうち,この時間帯にアルバイトが2人以上働いていた日数は,金曜日(6日間)・土曜日(7日間)・日曜日(4日間)を中心に25日間である。 また,午後10時から午後12時までアルバイトが2人以上働いていた日数(ただし,原告がその時間まで在勤している日)は,22日間,(金曜日:7日間,土曜日:8日間,日曜日:2日間)である。 なお,原告以外にアルバイトが1人だった日,又は入替え時には重なっているが,重なった時間が1時間以下だった日は,1月18日(木),1月25日(木),1月29日(月),2月6日(火),2月14日(火),3月5日(月)のわずか6日間であり,このうち,正社員が原告のみとなった2月1日以降(甲2)では3日間であった 月18日(木),1月25日(木),1月29日(月),2月6日(火),2月14日(火),3月5日(月)のわずか6日間であり,このうち,正社員が原告のみとなった2月1日以降(甲2)では3日間であった。 アルバイトのうち最も出勤の早い者は,概ね16時台(ときには15時台)には出勤しており,原告が開店時(17時)ないし開業時間帯に本件店舗で一人になることは,ほとんどなかった。原告が休んだ日も,少なくとも,アルバイト2人で業務をこなしていた。 オ休憩及び休日について(甲1,乙4,9,11,13,14,16,19,証人E,弁論の全趣旨)原告は,休憩時間について連続で60分間とることまでは制度的に保障されていなかったが,アルバイトと随時,交替で休憩をとることとなっていた。なお,原告は,1日少なくとも20本から40本程度の喫煙をしていたところ,休憩時に喫煙をすることがあった。また,本件店舗では,勤 務時間内での食事が制度的に認められており,かつ,原告に対して商品が食事として提供されており,食事のための休憩が適宜とられることとなっていた。そして,原告は,少なくとも合計60分の休憩を取ることができていた。 原告の休日は,月に8日ないし9日を想定されていたが,原告が本件店舗の店長となって以降本件発症までの間で休日を取得したのは1月22日,2月1日,2月8日,2月25日,3月7日の5日間であった。なお,労働時間が5時間未満の日(休憩時間1時間)は,1月30日,2月15日,2月22日,3月8日の4日間あった。 カその他(ア) 原告は,平成13年1月10日午後0時から開催された本件会社の本社の勉強会に出席し,その後,直接,本件店舗に出勤した。 (イ) 原告は,同月17日午後0時 カその他(ア) 原告は,平成13年1月10日午後0時から開催された本件会社の本社の勉強会に出席し,その後,直接,本件店舗に出勤した。 (イ) 原告は,同月17日午後0時ころ,同本社で開催された店長会議に出席し,その後,直接,本件店舗に出勤した。 (ウ) 原告は,同年2月3日午前11時30分ころ,同本社で催された店長会議に参加し,その後,直接,本件店舗に出勤した。 (エ) 原告は,同月15日午後0時ころ,同本社で開催された店長会議に参加し,その後,直接,本件店舗に出勤した。 (オ) 原告は,同月21日午後4時23分,A店に応援に行き,翌日午前2時10分まで勤務した。なお,休憩時間は1時間あった。 (カ) 原告は,同月22日午後0時から同本社で開催された勉強会に出席した。 (キ) 原告は,同年3月3日午前11時30分ころ,同本社で開催された店長会議に参加し,その後,直接,本件店舗に出勤した。 (ク) 原告は,同月10日午後1時39分ころ,本件店舗に出勤し,同店で稼働した後,午後12時ころにA店の応援へ行き,翌11日午前5 時12分ころ勤務を終了した。なお,A店でも1時間以上の休憩時間があった。 キ原告の労働時間(甲1,乙5,6~14,17,18,弁論の全趣旨)(ア) 本件店舗での原告の労働時間は,以下とおりである(ただし,出勤時間等,詳細は別紙のとおり。)。 