【目次】(第1分冊) ※頁数は判決原本のものである(Ⅰ)主文 1事実及び理由 2第1章当事者の求めた裁判 2第2章事案の概要 4第3章前提事実 6第1 当事者 6第2 本件患者らの治療等の経過 6第3 がんと肺がん 9第4 抗がん剤及びイレッサの概要 15第5 肺炎及び間質性肺炎等の概要 20第6 承認手続の概要 24第7 承認審査資料を作成するための各種試験の概要 34第8 副作用報告制度等 39 各種試験の概要 34第8 副作用報告制度等 39 【目次】(第2分冊)(Ⅱ)第4章争点及び争点に対する当事者の主張 1第1 イレッサの有用性について 1 1 イレッサの有効性について 1(1) 医薬品の有効性の確認方法について 1(2) イレッサの非小細胞肺がんに対する有効性について 18 2 イレッサの危険性(間質性肺炎の予後の重篤性と発症の危険性(発症頻度等))について 70 3 イレッサの有用性について 118第2 被告会社の責任について 134 1 被告会社の製造物責任について 134(1) 製造物責任の判断枠組みについて 134(2) 設計上の欠陥(有用性の欠如)について 136(3) 適応拡大による欠陥について (2) 設計上の欠陥(有用性の欠如)について 136(3) 適応拡大による欠陥について 141(4) 指示・警告上の欠陥について 144(5) 広告宣伝上の欠陥について 161(6) 販売上の指示に関する欠陥について 166 2 被告会社の不法行為責任について 171(1) イレッサを販売したことによる過失責任について 171(2) 安全性確保措置を怠ったことによる過失責任について 175(3) イレッサ販売開始後の過失責任について 176第3 被告国の責任について 184 1 承認時の義務違反について 184(1) 承認の違法について 184(2) 安全確保義務懈怠による承認の違法と規制権限の不行使の違法につ いて 197 安全確保義務懈怠による承認の違法と規制権限の不行使の違法について 承認後の安全性確保義務違反(規制権限の不行使)について 第4 個別原告らとの関係における因果関係,損害について 1 因果関係について 2 損害について 【目次】(第3分冊)(Ⅲ)第5章当裁判所の判断 第1 イレッサ承認等に関する基本的事実関係の概観 1 イレッサの開発と分子標的治療薬 (1) イレッサの開発の経緯及び過程 (2) 分子標的治療薬 2 承認申請時までの経過 (1) 承認前に実施されたの臨床試験 までの経過 2(1) 承認前に実施されたの臨床試験 2(2) 被告会社らのイレッサの承認申請 3 3 承認手続の状況・経過 4(1) 審査センターによる審査 4(2) 薬事・食品衛生審議会における審査 9(3) 輸入承認 11 4 他国の承認状況 11第2 イレッサの有効性 15 1 医薬品の有効性 15 2 医薬品の有効性の確認方法 15(1) 認定事実 15アヘルシンキ宣言以降の医薬品の安全性等の確保に関する動き アヘルシンキ宣言以降の医薬品の安全性等の確保に関する動き イ承認審査資料 16ウ医薬品一般の臨床試験に関する指針(ガイドライン) エ抗がん剤の臨床試験に関する指針(ガイドライン) 22オ第Ⅲ相試験の実施をめぐる状況 28 カ治験に関する原則 29キ抗がん剤の有効性の指標(評価項目) 31(2) 抗がん剤の有効性の確認方法 36(3) 臨床試験の評価方法(判断基準)について 37(4) 有効性の指標(評価項目)について 41ア抗がん剤の有効性の評価における真の評価項目と代替評価項目 イ第Ⅱ相試験における有効性の評価(生存期間と腫瘍縮小効果) イ第Ⅱ相試験における有効性の評価(生存期間と腫瘍縮小効果) ウ第Ⅲ相試験における有効性の評価(生存期間,無増悪生存期間,QOL等) 52 3 非小細胞肺がんに関する知見とその治療法の進展 55(1) 肺がんと非小細胞肺がんの病態と特色 55(2) 非小細胞肺がんの治療方法と化学療法の効果 59 4 各臨床試験結果の評価 75(1) 各臨床試験並びに主張及び証拠の概要 75(2) 治験成績の評価について 76アイレッサの有効性を肯定的に評価する見解の要旨 76イ治験成績からイレッサの有効性を否定的に評価する見解の要旨 ウ治験成績の評価 78(3 ウ治験成績の評価 78(3) 承認後の第Ⅲ相試験成績の評価について 86ア承認後の第Ⅲ相試験成績からイレッサの有効性を肯定的に評価する見解の要旨 86イ承認後の第Ⅲ相試験成績からイレッサの有効性を否定的に評価する見解の要旨 89 ウ主要な臨床試験(第Ⅲ相試験)に関する所見(研究報告) エ承認後の被告国の対応 111オ承認後の第Ⅲ相試験成績の評価 115 5 イレッサの効果予測因子(EGFR遺伝子変異) 131(1) EGFR遺伝子増幅(コピー数)と遺伝子変異 131(2) イレッサの奏効とEGFR遺伝子変異の関係 132(3) イレッサの作用機序とEGFR遺伝子変異との関係 139(4) EGFR遺伝子変異・ R遺伝子変異の関係 132(3) イレッサの作用機序とEGFR遺伝子変異との関係 139(4) EGFR遺伝子変異・増幅の解析 140 6 個別症例についての評価 141(1) 有効性判断における個別症例の位置付け 141(2) 個別症例 142 7 イレッサの有効性について 160(1) 平成14年7月当時の有効性 160(2) 現在における有効性 164ア承認後の医薬品の有効性の確認と標準的治療法 164イ平成16年3月ころまでに実施された臨床試験等 164ウ平成16年4月ころから平成19年6月ころまでに実施された臨床試験等 165エ平成19年7月ころから現在までに実施された臨床試験等 エ平成19年7月ころから現在までに実施された臨床試験等 オ現在時点での有効性の判断 167(3) 小括 169 【目次】(第4分冊)(Ⅳ)第3 イレッサの安全性(危険性) 1 1 医薬品の安全性 1 2 従来の化学療法による副作用 1(1) 化学療法の副作用の特徴 1(2) 非小細胞肺がん抗がん剤による副作用の発症頻度 5(3) 殺細胞性抗がん剤の副作用に対する治療及び予防方法 7(4) 原告らの主張等について 9 3 イレッサ承認当時における間質性肺炎自体の予後の重篤性 (1) イレッサ承認当時における間質性肺炎に関する知見 (1) イレッサ承認当時における間質性肺炎に関する知見 11(2) イレッサ承認当時における特発性間質性肺炎の病型分類と予後に関する知見 13(3) イレッサ承認当時における薬剤性間質性肺炎に関する知見 24(4) 間質性肺炎の重篤性(概括) 41 4 イレッサによる間質性肺炎発症可能性及び重篤性 42(1) 原被告の主張の概略 42(2) イレッサの作用機序と薬剤性間質性肺炎発症可能性 44ア各専門家の意見の前提となる研究報告及び文献 44イイレッサの作用機序から間質性肺炎発症可能性が示唆されるとする専門家の意見の要旨 59ウイレッサの作用機序からは間質性肺炎発症可能性が示唆されないとする専門家の意見の要旨 60エイレッサの作用機序からみる薬剤性間質性肺炎発症の可能性と間質性肺炎発症機序 エイレッサの作用機序からみる薬剤性間質性肺炎発症の可能性と間質性肺炎発症機序 62 (3) 非臨床試験結果についての評価 66(4) 治験の有害事象及び副作用に関する結果等の評価 78ア認定事実 78イ治験における有害事象死亡例について 90ウ IDEAL1試験において肺炎による急性呼吸不全が死因とされた症例について 93エ IDEAL2試験において直接又は間接的な死因となる重篤な有害事象が認められた症例について 95オ治験における病勢進行死とされた症例について 99カ間質性肺炎等以外の副作用等の治験結果に関する評価 102(5) 承認時までの副作用報告の評価 103ア各副作用報告の位置付け 103イ国内臨床試験の副作用症例について ア各副作用報告の位置付け 103イ国内臨床試験の副作用症例について 105ウ EAPの副作用報告について 124エ海外の臨床試験(INTACT各試験)の副作用報告について オその他の原告らが主張する副作用報告について 135カ海外の副作用報告についての総括 141キ国内外の副作用報告の概要 143(6) 承認後の各調査等の評価 146ア承認後の副作用報告 146イゲフィチニブ安全性問題検討会(安全性検討会) 153ウ専門家会議 156エ WJTOG研究報告 159オプロスペクティブ調査 160 オプロスペクティブ調査 160カコホート内ケース・コントール・スタディ(CCS) 161 キその他の研究報告の概要 161ク小括 163 5 イレッサの危険性(間質性肺炎発症の危険性と予後の重篤性)のまとめ (1) イレッサ承認(平成14年7月)当時の間質性肺炎自体の予後の重篤性 168(2) イレッサ承認(平成14年7月)当時のイレッサによる間質性肺炎発症可能性と重篤性 169(3) イレッサ承認後のイレッサによる間質性肺炎の発症可能性及び重篤性 【目次】(第5分冊)(Ⅴ)第4 イレッサの有用性 1 1 医薬品の有用性の位置付け 次】(第5分冊)(Ⅴ)第4 イレッサの有用性 1 1 医薬品の有用性の位置付け 1(1) 薬事法上の概念 1(2) 製造物責任法上の欠陥,不法行為上の違法との関係における位置付け 1(3) 国家賠償法上の違法との関係における位置付け 2 2 有用性の判断方法 3 3 イレッサの有用性 3(1) 平成14年7月当時 3(2) 現在 7(3) まとめ 12第5 イレッサの添付文書と被告会社及び被告国が実施した市販後安全対策等 13 1 添付文書における使用上の注意,警告 した市販後安全対策等 13 1 添付文書における使用上の注意,警告 13(1) 薬事法の定め等 13(2) 医療用医薬品の添付文書に関する指針等の改訂経緯 13(3) 医療用医薬品の添付文書に関する指針及び自主基準 16(4) イレッサの添付文書の改訂の経緯 20(5) 添付文書以外による情報提供制度 28(6) 他の抗がん剤の添付文書の記載内容等 31 2 医薬品についての広告の規制と被告会社が関与した情報提供等 35(1) 広告の規制に関する薬事法令上の定め等 35(2) 被告会社が関与したイレッサに関する情報提供 36(3) 新聞報道 43 3 承認時の薬剤性間質性肺炎に関する知見 44(1) 薬剤性間質性肺炎に関する知見 44 炎に関する知見 44(1) 薬剤性間質性肺炎に関する知見 44(2) 分子標的治療薬と間質性肺炎に関する知見 45 4 イレッサの承認審査の経緯等 46(1) 承認審査資料と添付文書案 46(2) 審査センターにおける審査 46(3) 薬事・食品衛生審議会における審査 53 5 承認後の再審査制度及びその基礎となる情報収集制度 55(1) 再審査制度 55(2) 市販後調査制度 55(3) 安全性定期報告制度 61 6 承認後の副作用に関する情報収集及び情報提供 62(1) 副作用に関する情報収集 62(2) 被告会社における承認後の副作用症例に関する検討 72(3) 副作用情報等の提供 (2) 被告会社における承認後の副作用症例に関する検討 72(3) 副作用情報等の提供 73 7 イレッサの販売開始後の投与数及び副作用報告数等 79(1) 平成14年7月16日以降のイレッサの推定投与数 79(2) 平成14年7月16日から平成15年4月までの副作用報告数 79 8 緊急安全性情報以降のイレッサによる間質性肺炎等についての知見及び情報提供 81(1) 安全性検討会(ゲフィチニブ安全性問題検討会)と添付文書改訂 (2) 専門家会議と添付文書改訂 83(3) プロスペクティブ調査結果報告書の公表と添付文書改訂 84(4) ゲフィチニブ検討会 85(5) 日本肺癌学会における検討 85 第6 被告会社の製造物責任について 89 1 製造物責任の判断枠組みについて 第6 被告会社の製造物責任について 89 1 製造物責任の判断枠組みについて 89(1) 医薬品の欠陥の主張立証責任 89(2) 欠陥該当性の判断の基準及びその基準時 90 2 設計上の欠陥(有用性の欠如)について 92(1) 判断枠組み 92(2) イレッサの有用性 94(3) 当事者の主張について 97 3 適応拡大による欠陥について 97(1) 放射線療法との併用療法への適応拡大 98(2) ファーストライン治療への適応拡大 98 4 指示・警告上の欠陥について 101(1) 判断枠組み 101(2) 平成14年 (1) 判断枠組み 101(2) 平成14年7月当時の分子標的治療薬の安全性に関する医師等の認識 106(3) 平成14年7月当時に医師等に提供されていたイレッサに関する情報 109(4) 第1版添付文書における指示・警告上の欠陥について 112(5) 第3版添付文書における指示・警告上の欠陥について 122 5 広告宣伝上の欠陥について 124(1) 薬事法所定の広告の規制との関係について 124(2) 製造物責任法上の指示・警告上の欠陥との関係について 127 6 販売上の指示に関する欠陥について 128(1) 全例調査を条件としなかったことについて 128(2) 添付文書に使用限定を付けなかったことについて 134第7 被告会社の不法行為責任について 137 1 イレッサを販売したことによる過失責任について 137 会社の不法行為責任について 137 1 イレッサを販売したことによる過失責任について 137(1) 有用性の主張立証責任について 137(2) 有用性を欠く医薬品を販売したことによる過失責任について 2 安全性確保措置を怠ったことによる過失責任について 139 3 イレッサ販売開始後の過失責任について 141第8 被告国の責任について 143 1 承認時の義務違反について 143(1) 承認の違法について 143(2) 安全確保義務懈怠による承認と規制権限不行使の違法について 2 承認後の安全性確保義務違反(規制権限の不行使)について 166(1) 判断枠組みについて 166(2) 承認後の安全性確保義務違反について (1) 判断枠組みについて 166(2) 承認後の安全性確保義務違反について 168第9 本件患者らとの関係における因果関係及び損害 173 1 はじめに 173 2 因果関係の判断枠組み 173 3 個別の因果関係を判断する上での医学的,薬学的知見 179 4 本件患者らに関する判断 181第10 結語 207 【別紙】(第6分冊)(省略)別紙略語表別紙1 病期分類等一覧表別紙2 図(肺胞の構造)別紙3 図(肺胞及び毛細管の微細構造)別紙4 単回投与試験概要・結果別紙5 ラット1か月試験概要・結果別紙6 イヌ1か月試験概要・結果別紙7 ラット6か月試験概要・結果別紙8 イヌ6か月試験概要・結果別紙9 第Ⅰ・Ⅰ/Ⅱ相臨床試験概要・結果一覧別紙10 IDEAL1試験概要・結果別紙11 IDEAL2試験概要・結果別紙12 INTACT1試験概要・結果別紙13 INTACT2試験概要・結果別紙14 ISEL試験概要・結果別紙15 V1532試験概要・結果別紙16 INTEREST試験概要・ 果別紙12 INTACT1試験概要・結果別紙13 INTACT2試験概要・結果別紙14 ISEL試験概要・結果別紙15 V1532試験概要・結果別紙16 INTEREST試験概要・結果別紙17 IPASS試験概要・結果別紙18 SWOG0023試験概要・結果別紙19 WJTOG0203試験概要・結果別紙20 NEJ002試験概要・結果別紙21 NEJ第Ⅱ相試験概要・結果別紙22 審査センターからの照会と回答別紙23 非小細胞肺がん治療一覧表別紙24 ドセタキセル試験概要・結果 別紙25 抗がん剤の効果一覧表別紙26 タルセバ試験概要・結果(BR.21試験)別紙27 症例経過表別紙28 治験安全性情報一覧表別紙29 承認時までの副作用報告症例経過表(国内3症例)別紙30 承認時までの副作用報告症例経過表(海外7症例)別紙31 急性肺障害・間質性肺炎を発症したと考えられる副作用症例別紙32 海外からの副作用報告196例のうち転帰死亡の症例一覧別紙33 承認後の副作用報告情報入手日一覧表別紙34 WJTOG研究報告概要別紙35 プロスペクティブ調査概要別紙36 コホート内ケース・コントロール・スタディ研究報告概要別紙37 承認後の副作用報告症例経過表(平成14年8月29日の時点で被告会社に報告されていた内容)別紙38 承認後の副作用報告症例経過表(平成14年9月2日の時点で被告国に報告されていた内容)別紙39 各毒性発症率等一覧表別紙40 症例対照表 主文 1 被告A株式会社は,原告Bに対し,1485万円,原告C,原告D及び原告Eに対し,各495万円並びに各金員に対する平成14年10月2日から支払済みまで年5分の割合 主文 1 被告A株式会社は,原告Bに対し,1485万円,原告C,原告D及び原告Eに対し,各495万円並びに各金員に対する平成14年10月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告A株式会社は,原告Fに対し,1485万円,原告G,原告H及び原告Iに対し,各495万円並びに各金員に対する平成14年12月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告A株式会社は,原告Lに対し,110万円及びこれに対する平成14年11月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 5(1) 原告B,原告C,原告D及び原告Eに生じた訴訟費用は,これを20分し,その9を被告A株式会社の,その余を同原告らの各負担とする。 (2) 原告F,原告G,原告H及び原告Iに生じた訴訟費用は,これを20分し,その9を被告A株式会社の,その余を同原告らの各負担とする。 (3) 原告J及び原告Kに生じた訴訟費用は,すべて同原告らの負担とする。 (4) 原告Lに生じた訴訟費用は,これを10分し,その1を被告A株式会社の,その余を同原告の負担とする。 (5) 被告A株式会社に生じた訴訟費用は,これを40分し,その24を同被告の負担,その13を原告J及び原告Kの負担,その1を原告B,原告C,原告D及び原告Eの負担,その1を原告F,原告G,原告H及び原告Iの負担,その余を原告Lの負担とする。 (6) 被告国に生じた訴訟費用は,原告らの負担とする。 6 この判決は,第1項ないし第3項及び第5項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由注;以下では,各分冊を通じ,原則として,別紙略語表のとおりの略称を用いる。 第1章当事者の求め ないし第3項及び第5項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由注;以下では,各分冊を通じ,原則として,別紙略語表のとおりの略称を用いる。 第1章当事者の求めた裁判第1 請求の趣旨 1 被告らは,連帯して,原告Bに対し,1650万円,原告Cに対し,550万円,原告Dに対し,550万円,原告Eに対し,550万円及びこれらに対する平成14年10月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,連帯して,原告Fに対し,1650万円,原告Gに対し,550万円,原告Hに対し,550万円,原告Iに対し,550万円及びこれらに対する平成14年12月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは,連帯して,原告Jに対し,1650万円,原告Kに対し,1650万円及びこれらに対する平成14年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告らは,原告Lに対し,連帯して,550万円及びこれに対する平成14年11月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 訴訟費用は被告らの負担とする。 6 仮執行宣言第2 請求の趣旨に対する答弁 1 被告国(1) 原告らの被告国に対する請求をいずれも棄却する。 (2) 訴訟費用のうち,原告らと被告国との間に生じたものは,原告らの負担とする。 (3) 仮に仮執行宣言を付する場合には, ア担保を条件とする仮執行免脱宣言イその執行開始時期を,判決が被告に送達された後14日が経過した時とすること 2 被告会社(1) 原告らの被告会社に対する請求をいずれも棄却する。 (2) 訴訟費用のうち,原告らと被告会社との間に生じたものは,原告らの負担とする。 (以下余白) 過した時とすること 2 被告会社(1) 原告らの被告会社に対する請求をいずれも棄却する。 (2) 訴訟費用のうち,原告らと被告会社との間に生じたものは,原告らの負担とする。 (以下余白) 第2章事案の概要本件は,被告会社が輸入販売した非小細胞肺がん治療薬(抗がん剤)であるイレッサ(一般名はゲフィチニブである。)によって,本件患者らがその副作用である間質性肺炎等を発症し,激しい苦痛を被り,さらには,本件患者らのうち亡M,亡N及び亡Oが間質性肺炎等により死亡した原因は,被告らが(1)及び(2)記載のとおり,安全性を確保すべき措置を執らなかったことなどにあると主張して,本件患者及び死亡した本件患者の遺族である原告らが,被告会社に対し,製造物責任法3条又は不法行為に基づき,被告国に対し,国賠法1条1項に基づき,慰謝料等の損害賠償及びこれらに対する各損害発生時以降の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 (1) 被告会社は,イレッサによって致死的な急性肺障害や間質性肺炎を発症する危険性が高いことを予見できたにもかかわらず,アイレッサ承認時において,(ア) 副作用として,医薬品としての有効性がないのに,致死的な急性肺障害や間質性肺炎を発症する危険性が高く,したがって医薬品としての有用性が欠如しているのに,イレッサを販売した。 (イ) イレッサの適応は,イレッサの治験により有用性が確認された範囲に限定されるべきであったにもかかわらず,そのような限定をしなかった。 (ウ) イレッサの承認当時,イレッサが副作用の少ない画期的な新薬であるとの認識が医療関係者らに広まっていたから,イレッサの販売にあたっては,副作用による被害を回避するために十分な注意喚起が求められていたに レッサの承認当時,イレッサが副作用の少ない画期的な新薬であるとの認識が医療関係者らに広まっていたから,イレッサの販売にあたっては,副作用による被害を回避するために十分な注意喚起が求められていたにもかかわらず,イレッサの第1版添付文書には十分な指示・警告をしなかった。 イイレッサ販売後においては,イレッサ承認後の副作用報告により,副作用による死亡の被害の拡大を予見し得たから,平成14年7月30日ないし同 年8月29日までには,緊急安全性情報の配布,添付文書の改訂などの安全性確保措置を講じる義務があったのに,これを怠った。 (2) 厚生労働大臣は,イレッサによる致死的な急性肺障害や間質性肺炎を発症する危険性が高いことを予見できたにもかかわらず,アイレッサ承認時において,(ア) イレッサには有用性が欠如している(適応拡大も含む。)のに承認した。 (イ) 添付文書の指示・警告に関する記載内容を指導しないまま承認した。 (ウ) 市販後全例調査を義務付けないまま承認した。 (エ) 使用限定(入院ないしそれに準じる管理下での使用,肺がん化学療法に十分な経験を持つ医師による使用,投与に際して緊急時に十分に措置できる医療機関での使用等の使用限定)を付さないまま承認した。 イイレッサ承認後においては,イレッサ承認後の副作用報告により,副作用による死亡の被害の拡大を予見し得たから,平成14年8月6日ないし同年9月2日までには,緊急安全性情報の配布,添付文書の改訂などの安全性確保措置を講じる義務を怠った。 (以下余白) 第3章前提事実当事者間に争いのない事実及び【】括弧内記載の証拠により認定できる事実は,次のとおりである。なお,()括弧の記載は参考記載である。 第1 当事者 1 原告ら原告Bは,本件患者 前提事実当事者間に争いのない事実及び【】括弧内記載の証拠により認定できる事実は,次のとおりである。なお,()括弧の記載は参考記載である。 第1 当事者 1 原告ら原告Bは,本件患者らのうちM(昭和8年4月27日生。平成14年10月2日死亡。死亡当時69歳)の妻であり,原告C,原告D及び原告Eは,Mと原告Bの子らである。 原告Fは,本件患者らのうちN(大正14年11月15日生。平成14年12月20日死亡。死亡当時77歳)の妻であり,原告G,原告H及び原告Iは,Nと原告Fの子らである。 原告Jは,本件患者のうちO(昭和29年3月19日生,平成14年11月9日死亡。死亡当時48歳)の妻であり,原告Kは,Oと原告Jの子である。 原告L(昭和30年10月14日生)は,本件患者の一人である。 2 被告会社被告会社は,医薬品の製造,輸入,販売等を目的とする株式会社であり,イレッサを開発,製造した英国A社の子会社であるとともに,イレッサの輸入承認を取得し,我が国でイレッサを販売している者である。 3 被告国被告国は,公衆衛生の向上及び増進を図るため,厚生労働大臣をして薬事行政を担当せしめている者である。 第2 本件患者らの治療等の経過 1 MMの治療経過等は次のとおりである。 【甲Mイ1,2[いずれも各枝番号],甲Pイ1,2[各枝番号],丙Mイ1~ 4】(1) 平成13年11月,老人健診での胸部レントゲンで右下肺野に異常陰影があった。同年12月京都府所在のa共済病院に検査入院し,がんがあるとして,手術を勧められたが,これに応じなかった。 (2) 平成14年2月26日,京都府舞鶴市所在の医療法人社団b医院で診察を受けたところ,肺がんの疑いとの診断を受けた。 (3) 同年3月12日,京都府綾部市 を勧められたが,これに応じなかった。 (2) 平成14年2月26日,京都府舞鶴市所在の医療法人社団b医院で診察を受けたところ,肺がんの疑いとの診断を受けた。 (3) 同年3月12日,京都府綾部市所在のc市立病院で,右肺の大細胞がんと診断された。 (4) 同年4月9日から同年7月29日までの間,京都市所在のd大学付属病院に入院して,抗がん剤の投与及び放射線療法などの治療を受けた。 (5) 同年9月2日から,上記(4)の退院後通院していた前記b医院で処方されたイレッサを服用し始め,同年9月9日にその服用を中止した。 (6) 同日から京都府舞鶴市所在の国立e病院に入院し,間質性肺炎との診断を受け,治療を受けた。 (7) 同年10月2日,死亡した。死亡診断書には,直接死因として,間質性肺炎と記載されている。 2 NNの治療経過等は次のとおりである。 【甲Mロ1~3,甲Pロ1,2[各枝番号],丙Mロ1,2】(1) 平成14年4月5日,三重県松阪市所在の三重県厚生農業協同組合連合会f中央総合病院に当日のみ検査のために入院した。この検査により,肺がん(扁平上皮がん)に罹患していることが判明した。 (2) 同年5月27日から同年7月3日までの間,同病院に入院して,抗がん剤の投与を受ける治療を受けた。 (3) 同月9日に同病院に入院し,同月11日から,抗がん剤の投与を受ける治療を受けた。 (4) 入院中である同年9月18日から,イレッサを服用し始め,同月28日にその服用を中止した。 (5) 同月7日から三重県久居市所在の国立g病院に入院して治療を受けた。 (6) 同年12月20日,死亡した。死亡診断書には,直接死因として,扁平上皮がん,間質性肺炎と記載されている。 3 OOの治療経過等は次のとおりである。 【甲M に入院して治療を受けた。 (6) 同年12月20日,死亡した。死亡診断書には,直接死因として,扁平上皮がん,間質性肺炎と記載されている。 3 OOの治療経過等は次のとおりである。 【甲Mハ1~4,甲Pハ1,2,丙Mハ1】(1) 平成13年12月13日,神戸市須磨区所在の国立h病院で診察を受けたところ,直ちに入院することになり,検査を受けた。 (2) 同日から平成14年3月24日まで国立h病院に入院し,抗がん剤の投与を受ける治療を受けた。同年1月23日までに,肺腺がんの心膜転移,骨転移,脳転移と診断されたが,主治医は,化学療法は奏効しているとしていた。 (3) 同年5月20日から同年8月9日までの間,再度入院した。肺がん,骨転移,脳転移等の診断を受け,同年5月23日から,抗がん剤の投与及び放射線療法などの治療を受けた。 (4) 在宅療養中である同年10月15日,イレッサを服用することが決まり,同月23日からイレッサを服用し始め,同年11月4日にその服用を中止した。 (5) 同月5日から国立h病院に入院して治療を受けた。 (6) 同月9日,死亡した。死亡診断書には,直接死因として,急性間質性肺炎と記載されている。 4 原告L原告Lの治療経過等は次のとおりである。【甲Pニ1,丙Mニ1~4】(1) 平成13年9月,三重県四日市市所在のi内科循環器科クリニックで胸部 レントゲン上,右上肺野に異常陰影が認められ,同市所在のj総合医療センターで精密検査を受けたところ,肺がんの疑いと診断され,同年11月5日,右肺上葉摘出手術を受けた。手術後の検査によって,大細胞がんと診断された。 (2) 平成14年2月にCT検査等を受け,異常なしとされた。 (3) 同年7月ころ,前記j総合医療センターで縦隔リンパ節腫大が発見され 術を受けた。手術後の検査によって,大細胞がんと診断された。 (2) 平成14年2月にCT検査等を受け,異常なしとされた。 (3) 同年7月ころ,前記j総合医療センターで縦隔リンパ節腫大が発見され,同センターから紹介を受けてセカンド・オピニオンを求めた名古屋市所在の愛知県がんセンターで,縦隔リンパ節への転移が判明した。 (4) 同年8月5日から9月10日まで,三重県所在のj総合医療センターに入院し,放射線療法の治療を受け,同月11日に退院した。入院中である同年9月2日にイレッサの説明を受け,同月4日にその服用を希望する旨を医師に伝えた。 (5) 前記i内科循環器科クリニックに通院しながらの在宅療養中である同月26日から,前記j総合医療センターで処方されたイレッサを服用し始め,同年10月23日にその服用を中止した。 (6) 同月27日から前記j総合医療センターに入院し,イレッサ内服にともなう間質性肺炎等の診断を受け,同月27日から同年11月5日まで酸素吸入が続き,10月28日から同年11月10日までステロイド剤が投与された結果,同月15日に退院した。 (7) 平成15年6月,右鎖骨上窩リンパ節にがんが再発し,同月30日から同年8月8日まで,前記j総合医療センターで放射線治療を受け,同年8月下旬頃以降,横浜市所在の日本免疫治療学研究会lクリニックで免疫療法による治療を受けた。 第3 がんと肺がん 1 がんについて【乙E11,乙H3,丙E33,丙H1,2[枝番号1,5],6,50】 (1) がん(悪性腫瘍)は,人間の体の正常細胞の遺伝子に突然変異が生じることにより生じる遺伝子の病気である。 人体の細胞には,細胞の増殖を促進する遺伝子や,細胞増殖を抑制したり,アポトーシス(細胞死)を誘導する方向に働く遺伝子があり, 細胞の遺伝子に突然変異が生じることにより生じる遺伝子の病気である。 人体の細胞には,細胞の増殖を促進する遺伝子や,細胞増殖を抑制したり,アポトーシス(細胞死)を誘導する方向に働く遺伝子があり,細胞の機能維持にとって重要な役割を担っている。この遺伝子が発がん性物質等によって変異を起こし,無制限かつ無秩序な細胞増殖が生じる状態になったものをがん細胞という。がんの原因となっている細胞増殖を促進する遺伝子をがん遺伝子,抑制する遺伝子をがん抑制遺伝子という。 がんは,人体に存在する約100兆個の細胞のいずれかの細胞に遺伝子変異が生じ,これが,さらに30~40回細胞分裂し,増殖した結果発生するものである。増殖したがん細胞は,周囲の細胞や器官を破壊する。そして,周囲の組織に入り込んだり(浸潤),血液やリンパ液によって全身に転移したりする。多くの場合,腫瘤を形成し,浸潤・転移先の器官や臓器に機能障害をもたらし,最終的には患者を死に至らせる。 (2) 我が国において,がんは,昭和56年から死因の第1位となっている。がんによる死亡者は,平成13年は総数30万0658人であり,総死亡者数の31.5%を占めた。 肺がんは,その患者が世界的に増加傾向にあり,我が国でも,平成5年以降は男性のがん死亡率の第1位,女性のがん死亡率の第2位となっており,平成11年の肺がんによる年間死亡者数は約5万2000人(同年のがんによる年間死亡者総数は29万人),平成13年の肺がんによる年間死亡者数は約6万3000人,平成19年においては,がんによる年間死亡者総数は約33万6500人であり,そのうち肺がんは,男女ともにがん死亡率の第1位であった。平成14年当時の肺がん患の5年生存率は,10~30%とされていた。 (3) がんは,前記(1)のとおり,浸潤性増殖又は移 6500人であり,そのうち肺がんは,男女ともにがん死亡率の第1位であった。平成14年当時の肺がん患の5年生存率は,10~30%とされていた。 (3) がんは,前記(1)のとおり,浸潤性増殖又は移転するために,致命的原因 となる。浸潤性増殖をすると,侵入される組織が出血,管腔の閉塞や狭窄,機能不全を起こす。 中でも,非小細胞肺がん(後記2(2)イ(イ)参照)は,他のがんと比較して,転移を起こしやすく,転移先の臓器によって多彩な症状を引き起こす。 脳転移では,頭痛,精神症状,麻痺,けいれんなど,骨移転では疼痛や骨折,肝臓転移では黄疸,食道周囲の縦隔リンパ節転移では食道圧迫による嚥下障害,肺臓内転移では呼吸困難などである。その結果,肺がんの末期には,患者は,種々の苦痛を感じることが多い。特に,非小細胞肺がんの末期は,他のがん種に比べても患者の苦痛は大きいとされる。 がんの病状の進行に伴い,患者の身体的・精神的苦痛の程度,種類,頻度は大幅に増加し,人間としての尊厳を損ない,周囲の人々との交流も困難にする。【乙E11,乙H3,50,丙E33】 2 肺がんについて(1) 肺の構造と機能【乙E11,乙H18,丙H1,2[枝番号5]】肺は,呼吸器系の臓器であり,胸の中に左右に1つずつ存在する。それぞれ左肺,右肺といわれ,右肺は葉と呼ばれる3つの部分からなり(上葉,中葉,下葉),左肺は右肺よりわずかに小さく,上葉と下葉に分かれる。 口や鼻から吸い込まれた空気は,咽頭や喉頭を経て気管を通り,気管支と呼ばれる左右の管に分かれて左右の肺に入る。気管支は,細気管支と呼ばれるさらに細い管に分岐し,木の枝のように肺内に広がり,その末端には酸素と二酸化炭素を交換する(ガス交換)肺胞が存在する。 (2) 肺がんの分類【甲H1,乙H3,7~ 。気管支は,細気管支と呼ばれるさらに細い管に分岐し,木の枝のように肺内に広がり,その末端には酸素と二酸化炭素を交換する(ガス交換)肺胞が存在する。 (2) 肺がんの分類【甲H1,乙H3,7~9,丙H1,2[枝番号5],3,5~7】アがんが生じた部位による分類肺がんの臨床症状が,原発性肺腫瘍の発生部位に大きく影響され,これにより,肺の入口である肺門近くにできたがんは肺門型(中心型)と,肺 門から遠いところにできたがんは肺野型(末梢型)とに分けられる。 また,肺自体の中には大きながんはないが,胸にたまった水(胸水)の中にがん細胞が見つかるものを胸水型肺がんという。 イ病理組織型分類肺がんは,病理組織(がん細胞の性質や形態など)により,次のとおり,大きくは小細胞肺がんと非小細胞肺がんに分類される。肺がんの頻度は,時期によって異なり,平成15年に出版された文献(乙H3)においては,前者が10%未満,後者が90%以上の割合であり,かつ,後者のうちの腺がん(後記(イ))の比率が年々増加しているとされる。 (ア) 小細胞肺がん小細胞肺がんは,他の組織のがん細胞に比べて小さな細胞が密集して広がり,細胞同士がしっかりしたかたまりを作りにくいがんのことをいう。小細胞肺がんは,肺門部に発生することが多く,増殖が速く,血行性移転を起こしやすいため,脳,リンパ節,肝臓,副腎及び骨などに転移しやすいがんであるが,非小細胞肺がんに比べて化学療法や放射線療法の感受性が高いとされている。 (イ) 非小細胞肺がん非小細胞肺がんは,さらに腺がん,扁平上皮がん,大細胞がん,カルチノイド,その他複数の組織型に分類され,多様な組織型が存在するために,肺がんの発生しやすい部位,進行形式,進行速度や症状などは多様である。非小細胞肺がんは,小 がん,扁平上皮がん,大細胞がん,カルチノイド,その他複数の組織型に分類され,多様な組織型が存在するために,肺がんの発生しやすい部位,進行形式,進行速度や症状などは多様である。非小細胞肺がんは,小細胞肺がんに比べると,増殖が遅いといえるが,化学療法や放射線療法の感受性は低いとされる。 a 腺がんは,その組織像,細胞像が多彩であり,増殖スピードも様々である。肺末梢に発生することが多い。 b 扁平上皮がんは,角化(角質が形成されていく状態)ないし角化傾向を有する細胞及び細胞間橋を示す細胞からなるがんのことをいい, 肺門部(中枢気管支)に発生することが多い。他の類型のがん細胞よりも,EGFRが過剰発現していることが多い(EGFRの説明は後記第4の2(2)のとおり)。 c 大細胞がんは,亜区域気管支と呼ばれる肺門部から離れた気管支より末梢に発生する。大型の多角形の細胞からなり,明瞭な核小体を有するがんであって,腺がんや扁平上皮がん,小細胞肺がんなどの特徴を有しないがんのことをいう。 (3) 病期と患者の全身状態の分類【乙H3,丙H1,2[枝番号5],3,7,8,43】ア病期肺がんは,原発腫瘍の進展度やリンパ節等への移転の程度を指標とするTNM分類により,病期が示される。TNM分類は,放射線診断や内視鏡診断等の結果等によって治療方針を決定する場合や,外科手術後の予後の予測をする場合の補助として用いられる。 TNM分類の「T」は原発腫瘍の進展度を,「N」はリンパ節転移の有無,「M」は遠隔転移をそれぞれ表し,各項の組み合わせにより病期が決まる(TNM各項の定義等については別紙1【病期分類等一覧表】の「TNM分類におけるT,N,M各項の定義」表を,病期の定義やTNM分類と病期との関係については同別紙の「非小細胞肺がんの病 り病期が決まる(TNM各項の定義等については別紙1【病期分類等一覧表】の「TNM分類におけるT,N,M各項の定義」表を,病期の定義やTNM分類と病期との関係については同別紙の「非小細胞肺がんの病期分類」表参照)。 イ患者の全身状態悪性腫瘍における患者の全身状態を表す指標には,パフォーマンス・ステータス(PS:perfomancestatus)のグレード(grade)が用いられる。PSは,肺がんの予後因子として重要なものであり,5段階に分かれる。その各段階の状態は別紙1【病期分類等一覧表】の「PSのグレード」一覧表のとおりである。 3 肺がんの治療方法【乙H3,6,8,12~17,丙H1,2[枝番号5],3,7,9】肺がんの主な治療方法には,①外科療法,②放射線療法,③化学療法などがある。その他に,痛みの緩和を目的とする緩和療法がある。 上記各治療方法は,がんの組織型,病期,既往歴,臓器(心臓,肺,腎臓,肝臓など)の機能及び全身状態に応じて選択される。 (1) 外科療法(手術療法)外科療法は外科手術によりがん細胞を摘出する方法であり,一般的には外科療法が肺がんに対する唯一の根治療法であると考えられている。 手術の方法には,標準手術,縮小手術及び拡大手術があり,対象となるがんの大きさ,時期,範囲によって選択される。 標準手術には,肺葉切除又は肺全摘術があり,併せて,リンパ節におけるがんの有無を確認するためのリンパ節切除(系統的リンパ節郭清術)も行われる。肺葉切除は肺葉を葉単位で摘出する手術であり,肺全摘術は左右の肺の一方をすべて摘出する手術である。 (2) 放射線療法放射線療法はX線や他の高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を死滅させる治療方法であり,通常は身体の外から患部である肺やリンパ節に放射 の肺の一方をすべて摘出する手術である。 (2) 放射線療法放射線療法はX線や他の高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を死滅させる治療方法であり,通常は身体の外から患部である肺やリンパ節に放射線を照射する。放射線治療にあたっては,病巣の位置や大きさ,病期,年齢及び肺機能に応じて,放射線量,放射線を当てる範囲及び照射方法が決定される。 (3) 化学療法(抗がん剤治療)肺がんに対する化学療法は,抗がん剤を注射又は経口投与などの方法により,がん細胞を死滅させる治療方法である。 化学療法のうち,診断後初めて行われる化学療法のことをファーストライン治療(ファーストライン,初回治療)といい,ファーストライン治療にお ける薬剤が効果を発揮せず又は発揮しなくなったことなどから,別の薬剤で再度行われる化学療法のことをセカンドライン治療(セカンドライン,二次治療)という。ファーストライン治療及びセカンドライン治療が効果を発揮せず又は発揮しなくなったことなどから,さらに別の薬剤で再度行われる化学療法のことをサードライン治療(サードライン,三次治療)という。各ラインにおける抗がん剤の投与の回数はクール(コース,サイクル)という語で示される。1クールは,投与期間と副作用の回復期間を入れて,3週間から4週間を1単位とすることが多い。1ラインの間に,複数回の抗がん剤の投与が行われる。定期的に腫瘍の大きさを比較して効果を評価し,継続や変更の要否が判断される。仮に当該ラインで効果があった場合でも,一定回数以上抗がん剤の投与を重ねても長期予後には影響しないと一般的に考えられており,1つのラインでの治療期間は3~6クールまでとされることが多い。 同じ疾患であっても,ファーストライン治療,セカンドライン治療,サードライン治療と進むに従い,抗がん剤の と一般的に考えられており,1つのラインでの治療期間は3~6クールまでとされることが多い。 同じ疾患であっても,ファーストライン治療,セカンドライン治療,サードライン治療と進むに従い,抗がん剤の効果が得られる可能性は次第に低くなるといわれている(詳細は後記第5章第2の3(2)ウ(イ))。 なお,外科療法の後に,検査では指摘できないが全身に広がっている可能性のあるがん細胞を死滅させ,がんの再発率を下げ,延命させる目的で抗がん剤を投与する治療方法が行われることがあり,これを術後補助(化学)療法という。また,外科療法の前に,がんをなるべく小さくし,手術後のがんの再発の危険性を軽減する目的で手術前に化学療法を用いることもある(術前化学療法)。 第4 抗がん剤及びイレッサの概要 1 抗がん剤について抗がん剤は,大きく「殺細胞性抗がん剤(細胞傷害性抗がん剤)」と「分子標的治療薬」とに分類される。前者は,正常細胞とがん細胞に対して同時に非 選択的に作用する性質を有する。これと作用機序が異なる後者は,対象とする疾患の病態において中心的役割を演ずる分子を標的にし,その機能を阻害することで疾患の進行を阻止する薬剤である。【乙H12】(1) 殺細胞性抗がん剤並びにその基本的な作用機序及び副作用発生機序【乙H12~15,丙H5】細胞は,①G1期(DNA合成準備期,DNA複製前期,細胞間期),②S期(DNA合成期,DNA複製期)③G2期(細胞分裂準備期,DNA複製と分裂の期間,有糸分裂前期),④M期(細胞分裂期,有糸分裂期)の各時期からなる周期(細胞周期)を繰り返して増殖する。この過程で,DNA,RNA及びタンパク質の合成が行われる。 殺細胞性抗がん剤は,上記細胞周期における上記DNA,RNA及びタンパク質の合成の過程のいずれかを 周期(細胞周期)を繰り返して増殖する。この過程で,DNA,RNA及びタンパク質の合成が行われる。 殺細胞性抗がん剤は,上記細胞周期における上記DNA,RNA及びタンパク質の合成の過程のいずれかを抑制,阻止又は障害して,がん細胞の増殖を抑制する効果を有する。がん細胞は,活発に増殖するために,他の正常細胞と比較して,このような抗がん剤の有する増殖抑制効果をより強く受け,その結果,抗がん剤による治療効果が得られる。このような作用機序を有する抗がん剤が,殺細胞性抗がん剤と呼ばれる。 しかし,上記細胞周期はがん細胞と正常細胞とに共通であるため,正常細胞とがん細胞に対して同時に非選択的に作用し,その効果は正常細胞にも及ぶ。ことに,正常細胞の中でも一般的に細胞の分裂・増殖の回転が速い細胞(白血球(好中球),血小板,消化器粘膜,毛根,性腺など)は,抗がん剤により,がん細胞と同様に細胞の分裂や増殖が強く抑制されることになるため,副作用が生じる。 (2) 非小細胞肺がん治療のための抗がん剤【甲H10,乙E18,乙H3,8,12~15,丙E33,34[枝番号1],丙H3,6,8~10,22,丙I15[枝番号1,2],19[枝番号1,2]】非小細胞肺がんに対して用いられる抗がん剤は,1960年代にはマイト マイシンくらいしかなく,1970年代後半にシスプラチンが開発され,1980年代にカルボプラチン,マイトマイシンC,ビンデシン,イフォスファミド,エトポシド(ただし,エトポシドの現在の我が国における適応は,小細胞肺がんである。)が,1990年代にネダプラチン,パクリタキセル,ドセタキセル,ビノレルビン,ゲムシタビンやイリノテカンが開発された。1980年代に開発されたものは旧抗がん剤,1990年代に開発された抗がん剤は新規抗がん剤と総称され ダプラチン,パクリタキセル,ドセタキセル,ビノレルビン,ゲムシタビンやイリノテカンが開発された。1980年代に開発されたものは旧抗がん剤,1990年代に開発された抗がん剤は新規抗がん剤と総称されることがある。 これらの抗がん剤は,その作用機序等から,アルキル化剤,代謝拮抗剤,抗腫瘍性(抗がん)抗生物質,植物由来物質(植物アルカロイド,抗腫瘍性植物成分製剤),プラチナ製剤(白金化合物)に分類される。 アルキル化剤は,DNAに共有結合を形成させることで損傷を引き起こすタイプの抗がん剤であり,上記のうちでは,イフォスファミドがこれにあたる。 代謝拮抗剤は,核酸合成過程で生成される代謝物と類似した構造をもつ化合物で,本来の代謝物に代わって核酸に組み込まれるなどして,DNA合成を阻害するタイプの抗がん剤であり,上記のうちでは,ゲムシタビンがこれにあたる。 抗腫瘍性抗生物質は,そのほとんどは,DNAと結合し,DNAやRNAの合成を抑制し,DNA鎖を切断する作用を有し,上記のうちでは,マイトマイシンCがこれにあたる。 植物由来物質は,様々な作用を有する。旧抗がん剤のうちのビンデシンや新規抗がん剤のうちのビノレルビンは,微小管の構成たんぱく質であるチューブリンと結合して微小管の機能を障害して細胞分裂を停止させる。旧抗がん剤のうちのエトポシドは,DNAを合成する酵素(トポイソメラーゼⅡ)を安定化して脱重合を抑制することにより,がん細胞の分裂を阻害する。新抗がん剤のうちのはいずれドセタキセルとパクリタキセルは,上記チューブ リンの重合を促進,安定化し,脱重合を抑制することで,イリノテカンは,DNAを合成する酵素(トポイソメラーゼⅠ)抑制してDNA合成を阻害して,がん細胞の分裂を阻害する。 プラチナを含むプラチナ製剤のうちのシスプラチ 安定化し,脱重合を抑制することで,イリノテカンは,DNAを合成する酵素(トポイソメラーゼⅠ)抑制してDNA合成を阻害して,がん細胞の分裂を阻害する。 プラチナを含むプラチナ製剤のうちのシスプラチンとカルボプラチンは,DNAと結合することにより,細胞分裂に不可欠なDNAの複製を阻害して,がん細胞の細胞分裂を阻害する。 (3) 分子標的治療薬【乙H3】対象とする疾患の病態において中心的役割を演ずる分子を標的にし,その機能を阻害することで疾患の進行を阻止する薬剤のことを分子標的治療薬という。 がんの発生,増殖,進展,転移とそれを維持する微少環境,がんに対する免疫反応などについての分子レベルの機序の解明と創薬技術の発達とにより,がん細胞や微少環境の分子を標的と定め(標的分子),これを制御する薬剤が開発されるようになったものである。 標的分子は,正常細胞と比較して,質的,量的な違いを有し,治療による正常細胞への影響が少ないか,又は速やかな正常細胞の回復が可能と予想されるものが選択される。その結果,殺細胞効果に由来する毒性を大幅に軽減し得るとされる。 2 イレッサについて(1) イレッサ【丙C1】イレッサは,英国A社が合成,開発した非小細胞肺がんに対する抗がん剤であり,その作用機序(後記(2))から,上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤とも呼ばれる。 イレッサは錠剤であるため,経口投与される。従来の抗がん剤のほとんどが静脈注射や点滴静脈注射によって投与しなければならないのとは大きく異なる。 (2) イレッサの作用機序【乙E1,丙C1,丙E33,39,40,丙H3,8】イレッサは,EGFRを標的分子とする分子標的治療薬である。 EGFR(EGFレセプター,EGF受容体)は,細胞膜を貫通し イレッサの作用機序【乙E1,丙C1,丙E33,39,40,丙H3,8】イレッサは,EGFRを標的分子とする分子標的治療薬である。 EGFR(EGFレセプター,EGF受容体)は,細胞膜を貫通して存在し,増殖刺激を細胞内シグナル伝達系に伝えるたんぱく質(受容体型チロシンキナーゼ)であり,細胞外のリガンド結合ドメイン(リガンド接合部位),細胞膜部分に細胞外と細胞内を貫通する形で存在する膜貫通ドメイン(膜貫通部位)及び細胞内のチロシンキナーゼドメイン(チロシンキナーゼ部位)の3つから構成される。 EGFRは,リガンド結合ドメインが上皮成長因子(上皮細胞増殖因子;EGF)などの増殖因子(リガンド)と結合すると,これに伴う立体構造の変化により,チロシンキナーゼドメイン内におけるATPとの結合が促進されリン酸化して,活性化する。その結果,細胞増殖のシグナルが様々な経路から伝達されるようになり,細胞増殖の活性化が引き起こされる。また,これとは別に,EGFRの過剰発現又は自己リン酸化の亢進により,その機能が活性化が促進されることもある。 がん細胞において,EGFRの過剰発現が報告されており,EGFRからの過剰なシグナルが伝達される結果,がん細胞の増殖,血管の新生,浸潤及び転移の誘導,並びにアポトーシスの抑制などが引き起こされていると考えられている。 イレッサは,EGFRのチロシンキナーゼドメインでのATP結合部位におけるATPとの競合作用を有し,EGFRの自己リン酸化を抑制することにより,細胞増殖のシグナル伝達経路を遮断することにより各種の細胞増殖シグナルが抑制され,抗腫瘍効果を発揮すると考えられている。 このような作用機序によれば,腫瘍増殖を阻害するものと考えられていたが,腫瘍縮小をもたらすことが判明した。しかしその作用機序は,現在でも シグナルが抑制され,抗腫瘍効果を発揮すると考えられている。 このような作用機序によれば,腫瘍増殖を阻害するものと考えられていたが,腫瘍縮小をもたらすことが判明した。しかしその作用機序は,現在でも 明らかになっていない。 (3) イレッサの効能,効果【甲A1~9,16,18,19,21,丙A1[各枝番号],2,丙I32】イレッサの輸入承認に係る効能,効果は,発売当初から「手術不能又は再発非小細胞肺がん」であり,効能,効果に関連する使用上の注意は「1.本剤の化学療法未治療例における有効性及び安全性は確立していない。2.本剤の術後補助療法における有効性及び安全性は確立していない。」とされており,現在に至るまで変更されていない。 第5 肺炎及び間質性肺炎等の概要 1 肺炎について(1) 肺胞の構造と機能【甲H32,33,41,44,乙E1737,丙H14】(肺胞の構造と肺胞壁の構造は,別紙2【図[肺胞の構造]】及び別紙3【図[肺胞及び毛細管の微細構造]】を参照)肺への空気の取り込みと放出の役割を担っている気道は,気管から気管支,気管支から細気管支に多数分岐し,それぞれ肺胞道に至る。1つの肺胞道には,肺胞のうを介して肺胞が3~6個付着している。 肺胞は,毛細血管が付着する風船状の組織であり,成人では約3億個の肺胞によりO2 とCO2との交換が行われる。肺胞は,非常に薄い膜で形成されており,この薄い膜を肺胞壁(又は肺胞中隔)という。肺胞壁の大部分は,単層で膜状の細胞質を有するⅠ型肺胞上皮細胞(Ⅰ型細胞,扁平肺胞細胞)で覆われている。Ⅰ型肺胞上皮細胞の主要な役割は,ガスが容易に浸透できるような最小の厚さで障壁をつくることである。細胞上皮には,Ⅰ型肺胞上皮細胞のほかに,Ⅱ型肺胞上皮細胞(Ⅱ型細胞)が散在する。Ⅱ型肺胞 われている。Ⅰ型肺胞上皮細胞の主要な役割は,ガスが容易に浸透できるような最小の厚さで障壁をつくることである。細胞上皮には,Ⅰ型肺胞上皮細胞のほかに,Ⅱ型肺胞上皮細胞(Ⅱ型細胞)が散在する。Ⅱ型肺胞上皮細胞は,肺胞表面を覆って肺胞の表面張力を低下させて肺胞をふくらませるために必要な肺胞表面活性物質(サーファクタント)を分泌する。ま た,型肺胞上皮細胞が傷害を受けたときにはⅠ型肺胞上皮細胞に分化して修復する機能を有すると推測されている。この他,Ⅱ型肺胞上皮細胞は,肺胞腔内に浸潤してきた浸潤液等を吸収又は除去する機能も有する。また,比較的最近,肺胞刷子細胞(Ⅲ型細胞)が発見されたが,その機能は不明である。 隣り合う肺胞の双方の肺胞上皮細胞の基底膜に挟まれた領域を間質(これを狭義の間質ということがある。これに対し,気管支血管周囲,小葉間隔壁及び胸膜下などの間質を広義の間質という。)という。間質は,正常な状態においては,毛細血管,弾性線維網,膠原線維及び線維芽細胞から構成される。肺の組織の一部ではあるが,呼吸には直接関与しない組織である。 (2) 肺炎【甲H2,41,乙E17,H19,21,丙H12】肺炎は,肺に起こる炎症の総称であるが,肺胞性肺炎と間質性肺炎の2つの異なる病態がある。もっとも,一般的に肺炎という場合には,前者を指す。 ア肺胞性肺炎肺胞性肺炎は,肺胞腔内に炎症性細胞が浸潤することにより生じるものである。すなわち,種々の微生物の感染を原因として,肺胞内部に炎症性細胞と体液(血液の一部成分が濾出作用により細胞間隙又は体腔内に出たものであって,たんぱく質を多く含み,細胞成分や線維素が少なく粘性の低い液体)が滲出し,肺胞が液体で満たされる結果,ガス交換ができなくなる。 イ間質性肺炎間質性肺炎(肺臓炎,胞 体腔内に出たものであって,たんぱく質を多く含み,細胞成分や線維素が少なく粘性の低い液体)が滲出し,肺胞が液体で満たされる結果,ガス交換ができなくなる。 イ間質性肺炎間質性肺炎(肺臓炎,胞隔炎)は,間質に病変の主座がある疾患群である。間質に炎症が生じて,その後両方の肺全体に一面にわたって(びまん性に)炎症が広がるものである(なお,びまん(瀰漫)の語義は,ひろくはびこることをいい,肺疾患においては,患部が広く肺全体にひろがるこ とをいう。)。 2 間質性肺炎について【甲H3,31,32,41,乙E17,乙H19,20,22,32,35,36[枝番号1~3],丙E47,丙H12,17,18,23~38,46】(1) 概念ア間質性肺疾患は,肺の間質に病変の主座がある疾患であり,140種類以上ある疾患の総称である。その症状,経過,治療反応性は多様である。①原因の明らかなびまん性肺疾患(感染症,じん肺,薬剤性肺障害など)と,②特発性間質性肺炎,肉芽腫性肺疾患,その他の原因が不明なびまん性肺疾患とに分類される。 間質性肺炎は,間質性肺疾患(びまん性肺疾患)の一種である炎症性肺疾患の一つである。 間質性肺炎は,肺の間質での過剰なコラーゲン産生による線維化が起こり,線維化に伴う拘束性換気障害や肺拡散能の低下などの機能障害を呈する疾患である。 イ間質性肺炎に関連する概念として,急性呼吸窮迫(迫促)症候群(ARDS)とびまん性肺胞障害(DAD)がある。 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)とは,各種の原因疾患や原因病態に続発して発症する呼吸不全を呈する臨床症候群である。原因疾患が存在し,高度の低酸素血症が発生しており,レントゲンで両側性陰影がある臨床所見があるものをいう。その病態は,肺炎症の過程で毛細血管内皮細胞と肺胞 て発症する呼吸不全を呈する臨床症候群である。原因疾患が存在し,高度の低酸素血症が発生しており,レントゲンで両側性陰影がある臨床所見があるものをいう。その病態は,肺炎症の過程で毛細血管内皮細胞と肺胞上皮細胞が損傷し,その結果,血管内皮の透過性が亢進し,高分子量のタンパク質が血漿内水分とともに肺間質に漏出し,この水分が肺胞内に漏出する。①間質中や肺胞腔内に貯留した水分によって,ガス交換ができなくなり,また,②肺胞腔内に貯留した水分によって肺サーファクタントが薄まることや,又 は肺胞腔内に起こった炎症変化によりサーファクタントを産生・分泌するⅡ型肺胞上皮細胞が破壊され,肺サーファクタントが減少することが原因となって,呼気時に肺胞が虚脱,閉鎖するために,酸素を取り込めなくなり,呼吸困難を生じる。 びまん性肺胞障害(DAD)とは,病理組織学的な疾患概念である。すなわち,広範な上皮傷害から生じる肺胞中隔の線維芽細胞の異常な増殖が特徴的なものであって,必ずしも肺胞中隔の細胞湿潤の程度は高くなくてもよいとされる。急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の代表的な病理所見であるが,その全てがびまん性肺胞障害(DAD)を示すわけではない。もっとも,種々治療しても救命できない症例の病理学的所見はびまん性肺胞障害(DAD)であるとされている。 (2) 間質の線維化の機序等間質の線維化といわれるが,間質性肺炎における線維化の主座は,肺胞腔内の線維化であるとされる。 線維化が進行する機序は,修復の不全と考えられている。すなわち,正常細胞では,Ⅰ型肺胞上皮細胞が損傷した場合には,肺胞ではⅡ型肺胞上皮細胞がⅠ型肺胞上皮細胞に分化して修復される(前記1(1))。 これに対し,間質性肺炎では,Ⅰ型肺胞上皮細胞が損傷すると,間質においては,好中球やマクロファー 損傷した場合には,肺胞ではⅡ型肺胞上皮細胞がⅠ型肺胞上皮細胞に分化して修復される(前記1(1))。 これに対し,間質性肺炎では,Ⅰ型肺胞上皮細胞が損傷すると,間質においては,好中球やマクロファージなどの炎症細胞が出現し,組織傷害をもたらす物質,線維芽細胞の増殖や筋線維芽細胞への形質転換を促進する物質などが生成され,炎症及び線維化が促進される。また,肺胞腔内においては,Ⅱ型肺胞上皮細が増殖するが,Ⅰ型肺胞上皮細胞の損傷が強い時には,線維芽細胞が肺胞内に進入して増殖し,筋線維芽細胞に変化するとともに膠原線維(コラーゲン)等が過剰に産出され,線維化が生じるとされる。 このような間質の炎症と間質及び肺胞腔内の線維化によって,ガス交換の効率,特に酸素を取り込む能力(酸素化能力)が下がって低酸素血症を発症 するだけでなく,肺胞は弾力性を失い,肺胞のふくらみが得られなくなって肺活量が低下する。 (3) 分類ア発症原因による分類間質性肺炎は,発症の原因によって,原因が判明しているものとそうでないものとに分類される。 原因が判明している肺炎は,薬剤性間質性肺炎,放射線性間質性肺炎,膠原病性間質性肺炎などであり,発症の原因は多様である。しかし,原因が判明しているものは,間質性肺炎発症例の全体の約3分の1にすぎないとされる。 このうち,薬剤性間質性肺炎とは,薬剤によって発症した間質性肺炎である。肺胞及び間質領域の病変における組織パターンでみると,間質性肺炎とその他(肺水腫,肺胞たんぱく症,肺胞出血)のものがある。 原因が明らかではないものは,総称して特発性間質性肺炎(IIPs)と呼ばれる。特発性間質性肺炎は大きく,特発性肺線維症(IPF)とそれ以外の原因不明の間質性肺炎とに分類され,全部で7種類(①特発性肺線維症(I ではないものは,総称して特発性間質性肺炎(IIPs)と呼ばれる。特発性間質性肺炎は大きく,特発性肺線維症(IPF)とそれ以外の原因不明の間質性肺炎とに分類され,全部で7種類(①特発性肺線維症(IPF),②非特異性間質性肺炎(NSIP),③急性間質性肺炎(AIP),④特発性器質化肺炎(COP),⑤剥離性間質性肺炎(DIP),⑥呼吸細気管支炎関連性間質性肺疾患(RB-ILD),⑦リンパ球性間質性肺炎(LIP))に分類される。この種類ごとに検査方法,治療効果や予後などが異なり,治療にあたっては,どれに該当するかを診断することが重要であると考えられている。 イ臨床経過による分類間質性肺炎には,症状を発現してから急激に呼吸困難などの症状が悪化していく急性のもの(数日から数週間で悪化するもの),亜急性のもの(月単位で悪化するもの),症状が徐々に進行していく慢性のもの(年単 位で悪化するもの)がある。 第6 承認手続の概要本件において,被告会社が厚生労働大臣に申請したのは,医薬品であるイレッサの輸入の承認であるところ,医薬品の輸入販売業については,薬事法23条で,同法13条から19条,20条1項及び2項並びに21条の規定が,必要な読替をした上で,準用されるので,以下,この判決書においては,特に必要のない限り,同法23条の記載を省略し,また,法令・手続等に関する説明においては,医薬品の製造又は輸入の承認を,単に「医薬品の承認」と記載する。 1 薬事法令上の定め(1) 医薬品の承認薬事法は,医薬品の品質,有効性及び安全性を確保するために必要な規制を行うこと等を目的とし(同法1条),医薬品を輸入しようとする者は,厚生労働大臣の承認を受けなければならず,厚生労働大臣は,医薬品を輸入しようとする者から申請があったときは,品 するために必要な規制を行うこと等を目的とし(同法1条),医薬品を輸入しようとする者は,厚生労働大臣の承認を受けなければならず,厚生労働大臣は,医薬品を輸入しようとする者から申請があったときは,品目ごとにその輸入について承認を与えると定める(同法14条1項)。なお,この申請は,厚生労働大臣が,当該医薬品の品質,有効性及び安全性に関する調査並びに適合性調査(後記2(4))を医薬品機構に行わせることとしたときは,この申請は,医薬品機構にしなければならないと定められている(同法14条の2第3項)。 この承認は,申請に係る医薬品の名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用等を審査して行うものとし,同法14条2項各号のいずれかに該当するときは,承認を与えないとされる(同法14条2項)。 (2) 承認拒否事由同法14条2項各号は,承認拒否事由として,申請に係る医薬品が,①その申請に係る効能,効果又は性能を有すると認められないとき(同項1号),②その効能,効果又は性能に比して著しく有害な作用を有することに より,医薬品として使用価値がないと認められるとき(同項2号),③その性状,品質が保健衛生上著しく不適当なとき(同項3号,同法施行規則18条の2)を定めている。 このほか,医薬品等の承認,すなわち医薬品として適当か否かの判断は依然として高度の専門的裁量にゆだねられるべきものであるため,上記承認拒否事由以外の場合であっても,承認を与えない場合があるとされ,その例として,以下の場合が挙げられている。(「薬事法の一部を改正する法律の施行について」昭和55年4月10日薬発第483号厚生省薬務局長通知・乙D24〔第1の1〕)ア医薬品等の名称,形状等が他の医薬品や食品等との誤用,混同を招くおそれがあるとき。 イ有効成分を2以上 ついて」昭和55年4月10日薬発第483号厚生省薬務局長通知・乙D24〔第1の1〕)ア医薬品等の名称,形状等が他の医薬品や食品等との誤用,混同を招くおそれがあるとき。 イ有効成分を2以上含有する医薬品(配合剤)であって,その使用目的に照らし,配合の合理的理由が認められないとき。 ウ添付資料に不備があり,相当の期間内にその不備が補正されないとき又は添付資料に虚偽の記載があるとき。 2 承認審査資料及び審査手続医薬品の承認は厚生労働大臣の権限であるが,その手続を行う機関として,厚生労働省に施設等機関として設置された国立医薬品食品衛生研究所の中に,特にその審査を行うことを固有の職務とする専門機関である審査センターが設置されている。承認審査資料の審査は,第三者機関として設立された特別認可法人である医薬品機構に,平成9年から委託されていた(なお,この審査業務は,現在は,平成16年に設立された独立行政法人医薬品医療機器総合機構に統合された。)。 医薬品の承認審査は,承認申請書が都道府県を経由して審査センターに提出されてから始まる。 これを受けて,厚生労働大臣が承認審査資料の審査を委託する医薬品機構 が,承認審査資料収集作成基準(GLP,GCP及び信頼性の基準)への適合性に関して調査を行い,これと並行して,審査センターが審査を行い,審査報告書を作成する。 この審査報告書と申請者が作成した承認審査資料をもとに,薬事・食品衛生審議会の医薬品第一部会又は同第二部会で審議がされ,薬事・食品衛生審議会の承認・不承認の意見が決定される。なお,新規性の高い品目や社会的な議論を要する品目については,さらに薬事分科会での審議が行われる。【以上につき,乙F1~3】この手続等の概要は,以下のとおりである(なお,詳細は,後記第5 れる。なお,新規性の高い品目や社会的な議論を要する品目については,さらに薬事分科会での審議が行われる。【以上につき,乙F1~3】この手続等の概要は,以下のとおりである(なお,詳細は,後記第5章第1の3及び第2の2(1))。 (1) 承認審査資料【甲P15,甲D5,乙D3,4,7,26,27】ア承認申請書及び添付資料医薬品の承認の申請は厚生労働省令で定めるところにより,申請書に臨床試験の試験成績に関する資料その他の資料を添付してしなければならない(薬事法14条3項前段)。 平成14年当時,この規定により医薬品の承認申請書に添付すべき資料(これを「承認審査資料」という)。は,①起源又は発見の経緯及び外国における使用状況等に関する資料,②物理的化学的性質並びに規格及び試験方法等に関する資料,③安定性に関する資料,④急性毒性,亜急性毒性,慢性毒性,催奇形性その他の毒性に関する資料,⑤薬理作用に関する資料,⑥吸収,分布,代謝及び排泄に関する資料,⑦臨床試験の試験成績に関する資料とされていた(同法施行規則18条の3第1項1号)。 さらに,当該申請に係る医薬品が,日本薬局方に納められている医薬品及び既に製造又は輸入の承認を与えられている医薬品と有効成分又は投与経路が異なる医薬品等であるときは,承認審査資料は,厚生労働大臣の定める基準に従って収集され,かつ,作成されたものでなければならず(同 条項後段),その基準は,GLP省令及びGCP省令並びに同法施行規則18条の4の3第1号ないし3号に定められている。 イ承認審査資料の信頼性の基準等承認審査資料を作成するための試験については,厚生省医薬安全局長通知により,GLP,GCP及び承認審査資料の信頼性の基準を遵守するとともに,十分な設備のある施設において,経験のある研 頼性の基準等承認審査資料を作成するための試験については,厚生省医薬安全局長通知により,GLP,GCP及び承認審査資料の信頼性の基準を遵守するとともに,十分な設備のある施設において,経験のある研究者により,その時点における医学薬学等の学問水準に基づき,適正に実施されたものでなければならないとされ,また,その試験の指針は,必要に応じて別途定めるものとされた(「医薬品の承認申請について」平成11年4月8日医薬発第481号厚生省医薬安全局長通知,第2の1,第2の3・乙D3)。 そして,物理的科学的性質並びに企画及び試験方法等に関する試験,安定性試験,毒性試験,一般薬理に関する試験,吸収,分布,代謝,排泄に関する試験,生物学的同等性に関する試験臨床試験の試験群ごとに指針が定められた(「医薬品の承認申請に際し留意すべき事項について」(平成11年4月8日医薬審第666号厚生省医薬安全局審査管理課長通知,第3項,別紙「試験の指針」・乙D4)。平成14年7月当時の指針のうち,毒性試験の指針は「医薬品毒性試験法ガイドライン」平成元年9月11日薬審1第24号厚生省薬務局審査第一・第二・生物製剤課長連名通知・乙D26)等合計10の指針が定められていた(乙D4〔別紙「試験の指針」3項〕)。臨床試験の指針は,一般的な医薬品の臨床試験及び臨床開発方法の手順に関するの一般的な指針としての一般指針(乙D27),臨床試験における統計的原則に関する統計的原則(甲P15)等合計18の指針が定められていた。そのうち,抗がん剤の臨床試験の指針としては,平成3年2月に厚生省薬務局新医薬品課長名で発出された旧ガイドライン(乙D7)が定められていた(乙D4〔別紙「試験の指針」7項〕)。なお,抗がん剤の臨床試験の指針としては,昭和60年に日本が ん治療学会が作成し 局新医薬品課長名で発出された旧ガイドライン(乙D7)が定められていた(乙D4〔別紙「試験の指針」7項〕)。なお,抗がん剤の臨床試験の指針としては,昭和60年に日本が ん治療学会が作成した学会指針(甲D14)が存在していたが,学会指針を踏まえて厚生省における検討が進められ,平成3年2月に厚生省薬務局新医薬品課長名で旧ガイドラインが通知され,旧ガイドラインは,平成17年11月に改訂され,厚生労働省医薬局審査管理課長名で新ガイドライン(甲D5)が通知された。 (2) 優先審査【乙B1,2,乙D1,2,8,9,21の5,22[10 頁],30,31,33の3,乙F1,丙D10】厚生労働大臣は,承認申請に係る医薬品等が,希少疾病用医薬品,希少疾病用医療用具その他の医療上特にその必要性が高いと認められるものであるときは,当該医薬品等についての審査を,他の医薬品等の審査に優先して行うことができる(薬事法14条5項)(優先審査)。 優先審査の対象品目は,希少疾病用医薬品その他重篤な疾病等を対象とする新医薬品等であって医療の質の向上に明らかに寄与するものと認められるものとされていた。具体的には,適応疾病が重篤であると認められること,既存の医薬品等又は治療方法と比較して,有効性又は安全性が医療上明らかに優れていると認められることのいずれの要件に該当する医薬品等とされていた(「薬事法及び医薬品副作用被害救済・研究振興基金法の一部を改正する法律の施行について」平成5年8月25日薬発第725号厚生省薬務局長通知・乙D8,「薬事法及び医薬品副作用被害救済・研究振興基金法の一部を改正する法律の施行について」平成5年10月1日薬新薬第92号厚生省薬務局新医薬品課長,医療機器開発課長,安全課長通知・乙D9)。 (3) 有効性審査及び安全性審査【 害救済・研究振興基金法の一部を改正する法律の施行について」平成5年10月1日薬新薬第92号厚生省薬務局新医薬品課長,医療機器開発課長,安全課長通知・乙D9)。 (3) 有効性審査及び安全性審査【乙B1,2,乙D1,2,8,9,21の5,22[10 頁],30,31,33の3,乙F1,丙D10】医薬品の承認審査は,当該品目に係る申請内容及び臨床試験の試験成績に関する資料その他の資料に基づいて,当該品目の品質,有効性及び安全性に関する調査(有効性審査,安全性審査)が行われる(薬事法14条4項前 段)。この有効性審査及び安全性審査は,審査センターにおいて行われる(厚生労働省組令(平成14年厚生労働省令第131号による改正前のもの)135条(乙D31),厚生省組織例の一部を改正する政令(平成9年政令209号)(乙D34))。 審査センターは,専門的知見を有する審査担当官が承認申請について基礎的な評価・判断を行い,その内容を記載した審査報告書を作成し,この報告書が薬事・食品衛生審議会における審議に利用される。また,審査センターの審査においては,品目ごとに,同審議会の委員として選任された専門的な学識経験を有する専門委員から意見を得る(専門協議)(乙D21[枝番号5]〔194頁〕,32,33[各枝番号],34,E22)。 審査センターでは,まず,審査官が承認申請書及び承認審査資料を検討し,申請者との面談及び書面による照会を行った上で審査報告(1)を作成し,これを踏まえて専門協議を行い,その後の審査を経た上で審査報告(2)を作成し,両者を併せた審査報告書を作成して,厚生労働省医薬局長に対して報告される(「新医薬品における承認審査のプロセス及び処理期間(タイムロック)の取扱いについて」平成12年11月30日厚生省医薬安全局 し,両者を併せた審査報告書を作成して,厚生労働省医薬局長に対して報告される(「新医薬品における承認審査のプロセス及び処理期間(タイムロック)の取扱いについて」平成12年11月30日厚生省医薬安全局審査管理課事務連絡・乙D1。なお,乙B4[各枝番号],D2,E22)。 (4) 適合性調査【乙B1,2,乙D1,2,8,9,21[枝番号5],22[10 頁],30,31,33の3,乙F1,丙D10】医薬品の承認審査においては,前記有効性及び安全性に関する調査が行われるが,当該品目が日本薬局方に納められている医薬品及び既に製造又は輸入の承認を与えられている医薬品と有効成分又は投与経路が異なる医薬品等(薬事法施行規則18条の4の2)であるときは,あらかじめ,その承認審査資料が厚生労働大臣の定める基準(GLP,GCP及び信頼性基準)に従って収集され,かつ,作成されたものであるかどうか(同法14条3項後段の規定に適合するかどうか)についての書面による調査又は実地の調査 (適合性調査)が行われる(同条4項後段)。厚生労働大臣は,適合性調査の全部又は一部を医薬品機構に行わせることができるとされ(同法14条の2第1項,同法施行令1条の5。その実施要領が「新医薬品の承認審査資料適合性調査に係る実施要領について」平成10年3月31日医薬審第357号厚生省医薬安全局審査管理課長通知[丙D9]である。),医薬品機構が審査を行った上,調査の結果を厚生労働大臣に通知し,厚生労働大臣は,当該適合性審査の結果を考慮して,承認審査を行うこととされていた(同法14条の2第2項ないし4項)。 適合性調査は,厚生労働省,審査センター又は医薬品機構の各職員が実施する(適当性調査のうち,GLPが適用される試験を実施した試験施設に対して行う実地の調査は,実施要領 条の2第2項ないし4項)。 適合性調査は,厚生労働省,審査センター又は医薬品機構の各職員が実施する(適当性調査のうち,GLPが適用される試験を実施した試験施設に対して行う実地の調査は,実施要領が「GLP実地調査実施要領」平成9年3月27日薬審第254号,薬安第30号厚生省薬務局審査課長通知[乙D30]であり,GCP実地調査の実施要領が「GCP実地調査の実施要領について」平成13年5月16日医薬審第629号厚生労働省医薬局審査管理課長通知[丙D10]である。)。 (5) 薬事・食品衛生審議会への諮問と答申【乙B1,2,乙D1,2,8,9,21[枝番号5],22[10 頁],30,31,33[枝番号3],乙F1,丙D10】厚生労働大臣は,申請に係る医薬品が既に承認を与えられている医薬品と有効成分,分量,用法,用量,効能,効果等が明らかに異なるときは,承認について,あらかじめ,薬事・食品衛生審議会の意見を聴かなければならず(薬事法14条6項1号),審査センターが審査報告書を提出すると,厚生労働大臣は,必要に応じ,同審議会に対して医薬品の承認について諮問し,その答申を得た後,承認の可否を決定する。 同審議会は,厚生労働省に設置された学識経験者によって構成される機関である(厚生労働省設置法11条,薬事・食品衛生審議会令3条)。新医薬 品のうち,新有効成分含有医薬品は,原則として,同審議会薬事分科会医薬品第一部会がその審査を担当し,遺伝子治療用医薬品当全く新規の技術に基づく医薬品,抗悪性腫瘍剤のうち重篤な副作用の多いもの等慎重に審議する必要があるとの部会の意見に基づき,文化会長が決定したものの審査は,医薬品第二部会が担当する。なお,新有効成分含有医薬品のうち,既承認のものと類似のものでない医薬品については,医薬品第一部会 議する必要があるとの部会の意見に基づき,文化会長が決定したものの審査は,医薬品第二部会が担当する。なお,新有効成分含有医薬品のうち,既承認のものと類似のものでない医薬品については,医薬品第一部会又は医薬品第二部会から薬事分科会に上程され,審議することとされていた。 3 イレッサの審査手続の経過(1) 被告会社は,平成14年1月25日,イレッサについて,承認申請と同時に優先審査を希望した。厚生労働省は,審査センターにおける検討を経た上,同年2月7日,被告会社に対し,イレッサを優先審査対象とすると通知をした。【乙B1,2】(2) 審査センターでは,臨床医学,薬学,毒性,生物統計学の専門家である審査官9人を審査センター第一部長Sが統括するチームが,イレッサの審査を行った。 審査官らは,被告会社に対し,事前に文書で照会を行い,同年2月25日に被告会社からのヒアリングを経て,さらに事前照会を行い,被告会社から書面による回答を得るなどの照会回答を行うなどして,審査を行った。 【乙B3[枝番号1~5],乙E22】(3) 医薬品機構は,イレッサの承認申請を受けて,同年3月にGCP適合性に関する書面による調査を実施し,同年4月にGCP適合性に関する実地調査を実施した。【丙B6,7】(4) 厚生労働大臣は,同年5月7日,同審議会に対し,イレッサの輸入承認等について,諮問した。【乙B5】(5) 審査センターは,同年4月18日に審査報告(1)(乙B4[枝番号1]〔4~45頁〕)を,同年5月9日に専門協議の内容等を踏まえて審査報告 (2)(乙B4[枝番号1]〔46~49頁〕)をそれぞれ作成し,同日,これらをまとめた審査報告書(乙B4)を,厚生労働省医薬局長に提出して報告した。【乙B4[枝番号1]】(6) 医薬品機構は,厚 (2)(乙B4[枝番号1]〔46~49頁〕)をそれぞれ作成し,同日,これらをまとめた審査報告書(乙B4)を,厚生労働省医薬局長に提出して報告した。【乙B4[枝番号1]】(6) 医薬品機構は,厚生労働大臣に対し,同月7日付けでGCP実地調査結果通知書(乙B9)及び同月8日付けで適合性書面調査結果(乙B10)を通知した。これらの通知においては,いくつかのGCP違反事項,信頼性基準違反等が指摘された。【乙B9,10】(7) 厚生労働省は,同月21日,GCP実地調査の結果が「適合」であることを被告会社に通知した。【丙B8】(8) 同審議会医薬品第二部会は,同月24日,イレッサの輸入承認について審議し,一定の条件を付加した上で承認を可とし,薬事分科会においても審議することとして,同日,厚生労働省医薬局審査管理課は,審査報告書(2)(乙B4[枝番号2])にその結果を記載した。【乙B4[枝番号2],6】(9) 審査センターは,医薬品機構により実施された適合性書面調査結果に対して,一部に不適合があったが,承認審査資料に基づき審査を行うことについて支障がなく,GCP実地調査の結果についても,承認審査資料に基づき審査を行うことについて支障がないと判断し,その旨を記載した同月28日付けの審査報告書(3)(乙B4[枝番号3])を作成して,厚生労働省医薬局長に提出して報告した。【乙B4[枝番号3],乙E22】(10) 同年6月12日,同審議会薬事分科会において審議が行われ,効果・効能に関連する使用上の注意の記載について,「(手術不能又は再発の非小細胞肺癌)」と括弧内に記載する方法を,括弧を付けず,限定する趣旨が明確になる書きぶりに変更した上で承認して差し支えないとされた。【乙B7】(11) 同審議会は,同日,厚生労働大臣に対し,承認を可とし 肺癌)」と括弧内に記載する方法を,括弧を付けず,限定する趣旨が明確になる書きぶりに変更した上で承認して差し支えないとされた。【乙B7】(11) 同審議会は,同日,厚生労働大臣に対し,承認を可とし,再審査期間を6年とし,原体,製剤ともに劇薬に指定するとの答申を行った。同月28日, 厚生労働省医薬局審査管理課は,審査報告書(4)(乙B4[枝番号4])に前記審議の結果を記載した。【乙B4[枝番号2,4],8】(12) 厚生労働大臣は,同年7月5日,後記①及び②の条件を附して,イレッサの輸入を承認し,再審査期間を6年と定めた。前記承認条件は,①手術不能又は再発非小細胞肺がんに対する本薬の有効性及び安全性の更なる明確化を目的とした十分なサンプルサイズを持つ無作為化比較試験を国内で実施すること,②本薬の作用機序の更なる明確化を目的とした検討を行うとともに,本薬の薬理作用と臨床での有効性及び安全性との関連性について検討すること,また,これらの検討結果について再審査申請時に報告すること,③GPMSP省令2条2項に規定する市販直後調査を実施すること,というものであった。【乙B11】(13) イレッサは,同日,①薬事法44条所定の「劇薬」の指定がされ(厚生労働省令第93号による改正後の薬事法施行規則別表第3・乙D44),②薬事法49条1項所定の「要指示医薬品」の指定を受けるとともに(平成14年7月5日付厚生労働省告示第230号・乙D49),③医療用医薬品として取り扱われることとされた(「医薬品の承認申請について」平成11年4月8日医薬発第481号厚生省医薬安全局長通知,第1の2(2)・乙D3)。【乙D3,44,49】第7 承認審査資料を作成するための各種試験の概要承認審査資料において結果等を示すべき試験及びその他の試験は,以下 1号厚生省医薬安全局長通知,第1の2(2)・乙D3)。【乙D3,44,49】第7 承認審査資料を作成するための各種試験の概要承認審査資料において結果等を示すべき試験及びその他の試験は,以下のとおりである。 1 非臨床試験【甲G2,丙D4】(1) 医薬品の開発は,動物及びヒトから得られた安全性情報の評価を行いながら,段階的に進められる。非臨床試験における安全性評価の目的は,標的臓器(毒性の発現する可能性の高い臓器),用量依存性(用量の高低と毒性の発現との相関関係),暴露との関係,回復性などの毒性の特徴を知ることに ある。これによりは,初めてヒトを対象とした試験を行う際の安全な初回投与量を推計し,また臨床で有害作用を検討するための要素を明らかにする上で重要である。 非臨床試験としては,①安全性薬理試験,②トキシコキネティクス及び薬物動態試験,③単回投与毒性試験,④反復投与毒性試験,⑤局所刺激性試験,⑥遺伝毒性試験,⑦がん原性試験及び⑧生殖発生毒性試験がある。これらのうち,初めてヒトを対象とした試験を行う前に実施すべき試験は,①,③,④並びに⑤のうち invitro の変異原性及び染色体異常試験である。 これらのうち,臨床試験に入る前段階で,安全性の観点からヒトへの投与の可否を判断した上で,臨床試験において発生する可能性のある副作用等を予測し,臨床試験計画の立案に際しての用量設定や実施する検査の設定を行うことを目的として行われるものを毒性試験という。毒性試験には,上記のうち③単回投与毒性試験(被験物質をほ乳動物に単回投与したときの毒性を質的量的に明らかにすることを目的とする試験)と④反復投与毒性試験(被験物質をほ乳動物に繰り返し投与した場合に,明らかな毒性変化が生じる用量と当該変化の内容,毒性変化の認められ 投与したときの毒性を質的量的に明らかにすることを目的とする試験)と④反復投与毒性試験(被験物質をほ乳動物に繰り返し投与した場合に,明らかな毒性変化が生じる用量と当該変化の内容,毒性変化の認められない用量を求めることを目的とする試験)を併せて一般毒性試験ということがある。 毒性試験はGLP省令所定の基準に従って行われることが要求されている(薬事法施行規則18条の4の3)。 (2) 臨床試験を実施するのは,医薬品の有効性及び安全性を明らかにするためである。最初は比較的低用量で少数の被験者を対象に臨床試験が行われ,用量,投与期間又は対象患者数を増加させた臨床試験が引き続き行われる。臨床試験の拡大は,先行する非臨床試験及び臨床試験から得られた安全性情報により,安全性が確認されてから,段階的に行われる。 2 イレッサについて実施された非臨床試験の概要【甲G2,6,丙C1,丙D1,4】 イレッサについて,日本における承認審査資料の基礎となった毒性試験は,マウス及びラットを用いた単回投与毒性試験(単回投与試験)並びにラット及びイヌを用いた反復投与毒性試験(1か月及び6か月のもの)などである。これらの試験の概要及び結果は,それぞれ別紙4(単回投与試験概要・結果),別紙5(ラット1か月試験概要・結果),別紙6(イヌ1か月試験概要・結果),別紙7(ラット6か月試験概要・結果),別紙8(イヌ6か月試験概要・結果)のとおりである。 薬理試験は,ヒト腫瘍ヌードマウスや担がんマウスへの投与,腫瘍細胞に作用させるなどの方法によるものが行われた。 また,薬物動態試験は,ラット,イヌ及びヒト血漿を用いた血漿中動態試験,定量的組織分布試験,蛋白結合試験,胎盤移行試験,排泄試験等が海外で行われた。 3 臨床試験の概要 るものが行われた。 また,薬物動態試験は,ラット,イヌ及びヒト血漿を用いた血漿中動態試験,定量的組織分布試験,蛋白結合試験,胎盤移行試験,排泄試験等が海外で行われた。 3 臨床試験の概要(1) 臨床試験の各段階【甲D5,乙D7】新医薬品の開発は,その開発の段階ごとに臨床試験を実施し,各段階の臨床試験において,それぞれ客観的で科学的な評価を加えながら開発を進める段階的試験の方法が採られている。抗がん剤の臨床試験の指針としての旧ガイドライン及び新ガイドラインによれば,抗がん剤の臨床試験は,試験の目的と対象に従って,次の第Ⅰ相試験から第Ⅲ相試験までの3段階の試験方法が採用されている。 ア第Ⅰ相(フェーズⅠ)試験(臨床薬理試験)第Ⅰ相試験は,非臨床試験の成績をもとに治験薬を初めてヒトに投与する段階であり,非臨床試験で観察された事象に基づいて,特に安全性について慎重な検討を行うものである。 イ第Ⅱ相(フェーズⅡ)試験(探索的試験)第Ⅱ相試験は,第Ⅰ相試験により決定された用法及び用量に従って治験 薬を投与し,特定のがん腫に対する治験薬の臨床的意義のある治療効果,すなわち抗腫瘍効果(腫瘍縮小効果)を中心とした有効性及び安全性を客観的に評価することを目的とするものである。 ウ第Ⅲ相(フェーズⅢ)試験(検証的試験)第Ⅲ相試験は,より優れた標準的治療法を確立するために行われる。治験薬の臨床的有用性を評価するものである。同試験では,生存率,生存期間等を主要評価項目とし,QOL等に関する評価も行われる。 (2) 治験の実施過程【乙D3,14,乙F1,2,丙D2,6,7】治験とは,医薬品等の承認等の申請時に提出すべき承認審査資料ののうち,臨床試験の試験成績に関する資料の収集を目的とする試験の実施をいう(薬事法2条 程【乙D3,14,乙F1,2,丙D2,6,7】治験とは,医薬品等の承認等の申請時に提出すべき承認審査資料ののうち,臨床試験の試験成績に関する資料の収集を目的とする試験の実施をいう(薬事法2条7項)。 前記第6の2(1)アのとおり,治験の成績に関する資料はGCPに準拠することとされ,治験は,GCPに従って実施される必要がある(薬事法14条3項後段,同法施行規則18条の4の3)。 そして,GCP省令及びこれを受けた各種通知により,被験者の人権,安全及び福祉の保護のもとに,治験の科学的な質と成績の信頼性を確保することを目的として,治験に関する原則的事項が定められていた(「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令の施行について」平成9年3月27日薬発第430号薬務局長通知・丙D6,「医薬品の臨床試験の実施の基準の運用について」平成9年5月29日薬安第68号薬務局審査課長・安全課長通知・丙D7)。すなわち,GCPには,業務手順書の作成等を義務づける治験の依頼に関する基準,治験薬の管理等を義務づける治験の管理に関する基準,治験審査委員会の設置等を義務づける治験を行う基準が定められていた。 (3) イレッサに関する各臨床試験の概要及び試験結果アイレッサ承認申請のための臨床試験(第Ⅰ相試験及び第Ⅱ相試験) 【甲B12~17[枝番号のあるものは各枝番号],乙B4[枝番号3],丙C1,丙E34[枝番号7]】イレッサについて,日本における承認申請のための評価資料として提出された臨床試験は,①1839IL/0005 試験(第Ⅰ相・英米),②V1511試験(第Ⅰ相・日本),③1839IL/0011 試験(第Ⅰ/Ⅱ相・米国),④1839IL/0012(第Ⅰ/Ⅱ相・欧州),⑤1839IL/0016 試験(第Ⅱ相・IDEAL1試験・ ),②V1511試験(第Ⅰ相・日本),③1839IL/0011 試験(第Ⅰ/Ⅱ相・米国),④1839IL/0012(第Ⅰ/Ⅱ相・欧州),⑤1839IL/0016 試験(第Ⅱ相・IDEAL1試験・日本,欧州等),⑥1839IL/0039 試験(第Ⅱ相・IDEAL2試験・米国)の6つである。上記試験の概要及び結果は,別紙9(第Ⅰ・Ⅰ/Ⅱ相臨床試験概要・結果一覧表),別紙10(IDEAL1試験概要・結果),別紙11(IDEAL2試験概要・結果)のとおりである。 また,上記に加えて13の臨床試験の成績が,試験継続中のものを含め,承認申請に際して参考資料として提出された。 イイレッサ承認後に被告会社が実施した臨床試験(第Ⅲ相試験)【甲A14,甲B1,2,甲C1,5,9,甲E62,丙E30,34[枝番号8の1,2],57[枝番号1,2],58[枝番号1,2],59[枝番号4],60[枝番号1],72[枝番号のあるものは各枝番号を含む],丙K3[枝番号3],4[枝番号5]】イレッサ承認後に被告会社が実施した主な第Ⅲ相試験は,①INTACT1,2試験,②ISEL試験,③V1532試験,④INTEREST試験,⑤IPASS試験の5つである。 上記試験の概要及び結果は,別紙12(INTACT1試験概要・結果),別紙13(INTACT2試験概要・結果),別紙14(ISEL試験概要・結果),別紙15(V1532試験概要・結果),別紙16(INTEREST試験概要・結果),別紙17(IPASS試験概要・結果)のとおりである。 ウ被告会社以外の研究班が実施した臨床試験(第Ⅲ相試験)【甲E20,49[枝番号1,2],77,丙E53[枝番号1,2],73,75,78[枝番号1,2]】イレッサ承認後に,被告会社以外の国内外の研 社以外の研究班が実施した臨床試験(第Ⅲ相試験)【甲E20,49[枝番号1,2],77,丙E53[枝番号1,2],73,75,78[枝番号1,2]】イレッサ承認後に,被告会社以外の国内外の研究グループによって実施された主な第Ⅲ相試験には,①SWOG0023試験(米国のSWOG),②WJTOG0203試験(西日本胸部腫瘍研究機構),③NEJ002試験(北東日本研究グループ)がある。 上記試験の概要及び結果は,別紙18(SWOG0023試験概要・結果),別紙19(WJTOG0203試験概要・結果),別紙20(NEJ002試験概要・結果)のとおりである。 第8 副作用報告制度等 1 副作用報告制度医薬品の副作用を厚生労働大臣に報告する制度は,その時期を基準とすると,次の2つに分けられる。 (1) 治験薬副作用報告制度【乙D6,21[枝番号14],29,乙F1,2,丙D25,26】治験依頼者は,当該治験の対象とされる薬物について,当該薬物の副作用によるものと疑われる疾病,障害又は死亡の発生,当該薬物の使用によるものと疑われる感染症の発生その他の治験の対象とされている薬物の有効性及び安全性に関する事項で厚生労働省令で定めるものを知ったときは,その旨を厚生労働省令で定めるところにより厚生労働大臣に報告しなければならない(薬事法80条の2第6項)。その報告は,副作用の態様(死亡,障害,その他の症例等)やその予測可能性等に応じて,治験依頼者が知ったときから7日又は15日以内にしなければならない(同法施行規則66条の7)。 副作用報告書の報告対象,報告様式,報告期限,提出先(審査センター),提出方法等は,同規則及び各種通知(乙D6,29,丙D25,2 6)により定められている。 なお,外国で使用されているも 用報告書の報告対象,報告様式,報告期限,提出先(審査センター),提出方法等は,同規則及び各種通知(乙D6,29,丙D25,2 6)により定められている。 なお,外国で使用されているものであっても,当該被験薬と成分が同一性を有すると認められるものによる副作用と疑われるもの等についても,薬事法施行規則に定める要件に合致するものについては,前記と同様に報告しなければならない(同法施行規則66条の7第2号ハ)。 (2) 市販後副作用報告制度【乙D21[枝番号13],丙D8】製薬企業等は,その製造し,若しくは輸入し,又は承認を受けた医薬品について,当該品目の副作用によるものと疑われる疾病,障害又は死亡の発生その他医薬品の有効性及び安全性に関する事項で厚生労働省令で定めるものを知ったときは,これを厚生労働大臣に報告しなければならず(薬事法77条の4の2)。その報告は,その副作用が,当該医薬品の添付文書又は使用上の注意の記載から予測可能か否かに応じて,製薬企業等が知ったときから15日又は30日以内とされている(同法施行規則64条の5の2)。 副作用報告書の報告対象,報告期限,報告様式,提出先等は,同規則及び各種通知(乙D21[枝番号13],丙D8)に定められている。 2 再審査制度と市販直後調査制度(1) 再審査制度【乙D21[枝番号8]】新医薬品等の承認については,承認時までの臨床試験症例数等に制約があるため,承認後にも引き続き当該医薬品等の使用成績等の調査を行わせ,一定期間後にその安全性等を再確認する制度が設けられている。すなわち,既に製造又は輸入の承認を与えられている医薬品と有効成分,分量,用法,用量,効能,効果等が明らかに異なる医薬品として,厚生労働大臣がその製造の承認の際指示した新医薬品(再審査対象医薬品) すなわち,既に製造又は輸入の承認を与えられている医薬品と有効成分,分量,用法,用量,効能,効果等が明らかに異なる医薬品として,厚生労働大臣がその製造の承認の際指示した新医薬品(再審査対象医薬品)について承認を受けた者は,承認のあった日の後一定の調査期間内に申請して,厚生労働大臣の再審査を受けなければならない(薬事法14条の4第1項)。再審査は,再審査を行う際に得られている知見に基づき,承認拒否事由(同法14条2項各号 所定)のいずれにも該当しないことを確認することにより行う(同法14条の4第2項後段)。再審査申請の添付資料は,承認後に行われる調査に基づく副作用その他の使用成績に関する資料のほか,安全性定期報告(同法施行規則21条の4の2)に際して提出した資料の概要その他当該医薬品等の効能,効果,安全性に関し承認後の調査により得られた研究報告に関する資料も添付しなければならない(同規則21条の3)。これらの資料は,厚生労働大臣の定める基準に従って収集され,かつ,作成されたものであることが要求され(同法14条の4第4項),上記厚生労働大臣の定める基準は,同法施行規則18条の4の3第1号ないし3号所定の基準(GLP,GCP,信頼性の基準)及びGPMSPである(同法施行規則21条の3の3)。 厚生労働大臣から再審査指定を受けた医薬品等の承認を受けた者は,再審査対象医薬品について,一定期間,使用成績等に関する調査を行わなければならない(同法14条の4第6項,同法施行規則21条の4第1項1号,同条の4の2第1項)。 (2) 市販後調査制度【甲D36,乙D15~17,55,58,乙E22】ア市販後調査とは,医薬品の製造業者等が,その製造等をする医薬品の品質,有効性及び安全性に関する事項その他の医薬品の適正な使用のために必要な情 【甲D36,乙D15~17,55,58,乙E22】ア市販後調査とは,医薬品の製造業者等が,その製造等をする医薬品の品質,有効性及び安全性に関する事項その他の医薬品の適正な使用のために必要な情報(適正使用情報)の収集及び検討を行い,その結果に基づき医薬品による保健衛生上の危害の発生若しくは拡大の防止,又は医薬品の適正な使用の確保のために必要な措置(適正使用等確保措置)を講じることをいう(GPMSP省令2条1項)。 イ市販後調査には,市販直後調査,使用成績調査,特別調査,市販後臨床試験があり(GPMSP省令2条),その調査の方法及び内容に関する実務上の指針として市販後調査ガイドライン(乙D17)が定められている。 (ア) 市販直後調査は,製造業者等が販売を開始した後の6か月間,診療に おいて,医薬品の適正な使用を促し,重篤な副作用等の情報を迅速に収集し,必要な安全対策を実施し,副作用等の被害を最小限にするために行うものである(GPMSP省令2条2項,市販後調査ガイドライン2項)。 市販直後調査を実施する場合,製造業者等は,医薬情報担当者により,当該医薬品を使用する医療機関に対し,原則として,納入前に,① 当該新医薬品が市販直後調査の対象であり,その期間中であること,② 当該新医薬品を慎重に使用するとともに,関係が疑われる重篤な副作用等が発現した場合には速やかに当該企業に報告されたいことを説明し依頼しなければならず,さらに,製造業者等は,各医療機関に対し,上記①及び②について,納入後2か月間は,概ね2週間以内に1回の頻度で,その後も概ね1か月に1回の頻度で,協力依頼を行い,注意喚起を行わなければならない。 (イ) 使用成績調査は,製造業者等が,診療において,医薬品を使用する患者の条件を定めることなく,未知の 度で,その後も概ね1か月に1回の頻度で,協力依頼を行い,注意喚起を行わなければならない。 (イ) 使用成績調査は,製造業者等が,診療において,医薬品を使用する患者の条件を定めることなく,未知の副作用,医薬品の使用実態下における副作用の発生状況,安全性又は有効性等に影響を与えると考えられる要因の把握のために行うものである(GPMSP省令2条3項,市販後調査ガイドライン3項)。 使用成績調査の方法の例としては,「中央登録方式」,「連続調査方式」,「全例調査方式」等が定められている(市販後調査ガイドライン3項)。 (ウ) 特別調査とは,製造業者等が,診療において,小児,高齢者,妊産婦,腎機能障害又は肝機能障害を有する患者,医薬品を長期に使用する患者その他医薬品を使用する条件が定められた患者における品質,有効性及び安全性に関する情報その他の適正使用情報の検出又は確認を行う 調査である(GPMSP省令2条4項,市販後調査ガイドライン4項)。 (エ) 市販後臨床試験は,製造業者等が,治験,使用成績調査若しくは特別調査の成績その他の適正使用情報に関する検討を行った結果得られた推定等を検証し,又は診療においては得られない適正使用情報を収集するため,当該医薬品について薬事法14条の承認に係る用法,用量,効能及び効果に従い行う試験である(GPMSP省令2条5項,市販後調査ガイドライン5項)。 ウ薬事法に規定する承認には,条件を附することができる(同法79条1項)。もっとも,この条件は,保健衛生上の危害の発生を防止するため必要な最小限度のものであり,かつ,当該企業に対し不当な義務を課することにならないものでなければならない(薬事法79条2項)。 (3) イレッサについて行われた市販後調査【乙B11,乙E22,丙C2,5,丙E3 ものであり,かつ,当該企業に対し不当な義務を課することにならないものでなければならない(薬事法79条2項)。 (3) イレッサについて行われた市販後調査【乙B11,乙E22,丙C2,5,丙E39[枝番号9]】ア承認条件とされた市販直後調査イレッサについては,①手術不能又は再発非小細胞肺がんに対する本薬の有効性及び安全性の更なる明確化を目的とした十分なサンプルサイズを持つ無作為化比較試験を国内で実施すること,②本薬の作用機序の更なる明確化を目的とした検討を行うとともに,本薬の薬理作用と臨床での有効性及び安全性との関連性について検討すること,また,これらの検討結果について再審査申請時に報告すること,③市販直後調査を実施することが,承認条件とされた。 市販直後調査の結果は,平成15年3月に報告された(丙C5)。 イ行政指導による市販後調査(特別調査,市販後臨床試験)前記のほか,被告会社は,平成14年5月21日,(ア) 腎機能障害・肝機能障害患者及び特発性肺線維症を合併する患者を含む安全性を検討する 目的で行う使用実態における特別調査を行うこと,(イ) 市販後臨床試験,特別調査,自発報告等で間質性肺炎悪化症例が認められた場合は,詳細データを収集することに努め,データを蓄積し検討することなどの計画を記載した新医療用医薬品の市販後調査基本計画書の変更届を厚生労働省に提出した。 また,イレッサ市販後に,間質性肺炎についての多数の副作用が報告されたことから,厚生労働大臣は,平成14年12月26日に被告会社に対する行政指導を行った。これを受けて,被告会社は,平成14年12月に,イレッサ使用における安全確保並びに急性肺障害・間質性肺炎の早期発見及び診察・治療に有用な情報を得ることを目的として,同月,臨床腫瘍学,呼吸器内科 た。これを受けて,被告会社は,平成14年12月に,イレッサ使用における安全確保並びに急性肺障害・間質性肺炎の早期発見及び診察・治療に有用な情報を得ることを目的として,同月,臨床腫瘍学,呼吸器内科,放射線診断,病理診断の各専門家会議を組織し,イレッサによる急性肺傷害・間質性肺炎の152例を調査,検討し,その結果として,平成15年1月31日に中間報告書,同年3月2日に最終報告書を作成した。 また,被告会社は,平成15年4月9日,(ア) 同年6月より10 か月間で目標症例を3000 例とし,中央登録方式で,イレッサの副作用発現頻度及び危険因子(発症危険因子,予後因子)について検討するプロスペクティブ調査(特別調査)を行うこと,(イ) 間質性肺炎・急性肺障害の発症頻度及び危険因子を検討するための多施設共同,症例対照,市販後臨床試験を実施するとの変更届を厚生労働大臣に提出した。このうち,(ア)のプロスペクティブ調査(特別調査)の結果は,平成16年8月に報告された(丙C2)。 また,被告会社は,平成15年11月から平成16年2月にかけて,非小細胞肺がん患者におけるイレッサ投与及び非投与での急性肺障害・間質性肺炎の相対リスク及び危険因子を検討するための試験(市販後臨床試験)をCCS(コホート内ケース・コントロール・スタディ)の方法で実 施し,その結果は,平成18年9月4日に,結果報告書(丙E39[枝番号9])にまとめられた。 3 副作用の重篤度前記薬事法77条の4の2所定の副作用等報告を行う場合などにおいて,副作用の重篤度の判断は重要であるため,これについて,次のような重篤度に関する基準が定められている(乙D21[枝番号13])。 (1) 医薬品等の副作用の重篤度分類基準(同基準について・重篤度分類通知・平成4年6月29日 要であるため,これについて,次のような重篤度に関する基準が定められている(乙D21[枝番号13])。 (1) 医薬品等の副作用の重篤度分類基準(同基準について・重篤度分類通知・平成4年6月29日薬安80号・丙D16)この重篤度分類基準は,薬事法令所定の副作用報告のより一層の適正化,迅速化を図るため,報告を行う症例の範囲についての判断の具体的な目安として作成されたものである。 ア重篤度分類通知では,副作用の重篤度を概ね次のとおり1~3の3つのグレードに分類するとされている。 グレード1:軽微な副作用と考えられるものグレード2:重篤な副作用ではないが,軽微な副作用でもないものグレード3:重篤な副作用と考えられるもの。すなわち,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの。 イ前記グレード3はに該当する程度の副作用症例は,薬事法77条の4の2に基づいて副作用報告すべき症例のうち,同法施行規則62条の2第1項1号にいう「死亡又は障害につながるおそれのある症例」に概ね該当すると考えられるとされていうる。 また,副作用の重篤度分類基準は,呼吸器系障害の重篤度について,ARDS,間質性肺炎,肺線維症等が,グレード3とされている。 (2) NCI-CTCグレード等(甲D7,17,38)ア NCI-CTCグレード(Version2.0)は,平成11年(1999 年)4 月に米国のNCIが公表し,平成13年(2001 年)9月に第1回の改訂が行われた有害事象についての重篤度のスケール(Grade)である。これによれば,有害事象の重篤度は,以下のとおり分類されている。(甲D7)グレード0:正常,正常/基準値範囲内(WNL),なしグレード1:軽症/軽 いての重篤度のスケール(Grade)である。これによれば,有害事象の重篤度は,以下のとおり分類されている。(甲D7)グレード0:正常,正常/基準値範囲内(WNL),なしグレード1:軽症/軽度の有害事象グレード2:中等症/中等度の有害事象グレード3:重症/高度の有害事象グレード4:生命を脅かす又は活動不能にいたる有害事象グレード5:有害事象による死亡(因果関係あり)イ NCI-CTCグレード(Version3.0)は,平成15年(2003 年)3月に米国のNCIが公表し,同年12月に改訂された有害事象についての重篤度のスケール(Grade)である。これによれば,有害事象の重篤度は,以下のとおり分類されている。(甲D38)グレード1:軽度の有害事象グレード2:中等度の有害事象グレード3:高度の有害事象グレード4:生命を脅かす又は活動不能とする有害事象グレード5:有害事象による死亡ウ平成15年8月には,厚生労働省は,日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)における合意等に基づいて,「副作用等報告に関するQ&A」をとりまとめ,その中で,薬事法施行規則64条の5の2及び66条の7に定める副作用の重篤度を示す概念と,ICHによる重篤度の定義との関連性を示した。 (以下余白) 第4章争点及び争点に対する当事者の主張第1 イレッサの有用性について 1 イレッサの有効性について(1) 医薬品の有効性の確認方法について(原告らの主張)ア有効性判断の基本原則医薬品は,本来人体にとって異物であり,有害作用を及ぼす危険性を常に有する。医薬品の有効性は,特定の疾患に対して有効であることが科学的に証明された場合に初めて肯定されるものであり,科学的な証明のない段階においては有効性はな 異物であり,有害作用を及ぼす危険性を常に有する。医薬品の有効性は,特定の疾患に対して有効であることが科学的に証明された場合に初めて肯定されるものであり,科学的な証明のない段階においては有効性はないと評価されなければならない。 医薬品の有効性が科学的に証明されるためには,最終的には適正にデザインされた比較臨床試験において,真の評価項目(患者の最終的な治療上の利益に直接関係する指標を評価する項目)の存在が統計学的に証明されなければならない。 イ臨床試験の評価方法に関する原則(ア) 実施計画書において設定された解析方法一般指針(乙D27)や統計的原則(甲P15)は実施計画書(プロトコール)に試験結果の解析方法を明記するよう定めている。その趣旨は,試験で予定していたような結果が出なかった場合に,臨床試験の報告者が後付けで医学的・薬学的に理由をつけて有効性を過大に報告することを防止することにある。 したがって,臨床試験では,実施計画書において明記された解析方法が第一義的な評価基準として重視されるべきであり,事後的な統計解析や解釈などは信用性が低いものとして評価されなければならない。これは抗がん剤の臨床試験においても当然妥当する。 被告らは,IDEAL1,2試験(IDEAL各試験)などで,主たる解析で否定的な結果が出たから,実施計画書にはなかった基準や比較対象を再設定することによりイレッサの有効性を肯定的に捉え,その他の試験でもサブグループ解析の結果を強調するなどしており,被告らの各試験の解析方法には問題がある。 (イ) 有効性判断の指標a 医薬品一般における有効性判断の指標我が国では,第Ⅲ相試験により有効性が確認されて,はじめて医薬品承認が与えられる制度となっており,この有効性確認の対象には真の評価項目が用 効性判断の指標a 医薬品一般における有効性判断の指標我が国では,第Ⅲ相試験により有効性が確認されて,はじめて医薬品承認が与えられる制度となっており,この有効性確認の対象には真の評価項目が用いられる(一般指針(乙D27)及び統計的原則(甲P15))。これに対して,代替評価項目とは,計測が困難な特定の治療上の利益を予測するために,真の評価項目の代替として用いられる測定値や兆候などをいう。 もっとも,代替評価項目は,治療上の利益の予測の精度に問題があることが多く,一般には,第Ⅲ相試験の主要評価項目として用いるべきでない。代替評価項目は,合理的に臨床上の結果を予測しうる場合に限って臨床試験に用いることができるのであり,真の評価項目と代替評価項目との間に相関関係があるというのみでは合理的に臨床上の結果を予測しうるとはいえないのである。 b 抗がん剤における有効性判断の指標抗がん剤の臨床試験における真の評価項目は,延命効果すなわち全生存期間の延長を重視すべきである。 これに対し,腫瘍縮小効果ないし奏効率は,治験薬が一定の生物学的な抗腫瘍活性を有することを意味するものであって,必ずしも治療による利益を意味するものではないから,代替評価項目にすぎないものであり,真の評価項目である全生存期間の延長を合理的に予測しう るものではない。つまり,非小細胞肺がんでは,腫瘍増殖の速度に多様性があるため,一部の腫瘍が一時的に縮小したとしても,最終的な転帰の改善には必ずしもつながらないのである。また,腫瘍縮小効果は,評価可変病変の事前特定,評価のタイミング,画像による評価など観察方法に難しさがある。 無増悪生存期間は,増悪が観察された時点か,あらゆる原因による死亡の早いほうまでの時間をいうが,腫瘍縮小の増悪をも評価するため,腫瘍縮小効 タイミング,画像による評価など観察方法に難しさがある。 無増悪生存期間は,増悪が観察された時点か,あらゆる原因による死亡の早いほうまでの時間をいうが,腫瘍縮小の増悪をも評価するため,腫瘍縮小効果とその継続期間を見ているに過ぎない結果となり得ることから,腫瘍縮小効果と同様に観察方法の難しさなどを有することになる。 また,QOLや症状改善などは,患者に対するアンケートを主体として調査したものであり,病状以外に関する質問項目が多数含まれており,抗がん剤の治療効果以外の要素に大きな影響を受けることが避けられず,主観的なバイアスを排除することは著しく困難であるため,副次的評価項目にすぎない。 したがって,抗がん剤の有効性は,医薬品一般における原則のとおり,臨床試験において主要評価項目とされている真の評価項目たる延命効果(全生存期間)を重視するべきであり,代替評価項目にすぎない腫瘍縮小効果,臨床試験で副次的評価項目とされているにすぎないQOLや症状改善などを重視することはできない。 被告らは,①延命効果,腫瘍縮小効果,QOLなど様々な指標を総合判断して有用性が肯定される,②腫瘍縮小効果やQOLなどの代替評価項目に依拠して,イレッサの有効性が肯定されると主張するが,その内容や根拠は科学的とはいえないものであり,有効性が証明されたということにはならない。 ウ奏功率・腫瘍縮小効果により延命効果を予測することはできないこと (ア) 奏功率・腫瘍縮小効果が延命効果とは関連しない実例がイレッサ承認前に報告されていたことイレッサ承認前の合計12の比較臨床試験(シスプラチンやシスプラチンを含む併用療法に関する試験)のうち,5つの試験では,より高い奏効率が見られた群において,生存期間中央値が短くなるという現象(ねじれ現象)が生じてい 計12の比較臨床試験(シスプラチンやシスプラチンを含む併用療法に関する試験)のうち,5つの試験では,より高い奏効率が見られた群において,生存期間中央値が短くなるという現象(ねじれ現象)が生じている。 したがって,既に報告されていた実例から,奏効率が抗がん剤の有効性である延命効果を予測させる代替評価項目として必ずしも妥当ではないということは,イレッサ承認以前において既に明らかになっていた。 (イ) 腫瘍縮小効果・奏功率は,高い精度による延命効果の予測を予定していないことIDEAL各試験で採用された腫瘍縮小効果判定基準は,部分奏功(PR)に該当するには,計測腫瘍の50%以上縮小が4週間以上継続することとされていた(WHO基準)が,延命効果を予測するための代替評価項目としては緩やかすぎるというべきであり,上記基準は腫瘍縮小効果・奏効率が延命効果を予測することを予定していないというべきである。 また,通常の承認過程では,第Ⅱ相試験後,承認される前の段階で,第Ⅲ相試験による延命効果の確認が行われることが前提となるため,第Ⅱ相試験段階では,第Ⅲ相試験に進むか否かのスクリーニングができれば足りる。第Ⅱ相試験の評価項目はスクリーニング目的で設定されたものであるから,抗がん剤の第Ⅱ相試験の主要評価項目である奏功率は,延命効果の予測の精度を一定程度犠牲にすることを予定して設定された評価項目であるといわざるをえない。 腫瘍縮小効果・奏功率の判定には,評価可能病変の事前特定,評価のタイミング,画像による評価という方法論的な難しさがあるため,いく つかの症例数の少ない試験で一定の奏効率を示したからとしても,延命効果が期待できると安易に判断することは許されない。 (ウ) 腫瘍縮小効果・奏功率と延命効果との間に相関関係があるのみでは,全生 つかの症例数の少ない試験で一定の奏効率を示したからとしても,延命効果が期待できると安易に判断することは許されない。 (ウ) 腫瘍縮小効果・奏功率と延命効果との間に相関関係があるのみでは,全生存期間の延長の効果を合理的に予測することは困難であること腫瘍縮小効果・奏効率と生存期間中央値の間の相関関係は,全生存期間の延長の効果を合理的に予測することの必要条件であるが十分条件ではなく,上記相関関係のみでは全生存期間の延長の効果を合理的に予測することが困難であるということは,イレッサ承認以前に確立されている知見であった。 その実質的な理由には,予後因子バイアス(一般に,各患者の有する予後因子(PS,喫煙率,治療組入期間等)を予め均等に各被験群に振り分けないで試験を実施し,各群を単純比較すると,各群の予後因子の差異の影響により見かけ上の違いがもたらされてしまうこと),タイムバイアス(奏功者は奏功が観察されるまで生存していることが必要なので,奏功者は,治療による延命効果の有無とは関係なく,非奏功者より生存期間が長くなる)の影響が挙げられる。 また,腫瘍縮小効果と延命効果の相関のみに依拠して,腫瘍縮小効果から延命効果を予測するという分析方法は,予後因子の問題のほかに,群としてデータを用いた解析をした場合,当該群を構成する個別患者における個体差が捨象されてしまうという問題があるなど,重大な統計学的な問題がある(BUYSE 論文(甲H61))。 (エ) Ⅱ相承認の制度設計と腫瘍縮小効果・奏効率の位置付けⅡ相承認制度下の抗がん剤の臨床試験においても,第Ⅱ相試験はスクリーニング目的と位置づけられており,極めて高い腫瘍縮小効果・奏効率が得られたとしても,延命効果を真の評価項目とする第Ⅲ相試験を省略することはできない制度設計となっている。 ,第Ⅱ相試験はスクリーニング目的と位置づけられており,極めて高い腫瘍縮小効果・奏効率が得られたとしても,延命効果を真の評価項目とする第Ⅲ相試験を省略することはできない制度設計となっている。 また,Ⅱ相承認制度では,延命効果の予測精度に問題があるため,Ⅱ相承認をするための有効性判断には極めて高い腫瘍縮小効果・奏功率があることが必要とされてきたのである。 したがって,Ⅱ相承認制度は,腫瘍縮小効果から延命効果を合理的に予測できるということを前提とした制度設計ではなかったといえる。 (被告会社の主張)ア有効性判断の指標(ア) 抗がん剤の有効性に関する主な指標a 非小細胞肺がんの化学療法の目的は延命とQOLの改善にあるから,その有効性の指標としては,延命効果を直接測定する指標である全生存期間や無増悪生存期間,QOL改善効果を直接測定するFACT-L基準によるQOL測定結果などの指標は重要な指標である。 しかし,上記指標には,臨床試験の実施の困難性,測定の方法や解析・評価の難しさなどに多くの問題がある。 したがって,上記指標を評価項目とされた臨床試験の結果の解釈は,当該抗がん剤に関する他の情報との整合性等を考慮して,合理的かつ慎重に行われる必要がある。 b 全生存期間と無増悪生存期間はいずれも延命効果を直接測定する指標であるが,全生存期間には,試験において被験薬又は対照薬が割り付けられた時から死亡までに治療薬が変更された場合に,全生存期間が変更後の治療薬(後治療)の影響を受けるという短所が指摘されている。 これに対して,無増悪生存期間は,後治療の影響を受けないため,被験薬の効果をより適切に確認できることがある。もっとも,無増悪生存期間は,がんの増悪の評価方法や評価間隔などの観察方法が結果に影響する可能性があるた 無増悪生存期間は,後治療の影響を受けないため,被験薬の効果をより適切に確認できることがある。もっとも,無増悪生存期間は,がんの増悪の評価方法や評価間隔などの観察方法が結果に影響する可能性があるため,観察方法を実施計画書で明確かつ統一的に定める必要がある。 (イ) 有効性判断における代替評価項目代替評価項目は,真の評価項目を直接測定するものではないが,真の評価項目に代わる他の事柄から真の評価項目を間接的に判断するものであり,代表的なものとして腫瘍縮小効果が挙げられる。 腫瘍縮小効果は,化学療法の目的たる延命やQOL改善を直接に測る指標ではないが,延命効果やQOL改善効果の代替評価項目である。非小細胞肺がんの病態が,がんが増殖することによって数々の重篤な症状を引き起こし,やがては患者を死に至らしめるというものであることからすれば,医学的に,腫瘍縮小は延命やQOL改善の前提であり,基本的に延命効果やQOL改善効果に結びつくと考えられる。 したがって,有効性は,真の評価項目のみならず,代替評価項目も,それぞれの内容や特質を考慮し,当該抗がん剤の他の情報を踏まえて評価しなければならない。 イ有効性の判断方法(ア) 有効性の判断方法抗がん剤の有効性の各指標は相互に関連性を有するため,非小細胞肺がん抗がん剤の有効性は,各指標を総合的に考慮して,延命効果及びQOL改善効果を評価することによって判断されるべきである。 また,有効性の各指標を適正に解釈し評価することは容易ではなく,臨床試験によって得られた結果を正しく評価するためには,当該結果の統計的検討に加えて,当該臨床試験で得られた他の解析結果(サブグループ解析を含む。),他の臨床試験の結果,資料や知見等をも十分に検討することが不可欠である。第Ⅲ相試験で延命効果が統計 は,当該結果の統計的検討に加えて,当該臨床試験で得られた他の解析結果(サブグループ解析を含む。),他の臨床試験の結果,資料や知見等をも十分に検討することが不可欠である。第Ⅲ相試験で延命効果が統計学的に証明されていないとの一事をもって,直ちに当該抗がん剤には延命効果がないというべきではない。 全生存期間は,後治療や症例数不足が影響した可能性を検討する必要が あり,また統計学的に有意差はなかったとしても,生存期間中央値,1年生存率などの値自体を検討する必要がある。また,延命効果の有無は,全生存期間だけでなく,延命効果を直接測定する指標である無増悪生存期間や,延命効果との相関性が認められる腫瘍縮小効果などの結果を総合して評価しなければならないのである。 (イ) 有効性判断の資料有効性の判断の資料としては,臨床試験結果,各種調査,研究結果や症例報告など,規模や方法を含めて様々なものがある。 各資料は,データとしての信頼性や内容には差異があるが,いずれも非小細胞肺がん抗がん剤の有効性を判断する資料になり得るものであるから,有効性は,特定の資料にのみ基づいて判断するという偏った検討方法により行われるべきではない。 各資料の内容及び信頼性に留意しつつ,全ての資料を総合的に考慮することによって,非小細胞肺がん抗がん剤の有効性を適切かつ妥当に判断し得るのである。 (ウ) 原告らの解析方法について原告らは,非小細胞肺がんの抗がん剤においても真の評価項目が全生存期間にあり,全生存期間の延長が統計学的に証明されなければならないなど主張する。 しかし,全生存期間は,後治療の影響を受けるという短所がある。また,非小細胞肺がんの抗がん剤の全生存期間は,延命に寄与する程度と有意差の証明に必要とされる症例数が多数必要となるが,それは現実的 。 しかし,全生存期間は,後治療の影響を受けるという短所がある。また,非小細胞肺がんの抗がん剤の全生存期間は,延命に寄与する程度と有意差の証明に必要とされる症例数が多数必要となるが,それは現実的ではないなどの要因から統計学的に証明することが容易ではなく,試験デザインの不適切性に原因があるために統計学的に証明できないということもあり得る。 したがって,延命効果が統計学的に証明できたか否かのみならず,副次 的評価項目を含めて第Ⅲ相試験の結果,他の試験結果などを総合的に検討し,当該抗がん剤が延命効果を有するか否かを検討することが必要である。 ウ奏功率・腫瘍縮小効果と延命効果の相関関係(ア) 奏功率・腫瘍縮小効果が延命効果とは関連しない実例について原告らが主張する比較臨床試験(前記原告らの主張ウ(ア))で奏功が得られた患者につき有意な生存期間の延長(生存期間中央値や1年生存率)が検出されなかった原因は,上記臨床試験の症例数が200例程度しかなかったことから,症例数不足にあると考えられる。 したがって,上記臨床試験で奏功が得られた患者につき有意な生存期間の延長(生存期間中央値や1年生存率)が検出されなかったことをもって,腫瘍縮小効果と延命効果との間に相関性がないということはできない。 (イ) 腫瘍縮小効果と延命効果の関連性についてa 腫瘍の縮小が基本的に延命と結びつくことは,非小細胞肺がんの病態,すなわちがんが増殖・増大することによって数々の重篤な症状を引き起こし患者を死に至らしめる疾患であることに鑑みれば,医学的に合理的である。 b 腫瘍の縮小が延命効果と密接な関連性を有することを肯定する調査や研究報告が多数存在する。特に信頼性の高い調査研究は以下のとおりである。 (a) 西條長宏らの調査研究当該研究は 的である。 b 腫瘍の縮小が延命効果と密接な関連性を有することを肯定する調査や研究報告が多数存在する。特に信頼性の高い調査研究は以下のとおりである。 (a) 西條長宏らの調査研究当該研究は,1976年(昭和51年)から1995年(平成7年)までに行われた非小細胞肺がんに対する単剤による第Ⅱ相試験の結果を176件集め,統計学的な手法を用いて奏効率と生存期間中央値との相関性を確認したものである。当該研究の結果は,奏効率と生 存期間中央値との間に有意な(P値=0.00003)相関性が認められた。 (b) 福岡正博らの調査研究当該研究は,第一義的には病勢安定(不変・SD)が延命効果と結びつくか否かを検討することを目的としたものであるが,奏効と延命効果との関連性も検討された。 当該研究は,1996年(平成8年)から2004年(平成16年)までに結果が報告された合計54の非小細胞肺がんのセカンドライン治療における臨床試験結果を集め,統計学的な解析を行い,不変又は奏効と延命効果との関連性を証明したものであり,2006年(平成18年)9月に公表された。 当該研究の結果は,不変(SD)及び奏効(CR及びPR)ともに,延命効果と統計学的に有意な関連性が認められた(不変につきP値=0.039,奏効につきP値<0.001)。すなわち,不変率及び奏効率が上昇すればするほど全生存期間が大きく延長されたのである。もっとも,全生存期間の延長との関連性は不変よりも奏効の方がより強く,延命効果を得るためには奏効を得ることがより重要であることが示された。 (c) プリモ・ララらの調査研究当該研究は,プラチナ製剤を含む化学療法についての3件の臨床試験に登録された非小細胞肺がん患者984例のデータに基づいて,奏効率,登録後8週,14週,20 た。 (c) プリモ・ララらの調査研究当該研究は,プラチナ製剤を含む化学療法についての3件の臨床試験に登録された非小細胞肺がん患者984例のデータに基づいて,奏効率,登録後8週,14週,20週時の生存率を検討することにより,腫瘍縮小効果と延命効果との相関性を証明したものである。 当該研究の結果は,8週時に奏効が得られていた患者には有意な生存期間の延長が認められた(P値<0.001)。また,14週及び20週の結果も上記8週時の知見と異なるものではなかった。 当該研究は,症例数が約1000例と多い点や1例ずつの症例報告に立ち返って検討が行われている点においてデータの質が高いものである。 (d) ブラッジらの調査研究当該研究は,非小細胞肺がんについて腫瘍縮小効果を延命効果の代替評価項目とすることの妥当性を確認するために行われたものである。9件の試験から,奏効率及び延命効果のデータが揃っていた2525例について統計学的解析を行ったものである。 結果は,奏効率は延命効果の予測因子として高い有意性が示された(P値<0.001)。また,奏効が得られた患者の生存期間中央値は,完全奏効(CR)の患者で19.5か月,部分奏効(PR)の患者で14か月であったのに対し,奏効が得られなかった患者では7. 8か月と半分ないしそれ以下の長さであった。 エ腫瘍縮小効果による症状改善やQOL改善と延命効果の関係非小細胞肺がんの症状(例えば疼痛や呼吸困難)は,がんが増殖・増大して周囲の器官や臓器に浸潤し,神経や気管を圧迫することによって生じるものであるから,がんが縮小すれば,がん細胞の増殖,浸潤等によってもたらされた症状は改善する。そして,上記症状が改善すれば,患者のQOLが改善する。 非小細胞肺がんでは,疼痛や呼吸困難を始め重篤な症状 であるから,がんが縮小すれば,がん細胞の増殖,浸潤等によってもたらされた症状は改善する。そして,上記症状が改善すれば,患者のQOLが改善する。 非小細胞肺がんでは,疼痛や呼吸困難を始め重篤な症状が現れるだけでなく,患者の全身状態や免疫力の低下を招く。全身状態が不良な患者の方が良好な患者よりも予後が悪く,免疫力が低下することにより感染症や合併症に罹患しやすくなり,死亡の危険性も高くなる。そうすると,非小細胞肺がんの症状が改善すれば,全身状態が改善し,免疫力も高まることが期待でき,死亡の危険性も低くなるのである。 以上より,腫瘍縮小効果による症状改善及びQOL改善は延命効果につな がるものと考えられる。 (被告国の主張)ア平成14年7月承認当時の各種指針(ガイドライン)の下における抗がん剤の有効性,有用性評価の方法平成14年7月当時,各種指針(抗がん剤の臨床評価に関する指針(甲D14),旧ガイドライン(乙D7))の下で採用されていた抗がん剤の有効性評価の方法論,すなわち,Ⅱ相承認の考え方は,①第Ⅱ相試験によって治療の直接目的である腫瘍縮小効果を確認するとともに,これを代替評価項目として,治療上の利益を確認し,②第Ⅱ相試験の腫瘍縮小効果に関して得られた知見を,他の評価項目について得られた知見及びその他のあらゆる知見と総合して有効性ないし有用性を評価することにより臨床使用の可否を決し,③有効性ないし有用性が肯定されて臨床使用に用いられた場合には,臨床使用の中で第Ⅲ相試験により延命効果を確認し,④第Ⅲ相試験により延命効果が確認されれば標準的治療法に組み入れられる,というものであったのである。 平成14年7月当時,抗がん剤の有効性は,延命効果によらなければ肯定することができないという方法論は採用されておらず,腫瘍縮小効 されれば標準的治療法に組み入れられる,というものであったのである。 平成14年7月当時,抗がん剤の有効性は,延命効果によらなければ肯定することができないという方法論は採用されておらず,腫瘍縮小効果を中心とする各種知見の総合評価によっても肯定することができるという方法論が原則的に採用されていたものである。 イ平成14年7月承認当時の抗がん剤の有効性,有用性の評価方法に関する知見(ア) Ⅱ相承認の方法論は,臨床試験に関する知見に通暁した研究者の長期間にわたる慎重な検討により確立された医学的,薬学的知見であることⅡ相承認の方法論に関連する各種指針や判定基準等は,いずれも,各時点の当該分野の専門家が,慎重な検討を経て開発し,確立されてきたものであり,それぞれ,各時点における,対象とする事柄についての医 学的,薬学的知見を集約したものであって,それ自体が知見の1つと位置づけられるものである。 中でも旧ガイドライン(乙D7)は,「医薬品の承認申請の目的で実施される抗悪性腫瘍薬の臨床試験の評価方法として,その標準的方法を」取りまとめたものである。旧ガイドラインを取りまとめた研究班は,当時のがんの専門医の中でも,臨床試験をよく理解し,指導的な役割を担っている研究者で構成されており,旧ガイドラインの案文の作成のため,当時のがん化学療法に関する国内外の論文を多数集めて検討し,2年間にわたる議論を経て,我が国のがん治療の状況に即して,医学的な合理性があるものとして旧ガイドラインの案文を作成したが,Ⅱ相承認についての異論はなかった。旧ガイドラインにおけるⅡ相承認の方法論は,当時,抗がん剤の臨床試験をどのように実施し,試験結果をどのように評価し,どのような評価の下で臨床上の有用性が認められて臨床使用,すなわち,承認に値するか,という ラインにおけるⅡ相承認の方法論は,当時,抗がん剤の臨床試験をどのように実施し,試験結果をどのように評価し,どのような評価の下で臨床上の有用性が認められて臨床使用,すなわち,承認に値するか,という「方法論」に関する医学的,薬学的知見を集約したものといえる。 以上のとおり,旧ガイドラインにおけるⅡ相承認の考え方は,新しい抗がん剤が臨床使用に値する有効性,有用性を有するか否かを判断する上で,抗がん剤の臨床試験をどのように実施し,その結果をどのように評価することが医学的,薬学的に合理的か,という「方法論」に関する医学的,薬学的知見なのである。 (イ) 旧ガイドラインの下でのⅡ相承認の方法論の合理性が客観的にみて種々の医学的,薬学的知見に裏付けられていたこと旧ガイドラインにおいてⅡ相承認の考え方が採用された理由は,①腫瘍縮小効果と延命効果には相関性があるとの考えが一般的であり,②当時の臨床試験の状況から延命効果の確認には相当時間を要するのが実情であり,患者が早期に抗がん剤の投与を受けられ,治療上の利益が高い という当時の専門家の間のコンセンサスがあったからである。 a 腫瘍縮小効果から延命効果を合理的に予測しうること(a) がんの病態からみて腫瘍の縮小が延命につながるとみることには生物学的合理性があることがんとは,遺伝子変異を起こしたがん細胞が,自律的に増殖し,周辺組織に浸潤し,全身に転移することで内臓機能を障害し,患者に苦痛を与える諸症状を生じさせ,ついには死に至らしめる進行性の疾患である。生物学的にみれば,がん細胞の増殖,浸潤,転移を逆行させるように,がん細胞の縮小又は消滅があれば,がんの進行を滞らせ,患者を死に至らしめることを遅らせることになるとみるのが合理的であり,がんの病態から腫瘍の縮小が当然に延命につな 浸潤,転移を逆行させるように,がん細胞の縮小又は消滅があれば,がんの進行を滞らせ,患者を死に至らしめることを遅らせることになるとみるのが合理的であり,がんの病態から腫瘍の縮小が当然に延命につながるとみることには生物学的な合理性がある。 (b) がんの治療は直接的には生物学的な腫瘍の縮小を目的に行われること臨床現場で当該患者に当該治療で延命効果が得られたか否かを直接確認することは現在でも不可能である。そのため,がんの治療は,生物学的な腫瘍の縮小又は消滅を目的として行われる。 (c) 腫瘍の縮小と延命との間には相関性が認められること腫瘍縮小効果に関する効果判定基準は,1960年に全腫瘍塊のサイズが減少し,いずれの病変にもサイズの増大がなく,新規病変の出現が見られない場合は全身療法の予後が良好であることを示唆する研究報告がされ,1970年代の中期から後期にかけて,WHO基準によって広く普及した。 その後,次第に高い奏効率の得られる抗がん剤が登場し,非小細胞肺がんの分野でも,1980年代から1990年代にかけて,多くの比較臨床試験が行われたが,当時の比較臨床試験は症例数が少 ないこともあって,個別の試験においては,奏効率で対照群との間に有意な差が検出された場合に,生存期間では,有意な差が検出されることもあったが,必ずしも常に検出されるわけではなかった。 真の評価項目である全生存期間では,抗がん剤の治療成績が次第に向上し,セカンドライン治療に一定の延命効果が認められるにつれ,後治療による影響の介在が指摘されるようになり,後治療の影響を排除するため,無増悪生存期間などの新しい評価項目が提案される状況が生じた。 近時は,症例数の少ない臨床試験の報告で同様の試験デザインで行われたものを多数集積して統計的に解析し,相関性を の影響を排除するため,無増悪生存期間などの新しい評価項目が提案される状況が生じた。 近時は,症例数の少ない臨床試験の報告で同様の試験デザインで行われたものを多数集積して統計的に解析し,相関性を検討するなどの手法により,評価項目を,統計的な評価手法により検討する研究が行われている。上記研究では,血液がんや乳がんに限られず,非小細胞肺がんでも,腫瘍縮小効果と延命効果との間には相関関係があるとの結果が得られている。 (d) 平成14年7月当時,非小細胞肺がんの抗がん剤の臨床試験では,代替評価項目として腫瘍縮小効果を用いることができたこと平成14年7月当時の新薬一般を視野に置いた臨床試験の原則的な方法論では,代替評価項目を臨床試験の主要評価項目として用いることができる場合として,代替評価項目を用いることにより十分合理的に臨床上の結果を予測しうる場合や臨床上の結果を予測しうることがよく知られている場合等が挙げられる。前記(a)ないし(c)の知見に鑑みれば,平成14年7月当時,非小細胞肺がんに対する抗がん剤の臨床試験において,代替評価項目として腫瘍縮小効果(奏効率)を用いることができる客観的状況にあったことは明らかである。 b 比較臨床試験による延命効果の確認が現実的ではなかったこと (a) 延命効果を主要評価項目とする臨床試験は多数の症例が必要であることまず,抗がん剤の延命効果を第Ⅲ相試験により確認する場合には,対象疾患,試験の目的及び評価項目に応じて統計的に定められる被験者数の,同時対照群を置いた比較臨床試験により,各々の被験者群の全生存期間を,統計的処理によって比較しなければならない。統計的処理において信頼性のある結果を得るためには,相当数の患者の登録が必要となる。 統計学的に,大きな差を有意に示すために求 の被験者群の全生存期間を,統計的処理によって比較しなければならない。統計的処理において信頼性のある結果を得るためには,相当数の患者の登録が必要となる。 統計学的に,大きな差を有意に示すために求められる症例数は少ないが,小さな差を有意に示すために求められる症例数は多数になる。非小細胞肺がんの場合は,生存期間の延長が難しい状況にあったため,多数の症例が必要となるのである。 (b) 短期間での被験者の集積は容易でなく,集積しても我が国では倫理上無治療との比較はできなかったこと非小細胞肺がんの場合,70歳以上の高齢者で,進行してからの発症が多く,多彩な症状により全身状態が悪化していることも多いことが知られ,全身状態不良(PS3,4)の場合や高齢者の場合は化学療法を行うべきではないと考えられていた上,臨床試験では厳格な適格条件,除外条件が定められるため,臨床試験に参加できない患者が多いことが周知であった。 また,我が国の文化,社会的背景として,比較臨床試験自体が倫理に反すると考えられており,無治療と新薬との比較臨床試験は特に倫理上問題があるといわれていた。 平成14年7月当時,統計的検定に必要な数の対象患者を短期間に集積することは容易ではなく,集積しても無治療との比較はできなかったのである。 (c) 試験の実施,解析にも長い期間が必要であること全生存期間を主要評価項目として評価を行うには,ある程度の数の対象患者の死亡を待つ必要があるため,臨床試験の完遂には長い期間が必要である。 (d) 非小細胞肺がんの予後は極めて悪く第Ⅲ相試験の実施が実際的でなかったこと平成14年7月当時,化学療法の適応となる手術不能又は再発非小細胞肺がん患者の予後は,1年生存率でみると,Ⅳ期で無治療の場合20%,治療後で30~40%(生 Ⅲ相試験の実施が実際的でなかったこと平成14年7月当時,化学療法の適応となる手術不能又は再発非小細胞肺がん患者の予後は,1年生存率でみると,Ⅳ期で無治療の場合20%,治療後で30~40%(生存期間中央値は8~10か月),Ⅲ期と併せても50%程度であり,5年生存率に至ってはわずか1%という状況であり,もはや既存の治療法による治療を受けられず,延命の可能性さえない者も多く存在し,治療の選択肢を増やす必要に迫られていた。 上記の状況において,第Ⅱ相試験において現に腫瘍縮小効果を示し,一定の生存期間中央値が得られた新しい抗がん剤につき,無治療との比較ができるわけでもないのに,さらに5年をかけて,新しい抗がん剤が既存の治療法に比べて有意に生存期間を延長させるか否かを同時対照比較臨床試験によって統計的に確認しない限り臨床使用を許さないとすることは現実的ではない。 (e) 平成17年当時でも第Ⅲ相試験の実施は必ずしも現実的でなかったこと新ガイドラインにおいては,第Ⅲ相試験の結果を迅速に得られる素地ができ,外国データの活用も可能となったことから,特定のがん腫で原則として第Ⅲ相試験の結果を求めることとしたのであるが,実際に国際共同治験が盛んに行われるようになったのは平成18年又は19年ころである。 また,臨床試験を実施するための体制としては,研究者,実施施設(医療施設)のほか,治験の円滑な実施を調整する人(CRC,クリニカル・リサーチ・コーディネーター),得られたデータが正しいかどうかを監視する人を確保するとともに,データの正確性を内部監査する体制,治験の場合は厚生労働省の査察を受ける体制等が必要であるが,我が国では,上記体制が平成17年当時も十分ではなかった。 したがって,新ガイドライン策定のための平成17年当時の議 を内部監査する体制,治験の場合は厚生労働省の査察を受ける体制等が必要であるが,我が国では,上記体制が平成17年当時も十分ではなかった。 したがって,新ガイドライン策定のための平成17年当時の議論においても,承認前に第Ⅲ相試験の結果を提出させることには賛否両論があり,患者数が多いがん腫以外のがん腫では,第Ⅲ相試験の結果を提出させることが現実的ではないとして,Ⅱ相承認が維持されているのである。 (2) イレッサの非小細胞肺がんに対する有効性について(原告らの主張)ア平成14年7月承認時のイレッサの有効性評価(ア) IDEAL各試験の奏功率から有効性を推測することができないことa 抗がん剤の奏効率の確認に用いられる一般的基準による評価一般に,抗がん剤に求められる有効率(期待有効率)としては,約20%の奏効率が必要と考えられており(旧ガイドラインなど),これを下回る有効率しかなければ有用な抗悪性腫瘍薬とは認められない。上記水準は,第Ⅲ相試験に進むために最低限必要とされるものに過ぎず,承認に要求されるような延命効果予測の水準には達しないものとして理解すべきものである。 IDEAL1試験の奏効率(審査センター判定による判定結果)は,承認用量の250mg/日群全体では15.5%にとどまっており,上記基準の20%に達しないのであるから,イレッサの奏功率が 高いということはできない。250mg/日群全体の奏功率15.5%という数値は日本人群の奏効率によって大幅に引き上げられていたものであるが,日本人群の高い奏効率は,患者の背景因子の偏りを調整すれば,日本人以外の患者群(外国人群)の低い数値並みとなっていた可能性があるから,やはりイレッサの奏効率を高いとは評価できないというべきである。 IDEAL2試験の奏効率は, 景因子の偏りを調整すれば,日本人以外の患者群(外国人群)の低い数値並みとなっていた可能性があるから,やはりイレッサの奏効率を高いとは評価できないというべきである。 IDEAL2試験の奏効率は,250mg/日群で11.8%,500mg/日群で8.8%であり,いずれも上記基準の20%に達しない結果となっていたから,イレッサの奏効率が高いとは評価できない。 b 実施計画書の解析方法に照らした評価イレッサの承認根拠となったIDEAL各試験の評価では,第一義的な評価基準として検討されるべきは,事前に実施計画書で設定された有効性の解析方法である。 IDEAL各試験の実施計画書には,有効性の解析方法として,IDEAL1試験では,申請資料概要(丙C1〔462頁〕)では,「奏効率の95%信頼区間の下限が5%を上回っていた場合,真の奏効率は5%以上であると結論づける。」,IDEAL2試験でも,申請資料概要(丙C1〔498頁〕)において,奏効率「5%は他に有効な治療がない場合の実薬の許容される最小率として選択される。」ことを前提として,試験結果から得られた奏効率の信頼区間下限がその5%を下回るようであれば,有効性はないものと評価すべきと記載されていた。IDEAL各試験が,期待有効率20%の基準とは別に5%奏効率の基準を設定した趣旨は,5%奏功率の基準を一般的な閾値有効率の水準として,無効な薬剤の判定を行うことにあり,旧ガイドラインの運用に合致する。 IDEAL1試験結果を見ると,250mg/日と500mg/日の各外 国人群における奏効率の信頼区間の下限は,それぞれ1.2%と3. 1%であり,閾値有効率5%を下回っている。IDEAL2試験結果を見ると,500mg/日群の奏効率の信頼区間下限(4.3%)が閾値有効率5%を下回っており,2 頼区間の下限は,それぞれ1.2%と3. 1%であり,閾値有効率5%を下回っている。IDEAL2試験結果を見ると,500mg/日群の奏効率の信頼区間下限(4.3%)が閾値有効率5%を下回っており,250mg/日群の奏功率の信頼区間下限(6.2%)は閾値有効率5%にかろうじて達したにすぎない。 また,IDEAL1試験では,日本人の群と外国人群の間で患者の背景因子に差があった。特に,試験結果に大きく影響する患者の全身状態(PS)が,日本人の群では全身状態が不良の患者(PS2)の割合が著しく少なかったのである。患者群の背景因子の偏りを調整すれば,日本人の群の結果は,外国人群の数値に近づく可能性があったのである。 したがって,IDEAL各試験では,複数の群において,開発中止の結論を導くべきとされる閾値有効率に達しなかったのであり,閾値有効率に達した日本人群においても,背景因子の問題があった以上,全体としてイレッサの奏効率が高いなどと評価することはできず,延命効果が予測できるともいえない。 c イレッサの治験成績とドセタキセルに関する臨床試験の成績を比較することの問題点被告会社は,約10%のIDEAL1試験の外国人群の奏効率も含め「いずれの民族群においても単独両方で臨床的に意味のある奏効率が得られ」るとし(丙C1〔509頁〕),審査報告書(乙B4[枝番号1])でも約11.8%のIDEAL2試験の奏効率について同様の評価をしている。上記評価の前提として,セカンドライン非小細胞肺がん患者に対する延命効果を確認したShepherd によるドセタキセル試験(Shepherd 試験)があり,IDEAL各試験の各群の奏効率がShepherd 試験の奏効率7.1%を上回ったことを主要な根拠と する。 しかし,IDEAL各試験の症例数設定 ル試験(Shepherd 試験)があり,IDEAL各試験の各群の奏効率がShepherd 試験の奏効率7.1%を上回ったことを主要な根拠と する。 しかし,IDEAL各試験の症例数設定の際には,当然,セカンドライン以降の患者を対象とした試験であることを考慮した上で,延命効果の予測のために,通常の抗がん剤と同様の期待有効率(IDEAL1試験で20%,IDEAL2試験で15%)と閾値有効率(IDEAL各試験いずれも5%)が必要とされたのである。 Shepherd 試験との比較によりイレッサの有効性を基礎づける論法は,過去の試験結果との単純比較をするものであり,また第Ⅲ相試験であるShepherd 試験と第Ⅱ相試験であるIDEAL各試験を単純するものであるから,誤った結論を導く可能性がある。 Shepherd 試験では,全身状態不良の患者(PS2)の割合が多く,奏功率は通常期待しうる数値よりも低くなった可能性があり,一般的な奏功率の比較対照として適切であったのか疑問が残るものである。 したがって,Shepherd 試験の結果と単純比較を前提とする被告らの主張は,上記のような問題を含むものであるから失当である。 d 既存の承認薬剤のセカンドライン患者に対する効果他剤による非小細胞肺がんのセカンドライン患者を対象とした試験における奏効率は,イレッサ承認当時で,ゲムシタビンとドセタキセルの2剤併用化学療法で33%,シスプラチンとパクリタキセルの2剤併用化学療法で40%,単剤でも,ゲムシタビンで19%,ドセタキセルで21%,パクリタキセルで34%などであった(別紙25【他の抗がん剤の効果一覧表】の各薬剤の第Ⅱ相試験結果の表)。 したがって,日本人群の背景因子の偏りにより引き上げられた奏功率15.5%の数値を前提としても,ID セルで34%などであった(別紙25【他の抗がん剤の効果一覧表】の各薬剤の第Ⅱ相試験結果の表)。 したがって,日本人群の背景因子の偏りにより引き上げられた奏功率15.5%の数値を前提としても,IDEAL1試験の奏効率は,既存の承認薬剤以上の効果を示すものとはいえない。 (イ) IDEAL各試験の生存期間中央値から有効性を推測できないことa 対照群のない試験における生存期間中央値の評価延命効果は,適切な患者割り付けによって患者の背景因子を均等化した上で,対照群との比較により初めて確認しうるものであり,対照群との比較は延命効果の確認に不可欠の要素である。 これに対し,適切な比較対照のない試験の被験者群における生存期間中央値は,当該被験者群の患者の背景因子によって大きく変動しうるものである。仮に当該試験で良好な数値が得られたとしても,その数値が,治験薬の効果によって得られたものか,単に患者群の背景因子の偏りによってもたらされたものなのかを判別することはできない。 したがって,ある試験における生存期間中央値を,別個の試験や一般的な臨床成績などと比較しても,有効性の根拠にはなり得ないから,IDEAL各試験の生存期間中央値をもって,イレッサの有効性を根拠づけることはできない。 bIDEAL各試験の副次的評価項目である生存期間中央値を過大評価してはならないこと申請資料概要の試験計画(丙C1)によれば,IDEAL各試験における主要評価項目は奏効率であり,生存期間は副次的評価項目の1つでしかない。 したがって,承認当時,イレッサの有効性の主たる評価対象となるものはあくまで奏効率であり,生存期間中央値の数値は副次的なものとして捉えるべきものである。 c 既存薬剤における生存期間中央値の報告との関係既存薬剤による非小細 の有効性の主たる評価対象となるものはあくまで奏効率であり,生存期間中央値の数値は副次的なものとして捉えるべきものである。 c 既存薬剤における生存期間中央値の報告との関係既存薬剤による非小細胞肺がんのセカンドライン患者を対象とした試験における生存期間中央値は,イレッサ承認当時で,2剤併用療法 ではイリノテカンとゲムシタビンで9か月,ゲムシタビンとドセタキセルで8.5か月,単剤でも,ドセタキセルで42週間,パクリタキセルで40週間であった。 いずれもIDEAL各試験の結果を上回るものであり,IDEAL各試験の生存期間中央値が既存薬剤の生存期間中央値と比べて高かったとはいえない。 d 審査報告書の生存期間中央値分析における比較対象の問題性(a) IDEAL1試験審査報告書(乙B4[枝番号3]54頁)のIDEAL1試験の生存期間中央値の評価では,比較対象として「JClinOncol18:2095-2103, 2000」という研究が用いられているが,当該研究は奏効率の比較対照となったドセタキセル試験である(前記(ア)c)。 前記(ア)cのとおり,歴史対照の問題,患者の背景因子の問題など単純比較をすることができない。特に,生存期間中央値は,患者の背景因子によって大きく変動するから,異なる試験の間での比較はほとんど意味を有しない。 また,腺がん患者が,一般に長期生存期間中央値を示すが(甲H51),ドセタキセル試験の腺がん患者の割合などの重要な患者背景は論文中には明記されておらず(丙H22[枝番号2]),生存期間中央値比較をするための前提情報を欠くというべきである。 以上より,IDEAL1試験の生存期間中央値から,イレッサの延命効果の存在を推認すべきではない。 (b) IDEAL2試験IDEAL2試験の生 比較をするための前提情報を欠くというべきである。 以上より,IDEAL1試験の生存期間中央値から,イレッサの延命効果の存在を推認すべきではない。 (b) IDEAL2試験IDEAL2試験の生存期間中央値評価は,「プラチナ系抗がん剤及びタキサン系抗がん剤治療後」のサードライン患者群におい て,「平均的な予後は4か月程度と推測される」という前提事実に依拠しているが(乙B4[枝番号3]54頁),審査報告書には上記前提事実の根拠が示されていおらず,背景因子や治療水準の推移等の影響など,生存期間中央値比較をするための前提情報を欠く。 したがって,IDEAL2試験の生存期間中央値評価が「臨床的に有意義である」というのは科学的根拠がない。 (ウ) QOLなどの指標を根拠として有効性を肯定することはできないこと旧ガイドラインでは,「第Ⅲ相試験で目標としたプライマリーエンドポイント(主要評価項目)で同等性が証明された場合は,他の特性,例えばQOLの改善(患者の肉体的苦痛の軽減,精神的満足度等)などの有用性が示される必要がある。」(乙D7〔15頁〕)と記載されている。この趣旨は,延命効果で同等性が示された場合において,さらに他の有効性が示される必要があるという趣旨であり,延命効果が統計学的に証明されなくても,他のQOL等の指標によって有効性を判断してもよいということではない。 したがって,臨床試験により延命効果を証明できていないのに,QOLなどの指標を根拠として有効性を肯定することはできないのである。 なお,延命効果で同等性が示される場合とは,標準的治療薬に対する同等性又は非劣性の証明をいうのであり,プラセボや緩和療法などとの同等性などではない。 (エ) 平成14年7月承認時におけるイレッサの有効性評価のまとめ以上によれば, とは,標準的治療薬に対する同等性又は非劣性の証明をいうのであり,プラセボや緩和療法などとの同等性などではない。 (エ) 平成14年7月承認時におけるイレッサの有効性評価のまとめ以上によれば,IDEAL各試験結果の奏功率を積極的に評価することが難しいのみならず,抗がん剤の第Ⅱ相試験であるIDEAL各試験結果の奏功率から延命効果を予測することはできない。また,対照群を置かないIDEAL各試験における生存期間中央値などをイレッサの有効性の根拠とすることもできない。 したがって,IDEAL1試験の日本人群の試験結果を考慮したとしても,イレッサが日本人の非小細胞肺がん患者の治療において有効性,すなわち延命効果を有しない薬剤である可能性を念頭に置くべき状況にあったというべきである。 イイレッサ承認後のイレッサの有効性評価(ア) V1532試験抗がん剤の第Ⅲ相試験では延命効果の確認が最も重要であり,本来,独立した2つの第Ⅲ相試験で延命効果が確認されなければ有効性が証明されなかったものとしなければならない。V1532試験はイレッサの承認条件とされた唯一の試験であり,その試験で延命効果を示すことができなかったのである。イレッサについては,本来2つの第Ⅲ相試験が要求されるにもかかわらず,V1532試験1つしか行っていない点をおくとしても,承認条件となった唯一の試験においてすら延命効果を示すことができなかったのであるから,有効性が証明されなかったものとしなければならない。 V1532試験では,イレッサのドセタキセルに対する非劣性が証明されなかったが,これはイレッサとドセタキセルの延命効果に差がないということを示すものではない。「臨床試験の統計解析に関するガイドライン」(甲D19)などでは,有意差がないことをもって直ちに同等 明されなかったが,これはイレッサとドセタキセルの延命効果に差がないということを示すものではない。「臨床試験の統計解析に関するガイドライン」(甲D19)などでは,有意差がないことをもって直ちに同等であるとするのは誤りであって,有意差がないことは統計的に同等であることを示すものではないことが指摘されているところである。 また,V1532試験において後治療の影響がイレッサに不利に働いたともいえない。後日発表された追加解析結果(甲C9)によれば,①ドセタキセル群で後治療としてイレッサが用いられたグループと,イレッサ群で後治療としてドセタキセルが用いられたグループを比較した結果,両群ほぼ同様の傾向で推移しているが,後半(22か月以降)で は,イレッサからドセタキセルに切り替えられた群の方が優れる傾向にあること,②後治療が行われなかった患者の全生存期間のサブグループ解析において,生存期間中央値ではイレッサ群が4.1か月,ドセタキセル群が8.7か月,1年生存率ではイレッサ群が12.2%,ドセタキセル群が27.0%であり,いずれもドセタキセル群が上回っており,一貫してドセタキセルの方が優れる傾向が認められること,③後治療として他の化学療法(ドセタキセル及びイレッサ以外)が行われたサブグループの解析結果においても,生存期間中央値ではイレッサ群が11.5か月,ドセタキセル群が17か月,1年生存率ではイレッサ群が47.5%,ドセタキセル群が61%であり,いずれもドセタキセル群が上回っており,一貫してドセタキセルの方が優れる傾向が認められ,後治療の影響によってドセタキセルに有利な結果が出たとはいえないのである。 (イ) INTACT各試験INTACT各試験では,イレッサ群は,生存期間中央値,1年生存率や無増悪生存期間中央値において,プ 影響によってドセタキセルに有利な結果が出たとはいえないのである。 (イ) INTACT各試験INTACT各試験では,イレッサ群は,生存期間中央値,1年生存率や無増悪生存期間中央値において,プラセボ群に対して非劣性であることを証明できず,イレッサは延命効果を証明することができなかった。それどころか,イレッサ群は,プラセボ群と比較して寿命短縮の傾向さえ見られた。 被告らは,INTACT各試験がイレッサの上乗せ効果を見るための試験であるから,INTACT各試験で有効性が否定されたからとしても,イレッサ単剤での有効性が否定されるものではないなど主張する。 しかし,上乗せ効果が示されなかった原因がイレッサ自体に延命効果がないことにある可能性は否定できない。 また,既存の抗がん剤との相互作用によってイレッサ群の延命効果に影響が生じたという根拠が明らかとなっていないことやイレッサ群に寿 命短縮傾向があったことを考慮すると,INTACT各試験がたとえ上乗せ試験であるとしても,イレッサ自体の延命効果に重大な疑問を生じさせるものであったというべきである。その後に行われたイレッサ単剤での第Ⅲ相試験がイレッサの延命効果を証明できていない状況を考慮すれば,INTACT各試験はイレッサ自体の延命効果を否定する重要な資料の1つとなるというべきである。 (ウ) ISEL試験a 試験結果についてISEL試験は,プラセボ群との対照試験であったため有意差が生じやすく,また症例数が相当数あったことから,イレッサの有効性について信頼性の高い臨床試験であったが,ISEL試験はイレッサの延命効果を示すことができなかったのである。 b サブグループ解析について(a) 『臨床試験のための統計的原則』など(甲P14,15,33)で指摘されるように,サ たが,ISEL試験はイレッサの延命効果を示すことができなかったのである。 b サブグループ解析について(a) 『臨床試験のための統計的原則』など(甲P14,15,33)で指摘されるように,サブグループ解析は,仮説としての意義しかなく,厳密な有効性を要求する薬剤の有効性の証拠にはならず,サブグループ解析は層別した効果の測定や交互作用解析に重点を置き,サブグループごとの検定結果は参考程度に考えるべきなのである。 (b) ISEL試験を受けた「東洋人」の中には,日本人は1人も入っていない。日本人がその対象に入っておらず,ブリッジング試験が行なわれていないイレッサにおいては,日本人の含まれない『東洋人』のサブグループ解析で統計学的に有意な生存期間の延長が見られたとしても,イレッサの有効性評価について積極的意味を有するものではない。 (c) ISEL試験のサブグループ解析では,各群の背景因子に重要な 差異があることが指摘される。 まず,一般に,非喫煙者は喫煙者に比較して生存期間が長くなるのが通常であるところ,ISEL試験のサブグループにおいて,東洋人非喫煙者と喫煙者とのプラセボ群同士で生存期間中央値を比較すると,プラセボ群の東洋人非喫煙者の生存期間中央値は4.5か月であるのに対し,東洋人喫煙者の生存期間中央値は6.3か月であり,非喫煙者の方が喫煙者よりも著しく短くなっている。 また,「診断から無作為割付けまでの期間」という予後に強く関係する背景因子が,プラセボ群よりもイレッサ群の方が長かったのである。診断からランダム化までの期間が長いということは,自然の経過が長いということを意味している可能性があり,長期に生存する傾向がある。したがって,イレッサ群に生存期間延長に有利となる偏りが存在したといえる。 以上のように,重 間が長いということは,自然の経過が長いということを意味している可能性があり,長期に生存する傾向がある。したがって,イレッサ群に生存期間延長に有利となる偏りが存在したといえる。 以上のように,重要な背景因子の偏りを調整しないデータでは,東洋人に対する効力の可能性を示す根拠とはならない。 (d) 被告会社は,東洋人というグループを含む人種によるサブグループ解析が,試験実施計画の当初から予定されていたと主張する。 しかし,以下のとおり,東洋人というサブグループ解析は当初から計画されたものではなく後付けの解析であった。 当初のISEL試験の試験計画では,「比較治療群について,以下のファクターを考慮に入れた長期的統計解析を行った。すなわち,性別(男vs 女),喫煙(喫煙歴なしvs 喫煙者または喫煙歴あり),前化学療法の失敗理由(化学療法に抵抗性を示したかそうでないか),化学療法の回数(1回vs2回),PeformanceStatus(0,1vs2,3)である」と記載されていたが,「人種」は記載されていなかった。その後,被告会社は実施計画書を改訂し,平成16年 12月9日には統計解析計画書の補遺を作成した(「サブグループ解析の計画日に関する資料(統計解析計画書)」甲C1)。上記統計解析計画書には,最終改訂された統計解析用ソフト「SAS」の内容が記載されている。「SAS」の内容によれば,解析対象のサブグループ8には,「Oriental」,すなわち「東洋人」が記載されている。 また,ISEL試験において,最初の患者が登録されたのは平成15年7月15日,最後の患者登録は平成16年8月2日,最終データ入力は平成16年10月29日であって,いずれも平成16年12月以前であり,ISEL試験の初回解析結果(延命効果が示せなかった)が公 15年7月15日,最後の患者登録は平成16年8月2日,最終データ入力は平成16年10月29日であって,いずれも平成16年12月以前であり,ISEL試験の初回解析結果(延命効果が示せなかった)が公表されたのは平成16年12月17日である。 したがって,延命効果の証明ができなかったことを知った被告会社が,様々なサブグループによる解析を行った結果,「Oriental」(東洋人)でたまたま有意差が検出されたことを知ったことから,試験結果の発表前に東洋人をサブグループとして追加したものというべきである。 (エ) SWOG0023試験a 試験結果についてSWOG0023試験では,イレッサ群(118人)の生存期間中央値が23か月であったが,プラセボ群(125人)の生存期間中央値が35か月であり,イレッサ群はプラセボ群よりも12か月も生存期間中央値が短くなった。 すなわち,イレッサは,プラセボ群と比較して,統計学的に有意に生存期間中央値が12か月間も短くなったということであり,イレッサには,延命効果があるどころか,寿命短縮効果があることが統計学上証明されたのである。 b 被告らは,SWOG0023試験でのイレッサ投与方法が我が国の医療現場で広く行われている標準的なイレッサ投与方法ではないなど主張する。 非放射線化学療法併用例においてSWOG0023試験で示された害作用が現れるおそれがないという科学的根拠は示されていないから,非併用例でも害作用が現れる危険性があることを考慮して安全性が評価されるべきである。 米国は,SWOG0023試験で行ったイレッサの投与方法だけを禁止したのではなく,新規患者への投与自体を禁止したのであり,イレッサの有用性を否定したからに他ならない。 また,放射線化学療法後にイレッサを投与するような 23試験で行ったイレッサの投与方法だけを禁止したのではなく,新規患者への投与自体を禁止したのであり,イレッサの有用性を否定したからに他ならない。 また,放射線化学療法後にイレッサを投与するような症例は少なくない。現にMも,放射線化学療法後に,必ずしもがんが増殖したわけでもないのにイレッサを投与されている。 (オ) INTEREST試験イレッサの承認条件では,「国内で」臨床試験が要求されているが(甲A1),INTEREST試験は欧米で実施され,被験者に日本人は含まれていない。日本国内で日本人を対象に行なわれ,承認条件とされたV1532試験では延命効果を証明できなかった以上,INTEREST試験がイレッサの有効性を根拠づける根拠となるものではない。 なお,INTEREST試験で対照群に用いられたドセタキセルは75mg/㎡であり,これはV1532試験で用いられたドセタキセルよりも25%多い量であったため,毒性もが強いと予想される。 割付療法使用期間の中央値は,イレッサ群が2.4か月,ドセタキセル群が2.8か月であったから,主要評価項目である全生存期間に対する各薬剤の直接的な影響は約3か月までのデータに現れる。投与開始から3か月までの間の1か月ごとの累積死亡率を検討すると,最初の1か 月間の死亡率は,ドセタキセル群が約1.8%,イレッサ群が約3. 7%であり,イレッサ群はドセタキセル群の約2倍であり有意に高かった。3か月目の累積死亡率は,ドセタキセル群が16.8%,イレッサ群が21.2%であり,イレッサ群はドセタキセル群に比べて有意に高かった。イレッサ群はドセタキセル群よりも死亡者数が34人多かった。 「INTEREST試験において,ドセタキセルに対する非劣性が証明された」というのは,後療法の影響による見かけの効果である に高かった。イレッサ群はドセタキセル群よりも死亡者数が34人多かった。 「INTEREST試験において,ドセタキセルに対する非劣性が証明された」というのは,後療法の影響による見かけの効果である。後療法の影響の比較的少ない初期の3か月で比較すると,イレッサは全生存期間及び無増悪生存期間で有意に劣っていると推定されるのである。 したがって,INTEREST試験は,イレッサの有効性を示す根拠とはならない。 (カ) IPASS試験a 試験結果についてIPASS試験の主要評価項目である無増悪生存期間は,前記(1)イ(イ)のとおり,全生存期間の代替評価項目にすぎず,有効性の指標としての位置付けは相当に低い。IPASS試験は,対象患者が1200例を越え,全生存期間についての統計学的な解析も十分可能で,全生存期間を主要評価項目とすることが可能であったと考えられるにもかかわらず,全生存期間を副次的な評価項目とするデザインが採られている。IPASS試験が全生存期間ではなく無増悪生存期間を主要評価項目とした理由は,全生存期間ではイレッサの優位性を証明できないと考えたからではないかと推測されるところである。 また,中間解析の結果では,無増悪生存期間では非劣性を示したが,真の評価項目である全生存期間では,解析途中であるとはいえ,両群で「同様の傾向」,つまり,ほとんど差が見られないとされたの である。 したがって,代替評価項目にすぎない無増悪生存期間の結果をもって,イレッサに有効性が認められたということはできない。 bIPASS試験の全生存期間について各群の割付療法使用期間の中央値は,イレッサ群が5.6か月(0.1~22.8か月,平均6.4か月),カルボプラチンとパクリタキセルの併用群が4.1か月(0.7~5.8か月,平均3. 存期間について各群の割付療法使用期間の中央値は,イレッサ群が5.6か月(0.1~22.8か月,平均6.4か月),カルボプラチンとパクリタキセルの併用群が4.1か月(0.7~5.8か月,平均3.4か月)であった。すなわち,4か月目以降は,カルボプラチンとパクリタキセルの併用群の約半数がカルボプラチンとパクリタキセルの併用療法を終了し,他の療法に切り替えた可能性がある(死亡例は後療法なしである)。また,イレッサ群でも開始後6か月経過時には,半数以上がイレッサの使用を終了した。したがって,各薬剤の直接的な影響はせいぜい4か月までのデータに現われていることになる。 また,総死亡の累積オッズ比は,4か月まではほぼ2前後であり,5か月目までは有意であるが,5か月を超えると1に近くなり有意でなくなる。4か月目における累積死亡者数は,カルボプラチンとパクリタキセルの併用群が49人,イレッサ群が82人と推定された。これは,カルボプラチンとパクリタキセルの併用群に比してイレッサ群で死亡が33人多いことを示すものであり,この33人は少なくともイレッサによる死亡といえる。カルボプラチンとパクリタキセルの併用群でも副作用死が生じているはずであるから,イレッサによる死亡は33人よりも多いはずである。 1か月毎に見てみると,イレッサ群の死亡オッズ比は,1か月までが約2.0(有意),2か月目が約1.6,3か月目が約3.1(有意)である。4か月目,5か月目では,総死亡はカルボプラチン・パクリタキセルの併用群とイレッサ群との間で有意差がなく,5か月を 超えると,イレッサ群の死亡が,カルボプラチンとパクリタキセルの併用群に比べて有意に少なくなった(オッズ比0.29)。 この結果,4か月目まで(0~4か月未満)のオッズ比と6か月目(5か月~6か月未満 ると,イレッサ群の死亡が,カルボプラチンとパクリタキセルの併用群に比べて有意に少なくなった(オッズ比0.29)。 この結果,4か月目まで(0~4か月未満)のオッズ比と6か月目(5か月~6か月未満)のオッズ比を計算し,それぞれを比較すると,6か月目のオッズ比に対して4か月目までのオッズ比は,総死亡では6.2倍であった。すなわち,4か月目までと6か月目ではハザード比が6倍も異なる。全生存では,全期間のハザード比が一定であることを条件として成り立っているCoxの比例ハザードモデルによるハザード比の計算は成立しないということを示している。これは全生存期間だけではなく,無増悪生存期間についても同様である。 以上より,IPASS試験の全生存期間は,イレッサの有効性の根拠とはなり得ない。 c 承認条件(「国内で実施」)との関係IPASS試験の対象患者は,日本人が233例(約20%)しかなく,V1532試験の半分以下である。日本人以外のアジア人が80%を占める試験では,承認条件(「国内で実施」)を満たすことにならない。 IPASS試験での患者適格基準は,化学療法未治療であることに加え,非喫煙者の腺がん患者に限られているから,イレッサの適応である「手術不能又は再発の非小細胞肺がん」からすれば,相当に患者範囲が狭い。 したがって,IPASS試験は,日本におけるイレッサの有効性の根拠とはならないというべきである。 (キ) 個別症例個別症例は,出版・発表バイアス(結果がうまくいった症例は出版・発表し,結果がうまくいかなかった症例は出版・発表しない傾向にある ことをいう。),選択バイアス(ある症例や患者群を選択するにあたって,選択する集団や症例が母集団を正しく代表していないときに,そこで用いられる薬剤や治療法の評価を誤ってしまうこ 向にある ことをいう。),選択バイアス(ある症例や患者群を選択するにあたって,選択する集団や症例が母集団を正しく代表していないときに,そこで用いられる薬剤や治療法の評価を誤ってしまうことをいう。),及び観察バイアス(ある症例の観察者が,薬剤や治療法とその結果の関係について予断を有している場合に生じるバイアスのことをという。)などにより,予断が避けられず,証拠価値がない又は著しく低いというべきである。 したがって,医薬品の有効性は,個別症例を考慮するべきではなく,臨床試験の結果によって評価されるべきである。 (ク) まとめ以上のとおり,承認条件となっていたV1532試験だけでなく,その他の第Ⅲ相試験においてもイレッサの延命効果を示すことができず,イレッサに有効性がないことがさらに明らかとなった。 (被告会社の主張)ア平成14年7月承認時の有効性評価(ア) IDEAL1試験a 全患者についてIDEAL1試験の主要評価項目である奏功率(治験医師判定)は,全患者群(イレッサ250mg/日群)で18.4%であったが,セカンドラインの標準的治療薬であるドセタキセルの奏功率が約10%であったことと比較しても,高いものであったといえる。 病勢コントロール率は50%を超えた。がんは積極的な治療をしなければ増悪するから,イレッサを投与された患者の50%以上でがんの増悪が見られなかったという結果は,イレッサが高い抗腫瘍効果を有すると評価できる。そして,抗腫瘍効果が高いことは,イレッサが非小細胞肺がん患者に対して延命効果及びQOL改善効果を有することを強く 推認させる。 無増悪生存期間中央値は83日であり,イレッサの投与を受けた半数の患者が約3か月間以上もがんを進行させずに生存できたことを示している。がんは L改善効果を有することを強く 推認させる。 無増悪生存期間中央値は83日であり,イレッサの投与を受けた半数の患者が約3か月間以上もがんを進行させずに生存できたことを示している。がんは治療をしなければ増悪するので,上記結果はイレッサによってがんの進行が抑えられたものと考えられ,イレッサの延命効果を示唆する結果であると評価できる。 また,割付日から4か月が経過した時点の患者の生存期間中央値も検討されたが,この時点では半数の患者が死亡に至っておらず,生存期間中央値の算出はできなかった。イレッサの投与をうけた患者の生存曲線(丙C1〔475頁ト-13〕)を見ると,生存曲線は時間の経過とともに下降していくが,下降の程度が緩やかである。この結果も,イレッサが延命効果を有することを示唆するものということができる。 加えて,QOL改善率は約20%ないし24%,症状改善率は40%を超えた。IDEAL1試験の対象患者は末期の非小細胞肺がん患者であり,がんの末期には患者に多大な苦痛を与える様々な症状が発症し患者のQOLが著しく害されることに鑑みれば,症状改善及びQOL改善は患者にとって特に重要である。 b 日本人についてイレッサ250mg/日群の奏効率(治験医師判定)は27.5%であり,セカンドラインの非小細胞肺がんに対するドセタキセルの奏効率(前記a)の約3倍であって,最も効果が高いとされるファーストラインの2剤併用療法の奏効率(約30%~40%)と比較しても,これに近い値であった。 病勢コントロール率は約70%で,イレッサが日本人の非小細胞肺がん患者に対して高い抗腫瘍効果を示すものであり,上記結果は,イレッサの延命効果とQOL改善効果を強く推認させるものである。 生存期間中央値は414日(13.8か月),1年生存率は 胞肺がん患者に対して高い抗腫瘍効果を示すものであり,上記結果は,イレッサの延命効果とQOL改善効果を強く推認させるものである。 生存期間中央値は414日(13.8か月),1年生存率は57%であったが,平成14年7月当時のドセタキセルの生存期間中央値が5. 9か月~7.5か月,1年生存率が29%~37%であったことと比較して,イレッサがドセタキセルの試験成績を上回る結果であった。ファーストラインの2剤併用療法でさえ,生存期間中央値が1年前後,1年生存率が50%とされていることと比較しても,IDEAL1試験の日本人群の結果は2剤併用療法の実績と近い値を示している。 無増悪期間中央値が114日(3.8か月)で,半数の日本人患者は,約4か月以上もの間,がんが進行しない状態で生存できたことを示している。 上記各結果は,イレッサが日本人の非小細胞肺がん患者に対して高い延命効果を有するとの評価が可能である。 加えて,症状改善率は48.5%であり,イレッサを服用した約半数の患者で症状改善が得られたのである。症状改善はQOLの重要な要素であることから,QOL改善効果も推認される。症状改善が得られた患者(31例)の生存期間中央値は453日(15.1か月)であり,症状改善が得られなかった患者の生存期間中央値(309日・10.3か月)を大きく上回っており,症状改善ないしQOL改善と延命効果とが相関することを示す結果ということができる。 なお,原告らは,IDEAL1試験の日本人群の奏効率が,患者の背景因子の偏りを調整すれば,外国人群の低い数値並みとなっていた可能性があるなど主張する。 しかし,日本人のセカンドラインの非小細胞肺がん患者を対象に承認後に実施された第Ⅲ相試験であるV1532試験では,イレッサ群の奏効率が22.5%であり,ID なっていた可能性があるなど主張する。 しかし,日本人のセカンドラインの非小細胞肺がん患者を対象に承認後に実施された第Ⅲ相試験であるV1532試験では,イレッサ群の奏効率が22.5%であり,IDEAL1試験の日本人患者を対象とした解析結果(奏功率27.5%)と一貫しており,IDEAL1試験の結 果は日本人のセカンドラインの非小細胞肺がん患者に対する奏効率として信頼性のある結果であったことが事後的にも明らかとなった。また,現在では,イレッサはEGFR遺伝子変異のある患者に効果が高く,EGFR遺伝子変異は外国人よりも日本人に高頻度で発現していることが判明しているため,イレッサが外国人よりも日本人に高い効果を有することは,肺がん治療医の間では周知の事実である。したがって,日本人群で外国人群よりも奏効率が高かったのは,背景因子の偏りなどではなく,イレッサは外国人よりも日本人に対してより高い効果を有することによるものであるから,原告らの主張には理由がない。 c 外国人群についてIDEAL1試験の外国人群の結果では,奏功率の信頼区間の下限値が5%を下回ってはいるが,IDEAL1試験よりも,約2倍の外国人症例数が含まれ,かつ化学療法の効きにくい患者が多く含まれるIDEAL2試験のイレッサ250mg/日群における奏効率の信頼区間は6.2%から19.7%であり,5%を超えた。 したがって,IDEAL1試験の全患者及び日本人患者の結果並びにIDEAL2試験の結果を一切考慮せず,IDEAL1試験の外国人患者の結果のみからIDEAL1試験全体について閾値有効率における有効性を証明できなかったということは相当ではない。 (イ) IDEAL2試験aIDEAL2試験の対象患者は,イレッサの前にプラチナ製剤,ドセタキセルのいずれについても いて閾値有効率における有効性を証明できなかったということは相当ではない。 (イ) IDEAL2試験aIDEAL2試験の対象患者は,イレッサの前にプラチナ製剤,ドセタキセルのいずれについてもすでに投与されたことがあり,プラチナ製剤及びドセタキセルを含めて2種類以上の化学療法を受けたが,病勢進行等の理由により前治療を終了した患者である。 プラチナ製剤を含む2剤併用療法はファーストラインの標準的治療法であり,ドセタキセルはセカンドラインの標準的治療法であるところ, IDEAL2試験は,上記標準的化学療法によっては治療ができず,もはや既存の抗がん剤による治療の選択肢がほとんどない患者を対象にした試験なのである。 よって,IDEAL2試験の対象患者は,IDEAL1試験の対象患者よりも化学療法が効きにくくなった状態の患者である。 bIDEAL2試験のイレッサ250mg/日群の奏効率は11.8%であり,セカンドラインにおけるドセタキセルの奏効率約10%(前記(ア)a)と同等以上であった。IDEAL2試験の対象患者がサードライン以降の化学療法の治療の選択肢がほとんどない患者であることに鑑みれば,11.8%という奏効率は低いものではない。 病勢コントロール率は42.2%であり,対象患者はがんの増悪等により前治療を続けられなくなった患者であることからすると,イレッサによってがんの進行が抑えられたものと評価できる。 がんの増悪等により前治療を終了した患者を対象に無増悪期間中央値が59日であったということは,半数の患者がイレッサにより約2か月以上もがんの増悪が抑えられ生存し得たことを示すものである。生存期間中央値は185日(6.1か月)であり,対象患者が他に治療の選択肢のないサードラインの患者であり,平均的な予後が4か月程度と推測 月以上もがんの増悪が抑えられ生存し得たことを示すものである。生存期間中央値は185日(6.1か月)であり,対象患者が他に治療の選択肢のないサードラインの患者であり,平均的な予後が4か月程度と推測されることからすれば,イレッサによって一定の延命が得られた結果と評価し得る。 加えて,症状改善率は43.1%,QOL改善率は33.3%~34.3%であった。症状改善を認めた患者(84例)の生存期間中央値は247日,無増悪期間中央値は118日であったのに対し,症状改善を認めなかった患者(132例)の生存期間中央値は113日,無増悪期間中央値は31日であった。症状改善を認めた患者は改善を認めなかった患者と比較して病勢進行までの期間及び生存期間が長いと考えら れ,IDEAL1試験と同様,症状改善ないしQOL改善と延命効果との相関性を示した結果といえる。 (ウ) 第Ⅰ相試験(V1511試験)における著効例抗がん剤の第Ⅰ相試験には,既存の治療法ではもはや治療ができないがん患者が参加する(V1511の対象患者の選択基準,別紙9【第Ⅰ・Ⅰ/Ⅱ相臨床試験概要・結果一覧】のうち国内第Ⅰ相試験(V1511試験)の対象患者欄)。 しかし,V1511試験では,非小細胞肺がん患者が23例含まれていたが,このうち5例の患者に腫瘍縮小効果が認められたのである。腫瘍縮小効果の得られた5例中3例では,1年半を超える長期にわたり腫瘍縮小効果が得られた。 イレッサは,他に有効な治療法のない第Ⅰ相試験の非小細胞肺がん患者に対し,高い腫瘍縮小効果及び長期にわたる生存期間の延長を示したのである。 (エ) 平成14年7月承認時における有効性評価のまとめ以上より,イレッサは,治験において,奏効率,症状改善率,QOLを始めとする各指標において有効性を示した。また, の延長を示したのである。 (エ) 平成14年7月承認時における有効性評価のまとめ以上より,イレッサは,治験において,奏効率,症状改善率,QOLを始めとする各指標において有効性を示した。また,我が国における承認との関係では,対象患者の半数が日本人であるIDEAL1試験の結果は特に重要であるが,IDEAL1試験において,イレッサは日本人に対して高い有効性を示した。 したがって,イレッサには承認時から非小細胞肺がんに対して有効性があったといえる。 (オ) 原告らの主張に対する主な反論a 抗がん剤の奏功率の確認に用いられる基準について旧ガイドライン(乙D7)では,期待有効率以上の効果がなければ有用な抗悪性腫瘍薬としては認められないことになるとされ,期待有効 率は一般的に部分奏功(PR)以上が20%以上を目標とされるが,腫瘍の種類,対象となる患者によっては異なることもあり得るので,その場合はその設定根拠を明らかにすることが定められている。 旧ガイドラインは,がん種や対象患者を問わず抗がん剤が承認されるためには試験で20%以上の奏効率が認められなければならないと定めているのではなく,承認に必要な奏効率は腫瘍の種類や対象患者によって異なることを明らかにしているのである。 イレッサ承認後に我が国で承認された非小細胞肺がん抗がん剤の奏効率(アリムタ:18.5%,タルセバ:28.3%)と比較しても,非小細胞肺がんの抗がん剤として承認されるためには20%の奏功率が必要であるというのは非現実的で理由がない。 b ドセタキセル試験(Shepherd 試験等)との比較(a) 過去の臨床試験結果と比較する場合には,単純比較により誤った結論を導く可能性があるとはいえ,過去の臨床試験結果と比較検討は一切行うべきでないとはいえない。 pherd 試験等)との比較(a) 過去の臨床試験結果と比較する場合には,単純比較により誤った結論を導く可能性があるとはいえ,過去の臨床試験結果と比較検討は一切行うべきでないとはいえない。 治験薬に関する第Ⅱ相試験の結果を過去の臨床試験結果と比較することは,第Ⅲ相試験のような厳密な比較ではないため,注意して評価する必要があるが,第Ⅱ相試験では比較対照群がないため,過去の臨床試験結果と比較して検討する必要がある。 (b) ドセタキセル試験におけるドセタキセルの奏効率が他の臨床試験におけるドセタキセルの奏効率と比較して低いものだったとしても,Shepherd の論文(丙H22[枝番号2])によれば,「プラチナ製剤で治療した非小細胞肺がん患者を対象にドセタキセル単剤療法を検討した7つの第Ⅱ相試験」「では,全体の奏効率は14~24%であった」とされており,IDEAL1試験の日本人患者を対象にした奏効率27.5%はドセタキセルの7つの第Ⅱ相試験をいずれも上回って いる。 (c) 第Ⅲ相試験であるV1532試験では,イレッサの奏効率は,IDEAL1試験の日本人の奏効率と同じく20%を超え,ドセタキセルの奏功率を上回るものであり,V1532試験の結果はIDEAL1試験の結果の信頼性を一層裏付けるものといえる。 c 既存の承認薬剤との比較原告らが挙げる試験における奏効率(前記原告らの主張ア(ア)d)は,症例数が少なく信頼性がない上,患者背景など詳しい情報が全くないため適切な比較検討の前提を欠く。 また,併用試験の結果を,イレッサ単剤の試験であるIDEAL1試験の結果と比較するのは不当である。IDEAL1試験におけるイレッサの日本人患者に対する奏効率は,既存の承認薬剤の単剤の試験結果を上回っていた。 よって,イレッサの奏効 の試験であるIDEAL1試験の結果と比較するのは不当である。IDEAL1試験におけるイレッサの日本人患者に対する奏効率は,既存の承認薬剤の単剤の試験結果を上回っていた。 よって,イレッサの奏効率が既存の承認薬剤の奏効率と比べて高いとはいえないという原告らの主張には理由がない。 dIDEAL各試験の生存期間中央値の評価第Ⅱ相試験には比較対照群がないことから,他の試験の結果と比較して当該第Ⅱ相試験の結果を検討・評価することが必要であり,他の試験との比較検討には一定の価値があることから,対照群がないことを理由に生存期間について評価できないとまではいえない。 また,被告会社は,IDEAL各試験の評価するにあたり,副次的評価項目である生存期間中央値の結果だけをもってイレッサに延命効果があると主張しているものではない。非小細胞肺がんの有効性の評価にあたっては,主要評価項目が最も重要であるが,その他の副次的評価項目を併せ考慮することによって,有効性について適正に評価することが可能となる。IDEAL各試験においてイレッサは,抗がん剤の効果が得 られにくいセカンドライン以降の非小細胞肺がん患者に対し,信頼性のある延命効果の代替評価項目としての奏効率について高い結果を示し,特に日本人の患者に対しては,単剤で27.5%という高い奏効率を示したことや,高い症状改善率やQOL改善率が得られたことなども考慮して,イレッサには延命効果があると考えられるのである。 イイレッサ承認後のイレッサの有効性評価(ア) 第Ⅲ相試験の評価方法第Ⅲ相試験の結果は,投与方法,比較対象及び対象患者などの試験デザインに即して検討し評価する必要がある。 非小細胞肺がんは化学療法が効きにくいがんであり,延命効果が統計学的に証明された抗がん剤はほとんどなく, 結果は,投与方法,比較対象及び対象患者などの試験デザインに即して検討し評価する必要がある。 非小細胞肺がんは化学療法が効きにくいがんであり,延命効果が統計学的に証明された抗がん剤はほとんどなく,非小細胞肺がん抗がん剤の延命効果(全生存期間や無増悪生存期間)を統計学的に証明することは容易ではないから,ある臨床試験で延命効果の証明に至らなかったとしても,直ちに当該抗がん剤には延命効果がないと判断すべきではない。複数の臨床試験結果を総合的に検討し,延命効果だけでなく,奏効率やQOLなどの他の評価項目も併せて検討する必要がある。 (イ) 第Ⅲ相試験の評価a 被告会社が実施した第Ⅲ相試験(a) V1532試験及びINTEREST試験ⅰ 両試験の結果に関する評価INTEREST試験では,主要評価項目の全生存期間については,イレッサのドセタキセルに対する非劣性が統計学的に証明された。また,副次的評価項目である無増悪生存期間,奏効率,QOL改善率及び症状改善率についても,イレッサはドセタキセルと同等ないし同等以上の結果を示した。したがって,INTEREST試験によって,主要評価項目を含めて,イレッサのドセタキセルに対 する非劣性が証明されたのである。 これに対して,V1532試験では,主要評価項目の全生存期間については,イレッサのドセタキセルに対する非劣性が統計学的には証明されなかった。副次的評価項目については,奏効率,QOL改善率及び治療成功期間ではイレッサがドセタキセルを有意に上回っており,無増悪生存期間,病勢コントロール率及び症状改善率についても,イレッサとドセタキセルとの間に差がないという結果であった。すなわち,副次的評価項目では全ての評価項目についてイレッサはドセタキセルと同等以上であったが,主要評価項目 ル率及び症状改善率についても,イレッサとドセタキセルとの間に差がないという結果であった。