発症前総労働時間時間外労働時間平均時間外労働時間1週間53時間39分 13時間39分1か月 246時間52分 78時間52分78時間52分2か月 235時間54分 67時間54分73時間23分3か月 247時間34分 1週間53時間39分 13時間39分1か月 246時間52分 78時間52分78時間52分2か月 235時間54分 67時間54分73時間23分3か月 247時間34分 71時間34分72時間46分4か月 218時間51分 48時間33分66時間43分5か月 228時間19分 60時間19分65時間26分6か月 163時間28分 21時間47分58時間05分 なお,上記は,基本的に,出退勤時刻についてはタイムカードの打刻時刻とし(上記のとおり,タイムカードと異なる労働時間が認められる場合はこれによる。),休憩時間は1時間として算出した。 また,1か月を30日として計算し,発症日(本件では当日の勤務時間が短いことから前日から起算した。)に近い方から29日目及び30日目の2日間(以下「最後の2日間」という。)については,以下のとおりとした。 ① 31日目からの5日間に休日が2日以上ある場合は,最後の2日間の労働時間の合計から16時間を減じた時間を時間外労働時間とする。 ② 31日目からの5日間に休日が1日ある場合は,最後の2日間の労働時間のうち1日分(8時間)を休日労働とみなして,その労働 時間の合計から8時間を減じた時間を時間外労働時間とする。 ③ 31日目からの5日間に休日がない場合は,最後の2日間の労働時間をすべて休日労働とみなして,その労働時間の合計を時間外労働時間とする。 さらに,原告が本社での店長会議ないし勉強会に出席し,その後,本件店舗に直接出勤した場合,店長会議等の開始時間を出勤時刻とし,本件店舗からの退出時間を退勤時刻とした。 3 事実認定上の補足説明(1) 出勤時刻について 席し,その後,本件店舗に直接出勤した場合,店長会議等の開始時間を出勤時刻とし,本件店舗からの退出時間を退勤時刻とした。 3 事実認定上の補足説明(1) 出勤時刻について原告は,開店準備作業を行う必要があるため,遅くとも午後4時には出勤していた旨主張し,証拠(甲1の96頁ないし102頁,証人E,原告)の中にはこれに沿う部分がある。 しかし,原告が通常,遅くとも午後4時に出勤していたことを示す的確かつ客観的な証拠はないこと,かえって,原告自身が打刻した原告のタイムカードには午後4時30分以後の打刻も少なくなく,午後4時以降打刻されたことを示すタイムカードの打刻時間にはかなりのばらつきがある(甲1の99頁ないし102頁)。また,本件店舗の開店時刻は午後5時であって,本件店舗の立地状況(α駅からある程度離れた場所で,住宅街に立地していた。)からすると,同開店時刻と同時に客が来店することはそれぼど多くなく,午後5時以降にも相応の準備ができることが窺われる。そして,原告自身も「正規の就業時間は午後5時から午前2時までであって,午後4時半までに出勤しないと午後5時の開店に間に合わないと自分で決めた。」旨供述している(原告)。以上の事実を総合すると,原告が通常,必ず午後4時に出勤していたとまで認めることはできず,かえって,そのような事実がなかったことが窺われる。 なお,原告は,タイムカードの打刻が午後4時30分以後になっているこ とについて,売上金の送金を行っていた近畿大阪銀行K支店のATMが午後4時30分に終了するため,それまでに銀行に行かなければならなかったから,タイムカードは銀行から帰った後打刻していたのであり,遅くとも午後4時には本件店舗に出勤していた旨主張し,証人E及び原告は,それに沿う 分に終了するため,それまでに銀行に行かなければならなかったから,タイムカードは銀行から帰った後打刻していたのであり,遅くとも午後4時には本件店舗に出勤していた旨主張し,証人E及び原告は,それに沿う証言等をしている。 