すなわち,副次的評価項目では全ての評価項目についてイレッサはドセタキセルと同等以上であったが,主要評価項目の全生存期間についてはイレッサのドセタキセルに対する非劣性が統計学的には証明されなかったのである。 ⅱ 両試験の全生存期間の結果が異なった原因(ⅰ) 後治療の不均衡全生存期間は,割付時から患者が死亡するまでの期間を測定するため,全生存期間は割付後に行われた全ての治療の影響を受けることになる。被験薬群に割り付けられた患者に対し後治療として対照薬を用いたり,反対に,対照薬群に割り付けられた患者に対し後治療として被験薬を用いることもあり(クロスオーバー),クロスオーバーが多いと,例えば被験薬群についていえば,被験薬群の結果は被験薬の効果なのか対照薬の効果なのか判別できず,評価が難しくなる。 V1532試験では,イレッサ群の患者のうち後治療としてドセタキセルを投与された患者の割合は約36%であったのに対して,ドセタキセル群の患者のうち後治療としてイレッサを投与された患者の割合は約53%であり,後治療に明らかな不均衡が生じていたのである。これに対し,INTEREST試験では,イ レッサ群の患者のうち後治療としてドセタキセルを投与された患者の割合は約31%であったのに対して,ドセタキセル群の患者のうち後治療としてイレッサ(EGFRチロシンキナーゼ阻害剤のタルセバを含む。)を投与された患者の割合は約36%であり,両群で後治療の均衡がとれていた。 以上のように,V1532試験では両群の後治療の不均衡のために,各群の結果が対照薬の効果を正しく反映しているとはいいがたく,全生存期間の評価は難しいものとなっている。これに対して,INT いた。 以上のように,V1532試験では両群の後治療の不均衡のために,各群の結果が対照薬の効果を正しく反映しているとはいいがたく,全生存期間の評価は難しいものとなっている。これに対して,INTEREST試験では,両群の後治療の均衡が取れており,各群の結果は対照薬の効果を正しく反映していると考えられ,その結果,全生存期間についてイレッサのドセタキセルに対する非劣性が証明されたのである。したがって,全生存期間について,V1532試験とINTEREST試験で結果が異なった主な原因には,V1532試験における両群の後治療の不均衡が考えられる。 (ⅱ) 症例数の差異臨床試験における統計学的な検出力は,臨床試験の症例数が多いほど高まり,統計学的な証明が達成されやすくなる。 V1532試験の症例数は490例(各群245例)であったのに対し,INTEREST試験の症例数は約3倍の1466例(各群733例)であった。 上記のとおり,両試験では症例数が大きく異なりることから,統計学的な検出力の差があったのであるから,これが両試験の結果に影響したと考えられる。 ⅲ V1532試験とINTEREST試験の結果を併せて評価するべきであること V1532試験とINTEREST試験はいずれもイレッサのドセタキセルに対する非劣性の証明を目的とする点で同じデザインの試験である。 V1532試験は日本人を,INTEREST試験は外国人を対象にした試験であるが,症例数はINTEREST試験がV1532試験の約3倍あり,INTEREST試験の方が統計学上の検出力が優れており,かつ,全生存期間の結果に影響を与える後治療について,INTEREST試験では均衡がとれていたのに対し,V1532試験では不均衡が生じていたのである。 以上によれば,我 学上の検出力が優れており,かつ,全生存期間の結果に影響を与える後治療について,INTEREST試験では均衡がとれていたのに対し,V1532試験では不均衡が生じていたのである。 以上によれば,我が国におけるイレッサの有効性を判断する上でV1532試験の結果のみを検討しINTEREST試験を考慮しなくてよいということにはならず,V1532試験とINTEREST試験の結果を併せて検討すべきであるといえる。 なお,原告らの指摘するV1532試験とINTEREST試験で使用したドセタキセルの用量の差異は,推奨投与量が,欧米では75mg/㎡とされているのに対し,日本では60mg/㎡とされていることによるものであるから,INTEREST試験の結果の信頼性に影響するものではない。 (b) ISEL試験ⅰ ISEL試験の結果に関する評価(ⅰ) 全患者を対象とした試験結果全患者(セカンドライン又はサードラインの非小細胞肺がん患者)を対象にした試験結果では,実施計画書で定められた主要解析法(ログランク(LogRank)検定)によれば,イレッサが,プラセボに対し,全生存期間の延長を統計学的な有意差をもって証明することができなかった。 しかし,全患者を対象にした試験結果では,全生存期間は,イレッサ群の生存曲線がプラセボ群よりも上にあること,生存期間中央値及び1年生存率ともにイレッサ群の方が上回っていること,P値は0.087であり有意差を示す0.05に近いこと,ハザード比は0.89でありイレッサ群の方がプラセボ群よりも死亡の危険性が11%少ないこと,実施計画書で補助的解析法とされたコックス(Cox)回帰分析によって解析した結果ではP値が0.02となり有意差を示した(有意水準0. 05)ことに鑑みれば,イレッサの全生存期間の延長 1%少ないこと,実施計画書で補助的解析法とされたコックス(Cox)回帰分析によって解析した結果ではP値が0.02となり有意差を示した(有意水準0. 05)ことに鑑みれば,イレッサの全生存期間の延長の傾向を示すものと評価される。 また,副次的評価項目は,奏効率,治療変更までの期間,症状改善率では,いずれもイレッサ群が統計学的有意差をもってプラセボ群を上回り,QOL改善率は,わずかに統計学的有意差には及ばなかったが(P値=0.068),イレッサ群の方が優れているという結果であった。 なお,前記(1)被告会社の主張イのとおり,第Ⅲ相試験で全生存期間の延長が統計学的に証明されなければ当該抗がん剤には延命効果がないということにはならず,全生存期間ではイレッサの延命効果の傾向を示し,副次的評価項目ではイレッサの方が優れた結果を出しており,サブグループ解析(後記(ⅱ))やタルセバ(タルセバは,イレッサと同様にEGFRチロシンキナーゼ阻害剤である。一般名はエルロチニブという。)の第Ⅲ相試験(BR.21試験(別紙26【タルセバ試験概要・結果】参照))の結果なども併せ考慮すれば,イレッサには延命効果がないとはいえない。 (ⅱ) 東洋人群を対象とした試験結果 全患者のうち東洋人患者342例を対象に行われたサブグループ解析(以下「東洋人サブグループ解析」という。)の結果,ログランク検定及びコックス回帰分析のいずれの解析方法によっても,主要評価項目の全生存期間では,イレッサ群はプラセボ群を統計学的に有意に上回った(層調整ログランク検定:P値=0.046,ログランク検定:P値=0.012,コックス回帰分析:P値=0.010)。東洋人サブグループ解析の結果は,東洋人に対して,イレッサが有意な生存期間の延長を示すことを強く示唆する結果とい 0.046,ログランク検定:P値=0.012,コックス回帰分析:P値=0.010)。東洋人サブグループ解析の結果は,東洋人に対して,イレッサが有意な生存期間の延長を示すことを強く示唆する結果といえる。 また,副次的評価項目である奏効率,治療変更までの期間,症状改善率では,いずれもイレッサ群がプラセボ群を有意に上回っており,QOL改善率は,有意差ではなかったものの,イレッサ群が上回っていた。 ⅱ 東洋人サブグループ解析(ⅰ) サブグループ解析の結果は有効性の判断資料となり得ることサブグループ解析とは,ある臨床試験の対象患者の一部の集団について取り出して解析することをいう。サブグループ解析で肯定的なデータが得られた場合は,通常,当該集団を対象に比較臨床試験を行うと肯定的なデータが得られることが示唆されるというものである。 そのため,サブグループ解析の結果は,主要な解析方法に基づく結果とともに,医薬品の有効性及び安全性の検討において重要な情報であるというべきである。ただし,サブグループ解析の結果は,これを全患者を対象に行った場合の解析結果と同等には評価できないため,サブグループ解析の結果の評価は慎重に行わなければならない。 なお,ISEL試験では,人種別のサブグループ解析の実施は試験開始当初から試験計画に含まれていたものである(丙K3[枝番号3]〔5頁2番目の「☆スライド」4行目ないし6行目〕)から,後付けの解析方法ではない。 (ⅱ) 東洋人サブグループ解析の結果の証拠価値イレッサが東洋人に対して効果が高い理由は現在では明らかになっており,東洋人サブグループ解析の結果でたまたま有意差が検出されたものではない。現在,イレッサはEGFR遺伝子変異のある非小細胞肺がん患者に対して特に効果が高いことが明らかとさ 在では明らかになっており,東洋人サブグループ解析の結果でたまたま有意差が検出されたものではない。現在,イレッサはEGFR遺伝子変異のある非小細胞肺がん患者に対して特に効果が高いことが明らかとされているが,EGFR遺伝子変異の発現する割合は,西洋人よりも日本人を中心とする東洋人(アジア人)の方が高いことが明らかとなっているのである(ただし,上記知見は,ISEL試験の計画より後の平成16年4月に世界で初めて明らかとなった。)。 また,東洋人サブグループ解析の結果によって示された東洋人に対するイレッサの有効性は,平成20年9月に結果が公表されたIPASS試験によって証明された。すなわち,IPASS試験は東洋人の非小細胞肺がん患者を対象にした第Ⅲ相試験であるが,IPASS試験の結果,イレッサは東洋人に対してファーストラインの標準的化学療法に優る有効性が統計学的に証明されたのである。 以上のように,東洋人サブグループ解析の結果は,イレッサの効果予測因子であるEGFR遺伝子変異が東洋人に対して高頻度で発現しているという知見と整合し,後にIPASS試験により結果の正当性が証明されたのであるから,東洋人サブグループ解析は信頼性のあるデータであるというべきである。 (ⅲ) ISEL試験の東洋人には日本人が含まれておらず,日本人に対するイレッサの有効性を示すものではないとの原告らの主張に対する反論イレッサは,EGFR遺伝子変異のある患者に対して特に効果が高いとされており,EGFR遺伝子変異は西洋人よりも東洋人において高頻度で発現していることが現在では明らかとなっている。上記知見によれば,東洋人サブグループ解析の結果は,EGFR遺伝子変異の発現頻度が東洋人では高いためにイレッサが高い有効性を示したものと評価することができる。 いることが現在では明らかとなっている。上記知見によれば,東洋人サブグループ解析の結果は,EGFR遺伝子変異の発現頻度が東洋人では高いためにイレッサが高い有効性を示したものと評価することができる。 そうすると,東洋人サブグループ解析の結果に基づいて,EGFR遺伝子変異の発現頻度が高いとされる日本人に対してもイレッサは高い有効性を示すと推認することは,科学的に合理的である。また,IPASS試験では日本人に対する有効性が証明されており,上記結論を裏付けるものである。 (ⅳ) 東洋人サブグループ解析には患者の重要な背景因子の不均衡があり,結果の信用性が低いとの原告らの主張に対する反論原告らが指摘する「東洋人非喫煙者と喫煙者とのプラセボ群同士で生存期間中央値」が違う点については,原告らは患者の背景因子に差があったことを指摘するのみで,上記違いが結果にいかなる影響を与え,これにより東洋人サブグループ解析の結果が信頼性を欠くことになるのか,全く説明がない。 加えて,原告らが主張する「診断からランダム化までの期間」の偏りとは,東洋人全体ではなく東洋人の非喫煙者に関するものである。そして,東洋人全体で見た場合には,「診断からランダム化までの期間」は両群で均衡がとれている(イレッサ群35%,プラセボ群30%)。 したがって,原告らが主張する東洋人サブグループの患者の背景因子の不均衡はく,仮に原告らの主張するように東洋人サブグループの背景因子について一部差があったとしても,これらは東洋人サブグループ解析結果全体に影響を与えるものではない。 (c) IPASS試験ⅰ IPASS試験の結果に関する評価IPASS試験の主要評価項目である無増悪生存期間では,無増悪生存期間中央値は,カルボプラチンとパクリタキセルの併用療法群(併 。 (c) IPASS試験ⅰ IPASS試験の結果に関する評価IPASS試験の主要評価項目である無増悪生存期間では,無増悪生存期間中央値は,カルボプラチンとパクリタキセルの併用療法群(併用療法群)が5.8か月,イレッサ群が5.7か月でありほとんど差がなかった。これに対し,12か月無増悪生存率は,化学療法群が6.7%,イレッサ群は24.9%であったが,これは,割付日から12か月経過後もがんが増悪せず生存できた患者の割合がイレッサ群において約4倍も多かったことを示している。上記結果は,イレッサの高い抗腫瘍効果と延命効果を示すものといえる。IPASS試験はイレッサの上記併用療法に対する非劣性を証明することを目的としていたが,同時に優位性をも確認できるデザインになっていたところ,イレッサは非劣性のみならず,優位性をも統計学的に証明したのである。 また,すべて副次的評価項目では,イレッサは,上記併用療法と同等以上の結果を示した。すなわち,全生存期間(早期解析(中間解析))及び症状改善率では両群に差はなく,奏効率及びQOL改善率ではイレッサが有意に優れているという結果であった。 以上より,IPASS試験は,ファーストライン治療における非小細胞肺がんの化学療法の中で最も効果が高い治療法とされて いるカルボプラチンとパクリタキセルの併用療法に対して,イレッサが単剤でこれを上回ったというものであるから,イレッサの有効性を証明するものに他ならない。さらに,イレッサは,各試験結果や承認後の臨床現場における投与経験などから,腺がん患者や非喫煙者に対して特に効果が高いと考えられており,IPASS試験によって統計学的に証明された。 ⅱ EGFR遺伝子変異のある患者を対象とした結果に関する評価全患者を対象にした場合の無増悪生存期間 非喫煙者に対して特に効果が高いと考えられており,IPASS試験によって統計学的に証明された。 ⅱ EGFR遺伝子変異のある患者を対象とした結果に関する評価全患者を対象にした場合の無増悪生存期間のハザード比は0. 74であり,EGFR遺伝子変異のある患者を対象にした場合のハザード比は0.48であった。上記結果は,全患者を対象にした場合には,イレッサ群の方が化学療法群よりも肺がんによる死亡ないし肺がん増悪の危険が26%減少するのに対し,EGFR遺伝子変異のある患者を対象にした場合には,上記危険が52%(全患者を対象とした場合の2倍)減少することを意味している。 IPASS試験におけるEGFR遺伝子変異のある患者に対するイレッサ群の奏効率は71.2%であった。上記奏功率は,最も効果が高いとされるファーストラインの2剤併用療法の奏効率(約30%ないし40%)の約2倍であり,EGFR遺伝子変異のある患者に対するイレッサの高い有効性を強く推認させるものである。 ⅲ IPASS試験の全生存期間についてIPASS試験は標準的化学療法を比較対照群とする非劣性試験であり,有効性の確立したファーストラインの標準的化学療法であるカルボプラチンとパクリタキセルの併用療法に対して非劣性が証明されれば,イレッサの有効性が証明されたと解すること ができるのである。 したがって,全生存期間では,イレッサ群と併用療法群とは「同様の傾向」が見られたことからすると(厳密には生存期間中央値はイレッサ群が1.3か月上回っていた),イレッサは上記併用療法に対して非劣性であるというべきである。 ⅳ 承認条件や対象患者との関係について(ⅰ) IPASS試験が「承認条件」の試験であるか否かは,イレッサの有効性の有無の判断とは関係がない。したがって,仮に て非劣性であるというべきである。 ⅳ 承認条件や対象患者との関係について(ⅰ) IPASS試験が「承認条件」の試験であるか否かは,イレッサの有効性の有無の判断とは関係がない。したがって,仮に原告らが,IPASS試験はイレッサの「承認条件」の試験ではないから,IPASS試験の結果をもってイレッサの有効性を判断してはならないと主張するのであれば,主張自体失当である。 (ⅱ) IPASS試験は日本人のみを対象とした試験ではない。 しかし,イレッサはEGFR遺伝子変異のある患者に対して高い効果を示すところ,EGFR遺伝子変異は日本人を中心とした東洋人に多く発現することが明らかとなっている。よって,効果予測因子であるEGFR遺伝子変異を有する東洋人を対象にした臨床試験でイレッサの高い有効性が示されたとすると,その結果は同じ効果予測因子を有する日本人に対しても妥当すると考えるのが合理的である。 (ⅲ) IPASS試験の対象患者の範囲は,以下のとおり,相当に狭いとはいえない。 腺がんは我が国で最も発症頻度が高く,男性の肺がんの40%,女性の肺がんの70%以上を占め,非小細胞肺がんの中では最も多いがん種である。また,非小細胞肺がん患者の中には一定割合で非喫煙者及び軽喫煙者が含まれている。 また,非小細胞肺がんの第Ⅲ相試験では,ファーストラインの患者やセカンドライン又はサードラインの患者といったように,ラインごとに患者を選択するのが通常であり,ファーストラインの患者を対象にしたことをもって「患者範囲が狭くなっている」という主張は失当である(なお,セカンドライン以降のイレッサの有効性は,V1532試験とINTEREST試験によって統計学的に証明されている。)。 (d) INTACT各試験INTACT各試験の結果は,イレ 当である(なお,セカンドライン以降のイレッサの有効性は,V1532試験とINTEREST試験によって統計学的に証明されている。)。 (d) INTACT各試験INTACT各試験の結果は,イレッサを3剤併用療法で用いた場合に,2剤併用療法に対する上乗せ効果が証明されなかったというものであり,イレッサ単剤の有効性が否定されたものではない。 上記結論は,非小細胞肺がん抗がん剤において,3剤併用療法による上乗せ効果を証明した抗がん剤がほとんどないこと,イレッサの類薬であるタルセバ単剤の有効性が認められているが,タルセバで行われたINTACT各試験と同じデザインの試験でもINTACT各試験と同様の結果が得られたことなどからも裏付けられる。 b 被告会社以外の研究グループなどが実施した第Ⅲ相試験(a) NEJ002試験NEJ002試験の主要評価項目である無増悪生存期間で,イレッサはカルボプラチンとパクリタキセルの併用療法を統計学的に有意に上回り,両群の差はイレッサ群の方が2倍も長かった(無増悪生存期間中央値の最終解析結果:イレッサ群10.8か月,併用療法群5.4か月)。 また,副次的評価項目では,全生存期間はイレッサ群(生存期間中央値の最終解析結果:30.5か月,2年生存率61.4%)の方が併用療法群(生存期間中央値の最終解析結果:23.6か月, 2年生存率46.7%)を上回っていたが,統計学的な有意差には至らなかった。しかし,有意差に至らなかったとはいえ,イレッサが標準的化学療法である上記併用療法を上回っていたということは,EGFR遺伝子変異のある患者に対して,イレッサは延命効果を有するものと示すものである。 奏効率(最終解析結果)は,併用療法群が30.7%,イレッサ群が73.7%であり,イレッサ群の奏効率の方 は,EGFR遺伝子変異のある患者に対して,イレッサは延命効果を有するものと示すものである。 奏効率(最終解析結果)は,併用療法群が30.7%,イレッサ群が73.7%であり,イレッサ群の奏効率の方が2.5倍以上高かった。 以上より,イレッサはEGFR遺伝子変異のある患者に対して延命効果があることが証明され,IPASS試験等で示されたEGFR遺伝子変異のある患者を対象にしたイレッサの有効性が改めて確認されたというべきである。 (b) WJTOG0203試験WJTOG0203試験の主要評価項目の全生存期間では,統計学的な有意差には至らなかったが,イレッサ逐次投与群(生存期間中央値:13.68か月)は2剤併用療法群(生存期間中央値:12.89か月)を上回った。 また,副次的評価項目では,無増悪生存期間はイレッサ逐次投与群(無増悪生存期間中央値:4.6か月)が2剤併用療法群(無増悪生存期間中央値:4.27か月)を有意に上回った。奏効率は有意差ではなかったがイレッサ逐次投与群(34.2%)が2剤併用療法群(29.3%)を上回った。 実地臨床の経験などから特にイレッサの効果が高いと考えられてきた腺がんの患者467例を対象にしたサブグループ解析では,主要評価項目である全生存期間は,イレッサ逐次投与群(生存期間中央値:15.42か月)が2剤併用療法(生存期間中央値14.3 3か月)を有意差をもって上回った(P値=0.03)。 以上より,イレッサによる逐次療法は,患者全体を対象にした場合に有効性が示唆され,腺がん患者を対象にした場合には有効性が明確に示された。 (c) SWOG0023試験SWOG0023試験におけるイレッサの投与方法は,2剤併用療法と放射線療法を同時に行い(放射線併用化学療法),これに引き続いてドセタ は有効性が明確に示された。 (c) SWOG0023試験SWOG0023試験におけるイレッサの投与方法は,2剤併用療法と放射線療法を同時に行い(放射線併用化学療法),これに引き続いてドセタキセルを強化療法として投与し,その後にイレッサを維持療法として投与するものである。しかし,強化療法や維持療法という投与方法自体,非小細胞肺がんの化学療法の分野では一般的に行われている投与方法ではなく,イレッサについても同様である。特殊な方法で投与した場合に有効性が認められなかったとしても,他の方法では有効性が認められることはあり得る。 また,SWOG0023試験は,放射線併用化学療法を行い,その後これに引き続いてドセタキセルを強化療法として投与した患者をランダム化するという点で,非常に限定された特殊な患者を対象にイレッサを投与した試験であったといえる。 したがって,SWOG0023試験の結果からは,SWOG0023試験による投与方法でイレッサを投与することは差し控えるべきであるとはいえるが,当該結果をもってイレッサの一般的な有効性を評価することはできない。 (d) まとめイレッサは,承認後,複数の研究グループによって第Ⅲ相試験が実施されてきた。承認後の臨床試験は,より有効かつ安全にイレッサを投与できるようにするために実施されたものである。承認後に臨床試験を通じて検討が行われていること自体,非小細胞肺がんの 治療分野の医師や研究者らの間で,イレッサは非小細胞肺がんに対して有効な抗がん剤であると認められているからに他ならない。 NEJ002試験及びWJTOG0203試験の結果,イレッサはEGFR遺伝子変異のある患者に対して特に高い効果を有することが統計学的に証明され,ファーストラインの患者に対して,2剤併用療法に続いてイ EJ002試験及びWJTOG0203試験の結果,イレッサはEGFR遺伝子変異のある患者に対して特に高い効果を有することが統計学的に証明され,ファーストラインの患者に対して,2剤併用療法に続いてイレッサを逐次投与することにより,2剤併用療法で治療し続けるよりも高い効果が得られることが示されたのである。 (ウ) EGFR遺伝子変異とイレッサの有効性イレッサがEGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺がんに対して特に効果が高いという知見は,現在ではすでに確立したものとなっている。 現に,実際の肺がん治療の現場では,イレッサの投与を検討する患者に対してEGFR遺伝子変異の検査が広く行われており,検査は保険適用がされており,イレッサの投与を検討するほぼ全ての患者に対してEGFR遺伝子変異の検査を行っている医療機関もある。 もっとも,EGFR遺伝子変異のない患者に対しても,イレッサは約10%の奏効率を有するため,EGFR遺伝子変異のある患者のみならず,EGFR遺伝子変異のない患者に対してもイレッサの有効性はあるというべきである。 (エ) 個別症例個別症例は,単独では医薬品の有効性及び安全性判断における証拠価値が低いものではあるが,新たな知見の発見の契機や,新たな臨床試験を計画するときの手がかりとなるなど有益な場合がある。 臨床試験と個別症例との証拠価値の違いを踏まえた上で,イレッサの臨床試験結果や各種研究報告について評価するべきである。 (オ) イレッサ承認後におけるイレッサの有効性評価のまとめ 以上のとおり,イレッサは,第Ⅱ相試験や第Ⅲ相試験等において,全生存期間,無増悪生存期間,腫瘍縮小効果,症状改善率,QOLなどの各種有効性の指標で,延長や改善などの積極的評価が得られており,現在における非小細胞肺がんの化学療法に不 験や第Ⅲ相試験等において,全生存期間,無増悪生存期間,腫瘍縮小効果,症状改善率,QOLなどの各種有効性の指標で,延長や改善などの積極的評価が得られており,現在における非小細胞肺がんの化学療法に不可欠の有効性の高い抗がん剤であるというべきである。 (被告国の主張)ア平成14年7月承認時の有効性評価(ア) 平成14年7月当時における手術不能又は再発非小細胞肺がんに対する化学療法に関する知見a 平成14年7月までの非小細胞肺がんに対する化学療法の研究1980年代から,シスプラチンやカルボプラチン(プラチナ製剤),ビンデシンやエトポシドなどの抗がん剤(旧抗がん剤)が登場し,1990年代には,イリノテカン,ドセタキセル,パクリタキセル,ビノレルビンやゲムシタビンなどの抗がん剤(新規抗がん剤)が登場した。1990年代後半からは,ファーストライン治療無効又は再発した非小細胞肺がん患者に対するセカンドライン治療としての化学療法についても,多くの検討が行われるようになった。 上記の発展を経て,平成14年7月当時,手術不能又は再発非小細胞肺がんのファーストライン治療における標準的治療法をプラチナ製剤と新規抗がん剤の2剤併用療法とするということには国際的なコンセンサスが得られていた。もっとも,標準的治療法による治療成績は,試験によって異なるものの,奏効率が概ね30%ないし40%程度であって,その他の症例には無効であり,また,標準的治療法が奏効しても,多くの場合には再発し,生存期間中央値は8ないし10か月,1年生存率は30ないし40%にとどまっていた。 また,再発例やセカンドラインではドセタキセルが標準的治療薬と 位置づけられていたが,ドセタキセルの奏効率は概ね10%に満たない程度で,生存期間中央値は7.5か月,1年生存率 ていた。 また,再発例やセカンドラインではドセタキセルが標準的治療薬と 位置づけられていたが,ドセタキセルの奏効率は概ね10%に満たない程度で,生存期間中央値は7.5か月,1年生存率は37%程度にとどまっていた。 b 治療成績に限界をもたらす種々の要因に関する知見新規抗がん剤の登場を受けた1990年代の多くの臨床研究は,次の(a)及び(b)の諸要因を踏まえ,可能な限り治療成績を向上させることを目的とした努力と位置づけられるが,平成14年7月当時は,客観的にみて,治療成績向上の努力がもはや限界に到達してなお十分治療ができない状況にあった。 (a) 効果面からみた要因ⅰ 治療域が狭いこと(作用機序の問題)平成14年7月当時,非小細胞肺がんの標準的治療法に用いられていた抗がん剤は,殺細胞性抗がん剤であった。 しかし,殺細胞性抗がん剤は,正常細胞とがん細胞に対して同時に非選択的に作用するという性質を有するため,治療域が極めて狭く,場合によっては逆転することがあって副作用の許容範囲内で十分な抗腫瘍効果を示す投与量を設定することは困難である。 ⅱ 効果が不確実であること(病態の個体差の問題)がんにおける遺伝子変異は症例ごとに非常に多様なものであって,治療への反応も症例ごとに異なる。特に,非小細胞肺がんの場合は,がん細胞が不均一であることが大きな特徴であり,抗がん剤に対する感受性が低い。 したがって,抗がん剤が当該患者に効くか否かは,投与してみないと明らかにならない。 ⅲ 効果が持続しないこと(薬剤耐性の問題) 抗がん剤の効果は薬剤耐性があり,化学療法は,ファーストラインからセカンドライン,サードラインと治療を重ねるにつれ,効果を得られにくくなる。 特に,セカンドライン治療の唯一の標準的治療薬 抗がん剤の効果は薬剤耐性があり,化学療法は,ファーストラインからセカンドライン,サードラインと治療を重ねるにつれ,効果を得られにくくなる。 特に,セカンドライン治療の唯一の標準的治療薬であったドセタキセルは,ファーストライン治療の標準的治療薬の1つでもあったため,ファーストラインでドセタキセルに耐性が生じた患者については,セカンドラインでの標準的治療法による治療を受けられないという状況にあった。 (b) 副作用からみた要因ⅰ 重篤かつ多彩で予測困難な副作用を避けられないこと殺細胞性抗がん剤は,治療域が狭く,一般に,治療域の中で最大の効果を得るべく副作用の許容限界近くに投与量が設定されるため,副作用を避けられない。特に,殺細胞性抗がん剤は,がん細胞の細胞周期が速いことを利用して効果を発揮するところ,正常細胞の中でも,非常に細胞周期が速いもの,例えば,白血球(好中球),血小板や赤血球のような血液細胞,口や消化器などの粘膜,毛髪には,副作用が強く出ることが多い。 殺細胞性抗がん剤の毒性による副作用は多種多様で,副作用の出現や頻度は個人差が大きく,予測することが困難な場合がある上,患者によっては極めて重篤で,致死的となりうる。 ⅱ 致死的となりうる副作用があったこと血液毒性は,ほぼすべての抗がん剤に共通して発生し,かつ発生頻度が高い上に重篤化しやすいため,注意を要する副作用として挙げられる。 血液毒性により,白血球(中でも好中球)が減少すると,感染症を合併する危険性が高まり,また感染した場合に重症になりや すい。特に,菌が血管に入って全身に広がる敗血症は,致命的になりやすいとされている。 また,間質性肺炎も,多くの抗がん剤にみられ,致死的となることのある抗がん剤の副作用と考えられている。 ⅲ 全 すい。特に,菌が血管に入って全身に広がる敗血症は,致命的になりやすいとされている。 また,間質性肺炎も,多くの抗がん剤にみられ,致死的となることのある抗がん剤の副作用と考えられている。 ⅲ 全身状態の悪い場合など投与できない患者が多いこと患者の全身状態が不良(PS3,4)又は患者が高齢者である場合は,殺細胞性抗がん剤による化学療法を行うべきではないと考えられていた。 非小細胞肺がんは,70歳以上の高齢者での発症が多く,多彩な症状により全身状態が不良な患者が多いなどの事情により,抗がん剤の投与ができない患者も多かった。 ⅳ 投与開始後にも投与量の減量や治療の中断を要する場合があること抗がん剤の投与を開始した場合,副作用が生じれば,抗がん剤の投与量を減量する必要が生じ,重篤になれば,治療を中断せざるを得ない場合がある。特に,血液毒性や間質性肺炎などの肺毒性は治療の中断等が必要である。 しかし,治療の中断等をすると,がんの進行をもたらすことが多く,抗がん剤の効果が期待できなくなる。 (イ) EGFR阻害作用というイレッサの作用機序に対する評価殺細胞性抗がん剤は,正常細胞とがん細胞に対して同時に非選択的に作用するという性質を有するのに対して,EGFR阻害作用などを示す分子標的治療薬は,がん細胞で特に目立った働きをする分子を標的とするため,殺細胞性抗がん剤に比べて,がん細胞への選択性,特異性が高く,正常細胞への作用が少ないと考えられた。 したがって,非小細胞肺がんに対する化学療法の効果が頭打ちの状況 の下で,イレッサは,平成14年7月当時の非小細胞肺がんの化学療法の臨床現場に期待されていたものといえる。殺細胞性抗がん剤とは別の作用機序の化学療法に対する期待感が高まっており,分子標的治療薬は,上記期待に応える可 ,平成14年7月当時の非小細胞肺がんの化学療法の臨床現場に期待されていたものといえる。殺細胞性抗がん剤とは別の作用機序の化学療法に対する期待感が高まっており,分子標的治療薬は,上記期待に応える可能性の高い治療方法であった。 (ウ) 臨床試験(治験)によって得られた知見a 国内第Ⅰ相試験(V1511試験)一般に抗がん剤には薬剤耐性があり,化学療法は,ファーストラインからセカンドライン,サードラインと治療を重ねるにつれ,効果が得られにくくなる。抗がん剤の第Ⅰ相試験は,がん患者を対象に行われるが,被験薬を初めてヒトに投与する試験であり,治療効果や副作用の危険性がヒトでは確認されていない段階であることから,参加する患者は,既存の治療法では治療できないがん患者であるのが通常である。V1511試験の対象患者は,当該がん腫の標準的治療法で効果がない患者又は他に適切な治療方法がない患者と定められていた。 V1511試験は,上記患者を対象とした臨床試験であったにもかかわらず,非小細胞肺がん患者23例中5例で部分奏功(PR)を示し,うち3例では1年半近く抗腫瘍効果が持続した。ただし,EGFRは腺がんよりも扁平上皮がんでの発現量が多いのに,腫瘍縮小効果を示した上記5例はいずれも腺がんであったことから,イレッサの抗腫瘍効果の作用機序はEGFRの発現量のみでは説明がつかないように思われ,今後の研究に興味が持たれる状況にあった。 なお,世界で行われた他の4つの第Ⅰ相試験全体でも,既治療の非小細胞肺がん100症例中10例において明らかな腫瘍縮小効果が認められた。 b 第Ⅱ相試験(1839IL/0016 試験[IDEAL1試験])平成14年(2002年)7月当時,セカンドラインで唯一延命効 果を示してセカンドライン治療の標準的治療薬とさ た。 b 第Ⅱ相試験(1839IL/0016 試験[IDEAL1試験])平成14年(2002年)7月当時,セカンドラインで唯一延命効 果を示してセカンドライン治療の標準的治療薬とされていたドセタキセルの奏効率(セカンドラインでの奏功率)は10%程度であったことに鑑みると,IDEAL1試験において,日本人症例で27. 5%,全症例で18.7%というイレッサの奏効率は非常に高いものであり,当時の知見において,十分合理的に延命効果を予測させるものであった。 米国でイレッサが承認された際の根拠となった奏効率は10%程度であったこと(IDEAL1試験における外国人群の奏効率等)からも,上記奏効率が承認に十分な数字であったといえる。 また,平成14年(2002年)7月当時,セカンドライン治療におけるドセタキセルの生存期間中央値が7.5か月,1年生存率が37%程度であったことからすれば,非小細胞肺がんについてイレッサの13.8か月という生存期間中央値や,57%という1年生存率も高い値を示しており,上記奏功率と総合し,生存期間を延長する可能性が十分にあることを示す結果であったといえる。 なお,QOLや症状の改善も,客観的評価は難しいという問題はあるものの,イレッサの承認前の効果を示す一例ということはできる。 症状の改善が,延命につながる可能性があるということも指摘できる。 (エ) 非小細胞肺がんのセカンドライン治療の奏功率に関する原告らの主張に対する反論原告らは,イレッサの承認当時報告されていた,非小細胞肺がんのセカンドラインの奏効率を調べた複数の臨床試験(甲H48~52)を挙げて,イレッサの国内の奏効率がずば抜けていたとまではいえないなど主張する。 1990年代後半から非小細胞肺がん患者に対するセカンドライン治 率を調べた複数の臨床試験(甲H48~52)を挙げて,イレッサの国内の奏効率がずば抜けていたとまではいえないなど主張する。 1990年代後半から非小細胞肺がん患者に対するセカンドライン治 療としての化学療法について多くの検討が行われたが,イレッサが承認された平成14年7月当時では,セカンドライン治療の標準的治療法としてコンセンサスがあったのはドセタキセル単独療法のみであった。ドセタキセル単独療法が,非小細胞肺がん患者に対するセカンドラインの標準的治療法として位置付けられたのは,2つの第Ⅲ相試験(Shepherdらの試験とFossella らの試験)の結果によるものであったが,これらの第Ⅲ相試験の結果では,奏効率が,5.5%(Shepherd 試験)と10.8%(Fossella 試験)にとどまっていた。これに対して,IDEAL1試験におけるイレッサの奏効率は,日本人症例で27.5%,全症例で18.7%であったから,非常に高いものであったということができる。 (オ) 平成14年7月承認時の有効性評価のまとめ以上のとおり,イレッサの適応症である手術不能又は再発非小細胞肺がんは,予後不良で重篤な疾患であるところ,イレッサは,IDEAL1試験等により顕著な抗腫瘍効果を示して,延命効果を推定させ,他方で,代替治療法である既存の抗がん剤は限界の状態に達していたのであるから,イレッサには効能,効果が認められたというべきである。 イイレッサ承認後の事情からみる平成14年7月当時のイレッサの有効性評価(ア) イレッサ承認後の第Ⅲ相試験a 承認後の第Ⅲ相試験の有効性判断における位置付け平成14年7月当時の知見の下での抗がん剤の有効性,有用性の評価方法は,新しい抗がん剤が臨床使用に値するかを腫瘍縮小効果を中心とする各種知見 a 承認後の第Ⅲ相試験の有効性判断における位置付け平成14年7月当時の知見の下での抗がん剤の有効性,有用性の評価方法は,新しい抗がん剤が臨床使用に値するかを腫瘍縮小効果を中心とする各種知見の総合評価によって判断し,その後の臨床使用の中で第Ⅲ相試験により延命効果を確認し,その延命効果が確認されれば標準的治療薬に組み入れるというものであった。上記方法に関する知 見は,腫瘍縮小効果から延命効果を十分合理的に予測し得るという医学的,薬学的知見に基づいていた。したがって,承認後の第Ⅲ相試験による延命効果の確認は,腫瘍縮小効果から推定された延命効果を裏付けることになる。 臨床試験は,それぞれその目的が明確に記述され,その目的とする情報を得るために,適切な試験デザインを選択して行われるため,第Ⅲ相試験によって得られた結果は,当該試験の目的やデザインによって射程に限界があり,かつ,常に明確な結論が得られるというわけでもない。したがって,イレッサの市販後第Ⅲ相試験の結果を検討するにあたっても,各試験ごとに,各試験のデザインや得られた結果の統計学的解釈を前提に,慎重な解釈を必要とする。 bINTACT各試験INTACT各試験は,イレッサの標準的化学療法に対する上乗せ効果を検討する目的の試験であるから,INTACT各試験によって,イレッサに全生存期間で統計学的な有意差が認められなかったとしても,イレッサが単剤でも延命効果がないということにはならない。 殺細胞性抗がん剤でも,2剤併用の場合には生存期間を延長するという結果が得られたものの,3剤併用の場合には生存期間を延長するという結果が得られなかったものもある。作用機序を異にするイレッサも,3剤併用療法で統計学的有意差をもって生存期間を延長するという結果が得られなかったとし のの,3剤併用の場合には生存期間を延長するという結果が得られなかったものもある。作用機序を異にするイレッサも,3剤併用療法で統計学的有意差をもって生存期間を延長するという結果が得られなかったとしても,イレッサ単剤の延命効果が直ちにないとはいえないのである。 cISEL試験ISEL試験は,全症例及び腺がん症例では,イレッサ群が全生存期間につき統計学的有意差には至っていないものの,生存曲線等では イレッサ群がプラセボ群を上回っていること,解析方法によっては有意差があり得ることが示されていること,類薬の同デザインの試験の結果などを総合的に考慮すれば,延命効果の傾向がある。 また,東洋人のサブグループ解析は,イレッサが東洋人の生存期間を延長させることを示唆するものであり,実地臨床やEGFR遺伝子変異の知見(後記(ウ))と合致するものである。 dSWOG0023試験SWOG0023試験では,イレッサを強化療法や維持療法として投与しているが,日本や海外の臨床現場での化学療法の投与方法として一般的なものでなく,試験デザインとして疑問がある。したがって,イレッサは,上記投与方法では生存に否定的な影響を与える可能性があるものの,抗がん剤としての有効性,有用性を否定するものではない。INTACT各試験と同様,SWOG0023試験の結果から,手術不能又は再発非小細胞肺がんに対するイレッサの延命効果が否定されるものではない。 eV1532試験V1532試験では,イレッサは,ドセタキセルに対して統計学的に非劣性を証明できなかったが,症例数,生存曲線の形や後治療の影響などにより,V1532試験の解釈は難しい。 V1532試験は,無治療群との比較臨床試験ではなく,非劣性試験で有意差が示されなかったという結果は,イレッサがドセ ,症例数,生存曲線の形や後治療の影響などにより,V1532試験の解釈は難しい。 V1532試験は,無治療群との比較臨床試験ではなく,非劣性試験で有意差が示されなかったという結果は,イレッサがドセタキセルに劣っているとも劣っていないともいえないということを意味するものである。 INTEREST試験では,V1532試験と同じ試験デザインであったが,イレッサの延命効果が統計学的に有意差をもって証明されていること等にも照らせば,V1532試験の結果のみから,イレッ サの延命効果についての結論を出すことはできない。 fINTEREST試験INTEREST試験では,全生存期間について,イレッサのドセタキセルに対する非劣性が統計学的に証明された。 また,INTEREST試験がV1532試験と同じ試験デザインであったにもかかわらず異なる結果となった理由は,症例数の違いや後治療の違いなどによる可能性があり,INTEREST試験の結果は日本人にも妥当するものである。 gIPASS試験IPASS試験では,主要評価項目である無増悪生存期間において,イレッサの併用療法に対する,非劣性のみならず,優位性が証明された。無増悪生存期間では,治療初期の6か月間では併用療法群が,その後の16か月間ではイレッサ群が良好であった。 なお,副次的評価項目の1つである全生存期間では,追跡調査中で最終結論が得られていない状況にあるものの,両治療群間で同様であった(なお,全生存期間は後治療の影響を受けると考えられている。)h まとめ種々の試験デザインによりイレッサの第Ⅲ相試験が行われたが,いずれもイレッサの単剤での延命効果を否定するものではなく,延命効果を確認したもの(INTEREST試験)や日本人における臨床使用における有効性を肯定する ンによりイレッサの第Ⅲ相試験が行われたが,いずれもイレッサの単剤での延命効果を否定するものではなく,延命効果を確認したもの(INTEREST試験)や日本人における臨床使用における有効性を肯定することを示唆したもの(ISEL試験)がある。また,イレッサは標準的治療法に対して無増悪生存期間において優位性を示した試験結果(IPASS試験)も報告されている。イレッサでは,平成14年7月当時に腫瘍縮小効果により延命効果を推定したことが,現在なお合理性のあるものとして維持されている。 また,イレッサでは,前記bないしgの第Ⅲ相試験に加え,症例を限定した臨床試験も行われており,現在,第Ⅱ相試験による延命効果の推定を維持しつつ,実際に統計学的に有意差を示す延命効果につなげる標準的治療法としての使い方を模索している状況にあるといえる。 以上のとおり,承認後の第Ⅲ相試験の結果をみても,イレッサでは,平成14年7月当時,腫瘍縮小効果を中心とした各種知見の総合評価によって有効性が認められた判断が適正かつ合理的であったといえる。 (イ) 個別症例一般に,医師は,患者に医薬品を投与した際,当該患者にとって当該医薬品が有効であったかを臨床的に評価する。個々の医師の臨床的評価が集積されて医療現場にコンセンサスが形成されると,臨床的評価に関する一つの知見が確立することになる。 医療においては,比較臨床試験だけが医薬品の有効性の科学的根拠となるわけではなく,種々の臨床研究の手法が証拠価値に応じて分類されており,症例報告も証拠価値が高いわけではないとしても,科学的根拠の1つと認められている。 比較臨床試験はあくまで特定の条件下におけるものであるため,個別の患者の治療の実際の経緯を示す臨床研究は症例報告等によるしかない。一般に,新規の治療法が ても,科学的根拠の1つと認められている。 比較臨床試験はあくまで特定の条件下におけるものであるため,個別の患者の治療の実際の経緯を示す臨床研究は症例報告等によるしかない。一般に,新規の治療法が,専門的研究者の間で有効性と安全性を是認された後,知見が普及し浸透する過程は,医学雑誌への論文の掲載,学会,研究会での発表によるところが大きいが,症例報告が果たす役割も大きい。 イレッサは,承認後,実際の臨床現場で多くの症例に投与され,多くの症例報告等によりその有効性,有用性が報告され,医師の臨床的評価 が固まってきたことにより,知見として確立したものである。これは,承認当時の段階での少数の専門的研究者の間のコンセンサスが,広く臨床現場のコンセンサスを得られる適正かつ合理的なものであったことを裏付けるものである。 (ウ) イレッサの作用機序に関する知見の進展a イレッサの作用機序に関する知見の位置付けイレッサの作用機序は,現在まで多くの研究を通じて知見が進展し,徐々に解明が進められている。平成14年7月の承認後におけるイレッサの作用機序に関する知見の進展状況は,承認時以前における知見の限界を裏付ける。 また,平成14年7月当時,イレッサの抗腫瘍効果とEGFR発現量との不整合の原因は解明されていなかったが,今後の研究にゆだねられこととして,上記の点をイレッサの有効性を認める妨げとしなかった専門家のコンセンサスは,現在から振り返った場合にも適正かつ合理的なものであったことを裏付ける。 b イレッサの作用機序に関する種々の研究と知見の進展平成16年(2004年)春,肺がんの一部の症例にEGFR遺伝子変異が発見された。 上記症例では,がん細胞の増殖を促進するシグナルが伝わりやすく,イレッサの感受性が高いことから,EGF 見の進展平成16年(2004年)春,肺がんの一部の症例にEGFR遺伝子変異が発見された。 上記症例では,がん細胞の増殖を促進するシグナルが伝わりやすく,イレッサの感受性が高いことから,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の奏効が期待されると考えられた。 その後,多くの研究を通じて,EGFR遺伝子変異が,日本人,女性,腺がん,非喫煙者に多いことが明らかになり,非小細胞肺がんの報告例の検討では,EGFR遺伝子変異の有無とイレッサの奏効との関連性は,約85%が一致していることが報告されるとともに,EGFR遺伝子変異のない患者でも約10%の奏効率が得られることやE GFR遺伝子変異があっても奏効しない患者があることも明らかにされた。 以上の研究を踏まえて,現時点では,EGFR遺伝子変異のみに依存してイレッサの投与の適応範囲を決めるべきではないと考えられている。イレッサの効果予測因子は,非小細胞肺がんにおける遺伝子変異の解明とともに,今なお分子生物学的な解明の途上にある。 c 平成14年7月当時,抗腫瘍効果(腫瘍縮小効果)とEGFR発現量との不整合が有効性を認める妨げにならないとしたコンセンサスが適正かつ合理的であったこと平成14年7月当時に観察された,イレッサの腫瘍縮小効果とEGFR発現量との不整合の原因は,イレッサの作用機序にあったわけではなく,不整合の原因解明は当時の医学的,薬学的知見からみて限界をはるかに超えるものであり,上記原因がEGFR遺伝子変異によることが判明した今日でも,なおイレッサの有効性を認める妨げにはなっていないのである。 平成14年7月当時,抗腫瘍効果とEGFR発現量との不整合の問題を承認後の研究にゆだねた当時のコンセンサスは,適正かつ合理的であったといえる。 (エ) 承認後の事情からみる平成 いないのである。 平成14年7月当時,抗腫瘍効果とEGFR発現量との不整合の問題を承認後の研究にゆだねた当時のコンセンサスは,適正かつ合理的であったといえる。 (エ) 承認後の事情からみる平成14年7月当時のイレッサの有効性評価のまとめ以上のとおり,イレッサ承認後の医学的,薬学的知見の進展を踏まえたイレッサの有効性の実証からは,前記アのイレッサ承認時に得られていた知見が裏付けられる。 2 イレッサの危険性(間質性肺炎の予後の重篤性と発症の危険性(発症頻度等))について (原告らの主張)(1) 安全性判断の基本原則医薬品は,本来人体にとって異物である以上,有害作用を及ぼす危険性を常に有する。したがって,医薬品に危険性の疑いがある場合には十全な対処がなされなければならない。 医薬品の安全性が科学的に証明されるためには,医薬品の使用過程で生じた有害事象が医薬品の使用に基づくものであることの証明がなされる必要があるが,それでは医薬品と有害事象との因果関係が科学的に証明されるまでの間,被害が拡大してしまう。 そこで,医薬品の安全性確保のためには,医薬品と有害事象の間の因果関係が科学的に証明されるまでの間であっても,危険性に疑いが生じた段階で十全な対処をする必要がある。 (2) 平成14年7月承認時におけるイレッサによる間質性肺炎の予後の重篤性と発症の危険性ア間質性肺炎・急性肺障害の予後の重篤性(ア) 特発性間質性肺炎における急性間質性肺炎等の予後の重篤性ATS(米国胸部学会)/ERS(欧州呼吸器学会)は平成10年(1998年)ころから平成14年(2002年)までの間に知見を集積し,平成11年(1999年)にサルコイドーシスのガイドラインを,平成12年(2000年)2月にIPF特発性肺線維症のガイド 10年(1998年)ころから平成14年(2002年)までの間に知見を集積し,平成11年(1999年)にサルコイドーシスのガイドラインを,平成12年(2000年)2月にIPF特発性肺線維症のガイドラインを,平成14年(2002年)6月にIIP特発性間質性肺炎のガイドラインを整理し,上記ガイドラインの骨格は1990年代半ばには既に確立されており,基礎となる文献は日本国内に紹介されていた。 そうすると,イレッサ承認当時には,特発性間質性肺炎に関する病型分類は既に確立されており,病型分類からその予後などが判断される状況にあったといえ,間質性肺炎発症例には予後不良例があり,特発性間 質性肺炎の中では特に急性間質性肺炎(AIP)又は特発性間質性肺炎(IIP)の急性増悪症例,すなわち病理像としてびまん性肺胞障害(DAD)をとるものは予後不良となるという医学的知見が存在していたというべきである。 (イ) 薬剤性間質性肺炎における急性間質性肺炎等の予後の重篤性薬剤を原因とする薬剤性間質性肺炎は,特発性間質性肺炎と同様の病型分類によってその予後などが判断されていた。多くの研究者は,薬剤性間質性肺炎のうち抗がん剤による薬剤性間質性肺炎には特に着目しており,抗がん剤による薬剤性間質性肺炎が,臨床経過として急性間質性肺炎(AIP),病理学的にはびまん性肺胞障害(DAD)となりやすく,その予後が特に不良であるため,注意を払わなければならないと考えていた。 加えて,各種研究により,抗がん剤による薬剤性肺障害に死亡例ないし重篤例が多数あることを示されていた。 したがって,イレッサの承認時には,薬剤性間質性肺炎は予後が不良となりうる疾患であり,かつ,その中でも急性間質性肺炎(AIP/DAD)となるものは特に予後が不良であるということ,及び抗が ていた。 したがって,イレッサの承認時には,薬剤性間質性肺炎は予後が不良となりうる疾患であり,かつ,その中でも急性間質性肺炎(AIP/DAD)となるものは特に予後が不良であるということ,及び抗がん剤による薬剤性間質性肺炎については致命的になりやすいため特に注意をはらわなければならないということが,既に医学的知見として存在していた。 被告らは,ブレオマイシン,メトトレキサート,小柴胡湯等の少数の薬剤については薬剤性肺障害の予後などに関するある程度の傾向が判明していたものの,それを抗がん剤一般にあてはめることができず,抗がん剤ごとに多数の症例の集積をみなければ,その特徴を把握することができないなど主張する。しかし,ブレオマイシン,メトトレキサートのみならず,ブスルファン,ゲムシタビンやイリノテカンなどの他の抗が ん剤でも間質性肺炎による死亡例・重篤例があり,重篤な間質性肺炎が発症するのは一部の抗がん剤のみであるなどの事情もなかったのであるから,被告らの主張には理由がないというべきである。 イドラッグデザインにみるイレッサの毒性(ア) イレッサの作用機序と間質性肺炎発症イレッサのドラッグデザインはEGFRの阻害にあるが,EGFRは,がんに特異的に発現しているものではなく正常細胞にも存在し,かつ,上皮細胞の再生や増殖に極めて重要な役割を果たしている。 また,EGFRは,肺胞上皮の正常な修復のために欠くことのできないⅡ型肺胞上皮細胞の再生,増殖に強く関連しており,EGFRを阻害することによって線維芽細胞の増殖を促し肺胞腔内の線維化,間質性肺炎へと進展してしまう可能性があった。EGFRは,Ⅱ型肺胞上皮細胞のポンプ機能やサーファクタント産生に強く関連しており,EGFRを阻害することによって,急性間質性肺炎(AIP/DA 線維化,間質性肺炎へと進展してしまう可能性があった。EGFRは,Ⅱ型肺胞上皮細胞のポンプ機能やサーファクタント産生に強く関連しており,EGFRを阻害することによって,急性間質性肺炎(AIP/DAD)と同様の病態を招いてしまう可能性があった。 以上によれば,急性間質性肺炎は,イレッサのドラッグデザイン自体に内在し,それに由来する副作用だったのであり,医薬品としての主作用に必然的に付随するものであり,予測不可能な副作用ではなかった。 少なくとも,非臨床試験や臨床試験においては,イレッサのEGFR阻害による副作用,特に致死的な副作用には慎重な配慮をもって検討されなければならなかったというべきである。 (イ) 永井教授らの実験永井教授らの実験は,ブレオマイシンにより肺線維症を発症させたマウスにイレッサを投与し,溶媒単体投与群と比較してその経過を観察したものである。実験結果は,イレッサ投与群が,溶媒単体投与群に比較して,より激しい線維化を示したというものであった(甲E8)。 肺の異常な修復は,Ⅱ型肺胞上皮細胞と線維芽細胞との陣取りにⅡ型肺胞上皮細胞が敗れて線維芽細胞が勝った場合に生じるところ,Ⅱ型肺胞上皮細胞の再生,増殖にはEGFRが関与していることから,イレッサがⅡ型肺胞上皮細胞の再生,増殖を抑制する結果,線維化がより進展するという上記実験結果は,論理的に一貫する結論であった。 したがって,上記実験結果は,イレッサのEGFR阻害作用によって,傷ついた肺の修復過程で間質性肺炎へと進展してしまう可能性のあることを実証する結果となった極めて重要な実験であった。 被告会社は,上記実験結果を平成13年(2001年)10月には入手していながら,永井教授らの学会における発表を阻止し,イレッサの承認まで,上記実験結果を明らかにさせな た極めて重要な実験であった。 被告会社は,上記実験結果を平成13年(2001年)10月には入手していながら,永井教授らの学会における発表を阻止し,イレッサの承認まで,上記実験結果を明らかにさせなかったのである。 ウ非臨床試験等にみるイレッサの毒性(ア) 非臨床試験の安全性評価における位置付け非臨床試験は,ヒトへの使用前に動物によって医薬品の毒性等を確認するための試験であり,期待する効果発現量と毒性量・無毒性量を確認して,臨床試験段階への移行の可否を判定し,最初にヒトに使用する場合の安全量を決定し,臨床試験段階で特に注意すべき毒性を把握するなどを目的とする。 非臨床試験は,単にヒトへの投与段階となる臨床試験段階に進むことの可否や臨床試験における用量を定めるだけでなく,当該医薬品の安全性評価にあたっては,臨床試験結果とも併せて総合的に考慮されなければならない。 (イ) 非臨床試験で見られた多くの屠殺例の解釈イレッサの非臨床試験においては,次のとおり屠殺例が生じた。 ① 単回投与試験ラット雌5匹中4匹② イヌ1か月試験イヌ1頭 ③ ラット6か月試験ラット4匹④ イヌ6か月試験イヌ2頭非臨床試験において被験動物が屠殺処分されるのは,被験動物が死にかかった場合,死を待つより屠殺処分を行う方が多くの知見が得られるためであり,屠殺処分された被験動物は,いずれも「死にかかった」と判断されたものである。そうすると,上記のように多数の被験動物を屠殺処分しなければならなかったということはイレッサの毒性の強さを示すものである。 また,非臨床試験の目的は被験薬剤の毒性の把握にある以上,屠殺処分した被験動物からは,被験薬剤の毒性が明らかとなるような所見が得られないと意味がないが,死因につながる所見が得 を示すものである。 また,非臨床試験の目的は被験薬剤の毒性の把握にある以上,屠殺処分した被験動物からは,被験薬剤の毒性が明らかとなるような所見が得られないと意味がないが,死因につながる所見が得られないまま放置されているといわざるをえず,非臨床試験の不十分さを示すものである。 (ウ) 肺胞マクロファージ等の肺毒性所見イレッサの非臨床試験では,イレッサ群の被験動物に肺胞マクロファージ浸潤が観察されている。イレッサはEGFRを阻害することでⅡ型肺胞上皮細胞の機能を阻害し,肺胞虚脱を招く可能性があったのであるから,これによりマクロファージが増加することは十分に考えられることであり,少なくとも,マクロファージは肺に炎症が起きたことを示唆するものである。 ラット6か月試験では,イレッサ高用量群の40匹中10匹に認められたが,対照群では1匹も観察されず,肺胞マクロファージ浸潤の出現率は統計的に有意差を示した。イヌ6か月試験では,イレッサ高用量群の8頭中3頭に認められたが,対照群では1頭も観察されなかった。 (エ) イヌ6か月試験の肺炎症例等イヌ6か月試験では,高用量群の雌1頭が体重減少,摂餌減少により10日目に切迫屠殺され,その後は高用量群の用量が25mg から15 mg に減少されており(丙C1),実験者は,上記屠殺例の一般状態の悪化等がイレッサの毒性であり,かつ,試験継続のためには減量しなければならないと考えたことが示されている。 上記屠殺例は,ケースカードによれば,肉眼所見では左肺上葉が小さく蒼白化しており,剖検所見では「慢性肺炎」が見られたとされており(甲E17),上記屠殺例の死因に繋がりうる病変は,「慢性肺炎」とされた肺病変である。また,本来健康であるはずの被験動物が僅か10日で「慢性」の肺炎となるとは考え難 慢性肺炎」が見られたとされており(甲E17),上記屠殺例の死因に繋がりうる病変は,「慢性肺炎」とされた肺病変である。また,本来健康であるはずの被験動物が僅か10日で「慢性」の肺炎となるとは考え難く,イレッサのEGFR阻害作用によって,肺サーファクタント産生が阻害されて肺虚脱に至る可能性があることなどを前提にすれば,「慢性肺炎」とされた病変は,急性の肺障害,肺虚脱だった可能性を否定しきれないというべきである。 したがって,イヌ6か月試験での屠殺例は,人における急性肺障害の毒性を示していたものであり,臨床試験段階において,人の肺毒性について慎重な吟味が必要だったというべきである。 なお,イヌ6か月試験では,他にも高用量群の雄1頭に,限局性の肺胞中隔化生が認められている。化生とは,正常の組織から,正常には存在しない組織に置き換わることであり,肺胞中隔(間質)の肺胞上皮細胞が減少ないしは消失し,間質優位ないしは,間質のみに置き換わったことを意味する「interstitialproliferation:肺間質増殖」に相当し,間質性肺炎に近い所見である。 (オ) ラット6か月試験の肺浮腫等ラット6か月試験では,高用量群雄1匹が24週目に切迫屠殺されており,肺組織所見として,中等度の肺胞浮腫と肺胞内細胞浸潤の多発が,気管支には異物性肉芽腫(症)及び膿瘍形成の所見が見られており(甲B9),ケースカードでは,肺組織所見の肺胞浮腫と気管支の所見は死因に繋がるものとしてアスタリスク(*)が付されている。 上記所見はイレッサの毒性による呼吸器症状として把握される必要があったというべきであるエ臨床試験にみるイレッサの安全性の欠如(ア) 臨床試験における有害事象a 有害事象の意味臨床試験における有害事象とは,「医薬品が投 器症状として把握される必要があったというべきであるエ臨床試験にみるイレッサの安全性の欠如(ア) 臨床試験における有害事象a 有害事象の意味臨床試験における有害事象とは,「医薬品が投与された患者または被験者に生じたあらゆる好ましくない医療上のできごと」とされ,このうち当該医薬品との因果関係が否定できないものを副作用という。 したがって,副作用と区別される場合の有害事象は,本来,医薬品との因果関係が否定できるものをいう。 しかし,臨床試験等で報告された有害事象が全て医薬品との因果関係が否定できるものではない。なぜなら,治験担当医師が有害事象として報告したものであっても,その中には本来副作用とされるべきものが含まれている可能性があるからである。 b 治験担当医師の判断の限界個々の治験担当医師が扱う症例数は少なく,各医師が数少ない症例だけを見て因果関係の有無を判断するのは困難である。 特に頻度の低い有害事象の場合,個々の治験担当医師が当該有害事象に遭遇する確率は極めて低く,ほとんどの治験担当医師が当該有害事象には全く遭遇しないか又は遭遇したとしても1例程度に過ぎないことになる。 そうすると,治験担当医師がいくら経験豊富であったとしても,特に未承認の新薬のように未知の副作用が起こり得る場合に,頻度の低い未知の有害事象について治験薬との因果関係を判断することは不可能に近い。 c 有害事象と副作用との判断 治験担当医師の判断に限界がある以上,治験担当医師が治験薬との因果関係が否定できる有害事象として報告されたものであっても,治験担当医師の判断のみから治験薬と当該有害事象との因果関係を否定してはならず,最終的に臨床試験の全ての結果やその他に得られた副作用情報等を総合して因果関係の有無が判断されなければならな あっても,治験担当医師の判断のみから治験薬と当該有害事象との因果関係を否定してはならず,最終的に臨床試験の全ての結果やその他に得られた副作用情報等を総合して因果関係の有無が判断されなければならない。 (イ) 臨床試験における有害事象死亡例等a 有害事象死亡例の大半がイレッサとの関連性を否定できない副作用死亡例と考えられること臨床試験において有害事象死亡例とされた多くの症例では,次のような有害事象死の発症パターンが認められる。すなわち,皮膚,消化器,口・目などの粘膜,呼吸器,肝臓,代謝臓器,尿路生殖器粘膜,心臓,血管内皮の障害など,種々の臓器の傷害に伴う症状が多彩に出現し,重篤例は多くの場合,急性呼吸傷害が重篤化して死亡することが多い。 また,イレッサの作用機序,とくに6か月の反復毒性試験の結果,相前後して皮膚,粘膜,血管,臓器の多彩な症状が出現していることから考えて,死亡につながる有害事象としての急性肺傷害や出血など呼吸器系の有害事象死とイレッサとの関連は濃厚な例が多いと見る必要がある。 有害事象死として考えられる他の原因(併用薬剤の影響による死亡,がん以外の合併症として本人がもともと有していた心臓病や腎臓病,脳卒中などの合併症による死亡,本人がもともともっていなかった新たな病気,例えばインフルエンザからの肺炎等に罹患しての死亡)が,数%~十数%の死亡例をもたらす原因となることは想定し難いことから,各臨床試験に現れた呼吸器系の有害事象死亡例を含む,多くの有害事象死亡例については,イレッサとの因果関係が否定でき ない(むしろ相当な関係がありうる)有害反応(副作用)と評価すべきである。 b イレッサの臨床試験において急性肺障害・間質性肺炎による副作用死亡例が存在したこと有害事象死亡例のうち,IDEAL1 い(むしろ相当な関係がありうる)有害反応(副作用)と評価すべきである。 b イレッサの臨床試験において急性肺障害・間質性肺炎による副作用死亡例が存在したこと有害事象死亡例のうち,IDEAL1試験で「肺炎」による副作用死とされた症例は,イレッサによる急性肺障害・間質性肺炎による副作用死亡例である(丙B3[枝番号10])。 上記症例は,死因とされた急性呼吸不全に対してステロイドパルス療法が行われており,治験担当医師も急性呼吸不全とイレッサとの因果関係を認めていること等から,イレッサによる急性肺障害・間質性肺炎による副作用死亡例であり,その中でも間質性肺炎の最重症型のびまん性肺胞障害(DAD)であった可能性が高い。 したがって,上記症例はイレッサによる急性肺障害・間質性肺炎の副作用死亡例であるというべきであるが,上記症例は,治験担当医師もイレッサとの関連を認めているという意味で他の有害事象死亡例にも増して重要な意味を持つ。 cIDEAL2試験における直接又は間接的な死因となる重篤な有害事象を認めた死亡例4例は副作用死亡例であることIDEAL2試験において,「死亡に至る有害事象として報告されなかったが,直接又は間接的な死因となる重篤な有害事象を認めた」4つの症例(丙C1)は,濱氏の検討結果(甲E76)によれば,いずれもイレッサとの関連が否定できない副作用死亡例である。 d 病勢進行死とされた症例の中にもイレッサの副作用死とすべき症例が存在したことイレッサの承認審査の資料となった6つの臨床試験における死亡例の割合と,死亡例のうち有害事象死と病勢進行死との割合は以下のと おりである。 死亡例(有害事象死/病勢進行死)【総症例数】死亡率(全体におけ 害事象死と病勢進行死との割合は以下のと おりである。 死亡例(有害事象死/病勢進行死)【総症例数】死亡率(全体における有害事象死の割合/全体における病勢進行死の割合)第Ⅰ相(1839IL/0005)12(2/10)【64例】18.8(3.1/15.6)%第Ⅰ相(V1511)0(0/0)【31例】0.0(0.0/0.0)%第Ⅰ/Ⅱ相(1839IL/0011)11(9/2)【69例】15.9(13.0/2.9)%第Ⅰ/Ⅱ相(1839IL/0012)16(3/13)【88例】18.1(3.4/14.8)%第Ⅱ相(IDEAL1)35(5/30)【209例】16.7(2.4/14.4)%第Ⅱ相(IDEAL2)49(15/34)【216例】22.7(5.1/15.7)%全体123(34/89)【677例】18.2(5.0/13.1)% イレッサの臨床試験では,死亡例の割合が18.2%,うち有害事象死が5%,病勢進行死が13.1%である。臨床試験では,各臨床試験毎に,評価に必要な観察期間中の生存が見込まれる患者を選定した(第Ⅰ相又は第Ⅰ/Ⅱ相試験では12週間(84日)の生存が見込める患者が選定基準とされた。)はずであるにもかかわらず,イレッサ使用中及び中止30日以内の死亡例が20%近くもあり,病勢進行死とされている症例には,イレッサが関与した副作用死亡例が含まれていないかを検討する必要がある。 濱氏の検討結果(甲E76)によれば,病勢進行死とされた症例の多くはイレッサとの関連が濃厚な副作用死亡例であり,イレッサが関連した急性肺障害が死因の中心的病態であったのである。 (ウ) イレッサの国内臨 検討結果(甲E76)によれば,病勢進行死とされた症例の多くはイレッサとの関連が濃厚な副作用死亡例であり,イレッサが関連した急性肺障害が死因の中心的病態であったのである。 (ウ) イレッサの国内臨床試験における間質性肺炎発症例の評価a イレッサの臨床試験において,国内臨床試験(1839IL/0016 試験[IDEAL1],1839IL/0026 試験)で3例の間質性肺炎の副作用発症例(乙B12[枝番号3~5]。国内3症例)が現れた。 抗がん剤における間質性肺炎の副作用は,いったん発症するとステロイド剤投与による治療が効を奏さなければ,多くの場合死に至る極めて重大な副作用である。 国内臨床試験における間質性肺炎副作用の発症率は,少なくとも2.3%(133例中3例)と明確かつ高頻度であった。 b 国内3症例は,いずれも間質性肺炎に対するステロイドパルス療法が行われており,重篤な症例であったことがうかがわれる。 臨床経過や剖検結果を踏まえれば,少なくとも,国内3症例のうち1例目(乙B12[枝番号3],国内臨床試験1例目)は,イレッサ投与が死亡に与えた影響を完全に否定することができない症例といえる。 オ海外の副作用症例報告にみるイレッサの安全性の欠如(ア) 薬剤の安全性に関する観察研究(症例報告)の重要性イレッサの副作用である間質性肺炎等についての症例報告等の研究は,次に挙げる理由から,イレッサの有効性に関する個別症例とは異なり,薬剤の危険性に関する証拠価値は高い。 ① 薬剤の有効性では,起こった事象と薬剤との因果関係が完全には確定できないため,一般に症例報告などの観察研究の証拠価値は低く,医薬品の有効性を確認するためには,比較臨床試験などが行わなければならない。これに対し,薬剤の安全性は「鋭敏に」評価されなけ 完全には確定できないため,一般に症例報告などの観察研究の証拠価値は低く,医薬品の有効性を確認するためには,比較臨床試験などが行わなければならない。これに対し,薬剤の安全性は「鋭敏に」評価されなければならず,薬剤の副作用は,有害事象のうち当該医薬品との因果関係が否定できないものをいうのであり,因果関係が確立されない事象であっても,副作用として十分に注意されなければならないのである。 ② 薬剤の危険性は,その性質上,倫理的に介入研究を行うことは困難とされており,研究としては症例報告等しか行うことができない。 (イ) 国内3症例以外に被告国が間質性肺炎発症例として認めた7症例イレッサの承認前に,被告国は,被告会社から,国内3症例(前記エ(ウ))以外に,第Ⅲ相試験(INTACT各試験)やEAPにおける間質性肺炎の副作用発症例の報告を多数受けている。 被告国が間質性肺炎発症例として認めたものは7例(乙B13[枝番号1~4],14[枝番号1~3]。海外7症例)であり,うち5例(乙B13[枝番号1,3],14[枝番号1~3])はEAPにおける症例であり,残り2例は第Ⅲ相試験(INTACT試験)における症例であった。 海外7症例の中には,被告会社による追加報告によって副作用報告が取り下げられた症例(乙B13[枝番号3,4])が含まれているが,いずれもイレッサとの関連が否定できない副作用症例である。 (ウ) その他の間質性肺炎発症例(被告国が把握していなかった発症例)イレッサの承認前に被告会社から被告国に報告された副作用報告の中には,上記10症例(前記エ(ウ)の国内3症例及び前記(イ)の海外7症例)以外にも明らかに間質性肺炎の副作用発症例であると認められる症例が多数存在していた(別紙31【急性肺障害・間質性肺炎を発症したと ,上記10症例(前記エ(ウ)の国内3症例及び前記(イ)の海外7症例)以外にも明らかに間質性肺炎の副作用発症例であると認められる症例が多数存在していた(別紙31【急性肺障害・間質性肺炎を発症したと考えられる副作用症例一覧表】のとおり。ただし,同一覧表の39例には被告国が把握した間質性肺炎の発症例の9例が含まれているため,被告国が把握しなかった症例は30例ということになる。)。なお,同一覧表の39例には,後に被告会社の追加報告により取り下げられたものが含まれているが,取下げの経緯が不明である,又は取下げの理由が不可解であり,取下げには理由がないなど,いずれも副作用症例として取り扱うべきである。 また,上記30例のうち10症例は,典型的にイレッサによる急性肺障害・間質性肺炎発症例であると考えられる(丙B3[枝番号54,63,67,79,115,132,140,152,164,172])。上記10症例の中には,副作用名自体は「間質性肺炎」と記載されていないものの,臨床経過等の中に「間質性肺炎」又はこれと同義の疾患名(「間質性肺浸潤」「肺臓炎」等)が記載されており,疾患名 の記載だけから容易に間質性肺炎発症例であると判別できるものが複数存在している(丙B3[枝番号67,115,152,172等])。 カ平成14年7月承認時におけるイレッサによる間質性肺炎の予後の重篤性と発症の危険性のまとめ平成14年7月承認前から,抗がん剤による薬剤性間質性肺炎には死亡例や重篤例が多く見られており,イレッサの承認時には,既に,薬剤性間質性肺炎について,予後が不良となりうる疾患であり,かつ,その中でも病型が急性間質性肺炎で,病理組織像がびまん性肺胞障害(AIP/DAD)型をとるものは予後が不良であるということ,及び抗がん剤による薬剤性間質 いて,予後が不良となりうる疾患であり,かつ,その中でも病型が急性間質性肺炎で,病理組織像がびまん性肺胞障害(AIP/DAD)型をとるものは予後が不良であるということ,及び抗がん剤による薬剤性間質性肺炎については致命的になりやすいため特に注意を払われなければならなかった。 イレッサの臨床試験を検討する上で,イレッサのEGFR阻害というドラッグデザインから予測される毒性,イレッサの非臨床試験で得られた毒性所見を前提に慎重かつ厳密に吟味する必要がある。 臨床試験における有害事象と治験薬との因果関係は,治験担当医師の判断のみならず,治験全体の結果や他の副作用情報を総合して判断する必要があり,副作用については,臨床試験における副作用報告のみならずEAPなど他の副作用情報も重視して安全性評価を行わなければならない。 イレッサの臨床試験において現れた有害事象死亡例は,大半が副作用に分類されるべきものであり,少なくともこれら有害事象死亡例のデータはイレッサによる致死的な急性肺障害・間質性肺炎の副作用の発生を予測させるに十分なものであった。イレッサの国内臨床試験やEAPを含む副作用報告で認められた間質性肺炎の副作用発症例は,いずれも極めて重篤かつ致死的なものであり,発症率及び死亡率も高頻度であった。 以上より,イレッサが極めて重篤かつ致死的な間質性肺炎の副作用を高頻度で発症させるものであることはイレッサ承認前の時点で既に明らかに なっていたというべきである。 (3) 承認後におけるイレッサによる間質性肺炎の予後の重篤性と発症の危険性アイレッサによる副作用死亡者数イレッサは,承認後わずか8年足らずの2010(平成22)年3月末までに810人の副作用死亡者数を出しており,特に承認から2年半の2004(平成16)年末までに557人 レッサによる副作用死亡者数イレッサは,承認後わずか8年足らずの2010(平成22)年3月末までに810人の副作用死亡者数を出しており,特に承認から2年半の2004(平成16)年末までに557人もの副作用死亡者数を出している。 イ他剤との比較非小細胞肺がんの標準的治療法に用いられる他剤の副作用死亡報告数を基に推定年間死亡率を算出すると,いずれの薬剤も1%を大幅に下回る。 これに対し,イレッサの副作用死亡率については,被告会社によるプロスペクティブ調査(調査期間は平成15年6月から12月)(後記ウ)によれば,イレッサ服用による安全性評価対象症例中の死亡例の割合は2. 5%(83例/3322例)であった。上記死亡者の推移では,他の抗がん剤の死亡率は最低限を画して推計してきたものであるのに対し,イレッサは,平成14年は約半年間(承認後の7月16日から12月31日まで)で180人,平成15年は202人が死亡しており,平成16年は175人と減少傾向にあったことから,プロスペクティブ調査期間(平成15年6月から12月)以前の承認直後では,この差はもっと大きかった。 イレッサにより発生した副作用死亡例が他の抗がん剤と比しても圧倒的に多いことに加え,副作用死亡率との関係でも圧倒的に死亡の危険性が高いといえるのであるから,承認当時からイレッサが極めて高度の副作用死の危険性を有していたというべきである。 ウプロスペクティブ調査プロスペクティブ調査とは,イレッサの副作用発現頻度及び危険因子(発生危険因子,予後因子)をできる限り速やかに明らかにする目的で, 平成15年6月から平成15年12月の間に登録された3322例について副作用発現頻度及び危険因子の検討が行なわれた調査である。 プロスペクティブ調査の結果によれば,イレッサによ 的で, 平成15年6月から平成15年12月の間に登録された3322例について副作用発現頻度及び危険因子の検討が行なわれた調査である。 プロスペクティブ調査の結果によれば,イレッサによる急性肺障害・間質性肺炎の発症率は5.81%(193例/3,322例),うち死亡率は2.5%(83例/3,322例),急性肺障害・間質性肺炎からの死亡転帰は38.6%(85例/220例)であった。プロスペクティブ調査の結果(丙C2)は,イレッサによる急性肺障害・間質性肺炎の副作用について,大規模かつ詳細な個別症例の検討が行われたものであるから信頼性は高い。 以上によれば,イレッサによる急性肺障害・間質性肺炎の発症率は極めて高いものであり,また致死率も極めて高いという特徴を有する。特定の副作用について,上記のように高い発症率・致死率を示す薬剤は,他に例を見ない。 エコホート内ケース・コントロール・スタディコホート内ケース・コントロール・スタディは,①非小細胞肺がん患者のイレッサ投与例における急性肺障害及び間質性肺炎の発症を,他の化学療法例と比較することによって,相対リスクを推定すること,②治療中の非小細胞肺がん患者における急性肺障害及び間質性肺炎の発症率を推定することを目的に行なわれた試験であり,1レジメン以上の化学療法歴を有し,イレッサ若しくは化学療法を受ける予定の進行又は再発の非小細胞肺がん患者を対象とした。そして,事前に規定された進行又は再発の非小細胞肺がん患者の集団(コホート)における急性肺障害・間質性肺炎発症例,及びコホートより無作為抽出した急性肺障害・間質性肺炎非発症例(コントロール)を対象としたコホート内ケース・コントロール・スタディの方法で行われた。本試験は,2003年11月から2006年2月に実施され,4473件 作為抽出した急性肺障害・間質性肺炎非発症例(コントロール)を対象としたコホート内ケース・コントロール・スタディの方法で行われた。本試験は,2003年11月から2006年2月に実施され,4473件を登録して終了した(6000件のコホート群を集 積する予定であったところ,本試験の主要目的である急性肺障害・間質性肺炎発症の相対リスク推定に必要な急性肺障害・間質性肺炎発症件数が120件を超えたため終了した。)。 調査結果によれば,非小細胞肺がん患者のイレッサ投与例における急性肺障害・間質性肺炎発症の相対リスクは,化学療法例に対し,3.23倍という結果であった。投薬開始後28日以内で比較した場合,非小細胞肺がん患者のイレッサ投与例における急性肺障害・間質性肺炎発症の相対リスクは,化学療法投与例に対し,3.80倍と極めて高くなることが判明した(95%信頼区間1.90~7.60)。 以上のとおり,イレッサ投与による急性肺障害・間質性肺炎の発症は,他の化学療法に比べ,統計的有意差が存在することが明らかとなり,イレッサは,他の化学療法に比較して,急性肺障害の危険性が高い薬剤であることが科学的に確認されたのである。 オイレッサ承認後におけるイレッサによる間質性肺炎の予後の重篤性と発症の危険性のまとめイレッサによる間質性肺炎の副作用が極めて重篤かつ致死的で,イレッサの安全性が欠如していたことは,イレッサ承認前の段階で既に明らかになっており,その安全性の欠如が,承認後,わずか6年足らず間に,734人というこれまでに類を見ないほど多数の副作用死亡者数を出したという結果として表れたのである。 イレッサの安全性の欠如は,市販後において,他剤との比較やプロスペクティブ調査,コホート内ケース・コントロール・スタディの結果によって,より明確に 亡者数を出したという結果として表れたのである。 イレッサの安全性の欠如は,市販後において,他剤との比較やプロスペクティブ調査,コホート内ケース・コントロール・スタディの結果によって,より明確に実証されたのである。 (被告会社の主張)(1) 平成14年7月承認時におけるイレッサによる間質性肺炎に関する知見及び間質性肺炎発症の危険性 ア薬剤性間質性肺炎について(ア) 間質性肺炎に関する病型分類間質性肺炎の病型分類に関する研究は,特発性間質性肺炎に関しては実施されていたものの,薬剤性間質性肺炎は,そもそも発生頻度が低いことや,呼吸器疾患以外の症例における発症例が多く,呼吸器専門家へ症例報告されることが少ないこと,病理組織を採取する例が少ないこと等から,病型分類に関する独自の研究はほとんど行われていなかった。 そのため,薬剤性間質性肺炎の病型分類については,特発性間質性肺炎の病理組織学的分類を援用する形で,びまん性肺胞障害(DAD)型,器質化肺炎(OP)型,通常型間質性肺炎(UIP)型,非特異性間質性肺炎(NSIP)型,好酸球性間質性肺炎(EP)型,過敏性肺炎(HP)型などに分類することとされていた程度であり,薬剤性間質性肺炎の各組織型と予後との関係については,未だ研究途上で専門家の間でも見解の分かれるところであった。 この点について,原告らは,びまん性肺胞障害(DAD)型の特発性間質性肺炎に関する知見やびまん性肺胞障害(DAD)型の薬剤性間質性肺炎の予後は不良であるとの証人工藤の問題提起(甲H6)を取り上げ,イレッサ承認当時既に,びまん性肺胞障害(DAD)型の薬剤性間質性肺炎は予後不良であることが知られていた旨主張する。また,証人福島も,証人工藤が抗がん剤の場合にはびまん性肺胞障害(DAD)型の間質性肺炎 ッサ承認当時既に,びまん性肺胞障害(DAD)型の薬剤性間質性肺炎は予後不良であることが知られていた旨主張する。また,証人福島も,証人工藤が抗がん剤の場合にはびまん性肺胞障害(DAD)型の間質性肺炎が多く,死亡率が高いと考えているはずである旨証言している。 しかしながら,特発性間質性肺炎と薬剤性間質性肺炎とは異なる疾患であり,前者に関する知見を直ちに後者に当てはめることはできない。特発性間質性肺炎に関する研究は世界的にも我が国においても多数行われていたのに対し,薬剤性間質性肺炎に関する本格的研究はなされていなかったことから,例えば病型分類については,特発性間質性肺炎における分類を 薬剤性間質性肺炎の分類として便宜上用いていただけであって,特発性間質性肺炎における病型分類ごとの特徴と薬剤性間質性肺炎における病型分類ごとの特徴とが同じであるということを意味するわけではない。薬剤性間質性肺炎における病型分類ごとの特徴を把握するためには,あくまでも,薬剤性間質性肺炎においてこれを実証することが必要である。 薬剤性間質性肺炎に関する病型分類ごとの特徴を確認のための研究をまとめたものが,証人工藤らによる学会抄録(甲H6)であった。この学会抄録は,3種類の抗がん剤の合計14例の分析結果をまとめたものであるが,症例数が少なかったことから,証拠価値が低く,証人工藤ら自身が原著論文化(当該領域の専門家による査読を経て最終的に論文として発表すること)を控えたというものであり,イレッサ承認当時は,未だ上記実証が行われていない状況であった。 (イ) 薬剤性間質性肺炎の予後薬剤性間質性肺炎の予後が良好から不良まで様々である。 薬剤性間質性肺炎の大部分は,原因薬剤の投与を中止し,ステロイド剤を投与することによって回復する。また,原因薬剤の投与を 剤性間質性肺炎の予後薬剤性間質性肺炎の予後が良好から不良まで様々である。 薬剤性間質性肺炎の大部分は,原因薬剤の投与を中止し,ステロイド剤を投与することによって回復する。また,原因薬剤の投与を中止するだけで回復するものもある。これに対し,薬剤性間質性肺炎には,ステロイド剤に反応せず,死亡に至るものも存在する。薬剤性間質性肺炎の死亡率は薬剤によって異なる。 薬剤性間質性肺炎は,場合によっては死亡に至ることのある疾病であるが,とりわけ抗がん剤や免疫抑制剤等による間質性肺炎は,個々の薬剤によって程度の差はあるものの,一般用医薬品によるそれと比べて予後不良となる場合が多いものと認識されていた。 (ウ) 原因薬剤と間質性肺炎発症頻度薬剤性間質性肺炎の原因薬剤には様々なものがあるが,代表的なものには,抗がん剤,免疫抑制剤,リウマチ薬,漢方薬,インターフェロンなど がある。 平成14年7月当時から,非小細胞肺がんを適応とする抗がん剤であれば,プラチナ製剤であるシスプラチン及びカルボプラチン,1990年代以降に承認された新規抗がん剤であるドセタキセル,パクリタキセル,ゲムシタビン,イリノテカン,ビノレルビン,アムルビシンは,いずれも間質性肺炎の原因薬剤となりうることが知られていた。新規抗がん剤に関する,承認のための国内第Ⅱ相試験における間質性肺炎発生頻度は1.0%から4.9%であった。 (エ) 発症危険因子と予後不良因子我が国では,イレッサ販売以前から,特発性肺線維症のある患者の場合,感冒罹患をはじめ,放射線療法,化学療法,外科療法,気管支肺胞洗浄(BAL)等によって肺に何らかの侵襲があったときに急性増悪を来たし致死的になりうることが,呼吸器内科等に携わる医師の間で知られていたが,化学療法による特発性肺線維症の急性増悪 療法,気管支肺胞洗浄(BAL)等によって肺に何らかの侵襲があったときに急性増悪を来たし致死的になりうることが,呼吸器内科等に携わる医師の間で知られていたが,化学療法による特発性肺線維症の急性増悪は,イレッサ承認当時においては,証拠価値の高いデータをもって示されたものではなく,未だ研究途上の内容であった。 個々の抗がん剤において,特発性肺線維症を含む既存の間質性病変又は肺線維症のある患者に投与した場合に,当該間質性病変又は肺線維症が急性増悪を来たすか否かについては,イレッサ承認当時も現在においても一般論で論じることはできず,当該個々の抗がん剤のデータに基づいて判断する必要がある。イレッサ承認当時の標準的な非小細胞肺がん抗がん剤の中にも,既存の間質性肺炎又は肺線維症が危険因子とされていない(添付文書において「慎重投与」欄等の注意喚起がされていない)抗がん剤は複数存在した。 以上のような事情などから,特発性肺線維症を含む既存の間質性病変又は肺線維症のある患者に抗がん剤を投与した場合の急性増悪を来たす可能 性を推測させるものではあったものの,なお研究と知見の積み重ねを要する段階の研究結果であり,薬剤性間質性肺炎の発症危険因子及び予後不良因子についても,病理組織学的分類と同様,イレッサ承認以前には研究途上の領域であったというべきである。 イイレッサによる間質性肺炎の発生機序(ア) イレッサによる間質性肺炎の発生機序平成14年7月当時から,薬剤性間質性肺炎には,①薬剤若しくはその中間代謝物による直接的細胞傷害作用又は炎症反応により発生するものと,②免疫学的機序を介した間接的細胞傷害作用により発症するというものがあると考えられてきた。もっとも,それぞれの詳細なメカニズムは,現在もなお十分には解明されていない。 また, より発生するものと,②免疫学的機序を介した間接的細胞傷害作用により発症するというものがあると考えられてきた。もっとも,それぞれの詳細なメカニズムは,現在もなお十分には解明されていない。 また,同月当時から,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤による薬剤性間質性肺炎の発生機序の詳細は明らかではなく,現在においてもなお明らかではない。 したがって,イレッサ承認時から,イレッサのEGFRチロシンキナーゼ阻害作用(ドラッグデザイン)から間質性肺炎の発症が予測できたとする原告らの主張は失当である。 (イ) 永井教授らの実験に関する評価永井教授らの動物実験は,種々の問題点(同実験では,①イレッサの投与量がヒト換算した場合に承認用量の約50倍となるほど多い,②マウスへの投与量が単一用量であった,③ヒトに外挿するにあたっては,ヒトで発生するような慢性の肺線維症ではなく,ブレオマイシン誘発肺障害という急性のものに対するイレッサの影響を見ていることを考慮する必要がある,④ブレオマイシンを投与しない対照群を置いていない,⑤イレッサがブレオマイシン投与の1時間前に投与されており,ブレオマイシン誘発肺障害に対するイレッサの影響を確認することができない 実験となっていた,⑥マウスが5例ずつという少数であり,データの信頼性を担保される裏付けるデータがなかった,⑦同一のマウスの種類,投与方法や評価方法を用いて実験したが,再現できなかったなど)が存在することから,同実験をもって,イレッサによる間質性肺炎の発症機序が明らかになっていたとはいえない。 ウ非臨床試験に関する評価(ア) 非臨床試験の屠殺例非臨床試験の毒性試験では,試験観察中に屠殺例が出ることは不自然ではなく,どの程度の被験薬を投与すれば動物が死亡するか,どの程度の被験薬を投与すれ 床試験に関する評価(ア) 非臨床試験の屠殺例非臨床試験の毒性試験では,試験観察中に屠殺例が出ることは不自然ではなく,どの程度の被験薬を投与すれば動物が死亡するか,どの程度の被験薬を投与すればいかなる毒性が出現するかを実験し,観察する必要があるのであり,その過程で動物が死亡し,また死に瀕することは試験の目的上やむを得ない。 屠殺例がすべてイレッサの毒性に起因するものではない。動物は実験用の檻に入れられ多大なストレスを課せられるのみならず,投与上の不手際より死に瀕することもある。 (イ) 泡沫肺胞マクロファージ等の所見イレッサの非臨床試験で泡沫肺胞マクロファージの所見が出されたものがあったが,いずれもイレッサの毒性所見ではなく,イレッサに起因しないものと判断された。 ラット6か月試験では,①40例中10例に所見が示されたが,うち1例が軽度,9例が軽微であったこと,②泡沫肺胞マクロファージは当該試験で用いられたウィースターラットで加齢に伴って一般的に見られる所見で,溶媒対照群での発現頻度が0~30%であるから,25%の発現頻度は溶媒対照群での発現頻度の範囲内であること,③高用量群の約2倍の用量で実施されたラット1か月試験での発現頻度が0%であったこと,マクロファージが存在する肺胞において,他の肺胞と比較して 特段の影響が認められなかったことから,イレッサに起因しないものと判断された。 イヌ6か月試験では,いずれも軽微であり,実験に使用したビーグル犬で自然発生的に観察されるものであるから,イレッサに起因しないものと判断された。 (ウ) イヌ6か月試験の肺炎症例等イヌ6か月試験の「慢性肺炎」の所見では,肺炎が左肺前葉のみに存在し,実験に使用されたビーグル犬の背景データにみられる典型的な偶然所見であった。肺炎 された。 (ウ) イヌ6か月試験の肺炎症例等イヌ6か月試験の「慢性肺炎」の所見では,肺炎が左肺前葉のみに存在し,実験に使用されたビーグル犬の背景データにみられる典型的な偶然所見であった。肺炎は,しばしば溶媒対照群のビーグル犬でも観察される所見であり,実際にイヌ1か月試験では対照群で雄3例中1例に観察されている。 したがって,上記肺炎は,イレッサの毒性所見ではなく,イレッサに起因しないものと考えられた。 (エ) ラット6か月試験の肺浮腫等ラット6か月試験において,「多巣性肺胞浮腫」の所見が出された当該動物は切迫屠殺されているが,複数の胸部器官に病変が見られ,その所見から当該動物に対し被験物質を誤って肺に投与したものと考えられた。 したがって,上記多巣性肺胞浮腫の所見は,イレッサの毒性所見ではなく,イレッサに起因しないものと考えられた。 エ治験,参考試験,EAPに関するデータの評価(ア) 治験,参考試験,EAPのデータの位置付けイレッサ承認当時,イレッサの安全性に関する臨床データには,治験からのデータのみならず,参考資料とされた治験以外の臨床試験(参考試験)からのデータやEAPからのデータがある。上記データは,いずれもイレッサの安全性の評価の対象となるが,以下のとおりデータの質 が異なるから,一様に評価するべきではない。 a 治験データの位置付け治験は,GCP省令によりデータ収集,検討,評価体制が構築されており,被験薬の有用性を適切に評価するために対象患者が厳格に選定されているから,治験により得られたデータは被験薬の有効性及び安全性を適切に評価するのに適したものといえる。 また,治験は,監査等が実施されており,GCP省令に違反した場合には,違反した治験責任医師は以後の治験に参加できなくなるなどの は被験薬の有効性及び安全性を適切に評価するのに適したものといえる。 また,治験は,監査等が実施されており,GCP省令に違反した場合には,違反した治験責任医師は以後の治験に参加できなくなるなどの事実上の制裁が存在するため,データの信頼性が担保されている。 したがって,安全性は,治験から得られたデータを中心に評価されなければならない。 b 参考試験データの位置付け参考試験のデータは,臨床試験から得られるデータであるから,治験データと同様に信頼性の高いデータである。 しかし,参考試験には,治験と異なり,被験薬の投与方法(併用療法等)や対象が特殊(健常者対象試験等)であったり,承認時点ではいまだ試験実施中で監査が実施されておらず,データの信頼性が十分に担保されていないこともあるという特徴がある。 したがって,参考試験のデータは重要であるが,治験データとの相違点に留意した評価が必要となる。 cEAPの位置付けEAPにはデータの信頼性を担保する制度が構築されていないから,EAPによるデータは,安全性評価にあたっては参考資料として評価されるべきであり,治験や参考試験からのデータと同等に扱うべきではない。 (イ) 臨床試験における被験薬の安全性評価(被験薬と有害事象との因果関 係に関する判断,病勢進行死の扱いなど)a 臨床試験の結果に関する安全性評価においては,被験薬により生じた副作用を的確に把握することが重要である。 副作用とは,被験薬との因果関係が積極的に肯定されるものばかりではなく,被験薬との因果関係が否定できないものが含まれるが,臨床試験中に生じた副作用には該当しない有害事象とは異なるものであるから,両者を的確に区別して把握することも重要である。 臨床試験における有害事象の把握は,現代の科学水準に照らして のが含まれるが,臨床試験中に生じた副作用には該当しない有害事象とは異なるものであるから,両者を的確に区別して把握することも重要である。 臨床試験における有害事象の把握は,現代の科学水準に照らして行われることになる。医薬品の安全性確保という観点からは,因果関係が否定できるかは慎重に判断されるべきであるが,現代の医学的知見に基づかない判断は科学的とはいえないのである。 そして,臨床試験における有害事象例の因果関係の有無等の判断は,当該疾患に関する医学的知見を基礎とし,当該症例についての臨床経過,画像検査や血液検査等の各種臨床データ等の具体的根拠に基づいて行われるべきである。 b 抗がん剤の臨床試験においては,特に末期がん患者を対象にした場合には,被験薬とは関係なく,様々な症状や合併症が発現し,また予期せぬ病態の変化による死亡等が生じうる。種々の有害事象が生じることから,これらの有害事象への対症療法として,様々な医薬品が併用投与されることになる。 そのため,抗がん剤の臨床試験では,被験薬投与後に有害事象が発現したとしても,直ちに被験薬との因果関係が否定できない有害事象であると判断することは合理的ではない。もちろん有害事象が発現した場合には,がんの病勢進行によるものであると安易に評価してもよいというものではなく,当時の医学的水準に照らして,当該有害事象ががんの病勢進行に伴う症状や合併症によるものではないか,併用薬 によるものではないか等を慎重に評価することが必要である。 c 臨床試験において被験薬の副作用を適切に評価するためには,当該有害事象が被験薬に起因するものか,病勢進行によるものか,あるいはそれ以外の原因によるものかを的確に鑑別することが不可欠である。中でも呼吸器系の有害事象の場合には,肺がんの臨床試験では腫瘍 ,当該有害事象が被験薬に起因するものか,病勢進行によるものか,あるいはそれ以外の原因によるものかを的確に鑑別することが不可欠である。中でも呼吸器系の有害事象の場合には,肺がんの臨床試験では腫瘍の発現する場と有害事象の発現する場が同じ臓器であるから,厳密な鑑別を要し,専門知識及び経験を要する。 そのため,肺がんの臨床試験では,肺がんの専門知識と治療経験豊富な医師が,治験担当医師として患者の臨床経過を観察し,有害事象が生じた場合には当該有害事象を記録した上,当該有害事象の重症度や被験薬との因果関係などを,各種画像所見や臨床検査値などのデータを確認しながら判断しているのである。さらに,上記判断は,効果安全性評価委員会,知見依頼者や審査センターにより検証される。 したがって,具体的,現実的な説明可能性を詳細に示すことなく,治験担当医師の判断を否定することは合理的ではないというべきである。原告らの主張するものは,いずれも具体的,現実的な説明可能性を詳細に示すことなく,批判しているにすぎない。 d 原告らは,様々な有害事象を一連のものと捉えて,そのすべてをイレッサの副作用と評価して主張するものである。 しかし,被験薬と有害事象との因果関係は,本来有害事象ごとに個別に判断されるものであり,少なくとも一連という理由のみで判断されるものではなく,検討手法に問題がある。 (ウ) 間質性肺炎等の副作用に関する治験,参考試験及びEAPの評価a 最も信頼性が高く,評価の中心となる治験結果では,イレッサの単剤・承認用量(250mg/日)における間質性肺炎副作用報告例がなかった。もっとも,治験では,承認用量の倍量投与群(500mg/ 日)で2例の間質性肺炎副作用報告例が存在した(国内3症例のうち国内臨床試験3例目は,後日被告会社が取り下げ 用報告例がなかった。もっとも,治験では,承認用量の倍量投与群(500mg/ 日)で2例の間質性肺炎副作用報告例が存在した(国内3症例のうち国内臨床試験3例目は,後日被告会社が取り下げた。)ことから,用量の違いがあるものの,単剤・承認用量での間質性肺炎発症の可能性は完全には否定できないものと考えられた。 また,参考試験の結果においても,治験と同じく,単剤・承認用量での間質性肺炎の副作用報告例はなかったが,倍量投与群や3剤併用投与試験の症例において間質性肺炎副作用報告例が複数あり,これらの症例によってイレッサの間質性肺炎発症の有無を評価することは困難ではあるものの,完全には否定できないものと考えられた。 上記各試験結果の評価は,EAPのデータ(EAP1~5例目)と矛盾しないものと考えられた。 b 国内3症例のうち国内臨床試験3例目は,被告会社が後日取り下げたものであり,国内臨床試験1例目及び2例目は,いずれもイレッサと間質性肺炎の発症との因果関係は否定できないものの,ステロイド療法により間質性肺炎が一時的に改善しており,病勢進行により死亡するに至ったものであるから,副作用死亡例ではない。 国内臨床試験1例目は,急性間質性肺炎の疑いのあるものであるが,イレッサの投与後に発症した間質性肺炎に対してはステロイド薬が効いおり,死亡する1週間前にDIC合併の疑いがあったことから,DIC合併により発症した間質性肺炎である疑いが強いのである。したがって,国内臨床試験1例目から,イレッサによって急性間質性肺炎が発症する可能性があることが判明したとはいえない。 c 原告らは,上記の他にも間質性肺炎等に関する副作用報告があった(別紙31【急性肺障害・間質性肺炎を発症したと考えられる副作用症例一覧表】など))と主張する。 しかし,医薬 したとはいえない。 c 原告らは,上記の他にも間質性肺炎等に関する副作用報告があった(別紙31【急性肺障害・間質性肺炎を発症したと考えられる副作用症例一覧表】など))と主張する。 しかし,医薬品の投与中に何らかの有害事象が生じた場合には,主 治医は,当該患者の臨床経過,各種検査値等を踏まえ,有害事象名を特定するが,当該有害事象の特定には患者の最も身近で臨床経過を確認し,最も多くの情報を有している主治医の意見が基本的に信頼できるものであり,具体的な根拠を示すことなく批判することは不適当である。 また,医薬品の安全性の評価は,投与方法や投与量によっても異なるところ,これらを区別せずに一括りにして評価することにも問題がある。 加えて,原告らの指摘する副作用報告は,治験の症例ではなく,大部分がEAPであり,EAPのデータは参考データとしての位置付けにとどまるものである。 したがって,原告らの上記主張は失当である。仮に原告らの指摘する30症例がイレッサの間質性肺炎に関する副作用報告であるとしても,承認時点におけるEAPを含むイレッサ投与患者は少なくとも1万例を超えるものであるから,被告国が副作用報告と認めた10例に上記30例を加えたとしても,イレッサによる間質性肺炎の発症頻度は0.4%以下であり,死亡率はさらに低くなるのであるから,国内臨床試験における発症頻度よりも低いものとなってしまい,かえって適切に評価できないおそれがある。 オ殺細胞性抗がん剤とイレッサの副作用について(ア) 殺細胞性抗がん剤の副作用a 副作用の回避困難性殺細胞性抗がん剤は,基本的にはDNAの合成阻害により細胞分裂を抑止するものであり,その作用はがん細胞のみならず正常細胞にも及ぶから,性質上,正常細胞に有害な影響を及ぼす可能性が十分にあ 避困難性殺細胞性抗がん剤は,基本的にはDNAの合成阻害により細胞分裂を抑止するものであり,その作用はがん細胞のみならず正常細胞にも及ぶから,性質上,正常細胞に有害な影響を及ぼす可能性が十分にある。 また,殺細胞性抗がん剤は一般的に治療域が狭く,副作用の許容限度内で治療効果を得ることが難しく,副作用はほぼ必発である。 したがって,殺細胞性抗がん剤は,作用機序及び治療係数の2点から,副作用を回避することは困難である。 b 副作用の多様性殺細胞性抗がん剤は,抗がん剤の種類に応じて,多様な副作用を生じる。 殺細胞性抗がん剤は,基本的にはDNAの合成を阻害して細胞分裂を抑制するものであるから,DNA合成ないし細胞分裂が活発な正常細胞に副作用が生じやすい。 殺細胞性抗がん剤では,血液毒性(白血球減少,好中球減少,血小板減少,赤血球減少など)の副作用がほぼ必発であり,特に白血球減少や好中球減少は死亡するおそれのある副作用である。 また,殺細胞性抗がん剤では,程度の差があるものの,嘔気,嘔吐を誘発するものが大半である。イリノテカンやドセタキセルでは下痢を発現することがあり,重篤な状態となる場合もある。 肺毒性も,ほとんどの殺細胞性抗がん剤で発現する可能性があるが,発生機序には不明な点が多く,診断が困難な場合が少なくない。 その他,腎臓の機能障害をもたらす腎毒性,神経毒性,心毒性,脱毛などの副作用は多岐にわたる。 c 副作用の重篤性殺細胞性抗がん剤の副作用には重篤なものが多く,現状では副作用死亡率は1~2%程度あり,一定の副作用死亡の発生は避けられない。 (イ) イレッサの副作用a イレッサの副作用の全体像 最も多く見られるイレッサの副作用は発疹(皮疹,湿疹)である。 発疹以外で比較的発生頻度 副作用死亡の発生は避けられない。 (イ) イレッサの副作用a イレッサの副作用の全体像 最も多く見られるイレッサの副作用は発疹(皮疹,湿疹)である。 発疹以外で比較的発生頻度が高い副作用としては,肝障害(肝機能障害),下痢である。 嘔気・嘔吐はシスプラチンなどと比較して軽微であり,下痢もイリノテカンのように致命的になることはないなど,これらの副作用によって死亡することは基本的にはない。 したがって,イレッサの副作用のうち,重篤で致死的になり得る副作用としては,ほぼ間質性肺炎のみであった。もっとも,承認当時は,治験等によれば,イレッサと間質性肺炎の発症との因果関係が完全には否定できないと考えられていたにとどまる。 b イレッサには血液毒性がほとんどないこと殺細胞性抗がん剤の中心的な副作用は血液毒性の副作用であり,その副作用は致死的かつ重篤なものであった。これに対して,イレッサでは血液毒性の副作用はほとんど発生しない。 c イレッサは患者の全身状態やQOLを害する副作用が少ないこと殺細胞性抗がん剤では,患者の全身状態やQOLを害する副作用が現れる。その代表的な副作用は,嘔気,嘔吐などの消化器症状である。 これに対して,イレッサは,殺細胞性抗がん剤と比較して,患者の全身状態やQOLを害する副作用は少ない。そのため,イレッサは,全身状態不良又は高齢者の患者に対しても投与できる場合がある。 イレッサは,患者の全身状態やQOLを害する副作用が少なく,全身状態不良又は高齢者の患者に対しても治療の選択肢となりうる。 d 副作用全体からみた副作用の危険(a) 副作用の危険性の判断方法安全性評価における,副作用の危険性を評価する上では,特定の 副作用ではなく,当該抗がん剤によって生じうるすべての副作 副作用全体からみた副作用の危険(a) 副作用の危険性の判断方法安全性評価における,副作用の危険性を評価する上では,特定の 副作用ではなく,当該抗がん剤によって生じうるすべての副作用を評価すべきである。したがって,他の抗がん剤の副作用と比較する場合に,間質性肺炎の副作用のみを取り上げて比較することは正しい評価方法とはいえない。 また,副作用の危険性は,副作用死亡の絶対数ではなく,死亡率(頻度),患者背景,副作用の減少傾向等を踏まえて評価されるべきである。 (b) 他の非小細胞肺がん抗がん剤と比較した場合のイレッサの副作用の危険性イレッサの副作用全体の死亡率は他の非小細胞肺がん抗がん剤と大差なく,また間質性肺炎以外の副作用は他剤よりも軽微であり,患者の全身状態を害するような副作用が少ないため,全身状態不良又は高齢者の患者にとって治療の機会を与えることができる。これに対して,殺細胞性抗がん剤では,間質性肺炎の発症頻度はイレッサよりも少ないものの,血液毒性という致死的で重篤な副作用があり,副作用死亡率はイレッサと大差ない。ただし,殺細胞性抗がん剤では,患者の全身状態やQOLを害する副作用が高頻度で発生し,治療困難化等をもたらすことになる。 したがって,副作用全体でみると,イレッサの副作用は,少なくとも他の非小細胞肺がんの抗がん剤と変わらないということができる。 カまとめ承認当時からイレッサにより間質性肺炎の発症の可能性を完全には否定できない状況にあった。 しかし,薬剤性間質性肺炎に関する研究が本格的に行われたのはイレッサ承認後であり,特発性間質性肺炎の病型分類が薬剤性間質性肺炎にもそ のままあてはまるか実証的な研究がされておらず,薬剤性間質性肺炎に関する医学的,薬学的知見の多くはイレッサの はイレッサ承認後であり,特発性間質性肺炎の病型分類が薬剤性間質性肺炎にもそ のままあてはまるか実証的な研究がされておらず,薬剤性間質性肺炎に関する医学的,薬学的知見の多くはイレッサの承認後に得られたものであり,すなわち病型分類と予後や危険因子等はイレッサ承認後に得られた知見であり,イレッサ承認当時から,イレッサによる間質性肺炎の予後が重篤なものとなることは必ずしも明らかではなかった。 また,イレッサは,副作用全体の死亡率が他の非小細胞肺がん抗がん剤と大差なく,間質性肺炎以外の副作用は他剤よりも軽微であり,患者の全身状態を害するような副作用が少ないため,全身状態不良又は高齢者の患者にとって治療の機会を与えることができる。これに対して,殺細胞性抗がん剤では,間質性肺炎の発症頻度はイレッサよりも少ないものの,血液毒性という致死的で重篤な副作用があり,副作用死亡率はイレッサと大差ない。ただし,殺細胞性抗がん剤では,患者の全身状態やQOLを害する副作用が高頻度で発生し,治療困難化等をもたらすことになる。 したがって,副作用全体でみると,イレッサの副作用は,少なくとも他の非小細胞肺がんの抗がん剤と変わらないということができる。 (2) 承認後におけるイレッサによる間質性肺炎に関する知見及び間質性肺炎発症の危険性アイレッサ承認後のイレッサの副作用に関する調査(ア) WJTOG研究報告WJTOG研究報告は,平成14年8月31日から同年12月31日までの間にイレッサの投与を開始した非小細胞肺がん患者について,1年間の経過観察を行い,その結果に基づいて,イレッサの間質性肺炎の発生頻度(発症率)及び間質性肺炎による死亡率などを調べることを目的として実施された研究報告である。 上記研究報告では,1976例のうち間質性肺炎の発症 ,その結果に基づいて,イレッサの間質性肺炎の発生頻度(発症率)及び間質性肺炎による死亡率などを調べることを目的として実施された研究報告である。 上記研究報告では,1976例のうち間質性肺炎の発症が認められた症例が70例,うち死亡例が31例であった。すなわち,間質性肺炎の 発生頻度は3.5%(70/1976例)であり,間質性肺炎による死亡率は1.6%(31/1976例)であった(イ) プロスペクティブ調査プロスペクティブ調査は,イレッサの副作用(間質性肺炎を含む。)の発生頻度等を明らかにするために,被告会社が実施した調査である。 上記調査は,当初の登録患者数が3354例で,平成16年3月に調査が終了し,データの収集が完了した症例は3350例(4例はデータ収集不能)であった。このうち安全性評価対象症例として副作用の発生頻度等の検討の対象とされた症例は3322例であった。 上記調査では,3322例中のうち間質性肺炎の発生が認められた症例が193例,うち死亡例が75例であった。すなわち,間質性肺炎の発生頻度は5.81%,間質性肺炎による死亡率は2.25%であった。 (ウ) コホート内ケース・コントロール・スタディコホート内ケース・コントロール・スタディは,間質性肺炎の発生頻度(発症率)等について,イレッサと他の非小細胞肺がん抗がん剤を比較することによって検討,評価することを目的とした調査研究である。 比較対象とされた他の非小細胞肺がん抗がん剤による化学療法には,様々な治療法が含まれているが,多かったのは①ドセタキセルやパクリタキセルなどの抗がん剤とプラチナ製剤の2剤併用療法と②ゲムシタビンとビノレルビンの2剤併用療法であった。 イレッサの間質性肺炎の発生頻度は3.98%であり,他の化学療法では2.09%であり,間 タキセルなどの抗がん剤とプラチナ製剤の2剤併用療法と②ゲムシタビンとビノレルビンの2剤併用療法であった。 イレッサの間質性肺炎の発生頻度は3.98%であり,他の化学療法では2.09%であり,間質性肺炎が発生した場合の死亡率は,イレッサが31.9%,化学療法が27.9%であった。上記結果は,イレッサは化学療法よりも間質性肺炎の発生頻度は高いが,間質性肺炎が発生した場合の死亡率は,イレッサによって起こった間質性肺炎と化学療法 によって起こった間質性肺炎とは差がないと評価されるものであった。 また,イレッサの副作用死亡率は1.6%であり,死因は主に間質性肺炎であった。 イまとめイレッサには致死的で重篤な副作用として間質性肺炎があるが,これを含めた副作用全体の死亡率は他の非小細胞肺がん抗がん剤と大差なく,また間質性肺炎以外の副作用は他剤よりも軽微であり,患者の全身状態を害するような副作用が少ないため,全身状態不良又は高齢者の患者にとって治療の機会を与えることができる。これに対して,殺細胞性抗がん剤では,間質性肺炎の発症頻度はイレッサよりも少ないものの,血液毒性という致死的で重篤な副作用があり,副作用死亡率はイレッサと大差ない。ただし,殺細胞性抗がん剤では,患者の全身状態やQOLを害する副作用が高頻度で発生し,治療困難化等をもたらすことになる。 イレッサの間質性肺炎の発症頻度は,コホート内ケース・コントロール・スタディなどの結果によれば約4~5%であり,他の非小細胞肺がん抗がん剤に比べてやや高いものの,近時の発症頻度はかなり低くなっている。死亡率は,コホート内ケース・コントロール・スタディなどの結果によれば約1~2%であり,その原因はほぼ間質性肺炎であるところ,イレッサによる間質性肺炎の発症頻度が低下するのと同様に, くなっている。死亡率は,コホート内ケース・コントロール・スタディなどの結果によれば約1~2%であり,その原因はほぼ間質性肺炎であるところ,イレッサによる間質性肺炎の発症頻度が低下するのと同様に,間質性肺炎の死亡率も近時は低くなっている。 そうすると,承認時までの事情,コホート内ケース・コントロール・スタディやプロスペクティブ調査などによる副作用の全体像及び現在におけるイレッサの副作用死亡率の低下を総合すれば,イレッサの副作用の危険性は他の非小細胞肺がん抗がん剤に比して小さいと考えられなくはなく,少なくとも,副作用全体でみると,他の非小細胞肺がんの抗がん剤と変わらないということができるのである。 (被告国の主張)(1) 新しい医薬品の安全性評価ア新しい医薬品の安全性評価今日の医学,薬学では,一般に,新しい医薬品を医療現場に供給するときには,最終的にヒトを対象とする試験,すなわち臨床試験によって,その有効性及び安全性が確認されなければならないとするヘルシンキ宣言を基本原則として,同基本原則の下で確立された具体的な方法論に関する知見をとり入れて,各種の指針(ガイドライン)が示されている。ただし,安全性の評価は,有効性の有無を確認できるようなデザインで計画された臨床試験で行うこととなっており,有効性評価に比べて系統だったものではない。 新しい医薬品の安全性を承認段階で完全に捉えることには限界があり,医薬品の真の評価は販売後にゆだねられており,薬事法は販売後の安全対策により補完することを予定しているが,これは国際常識である。 イ治験の安全性情報の位置付け治験では,選択基準及び除外基準によって背景因子をそろえた一定症例数の標準的な患者集団を対象に,信頼性ある医療機関の専門医が,因果関係を問わない有害事象を ある。 イ治験の安全性情報の位置付け治験では,選択基準及び除外基準によって背景因子をそろえた一定症例数の標準的な患者集団を対象に,信頼性ある医療機関の専門医が,因果関係を問わない有害事象を,統一的な基準を用いて把握し,試験を通じて全体像を要約することにより,標準的で類型的な患者群を対象とした一般的,類型的な安全性の確認が企図されている。 また,治験においては,治験が科学的,倫理的に実施されるようにGCP省令で種々の工夫が講じられている。 したがって,治験は,治験薬がヒトに類型的に生じさせる有害事象について,極めて信頼性の高い情報を提供するものであり,その信頼性は他の情報源よりも高いのである。 ウ EAP症例などの安全性情報の位置付け 承認当時の安全性評価は,治験により得られた情報のほか,参考試験やEAP等の情報も考慮される。EAP症例等の情報は,新薬の安全性情報評価において重要な意義を有するが,新薬の安全性評価の中心となる治験により得られた情報との関係では補充的な資料として位置付けられる。 したがって,EAP症例等の情報は,治験により得られた情報との全体としての整合性の中で検討されるべきものである。 (2) 平成14年7月承認時におけるイレッサによる間質性肺炎に関する知見及び間質性肺炎発症の危険性ア特発性間質性肺炎と薬剤性間質性肺炎特発性間質性肺炎は,間質性肺炎の中で圧倒的に症例数が多く,難治性で原因不明であることなどから,最も研究が集中している。 承認当時,特発性間質性肺炎に関する病型分類が一応整理されつつあったという状況であったものの,病型分類予後と関連づけた病型分類研究は半世紀にわたる混乱した歴史を経てなお未解決の問題を残している。 また,特発性間質性肺炎における急性間質性肺炎(AIP)型を つあったという状況であったものの,病型分類予後と関連づけた病型分類研究は半世紀にわたる混乱した歴史を経てなお未解決の問題を残している。 また,特発性間質性肺炎における急性間質性肺炎(AIP)型をとるものの予後に関する評価は,予後不良とするものと予後良好とするものなどがあり,慢性の特発性肺線維症ほどには評価が定まっていなかった。 したがって,特発性間質性肺炎における急性間質性肺炎(AIP)型にあたるものとして予後不良であるということを直ちに予測できる状況にはなかった。加えて,特発性間質性肺炎の病型分類が薬剤性間質性肺炎に妥当するかについては実証的に研究されてはいなかった。 イ個別の新薬による薬剤性間質性肺炎の発症頻度と予後に関する知見(ア) 特定の薬剤による薬剤性間質性肺炎の発症頻度や予後の特徴は薬剤ごとに症例を集積して検討するほかはないと考えられていたこと平成14年7月当時の薬剤性間質性肺炎一般に関する知見においては,薬剤性間質性肺炎は,薬剤による直接的細胞傷害作用と免疫学的機 序を介した間接的細胞傷害作用が単独で又は複合して発症すると考えられていたが,その発症機序には未解明な点が多く残され,その機序を峻別することが困難であったほか,症例ごとの他の要因も関与することが指摘され,症例報告のないものを含めて多くの薬剤に発症可能性があると考えられていた。 薬剤性間質性肺炎は,その進展の機序に未解明な点が多く,発症後の症状,経過や予後は多彩で,基本的に病理組織型に影響を受けると考えられていたものの,症例ごとの他の要因にも左右されることが指摘されており,病理組織型について一般的な分類基準はなく,1つの薬剤でも異なる病態を示すなど薬剤と病態が一対一対応ではなく,分類が困難であることが指摘され,その発症頻度や予後は薬剤ご されることが指摘されており,病理組織型について一般的な分類基準はなく,1つの薬剤でも異なる病態を示すなど薬剤と病態が一対一対応ではなく,分類が困難であることが指摘され,その発症頻度や予後は薬剤ごとに異なり,一般論としては論じられないと考えられていた。 また,薬剤性肺障害全体の予後については,多くはステロイド療法で回復するが,致死的となる症例もあるとされていた。 以上によれば,薬剤性間質性肺炎一般に関する知見は,その発症機序や進展機序は未解明で,発症頻度や病態も様々であり,薬剤や症例ごとに異なり得るというものであり,特定の薬剤が薬剤性間質性肺炎を発症させるのかどうか,させるとしてその予後はどうかは,個別の薬剤ごと,個別の症例ごとに異なり得るということになる。薬剤性間質性肺炎一般に関する知見の下で,特定の個別の薬剤による薬剤性間質性肺炎の発症頻度や予後の特徴は,個別の薬剤ごとに症例を集積して検討するよりほかはないと考えられていた。 (イ) 薬剤性間質性肺炎の症例集積研究には研究領域の特殊性に起因する困難さがあり,薬剤ごとの症例集積が容易ではなかったことa 研究者が研究の機会を得にくい条件下にあること薬剤性間質性肺炎のような薬剤性有害反応を,研究目的で作為的に ヒトに生じさせることは,倫理に反して許されない。そのため,その研究は,治療目的の使用における偶発的な発症の機会をとらえて行わざるを得ない。 しかし,薬剤性間質性肺炎を含む薬剤性肺障害は,発症頻度自体が低いため,同一施設で同一薬剤による多数例を経験することが少ない。薬剤の本来の薬効は必ずしも呼吸器領域にはなく,薬剤を治療目的で使用する臨床領域と有害事象の臨床領域が異なっていることから,専門的研究者が研究の機会を得ることは少なくならざるを得ない。 研究者が 薬剤の本来の薬効は必ずしも呼吸器領域にはなく,薬剤を治療目的で使用する臨床領域と有害事象の臨床領域が異なっていることから,専門的研究者が研究の機会を得ることは少なくならざるを得ない。 研究者が研究を行うための客観的な情報収集は,薬剤性間質性肺炎を発症した場合であっても,その発症が急であること,研究よりも治療が優先されることや,患者やその家族の同意の問題などの理由から困難であった。抗がん剤の場合には,併用療法が標準的治療法となっていることから,単剤での症例集積が極めて困難であるという特殊な事情もあった。 平成14年当時のみならず現在も,特発性間質性肺炎の研究とは異なり,薬剤性肺障害や薬剤性間質性肺炎を主に研究している研究者はほとんどおらず,これを専門とする学会や研究会等もなく,呼吸器分野の研究領域のうち,びまん性肺疾患の分野の専門家がそれぞれの専門的研究の傍らで薬剤性間質性肺炎などを研究している状況にある。 b 散発的な一例報告を主体とする研究に依存せざるを得ない状況にあったため,少数の例外的薬剤を除き,薬剤ごとの症例集積は行われていなかったことイレッサ以前の薬剤性肺障害に関する研究は,多数例の発生により検討が進められていた一部の例外的薬剤(ブレオマイシン,小柴胡湯やメトトレキサートなど)を除いて,1例ないし数例という程度の症 例報告が散発的に行われるにとどまっており,系統的な研究や実証的な研究はほとんど存在しておらず,個々の薬剤ごとの発症頻度や病態に関する知見は乏しかったのである。 (ウ) 予後と関連づけた病型分類からの検討が概念上も実際上も困難であったことa 困難な研究条件の下で,病型分類に関する知見も病型ごとの予後に関する知見も確立していなかったこと平成14年7月当時の薬剤性間質性肺炎一般に関する らの検討が概念上も実際上も困難であったことa 困難な研究条件の下で,病型分類に関する知見も病型ごとの予後に関する知見も確立していなかったこと平成14年7月当時の薬剤性間質性肺炎一般に関する知見においては,薬剤性間質性肺炎では,症状経過,予後と病理組織像との関連が実証されておらず,薬剤性間質性肺炎では,病理学的に完全には病型を分類することができないと指摘されており,また病型分類からの予後の検討にも限界があり,病型ごとの予後に関する知見は乏しかった。 平成14年7月当時,薬剤性間質性肺炎がびまん性肺胞障害(DAD)の病理組織像を呈した場合の予後は,悪い可能性があるものの,薬剤や症例によって悪くはない可能性があると考えられていたのである。イレッサ承認当時,びまん性肺胞障害(DAD)の病理組織像を呈する薬剤性間質性肺炎の予後に関する知見は,相互に矛盾する研究がなされており,今後確認,検討を要する状況であった。 b 個別症例の検討における病型分類が実際上も困難であったこと間質性肺炎の病型分類は,①患者の組織やCT等の臨床画像を情報として収集し,②これを病型分類の概念に即して分析検討する,という検討作業を経なければならないから,病型分類の概念が研究レベルで確立して混乱期を脱したとしても,直ちに臨床レベルで応用が可能となるものではない。 また,病型分類をすることは,以下の3点から実際上困難であっ た。①検討対象となる組織等の情報収集自体に困難があり,②組織等の情報収集ができた場合も,間質性肺炎の個別症例を病型概念に照らして正確に分析検討していくことには診断技術上の困難があり,画像診断を初めとして,個別症例の病型分類まで正確に行える医師は,我が国にはほとんど存在していなかった。③同一症例でも複数の病理組織像が混在する 確に分析検討していくことには診断技術上の困難があり,画像診断を初めとして,個別症例の病型分類まで正確に行える医師は,我が国にはほとんど存在していなかった。③同一症例でも複数の病理組織像が混在するような場合には,病型分類に即した分析検討の実際上の困難性はさらに高まる。 以上のとおり,平成14年7月当時,薬剤性間質性肺炎の症例検討における病型分類の検討は,概念上のみならず,実際上も限界があり,困難であり,現在から見れば混乱期にあったのである。 ウイレッサの間質性肺炎の発症可能性及び重篤性に関する知見(ア) 作用機序からの評価a 従来の抗がん剤は直接的細胞傷害作用を有すること平成14年当時,薬剤性間質性肺炎は,①薬剤による直接的細胞傷害作用と,②免疫学的機序を介した間接的細胞傷害作用の2つの作用が,単独又は複合して発症すると考えられていた。 前記第3章第3の1のとおり,従来の抗がん剤である殺細胞性抗がん剤は,がん細胞の死滅を目的として,DNAやRNAの合成阻害,細胞分裂の阻害をその作用機序とするため,がん細胞のみならず,正常な細胞にも傷害作用を及ぼして副作用をもたらす。 したがって,殺細胞性抗がん剤は,この作用機序から,肺毒性が導かれ,薬剤による直接的細胞傷害作用(上記①)による間質性肺炎の発症可能性が想定されるものである。 b イレッサは殺細胞性の作用機序を有するものではないこと前記第3章第3の2のとおり,イレッサは,がん細胞に特異的な標的分子を選定して,その分子機能を阻害することで抗腫瘍効果をもた らす分子標的治療薬である。 イレッサは,殺細胞性の作用機序を有するものではないことから,殺細胞性抗がん剤のように,直接的細胞傷害作用(前記a参照)による間質性肺炎の発症可能性が当然には導かれない。イレッサに 治療薬である。 イレッサは,殺細胞性の作用機序を有するものではないことから,殺細胞性抗がん剤のように,直接的細胞傷害作用(前記a参照)による間質性肺炎の発症可能性が当然には導かれない。イレッサによる薬剤性間質性肺炎の発症の機序などは,平成14年当時のみならず現在においても解明されていない。 イレッサは,がん細胞に特異的に過剰発現している分子を標的として機能する分子標的治療薬であるため,正常な細胞には作用することが少ないと期待されていたのである。 (イ) 副作用症例の評価a 治験における副作用症例からの評価国内3症例の間質性肺炎からは,承認当時,イレッサによって薬剤性間質性肺炎が発症する可能性があるということはいえても,それ以上の予測を立てることはできなかったものというべきである。イレッサには殺細胞性抗がん剤よりも致死的な肺障害の発症頻度が高いと考える理由は見当たらなかったものであるが,間質性肺炎という疾患は,症例によっては致死的となる疾患であるから,イレッサにより,承認用量で,症例によっては致死的となるおそれのある間質性肺炎が発症するという可能性を否定することまではできないという状況であったのである。 以上によれば,治験における副作用報告の状況からは,「イレッサにより,承認用量で間質性肺炎が発症する可能性は否定できないが,それが従来の抗がん剤と比べて異なる発症頻度や重篤性のものとは認められない」という評価が,医学的,薬学的知見に合致するものであったといえる。 b 海外の副作用症例からの評価 海外7症例には,イレッサによる副作用であるか疑義のあるものが含まれていた。 また,海外7症例は,いずれもイレッサによる間質性肺炎であると仮定して検討したとしても,海外7症例で見られた間質性肺炎の発症経過や症状経 レッサによる副作用であるか疑義のあるものが含まれていた。 また,海外7症例は,いずれもイレッサによる間質性肺炎であると仮定して検討したとしても,海外7症例で見られた間質性肺炎の発症経過や症状経過は,非特異的なものであり,発症頻度や重篤性など承認後に判明したようなイレッサによる間質性肺炎の特徴を見出すことはできなかった。 したがって,海外の副作用症例の状況は,全体として,「イレッサにより,承認用量で間質性肺炎が発症する可能性は否定できないが,それが従来の抗がん剤と比べて異なる発症頻度や重篤性のものとは認められない」という治験での評価と類似性があり整合するものであったから,知見による評価を補強するものといえる。 c 副作用症例の評価のまとめ以上を総合すると,平成14年7月当時の医学的,薬学的知見は,承認用量のイレッサにより,間質性肺炎が発症する可能性が否定できず,イレッサによる間質性肺炎が従来の抗がん剤と同様に症例によっては致死的となる可能性があったが,それが従来の抗がん剤より発症頻度が高いもの又はより重篤なものであったとは認められないというものであったといえる。 (ウ) 非臨床試験の結果に関する評価a 屠殺例の発生一般毒性試験では,被験薬を投与された実験動物に様々な理由で一般状態の変化が見られることがあり,屠殺は,致死量や毒性変化の内容を把握するという同試験の目的に照らして,必要な検査を行い,必要な知見を得るために行われるものである。 したがって,屠殺例の発生やその数が当該医薬品の毒性の強さを示 すわけではなく,臨床用量は,臨床試験の結果を踏まえて最終的に設定されるものであるから,非臨床試験から単純に評価するのは失当である。 b 肺胞マクロファージ等の所見原告らは,「肺胞マクロファージの有意な増加 ,臨床用量は,臨床試験の結果を踏まえて最終的に設定されるものであるから,非臨床試験から単純に評価するのは失当である。 b 肺胞マクロファージ等の所見原告らは,「肺胞マクロファージの有意な増加,イヌ6か月試験で肺毒性所見,ラット6か月試験での呼吸器毒性などの所見が得られており,また,多くの屠殺処分をせざるを得ず,そして,6か月試験では高用量群の用量を減量せざるを得ない状況になるなどイレッサの強い毒性が観察されていた。」旨主張する。 しかし,上記見解は,事実や医学的,薬学的知見に基づかない独自の推論によって形成された非科学的なものであるから,原告らの主張には理由がない。 c 呼吸器系の炎症を示す所見ラット6か月試験における肺胞浮腫,肺胞内細胞浸潤の多発,気管支の異物性肉芽腫,腫瘍形成が原因で屠殺された例は,いずれも誤投与の結果に整合する症状であり,気管支の病変は肺とは別の器官であるから,イレッサによる肺障害を示唆するものとはいえない。 イヌ6か月試験における限定性肺中隔化生が認められた例は,同症状が一肺葉の一部に生じたにすぎず,両側の肺にびまん性に認められる薬剤性肺障害の症状とは異なるものである。よって,イレッサによる肺障害を示唆するものとはいえない。 エまとめ平成14年7月当時の薬剤性間質性肺炎に関する知見や,新医薬品の安全性の評価方法に関する知見等を前提とした,イレッサの国内外の臨床試験の有害事象,副作用症例その他の安全性に関する情報からは,平成14年7月当時,承認用量のイレッサによる間質性肺炎発症の可能性は否定で きず,また殺細胞性抗がん剤による間質性肺炎と同様に症例によっては致死的となる可能性のあることは否定できなかったが,イレッサによる間質性肺炎が殺細胞性抗がん剤による間質性肺炎よりも発症頻度 きず,また殺細胞性抗がん剤による間質性肺炎と同様に症例によっては致死的となる可能性のあることは否定できなかったが,イレッサによる間質性肺炎が殺細胞性抗がん剤による間質性肺炎よりも発症頻度が高い又は重篤であるとの知見までは得られていなかった。 イレッサと間質性肺炎との関連性は,販売後の調査の結果等を踏まえ,慎重に検討していくことが必要であり,かつそれで十分であった。 (3) 承認後の事情からみる平成14年7月当時のイレッサによる間質性肺炎に関する知見及び間質性肺炎発症の危険性ア承認後の医学的,薬学的知見の進展を踏まえたイレッサによる間質性肺炎の検討(ア) 安全性検討会厚生労働省は,平成14年12月25日及び平成15年5月2日に,安全性検討会を開催した。厚生労働省では,安全性検討会での専門家の委員による「承認時の安全性・有効性等に関する資料及び市販後の副作用報告データ等」や「今後の安全対策」についての議論を受けて,更なる安全対策を採ったものである。 a 平成14年12月25日開催分平成14年12月25日開催の安全性検討会では,イレッサの承認前の審査報告書や海外から報告された副作用症例報告一覧等の資料や,承認後に副作用として報告された医薬品副作用・感染症症例票等の資料を踏まえ,その時点での医学的,薬学的知見に基づき,「承認時の安全性・有効性に関する評価」や「市販後における安全性と安全対策」等について議論された。 同日の安全性検討会では,第一に,イレッサによる間質性肺炎の特徴の一つとして,「投与初期に発生し致死的な転帰をたどる例が多い」ことが議論となり,その結果,「少なくとも投与開始後4週間は 入院またはそれに準ずる管理のもとで,間質性肺炎等の重篤な副作用発現に関する観察を十分に行うこと。」という をたどる例が多い」ことが議論となり,その結果,「少なくとも投与開始後4週間は 入院またはそれに準ずる管理のもとで,間質性肺炎等の重篤な副作用発現に関する観察を十分に行うこと。」という検討会の見解が示されたが,これは承認後の日本国内での多数の副作用報告によって初めて判明したものである。第二に,間質性肺炎等の疾患の既往歴のある患者への使用の危険性の有無及び程度についても議論となったが,間質性肺炎等の疾患の既往歴のある患者への使用を禁忌に設定することには専門家の委員の間から異論があり,慎重投与に設定することにとどまった。最後に,今後の対応については,①インフォームド・コンセントや情報提供の徹底,②より適切な管理の下での使用の徹底,③間質性肺炎,肺線維症,またはこれらの疾患の既往歴のある患者への使用を慎重投与に設定,④「服用者向け情報提供資料」の作成等,⑤企業による市販後安全対策の強化,などの検討結果を取りまとめた。 b 平成15年5月2日開催分平成15年5月2日開催の安全性検討会では,平成14年12月25日開催分における安全性検討会の意見に対する被告会社の取組状況や医療機関におけるイレッサ投与例の紹介等の資料を踏まえ,医学的,薬学的知見に基づき,「今後の対応の実行状況と最近の副作用発現状況」や「有効性・安全性に関する最近の知見(学会報告)」等について,議論された。 しかし,同日の安全性検討会では,前回の安全性検討会の検討結果である「今後の対応」以外の安全対策を採るべきとの意見は取りまとめられなかった。 (イ) 専門家会議平成14年10月15日の緊急安全性情報の発出後,被告会社は,臨床腫瘍学専門家,呼吸器内科専門家,放射線診断専門家及び病理診断専門家を委員とした専門家会議を組織した。 専門家会議は 平成14年10月15日の緊急安全性情報の発出後,被告会社は,臨床腫瘍学専門家,呼吸器内科専門家,放射線診断専門家及び病理診断専門家を委員とした専門家会議を組織した。 専門家会議は,イレッサ服用中に急性肺障害又は間質性肺炎を発症し,詳細調査情報が得られた症例を解析し,その解析結果によって得た知見を,平成15年1月31日には専門家委員会中間報告書として,同年3月26日には専門家会議最終報告書として,発表した。 中間報告書では,79症例の検討結果を発表しているが,「投与開始後4週までに発症する症例数は多い」,「投与早期に間質性肺炎が発症する傾向があり,投与開始から4週間の厳重な観察が求められている。」などと検討されている。 最終報告書では,詳細調査情報が得られた152例の検討が行われた。具体的には,①日本における間質性肺炎の発症率は約1.9%(死亡率約0.6%)と推定され,海外に比べて約6倍と著しく高頻度であること,②間質性肺炎の予後を悪化させる可能性のある因子として,性別(男性),がんの組織型(扁平上皮がん),特発性肺線維症(IPF)等の既存(あり),全身状態不良(PS2以上),喫煙歴(あり),ゲムシタビンによる前治療(なし),の6項目が示唆され,うち特発性肺線維症(IPF)等の既存あり,男性,扁平上皮がん,の3項目が主要な予後因子となる可能性が示唆されたこと,③イレッサによる間質性肺炎のCT所見は,斑状あるいはびまん性の分布を示すすりガラス陰影又は浸潤影を主体とする所見が中心であったこと,④臨床的にイレッサによる間質性肺炎とされた死亡例の,剖検における基本的な病理組織像は,びまん性肺胞障害(DAD)であったこと,などの解析結果が示され,専門家会議では,上記報告等を踏まえた診断・治療への提言を行った。 専門家会 炎とされた死亡例の,剖検における基本的な病理組織像は,びまん性肺胞障害(DAD)であったこと,などの解析結果が示され,専門家会議では,上記報告等を踏まえた診断・治療への提言を行った。 専門家会議は,CT画像を入手できた症例から他疾患である可能性が高い症例を除いた47症例の画像パターンを検討したところ,イレッサでは合計4つの画像パターンを示す薬剤性肺障害の発症が初めて確認さ れ,イレッサのびまん性肺胞障害(DAD)は予後が悪いという知見がほぼ確立した。 (ウ) WJTOG研究報告WJTOG研究報告によれば,イレッサによる治療を受けた1976例の患者について報告されたイレッサ誘発性の間質性肺炎発症率は3. 5%,死亡率は1.6%であった。なお,中間報告の段階では,3~4%の頻度で発生し,1~2%の死亡率があることが推定されたとされた。 WJTOG研究報告の中間報告によれば,発症危険因子として,男性,喫煙者,特発性間質性肺炎(肺線維症)ありの3つが挙げられ,発症後の予後不良因子として,男性,全身状態不良(PS2以上),2週間以内の急性肺障害・間質性肺炎の早期発症の3つが挙げられた。最終報告においても,性別(男性),喫煙歴(あり),間質性肺炎の同時発症(あり)が,発症危険因子とされた。 以上のように,WJTOG研究報告は,イレッサによる間質性肺炎について,初めて行われた大規模な試験であり,イレッサ承認から間がない時期(平成14年8月31日から同年12月31日まで)における投与例(1976例)に基づいたもので,発症率,死亡率,発症危険因子,予後不良因子等について新たな情報を明らかにした。 (エ) プロスペクティブ調査プロスペクティブ調査によれば,判定委員会による判定に基づくイレッサによる急性肺障害及び間質性肺炎の発 症危険因子,予後不良因子等について新たな情報を明らかにした。 (エ) プロスペクティブ調査プロスペクティブ調査によれば,判定委員会による判定に基づくイレッサによる急性肺障害及び間質性肺炎の発現率は5.81%であり,発現症例中の死亡数は75例(安全性評価対象症例の2.26%に当たる。)であった。なお,主治医判定に基づく場合は,発現率は6.47%,死亡数は83例(安全性評価対象症例の2.50%に当たる。)であった。 急性肺障害及び間質性肺炎の発現因子は,①PS2以上の症例,②喫煙歴を有する症例,③イレッサ投与時に間質性肺疾患を合併している症例,④化学療法歴を有する症例で,いずれも発現率が高くなることが示唆された。予後不良因子(転帰死亡)は,男性の症例,PS2以上の症例で,死亡率が高くなることが示唆された。 従来の薬剤性肺障害の情報は,有害事象報告に基づくため統計学的解析がなされていないものや治験レベルの情報であるために少数例の解析となっていたものが多かった。これに対して,プロスペクティブ調査は,大規模な調査であり,同調査によって発現率,発現因子等に関するより正確な情報が得られたものである。 (オ) コホート内ケース・コントロール・スタディコホートに初回登録された症例中の間質性肺炎の発症率は,イレッサ投与例で3.98%,他の化学療法例で2.09%であった。進行又は再発非小細胞肺がん患者では,イレッサによる間質性肺炎発症の危険は,交絡因子による調整を行った場合の調整オッズ比において,他の化学療法の約3.23倍であった。間質性肺炎発症例のうち,間質性肺炎による死亡例は,イレッサ投与例で31.6%,他の化学療法例で27.9%であり,ほぼ同程度であった。なお,イレッサ投与例の治療関連死は1.6%で,主な死因は間質性肺 質性肺炎発症例のうち,間質性肺炎による死亡例は,イレッサ投与例で31.6%,他の化学療法例で27.9%であり,ほぼ同程度であった。なお,イレッサ投与例の治療関連死は1.6%で,主な死因は間質性肺炎であったが,この治療関連死の割合は,従来の抗がん剤と比べて,特に高い死亡率ではなかった。 間質性肺炎発症の危険因子は,イレッサと他の抗がん剤のいずれを投与したかにかかわらず,①喫煙歴あり,②既存の間質性肺炎,③非小細胞肺がんの初回診断から間質性肺炎発症までの期間が6か月以内であること,④PS2以上,⑤正常肺占有率がCT画像上50%以下,⑥55歳以上,⑦心血管系の合併症を有していることが,間質性肺炎発症の危険因子と特定された。 コホート内ケース・コントロール・スタディは,抗がん剤の世界初といえるほどの大規模な臨床研究であり,試験デザインも厳密で信頼性が高いプロスペクティブ試験であったところ,同調査によって,より正確な発現因子等の情報が得られるとともに,初めて,イレッサの他の化学療法との比較における間質性肺炎発症の相対リスク(約3.23倍)の推定がなされるとともに,発症した場合の死亡率は他の化学療法とほぼ同程度であることが判明した。 なお,コホート内ケース・コントロール・スタディにおけるイレッサ投与群の結果(間質性肺炎発症率3.98%,死亡率1.6%)は,WJTOG研究報告の結果(間質性肺炎発症率3.5%,死亡率1. 6%)と整合する。 イ薬剤性間質性肺炎に関する現在の知見(ア) 薬剤性肺障害に関する現在のコンセンサス日本人は欧米人に比べて,特定の薬剤について致死的な間質性肺炎を著しく起こしやすいこと,肺線維症又は間質性肺炎の既往歴がある患者は,イレッサによる間質性肺炎を起こしやすい(発症危険因子である)こと,同一 は欧米人に比べて,特定の薬剤について致死的な間質性肺炎を著しく起こしやすいこと,肺線維症又は間質性肺炎の既往歴がある患者は,イレッサによる間質性肺炎を起こしやすい(発症危険因子である)こと,同一薬剤が同一の用法・用量で複数の肺障害パターンを示すこと,薬剤によって起こしやすいパターンがあること,治癒率や死亡率は起こしやすいパターンに依存することなどが,イレッサ承認後に判明した。 (イ) 薬剤性肺障害の発生機序に関する現在の知見の状況イレッサによる肺障害の発生機序は,薬物動態と関係を認められず,総投与量とも関係せず,個々の反応に関係する間接的細胞傷害による可能性が高いと考えられているものの,殺細胞性抗がん剤でないイレッサ自体が具体的にどのような機序によって肺胞上皮細胞に傷害をもたらすのかは,現在においても未解明である。 イレッサの作用機序であるEGFR阻害が肺障害の増強を促すのか,抑制を促すのかという点は,イレッサ承認時から異なる複数の研究があったが,現在でもなお異なる複数の研究が公表されており,結論が出ていない。 ウまとめ以上のように,イレッサ承認後に得られた知見から,イレッサ承認当時のデータを振り返ってみても,イレッサ承認当時に得られていた知見が前記ア(ウ)のとおりであったことが裏付けられるのである。 3 イレッサの有用性について(原告らの主張)(1) 医薬品の有用性判断ア有用性判断の基本原則有用性判断は,有効性及び安全性に関する知見を総合的に判断し,有効性及び安全性の比較衡量により行われる。医薬品評価に誤りを生じやすい現状として,試験成績の有効性を過大に評価し,安全性を過小に評価する傾向にあるから,上記比較衡量は,有効性の認定に際しては厳格に,安全性(副作用の発現可能性等)の認定に際し 品評価に誤りを生じやすい現状として,試験成績の有効性を過大に評価し,安全性を過小に評価する傾向にあるから,上記比較衡量は,有効性の認定に際しては厳格に,安全性(副作用の発現可能性等)の認定に際しては緩やかに判断された上で慎重に行われる必要がある。 科学的な医薬品の有用性評価においては,最終的には,医薬品の有効性が確認され,安全性への疑いに対して十分な対処が行われる必要がある。 イ被告らの主張(肺がんに対する化学療法が頭打ちになっていること)に対する反論被告らは,肺がんに対する化学療法が頭打ちになっているとして,新たな作用機序を有する医薬品であれば,あたかも有効性,安全性の評価が緩やかであってもかまわないかのように主張する。 しかし,肺がんに対する化学療法の治療の効果が限界に達しているとい うことはなく,仮に肺がんに対する化学療法が頭打ちとなっていたとしても,医薬品開発の科学的原則が緩和されるべきものではない。 また,新たな作用機序を有する医薬品であるからといって,有効性や安全性が推定されることはなく,イレッサが分子標的治療薬であることから,有効性や安全性が推定されるものでもない。分子標的治療薬は,開発過程における候補物質のスクリーニングにあたって,がん細胞自体を対象とするのか,EGFR等の標的分子を対象に候補物質を選定するのかという違いにすぎず,分子標的治療薬だから,当該物質が生体に有害な作用を及ぼさないとは限らない。 (2) イレッサの有用性ア平成14年7月当時のイレッサの有用性(ア) 平成14年7月承認時のイレッサの有効性IDEAL各試験結果の奏功率は,従来の抗がん剤を越えるものではなく,むしろ劣っており,これを積極的に評価することが難しいのみならず,抗がん剤の第Ⅱ相試験であるIDEAL各試験 のイレッサの有効性IDEAL各試験結果の奏功率は,従来の抗がん剤を越えるものではなく,むしろ劣っており,これを積極的に評価することが難しいのみならず,抗がん剤の第Ⅱ相試験であるIDEAL各試験結果の奏功率から延命効果を予測することはできない。また,対照群を置かないIDEAL各試験における生存期間中央値などをイレッサの有効性の根拠とすることもできない。 したがって,IDEAL1試験の日本人群の試験結果を考慮したとしても,イレッサが日本人の非小細胞肺がん患者の治療において有効性,すなわち延命効果を有しない薬剤である可能性を念頭に置くべき状況にあったというべきである。 (イ) 平成14年7月承認時のイレッサによる間質性肺炎の危険性と重篤性平成14年7月承認前から,抗がん剤による薬剤性間質性肺炎には死亡例や重篤例が多く見られており,イレッサの承認時には,既に,薬剤性間質性肺炎について,予後が不良となりうる疾患であり,かつ,その 中でも急性間質性肺炎・びまん性肺胞障害(AIP/DAD)型をたどるものは予後が不良であるということ,及び抗がん剤による薬剤性間質性肺炎については致命的になりやすいため特に注意を払われなければならなかった。 イレッサの臨床試験を検討する上で,イレッサのEGFR阻害というドラッグデザインから予測される毒性,イレッサの非臨床試験で得られた毒性所見を前提に慎重かつ厳密に吟味する必要がある。 有害事象と治験薬との因果関係は,治験担当医師の判断のみならず,治験全体の結果や他の副作用情報を総合して判断する必要があり,副作用については,臨床試験における副作用報告のみならずEAPなど他の副作用情報も重視して安全性評価を行わなければならない。 イレッサの臨床試験において現れた有害事象死亡例は,大半が副作用に分 ,副作用については,臨床試験における副作用報告のみならずEAPなど他の副作用情報も重視して安全性評価を行わなければならない。 イレッサの臨床試験において現れた有害事象死亡例は,大半が副作用に分類されるべきものであり,少なくともこれら有害事象死亡例のデータはイレッサによる致死的な急性肺障害・間質性肺炎の副作用の発生を予測させるに十分なものであった。イレッサの国内臨床試験やEAPを含む副作用報告で認められた間質性肺炎の副作用発症例は,いずれも極めて重篤かつ致死的なものであり,発症率及び死亡率も高頻度であった。 そうすると,イレッサが極めて重篤かつ致死的な間質性肺炎の副作用を高頻度で発症させるものであることはイレッサ承認前の時点で既に明らかになっていたというべきである。 (ウ) まとめ旧ガイドラインにおける腫瘍縮小効果を前提にした承認制度においても,イレッサはIDEAL各試験の結果等からの有効性の見込みと危険性を比較しても,有効性が欠如し又は危険性が有効性を上回るものであるから,有用性があるとはいえない。 イ承認後のイレッサの有用性(ア) 承認後のイレッサの有効性イレッサは,INTACT各試験,ISEL試験,SWOG0023試験において延命効果の証明に失敗し,旧ガイドラインを前提とした我が国の承認条件となったドセタキセルとの比較臨床試験(V1532試験)でも延命効果を証明できなかった。 その後も,INTEREST試験やIPASS試験などが行われたが,これらの試験結果をもってイレッサの日本人に対する有効性を証明したとはいえない。また,EUでの承認は,EGFR遺伝子変異に限定した承認であるが,我が国では現在も適応限定がされないまま販売され続けている。 したがって,イレッサの有効性は,統計学的な問題にとどま たとはいえない。また,EUでの承認は,EGFR遺伝子変異に限定した承認であるが,我が国では現在も適応限定がされないまま販売され続けている。 したがって,イレッサの有効性は,統計学的な問題にとどまるものではなく,現在もなお科学的に証明されていない。 (イ) 承認後のイレッサの間質性肺炎の危険性と重篤性イレッサによる間質性肺炎が重篤かつ致死的なものであり,イレッサの安全性が欠如していたことはイレッサ承認時から明らかであったが,承認後には,わずか6年足らずで734人という多数の副作用死亡者数を出し,イレッサの急性肺障害・間質性肺炎の毒性が極めて高頻度で発症するという結果に表れた。 また,イレッサの安全性欠如は,イレッサ販売後におけるプロスペクティブ調査,コホート内ケース・コントロール・スタディの結果や他剤との比較によって,イレッサは他の抗がん剤と比較して極めて強い毒性を有することが明らかとなった。 (ウ) まとめ承認後における有効性及び安全性に関する諸事情を考慮すれば,イレッサは,少なくとも「手術不能又は再発非小細胞肺がん」という適応と の関係では,有効性が欠如し又は危険性が有効性を上回ることが科学的に証明されたのであるから,有用性があるとはいえない。 (被告会社の主張)(1) 医薬品の有用性の判断方法ア有用性判断の基準医薬品の有用性は,有効性と安全性を比較衡量することにより判断されるものである。 比較衡量にあたっては,①原疾病(非小細胞肺がん)の致死性・深刻性,②非小細胞肺がんの治療法の現実,③抗がん剤には副作用が必然的に伴うこと,④がん患者の治療機会の確保が重要であることなどの非小細胞肺がんを取り巻く様々な事情が考慮されなけらばならない。 イ非小細胞肺がんを取り巻く状況肺がんはがんの中でも 副作用が必然的に伴うこと,④がん患者の治療機会の確保が重要であることなどの非小細胞肺がんを取り巻く様々な事情が考慮されなけらばならない。 イ非小細胞肺がんを取り巻く状況肺がんはがんの中でも治療が困難ながんであるが,その中でも非小細胞肺がんは特に深刻な疾病である。しかし,現状においては非小細胞肺がんの治療法はまだ十分な治療効果を上げ得るに至っていない。 非小細胞肺がんの化学療法ではがんを治癒させることができず,化学療法の治療目的は延命とQOLの改善にある。また,化学療法で用いられる抗がん剤は,殺細胞性抗がん剤と分子標的治療薬のいずれにしても,抗がん剤の作用機序という点や抗がん剤の治療係数(非小細胞肺がん抗がん剤では治療効果が得られる用量と副作用が発生する用量が接近している)という点からみて,副作用は避けがたい。抗がん剤の副作用の特徴は,回避不可能性,多様性や重篤性にあるというのが実際である。 非小細胞肺がんを取り巻く上記の状況からすれば,非小細胞肺がん患者に対して少しでも有用な抗がん剤を提供し,その治療機会を確保するという問題は極めて重要な問題なのである。 (2) イレッサの有用性 ア平成14年7月当時のイレッサの有用性(ア) 平成14年7月承認時のイレッサの有効性承認当時,イレッサは,IDEAL各試験という2つの第Ⅱ相試験において,非小細胞肺がんに対する高い有効性を示した。すなわち,セカンドライン以降の患者を対象に,セカンドラインの標準的化学療法であるドセタキセルを上回る奏効率を示し,副次的評価項目である症状改善やQOLの改善が認められた。特に日本人の非小細胞肺がん患者に対しては,単剤かつセカンドライン以降でありながら,ファーストラインの標準的化学療法である2剤併用療法に匹敵する奏効率(27.5%) 改善やQOLの改善が認められた。特に日本人の非小細胞肺がん患者に対しては,単剤かつセカンドライン以降でありながら,ファーストラインの標準的化学療法である2剤併用療法に匹敵する奏効率(27.5%)を示し,また,2剤併用療法でさえ1年生存率は50%とされているのに対して,副次的評価項目である生存期間中央値は1年を優に越えており(414日),さらに,約半数(48.5%)の患者に症状改善が認められたのである。 また,IDEAL各試験は,セカンドライン以降の患者を対象にした試験であり,イレッサは当該患者に高い有効性があることが示された。非小細胞肺がんの化学療法においては,セカンドライン,サードライン,フォースラインと化学療法が進むに連れて,抗がん剤の効果は薬剤耐性や全身状態悪化の影響により得られにくくなるため,一般に同じ抗がん剤でもファーストラインで投与した方がセカンドラインで投与するよりも高い効果が得られると考えられている。 したがって,平成14年7月承認時,イレッサは,非小細胞肺がんに対して,セカンドライン以降だけでなく,ファーストライン治療においても有効性があったといえる。 (イ) 平成14年7月承認時のイレッサの安全性承認当時からイレッサにより間質性肺炎の発症の可能性を完全には否定できない状況にあった。しかし,薬剤性間質性肺炎に関する研究が本格的に行われたのはイレッサ承認後であり,特発性間質性肺炎の病型分 類が薬剤性間質性肺炎にもそのままあてはまるか実証的な研究がされておらず,薬剤性間質性肺炎に関する医学的,薬学的知見の多くはイレッサの承認後に得られたものであり,すなわち病理組織学的分類と予後や危険因子等はイレッサ承認後に得られた知見であり,イレッサ承認当時から,イレッサによる間質性肺炎の予後が重篤なものとなるこ くはイレッサの承認後に得られたものであり,すなわち病理組織学的分類と予後や危険因子等はイレッサ承認後に得られた知見であり,イレッサ承認当時から,イレッサによる間質性肺炎の予後が重篤なものとなることは必ずしも明らかではなかった。 また,イレッサは,副作用全体の死亡率が他の非小細胞肺がん抗がん剤と大差なく,間質性肺炎以外の副作用は他剤よりも軽微であり,患者の全身状態を害するような副作用が少ないため,全身状態不良又は高齢者の患者にとって治療の機会を与えることができる。これに対して,殺細胞性抗がん剤では,間質性肺炎の発症頻度はイレッサよりも少ないものの,血液毒性という致死的で重篤な副作用があり,副作用死亡率はイレッサと大差ない。ただし,殺細胞性抗がん剤では,患者の全身状態やQOLを害する副作用が高頻度で発生し,治療困難化等をもたらすことになる。 したがって,副作用全体でみると,イレッサの副作用は,少なくとも他の非小細胞肺がんの抗がん剤と変わらない。 (ウ) まとめイレッサは,他の非小細胞肺がん抗がん剤と同等以上の有効性があり,従来の抗がん剤を投与できない患者にも投与できる可能性があるなど,従来の抗がん剤にはない特徴を有する。他方で,イレッサの副作用は,殺細胞性抗がん剤とは副作用の種類等が異なるが,副作用全体で見た場合には他の抗がん剤と同程度である。 したがって,非小細胞肺がんを取り巻く状況を基礎において,イレッサの有効性と危険性を比較衡量すれば,イレッサの非小細胞肺がん抗がん剤としての有効性が副作用の危険性を上回っているといえ,イレッサ には有用性があるといえる。 イ承認後のイレッサの有用性(ア) 承認後のイレッサの有効性a 承認後に行われたイレッサの第Ⅲ相試験の結果から,次のような知見が明らかとなった。 には有用性があるといえる。 イ承認後のイレッサの有用性(ア) 承認後のイレッサの有効性a 承認後に行われたイレッサの第Ⅲ相試験の結果から,次のような知見が明らかとなった。 ① セカンドライン以降の非小細胞肺がん患者を対象に,セカンドラインの標準的化学療法であるドセタキセルとイレッサとを比較したV1532試験及びINTEREST試験の結果,イレッサはドセタキセルとともにセカンドラインの非小細胞肺がんに対して有効性があることが示された。すなわち,INTEREST試験では,全生存期間につき,イレッサのドセタキセルに対する非劣性が統計学的に証明されたこと,V1532試験の全生存期間の結果には後治療等が影響したと考えられ,後治療の影響を受けない無増悪生存期間についてはV1532試験及びINTEREST試験ともにイレッサとドセタキセルとで差はなかったこと,その他の副次的評価項目についてイレッサはドセタキセルと同等以上の結果が示されたことから,V1532試験及びINTEREST試験の結果から,イレッサは,ドセタキセルとともに,セカンドラインの非小細胞肺がんに対する有効性があるといえる。 ② ISEL試験の東洋人サブグループ解析の結果及びIPASS試験の結果によって,イレッサは,東洋人,腺がん,非喫煙者といった患者に対して特に効果が高く,その効果は非小細胞肺がんのファーストラインの標準的化学療法である2剤併用療法を上回ることが示された。 ISEL試験が計画され実施された当時(試験開始は平成15年7月)はまだ明らかになっていなかったが,平成16年4月にイレッサ がEGFR遺伝子変異のある患者に効果が高いことが明らかとなり,EGFR遺伝子変異は日本人を含む東洋人で高頻度で発現していることもその後明らかとな なかったが,平成16年4月にイレッサ がEGFR遺伝子変異のある患者に効果が高いことが明らかとなり,EGFR遺伝子変異は日本人を含む東洋人で高頻度で発現していることもその後明らかとなった。ISELのサブグループ解析の結果は,正にこの知見と整合するものであり,イレッサが東洋人に対して効果が高いことを示した結果ということができる。 また,ISEL試験のサブグループ解析の結果を第Ⅲ相試験によって証明したのがIPASS試験である。IPASS試験は,東洋人・腺がん・非喫煙者の背景因子を有するファーストラインの非小細胞肺がん患者を対象に,イレッサとファーストラインの標準的化学療法であるカルボプラチンとパクリタキセルの2剤併用療法とを比較した試験である。そして,IPASS試験において,イレッサは,ファーストラインの標準的化学療法を上回る有効性を示したのである。 イレッサは,ISEL試験及びIPASS試験の結果によって,東洋人,腺がん,非喫煙者という背景因子を有するファーストラインの非小細胞肺がん患者に対し,ファーストラインの標準的化学療法を上回る有効性があるといえる。 ③ IPASS試験では,EGFR遺伝子変異のある患者を対象にしたサブグループ解析が行われた結果,EGFR遺伝子変異のある患者では,主要評価項目である無増悪生存期間について,イレッサ群は対照群のファーストラインの標準的化学療法群を大きく上回るとともに,イレッサ群の奏効率は71.2%であり,イレッサはEGFR遺伝子変異のある患者に特に効果が高いというものであった。 また,IPASS試験のサブグループ解析を含め,イレッサはEGFR遺伝子変異のある患者に特に効果が高いという結果は,NEJ002試験によって第Ⅲ相試験で統計学的にも証明された。NEJ002試験はEGFR遺 PASS試験のサブグループ解析を含め,イレッサはEGFR遺伝子変異のある患者に特に効果が高いという結果は,NEJ002試験によって第Ⅲ相試験で統計学的にも証明された。NEJ002試験はEGFR遺伝子変異のあるファーストラインの非小細胞肺が ん患者を対象に,イレッサとファーストラインの標準的化学療法(2剤併用療法)とを比較した試験であるが,主要評価項目である無増悪生存期間について,イレッサは2剤併用療法を,統計学的有意差をもって上回ったのである。 b 以上のように,承認後は,EGFR遺伝子変異などの新たな知見の発見や第Ⅲ相試験等により,より高い効果の期待できる患者が少しずつ明らかにされてきた。現在では,EGFR遺伝子変異のある患者,日本人を含む東洋人,女性,腺がん,非喫煙者といった背景因子が効果予測因子として知られている。 もっとも,イレッサは,上記背景因子を有しない患者に対しても約10%程度の限度では一定の効果があり,貴重な治療の選択肢であるといえる。 (イ) 承認後のイレッサの安全性イレッサには致死的で重篤な副作用として間質性肺炎があるが,これを含めた副作用全体の死亡率は他の非小細胞肺がん抗がん剤と大差なく,また間質性肺炎以外の副作用は他剤よりも軽微であり,患者の全身状態を害するような副作用が少ないため,全身状態不良又は高齢者の患者にとって治療の機会を与えることができる。これに対して,殺細胞性抗がん剤では,間質性肺炎の発症頻度はイレッサよりも少ないものの,血液毒性という致死的で重篤な副作用があり,副作用死亡率はイレッサと大差ない。ただし,殺細胞性抗がん剤では,患者の全身状態やQOLを害する副作用が高頻度で発生し,治療困難化等をもたらすことになる。 イレッサの間質性肺炎の発症頻度は,コホート内ケース・コント サと大差ない。ただし,殺細胞性抗がん剤では,患者の全身状態やQOLを害する副作用が高頻度で発生し,治療困難化等をもたらすことになる。 イレッサの間質性肺炎の発症頻度は,コホート内ケース・コントロール・スタディなどの結果によれば約4~5%であり,他の非小細胞肺がん抗がん剤に比べてやや高いものの,近時の発症頻度はかなり低くなっ ている。死亡率は,コホート内ケース・コントロール・スタディなどの結果によれば約1~2%であり,その原因はほぼ間質性肺炎であるところ,イレッサによる間質性肺炎の発症頻度が低下するのと同様に,間質性肺炎の死亡率も近時は低くなっている。 そうすると,承認時までの事情,コホート内ケース・コントロール・スタディやプロスペクティブ調査などによる副作用の全体像及び現在におけるイレッサの副作用死亡率の低下を総合すれば,イレッサの副作用の危険性は他の非小細胞肺がん抗がん剤に比して小さいと考えられ,少なくとも,副作用全体でみると,他の非小細胞肺がんの抗がん剤と変わらないといえる。 (ウ) まとめイレッサは,EGFR遺伝子変異などの特定の背景因子を有する患者に対しては他の非小細胞肺がん抗がん剤以上の有効性があり,また上記背景因子を有しない患者に対しても従来の抗がん剤と同等程度の有効性があるだけでなく,従来の抗がん剤を投与できない患者にも投与できる可能性があるなど,従来の抗がん剤にはない特徴を有する。他方で,イレッサの副作用は,殺細胞性抗がん剤とは副作用の種類等が異なるが,副作用全体で見た場合には他の抗がん剤と同程度である。 したがって,非小細胞肺がんを取り巻く状況を基礎において,イレッサの有効性と危険性を比較衡量すれば,イレッサの非小細胞肺がん抗がん剤としての有効性が副作用の危険性を上回っているといえ,イレッ る。 したがって,非小細胞肺がんを取り巻く状況を基礎において,イレッサの有効性と危険性を比較衡量すれば,イレッサの非小細胞肺がん抗がん剤としての有効性が副作用の危険性を上回っているといえ,イレッサには有用性があるといえる。 (被告国の主張)(1) 医薬品の有用性判断ア医学的,薬学的知見における有用性判断は,対象疾病の重篤性,それに対する治療効果等を考慮した有効性と,副作用の重篤性や発生頻度等を考 慮した安全性とを比較して行われる相対的なものであること医学的,薬学的知見における有用性判断は,効能,効果と副作用を比較衡量した評価によって定まり,副作用の重篤性や発生頻度等を考慮した安全性は,対象疾病の重篤性や対象疾病に対する治療効果等を考慮した有効性との関係で,相対的に比較衡量されている。そのため,同一の重篤性や発生頻度の副作用が生じる医薬品であっても,その有用性判断は必ずしも同じになるわけではない。 特に,がんという,致死的で難治性の疾病に用いられる治療薬である抗がん剤では,他の一般薬においては許容し得ないような重篤な副作用が生じることもやむを得ないとされる場合が少なくない。 イ医学的,薬学的知見における有用性判断は,代替治療法と比較して相対的に行われていること医学的,薬学的知見における有効性と安全性との比較衡量は,当該医薬品自体のみならず,代替可能な医薬品や治療法との関係で相対的にも行われることが通常である。新薬は,従来の治療法である既存の医薬品に加え,新たな治療の選択肢をもたらすものであるから,既存の医薬品との相対的な比較なくして,その使用価値を判断することが困難である。 特に,がんという難治性の疾病に用いられる治療薬である抗がん剤では,代替薬の治療効果が限られており,治療手段のない患者(代替薬の との相対的な比較なくして,その使用価値を判断することが困難である。 特に,がんという難治性の疾病に用いられる治療薬である抗がん剤では,代替薬の治療効果が限られており,治療手段のない患者(代替薬のない患者)も多いなどの事情があり,上記事情は医学的,薬学的知見における有用性判断において相当重視されている。 ウ医学的,薬学的知見における有用性判断は,効能,効果と副作用の全体とを比較衡量して総合的に行われていること医薬品による副作用は必ずしも1種類ではなく,その発現状況は個別の症例によって異なり得るため,多種多様なものとなり得る。したがって,医学的,薬学的知見における有用性判断は,効能,効果と,副作用の全体 とを比較衡量することにより,総合的に行われている。 特に,代替薬との相対的な比較においては,ある副作用に関しては新薬より既存の代替薬の方が優れている(例えば,重篤でない,発生頻度が低い。)としても,他の副作用や効能,効果において新薬の方が既存の代替薬より優れている(例えば,他の副作用が重篤でない,治療効果が高い。)のであれば,医学的,薬学的になお新薬に使用価値が認められることがある。また,副作用の種類等や作用機序が,既存の代替薬と異なるかどうかも,重要な要素である。 エ医学的,薬学的知見における有用性判断は,適応症に罹患した患者全体との関係で一般的,類型的に行われていること医薬品の作用(薬理作用,有害作用,吸収・分布・代謝・排泄)には個人差があるため,その効能,効果や副作用の実際の発現状況は個別の患者によって異なり得る。 しかし,医学的,薬学的知見においては,個別の患者に対する有用性と,適応症に罹患した患者全体に類型化,一般化した医薬品としての有用性とを区別して評価している。医薬品の承認とは,申請に係る物が る。 しかし,医学的,薬学的知見においては,個別の患者に対する有用性と,適応症に罹患した患者全体に類型化,一般化した医薬品としての有用性とを区別して評価している。医薬品の承認とは,申請に係る物が医薬品として適当な物であるか否か,すなわち,品質・性状が適切であり,有効かつ安全な医薬品であるか否かに関する一種の公認行為であるため,その前提となる有用性としては,適応症に罹患した患者全体との関係での一般的,類型的な意味での有用性が問題とされることになる。 (2) イレッサの有用性ア平成14年7月当時のイレッサの有用性(ア) 平成14年7月承認時のイレッサの有効性イレッサは,非小細胞肺がんに過剰発現し,がんの予後と密接に関連するとされていたEGFRを標的として開発された新しい抗がん剤であって,臨床試験の前段階の各種試験において,EGFRチロシンキナー ゼ阻害作用を有することが確認されて,EGFR発現量と相関性に不明確な部分があったとはいえ,平成14年7月当時の非小細胞肺がんの化学療法が限界に達していた状況を打破する,新たな治療の選択肢と考えられた。 そして,イレッサの臨床試験(IDEAL1試験)において,日本人で示された奏功率に生存期間中央値及び時点生存割合並びにイレッサの作用機序などを総合すると,イレッサの有効性は肯定されるものである。 (イ) 平成14年7月承認時のイレッサによる間質性肺炎の危険性と重篤性平成14年7月当時,イレッサによる副作用のうち特に重篤となる可能性があったのは間質性肺炎であったが,イレッサによる間質性肺炎の発症可能性や発症した場合の重篤性が,他の既存の抗がん剤を越えると考える根拠はなかった。また,イレッサは,他の抗がん剤とは副作用の種類等が異なり,間質性肺炎以外に特に問題となる副作用 る間質性肺炎の発症可能性や発症した場合の重篤性が,他の既存の抗がん剤を越えると考える根拠はなかった。また,イレッサは,他の抗がん剤とは副作用の種類等が異なり,間質性肺炎以外に特に問題となる副作用が認められなかった。 これに対し,既存の抗がん剤には,時に致死的となる細胞傷害性の副作用があった。 したがって,間質性肺炎のみならず他の副作用も含めた副作用全体を見た場合,イレッサが,他の抗がん剤よりも,安全性において劣るとは認められなかった。 (ウ) まとめ前記(ア)及び(イ)のイレッサの効能,効果と副作用を総合的に比較衡量すると,平成14年7月当時,イレッサの副作用による危険性は,新たな治療の選択肢としての効能,効果による利益を上回るものではなく,イレッサに有用性が認められることは明らかであった。 イイレッサ承認後の事情からみる平成14年7月当時のイレッサの有用性 (ア) イレッサ承認後の事情からみる平成14年7月当時のイレッサの有効性承認後の知見の進展は,承認当時のイレッサの有効性に関する知見の重要な間接事実となる。 ①イレッサは,承認後,実際の臨床現場で多くの症例に投与され,多くの症例報告等によりその有効性が報告され,医師の臨床的評価が固まってきていること,②がんの活性化に関与するEGFR遺伝子変異が発見され,非小細胞肺がんにみられる多様で不均一な遺伝子変異の病態の一端が解明されたことにより,イレッサの腫瘍縮小効果とEGFR遺伝子変異との間に高い相関があることが判明し,EGFR発現量との相関性に係る疑問が解消されつつあること,③承認後の第Ⅲ相試験の結果も,イレッサの有効性を否定するものではなく,近時は有意な生存期間の延長も報告されている。 以上のような承認後の事情は,承認時にイレッサの有効性を認めた されつつあること,③承認後の第Ⅲ相試験の結果も,イレッサの有効性を否定するものではなく,近時は有意な生存期間の延長も報告されている。 以上のような承認後の事情は,承認時にイレッサの有効性を認めたコンセンサスが適正かつ合理的であったことを裏付けるものものである。 (イ) イレッサ承認後の事情からみる平成14年7月当時のイレッサの間質性肺炎の危険性と重篤性承認前に,国内臨床試験133例中で3例(国内3症例)の間質性肺炎の副作用報告症例があったところ,133例中の発症頻度(発症率約2.3%,死亡率0%)は,その後に行われたプロスペクティブ調査で示された頻度(判定委員会による判定に基づく発症率5.81%,死亡率2.26%)や,コホート内ケース・コントロール・スタディで示された頻度(発症率は3.98%,死亡率は1.6%)より低い。しかし,上記各頻度は,母数となる被験者集団に発症の危険因子を有する被験者が含まれている割合によって左右され,被験者が少数であるほど,その割合に偏りが生じる可能性が高く,イレッサ承認前の133例とい う規模の治験では,被験者集団に発症の危険因子を有する被験者が含まれる割合につき実際の頻度からみて偏りが生じることは避けがたい。現在における調査によっても発症頻度や死亡率等のデータは異なり,1つの研究や調査から直ちにイレッサの危険性の断定的な判断を導くことはできない。そうすると,イレッサ承認当時において,イレッサによる間質性肺炎の重篤性や発症頻度などに関する承認後に得られたような知見が得られなかったとしても,それは承認前の治験の限界にほかならない。 また,薬剤性間質性肺炎という研究領域は,研究上の難しさから知見が進んでいなかった研究領域であり,我が国ではイレッサによる間質性肺炎の発生を受けて,近年急速 は承認前の治験の限界にほかならない。 また,薬剤性間質性肺炎という研究領域は,研究上の難しさから知見が進んでいなかった研究領域であり,我が国ではイレッサによる間質性肺炎の発生を受けて,近年急速に研究が深まって知見が進展したのであるから,イレッサ承認当時からイレッサによる間質性肺炎の発症や重篤性などを予測できたというものではない。 したがって,厚生労働大臣が,イレッサ承認当時に,承認後に判明したようなイレッサによる間質性肺炎の重篤性や発症頻度を予見し得なかったというべきである。 (ウ) まとめ前記(ア)及び(イ)の承認後の知見からみると,イレッサの副作用による危険性が,新たな治療の選択肢としての効能,効果による利益を上回るものではなく,イレッサに有用性が認められるとした平成14年7月当時の承認時の判断はやはり正当であったといえる。 (以下余白) 第2 被告会社の責任について 1 被告会社の製造物責任について(1) 製造物責任の判断枠組みについて(原告らの主張)ア医薬品の欠陥についての主張立証責任医薬品は,治療上の効能,効果とともに何らかの副作用の生ずることを避け難いものであるから,医薬品の有用性は有効性と安全性(副作用)を比較衡量して検討し,有用性を認めることができない場合,当該医薬品は,通常製造物が有すべき安全性を欠いていることになる。また,当該医薬品の有効性,有用性が認められたとしても,適応疾患が誤って指定された場合,適切な警告を欠く等の十分な安全性確保措置が採られていない場合は,製造物が通常有すべき安全性を欠いていることになる。 そして,被告会社は,当該医薬品の安全性情報,危険性情報等の多くの情報を独占的に保有しており,原告らとの間には情報量や調査能力において格段の差があることや,当該 べき安全性を欠いていることになる。 そして,被告会社は,当該医薬品の安全性情報,危険性情報等の多くの情報を独占的に保有しており,原告らとの間には情報量や調査能力において格段の差があることや,当該医薬品の輸入承認を受けている以上,本来,有効性,有用性等を立証する資料を十分に有しているべきであることなどからすれば,公平の観点から,原告らにおいて,当該医薬品により副作用が発生していることを主張立証すれば,当該医薬品の欠陥の存在が事実上推定され,被告会社において,当該医薬品に欠陥がないという特段の事情を主張立証する責任を負うというべきである。 本件においては,原告らがイレッサにより急性肺障害ないし間質性肺炎の副作用が発生したことを主張立証すれば,イレッサの設計上の欠陥(有用性の欠如),適応拡大による欠陥,指示・警告上の欠陥,広告宣伝上の欠陥,販売上の指示に関する欠陥の存在が事実上推定され,被告会社において,イレッサに欠陥がないという特段の事情,すなわち,イレッサにつ いて,すべての適応範囲において有効性,有用性があること,指示・警告を尽くしたこと,適切な広告宣伝を行ったこと,販売上の指示を尽くしたことを主張立証する責任を負うというべきである。 イ 「欠陥」該当性の判断基準製造物責任は,危険責任及び報償責任として,製造物に内在する危険性の発現に対して,危険源を作り出した製造者が自ら得る利益の代償として危険を負担する責任であり,また保証責任として,製造物に備わっていると保証した安全性について,その安全性が欠けている場合には結果責任を負担するものである。 したがって,製造物責任においては,製造物を引き渡した時点における損害発生ないし危険性の予見可能性は要件とされず,現時点で存在する資料に基づいて欠陥該当性が判断されるべきであ 負担するものである。 したがって,製造物責任においては,製造物を引き渡した時点における損害発生ないし危険性の予見可能性は要件とされず,現時点で存在する資料に基づいて欠陥該当性が判断されるべきである。 すなわち,訴訟手続においては,事実審の口頭弁論終結時までに明らかとなった全ての事情を判断資料として,欠陥該当性が判断されるべきである。 (被告会社の主張)ア医薬品の欠陥についての主張立証責任医薬品は,治療効果(有効性)の反面として副作用が発生するものであり,特にイレッサが適応とする非小細胞肺がんは,難治で致死的な疾患であって,その治療薬としての非小細胞肺がん抗がん剤は副作用が必発で,副作用にも重篤なものが多い。そして,副作用による危険性を上回る有効性がある(有用性がある)医薬品であっても,何らかの副作用が発生すれば,欠陥が事実上推定され,製薬会社においてあらゆる欠陥の不存在を立証しなければならないというのは,製薬会社に不可能を強いるものである。 したがって,製造物責任法上,医薬品に欠陥があること,すなわち当該 医薬品に設計上の欠陥(有用性の欠如)があること,適応拡大による欠陥があること,指示・警告上の欠陥があること,広告宣伝上の欠陥があること,販売上の指示に関する欠陥があることの主張立証責任は,原告らにあるというべきであり,医薬品による副作用が発生したことをもって当該医薬品の欠陥が事実上推定されるということもできない。 イ欠陥該当性の判断基準製造物責任法上,設計上の欠陥の有無は,製品の引渡時を基準に判断されるが,イレッサの医薬品としての客観的性状は,承認当時から現在まで変更がないことから,設計上の欠陥の有無すなわちイレッサの有用性の有無については,現在までに明らかになったすべての医学的薬学的知見に基づ ,イレッサの医薬品としての客観的性状は,承認当時から現在まで変更がないことから,設計上の欠陥の有無すなわちイレッサの有用性の有無については,現在までに明らかになったすべての医学的薬学的知見に基づいて判断されるべきである。 もっとも,後記(4)(被告会社の主張)アのとおり,指示・警告上の欠陥該当性の判断については,添付文書の記載を中心に判断されるべきであるところ,添付文書は,その作成時点における医学的薬学的知見及びデータに基づいて記載されるものであるから,その記載内容の妥当性は,当該添付文書の作成時点における医学的薬学的知見を前提に,記載内容の妥当性が判断されるべきである。 (2) 設計上の欠陥(有用性の欠如)について(原告らの主張)ア判断枠組み旧ガイドラインのⅡ相承認制度の下で承認された抗がん剤の有効性,有用性の評価方法について,Ⅱ相承認制度の下では,抗がん剤の承認の要件の判断においては,代替評価項目である腫瘍縮小効果を基準に有効性,有用性が判断される。 しかし,消費者保護を目的とする製造物責任法の趣旨に照らせば,通常有すべき安全性を欠くか否かの判断については,消費者の合理的な期待を 重視すべきであるところ,消費者たる患者は,Ⅱ相承認かⅢ相承認かといった手続的な問題については認識することなく,市販された臨床治療薬には,治療薬として臨床上意味のある有効性,有用性が備わっているものと期待するのが通常である。また,被告会社は,Ⅱ相承認で医薬品の販売を開始することにより多額の利益を得ているのであるから,危険責任・報償責任の見地からも,真の評価項目である延命効果を基準とする有効性,有用性を証明できなかった場合のリスクについては,被告会社が負うのが相当である。 したがって,抗がん剤について,製造物責任法所定の欠陥 任の見地からも,真の評価項目である延命効果を基準とする有効性,有用性を証明できなかった場合のリスクについては,被告会社が負うのが相当である。 したがって,抗がん剤について,製造物責任法所定の欠陥の有無,すなわち有効性,有用性の有無の判断に際しては,真の評価項目である延命効果を基準に判断されるべきであり,その判断資料も製造物の引渡時のものには限られないというべきである。 イイレッサの有用性(ア) 現時点における有用性前記第1の3(原告らの主張)(2)イのとおり,イレッサは,承認条件とされた第Ⅲ相試験(V1532試験)において延命効果が証明されておらず,販売開始後に行われた第Ⅲ相試験の結果等,現時点で存在するすべての資料によっても,現時点において,日本人における延命効果が証明されていない。 イレッサは,急性肺障害・間質性肺炎の副作用を高頻度で発症させ,販売開始から平成22年3月末までに810人もの死亡者を含む被害者を生み出しており,他の抗がん剤と比較しても極めて危険性の高い医薬品である。 したがって,イレッサは,有用性がなく,医薬品として通常有すべき安全性を欠く。 (イ) 承認時における有用性 a 仮に,設計上の欠陥の判断資料を製造物の引渡時のものに限るとしても,製造物の引渡し時の資料によっても,前記第1の3(原告らの主張)(2)アのとおり,以下の事情が判明していた。 イレッサは,旧ガイドラインに基づき腫瘍縮小効果によって有効性を判断し承認されたが,イレッサのIDEAL各試験等に基づく腫瘍縮小効果は,承認当時存在した従来の抗がん剤を越えるものではなく,イレッサには延命効果が認められない可能性を念頭に置くべきであった。 他方で,イレッサによる重篤な副作用は,ドラッグデザインや非臨床試験の結果などから予 在した従来の抗がん剤を越えるものではなく,イレッサには延命効果が認められない可能性を念頭に置くべきであった。 他方で,イレッサによる重篤な副作用は,ドラッグデザインや非臨床試験の結果などから予見されたものであり,臨床試験段階における副作用情報を併せ考慮すれば,被告会社は,イレッサが致死的な急性肺傷害・間質性肺炎であるという危険性を有し,イレッサにより致死的な急性肺障害・間質性肺炎が高頻度で発症することを把握していたというべきである。 b 以上のイレッサの有効性及び安全性に関する情報を比較衡量すれば,Ⅱ相承認制度を前提としても,イレッサは,Ⅱ相承認段階で求められる有効性に比して危険性が重大であるから,有用性がなく,医薬品として通常有すべき安全性を欠く。 ウまとめ以上のとおり,イレッサは,承認時においても,現時点においても,有用性は認められないから,医薬品として通常有すべき安全性を欠き,設計上の欠陥がある。 (被告会社の主張)ア判断枠組み(ア) 有効性の判断方法前記第1の1(1)(被告会社の主張)のとおり,腫瘍縮小効果は,化 学療法の目的たる延命やQOL改善を直接に測る指標ではないが,延命効果やQOL改善効果の代替評価項目である。非小細胞肺がんの病態が,がんが増殖することによって数々の重篤な症状を引き起こし,やがては患者を死に至らしめるというものであることからすれば,医学的に,腫瘍縮小は,延命やQOL改善の前提であり,延命効果やQOL改善効果につながるものと考えられている。また,第Ⅲ相試験においては,延命効果だけではなく,それ以外の様々な評価項目が設定され,評価される。 したがって,有効性は,真の評価項目である延命効果やQOL改善効果のみならず,腫瘍縮小効果,症状改善効果等の他の評価項目について 効果だけではなく,それ以外の様々な評価項目が設定され,評価される。 したがって,有効性は,真の評価項目である延命効果やQOL改善効果のみならず,腫瘍縮小効果,症状改善効果等の他の評価項目についても,それぞれの内容や特質に応じて総合的に考慮して評価する必要がある。 (イ) 有用性の判断方法前記第1の3(被告会社の主張)(1)のとおり,医薬品の有用性は,当該医薬品の有効性と安全性を比較衡量することにより判断されるものである。 そして,有効性と安全性との比較衡量にあたっては,①対象疾患の性質,②当該疾患に対する他の治療薬の効果,③他の治療薬の副作用等についても考慮される必要があるところ,①肺がんは,がんの中でも治療が困難ながんであり,その中でも非小細胞肺がんは,特に深刻な疾病で,自然回復の望めない致死的な疾患であること,②非小細胞肺がんの抗がん剤(化学療法)はまだ十分な治療効果を上げ得るに至っていないこと,③イレッサが市販される前に使用されていた殺細胞性抗がん剤の副作用は多様かつ重篤であり,副作用による死亡が一定程度避けられない状況にあった。 したがって,イレッサの有効性と安全性との比較衡量にあたっては, 非小細胞肺がん患者に対して少しでも有用な抗がん剤を提供し,その治療機会を確保する必要性があるという事情等が考慮されなければならない。 イイレッサの有用性(ア) 現時点における有用性前記第1の3(被告会社の主張)(2)イのとおり,承認後の第Ⅲ相試験(INTEREST試験,IPASS試験等)の結果によれば,イレッサは,セカンドラインの標準的治療薬であるドセタキセルとともに有効な治療薬であり,腺がん等の背景因子を有する患者に対しては,ファーストラインの標準的治療法に優る有効性が認められている。さらに,EG サは,セカンドラインの標準的治療薬であるドセタキセルとともに有効な治療薬であり,腺がん等の背景因子を有する患者に対しては,ファーストラインの標準的治療法に優る有効性が認められている。さらに,EGFR遺伝子変異のある患者に対しては,極めて高い治療効果を示すことが判明している。 これに対し,副作用については,イレッサの間質性肺炎の発症頻度は他の非小細胞肺がん抗がん剤よりも高いものの,従来の抗がん剤に高頻度で発現する血液毒性等の副作用はほとんどなく,副作用死亡率も,他の非小細胞肺がん抗がん剤と比べて特に高いとはいえないことから,副作用全体として見た場合,イレッサの副作用が従来の抗がん剤と比較して重篤であるとはいえない。 したがって,イレッサは,致死的で治療の選択肢の乏しい非小細胞肺がんに対する貴重な治療の選択肢であり,副作用による危険性を上回る有効性が存することは明らかであるから,イレッサには有用性が認められる。 (イ) 承認時における有用性前記第1の3(被告会社の主張)(2)アのとおり,承認当時明らかになっていたイレッサの有効性は非常に高いものであり,他方,副作用も従来の抗がん剤と比べて決して重篤なものではなく,承認当時のデータ からイレッサの有用性は明らかであった。 (3) 適応拡大による欠陥について(原告らの主張)ア判断枠組み医薬品は,薬事法14条により有効性,有用性が認められた範囲で承認され販売されるものであり,この有用性の確認の範囲は,有効性と安全性を確認する臨床試験における被験者の選択基準と除外基準,すなわち臨床試験における適格条件によって画されるものであるから,臨床試験における適格条件を越える症例については有効性と安全性は確認されていない。 特に,Ⅱ相承認制度の下で本来的な有効性と有用性が すなわち臨床試験における適格条件によって画されるものであるから,臨床試験における適格条件を越える症例については有効性と安全性は確認されていない。 特に,Ⅱ相承認制度の下で本来的な有効性と有用性が確認されずに販売される抗がん剤にあっては,少なくとも販売開始後に行われる第Ⅲ相試験により延命効果が確認され,有用性が確認されるまでの間は,適応の設定は厳格に判断されるべきである。 したがって,医薬品について,臨床試験において有効性,有用性が確認された範囲を超え,適応範囲を拡大して販売がされた場合には,それ自体が設計上の欠陥に当たるというべきである。 イ適応が拡大された範囲(ア) ファーストライン治療の患者への適応拡大a 承認時における知見日本でのイレッサの承認申請において重要な根拠とされたIDEAL1試験は,被験者としての適格条件を「過去に1回または2回化学療法のレジメンをうけて(少なくとも一回はプラチナ製剤を含む),再発もしくは抵抗性を示した進行性非小細胞肺がん患者」とするセカンドライン以降の患者に限定した試験であった。 また,IDEAL2試験は,適格条件を「過去に2回以上プラチナ製剤とドセタキセルの化学療法をうけてもなお病勢進行した患者」と し,サードライン以降の患者に限定した試験であった。 以上のとおり,イレッサは,承認時において,ファーストライン治療における有効性と安全性は確認されていなかった。 b 市販後の知見市販後,国立がんセンターにおけるファーストラインでの単剤投与の臨床試験(甲E48)が実施されたが,40人中4人が間質性肺炎で死亡し,失敗に終わった。 また,市販後の第Ⅲ相試験であるINTACT各試験(乙E20〔100頁〕)では,イレッサは,ファーストラインにおける延命効果の証明に失敗し が,40人中4人が間質性肺炎で死亡し,失敗に終わった。 また,市販後の第Ⅲ相試験であるINTACT各試験(乙E20〔100頁〕)では,イレッサは,ファーストラインにおける延命効果の証明に失敗した。 