しかし,原告は,開店準備作業に先がけて銀行からの売上金の送金を先に行った後に出勤時のタイムカードを打刻するよう本件会社から指示を受けていないこと認めている(原告5頁,22頁)上,同売上金を送金していた銀行のATMは,当時,平日は午後7時まで,土曜日及び日曜日は午後5時まで使用可能であったこと(乙18),本件店舗と同銀行との距離は直線距離で200m,歩いて約3分の距離であって,同銀行に行く前にタイムカードを打刻することについて,特段の支障も認められず,むしろ先にタイムカードを打刻する方が自然かつ合理的であったところ,以上の事実を踏まえると,原告の上記供述部分はにわかに採用することができず,他に原告が通常,遅くとも午後4時までに出勤していたことやタイムカードの打刻時間よりも早い時間に出勤していたことを認めるに足る証拠はない。(なお,原告は,午後4時30分より後の打刻について,打刻を忘れていたためである旨供述するが(甲2の4,6,7,8頁等),タイムカードの打刻が習慣的になされるべき日常的な動作であることからすると,失念したとするにはその回数が多く,したがって,同失念した旨の供述部分はにわかに採用できない。)そうすると,原告の上記主張は理由がない。 (2) 休憩時間について原告は,休憩時間をほとんどとれず,とれても15分程度であった旨主張し,それに沿う供述として,①平日でも平均40名くらい来客があり,売上も8万円くらいあったから,オーダーが切れても常に仕込みをしながら営業をしている状態であ とれず,とれても15分程度であった旨主張し,それに沿う供述として,①平日でも平均40名くらい来客があり,売上も8万円くらいあったから,オーダーが切れても常に仕込みをしながら営業をしている状態であり,土曜日,日曜日は平日以上に忙しかった,②アルバ イトについて,平日は,午後9時か10時の入替えのときに5分から10分程度重なっていたことはあったが,通常は1人だけであり,結局はどの時間帯においても原告を含めて2人で対応している状態であった,平成13年2月に4年近く経験のある女性のアルバイトが辞めたため,レジもできない新人のアルバイトと2人で1日中ずっと営業していたことが頻繁にあり,そのようなアルバイトを残して食事をしたり休憩をとることは絶対にできなかった旨供述する(原告)。 しかし,上記2(2)ア(ア)で認定したとおり本件店舗はα駅から離れた住宅街にある小規模な客席数35席の居酒屋であり,その来客数は,原告が本件店舗の店長であった当時,客の多い週末を含めても平均36.8名であり(乙9),売上高も平均8万4737円であって,売上げの少ない日は,2万0600円のときもあったこと,また,上記2(2)ア(エ)で認定したとおりの本件店舗の来客状況に閑散時も含めて,少なくとも,常時,原告以外にもアルバイト1名が出勤していたこと,本件店舗において提供している商品は,調理の経験のない新人のアルバイトでもマニュアル等に従って難なく調理し,提供できるもの(乙10)であり,その他のサービスについても,原告が常に側にいなければできないような困難なものはなく,ある程度アルバイトに任すことのできるものであったこと,現に,原告が休みをとった日にはアルバイトのみで本件店舗の運営がなされていたこと,アルバイトをどの時間に何人使うか,いつ,どの程度休憩時間 く,ある程度アルバイトに任すことのできるものであったこと,現に,原告が休みをとった日にはアルバイトのみで本件店舗の運営がなされていたこと,アルバイトをどの時間に何人使うか,いつ,どの程度休憩時間を取らせるかは,店長である原告が権限を持っていたことを踏まえると,原告の上記主張に沿う供述部分はにわかに採用し難く,その他,同主張を認めるに足りる証拠はなく,かえって,原告の業務は,限られた繁忙期ないし繁忙時間を除いて手待ち時間の多い労働密度がそれほど高くないものであって,開店時間内に少なくとも合計で1時間の休憩をとることができたと推認される。 なお,原告は,商品単価の平均を331円とし,毎日の売り上げを当該平 均単価で割って,1日あたりの注文数を概算し,更に一つの注文に5分の作業を要するとして作業時間量を論じているが,商品単価の平均値や一つの注文に要する時間数自体が,計算の基礎として妥当かどうかに疑義があるものであり,また,複数の作業を併行して行うことができるものもあることや,必ずしも調理をする者が一人に限られているわけでもないことからして,同主張は,直ちに採用できない。 (3) 終業時刻について原告は,タイムカードの打刻後も閉店のための業務を行っており,実際の終業時刻は,タイムカードの打刻時間より20分程度後である旨主張し,それに沿う供述をする。 しかし,本件全証拠によるも原告の同供述を的確かつ客観的に裏付けるものはない上,タイムカードの打刻者や業務日報に関する原告の供述が変遷していること(甲2の3頁,4頁,原告の7頁,31頁)からして,原告の同供述部分はにわかに採用し難い。また,本件店舗が商業地ではなく住宅街に位置していること,上記2(2)ア(ア),(エ)及びウで各認定した本件店舗の規模や売上 頁,原告の7頁,31頁)からして,原告の同供述部分はにわかに採用し難い。また,本件店舗が商業地ではなく住宅街に位置していること,上記2(2)ア(ア),(エ)及びウで各認定した本件店舗の規模や売上額,来客数,1日のうちの来客状況を踏まえると,午後11時以降客が減少し,少なくとも午前0時以降は,店内は閑散として客がいることが少なく,居た場合でも料理のラストオーダーがされる午前1時30分ころにある程度の調理の注文があってもそれほど多くないと推認される。そして,閉店後に行うべき業務内容は後片づけ,レジ締め,トイレ清掃等,あらかじめ定まっており,本件店舗では,午後12時以降,一部閉店作業を行うこととされていることを踏まえると,閉店時間である午前2時ころには,調理機器や食器の洗浄,厨房の片づけ,店内清掃等の作業あるいは日報の作成等の作業は,多くの場合において,閉店時間ころまでには完成しているか,ほぼ完成に近い状況であったと推認される。 そうすると,原告が日常的にタイムカードの打刻時刻よりも更に20分程 度作業を行っていたと解する合理的根拠はなく,これを認めるに足る証拠はない。原告の上記主張は理由がない。 原告の終業時刻については,上記認定したとおりタイムカードの打刻時間を基準にするのが相当である。 (4) その他原告は,店長会議の前には資料の作成に追われることが通常であり,店長会議がある時には,勤務終了後,睡眠を取ることなく店長会議に出席していたと主張し,特に平成13年3月3日の店長会議のときは,前々日にEマネージャーから追加の報告書を作成するよう急な指示を受け(甲2),また,前日にEマネージャーから棚卸しをやり直して原価報告をするように指示されたため,睡眠もとらずに店長会議に出席し,店長会議終了後は引 ージャーから追加の報告書を作成するよう急な指示を受け(甲2),また,前日にEマネージャーから棚卸しをやり直して原価報告をするように指示されたため,睡眠もとらずに店長会議に出席し,店長会議終了後は引き続き本件店舗で仕事をした旨陳述している(甲2,原告)。さらに,原告は,発症日の4日前の同月9日には,午前11時からチラシ配布をし,その後そのまま本件店舗での業務に従事した旨主張する。 しかし,本件会社の各店舗の店長が店長会議に提出すべき資料は上記2(2)イ(ア)で認定したとおりあらかじめ決まっている上,日々の業務日報で報告がされていることもあって,同提出書類は,その作成に特に時間を要するほどの膨大なものではなかった(乙13,E証人調書)。 また,棚卸し作業についても,E証言(平日の棚卸しであれば50分ないし60分程度で行い,その後1時間程度で店長会議に提出すべき書類の作成等も終えていた旨)を踏まえると,原告が同業務に慣れていなかったことを考慮しても,原告が供述するような平成13年2月28日の閉店後,同年3月1日の閉店後,同月2日の閉店後から午前11時から開催される店長会議までの間の合計3日間行う等し,同日午後1時に起床してから,同月4日午前5時に帰宅し,同日午前6時に就寝するまで全く睡眠時間がとれない程であったとは認めがたく,その他,同事実を認めるに足りる証拠はない。 そして,チラシの配布であるが,原告が行っていたそれは,通行人への配布ではなく,近隣のマンションの郵便受け等への配布であり(甲2),以上の事実からすると,原告が主張するような午前11時から午後3時までの4時間もの時間を要したとは到底考えられないし,原告自身,再審査請求手続において,チラシの配布に要する時間は通常30分程度である旨説明している ると,原告が主張するような午前11時から午後3時までの4時間もの時間を要したとは到底考えられないし,原告自身,再審査請求手続において,チラシの配布に要する時間は通常30分程度である旨説明していること(乙17)を踏まえると,同月9日,業務を行うために睡眠をとることなく,本件店舗に出勤したと認めることできず,他に同事実を認めるに足りる証拠はない。 4 原告の健康状態及び本件疾病について(甲1,3,乙15,16)(1) 本件疾病発症前後の原告の健康状態について(甲1,乙15,16)ア定期検診本件会社が平成13年1月23日に原告に実施した検診の結果,原告の血圧,心電図,尿所見には異常なく,血糖値を含む諸種血液生化学検査所見にもとくに異常は認められなかった。なお,本件発症後の平成14年1月22日及び平成15年3月11日の2回にわたる同会社の定期検診でも異常は認められていない。 イ本件発症の2週間前からの症状等原告は,本件疾病発症の約2週間前ころ(平成13年2月末ころ)から寒い外に出ると5分程度持続する前胸部不快感を覚え,これが徐々に頻回となっていたところ,同年3月13日午後8時過ぎころ,職場にて前胸部から前頚部にかけての疼痛があり,安静にしていたが冷汗や生命の危機を感じる程の著明な不安感を覚えたことから妻と連絡を取り,迎えに来た妻とともに救急外来でC病院を受診した。 C病院では,同受診時の心電図検査の結果,血管攣縮性狭心症が疑われ,同月14日午前1時50分の血液生化学検査によって急性心筋梗塞が疑われ,さらに,緊急心エコー検査の結果,左心室後壁,下壁および心尖部の 収縮性が失われていることが確認された。加えて,心臓カテーテル検査による冠動脈造影が施行され,そ によって急性心筋梗塞が疑われ,さらに,緊急心エコー検査の結果,左心室後壁,下壁および心尖部の 収縮性が失われていることが確認された。加えて,心臓カテーテル検査による冠動脈造影が施行され,その際,左回旋枝の房室溝走行部に100パーセントの狭窄がみられたため,同部に対してバルーン法による血管再開通術等が行われた。なお,同部分以外には全く狭窄所見はなかった。 その後,同年4月4日に行われた追跡検査では原告の冠動脈のいずれの分枝も100パーセント開存しており,狭窄所見は全く認められなかった。 (2) 本件疾病について(甲1,3,乙15)ア心筋梗塞原告が発症した本件疾病は,急性心筋梗塞であるところ,心筋梗塞は,心筋を潅流する冠動脈の一部に血流途絶を起こし,その潅流領域の心筋が虚血に陥り,壊死を来したものである。 なお,一般に心筋が虚血に陥ると「狭心痛」とよばれる胸痛あるいは胸部絞扼感が出現するが,短時間(数分程度)のうちに心筋虚血が解消して狭心痛が緩解・消失する場合は虚血に伴う心筋の器質的損傷を残さないのが一般的であり,このような一過性の狭心痛発作を「狭心症」という。他方,心筋虚血状態が持続し,そのために心筋に不可逆的な器質的損傷,すなわち壊死が生じた状態を「心筋梗塞」という。 イ冠動脈攣縮心筋への血流途絶の原因としては,①冠動脈(粥状)硬化症,②冠動脈内血栓症,③冠動脈攣縮があげられているが,急性心筋梗塞例の大部分は,冠動脈の粥状硬化に基づく冠動脈内血栓の付着,成長による急性の冠動脈閉塞が発症原因となっている。このうち,冠動脈攣縮の発生には動脈硬化の存在が必要条件とはされていないところ,冠動脈攣縮は,労作とは関係なく起こり,安静時にも起こるとされている 成長による急性の冠動脈閉塞が発症原因となっている。このうち,冠動脈攣縮の発生には動脈硬化の存在が必要条件とはされていないところ,冠動脈攣縮は,労作とは関係なく起こり,安静時にも起こるとされている。