さらに,日本肺癌学会が平成15年10月に公表した「実地医療でのゲフィニチブ使用に関するガイドライン」(甲E35)では,その適応について,以下のとおり指摘され,臨床試験での適格条件を満たさない症例への投与は,未知の領域への試験的投与であると位置付けられた。 ① 化学療法未治療例(ファーストライン)における有効性及び安全性は確立していないため,このような例では実地医療としては使用しないこと。 ② 本剤と他の抗悪性腫がん剤や放射線治療との同時併用における有効性と安全性は証明されていないので,実地医療としては本剤を単剤で投与すること。 ③ イレッサの治験における症例の適格条件や除外条件のうち,その主要な条件を原則として満たしていること。その条件は,本邦も参加した本剤の国際共同第Ⅱ相試験の症例選択・除外基準を参考とすること。それ以外の症例への投与は,未知の領域への試験的投与であり,現時点では臨床試験以外では原則的に投与すべきではない。 (イ) 放射線療法との併用等への適応拡大IDEAL各試験では,割付前4週間以内に脳内転移が診断された患者及び治療1日目の前14日以内に放射線療法が施行された患者が,いずれも被験者から除外されていたため,承認時において,上記患者群に対するイレッサの有効性や安全性は確認されていなかった。 また,放射線療法との併用について臨床試験は行われておらず,承認時において,その有効性と安全性も確認されていなかった。 ウまとめ以上のとおり,イレッサの第Ⅱ相試験の対象は,セカンドライン以降の単剤での 線療法との併用について臨床試験は行われておらず,承認時において,その有効性と安全性も確認されていなかった。 ウまとめ以上のとおり,イレッサの第Ⅱ相試験の対象は,セカンドライン以降の単剤での腫瘍縮小効果と安全性であり,ファーストライン治療や,放射線療法との併用における有効性と安全性は確認されていなかったにもかかわらず,第Ⅱ相試験の患者の適格条件を越えて,適応を「手術不能又は再発非小細胞肺癌」として承認され,ファーストライン治療での使用や放射線療法との併用が可能となるよう適応が拡大された。 したがって,イレッサは,有効性,有用性が確認された範囲を超えて適応が拡大されたもので,設計上の欠陥がある。 (被告会社の主張)ア判断枠組み原告らの主張を前提にすると,イレッサの適応範囲すなわち「手術不能又は再発非小細胞肺癌」に含まれるすべての患者を対象に第Ⅲ相試験を実施し,統計学的な延命効果を証明しなければならないことになるが,「手術不能又は再発非小細胞肺癌」には,様々な年齢,性別,がんの組織型,全身状態,前治療,既往歴,合併症を有する患者が含まれており,あらゆる既往症や合併症の患者を対象に,第Ⅲ相試験を実施することは不可能であるから,原告らの上記主張は失当である。 イ適応が拡大された範囲 (ア) ファーストライン治療の患者への適応拡大承認当時においては,第Ⅱ相試験の除外基準に該当する症例(ファーストライン治療の患者)に対する投与を禁止すべきであるといったイレッサの適応を限定するような科学的根拠はなかったことから,上記投与禁止の必要性はなかった。 また,本件患者らの中に,第Ⅱ相試験の除外基準に該当した者はいないから,本件において第Ⅱ相試験の除外基準に該当する症例に対する投与禁止の必要性は争点にはならない。 与禁止の必要性はなかった。 また,本件患者らの中に,第Ⅱ相試験の除外基準に該当した者はいないから,本件において第Ⅱ相試験の除外基準に該当する症例に対する投与禁止の必要性は争点にはならない。 (イ) 放射線療法との併用等への適応拡大承認当時においては,他の抗がん剤,放射線療法との併用禁止すべきであるといったイレッサの適応を限定するような科学的根拠はなかったことから,上記併用禁止の必要性はなかった。 また,本件患者らは,いずれも,他の抗がん剤との併用療法を受けておらず,放射線療法との併用療法も受けていないから,本件において他の抗がん剤,放射線療法との併用禁止の必要性は争点にはならない。 (4) 指示・警告上の欠陥について(原告らの主張)ア判断枠組み(ア) 指示・警告上の欠陥の内容及び指示・警告の対象指示・警告上の欠陥とは,当該製造物の使い方や危険性についての指示や警告が不適切であったことについての欠陥であり,安全性に関する情報を過度に強調した場合や,危険性に関する情報を十分に提供しなかった場合には,通常有すべき安全性を欠くものとして,製造物責任法2条2項にいう欠陥に当たる。 そして,製造物責任法2条2項によれば,当該製造物が通常有すべき安全性を欠いているか否かは,当該製造物に関する諸般の事情を総合的 に考慮した上で客観的に判断されるものであるから,指示・警告上の欠陥の判断においては,①判断において考慮されるべき事情,②判断の対象となる表示媒体を総合的に考慮し,消費者や使用者に対し,安全性に関する情報(安全性情報)を過度に強調した場合や,危険性に関する情報(危険性情報)が十分に提供されていない場合には,通常有すべき安全性を欠くものとして,指示・警告上の欠陥があるというべきである。 そして,製薬会社は 情報)を過度に強調した場合や,危険性に関する情報(危険性情報)が十分に提供されていない場合には,通常有すべき安全性を欠くものとして,指示・警告上の欠陥があるというべきである。 そして,製薬会社は,医療関係者のみならず患者に対しても当該医薬品の有効性や安全性についての情報を提供する必要があるから,患者に対する注意喚起は,医学的知識が十分でない者がその危険性を十分に理解できる程度に具体的で分かりやすいものでない限り,指示・警告上の欠陥が存在する。 (イ) 判断において考慮されるべき事情当該製造物を使用する使用現場に不十分な認識がある場合には,製造業者にはそのような事情を踏まえた十分な注意喚起が求められるから,医薬品については,医療関係者らの認識のみならず,患者の認識を踏まえた実効性のある注意喚起が必要であるから,医療関係者及び患者の認識は,考慮されるべき事情に含まれる。 (ウ) 判断の対象となる表示媒体製造物責任法の趣旨は,消費者や使用者が製造物を安全に使用するために必要な情報を得て被害を回避する措置をとることができるよう,製造業者に注意喚起を求めるものであるから,判断の対象となる表示媒体には,当該製造物の使用方法や危険性について記載した,製品への直接表示,取扱説明書(医薬品であれば添付文書),能書,包装への表示等だけでなく,消費者・使用者に対して製造物の安全性・危険性に関わる情報を与えるものであれば,製造業者によって提供されるパンフレットや広告等すべての媒体が含まれる。 イ販売当時のイレッサの安全性に関する被告会社及び医療関係者らの認識(ア) イレッサの安全性に関する被告会社の認識イレッサの非臨床試験(毒性試験)においては,人における急性肺障害を強く示唆する所見が複数存在し,また,国内外の臨床試験及び 及び医療関係者らの認識(ア) イレッサの安全性に関する被告会社の認識イレッサの非臨床試験(毒性試験)においては,人における急性肺障害を強く示唆する所見が複数存在し,また,国内外の臨床試験及び臨床試験外使用の副作用報告のうち,イレッサによる急性肺障害・間質性肺炎を発症したと考えられる副作用症例が39例存在し,うち重篤性が「死亡」,「死亡のおそれ」にあたるものは34例にも上っていた。 そして,少なくとも,被告会社は,被告国に対し,承認申請に際し,国内臨床試験における間質性肺炎発症例3例(全例死亡)(国内3症例(乙B12[枝番号3~5])),海外から報告された間質性肺炎発症例4例(うち3例死亡)(海外1~4例目(乙B13[枝番号1~4])),審査報告(1)作成後承認までの間に報告された間質性肺炎発症例3例(うち1例死亡)(海外5~7例目(乙B14[枝番号1~3]))につき症例報告をしており,イレッサ販売開始当時から,イレッサによる間質性肺炎は,致死的な転帰をたどるものであるとの事実を把握していた。 (イ) イレッサの安全性に関する医療関係者らの認識a 承認時の薬剤性間質性肺炎に関する知見抗がん剤による間質性肺炎については,平成14年当時,特に急性間質性肺炎・びまん性肺胞障害(AIP/DAD)型をたどるものは予後が不良となり得るとの知見が存在していた一方で,薬剤間質性肺炎一般については,「直ちに投薬を中止すれば急速に症状が軽快することが多い」(丙H24),「早期に診断・治療を行えば,多くは問題がなく」(丙H25)というように,軽症のものも存在し,必ずしも予後が悪いものではないというのが一般的な知見であった。 b 被告会社による広告宣伝等 分子標的治療薬については,従来の殺細胞性抗がん剤と異なる新たな作用機 のものも存在し,必ずしも予後が悪いものではないというのが一般的な知見であった。 b 被告会社による広告宣伝等 分子標的治療薬については,従来の殺細胞性抗がん剤と異なる新たな作用機序により安全性が高いとの期待が存在していた。 そして,被告会社も,分子標的治療薬に対する上記のような期待を利用し,マスコミ等に向けた広告宣伝(プレスリリース)や医療関係者向けのパンフレットや小冊子の発行,医学雑誌への広告記事掲載等を通じ,イレッサがこれまでの抗がん剤とは全く異なる分子標的治療薬であると位置付け,正常細胞に影響を与えることが少なく,副作用も少なく,軽いなどとして,その効果や安全性を強調する広告宣伝を行っており,このような広告宣伝を受けて,イレッサの高い効果や安全性を報じるマスコミ報道が氾濫していた状況にあった。 c まとめ以上のような情報構造の下で,医療関係者や患者の間には,イレッサが安全性の高い画期的な新薬であるとの認識が広がっており,イレッサについて,致死的な間質性肺炎の発症の危険性があるということは認識されていなかった。 ウ添付文書添付文書は,薬事法に基づき作成が義務付けられた医薬品に関する最も基本的な警告・表示媒体である。 そして,添付文書の記載内容等に関する指針である添付文書通達,使用上の注意通達等によれば,添付文書の警告・表示は,医師が危険を回避する措置を講じることができるよう,潜在する危険性を具体的に示した十分な注意喚起となっている必要があり,記載内容及び記載方法(記載欄)が適切である必要がある。 (ア) 記載内容の不備a 間質性肺炎が致死的であることについての注意喚起前記イ(イ)のとおり,イレッサ販売当時の医療関係者らの認識は,薬 剤性間質性肺炎は必ずしも予後が不良というわけ 記載内容の不備a 間質性肺炎が致死的であることについての注意喚起前記イ(イ)のとおり,イレッサ販売当時の医療関係者らの認識は,薬 剤性間質性肺炎は必ずしも予後が不良というわけではなく,分子標的治療薬は副作用が少ない抗がん剤であるというものであったから,イレッサによる間質性肺炎が「致死的」であることを記載しなければ,適切な注意喚起とはいえないところ,イレッサの第1版添付文書には間質性肺炎が致死的であることの記載がなかった。(甲E41〔40頁〕,丙K1[枝番号2]〔18頁〕)イレッサの現在の添付文書(第18版)の警告欄には,間質性肺炎が発生し,致死的な転帰をたどる例が多いことが記載されており,これらは第1版添付文書から記載されるべきであった。また,非小細胞肺がんの抗がん剤であるドセタキセル,パクリタキセル,ビノレルビン,ゲムシタビン,イリノテカン,アムルビシンについては,承認前に死亡症例が出たものについては,第1版添付文書から「死亡例が報告されている」との表現で明記されている(甲P34,甲P144[枝番号1~5])。 b 初期症状,早期診断に必要な検査・対処方法についての注意喚起使用上の注意通達によれば,「重大な副作用」欄の記載について,「副作用の発生までの期間」,「初期症状」,「具体的防止策」及び「処置方法」について具体的な記載が要求されているところ,イレッサの第1版添付文書には初期症状,早期診断に必要な検査・対処方法についての記載がなかった。 イレッサの現在の添付文書(第18版)の警告欄及びこれを受けた「重要な基本的注意」欄には,イレッサの投与により急性肺障害,間質性肺炎があらわれることがあるとして,具体的な検査・処置方法等が指示され,当初に当たって患者に副作用を十分に説明し,臨床症状が発現した 重要な基本的注意」欄には,イレッサの投与により急性肺障害,間質性肺炎があらわれることがあるとして,具体的な検査・処置方法等が指示され,当初に当たって患者に副作用を十分に説明し,臨床症状が発現した場合には速やかに受診するよう患者を指導すること等が指示されており,これらは第1版添付文書から記載されるべきであっ た。 c 特発性肺線維症,間質性肺炎等の既往症が死亡の危険性を高めることについての注意喚起イレッサについては,肺線維症の患者への投与による危険性を指摘する報告(甲E8,丙E2,3)が存在していたから,十分な注意喚起が必要であったところ,イレッサの第1版添付文書には,特発性肺線維症,間質性肺炎等の既往症が死亡の危険性を高めることについての記載がなかった。 イレッサの現在の添付文書(第18版)の警告欄には,特発性肺線維症,間質性肺炎等の合併症が,本剤投与中に発現した急性肺障害,間質性肺炎発症後の転帰において,死亡につながる危険因子であることが記載されており,これらは第1版添付文書から記載されるべきであった。また,イレッサ承認当時,非小細胞肺がんの抗がん剤であるドセタキセル,パクリタキセル,ビノレルビン,イリノテカンについては,すべて添付文書の警告欄に,間質性肺炎又は肺線維症のある患者については症状を増悪させ致命的になり得る等としてその投与を禁忌ないし慎重投与とするよう注意喚起がされていた。 d 有効性,安全性についての十分な説明と同意を求めることについての注意喚起イレッサは,第Ⅱ相試験に基づく承認で延命効果の証明がされていない一方で,承認前の段階で致死的な間質性肺炎の発症が判明していた。にもかかわらず,医療関係者らの間には,副作用の少ない分子標的治療薬との認識が広まり,様々な媒体を通じてイレッサについて がされていない一方で,承認前の段階で致死的な間質性肺炎の発症が判明していた。にもかかわらず,医療関係者らの間には,副作用の少ない分子標的治療薬との認識が広まり,様々な媒体を通じてイレッサについて過剰な期待を抱いている状況にあったから,有効性,安全性についての十分な説明と同意が必要であったところ,イレッサの第1版添付文書には,有効性,安全性についての十分な説明と同意が必要であること について注意喚起する記載がなかった。 イレッサの現在の添付文書(第18版)の警告欄には,「患者に本剤の有効性・安全性,…致命的となる症例があること等について十分に説明し,同意を得た上で投与すること。」と記載されており,これらは第1版添付文書から記載されるべきであった。 e 医療機関等の限定や一定期間の入院による使用等の限定イレッサによる間質性肺炎は,早期の適切な対処が不可欠であったにもかかわらず,イレッサの第1版添付文書には,使用可能な医療従事者,医療施設を限定し,一定期間の入院やこれに準じる管理が必要であることについて記載がなかった。 イレッサの現在の添付文書(第18版)の警告欄には,「肺癌化学療法に十分な経験をもつ医師が使用する」等の記載がされており,これらは第1版添付文書から記載されるべきであった。また,非小細胞肺がんの抗がん剤であるドセタキセル,パクリタキセル,ビノレルビン,ゲムシタビン,イリノテカン,アムルビシンについては,すべて第1版添付文書の警告欄に,上記と同様の記載がある(甲P34,甲P144[枝番号1~5])。 f 他の抗がん剤,放射線療法との併用禁止についての注意喚起イレッサの承認審査のために被告会社から提出された資料は,あくまで単剤の使用に関するものであり,他の抗がん剤や放射線療法との併用に関する有効性 の抗がん剤,放射線療法との併用禁止についての注意喚起イレッサの承認審査のために被告会社から提出された資料は,あくまで単剤の使用に関するものであり,他の抗がん剤や放射線療法との併用に関する有効性や安全性は検討されておらず,また,第Ⅱ相試験の腫瘍縮小効果さえ確認されていない併用使用で,致死的な間質性肺炎が発症する危険は回避しなければならず,承認時から注意喚起が必要であったところ,イレッサの第1版添付文書には,他の抗がん剤,放射線療法との併用禁止についての記載がなかった。 日本肺癌学会のゲフィチニブ使用に関するガイドライン(甲E1 6,35)も他の抗がん剤や放射線療法との併用を原則として禁止している。同ガイドラインは,INTACT各試験で延命効果が認められなかったこと等を根拠にしているが,INTACT各試験の結果を待つまでもなく,そもそもイレッサの申請は単剤における有効性の確認であり,併用については,延命効果はおろか腫瘍縮小効果についても何ら承認審査において確認されていなかった。 g 第Ⅱ相試験(IDEAL各試験)の除外基準に該当する症例に対する投与禁止についての注意喚起第Ⅱ相試験の除外基準に該当に対する症例について,承認審査の段階で何ら有効性と安全性の検討が行われていないことは,承認前から当然に分かっていたことであるから,注意喚起が必要であったところ,イレッサの第1版添付文書には,第Ⅱ相試験の除外基準に該当する症例に対する投与禁止についての記載がなかった。 承認の根拠となった第Ⅱ相試験の除外基準に該当するその他の症例については,現在は,前記ガイドラインが「未知の領域への試験的投与」,「安全性の検討が行われていない」と指摘して規制している。 (イ) 記載方法(記載欄)の不備a 警告欄の記載イレッサの副作 ついては,現在は,前記ガイドラインが「未知の領域への試験的投与」,「安全性の検討が行われていない」と指摘して規制している。 (イ) 記載方法(記載欄)の不備a 警告欄の記載イレッサの副作用である急性肺障害,間質性肺炎は,予後が不良で,死亡転帰をとる致死的な疾患であるから,使用上の注意通達にいう「致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合,又は副作用が発現する結果極めて重大な事故につながる可能性があって,特に注意を喚起する必要がある場合」にあたるから,間質性肺炎の発生頻度,致命的な疾患であること,症状,使用方法の制限の内容,間質性肺炎の早期診断に必要な検査,イレッサを投与してはならない既往症,間質性肺炎が発生した場合の治療法その他の対処方法等 を,添付文書の警告欄に記載すべきであった。 また,前記イ(イ)のとおりのイレッサ販売当時の医療関係者らの,薬剤性間質性肺炎,イレッサの安全性に関する認識を前提とすれば,イレッサの副作用である急性肺障害,間質性肺炎は,警告欄に記載されない限り,注意喚起としては十分ではなかった。 b 重大な副作用欄の記載イレッサの第1版添付文書では,間質性肺炎が「重大な副作用」欄の最後に記載されているにすぎず,「使用上の注意」の記載順序の原則に照らしても,イレッサによって発生する間質性肺炎が,重度の下痢,脱水を伴う下痢,中毒性表皮壊死融解症,多形紅斑,肝機能障害と比較し,重大なものではないと判断され得る記載であり,医療関係者らの間質性肺炎に対する警戒を怠らせるものであった。 エ添付文書以外の文書(ア) 総合製品情報,インタビューフォーム総合製品情報やインタビューフォームは,製薬会社が医療関係者に対して当該医薬品の有効性や安全性等に関する情報をより詳細に提供し,そ 添付文書以外の文書(ア) 総合製品情報,インタビューフォーム総合製品情報やインタビューフォームは,製薬会社が医療関係者に対して当該医薬品の有効性や安全性等に関する情報をより詳細に提供し,その適正な使用を図ることを目的に作成されるものであり,医療関係者が当該医薬品の有効性や安全性等の情報を得るために重要な文書であるから,イレッサによる間質性肺炎の副作用の危険性について十分な注意喚起がされるべきであった。 しかし,イレッサの総合製品情報やインタビューフォームには,間質性肺炎が,「特性」欄に重大な副作用の一つとして記載されていたにとどまり,致死的な副作用であるとの記載はなく,間質性肺炎の副作用に関する十分な注意喚起がされているとはいえないものであった。 (イ) 同意文書,患者向け説明書同意文書は,製薬会社が医師に対して医師の患者に対するインフォー ムド・コンセントの際に伝えるべき危険性情報を明らかにしたものであり,患者向け説明書は,製薬会社が患者に対してイレッサの有効性や安全性に関する情報を提供するものであるから,医学的知識を有しない患者が当該医薬品の危険性を理解することができるよう,イレッサによる間質性肺炎の副作用の危険性について十分な注意喚起がされるべきであった。 しかし,イレッサの同意文書(丙E50[枝番号2の1],甲A20,甲P106)では,間質性肺炎については,病名の記載がないか,あったとしてもそれが致死的な副作用であって直ちに医師による治療が必要であるとの記載がなく,「肺の炎症によるかぜのような症状(呼吸がしにくい)が報告されています。」として,風邪のような症状が出る程度の副作用であると誤信させるような記載であり,また,患者向け説明書の副作用欄には間質性肺炎の記載はなく,いずれも間質性肺炎の副作用 しにくい)が報告されています。」として,風邪のような症状が出る程度の副作用であると誤信させるような記載であり,また,患者向け説明書の副作用欄には間質性肺炎の記載はなく,いずれも間質性肺炎の副作用に関する十分な注意喚起がされているとはいえないものであった。 オまとめイレッサの承認当時,医療関係者らには,薬剤性間質性肺炎の予後がそれ程不良であるとの認識はなく,また,被告会社による広告宣伝により,イレッサは副作用が少ない画期的な新薬であるとの認識が広まっていたから,イレッサを流通に置くにあたっては,副作用による被害を回避するために十分な注意喚起が求められていた。 にもかかわらず,被告会社は,イレッサの第1版添付文書に発症する間質性肺炎が「致死的」であることを明記せず,間質性肺炎による副作用を警告欄に記載せず,また,総合製品概要や患者用の説明文書や同意書でも間質性肺炎による死亡の危険性があることを告知しなかったのであるから,製造物責任法上,指示・警告上の欠陥がある。 (被告会社の主張) ア判断枠組み(ア) 指示・警告上の欠陥の内容及び指示・警告の対象イレッサは医療用医薬品であり,医師の処方を要するものであるから,製薬会社は,当該医薬品の最終使用者である患者ではなく,その中間に存在する医学の専門的知識を有する医師等に対してしかるべく警告をすれば十分である(学識ある中間者理論)。 医薬品の添付文書は,薬事法に根拠を有し,医薬品を適正に使用するために必要な情報を使用者に提供するためのものであり,また,医療用医薬品の添付文書は医師等によって必ず参照されるべきものであるから,医療用医薬品に係る指示・警告表示の妥当性は,添付文書の「使用上の注意」に関する記載の妥当性を中心に判断されねばならない。 そして,「使用上の注 書は医師等によって必ず参照されるべきものであるから,医療用医薬品に係る指示・警告表示の妥当性は,添付文書の「使用上の注意」に関する記載の妥当性を中心に判断されねばならない。 そして,「使用上の注意」は,当該添付文書の作成時点における医学的薬学的知見及びデータに基づいて記載されるものであるから,その記載内容の妥当性は,当該添付文書の作成時点における医学的薬学的知見を前提に判断されるべきである。したがって,添付文書が改訂された場合に,改訂後の添付文書との比較において,改訂前の添付文書の記載内容が少ないこと自体が問題となるものではなく,当該添付文書の作成時点における医学的薬学的知見を前提に記載内容の妥当性が判断されるべきである。 (イ) 判断において考慮されるべき事情医療用医薬品の添付文書は,当該医薬品の最終使用者である患者ではなく,医学の専門的知識を有し,高度の義務を負う医師等が閲読するものであることを前提に,当該医薬品に関する情報を記載すれば足りるから,医療用医薬品の添付文書には,医師等が当然に認識し,あるいは文献等を参照することによって容易に得られる情報まで記載する必要はない。 (ウ) 判断の対象となる表示媒体医療用医薬品については,医師等が,添付文書を必ず参照して当該医薬品の有効性,安全性に関する情報を得た上で,処方等を決定するのであって,広告宣伝等の情報に基づいて処方等を決定するわけではないから,医療用医薬品に係る指示・警告表示の妥当性は,添付文書の「使用上の注意」に関する記載の妥当性を中心に判断されねばならない。 また,医療用医薬品に係る指示・警告表示の妥当性の判断の対象として添付文書以外の情報提供文書等を考慮するとしても,報道等のように被告会社以外の者が行ったイレッサに関する情報については判断の対 い。 また,医療用医薬品に係る指示・警告表示の妥当性の判断の対象として添付文書以外の情報提供文書等を考慮するとしても,報道等のように被告会社以外の者が行ったイレッサに関する情報については判断の対象とはならないし,また,医師等は,専門的立場において情報の取捨選択をするものであるから,信頼性のない情報を鵜呑みにすることはない。 イ販売当時のイレッサの安全性に関する被告会社及び医療関係者らの認識(ア) イレッサの安全性に関する被告会社の認識イレッサ承認当時,①治験,②参考試験,③EAPの3種類のデータが存在していたところ,①最も信頼性が高く,評価の中心となる治験においては,イレッサの単剤・承認用量(250mg/日)における間質性肺炎副作用報告例がなかった。もっとも,治験では,承認用量の倍量投与群(500mg/日)で2例の間質性肺炎副作用報告例が存在したこと(国内臨床試験1及び2例目)から,用量の違いはあるものの,単剤・承認用量での間質性肺炎発症の可能性は完全には否定できないものと考えられた。また,②参考試験のデータにおいても,治験と同じく,単剤・承認用量での間質性肺炎副作用報告例はなかったが,倍量投与群や3剤併用投与試験の症例において間質性肺炎副作用報告例が複数あり,これらの症例によってイレッサの間質性肺炎発症の有無を評価することは困難ではあるものの,完全には否定できないものと考えられた。さらに,③これらの評価は,EAPのデータ(EAP1~5例目)とも矛盾 しないものと考えられた。 そこで,被告会社は,被告国とも協議の上,安全性を重視する観点から,間質性肺炎を添付文書の「重大な副作用」欄に記載し,発生可能性を注意喚起することにしたものである。 (イ) イレッサの安全性に関する医療関係者らの認識イレッサ承認当時 安全性を重視する観点から,間質性肺炎を添付文書の「重大な副作用」欄に記載し,発生可能性を注意喚起することにしたものである。 (イ) イレッサの安全性に関する医療関係者らの認識イレッサ承認当時,医師等には,薬剤性間質性肺炎は予後不良となりうる疾患であることが知られていた。また,医師等には,「重大な副作用」欄に記載される副作用が場合によっては死亡に至ることのある副作用であるとの認識があった。 したがって,イレッサの副作用が従来の抗がん剤と比べて軽いとの期待があったとしても,医師等には,イレッサによる間質性肺炎が,第1版添付文書の「重大な副作用」に記載されたことによって,場合によっては死亡に至るものであると適切に認識されていた。 ウ添付文書(ア) 記載内容の不備a 間質性肺炎が致死的であることについての注意喚起イレッサに限らず薬剤性間質性肺炎は予後不良となりうる疾患であることが知られていたことや「重大な副作用」欄に記載される副作用が場合によっては死亡に至ることのある副作用であることから,イレッサの間質性肺炎について,第1版添付文書の「重大な副作用」に記載されたことによって,場合によっては死亡に至るものであると適切に認識されていた。 しがたがって,既に「重大な副作用」欄において死亡の可能性を注意喚起しているにもかかわらず,敢えて添付文書に「致死的」であるとか死亡例が出ていたことを明記すべき必要性はなかった。 b 初期症状,早期診断に必要な検査・対処方法についての注意喚起 薬剤性間質性肺炎の主たる症状が,乾性咳嗽,呼吸困難,発熱であることや,胸部X線検査や胸部CT検査等により診断を行うこと,発症した場合には投薬を中止してステロイド薬を投与することは,教科書(丙H23~37)等にも記載されている基本的な 嗽,呼吸困難,発熱であることや,胸部X線検査や胸部CT検査等により診断を行うこと,発症した場合には投薬を中止してステロイド薬を投与することは,教科書(丙H23~37)等にも記載されている基本的な知識であり,当時の医療現場の認識に照らしても,医師等が参照する添付文書においてそのような記載をする必要はない。 c 特発性肺線維症,間質性肺炎等の既往症が死亡の危険性を高めることについての注意喚起イレッサについては,評価の中心となる治験においても,参考試験においても,いずれも間質性肺炎の危険因子を窺わせるようなデータは得られず,EAPのデータの115症例(丙B3)をもっても,既存の間質性肺炎及び肺線維症がイレッサの間質性肺炎発症ないし死亡の危険因子であるとは判断できず,毒性試験においても,イレッサによる肺毒性を示す所見はなかった。このようなイレッサの間質性肺炎に関するデータ及び間質性肺炎に関する知見に照らせば,イレッサ承認当時,特発性肺線維症,間質性肺炎の既往症が間質性肺炎の死亡の危険性を高めるものと判断し得る状況にはなく,これらについて注意喚起をする必要はなかった。 既存の間質性肺炎又は肺線維症がイレッサの間質性肺炎の発症ないし死亡危険因子であることが判明したのは,平成14年12月以降の厚生労働省主催の安全性検討会,被告会社主催の専門家会議における検討,その後公表されたWJTOG研究報告,プロスペクティブ調査(PMS)の結果,コホート内ケース・コントロール・スタディ(CCS)の結果等によるものであり,被告会社は,上記研究結果を速やかに臨床現場に伝えるべく,平成14年12月に既存の間質性肺炎又は肺線維症のある患者への慎重投与を注意喚起し,平成15年4月に 警告欄にこれを記載したにすぎない。 d 有効性,安全性につ 臨床現場に伝えるべく,平成14年12月に既存の間質性肺炎又は肺線維症のある患者への慎重投与を注意喚起し,平成15年4月に 警告欄にこれを記載したにすぎない。 d 有効性,安全性についての十分な説明と同意を求めることについての注意喚起抗がん剤については,第Ⅱ相試験の結果をもって承認されていることは当然であり,そのことを敢えて注意喚起する必要性はないし,有効性,安全性についての十分な説明と同意を求めることについても,イレッサに限らず,医師が当然に行うべきことであるから,敢えて注意喚起する必要性もない。 承認当時,イレッサの間質性肺炎が従来の抗がん剤と比べて特に重篤であるとのデータはなかったのであるから,上記のような注意喚起の必要性はなかった。 e 医療機関等の限定や一定期間の入院による使用等の限定イレッサについては,承認当時のデータからは,間質性肺炎が従来の抗がん剤と比べて特に重篤であるとのデータはなく,むしろ,従来の抗がん剤にほぼ必発であった骨髄抑制等の副作用がほとんど発生しないこと等から,副作用全体として,安全性が高いと考えられていたのであるから,使用医限定や入院措置等の注意喚起を行う理由はなかった。 なお,ドセタキセル等の6剤の抗がん剤は,いずれも,「警告」欄での副作用の注意喚起を行った上で使用医限定等がなされている抗がん剤であり,かかる「警告」欄での副作用の注意喚起を要しなかったイレッサとは前提が異なる。 f 他の抗がん剤,放射線療法との併用禁止についての注意喚起承認当時においては,他の抗がん剤,放射線療法との併用禁止すべきであるといったイレッサの適応を限定するような科学的根拠はなかったことから,上記併用禁止についての注意喚起は不要であった。 また,本件患者らは,いずれも,他の 線療法との併用禁止すべきであるといったイレッサの適応を限定するような科学的根拠はなかったことから,上記併用禁止についての注意喚起は不要であった。 また,本件患者らは,いずれも,他の抗がん剤との併用療法を受けておらず,放射線療法との併用療法も受けていないから,本件において他の抗がん剤,放射線療法との併用禁止についての注意喚起の必要性は争点にはならない。 g 第Ⅱ相試験(IDEAL各試験)の除外基準に該当する症例に対する投与禁止についての注意喚起承認当時においては,第Ⅱ相試験の除外基準に該当する症例に対する投与を禁止すべきであるといったイレッサの適応を限定するような科学的根拠はなかったことから,上記投与禁止についての注意喚起は不要であった。 また,本件患者らの中に,第Ⅱ相試験の除外基準に該当した者はいないから,本件において第Ⅱ相試験の除外基準に該当する症例に対する投与禁止についての注意喚起の必要性は争点にはならない。 (イ) 記載方法(記載欄)の不備使用上の注意通達によれば,添付文書の「重大な副作用」欄には,「当該医薬品にとって特に注意を要するものを記載すること」とされ,重篤度分類通知のグレード3に分類される副作用が記載されるところ,グレード3に該当するものは「死亡…に陥るおそれのある」副作用であるとされており,臨床現場においても,そのように理解されていた。 したがって,イレッサの添付文書の「重大な副作用」欄の「間質性肺炎」の記載を見た臨床現場の医師は,イレッサの投与により間質性肺炎が発症しうることはもとより,場合によっては間質性肺炎によって死亡に至る可能性があることを認識していたものであり,少なくとも認識し得た。 使用上の注意通達によれば,添付文書の「警告」欄に記載すべき副作用は,「致死的又は極めて重 によっては間質性肺炎によって死亡に至る可能性があることを認識していたものであり,少なくとも認識し得た。 使用上の注意通達によれば,添付文書の「警告」欄に記載すべき副作用は,「致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合, 又は副作用が発現する結果極めて重大な事故につながる可能性があって,とくに注意を喚起する必要がある場合」であるとされているが,上記規定は,医療用医薬品一般について規定したものであり,各医薬品において,ある副作用を「警告」欄に記載する必要があるか否かの判断にあたっては,当該医薬品の特性を踏まえた判断が必要である。そして,前記第1の2(被告会社の主張)(1)エのとおりの承認当時のイレッサの間質性肺炎の臨床データに照らせば,イレッサの間質性肺炎は,「重大な副作用」欄での注意喚起を超えて「更に注意喚起を要する副作用」に該当するものではなかった。 エ添付文書以外の文書(ア) 総合製品情報,インタビューフォーム総合製品情報概要(甲A17)では,「特性」欄(3頁)にも,「使用上の注意」の項目(5頁以下)の「重大な副作用」欄(7頁)にも,「副作用」の項目(23頁以下)の「重大な副作用」欄(26頁)にも,間質性肺炎が明記されていた。また,インタビューフォーム(丙A3)の中でも,間質性肺炎が「重大な副作用」として明記され(26頁),同記載箇所には,「発熱,咳嗽,呼吸困難,肺音異常(捻髪音)」といって初期症状も記載されている。 さらに,被告会社が医師に向けて配布したイレッサ処方時のチェックシート(丙L4)の中でも,間質性肺炎のチェック項目が設けられ,間質性肺炎が「重大な副作用」であることも明記されており,添付文書以外の情報提供文書においても間質性肺炎を含めて適切な情報提供がされていた。 (イ) 同 でも,間質性肺炎のチェック項目が設けられ,間質性肺炎が「重大な副作用」であることも明記されており,添付文書以外の情報提供文書においても間質性肺炎を含めて適切な情報提供がされていた。 (イ) 同意文書,患者向け説明書イレッサは,医療用医薬品であって,医師等が必ず添付文書を参照し,当該医薬品の有効性及び安全性に関する情報を把握した上で処方等 を決定するから,当該医薬品に関する情報は,医学の専門的知識を有する医師等が閲読することを前提に提供すれば足り,患者用の文書は,本来,指示・警告上の欠陥を判断する対象にはならない。 もっとも,患者の同意文書(甲A10,11)や患者用の説明文書(丙A2,丙L3)の中にも,間質性肺炎の初期症状を「肺の炎症」による「かぜの様な症状(呼吸がしにくいなど)」といった分かりやすく平易な表現で記載し,初期症状が現れた場合には医師等に受診するよう注意喚起を行っているから,添付文書以外の情報提供文書においても間質性肺炎を含めて適切な情報提供がされていた。 オまとめ以上によれば,イレッサについて,第1版添付文書の「重大な副作用」欄に「間質性肺炎(頻度不明):間質性肺炎があらわれることがあるので,観察を十分に行い,異常が認められた場合には,投与を中止し,適切な処置を行うこと。」と記載したことは適切であり,また,添付文書以外の情報提供文書においても間質性肺炎を含めて適切な情報提供がされていたから,イレッサにつき指示・警告上の欠陥はない。 (5) 広告宣伝上の欠陥について(原告らの主張)ア判断枠組み(ア) 医薬品に関する広告宣伝は,未だ当該医薬品を使用していない医療関係者や患者らにも広く働きかけ,当該医薬品に関する信頼や期待を作出するもので,影響力が極めて大きいことから,その広告宣伝につ (ア) 医薬品に関する広告宣伝は,未だ当該医薬品を使用していない医療関係者や患者らにも広く働きかけ,当該医薬品に関する信頼や期待を作出するもので,影響力が極めて大きいことから,その広告宣伝については適切に規制される必要がある。また,薬事法66条ないし68条は,広告宣伝による患者の生命,身体侵害の危険を防止する趣旨から,虚偽・誇大な広告や,承認前の広告を禁止し,抗がん剤等医療用医薬品の一般人への広告などを規制している。 製造物責任法の趣旨は,現代の市場経済における大量の商品流通の安全性に対する消費者の信頼の保護にあり,上記薬事法上の規定の趣旨と同様であるから,消費者の生命身体の安全に直結する医薬品については,製造物自体に付着した表示等にとどまらず,上記薬事法の規定に違反する虚偽・誇大な広告宣伝等が行われた場合には,製造物責任法上の規制を及ぼすべきであり,広告宣伝上の欠陥として,同法所定の欠陥に当たるというべきである。 (イ) 米国では,製造者が製品の品質及び性能等についてカタログ等の広告に記載した内容は,製造者が消費者に対して明示的に保証したものとし,消費者はそれを信頼する権利を有するといういわゆる明示の保証理論が確立している。 また,ECでは,製造物の表示が欠陥判断の重要な要素とされ(EC指令(欠陥製造物に対する責任に係る加盟国の法律,規則及び行政規定の均一化に関するEC閣僚理事会指令)第6条1項a号),製造物の表示は,製造物の外観,販売方法,説明書,指示や広告宣伝など,製造者側から購入者側に提供される販売促進にかかる全ての活動が考慮され,製造者が発した情報に接する消費者として,当該製品の安全性に対する期待をどの程度に持つことが妥当視されるかによって,欠陥の有無が判断されている。 したがって,比較法的にも る全ての活動が考慮され,製造者が発した情報に接する消費者として,当該製品の安全性に対する期待をどの程度に持つことが妥当視されるかによって,欠陥の有無が判断されている。 したがって,比較法的にも,前記宣伝広告上の欠陥についての解釈論は裏付けられている。 (ウ) 前記(4)のとおり,広告宣伝は,指示・警告上の欠陥の内容を構成するが,広告宣伝の情報提供媒体としての影響力の大きさにかんがみれば,広告宣伝につき,医薬品の有効性及び安全性について正確な情報が提供されていない場合には,製造物責任法上,指示・警告上の欠陥とは別に,広告宣伝上の欠陥にも当たるというべきである。 イ広告宣伝上の欠陥(ア) 虚偽・誇大な広告宣伝被告会社が行ったイレッサに関する広告宣伝は,イレッサの実際の効果や安全性とは異なり,副作用が少ないとして安全性を過度に強調する一方,致死的な間質性肺炎の発症の危険性について全く触れず,安全性情報についても危険性情報についても欠陥のあるものであり,薬事法66条1項が禁止する虚偽・誇大な広告に当たるものであった。 (イ) 承認前からの宣伝被告会社は,イレッサの承認前から,専門家を利用した対談記事や学会発表の結果のプレスリリース,学術情報の提供を装うことにより,実質的な広告宣伝を展開していたもので,薬事法68条が禁止する承認前の広告宣伝を行っていた。 (ウ) 多様な情報媒体の利用被告会社は,報道機関により一般紙等に報じられることを通じて医療関係者や患者らに対して広く情報提供が行われることを意図して,イレッサの有効性と安全性を過度に強調したプレスリリースを行い,これを受けた報道機関がイレッサが有効で安全性の高いものであると誤信させるような報道を行い,イレッサに対する過度の期待を煽った。 また,被告会社 有効性と安全性を過度に強調したプレスリリースを行い,これを受けた報道機関がイレッサが有効で安全性の高いものであると誤信させるような報道を行い,イレッサに対する過度の期待を煽った。 また,被告会社は,医師に対しては,雑誌,パンフレット,同意文書,インタビューフォームを通じ,患者や一般人に対しては,同意文書,説明文書,インターネット上のホームページ(エルネット,Iressa.com)といった多様な情報媒体を通じて広告宣伝を行い,これらが宣伝効果を増幅し,広告宣伝上の欠陥性を高めた。 (エ) まとめ以上によれば,イレッサに関する広告宣伝は,イレッサの実際の効果や安全性とは異なり,イレッサが有効性や安全性が極めて高いかのよう に誇張されたものであったところ,被告会社は,多様な情報媒体を通じてこれらの広告宣伝を行い,医師らや患者らをしてイレッサの効果や安全性を誤信させ,副作用被害を生み出す危険性を高めたのであるから,イレッサには,製造物責任法上,広告宣伝上の欠陥がある。 (被告会社の主張)ア判断枠組み(ア) イレッサは,医療用医薬品であって,専門的知識を有する医師等が添付文書を参照し,必要に応じて文献等を検索するなどして,当該医薬品の処方のあり方を吟味・評価したうえで患者に処方するものである。そして,添付文書は,薬事法に依拠し,医師等によって必ず参照されるべきものであり,イレッサの第1版添付文書には,「重大な副作用」欄に「間質性肺炎」が記載されていたのであるから,医師等は,「重大な副作用」である間質性肺炎が発生する可能性があることを認識した上で,イレッサを処方等しなければならなかった。 このような医療用医薬品の特徴からすれば,「広告宣伝」なるものが,添付文書による情報提供(指示・警告表示)を離れて,医薬品の安全 あることを認識した上で,イレッサを処方等しなければならなかった。 このような医療用医薬品の特徴からすれば,「広告宣伝」なるものが,添付文書による情報提供(指示・警告表示)を離れて,医薬品の安全性との関係でいかなる意味をもつのか不明であって,広告宣伝において,医薬品の有効性及び安全性について正確な情報が提供されていない場合には,指示警告上の欠陥とは別に,それ自体において製造物責任法上の欠陥(広告宣伝上の欠陥)が成立するとの原告らの主張は,主張自体失当である。 (イ) また,薬事法66条ないし68条所定の「広告」とは,①顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確であること,②特定医薬品等の商品名が明らかにされていること,③一般人が認知できる状態であることの要件を満たすものとされていることから(「薬事法における医薬品等の広告の該当性について」平成10年9月29日医薬監第1 48号厚生省医薬安全局監視指導課長通知・丙D19),原告らが指摘するイレッサに関するプレスリリース,各種雑誌,書籍,パンフレット,総合製品情報,インタビューフォーム,患者向けの各種媒体等はいずれも上記「広告」には当たらない。 なお,新聞報道等は,被告会社がその内容の決定に関与していない情報提供文書であるから,その記載内容を理由に被告会社が責任を問われる理由はない。 イ広告宣伝上の欠陥(ア) 虚偽・誇大な広告宣伝原告らが指摘する「広告宣伝」(プレスリリース,各種雑誌,書籍,パンフレット,総合製品情報,インタビューフォーム,患者向けの各種媒体等)の中には,総合製品情報概要やインタビューフォームのように,間質性肺炎を明記しているものもあれば,これに触れていないものもあるが,これは,承認当時には,イレッサの間質性肺炎が従来の抗がん剤の 体等)の中には,総合製品情報概要やインタビューフォームのように,間質性肺炎を明記しているものもあれば,これに触れていないものもあるが,これは,承認当時には,イレッサの間質性肺炎が従来の抗がん剤の間質性肺炎と比べて特に重篤であること等といったデータがなかったからでもある。そもそも,多くの抗がん剤において間質性肺炎の副作用が存在することは医療現場では知られていたことであり,そうした従来の抗がん剤と比べて特に重篤である等のデータがなかった以上,原告らのいう「広告宣伝」の中に,間質性肺炎についての記載がなかったとしても,何ら不自然なことではない。 また,上記の情報提供文書のうち少なくとも被告会社が主体となって作成したものは,臨床試験の客観的データを伝えたり,これに対する専門家の評価を記載したりしたものであって,イレッサの有効性,有用性を誇張した内容ではない。 (イ) まとめそもそも原告らがいう「広告宣伝」は,独立して,製造物責任法上の 「欠陥」に該当することはないから,原告らの主張は失当であるし,また,原告らのいう「広告宣伝」の内容は何ら誇張されたものでないから,イレッサにつき広告宣伝上の欠陥は存在しない。 (6) 販売上の指示に関する欠陥について(原告らの主張)ア判断枠組み販売上の指示に関する欠陥とは,一定の危険性が認められるなどの医薬品等について,使用の制限について販売上の指示を行うことが必要であったにもかかわらず,これが行われなかったことにより,製造物責任法上,当該医薬品等が通常有すべき安全性を欠くことをいう。 イレッサについては,安全性を確保するためには,販売上の指示として,①市販後全例調査(全例調査)が必要であり,また,②添付文書において,医療機関等の限定や一定期間の入院による使用等の限定を指示す イレッサについては,安全性を確保するためには,販売上の指示として,①市販後全例調査(全例調査)が必要であり,また,②添付文書において,医療機関等の限定や一定期間の入院による使用等の限定を指示する必要があったにもかかわらず,これらがされなかったことから,通常有すべき安全性を欠き,製造物責任法上,販売上の指示に関する欠陥があるというべきである。 イ全例調査を条件としなかったことについて(ア) 安全性確保における全例調査の役割全例調査は,医薬品の承認後に行う市販後調査のうち,使用成績調査の一方法であり(薬事法14条の4第6項,GPMSP省令2条3項),全例について登録し使用成績調査を行う方法である。 全例調査を含む市販後の使用成績調査の目的は,新たに承認された医薬品の安全性を確保するとともに,適正使用を促すことにある。すなわち,全例調査を実施することにより,早期に適正使用情報が医療機関に提供され,当該医薬品の副作用への注意喚起によって安全性の確保が図られ,副作用による危険の低減につながることに加え,専門性を有する 医療機関による慎重な使用を確保することができることになる。 (イ) イレッサが全例調査をすべき場合に当たることa 平成17年3月24日開催の第4回ゲフィニチブ検討会における,当時の厚生労働省安全対策課長Sによる説明や,これまでの全例調査の実績からすれば,全例調査が実施される基準は,①承認の前提となった臨床試験結果が基本的に海外のものであって,日本人のデータが少ないときに,日本人のデータを早期に収集するため実施する場合,②使用方法が難しい場合,細胞毒性が強いときに,重篤な副作用が予測される場合に副作用情報を早期に収集するために実施する場合である。 例えば,①抗がん剤であるイリノテカンでは承認前の 実施する場合,②使用方法が難しい場合,細胞毒性が強いときに,重篤な副作用が予測される場合に副作用情報を早期に収集するために実施する場合である。 例えば,①抗がん剤であるイリノテカンでは承認前の日本人データは415例であり,抗がん剤であるTS-1の承認前の日本人データは578例(ただし,胃がんでの治験症例数は129例)であったが,厚生省により,いずれも市販後全例調査が指示されていたし(甲F36,甲P20,77,81)②A型ボツリヌス毒素製剤・ボトックス注100は,国内治験では死亡例はなかったが,海外で死亡例が確認されていることなどを理由に全例調査が承認条件とされ(甲P30),また,前記TS-1は,治験中に治療関連死がなかったにもかかわらず市販後全例調査が行われた(甲F36)。 b イレッサは,①承認前の臨床試験における安全性に関する日本人データは133例しかなかったことから,承認の前提となった臨床試験の日本人データが少ない場合に該当した。また,②そのドラッグデザインから肺毒性が予測され,非臨床試験の段階からその毒性は示され,臨床試験やEAPにおける症例では現実に間質性肺炎の症例が死亡例までもが何例も確認されていたことに加え,日本が世界初の承認であって,それまでの抗がん剤と異なって先行する海外での市販後の 知見も一切なかったこと等から,重篤な副作用が予測される等の場合に該当した。 したがって,イレッサについて全例調査を行わないことに合理的な理由はなかった。 (ウ) まとめ以上のとおり,イレッサでは全例調査が実施されなければ安全性を確保できなかったにもかかわらず,全例調査が指示されなかったため,早期に適正使用情報が医療機関に提供されることにより当該医薬品の副作用への注意喚起によって安全性の確保を図ることや,専 ければ安全性を確保できなかったにもかかわらず,全例調査が指示されなかったため,早期に適正使用情報が医療機関に提供されることにより当該医薬品の副作用への注意喚起によって安全性の確保を図ることや,専門性を有する医療機関による慎重な使用を確保することができなかったことから,販売上の指示の欠陥があるといえ,製造物責任法における「欠陥」にあたる。 ウ添付文書に使用限定を付けなかったことについて(ア) 安全性確保における使用限定の役割使用限定とは,薬剤自体の毒性が強いなどの理由で重篤な有害事象が発生する可能性がある場合や,薬剤の使用方法に一定の危険性を伴ったり特殊な技術を要する場合などに,入院による適切な管理を義務付けたり,技術や薬剤知識・経験の点において習熟した医師による投与を義務付けるなどの必要な措置を講じることをいう。 使用限定は,薬剤の使用方法や使用医師・医療機関を限定することによって,可及的に副作用の危険の低減を図ることを目的とするものであり,イレッサについては,添付文書において,「抗がん剤についての十分な知識と経験を持つ医師・病院による投与」,「一定期間の入院管理」等の使用限定を指示する必要があった(薬事法14条,52条~55条,77条の3第1項)。 (イ) イレッサが使用限定をすべき場合に当たること イレッサの販売以前から多数の抗がん剤で使用限定が付されており,特に,非小細胞肺がんにおいてプラチナ製剤と併用される標準的な治療薬であるパクリタキセル,ゲムシタビン,イリノテカン,ビノレルビン,ドセタキセルは,各添付文書において,緊急時に十分に対応できる医療機関での使用,がん化学療法に十分な経験を持つ医師の使用などに限定することとされ,その全てに使用限定が付されており,イレッサ承認の直前に承認されたアムル 付文書において,緊急時に十分に対応できる医療機関での使用,がん化学療法に十分な経験を持つ医師の使用などに限定することとされ,その全てに使用限定が付されており,イレッサ承認の直前に承認されたアムルビシンも同様であった。(甲P144[枝番号1~5],甲P34)イレッサは,承認当時には致死性の間質性肺炎を含む肺障害という重篤な有害事象の発生が予測されていたのであるから,他剤の例と比較しても,少なくとも「抗がん剤についての十分な知識と経験を持つ医師・病院による投与」,「一定期間の入院管理」などのような使用限定がなされるべきであった。 イレッサの承認時に上記使用限定が指示されていれば,医師は投与を決定するにあたって慎重になったであろうし,患者が安易にイレッサを選択することが回避できたはずである。また,副作用たる間質性肺炎等の肺障害の兆候が現れた場合であっても,入院管理することにより早期発見と迅速な対応が可能となり,イレッサに関する副作用被害の頻発などという事態は相当程度回避できたはずである。 (ウ) まとめしたがって,イレッサについては,「抗がん剤についての十分な知識と経験を持つ医師・病院による投与」,「一定期間の入院管理」等の使用限定がされなければ安全性を確保できなかったにもかかわらず,このような使用限定がされなかった結果,医師や患者らにより安易にイレッサの投与が選択され,また,副作用の間質性肺炎等の早期発見と迅速な対応がされず,副作用被害が回避できなかったものであるから,販売上 の指示の欠陥があるといえ,製造物責任法における「欠陥」にあたる。 (被告会社の主張)ア全例調査を条件としなかったことについて(ア) 全例調査と製造物責任法上の欠陥全例調査の本来の目的は,医薬品の有効性及び安全性に関する情報を収 る「欠陥」にあたる。 (被告会社の主張)ア全例調査を条件としなかったことについて(ア) 全例調査と製造物責任法上の欠陥全例調査の本来の目的は,医薬品の有効性及び安全性に関する情報を収集することにあるのであって,全例調査を通じて医療機関を限定すること等により副作用の発生を防止することにあるのではないし,また,全例調査の実施と副作用による危険の低減との関連性は明らかではない。 イレッサの間質性肺炎については,添付文書を中心に,すでにその発症可能性及び死亡可能性が注意喚起されていたのであり,このような添付文書等での情報提供を離れて,全例調査を行うことが医薬品それ自体の安全性との関係でいかなる意味をもつのかは不明であるから,全例調査を実施しなかったことをもって製造物責任法上の「欠陥」が存在するとの原告らの主張は失当である。 (イ) イレッサが全例調査をすべき場合に当たらないことイレッサについては,一定相当数の臨床試験の結果,全例調査の実施を要するとの科学的根拠が得られなかった上,有効性及び安全性については,情報提供を行うための措置が十分に講じられていたのであり,敢えて全例調査を実施する必要性はなかったイ添付文書に使用限定を付けなかったことについて(ア) 使用限定と製造物責任法上の欠陥通院にてイレッサを服用していた場合であっても,間質性肺炎発症後のステロイドパルス療法により回復する場合は存在し,びまん性肺胞障害(DAD)型の間質性肺炎のような場合には,仮に入院措置を講じていたとしても,間質性肺炎による死亡を回避することは困難であるか ら,入院措置も使用医の限定等の措置も,いずれも間質性肺炎の発症及び死亡を防止(減少)させるものであるとは直ちには言い難く,これらと製造物責任法上の「欠陥」との関連性は明 困難であるか ら,入院措置も使用医の限定等の措置も,いずれも間質性肺炎の発症及び死亡を防止(減少)させるものであるとは直ちには言い難く,これらと製造物責任法上の「欠陥」との関連性は明らかでない。 (イ) イレッサが使用限定をすべき場合に当たらないことイレッサ承認当時は,すでに述べたとおり,1種類でも多くの治療の選択肢が望まれていた状況であった。そうした状況の中,特にイレッサのように治験で非常に高い治療効果を示すデータが得られた抗がん剤につき,相応の根拠もなくイレッサの投与が可能な施設を限定すること等は,患者の治療機会を奪うものとなり,かえって不当な措置となる。 したがって,イレッサについても,当時のデータ等に照らし,使用限定の措置を講じなかったものであって,何ら不適切な点はない。 2 被告会社の不法行為責任について(1) イレッサを販売したことによる過失責任について(原告らの主張)ア注意義務違反(過失)(ア) 注意義務の内容a 医薬品は,生体にとって異物であるがゆえに,医薬品の使用により生命,身体に危険が生ずる可能性を常に内包するものである。製薬会社は,一方で,製造,輸入及び販売過程を排他的に独占し,かつ安全性に関する情報の収集と分析をするのに十分な能力を有しており,他方で,本質的に危険性を内包する医薬品を製造,輸入,販売することで利潤を追求するものである。 したがって,製薬会社は,医薬品の製造,輸入及び販売等にあたって,医薬品の安全性を確保すべき安全性確保義務を負い,それは,世界的に見て最高の学問水準,最高の技術水準をもって,国内外の文献 を調査し各種試験を行うなどの方法により実現されなければならない。 具体的には,製薬会社は,医薬品の販売開始に先立ち,各種試験を行うとともに 準,最高の技術水準をもって,国内外の文献 を調査し各種試験を行うなどの方法により実現されなければならない。 具体的には,製薬会社は,医薬品の販売開始に先立ち,各種試験を行うとともに,文献及び外国での使用実態などを調査し,世界的に見て最高の学問水準,最高の技術水準をもって,当該医薬品の有効性及び有用性を確認すべき注意義務を負い,これらの確認を十分せずに当該医薬品を販売することは許されない。 b 前記第1の2(原告らの主張)(2)のとおり,イレッサによる致死的な急性肺障害・間質性肺炎の発症は,イレッサそのものが本来的に前提としたEGFR阻害薬としてのドラッグデザインからも十分に予見可能であったものであり,また,非臨床試験・臨床試験の結果からも十分に予見可能であった。 さらに,イレッサ承認以前から,多くの致死的な急性肺障害・間質性肺炎の発症例が,臨床試験,EAPにおいて報告されていたのであり,被告会社は,イレッサによって致死的な急性肺障害・間質性肺炎を発症する場合があることを十分に認識していた。 このように,被告会社は,イレッサの販売に先立ち,イレッサによって急性肺障害・間質性肺炎という重篤な副作用が発生すること,又はこれにより死亡という損害が発生することを十分に認識していたから,イレッサを販売してはならない注意義務を負っていた。 (イ) 注意義務違反被告会社は,上記注意義務を負っていたにもかかわらず,これに違反してイレッサを販売し,原告らに損害を与えたのであるから,被告会社にはイレッサを販売したことにつき過失がある。 イ違法性阻却事由の有無(ア) 有効性,有用性が認められる場合 a イレッサに有効性,有用性が認められる場合にはイレッサの販売の違法性が阻却される。 b 有効性,有用性 イ違法性阻却事由の有無(ア) 有効性,有用性が認められる場合 a イレッサに有効性,有用性が認められる場合にはイレッサの販売の違法性が阻却される。 b 有効性,有用性の主張・立証責任について,被告会社は,有用性についての多くの情報を独占的に保有し,原告らとの間には情報量や調査能力において格段の差があることや,当該医薬品の輸入承認を受けている以上,本来,有効性,有用性を立証する資料を十分に有しているべきであることなどからすれば,公平の観点から,有効性,有用性の主張・立証責任は被告会社が負うというべきである。 なお,仮に,有効性,有用性がないことの立証責任を原告らが負担するとしても,その立証すべき内容については,有効性,有用性の概念の性質に即して考えなければならないところ,(a)有効性については,医薬品は有効性が科学的に証明されない場合には有効性は存在しないものとみなされ,医薬品の使用は許されないのであるから,「有効性がないこと」の立証の内容は,有効性が科学的に証明されていないことで足りるというべきであるし,また,(b)有用性については,有用性があるすなわち有効性を上回る危険性がないというためには,副作用の危険性について適切かつ十分な調査・研究を行ったことが前提とならなければならないから,「有用性がないこと」の立証は,①被告の調査・研究が適切かつ十分なものではなかったこと,②被告の調査・研究から有効性を上回る危険性がないと判断することが科学的に妥当ではないことの証明で足りるというべきである。 c 前記第1の3(原告らの主張)(2)のとおり,イレッサについては,有効性,有用性が認められないから,イレッサの販売の違法性は阻却されない。 (イ) Ⅱ相承認段階での販売の必要性と許容性が認められる場合a 原告らの主張)(2)のとおり,イレッサについては,有効性,有用性が認められないから,イレッサの販売の違法性は阻却されない。 (イ) Ⅱ相承認段階での販売の必要性と許容性が認められる場合a イレッサは,旧ガイドラインによりⅡ相承認がされたものである が,薬事法14条との関係からⅡ相承認による当該医薬品の販売は,例外的な取扱いであるから,第Ⅱ相試験終了段階で販売することの必要性と許容性が認められる場合には,Ⅱ相承認段階での販売の違法性が阻却される余地がある。 b Ⅱ相承認の要件は,必要性の観点から,①第Ⅲ相試験の結果が出るまでに相当の時間がかかると見込まれること,②承認時までに第Ⅲ相試験に関する適切な臨床試験計画が具体的に存在し実施計画書が提出されていることという要件が必要であり,また,許容性の観点から,③その時点までの諸情報を総合的に検討して,有効性が肯定される相当の見込みがあり,延命効果に関する否定的な情報がないこと,④当該抗がん剤に高度の安全性が認められることという要件が必要であり,これらの要件の1つでも欠く場合には,Ⅱ相承認は許容されないというべきである。 c 後記第31(1)(原告らの主張)イ(イ)のとおり,イレッサについては,上記①ないし④のいずれの要件についても満たさず,本来,Ⅱ相承認が許容される場合ではなかったから,Ⅱ相承認段階での販売の違法性は阻却されない。 (被告会社の主張)ア原告らが主張する被告会社の不法行為責任のうち,イレッサを販売したことによる過失責任については,Ⅱ相承認による販売の違法性が主張されているものの,結局,イレッサの有用性(有効性が安全性を上回っていること)の有無,すなわち前記1(1)の製造物責任法上の「欠陥」としての「設計上の欠陥」についての争点に関する議論と同一 性が主張されているものの,結局,イレッサの有用性(有効性が安全性を上回っていること)の有無,すなわち前記1(1)の製造物責任法上の「欠陥」としての「設計上の欠陥」についての争点に関する議論と同一である。 イ前記1(1)(被告会社の主張)のとおり,イレッサは,現時点においても,承認時点においても有用性が認められるから,被告会社が有効性及び有用性を十分確認しないままイレッサを販売したということはできず,被 告会社がイレッサを販売したことについて,原告らが主張するような注意義務違反はない。 (2) 安全性確保措置を怠ったことによる過失責任について(原告らの主張)ア注意義務の内容(ア) 前記(1)(原告らの主張)ア(ア)aのとおり,製薬会社は,医薬品の製造,輸入及び販売等にあたって,医薬品の安全性を確保すべき安全性確保義務を負い,それは,世界的に見て最高の学問水準,最高の技術水準をもって,国内外の文献を調査し各種試験を行うなどの方法により実現されなければならない。 具体的には,製薬会社は,医薬品の販売に際し,各種試験や調査の結果をふまえて,当該医薬品に副作用の危険性が認められる場合には,その危険性をできる限り減少させるために,世界的に見て最高の学問水準,最高の技術水準をもって,最善の安全性確保措置(添付文書等による適切な指示・警告,適応の設定や必要に応じた医師・医療機関等の限定等)を講じるべき注意義務を負い,これらの安全性確保措置を講ずることなく医薬品を販売することは許されない。 (イ) 前記(1)(原告らの主張)ア(ア)bのとおり,被告会社は,イレッサを販売すれば,イレッサによって致死的な急性肺障害・間質性肺炎を発症する場合があることを十分に認識していた。 したがって,被告会社は,イレッサの販売に際し,① (ア)bのとおり,被告会社は,イレッサを販売すれば,イレッサによって致死的な急性肺障害・間質性肺炎を発症する場合があることを十分に認識していた。 したがって,被告会社は,イレッサの販売に際し,①適切な範囲に適応をとどめ,②適切な指示・警告をし,③適切な範囲に広告宣伝をとどめ,④適切な販売上の指示をするなどして安全確保措置をとるべき注意義務を負っていた。 イ注意義務違反被告会社は,上記注意義務を負っていたにもかかわらず,これに違反 し,①適応を拡大し,②適切な指示・警告を怠り,③虚偽・誇大な広告宣伝を行い,④適切な販売上の指示を怠り,安全性確保措置を講ずることなくイレッサを販売し,原告らに損害を与えたのであるから,被告会社にはこれらの安全確保措置を怠ったことにつき過失がある。 (被告会社の主張)ア原告らが主張する被告会社の不法行為責任のうち,安全性確保措置を怠ったことによる過失責任については,前記1(3)ないし(6)の製造物責任法上の「欠陥」としての,「適応に関する欠陥」,「指示・警告上の欠陥」,「広告宣伝上の欠陥」,「販売上の指示の欠陥」についての各争点に関する議論と同一である。 イ前記1(3)ないし(6)のそれぞれ(被告会社の主張)のとおり,被告会社は,①イレッサの適用の範囲について,ファーストライン治療の患者への投与や放射線療法との併用等を禁止する必要性はなく,②指示・警告について,第1版添付文書においても添付文書以外の情報提供文書においても間質性肺炎を含めて適切な情報提供がされていたし,③原告らがいう「広告宣伝」の内容についても,何ら誇張されたものでないし,④販売上の指示については,全例調査を実施する必要性はなく,使用限定をする必要もなかったから,被告会社が安全確保措置を怠っておらず,原告らが主 告宣伝」の内容についても,何ら誇張されたものでないし,④販売上の指示については,全例調査を実施する必要性はなく,使用限定をする必要もなかったから,被告会社が安全確保措置を怠っておらず,原告らが主張するような注意義務違反はない。 (3) イレッサ販売開始後の過失責任について(原告らの主張)ア注意義務の内容(ア) 前記(1)(原告らの主張)ア(ア)aのとおり,製薬会社は,医薬品の製造,輸入及び販売等にあたって,医薬品の安全性を確保すべき安全性確保義務を負うところ,医薬品の製造,販売後においては,当該医薬品の有効性及び危険性に関する情報を常に収集及び調査し,検討しなければ ならず,これにより当該医薬品の品質,有効性,安全性に疑問等を抱いた場合には,問題の程度に応じて,迅速に,販売停止や回収,少なくとも警告等の適切な措置を採らなければならない。 本件においては,(ア)医療機関から報告された副作用症例,特に死亡例につき情報が不足していると判断するのであれば,報告医療機関から速やかに追加情報を入手し,(イ)他の医療機関にも,同様の副作用症例,特に死亡例がないか問い合わせ,あれば速やかに情報を入手することによって迅速に情報を収集すべきであり,このようにして収集した情報に基づき,添付文書の改訂,緊急安全性情報の配布,その周知徹底などの安全性確保のための手段・方法を講じるべき義務を負っていた。 (イ) また,被告会社は,承認時までに,国内臨床試験を初めとして,海外臨床試験,EAPを含めて致死的あるいは重篤な急性肺障害,間質性肺炎の副作用症例が相当程度把握し,イレッサの危険性(安全性の欠如)を把握していた。 したがって,被告会社は,承認後に,イレッサによる致死的な急性肺障害,間質性肺炎の副作用報告がされた場合には,わずか の副作用症例が相当程度把握し,イレッサの危険性(安全性の欠如)を把握していた。 したがって,被告会社は,承認後に,イレッサによる致死的な急性肺障害,間質性肺炎の副作用報告がされた場合には,わずかな報告数であっても,副作用による死亡の被害の拡大を予見し得た。 (ウ) 具体的な注意義務の内容a 平成14年7月30日の市販後1例目の死亡報告に基づく注意義務被告会社は,平成14年7月30日,承認後最初の間質性肺炎による死亡例を把握した。 被告会社は,前記(イ)のとおり,上記報告により副作用による死亡の被害の拡大を予見し得たから,上記報告を受けた同年7月30日時点で,緊急安全性情報の配布,添付文書の改訂,加えて,その周知徹底として,イレッサが安全であるとの誤った情報を払拭して危険性情報が行き渡るに足りる安全性確保のための措置を講じる義務があった。 また,仮に,被告会社において,上記報告を受けた同日時点での死亡報告を情報不足と判断した場合には,同症例(乙D2[枝番号7の2],甲D14[枝番号7]〔2~5枚目〕)につき,報告医療機関から速やかに副作用症例を評価するに足る臨床経過に基づく追加情報を求め,追加報告を受けることができた時点(同年7月30日から数日後)で,上記と同様の緊急安全性情報の配布,添付文書の改訂,その周知徹底としての安全性確保のための措置を講じる義務があった。 b 平成14年8月27日の追加報告に基づく注意義務被告会社は,平成14年8月27日には,市販後1例目の死亡報告についての追加報告を受けた(乙D2[枝番号9の2],甲D14[枝番号9]〔2~6枚目〕)。同報告は,検討会でイレッサによる死亡例と判断された症例報告書(丙E1[枝番号14①])と内容に違いはない。 したがって,被告会社は,上記追加 番号9の2],甲D14[枝番号9]〔2~6枚目〕)。同報告は,検討会でイレッサによる死亡例と判断された症例報告書(丙E1[枝番号14①])と内容に違いはない。 したがって,被告会社は,上記追加報告をもって,安全性検討会と同じく,イレッサによる間質性肺炎と死亡との因果関係を肯定する結論を出すことが可能であったから,上記報告を受けた同年8月27日時点で,緊急安全性情報の配布,添付文書の改訂,その周知徹底としての安全性確保のための措置を講じる義務があった。 c 平成14年8月29日までの死亡例報告に基づく注意義務被告会社は,平成14年8月29日までに,承認後合計7例の間質性肺炎による死亡例を把握した。 したがって,被告会社は,前記(イ)のとおり,上記報告により副作用による死亡の被害の拡大を予見し得たから,上記報告を受けた同年8月29日時点で,緊急安全性情報の配布,添付文書の改訂,その周知徹底としての安全性確保のための措置を講じる義務があった。 イ注意義務違反 (ア) 平成14年7月30日の市販後1例目の死亡報告に基づく注意義務違反被告会社は,遅くとも平成14年7月30日時点において,安全性確保のための措置を講じていれば,副作用被害の拡大を防ぐことが可能であったにもかかわらず,前記注意義務に違反して上記措置を怠り,同年10月15日まで緊急安全性情報を発することなく,急性肺障害,間質性肺炎による死亡被害を拡大させた。 (イ) 平成14年8月27日の追加報告に基づく注意義務違反被告会社は,遅くとも平成14年8月27日時点において,安全性確保のための措置を講じていれば,副作用被害の拡大を防ぐことが可能であったにもかかわらず,前記注意義務に違反して上記措置を怠り,同年10月15日まで緊急安全性情報を発することな 時点において,安全性確保のための措置を講じていれば,副作用被害の拡大を防ぐことが可能であったにもかかわらず,前記注意義務に違反して上記措置を怠り,同年10月15日まで緊急安全性情報を発することなく,急性肺障害,間質性肺炎による死亡被害を拡大させた。 (ウ) 平成14年8月29日までの死亡例報告に基づく注意義務違反被告会社は,遅くとも平成14年8月29日時点において,安全性確保のための措置を講じていれば,副作用被害の拡大を防ぐことが可能であったにもかかわらず,前記注意義務に違反して上記措置を怠り,同月30日,イレッサを薬価収載し,同年10月15日まで緊急安全性情報を発することなく,急性肺障害,間質性肺炎による死亡被害を拡大させた。 (被告会社の主張)ア注意義務の内容(ア) 緊急安全性情報の発出や添付文書の改訂の必要性の有無医薬品の副作用について緊急安全性情報の発出や添付文書の改訂の必要性の有無は,添付文書の記載,適応疾患の性質や他の医薬品における副作用,問題となっている当該副作用の性質等を踏まえて検討する必要 がある。 そして,以下の事情を前提にすると,イレッサの第1版添付文書に,間質性肺炎が「重大な副作用」欄に記載されていた以上,医師等に対し,患者が致死的になり得る副作用である間質性肺炎を発症することがあり得ることについての十分な注意喚起がされていたというべきである。 したがって,さらに被告会社において緊急安全性情報の発出や添付文書の改訂の必要性があったというためには,原告らが主張する各時点において,被告会社が得ていた具体的情報を基にすると,もはや「重大な副作用」による注意喚起では不十分であり,これを超える注意喚起をしなければならない状況にあったといえることが必要である。 a イレッサの間質性 会社が得ていた具体的情報を基にすると,もはや「重大な副作用」による注意喚起では不十分であり,これを超える注意喚起をしなければならない状況にあったといえることが必要である。 a イレッサの間質性肺炎はすでに添付文書の「重大な副作用」欄に記載され,場合によっては死亡するおそれのある副作用として位置付けられていた。 b 非小細胞肺がん抗がん剤の副作用は重篤で,かつ副作用が高頻度で発生する。さらに,1%ないし2%程度の副作用死亡の発生が不可避である。 c 間質性肺炎の副作用の重篤性は薬剤の種類等によって異なるが,抗がん剤の副作用として起こる間質性肺炎は一般に予後不良で死亡するおそれのある副作用であることが知られていた。また,間質性肺炎はほとんどの非小細胞肺がん抗がん剤が有する副作用であり,一定の副作用死亡も発生することが知られていた。 d 承認後に報告されてきたイレッサの間質性肺炎の副作用症例は,第一報の時点では概括的な情報に止まり,その後MRを通じて担当医から詳細情報の入手が行われた。こうして収集された情報に基づいて,個々の症例ごとに間質性肺炎の発症やイレッサとの因果関係の有無に ついて検討が行われ,間質性肺炎の発症例が一定程度集積した段階で,発生頻度や重篤性についての検討・評価が行われた。こうした検討・評価を踏まえて,添付文書の改訂の要否や改定内容が検討されたが,このような情報収集,検討・評価,具体的な措置の検討には,一定の時間を要する。 (イ) 具体的な注意義務の内容a 平成14年7月30日の市販後1例目の死亡報告に基づく注意義務後記cのとおり,被告会社には,平成14年8月30日までの死亡例報告に基づき警告・緊急安全性情報を発出すべき義務はなかったのであるから,それ以前の同月27日までの情報に基づ 亡報告に基づく注意義務後記cのとおり,被告会社には,平成14年8月30日までの死亡例報告に基づき警告・緊急安全性情報を発出すべき義務はなかったのであるから,それ以前の同月27日までの情報に基づき警告・緊急安全性情報を発出すべき義務はなかった。 なお,イレッサの場合,致死的な副作用として間質性肺炎を添付文書の「重大な副作用」欄に記載していたのであるから,このような場合に,1例の間質性肺炎の副作用死亡報告があったとしても,直ちに警告や緊急安全性情報の発出をすべき義務が生じたとはいえない。 さらに,イレッサについては,市販直後調査が行われており,被告会社では,副作用報告があった場合に,市販後調査ガイドライン(乙D17)が定める基準に従って,担当MR(医療情報提供者)が医療機関を訪問して副作用情報について積極的な情報収集活動を行っていたもので,上記1例の死亡報告があったことによって,被告会社において,上記調査以外の特別な調査をすべき義務が生じたとはいえない。 b 平成14年8月27日の追加報告に基づく注意義務後記cのとおり,被告会社には,平成14年8月30日までの死亡例報告に基づき警告・緊急安全性情報を発出すべき義務はなかったのであるから,それ以前の同月27日までの情報に基づき警告や緊急安 全性情報を発出すべき義務はなかった。 c 平成14年8月29日までの死亡例報告に基づく注意義務同日までの時点において間質性肺炎死亡例と疑われるものは5例であったが,そのうち2例は,特にイレッサの間質性肺炎による死亡例と考えるには疑問の強い症例であった。 そして,当時のイレッサの推定投与患者数が約1960人(丙K2[枝番号6]〔2頁〕)であったことからすれば,平成14年8月29日時点での間質性肺炎死亡率は,上記5例を前提と 問の強い症例であった。 そして,当時のイレッサの推定投与患者数が約1960人(丙K2[枝番号6]〔2頁〕)であったことからすれば,平成14年8月29日時点での間質性肺炎死亡率は,上記5例を前提とすれば約0.25%(5例/1960例),うち上記2例を除いた3例を前提とすれば約0.15%(3例/1960例)に止まるものであり,この点に照らせば,同日時点で,イレッサの間質性肺炎について「重大な副作用」による注意喚起では不十分であり,警告や緊急安全性情報を発出をすべき義務があったとはいえない(丙E74[枝番号1]〔8頁(2)〕)。 なお,同日までの時点で被告会社が報告を受けていた間質性肺炎発症例は9例であり,そのなかにはイレッサとの因果関係が疑問である症例等もあったが,上記9例を前提としても発生頻度は約0.45%(9例/1960例)に止まる。この点からしても,被告会社に警告や緊急安全性情報を発出すべき義務はなかった。 イ注意義務違反(ア) 前記アのとおり,被告会社には,平成14年8月29日までに警告や緊急安全性情報を発出すべき義務はなかった。 (イ) 被告会社は,平成14年9月11日に添付文書の改訂等に向けた検討を速やかに開始し,同月18日には添付文書改訂検討委員会(PIMWT:PrescribingInformationManagementWorkingTeam)を開催して添付文書の改訂の要否及び改訂内容の検討を行い,同月27日には安全 性委員会に上程して,添付文書の改訂を決定したのである。その後,継続的に報告されてくるイレッサとの因果関係が疑われる間質性肺炎症例の評価を行うとともに,添付文書の改訂へ向けて着々と準備を行い,厚生労働省安全対策課とも協議を重ね,同年10月15日に間質性肺炎を添付文書の警告欄 てくるイレッサとの因果関係が疑われる間質性肺炎症例の評価を行うとともに,添付文書の改訂へ向けて着々と準備を行い,厚生労働省安全対策課とも協議を重ね,同年10月15日に間質性肺炎を添付文書の警告欄に記載するとともに,緊急安全性情報の発出を行ったものである(甲P158〔4枚目〕,丙P58〔5頁〕)。 このように,被告会社は,イレッサの承認後も,安全性の確保のための対応を適時適切に行ってきたのであり,原告らが主張するような注意義務違反はない。 (以下余白) 第3 被告国の責任について 1 承認時の義務違反について(1) 承認の違法について(原告らの主張)ア承認の違法に関する判断枠組み(ア) 薬事法上の安全性確保義務薬事法には,その目的として,医薬品の品質,有効性に加えて安全性の確保が明示され(薬事法1条),医薬品の製造販売をしようとする者は,品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければならず(薬事法14条1項),承認の審査においては,用法,用量,効能,効果等に加え,副作用を審査しなければならないとされ(同条2項),当該医薬品がその申請にかかる効能,効果又は性能を有すると認められないとき及びかかる効能,効果又は性能を有すると認められてもそれらに比して著しく有害な作用を有することにより医薬品として使用価値がないと認められるときは,当該医薬品の輸入に関し承認を与えてはならないとされている(同条2項2号)。 上記薬事法の目的及び規定によれば,厚生労働大臣は,医薬品の製造販売の承認をするに際し,医薬品の安全性を確保すべき義務を負い,①医薬品が適応症のすべてについて有効性が認められない場合,あるいは副作用の危険性が有効性を上回る場合には有用性を欠くものとして,当該医薬品の製造販売の承認をし 薬品の安全性を確保すべき義務を負い,①医薬品が適応症のすべてについて有効性が認められない場合,あるいは副作用の危険性が有効性を上回る場合には有用性を欠くものとして,当該医薬品の製造販売の承認をしてはならず,②適応症の一部に上記のような事情が認められる場合には,適応症を有用性の認められる症例に限定して承認を行わなければならない。 そして,厚生労働大臣は,医薬品の製造販売の承認をするに際し,医薬品の安全性を確保すべき義務を負い,①医薬品が適応症のすべてにつ いて有効性が認められない場合,あるいは副作用の危険性が有効性を上回る場合には有用性を欠くものとして,当該医薬品の製造販売の承認をしてはならず,②適応症の一部に上記のような事情が認められる場合には,適応症を有用性の認められる症例に限定して承認を行わなければならない。 (イ) 有効性,有用性の主張立証責任医薬品の承認審査においては,効能・効果の存在及びその程度(有効性)と,副作用の存在及びその程度(安全性)の両方が審査対象となり,副作用を上回る効果・効能があって初めて有用性が認められ,製造・輸入承認等がされる(薬事法14条)。 当該医薬品を有用性があると判断して承認したのは,厚生労働大臣(被告国)であるし,また,医薬品の有用性の存否は優れて高度の専門的・技術的知見に基づいて判断しなければならない性質のものであるところ,被告国は,医薬品の有効性,安全性にかかる情報を独占するとともに,薬事法により課された責任を遂行するだけの専門的・技術的知見を有する一方,原告らは,何らの情報も何らの専門性も有していない。 したがって,公平の観点から,有用性の存在については被告国が主張立証責任を負う。 (ウ) 医薬品の承認審査における基準及び国の裁量クロロキン判決の基準からすれば, 何らの専門性も有していない。 したがって,公平の観点から,有用性の存在については被告国が主張立証責任を負う。 (ウ) 医薬品の承認審査における基準及び国の裁量クロロキン判決の基準からすれば,厚生労働大臣は,その当時の最高の医学的,薬学的知見をもって承認審査を行わなければならない。 また,医薬品の承認審査における有用性の有無は,判定時における最高の学問水準に照らして客観的に定まる性質のものであり,また,医薬品の有効性及び安全性を確保し,もって国民の生命及び健康を保護するという薬事法の趣旨にかんがみても,承認行為及びその前提となる有用性の審査につき行政裁量はない。 (エ) 実質的審査義務厚生労働大臣は,単に製薬会社から任意に提出された資料のみを審査するだけでなく,有効性や安全性に疑義がある場合には,国民の安全を守る観点から,国内外の資料を可能な限り収集し,申請者に釈明を求め,必要な実験試料などの提出を促したり命じたりするなどして,積極的に情報収集,調査研究をすべき実質的審査義務を負う。 Ⅱ相承認の場合,有効性については,高い腫瘍縮小効果が肯定できるか否か,延命効果が見込まれるか否かについて,安全性については,海外での使用実績やEAPの結果を踏まえ,国内の副作用発生状況を確認するなどして実質的審査を行わなければならない。 イ承認の違法(不作為義務違反)(ア) 有用性についてa イレッサの有効性前記第1の1(2)(原告らの主張)アのとおり,イレッサが承認された平成14年7月当時におけるイレッサの有効性については,IDEAL各試験結果の奏功率を積極的に評価することが難しいのみならず,抗がん剤の第Ⅱ相試験であるIDEAL各試験結果の奏功率から延命効果を予測することはできない。また,対照群を置かないIDE ,IDEAL各試験結果の奏功率を積極的に評価することが難しいのみならず,抗がん剤の第Ⅱ相試験であるIDEAL各試験結果の奏功率から延命効果を予測することはできない。また,対照群を置かないIDEAL各試験における生存期間中央値などをイレッサの有効性の根拠とすることもできない。したがって,IDEAL1試験の日本人群の試験結果を考慮したとしても,イレッサが日本人の非小細胞肺がん患者の治療において有効性,すなわち延命効果を有しない薬剤である可能性を念頭に置くべき状況にあったというべきである。 また,前記第1の1(2)(原告らの主張)イのとおり,イレッサ承認後の事情から平成14年7月当時におけるイレッサの有効性を評価した場合も,承認条件となっていたV1532試験だけでなく,その 他の第Ⅲ相試験においてもイレッサの延命効果を示すことができず,イレッサに有効性がないことがさらに明らかとなったというべきである。 b イレッサの安全性前記第1の2(原告らの主張)(2)のとおり,イレッサが承認された平成14年7月当時におけるイレッサの危険性については,平成14年7月承認前から,抗がん剤による薬剤性間質性肺炎には死亡例や重篤例が多く見られており,イレッサの承認時には,既に,薬剤性間質性肺炎について,予後が不良となりうる疾患であり,かつ,その中でも急性間質性肺炎・びまん性肺胞障害(AIP/DAD)型をたどるものは予後が不良であるということ,及び抗がん剤による薬剤性間質性肺炎については致命的になりやすいため特に注意を払われなければならなかった。また,イレッサの臨床試験を検討する上で,イレッサのEGFR阻害というドラッグデザインから予測される毒性,イレッサの非臨床試験で得られた毒性所見を前提に慎重かつ厳密に吟味する必要があったことに加 。また,イレッサの臨床試験を検討する上で,イレッサのEGFR阻害というドラッグデザインから予測される毒性,イレッサの非臨床試験で得られた毒性所見を前提に慎重かつ厳密に吟味する必要があったことに加え,イレッサの臨床試験において現れた有害事象死亡例は,大半が副作用に分類されるべきものであり,少なくともこれら有害事象死亡例のデータはイレッサによる致死的な急性肺障害・間質性肺炎の副作用の発生を予測させるに十分なものであった。 さらに,イレッサの国内臨床試験やEAPを含む副作用報告で認められた間質性肺炎の副作用発症例は,いずれも極めて重篤かつ致死的なものであり,発症率及び死亡率も高頻度であった。したがって,イレッサが極めて重篤かつ致死的な間質性肺炎の副作用を高頻度で発症させるものであることはイレッサ承認前の時点で既に明らかになっていたというべきである。 前記第1の2(原告らの主張)(3)のとおり,イレッサ承認後の事 情から平成14年7月当時におけるイレッサの危険性を評価した場合も,イレッサによる間質性肺炎の副作用が極めて重篤かつ致死的で,イレッサの安全性が欠如していたことは,イレッサ承認前の段階で既に明らかになっており,その安全性の欠如が,承認後,わずか6年足らず間に,734人というこれまでに類を見ないほど多数の副作用死亡者数を出したという結果として表れたのであるから,イレッサの安全性の欠如は,市販後において,他剤との比較やプロスペクティブ調査,コホート内ケース・コントロール・スタディの結果によって,より明確に実証されたというべきである。 c イレッサの有用性前記第1の3(原告らの主張)(2)アのとおり,イレッサが承認された平成14年7月当時におけるイレッサの有用性については,旧ガイドラインにおける腫瘍縮小効果を前提に る。 c イレッサの有用性前記第1の3(原告らの主張)(2)アのとおり,イレッサが承認された平成14年7月当時におけるイレッサの有用性については,旧ガイドラインにおける腫瘍縮小効果を前提にした承認制度においても,イレッサはIDEAL各試験の結果等からの有効性の見込みと危険性を比較しても,有効性が欠如し又は危険性が有効性を上回るものであるから,有用性があるとはいえない。 前記第1の3(原告らの主張)(2)イのとおり,イレッサ承認後の事情から平成14年7月当時におけるイレッサの有用性を評価した場合も,承認後における有効性及び安全性に関する諸事情を考慮すれば,イレッサは,少なくとも「手術不能又は再発非小細胞肺癌」という適応との関係では,有効性が欠如し又は危険性が有効性を上回ることが科学的に証明されたのであるから,有用性があるとはいえない。 (イ) 有用性を欠く承認の違法についてa Ⅱ相承認の要件等について旧ガイドラインにおいて,第Ⅲ相試験の成績を承認後に提出することが認められ,第Ⅱ相試験までの結果に基づく承認が可能とされてい たとしても,抗がん剤の有効性の指標が延命効果である以上,被告国は,承認時点において,可能な限り延命効果について第Ⅲ相試験に代わるような情報を得るべく資料を収集し,検討する義務を負う。そして,延命効果に疑いが生じる場合には,第Ⅱ相試験の段階では承認せず,第Ⅲ相試験の結果を待って有効性を判断しなければならない。 したがって,Ⅱ相承認の条件は,Ⅱ相承認の必要性の観点から,①第Ⅲ相試験の結果が出るまでに相当の時間がかかると見込まれること,②承認時までに第Ⅲ相試験に関する適切な臨床試験計画が具体的に存在し実施計画書が提出されていることという要件が必要であり,また,許容性の観点から,③その時点ま に相当の時間がかかると見込まれること,②承認時までに第Ⅲ相試験に関する適切な臨床試験計画が具体的に存在し実施計画書が提出されていることという要件が必要であり,また,許容性の観点から,③その時点までの諸情報を総合的に検討して,有効性が肯定される相当の見込みがあり,延命効果に関する否定的な情報がないこと,④当該抗がん剤に高度の安全性が認められることという要件が必要であり,これらの要件の1つでも欠く場合には,Ⅱ相承認は許容されないというべきである。 b イレッサについて前記(ア)のとおり,イレッサは,平成14年7月当時において,有効性が欠如し又は危険性が有効性を上回るものであるから,有用性があるとはいえなから,被告国は,イレッサの輸入承認をしてはならなかったにもかかわらずこれを承認した。 また,本件では,被告国は,イレッサ承認時(平成14年7月5日)において,①INTACT各試験の結果が同年8月に公表されることを把握していたこと,②被告会社から国内第Ⅲ相試験の実施計画書を提出させず,第Ⅲ相試験によってできるだけ早期に有効性を確認させることの担保がされていなかったこと,③IDEAL各試験における腫瘍縮小効果は高いものではなかったことに加え,INTACT各試験で延命効果の証明に失敗したことを認識すべき状況にあったこ とから,延命効果に関する否定的な情報が存在していたこと,④間質性肺炎の副作用例が多数報告されており,イレッサの安全性に対する重大な疑念が存在していたことといった事情が存在する。以上によれば,被告国(厚生労働省)は,イレッサを第Ⅱ相試験の段階で承認することは許容されず,第Ⅲ相試験の結果を待って有効性,有用性を判断すべきであったにもかかわらず,第Ⅱ相試験の段階でこれを承認した。 したがって,被告国には,イレ イレッサを第Ⅱ相試験の段階で承認することは許容されず,第Ⅲ相試験の結果を待って有効性,有用性を判断すべきであったにもかかわらず,第Ⅱ相試験の段階でこれを承認した。 したがって,被告国には,イレッサが有用性を欠く(Ⅱ相承認の要件を欠く)のに承認した違法がある。 (ウ) 適応拡大(ファーストラインにおける使用,他剤あるいは放射線治療との併用療法)による承認の違法についてa イレッサの承認の根拠となったIDEAL各試験は,いずれも非小細胞肺がんのセカンドライン以降の患者群に対する単剤投与での臨床試験であり,また,被告会社が被告国に対して承認審査資料として提出した6件の臨床試験についても他剤や放射線治療との併用が除外されていたから,ファーストラインにおける有効性や,他剤あるいは放射線治療との併用療法における有効性は,第Ⅱ相試験においても確認されていなかった。 イレッサは,米国及びカナダではサードライン以降に限定して承認されている。また,INTACT各試験は,ファーストライン治療において,延命効果が認められなかった。そして,平成15年10月の日本肺癌学会でのガイドラインによると,「化学療法未治療例における有効性及び安全性は確立していないため,このような例では実地医療としては使用しないこと」とされているから,承認時点においても,ファーストラインでの使用をも適用範囲とする承認は許されなかった。 また,抗がん剤では,他の抗がん剤や放射線治療との併用が想定され,対象となる薬剤の範囲も限定されるから,その有効性,安全性が確認されるまでは,単剤としての有効性が確認されたものは,単剤としての承認に限られるべきであった。 b 以上の状況にあったにもかかわらず,被告国は,適応を非小細胞肺がん(手術不能又は再発例)として,ファー までは,単剤としての有効性が確認されたものは,単剤としての承認に限られるべきであった。 b 以上の状況にあったにもかかわらず,被告国は,適応を非小細胞肺がん(手術不能又は再発例)として,ファーストラインでの使用や,他剤や放射線治療との併用使用をも適用範囲とし,適用範囲を拡大して承認した。 その結果,無限定に適用が拡大され,ファーストライン患者の原告Lがイレッサを投与された結果間質性肺炎に罹患する等被害が生じた。 (被告国の主張)ア承認の違法に関する判断枠組み(ア) 国賠法1条1項の判断枠組み国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定する(職務行為基準説)。 そして,当該公権力の行使に当たる公務員が具体的にいかなる職務上の法的義務を負担するかは,当該根拠法令における規制目的,当該権限の要件及び効果,これにより保護されるべき個別の国民の法的利益の内容等を総合し,当該根拠法令が採用した立法政策を考慮して定められるべきものと解される。 (イ) 有効性,有用性の主張立証責任薬事法上,厚生労働大臣が,医薬品を承認してはならない法的義務を負うのは,承認当時の医学的,薬学的知見の下で,客観的にみて,①当 該医薬品が効能,効果を有すると認められず(薬事法14条2項1号),又は,②効能効果に比して著しい有害作用があるため使用価値がないと認められる場合(同条2項2号)に限られる。前者は有効性が認められない場合であり,後者は有用性が認められない場合である。 したがって,厚生労働大臣によるイレッサの輸入承認が国賠法上違法であるというためには,原告らにおいて,厚生労働大臣 る。前者は有効性が認められない場合であり,後者は有用性が認められない場合である。 したがって,厚生労働大臣によるイレッサの輸入承認が国賠法上違法であるというためには,原告らにおいて,厚生労働大臣が薬事法14条1項所定の輸入承認権限を行使し得る要件を欠いていた,すなわち,イレッサの輸入承認をしてはならない法的義務に違反した(不作為義務違反)ことを主張立証する必要がある。 具体的には,原告らにおいて,イレッサの輸入承認が,平成14年7月当時の医学的,薬学的知見の下で,客観的にみて,①当該医薬品が効能,効果を有すると認められないこと(有効性が認められないこと),又は,②効能効果に比して著しい有害作用があるため使用価値がないと認められること(有用性が認められないこと)を主張立証する必要がある。 (ウ) 医薬品の承認審査における基準及び国の裁量厚生労働大臣の製造承認(輸入承認)は,その時点における医学的,薬学的知見の下で,当該医薬品がその副作用を考慮してもなお有用性を肯定しうるときは,国賠法上違法の評価を受けることはないというべきであるから,厚生労働大臣の有用性判断は,その時点の当該医薬品に関する医学的,薬学的知見に反しない限り,違法の評価を受けないというべきである。 そして,クロロキン判決によれば,医薬品の有用性の判断は,その時点における医学的,薬学的知見を前提として,当該医薬品の治療上の効能,効果と副作用との比較考量によって行われるもので,高度の専門的かつ総合的な判断が要求されるものである。したがって,厚生労働大臣 の上記専門的かつ総合的判断は,薬事行政の責任者として,薬事法に基づき我が国における医薬品の安全性を確保する責務を担う厚生労働大臣の専門的かつ総合的な裁量判断にゆだねられているというべきである。 また, 専門的かつ総合的判断は,薬事行政の責任者として,薬事法に基づき我が国における医薬品の安全性を確保する責務を担う厚生労働大臣の専門的かつ総合的な裁量判断にゆだねられているというべきである。 また,有用性の判断は,適応症に罹患した患者全体との関係で,対象疾病の重篤性,それに対する治療効果等を考慮した有効性と,副作用の重篤性,発生頻度等を考慮した安全性の全体とを比較考量した上,代替治療法とも比較して相対的に,また,総合的に判断されるべきものである。 イ承認の違法(不作為義務違反)(ア) 有用性についてa イレッサの有効性前記第1の1(2)(被告国の主張)アのとおり,イレッサが承認された平成14年7月当時におけるイレッサの有効性について,イレッサの適応症である手術不能又は再発非小細胞肺がんは,予後不良で重篤な疾患であるところ,イレッサは,IDEAL1試験等により顕著な抗腫瘍効果を示して,延命効果を推定させ,他方で,代替治療法である既存の抗がん剤は限界の状態に達していたのであるから,イレッサには効能,効果が認められたというべきである。 前記第1の1(2)(被告国の主張)イのとおり,イレッサ承認後の事情から平成14年7月当時におけるイレッサの有効性を評価した場合も,イレッサ承認後の医学的,薬学的知見の進展を踏まえたイレッサの有効性の実証からは,前記アのイレッサ承認時に得られていた知見が裏付けられるというべきである。 b イレッサの安全性前記第1の2(被告国の主張)(2)のとおり,イレッサが承認された平成14年7月当時におけるイレッサの安全性について,平成14 年7月当時の薬剤性間質性肺炎に関する知見や,新医薬品の安全性の評価方法に関する知見等を前提とした,イレッサの国内外の臨床試験の有害事象,副作用症例そ レッサの安全性について,平成14 年7月当時の薬剤性間質性肺炎に関する知見や,新医薬品の安全性の評価方法に関する知見等を前提とした,イレッサの国内外の臨床試験の有害事象,副作用症例その他の安全性に関する情報からは,平成14年7月当時,承認用量のイレッサによる間質性肺炎発症の可能性は否定できず,また殺細胞性抗がん剤による間質性肺炎と同様に症例によっては致死的となる可能性のあることは否定できないが,イレッサによる間質性肺炎が殺細胞性抗がん剤による間質性肺炎よりも発症頻度が高い又は重篤であるとの知見までは得られていなかった。そして,イレッサと間質性肺炎との関連性は,販売後の調査の結果等を踏まえ,慎重に検討していくことが必要であり,かつそれで足りるというのが,平成14年7月当時の医学的,薬学的知見であった。 前記第1の2(被告国の主張)(3)のとおり,イレッサ承認後の事情から平成14年7月当時におけるイレッサの安全性を評価した場合も,イレッサ承認後に得られた知見から,イレッサ承認当時のデータを振り返ってみると,イレッサ承認当時に得られていた知見が上記のとおりであったことが裏付けられる。 c イレッサの有用性前記第1の3(被告国の主張)(2)アのとおり,イレッサが承認された平成14年7月当時におけるイレッサの有用性について,イレッサの効能,効果と副作用を総合的に比較衡量すると,平成14年7月当時,イレッサの副作用による危険性は,新たな治療の選択肢としての効能,効果による利益を上回るものではなく,イレッサに有用性が認められることは明らかであった。 前記第1の3(被告国の主張)(2)イのとおり,イレッサ承認後の事情から平成14年7月当時におけるイレッサの有用性を評価した場合も,イレッサの副作用による危険性が,新たな治療の は明らかであった。 前記第1の3(被告国の主張)(2)イのとおり,イレッサ承認後の事情から平成14年7月当時におけるイレッサの有用性を評価した場合も,イレッサの副作用による危険性が,新たな治療の選択肢としての効能,効果による利益を上回るものではなく,イレッサに有用性が 認められるとした平成14年7月当時の承認時の判断はやはり正当であったといえる。 (イ) 有用性を欠く承認の違法についてa Ⅱ相承認の要件等について平成14年7月当時,各種指針の下で採用されていた抗がん剤の有効性,有用性評価の方法論,すなわち,Ⅱ相承認の考え方とは,①第Ⅱ相試験によって治療の直接目的である腫瘍縮小効果を確認するとともに,これを代替評価項目として,治療上の利益を確認し,②この腫瘍縮小効果に関して得られた知見を,他の評価項目について得られた知見その他あらゆる知見と総合して有効性,有用性を評価することにより臨床使用の可否を決し,③その有効性,有用性が肯定されて臨床使用に用いられた場合には,臨床使用の中で第Ⅲ相試験により延命効果を検証し,④その延命効果が検証されれば標準的治療に組み入れられる,というものであった。 そして,上記Ⅱ相承認の方法論に関する各種指針等は,いずれも当時における,当該分野の専門家が慎重な検討を経て開発し,確立したものであり,それぞれ当時における,医学的,薬学的知見を集約したものであって,それ自体が知見の一つとして位置付けられるものであり,合理性を有するものである。 したがって,上記Ⅱ相承認を前提にすると,承認の要件としては,①第Ⅱ相試験によって治療の直接目的である腫瘍縮小効果を確認するとともに,これを代替評価項目として,治療上の利益を確認し,②この腫瘍縮小効果に関して得られた知見を,他の評価項目について得られ は,①第Ⅱ相試験によって治療の直接目的である腫瘍縮小効果を確認するとともに,これを代替評価項目として,治療上の利益を確認し,②この腫瘍縮小効果に関して得られた知見を,他の評価項目について得られた知見その他あらゆる知見と総合して有効性,有用性を評価することにより,承認の可否を決することになる。 そして,前記ア(ウ)のとおり,有用性の判断は,適応症に罹患した 患者全体との関係で,対象疾病の重篤性,それに対する治療効果等を考慮した有効性と,副作用の重篤性,発生頻度等を考慮した安全性の全体とを比較考量した上,代替治療法とも比較して相対的に,また,総合的に判断されるべきものである。 原告らは,Ⅱ相承認が適法となるための独自の要件を,必要性と許容性の観点に分けて主張するが,原告らの上記主張は,医学的,薬学的知見に基づかない単なる「一意見」にすぎず失当である。 b イレッサが有用性を欠く(Ⅱ相承認の要件を欠く)のに承認した違法の有無前記(ア)のとおり,イレッサが承認された平成14年7月当時におけるイレッサの有用性について,イレッサの効能,効果と副作用を総合的に比較衡量すると,平成14年7月当時,イレッサの副作用による危険性は,新たな治療の選択肢としての効能,効果による利益を上回るものではなく,イレッサに有用性が認められることは明らかであったから,イレッサの輸入承認について違法はない。 なお,イレッサの輸入承認の違法をいうためには,原告らにおいて,イレッサの輸入承認が,平成14年7月当時の医学的,薬学的知見の下で,客観的にみて,①当該医薬品が効能,効果を有すると認められないこと(有効性が認められないこと),又は,②効能効果に比して著しい有害作用があるため使用価値がないと認められること(有用性が認められないこと)を主張立証 当該医薬品が効能,効果を有すると認められないこと(有効性が認められないこと),又は,②効能効果に比して著しい有害作用があるため使用価値がないと認められること(有用性が認められないこと)を主張立証する必要があるところ,その主張立証はない。 (ウ) 適応拡大(ファーストラインにおける使用,他剤あるいは放射線治療との併用療法)による承認の違法についてa 臨床試験において選択基準や除外基準が定められているのは,ファーストラインで臨床試験を実施することは,倫理的に許されていない という問題のほか,他の影響を排除して薬効それ自体を見ようとするために背景因子をそろえる等するためであり,選択基準に該当しない症例や除外基準に該当する症例では効果がないからではない。臨床試験の選択基準に該当しない症例や除外基準に該当する症例であっても,当該医薬品の効能,効果が通常認められる範囲であれば,適応を認めることはできるのであり,そのうちの一部の患者について,当該医薬品の効能,効果が認められない場合には,当該患者(群)について,適応から除外すれば足りる。 したがって,治験における選択基準や除外基準によって治験の対象者となっていないことのみをもって,非対象者には効能,効果が認められない旨の原告らの主張は,医学的,薬学的見地からみて失当である。 b もっとも,イレッサの添付文書においては,効能・効果を手術不能又は再発非小細胞肺がんとした上,「効能・効果に関する使用上の注意」欄に,「1.本剤の化学療法未治療例における有効性及び安全性は確立していない。2.本剤の術後補助療法における有効性及び安全性は確立していない。」と記載され,イレッサを投与する医師に対し,個別の患者への投与に際して注意喚起がされている。 (2) 安全確保義務懈怠による承認の 2.本剤の術後補助療法における有効性及び安全性は確立していない。」と記載され,イレッサを投与する医師に対し,個別の患者への投与に際して注意喚起がされている。 (2) 安全確保義務懈怠による承認の違法と規制権限の不行使の違法について(原告らの主張)ア判断枠組み(ア) 安全確保義務懈怠による承認の違法(第1次的主張・不作為義務違反)についてa 厚生労働大臣は,医薬品につき高度の安全確保義務を負うものであるから,有効性が危険性を上回って有用性があることが積極的に肯定できない場合には,当該医薬品を承認してはならない義務を負う(薬 事法1条,14条)。 そして,医薬品は,それ自体では単なる化学物質であり,添付文書による危険性についての注意喚起,全例調査や使用条件の限定等の適切な安全確保措置がされ,適切な適応範囲に限定されてはじめて有用性が認められるのであるから,医薬品が,安全確保措置がとられないまま承認され,あるいは適切な適応範囲に限定されないまま承認された場合には,いずれも有用性判断の誤りとして,当該医薬品の承認行為は違法となる。 b 本件では,①致死的な間質性肺炎等の急性肺障害について十分な警告表示がされなければならず,②全例調査又はこれに準じた厳格な市販後調査がされるべきであり,③入院ないしそれに準じる管理下での使用,肺がん化学療法に十分な経験を持つ医師による使用,投与に際して緊急時に十分に措置できる医療機関での使用等の使用限定がされるべきべきであった。 したがって,後記イの添付文書の記載内容を指導しないまま承認した行為,後記ウの市販後全例調査を義務付けないまま承認した行為,後記エの使用限定を付さないまま承認した承認行為自体が違法となる。 c イレッサについて,上記安全確保措置をとらないまま承 ま承認した行為,後記ウの市販後全例調査を義務付けないまま承認した行為,後記エの使用限定を付さないまま承認した承認行為自体が違法となる。 c イレッサについて,上記安全確保措置をとらないまま承認した行為の違法は,いずれも薬事法14条の承認行為における有用性の判断の誤りであって,承認行為の違法性の問題(作為による違法行為・不作為義務違反)であるから,薬事法79条所定の承認条件の問題や規制権限不行使の問題ではなく,裁量権の消極的濫用論が問題になる場面ではない。 (イ) 副作用による被害を回避するために必要な規制権限の不行使の違法(第2次的主張・作為義務違反)について a 規制権限を行使すべき義務薬事法では,製造等の承認後において,厚生労働大臣が医薬品等による保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため必要があると認めるときは,医薬品の製造業者らに応急の措置を採るべきことを命ずることができるとされ(薬事法69条の3),薬事法14条の規定による承認を与えた医薬品が有用性を欠くに至ったと認めるときは,その承認を取り消さなければならないとされる(薬事法74条の2)。 また,医薬品の製造業者若しくは輸入販売業者又は外国製造承認取得者若しくは国内管理人は,その製造し,若しくは輸入し,又は法第19条の2の規定により承認を受けた医薬品の品質,有効性及び安全性に関する事項その他医薬品の適正な使用のために必要な情報の収集及び検討を行い,その結果に基づき医薬品による保健衛生上の危害の発生若しくは拡大の防止,又は医薬品の適正な使用の確保のために必要な措置を講ずることとされ(GPMSP省令2条1項),その方法として,市販直後調査,使用成績調査,特別調査及び市販後臨床試験が規定されている(同条2項ないし5項)。 このように,被告国は, に必要な措置を講ずることとされ(GPMSP省令2条1項),その方法として,市販直後調査,使用成績調査,特別調査及び市販後臨床試験が規定されている(同条2項ないし5項)。 このように,被告国は,承認行為以外の点でも,自ら医薬品の副作用情報を収集する等して医薬品の安全性を確保するために適切な措置を講じ,あるいは製薬業者をして安全性確保のために適切な措置を講じさせるべき職務上の権限を有し,義務を負っていた。そして,国民の生命健康という重大な法益の保護を目的とする規制権限については,その行使に関する裁量の幅は狭く捉えられるべきであるから,被告国は,国民の生命健康という重大な法益侵害を予見することができ,上記権限を行使すればその結果を回避することが可能で,その権限を行使することが期待された状況であれば,その権限の不行使に合理性を認めることはできず,厚生労働大臣は上記権限を行使すべき義 務があり,その不行使は国賠法上違法となる。 クロロキン判決によれば,権限の不行使がその許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときに,規制権限の不行使が違法となるとされている。そして,権限の不行使が許容限度を逸脱しているか否かは,①被侵害法益が重要であること,②行政庁が危険を予見することが可能であること,③当該権限の行使によって危険を回避し得ること,④当該権限の行使が国民から期待されることというの観点から総合的に判断するのが相当である。本件では,①被侵害法益は人の生命身体という重要な法益であり,②被告国は,致死的な間質性肺炎の副作用が生じることを認識しており,③承認時に適切な規制権限が行使されることで可及的に被害の防止が図り得る状況にあり,④被告会社が自主的に安全性確保措置を講じることが期待できない状況にあったことから,厚生労 じることを認識しており,③承認時に適切な規制権限が行使されることで可及的に被害の防止が図り得る状況にあり,④被告会社が自主的に安全性確保措置を講じることが期待できない状況にあったことから,厚生労働大臣による積極的な規制権限の行使が期待された状況にあった。 したがって,厚生労働大臣には,イレッサの承認時において,安全性確保のために積極的な権限行使を行うべき義務があった。 b 規制権限不行使の違法に関する主張立証の内容についてクロロキン判決は,職務行為基準説を採用せず,客観的な違法(取消訴訟における違法)と国賠法上の違法を峻別しない立場に立っており,薬害事件において,職務行為基準説の適用はない。 また,一般に,公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と行為をした場合には当該行為は違法と評価されるべきであるから,本件において,原告らは,厚生労働大臣がイレッサ使用の安全性を確保するために通常尽くすべき注意義務を尽くしていなかったこと,本来採るべき措置を採っていなかったことを主張立証すれば足りる。 c 本件における規制権限の不行使本件において,厚生労働大臣は,薬事法1条,14条に基づく医薬品の安全性確保義務を前提として,さらに,①薬事法52条ないし55条,77条の3第1項に基づき,イレッサの危険性に関して添付文書に警告を始めとする適切な注意喚起を行わせるべき規制権限,②薬事法14条の4第6項,77条の3第1項に基づき,使用成績調査として全例調査を行わせるべき規制権限,③薬事法14条,54条3号に基づき,投与にあたっての入院ないしそれに準じる管理を確保すること,肺がん化学療法に十分な経験をもつ医師の使用,及び,投与に際して緊急時に十分に措置できる医療機関での使用に限定させるべき規制権限を行使すべき 与にあたっての入院ないしそれに準じる管理を確保すること,肺がん化学療法に十分な経験をもつ医師の使用,及び,投与に際して緊急時に十分に措置できる医療機関での使用に限定させるべき規制権限を行使すべきであった。 イ添付文書の指示・警告に関する義務違反について(ア) 添付文書の指示・警告についての基準医薬品の承認審査(薬事法14条)においては,添付文書の記載も審査対象となるところ,厚生労働大臣は,添付文書の記載が不適切・不十分である場合には,これを適切・十分となるよう指導し,申請者がこれに従わない場合には,承認をしない義務を負う。 添付文書についての使用上の注意通達の基準によれば,被告国は,本件承認当時,急性肺障害・間質性肺炎等の致死的又は重篤かつ不可逆的な疾患については,添付文書の警告欄に記載し,その記載理由についても説明しなければならなかった。 (イ) イレッサについて厚生労働大臣は,イレッサの承認前から,致死的な間質性肺炎の副作用が起きることを認識していたから,前記基準によれば,イレッサの副作用としての間質性肺炎は,警告欄において明らかにすべきであった。 にもかかわらず,厚生労働大臣は,イレッサの添付文書には,急性肺 障害・間質性肺炎について不十分な記載しかなく,上記基準に違反していたことについて,何ら指導しなかった。 その結果,指示・警告表示が不十分な添付文書のままイレッサが販売されたことで,医師,患者に対するイレッサの危険性について十分な注意喚起がされず,イレッサによる副作用被害が拡大した。 ウ市販後全例調査に関する義務違反について(ア) 市販後全例調査の基準平成17年(2005年)3月24日開催の第4回ゲフィチニブ検討会における,当時厚生労働省の安全対策課長であったSによる説明や,これまで 査に関する義務違反について(ア) 市販後全例調査の基準平成17年(2005年)3月24日開催の第4回ゲフィチニブ検討会における,当時厚生労働省の安全対策課長であったSによる説明や,これまでの全例調査の実績からすれば,全例調査が実施される基準は,①承認の前提となった臨床試験データが基本的に海外のものであって,日本人のデータが少ないときに,日本人のデータを早期に収集するため実施する場合,②使用方法が難しい場合,細胞毒性が強いときに,重篤な副作用が予測される場合に副作用情報を早期に収集するために実施する場合である。 例えば,①抗がん剤である塩酸イリノテカンでは承認前の日本人データは415例であり,抗がん剤であるTS-1の承認前の日本人データは578例(ただし,胃がんでの治験症例数は129例)であったが,厚生省により,いずれも市販後全例調査が指示されていたし(甲F36,甲P20,77,81)②A型ボツリヌス毒素製剤・ボトックス注100は,国内治験では死亡例はなかったが,海外で死亡例が確認されていることなどを理由に全例調査が承認条件とされ(甲P30),また,前記TS-1は,治験中に治療関連死がなかったにもかかわらず市販後全例調査が行われた(甲F36)。 (イ) イレッサについてイレッサは,①承認前の臨床試験における安全性に関する日本人デー タは133例しかなかったことから,承認の前提となった臨床試験の日本人データが少ない場合に該当したし,また,②そのドラッグデザインから肺毒性が予測され,非臨床試験の段階からその毒性は示され,臨床試験やEAPにおける症例では現実に間質性肺炎の症例が死亡例までもが何例も確認されていたことに加え,日本が世界初の承認であって,それまでの抗がん剤と異なって先行する海外での市販後の知見も一切な 臨床試験やEAPにおける症例では現実に間質性肺炎の症例が死亡例までもが何例も確認されていたことに加え,日本が世界初の承認であって,それまでの抗がん剤と異なって先行する海外での市販後の知見も一切なかったこと等から,重篤な副作用が予測される等の場合に該当した。 さらに,イレッサは,承認時までに明らかになっていなかった危険性や,有用性の判断に影響を及ぼす重要な点において未知の要素が多くあったこと,世界に先駆けての承認であり,市場での使用実績もなかった。 これらを考慮すると,厚生労働大臣は,その効果と安全性を確認するため,イレッサを承認する場合には,全例調査を義務付けるべきであったにもかかわらず,これを怠った。 その結果,被告国において,早期に累積使用患者数,間質性肺炎発症率,死亡率等を把握することができず,早期に対策を講じることができなかった。 エ使用限定に関する義務違反について(ア) 使用限定について使用限定という承認条件の設定は,薬剤の使用により重篤な有害事象が発生する可能性がある場合等に,入院による適切な管理を義務付けたり,技術や薬剤知識・経験の点において習熟した医師による投与を義務付けるなどの必要な措置を講じることを承認の条件とすることをいい,医師や患者に当該薬剤の処方につき慎重な態度を促し,重篤な有害事象の発生を事前に回避する機能を有する。国は,国民の生命,身体の安全を守るべき責務を負うから,重篤な有害事象が見込まれる場合には,医 薬品の承認に当たって適切な使用限定を付すべきである(薬事法14条2項)。 (イ) 使用限定が承認条件とされた他の薬剤との比較イレッサの販売以前から多数の抗がん剤で使用限定が付されており,特に,非小細胞肺がんにおいてプラチナ製剤と併用される標準的な治療薬であるパクリタ (イ) 使用限定が承認条件とされた他の薬剤との比較イレッサの販売以前から多数の抗がん剤で使用限定が付されており,特に,非小細胞肺がんにおいてプラチナ製剤と併用される標準的な治療薬であるパクリタキセル,ゲムシタビン,イリノテカン,ビノレルビン,ドセタキセルは,各添付文書において,緊急時に十分に対応できる医療機関での使用,がん化学療法に十分な経験を持つ医師の使用などに限定することとされ,その全てに使用限定が付されていた。また,イレッサ承認の直前に承認されたアムルビシンも同様であった。(甲P144[枝番号1~5],甲P34)また,抗がん剤以外でも,ビスダイン静注用15㎎,レザフィリン・注射用レザフィリン100㎎,エピペン注射液0.3㎎・エピペン注射液0.15㎎,ボトックス注といった薬剤で使用限定が付されていた。 (ウ) イレッサについてイレッサについては,承認当時には致死性の間質性肺炎を含む肺障害という重篤な有害事象の発生が予測されていたことや,通院治療が可能な経口薬であったこと等からすれば,他の薬剤の例と比較しても,厚生労働大臣は,イレッサの承認に際し,「抗がん剤についての十分な知識と経験を持つ医師・病院による投与」,「一定期間の入院管理」(添付文書第4版参照,甲A4)などのような使用限定を付すべきであったのに,これを付さないまま承認した。 その結果,十分な経験等を有する腫瘍内科医,外科医等によらず,がん治療の専門性のない医師らにより安易な処方がされ,被害が拡大した。 (被告国の主張) ア判断枠組み(ア) 安全確保義務懈怠による承認の違法(原告らの第1次的主張・不作為義務違反)についてa 原告らは,厚生労働大臣は,イレッサの適正使用を促すために安全対策としてあらゆる措置を行うべき義務があり,具体 全確保義務懈怠による承認の違法(原告らの第1次的主張・不作為義務違反)についてa 原告らは,厚生労働大臣は,イレッサの適正使用を促すために安全対策としてあらゆる措置を行うべき義務があり,具体的には,①添付文書の「警告」欄において間質性肺炎を警告し,②全例調査を承認条件として義務付け,③使用できる医師を限定する承認条件等を付するべきであったのに,これらをすることなくイレッサを承認したため,イレッサは,医師によって慎重に処方されることなく,臨床試験(治験)における患者の適格性を全く無視した無限定な適応拡大を招く結果となって,がん治療の専門性のない医師らによっても,全く安易に投与された旨主張する。 b 原告らの上記主張は,イレッサ承認当時の事実関係を評価して,厚生労働大臣が当時採るべきであった措置を自ら措定し,これと厚生労働大臣が実際に採った措置が異なることを理由として,違法を主張するものとなっている。これは,司法審査としてのいわゆる判断代置方式に相当するが,安全対策が裁量行為であるにもかかわらず,裁量権者である厚生労働大臣の判断の合理性を問題としない原告らの主張は,クロロキン判決による違法判断基準を誤っている。 c また,イレッサの承認の違法は,厚生労働大臣が薬事法14条1項に基づく承認権限を行使したことが違法かどうかの問題であるのに対し,例えば,承認条件を付さなかった違法は,薬事法79条に基づき,承認条件を付す権限を行使しなかったことが違法かどうかの問題であるし,また,添付文書の記載については,承認前の監督処分権限は定められていないから,行政指導権限を行使しなかったことが違法かどうかの問題と位置付けられる。 したがって,上記権限の行使に当たって厚生労働大臣が負う法的義務の内容がそれぞれ異なるものであるか いないから,行政指導権限を行使しなかったことが違法かどうかの問題と位置付けられる。 したがって,上記権限の行使に当たって厚生労働大臣が負う法的義務の内容がそれぞれ異なるものであるから,上記規制の目的が終局的に薬事法1条に定める医薬品の安全性確保にあるという理由のみで,これを承認の権限行使の違法の問題と結びつけることはできない。 (イ) 副作用による被害を回避するために必要な規制権限の不行使の違法(原告らの第2次的主張・作為義務違反)についてa 厚生労働大臣の権限不行使の違法は,副作用を含めた当該医薬品に関するその時点における医学的,薬学的知見の下において,薬事法の目的及び厚生労働大臣に付与された権限の性質等に照らし,その権限の不行使がその許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるか否かにより判断されるべきである(クロロキン判決)。 そして,クロロキン判決の判断枠組みからすれば,厚生労働大臣が,医薬品の安全対策に関し,その副作用の種類や程度,その発現率及び予防方法などを考慮した上で相当と認める措置を講じている場合において,より強い措置を行うために権限を行使しなかったことが国賠法1条1項の適用上違法と評価されるかどうかを判断するに当たっては,当時の具体的事情の下で厚生労働大臣が実際に行った措置が,その権限の性質等に照らし,目的,手段,内容及び時期等の点で合理性を有すると認め得るかどうかを検討すべきものである。そして,目的,手段において一応の合理性を有すると評価することができるときは,国賠法1条1項の適用上違法ということはできないというべきである。 このように実際に採られた一連の措置の適否を問題とする考え方は,安全対策というものは,①その前提となるべき事情が,医学的,薬学的知見の進展や,適正使用情報 ということはできないというべきである。 このように実際に採られた一連の措置の適否を問題とする考え方は,安全対策というものは,①その前提となるべき事情が,医学的,薬学的知見の進展や,適正使用情報の集積等に伴い経時的に変化するものであること,②したがって,各時期ごとの具体的な状況に応じ, 「随時,相当と認められる措置を講ずべきものであり,その態様,時期等については,性質上,厚生大臣のその時点の医学的,薬学的知見の下における専門的かつ裁量的な判断によらざるを得ない」という性質を有すること,③そのため,その時々の事情に応じ,様々な手段のうち,そのいずれによるかということ自体に広範な裁量が認められると解され,その適否は,実際に採られた継続的かつ一連の措置を前提として,適正使用の機会確保により生命・身体の安全を図るという薬事法の目的を実現するために,合理的なものであったかという観点から評価せざるを得ないことに照らしても,妥当である。 b 薬事法は,安全対策に関し,①医薬品それ自体の一般的,類型的な有用性確保のための権限(有用性確認型)と,②個別症例での有用性確保に向けた適正使用を促すための権限(適正使用型)の2つの観点から,種々の権限を厚生労働大臣に付与していることから,安全対策の適法性についても上記2つの類型を分けて考えるべきである。 ①有用性確認型につき,厚生労働大臣は,承認当時の知見の下で,イレッサの医薬品としての一般的,類型的有用性のさらなる明確化を図る必要があると考え,イレッサを再審査の対象に指定し,被告会社に市販後調査と安全性提起報告を義務付けた。また,第Ⅲ相試験による延命効果の検証,作用機序の明確化の必要があったことから,市販後調査に関し,それぞれ第Ⅲ相試験実施と作用機序の更なる明確化を目的とした検討等を承 と安全性提起報告を義務付けた。また,第Ⅲ相試験による延命効果の検証,作用機序の明確化の必要があったことから,市販後調査に関し,それぞれ第Ⅲ相試験実施と作用機序の更なる明確化を目的とした検討等を承認条件として義務付け,また,間質性肺炎については特に特別調査等を行うよう行政指導をした。 また,②適正使用型につき,厚生労働大臣は,医師等が適切な配慮の下でイレッサを適正に使用し,個別の患者が適正使用の機会を失うことがないよう,イレッサを劇薬及び要指示医薬品に指定し,医療用医薬品に認定した。また,間質性肺炎については「重大な副作用」と して添付文書に記載をさせ,さらに,その慎重な使用を繰り返し促すとともに,重篤な副作用等が発生した場合,その情報を可能な限り網羅的に把握し,必要な安全対策を講じさせることを期し,承認条件として市販直後調査を義務付けた。これらの措置も,当時の知見の下で,権限の趣旨に照らし,目的,手段及び内容において,極めて適切かつ合理的な措置であった。 イ添付文書の指示・警告に関する義務違反について(ア) 添付文書の指示・警告に関する厚生労働大臣の権限添付文書の記載については,行政通知により添付文書の記載要領に関する一般的指針を示しているが(平成9年4月25日付け薬発607号「医療用医薬品の添付文書における使用上の注意記載要領」(乙B29)),薬事法上,記載事項が一般的・抽象的に定められているに止まり,具体的な記載方法や記載内容を定める法令上の規定は全くない。また,添付文書の記載については,第一義的には,当該医薬品を製造又は輸入する企業に責任があり,厚生労働大臣は,当該医薬品の副作用に関する注意喚起を行う必要があると認めた場合にも,承認審査とは別に行政指導として,添付文書に記載するよう指導することがあるに を製造又は輸入する企業に責任があり,厚生労働大臣は,当該医薬品の副作用に関する注意喚起を行う必要があると認めた場合にも,承認審査とは別に行政指導として,添付文書に記載するよう指導することがあるにすぎない。 厚生労働大臣は,昭和42年以来,承認申請に当たり,製薬企業から添付文書に記載する「使用上の注意のうち,次の事項に関する案禁忌症,副作用,その他特別な警告事項」(使用上の注意案)を提出させ,承認審査の際に薬事・食品衛生審議会(平成10年以前は中央薬事審議会)で併せて審査した上,必要に応じて行政指導を行ってきた。また,平成11年以降は,使用上の注意の案に加え,効能・効果及び用法・用量についても,その設定理由に関する情報を盛り込んだ案を資料概要に記載し,かつ,添付文書の案も併せて提出すべきこととされ,これらに ついても承認審査の際に薬事・食品衛生審議会で併せて審査した上,必要に応じて行政指導を行うこととしている。 (イ) 添付文書の指示・警告に関する基準イレッサ承認時の平成14年7月時点における,添付文書の記載要領については,以下のものがあった。 a 使用上の注意通達(乙D10,丙D15)医療用医薬品の添付文書に関しては,厚生労働省から上記一般指針として添付文書通達及び使用上の注意通達が示されており,「使用上の注意」の記載項目,記載順序及びそれぞれの記載要領が定められていた。 これによると,「警告」とは,「(1) 致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合,又は副作用が発現する結果極めて重大な事故につながる可能性があって,特に注意を喚起する必要がある場合に記載すること。」とされていた。また,「(3)「重大な副作用」の記載に当たっては次の点に注意すること。」とされ,「①当該医薬品にとって特に注 ながる可能性があって,特に注意を喚起する必要がある場合に記載すること。」とされていた。また,「(3)「重大な副作用」の記載に当たっては次の点に注意すること。」とされ,「①当該医薬品にとって特に注意を要するものを記載すること。」とされていた。 b 自主基準(乙D50)使用上の注意通達発出以前に発出されていた製薬企業の自主的団体である日本製薬工業協会(製薬協)の自主基準においては,「警告」欄と「重大な副作用」欄の記載要領につき,次のとおり定められていた。「警告」は,「致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合又は副作用が発現する結果極めて重篤な事故につながる可能性があって,特に注意を喚起する必要がある場合に記載する。」とされ,「重大な副作用」は,「重篤度分類グレード3を参考に副作用名を記載する。」とされていた。 c 重篤度分類通知(丙D16)厚生労働省が副作用の重篤度分類の指針として定めた重篤度分類通知では,副作用の重篤度を,グレード1ないしグレード3の3つに分けている。そして,「重篤度分類グレード3」とは,「重篤な副作用と考えられるもの。すなわち,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」であるとされている。 (ウ) イレッサについてa イレッサ投与との関連が疑われる間質性肺炎については,臨床試験でみられた間質性肺炎の3症例(国内3症例)は,いずれも回復ないし改善が見られたため,承認当時においては,添付文書の使用上の注意の「警告」欄に記載する場合(致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合,又は副作用が発現する結果極めて重大な事故につながる可能性があって,特に注意を喚起する必要がある場合)には当たらな 「警告」欄に記載する場合(致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合,又は副作用が発現する結果極めて重大な事故につながる可能性があって,特に注意を喚起する必要がある場合)には当たらなかった。 b もっとも,臨床試験における副作用報告を基に,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのある,重篤な副作用に当たると考えられたことから,行政指導をもって,添付文書の「使用上の注意」の「重大な副作用」欄に間質性肺炎の記載をし,「間質性肺炎(頻度不明):間質性肺炎があらわれることがあるので,観察を十分に行い,異常が認められた場合には,投与を中止し,適切な処置を行うこと。」と記載し,イレッサを投与する医師に対し,患者の体質や発現時の状態等によっては死亡に陥る恐れのある間質性肺炎が現れることがあることを踏まえて,イレッサの投与を決定するよう注意喚起を行っていた。 c したがって,添付文書の「警告」欄に間質性肺炎を記載させなかったことは,相当であり,権限の趣旨に照らして許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとはいえない。 ウ市販後全例調査に関する義務違反について(ア) 市販直後調査に関する厚生労働大臣の権限市販直後調査は,製薬企業が副作用報告義務を負う薬事法施行規則64条の5の2第1項1号イ(1)ないし(6)に掲げる症例等の発生の迅速な把握のために行われるものであり(GPMSP省令2条2項),厚生労働大臣に特段の権限を付与するような法令はない。 厚生労働大臣は,市販直後調査の在り方につき,制度の趣旨及び目的を踏まえた行政指導を行い得るほか,所定の要件を満たす場合には,承認条件を付する権限(薬事法79条)を有するが,厚生労働大臣が承認条件を付 労働大臣は,市販直後調査の在り方につき,制度の趣旨及び目的を踏まえた行政指導を行い得るほか,所定の要件を満たす場合には,承認条件を付する権限(薬事法79条)を有するが,厚生労働大臣が承認条件を付するためには,その措置が保健衛生上の危害の発生を防止するために必要な最少限度のものでなければならない(薬事法79条2項)。 (イ) 市販直後調査に関する基準厚生労働大臣は,市販後調査ガイドラインにおいて,市販直後調査の対象医薬品を再審査対象医薬品とし,市販直後調査の主な目的を「新医薬品の販売開始直後において,医療機関に対し確実な情報提供,注意喚起等を行い,適正使用に関する理解を促すとともに,重篤な副作用…の情報を迅速に収集し,必要な安全対策を実施し,副作用…の被害を最小限にすること」と位置付け,製造業者等の医療機関に対する説明及び協力依頼等の諸点について,実務上の指針を定めている。 (ウ) イレッサについてイレッサは,再審査対象医薬品であったため,市販直後調査の対象とされており,厚生労働大臣は,GPMSP省令2条2項所定の市販直後 調査を実施することを承認条件とすることにより,市販直後調査を行うことを法的に義務付けた。厚生労働大臣は,これにより,製薬企業である被告会社に対し,市販後調査ガイドラインに則ってイレッサの市販直後調査を行うこと,すなわち,販売開始直後の6か月間,イレッサを納入した医療機関に対し,納入前及び納入後(納入後2か月間はおおむね2週間に1回,その後はおおむね1か月に1回程度)にその慎重な使用を繰り返し促し,重篤な副作用等が発生した場合,速やかに詳細情報の入手に努め,副作用症例の報告を行い,必要な安全対策を講じること等を求めており,上記承認条件は,権限の趣旨に照らして,合理的なものであった。 イレッ 篤な副作用等が発生した場合,速やかに詳細情報の入手に努め,副作用症例の報告を行い,必要な安全対策を講じること等を求めており,上記承認条件は,権限の趣旨に照らして,合理的なものであった。 イレッサは,承認当時,①国内臨床試験症例数にある程度の症例数(133例)があったこと,②国内外の臨床試験結果からは,骨髄抑制による白血球の減少等の重篤な副作用の発現が他の抗がん剤に比して少なかったこと,③予想される使用患者数を考えると,未知で重要な副作用を把握するための症例数は,市販直後調査等によって十分に集まると考えられたこと,から,全例調査を承認条件として付すことは,薬事法79条2項所定の保健衛生上の危害の発生を防止するために必要な最少限度のものとはいえなかった。 したがって,市販後全例調査を承認条件としなかったことは,相当であり,権限の趣旨に照らして許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとはいえない。 エ使用限定に関する義務違反について(ア) 承認条件に関する厚生労働大臣の権限薬事法上,厚生労働大臣は,所定の要件を満たす場合には,承認条件を付する権限(薬事法79条)を有するが,厚生労働大臣が承認条件を付するためには,その措置が保健衛生上の危害の発生を防止するために 必要な最少限度のものでなければならない(薬事法79条2項)。 (イ) 使用限定が承認条件とされた他の薬剤との比較原告らが,使用限定が承認条件として義務付けられていたと主張する4つの医薬品(ビスダイン静注用15㎎,レザフィリン・注射用レザフィリン100㎎,エピペン注射液0.3㎎・エピペン注射液0.15㎎,ボトックス注)のうち,がん治療薬はレザフィリンのみであって,その余は薬効群を異にしており,およそイレッサとの類似性は認め難い上,安全対策は,個別の医 ペン注射液0.3㎎・エピペン注射液0.15㎎,ボトックス注)のうち,がん治療薬はレザフィリンのみであって,その余は薬効群を異にしており,およそイレッサとの類似性は認め難い上,安全対策は,個別の医薬品ごとに個別具体的な事情に応じて異なる。そして,レザフィリンは,がん治療薬といっても特殊なものであり,レーザー照射のための特定の機械を使わなければならないため,特定の限られた施設でしか行えないという特殊性がある。 また,各添付文書の「警告」欄に,専門医に使用を限定する旨の記載がある旨主張するドセタキセル,パクリタキセル,ビノレルビン,ゲムシタビン,イリノテカンについても,添付文書における注意喚起の有無,内容及び程度は,薬剤ごとに様々であり,それぞれの薬剤ごとに検討されるべきものである。そして,上記抗がん剤は,いずれもその「警告」欄に致死的な骨髄抑制や間質性肺炎等を発症することが注意喚起されており,これを前提として,使用医の限定の記載が検討されたものと解されるのに対し,イレッサは,承認時には「重大な副作用」欄に間質性肺炎を記載することが適当と考えられたことから,上記の抗がん剤とは事情が異なっていた。 (ウ) イレッサについてイレッサについては,抗がん剤で広く見られる間質性肺炎以外には特段重篤な副作用がなく,しかも国内臨床試験で見られた間質性肺炎はいずれも回復していたため,使用医を限定するような承認条件を付することが保健衛生上の危害の発生を防止するために必要な最小限度のものと 解することはできなかった。 また,間質性肺炎については,他の抗がん剤でも発生しており,抗がん剤を取り扱う医療現場であれば,間質性肺炎に対して適切な対応ができ,当該医療現場で対応できなければ,高次の医療機関に転送するのが通常であるものと予測された(保 ,他の抗がん剤でも発生しており,抗がん剤を取り扱う医療現場であれば,間質性肺炎に対して適切な対応ができ,当該医療現場で対応できなければ,高次の医療機関に転送するのが通常であるものと予測された(保険医療機関及び保険医療養担当規則16条,医療法1条の4第3項参照)。 イレッサによる間質性肺炎の特徴については,平成14年12月25日開催の安全性検討会において,「投与初期に発生し致死的な転帰をたどる例が多い」ことが議論となり,その結果,「少なくとも投与開始後4週間は入院またはそれに準ずる管理のもとで,間質性肺炎等の重篤な副作用発現に関する観察を十分に行うこと。」という検討会の見解が示されたが,このようなイレッサによる間質性肺炎の特徴は,承認後の日本国内での多数の副作用報告によって初めて判明したものであり,承認までのイレッサの治験やそれ以外による副作用報告では見られなかった。 したがって,使用できる医師を限定する承認条件を付さなかったことは,相当であり,権限の趣旨に照らして許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとはいえない。 2 承認後の安全性確保義務違反(規制権限の不行使)について(原告らの主張)(1) 判断枠組み前記1(2)(原告らの主張)ア(イ)のとおり,薬事法69条の3が厚生労働大臣に応急の措置を採るべきことを命ずることができるとし,薬事法74条の2が承認を与えた医薬品が有用性を欠くに至ったと認めるときはその承認を取り消さなければならない旨規定していること等からすれば,厚生労働大臣は,医薬品の承認後においても,自ら医薬品の副作用情報を収集する等し て医薬品の安全性を確保するために適切な措置を講じ,あるいは製薬業者をして安全性確保のために適切な措置を講じさせるべき職務上の権限を有し,義務を負っていた。 副作用情報を収集する等し て医薬品の安全性を確保するために適切な措置を講じ,あるいは製薬業者をして安全性確保のために適切な措置を講じさせるべき職務上の権限を有し,義務を負っていた。 そして,国民の生命健康という重大な法益の保護を目的とする規制権限については,その行使に関する裁量の幅は狭く捉えられるべきであるから,被告国は,国民の生命健康という重大な法益侵害を予見することができ,上記権限を行使すればその結果を回避することが可能で,その権限を行使することが期待された状況であれば,その権限の不行使に合理性を認めることはできず,厚生労働大臣は上記権限を行使すべき義務があり,その不行使は国賠法上違法となる。 本件では,①被侵害法益は人の生命身体という重要な法益であり,②被告国は,致死的な間質性肺炎の副作用が生じることを認識しており,③承認時に適切な規制権限が行使されることで可及的に被害の防止が図り得る状況にあり,④被告会社が自主的に安全性確保措置を講じることが期待できない状況にあったことから,厚生労働大臣による積極的な規制権限の行使が期待された状況にあった。 したがって,厚生労働大臣には,イレッサの承認後においても,安全性確保のために積極的な権限行使を行うべき義務があった。 (2) 承認後の安全性確保義務についてア情報収集義務承認時までに,イレッサは極めて重篤かつ致死的な間質性肺炎の副作用を発症させるものであることは明らかとなっていたことから,市販後に間質性肺炎の発症を注視していく必要性があった。実際にも,厚生労働大臣は,市販直後調査を承認条件とするとともに,行政指導により,被告会社に対し,市販後臨床試験,特別調査,自発報告等で間質性肺炎悪化症例が認められた場合は,詳細データを収集することに努め,データを蓄積し, 市販直後調査を承認条件とするとともに,行政指導により,被告会社に対し,市販後臨床試験,特別調査,自発報告等で間質性肺炎悪化症例が認められた場合は,詳細データを収集することに努め,データを蓄積し, 検討することを計画させていた(被告会社の平成18年7月19日付け求釈明申立書に対する回答書添付資料2・被告会社による平成14年5月21日付け「新医療用医薬品の市販後調査基本計画書(変更届)」7枚目)。 したがって,被告国は,被告会社に対し,イレッサとの関連が疑われる急性肺障害・間質性肺炎症例に関する情報を可能な限り網羅的に把握させるとともに,個別の副作用症例については安全対策を実施するか否か評価できる程度の情報を収集させ,これを報告させるべき義務を負っていた。 具体的には,被告国は,被告会社に対し,(ア)他に被告会社に報告されている副作用症例,特に死亡例がないか,あればこれを報告させ,(イ)医療機関からの報告を受けて被告会社が国に報告した副作用症例,特に死亡例につき情報が不足していると判断するのであれば,被告会社に対し,速やかに報告医療機関から追加情報を入手の上,報告させ,(ウ)被告会社に対し,他の医療機関にも同様の副作用症例,特に死亡例がないか問い合わせをさせ,あれば速やかに情報を入手して報告させることによって,迅速に情報を収集・報告させるべきであった。 イ承認後の安全性確保義務そして,前記の情報収集義務を前提に,被告国は,前記の報告された情報に基づき,添付文書の改訂,緊急安全性情報の配布,その周知徹底として誤った情報を払拭し正確な危険性情報が行き渡らせるに足る安全性確保のための手段・方法を講じる義務を負っていた。 (3) 承認後の安全性確保義務違反についてア平成14年8月6日の死亡例の報告に基づく安全性確保義 し正確な危険性情報が行き渡らせるに足る安全性確保のための手段・方法を講じる義務を負っていた。 (3) 承認後の安全性確保義務違反についてア平成14年8月6日の死亡例の報告に基づく安全性確保義務及びその違反(ア) イレッサは,承認時までに,極めて重篤かつ致死的な間質性肺炎の副作用を発症させるものであることは明らかとなっていたことから,市販 後に間質性肺炎の発症を注視していく必要性があったところ,厚生労働大臣は,平成14年8月6日に,イレッサの副作用による急性肺障害・間質性肺炎による死亡例(承認後症例②[別紙38【承認後の副作用報告症例経過表(平成14年9月2日の時点で被告国に報告された内容)】記載の承認後症例②]。以下の承認後症例も同別紙参照。)の報告を受けたことから,厚生労働大臣は,同症例の報告を重大に受け止める必要があった。 また,厚生労働大臣は,同日時点において,(ア)被告会社に他に報告されている副作用症例(特に死亡症例)の有無等を問い合わせていれば,直ちに被告会社から同年7月30日に死亡した症例(承認後症例⑦)の報告を受けることができた。そして,(イ)承認後症例⑦の報告につき情報が不足していると判断する場合には,被告会社に対して報告医療機関から追加情報を入手して報告するよう指示していれば,同年8月6日から数日中には副作用症例を評価するに足りる臨床経過について報告を受けることができた。また,(ウ)他の医療機関に対して同様の副作用症例(特に死亡例)の有無等を問い合わせていれば,少なくとも同年8月7日に死亡した症例(承認後症例①),同月9日に死亡した症例(承認後症例③),同月15日に死亡した症例(承認後症例④)については,これらの患者らの死亡後速やかに報告を受けることができた。 (イ) したがって,厚生労 (承認後症例①),同月9日に死亡した症例(承認後症例③),同月15日に死亡した症例(承認後症例④)については,これらの患者らの死亡後速やかに報告を受けることができた。 (イ) したがって,厚生労働大臣は,同年8月6日時点で,直ちに添付文書の改訂,緊急安全性情報の配布,その周知徹底等の安全性確保のための手段・措置を講ずべき義務があった。 あるいは,厚生労働大臣は,同年8月6日の時点で,(ア)被告会社に他に報告されている副作用症例(特に死亡症例)の有無等を問い合わせ,(イ)症例報告につき情報が不足していると判断する場合には,被告会社に対して報告医療機関から追加情報を入手して報告するよう指示 し,(ウ)他の医療機関に対して同様の副作用症例(特に死亡例)の有無等を問い合わせるなどして情報収集をした上,上記情報を入手することができた時点において,添付文書の改訂,緊急安全性情報の配布,その周知徹底等の安全性確保のための手段・措置を講ずべき義務があった。 (ウ) にもかかわらず,被告国は,上記義務を懈怠し,平成14年10月15日に至るまで緊急安全性情報を発することなく被害を拡大させた。 以上によれば,被告国が,添付文書の改訂,緊急安全性情報の配布,その周知徹底等の安全性確保のための手段・措置をとらなかったことは,著しく合理性を欠き,違法である。 イ平成14年9月2日の死亡例の報告に基づく安全性確保義務及びその違反(ア) イレッサは,承認時までに,極めて重篤かつ致死的な間質性肺炎の副作用を発症させるものであることは明らかとなっていたことから,市販後に間質性肺炎の発症を注視していく必要性があったところ,厚生労働大臣は,平成14年8月6日にイレッサの副作用による急性肺障害・間質性肺炎による死亡例(承認後症例②)の報告を受けたこと とから,市販後に間質性肺炎の発症を注視していく必要性があったところ,厚生労働大臣は,平成14年8月6日にイレッサの副作用による急性肺障害・間質性肺炎による死亡例(承認後症例②)の報告を受けたことに加え,さらに,同年9月2日に,承認後症例②についての追加報告を受けており。同追加報告の内容は,安全性検討会においてイレッサによる死亡例と判断された症例報告書(丙K1[枝番号14])と違いはない。 (イ) したがって,厚生労働大臣は,遅くとも平成14年9月2日において,添付文書の改訂,緊急安全性情報の配布,その周知徹底等の安全性確保のための手段・措置を講ずべき義務があった。 (ウ) にもかかわらず,被告国は,上記義務を懈怠し,平成14年10月15日に至るまで緊急安全性情報を発することなく副作用被害を拡大させた。 以上によれば,被告国が,添付文書の改訂,緊急安全性情報の配布, その周知徹底等の安全性確保のための手段・措置をとらなかったことは,著しく合理性を欠き,違法である。 (被告国の主張)(1) 判断枠組み前記1(2)(被告国の主張)ア(イ)のとおり,厚生労働大臣の規制権限不行使については,当時の医学的,薬学的知見の下において,薬事法の目的及び厚生労働大臣に付与された権限の性質等に照らし,その権限の不行使がその許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときに限り,国賠法上違法の評価を受けるものと解される(クロロキン判決参照)。 そして,クロロキン判決は,権限の行使について行政庁の裁量を前提としており,かかる裁量は,厚生労働大臣の高度の専門的かつ総合的な裁量判断なのであるから,少なくとも,例えば,症例報告についての多少の医学的,薬学的な評価(発症時期の評価,因果関係の評価,重篤性の評価,情報不足の有無,根 ,厚生労働大臣の高度の専門的かつ総合的な裁量判断なのであるから,少なくとも,例えば,症例報告についての多少の医学的,薬学的な評価(発症時期の評価,因果関係の評価,重篤性の評価,情報不足の有無,根拠症例の選定等を含む。)のずれや,行政指導の時期等についての多少のずれといった点をとらえて,国賠法上違法の評価を受けることはない。 (2) 承認後の安全確保義務についてア情報収集のための諸制度(ア) 副作用報告制度医薬品に関する副作用報告制度としては,①薬事法令上,製薬企業からの医薬品副作用・感染症症例報告書による報告(企業報告)が法定されており(薬事法77条の4の2,薬事法施行規則規則64条の5の2),また,②通達に基づく医薬品等安全性情報報告制度により,医師等からの医薬品安全性情報報告書による報告(医療機関報告)がされることがあった。そのため,イレッサ承認直後においては,これらによる報告(副作用報告)について,厚生労働省において,内容を確認し,必 要な対応を検討していた。 (イ) 市販直後調査制度イレッサで承認条件とされた市販直後調査は,イレッサ承認時及び承認直後等において,診療における医薬品の適正な使用を促すために設けられていた制度であり,同制度により,製薬企業は,納入前や納入後一定の頻度で,医療機関に対し,重篤な副作用等が発現した場合の速やかな報告を協力依頼し,実際に重篤な副作用等の発生情報を入手した場合には速やかに詳細情報を把握するよう努めることとされていた。 イ情報提供のための諸制度前記の副作用報告制度等により得られた情報を基に検討した結果,医薬品に起因する健康被害が発生し又は発生するおそれがある場合であって,当該健康被害の発生が現に記載されている使用上の注意の内容からは予測し得ないとき等は 度等により得られた情報を基に検討した結果,医薬品に起因する健康被害が発生し又は発生するおそれがある場合であって,当該健康被害の発生が現に記載されている使用上の注意の内容からは予測し得ないとき等は,①厚生労働大臣は製薬企業に対して添付文書の改訂を指示することとしていた。特に,②医薬品の添付文書に警告欄を新設する必要がある場合には,厚生労働大臣は製薬企業に対し,期限を定めて医療関係者へ緊急安全性情報を伝達すべき旨を文書により指示することとしていた。 (ア) 添付文書の使用上の注意の改訂収集された情報(例えば,副作用報告)に基づき判明した知見(例えば,副作用の傾向や特徴)について,添付文書に全く記載がされていない場合と異なり,関連する何らかの記載がされている場合,新たに判明した知見について既に,関連する一定の情報提供がなされているのであるから,その記載内容等を変更して別の情報提供をするのは,判明した知見が現在の添付文書に記載されている知見の範囲(例えば,「重大な副作用」欄に記載されているということから理解できる範囲)を超えていて,これのみでは情報提供として不足し注意喚起が不十分だと考えら れる場合に限られる。 (イ) 緊急安全性情報の配布緊急安全性情報の配布は,最も強力で医療現場への浸透力のある注意喚起の方法の一つであり,医薬品の危険性を注意喚起するという観点から見れば非常に重要な手段であるが,他方で,医療現場における当該医薬品の使用を必要以上に萎縮させたり,現に当該医薬品により副作用の危険性を上回る治療上の利益を受けている患者に対して不用意な使用中止が誘導されたりすることのないよう注意が必要である。なお,実務上,「警告」欄の新設と緊急安全性情報の配布とはおおむね一体的に行われるものであることにかんがみれば,添付 る患者に対して不用意な使用中止が誘導されたりすることのないよう注意が必要である。なお,実務上,「警告」欄の新設と緊急安全性情報の配布とはおおむね一体的に行われるものであることにかんがみれば,添付文書の「警告」欄による注意喚起についても同様のことがいえる。 (3) 承認後の安全性確保義務違反についてアイレッサによる間質性肺炎の副作用の特徴について(ア) 承認時に得られた知見イレッサによる間質性肺炎の副作用の特徴について承認時に得られた知見は,イレッサにより,症例によっては致死的となる間質性肺炎を発症する可能性は否定できないが,既存の抗がん剤を超えると考える根拠はないというものであった。 すなわち,承認時の国内臨床試験における3例の間質性肺炎の副作用症例(国内3症例)は,発症傾向,症状経過には一定の特徴が見られず,いずれもステロイドに反応し,間質性肺炎は回復ないし改善しているものであり,間質性肺炎として報告された国内臨床試験以外のその他の副作用症例とも全体的に整合するものであった。 (イ) 平成14年10月15日時点における知見承認後の平成14年10月15日時点において,厚生労働大臣に対し,少なくとも,①被告会社から22例(うち死亡11例)の間質性肺 炎を含む肺障害の報告(乙L3[枝番号1~22]),②医療機関から4例(うち死亡2例)の同様の報告(乙L3[枝番号23~26])がされた(根拠症例)。 これらの副作用報告からは,イレッサの間質性肺炎が投与開始後早期に症状が発現し,発症すると比較的急速に進行してステロイド投与にも反応せず重篤化して死亡に至るものが多い傾向がうかがわれ,このような傾向は,上記のような承認時の知見とは異なるものと評価することができた。 イ緊急安全性情報の配布等の行政指導の合理性 ド投与にも反応せず重篤化して死亡に至るものが多い傾向がうかがわれ,このような傾向は,上記のような承認時の知見とは異なるものと評価することができた。 イ緊急安全性情報の配布等の行政指導の合理性等(ア) 前記ア(イ)の26の根拠症例の中には上記傾向をうかがわせる症例ではないものも多く含まれており,厚生労働大臣が緊急安全性情報の配布等の行政指導を行うべき作為義務が生じている状況にはなかったが,厚生労働大臣は,安全性を重視し,前記の26の根拠症例のうち上記傾向をうかがわせる症例に焦点を当て,平成14年10月15日,緊急安全性情報の配布等の行政指導を行った。このように,上記行政指導は,当該行政指導を行う法的な作為義務がいまだ生じていなかったのに行われた,極めて安全性を重視した迅速な対応であり,かつ,合理的なものであった。 (イ) 上記行政指導の目的については,イレッサの承認後に報告された副作用症例が,承認時に得られていた知見とは異なる傾向をうかがわせることを医療現場にいち早く伝えるという正当な目的である。 また,そのために採った手段について見ても,以下の事情によれば,合理的なものであった。すなわち,①当該行政指導は,医師の注意義務の基準である添付文書上,最も目立つ「警告」欄に記載をさせ,更に,最も強力で医療現場への浸透力のある注意喚起の方法の一つである緊急安全性情報の配布をさせるべく行政指導を行ったものであり,被告会社 がこれに応じることが予測できる状況にあり,現に被告会社はこれに従った。②具体的な指導内容の点で,添付文書の使用上の注意の改訂について,承認後の副作用症例からうかがわれた傾向を注意喚起することができるよう「急性肺障害,間質性肺炎」という副作用名を付し,その他観察事項,検査事項や治療方法等が具体的に記載さ 用上の注意の改訂について,承認後の副作用症例からうかがわれた傾向を注意喚起することができるよう「急性肺障害,間質性肺炎」という副作用名を付し,その他観察事項,検査事項や治療方法等が具体的に記載されており,その内容は極めて合理的である。③時期についても,安全性を重視した迅速な対応であった。 (ウ) したがって,平成14年10月15日より前の時点において,厚生労働大臣が,被告会社に対し,緊急安全性情報の配布等をさせなかったことについて,その権限不行使が,著しく合理性を欠くものとして国賠法上違法とされる余地はない。 (以下余白) 第4 個別原告らとの関係における因果関係,損害について 1 因果関係について(原告らの主張)(1) 判断枠組みア薬害訴訟においては,因果関係を可視的に把握することは不可能であり,原因となる事実と疾病という結果発生との間の因果関係に関する科学的証明の困難性の程度が高い。また,本件では,集団病理現象としての疾病が問題になっており,イレッサ投与による間質性肺炎等の発症のメカニズムは未だ十分に解明されていないものの,因果関係が存在する科学的可能性は十分に存在する。 そして,疫学的因果関係が証明された場合には,法的因果関係も肯定されると解されている(最高裁昭和44年2月6日第一小法廷判決・民集23巻1号195頁参照)。 したがって,本件においても,イレッサ投与と間質性肺炎等の発症との間に疫学的因果関係が証明された場合には,特段の事情のない限り,個々の被害者におけるイレッサ投与の事実と間質性肺炎等の発症との法的因果関係も当然,認められるというべきである。 イ疫学的因果関係の有無の判断では,以下の5つの判断要素が考慮されるべきであり,特に①関連の時間性,②関連の強固性を中心に判断されるべ の発症との法的因果関係も当然,認められるというべきである。 イ疫学的因果関係の有無の判断では,以下の5つの判断要素が考慮されるべきであり,特に①関連の時間性,②関連の強固性を中心に判断されるべきである。 ① 関連の時間性(問題の因子が発病の一定期間前に作用するものであるといえるか)② 関連の強固性(その因子の作用する程度が著しいほどその疾病の罹患率が高まるといえるか)③ 関連の整合性(要因が疾病の原因として矛盾なく説明でき,医学的生 物学的機序からの説明ができるか)④ 関連の一致性(特定の集団で,要因と結果との間に関連性が認められる場合,同じ現象が時間,場所,対象者を異にする集団でも認められるか)⑤ 関連の特異性(特定の要因と結果が特異的な関係にあるか)(2) 本件における疫学的因果関係ア関連の時間性プロスペクティブ調査(丙C2)の対象となった患者らは,いずれも間質性肺炎等を発症しているが,彼らは,いずれもその一定期間前にイレッサの投与を受けている。 したがって,イレッサの投与は,間質性肺炎等の発症の一定期間前に作用していえ,関連の時間性の要件は充足している。 イ関連の強固性被告会社によるコホート内ケース・コントロール・スタディの結果(甲C4)によれば,非小細胞肺がん患者のイレッサ投与例における間質性肺炎等発症の相対リスクは,化学療法投与例に対し,3.23倍という結果となっており,イレッサ投与による間質性肺炎の発症の危険性は,他の化学療法に比べて統計的有意差が存在している。また,プロスペクティブ調査の結果によれば,間質性肺炎等の発症率は5.81%,同死亡率2. 5%と,極めて高い発症率である。 したがって,イレッサ投与と間質性肺炎等の発症との間の関連は,極めて強いといえる。 ウ ィブ調査の結果によれば,間質性肺炎等の発症率は5.81%,同死亡率2. 5%と,極めて高い発症率である。 したがって,イレッサ投与と間質性肺炎等の発症との間の関連は,極めて強いといえる。 ウ関連の整合性イレッサによって,EGFRを阻害するならば,傷ついた肺胞の適切な修復が妨げられて間質性肺炎へと進展し,あるいは,ポンプ機能,サーファクタント産生機能が阻害されて,急性間質性肺炎へと進展してしまうこ とは,医学的知見として十分に整合したものであるから,イレッサ投与と間質性肺炎等との間の関連の整合性は,優に認められる。 エ関連の一致性日本において,イレッサ投与による間質性肺炎等の副作用が多数発生しているのみならず,日本以外の国でも,人種・性別・年齢等を問わず,イレッサの投与による副作用症例,特に間質性肺炎等発症による死亡例がいくつも存在していることからすると,イレッサ投与による間質性肺炎等は,時間,場所,対象者を選ばずに発症しているといえ,関連の一致性は認められる。 オ関連の特異性一般的に,疾病の発症は,必ずしも一つの要因で生じるものではないことは広く承認されているところ,このような場合,「十分条件であること」を厳格に要求することは不可能を強いるに等しい。前記プロスペクティブ調査結果あるいは本件イレッサの副作用として間質性肺炎等が肯定されている以上,「関連の特異性」が肯定されるべきである。 (3) 個別的因果関係ア集団的観察によって,イレッサ投与と間質性肺炎等の発症との間に疫学的因果関係が認められた場合,そのこと自体が,イレッサ投与歴ある患者の間質性肺炎等の発症とイレッサ投与との因果関係を強く推定する事実となる。 したがって,本件においても,前記判例と同様に,イレッサ投与と間質性肺炎等の発症との のこと自体が,イレッサ投与歴ある患者の間質性肺炎等の発症とイレッサ投与との因果関係を強く推定する事実となる。 したがって,本件においても,前記判例と同様に,イレッサ投与と間質性肺炎等の発症との間に疫学的因果関係が認められる以上,特段の事情のない限り,個々の被害者におけるイレッサ投与の事実と間質性肺炎等の発症との法的因果関係も当然に認められるというべきである。 イ本件患者らについて(ア) 亡M イレッサが承認された平成14年7月及びそれ以降同年8月末までに,被告らが十分な安全対策を採っていれば,亡Mがイレッサを服用することはなく,イレッサによって死亡することはなかった。 特に,亡Mは既存疾患として特発性肺線維症に罹患していたが.被告らは,平成14年7月当時には,肺線維症の既往がイレッサによって増悪する可能性を予見していたのであるから,適切な警告等が行われていれば,亡Mがイレッサを服用することはなかったのである。 また,亡Mは,既存疾患としての特発性肺線維症に加えて,イレッサの影響により致命的な経過をたどったとみるのが合理的であり,イレッサによる影響を排除できないものである。 (イ) 亡Nイレッサが承認された平成14年7月及びそれ以降同年8月末までに,被告らが十分な安全対策を採っていれば,亡Nがイレッサを服用することはなく,イレッサによって死亡することはなかった。 特に,亡Nは,両肺に肺気腫などを伴う間質性肺炎に罹患していたが,被告らは,平成14年7月当時には,肺の線維化病変の認められる患者に対してイレッサを投与することが危険であることを予見していたのであるから,適切な警告等が行われていれば,亡Nがイレッサを服用することはなかったのである。 また,死因となったのは気胸による呼吸不全であるが,イレッサによ することが危険であることを予見していたのであるから,適切な警告等が行われていれば,亡Nがイレッサを服用することはなかったのである。 また,死因となったのは気胸による呼吸不全であるが,イレッサによって発症した間質性肺炎により,線維化が進行して,肺のう胞ができ,かつ大きくなり,不安定で肺のう胞が破れやすい環境になり,ついには肺のう胞が破れて気胸となったのであるから,気胸発現の原因がイレッサによる間質性肺炎にある。少なくともイレッサの間質性肺炎による間質性病変の悪化やステロイド薬の投与が気胸発現の危険性を高めた可能性がある。したがって,亡Nは,既存の間質性肺炎に加えて,イレッサ の影響により致命的な経過をたどったとみるのが合理的であり,イレッサによる影響を排除できないものである。 (ウ) 亡Oイレッサが承認された平成14年7月及びそれ以降に,被告らが十分な安全対策を採っていれば,亡Oがイレッサを服用することはなく,イレッサによって死亡することはなかった。 イレッサの添付文書の第1版から警告欄が設けられ,イレッサによる急性肺障害,間質性肺炎などの重篤な副作用に関する警告がされるとともに,投与方法に関して入院管理の下での十分な観察が必要であるとの記載がされていれば,亡Oはイレッサを服用することはなく,服用したとしても,イレッサ投与開始から17日後に,間質性肺炎が急激に悪化し呼吸不全のために死亡することはなかったのである。 なお,被告らは,被告会社が平成14年10月15日に緊急安全性情報を発出したことをもって責任が否定される旨主張するが,病院に対して緊急安全性情報を発出するのみでは足りず,緊急安全性情報によって発出された情報内容が患者に確実に伝達されるための具体的な措置を採ることが必要であったのであるから,被告らの主張は するが,病院に対して緊急安全性情報を発出するのみでは足りず,緊急安全性情報によって発出された情報内容が患者に確実に伝達されるための具体的な措置を採ることが必要であったのであるから,被告らの主張は失当である。 (エ) 原告L原告Lは,ファーストライン治療でイレッサが使用され,間質性肺炎を発症したものであり,ファーストライン治療での使用が認められていなければ,同人がイレッサを使用することはなかった。 (被告会社の主張)(1) 判断枠組みア疫学的因果関係について,イレッサの投与と間質性肺炎の発症や死亡との関連性は強固ではないし,仮に疫学的因果関係が立証されたとしても,それによって明らかにすることができるのは,特定の集団における疾病の 多発と因子の間の集団的因果関係だけであって,これによって直ちにその集団に属する特定の個人(個別患者ら)の疾病と因子との個別的因果関係を立証したことにはならない。 患者らがイレッサ投与によって間質性肺炎を発症し,それによって死亡したというためには,個々の患者の具体的臨床経過とそれに対する医学的評価に基づいた個別具体的な立証が必要不可欠であるところ,本件では,本件患者らが,イレッサ投与によって間質性肺炎を発症したことや,それによって死亡したということはできない。 イまた,末期非小細胞肺がん患者は,治療選択肢が限られており,緊急安全性情報が出された後もイレッサの服用を希望する患者が多かったのであるから,本件患者らが,イレッサによる致死的な副作用について説明されていれば,服用しなかったということはできないし,さらに,本件患者らは,末期非小細胞肺がんに罹患し,従前から各種治療やそれによる副作用も経験してきたのであるから,抗がん剤の副作用について関心を持ち,医師から説明を受けた上で服用し とはできないし,さらに,本件患者らは,末期非小細胞肺がんに罹患し,従前から各種治療やそれによる副作用も経験してきたのであるから,抗がん剤の副作用について関心を持ち,医師から説明を受けた上で服用したと考えるのが合理的である。 したがって,指示・警告上の欠陥等と間質性肺炎発症あるいは死亡との因果関係も認められない。 (2) 本件における疫学的因果関係アイレッサ投与と間質性肺炎の発症との関連性末期非小細胞肺がん患者との関係でみると,化学療法に用いられる殺細胞性抗がん剤の多くは間質性肺炎を発症する危険性があり,放射線治療によっても間質性肺炎を発症する危険性があり,肺線維症の急性増悪として間質性肺炎を発症する場合もあるなど,末期非小細胞肺がん患者が間質性肺炎を発症する原因としては,イレッサ以外にも種々存在するし,ましてや死亡原因としてはより多くの因子が想定される。よって,イレッサ投与と間質性肺炎の発症及び死亡との関連性は,決して強固なものではない。 イイレッサ投与と死亡との関連性末期非小細胞肺がん患者は余命が限定されており,仮に間質性肺炎を発症したとしても,その後に原病の悪化,既往症の悪化,合併症の発症等,死亡に至り得る種々の事象が生じる可能性を有している。よって,イレッサ投与と死亡との関連性は,決して強固なものではない。 (3) 個別的因果関係ア亡M亡Mは,平成14年3月15日に,縦隔リンパ節への転移を伴う肺がん(大細胞がん),同年4月にはⅢB 期(T2N3M0)と診断され,同月5日に抗がん剤による化学療法を開始,同年4月25日から6月25日の期間には化学療法と並行して放射線療法も実施した後,同年9月2日からイレッサの投与を開始した。 しかし,亡Mは,肺がんの確定診断がされた平成14年3月12日に 開始,同年4月25日から6月25日の期間には化学療法と並行して放射線療法も実施した後,同年9月2日からイレッサの投与を開始した。 しかし,亡Mは,肺がんの確定診断がされた平成14年3月12日には,既に特発性肺線維症に罹患しており(丙E1),遅くとも,イレッサ投与開始前の同年8月31日には既存の特発性肺線維症の急性増悪による急性呼吸不全を起こしていたもので,イレッサ投与後もそれが改善せずに,死亡に至ったものである。 したがって,イレッサ投与と間質性肺炎発症との間には,そもそも時間的先後関係が存在せず,両者の間に因果関係は認められない。 イ亡N亡Nは,平成14年4月にⅢA期(T2N2M0)の肺がん(扁平上皮がん)と診断され,同年5月29日以降,化学療法を繰り返した後に,同年9月18日からフォースラインとしてイレッサの投与を受けた。 イレッサ投与後には間質性肺炎を発症したものの,平成14年10月下旬には十分に改善し,同年11月中旬には化学療法の再開を予定する程にまで回復していた。 亡Nは,イレッサ投与前から肺線維症を有しており,肺線維症は気胸の発症につながる因子であったところ,間質性肺炎はいったん回復したにもかかわらず,その後に気胸を発症し,それが原因となって死亡したものであり,その死亡とイレッサ投与の間には因果関係が認められない。 ウ亡O亡Oは,平成13年12月に心膜転移を伴うⅣ期の肺がんと診断され,12月26日以降化学療法を繰り返した後,サードラインとして,緊急安全性情報の発出後の平成14年10月23日からイレッサの投与を受けた。 亡Oは,緊急安全性情報発出後に投与を開始した症例であり,こうした症例との関係でイレッサに指示警告上の欠陥や,広告宣伝上の欠陥が存在せず,被告会社にもそれらにかかる過失が存 ッサの投与を受けた。 亡Oは,緊急安全性情報発出後に投与を開始した症例であり,こうした症例との関係でイレッサに指示警告上の欠陥や,広告宣伝上の欠陥が存在せず,被告会社にもそれらにかかる過失が存在しないことは明らかである。 また,亡Oは,イレッサによって致死的な間質性肺炎が生じる可能性を十分認識した上でイレッサの投与を受けたものと考えられるから,この点においても被告会社の責任は否定されるべきである。 エ原告L原告Lは,平成13年9月に胸部異常陰影が認められた後,同年11月に右肺上葉原発でⅠA期(T1N0M0)の非小細胞肺がん(大細胞肺がん)との診断を受け,外科療法(手術)が実施されたものの,平成14年7月に再発し,放射線療法施行後の同年9月26日からイレッサの投与を受けた。 原告Lによれば,イレッサ投与前に主治医から副作用についての説明を受けたというのであるから,イレッサの第1版添付文書には間質性肺炎が「重大な副作用」として記載されていることに照らせば,原告Lは,間質性肺炎を発症する可能性を説明された上でイレッサを服用したものと考え られる。 したがって,原告Lに生じた副作用についての警告表示が十分に行われていたことは明らかであり,原告Lとの関係において被告会社に法的責任はない。 (被告国の主張)(1) 判断枠組み承認時の安全対策に関する原告らの主張は,厚生労働大臣による医薬品の適正使用を促すための権限不行使による違法であるところ,原告らは,国賠法上の違法の前提となる権利ないし法的利益の侵害として,患者本人が適正使用を受ける機会を得られなかったという事実のみならず,実際にイレッサの不適正使用を受けたことを主張立証する必要がある。にもかかわらず,原告らは,権利ないし法的利益の侵害についての主張立証を が適正使用を受ける機会を得られなかったという事実のみならず,実際にイレッサの不適正使用を受けたことを主張立証する必要がある。にもかかわらず,原告らは,権利ないし法的利益の侵害についての主張立証をしないから,原告らの上記主張は,その前提を欠く。 (2) 個別的因果関係ア亡M亡Mは,平成14年10月2日に死亡しており,国立e病院の医師によれば,その死因は間質性肺炎とされているが(丙Mイ4〔18頁〕),以下に述べるとおり,亡丈夫の死因はイレッサ投与以前からあった既存の特発性肺線維症の急性増悪によるものであって,イレッサの投与と亡丈夫の死亡との間には因果関係が認められない。 イ亡N亡Nは,平成14年12月20日に死亡しており,国立g中央病院の医師によれば,その死因は,特発性間質性肺炎及び肺がんの進行が原因と考えられる呼吸不全増悪とされているが(丙Mロ2〔16頁〕),亡Nの死因は気胸の悪化によるものであって,イレッサの投与と亡Nの死亡との間には因果関係が認められない。 ウ亡O亡Oがイレッサの処方を受けたのは,イレッサの緊急安全性情報が発出された平成14年10月15日から7日後の同月22日であり,イレッサの服用を開始したのは翌23日からである。 また,亡Oについては,イレッサの投与はサードラインとして行われており,イレッサが投与された時点において,イレッサ以外に有効な治療法として見込まれるものはなかったというべきである。 したがって,亡Oは,間質性肺炎の副作用について自ら調査し,あるいは主治医や薬剤師から説明を受けて認識した上で,イレッサを服用していたというべきであり,亡Oがイレッサの不適正使用を受けたということはできないし,また,被告国がイレッサの安全性確保のための措置を講じた後にその処方を受け,服 受けて認識した上で,イレッサを服用していたというべきであり,亡Oがイレッサの不適正使用を受けたということはできないし,また,被告国がイレッサの安全性確保のための措置を講じた後にその処方を受け,服用を開始しているのであるから,被告国の安全確保措置を問題とする主張は失当である。 エ原告L原告Lに対するイレッサの投与が開始された時点において,放射線療法を受けたものの腫瘍が消失しておらず,副作用も見られていた上,従来の抗がん剤による化学療法も拒否していたというのであるから,イレッサ以外に有効な治療法として見込まれるものはなかったといえる。 したがって,原告Lがイレッサの不適正使用を受けたということはできない。 2 損害について(原告らの主張)(1) 判断枠組みアイレッサの副作用による生命侵害に対する損害本件患者らのうち亡M,亡N及び亡Oは,有用性を欠くイレッサの投与により,その副作用である間質性肺炎を発症し,死亡するに至ったもので あるから,その損害は生命侵害に対する損害である。 また,販売に際して,適切な指示・警告がされ,適切な使用限定がされていれば,各患者等はイレッサを使用することがなかったか,使用したとしても死亡するに至らなかったといえるから,指示・警告義務違反等との関係においても,その損害は,生命侵害に対する損害である。 イ慰謝料の加算要素死亡した亡M,亡N及び亡Oは,イレッサにより,間質性肺炎を発症し,もがき苦しんで死んでいったのであり,また,幸い一命をとりとめた原告Lも,死の淵に立たされ,恐怖のどん底におかれたのである。 そして,被告らには,イレッサの副作用により間質性肺炎という致死的な疾患を発症する危険性について認識しながら,被告国はその販売を承認し,被告会社はこれを販売し続けたの のどん底におかれたのである。 そして,被告らには,イレッサの副作用により間質性肺炎という致死的な疾患を発症する危険性について認識しながら,被告国はその販売を承認し,被告会社はこれを販売し続けたのであるから,その悪質性は高く,慰謝料は一般基準より高額でなければならない。 ウ損害額そして,各患者等についての後記(2)の事情に照らせば,その精神的苦痛を慰謝する為の慰謝料としては,死亡した各患者についてはそれぞれ3000万円,原告Lについては500万円が相当であり,弁護士費用としては,死亡した各患者についてはそれぞれ300万円,原告Lについては50万円が相当である。 (2) 本件患者らについてア亡M亡M(昭和8年4月27日生まれ)は,平成14年3月12日c市立病院で右肺の大細胞がんと診断された。平成14年4月から7月までd大学付属病院に入院し,6クールにわたる抗がん剤の投与,放射線治療等を受け,同年7月30日に退院し,径2㎝の腫瘍が1㎝に縮小するなど治療の効果が順調に現れていた。 d大学附属病院を退院後,通院していたb医院のb医師から,肺がんに効く非常によい薬ができたとしてイレッサを勧められ,平成14年9月2日から,イレッサを服用し始めた。 ところが,同月8日には息苦しく車椅子での移動が必要になり,同月9日に舞鶴市内の国立e病院に緊急入院したところ,間質性肺炎と診断され,イレッサの服用が中止されたが,同月12日には,苦しそうにベッドの上でのたうつように右を向いたり左を向いたりしながら,ベッドの柵を必死につかんで丸まっているような状態で,人工呼吸器が必要になり,同年10月2日に死亡した。 イ亡N亡N(大正14年11月15日生まれ)は,平成14年4月にf中央総合病院で肺がんとの診断を受け,同年5月よ まっているような状態で,人工呼吸器が必要になり,同年10月2日に死亡した。 イ亡N亡N(大正14年11月15日生まれ)は,平成14年4月にf中央総合病院で肺がんとの診断を受け,同年5月より抗がん剤治療を行ったところ,同年8月28日にはSCCが14.1まで改善し,画像上も腫瘍の縮小が認められ,喜んでいた。 同年9月に,担当医から新薬でいい薬ができた,点滴ではなく飲み薬なので,体調さえよければ家から通いながらでも治療が可能であるとしてイレッサの使用を勧められ,同月18日から使用を開始した。 ところが,同月24日の胸部レントゲン写真ですりガラス陰影が認められるなど薬剤性間質性肺炎と診断され,ステロイドパルス療法が行われたが,呼吸困難,低酸素血症が進行し,最期は酸素マスクをしても呼吸が苦しく,もだえ苦しみながら,12月20日に死亡した。 ウ亡O亡O(昭和29年3月19日生まれ)は,平成13年12月13日,国立h病院にて肺がんであると診断され,同日から平成14年3月24日までと,同年5月20日から同年8月9日までの間,同病院において,抗がん剤投与,放射線療法等の治療を受けた結果,がん胎児性抗原(CEA, 腫瘍マーカー)の数値も安定し,レントゲン写真で見る腫瘍の影も小さくなるなど,治療効果が現れていた。 亡Oは,平成14年5月ころ,朝日新聞に掲載されたイレッサの記事を目にし,主治医に相談したところ,保険適用になるまで待つよう言われ,同年10月15日に,イレッサの服用が決まり,10月22日からイレッサを服用した。 ところが,亡Oは,服用して3日目位から食欲が低下して,口の周りが荒れる症状が出初め,日一日と動作がゆっくりになるようになり,同年11月5日,診察の結果,即入院になった。亡Oは,同月7日からは呼吸器が ろが,亡Oは,服用して3日目位から食欲が低下して,口の周りが荒れる症状が出初め,日一日と動作がゆっくりになるようになり,同年11月5日,診察の結果,即入院になった。亡Oは,同月7日からは呼吸器が必要になり,同月8日夕方に急に意識がなくなり,呼吸も荒くなり,そのまま意識のない状態が続いて,翌日11月9日に死亡した。 エ原告L原告L(昭和30年10月14日生まれ)は,平成13年9月に肺がんと診断され,いったんは切除手術が成功したものの,平成14年7月,縦隔リンパ節にがんが再発し,同年8月6日から9月10日までj総合医療センターに入院して放射線治療を受けた結果,約78%の腫瘍縮小となり,治療効果が現れていた。 平成14年9月初旬,担当医からイレッサががん細胞だけを狙って攻撃し正常細胞を破壊しないことや副作用が少なく湿疹,下痢,場合によって軽度の肺炎が生じる程度であることを聞いて,イレッサの服用を決意し,同9月26日からイレッサの服用を始めた。 ところが,原告Lは,服用して1週間を経過したころから,軟便,下痢等の症状を発現し,高熱が出るなどしたため,10月23日,j総合医療センターの担当医の診察を受け,イレッサの服薬中止が指示された。その後も40度近い高熱が続き,食事を取ることも困難になり,体力の消耗が著しく,重い咳で睡眠をとることもできなくなり,苦しさの余り妻に対し て「頼むから俺を殺して楽にしてくれ。」と懇願するような状況になった。原告Lは,同月27日,j総合医療センターに搬送され,入院となり,間質性肺炎と診断され,同日から11月5日まで酸素吸入が続き,10月28日から11月10日までステロイド剤が継続投与され,11月15日,ようやく症状が改善して退院が許された。 このように,原告Lは,ステロイドが奏功したものの ら11月5日まで酸素吸入が続き,10月28日から11月10日までステロイド剤が継続投与され,11月15日,ようやく症状が改善して退院が許された。 このように,原告Lは,ステロイドが奏功したものの,イレッサによる間質性肺炎により,死の淵をさまよった。 (被告会社の主張)(1) 亡M亡Mの肺がんは治癒不能な非小細胞肺がんであり,その上,特発性肺線維症との合併症例であったこと,化学療法及び放射線療法によって亡Mには種々の副作用が発現し,全身状態が悪化していたこと,さらに,イレッサ投与前の平成14年8月13日ころから既に特発性肺線維症の急性増悪を発症し,急速かつ重篤な呼吸困難及びその他の呼吸器症状を呈していた。 したがって,亡Mにつき原告らの主張するような損害は存在しない。 (2) 亡N亡Nの肺がんは,発見の遅れ及びその後の治療拒絶等によって治療開始が遅れ,1年生存率が30%という末期状態であった。また,化学療法の効果が乏しかった上に種々の副作用を生じ,特に白血球減少からは肺炎を併発しており,イレッサ投与前には治療の「悪循環」に陥っていた。そして,イレッサ投与後に発症した間質性肺炎は,ステロイドパルス療法等の適切な治療がなされ,間質性肺炎は化学療法の再開を検討するほどに改善していたにもかかわらず,気胸の発症と悪化によって急激な呼吸困難を生じ,治療開始から約7か月後の平成14年12月20日に死亡するに至ったものである。 したがって,亡Nにつき原告らの主張するような損害は存在しない。 (3) 亡O 亡Oは,死亡から約11か月前の肺がん発見時において,合理的に予測させる余命は1年程度と決して長いものではなかった。その後に肺がんに対する化学療法が実施されたが,がんは脳及び骨に転移した上にがん性リンパ管症も発症し,化学 月前の肺がん発見時において,合理的に予測させる余命は1年程度と決して長いものではなかった。その後に肺がんに対する化学療法が実施されたが,がんは脳及び骨に転移した上にがん性リンパ管症も発症し,化学療法による副作用も生じて,全身状態が悪化し,QOLも低下していた。イレッサ投与後には間質性肺炎を発症しているが,死亡につながった呼吸困難の原因としては,がん性リンパ管症の悪化が挙げられるほか,感染による肺炎も疑われるところである。 したがって,亡Oにつき原告らの主張する損害は生じていない。 (4) 原告L原告Lは放射線療法による間質性肺炎をも併発しており,呼吸困難等の発現には,こうした放射線肺臓炎が相当程度寄与していた。そして,組織型及び入院前後の病状に照らしても,原告Lの間質性肺炎は,決して重篤なものではなく,客観的にみて,死の恐怖に対する精神的苦痛を生じるような状態になかったことは明らかである。 したがって,原告Lの主張するような損害は存在しない。 (被告国の主張)(1) 判断枠組みイレッサの適応疾患は,特別に治療が困難な病態である「手術不能又は再発非小細胞肺がん」である上に,イレッサが本件患者らに投与された平成14年当時,手術不能又は再発非小細胞肺がんに対する既存の抗がん剤による治療は頭打ちの状態に達していたのであって,そのような事情は,本件患者らにイレッサが投与された経緯にも現れている。これらの事情は,原告らの損害に係る主張の適否を検討する際に十分斟酌されるべきである。 (2) 本件患者らについてア亡M亡Mは,平成14年4月にⅢB期の非小細胞肺がん(大細胞がん)と診 断され,d大附属病院におけるサードラインの化学療法と放射線療法の併用療法により部分奏効(PR)は得られたものの(丙Mイ3〔224,2 年4月にⅢB期の非小細胞肺がん(大細胞がん)と診 断され,d大附属病院におけるサードラインの化学療法と放射線療法の併用療法により部分奏効(PR)は得られたものの(丙Mイ3〔224,232頁等〕),腫瘍の消滅には至っておらず,その後,平成14年8月にb病院で行われた5FUの単剤投与によっても特段の改善傾向は認められなかった。 このように,亡Mへのイレッサ投与が開始された時点において,イレッサ以外に有効な治療法として見込まれるものはなかった。 イ亡N亡Nは,平成14年6月時点でⅢB期の肺がんと診断され,1年生存率が30%程度であるとされており,f中央総合病院において,同年8月下旬から,サードライン治療として,イリノテカンの単剤投与を受けたところ,結果は不変(NC)又は奏効(PR)であった(丙Mロ1〔210頁〕)が,副作用である白血球減少のために2コース目の投与が延期され(丙Mロ1〔205頁〕),その後も実施されることはなかった。 このように,亡Nの肺がんに対しては,サードライン治療まで実施したにもかかわらず,有効な治療といえるものはなく,イレッサの投与が開始された時点において,イレッサ以外に有効な治療法として見込まれるものはなかった。 ウ亡O亡Oは,平成13年12月,国立h病院において,Ⅳ期の非小細胞肺がん(腺がん)と診断され,既に心膜への転移が見られる状態であり,セカンドラインまでの治療により一定のがんの縮小傾向はみられたものの,セカンドライン治療中に副作用である抗利尿ホルモン分泌異常症(SIADH)を発症して治療が中止されるなど,さらなる殺細胞性抗がん剤の投与は困難であり,治療の選択肢が極めて限られた状況にあった。 このように,亡Oへのイレッサ投与が開始された時点において,イレッ サ以外に 療が中止されるなど,さらなる殺細胞性抗がん剤の投与は困難であり,治療の選択肢が極めて限られた状況にあった。 このように,亡Oへのイレッサ投与が開始された時点において,イレッ サ以外に有効な治療法として見込まれるものはなかった。 エ原告L原告Lは,平成13年11月,j総合医療センターにおいて,右肺上葉原発の非小細胞肺がん(大細胞がん)と診断され,同月,外科療法が実施されたものの,平成14年7月になって,縦隔リンパ節腫脹により,非小細胞肺がんの再発が認められ,治療法は放射線治療と抗がん剤しかなく,余命は半年であると説明されており,また,イレッサの投与が開始された時点において,放射線療法を受けたものの腫瘍が消失しておらず,副作用も見られていた上,原告Lは,従来の抗がん剤による化学療法も拒否しており,イレッサ以外に有効な治療法として見込まれるものはなかった。 また,原告Lの間質性肺炎は,重篤な状態に至ることなく速やかに回復しているといえることに加え,一般に,抗がん剤治療では他の一般の医薬品においては許容し得ない副作用が生じることもやむを得ないとされる場合が少なくないことや,原告Lは,イレッサを服用するに当たり,j総合医療センターの担当医から,副作用として,「下痢,発疹,ごくまれに軽い肺炎」がある旨の説明を受けていたこと(甲Pニ1〔2頁〕,原告L本人〔6頁〕)などを併せ考えれば,原告Lが被った上記間質性肺炎による肉体的,精神的苦痛は,抗がん剤による副作用として受忍すべき範囲内にあるものと解される。 (以下余白) 第5章当裁判所の判断第1 イレッサ承認等に関する基本的事実関係の概観当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実によれば,イレッサ開 第5章当裁判所の判断第1 イレッサ承認等に関する基本的事実関係の概観当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実によれば,イレッサ開発に至る経緯等及びイレッサ承認に関する基本的な事実関係は次のとおりである。なお,第3章に既に認定した事実も,必要な範囲で再度記載する。 1 イレッサの開発と分子標的治療薬(1) イレッサの開発の経緯及び過程第3章第3記載のとおり,肺がんに罹患する患者は,世界的にも我が国においても,次第に増加する状況であった。 肺がんの約3分の2は,診断時には既に切除不能の進行性がんとなっており,肺がん患者の死亡率低下のためには,早期診断のみならず進行性肺がんの治療成績の向上が不可欠であった。特に,非小細胞肺がんは全肺がんの約80%を占めるとされているが,進行性非小細胞肺がんの主な治療法は,欧米においても我が国においても,プラチナ製剤を中心とする化学療法,放射線療法又はこれらの併用療法であり,化学療法の中で代表的なものはプラチナ製剤を含む多剤併用療法であった。しかし,プラチナ製剤を含む多剤併用療法を実施しても,2か月ほどの延命効果が得られる程度という状況であり,非小細胞肺がんの治療成績を向上させる抗腫瘍薬の開発が期待されていた。 第3章第4の1記載のとおり,がんの治療薬の分野においても分子標的治療薬の開発が行われていたところ,英国A社は,がん細胞において過剰に発現しているとされていたEGFRを標的分子として,1990年から約1500種類の自社化合物をEGFR標本を用いてスクリーニングし,4-アニリノキナゾリンを含む数種類の母核がEGFRに対して作用することを発見 し,その後の合成及びスクリーニングの末に,EGFRに選択的な阻害作用 EGFR標本を用いてスクリーニングし,4-アニリノキナゾリンを含む数種類の母核がEGFRに対して作用することを発見 し,その後の合成及びスクリーニングの末に,EGFRに選択的な阻害作用を有する腫瘍増殖抑制作用を有する化合物としてイレッサ(ゲフィチニブ)を発見した。【証拠は,第3章第4に記載したとおり】(2) 分子標的治療薬第3章第4の1(2)記載のとおり,分子標的治療薬は,より少ない負担で高い治療効果を上げることが期待されていたが,開発段階においてすべての薬剤において作用機序が十分に解明されているものでないことは,従来の抗がん剤と変わらない。なお,開発段階ですべての作用機序が解明されていることが望ましいが(甲C3光冨徹哉発言),作用機序が十分に解明されていないとしても,臨床試験により有用性が認められる限り,従来の抗がん剤の場合と同様に承認を妨げる事情とはなりえないというべきである。 現在は,がん遺伝子も,変異前は正常細胞として一定の役割を果たしているのであるから,遺伝子機能を阻害することにより特有の副作用が生じることは避けられないことは周知のこととなっているが,平成14年7月当時においては,分子標的治療薬は,がんの増殖や進展に特異的にかかわる分子や,がん細胞だけに過剰発現がみられる分子を標的とし,がん細胞に特異的な機能を選択的に抑えるため,殺細胞効果が弱いことが多く,正常細胞に与える影響は小さいと考えられていた。 【甲E51,甲H18〔特に579頁〕,甲N14,甲P74,乙E11〔10,11頁〕】 2 承認申請時までの経過(1) 承認前に実施されたの臨床試験承認前に実施されたイレッサについての臨床試験は,次のとおりである。 ア第Ⅰ相試験平成10年4月から平成13年1月まで,英米における1839 の経過(1) 承認前に実施されたの臨床試験承認前に実施されたイレッサについての臨床試験は,次のとおりである。 ア第Ⅰ相試験平成10年4月から平成13年1月まで,英米における1839IL/0005 試 験【甲B12[各枝番号],乙B4,丙C1(404 頁)】平成10年8月から平成13年3月まで,日本におけるV1511試験【甲B13,乙B4,丙C1(419 頁)】イ第Ⅰ/Ⅱ相試験平成11年2月から同年8月まで,欧州における1839IL/0012 試験【甲B15[各枝番号],乙B4,丙C1(449 頁)】平成11年4月から平成12年10月まで,米国における1839IL/0011試験【甲B14[各枝番号,]乙B4,丙C1(435 頁)】ウ第Ⅱ相試験平成12年10月から平成13年5月まで,日本と欧州における1839IL/0016 試験(IDEAL1試験)【甲B16[各枝番号],乙B4,丙C1(462 頁),K1[枝番号5(特に,30 頁以下)]】平成12年11月から平成13年8月まで,米国における1839IL/0039試験(IDEAL2試験)【甲B17[各枝番号],乙B4,丙C1(498頁),K1[枝番号5(特に,30 頁以下)]】エ海外第Ⅲ相試験平成12年5月から平成13年4月まで,INTACT各試験(海外第Ⅲ相試験)が行われた。これについては,平成14年1月,中間解析が実施され平成14年5月に最終解析結果が公表される予定であった。 【甲B1,2,乙B1,4[枝番号1],丙K1[枝番号2,5,8],2[枝番号2,13]】(2) 被告会社らのイレッサの承認申請平成14年1月25日,被告会社は,日本において,手術不能又は再発非小細胞肺がんに対する抗がん剤として,イ [枝番号2,5,8],2[枝番号2,13]】(2) 被告会社らのイレッサの承認申請平成14年1月25日,被告会社は,日本において,手術不能又は再発非小細胞肺がんに対する抗がん剤として,イレッサの輸入承認の申請をした(他国での申請等の状況は,後記4参照)。 なお,被告会社は,同日までのイレッサ投与による重篤な副作用事例とし て,海外の治験事例を含め121例(うち死亡事例36例)を報告した。 【乙B12[枝番号2~5],丙K1[枝番号4],2[枝番号3,15]】 3 承認手続の状況・経過前記イレッサの輸入承認申請を受けて,第3章第6記載のとおり,審査センター及び医薬品機構において,審査が行われたところ,その審査の具体的な内容・経過は,以下のとおりである。 (1) 審査センターによる審査審査センターは,文書による照会及びヒアリング等を行いながら,審査を行った(前記第3章第6の3)。 審査センターの被告会社に対する照会,これに対する被告会社の回答及び被告会社の回答に対する審査センターの判断のうち,主なものは別紙22(審査センターと被告会社との間の照会,回答及び審査センターの判断)記載のとおりである。特に間質性肺炎及び適応範囲に関する事項(別紙22の一部と重複する。)とそれに関する経過は,後記ア及びイのとおりである。 【乙B3[枝番号1~4],4[枝番号1],乙E22〔10頁〕,弁論の全趣旨(回答書(2))】ア間質性肺炎について(ア) 申請時に被告会社から提出された添付文書案には,間質性肺炎についての記載がなかった。 そこで,審査センターは,間質性肺炎が他の抗がん剤でもみられる副作用で,場合によっては死亡に至ることもある疾患であるので,副作用として発症するのであれば,添付文書の「重大な副作用」欄に記 かった。 そこで,審査センターは,間質性肺炎が他の抗がん剤でもみられる副作用で,場合によっては死亡に至ることもある疾患であるので,副作用として発症するのであれば,添付文書の「重大な副作用」欄に記載する場合が多いと考え,被告会社に対し,「本邦での臨床試験における死亡例,及び間質性肺炎を発症した症例についての詳細を示し,本剤との関連性を考察すること。」との照会を行った。 【乙B3[枝番号2]〔8枚目・ト-5〕,15,乙E22〔13頁〕】(イ) 被告会社は,平成14年3月29日,審査センターに対し,前記照会に対する回答として,国内臨床試験で間質性肺炎が見られた副作用報告例3症例(国内3症例。別紙29(承認時までの副作用報告症例経過表(国内3症例))のうち国内臨床試験1~3例目)を報告し,現時点では,イレッサが間質性肺炎を誘導するという直接的な証拠が得られておらず,国内3症例は病勢進行に伴うもので,イレッサが間質性肺炎を誘導する可能性は低いと考えるとの見解を示した。 また,被告会社は,同年2月8日から同年4月4日までに,審査センターに対し,海外での間質性肺炎等と診断された副作用報告例4症例(別紙30(承認時までの副作用報告症例経過表(海外7症例))のうち海外1~4例目)を報告した。 【乙B3[枝番号5]〔10頁・ト-5〕,12[枝番号1~5],13[枝番号1~4],乙E22〔13~14頁〕】(ウ) 審査センターは,以上の症例を検討した結果(審査報告(1)),間質性肺炎とイレッサとの関連性を否定できず,市販後調査等を踏まえ今後も慎重に検証を続ける必要があると判断し,この判断は,専門協議において専門委員らからも支持された。 また,審査センターは,間質性肺炎は,他の抗がん剤でもみられる副作用であり,いったん発症したと 後も慎重に検証を続ける必要があると判断し,この判断は,専門協議において専門委員らからも支持された。 また,審査センターは,間質性肺炎は,他の抗がん剤でもみられる副作用であり,いったん発症したときは場合によっては死亡に至ることのある疾患であるので,これが副作用として発症するというのであれば,重大な副作用として記載するのが相当であるとして,被告会社に対し,添付文書において「重大な副作用」として注意喚起をすべきであるとの見解を示し,被告会社は,添付文書に記載する旨を回答した。 【乙B4[枝番号1],乙E22〔13,14頁〕,丙K1[枝番号5]〔48頁〕】 (エ) 被告会社は,平成14年5月27日から同年6月11日までに,審査センターに対し,肺臓炎NOS(2例),胞隔炎NOS(1例)と診断された副作用報告例3症例(別紙30【承認時までの副作用報告症例経過表(海外7症例)】のうち海外5~7例目)を追加報告した。 【乙B14[枝番号1~3]】イ適応範囲について(ア) 審査センターは,申請資料において検証されていることは,進行非小細胞肺がんに対するセカンドライン治療薬としての有用性のみであることから,効能・効果が「非小細胞肺癌」とされていたのを,「化学療法既治療の手術不能非小細胞肺癌」のように適切な対象に限るべきではないかとの照会を行った。 【乙B3[枝番号1]〔2頁・Ⅴ-1〕,15,乙E22〔19頁〕】(イ) これに対し,被告会社は,これまでの臨床試験結果から本薬の有用性が実際に検証された対象は,化学療法既治療(セカンドライン以降)の非小細胞肺がんのみであるが,①ファーストライン治療例については,海外での第Ⅲ相試験(INTACT各試験)が平成14年5月に最終解析を実施予定であること,②これまで承認された抗悪性腫 ライン以降)の非小細胞肺がんのみであるが,①ファーストライン治療例については,海外での第Ⅲ相試験(INTACT各試験)が平成14年5月に最終解析を実施予定であること,②これまで承認された抗悪性腫瘍薬における適応症は,一般には未治療,既治療の区別がない形であり,また術後補助療法への使用に関する制限も効能・効果ではなく,使用上の注意においてなされてきたことを考慮すると,効能・効果は対象患者集団よりむしろ対象疾患である「非小細胞肺癌」とし,検討中または検討予定の対象患者集団に対する使用の制限は使用上の注意として「○○に対する有効性及び安全性は確立していない。」のように制限を設けることで対処可能と考えられること,③本薬は高い安全性を有することから,高齢者や全身状態が悪い患者など,従来の抗がん剤による化学療法に適さない患者に対しても有用であると考えられるが,効能・効果を「化学療法既 治療例」に限定することにより,これらの患者が本薬による治療の機会を失うことになることから,本薬の効能・効果を「非小細胞肺癌」とすることに大きな問題はないと考えられること等を回答した。 【乙B4[枝番号1],丙K1[枝番号5]〔37,38頁〕,弁論の全趣旨(回答書(2)〔52~53枚目,65枚目〕)】(ウ) 平成14年5月21日,被告会社は,厚生労働省担当課長に対し,「新医療医薬品の市販調査基本計画書(変更届)」を提出し,従前の計画(同年4月18日付新医療用医薬品の市販後調査基本計画書)では,海外で実施中のシスプラチン及びゲムシタビンとの併用療法(INTACT1),若しくはカルボプラチン及びパクリタキセルとの併用療法(INTACT2)のうち本薬が優れた有用性を示した試験と同様の併用試験,又はドセタキセル及びシスプラチンとの併用療法との併用試験を CT1),若しくはカルボプラチン及びパクリタキセルとの併用療法(INTACT2)のうち本薬が優れた有用性を示した試験と同様の併用試験,又はドセタキセル及びシスプラチンとの併用療法との併用試験を予定しているとしていたが,第Ⅲ相試験として,ドセタキセル及びシスプラチンとイレッサとの併用療法の国内試験を実施することとしたこと,すなわち,前記INTACT各試験と同様の併用試験は行わないことを報告した(同年5月21日付新医療用医薬品の市販後調査基本計画書)。 【甲B1,2,乙B3[枝番号2],4[枝番号1,3],弁論の全趣旨(回答書(1)〔資料1,2〕,同回答書(2)〔69枚目〕)】(エ) これらを検討した結果,審査センターは,副作用が従来の抗がん剤と比べると軽微で,比較的安易に用いられることが懸念される経口剤であるイレッサが適正に使用されるためには,イレッサの効能・効果は「非小細胞肺癌(手術不能又は再発例)」とし,効能・効果に関する使用上の注意において「術後補助化学療法における有効性,安全性は確立していない」旨を示し,さらに進行非小細胞肺がんに対するファーストライン治療(初回治療)においても,現時点では「本剤の臨床的有用性は確 立していない」旨を,添付文書中で注意喚起することが適当であると考え,イレッサの効能・効果については専門協議での議論も踏まえて慎重に判断することとした。 また,審査センターは,ファーストライン治療(初回治療)に関する注意喚起について,被告会社が提出した添付文書の「重要な基本的注意」欄に記載されていたのを,医師の目に触れやすくするため,「効能・効果」欄のすぐ下の「効能・効果に関する使用上の注意」欄に「(1)本薬の化学療法未治療例における有効性及び安全性は確立していない。」,「(2)本薬の術後補助療 医師の目に触れやすくするため,「効能・効果」欄のすぐ下の「効能・効果に関する使用上の注意」欄に「(1)本薬の化学療法未治療例における有効性及び安全性は確立していない。」,「(2)本薬の術後補助療法における有効性及び安全性は確立していない。」と記載するのが相当と判断し,専門委員からも支持された。 【乙B4[枝番号1]〔37~38 頁,47~48 頁〕,乙E22〔19~20頁〕丙K1[枝番号5]〔37~38頁,47~48頁〕】ウ審査結果審査センターは,平成14年5月9日までに,添付文書の「重大な副作用」欄に間質性肺炎を記載するとの被告会社の回答を得て,「効能・効果」として,「非小細胞肺癌(手術不能又は再発例)」とするのに加えて,「効能・効果に関する使用上の注意」として「(1)本薬の化学療法未治療例における有効性及び安全性は確立していない。」,「(2)本薬の術後補助療法における有効性及び安全性は確立していない。」との記載を付加し,「承認条件」として,「非小細胞肺癌(手術不能又は再発例)に対する本薬の有効性及び安全性の更なる明確化を目的とした十分なサンプルサイズを持つ無作為化比較試験を国内で実施すること。」と定めることで,イレッサを承認して差し支えないと判断し,薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品第二部会において審議されることが妥当と判断した。 以上の経過及び判断は,平成14年4月18日付けの審査報告(1)及び 同年5月9日付け審査報告(2)に記載され,これら2通の審査報告からなる国立医薬品食品衛生研究所長名の平成14年5月9日付け厚生労働省医薬局長宛の審査報告書が作成され,これによって,審査センターは,厚生労働大臣に対して審査結果を報告した。 【乙B4[枝番号1]〔37~38頁,47~48頁〕,乙E22〔14, 9日付け厚生労働省医薬局長宛の審査報告書が作成され,これによって,審査センターは,厚生労働大臣に対して審査結果を報告した。 【乙B4[枝番号1]〔37~38頁,47~48頁〕,乙E22〔14,19~20頁〕,丙K1[枝番号5]〔37~38頁,47~48頁〕】(2) 薬事・食品衛生審議会における審査ア薬事・食品衛生審議会は,平成14年5月24日,厚生労働大臣からの諮問を受け,同審議会第二部会において,イレッサの輸入承認について,審議を行った。 審議において,P会長代理から,「やはりこのEGFレセプターに対する,キナーゼ活性の阻害というスペシフィシティはどれだけかというのはかなり重要なポイントだと思うのですが,237~238 ページのところを見ても余りよくわからないですよね。」,「これを見ると何となく,インフィビションがかからないというお話だったのですが,かかっているように見えます。」,「スペシフィシティが保証されないといろいろな生体内のレギュレーションを調節するところがやられる可能性があると思います。」「アポトーシスを起こすという作用機序はありますよね。」【以上,乙B6(26 頁)】,「今の段階では十分作用機序が説明できているとは思わないのですが,その点についてはいかがでしょうか。これをこのままやると,大変問題が起こるのではないかと思います。」【同(29頁)】,Q委員から「この作用機序と臨床効果とは必ずしも一致していないのではないかと,これは実は私も感じております。」【同(30 頁)】,R部会長からは「実際になるべく安全に使われるということがどうしても必要ではないかと思いますけれど,その辺について注文をつけておくよう なことはございませんでしょうか。」【同(31 頁)】などの指摘があった。これに対し,審議に るということがどうしても必要ではないかと思いますけれど,その辺について注文をつけておくよう なことはございませんでしょうか。」【同(31 頁)】などの指摘があった。これに対し,審議に事務局として出席していた審査センターの係官は,現存する臨床データを基にEGFレセプターの発現量と奏効率を明確に相関づけることはできない旨,治験のデータでは,ほかのチロシンキナーゼをインフィビジョンする傾向はない旨,EGFレセプターがチロシンキナーゼを押さえるという作用が主ではあるが,種々のファクターで抗腫瘍化が発現しているのではないかというのが現時点での科学的な見解である旨,アポトーシスに関しては,推論の域をでないと考えている旨【同(25,26 頁)】,各委員の総意としては,メカニズムを更に解明すべきであるとの意見であると了解し,承認条件にメカニズムの解明を更に勧めることを付加して,企業を指導したい旨【同(33 頁)】などが述べられた。 審議の結果,「承認条件」として,「(1)非小細胞肺癌(手術不能又は再発例)に対する本薬の有効性及び安全性の更なる明確化を目的とした十分なサンプルサイズを持つ無作為化比較試験を国内で実施すること。」,「(2)本薬の作用機序の更なる明確化を目的とした検討を行うとともに,本薬の薬理作用と臨床での有効性及び安全性との関連性について検討すること。また,これらの検討結果について,再審査申請時に報告すること。」と付加した上で承認して差し支えないと判断され,薬事分科会において審議することが妥当と判断された。 この審議において,「添付文書(案)」に関して議論はされたものの,間質性肺炎を「重大な副作用」欄に記載することの当否等については議論がされなかった。【乙B4[枝番号2],5,6】イこれを受けて,同年6月 添付文書(案)」に関して議論はされたものの,間質性肺炎を「重大な副作用」欄に記載することの当否等については議論がされなかった。【乙B4[枝番号2],5,6】イこれを受けて,同年6月12日,同審議会薬事分科会において審議が行われた。 審議において,経口剤が比較的安易に術後補助療法などで使用されることがあったことを考慮し,余り広い患者に投与されないようにするとの目 的から,「効能・効果」の記載を,同審議会医薬品第二部会案から変更して手術不能又は再発例非小細胞肺癌」と改訂することとなった。また,なるべく医師の目に触れる場所が望ましいとの見地から,比較的後ろの位置に記載される「重要な基本的注意」の部分よりも医師の目に触れる場所に記載するとの意図から,「効能・効果に関する使用上の注意」として,「(1)本薬の化学療法未治療例における有効性及び安全性は確立していない。」,「(2)本薬の術後補助療法における有効性及び安全性は確立していない。」と記載することとしたとの説明が審査センターから行われた。 同分科会は,同第二分科会の案について,前記の修正をした上で,承認する旨を決定した。 同分科会における審議においても,「添付文書(案)」に関して議論はされたが,間質性肺炎を「重大な副作用」欄に記載することの当否等については議論がされなかった。【乙B4[枝番号4],7】ウ以上の審議を経て,同審議会は,同日,厚生労働大臣に対し,承認を可とし,再審査期間を6年とし,原体,製剤ともに劇薬に指定するとの答申を行った。【乙B8】(3) 輸入承認平成14年7月5日,厚生労働大臣は,被告会社に対して,イレッサの輸入の承認をした。 なお,被告会社は,同日までのイレッサ投与による重篤な副作用事例として75例(うち死亡20例) 3) 輸入承認平成14年7月5日,厚生労働大臣は,被告会社に対して,イレッサの輸入の承認をした。 なお,被告会社は,同日までのイレッサ投与による重篤な副作用事例として75例(うち死亡20例)を追加報告した(前記2(2)の重篤な副作用事例との合計は196例(うち死亡例56例)となった。)。 平成14年7月16日,被告会社は,日本において薬価未収載でイレッサの販売を開始し,平成14年8月30日にイレッサは薬価収載(保険適用)された。 【乙B13[各枝番号],14[各枝番号],乙K2,丙K1[枝番号4],2 [枝番号3,15],弁論の全趣旨】 4 他国の承認状況(1) 各国の状況イレッサは,我が国が世界で初めて承認したものであるが,その後,平成22年5月末当時で,進行性の非小細胞肺がん等を適応として,韓国,台湾,香港,シンガポール,マレーシア,タイ,インド,中国などのアジア諸国や米国,EU諸国を含む世界69か国/地域(日本を含む。)で承認された。 【乙L2[枝番号1,2],丙J5】(2) EU英国A社は,平成16年(2004 年)ころに欧州医薬品審査庁に対してイレッサの販売承認申請をしていたが,ISEL試験の結果が承認審査基準を満たさないため,欧州医薬審査庁と協議の上で,平成17年(2005 年)1月4日に承認申請を取り下げた。 英国A社は,平成20年(2008 年)5月,INTEREST試験の結果を受けて,欧州医薬品審査庁に対して再度イレッサの販売承認申請をした。 英国A社は,平成21年(2009 年)7月に,INTEREST試験及びIPASS試験の結果を含む申請資料に基づき,欧州委員会から,治療歴を問わず成人のEGFR遺伝子変異陽性の局所進行又は転移を有する非小細胞肺がんを対象とする,イレッサの販 ,INTEREST試験及びIPASS試験の結果を含む申請資料に基づき,欧州委員会から,治療歴を問わず成人のEGFR遺伝子変異陽性の局所進行又は転移を有する非小細胞肺がんを対象とする,イレッサの販売承認を得た。 【甲C2,丙J3,4】(3) 米国英国A社は,平成13年(2001 年)7月30日に米国食品医薬品局(FDA)に対してイレッサの販売承認申請をした。 FDAは,平成15年(2003 年)5月に(我が国の承認から約10か月後),プラチナ製剤及びドセタキセルが奏効しなかった局所進行性又は転移 性の非小細胞肺がんに対する単剤投与を効能,効果として,つまりサードライン治療薬としてイレッサを承認した。承認に当たり,FDAは,イレッサによる治療によって致命的な間質性肺炎を発症する患者があったとの我が国からの報告を受け,審査を3か月延期して慎重に審査した上,稀だが深刻なイレッサの毒性よりも,進行性の非小細胞肺がん患者において見られた効力の方に重点を置いたとした。承認に当たって,製造元が承認後に試験を実施し,期待される臨床上の利益を実証することとしたが,全例調査を実施することは条件とされなかった。 しかし,平成16年(2004 年)12月17日,FDAは,英国A社が発表した市販後臨床試験の結果は,イレッサが生存期間を延長しなかったことを示すものであるので,イレッサを回収するか,他の妥当な規制措置を採るかを決定するとの声明を発表した。なお,米国食品医薬品局(FDA)は,同年11月に,イレッサと同様にEGFRチロシンキナーゼ阻害作用を作用機序とするタルセバ(エルロチニブ)について,延命効果があることを理由として,これを承認した。 平成17年(2005 年)5月15日(但し,日本時間),米国臨床腫瘍学会(ASCO)に 害作用を作用機序とするタルセバ(エルロチニブ)について,延命効果があることを理由として,これを承認した。 平成17年(2005 年)5月15日(但し,日本時間),米国臨床腫瘍学会(ASCO)において,米国南西部臨床試験グループ(SWOG)は,イレッサの第Ⅲ相試験(SWOG0023試験)の中間解析結果を発表した。 この第Ⅲ相試験は,シスプラチン及びエトポシドと放射線同時併用療法並びに抗がん剤(ドセタキセル)による治療を行った後の維持療法としてイレッサの投与が有用かを検証するために行われたものであった。この中間解析結果では,イレッサ投与群とプラセボ投与群とを比較すると,全生存期間の中央値及び無増悪生存期間には有意差がなく,死亡数はイレッサ投与群の方が多く,病勢進行による死亡が多く認められた。中間解析結果,試験継続によってイレッサ投与群が生存期間を改善する可能性がみられないと判断されたため,SWOG0023試験は中止された。 同年6月,FDAは,過去に服用して効果があった患者と現在服用していて効果が出ている患者にイレッサの使用を限定し,臨床試験に参加する患者以外の新たな患者にはイレッサを使うべきではないとの警告を発した。 【甲E20,甲J2~5,9,10[甲J4,9は枝番号1,2を含む。],甲K3,6,乙J3[枝番号2],丙K3[枝番号4,11]】(4) カナダカナダ保健省は,平成15年(2003年)12月17日に,局所進行性又は転移性の非小細胞肺がんのサードライン治療薬としてイレッサを条件付き承認をした。承認後に満たすべき条件は,生存期間の延長,がんに関連する諸症状の緩和,タキソテールと同等の生存期間の延長,心臓血管系に安全であること,安定した良好な安全性を示すこととしたが,全例調査を実施することは条件とされなか 条件は,生存期間の延長,がんに関連する諸症状の緩和,タキソテールと同等の生存期間の延長,心臓血管系に安全であること,安定した良好な安全性を示すこととしたが,全例調査を実施することは条件とされなかった。 英国A社は,平成16年(2004 年)12月,前化学療法が無効の非小細胞肺がん患者について実施された大規模比較臨床試験において,イレッサ投与による生存期間延長効果が見られないとする報告をした。これに対し,カナダ保健省は,平成17年(2005 年)2月14日,前化学療法が無効であった非小細胞肺がん患者に対して他に代替可能な治療法が存在しないこと,イレッサの腫瘍縮小作用により,症状を緩和できること,イレッサの安全性は,他の化学療法に比して高いことなどを理由に,販売承認の取消しを行わないこととした。 もっとも,カナダ保健省は,平成17年(2005 年)7月にタルセバを承認し,平成17年(2005 年)8月以降,EGFR遺伝子変異の発現状態が陽性又は不明の患者にイレッサの使用を限定し,平成18年(2006 年)6月にはこれに加え,現在服用していて効果が出ている患者にイレッサの投与を限定した。 【乙J1[枝番号1,2],丙J1[枝番号1,2],弁論の全趣旨】 第2 イレッサの有効性 1 医薬品の有効性薬事法の目的,医薬品の承認及び承認拒否事由に関する規定は,第3章第6の1記載のとおりである。 これらの薬事法の規定によれば,医薬品の有効性とは,申請に係る医薬品が,その申請に係る効能,効果又は性能を有することをいうと解するのが相当である(薬事法14条2項1号参照)。 2 医薬品の有効性の確認方法(1) 認定事実前提事実(前記第3章第6)並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実は次のとおりである。 ア である(薬事法14条2項1号参照)。 2 医薬品の有効性の確認方法(1) 認定事実前提事実(前記第3章第6)並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実は次のとおりである。 アヘルシンキ宣言以降の医薬品の安全性等の確保に関する動き昭和39年(1964 年),フィンランドのヘルシンキで行われた世界医師会(WMA)総会において,ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則として採択され,その後数次にわたる修正がされたヘルシンキ宣言において,医学の進歩は,最終的にはヒトを対象とする試験に一部依存せざるを得ない研究に基づくとされている。 我が国においては,昭和54年法律第56号による薬事法の改正で,医薬品等の有効性及び安全性の確保が中心課題とされ,医薬品等の承認に関する規定が整備され,医薬品の製造又は輸入の承認を受けようとする者は,承認申請書に臨床試験の試験成績に関する資料その他の資料を添付すべきことが法定された。 その後,1991年(平成3年)には,日米EU医薬品規制調和(ハーモナイゼーション)国際会議(ICH)が組織され,それ以降,日米EUの三極相互間で,医薬品の品質,安全性,有効性,規制情報等を調和させ るための活動が行われるようになり,そこで合意が得られた事項について,我が国も,順次,合意に対応するための制度等の改訂,整備を行っているところである。 【甲D20,26,29[枝番号1~3],乙D21[枝番号15],27[別表関連するICHガイドライン及び通知について]】イ承認審査資料平成14年当時の医薬品の承認申請の際に提出すべき資料及びその承認審査資料を作成するための試験が,GLP,GCP及び審査資料の信頼性の基準を遵守し,かつ,適正に実施されたものでなければならず,かつ,その指針(ガイド 薬品の承認申請の際に提出すべき資料及びその承認審査資料を作成するための試験が,GLP,GCP及び審査資料の信頼性の基準を遵守し,かつ,適正に実施されたものでなければならず,かつ,その指針(ガイドライン)が定められていること等については,第3章第6の2記載のとおりである。 ウ医薬品一般の臨床試験に関する指針(ガイドライン)前記第3章第6の2(1)のとおり,平成14年当時,臨床試験の指針は合計18件あったが,その主なものは次の(ア),(イ)である。 (ア) 一般指針【乙D25,27】a 作成の経緯医薬品の臨床試験のデザイン,実施,解析等に関する一般的な原則やその進め方について,主として科学的側面から指針を示すことを目的とした平成4年6月29日付け旧一般指針(乙D25)があった。 そこでは,個々の薬物については各薬効群ごとの臨床評価方法に関するガイドラインを参考にすることが望ましいとされていた。 その後,旧一般指針と同様の目的で,旧一般指針を基礎にしつつ,ICHのガイドライン並びにICHに加盟している日・米・EU三極における臨床試験及び臨床開発方法の手順に関する一般指針を踏まえ,平成10年4月21日,b以下の内容を主要な内容とする一般指 針(乙D27)が作成,通知され,以降は,旧一般指針に代えてこの一般指針が優先適用されることとなった。 b 臨床試験の方法医薬品一般についての臨床試験の方法は,その試験の臨床開発機関における実施時期及び目的によって,(a)臨床薬理試験,(b)探索的試験,(c)検証的試験,(d)治療的使用に分類可能である。医薬品の臨床試験は,先行する試験の成果が以降の試験の計画に当然影響を与えるはずであるという基本的考え方に基づき,段階的試験の方法が採られる。また,一般指針は,前記治験の 療的使用に分類可能である。医薬品の臨床試験は,先行する試験の成果が以降の試験の計画に当然影響を与えるはずであるという基本的考え方に基づき,段階的試験の方法が採られる。また,一般指針は,前記治験の目的別の分類概念とは別に,医薬品の開発段階を表す時間的概念として,「相」を用いる。 ① 第Ⅰ相新薬を初めてヒトに投与する段階である。第Ⅰ相の最も代表的な試験は,臨床薬理試験である。 第Ⅰ相で実施される試験は,a)初期の安全性及び認容性の推測(後の臨床試験のために必要と想定される用量範囲の忍容性を決定し,予期される副作用の性質を判断すること),b)薬物動態(薬物の吸収,分析,代謝,排泄に関する特徴の検出),c)薬力学的な評価(薬効及び予想される有効性の初期の推測),d)初期の薬効評価(薬効又は見込まれる治療上の利益の予備的検討)の1つ又は複数を組み合わせの観点から行われる。 ② 第Ⅱ相通常,新薬の患者における治療効果の探索を主要な目的とする試験を開始する段階である。第Ⅱ相の最も代表的な試験は,探索的試験である。 第Ⅱ相で実施される試験は,比較的均質な集団になるように比較的狭い基準に従って選択された患者を対象として注意深く観察しな がら行われる。 第Ⅱ相で実施される試験のその他の目的としては,その後に実施する第Ⅱ相や第Ⅲ相試験において用いられる見込みのある評価項目(エンドポイント)(評価項目については,(イ)b参照),治療方法(併用療法を含む。),対象となる患者群を評価することなどがある。 ③ 第Ⅲ相通常,治療上の利益を証明又は確認することを主要な目的とする試験である。第Ⅲ相の最も代表的な試験は,検証的試験である。 第Ⅲ相で実施される試験は,第Ⅱ相で蓄積された予備的な証拠を検証するためにデザインされ,承認の 益を証明又は確認することを主要な目的とする試験である。第Ⅲ相の最も代表的な試験は,検証的試験である。 第Ⅲ相で実施される試験は,第Ⅱ相で蓄積された予備的な証拠を検証するためにデザインされ,承認のための適切な根拠となるデータを得ることを意図している。 ④ 第Ⅳ相承認後に実施されるすべての試験である。治療的使用での試験であり,その医薬品の最適な使用法を明らかにする上で重要である。 c 試験の計画臨床試験の目的から報告までの各項目は,試験開始前に治験実施計画書に明確に規定されなければならないとされている。 また,目的とする情報を得るために適切な試験デザインを選択しなければならず,試験目的を達成するために,適切な対象の使用と,十分な数の被験者が必要であり,主要及び副次的エンドポイントとその解析法が明確に記述されていなければならないとされている。 d 評価項目(エンドポイント)(概念は,(イ)b参照)主要なエンドポイントは,臨床上意味のある効果を反映すべきであり,通常,試験の主要な目的に基づいて選択される。 適切な場合すなわち,代用(代替)エンドポイントを使うことによ り,十分合理的に臨床上の結果を予測しうる場合又は臨床上の結果を予測しうることがよく知られている場合には,代用(代替)エンドポイントを主要なエンドポイントとして用いることができる。 e 安全性情報等試験期間中は有害事象について適切なタイミングでの報告が必須であり,報告は記録されなければならない。規制当局に対する安全性データの迅速な報告,安全性情報の内容及びプライバシーの保護,データの機密性に関しては,他のICHガイドライン(ICHE2A,E2B及びE6ガイドライン(別表))を参照する。 安全性データは全ての臨床試験において収集され,一覧表 及びプライバシーの保護,データの機密性に関しては,他のICHガイドライン(ICHE2A,E2B及びE6ガイドライン(別表))を参照する。 安全性データは全ての臨床試験において収集され,一覧表にまとめられなければならない。集積された有害事象は重篤度と因果関係に従って分類されなければならない。 (イ) 統計的原則【甲P15】a 作成の経緯医薬品一般についての臨床試験における統計的原則について,臨床試験の計画,実施,解析及び評価を行う場合の方向付けを目的とした「臨床試験の統計解析に関するガイドライン」(平成4年3月4日薬新薬20号・甲D19)があった。 その後,ガイドラインと同様に,ICHにおける合意に基づき,平成10年11月30日,上記ガイドラインに代えて,b及びcを主要な内容とする統計的原則が定められた(なお,安全性及び認容性評価については,後記第5章第4(4)ア(ウ)bのとおりである)。(甲P15)b 評価項目(エンドポイント)臨床試験では,試験の目的に応じて統計的処理のための反応変数として,医薬品の効果を評価するための項目を用いて試験結果を評価し ており,次の評価項目を設定することとされている。 (a) 主要評価項目(プライマリーエンドポイント,主要変数,「目標」変数)試験の主要な目的に直結した臨床的に最も適切で説得力のある情報を与えうる項目であり,臨床的に適切で重要な治療上の利益に関する妥当で信頼のおける指標であることが十分に根拠付けられているもの。 主要評価項目は,通常,①真の評価項目(トゥルーエンドポイント:患者の最終的な治療上の利益に直接関係する指標を評価する項目)であるべきであるが,その測定が実際的でない場合,②代替評価項目(サロゲートエンドポイント,代替変数:患者の最終的 ゥルーエンドポイント:患者の最終的な治療上の利益に直接関係する指標を評価する項目)であるべきであるが,その測定が実際的でない場合,②代替評価項目(サロゲートエンドポイント,代替変数:患者の最終的な治療上の利益に間接的に関係する指標を評価する項目)を用いることができるとされている。 代替評価項目は,それが臨床的利益の信頼できる予測因子であると信じられている多くの領域において,一般的に容認されたものとして用いられているとされている。 そして,代替評価項目における代替性の証拠の強さは,ⅰ)代替評価項目と臨床的結果の関連の生物学的合理性,ⅱ)代替評価項目が臨床的結果の予後を予測する上で有益であると疫学研究によって示されていること,ⅲ)臨床治療の代替評価項目に対する効果が臨床的効果と対応しているという臨床結果があることに依存しているとされている。 (b) 副次的評価項目(セカンダリーエンドポイント,副次変数)主要評価項目以外の効果を評価するための項目で,主要評価項目に関連した補助的な測定値である場合と,各試験の副次的な目的に関連した効果の測定値のどちらかの項目をいう。 c 比較試験の種類・目的と統計解析(a) 比較試験の種類と目的比較試験の場合,試験の目的に応じて,以下の試験があるとされている。 ① 優越性試験被験薬への反応が比較薬剤(実薬又はプラセボ。なお,実薬である比較薬剤は「実対照薬」といわれる。)よりも臨床的に優れること(優越性,優位性)を示すことを主要な目的とする試験である。 ② 同等性試験二つ以上の治験治療に対する反応が,臨床的に重要な意味を持つほど異ならないことを示すことを主要な目的とする試験である。 ③ 非劣性試験被験薬への反応が比較薬剤(実薬又はプラセボ)よりも臨床的に劣 以上の治験治療に対する反応が,臨床的に重要な意味を持つほど異ならないことを示すことを主要な目的とする試験である。 ③ 非劣性試験被験薬への反応が比較薬剤(実薬又はプラセボ)よりも臨床的に劣らないことを示すことを主要な目的とする試験である。 (b) 同等性試験と非劣性試験の統計解析同等性又は非劣性試験では,治験計画書に同等性又は非劣性を示すために計画されたことを明確に示されることが不可欠であり,併せて同等限界(臨床的に許容できると判断しうる最大の差のことをいう。実対照薬の有効性を立証した優越性試験において観測された差よりも小さいものとされる。)が明示されるべきであるとし,実薬対照同等試験では上側及び下側両方の同等限界が必要であり,実薬対照非劣性試験では下側同等限界のみが必要であるとされている。 統計解析は,通常信頼区間に基づき行われる。同等性試験では,両側信頼区間を用いて,信頼区間全体が同等限界内に含まれる場合 に同等であると推論する。非劣性試験では,片側信頼区間を用いて,信頼区間の下限が下側同等限界と同等以上である場合に非劣性であると推論する。 被験薬と実対照薬に差がないという検定結果が有意でないことから,同等性又は非劣性が示されたと結論付けることは不適切である。 エ抗がん剤の臨床試験に関する指針(ガイドライン)(ア) 抗がん剤の臨床評価に関する指針【甲D14】我が国において,抗がん剤の臨床試験における段階的試験の各段階において明らかにすべき事項を統一的に定めた最初のものは,昭和60年に日本がん治療学会が作成した標記指針(学会指針)である。 学会指針は,臨床試験について,①第Ⅰ相試験,②第Ⅱ相試験,③第Ⅲ相試験の3つの段階に分け,第Ⅲ相試験は,比較試験により,効果判定基準はがん化学療法の臨床効 が作成した標記指針(学会指針)である。 学会指針は,臨床試験について,①第Ⅰ相試験,②第Ⅱ相試験,③第Ⅲ相試験の3つの段階に分け,第Ⅲ相試験は,比較試験により,効果判定基準はがん化学療法の臨床効果判定基準によるとされ,抗腫瘍効果が中心的な指標とされており,特に統計的原則に基づくものでもなかった。 (イ) 旧ガイドライン【甲D35,乙D7,乙E18】a 作成経緯厚生省は,昭和60年ころから,「医薬品の臨床試験の実施に関する基準(GCP)(案)」を公表し,各種薬効群ごとに新薬の承認審査資料としての臨床試験についてのガイドラインを順次作成していた。 抗がん剤については,昭和62年にがん専門医らによる「抗悪性腫瘍薬の臨床評価ガイドライン作成に関する研究班」が組織され,検討された。これを踏まえて,平成3年2月,抗がん剤として開発される新医薬品の臨床的有用性を検討するための臨床試験の計画,実施,評 価法等について,当時として妥当と思われる方法と一般的手順をまとめたものとして,旧ガイドラインが厚生省薬務局新医薬品課長名で通知された。 b 内容(a) 臨床試験の方法と承認申請第Ⅰ相試験では主として安全性を,第Ⅱ相試験では抗腫瘍効果と安全性を,第Ⅲ相試験では延命効果等を中心とした臨床効果を検討するが,QOLの評価も併せ行うことが望ましいとされる。 そして,延命効果を中心に評価する第Ⅲ相試験の成績は承認後に提出することも認められるが,承認時までにその試験計画書を提出することが求められるものとして,第Ⅱ相試験までの結果により承認することができるとしている。これをⅡ相承認という。 (b) 第Ⅰ相試験治験薬を初めてヒトに投与する段階であり,特に安全性を慎重に検討することとされる。 第Ⅰ相試験は,薬剤の毒性の種類, 承認することができるとしている。これをⅡ相承認という。 (b) 第Ⅰ相試験治験薬を初めてヒトに投与する段階であり,特に安全性を慎重に検討することとされる。 第Ⅰ相試験は,薬剤の毒性の種類,程度とこれらの可逆性,用量-反応関係,時間-反応関係を評価し,最大許容量を推定することを目的とする。また,技術的に可能な範囲で,薬物動態学的検討を行い,投与量及び投与間隔の検定のための参考とされる。 第Ⅰ相試験では,治療効果の検討を期待することが困難であるが,抗腫瘍効果の有無を観察することが必要であり,有効性の示唆を全く経験することのできない治療薬では,第Ⅱ相試験の開始が困難となる場合もあるとされている。 対象患者は,通常の治療法では効果が認められないか,一般に認められた標準的治療法がない悪性腫瘍を有する者であること,治験薬の副作用を的確に評価しうる臓器機能が維持されていることなど の条件を満たすものとされている。 (c) 第Ⅱ相試験第Ⅰ相試験で安全性が確認された用法・用量に従って,当該治験薬の有効性と安全性を客観的に評価することを目的とした試験である。対象とする腫瘍を特定し,明確に規定された患者集団で,有効性と安全性を客観的に評価するための評価項目を明確にし,抗腫瘍効果を中心とした有効性について評価するものである。 第Ⅱ相試験は,前期と後期とに分けられ,前期第Ⅱ相試験では効果が期待されるがん腫の探索と安全性を,後期第Ⅱ相試験ではそのがん腫について,用法・用量の選択決定と有効性や安全性の程度を確定する。 対象患者は,従来の標準的治療法ではもはや無効か,又はその疾患に対して確立された適切な治療法がない悪性腫瘍を有する患者であること,生理機能が充分保持されていること,抗腫瘍効果と副作用が観察できるよう,充分な期間の生存 準的治療法ではもはや無効か,又はその疾患に対して確立された適切な治療法がない悪性腫瘍を有する患者であること,生理機能が充分保持されていること,抗腫瘍効果と副作用が観察できるよう,充分な期間の生存が期待できることなどの条件を満たすものとされている。 前期第Ⅱ相試験では,どの程度の活性を持つ抗悪性腫瘍薬を求めているのかを明らかにし,それに従って目標とする期待有効率を定め,この期待有効率以上の効果がなければ有用な抗悪性腫瘍薬としては認められないとされている。この期待有効率は,一般的に部分奏効以上(WHO規定ではPR以上)が20%を目標とするが,腫瘍の種類,対象となる患者の状況によっては異なることもあり得るので,その場合その設定根拠を明確にするとされている。そして,前期第Ⅱ相試験の結果から特徴のある治験薬として期待できる場合は,後期第Ⅱ相試験が実施され,その治験で得られた有効率が,予め設定した期待有効率以上であり,かつ,副作用などの点を加味し たうえで臨床的に有用性があると判断できることが求められる(なお,後記第Ⅱ相試験では,既存の対照群(過去のよく管理された第Ⅱ相又は第Ⅲ相試験,又は一定期間に行われた標準的治療法を受けた患者(予後因子などがほぼ同一な患者であることが必要である))の治療成績を利用して,比較することも可能である。この場合,対症療法や補助(支持)療法の進歩,環境整備による時代の差の影響を否定できないので,結果は実証的なものとしては取り扱えず,その解釈も慎重に行わなければならない。)。 効果判定基準は,原則としてWHOの基準,それに基づくがん治療を専門とする各学会の基準等を標準とし,原則として判定委員会のような当該施設以外の組織の確認を受けることが望ましいとされている。 (d) 第Ⅲ相試験より優れた標 Oの基準,それに基づくがん治療を専門とする各学会の基準等を標準とし,原則として判定委員会のような当該施設以外の組織の確認を受けることが望ましいとされている。 (d) 第Ⅲ相試験より優れた標準的治療法をさらに確立することを目的とし,延命効果を中心に評価する試験である。第Ⅱ相試験において安全性と抗腫瘍効果ないし特長が確認された新抗悪性腫瘍薬の,単独又は併用療法と適切な対照群との比較試験である。 生存率,生存期間を主要評価項目とし,他の適切なエンドポイントとしてQOL等を求め,これらに対し,何らかの有用性が示される必要があるとされる。主要評価項目で同等性が証明された場合は,他の特長,例えばQOLの改善(患者の肉体的苦痛の軽減,精神的満足度等)を含めて有用性が示される必要があるとされる。 対象患者は,薬物療法が適応となる悪性腫瘍であることが確認されている症例であること,生理機能が一定の基準以上であること,治療効果が観察できるよう,充分な期間の生存が期待できることなどの条件を満たすものとされている。 効果判定基準は,原則としてWHOの基準,それに基づくがん治療を専門とする各学会の基準等を標準とし,原則として判定委員会のような当該施設以外の組織の確認を受けることが望ましいとされている。 データの解析方法は,あらかじめ指定した場合を含めて,適切な統計学的手法を用いて解析し,用いた手法は明示しなければならない。主たる確認的な解析のほか,治療法の最も適切な適応条件を探索することも大切であるが,検定や推定の多重性には注意するとされる。 (ウ) 新ガイドライン【甲D2[各枝番号],5】a 作成経緯旧ガイドラインが通知されてから10年以上を経て,新しい作用機序を持つ薬剤の開発,臨床試験を行う上での国内体制整備,臨床 れる。 (ウ) 新ガイドライン【甲D2[各枝番号],5】a 作成経緯旧ガイドラインが通知されてから10年以上を経て,新しい作用機序を持つ薬剤の開発,臨床試験を行う上での国内体制整備,臨床試験に関する知識の普及,規制当局における医薬品審査体制の整備,GCPの改正,海外臨床試験成績の積極的な利用等新薬の開発・審査を巡る状況に大きな変化が認められ,一方で,海外大規模試験により臨床的有用性の検証された薬剤で,国内への導入が大幅に遅れ,国内臨床現場において国際的標準薬が使用できないという状況が認められた。 そこで,平成17年11月,旧ガイドラインを改訂したものとして,新ガイドラインが厚生労働省医薬局審査管理課長名で通知され,平成18年4月から適用された。 b 内容(a) 臨床試験の方法と承認申請①第Ⅰ相試験では主として安全性を,②第Ⅱ相試験では抗腫瘍縮小効果等の有効性と安全性を,③第Ⅲ相試験では延命効果等を中心とした臨床的有用性を検討することとされる。 そして,非小細胞肺がん,胃がん,大腸がん,乳がん等で,取得を目的とする効能・効果のがん腫のうち,その患者数が多いがん腫では,それぞれのがん腫について第Ⅲ相試験の成績を承認申請時に提出することを必須とするとされている(Ⅲ相承認)。但し,上記がん腫であっても,科学的根拠に基づき申請効能・効果の対象患者が著しく限定される場合はこの限りではないとされる。 また,第Ⅱ相試験終了時において高い臨床的有用性を推測させる相当の理由が認められる場合には,第Ⅲ相試験の結果を得る前に,承認申請し承認を得ることができるとされる(Ⅱ相承認)。その際は,承認後一定期間内に,第Ⅲ相試験の結果により速やかに,当該抗悪性腫瘍薬の臨床的有用性第Ⅱ相試験成績に基づく承認の妥当性を検証しなけ 承認申請し承認を得ることができるとされる(Ⅱ相承認)。その際は,承認後一定期間内に,第Ⅲ相試験の結果により速やかに,当該抗悪性腫瘍薬の臨床的有用性第Ⅱ相試験成績に基づく承認の妥当性を検証しなければならず,当該第Ⅲ相試験の実施場所に関しては国内外を問わず,また,海外に信頼できる第Ⅲ相試験成績が存在する抗悪性腫瘍薬は,承認申請前に国内で実施する臨床試験数を最小限とし,効率よく,かつ,迅速に当該薬剤の導入がはかれるように臨床開発計画を立案すべきであるとする。 (b) 第Ⅰ相試験非臨床試験成績を基に治験薬を初めてヒトに投与する段階である。非臨床試験で観察された事象に基づき,用量に依存した治験薬の安全性を検討することを主な目的とするとされる。 (c) 第Ⅱ相試験第Ⅰ相試験により決定された用法・用量に従って,対象とするがん腫における治験薬の臨床的意義のある治療効果(有効性),及び安全性を評価することを目的とする試験である。第Ⅱ相試験における臨床的意義のある治療効果とは,一定の基準で評価される腫瘍縮小効果を指すとされる。また,第Ⅲ相試験等のさらなる評価を行う べきかの判断,第Ⅰ相試験で薬物動態と特定の副作用との関連性が示唆されるものについては,その関連性についての検討及び評価,治験薬による副作用についてさらなる評価(まれな副作用の発見等),治療効果を予測するマーカー(分子標的薬等)のさらなる検索なども目的とされる。 (d) 第Ⅲ相試験より優れた標準的治療法をさらに確立することを目的とした試験である。第Ⅱ相試験において安全性と抗腫瘍効果,又は何らかのメリット(症状緩和効果)が確認された新抗悪性腫瘍薬の単独又は併用療法と適切な対照群との比較試験である。 生存率,生存期間等を主要評価項目とし,他の適切なエンドポイント と抗腫瘍効果,又は何らかのメリット(症状緩和効果)が確認された新抗悪性腫瘍薬の単独又は併用療法と適切な対照群との比較試験である。 生存率,生存期間等を主要評価項目とし,他の適切なエンドポイントとして,安全性,妥当性の評価された方法による症状緩和効果やQOL等に関する評価を行い,これらに対し,何らかの有用性が示される必要があるとされる。 オ第Ⅲ相試験の実施をめぐる状況旧ガイドラインが通知された平成3年当時,第Ⅲ相試験を国内で実施することについては,①がん腫別に見ると,治験の対象となるような,手術が難しいが治験に参加できるだけの比較的身体状態の良い対象患者が少ないこと,②患者は保険による既存の治療を望むのが通常で,新薬のための治験への積極的な参加を望む動機に乏しく,プラセボと新薬との比較といったデザインの比較試験の実施も倫理上できない場合が少なくないこと,③対象患者が集まりにくく症例数が限られていることから,延命効果を真の評価項目として用いた場合には合理的な期間内での試験が困難であること,④がんに対する薬物治療の分野において比較の対象とする標準的治療法が確立されていないといった事情が存在した。そのため,前記エ(イ)のとおり,旧ガイドラインは,Ⅱ相承認を認めていた。 新ガイドラインが通知された平成17年当時においても,厚生労働省から委託を受けた日本がん治療学会の抗悪性腫瘍薬臨床評価ガイドライン改定委員会の委員の間では,第Ⅲ相試験の結果を承認前に提出することとすることについては賛否両論があり,がん腫によっては承認前に第Ⅲ相試験を行うことが困難なものもあるとの意見も出される一方で,がん腫によっては大規模な第Ⅲ相試験が可能である状況にあるとの意見も出された。 そのような議論の状況を踏まえて,前記エ(ウ)b(a)のとおり 験を行うことが困難なものもあるとの意見も出される一方で,がん腫によっては大規模な第Ⅲ相試験が可能である状況にあるとの意見も出された。 そのような議論の状況を踏まえて,前記エ(ウ)b(a)のとおり,海外の臨床試験の結果を積極的に利用することができることを前提に,原則として,第Ⅲ相試験の結果を承認前に提出することとされた。 【甲D5,乙D7,乙E18〔15頁〕,22〔22~25頁〕,丙E48[枝番号1]〔107~109頁〕】カ治験に関する原則第3章第6の2(1)及び同第7の3(2)記載のとおり,承認審査資料となる臨床試験(治験)は,GCPに従って実施されたものでなければならず,薬事法,GCP省令及びGCP省令を受けた各種通知により,治験に関する原則的事項が定められていた(薬事法14条3項後段,薬事法施行規則18条の4の3,GCP省令,「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令の施行について」平成9年3月27日薬発第430号薬務局長通知・丙D6,「医薬品の臨床試験の実施の基準の運用について」平成9年5月29日薬安第68号薬務局審査課長・安全課長通知・丙D7)。(なお,次の(イ)~(エ)がGCPである。)(ア) 治験計画の届出治験の依頼をしようとする者は,あらかじめ,厚生労働省令で定めるところにより,厚生労働大臣に治験の計画を届出なければならないとされ(薬事法80条の2第2項),ある薬物につき初めて治験の届出をした場合,厚生労働大臣は,当該届出に係る治験の計画に関し保健衛生上 の危害の発生を防止するため必要な調査を行うものとされる(薬事法80条の2第3項後段)。 (イ) 治験の依頼に関する基準医療機関に治験の依頼をしようとする者は,GCP省令所定の治験の依頼に関する基準に従って治験を依頼しなければならない ものとされる(薬事法80条の2第3項後段)。 (イ) 治験の依頼に関する基準医療機関に治験の依頼をしようとする者は,GCP省令所定の治験の依頼に関する基準に従って治験を依頼しなければならない。GCP省令4条ないし15条は,業務手順書等の作成,毒性試験等の実施,医療機関等の選定,治験実施計画書の作成,治験薬概要書の作成,業務の委託,治験の契約,被験者に対する補償措置等について定める。 (ウ) 治験の管理に関する基準医療機関に治験の依頼をしようとする者は,GCP省令所定の治験の管理に関する基準に従って治験を管理しなければならない。GCP省令16条ないし25条は,治験薬の管理等,効果安全性評価委員会の設置,副作用情報等の提供,モニタリング及び監査の実施,総括報告書の作成等について定める。 (エ) 治験を行う基準治験を行う実施医療機関の長,治験責任医師等は,GCP省令所定の治験を行う基準に従って治験を行わなければならない。GCP省令27条ないし55条は,治験審査委員会の設置,実施医療機関の要件,治験責任医師の要件及び責務等,被験者の同意等について定める。 (オ) 秘密保持治験の依頼をした者又はその役員若しくは職員は,正当な理由なく,治験に関しその職務上知り得た人の秘密を漏らしてはならないとされる(薬事法80条の2第10項)。 キ抗がん剤の有効性の指標(評価項目)(ア) 全生存期間(生存期間),生存期間中央値,時点生存割合a 全生存期間(生存期間)とは,臨床試験で延命効果を統計学的に検 証する際に用いられる指標であり,臨床試験に登録後,患者を被験薬又は対照薬のいずれかの群に割り付けた日(割付日)から死亡するまでの期間である。 そして,全生存期間分布を特徴付ける代表値で生存期間を比較する場合があり, 標であり,臨床試験に登録後,患者を被験薬又は対照薬のいずれかの群に割り付けた日(割付日)から死亡するまでの期間である。 そして,全生存期間分布を特徴付ける代表値で生存期間を比較する場合があり,その代表値として,生存期間中央値(MST:被験者の50%が死亡するまでの期間)や,時点生存割合(試験登録から一定の期間が経過した時点での被験者の生存割合で,1年生存割合(率)や5年生存割合(率)等)がある。 【甲F30〔1213頁,1214頁〕,丙H9〔14頁〕】b 同評価項目の長所は,研究者の解釈や盲検化されていないことによるバイアスの影響を受けない評価項目として信頼性が高いこと,臨床的有用性の適切な尺度として普遍的に受容されていること等である。 短所は,大きなサンプルサイズと長い追跡期間を必要とすることや,自然史(投薬がなくても生じる疾病の経過)と治療効果の両方の影響を受け,さらに治療効果につき後治療(後に行われる別の抗がん剤治療)による影響が入り込むことから,それ自体の大きさを絶対量として解釈することが難しいこと等がある。 【甲F30〔1213頁〕】(イ) 無増悪生存期間(PFS:ProgressionFreeSurvival)a 割付日から客観的ながんの増悪が確認された時点又は死亡のいずれか早い時点までの期間である。 無増悪生存期間は,旧ガイドラインが作成された平成3年当時は有効性の評価項目として想定されていなかったが,その後の医学的知見の発展により,生存期間という評価項目による評価は,大きなサンプルサイズと長い追跡期間を必要とするため臨床試験の実施が困難であることや,治療効果について後治療による影響を受けない解析や評価 が難しいといった問題が指摘される一方,無増悪生存期間が後記bの長所を有すること を必要とするため臨床試験の実施が困難であることや,治療効果について後治療による影響を受けない解析や評価 が難しいといった問題が指摘される一方,無増悪生存期間が後記bの長所を有することから,近年,生存期間の代替として無増悪生存期間を主要評価項目とする臨床試験が多く見られるようになった。 【甲F30〔1214頁〕,丙E48[枝番号1]〔21~22頁〕,50[枝番号1]〔11頁〕,丙H49〔5頁,8頁〕】b 同評価項目の長所は,生存期間を主要評価項目とするより少ないサンプルサイズで,短い追跡期間で足りること,治療効果につき後治療による影響を受けないこと等である。 短所は,がん増悪の評価方法や評価間隔等の観察方法によって結果が異なる可能性があること等があることから,腫瘍増悪の定義や観察方法等をプロトコールで明確にすることが必要となる。 【甲F30〔1214頁〕】(ウ) 腫瘍縮小効果,奏効率a 腫瘍縮小効果とは,抗がん剤が腫瘍を縮小させる効果のことをいい,奏効率とは,ある抗がん剤によって腫瘍縮小が観察された人の割合をいう(なお,「抗腫瘍効果」の語が,腫瘍縮小効果と同義で使用される場合(乙E11[16 頁])がある。)。 臨床現場においては,抗がん剤による薬物治療(化学療法)の治療効果は,主として画像診断による腫瘍縮小効果の程度により判断されている。 【甲F30〔1215 頁〕,乙E11〔16 頁〕,証人光冨主尋問〔12頁〕】b 同評価項目の長所は,抗がん剤による治療効果以外の要素が影響することは考えられないため,抗がん剤自体の効果だけを測ることができること等である。 短所は,生存期間を真の評価項目とした場合,腫瘍縮小効果を代替 評価項目として用いるためには,治療効果が代替評価項目を介して臨 抗がん剤自体の効果だけを測ることができること等である。 短所は,生存期間を真の評価項目とした場合,腫瘍縮小効果を代替 評価項目として用いるためには,治療効果が代替評価項目を介して臨床的な結果につながっていることが必要となること,評価可能病変の事前特定,評価のタイミング,画像による評価といった方法論的な難しさがあること等である。【甲F30〔1215 頁〕】c 判定基準(a) UICC/WHO基準【甲G7,8,乙H2,3参照】腫瘍縮小効果の測定基準については,昭和54年(1979年)にUICC及びWHOにより二次元的な腫瘍縮小の測定法(UICC/WHO基準)が標準法として確立された。 (b) 固形がん化学療法直接効果判定基準【乙H2,丙H43】日本では,昭和61年(1986年),前記UICC/WHO基準に準拠した固形がん化学療法直接効果判定基準(乙H2)が策定された。 同判定基準では,抗がん剤治療による腫瘍の縮小率から,以下のとおり,奏効度を①完全奏効(CR),②部分奏効(PR),③不変(NC又はSD),④進行(PD)の4つに分け,治療を受けた患者に対するCR及びPRの患者の割合をもって,奏効率を算出することとされている。 ① 完全奏効(CR:CompleteResponse)測定可能病変,評価可能病変及び腫瘍による二次元的病変がすべて消失し,新病変の出現がない状態が4週間以上継続した場合をいう。 ② 部分奏効(PR:PartialResponse)二方向測定可能病変の縮小率が50%以上であるとともに,評価可能病変及び腫瘍による二次元的病変が増悪せず,かつ新病変の出現しない状態が少なくとも4週間以上持続した場合をいう。 ③ 不変(NC:NoChange 又はSD:Stable ,評価可能病変及び腫瘍による二次元的病変が増悪せず,かつ新病変の出現しない状態が少なくとも4週間以上持続した場合をいう。 ③ 不変(NC:NoChange 又はSD:StableDisease)二方向測定可能病変の縮小率が50%未満,一方向測定可能病変においては縮小率が30%未満であるか,又はそれぞれの25%以内にとどまり,腫瘍による二次元的病変が増悪せず,かつ新病変の出現しない状態が少なくとも4週間以上持続した場合をいう。 ④ 進行(PD:ProgressiveDisease)測定可能病変の積又は径の和が25%以上の増大,又は他病変の増悪,新病変の出現がある場合をいう。 (c)RECIST(ResponseEvaluationCriteriainSolidTumors)ガイドライン【甲G7,乙H3,丙H43】平成11年に,前記WHO基準の改訂版であるRECISTが作成された。 平成12年(2001年)には,「固形がんの治療効果判定のための新ガイドライン(RECISTガイドライン)-日本語訳JCOG版」(甲G7,乙H3)が公表され,CT画像上の腫瘍の寸法を計測して,ある一定の割合の腫瘍の増減を判定し,前記(b)の①ないし④の4つに分けて評価することは,前記(a)(b)と同様である。もっとも,寸法の計測方法が,二次元的な二方向測定から一方向(最長径)測定へと変更されたことに伴い,標的病変の評価について,次のとおり表現されている。なお,非標的病変の評価の基準及び最良総合効果の評価の決定方法も示された。 ① 完全奏効(CR:CompleteResponse)すべての標的病変の消失。 ② 部分奏効(PR:PartialResponse)ベースライン長径和と比較して標的病変の最 された。 ① 完全奏効(CR:CompleteResponse)すべての標的病変の消失。 ② 部分奏効(PR:PartialResponse)ベースライン長径和と比較して標的病変の最長径の和が30% 以上減少。 ③ 安定(SD:StableDisease)PRとするには腫瘍の縮小が不十分で,かつ,PDとするには治療開始以降の最小の最長径の和に比して腫瘍の増大が不十分。 ④ 進行(PD:ProgressiveDisease)治療開始以降に記録された裁縫の最長径の和と比較しって標的病変の最長径の和が20%以上増加。 (エ) QOL(QualityOfLife),症状緩和効果【甲F30〔1216頁〕,丙H44,45〔135,139 頁〕】a QOL調査票を用いて症状緩和や患者が報告する結果を評価項目とするものであり,QOLの評価はQOL調査票によって行われ,QOL調査票は,日常生活の4側面(身体的側面[身体症状],心理的側面[精神的状態],社会的側面[社会的・家族との関係],活動的側面[活動状況])等を主要な尺度とし,それぞれについて複数の質問をもうけている。 QOL調査票の代表的なものはFACT-G(FanctionalAssessmentofCancerTherapyScale-General)であり,これと9項目の肺がんに特異的な項目(肺がんサブスケール;LungCancerSubscale )により構成されているFACT-L(FanctionalAssessmentofCancerTherapyScae-Lung)もある。このFACT-Lの項目により評価されるものとして,症状緩和効果がある。 b 同評価項目の長所は,患者の治療上の利益に直結する指標であ fCancerTherapyScae-Lung)もある。このFACT-Lの項目により評価されるものとして,症状緩和効果がある。 b 同評価項目の長所は,患者の治療上の利益に直結する指標であることである。 短所は,患者による報告結果によるもので,主観的なものであることから,正しく測定するためには妥当性や再現性のある尺度を用いることが必要となることや,多重比較(統計的多重性)の問題を統計解 析計画によって調整する必要があること,マスク化が困難であること等である。 (オ) 病勢コントロール率(DCR:DiseaseControlRate)【甲F30〔1216頁〕,甲H18〔582頁〕,丙E34[枝番号5の1,2]〔8頁〕,丙H18〔582 頁〕】a 完全奏効(CR),部分奏効(PR),不変(SD又はNC)が得られた患者の合計の割合をいい,不変も含めて抗がん剤の効果として評価する指標である。 b 同評価項目の長所は,がんが積極的な治療をしなければ増悪することから,化学療法によって,腫瘍縮小効果(CR又はPR)はないものの不変(SD又はNC)が得られた場合には,がんの増殖や進行が抑制され,治療効果があったといえる場合があるところ,腫瘍縮小効果による評価では過小評価されるこれらの治療効果を評価することができることである。 短所は,もともと進行が遅いがんでは,治療効果と関係なく不変と判断されるため,治療効果を過大評価する危険性があることである。 (2) 抗がん剤の有効性の確認方法医薬品の有効性とは,その時点における医学的,薬学的知見を前提として当該医薬品が治療上の効能,効果又は性能を有することであるから,抗がん剤の有効性の確認についても,その時点における医学的,薬学的知見が判断基準とされるべきである。 る医学的,薬学的知見を前提として当該医薬品が治療上の効能,効果又は性能を有することであるから,抗がん剤の有効性の確認についても,その時点における医学的,薬学的知見が判断基準とされるべきである。 そして,承認時における抗がん剤の有効性を確認するための資料としては,前記(1)ア,イ,カの認定事実によれば,法令上,毒性試験や臨床試験等の各種試験成績等が規定されており,日本の医学及び薬学の分野においては,ヘルシンキ宣言以降,新しい医薬品は,最終的にヒトを対象とする試験すなわち臨床試験によって,有効性と安全性が確認されなければならないこ とが共通の認識とされているものというべきであるし,昭和54年法律第56号による薬事法の改正において,医薬品の有効性及び安全性を確保するための承認に関する規定の整備の一環として,承認審査資料として臨床試験の試験成績に関する資料等の添付が義務付けられた経緯や,臨床試験はその試験成績の信頼性を確保するための厳格な基準が設けられていることなどからすれば,医薬品の有効性を確認するための中心となる資料は,臨床試験の試験成績であるということができる。 また,現時点における医薬品の有効性を確認するための判断資料としても,上記のとおり,臨床試験の試験成績が中心に位置付けられるべきである。もっとも,後記6(1)のとおり,臨床試験の試験成績以外の各種症例報告等についても,その証拠価値を吟味した上であれば,これを医薬品の有効性を確認するための判断資料から除外すべき理由はない。 (3) 臨床試験の評価方法(判断基準)についてア旧ガイドラインにおけるⅡ相承認について(ア) 旧ガイドラインの合理性について前記(1)イないしオの認定事実によれば,承認審査資料の中の試験に関するものについては,その信頼性を確保する基 ア旧ガイドラインにおけるⅡ相承認について(ア) 旧ガイドラインの合理性について前記(1)イないしオの認定事実によれば,承認審査資料の中の試験に関するものについては,その信頼性を確保する基準となる指針が試験群ごとに定められており,一般的な医薬品の臨床試験の指針として一般指針や統計的原則等が定められている。 旧ガイドラインは,抗がん剤についての臨床試験の指針として,臨床試験がその時点における医学薬学等の学問水準に基づいて適正に実施されることを確保するという合理的な目的から定められたものである。すなわち,旧ガイドラインは,がん専門医らにより構成された委員会による検討を経て平成3年2月に作成されたものであって,当時の抗がん剤治療の分野における医学的・薬学的知見が反映されたものということができる。その後平成17年11月に,抗がん剤の新薬の開発・審査を巡 る状況に大きな変化が認められたとして旧ガイドラインが改訂され,新ガイドラインが定められるまでの間,旧ガイドラインが前提としていた医学的,薬学的知見は合理性を有していたものというべきである。 (イ) Ⅱ相承認について前記(1)イないしオの認定事実によれば,旧ガイドラインでは,第Ⅱ相試験が,腫瘍縮小効果(抗腫瘍効果)を中心に評価するもので,比較試験によることは要求されていないのに対し,第Ⅲ相試験が,延命効果を中心に評価するもので,新抗悪性腫瘍薬の単独又は併用療法と適切な対照群との比較試験であることを前提に,第Ⅱ相試験までの結果により承認を得ることを可能とし,第Ⅲ相試験については,承認時までにその試験計画書を提出することで足り,その試験成績は承認後に提出することを認める方法(Ⅱ相承認)が採られていた。 このようなⅡ相承認が認められた理由は,第Ⅲ相試験が予定するがん腫ご ,承認時までにその試験計画書を提出することで足り,その試験成績は承認後に提出することを認める方法(Ⅱ相承認)が採られていた。 このようなⅡ相承認が認められた理由は,第Ⅲ相試験が予定するがん腫ごとの比較臨床試験の実施に関しては,旧ガイドラインが通知された平成3年当時,がん腫ごとに治験の対象患者が集まりにくく,症例数も限られている上,プラセボと新薬との比較臨床試験が倫理上できない場合があり,また,がんに対する化学療法の分野において比較の対象とする標準的治療法が確立されていないなどの事情が存在し,第Ⅲ相試験が予定する比較臨床試験により延命効果を検証するには相当の時間を要する状況にあったことにある。その後の新ガイドラインが通知された平成17年11月ころには,がん腫によっては,対象患者や症例数において国内で大規模な第Ⅲ相試験が可能な状況が生じ,さらに海外の臨床試験の結果を利用することが可能になったことなど新薬の開発・審査を巡る状況に大きな変化があったというのである。 また,現在においても,臨床現場においては,抗がん剤による化学療法の治療効果は,主として画像診断による腫瘍縮小効果の程度により判 断されていることに加え,後記(4)イの認定・判断のとおり,新ガイドラインが通知された平成17年11月ころまでは,腫瘍縮小効果と延命効果との間には合理的な相関関係があり,第Ⅱ相試験において一定の腫瘍縮小効果が認められた場合には,一定の延命効果があることを合理的に予測することが可能であると考えられていたというのである。 そうすると,旧ガイドラインが通知された平成3年当時以降平成17年11月ころまでの間は,Ⅱ相承認は,その必要性が高く,当時の医学的,薬学的知見に照らして合理性を有するものであったということができる。 (ウ) 小括以上に 通知された平成3年当時以降平成17年11月ころまでの間は,Ⅱ相承認は,その必要性が高く,当時の医学的,薬学的知見に照らして合理性を有するものであったということができる。 (ウ) 小括以上によれば,平成14年7月時点においては,承認前には,必ずしも比較試験が実施されることは不可欠ではなく,腫瘍縮小効果(抗腫瘍効果)を代替評価項目として有効性を評価するとされていたことに合理性があったものというべきである。 また,前記(1)認定の事実及び後記(4)イの認定・判断を総合すれば,第Ⅲ相試験においては,臨床試験の試験成績,症例報告等を考慮した上,延命効果を検証するために生存期間(生存期間中央値,時点生存割合)や無増悪生存期間を主要評価項目とし,主要評価項目において標準的治療法に対して優越性が証明された場合,又は標準的治療法との同等性が証明され,QOL,症状緩和効果等の代替評価項目を総合的に考慮して,第Ⅲ相試験の対照群とされた標準的治療法よりも治療上の利益が大きいことが認められた場合には,当該医薬品には有効性が認められ,当該医薬品は標準的治療法に組み込まれるべきであると判断される。もっとも,腫瘍縮小効果と延命効果との間には合理的な相関関係があり,第Ⅱ相試験において一定の腫瘍縮小効果が認められた場合には,一定の延命効果があることを合理的に予測することが可能であると考えられて いたことが前提であるから,標準的治療法を対照群とした第Ⅲ相試験において仮に優越性ないし非劣性が統計学的に証明されなかったとしても,当該医薬品自体の有効性が直ちに否定されるものではなく,承認後に判明した医学的,薬学的知見,臨床試験の試験成績や症例報告等により承認時に肯定された有効性が欠けると認められる場合に,当該医薬品の有効性が否定されるものであるというべ 定されるものではなく,承認後に判明した医学的,薬学的知見,臨床試験の試験成績や症例報告等により承認時に肯定された有効性が欠けると認められる場合に,当該医薬品の有効性が否定されるものであるというべきである。 イ原告らの主張原告らは,旧ガイドラインによるⅡ相承認の考え方は採用できないとし,その理由として,①一般指針がⅢ相承認を前提としていること,②Ⅱ相承認の考え方に合理性がなく,旧ガイドラインは厚生省の政策にすぎないこと等を主張する。 しかし,前記①についてみると,前記(1)イないしエの認定事実によれば,一般指針の基礎となった旧一般指針では,医薬品の臨床試験のデザイン,実施,解析等に関する一般的な原則を示すことなどを目的とし,個々の薬物については各薬効群ごとの臨床評価方法に関するガイドラインを参考にすることが望ましいとされており,この点は旧一般指針を基礎に作成された一般指針でも同様とされ,平成3年に通知された旧ガイドラインは,平成10年に一般指針が通知された後も維持されていたのであるから(乙D4〔別紙「試験の指針」7項〕),一般指針において第Ⅲ相における試験により承認が予定されているとしても,抗がん剤において旧ガイドラインに従って第Ⅱ相試験により承認することは,一般指針自体が予定していたものと解するのが相当である。 原告らの主張の②についてみると,前記ア(ア)の認定・判断のとおり,旧ガイドラインは,一般指針や統計的原則と同様,臨床試験がその時点における医学薬学等の学問水準に基づき,適正に実施されることを確保するという合理的な目的から定められたものであって,当時の抗がん剤治療の 分野における医学的・薬学的知見が反映されたものであって,新ガイドラインが定められるまでの間,旧ガイドラインが前提としていた医学的,薬学的 定められたものであって,当時の抗がん剤治療の 分野における医学的・薬学的知見が反映されたものであって,新ガイドラインが定められるまでの間,旧ガイドラインが前提としていた医学的,薬学的知見は合理性を有していたものというべきである。 以上のとおりであるから,原告の前記各主張は理由がない。 (4) 有効性の指標(評価項目)についてア抗がん剤の有効性の評価における真の評価項目と代替評価項目前記第3章第3の1(3)の事実及び第5章第2の2(1)ウ,エ,キの認定事実によれば,真の評価項目とは,患者の最終的な治療上の利益に直接関係する指標を評価する項目であるところ,抗がん剤による治療を受けるがん患者にとっての治療上の利益とは,延命効果が得られることはもちろん,その間の肉体的苦痛の軽減や精神的満足度等というQOLもまた治療上の利益に他ならないというべきである。したがって,抗がん剤の有効性の評価における真の評価項目は,本来,延命及びQOLであるというべきである(甲H18〔581頁〕参照)。 第5章第2の2(1)ウによれば,旧ガイドラインでは,患者の治療上の利益が延命及びQOLであることを前提にしつつも,延命を最も重視し,第Ⅲ相試験では延命効果等を中心とした臨床効果を検討することとされ,生存率,生存期間を主要評価項目とし,他の適切な評価項目としてQOL等を求め,上記主要評価項目で同等性が証明された場合は,QOLの改善(患者の肉体的苦痛の軽減,精神的満足度等)等の有用性が示される必要があるとされる。このように,旧ガイドラインは,治療上の利益のうち延命効果を中心とし,QOLを副次的なものとして位置付けていたと認められる。新ガイドラインにおいても,上記の治療上の利益に関する評価項目の位置付けは異ならないと認められる(甲D35〔35,4 のうち延命効果を中心とし,QOLを副次的なものとして位置付けていたと認められる。新ガイドラインにおいても,上記の治療上の利益に関する評価項目の位置付けは異ならないと認められる(甲D35〔35,48頁〕,乙D7〔Ⅳの1,注4〕,乙D5〔9頁〕参照)。 このように,旧ガイドラインにおいては,主たる真の評価項目は延命利益であるとされていたが,延命利益を直接評価する生存期間という指標(評価項目)は,大きなサンプルサイズと長い追跡期間を必要とすることから臨床試験の実施が困難であることや,治療効果について後治療による影響を受けない解析や評価が難しいといった問題がある。そこで,第Ⅱ相試験及び第Ⅲ相試験の特性に応じ,特定の評価項目が生存期間を間接的に評価する指標として適切である場合には,代替評価項目として主要評価項目とすることができるとされていたのである(第5章第2の2(1)ウ(ア)d)。 イ第Ⅱ相試験における有効性の評価(生存期間と腫瘍縮小効果)(ア) 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,腫瘍縮小効果(奏効率)と生存期間(延命効果)との関係に関する医学的知見は,以下のとおり認められる。 a BUYSE ら「反応と生存の関係について」(STATISTICSINMEDICINE平成8年(1996 年):甲H61[枝番号1,2])生存期間と反応の関係を調査するために使用されているいくつかのアプローチについて検討したものである。 腫瘍縮小効果から延命効果を予測するという分析方法は,患者の持つ予後因子(全身状態(PS),喫煙歴,治療組入期間等)を予め均質に各被験群に振り分けること(無作為化)をしないで,群を単純比較すると,各群の予後因子の差異の影響により見かけ上の違いがもたらされてしまうという問題があることに加え,群とし 療組入期間等)を予め均質に各被験群に振り分けること(無作為化)をしないで,群を単純比較すると,各群の予後因子の差異の影響により見かけ上の違いがもたらされてしまうという問題があることに加え,群としてデータを用いた解析をした場合,当該群を構成する個別患者における個体差が捨象されてしまうという問題がある等重大な統計学的な問題があるとしている。【甲H61〔2~6,12頁〕】b 西條長宏ら「非小細胞肺癌の第Ⅱ相臨床試験における新規細胞毒性 剤の評価法としての奏効率」(AnnalsofOncology:平成10年(1998 年)10月,乙H38[枝番号1,2])昭和51年(1976 年)から平成7年(1995 年)までに行われた非小細胞肺がんに対する単一薬剤による176件の第Ⅱ相試験の結果について,西條ら国立がんセンターのグループが,生存期間中央値と奏効率との間の統計学的な相関関係を検証したものである。 他の変数を補正後,生存期間中央値(MST)と奏効率との間に有意な相関関係が認められたとした。 【乙H38[枝番号2]〔5頁〕,乙E19〔20~21頁〕,乙E20〔62~64頁〕】c T.TimothyChen ら「進行期小細胞肺癌の第Ⅲ相試験のための化学療法レジメン選択のモデル」(JounaloftheNationalCancerInstitute,平成12年(2000 年)10月,甲H27[枝番号1,2])昭和47年(1972 年)から平成2年(1990 年)までの間に開始された進行期の小細胞肺がん患者を対象とした21の第Ⅲ相試験の結果についての情報を再検討し,第Ⅱ相試験を基にその後の第Ⅲ相試験に用いる化学療法レジメンを選択する際の一助とするための統計学的モデルの作成を試みたものである。 第Ⅱ 対象とした21の第Ⅲ相試験の結果についての情報を再検討し,第Ⅱ相試験を基にその後の第Ⅲ相試験に用いる化学療法レジメンを選択する際の一助とするための統計学的モデルの作成を試みたものである。 第Ⅱ相試験で有望と思われた試験レジメンが第Ⅲ相試験で標準的治療に比較して生存期間の延長につながることが稀にしかないことが明らかとなったとし,少なくとも進行期小細胞肺がんに関しては,第Ⅱ相試験の患者で得られた奏効率が,第Ⅲ相の試験結果の至適予知因子とならないのではないかということを示唆した。 【乙E27[枝番号2]〔1,7頁〕】d 西條長宏ら「分子標的治療薬の臨床評価法に関する問題点」(「血 液・腫瘍科」:平成16年(2004 年),甲H18)分子標的治療薬の特性を考慮し,従来の抗がん剤の臨床評価法がそのまま当てはまるかについて適切に考慮する必要性を指摘したものである。 従来の抗がん剤の臨床試験が,腫瘍縮小効果によって生存期間延長やQOL改善がもたらされるという前提に基づいてデザインされてきたことを前提に,従来の抗がん剤でも,第Ⅱ相試験での奏効率の大小では第Ⅲ相試験での生存期間の延長を予測できないことが指摘されていること,分子標的治療薬の主眼が短期間の腫瘍縮小効果よりも長期間の増殖抑制効果に置かれていること等から,分子標的治療薬では奏効率のみでの評価では不十分であり,その特性に即したエンドポイントを別に設定する必要があるとした。 【甲H18〔579~582頁〕,乙E20〔65頁〕】e 福岡正博ら「進行性非小細胞肺癌の二次治療において,上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤と殺細胞性抗癌剤との間で,病勢安定を達成する上での重要性に差はあるか」(JournalofThoracicOncology:平成18年(200 いて,上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤と殺細胞性抗癌剤との間で,病勢安定を達成する上での重要性に差はあるか」(JournalofThoracicOncology:平成18年(2006 年)9月,丙E34[枝番号5の1,2])平成8年(1996 年)から平成16年(2004 年)までに結果が報告された合計54の非小細胞肺がんのセカンドラインにおける臨床試験結果を集め,統計学的な解析を行い,病勢安定(不変・SD)が延命効果に繋がるか否かを検討するとともに,奏効(完全奏効[CR]及び部分奏効[PR])と延命効果との関連性についても検討したものである。 病勢安定(不変:SD)及び奏効ともに,奏効率と延命との間に,統計学的に有意な関連性が認められた。もっとも,全生存期間の延長 との関連性は病勢安定よりも奏効の方がより強く,延命効果を得るためには奏効率を得ることがより重要であるとした。 【丙E33〔7頁〕,丙E34[枝番号5の2]〔1,6~7頁〕,証人福岡主尋問〔30~31,83~84頁〕,反対尋問〔31~33頁〕】f P.Bruzzi らによる研究報告「非小細胞肺癌における延命の代替エンドポイントとしての化学療法奏効率:個別患者データにおけるメタアナリシスの結果」(米国腫瘍学会(ASCO):平成19年(2007年)6月,乙H46)進行性非小細胞肺がんについて,抗腫瘍効果(奏効率)を延命の代替エンドポイントとすることの妥当性を評価するため,9つの臨床試験における患者2525例についてメタアナリシスにより分析したものである。 完全奏効(CR)及び部分奏効(PR)の患者それぞれについて,抗腫瘍効果(奏効率)が延命効果(生存期間)と相関しているとされ,奏効率は延命の予測因子として極めて高い有意性を示して たものである。 完全奏効(CR)及び部分奏効(PR)の患者それぞれについて,抗腫瘍効果(奏効率)が延命効果(生存期間)と相関しているとされ,奏効率は延命の予測因子として極めて高い有意性を示しており,進行性非小細胞肺がんにおいては,化学療法による抗腫瘍効果の達成が延命効果と関連するとの仮説が裏付けられたとした。 【乙H46[枝番号2]〔1頁〕,丙E33〔7頁〕】g PrimoN.LaraJr ら「進行性非小細胞肺癌における,8週時の病勢コントロール率による臨床的利益の予測:SWOG無作為化試験の成績」(JournalofClinicalOncology:平成20年(2008 年)1月,乙H40)米国腫瘍学会(ASCO)の機関誌に掲載されたものである。 SWOGによるプラチナ製剤ベース化学療法についての3件の無作為化試験に登録された非小細胞肺がん患者984例の成績に基づい て,奏効率,登録後8週,14週,20週時の生存率を検討することにより,完全奏効(CR)及び部分奏効(PR)からなる腫瘍縮小効果(奏効率)と延命効果との相関性を検証するとともに,進行性非小細胞肺がんにおいては,多くの患者が不変(SD)か進行(PD)に分類されることを考慮し,CR,PR,SDからなる病勢コントロール率(DCR)が生命予後の予見因子であることを検証したものであり,症例数が約1000例と多く,1例ずつの症例報告に立ち返って検討が行われたものである。 8週時に奏効を達成した患者は,非達成者よりも,生存期間が有意に長く,14週及び20週の結果には上記8週時のものと比べて重要な新知見は見られなかったとされ,さらに,進行性の非小細胞肺がんでは,8週時の病勢コントロール率(DCR)は奏効率よりも強力な生命予後の予見因子であることを 週の結果には上記8週時のものと比べて重要な新知見は見られなかったとされ,さらに,進行性の非小細胞肺がんでは,8週時の病勢コントロール率(DCR)は奏効率よりも強力な生命予後の予見因子であることを示唆した。 【乙H40[枝番号2]〔1,7頁〕,乙E20〔134~135頁〕】h KatherineR.Birchard ら「進行した病期の非小細胞肺がんに対する治療における腫瘍サイズの初期変化は生存期間と相関しない」(Canser:平成21年(2009 年)2月,甲H67[枝番号1,2])平成15年(2003 年)に進行性非小細胞肺がんの治療のために来院し,治療前後にコンピューター断層写真(CT)検査を受け,結果が精査できた合計99例の患者を対象に,腫瘍縮小効果と生存期間の関係を検証したものである。 初期の腫瘍縮小効果と生存期間との間には明確な関係は認められず,腫瘍サイズのなんらかの最初の縮小があった患者でも,初期に腫瘍進行が見られた患者と比べて生存期間に有意差はなかったとし,進行性非小細胞肺がん患者においては,腫瘍サイズの初期変化と生存期 間の間に関係が存在することを示す証拠はないとした。 【甲H67[枝番号2]〔1~2頁〕】i WolfgangA.Weber 「治療による腫瘍縮小効果の評価」(THEJOURNALOFNUCLEARMEDICINE:平成21年(2009 年)5月,甲H66[枝番号1,2])CTによる二次元的な腫瘍縮小効果の評価の困難性を指摘し,陽電子放出断層撮影(PET)による分子イメージングとブドウ糖の類似体F標識FDGPET(F-FDGPET)が正確に腫瘍縮小効果の評価できる可能性を示唆するものである。 治療後腫瘍が縮小しても,他の腫瘍特性が好ましくない場合は,必ずしも ージングとブドウ糖の類似体F標識FDGPET(F-FDGPET)が正確に腫瘍縮小効果の評価できる可能性を示唆するものである。 治療後腫瘍が縮小しても,他の腫瘍特性が好ましくない場合は,必ずしも良好な予後が予測されないとし,進行性非小細胞肺がん患者を対象として,化学療法後の腫瘍サイズの変化と生存期間の変化の相関関係を評価したLaraJr 論文(前記g)とBirchard 論文(前記h)を紹介した上で,非小細胞肺がんのように急速に増殖する腫瘍においてさえ,腫瘍縮小効果と転帰間の相関関係は完璧からほど遠いことを示しているとした。これに対し,F-FDGPETによれば,残存する生存腫瘍組織を治療によって誘発された壊死及び線維症から正確に区別することができ,CT検査上は残存腫瘍塊が見られても,治療による良好な縮小効果が見られる患者を特定することができ,そのような患者の予後が良好であることを指摘している。(甲66[枝番号2]〔7~8,11頁〕)(イ) 第Ⅱ相試験で腫瘍縮小効果(奏効率)を代替評価項目とすることの当否a 前記(1)ウ,エ,キの認定事実によれば,代替評価項目が真の評価項目を間接的に評価する指標として適切であるというためには,代替評価項目を使うことにより,十分合理的に臨床上の結果を予測しうる 場合又は臨床上の結果を予測しうることがよく知られている場合であることが必要であり(一般指針),具体的には,①代替評価項目と臨床的結果の関連の生物学的合理性,②代替評価項目が臨床的結果の予後を予測する上で有益であると疫学研究によって示されていること,③臨床治療の代替評価項目に対する効果が臨床的効果と対応しているという臨床結果があることが必要である(統計的原則)。 原告らは,(a)腫瘍縮小効果と生存期間との間に相関関係があ て示されていること,③臨床治療の代替評価項目に対する効果が臨床的効果と対応しているという臨床結果があることが必要である(統計的原則)。 原告らは,(a)腫瘍縮小効果と生存期間との間に相関関係があるというだけでは,腫瘍縮小効果を代替評価項目とすることが適切であるということはできず,腫瘍縮小効果(代替評価項目)が生存期間(臨床的効果)に対する最終的な効果を十分に捉えられるものである必要がある,(b)第Ⅱ相試験の評価項目はスクリーニング目的で設定されたものであるから,奏効率は延命効果の予測の精度を一定程度犠牲にすることを予定したものであり,Ⅱ相承認制度は,腫瘍縮小効果から延命効果を合理的に予測できることを前提とした制度設計ではなかった旨主張する。 しかし,前記(a)についてみると,代替評価項目が臨床的効果に対する最終的な効果を十分に捉えられるものであるか否かは,代替評価項目と臨床的効果との相関関係の程度によっても異なるというべきであり,前記①~③の要件を満たし,代替評価項目と臨床的結果との間に有意な相関関係が認められる場合には,当該代替的評価項目は適切であると評価することができるというべきである。また,前記(b)についてみると,第Ⅱ相試験の目的の一つに期待有効率以上の効果がなければ有用な抗悪性腫瘍薬としては認められず第Ⅲ相試験も行わないという意味において,スクリーニング目的があったとしても,第Ⅱ相試験が腫瘍縮小効果から延命効果を合理的に予測できることを前提としていたこととは何ら矛盾しない。なお,Ⅱ相承認の制度において, 承認後にさらに第Ⅲ相試験を行うことが予定されているのは,承認前に代替評価項目から真の評価項目を合理的に予測した場合であっても,承認後に真の評価項目を直接評価することができる条件が整った時点において,第 にさらに第Ⅲ相試験を行うことが予定されているのは,承認前に代替評価項目から真の評価項目を合理的に予測した場合であっても,承認後に真の評価項目を直接評価することができる条件が整った時点において,第Ⅲ相試験により上記予測の合理性を確認することが望ましいとの考え方に基づくものであるから,この点も,第Ⅱ相試験が代替評価項目から真の評価項目を合理的に予測できることを前提としていたことと矛盾しない。 b 前記aの①(代替評価項目と臨床的結果の関連の生物学的合理性)は,前提事実(前記第3章第2の1(1),(3))及び前記(1)キの認定のとおり,がんとは,遺伝子変異を起こしたがん細胞が,無制限かつ無秩序に増殖し,浸潤や転移をすることによって,浸潤・転移先の器官や臓器に機能障害をもたらし,最終的には患者を死に至らしめる疾患であるから,がん細胞の縮小又は消滅があれば,増殖,浸潤,転移といったがんの進行を遅らせ,その結果として患者の死を遅らせることができると考えるのが合理的であることに加え,臨床現場においては,抗がん剤による化学療法の治療効果は,主として画像診断による腫瘍縮小効果の程度により判断されていることに照らせば,腫瘍の縮小が延命につながると考えることには,生物学的な合理性があるというべきである。 c 前記aの②(代替評価項目が臨床的結果の予後を予測する上で有益であると疫学研究によって示されていること)及び③(臨床治療の代替評価項目に対する効果が臨床的効果と対応しているという臨床結果があること)は,前記(ア)認定の研究報告には,腫瘍縮小効果と生存期間との統計学的な相関関係について,臨床試験の結果を基に検証した研究報告として,平成14年7月以前には前記イ(ア)bの西條ら論文(平成10年)及び前記イ(ア)cのChen 論文(平成12年)があ 期間との統計学的な相関関係について,臨床試験の結果を基に検証した研究報告として,平成14年7月以前には前記イ(ア)bの西條ら論文(平成10年)及び前記イ(ア)cのChen 論文(平成12年)があ り,平成14年7月以降には前記イ(ア)eの福岡論文(平成18年),前記イ(ア)fのBruzzi 報告(平成19年),前記イ(ア)gのLaraJr 論文(平成20年)及び前記イ(ア)hのBirchard 論文(平成21年)がある。また,腫瘍縮小効果と生存期間との統計学的な相関関係について,臨床試験の結果を基に検証したものではないが,一定の問題点を指摘した論文として,平成14年7月以前には前記イ(ア)aのBUYSE 論文(平成8年)があり,平成14年7月以降には前記イ(ア)dの西條論文(平成16年)及び前記イ(ア)iのWeber 論文(平成21年)がある。 平成14年7月以前の研究報告についてみると,前記イ(ア)bの西條論文(平成10年)は,臨床試験176件という十分な母数を対象として,奏効率と生存期間中央値(MST)との間に有意な相関関係が認められたというのであり,生存期間中央値は全生存期間分布を特徴付ける代表値であるから,奏効率と生存期間との間に有意な相関関係があることを示すものいえる。これに対し,前記イ(ア)cのChen 論文(平成12年)は,進行期小細胞肺がんに関して,第Ⅱ相試験の患者で得られた奏効率が,第Ⅲ相の試験結果の至適予知因子とならないことを示唆したものであって,非小細胞肺がんに関する考察とは異なるものである。前記前記イ(ア)aのBUYSE 論文は,腫瘍縮小効果から延命効果を予測するという分析方法について否定的な見解を示すが,延命効果を真の評価項目とし,腫瘍縮小効果を代替評価項目とした場合の統計学的分析の問 記イ(ア)aのBUYSE 論文は,腫瘍縮小効果から延命効果を予測するという分析方法について否定的な見解を示すが,延命効果を真の評価項目とし,腫瘍縮小効果を代替評価項目とした場合の統計学的分析の問題点を指摘するものであって,腫瘍縮小効果が延命効果を予測する上で有益であること自体を否定するものではない。 なお,原告らは,平成11年(1999 年)に掲載された,福岡正博らの論文「非小細胞肺癌の治療戦略」(甲H10)において,試験結 果として挙げられている合計12の比較試験のうち,5つの試験において,より高い奏効率が見られた群において,生存期間中央値(MST)が短くなるというねじれ現象が報告されている旨主張する。しかし,そこで挙げられている比較試験は,いずれも症例数が200例前後と少なく,生存期間中央値(MST)を検証するに十分なものであったということはできない。 さらに,平成14年7月以降の研究報告をみると,前記イ(ア)e の福岡論文(平成18年),前記イ(ア)f のBruzzi 報告(平成19年),前記イ(ア)gのLaraJr 論文(平成20年)は,腫瘍縮小効果(奏効率)と延命効果との間には相関関係があるとした。特に,前記イ(ア)gのLaraJr 論文(平成20年)は,前記イ(ア)aのBUYSE 論文(平成8年),前記イ(ア)dの西條らの論文(平成16年)等により,延命効果を真の評価項目とし,腫瘍縮小効果を代替評価項目とした場合の,予後因子バイアス(一般に,各患者の有する予後因子(全身状態[PS],喫煙率,治療組入期間等)を予め均等に各被験群に振り分けないで試験を実施し,各群を単純比較すると,各群の予後因子の差異の影響により,見かけ上の違いがもたらされてしまうこと。),タイムバイアス(奏効者については,奏効が観察 を予め均等に各被験群に振り分けないで試験を実施し,各群を単純比較すると,各群の予後因子の差異の影響により,見かけ上の違いがもたらされてしまうこと。),タイムバイアス(奏効者については,奏効が観察されるまで生存していることが必要となることから,治療による延命効果の有無に関係なく,非奏効者よりも生存期間が長くなるというバイアス)等による統計学的分析の困難性が指摘されていたことを踏まえ,約1000症例という十分な母数を対象に,1例ずつの症例報告に立ち返って検討を行うことにより,予後因子バイアスの影響を少なくするよう配慮される等,その分析結果も信頼性の高いものということができる。 前記イ(ア)hのBirchard 論文(平成21年)では,初期に腫瘍進行 が見られた患者と比べて生存期間に有意差はなかったとされているが,対象とされた症例が約100症例と少ないことから,腫瘍縮小効果と生存期間との関係を検証するには十分な比較であったということはできない。 なお,近年,腫瘍縮小効果(CR及びPR)ではなく,これにSDを加えた病勢コントロール率と生存期間との相関関係や,腫瘍の測定方法としてCTによる二次元的な測定ではなくF-FDGPETにより残存腫瘍塊とは区別された治療による良好な縮小効果を測定する方法により得られた結果と生存期間との相関関係を検討すべきであるとの見解も現れているが,これらは,腫瘍縮小効果から生存期間を合理的に予測することができるとの見解と矛盾するものではない。 したがって,平成14年7月当時,代替的評価項目である腫瘍縮小効果が臨床結果の予後(延命効果)を予測する上で有益であるとの研究成果が存在し,また,臨床治療の代替評価項目に対する効果が臨床的効果と対応しているという研究成果も存在していたと認めるのが相当である 効果が臨床結果の予後(延命効果)を予測する上で有益であるとの研究成果が存在し,また,臨床治療の代替評価項目に対する効果が臨床的効果と対応しているという研究成果も存在していたと認めるのが相当である。 d 以上によれば,平成14年7月当時においては,腫瘍縮小効果が生存期間との間に合理的な相関関係があるとの医学的知見が一般的であったと認めることができ,腫瘍縮小効果は,生存期間を予測する上で信頼性のある代替評価項目であったと認めるのが相当である。 ウ第Ⅲ相試験における有効性の評価(生存期間,無増悪生存期間,QOL等)(ア) 生存期間(生存期間中央値,時点生存割合)前記(1)ウ,エ,キの認定事実によれば,統計的原則によれば,主要評価項目は,通常,真の評価項目(患者の最終的な治療効果に直接関係する指標を評価するもの)を用いるものとされており,旧ガイドライン は,第Ⅲ相試験について,延命効果を中心に評価するものであって,主要評価項目を生存率,生存期間とするとしていた。 そして,生存期間中央値(MST)と時点生存割合のいずれも,全生存期間分布を特徴付ける代表値で生存期間を比較する場合に使用される指標であるというのであるから,第Ⅲ相試験においてこれらの指標により延命効果を評価することには合理性があると認める。 (イ) 無増悪生存期間a 前記(1)ウ,エ,キの認定事実によれば,無増悪生存期間は,割付日から客観的ながんの増悪が確認された時点又は死亡のいずれか早い時点までの期間であり,延命利益そのものを直接評価する指標であるということはできない。 しかし,旧ガイドラインが作成された平成3年当時,延命効果を直接検証することができる評価項目としては,無増悪生存期間は想定されていなかったが,その後の医学的知見の発展により,無増 ことはできない。 しかし,旧ガイドラインが作成された平成3年当時,延命効果を直接検証することができる評価項目としては,無増悪生存期間は想定されていなかったが,その後の医学的知見の発展により,無増悪生存期間は,後治療による影響を受けないこと,生存期間を主要評価項目とするより少ないサンプルサイズで短い追跡期間で足りることなどから,近年,無増悪生存期間を代替評価項目とする臨床試験が多く見られるようになったというのである。 b そこで,第Ⅲ相試験において適切な代替評価項目を主要評価項目とすることの当否についてみると,旧ガイドラインの第Ⅲ相試験では生存率,生存期間を主要評価項目とするとされ,旧ガイドライン作成時には代替評価項目を主要評価項目とすることは想定されていなかったと考えられるが,旧ガイドラインの作成後に広く用いられるようになった適切な代替評価項目を主要評価項目とすることは,医学薬学の学問水準に基づいて適正に臨床試験が実施されることを確保するとの旧ガイドラインの趣旨に反するものではないというべきであるし,ま た,新ガイドラインが,代替評価項目を主要評価項目とすることができるとの最近の知見に基づいて,主要評価項目を,「生存率,生存期間」とせず,「生存率,生存期間等」との記載をしていることも併せ考慮すると,旧ガイドライン下における第Ⅲ相試験においても適切な代替評価項目を主要評価項目とすることは許容されるというべきである。 次に,無増悪生存期間が延命利益(生存期間)を評価するための適切な代替評価項目であるかについてみると,前記2(1)認定の事実のとおり,代替評価項目を用いることができるのは十分合理的に臨床上の結果を予測しうる場合又は臨床上の結果を予測しうることがよく知られている場合であることが必要であるところ(一般指針) 1)認定の事実のとおり,代替評価項目を用いることができるのは十分合理的に臨床上の結果を予測しうる場合又は臨床上の結果を予測しうることがよく知られている場合であることが必要であるところ(一般指針),近年,無増悪生存期間を代替評価項目とする臨床試験が多く見られるようになったこと,また,分子標的治療薬は腫瘍の増殖抑制効果に主眼を置くという性質を有するものであるから(前記第1の1),無増悪生存期間が臨床上の結果であるといえることを併せ考慮すると,無増悪生存期間は,無増悪生存期間が延命利益(生存期間)を評価するための適切な代替評価項目であるとすることには十分な合理性がある。 以上によれば,第Ⅲ相試験において,無増悪生存期間を適切な代替評価項目として主要評価項目とすることは許容されるというべきである。もっとも,無増悪生存期間は,新しい評価項目であって,進行性肺がん治療の評価指標としては確立されていないとの指摘もあること(乙E18〔10頁〕)からすれば,その試験結果については慎重な評価が必要となるものと考えられる。 c 原告らは,無増悪生存期間は,生存期間の代替評価項目であるとしても,結局,腫瘍縮小効果とその継続期間を見ているにすぎないことから,腫瘍縮小効果と同様の問題点がある旨主張する。 しかし,腫瘍縮小効果と無増悪生存期間とは,その概念が異なるものである上,分子標的治療薬が増殖抑制効果に主眼を置くという性質を有することからすれば,無増悪生存期間を代替評価項目として用いる場合に腫瘍縮小効果と同様の問題があるということはできない。 (ウ) QOL,症状緩和効果等前記(1)エ,キの認定事実及び前記(4)アの認定・判断によれば,旧ガイドラインでは,主要評価項目(生存率,生存期間)以外の他の適切なエンドポイントとしてQOL等 (ウ) QOL,症状緩和効果等前記(1)エ,キの認定事実及び前記(4)アの認定・判断によれば,旧ガイドラインでは,主要評価項目(生存率,生存期間)以外の他の適切なエンドポイントとしてQOL等を求め,これらに対し,何らかの有用性が示される必要があるとされ,上記主要評価項目で同等性が証明された場合は,他の特性,例えばQOLの改善(患者の肉体的苦痛の軽減,精神的満足度等)などの有用性が示される必要があるとされており,QOLだけを評価項目として延命効果を評価項目としないとすることはできず,QOLは副次的評価項目として位置付けられたと認められる。 したがって,第Ⅲ相試験の延命効果を中心とした評価においては,前記主要評価項目で同等性が証明された場合に,これに付加してQOL,症状緩和効果等についても評価することが許容されると解するのが相当であり,主要評価項目において同等性等が証明されない場合に,QOL,症状緩和効果等のみによって有効性があると評価することはできないというべきである。 3 非小細胞肺がんに関する知見とその治療法の進展(1) 肺がんと非小細胞肺がんの病態と特色前提事実(前記第3章第2の2)並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,肺がんと非小細胞肺がんの特色・病態については以下のとおり認められる。 ア肺がんの病態と特色(ア) 肺がんの病態 【乙E11,19,乙H3,41,丙H1,2[枝番号5],7】a 発症に関連する病態肺がんは,気管,気管支,肺胞の細胞が正常な機能を失い,無秩序に増えることにより発生する。 肺がん死亡率は喫煙者が非喫煙者に比較して男性で4~5倍,女性で2~3倍であって,喫煙は,他の危険因子に比べて高い(肺がんの中でも,小細胞肺がんや扁平上皮がんは,特に喫煙との関連が深いと する。 肺がん死亡率は喫煙者が非喫煙者に比較して男性で4~5倍,女性で2~3倍であって,喫煙は,他の危険因子に比べて高い(肺がんの中でも,小細胞肺がんや扁平上皮がんは,特に喫煙との関連が深いと考えられている。)。また,肺がん患者には男性喫煙者が多いことから,肺がんの発症は,喫煙と関係が深いと考えられているが,近年では非喫煙者や女性に肺がんが発症する例も増加している。 また,肺がんを発症する割合は加齢とともに増加し,70歳代での発症が多い。 肺がんは,多様な遺伝子変化を伴っており,その解明が徐々に進められているが,細胞ががん化する機序はいまだ判明していない。 b 進行に関連する病態肺がんは,他のがんと比べて,原発巣が小さなうちから,転移を起こしやすいことが特徴である。肺がんの転移先は肺の他の部位が多いが,血行性又はリンパ行性に多臓器転移を起こし,特に脳,骨,肝臓や副腎などに転移しやすく,早期に全身化する。 (イ) 肺がんの経過と症状【乙H3,8,9~11,丙E33,50[枝番号1],丙H1,3,5,6,証人工藤主尋問〔44~46,48~50頁〕】肺がんは,腫瘍の生じる部位や進行度によって症状が様々であるが,一般的には,早期肺がんでは自覚症状に乏しく,病期がⅠ,Ⅱ期(別紙1参照)のものでは約60%が無症状である。 がんが生じた場所による分類でみると,肺門型肺がんでは早期に咳や 血痰が出やすいが,肺野型肺がんでは早期にはほとんど自覚症状がなく,周囲の組織に浸潤又は転移することにより症状が現れ,症状が出たときには既に進行していることが多い。 病理組織型分類でみると,小細胞肺がんでは,特に転移が早いため,咳,血痰や胸痛などの自覚症状が出た時点では,既に肺がんが進行している場合が多い。 肺がんは,浸潤,転移など 行していることが多い。 病理組織型分類でみると,小細胞肺がんでは,特に転移が早いため,咳,血痰や胸痛などの自覚症状が出た時点では,既に肺がんが進行している場合が多い。 肺がんは,浸潤,転移などの進行にしたがって,合併症を含めた多彩な症状を示し,全身の生理学的機能に障害を及ぼす。 a 原発巣及び肺内転移による症状原発巣及び肺内転移による症状には,次のようなものがある。 (a) 咳,息切れ,呼吸困難,呼吸不全,低酸素血症等の呼吸器症状非小細胞肺がんの初期症状は,咳や息切れなどであり,がんが進行し,原発巣のがん細胞が増殖し,肺内で転移すると,呼吸困難に陥り,呼吸不全や低酸素血症となる。 呼吸不全は,肺胞に生じたがんの腫瘍が増大することにより,酸素と二酸化炭素の交換をする喚気面積が減少し,増大した腫瘍が気道を圧迫ないし閉塞し,空気が肺胞に入ってこなくなることによって生じる。 (b) 血痰,喀血等の出血症状非小細胞肺がんの初期症状には,腫瘍表面からの出血に起因する血痰がみられることが多い。腫瘍が進展により,肺動脈からの出血で喀血し,短時間で死亡することがある。 (c) 肺塞栓症等肺内の血管に腫瘍が及んで,完全に血液の流れが途絶した場合や,肺内の血管が腫瘍に圧迫された場合には,血管内に血栓ができることがあり,肺塞栓症又はこれと同じ病態となることがある。 (d) 閉塞性肺炎等の感染症気管支の内腔が狭くなり,空気の出入りが悪くなると,空気が浄化できなくなるため,細菌等の感染が起きやすくなり,閉塞性肺炎と呼ばれる感染性の肺炎を引き起こすことがある。 b 局所浸潤による症状肺がんは,周囲の組織に浸潤することにより,以下のような症状を引き起こす。 (a) 胸痛,嚥下困難がん細胞が胸膜,肋骨や神経に浸潤する の肺炎を引き起こすことがある。 b 局所浸潤による症状肺がんは,周囲の組織に浸潤することにより,以下のような症状を引き起こす。 (a) 胸痛,嚥下困難がん細胞が胸膜,肋骨や神経に浸潤すると,胸痛を生じることがあり,食道に浸潤し,又は食道周囲の縦隔リンパ節に転移して食道を圧迫し,嚥下障害が起きることがある。 肺動脈等を圧迫することにより,顔が腫れたり,上肢の浮腫が起こることがある。 (b) がん性リンパ管症がん性リンパ管症は,気管の周りのリンパ管の中にがん細胞が侵入し,リンパ管内を主体にがんが広範に拡がったものをいう。 リンパ管内にがんが増大することで,リンパ管の閉塞が生じ,肺胞壁などの間質に水分が漏出してガス交換が障害される。がんの浸潤により,間質の線維化が進行し,さらにガス交換が障害される。 (c) がん性胸膜炎,がん性心膜炎がんの進行によって,がん細胞が胸膜に浸潤すると,がん性胸膜炎を起こし,多量の胸水が溜まって呼吸困難を生ずることがある。 がん細胞が心膜に浸潤すると,がん性心膜炎を起こし,心臓と心臓を包む膜の間に液体(心のう水)が溜まり,肺や心臓を圧迫して,息切れ,呼吸困難,動悸や不整脈が生じることがある。 c 遠隔転移による症状 非小細胞肺がんは,脳,骨,肝臓,副腎などに転移しやすく,転移先によって以下のような症状を引き起こす。 (a) 脳転移脳に転移すると,頭痛,吐き気,発語障害,意識障害,精神障害,片麻痺(半身不随),歩行障害などの症状がみられる。 (b) 骨転移骨に転移すると,局所の疼痛,四肢の麻痺,神経痛,排尿障害などがみられ,がんの転移により骨折を起こすこともある。 (c) 肝臓転移転移巣が小さな場合は症状を示さないが,大きな転移巣で肝門部を閉塞する場合には黄疸がみ 疼痛,四肢の麻痺,神経痛,排尿障害などがみられ,がんの転移により骨折を起こすこともある。 (c) 肝臓転移転移巣が小さな場合は症状を示さないが,大きな転移巣で肝門部を閉塞する場合には黄疸がみられることがある。 (d) 副腎転移著しい食欲の低下や体重の減少がみられる。 イ非小細胞肺がんの病態と特色【乙E11,丙E33,34[枝番号1]】非小細胞肺がんは,他のがんと比べて,転移を起こしやすい。 非小細胞肺がんは,小細胞肺がんと比べて増殖速度が遅いが,がん組織やがん細胞が多様であるため,化学療法や放射線療法の感受性が低いとされる。 非小細胞肺がんは早期発見が難しく,患者の70%以上が手術不能の進行した状態(主にⅢB期やⅣ期)で発見される。 (2) 非小細胞肺がんの治療方法と化学療法の効果前提事実(前記第3章第2の3)並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,非小細胞肺がんの治療方法や化学療法の効果について,以下のとおり認められる。 ア非小細胞肺がんの治療方法 【甲H10,乙E11,乙H8,丙E50,丙H2[枝番号5]】(ア) 基本的な治療方針病期と治療方法の対応関係は,別紙23(非小細胞肺がん治療方法一覧表)のとおりである。 (イ) 外科療法外科療法は外科手術によりがん細胞を摘出する方法であり,一般的には外科療法が肺がんに対する唯一の根治療法であると考えられている。 外科療法は,前記(ア)のとおり,ⅠA期からⅢA期までの初期の肺がん患者に対する治療法であるが,実際には手術可能な肺がん患者は少なく,小細胞肺がんではほとんどなく,非小細胞肺がんでも約30%にすぎない。ⅢB期及びⅣ期の症例では,ごく一部を除いて手術が不能であり,またたとえ手術が可能であっても,がんを完全に切除できない場合 く,小細胞肺がんではほとんどなく,非小細胞肺がんでも約30%にすぎない。ⅢB期及びⅣ期の症例では,ごく一部を除いて手術が不能であり,またたとえ手術が可能であっても,がんを完全に切除できない場合には,手術を行うことで転移を早めたり,全身状態を悪化させて日常生活に支障をきたすことになるため,外科療法は通常行われない。 (ウ) 放射線療法放射線療法はX線や他の高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を死滅させる方法であり,放射線をがんの病巣に集中させるため全身的な影響が少ない。 放射線療法は,小細胞肺がんに対しては比較的効果が高いが,非小細胞肺がんに対する効果は高くはないと考えられている。 放射線治療にあたっては,病巣の位置や大きさ,病期,年齢,肺機能に応じて,放射線量,放射線を当てる範囲や照射方法が決定されるが,病期によって実施の目的は異なる。Ⅰ期では,肺がんが局所にとどまっているため,手術と並んで根治治療となりうる。特に,患者に体力がなく,手術に耐えられない高齢の患者にとっては重要な治療の選択肢となる。Ⅲ期では,外科療法や化学療法ができない患者に対して実施するこ とがあり,治療効果を高めるために化学療法と併用することがある。ただし,放射線療法と化学療法の併用は,それぞれの治療法単独で行う場合よりも副作用が大きく,患者の体力や全身状態などから慎重に選択される。Ⅳ期では,主に転移が原因となって生じる症状の緩和を目的として実施されることがある。 (エ) 化学療法化学療法は,抗がん剤を静脈注射,点滴静脈注射又は内服することにより,がん細胞を死滅させることを目的とした治療方法であり,通常,ⅢA期及びⅢB期で放射線治療の対象とならない症例並びにⅣ期の症例,つまり外科療法や放射線療法で治療できない進行した非小細胞肺がん(手 り,がん細胞を死滅させることを目的とした治療方法であり,通常,ⅢA期及びⅢB期で放射線治療の対象とならない症例並びにⅣ期の症例,つまり外科療法や放射線療法で治療できない進行した非小細胞肺がん(手術不能又は手術後再発した進行性非小細胞肺がん)の患者に対して行われる。 非小細胞肺がんは抗がん剤の感受性が低いと考えられている。 イ抗がん剤の開発と化学療法の歴史前提事実(前記第3章第3の1)並びに証拠(甲F41,甲H10,13,乙E11,18,乙H3,8,12~15,丙E33,34[枝番号1],丙H1,3,6,8~10,22,丙I15[枝番号1,2],19[枝番号1,2])及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおり認められる。 (ア) 化学療法の研究の歴史前記第3章第3の1(2)のとおりの時期に,各抗がん剤が開発され,各段階での化学療法は以下のような状況であった。 a 1980年代まで1960年代に開発されたマイトマイシンの腫瘍縮小効果はわずかで,腫瘍の面積が約50%減少する症例(部分奏効(PR)を示す症例)はほとんどなく,化学療法は効果がないと考えられていた。 しかし,1970年代後半に開発されたシスプラチンと1980年 代に開発されたカルボプラチン(いずれもプラチナ製剤)は,ファーストラインの非小細胞肺がん患者に対して,単剤で15~20%の奏効率を示した。そのような中で1980年代には,プラチナ製剤であるシスプラチンを中心とした2~3剤併用療法(シスプラチン+ビンデシン,又はマイトマイシン+ビンデシン+シスプラチン)が多く行われるようになり,2剤併用療法(我が国ではシスプラチン+ビンデシン,海外ではシスプラチン+ビンデシン又はシスプラチン+エトポシド)ではファーストラインにおける奏効率が約30%であった。 が多く行われるようになり,2剤併用療法(我が国ではシスプラチン+ビンデシン,海外ではシスプラチン+ビンデシン又はシスプラチン+エトポシド)ではファーストラインにおける奏効率が約30%であった。 もっとも,上記のプラチナ製剤を中心とした2~3剤併用療法(Ⅳ期の非小細胞肺がん患者に対する投与)における延命効果は,生存期間中央値が1.5か月延長し,1年生存率が10%改善するというものであった。 b 1990年代以降(a) ファーストライン治療新規抗がん剤は,ファーストラインの非小細胞肺がん患者に対して,単剤で20%を超える奏効率を示した。 この結果を受けて,まず,①シスプラチン単剤と2剤併用療法(シスプラチン+新規抗がん剤),②2剤併用療法(シスプラチン+旧抗がん剤)と2剤併用療法(シスプラチン+新規抗がん剤)とを比較する臨床試験が数多く行われ,シスプラチンとビノレルビン,シスプラチンとパクリタキセルの各併用療法は生存期間を延長させる結果を示した(その他は,新規抗がん剤との併用療法群で奏効率の上昇がみられたが,生存期間の延長はみられないという結果であった。)。イリノテカンについても,イリノテカンとシスプラチンの2剤併用療法は,Ⅳ期の非小細胞肺がん患者のみを対象とする解析では,シスプラチンと旧抗がん剤との2剤併用療法よりも生 存期間の延長を示した(ただし,その他の解析では,高い奏効率を示したが,生存期間の延長は認められなかった。)。さらに,3剤併用療法の臨床試験も実施されたが,生存期間の延長の結果を示すことができなかった。 次に,プラチナ製剤と組み合わせる新規抗がん剤はいずれが最良であるかを検証するために,新規抗がん剤を用いた2剤併用療法同士を比較した臨床試験が多く行われたが,①シスプラチンとパクリタ かった。 次に,プラチナ製剤と組み合わせる新規抗がん剤はいずれが最良であるかを検証するために,新規抗がん剤を用いた2剤併用療法同士を比較した臨床試験が多く行われたが,①シスプラチンとパクリタキセルの併用療法,②シスプラチンとドセタキセルの併用療法,③シスプラチンとゲムシタビンの併用療法,④カルボプラチンとパクリタキセルの4群を比較した海外での試験では,奏効率及び生存期間では各群間に差がないという結果が示された。我が国で日本人を対象に行われた,シスプラチンとイリノテカンを対照群として,シスプラチンとゲムシタビン,カルボプラチンとパクリタキセル,シスプラチンとビノレルビンの各併用療法の非劣性を証明する第Ⅲ相試験では,非劣性は証明されなかったが,生存期間,生存率及び奏効率には差がない,各併用療法の毒性の種類が異なるなどの結果が報告された。 以上の試験結果及び経過から,平成12年(2000 年)以降現在に至るまで,プラチナ製剤と新規抗がん剤の2剤併用療法が,非小細胞肺がんの標準的治療法となっている。 (b) セカンドライン以降の治療1990年代後半から,ファーストライン治療無効又は再発の非小細胞肺がん患者に対する,セカンドライン治療としての化学療法の検討が行われるようになった。 セカンドライン治療におけるドセタキセルの緩和療法に対する有効性を確認することを目的とした比較臨床試験では,緩和療法群 で,生存期間中央値が4.6か月,1年生存率が19%であったのに対して,ドセタキセル群(100mg/日群及び75mg/日群)で,生存期間中央値が7.0か月,1年生存率が29%(特に,75mg/日群では,生存期間中央値が7.5か月,1年生存率が37%)などの結果が示された(試験の概要及び試験結果は,別紙24(ドセタキセ ,生存期間中央値が7.0か月,1年生存率が29%(特に,75mg/日群では,生存期間中央値が7.5か月,1年生存率が37%)などの結果が示された(試験の概要及び試験結果は,別紙24(ドセタキセル試験概要・結果)の各表を参照)。 日本におけるセカンドライン治療でのドセタキセル単剤の奏効率は10%強程度,生存期間中央値は10か月程度であると認識されていた(丙E33)。 しかし,平成14年7月までの間に,プラチナ製剤を含む2剤併用療法の無効又は再発の非小細胞肺がんについて,ドセタキセル以外に比較臨床試験で有効性,有用性が確認された薬剤はなかった。 そのため,ファーストライン治療において,ドセタキセルを含む併用療法を行ったが,治療効果を得られなかった場合には,セカンドライン治療におけるドセタキセル単剤の治療効果を期待できなかった。 (イ) 平成14年7月当時の手術不能又は再発非小細胞肺がんの化学療法前記(ア)によれば,平成14年7月当時の手術不能又は再発非小細胞肺がんの化学療法における標準的治療法をまとめると次のa及びbのとおりであり,現在においてもファーストライン治療における標準的治療法に大きな変化はない。ただし,平成14年7月当時は,学会において非小細胞肺がんに対する抗がん剤使用に関するガイドラインを策定中であり,現在のように,一般の臨床医が参考にするガイドラインが整備され,ファーストラインとセカンドラインとが科学的根拠とともに整理されている状況にはなかった。 a ファーストライン治療 プラチナ製剤と新規抗がん剤との2剤併用療法① シスプラチンとイリノテカンの併用療法② シスプラチンとドセタキセルの併用療法③ シスプラチンとビノレルビンの併用療法④ シスプラチンとゲムシタビンの併用療法 の2剤併用療法① シスプラチンとイリノテカンの併用療法② シスプラチンとドセタキセルの併用療法③ シスプラチンとビノレルビンの併用療法④ シスプラチンとゲムシタビンの併用療法⑤ カルボプラチンとパクリタキセルの併用療法ただし,高齢者又は全身状態が不良の患者に対しては,ビノレルビン,ゲムシタビンやドセタキセル単剤の投与,緩和療法が選択されることがある。 b セカンドライン治療ドセタキセル単剤ただし,ファーストライン治療でドセタキセルを含む併用療法を行ったが,治療効果がなかった場合には,他の新規抗がん剤を投与することがある。 (証人濱の証言について)証人濱は,平成14年7月当時の標準的治療薬にはイリノテカンが含まれるというのは不正確である,イリノテカンは不要な薬剤であるとの平成18年当時の自身の評価(丙P45)は現在でも変わらない旨証言する。 しかし,平成14年7月当時及び現在における文献においても,イリノテカンには有用性が認められ,標準的治療薬に組み込まれていることを否定する文献は見られないことからすると(甲F41,甲H10,13,丙E34[枝番号1]など),独自の見解であるといわざるを得ず,証人濱の上記証言は採用することはできない。 ウ平成14年7月当時の手術不能又は再発非小細胞肺がんの化学療法で使用されていた抗がん剤(殺細胞性抗がん剤)の特色 前提事実(前記第3章第3の1(1))並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,平成14年7月当時の手術不能又は再発非小細胞肺がんの化学療法で使用されていた殺細胞性抗がん剤の特色は,以下のとおり認められる。 (ア) 治療の効果と副作用の発生との関係【乙E18,乙H12,13,丙E33,丙H2[枝番号4],5,9,11】殺 療法で使用されていた殺細胞性抗がん剤の特色は,以下のとおり認められる。 (ア) 治療の効果と副作用の発生との関係【乙E18,乙H12,13,丙E33,丙H2[枝番号4],5,9,11】殺細胞性抗がん剤による治療は,抗がん剤に対する正常細胞とがん細胞との間の感受性の程度の差を利用して,がん細胞の分裂を抑える全身療法である。すなわち,抗がん剤により,細胞の種類を問わず細胞分裂に必要なDNAの合成を直接又は間接に障害し,正常細胞とがん細胞の間の細胞周期の速度を利用して,正常細胞より活発に分裂するがん細胞の増殖を抑制するのである。 薬剤の効果と副作用は,一般的には投与量を増加するにつれて治療の効果が増大し,さらに投与量を増加すると副作用が発現するという関係にある。一般の医薬品では,薬剤が効果を発現する投与量と,副作用を発現する投与量との間の差(治療域)が広いため,副作用の許容範囲内で十分な効果を発現する投与量を設定することができる。 しかし,殺細胞性抗がん剤は,正常細胞とがん細胞に対して同時に非選択的に作用するから,治療域が狭く,場合によっては逆転する(抗がん剤効果を発現する投与量より,副作用が発現する投与量の方が少ない)ことがあるため,副作用の許容範囲内で十分な腫瘍縮小効果を示す投与量を設定することが困難である。 (イ) 治療効果の限界(薬剤耐性)【乙E18,19〔45頁〕,乙H13,丙E33,丙H3】抗がん剤は,いかなるがん細胞に対しても効果があるわけではない。 抗がん剤を投与して一定のがん細胞を縮小,消滅させたとしても,もともと抗がん剤が効かないがん細胞のみが残って増殖することがある(自然耐性)だけでなく,当初は抗がん剤が効いたがん細胞でも,次第に抗がん剤の効果が減退して再増殖することもある(獲得耐性 としても,もともと抗がん剤が効かないがん細胞のみが残って増殖することがある(自然耐性)だけでなく,当初は抗がん剤が効いたがん細胞でも,次第に抗がん剤の効果が減退して再増殖することもある(獲得耐性)。また,特定の抗がん剤により固有の耐性が生じるだけでなく,ある抗がん剤に対して耐性を獲得すると,他の抗がん剤に対しても耐性を獲得することもある(多剤耐性)。そのため,がんの化学療法では,いくつかの例外的な悪性腫瘍を除き,単剤で治療率を上げるのは難しく,複数の抗がん剤を組み合わせて投与する併用療法の研究が行われている。 このような抗がん剤の性質から,化学療法の治療歴によって,選択すべき抗がん剤の種類が異なってくる。セカンドライン以降の治療では,ファーストライン治療での抗がん剤によりがん細胞に多剤耐性が生じていることがあり,またファーストライン治療による患者の体力の低下なども重なるため,治療効果は得にくくなる,すなわち,治療を重ねるに従って次第に治療効果を得にくくなるという逆説的な現象が生ずるのである。これを治療効果の面からみると,抗がん剤による治療の効果は,セカンドライン治療よりもファーストライン治療の方で高いということになる。実際にもドセタキセルの奏効率ではセカンドライン治療よりもファーストライン治療の方が奏効率が2倍ほど高い(後記エ(ア))。 (ウ) 副作用【甲H29,乙H12,13,丙H4,5,11】殺細胞性抗がん剤は,治療域が狭く,一般的に,最大の治療効果を得るために副作用の許容限界近くに投与量が設定されるため,副作用が発生することは避けられない(前記(ア))。 殺細胞性抗がん剤は,がん細胞の細胞周期が速いという性質を利用して効果を得るものであるため,正常細胞の中でも,細胞周期の速いものには副作用が強く生じることが多い。具体 避けられない(前記(ア))。 殺細胞性抗がん剤は,がん細胞の細胞周期が速いという性質を利用して効果を得るものであるため,正常細胞の中でも,細胞周期の速いものには副作用が強く生じることが多い。具体的には,白血球(好中球), 血小板や赤血球のような血液細胞,毛髪,口や消化器などの粘膜などに副作用が生じやすい。 殺細胞性抗がん剤の副作用は,多種多様であり,発症頻度にも個人差があり,予測することが困難な場合があるだけでなく,患者によっては重篤な副作用を発症することもあり,死に至ることもある。 殺細胞性抗がん剤は,上記のような副作用のおそれを伴うものであり,生理的機能が保たれていない患者に投与する場合には重篤な合併症(敗血症,肺炎など)を引き起こす可能性があることなどから,全身状態不良又は高齢者などの患者に対して投与すべきではないと考えられていた。 エ手術不能又は再発非小細胞肺がんの化学療法で使用される抗がん剤の治療成績と非小細胞肺がんの予後(ア) 手術不能又は再発非小細胞肺がんの化学療法における抗がん剤の治療成績【甲E36,甲H10,12,47~52,乙H3,8,75~77[各枝番号],78,79,丙E34[枝番号4の1,2],45,丙H3,6,22[枝番号1,2],丙I5[枝番号1,2],19[枝番号1,2],21】a 平成14年7月当時に使用されていた抗がん剤の治療成績非小細胞肺がん患者に対するファーストライン治療におけるプラチナ製剤と新規抗がん剤との2剤併用療法の奏効率は,ECOGの臨床試験において,シスプラチンとドセタキセルの併用で17%,カルボプラチンとパクリタキセルの併用で17%,日本における臨床試験においては,カルボプラチンとパクリタキセルの併用で32.4%,シスプラチンとゲムシタビンの併用で ンとドセタキセルの併用で17%,カルボプラチンとパクリタキセルの併用で17%,日本における臨床試験においては,カルボプラチンとパクリタキセルの併用で32.4%,シスプラチンとゲムシタビンの併用で30.1%,シスプラチンとビノレルビンの併用で33.1%,シスプラチンとイリノテカンの併用で31.0%であった(別紙25(抗がん剤の効果一覧表)のファース トラインにおける非小細胞肺がんの併用療法に関する第Ⅲ相試験(ECOG及び日本)の各表)。新規抗がん剤単剤での奏効率は,ゲムシタビン21%,ドセタキセル26%,パクリタキセル26%,ビノレルビン20%,イリノテカン27~34%程度であった(同別紙のファーストラインにおける非小細胞肺がん抗がん剤の単剤での治療成績の表)。 非小細胞肺がん患者に対するセカンドライン治療における奏効率は,別紙24(ドセタキセル試験概要・結果)のとおり,Shepherd試験における測定不能の病変を有する患者を除外した場合の奏効率は7.1%(この数値は,丙H22の報告書中に記載されている。),Fossella 試験における奏効率は6.7~10.8%であったとされた。 Shepherd 試験の報告書(丙H22[枝番号2]の2頁)によれば,ドセタキセルに関する第Ⅱ相試験における奏効率14~24%であったとされるが,その試験では3週間ごとにドセタキセル100mg/㎡が投与されたものであった。 原告らは,ドセタキセルやパクリタキセルなどの非小細胞肺がん患者に対するセカンドライン治療における治療成績が,いずれも奏効率20%を越える(別紙25(他の抗がん剤の効果一覧表)のうち各薬剤の第Ⅱ相試験の結果の表)と主張する。なるほど,原告らが指摘する第Ⅱ相試験の症例数は,ドセタキセル及びパクリタキセルがいずれも40 20%を越える(別紙25(他の抗がん剤の効果一覧表)のうち各薬剤の第Ⅱ相試験の結果の表)と主張する。なるほど,原告らが指摘する第Ⅱ相試験の症例数は,ドセタキセル及びパクリタキセルがいずれも40例前後,ゲムシタビンは83例と少数であって,実際の治療成績を反映しているものとまで認めることはできないから,原告らの主張は採用できない。 b 平成14年7月以降に使用されている抗がん剤の治療成績現在,セカンドライン治療においては,ドセタキセル,イレッサの ほか,アリムタ(一般名;ペメトレキセド)やタルセバ(一般名;エルロチニブ)が使用されている。しかし,サードライン以降の標準的治療法は確立されていない。 アリムタのファーストライン治療における奏効率は18.6%(別紙25(抗がん剤の効果一覧表)中ファーストラインにおける非小細胞肺がんの抗がん剤の単剤での治療成績の表)である。タルセバのセカンドライン又はサードライン治療の生存期間中央値は6.7か月,奏効率は9%である(治療成績の詳細は別紙26(タルセバ試験概要・結果(BR.21試験))のとおり)。 (イ) 平成14年7月当時の非小細胞肺がんの予後【甲H1,乙E11,18,乙H1,3,5,8,9,12,41,42,丙E33,50[枝番号1],丙H1,2[枝番号5],6,7,証人福岡主尋問〔89頁〕】非小細胞肺がん全体の5年生存率は約40%とされ,病期の進行とともに低下し,多くを占めるⅢ期以降の症例の予後は悪い。 外科療法後の5年生存率は,ⅠA期で79%,ⅠB期で60%,ⅡA期で59%,ⅡB期で42%,ⅢA期で28%であるが,再発率が高く,根治率がⅠA期では高いものの,ⅠB期では50~60%であり,心筋梗塞,膿胸や肺炎などの重篤な合併症による手術死亡率(手術後30日以 で59%,ⅡB期で42%,ⅢA期で28%であるが,再発率が高く,根治率がⅠA期では高いものの,ⅠB期では50~60%であり,心筋梗塞,膿胸や肺炎などの重篤な合併症による手術死亡率(手術後30日以内の死亡を含む。)が0.5~1%程度あるとされていた。 Ⅳ期では,無治療の場合の1年生存率が約20%といわれており,化学療法を行った場合の1年生存率が30~40%程度,生存期間中央値が10か月前後であり,ⅢB期及びⅣ期を合わせた場合の1年生存率が約50%,ⅢB期の5年生存率は約5~6%,Ⅳ期の5年生存率は約1%といわれていた。 オイレッサ承認後における肺がん治療ガイドライン等 (ア) イレッサ使用に関するガイドライン(日本肺癌学会,平成17年3月15日作成,同年7月25日改訂)【甲E16,21,35,丙E59[枝番号8]】a ゲフィチニブ使用に関するガイドライン(平成17年3月15日作成)平成17年2月に厚生労働省医薬食品局安全対策課から作成を依頼された日本肺癌学会は,同年3月,当時の知見を踏まえて実地医療におけるイレッサ使用に関するガイドラインを同月15日付けで作成した(甲E16)。同ガイドラインは,次の(a)ないし(h)の条件をすべて満たした場合に,イレッサ投与の適応があるとする。 (a) 適応症である「手術不能又は再発非小細胞肺がん」を厳守する。 (b) 「化学療法未治療例における有効性及び安全性は確立していない」,「術後補助療法における有効性及び安全性は確立していない」ため,これらの症例に対して実地医療としてはイレッサの投与をすべきではない。 (c) イレッサ投与により利益(延命,症状改善,腫瘍縮小効果)が得られる可能性の高い患者群である腺がん,女性,非喫煙者,日本人(東洋人),EGFR遺伝子変異を示 レッサの投与をすべきではない。 (c) イレッサ投与により利益(延命,症状改善,腫瘍縮小効果)が得られる可能性の高い患者群である腺がん,女性,非喫煙者,日本人(東洋人),EGFR遺伝子変異を示す症例に対しては,イレッサの投与が推奨される。 (d) イレッサと他の抗悪性腫瘍剤や放射線療法との同時併用における有効性及び安全性は証明されていないので,実地医療としてはイレッサを単剤で投与する。 (e) イレッサ投与症例の選択基準は,IDEAL1試験の症例選択及び除外基準を参考とする。その他我が国で安全に実施された医師主導の臨床試験の症例選択・除外基準も参考とする。これら以外の症例への投与は安全性の検討が行われていないことから,現時点では 臨床試験以外では原則的に投与すべきではない。 (f) イレッサの急性肺障害,間質性肺炎発症の危険因子とされているPS2以上の全身状態不良例,喫煙歴を有する者,間質性肺炎合併症例,男性,低酸素血症を有する者,じん肺,扁平上皮がんなどに対するイレッサ投与は,当該患者がイレッサから得られる利益がイレッサ投与による危険性を上回ると判断される場合に限定する。 (g) イレッサは,肺がん化学療法に十分な経験を有する医師が使用するとともに,投与に際しては緊急時に十分な措置ができる医療機関で行う。間質性肺炎の専門医の助言を適宜得られる環境下での使用が望ましい。 (h) イレッサ投与の際には,患者にイレッサ投与の目的,投与法,予想される効果と副作用(重篤な間質性肺炎や急性肺障害の発生と死亡例がみられていること),代替治療の有無とある場合の当該治療法の利害得失などを十分説明した後に,患者の自由意思による同意を文書で得る。 b ゲフィチニブ使用に関するガイドライン(平成17年7月25日改訂)平成1 ),代替治療の有無とある場合の当該治療法の利害得失などを十分説明した後に,患者の自由意思による同意を文書で得る。 b ゲフィチニブ使用に関するガイドライン(平成17年7月25日改訂)平成17年5月の米国臨床腫瘍学会(ASCO)でSWOG0023試験の結果が報告され,同報告において,イレッサ投与により生存期間の向上が示されなかっただけでなく,むしろイレッサの生存に対する否定的な影響を除外しえないと指摘されたことを受けて,日本肺癌学会は,同年7月25日付けでイレッサ使用に関するガイドライン(前記a)を改訂した(甲E21)。 この改訂では,イレッサ投与の適応として,前記a(a)ないし(h)に加えて,実地医療においては放射線化学療法同時併用療法後にイレッサを維持療法として投与すべきではないことが追加された。 (イ) EBMの手法による肺がん診療ガイドライン(日本肺癌学会,平成15年3月発刊・平成17年改訂)【甲E63,甲F41,42,乙H43】平成15年(2003 年)に,厚生労働省医療技術評価総合研究事業の研究班によって「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン」が作成され,これは,平成17年に改訂された。同ガイドラインは,肺がんの治療方法について,エビデンスレベル,その数と結論のばらつき,臨床的有効性の大きさ,臨床上の適用性等を考慮して,推奨(勧告)の強さを次の4段階に区分した。 グレードA:行うよう強く勧められる。 グレードB:行うよう勧められる。 グレードC:行うよう勧めるだけの根拠が明確でない。 グレードD:行わないよう勧められる。 同ガイドラインにおいては,イレッサを含む分子標的治療薬は,グレードCとされていた。 平成17年の改訂時において,非小細胞肺がんに対する分子標的治療薬の投与をグレードB 行わないよう勧められる。 同ガイドラインにおいては,イレッサを含む分子標的治療薬は,グレードCとされていた。 平成17年の改訂時において,非小細胞肺がんに対する分子標的治療薬の投与をグレードBとすることが提唱されたが,ISEL試験の中間解析結果において,イレッサ群とプラセボ群との間に生存期間の有意な差が認められなかったことが明らかとなり,東洋人のサブグループ解析ではイレッサ群の予後が良好であったが,推奨グレードを変更する根拠に乏しいと判断され,グレードは変更されなかった。ただし,その後の臨床試験などの結果に基づいて,推奨グレードは見直される予定であるとされた。 なお,肺がん診療ガイドラインに関する考察では,同ガイドラインは,あくまで「診療ガイドラインに書かれていることは主治医の判断に勝るものではない」ことが前提とされ,診断と治療に対する「判断指 針」ないし「支援グッズ」であるとされ,強制力を持つものではないとされていた(乙H43,44)。 (ウ) Ⅳ期非小細胞肺がん化学療法に関する米国臨床腫瘍学会(ASCO)診療ガイドライン(米国臨床腫瘍学会,平成21年改訂)【丙E70[枝番号1,2]】米国臨床腫瘍学会は,1997年(平成9年),切除不能の進行性非小細胞肺がんに関する診療ガイドラインを定めたが,発行後の多数の文献等の報告を受けて,平成21年にこれを改訂した。同ガイドラインの内容は,次のaないしcのとおりである。 a Ⅳ期非小細胞肺がんの患者に対する第1選択の化学療法(ファーストライン治療)としては,臨床背景因子により選択された場合を除いて,殺細胞性抗がん剤による化学療法にイレッサを併用してはならない。臨床背景因子によりイレッサが選択されていない患者に対しては,イレッサ単剤又はタルセバ単剤を第1選択の化学療 り選択された場合を除いて,殺細胞性抗がん剤による化学療法にイレッサを併用してはならない。臨床背景因子によりイレッサが選択されていない患者に対しては,イレッサ単剤又はタルセバ単剤を第1選択の化学療法(ファーストライン治療)として推奨するには証拠が不十分である。これに対して,EGFR遺伝子変異の活性化を認める患者に対しては,イレッサによる第1選択の化学療法を推奨する。EGFR遺伝子変異状態が陰性又は不明である場合には,殺細胞性抗がん剤による化学療法を選択する。 b プラチナ製剤を中心とする第1選択化学療法(ファーストライン治療)による治療中又は治療後に非小細胞肺がんが進行した場合には,全身状態が十分である進行性非小細胞肺がん患者の第2選択化学療法(セカンドライン治療)として.ドセタキセル,タルセバ,イレッサ又はペメトレキセドを使用することができる。 c Ⅳ期非小細胞肺がんの高齢患者に最適な第2選択の化学療法(セカンドライン治療)については,特定の化学療法又は併用療法の選択を 裏付ける証拠がない。 (エ) その他の文献山本昇,西條長宏「新規抗がん剤(イレッサ)の位置付け」(「臨床医」29巻4号482頁以下:平成15年,甲E50)には,要旨以下のような記載がある。 第Ⅱ相,第Ⅲ相各試験の結果から,イレッサは非小細胞肺がんに対してある程度の有効性を有する抗がん剤であるといえるが,延命効果に関するデータに乏しい状況にある。当初,プラチナ製剤を含む化学療法との併用により生存期間の改善が期待されたが,INTACT1,2試験は予想外の結果に終わった。我が国の保険適応では化学療法未治療例に対しても承認されているが,現時点ではセカンドライン以降の単独治療が最も望ましい位置付けといえる。 高齢者や全身状態不良(PS2以上)の 外の結果に終わった。我が国の保険適応では化学療法未治療例に対しても承認されているが,現時点ではセカンドライン以降の単独治療が最も望ましい位置付けといえる。 高齢者や全身状態不良(PS2以上)の患者に対しては,有効性及び安全性に関するデータが不十分であるから,経口投与が可能であるからといって安易に投与すべきではない。 投与開始後早期に発症すると考えられている間質性肺炎は発症頻度が少ないものの,致命的となりうるため慎重な経過観察を要する。 今後は,他の抗がん剤との併用の可能性,放射線治療との併用の可能性,術後化学療法としての可能性などの議論を経て綿密に計画された臨床試験が実施され,多くの疑問や可能性に対する回答が得られることを期待したい。 4 各臨床試験結果の評価(1) 各臨床試験並びに主張及び証拠の概要イレッサ承認後に実施された第Ⅲ相臨床試験の概要は,前記第2章第7の3(3)(別紙12~20)のとおりである。 被告らは,イレッサに関する各臨床試験の結果のみならず,非小細胞肺がんの治療の実態(前記3)等を踏まえて,イレッサが非小細胞肺がんの治療には必要かつ有効であったとして,その有効性を主張する。福岡正博及び光冨徹哉,西條長宏及び坪井正博は,いずれも肺がんの治療や研究をしてきた臨床医又は研究者として,各臨床試験の評価をもとにイレッサの有効性を肯定する立場に立つ旨を証言し,同旨の意見書を作成するなどした。 これに対して,原告らは,イレッサに関する各臨床試験の結果からは,イレッサが非小細胞肺がんの治療に対する有効性が認められるとはいえないなど主張する。福島雅典,濱六郎,別府宏圀は,いずれも医薬品の評価学の専門家として,本件訴訟において,原告らの主張と同様に,各臨床試験の評価のもとにイレッサの有効性を否定する旨 められるとはいえないなど主張する。福島雅典,濱六郎,別府宏圀は,いずれも医薬品の評価学の専門家として,本件訴訟において,原告らの主張と同様に,各臨床試験の評価のもとにイレッサの有効性を否定する旨を証言し,同旨の意見書を提出するなどした。 そこで,各臨床試験について検討する。 (2) 治験成績の評価についてアイレッサの有効性を肯定的に評価する見解の要旨福岡正博は,①承認前の臨床試験で,非常に進行した非小細胞肺がん患者について実施された国内第Ⅰ相試験(V1511試験)において,23例中5例について部分奏効(PR)し,そのうち3例について長期にわたって抗腫瘍効果が持続したのは驚くべき経験であった,②国際共同第Ⅱ相試験(IDEAL1試験)においても,日本人のセカンドライン治療として,当時の標準的化学療法とされていたドセタキセルの奏効率と比較しても高い,27.5%という奏効率を示し,250mg/日投与群(51例)で生存期間中央値13.8か月,1年生存率57%と,同じくドセタキセル(生存期間中央値7.5か月,1年生存率37%)と比較して,生存期間を延長する可能性を示し,有効性が示されたとする。【丙E33〔9, 10頁〕,証人福岡主尋問〔34~37頁〕】西條長宏は,①単剤で30%の奏効率を示す肺がんの抗がん剤はほとんどないが,イレッサの国内治験であるIDEAL1試験では,日本人250mg/日投与群51例での奏効率が27.5%と非常に高く,セカンドラインの標準的治療薬であるドセタキセルの奏効率と比べて治療上の大きな期待が持て,かつ,生存期間の延長を予想させた,②IDEAL1試験における日本人群と外国人群で奏効率に差がある点は,イレッサの作用には人種差があると考えられる,③IDEAL1試験における奏効率が,ドセタキセル単 つ,生存期間の延長を予想させた,②IDEAL1試験における日本人群と外国人群で奏効率に差がある点は,イレッサの作用には人種差があると考えられる,③IDEAL1試験における奏効率が,ドセタキセル単剤のセカンドライン治療における奏効率(Shepherd 試験の奏効率)よりも高かった,患者の背景因子の違いを無視して,両試験を単純に比較することは妥当ではないが,ドセタキセル単剤のセカンドライン治療における奏効率が10%を少し下回るということは肺がん治療の専門家の間でのコンセンサスであった旨を述べる(乙E18〔18頁〕,乙E19〔14,15,21,22,41頁〕,乙E20〔69~72,152頁〕)。 坪井正博は,IDEAL1試験において,これまで効果的な治療薬がなかった腺がんに対して顕著な効果を示したり,奏効率,症状改善の点でセカンドライン治療としては著名な効果を示しており,化学療法のオプションとしては十分な効果を示していたとする。【丙E48[枝番号1]〔24~26頁〕】光冨徹哉は,イレッサの第Ⅱ相試験の結果を知り,セカンドライン以降の肺がんを対象とした臨床試験として,27.5%という奏効率は非常に期待が持てると考えたとする。【証人光冨主尋問〔29,30頁〕】イ治験成績からイレッサの有効性を否定的に評価する見解の要旨濱六郎は,IDEAL1試験の日本人群に対する奏効率(治験医師判定で27.5%,審査センター判定で25.5%)には,FDAから奏効率 の測定方法などの問題性を指摘されている,IDEAL各試験を総合すると,イレッサの奏効率は10%程度しかないなどとする。【証人濱[第1回]反対尋問〔32~34頁〕】別府宏圀は,①IDEAL1試験では,イレッサ250mg/日投与群では,日本人群と外国人群における奏効率が大きく 奏効率は10%程度しかないなどとする。【証人濱[第1回]反対尋問〔32~34頁〕】別府宏圀は,①IDEAL1試験では,イレッサ250mg/日投与群では,日本人群と外国人群における奏効率が大きく異なっており,奏効率の差を十分に説明できない,②第Ⅱ相試験等において部分奏効(PR)以上の効果が認められた大多数が腺がん症例であり,EGFR発現頻度が高いとされる扁平上皮がんでは奏効例が少なかったことを踏まえ,EGFR発現頻度と奏効率との間に相関関係がみられない,イレッサの抗腫瘍効果がEGFR阻害以外の作用機序によるものである可能性があるが,その作用機序は未解明であるとする。【甲E37〔9頁〕,39〔41,42頁〕】ウ治験成績の評価(ア) 総論a 期待有効率について抗がん剤の期待有効率(有用な抗悪性腫瘍薬と認められる水準)は,奏効率20%が目標であるが,腫瘍の種類,対象となる患者の状況によっては異なることがありうる(前記2(1)エ(イ)b)。イレッサの対象疾患は,手術不能又は再発非小細胞肺がんであって,化学療法の効果が一般的に低い非小細胞肺がんの中でもさらに治療の困難なⅢ期及びⅣ期の患者を対象とするものであり,IDEAL各試験ではセカンドライン治療以降の患者を対象としているため,薬剤耐性の点からも治療の効果を得にくい患者が対象となっているといえる(前記3(2)ウ(イ))。そうすると,臨床試験における奏効率が20%を下回ったとしても,そのことのみをもってイレッサの有効性がないとはいえない。 また,平成14年7月当時における非小細胞肺がんのセカンドライン治療における標準的治療薬はドセタキセル単剤のみであったが,ドセタキセル単剤のセカンドライン治療における奏効率(我が国での承認用量は60mg/㎡である。)は臨床 おける非小細胞肺がんのセカンドライン治療における標準的治療薬はドセタキセル単剤のみであったが,ドセタキセル単剤のセカンドライン治療における奏効率(我が国での承認用量は60mg/㎡である。)は臨床試験において6.7~~10. 8%程度であった(前記3(2)イ及びエ)。 以上によれば,イレッサにおいては奏効率約10%を期待有効率と水準想定することに合理性があると認めるのが相当である。 原告らは,イレッサの臨床試験の結果とドセタキセルの臨床試験(Shepherd 試験)の結果を,患者の背景因子を考慮せずに単純比較することは許されないと主張する。しかし,イレッサの奏効率と比較すべきドセタキセルの奏効率は,Shepherd 試験の結果のみではなく,ドセタキセルに関するその他の臨床試験や研究報告をも総合して得られた奏効率をいうものであり,Shepherd 試験以外の臨床試験等を総合しても10%前後であったというのである。したがって,Shepherd 試験の奏効率のみとの比較の問題であることを前提とする原告らの主張はその前提が異なるので,採用できない。 b 閾値有効率について臨床試験においては,製薬会社が医薬品の開発において早期に開発を打ち切るべきか否かを判断するための水準である閾値有効率が定められる。治験実施計画書に抗がん剤の有効性の判定方法として閾値有効率が記載された場合には,これに基づいて判定すべきであることはいうまでもない。 証拠(丙C1)によれば,1839IL/0016 試験(IDEAL1試験)の解析方法は「奏効率の95%信頼区間の下限が5%を上回っていた場合,真の奏効率は5%以上であると結論づける。」(丙C1[462頁])とし,1839IL/0039 試験(DEAL2試験)の解析方法は,奏 効率「5%は他に有効な が5%を上回っていた場合,真の奏効率は5%以上であると結論づける。」(丙C1[462頁])とし,1839IL/0039 試験(DEAL2試験)の解析方法は,奏 効率「5%は他に有効な治療がない場合の実薬の許容される最小率として選択される。」(同[498 頁])としていたことが認められる。これによれば,イレッサについて実施されたIDEAL各試験では,いずれも試験結果から得られた信頼区間の下限が5%を下回る場合には有効性がないものと評価すること,すなわち閾値有効率が5%と定められていたものと認められる。,c 奏効率の判定結果についてIDEAL1試験においては,主要評価項目である奏効率の結果は,治験医師による判定結果,放射線科医及び腫瘍学者によって構成された効果判定委員会(ResponceEvaluationCommittee;REC)による判定結果及び審査センターによる判定結果の3つの結果が示された。 第Ⅱ相試験の奏効率の効果判定は,原則として治験実施施設以外の組織の確認を受けることが望ましいとされているから(前記2(1)エ(イ)b),RECによる判定結果及び審査センターによる判定結果により奏効率を判定すべきである。 (イ) IDEAL1試験a 全患者についてIDEAL1試験の結果(別紙10【IDEAL1試験概要・結果】),全患者の奏効率は,承認用量である250mg/日群において,RECによる判定は16.5%(95%信頼区間の上限25. 1%,下限9.9%),審査センターによる判定は15.5%(95%信頼区間の上限24%,下限9.1%)であった。この奏効率は,本来の期待有効率20%には達しないものの,いずれも95%信頼区間の下限で10%をわずかに下回る程度であって,閾値有効率5%を越えており,平成14 上限24%,下限9.1%)であった。この奏効率は,本来の期待有効率20%には達しないものの,いずれも95%信頼区間の下限で10%をわずかに下回る程度であって,閾値有効率5%を越えており,平成14年7月当時の非小細胞肺がんのセカンド ライン治療における標準的治療薬であるドセタキセル単剤の奏効率(別紙24参照)と比較すると,高いものであったと認められる。 また,全患者の生存期間中央値は,250mg/日群では7.6か月であり,セカンドライン治療におけるドセタキセルを投与した場合の生存期間中央値(5.7~7.5か月)と比較しても,同等以上である。 その他,全患者(250mg/日群)では,無増悪期間中央値が83日,病勢コントロール率が54.4%,症状改善率が40.3%,QOL改善率が20.9%であった。 b 日本人群についてIDEAL1試験の結果(別紙10[IDEAL1試験概要・結果])中,日本人群の奏効率は,承認用量である250mg/日群において,RECによる判定は27.5%(95%信頼区間の上限41. 7%,下限15.9%),審査センターによる判定は25.5%(95%信頼区間の上限39.6%,下限14.3%)であった。 上記奏効率は,いずれも95%信頼区間の下限で20%を下回るが,中央値は,非小細胞肺がんのセカンドライン以降の患者に対して投与したにもかかわらず,本来の期待有効率約20%を上回るものであっただけでなく,セカンドライン治療における標準的治療薬であるドセタキセル単剤の奏効率やファーストライン治療における標準的治療法である2剤併用療法の奏効率(30~40%)と比較しても,低いとはいえない数値であった。250mg/日群における1年生存率(57%)や生存期間中央値(414日)は,セカンドライン治療におけるドセタ である2剤併用療法の奏効率(30~40%)と比較しても,低いとはいえない数値であった。250mg/日群における1年生存率(57%)や生存期間中央値(414日)は,セカンドライン治療におけるドセタキセルを投与した場合の1年生存率(32~37%)や生存期間中央値(5.7~7.5か月)を大きく上回るものであった。 以上の結果について,原告らは,日本人群の奏効率は,患者の全身状態が比較的良い者が多数含まれていたことにより高くなったにすぎず,外国人群との間で患者の全身状態に関する背景因子を調整すれば,外国人群と同程度の奏効率にしかならないと主張する。 しかし,日本人群と外国人群の250mg/日群の奏効率(REC判定結果)との間には約20%の差があり,この差の一部は,人口統計学的特性及び他の予後因子の不均衡によるものと考えることはできるとしても,患者の背景因子(全身状態)のみで合理的に説明できるか疑問があり,むしろ他の要因(人種差)などの可能性を含めて引き続き検討すべき状況にあったというべきである。実際にも,承認後の第Ⅲ相試験(V1532試験)では,イレッサ250mg/日群では奏効率が22.5%という結果が出たのであり,IDEAL1試験の日本人群の結果との整合性があるということができる。 以上のとおり,患者の背景因子を調整すれば,日本人群の奏効率は外国人群の奏効率と同程度になるはずであるという原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。したがって,原告らの上記主張を採用することはできない。 c 外国人群についてIDEAL1試験の結果(別紙10[IDEAL1試験概要・結果])中,外国人群の250mg/日群における奏効率は,RECによる判定は5.8%(95%信頼区間の上限15.4%,下限1. 2%),審査センターによる判定は5 果(別紙10[IDEAL1試験概要・結果])中,外国人群の250mg/日群における奏効率は,RECによる判定は5.8%(95%信頼区間の上限15.4%,下限1. 2%),審査センターによる判定は5.8%(95%信頼区間の上限15.9%,下限1.2%)であり,病勢コントロール率は38. 5%,症状改善率は32.4%であった。 外国人群の奏効率は,いずれも本来の期待有効率20%を大きく下回り,95%信頼区間の下限も5%を下回るものであった。 しかし,IDEAL1試験においてサブグループである外国人群のみが閾値有効率を下回っていたのであり,全患者や日本人群の結果を総合すると,平成14年7月当時の非小細胞肺がんのセカンドライン治療における標準的治療薬であるドセタキセル単剤の奏効率と比較しても同等程度のものである可能性があり,当時の非小細胞肺がんにおけるセカンドライン治療における標準的治療薬がドセタキセルのみであった臨床現場の状況の下では,病勢コントロール率や症状改善率などを考慮した場合には,少なくとも治療の選択肢を得ることができる可能性があるものであったといえるから,IDEAL1試験の外国人群の結果のみによって結論を出すべき状況にはなかったというべきである。 (ウ) IDEAL2試験IDEAL2試験の結果(別紙11[IDEAL2試験概要・結果])中,イレッサ250mg/日群の奏効率は11.8%であり,セカンドライン治療におけるドセタキセルの奏効率(前記(ア)a)と同等程度であった。 IDEAL2試験の対象患者は,ファーストラインの標準的治療法であるプラチナ製剤を含む2剤併用療法とセカンドラインの標準的治療法であるドセタキセルによる治療歴を有し,病勢進行等の理由により前治療を終了したサードライン以降の患者であり,上記標準 の標準的治療法であるプラチナ製剤を含む2剤併用療法とセカンドラインの標準的治療法であるドセタキセルによる治療歴を有し,病勢進行等の理由により前治療を終了したサードライン以降の患者であり,上記標準的治療法によっては治療ができず,既存の抗がん剤による治療の選択肢がほとんどない患者を対象にしたものである。そうすると,このようなIDEAL2試験の対象患者の特質やセカンドライン治療におけるドセタキセルの奏効率などに鑑みれば,11.8%という奏効率を低いということはできない。 また,IDEAL2試験は,IDEAL1試験の約2倍の米国人を対象患者とし,かつ,化学療法の効きにくい患者が多く含まれるにもかかわらず,250mg/日群における95%信頼区間の奏効率は6.2%~19. 7%であり,試験計画書で定められた閾値有効率(前記(ア)b)5%を越えるものであった。 その他,250mg/日群では,病勢コントロール率が42.2%,無増悪期間中央値が59日,生存期間中央値が185日(6.1か月),症状改善率が43.1%,QOL改善率が33.3%ないし34.3%であった。 (エ) 小括以上より,米国人を対象としたIDEAL2試験とIDEAL1試験の外国人群の結果を総合すると,各試験及び両試験を通じて,外国人に対しても少なくとも閾値有効率5%を越える奏効率があったと認められる。 また,IDEAL1試験の外国人群では奏効率が期待有効率10%を越えなかったが,IDEAL1試験の全患者及び日本人群並びにIDEAL2試験における各奏効率は期待有効率とすべき10%を越えていた。IDEAL2試験は,IDEAL1試験よりも化学療法の効きにくくなったサードライン治療の患者を多く含むにもかかわらず,IDEAL1試験の外国人群を大きく上回る結果を示したも べき10%を越えていた。IDEAL2試験は,IDEAL1試験よりも化学療法の効きにくくなったサードライン治療の患者を多く含むにもかかわらず,IDEAL1試験の外国人群を大きく上回る結果を示したものであって,外国人に対しても一定程度奏効することを示し,その奏効率が期待有効率10%を越えたというのである。加えて,IDEAL各試験では生存期間中央値,1年生存率,病勢コントロール率,無増悪期間中央値,症状改善率,QOL改善率でいずれも単剤の抗がん剤としては高い値を示した。 そうすると,IDEAL各試験の奏効率からイレッサの延命効果を合理的に予測できる状況にあり,その予測はその他の指標からも裏付けられていたと認めるのが相当である。 (オ) 原告らの主張について a 原告らは,IDEAL1試験の外国人群の奏効率が閾値有効率さえ越えられなかったとして,イレッサの有効性が証明できていないなどと主張する。 しかし,上記のとおり,IDEAL2試験とIDEAL1試験の外国人群の結果が整合しない原因,IDEAL1試験における全患者と日本人群の結果との整合性を分析することなく,IDEAL1試験の外国人群の結果のみからイレッサの有効性が証明されなかったとする原告らの主張は失当である。 b 原告らは,IDEAL各試験の生存期間中央値から有効性を推測することができないと主張し,その根拠として,IDEAL各試験には対照群が設定されていないこと,生存期間中央値がIDEAL各試験の副次的評価項目にすぎないこと,生存期間中央値の分析における比較対象に問題があることなどを挙げる。 しかしながら,承認時の有効性判断においては,IDEAL各試験の生存期間中央値から直ちに有効性を推測するのではなく,IDEAL各試験の主要評価項目である奏効率から延命効果 があることなどを挙げる。 しかしながら,承認時の有効性判断においては,IDEAL各試験の生存期間中央値から直ちに有効性を推測するのではなく,IDEAL各試験の主要評価項目である奏効率から延命効果を合理的に予測できることを前提として,生存期間中央値の評価との整合性がとれていることをも総合して,イレッサの有効性を示唆するものと評価しているのである。原告らの主張は,このような推論過程を誤解するものであれば失当であるというほかなく,このような推論過程を批判するものであるとしても,イレッサ承認当時には,奏効率から延命効果を合理的に予測できるとされていたことは前記のとおりであるから,原告らの主張を採用することはできない。 前記2(1)認定の事実及び前記2(3)イの認定・判断によれば,Ⅱ相承認制度には合理性があり,第Ⅱ相試験では比較試験が要求されておらず,既存の抗がん剤における過去の臨床試験の結果と比較すること は可能であるから,対照群が設定されていないことをもってIDEAL各試験の生存期間中央値から有効性を評価することができないとはいえない。 また,臨床試験の評価をするにあたって,主要評価項目を中心に評価することが重要であるが,副次的評価項目を用いて有効性を判定することを否定するものではないから,副次的評価項目であることをもってIDEAL各試験の生存期間中央値から有効性を判定することができないともいえない。したがって,これらの点に関する原告らの主張も採用することはできない。 (3) 承認後の第Ⅲ相試験成績の評価についてア承認後の第Ⅲ相試験成績からイレッサの有効性を肯定的に評価する見解の要旨福岡正博は,①INTACT各試験,ISEL試験,V1532試験において,延命効果の統計学的な証明に至らなかったが,イレッサの延命 の第Ⅲ相試験成績からイレッサの有効性を肯定的に評価する見解の要旨福岡正博は,①INTACT各試験,ISEL試験,V1532試験において,延命効果の統計学的な証明に至らなかったが,イレッサの延命効果が否定されたということではない,②ISEL試験では,東洋人のサブグループ解析においてイレッサによる有意な生存期間の延長が示唆され,V1532試験では,奏効率,治療成功期間及びQOLの改善の点で,イレッサがドセタキセルよりも有意に優れており,無増悪生存期間,病勢コントロール率及び症状改善率の点では両者に有意差がなかった,③INTEREST試験では,イレッサのドセタキセルに対する非劣性が統計学的に証明された,④SWOG0023試験は,我が国では一般的に行われていない投与方法により行われた試験であり,当該投与方法がよくないということを示すものでしかないなどとする。【丙E33〔10,11,15~17頁〕,証人福岡主尋問〔22~25,37~45頁〕,証人福岡反対尋問〔84,85頁〕】 西條長宏は,①INTACT各試験は,イレッサを標準的治療薬と併用することで,生存期間を延長する効果が得られるかを確認するための試験であったから,試験結果からはイレッサによる生存期間延長効果が得られなかったことが示されたのであって,イレッサ単剤の有効性がないということはいえない,INTACT各試験においてイレッサの生存期間延長効果が得られなかった可能性としては,イレッサと標準的治療薬が拮抗的に作用した,標準的治療薬とイレッサで作用する集団が類似していた,標準的治療薬の効果が限界に達していたため,それ以上何かを追加しても追加効果が得られないであることが考えられる,②ISEL試験のおけるサブグループ解析により生存期間を延長する結果が示唆されたが,我が国に 的治療薬の効果が限界に達していたため,それ以上何かを追加しても追加効果が得られないであることが考えられる,②ISEL試験のおけるサブグループ解析により生存期間を延長する結果が示唆されたが,我が国において上記サブグループ解析を踏まえた比較臨床試験を行うことは,プラセボ群と対照する点で倫理的,科学的に問題があり,現時点では難しい,③V1532試験では,イレッサがドセタキセルに対して非劣性を証明できなかったが,イレッサが抗腫瘍効果を有しないということにはならない,④INTEREST試験では,全生存期間につき,イレッサのドセタキセルに対しての非劣性が証明された,⑤SWOG0023試験において用いられた維持療法は実地臨床ではあまり行われていない,維持療法では延命効果を示せなかったが,維持療法以外の用法により延命効果を証明している抗がん剤(ドセタキセルなど)がある,③承認後の第Ⅲ相試験の多くでは,延命効果の有無を明らかにすることができなかったが,イレッサの延命効果が否定されたとはいえず,イレッサの評価は,現時点までに分かった様々な科学的根拠と現在実施中の臨床試験によって変わりうる,④第Ⅲ相試験で主要評価項目が達成されなくとも,社会が要求するようなものであれば,その後も臨床現場では使われるものであるなどとする。【乙E18〔13頁〕,19〔52~56頁〕,20〔113~131,152,153頁〕】 坪井正博は,①イレッサの承認後の第Ⅲ相試験の多くは有効性に関する否定的な結果となっているが,そのことによりイレッサの延命効果が否定されるものではない,②臨床試験は仮説検証型の試験であり,その結果が有効性に関して否定的なものであった場合には症例数の大きさ等その仮説が間違っていたことのみを意味し,それ以上に薬の効果そのものを否定するもので はない,②臨床試験は仮説検証型の試験であり,その結果が有効性に関して否定的なものであった場合には症例数の大きさ等その仮説が間違っていたことのみを意味し,それ以上に薬の効果そのものを否定するものではない,③薬剤の有効性の評価は,1つの臨床試験の主要評価項目の結果のみで判断すべきではなく,複数の臨床試験の様々な解析結果を総合評価することが必要である,④イレッサでは,各臨床試験のサブグループ解析等を含めて総合的に判断する必要があり,これらを踏まえると,イレッサには延命効果がないと結論づけるべきではないなどとする。【丙E48[枝番号1]〔28~41,89,90頁〕,49〔73,75,78,96~98,100,102,105頁〕,50〔13,14頁〕】光冨徹哉は,①イレッサの承認後の第Ⅲ相試験について,1つの試験でネガティブな結果が出た場合,すぐに承認を取り消すというのではなく,総合的に評価して,治療上の利益の有無を決めるべきである,②INTACT各試験は,イレッサを標準的治療薬と併用することで,生存期間を延長する効果があるかをみたものであったが,いずれもイレッサを追加する意義を確認できなかった,③ISEL試験の非喫煙者及び東洋人に関するサブグループにおいて,イレッサ群がプラセボ群よりも生存期間を有意に延長したこと,IDEAL1試験の結果やEGFR遺伝子変異を有する患者の観察などから,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が特定の生物学的背景をもった患者に対して特に有効であると考えられるが,それ以外の患者に対しても有効な場合がある,④V1532試験では,イレッサがドセタキセルに対して非劣性であることを証明できなかったが,イレッサがドセタキセルに比べて劣っていることが証明されたものではない,⑤INTEREST試験では,試験の対象に日本人が含まれて イレッサがドセタキセルに対して非劣性であることを証明できなかったが,イレッサがドセタキセルに比べて劣っていることが証明されたものではない,⑤INTEREST試験では,試験の対象に日本人が含まれていないが,イレッサの ドセタキセルに対する非劣性が証明された,V1532試験とINTEREST試験との結果の違いは,後治療の影響や症例数の差などによるものと考えられる,⑥臨床試験において延命に関する確固たる科学的根拠を得ることは多大な時間と費用を要し,目の前の患者のがん細胞は分裂増殖を続け,患者の貴重な時間を奪いつつあり,臨床医のとるべき態度としては,統計学的に有意な差のみにこだわらず,総合的な事実から方針を決定すべきであるなどとする。【乙E11〔12,13頁〕,証人光冨主尋問〔74~81頁〕,証人光冨反対尋問〔105~107,114~117頁〕】イ承認後の第Ⅲ相試験成績からイレッサの有効性を否定的に評価する見解の要旨濱六郎は,①INTACT各試験では,イレッサがプラセボ群に対して生存期間に有意な差を示せなかっただけでなく,すべての組み合わせでイレッサ群はプラセボ群よりも寿命短縮傾向にあるといえる,②ISEL試験では,イレッサ群がプラセボ群に対して,生存期間中央値に有意な差を示すことができなかったことから,イレッサには延命効果がないものと扱わなければならない,ISEL試験におけるサブグループ解析は仮説を立てることができても,仮説の検証ができず,解析するサブグループの患者背景因子を十分に確認しなければ,探索的に用いることさえでない,被告会社らの行ったサブグループ解析(東洋人での延命効果の延長の指摘)はあくまで仮説にすぎず,また患者背景因子の偏りがあるため,これをもって生存期間の延長を示したといえない,③SWOG0023 い,被告会社らの行ったサブグループ解析(東洋人での延命効果の延長の指摘)はあくまで仮説にすぎず,また患者背景因子の偏りがあるため,これをもって生存期間の延長を示したといえない,③SWOG0023試験では,イレッサが33%寿命を延長するとの仮説の上で試験デザインがされたが,仮説が証明される可能性が極めて低いと計算されたため,試験が早期に中断された,④V1532試験では,イレッサのドセタキセルに対する全生存期間についての非劣性・同等であることを証明することができず,イレ ッサがドセタキセルに劣ると扱われなければならない,⑤INTEREST試験は,日本人を対象とした試験ではなく,INTEREST試験の生存期間中央値はV1532試験よりもイレッサ群で約4か月,ドセタキセル群で約6か月短く,ドセタキセル群での生存期間の短縮が著しかったことが,両群での生存期間の接近を生じさせ,非劣性の証明の原因であった,⑥INTEREST試験はV1532試験と同様に後治療の影響を受けた可能性があり,INTEREST試験では後治療でクロスオーバーされた症例の割合が同程度であったのに対して,V1532試験ではドセタキセル群の後治療でイレッサが投与された割合が多く,イレッサ群では緩和療法又はイレッサの継続投与の症例が多かったことが両試験の差となった,全体の経過に対しての後治療の影響を解析しない限り,適切な評価ができない,⑦IPASS試験は,無増悪生存期間で有意な差を示したというが,後治療を考慮すると疑問である,仮に生存期間の点で有意に優れた結果であったとしても,他の試験で有効性がないとの結果が得られているのであるから,全体としてイレッサの有効性を認めるのは不可能である,⑧EGFR遺伝子変異の有無は,イレッサの生存期間への影響がなかったなどとする。【 も,他の試験で有効性がないとの結果が得られているのであるから,全体としてイレッサの有効性を認めるのは不可能である,⑧EGFR遺伝子変異の有無は,イレッサの生存期間への影響がなかったなどとする。【甲E25〔63~68頁〕,43〔29~38頁〕,44〔64~68,77~80頁〕,45〔6,7頁〕,76〔111~117頁〕,証人濱[第1回]主尋問〔67~75頁〕,証人濱[第1回]反対尋問〔82~91頁〕】福島雅典は,①INTACT各試験では,セカンドライン治療におけるイレッサ単剤の有効性が直接否定されたものではないといえるが,セカンドライン治療における単剤でのイレッサの有効性が証明されていない以上,やはりイレッサには有効性がない,②ISEL試験におけるサブグループ解析自体は後付けの解析なので無意味であって,サブグループ解析の結果を踏まえた臨床試験により有効性が実証されなければならない,③S WOG0023試験では,延命効果が証明されていない,放射線療法をした後に抗がん剤を投与する,放射線療法と化学療法の併用療法の後にドセタキセルを投与する,そのドセタキセルの代わりにイレッサを投与することは通常の治療で行われうるものであるから,SWOG0023試験の結果を重く受け止めるべきであるなどとする。【甲E15〔6頁〕,22〔6頁〕,23〔7頁〕,41〔42~44頁〕,証人福島主尋問〔34~38頁〕,証人福島反対尋問〔16~18,51~60頁〕】別府宏圀は,①INTACT各試験では,いずれもイレッサ投与群がプラセボ群に対して生存期間中央値に有意な差がなく,延命効果を証明できなかった,INTACT各試験では2~3剤の併用療法によりイレッサを投与しているが,併用療法において延命効果を証明できなかったのに,単剤で延命効果を発揮するとい に有意な差がなく,延命効果を証明できなかった,INTACT各試験では2~3剤の併用療法によりイレッサを投与しているが,併用療法において延命効果を証明できなかったのに,単剤で延命効果を発揮するという根拠がない,②ISEL試験では,サブグループ解析の結果により,東洋人に延命効果があることが示唆されたとするが,上記サブグループ解析はあくまで探索的なものであり,仮説にすぎず,医薬品の有効性の根拠にはならない,③SWOG0023試験は,中間解析の結果で生存期間中央値がイレッサ群19か月,プラセボ群29か月であったため,試験の継続によりイレッサが生存期間を改善する可能性がみられないという理由で中止されたとする。【甲E37〔3~6頁〕,甲E39〔18~31頁〕,40〔3~21,79,80頁〕】ウ主要な臨床試験(第Ⅲ相試験)に関する所見(研究報告)(ア) 被告会社が実施した第Ⅲ相試験aINTACT各試験(a) 大橋信之ら「非小細胞肺がんに対するゲフィチニブ(イレッサ)の使用経験」(広島医学56巻3号:平成15年3月,丙E8)INTACT各試験の結果を受けて,現時点ではイレッサの初回治療への導入は否定的であると結論づけられたとする。 (b) 根来俊一,別府宏圀「イレッサの使用をめぐるコントラバーシー」(「医学のあゆみ」206巻12号:平成15年9月,甲E36)(根来の見解の要旨)INTACT各試験では,生存期間及び腫瘍縮小効果のいずれにおいてもイレッサの追加効果が認められなかった。その原因はともかく,INTACT各試験は,合計2000例超の大規模な比較臨床試験であるから,現時点では,化学療法歴のない進行非小細胞肺がん患者に対して実地臨床として従来の抗がん剤とイレッサを同時投与することは妥当ではない。 (別 験は,合計2000例超の大規模な比較臨床試験であるから,現時点では,化学療法歴のない進行非小細胞肺がん患者に対して実地臨床として従来の抗がん剤とイレッサを同時投与することは妥当ではない。 (別府宏圀の見解の要旨)イレッサ単剤の効果については,INTACT各試験の結論に対抗できるような科学的根拠がまだ得られていない。イレッサ単剤の効果を裏付けるといわれているIDEAL1試験のデータは,信頼性に疑問がある。 (c) 山田一彦,西條長宏「ゲフィチニブに対する臨床試験の現況と展望」(「呼吸器科」4巻5号:平成15年11月,甲E52)α INTACT各試験において,イレッサの追加効果がみられなかった原因は次の①~③などの点から試験デザインが不適切であった可能性が考えられる。 ① イレッサが効果を発揮するはずの標的がん細胞が,殺細胞性抗がん剤が効果を示すがん細胞と重複していたため,相加効果が得られなかった。 ② 殺細胞性抗がん剤が直接的又は間接的にEGFRの機能や発現に何らかの影響を与え,イレッサの抗腫瘍効果を減殺した。 ③ イレッサは,チロシンキナーゼに対する阻害作用を有する が,対象分子標的が明確に同定されていない状況において,民族間や人種間で,イレッサが抗腫瘍効果を発揮しやすい遺伝子の保有率に差がある可能性がある。 β これまでの臨床試験の導き出される結論は次のように整理される。 ① 既治療非小細胞肺がんにおける,イレッサ250mg の単剤投与は,安全性と効果の臨床的有用性が示された。 ② 未治療進行非小細胞肺がん症例における従来の化学療法とイレッサの同時併用には,生存期間延長効果がない。 ③ PS0~2の既治療症例に対するイレッサの単剤投与は安全である。 ①及び③はいずれも第Ⅱ相試験の結果であるから, 症例における従来の化学療法とイレッサの同時併用には,生存期間延長効果がない。 ③ PS0~2の既治療症例に対するイレッサの単剤投与は安全である。 ①及び③はいずれも第Ⅱ相試験の結果であるから,②以外の点に関する臨床的疑問は未解決である。そこで,今後検討する課題としては,進行非小細胞肺がんに対する初回化学療法としてのイレッサ単剤の効果及び安全性,イレッサの放射線療法との併用による効果及び安全性,高齢者や全身状態(PS)不良非小細胞肺がん症例などに対するイレッサ単剤の効果及び安全性,既治療非小細胞肺がん症例に対する,従来の化学療法との直接比較試験によるイレッサの効果及び安全性の確認,緩和療法のみとの直接比較によるイレッサの延命効果の証明などが考えられる。 (d) 鈴木裕太郎ら「ゲフィチニブ(イレッサ)が著効した前治療無効肺腺癌の一例」(「治療」Vol.87,No.4 掲載:平成17年4月,丙E17)ファーストラインの非小細胞肺がん患者を対象としてINTACT1試験ではシスプラチンとゲムシタビンの併用療法とイレッサの比較対照試験を,INTACT2試験ではカルボプラチンとパクリ タキセルの併用療法とイレッサの比較対照試験を実施したが,いずれも生存率を向上させる結果を示さなかった。この結果の一因としては,他の分子標的治療薬と異なり,イレッサでは標的とするEGFRの発現を確認せずに非小細胞肺がんという対照群で臨床試験が行われ,かつ効果・効能が承認されていることが挙げられるとされている。 (e) 根来俊一「ISELとBR.21」(「MOOK 肺癌の臨床2005-2006」:平成18年3月15日,丙E45)根来は,INTACT各試験において,イレッサの追加効果がみられなかった原因として以下の点を挙げる。 ① イレッサ (「MOOK 肺癌の臨床2005-2006」:平成18年3月15日,丙E45)根来は,INTACT各試験において,イレッサの追加効果がみられなかった原因として以下の点を挙げる。 ① イレッサが効果を発揮するはずの標的がん細胞が,殺細胞性抗がん剤が効果を示すがん細胞と重複していたため,相加効果が得られなかった。 ② 殺細胞性抗がん剤が直接的又は間接的にEGFRの機能や発現に何らかの影響を与え,イレッサの抗腫瘍効果を減殺した。 ③ 再発非小細胞肺がんに対するイレッサ単剤の奏効率は,IDEAL1試験の日本人を除けば10%程度であり,この程度の抗腫瘍効果で強力な2剤併用化学療法への追加効果を求めることには無理があった。 (f) 西條長宏,DavidH.Johnson,FredR.Hirsch,光冨徹哉,山本信之,高野利実「EGFR-TKIの効果予測因子をめぐって-EGFR遺伝子変異かEGFR遺伝子コピー数か」(ASCO2006 パンフレット:平成18年11月,丙E80)(光冨徹哉の見解の要旨)進行非小細胞肺がんを対象に標準的化学療法のみの群と標準的化学療法とイレッサとの併用群とを比較したINTACT各試験では 標準的化学療法のみの群においてEGFR遺伝子変異のある症例で予後がよい傾向が認められたが,症例数が少ないため,INTACT各試験からはEGFR遺伝子変異が予後因子であるとはいえない。他のデータなどから判断する限りは,EGFR遺伝子変異は予後因子ではなく,延命効果の効果予測因子であると考える。 bISEL試験(a) 西條長宏,NicholasThatcher,田村友秀,山本信之「ISEL試験についてThatcher 教授と語る」(平成17年7月,丙E30)α イレッサの効果には人種差があるか (a) 西條長宏,NicholasThatcher,田村友秀,山本信之「ISEL試験についてThatcher 教授と語る」(平成17年7月,丙E30)α イレッサの効果には人種差があるかについて山本は,人種によるイレッサの奏効率の差が有意ではなかったと報告されたIDEAL1試験の多変量解析の結果について,多変量解析には「免疫療法又はホルモン療法施行歴」という因子が含まれており,上記因子がイレッサと有意に相関したことにより,人種という因子で差が検出できなかった旨述べている。 西條長宏は,免疫療法又はホルモン療法を用いていたのは大半が日本人であったため,IDEAL1試験では人種差が生じなかった旨述べている。 β ISEL試験結果についてThatcher は,①ISEL試験の試験計画書において補助的に用いることが規定されていた分析方法(Cox 回帰分析)では全症例で生存期間の延長につき統計学的有意差が認められた,②ISEL試験とBR.21試験の結果に差が生じた理由(両試験は,同じデザインの試験で同じ作用機序を有する薬剤を使用しながら,前者は,イレッサについて延命効果が統計学的有意差をもって証明できなかったが,後者は,タルセバについて延命効果が統 計学的な有意差ともって証明された。)は,ISEL試験が,EGFR遺伝子変異などの効果予測因子を考慮せずに様々な患者を集積して行ったものなので,患者選択が適切でなかった可能性が考えられるなど述べている。 山本は,ISEL試験により,東洋人のサブグループで生存期間の延長効果が示唆され,東洋人にセカンドライン以降でイレッサを投与し続けることができる科学的根拠を得たと述べ,田村とThatcher も同趣旨の意見を述べている。 (b) NickThatcher ほか「 が示唆され,東洋人にセカンドライン以降でイレッサを投与し続けることができる科学的根拠を得たと述べ,田村とThatcher も同趣旨の意見を述べている。 (b) NickThatcher ほか「Gefitinibplusbestsupportivecareinpreviouslytreatedpatientswithrefractoryadvancednon-small-celllungcancer:resultsfromarandomised,placebo-controlled,multicentrestudy(IressSurvivalEvaluationinLungCancer)」(Lancet 2005 vol.366(1527-37 頁):平成17年10月,丙E34[枝番号8の1,8の2])① ISEL試験の結果,全症例と腺がん症例のいずれにおいても,イレッサ療法は全生存期間の有意な延長と相関しないことが示され,生存期間に関する有意差が得られなかった理由は不明である。 イレッサが非小細胞肺がんに対して有効性を有しないものである可能性,投与量が最適量より少なかった可能性などは考えにくく,ISEL試験の方法論的な問題が生存所見に影響を与えた可能性がある。特に,ISEL試験の高度治療抵抗性疾患患者群にはいかなる追加療法も奏効しなかった可能性がある。試験を行った場所なども,環境因子(喫煙に対する曝露など)を通じて,試験結果に影響を及ぼした可能性がある。 ② ISEL試験のサブグループ解析では,非喫煙者群及び東洋人 群において,イレッサの生存期間に有意差が生じた。 上記サブグループ解析は,予め計画されたものであり,厳密な統計学的手法を使用した。この手法により,1つ以上 では,非喫煙者群及び東洋人 群において,イレッサの生存期間に有意差が生じた。 上記サブグループ解析は,予め計画されたものであり,厳密な統計学的手法を使用した。この手法により,1つ以上の偽陽性所見が分析を行ったサブグループで生じる可能性は低い。よって,非喫煙者群及び東洋人群で認められた生存期間の有意差は,偶然によるものとは考えられず,イレッサ療法の効果であると考えられる。この結論は,副次的評価項目に関するデータのサブグループ解析内の内部整合性によって支持されるものである。 (c) 光冨徹哉「ゲフィチニブはアジア人と非喫煙者には有用な可能性」(MMJ 2006 vol.2 No.2:平成18年2月,丙E44)ISEL試験が生存期間に関する有意差が得られなかった理由として,3つの可能性が挙げられる。 イレッサが化学療法不適応の肺がんに対して無効である可能性は,各臨床試験の結果から考えにくい。 