また,冠攣縮性の狭心症は,必ずしも冠動脈の動脈硬化とは関係せず,比較的若年者にも認められ,わが国(ないし黄色人種)では欧米諸国(白色人種)より冠攣縮性狭心症の 発症頻度が高いといわれている。 (3) リスクファクターについて(甲3,乙1,15,16)急性心筋梗塞の危険因子は,加齢,家族歴(遺伝性素因),性別(男性)等の是正不能の危険因子に加え,高血圧症,高コレステロール症,喫煙,糖尿病,高尿酸血症,飲酒等の是正可能の危険因子の関与が知られている。 なお,冠攣縮性狭心症例と労作狭心症例についてそれぞれの危険因子を比較検討した成績では,労作狭心症例では総コレステロール値,高血圧,糖尿病,喫煙等の動脈硬化の危険因子がほぼ一致して有意に関連していたのに対し,冠攣縮性狭心症では喫煙のみが高い関連性を呈していた旨の報告がある。 原告は,本件発症前,約20年来にわたり1日20本ないし40本程度の喫煙歴があり,また,日に3合程度のアルコールを摂取していた。そして,是正不能な危険因子として,性(男性)や人種が陽性因子としてあげられる。 (4) 医師の診断等について(甲1,3,乙15,16)ア C病院原告が発症した疾病は急性心筋梗塞であって,その原因は,冠攣縮性狭心症が考えられる。 イ職業病相談員L医師原告が発症した疾病は,症状,心電図,冠動脈造影所見等より,急性側壁心筋梗塞に間違いなく,また,冠動脈造影及びアセチルコリン負荷の結果から原因として冠攣縮性のものと考え 業病相談員L医師原告が発症した疾病は,症状,心電図,冠動脈造影所見等より,急性側壁心筋梗塞に間違いなく,また,冠動脈造影及びアセチルコリン負荷の結果から原因として冠攣縮性のものと考えられる。 業務との関連については,時間外労働時間が80時間を超えず,業務から考えて日常的なものであり過重労働とは考えにくい。 以上より自然経過にて業務中,冠動脈攣縮をきたし心筋梗塞にいたったものであり,業務との相当因果関係はないと考えられる。 ウ M大学医学部客員教授N原告に発症した急性心筋梗塞は,冠攣縮による心筋虚血が原因となっ た蓋然性が高く,冠動脈の動脈硬化性変化による心筋虚血によるものではないと考えられる。 本件疾病と業務との相当因果関係について,発症前1ヶ月ないし6ヶ月間の時間外労働時間が80時間未満であること,夜間勤務であることから睡眠時間がシフトし,それによる身体的負荷が生じていた可能性は否定できないが,勤務時間帯が変動する交替制勤務ではなく,勤務時間帯が固定して規則性が保たれていたことから身体的には十分馴化しうるものと考えられ,そのことによる身体的ストレスが当該急性心筋梗塞発症の相当する理由になったとは考えにくいこと,本件疾病は冠攣縮による蓋然性が高いところ,これが動脈硬化を基礎にある血管病変か否か等その発症機序はまだ解明されていない(疲労の蓄積によって冠攣縮が誘発されやすくなるか否か不明)ことから,本件疾病の発症が長期にわたる業務上の負荷が相当とする発症原因になっていたとする医学的根拠は乏しいと考えられる。 エ O医師(ア) 原告が平成13年3月13日に発症した急性冠動脈疾患は,冠動脈の攣縮による心筋虚血が関係した心筋梗塞であったと考えられる。発症の2週間ほど前 しいと考えられる。 エ O医師(ア) 原告が平成13年3月13日に発症した急性冠動脈疾患は,冠動脈の攣縮による心筋虚血が関係した心筋梗塞であったと考えられる。発症の2週間ほど前から頻発していた前胸部不快感は,冠動脈攣縮による狭心症発作であったと考えられる。 (イ) 原告が従事した業務は,発症前1 ヶ月の時間外労働時間が127時間以上であり,かつ拘束時間のうち40数%が深夜労働時間にあたる過重労働であった。深夜労働により自律神経のバランスの崩壊あるいは失調状態を招いた結果,冠動脈攣縮による狭心症発作をきたしたものと考えられる。長時間の時間外労働により休養と睡眠が妨げられ,蓄積疲労をきたしたため,狭心症発作が増悪し心筋梗塞をきたしたものと考えられる。 (ウ) 原告が従事した業務と心筋梗塞の発症との間には密接な因果関係があると判断される。 (5) 本件疾病及びその発症原因原告は,本件疾病(急性心筋梗塞)を発症しているが,原告には同疾病発症のリスクファクターとしての遺伝的素因はなく,また,年齢も35歳と加齢に伴う影響も考え難く,そして,上記4で認定した原告に対する各種の検査結果等からして,高血圧,高脂血症及び糖尿病も認められなかった。しかし,原告には20年近い喫煙歴があり,本件疾病発症当時も1日に20本ないし40本程度の喫煙習慣と飲酒と性(男性)のリスクファクターがあった。 一般に冠動脈の一部に動脈硬化性病変による100%の閉塞所見が観察される場合は,他の部位にも多少なりとも動脈硬化性変化が併存し,血管壁の不整化や狭窄所見が認められるのが普通であり,他の部分が全く無傷であることは考えにくい。しかし,冠攣縮の場合は,一過性に血管狭窄が局所的に出現するが,攣縮が緩解した後には狭 性変化が併存し,血管壁の不整化や狭窄所見が認められるのが普通であり,他の部分が全く無傷であることは考えにくい。しかし,冠攣縮の場合は,一過性に血管狭窄が局所的に出現するが,攣縮が緩解した後には狭窄所見が消失し,血管造影所見も正常像を呈するのが普通である。ところが,本件発症直後に原告が入院したC病院における平成13年3月14日の心臓カテーテル検査の際の冠動脈造影では,冠動脈の一部分枝(#13分枝のみ)が100%の閉塞を示し,他はすべて100%開存していたこと,同年4月4日に行われた追跡検査では冠動脈の全分枝が100%開存しており,何らの狭窄所見も認められなかった。 以上のことを踏まえると,原告の急性心筋梗塞の発症原因として,冠動脈の動脈硬化性病変が先行して存在し,その粥腫病巣が破裂して冠動脈閉塞性の血管内血栓が形成されたとする通常の急性心筋梗塞の原因血管病変及び発症病態を想定するに足る医学的根拠は乏しく,本件疾病の原因血管病変は冠動脈の攣縮による心筋虚血が原因であった蓋然性が高いといえる。 5 以上の1ないし4で認定した事実を踏まえて原告に発症した本件疾病と業務との相当因果関係(業務起因性)の有無について検討する。 (1) 原告の業務上の負荷についてア業務内容の負荷確かに,原告は,アルバイトとして本件会社で就労するようになってわずか4か月余り,正社員として雇用されるようになってから起算してもわずか3か月余りで本件店舗の店長として就労するようになり,また,同業務は,接客,調理,アルバイトのシフト管理,売上金の管理・送付,本件会社への書面での業務報告等多岐にわたるものであった。しかし,原告が店長を務めていた本件店舗は,住宅地に立地する客席35席の小規模な居酒屋であり,同店長在任当時(本件発 理,売上金の管理・送付,本件会社への書面での業務報告等多岐にわたるものであった。しかし,原告が店長を務めていた本件店舗は,住宅地に立地する客席35席の小規模な居酒屋であり,同店長在任当時(本件発症までの期間)の来客数も1日平均36.8人(少ない日は8人)に過ぎなかった(原告が勤務していた半分以上の日が客席数以下の来客しかなかった。)。また,本件店舗で原告が担当していた業務は店長として同店舗の切り盛りをしなければならなかったもののそこで提供するサービスの内容は,来店した客に対する対応の他,客の注文に応じてある程度加工された商品を加熱したり,焼いて提供する程度のもので,長時間の仕込みや高度な技術を要するものではなく,いわばマニュアルに従った定型的な内容であって,特段の精神的緊張を伴う業務でもなかった。そして,上記2(2)エで認定したとおり売上金の管理や送金あるいはタイムカードの打刻や報告書の送信を含め必ずしも原告がしなければできないものではなく,現に,原告は,アルバイトにもかなりの部分を任せていたもので,これらの業務もまたさほど困難な業務とまではいえない。さらに,開店準備作業は原告が1人で行うことがあったものの,上記2(2)エで認定したとおり営業時間中は閑散時期も含めて少なくとも本件店舗内には原告が居る場合も含めて2名が対応し,繁忙期にはそれよりも多い数の人数で切り盛りをしていた。 