第Ⅱ相試験の結果によれば,250mg/日と500mg/日の奏効率や生存には差がなかったことから,用量に関する可能性も考えにくい。 患者の選択基準に関する可能性がある。ISEL試験は,最後の化学療法投与から90日以内に再発した患者を対象としていたため,治療抵抗性の集団が選ばれていた可能性がある。ISEL試験とBR.21試験(別紙26[タルセバ試験概要・結果(BR.21試験)]参照)では,EGFRチロシンキナーゼが奏効する患者が非奏効である患者に希釈された程度の差が両試験の結果に現れたと解釈できる。したがって,今後の臨床試験ではより利益を受けやすい集団を選択して試験対象とすることが肝要である。 (d) 根来俊一「ISELとBR.21」(「MOOK 肺癌の臨床2005- 2006」掲載:平成18年3月15日,丙E45) 受けやすい集団を選択して試験対象とすることが肝要である。 (d) 根来俊一「ISELとBR.21」(「MOOK 肺癌の臨床2005- 2006」掲載:平成18年3月15日,丙E45)BR.21試験(別紙26[タルセバ試験概要・結果(BR.21試験)])は,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が非小細胞肺がん患者の延命に寄与することを証明した試験である。 イレッサを含むEGFRチロシンキナーゼ阻害剤は,臨床的には非喫煙者,女性,腺がんといった背景を有する患者に,基礎的にはEGFR遺伝子変異を有する患者に効果が高いと考えられるが,例外はある。 真の適応対象を決めるために今後さらなる研究が必要である。ただし,分子標的治療薬の有効性を検証する試験では,標的を有する対象症例に的を絞った試験を行うことが重要であり,従来の抗がん剤のように,漠然と非小細胞肺がん一般を対象とした試験を行うべきではない。我々はこの教訓を次の機会に生かさねばならない。 (e) 西條長宏,DavidH.Johnson,FredR.Hirsch,光冨徹哉,山本信之,高野利実「EGFR-TKIの効果予測因子をめぐって EGFR遺伝子変異かEGFR遺伝子コピー数か」(ASCO2006パンフレット:平成18年11月,丙E80)EGFRチロシンキナーゼ阻害剤を使用した第Ⅲ相試験において,EGFR遺伝子変異解析により変異が確認された症例数は,ISEL試験では26例,BR.21試験では24例,INTACT試験では32例であった。 (f) 別府宏圀ほか「イレッサ(ゲフィチニブ)は日本でも中止を」(「正しい医療と薬の情報」:第20巻1号,平成17年1月28日,甲E31)ISEL試験のサブグループ解析などを踏まえても,東洋人に対する延命効果の証拠はなく,その可能 ニブ)は日本でも中止を」(「正しい医療と薬の情報」:第20巻1号,平成17年1月28日,甲E31)ISEL試験のサブグループ解析などを踏まえても,東洋人に対する延命効果の証拠はなく,その可能性もない。 ①市販前の臨床試験(IDEAL1試験)では,日本人群と外国人群との間では腫瘍縮小効果に民族差がない,②ISEL試験の東洋人サブグループ解析では,東洋人群の喫煙歴なしの患者では生存期間中央値4.5か月であり,これは東洋人群の喫煙歴ありの患者の生存期間中央値6.3か月に比較して極端に短く,東洋人で喫煙歴なしの患者には著しい偏りが考えられる(非東洋人群では,喫煙歴なしの患者の生存期間中央値が7.1か月,喫煙歴ありの患者の生存期間中央値が4.8か月であり,これが一般的な結果である。),③一般に,延命効果を見る成績を提示する場合,患者の背景因子に偏りがないことを示すべきであるのに,これをしていないので,東洋人の非喫煙者のサブグループ解析結果は無効である,④EGFR遺伝子変異発現は,イレッサ使用による腫瘍縮小効果と関係しているが,生存期間との関連は不明である,⑤ISEL試験における東洋人群の結果は,IDEAL1試験の結果や一般常識と矛盾するため,信用性がない。 したがって,ISEL試験において示された非東洋人群の結果(寿命延長効果がなかった)は日本人にも当てはまるといえるから,イレッサは日本人にも無効であるとして対処すべきである。 (g) 濱六郎「イレッサISEL試験患者背景に有意の偏り:『東洋人に延命効果』は疑問」(「正しい医療と薬の情報」第20巻3号,平成17年3月28日,甲E32)ISEL試験の東洋人サブグループ解析では,最も重要な背景因子である「診断から無作為割付けまでの期間」に重要な偏りがみられたから, 医療と薬の情報」第20巻3号,平成17年3月28日,甲E32)ISEL試験の東洋人サブグループ解析では,最も重要な背景因子である「診断から無作為割付けまでの期間」に重要な偏りがみられたから,上記サブグループ解析により東洋人に延命効果が示唆されたということはできず,イレッサが東洋人・日本人にも効かないことが証明されたも同然である。 東洋人サブグループにおける喫煙者ではイレッサ群とプラセボ群間の比率が同じであるが,非喫煙者ではイレッサ群には診断から割付けまでの期間が長い患者が多かった(進行が遅く長生きを期待できる患者はイレッサ群に多かった。)。診断から割付けまでが短い患者は,プラセボ群で41%,イレッサ群で22%,診断から割付けまでが1年以上空いている患者は,プラセボ群で25%,イレッサ群で40%であり,統計学的に有意な差であった。したがって,イレッサ群で生存率が高くても,イレッサにより寿命が延長したとはいえない。 また,上記背景因子の差は,対象者の割付けが無作為ではなく,作為が働いたと考える。無作為に割り付けたのであれば,有意差に気がつけば,その要因を調整したはずである。 cV1532試験(a) 丸山理一郎ら「Phase Ⅲstudy,V15-32,ofGefitinibVersusDocetaxelinPreviouslyTreatedJapanesePatientsWithNon-Small-CellLungCancer 」(JOURNALOFCLINICALONCOLOGYVol.26 No.26:平成20年9月,丙E60[枝番号1,2])① V1532試験では,全生存期間に関して,イレッサのドセタキセルに対する非劣性を証明することができなかったが,両薬剤治療期間 ol.26 No.26:平成20年9月,丙E60[枝番号1,2])① V1532試験では,全生存期間に関して,イレッサのドセタキセルに対する非劣性を証明することができなかったが,両薬剤治療期間に有意差は認められなかった。 試験計画時の統計学的仮定では,イレッサ群の方がドセタキセル群よりも生存率が20%長いとしたため,非劣性試験にしては症例数を比較的少なく設定した。しかし,V1532試験開始後,日本での市販後の経験やV1532試験などにおいて,多数の症例で増悪後に割り付けられなかったもう一方の薬剤への切り替えが行われたことから,イレッサ群とドセタキセル群が類似し た生存期間を有する可能性が高いと考えられるようになった。生存期間が同等であると仮定すると,V1532試験の規模で非劣性を証明できる確率は48%に低下する。 また,V1532試験のドセタキセル群の生存期間中央値(14.0か月)は,ドセタキセルの日本における過去の試験成績(7.8~9.4か月)よりも長かった。 ② V1532試験では,割付治療の中止後にさらに抗がん剤の追加投与を受けた患者の割合が高く,後治療が行われた症例数やタイプに違いがみられたため,生存率の成績を解釈することが難しくなった。 V1532試験で用いた副次的評価項目は後治療の影響をほとんど受けず,その成績から日本人患者においてイレッサとドセタキセルは同様に有効であることが再確認された。 ③ V1532試験では主要目的を達成できず,一部のサブグループは症例数が少なく,後治療に関しても群間に違いがみられたため,サブグループ解析の結果は慎重に解釈すべきである。 群間比較の結果,ドセタキセルに比べてイレッサの投与により全生存期間が有意に延長したサブグループはなかった。 事後解析で群間比較を行うと たため,サブグループ解析の結果は慎重に解釈すべきである。 群間比較の結果,ドセタキセルに比べてイレッサの投与により全生存期間が有意に延長したサブグループはなかった。 事後解析で群間比較を行うと,いずれの群でも,女性,喫煙歴のない例及び腺がん例の方が,それ以外の例に比べて生存期間が有意に長かった。上記サブグループでは,イレッサだけでなく,ドセタキセルの投与でも優れた効果が得られるものと思われる。 しかし,上記サブグループのドセタキセル割付例では,後治療としてイレッサの投与率が高く,後治療の影響をほとんど受けない無増悪生存期間や奏効率では上記サブグループにおける有効性はイレッサには認められたが,ドセタキセルには認められなかっ た。 後治療が上記サブグループにおける全生存期間の解釈を複雑にしていることを示唆するものである。 (b) 國頭英夫「国内第Ⅲ相臨床試験(V15-32 )」(AstraZenecaSymposiumonMolecularTargetedTherapyinNSCLC 2007Hilights:平成19年9月,丙E64)V1532試験では,クロスオーバー(後治療では,割り付けられた薬剤ではないもう一方の薬剤を投与した。)があるため最後には生存期間が重なるはずであるが,実際には後半にイレッサが優勢になっており,クロスオーバーの効果がどこかで消えてしまった。 上記現象は最初にドセタキセルを投与された症例ではイレッサの投与時期を逸する,又は効果を最大限に発揮できる投与時期を逸する患者がいることを示唆しているのかもしれない。 (c) 西條長宏「V-15-32 試験の結果より分子標的治療薬と殺細胞性抗悪性腫瘍薬の効果の差を考察する」(「がん分子標的治療」Vol.5No.4:平成19年,甲 示唆しているのかもしれない。 (c) 西條長宏「V-15-32 試験の結果より分子標的治療薬と殺細胞性抗悪性腫瘍薬の効果の差を考察する」(「がん分子標的治療」Vol.5No.4:平成19年,甲E62)選別しない症例群を対象とした臨床試験における抗腫瘍効果は,分子標的治療薬よりも殺細胞性抗悪性腫瘍薬の方が高い可能性がある。分子標的治療薬は分子標的を保有する細胞にのみ抗腫瘍効果を示すため,同じ奏効率であっても全体として腫瘍量減少量は殺細胞性抗悪性腫瘍薬に比べて少ないことがある。 V1532試験の結果を見ると,全体としては,多数の患者に多少なりとも効果を示すドセタキセルの抗腫瘍効果は,特定の少数集団にのみ効果を示すと思われるイレッサよりも上回ると示唆され,特に標的をもたない患者群に対する抗腫瘍効果の差は著しいと考えられる。 V1532試験の結果は,イレッサが標的の明確な患者集団に対して投与すべきことを示唆しているが,標的を確実に選別する方法がない状況といえる。 (d) 竹内正弘「ゲフィチニブとドセタキセルの生存期間を比較する多施設共同非盲検無作為化並行群間比較第Ⅲ相市販後臨床試験の結果に対する統計的考察」(平成19年2月1日,甲C6)α ドセタキセル群に対するイレッサ群の治療効果が時間依存的に変化する現象を捉えるために,時点ごとの生存率を評価指標として,治療効果を時点ごとに推測すると,次の①及び②の結果となった。 ① 1年未満の時点における生存率は,治療効果の95%信頼区間から,ドセタキセル群がイレッサ群よりも優れていることが示唆された。 ② 2年前後の時点では,治療効果の点推定値の結果からはイレッサ群の方がドセタキセル群よりもよかった。しかし,その信頼区間は広く,これらの時点でイレッサ群がドセタキセル ていることが示唆された。 ② 2年前後の時点では,治療効果の点推定値の結果からはイレッサ群の方がドセタキセル群よりもよかった。しかし,その信頼区間は広く,これらの時点でイレッサ群がドセタキセル群より優れていると積極的にはいいがたい。 β 効果予測因子及び予後因子の探索など,詳細な解析が必要となるが,その解析は探索的な解析であり,そこから得られた新たな仮説を別途検証すべきである。 効果予測因子及び予後因子が特定できたとしても,治療効果が時点ごとに異なる結果の場合,治療法の選択は有効性と安全性の比較衡量(1年未満の生存率を重視するか,2年後の生存率をより重視するか)に基づく判断によって決定される。 dINTEREST試験(a)EdwardSKimほか「Gefitinibversusdocetaxelin previouslytreatednon-small-celllungcancer(INTEREST):aramdomaisedphase Ⅲ trial」:(平成20年11月,丙E57[枝番号1,2])INTEREST試験により,進行性非小細胞肺がんにおける分子標的治療薬と殺細胞性抗がん剤は同程度の有効性を示すことが確認され,イレッサはドセタキセルに対して全生存期間の点で非劣性を示し,抗腫瘍効果と無増悪生存期間の点ではイレッサとドセタキセルが同程度であることを示している。 INTEREST試験におけるイレッサとドセタキセルを用いた場合の生存期間中央値は今までの試験の結果と類似しており,両投与群は予想通りの結果を示したことを示唆している。 これに対して,日本で実施されたV1532試験では,ドセタキセルに対するイレッサの生存期間における非劣性を統計的に証明できなかった。 V ,両投与群は予想通りの結果を示したことを示唆している。 これに対して,日本で実施されたV1532試験では,ドセタキセルに対するイレッサの生存期間における非劣性を統計的に証明できなかった。 V1532試験は,小規模であり,試験治療中止後に実施した後治療に均衡がとられていなかったため,生存期間のデータの解釈を複雑にしている。これとは対照的に,INTEREST試験では後治療に関して投与群間で均衡がとられている。 (b) J-Y.Douillard「化学療法治療歴を有する非小細胞肺がんにおけるイレッサとドセタキセルを比較した第Ⅲ相試験(INTEREST)における,臨床因子及びバイオマーカーによるサブグループ解析」(ASCO2008 ConferenceHighlightsvol.2:平成20年8月,丙E62[枝番号2])INTEREST試験のサブグループ解析では,イレッサとドセタキセルのいずれかの延命効果をより強く予測するような臨床因子やバイオマーカーを同定することはできなかった。非喫煙者,女 性,アジア人,腺がん及びEGFR遺伝子変異陽性の各サブグループでは,それ以外のサブグループよりも全生存期間が長い傾向がみられたが,各群による差は認められておらず,上記因子は効果予測因子ではなく,予後因子である可能性を示唆している。上記因子は,プラセボと比較した時のイレッサ又はドセタキセルによる延命効果を予測する因子である可能性も考えられる。 (c) RonaldB.Natale「ドセタキセルに対する全生存期間の非劣性を証明する海外第Ⅲ相試験」(AstraZenecaSymposiumonMolecularTargetedTherapyinNSCLC 2007 Hilights:平成19年9月,丙E64) 外第Ⅲ相試験」(AstraZenecaSymposiumonMolecularTargetedTherapyinNSCLC 2007 Hilights:平成19年9月,丙E64)ISEL試験では,イレッサ群がプラセボ群に比べて,全生存期間において良好な傾向がみられたが,統計学的な有意差はみられなかった。 ISEL試験ではINTEREST試験に比較して,セカンドラインの症例が少なく(49%vs85%),前化学療法にPDであった症例が多く(45%vs31%),PS2以上の症例が多い(33%vs12%)といった患者背景の違いがあり,この差異は両試験結果が異なる一因と考える。 (d) 濱六郎「ゲフィチニブ(イレッサ)-IPASS試験とINTEREST試験でも生存短縮-」(「正しい医療と薬の情報」第24巻8・9号:平成21年9月28日,甲E94[枝番号43])割付療法使用期間の中央値は,イレッサ群が2.4か月,ドセタキセル群が2.8か月であったから,主要評価項目である全生存期間に対する各薬剤の直接的な影響は約3か月までのデータに現れる。したがって,全生存期間に対する最も信頼できる検討期間は投与開始から約3か月目までである。 投与開始から3か月までの間の1か月ごとの累積死亡率を検討すると,最初の1か月間の死亡率は,ドセタキセル群が約1.8%,イレッサ群が約3.7%であり,イレッサ群はドセタキセル群の約2倍であり有意に高かった。2か月目と3か月目の月ごとの死亡率には,イレッサ群とドセタキセル群の間に有意な差はなかったが,3か月目の累積死亡率は,ドセタキセル群が16.8%,イレッサ群が21.2%であり,イレッサ群はドセタキセル群に比べて有意に高かった。イレッサ群はドセタキセル群よりも死亡者数が34人多かっ たが,3か月目の累積死亡率は,ドセタキセル群が16.8%,イレッサ群が21.2%であり,イレッサ群はドセタキセル群に比べて有意に高かった。イレッサ群はドセタキセル群よりも死亡者数が34人多かった。 全体として,差がないように見えるのは半数以上がそれぞれ最初に割り付けられた治療法を中止し,その後イレッサ群はドセタキセルなど他の化学療法を,ドセタキセル群はイレッサなどをそれぞれ後治療として用いた結果と推察される。 無増悪生存期間についても,後治療が影響していたと思われる。 eIPASS試験(a) TonyS. Mok ら「GefitiniborCarboplatin-PaclitaxelinPulmonaryAdenocarcinoma 」(TheNewEnglandJournalofMedicine):平成21年8月,丙E72[枝番号1,2])α IPASS試験のEGFR遺伝子変異を有する患者のサブグループでは,イレッサ投与群の方が,カルボプラチンとパクリタキセルの併用療法群よりも奏効率が高く(71.2%),無増悪生存期間が延長していた。他方,上記遺伝子変異を有しない患者のサブグループでは,イレッサの奏効率は低く(1.1%),無増悪生存期間は併用療法群の方が良好であった。上記対照的な転帰によって,全患者集団における無増悪生存期間の治療効果の経時的な変化が説明されるものと考えられる。 β IPASS試験の結果は,可能な場合には常に肺腺がんの初期治療前にEGFR遺伝子変異の状態を明らかにすべきであることを示唆している。IPASS試験では,臨床的に選別された集団における腫瘍の59.7%がEGFR遺伝子変異を有しているのに対して,ISEL試験及びINTEREST試験の未選別患者集団におけ あることを示唆している。IPASS試験では,臨床的に選別された集団における腫瘍の59.7%がEGFR遺伝子変異を有しているのに対して,ISEL試験及びINTEREST試験の未選別患者集団における腫瘍ののEGFR遺伝子変異を有している患者の割合はそれぞれ12.8%と14.8%であった。 γ EGFR遺伝子変異の存在は,イレッサの効果予測因子であり,EGFR遺伝子変異を有する患者に対するファーストライン治療においてはイレッサは有益である。 (b) 福岡正博ら「化学療法未治療のNSCLC患者を対象にしゲフィチニブとカルボプラチン/パクリタキセルを比較する第Ⅲ相試験(IPASS)」(JapaneseJournalofLungCancer:平成20年10月,丙E63)IPASS試験では,アジアにおける,化学療法未治療,非喫煙者・軽度の喫煙者,腺がんの非小細胞肺がん患者に対して,イレッサは2剤併用化学療法よりも優れた有効性を示し,QOLの改善,同等の症状改善,良好な忍容性を示した。 無増悪生存期間については,2剤併用化学療法が初期には優れていたが,以後はイレッサが優れていたが,これはEGFR遺伝子変異の有無による効果の違いによってもたらされた可能性が高い。 (c) 濱六郎「ゲフィチニブ(イレッサ)-IPASS試験とINTEREST試験でも生存短縮-」(「正しい医療と薬の情報」第24巻8・9号:平成21年9月28日,甲E94[枝番号43])各群の割付療法使用期間の中央値は,イレッサ群が5.6か月(0.1~22.8か月,平均6.4か月),カルボプラチンとパ クリタキセルの併用群(CP併用群)が4.1か月(0.7~5. 8か月,平均3.4か月)であった。すなわち,4か月目以降は,CP併用群の約半数がカルボプラチンとパ ),カルボプラチンとパ クリタキセルの併用群(CP併用群)が4.1か月(0.7~5. 8か月,平均3.4か月)であった。すなわち,4か月目以降は,CP併用群の約半数がカルボプラチンとパクリタキセルの併用療法を終了し,他の療法に切り替えた可能性がある(死亡例は後療法なしである)。また,イレッサ群でも開始後6か月経過時には,半数以上がイレッサの使用を終了した。したがって,各薬剤の直接的な影響はせいぜい4か月までのデータに現われていることになる。 また,総死亡の累積オッズ比は,4か月まではほぼ2前後であり,5か月目までは有意であるが,5か月を超えると1に近くなり有意でなくなる。4か月目における累積死亡者数は,CP併用群が49人,イレッサ群が82人と推定された。これは,CP併用群に比してイレッサ群で死亡が33人多いことを示すものであり,この33人は少なくともイレッサによる死亡といえる。CP併用群でも副作用死が生じているはずであるから,イレッサによる死亡は33人よりも多いはずである。 1か月毎に見てみると,イレッサ群の死亡オッズ比は,1か月までが約2.0(有意),2か月目が約1.6,3か月目が約3.1(有意)であった。4か月目,5か月目では,総死亡はCP併用群とイレッサ群との間で有意差がなく,5か月を超えると,イレッサ群の死亡が,CP併用群に比べて有意に少なくなった(オッズ比0.29)。 この結果,4か月目まで(0~4か月未満)のオッズ比と6か月目(5か月~6か月未満)のオッズ比を計算し,それぞれを比較すると,6か月目のオッズ比に対して4か月目までのオッズ比は,総死亡では6.2倍であった。すなわち,4か月目までと6か月目ではハザード比が6倍も異なる。全生存期間では,全期間期間のハザ ード比が一定であることを条 対して4か月目までのオッズ比は,総死亡では6.2倍であった。すなわち,4か月目までと6か月目ではハザード比が6倍も異なる。全生存期間では,全期間期間のハザ ード比が一定であることを条件として成り立っているコックス(Cox)の比例ハザードモデルによるハザード比の計算は成立しないということを示している。これは全生存期間だけではなく,無増悪生存期間についても同様である。 以上のように,IPASS試験では,後治療が全生存期間だけでなく,無増悪生存期間に影響した。 (イ) 他の研究グループが実施した第Ⅲ相試験aSWOG0023試験KarenKelly ら「Phase Ⅲ trialofmaintenancegefitiniborplaceboafterconcurrentchemoradiotherapyanddocetaxelconsolidationininoperablestage Ⅲ non-small-celllungcancer (SWOG0023)」(JOURNALOFCLINICALONCOLOGYvol.26 no.15:平成20年5月,甲E77)臨床試験において維持療法として投薬されたイレッサは,生存期間において,プラセボと比較しても結果的に劣性を示した。患者の背景因子の差又は有意な治療の相互作用の結果であるとは考えにくく,喫煙歴など,SWOG0023試験で捕捉していない患者の背景因子で差が生じている可能性はあるとしても,患者の背景因子のみではイレッサに関する否定的な結果の説明はできそうにない。 イレッサがプラセボと比較して劣性を示した理由は不明であるが,臨床試験外のⅢ期の患者に対して維持療法として日常的に使用することは避けるべきである。 bWJ 定的な結果の説明はできそうにない。 イレッサがプラセボと比較して劣性を示した理由は不明であるが,臨床試験外のⅢ期の患者に対して維持療法として日常的に使用することは避けるべきである。 bWJTOG0203試験(a) 樋田豊明「進行非小細胞肺がん症例におけるプラチナ製剤を含む2剤併用化学療法+逐次イレッサ併用療法とプラチナ製剤を含む2剤併用化学療法の継続とを比較するランダム化比較第Ⅲ相試験:西 日本胸部腫瘍臨床研究機構試験(WJTOG0203)の結果」(ASCO2008ConferenceHighlightsvol.1:平成20年8月,丙E62[枝番号1])WJTOG0203試験において試験計画で事前に計画されていたサブグループ解析によると,腺がん症例ではイレッサ群が有意な延命効果の延長を示した。 非喫煙者症例ではイレッサ群と化学療法群との間に有意な差はなかったが,非喫煙者症例の化学療法群の76%の患者が後治療でイレッサの投与を受けたことから,クロスオーバーが生じ,イレッサが両群に同じように延命効果をもたらした可能性が考えられる。 イレッサがよく奏効するサブグループに関しては,化学療法後すぐにイレッサ投与を開始する場合と病勢進行を確認してから投与を開始する場合で延命効果には差がない可能性が示唆される。 (b) KojiTakeda ら「RandomizedPhase Ⅲ TrialofPlatinum-DoubletChemotherapyFollowedbyGefitinibComparedWithContinuedPlatinum-DoubletChemotherapyinJapanesePatientsWithAdvancedNon-Small-CellLu WithContinuedPlatinum-DoubletChemotherapyinJapanesePatientsWithAdvancedNon-Small-CellLungCancer:ResultsofaWestJapanThoracicOncologyGroupTrial(WJTOG0203)」(JOURNALOFCLINICALONCOLOGY:平成21年9月,丙E79[枝番号1,2])WJTOG0203試験では,主要評価項目である全生存期間について,2剤併用療法後の逐次療法としてのイレッサの有益性は証明されなかった。サブグループ解析の結果,イレッサの逐次療法によって生存期間が延長する可能性(特に腺がん患者)があることが証明された。 cNEJ002試験 MakotoMaemondo ら「GefitiniborChemotherapyforNon-Small-CellLungCancerwithMutatedEGFR」(TheNewEnglandJournalofMedicine:平成22年6月,丙E78[枝番号1,2])IPASS試験では,サブグループ解析により,イレッサがEGFR遺伝子変異を有する患者群には有効であったが(死亡又は病勢進行のハザード比:0.48),EGFR遺伝子変異を有しない患者群には無効であった(ハザード比:2.85)という所見が示された。NEJ002試験は上記所見の正当性を証明するものである。 進行非小細胞肺がんに対する治療の第Ⅲ相試験の主要評価項目は全生存期間である。しかし,NEJ002試験を開始した際(平成18年)には,EGFR遺伝子変異のある非小細胞肺がん患者を対象としたNEJ第Ⅱ相試験 細胞肺がんに対する治療の第Ⅲ相試験の主要評価項目は全生存期間である。しかし,NEJ002試験を開始した際(平成18年)には,EGFR遺伝子変異のある非小細胞肺がん患者を対象としたNEJ第Ⅱ相試験(NEJ第Ⅱ相試験の概要及び結果は,別紙21[NEJ第Ⅱ相試験概要・結果]のとおりである。)から無増悪生存期間に関するデータしか入手できなかった。全生存期間に関するデータを最初に入手したのは平成20年であり,このころにIPASS試験のサブグループ解析などが報告された。 エ承認後の被告国の対応(ア) 厚生労働省のゲフィチニブ検討会【丙E45,丙K3[枝番号1~16],4[枝番号1~12],5[枝番号1~12],6[枝番号1~13]】平成16年12月,被告会社が,ISEL試験におけるイレッサ投与群とプラセボ対照群の生存期間に有意差を認めなかったとの結果を発表したことを受け,厚生労働省は,平成17年1月20日,同年3月10日,同月17日,同月25日の合計4回にわたり,ゲフィチニブ検討会を開催した。同検討会は,ISEL試験の詳細解析結果,EGFR遺伝子変異に関する治験及び日本肺癌学会作成の「ゲフィチニブ使用に関す るガイドライン」について,検討した。 ゲフィチニブ検討会は,同年1月20日,第1回ゲフィチニブ検討会における検討結果を踏まえ,「ゲフィチニブISEL試験の初回解析結果に関する意見」を公表し,①ISEL試験の結果の我が国におけるイレッサの臨床的有用性に対する影響を判断するためにはISEL試験結果の詳細な解析結果を待つ必要があること,②現時点で本剤の使用を制限する等の措置を講ずる必要性に乏しいこと等を指摘した。 【丙K6[枝番号8]】その後,同検討会は,3回にわたり検討し,次のa~cを内容とする「ゲフィチニブIS ること,②現時点で本剤の使用を制限する等の措置を講ずる必要性に乏しいこと等を指摘した。 【丙K6[枝番号8]】その後,同検討会は,3回にわたり検討し,次のa~cを内容とする「ゲフィチニブISEL試験結果の評価とゲフィチニブ使用に関する当面の対応についての意見」を公表した。 aISEL試験の結果について全症例を対象とした場合,イレッサ群とプラセボ群との比較で腫瘍縮小効果では統計学的に有意な差が認められたが,主要評価項目である生存期間では,試験計画書に記載された解析手法により解析した結果,統計学的に有意な差が認められなかった。 東洋人を対象としたサブグループ解析では,イレッサの投与が生存期間の延長に寄与することが示唆され,上記サブグループ解析の結果は信頼性が高いと認められた。 bEGFR遺伝子変異の臨床応用についてEGFR遺伝子変異は,イレッサの腫瘍縮小効果を予測しうる重要な因子である。 しかし,EGFR遺伝子変異検査には,標準的な測定及び評価方法が確立しておらず,EGFR遺伝子変異検査の結果の信頼性には疑問があり得ること,EGFR遺伝子変異が確認されていない症例でも奏効する症例が少数ながら存在することから,現在の測定及び評価方法 によりEGFR遺伝子変異が確認されていない場合でも,検査結果がイレッサの投与を行わないとするだけの決定的な根拠とはならない。 c ゲフィチニブ使用に関する当面の対応について国は,ゲフィチニブ(イレッサ)の適正使用を進めるため,同年3月に改訂された日本肺癌学会の「ゲフィチニブ使用に関するガイドライン」の医薬関係者及び患者に対する周知を図る。 被告会社は,患者情報の把握に一層努めるとともに,関係学会と協力するなどして,ゲフィチニブの有効性と関係する変異の解明,EGFR遺 関するガイドライン」の医薬関係者及び患者に対する周知を図る。 被告会社は,患者情報の把握に一層努めるとともに,関係学会と協力するなどして,ゲフィチニブの有効性と関係する変異の解明,EGFR遺伝子変異検査方法の確立等に向けて努力し,得られた成果を積極的に公表して,医薬関係者及び患者に対して情報提供する。 被告会社は,ゲフィチニブの日本人における生存期間に対する有効性を評価するための比較試験の早急な完了に向けて努力する。 被告会社は,急性肺障害,間質性肺炎発症原因の解明や回避方法の策定に向けて努力し,得られた成果を積極的に公表して,医薬関係者及び患者に対して情報提供する。 (イ) 薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会【乙D65,丙K8[枝番号14]】薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会の安全対策調査会は,平成19年2月1日,被告会社から提出された「1又は2レジメンの化学療法治療歴を有する,進行/転移性(ⅢB記/Ⅳ期)又は術後再発の非小細胞肺癌患者を対象にゲフィチニブとドセタキセルの生存期間を比較する多施設共同非盲検無作為化並行群間比較第Ⅲ相市販後臨床試験」(国内第Ⅲ相試験,V1532試験)の結果について検討し,さらに,平成20年8月1日,被告会社が提出した同試験についての詳細な解析結果等及び被告会社が提出した「プラチナ製剤を含むレジメンによる治療歴を有する局所進行又は転移性非小細胞肺癌患者におけるゲフィチニ ブとドセタキセルの多施設共同非盲検無作為化並行群間比較第Ⅲ相試験」(INTEREST試験)の結果について検討し,以下のような意見を取りまとめた。 aV1532試験についてV1532試験は,全生存期間におけるイレッサ群のドセタキセル群に対する非劣性を示すことができなかった。後 験)の結果について検討し,以下のような意見を取りまとめた。 aV1532試験についてV1532試験は,全生存期間におけるイレッサ群のドセタキセル群に対する非劣性を示すことができなかった。後治療が全生存期間に何らかの影響を与えた可能性が考えられるが,その影響を正確に評価することは困難と考えられた。 主要評価項目である全生存期間について,各サブグループにおいて治療群間を比較した場合,ドセタキセルと比較してイレッサの効果がより高いサブグループは明らかにはならなかった。EGFR遺伝子変異については,死亡例が非常に少ないため,全生存期間に関して評価を行うことは困難であった。 以上の結果等を踏まえると,平成19年2月1日の同調査会における「1又は2レジメンの化学療法歴(少なくとも1レジメンはプラチナ製剤を含む)を有する手術不能又は再発非小細胞肺がんの患者の治療に際し,一般的に,ドセタキセルに優先してイレッサの投与を積極的に選択する根拠はない」との検討結果を変更する必要はないと考えられた。 bINTEREST試験についてINTEREST試験は,アジア地域を含む24か国が参加して行われた試験である。 全生存期間におけるイレッサ群のドセタキセル群に対する非劣性が示された(ハザード比=1.020(96%信頼区間0.905~1.150))。なお,ハザード比は,アジア人(1.04)とアジア人以外(1.01)で類似していた。 c イレッサの使用等についてV1532試験及びINTEREST試験の結果などを踏まえると,少なくとも投与開始後4週間は入院又はそれに準ずる管理の下で,間質性肺炎等の重篤な副作用発現に関する観察を十分に行うなど,現在の安全対策が継続されることにより,イレッサは手術不能又は再発非小細胞肺がんの治療に 与開始後4週間は入院又はそれに準ずる管理の下で,間質性肺炎等の重篤な副作用発現に関する観察を十分に行うなど,現在の安全対策が継続されることにより,イレッサは手術不能又は再発非小細胞肺がんの治療において臨床的に有用なものである。 V1532試験の結果などを踏まえると,引き続き,1又は2レジメンの化学療法歴(少なくとも1レジメンはプラチナ製剤を含む)を有する手術不能又は再発非小細胞肺がんの患者の治療に際し,一般的に,ドセタキセルに優先してイレッサの投与を積極的に選択する根拠はない旨について,V1532試験の結果とともに,患者に十分な説明が行われるよう被告会社に対し,医薬関係者に情報提供するよう指導することが適当である。 なお,上記の情報提供のため,国内第Ⅲ相試験の結果(概要)については,添付文書の「その他の注意」欄に記載することが適当である。 厚生労働省は,引き続き,国内外における本剤の有効性及び安全性に関する情報を収集し,必要な対応を行うことが適当である。 オ承認後の第Ⅲ相試験成績の評価(ア) INTACT各試験について【甲B1,2】INTACT各試験の結果は,平成14年8月に公表された。 INTACT1試験(別紙12(INTACT1試験概要・結果))は,ファーストラインの進行又は転移性の非小細胞肺がん患者を対象として,イレッサの標準的治療法(シスプラチンとゲムシタビンの併用療法)に対する有効性を確認することを目的として,シスプラチン・ゲムシタビンの2剤併用療法とイレッサ・シスプラチン・ゲムシタビンの3 剤併用療法を比較した試験であり,症例数は1093例であった。INTACT1試験の結果は,主要評価項目である全生存期間(生存期間中央値及び1年生存率)についてみると,3剤併用療法群(イレッサ250mg/日群 を比較した試験であり,症例数は1093例であった。INTACT1試験の結果は,主要評価項目である全生存期間(生存期間中央値及び1年生存率)についてみると,3剤併用療法群(イレッサ250mg/日群)の各値はそれぞれ9.9か月,41%,プラセボ群(2剤併用療法群)の各値はそれぞれ10.9か月,44%であった。この3剤併用療法群の数値は,2剤併用療法群と比較して,同程度又は低いものであるほか,奏効率も,3剤併用療法群が51.2%,2剤併用療法が47.2%であって,同程度であり,優位な数値を示すものではなかった。 INTACT2試験(別紙13(INTACT2試験概要・結果))も,INTACT1試験と同様の試験デザインであり,ファーストラインの進行又は転移性の非小細胞肺がん患者を対象として,イレッサの標準的治療法(カルボプラチンとパクリタキセルの併用療法)に対する有効性を確認することを目的として,カルボプラチン・パクリタキセルの2剤併用療法とイレッサ・カルボプラチン・パクリタキセルの3剤併用療法を比較した試験であり,症例数は1037例であった。INTACT2試験の結果は,主要評価項目である全生存期間(生存期間中央値及び1年生存率)についてみると,3剤併用療法群(イレッサ250mg/日群)の各値はそれぞれ9.8か月,41%,プラセボ群(2剤併用療法群)の各値はそれぞれ9.9か月,42%であった。この3剤併用療法群の数値は,2剤併用療法群と比較して,同程度又はごく僅かに低いものであるほか,奏効率も,3剤併用療法群が30.4%,2剤併用療法が28.7%であって,有意な差をもって優位であるということはできず,むしろ,同程度であった。 INTACT各試験の結果によれば,いずれもイレッサを含む3剤併用療法がファーストラインにおける標準的治療法であ %であって,有意な差をもって優位であるということはできず,むしろ,同程度であった。 INTACT各試験の結果によれば,いずれもイレッサを含む3剤併用療法がファーストラインにおける標準的治療法である2剤併用療法よ りも生存期間を延長することは証明されなかったのであるから,標準的治療法に加えられたイレッサには標準的治療法による生存期間を延長する効果がないことが明らかとなったと認められる。 INTACT各試験の結果について,非小細胞肺がん患者に対するファーストライン治療においては,2剤併用療法よりもイレッサを優先して投与すべき根拠が得られなかったとみる見方は,理論的可能性としてはあり得なくはないが,INTACT各試験が2剤併用療法とイレッサを比較対照した試験ではない以上,INTACT各試験でそのような結論が得られたとまでいうことはできない。 原告らは,INTACT各試験により延命効果が示せなかった原因がイレッサに寿命短縮効果があるからであるなど主張する。しかし,INTACT各試験は,いずれもイレッサ単剤の効果を確認するための試験ではなく,ファーストラインにおける標準的治療法である2剤併用療法の効果にさらなる効果を期待できるかを確認することを目的とした試験デザインであるから,INTACT各試験の結果から直ちにイレッサ単剤には延命効果がないことが証明されるものではないことはいうまでもない。 また,INTACT各試験において,イレッサを含む3剤併用療法が2剤併用療法に対して生存期間を延長する効果を示すことができなかった原因は明らかではなかった。むしろ,IDEAL各試験の結果などと併せ考慮すれば,イレッサ単剤の効果に原因があるのではなく,抗がん剤同士の相互作用や殺細胞性抗がん剤の作用による可能性や試験デザインの不適切さなどに はなかった。むしろ,IDEAL各試験の結果などと併せ考慮すれば,イレッサ単剤の効果に原因があるのではなく,抗がん剤同士の相互作用や殺細胞性抗がん剤の作用による可能性や試験デザインの不適切さなどに原因がある可能性もあり,イレッサの延命効果は,今後の臨床試験の結果を踏まえて,INTACT各試験の結果との整合性などを含めてさらに検討していくべきであると考えられていたといえる。したがって,INTACT各試験の結果から直ちにイレッサには延 命効果がないとする原告らの主張は採用できない。 (イ) ISEL試験について【甲A14,甲C1,丙E30,34[枝番号8の1,2],丙K3[枝番号3],4[枝番号5]】ISEL試験の結果は,平成16年12月に公表された。 a 試験結果等ISEL試験(別紙14(ISEL試験概要・結果))は,非小細胞肺がんに対するセカンドライン又はサードライン治療の患者を対象として,イレッサのプラセボに対する優越性を確認することを目的とした試験であり,症例数は1692例(うち東洋人342例)であった。 主要評価項目である全生存期間(生存期間中央値及び1年生存率)についてみると,全患者群では,イレッサ群の各値はそれぞれ5.6か月,27%,プラセボ群の各値はそれぞれ5.1か月,21%であった。腺がん患者群ではイレッサ群の各値はそれぞれ6.3か月,30%,プラセボ群の値はそれぞれ5.4か月,10%であった。このように,イレッサ群がプラセボ群に対して有意な差をもって優越することを示すことができなかった。 他方,副次的評価項目である抗腫瘍効果(奏効率)では,全患者群では,イレッサ群が8%,プラセボ群が1.3%であり,イレッサ群がプラセボ群に対して有意な差をもって優越することを示した。 そうすると,IS ,副次的評価項目である抗腫瘍効果(奏効率)では,全患者群では,イレッサ群が8%,プラセボ群が1.3%であり,イレッサ群がプラセボ群に対して有意な差をもって優越することを示した。 そうすると,ISEL試験では,イレッサのプラセボに対する生存期間を延長する効果は統計学的に証明されなかったが,イレッサの生存期間中央値及び1年生存率は,全患者群においても腺がん患者群についてもプラセボ群を僅かながら上回っており,副次的評価項目である奏効率ではイレッサ群がプラセボ群に対して有意な差をもって優越 することを示しており,IDEAL各試験の結果と整合するものといえる。 b サブグループ解析についてサブグループ解析は,探索的に行われることが多く,あくまで仮説であるから,サブグループ解析の結果のみをもって医薬品の有効性が認められるものではなく,参考資料にすぎない。サブグループ解析の結果を適切に評価するためには,サブグループ解析の結果を踏まえた臨床試験により各評価項目を確認することが必要不可欠である。 ISEL試験のサブグループ解析の結果(別紙14(ISEL試験概要・結果))によれば,東洋人患者群についてみると,イレッサ群の全生存期間(生存期間中央値)は9.5か月,プラセボ群のそれは5.5か月であり,有意な差が生じ,また,イレッサ群の奏効率は12.4%,プラセボ群のそれは2.1%であり,イレッサ群がプラセボ群を大きく上回った。 非喫煙者群におけるイレッサ群の生存期間中央値は8.9か月であり,同プラセボ群のそれ(6.1か月)を上回ったが,喫煙歴のある者の生存期間は両群でほぼ同じであり,その他のサブグループ解析では有意な差は生じなかった。 以上のとおり,ISEL試験のサブグループ解析は,東洋人患者群について,イレッサがプラセボに対して のある者の生存期間は両群でほぼ同じであり,その他のサブグループ解析では有意な差は生じなかった。 以上のとおり,ISEL試験のサブグループ解析は,東洋人患者群について,イレッサがプラセボに対して生存期間を有意に延長していることを示唆するものであるといいうるが,患者の背景因子に偏りがある可能性が否定できず,前記サブグループ解析の性質に照らせば,この結果は他の臨床試験結果との整合性などをさらに検討することにより慎重に判断する必要があるというべきである。したがって,サブグループ解析により,東洋人患者についてイレッサの延命効果が証明されたということはできない。 この点について,被告会社は,ISEL試験のサブグループ解析では当初から東洋人のサブグループを予定したとして,東洋人サブグループ解析が後付けの解析ではないから,信用できる解析結果であるなどと主張する。 しかし,証拠(甲C1,甲J3,丙C1)によれば,当初のISEL試験の試験計画は,「比較治療群について,以下のファクターを考慮に入れた長期的統計解析を行った。すなわち,性別(男vs 女),喫煙(喫煙歴なしvs 喫煙者または喫煙歴あり),前化学療法の失敗理由(化学療法に抵抗性を示したかそうでないか),化学療法の回数(1回vs2回),PeformanceStatus(0,1vs2,3)である」と記載されているが,「人種」は考慮すべきファクターとして記載されていなかったこと,その後,被告会社は試験計画書を改訂し,平成16年12月9日には統計解析計画書の補遺を作成したこと,上記統計解析計画書には,最終改訂された統計解析用ソフトウェアである「SAS」には,解析対象のサブグループ8として「Oriental」,すなわち「東洋人」が記載されていたこと,ISEL試験において,最初の患 析計画書には,最終改訂された統計解析用ソフトウェアである「SAS」には,解析対象のサブグループ8として「Oriental」,すなわち「東洋人」が記載されていたこと,ISEL試験において,最初の患者が登録されたのは平成15年7月15日,最後の患者登録は平成16年8月2日,最終データ入力は平成16年10月29日であって,いずれも上記統計解析計画書の補遺の作成よりも前であり,ISEL試験の初回解析結果が公表されたのは平成16年12月17日であったこと,被告会社はIDEAL1試験の結果について民族差がないとの見方をしていたことが認められる。 そうすると,被告会社は結果公表直前に東洋人サブグループを追加したのであって,当初から民族差に着目して試験を行っていたものではないと認めるのが相当であり,他に被告会社が当初からサブグループ解析において東洋人患者群を予定していたと認めるに足りる証拠は ない。したがって,被告会社の主張は理由がない。 (ウ) SWOG0023試験について【甲E20,49[枝番号1,2],77】SWOG0023試験の結果は,平成17年5月に公表された。 SWOG0023試験(別紙18(SWOG0023試験概要・結果))は,切除不能のⅢ期非小細胞肺がん患者を対象として,まず放射線化学療法同時併用療法を行い,次に逐次ドセタキセルを投与した後,イレッサを維持療法として投与した場合のイレッサの維持療法としての有効性及び安全性を確認することを目的とした試験であり,症例数は571例であった。 主要評価項目である全生存期間(生存期間中央値,1年生存率及び2年生存率)についてみると,イレッサ群の各値はそれぞれ23か月,73%,81%,プラセボ群の各値はそれぞれ35か月,46%,59%であった。このように,イレッ 期間(生存期間中央値,1年生存率及び2年生存率)についてみると,イレッサ群の各値はそれぞれ23か月,73%,81%,プラセボ群の各値はそれぞれ35か月,46%,59%であった。このように,イレッサ群はプラセボ群に対して,一方,生存期間の延長は証明されず,かえって生存期間中央値ではイレッサ群がプラセボ群を下回っていたが,他方,1年生存率及び2年生存率ではイレッサ群がプラセボ群を上回るという結果が示された。これによれば,イレッサによる生存期間の短縮傾向が疑われるが,なおIDEAL各試験の結果などとの整合性等の検討を要する状況にあったといえる。 このようなSWOG0023試験の結果からは,放射線化学療法同時併用療法後にドセタキセルの逐次投与をした後の維持療法としてのイレッサの投与は避けるべきであることが明らかになったにとどまるというべきである。 原告らは,SWOG0023試験の結果によりイレッサの寿命短縮効果が統計学的に証明されたなどと主張する。 しかし,SWOG0023試験はイレッサ単剤の効果を確認するため の試験ではなく,放射線化学療法同時併用療法後のドセタキセルの逐次投与をした後の維持療法としてのイレッサの有効性を確認するという試験デザインであるから,SWOG0023試験の結果から直ちにイレッサ単剤には延命効果がないことが証明されるものではないことはいうまでもない。 また,SWOG0023試験におけるイレッサの投与方法は,ドセタキセル投与後の維持療法としてであるが,我が国ではこのような維持療法はあまり行われていないと認められるから(前記(3)ア【乙E19(55頁)】),SWOG0023試験結果は,当該治療法以外の投与方法の結果(イレッサ単剤の効果)を推測する十分な根拠になるということはできない。 したがって, られるから(前記(3)ア【乙E19(55頁)】),SWOG0023試験結果は,当該治療法以外の投与方法の結果(イレッサ単剤の効果)を推測する十分な根拠になるということはできない。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 (エ) V1532試験について【甲C5,9,乙E62,丙E59(枝番号4),60(枝番号1)】V1532試験の結果は,平成19年2月に公表された。 a 試験結果についてV1532試験(別紙15(V1532試験概要・結果))は,セカンドライン又はサードラインの進行又は転移性非小細胞肺がん患者を対象として,イレッサのドセタキセルに対する非劣性を確認することを目的とした試験であり,症例数は490例(但し,GCP違反が1例あったので,実際の無作為割付例は489例)であった。 主要評価項目である全生存期間(生存期間中央値及び1年生存率)についてみると,イレッサ群の各値はそれぞれ11.5か月,48%,ドセタキセル群の各値はそれぞれ14.0か月,54%であり,全生存期間についてイレッサ群のドセタキセル群に対する非劣性は証明されなかった。 副次的評価項目についてみると,無増悪生存期間や病勢コントロール率ではイレッサ(2か月,34.0%)とドセタキセル(2か月,33.2%)に有意な差はなかったが,奏効率やQOL(TOI及びFACT-L)ではイレッサ群(22.5%,20.5%,23. 4%)がドセタキセル群(12.8%,8.7%,13.9%)に対して有意な差をもって優越することを示した。 b サブグループ解析について全生存期間という評価項目は,割付時から患者が死亡するまでの期間を測定するため,割付後に行われたすべての治療の影響を受けるものであり,後治療の影響が避けられないため,後治療 ブグループ解析について全生存期間という評価項目は,割付時から患者が死亡するまでの期間を測定するため,割付後に行われたすべての治療の影響を受けるものであり,後治療の影響が避けられないため,後治療の影響を慎重に検討する必要がある。 V1532試験の後治療に関するサブグループ解析によれば,後治療の内訳は,イレッサ群のうち,後治療なし又はイレッサ投与継続が40%,ドセタキセル投与への変更が36%,他の化学療法のみが24%であったのに対して,ドセタキセル群のうち,後治療なし又はドセタキセル投与継続が26%,イレッサ投与への変更が53%,他の化学療法のみが20%であった。そうすると,後治療でクロスオーバーが生じた割合が各群で大きく異なるから,ドセタキセル群の結果はドセタキセルの効果なのかイレッサの効果なのか判別が難しいとみるのが相当である。 上記サブグループ解析によれば,①治療法のクロスオーバーがあった患者の全生存期間についてみると,治療開始から12~16か月の間の時期においては,ドセタキセル群のうち後治療でイレッサを選択した患者の生存率が,イレッサ群のうち後治療でドセタキセルを選択した患者の生存率を上回ったが,治療開始から22か月以降の時期においては,イレッサ群のうち後治療でドセタキセルを選択した患者の 生存率が,ドセタキセル群のうち後治療でイレッサを選択した患者の生存率を上回った,②後治療なしの患者の全生存期間(生存期間中央値及び1年生存率)の値をみると,イレッサ群がそれぞれ4.1か月,12.2%,ドセタキセル群がそれぞれ8.7か月,27.0%であった,③後治療として他の化学療法のみを選択した患者の全生存期間(生存期間中央値及び1年生存率)は,イレッサ群がそれぞれ11.5か月,47.5%,ドセタキセル群がそれぞれ17 7か月,27.0%であった,③後治療として他の化学療法のみを選択した患者の全生存期間(生存期間中央値及び1年生存率)は,イレッサ群がそれぞれ11.5か月,47.5%,ドセタキセル群がそれぞれ17.0か月,61.0%であった。すなわち,いずれもドセタキセルの方が優れている傾向をみることができる。 以上によれば,V1532試験の結果については,後治療が全生存期間に何らかの影響を与えた可能性が考えられるものの,V1532試験の結果のみから後治療の影響を正確に評価することは困難であるといわざるをえない。V1532試験の結果は他の試験の結果を踏まえて検討する必要があるというものであったといえる。 (オ) INTEREST試験について【丙E57[枝番号1,2],59[枝番号4]】INTEREST試験の結果は,平成19年7月に公表された。 a 試験結果についてINTEREST試験(別紙16(INTEREST試験概要・結果))は,セカンドライン又はサードラインの進行又は転移性非小細胞肺がん患者を対象に,全対象集団におけるイレッサのドセタキセルに対する非劣性,及びEGFR遺伝子増幅が多い患者群におけるイレッサのドセタキセルに対する優越性を確認することを目的とした試験であり,症例数は1466例であった。 主要評価項目である全生存期間(生存期間中央値及び1年生存率)についてみると,イレッサ群の各値それぞれ7.6か月,32%,ド セタキセル群の各値はそれぞれ8.0か月,34%であり,ハザード比が1.02であったから,全生存期間についてイレッサ群はドセタキセル群に対して非劣性が証明された(同別紙のINTEREST試験概要の解析方法欄参照)。副次的評価項目である無増悪生存期間(無増悪生存期間中央値並びに4か月後及び6か月 についてイレッサ群はドセタキセル群に対して非劣性が証明された(同別紙のINTEREST試験概要の解析方法欄参照)。副次的評価項目である無増悪生存期間(無増悪生存期間中央値並びに4か月後及び6か月後の無増悪生存率)及び奏効率についてみるとイレッサ群とドセタキセル群には有意な差はなく,QOLや症状改善率などではイレッサ群がドセタキセル群に対して有意な差をもって優越することが示された。 原告らは,割付療法使用期間から,後治療の影響の比較的少ない期間は,INTEREST試験では治療開始から約3か月目までであるとし,その期間内の月ごとの死亡率等を理由に,INTEREST試験によりイレッサがドセタキセルに対し全生存期間で非劣性を証明したというのは後治療による見かけ上の効果にすぎないなど主張する。 しかし,1か月ごとの生存率や無増悪生存率の算出の根拠が不明であって,その数値の正確性には疑問があり,その検討手法自体に問題があるといわざるをえない。また,全生存期間は,割付日から死亡日までの期間が伸長しているかを測定する指標であって,割付療法の終了日までに死亡しているかを測定するものではなく,無増悪生存期間は,割付日からがんの増悪が確認された日又は死亡日までの期間を測定する指標であって,割付療法の終了日までにがんが増悪しているか,死亡しているかを測定するものではなく,いずれも上記のように特定期間のみを取り出して検討することを予定していないものである【乙27〔2頁〕】から,原告らの主張する死亡率等は直ちに全生存期間に関するINTERSET試験の結果を覆すものとはなりえない。 原告らは,抗がん剤の臨床試験における患者の適格条件として12 週間の生存見込みを定めているが,肺がんには転移を生じやすいという性質があり,転移先によって急激に状 のとはなりえない。 原告らは,抗がん剤の臨床試験における患者の適格条件として12 週間の生存見込みを定めているが,肺がんには転移を生じやすいという性質があり,転移先によって急激に状態が悪くなることがあり,どこに転移するかは予測できないために試験開始時の余命の判断には限界があるのであるから【乙E26】,原告らが設定する患者の適格条件は確実なものということはできない。さらに,生存率や生存数に差がみられたとしても,その原因が,薬剤の副作用によるものか,がんの病勢進行やその他の原因によるものか,あるいはこれらが複合したものかは生存率や生存数の差のみからは明らかとはならない。したがって,一定時期までのみの生存曲線や無増悪生存曲線において,イレッサ群が対照群よりもやや下回ってることは,それが病勢進行などの差である可能性が否定できないから,INTERSET試験の結果を覆すには足りないというほかはない。 以上のとおりであるから,原告らの上記主張には理由がない。 b サブグループ解析について当初から予定されていたEGFR遺伝子増殖の多い患者に関するサブグループにおいては,全生存期間について,イレッサのドセタキセルに対する優越性は証明されなかった。 (カ) WJTOG0203試験について【丙E53[枝番号1,2]】WJTOG0203試験の結果は,平成20年5月に公表された。 WJTOG0203試験(別紙19(WJTOG0203試験概要・結果))は,ファーストラインの日本人の非小細胞肺がん患者を対象として,ファーストラインの標準的治療法である2剤併用療法後に逐次療法としてイレッサを投与した場合のイレッサの有効性を確認することを目的として,2剤併用療法(化学療法)群と2剤併用療法実施後にイレッサに変更したイレッサ群とを比較した試 である2剤併用療法後に逐次療法としてイレッサを投与した場合のイレッサの有効性を確認することを目的として,2剤併用療法(化学療法)群と2剤併用療法実施後にイレッサに変更したイレッサ群とを比較した試験であり,症例数は598例であった。 主要評価項目である全生存期間(生存期間中央値)についてみると,イレッサ群が13.68か月,化学療法群が12.89か月であり,2剤併用療法後の逐次投与としてのイレッサの投与による生存期間の延長は,統計学的に有意な差をもっては証明されなかった。 予め設定された腺がん患者のサブグループの生存期間中央値は,イレッサ群が15.42か月,化学療法群が14.33か月であった。このように,腺がん患者に対する2剤併用療法後の逐次投与としてのイレッサの投与は生存期間を延長する可能性があることを統計学的に証明した。 (キ) IPASS試験について【丙E58,72[各枝番号1,2]】IPASS試験の結果は,平成20年9月に公表された。 a 試験結果についてIPASS試験(別紙17(IPASS試験概要・結果))は,ファーストラインの腺がん等の患者を対象として,ファーストライン治療における標準的治療法(カルボプラチンとパクリタキセルの併用療法)に対するイレッサの非劣性及び優越性を確認することを目的とした試験であり,症例数は1217例であった。 主要評価項目である無増悪生存期間(無増悪生存期間中央値及び12か月後の無増悪生存率)についてみると,イレッサ群の値はそれぞれ5.7か月,24.9%,併用療法群の値はそれぞれ5.8か月,6.7%であり,ハザード比は0.74であって1未満,P値(P<0.001)が有意水準0.05を下回り,無増悪生存期間についてイレッサ群の併用療法群に対する非劣性のみならず優越性が ぞれ5.8か月,6.7%であり,ハザード比は0.74であって1未満,P値(P<0.001)が有意水準0.05を下回り,無増悪生存期間についてイレッサ群の併用療法群に対する非劣性のみならず優越性が証明されたといえる(同別紙のIPASS試験概要の解析方法欄参照)。 副次的評価項目である全生存期間(生存期間中央値)はイレッサ群が併用群を上回ったが,有意な差はなかった。奏効率やQOLはイレ ッサ群が併用療法群を有意に上回った。 原告らは,割付療法使用期間から後治療の影響が比較的少ない期間(IPASS試験では治療開始から約4か月目までの期間)を算出し,全生存期間及び無増悪生存期間の測定は後治療の影響が比較的少ない期間のハザード比が一定であることを条件として成り立つものであるが,この期間における各月のハザード比が一定ではないから,IPASS試験によりイレッサが併用療法に対し無増悪生存期間で優越性を証明したということはできないなどと主張する。 しかし,前記(オ)aと同様に,その検討手法自体に問題があるといわざるをえないから,原告らの指摘をもってIPASS試験の上記結果が直ちに否定されるものではない。 b サブグループ解析についてIPASS試験のサブグループ解析では,当初から予定されていたEGFR遺伝子変異を有する患者のサブグループにおいて,イレッサ群が併用療法群よりも高い奏効率を示し,無増悪生存期間を有意に延長した(ハザード比:0.48,P<0.001)。 これに対し,EGFR遺伝子変異を有しない患者のサブグループにおいて,イレッサの奏効率が1.1%で,無増悪生存期間ではイレッサ群が併用療法群よりも有意に短かった(ハザード比:2.85,P<0.001)。 上記サブグループ解析結果からは,EGFR遺伝子変異の有無によりイ サの奏効率が1.1%で,無増悪生存期間ではイレッサ群が併用療法群よりも有意に短かった(ハザード比:2.85,P<0.001)。 上記サブグループ解析結果からは,EGFR遺伝子変異の有無によりイレッサ群では他の群と対照的な結果が生じており,腺がん患者に対して治療を行うにあたっては,可能な限りファーストライン治療前にEGFR遺伝子変異の状態を明らかにすべきであることが示唆される。 (ク) NEJ002試験について【丙E75,78[枝番号1,2]】 NEJ002試験の結果は,平成22年6月に公表された。 NEJ002試験(別紙20(NEJ002試験概要・結果))は,EGFR遺伝子変異を有するファーストラインの日本人の進行再発非小細胞肺がん患者を対象として,ファーストライン治療における標準的治療法(カルボプラチンとパクリタキセルの併用療法)に対するイレッサの優越性を確認する試験であり,症例数は230例(中間解析は198例)であった。 主要評価項目である無増悪生存期間(無増悪生存期間中央値)は,イレッサ群が10.4か月,併用療法群が5.5か月であり,P値(P<0.001)が有意水準0.003を下回り,イレッサ投与の併用療法に対する優越性が証明されたといえる(同別紙のNEJ002試験概要の解析方法欄参照)。 副次的評価項目である奏効率は,イレッサ群が74%,併用療法群が29%であり,イレッサ群が併用療法群を有意に上回った。 他方,全生存期間(生存期間中央値及び2年生存率)では,イレッサ群の値はそれぞれ28か月,61%,併用療法群の値はそれぞれ23. 6か月,45%であり,イレッサ群が併用療法群の値を上回ったが,有意な差はなかった。 (ケ) 小括以上によれば,承認時にはIDEAL各試験の奏効率を中心としてイレッサに延 の値はそれぞれ23. 6か月,45%であり,イレッサ群が併用療法群の値を上回ったが,有意な差はなかった。 (ケ) 小括以上によれば,承認時にはIDEAL各試験の奏効率を中心としてイレッサに延命効果があることが合理的に予測されたという状況の下で,平成14年8月に公表されたINTACT各試験の結果により,イレッサには標準的治療法による生存期間を延長する効果がないことが明らかとなり,少なくともイレッサと既存の抗がん剤を同時併用で投与することを避けるべきであると考えられるようになった。 平成16年12月に公表されたISEL試験の結果,平成17年5月 に公表されたSWOG0023試験の結果,平成19年2月に公表されたV1532試験の結果のいずれにおいても,イレッサによる延命効果は統計学的に証明されず,SWOG0023試験の結果から,放射線化学療法同時併用療法後にドセタキセルの逐次投与をした後の維持療法としてのイレッサの投与は避けるべきであると考えられるようになった。 他方,ISEL試験における東洋人サブグループ解析から,イレッサの効果には人種差などの要因が影響している可能性が示唆され,これらの試験結果は,IDEAL各試験の結果に反するものであったとまで断定することはできない状況であったと認めるのが相当である。 平成19年7月に公表されたINTEREST試験の結果においては,全生存期間についてイレッサのドセタキセルに対する非劣性が統計学的に証明されたほか,QOLなどの副次的評価項目の数値はイレッサがドセタキセルを有意に上回ったが,EGFR遺伝子の増殖が多い患者を対象とするサブグループ解析においては,全生存期間についてのイレッサのドセタキセルに対する優越性は証明されなかった。 平成20年5月に公表されたWJTOG0203試験の FR遺伝子の増殖が多い患者を対象とするサブグループ解析においては,全生存期間についてのイレッサのドセタキセルに対する優越性は証明されなかった。 平成20年5月に公表されたWJTOG0203試験の結果においては,2剤併用療法後のイレッサの逐次投与による生存期間の延長は,統計学的に有意な差をもっては証明されなかったが,サブグループ解析によって,腺がん患者に対する2剤併用療法後のイレッサの逐次投与が生存期間を延長する可能性があることが示唆された。 平成20年9月に公表されたIPASS試験の結果において,腺がん等の患者の無増悪生存期間については,ファーストラインの標準的治療法である2剤併用療法に対してイレッサが優越することが統計学的に証明された。また,サブグループ解析結果からは,可能な場合にはファーストライン治療前にEGFR遺伝子変異の状態を明らかにすべきであることが示唆された。 平成22年6月に公表されたNEJ002試験の結果においては,EGFR遺伝子変異を有する患者の無増悪生存期間について,ファーストラインの標準的治療法である2剤併用療法に対するイレッサの優越性が統計学的に証明された。 このIPASS試験及びNEJ002試験の結果を総合すると,EGFR遺伝子変異がイレッサの効果予測因子であり,EGFR遺伝子変異のある患者に対しては特に治療効果が高いことが示唆されたが,EGFR遺伝子変異のない患者に対して全く治療効果がないというものではなく,未解明の状況であると認めるのが相当である。また,承認後の臨床試験は,過去の臨床試験や実地臨床においてイレッサの効果が高いと考えられていた腺がん症例,日本人,女性,喫煙歴なしの患者にはEGFR遺伝子変異を有する者が多いということが指摘されるようになった(後記5(2))。 カ原 実地臨床においてイレッサの効果が高いと考えられていた腺がん症例,日本人,女性,喫煙歴なしの患者にはEGFR遺伝子変異を有する者が多いということが指摘されるようになった(後記5(2))。 カ原告らの主張について原告らは,被告らが取調べを申し出た証人等(福岡正博,光冨徹哉,坪井正博,西條長宏,工藤翔二)には,被告会社との間に経済的な関係があり,上記証人らの証言ないし意見は信用できない旨主張するもののようである。 しかし,証言の実質的証拠力(信用性)は,動かし難い事実や客観的証拠との整合性を中心に,証人の地位や供述内容等を総合して判断されるものであり,実務上,利害関係がある人証の供述であるから信用できないとの判断は避けなければならないとされているのであるから,原告らの上記主張は失当である。 5 イレッサの効果予測因子(EGFR遺伝子変異)前提事実(前記第3章第3の2)並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実によれば,イレッサ承認後のイレッサの効果予測因子(EGFR 遺伝子変異)について,次のとおり認められる。 (1) EGFR遺伝子増幅(コピー数)と遺伝子変異平成16年(2004 年)4月,肺がんの一部の症例にEGFR遺伝子の突然変異があることが報告され,翌平成17年(2005 年)春には,EGFR遺伝子増幅がイレッサの有効性の予測により有効であることが報告された。 このように,EGFR遺伝子変異とEGFR遺伝子増幅は,いずれもイレッサの効果予測因子として研究対象となった。EGFR遺伝子変異とは,EGFRの合成にかかわる遺伝子情報(DNAの塩基配列)に変異があるもののことをいい,EGFR遺伝子増幅とはEGFR遺伝子のコピー数の増加をいう。 EGFR遺伝子増幅を効果予測因子と考える立場は,EGFR遺伝 成にかかわる遺伝子情報(DNAの塩基配列)に変異があるもののことをいい,EGFR遺伝子増幅とはEGFR遺伝子のコピー数の増加をいう。 EGFR遺伝子増幅を効果予測因子と考える立場は,EGFR遺伝子の増幅(遺伝子コピー数)に着目するものであるのに対し,EGFR遺伝子変異を効果予測因子を考える立場は,EGFR遺伝子の変異の有無及び変異型に着目するものである。 当初,欧米ではEGFR遺伝子増幅が効果予測因子であるという考え方が多数であったが,我が国やアジアでは,EGFR遺伝子増幅が効果予測因子であるという考え方よりも,EGFR遺伝子変異の方が重要な効果予測因子であるという考え方の方が多かった。 【甲H12,22,乙E25,丙E31,70[枝番号1,2],80,証人光富反対尋問〔111頁〕】(2) イレッサの奏効とEGFR遺伝子変異の関係ア研究報告・文献等要旨以下のような文献等が存在する。 (ア) ThomasJ.Lynch ほか「ActivatingMutationsintheEpidermalGrowthFactorReceptorUnderlyingResponsivenessofNon-Small- CellLungCancertoGefitinib 」(TheNEWENGLANDJOURNALofMEDICINEvol.350 no.21:平成16年5月20日,乙E3)イレッサに反応した非小細胞肺がん患者9名中8名のEGFRのチロシンキナーゼドメインで体細胞突然変異(EGFR遺伝子の特異的な変異)が確認されたのに対し,イレッサに反応しなかった患者において突然変異が確認されたのは7名中0名であった。invitro で,非小細胞EGFR遺伝子変異は上皮成長 異(EGFR遺伝子の特異的な変異)が確認されたのに対し,イレッサに反応しなかった患者において突然変異が確認されたのは7名中0名であった。invitro で,非小細胞EGFR遺伝子変異は上皮成長因子に反応してチロシンキナーゼ活性を亢進し,イレッサによる阻害への感受性を増大させた。 非小細胞肺がん患者のサブグループがEGFR遺伝子に特異的な突然変異を持ち,これはチロシンキナーゼ阻害剤であるイレッサに対する臨床反応と相関があった。この変異が上皮成長因子(EGF)のシグナル伝達を促進し,阻害剤への感受性を付与する。肺がんにおけるそのような変異のスクリーニングによりイレッサに反応する患者を特定できる可能性がある(乙E3)。 ( イ)J.GuillermoPaezほか「EGFRMutationsinLungCancer:CorrelationwithClinicalResponsetoGefitinibTherapy」(SCIENCEvol.304:平成16年6月,乙E2[枝番号1,2])EGFR変異は患者の特性と顕著な相関を示している。腺がん患者(70例中15例,21%)の方が他の非小細胞肺がん患者(49例中1例,2%)よりも変異の頻度が高く,また女性(45例中9例,20%)と男性(74例中7例,9%)では女性の方が高かった。合衆国の患者(61例中1例,2%,61例のうち腺がん患者29例中1例,3%)よりも日本人患者(58例中15例,26%,58例のうち腺がん患者41例中14例)の方が変異率が高かった。もっともEGFR変異が起きていたのは腺がんを持つ日本人女性患者であった。特に,EG FR変異の有無に関連する患者特性は,イレッサによる治療に対する臨床応答と深い相関関係があった。 。もっともEGFR変異が起きていたのは腺がんを持つ日本人女性患者であった。特に,EG FR変異の有無に関連する患者特性は,イレッサによる治療に対する臨床応答と深い相関関係があった。 EGFR体細胞突然変異の肺がん治療においてイレッサは特に有効であることが示唆された(ウ) RaffaellaSordella ほか「Gefitinib-SensitizingEGFRMutationsinLungCancerActivateAnti-ApoptoticPathway 」(SCIENCEvol.305:平成16年8月,乙E4[枝番号1,2])EGFR遺伝子変異した肺がん細胞は野生型受容体を発現している細胞と比べて,100倍のイレッサ感度を示した。 EGFR遺伝子変異した肺がん細胞は,通常の化学療法剤として用いられるドキソルビシンやシスプラチンに対しては顕著に耐性が向上していた。その結果,変異したEGFRの発現細胞を有する腫瘍に対して現行の化学療法があまり効果的ではないという可能性を浮上させた。 (エ) WilliamPao ほか「EGFreceptorgenemutationsarecommoninlungcancersfrom "neversmorkers" andareassociatedwithsensitivityoftumorstogefitinibanderlotinib」(PNAvol.101no.36:平成16年9月7日,乙E5[枝番号1,2])既発表論文に記載されたデータとPao らの研究で得られたデータをあわせると,イレッサ又はタルセバによる治療で部分的な反応又は臨床上顕著な改善を示した患者に由来する腫瘍31個のうち25個(81%)で, 表論文に記載されたデータとPao らの研究で得られたデータをあわせると,イレッサ又はタルセバによる治療で部分的な反応又は臨床上顕著な改善を示した患者に由来する腫瘍31個のうち25個(81%)で,EGFRチロシンキナーゼドメインに遺伝子変異が生じていた。これに対して,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤に反応しなかった患者から得られた29個の検体には,変異を有するものは存在しなかった。 EGFRのチロシンキナーゼドメインにおける変異とイレッサ及びタルセバへの感受性との関連性が示唆される。 ( オ)SeanTracyほか「GefitinibInducesApoptosisinthe EGFR(L858R) Non-Small-CellLungCancerCellLineH3255」(CANCERRESEATCH 64:平成16年10月15日,乙E6[枝番号1,2])非小細胞肺がん患者のEGFRのチロシンキナーゼ領域における体細胞変異の1つを有する細胞株はイレッサに対して感受性が高い。 この変異は,イレッサに対して顕著な臨床的縮小を示す患者及び invitro でイレッサに過感受性を示す腺がん細胞株の両方で認められる。 ( カ)高坂貴行ほか「MutationsoftheEpidermalGrowthFactorReceptorGeneinLungCancer:BiologicalandClinicalImplications」(CANCERRESEARCH 64:平成16年12月15日,乙E7[枝番号1,2])愛知県がんセンター中央病院胸部外科において切除可能な肺の切除を行った非選択肺がん患者277例を対象として,EGFR遺伝子変異を探索し,臨床的特 平成16年12月15日,乙E7[枝番号1,2])愛知県がんセンター中央病院胸部外科において切除可能な肺の切除を行った非選択肺がん患者277例を対象として,EGFR遺伝子変異を探索し,臨床的特徴及び病理学的特徴との相関について検討した。患者のうち224例は腺がん,35例は扁平上皮がん,9例は大細胞がん,5例は腺扁平上皮がん,3例は小細胞がん,1例はカルチノイドを有した。 EGFR遺伝子変異発現率は,男性(26%)よりも女性(59%,P<0.001),喫煙者(22%)よりも非喫煙者(66%,P<0.001),非腺がん患者(2%)よりも腺がん患者(49%,P<0.001)の方が有意に高かった。非腺がん患者53例のうち,EGFR遺伝子変異がみられた患者は1例のみであった。 多変量解析の結果,腺がん組織像(P=0.0012)及び喫煙状態(P<0.001)は独立してEGFR遺伝子変異に関連するが,性別が女性であることはEGFR遺伝子変異とは関連しない(P=0.9917)ことが示唆された。EGFR変異発現率は,患者の年齢,病期分類,生存率に依存しなかった。 ( キ) Shiu-FengHuang ほか「HighFrequencyofEpidermalGrowthFactorReceptorMutationswithComplexPatternsinNon-SmallCellLungCacersRelatedtoGefitinibResponsivenessinTaiwan」(ClinicalCancerResearchvol.10:平成16年12月15日,乙E8[枝番号1,2])非小細胞肺がん101例の内訳は腺がん69例,扁平上皮がん24例及びその他の型の非小細胞肺がん8 lCancerResearchvol.10:平成16年12月15日,乙E8[枝番号1,2])非小細胞肺がん101例の内訳は腺がん69例,扁平上皮がん24例及びその他の型の非小細胞肺がん8例であった。患者39例にEGFR遺伝子のキナーゼドメイン(エキソン18~21)に変異を認め,腺扁平上皮がんに生じた1例を除いて,変異はいずれも腺がんに生じており,腺がんの変異率は55%(69例中38例)であった。イレッサ治療を受けた患者16例について,イレッサに反応した患者9例中7例はEGFR変異を有しており,イレッサに反応しなかった患者7例中1例のみに変異があった。 ( ク)光冨徹哉ほか「MutationsoftheEpidermalGrowthFactorReceptorGenePredictProlongedSurvivalAfterGefitinibTreatmentinPatientsWithNon-Small-CellLungCancerWithPostoperativeRecurrence」(JOURNALOFCLINICALONCOLOGYvol.23no.11:平成17年4月10日,乙E9[枝番号1,2])イレッサの良好な臨床反応が見られる症例として最も多かったのは ,腺がんを発症している日本人の女性非喫煙患者であった。近年,肺腺がんの一部患者群にEGFRの活性化変異が発生しており,EGFRに変異を有する腫瘍ではイレッサ感受性はもとより,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤であるタルセバへの感受性も高いことが報告されている。EGFR遺伝子変異の発生率は,肺がんを発症している日本人の女性非喫煙患者で有意に高かった。 EGFR遺伝子変異を有する患者29例のうち24例でイ るタルセバへの感受性も高いことが報告されている。EGFR遺伝子変異の発生率は,肺がんを発症している日本人の女性非喫煙患者で有意に高かった。 EGFR遺伝子変異を有する患者29例のうち24例でイレッサの有 効性が示されたが,EGFR遺伝子変異を有していない患者21例のうちイレッサが有効なものは2例のみであった(P<0.0001)。 イレッサ投与後の生存期間は,EGFR遺伝子変異を有する患者の方が正常なEGFRを有する患者よりも長かった(P=0.0053)。 (ケ) 光冨徹哉「肺癌におけるEGFR遺伝子変異と分子標的治療」(第13回群馬ClinicalOncologyResearch 勉強会:平成19年,甲H21)EGFRチロシンキナーゼ感受性とEGFR遺伝子変異について検討した論文をまとめると,EGFR遺伝子変異のある症例119例では,イレッサの奏効率が80%であったのに対し,EGFR遺伝子変異のない症例312例では奏効率が11%にとどまった。しかし,この関係は完璧ではなく,また腫瘍縮小はみられなくとも生存への寄与があると考えられる集団の説明も困難である。最近,EGFR遺伝子変異よりもむしろEGFR遺伝子増幅の方が重要であるという報告もみられ,事態はやや混沌としている。 (コ) 光冨徹哉ほか「上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異の臨床的意義」(最新医学62巻3月増刊号:平成19年3月,丙E40)671例の非小細胞肺がん症例を調査したところ,EGFR遺伝子変異が存在する症例では奏効率が77%,存在しない症例では10%と変異群において明らかに感受性が高いとの結果が得られた。 (サ) 光冨徹哉「治療(非小細胞肺癌)-EGFR-TKIの現状:基礎-EGFRの感受性を決定する因子update」(平成19年,甲 10%と変異群において明らかに感受性が高いとの結果が得られた。 (サ) 光冨徹哉「治療(非小細胞肺癌)-EGFR-TKIの現状:基礎-EGFRの感受性を決定する因子update」(平成19年,甲H22)671例の非小細胞肺がん症例を調査したところ,EGFR遺伝子変異が存在する症例237例のうち182例で奏効し(奏効率78%),存在しない症例では10%に奏効するにすぎないが,15%の症例では遺伝子変異の有無と奏効が解離している。 ( シ)光冨徹哉ほか「Mutationsoftheepidermalgrowthfactorreceptorgeneandrelatedgenesasdeterminantsofepidermalgrowthfactorreceptortyrosinekinaseinhibitorssensitivityinlungcancer」(平成19年7月,丙E39)1335名の患者データに基づいてEGFR遺伝子変異のない患者における奏効率を調査したところ,EGFR遺伝子変異のない腫瘍では10%奏効したとの結果が得られた。 (ス) 光冨徹哉ら「EGFRを標的とした肺がん分子標的治療の展望」(座談会)(平成19年7月,甲H23)a 向原は,要旨以下のように述べた。 現時点で得られている知見から判断すれば,我々は遺伝学的検査の結果のみを判断材料とすることはできない。多くの場合,非小細胞肺がんが進行している場合には,患者には他に治療の選択肢がないからである。 EGFR遺伝子変異が陰性であったとしても(EGFR遺伝子変異をもたないとしても),10%前後の患者には奏効する。しかし,特に日本人においては有害事象を考慮する必要がある。EGFR遺伝子変異 。 EGFR遺伝子変異が陰性であったとしても(EGFR遺伝子変異をもたないとしても),10%前後の患者には奏効する。しかし,特に日本人においては有害事象を考慮する必要がある。EGFR遺伝子変異陽性の(EGFR遺伝子変異をもつ)患者には,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤を優先的に治療で採用すべきであるが,EGFR遺伝子変異やその他の有力な治療への効果を予測する要因をもたない患者に対してEGFRチロシンキナーゼ阻害剤を処方する際には慎重になる必要がある。EGFRチロシンキナーゼ阻害剤を治療の優先順位のどこに組み込むかということが問題となる。 b Johnson は,要旨以下のように述べた。 EGFR遺伝子変異陰性の者は,イレッサの治療から除外すべきである。 c 光冨徹哉は,要旨以下のように述べた。 男性で喫煙者など間質性肺炎発症の危険性の高い患者に対しては,遺伝学的検査を行って奏効率の高い患者を選択すべきである。 イゲフィチニブ検討会ゲフィチニブ検討会が,平成17年3月24日に,最終意見として,「EGFR遺伝子変異が確認されていない症例においても,奏効する症例が少数ながら存在すること」などを理由として,「現在の測定・評価方法において,EGFR遺伝子変異が確認されていない場合でも,その結果が」イレッサの「投与を行わないこととするだけの決定的な根拠とはなり得ない」との結論を出したことは,前記4(3)エ(ア)のとおりである。 【丙E45,丙K4[枝番号1~12],5[枝番号1~12],6[枝番号1~13]】ウ小括以上より,平成16年(2004年)4月に肺がんの一部の症例にEGFR遺伝子変異が発見されて以降,EGFR遺伝子変異のある患者に対してイレッサが効果が高いという研究成果が多数発表された。 そして,多 上より,平成16年(2004年)4月に肺がんの一部の症例にEGFR遺伝子変異が発見されて以降,EGFR遺伝子変異のある患者に対してイレッサが効果が高いという研究成果が多数発表された。 そして,多くの研究を通じて,現在ではEGFR遺伝子変異が,日本人,腺がん,非喫煙者に多いことが明らかになり(性別が女性であることは,EGFR遺伝子変異発現率に関連しないという見解と関連するという見解がある。),非小細胞肺がんの報告例に関する検討では,EGFR遺伝子変異を有する症例の80%近い症例でイレッサが奏効することが明らかになったとされた。また,イレッサは,EGFR遺伝子変異のない患者に対しても約10%の奏効率が得られるが,一定割合の症例ではEGFR遺伝子変異の有無と奏効とが解離することがあるなど,イレッサの効果予測因子は非小細胞肺がんにおける遺伝子変異の解明とともに分子生物学的な解明の途上にあるといえる。【乙E25】 (3) イレッサの作用機序とEGFR遺伝子変異との関係前提事実(前記第3章第3の2)のとおり,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤であるイレッサについて想定されていた作用機序は,がん細胞の増殖に関連するEGFRのシグナル伝達を遮断することにより抗腫瘍効果を発揮するというものであるが,EGFR遺伝子変異の発見は上記の限度では当初の作用機序に関する知見の変更を意味するものではない。 イレッサ開発当初には,イレッサは,EGFRが過剰に発現しているがん細胞に選択的に作用すると考えられてきたが,EGFRの発現量が比較的多い扁平上皮がんよりも発現量が比較的少ない腺がんに対してイレッサの効果が高い傾向にあることが指摘され,イレッサ承認後しばらくの間のの研究においてはイレッサの抗腫瘍効果を左右する因子は明らかとはならなかった。 平成 りも発現量が比較的少ない腺がんに対してイレッサの効果が高い傾向にあることが指摘され,イレッサ承認後しばらくの間のの研究においてはイレッサの抗腫瘍効果を左右する因子は明らかとはならなかった。 平成16年4月以降のEGFR遺伝子変異及びEGFR遺伝子増幅の発見によって得られた知見は,イレッサの抗腫瘍効果がEGFRの発現量ではなく,EGFR遺伝子変異又はEGFR遺伝子増幅に相関しているということにあり,腺がんに対して効果が高い傾向にある理由などが整合的に説明されるようになりつつある。【甲H22,乙E25,丙E31,33,80】(4) EGFR遺伝子変異・増幅の解析外科手術を行った症例では,豊富な腫瘍標本を用いて様々な解析が容易であるが,チロシンキナーゼ阻害剤の投与を考慮する場合に行われる生検では微小な検体を扱うことが多く,解析が困難な場合が少なくない。 また,EGFR遺伝子増幅及びEGFR遺伝子変異の解析方法自体は確立されておらず,明確な基準もない状況にある。すなわち,EGFR遺伝子変異の方が,EGFR遺伝子増幅よりも,患者の生存期間延長に強い相関関係があるとの報告と,逆に,EGFR遺伝子増幅の方が,EGFR遺伝子変異よりも,患者の生存期間延長に強い相関関係があるとの相対立する報告が存 在するが,各報告の用いる解析方法は異なるものであった。また,EGFR遺伝子変異とEFGR遺伝子増幅との間に相関関係があるとの報告と両者は完全には一致しないとする報告とが対立する状況にある。このようなことから,EGFR遺伝子変異やEGFR遺伝子増幅の解析方法や解析技術が標準化されていないため,解析結果の再現性や精度に問題があると指摘されている。 このような結論を異にする研究報告が存在する一方で,現状のEGFR遺伝子変異解析方法による検査 の解析方法や解析技術が標準化されていないため,解析結果の再現性や精度に問題があると指摘されている。 このような結論を異にする研究報告が存在する一方で,現状のEGFR遺伝子変異解析方法による検査ではEGFR遺伝子変異を有しないという解析結果が出た場合でも治療効果が生じる患者がある。なお,平成18年4月から遺伝子診断が保険適応となったが,EGFR遺伝子解析は限られた施設のみで施行されている。以上のとおり,遺伝子診断は,現在においても臨床検査として実用化されているといえる状況にはない。 さらに,EGFR遺伝子変異及び遺伝子増幅の解析結果により症例選択を行うことについては,FISH法と免疫染色でEGFR遺伝子コピー数とたんぱく発現を評価する場合に両方陰性である場合には奏効率がほぼ0%であるからイレッサを投与すべきでないという見解があるが,他方で,腫瘍縮小効果のみを治療上の利益とすべきではなく,あくまで延命効果などにも着目して症例選択をしていくべきであり,効果予測因子のみで症例選択をすべきではないという見解もある。【甲H12,乙E25,丙E80】 6 個別症例についての評価(1) 有効性判断における個別症例の位置付けア当事者の主張原告らは,個別症例が医薬品の有効性の証拠とはなりえず,医薬品の有効性は臨床試験の結果によって評価されるべきである,被告らの挙げる個別症例は証拠価値が低い又はないものであるなど主張する。 これに対して,被告らは,医薬品の有効性が,臨床試験の結果のみならず,肺がん治療の臨床現場でも認められてきたことを示す根拠として,個別症例において著効例がある,臨床試験の結果と個別症例の証拠価値の差異を踏まえて,それぞれを評価すれば足りるなど主張する。 イ有効性判断における個別症例の位置付け薬事法上 を示す根拠として,個別症例において著効例がある,臨床試験の結果と個別症例の証拠価値の差異を踏まえて,それぞれを評価すれば足りるなど主張する。 イ有効性判断における個別症例の位置付け薬事法上の医薬品の有効性は,医薬品の有用性を検討する際の考慮要素として,危険性と対比されるものであり,有効性は臨床試験に基づいて判断されるのが原則であることはいうまでもない。 医薬品の有効性の判断は,その時点における医学的,薬学的知見を前提として行われるべきであるところ(クロロキン判決),承認当時の有効性は臨床試験の結果を中心に行われるべきであるが(前記1(2)),臨床試験の試験成績以外の各種症例報告等も,その証拠価値を吟味した上であれば,医薬品の有効性を確認するための判断資料となり得るというべきである。したがって,個別症例は,各時点における当該領域(本件では,特に肺がん治療の領域)での臨床現場の実情を把握し,理解するための意味を持つだけでなく,その内容を吟味した上で,当該医薬品の有効性を判断する資料となり得,その意味で,その時点における医学的,薬学的知見をうかがう根拠になり得るものと考えられる。 したがって,有効性判断において個別症例がすべて証拠価値がないものであるなどの原告らの主張は採用できない。 なお,EBM(科学的根拠に基づく医療)の考え方によれば,証拠(Evidence)の質は,①ランダム化比較試験,メタ分析,②非ランダム化比較試験,③コホート研究,症例対照研究などの分析疫学研究,④ケースシリーズや症例報告などの記述研究,⑤患者のデータに基づかない専門家個人の意見の順に高いとされている。そして,Evidence は絶対であるとする見解は,EBMについての代表的な誤解の一つであるとされ, Evidence のほかに医師の経験 ない専門家個人の意見の順に高いとされている。そして,Evidence は絶対であるとする見解は,EBMについての代表的な誤解の一つであるとされ, Evidence のほかに医師の経験・能力と患者の価値観の3要素を斟酌して,患者に適応する。ランダム化比較試験のみがEvidence であるという見解も,代表的な誤解であるとされる。個別症例は,否定されているものではなく,臨床試験の結果と整合する場合にはEvidence となり得るとされている。【甲F41,乙P3】(2) 個別症例ア光冨徹哉の症例報告① 症例1【乙E9[枝番号1,2],11〔23頁〕,13[枝番号1,2],証人光冨主尋問〔40~42頁〕,証人光冨反対尋問〔55頁〕】患者が,70歳代,女性,非喫煙者,腺がん患者で,EGFR遺伝子変異陽性(あり)の症例である。(イレッサ投与開始後に,組織検体を検査したところ,エクソン19にEGFR遺伝子変異があったことが判明した。)肺がんの手術後,1年に1回程度CT検査で再発のチェックを行っていたところ,5年目の検査で肺内転移として再発が見られた。化学療法の前治療歴はなく,患者の希望によりイレッサを市販後の早い時期に投与した。 投与から8週間後のCT画像で,腫瘍の直径が3割程度縮小していることが確認された。投与期間は約2年半に及び,最初の手術から約10年,イレッサ投与後約5年生存した後に死亡した。 ② 症例2【乙E9[枝番号1,2],11〔24頁〕,12〔6頁〕,13[枝番号1,2],証人光冨主尋問〔42~44頁〕】患者が,70歳代,女性,非喫煙者,腺がん患者で,EGFR遺伝子変異陰性(なし)の症例である。 肺がんの手術後に肺内転移としてがん再発がみられ,肺がんの腫瘍マ ーカーとして一般的な 患者が,70歳代,女性,非喫煙者,腺がん患者で,EGFR遺伝子変異陰性(なし)の症例である。 肺がんの手術後に肺内転移としてがん再発がみられ,肺がんの腫瘍マ ーカーとして一般的なCEA値が21.1(正常値:<5.0ng/ml)と高く,左肺の中にいくつか転移が出てきた。 化学療法の前治療歴がなく,患者が従来の化学療法を希望しなかったため,イレッサが投与された。イレッサ投与から6週間後のCT画像でがんの縮小が確認され,CEA値が4.3まで下がって正常化した。その後,死亡した。 ③ 症例3【乙E11〔25頁〕,12〔6頁〕,14[枝番号1,2],証人光冨主尋問〔44~47頁〕】患者が,80歳代,男性,喫煙者(1日20本以上を25年継続),腺がん患者で,EGFR遺伝子変異陽性(あり)の症例である。 左上葉切除手術後,約1年後に再発し,リンパ節転移が食道を圧迫し嚥下困難となり食事が摂れず水も飲めない状況で,息も苦しく,PSは3でほぼ寝たきりの状態で入院した。胸水貯留,腫瘍マーカー(CEA,CYFRA)値も上昇していた。 患者からの希望により,イレッサが投与され,投与後の画像上では,食道を圧迫していたリンパ節に転移していたがんが縮小し,食道の壁が薄くなって内腔が広くなり,食道の狭窄が改善して飲食できるようになり,溜まっていた胸水もなくなった。腫瘍マーカー値も下がり,歩行が可能となり,息切れもなくなり,退院した。その後,死亡した。 ④ 症例4【乙E11〔26頁〕,12〔6頁〕,14[枝番号1,2],証人光冨主尋問〔47~49頁〕】患者が,70歳代,男性,喫煙者,腺がん患者で,EGFR遺伝子変異陽性(あり)の症例である。 左肺に腫瘍の大きさが3cm 以上の腺がんがあり,リンパ節転移があると診断され,左上葉切除手術を行 】患者が,70歳代,男性,喫煙者,腺がん患者で,EGFR遺伝子変異陽性(あり)の症例である。 左肺に腫瘍の大きさが3cm 以上の腺がんがあり,リンパ節転移があると診断され,左上葉切除手術を行ったが,その8か月後に再発し,左鎖骨上窩リンパ節や縦隔リンパ節が腫れ,胸水が溜まり,がん性胸膜炎 がみられ,PSは2となり,腫瘍マーカー値が上昇した。 放射線治療を実施し,痛みがとれたり,腫瘍マーカー値が下がるなどの効果が見られたが,放射線を鎖骨の上だけにかけていたため,胸部の病巣に対しては効果がなかった。その後,イレッサを投与することとなり,投与開始3か月後には,胸部CT画像からリンパ節のがんが縮小し,胸水も減少したことが確認され,息切れも改善された。腫瘍マーカー値の推移からも改善が確認された。 ⑤ 症例5【乙E11〔27頁〕,12〔6頁〕,15,証人光冨主尋問〔49~52頁〕】患者が,40歳代,女性,非喫煙者,腺がん患者で,EGFR遺伝子変異陽性(あり)の症例である。 卵巣がんと診断されて,卵巣及び子宮の全摘出手術を受け,その後,卵巣がんの治療として,パクリタキセルとカルボプラチンの併用療法を受けたが,改善がみられず,術後約1年後に,セカンドオピニオンから肺がんの疑いを知らされ,検査したところ,肺がんが原発であり,卵巣などに転移したものであることが診断された。 イレッサの投与開始後,肺がんの縮小,胸水の減少が胸部レントゲン画像で確認され,腫瘍マーカー値も低下した。その後,死亡した。 ⑥ 症例6【乙E11〔28頁〕,12〔6頁〕,16[枝番号1,2],証人光冨主尋問〔52~58頁〕】患者が,70歳代,女性,喫煙者,腺がん患者で,EGFR遺伝子変異陽性(あり)の症例である。 病期ⅢB期で治療が開始され,原発巣は36 〕,16[枝番号1,2],証人光冨主尋問〔52~58頁〕】患者が,70歳代,女性,喫煙者,腺がん患者で,EGFR遺伝子変異陽性(あり)の症例である。 病期ⅢB期で治療が開始され,原発巣は36×30mm であった。患者が従来の化学療法を希望しなかったため,イレッサが投与された。 イレッサ投与後,リンパ節転移が改善され,約6か月後には,原発巣の腫瘍が,CT画像上,32×20mm まで縮小した。また,投与から 約1年6か月後には,原発巣の腫瘍は32×22mm であり,6か月の時点と比べると,縦幅が2mm 大きくなり,腫瘍の縮小には限界がみられたものの,リンパ節転移は消えて,病期ⅠB期相当となった。この段階で,原発巣の摘出手術が行われた。その後,死亡した。 イ坪井正博の症例報告① 症例1【丙E48[枝番号1]〔71~78頁〕,50[枝番号1〔21~23頁〕,2の1・2]】患者が,40歳代,女性,非喫煙者の症例である。 平成12年に,左下葉の腫瘤及び右中葉のすりガラス状陰影が確認され,両側肺がんと診断されて,切除手術が実施された。平成13年4月24日に,肺胞上皮型腺がんの術後再発と判明した。 同年5月から約5か月間,カルボプラチンとパクリタキセルの併用療法により,腫瘍の縮小が認められたが,同年6月25日の胸部X線検査の結果,腫瘍の増悪が疑われ,同年7月15日の胸部CT検査の結果,PDと判定された。また,時折呼吸困難や胸部の不快感が認められた。 セカンドライン治療で,患者がイレッサを希望したことにより,同月25日からイレッサの投与が開始された。同年8月8日,胸部X線検査により右肺の影の縮小が認められ,同年9月5日の胸部CT検査の結果でも,同年7月15日の時点で確認されていた再発及び多発転移巣が淡い斑状影となってい サの投与が開始された。同年8月8日,胸部X線検査により右肺の影の縮小が認められ,同年9月5日の胸部CT検査の結果でも,同年7月15日の時点で確認されていた再発及び多発転移巣が淡い斑状影となっていることが確認された。その後もイレッサの投与が継続され,平成16年夏ころまでは概ねPRが維持された。 平成16年夏ころからがんの増悪が認められ,平成17年1月6日からはイレッサを中止し,TS-1が投与された。しかし,TS-1投与中に,胸部不快感,咳,痰などの胸部症状が増強してきたことから,同月31日にイレッサの投与が再開された。その結果,胸部X線検査の画像状浸潤影が減少し,咳や痰などの症状も軽減するなどの効果が認めら れた。 同年6月13日,再度がんの増悪が認められたため,同年7月以降はイレッサや殺細胞性抗がん剤の投与を行いながら,平成20年1月14日まで投与を継続した。同月15日にはタルセバの投与もされた。 タルセバの投与開始後の同年2月12日に,胸部X線検査の結果,両肺の影が再度淡くなり,同月26日には労作時呼吸困難があるものの,安静時の呼吸困難は改善した。 ② 症例2【丙E48[枝番号1]〔80~84頁〕,50[枝番号1〔24~26頁〕,3の1・2]】患者が,60代,女性,非喫煙者の症例である。 当該患者は原因不明の舌下神経麻痺のために入院中であったが,胸部CT検査で異常陰影が認められ,平成17年8月に肺腺がんと診断され,病期Ⅳ期であることが判明した。 上記診断により手術不能と判断されたことから,平成15年9月からカルボプラチンとゲムシタビンの併用療法が行われたところ,リンパ節腫大は一時縮小傾向が認められたものの,原発巣の縮小は認められなかった。右肩峰痛が増強し,右鎖骨上窩リンパ節に転移に伴う症状の悪化がみられ, ラチンとゲムシタビンの併用療法が行われたところ,リンパ節腫大は一時縮小傾向が認められたものの,原発巣の縮小は認められなかった。右肩峰痛が増強し,右鎖骨上窩リンパ節に転移に伴う症状の悪化がみられ,平成17年9月16日には,腰椎,骨盤への骨転移がみられた。患者がイレッサを希望したことから,V1532試験へ参加することとなり,平成18年1月23日からイレッサの投与が開始された。 同年2月20日,胸部CT検査により右肺の腫瘍が縮小するとともにリンパ節が縮小し,内頸静脈背側に認められていた右鎖骨上窩リンパ節は消失した。同年6月6日の腰椎MRI検査の結果では,骨転移(同年1月の時点では認められていた。)が認められず,同年7月28日の骨シンチ検査の結果でも骨転移は認められなかった。その後も,腫瘍の増悪は認められず状態が安定していたことから,第Ⅲ相試験上のイレッサ の最終投与日は同年8月6日とし,同年9月11日には試験上の追跡も終了することとなった。 イレッサの投与は,皮疹や紅斑,抜歯等のために休薬等を行った時期があるものの,平成20年3月当時まで継続されており,存命であった。なお,平成19年10月30日から平成20年2月18日までの間は,ドセタキセルの投与も行われた。 ③ 症例3【丙E48[枝番号1]〔84~89頁〕,50[枝番号1〔27~30頁〕,4の1・2]】患者が,30代,男性,非喫煙者の症例である。 平成12年3月3日に腺がんであると診断され,胸部CT検査の結果,病期ⅢB期とされた。診断後,カルボプラチンとパクリタキセルの併用療法が行われ,腫瘍及び縦隔リンパ節の縮小がみられたため,同年6月13日に左上葉切除術及びリンパ節郭清術が実施された。その際,術後補助療法としてUFTが投与された。 同年12月の胸部X線検査及び 用療法が行われ,腫瘍及び縦隔リンパ節の縮小がみられたため,同年6月13日に左上葉切除術及びリンパ節郭清術が実施された。その際,術後補助療法としてUFTが投与された。 同年12月の胸部X線検査及び胸部CT検査の結果,非小細胞肺がんの再発が確認された。平成13年3月9日から同年5月9日までカルボプラチンとパクリタキセルの併用療法が行われ,同年3月ころには全脳照射(放射線療法)も行われた。その後,胸部CT検査の結果,肺の腫瘍の数は再発発見時よりも減少し,頭部CT検査の結果,脳転移も改善が認められた。 しかし,同年6月に,ヘモグロビン減少(血液毒性),食欲不振及び全身倦怠感が認められたため,化学療法が中止された。また,頭部CT検査の結果,多発性脳転移が認められた。 その後は,UFTが投与され経過観察が行われたが,平成14年5月13日に胸部X線検査により肺の粟粒性転移病巣の増悪が認められ,頭部CT検査の結果により脳に15~20mm 大の転移巣が複数みられ た。 同年8月12日から,ゲムシタビンとドセタキセルの併用療法が行われたが,同年10月1日の胸部X線検査の結果から治療効果が認められなかった。 同月3日からイレッサが投与され,同月17日及び30日の胸部X線検査によれば,肺の網状陰影及び気胸の改善が認められ,咳の病状も改善が認められ,同年11月28日の胸部X線検査の結果によっても,肺の腫瘍の増悪は認められなかった。副作用として顔のにきびと背中の発疹が認められ,同年12月17日から2週間イレッサの投薬が中止された。上記症状の改善がみられたため,平成15年1月9日からイレッサの投与が再開された。同年2月6日の胸部X線検査の結果では,肺の腫瘍の陰影が薄くなり,呼吸困難や咳の症状も改善した。 同月20日ころより,当該患者は,自 みられたため,平成15年1月9日からイレッサの投与が再開された。同年2月6日の胸部X線検査の結果では,肺の腫瘍の陰影が薄くなり,呼吸困難や咳の症状も改善した。 同月20日ころより,当該患者は,自主判断でイレッサの投与を休止し,症状が悪化する度にイレッサの投与を再開し,改善するとまた休止することを繰り返し,同年3月20日の外来診療を最後に,自主判断で外来受診しなくなった。 当該患者は同年11月に加療目的で入院し,胸水ドレナージが実施され,イレッサの投与も再開された。右肺の再膨張は不良であったが,イレッサを2週間投与後に2週間休薬する方法で経過観察が行われた。同年12月の胸部X線検査の結果によれば,肺野の陰影の消失傾向がみられた。 平成16年3月の胸部CT検査の結果によって,肺の腫瘍の再増悪が認められたため,同年4月22日によりイレッサとドセタキセルの併用療法が開始され,イレッサのコホート内ケース・コントロール・スタディへ参加することとなった。同年6月14日の胸部X線検査により左肺の陰影に消退が認められた。 当該患者は,その後退院したが,外来の経過観察中の同年8月17日に呼吸困難を訴えて,緊急入院した。イレッサによる下痢のために,患者の自主判断で同年7月20日からイレッサの投与が休止されていたことが判明した。 当該患者は同年8月20日から入院して,イレッサの投与が再開され,呼吸困難が改善され,経過も良好であったことから,同年9月1日に退院し,在宅酸素療法が実施され経過観察が行われた。 同年10月1日に,当該患者に顔のにきびと胸痛が認められ,イレッサの投与が中止され,同年11月11日には病状の悪化が認められ,他院に転院して,同月30日に病勢進行のため死亡した。 ウ福岡正博の症例報告【丙E33〔11,12頁〕,証 びと胸痛が認められ,イレッサの投与が中止され,同年11月11日には病状の悪化が認められ,他院に転院して,同月30日に病勢進行のため死亡した。 ウ福岡正博の症例報告【丙E33〔11,12頁〕,証人福岡主尋問〔45~48頁〕】患者が,58歳,女性,非喫煙者の症例である。 他院で肺腺がんと診断され,診断時に右眼脈絡膜転移があった。他院における治療歴はゲムシタビンとビノレルビンの併用療法,ドセタキセル単剤の化学療法を受けていた。 その後,福岡の所属する病院に転院してきたが,来院時には,両下肢の運動麻痺のため歩行不能の状態で,PS4と判断された。平成14年7月26日から,EAPに基づいて,イレッサの投与が開始された。 投与から約1週間後には,脈絡膜転移は消失し,胸部の陰影に縮小が認められるとともに,症状の改善がみられ,全身状態が回復し,下肢の運動障害も改善し,その後しばらくして退院した。 エ大橋信之ら「非小細胞肺がんに対するゲフィチニブ(イレッサ)の使用経験」(広島医学56巻3号:平成15年3月,丙E8)別紙27【症例経過表】の症例①~④について,大橋らは,要旨以下のように意見を述べている。 症例①は,サードライン治療として劇的に抗腫瘍効果を認める症例があることは従来の抗がん剤ではまれであり,セカンドライン以降の治療での使用によって生存期間を延長させる可能性を示した。 症例②では抗腫瘍効果や自覚症状改善効果に加え,QOLが向上した。 副作用が軽微で継続使用が容易である上,従来の抗がん剤と比して継続性に優れる傾向がうかがわれ,維持療法として生存期間を延長させる可能性も考えられた。 症例③では,高齢者で抗腫瘍効果が認められずPDであった症例であったが,自覚症状が改善し,QOLの向上が見られた。なぜPDでも自 かがわれ,維持療法として生存期間を延長させる可能性も考えられた。 症例③では,高齢者で抗腫瘍効果が認められずPDであった症例であったが,自覚症状が改善し,QOLの向上が見られた。なぜPDでも自覚症状が改善するのか,理由は明らかではない。作用部位であるEGFRの過剰発現と抗腫瘍効果の相関もなく,生体内での真の作用機序も明らかではないのが現状である。 現時点では,副作用に関する情報が十分でないこともあり,今後プロトコールに基づいた薬剤投与において,そのプロフィールを明らかにしていく努力が必要であろう。 イレッサは標準的治療薬として確立していないばかりか,重篤な副作用の発生頻度も明らかではない。従来の抗がん剤同様,効果や副作用に対する十分なモニタリングを行いながら利用することが医療者としての当然の心構えである。 オ梅村茂樹ら(治療学Vol.38 No.12:平成16年,丙E9)別紙27【症例経過表】の症例⑤,⑥について,梅村らは,要旨以下のように意見を述べる。 症例⑤は,患者が喫煙者の男性である。シスプラチン,ドセタキセル,イリノテカンという現在最も有効性を期待できる薬剤を組み合わせた3剤併用療法では全く奏効せず,肺内転移巣の増大により呼吸不全状態になっていたが,イレッサの投与により,急速に肺転移巣が縮小した。これまで の報告ではイレッサが奏効する可能性が低いと考えられていた患者であったが,イレッサが著効し延命効果が得られた。たとえ喫煙者の男性であってもイレッサを試みる価値があることを示唆する興味深い症例であった。 症例⑥は,全脳照射,ビノレルビン,ゲムシタビン,カルボプラチンやパクリタキセルなどの多剤に対していずれも耐性となっていたが,イレッサにより腫瘍の完全消失が長期間持続した。本症例は全脳照射を 。 症例⑥は,全脳照射,ビノレルビン,ゲムシタビン,カルボプラチンやパクリタキセルなどの多剤に対していずれも耐性となっていたが,イレッサにより腫瘍の完全消失が長期間持続した。本症例は全脳照射を含め,既存の治療法がすべて無効となった巨大な転移巣に対してイレッサが著効した点が興味深い。 イレッサは,現在の標準的治療法であるプラチナ製剤を含む多剤併用療法又は放射線照射などに耐性となった症例の一部に著効するという点では貴重な薬剤である。 今後,イレッサ投与前にEGFRの変異の有無を検索することにより,肺がんで初めてのテーラーメイド医療が実現することを期待する。 カ KeiichiFujiwara ら「DramaticeffectofZD1839(‘Iressa’) inapatientwithadvancednon-small-celllungcancerandpoorperformancestatus」(LungCancer40巻1号:平成15年4月,丙E10[枝番号1,2])別紙27【症例経過表】の症例⑦について,Fujiwara らは,要旨以下のように意見を述べる。 症例⑦は,化学療法に耐性のある進行性非小細胞肺がんでPS不良の患者に対して,イレッサが著しい抗腫瘍効果を発揮したものである。 症例⑦はイレッサによる治療に関連した次の4点を明らかにした。第一は,イレッサは,全身状態(PS)不良の患者に投与することができること,第二は,前治療歴のある患者についても,イレッサは当該患者の受けた従来の化学療法との交差耐性を示さなかったこと,第三は,イレッサによる治療の直前(全脳照射の6か月後)に発見された脳転移のリング状造 影領域が消失したのは,放射線による効果ではなく,むしろイレ 化学療法との交差耐性を示さなかったこと,第三は,イレッサによる治療の直前(全脳照射の6か月後)に発見された脳転移のリング状造 影領域が消失したのは,放射線による効果ではなく,むしろイレッサによる効果だったと考えられること,第四に,症例⑦では,顔面や頚部における発疹により一時治療を中断したが,イレッサに関連した有害事象は軽度であったことである。 イレッサは進行性非小細胞肺がんに実質的な効果をもたらし,シスプラチンを標準とする化学療法との交差耐性のない初めての分子標的治療薬であり,イレッサの副作用の種類・程度は従来の抗がん剤とは全く異なる。 そのため,ファーストライン治療において化学療法とイレッサを同時又は逐次併用すれば,より高い奏効率を得る可能性がある。 キ ToshiyukiKozuki ら「Long-termEffectofGefitinib (ZD1839) onSquamousCellCarcinomaoftheLung」(ANTICANCERRESEARCH 24巻1号:平成16年,丙E11[枝番号1,2])別紙27【症例経過表】の症例⑧について,Kozuki らは,要旨以下のように意見を述べる。 症例⑧は,男性で,喫煙歴があり,肺全摘出術及び放射線療法を受けた患者であったにもかかわらず,イレッサを12か月以上投与しても,肺の有害事象を発現しなかった。 イレッサは,扁平上皮肺がん患者において,少なくとも13か月間,重篤な有害事象を発症することなく効果(抗腫瘍効果)がある。喫煙歴とイレッサの効果には強い相関性があるとの報告があるが,症例⑧は,その報告とは異なる結果を示した。扁平上皮がんを有する男性喫煙者に関する症例であることを考慮すると,イレッサの作用機序についてはさらなる研究の の効果には強い相関性があるとの報告があるが,症例⑧は,その報告とは異なる結果を示した。扁平上皮がんを有する男性喫煙者に関する症例であることを考慮すると,イレッサの作用機序についてはさらなる研究の必要がある。 ク高岡和彦ら「Gefitinib の投与が奏効した慢性腎不全と呼吸不全を伴う原発性肺癌術後再発の1症例」(癌と化学療法32巻1号:平成17年1月,丙E12) 別紙27【症例経過表】の症例⑨について,高岡らは,要旨以下のように述べる。 症例⑨は,慢性腎不全のため積極的な抗がん剤治療が困難でQOLの低下を招くと考えられるものであった。また,イレッサに対する患者の期待が高く,慢性腎不全患者に対してイレッサを投与する科学的根拠がないことや有害事象の報告がないことを説明し,十分なインフォームド・コンセントを得た上で治療を開始し,早期に自覚症状とQOLの著名な改善を認めた。また重篤な有害事象はなく,抗腫瘍効果はPRで,病勢進行までの期間は約6か月,生存期間は約13か月であった。症例⑨は治療が奏効したと判断した。 ケ杉安謙仁朗ら「イレッサにより長期予後が得られた肺癌多発骨転移の1例」(中部整災誌47巻4号:平成16年,丙E13)別紙27【症例経過表】の症例⑩について,杉安らは,要旨以下のように述べる。 症例⑩は,イレッサは,一時的にではあるがCEA値を著名に低下させて有効であり,肺がん治療に少なからず効果的であったことを示唆すると考えられた。イレッサ投与前と比較して,投与後は椎体の圧潰進行が認められず,イレッサが骨転移巣に有効に作用したことを示唆するものである。 症例⑩の予後因子からは,予後6か月未満と予測でき,手術適応なしと考えられたが,実際は1年9か月の生存期間を得ており,術後も麻痺の進行はなく, 転移巣に有効に作用したことを示唆するものである。 症例⑩の予後因子からは,予後6か月未満と予測でき,手術適応なしと考えられたが,実際は1年9か月の生存期間を得ており,術後も麻痺の進行はなく,QOLを維持することができた。 したがって,イレッサは,生存期間の延長と転移病巣のコントロールに効果的であったと考えられる。 コ AtsukoIshida ら「GefitinibasaFirstLineofTherapyinNon-SmallCellLungCancerwithBrainMetastases 」(「Internal Medicine」43巻8号:平成16年8月,丙E14[枝番号1,2])別紙27【症例経過表】の症例⑪,⑫について,Ishida らは,要旨以下のように意見を述べる。 イレッサは,主にセカンドライン治療としてのみ推奨されてきたが,全身状態(PS)不良のために殺細胞性抗がん剤による治療を許容できないと考えられる患者にとって,唯一の根治的治療法となりうるから,良好な予後因子を有する一部の患者に対してはファーストライン治療として投与できると考える。症例⑪及び⑫は,いずれも日本人女性の腺がん患者であり,これらの因子はすべて予後因子と考えられる。 サ上林孝豊ら「症状緩和と抗腫瘍効果にGefitinib が有効であったPS3進行期肺がん症例の1例」(癌と化学療法31巻2号:平成16年2月,丙E15)別紙27【症例経過表】の症例⑬について,上林らは,要旨以下のように意見を述べる。 症例⑬は,イレッサ投与時にはPS3の患者で,通常の化学療法を行うことが困難であったが,イレッサの投与により重篤な副作用やQOLの低下を招くことなく抗腫瘍効果を得て,症状やPSが改善された る。 症例⑬は,イレッサ投与時にはPS3の患者で,通常の化学療法を行うことが困難であったが,イレッサの投与により重篤な副作用やQOLの低下を招くことなく抗腫瘍効果を得て,症状やPSが改善された。 モルヒネや放射線照射によってコントロール困難であった強度のがん性疹痛が速やかに改善したことには注目すべきである。イレッサは,がんの積極的治療としてのみだけでなく,がんに伴う様々な症状の緩和治療にも有用である可能性がある。 また,症例⑬での効果を踏まえれば,イレッサは,脳転移巣に対しても縮小効果が期待される。 シ中田寛章ら「Gefitinib が有効であった肺腺癌転移による癌性腹膜炎の1例」(癌と化学療法31巻1号:平成16年1月,丙E16)別紙27【症例経過表】の症例⑭について,中田らは,要旨以下のよう に意見を述べる。 症例⑭は,平成14年1月から約10か月間はパクリタキセルの腹腔内投与により腹水がコントロールされていたが,その後のシスプラチン腹腔内投与とイリノテカンの全身投与では効果が見られなかった。イレッサ投与後に腹水の減少が見られ,イレッサの効果によるものと考えられる。 再発の非小細胞肺がん患者は限られた生存期間の中で食欲不振や易疲労感などQOLを損なう症状を呈することが少なくなく,生存期間の延長のみならず,QOLの改善も大切である。イレッサは内服の抗がん剤であり治療中も自宅での生活が継続できるなど,QOLの改善にも有意である。 ス鈴木裕太郎ら「ゲフィチニブ(イレッサ)が著効した前治療無効肺腺癌の一例」(治療Vol.87No.4 載:平成17年4月,丙E17)別紙27【症例経過表】の症例⑮について,鈴木らは,要旨以下のように意見を述べる。 症例⑮は,PS2の患者であるが,非喫煙者,腺が 」(治療Vol.87No.4 載:平成17年4月,丙E17)別紙27【症例経過表】の症例⑮について,鈴木らは,要旨以下のように意見を述べる。 症例⑮は,PS2の患者であるが,非喫煙者,腺がん,女性,日本人というイレッサの効果予測因子を満たす典型例である。また,症例⑮のような多発肺転移における著効例は多数報告されており,今後新たな効果予測因子となる可能性はあると考える。 今後イレッサ使用にあたっては,感受性,有害事象予測に基づく個別化医療の実現,ファーストラインでの使用,他剤との併用,術後使用などの科学的根拠の構築が望まれる。 実地医療の適正使用としては,インフォームドコンセントの上で,セカンドライン以降でPS0~2の患者に単独投与することが基本である。間質性肺炎や肝機能障害患者への投与は慎重を要する。 セ矢満田健「肺癌術後再発症例に対するゲフィチニブ(イレッサ)の投与」(信州医学雑誌51巻5号:平成15年10月,丙E18)別紙27【症例経過表】の症例⑯~⑱について,矢満田は,要旨以下の ように意見を述べる。 症例⑯~⑱のように,比較的短期間の評価であるが,驚くべき効果が認められる症例が存在することは事実である。現時点でたとえ臨床試験上,予後向上に明らかな科学的根拠が得られなかったとしても,画期的な肺がん治療薬であることは誰も否定できない。 効果予測因子の発見,短期有効例の長期予後,急性肺障害を含む副作用など今後検討すべき課題は多いが,肺がん治療を専門とする医者が今までにあまり経験したことのない驚きである。急性肺障害の副作用については,現在までの検討では既存に特発性肺線維症のある症例では急性肺障害のリスクが有意に高いことが判明しているのみである。 ソ廣瀬正裕ら「Gefitinib 投与により る。急性肺障害の副作用については,現在までの検討では既存に特発性肺線維症のある症例では急性肺障害のリスクが有意に高いことが判明しているのみである。 ソ廣瀬正裕ら「Gefitinib 投与により骨・脳転移が縮小し全身状態の著明な改善を認めた進行期非小細胞肺癌の1例」(日本胸部臨床64巻3号:平成17年3月,丙E19)別紙27【症例経過表】の症例⑲について,廣瀬らは,要旨以下のように意見を述べる。 症例⑲は,イレッサ投与開始から1 か月後には肺内腫瘍の縮小とともに脳転移,骨転移も改善を認め,自覚症状が軽快した。イレッサは通常の化学療法剤となり,血液脳関門を通過し脳転移巣を縮小させる可能性を有することを示している。ただし,非小細胞肺がんの転移巣におけるイレッサの有用性,メカニズムに関しては解明されていない点が多く,今後症例を集めて検討する必要がある。 タ石川清司ら「緩和医療からみた分子標的薬ゲフィチニブの役割」(沖縄医報40巻6号:平成16年,丙E20)別紙27【症例経過表】の症例⑳及び○ 21 について,石川らは,要旨以下のように意見を述べている。 イレッサでは,抗がん剤の有効性を評価する奏効率よりも,病勢コント ロール率,症状改善率がはるかに高い。腫瘍縮小効果に加え,貧血,痛み,食欲不振などの症状が改善され,QOLの向上が図られる。1日1回1錠の内服であるため,手軽な治療法であるが,副作用の発現率が高く慎重な経過観察を必要とする。 症例⑳は,PS4の患者で,従来の考え方では化学療法の対象外とされ,ホスピス等での緩和医療の対象となる症例であった。患者の意思を汲み取り,治療を断念せずにイレッサを使用したところ,肺がんの発見から1年後には,一時的に旅行が可能な状態にまで症状が緩和された。 症例○ ス等での緩和医療の対象となる症例であった。患者の意思を汲み取り,治療を断念せずにイレッサを使用したところ,肺がんの発見から1年後には,一時的に旅行が可能な状態にまで症状が緩和された。 症例○ 21 では,PS3の状態と多発肺内転移の画像は積極的治療を躊躇させる因子であったが,イレッサの投与後,主婦として家事が可能となり,投与から約15か月,自宅での日常生活を営むことができたことは高く評価される。 イレッサの有効な症例を選択する基準の確立が急がれる。 チMotoshiTakaoら「SuccessfultreatmentofpersistentbronchorrheabygefitinibinacasewithRecurrentBronchioloalveolarCarcinoma: acasereport 」(WorldJournalofSurgicalOncology 1(1)8(2003):平成15年7月,丙E21[枝番号1,2])別紙27【症例経過表】の症例○ 22 について,Takao らは,要旨以下のように意見を述べる。 症例○ 22 は,多発性肺細気管支肺胞上皮がんに起因する気管支漏(進行性の大量の水様喀痰及び呼吸困難)の治療に対する反応がイレッサによるEGFRチロシンキナーゼ阻害と関係する可能性があることを示すものであり,イレッサは,多発性肺細気管支肺胞上皮がん,特に重篤な気管支漏がある症例に対する治療選択肢となり得る。 ツ樋田豊明「分子標的治療薬ゲフィチニブの著効例」:(がん分子標的治 療Vol.1 No.2:平成15年4月,丙E22)別紙27【症例経過表】の症例○ 23 ~○について,樋田は,要旨以下のように意見を述べ ニブの著効例」:(がん分子標的治 療Vol.1 No.2:平成15年4月,丙E22)別紙27【症例経過表】の症例○ 23 ~○について,樋田は,要旨以下のように意見を述べる。 症例○ 24 及び○では,それぞれカルボプラチンとパクリタキセル,カルボプラチンとゲムシタビン治療後にイレッサが効果を示し,抗がん剤投与後の継続投与でイレッサが生存期間の延長に寄与することが期待される。 症例○ 23 ~○は,従来の化学療法が効果を示さなかった腫瘍に対して,イレッサが効果を示しており,従来の化学療法とイレッサが奏効する集団は一致しないことが示唆された。 継続投与ではどのような非小細胞肺がん症例で効果があるのか現段階では不明であるが,いずれにしてもイレッサの効果予測因子の特定が最も重要な課題であると考えられる。 テ塩豊「パロキセチンにより肺癌患者に発症した適応障害が軽快し,肺癌治療を開始し,ゲフィチニブ著効を示した1例」(PharmaMedia22巻10号:平成16年10月,丙E23)別紙27【症例経過表】の症例○ 26 について,塩は,要旨以下のように意見を述べる。 症例○ 26 は,入院時には患者ががん治療を拒否していたため,緩和医療を選択して精神的なケアをしたところ,患者が再度がん治療に向かうようになった症例において,イレッサにより,腫瘍が縮小するなど治療が奏効したまれな症例である。 ト宇宿一成ら「ゲフィチニブにより皮疹を生じた2例」(臨床皮膚科58巻11号:平成16年10月,丙E24)別紙27【症例経過表】の症例○ 27 及び○ 28 について,宇宿らは,要旨以下のように述べる。 症例○ 27 では肝臓の多発していた転移病巣が消失又は縮小し,治療効果判 4)別紙27【症例経過表】の症例○ 27 及び○ 28 について,宇宿らは,要旨以下のように述べる。 症例○ 27 では肝臓の多発していた転移病巣が消失又は縮小し,治療効果判 定はPR,患者のQOLも向上した。症例○ 27 及び○ 28 の患者と主治医は,いずれもイレッサ内服継続の意向である。 ナ SeijiYano ら「AreportoftwobronchioloalveolarcarcinomacaseswhichwererapidlyimprovedbytreatmentwiththeepidermalgrowthfactorreceptortyrosinekinaseinhibitorZD1839(“Iressa”)」(CancerScience94巻5号:平成15年5月,丙E25[枝番号1,2])別紙27【症例経過表】の症例○ 29 及び○について,Yano らは,要旨以下のように意見を述べる。 症例○ 29 では,イレッサを1か月投与後に肺生検標本で組織学的に悪性細胞が検出されなかったことから,イレッサが誘発するアポトーシスが腫瘍細胞駆除の役割の一部を果たしているように思われる。イレッサの抗腫瘍効果の分子的機序の解明は未だ十分にされておらず,腫瘍細胞のEGFR発現とイレッサの臨床的な抗がん特性の関係を把握するためにはさらに試験を行う必要がある。 症例○ 29 及び○は,イレッサ投与前後におけるEGFR,リン酸化EGFR,HER2の各遺伝子の発現度に明らかな差は認められなかった。症例○ 29 では悪性細胞が消失し,症例○では投与開始後に多発性肺細気管支肺胞上皮がん細胞が検出されたものの,投与後8か月まで病勢進行 R2の各遺伝子の発現度に明らかな差は認められなかった。症例○ 29 では悪性細胞が消失し,症例○では投与開始後に多発性肺細気管支肺胞上皮がん細胞が検出されたものの,投与後8か月まで病勢進行が認められなかったことから,イレッサの投与により腫瘍細胞の増殖が抑制されたものと考えられる。 7 イレッサの有効性について(1) 平成14年7月当時の有効性ア薬事法の規定等前記2(1)アのとおり,ヘルシンキ宣言以降,我が国においても,新し い医薬品は,最終的にヒトを対象とする試験すなわち臨床試験によって,有効性と安全性が確認されなければならないことが共通の認識とされている。 昭和54年法律第56号による薬事法の改正において,医薬品の有効性及び安全性を確保するための承認に関する規定が整備され,承認審査資料として臨床試験の試験成績に関する資料等の添付が義務付けられ,臨床試験の成績の信頼性を確保するためにGCP省令等により厳しい基準が設けられた。 イ臨床試験の評価項目前記2(4)のとおり,がん患者の治療上の利益は延命とQOL改善にあり,化学療法によって根治治療することができない肺がん,特に非小細胞肺がんに対しての抗がん剤の治療上の効果が一般的に低い状況の下では,延命が最も重視されるべきであることから,抗がん剤の有効性判断における真の評価項目は,延命効果を中心とすべきである。 また,旧ガイドラインにおけるⅡ相承認制度の下では,腫瘍の縮小が延命につながると考えることには生物学的合理性があり,腫瘍の縮小が延命を予測する上で有益であることが疫学研究によって示されていたことから,腫瘍縮小効果(奏効率)から延命効果(生存期間の延長)を合理的に予測することができると考えられ,代替評価項目である腫瘍縮小効果から真の評価項目で 益であることが疫学研究によって示されていたことから,腫瘍縮小効果(奏効率)から延命効果(生存期間の延長)を合理的に予測することができると考えられ,代替評価項目である腫瘍縮小効果から真の評価項目である延命効果を評価することができると考えられていた。 現在においても,この考え方は否定されてはいない。 ウ承認当時の有効性についての判断(ア) 抗がん剤の期待有効率(有用な抗悪性腫瘍薬と認められる水準)は一般的には奏効率20%が目標とされている。 イレッサの対象疾患は,手術不能又は再発非小細胞肺がんである。すなわち,化学療法の効果が一般的に低い非小細胞肺がんの中でもさらに 治療の困難なⅢ期及びⅣ期の患者が対象となるだけでなく,セカンドライン治療以降の患者であって,薬剤耐性の点からも治療の効果を得にくい患者が対象となっている。そして,平成14年7月当時における非小細胞肺がんのセカンドライン治療における標準的治療薬であるドセタキセル単剤のセカンドライン治療における奏効率を考慮すると,イレッサにおいては奏効率約10%が期待有効率の水準となるものと考えられた。また,試験計画書では閾値有効率は5%と定められていた。 イレッサの第Ⅱ相試験では,IDEAL1試験の外国人群の閾値有効率が5%を越えていなかったが,IDEAL2試験とIDEAL1試験の外国人群の結果を総合すると,外国人に対しても少なくとも閾値有効率5%を越える奏効率があったと考えられる状況にあり,IDEAL各試験ではいずれも閾値有効率5%を越える奏効率であったと認められる。 また,IDEAL1試験の外国人群の奏効率は期待有効率10%を越えなかったが,IDEAL1試験の全患者及び日本人群並びにIDEAL2試験においていずれも奏効率が期待有効率とすべき10%を越え,ことに, ,IDEAL1試験の外国人群の奏効率は期待有効率10%を越えなかったが,IDEAL1試験の全患者及び日本人群並びにIDEAL2試験においていずれも奏効率が期待有効率とすべき10%を越え,ことに,IDEAL2試験は,IDEAL1試験よりも外国人の症例及び化学療法の効きにくくなったサードライン治療の患者を多く含んだにもかかわらず,IDEAL1試験の外国人群を大きく上回る結果を示し,外国人に対しても一定程度奏効することを示し,その奏効率は期待有効率10%を越えていた。 加えて,IDEAL1試験の生存期間中央値が全患者群(250mg/日)で7.6か月,1年生存率が日本人群(250mg/日)で57%であり,セカンドライン治療における標準的治療薬であるドセタキセルを投与した場合の生存期間中央値(5.7~7.5か月)や1年生存率(32~37%)と比較すると,背景因子の偏りなどの可能性を考慮し ても,少なくともイレッサがドセタキセルよりも劣るものではないと考えられた。 以上によれば,平成14年7月当時における判断としては,セカンドライン治療におけるイレッサの有効性は肯定できると認めるのが相当である。 (イ) 次に,ファーストライン治療におけるイレッサの有効性についてみると,セカンドライン治療におけるIDEAL1試験の結果(審査センター判定)では,日本人群(250mg/日)における奏効率が25.5%であり,ファーストライン治療において期待有効率とされる水準(奏効率20%)を上回り,全患者群(250mg/日)における奏効率も15.5%であり,上記期待有効率と比較しても十分な値を示すものと評価することができる。 前記3(2)ウのとおり,抗がん剤の性質に照らすと,セカンドライン以降の治療では,ファーストライン治療で投与された抗がん剤 ,上記期待有効率と比較しても十分な値を示すものと評価することができる。 前記3(2)ウのとおり,抗がん剤の性質に照らすと,セカンドライン以降の治療では,ファーストライン治療で投与された抗がん剤により,がん細胞に多剤耐性が生じることがあるだけでなく,抗がん剤による治療により患者の体力の低下なども重なって,治療を重ねるにつれて治療の効果を得にくくなる。すなわち,セカンドライン以降の治療よりもファーストライン治療における奏効率の方が高いと考えられていた。 イレッサについては,第Ⅰ相試験であるV1511試験において,従来の化学療法による治療効果を得られなかった患者に対して,非小細胞肺がん23例中5例での部分奏効(PR)という結果が得られ,IDEAL2試験において,サードライン治療の患者を含む患者群で奏効率11.8%(250mg/日群)という結果を示し,従来の化学療法により治療効果を得られなかった患者に対しても治療効果を得られることが予測されるた。 以上より,平成14年7月当時における判断としては,ファーストラ イン治療においてもイレッサの有効性は肯定できると認めるのが相当である。もっとも,臨床試験で直接検証されていないことは軽視されるべきではなく,ファーストライン治療において積極的に使用すべき状況にはなかったというべきである。 (ウ) 原告らは,イレッサに関する治験が,セカンドライン治療以降の患者を対象とするものであり,ファーストライン治療における効果が臨床試験により検証されていないのであるから,ファーストライン治療における有効性は認められないと主張する。 しかし,平成14年7月のイレッサ承認当時,非小細胞肺がんに対する抗がん剤使用に関するガイドラインが策定中であり,ファーストライン治療における標準的治療法としてプラ 効性は認められないと主張する。 しかし,平成14年7月のイレッサ承認当時,非小細胞肺がんに対する抗がん剤使用に関するガイドラインが策定中であり,ファーストライン治療における標準的治療法としてプラチナ製剤と新規抗がん剤の2剤併用療法が行われていたという状況にあったところ(前記2(2)イ),保険適用のある標準的治療法が既に存在して一定の治療効果を期待できるのに,患者があえて新薬による治療を望む動機に乏しく,ファーストライン治療における臨床試験の実施が困難であった(前記2(1)オ)のである。 そうすると,原告らの主張によると,非小細胞肺がんに対する新たなファーストライン治療方法の開発ができなかったという非現実的な帰結をもたらしかねない点で,その主張自体相当ではないというほかはない。また,前記のとおり,平成14年7月当時,抗がん剤の効果は,セカンドライン治療よりもファーストライン治療の方が治療効果が高いと予測されていたというのであるから,原告らの上記主張は採用することができない。 (2) 現在における有効性ア承認後の医薬品の有効性の確認と標準的治療法前記2(3),(4)によれば,次のとおりである。 第Ⅲ相試験における有効性の判断は,承認後に判明した医学的,薬学的知見を前提に,臨床試験の試験成績,症例報告等を考慮した上,延命効果を検証するために生存期間(生存期間中央値,時点生存割合)や無増悪生存期間を主要評価項目として行われる。 第Ⅲ相試験の主要評価項目において,標準的治療法に対する優越性が証明された場合,又は同等性が証明され,QOL改善,症状緩和効果等の代替評価項目を総合的に考慮して,第Ⅲ相試験の対照群とされた標準的治療法よりも有効性が高いことが認められた場合には,当該医薬品には有効性が認められ,当該医薬品は 明され,QOL改善,症状緩和効果等の代替評価項目を総合的に考慮して,第Ⅲ相試験の対照群とされた標準的治療法よりも有効性が高いことが認められた場合には,当該医薬品には有効性が認められ,当該医薬品は標準的治療法に組み込まれる。 もっとも,仮に標準的治療法を対照群とした第Ⅲ相試験において優越性又は非劣性が統計学的に証明されなかったとしても,当該医薬品の有効性が直ちに否定されるものではなく,承認後に判明した医学的,薬学的知見,臨床試験の試験成績や症例報告等により承認時において認められた有効性が欠けると認められる場合に,当該医薬品の有効性が否定される。 イ平成16年3月ころまでに実施された臨床試験等前記4(3),6によれば,次のとおりである。 平成14年8月に公表されたINTACT各試験により,イレッサには標準的治療法に対する生存期間延長効果がないことが明らかとなり,少なくともイレッサと既存の抗がん剤を同時併用で投与することを避けるべきであると考えられるようになったが,INTACT各試験の結果がIDEAL各試験の結果に反するものであったとまではいえなかった。 また,承認後の多数の個別症例の報告により,従来の化学療法では治療上の効果が得られなかった患者に対して治療上の効果が得られた旨の報告が多数行われ,これらは,上記臨床試験の結果に反するものではなかった。 したがって,承認時におけるIDEAL各試験の奏効率を中心としてイ レッサに延命効果があることが合理的に予測される状況には変わりなかったといえる。 ウ平成16年4月ころから平成19年6月ころまでに実施された臨床試験等前記4,5によれば,次のとおりである。 イレッサの承認後,イレッサの効果予測因子に関する研究が続けられていたところ,平成16年4月に肺がんの一部の症 成19年6月ころまでに実施された臨床試験等前記4,5によれば,次のとおりである。 イレッサの承認後,イレッサの効果予測因子に関する研究が続けられていたところ,平成16年4月に肺がんの一部の症例にEGFR遺伝子変異が発見され,翌年にはEGFR遺伝子増幅が発見されるに至り,EGFR遺伝子変異やEGFR遺伝子増幅が効果予測因子であるという見解などが示された。 平成16年4月以降,多くの研究者によって,EGFR遺伝子変異のある患者に対してイレッサが効果が高いという研究成果やこれに沿う個別症例が多数発表された。 他方,ISEL試験(平成16年12月公表),SWOG0023試験(平成17年5月公表),V1532試験(平成19年2月公表)のいずれにおいても,イレッサによる延命効果は統計学的に証明されず,かえって,SWOG0023試験の結果から,放射線化学療法同時併用療法後にドセタキセルの逐次投与をした後の維持療法としてのイレッサの投与は避けるべきであると考えられるようになった。しかし,ISEL試験の東洋人サブグループ解析によりイレッサがプラセボに対して生存期間が有意に延長しており,イレッサの効果には人種差などの要因が影響している可能性が示唆された。V1532試験の結果は,これのみから後治療が全生存期間に与えた影響を正確に評価することが困難であり,他の臨床試験の結果を踏まえて検討する必要があるという状況であった。 以上より,平成19年6月ころまでの時点においては,イレッサの有効性は,EGFR遺伝子変異に関する研究や他の臨床試験の結果を踏まえて さらに検討する必要があるという状況にあり,IDEAL各試験の結果に反する試験結果が出ていたとまではいいきれないものであった。 エ平成19年7月ころから現在までに実施された臨床試験等 さらに検討する必要があるという状況にあり,IDEAL各試験の結果に反する試験結果が出ていたとまではいいきれないものであった。 エ平成19年7月ころから現在までに実施された臨床試験等前記4,5によれば,次のとおりである。 平成19年7月に結果が公表されたINTEREST試験は,日本人の症例を含まないものであったが,イレッサの第Ⅲ相試験で初めて,セカンドライン治療以降の患者を対象として,全生存期間についてイレッサのドセタキセルに対する非劣性が統計学的に証明され,QOL改善などでイレッサがドセタキセルを有意に上回った。しかし,EGFR遺伝子増幅の多い患者に関するサブグループにおいて,全生存期間についてのイレッサのドセタキセルに対する優越性は証明されなかった。 平成20年5月に結果が公表されたWJTOG0203試験は,2剤併用療法後に逐次投与されたイレッサによる生存期間の延長を統計学的に証明するものではなかった。しかし,腺がん患者のサブグループにおいて,2剤併用療法後に逐次投与されたイレッサによる生存期間延長の可能性があることが示唆された。 平成20年9月に結果が公表されたIPASS試験において,過去の臨床試験で治療効果が高かった腺がん等のファーストライン治療の患者(日本人を含む東洋人)の無増悪生存期間について,ファーストラインの標準的治療法である2剤併用療法群に対するイレッサ群の優越性が証明された。また,サブグループ解析では,EGFR遺伝子変異を有する患者のサブグループにおいて,イレッサ群が併用療法群よりも高い奏効率等を示し,腺がん患者に対して治療を行うにあたっては,可能な場合にはファーストライン治療前にEGFR遺伝子変異の状態を明らかにすべきであることが示唆された。 平成22年6月に結果が公表されたNEJ002試 ,腺がん患者に対して治療を行うにあたっては,可能な場合にはファーストライン治療前にEGFR遺伝子変異の状態を明らかにすべきであることが示唆された。 平成22年6月に結果が公表されたNEJ002試験において,EGF R遺伝子変異を有する日本人患者の無増悪生存期間について,ファーストラインの標準的治療法である2剤併用療法群に対するイレッサ群の優越性が統計学的に証明された。 また,承認後のイレッサの効果予測因子(EGFR遺伝子変異やEGFR遺伝子増幅)に関する研究や各臨床試験の結果により,EGFR遺伝子変異又はEGFDR遺伝子増幅がイレッサの効果予測因子であるという考え方が大勢を占めるに至った。もっとも,イレッサは,EGFR遺伝子変異のない患者に対しても10%程度の奏効率があるとされ,一定割合の症例ではEGFR遺伝子変異の有無と奏効とが解離することがあるなど,いまだ未解明の状況である上,EGFR遺伝子変異及びEGFR遺伝子増幅については,確率された解析方法がなく,再現性や精度に問題があると指摘されている。 オ現在時点での有効性の判断(ア) 以上のとおり,平成19年7月に公表されたINTEREST試験により,セカンドライン治療の患者に対するイレッサのドセタキセルに対する非劣性が統計学的に証明され,QOL改善などでイレッサがドセタキセルを有意に上回った。 また,承認後のイレッサの効果予測因子に関する研究や各臨床試験により,EGFR遺伝子変異ないしEGFR遺伝子増幅こそがイレッサの効果予測因子であるという考え方が大勢を占めるようになった。しかし,イレッサは,EGFR遺伝子変異のない患者に対して全く治療効果がないというものではなく,10%程度の奏効率が認められ,セカンドライン治療におけるドセタキセルの奏効率と同程度である になった。しかし,イレッサは,EGFR遺伝子変異のない患者に対して全く治療効果がないというものではなく,10%程度の奏効率が認められ,セカンドライン治療におけるドセタキセルの奏効率と同程度であるとされる。 したがって,現時点においては,セカンドライン治療においてイレッサの有効性を認めるのが相当である。 (イ) ファーストライン治療についてみると,IPASS試験やNEJ00 2試験によって,無増悪生存期間について,EGFR遺伝子変異を有する患者を対象にしたファーストラインの標準的治療法である2剤併用療法群に対するイレッサ群の優越性が証明された。そして,無増悪生存期間を代替評価項目として延命効果を推認することができると考えられるから,イレッサは,EGFR遺伝子変異を有する患者に対するファーストライン治療として,2剤併用療法よりも延命効果があることが推認される。 また,ファーストライン治療におけるEGFR遺伝子変異を有しない患者に対する効果を直接検証した臨床試験がないが,イレッサは,EGFR遺伝子変異のない患者に対しても10%程度の奏効率があるとされている。 したがって,イレッサはEGFR遺伝子変異を有する患者に対して特に治療の効果が高いといえ,ファーストライン治療においてもイレッサの有効性は肯定されると認めるのが相当である。もっとも,ファーストライン治療におけるEGFR遺伝子変異陰性(遺伝子変異を有しない)又は不明の患者に対して,他の抗がん剤よりも優先的にイレッサを使用すべき状況にはない。 (ウ) 以上より,現在においては,EGFR遺伝子変異又は遺伝子増幅を有する患者を対象とする場合には,セカンドライン治療及びファーストライン治療におけるイレッサの有効性は肯定されると認められ,EGFR遺伝子変異陰性(遺伝子変異を ,EGFR遺伝子変異又は遺伝子増幅を有する患者を対象とする場合には,セカンドライン治療及びファーストライン治療におけるイレッサの有効性は肯定されると認められ,EGFR遺伝子変異陰性(遺伝子変異を有しない)又は不明の患者を対象とするファーストライン治療としても,イレッサの有効性は認められる。なお,現在におけるイレッサの有効性に関する知見は,承認後の研究によって判明した効果予測因子であるEGFR遺伝子変異の関係を除けば,承認当時の有効性に関する知見とも整合するものといえる。 (3) 小括 以上検討したとおりであり,イレッサは,平成14年7月当時だけでなく,現在においても,その有効性が認められる。 (以下余白) 第3 イレッサの安全性(危険性) 1 医薬品の安全性薬事法の目的,医薬品の承認及び承認拒否事由に関する規定は,第3章第6の1記載のとおりである。 これらの薬事法の規定によれば,医薬品の安全性とは,申請に係る医薬品が,その申請に係る効能,効果又は性能に比して著しく有害な作用がないこと,又は保健衛生上著しく不適当とされる程度の性状,品質がないことをいうと解するのが相当である(薬事法14条2項1号参照)。 医薬品は,人体に化学的作用等を及ぼすものであり,治療上の効果,効能とともに,何らかの副作用(生物学的製剤における病原微生物による感染症を含む。以下,同じ。)が生じることは避けがたい。そのため,単に有害な作用や保健衛生上不適当であることだけでは,安全性がないとはされていないものと解される。 原告らは,イレッサの副作用により間質性肺炎に罹患したと主張するので,従来の化学療法(抗がん剤)における副作用である間質性肺炎(その予後を含む。)の重篤性に関する知見を前提として,イレッサによる間質性肺 らは,イレッサの副作用により間質性肺炎に罹患したと主張するので,従来の化学療法(抗がん剤)における副作用である間質性肺炎(その予後を含む。)の重篤性に関する知見を前提として,イレッサによる間質性肺炎の重篤性の面からその安全性を検討する。 2 従来の化学療法による副作用(1) 化学療法の副作用の特徴化学療法の副作用の特徴に関する前提事実(前記第3章第3),前記第2の3(2)ウの認定事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実は,以下のとおりである。 ア副作用発生の不可避性【乙E11,18,丙E33,丙H2[枝番号4],4,5,11】第2章第4の1によれば,以下のとおりである。 抗がん剤には殺細胞性抗がん剤と分子標的治療薬があり,いずれの抗がん剤も,その作用機序から副作用を回避することは困難である。すなわち,殺細胞性抗がん剤は,細胞周期におけるDNA等の合成を阻害することにより,細胞分裂(増殖)を抑止するものである。すなわち,正常細胞よりも細胞周期が早く細胞分裂が活発ながん細胞は,相対的に殺細胞性抗がん剤の細胞増殖抑制効果をより強く受けるため,治療効果が得られる。 しかし,殺細胞性抗がん剤は,その性質上,正常細胞にも有害な影響を及ぼすものであり,また,副作用が発生しない投与量では治療効果が得られないことが多く,副作用が発生する用量まで投与量を増やさざるを得ず,治療域が非常に狭い。 分子標的治療薬は,基本的には,がんの増殖にかかわる特定の分子(標的分子)に作用してがん細胞の増殖の抑制を図るものである。標的分子は,正常細胞とは質的,量的な違いがあり,治療による正常細胞への影響が小さいか,又は速やかな正常細胞の回復が可能と予想されるものが選択されるため,治療薬のがん細胞に対する特異性が高いとはいえ 的分子は,正常細胞とは質的,量的な違いがあり,治療による正常細胞への影響が小さいか,又は速やかな正常細胞の回復が可能と予想されるものが選択されるため,治療薬のがん細胞に対する特異性が高いとはいえるが,標的分子は正常細胞にも存在するため,前記のとおり,正常細胞への影響は避けられない。 イ副作用の種類及び程度【甲H29,乙E18,乙H13,17,丙E33,丙H2[枝番号5],4,11,32,35,丙I28】抗がん剤の副作用には,次の(ア)ないし(ク)のような多様なものがあり,その程度及び発症頻度も異なる。 (ア) 血液毒性血液毒性は,主に赤血球減少(貧血),白血球減少(好中球減少),血小板減少を発生させるものである。その程度は,患者の全身状態,栄養状態,年齢,病期,骨髄転移の有無,化学療法や放射線療法歴,合併 症などによって異なる。 血液細胞は,細胞周期が早いことから,殺細胞性抗がん剤の影響を強く受け,がん細胞と同様に細胞の分裂や増殖が強く抑制され,副作用が生じる。 白血球(好中球)減少は,細菌感染を防御する白血球が減少することから,感染症に罹患する危険性が高まり,感染症が重症化して死亡する危険性を高める副作用である。また,白血球(好中球)減少等が生じた場合には,白血球(好中球)の数が一定程度回復するまで抗がん剤治療を中断せざるを得ないことが少なくない。 血小板減少は,特に脳内出血や消化管出血を誘発する危険性が高くなり,出血が生じた場合の手術などによる対処が困難となるため,死に瀕する状態に陥ることがある。 (イ) 消化器毒性消化器毒性は,主として口内炎,悪心,嘔吐,下痢を発生させる。これらは,患者のQOLを低下させ,治療継続を困難にする。消化器毒性は,血液毒性と並んで,発症頻度の高い毒性 。 (イ) 消化器毒性消化器毒性は,主として口内炎,悪心,嘔吐,下痢を発生させる。これらは,患者のQOLを低下させ,治療継続を困難にする。消化器毒性は,血液毒性と並んで,発症頻度の高い毒性の1つである。 悪心や嘔吐は,化学療法を受ける患者の70~80%にみられる。 なお,化学療法を受けるがん患者における悪心や嘔吐の原因病態・疾患には,抗がん剤によるもの以外には①補助療法,②転移性脳腫瘍の存在,③原病の消化器への進展,④様々な原因による消化器疾患などがある。 抗がん剤による下痢の程度は,使用薬剤の種類,投与方法又は患者の背景因子によって異なり,重篤な場合は致死的となりうる。特にイリノテカンでは,高度な下痢が発症するとされており,腸管麻痺及び腸閉塞に引き続き腸管穿孔を併発して死亡する例が報告されている。なお,化学療法を受けるがん患者における下痢の原因病態・疾患は,①抗がん剤 による腸障害,②他の薬剤性腸炎,③悪液質,④腸管感染症,⑤精神的因子などである。 (ウ) 肺毒性肺毒性は,肺水腫,アレルギー性包隔炎や間質性肺炎などを発生させる。なお,がん患者における肺障害は,感染症,腫瘍の進展,放射線及び抗がん剤など様々な要因により発症するが,抗がん剤による肺毒性に関する危険因子は,放射線との併用及び抗がん剤の総投与量である。 肺がん治療のための抗がん剤は,その副作用として,間質性肺炎を発症することが多い。抗がん剤による肺障害の頻度は高いとはいえないが,ひとたび発生すると致死的となりうるため,抗がん剤の投与中のみならず,その後も経過観察をして,予防,早期発見,早期治療に努めなければならないとされている。基礎疾患,特に間質性肺炎又は肺線維症を有する患者は,増悪の危険性が高いとされている。 (エ) 腎毒性腎 ,その後も経過観察をして,予防,早期発見,早期治療に努めなければならないとされている。基礎疾患,特に間質性肺炎又は肺線維症を有する患者は,増悪の危険性が高いとされている。 (エ) 腎毒性腎毒性は,腫瘍の進展,全身状態の悪化,補助療法に伴う腎障害,化学療法に伴う腫瘍融解症候群などを発生させる。 抗がん剤の代謝,排泄の多くは腎臓又は肝臓で行われるため,代謝,排泄過程である腎臓尿路系に過剰な負荷がかかり,腎毒性が発生する。 腫瘍融解症候群は,化学療法が奏功した際に腫瘍細胞の大量崩壊が生じ,代謝異常をきたすものであり,固形腫瘍で生じる頻度は低いが,致死的な場合も少なくない。 腎毒性を発生させる代表的な抗がん剤は,シスプラチンである。 (オ) 神経毒性神経毒性は,感覚障害,異常感覚,運動障害,自律神経障害や聴覚障害などを発生させる。特に,末梢神経障害は,予防薬や治療薬がなく,一度発症すると回復しないことが多く,症状が生涯残る深刻な副作用で ある。 シスプラチン,パクリタキセル,ドセタキセルなどにおいて,神経毒性が多く発生する。 (カ) 心毒性心毒性は,心筋障害,血管炎,心電図異常,うっ血性心不全,一過性徐脈,不整脈や低血圧などを発生させる。時には重篤化して死に至ることもある。 心毒性を発生させる抗がん剤には,ビノレルビン,イリノテカンやパクリタキセルなどがある。 (キ) 過剰反応(アナフィラキシー反応)過剰反応は,抗がん剤の投与後数分から10数分で気管支れん縮,血圧低下,発疹などの症状が発生するものである。 過剰反応は,程度の差があるものの,ほぼすべての化学療法で発症しうるが,その発生機序が解明されているものは少ない。 過剰反応が生じる代表的な抗がん剤は,パクリタキセルである。 (ク) 脱毛 過剰反応は,程度の差があるものの,ほぼすべての化学療法で発症しうるが,その発生機序が解明されているものは少ない。 過剰反応が生じる代表的な抗がん剤は,パクリタキセルである。 (ク) 脱毛脱毛は,抗がん剤の毛根母細胞への影響の結果生じる副作用であり,殺細胞性抗がん剤に多くみられる。 脱毛は,生命の危険のある副作用ではないが,患者が女性の場合には精神的苦痛を伴う。 脱毛の副作用が強い抗がん剤は,ドセタキセルなどである。 (2) 非小細胞肺がん抗がん剤による副作用の発症頻度後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,非小細胞肺がん抗がん剤による副作用の発症頻度について,以下のとおり認められる。 ア非小細胞肺がん抗がん剤の副作用死亡数及び死亡率(ア) 非小細胞肺がん抗がん剤の副作用死亡報告数 【丙I23[枝番号1~6]】我が国における主な非小細胞肺がん剤に生じた副作用死亡例の報告数は次の表のとおりである。 平成18年平成19年平成20年ドセタキセル パクリタキセル イリノテカン タルセバ未承認 (ただし,平成19年10月22日以降) (イ) 非小細胞肺がん抗がん剤の副作用死亡率【乙E17〔20~22頁〕,丙E33〔12頁〕,34[枝番号10],46,48[枝番号1]〔41~44,49頁〕,50[枝番号1]〔5,14,15頁〕,証人福岡主尋問〔20頁〕】非小細胞肺がんの抗がん剤の副作用死亡率は,薬剤の種類やデータの収集された時期によっても異なるが,平成14年7月当時では2%前後 ,50[枝番号1]〔5,14,15頁〕,証人福岡主尋問〔20頁〕】非小細胞肺がんの抗がん剤の副作用死亡率は,薬剤の種類やデータの収集された時期によっても異なるが,平成14年7月当時では2%前後とされており,現在においても1~2%とされている。 イ非小細胞肺がん抗がん剤における各副作用の発症頻度我が国における主な非小細胞肺がん剤に関する各毒性の発症率は別紙39の各表のとおりである。 【(ア)血液毒性につき,丙I16,26,28~30,(イ)消化器毒性につき,丙I16,24,26,28,30,(ウ)肺毒性のうち,a間質性肺炎の発症率につき,乙E21[5頁],乙H61~74[うち73は,枝番号1,2],丙I1,2,4,16,24,26~30,b間質性肺炎に関する副作用報告数(括弧内は死亡報告数)につき,丙I23 [枝番号1~6]】(3) 殺細胞性抗がん剤の副作用(肺毒性を除く。肺毒性の中心となる間質性肺炎については後記3参照)に対する治療及び予防方法証拠(甲H28,29,35,36,乙H17,丙H11,32)及び弁論の全趣旨によれば,殺細胞性抗がん剤の副作用に対する主な治療方法について,以下のとおり認められる。 ア血液毒性(ア) 白血球減少白血球減少は,抗がん剤の使用開始後7日目ころから出現し,3週間目には回復することが多いが,一部の薬剤ではさらに回復が遅れることがある。 好中球減少に対する支持療法として,G-CSF(Granulocyte-ColonyStimulatingFactor)が使用される。G-CSFには,好中球減少期間や好中球減少の程度,発熱性好中球減少症の頻度の低下,抗生物質の使用量,感染症の頻度の低下などの効果があり,好中球の数を増加させ,殺菌能を高める作用もあるが,薬価が 。G-CSFには,好中球減少期間や好中球減少の程度,発熱性好中球減少症の頻度の低下,抗生物質の使用量,感染症の頻度の低下などの効果があり,好中球の数を増加させ,殺菌能を高める作用もあるが,薬価が高く,奏功率の改善や生存期間の延長効果は明らかではない。G-CSFには,軽度の骨痛などの副作用があるが,高用量でも大きな副作用がない。 (イ) 血小板減少血小板減少に対しては,血小板輸血により対応する。ただし,輸血に伴う血小板抗体産生や感染の危険性を考慮して,必要最小限にしなければならないとされている。 (ウ) 赤血球減少(貧血)化学療法によって急激な貧血の増悪をみることはない。仮に急激な貧血の症状が現れた場合には,出血など他の原因である可能性があるとされている。 貧血に対しては,赤血球の寿命が長く,輸血でコントロールしやすいことから,臨床的には大きな問題となることは少ないとされる。 イ消化器毒性(ア) 嘔気(悪心)・嘔吐急性の悪心や嘔吐に対しては,5-HT3受容体拮抗剤が主に使用される。これらの副作用が発生する頻度が高い抗がん剤の場合には,5-HT3受容体拮抗剤とステロイド剤を併用するのが標準的治療法である。使用可能な5-HT3受容体拮抗剤は5剤あり,制吐作用はほぼ同等である。 遅延性の悪心や嘔吐は,5-HT3受容体拮抗剤のみでコントロールできる場合が少ない。中枢性・末梢性制吐剤又はステロイド剤が投与されるが,有効例は33~62%である。 予測性の悪心や嘔吐は,過去に抗がん剤投与を受けたときの症状発現の経験や精神的苦痛などに起因して生じるため,鎮痛剤の投与や患者へのカウンセリングを要することがある。 (イ) 下痢食事療法により,下痢に対処することがある。一般的に下痢に対応した食事でよいが,強い下 精神的苦痛などに起因して生じるため,鎮痛剤の投与や患者へのカウンセリングを要することがある。 (イ) 下痢食事療法により,下痢に対処することがある。一般的に下痢に対応した食事でよいが,強い下痢の場合には絶食することもある。 下痢に対する治療は,水や電解質の保持と補正,感染予防などがある。 下痢に対しては,ビスマス剤,タンニン酸アルブミン,塩酸アルミニウム,塩酸ロペラミド,アヘンアルカロイドなどが投与され,腹痛が強いときには臭化ブチルスコポラミンなどが投与される。 ウ腎毒性腎毒性の出現時には,当該抗がん剤の減量又は投与の中止をするほかに方法はない。治療は,輸液と利尿を基本とする対症療法であり,イフォス ファミドによる出血性膀胱炎に対しては,メスナ(ウロミテキサン)が有効であるとされている。 エ神経毒性神経毒性に対しては治療法がなく,日々の経過観察による抗がん剤の減量,中止の時期を見過ごさないことが重要となっている。 オ心毒性心毒性に対する治療法は,通常の対症療法しかないため,いかに予防するかが最優先となる。症例の背景因子を考慮した抗がん剤の選択(危険因子として考えられているのは,70歳以上の者,高血圧,心疾患との合併などである。),投与スケジュールや副作用モニタリングが基本的な対応策となる。 (4) 原告らの主張等についてア原告らは,現在における抗がん剤の副作用死亡率は1%未満であると主張し,証人福島は,京都大学医学部付属病院外来化学療法部では平成17年の全患者818名のうち,抗がん剤による直接的な毒性死が0であった旨証言する(証人福島主尋問〔23,24頁〕)。 しかし,副作用死亡には,抗がん剤の副作用と死亡との直接な関連性が否定できない場合のみならず,抗がん剤の副作用によって易感染状態 な毒性死が0であった旨証言する(証人福島主尋問〔23,24頁〕)。 しかし,副作用死亡には,抗がん剤の副作用と死亡との直接な関連性が否定できない場合のみならず,抗がん剤の副作用によって易感染状態になり重篤な感染症に罹患して死亡した場合,すなわち間接的な関連性がある場合も含まれる(乙D29,後記4(4)ア(オ)b(c))ところ,証人福島が挙げる統計は,抗がん剤による直接的な毒性死のみに基づくデータであり,間接的な毒性死が含まれていない(証人福島反対尋問〔8,9頁〕)のであるから,証人福島の証言により,抗がん剤の副作用死亡率が1%未満であることは認められない。 また,原告らは,国立がんセンター中央病院における平成19年4月から同年10月までの肺がんでの化学療法の治療を受けた患者(入院及び外 来)合計1155名中,治療関連死(副作用死)が1名(副作用死亡率0.1%以下)であったこと(甲P95,乙E20〔92~94頁〕)や,東京医科大学における担当患者の診療録では,患者に対して,抗がん剤による副作用死亡率が1%未満であると説明されていること(丙E50[枝番号2の1]〔191頁〕)を指摘する。しかし,副作用死亡率は,その性質上,その算出の対象となった時期や治療施設によって多少の誤差が生じうるものであり,第Ⅲ相試験において,ファーストライン治療における標準的治療法である2剤併用療法の副作用死亡率は4~6%であり(丙I5),平成18年9月のコホート内ケース・コントロール・スタディに関するシンポジウムにおいて,実地臨床における非小細胞肺がん抗がん剤の副作用死亡率は1.0~2.0%未満と考えている医師が大半を占めていた(丙E46)。また,証人光冨は,化学療法単独での副作用死亡率が1%程度であると証言し(証人光冨主尋問〔55頁〕),国 抗がん剤の副作用死亡率は1.0~2.0%未満と考えている医師が大半を占めていた(丙E46)。また,証人光冨は,化学療法単独での副作用死亡率が1%程度であると証言し(証人光冨主尋問〔55頁〕),国立がんセンター中央病院内科の堀田医師らも,抗がん剤の副作用死亡率は1%程度であるとしている(甲H29)。以上によれば,原告らの指摘する証拠によっては,抗がん剤による化学療法の副作用死亡率が1%未満であったとまで認めるには足りず,かえって,現在においても,抗がん剤による化学療法の副作用死亡率は1~2%程度であると認めるのが相当である。 イ証人福島は,白血球(好中球)減少に対する治療方法として白血球を増やす薬剤があり,骨髄抑制が生じても外来診療で対応できる,実地臨床においては血液毒性(骨髄毒性)により死亡することはあまりないなど,殺細胞性抗がん剤の副作用で最も重篤な副作用とされている血液毒性が対応可能なものである趣旨の証言をする(甲E41〔34頁〕,証人福島反対尋問〔63,64頁〕)。 甲H28には,化学療法に伴う好中球減少に対しては,G-CSF投与が中心となっており(G-CSFは,CFU-Gから好中球への分化を促 進する薬剤である。),化学療法が比較的安全に行えるようになってきたと考えられるようになってきたと記載されていることが認められるが,この記載は,従来の血液毒性に対する治療と比較して安全であるという趣旨であって,血液毒性の危険性がなくなったということを意味するものではないと解されるほか,G-CSFによって必ずしも好中球減少による感染等の危険がすべてなくなったというものではないとの証人福岡の証言や(証人福岡主尋問〔18,19頁〕),G-CSFがあるとしても,現在でも一定数の血液毒性による死亡がありうるとの西條の見解もある 感染等の危険がすべてなくなったというものではないとの証人福岡の証言や(証人福岡主尋問〔18,19頁〕),G-CSFがあるとしても,現在でも一定数の血液毒性による死亡がありうるとの西條の見解もある(乙E19〔59頁〕)。 また,好中球減少などの血液毒性が発症した場合には,感染症の危険性が高まり,ある程度回復しなければ化学療法を継続できず,化学療法を中断すると,がんの進行を招くことになる(丙E33〔5,6頁〕,証人福岡主尋問〔19頁〕,証人光冨主尋問〔27頁〕)。 そうすると,平成14年7月当時において,好中球減少に対する治療薬が存在したとしても,依然として血液毒性の危険性が軽減されたというべきではなく,証人福島の上記証言は採用することはできない。 3 イレッサ承認当時における間質性肺炎自体の予後の重篤性(1) イレッサ承認当時における間質性肺炎に関する知見第3章第5の3の事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められるイレッサ承認当時における間質性肺炎に関する知見は,次のとおりである。 ア間質性肺炎の病態【甲H2,32,乙E17,乙H19,20,35,36[枝番号1~3],丙H12】間質性肺炎は,肺の間質を炎症の主座とする慢性のびまん性の炎症性疾患であるが,その症状,経過,治療反応性は多様であり,多くの病態があ る。 間質性肺炎は,病理組織学的には,肺の間質での過剰なコラーゲン産生による線維化が起こり,臨床的に,それに伴う拘束性喚起障害や肺拡散能の低下などの呼吸機能障害を呈する。 線維化が進行する機序としては修復の不全と考えられている。すなわち,間質性肺炎では,Ⅰ型肺胞上皮細胞が損傷すると,炎症細胞が出現し,線維芽細胞や膠原線維(コラーゲン)などが過剰に産出されることにより線維化が生じる(異常修復)。 復の不全と考えられている。すなわち,間質性肺炎では,Ⅰ型肺胞上皮細胞が損傷すると,炎症細胞が出現し,線維芽細胞や膠原線維(コラーゲン)などが過剰に産出されることにより線維化が生じる(異常修復)。 炎症と線維化によって,ガス交換の効率,特に酸素を取り込む能力(酸素化能力)が下がって低酸素血症をもたらすほか,肺胞は弾力性を失い,肺胞のふくらみが得られなくなって肺活量が低下する。 イ間質性肺炎の経過【甲H3,32,乙H20,丙H12】間質性肺炎では,高分解能CT(highresolutionCT:HRCT)の画像上,両肺全体に広がる網状,粒状,線状,すりガラス状などの陰影(びまん性陰影)が見られることが特徴である。症状としては,初期に労作時の呼吸困難や発熱,乾性咳嗽(痰などの気管分泌物を伴わない咳のことをいう。),重症になると低酸素血症,チアノーゼ(皮膚,粘膜の細静脈,毛細血管内の酸素飽和度が減少し,皮膚や粘膜が紫藍色になること)などを呈する。 その症状経過は多彩で,症状を発現してから急激に呼吸困難などの症状が悪化していく急性のもの(数週以内)から,亜急性のもの(1~3か月),症状が徐々に進行していく慢性のもの(数年)などがある。現在における特発性間質性肺炎に関する病型分類(前記第3章第4の2(3))でみると,急性間質性肺炎(AIP)は急性型,特発性器質化肺炎等(COP/BOOP)は亜急性型,非特異性間質性肺炎(NSIP)には亜急性型のものや慢性型のものがあり,特発性肺線維症(IPF),剥離性間質 性肺炎(DIP),呼吸細気管支炎関連性間質性肺炎(RB-ILD)及びリンパ球性間質性肺炎(LIP)は慢性型であると考えられているが,特発性肺線維症であっても急性増悪するものもある。 (2) イレッサ承認当時における特 細気管支炎関連性間質性肺炎(RB-ILD)及びリンパ球性間質性肺炎(LIP)は慢性型であると考えられているが,特発性肺線維症であっても急性増悪するものもある。 (2) イレッサ承認当時における特発性間質性肺炎の病型分類と予後に関する知見後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,イレッサ承認当時における特発性間質性肺炎の病型分類と予後に関する知見について,次のとおり認められる。 ア特発性間質性肺炎の病型分類に関する研究の動向【甲H3,5,32,36,乙E17,乙H55,丙H12,16~21,32】(ア) 間質性肺炎に関する研究間質性肺疾患(びまん性肺疾患)の研究として,最も重視されてきたのは特発性間質性肺炎に関する研究である。特発性間質性肺炎の研究は,当初は様々な原因による疾患全体の終末像である肺線維症の研究として始まり,やがてその前段階である間質性肺炎の研究へと転換し,症例の大半を占める原因不明の特発性間質性肺炎に焦点をおいて,これを病理組織学的に分析し,病理組織像のパターンを捉えて分類してきた。 これに対し,薬剤性間質性肺炎は,従来から薬剤起因性肺炎,薬剤性肺臓炎などとして,その存在が知られていた。しかし,薬剤性肺障害は,一般的に発症頻度が低いため,同一施設において同一薬剤による多数の症例を経験することがなく,信頼性のあるデータの蓄積が困難であるだけでなく,薬剤の本来の薬効が必ずしも呼吸領域にないため,薬剤を使用する臨床領域と有害事象の臨床領域が異なるという研究上の難しさがあった。そのため,薬剤性肺障害や薬剤性間質性肺炎を主に研究している研究者はほとんどいないといわれる状態であった。(薬剤性間質性肺炎の発生機序,予後などに関する研究は後記(3)イ)(イ) 特発性間質性肺炎の病型分類の歴史a 1950年代まで ている研究者はほとんどいないといわれる状態であった。(薬剤性間質性肺炎の発生機序,予後などに関する研究は後記(3)イ)(イ) 特発性間質性肺炎の病型分類の歴史a 1950年代まで 欧米では,1944年(昭和19年),肺に線維化を来す原因不明の疾患が,4例の剖検例とともに「急性びまん性間質性肺線維症」という病名で報告され,その当時は,疾患全体の終末像である肺線維症として捉えられた。その報告例は,6か月以内に死亡した急性型であったが,その後,6か月以内より慢性に進行するものが報告され,急性例及び慢性例の両者が「びまん性間質性肺線維症」の概念に包含された。 我が国では,1954年(昭和29年)に,最初の「肺線維症」の報告がされ,1960年(昭和35年)に日本結核病学会総会のシンポジウムにおいて初めて肺線維症が取り上げられたが,当時は欧米と同様に疾患全体の終末像である肺線維症が1つの疾患として捉えられていた。 b 1960年代欧米では,1967年(昭和42年)に,病理組織学的観点から間質性肺炎を5つ(①通常型間質性肺炎(UIP),②閉塞性間質性肺炎(BIP),③剥離性間質性肺炎(DIP),④リンパ球性間質性肺炎(LIP),⑤巨細胞性間質性肺炎(GIP))に分類する見解が現れた(Liebow 分類)。Liebow 分類により,従来終末像である肺線維症で捉えられていたものが,その前段階を意識した間質性肺炎の研究への転換がみられるようになった。 我が国では,昭和42年(1967 年)の学会講演で間質性肺炎という概念が初めて用いられた。ここでいう間質性肺炎には,異物吸入,代謝性傷害,ウィルス性肺炎などから膠原病肺などに至る様々なびまん性肺疾患が含まれていたが,原因ごとの分析が行われた。昭和43年(1968 年)に て用いられた。ここでいう間質性肺炎には,異物吸入,代謝性傷害,ウィルス性肺炎などから膠原病肺などに至る様々なびまん性肺疾患が含まれていたが,原因ごとの分析が行われた。昭和43年(1968 年)には,23例の病理組織学的検討が報告され病理組織像として,①新しい硝子膜形成と胞隔の滲出性肥厚を示すⅠ群,②や や古くなって器質化傾向を示し胞隔の線維性肥厚や上皮の増生等を示すⅡ群,③嚢胞形成を示すⅢ群が示された。 c 1970年代我が国では,1970年代に入り,肺線維症研究会(現在の間質性肺疾患研究会)が発足し,間質性肺炎の定義(間質性肺炎は,呼吸困難及び乾性咳嗽を主訴として,両側肺にびまん性の病変を有する進行性の肺疾患であって,病理組織学的には広範な間質性肺炎が主体であり,末期にはその線維化のために呼吸機能の著しい低下をきたす)を示した。昭和49年(1974 年)には,厚生省が特発性間質性肺炎を特定疾患に指定し,厚生省特定疾患肺線維症調査研究班が発足し,同時に第一次診断基準というべき「肺線維症診断の手引き」が作成された。 同研究班は,同年,Liebow 分類(前記b)を踏まえて,特発性間質性肺炎が①A群:狭義の原因不明の症例(Liebow 分類のUIPに相当する。),②B群:原因不明であるが,細菌感染などを疑わせるもの(Liebow 分類のBIPに相当する。),③C群:原因不明であるが,独自の形態像を示すもの(Liebow 分類のLIP,DIP,GIPなどに相当する。),④D群:原因不明例に形態像が類似するが,膠原病など原因が推定されるもの(薬剤性間質性肺炎など)に分類する病理学的診断基準を示し(山中分類),その後,この診断基準が長く使用された。同研究班の調査において,薬剤性間質性肺炎はD群に整理されていた。 これ 推定されるもの(薬剤性間質性肺炎など)に分類する病理学的診断基準を示し(山中分類),その後,この診断基準が長く使用された。同研究班の調査において,薬剤性間質性肺炎はD群に整理されていた。 これに対して,米国では,このころ,診断技術の向上に伴い,病理組織像の分析検討が進み,Liebow 分類における通常型間質性肺炎(UIP)の早期が剥離性間質性肺炎(DIP)であると位置付けられた。 d 1980年代我が国では,昭和50年(1980 年)に,前記厚生省の研究班は特定疾患間質性肺疾患調査研究班に改められ,昭和56年(1981 年)には,同研究班が,「原因不明のびまん性間質性肺炎」など様々な名前で呼ばれていた名称を「特発性間質性肺炎」(IIP)に統一し,前記臨床診断基準を改訂した(第2次改訂)。ただし,ここでいう特発性間質性肺炎(IIP)は,Liebow の分類における通常型間質性肺炎(UIP)に相当するものとされており,他の原因不明の間質性肺炎(DIP,LIPなど)が除外されており,薬剤性間質性肺炎は過敏性肺炎ととも新たにE群に位置付けられた。 欧米では,1983年(昭和58年)に,肺胞,肺胞管や細気管支内の器質化という特徴を捉えた器質化肺炎(COP)という病態を報告し,1985年(昭和60年)には同じ病態を器質化肺炎を伴う閉塞性細気管支炎(BOOP)として報告した。また,びまん性肺胞障害(DAD)の特徴を分析した急性肺障害(AIP)という病型が提唱された。 e 1990年代我が国では,平成3年(1991 年),前記厚生省研究班は臨床診断基準を改訂した(第3次改訂)。第3次改訂では,「原因不明の間質性肺炎」を狭義の「特発性間質性肺炎」(IIP)と総称し,これを①急性型,②慢性型(定型例・非定型例)に分類した 厚生省研究班は臨床診断基準を改訂した(第3次改訂)。第3次改訂では,「原因不明の間質性肺炎」を狭義の「特発性間質性肺炎」(IIP)と総称し,これを①急性型,②慢性型(定型例・非定型例)に分類した。もっとも,上記分類における慢性型の定型例は山中分類A群(Liebow 分類のUIP)と一致し,非定型例は山中分類B群とほぼ一致するものと考えられており,急性型と慢性型に連続性があるのかについての議論は今後の課題とされていた。 欧米では,1994年(平成6年)に,病理組織学的パターンのい ずれにも該当しない病型として,非特異性間質性肺炎(NSIP)を提唱する見解が示された。 米国胸部学会(ATS)は,1991年(平成3年)から,同学会において間質性肺疾患をめぐって,講演やシンポジウムを盛んに行い,1997年(平成9年)からサルコイドーシスガイドラインや特発性肺線維症ガイドラインの作成作業を開始し,1999年(平成11年)にサルコイドーシスガイドラインが公表された。同年には特発性肺線維症に関する臨床シンポジウムが開催され,2000年(平成12年)2月には特発性肺線維症ガイドラインも公表された。また,同学会(ATS)は,1997年(平成9年)にIIPガイドラインの作成作業を開始した。 f 2000年~2004年ころ(a) 海外における状況米国胸部学会(ATS)と欧州呼吸器学会(ERS)は,国際的に複数の概念が用いられ,概念の混乱の下で臨床医が様々な概念を用いていた状況を踏まえて,合同の委員会(ATS/ERS合同委員会)を組織し,2000年(平成12年)に国際多分野合意声明を出し,2002年(平成14年)6月には,特発性間質性肺炎の病型分類に関する統一された国際多分野合意分類(ATS/ERS分類)を公表した(この米国胸 ,2000年(平成12年)に国際多分野合意声明を出し,2002年(平成14年)6月には,特発性間質性肺炎の病型分類に関する統一された国際多分野合意分類(ATS/ERS分類)を公表した(この米国胸部学会(ATS)と欧州呼吸器学会(ERS)の合同作業には,1998年(平成10年)5月から我が国の研究者も参加していた。)。 上記分類では,特発性間質性肺炎を7つの臨床病理学的疾患単位に分類し,病理組織学的パターンと対応させて定義した(後記g)。 (b) 我が国における状況 ⅰ 我が国におけるガイドライン改訂作業我が国では,平成12年(2000 年),前記国際多分野合意声明により臨床診断基準の国際的な整合性が求められるようになり,厚生省びまん性肺疾患調査研究班が,臨床診断基準の改訂作業を開始した(第4次改訂)。 平成16年(2004 年)7月に,厚生労働省研究班はATS/ERS分類を取り入れた臨床診断基準の第4次改訂作業を終え,同年9月に,日本呼吸器学会びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会は上記改訂を踏まえたIIPガイドラインを公表した。 ⅱ 国内での文献等α 大野良之ほか編「難病の最新情報」(平成12年8月,甲H37)特発性間質性肺炎の中の1つの病型である急性間質性肺炎(AIP)の死亡率が62%,生存期間が1~2か月であるとことを示し,参考文献として上記数値の根拠となった文献(Anna-LuiseA.Katzenstein「IdeopathicPulmonaryFibrosis 」Americanjournalofrespiratoryandcriticalcaremedicine 157巻:平成10年,甲H38)を挙げた。 β 近藤有好ほか「特発性間質性肺炎(II ricanjournalofrespiratoryandcriticalcaremedicine 157巻:平成10年,甲H38)を挙げた。 β 近藤有好ほか「特発性間質性肺炎(IIP)の急性増悪について」(1993年度びまん性肺疾患調査研究:平成5年,甲H39)特発性間質性肺炎(IIP)の急性増悪例4例が紹介し,うち3例はステロイドパルス療法を行ったが無効であり死亡し,最終的には全例で死亡してたこと,4例のうち2例では病理像としてびまん性肺胞障害(DAD)の所見がみられ,これらの 所見は急性増悪の特徴的所見であるとする。 また,急性増悪の原因と特発性間質性肺炎との関連は不明であるが,2つの考え方があるとし,1つの考え方は,急性増悪が特発性間質性肺炎とは全く異なる原因による別個の病態であるとするものであり,もう1つの考え方は,急性増悪が特発性間質性肺炎と同一範疇の病態であり,原疾患の悪化が急性増悪であるとするものであるとした。 γ 長井苑子「概念,病型分類」(「間質性肺炎-びまん性肺疾患」:平成14年10月,甲H32)ATS/ERS分類や近藤の上記研究報告を紹介する。 gATS/ERS分類の内容ATS/ERS分類は,特発性肺線維症(IPF)症例の病理組織学的パターンは通常型間質性肺炎(UIP)であり,その他の病理組織学的パターンは別の疾患概念であって特発性肺線維症から除外されるとして,特発性間質性肺炎を①特発性肺線維症(IPF),②非特異性間質性肺炎(NSIP),③急性間質性肺炎(AIP),④特発性器質化肺炎(COP),⑤剥離性間質性肺炎(DIP),⑥呼吸細気管支炎関連性間質性肺疾患(RB-ILD),⑦リンパ球性間質性肺炎(LIP)の7種類に分類された。 組織学的検索の主要な目的は,特 性器質化肺炎(COP),⑤剥離性間質性肺炎(DIP),⑥呼吸細気管支炎関連性間質性肺疾患(RB-ILD),⑦リンパ球性間質性肺炎(LIP)の7種類に分類された。 組織学的検索の主要な目的は,特発性間質性肺炎の中で治療への反応性を示す他の間質性肺炎から,通常型間質性肺炎を鑑別することにあるとされている。 現在の治療手段のいずれにおいても,特発性肺線維症症例の生存期間やQOLの改善を示した報告はない。 h 我が国における知見の概略以上のとおり,特発性間質性肺炎の概念等を国際的に統一等を図ろ うとする動きの下で,我が国においても,国際的な不整合を解消するための臨床診断基準の改訂作業が行われ,ATS/ERS分類を取り入れる方向で作業を終えたのが2004年(平成16年)7月であったというのである。 そうすると,特発性間質性肺炎の研究領域において,海外と我が国における研究の進展状況に差があり,2002年(平成14年)7月当時の我が国においては,間質性肺炎についての知見に未解決な問題が残されていたが,最先端の研究では,ATS/ERS分類と同様の病型分類が検討される状況にあり,少なくとも慢性型の特発性肺線維症や急性間質性肺炎等の中心的な分類は周知のものであったと認めるのが相当である。 イ特発性間質性肺炎を中心とした間質性肺炎の治療法【甲H4,32,乙H55,56,57,乙I4[枝番号12,13,15,16,18~20]】間質性肺炎の治療は,間質性肺炎をもたらした原疾患が判明していれば,まず原病の治療することになる。 これに対して,原因不明の特発性間質性肺炎や,症状によっては,原因が判明している間質性肺炎に対しても,強力な抗炎症作用を有する副腎皮質ステロイド薬(コルチコステロイド)を用いた療法(ステロイド療法)を に対して,原因不明の特発性間質性肺炎や,症状によっては,原因が判明している間質性肺炎に対しても,強力な抗炎症作用を有する副腎皮質ステロイド薬(コルチコステロイド)を用いた療法(ステロイド療法)を中心とした対症療法が行われる。主なステロイド薬は,ヒドロコルチゾン(コルチゾール),コルチゾン,プレドニゾロン,メチルプレドニゾロン,トリアムシノロン,デキサメタゾンやベタメタゾンである。 急性型の間質性肺炎の場合(特発性肺線維症の急性増悪など,急速に悪化して重度の呼吸不全を呈する症例の場合)には,ステロイド薬を一度に大量に投与するステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1000mg/日の3日間点滴静注を,病状の安定化が得られるまで1週間隔で1~ 4クール投与など)が行われる。亜急性の間質性肺炎の場合には,病歴や血液検査や肺以外の臓器病変の検索などの診断が確定することが多く,最終的に原因の明確な他の疾患が除外されれば,特発性間質性肺炎と診断されて,プレドニゾロンの投与,プレドニゾロンと免疫抑制剤との併用やステロイドパルス療法などの中から治療法が選択される。慢性型の間質性肺炎の場合には定期的な観察で対応し,様々な原因が除外されて特発性間質性肺炎と診断されると,特発性肺線維症か,その他の特発性間質性肺炎なのかを評価した後に治療方針が選択される。 上記のような間質性肺炎に対するステロイド剤を中心とした薬物療法は経験的なものであり,絶対的な治療方針はないとされていたものである。 最近では,病理組織パターンによって治療反応性が異なることが明らかとなってきている。特発性間質性肺炎は,ステロイドに治療抵抗性であることが明らかとなり,ステロイドや免疫抑制薬治療の有効性は限られているとされ,ステロイドに治療抵抗性を示す場合には,抗線維化薬の投与 なってきている。特発性間質性肺炎は,ステロイドに治療抵抗性であることが明らかとなり,ステロイドや免疫抑制薬治療の有効性は限られているとされ,ステロイドに治療抵抗性を示す場合には,抗線維化薬の投与が試みられるようになっている。 ウ特発性間質性肺炎の予後【甲H3,32,36,乙H20,55,丙H12,証人工藤主尋問〔63,64頁〕】特発性肺線維症(IPF)は慢性型の特発性間質性肺炎であり,その病理組織型である通常型間質性肺炎(UIP)が示す特徴は,正常肺胞構造の破壊,蜂巣肺形成を伴う線維化,所々に見られる線維芽細胞巣等である。時間的不均一性があり,性状は医療域,間質の炎症,線維化,蜂巣肺が混在する特徴を有し,斑状に恒常的な線維化が持続することがこの疾患を予後不良(平均生存年数は自覚症状出現後3~4年)としている。特発性肺線維症では治療(ステロイドなど)の効果が十分ではないことが多い。 非特異性間質性肺炎(NSIP)には,軽快増悪を繰り返し,又は7~10年で徐々に悪化して予後不良となるなど,一部に予後不良の例があるが,概ね治療によく反応する予後良好例が多い。予後は病理組織所見上の線維化の度合に関連しているが,予後不良例の線維化も質的には特発性肺線維症とは異なる。しかし,非特異性間質性肺炎の臨床経過には大きな幅があり予後不良例も存在することから,非特異性間質性肺炎を概ね予後良好例としてまとめるのは問題があるとの指摘もある。 特発性器質化肺炎(COP)及び閉塞性細気管支炎・器質化肺炎(BOOP)は,同じ病態を指す名称である。特発性器質化肺炎は,多くの場合,経口ステロイド薬で完全に回復し,ごく一部では自然寛解も見られる。しかし,軽快増悪を繰り返し,又は7~10年で徐々に悪化し予後不良となる場合もある。 剥離性間 る。特発性器質化肺炎は,多くの場合,経口ステロイド薬で完全に回復し,ごく一部では自然寛解も見られる。しかし,軽快増悪を繰り返し,又は7~10年で徐々に悪化し予後不良となる場合もある。 剥離性間質性肺炎(DIP)と呼吸細気管支炎関連性間質性肺炎(RB-ILD)は一般的に予後が良好である。 急性間質性肺炎(AIP/DAD)は,効果が実証された治療法がなく,死亡率が50%以上と高く,多くは発症から1~2か月で死亡するが,その40%くらいは生存しうるとの研究報告もある。 なお,近藤有好の平成6年(1994年)の報告(乙H55)では,特発性間質性肺炎を,①急性型(急性間質性肺炎及び間質性肺炎の急性型),②肺線維症及び間質性肺炎の慢性型の急性増悪,③慢性型(肺線維症及び間質性肺炎の慢性型)の3つに分けて,ステロイド療法への反応性を検討した。これによれば,①急性型では,ステロイド療法の一般的な有効率が50~60%とみられ,無効例と有効例又は著効例がみられること,その原因として重症度や治療開始時期の差ではなく,原因不明ではあるが急性型自体にはいろいろな疾患が含まれていることが示唆されること,②急性増悪ではステロイド療法の効果は全く不良であり,肺線維症の 自然経過と急性増悪との関連や,その本態,原因など,急性増悪には解決すべき点が多いこと,③慢性型では,ステロイド療法の有無による生存曲線の差がみられず,自覚所見・他覚所見を伴う改善は10~30%にすぎないことが指摘されていた。 