その他,原告は,店長会議に出席するに際して報告書等を作成したり,アルバイトのシフト管理等をしていたが,これらも特に困難な業務とまで 認めるに足りる証拠はない。 そうすると,本件店舗における原告の業務それ自体の労働密度はそれほど高いとはいえず,したがって,それに伴う業務上の負荷はそれほど高くなかったといわざるをえない。 な る証拠はない。 そうすると,本件店舗における原告の業務それ自体の労働密度はそれほど高いとはいえず,したがって,それに伴う業務上の負荷はそれほど高くなかったといわざるをえない。 なお,本件全証拠によるも,原告が本件店舗の店長となって以降,強度の精神的又は身体的負荷を引き起こすような業務上の突発的又は予測困難な異常事態が発生したことを認めることはできない。 イ労働時間数確かに,原告は,本件会社の本社での店長会議に出る際には,同会議が昼間の時間にあるため,その日は生活スタイルを変化させなければならなかったし,同会議に引き続いて本件店舗での勤務に就くという長時間労働を強いられるものであった。しかし,同店長会議は月2回程度であって,それによる生活への影響は大きくはなく,また,原告の労働時間は,上記2(2)のオないしキ及び3で認定のとおりであり,時間外労働時間数は,本件発症前1か月で100時間または発症前6か月間において月あたり80時間を相当下回っている。 ウまとめ原告の上記質的な側面での労働密度,また,上記時間外労働時間数を踏まえると,原告の業務は過重であったとは認められない。 なお,原告の勤務には深夜勤務が含まれているものの,原告が本件会社に採用されて以降,その勤務形態に大きな変更がなかったことからすると,本件発症当時,原告には,本件店舗での勤務形態に沿った生活サイクルが形成されつつあったことが窺われる。原告の継続的な深夜にわたる勤務が上記認定,説示を左右することはない。 (2) 医師の診断,意見等について原告の本件疾病は急性心筋梗塞であったところ,その原因は冠動脈の攣縮 による心筋虚血が原因であった蓋然性が高い。そこで,同疾病の発症であるが,原告にはリスクファクターとし 等について原告の本件疾病は急性心筋梗塞であったところ,その原因は冠動脈の攣縮 による心筋虚血が原因であった蓋然性が高い。そこで,同疾病の発症であるが,原告にはリスクファクターとして高血圧症,高脂血症,糖尿病等はなかったが,20年近い喫煙とともに飲酒があった。 ところで,O医師は,原告が従事した業務と心筋梗塞の発症との間には密接な因果関係がある旨判断しているが,その判断は,発症前1ヶ月の時間外労働時間が127時間以上あること,相当密度の濃い労働をしていたとの点において,上記認定と異なる前提に立つものであるため,採用の限りではない。 (3) まとめ原告の労働密度は上記5(1)アで認定説示したとおりそれほど高くはなく,また,上記5(1)イで認定説示したとおり労働時間の量も過大とはいえないこと等からすると,業務上の負荷は大きいとはいえず,以上の事情に上記4(4)のイ,ウの医師の診断,意見に上記5(2)の事情を総合すると,原告が従事した業務が,本件疾患を発症する危険を内在又は随伴していた,具体的には同業務による負荷が血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させる態様のものであったとまで認めることができない。そうすると,本件疾患の発症と原告の従事していた業務との間に相当因果関係を認めることができない。 6 結論以上によれば,原告の本件請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第5民事部 裁判長裁判官中村哲 裁判官中山誠一 裁判官足立堅太 裁判官中村哲 裁判官中山誠一 裁判官足立堅太
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