エ小括イレッサが承認された平成14年7月当時,特発性間質性肺炎の予後及び治療反応性は,基本的に病理組織型のパターンに関連すると考えられており,我が国の最先端の研究では,特発性間質性肺炎に関して,ATS/ERS分類と同様の病型分類が検討される状況にあった 肺炎の予後及び治療反応性は,基本的に病理組織型のパターンに関連すると考えられており,我が国の最先端の研究では,特発性間質性肺炎に関して,ATS/ERS分類と同様の病型分類が検討される状況にあった。 特発性間質性肺炎に対しては,ステロイド療法を中心とした対症療法が行われ,急性型の間質性肺炎には,ステロイド薬を一度に大量に投与するステロイドパルス療法が行われていた。 特発性間質性肺炎の中でも,慢性型の特発性肺線維症(IPF)では治療の効果が十分ではないことが多く,予後が悪いことが一般的に知られており,急性間質性肺炎(AIP/DAD)では,実際に死亡率が50%以上と高く,急性間質性肺炎は急激に発症し予後が不良であるとみられていた。 オ被告らの主張等について被告らは,平成14年7月当時,少数の第一線の呼吸器専門研究者の間ではATS/ERS分類が認識されていたが,それ以前の臨床や研究において,この分類を前提とした分析研究が可能な状況は整っていなかった,特発性間質性肺炎の中でも急性間質性肺炎の予後の評価が分かれていたなど主張する。 しかし,前記アのとおり,平成14年7月当時における病型分類は,現在の病型分類ほどには整っていなかったものの,特発性肺線維症や急性間質性肺炎等の概念は現在と異ならず,これらの予後などを議論する上では問題がなかったというべきである。 また,急性間質性肺炎の死亡率が50%と非常に高いことが指摘されていたというのである。 そうすると,イレッサ承認当時,急性間質性肺炎の予後が悪いという見方が有力であったというべきであるから,被告らの上記主張は採用できない。 (3) イレッサ承認当時における薬剤性間質性肺炎に関する知見ア薬剤性間質性肺炎の病型分類の議論(ア) 平成14年7月前後における文献や うべきであるから,被告らの上記主張は採用できない。 (3) イレッサ承認当時における薬剤性間質性肺炎に関する知見ア薬剤性間質性肺炎の病型分類の議論(ア) 平成14年7月前後における文献や研究報告等a 近藤有好「薬剤による肺障害」(KekkakuVol.74 No.1:平成11年1月,乙H34[枝番号3])(後記イ(ア)の近藤第3報告)「薬剤肺炎の病理組織学的所見はこれまでにもいろいろな表現で記載されてきたが,これをまとめてみると」とした上で,1)非心原性肺浮腫,2)急性びまん性間質性肺炎/びまん性肺胞傷害,3)閉塞性細気管支炎を伴う器質化肺炎,4)好酸球性肺炎,5)慢性びまん性間質性肺炎・肺線維症,6)肉芽腫形成(過敏性肺炎,その他)の6つに分類されるとする。 b 原澤道美監修,北村諭編「別冊・医学のあゆみ呼吸器疾患-stateofarts(ver.3)」(平成11年3月,丙H46)薬剤性肺炎の病型は,①びまん性肺胞障害,②間質性肺炎・肺線維症,③好酸球性肺炎・器質化肺炎(BOOP),④肺胞出血の4つに分類されるとする。 c 工藤翔二「薬剤誘起性肺炎」(「今日の治療指針2002年度版(Volume44)」:平成14年1月,丙H23)薬剤性肺障害の臨床病理像は,急性又は慢性間質性肺炎,閉塞性細気管支炎・器質化肺炎(BOOP),非特異的間質性肺炎(NSIP),好酸球性肺炎,過敏性肺炎などであり,治療への反応性や予後 に影響するとする。 d 工藤翔二ら「抗がん剤による肺傷害と特発性間質性肺炎の急性増悪」(1998年度びまん性肺疾患調査研究:平成10年,甲H40)要約には「AIPパターンは5例に認められ,急激な経過をとり短期間に呼吸不全に陥った。ステロイド薬に対する反応性は不良で全例呼吸不 」(1998年度びまん性肺疾患調査研究:平成10年,甲H40)要約には「AIPパターンは5例に認められ,急激な経過をとり短期間に呼吸不全に陥った。ステロイド薬に対する反応性は不良で全例呼吸不全により死亡した」,「抗がん剤による肺傷害は急性経過が主体であり,IIP合併は致死的な肺傷害を発症する危険因子と推測された」とし,結果部分では「臨床経過は急激で発症後約1週間で呼吸不全に陥った。ステロイド薬に対する反応は不良で2例では一時的な改善が認められたが,最終的に全例呼吸不全により死亡した。この中には,3例のIPあるいはIIP合併例が含まれていた」,考察部分では「肺癌治療における抗がん剤による肺傷害は,その主体が急性に変化する可能性が示唆される」,「従来より,抗がん剤,放射線療法によりIIPが急性増悪することが報告されている」,「今後,AIPパターンの病像をとりうる抗がん剤の使用にあたっては十分留意する」などとする。 e 横山彰仁「薬剤性肺炎」(「間質性肺炎-びまん性肺疾患」:平成14年10月,甲H32)薬剤性肺炎の分類として,①間質性肺炎,②気管支攣縮・喘息,③肺水腫,④肺胞出血,⑤胸膜炎,⑥縦隔リンパ節腫大,⑦呼吸筋・神経障害,⑧肺血管障害の8つに分類され,そのうち間質性肺炎は慢性間質性肺炎(CIP;NSIP),好酸球性肺炎(EP),閉塞性細気管支炎(BOOP),びまん性肺胞傷害,過敏性肺炎の5つに分類されるとする。 また,薬剤性間質性肺炎の治療及び予後について,「間質性肺炎の 分類のBOOP,HP,EPの場合,薬剤中止のみあるいはステロイド薬に反応することが多いが,CIP,DADの場合,肺障害は慢性進行性であり,線維化をきたした死亡につながることもまれではない。」,予防と対策について,「CIP,DADパター 止のみあるいはステロイド薬に反応することが多いが,CIP,DADの場合,肺障害は慢性進行性であり,線維化をきたした死亡につながることもまれではない。」,予防と対策について,「CIP,DADパターンを起こしやすい抗癌剤に関しては特に注意が必要で,肺傷害発症の危険因子について認識する必要がある。」とする。 f 吉村明修「抗癌剤の作用としての間質性肺炎(MedicoVol.34No.7」:平成15年7月,丙H15)薬剤による間質性肺炎の病理所見は,①慢性間質性肺炎,②好酸球性肺炎,③閉塞性細気管支炎・器質化肺炎,④びまん性肺胞傷害,⑤過敏性肺炎の5つに分類されるとする。 g 薬剤性肺障害ガイドライン(日本呼吸器学会,平成18年,丙H46)薬剤性肺障害の組織パターンを次のとおり分類する。 肺胞及び間質領域の病変における組織パターンには,間質性肺炎(①びまん性肺胞障害(DAD),②器質化肺炎(OP),③通常型間質性肺炎(UIP),④非特異性間質性肺炎(NSIP),リンパ球性間質性肺炎(LIP),剥離性間質性肺炎(DIP),好酸球性間質性肺炎(EP),過敏性肺炎(HP),肉芽腫性間質性肺炎)とその他(肺水腫,肺胞たんぱく症,肺胞出血)がある。 気道の病変における組織パターンには,気管支ぜんそく,閉塞性細気管支炎が,血管の病変における組織パターンには,血管炎,肺高血圧症,肺静脈閉塞症が,胸膜の病変における組織パターンには胸膜炎がある。 (イ) イレッサ承認当時の薬剤性間質性肺炎の病型分類前記(2)ア(ア)のとおり,我が国における薬剤性間質性肺炎の研究は困 難な状況にあった。 前記(3)ア(ア)のとおり,平成14年7月当時についてみても,薬剤性間質性肺炎の病型分類に関する議論は,過敏性肺炎など薬剤性間質性肺炎独 性間質性肺炎の研究は困 難な状況にあった。 前記(3)ア(ア)のとおり,平成14年7月当時についてみても,薬剤性間質性肺炎の病型分類に関する議論は,過敏性肺炎など薬剤性間質性肺炎独自の病型を指摘する見解はあったが,薬剤性間質性肺炎に関する病型分類の進展がうかがえる研究報告は見当たらず(薬剤性間質性肺炎に関する主要な研究報告は,後記イの限度であった。),特発性間質性肺炎の病型分類が援用される程度のものであり,特発性間質性肺炎の病型分類と薬剤性間質性肺炎の関係を実証的に研究がされたものは見当たらないのであるから,各病理組織型ごとの予後を適切に予測できる程度の病型分類として確立されていたとまではいい難い状況であったと認めるのが相当である。 イ薬剤性間質性肺炎の発生機序,発症頻度と予後に関する研究等(ア) 近藤有好による臨床疫学的研究【乙H34[枝番号1~3]】間質性肺炎や肺線維症を中心に研究を行うびまん性肺疾患の専門的研究者である近藤有好は,薬剤に起因する肺障害について,昭和55年(1980 年),平成3年(1991 年)及び平成11 年(1999 年)に既存の症例報告を取りまとめた研究報告(近藤第1報告ないし近藤第3報告)を行った。 このうち,イレッサ承認時点に最も近い平成11年(1999年)の近藤第3報告は,以下のとおり,原因薬剤や発生機序,薬剤性間質性肺炎の予後,臨床所見(画像所見),病理組織学的分類等を報告した。 ・昭和56年(1981年)から平成10年(1998年)までの約18年間に報告された薬剤性間質性肺炎は,薬剤全体で556件(218件+338件),そのうち抗がん剤によるものは106件(66件+40件)であった。 ・「薬剤肺炎の出現頻度は多くの薬剤では1%以下であるが,中には1 0% ,薬剤全体で556件(218件+338件),そのうち抗がん剤によるものは106件(66件+40件)であった。 ・「薬剤肺炎の出現頻度は多くの薬剤では1%以下であるが,中には1 0%以上の出現頻度を示す薬剤もある」として,発症頻度が薬剤ごとに異なるとする。 ・薬剤肺炎の臨床像は,「起因薬剤が多いため個々の薬剤について述べることは出来ないが,薬剤によって若干の特徴がみられる」,「薬剤に対する肺の反応は薬剤によって微妙に異なり,その差は薬剤肺炎発症機序の差,ひいては組織像や治療効果の差として表れる可能性が考えられた」とする。 ・過去の報告における病理学的所見と起因薬剤を対照すると,「同一薬剤でも異なる病理像を示す場合があり,薬剤に対する反応は個体によっていろいろであることがうかがえた。このような病理像の他に,薬剤肺炎特に抗癌剤や免疫抑制剤による肺炎ではⅡ型肺胞上皮細胞の腫大増生,異型化などがみられ」たとする。 ・薬剤肺炎の予後は,「薬剤性間質性肺炎の治療には主としてステロイド剤が使用されるが,その予後は起因薬剤の種類によって異なる」とし,抗がん剤のペプロマイシン,ブスルファン,シクロフォスファミドの3剤が高死亡率を示し,予後不良であったとする。 なお,平成3年の近藤第2報告は,昭和55年から平成元年までの間に我が国で報告された185症例を分析し,薬剤肺炎の分類には一定の決まりはなく,惹起される臨床像や病理像には一定の分類はみあたらない。しかし,個々の報告例をみると,抗がん剤・免疫抑制剤の大部分は慢性びまん性間質性肺炎・肺線維症の型をとるが,ブレオマイシンの一部とメソトレキセート,プロカルバジンなどは過敏性肺炎や好酸球性肺炎の病態を示すものもあるとし,で平成元年(1989年)までの薬剤性間質性肺炎の報告があった抗がん 症の型をとるが,ブレオマイシンの一部とメソトレキセート,プロカルバジンなどは過敏性肺炎や好酸球性肺炎の病態を示すものもあるとし,で平成元年(1989年)までの薬剤性間質性肺炎の報告があった抗がん剤及び免疫抑制剤は合計25種類であるとした。 昭和55年の近藤第1報告では,昭和55年(1980 年)までに我が国 で報告された306症例を分析し,同一薬剤であってもいろいろの作用機序が同時に関与し,正確に作用機序を判断することはできないとされていた。 以上の近藤第1報告ないし第3報告は,いずれも近藤がレントゲン画像等の一次資料を直接見て分析したものではなく(証人工藤主尋問〔21頁〕),集積した症例報告といった二次資料を分析したものであった。 (イ) 中川和子らによる平成10年(1998年)の報告【乙H34[枝番号4]】薬物治療学等を専門とし,過敏性肺炎や薬剤性肺炎等の肺疾患に関する多数の研究業績を有する中川和子は,平成10年(1998年)の「薬物による間質性肺炎」に関する報告(中川報告)において,近藤第1報告及び第2報告を踏まえ,厚生省医薬品副作用モニター報告の概要及び医学雑誌の症例報告から,薬剤性肺疾患と原因薬剤の変遷について検討するとともに,更なる全国調査をした結果をまとめた。 中川報告は,昭和59年(1984年)以降に薬剤性間質性肺炎の報告のあった抗がん剤は21種類あったとし,薬剤性間質性肺炎の発症機序による分類を再評価する必要があり,その発症機構が解明され,診断,治療方法が進歩することを期待されるとしつつ,局所の炎症や肝障害,免疫状態の変化が本疾患の発症に促進的に働いている可能性が充分考えられること,全治,軽快例が9割を占め,治療の主体はステロイド療法であり,ステロイド療法群で完治例の割合が高い傾向がみら 症や肝障害,免疫状態の変化が本疾患の発症に促進的に働いている可能性が充分考えられること,全治,軽快例が9割を占め,治療の主体はステロイド療法であり,ステロイド療法群で完治例の割合が高い傾向がみられ,早期のステロイド治療の有効性が示唆されたこと,薬剤が直接死因に関係したものが9例あり,死亡率は4.7%と推計されたこと,この9例中2例は,抗がん剤の胸腔内投与による肺線維症の急速な進行例であり,投与経路に伴う肺障害の危険性についても検討する必要があるとした。 (ウ) 工藤翔二による平成10年(1998 年)第38回日本呼吸器学会総会での報告【甲H5,6,乙E17】工藤翔二は,平成10年(1998 年)に上記学会において,ビノレルビン,ゲムシタビン及びイリノテカンの3剤の抗がん剤による薬剤性肺障害の特徴を報告した(工藤報告)。 その内容は,抗がん剤による肺障害の病型は3型(①慢性進行型(CIP),②急性型(AIP),③好酸球性肺炎型(BP))に分類されること,急性型(AIP・急性間質性肺炎)はステロイドに対する反応が不良であり,治療関連死はすべて急性型であったこと,間質性肺炎合併例では,致死的な急性間質性肺炎を発症する危険性が高く,その投与は慎重に行われるべきであることなどであった。 ただし,症例数が合計14例と少なく,3剤の抗がん剤に関するものをまとめたにすぎないものであったことから,他の専門家の査読(レビュー)を要する原著論文にはならなかった。 工藤翔二は,その後の文献(工藤翔二(「日本人にとっての薬剤性肺障害」:平成18年11月,甲H5))において,薬剤性肺障害の研究における今後の課題として,①近年の我が国における致死的薬剤性肺障害の増加の原因の究明と予後因子の特定,②治験の段階では,個々の薬剤の肺障害の発症 8年11月,甲H5))において,薬剤性肺障害の研究における今後の課題として,①近年の我が国における致死的薬剤性肺障害の増加の原因の究明と予後因子の特定,②治験の段階では,個々の薬剤の肺障害の発症頻度やその性質を見極めることは難しく,抗がん剤の治験における対象例は少ないため,発症率が低い肺障害の市販後における状況を推測することは困難であることへの対応であると指摘する。 (エ) 近藤有好らによるブレオマイシンによる肺障害の臨床的研究【甲H34】近藤は,新潟大学医学部,歯学部,脳研,長岡赤十字病院,水原郷病院及び西新潟病院において昭和46年12月末日までにブレオマイシンを使用した282例のケース研究を昭和47年に報告した。 同研究は,全肺野びまん性に出現して増悪するもの及び肺感染症合併例に死亡例が多く見られたとし,全肺野びまん性に出現するものは概して急速に悪化して呼吸困難に,あるいは心不全に至るので充分注意する必要があるとした。 (オ) その他の文献要旨以下のような文献等が存在する。 a 吉田清一監修「がんの化学療法の副作用対策・改訂版」(平成8年11月20日,丙H11)肺毒性をきたしやすい抗がん剤としては,マイトマイシンC(MMC),BCNU,Ara-C,MTX,そしてブレオマイシン(BLM)などがある。なかでもBLMはこの肺毒性がDLF(裁判所注;用量規制因子:doselimitingfactor)となっている。発生機序は解明されていないが,フリーラジカルやスーパーオキシドが関連しているといわれている。間質性肺炎から肺線維症へ移行すると考えられており予後不良である。対策としては薬剤投与の中止とステロイドの投与が一般的である。同じような障害を頻度の差はあるもののすべての抗がん剤で起こしうると考えら 質性肺炎から肺線維症へ移行すると考えられており予後不良である。対策としては薬剤投与の中止とステロイドの投与が一般的である。同じような障害を頻度の差はあるもののすべての抗がん剤で起こしうると考えられる。治療としては明確なものはなく,ステロイドの投与といった対症療法が主体となる。 b 高橋亨ほか「薬剤性間質性肺炎」(診断と治療Vol.85-No.5:平成9年5月,丙H25)・一般に抗癌剤や免疫抑制剤の多くは細胞傷害性作用を持つため,薬剤総投与量と間質性肺炎の発症との間には用量依存性があり,予後も不良である場合が多い。 ・薬剤投与中に限らず,特に抗癌剤や免疫抑制剤の投与を行った場合は投与中止後も,呼吸困難や乾性咳嗽,進行性の労作時呼吸困難など認められた場合,薬剤による肺障害を念頭に置くことが重要であ る。 ・薬剤性肺障害の場合は,気管支喘息と違い,時には致死的な肺障害を誘発する可能性がある。 ・抗癌剤や免疫抑制剤による直接的な細胞障害を来した場合は,投与中止後も徐々に病変が進行していく可能性があり,半数以上はステロイド薬が無効であるため,予後が不良である。 ・本疾患を疑ったら,直ちに可能な検査を行うとともに,すぐに薬剤の投与を中止することが必要である。そして,細胞毒性による重症例を除けば,早期に診断・治療を行えば,多くは問題がなく,少なくとも死亡例は出ないと考えたい。 c 矢野三郎監修「ステロイド薬の選び方と使い方」(平成11年9月20日,丙H33)・抗悪性腫瘍薬によるものの予後は不良で,50%以上の死亡率が報告されているが,それ以外は中止により改善し,重症例でもステロイド薬が奏功することが多い。ただし,抗悪性腫瘍薬によるものでもメトトレキサートによるものはアレルギー機序の肉芽腫病変とされ,死亡率も10~1 ているが,それ以外は中止により改善し,重症例でもステロイド薬が奏功することが多い。ただし,抗悪性腫瘍薬によるものでもメトトレキサートによるものはアレルギー機序の肉芽腫病変とされ,死亡率も10~16%と低い。 d 駒瀬裕子ほか「薬剤性肺炎」(内科治療のグローバルスタンダード臨床医vol.26増刊号:平成12年5月31日,丙H24)・(裁判所注;予後は)肺病変の病型によって異なる。好酸球性肺炎やBOOPでは良好であるが,肺の線維化が進んだ慢性型間質性肺炎では不良である。薬剤の種類では,抗生剤,金製剤,methotrexate などでは改善例が多いがbusulfan,cyclophospamideなどではステロイドに反応せず死亡例が多い。薬剤性肺炎を疑って治療しなければ予後が悪いので,まず疑うことが重要である。 e 「薬剤誘発性肺疾患」(泉孝英編集「標準呼吸器病学」:平成12 年7月5日,丙H36)ブレオマイシン(BLM:bleomycin),マイトマイシンC(MMC:mitomycin-c)などの細胞毒性薬による間質性肺炎は,5~15%の頻度と報告されている。予後は良好で,薬剤の中止のみ,あるいはステロイド薬投与で改善する例が多い。しかし,ブスルファン(BUS:busulfan ),シクロフォスファミド(CPA:cyclophosphamide)などのアルキル化薬による間質性肺炎の頻度は数%と低いが,死亡率は50%以上と治療に反応しない予後不良例が多い。 f 三尾直士「薬剤性肺炎」(井村裕夫編集主幹「わかりやすい内科学」:平成14年1月24日,丙H27)・間質性肺炎は,薬剤性肺炎のなかでも最も多い。また致命的な肺線維症へと進行することがあるため,早期に発見し,治療する必要がある。症状,画像,検査所見は特発性 」:平成14年1月24日,丙H27)・間質性肺炎は,薬剤性肺炎のなかでも最も多い。また致命的な肺線維症へと進行することがあるため,早期に発見し,治療する必要がある。症状,画像,検査所見は特発性間質性肺炎と同様である。この型の薬剤性間質性肺炎は薬剤による細胞毒性・組織障害の結果起きるものが多く,抗癌剤によるものが主である。 ・症状が出現したら直ちに薬剤を中止し,ステロイド剤の投与などを行うが,代表的薬剤であるブスルファンではステロイドに対する反応は低く,死亡率は80%といわれている。ブレオマイシンではステロイドに対する反応は一定せず,非可逆的な肺線維症から死に至ることもある。 ・薬剤性肺炎が疑われた場合には直ちに疑いがもたれた薬剤をすべて中止する。過敏性反応が関与する例では,ほとんどの場合薬剤中止によって改善が認められる。ステロイド薬に対する反応が認められ,症状が重篤である場合には投与することもある。抗腫瘍薬などによる亜急性・慢性型の間質性肺炎では,薬剤中止によっても病状 の進行を止められない場合も多く,死に至ることもある。ステロイド薬の投与を試みるが効果は一定しない。 g 細見幸生ほか「抗癌剤の副作用対策対策」(呼吸器科1巻4号:平成14年4月,甲H35)抗がん剤による肺毒性は,一度発症すると治療が中断され,時に死に至ることもあり,ゲムシタビン,イリノテカンなど多くの新薬にも肺毒性の報告がある。 ほとんどの抗がん剤が,急性・亜急性の肺障害を呈する可能性があり,ブスルファン,シクロホスファミド,メルファラン,ブレオマイシン,マイトマイシンCなどは慢性の経過も示す抗がん剤として知られている。 薬剤の投与中止によっても改善しない場合には,ステロイド薬が投与される。急性型のうち,病理学的にびまん性肺胞障害(DA イシン,マイトマイシンCなどは慢性の経過も示す抗がん剤として知られている。 薬剤の投与中止によっても改善しない場合には,ステロイド薬が投与される。急性型のうち,病理学的にびまん性肺胞障害(DAD)を示すものはステロイド薬に対する反応が悪く,予後は不良とされている。また慢性型では,原因薬剤を中止しても線維化が進行し呼吸困難に至ることも稀ではなく,やはりその予後は不良とされている。 h 前田均「肺癌化学療法副作用対策」(坪田紀明ほか編「呼吸器腫瘍学ハンドブック」:平成14年4月20日,丙H32)間質性肺炎を認めたなら,薬剤の中止が対応の第一段階である。中止により病勢の進行を抑えられることもあるが,中止にもかかわらず進行することも多い。ステロイド剤の使用に関しても,効果に対するevidence に乏しく,また一定の投与方法がないのが現状である。 抗癌剤による肺の障害は頻度が高いとはいえないが,ひとたび発生すると致命的になることも多く,抗癌剤使用時のみでなく,その後も引き続いて注意深く経過観察する必要がある。 i 吉田公秀「抗癌剤の副作用と対策」(「日本臨牀60巻増刊号5 肺癌の診断と治療-最近の研究動向-」平成14年5月,丙H35)肺癌化学療法に用いられる抗癌剤として肺毒性を呈する可能性のあるものは,ブレオマイシン,マイトマイシンC,シクロホスファミド,ビンクリスチン,新規抗癌剤としてイリノテカン,パクリタキセル,ゲムシタビンなどがあげられる。多くは間質性肺炎の型をとり,致命的となり得る。 (カ) 薬剤性肺障害ガイドライン(日本呼吸器学会,平成18年)【丙H46】① ガイドラインの作成にあたっては,論文の内容のエビデンス(科学的根拠)レベルを記載するのが一般的である。すなわち,レベル1:大規模な無作為臨 イン(日本呼吸器学会,平成18年)【丙H46】① ガイドラインの作成にあたっては,論文の内容のエビデンス(科学的根拠)レベルを記載するのが一般的である。すなわち,レベル1:大規模な無作為臨床試験に基づくもの,レベル2:小規模な無作為臨床試験に基づくもの,レベル3:無作為化されていないプロスペクティブな比較臨床試験,レベル4:無作為化されていない,過去の患者を対象とした比較臨床試験,レベル5:その他(症例集積,コントロールのない臨床報告,総説,ガイドラインなど)である。 しかし,薬剤性肺障害に関する臨床論文の大部分は,扱う対象の性質上,無作為試験を組むこと自体が不可能であり,レベル4及びレベル5の内容がほとんどである。したがって,薬剤性肺障害ガイドラインではあえて論文のレベルに言及しない方針とした。 ② 薬剤性肺障害は,様々な病理組織像を呈する。また,その病態や臨床像も多彩である。(2頁左側7,8行目)③ 薬剤性肺障害とは薬剤服用との関連が疑われる多様な肺病態を指す。肺はガス交換の場として毛細血管内皮細胞・肺胞上皮細胞が相接する直接的機能領域以外に,臓器形成上,気管支と肺胞の接続部となる細気管支領域や,低圧である肺循環特性,感染防御として顆粒球系細胞群の関与など多様な要素を含み,その正常機能や障害機構は必ず しも十分に理解されているわけではない。しかし肺障害にも,臨床的に重篤な病態から,薬剤中止又はステロイド薬使用により回復する病態まで幅広く存在する。また,ある薬剤系統によりしばしば見られる肺障害パターンもある。(4頁左側1行目ないし右側3行目)④ 薬剤性肺障害は,明瞭な薬剤使用との因果関係を示唆する例を除いては,個々の症例での診断は困難な場合が多い。同一薬剤使用者に一定の頻度で発症した場合,初めて一般に 頁左側1行目ないし右側3行目)④ 薬剤性肺障害は,明瞭な薬剤使用との因果関係を示唆する例を除いては,個々の症例での診断は困難な場合が多い。同一薬剤使用者に一定の頻度で発症した場合,初めて一般に認識されることになる。たとえば発生頻度が1%とすると,全国的に十分モニターしても,個々の病院からの報告集積が数十人程度になって(すなわち数千人が薬剤を服用した段階で)初めて異常病態と認識されると考えられる。(4頁右側下から12行目から5行目)⑤ 薬剤性肺障害発生の機序は少数の薬剤を除いてはほとんど不詳である。発症機序は,多様な背景因子で修飾される。遺伝性素因,個体の年齢的背景,肺における先行病態,併用薬剤との相乗作用などが挙げられる。しかし,いずれも推測の域を出るものではない。(5頁左側下から3,2行目,右側下から1行目,6頁左側1行目ないし5行目)⑥ 同一薬剤が個体が違ってもいつも同一病態を生ずるわけではない。 しかし,報告例を集積すると,ある薬剤においてほぼ同じパターンの病理像が見られるので,鑑別や治療対応上に参考にすることが必要である。(10頁左側20ないし23行目)⑦薬剤投与から肺障害発生までの時間に関しても,hydrochlorothiazide による肺水腫のように投与後数分以内に発症するものから,amiodarone の間質性肺炎のように投与から数年を経て発症するものまで,時間的経過は多様である。一般的には,投与後2~3週間から,2~3か月で発症するものが多い。(10頁左側下か ら3行目ないし右側3行目)⑧ 薬剤性肺障害は,薬剤の中止のみ,又は副腎皮質ステロイド薬の投与により病態が改善することが多いと考えられる。しかし,一方で薬剤を中止しても病態が進行する例もみられ,診断には注意が必要である。肺 ⑧ 薬剤性肺障害は,薬剤の中止のみ,又は副腎皮質ステロイド薬の投与により病態が改善することが多いと考えられる。しかし,一方で薬剤を中止しても病態が進行する例もみられ,診断には注意が必要である。肺障害の発生機序との関連では,直接細胞障害又は細胞毒性の場合は,不可逆性障害になりやすく,過敏性反応などに起因する肺障害は,薬剤の中止や副腎皮質ステロイド薬により改善することが多いと考えられる。一方,病変の種類によっても反応は異なり,好酸球性肺炎(EP),器質化肺炎(OP)であれば可逆性が高く,びまん性肺胞障害(DAD)や閉塞性細気管支炎(BO)であれば可逆性が低い。また同じ間質性肺炎であっても,病変が初期や軽度であれば可逆性があるが,重症例で線維化を伴っていれば可逆性に欠けるといったように重症度や進行度に左右される。(10頁右側14ないし26行目)⑨ 薬剤性肺障害の病理組織像は,特異的なものではなく,また個々の薬剤に対応してある病像を来すわけではないが,薬剤によってはある程度の特徴ある病像を示す。(49頁右側6ないし8行目)ウ抗がん剤による薬剤性間質性肺炎の発症頻度・発症傾向・予後前記イの各研究報告及び文献等は,いずれも抗がん剤全体について普遍的な検討をしたものではなく,臨床像や予後などでは薬剤ごとに異なるとし,個別の薬剤ごとの検討を行い,薬剤性間質性肺炎の発症頻度や予後は個別の薬剤ごとに症例を集積するほかないということを前提としていると解される。また,一部の抗がん剤に関する研究報告にすぎず,発症報告がある場合も,その報告の頻度は,ブレオマイシン(前記イ(エ))などの特定の薬剤を除き,低いものであった。 そうすると,平成14年7月当時においては,薬剤の作用機序や薬効は 薬剤ごとに異なり,間質性肺炎の病態は原因に対し オマイシン(前記イ(エ))などの特定の薬剤を除き,低いものであった。 そうすると,平成14年7月当時においては,薬剤の作用機序や薬効は 薬剤ごとに異なり,間質性肺炎の病態は原因に対して非特異的で,異なる病態をもたらす機序が不明であり,特定の薬剤が異なる病態の間質性肺炎を発症することがあり得,また,間質性肺炎を発症させない場合もあり,発症,進展や病態の予測を可能とする程度の知見は得られていなかったと認めるのが相当である。 原告らは,前記イ(ウ)の工藤報告が,抗がん剤による薬剤性肺障害の特徴として,3分類した上で,急性型はステロイド療法に対する反応が悪く予後不良であることを指摘するものであることを根拠に,抗がん剤一般に発症する間質性肺炎の特徴として予後不良の急性間質性肺炎が知られていたなど主張する。 しかし,工藤報告は,抗がん剤3剤に関する14例という症例数が少なく,データの裏付けの低い報告であり,また,平成14年7月当時における薬剤間質性肺炎に関する研究が困難な状況(薬剤による肺障害の症例自体が少ないだけでなく,同一施設で多数の症例を経験できないこと,薬剤を使用する領域と有害事象の領域が異なることなど。前記(2)ア(ア))であったことを考慮すれば,その当時,抗がん剤一般について,急性型の薬剤性肺障害が生じ,その予後が不良であるとされていたと認めるには足りない。したがって,原告らの上記主張は採用できない。 エ薬剤性間質性肺炎の治療方法と予後等前記ア(ア)及びイの事実(研究報告等),前記ウの認定・判断並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実によれば,薬剤性間質性肺炎の予後及び治療方法に関する知見は次のとおりである。 (ア) 薬剤性間質性肺炎の予後【乙E17,乙H15,24,27,丙H23】薬剤性間質 の全趣旨により認められる事実によれば,薬剤性間質性肺炎の予後及び治療方法に関する知見は次のとおりである。 (ア) 薬剤性間質性肺炎の予後【乙E17,乙H15,24,27,丙H23】薬剤性間質性肺炎の症状や経過は多彩で,薬剤に特異なものはない。 急性に発症すると,発熱・咳嗽・呼吸困難及びチアノーゼなどを呈する ことが多く,慢性的に発症すると,乾性咳・労作時呼吸困難を主訴とする場合もある(症状は前記(1)イと同様である。)。 その症状や経過は,平成14年7月当時においても病理組織型に影響を受けると考えられていた(前記(2)ア参照)が,薬剤性間質性肺炎に固有の病型分類はなく,特発性間質性肺炎の病型分類を援用する状況であった(前記ア)。また,薬剤性間質性肺炎の症状や経過は,薬剤の投与量や併用薬剤,患者固有の条件にも左右されると考えられていた。 (イ) 薬剤性肺障害の鑑別診断【甲H35,乙H28,丙E7,47,丙H15,23~31,46,証人工藤主尋問〔61~63頁〕】抗がん剤を投与した場合に薬剤性肺障害を鑑別診断するためには,各抗がん剤の投与歴,臨床症状,検査所見,画像所見及び病理所見等を総合的に考慮して診断する必要がある。 臨床所見では,乾性咳嗽,呼吸困難,発熱などが主たる症状である。 画像所見では,基本的には間質性陰影が主体となり,胸部X腺においては,すりガラス陰影,ときに肺胞性陰影を呈する。胸部CT画像は胸部X腺よりも検出力に優れ,より詳細な画像解析が可能である。病理所見等を得るために,経気管支肺生検を行うこともある。 もっとも,薬剤性肺障害は,臨床像はもとより病理所見でさえ非特異的かつ多彩であり,そのような症例の中から薬剤性肺障害と類似所見を呈する疾患(薬剤性肺障害と同様の臨床所見・画像所見を呈する疾患とし もっとも,薬剤性肺障害は,臨床像はもとより病理所見でさえ非特異的かつ多彩であり,そのような症例の中から薬剤性肺障害と類似所見を呈する疾患(薬剤性肺障害と同様の臨床所見・画像所見を呈する疾患としては,ニューモシスティス肺炎,サイトメガロウィルス肺炎,がん性リンパ管症,がん性胸膜炎,先行ないし併用する放射線治療の影響,他の抗がん剤の影響,肺水腫など)を除外しなければならないため,胸部X腺・胸部CT・経気管支肺生検・気管支肺胞洗浄を行った場合でも,鑑別診断することは必ずしも容易ではない。特定非営利活動法人西日本 胸部腫瘍臨床研究機構による「イレッサによる急性肺障害・間質性肺炎の調査研究」では,イレッサによる急性肺障害・間質性肺炎が発生した可能性が疑われる91例の患者のうち,画像診断専門医の診断によると,急性肺障害・間質性肺炎であることがほぼ確実と診断されたのは46例にすぎず,19例は急性肺障害・間質性肺炎ではないと診断されたと報告された(丙E7)。 また,複数の薬剤が投与されている場合は他疾患との鑑別は困難な場合が多い。 (ウ) 薬剤性肺障害の治療方法【甲H32,乙H24,32,丙H15,26~38,46】薬剤性肺障害が疑われた場合には,早期の原因薬剤の投与中止が最も重要である。 原因薬剤の投与を中止することにより肺病変が改善する例があるが,中止しても改善しない場合及び重症の場合にはステロイド薬を投与し,場合によってはステロイドパルス療法を行うことが重要であると考えられていた。 (エ) 薬剤性間質性肺炎の予後【甲H6,32,乙E17,乙H24,32,34[枝番号2~4],丙H24~27,29~38,46】薬剤性間質性肺炎の治療反応性及び予後については,以下のように考えられていた。 ・治療反応性は,原因 6,32,乙E17,乙H24,32,34[枝番号2~4],丙H24~27,29~38,46】薬剤性間質性肺炎の治療反応性及び予後については,以下のように考えられていた。 ・治療反応性は,原因薬剤によっても異なるが,薬剤性間質性肺炎の疾患全体としてはその9割が全快又は軽快し,一般的にはステロイド療法などの治療によって重篤化を回避できることが多いが,症例によっては致死的となるものもある。 ・抗がん剤や免疫抑制剤による直接的な細胞障害を来した場合は,これ らの薬剤の投与中止後も徐々に病変が進行する可能性があり,半数以上はステロイド薬が無効であるため,予後が不良である。 ・薬剤性間質性肺炎のうち慢性の肺線維症に至る場合には,ステロイド療法への反応が悪く,予後が不良である。 ・好酸球性肺炎の場合には,ステロイド療法への反応が良く,予後が良好であると考えられており,その他にアレルギー性又は免疫学的な機序で発症した症例(アレルギー反応症の過敏性肺炎や過敏性反応など)にもステロイド療法への反応が良いことが多い。 ・急性の肺胞傷害性の薬剤性間質性肺炎の場合(AIP)には,ステロイド療法への反応性が悪く予後不良であるとする見解と(甲H6,丙H31。ただし,後者(丙H31)の文献における「びまん性肺胞傷害」は急性のものか慢性のものか不明である。),反応性が良いとする見解(乙H34[枝番号2])や中間に位置付ける見解(乙H34[枝番号3])がある(ただし,反応性が良いとするものと中間に位置付けているものはいずれも近藤有好の研究報告であり,中間に位置付けているものの方が時期的に後に報告されたものである。)。 オ小括平成14年7月当時においては,薬剤の作用機序や薬効は薬剤ごとに異なり,間質性肺炎の発生機序は解明されておらず,ある薬 に位置付けているものの方が時期的に後に報告されたものである。)。 オ小括平成14年7月当時においては,薬剤の作用機序や薬効は薬剤ごとに異なり,間質性肺炎の発生機序は解明されておらず,ある薬剤が間質性肺炎を発症させるか否かは不明であり,また,同一の薬剤が異なる病態の間質性肺炎を発症させることがあり得るとされていた。 イレッサの承認された平成14年7月当時,薬剤性間質性肺炎に対しては,原因薬剤の投薬中止又はステロイド療法による治療を行うこととされており,薬剤性間質性肺炎の治療反応性は原因薬剤によっても異なりうるが全体としてはその9割が全快又は軽快すると考えられていた。 病型分類については,特発性間質性肺炎の病型分類が一応の目安として 援用される程度のものであり,特発性間質性肺炎の病型分類と薬剤性間質性肺炎の関係を実証的に研究したものは見当たらず,予後を適切に予測できる程度に確立されていたとまではいいがたい状況であった。 薬剤間質性肺炎の中でも急性間質性肺炎の場合(AIP)には,ステロイド療法への反応性が悪く予後不良であるとする見方が強かったと認められる。 (4) 間質性肺炎の重篤性(概括)間質性肺炎は,重症になると低酸素血症,チアノーゼなどを発症する。 主たる治療法は,平成14年7月当時,ステロイド療法であったが,あくまで経験的に行われていたものであった。 イレッサが承認された平成14年7月当時,特発性間質性肺炎の反応性及び予後は,基本的に病理組織型と関連すると考えられており,我が国でもATS/ERS分類と同様の病型分類が検討される状況にあり,慢性型の特発性肺線維症や急性間質性肺炎等の中心的な類型は周知のものであった。そして,特に,急性間質性肺炎(AIP/DAD)は,急激に発症し予後が不良であるという見 病型分類が検討される状況にあり,慢性型の特発性肺線維症や急性間質性肺炎等の中心的な類型は周知のものであった。そして,特に,急性間質性肺炎(AIP/DAD)は,急激に発症し予後が不良であるという見方が有力であった。 その当時の薬剤性間質性肺炎については,病型分類に関する実証的な研究は見当たらず,特発性間質性肺炎の病型分類を援用した病型分類が一応の目安であるとされており,その治療反応性は,原因薬剤や病型分類によっても異なるが,全体としては,その9割が全快又は軽快しており,一般的にはステロイド療法などの治療によって重篤化を回避できることが多いが,症例によっては致死的となるものもあると考えられていたが,急性間質性肺炎(AIP)は,ステロイド療法への反応性が悪く予後不良であるとする見方が強かった。 4 イレッサによる間質性肺炎発症可能性及び重篤性 (1) 原被告の主張の概略原告らは,①EGFRに関する研究報告などの結果を踏まえると,Ⅱ型肺胞上皮細胞の増殖及び分化にEGFRが関与し,イレッサの作用によりEGFRの機能が阻害されることにより,Ⅱ型肺胞上皮細胞の増殖及び分化が阻害されて,正常な細胞修復過程が阻害されることにより,間質性肺炎が発症しうるのであるから,イレッサの作用機序から間質性肺炎発症可能性が当然予測されたものであり,EGFR阻害(原告らは,EGFRチロシンキナーゼの阻害により,EGFRの機能が阻害される点を捉えてEGFR阻害と呼ぶ。)に必然的に付随する副作用である,②イレッサの非臨床試験の結果から肺毒性があることが判明していたのであるから,イレッサによる間質性肺炎発症の可能性を予測できたはずである,③治験成績において,治験担当医師により有害事象として報告されたものであっても,そのことのみで治験薬との因果関係 明していたのであるから,イレッサによる間質性肺炎発症の可能性を予測できたはずである,③治験成績において,治験担当医師により有害事象として報告されたものであっても,そのことのみで治験薬との因果関係を否定することはできず,あらためてすべての有害事象及び副作用情報等を総合して当該有害事象と薬剤との関連性を判断するべきであり,実際にも副作用とみるべき症例が有害事象として報告されていたのであるから,有害事象をすべて副作用情報として扱うべきである,④臨床試験における副作用報告及びEAPによる副作用報告によれば,重篤で致死的な間質性肺炎発症例があり,イレッサにより重篤かつ致死的な間質性肺炎の副作用が発症しうることが容易に予測可能であったなど主張する。濱六郎は,前記のとおり,医薬品の評価学の専門家として,原告らの主張と同様に,イレッサに関する動物実験,非臨床試験,治験及び副作用報告の結果に関する評価につき,その意見,証言を述べた。 被告らは,①イレッサにより細胞修復過程が阻害されて間質性肺炎が発症しうるというためには,前提として細胞の傷害があることが必要となるはずであるが,イレッサに細胞傷害作用があるというデータはない上,間質性肺炎発生機序には種々の見解が存在し,イレッサの作用機序から間質性肺炎発 症可能性を否定できないものの,逆に発症可能性があるともいいきれない状況であった,②イレッサの非臨床試験の結果に現れた各所見はいずれもイレッサに起因するものではないと判断されるものであった,③有害事象を副作用情報として扱うべきであるというのは非科学的な検討手法である,④治験成績からはイレッサの単剤・承認用量における間質性肺炎副作用報告例がなく,承認用量の倍量投与群で間質性肺炎副作用報告例が2例存在し,イレッサによる間質性肺炎発症の可能性を完 な検討手法である,④治験成績からはイレッサの単剤・承認用量における間質性肺炎副作用報告例がなく,承認用量の倍量投与群で間質性肺炎副作用報告例が2例存在し,イレッサによる間質性肺炎発症の可能性を完全に否定することはできないものと考えられたが,治験成績及び副作用報告などからは,副作用全体でみると,従来の抗がん剤の副作用と大差がないとみるべきであったなど主張する。工藤翔二は,びまん性肺疾患の病態と治療,肺がん化学療法,慢性呼吸不全の治療などを主な研究領域とし,間質性肺炎に関する臨床及び研究に携わってきた者として,また福岡正博,光冨徹哉,西條長宏及び坪井正博は,前記のとおり,肺がん治療や研究に携わってきた者として,本件訴訟において,被告らの主張と同様に,イレッサに関する動物実験,非臨床試験,臨床試験及び副作用報告の結果に関する評価につき,その意見,証言を述べた。 (2) イレッサの作用機序と薬剤性間質性肺炎発症可能性ア各専門家の意見の前提となる研究報告及び文献(ア) EGFRとⅡ型肺胞上皮細胞等に関する文献及び研究報告の要旨aEGFRとその役割に関する文献及び研究報告(a)DavidS.Salomonら「Epidermalgrowthfactor-relatedpeptidesandtheirreceptorsinhumanmalignancies 」(CriticalReviewsinOncology/Hematology19:平成6年7月15日,甲E4)EGFRは正常肺と肺がんの両方に発現している。EGFRは非小細胞肺がんにおいて過剰発現が見られ,中でも扁平上皮がんで過 剰発現の程度が大きかった。EGFRの過剰発現は,扁平上皮がんでのEGFR遺伝子の増幅と関連しているが,腺 る。EGFRは非小細胞肺がんにおいて過剰発現が見られ,中でも扁平上皮がんで過 剰発現の程度が大きかった。EGFRの過剰発現は,扁平上皮がんでのEGFR遺伝子の増幅と関連しているが,腺がんではそうではない。 (b) BohuslavDvorak ら「Epidermalgrowthfactorreducesthedevelopmentofnecrotizingenterocolitisinaneonatalratmodel 」(AmericanJournalofPhysiologyGastorointestinalandLiverPhysiology 282:平成13年5月14日,甲E6)壊死性腸炎を誘発させたラットを,EGF欠乏ミルクで飼育した群(EGF欠乏ミルク群),これにEGFを加えて飼育した群(EGF添加ミルク群),母乳で飼育した群の3群に分けて観察したところ,EGF欠乏ミルク群では出血が多く,腸管の異常が多かった。これに対し,EGF添加ミルク群では,壊死性腸炎の発現を50%程度抑え,EGF欠乏ミルク群がEGF添加ミルク群よりもEGFRの発現が多かった。 b Ⅱ型肺胞上皮細胞の増殖・分化抑制とEGFRとの関係に関する文献及び研究報告(a) 福田悠ほか「線維化のメカニズム」(平成14年6月,乙H36[枝番号1])断裂基底膜周囲の線維芽細胞は活性化され,本来接着していた細胞外基質からは遊離して,基底膜断裂部より肺胞腔内へ侵入し,増殖する。肺胞腔内に残存する再生性Ⅱ型肺胞上皮細胞と,腔内線維化巣は陣取りを行う。上皮傷害の程度が軽く,再生もよい場合には腔内線維化は形成されず,再生性Ⅱ型肺胞上皮細胞により被われ,正常細胞へ再構築されるが,腔内線維化が勝った部位では,線維 細胞と,腔内線維化巣は陣取りを行う。上皮傷害の程度が軽く,再生もよい場合には腔内線維化は形成されず,再生性Ⅱ型肺胞上皮細胞により被われ,正常細胞へ再構築されるが,腔内線維化が勝った部位では,線維芽細胞の筋線維芽細胞化とともに,盛んな細胞外基質の産生,沈着が起こる。わずかに残存したⅡ型肺胞上皮細胞の再生により不完全な 小肺胞構造が作られるが,周囲は完全な線維化に陥り,本来の肺胞構造は改変される。 (b) TianliPan ら「RatAlveolarType Ⅱ CellsInhibitLungFibroblastProliferationInVitro」(平成13年,甲H46)線維芽細胞は,試験管内実験でも,肺の発達段階でも,Ⅱ型肺胞上皮細胞の分化と増殖を促進する。しかし,成人のⅡ型肺胞上皮細胞が線維芽細胞にどのように影響するのかはほとんど知られていない。そこで,成人のヒトの肺線維芽細胞の増殖に対するⅡ型肺胞上皮細胞の影響を検討するため,同時培養システムを利用した。 同システムによれば,Ⅱ型肺胞上皮細胞は線維芽細胞の増殖を抑制するとの結論が得られた。 (c) JhonM ら「LungFibroblastsImproveDifferentiationofRatType Ⅱ CellsinPrimaryCulture 」(Am.J.Respir.CellMol.Biol. vol.24:平成13年,甲E88)肺の線維芽細胞は,サーファクタントたんぱく質とリン脂質を合成するⅡ型肺胞上皮細胞の能力に有意な影響を与え,線維芽細胞増殖因子がⅡ型肺胞上皮細胞の能力を調節していることが示されたとされている。 (d) CharlesG.Plopper ら「Accelerationof 細胞の能力に有意な影響を与え,線維芽細胞増殖因子がⅡ型肺胞上皮細胞の能力を調節していることが示されたとされている。 (d) CharlesG.Plopper ら「AccelerationofalveolartypeⅡ celldifferentiationinfetalrhesusmonkeylungbyadministrationofEGF」(平成4年3月,甲E54)(Plopper実験)アカゲザルの胎児にEGFを投与した時のⅡ型肺胞上皮細胞の変化を観察し,アカゲザル胎児における肺の成熟に対するEGFの影響を検討したところ,霊長類の妊娠後期にEGFを投与すると,Ⅱ型肺胞上皮細胞の細胞分化を加速させた。 本試験の難点は,EGFがⅡ型肺胞上皮細胞に直接作用するのか,Ⅱ型肺胞上皮細胞と線維芽細胞の相互作用を活性化させることにより作用するのかを明らかにできないことにあるが,本試験の結果を総合すると,Ⅱ型肺胞上皮細胞の成熟に対するEGFの作用は線維芽細胞の活性化を介する間接的な作用であることを示唆するものである。 もっとも,Ⅱ型肺胞上皮細胞の分化をEGFがどのような機序で変化させるにせよ,本試験結果からは,妊娠の最終トリメスター期(妊娠後期)の胎児にEGFを投与すると,Ⅱ型肺胞上皮細胞の細胞分化を加速させるだけでなく,SP-A(サーファクタント・たんぱく質A)の合成を活性化させることが明確である。 (e) L.Raaberg ら「Epidermalgrowthfactorintheratlung 」(平成2年12月,甲E55)ラットの胎児,新生児ラットや成体ラットの肺におけるEGFの存在について研究したものである。 ラットの肺に高分子量のEGFが存在し,EGF heratlung 」(平成2年12月,甲E55)ラットの胎児,新生児ラットや成体ラットの肺におけるEGFの存在について研究したものである。 ラットの肺に高分子量のEGFが存在し,EGF免疫反応性は,出生の2日前から,その後の生存中を通じて,Ⅱ型肺胞上皮内に存在している。 従前の研究から,EGFには肺の成熟に対する効果があることが示されており,EGFRが肺に存在することが実証されており,本研究結果と総合すれば,EGFが肺で生理的役割を果たしていることが示唆される。 (f) PaiviJ.Miettinen ら「Epitherialimmaturityandmultiorganfailureinmicelackingepidermalgrowthfactorreceptor 」(Naturevol.376:平成7年7月,甲E3,丙E69[枝番号3の1,3の2])(ミエチュネン論文) EGFRの製造に起因する遺伝子を不活性化することにより,成長の過程におけるEGFRの役割や生理学的なEGFRの役割を調べる実験の結果によれば,もともとEGFRを欠如したマウスは最長8日間しか生存できず,その間にマウスのいくつかの体組織(皮膚,肺や消化器官等)の皮膜細胞の成長が阻害されていたことが判明した。 本実験では,多くのEGFRを欠如したマウスにおいて呼吸困難が生じたのは,肺胞が広範囲にわたって破壊されていたことに原因があるとされている。また,EGFRを欠如したマウスの肺は,比較対照となる正常なマウスとは異なり,肺の胸膜の表面の側にあるつぶれた肺胞に填塞され,あるいは胸膜の側に膨張した終末気管支が存在し,つぶれた肺胞の中に肺胞の界面活性物質であるSP-C又はSP-A(サーファクタント・たんぱく質 異なり,肺の胸膜の表面の側にあるつぶれた肺胞に填塞され,あるいは胸膜の側に膨張した終末気管支が存在し,つぶれた肺胞の中に肺胞の界面活性物質であるSP-C又はSP-A(サーファクタント・たんぱく質C又はA)の着色がわずか認められたのみであるとされている。 c Ⅱ型肺胞上皮細胞の機能(肺胞腔内に浸潤した水分を吸収又は除去する機能)とEGFRに関する研究報告(a) JacobI.Szajder ら「Epidermalgrowthfactorincreaselungliquidclearanceinratlung」(平成10年,甲E56)EGFRは上皮細胞の増殖を活性化し,肺胞上皮細胞の単層でのNa+流量やNa+-K+-ATPase の機能を高めることが報告されている。Ⅱ型肺胞上皮細胞でのNa+-K+-ATPase レベルの上昇は,増殖性肺損傷型で能動的Na+イオンの輸送やラットの肺胞上皮を通じた肺水腫の除去の促進を伴うとされてきた。そこで,煙霧化したEGFをラットの肺に投与すると,能動的Na+イオンの輸送と肺の液体の除去を促進させるかどうか調べた。 本試験の結果は,煙霧化したEGFを投与することにより,肺の 液体の除去を促進させるという仮説を支持するものであった。 (b)ZEABOROKら「EffectsofEGFonalveolarepithelialjunctionalpermeabilityandactivesodiumtransport 」(Am.J.Physiol.270(LungCell.Mol.Physiol.14):平成8年,甲E85)EGFは,EGFRを介して肺胞上皮細胞単層における密着接合透過率を減少させ,活性ナトリウム輸送を増加させる。肺胞上 70(LungCell.Mol.Physiol.14):平成8年,甲E85)EGFは,EGFRを介して肺胞上皮細胞単層における密着接合透過率を減少させ,活性ナトリウム輸送を増加させる。肺胞上皮細胞へのナトリウムの入出経路は,頂端部の高アミロリド親和性ナトリウム・チャンネルと基底外側のナトリウムポンプである。 (c) SPENCERI.DANTO ら「MenchanismsofEGF-inducedstimulationofsodiumreabsorptionbyalveolarepithelialcells 」(Am.J.Physiol.275(CellPhysiol.44):平成10年,甲E86)EGFが,肺胞上皮細胞単層全体の活性ナトリウム再吸収を増加させ,基底外側膜における機能性ナトリウムポンプの数の増加をもたらした。 (d) RachelLZemans ら「Bench-to-bedsidereview:Theroleofthealveolarepitheliumintheresolutionofpulmonaryedemainacutelunginjury」(平成16年,甲E87)EGFは,活性ナトリウム輸送と水分除去機能を促進させる。 d サーファクタントの機能(炎症防御機能)とEGFRに関する文献及び研究報告(a) PaulBorron ら「Surfactant-assotiatedproteinAinhibitsLPS-inducedcytokineandnitricoxideproductioninvivo 」(平成12年,甲E57)サーファクタントを欠損させたマウスを用いて,リポ多糖(リポ多糖は,炎症性サイトカイン分 ineandnitricoxideproductioninvivo 」(平成12年,甲E57)サーファクタントを欠損させたマウスを用いて,リポ多糖(リポ多糖は,炎症性サイトカイン分泌を促進する作用を有し,炎症を誘 導する。)による肺の炎症の機序を調査するための実験結果からは,SP-A(サーファクタント・たんぱく質A)が免疫細胞に直接作用して,リポ多糖により誘導される炎症を抑えることが示唆される。内因性又は外因性のSP-Aが,肺のリポ多糖により誘導されるサイトカイン及び一酸化窒素の産生を阻害することを示すものである。 (b) JaeffreyA.Whitsett ら「DifferentialEffectsofEpidermalGrowthFactorandTransformingGrowthFactor-β onSynthesisofMr=35000 Surfactant-associatedProteininFetalLung」(昭和62年,甲E58)ヒトの胎児の肺組織を用いて,EGF刺激によってサーファクタント産生が促されるか否かを調べた実験の結果では,EGFによる刺激効果は,早くも2日の時点で検出され,5日後まで続いた。EGFに対する応答は用量依存的であった(0.01~10ng/ml)。 本試験結果は,肺サーファクタントたんぱく(SAP-35)の発現は複数のホルモンにより制御されていることを実証するものであり,EGFと腫瘍増殖因子βの両方がサーファクタント産生に関与していることを強く示すものである。 (c) KeisukeTokieda ら「PulmonarydysfunctioninneonatalSP-B-deficientmice」(平成9年,甲 ることを強く示すものである。 (c) KeisukeTokieda ら「PulmonarydysfunctioninneonatalSP-B-deficientmice」(平成9年,甲E89)SP-B(サーファクタント・たんぱく質B)欠乏症の新生マウスを用いて,出生後の経過を観察したところ,実験結果からは,SP-Bの欠乏が出生時の呼吸不全を引き起こし,SP-Bの減少が肺機能低下と関係していたことが示され,出生時の空気呼吸への適応にSP-Bが重要な役割を果たすことが実証された。 e サーファクタントと呼吸窮迫症候群についての文献 (a) BryanCorrin ら「PathologyoftheLungsecondedition 」(平成18年,甲H55)急性呼吸窮迫症候群と乳児呼吸窮迫症候群の双方とも病理的変化が類似していることから,臨床的特徴および放射線学的特徴も相互に非常に似ている。急性呼吸窮迫症候群と乳児呼吸窮迫症候群は発症原因が異なるが,双方とも共通した事象サイクル(上皮と内皮損傷→サーファクタント欠乏→肺虚脱と肺浮腫→剪断力のサイクル)が始まるため,原因の如何にはかかわりなく最終結果は同じになる。急性呼吸窮迫症候群が「上皮と内皮損傷」から始まるのに対し,新生児呼吸窮迫症候群が「サーファクタント欠乏」から始まるという違いはあるものの,いずれもサイクルとして「上皮,内皮損傷」や「サーファクタント欠乏」を引き起こす要因と結果になっているのである。 (b) 衛藤義勝監修「ネルソン小児科原著第17版」(平成17年,甲E56)サーファクタント欠乏(産生と分泌の減少)が呼吸窮迫症候群の最大の原因である。 (イ) イレッサの作用機序からは間質性肺炎発症可能性が示唆されないとする見解に 17版」(平成17年,甲E56)サーファクタント欠乏(産生と分泌の減少)が呼吸窮迫症候群の最大の原因である。 (イ) イレッサの作用機序からは間質性肺炎発症可能性が示唆されないとする見解に沿うとされている実験結果a AnnetteB. Rice ら「SpecificInhibitorsofPlatelet-DerivedGrowthFactororEpidermalGrowthFactorReceptorTyrosineKinaseReducePulmonaryFibrosisinRats」(AmericanJournalofPathologyVol.155 No.1:平成11年7月,丙E4[枝番号1,2],69[枝番号8の1,5の2])金属誘発性肺線維症のラットに対するAG1478の投与実験により,AG1478(EGFRチロシンキナーゼ阻害薬)が酸化バナジ ウムにより誘発された肺線維化を抑制したことが確認された。 b 石井芳樹「EGF受容体やPDGF受容体を標的とした肺線維症治療」(「医学のあゆみ」Vol.208 No.5:平成16年1月,丙E5[枝番号1])ブレオマイシン気管内投与により肺線維症を誘発したマウスに対して,AG1478を投与するという実験により,AG1478が肺線維化を抑制したことが確認されたが,EGFRチロシンキナーゼ阻害薬であるイレッサにより,ブレオマイシンによる肺線維化を増悪させるとのSuzuki らの報告(後記(ウ)の鈴木論文)がある。 平成14年にイレッサが発売され,短期間に副作用として急性肺障害や間質性肺炎が多数報告されているが,現状ではその発症率は1. 9%程度であり,他の新規抗がん剤と比較し必ずしも高いものではなく,急性肺障害がイ 年にイレッサが発売され,短期間に副作用として急性肺障害や間質性肺炎が多数報告されているが,現状ではその発症率は1. 9%程度であり,他の新規抗がん剤と比較し必ずしも高いものではなく,急性肺障害がイレッサの薬効の作用によって生じるものなのかは明らかではない,EGFRチロシンキナーゼ阻害薬が肺線維化を悪化させるのか改善させるのかは現時点では明らかではない。。 分子標的治療薬は,今後,有効な作用のみならず,有害な作用も多彩に発現しうる薬剤として,慎重に臨床への応用を進めていく必要がある。 c 石井芳樹ら「EGF受容体チロシンキナーゼ阻害薬gefitinib のマウスブレオマイシン誘発肺線維症に及ぼす効果」(「厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業びまん性肺疾患調査研究班平成15年度研究報告書」:平成16年3月,丙E5[枝番号2])イレッサの用量を,20,90,200mg/kg の3用量でブレオマイシンによる肺線維化抑制効果を比較するとともに,同じ実験モデルにおいてAG1478の作用と比較する実験を行ったところ,イレッサの200mg/kg 単独投与群(コントロール群)では肺に変化を起こ さなかったが,ブレオマイシンが投与された他の群では,イレッサはいずれの用量でもブレオマイシンによる肺線維化を抑制し,同様にAG1478も有効であった。 本実験結果は,EGFRの抑制が線維化抑制に働くこと,また臨床例で認められたイレッサによる間質性肺炎がEGFRの抑制に起因するものではない可能性を示唆するものと考えられる。 d S.Abe ら「EffectsofGefitinib(IRESSA) onradiation -inducedlunginjuryinmice」(:平成17年5月,丙E6[枝番号1,2])胸 ら「EffectsofGefitinib(IRESSA) onradiation -inducedlunginjuryinmice」(:平成17年5月,丙E6[枝番号1,2])胸部放射線照射の際にイレッサを投与する場合の最も安全な量・時期を明らかにする目的で,放射線照射後に異なった量のイレッサを異なった時期に投与した場合の影響を調査する動物実験を行ったところ,イレッサは放射線照射誘発性肺障害に有意な変化をもたらさなかったことが確認された。 e石井芳樹ら「GefitinibPreventsBleomycin-inducedLungFibrosisinMice 」(AmericanJournalofRespiratoryandCrinicalCareMedicinevol.174:平成18年6月,乙H34[枝番号7,8],丙E69[枝番号9の1,9の2])(石井論文)肺線維化に対するEGFRチロシンキナーゼ阻害作用を研究するために,ブレオマイシンにより肺線維症を誘発されたマウスを用いて,イレッサ(20,90及び200mg/kg)及びAG1478を投与して,経過を観察した。 結果は,イレッサは3種類すべての用量で肺線維化を予防した。ブレオマイシンによる肺線維症の誘発を行わなかったマウスでは,イレッサ200mg/kg による肺線維化の誘導は認められなかった。肺間質細胞においても,ブレオマイシンが誘導するEGFRのリン酸化反応 がイレッサにより阻害されることも確認された。AG1478も肺線維化を減退させた。invitro 試験でも,イレッサ又はAG1478がEGFRリガンド誘発の肺線維芽細胞増殖を抑制したことが示されている。 上記所見からは,EGFRチロシンキナーゼがブレオ 線維化を減退させた。invitro 試験でも,イレッサ又はAG1478がEGFRリガンド誘発の肺線維芽細胞増殖を抑制したことが示されている。 上記所見からは,EGFRチロシンキナーゼがブレオマイシン誘発性肺線維化に対する保護作用を有することが示唆される。分子標的治療薬は,動物種や個体によって作用が異なるおそれがあるため,慎重な解釈が求められる。 fWilliamD. Hardieら「EGFreceptortyrosinekinaseinhibitorsdiminishtransforminggrowthfactor- α -inducedpulmonaryfibrosis」(AmJPhysiologyLungCellMolPhysiology294:平成20年4月,丙E69の4)EGFRチロシンキナーゼ阻害剤であるイレッサ及びタルセバが,TGF-α(トランスフォーミング成長因子α)誘発肺線維症の発現及び進行に及ぼす影響を検討するために,TGF-αを肺特異的に発現させたマウスにイレッサ及びタルセバを投与し,その経過を観察した。 結果は,8週間にわたって肺にTGF-αを導入したところ,マウスは進行性肺線維症を発症したが,イレッサ又はタルセバを連日投与することによって,線維症の発現が防止され,肺コラーゲン総蓄積量が減少し,体重減少及び肝機能の変化が防止された。TGF-α誘導の4週間後,マウスにイレッサを投与したところ,肺コラーゲン総量の増加が抑制され,肺機能の変化や肺高血圧が一部改善され,細胞外基質合成に関する遺伝子の発現増加及び血管の再生に関連する遺伝子の発現減少が防止され,また一部改善された。イレッサ又はタルセバの投与によって,間質性線維症又は気管支肺胞洗浄液中の細胞数の増 基質合成に関する遺伝子の発現増加及び血管の再生に関連する遺伝子の発現減少が防止され,また一部改善された。イレッサ又はタルセバの投与によって,間質性線維症又は気管支肺胞洗浄液中の細胞数の増 加は引き起こされなかった。 本研究からは,低分子EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の投与は,EGFR活性化によって直接誘導される肺線維症の進行を防止し,その進行を抑えることができることが実証された。また,炎症細胞の流入やさらなる肺損傷を引き起こさなかった。以上の所見から,標的療法を適用できる可能性のある疾患であるヒト肺線維症において,EGFR活性化が果たす役割を検討するためにさらなる研究を実施すべきである。 g谷本光音ら「EffectofgefitinibonN-nitrosamine-4-(methylnitrosamino)-1-(3-pyridyl)-1-butanoneinducedlungtumorigenesisinA/Jmice」(LungCancer 2009:平成21年,丙E69[枝番号11の1,11の2])(谷本実験)A/Jマウスを対象に,NHK(N-ニトロソアミン-4-(メチルニトロソアミノ)-1-(3-ピリジル)-1-ブタノン)誘発性腫瘍形成に対するイレッサの作用及びイレッサの発がん性を検討するために,A/Jマウスを対象に,イレッサの発がん性の検証を目的とした1群(脱イオン水を投与する群),2群(イレッサ5mg/kg の経口投与群),及び3群(イレッサ50mg/kg の経口投与群),イレッサの発がん予防活性の検証を目的とした4群(脱イオン水を投与するNHK処置の対照群),5群(イレッサ5mg/kg の経口投与群),及び6群(イレッサ50mg/kg の経口投与群)を比較観察した実験 サの発がん予防活性の検証を目的とした4群(脱イオン水を投与するNHK処置の対照群),5群(イレッサ5mg/kg の経口投与群),及び6群(イレッサ50mg/kg の経口投与群)を比較観察した実験である。 結果は,イレッサを26週間にわたってマウスに単剤投与した結果,腫瘍形成は誘発されず,その代わりに他の抗がん剤とは対照的に,自然発現腫瘍の発現率が有意に抑制された。イレッサを投与した群では,対照群のマウスと比べて,肺線維症を誘発されなかった。 本研究結果からは,A/Jマウスにおいて,イレッサは微々たるものであるが有意な発がん予防作用を有し,発がん性及び肺毒性がないことが示唆される。 (ウ) イレッサの作用機序から間質性肺炎発症可能性が示唆されるとする見解に沿うとされている実験結果a 永井厚志ら「EpidermalGrowthFactorReceptorTyrosineKinaseInhibitionAugmentsaMurineModelofPulmonaryFibrosis 」(CancerResearch 63:平成15年8月,甲E8,丙E69[枝番号5の1,5の2],丙G23)(永井論文・永井実験①)ブレオマイシンにより肺線維症を発症させたマウス(ブレオマイシンはすべてのマウスに投与された。)にイレッサを投与し,溶媒単体投与群と比較してその経過を観察した。具体的には,本試験では,試験初日にICRマウスにブレオマイシン5単位/kg を経口で単回気管投与し,その1時間前及び毎週1日目ないし5日目の3週間,イレッサ溶解液又は溶媒のみを経口投与する方法で行われた(イレッサ投与群と溶媒単体投与群は各群5例で,本試験で使用されたイレッサの用量は200mg/kg のみであった。)。 その 5日目の3週間,イレッサ溶解液又は溶媒のみを経口投与する方法で行われた(イレッサ投与群と溶媒単体投与群は各群5例で,本試験で使用されたイレッサの用量は200mg/kg のみであった。)。 その結果,イレッサ投与群では,溶媒単体投与群と比較して,線維化がより重度であった。免疫組織化学的分析によれば,ブレオマイシンと溶媒のみを投与したマウスの再生上皮細胞ではリン酸化EGFR及び増殖細胞核抗原が高度に発現していることが示され,対照的にブレオマイシンとEGFRチロシンキナーゼ阻害剤を投与したマウスでは上記抗原の発現が減少した。また,invitro 試験からは,イレッサによりⅡ型肺胞上皮細胞の増殖が阻害されたが,肺線維芽細胞の増殖は阻害されないことが示されたが,イレッサにより,線維化促進刺激に応答して線維芽細胞が増殖し,その結果,肺線維症へ誘導するこ とが示唆される。 本試験の結果は,EGFRのリン酸化を阻害すると,再生上皮細胞の増殖が阻害され,ブレオマイシンにより誘発された肺線維症が増悪することを示唆するものであり,肺線維症のがん患者に対して,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤を投与する際には注意を要することを示唆するものである。 なお,本試験の結果を解釈するには注意を要する。第1に,本試験で使用したマウスには,ヒトを対象とした従前の臨床試験での用量(1~14mg/kg/日)よりも多い用量(200mg/kg/日)を投与している。正常細胞の増殖を阻害する場合には,がん細胞を阻害する場合と比較してイレッサを多く投与する必要があると考えられる。第2に,本試験で使用したマウスブレオマイシン誘発肺線維症モデルは,正確にヒト肺線維症を再現していない。マウスブレオマイシン誘発肺線維症の組織学的所見は,ヒト肺線維症の組織学的所見と同一で られる。第2に,本試験で使用したマウスブレオマイシン誘発肺線維症モデルは,正確にヒト肺線維症を再現していない。マウスブレオマイシン誘発肺線維症の組織学的所見は,ヒト肺線維症の組織学的所見と同一ではない。ヒト肺線維症に対するイレッサの影響は,本試験の肺線維症マウスモデルに対する影響と異なる可能性がある。 b 永井厚志ら「DosteroidspreventZD1839 augmentationofbleomycin-inducedpulmonaryfibrosisinmice?」(平成14年度受託研究No.801 報告書:平成17年11月21日,丙E32[枝番号1,2],丙E69[枝番号12の1,2])(永井実験②)永井実験②では,永井実験①と同様の試験方法で試験を実施した(ただし,各群7例)ところ,イレッサ投与群では,溶媒単体投与群よりも,ブレオマイシンにより誘発された肺線維症の増悪傾向がみられたが,イレッサ投与群の方が溶媒単体投与群よりも重度の肺線維症が生じていたことについて有意差はみられなかった(P値=0.43,有意水準0.05)。 c Suzuki.H ら(Epidermalgrowthfactor:平成15年,甲E59,丙E5[枝番号1])(鈴木論文)ブレオマイシンを投与して肺臓炎を起こしたマウスにイレッサを大量投与した場合のマウスの症状経過を観察した実験を示したものであり,EGFRチロシンキナーゼ阻害薬であるイレッサにより,ブレオマイシンによる肺線維化を増悪させる。 d 井上彰ら「EGFRチロシンキナーゼ阻害剤はⅡ型肺胞上皮機能を低下させる」(分子呼吸器病Vol.10.№3:平成18年,甲E59,丙E69[枝番号10])本研究は,EGFRを抑制するイレッサがⅡ型肺胞上皮細胞か Rチロシンキナーゼ阻害剤はⅡ型肺胞上皮機能を低下させる」(分子呼吸器病Vol.10.№3:平成18年,甲E59,丙E69[枝番号10])本研究は,EGFRを抑制するイレッサがⅡ型肺胞上皮細胞からの肺サーファクタントたんぱく産生を減少させることにより,炎症に対する肺での防御機能が低下し,間質性肺炎へ進展するとの仮説を検証する目的で行われた。 本研究によれば,イレッサは肺胞上皮細胞における肺サーファクタントたんぱく産生を低下させることが示された。また,本研究では,イレッサを連日経口投与したマウスに対して,8日目の気道内にリポ多糖を追加投与し,その後の肺組織における各種の炎症変化等について,リポ多糖単独投与群を対照群として比較検討したところ,イレッサ群では,肺組織中の炎症細胞浸潤の増悪が認められた。 本研究結果は,EGF刺激の抑制がⅡ型肺胞上皮細胞からのサーファクタント産生低下をもたらし,サーファクタント産生低下がリポ多糖刺激による炎症反応を増悪させるという従来の報告と矛盾するものではない。マウスにおける肺での炎症増悪が,イレッサ治療における間質性肺炎発症を直接的に示すものではないが,サーファクタント産生低下による炎症防御機能低下が間質性肺炎発症の一因となっている可能性はある。 e井上彰ら「SuppressionofsurfactantproteinAbyanepidermalgrowthfactorreceptortyrosinekinaseinhibitorexacerbateslunginflammation」(CancerSciencevol.99 no.8:平成20年8月,甲E94[枝番号2の1,2])(甲E59における研究に関する追加実験)間質性肺炎の発症機序の inflammation」(CancerSciencevol.99 no.8:平成20年8月,甲E94[枝番号2の1,2])(甲E59における研究に関する追加実験)間質性肺炎の発症機序の解明のために,生体内及び生体外におけるサーファクタント・たんぱく質発現に対するイレッサ治療の影響を調査した結果,イレッサ治療では,SP-A,B,C及びD(サーファクタント・たんぱく質A,B,C及びD)を発現するヒト肺腺がん細胞においてEGFRのシグナル伝達を遮断することによって,SP-A(サーファクタント・たんぱく質A)を抑制した。 次に,1週間毎日,イレッサをマウスに経口投与し,その後マウスにリポ多糖を気管支投与して肺の炎症を誘発した場合のマウスの経過を観察した結果,リポ多糖の投与により誘発された肺の炎症は悪化し,また長期化したが,SP-Aの経鼻投与により改善された。これは,イレッサによる前治療が,肺におけるSP-A発現を低減させることによって,リポ多糖により誘発された肺炎を悪化させたことを実証するものである。 本研究により,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が肺がん患者のSP-A発現を低減させるおそれがあり,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤による治療を受けた患者は病原体に感染しやすくなるおそれがあることが示唆される。 f 木下茂ら「TheEpidermalGrowthFactorReceptor(EGFR):RoleinCornealWoundHealingandHomeostasis」(平成12年9月,甲E7)角膜損傷治癒中のラットにイレッサを投与した群と溶媒のみ投与し た群とを比較観察した実験の結果は,イレッサの投与により角膜上皮欠損の治癒を有意に遅らせ,非損傷角膜においても,上皮が有意に薄くなっ 癒中のラットにイレッサを投与した群と溶媒のみ投与し た群とを比較観察した実験の結果は,イレッサの投与により角膜上皮欠損の治癒を有意に遅らせ,非損傷角膜においても,上皮が有意に薄くなったというものであった。 EGFRの抑制が,角膜上皮の損傷治癒の過程で上皮細胞の増殖と層形成に影響し,正常な角膜上皮の厚さを維持する役割を果たしていることが示唆される。 イイレッサの作用機序から間質性肺炎発症可能性が示唆されるとする専門家の意見の要旨濱六郎は,①イレッサは,EGFR阻害剤(証人濱は,イレッサがEGFRチロシンキナーゼを阻害し,EGFRの機能を阻害するものであることから,イレッサをEGFR阻害剤と呼称する。)とされた新規物質であるところ,EGFRは上皮細胞だけでなく非上皮細胞にも存在し,ほとんどの細胞の増殖に関与するし,がん組織のみならず,正常組織にも存在する,②EGFRの機能が阻害されると,Ⅱ型肺胞上皮細胞が減少又は機能減退し,サーファクタントがなくなって肺胞虚脱から無気肺が起きる,ポンプ作用が減退して肺胞内に水が溜まって肺水腫などが起きる,線維芽細胞が増殖して線維化して肺線維症や間質性肺炎が起きるなどの現象が生じて,死に至る可能性がある,③EGFRが欠乏したマウスでは肺胞が縮小して肺虚脱を起こすことはミエチュネン論文などで指摘されていた,④傷害された組織の修復にEGFRが非常に重要であることも論文で知られていた,⑤肺胞のサーファクタントの減少という点では,新生児呼吸窮迫症候群とイレッサによるびまん性肺胞障害(DAD)とで類似した機序である,⑥永井実験では,イレッサが何らかの条件において肺線維症を増加させることが示されている,⑦前記4(2)ア(ウ)aの永井論文と前記4(2)ア(イ)eの石井論文における結果の違いは,石 した機序である,⑥永井実験では,イレッサが何らかの条件において肺線維症を増加させることが示されている,⑦前記4(2)ア(ウ)aの永井論文と前記4(2)ア(イ)eの石井論文における結果の違いは,石井論文の方が投与期間が短い(永井論文は3週間,石井論文は2週間であった。)ことにあり,線維の 増殖をみるためには少なくとも3週間必要であるから,永井論文の方が石井論文よりも信頼性が高い実験であるなどとする。【甲E25〔6~9,24,25頁〕,甲E43〔5~17,22頁〕,甲E44〔3~13,24~32頁〕,甲E76〔95~111頁〕,証人濱[第1回]主尋問〔5~9,23,24頁〕,証人濱[同]反対尋問〔45~47,76~79頁〕,証人濱[第2回]主尋問〔40~48頁〕,証人濱[同]反対尋問〔76~79頁〕】ウイレッサの作用機序からは間質性肺炎発症可能性が示唆されないとする専門家の意見の要旨工藤翔二は,①薬剤の有害反応には,薬剤の薬理作用に基づいて発症するためその反応が予測しうるものと,薬理作用に基づかずに発症するためにその反応が予測できないものが存在し,イレッサによる薬剤性間質性肺炎は後者に該当する,②イレッサは,分子標的治療薬として開発され,従来の抗がん剤である殺細胞性抗がん剤とは異なる作用機序を有しており,分子標的治療薬が殺細胞性抗がん剤と同様に薬剤性肺障害を発症させることを当然には予測できなかった,③イレッサによるEGFR阻害が肺の線維化を抑制するのか,線維化を促進させるのかについては現在まで正反対の結論を示す2つの動物実験が行われている(前記4(2)ア(ウ)aの永井論文と前記4(2)ア(イ)eの石井論文)が,永井論文は実験手法に様々な問題がある(永井論文では,投与量が一用量のみで用量依存性を見ていない,マウス 実験が行われている(前記4(2)ア(ウ)aの永井論文と前記4(2)ア(イ)eの石井論文)が,永井論文は実験手法に様々な問題がある(永井論文では,投与量が一用量のみで用量依存性を見ていない,マウスへの投与量がヒトへの投与量に比して極端に多い,再現性がないなど)だけでなく,直ちにヒトに外挿することもできない,いずれの実験もイレッサによる間質性肺炎発症可能性との関係で示唆するところは少ない(永井論文では,ブレオマイシンによって発症した急性肺障害に対するイレッサの影響を見るものであり,永井論文から判明することは,イレッサとブレオマイシンなどを併用するときには有害作用が生じる可能性が高く なる,イレッサを肺線維症の患者に投与するときには有害作用が生じる可能性が高くなることが否定できないということである。),④前記4(2)ア(ア)b(f)のミエチュネン論文からは,妊娠中の女性がイレッサを服用すると胎生期にある胎児のEGFRが阻害され,胎児の発生過程で肺を含む種々の臓器の形成に悪影響が及ぶ可能性があるから,妊娠中の女性には投与すべきではないということが判明するのみであり,ミエチュネン論文は非小細胞肺がん患者に対してイレッサを投与すると肺障害を起こすことを予測できるとする根拠とはならない,⑤間質性肺炎が発症する場合には,Ⅱ型肺胞上皮細胞は減少するのではなく,むしろ増加するのであるから,証人濱の述べるサイクルは成り立たないなどとする。【乙E17〔13~17頁〕,丙E47〔12頁〕,丙E68〔13~17頁〕,証人工藤主尋問〔30,31,35~42,79~90頁〕,証人工藤反対尋問〔20~43,115頁〕】福岡正博は,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤であるイレッサの作用機序から,急性肺障害や間質性肺炎の副作用が発症するとは予測できず,こ ,79~90頁〕,証人工藤反対尋問〔20~43,115頁〕】福岡正博は,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤であるイレッサの作用機序から,急性肺障害や間質性肺炎の副作用が発症するとは予測できず,これらの副作用の発症機序は現在においても解明されていないなどとする。 【証人福岡主尋問〔49~51頁〕】エイレッサの作用機序からみる薬剤性間質性肺炎発症の可能性と間質性肺炎発症機序(ア) 永井論文(前記4(2)ア(ウ)a)と石井論文(前記4(2)ア(イ)e)の評価永井論文(永井実験①)は,ブレオマイシンにより肺線維症を発症させたマウス(ブレオマイシンはすべてのマウスに投与された。)にイレッサを投与したものであって,直ちに同実験の結果がヒトに妥当するものといえるのかは疑問が残るものであるだけでなく,その再現性に疑問が残る(丙E2,3,32[各枝番号1,2])。 また,石井論文では,永井論文よりもイレッサ投与期間が1週間短 く,直ちにイレッサにより肺線維化が抑制されるとの結論を出すこともできない。 また,いずれの論文の基礎となった実験も,ブレオマイシンにより発症した肺線維症に対するイレッサの影響をみたものであって,イレッサが肺線維症が誘発するかを検証するものではないから,イレッサによる間質性肺炎発症可能性を検討する上で,重要性が高いということはできない。(なお念のため,付言すると,両実験からは,イレッサがブレオマイシンによって発生した線維化を増悪させるか抑制するかについて,相反する結果を示すものであり,イレッサが線維化に対してどのように作用するかは不明であるといわざるを得ない。)(イ) ミエチュネン論文(前記4(2)ア(ア)b(f))の位置付けについてミエチュネン論文によれば,イレッサの投与により,胎児の発育と細胞分 うに作用するかは不明であるといわざるを得ない。)(イ) ミエチュネン論文(前記4(2)ア(ア)b(f))の位置付けについてミエチュネン論文によれば,イレッサの投与により,胎児の発育と細胞分化に傷害を与える可能性が推測されるといえ,妊娠中の女性がイレッサを服用すると胎生期にある胎児のEGFRが阻害され,胎児の発生過程で肺を含む種々の臓器の形成に悪影響を与える可能性があることは示唆され得る。 しかし,胎生期に与えられた原因によって肺の形成過程で胎児に起きる障害(新生児呼吸窮迫症候群)と,成人の肺に起きる疾患(急性呼吸窮迫症候群)とは発症機序が異なり,同一に論じることができず成人の肺に対する影響を推測することは困難であるというべきである。 したがって,ミエチュネン論文は,イレッサが,EGFR阻害によりⅡ型肺胞上皮細胞の機能を阻害して間質性肺炎発症に影響を与え得ることを的確に示すものであると評価することはない。 (ウ) Ⅱ型肺胞上皮細胞の増殖・分化とEGFRチロシンキナーゼ阻害剤との関係についてEGFRが,正常肺と肺がんの両方に発現して,傷害された組織の修 復に重要な役割を果たし,またⅡ型肺胞上皮細胞の増殖及び分化に関与していることから,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤によりEGFRの機能が阻害されることにより,Ⅱ型肺胞上皮細胞の増殖,再生機能が損なわれ,正常な修復機能が阻害される(前記ウ(ア)a及びbのPlopper実験)という原告らが指摘する理論的可能性自体は,被告らも否定するものではない。 しかし,修復過程を阻害する前提として,細胞が傷害を負うことが必要となるが,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤であるイレッサに細胞傷害作用があることを示す実験結果は見当たらず,かえって,イレッサには細胞傷害作用がないことを示す 前提として,細胞が傷害を負うことが必要となるが,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤であるイレッサに細胞傷害作用があることを示す実験結果は見当たらず,かえって,イレッサには細胞傷害作用がないことを示す実験結果がある(前記4(2)ア(イ)gの谷本実験)。 また,イレッサの臨床試験でも気道傷害修復遅延に関連したと考えられる副作用はみられなかった(乙B4[枝番号1]〔40~42頁〕)。 以上によれば,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤による正常な修復機能の阻害という理論的可能性自体から,承認当時からイレッサにより間質性肺炎発症の可能性があったことを予測できたということは論理の飛躍があるといわざるを得ず,また必ずしも修復機能の阻害がされたとみることができるとは限らない状況にあったというべきである。 濱意見書(甲E76〔101頁〕,甲E93〔83~90頁〕)では,イレッサによる細胞傷害作用がなくとも,Ⅱ型肺胞上皮細胞の増殖とⅠ型肺胞上皮細胞への分化が阻害されると,Ⅰ型肺胞上皮細胞が補充されないことにより,Ⅰ型肺胞上皮細胞が老化により自然に傷害されることになるなどの記載がある。しかし,Ⅰ型肺胞上皮細胞の老化により細胞が自然に傷害されるという点は,細胞周期との整合性の点でも,イレッサ投与後の間質性肺炎の早期発症(後述)の点でも合理的な説明が されているとはいえない。したがって,上記判断を覆すには足りない。 (エ) 間質性肺炎の発症機序について原告らは,間質性肺炎発症の機序として,EGFRの機能が阻害されると,Ⅱ型肺胞上皮細胞が減少又は機能減退し,サーファクタントがなくなって肺胞虚脱から無気肺が起きる,ポンプ作用が減退して肺胞内に水が溜まって肺水腫などが起きる,線維芽細胞が増殖して線維化して肺線維症や間質性肺炎が起きるなど主張し,これ し,サーファクタントがなくなって肺胞虚脱から無気肺が起きる,ポンプ作用が減退して肺胞内に水が溜まって肺水腫などが起きる,線維芽細胞が増殖して線維化して肺線維症や間質性肺炎が起きるなど主張し,これに沿う濱六郎の陳述記載がある(甲E76〔96~99頁〕)。 なるほど,Ⅱ肺胞上皮細胞には肺胞腔内に浸潤した水分を吸収又は除去する機能があり,またサーファクタントには炎症予防機能があって,そのいずれにもEGFが関与していることを示唆する実験があるところからすれば,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤によりⅡ型肺胞上皮細胞の機能が阻害され,また,これに伴いサーファクタント産生が低下することが間質性肺炎発症に関連している理論的可能性自体は否定されるものではない(証人工藤反対尋問〔41頁〕)。 しかし,間質性肺炎の発症機序は,いまだ未解明であり,研究途上である(甲E92[枝番号2,3],丙E77,丙G23など)。 また,間質性肺炎は,Ⅰ型肺胞上皮細胞が傷害を受け,これを修復するためにⅡ型肺胞上皮細胞が増殖して,Ⅰ型肺胞上皮細胞へ分化して異常修復の過程を経ると考えられていると認められることからすると(甲H32,乙H32,丙E69[枝番号2,6,7の1・2],丙H12,証人工藤主尋問〔80~84頁〕),これと異なる前提をとる濱意見書(甲E76〔98頁〕)を採用することはできず,原告らの前記主張には理由がないというほかはない。 なお,証人濱は,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤によるⅡ型肺胞上皮細胞の機能減退を示すものとして,井上らの実験(甲E94[枝番号 1,2])を挙げ,これにより自らの意見が裏付けられたと述べる。 しかし,井上らの実験は,invitro 及びinvivo の実験結果であり,直ちにヒトにあてはめることができないこと,in 1,2])を挙げ,これにより自らの意見が裏付けられたと述べる。 しかし,井上らの実験は,invitro 及びinvivo の実験結果であり,直ちにヒトにあてはめることができないこと,invitro の実験結果で示されたサーファクタントたんぱく質Aの減少傾向がヒトの間質性肺炎における早期発症と整合しないものであり,さらに検証を要するものであったが,その検証のための実験は行われていないこと(丙E77)等に照らせば,井上らの上記実験からはEGFRチロシンキナーゼ阻害剤投与後の間質性肺炎がサーファクタントたんぱく質Aの減少に部分的に関係している可能性が示唆されたにすぎず,前記判断を覆すには足りないというほかはない。 (オ) 小括以上のとおり,イレッサ投与による間質性肺炎発症機序は現在も平成14年7月の承認当時も未解明であり,イレッサのEGFRチロシンキナーゼ阻害作用からの理論的可能性があったにすぎず,実証的に検証が行われる必要がある状態であったのであるから,イレッサの作用機序から間質性肺炎の発症が予測できたとは認められない。 また,イレッサの作用機序から既存の肺線維症を増悪させると直ちに予測できたとは認められない。 (3) 非臨床試験結果についての評価ア非臨床試験結果の位置付け医薬品の開発は,動物及びヒトから得られた安全性情報の評価を行いながら,段階的に進められるものであり,非臨床試験における安全性評価の目的は,標的臓器(毒性の発現する可能性の高い臓器),用量依存性(用量の高低と毒性の発現との相関関係),暴露との関係,回復性などの毒性の特徴を知り,ヒトに対する臨床試験を行う前提として安全性を確認することにある。非臨床試験の中でも毒性試験は,臨床試験に入る前段階で, 安全性の観点からヒトへの投与の可否を 性などの毒性の特徴を知り,ヒトに対する臨床試験を行う前提として安全性を確認することにある。非臨床試験の中でも毒性試験は,臨床試験に入る前段階で, 安全性の観点からヒトへの投与の可否を判断した上で,臨床試験において発生する可能性のある副作用等を予測し,臨床試験計画の立案に際しての用量設定や実施する検査の設定を行うことを目的に行われるものである(前記第3章第7の1及び2(1)イ)。 そして,承認審査においては,毒性試験の結果は臨床試験の安全性の成績とともに総合的に判断され,臨床試験で副作用等が発生した場合には,毒性試験の結果は薬物との因果関係やその発症機序を検討する上で参考となるものである(甲G6〔12,13頁〕,証人工藤主尋問〔79~81頁〕)。 もっとも,動物とヒトとの間には種による違い(種差)があるため,動物での毒性試験の結果が直ちにヒトに妥当するものではないが,臨床試験の結果と総合して慎重に判断されるべきものであるとされる。 イ非臨床試験の制度設計承認審査の申請資料となる毒性試験は,GLP省令に準拠して行われることが必要であり,厚生労働大臣は,適合性調査の全部又は一部を医薬品機構に行わせることができ,医薬品機構が適合性調査を行った場合には,厚生労働大臣は医薬品機構から同調査結果の通知を受けて,これを踏まえて承認審査を行うこととされている(前記第3章第6の2(2)イ及び第7の2(2))。 GLP省令では,非臨床試験は,運営管理者や試験責任者の設置,必要な能力を有する者による適切な施設での適切な機器を用いた,試験計画書及び標準操作手順書に基づく試験の実施,試験に従事する者から独立して信頼性保証部門による適切な確認を受けることが要求されている(GLP省令6~16条)。 なお,イレッサについては,イレッサの反復 及び標準操作手順書に基づく試験の実施,試験に従事する者から独立して信頼性保証部門による適切な確認を受けることが要求されている(GLP省令6~16条)。 なお,イレッサについては,イレッサの反復毒性試験の病理検査は,英国A社の3名の獣医病理学者により行われ(丙C4[枝番号2]により認定),また,医薬品機構による適合性調査の結果に対して,審査センター は,承認審査資料に基づいて審査を行うことに支障はないと判断した(前記第3章第6の3)。 ウ非臨床試験(毒性試験)の結果に関する専門家の意見等(ア) 非臨床試験(毒性試験)の結果からイレッサのによる間質性肺炎発症の危険性を予測できたとする濱六郎の見解の要約① イレッサにおける非臨床試験では,屠殺例が何例も観察されており,強い毒性が示されているが,死因の明らかではない例が少なくない。 ② 肺胞マクロファージの増加などの肺毒性を示唆する所見が示されていた。 ③ イヌ6か月試験で急性肺障害を呈した動物がいた,④ラット6か月試験で肺胞浮腫,肺胞内細胞浸潤,気管支には異物性肉芽腫及び膿瘍形成を呈していた動物がいた,⑤上記①~④によれば,イレッサの毒性が判明していた。 【甲E25〔9~24頁〕,甲E43〔17~24頁〕,甲E76〔105~107頁〕,証人濱[第1回]主尋問〔9~23頁〕,証人濱[同]反対尋問〔47~75頁〕】(イ) 非臨床試験(毒性試験)の結果からイレッサのによる間質性肺炎発症の危険性を予測できるものではなかったとする工藤翔二の見解の要約① イレッサの非臨床試験(毒性試験)の結果からは,イレッサの間質性肺炎を示唆する所見は認められない。 ② 非臨床試験(毒性試験)の結果は,ヒトと動物の種差による違いや用量による違いを踏まえた評価が必要である。 ③ 験(毒性試験)の結果からは,イレッサの間質性肺炎を示唆する所見は認められない。 ② 非臨床試験(毒性試験)の結果は,ヒトと動物の種差による違いや用量による違いを踏まえた評価が必要である。 ③ 濱六郎の意見は,基礎知識や事実と整合しないものであり,科学的な分析がされていない。 【乙E23〔78~104頁〕,乙E24〔18~28頁,112~ 116頁〕,丙E54〔3~9頁〕,証人工藤主尋問[36~39 頁]】エ非臨床試験(毒性試験)結果に関する評価(ア) 毒性試験で見られた屠殺例について毒性試験の目的は,致死量や毒性変化を惹起する用量等の探索をすることにあるところ,被験薬を投与された実験動物には様々な理由(当該薬剤の毒性による場合もあれば,他の原因による場合もある。)で一般状態の悪化が見られることがある。毒性試験の目的である知見を得るためには,死亡直前期や死後の変化(個体の死亡後にその組織や細胞が自身の酵素によりたんぱく質,脂質及び糖質などが分解され腐敗する現象[自己融解]など)を避け,動物実験に発生した変化の原因解明に繋がる多くの所見を得るために,屠殺が行われる。【甲D1[枝番号1,2],丙E54〔3,4頁〕,丙G8,9,15,証人濱[第1回]反対尋問〔50頁〕】したがって,屠殺例の発生や屠殺例数が必ずしも当該医薬品の毒性の強さを示すものであるとはいえない。 なお,濱六郎は,屠殺例が多数出ていること及びその原因が明らかとされていないことが問題であるとして,イレッサの毒性によるものであると証言等において指摘する。 しかし,各屠殺例においては,屠殺の原因が一般状態の悪化なのか当該薬剤によるものかを把握し,致死量や毒性変化の内容を把握することが目的なのであるから,個々の屠殺例の原因を吟味することなく屠殺例 しかし,各屠殺例においては,屠殺の原因が一般状態の悪化なのか当該薬剤によるものかを把握し,致死量や毒性変化の内容を把握することが目的なのであるから,個々の屠殺例の原因を吟味することなく屠殺例数のみを問題とすることには意味がない。 また,屠殺例において,死因が必ず判明するとはいえず,特定が困難な場合はあり得るのであり,他剤の屠殺例で死因の記載がなかったものは存在するから(丙G16),死因の記載がないことをもって,毒性試験の意味がないとか,毒性試験の実施に問題があったとは直ちに結論づ けることはできない。したがって,濱六郎の証言等における指摘は,上記判断を覆すには足りない。 (イ) 肺胞マクロファージ及び泡沫肺胞マクロファージの増加の所見についてa 肺胞マクロファージは,肺胞の壁を異動しながら,肺胞内に侵入した異物を処理し,殺菌する免疫担当細胞のことをいい,泡沫肺胞マクロファージは,肺胞マクロファージが病原体や異物を貪食した後の状態のことをいう。 動物の肺胞には,呼吸により空気中の病原体や異物が常に流入してくることから,免疫担当細胞である肺胞マクロファージや処理後の状態である泡沫肺胞マクロファージがイレッサ群で有意に増加していたとしても,そのことのみをもってイレッサが肺毒性を有するとは直ちにはいえない。 b イヌ1か月及び6か月試験で使用されたビーグル犬では,泡沫肺胞マクロファージは自然発生的に観察されることがあり(丙G12[枝番号1,2]。10%前後のビーグル犬で自然発生的に観察されている。),イヌ1か月及び6か月試験の肺胞マクロファージ増加の所見(イヌ1か月試験では1頭/24頭,イヌ6か月試験では3/30頭,いずれの試験でも溶媒対照群では0頭)は,自然発生的に観察される限度内であるから,これを毒性所見とみ 験の肺胞マクロファージ増加の所見(イヌ1か月試験では1頭/24頭,イヌ6か月試験では3/30頭,いずれの試験でも溶媒対照群では0頭)は,自然発生的に観察される限度内であるから,これを毒性所見とみることは困難である。 c ラット6か月試験で使用されたウィスラーラットでは,泡沫肺胞マクロファージの増加は加齢に伴って一般的に見られる所見であり,溶媒対照群での発生頻度は0~30%(丙G13[枝番号1,2]),ラット6か月試験での発生頻度は,イレッサ群全体でみると7.1%(10/140匹),イレッサの高用量群のみでみても約16.7%(10/60匹)であった。また,ラット6か月試験で泡沫肺胞マクロファージの増加がみられたのはすべてラット6か月試験の高用量群 であったところ,ラット1か月試験の高用量群での投与量は40mg/kg/日であり,ラット6か月試験の高用量群での投与量25mg/kg/日の約1.5倍であったが,発生頻度は0%であった。 そうすると,泡沫肺胞マクロファージがイレッサ群で有意に増加したとしても,イレッサの高用量群で必ず発生していたものではなく,加齢による発生とみる余地がないとまではいえず,有意な差が生じていることを考慮しても,これを直ちに薬剤による毒性所見とみることは困難であり,他の所見と総合して判断せざるをえない。 なお,原告らは,イレッサによって間質性肺炎が発症した症例では,肺胞マクロファージの集積が認められる(甲H58)から,肺胞マクロファージが肺毒性を示す所見であるなど主張するようである。 証拠(甲H58)によれば,原告らが指摘する症例は,多剤アレルギー反応を起こす患者で,かつ38年間にわたり鉄工業を行っておりウェルダー肺を有する患者であったというものであったことが認められる。 ウェルダー肺では,マク ば,原告らが指摘する症例は,多剤アレルギー反応を起こす患者で,かつ38年間にわたり鉄工業を行っておりウェルダー肺を有する患者であったというものであったことが認められる。 ウェルダー肺では,マクロファージが,肺に吸い込まれた酸化鉄を貪食して肺に沈着し,間質の中に入り,リンパへ流れていくことがある(乙E24〔114頁〕)。 そうすると,原告らの指摘する症例は特異な条件の下での肺胞マクロファージの集積をいうものであって,肺胞マクロファージの集積が直ちに肺毒性と結びつくものではないというべきであるから,肺胞マクロファージの増加をイレッサの毒性と直ちに関連させる原告らの主張には理由がない。 (ウ) イヌ6か月試験の肺炎症例等について【甲B6,10,丙C1(212頁)】a 慢性肺炎との所見について (a) イヌ6か月試験の屠殺例の中に,肺炎を発症したものがあった(別紙8(イヌ6か月試験概要・結果)のイヌ6か月試験結果一覧表の所見欄)。 同試験の所見では慢性肺炎とされている。 この肺炎症例について,原告らは,急性肺障害であったことを前提として,上記肺炎症例の屠殺の原因が急性肺障害にあった旨を主張する。これに対し,被告らは,上記肺炎症例は慢性肺炎であったことを前提として,慢性肺炎が死につながることはないとして,肺炎が屠殺ではなかった旨を主張する。 (b) そこで,上記肺炎例が急性肺障害であったか,慢性肺炎であったかを検討する。 後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実は,次のとおりである。 ⅰ 試験報告書における上記肺炎症例の所見には,「左肺前葉が小さい×0.25」,「左肺前葉が淡色化」,組織所見には「左肺前葉の慢性肺炎」との記載があったが,「急性肺障害」や「肺虚脱」の記載はなかった。【丙B18】ⅱ 上記肺炎症例の所見には,「左肺前葉が小さい×0.25」,「左肺前葉が淡色化」,組織所見には「左肺前葉の慢性肺炎」との記載があったが,「急性肺障害」や「肺虚脱」の記載はなかった。【丙B18】ⅱ 申請資料概要(丙C1)記載の病理組織学的所見では,上記肺炎症例については腎乳頭壊死がみられたとの記載があるのみであるが,試験報告書の添付資料であるケースカードでは,腎乳頭壊死は軽微とされていた。 上記病理組織学的所見は,イレッサの薬理作用であるEGFRチロシンキナーゼ阻害に起因したものであるとされていた。 【甲E17,丙C1】ⅲ 慢性肺炎という用語は,獣医学においては一般的に用いられる用語であるが,人体医学ではあまり使用されておらず,人体医学 においては器質化肺炎に相当するものである。慢性肺炎と急性肺障害では病理所見上多数の違いが存在する。 器質化肺炎は,時間経過を経て器質化を伴う肺炎であるが,間質性肺炎の一分類である特発性器質化肺炎とは異なり,死因となることはない。 少数集団飼育されるビーグル犬には,慢性肺炎を含む呼吸器感染疾患などの自然発生肺病変が生じうるとされており,上記肺炎症例の慢性肺炎は,ビーグル犬の背景データにみられる典型的な偶発所見であった。 【丙E54,丙G11[枝番号1,2],20】ⅳ イヌ6か月試験では,上記肺炎症例を含む高用量群で,実験開始11日後に用量が25mg/kg/日から15mg/kg/日に変更された。なお,上記肺炎症例では,実験開始10日後に肺炎を発症した。 【甲E25〔18頁〕,丙C1〔212頁〕】(c) 上記認定事実によれば,上記肺炎症例では,実験開始10日後に肺炎が発症しており,そのために実験では高用量群では使用用量を減少させているが,当該イヌの肺が虚脱したことを示す記載 212頁〕】(c) 上記認定事実によれば,上記肺炎症例では,実験開始10日後に肺炎が発症しており,そのために実験では高用量群では使用用量を減少させているが,当該イヌの肺が虚脱したことを示す記載は全くなく,他方で病変により生じた肺葉の容積の減少や血流阻害による肺の淡色化は,時間経過を経て器質化した肺炎の一般的所見であり(丙E54〔5頁〕),慢性肺炎との所見と整合する。 また,薬剤による肺病変は,通常血流から両肺に広く影響を及ぼし,両肺にびまん性に発生するものである(丙E54〔5頁〕)が,上記所見は一肺葉のみに認められたものであり,薬剤による肺病変の特徴とは異なるものである(丙L2〔20頁〕では,初期においては局所的な障害となりうることが示されているが,承認後に おけるイレッサの間質性肺炎に関する専門家会議において初めて示された知見であるから,同知見を基礎に承認当時の危険性判断における非臨床試験結果の評価をすることは相当ではない。)。 そうすると,上記肺炎症例における肺炎は,急性肺障害であったと推認するに足りる事情はうかがわれず,かえって慢性肺炎であったことと整合するものであるから,慢性肺炎であるとの所見は相当であったというべきである。 以上によれば,上記肺炎症例における慢性肺炎とイレッサとの関連性は明らかでないというほかはなく,また,急性肺障害が屠殺の原因となったと認めるには足りない。 (d) なお,原告らは,上記肺炎症例において当該イヌが慢性肺炎であったとすると,実験開始10日後という短期間で発症するのは不自然である,GLP省令12条2項では,観察又は試験中に試験の実施に影響を及ぼすような疾病又は状況が見られる動物を,他の動物から隔離するとともに使用してはならないとされており,実験で使用されるイヌは健康なイ ,GLP省令12条2項では,観察又は試験中に試験の実施に影響を及ぼすような疾病又は状況が見られる動物を,他の動物から隔離するとともに使用してはならないとされており,実験で使用されるイヌは健康なイヌであるはずであるなど主張し,証人濱(第1回)もこれに沿う証言をする。 しかし,当該イヌがイヌ6か月試験開始後に慢性肺炎を発現していたことを認めるに足りる証拠はなく,慢性肺炎を発症していても,呼吸状態等に変化がない場合に,これを適切に除外して実験を行うことは困難である(乙E23〔84,85頁〕)。 したがって,所見に現れない肺虚脱などを前提として急性肺障害を説明することは合理性を欠くから証人濱の証言を採用することはできず,原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。 b 限定性肺胞中隔化生との所見について原告らは,肺胞中隔とは肺胞間の隔壁,すなわち間質であり,化生 とは,正常の組織から,正常には存在しない組織に置き換わることを意味するものであるから,限定性肺胞中隔化生は肺間質増殖に相当し,間質性肺炎に近い所見であるなど主張し,これに沿う濱六郎の陳述記載がある(甲E25〔20頁〕)。 イヌ6か月試験における所見では,当該動物にみられた限定性肺胞中隔化生は,軽度で,動物1例の単発所見であり,26週間の投与期間終了後に当該動物が剖検され,剖検時には1×1㎝のクリーム色の変色部が左肺中葉にみられ,組織検査において当該部位に軽度の限定性肺胞中隔化生がみられたとされている。 上記所見はイヌにまれな所見ではなく,肺に他の所見を伴うことなくみられる所見であることが知られており,加齢と関連して発現することがあるとされている(丙G11[枝番号1,2])。 そして,薬剤による肺病変は,通常血流から両肺に広く影響を及ぼし,両肺にびまん性に発生す る所見であることが知られており,加齢と関連して発現することがあるとされている(丙G11[枝番号1,2])。 そして,薬剤による肺病変は,通常血流から両肺に広く影響を及ぼし,両肺にびまん性に発生するものである(丙E54〔9頁〕)が,上記所見は限定性肺胞中隔化生という限局性の病変であり,左肺中葉の1×1㎝の部分のみに認められたものであり,薬剤による肺病変の特徴とは異なるものである(丙L2〔20頁〕では,初期においては局所的な傷害となりうることが示されているが,承認後におけるイレッサの間質性肺炎に関する専門家会議において初めて示された知見であるから,同知見を基礎に承認当時の危険性判断における非臨床試験結果の評価をすることは相当ではない。)。 以上によれば,限定性肺胞中隔化生の原因は明らかではなく,イレッサとの関連性を認めるには足りないというべきである。 (エ) ラット6か月試験の肺胞水腫等についてa ラット6か月試験の屠殺例の中に,肺胞浮腫等が見られるものがあった(別紙7(ラット6か月試験概要・結果)所見欄)。 組織所見として,気管支の異物性肉芽腫及び膿瘍形成,炎症を伴う中等度の多巣性肺胞水腫,肉芽腫性炎症を伴う中等度の多巣性急性潰瘍が記載されている(甲B9,丙B17[枝番号1],19)。 イレッサ反復投与毒性試験における肺所見の概要(丙C4の2)においては,強制経口投与はプラスチック・カテーテルを口腔及び食道堂から胃内に直接挿入して投与するが,誤って肺に投与すると,胸腔に広範な病理変化を起こすことがあり,これは明らかに誤投与に関連するもので,被験薬の毒性に関連したものではないとされている。 上記屠殺例について,原告らは,上記屠殺例には誤投与がなかったことを前提として,肺胞浮腫(原告らは肺胞水腫と同義で使用す に誤投与に関連するもので,被験薬の毒性に関連したものではないとされている。 上記屠殺例について,原告らは,上記屠殺例には誤投与がなかったことを前提として,肺胞浮腫(原告らは肺胞水腫と同義で使用する。)等の所見がイレッサの毒性を示すものであったなど主張する。 これに対し,被告らは,上記屠殺例には誤投与があったことを前提として,肺胞水腫等はイレッサの毒性を示すものではないなど主張する。 b そこで,上記屠殺例の肺胞水腫等の所見を評価する上で前提となる誤投与があったかを検討する。 後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実は次のとおりである。 (a) ラット6か月試験における試験報告書の添付資料であるケースカードには,上記屠殺例につき誤投与があったとの記載はなかった。 なお,同ケースカードには,肺組織所見で肺胞水腫の所見と気管支の所見(異物性肉芽腫及び膿瘍形成)が見られるとされ,死因に繋がるものとして注が付されていた。 【甲B9,甲E25〔19,20 頁〕,丙B17[枝番号1],19】(b) 試験報告書の本文(丙B16)には,ある雄の死因は口内にできたエナメル上皮腫と関連しており,別の雄の死因は誤投与の結果で あった,他の2匹の雄の死因は明らかではなかった旨記載されていた。【丙B16】(c) 本件訴訟提訴後に提出された「イレッサ反復投与毒性試験における肺所見の概要」(丙C4[枝番号1,2])には,多巣性肺胞水腫がみられた例では,誤って肺に投与して複数の胸部器官に病変がみられたため,当該動物が切迫屠殺された旨記載されていた。 【丙C4[枝番号1,2]】(d) 試験報告書には,上記屠殺例では,食道には横位に8mm 拡張した,肺ではすべての肺葉でまだらに変色(赤色,暗赤色)し,すべての肺葉で均等に変化(海綿様 いた。 【丙C4[枝番号1,2]】(d) 試験報告書には,上記屠殺例では,食道には横位に8mm 拡張した,肺ではすべての肺葉でまだらに変色(赤色,暗赤色)し,すべての肺葉で均等に変化(海綿様構造)し,肺で軽度の多巣性肺胞うっ血,随伴する炎症を伴う中等度の多巣性肺胞水腫がみられた,気管支では限局性の異物性肉芽腫と膿瘍が形成されていた,食道では肉芽腫性炎症を伴う中等度の多巣性急性潰瘍がみられたとの所見の記載があった。【甲B9,丙B17[枝番号1,2],19】(e) ラット6か月試験では,非水溶液であるイレッサを液体に懸濁させて,ラットにプラスチック・カテーテルを口腔及び食道から胃内に直接挿入して投与する方法で,200匹のラットを対象に1日1回6か月にわたり強制投与することにより行われた。 強制経口投与は,食道ではなく気管から気管支に誤って挿入される誤投与が発生することがある。誤投与があった場合には,胸腔に広範な病理変化を起こすことがある。 【甲E44〔38頁〕,乙E23〔99頁〕,丙C1〔208頁〕,丙E54〔6,7頁〕,丙G6,7,22】c 上記認定事実によれば,ラット6か月試験における強制投与方法は,カテーテルをラットの口から挿入し.胃内に直接挿入するというものであり,専門家が行うとはいえ,誤投与の可能性が生じうるもの であり,誤投与をした場合には胸腔に広範な病理変化を起こすことがある。 上記屠殺例では,すべての肺葉がまだらに変色し,すべての肺葉で均等な変化が認められ,病理所見では,軽度の多巣性肺胞うっ血や随伴する炎症を伴う中等度の多巣性肺胞水腫が認められており,誤投与の際の所見と整合する所見が認められ,上記屠殺例において,食道が横位に8mm 拡張したことも誤投与をうかがわせるものである。気管支の異 伴する炎症を伴う中等度の多巣性肺胞水腫が認められており,誤投与の際の所見と整合する所見が認められ,上記屠殺例において,食道が横位に8mm 拡張したことも誤投与をうかがわせるものである。気管支の異物性肉芽腫と膿瘍形成の所見も,誤ってカテーテルを気管から気管支に挿入し,イレッサ懸濁液を注入した場合,カテーテルによって気管支を傷つけ,又はカテーテルに付着する異物や懸濁液中のイレッサ粉末が気管支に付着し,異物性肉芽腫や感染による膿瘍が形成されることがありうる(丙G21)ことから,誤投与と矛盾する所見ではない。 そうすると,試験報告書の添付資料であるケースカードには誤投与との記載がなかったとしても,試験報告書の本文には誤投与であることが記載されており,本来これらは一体となる資料であるから,ケースカードに記載がないことは,誤投与を否定する根拠となると認めるに足りない。また,気管支に関する異物性肉芽腫と膿瘍形成は,肺障害が発生したことを示唆する根拠となるともいいがたい。むしろ誤投与と整合する所見が多数みられ,死因に繋がるものとされた気管支の異物性肉芽腫と膿瘍形成の所見も誤投与と矛盾するものではないのであるから,上記屠殺例には誤投与があったと認めるのが相当である。 なお,原告らは,誤投与によって肺胞水腫が生じないなど主張するようであるが,誤投与によって肺胞水腫が生じないとする根拠がない(丙E54)から,原告らの上記主張には理由がない。 d 以上より,上記屠殺例には誤投与があったと認められ,各所見は, 誤投与と関連するものであって,イレッサとの関連性は認められないから,原告らの上記主張には理由がない。 (オ) 小括以上のとおり,イレッサの毒性試験においては,イレッサの毒性を示すものと解釈すべき所見は認められず,肺胞マクロファー との関連性は認められないから,原告らの上記主張には理由がない。 (オ) 小括以上のとおり,イレッサの毒性試験においては,イレッサの毒性を示すものと解釈すべき所見は認められず,肺胞マクロファージの増加の所見をイレッサの肺毒性と結びつけて検討することも困難であったというべきである。 (4) 治験の有害事象及び副作用に関する結果等の評価治験の有害事象及び副作用の結果の概要は,別紙28(治験における安全性情報一覧表)のとおりである。 ア認定事実臨床試験,治験,有害事象及び副作用の評価等に関する事実(前提事実[前記第3章第7]及び前記第5章第2の2(1)認定の事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)は次のとおりである。 (ア) ヘルシンキ宣言以降の医薬品の安全性等の確保に関する動きヒトを対象とする医学研究の倫理的原則としてのヘルシンキ宣言(昭和38年[1964 年])は,医学の進歩は最終的にはヒトを対象とする試験に一部依存せざるを得ない研究に基づくとしている。 我が国においては,昭和54年法律第56号による薬事法の改正で,医薬品等の有効性及び安全性の確保が中心課題とされ,,医薬品の製造又は輸入の承認を受けようとする者が,承認申請書に添付すべき臨床試験の試験成績等の資料に関する規定等が整備された。 その後,1991年(平成3年)には,日米EU医薬品規制調和(ハーモナイゼーション)国際会議(ICH)が組織され,それ以降,日米EUの三極相互間で,医薬品の品質,安全性,有効性,規制情報等を調 和させるための活動が行われるようになり,そこで合意が得られた事項について,我が国も,順次,合意に対応するための制度等の改訂,整備を行っているところである。 【甲D20,26,29[枝番号1~3],乙D21 めの活動が行われるようになり,そこで合意が得られた事項について,我が国も,順次,合意に対応するための制度等の改訂,整備を行っているところである。 【甲D20,26,29[枝番号1~3],乙D21[枝番号15],27[別表関連するICHガイドライン及び通知について]】(イ) 承認審査資料及びその依拠すべき基準薬事法14条3項前段により医薬品についての承認申請書に添付すべき資料(承認審査資料),承認審査資料の収集,作成に当たって遵守されるべきGLP,GCP及び信頼性の基準,承認審査資料を作成するための試験の指針が定められていたこと,平成14年7月当時,一般的な医薬品の臨床試験の指針として,一般指針(乙D27),統計的原則(甲P15)等合計18の指針が定められており,そのうち,抗がん剤の臨床試験の指針としては,旧ガイドライン(乙D7)が定められていた(乙D4〔別紙「試験の指針」7項〕)ことは,前記第3章第6の2(1)のとおりである。 (ウ) 治験における安全性情報の取り扱い及び治験総括報告書の作成に関する指針(ガイドライン)治験中に得られる安全性情報については,昭和55年の厚生省薬務局長通知(同年10月9日薬発第1330号)により,その速やかな報告が求められていたが,治験中に得られる重要な安全性情報の収集方法を各国で統一し,必要な措置を講じることは有益なことであるとして,ICHにおける三極の合意事項に基づいて,aの指針が示され,その後,副作用等の報告書の様式や記載事項が順次整備された。 a 「治験中に得られる安全性情報の取り扱いについて」平成7年3月20日薬審第227号厚生省薬務局審査課長通知(乙D13)(a) 基本用語 ⅰ 有害事象有害事象とは,医薬品が投与された患者又は被験者に生じたあらゆ 扱いについて」平成7年3月20日薬審第227号厚生省薬務局審査課長通知(乙D13)(a) 基本用語 ⅰ 有害事象有害事象とは,医薬品が投与された患者又は被験者に生じたあらゆる好ましくない医療上のできごとのことをいう。必ずしも当該医薬品の投与と因果関係が明らかなもののみを示すものではない。 つまり,有害事象とは,医薬品が投与された際に起こる,あらゆる好ましくない,あるいは意図しない徴候(臨床検査値の異常を含む),症状,又は病気のことであり,当該医薬品との因果関係の有無を問わない。 ⅱ 副作用副作用とは,病気の予防,診断若しくは治療,又は生理機能を変える目的で投与された(投与量にかかわらない)医薬品に対する反応のうち,有害で意図しないものをいう。医薬品に対する反応とは,有害事象のうち当該医薬品との因果関係が否定できないものをいう。 ⅲ 予測できない副作用副作用のうち,治験担当医師用治験薬概要に記載されていないもの,又は記載されていてもその性質や重症度が記載内容と一致しないもの(b) 重篤な有害事象又は副作用治験中に有害事象が発現し,当該医薬品との因果関係が疑われると,その後の開発方針に重要な変更が必要となる場合があり,その副作用の性質(重篤度),又はそれが重要な予測できない情報であるか否かにより,緊急報告の必要性の有無を判断するために必要な基準となる概念である。 重篤な有害事象又は副作用とは,医薬品が投与された際に生じた あらゆる好ましくない医療上のできごとのうち,①死に至るもの(副作用によることが疑われる死亡例のことをいう。甲D17),②生命を脅かすもの(当該事象が起こった際に患者が死の危険にさらされていたという意味であり,その事象がもっと重症なものであったなら死に至ってい 用によることが疑われる死亡例のことをいう。甲D17),②生命を脅かすもの(当該事象が起こった際に患者が死の危険にさらされていたという意味であり,その事象がもっと重症なものであったなら死に至っていたかもしれないという仮定的な意味ではない。),③治療のため入院又は入院期間の延長が必要となるもの,④永続的又は顕著な障害・機能不全に陥るもの(「障害」とは,日常生活に支障をきたす程度の機能不全の発現を示すものである。),⑤先天異常を来すもののいずれかにあたるものをいう(「重篤」とは,患者の生命又は機能を危険にさらす事象に関連した患者や事象の転帰又は処置基準に基づく用語であり,重篤度が規制上の報告義務を規定する指針となるものである。ある特定の事象の強さ[激しさ]を表現するために使われ,医学的意義は比較的小さい場合を含む「重症」という概念とは区別される。)。 (c) 副作用の予測可能性緊急報告の目的が,重篤な副作用に関する新しい重要な情報を規制当局,治験担当医師及びその他適切な関係者に提供することにあるところから,ある事象が予測できる者か否かを判断するために必要な指針である。 したがって,予測できない副作用とは,治験担当医師用治験薬概要に記載されていない副作用,又は記載されていても,その性質や重症度が記載内容と一致しないものをいう。 (d) 緊急報告のための基準ⅰ 報告すべきもの(i) 重篤で予測できない副作用重篤で予測できない副作用は,すべて緊急報告の対象とな る。 重篤であっても予測できる副作用は,通常,緊急報告の対象とはならない。また,臨床試験中に生じた重篤な事象で当該医薬品との因果関係が否定されたものは,それが予測できるか否かとは関係なく緊急報告の対象とはならない。重篤でない副作用は,予測でき 報告の対象とはならない。また,臨床試験中に生じた重篤な事象で当該医薬品との因果関係が否定されたものは,それが予測できるか否かとは関係なく緊急報告の対象とはならない。重篤でない副作用は,予測できるか否かにかかわらず,通常,緊急報告の対象とはならない。 治験依頼者又は製薬会社は,重篤で予測できない副作用の報告を受けた場合には,緊急報告の必要条件に該当する内容のときには,情報源が何であれ該当する規制当局に迅速に報告しなければならない。 治験における症例については,因果関係の評価がなされるべきである。治験担当医師又は治験依頼者により,当該医薬品と因果関係が示唆されると判断されたものは,全て副作用とみなされる。市販中の医薬品に対する有害事象の報告は,当該医薬品と因果関係がある可能性が高い。 医薬品と事象との因果関係の大きさを記述するために多くの用語や尺度が用いられるが,「因果関係があるらしい」,「因果関係が疑われる」又は「因果関係は否定できない」のような用語は,因果関係を示唆していると考えられる。 なお,治験中に得られる安全性情報の取り扱いについてのQ&Aでは,発現した事象と治験薬との因果関係は基本的には実際に治験を実施している治験担当医師によって評価されるべきであるが,治験担当医師により因果関係が否定された事象でも,治験依頼者が先行する治療や実施中の治験の他施設での情報等を考慮した際に因果関係が疑われる等の状況にある場合に は,当該治験担当医師や治験総括医師等とも相談の上で因果関係の再評価を行うこととされており,また因果関係が不明の場合は,因果関係が否定できないととるべきで,それが重篤で予測できない有害事象であれば緊急報告の対象となるとされている。 (ii) 重篤な副作用の症例報告以外であっても,①予測 た因果関係が不明の場合は,因果関係が否定できないととるべきで,それが重篤で予測できない有害事象であれば緊急報告の対象となるとされている。 (ii) 重篤な副作用の症例報告以外であっても,①予測される重篤な副作用の発現頻度が臨床的に重要と判断されるほど増加した場合,②生命を脅かすような疾患に使用される医薬品がその効果を有しないなど,患者が大きな危険にさらされる場合,③新たに得られた動物実験結果から安全性に関する重大な知見が得られた場合などでは,緊急報告の対象となる。 (e) 緊急報告に含まれるべき必須情報緊急報告の目的に最低限必要な情報は,患者が特定されていること,被疑薬,報告の情報源,重篤で予測できない副作用と判断できる事象・転帰,及び治験においては被疑薬と当該事象又は転帰との因果関係が否定できないこととされている。 副作用の詳細については,当該副作用を重篤と判断した基準,発現部位と重症度を含めた副作用の詳細を示し,報告された徴候,症状の詳細に加え,可能な限りその副作用の診断名を特定できるよう努めるべきであるとされている。具体的には,発現日時,消失日時又は持続期間,投与中止後の経過,再投与後の経過,場所,転帰(死亡症例については,死因,死因と当該副作用との関連性,可能であれば剖検結果等),他の情報(既往歴など)などである。 b 治験総括報告書ガイドライン(甲D16,乙D5)平成8年5月に,ICHの三極の合意事項に基づいて,治験の総括報告書の作成に関するガイドラインが定められた。 このガイドライン(「12. 安全性の評価」)においては,安全性に関するデータの分析は三段階に分けて考えることができる,①治験からどの程度まで安全性を評価し得るのかを確認するために,投与量,期間及び患者数を検討すること,② 安全性の評価」)においては,安全性に関するデータの分析は三段階に分けて考えることができる,①治験からどの程度まで安全性を評価し得るのかを確認するために,投与量,期間及び患者数を検討すること,②比較的よく見られる有害事象,臨床検査値の変化などを明確にし,妥当な方法で分類し,治療群間で比較を行い,さらに時間依存性,人口統計学的特性との関係など副作用又は有害事象の頻度に影響する可能性のある因子について適切に分析すること,③重篤な有害事象及び他の重要な有害事象を明確にすることが挙げられる。これは,通常,薬剤との関連が明確であるか否かにかかわらず,有害事象のために試験完了前に脱落又は死亡した患者を十分に調べることにより検討されるとされている。 有害事象については,①試験治療の開始後に発現した全ての有害事象を要約表に表示すること,②有害事象は器官別にグループ化すること,③この表では,適当な因果関係分類を用いてもよい,④因果関係の評価を用いた場合でも,関連性の有無の評価に関係なく,併発症と考えられる事象を含むすべての有害事象を表に含めること,⑤当該治験又は安全性に関するデータベース全体をさらに分析することは有害事象が薬剤に起因するか否かを明らかにすることの助けになることがあるとされている。 c 「治験薬に係る副作用・感染症症例等の報告について」平成10年5月15日医薬審第403号厚生省医薬安全局審査管理課長通知(乙D29)平成10年5月,前記aの指針に基づく報告の様式及び記載上の留意点について,次の(a),(b)等を主な内容とする通知が発出された。 なお,(a)(b)の報告書,症例票のほか,「治験薬研究報告・外国における措置報告書」,「治験薬の研究報告・外国における製造等の中 止,回収,廃棄等の措置調査報告書」の様 が発出された。 なお,(a)(b)の報告書,症例票のほか,「治験薬研究報告・外国における措置報告書」,「治験薬の研究報告・外国における製造等の中 止,回収,廃棄等の措置調査報告書」の様式や記載事項もこの通知により定められた。 (a) 治験薬副作用・感染症症例報告書には,報告対象の副作用・感染症名,重篤性,転帰,因果関係,情報入手日等を記載する。重篤性の評価が担当医等と報告者で評価が異なる場合は,重篤性を重く評価している方の内容を記載するものとされ,因果関係については,当該症例に関して報告時点の情報に基づいた報告企業の判断を記載することとされている。なお,担当医の因果関係についての判断は,症例票に記載するものとされている。 (b) 治験薬副作用・感染症症例票には,情報入手日,医薬品副作用歴,主な既往歴,被験者等の体質,投与の開始日と終了日,副作用・感染症名,副作用・感染症の発現状況,症状及び処置等の経過,転帰,担当医等の意見,報告企業の意見等を記載するものとされている。 副作用・感染症については,その症状の発現前から転帰の確認までの経過を経時的に全体像が把握できる程度に簡潔に記載することとされている。なお,副作用・感染症の評価の上から必要と思われる場合には,治験薬投与前の被験者等の状態や副作用・感染症に対する治療等も記載するものとされている。転帰については,「回復」,「軽快」,「回復したが後遺症がある」,「未回復」,「死亡」などから記載することとされ,不明の場合には「不明」と記載することとされている。「死亡」とは担当医等が副作用・感染症と死亡との関連がある又は否定できないと考えている場合を指し,原疾患の悪化等により死亡した場合は該当しないとされている。また,複数の副作用・感染症があり,その転帰が異なる場合には, が副作用・感染症と死亡との関連がある又は否定できないと考えている場合を指し,原疾患の悪化等により死亡した場合は該当しないとされている。また,複数の副作用・感染症があり,その転帰が異なる場合には,個別の転帰を経過欄に記載することとされている。 d 「治験薬に係る副作用・感染症症例等の報告要領について」(平成10年12月14日医薬審第1174号厚生省医薬安全局審査管理課長通知,平成12年11月20日医薬審第1249号一部改正)(乙D6)平成10年12月,前記a及びbに基づいて取り扱われていた医薬品に係る治験に関する副作用等の報告について,報告対象や報告期限,提出先,提出方法等,報告義務期間等が定められた。 (エ) 医薬品一般の臨床試験に関する指針(ガイドライン)前記第3章第6の2(1)のとおり,平成14年当時,臨床試験の指針は合計18件あり,その主なものは,平成10年に定められた一般指針(乙D27)及び統計原則(甲P15)であり,その概要は,前記第5章第2の2(1)ウのとおりである。なお,統計的原則においては,安全性及び認容性評価について,次のように定められた。 a 評価の範囲すべての臨床試験において,安全性及び忍容性の評価は重要な要素である(安全性とは,臨床試験では通常臨床試験,バイタルサイン,臨床的有害事象,その他特別な安全性によって評価される,被験者の医療上の危険に関するものをいう。忍容性とは,明白な有害作用が被験者にとってどれだけ耐えうるかの程度を示すものである。)初期の相では,安全性及び忍容性の評価の大部分は探索的な性質のものであり,敏感にとらえられるのは明らかな毒性の出現のみである。 しかし,後期の相では,被験薬の安全性及び忍容性のプロファイルを,より多くの被験者により十分に特徴づけ 価の大部分は探索的な性質のものであり,敏感にとらえられるのは明らかな毒性の出現のみである。 しかし,後期の相では,被験薬の安全性及び忍容性のプロファイルを,より多くの被験者により十分に特徴づけて確立することができる。 ある種の試験は,他の医薬品又は被験薬の別の用量と比較して,安 全性及び忍容性に関する優越性又は同等性についての具体的な主張のために計画される場合がある。このような承認に関わる具体的な主張は,対応する有効性の主張に対し要求されるのと同様に,検証的試験による適切な証拠によって確認されるべきである。 b データ収集異なる臨床試験からのデータを結びつけることを容易にするために,試験プログラム全体を通して一貫したデータ収集及び評価の方法論を用いることが薦められる。共通の有害事象の辞書の使用は特に重要である。有害事象の辞書は,器官分類,基本語又は慣用語という,3つの異なる水準で有害事象データを要約できるように構成されている。有害事象を要約する通常の水準は基本語であり,同一の器官分類に属している基本語は,データの記述的提示の際にまとめることができる。 c 評価されるデータの提示評価の際には,すべての安全性及び忍容性変数に注意を払う必要があるため,広範な方法を治験実施計画書に示すべきであり,試験治療と関係していると考えられるか否かにかかわらず,すべての有害事象を報告すべきである。評価の際には,研究対象集団の利用できるデータの全てを用いるべきである。測定単位と臨床検査変数の参照範囲は注意深く定義すべきである。もし異なる単位又は異なる参照範囲を同一の試験で用いるのであれば,統一的な評価を可能とするために測定値を適切に標準化すべきである。毒性評価尺度の使用は事前に定め正当化しておくべきである。 d 統 もし異なる単位又は異なる参照範囲を同一の試験で用いるのであれば,統一的な評価を可能とするために測定値を適切に標準化すべきである。毒性評価尺度の使用は事前に定め正当化しておくべきである。 d 統計的評価安全性及び忍容性の研究は多次元的な問題である。どのような被験薬についても,何らかの特定の有害作用は通常予測され特定してモニ ターすることができるが,起こりうる有害作用の幅は大変広く,新しく,予想もされない作用が常に生じうる。更に,禁止薬の使用による治験実施計画違反の後で発生した有害事象はおそらく偏りの原因となるであろう。このような背景があることが,被験薬の安全性及び忍容性の解析的評価が統計的に困難となる原因となり,検証的試験から結論が確定するような情報を得ることを例外としている。 e 統合した要約被験薬の安全性及び忍容性に関する特質は,一般に被験薬を開発する過程で逐次的に,複数の試験を通して要約され,特に承認申請時には必ず要約される。しかし,この要旨の有用性は高品質のデータを伴い適切に計画及び実施された個々の比較試験に依存する。 f 安全性データ安全性情報の要約では,潜在的な毒性を示すいかなる徴候に対しても徹底的に安全性データベースを調べることが重要であり,裏付けるパターンを探索してその徴候を追跡することが重要である。 このようなデータベースからの有害事象発現データは,比較する集団を欠くことから評価が困難であり,この困難性を克服するためには比較試験からのデータが特に有益である。 データの探索から判明した毒性を有する可能性のある徴候はすべて報告すべきである。これらの潜在的有害作用がどれだけ現実に起こりうるかの評価には,多数の比較の実施により生じる多重性の問題を考慮すべきである。評価には,有害事象の 性を有する可能性のある徴候はすべて報告すべきである。これらの潜在的有害作用がどれだけ現実に起こりうるかの評価には,多数の比較の実施により生じる多重性の問題を考慮すべきである。評価には,有害事象の発生に曝露期間若しくは追跡期間又はその両方が潜在的に関連しているかどうかを探索するため,生存解析手法を適切に使用すべきである。確認された有害作用に関連するリスクは,リスクと利益の関係を正しく評価するために適切に定量化すべきである。 (オ) 抗がん剤の臨床試験に関する指針(ガイドライン)前記第5章第2の2(1)エのとおり,学会指針が作成された昭和60年以降,臨床試験についてのガイドラインについての研究が行われ,平成3年に旧ガイドラインが作成され,イレッサ承認の時期を経て,平成17年11月に新ガイドラインが作成するまでの間は,この旧ガイドラインにより新医薬品の臨床的有用性の評価が行われており,Ⅱ相承認が認められていた。 (カ) 治験に関する原則第3章第6の2(1)及び同第7の3(2)記載のとおり,承認審査資料となる臨床試験(治験)は,GCPに従って実施されたものでなければならない。 そして,GCP省令及びGCP省令を受けた各種通知により,被験者の人権,安全及び福祉の保護を図りつつ,治験の科学的な質と成績の信頼性を確保することを目的として,治験に関する原則的事項が定められていた(「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令の施行について」平成9年3月27日薬発第430号薬務局長通知・丙D6,「医薬品の臨床試験の実施の基準の運用について」平成9年5月29日薬安第68号薬務局審査課長・安全課長通知・丙D7)。その内容は,前記第5章第2の2(1)カのとおりである。 治験責任医師は,死亡例を含む重篤な有害事象について,治験依頼 ついて」平成9年5月29日薬安第68号薬務局審査課長・安全課長通知・丙D7)。その内容は,前記第5章第2の2(1)カのとおりである。 治験責任医師は,死亡例を含む重篤な有害事象について,治験依頼者からの追加情報の要求に対して,これを開示する義務を負い,その開示を怠った又は拒否した場合には,以後の治験に参加できなくなるなどの事実上の制裁がある(証人福岡主尋問〔61頁〕)。 (キ) 副作用の重篤度の分類基準副作用等報告を行う場合の副作用の重篤度の基準である「医薬品等の副作用の重篤度分類基準」,「NCI-CTCグレード」については, 前記第3章第8の3のとおりである。 イ治験における有害事象死亡例について(ア) 原告らは,有害事象が被験薬との因果関係が否定されたものを指すことを前提として,治験担当医師が数少ない症例のみを見て因果関係の有無を判断することが困難であるから,治験担当医師が被験薬との因果関係を否定した有害事象であっても,治験担当医師の意見のみで被験薬との因果関係を否定してはならず,臨床試験のすべての結果やその他の副作用情報等を総合して因果関係の有無を判断しなければならず,被験薬との因果関係を完全に否定できない有害事象はすべて副作用として取り扱わねばならないと主張する。また,これを前提に,原告らは,治験における有害事象死亡例のほとんどが,イレッサによる副作用に分類すべき症例であったと主張し,有害事象が報告された多くの死亡例には発症パターンがあり,皮膚,消化器,口や目などの粘膜,呼吸器,肝臓,代謝臓器,尿路生殖器粘膜,心臓,血管内皮の障害など,種々の臓器の傷害に伴う症状が多彩に出現し,重篤例の多くの場合には急性呼吸傷害が重篤化して死亡することが多い,一般的に数%~数十%もの有害事象がイレッサと無関係と考 粘膜,心臓,血管内皮の障害など,種々の臓器の傷害に伴う症状が多彩に出現し,重篤例の多くの場合には急性呼吸傷害が重篤化して死亡することが多い,一般的に数%~数十%もの有害事象がイレッサと無関係と考えることは不合理であるから,これらはイレッサとの因果関係が否定できない有害事象と考えるべきであったとの濱六郎の意見書がある(甲E25〔51~53頁〕)。 これに対し,被告らは,有害事象が因果関係の有無を問わず包括的に安全性評価に取り上げられることを目的とした概念であることを前提として,有害事象が類型的に副作用ではないと評価する考え方が採られておらず,治験で副作用という評価を受けなかった個別の有害事象であっても,重篤な有害事象に関する個別的な検討や,その他の情報との全体的な整合性の中での検討において,必要に応じて因果関係が再検討されることがあると主張する。 原告らも,すべての有害事象に関する治験担当医師の判断を疑うべきであったと主張するものではなく,少なくとも重篤な有害事象に関する因果関係については慎重に判断されるべきであると主張するものであるから,原被告の主張は,副作用だけでなく有害事象についても,治験担当医師の判断のみならず,他の安全性情報を総合して検討した上で因果関係が慎重に検討されることがあるという限度では共通するものであるといえる。しかし,前提となる有害事象の捉え方の見解が異なることにより,副作用に関する評価(特に副作用の発症頻度)を異にするものである。 (イ) まず,原告らの主張の前提についてみる。 a 治験における有害事象は,医薬品が投与された患者又は被験者に生じたあらゆる好ましくない医療上のできごとをいい,必ずしも被験薬との因果関係が明らかなもののみを示すものではない。治験における副作用とは,病気の予防 有害事象は,医薬品が投与された患者又は被験者に生じたあらゆる好ましくない医療上のできごとをいい,必ずしも被験薬との因果関係が明らかなもののみを示すものではない。治験における副作用とは,病気の予防,診断もしくは治療又は生理機能を変える目的で投与された医薬品に対する反応のうち有害で意図しないものをいい,医薬品に対する反応とは有害事象のうち被験薬との因果関係が否定できないものをいう。 有害事象は因果関係の有無にかかわらず安全性評価の際の資料となり(統計的原則6.3参照),因果関係を問題として有害事象を分類する場合でも,因果関係が否定できないものか否かを検討し,因果関係が否定できない限り,因果関係があるものと同様に扱われることとされている。(平成7年3月20日薬審第227号厚生省薬務局審査課長通知「治験中に得られる安全性情報の取り扱いについて」,乙D13,乙H17,丙D3)このように,有害事象と副作用という概念は,治験担当医師による判断の困難性を考慮した上でそれぞれを適切に評価するように構築さ れたものであると認められる。 b 臨床試験(治験)については,治験担当医師が因果関係の有無を判断し意見を提出することとされているとともに,モニタリングにより治験がGCP省令や試験実施計画書に従って行われているかなどが直接記録を閲覧することにより確認され(GCP省令21,22条),監査担当者による監査が実施され(GCP省令23条),一定期間記録の保存が義務づけられている(GCP省令26,34,41条)などの方策により,治験の品質が保証される制度設計がされている。 このような制度に照らすと,治験担当医師の判断は,一定の限度で尊重されるが,個別の有害事象と被験薬との因果関係は,重篤な有害事象に関する個別的な検討や,その他の治験 される制度設計がされている。 このような制度に照らすと,治験担当医師の判断は,一定の限度で尊重されるが,個別の有害事象と被験薬との因果関係は,重篤な有害事象に関する個別的な検討や,その他の治験や副作用報告など情報との全体的な整合性の中での検討において,必要に応じて再検討されることが制度上予定されていると解するのが相当である。 c 以上のとおりであるから,原告らの主張が治験担当医師による判断の限界等を根拠に一般論として有害事象を副作用として取り扱うべきであるとの主張を含むものであるとすれば,原告らの主張は,現在の医薬品の安全性評価の制度を覆すものであって,当然には採用することができない。 (ウ) 次に,治験における有害事象死亡例についてみると,なるほど,健常者において稀有な有害事象が続いて発現した場合には,治験薬との関連性を疑うことが相当であるというべきである。 しかし,肺がん患者,特に非小細胞肺がんの患者には,がんの症状として,呼吸困難,呼吸不全,低酸素血症などの呼吸器症状や,肺塞栓症,閉塞性肺炎,がん性リンパ管症など,様々な肺の症状が現れ,末期では重篤な呼吸困難から死に至ることが少なくないだけでなく,合併症や基礎疾患がある場合や,併用薬の影響などを含めると,同時期に複数 の有害事象が生じたとしても,直ちに治験薬と関連付けることはできない。 したがって,前記甲E25の記載を採用することはできず,原告らが副作用に分類すべきであるとする有害事象死亡例は,いずれも同時又は時間的に連続している有害事象を一連の有害事象として捉えて評価するものであるから,個別の有害事象との因果関係の有無を判断することなく,これらを副作用症例に分類すべきであったとは認められない。 (エ) 以上のとおりであるから,治験における有害事象死 捉えて評価するものであるから,個別の有害事象との因果関係の有無を判断することなく,これらを副作用症例に分類すべきであったとは認められない。 (エ) 以上のとおりであるから,治験における有害事象死亡例については,各種画像所見や臨床検査結果などを踏まえて,複数の有害事象に関していずれが治験薬に起因するものかを慎重に判断することが必要不可欠であり,有害事象と治験薬との因果関係の有無は,個別の有害事象ごとに判断されるべきものであるというべきである。 ウ IDEAL1試験において肺炎による急性呼吸不全が死因とされた症例について原告らは,治験(IDEAL1試験(甲B16[枝番号2]〔C30~33〕,甲E25,76〔16-①症例〕))において急性肺障害ないし間質性肺炎による副作用死亡例が存在していたと主張し,証人濱(第2回)はこれに沿う証言をする。そこで,上記症例が間質性肺炎による副作用死亡例として扱うべきであったかを検討する。 (ア) 後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実は,次のとおりである。 a 16-①症例では,肺炎による急性呼吸不全が死因とされ,治験担当医師は急性呼吸不全とイレッサとの因果関係を判断しなかったため,因果関係ありと扱われた。上記肺炎はCOSTART用語によるものであった。 被告会社の被告国に対する副作用報告では,初回報告では,「原因 不明の死亡(死亡に至る事象)」,「呼吸困難(死亡のおそれ,入院に至る事象)」と報告され,治験担当医師の意見未入手とされていたが,追加報告では,「急性呼吸不全(死亡,死亡のおそれ,入院,その他医学的に重要な事象)」に変更され,治験担当医師の意見は,「鑑別診断には及んでいないが,ZD1839(イレッサ)との関連性があると考えている」とされた。 【甲B16[枝番号2 おそれ,入院,その他医学的に重要な事象)」に変更され,治験担当医師の意見は,「鑑別診断には及んでいないが,ZD1839(イレッサ)との関連性があると考えている」とされた。 【甲B16[枝番号2]〔C30~33〕,丙B3[枝番号10の1・2],丙C1〔478頁表ト-84〕】b 16-①症例では,イレッサ投与開始から59日目にグレード4の肺炎が発症し,60日目に死亡した。 59日目及び60日目には,ピペラシリンとタゾバクタムの併用,アミカシン,クラリスロマイシン,ヘパリンナトリウム,ドーパミン,レギュラーインスリン,メチルプレドニゾロン(投与量不明)等が各投与された。メチルプレドニゾロンは,「薬剤反応の疑い」により投与されたが,その他の薬剤は「肺炎の疑い」により投与された。 なお,メチルプレドニゾロンは,間質性肺炎に対する治療薬であるステロイド薬の1種であるが,末期がんにおける全身倦怠感などに対する緩和療法として投与されることがある(がんによる死亡患者の98%にステロイド薬が投与され,そのうち78%が末期がんによる全身倦怠感などの緩和目的で投与されている。)。その他の薬剤は院内肺炎(入院後48時間以降に新たに出現した肺炎)に対する治療薬(抗生物質・抗菌薬)である。なお,院内肺炎とは,基礎疾患があり,免疫能や全身状態が良くない易感染状態の患者などに対して,病原微生物の侵入による発症するものである。 【甲B16[枝番号2]〔C30~33〕,丙H47】cCOSTART用語では肺炎のみならず肺臓炎(間質性肺炎)など も「肺炎」とされる。 【甲E25〔56頁〕,乙B12[枝番号4]】(イ) 上記認定事実によれば,当該治験担当医師は,「肺炎」による急性呼吸不全と判断しているところ,「肺炎」は,COSTART用語上 炎」とされる。 【甲E25〔56頁〕,乙B12[枝番号4]】(イ) 上記認定事実によれば,当該治験担当医師は,「肺炎」による急性呼吸不全と判断しているところ,「肺炎」は,COSTART用語上では間質性肺炎を含む概念であるが,「肺炎の疑い」により投与されたピペラシリンとタゾバクタムの併用などが細菌性の肺胞性肺炎に対する治療薬であり,メチルプレドニゾロンは「薬剤反応の疑い」により投与されており,間質性肺炎の診断がされていたものではなく,当該治験担当医師が細菌性の肺胞性肺炎を疑っていたことは否定できない。 以上によれば,16-①症例を急性肺傷害ないし間質性肺炎に関する副作用症例として扱うべきであったとはいえない。(なお,被告らは,緩和療法によるメチルプレドニゾロンの投与の可能性があると主張するが,16-①症例ではメチルプレドニゾロンは「薬物反応の疑い」により投与されている以上,末期がんによる全身倦怠感等に対する緩和療法としての投与の可能性を考えるのは相当ではない。)エ IDEAL2試験において直接又は間接的な死因となる重篤な有害事象が認められた症例について原告らは,治験(IDEAL2試験)において直接又は間接的な死因となる重篤な有害事象が認められた死亡例4例(甲E76〔39-⑫,⑭,⑯,⑰症例〕,丙B20)がいずれも副作用死亡例であったと主張し,証人濱はこれに沿う証言をする。 (ア) 39-⑫症例(患者2028/0105)(甲E76〔39-⑫症例〕,甲B17[枝番号2]〔C381,382〕)39-⑫症例では,直接又は間接的な死因となる重篤な有害事象として呼吸困難が発症しているため,呼吸困難と死亡との間の因果関係は否 定できないものというべきである。そこで,イレッサと呼吸困難の発症との因果関係の有無を検討する となる重篤な有害事象として呼吸困難が発症しているため,呼吸困難と死亡との間の因果関係は否 定できないものというべきである。そこで,イレッサと呼吸困難の発症との因果関係の有無を検討する。 39-⑫症例では,イレッサの投与日数が45日であるところ,投与開始から39日目に発症したグレード3の肺炎が,46日目にグレード4の呼吸窮迫症候群が発症し,50日目に呼吸窮迫症候群は回復とされたが,グレード3の肺炎は死亡まで継続した。呼吸窮迫症候群が直接又は間接的な死因となる重篤な有害事象として扱われた。以上は,呼吸窮迫症候群の発症により,イレッサの投与が中止されたことをうかがわせる。 治験担当医の判断は,イレッサ投与中止の理由は病勢進行であり,呼吸窮迫症候群とイレッサとの関連性はないというものであった。開示カードには,その性質上,診断の根拠となった各種画像や各種臨床データのすべてが記載されていない(乙E26〔3,4頁〕)。 このように臨床経過が不明な症例については,GCP省令による信頼性が担保された治験制度の下では,病勢進行を示す記載がないことは,担当医の意見を覆すに足りない。 以上によれば,39-⑫症例では,イレッサと呼吸窮迫症候群の発症との因果関係は否定されると認めるのが相当である。 (イ) 39-⑭症例(患者2090/0221)(甲E76〔39-⑭症例〕,甲B17[枝番号2]〔C409,410〕)39-⑭症例では,直接又は間接的な死因となる重篤な有害事象として呼吸困難が発症しているため,呼吸困難と死亡との間の因果関係は否定できないものというべきである。そこで,イレッサと呼吸困難の発症との因果関係の有無を検討する。 39-⑭症例では,過去に化学療法及び放射線治療を各2回実施しており,既往歴に呼吸困難がある。イレッサの投与 いものというべきである。そこで,イレッサと呼吸困難の発症との因果関係の有無を検討する。 39-⑭症例では,過去に化学療法及び放射線治療を各2回実施しており,既往歴に呼吸困難がある。イレッサの投与開始から3日後に呼吸 困難が発症し,治験担当医師は,病勢進行死とした。開示カードには,その性質上,診断の根拠となった各種画像や各種臨床データのすべてが記載されていない(乙E26〔3,4頁〕)。 GCP省令による信頼性が担保された治験制度の下では,臨床経過の詳細が不明であり,他に証拠がない以上,担当医の病勢進行死との意見を覆す判断をすることはできない。 加えて,傷害された肺胞細胞に対するイレッサの影響に関する評価が分かれている状況の下では,上記臨床経過から直ちにイレッサと呼吸困難の発症との因果関係を判断することは容易ではなく,細胞周期や効果発生までの期間を考慮すると,病勢進行と考えることにも一応の合理性があるといえる。 したがって,39-⑭症例では,イレッサと呼吸困難の発症との因果関係は否定されるといわざるを得ない。 (ウ) 39-⑯症例(患者2011/0232)(甲E76〔39-⑯症例〕,甲B17[枝番号2]〔C598,599〕)39-⑯症例では,直接又は間接的な死因となる重篤な有害事象として肺炎が発症しているため,肺炎と死亡との間の因果関係は否定できないものというべきである。そこで,イレッサと肺炎の発症との因果関係の有無を検討する。 39-⑯症例は,イレッサの投与日数が6日であるところ,投与開始から5日目にグレード4の肺炎が,7日目にグレード2の呼吸困難がそれぞれ発症し,7日目に死亡した。グレード4の肺炎は直接又は間接的な死因となる重篤な有害事象として扱われた。以上は,肺炎及びこれに伴う呼吸困難の発症によりイレッサ ,7日目にグレード2の呼吸困難がそれぞれ発症し,7日目に死亡した。グレード4の肺炎は直接又は間接的な死因となる重篤な有害事象として扱われた。以上は,肺炎及びこれに伴う呼吸困難の発症によりイレッサ投与が中止されたことをうかがわせる。 他方,治験担当医師の判断は,イレッサ投与中止の理由とされた肺炎 は肺がんによる肺炎であり,病勢進行死として,肺炎とイレッサとの関連性はないというものであった。開示カードには,その性質上,診断の根拠となった各種画像や各種臨床データのすべてが記載されていない(乙E26〔3,4頁〕)。 GCP省令による信頼性が担保された治験制度の下では,臨床経過の詳細が不明であり,他に証拠がない以上,担当医の病勢進行死との意見を覆す判断をすることはできない。むしろ,39-⑯症例では,肺炎と同じく投与開始から5日目にイレッサとの因果関係が否定できる発熱や無力症なども発症しており,がんの進行がうかがわれる。 したがって,39-⑯症例では,イレッサと肺炎の発症との因果関係は否定されるといわざるを得ない。 (エ) 39-⑰症例(患者2012/0294)(甲E76〔39-⑰症例〕,甲B17[枝番号2]〔C600~604〕)39-⑰症例では,直接又は間接的な死因となる重篤な有害事象として呼吸困難が発症しているため,呼吸困難と死亡との間の因果関係は否定できないものというべきである。そこで,イレッサと呼吸困難の発症との因果関係の有無を検討する。 39-⑰症例では,フォースライン治療のPS2の患者であり,イレッサの投与日数が29日である。投与開始から12日目に心のう液貯留,胸水貯留及びグレード4の呼吸困難が発症したが,21日目までの酸素吸入やメチルプレドニゾロンの投与,19日目のタルクの投与により,26日目にはいず 29日である。投与開始から12日目に心のう液貯留,胸水貯留及びグレード4の呼吸困難が発症したが,21日目までの酸素吸入やメチルプレドニゾロンの投与,19日目のタルクの投与により,26日目にはいずれも回復したとされた(ただし,上記呼吸困難はイレッサ中止の理由とはされていない。)。その後,投与開始から33日目にグレード4の呼吸困難が再び発症したとされているが,投与開始から29日目にイレッサの投与が中止されたとされており,中止理由は呼吸困難とされていることから,グレード4の呼吸困難は,投与開始か ら12日目に発症した呼吸困難が改善しておらず継続していたか,又は投与開始から29日目に再び発症したものであった疑いがある。投与開始から29日目にイレッサ投与が中止され,その4日後に死に至っている。 他方,治験担当医師の判断は,死因は肺塞栓症から呼吸窮迫となり心停止に至った,つまり病勢進行である。肺塞栓症の発症時期は不明であり,呼吸困難の発症時期に疑義があるものの,肺塞栓症から呼吸窮迫になり心停止となったという症状の悪化と矛盾するとまではいえず,また当初発症した呼吸困難が投与開始後29日目まで継続していたことを示す証拠はなく(酸素吸入やメチルプレドニゾロンの投与が投与開始後21日目までしか行われていないことに鑑みれば,むしろ投与開始後29日目まで呼吸困難が継続していたとは考えがたい。),その他に治験担当医師の判断を覆す合理的な理由はない。 以上によれば,再度発症した呼吸困難は病勢進行によるものであって,イレッサと再度発症した呼吸困難との因果関係は否定されると認めるのが相当である。 オ治験における病勢進行死とされた症例について(ア) 原告らの主張の要旨原告らは,治験においては,各治験ごとにその評価に必要な観察期間中の の因果関係は否定されると認めるのが相当である。 オ治験における病勢進行死とされた症例について(ア) 原告らの主張の要旨原告らは,治験においては,各治験ごとにその評価に必要な観察期間中の生存が見込まれる患者が選定されているにもかかわらず,イレッサの使用中又は中止後30日以内の死亡例が約20%発生しており,イレッサによる副作用死亡例とすべきものがないかを慎重に検討することを要し,治験における病勢進行死の症例の多くは,イレッサの関連した急性肺障害が死因の中心的病態であり,イレッサによる副作用に分類すべき症例であったと主張し,がんの進行を示す客観的証拠がないことなどを根拠として,病勢進行により中止・死亡した症例の中には病勢進行に よる中止・死亡例ではないものが含まれる旨の濱六郎の陳述記載がある(甲E25,76)。 (イ) 治験担当医師の奏功率の測定や評価について治験における奏功率の評価は,治験担当医師が主観的に行うものではなく,胸部X線や胸部CT画像を用いて腫瘍の大きさを測定し,RECISTガイドラインにおける効果判定基準などに従って客観的に評価されたものであるから,GCP省令による信頼性が担保された治験制度の下では,合理的な疑いのない限り,治験担当医師による奏功率の測定や評価に誤りがあったと認めることはできない。 証人濱(第2回)は臨床経過からはがんの進行を示す所見に関する客観的証拠がないことを指摘するが,上記指摘は臨床経過がまとめられたケースカードのみからの指摘にとどまり,ケースカードにはすべての所見が記載されるとは限らず(例えば急性呼吸窮迫症候群の診断基準は,先行する起訴疾患をもち,急性に発症した低酸素血症で,胸部X線写真上では両側性の肺浸潤影を認め,かつ心原性の肺水腫が否定できるもので,P-Frat は限らず(例えば急性呼吸窮迫症候群の診断基準は,先行する起訴疾患をもち,急性に発症した低酸素血症で,胸部X線写真上では両側性の肺浸潤影を認め,かつ心原性の肺水腫が否定できるもので,P-Fratio が200以下の場合であるところ,急性呼吸窮迫症候群においても診断の根拠となった各種画像や各種臨床データは示されていない。),また証人濱(第2回)は胸部X線や胸部CT画像を再評価したものではないのであるから,治験担当医師の判断に合理的な疑いを容れるものとは認められない。 また,全身状態の評価指標である「PS」と腫瘍の客観的な縮小効果等から判断する「病勢進行(PD)」とは必ずしも関連しているとはいえず,PSのグレードが低く全身状態が良好な患者について,その後の病勢進行による中止例が生じたとしても,異常な事態とまではいえない。腫瘍の客観的な縮小効果等から判断する「不変(SD・NC)」は,がんの縮小又は増大の割合が一定の範囲内にある場合を示すものに すぎず,「不変」と評価されたものであっても,がんが一定程度まで増大している場合があり,器官や組織を圧迫・侵襲することにより呼吸困難等の有害事象が生じることがありうる。 したがって,治験における病勢進行死とされた症例の中に副作用死亡に分類すべきものが含まれるとする証人濱の証言(第2回)は治験担当医師の測定や評価を覆すに足りるものではなく,原告らの主張には理由がない。 病勢進行死の症例に関して因果関係を逐一再検討することが望ましいことであるとしても,治験及び治験以外の臨床試験では,治療中止から30日以内の死亡については,有害事象との因果関係を問わず死亡例として集積され,その傾向が評価され,30日以内の死亡傾向が特異的(類似薬と比べて死亡例が多数など)である場合には,当該病勢進行死症 30日以内の死亡については,有害事象との因果関係を問わず死亡例として集積され,その傾向が評価され,30日以内の死亡傾向が特異的(類似薬と比べて死亡例が多数など)である場合には,当該病勢進行死症例は治験薬との因果関係が否定できない死亡例の可能性があるとして再検討の対象となり(丙E68),イレッサの治験において従来の抗がん剤と比較して特異的な傾向があったことを認めるに足りる証拠はないから,病勢進行死に関する再評価が不十分であったとまではいえない。 (ウ) 早期の投与中止例や病勢進行死例について臨床試験の適格条件では一定の生存期間の見込みが定められており,イレッサ投与後に短期間でがんが進行して死亡することは考えがたいように思われる。 しかし,実際には臨床試験早期に病勢進行により死亡することはありうることであり(ISEL試験の結果によれば,イレッサ群とプラセボ群の両群で多数の死亡例が見られた(丙E30)。),肺がんは転移を生じやすいがんであり,転移先によって急激に状態が悪化することがあり,どこに転移するか予測できないために試験開始時の余命の判断には限界がある(乙E26)。 したがって,早期の投与中止例や病勢進行例が全体の10~20%あったとしても,特異的な傾向があったとまではいえず,病勢進行死例や投与中止例を逐一再検討すべきであったとまではいえない。 カ間質性肺炎等以外の副作用等の治験結果に関する評価(ア) 治験の結果(別紙28(治験における安全性情報一覧表))によれば,イレッサの副作用のうち,最も多くみられるものは発疹(皮疹,湿疹)であり,比較的発症頻度が高いものは肝機能障害,下痢,嘔吐などであった。 発疹は,イレッサと関連性を否定できない副作用であり,グレード3以上のものは見当たらず,嘔気(悪心)や嘔吐は (皮疹,湿疹)であり,比較的発症頻度が高いものは肝機能障害,下痢,嘔吐などであった。 発疹は,イレッサと関連性を否定できない副作用であり,グレード3以上のものは見当たらず,嘔気(悪心)や嘔吐は,グレード3以上の重篤な有害事象として生じる頻度が数%であり,そのうちイレッサとの関連性を否定できないものは4例であって,いずれも死に至ったものではない。これは,嘔気や嘔吐に関して,シスプラチンをはじめドセタキセルやパクリタキセルなどの発症頻度と比較しても(前記第5章第3の2(2)イ(イ)),発症頻度が低く,症状の程度も軽度であるといえる。下痢は,グレード3以上の重篤な有害事象とされているもののうち,イレッサとの関連性を否定できないものが10例程度あるが,死亡例はなく,イリノテカンと比較すれば(前記第5章第3の2(1)イ(イ)b及び同(2)イ(イ)),致命的となるおそれが低く,発症頻度も低いといえる。 嘔吐などの消化器症状は,患者にとって苦痛が大きく,QOLを害する副作用であるといえ,嘔吐などにより食事が摂れなくなると,栄養状態や活動性が低下し,全身状態が悪化していくことになり,全身状態が悪化すると,免疫力や抵抗力が低下して感染症などの合併症を発症したり,化学療法による治療効果が得られにくくなったりするものであるが,イレッサによる副作用である消化器症状が従来の抗がん剤に比べて軽い点は,イレッサが従来の抗がん剤と比較して,QOLにおいても利 点があるといえるものである。 (イ) 従来の殺細胞性抗がん剤では,いずれにおいても,白血球減少,好中球減少,血小板減少及び赤血球減少の血液毒性による副作用が過半数を越えて発生し(前記第5章第3の2(2)イ(ア)),白血球減少では,感染症を合併する危険性が高まり,また感染した場合には重症にな 好中球減少,血小板減少及び赤血球減少の血液毒性による副作用が過半数を越えて発生し(前記第5章第3の2(2)イ(ア)),白血球減少では,感染症を合併する危険性が高まり,また感染した場合には重症になりやすく,G-CSFにより対処可能となったとはいえ,依然として死に至る危険性がなくなるものではなく,少なくとも白血球減少が発症した場合には,抗がん剤の投与を中止することになるため,化学療法の中断によりがんの進行を招くおそれがある。 他方,治験の結果(別紙28(治験における安全性情報一覧表))によれば,イレッサには血液毒性による副作用はほとんどみられなかった。 (5) 承認時までの副作用報告の評価ア各副作用報告の位置付け(ア) EAPの副作用報告についてEAP(ExpandedAccessProgram:拡大アクセスプログラム)は,米国において,重篤又は致死性疾患の患者で,臨床試験に不適格かつ他に治療の選択肢を有しない者に対して,未承認薬の使用を認める制度であり,米国食品医薬品局(FDA)と医療機関内の倫理審査委員会(IRB)による承認と安全性の監視の下で実施される(甲J7)。イレッサにおけるEAPは,英国A社が,イレッサの治験に参加できない患者を対象にイレッサ単剤の安全性評価を目的として実施したものである(乙B13[枝番号3の1]など参照)。 薬事法施行規則66条の7(治験薬副作用報告制度,前記第3章第8の1参照)によれば,EAPにおける副作用報告を含め,同条所定の要 件に該当する副作用情報は,厚生労働大臣に報告しなければならず,また,すべての重篤で予測できない副作用など一定の場合が緊急報告の対象とされている(前記第5章第3の4(4)ア(ウ)参照)。臨床試験における副作用だけでなくEAPなどの副作用情報を踏 ければならず,また,すべての重篤で予測できない副作用など一定の場合が緊急報告の対象とされている(前記第5章第3の4(4)ア(ウ)参照)。臨床試験における副作用だけでなくEAPなどの副作用情報を踏まえて,安全性情報という危機管理的な側面のほかに,治験実施機関,治験依頼者及び審査当局の各段階において,より広い情報源に基づいて治験薬の安全性評価が行われる。【乙F2,証人S主尋問〔26頁〕,証人光冨反対尋問〔26頁〕,証人工藤主尋問〔53,54頁〕,証人工藤反対尋問〔80頁〕】EAPでは,厳格な適格条件を定めた臨床試験と異なり,全身状態の悪化した患者や病期の進行した患者らに対しても当該医薬品が広く使用されるため,臨床試験で見られなかった副作用が発症する危険性がある。実地臨床に近い条件で使用されているという点では,EAPにおける副作用報告は安全性評価をする上では重要な資料となるものである。 もっとも,EAPにおける副作用報告は,個々の症例であるから,直ちに一般化して論じることができないことはいうまでもなく,他の情報と総合して慎重に検討される必要があるというべきである。 (イ) 治験,参考試験及びEAPの副作用報告治験については,前記第5章第2の2(1)カ及び同第3の4(4)ア(カ)のとおり,治験依頼者による試験実施計画書の提出,実施医療機関等の選定,効果安全性評価委員会の設置,副作用情報等の提供,モニタリング,監査の実施,総括報告書の作成等に関して基準が設けられ,GCP省令違反者に対しては事実上の制裁が存在するなど,信頼性を確保するための措置が置かれている。 EAPの副作用報告は,全身状態の悪化した患者など,より広く多様な背景を有する患者に対して行われた治療における副作用報告であり, EAPにおいては,治験で採られて 措置が置かれている。 EAPの副作用報告は,全身状態の悪化した患者など,より広く多様な背景を有する患者に対して行われた治療における副作用報告であり, EAPにおいては,治験で採られている上記のような信頼性確保措置が採られていない。 以上のとおり各試験等に関する信頼性確保のための制度的な担保の差を鑑みると,一般的に,治験に関する副作用報告は,EAPにおける副作用報告よりも信頼性が高く,そのため証拠価値も高いといえる。それぞれの副作用報告の内容が相違する場合には,上記のとおり,それぞれの証拠価値を踏まえて検討する必要がある。 もっとも,EAPにおける副作用報告であっても,治験成績や治験における副作用報告の内容と整合しないということのみにより,医薬品の安全性評価を行う上で,考慮しなくてよいことを意味するものではない。医薬品の安全性評価においては,治験や参考試験のみにより,当該医薬品の副作用のすべてが解明されるものではなく,むしろ解明される範囲には限りがあるから,EAPにおける副作用報告が,治験成績等から判明する副作用の全体像(種類,発症頻度や重篤性等)とは異なる副作用の特徴を示す場合には,EAPにおける副作用報告を含めて,総合的に検討すべきである。 イ国内臨床試験の副作用症例について(ア) 概観国内臨床試験において,間質性肺炎に関する副作用報告があったのは合計3例(1839IL/0016 試験(第Ⅱ相試験・IDEAL1試験(日本人症例合計102例)。治験)の症例2例,1839IL/0026 試験(第Ⅰ相試験・V1511試験に登録された患者に対する継続投与試験(日本人症例合計31例)。参考試験)の症例1例。)であり(国内3症例),うち1例目(国内臨床試験1例目,乙B12[枝番号3])及び2例目(国内臨床試験2例 試験に登録された患者に対する継続投与試験(日本人症例合計31例)。参考試験)の症例1例。)であり(国内3症例),うち1例目(国内臨床試験1例目,乙B12[枝番号3])及び2例目(国内臨床試験2例目,乙B12[枝番号4])は1839IL/0016 試験(IDEAL1試験)の症例であり,3例目(国内臨床試験3例目,乙 B12[枝番号5])は1839IL/0026 試験の症例であった。 国内3症例に関する副作用報告には,症例経過等として別紙29(承認時までの副作用報告症例経過表(国内3症例))の国内臨床試験1~3例目の各欄のとおりの記載があった。 (イ) 国内臨床試験1例目についてa 専門家の意見(a) 治験担当医師の意見臨床経過と気管支肺胞洗浄の結果により,薬剤性の急性間質性肺炎が疑われる。DLST検査による確定診断は得られなかったが,薬剤投与時期と有害事象発生との関係により,治験薬が原因薬剤である可能性が高い。 呼吸困難については,臨床的に改善を認めたものの,薬剤性として矛盾のない間質性肺炎が組織学的には死亡時も残存していたと考えられる。胃腸出血及び低血圧については,治験薬との因果関係はない。 直接死因はがん性心のう炎であり,治験薬との因果関係はないものと考えられる。 【乙B12[枝番号3],丙B1[枝番号1の1,1の2]】(b) イレッサの間質性肺炎発症の致死性ないし重篤性を示唆するものであるとする見解の要旨濱六郎は,間質性肺炎は,①グレード4に相当し,血液ガス分析の経過から悪化傾向が見られ,人工呼吸がずっと続いているから,間質性肺炎が死亡につながったものであり,少なくとも死亡に対するイレッサの関与は完全に否定できない,②途中で30分間だけ,人工呼吸器がはずされたが,これは回復したからではない, っと続いているから,間質性肺炎が死亡につながったものであり,少なくとも死亡に対するイレッサの関与は完全に否定できない,②途中で30分間だけ,人工呼吸器がはずされたが,これは回復したからではない,開示カードでも継続の扱いとなっている(甲B16[枝番号2]〔C31 8〕),人工呼吸器を死亡まで継続したことと間質性肺炎が改善したことは矛盾する,③直後の死因とされたがん性心のう炎による心のう液貯留はイレッサによる影響を否定できない,実際にEGFR阻害剤による胸膜炎症例が報告されている(甲E94[枝番号35の1,35の2])とする。 【甲E76〔3~10,54,55頁〕,甲E93〔57~64頁〕,証人濱[第1回]主尋問〔47~50頁〕,証人濱[第2回]主尋問〔3~7頁〕】福島雅典は,①ステロイドパルス療法を3日間行ったが十分な反応がないため,人工呼吸器につながれており,瀕死の状態である,②直接の死因はがん性心のう炎となっているが,ステロイド薬を大量に投与すれば免疫機能が極度に抑圧されるのは常識であるから,上記治療の間に免疫機能が低下しがんの進行が速くなることも想定されるが,それはイレッサにより間質性肺炎を発症したために順次経時的に起こっているので,因果関係を否定することはできないとする。 【甲E41〔5~9頁〕,甲E42〔17~21,71~75頁〕】別府宏圀は,国内臨床試験1例目は,イレッサにより相当重症の間質性肺炎が発症し,気管切開をしても死の危険が迫っており,回復したとしても,まもなく死亡しており,間質性肺炎が患者の死亡に影響を与えていたと思うとする。 【甲E40〔61,62,67~69,84,85頁〕】(c) イレッサの間質性肺炎発症の致死性ないし重篤性を示唆するものではないとする見解の要旨工藤翔二 亡に影響を与えていたと思うとする。 【甲E40〔61,62,67~69,84,85頁〕】(c) イレッサの間質性肺炎発症の致死性ないし重篤性を示唆するものではないとする見解の要旨工藤翔二は,①死因はがん性心のう炎と考えるのが合理的であ る,ステロイドパルス療法後に,間質性肺炎の症状や検査結果(ガス分析結果等)が改善しており,間質性肺炎と死亡との関係は否定できる,②剖検結果では間質性肺炎の病理組織パターンの1つであるびまん性肺胞障害(DAD)の特徴である硝子膜がみられるが,時期的に原因がイレッサではなく,がんの末期症状の可能性がある,③本症例での間質性肺炎がびまん性肺胞障害(DAD)だった可能性があるが,びまん性肺胞障害(DAD)であれば,ステロイド薬に反応するのは不思議な感じがする,そうだとすると,イレッサによるびまん性肺胞障害(DAD)にはステロイドパルス療法に反応する可能性があることがうかがわれることになる。イレッサの間質性肺炎としては,びまん性肺胞障害(DAD)ではなく,別のパターンのステロイドに反応するものが発症し,びまん性肺胞障害(DAD)はがん末期の敗血症などが引き起こした間質性肺炎の可能性もある,④ステロイドパルス療法後に,挿管や人工呼吸管理を行うのは,最終的にステロイドパルス療法が反応するか否かにかかわらず,この時点十分でないと判断されて行われたものであり,いずれにしても重篤例であったことに変わりないとする。 【乙E17〔17,18頁〕,乙E23〔25~28,41,42頁〕,乙E24〔124,125頁〕,丙E68〔9~12頁〕,証人工藤主尋問〔42~49頁,90~93頁〕,証人工藤反対尋問〔73~78頁〕】福岡正博は,国内臨床試験1例目では,平成12年12月28日に間質性肺炎が画像上改 頁〕,丙E68〔9~12頁〕,証人工藤主尋問〔42~49頁,90~93頁〕,証人工藤反対尋問〔73~78頁〕】福岡正博は,国内臨床試験1例目では,平成12年12月28日に間質性肺炎が画像上改善した一方で,がん性リンパ管症という末期がんの病理所見が見られることから,間質性肺炎は改善して,がんの悪化によって死亡したものと考えるのが普通の考え方である。 平成13年1月11日には,検査のために,人工呼吸器を30分間 はずすことができた。剖検により,組織学的な間質性肺炎像が肉眼では明らかではなかったが,顕微鏡で見られたということは,間質性肺炎が残っているとはいえても,間質性肺炎によって死亡したということをいうものではない旨証言する。 【証人福岡主尋問〔56,57,66~71,99頁〕】坪井正博は,患者は,多発骨転移,胸水やリンパ管への転移などがひどく,イレッサを投与した時点ではかなりがんが全身化しており,容易に病状が悪化し,呼吸不全が起きる状態であった,ステロイド薬投与後,間質影が改善しており,剖検でがん性リンパ管症が明らかとなっているから,がん性リンパ管症による呼吸不全が死亡原因になったと考えられる。転帰が未回復とされ,剖検で間質性肺炎が組織学的に残存しているとあるが,影が消失している過程で死亡しており,剖検で間質性肺炎とされているものが薬剤性のものか不明であり,がん性リンパ管症による間質へのダメージもあり得るので,間質性肺炎による死亡と判断する根拠はない。ただし,イレッサが投与されていたので,イレッサと間質性肺炎との関係を完全に否定することできないなど述べる。 【丙E48[枝番号1]〔61~64頁〕,丙E49[枝番号1]〔12~16,127,128頁〕】b 判断(a) イレッサと間質性肺炎発症との因果関係に 全に否定することできないなど述べる。 【丙E48[枝番号1]〔61~64頁〕,丙E49[枝番号1]〔12~16,127,128頁〕】b 判断(a) イレッサと間質性肺炎発症との因果関係についてイレッサ投与開始から16日後に,胸部CT画像で下肺葉に間質影が確認されて,間質性肺炎を発症していると認められ,イレッサと間質性肺炎の発症との因果関係は否定できないといえ,治験担当医師をはじめとして各専門家の意見もこの限度では一致する。 (b) 間質性肺炎と死亡との因果関係について 治験担当医師は,直接の死因ががん性心のう炎によるものであるとするが,他方で,当該間質性肺炎は,グレード4で生命を脅かす有害事象であり,ステロイドパルス療法が行われたことから,重篤な間質性肺炎であったことが推認される上,開示カードでは患者は呼吸困難発症から死亡まで人工呼吸器を継続して使用していたとされ(甲B16[枝番号2]〔C318〕),剖検によれば間質性肺炎が残存していたことから,転帰が未回復とされている。 しかし,臨床経過からみると,間質性肺炎発症後1週間程度で胸部X線画像上改善が認められ,間質性肺炎発症後3週間程度で胸部CT画像上も改善が認められており,当該胸部CT検査(平成13年1月11日)の際には30分間の人工呼吸器離脱が可能であり,剖検では間質性肺炎の所見を肉眼で認められず,顕微鏡で間質性肺炎の残存が確認されたにすぎず,その他にがん性心のう炎やがん性リンパ管症が認められ,DIC(播種性血管内凝固症候群)との合併症の疑いもあった。 また,酸素化能力は肺胞気・動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)の推移から判断されるところ,患者の酸素化能力は,平成12年12月24日から平成13年1月4日まではほぼ横ばいで(同日に気管切開実施),同 た,酸素化能力は肺胞気・動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)の推移から判断されるところ,患者の酸素化能力は,平成12年12月24日から平成13年1月4日まではほぼ横ばいで(同日に気管切開実施),同月9日ころから改善傾向が見られ,同月12日までには急速に改善した(A-aDO2 について,平成12年12月24日が429.825,同月28日が431.8,平成13年1月4日が433.55,同月9日が412.625,同月12日が61.35であった。)。それに加え,仮に酸素化能力が改善されていなかったとすると,30分間であっても人工呼吸器を離脱することは通常考えられないが,他方で酸素化能力が一定程度改善されていたとしても,念のため人工呼吸器を継続することは十分考えられる措置 である。 そうすると,30分間人工呼吸器を離脱した事実があり,実際に動脈血酸素分圧較差の推移から酸素化能力の改善傾向がみられているだけでなく,画像所見などで間質性肺炎が改善されていたと見る余地があり,剖検では顕微鏡を用いなければ確認できないような間質影が残存していたにすぎなかったというのであるから,平成13年1月11日の時点では間質性肺炎が改善されていたとみることは合理的であるといえる(濱六郎は,検査のために人工呼吸器を外さざるを得なかったにすぎず,30分間の人工呼吸器の離脱が酸素化能力の改善を意味するものではないとするが,人工呼吸器をはずさないと検査を行うことができないというものではなく(甲E93〔59頁〕),またアンビューバッグを用いた人工呼吸が行われたことを裏付ける証拠もないのであるから,濱六郎の前記意見は,上記認定を覆すものではない。)。また,がん性心のう炎などがんの病勢進行に関する所見があり,剖検により死因ががん性心のう炎と考えられたというので 裏付ける証拠もないのであるから,濱六郎の前記意見は,上記認定を覆すものではない。)。また,がん性心のう炎などがんの病勢進行に関する所見があり,剖検により死因ががん性心のう炎と考えられたというのであるから,イレッサと死亡との因果関係が否定されるとした治験担当医師の意見には合理性があるといえる(濱六郎は,胸水や心のう液貯留の原因が,がんの病勢進行だけでなく,EGFR阻害剤の影響によることがありうるとする(甲E93〔63,64頁〕)が,剖検の結果(別紙29(承認時までの副作用報告症例経過表(国内3症例))の「国内臨床試験1例目」の「剖検」欄)と整合せず,抽象的な可能性を示すものでしかない。)。 したがって,国内臨床試験1例目は,イレッサと死亡との因果関係が否定されるものと評価すべきである。 なお,濱六郎は,血液ガス検査結果の動脈内酸素分圧(PaO2)の みから酸素化能力を判断し,平成12年12月24日から同月28日までは改善傾向にあるが,平成13年1月4日には再度悪化傾向にあるとする。しかし,動脈内酸素分圧(PaO2)は動脈内二酸化炭素分圧(PaCO2)が上昇すると酸素化能力の改善の有無と関係なく一定比の下で下降する(丙E68〔11頁〕)ため,酸素化能力は肺胞気・動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)の推移から判断されるべきであるから,平成13年1月4日に酸素化能力が悪化傾向にあったとする濱の意見は上記判断を覆すに足りない。 (c) イレッサとの因果関係が否定できない間質性肺炎の特徴について剖検結果から硝子膜形成の所見が認められたことなどから,発症した間質性肺炎がびまん性肺胞障害(DAD)型のものであったことがうかがわれる。 しかし,硝子膜形成の所見は,びまん性肺胞障害(DAD)型の間質性肺炎の初期(発症後1週間以内 たことなどから,発症した間質性肺炎がびまん性肺胞障害(DAD)型のものであったことがうかがわれる。 しかし,硝子膜形成の所見は,びまん性肺胞障害(DAD)型の間質性肺炎の初期(発症後1週間以内)に現れる所見であって,間質性肺炎肺炎が発症してから1か月以上も経過して残存することは通常ありえない(丙E68)のであるから,平成12年12月22日に発症した間質性肺炎による硝子膜形成の所見が発症後1か月以上経過した死亡日(平成13年1月29日)まで残存していたとすること合理性を欠くといわざるを得ない。また,硝子膜形成の所見は,間質性肺炎のみならずDIC(播種性血管内凝固症候群)によるびまん性肺胞障害(DAD)などでも認められ,国内臨床試験1例目では死亡日1週間前にDIC(播種性血管内凝固症候群)の合併が疑われていることから,硝子膜形成等の所見はDIC(播種性血管内凝固症候群)の発症によるびまん性肺胞障害(DAD)の可能性が相当程度あるというべきであり,治験担当医師も当該間質性肺炎の原因がイレッサ以外にあることを否定していない。 仮に硝子膜形成の所見が,死亡日から1か月以上前に発症した間質性肺炎によるものであったとしても,前記(b)の判断のとおり,びまん性肺胞障害(DAD)型の間質性肺炎が改善傾向にあったということになる。 そうすると,国内臨床試験1例目における間質性肺炎がびまん性肺胞障害(DAD)型の特徴を有するものと把握することは困難であり,またイレッサによるびまん性肺胞障害(DAD)型の間質性肺炎の予後が不良であると予測することが困難であったというべきである。 なお,濱六郎は,開示カードにはDIC(播種性血管内凝固症候群)に関する有害事象が挙がっておらず,副作用報告書でも血液検査上DIC(播種性血管内凝固症候群 ることが困難であったというべきである。 なお,濱六郎は,開示カードにはDIC(播種性血管内凝固症候群)に関する有害事象が挙がっておらず,副作用報告書でも血液検査上DIC(播種性血管内凝固症候群)合併の疑いありとされているのみであり,DIC(播種性血管内凝固症候群)の客観的根拠が不明であるなどとする(甲E76〔9頁〕)。しかし,開示カードや副作用報告書には,その性質上,診断の根拠となった各種画像や各種臨床データのすべてが記載されるものではない(乙E26〔3,4頁〕)から,記載がないことをもって客観的な根拠に欠けるとまではいえず,上記判断を覆すには足りない。 (ウ) 国内臨床試験2例目についてa 専門家の意見(a) 治験担当医師の意見治験薬の休薬直後に確認できた間質性肺炎であるが,治験薬との関連はあると思われる。低酸素血症については,治験薬との関連性が多分ある。疲労については,病勢進行(がん性髄膜炎)によるものであり,治験薬との因果関係はないと考えられる。 【乙B12[枝番号4]】 (b) イレッサの間質性肺炎発症の致死性ないし重篤性を示唆するものであるとする見解の要旨濱六郎は,①がん性髄膜炎を疑わせる所見が全くなく,副作用報告書に記載されているのは,4月2日疲労が再び著明となりPS4となったこと,4月5日に左がん性胸膜炎が悪化したことが記載されているのみであり,治験担当医師の意見で,突然「病勢進行(がん性胸膜炎)」と記載されたものであるから,がん性髄膜炎が存在していたことは疑わしい,②肺臓炎(間質性肺炎)は死亡原因となりうる病変であるのに対し,がん性胸膜炎は通常死因とはならず,詳細は不明であり,仮にがん性胸膜炎が悪化して死亡したのであれば,低酸素血症が回復したということと矛盾するものであり,死因 死亡原因となりうる病変であるのに対し,がん性胸膜炎は通常死因とはならず,詳細は不明であり,仮にがん性胸膜炎が悪化して死亡したのであれば,低酸素血症が回復したということと矛盾するものであり,死因はがん性胸膜炎とはいえない,③間質性肺炎だけでなく,胸膜炎や全身衰弱死もイレッサと関連性がある,実際にEGFR阻害剤による胸膜炎症例が報告されており(甲E94[枝番号35の1,35の2]),病勢進行によらずに胸水が貯留する可能性があるとする【甲E76〔55,56頁〕,甲E93〔62~66頁〕】福島雅典は,①医師がステロイドパルス療法をしないと救命できないと判断したので,国内臨床試験2例目の間質性肺炎も国内臨床試験1例目と同様の重篤度であり,治療によって改善しているが,結局はがんの悪化を伴って死亡に至っている,②イレッサによって直接間質性肺炎で死んだか否かは記載のみから明らかでないが,国内臨床試験1例目と同様に(ステロイド薬による免疫機能の低下により,がんが進行して死亡にいたるなど),何らかの経過が起こって死に至ったのであるから,因果関係を否定することはできない,③左がん性胸膜炎の悪化により死亡することは通常ない,右胸水と肺がんの転移のみの記載しかなく,程度が特定されていないから, 直接これらを死因だということはできないなどとする。 【甲E41〔9,10 頁〕,甲E42〔21~28,71~75 頁〕】(c) イレッサの間質性肺炎発症の致死性ないし重篤性を示唆するものではないとする見解の要旨工藤翔二は,①イレッサとの因果関係が否定できない間質性肺炎が発症したものである,②死因についての臨床医等の判断が記載されていないが,死因は,がんの進行で起こったがん性胸膜炎やがん性髄膜炎と推測される,がん細胞が胸膜に浸潤ないし転移して できない間質性肺炎が発症したものである,②死因についての臨床医等の判断が記載されていないが,死因は,がんの進行で起こったがん性胸膜炎やがん性髄膜炎と推測される,がん細胞が胸膜に浸潤ないし転移して生じるがん性胸膜炎によって貯留した胸水が心臓や大血管を圧迫して循環状態が悪くなったか,がん細胞が髄膜に浸潤ないし転移するがん性髄膜炎によって髄液の圧力が上昇して,呼吸中枢など生命維持にかかわる脳幹部を圧迫して死に至ったものと推測される,また死亡日の1か月ほど前からがん性髄膜炎による食欲不振が生じており,がん性髄膜炎による疲労や全身状態の悪化(PS4)などがみられていた,③間質性肺炎は,ステロイドパルス療法後に改善されたとみてよく(酸素化能力も改善されたとみることができ),低酸素血症改善中につき酸素の投与量を減らした,酸素なしでもトイレに行けるようになったなどの記載とも整合する,間質性肺炎と死因との因果関係はないとする。 【乙E17〔17,18頁〕,丙E68〔12,13頁〕,証人工藤主尋問〔47~49頁,93,94頁〕,証人工藤反対尋問〔75~77頁〕】福岡正博は,国内臨床試験2例目につき,①症例票には,がん性胸膜炎やがん性髄膜炎の悪化等が記載されているが,がん性髄膜炎は起こすと非常に重篤であるから,死亡原因は病勢進行と判断するのが妥当である,②仮に間質性肺炎が悪化して死亡したのであれ ば,平成13年3月19日から同年4月2日の間に症状が出るのが普通であるが,症例票には何も記載がなく,PS4と寝たきりになっているから,この全身状態の悪化はがん性胸膜炎又はがん性髄膜炎によるものと考えられる旨証言する。【証人福岡主尋問〔68,69頁〕】坪井正博は,①進行したⅣ期の患者で,ステロイド投与後に間質性肺炎が改善し,その後がん 態の悪化はがん性胸膜炎又はがん性髄膜炎によるものと考えられる旨証言する。【証人福岡主尋問〔68,69頁〕】坪井正博は,①進行したⅣ期の患者で,ステロイド投与後に間質性肺炎が改善し,その後がん性胸膜炎が悪化していることから,病状の悪化と理解してよく,治験担当医師の判断は妥当である,②イレッサと間質性肺炎との因果関係は,右肺下葉のみに間質性肺炎が出ていることから,イレッサの間質性肺炎と少し違うという印象を持つので,むしろ病勢進行というように受け取れるが,因果関係が完全に否定できないから,治験のルールに従うと,因果関係が否定できないと報告することになるとする。 【(丙E48[枝番号1]〔63,64頁〕,丙E49[枝番号1]〔15頁〕】b 判断(a) イレッサと間質性肺炎発症との因果関係についてイレッサ投与開始から約3か月後に投与を中止し,投与中止してから2日後に胸部CT画像で右肺下葉に間質性肺炎が認められ,イレッサと間質性肺炎の発症との因果関係は否定できないといえ,治験担当医師をはじめとして各専門家の意見もこの限度では一致する。 (b) 間質性肺炎と死亡との因果関係についてⅰ 原告らは,患者ががん性髄膜炎を発症していなかった(治験担当医師の誤記と主張)ことを前提として,間質性肺炎が死因につながった可能性があるなど主張する。これに対して,被告らは, がん性髄膜炎の発症を前提として,がん性髄膜炎は死因となりうるものであるなど主張する。 そこで,国内臨床試験2例目の評価をするにあたって,その前提となるがん性髄膜炎の発症があったかを検討する。 ⅱ 国内臨床試験2例目の臨床経過(別紙29(承認時までの副作用報告症例経過表(国内3症例))の国内臨床試験2例目欄)によれば,イレッサ投与により食欲不振や全身倦怠感が 発症があったかを検討する。 ⅱ 国内臨床試験2例目の臨床経過(別紙29(承認時までの副作用報告症例経過表(国内3症例))の国内臨床試験2例目欄)によれば,イレッサ投与により食欲不振や全身倦怠感が強まったものの,イレッサ投与前から食欲不振や全身倦怠感が生じており,投与中止から1か月後に疲労や全身状態の悪化(PS4)などがみられており,他方で間質性肺炎は,ステロイドパルス療法後に,動脈内酸素分圧が58.8mmHg(平成13年3月9日)から70.5mmHg(同月14日)まで改善され,酸素の投与量も減っており,同月19日には酸素なしでもトイレに行けるようになり,その後低酸素血症が回復したとされ,平成13年3月19日から同年4月2日の間に間質性肺炎の悪化をうかがわせる何らの症状も出なかった。 そうすると,がんによる病勢進行を示す所見がある一方で,間質性肺炎はステロイドパルス療法により改善されたと見る余地があって,間質性肺炎が死因となりうるような症状であったとみることはできないのであるから,治験担当医師の判断には合理性があるというべきであり,患者にはがん性髄膜炎が発症していたと認めるのが相当である。 なお,開示カードや副作用報告書には,その性質上,診断の根拠となった各種画像や各種臨床データのすべてが記載されるものではなく(乙E26〔3,4頁〕),GCP省令による信頼性が担保された治験制度の下では,がん性髄膜炎に関する所見の記載 がなかったとしても,そのことから治験担当医師ががん性胸膜炎をがん性髄膜炎と誤記したと推認することはできない。 ⅲ 以上より,当該患者にはがん性髄膜炎及びがん性胸膜炎が生じており,間質性肺炎が改善傾向にあったという状況で,全身状態の悪化がもたらされているのであるから,がん細胞が胸膜に浸潤ないし転移 い。 ⅲ 以上より,当該患者にはがん性髄膜炎及びがん性胸膜炎が生じており,間質性肺炎が改善傾向にあったという状況で,全身状態の悪化がもたらされているのであるから,がん細胞が胸膜に浸潤ないし転移して生じるがん性胸膜炎によって貯留した胸水が心臓や大血管を圧迫して循環状態が悪くなったか,がん細胞が髄膜に浸潤ないし転移するがん性髄膜炎によって髄液の圧力が上昇して,呼吸中枢など生命維持にかかわる脳幹部を圧迫して死に至ったものと考えるのが合理的であり,イレッサと因果関係が否定できない間質性肺炎と死亡との間に因果関係は否定されるというべきである。副作用報告書などに死因に関する記載がなかったとしても,上記判断を覆すには足りない。 (エ) 国内臨床試験3例目についてa 専門家の意見(a) 治験担当医師の意見当初の報告書では,偶発症の可能性も考えられるが,患者は既に死亡されており,治験薬との関連性は否定できないとした。 追加報告では,本病変は,原疾患の進行によるものであり,イレッサとの関連性は否定できるとして,意見を変更した。 【乙B12[枝番号5],丙B2[枝番号2]】(b) イレッサの間質性肺炎発症の致死性ないし重篤性を示唆するものであるとする見解の要旨福島雅典は,ステロイドパルス療法を行っており,極めて重篤な間質性肺炎であり,イレッサの副作用による死亡かもしれないとする。 【甲E41〔10~12頁〕,甲E42〔71~75頁〕】(c) イレッサの間質性肺炎発症の致死性ないし重篤性を示唆するものではないとする見解の要旨工藤翔二は,①イレッサの投与開始から1年後に間質性肺炎が発症しており,まれな発症パターンであるが,イレッサによって間質性肺炎が発症したことを否定できない,②ステロイドパルス療法後に軽快して 旨工藤翔二は,①イレッサの投与開始から1年後に間質性肺炎が発症しており,まれな発症パターンであるが,イレッサによって間質性肺炎が発症したことを否定できない,②ステロイドパルス療法後に軽快しており,間質性肺炎と死亡との間に因果関係は存在しない,顕微鏡段階の剖検で間質性肺炎の所見がないという記載からみると,間質性肺炎と死亡との因果関係は否定される,③死因は,がん性胸膜炎,肺がんの肺転移であり,臨床における判断と矛盾しないなどとする。 【乙E17〔17,18頁〕,証人工藤主尋問〔49~50頁,94~96頁〕,証人工藤反対尋問〔75~77頁〕】福岡正博は,①平成13年10月30日に間質性肺炎が軽快してから2か月経ってから死亡しており,間質性肺炎が死亡の原因ではなく,胸水と肺がんの肺転移が多数あり,死亡につながったと見るのが普通である,②一般に免疫機能の低下によりがんが進行するという証拠はない旨証言する。 【証人福岡主尋問〔69,70頁〕,証人福岡反対尋問〔55頁〕】b 判断(a) イレッサと間質性肺炎発症との因果関係についてイレッサ投与開始から9日後に間質性肺炎を発症してイレッサ投与を中止しており,イレッサと間質性肺炎の発症との因果関係は否定できないというべきである。 なお,治験担当医師は,初回報告では,イレッサとの因果関係が 否定できないとしたが,追加報告では病勢進行によるものとしてした。しかし,剖検の結果が具体的に記載されておらず,イレッサと間質性肺炎の発症の因果関係が否定されるとする合理的な理由があるとはいえないから,イレッサと間質性肺炎発症との因果関係は否定できないものとして扱うべきである。 (b) 間質性肺炎と死亡との因果関係について間質性肺炎自体はイレッサ投与を中止した後も増悪と寛解の状 いえないから,イレッサと間質性肺炎発症との因果関係は否定できないものとして扱うべきである。 (b) 間質性肺炎と死亡との因果関係について間質性肺炎自体はイレッサ投与を中止した後も増悪と寛解の状態を繰り返し,ステロイドパルス療法の4日後には両肺の間質性肺炎が軽快しており,剖検の結果によっても,病変がすべて腫瘍細胞によるものであり,死因が病勢進行であることが示されている。 したがって,イレッサと死亡との因果関係を否定されるというべきである。ステロイドパルス療法を行ったことからは重篤な間質性肺炎であったことが推認されるが,その後間質性肺炎が軽快して約2か月経過後に死亡しているのであるから,発症した間質性肺炎の重篤性のみでは上記判断を覆すには足りない。 (オ) 国内3症例全体についてa 専門家の意見(a) イレッサの間質性肺炎発症の危険性を示唆するものではあるとする見解の要旨福島雅典は,国内臨床試験133例のうち3例の間質性肺炎(国内3症例)と4例の肺炎があったことは恐ろしい数字である,間質性肺炎の発症頻度が2.3%ということになるが,添付文書で頻度不明とされるのは不可解であるなどする。 【甲E41〔2,3頁〕,証人福島主尋問〔13,14頁〕】(b) イレッサの間質性肺炎発症の危険性を示唆するものではないとする見解の要旨 工藤翔二は,①国内3症例は,いずれも軽快・改善しており,イレッサ用量500mg によって生じた症例であり,承認用量250mg で生じるかは不明である,ただしイレッサにより間質性肺炎が発症する可能性は否定できず,間質性肺炎が発症した場合には死亡に至ることも考えられると評価すべきである,②国内臨床試験133例,全治験の母数が約670例であることを踏まえると,イレッサによる間質性肺炎が,他 能性は否定できず,間質性肺炎が発症した場合には死亡に至ることも考えられると評価すべきである,②国内臨床試験133例,全治験の母数が約670例であることを踏まえると,イレッサによる間質性肺炎が,他の抗がん剤よりも発症頻度が高いとか,重篤化しやすいとはいえなかったなどとする。 【乙E17〔17,18頁〕,乙E21〔4~6頁〕,証人工藤主尋問〔50~52,98,99頁〕】福岡正博は,①イレッサのIDEAL1試験では2例の間質性肺炎の発症を認めているが,いずれも致死的なものではなく,改善していた,承認時までは,イレッサによる間質性肺炎は,原因の除去(投与中止),ステロイド薬の投与などにより,重篤化を回避でき,予後は悪くないと考えていた,②従来の抗がん剤と比べて,特に毒性が強いものではないと認識していたとする。【乙E10〔10頁〕】西條長宏は,間質性肺炎を発症した国内3症例はいずれも回復した,間質性肺炎の発症頻度からみれば他の抗がん剤よりも高くなく,注意すべき毒性と感じたものの,有用性評価に影響するものではなかったなどする。 【乙E18〔18頁〕,乙E19〔42,43,68頁〕,乙E20〔17~26頁〕】光冨徹哉は,国内3症例は,承認用量250mg/日投与群ではなく,500mg/日群で見られたものであり,その時点の情報からは間質性肺炎が絶対に生じないとは言い切れないが,大丈夫ではない かと推測できるなど証言する。 【証人光冨反対尋問〔107,132頁〕】b 判断(a) イレッサ投与量と承認用量との関係国内3症例は,イレッサとの因果関係を否定できない間質性肺炎の発症例であったが,いずれも承認された用量(250mg/日)の倍量である500mg/日群における症例であり,国内臨床試験において承認用量での発症例 は,イレッサとの因果関係を否定できない間質性肺炎の発症例であったが,いずれも承認された用量(250mg/日)の倍量である500mg/日群における症例であり,国内臨床試験において承認用量での発症例はみられなかった。 したがって,イレッサを承認用量で投与したときに間質性肺炎が発症するという明確な根拠はなかったといわざるをえないものの,倍量の投与により発症した症例がある以上,承認用量で投与したときに間質性肺炎が発症する可能性を否定することはできなかったというべきである。 (b) 間質性肺炎の発症頻度国内臨床試験における間質性肺炎の発症頻度は,国内臨床試験の母数を133例とした場合には,その発症頻度は約2.3%(3/133例)となる。 前記第5章第3の2(2)イ(イ)認定の事実によれば,実地医療における新規抗がん剤の間質性肺炎発症率(添付文書の記載)は,ビノレルビン:1.4~2.5%,ゲムシタビン:1.2~1.4%,イリノテカン:0.9%,ドセタキセル:0.6%,パクリタキセル:0.5%であり,新規抗がん剤の肺がんに係る国内第Ⅱ相試験における間質性肺炎の発症頻度は,ビノレルビン:3.0%,ゲムシタビン:2.5%,イリノテカン:4.9%,ドセタキセル:1.0%,パクリタキセル:3.7%,アムルビシン:2.2%であったところ,第Ⅱ相試験の結果を比較すると,他の抗がん剤より 高いとはいえないだけでなく,実地医療における間質性肺炎発症率と比較しても,他の抗がん剤よりも特に高いものであったとまではいえない。 原告らは,約2.3%の発症頻度は母数が少ないため正確な頻度を示すものではなく,2.3%の発症頻度における95%信頼区間の上限値は約6%となるから,高頻度で間質性肺炎が発症することを予測できたなど主張する。 しかし,従 症頻度は母数が少ないため正確な頻度を示すものではなく,2.3%の発症頻度における95%信頼区間の上限値は約6%となるから,高頻度で間質性肺炎が発症することを予測できたなど主張する。 しかし,従来の抗がん剤との比較において,イレッサのみを95%信頼区間の上限値をもって比較することには問題があるから,原告らの主張は失当であるといわざるを得ない。 (c) 間質性肺炎の重篤性国内の間質性肺炎を発症した3症例は,いずれもステロイド薬に反応し,回復ないし改善をみせており,死因となったものはなかった。 国内臨床試験1例目にみられた硝子膜形成の所見は,DIC(播種性血管内凝固症候群)を併発した疑いもあり,直ちにイレッサからびまん性肺胞障害(DAD)型の間質性肺炎が発症するとの特徴を把握できるものではなく,間質性肺炎の改善もみられており,これを直ちに予後が不良との評価をする根拠とすることは適切ではなかったといえる。 新規抗がん剤の治験では,1%前後の頻度で間質性肺炎による死亡例が生じた例がある(ゲムシタビン及びアムルビシンでは各2例の死亡例があった。乙E21〔4頁〕)。 以上を総合すれば,国内3症例からは,イレッサにより発症しうる間質性肺炎が,従来の抗がん剤に比べて,致死的ないし重篤なものであったとまで評価することはできず,一般的に間質性肺炎には 致死ないし重篤化するものがありうるため,イレッサにより発症しうる間質性肺炎によって致死ないし重篤化することが否定できるものではなかったとの評価ができるにとどまるというべきである。 (d) 間質性肺炎の特徴国内3症例における間質性肺炎は,国内臨床試験1例目でイレッサ投与から16日後に,国内臨床試験2例目でイレッサ投与から86日後に,国内臨床試験3例目でイレッサ投与から374日後 間質性肺炎の特徴国内3症例における間質性肺炎は,国内臨床試験1例目でイレッサ投与から16日後に,国内臨床試験2例目でイレッサ投与から86日後に,国内臨床試験3例目でイレッサ投与から374日後にそれぞれ発症しており,発症経過はそれぞれ異なっていた。 したがって,国内3症例から,イレッサにより発症しうる間質性肺炎に関して発症経過などの特徴を見いだすことは困難であったというべきである。 ウ EAPの副作用報告について(ア) EAPにおける副作用報告EAPにおいて,間質性肺炎に関する副作用報告として被告国が把握したのは合計5例であった(EAP5症例)。なお,被告国が審査報告書作成までの間に報告を受けたのは,EAP1例目(乙B13[枝番号1])及びEAP2例目(乙B13[枝番号3の1,2])であった。 EAP5症例に関する副作用報告では,症例経過等として別紙30(承認時までの副作用報告症例経過表(海外7症例))のEAP1~5例目(海外1,3及び5ないし7例目)欄のとおりの記載があった。 (イ) EAP1例目についてa 専門家の意見(a) 担当医等の意見イレッサの投与後,腺がんの陰影は顕著に軽快したが,他の間質性浸潤影が認められた。新しい浸潤影についてはステロイド療法により軽快した。【丙B3[枝番号157]】 (b) イレッサの間質性肺炎発症の致死性ないし重篤性を示唆するものであるとする見解の要旨福島雅典は,EAP1例目では,イレッサ投与してから2週間経たないうちに間質性肺炎が発症し,大量のソルメドール(ステロイド薬)を使用しないとならなくなったとする。 【甲E41〔18,19頁〕】(c) イレッサの間質性肺炎発症の致死性ないし重篤性を示唆するものではないとする見解の要旨工藤翔二は,EAP1 ロイド薬)を使用しないとならなくなったとする。 【甲E41〔18,19頁〕】(c) イレッサの間質性肺炎発症の致死性ないし重篤性を示唆するものではないとする見解の要旨工藤翔二は,EAP1例目では,間質性肺炎がステロイド薬により改善したものと認められるとする。 【乙E23〔38頁〕,証人工藤反対尋問〔83,84頁〕】b 判断EAP1例目は,イレッサ投与後に間質性肺炎が発症しており,イレッサと間質性肺炎発症との因果関係が否定できないものであるが,ステロイド薬により改善したものと認めるのが相当である。 (ウ) EAP2例目についてa 専門家の意見(a) 担当医等の意見初回報告では,イレッサと関連していると思われるとしていたが,追加報告では,間質性肺炎はイレッサと関連しているが,病勢進行とも関連しているかもしれないと考えると修正した。 【丙B5[枝番号51の1,2]】(b) イレッサの間質性肺炎発症の致死性ないし重篤性を示唆するものであるとする見解の要旨福島雅典は,イレッサによる間質性肺炎を発症しており,ステロイド薬を投与したが,呼吸不全で死亡した,イレッサ投与を開始し てから1か月も経たないうちに死亡したのであるから,イレッサが原因であることは明らかである,被告会社が副作用報告を取り下げた理由がわからないとする。【甲E41〔14~16頁〕】(c) イレッサの間質性肺炎発症の致死性ないし重篤性を示唆するものではないとする見解の要旨工藤翔二は,①患者は「レイノー現象,間質性肺疾患」の既往歴を有しており,膠原病に伴う何らかの肺病変をもとから有していた,イレッサによる間質性肺炎発症の可能性は否定できないが,担当医は,慢性閉塞性肺疾患があり,片側性肺水腫又はびまん性感染と考えられたとしており, おり,膠原病に伴う何らかの肺病変をもとから有していた,イレッサによる間質性肺炎発症の可能性は否定できないが,担当医は,慢性閉塞性肺疾患があり,片側性肺水腫又はびまん性感染と考えられたとしており,感染性の肺炎を疑って抗生物質が投与され,平成14年2月9日のCTスキャンでがん転移(右肺門の腫瘤及び縦隔リンパ節腫大)が認められて,死亡診断書に直接の死因は転移性非小細胞肺がんであると記載されたものと認められ,担当医の判断は正当であるから,イレッサと死亡との因果関係は認められない,②審査センターが添付文書に反映した海外7症例の間質性肺炎の症状や経過は,非特異的であり,治験における発症状況と整合するものであり,承認後に判明したイレッサによる間質性肺炎の特徴は現れていないとする。 【乙E17〔19頁〕,21〔6頁〕,23〔42~44頁〕】b 判断担当医の意見は,剖検が実施されていないにもかかわらず報告対象なしと変更した理由には合理性があるとはいえない。したがって,EAP2例目はイレッサと間質性肺炎の発症との因果関係は否定できないものというべきである。EAP2例目の患者は膠原病に伴う何らかの肺病変をもとから有しており,担当医は,当該患者には慢性閉塞性肺疾患があり,片側性肺水腫又はびまん性感染と考えられるとして, 抗生物質を投与したのであるから,むしろ感染性の肺炎を疑っていたと認められるが,このような担当医の認識は,イレッサと間質性肺炎発症との因果関係を否定するには足りないというべきである。 平成14年2月9日のCTスキャンによりがん転移(右肺門の腫瘤及び縦隔リンパ節腫大)が認められており,死亡診断書には直接の死因が転移性非小細胞肺がんである旨記載されており,転帰は死亡とされていたことからすると,EAP2例目は,イレッサと間 転移(右肺門の腫瘤及び縦隔リンパ節腫大)が認められており,死亡診断書には直接の死因が転移性非小細胞肺がんである旨記載されており,転帰は死亡とされていたことからすると,EAP2例目は,イレッサと間質性肺炎発症との因果関係が否定できないものの,感染性の肺炎の疑いが相当程度あるだけでなく,がんの進行を示す所見もあり,イレッサと死亡との間の因果関係が認められるとまではいえない。なお,イレッサの投与,肺炎の発症及び死亡までの時間的な経過をもって,病勢進行の疑いがあるとの治験担当医師の判断を覆すには足りない。 (エ) EAP3例目についてa 専門家の意見(a) 担当医等の意見本症例はイレッサとの関連性があると考える。 【丙B3[枝番号182]】(b) イレッサの間質性肺炎発症の致死性ないし重篤性を示唆するものであるとする見解の要旨福島雅典は,イレッサ投与から1か月半で呼吸困難が生じ,間質性肺炎に対してステロイドパルス療法を行ったが,その後約1週間で呼吸不全により死亡しているものであり,イレッサによって間質性肺炎を発症し死亡した典型的なものであるとする。 【甲E41〔22~24頁〕】(c) イレッサの間質性肺炎発症の致死性ないし重篤性を示唆するものではないとする見解の要旨 工藤翔二は,イレッサと間質性肺炎との関連性は否定できないが,疑問点がある,平成14年5月1日にイレッサの投与を中止しているにもかかわらず,その12日後の同月13日ころに呼吸困難が出現し,間質性肺炎によると認められる両肺びまん性陰影が確認されたのは同月16日のことであり,投与中止から間質性肺炎発症までの期間が空きすぎていることから,血液中にはほとんどイレッサが残っていないので,イレッサと間質性肺炎との因果関係は明らかではないとする。 は同月16日のことであり,投与中止から間質性肺炎発症までの期間が空きすぎていることから,血液中にはほとんどイレッサが残っていないので,イレッサと間質性肺炎との因果関係は明らかではないとする。 【乙E17〔19頁〕,21〔6頁〕,23〔44~46頁〕,証人工藤反対尋問〔86~88頁〕】坪井正博は,①イレッサの投与中止から2週間後にびまん性陰影が認められており,感染症による炎症の可能性の方が高い,②腫瘍熱と呼ばれる発熱が4日以上続いたため,5月1日にイレッサの投与を中止し,その後2週間経ってからびまん性の陰影となったが,通常イレッサは代謝により体内から出ている可能性が高い時期であるので,肺臓炎はイレッサとの関連性を強く示唆するものではないなどとする。 【丙49[枝番号1]〔17~21,112,113頁〕】福岡正博は,担当医や被告会社が,肺臓炎とイレッサとの関連性が否定できない旨記載しており,イレッサとの因果関係を否定できない間質性肺炎による副作用死亡例ということになる旨証言する。 【証人福岡反対尋問〔69,70頁〕】西條長宏は,前治療としてシスプラチンとゲムシタビン及びカルボプラチンとパクリタキセルの各併用療法,腰椎への放射線治療法が行われているが,イレッサを投与して肺臓炎が増悪しているように見えるので,イレッサの服用による間質性肺炎の発症と死亡との 因果関係を否定できないとする。【乙E20〔41頁〕】b 判断EAP3例目は,イレッサと間質性肺炎発症との因果関係が否定できないものであるという点では各専門家の評価が一致する。当該間質性肺炎に対してはステロイドパルス療法が行われていることから,当該間質性肺炎は重篤な症状であったことが推認される。 しかし,発症した間質性肺炎はイレッサ投与を中止してから2週間 一致する。当該間質性肺炎に対してはステロイドパルス療法が行われていることから,当該間質性肺炎は重篤な症状であったことが推認される。 しかし,発症した間質性肺炎はイレッサ投与を中止してから2週間後に発症したものであり,イレッサによるものであると考えるには疑問があるとする担当医の意見は合理的であるというべきであるから,投与中止や代謝を捨象して単に時間的な経過のみを重視することは相当ではなく,また,薬剤性間質性肺炎を引き起こす薬剤(ボルタレン,ガスター,クラビット等。丙I11~14)が併用されていることが認められ,併用薬の影響も否定できないのであるから,当該間質性肺炎が重篤なものであったことを考慮しても,イレッサと死亡との因果関係は不明であるといわざるをえない。 (オ) EAP4例目についてa 専門家の意見(a) 担当医等の意見閉塞性肺炎及び肺臓炎は,イレッサとの関連性がある。 【丙B3[枝番号187]】(b) イレッサの間質性肺炎発症の致死性ないし重篤性を示唆するものではないとする見解の要旨工藤翔二は,①平成14年4月17日に認められた「肺臓炎」とは間質性肺炎のことを意味し,「肺臓炎は未回復であった」とはされているが,ステロイド薬投与後,「容態が安定し退院」していることからすれば,ステロイド薬が奏功して間質性肺炎が改善された ものと評価できる,②審査センターが添付文書に反映した海外7症例の間質性肺炎の症状や経過は,非特異的で治験における発症状況と整合するものであり,承認後に判明したイレッサによる間質性肺炎の特徴は現れていないとする。 【乙E17〔19頁〕,21〔6頁〕,23〔38,39頁〕】b 判断EAP4例目は,平成14年4月17日に発症した肺臓炎が間質性肺炎であると認められ,イレッサと間質 徴は現れていないとする。 【乙E17〔19頁〕,21〔6頁〕,23〔38,39頁〕】b 判断EAP4例目は,平成14年4月17日に発症した肺臓炎が間質性肺炎であると認められ,イレッサと間質性肺炎発症との因果関係が否定できないものであるといえる。ステロイド薬による治療が行われ,容態が安定し患者は退院したものの,退院時に当該間質性肺炎が未回復であったことから,当該間質性肺炎は相当程度重篤であったことがうかがわれる。 (カ) EAP5例目についてa 専門家の意見(a) 担当医等の意見両側性びまん性肺胞隔炎は,イレッサとの関連性がある。器質性肺炎を伴う閉塞性気管支肺炎は,イレッサ及び他剤との関連性はない。【丙B3[枝番号191の1・2]】(b) イレッサの間質性肺炎発症の致死性ないし重篤性を示唆するものではないとする見解の要旨工藤翔二は,①平成14年5月5日に発症した「胞隔炎」とは間質性肺炎のことをいうが,ステロイド薬による治療の10日後に症状が回復したとされていることから,ステロイド薬が奏功して間質性肺炎が改善したものと評価できる,②審査センターが添付文書に反映した海外7症例の間質性肺炎の症状や経過は,非特異的で治験における発症状況と整合するものであり,承認後に判明したイレッ サによる間質性肺炎の特徴は現れていないとする。 【乙E17〔19頁〕,21〔6頁〕,23〔39頁〕】b 判断EAP5例目は,平成14年5月5日に発症したびまん性肺胞隔炎が間質性肺炎であると認められ,イレッサと間質性肺炎発症との因果関係が否定できないものであるといえる。ステロイド薬による治療を行って10日後に症状が回復したと認められるから,ステロイド薬が奏功して間質性肺炎が改善したものと認められる。 エ海外の臨床試験 果関係が否定できないものであるといえる。ステロイド薬による治療を行って10日後に症状が回復したと認められるから,ステロイド薬が奏功して間質性肺炎が改善したものと認められる。 エ海外の臨床試験(INTACT各試験)の副作用報告について(ア) 海外の臨床試験の副作用報告海外の臨床試験において,間質性肺炎に関する副作用報告として被告国が把握したのは合計2例であった(INTACT2症例)。INTACT2症例のうち1例目(INTACT1例目・乙B13[枝番号2])はINTACT1試験の症例であり,2例目(INTACT2例目)はINTACT2試験の症例であった。なお,いずれも被告国が審査報告書作成までの間に報告を受けたものである。INTACT各試験の概要は,別紙12及び13記載のとおりである。 INTACT2症例に関する副作用報告では,症例経過等として別紙30(承認時までの副作用報告症例経過表(海外7症例))のINTACT1及び2例目(海外2及び4例目)欄のとおりの記載があった。 (イ) INTACT1例目についてa 専門家の意見(a) 担当医等の意見駆出率減少とイレッサとの関連性は否定できる。呼吸困難,急性心肺停止,両側性肺臓炎,気胸及び皮下気腫はイレッサと関連している可能性があると考えている。ゲムシタビン及びシスプラチンと の関連性は未判定である。【丙B3[枝番号156]】(b) イレッサの間質性肺炎発症の致死性ないし重篤性を示唆するものであるとする見解の要旨福島雅典は,INTACT1例目では,①イレッサ投与を開始して3週間後に間質性肺炎を発症し,イレッサ投与から1か月も経たずに死亡するに至っており,重大な副作用による肺障害が起こっているので,イレッサによる間質性肺炎が原因で死亡したものだと理解す を開始して3週間後に間質性肺炎を発症し,イレッサ投与から1か月も経たずに死亡するに至っており,重大な副作用による肺障害が起こっているので,イレッサによる間質性肺炎が原因で死亡したものだと理解する,②平成14年1月26日にイレッサ投与を開始し,同年2月21日に間質性肺炎が発症しており,併用薬剤は同月23日に減量して投与されているから,前後関係からみてイレッサによって間質性肺炎が発症したということになるとする。 【甲E41〔16~24頁〕】(c) イレッサの間質性肺炎発症の致死性ないし重篤性を示唆するものではないとする見解の要旨工藤翔二は,INTACT各試験からの間質性肺炎の報告は,当該治験が他の抗がん剤との併用療法の臨床試験であるから,いずれの薬剤が副作用の原因であるか不明であるし,約1400症例のうち2例程度の副作用死亡例があったとしても,通常の抗がん剤による間質性肺炎発症割合や治療関連死の割合と比較しても低いものであるとする。 【乙E17〔19頁〕,21〔6頁〕,23〔37,38頁〕,証人工藤主尋問〔52~54頁〕,証人工藤反対尋問〔84~86頁〕】福岡正博は,担当医や被告会社が,肺臓炎をイレッサとの関連性を否定できないものとして記載しており,イレッサとの因果関係が否定できない間質性肺炎による副作用死亡例ということになる旨証 言する【証人福岡反対尋問〔69頁〕】西條長宏は,薬剤性肺臓炎が起こって死亡したことが認められ,イレッサと急性肺障害による死亡との間の因果関係が完全には否定できないが,ゲムシタビンやシスプラチンによる肺臓炎か,イレッサによる肺臓炎か不明であるとする。【乙E20〔39~41頁〕】坪井正博は,添付文書に反映されたINTACT1例目では,①肺臓炎が疑われた時期に,イレッサのみな スプラチンによる肺臓炎か,イレッサによる肺臓炎か不明であるとする。【乙E20〔39~41頁〕】坪井正博は,添付文書に反映されたINTACT1例目では,①肺臓炎が疑われた時期に,イレッサのみならず他の化学療法も実施されているので,もし抗がん剤による薬剤性肺臓炎と考えると,原因をイレッサに限定するのは困難である,②イレッサ投与後,肺転移,脾臓転移が縮小しており,イレッサの効果があった患者であり,肺臓炎が薬剤性か否かは平成14年2月23日に好中球減少が見られることから,感染症による炎症の可能性の方が高い,③イレッサの投与中止から2週間後にびまん性陰影が認められているものがある,④担当医等の意見における肺臓炎のイレッサとの関連の可能性について,臨床試験であるので全く否定できないのであれば可能性があるという程度で記載されたものと思われるとする。 【丙49[枝番号1]〔17~21,111,112,127,128頁〕】b 判断イレッサと間質性肺炎発症との間の因果関係を否定できないものであるという点では各専門家の評価が一致するものである。 しかし,他の抗がん剤による間質性肺炎発症や感染症の可能性が考えられ,イレッサと死亡との因果関係は不明であるといわざるをえない。 (ウ) INTACT2例目について a 専門家の意見(a) 担当医等の意見初回報告では,「失神」「両側性肺間質浸潤」「成人呼吸窮迫症候群」については,化学療法(カルボプラチン)及び治験薬(イレッサ,パクリタキセル)との関連性ありとしていたが,追加報告により,本事象(「失神」「両側性肺間質浸潤」「成人呼吸窮迫症候群」)と化学療法(カルボプラチン及びパクリタキセル)及び治験薬(イレッサ又はプラセボ)との関連性はないと考えるとの記載に変更した。【丙B り,本事象(「失神」「両側性肺間質浸潤」「成人呼吸窮迫症候群」)と化学療法(カルボプラチン及びパクリタキセル)及び治験薬(イレッサ又はプラセボ)との関連性はないと考えるとの記載に変更した。【丙B5[枝番号8の1・2]】(b) イレッサの間質性肺炎発症の致死性ないし重篤性を示唆するものであるとする見解の要旨福島雅典は,INTACT2例目では,①イレッサ投与後21日後に成人呼吸窮迫症候群(間質性肺炎)が発症し,ステロイド薬を大量に使用しなければならなかった症例である,成人呼吸窮迫症候群発症を発症して1週間後に死亡したのであるから,イレッサとの関連を疑わざるを得ない,②臨床試験は適格基準に合致する患者を対象とするものであるから,上記経緯で死亡したというのは薬剤の副作用によるものとみるのが自然であり,追加報告での訂正は受け入れがたいものである,③このように海外のデータも間質性肺炎が生じることを示しており,イレッサによる死亡と考えられる症例もあったとする。【甲E41〔12~24頁〕】(c) イレッサの間質性肺炎発症の致死性ないし重篤性を示唆するものではないとする見解の要旨工藤翔二は,①「両側性肺間質浸潤」とは,間質に影があるという症状を指すから,間質性肺炎を発症していたものと認められる,INTACT2例目ではイレッサによる可能性が否定できないもの の,間質性肺炎の発症原因がイレッサか他の併用薬剤か不明である,②INTACT各試験からの間質性肺炎の報告は,当該治験が他の抗がん剤との併用療法の臨床試験であるから,いずれの薬剤が副作用の原因であるか不明であるし,約1400症例のうち2例程度の副作用死亡例があったとしても,通常の抗がん剤による間質性肺炎発症割合や治療関連死の割合と比較しても低いものであるとする。 【乙 副作用の原因であるか不明であるし,約1400症例のうち2例程度の副作用死亡例があったとしても,通常の抗がん剤による間質性肺炎発症割合や治療関連死の割合と比較しても低いものであるとする。 【乙E17〔19頁〕,21〔6頁〕,23〔37,38頁〕,証人工藤主尋問〔52~54頁〕】b 判断INTACT2例目は,「両側性肺間質浸潤」(間質に影があるという症状)が見られ,間質性肺炎が発症していたと認められ,担当医の意見が変更された経緯はあるが,イレッサと間質性肺炎発症との間の因果関係が否定できない症例であるという点での各専門家の評価も一致する。 しかし,併用投与された薬剤による間質性肺炎発症の疑いがあり,イレッサと死亡との間の因果関係は不明であるといわざるを得ない。 オその他の原告らが主張する副作用報告について(ア) 原告らの主張原告らは,別紙31(急性肺障害・間質性肺炎を発症したと考えられる副作用症例一覧表)に記載された39例について,急性肺障害・間質性肺炎を発症したと考えられる副作用症例であるから,これらは間質性肺炎に関する副作用として扱うべきであると主張する。ただし,上記39症例には,前記(4)エ(イ)(16-①症例)及び前記イないしエの症例が10例(同表の1,2,4,20,21,25,26,28,31及び38例目)含まれ,この重複を除くと29症例である。 原告らは,別紙32(海外からの副作用報告196例のうち転帰死亡の症例一覧表)に記載された57例のうち呼吸器に関する22例(別紙32の左から2列目の「No」によって特定される症例)について,間質性肺炎等の疑いがあったのであるから十分に精査して間質性肺炎に関する副作用として扱うべきであったと主張する。ただし,上記22症例には,前記ウ及びエの症例のう 」によって特定される症例)について,間質性肺炎等の疑いがあったのであるから十分に精査して間質性肺炎に関する副作用として扱うべきであったと主張する。ただし,上記22症例には,前記ウ及びエの症例のうちの2例(同表の45及び54例目)が含まれており,またうち9症例(同表の2,3,18,36,39,46,51,53及び57例目)は別紙31(急性肺障害・間質性肺炎を発症したと考えられる副作用症例一覧表)にも含まれる症例であるから,この重複を除くと11症例である。 (イ) 別紙31(急性肺障害・間質性肺炎を発症したと考えられる副作用症例一覧表)の29症例についてa 上記29症例のうち7症例(同表の3,5,9,12,29,34,35例目)について間質性肺炎の発症が認められる上記7症例は,ゲムシタビン又はパクリタキセルとの併用投与が行われたINTACT各試験の症例であり,イレッサ単剤による副作用を判断することは困難であるが,イレッサと間質性肺炎発症との因果関係が完全には否定できないものであるといわざるをえないから,副作用症例に含めることが相当である。 しかし,いずれの症例も,併用投与された薬剤による間質性肺炎発症の疑いがあるものや,がんの病勢進行の疑いがあるものなどであり,イレッサと死亡との間の因果関係が不明であるといわざるをえない。 b 上記29症例の残りの22例(残22症例)について(a) 間質性肺炎との関連性残22症例は,いずれも担当医等により間質性肺炎の確定診断が されたものではないが,一般的に抗がん剤による肺毒性は間質性肺炎の型をとることが多いと考えられており,いずれの症例も肺毒性による呼吸困難などとして報告された症例であり,間質性肺炎の鑑別診断は困難であることが少なくなく(前記第5章第3の3(3)エ(イ 質性肺炎の型をとることが多いと考えられており,いずれの症例も肺毒性による呼吸困難などとして報告された症例であり,間質性肺炎の鑑別診断は困難であることが少なくなく(前記第5章第3の3(3)エ(イ)),いずれも臨床経過などから間質性肺炎の疑いが完全には否定できないものであるから,少なくとも承認時の判断としては間質性肺炎の症例から除外して評価することは相当ではない。 (b) イレッサと間質性肺炎の疑いのある呼吸困難等との因果関係残22症例は,臨床経過が明らかではないものもあるが,担当医等の意見を踏まえれば,少なくともイレッサと間質性肺炎の疑いのある呼吸困難等との因果関係が否定できないものであると認めるのが相当である。 (c) イレッサとの因果関係が否定できない疾病と死亡との因果関係ⅰ 残22症例のうち,転帰が回復とされた2症例(同表の8及び11例目)は死亡例ではなく,また転帰が軽快とされた1症例(同表の23例目)は呼吸困難等が軽快しているため,いずれも間質性肺炎の疑いのある呼吸困難等と死亡との因果関係が否定される。 残22症例のうち,転帰が当初不明とされており,追加情報により回復とされた2症例(同表の30及び37例目)は,臨床経過に関する情報不足のために当初不明とされていたにすぎず,その後患者が回復して退院したとの情報により,転帰を回復としたものであるから,いずれも間質性肺炎の疑いのある呼吸困難等と死亡との因果関係が否定される症例として扱うべきである。 残22症例のうち,転帰が未回復とされた2症例(同表の14,15例目)は,治療中止後の臨床経過が明らかではないため に死亡したか否かさえ不明であるものであるから,死亡例として扱うことはできない。 もっとも,残22症例のうちの上記7症例の重篤性は,いずれも「重 中止後の臨床経過が明らかではないため に死亡したか否かさえ不明であるものであるから,死亡例として扱うことはできない。 もっとも,残22症例のうちの上記7症例の重篤性は,いずれも「重篤」,「死亡のおそれ」又は「死亡」と記載されていたのであるから,上記7症例の間質性肺炎の疑いのある呼吸困難等は重篤なものであったといえる。 ⅱ 残22症例のうち,転帰が不明とされたもののうち死亡に至っている症例(同表の10,19及び36及び39例目)は死因が不明なものや病勢進行による死亡の疑いがあるものであるから,いずれも間質性肺炎の疑いのある呼吸困難等と死亡との因果関係が不明であるものである。 残22症例のうち,転帰が死亡とされたもののうち臨床経過が明らかでなく死因不明などとされている症例(同表の6,17及び18例目)や,転帰が死亡とされたもののうち臨床経過等から病勢進行が疑われる症例(同表のうち7,13,16,27及び33例目。なお,同表の13例目は担当医の判断未入手であり,16例目では,担当医の判断と放射線専門医の判断が分かれている。)は,いずれも間質性肺炎の疑いのある呼吸困難等と死亡との因果関係が不明であるといわざるをえない。 残22症例のうち,転帰が死亡とされたその他の症例(同表の22,24及び32例目)は,詳細な臨床経過が明らかではないものも含まれるが,担当医の判断は間質性肺炎の疑いのある呼吸困難等と死亡との関連性を否定しておらず,その他に病勢進行を疑わせる所見が見当たらないのであるから,薬剤による副作用又は感染症と死亡との因果関係が否定できないものであるというべきである。 (ウ) 別紙32(海外からの副作用報告196例のうち転帰死亡の症例一覧表)の11症例についてa 上記11症例のうちの5症例(同 果関係が否定できないものであるというべきである。 (ウ) 別紙32(海外からの副作用報告196例のうち転帰死亡の症例一覧表)の11症例についてa 上記11症例のうちの5症例(同表の5,7,9,19及び25例目)について間質性肺炎の発症が認められる上記5症例は,ゲムシタビン又はパクリタキセルとの併用投与が行われたINTACT各試験の症例であったため,イレッサ単剤による副作用を判断することは困難であるが,イレッサと間質性肺炎発症との因果関係が完全には否定できないから,副作用症例に含めることが相当である。 しかし,いずれの症例も,併用投与された薬剤による間質性肺炎発症の疑いがあるものや,がんの病勢進行の疑いがあるものなどであり,イレッサと死亡との間の因果関係は不明であるといわざるをえない。 b 上記11症例の残りの6例(残6症例)について(a) 残6症例の位置付けⅰ 残6症例のうち,肺塞栓症などの病名が診断された4症例(同表の10,32,38及び56例目)では,いずれも担当医等により間質性肺炎の診断がされたものではなく,間質性肺炎とは異なる病態の病名が診断されているものであるから,間質性肺炎の発症例に準じて扱うことはできない。 ⅱ 残6症例のうち,肺炎NOSと診断された症例(同表の52例目。肺炎NOS症例)及び急性呼吸不全と診断された症例(同表の30例目。急性呼吸不全症例)は,担当医等により間質性肺炎の確定診断がされたものではないが,一般的に抗がん剤による肺毒性は間質性肺炎の型をとることが多いと考えられており,いずれの症例も肺毒性による呼吸不全などとして報告された症例であ る上,間質性肺炎の鑑別診断は困難であることが少なくなく(前記第5章第3の3(3)エ(イ)),いずれも臨床経過などから間 いずれの症例も肺毒性による呼吸不全などとして報告された症例であ る上,間質性肺炎の鑑別診断は困難であることが少なくなく(前記第5章第3の3(3)エ(イ)),いずれも臨床経過などから間質性肺炎の疑いが否定できないものであるから,少なくとも承認時の判断としては間質性肺炎の症例から除外して評価することは相当ではないと考えられる。 (b) イレッサと間質性肺炎の疑いのある疾病との因果関係について肺炎NOS症例(同表の52例目。NOSとは,「これ以上特定できる情報がない」ことを意味する。乙P27)は,臨床経過が明らかではなく,肺がん罹患歴が長く,長期の既治療歴を有することに起因する疑いがあるが,少なくともイレッサと間質性肺炎の疑いのある肺炎との因果関係が否定できないものであると認めるのが相当である。 急性呼吸不全症例(同表の30例目)は,臨床経過が明らかでないが,追加報告前に診断されていた気管支けいれんがイレッサとの関連性があると担当医により判断されており,その後気管支けいれんの診断名が急性呼吸不全に変更されており,少なくともイレッサと間質性肺炎の疑いのある急性呼吸不全との因果関係が否定できないものであると認めるのが相当である。 (c) イレッサとの因果関係が否定できない疾病と死亡との因果関係について肺炎NOS症例は,転帰が死亡とされているが,担当医の判断では因果関係に関する情報未入手とされており,肺がん罹患歴が長く,長期の既治療歴を有することに起因する肺炎であった疑いがあり,臨床経過が明らかではないことによる因果関係の有無が判断できないものであるから,因果関係が不明であるといわざるをえない。 急性呼吸不全症例は,転帰が死亡とされており,詳細な臨床経過が明らかではないが,担当医の判断も関連性を否定 無が判断できないものであるから,因果関係が不明であるといわざるをえない。 急性呼吸不全症例は,転帰が死亡とされており,詳細な臨床経過が明らかではないが,担当医の判断も関連性を否定しておらず,その他に病勢進行を疑わせる所見が見当たらないものであるから,薬剤による副作用又は感染症と死亡との因果関係が否定できないものであるというべきである。 カ海外の副作用報告(前記ウ,エ,オ)についての総括(ア) 海外の副作用報告におけるイレッサ投与量と承認用量前記ウないしオの認定・判断のとおり,間質性肺炎等に関する海外の副作用報告は,EAP及びINTACT各試験の症例を合計すると43例であった(副作用名が間質性肺炎等以外のものであるが,間質性肺炎等に関する副作用報告と扱うべき症例を含む。内訳は,被告国が報告を受けたとするEAP症例5例及びINTACT各試験の症例2例,被告会社が報告を受けたその他のEAP及びINTACT各試験の症例36例(前記オ(イ)の29症例並びに同(ウ)aの5症例及びbの2症例))。 上記43症例のうち承認された用量(250mg/日)での発症例は,22例あり(ただし,うち1例は,投与開始時の投与量が500mg であったが,後に250mg に変更された症例である。),投与量が不明なものが7例であった(海外の副作用報告のうち被告国が報告を受けたとする海外7症例においては,承認用量での発症例が4例,投与量が不明なものでの発症例が2例あった。その他の症例における承認用量での発症例は,別紙31(急性肺障害・間質性肺炎を発症したと考えられる副作用症例一覧表)の8,10,11,13~19,22~24,36,37,39例目の合計16例,別紙32(海外からの副作用報告196例のうち転帰死亡の症例一覧表)の30,52例目の したと考えられる副作用症例一覧表)の8,10,11,13~19,22~24,36,37,39例目の合計16例,別紙32(海外からの副作用報告196例のうち転帰死亡の症例一覧表)の30,52例目の合計2例であり,投与量不明なものは,別紙31(急性肺障害・間質性肺炎を発症したと考えられる副作用症例一覧表)の4,6,30,32,33例目の 合計5例であった。)。 そうすると,海外の副作用報告によると,承認用量でのイレッサとの因果関係を否定できない間質性肺炎発症例が半数ほどあり,投与量不明なものも少なからず存在したというのであるから,承認用量で投与したときに間質性肺炎が発症する可能性が十分にあったといえる。 (イ) 間質性肺炎の発症頻度前記(ア)の認定・判断のとおり,間質性肺炎等に関する海外の副作用報告は,合計43例であった(EAPとINTACT各試験における内訳では,前者が29例,後者が14例)。 INTACT各試験におけるイレッサの投与例の総数は約1400例であり(前記エ(ア)),EAPにおけるイレッサの投与例の総数は詳細が不明であるが,1万例など多数に上るといわれていた(証人工藤主尋問〔54頁,55頁〕)。そうすると,INTACT各試験における発症頻度は約1%であって,国内臨床試験における発症頻度約2.3%よりも低い。また,EAPにおける発症頻度は母数が不明であり計算すること自体困難であったというのであるから,海外の副作用報告から,イレッサによる間質性肺炎等の発症頻度を的確に把握することは困難であったといわざるをえない(仮に1万例とすると,発症頻度は0.29%である。)。 (ウ) 間質性肺炎の致死性ないし重篤性前記(ア)の認定・判断のとおり,間質性肺炎等に関する海外の副作用報告は,間質性肺炎と確定診断されて 仮に1万例とすると,発症頻度は0.29%である。)。 (ウ) 間質性肺炎の致死性ないし重篤性前記(ア)の認定・判断のとおり,間質性肺炎等に関する海外の副作用報告は,間質性肺炎と確定診断されていないものを含めると合計43例であり,そのうちイレッサの副作用である間質性肺炎と死亡との因果関係が否定できない症例は,併用薬剤の影響などのために因果関係の判断が不明のものを含めると,合計34例(うち併用薬剤の影響のために因果関係の判断が困難な症例が14例)あり,また間質性肺炎と確定診断 されていない症例は43例中24例であり,そのうちイレッサの副作用である疾病と死亡との因果関係が否定できない症例は17例(併用薬剤の影響のために因果関係の判断が困難な症例14例とは重複していない。)であったというのである。 そうすると,海外の副作用報告合計43例のうち半数以上である24例は,間質性肺炎と確定診断されたものではなく,臨床経過が不明であり,事後的に検証することもできないことから,間質性肺炎と診断された症例と同等に評価するべきであるとまではいえず,また,間質性肺炎と確定診断された副作用報告合計19例(43例-24例=19例)のうち14例が併用薬剤の影響のために因果関係の判断が困難な症例であり,加えて承認用量と異なる症例も含まれており,海外においてもEAPやINTACT各試験などで多数の症例において投与されていることを総合すると,海外副作用報告からは,承認用量のイレッサによって発症しうる間質性肺炎の重篤性ないし致死性を適正に評価することは困難であったといわざるをえない。もっとも,海外の副作用報告のうち間質性肺炎(肺臓炎)と診断されたものの中に,イレッサによる間質性肺炎と死亡との因果関係が否定できないものが数例のみ含まれていたことに照ら あったといわざるをえない。もっとも,海外の副作用報告のうち間質性肺炎(肺臓炎)と診断されたものの中に,イレッサによる間質性肺炎と死亡との因果関係が否定できないものが数例のみ含まれていたことに照らせば,イレッサによる間質性肺炎によって死に至ることがあったが,イレッサによる間質性肺炎の重篤度は,従来の殺細胞性抗がん剤(前記3(3)オ)と比較して重篤ないし致死的であったとまではいえず,せいぜい同程度であったとみるのが相当であった。 (エ) イレッサによる間質性肺炎の発症経過などの特徴前記間質性肺炎等に関する海外の副作用報告中43例についてみると,イレッサの投与開始からの間質性肺炎の発症時期や症状経過,ステロイド療法への反応性などは様々であったといえるから,イレッサの副作用による間質性肺炎が急性間質性肺炎の特徴を有するものであるなど の特徴を把握することまでは困難であったというべきである。 キ国内外の副作用報告の概要以上を総合すると,以下のとおり要約することができる。 (ア) イレッサ投与量と承認用量国内3症例をはじめとする治験においては,イレッサの承認用量での間質性肺炎に関する副作用例がなく,イレッサを承認用量で投与したときに間質性肺炎が発症するという明確な根拠はなかった。 しかし,海外の副作用報告によると,間質性肺炎等に関する海外の副作用報告のうち承認用量での間質性肺炎発症例が半数ほどあり,投与量不明なものも少なからず存在した。 以上によれば,治験等の副作用報告である国内3症例の内容・証拠価値を考慮したとしても,承認用量の倍量で使用した場合のみならず,承認用量で投与したときに間質性肺炎が発症する可能性は否定できるものではなかったといえる。 (イ) イレッサによる間質性肺炎の発症頻度国内3症例と海外の 承認用量の倍量で使用した場合のみならず,承認用量で投与したときに間質性肺炎が発症する可能性は否定できるものではなかったといえる。 (イ) イレッサによる間質性肺炎の発症頻度国内3症例と海外の副作用報告の内容は齟齬するものではく,国内外の副作用報告からは,イレッサによる間質性肺炎等の発症頻度を的確に把握することは困難であったといわざるをえず,国内臨床試験における発症頻度約2.3%をもとにしても,他の抗がん剤より高いとはいえないだけでなく,現在における実地医療における間質性肺炎発症率と比較しても,他の抗がん剤よりも特に高いものであったとまではいえない(発生頻度につき,前記第5章第3の4(5)イ(オ)b(b))。 (ウ) イレッサによる間質性肺炎の致死性ないし重篤性抗がん剤による薬剤性肺炎を発症した場合,その多くは投与の中止又はステロイド薬により改善するが,時には死に至ることがあり得るところ,国内3症例は,イレッサによる間質性肺炎と死亡との間の因果関係 ががんの進行により否定されるものや,イレッサによる間質性肺炎が軽快したものなどであったから,国内3症例は,イレッサにより発症しうる間質性肺炎が,従来の抗がん剤に比べて,致死的ないし重篤なものであったと判断するには足りないものであった。 また,海外の副作用報告は,転帰が死亡となった症例を含むものであったが,承認用量のイレッサによって発症しうる間質性肺炎の重篤性ないし致死性を適正に評価することは困難なものであったといわざるをえず,より慎重に評価を加えたとしても,イレッサによる間質性肺炎によって死に至ることがありうるが,イレッサによる間質性肺炎の重篤度が従来の殺細胞性抗がん剤による間質性肺炎より重篤ないし致死的であった判断するに足りるものではなく,せいぜい同程度判断される 性肺炎によって死に至ることがありうるが,イレッサによる間質性肺炎の重篤度が従来の殺細胞性抗がん剤による間質性肺炎より重篤ないし致死的であった判断するに足りるものではなく,せいぜい同程度判断されるものであったとみるのが相当である。 そうすると,国内3症例は,海外の副作用報告と矛盾するものではなかったというべきである。 以上をを総合考慮すると,イレッサ承認当時においては,イレッサによって発症しうる間質性肺炎は死に至ることがありうるが,その重篤度は従来の抗がん剤と比べて致死的ないし重篤なものであったとはいえないと判断することが相当であったと認められる。 (エ) イレッサによる間質性肺炎の発症経過などの特徴間質性肺炎の発症経過がそれぞれ異なっていた国内3症例からは,イレッサにより発症しうる間質性肺炎に関して発症経過などの特徴を見いだすことは困難であった。 海外の副作用報告によっても,イレッサの投与開始からの間質性肺炎の発症時期や症状経過,ステロイド療法への反応性などは様々であったから,イレッサの副作用による間質性肺炎が急性間質性肺炎の特徴を有するものであるなどの特徴を把握することまでは困難であった。 したがって,イレッサ承認当時においては,イレッサにより発症しうる間質性肺炎に関して発症経過などの特徴を把握することは困難であったと認めるのが相当である。 (6) 承認後の各調査等の評価ア承認後の副作用報告【甲L3[枝番号1~30。うち24及び30は孫番号1,2を含む。],甲K12,乙L3[枝番号1~26],丙E59[枝番号5],丙K1[枝番号3,11~14],2[枝番号3],3[枝番号4]】(ア) 承認後の副作用報告平成14年7月5日(イレッサ承認日)から同年10月15日(緊急安全性情報の発出及びイレ 番号5],丙K1[枝番号3,11~14],2[枝番号3],3[枝番号4]】(ア) 承認後の副作用報告平成14年7月5日(イレッサ承認日)から同年10月15日(緊急安全性情報の発出及びイレッサの添付文書の第3版改訂のあった日)までの間に,被告会社が間質性肺炎等に関する副作用情報を入手した日及び間質性肺炎等による副作用死亡例の情報を入手した日,並びに被告国が被告会社から間質性肺炎等に関する副作用報告を受けた日及び間質性肺炎等による副作用死亡例の報告を受けた日は別紙33(承認後の副作用報告情報入手日一覧表)のとおりである。 間質性肺炎等による副作用発症報告は,次のとおりである(但し,被告会社が公表した数値である。)。 同年11月25日当時 291例(うち死亡例は,81例)同年12月13日当時 358例(うち死亡例は,114例)平成15年4月22日当時 616例(うち死亡例は,246例)平成16年3月23日当時 1151例(うち死亡例は,444例)平成19年3月31日当時 1797例(うち死亡例は,706例)なお,平成18年度から平成20年度におけるイレッサによる間質性肺炎の年度別副作用報告数は,次のとおりである。 平成18年度 126例(うち死亡報告数41例)平成19年度 95例(うち死亡報告数23例)平成20年度 112例(うち死亡報告数33例)最近のイレッサの投与患者数は年間約1万5000人と推定される。 (イ) 原告らの主張・立証について原告らは,承認後症例③及び⑧(別紙33(承認後の副作用報告情報入手日一覧表)の症例③及び⑧)は副作用死亡例であり,承認後症例④,⑪及び⑯(同表の症例④,⑪及び⑯)は副作用症例であることを前提として,平成14年8月29日の時点で間質性 (承認後の副作用報告情報入手日一覧表)の症例③及び⑧)は副作用死亡例であり,承認後症例④,⑪及び⑯(同表の症例④,⑪及び⑯)は副作用症例であることを前提として,平成14年8月29日の時点で間質性肺炎等の副作用報告が13例,うち間質性肺炎等による副作用死亡報告が7例であったなどと主張する。これに対して,被告会社は,上記各症例を間質性肺炎等に関する副作用報告,副作用死亡報告と扱うことはできないと主張するので,検討する。 a 「副作用死亡報告」について(a) 承認後症例③について被告会社は,承認後症例③では死に至る事象として「カンジダ性肺炎」が副作用とされており間質性肺炎等の副作用死亡報告ではない(ただし,承認後症例③が間質性肺炎の副作用報告であることは争いがない。)と主張する。 証拠(甲L3[枝番号3],乙L3[枝番号3の1・2])によれば,承認後症例③の副作用報告(平成14年8月9日)では,副作用名として生命を脅かす事象として間質性肺炎等,死に至る事象としてカンジダ性肺炎が記載されており,転帰が死亡とされていたこと,臨床経過として,平成14年8月4日にレントゲン上で両側網状影が認められたことから,患者に間質性肺炎などが発症したことが疑われ,同月9日に死亡したこと,承認後症例③の死亡に関す る被告会社への報告までに7例の間質性肺炎の副作用報告があり,そのうち3例が死亡との因果関係が否定できない症例であったことが認められる。 そうすると,承認後症例③は,直接の死因がカンジダ性肺炎であるとされたものであるが,詳細な臨床経過が不明であり,経時的な関係からは間質性肺炎と死亡との関係が否定できないというべきであるから,治験における安全性情報の取扱についての通知(乙D13)の趣旨に照らせば,少なくとも承認後症例③に関す 過が不明であり,経時的な関係からは間質性肺炎と死亡との関係が否定できないというべきであるから,治験における安全性情報の取扱についての通知(乙D13)の趣旨に照らせば,少なくとも承認後症例③に関する報告を受けた当時としては,間質性肺炎等の副作用死亡報告と扱うのが適当であったと認めるのが相当である。したがって,被告会社の上記主張は採用できない。 (b) 承認後症例⑧について被告会社は,承認後症例⑧では副作用名が「死亡NOS」とされており間質性肺炎等の副作用死亡報告と扱うことはできなかったと主張する。 証拠(甲L3[枝番号1~8,16],乙L3[枝番号1~8,16。各孫番号1,2を含む。])によれば,承認後症例⑧の報告書(平成14年8月29日)では,死に至る事象として死亡NOS,入院/入院期間の延長を要する事象として肺炎NOSと記載され,死因不明とされていたこと,臨床経過では,イレッサの投与中止後に肺炎が発症したとされていたが,その他の臨床経過の詳細が報告書には記載されていなかったこと,担当医の意見には,イレッサと肺炎との因果関係が不明であり,死亡との関連性の情報も未入手であるとされていたこと,承認後症例⑧に関する被告国への初回報告までに少なくとも9例の間質性肺炎の副作用報告があったことが認められる。 臨床経過からは上記肺炎が間質性肺炎か否かを的確に判断できるとはいいがたく,詳細が不明の肺炎とされているところ,間質性肺炎自体の鑑別診断が困難であることが少なくないことや承認から約2か月の間に少なくとも9例の間質性肺炎の副作用報告があったこと,治験における安全性情報の取扱についての通知(乙D13)を併せ考慮すると,承認後症例⑧を間質性肺炎等の疑いのある副作用症例として扱うべきであった認めるのが相当である。また,臨 作用報告があったこと,治験における安全性情報の取扱についての通知(乙D13)を併せ考慮すると,承認後症例⑧を間質性肺炎等の疑いのある副作用症例として扱うべきであった認めるのが相当である。また,臨床経過が明らかではないとしても,因果関係が否定できないものであったのであるから,少なくとも承認後症例⑧の報告を受けた当時としては,副作用死亡例として扱うのが相当である。したがって,被告会社の上記主張は採用できない。 (c) その他の症例について被告会社は,その他の副作用死亡報告では担当医がイレッサと間質性肺炎等との因果関係に否定的な意見を示していたなど主張する。 しかし,被告会社は,担当医がイレッサと間質性肺炎等との因果関係を否定できないと判断していたことをも争うものではないのであるから,いずれも副作用死亡報告として扱うべきことに変わりはない。 b 副作用報告について(a) 承認後症例②について被告会社は,承認後症例②について平成14年8月5日に入手した情報によれば副作用名が「肺障害NOS」とされており,副作用名が「間質性肺炎」とされた情報を入手したのは同月9日になってからであると主張する。 証拠(甲L3[枝番号2],乙L3[枝番号2の1・2])によれば,承認後症例②について,被告会社が平成14年8月5日に入 手した情報では,有害事象名が急性肺障害とされ,副作用名は「肺障害NOS」,「肺障害」と記載されていたこと,同月6日の被告国への初回報告における副作用名が肺障害NOS(死に至る事象),(報告副作用名:急性肺障害)と記載され,臨床経過が明らかとなっていなかったが,被告会社が同月9日に入手した情報では,有害事象名が「急性肺障害(間質性肺炎)」とされ,副作用名は「間質性肺炎」とされていたこと,同年9月2日の被告 記載され,臨床経過が明らかとなっていなかったが,被告会社が同月9日に入手した情報では,有害事象名が「急性肺障害(間質性肺炎)」とされ,副作用名は「間質性肺炎」とされていたこと,同年9月2日の被告国への追加報告における副作用名が「間質性肺炎(死に至る事象)(報告副作用名:急性肺障害(間質性肺炎))」と記載され,経過としてスリガラス影が認められたなどの記載が追加されたことが認められる。 そうすると,副作用名では「肺障害NOS」として,詳細の不明な肺障害とされており,臨床経過からは必ずしも間質性肺炎等と疑うことはできなかったことがうかがえるが,被告会社が最初に報告を受けた時点から報告名では「急性肺障害」とされていたのであり,治験における安全性情報の取扱についての通知(乙D13)の趣旨を考慮すると,被告会社は,最初に報告を受けた平成14年8月5日の時点から間質性肺炎等に関する副作用報告として扱うべきであったというべきである。被告会社の上記主張事実に沿う事実は認められるが,その事実は上記判断を覆すに足りない。 (b) 承認後症例④について被告会社は,承認後症例④について入手した情報では副作用名が「呼吸不全」とされており,間質性肺炎等の副作用報告と扱うことができなかったと主張する。 証拠(甲L3[枝番号1,4~8],乙L3[枝番号1,4~8。うち4,6~8は各孫番号1,2を含む。])によれば,承認 後症例④についての被告国への初回報告(平成14年8月16日)では,副作用名が「呼吸不全(生命を脅かす事象)」と記載されていたこと,臨床経過の詳細が明らかにされていなかったが,被告国への追加報告(同年9月4日)では,イレッサ投与開始から6日後(同年7月30日)に呼吸困難が発症し,7日後(同月31日)に胸部レントゲンにて両肺網 臨床経過の詳細が明らかにされていなかったが,被告国への追加報告(同年9月4日)では,イレッサ投与開始から6日後(同年7月30日)に呼吸困難が発症し,7日後(同月31日)に胸部レントゲンにて両肺網状線状影増悪が認められて,イレッサの投与が中止され,8日後(同年8月1日)にステロイドパルス療法が行われたことが記載されていたこと,初回報告の時点までに少なくとも5例の間質性肺炎の副作用報告があったことが認められる。 そして,治験における安全性情報の取扱についての通知(乙D13)の趣旨を考慮すると,臨床経過からは,イレッサとの因果関係も否定できない間質性肺炎発症例であることが推認され,これを妨げる事実はないのであるから,間質性肺炎等に関する副作用報告であったと認めるのが相当である。 なお,被告会社が承認後症例④の詳細な臨床経過の情報を入手したのは平成14年8月16日以降であったことがうかがわれるが,同月16日の時点で判明していた情報をもとにしても,詳細が不明の呼吸不全とされているのであり,間質性肺炎自体の鑑別診断が困難であることが少なくないことや他に間質性肺炎の副作用報告が承認から約1か月の間に少なくとも5例報告されていたことを併せ考慮すると,同年8月29日の時点では少なくとも承認後症例④を間質性肺炎等の副作用報告に準じて扱うべきであったというべきである。 (c) 承認後症例⑪について被告会社は,承認後症例⑪について入手した情報では副作用名が「低酸素血症」とされており,間質性肺炎等の副作用報告と扱うことができなかったと主張する。 証拠(甲L3[枝番号11],乙L3[枝番号11の1・2])によれば,承認後症例⑪の初回報告(平成14年8月29日)では副作用名が「低酸素血症」と記載されており,追加報告(同年9月30日)で 証拠(甲L3[枝番号11],乙L3[枝番号11の1・2])によれば,承認後症例⑪の初回報告(平成14年8月29日)では副作用名が「低酸素血症」と記載されており,追加報告(同年9月30日)では「急性呼吸不全」に変更されたこと,被告会社が急性呼吸不全に関する情報を入手したのは同年9月12日であったこと,臨床経過では,同年8月27日にレントゲン上で間質性陰影が認められたとされ,同日にメチルプレドニゾロン1000mg が投与されたこと,担当医の意見では,薬剤性間質性肺炎の疑いがあり,イレッサの他にロキソニンやメイアクトが原因薬剤として疑われるとされていたことが認められる。 そうすると,承認後症例⑪は間質性肺炎発症例であり,他の薬剤による影響が否定できないものの,イレッサとの因果関係も否定できない間質性肺炎発症例であるといえるから,治験における安全性情報の取扱についての通知(乙D13)の趣旨を考慮すると,間質性肺炎等に関する副作用報告であったと認めるのが相当である。 もっとも,被告会社が詳細な臨床経過の情報を入手したのは平成14年9月12日であったのであるから,同年8月29日の時点で症例⑪を間質性肺炎等の副作用報告と扱うべきであったとはいえない。 (d) 承認後症例⑯について被告会社は,承認後症例⑯について入手した情報では副作用名が「血尿」とされており,間質性肺炎等の副作用報告と扱うことができなかったと主張する。 証拠(甲L3[枝番号1~8,16],乙L3[枝番号1~8,16。各孫番号1,2を含む。])によれば,承認後症例⑯の初回報告(平成14年8月15日)では副作用名が「血尿」とされてお り,追加報告(同年9月27日)で血尿に加え「肺炎NOS」が追加されたこと,被告会社が肺炎に関する情報を入手したのは同年9 報告(平成14年8月15日)では副作用名が「血尿」とされてお り,追加報告(同年9月27日)で血尿に加え「肺炎NOS」が追加されたこと,被告会社が肺炎に関する情報を入手したのは同年9月11日であったこと,イレッサの投与中止後に肺炎が速やかに改善したものの,上記肺炎により入院期間の延長を要するものであったこと,胸部CTの画像上に肺炎様の影が認められるとされているのみで,その他の臨床経過の詳細が報告書には記載されていないこと,初回報告まででさえ少なくとも7例の間質性肺炎の副作用報告があったことが認められる。 臨床経過からは上記肺炎が間質性肺炎か否かを的確に判断できるとはいいがたいが,詳細が不明の肺炎とされているのであり,間質性肺炎自体の鑑別診断が困難であることが少なくないことや他に間質性肺炎の副作用報告が承認から約1か月の間に少なくとも7例も報告されていたこと,治験における安全性情報の取扱についての通知(乙D13)の趣旨を併せ考慮すると,症例⑯を間質性肺炎等の疑いのある副作用症例として扱うべきであったというべきである。 もっとも,被告会社が,承認後症例⑯の副作用名に肺炎が追加されたとの情報を入手したのは平成14年9月11日であったのであるから,同年8月29日の時点で承認後症例⑯を間質性肺炎等の副作用報告と扱うべきであったとはいえない。 イゲフィチニブ安全性問題検討会(安全性検討会)【甲A13,丙K1[枝番号1~15],2[枝番号1~16]】厚生労働省は,平成14年10月5日に被告会社に対して緊急安全性情報を発出するように指示し,市販後安全対策の徹底等を指導し,その後も引き続き副作用症例の把握に努めていたが,今後の見通しについてはなお予断を許さない状況であるとして,同年12月25日及び平成15年5月2日に,安全 に指示し,市販後安全対策の徹底等を指導し,その後も引き続き副作用症例の把握に努めていたが,今後の見通しについてはなお予断を許さない状況であるとして,同年12月25日及び平成15年5月2日に,安全性検討会を開催した。 (ア) 平成14年12月25日開催【丙K1[枝番号1~15]】平成14年12月25日開催の安全性検討会では,イレッサの承認前の審査報告書や海外から報告された副作用症例報告一覧等の資料や,承認後に副作用として報告された医薬品副作用・感染症症例票等の資料を踏まえ,その時点での医学的,薬学的知見に基づき,承認時の安全性・有効性に関する評価や「販後における安全性と安全対策等について議論された。この議論において,以下のような指摘があった(頁数はいずれも丙K1[枝番号2]のものである。)。 ・イレッサによる間質性肺炎の特徴の一つとして,投与初期に発生し致死的な転帰をたどる例が多いこと,早期に発症する間質性肺炎例が多いこと,2週間ないし4週間までに発症する間質性肺炎が非常に致死率が高いこと(10,12 頁)・イレッサについては,患者の側からも治療する医師の側からも,使ってみたいという要望が非常に強かった。しかも,経口で,外来でも使えたために,使用例が急速に増え,そこに落とし穴があった。(14 頁)・メーカーの使用予定の約3年分を約半年で使用した。(19 頁)・間質性肺炎,肺線維症の既往のある患者について,イレッサの使用を禁忌とすると,じん肺症の患者や膠原病の患者で肺線維症を発症している患者に対してイレッサを使用できないことになることは望ましくない。イレッサのメリットを受けられない患者が多くなりすぎる(16頁)・被告会社が平成14年10月に作った小冊子にも,死亡例があることが書かれていない。死亡に至る例 ないことになることは望ましくない。イレッサのメリットを受けられない患者が多くなりすぎる(16頁)・被告会社が平成14年10月に作った小冊子にも,死亡例があることが書かれていない。死亡に至る例があったという事実を書いていないというのは,企業による情報提供という面では必要ではないか。企業はどうしても軽め軽めに書く。(18 頁)議論の結果,以下のような対応を実施する必要があるとされた。 a インフォームド・コンセントや情報提供の徹底・治療を開始するに当たり,患者に,有効性・安全性・副作用の初期症状,非小細胞肺がんの治療法,致命的となる症例があること等について十分に説明し,同意を得た上で投与すること・企業による医療期間への有効性及び安全性等の適正使用に資する情報提供を徹底することなどb より適切な管理の下での使用の徹底・肺がん化学療法に十分な経験を持つ医師が使用するとともに,投与に際して緊急時に十分に措置できる医療機関で行うこと・少なくとも投与開始後4週間は入院又はそれに準ずる管理の下で,間質性肺炎等の重篤な副作用発現に関する観察を十分におこなうことc 間質性肺炎,肺線維症又はこれらの疾患の既往歴のある患者への使用を慎重投与に設定d 服用者向け情報提供資料の作成等・間質性肺炎等発生時の処置が手遅れとならないよう,服用者向け情報提供資料を適正に作成し,副作用発現数や死亡例について具体的に記載するなど,注意換気を徹底することe 企業による市販後安全対策の強化(イ) 平成15年5月2日開催分【丙K2[枝番号1~16]】平成15年5月2日開催の安全性検討会では,平成14年12月25日開催分における安全性検討会の意見に対する被告会社の取組状況や医療機関におけるイレッサ投 5月2日開催分【丙K2[枝番号1~16]】平成15年5月2日開催の安全性検討会では,平成14年12月25日開催分における安全性検討会の意見に対する被告会社の取組状況や医療機関におけるイレッサ投与例の紹介等の資料を踏まえ,医学的,薬学的知見に基づき,前記(ア)のa~eの実行状況と最近の副作用発現状況や有効性・安全性に関する最近の知見(学会報告),承認審査に関する事項等について,議論された。 同日の安全性検討会では,永井実験①(前記第5章第3の4(2)ア(ウ)a)の概略が説明されたほか,濱,別府及び福島の「イレッサ(ゲフィチニブ)の使用中止に関する要望書」が資料として配布され,別府は参考委員として,濱は傍聴席から,それぞれ意見を述べた。 ウ専門家会議【丙L1,2】被告会社は,平成14年10月15日の緊急安全性情報の発出後,更なる安全性確保のため,急性肺障害・間質性肺炎の早期発見・診断と処置の検討を主たる目的として,臨床腫瘍学専門家,呼吸器内科専門家,放射線診断専門家及び病理診断専門家を委員とした専門家会議を組織した。工藤翔二も専門家委員として加わっていた。 専門家会議は,①平成14年12月5日,②同月28日,③平成15年1月23日,④同年3月2日に開催され,イレッサ服用中に急性肺障害・間質性肺炎を発症し,詳細調査情報が得られた症例を解析,検討した。 専門家会議では,平成15年1月23日,上記①ないし③の会議における上記検討結果を基に中間報告書を公表し,同年3月26日,上記①ないし④の会議における検討結果を基に最終報告書を公表した。 (ア) 中間報告【丙L1】専門家会議は,第1回ないし第3回までに詳細調査情報が得られたイレッサ服用中に急性肺障害・間質性肺炎を発症した症例(79症例)について検討を行い,中間報 を公表した。 (ア) 中間報告【丙L1】専門家会議は,第1回ないし第3回までに詳細調査情報が得られたイレッサ服用中に急性肺障害・間質性肺炎を発症した症例(79症例)について検討を行い,中間報告書として公表した。 中間報告書では,「投与開始後4週までに発症する症例数は多い」,「投与早期にILDが発症する傾向があり,投与開始から4週間の厳重な観察が求められている。」などとされた。 (イ) 最終報告【丙L2】専門家会議は,第1回ないし第4回までに詳細調査情報が得られたイレッサ服用中に急性肺障害・間質性肺炎(ILD)を発症した症例(1 52例)について検討を行い,最終報告書として公表した。 解析結果の概要は,次の①~⑨のとおりである。 ① 日本における間質性肺炎の発症率は約1.9%(死亡率約0. 6%)と推定され,海外に比べて約6倍と著しく高頻度である。 ② 間質性肺炎の予後を悪化させる可能性のある因子として,性別(男性),がんの組織型(扁平上皮がん),特発性肺線維症(IPF)等の既存(あり),全身状態不良(PS2以上),喫煙歴(あり),ゲムシタビンによる前治療(なし),の6項目が示唆された。 ③ 特発性肺線維症(IPF)等の既存(あり),性別(男性),がんの組織型(扁平上皮がん)の3項目が主要な予後因子となる可能性が示唆された。 ④ PS(3以上),肺手術歴(なし),化学療法終了後イレッサ投与開始までの期間(8週間以内),糖尿病の合併(あり),脳血管障害の合併(あり),特発性肺線維症等の既存(あり)が,急性肺障害・間質性肺炎発症までの期間を短くする因子として示唆された。 ⑤ 急性肺障害・間質性肺炎発症例の症状では,発熱,乾性咳嗽(から咳),息切れ,ラ音等のうち,息切れが最も高頻度(75%)であり,以下発熱 質性肺炎発症までの期間を短くする因子として示唆された。 ⑤ 急性肺障害・間質性肺炎発症例の症状では,発熱,乾性咳嗽(から咳),息切れ,ラ音等のうち,息切れが最も高頻度(75%)であり,以下発熱,ラ音,乾性咳嗽の順であった。 ⑥ 臨床データベース症例152例中画像情報のある134例のうち,確実性の高い急性肺障害・間質性肺炎症例105例について検討すると,寄与因子の有意差に若干の総意がみられた。 ⑦ イレッサによる間質性肺炎のCT所見は,斑状あるいはびまん性の分布を示すすりガラス陰影又は浸潤影を主体とする所見が中心であった。 ⑧ 臨床的にイレッサによる間質性肺炎とされた死亡例の,剖検にお ける基本的な病理組織像は,びまん性肺胞障害(DAD)であった。 ⑨ 特発性肺線維症等の既存が,イレッサ投与における急性肺障害・間質性肺炎発症の危険因子の可能性が否定できない,発症後の転帰においては死亡につながる重要な危険因子であることが明らかとなった。これらは,イレッサ投与における間質性肺炎発症の予防及び機序解明の点からも重視される。 上記分析を受けて,以下の提言がされた。 ① 特発性肺線維症等の既存する患者等に対しては,間質性肺炎発症後の予後が悪い可能性があり,慎重に投与すること② 特に特発性肺線維症等の既存は,発症後の転帰においては死亡につながる重要な危険因子であるため,イレッサ投与前に,特発性肺線維症等の既存の有無をCT等によって正確に評価すること③ 投与早期に急性肺障害・間質性肺炎が発症する症例では予後が悪く,投与初期の厳重な観察が求められが,それ以後においても発症する可能性があり,投与全期間を通じて慎重に観察すること④ 患者・家族には,イレッサの有効性,副作用の発症頻度,急性肺障害・間質性肺炎の死亡率,予後 厳重な観察が求められが,それ以後においても発症する可能性があり,投与全期間を通じて慎重に観察すること④ 患者・家族には,イレッサの有効性,副作用の発症頻度,急性肺障害・間質性肺炎の死亡率,予後因子等について,十分に説明し,同意を得た上で投与を開始すること⑤ 早期診断 ; 発熱,乾性咳嗽,労作時呼吸困難などの初期症状から早期に以上を察知する必要がある。また,症状の有無にかかわらず,何らかの異常を認めたときは,早期に間質性肺病変をとらえることが重要である。 ⑥ 早期治療 ; イレッサによる急性肺障害・間質性肺炎が疑われた場合には,速やかにイレッサの投与を中止することCT画像を入手できた症例から他疾患である可能性が高い症例を 除いた47症例の画像パターンを検討し,イレッサでは合計4つの画像パターンを示す薬剤性肺障害の発症が確認され,次の①ないし④に分類された。 ① 両側肺野の斑状あるいはびまん性に分布する,すりガラス陰影又は浸潤影で,牽引性気管支拡張などの構造改変を示唆する所見を伴うもの(急性間質性肺炎AIP様所見)② 肺野末梢優位の浸潤影(器質化肺炎COP様所見)③ 両側肺野の斑状あるいはびまん性に分布する,すりガラス陰影と浸潤影の混在で,しばしば多少葉性の分布をとり,小葉間隔壁の肥厚を伴い,牽引性気管支拡張などの構造改変を示唆する所見に乏しいもの(急性好酸球性肺炎AEP様所見)④ 両側肺野の淡いすりガラス陰影で,肺野の縮みや牽引性気管支拡張を欠くもの(過敏性肺炎HP又は過敏性反応HRパターン)エ WJTOG研究報告【甲H9,丙E7,51[枝番号1,2]】WJTOG研究報告の目的及び結果の概要は,別紙34(WJTOG研究報告概要)記載のとおりである。 WJTOG研究報告は,平成14年8月31 OG研究報告【甲H9,丙E7,51[枝番号1,2]】WJTOG研究報告の目的及び結果の概要は,別紙34(WJTOG研究報告概要)記載のとおりである。 WJTOG研究報告は,平成14年8月31日から同年12月31日までの間にイレッサの投与を開始した非小細胞肺がん患者について,1年間の経過観察を行い,その結果に基づいて,イレッサの間質性肺炎の発症頻度(発症率)及び間質性肺炎による死亡率などを調べることを目的として実施されたレトロスペクティブな研究報告(後ろ向き調査)である。 WJTOG研究報告(最終報告)では,①1976例のうち間質性肺炎の発症が認められた症例が70例(70例のうち1例のみイレッサとシスプラチンの併用療法の症例,その他はイレッサ単剤投与例であった。),うち死亡例が31例であった(間質性肺炎の発症頻度は3.5%(70/1976例)であり,間質性肺炎による死亡率は1.6%(31/197 6例)であった),②イレッサ投与開始から間質性肺炎発症までの期間の中央値は31日間,間質性肺炎発症までのイレッサの投与期間の中央値は29日間であった,③発症危険因子として挙げられたものは,男性,喫煙歴あり,間質性肺炎の併発症例であった。 オプロスペクティブ調査【丙C2,乙H29】プロスペクティブ調査の目的及び結果の概要は,別紙35(プロスペクティブ調査概要)記載のとおりである。 プロスペクティブ調査は,イレッサの副作用(間質性肺炎を含む。)の発症頻度及び危険因子(発症危険因子,予後因子)を明らかにするために,被告会社が実施したプロスペクティブな調査(前向き調査)である。 プロスペクティブ調査は,当初の登録患者数が3354例で,平成16年3月に調査が終了し,データの収集が完了した症例は3350例(4例はデータ収集不 したプロスペクティブな調査(前向き調査)である。 プロスペクティブ調査は,当初の登録患者数が3354例で,平成16年3月に調査が終了し,データの収集が完了した症例は3350例(4例はデータ収集不能)であった。このうち安全性評価対象症例として副作用の発症頻度等の検討の対象とされた症例は3322例であった。 プロスペクティブ調査では,主治医による診断と判定委員会による判断が異なるが,間質性肺炎の鑑別診断が困難であり(前記3(3)エ(イ)),担当医以外の組織の確認を受けることが望ましい(前記第2の4(2)ウ(ア)c参照)ことは副作用判断においても妥当することであるから第三者機関である判定委員会による判断を尊重するべきである。 判定委員会の判定によれば,①3322例中のうち間質性肺炎の発生が認められた症例が193例,うち死亡例が75例であった(間質性肺炎の発症頻度は5.81%,間質性肺炎による死亡率は2.26%であった。),②間質性肺炎を発症した者の中で間質性肺炎により死亡した者の割合は,38.6%(83例/215例)であった,③発症危険因子として,全身状態不良(PS2以上)の症例,喫煙歴を有する症例,イレッサ投与時に間質性肺炎を併発している症例,化学療法歴を有する症例の4つ が挙げられ,予後不良因子(転帰死亡)として,男性の症例,全身状態不良(PS2以上)の症例が挙げられた(ただし,予後不良因子(転帰死亡)は,対象症例数が101例と少ないため,選択された因子について明確に断言できるものではないと付言された。),④間質性肺炎以外の副作用の発症も見られたが,治験における副作用プロファイルとほぼ同様であった。 カコホート内ケース・コントール・スタディ(CCS)【甲C4,丙E34[枝番号9],46,61】コホート内ケー 用の発症も見られたが,治験における副作用プロファイルとほぼ同様であった。 カコホート内ケース・コントール・スタディ(CCS)【甲C4,丙E34[枝番号9],46,61】コホート内ケース・コントール・スタディの目的及び結果の概要は,別紙36(コホート内ケース・コントール・スタディ概要)記載のとおりである。 コホート内ケース・コントール・スタディは,間質性肺炎の発症頻度(発症率)等について,イレッサと他の非小細胞肺がん抗がん剤を比較することによって検討,評価することを目的として被告会社が実施した調査研究である。比較対象とされた他の非小細胞肺がん抗がん剤による化学療法には,様々な治療法が含まれているが,大半は①ドセタキセルやパクリタキセルなどの抗がん剤とプラチナ製剤の2剤併用療法と②ゲムシタビンとビノレルビンの2剤併用療法であった。 コホート内ケース・コントール・スタディの結果によれば,①間質性肺炎の発症頻度は,イレッサが3.98%,他の化学療法が2.09%であり,間質性肺炎が発生した場合の死亡率は,イレッサが31.9%,化学療法が27.9%であった,②イレッサの副作用死亡率は1.6%であり,死因は主に間質性肺炎であった,③イレッサによる間質性肺炎の発症の危険性は,治療開始後4週間以内で高かった,④間質性肺炎の発症危険因子は,イレッサと他の化学療法の両群で,喫煙歴あり,既存の間質性肺炎発症あり,非小細胞肺がんの初回診断から間質性肺炎発症までの期間が 6か月以内であること,全身状態不良(PS2以上),正常肺占有率が低いこと,年齢(55歳以上),心血管系の合併症を有していることが挙げられた。 キその他の研究報告の概要( ア) 西條長宏ら「Riskfactorsforinterstitiallung こと,年齢(55歳以上),心血管系の合併症を有していることが挙げられた。 キその他の研究報告の概要( ア) 西條長宏ら「Riskfactorsforinterstitiallungdiseaseandpredictivefactorsfortumorresponseinpatientswithadvancednon-smallcelllungcancertreatedwithgefitinib」(LungCancervol.45 :平成16年7月,甲H7)平成14年7月から同年12月までの間に,日本におけるイレッサの投与を受けた非小細胞肺がん患者115例を対象として間質性肺疾患の危険因子等を分析することを目的とした後ろ向き研究調査の結果,115例のうち112例の患者で,間質性肺疾患の評価を行うことができ,うち6例(5.4%)で間質性肺疾患が発現したことが確認され,6例中4例が間質性肺疾患により死亡した(なお,上記患者では,いずれも呼吸器症状の急性の発現ないし悪化がみられ,うち5例の患者では両肺にすりガラス様のびまん性間質性病変がみられた。気管支肺胞洗浄や肺生検は実施されなかったため,がん性リンパ血管障害や他の疾患を排除できなかったが,薬物誘発性間質性肺疾患の臨床経過や画像検査上の像が一致した。うち1例は,画像診断を行う前に死亡したものであったが,剖検からびまん性肺胞障害が明らかとなったため,間質性肺疾患によって死亡したものとした。)。 ( イ) 堀田勝幸ら「InterstitialLungDiseaseinJapanesePatientsWithNon-SmallCellLungCancerReceivingGefitinib:AnAnalysis LungDiseaseinJapanesePatientsWithNon-SmallCellLungCancerReceivingGefitinib:AnAnalysisofRiskFactorsandTreatmentOutcomesinOkayamaLungCancerStudyGroup」(TheCancerJournalvol.11 no.5:平成17年9月,甲H8)(堀田らの研究報告) 平成12年から平成15年までの間に,西日本でイレッサの投与を受けた365例の非小細胞肺がん患者を対象に間質性肺疾患の危険因子等を分析することを目的とした後ろ向き研究調査の結果,365例のうち350例の患者で,間質性肺疾患の評価を行うことができ,うち15例(4.5%)で専門家による再検討により間質性肺疾患が発現していたことが最終的に確認され,15例中8例が間質性肺疾患により死亡したものであった。発症危険因子としては,肺線維症の既往歴,PS不良,以前の胸部照射療法などが挙げられた。また,イレッサ投与から間質性肺疾患の発現まで期間が短いこと,間質性肺疾患が急性型であること,及び以前から既存の肺線維症が存在することが予後不良因子である。 ク小括前記エないしカ認定の事実によれば,以下のとおりである。 (ア) イレッサによる間質性肺炎の発症頻度aWJTOG研究報告(最終報告)では,全症例における間質性肺炎の発症率は3.5%(70例/1976例),プロスペクティブ調査では,全症例における間質性肺炎の発症率は,判定委員会判定結果によれば5.81%(193例/3322例),主治医の判定結果によれば6.47%(215例/3322例),コホート内ケース・コントロール・スタディでは おける間質性肺炎の発症率は,判定委員会判定結果によれば5.81%(193例/3322例),主治医の判定結果によれば6.47%(215例/3322例),コホート内ケース・コントロール・スタディでは,間質性肺炎発症率は,イレッサ群(1872例)で3.98%,他の化学療法群(2551例)で2.09%であった。 また,WJTOG研究報告はレトロスペクティブな研究(後ろ向き調査)である(丙E7,51[枝番号1,2])のに対し,プロスペクティブ調査(丙C2)及びコホート内ケース・コントロール・スタディ(甲C2,丙E34[枝番号9],46,61)はいずれもプロスペクティブな研究(前向き調査)であり,中でもプロスペクティブ 調査は他の調査研究よりも症例数が多く大規模な調査であったというのである。 前向き調査(プロスペクティブな研究)は現時点でコホート(調査・研究のための集団)を設定し,未来に向かって観察する方法のことをいい,原因と結果の時間的順序が明確であるが,実施するためには多くの対象者を必要とし,費用と時間を要する。これに対し,後ろ向き調査(レトロスペクティブな研究)は過去のある時点にコホート(集団)を設定し,現時点まで既に発生している患者集団を観察する方法のことをいい,前向き調査に比べて,費用や時間が少なくてよく,同じ集団のケースとコントロールが比較できるが,データの内容や質をコントロールできないのが短所であるといわれており,後ろ向き研究では,研究者が既に結果を知っているから,都合のよい対象を選んでしまう選択バイアスが生じやすい(甲F55,甲P123[枝番号1,2])。そのため,後ろ向き調査は,一般的に前向き調査よりも信頼性が低いとされている(前記3(3)イ(カ)①,丙E46参照)。 そうすると,上記調査のうち症例数の 甲F55,甲P123[枝番号1,2])。そのため,後ろ向き調査は,一般的に前向き調査よりも信頼性が低いとされている(前記3(3)イ(カ)①,丙E46参照)。 そうすると,上記調査のうち症例数の最も多く,前向き調査であるプロスペクティブ調査が最も証拠価値が高いものであるといえ,その他のコホート内ケース・コントロール・スタディやWJTOG研究報告をも併せ考慮すると,イレッサによる間質性肺炎の発症頻度は5%前後であると認めるのが相当であり,その他の研究報告(前記キ)の結果とも整合する。 b 前記2(2)イ(ウ)a認定の事実によれば,新規抗がん剤の肺がんに係る現在における実地医療での間質性肺炎発症率は,ビノレルビンで1.4~2.5%,ゲムシタビンで1.2~1.4%,イリノテカンで0.9%,ドセタキセルで0.6%,パクリタキセルで0.5%で あったというのである。 そうすると,イレッサによる間質性肺炎の発症頻度は,従来の抗がん剤の中でも間質性肺炎の発症頻度の高かったイリノテカンなどと同等以上の発症頻度を示しているのであるから,イレッサによる間質性肺炎の発症頻度は従来の抗がん剤よりも高いものと認められる。なお,近年においては,イレッサによる間質性肺炎の発症頻度は減少傾向にあるといえるが(前記ア),投与の方法や間質性肺炎の発症危険因子の研究などが進展してきたことによるものと考えられるのであるから,イレッサによる間質性肺炎の発症頻度に関する上記判断を覆すものではない。 (イ) イレッサによる間質性肺炎の重篤性WJTOG研究報告では,全症例における間質性肺炎による死亡率は1.6%(31例/1976例)であったが,間質性肺炎発症例のうちの副作用死亡例の割合は約43%(31例/70例)であった。 プロスペクティブ調査では,全症 ,全症例における間質性肺炎による死亡率は1.6%(31例/1976例)であったが,間質性肺炎発症例のうちの副作用死亡例の割合は約43%(31例/70例)であった。 プロスペクティブ調査では,全症例における間質性肺炎による死亡率は,判定委員会判定結果によれば2.26%(75例/3322例),主治医の判定結果によれば2.5%(83例/3322例)であったが,間質性肺炎発症例のうちの副作用死亡例の割合は,判定委員会判定結果によれば38.8%(75例/193例),主治医の判定結果によれば38.6%(83例/215例)であった。 コホート内ケース・コントロール・スタディでは,間質性肺炎発症率は,イレッサ群で3.98%,他の化学療法群で2.09%であり,間質性肺炎発症例のうちの副作用死亡例の割合は,イレッサ群で31. 6%,他の化学療法群で27.9%であった。いずれの調査及び研究においても,イレッサにおける副作用による死亡例はほぼ間質性肺炎のみにより生じたものであった。 また,上記調査のうち症例数の最も多く,前向き調査であるプロスペクティブ調査が最も証拠価値が高いものであるが,その他のコホート内ケース・コントロール・スタディやWJTOG研究報告をも総合考慮するべきである。 そうすると,イレッサでは,他の抗がん剤よりも間質性肺炎の発症の頻度が高いだけでなく,発症した場合には30~40%の割合で死に至っているというのであるから,コホート内ケース・コントロール・スタディにおける他の化学療法群と比較しても致死率が同程度もしくはやや高いといえ,イレッサによって発症する間質性肺炎は従来の抗がん剤よりも重篤又は致死的なものであったと認められる。ただし,上記調査等によれば,イレッサによる副作用死亡率は2%前後であり,副作用死亡率自体は他の ,イレッサによって発症する間質性肺炎は従来の抗がん剤よりも重篤又は致死的なものであったと認められる。ただし,上記調査等によれば,イレッサによる副作用死亡率は2%前後であり,副作用死亡率自体は他の抗がん剤の2%前後と同程度である(前記2(2)ア)といえる。 (ウ) イレッサによる間質性肺炎の特徴(早期発症等)平成14年12月13日当時で,間質性肺炎等に関するイレッサの副作用報告が358例(うち死亡例は114例)あり,同月25日開催の安全性検討会や専門家会議において,イレッサの投与初期に間質性肺炎を発症すると,致死的な転帰をたどる例が多いことが指摘された。そして, WJTOG研究報告では,そのことが実証されたというのである。また,専門家会議では,イレッサでは合計4つの画像パターンを示す薬剤性肺障害の発症が確認された。 原告らは,イレッサ承認後約半年でイレッサの特徴が把握されるに至ったというのは不自然であり,承認当時から判明していたはずであると主張するようであるが,前記のとおりイレッサ承認当時の副作用症例は発症時期や転帰などが様々であり,上記の特徴を把握することが困難であり,イレッサ承認後の多数の副作用症例を検討することにより初めて 可能となったというものであるから,何ら不自然なものではなく,原告らの主張は採用できない。 (エ) イレッサによる間質性肺炎の発症の危険性・予後と既存の肺線維症や間質性肺炎との関係安全性検討会での議論専門家会議での検討の結果,特発性肺線維症等の既存する患者等に対しては,間質性肺炎発症後の予後が悪い可能性があり,慎重に投与すること,特に特発性肺線維症等の既存は,発症後の転帰においては死亡につながる重要な危険因子であるため,イレッサ投与前に,特発性肺線維症等の既存の有無をCT等によって正 悪い可能性があり,慎重に投与すること,特に特発性肺線維症等の既存は,発症後の転帰においては死亡につながる重要な危険因子であるため,イレッサ投与前に,特発性肺線維症等の既存の有無をCT等によって正確に評価することが提言されたのである。 また,その後のWJTOG研究報告,プロスペクティブ調査及びコホート内ケース・コントロール・スタディ等により,肺線維症の既往歴あり,以前胸部に放射線治療歴ありという因子が,間質性肺炎発症の危険因子として挙げられた。 そうすると,既存の肺線維症や間質性肺炎が存在する場合には,イレッサにより間質性肺炎を発症しやすいことがイレッサ承認後に判明したと認められる。 なお,イレッサ承認(平成14年7月)当時においても,殺細胞性抗がん剤については,既存の肺線維症や間質性肺炎がある場合には薬剤性間質性肺炎を発症しやすい可能性があるとの指摘がされていた。しかし,イレッサ承認(平成14年7月)当時においては,間質性肺炎の病態は原因に対して非特異的で,薬剤性間質性肺炎の発症可能性や病態は,薬剤ごとに検討していくほかなかったのである。そのため,イレッサ承認(平成14年7月)当時は,工藤報告(甲H6)のように,研究者ごとに薬剤性肺障害について得られる情報を収集して問題提起を発表している状況ではあったが,症例報告の少ない薬剤性肺障害の研究には 限界があった(前記3(2)ア(ア))。 したがって,イレッサ承認(平成14年7月)当時から,既存の肺線維症や間質性肺炎がある場合に,イレッサによって薬剤性間質性肺炎を発症する可能性が高いことが判明していたとまではいえない。 5 イレッサの危険性(間質性肺炎発症の危険性と予後の重篤性)のまとめ(1) イレッサ承認(平成14年7月)当時の間質性肺炎自体の予後の重篤性ア 性が高いことが判明していたとまではいえない。 5 イレッサの危険性(間質性肺炎発症の危険性と予後の重篤性)のまとめ(1) イレッサ承認(平成14年7月)当時の間質性肺炎自体の予後の重篤性ア薬剤性間質性肺炎間質性肺炎は,肺の間質を炎症の主座とする慢性のびまん性の炎症性疾患であり,その症状,経過,治療反応性は多様であり,多くの病態が含まれている。 間質性肺炎の中でも,薬剤性間質性肺炎が発症した場合の治療は,平成14年7月当時も現在と同様,投薬の中止又はステロイド療法による治療が行うこととされていた。そのため,ステロイド療法への反応性が予後と関連するものと考えられていた。薬剤性間質性肺炎の治療反応性は,原因薬剤や病型分類によっても異なりうると考えられていたものの,薬剤性間質性肺炎の疾患全体としては,その9割が全快又は軽快しており,一般的にはステロイド療法などの治療によって重篤化を回避できることが多いが,症例によっては致死的となるものもあると考えられていた。 イ薬剤性間質性肺炎のうちの急性間質性肺炎の予後の重篤性(ア) 特発性間質性肺炎における病型分類と予後イレッサの承認された平成14年7月当時において,特発性間質性肺炎には,症状経過や治療に対する反応性及び予後について,基本的に病理組織型のパターンに特徴があると考えられており,我が国の最先端の研究では,特発性間質性肺炎に関してはATS/ERS分類と同様の病型分類が検討される状況にあり,その中でも少なくとも慢性型の特発性 肺線維症や急性間質性肺炎等の中心的な分類は周知のものであった。 特発性間質性肺炎の中でも,急性間質性肺炎(AIP/DAD)では,急性間質性肺炎は急激に発症し予後が不良であるという見方が有力であった。 (イ) 薬剤性間質性肺炎における病型 知のものであった。 特発性間質性肺炎の中でも,急性間質性肺炎(AIP/DAD)では,急性間質性肺炎は急激に発症し予後が不良であるという見方が有力であった。 (イ) 薬剤性間質性肺炎における病型分類と予後平成14年7月当時において,薬剤性間質性肺炎の病型分類に関する議論は,特発性間質性肺炎の病型分類が援用される程度のものであり,特発性間質性肺炎の病型分類と薬剤性間質性肺炎の関係を実証的に研究がされたものは見当たらず,各病理組織型ごとの予後を適切に予測できる程度の病型分類として確立されていたとまではいいがたい状況であった。 薬剤間質性肺炎の中でも急性間質性肺炎の場合(AIP)には,ステロイド療法への反応性が悪く予後不良であるとする見方が強かった。 (ウ) 抗がん剤と間質性肺炎の特徴との関係平成14年7月当時においては間質性肺炎の病態は原因に対して非特異的であり,特定の薬剤であっても,異なる病態の間質性肺炎を発症することがあり得,ある病態の間質性肺炎を発症させる薬剤は複数存在しうるのであるから,特定の抗がん剤と特定の病態の間質性肺炎との関係を把握することが困難であった。 (2) イレッサ承認(平成14年7月)当時のイレッサによる間質性肺炎発症可能性と重篤性アイレッサの作用機序と間質性肺炎の発症可能性イレッサの間質性肺炎発症機序は現在においてさえ未解明な問題であり,平成14年7月の承認当時から解明されていたとはいえないものである。あくまでイレッサのEGFRチロシンキナーゼ阻害作用からの理論的可能性があったにすぎないのであるから,非臨床試験や臨床試験の結果を 踏まえて実証的に検証が行われる必要があったというべきであり,イレッサの作用機序から間質性肺炎の発症が予測できたとはいえない。 イイレッサの毒性試験と ,非臨床試験や臨床試験の結果を 踏まえて実証的に検証が行われる必要があったというべきであり,イレッサの作用機序から間質性肺炎の発症が予測できたとはいえない。 イイレッサの毒性試験と間質性肺炎の発症可能性イレッサの毒性試験においては,イレッサの毒性を示す所見と解釈することが困難な所見のみであり,肺胞マクロファージの増加の所見をイレッサの肺毒性と結びつけて検討することも困難であった。 ウ国内臨床試験・治験成績と間質性肺炎の発症可能性・重篤性(ア) 国内3症例を踏まえた知見国内3症例では,イレッサの承認用量での間質性肺炎に関する副作用例がなく,イレッサを承認用量で投与したときに間質性肺炎が発症するという明確な根拠はなかったといわざるをえないものの,倍量で発症する以上,承認用量で投与したときには間質性肺炎が発症する可能性を否定できなかった。 国内臨床試験における間質性肺炎の発症頻度は,国内臨床試験の母数を133例とした場合には,その発症頻度は約2.3%(3/133例)であり,他の抗がん剤より特に高いものであったとまではいえない。 また,国内3症例からは,イレッサにより発症しうる間質性肺炎が,従来の抗がん剤に比べて,致死的ないし重篤なものであったとまではいえないが,一般的に間質性肺炎には致死ないし重篤化するものがありうるため,イレッサにより発症しうる間質性肺炎によって致死ないし重篤化することが否定できなかった。 しかし,国内3症例における間質性肺炎は,発症経過がそれぞれ異なっており,国内3症例から,イレッサによる発症しうる間質性肺炎に関して発症経過などの特徴を見いだすことは困難であった。 (イ) 間質性肺炎等以外の副作用等の治験結果に関する評価 イレッサの副作用のうち,最も多くみられる る発症しうる間質性肺炎に関して発症経過などの特徴を見いだすことは困難であった。 (イ) 間質性肺炎等以外の副作用等の治験結果に関する評価 イレッサの副作用のうち,最も多くみられるものは発疹(皮疹,湿疹)であり,比較的発症頻度が高いものは肝機能障害,下痢,嘔吐などであり,他の抗がん剤と比較しても,その発症頻度や程度も軽度であった。 従来の殺細胞性抗がん剤では,白血球減少,好中球減少,血小板減少及び赤血球減少の血液毒性による副作用が過半数を越えて発生するが,イレッサには血液毒性による副作用はほとんどみられなかった。 エ海外の副作用報告とイレッサによる間質性肺炎発症可能性・重篤性海外の副作用報告によると,間質性肺炎等に関する海外の副作用報告のうち承認用量での間質性肺炎発症例が半数ほどあった。 海外の副作用報告においては,INTACT各試験における発症頻度は国内臨床試験における発症頻度約2.3%よりも低くなり,またEAPにおける発症頻度は計算すること自体困難であった。 海外の副作用報告合計43例のうち半数以上である24例は,間質性肺炎と確定診断されたものではなく,臨床経過が不明であり,事後的に検証することもできないことから,間質性肺炎と診断された症例と同等に評価するべきであるとまではいえず,また,間質性肺炎と確定診断された副作用報告合計19例のうち14例が併用薬剤の影響のために因果関係の判断が困難な症例であり,加えて承認用量と異なる症例も含まれており,海外においてもEAPやINTACT各試験などで多数の症例において投与されていることを総合すると,海外副作用報告からは,承認用量のイレッサによって発症しうる間質性肺炎の重篤性ないし致死性を適正に評価することは困難であったといわざるをえず,より慎重に評価を加えた 投与されていることを総合すると,海外副作用報告からは,承認用量のイレッサによって発症しうる間質性肺炎の重篤性ないし致死性を適正に評価することは困難であったといわざるをえず,より慎重に評価を加えたとしても,イレッサによる間質性肺炎によって死に至ることがありうるが,イレッサによる間質性肺炎の重篤度は,従来の殺細胞性抗がん剤と比較して重篤ないし致死的であったとまではいえず,せいぜい同程度とみるのが相当であ った。 イレッサの投与開始からの間質性肺炎の発症時期や症状経過,ステロイド療法への反応性などは様々であったから,イレッサの副作用による間質性肺炎が急性間質性肺炎の特徴を有するものであるなどの特徴を把握することまでは困難であった。 オ国内外の副作用報告の総合評価以上を総合すると,承認用量によるイレッサの投与によっても間質性肺炎が発症する可能性はあったが,他の抗がん剤と比較して,その発症頻度が高いとまでいうことはできず,発症する副作用の程度の致死的ないし重篤なものではなかった。 また,イレッサの投与開始からの間質性肺炎の発症時期や症状経過,ステロイド療法への反応性などは様々であったため,間質性肺炎の特徴を把握することは困難であった。 (3) イレッサ承認後のイレッサによる間質性肺炎の発症可能性及び重篤性アイレッサによる間質性肺炎の発症頻度イレッサ承認後の各調査等によれば,イレッサによる間質性肺炎の発症頻度は5%前後であると認められ,従来の抗がん剤の中でも間質性肺炎の発症頻度の高いビノレルビンなどの2倍近い発症頻度を示している(現在における実地医療での間質性肺炎の発症率は,ビノレルビン:1.4~2.5%,ゲムシタビン:1.2~1.4%,イリノテカン:0.9%,ドセタキセル:0.6%,パクリタキセル0. 頻度を示している(現在における実地医療での間質性肺炎の発症率は,ビノレルビン:1.4~2.5%,ゲムシタビン:1.2~1.4%,イリノテカン:0.9%,ドセタキセル:0.6%,パクリタキセル0.5%(各添付文書の記載。 前記2(2)イ(イ)))のであるから,イレッサによる間質性肺炎の発症頻度は従来の抗がん剤よりも高い。 イレッサによる間質性肺炎等の副作用報告数は,承認直後から数年で従来の抗がん剤と比較しても多数に上っていたが,近年は減少傾向にはある。 イイレッサによる間質性肺炎の重篤性イレッサ承認後の各調査等によれば,イレッサは,間質性肺炎を発症した場合には30~40%の割合で死に至っているから,他の抗がん剤と比較しても致死率が同程度もしくはやや高く,イレッサによって発症する間質性肺炎は従来の抗がん剤よりも重篤又は致死的なものであった。ただし,上記調査等によれば,イレッサによる副作用死亡率は2%前後であり,副作用死亡率自体は他の抗がん剤と同程度であった。 ウイレッサによる間質性肺炎の特徴(早期発症等)(ア) 早期発症例安全性検討会で,イレッサによる間質性肺炎が投与初期に発症し致死的な転帰をたどることが多いということが指摘されるようになり,その後の調査等においてもこれに沿う結果が出され,イレッサによる間質性肺炎の特徴が実証的に確認されるに至った。 (イ) 4つの画像パターン専門家会議において,イレッサでは合計4つの画像パターンを示す薬剤性肺障害の発症が確認され,①急性間質性肺炎AIP様所見,②器質化肺炎COP様所見,③急性好酸球性肺炎AEP様所見,④過敏性肺炎HP又は過敏性反応HRパターンに分類された。 エイレッサによる間質性肺炎の発症の危険性・予後と既存の肺線維症や間質性肺炎との関係 肺炎COP様所見,③急性好酸球性肺炎AEP様所見,④過敏性肺炎HP又は過敏性反応HRパターンに分類された。 エイレッサによる間質性肺炎の発症の危険性・予後と既存の肺線維症や間質性肺炎との関係専門家会議やその後の各調査や研究報告により,既存の肺線維症や間質性肺炎が存在する場合には,イレッサにより間質性肺炎を発症しやすいことが判明した。 (以下余白) 第4 イレッサの有用性 1 医薬品の有用性の位置付け(1) 薬事法上の概念医薬品は,人体にとって本来異物であるから,治療上の効能,効果とともに何らかの副作用の生ずることは避け難い。治療上の効能,効果がある医薬品であっても,副作用がその効能,効果を打ち消すほどに重篤な場合には,医薬品としての使用価値がないから,厚生労働大臣は,医薬品の承認にあたっては,医薬品の有用性について,医薬品の使用価値を決するものであり,当該医薬品の効能,効果と副作用との比較考量によって判断される。 薬事法上の医薬品の承認及び承認拒否事由に関する規定は,第3章第6の1記載のとおりであり,承認拒否事由のうち有用性に関するものは,同法14条2項1号及び2号であると解される。 (2) 製造物責任法上の欠陥,不法行為上の違法との関係における位置付け製造物責任法所定の欠陥とは,当該製造物の特性,その通常予見される使用形態,その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して,当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいうと規定されている(同法2条2項)。 製造物が医薬品である場合,その医薬品が通常有すべき安全性は,医薬品が,その性質上,不可避的に副作用を伴い得るものであることから,当該医薬品の販売時点における医学的,薬学的知見を下に,疾病の種類,代 製造物が医薬品である場合,その医薬品が通常有すべき安全性は,医薬品が,その性質上,不可避的に副作用を伴い得るものであることから,当該医薬品の販売時点における医学的,薬学的知見を下に,疾病の種類,代替可能な他の治療薬や治療方法の存在をも考慮し,当該医薬品の治療上の効能,効果と副作用とを比較考量して判断されるべきものである。したがって,医薬品の有用性の判断は,製造物責任法所定の欠陥を基礎付けるものであると解するのが相当である。もっとも,この判断は,製造物責任法上の要件についての判断であることから,客観的に行われるべきであると解する(以下「客 観的な有用性」ということがある。)。 不法行為責任との関係においては,本件患者らへの販売時点において,当該医薬品が前記製造物責任法における判断と同様の枠組みにより判断される有用性を欠くことは,販売行為の違法性ないし過失を基礎付ける一要素であると解するのが相当である。 (3) 国家賠償法上の違法との関係における位置付け国家賠償法1条1項は,国又は公共団体が損害賠償責任を負う要件として,公権力の行使が違法なものであることを定める。すなわち,公務員の行為が違法であるというためには,その職務行為が職務上の法的義務に違反することが必要である。 前記第3章第6の1のとおり,厚生労働大臣は,医薬品の(輸入)承認権限を有し(薬事法23条,14条1項),承認拒否事由のうち,医薬品の有用性に関するものは,同法14条2項1号及び2号であると解される。したがって,厚生労働大臣がした医薬品の承認行為が,医薬品の有用性を欠くという観点から国家賠償法上違法であるというためには,厚生労働大臣が,薬事法所定の承認権限の行使において,承認をしてはならない法的義務に違反したこと,すなわち,同法14条2項1号ないし2 用性を欠くという観点から国家賠償法上違法であるというためには,厚生労働大臣が,薬事法所定の承認権限の行使において,承認をしてはならない法的義務に違反したこと,すなわち,同法14条2項1号ないし2号所定の承認拒否事由があるにもかかわらず,これを承認したと認められることが必要である。 そして,後記第8の1(1)アのとおり,医薬品の承認は,厚生労働大臣の高度の専門的裁量にゆだねられるべきものであり,厚生労働大臣による医薬品の有用性の判断,すなわち同法14条2項1号及び2号所定の承認拒否事由に当たるか否かの判断は,裁量権の逸脱濫用にわたる場合にのみ違法となるものと解されるから,厚生労働大臣の専門的裁量を考慮するという点において,前記製造物責任や不法行為における有用性の判断とは異なると解するのが相当である。なお,製造物責任上あるいは不法行為責任上,医薬品の販売時点において,当該医薬品に客観的な有用性が認められる場合に,当該医 薬品を有用性のあるものとして承認した厚生労働大臣の行為は,国家賠償法上,厚生労働大臣の専門的裁量を考慮するまでもなく適法となるものと解されることはいうまでもない。 2 有用性の判断方法医薬品の有用性の判断は,当該医薬品の効能,効果と副作用との比較考量によって行われるが,有用性判断の要素となる医薬品の有効性と副作用及び代替可能な医薬品や治療法の有無等に関する医学的,薬学的知見は,研究,開発の成果などにより常に変わり得るものであるから,医薬品の有用性判断は,その時点における医学的,薬学的知見を前提としたものにならざるを得ない(クロロキン判決)。 もっとも,イレッサは,その薬剤としての客観的性状自体は,平成14年7月当時から現在まで変化していないのであるから,その薬剤としての客観的な有用性の判断においては るを得ない(クロロキン判決)。 もっとも,イレッサは,その薬剤としての客観的性状自体は,平成14年7月当時から現在まで変化していないのであるから,その薬剤としての客観的な有用性の判断においては,現在までの資料や医学的,薬学的知見を下に,現時点においてもイレッサの客観的な有用性が認められるという事情は,平成14年7月時点においても,イレッサの客観的な有用性が認められたことを推認させる重要な間接事実として評価することができるものというべきである。 3 イレッサの有用性(1) 平成14年7月当時ア有効性前記第5章第2のとおり,平成14年7月当時としては,セカンドライン治療のみならずファーストライン治療においてもイレッサの有効性は認められる。その判断の要点は以下のとおりである(同章第2の7参照)。 (ア) 医薬品の有効性を確認するための中心となる資料は,臨床試験の試験成績であり,抗がん剤の有効性判断における真の評価項目は延命効果を中心とすべきであるが,旧ガイドラインにおけるⅡ相承認制度の下で は,腫瘍縮小効果(奏功率)から延命効果(生存期間の延長)を合理的に予測することができると考えられ,代替評価項目である腫瘍縮小効果から真の評価項目である延命効果を評価することができると考えられていた。 奏功率の評価における抗がん剤の期待有効率(有用な抗悪性腫瘍薬と認められる水準)は,薬剤耐性の点や平成14年7月当時における非小細胞肺がんのセカンドライン治療における標準的治療薬であるドセタキセル単剤の奏功率等から,ファーストライン治療においては奏功率20%であるとしても,セカンドライン治療以降においては奏功率約10%が水準となるものと考えられ,実施計画書(プロトコール)では閾値有効率5%が定められていた。 (イ) イレッサ においては奏功率20%であるとしても,セカンドライン治療以降においては奏功率約10%が水準となるものと考えられ,実施計画書(プロトコール)では閾値有効率5%が定められていた。 (イ) イレッサの第Ⅱ相試験では,IDEAL1試験の外国人群のみが期待有効率及び閾値有効率を越えていなかったものの,IDEAL2試験ではサードライン治療の患者を多く含み,IDEAL1試験よりも外国人の症例数を多く含むIDEAL2試験とIDEAL1試験の外国人群の結果を総合すると,期待有効率及び閾値有効率を越える奏功率があったと認められ,IDEAL1試験における生存期間中央値や1年生存率が,セカンドライン治療における標準的治療薬であるドセタキセルと比較しても,少なくともイレッサがドセタキセルよりも劣るものではないと認められた。 また,セカンドライン以降の治療では,薬剤耐性などによりファーストライン治療よりも治療の効果を得られにくいにもかかわらず,セカンドライン治療におけるIDEAL1試験の結果からは,ファーストライン治療において期待有効率とされる水準(奏功率20%)と比較しても十分な値を示した。すなわち,イレッサは,従来の化学療法により治療効果を得られなかった患者に対しても治療効果を得られることが予測さ れるものであった。加えて,イレッサに関する治験は,ファーストライン治療における効果を直接検証するものではなかったが,保険適用のある標準的治療法が既に存在して一定の治療効果を期待できる場合に,ファーストライン治療における臨床試験を実施することは困難であった。 イ安全性(危険性)前記第5章第3のとおり,平成14年7月当時におけるイレッサの安全性(危険性)に関する判断の要点は以下のとおりである(第5章第3の5参照)。 (ア) イレッサの作用 た。 イ安全性(危険性)前記第5章第3のとおり,平成14年7月当時におけるイレッサの安全性(危険性)に関する判断の要点は以下のとおりである(第5章第3の5参照)。 (ア) イレッサの作用機序や毒性試験から,間質性肺炎の発生が予測できたとはいえない。 (イ) 国内3症例をはじめ治験や参考試験においては,イレッサの承認用量での間質性肺炎に関する副作用例がなく,イレッサを承認用量で投与したときに間質性肺炎が発症するという明確な根拠はなかったが,同時に,間質性肺炎が発症する可能性も否定できなかった。 また,海外の副作用報告によると,間質性肺炎等に関する海外の副作用報告のうち承認用量での間質性肺炎発症例が半数ほどあり,投与量不明なものも少なからず存在した。 したがって,承認用量で投与したときに間質性肺炎が発症する可能性があると判断すべき根拠はあった。 (ウ) 海外の副作用報告からは,イレッサによる間質性肺炎等の発症頻度を的確に把握することは困難であり,国内臨床試験における発症頻度約2.3%は,従来の抗がんと比較して,特に高いとはいえなかった。 (エ) 一般的に,薬剤性間質性肺炎,特に抗がん剤による薬剤性肺炎においては,多くは投与の中止又はステロイド薬により改善するが,時には死に至ることがありえ,国内3症例は,がんの進行によりイレッサによる間質性肺炎と死亡との間の因果関係が否定されるものやイレッサによる 間質性肺炎が軽快したものなどであったから,国内3症例からは,イレッサにより発症しうる間質性肺炎が,従来の抗がん剤に比べて,致死的ないし重篤なものであったとまで判断することはできなかった。 また,海外の副作用報告からは,承認用量のイレッサによって発症しうる間質性肺炎の重篤性ないし致死性を適正に評価することは困難であっ 死的ないし重篤なものであったとまで判断することはできなかった。 また,海外の副作用報告からは,承認用量のイレッサによって発症しうる間質性肺炎の重篤性ないし致死性を適正に評価することは困難であったといわざるをえず,より慎重に評価を加えたとしても,イレッサによる間質性肺炎によって死に至ることがあるが,イレッサによる間質性肺炎の重篤度は,従来の殺細胞性抗がん剤と同程度とみるのが相当であった。 国内外の副作用報告を総合すると,イレッサによって発症しうる間質性肺炎は,死に至ることがありうるが,従来の抗がん剤と比べて致死的ないし重篤なものであったとはいえないと評価することが相当であった。 (オ) 国内外の副作用報告のいずれにおいても,イレッサの投与開始からの間質性肺炎の発症時期や症状経過,ステロイド療法への反応性などは様々であったといえるから,イレッサの副作用による間質性肺炎が急性間質性肺炎の特徴を有するものであるなどの特徴を把握することまでは困難であった。 (カ) イレッサの副作用のうち,最も多くみられるものは発疹(皮疹,湿疹)であり,比較的発症頻度が高いものは肝機能障害,下痢,嘔吐などであり,発疹の副作用グレードは高いとはいえず,従来の殺細胞性抗がん剤と比較して,嘔気(悪心)や嘔吐は,発症頻度が低く,症状の程度も軽度であり,下痢も,致命的となるおそれは小さく,発症頻度も低かった。 イレッサには,従来の殺細胞性抗がん剤では高頻度で発症し,死に至る危険のある血液毒性による副作用はほとんどみられなかった。 ウ有用性以上によれば,イレッサには,副作用として間質性肺炎を発症する危険があり,一般的に間質性肺炎は時には死に至ることもありうると考えられており,イレッサにより発症する間質性肺炎により死に至ることもありうるが, れば,イレッサには,副作用として間質性肺炎を発症する危険があり,一般的に間質性肺炎は時には死に至ることもありうると考えられており,イレッサにより発症する間質性肺炎により死に至ることもありうるが,イレッサによる間質性肺炎の重篤度は,従来の抗がん剤一般に比べて致死的ないし重篤であるとはいえない状況にあった。 他方で,非小細胞肺がんの治療においては,化学療法の適応となるのは外科療法や放射線療法で治療できない進行した非小細胞肺がん患者であり,最も治療効果の高いプラチナ製剤と新規抗がん剤の併用療法では,奏功率でこそ30%前後に達していたが,生存期間を約2か月延長させる程度であり,副作用が強く他の治療の選択肢を必要としている状況であった。イレッサでは,セカンドライン治療においては,従来の非小細胞肺がんの抗がん剤と同等の有効性があり,従来の殺細胞性抗がん剤において多くみられた血液毒性などの重大な副作用がみられず,QOLを害する副作用である嘔吐や下痢などの発症頻度はそれほど高くなく,その症状の程度も軽度であり,副作用の種類が従来の抗がん剤と異なるものであった。また,そのため,ファーストライン治療においても,従来の抗がん剤単剤と同程度の治療効果を期待できるものであり,従来の化学療法で治療効果を得られなかった患者に対しても治療効果を得ることができることがあったといえる。 そうすると,イレッサは,セカンドライン治療だけでなくファーストライン治療においても,イレッサの有効性に比してイレッサの危険性が上回るとはいえないから,いずれにおいても有用性が認められるというべきである。 (2) 現在ア有効性 前記第5章第2のとおり,現在においても,セカンドライン治療及びファーストライン治療におけるイレッサの有効性が認められる。この判断の要 うべきである。 (2) 現在ア有効性 前記第5章第2のとおり,現在においても,セカンドライン治療及びファーストライン治療におけるイレッサの有効性が認められる。この判断の要点は以下のとおりである(同章第2の7参照)。 (ア) 平成19年7月に結果が公表されたINTEREST試験により,全生存期間について,セカンドライン治療の患者を対象として,イレッサのドセタキセルに対する非劣性が統計学的に証明され,QOL改善などでイレッサがドセタキセルを有意に上回った。平成19年6月ころまでの第Ⅲ相試験によっては,全生存期間について,いずれも標準的治療法に対するイレッサの優越性を統計学的に証明することはできなかったものの,試験結果は治験の成績に反するものではなかった。 承認後のイレッサの効果予測因子(EGFR遺伝子変異やEGFR遺伝子増幅)に関する研究や各臨床試験の結果により,EGFR遺伝子変異がイレッサの効果予測因子であるという考え方が大勢を占めるようになり,過去の臨床試験や実地臨床においてイレッサの効果が高いと考えられていた腺がん症例,日本人,女性,喫煙歴なしの患者にはEGFR遺伝子変異を有する者が多いと考えられるようになった。また,イレッサは,EGFR遺伝子変異のない患者に対しても10%程度の奏功率とされており,セカンドライン治療におけるドセタキセルの奏功率と同程度であった。 (イ) ファーストライン治療においては,IPASS試験やNEJ002試験により,無増悪生存期間について,EGFR遺伝子変異を有する患者を対象に,ファーストラインの標準的治療法である2剤併用療法に対してイレッサの優越性が統計学的に証明され,無増悪生存期間を代替評価項目として延命効果を合理的に予測することができた。 ファーストライン治療における ーストラインの標準的治療法である2剤併用療法に対してイレッサの優越性が統計学的に証明され,無増悪生存期間を代替評価項目として延命効果を合理的に予測することができた。 ファーストライン治療におけるEGFR遺伝子変異を有しない患者に対する効果を直接検証した臨床試験がないが,現在までの研究によれ ば,イレッサは,EGFR遺伝子変異のない患者に対しても10%程度の奏功率があるとされており,一定割合の症例ではEGFR遺伝子変異の有無と奏功とが解離することがあるなど,いまだ未解明の状況であり,また,EGFR遺伝子変異の解析方法には再現性や精度に問題があると指摘されており,確立された解析方法がなく,現在に至っても確立されていない。 イ安全性(危険性)前記第5章第3のとおり,現在におけるイレッサの安全性(危険性)に関する判断の要点は以下のとおりである(第5章第3の5参照)。 (ア) イレッサ承認後の各調査等によれば,イレッサによる間質性肺炎の発症頻度は5%前後であり,従来の抗がん剤の中でも間質性肺炎の発症頻度の高いビノレルビンなどの2倍近い発症頻度を示しているのであるから,イレッサによる間質性肺炎の発症頻度は従来の抗がん剤よりも高い。 (イ) イレッサ承認後の各調査等によれば,イレッサは,他の抗がん剤よりも間質性肺炎の発症の頻度が高いだけでなく,発症した場合には30~40%の割合で死に至っているから,他の抗がん剤と比較しても致死率が同程度もしくはやや高く,イレッサによって発症する間質性肺炎は従来の抗がん剤よりも重篤又は致死的なものであった。ただし,イレッサによる副作用死亡率は2%前後であり,副作用死亡率自体は他の抗がん剤と同程度であった。 (ウ) 安全性検討会で,イレッサによる間質性肺炎について,投与初期に発症し致死的な あった。ただし,イレッサによる副作用死亡率は2%前後であり,副作用死亡率自体は他の抗がん剤と同程度であった。 (ウ) 安全性検討会で,イレッサによる間質性肺炎について,投与初期に発症し致死的な転帰をたどることが多いという特徴が実証的に確認されるに至った。 専門家会議において,①急性間質性肺炎AIP様所見,②器質化肺炎COP様所見,③急性好酸球性肺炎AEP様所見,④過敏性肺炎HP又 は過敏性反応HRパターンに分類され,病型分類においては急性間質性肺炎は予後が悪いという見方が強かった。 (エ) 専門家会議やその後の各調査や研究報告により,既存の肺線維症や間質性肺炎が存在する場合には,イレッサにより間質性肺炎を発症しやすいことが判明した。 イレッサによる間質性肺炎等の副作用報告数は,承認直後から数年で従来の抗がん剤と比較しても多数に上っていたが,近年は減少傾向にある。 (オ) イレッサの副作用のうち,最も多くみられるものは発疹(皮疹,湿疹)であり,比較的発症頻度が高いものは肝機能障害,下痢,嘔吐などであった。もっとも,グレード3以上発疹は見当たらず,嘔気(悪心)や嘔吐は,他の抗がん剤と比較して発症頻度が低く,症状の程度も軽度であった。下痢も,他の抗がん剤と比較すれば,致命的となるおそれが低く,発症頻度も低かった。 イレッサには,死に至る危険のある血液毒性による副作用はほとんどみられなかった。 ウ有用性(ア) セカンドライン治療におけるイレッサの有用性イレッサには,副作用として間質性肺炎を発症する危険が十分にあり,イレッサによって発症する間質性肺炎は,従来の抗がん剤よりも,重篤又は致死的なものであり発症頻度も高いが,副作用死亡率自体は従来の抗がん剤と大きく異なるものではなかった。 また,イレッサは,第Ⅲ相 イレッサによって発症する間質性肺炎は,従来の抗がん剤よりも,重篤又は致死的なものであり発症頻度も高いが,副作用死亡率自体は従来の抗がん剤と大きく異なるものではなかった。 また,イレッサは,第Ⅲ相試験(INTEREST試験)では,セカンドライン以降の患者を対象として,全生存期間について,イレッサのドセタキセルに対する非劣性が証明されただけでなく,セカンドライン治療において従来の化学療法で治療効果を得られなかった患者に対して も治療効果を得ることができるものであった。加えて,イレッサは,承認後の多数の研究報告により,EGFR遺伝子変異陽性の患者に対しては特に治療効果が高いとされており,その奏功率は従来の抗がん剤を大きく上回る。 そうすると,セカンドライン治療においては,イレッサによる間質性肺炎の発症危険性及び予後の重篤性を考慮しても,イレッサの有効性に比してイレッサの危険性が上回るとはいえないから,セカンドライン治療においてイレッサの有用性を認めるのが相当である。 (イ) ファーストライン治療におけるイレッサの有用性イレッサには,副作用として間質性肺炎を発症する危険が十分にあり,イレッサによって発症する間質性肺炎は,従来の抗がん剤よりも,重篤又は致死的なものであり発症頻度も高いが,副作用死亡率自体は従来の抗がん剤と大きく異なるものではなかった。 副作用全体でみると,従来の殺細胞性抗がん剤において多くみられた血液毒性などの重大な副作用がみられず,QOLを害する副作用である嘔吐や下痢などの発症頻度はそれほど高くなく,その症状の程度も軽度であるとみる余地はある。血液毒性のうち白血球減少に対する治療の進展により,従来の殺細胞性抗がん剤による治療が従前よりも比較的安全に実施できるようになったものの,イレッサにおいても,イレッ 度も軽度であるとみる余地はある。血液毒性のうち白血球減少に対する治療の進展により,従来の殺細胞性抗がん剤による治療が従前よりも比較的安全に実施できるようになったものの,イレッサにおいても,イレッサにより発症する間質性肺炎の特徴(早期発症例)の発見や間質性肺炎の発症危険因子・予後不良因子の研究の進展に伴い,慎重な投与によりイレッサによる間質性肺炎の副作用報告数も減少傾向にある。 他方で,イレッサは,承認後の多数の研究報告により,EGFR遺伝子変異陽性の患者に対しては特に治療効果が高いとされており,第Ⅲ相試験(IPASS試験及びNEJ002試験)では,無増悪生存期間に関して,ファーストライン治療においても標準的治療法である併用療法 よりも優越性が示され,延命効果があることが推認されるものであった。イレッサは,EGFR遺伝子変異陰性又は不明の患者に対しても約10%の奏功率があり,EGFR遺伝子変異の検査方法自体が確立されておらず,EGFR遺伝子変異の有無と奏功との相関が一致しない割合が一定数あり,現時点においてもなお研究途上にある。 また,現在の非小細胞肺がんの治療においても,イレッサ承認後にアリムタやタルセバなどが非小細胞肺がんの抗がん剤として承認されたが,化学療法の適応となるのは外科療法や放射線療法で治療できない進行した非小細胞肺がん患者であり,ファーストライン治療における最も治療効果の高い治療法がプラチナ製剤と新規抗がん剤の併用療法であることはイレッサ承認当時と変わりなく,上記併用療法は殺細胞性抗がん剤の併用によるため副作用が強いことを考慮すると,依然として治療の選択肢を必要としている状況である。 そうすると,セカンドライン治療だけでなくファーストライン治療においても,イレッサの有効性に比してイレッサの危険性が上 用が強いことを考慮すると,依然として治療の選択肢を必要としている状況である。 そうすると,セカンドライン治療だけでなくファーストライン治療においても,イレッサの有効性に比してイレッサの危険性が上回るとはいえないから,イレッサの有用性を認めるのが相当である。もっとも,ファーストライン治療においては,イレッサには,EGFR遺伝子変異陰性又は不明の患者に対して積極的に使用するだけの根拠はなく,他の抗がん剤による治療が困難な場合の治療の選択肢の1つにすぎない。 (3) まとめ以上検討したところによれば,イレッサは,イレッサ承認(平成14年7月)当時だけでなく,現在においても,セカンドライン治療のみならずファーストライン治療においても有用性が認められる。 (以下余白) 第5 イレッサの添付文書と被告会社及び被告国が実施した市販後安全対策等前提事実(前記第3章第6)並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実は,以下のとおりである。 1 添付文書における使用上の注意,警告(1) 薬事法の定め等ア医療用医薬品の添付文書とは,薬事法52条1号の規定に基づき医薬品の提供を受ける患者の安全を確保し適正使用を図るために,医師,歯科医師及び薬剤師に対して必要な情報を提供する目的で当該医薬品の製造業者又は輸入販売業者が作成するものである。(添付文書通達・丙D13〔第1の1〕)そして,製造業者等は,当該医薬品の有効性や危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有していることから,医薬品の安全性の確保につき一義的責任を負い,自らの製品について,その時点において得られた情報と医学・薬学の水準に照らして最善の適正使用情報を提供しなければならないと解されている。(乙D23〔4頁〕)イ同法52条は,医薬品に添附する文書又は の製品について,その時点において得られた情報と医学・薬学の水準に照らして最善の適正使用情報を提供しなければならないと解されている。(乙D23〔4頁〕)イ同法52条は,医薬品に添附する文書又はその容器若しくは被包に,同条各号に掲げる事項が記載されていなければならないと定め,添付文書の記載事項として,用法,用量その他使用及び取扱い上の必要な注意(同条1号)等を挙げ,同法53条に記載上の留意事項が,同法54条に記載禁止事項が規定されている。 そして,同法52条を受けて,同法施行規則には,表示の特例が定められているが(同法施行規則54条ないし56条の3),同法施行規則には添付文書の記載内容に関する定めはない。 (2) 医療用医薬品の添付文書に関する指針等の改訂経緯ア医療用医薬品の添付文書については,昭和45年以降,厚生省により一 般的な指針が示され,昭和51年,「医療用医薬品の使用上の注意記載要領について」(昭和51年2月20日薬発第153号薬務局長通知・甲D11)により,「警告」欄が新設されるとともに,副作用の記載等について整理がされ,昭和58年,「医療用医薬品添付文書の記載要領について」(昭和58年5月18日薬発第385号・甲D12)により,医療関係者に必要性の高い情報を優先記載し,警告を使用上の注意から切り分けて一つの項目とするなど記載事項が整理され,昭和62年,「医療用医薬品添付文書使用上の注意等の改訂に伴う情報対応について」(昭和62年4月28日薬安第86号・乙D60)により,使用上の注意等の改訂に伴う情報対応がされるなど,指針の改訂が行われてきた。(乙F6〔233~240頁〕,丙P15〔23頁〕)イ(ア) 平成5年ころからは,医薬品の添付文書等が使いやすい情報になっていないなどとして添付文書等の記載 されるなど,指針の改訂が行われてきた。(乙F6〔233~240頁〕,丙P15〔23頁〕)イ(ア) 平成5年ころからは,医薬品の添付文書等が使いやすい情報になっていないなどとして添付文書等の記載の改善が提言されていたところ,同年にソリブジン事件(平成5年7月に帯状疱疹を効能効果として製造承認されたソリブジンが,同年9月から販売開始されたところ,フッ化ピリミジン系抗がん剤[FU系抗がん剤。5-フルオロウラシルなど]との併用による相互作用により多くの副作用被害(死亡)が生じた事件)が発生したことにより,添付文書の記載方法,注意事項の配列及び相互作用に関する情報伝達上の問題点が指摘されるようになった。 厚生省は,ソリブジン事件を受けて,同年11月,「医療用医薬品の使用上の注意記載要領について」(同月24日薬発第999号薬務局長通知)により,相互作用により,致死的又はきわめて重篤な非可逆的な副作用が発現するなど,特に注意を喚起する必要がある場合には,「相互作用」の項の記載のみならず,「警告」,「一般的注意」又は「禁忌」の項にも記載することにより,その重要性の注意喚起を図ること等を定めた。 平成6年9月,「ソリブジンによる副作用に関する調査結果」がまとめられ,行政の問題点と今後の対応として,医薬品添付文書の改善が挙げられ,ソリブジンの添付文書については,「使用上の注意」の相互作用の欄に「FU系抗がん剤との併用を避けること」との記載があったが,医療現場におけるとらえ方の違いにより,危険性の認識の程度に差が生じていたものと考えられるとされ,このような現状を改善するために,「使用上の注意」を含めた添付文書全般について,記載,表現のあり方等について検討するとされた。(甲F9〔27頁〕,甲F10〔98頁〕,乙F6〔236~240頁 され,このような現状を改善するために,「使用上の注意」を含めた添付文書全般について,記載,表現のあり方等について検討するとされた。(甲F9〔27頁〕,甲F10〔98頁〕,乙F6〔236~240頁〕)(イ) 製薬企業の自主的団体である日本製薬工業協会は,ソリブジン事件を契機に,平成6年11月,医療用医薬品添付文書について自主基準(「医療用医薬品添付文書「使用上の注意」記載内容の改訂について」平成6年11月21日付け製薬協発第1445号・乙D50)を定めるなどした。(乙F6〔236~240頁〕)ウこのような経緯を経て,平成6年10月,厚生省に「医療用医薬品添付文書の見直し等に関する研究班」が設置され,医療用医薬品の添付文書の記載を,医師らにとって,より理解しやすく活用しやすいものとするための検討が行われ,平成8年5月,同研究班による「医薬品添付文書の見直し等に関する研究報告書」(甲F10)が公表された。 同報告書では,「研究班設置の背景」として,ソリブジン事件により,添付文書の記載方法,注意事項の配列及び相互作用に関する情報伝達上の問題点が判明したとして,添付文書を基盤とする情報伝達の重要性が改めて指摘がされるとともに,検討の過程で,平成7年7月1日から製造物責任法が施行され,また,最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決(民集50巻1号1頁)により,医師が医薬品を使用するに当たって添付文書に記載された使用上の注意事項に従わずに医療事故が発生した場合には,特 段の事情がない限り医師の過失が推定されるとの判断がされたこと等が指摘されている。そして,「添付文書の基本的性格の確認」として,医師が知りたい情報を結果の重大性やその予見を含め正しく評価することができること等が需要であるとされ,「研究成績等に基づく添付文書の全面 摘されている。そして,「添付文書の基本的性格の確認」として,医師が知りたい情報を結果の重大性やその予見を含め正しく評価することができること等が需要であるとされ,「研究成績等に基づく添付文書の全面的改訂に関する提案(13提案)」として,添付文書の記載内容及び記載方法について整理がされ,使用前に必読すべき臨床上重要な記載(薬効薬理の記載,効能・効果,用法・用量,警告,禁忌,原則禁忌,相互作用,重要な基本的注意,重大な副作用等)は原則として全て第1面に記載すること,警告は,赤字赤枠として設定理由を活字ポイント数を下げて記載すること等が提言された。(甲F9〔27頁〕,甲F10〔98,99,104,107頁〕,甲F12〔90頁〕)エそして,厚生省は,前記報告書を踏まえ,医療用医薬品の添付文書に関する指針について,薬理作用の強い医薬品の実用化等を反映し,副作用等について一層の注意が必要になっていることから,より理解しやすく活用しやすい内容にするための改訂として,平成9年4月,添付文書通達(甲D4,丙D13),使用上の注意通達(乙D10,丙D15)等を発出し,前記「医療用医薬品の使用上の注意記載要領について」(昭和51年2月20日薬発第153号薬務局長通知・甲D11),「医療用医薬品の使用上の注意記載要領について」(平成5年11月24日薬発第999号薬務局長通知)等は廃止された。(乙F6〔236~240頁〕)(3) 医療用医薬品の添付文書に関する指針及び自主基準ア指針(ア) イレッサが承認された平成14年7月当時,薬事法52条1号を受け,医療用医薬品の添付文書の記載要領については,添付文書通達(甲D4,丙D13)により,添付文書記載の原則,記載項目及び記載順序,記載要領等が定められており,添付文書通達を受けて,上記添付文 け,医療用医薬品の添付文書の記載要領については,添付文書通達(甲D4,丙D13)により,添付文書記載の原則,記載項目及び記載順序,記載要領等が定められており,添付文書通達を受けて,上記添付文 書のうち「使用上の注意」の記載については,使用上の注意通達(乙D10,丙D15)により,「使用上の注意」の原則,記載項目及び記載順序,記載要領等が定められていた。 また,添付文書通達(甲D4,丙D13)の具体的な運用については,「医療用医薬品添付文書の記載要領について」(平成9年4月25日薬安第59号厚生省薬務局安全課長通知・丙D14)により,添付文書記載の一般的留意事項,各記載項目に関する留意事項について具体的に定められていた。 (イ) 添付文書通達(甲D4,丙D13)使用上の注意通達によれば,「警告」や「使用上の注意」の記載については,以下のとおり定められていた。 a 「警告」は,本文冒頭に記載すること。 b 「警告」は,使用上の注意通達により記載すること。 c 「使用上の注意」は,使用上の注意通達により記載すること。 (ウ) 使用上の注意通達(乙D10,丙D15〔第3の1,6〕)a 使用上の注意通達によれば,「警告」や「副作用」の記載については,以下のとおり定められていた(必要な範囲で抜粋する。)。 第1 「使用上の注意」の原則3.記載順序は,原則として「記載項目及び記載順序」に掲げるものに従うほか,次の要領によること。 (1) 内容からみて重要と考えられる事項については記載順序として前の方に配列すること。」4.原則として,記載内容が2項目以上にわたる重複記載は避けること。 なお,重大な副作用又は事故を防止するために複数の項目に注意事項を記載する場合には,「警告」,「禁忌」,「慎重投与」 .原則として,記載内容が2項目以上にわたる重複記載は避けること。 なお,重大な副作用又は事故を防止するために複数の項目に注意事項を記載する場合には,「警告」,「禁忌」,「慎重投与」 あるいは「重要な基本的注意」の項目には簡潔な記載の後に「○○の項参照」等と記載した上,対応する項目に具体的な内容を記載して差し支えないこと。」第3 記載要領1.[警告](1)致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合,又は副作用が発現する結果極めて重大な事故につながる可能性があって,特に注意を喚起する必要がある場合に記載すること。 6.[副作用](1)「重大な副作用」と「その他の副作用」に区分して記載すること。 (2)発現頻度については調査症例数が明確な調査結果に基づいて記載すること。 (3)「重大な副作用」の記載に当たっては次の点に注意すること。 ①当該医薬品にとって特に注意を要するものを記載すること。 ②発現頻度は,できる限り具体的な数値を記載すること。副詞によって頻度を表す場合には,「まれに(0.1%未満)」,「ときに(5%以下)」等,数値の目安を併記するよう努めること。 b 「警告」欄には,使用上の注意事項の中で特に重要な事項を記載することが想定されており,治験段階で「警告」に相当する重大な副作用が発現する危険性が予想され,医療従事者に特に注意を喚起する必要があると認められる場合等に記載するものと解されていた。 また,「重大な副作用」には,重篤度分類通知(後記(エ)・丙D16)におけるグレード3(重篤な副作用と考えられるもの。すなわ ち,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの。)に相当する副作用が想定されて な副作用と考えられるもの。すなわ ち,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの。)に相当する副作用が想定されていた。(甲F10〔99~100頁〕,12〔93,99頁〕,乙P5〔88頁〕,丙P5〔71頁〕,15〔23頁〕)(エ) 副作用の重篤度分類に関する指針(重篤度分類通知(丙D16))重篤度分類通知(丙D16)は,薬事法令所定の副作用報告のより一層の適正化,迅速化を図るため,報告を行う症例の範囲についての判断の具体的な目安として作成されたものである。 a 重篤度分類通知では,副作用の重篤度を概ね次のとおり1~3の3つのグレードに分類するとされている。 「グレード1」は,「軽微な副作用と考えられるもの」「グレード2」は,「重篤な副作用ではないが,軽微な副作用でもないもの」「グレード3」は,「重篤な副作用と考えられるもの。すなわち,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの。」b 重篤度分類通知の別添の「副作用の重篤度分類」のうち,呼吸器系障害の重篤度の一覧表には,間質性肺炎は,グレード3として分類されている。 イ自主基準(乙D50)(ア) 使用上の注意通達発出以前に発出されていた,製薬企業の自主的団体である日本製薬工業協会(製薬協)による自主基準(「医療用医薬品添付文書「使用上の注意」記載内容の改訂について」平成6年11月21日付け製薬協発第1445号・乙D50)においては,「警告」欄と「重大な副作用」欄の記載要領につき,次のとおり定められてい た。 a 「警告」は,「致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合又は副作用が発 0)においては,「警告」欄と「重大な副作用」欄の記載要領につき,次のとおり定められてい た。 a 「警告」は,「致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合又は副作用が発現する結果極めて重篤な事故につながる可能性があって,特に注意を喚起する必要がある場合に記載する。」,「記載事項は赤枠で囲み,警告の文字は枠内に入れる。ただし,特に重要な場合は,赤字,赤枠とする。」b 「重大な副作用」は,「重篤度分類グレード3を参考に副作用名を記載する。」(イ) 「重大な副作用」の「重篤度分類グレード3」は,重篤度分類通知(丙D16)におけるグレード3(重篤な副作用と考えられるもの。すなわち,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの)が想定されていた。(乙P5〔88頁〕,丙P5〔71頁〕)(4) イレッサの添付文書の改訂の経緯ア第1版添付文書(平成14年7月作成)【甲A1,丙A1[枝番号1]】(ア) 警告欄なし(イ) 効能・効果欄「手術不能又は再発非小細胞肺癌」と記載され,「効能・効果に関連する使用上の注意」欄に,次のとおりの記載があった。 「1.本剤の化学療法未治療例における有効性及び安全性は確立していない。」「2.本剤の術後補助療法における有効性及び安全性は確立していない。」(ウ) 使用上の注意欄 a 慎重投与欄間質性肺炎に関する記載なし。 b 重要な基本的注意欄間質性肺炎に関する記載なし。 c 副作用欄「重大な副作用」欄と「その他の副作用」欄があった。 「重大な副作用」欄には,「1)重度の下痢(1%未満),脱水を伴う下痢(1~10%未満)」,「2)中毒性表皮壊死融解症,多形 c 副作用欄「重大な副作用」欄と「その他の副作用」欄があった。 「重大な副作用」欄には,「1)重度の下痢(1%未満),脱水を伴う下痢(1~10%未満)」,「2)中毒性表皮壊死融解症,多形紅斑(頻度不明)」,「3)肝機能障害(1~10%未満)」,「4)間質性肺炎(頻度不明)」の順に記載され,上記4)は,「4)間質性肺炎(頻度不明):間質性肺炎があらわれることがあるので,観察を十分に行い,異常が認められた場合には,投与を中止し,適切な処置を行うこと。」と記載されていた。 イ第2版添付文書(平成14年8月改訂)【甲A2,丙A1[枝番号2]】前記ア(ア)ないし(ウ)の記載内容は,第1版添付文書と同様である。 ウ第3版添付文書(平成14年10月改訂)【甲A3】(ア) 警告欄警告欄が追加され,「本剤の投与により急性肺障害,間質性肺炎があらわれることがあるので,胸部X線検査等を行うなど観察を十分に行い,異常が認められた場合には投与を中止し,適切な処置を行うこと。 なお,患者に対し副作用の発現について十分説明すること。(「重要な基本的注意」及び「重大な副作用」の項参照)」と記載された。 (イ) 効能・効果欄 第1版添付文書の記載内容と同様である。 (ウ) 使用上の注意欄a 慎重投与欄第1版添付文書の記載内容と同様である。 b 重要な基本的注意欄間質性肺炎に関して,次の記載が追加された。 「(1)急性肺障害,間質性肺炎等の重篤な副作用が起こることがあり,致命的な経過をたどることがあるので,本剤の投与にあたっては,臨床症状(呼吸状態,咳および発熱等の有無)を十分に観察し,定期的に胸部X線検査を行うこと。また,必要に応じて胸部CT検査,動脈血酸素分圧(PaO2),肺胞気動脈血酸素分圧較差 の投与にあたっては,臨床症状(呼吸状態,咳および発熱等の有無)を十分に観察し,定期的に胸部X線検査を行うこと。また,必要に応じて胸部CT検査,動脈血酸素分圧(PaO2),肺胞気動脈血酸素分圧較差(A-aDO2),肺拡散能力(DLco)などの検査を行い,急性肺障害,間質性肺炎等が疑われた場合には,直ちに本剤による治療を中止し,ステロイド治療等の適切な処置を行うこと。」,「(2)本剤を投与するにあたっては,本剤の副作用について患者に十分に説明するとともに,臨床症状(息切れ,呼吸困難,咳及び発熱等の有無)を十分に観察し,これらが発現した場合には,速やかに医療機関を受診するように患者を指導すること。」c 副作用欄「重大な副作用」欄の最初に急性肺障害,間質性肺炎が記載され,「1)急性肺障害,間質性肺炎(頻度不明):急性肺障害,間質性肺炎があらわれることがあるので,胸部X検査等を行うなど観察を十分に行い,異常が認められた場合には,投与を中止し,適切な処置を行うこと。」と記載された。 エ第4版添付文書(平成14年12月改訂)【甲A4】(ア) 警告欄 第3版添付文書の記載に,次の記載が追加された。 「本剤による治療を開始するにあたり,患者に本剤の有効性・安全性,息切れ等の副作用の初期症状,非小細胞肺癌の治療法,致命的となる症例があること等について十分に説明し,同意を得た上で投与すること。」「また,急性肺障害や間質性肺炎が本剤の投与初期に発生し,致死的な転帰をたどる例が多いため,少なくとも投与開始後4週間は入院またはそれに準ずる管理の下で,間質性肺炎等の重篤な副作用発現に関する観察を十分に行うこと。」「本剤は,肺癌化学療法に十分な経験をもつ医師が使用するとともに,投与に際しては緊急時に十分に措置できる医療機 れに準ずる管理の下で,間質性肺炎等の重篤な副作用発現に関する観察を十分に行うこと。」「本剤は,肺癌化学療法に十分な経験をもつ医師が使用するとともに,投与に際しては緊急時に十分に措置できる医療機関で行うこと(「慎重投与」,「重要な基本的注意」および「重大な副作用」の項参照」)」(イ) 効能・効果欄第1版添付文書の記載内容と同様である。 (ウ) 使用上の注意欄a 慎重投与欄第1版添付文書の記載に,次の記載が追加された。 「(1) 急性肺障害,間質性肺炎,肺線維症またはこれらの疾患の既往歴のある患者[間質性肺炎が増悪し,致死的となる症例が報告されている。]」b 重要な基本的注意欄第3版添付文書の記載内容と同様である。 c 副作用欄「重大な副作用」欄の記載内容は,第3版添付文書と同様である。 オ第5版添付文書(平成15年3月改訂)【甲A5】 (ア) 警告欄第4版添付文書の記載内容と同様である。 (イ) 効能・効果欄第1版添付文書の記載内容と同様である。 (ウ) 使用上の注意欄a 慎重投与欄第4版添付文書の記載内容と同様である。 b 重要な基本的注意欄第3版添付文書の記載内容と同様である。 c 副作用欄「重大な副作用」欄は,第4版添付文書の記載に追加して,「5)血尿,出血性膀胱炎(頻度不明)」が記載された。 カ第6版添付文書(平成15年4月改訂)【甲A6】(ア) 警告欄第4版添付文書の記載に,次の記載が追加された。 「3.特発性肺線維症,間質性肺炎,じん肺症,放射線肺炎,薬剤性肺炎の合併は,本剤投与中に発現した急性肺障害,間質性肺炎発症後の転帰において,死亡につながる重要な危険因子である。このため,本剤による治療を開始するにあたり,特発性肺線維症,間質性 線肺炎,薬剤性肺炎の合併は,本剤投与中に発現した急性肺障害,間質性肺炎発症後の転帰において,死亡につながる重要な危険因子である。このため,本剤による治療を開始するにあたり,特発性肺線維症,間質性肺炎,じん肺症,放射線肺炎,薬剤性肺炎の合併の有無を確認し,これらの合併症を有する患者に使用する場合には特に注意すること。(「慎重投与」の項参照)」(イ) 効能・効果欄第1版添付文書の記載内容と同様である。 (ウ) 使用上の注意欄a 慎重投与欄 第4版添付文書の記載内容が一部改められるとともに追加され,次のとおり記載された。 「(1) 急性肺障害,特発性肺線維症,間質性肺炎,じん肺炎,放射線肺炎,薬剤性肺炎またはこれらの疾患の既往歴のある患者[間質性肺炎が増悪し,致死的となる症例が報告されている。]」b 重要な基本的注意欄第3版添付文書の記載内容と同様である。 c 副作用欄「重大な副作用」欄の記載内容は,第5版添付文書の記載が一部改められるとともに追加され,「2)重度の下痢(1~10%未満)」,「3)脱水(頻度不明)」,「7)急性膵炎(頻度不明)」が記載された。 キ第9版添付文書(平成16年9月改訂)【甲A9】(ア) 警告欄第6版添付文書の記載に以下の「4.」が追加され,全体として,以下のような記載となった。 「1.本剤による治療を開始するにあたり,患者に本剤の有効性・安全性,息切れ等の副作用の初期症状,非小細胞肺癌の治療法,致命的となる症例があること等について十分に説明し,同意を得た上で投与すること。」「2.本剤の投与により急性肺障害,間質性肺炎があらわれることがあるので,胸部X線検査等を行うなど観察を十分に行い,異常が認められた場合には投与を中止し,適切な処置を行うこと。 すること。」「2.本剤の投与により急性肺障害,間質性肺炎があらわれることがあるので,胸部X線検査等を行うなど観察を十分に行い,異常が認められた場合には投与を中止し,適切な処置を行うこと。 また,急性肺障害や間質性肺炎が本剤の投与初期に発生し,致死的な転帰をたどる例が多いため,少なくとも投与開始後4週間は入院またはそれに準ずる管理の下で,間質性肺炎等の重篤な副作用発現に関する観 察を十分に行うこと。」「3.特発性肺線維症,間質性肺炎,じん肺症,放射線肺炎,薬剤性肺炎の合併は,本剤投与中に発現した急性肺障害,間質性肺炎発症後の転帰において,死亡につながる重要な危険因子である。このため,本剤による治療を開始するにあたり,特発性肺線維症,間質性肺炎,じん肺症,放射線肺炎,薬剤性肺炎の合併の有無を確認し,これらの合併症を有する患者に使用する場合には特に注意すること。(「慎重投与」の項参照)」「4.急性肺障害,間質性肺炎による致死的な転帰をたどる例は全身状態の良悪にかかわらず報告されているが,特に全身状態の悪い患者ほど,その発現率及び死亡率が上昇する傾向がある。本剤の投与に際しては患者の状態を慎重に観察するなど,十分に注意すること。(「慎重投与」の項参照)」「5.本剤は,肺癌化学療法に十分な経験をもつ医師が使用するとともに,投与に際しては緊急時に十分に措置できる医療機関で行うこと。 (「慎重投与」,「重要な基本的注意」および「重大な副作用」の項参照)」(イ) 効能・効果欄第1版添付文書の記載内容と同様である。 (ウ) 使用上の注意欄a 慎重投与欄第6版添付文書の記載に追加して,「(2) 全身状態の悪い患者[全身状態の悪化とともに急性肺障害,間質性肺炎の発現率及び死亡率が上昇する傾向がある。]」と ) 使用上の注意欄a 慎重投与欄第6版添付文書の記載に追加して,「(2) 全身状態の悪い患者[全身状態の悪化とともに急性肺障害,間質性肺炎の発現率及び死亡率が上昇する傾向がある。]」と記載された。 b 重要な基本的注意欄 第3版添付文書の記載内容と同様である。 c 副作用欄第6版添付文書の記載に追加して,「特別調査「イレッサ錠250プロスペクティブ調査」において,安全性評価対象症例3322例中1862例(56.2%)に副作用が認められ,主な副作用は,発疹568例(17.1%),肝機能異常369例(11.1%),下痢367例(11.1%),急性肺障害・間質性肺炎は193例(5.8%)等であった。(2004年8月報告時)」と記載され,「重大な副作用」欄の記載内容は,第6版添付文書の記載内容から発生頻度の記載内容が改められ,「1)急性肺障害,間質性肺炎」の発生頻度の「頻度不明」との記載が,「1~10%未満」と変更された。 ク第10版添付文書(平成17年2月改訂)【甲A18】(ア) 警告欄第9版添付文書の記載内容と同様である。 (イ) 効能・効果欄第1版添付文書の記載内容と同様である。 (ウ) 使用上の注意欄a 慎重投与欄第9版添付文書の記載内容と同様である。 b 重要な基本的注意欄第9版添付文書の記載内容と同様である。 c 副作用欄第9版添付文書及び記載に次の記載が追加された。 「急性肺障害・間質性肺炎193例のうち,75例が死亡し,安全 性評価対象症例数3322例中の死亡率は2.3%,急性肺障害・間質性肺炎発現症例数193例中の死亡率は38.9%であった。」「重大な副作用」欄の記載内容は,第9版添付文書と同様である。 ケ第11版添付文書(平成1 22例中の死亡率は2.3%,急性肺障害・間質性肺炎発現症例数193例中の死亡率は38.9%であった。」「重大な副作用」欄の記載内容は,第9版添付文書と同様である。 ケ第11版添付文書(平成17年3月改訂)【甲A16】(ア) 警告欄第9版添付文書の記載内容と同様である。 (イ) 効能・効果欄第1版添付文書の記載内容と同様である。 (ウ) 使用上の注意欄a 慎重投与欄第9版添付文書の記載内容と同様である。 b 重要な基本的注意欄第9版添付文書の記載に次の記載が追加された。 「(1) 本剤を投与する際は,日本肺癌学会の「ゲフィチニブ使用に関するガイドライン」等の最新の情報を参考に行うこと。」c 副作用欄第10版添付文書の記載内容と同様である。 コ第18版添付文書(平成20年8月改訂)【甲A21】(ア) 警告欄第9版添付文書の記載内容と同様である。 (イ) 効能・効果欄第1版添付文書の記載内容と同様である。 (ウ) 使用上の注意欄a 慎重投与欄第9版添付文書の記載内容と同様である。 b 重要な基本的注意欄 第11版添付文書の記載内容と同様である。 c 副作用欄急性肺障害・間質性肺炎に関する記載内容は,第10版添付文書と同様である。 (5) 添付文書以外による情報提供制度ア指針厚生労働大臣は,日本製薬団体連合会が作成した「医薬品の情報の収集・評価・対応・伝達・提供に関する規範作成の指標」に従って,製薬会社がそれぞれ社内基準を設定するよう促し,情報の収集及び提供の指針を示し(「医薬品又は医療用具の情報提供に関する自主規範作成のための指標について」(昭和55年11月15日薬発第1462号・乙D51),また,製造業者等が医薬関係者に提供する医薬品又は医療用 の指針を示し(「医薬品又は医療用具の情報提供に関する自主規範作成のための指標について」(昭和55年11月15日薬発第1462号・乙D51),また,製造業者等が医薬関係者に提供する医薬品又は医療用具の適正な使用のために必要な情報は科学的な根拠に基づく正確なものであり,かつ,最新の医学・薬学等の水準に応じたものであることと定めた(「医薬品又は医療用具に関する情報の提供について」(昭和55年11月28日薬安第234号・乙D52〔3項〕)。 イ情報の種類等(ア) 製品情報概要製品情報概要は,個々の医療用医薬品に関する正確かつ総合的な情報を医薬関係者に伝達し,その製品の適正な使用を図ることを目的として作成される印刷物であり,平成14年7月当時,製薬企業によって構成される日本製薬団体連合会の定める「医療用医薬品製品情報概要記載要領」(平成11年5月20日日薬連発第445号・乙D54)に基づいて作成されていた。【乙D54】イレッサについては,平成14年8月,総合製品情報概要(甲A17)が作成された。その「特性」欄(3頁)及び「副作用」の項目中の 「重大な副作用」欄(26頁)には,「重大な副作用として,重度の下痢,脱水を伴う下痢,中毒性表皮壊死融解症,多形紅斑,肝機能障害,間質性肺炎があらわれることがあります。」と記載され,「使用上の注意」の項目中の「重大な副作用」欄(7頁)には,第1版添付文書の「重大な副作用」欄と同様の記載がされていた。【甲A17】(イ) インタビューフォーム医薬品インタビューフォームは,添付文書等の情報を補完し,薬剤師等の医療従事者に対して情報を提供するための総合的な医薬品解説書であり,日本病院薬剤師会が定めた記載要領に基づいて作成される文書である。 平成14年7月に作成された第1版インタ 報を補完し,薬剤師等の医療従事者に対して情報を提供するための総合的な医薬品解説書であり,日本病院薬剤師会が定めた記載要領に基づいて作成される文書である。 平成14年7月に作成された第1版インタビューフォーム(丙A3)では,「重大な副作用と初期症状」の欄に,「4) 間質性肺炎(頻度不明):間質性肺炎があらわれることがあるので,観察を十分に行い,異常が認められた場合には,投与を中止し,適切な処置を行うこと。」と記載され,その解説として,「初期症状:発熱,咳嗽,呼吸困難,肺音異常(捻髪音)など」と記載されていた。 また,平成14年10月に改訂された第3版インタビューフォーム(甲A15)では,「重大な副作用と初期症状」の欄に,「1) 急性肺障害,間質性肺炎(頻度不明):急性肺障害,間質性肺炎があらわれることがあるので,胸部X線検査等を行うなど観察を十分に行い,異常が認められた場合には,投与を中止し,適切な処置を行うこと。」と記載され,その解説として,「初期症状:息切れ,呼吸困難,咳,発熱など」と記載されていた。【甲A15〔26頁〕,丙A3〔26頁〕】(ウ) 同意文書,患者向け説明書平成14年7月に作成された,患者向け説明文書「イレッサ錠250についてのご説明」(甲A10),患者向けの同意文書「薬価収載(保 険適用)にまだなっていない新しいお薬の使用に関する同意書」(甲A12,20,丙E50[枝番号2の1]),「患者様への説明文書および同意書イレッサ錠250による治療について」(甲P106)では,副作用について,一覧表の欄外に「重大な副作用としては,ひどい下痢,ひどい皮膚のただれや水疱・全身に広がる丸い紅斑,肝臓の障害,肺の炎症によるかぜの様な症状(呼吸がしにくいなど)が報告されています。」と記載されていた。 また 「重大な副作用としては,ひどい下痢,ひどい皮膚のただれや水疱・全身に広がる丸い紅斑,肝臓の障害,肺の炎症によるかぜの様な症状(呼吸がしにくいなど)が報告されています。」と記載されていた。 また,同年7月及び8月に作成された,患者向け説明文書「イレッサを服用される患者さんとご家族へ」(丙A2,丙L3)では,「特に注意しなくてはならない症状」として,「呼吸がしにくい,またはかぜの様な症状がつづく」,欄外に注書きで「間質性肺炎という病気の主な症状です。肺の酸素交換をする場所の壁が炎症を起こした状態です。」と記載され,「これらの症状があらわれたときは,すぐに医師または薬剤師に相談してください。」と記載されていた。 同年10月に改訂された,患者向け説明文書「イレッサ錠250についてのご説明」(甲A11)では,副作用について,本文中に,「このお薬では次のような重大な副作用が報告されています。」とした上,「急性肺障害,間質性肺炎はかぜの様な症状:息切れ,呼吸がしにくい,咳及び発熱等が発現します。これらの症状があらわれたときには,すぐに医師または薬剤師に相談してください。」と記載されていた。 (6) 他の抗がん剤の添付文書の記載内容等アイリノテカンの添付文書(ア) イリノテカンは,平成6年1月に,小細胞肺癌,非小細胞肺癌,子宮頸癌,卵巣癌を適用として承認され,平成7年9月に承認事項の一部変更(効能の追加)がされ,効能・効果として胃癌,結腸・直腸癌等が追加された医薬品であり,発売当初から,使用上の注意に「警告」欄が設 けられていた。 平成13年4月作成の第3版添付文書には,「警告」欄に,「本剤の臨床試験において,骨髄機能抑制あるいは下痢に起因したと考えられる死亡例が認められている。」こと,「緊急時に十分に措置できる医療施 平成13年4月作成の第3版添付文書には,「警告」欄に,「本剤の臨床試験において,骨髄機能抑制あるいは下痢に起因したと考えられる死亡例が認められている。」こと,「緊急時に十分に措置できる医療施設及び癌化学療法に十分な経験を持つ医師のもとで」投与すること,「間質性肺炎又は肺線維症の患者…等には投与しないなど適応患者の選択を慎重に行うこと」,「骨髄機能抑制,高度な下痢との重篤な副作用が起こることがあり,ときに致命的な経過をたどることがある」こと等が記載されていた。【甲P20[枝番号2]〔2頁〕,甲P144[枝番号3]】(イ) 上記の発売当初の警告欄の記載は,開発時(効能追加時を含む)の臨床試験(単独投与)において,本剤との因果関係が否定できない死亡例が,1245例中55例(4.4%)(適格例としては,1150例中45例[3.9%])に認められたことから記載された。【丙I39〔49頁〕】イドセタキセルの添付文書(ア) ドセタキセルは,平成8年10月に「乳癌,非小細胞肺癌」を効能・効果として承認され,平成12年4月に「胃癌,頭頚部癌,卵巣癌」に対する効能・効果が追加された。 平成13年10月に作成された第6版添付文書では,「警告」欄に,「本剤の使用により重篤な骨髄抑制,重症感染症等の重篤な副作用及び本剤との因果関係が否定できない死亡例が認められている」こと,「緊急時に十分に措置できる医療施設及び癌化学療法に十分な経験を持つ医師のもとで」投与すること等が記載された。【甲P144[枝番号5]】(イ) 上記警告欄の記載は,承認時及び効能追加時の臨床試験において,ド セタキセル投与により白血球減少が989例中963例(97.4%)認められ,特にグレード3以上の重篤な白血球減少が989例中684例(69.2%)と高 効能追加時の臨床試験において,ド セタキセル投与により白血球減少が989例中963例(97.4%)認められ,特にグレード3以上の重篤な白血球減少が989例中684例(69.2%)と高頻度に認められており,感染症の誘発又は増悪が考えられることや,国内臨床試験において,治療関連死の疑われた症例が1072例中14例(1.3%)に認められたこと等から記載された。【丙I34〔36,42頁〕】ウパクリタキセルの第1添付文書(ア) パクリタキセルは,効能・効果を「卵巣癌,非小細胞肺癌,乳癌,胃癌」とする医薬品であり,平成9年7月作成の第1版添付文書には,「警告」欄に,「本剤の臨床試験において,骨髄抑制に起因したと考えられる死亡例(敗血症,脳出血)あるいは前投薬を実施しなかった患者で高度の過敏反応に基因したと考えられる死亡例が認められている。」こと,「本剤は骨髄抑制が強いため,投与に際しては緊急時に十分に措置できる設備の整った医療施設及び癌化学療法に十分な経験を持つ熟達した医師のもとで」使用すること等が記載されていた。【丙I35】(イ) 上記警告欄の記載は,臨床試験において高度な骨髄抑制に起因したと考えられる敗血症,脳出血が発現し,死亡に至った症例が報告されたこと,米国の初期の第Ⅰ相試験において前投薬を実施しなかった患者で高度の過敏反応に起因したと考えられる死亡例が認められたこと等から注意を喚起するとともに,これらの副作用に適切に対応するために記載された。【丙I36〔34頁〕】エゲムシタビンの第1版添付文書(ア) ゲムシタビンは,効能・効果を「非小細胞肺癌」とする医薬品であり,平成11年3月作成の第1版添付文書において,「警告」欄に,「高度な骨髄抑制のある患者,及胸部単純X線写真で明らかで,かつ臨床症状のある間質 ビンは,効能・効果を「非小細胞肺癌」とする医薬品であり,平成11年3月作成の第1版添付文書において,「警告」欄に,「高度な骨髄抑制のある患者,及胸部単純X線写真で明らかで,かつ臨床症状のある間質性肺炎又は肺線維症のある患者には投与しないこと [本剤の臨床試験において,白血球減少あるいは間質性肺炎に起因したと考えられる死亡例が認められている。]」,「投与に際しては,緊急時に十分に措置できる医療施設及び癌化学療法に十分な経験を持つ医師のもとで」投与すること等が記載されていた。【甲P144[枝番号2]】(イ) ゲムシタビンは,国内臨床試験で,本剤に起因すると考えられる高度の白血球・血小板減少に伴う敗血症による死亡例が481例中1例報告され,また,本剤との因果関係が有ると判定された間質性肺炎の発症又は増悪を来した症例が481例中5例(うち2例は間質性肺炎による死亡例)が報告されていた。 上記警告欄の記載は,高度の骨髄抑制や間質性肺炎に起因した死亡例が報告されていること,これらの副作用に適切な処置を講ずるために記載された。【丙I38〔65,66頁〕】オビノレルビンの添付文書(ア) ビノレルビンは,平成11年3月に効能・効果を「非小細胞肺癌」として承認された医薬品であり,同年11月に改訂された添付文書において,「警告」欄に,「本剤の臨床試験において,白血球減少に起因すると考えられる死亡症例が認められている。」こと,「緊急時に十分に措置できる医療施設及び癌化学療法に十分な経験を持つ医師のもとで」投与すること等が記載された。【丙I42〔1,5頁〕】(イ) 上記警告欄の記載は,国内の臨床試験において,白血球数が評価できた症例637例中584例(91.7%)で白血球減少が認められ,特に高度な減少(グレード3以上)が402 I42〔1,5頁〕】(イ) 上記警告欄の記載は,国内の臨床試験において,白血球数が評価できた症例637例中584例(91.7%)で白血球減少が認められ,特に高度な減少(グレード3以上)が402例(63.1%)で認められており,感染症の発現及び悪化を招く恐れがあること,また,国内の臨床試験中に重篤な白血球減少を来した治療関連死が10例認められており,本剤の投与に際しては患者状態を十分把握する必要があるととも に,緊急時に十分な措置を採る必要があること等から記載された。【丙I42〔5頁〕】カアムルビシンの第1版添付文書(ア) アムルビシンは,効能・効果を「非小細胞肺癌,小細胞肺癌」とする医薬品であり,平成14年4月作成の第1版添付文書において,「警告」欄に,「本剤の臨床試験において,本剤との因果関係が否定できない間質性肺炎の増悪あるいは重篤な骨髄機能抑制に起因する感染症の発現による死亡例が認められている。本剤は,緊急時に十分に措置できる医療施設及び癌化学療法に十分な経験を持つ医師のもとで」使用すること等が記載されていた。【甲P34】(イ) アムルビシンは,非小細胞肺がんに対する第Ⅱ相試験で,合併症間質性肺炎の増悪が3例で認められ,2例が死亡したため,直ちに試験を中断し,治験実施計画書の一部が変更された。 上記警告欄の記載は,臨床試験において,同薬剤との因果関係を否定できなかった間質性肺炎の増悪と,重篤な骨髄機能抑制に起因する感染症による死亡例がそれぞれ2例及び1例認められたことにより設定された。【甲P35,丙I17〔493,692頁〕】 2 医薬品についての広告の規制と被告会社が関与した情報提供等(1) 広告の規制に関する薬事法令上の定め等ア薬事法の定め薬事法は,何人も,医薬品等の名称,製造方法 〔493,692頁〕】 2 医薬品についての広告の規制と被告会社が関与した情報提供等(1) 広告の規制に関する薬事法令上の定め等ア薬事法の定め薬事法は,何人も,医薬品等の名称,製造方法,効能,効果又は性能に関して,明示的であると黙示的であるとを問わず,虚偽又は誇大な広告をし,記述し,又は流布してはならないと定め(同法66条1項),がんその他の特殊疾病に使用されることが目的とされている医薬品であって,政令で指定された医薬品については,医薬関係者以外の一般人を対象とする 広告方法を制限する等,当該医薬品の適正な使用の確保のために必要な措置を定めることができるとされ(同法67条1項),何人も,同法14条1項に規定する医薬品等でまだ承認を受けていないものについて,その名称,製造方法,効能,効果又は性能に関する広告をしてはならないとされている(同法68条)。 イ薬事法の広告の規制に関する指針(ア) 薬事法の広告の規制については,「薬事法における医薬品等の広告の該当性について」(平成10年9月29日医薬監第148号厚生省医薬安全局監視指導課長通知・丙D19)により,同法66条ないし68条所定の広告に該当するものと判断されるのは,以下のいずれの要件も満たす場合であるとされている。【丙D19】① 顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確であること② 特定医薬品等の商品名が明らかにされていること③ 一般人が認知できる状態であること(イ) 被告会社は,イレッサの承認前,プレスリリースにおいては,ZD1839というイレッサの開発コード(治験記号)を用いていたが,上記プレスリリースを受けた朝日新聞社が,平成13年11月2日,イレッサという商品名を明らかにして新聞報道したことから,同日,同社に対して 39というイレッサの開発コード(治験記号)を用いていたが,上記プレスリリースを受けた朝日新聞社が,平成13年11月2日,イレッサという商品名を明らかにして新聞報道したことから,同日,同社に対して抗議を行うとともに,同年12月,治験担当医に対し,マスコミによる取材を含めてイレッサという商品名を提示しないよう文書で通知した。【丙P9,10】(ウ) 原告らのうち8名(大阪地裁平成16年(ワ)第7990号事件及び平成17年(ワ)第2207号事件の原告ら)は,平成17年6月24日,大阪地方検察庁に対し,被告会社及び被告会社の代表取締役らを被告発人として,被告会社が行ったイレッサに関する被告会社のホームページ の記載(平成13年11月1日から平成17年6月23日),医学雑誌(MedicalTribune)への記事の掲載(平成13年10月25日付け,同年11月22日付け),小冊子(的を得た話上・下)への記事の掲載等が,薬事法66条ないし68条に違反するとして被告会社を告発したが,大阪地方検察庁は,平成18年7月31日,薬事法違反被疑事件につき公訴を提起しない処分をした。【甲P46,丙P17】(2) 被告会社が関与したイレッサに関する情報提供アプレスリリース等(ア) 被告会社は,平成13年5月16日,「最終の試験結果により,非小細胞肺癌へのZD1839の臨床効果を確認…第37回米国臨床腫瘍学会(ASCO)において本日データを発表」との表題で,「『この克服困難な疾患において併用療法の安全性と効果に勇気づけられており,最近リクルートが完了したZD1839のNSCLCにおける第Ⅲ相試験の結果を心待ちにしている。われわれの試験結果が,近い将来NSCLC患者によりよい治療をもたらす前奏曲となることが期待されている。』と,ニュー トが完了したZD1839のNSCLCにおける第Ⅲ相試験の結果を心待ちにしている。われわれの試験結果が,近い将来NSCLC患者によりよい治療をもたらす前奏曲となることが期待されている。』と,ニューヨークのMemorialSloan-KetteringCancerCenterの治験統括医師であるVincentMiller 医師はコメントした。」との記載を含む記事を発信し,自社のホームページ上にも掲載した。【甲N7】(イ) 被告会社は,平成13年11月2日,同月1日開催された第12回AACR-NCI-EORTCの国際学会(米国)において,イレッサの第Ⅱ相試験(IDEAL1試験)を実施したJ.Baselga らにより発表された同試験結果の速報データ(日本語訳)として,セカンドラインの患者で,全体の奏効率が18.7%(CR+PR)で,全体の病勢コントロール率が52.9%であったことを紹介した上,「重要なことは,これらの結果が,肺癌治療でよくみられる重い副作用を患者に与えること なしに達成されたということです。ZD1839投与時の主な副作用は,発疹,乾燥皮膚あるいは掻痒のような軽度から中等度の皮膚反応や下痢です。重篤な副作用はまれで,通常は病勢の進行に関連しています。」との記載や,J.Baselga の意見として,イレッサが,「少なくとも1つの前治療レジメンを既に受け,既存の治療に伴う重い副作用に苦しみ,そのような治療に耐えられないかもしれない患者にとって,忍容性がよいということがわかったことは今後の自信につながる」との記載を含む記事を発信し,自社のホームページ上にも掲載した。【甲N8,丙P7[枝番号1,2],丙E28,29】(ウ) 被告会社は,平成14年1月28日,「海外に先駆けて日本でZD1839(イレッサ)の 含む記事を発信し,自社のホームページ上にも掲載した。【甲N8,丙P7[枝番号1,2],丙E28,29】(ウ) 被告会社は,平成14年1月28日,「海外に先駆けて日本でZD1839(イレッサ)の非小細胞肺がんの承認申請を行う」との表題で,イレッサが「従来の抗がん剤をは異なる新しいタイプの分子標的薬剤の一つで,今回の適応が認められれば,肺がん治療の選択肢を広げる薬剤であると期待されています。」との記載を含む記事を発信し,自社のホームページ上にも掲載した。【甲N9】(エ) 被告会社は,平成14年7月8日,「世界初,最速審査でイレッサの承認取得」との表題で,「従来の化学療法剤とは異なり,報告された主な副作用は発疹,下痢等でしたが,ほとんどが軽度から中等度でした。」との記載を含む記事を発信し,自社のホームページ上にも掲載した。【甲N3】(オ) 被告会社のT取締役研究開発本部長は,平成14年7月8日,記者会見を開催し,イレッサの特長として「①咳,喀痰など肺がん関連症状を早期に改善,②副作用が少ない,③一日一錠経口投与」などと説明した。【甲O36】イ雑誌(SignalJapan)の記事SignalJapan は,平成13年10月に創刊された雑誌Signal(英語 版)の日本語版であり,被告会社が費用を負担し,平成14年5月に創刊号が刊行された。 SignalJapan は,EGFR標的がん療法をテーマにした雑誌であり,医療関係者に対し,がん療法におけるEGFR阻害の役割に対する認識を広めることを目的とし,分子標的治療薬に関する国内外の専門家により作成された分子標的治療薬に関する各種論文等を収載している。その内容は,分子標的治療薬の標的分子や作用機序に関する知見,臨床試験その他の研究データ,これらに関する専門 薬に関する国内外の専門家により作成された分子標的治療薬に関する各種論文等を収載している。その内容は,分子標的治療薬の標的分子や作用機序に関する知見,臨床試験その他の研究データ,これらに関する専門家の科学的考察等が掲載されている。 同年7月号の「QuestionsandAnswers」(甲N11〔35頁〕)の項では,「質問:EGFR標的薬の副作用をどう説明するのか」との問いに対して,「患者のEGFR標的治療…はEGFR受容体を極めて特異的に阻害することを示唆している。これは,患者のEGFR活性を99%まで阻害しても,皮膚に何らかの影響を及ぼす可能性はあるが,それ以上の副作用は生じないことを暗に示すものであった。」との回答が記載された。 【甲N10~12】ウ雑誌(MedicalTribune)の記事(ア) 平成13年10月25日号の対談記事(甲N13)MedicalTribune 平成13年10月25日号に掲載された,肺がんの専門医2名(県立愛知病院院長有吉寛及び近畿大学医学部第4内科講師中川和彦)による対談記事である。その内容は,「21世紀の肺癌治療をめぐって」というテーマで,増加傾向にある肺がん,肺がんと喫煙の関係,肺がんに対する取り組み,肺がんにおける薬物療法の変遷,新しい治療戦略,分子標的治療薬等に関するものであり,ZD1839について触れられている。 上記対談者は,いずれも実際にイレッサの臨床試験に関わった専門医であり,「まず副作用が従来の抗癌剤とは非常に異なるということで す。主な副作用はニキビ様の皮疹で,従来の抗癌剤にみられる骨髄抑制をほとんど示さないのが1つの特徴になります。」,「その他の副作用としては,頻度はそれほど高くないのですが,下痢と肝機能障害が挙げられます。ただし,投与をある程 疹で,従来の抗癌剤にみられる骨髄抑制をほとんど示さないのが1つの特徴になります。」,「その他の副作用としては,頻度はそれほど高くないのですが,下痢と肝機能障害が挙げられます。ただし,投与をある程度中止すれば非常に速やかに改善しますので,臨床上あまり問題にはならないと思います。」との発言がある。 上記対談記事は,被告会社が,掲載に要する費用を負担し,対談のテーマを提示したが,具体的な対談内容については各対談者が責任を負っていたものである。【甲N13,14,弁論の全趣旨】(イ) 平成13年11月22,29日号の対談記事(甲N14)MedicalTribune 平成13年11月22,29日号に掲載された,肺がんの専門医2名(西條証人及び名古屋市立大学医学部第2内科教授上田龍三)による対談記事である。対談者の発言は,「肺癌のEBMとテーラーメイド治療」というテーマで,テーラーメイド治療の考え方,分子標的治療,分子標的治療薬の開発状況,分子標的治療薬の評価,期待される分子標的治療薬等に関するものであり,ZD1839(イレッサ)について触れられている。 上記対談者は,いずれもイレッサの臨床試験に関わった専門医であり,「(分子標的治療薬である)トラスツズマブに死亡報告が多いということです。これはどういうことかと言いますと,従来の抗癌剤は毒性が強いために,PS(performancestatus)が3や4の患者さんには投与することはできませんが,分子標的治療薬は毒性があまり強くないために,薬剤を投与する対象にならない患者さんにも投与されていて,そのような患者さんの死亡が報告されているのではないかと推測されます。ZD1839も副作用が少ないために,このような使い方をされてしまう可能性があることが危惧されます。」,「分子標的薬は,本当に ,そのような患者さんの死亡が報告されているのではないかと推測されます。ZD1839も副作用が少ないために,このような使い方をされてしまう可能性があることが危惧されます。」,「分子標的薬は,本当に 今,薬剤を投与することが必要であるかどうかがわからない患者さんにも,副作用が比較的少ないことにより,安易に使用される可能性があるわけですね。」との発言がある。 上記対談記事も,被告会社が,掲載に要する費用を負担し,対談のテーマを提示したが,具体的な対談内容については各対談者が責任を負っていたものである。【甲N13,14,弁論の全趣旨】(ウ) 平成14年9月号の記事MedicalTribune 平成14年9月号に掲載された,「進行非小細胞肺癌患者に腫瘍縮小効果・疾患関連症状改善をもたらす」と題する記事である。 平成14年5月18日から同月21日に開催された第38回米国臨床腫瘍学会(ASCO)総会における,イレッサの第Ⅱ相試験(IDEAL各試験)の結果報告(「非小細胞肺癌に対するZD1839(IRESSA)の臨床成績」(甲N16))をまとめたものであり,その内容は,IDEAL各試験を中心としたイレッサの臨床試験のデータ及びこれに対する専門家の評価を記載したものであった。 具体的には,IDEAL1試験は,セカンドラインの患者を対象として行われ,250㎎群で,腫瘍縮小効果の奏効率は18.4%,病勢コントロール率は54.4%であったこと,うち日本人の奏効率は27. 5%と,外国人症例に比して日本人群で奏効率が高い傾向が見られたこと,既存の細胞傷害性薬剤に見られる血液毒性を発現せず,極めて良好な副作用プロファイルを示したこと,IDEAL2試験は,サードラインの患者を多く含んでいたが,250㎎群で12%,500㎎群で9%とドセ 既存の細胞傷害性薬剤に見られる血液毒性を発現せず,極めて良好な副作用プロファイルを示したこと,IDEAL2試験は,サードラインの患者を多く含んでいたが,250㎎群で12%,500㎎群で9%とドセタキセルによるセカンドライン治療の奏効率(約7%)からすれば十分に評価し得る結果が得られたこと,経口投与であり,細胞傷害性薬剤の治療に比して重大な副作用は最小限であること等について紹介さ れた。【甲N15,16】エ 「的を得た話上巻」及び「的を得た話下巻」「よくわかる分子標的療法(上) 的を得た話」(甲N4)及び「よくわかる分子標的療法(下) 的を得た話」(甲N5)は,平成14年2月及び同年3月,医療関係者に対する分子標的治療薬についての情報提供を目的として,国立がんセンター研究所薬効試験部耐性研究室室長西尾和人監修のもと,被告会社が費用を負担し,株式会社インターサイエンス社により企画・制作されたものである。 その内容は,分子標的治療薬,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤等に関する情報を分かりやすく解説したものである。 「はじめに」の項(甲N4〔1頁〕)では,「分子標的療法,分子標的薬が夢の薬として期待され,開発がはじまり,気がつくと,一般臨床の場に登場してきています。最近,インターネットやマスコミによる情報収集が簡単になったためか,患者さん・その家族の情報収集は早く,種々の分子標的薬の使用を希望する機会にも遭遇するかもしれません。そのような時には患者さんに正確な情報を伝えなければなりません。分子標的薬は夢のような薬ではありますが,現実の薬であることを説明していただきたい。そのような時の一助になれば幸いです。」,「副作用(有害事象)はないの?」の項(甲N4〔3頁〕)では,「従来の経口抗悪性腫瘍薬と同等あるいはそれ以上の注意 現実の薬であることを説明していただきたい。そのような時の一助になれば幸いです。」,「副作用(有害事象)はないの?」の項(甲N4〔3頁〕)では,「従来の経口抗悪性腫瘍薬と同等あるいはそれ以上の注意を払う必要があります。特に有害事象については従来と違うことから,その発見や対処が遅れるということは避けたいものです。したがって,現時点では外来での投与は慎重になったほうがよいのではないかと考えます。充分に使用経験を積んだ後に,しかるべき通院治療マニュアルにしたがって移行した方が安全と思われます。」と記載されている。【甲N4】オ患者向けホームページ(「iressa.com」,「エルねっと」) 「iressa.com」は,被告会社がイレッサを処方されている患者とその家族に向けた情報を提供するサイトであり,「エルねっと」は,WJTOG(西日本胸部腫瘍臨床研究機構)と被告会社の協力により運営されている,肺がんの啓発のためのサイトである。 後者には,患者やその家族からの質問に対し,WJTOGの医師が回答をするコーナーがあり,平成16年8月13日に投稿された質問に対し,イレッサについて,「他の抗がん剤で問題となる白血球減少などの副作用は非常に軽度な抗がん剤です。問題となるのは死亡例が出ることのある急性肺障害ですが,これが無ければ負担の軽い治療法だと思います。つまり,全体として副作用は軽度だけれど,一つだけ厄介なものがあるということです。」との回答が記載されるなどした。【甲N18,19】(3) 新聞報道ア承認前平成11年12月から平成14年7月までのイレッサに関する新聞報道では,イレッサについて,①平成12年10月4日付けで「新抗がん剤,肺がん治療に有効近畿大学など発表へ」との見出しで,「従来の抗がん剤に比べて正常な細 平成14年7月までのイレッサに関する新聞報道では,イレッサについて,①平成12年10月4日付けで「新抗がん剤,肺がん治療に有効近畿大学など発表へ」との見出しで,「従来の抗がん剤に比べて正常な細胞へのダメージが少ないため,副作用が軽い。」,「治験中に,発しん,下痢,肝機能障害などの副作用がみられた。しかし,いずれも症状は軽く,飲むのをやめるとすぐに改善されたという。」(甲O54),②平成13年8月9日付けで,「肺がん病巣“狙い撃つ”新薬」との見出しで,「がん細胞の増殖を分子レベルで妨げる。がん細胞だけを狙い撃つ「分子標的薬」」,「従来の抗がん剤が,がん細胞だけでなく正常細胞も攻撃し,免疫機能の低下,吐き気,脱毛などを引き起こすのに比べ,副作用が少ない」(甲O55),③平成13年11月2日付けで,「新抗がん剤肺がん治療高い効果近大など副作用大幅に改善」との見出しで,「国内で臨床試験が続けられている新しいタイプの抗がん 剤」,「がん細胞の増殖に関係する酵素の働きを妨げる分子標的薬」,「正常な細胞も攻撃するこれまでの抗がん剤と異なり,がん細胞のみを狙い撃つ」,「副作用では,発しんや下痢が出た例もあったが,従来と比べて大幅に改善されている。」(甲O32)等の新聞報道がされたが,間質性肺炎や急性肺障害の副作用を指摘したものはなかった。【甲O32,54,55,甲P156,157】イ承認後平成14年7月9日付けで「肺がん新薬輸入承認細胞の増殖抑える作用」との見出しで,「骨髄抑制など,既存の抗がん剤のような強い副作用がないことが特徴」との新聞報道等がされていたが,緊急安全性情報が発出された同年10月15日までは,間質性肺炎や急性肺障害の副作用を指摘したものはなかった。【甲P156,157】 3 承認時の薬剤性間 ことが特徴」との新聞報道等がされていたが,緊急安全性情報が発出された同年10月15日までは,間質性肺炎や急性肺障害の副作用を指摘したものはなかった。【甲P156,157】 3 承認時の薬剤性間質性肺炎に関する知見(1) 薬剤性間質性肺炎に関する知見前記第3の3(3)及び(4)のとおり,平成14年7月当時,既存の殺細胞性抗がん剤については,薬剤性間質性肺炎の報告のあるものが多く,添付文書の警告欄に間質性肺炎の増悪等について記載のある抗がん剤(ゲムシタビン,アムルビシン等)もあって,抗がん剤の種類によっては薬剤性間質性肺炎が発現する危険性があるということは,一般に,医療現場において認識されていた。そして,薬剤性間質性肺炎の予後については,急性間質性肺炎・びまん性肺胞障害(AIP/DAD)型は,急激に発症し,予後が不良であるとの見方が有力であり,また,抗がん剤による薬剤性肺障害の特徴として,急性型のものは,ステロイド療法に対する反応が悪く予後が不良であることを指摘する研究報告もあった。 もっとも,前記第3の3(3)及び(4)のとおり,薬剤性肺障害は,薬剤の中 止のみ,又は副腎皮質ステロイド薬の投与により病態が改善することが多いとの考え方もあり,病変の種類によっても反応は異なり,同じ間質性肺炎であっても,重症例で線維化を伴っていれば可逆性に欠けるものの,病変が初期や軽度であれば可逆性があるというように重症度や進行度に左右されるとされており,また,薬剤性間質性肺炎の予後についても,治療反応性は原因薬剤によっても異なり得るとされ,症例によっては死に至ることがあるものの,薬剤性間質性肺炎の疾患全体としてはその9割が全快又は軽快しており,一般的にはステロイド療法などの治療によって重篤化を回避できることが多いとの考え方があっ ,症例によっては死に至ることがあるものの,薬剤性間質性肺炎の疾患全体としてはその9割が全快又は軽快しており,一般的にはステロイド療法などの治療によって重篤化を回避できることが多いとの考え方があった。 以上のとおり,平成14年7月当時,薬剤性間質性肺炎の発症頻度,発症傾向,予後等は薬剤の作用機序や薬効は薬剤ごとに異なり,間質性肺炎の病態は原因に対して非特異的で,異なる病態をもたらす機序が不明であるというものであった。そして,抗がん剤による間質性肺炎の危険については,抗がん剤の種類によっては薬剤性間質性肺炎が発現する危険性があることは知られていたが,その発症頻度,発症傾向,予後等については,抗がん剤一般に急性型の薬剤性肺傷害が生じ,その予後が不良であるとの知見が存在していたとまでいうことはできず,抗がん剤ごとに発症頻度,発症傾向,予後等は異なるとの考え方が一般的であった。【甲F60〔104頁〕,乙E17,乙H34[枝番号1~4],丙H46】(2) 分子標的治療薬と間質性肺炎に関する知見前記第1の1(1)のとおり,分子標的治療薬とは,対象とする疾患の病態において中心的役割を演ずる分子を標的にして,その機能を阻害することで疾患の進行を阻止する薬剤のことをいい,がん細胞又はがん組織と,正常細胞又は正常組織との分子生物学的な差を特異的に修飾することを目指して創られた薬であり,従来の殺細胞性の抗がん剤とは異なる作用機序を有する抗がん剤であるとして位置付けられており,平成14年7月当時,がんの増殖 や進展に特異的にかかわる分子や,がん細胞だけに過剰発現がみられる分子を標的とし,がん細胞に特異的な機能を選択的に抑えるため,正常細胞に与える影響は小さいと考えられていた。 このような分子標的治療薬の作用機序に関する理解からすれば,平 胞だけに過剰発現がみられる分子を標的とし,がん細胞に特異的な機能を選択的に抑えるため,正常細胞に与える影響は小さいと考えられていた。 このような分子標的治療薬の作用機序に関する理解からすれば,平成14年7月当時,分子標的治療薬が従来の殺細胞性の抗がん剤と同様に薬剤性間質性肺炎を引き起こすということは,肺がん治療にたずさわる医師等の間でも想定されていなかった。【甲E51〔92頁〕,甲F60〔99,104頁〕,甲H18〔579頁〕,甲P74,乙E24〔102,104~105頁〕,丙E47〔12頁〕】 4 イレッサの承認審査の経緯等(1) 承認審査資料と添付文書案医薬品の承認申請は厚生労働省令で定めるところにより,申請書に臨床試験の試験成績に関する資料その他の資料を添付してしなければならないとされている(薬事法14条3項前段)。承認申請書に添付すべき資料(承認審査資料)については,第3章第6の2記載のとおりである。 また,上記の承認審査資料のほかに,新有効成分含有医薬品等の通達で指定された医薬品は,添付した資料の内容を適確かつ簡潔にまとめ,効能・効果,用法・用量,使用上の注意の案及びそれらの設定理由に関する情報を盛り込んだ「資料概要」及び「添付文書(案)」を併せて提出することとされていた。 添付文書(案)は,承認審査資料には含まれないものの,承認審査の際に薬事・食品衛生審議会において審査した上,必要に応じて行政指導が行われることが予定されている。【「医薬品の承認申請について」(平成11年4月8日医薬発第481号厚生省医薬安全局長通知・乙D3,丙D11〔第2の6〕),「医薬品の承認申請に際し留意すべき事項について」(平成11 年4月8日医薬審第666号厚生省医薬安全局審査管理課長通知・乙D4〔7項〕,乙D22[枝番 乙D3,丙D11〔第2の6〕),「医薬品の承認申請に際し留意すべき事項について」(平成11 年4月8日医薬審第666号厚生省医薬安全局審査管理課長通知・乙D4〔7項〕,乙D22[枝番号3]〔125頁〕),弁論の全趣旨】。 (2) 審査センターにおける審査ア審査経過審査センターによるイレッサの承認申請について,被告会社に対する文書による照会,ヒアリング,その後の書面による照会回答,これらの内容(別紙22(審査センターからの照会と回答))については,第3章第6の3及び第5章第1の3のとおりである。【乙B3[枝番号1,2],乙B4[枝番号1],乙E22〔10頁〕,弁論の全趣旨(平成18年7月6日付け被告会社回答書(2))】イ間質性肺炎について(ア) 前記照会・回答の一環として,審査センターが,被告会社に対し,「本邦での臨床試験における死亡例,及び間質性肺炎を発症した症例についての詳細を示し,本剤との関連性を考察すること。」として,文書で事前照会を行ったこと,これに対し,被告会社が,平成14年3月29日,国内臨床試験で間質性肺炎が見られた副作用報告例3症例(国内3症例)を報告して,イレッサによる間質性肺炎発症可能性は低いとの見解を示し,平成14年4月4日までに海外での間質性肺炎等と診断された副作用報告例4症例(海外7症例のうちの4症例)を報告したこと,審査センターが,被告会社に対し,間質性肺炎を重大な副作用として添付文書に記載すべきであるとの見解を示し,被告会社からこれに応じる旨の回答を受けたこと,同年6月11日までに副作用報告例3症例(海外7症例のうちの3症例)を審査センターに報告したこと等は,前記第5章第1の3(1)アのとおりである。【乙B3[枝番号2〔8頁・ト-5,枝番号5〔ト-5〕〕,4[枝番号1] に副作用報告例3症例(海外7症例のうちの3症例)を審査センターに報告したこと等は,前記第5章第1の3(1)アのとおりである。【乙B3[枝番号2〔8頁・ト-5,枝番号5〔ト-5〕〕,4[枝番号1],5〔10 頁・ト-5〕],12~14[各枝番号],15,乙E22〔13~14頁〕, 丙K1[枝番号5]〔48頁)】(イ)a 被告会社が審査センターに報告した間質性肺炎のデータの内容の要点はb~kのとおりであり,次の3種類に分けられる。 イレッサの承認当時の間質性肺炎に関する副作用症例報告例のデータの種類には,①評価対象臨床試験(治験)のデータ,②参考資料とされたその他の臨床試験(参考試験)のデータ,③EAPのデータがある。被告会社が報告したもののうち,①国内臨床試験1例目及び2例目は,評価対象臨床試験(治験)のデータである。②国内臨床試験3例目及び海外7症例中の2症例(INTACT1例目及び同2例目)は,V1511試験に登録された患者に対する継続投与試験及び承認当時には試験中であった臨床試験INTACTのデータであって,参考試験データである。③海外7症例中の5症例(EAP1~5例目)は,EAPのデータである(なお,別紙29及び別紙30参照)。 ①評価対象臨床試験(治験)のデータは,イレッサの承認審査における有用性の評価の中心となるものであり,GCPに基づき,一定の専門性を有する実施医療機関,治験担当医師が選定されるとともに,効果安全性検討委員会等の機関が設置される等統一的で客観的な評価を行うための体制を採ることが予定されており,データの信頼性と評価の適正が担保されている。 ②参考試験のデータは,評価対象臨床試験(治験)のデータと同じく臨床試験のデータであるという点において,GCPに基づき評価の適正が担保され ており,データの信頼性と評価の適正が担保されている。 ②参考試験のデータは,評価対象臨床試験(治験)のデータと同じく臨床試験のデータであるという点において,GCPに基づき評価の適正が担保されているが,評価対象臨床試験(治験)のデータとは異なり,承認時点では,未だ試験実施中で監査が実施されていない等の点において,データの信頼性が制度的には担保されていないという特徴がある。 ③EAPのデータは,EAPが,患者等が広く医薬品にアクセスで きるようにすることを目的とした制度であり,GCP省令に準拠して行われるものではないことから,副作用報告の内容につきもっぱら患者の主治医の評価に頼らざるを得ないという点において,データの信頼性や評価の適正が制度的には担保されていないという特徴がある。 【乙E20〔27~33頁〕,丙E49[枝番号1〔131~132頁〕],弁論の全趣旨】b 別紙29の表中の国内臨床試験1例目(IDEAL1)・間質性肺炎【乙B12[枝番号3],丙B1[枝番号1,2]】間質性肺炎,呼吸困難(生命を脅かす,入院期間の延長を要する,医学的措置を要する事象)として報告された症例であり,イレッサ投与(500㎎/日)開始から16日目に呼吸困難が発現し,17日目に間質性肺炎の所見が認められ,ステロイドパルス療法が施行されるとともに,18日目から人工呼吸管理がされた。その後,胸部X線写真での間質性肺炎像の改善及びCTでの間質影の改善が確認されたものの,投与開始から55日目に死亡し,担当医師により死因は原疾患悪化による循環不全と診断され,剖検の結果,死因はがん性心のう炎によるものと診断された。この症例については,前記第3の4(5)イ(イ)のとおりである。 c 別紙29の表中の国内臨床試験2例目(IDEAL1)・ 不全と診断され,剖検の結果,死因はがん性心のう炎によるものと診断された。この症例については,前記第3の4(5)イ(イ)のとおりである。 c 別紙29の表中の国内臨床試験2例目(IDEAL1)・間質性肺炎【乙B12[枝番号4]】間質性肺炎・低酸素血症(入院を要する事象)として報告された症例であり,イレッサ投与(500㎎/日)開始から86日目に間質性肺炎の所見が認められ,ステロイドパルス療法が施行された。その後,胸部X線写真での間質性肺炎像(右肺)の改善が確認されたものの,投与開始から約4か月後に死亡した。この症例については,前記第3の4(5)イ(ウ)のとおりである。 d 別紙29の表中の国内臨床試験3例目(V1511試験に登録された患者に対する継続投与試験)・間質性肺炎【乙B12[枝番号5],丙B2[枝番号2]】間質性肺炎(生命を脅かす事象)として報告された症例であり,イレッサ投与(500㎎/日)開始から374日目に呼吸困難が発現し,間質性肺炎の所見が認められ,ステロイドパルス療法が施行された。その後,間質性肺炎は軽快したものの,投与開始から約1年2か月後に死亡し,担当医師により死因は肺がんの進展によると診断され,剖検の結果,死因は右胸水と肺がんの肺転移によるものと診断された。この症例については,前記第3の4(5)イ(エ)のとおりである。 e 海外1例目(EAP1例目)・間質性肺炎(別紙30の表中の海外1例目)【乙B13[枝番号1],丙B3[枝番号157]】急性呼吸不全・間質性肺炎(生命を脅かす,入院を要する,機能障害に至る,医学的重要な事象)として報告された症例であり,イレッサ投与(250㎎/日)開始から12日目に急性呼吸不全が発現し,両側びまん性間質性陰影が認められ,ステロイドパルス療法が施行さ ,機能障害に至る,医学的重要な事象)として報告された症例であり,イレッサ投与(250㎎/日)開始から12日目に急性呼吸不全が発現し,両側びまん性間質性陰影が認められ,ステロイドパルス療法が施行された。その後,症状は軽快した。この症例については,前記第3の4(5)ウ(イ)のとおりである。 f 別紙30の表中の海外2例目(INTACT1例目)・肺臓炎【乙B13[枝番号2],丙B3[枝番号156]】肺臓炎(死に至る,生命を脅かす,障害に陥る,入院を要する,医学的に重大な事象)等として報告された症例であり,イレッサ投与(500㎎/日)開始から26日目に急性両側性肺臓炎が発現し,32日目に重度の呼吸困難が発現した。その後,投与開始から46日目に死亡し,死因はⅣ期の非小細胞肺がんも関与しているとされた両側性肺臓炎による急性心肺停止と診断された。この症例については,前 記第3の4(5)エ(イ)のとおりである。 g 別紙30の表中の海外3例目(EAP2例目)・間質性肺炎【乙B13[枝番号3の1・2],丙B5[枝番号51の1・2]】間質性肺炎(入院を要する,死に至る事象)として報告された症例であり,イレッサ投与(250㎎/日)開始から15日目に呼吸困難が発現し,間質性肺炎の所見が認められた。その後,投与開始から26日目に死亡し,死因は間質性肺炎によると診断された。この症例については,前記第3の4(5)ウ(ウ)のとおりである。 h 別紙30の表中の海外4例目(INTACT2例目)・両側性肺間質浸潤【乙B13[枝番号4],丙B5[枝番号8の1・2]】急性呼吸不全・間質性肺炎(生命を脅かす,入院を要する,機能障害に至る,医学的重要な事象)として報告された症例であり,イレッサ投与(投与量不明)開始から21日目に両側性肺間質浸 番号8の1・2]】急性呼吸不全・間質性肺炎(生命を脅かす,入院を要する,機能障害に至る,医学的重要な事象)として報告された症例であり,イレッサ投与(投与量不明)開始から21日目に両側性肺間質浸潤,成人呼吸窮迫症候群が発現し,その後,投与開始から28日目に死亡した。 この症例については,前記第3の4(5)エ(ウ)のとおりである。 i 別紙30の表中の海外5例目(EAP3例目)・肺臓炎NOS【乙B14[枝番号1],丙B3[枝番号182]】肺臓炎NOS(死亡,生命を脅かす,入院を要する,機能障害に至る,医学的重要な事象)として報告された症例であり,イレッサ投与(250㎎/日)開始から46日目に呼吸困難が発現し,49日目に両肺びまん性陰影が認められ,ステロイドパルス療法が施行された。 その後,改善が認められないまま投与開始から57日目に死亡し,死因は肺臓炎による呼吸不全と診断された。この症例については,前記第3の4(5)ウ(エ)のとおりである。 j 別紙30の表中の海外6例目(EAP4例目)・肺臓炎NOS【乙B14[枝番号2の1],丙B3[枝番号187]】 肺炎NOS,肺臓炎NOS(入院を要する事象)として報告された症例であり,イレッサ投与開始後(投与量,投与開始日は不明)息切れ,咳嗽を訴え肺臓炎のために入院し,肺炎及び肺臓炎は未回復であるとされた。この症例については,前記第3の4(5)ウ(オ)のとおりである。 k 別紙30の表中の海外7例目(EAP5例目)・胞隔炎【乙B14[枝番号3],丙B3[枝番号191の1・2]】胞隔炎NOS(生命を脅かす,障害,入院に至る事象)として報告された症例であり,イレッサ投与(250㎎/日)開始から60日後に重度の呼吸困難が発現し,いったんイレッサ投与を中断した。症状回復後 胞隔炎NOS(生命を脅かす,障害,入院に至る事象)として報告された症例であり,イレッサ投与(250㎎/日)開始から60日後に重度の呼吸困難が発現し,いったんイレッサ投与を中断した。症状回復後にイレッサ投与を再開し,その約2か月後に両側びまん性胞隔炎を発現し,その後症状は回復した。この症例については,前記第3の4(5)ウ(カ)のとおりである。 (ウ) 被告会社は,承認時までに,審査センターに対し,臨床試験及びEAPを含めて海外から報告された副作用症例として,合計196例を報告した。 上記副作用症例196例のうち,審査センターがイレッサによる間質性肺炎の副作用症例として添付文書に反映させたものは前記(イ)のeないしkの7症例である。 なお,上記副作用症例196例のうち,死亡例は,別紙32【海外からの副作用報告196例のうち転帰欄死亡の症例一覧】記載のとおり合計57例であった。また,上記死亡例57例のうち,副作用名として「呼吸」又は「肺」が含まれる症例が記載されているものは,別紙31【急性肺障害・間質性肺炎を発症したと考えられる副作用症例】のとおり,合計39例であった。 もっとも,上記の海外からの副作用症例報告の報告対象は,薬剤の使 用によるものと疑われる副作用等であり,薬剤投与との因果関係が完全には否定できないものが全て報告されるため,因果関係が明確でないものも含まれていた。【甲P93[枝番号1,2],乙K1,2,丙K1[枝番号2〔3頁〕,4〔3頁〕,7],丙K2[枝番号2〔1頁〕,15]】ウ適応範囲について審査センターが効能・効果を「化学療法既治療の手術不能非小細胞肺癌」のように限るべきではないかとの照会を行ったのに対し,被告会社が,本薬の効能・効果を「非小細胞肺癌」とすることに大きな問題はないと考 査センターが効能・効果を「化学療法既治療の手術不能非小細胞肺癌」のように限るべきではないかとの照会を行ったのに対し,被告会社が,本薬の効能・効果を「非小細胞肺癌」とすることに大きな問題はないと考えられること等を回答したこと,審査センターは,初回治療(ファーストライン治療)に関する注意喚起について,被告会社が提出した添付文書の「重要な基本的注意」欄に記載されていたのを,医師の目に触れやすくするため,「効能・効果」欄のすぐ下の「効能・効果に関する使用上の注意」欄に「(1)本薬の化学療法未治療例における有効性及び安全性は確立していない。」,「(2)本薬の術後補助療法における有効性及び安全性は確立していない。」と記載するのが相当と判断し,専門委員からも指示されたこと等の経緯は,前記第5章第1の3(1)イのとおりである。 エ審査結果審査の結果,審査センターが,添付文書において「重大な副作用」欄に間質性肺炎が記載されることを前提に,「効能・効果」を,「非小細胞肺癌(手術不能又は再発例)」とし,「効能・効果に関する使用上の注意」として,「(1)本薬の化学療法未治療例における有効性及び安全性は確立していない。」,「(2)本薬の術後補助療法における有効性及び安全性は確立していない。」と付加し,「承認条件」を付加した上,承認して差し支えないとの判断をしたこと等は,前記第5章第1の3(1)イのとおりである。 (3) 薬事・食品衛生審議会における審査厚生労働大臣の薬事・食品衛生審議会に対する諮問を受けて行われた薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会において,審議が行われ,承認条件を付加することとして,薬事分科会で審議することが決定され,その後開催された薬事分科会において,効能・効果についての記載を修正した上で,イレッサを承認するする 二部会において,審議が行われ,承認条件を付加することとして,薬事分科会で審議することが決定され,その後開催された薬事分科会において,効能・効果についての記載を修正した上で,イレッサを承認するする旨が決定され,厚生労働大臣への答申が行われたこと,同審議会医薬品第二部会及び同審議会薬事分科会における審議において,「添付文書(案)」に関して議論がされたものの,間質性肺炎を「重大な副作用」欄に記載することの当否等については特に議論されなかったことは,前記第5章第1の3(2)のとおりである。 アイレッサの承認(前記第3章第6の3参照)前記のとおりの審査を経て,厚生労働大臣は,平成14年7月5日,イレッサの輸入承認をするとともに,調査期間を6年として再審査の指定をし,承認条件として,①手術不能又は再発非小細胞肺がんに対する本薬の有効性及び安全性の更なる明確化を目的とした十分なサンプルサイズを持つ無作為化比較試験を国内で実施すること,②本薬の作用機序の更なる明確化を目的とした検討を行うとともに,本薬の薬理作用と臨床での有効性及び安全性との関連性について検討すること,また,これらの検討結果について再審査申請時に報告すること,③GPMSP省令2条2項に規定する市販直後調査を実施することが付加された。【乙B11】イ併せて,同日,イレッサについて,①薬事法44条所定の「劇薬」の指定がされ(厚生労働省令第93号による改正後の薬事法施行規則別表第3・乙D44),②薬事法49条1項所定の「要指示医薬品」の指定を受け(平成14年7月5日付厚生労働省告示第230号・乙D49),③薬事法29条所定の「指定医薬品」の指定を受け(丙A1[枝番号1]), ④医療用医薬品として取り扱われることとされた(「医薬品の承認申請について」平成11年4月8 30号・乙D49),③薬事法29条所定の「指定医薬品」の指定を受け(丙A1[枝番号1]), ④医療用医薬品として取り扱われることとされた(「医薬品の承認申請について」平成11年4月8日医薬発第481号厚生省医薬安全局長通知,第1の2(2)・乙D3)。 劇薬とは,毒性が強いものとして厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聞いて指定する医薬品であり(薬事法44条),要指示医薬品とは,医師,歯科医師又は獣医師から処方せんの交付又は指示を受けた者以外の者に対して販売,授受等することができないものとして,厚生労働大臣が指定する医薬品であり(同法49条1項),指定医薬品とは,薬事法29条所定の薬種商販売業の許可を受けた者が販売,授受等することができないものとして,厚生労働大臣が同法施行規則36条において指定する医薬品である(同法29条)。また,医療用医薬品とは,医師若しくは歯科医師によって使用され又はこれらの者の処方せん若しくは指示によって使用されることを目的として供給される医薬品をいう【「医薬品の承認申請について」平成11年4月8日医薬発第481号厚生省医薬安全局長通知,第1の2(2)・乙D3】。 5 承認後の再審査制度及びその基礎となる情報収集制度(1) 再審査制度ア新医薬品等につき,承認後にも引き続き当該医薬品等の使用成績等の調査を行わせ,一定期間後にその安全性等を再確認する制度(再審査制度)が設けられており,再審査制度の内容は,前記第3章第8の2(1)のとおりである。 イイレッサは,既に製造又は輸入の承認を与えられている医薬品と有効成分等が明らかに異なることから,承認時に,調査期間を6年として再審査の指定を受けた。【乙B11】(2) 市販後調査制度 ア市販後調査制度の概要再審査指 れている医薬品と有効成分等が明らかに異なることから,承認時に,調査期間を6年として再審査の指定を受けた。【乙B11】(2) 市販後調査制度 ア市販後調査制度の概要再審査指定を受けた製薬企業は,再審査の対象となる医薬品について,調査期間において,使用成績等に関する調査を行わなければならないとされている(薬事法14条の4第4項,同法施行規則21条の4第1項,21条の4の2第1項)。そして,上記使用成績等に関する調査は,再審査の申請書の添付資料の基礎とすることとされている【昭和55年4月10日付け薬発第483号厚生省薬務局長通知「薬事法の一部を改正する法律の施行について」・乙D24〔第4の1〕】。 上記使用成績等に関する調査を市販後調査といい,市販後調査とは,医薬品の製造業者等が,その製造等をする医薬品の品質,有効性及び安全性に関する事項その他の医薬品の適正な使用のために必要な情報(適正使用情報)の収集及び検討を行い,その結果に基づき医薬品による保健衛生上の危害の発生若しくは拡大の防止,又は医薬品の適正な使用の確保のために必要な措置(適正使用等確保措置)を講じることをいうとされている(GPMSP省令2条1項)。 市販後調査には,市販直後調査,使用成績調査,特別調査,市販後臨床試験があり(GPMSP省令2条),その調査の方法及び内容に関する実務上の指針として市販後調査ガイドライン(乙D17)が定められている。 イ特別調査(ア) 特別調査は,市販後調査の一つであり,製造業者等が,診療において,医薬品を使用する条件が定められた患者における品質,有効性及び安全性に関する情報その他の適正使用情報の検出又は確認を行う調査をいう(GPMSP省令2条4項,市販後調査ガイドライン4項)。 (イ) 被告会社は,間質性肺炎 定められた患者における品質,有効性及び安全性に関する情報その他の適正使用情報の検出又は確認を行う調査をいう(GPMSP省令2条4項,市販後調査ガイドライン4項)。 (イ) 被告会社は,間質性肺炎について市販後調査等を踏まえ今後も慎重に検証を続ける必要があるとの審査センターの指摘を受け,平成14年5 月21日,審査センターに対し,「新医療用医薬品の市販後調査基本計画書(変更届)」を提出し,特別調査として,腎機能障害・肝機能障害患者及び特発性肺線維症を合併する患者を含む安全性の検討を行うことを明らかにするとともに,市販後臨床試験,特別調査,自発報告等で間質性肺炎悪化症例が認められた場合は,詳細データを収集することに努め,データを蓄積し検討することとした。【乙E22〔32頁,同別紙9の1,2,7枚目〕】(ウ) 厚生労働省は,平成14年12月26日,被告会社に対して行政指導を行い,これを受けて,被告会社は,平成15年4月9日,審査センターに対し,「新医療用医薬品の市販後調査基本計画書(変更届)」を提出し,プロスペクティブ調査(特別調査)として,「平成15年6月より10か月間で目標症例を3000例とし,中央登録方式で,イレッサの副作用発現頻度及び危険因子(発症危険因子,予後因子)について検討する。」とし,既に実施予定であった,特発性肺線維症を合併する患者等における安全性の検討についても,同プロスペクティブ調査の中で行うことを明らかにした。【乙E22〔32頁〕,弁論の全趣旨(平成18年7月6日付け被告会社回答書添付資料3〔3枚目〕】(エ) 被告会社は,平成15年6月から同年12月までに登録された3322例につき,特別調査としてプロスペクティブ調査を行い,平成16年8月,同調査結果報告書(イレッサ錠250プロスペクティブ調査 (エ) 被告会社は,平成15年6月から同年12月までに登録された3322例につき,特別調査としてプロスペクティブ調査を行い,平成16年8月,同調査結果報告書(イレッサ錠250プロスペクティブ調査(特別調査)に関する結果と考察)を作成した。 これによると,イレッサによる急性肺障害・間質性肺炎の発現率は5.81%(193/3322例),同死亡率は2.5%(83/3322例),急性肺障害・間質性肺炎からの死亡転帰は38.6%(83/215例)であった。【丙C2,丙K3[枝番号8]〔2~3頁〕,乙H29〔2144頁〕】 ウ市販後臨床試験(ア) 市販後臨床試験は,市販後調査の一つであり,製造業者等が,治験,使用成績調査若しくは特別調査の成績その他の適正使用情報に関する検討を行った結果得られた推定等を検証し,又は診療においては得られない適正使用情報を収集するため,当該医薬品について薬事法14条の承認に係る用法,用量,効能及び効果に従い行う試験をいう。(GPMSP省令2条5項,市販後調査ガイドライン5項)(イ) 被告会社は,厚生労働省からの行政指導を受け,平成15年4月9日,審査センターに対して提出した前記「新医療用医薬品の市販後調査基本計画書(変更届)」の中で,市販後臨床試験として,「急性肺障害・間質性肺炎の発症頻度及び危険因子を検討するための多施設共同,症例対照,市販後臨床試験を実施する。」ことを明らかにした。【乙E22〔32頁〕,弁論の全趣旨(平成18年7月6日付け被告会社回答書添付資料3〔3枚目〕)】(ウ) 被告会社は,平成15年11月から平成18年2月までに登録された4473例(うち急性肺障害・間質性肺炎の報告は155例)につき,市販後臨床試験として,「非小細胞肺癌患者におけるゲフィニチブ投与及び非投与 社は,平成15年11月から平成18年2月までに登録された4473例(うち急性肺障害・間質性肺炎の報告は155例)につき,市販後臨床試験として,「非小細胞肺癌患者におけるゲフィニチブ投与及び非投与での急性肺障害・間質性肺炎の相対リスク及び危険因子を検討するためのコホート内ケースコントロールスタディ」を行い,平成18年9月4日,同調査結果報告書を作成した。 これによると,進行・再発非小細胞肺がん患者における急性肺障害・間質性肺炎発症リスクは,イレッサは,化学療法に比べて高いとされ,投薬開始後12週間での急性肺障害・間質性肺炎粗累積発症率は,全症例で2.98%(94/3159例),イレッサ投与例では3.98%(59/1482例),化学療法剤投与例では2.09%(35/1677例)であった。また,急性肺障害・間質性肺炎による死亡例は,イ レッサ投与例で31.6%(25/79例),化学療法剤投与例で27.9%(12/43例)であった。【甲C4〔22~23頁〕,丙E46〔3頁〕,丙E61〔1頁〕】エ市販直後調査(ア) 市販直後調査は,市販後調査の一つであり,製造業者等が販売を開始した後の6か月間,診療において,医薬品の適正な使用を促し,薬事法施行規則64条の5の2第1項1号イ(1)ないし(6)まで及びロ並びに第2号イに掲げる症例等の発生の迅速な把握のために行うものをいうとされている(GPMSP省令2条2項)。 (イ) 市販直後調査は,平成12年に市販後調査の一つとして新設された制度であり,①新医薬品を対象として,②販売開始直後の6か月間において,③当該医薬品の慎重な使用を繰り返し促すとともに,重篤な副作用等が発生した場合,その情報を可能な限り網羅的に把握し,必要な安全対策を講じるというものである。そして,市販直後調査が 6か月間において,③当該医薬品の慎重な使用を繰り返し促すとともに,重篤な副作用等が発生した場合,その情報を可能な限り網羅的に把握し,必要な安全対策を講じるというものである。そして,市販直後調査が新設された経緯については,新医薬品の市販後においては,承認前には予測できない重篤な副作用等が発現したり,予測できない頻度等で発現する恐れがあることから,新医薬品については,特に製造業業者等において,医療機関に対し確実な情報提供,注意喚起等を行い,適正使用に関する理解を促すとともに,副作用等の情報を迅速に収集し,必要な安全対策を実施することが重要であり,医療機関においても,これらの情報をもとに副作用等の発生に留意しながら慎重に使用することが必要であるとされている。【「医薬品の市販後調査の基準に関する省令の一部を改正する省令の施行及び医薬品の再審査に係る市販後調査の見直しについて」平成12年12月27日医薬発第1324号厚生省医薬安全局長通知・乙D16〔第一の1〕】市販直後調査の主たる目的は,新医薬品の販売開始直後において,医 療機関に対し確実な情報提供,注意喚起等を行い,適正使用に関する理解を促すとともに,重篤な副作用等の情報を迅速に収集し,必要な安全対策を実施し,副作用等の被害を最小限にすることとされている。製造業者等は,重篤な副作用等の発生情報を入手した場合には,速やかに薬事法施行規則64条の5の2に基づき,副作用等症例報告をすることとされている。(市販後調査ガイドライン2項)イレッサは,GPMSP省令2条2項に規定する市販直後調査を実施することが承認条件として付加され,その結果は,平成15年3月に報告された。(前記第3章第8の2(3)ア)【乙B11,丙C5】オ使用成績調査(ア) 使用成績調査とは,市販後 販直後調査を実施することが承認条件として付加され,その結果は,平成15年3月に報告された。(前記第3章第8の2(3)ア)【乙B11,丙C5】オ使用成績調査(ア) 使用成績調査とは,市販後調査の一つであり,製造業者等が,診療において,医薬品を使用する患者の条件を定めることなく,副作用による疾病等の種類別の発現状況並びに品質,有効性及び安全性に関する情報その他の適正使用情報の把握のために行うものをいう(GPMSP省令2条3項)。 使用成績調査の方法については,「中央登録方式」,「連続調査方式」,「全例調査方式」等作為的に症例を抽出しない方法により調査を行うとされている(市販後調査ガイドライン3項)。 (イ)a 使用成績調査の主な目的は,次の事項を把握することとされている。(市販後調査ガイドライン3項)① 未知の副作用(特に重要な副作用について)② 医薬品の使用実態下における副作用の発生状況の把握③ 安全性又は有効性等に影響を与えると考えられる要因b 平成12年以前の使用成績調査は,目的につき,上記3つの事項を把握することとともに,特別調査,市販後臨床試験の必要性の有無を検討することとされ,0.1%以上の頻度で発生する未知の副作用を 95%以上の信頼度で検出できるよう最低3000例について調査することを原則として運用されており,承認当時把握できなかった可能性のある未知の副作用に関する情報を承認後に収集しようとしたものであった【「医療用医薬品の使用成績調査等の実施方法に関するガイドラインについて」平成9年3月27日薬安第34号厚生省薬務局安全課長通知・乙D36】。 しかし,平成12年,市販後調査の一つとして市販直後調査が新設され,また,副作用等に関する企業報告制度,安全性定期報告制度,治験規模の増 27日薬安第34号厚生省薬務局安全課長通知・乙D36】。 しかし,平成12年,市販後調査の一つとして市販直後調査が新設され,また,副作用等に関する企業報告制度,安全性定期報告制度,治験規模の増大,承認審査体制の強化等の安全対策上の諸制度が定着したこと等の状況を踏まえ,使用成績調査は,特定の副作用に焦点を当てた安全性の把握,希少疾病用医薬品等治験の症例数の収集が困難な場合の安全性の把握等に重点を置いた仕組みに見直すことが相当とされ,調査症例数についても医薬品の特性に応じて設定することとされた。【「医薬品の市販後調査の基準に関する省令の一部を改正する省令の施行及び医薬品の再審査に係る市販後調査の見直しについて」平成12年12月27日医薬発第1324号厚生省医薬安全局長通知・乙D16〔第一の1,第二の3〕】(ウ) イレッサについては,承認条件とされた市販直後調査が行われ,使用成績調査としての全例調査は行われなかった。(争いがない)(3) 安全性定期報告制度ア再審査指定を受けた製薬企業は,再審査の対象となる医薬品について実施した使用成績等に関する調査の結果を厚生労働大臣に報告しなければならないとされている(薬事法14条の4第6項,同法施行規則21条の4の2第1項,第2項)。 製薬企業は,再審査期間中,上記使用成績等に関する調査を行い,当該医療用医薬品等の副作用等の種類別発現状況,当該医療用医薬品の副作用 等の発現症例一覧等の事項を,厚生労働大臣が指定する日から起算して,承認後最初の2年間は半年ごと,それ以降は1年ごとに,その期間から2か月以内に厚生労働大臣に報告しなければならないとされている【平成9年3月27日付け薬発第437号厚生省薬務局長通知「新医療用医薬品に関する安全性定期報告制度について」・乙D39】。 その期間から2か月以内に厚生労働大臣に報告しなければならないとされている【平成9年3月27日付け薬発第437号厚生省薬務局長通知「新医療用医薬品に関する安全性定期報告制度について」・乙D39】。 イ安全性定期報告制度の趣旨は,新しい医薬品は,承認時に治験における患者数が限られているほか,少なくとも危険性のある患者が最初は除外されていることや,重要な長期の治験経験が欠けていること,併用療法が制限されていることなどから,安全性プロフィールの十分な評価を妨げており,このような状況下で,稀な副作用を検出し,確認することは,不可能ではないにしても極めて困難であることを踏まえ,個別症例を集積し,全体的な安全性評価の機会を定期的に生み出し,製品の適正使用のために製品情報に変更を加えるべきかどうかを明らかにすることとされている。 【平成9年3月27日付け薬安第32号厚生省薬務局安全課長通知「市販医薬品に関する定期的安全性最新報告(PSUR)について」・乙D41〔3,4頁〕】ウイレッサも,安全性定期報告の対象とされており,被告会社により安全性定期報告がされ,定期的に安全性評価が行われている。 また,上記安全性評価に加え,イレッサについては市販後の間質性肺炎の副作用報告等を踏まえ,厚生労働省内に安全性検討会やゲフィチニブ検討会等が設置され,上記検討会において安全性評価が行われていた。 6 承認後の副作用に関する情報収集及び情報提供(1) 副作用に関する情報収集ア副作用報告制度,医薬品等安全情報報告制度(ア) 副作用報告制度 a 製薬企業等は,その製造し,若しくは輸入し,又は承認を受けた医薬品について,当該品目の副作用によるものと疑われる疾病,障害又は死亡の発生その他医薬品の有効性及び安全性に関する事項で厚生労働省 a 製薬企業等は,その製造し,若しくは輸入し,又は承認を受けた医薬品について,当該品目の副作用によるものと疑われる疾病,障害又は死亡の発生その他医薬品の有効性及び安全性に関する事項で厚生労働省令で定めるものを知ったときは,これを厚生労働大臣に報告しなければならないこととされており(薬事法77条の4の2),その報告期限は,副作用の重篤性等に応じて,製薬企業等が知ったときから15日又は30日以内とされている(同法施行規則64条の5の2)。 b 厚生労働大臣は,同制度につき指針を作成し,報告対象となるものを具体的に定めるとともに,報告期限等について定めており,報告期限内に調査が完了しない場合にはそれまでに得られた調査結果に調査完了に時間を要する理由を添えて報告した上,後日追加報告を行うこと,15日以内に報告すべき国内死亡症例については,製薬企業がその事実を知ったときにファクシミリ等により速やかに第一報を報告すべきこと等を定めている【「薬事法等の一部を改正する法律の施行について」平成9年3月27日薬発第421号厚生省薬務局長通知・丙D8】。 (イ) 医薬品等安全情報報告制度a 医薬品等安全情報報告制度は,医薬品等の使用によって発生する副作用情報等を国が医薬関係者から直接収集する制度であり,平成9年7月,当時の薬事法上には規定はなかったものの,従来の各種モニター制度を統合・拡大し,すべての医療機関及び薬局を対象施設に,医師等を報告者として発足したものである【「医薬品等安全性情報報告制度への御協力について(お願い)」平成9年5月15日薬発第633号厚生省薬務局長通知・乙D68】。 上記制度では,医薬品の使用の結果認められた副作用であり,医薬 品との関連性が明確でないものを含む情報等を報告対象として,医師等が所定の 発第633号厚生省薬務局長通知・乙D68】。 上記制度では,医薬品の使用の結果認められた副作用であり,医薬 品との関連性が明確でないものを含む情報等を報告対象として,医師等が所定の書式に記入し,郵送又はファクシミリにより厚生労働省宛てに報告することとされており,上記所定の書式は,副作用の症状等を簡潔に記載することが予定され,医師等からの報告も強制ではなく任意とされていた【乙D23〔19~26頁〕】。 b 上記制度は,平成14年法律第96号による改正後の薬事法に規定され,医療機関等の医師,薬剤師等が医薬品の副作用に関する事項を知った場合において,保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため必要があると認めるときは,その旨を厚生労働大臣に報告しなければならないとされている(同法77条の4の2第2項)。 (ウ) イレッサ承認後平成14年10月15日までに被告国にされた副作用報告a 被告会社による副作用報告1(平成14年9月2日まで)被告会社から,厚生労働省に対し,イレッサ承認後にされた副作用報告のうち,平成14年9月2日までにされた副作用報告の内容は,以下のとおり10症例(うち死亡例6例)であり,その症例経過の詳細は別紙38(承認後の副作用報告症例経過表(平成14年9月2日の時点で被告国に報告されていた内容))記載のとおりである。 ① 承認後症例①平成14年7月18日,イレッサの投与開始から35日目に肺臓炎が発現した症例について,イレッサとの因果関係が否定できない間質性肺炎として報告された。【乙L3[枝番号1の1]】② 承認後症例②平成14年8月6日,イレッサの投与開始から8日目に急性肺障害(間質性肺炎)が発現し,その後死亡した症例について,イレッサによる薬剤性間質性肺炎を最も疑っているとして報告さ 】② 承認後症例②平成14年8月6日,イレッサの投与開始から8日目に急性肺障害(間質性肺炎)が発現し,その後死亡した症例について,イレッサによる薬剤性間質性肺炎を最も疑っているとして報告された。 そして,同年9月2日,同患者が同年8月3日(投与開始から11日目)に死亡したこと及び同症例の詳細が追加報告された。【乙L3[枝番号2の1・2],丙K1[枝番号14〔症例24〕]】③ 承認後症例③平成14年8月9日,イレッサの投与開始から8日目に呼吸困難が発現し,がん性リンパ管症,肺炎,間質性肺炎が考えられたところ,同月9日(投与開始から13日目)にカンジタ性肺炎のため死亡した症例について,イレッサとの関連性が疑われるとして報告された。【乙L3[枝番号3の1]】④ 承認後症例④平成14年8月16日,イレッサの投与開始から6日目に呼吸不全,血痰が発現した症例について,イレッサとの因果関係は不明として報告された。【乙L3[枝番号4の1]】⑤ 承認後症例⑤平成14年8月16日,イレッサの投与開始から約7日目に低酸素血症,間質性肺炎が発現した症例について,イレッサとの関連性が疑われるとして報告された。【乙L3[枝番号5]】⑥ 承認後症例⑥平成14年8月27日,イレッサの投与開始から3時間後に間質性肺炎が発現し,同月9日(投与開始から13日目)に死亡した症例について,ゲムシタビンによると思われるが,イレッサとの関連性は否定できないとして報告された。【乙L3[枝番号6の1]】⑦ 承認後症例⑦平成14年8月28日,イレッサの投与開始から7日目に間質性肺炎が発現し,同年7月30日(投与開始から22日目)に死亡した症例について,患者の状態は良好ではなかったがイレッサとの因 果関係は否定できな 8日,イレッサの投与開始から7日目に間質性肺炎が発現し,同年7月30日(投与開始から22日目)に死亡した症例について,患者の状態は良好ではなかったがイレッサとの因 果関係は否定できないとして報告された。【乙L3[枝番号7の1]】⑧ 承認後症例⑧平成14年8月29日,イレッサの投与開始(同年7月)から3週間目に下痢,口内炎等が発現し,投与中止後に肺炎が発現し,同年8月中に死亡した症例について,イレッサと肺炎との関連性は不明で,死亡との関連性は未入手として報告された。【乙L3[枝番号8の1]】⑨ 承認後症例⑨平成14年8月2日,イレッサの投与開始から9日目に呼吸困難,低酸素血症が発現し,間質性肺炎と診断された症例が報告された(医療機関からの医薬品等安全性情報報告)。 そして,同年9月2日,被告会社から,同患者が同年8月9日(投与開始から18日目)に死亡したこと及び同症例の詳細が追加報告され,イレッサによる薬剤性間質性肺炎の発症,それを契機に多臓器不全となり死亡したと考察するとされた。【乙L3[枝番号9の1・2],丙K1[枝番号14〔症例1〕]】⑩ 承認後症例⑩平成14年9月2日,イレッサの投与後21日目に間質性肺炎が発現したが,その後,肺野病変が消失した症例が報告された。【乙L3[枝番号10],丙K1[枝番号14〔症例25〕]】b 被告会社による副作用報告2(平成14年9月3日以降)被告会社から,厚生労働省に対し,イレッサ承認後にされた副作用報告のうち,平成14年9月3日以降同年10月15日までにされた副作用報告の内容は,以下のとおり22症例(うち死亡例11例)である。 ① 承認後症例①前記a①の報告内容(平成14年7月18日の報告)に加え,同年9月17日,同患者が同年8 た副作用報告の内容は,以下のとおり22症例(うち死亡例11例)である。 ① 承認後症例①前記a①の報告内容(平成14年7月18日の報告)に加え,同年9月17日,同患者が同年8月7日(投与開始から74日目)に死亡し,死因は原疾患(線がん)の悪化及び間質性肺炎の関与が疑われると診断されたこと及び同症例の詳細な症例経過が追加報告された。【乙L3[枝番号1の1・2],丙K1[枝番号14〔症例3〕]】② 承認後症例②前記a②の報告内容(平成14年8月6日の報告及び同年9月2日の追加報告)に加えた報告はなかった。【乙L3[枝番号2の1・2],丙K1[枝番号14〔症例24〕]】③ 承認後症例③前記a③の報告内容(平成14年8月9日の報告)に加え,同月20日,同症例の詳細な症例経過が追加報告された。【乙L3[枝番号3の1・2],丙K1[枝番号14〔症例6〕]】④ 承認後症例④前記a④の報告内容(平成14年8月16日の報告)に加え,同年9月4日,同患者が網状線状影が軽度改善し,血痰が消失したものの,同年8月7日(投与開始から16日目)に死亡し,死因は病勢進行(肺がん)と診断されたこと及び同症例の詳細な症例経過が追加報告された。【乙L3[枝番号4の1・2],丙K1[枝番号14〔症例26〕]】⑤ 承認後症例⑤前記a⑤の報告内容(平成14年8月16日の報告)に加えた報告はなかった。【乙L3[枝番号5]】⑥ 承認後症例⑥ 前記a⑥の報告内容(平成14年8月27日の報告)に加え,同年9月11日,同症例の詳細な症例経過が追加報告された。【乙L3[枝番号6の1・2]】⑦ 承認後症例⑦前記a⑦の報告内容(平成14年8月28日の報告)に加え,同年9月11日,同症例の詳細な症例経過が追加報告さ 例の詳細な症例経過が追加報告された。【乙L3[枝番号6の1・2]】⑦ 承認後症例⑦前記a⑦の報告内容(平成14年8月28日の報告)に加え,同年9月11日,同症例の詳細な症例経過が追加報告された。【乙L3[枝番号7の1・2],丙K1[枝番号14〔症例2〕]】⑧ 承認後症例⑧前記a⑧の報告内容(平成14年8月29日の報告)に加え,同年9月10日,追加報告がされたが,死因は不明のままとされた。 【乙L3[枝番号8の1・2]】⑨ 承認後症例⑨前記a⑨の報告内容(平成14年8月2日の報告)に加え,同年9月2日,被告会社から,同症例の詳細な症例経過が追加報告された。【乙L3[枝番号9の1・2],丙K1[枝番号14〔症例1〕]】⑩ 承認後症例⑩前記a⑩の報告内容(平成14年9月2日の報告)に加えた報告はなかった。【乙L3[枝番号10],丙K1[枝番号14〔症例25〕]】⑪ 承認後症例⑪平成14年9月13日,同年9月30日,投与開始から3日目に低酸素状態となった症例について,その後同患者が回復したこと及び同症例の詳細な症例経過が追加報告された。【乙L3[枝番号11の1・2],丙K1[枝番号14〔症例27〕]】⑫ 承認後症例⑫ 平成14年9月13日,イレッサの投与開始から数時間後に間質性陰影が発現し,さらに数時間後に死亡し,死因は呼吸不全と診断された症例が報告され,同年9月24日,同症例の詳細な症例経過が追加報告された。【乙L3[枝番号12の1・2],丙K1[枝番号14〔症例14〕]】⑬ 承認後症例⑬平成14年9月9日,イレッサの投与開始から8日目に間質性肺炎が発現した症例が報告され(医療機関からの医薬品等安全性情報報告),同年9月18日,被告会社から,同患者が未回復であること及び同症例 平成14年9月9日,イレッサの投与開始から8日目に間質性肺炎が発現した症例が報告され(医療機関からの医薬品等安全性情報報告),同年9月18日,被告会社から,同患者が未回復であること及び同症例の詳細な症例経過が追加報告された。【乙L3[枝番号13の1・2]】⑭ 承認後症例⑭平成14年9月25日,イレッサの投与後に間質性肺炎が発現した症例が報告され,同年10月4日,同年9月4日(イレッサの投与開始から約1か月後)に間質性肺炎が発現したこと,同患者が回復したこと及び同症例の詳細な症例経過が追加報告された。【乙L3[枝番号14の1・2]】⑮ 承認後症例⑮平成14年9月25日,イレッサの投与開始から4週目に間質性肺炎が発現した症例が報告され,同年10月8日,同患者が同年9月15日(投与開始から約2か月後)に死亡し,剖検所見では間質性肺炎,肺がん,細菌性肺炎の疑いがあること及び同症例の詳細な症例経過が追加報告された。【乙L3[枝番号15の1・2],丙K1[枝番号14〔症例5〕]】⑯ 承認後症例⑯平成14年9月9日,イレッサの投与開始から約7週目に血尿が 発現したが,その後軽快した症例が報告され,同年9月27日,同患者にイレッサ投与開始から約11週目に肺炎NOSが発現したが軽快したこと及び同症例の詳細な症例経過が追加報告された。【乙L3[枝番号16の1・2]】⑰ 承認後症例⑰平成14年9月30日,イレッサの投与開始から4か月余後に間質性肺炎が発現し,同月25日(投与開始から5か月余後)に死亡し,死因について間質性肺炎の関与が考えると診断された症例が報告された。【乙L3[枝番号7],丙K1[枝番号14〔症例4〕]】⑱ 承認後症例⑱平成14年10月3日,イレッサの投与後に間質性肺炎のような症状 間質性肺炎の関与が考えると診断された症例が報告された。【乙L3[枝番号7],丙K1[枝番号14〔症例4〕]】⑱ 承認後症例⑱平成14年10月3日,イレッサの投与後に間質性肺炎のような症状が発現した症例が報告された。【乙L3[枝番号18],丙K1[枝番号14〔症例31〕]】⑲ 承認後症例⑲平成14年10月3日,イレッサの投与開始から約10日目に間質性肺炎が発現した症例が報告された。【乙L3[枝番号19],丙K1[枝番号14〔症例38〕]】⑳ 承認後症例⑳平成14年10月4日,イレッサの投与開始から11日目に間質性肺炎が発現し,同年9月18日(投与開始から12日後)に死亡し,死因は間質性肺炎によると診断された症例が報告された。【乙L3[枝番号20],丙K1[枝番号14〔症例19〕]】○ 21 承認後症例○ 平成14年10月11日,イレッサの投与開始から3日目に息苦しいとの訴えがあり,投与開始から1週目に間質性肺炎が発現した 症例が報告された。【乙L3[枝番号21]】○ 22 承認後症例○ 平成14年10月11日,イレッサの投与開始から約1か月後に間質性肺炎が発現し,その後軽快した症例が報告された。【乙L3[枝番号22],丙K1[枝番号14〔症例28〕]】c 医療機関からの医薬品等安全性情報報告(医薬品安全性情報報告書)医療機関から,厚生労働省に対し,以下の4例(うち死亡2例)の間質性肺炎を含む肺障害の報告がされた。 ○ 23 承認後症例○ 平成14年10月7日,イレッサの投与開始から19日目に間質性肺炎が発現し,同年8月21日(投与開始から21日後)に死亡した症例が報告された。【乙L3[枝番号23]】○ 24 承認後症例○ 平成14年10月 レッサの投与開始から19日目に間質性肺炎が発現し,同年8月21日(投与開始から21日後)に死亡した症例が報告された。【乙L3[枝番号23]】○ 24 承認後症例○ 平成14年10月7日,イレッサの投与後10日目に間質性肺炎が発現し,同年9月25日(投与開始から13日後)に死亡した症例が報告された。【乙L3[枝番号24]】○承認後症例○ 平成14年10月10日,イレッサの投与から約1か月後に急性間質性肺炎,呼吸不全が発現し,未回復の症例が報告された。【乙L3[枝番号25]】○ 26 承認後症例○ 平成14年10月11日,イレッサの投与後10日目に間質性肺炎が発現し,その後軽快した症例が報告された。【乙L3[枝番号26,丙K1[枝番号14〔症例33〕]】イ市販直後調査 (ア) 被告会社では,市販直後調査として,市販後調査ガイドラインに従って,医療従事者が医療期間から情報収集を行い,前記ア(ウ)aの承認後症例①ないし同bの承認後症例○ 22 について,以下の日付で情報を入手した。【乙L3[枝番号1~26〔各孫番号を含む〕],丙K1[枝番号14]】a 平成14年7月5日,承認後症例①b 平成14年7月30日,承認後症例⑥,⑦c 平成14年8月1日,承認後症例⑨d 平成14年8月2日,承認後症例⑤e 平成14年8月5日,承認後症例②,③,④f 平成14年8月15日,承認後症例⑯g 平成14年8月16日,承認後症例⑩h 平成14年8月25日,承認後症例⑧i 平成14年8月27日,承認後症例⑭j 平成14年8月29日,承認後症例⑪k 平成14年8月31日,承認後症例⑰l 平成14年9月5日,承認後症例⑬m 平成 承認後症例⑧i 平成14年8月27日,承認後症例⑭j 平成14年8月29日,承認後症例⑪k 平成14年8月31日,承認後症例⑰l 平成14年9月5日,承認後症例⑬m 平成14年9月10日,承認後症例⑱n 平成14年9月11日,承認後症例⑮,○ o 平成14年9月12日,承認後症例⑫,⑲p 平成14年9月13日,承認後症例○ q 平成14年9月19日,承認後症例⑳(イ) 被告会社は,厚生労働省に対し,前記ア(ウ)a,bのとおり,重篤な副作用等について,薬事法施行規則64条の5の2に基づき副作用等症例報告をした。【乙L3[枝番号1~26〔各孫番号を含む〕],丙K1[枝番号14]】 (2) 被告会社における承認後の副作用症例に関する検討ア被告会社は,平成14年8月12日,同日までに入手した副作用症例(8例うち死亡例4例)に関する情報について検討するため安全性情報担当責任者等による会議を開催し,MR等による詳細情報収集を促すこと,各症例の詳細を検討するために画像所見等の追加調査項目を設定すること,間質性肺炎の頻度調査等の実施の可能性について継続して検討すること等を決め,同月19日,安全性情報担当責任者等による会議を開催し,情報収集期限を同月末日と決めた。【甲P158】イ被告会社は,同年9月11日,安全性情報担当責任者等による会議を開催し,同日までに入手した副作用症例(13例うち死亡例7例)に関する情報について検討し,間質性肺炎はイレッサとの関連性を否定することは難しく,千数百例の使用例で十数例の発生(約1%の発現率)は,治験時に比べて発生傾向が変化しているとの認識を持った上で,添付文書の改訂の要否及びMRから医療機関への情報提供等について検討がされた。 そ く,千数百例の使用例で十数例の発生(約1%の発現率)は,治験時に比べて発生傾向が変化しているとの認識を持った上で,添付文書の改訂の要否及びMRから医療機関への情報提供等について検討がされた。 そして,添付文書の改訂については,①改訂しない,②現在の「重大な副作用」の記載を変更する(例:検査の必要性など具体的な対策を盛り込む),③より重い注意喚起として,例えば「慎重投与」の項などにも記載するというような選択肢が考えられるとして検討されたが,厚生労働省から何らかの指示・照会が来る可能性は少なくなく,その場合に改訂しないという回答をすることは困難であること,今回添付文書を改訂しないと回答した場合でも厚生労働省から改訂を指示されることも考えられること,今回は改訂しないとしても今後間質性肺炎の症例が集積された場合には何らかの改訂をせざるを得ないこと,もっとも日本での添付文書の改訂は海外での審査等にも影響を与えることから,本社の意向に沿った形で厚生労働省と交渉する必要があること等が考慮され,結論として,添付文書を改訂することとし,改定案について検討することとされた。【甲P158】 ウ被告会社では,同年9月18日,添付文書改訂作業部会を開催し,添付文書改訂について検討を行うとともに,同月27日,安全性委員会を開催して検討を行った。【甲P158】(3) 副作用情報等の提供ア添付文書の改訂(ア) 使用上の注意の改訂使用上の注意とは,薬事法52条1号の規定に基づき医薬品の適用を受ける患者の安全を確保し適正使用を図るために,医師等に対して必要な情報を提供する目的で,当該医薬品の製造業者等が添付文書等に記載するものであり(使用上の注意通達・乙D10〔別添第1の1〕),医薬品等について新たな副作用等の知見が見いだされた場合, に対して必要な情報を提供する目的で,当該医薬品の製造業者等が添付文書等に記載するものであり(使用上の注意通達・乙D10〔別添第1の1〕),医薬品等について新たな副作用等の知見が見いだされた場合,これを医療関係者に提供するため,添付文書に記載された使用上の注意が変更される。【乙D23〔68頁〕】製造業者等は,医薬品の有効性及び安全性に関する事項その他医薬品の適正な使用のために必要な情報を収集,検討するとともに,医薬関係者に対し,これを提供するよう努めなければならないとされているところ(薬事法77条の3第1項),添付文書の改訂は,製造業者等が行う上記安全性情報の提供の一つとして行われるものである。 (イ) 製薬業界の自主基準使用上の注意を改訂した場合の情報伝達の方法等について,日本製薬団体連合会は,以下のような自主基準を作成している。【「医療用医薬品添付文書使用上の注意等の改訂に伴う対応について」昭和62年4月28日薬安第86号厚生省薬務局安全課長通知・乙D60】① 緊急安全性情報の作成基準に該当する場合改訂内容を明らかにした緊急安全性情報を作成し,医療機関に可及的速やかに伝達することとされている。 ② 使用上の注意事項を改訂した場合(薬安指示書あるいは企業の自主的改訂による)改訂内容を明らかにした文書を作成し,医療機関に速やかに伝達徹底することとされ,一定の場合は1か月以内に,その他の場合であっても可能な限り1か月以内を目安に医療機関に速やかに情報伝達することとされている。 (ウ) 改訂の要否の判断(厚生労働大臣の権限等)a 行政指導による改訂厚生労働大臣は,厚生労働省に報告された医薬品の安全性情報につき,薬事・食品衛生審議会の委員の意見を聴きながら評価,検討し,その結果について,医薬品等安 働大臣の権限等)a 行政指導による改訂厚生労働大臣は,厚生労働省に報告された医薬品の安全性情報につき,薬事・食品衛生審議会の委員の意見を聴きながら評価,検討し,その結果について,医薬品等安全対策部会の了解を得て,あるいは必要に応じて同部会における検討結果を踏まえた上,使用上の注意の改訂につき行政指導を行うことが予定されており,具体的には医薬局安全対策課長指示書(指示書)又は事務連絡により通知がされている。 【乙D23〔68頁〕】b 企業の自主的改訂製造業者等の判断により自主的に改訂する場合であり,改訂内容が軽微なもの又は用語の整理のための改訂等については,自主的な改訂が行われる。【乙D23〔68頁〕】イ緊急安全性情報(ドクターレター)の配布(ア) 緊急安全性情報緊急安全性情報は,医療関係者に対し,医薬品等の安全性に関する緊急かつ重要な情報を伝達するものである。 製造業者等は,医薬品の有効性及び安全性に関する事項その他医薬品の適正な使用のために必要な情報を収集,検討するとともに,医薬関係者に対し,これを提供するよう努めなければならないとされており(薬 事法77条の3第1項),製造業者等が行う上記安全性情報の提供の一つが緊急安全性情報である。 (イ) 指針緊急安全性情報の配布については,厚生労働大臣のガイドラインが設けられており,緊急安全性情報は,以下の①ないし⑧の措置を講じる必要があると判断された場合に,厚生労働省薬務局安全課長通知(指示書)に基づき,製造業者等が作成,配布するものとされ,その作成基準や配布方法,必要な報告,記録の保存等が定められている。【「緊急安全性情報の配布等に関するガイドラインについて」平成元年10月2日薬安第160号厚生省薬務局安全課長通知・乙D59】① 警告欄 準や配布方法,必要な報告,記録の保存等が定められている。【「緊急安全性情報の配布等に関するガイドラインについて」平成元年10月2日薬安第160号厚生省薬務局安全課長通知・乙D59】① 警告欄の新設等(警告欄の新設又は重要な改訂)② 使用上の注意の改訂(医薬品等による副作用であると疑われる死亡,障害若しくはこれらにつながるおそれのある症例又は治癒の困難な症例の発生に対応した緊急かつ重要な改訂)③ 効能又は効果の変更等(安全性に関連した事由による効能又は効果の重要な変更)④ 用法及び用量の変更等(安全性に関連した事由による用法又は用量の重要な変更)⑤ 規制区分の変更(安全性に関連した事由による毒薬,劇薬,要指示薬又は習慣性医薬品への指定等規制区分の変更)⑥ 販売中止・回収(安全性に関連した事由による販売中止・回収)⑦ 承認の取消(安全性に関連した事由による承認の取消)⑧ その他(その他安全性に関連した事由による緊急かつ重要な情報伝達を必要とする措置)(ウ) 配布の要否の判断(厚生労働大臣の権限等)a 行政指導 厚生労働大臣は,厚生労働省に報告された医薬品の安全性情報につき,薬事・食品衛生審議会の委員の意見を聴きながら評価,検討し,その結果について,医薬品等安全対策部会の了解を得て,あるいは必要に応じて同部会における検討結果を踏まえて,緊急安全性情報の配布等の行政指導を行うことが予定されている。 具体的には,緊急安全性情報は,薬事・食品衛生審議会における検討を踏まえ,必要があると判断された場合に,厚生労働省薬務局安全課長通知(指示書)に基づき,製造業者等が作成,配布するものとされている。【「緊急安全性情報の配布等に関するガイドラインについて」平成元年10月2日薬安第160号厚生省薬務局安 厚生労働省薬務局安全課長通知(指示書)に基づき,製造業者等が作成,配布するものとされている。【「緊急安全性情報の配布等に関するガイドラインについて」平成元年10月2日薬安第160号厚生省薬務局安全課長通知・乙D59】b 緊急命令厚生労働大臣は,当該医薬品による保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため必要があると認めるときは,緊急命令を発し,医薬品の販売を一時停止することその他保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するための応急の措置を採るべきことを命ずることができるものとされている(同法69条の2)。 そして,上記応急の措置の具体的内容の一つとして緊急安全性情報(ドクターレター)等による緊急の情報伝達の指示が予定されていることから,緊急安全性情報の配布は,前記(イ)のガイドラインによって厚生労働大臣の行政指導により行われることが予定されているが,厚生労働大臣の緊急命令により行うこともできる【「薬事法の一部を改正する法律の施行について」昭和55年4月10日薬発第483号厚生省薬務局長通知・乙D24〔第5の1(2)〕】。 ウ厚生労働省のホームページによる情報提供等厚生労働省は,医薬品機構のホームページにおいて,医療用医薬品の添 付文書情報,医薬品の安全性に関する情報(使用上の注意の改訂指示,製薬企業から出された安全性情報)を提供している。【乙D23〔40頁〕】エイレッサについての情報提供(ア) 前記(1)ア(ウ)のとおりのとおり,イレッサについては,平成14年7月18日,同年8月2日,同月6日,同月9日,同月16日,同月20日,同月27日ないし29日,同年9月2日,同月9日,同月11日,同月13日,同月25日,同月30日,同年10月3日,同月4日,同月7日,同月10日,同月11日に,被告会社から 同月16日,同月20日,同月27日ないし29日,同年9月2日,同月9日,同月11日,同月13日,同月25日,同月30日,同年10月3日,同月4日,同月7日,同月10日,同月11日に,被告会社から,22例(うち死亡11例)の間質性肺炎を含む肺障害の報告(医薬品副作用・感性症例報告書。うち2例については医療機関からの報告。),医療機関から,4例(うち死亡2例)の同様の報告(医薬品安全性情報報告書)がされた。【乙L3[枝番号1~26〔各孫番号を含む〕],丙K1[枝番号9〔5,6枚目〕]】(イ) 審査センターは,平成14年9月30日,被告会社に対し,間質性肺炎の全症例リストを提出するよう指示をした。【甲P158】(ウ) 厚生労働大臣は,前記(ア)及び(イ)による間質性肺炎等に関する症例報告を受け,これらの症例には,投与開始後早期に症状が発現し,急速に進行する症例が見られたことから,間質性肺炎について警告欄に記載するとともに,使用上の注意を改訂し,また緊急安全性情報を医療機関に配布してイレッサの副作用について改めて医療関係者の注意を喚起することが相当と判断し,平成14年10月15日,被告会社に対し,厚生労働省医薬局安全対策課長通知により,医薬品の使用上の注意の改訂を行うとともに,緊急安全性情報を配布するよう行政指導を行った。 【乙K5,丙K1[枝番号9〔5頁〕]】(エ) 前記行政指導を受け,被告会社は,平成14年10月15日,添付文 書を第3版添付文書(前記(4)ウ)のとおり改訂するとともに,医療関係者に対し,緊急安全性情報を配布した。同日以降速やかに,被告会社の担当MR(医療情報提供者)が各医療機関を訪問し,病院の担当者に対して緊急安全性情報の内容を説明した。 緊急安全性情報では,平成14年7月16日の発売以降同年 配布した。同日以降速やかに,被告会社の担当MR(医療情報提供者)が各医療機関を訪問し,病院の担当者に対して緊急安全性情報の内容を説明した。 緊急安全性情報では,平成14年7月16日の発売以降同年10月11日まで(推定使用患者数およそ7000人)にイレッサとの関連性を否定できない間質性肺炎を含む肺障害が22例(うち本剤との関連性を否定できない死亡例が11例)報告され,また,これらの症例の中には服薬開始後早期(7日未満:5例,7~14日:7例)に症状が発現し,急速に進行する症例が見られたこと等から,改めて警告欄等に記載して注意喚起を行うこととしたとの説明がされている。 【甲A13,丙K1[枝番号9]〔1頁〕,丙P59】(オ) 亡Oが治療を受けていた国立h病院に対しては,同年10月15日,担当のMRが,同病院の薬剤部,呼吸器科,内科を訪問し,緊急安全性情報の内容を説明した。【丙59】 7 イレッサの販売開始後の投与数及び副作用報告数等(1) 平成14年7月16日以降のイレッサの推定投与数イレッサの販売が開始された平成14年7月16日以降の推定投与数は,同月末日までに約820人,同年8月末日までに約1960人,同年9月末日までに約9600人,同年10月末日までに約1万5000人,同年11月末日までに約18100人,同年12月末日までに約2万0900人,平成15年4月22日時点では約2万8300人であった。 イレッサは,上記のとおり短期間に多数の患者に投与されており,患者の希望により,必ずしもがん治療の専門ではない医師や医療機関においても処方された可能性が高いと考えられている。 【甲E65〔599頁〕,甲E47〔70頁〕,丙K2[枝番号6]〔2頁〕】(2) 平成14年7月16日から平成15年4月までの副作用報告 処方された可能性が高いと考えられている。 【甲E65〔599頁〕,甲E47〔70頁〕,丙K2[枝番号6]〔2頁〕】(2) 平成14年7月16日から平成15年4月までの副作用報告数平成14年7月16日以降平成15年4月までに厚生労働省に報告されたイレッサとの関連が疑われる急性肺障害・間質性肺炎の副作用報告数は,以下のとおりであった。【丙K2の6】ア平成14年10月15日までイレッサの販売が開始された平成14年7月16日以降,緊急安全性情報が発出された同年10月15日までの間の副作用報告数は183例であり,うち死亡例は95例,報告例数に対する死亡例の割合は51.9%であった。 また,副作用報告数をイレッサの投与開始日別に集計した結果によれば,平成14年7月16日以降同年10月15日までの間の副作用報告数は344例であり,うち死亡例は162例,報告例数に対する死亡例の割合は47.1%であった。 イ平成14年10月16日から同年12月26日まで(ア) 緊急安全性情報発出後の平成14年10月16日以降,安全性検討会の検討に基づく行政指導(通知)により添付文書が第4版添付文書の内容に改訂された同年12月26日までの間の副作用報告数(副作用発現日別集計)は261例であり,うち死亡例は107例,報告例数に対する死亡例の割合は41.0%であった。 上記副作用報告数(副作用発現日別集計)を月別にみると,平成14年10月の副作用報告数は,おおむね各週40件ないし50件,うち死亡例は20件ないし30件であったのに対し,同年11月の副作用報告数は,おおむね各週15ないし20件,うち死亡例は10件前後となり,同年12月の副作用報告数は,おおむね各週15ないし20件,う ち死亡例は5件前後となった。 (イ) 1月の副作用報告数は,おおむね各週15ないし20件,うち死亡例は10件前後となり,同年12月の副作用報告数は,おおむね各週15ないし20件,う ち死亡例は5件前後となった。 (イ) 副作用報告数をイレッサの投与開始日別に集計した結果によれば,平成14年10月16日以降同年12月26日までの間の副作用報告数は102例であり,うち死亡例は38例,報告例数に対する死亡例の割合は37.3%であった。 上記副作用報告数を月別にみると,平成14年10月1日から同月15日までの副作用報告数は,おおむね各週40件前後,うち死亡例は20件前後であったのに対し,緊急安全性情報発出後の同月16日以降の副作用報告数は,おおむね各週10ないし20件,うち死亡例は5件前後となり,同年11月及び12月の副作用報告数は,おおむね各週10件前後,うち死亡例は5件前後となった。 ウ平成14年12月27日以降平成14年12月27日以降平成15年4月22日までの間の副作用報告数(副作用発現日別集計)は106例であり,うち死亡例は15例,報告例数に対する死亡例の割合は27.4%であった。 また,副作用報告数をイレッサの投与開始日別に集計した結果によれば,平成14年12月27日以降平成15年4月22日までの間の副作用報告数は46例であり,うち死亡例は14例,報告例数に対する死亡例の割合は30.4%であった。 8 緊急安全性情報以降のイレッサによる間質性肺炎等についての知見及び情報提供(1) 安全性検討会(ゲフィチニブ安全性問題検討会)と添付文書改訂厚生労働省は,承認後,イレッサによる間質性肺炎等の副作用が疑われる症例が358例(うち死亡114例)という状況にあり,平成14年10月15日の緊急安全性情報発出後に副作用症例報告が減少したものの(平 生労働省は,承認後,イレッサによる間質性肺炎等の副作用が疑われる症例が358例(うち死亡114例)という状況にあり,平成14年10月15日の緊急安全性情報発出後に副作用症例報告が減少したものの(平成1 4年7月の販売開始後同年10月15日以前の副作用報告数は155例うち死亡例71例,同日以降同年12月13日までの副作用報告数は133例うち死亡例31例),予断を許さない状況にあるとして,今後の安全対策を検討する目的で,同年12月25日及び平成15年5月2日に,専門家の委員から構成される安全性検討会を開催した。【丙K1[枝番号2〔1頁〕,12]】ア平成14年12月25日開催分(第1回)平成14年12月25日開催の安全性検討会では,イレッサの承認前の審査報告書や海外から報告された副作用症例報告一覧等の資料や,承認後に副作用として報告された医薬品副作用・感染症症例票等の資料に基づき,承認時の安全性・有効性に関する評価や,市販後における安全性と安全対策等について議論がされた。その結果,今後の対応として,①インフォームド・コンセントや情報提供の徹底,②より適切な管理の下での使用の徹底,③間質性肺炎,肺線維症,またはこれらの疾患の既往歴のある患者への使用を慎重投与に設定,④「服用者向け情報提供資料」の作成等,⑤企業による市販後安全対策の強化等の検討結果が取りまとめられた。 上記②については,イレッサによる間質性肺炎の特徴の一つとして,審査のときの予想をはるかに超える市販後の間質性肺炎の発症があり,普通の抗がん剤による肺障害とは異なり,審査時には発現していなかった投与初期(2~3週間目)に発現し,致死的な転帰をたどる例が多いこと等が指摘され,議論の結果,今後の対応として,「より適切な管理の下での使用の徹底。肺がん化学療法に十 ,審査時には発現していなかった投与初期(2~3週間目)に発現し,致死的な転帰をたどる例が多いこと等が指摘され,議論の結果,今後の対応として,「より適切な管理の下での使用の徹底。肺がん化学療法に十分な経験を持つ医師が使用するとともに,投与に際して緊急時に十分措置できる医療機関で行うこと。間質性肺炎が投与初期に発生し致死的な転帰をたどる例が多いため,少なくとも投与開始後4週間は入院またはそれに準じる管理の下で,間質性肺炎等の重篤な副作用発現に関する観察を十分に行うこと。」との見解が示された。【丙 K1[枝番号1,2〔12,16,18頁〕,3~15】イ(ア) 厚生労働省は,平成14年12月26日,被告会社に対し,第1回安全性検討会における前記取りまとめを受け,厚生労働省医薬局安全対策課長通知により,使用上の注意事項の変更を行うこと等について行政指導をした。【甲K5[枝番号1],丙K2[枝番号4]】(イ) 被告会社は,平成14年12月,上記行政指導を受け,前記第6の1(4)エのとおり,添付文書の使用上の注意を第4版添付文書のとおり改訂した。【甲A4】ウ平成15年5月2日開催分(第2回)平成15年5月2日開催の安全性検討会では,第1回安全性検討会の意見に対する被告会社の取組状況や医療機関におけるイレッサ投与例の紹介等の資料を踏まえ,医学的,薬学的知見に基づき,第1回安全性検討会で示された今後の対応の実行状況と最近の副作用発現状況や有効性・安全性に関する最近の知見(学会報告)等について,議論された。 同日の安全性検討会では,前回の安全性検討会の検討結果である今後の対応以外の安全対策を採るべきとの意見は取りまとめられなかった。【丙K2[枝番号1~16]】(2) 専門家会議と添付文書改訂被告会社では,平成14年7 前回の安全性検討会の検討結果である今後の対応以外の安全対策を採るべきとの意見は取りまとめられなかった。【丙K2[枝番号1~16]】(2) 専門家会議と添付文書改訂被告会社では,平成14年7月のイレッサの発売以降同年12月までに,約1万9000人に投与され,同月13日までに358例に急性肺障害・間質性肺炎が発症(うち死亡114例)を深刻に受け止め,更なる安全性確保のため,急性肺障害・間質性肺炎の早期発見・診断と処置の検討を主たる目的とし,臨床腫瘍学専門家,呼吸器内科専門家,放射線診断専門家及び病理診断専門家を委員とした専門家会議を組織した。専門家会議は,①平成14年12月5日,②同月28日,③平成15年1月23日,④同年3月2日に開催され,イレッサ服用中に急性肺障害・間質性肺炎を発症し,詳細調査情 報が得られた症例を解析,検討した。 専門家会議では,平成15年1月23日,上記①ないし③の会議における上記検討結果を基に中間報告書を公表し,同年3月26日,上記①ないし④の会議における検討結果を基に最終報告書を公表した。 ア平成15年1月23日付け中間報告書専門家会議は,第1回ないし第3回までに詳細調査情報が得られたイレッサ服用中に急性肺障害・間質性肺炎を発症した症例(79症例)について検討を行い,中間報告書として公表した。中間報告書では,「投与開始後4週までに発症する症例数は多い」,「投与早期にILDが発症する傾向があり,投与開始から4週間の厳重な観察が求められている。」などとされた。【丙L1〔9,12頁〕】イ平成15年3月26日付け最終報告書専門家会議は,第1回ないし第4回までに詳細調査情報が得られたイレッサ服用中に急性肺障害・間質性肺炎(ILD)を発症した症例(152例)について検討を行い,最終報 成15年3月26日付け最終報告書専門家会議は,第1回ないし第4回までに詳細調査情報が得られたイレッサ服用中に急性肺障害・間質性肺炎(ILD)を発症した症例(152例)について検討を行い,最終報告書として公表した。 最終報告書では,①日本における急性肺障害・間質性肺炎(ILD)の発症率は約1.9パーセント(死亡率約0.6%)と推定され,海外に比べて約6倍と著しく高頻度であること,②ILDの予後を悪化させる可能性のある因子として,性別(男性),がんの組織型(扁平上皮がん),特発性肺線維症(IPF)等の既存(あり),PerformanceStatus(PS)(2以上),喫煙歴(あり),ゲムシタビンによる前治療(なし),の6項目が示唆され,うちIPF等の既存あり,男性,扁平上皮がん,の3項目が主要な予後因子となる可能性が示唆されたこと,③ILD発症例の症状としては,息切れ75%,発熱42.1%,ラ音32.9%,乾性咳嗽27.0%,④画像情報のある134例中約20%が感染等の他疾患と判断されたこと,⑤イレッサによるILDのCT所見は,斑状あるいはびま ん性の分布を示すすりガラス陰影または浸潤影を主体とする所見が中心であり,従来報告された薬剤性肺障害のそれと特段の相違はないこと,⑥臨床的にイレッサによるILDとされた死亡例の,剖検における基本的な病理組織像は,びまん性肺胞傷害(DAD)であったことなどの解析結果が示され,これらを踏まえた「診断・治療への提言」として,IPF等の既存がイレッサ投与におけるILD発症の危険因子であり,死亡につながる危険因子であることから,慎重に投与すること等が示された。【丙L2〔6~8頁〕】ウ被告会社は,平成15年4月,専門家会議最終報告書を踏まえ,前記第6の1(4)カのとおり,添付文書の使 つながる危険因子であることから,慎重に投与すること等が示された。【丙L2〔6~8頁〕】ウ被告会社は,平成15年4月,専門家会議最終報告書を踏まえ,前記第6の1(4)カのとおり,添付文書の使用上の注意を第6版添付文書のとおり改訂した。【甲A6,丙K3[枝番号4]】(3) プロスペクティブ調査結果報告書の公表と添付文書改訂ア前記5(2)イのとおり,被告会社は,平成15年6月から同年12月までに登録された3322例につき,特別調査としてプロスペクティブ調査を行い,平成16年8月,同調査結果報告書(イレッサ錠250プロスペクティブ調査(特別調査)に関する結果と考察)を作成した。 プロスペクティブ調査の結果,イレッサによる急性肺障害・間質性肺炎の発現率は5.81%(193/3322例),同死亡率は2.5%(83/3322例),急性肺障害・間質性肺炎からの死亡転帰は38.6%(83/215例)であった。【丙C2,丙K3[枝番号8]〔2~3頁〕,乙H29〔2144頁〕】イ被告会社は,平成16年9月,プロスペクティブ調査結果報告書を踏まえ,前記第6の1(4)キのとおり,添付文書の使用上の注意を第9版添付文書のとおり改訂した。【甲A9,丙K3[枝番号4,12]】(4) ゲフィチニブ検討会 厚生労働省は,イレッサの第Ⅲ相臨床試験(ISEL試験)の結果が公表されたことを受け,①平成17年1月20日,②同年3月10日,③同月17日,④同月24日に,医学・薬学等の専門家等から構成されるゲフィチニブ検討会を開催し,ISEL試験の詳細解析結果,EGFR遺伝子変異に関する治験及び日本肺癌学会作成の「ゲフィチニブ使用に関するガイドライン」について検討し,同年3月に改訂された日本肺癌学会の「ゲフィチニブ使用に関するガイドライン 詳細解析結果,EGFR遺伝子変異に関する治験及び日本肺癌学会作成の「ゲフィチニブ使用に関するガイドライン」について検討し,同年3月に改訂された日本肺癌学会の「ゲフィチニブ使用に関するガイドライン」の周知を図り,イレッサの使用するに当たって同ガイドラインを参考にすること等を内容とする「ゲフィチニブISEL試験結果の評価とゲフィチニブ使用に関する当面の対応についての意見」を公表したことは,前記第5章第2の4(3)エのとおりである。 (5) 日本肺癌学会における検討ア 「ゲフィチニブ」に関する声明(平成15年10月)日本肺癌学会は,イレッサの適正使用に関する見解をまとめることを目的として,イレッサの適正使用検討委員会を設け,主として安全性の面から臨床試験及び実地医療でのイレッサ使用に関するガイドラインをまとめ,平成15年10月,「「ゲフィチニブ」に関する声明」として公表した。 上記声明のうち「実地医療でのゲフィチニブ使用に関するガイドライン」では,次の①~⑦の条件を全て満たした場合に本剤の投与を行うべきであるとされた。【甲E35,丙K5[枝番号8]〔1頁〕】①「化学療法未治療例における有効性及び安全性は確立していない」,「術後補助療法における有効性及び安全性は確立していない」ため,このような例では実地医療としては使用しないこと。 ②本剤と他の抗悪性腫瘍剤や放射線治療との同時併用における有効性と安全性は証明されていないので,実地医療としては本剤を単剤で投与すること。 ③イレッサの治験における症例の適格条件や除外条件のうち,その主要な条件を原則として満たしていることが必要であり,その条件は,国際共同第Ⅱ相試験(IDEAL1試験)の選択基準及び除外基準を参考とし,それ以外の症例への投与は,未知の領域への試験的投与で ,その主要な条件を原則として満たしていることが必要であり,その条件は,国際共同第Ⅱ相試験(IDEAL1試験)の選択基準及び除外基準を参考とし,それ以外の症例への投与は,未知の領域への試験的投与であり,現時点では臨床試験以外では原則的に投与すべきではないこと。 ④本剤投与により利益(症状改善,腫瘍縮小効果)が得られる可能性の高い患者背景は,線がん,女性であることが報告されているので,症例選択の際に考慮すべきであること。 ⑤本剤のリスクファクターとされている間質性肺炎(特発性肺線維症,放射線肺炎,薬剤性肺炎等)合併症例,じん肺,男性,扁平上皮がん,喫煙歴を有する者等に対する本剤投与は,当該患者が本剤から得られる利益が本剤投与による危険性を上回ると判断される場合に限定すること⑥本剤は,肺がん化学療法に十分な経験を持つ医師が使用するとともに,投与に際しては緊急時に十分に措置ができる医療機関で行うこと。 ⑦患者に本剤投与の目的,投与法,予想される効果と副作用(重篤な間質性肺炎,急性肺障害の発生と死亡例がみられていること含む),代替治療法の有無と有りの場合における当該治療法の利害得失等を十分に説明した後に,患者の自由意思による同意を文書で得ておくこと。 イゲフィチニブ使用に関するガイドライン(平成17年3月15日,同年7月25日改訂)(ア) 平成17年3月15日初版日本肺癌学会は,平成17年2月,厚生省から最近の知見を踏まえて実地医療でのイレッサ使用に関するガイドライン(「ゲフィチニブ」に関する声明)を改訂するよう依頼を受け,イレッサ使用に関するガイドライン作成委員会を組織し,「「ゲフィチニブ」に関する声明」をもとにその後の知見を踏まえて,イレッサから利益を得られる可能性の高い 集団を明らかにし,イレッサの実地医療 用に関するガイドライン作成委員会を組織し,「「ゲフィチニブ」に関する声明」をもとにその後の知見を踏まえて,イレッサから利益を得られる可能性の高い 集団を明らかにし,イレッサの実地医療におけるベネフィット/リスク比を高める観点から,実地医療でのイレッサ使用に関するガイドラインを作成し,公表した。 上記ガイドラインでは,前記アに加え,イレッサ投与により利益が得られる可能性の高い患者群(線がん,女性,非喫煙者,日本人(東洋人),イレッサの遺伝子変異を示す症例)が明らかにされてきたので,今後,イレッサから利益を得られやすい上記患者群に投与することが推奨されること等が示された。【甲E16〔3~4頁〕,丙K5[枝番号8]〔3~4頁〕】(イ) 平成17年7月25日改訂版日本肺癌学会は,平成17年5月のASCO(米国臨床腫瘍学会)でSWOG0023試験の結果が報告され,同報告において,イレッサ投与により生存期間の向上が示されなかっただけでなく,むしろイレッサの生存に対する否定的な影響を除外しえないと指摘されたことを受けて,前記(ア)のガイドラインを改訂した。 改訂版では,イレッサ投与を行うべき条件として,前記ア及びイに加え,実地医療においては放射線化学療法同時併用療法後にイレッサを維持療法として投与すべきではないことが追加された。【甲E21〔4頁〕】(以下余白) 第6 被告会社の製造物責任について 1 製造物責任の判断枠組みについて(1) 医薬品の欠陥の主張立証責任ア原告らは,イレッサには,製造物責任法上の欠陥として,設計上の欠陥(有用性の欠如),適応拡大による欠陥,指示・警告上の欠陥,広告宣伝上の欠陥,販売上の指示に関する欠陥がある旨主張し,上記各欠陥の主張立証責任につ ッサには,製造物責任法上の欠陥として,設計上の欠陥(有用性の欠如),適応拡大による欠陥,指示・警告上の欠陥,広告宣伝上の欠陥,販売上の指示に関する欠陥がある旨主張し,上記各欠陥の主張立証責任について,被告会社と原告らとの間の,証拠の偏在,情報量や調査能力の格差等を考慮すれば,公平の観点から,原告らにおいて,イレッサにより急性肺障害,間質性肺炎の副作用が発生したことを主張立証すれば,上記各欠陥の存在が事実上推定され,被告会社において,イレッサに有用性があること,指示・警告を尽くしたこと等を主張立証する責任を負うべきである旨主張する。 イ製造物責任法は,被害者保護の観点から,被害者は,製造物に存在した欠陥によって損害を受けたことを立証すれば,製造業者に対して損害賠償請求をすることができ,製造業者が免責されるためには,製造業者において同法4条所定の免責事由を立証する必要があるとして,民法の不法行為に基づく損害賠償請求における立証責任を上記の限度で転換したものであるが,製造物責任法は,これを超えて更に被害者の立証責任を転換したものと解することはできない。 したがって,事実上の事実推定において,製造物責任法の立法経緯や同法の趣旨が踏まえられるべきであるが,製造物に欠陥が存在すること及び製造物の欠陥により損害が発生したことについての主張立証責任は,原告らが負うものと解する。 ウイレッサは,その適応を手術不能又は再発非小細胞肺がんとする抗がん剤であるところ,前記第2の3(2)エの認定のとおり,イレッサの適応と なる手術不能又は再発非小細胞肺がんは,難治性で予後が悪い疾患である。加えて,前記第3の2(2)アの認定のとおり,従来非小細胞肺がんに用いられていた抗がん剤は,血液毒性,消化器毒性,肺毒性等があり,それによる副作用によ 小細胞肺がんは,難治性で予後が悪い疾患である。加えて,前記第3の2(2)アの認定のとおり,従来非小細胞肺がんに用いられていた抗がん剤は,血液毒性,消化器毒性,肺毒性等があり,それによる副作用による死亡率は1~2%とされているなど,場合によって死亡に至る重篤な副作用が発生する頻度も低くはない。 このように,非小細胞肺がんの治療に使用される抗がん剤は,難治性で予後が悪い疾患を対象とするものであり,その性質上,重篤な副作用が発生する危険性を伴う薬剤であるといわざるを得ないにもかかわらず,治療に使用されていることを考慮すれば,副作用の程度が重篤であることから直ちに当該抗がん剤に欠陥があるということことはできない。 したがって,その適応を手術不能又は再発非小細胞肺がんとするイレッサの製造物責任法上の欠陥を判断するに際し,急性肺障害や間質性肺炎の副作用が発症し,その副作用の程度が重篤であるとの事実から,直ちに当該抗がん剤の欠陥の存在を推認することはできない。 (2) 欠陥該当性の判断の基準及びその基準時製造物責任は,製造業者は,自らが製造して引き渡した製品に欠陥があった場合,引渡時点までは,当該製品をその支配領域下に置いて自ら損害の発生を支配し得たことを根拠とするものであり,また,製造物責任法上,「その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期」を考慮することとされていること(同法2条2項)からすれば,製造物の欠陥は,製造業者が当該製品を引き渡した時点,すなわち製造業者が当該製品を最初に流通に置いた時点を基準に判断するものとされる。そして,その判断は,その時点における安全性の判断に影響を及ぼし得る知識のすべてを基礎として行われると解するのが相当である。 したがって,製造物が医薬品である場合には,医薬品の欠陥の判断は,当該医薬品が最 断は,その時点における安全性の判断に影響を及ぼし得る知識のすべてを基礎として行われると解するのが相当である。 したがって,製造物が医薬品である場合には,医薬品の欠陥の判断は,当該医薬品が最初に流通に置かれた当時(承認時)の知見に基づいて判断する と解するのが相当であり,その知見は,その当時における医学,薬学等の諸学問の水準に照らして当該医薬品の有効性,安全性等(有用性)を判断するに当たって影響を及ぼし得る知識のすべてと解するのが相当である。 この点に関連して,医薬品は,その性質上,医学的,薬学的知見の発展に伴い,その効果,効能,副作用等(有用性)についての評価が変わり得る。 そのため,医薬品の客観的性状には変化はないが,承認後の医学的,薬学的知見の発展により,当該医薬品が有用性を欠くことすなわち製造物としての医薬品の欠陥が判明した場合に,現時点の医学的,薬学的知見を基準として引渡時にも欠陥が存在したことを推認することができるかが問題となり得る。しかし,これを肯定して医薬品製造業者に無過失責任を負わせることは,製造者の予測可能性を害するものであるから,相当ではない。他方,医薬品の客観的性状に変化がなく,かつ,引渡時以降現時点までの医学的,薬学的知見を考慮しても,現時点において当該医薬品が有用性を欠くとはいえないとの事情は,引渡時においても当該医薬品は客観的に有用性を欠くとはいえなかったことを推認させる間接事実として評価することができるというべきである。 なお,医薬品の客観的性状に変化はないが,引渡時以降に,医薬品の添付文書等における指示・警告が追加して記載されるなどの安全性確保のための措置が講じられた場合,そのような医薬品は,改訂後の添付文書記載の指示・警告とともに流通に置かれた医薬品という意味において,改訂前 文書等における指示・警告が追加して記載されるなどの安全性確保のための措置が講じられた場合,そのような医薬品は,改訂後の添付文書記載の指示・警告とともに流通に置かれた医薬品という意味において,改訂前の添付文書記載の指示・警告とともに流通に置かれた医薬品とは性質が異なるに至ったものというべきであるから,指示・警告上の欠陥該当性を判断するに際しては,当該医薬品の引渡時の添付文書を基準に欠陥該当性を判断するのが相当である。 2 設計上の欠陥(有用性の欠如)について (1) 判断枠組みア設計上の欠陥と医薬品の有用性薬事法の医薬品の承認及び承認拒否事由に関する規定は,第3章第6の1記載のとおりである。そして,厚生労働大臣は,医薬品の承認をするに当たって,その時点における医学的,薬学的知見を前提として,当該医薬品の治療上の効能,効果と副作用とを比較考量し,それが医薬品としての有用性を有するか否かを評価して承認の可否を決すべきであるとされる(クロロキン判決)。 したがって,医薬品の効能,効果と副作用とを比較考量し,それが医薬品としての有用性を有しない場合,すなわち,医薬品の有効性が認められない場合又は医薬品の効能,効果ないし有効性に比して著しく有害な副作用がある場合には,当該医薬品は,医薬品として通常有すべき安全性を有しているということはできず,製造物責任法上の欠陥(設計上の欠陥)があると解すべきであるイ承認時及び現在における有用性の判断構造(ア) 承認時における有用性前記第5章第2の2(3)の認定・判断のとおり,平成14年7月当時,承認前には,比較臨床試験が実施されることは不可欠ではなく,腫瘍縮小効果(抗腫瘍効果)を代替評価項目として有効性を評価することには合理性があったというべきである。 そうすると, 成14年7月当時,承認前には,比較臨床試験が実施されることは不可欠ではなく,腫瘍縮小効果(抗腫瘍効果)を代替評価項目として有効性を評価することには合理性があったというべきである。 そうすると,イレッサが承認後に最初に流通に置かれた時点である平成14年7月当時,旧ガイドラインのⅡ相承認の制度を前提に,当時の医学的,薬学的知見の下で,一般臨床試験によって腫瘍縮小効果(抗腫瘍効果)を代替評価項目として評価し,有効性がないと判断された場合又はイレッサの効能,効果ないし有効性に比して著しく有害な副作用がある場合には,イレッサは有用性を欠き,医薬品としての通常有すべき 安全性を欠いていると判断される。 (イ) 現時点における有用性第Ⅲ相試験の主要評価項目について,標準的治療法に対して優越性が証明された場合,又は標準的治療法との同等性が証明され,かつ,QOL,症状緩和効果等の代替評価項目を総合的に考慮して,第Ⅲ相試験の対照群とされた標準的治療法よりも治療上の利益が高いことが認められた場合には,当該医薬品に有効性が認められ,かつ,当該医薬品の効能,効果ないし有効性に比して著しく有害な副作用があるとは認められない場合,当該医薬品は標準的治療法に組み込まれることになる。(なお,仮に標準的治療法を対照群とした第Ⅲ相試験において優越性ないし同等性が統計学的に証明されなかったとしても,Ⅱ相承認の制度のもとでは承認時の有効性は既に肯定されているのであるから,そのことから直ちに当該医薬品の有効性が遡って否定されるものではない。承認後に判明した医学的,薬学的知見,臨床試験の試験成績や症例報告等によって,承認時において認められた有効性が現時点において欠けていると認められるような場合に,はじめて当該医薬品の有効性が否定されるというべきである。) ,薬学的知見,臨床試験の試験成績や症例報告等によって,承認時において認められた有効性が現時点において欠けていると認められるような場合に,はじめて当該医薬品の有効性が否定されるというべきである。)ウ原告らは,承認時における有用性の判断について,Ⅱ相承認のもとにおいても,消費者保護を目的とする製造物責任法の趣旨に照らせば,市販された臨床治療薬には治療薬として臨床上意味のある有用性が備わっているとの消費者の合理的な期待を重視すべきであることなどから,製造物責任法所定の欠陥の有無の判断については,真の評価項目である延命効果を基準に有効性が判断された上で,有用性が判断されるべきである旨主張するものと解される。 しかし,平成14年7月当時のイレッサの有効性,有用性を判断するために,現在までに明らかになった医学的,薬学的知見等を重要な間接事実 として評価することを前提にしても,前記第2の2(4)ウの認定・判断のとおり,現在までに行われた第Ⅲ相試験の延命効果を中心とした評価においては,主要評価項目は生存率,生存期間であるとされていたが,生存期間中央値(MST)や時点生存割合は生存期間分布を特徴付ける代表値で生存期間を比較する場合に使用される指標であるとされており,また,慎重な評価をすることを前提に,無増悪生存期間を適切な代替評価項目として主要評価項目とすることは許容されるというべきであると解されるのであるから,このような主要評価項目によって標準的治療法との同等性が証明された場合には,これに付加してQOL,症状緩和効果等に対する有用性についても評価して,当該医薬品の有効性を判断することが許容されるというべきである。 したがって,原告らが主張する判断基準は,承認当時の医学的,薬学的知見を考慮しないものであるというほかなく,これを ついても評価して,当該医薬品の有効性を判断することが許容されるというべきである。 したがって,原告らが主張する判断基準は,承認当時の医学的,薬学的知見を考慮しないものであるというほかなく,これを採用することはできない。 (2) イレッサの有用性ア現時点における有用性前記第2の4(3),第4の3(2)ウ,第5の7の認定・判断によれば,以下のとおり認められる。 まず,効能,効果ないし有効性についてみると,イレッサの投与による治療は,セカンドライン治療において従来の化学療法で治療効果を得られなかった患者に対しても治療効果を発揮し,第Ⅲ相試験(INTEREST試験)では,全生存期間について,イレッサのドセタキセルに対する非劣性が証明された。また,イレッサは,多数の研究報告によりEGFR遺伝子変異陽性の患者に対しては特に治療効果が高いとされており,第Ⅲ相試験(IPASS試験及びNEJ002試験)では,無増悪生存期間について,ファーストライン治療においても標準的治療法である併用療法に対 する優越性が示された。これらの第Ⅲ相試験の結果は,イレッサには延命効果があることを推測させるものであった。 次に,副作用ないし安全性についてみると,イレッサには,副作用として間質性肺炎を発症する危険が十分にあり,イレッサによって発症する間質性肺炎は,従来の抗がん剤よりも,重篤又は致死的なものであり発症頻度も高いが,副作用死亡率自体は従来の抗がん剤と大きく異なるものではなかった。副作用全体でみると,従来の殺細胞性抗がん剤において多くみられた血液毒性などの重大な副作用がみられず,QOLを害する副作用である嘔吐や下痢などの発症頻度もそれほど高くなく,その症状の程度も軽度であるとみることができる。また,従来の殺細胞性抗がん剤による治療が,血 毒性などの重大な副作用がみられず,QOLを害する副作用である嘔吐や下痢などの発症頻度もそれほど高くなく,その症状の程度も軽度であるとみることができる。また,従来の殺細胞性抗がん剤による治療が,血液毒性のうち白血球減少に対する治療の進展により比較的安全に実施できるようになったが,イレッサによる治療も,イレッサにより発症する間質性肺炎の特徴(早期発症例)の発見や間質性肺炎の発症危険因子・予後不良因子の研究の進展に伴い,慎重な投与や入院管理によりイレッサによる間質性肺炎の副作用報告数も減少傾向にある。 以上の諸点を比較考量すれば,イレッサは,現時点において,その効能,効果に比べて,著しく有害な副作用があるとまで認めることはできないから,セカンドライン治療だけでなく,ファーストライン治療においても有用性が認められるというべきである。 イ承認時における有用性前記第4の3(1)ウの認定・判断によれば,以下のとおり認められる。 まず,効能,効果ないし有効性についてみると,イレッサ投与によるセカンドライン治療においては,従来の非小細胞肺がんの抗がん剤と同程度の治療効果があり,従来の化学療法で治療効果を得られなかった患者に対しても治療効果を得ることができることがあった。 次に,副作用ないし安全性についてみると,イレッサには,副作用とし て間質性肺炎を発症する危険が十分にあるところ,一般的には間質性肺炎はその大半が投与の中止又はステロイド薬により改善されるが,死に至ることがありうるというものであり,イレッサにおいても間質性肺炎により致死的な転帰をたどることがあり,従来の抗がん剤一般と比べて,特に重篤であるとまではいえず,また発症頻度が高いとまではいえない状況にあった。加えて,イレッサには,従来の殺細胞性抗がん剤において多くみられ な転帰をたどることがあり,従来の抗がん剤一般と比べて,特に重篤であるとまではいえず,また発症頻度が高いとまではいえない状況にあった。加えて,イレッサには,従来の殺細胞性抗がん剤において多くみられた血液毒性などの重大な副作用がみられず,QOLを害する副作用である嘔吐や下痢などの発症頻度もそれほど高いとはいえず,その程度も軽微であり,副作用の種類が従来の抗がん剤と異なる新たな治療の選択肢となるものであり,ファーストライン治療においても,従来の抗がん剤単剤と同程度の治療効果を期待できるものであった。 また,前記第6の2(2)アのとおり,現時点においてイレッサに有用性が認められ,イレッサは,承認時から現時点までの間,医薬品の客観的性状に変化がないのであるから,現時点におけるイレッサの有用性により承認時におけるイレッサの有用性を推認することができる(ただし,EGFR遺伝子変異の有無によりイレッサの治療上の効果が異なるとされていることが認められるが,EGFR遺伝子変異の有無による効果の差はイレッサの承認後に判明した知見であるから,EGFR遺伝子変異に関する前記知見は,承認当時の有用性の判断に影響を与えるものではない。)。 したがって,イレッサは,承認時において,セカンドライン治療において有用性が認められるだけでなく,ファーストライン治療においても有用性が認められるというべきであり,イレッサには設計上の欠陥があると認めることはできない(3) 当事者の主張について原告らは,イレッサの第Ⅲ相試験では,日本人における延命効果を証明できておらず,イレッサには有用性の前提となる有効性が認められないと主張 する。 しかし,第Ⅲ相試験の目的がさらなる標準的治療法の確立ということにある以上,第Ⅲ相試験の結果,標準的治療法と比較して延命効果 サには有用性の前提となる有効性が認められないと主張 する。 しかし,第Ⅲ相試験の目的がさらなる標準的治療法の確立ということにある以上,第Ⅲ相試験の結果,標準的治療法と比較して延命効果が確認されれば,有効性が再度確認されたこととなるだけでなく,標準的治療法に組み入れられることになるが,第Ⅲ相試験の試験デザインや規模などによっては,統計学的に適切な結果が得られないこともあり得るのであるから,第Ⅲ相試験の結果において標準的治療法に対して優越性又は同等性を統計学的に示すことができなかったとしても,その事実のみをもって直ちに当該医薬品の有効性が否定されるものではない。科学的な根拠に基づいて医薬品の有用性を判断すべきであるということと,第Ⅲ相試験により全生存期間の延長について標準的治療法に対して優越性を示すということとは同義ではないにもかかわらず,原告らの上記主張は,その前提において両者を混同するものであるか,その両者の関係の一部のみを取り出したものであるとの疑いがある。 また,第Ⅲ相試験では,日本人患者の全生存期間の延長は確認されていないが,代替評価項目である無増悪生存期間から真の評価項目である延命効果があることを推測することができ,ファーストライン治療におけるEGFR遺伝子変異陽性の日本人を対象とした第Ⅲ相試験(IPASS試験及びNEJ002試験)では無増悪生存期間の延長が確認されたのである。したがって,日本人を対象にした第Ⅲ相試験で延命効果が確認されていないという原告らの主張の前提は認められないものである。 以上によれば,原告らの上記主張には理由がない。 3 適応拡大による欠陥について(1) 放射線療法との併用療法への適応拡大原告らは,放射線療法との併用に関するイレッサの有用性が確認されていないにもかかわらず,イレ 上記主張には理由がない。 3 適応拡大による欠陥について(1) 放射線療法との併用療法への適応拡大原告らは,放射線療法との併用に関するイレッサの有用性が確認されていないにもかかわらず,イレッサは放射線療法との併用が制限されなかったと して,放射線療法との併用へ適応を拡大したことをもって適応拡大の欠陥があると主張するようである。 しかし,本件患者らの中には,放射線療法との併用療法を受け適応拡大の欠陥によって被害を受けた者はいないことから,原告らの主張には理由がない。 (2) ファーストライン治療への適応拡大ア原告らは,治験によりファーストライン治療におけるイレッサの有用性が確認されていないにもかかわらず,イレッサはセカンドライン治療以降に適応が制限されなかったとして,ファーストライン治療へ適応を拡大したことをもって適応拡大の欠陥があるとし,原告Lは,ファーストライン治療においてイレッサの投与を受けた旨主張する。 しかし,前記第1の4(2)ウの認定・判断のとおり,セカンドライン治療におけるIDEAL1試験の結果(審査センター判定)における日本人群(250mg/日)の奏功率は,ファーストライン治療において期待有効率とされる水準(奏功率20%)を上回り,全患者群(250mg/日)の奏効率も上記期待有効率と比較して遜色のない値を示すものと評価することができる。そして,一般に,抗がん剤は,ファーストライン治療の結果,多剤耐性が生じることがあるほか(薬剤耐性,前記第1の3(2)ウ),患者の体力が低下することなども重なって,セカンドライン治療はファーストライン治療よりも治療の効果を得にくく,治療を重ねるにつれて治療の効果が得られにくくなる,すなわち,一般的にはセカンドライン治療よりもファーストライン治療における奏功率の ンドライン治療はファーストライン治療よりも治療の効果を得にくく,治療を重ねるにつれて治療の効果が得られにくくなる,すなわち,一般的にはセカンドライン治療よりもファーストライン治療における奏功率の方が高いと考えられていることからすれば,上記のIDEAL1試験の結果は,ファーストライン治療における奏効率の高さを予測させ,当時の医学的,薬学的知見を前提によれば,この予測は合理的なものであったということができる。 また,イレッサは,第Ⅰ相試験(V1511試験)では従来の化学療法 による治療効果を得られなかった患者に対して,非小細胞肺がんでは23例中5例で部分奏功(PR)が認められ,IDEAL2試験では,サードライン治療の患者を含むものであったにもかかわらず,11.8%(250mg/日群)の奏効率を示したのであり,従来の化学療法により治療効果を得られなかった患者に対しても治療効果を得られることが予測されるものであった。 さらに,前記第1の4(3)ウの認定・判断のとおり,イレッサは,第Ⅲ相試験(IPASS試験及びNEJ002試験)で,無増悪生存期間に関して,ファーストライン治療においても標準的治療法である併用療法に対する優越性が示され,延命効果があることが推認され,現時点においてイレッサにはファーストライン治療での有用性が認められるところ,イレッサは,承認時から現時点までの間,医薬品の客観的性状に変化がないのであるから,承認時におけるイレッサの有用性が推認されるというべきである。 以上によれば,平成14年7月当時,イレッサは,ファーストライン治療においても有効性,有用性が認められるものであったというべきであるから,原告らの上記主張には理由がない。 イ(ア) 原告らは,イレッサによる治験は,セカンドライン治療以降の患者を対象 トライン治療においても有効性,有用性が認められるものであったというべきであるから,原告らの上記主張には理由がない。 イ(ア) 原告らは,イレッサによる治験は,セカンドライン治療以降の患者を対象とするものであり,ファーストライン治療における効果は臨床試験により直接検証されていない旨主張する。 しかし,イレッサ承認当時には,抗がん剤使用に関するガイドラインなどはなかったが,ファーストライン治療における標準的治療法としてプラチナ製剤と新規抗がん剤の併用療法が行われていた状況にあり,保険適用のある標準的治療法が既に存在して一定の治療効果を期待できるにもかかわらず,患者があえて新薬による治療を望む動機に乏しく,ファーストライン治療における臨床試験の実施が困難であった(前記第2 の2(1)オ)というべきである。そうすると,原告らの主張は,当時としては実施困難な臨床試験を要求する前提において失当であり,ファーストライン治療における効果が臨床試験により直接検証されていないことのみをもって,有効性が認められないというべきではない。 (イ) 原告らは,仮にイレッサのファーストライン治療における有効性が合理的に予測できたとしても,ファーストライン治療における副作用に関する実証的なデータがないのであるから,副作用を安易に予測して適応拡大することは許されないと主張する。この主張は,論理的に,ファーストライン治療とセカンドライン治療における副作用には差異があるとの見解を前提とすると解される。 しかし,ファーストライン治療とセカンドライン治療における差異は,化学療法による治療回数,すなわち,薬剤耐性の発生等が影響して,ファーストラインよりもセカンドライン,サードラインと進んでいくにつれて,治療の効果が得られにくくなる点にあるのであって,ファ 異は,化学療法による治療回数,すなわち,薬剤耐性の発生等が影響して,ファーストラインよりもセカンドライン,サードラインと進んでいくにつれて,治療の効果が得られにくくなる点にあるのであって,ファーストライン治療とセカンドライン治療における副作用に差異があるということを示す証拠はない。 したがって,原告らの上記主張は,その前提が認められないのであるから,理由がない。なお,原告らの主張は,イレッサの副作用として発生する重篤な間質性肺炎の発生を指摘するものであったとも解されるが,前記第4の3(1)ウのとおり,従来の抗がん剤と比較して,特に重篤であり,発症頻度が高いとまではいえないのであるから,理由がない。 4 指示・警告上の欠陥について(1) 判断枠組みア指示・警告上の欠陥の内容薬事法上,医薬品は,これに添附する文書又はその容器若しくは被包に 同条各号に掲げる事項が記載されていなければならないとされ(薬事法52条),添付文書の記載事項(用法,用量その他使用及び取扱い上の必要な注意(同条1号)等),記載上の留意事項,(同法53条),記載禁止事項(同法54条)がそれぞれ定められている。同法52条1号の規定に基づき,医薬品の提供を受ける患者の安全を確保し適正使用を図るために,医師,歯科医師及び薬剤師に対して必要な情報を提供する目的で当該医薬品の製造業者又は輸入販売業者が作成する文書が医療用医薬品の添付文書である。(添付文書通達・丙D13〔第1の1〕)製造物責任法上,当該製造物が通常有すべき安全性を欠くか否かについては,「当該製造物の特性,その通常予見される使用形態,その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期,その他当該製造物にかかる事情を考慮して」判断するとされている(同法2条2項)。これを医薬品についてみると, 該製造物の特性,その通常予見される使用形態,その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期,その他当該製造物にかかる事情を考慮して」判断するとされている(同法2条2項)。これを医薬品についてみると,医薬品は,その物理的・化学的な性質等による一定の作用を身体や病原体に及ぼすことで,疾病や症状の改善を図ることを目的とする物質であって,その性質上,治療上の効能,効果とともに何らかの副作用の生ずることは避け難いものであり,医薬品としての有用性は,承認された用法,用量その他使用及び取扱い上の注意が遵守される限りにおいて認められるものである。すなわち,当該医薬品の安全性は,添付文書等による使用方法や危険性等についての適切な情報が適切に提供されることと密接不可分な関係にあり,いわば,医薬品を販売する場合には,その使用方法や危険性等について適切な情報を医薬品と併せて販売することが予定されているものである。 したがって,医薬品が,添付文書等により使用方法や危険性等の情報が適切に提供されないまま販売された場合,すなわち指示,警告が不十分又は不適切なまま販売された場合には,医薬品として通常有すべき安全性を欠き,製造物責任法上の欠陥(指示・警告上の欠陥)があるものと解する のが相当である。 イ指示・警告の対象(ア) 前記第5の4(3)の認定事実のとおり,イレッサは,医療用医薬品として,医師等によって使用され又はこれらの者の処方せん若しくは指示によって使用されることを目的として供給される医薬品であり,また,要指示医薬品として,薬事法49条1項により,医師等から処方せんの交付又は指示を受けた者以外の者に対しては販売,授受等が禁止される医薬品であるから,イレッサを投与するか要否・可否,投与時期,投与期間等の医学的判断は,医学に関する専門知識を ,医師等から処方せんの交付又は指示を受けた者以外の者に対しては販売,授受等が禁止される医薬品であるから,イレッサを投与するか要否・可否,投与時期,投与期間等の医学的判断は,医学に関する専門知識を有する医師等が行うことが予定されている。 また,添付文書通達(丙D13〔第1の1〕)によれば,医療用医薬品の添付文書は,薬事法52条1号の規定に基づき医薬品の提供を受ける患者の安全を確保し適正使用を図るために,医師等に対して必要な情報を提供する目的で作成されるものであるから,その名宛人は医師等が予定されているものである(前記第5の1(1))。 したがって,医療用医薬品についての製造物責任法上の指示・警告上の欠陥の判断においては,製造(輸入販売)業者等は,当該医薬品の販売時点において,当該医薬品を安全かつ適正に使用するために必要な情報を,医療現場で当該医薬品を使用することが想定される平均的な医師等が理解できる程度に提供する必要があり,かつそれで足りるものと解するのが相当である。 (イ) 原告らは,医療用医薬品についての製造物責任法上の指示・警告上の欠陥の判断においても,製薬会社は,医療関係者のみならず患者に対しても当該医薬品の有効性や安全性についての情報を提供する必要があるとした上,患者に対する注意喚起は,医学的知識が十分でない者がその危険性を十分に理解できる程度に具体的で分かりやすいものでない限 り,指示・警告上の欠陥が存在する旨主張する。 しかし,医療用医薬品や要指示医薬品に医師等による処方せんや指示が必要とされる趣旨は,上記医薬品が使用期間中医師の診断及び指導を必要とし,又は重篤な副作用が発現しやすい等の性質を有するものであって,上記医薬品を安全かつ適正に使用するためには,当該医薬品の投与の要否・可否,投与時期,投与 薬品が使用期間中医師の診断及び指導を必要とし,又は重篤な副作用が発現しやすい等の性質を有するものであって,上記医薬品を安全かつ適正に使用するためには,当該医薬品の投与の要否・可否,投与時期,投与期間等についての医師等の専門的知識に基づく医学的判断が必要とされるからであって,この判断には患者の判断は介在しない。換言すれば,医療用医薬品については,製薬会社は医師等に対して処方に必要な情報を提供し,これらの情報の提供を受けた医師等が,自らの医学に関する専門的知識を踏まえて医学的判断を行い,患者に対して説明することが予定されているものであるから,製造物責任法上の指示・警告として,製薬会社が,直接患者に対して,患者が医療用医薬品を服用するか否か等を判断するのに必要な情報を提供することは予定されていない。 もちろん,医師等により処方された医薬品を服用するに際しては,患者が当該医薬品の副作用等の危険性等についても十分に理解した上でこれに同意することが必要であるが,これは医師の患者に対するインフォームドコンセントの問題である。患者に対するインフォームドコンセントは,この医師等の専門的判断を,適切に患者に伝達し,治療等に対する理解と同意を得ることであって,原告らの主張が,これを超える内容を主張するものであるとすれば,これを採用する余地はない。 なお,製薬会社が作成して医師等に配布している患者向けの説明文書(同意文書,パンフレット等)は,医師の患者に対するインフォームドコンセントを補助する媒体であって,当該説明文書を患者に対して交付して説明するか,口頭のみで説明するかを含めて医師の判断にゆだねられているものであるから,これらの記載をもって,製造物責任法上の指 示・警告上の欠陥が判断されるものでないことはいうまでもない。 ウ指示・警 みで説明するかを含めて医師の判断にゆだねられているものであるから,これらの記載をもって,製造物責任法上の指 示・警告上の欠陥が判断されるものでないことはいうまでもない。 ウ指示・警告上の欠陥の判断方法(ア) 判断の対象となる表示媒体医療用医薬品については,薬事法上,当該医薬品の提供を受ける患者の安全を確保し適正使用を図るために,医師等に対し,添付文書により情報提供がされることが予定されていることから(薬事法52条1号),製造物責任法上,当該医薬品を安全かつ適正に使用するために必要な情報(指示・警告)が提供されたか否かは,添付文書に記載された内容を中心に判断するのが相当である。加えて,製薬会社は,医師等に対し,添付文書に記載された情報を補完するため,製品情報概要,医薬品インタビューフォーム等により情報提供を行うことがあるから,指示・警告上の欠陥の判断においては,添付文書の記載を中心としつつ,副次的に当該医薬品の販売に際して製薬会社が医師等に対して提供した上記各文書の内容をも併せ考慮するのが相当である。 原告らは,医薬品についての指示・警告上の欠陥の判断の対象となる表示媒体には,添付文書の表示だけでなく,消費者・使用者に対して製造物の安全性・危険性に関わる情報を与えるものであれば,製薬会社によって提供されるパンフレットや広告等すべての媒体が含まれる旨主張するが,前記イのとおり,製造物責任法上,製薬会社が,医療用医薬品を安全かつ適正に使用するために必要な指示・警告をする対象者は医師等であって,患者はこれに含まれないことから,製造業者等が患者等を対象として作成したパンフレットや広告等は,指示・警告上の欠陥の有無の判断の対象となる表示媒体には含まれないというべきである。 (イ) 指示・警告上の欠陥の存在時期(医学的, ,製造業者等が患者等を対象として作成したパンフレットや広告等は,指示・警告上の欠陥の有無の判断の対象となる表示媒体には含まれないというべきである。 (イ) 指示・警告上の欠陥の存在時期(医学的,薬学的知見の基準時)前記第6の1(2)の認定・判断のとおり,製造物責任法上,医薬品の欠陥の有無の判断は,引渡時点,すなわち当該医薬品が最初に流通に置 かれた時点において欠陥が存在したことが必要であり,当該医薬品の引渡時の医学的,薬学的知見を基準として行われるべきものであるから,医療用医薬品の指示・警告上の欠陥の有無の判断も,当該医療用医薬品の引渡当時の医学的,薬学的知見を基準に,前記内容の情報提供(指示・警告)が行われたか否かを判断するのが相当である。 本件においては,前記第5の1(4)の認定事実のとおり,平成14年7月に作成された第1版添付文書以降,添付文書の内容が順次改訂されている。前記第6の4(1)アのとおり,医薬品は添付文書等で提供される情報と不可分な形で販売されるものであるから,指示・警告上の欠陥該当性の判断においては,改訂後の添付文書記載の指示・警告とともに流通に置かれた医薬品と改訂前の添付文書記載の指示・警告とともに流通に置かれた医薬品とは異なるものとして扱うべきである。したがって,指示・警告上の欠陥の有無の判断は,改訂前の添付文書とともに流通に置かれた医薬品についてはそれが流通に置かれた日,改訂後の添付文書とともに流通に置かれた医薬品についてはそれが流通に置かれた日をそれぞれ基準として行うべきである。したがって,事後的に添付文書の内容すなわち指示・警告の内容が改訂されたとの事実をもって,直ちに引渡時点における指示・警告上の欠陥の存在を推認することはできず,引渡後における添付文書の改訂の経緯,医学的,薬学的知 的に添付文書の内容すなわち指示・警告の内容が改訂されたとの事実をもって,直ちに引渡時点における指示・警告上の欠陥の存在を推認することはできず,引渡後における添付文書の改訂の経緯,医学的,薬学的知見の変化等は,引渡時点における指示・警告上の欠陥の存在を推認する際に,他の判断要素と併せ考慮されるべき一つの副次的な事情にとどまるものと解するのが相当である。 したがって,本件においては,亡M,亡N,原告Lとの関係においては,第1版添付文書とともに流通に置かれたイレッサの指示・警告上の欠陥の存否を,平成14年7月時点における医学的,薬学的知見を基準に判断することとなり,亡Oとの関係においては,第3版添付文書とと もに流通に置かれたイレッサの指示・警告上の欠陥の存否を,平成14年10月時点における医学的,薬学的知見を基準に判断することとなる。 (ウ) 判断において考慮すべき事情製造物責任法上,当該製造物が通常有すべき安全性を欠くか否かの判断において考慮要素として挙げられている「当該製造物の特性,その通常予見される使用形態,その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期」は例示であって,その判断は,「その他当該製造物にかかる事情を考慮して」される(同法2条2項)。 前記4(1)イの認定・判断のとおり,医療用医薬品における指示・警告上の欠陥の有無の判断においては,当該医薬品の販売時点において,当該医薬品を安全かつ適正に使用するために必要な情報を,医療現場において当該医薬品を使用することが想定される平均的な医師等が理解することができる程度に提供(指示・警告)されたか否かが問題になる。 したがって,イレッサについて指示・警告上の欠陥があったかの判断は,イレッサの販売時における,イレッサの副作用とされる急性肺障害・間質性肺炎等に関する に提供(指示・警告)されたか否かが問題になる。 したがって,イレッサについて指示・警告上の欠陥があったかの判断は,イレッサの販売時における,イレッサの副作用とされる急性肺障害・間質性肺炎等に関する医学的,薬学的知見,医療現場の医師等に対して提供されていた情報の内容,医療現場の医師等の認識等を総合考慮して行うものと解するのが相当である。 (2) 平成14年7月当時の分子標的治療薬の安全性に関する医師等の認識ア平成14年7月当時の薬剤性肺障害,薬剤性間質性肺炎に関する知見前記第3の3(3)及び(4)の認定・判断並びに前記第5の1(6)の認定事実のとおり,平成14年7月当時,既存の殺細胞性抗がん剤には薬剤性間質性肺炎の報告のあるものが多く,添付文書の警告欄に間質性肺炎の増悪等について記載のある抗がん剤もあるなど,抗がん剤によっては薬剤性間質性肺炎が発症する危険性があることについては,医療現場の医師等に認 識されていた。そして,薬剤性間質性肺炎の予後に関しては,急性間質性肺炎(AIP/DAD)型は急激に発症し,予後が不良であるとの見方が有力であり,また,抗がん剤による薬剤性肺障害の特徴として,急性間質性肺炎はステロイド療法に対する反応が悪く予後が不良であることを指摘する研究報告もあった。 もっとも,前記第3の3(3)及び(4)の認定・判断のとおり,薬剤性肺障害は,薬剤の中止のみ,又はステロイド剤の投与により病態が改善することが多いとの考え方もあり,病変の種類によっても反応は異なり,同じ間質性肺炎であっても,重症例で線維化を伴っていれば可逆性に欠けるが,病変が初期や軽度であれば可逆性があるというように重症度や進行度に左右されるとされていた。また,薬剤性間質性肺炎の予後について,治療反応性は原因薬剤によっても異なり得るとさ いれば可逆性に欠けるが,病変が初期や軽度であれば可逆性があるというように重症度や進行度に左右されるとされていた。また,薬剤性間質性肺炎の予後について,治療反応性は原因薬剤によっても異なり得るとされ,症例によっては致死的となるものもあるが,薬剤性間質性肺炎の疾患全体としては,その9割が全快又は軽快しており,一般的にはステロイド療法などの治療によって重篤化を回避できることが多いとの考え方があった。 以上によれば,平成14年7月当時,薬剤性間質性肺炎の発症頻度,発症傾向,予後等は,薬剤の作用機序や薬効は薬剤ごとに異なり,間質性肺炎の病態は原因に対して非特異的で,異なる病態をもたらす機序が不明であるというものであり,抗がん剤の種類によっては薬剤性間質性肺炎が発現する危険性があることは知られていたが,抗がん剤一般に急性型の薬剤性肺傷害が生じ,その予後が不良であるとの知見が存在していたとまでいうことはできず,抗がん剤ごとに発症頻度,発症傾向,予後等については異なるとの考え方が一般的であったものと認められる。 イ平成14年7月当時の分子標的治療薬に関する知見分子標的治療薬は,従来の殺細胞性抗がん剤とは異なる作用機序を有する新しいタイプの抗がん剤であり,イレッサが承認された平成14年7月 当時,抗悪性腫瘍剤として承認されていた分子標的治療薬は,平成13年4月に承認されたハーセプチン,同年9月に承認されたリツキサン,同年12月に承認されたグリベックのみであり,その他の多くの分子標的治療薬は未だ開発段階にあったもので,その作用機序についても十分に解明されていない部分があったことが認められるから(甲E51〔92頁〕,甲H18〔577頁〕),分子標的治療薬に関する理解が医療現場における医師等の間に十分浸透していたということはできず,分 十分に解明されていない部分があったことが認められるから(甲E51〔92頁〕,甲H18〔577頁〕),分子標的治療薬に関する理解が医療現場における医師等の間に十分浸透していたということはできず,分子標的治療薬を用いたがん治療にたずさわる医療現場の医師等は,分子標的治療薬に関する医学雑誌の論文や,製薬会社が公表する情報等の限られた情報源から,分子標的治療薬の特徴,有効性,危険性等に関する情報を収集するほかない状況にあったということができる。 また,前記第5の3(2)の認定事実のとおり,平成14年7月当時,分子標的治療薬は,従来の殺細胞性の抗がん剤とは異なる作用機序を有する抗がん剤であると位置付けられており,がんの増殖や進展に特異的にかかわる分子や,がん細胞だけに過剰発現がみられる分子を標的とし,がん細胞に特異的な機能を選択的に抑えるため,殺細胞効果が弱いことが多く,正常細胞に与える影響は小さいと考えられていた。そして,このような分子標的治療薬の作用機序に関する理解からすれば,平成14年7月当時,分子標的治療薬が従来の殺細胞性の抗がん剤と同様に薬剤性間質性肺炎を引き起こすということは,肺がん治療にたずさわる医師等の間でも予測されていなかったと認めるのが相当である。 (3) 平成14年7月当時に医師等に提供されていたイレッサに関する情報ア被告会社の関与による情報提供(ア) プレスリリース等前記第5の4(2)イの認定事実によれば,被告会社は,平成14年1月25日のイレッサの承認申請時の資料である添付文書案には,間質性 肺炎について記載しておらず,また,厚生労働省の審査センターから,「本邦での臨床試験における死亡例,及び間質性肺炎を発症した症例についての詳細を示し,本剤との関連性を考察すること。」との事前照会に対す について記載しておらず,また,厚生労働省の審査センターから,「本邦での臨床試験における死亡例,及び間質性肺炎を発症した症例についての詳細を示し,本剤との関連性を考察すること。」との事前照会に対する回答についても,平成14年3月29日,国内3症例を報告した上,上記3症例は病勢進行に伴うもので,同時点では,イレッサが間質性肺炎を誘導するという直接的な証拠が得られておらず,イレッサが間質性肺炎を誘導する可能性は低いと考えるとの見解を示していたというのである。 したがって,被告会社は,その後,審査センターからの助言を受けて,第1版添付文書の「重大な副作用」欄に間質性肺炎を記載することを了承したが,少なくとも審査センターに対して上記回答を行った平成14年3月下旬までは,間質性肺炎について,イレッサとの関連性が否定できない副作用として公表する必要はないと判断していたということができる。 このように,被告会社は,間質性肺炎についてイレッサとの関連性が否定できない副作用として公表する必要はないと判断していたことから,前記第5の2(2)の認定事実のとおり,被告会社が,プレスリリース,ホームページ上の記事,記者会見において,平成13年5月から平成14年7月にかけて,ZD1839(イレッサの開発コード)に関して公表した情報には間質性肺炎に関する記載はなく,ZD1839の特徴として,①従来の抗がん剤とは異なる新しいタイプの分子標的治療薬であること,②従来の肺がん治療のような重い副作用がなく,主な副作用は発疹,乾燥皮膚あるいは掻痒のような軽度から中等度の皮膚反応や下痢であり,重篤な副作用はまれで通常は病勢の進行に関連していること,③一日一錠経口投与であることを,その特筆すべき長所として掲げるものであった。 そして,前記①及び②を併せ考 応や下痢であり,重篤な副作用はまれで通常は病勢の進行に関連していること,③一日一錠経口投与であることを,その特筆すべき長所として掲げるものであった。 そして,前記①及び②を併せ考慮すると,イレッサは,新しいタイプの分子標的治療薬であるから,従来の殺細胞性の抗がん剤とは異なり重い副作用がないもので,まれに生じる重篤な副作用は通常は病勢進行によるものであること,副作用は軽度から中等度の皮膚反応や下痢にとどまることを印象付けるものであったということができる。 (イ) 医療関係者を対象とした雑誌,小冊子被告会社が費用を負担して刊行されていた医療関係者を対象とした雑誌(SignalJapan)によれば,EGFR標的薬の副作用については,EGFRを極めて特異的に阻害することを示唆しており,患者のEGFR活性を99%まで阻害しても,皮膚に何らかの影響を及ぼす可能性はあるが,それ以上の副作用は生じないことを暗に示すものであるなどとし,副作用の程度が軽微であることを示すものであったということができる。 また,被告会社が企画した雑誌(MedicalTribune)の記事においては,ZD1839が,従来の抗がん剤にみられる骨髄抑制をほとんど示さず,主な副作用は,ニキビ様の皮疹であり,頻度が高くない副作用として下痢と肝機能障害もあるが,投与をある程度中止すれば非常に速やかに改善しますので,臨床上あまり問題にはならないとの記載があり,副作用の程度が軽微であることを示すものであったということができる。 さらに,平成14年2月及び同年3月,被告会社が費用を負担し,医療関係者に対する分子標的治療薬,特にEGFRチロシンキナーゼ阻害剤等に関する情報提供を目的として刊行した小冊子(よくわかる分子標的療法(上,下)的を得た話)では,分子標 被告会社が費用を負担し,医療関係者に対する分子標的治療薬,特にEGFRチロシンキナーゼ阻害剤等に関する情報提供を目的として刊行した小冊子(よくわかる分子標的療法(上,下)的を得た話)では,分子標的治療薬を夢のような薬と位置付ける一方,患者らに対しては正確な情報を伝える必要性を指摘し,副作用については,従来の抗悪性腫瘍薬と同等あるいはそれ以上の 注意を払う必要があること,特に有害事象については従来と違うことを指摘するものの,具体的な副作用の内容については記載されておらず,間質性肺炎に関する情報提供はされていなかった。 イ医療現場の医師等のイレッサに対する認識(ア) 前記第5の2(2)ウの認定事実によれば,イレッサの効果については,雑誌(MedicalTribune)の記事等において,セカンドラインの患者を対象としたIDEAL1試験の結果が紹介され,奏効率が18. 5%,病勢コントロール率が54.4%,特に日本人に対する腫瘍縮小効果の奏効率が27.5%と外国人に比して日本人に高い奏効率を示すことが示され,この結果は,従前の非小細胞肺がんの標準治療薬であるドセタキセルのセカンドラインの奏効率が約7%であったこと等からすれば,イレッサが日本人に対してセカンドラインで27.5%の奏効率を示したことは驚異的な事実であるとして,医療現場の医師等に受け止められていた。(甲E51〔93頁〕)(イ) また,イレッサについては,従来の殺細胞性の抗がん剤とは異なる作用機序を持つ新しい分子標的治療薬であり,従来の抗がん剤に見られたような重い副作用が無く,副作用は軽度から中等度の皮膚反応や下痢にとどまるなどとして副作用の程度が軽微であることが強調され,分子標的治療薬の作用機序に関する理解と相まって,肺がんの治療に携わる医師等の間でも間 作用が無く,副作用は軽度から中等度の皮膚反応や下痢にとどまるなどとして副作用の程度が軽微であることが強調され,分子標的治療薬の作用機序に関する理解と相まって,肺がんの治療に携わる医師等の間でも間質性肺炎が発症するリスクはほとんど考えられていない状況にあった。 (ウ) さらに,イレッサは,従来の抗がん剤のように医療機関において長時間の点滴を必要とするものではなく,錠剤を1日1剤経口投与するものであり,かつ,肺がん化学療法についての十分な知識と経験を有する医師や,緊急時に十分に措置できる医療機関における使用が限定されたものではなかったから,イレッサの販売時においては,必ずしも肺がん化 学療法についての十分な知識と経験を有するとは限らない医師が処方することも想定され,かつ,緊急時に十分な措置をすることができる医療機関に限らず,患者が自宅で経口投与することが想定されていた状況にあった。 (4) 第1版添付文書における指示・警告上の欠陥についてア第1版添付文書における指示・警告上の欠陥について(ア) 前記第5の4(2)イの認定事実によれば,イレッサの国内外での臨床試験やEAPによる副作用報告において認められた間質性肺炎は,イレッサとの関連性が否定できなかったこと,また,間質性肺炎は,他の抗がん剤でもみられる副作用であり,いったん発症したときは死亡に至ることのある疾患であることが知られていたこと等からすれば,申請資料及びその後の副作用報告等から,平成14年7月当時,イレッサによる間質性肺炎に関し,イレッサにより症例によっては死に至ることがあり得る間質性肺炎を発症する可能性は否定できず,少なくとも既存の抗がん剤と同程度の間質性肺炎が発症する可能性はあるということが判明していたということができる。 そうすると,平成14年 至ることがあり得る間質性肺炎を発症する可能性は否定できず,少なくとも既存の抗がん剤と同程度の間質性肺炎が発症する可能性はあるということが判明していたということができる。 そうすると,平成14年7月の第1版添付文書においては,上記のようなイレッサによる間質性肺炎に関する情報について,当時の医療現場の医師等のイレッサに対する認識を前提に,イレッサを安全かつ適正に使用するために必要な情報を,医療現場においてイレッサを使用することが想定される平均的な医師等,すなわち必ずしも肺がん化学療法についての十分な知識と経験を有するとは限らない医師等が理解することができる程度に提供(指示・警告)される必要があったものというべきである。 (イ) そして,前記(3)アの認定・判断のとおり,被告会社の関与によるイレッサに関する情報提供の内容は,被告会社が少なくとも平成14年3 月下旬までは,間質性肺炎を,イレッサとの関連性が否定できない副作用として公表する必要はないと判断していたことを反映し,プレスリリースやホームページにおいても,ZD1839の副作用は軽度から中等度の皮膚反応や下痢にとどまるなどとして,副作用が少ないということをイレッサの特筆すべき長所として強調する一方,間質性肺炎の発症の危険性を公表していなかった。 また,前記(3)イの認定・判断のとおり,平成14年7月当時,分子標的治療薬についての医療現場の医師等の理解は十分ではなく,被告会社による情報提供や医学雑誌等から情報を得るほかない状況にあったことを考えると,上記情報提供を受けた当時の医療現場の医師等のイレッサに対する認識は,非小細胞肺がん治療でセカンドラインの奏効率が27.5%と日本人に非常によく効く新しいタイプの抗がん剤であり,従来の抗がん剤とは異なって副作用が軽微であ の医療現場の医師等のイレッサに対する認識は,非小細胞肺がん治療でセカンドラインの奏効率が27.5%と日本人に非常によく効く新しいタイプの抗がん剤であり,従来の抗がん剤とは異なって副作用が軽微であるというものであり,加えて患者が自宅で服用することができる経口薬であるという性質からすれば,従来の抗がん剤に比して副作用に関する警戒を十分にしないまま広く用いられる危険性があったといわざるを得ない。そして,このような危険性は,薬事・食品衛生審議会第二部会の委員が,平成14年5月24日の審議において表明した危惧(第1の3(2)参照)に他ならないというべきである。 加えて,前記(2)アの認定・判断のとおり,平成14年7月当時の薬剤性間質性肺炎についての知見は,抗がん剤による薬剤性間質性肺炎の予後が不良であって重篤で致死的な転帰をたどるとの知見が存在していたとまでいうことはできず,抗がん剤ごとに発症頻度,発症傾向,予後等については異なるとの考え方が一般的であった。 さらに,前記第5の1(3)及び(4)アの認定事実によれば,使用上の注意通達によれば,「副作用」の記載は,内容からみて重要と考えられる 事項については,記載順序として前の方に配列することとされていたところ,イレッサの第1版添付文書において,間質性肺炎は,「重大な副作用」欄の「1)重度の下痢,脱水を伴う下痢」,「2)中毒性表皮壊死融解症,多形紅斑」,「3)肝機能障害」に続けて最後に記載されていたのであるから,間質性肺炎は,上記4つの重大な副作用の中でも,その内容からみて重要とは考えられられないものと解釈されるおそれがある記載であったということができる(なお,別紙32【海外からの副作用報告196例のうち転帰欄死亡の症例一覧】記載のとおり,下痢,中毒性表皮壊死融解症,肝機能障 られられないものと解釈されるおそれがある記載であったということができる(なお,別紙32【海外からの副作用報告196例のうち転帰欄死亡の症例一覧】記載のとおり,下痢,中毒性表皮壊死融解症,肝機能障害は,それぞれEAPの副作用報告で死亡例が1例ずつ確認されているにとどまる。)。また,使用上の注意通達によれば,「警告」欄の記載は,「致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合,又は副作用が発現する結果極めて重大な事故につながる可能性があって,特に注意を喚起する必要がある場合に記載すること。」とされているから,副作用が発現することが明らかになっている場合に限らず,致死的な副作用が発現する結果極めて重大な事故につながる可能性があると考えられる場合で,かつ特に注意喚起をする必要がある場合であれば足りるところ,イレッサとの関連性が否定できない間質性肺炎は,致死的な副作用が発現する可能性が否定できない場合であり,死亡という極めて重大な事故につながる可能性がある場合であるということができるから,警告欄に記載することについては,使用上の注意通達上支障のないものであったというべきである。 (ウ) 以上によれば,被告会社は,間質性肺炎を重大な副作用欄の最後に記載するのみでは,イレッサとの関連性が否定できない間質性肺炎の発症傾向や予後について,医療現場においてイレッサを使用することが想定される平均的な医師等の間において,危険性の認識の程度に差が生じる可能性があることを認識し得たものということができる。そして,承認 時までの副作用報告において,イレッサとの関連性が否定できない間質性肺炎を発症し,致死的な転帰をたどる例が報告されていたとの事実及び同事実から認識すべき危険性を上記医療現場の医師等に対して正確に伝えるためには,少なくとも第 ,イレッサとの関連性が否定できない間質性肺炎を発症し,致死的な転帰をたどる例が報告されていたとの事実及び同事実から認識すべき危険性を上記医療現場の医師等に対して正確に伝えるためには,少なくとも第1版添付文書の重大な副作用欄の最初に,間質性肺炎を記載すべきであったというべきである。また,イレッサとの関連性が否定できない間質性肺炎が致死的な転帰をたどる可能性があった以上,その点について警告欄に記載して注意喚起を図るべきであったというべきであるから,そのような注意喚起が図られないまま販売されたイレッサは,抗がん剤として通常有すべき安全性を欠いていたものといわざるを得ず,平成14年7月当時のイレッサには指示・警告上の欠陥があったと認めるのが相当である。 なお,前記第5の4(2)イの認定事実のとおり,被告会社が,間質性肺炎を添付文書の「重大な副作用」欄に記載したのは,審査センターの行政指導に従ったものであり,薬事法等の行政規制を前提とした審査センターの行政指導に従った以上,製造物責任法上の指示・警告上の欠陥に該当しないとの見解があり得る。しかし,行政指導に従うことは,当該薬事行政上の関係における問題であって,製造業者とその使用者との法律関係とはその規制する局面が異なるものであるから,両者を同一に論じることはできない。そして,製造物責任法は,被害者保護の観点から,製品の欠陥を制御することができ,かつ,製品の製造販売により利益を得ている製造業者等に対し,危険責任,報償責任として,欠陥のある製品を製造販売したことによる厳格な責任を負わせるという製造物責任の考え方に基づいて解釈されるべきであるから,医薬品の添付文書は,被害者保護の観点から,イレッサについていえば,致死的な転帰をたどりうる重篤な間質性肺炎に罹患する危険から患者をいかにして守るか 責任の考え方に基づいて解釈されるべきであるから,医薬品の添付文書は,被害者保護の観点から,イレッサについていえば,致死的な転帰をたどりうる重篤な間質性肺炎に罹患する危険から患者をいかにして守るかという観点から判断されなければならない。したがって,行政指導に 従った以上製品の欠陥はないという立論は失当である。 イ当事者の主張について(ア) 原告らの主張についてa 原告らは,イレッサの添付文書について,現在の第18版添付文書の警告欄の記載の内容と同じ内容の注意書きとして,①間質性肺炎が致死的であることについての注意喚起のみならず,②初期症状,早期診断に必要な検査・対処方法についての注意喚起,③特発性肺線維症,間質性肺炎等の既往症が死亡リスクを高めることについての注意喚起,④有効性,安全性についての十分な説明と同意を求めることについての注意喚起,⑤医療機関等の限定や一定期間の入院による使用等の限定,⑥他の抗がん剤,放射線療法との併用禁止についての注意喚起,⑦第Ⅱ相臨床試験の除外基準に該当する症例に対する投与禁止についての注意喚起についても,いずれも第1版添付文書において記載すべきであった旨主張する。 b しかし,前記第5の1(4)の認定事実によれば,イレッサの添付文書の警告欄は,平成14年10月の第3版添付文書で創設され,同年12月の第4版添付文書及び平成15年4月の第6版添付文書において改訂され,平成16年9月の第9版添付文書において現在の第18版添付文書と同じ内容の記載になったものである。そして,第9版添付文書は,平成16年9月当時の医学的,薬学的知見を前提に作成されたものであって,以下のとおり,イレッサによる副作用は,承認後の副作用報告や治験等によって判明した事実も多く,第1版添付文書が作成された平成 ,平成16年9月当時の医学的,薬学的知見を前提に作成されたものであって,以下のとおり,イレッサによる副作用は,承認後の副作用報告や治験等によって判明した事実も多く,第1版添付文書が作成された平成14年7月当時において,第9版添付文書が前提としている医学的,薬学的知見が存在していたということはできない。 第4版添付文書の警告欄の記載が改訂された経緯についてみると,前記第5の8の認定事実のとおり,平成14年12月に開催された第 1回安全性検討会において,承認審査時の予想をはるかに超えて市販後に間質性肺炎の発症例があり,その特徴は,普通の抗がん剤による肺障害とは異なり,投与初期(2~3週間目)に発症して致死的な転帰をたどるという承認審査時には把握されていなかった症例が多いこと等が指摘され,今後の対応についての見解が示され,これを受けて,警告欄において,「本剤による治療を開始するにあたり,患者に本剤の有効性・安全性,息切れ等の副作用の初期症状,非小細胞肺癌の治療法,致命的となる症例があること等について十分に説明し,同意を得た上で投与すること。」,「また,急性肺障害や間質性肺炎が本剤の投与初期に発生し,致死的な転帰をたどる例が多いため,少なくとも投与開始後4週間は入院またはそれに準ずる管理の下で,間質性肺炎等の重篤な副作用発現に関する観察を十分に行うこと。」,「本剤は,肺癌化学療法に十分な経験をもつ医師が使用するとともに,投与に際しては緊急時に十分に措置できる医療機関で行うこと。」との記載が追加されたものである。なお,平成14年7月当時,その時点までの副作用報告(10症例)によれば,イレッサ投与開始から9日ないし21日目に間質性肺炎が発現したものは5例であって,その余は1か月ないし3か月後に間質性肺炎が発現したものであり, 時,その時点までの副作用報告(10症例)によれば,イレッサ投与開始から9日ないし21日目に間質性肺炎が発現したものは5例であって,その余は1か月ないし3か月後に間質性肺炎が発現したものであり,かつ,間質性肺炎がいったん軽快したものも5例あるなど,必ずしも,投与初期に間質性肺炎が発症し,致死的な転帰をたどる例が多いとの特徴があると理解されていなかったといわざるを得ないことは,前記第5の4(2)イの認定事実のとおりである。 第6版添付文書の警告欄の記載が改訂された経緯についてみると,前記第5の8の認定事実のとおり,平成14年12月から平成15年3月までに4回にわたり開催された専門家会議において,イレッサ服用中に急性肺障害・間質性肺炎を発症し,詳細調査情報が得られた症 例を解析,検討がされ,平成15年3月に取りまとめられた最終報告書において,イレッサによる急性肺障害・間質性肺炎の予後を悪化させる可能性のある因子として6項目が示唆され,うち性別(男性),がんの組織型(扁平上皮がん),特発性肺線維症(IPF)等の既存(あり)の3項目が主要な予後因子となる可能性が示唆され,これを受けて,平成15年4月に第6版添付文書の警告欄において,「3. 特発性肺線維症,間質性肺炎,じん肺症,放射線肺炎,薬剤性肺炎の合併は,本剤投与中に発現した急性肺障害,間質性肺炎発症後の転帰において,死亡につながる重要な危険因子である。このため,本剤による治療を開始するにあたり,特発性肺線維症,間質性肺炎,じん肺症,放射線肺炎,薬剤性肺炎の合併の有無を確認し,これらの合併症を有する患者に使用する場合には特に注意すること。」との記載が追加されたものである。 第9版添付文書の警告欄の記載が改訂された経緯についてみると,前記第5の8の認定事実のとおり,被告会 らの合併症を有する患者に使用する場合には特に注意すること。」との記載が追加されたものである。 第9版添付文書の警告欄の記載が改訂された経緯についてみると,前記第5の8の認定事実のとおり,被告会社は,平成15年6月から同年12月までの間,イレッサの副作用発現頻度及び危険因子(発症危険因子,予後因子)について検討する目的で,特別調査としてプロスペクティブ調査を行い,平成16年8月,同調査結果報告書(イレッサ錠250プロスペクティブ調査(特別調査)に関する結果と考察)が作成されたことを受け,平成16年9月,第9版添付文書の警告欄において,「4.急性肺障害,間質性肺炎による致死的な転帰をたどる例は全身状態の良悪にかかわらず報告されているが,特に全身状態の悪い患者ほど,その発現率及び死亡率が上昇する傾向がある。 本剤の投与に際しては患者の状態を慎重に観察するなど,十分に注意すること。」との記載が追加されたものである。 c 以上のとおり,イレッサの承認後における安全性会議,専門家会 議,プロスペクティブ調査等による知見の発展と添付文書の改訂の経過の関係は,イレッサによる間質性肺炎の前記特徴が平成14年7月時点において判明していなかったことを伺わせるものということができ,他にイレッサの副作用である間質性肺炎の特徴がその当時把握されていたことを認めるに足りる証拠はなく,原告らの前記主張を採用することはできない。 (イ) 被告会社の主張についてa 被告会社は,平成14年7月当時,第1版添付文書の重大な副作用欄に間質性肺炎の記載があれば,「重大な副作用」とは,重篤度分類通知におけるグレード3の重篤な副作用と考えられるもの,すなわち,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥 ば,「重大な副作用」とは,重篤度分類通知におけるグレード3の重篤な副作用と考えられるもの,すなわち,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるものが想定されるのであるから,間質性肺炎が場合によっては死亡に至るものであることについて,適切に情報提供がされたということができる。したがって,警告欄に記載する必要はないとした上,薬剤を用いる医師には薬剤の副作用について最新の添付文書を確認し,必要に応じて文献を参照するなどして,当該医師の置かれた状況の下で可能な限りの最新情報を収集すべき義務があり(最高裁平成14年11月8日・集民208号465頁),特にイレッサは,医療用医薬品の中でも劇薬・指定医薬品・要指示医薬品に指定されていることから,医師の医薬品情報収集義務の程度は高くなるというべきであるところ,製薬会社は,添付文書の記載内容及び程度については,高度の医学的,薬学的知識を有する医師等が読んで理解し得る程度に記載し,医師等が同添付文書を確認しつつ必要に応じて文献等を参照することにより投薬に必要な医療上の知見を確保し得るような機能を果たせば足りる旨主張する。 b しかし,添付文書の記載内容については,ソリブジン事件により,使用上の注意欄に記載されていても,なお,医療現場におけるとらえ方の違いにより,危険性の認識の程度に差が生じていたことにより副作用被害が生じたことから,記載,表現のあり方等について見直しがされ,特に注意を喚起する必要がある場合には,警告欄等に記載することにより注意喚起を図る必要があることとされた経緯がある。この教訓を踏まえるならば(現に,イレッサの承認審査の過程において,審査センターの指摘により,なるべく医師の目に触れる場所が望ましい することにより注意喚起を図る必要があることとされた経緯がある。この教訓を踏まえるならば(現に,イレッサの承認審査の過程において,審査センターの指摘により,なるべく医師の目に触れる場所が望ましいとの見地から,「(1)本薬の化学療法未治療例における有効性及び安全性は確立していない。」との記載を,比較的後ろの位置にある「重要な基本的注意」の部分よりも,医師の目に触れやすい場所に記載するとの意図から,「効能・効果に関する使用上の注意」として記載されることとなった経緯がある。[前記第5章第6の4(2)及び(3)]),医師等が添付文書に記載された副作用の意味内容を理解することができるかどうかは,当時の医学的,薬学的知見のもとにおいて,医療現場で当該薬剤を使用することが想定される平均的な医師等の認識を前提として行われることを踏まえて判断されると解するのが相当である。また,医師等が当該薬剤の投与の要否・可否を判断するに際し,副作用の発症頻度,発症傾向,その予後等という危険性とその有効性とを適切に比較考量するために必要な情報が提供され,危険性の認識の程度に差が生じることのない程度に注意喚起がされていたか否かが判断されるべきであるから,販売時までに提供された情報との関係において,当時の上記医療現場の医師等の認識を前提に,重大な副作用について危険性の認識の程度に差が生じるおそれがある場合には,警告欄等に記載することにより注意喚起を図る必要があるものというべきである。 また,このように医師等の当該医薬品の危険性の認識に生じうる差を考慮し,その差が生じないようにすべきであると考える場合には,当時の医学的,薬学的知見のもとにおいて,添付文書の記載がどのように医師等に理解されるかを検討しなければならない。そのためには,添付文書の記載のみか 差が生じないようにすべきであると考える場合には,当時の医学的,薬学的知見のもとにおいて,添付文書の記載がどのように医師等に理解されるかを検討しなければならない。そのためには,添付文書の記載のみから判断する(被告会社の主張を突き詰めれば,このような主張に帰着するというほかはない。)だけではなく,添付文書の記載を中心としつつ,これを閲読して理解する医師等が有するその時点の医学的,薬学的知見はどのようなものであったかを踏まえて判断しなければならない。 そこで,平成14年7月当時の医学的,薬学的知見について検討すると,その当時,従来の殺細胞性の抗がん剤の投与により間質性肺炎を発症し得ることは,抗がん剤治療を行う医師等の間では一般に知られており,必要に応じて文献等を調査すればその予後等について一般的な傾向に関する情報を得ることはできたということができる。 しかし,他方,前記第5の3(2)認定のとおり,薬剤性間質性肺炎の発症傾向や予後等については薬剤毎に異なるとされており,かつ,分子標的治療薬は従来の殺細胞性の抗がん剤とは異なる作用機序を有する新しいタイプの抗がん剤であるとして位置付けられ,がんの増殖や進展に特異的にかかわる分子や,がん細胞だけに過剰発現がみられる分子を標的とし,がん細胞に特異的な機能を選択的に抑えると理解されていたため,分子標的治療薬が従来の殺細胞性の抗がん剤と同様に薬剤性間質性肺炎を引き起こすことは,肺がん治療にたずさわる医師等の間でも予測されていなかった。加えて,被告会社により公表された情報やその他の医学雑誌等に掲載された情報は,分子標的治療薬であるイレッサは,その作用機序から副作用が少ないというものであった。 そうすると,重大な副作用欄に間質性肺炎が記載されることにより,その点だけを抽象的に取 た情報は,分子標的治療薬であるイレッサは,その作用機序から副作用が少ないというものであった。 そうすると,重大な副作用欄に間質性肺炎が記載されることにより,その点だけを抽象的に取り出せば,症例によっては致死的となる可能性があるものであると医師等が理解していたといえるとしても,前記のとおりイレッサの販売前には副作用が少ないとの情報が広く提供されていた状況においては,その危険性の認識の程度に差が生じる可能性があったというべきである(医薬品等について広く情報を収集し知識を得ることは医師としての基本的な業務であるといえ,その結果,注意深く,研究熱心な医師等ほど添付文書以外の情報を探索するものと推測され,そのような情報収集活動の結果,医師等は,イレッサの副作用は軽いとの情報に接する機会が増加するというある意味で逆説的な状況が生じることは容易に想定することができる。)。 以上によれば,前記被告会社の主張を採用することはできない。 (5) 第3版添付文書における指示・警告上の欠陥についてア前記第5の1(4)認定のとおり,同年7月16日の発売以降同年10月11日までに,承認後の副作用報告として,イレッサとの関連性を否定できない間質性肺炎を含む肺障害が22例(うちイレッサとの関連性を否定できない死亡例が11例)報告され,上記副作用報告の症例の中には服薬開始後早期に症状が発現し,急速に進行する症例が見られたことが判明した。 そして,前記第5の6(3)認定のとおり,平成14年10月15日,第3版添付文書の内容が改訂され,「警告」欄が追加され,「本剤の投与により急性肺障害,間質性肺炎があらわれることがあるので,胸部X線検査等を行うなど観察を十分に行い,異常が認められた場合には投与を中止し,適切な処置を行うこと。なお,患者に対 追加され,「本剤の投与により急性肺障害,間質性肺炎があらわれることがあるので,胸部X線検査等を行うなど観察を十分に行い,異常が認められた場合には投与を中止し,適切な処置を行うこと。なお,患者に対し副作用の発現について十分説明すること。(「重要な基本的注意」及び「重大な副作用」の項参照)」と記載されたことに加え,「重要な基本的注意」欄に間質性肺炎に 関する記載が追加され,また,「重大な副作用」欄の記載順序が改められ,「1)急性肺障害,間質性肺炎」が最初に記載されるとともに,「急性肺障害,間質性肺炎があらわれることがあるので,胸部X検査等を行うなど観察を十分に行い,異常が認められた場合には,投与を中止し,適切な処置を行うこと。」との記載がされ,併せて,同日,医療関係者に対して緊急安全性情報が配布されたというのである。なお,亡Oが治療を受けていた国立h病院に対しては,同日,担当のMRが,同病院の薬剤部,呼吸器科,内科を訪問し,緊急安全性情報について説明した。 これらの措置により,前記現場の医師等の通常の医学的,薬学的知見を前提とすれば,(添付文書の警告欄の記載にもかかわらず,医学雑誌等の副作用が少ないとの情報のみを信用する根拠がなくなるという意味において)前記医学雑誌等による情報は修正され得るというべきであるから,イレッサによって,場合によっては重篤な間質性肺炎が発症する可能性を誤解なく理解することが可能となったと認めるのが相当である。したがって,第3版添付文書の記載は,平成14年10月11日までに明らかになった副作用報告を踏まえ,医療現場の医師等に対して危険性の認識の程度に齟齬が生じない程度の適切な注意喚起がされたものというべきであって,第3版添付文書について,指示・警告上の欠陥があったものと認めるに足りない。 イ ,医療現場の医師等に対して危険性の認識の程度に齟齬が生じない程度の適切な注意喚起がされたものというべきであって,第3版添付文書について,指示・警告上の欠陥があったものと認めるに足りない。 イ原告らは,第3版添付文書の記載内容についても,イレッサの指示・警告として不十分であるとし,前記(4)イ(ア)のとおり主張する。 しかし,前記(4)イ(ア)のとおり,第4版以降の添付文書の改訂は,イレッサの承認後における安全性会議,専門家会議,プロスペクティブ調査等による知見の発展によるものであるから,原告の主張するようなイレッサの特徴が第3版添付文書が作成された平成14年10月時点においても判明していたものと認めるに足りず,原告らの前記主張には理由がない。 5 広告宣伝上の欠陥について(1) 薬事法所定の広告の規制との関係についてア原告らは,被告会社が関与した,専門家を利用した雑誌の対談記事の発表,学会発表の結果のプレスリリース,学術情報の提供,具体的には,医師に対しては,雑誌,パンフレット,同意文書,インタビューフォームによる情報の提供,患者や一般人に対しては,同意文書,説明文書,インターネット上のホームページ(エルねっと,iressa.com)による情報の提供がいずれも,薬事法所定の広告に当たるとした上,これらの広告が,①イレッサの副作用が少ないとして安全性を過度に強調する一方,致死的な間質性肺炎の発症の危険性について全く触れていない点で薬事法66条1項による虚偽・誇大広告の禁止に違反する,②同法68条による承認前の広告の禁止に違反する,③同法67条による抗がん剤等についての一般人を対象とする広告の規制に違反する旨主張する。 イ薬事法上,何人も,医薬品等の名称,製造方法,効能,効果又は性能に関して,明示的である 禁止に違反する,③同法67条による抗がん剤等についての一般人を対象とする広告の規制に違反する旨主張する。 イ薬事法上,何人も,医薬品等の名称,製造方法,効能,効果又は性能に関して,明示的であると黙示的であるとを問わず,虚偽又は誇大な広告をし,記述し,又は流布してはならないとされ(同法66条1項),がんその他の特殊疾病に使用されることが目的とされている医薬品であって,政令で指定された医薬品については,医薬関係者以外の一般人を対象とする広告方法を制限する等,当該医薬品の適正な使用の確保のために必要な措置を定めることができるとされ(同法67条1項),何人も,同法14条1項に規定する医薬品等でまだ承認を受けていないものについて,その名称,製造方法,効能,効果又は性能に関する広告をしてはならないとされている(同法68条)薬事法66条が虚偽又は誇大な広告を禁止した趣旨は,医薬品等による保健衛生上の危害を防止するためであると解され,同法67条が抗がん剤 等についての一般人を対象とする広告を規制した趣旨は,抗がん剤は,おおむね副作用が強いものが多く,使用に当たっては高度の専門的知識が必要とされることから,一般人への広告を制限することにより,当該医薬品の適正な使用を確保するとともに,適切な医療の機会を確保することとしたものと解される。また,同法68条で承認前の医薬品等の広告を禁止した趣旨は,承認前の広告は,承認内容の如何によっては虚偽又は誇大な広告になるおそれがあることからこれを未然に防止するためであると解される。 そして,前記第5の2(1)認定のとおり,薬事法66条ないし68条にいう「広告」とは,①顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確であること,②特定医薬品等の商品名が明らかにされていること,③一般人が認知 (1)認定のとおり,薬事法66条ないし68条にいう「広告」とは,①顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確であること,②特定医薬品等の商品名が明らかにされていること,③一般人が認知できる状態であることの,いずれの要件も満たすものであると解されている。 ウ前記第5の2の認定事実により,以下のとおり判断する。 被告会社は,イレッサの承認前のプレスリリースにおいては,ZD1839というイレッサの開発コード(治験記号)を用いており,イレッサという商品名を明らかにしていなかったことから前記②の要件を欠き,また,承認後の平成14年7月8日のプレスリリース及び記者会見においては,イレッサが承認された事実及びその特徴を明らかにするものにとどまり前記①の要件を欠くから,いずれも薬事法66条ないし68条にいう「広告」に当たらない。 小冊子(的を得た話上・下)についてみると,同小冊子が被告会社が費用を負担して刊行されたものであるとしても,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤等の分子標的治療薬一般について記載されたものであって,前記①及び②の要件をいずれも欠く。 SignalJapan(雑誌)の記事についてみると,同雑誌が被告会社が費用 を負担して刊行された雑誌であるとしても,平成14年7月号の記事の具体的内容は,分子標的治療薬やEGFR標的薬一般について記載されたものであって,前記①及び②の要件をいずれも欠くものであり,MedicalTribune(雑誌)の記事は,被告会社が,掲載に要する費用を負担し,対談や記事のテーマを提示したとしても,対談や記事の具体的な内容については,それぞれ対談や記事の発表を行ったがん専門医らが自らの文責において,専門的知見に基づく医学論文として掲載するものであるから,これをもって被告会社が行 たとしても,対談や記事の具体的な内容については,それぞれ対談や記事の発表を行ったがん専門医らが自らの文責において,専門的知見に基づく医学論文として掲載するものであるから,これをもって被告会社が行った広告に当たるということはできない。 インタビューフォームは,添付文書等の情報を補完し,薬剤師等の医療従事者に対して情報を提供するための総合的な医薬品解説書であり,日本病院薬剤師会が定めた記載要領に基づいて作成される文書であるし,患者等に対する同意文書や説明文書は,医師等が患者に対してイレッサの効果,効能,その治療内容等について説明をする際に使用する媒体の一つにとどまることから,いずれも前記①の要件を欠くものである。 インターネット上の患者向けホームページ(エルねっと,iressa.com)による情報の提供についてみると,iressa.com は,被告会社がイレッサを処方されている患者とその家族に向けた情報を提供するサイトであり,エルねっとは,西日本胸部腫瘍臨床研究機構(WJTOG)と被告会社の協力により運営されている,肺がんの啓発のためのサイトであって,いずれもその内容が,前記①の要件を満たすものと認めるに足りない。 なお,新聞報道については,被告会社からのプレスリリースに基づくものであるとはいえ,各新聞社がその責任において記事の内容を決定しているものであるから,新聞記事の内容そのものが,被告会社による薬事法所定の広告に当たるものということはできない。 エ以上によれば,原告らが指摘する,専門家を利用した雑誌の対談記事の発表,学会発表の結果のプレスリリース,学術情報の提供等については, いずれも薬事法66条ないし68条にいう「広告」に当たるものと認めるに足りない。 (2) 製造物責任法上の指示・警告上の欠陥との関係につい プレスリリース,学術情報の提供等については, いずれも薬事法66条ないし68条にいう「広告」に当たるものと認めるに足りない。 (2) 製造物責任法上の指示・警告上の欠陥との関係についてア原告らの主張原告らは,被告会社によるイレッサの広告宣伝が,薬事法66条ないし68条所定の虚偽・誇大な広告の禁止,承認前の広告の禁止,抗がん剤等医療用医薬品の一般人への広告の規制に違反するとした上,広告宣伝が有する製品の品質保証機能に着目し,広告宣伝は,指示・警告上の欠陥の内容を構成するが,広告宣伝の情報提供媒体としての影響力の大きさにかんがみれば,広告宣伝につき,医薬品の有効性及び安全性について正確な情報が提供されていない場合には,製造物責任法上,指示・警告上の欠陥とは別に,広告宣伝上の欠陥にも当たる旨主張する。 イ製造物責任法上,当該製造物が通常有すべき安全性を欠くか否かについては,「当該製造物の特性,その通常予見される使用形態,その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期,その他当該製造物にかかる事情を考慮して」判断するとされており(同法2条2項),同条は,製造物の欠陥に起因する事故の被害者の保護を図ることを目的とするものであるから,薬事法の広告の規制に関する上記規定は,使用者の安全性確保を目的としている点において,製造物責任法の上記趣旨と共通するから,薬事法の広告の規制に関する上記各規定に反して広告がされたことにより,副作用による被害が発生したような場合には,上記薬事法に反してされた広告が,製造物責任法上の欠陥の判断の有力な事情となるものと解することも可能である。 しかし,前記(1)のとおり,原告らが指摘する専門家を利用した雑誌の対談記事の発表,学会発表の結果のプレスリリース,学術情報の提供等は,いずれも薬事法66条 となるものと解することも可能である。 しかし,前記(1)のとおり,原告らが指摘する専門家を利用した雑誌の対談記事の発表,学会発表の結果のプレスリリース,学術情報の提供等は,いずれも薬事法66条ないし68条にいう「広告」に当たるものと認 めることはできず,また,イレッサの医薬品としての品質を保証する趣旨の表示であると解することもできないから,原告らの上記主張は,その前提を欠き,失当である。 ウ以上によれば,被告会社による薬事法に反する広告がされたことを前提に,製造物責任法上,指示・警告上の欠陥とは別に,広告宣伝上の欠陥にも当たるとする原告らの上記主張は,いずれも採用することができない。 6 販売上の指示に関する欠陥について(1) 全例調査を条件としなかったことについてア原告らは,全例調査(全例登録調査)の目的は,新たに承認された医薬品の安全性を確保するとともに,適正使用を促すことにあるとした上,イレッサでは全例調査が実施されなければ安全性を確保できなかったにもかかわらず,全例調査が指示されなかったため,早期の副作用情報の提供により安全性を確保し,慎重な使用を確保することができなかったから,イレッサは,製造物責任法上,医薬品として通常有すべき安全を欠き,販売上の指示に関する欠陥がある旨主張する。 イ前記第5の5(2)オの認定事実のとおり,イレッサについては,承認条件とされた市販直後調査が行われ,全例調査は行われなかった。 ウ原告らが実施すべきであったと主張する全例調査とは,市販後調査のうち,製造業者等が,診療において,医薬品を使用する患者の条件を定めることなく,副作用による疾病等の種類別の発現状況並びに品質,有効性及び安全性に関する情報その他の適正使用情報の把握のために行う使用成績調査の調査方法の一つで いて,医薬品を使用する患者の条件を定めることなく,副作用による疾病等の種類別の発現状況並びに品質,有効性及び安全性に関する情報その他の適正使用情報の把握のために行う使用成績調査の調査方法の一つである(GPMSP省令2条3項)。 使用成績調査の主な目的は,①未知の副作用(特に重要な副作用について),②医薬品の使用実態下における副作用の発生状況,③安全性又は有効性等に影響を与えると考えられる要因を把握することであるとされてい る。(市販後調査ガイドライン3項)エところで,イレッサについて実施された市販直後調査は,前記第5の5(2)エの認定事実のとおり,平成12年に市販後調査の一つとして新設された制度であり(GPMSP省令2条2項),①新医薬品を対象として,②販売開始直後の6か月間において,③当該医薬品の慎重な使用を繰り返し促すとともに,重篤な副作用等が発生した場合,その情報を可能な限り網羅的に把握し,必要な安全対策を講じるために実施されるものである。 市販直後調査の主たる目的は,新医薬品の販売開始直後において,医療機関に対し確実な情報提供,注意喚起等を行い,適正使用に関する理解を促すとともに,重篤な副作用等の情報を迅速に収集し,必要な安全対策を実施し,副作用等の被害を最小限にすることとされている。 オこのように,医療機関に対し確実な情報提供,注意喚起等を行い,適正使用に関する理解を促すとともに,重篤な副作用等の情報を迅速に収集し,必要な安全対策を実施することを主たる目的とした制度は,市販後調査のうちの市販直後調査であって,市販直後調査が承認条件の一つとされ,実際に行われたのであるから,市販直後調査に加え又はこれに代えて使用成績調査としての全例調査を行う必要性があったと認めることはできない。 また,使用成 って,市販直後調査が承認条件の一つとされ,実際に行われたのであるから,市販直後調査に加え又はこれに代えて使用成績調査としての全例調査を行う必要性があったと認めることはできない。 また,使用成績調査の主たる目的は,副作用情報等の安全性に関する情報を中心に適正使用情報を収集するというものであって,医療機関に対する情報提供による適正使用の理解を促し,安全性を確保することは,その副次的な効果にとどまるというべきであるから,使用成績調査としての全例調査が行われなかったことにより上記のような副次的な効果が挙げられなかったことをもって,当該医薬品が通常有すべき安全性を欠いていたということはできない。 したがって,使用成績調査としての全例調査が義務付けられずにイレッ サが販売されたことをもって,イレッサが,販売時において,医薬品として通常有すべき安全性を欠いていたということはできない。 カ原告らは,第4回ゲフィニチブ検討会におけるSの説明(丙K6の13〔15頁〕)から,全例調査が実施される基準は,①承認の前提となった臨床試験データが基本的に海外のものであって,日本人のデータが少ないときに,日本人のデータを早期に収集するため実施する場合,②使用方法が難しい場合,細胞毒性が強いときに,重篤な副作用が予測される場合に副作用情報を早期に収集するために実施する場合であるとした上,イレッサは,①承認前の臨床試験における安全性に関する日本人データは133例しかなく,②そのドラッグデザインから肺毒性が予測され,臨床試験やEAPにおける症例では現実に間質性肺炎の症例が死亡例を含めて何例も確認されていたこと等から重篤な副作用が予測される等の場合に該当したから,全例調査を条件としなければならない場合に該当した旨主張する。 しかし,上記Sのゲフ 間質性肺炎の症例が死亡例を含めて何例も確認されていたこと等から重篤な副作用が予測される等の場合に該当したから,全例調査を条件としなければならない場合に該当した旨主張する。 しかし,上記Sのゲフィニチブ検討会における説明は,過去に全例調査がされた医薬品の事例について紹介したものというのであり(S証人主尋問〔47頁〕),全例調査がされた医薬品の類似点を挙げたものにとどまるというべきであって,過去において,前記①及び②のような場合に全例調査が行われたという事実をもって,将来においても,前記①及び②のような場合には必ず全例調査がされるべきであるということはできない。また,Sは,前記①の日本人のデータが少ない場合とは,承認までに国内臨床試験で20ないし30例程度しか症例が集まらない希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)を指す旨証言し(S証人反対尋問〔8~9頁〕),これは,前記第5の5(2)オ認定のとおり,平成12年以降,使用成績調査が希少疾病用医薬品等で治験の症例数の収集が困難な場合の安全性の把握等に重点を置くこととされたこととも整合する。そして,イレッサについては,承認前の国内臨床試験(治験)における安全性に関する 日本人のデータが133例あったというのであるから,上記①の場合に当たるものということはできない。さらに,上記②の使用方法が難しい場合,細胞毒性が強いときに,重篤な副作用が予測される場合に当たるかという点については,イレッサは,EGFR阻害剤という分子標的治療薬であって細胞毒性は少ないと考えられていたのであり,間質性肺炎の発症の程度についても,少なくとも承認時においては,他の抗がん剤に比して特段の注意を払う必要があることをうかがわせる情報はなかったというべきであるから,上記②の場合に当たるものと認めるに足りない。 発症の程度についても,少なくとも承認時においては,他の抗がん剤に比して特段の注意を払う必要があることをうかがわせる情報はなかったというべきであるから,上記②の場合に当たるものと認めるに足りない。 キ原告らは,全例調査が承認条件として義務付けられていた①イリノテカン,②TS-1,③A型ボツリヌス毒素製剤・ボトックス注100,④塩酸セレギリン錠,⑤リネゾリド錠,⑥インフリキシマブ製剤,⑦注射用キヌプリスチン・ダルホプリスチン,⑧レフルノミド製剤,⑨注射用タラポルフィンナトリウム,⑩三酸化ヒ素製剤,⑪ゾレドロン酸水和物注射液,⑫静注用ベルテポルフィン,⑬オキサリプラチン注射用との比較においても,イレッサについて,全例調査が行われるべきであった旨主張する。 しかし,上記薬剤のうち抗がん剤は,①イリノテカン,②TS-1,⑨注射用タラポルフィンナトリウム,⑩三酸化ヒ素製剤のみであって,その余の医薬品は,効果,効能が異なる医薬品であることが認められる(甲P20,甲P21,甲P23ないし32〔各枝番を含む〕)。例えば,③A型ボツリヌス毒素製剤・ボトックス注100は,平成5年に眼瞼痙攣,片側顔面痙攣,痙性斜頸という3つの疾病で希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)の指定を受け,平成8年に上記のうち眼瞼痙攣について使用成績調査を行うこと等を条件として承認され,平成11年に追加承認,適応の拡大の際にも使用成績調査が条件とされた薬剤であることが認められ(甲P30[枝番号1・2]),抗がん剤とは効果,効能が異なるものであることに加え,希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)であってイレ ッサとは治験における症例数の規模が異なっていたというのである。したがって,上記医薬品のうち抗がん剤以外の医薬品(上記③ないし⑧,⑪ないし⑬)について使用成 ァンドラッグ)であってイレ ッサとは治験における症例数の規模が異なっていたというのである。したがって,上記医薬品のうち抗がん剤以外の医薬品(上記③ないし⑧,⑪ないし⑬)について使用成績調査が行われたことをもって,抗がん剤であるイレッサについても使用成績調査が行われるべきであったということはできない。 次に抗がん剤について検討する。 ①イリノテカンは,平成6年1月に承認された抗がん剤であり,治験時(効能追加時を含む)において1245例に投与され因果関係が否定できない死亡症例が55例認められるなど骨髄機能抑制や高度の下痢などの重篤な副作用が認められたことから,平成7年9月に承認事項の一部変更(効能の追加)がされた際に全例調査が承認条件とされたものであることが認められる(甲P12,甲P20[枝番号1~3])。このように,市販直後調査制度が導入された平成12年より前に全例調査が行われたものであって,市販直後調査が行われたイレッサとは前提となる市販後調査制度の選択肢が異なっていたものである。これに加え,治験時(効能追加時を含む)における55例の死亡症例を含む重篤な副作用の発生が問題とされ,その発生機序を早期に解明する必要性があったという事情があったものであって,治験時における重篤な副作用の発生症例数が限定的であったイレッサとはその前提状況が異なっていたというべきである。 ②TS-1は,平成11年に承認された抗がん剤であり,同年3月から平成12年3月までの間に全例調査が行われたものであること,フッ化ピリミジン系の抗癌剤であり,5-FU(フルオロウラシル)の血中濃度を高めて作用を増強するよう設計された点においてソリブジンと類似していたこと,海外での臨床試験データがなかったこと等が認められる(甲F36,甲P81,乙I3[枝番号 U(フルオロウラシル)の血中濃度を高めて作用を増強するよう設計された点においてソリブジンと類似していたこと,海外での臨床試験データがなかったこと等が認められる(甲F36,甲P81,乙I3[枝番号1〔3,4頁〕],乙I13[枝番号12〔4,5頁〕])。このように,市販直後制度が導入された平成12年よ り前に全例調査が行われたものであって,市販直後調査が行われたイレッサとは前提となる市販後調査制度の選択肢が異なっていたものである。これに加え,イレッサとは治験における症例数の規模も異なっていた。 ⑨注射用タラポルフィンナトリウムは,殺細胞性抗がん剤ではなく,光線力学的療法(PDT)用剤であり,PDTが,レーザー装置を使用し治療後の一定期間は紫外線対策が必要とされる特殊な治療方法であることに加え,国内臨床試験の症例数は49例にとどまるものであり,承認後の使用例数も少ないと予測されていたことが認められ(甲P27[枝番号1,2〔44頁〕],乙H41〔114~115頁〕,乙I9〔10~12頁〕),経口薬のイレッサとは異なる特殊な治療方法に用いられる薬剤である上,イレッサとは治験における症例数の規模が異なっていたものである。 ⑩三酸化ヒ素製剤については,浜松医科大学で行われた日本人における14症例の臨床研究があるにとどまり,国内治験が行われていなかったことが認められ(甲P28[枝番号1,2〔73頁〕]),イレッサとは治験の条件や症例数の規模が異なっていた。 以上の通りであるから,前記①②⑨⑩の抗がん剤について全例調査が行われたこととの比較において,イレッサについても全例調査を行うべきであったということはできない。 (2) 添付文書に使用限定を付けなかったことについてア原告らは,使用限定は,薬剤の使用方法や使用医師・医療機関 較において,イレッサについても全例調査を行うべきであったということはできない。 (2) 添付文書に使用限定を付けなかったことについてア原告らは,使用限定は,薬剤の使用方法や使用医師・医療機関を限定することによって,可及的に副作用の危険の低減を図ることを目的とするものであり,イレッサについては,添付文書において,「抗がん剤についての十分な知識と経験を持つ医師・病院による投与」,「一定期間の入院管理」等の使用限定を指示する必要があったとした上,これがされないまま販売されたことにより,安易に使用され,副作用被害が拡大したのである から,イレッサは医薬品として通常有すべき安全を欠き,販売上の指示に関する欠陥がある旨主張する。 イ前記第5の1(4)エ認定のとおり,平成14年12月に改訂されたイレッサの第4版添付文書では,警告欄に,「急性肺障害や間質性肺炎が本剤の投与初期に発生し,致死的な転帰をたどる例が多いため,少なくとも投与開始後4週間は入院またはそれに準ずる管理の下で,間質性肺炎等の重篤な副作用発現に関する観察を十分に行うこと。」,「本剤は,肺癌化学療法に十分な経験をもつ医師が使用するとともに,投与に際しては緊急時に十分に措置できる医療機関で行うこと。」との記載が追加され,使用限定がされた。 ウこの使用限定は,前記4(4)イ(ア)の認定・判断のとおり,平成14年12月までの副作用報告を踏まえた安全性検討会における検討の結果,イレッサによる間質性肺炎の特徴として,審査のときの予想をはるかに超える市販後の間質性肺炎の発症があり,他の抗がん剤による肺障害とは異なり,審査時には発現していなかった投与初期(2~3週間目)に発現し,致死的な転帰をたどる例が多いこと等が明らかになったことから,その必要性が認識されたものであっ り,他の抗がん剤による肺障害とは異なり,審査時には発現していなかった投与初期(2~3週間目)に発現し,致死的な転帰をたどる例が多いこと等が明らかになったことから,その必要性が認識されたものであって,同年7月の第1版添付文書が作成された時点においても,同年10月に改訂された第3版添付文書が作成された時点においても,上記事情は未だ判明していなかったものといわざるを得ない。 エ原告らは,①ビスダイン静注用15㎎,②レザフィリン・注射用レザフィリン100㎎,③エピペン注射液0.3㎎・エピペン注射液0.1㎎,④ボトックス注は,使用医を限定することが承認条件とされていたなどとして,イレッサについても使用限定がされるべきであったし,また,非小細胞肺がんにおいてプラチナ製剤と併用される標準的な治療薬である⑤パクリタキセル,⑥ゲムシタビン,⑦イリノテカン,⑧ビノレルビン,⑨ド セタキセル,⑩アムルビシンは,各添付文書において,緊急時に十分に対応できる医療機関での使用,がん化学療法に十分な経験を持つ医師の使用などに限定することとされ,その全てに使用限定が付されていたなどとして,イレッサについても使用限定が必要であった旨主張する。 しかし,前記①ないし④の薬剤のうち,抗がん剤は②レザフィリン・注射用レザフィリン100㎎のみであって,その余は,効果,効能が異なる医薬品であることが認められるから(甲P48~54),上記①,③,④の医薬品について使用限定が承認条件とされたことをもって,イレッサについても使用限定がされるべきであったということはできない。また,②レザフィリン・注射用レザフィリン100㎎は,光線力学的療法(PDT)用光感受性物質であり,PDTが,レーザー装置を使用することからレーザー照射部位の適切な判断,的確な照射等,有効性及 い。また,②レザフィリン・注射用レザフィリン100㎎は,光線力学的療法(PDT)用光感受性物質であり,PDTが,レーザー装置を使用することからレーザー照射部位の適切な判断,的確な照射等,有効性及び安全性の確保のために,内視鏡技術等に十分な知識と経験を積んだ医師による実施が必要であったという特殊性があったことから使用医の限定がされたものと認められるから(甲P51〔2頁〕),経口薬であるイレッサとは薬剤の使用方法が異なるものであったというべきである。 また,上記⑤ないし⑩の抗がん剤は,前記第5の1(6)の認定事実のとおり,いずれも国内臨床試験において,治療関連死あるいは薬剤との関係が否定できない死亡例が複数報告されたものであり,また,重篤な骨髄機能抑制や白血球減少に起因する重篤な副作用の発生が報告されていたことから,使用限定がされたものである。これに対し,イレッサは,経口薬であり,従前の殺細胞性の抗がん剤とは異なり,血液毒性がほとんど見られないこと等,副作用は比較的軽いと認識されていたものであるから,承認当時においては,必ずしも一定期間入院して服用する必要性はないと考えられたものである。平成14年7月や同年10月当時の医学的,薬学的知見を基準にすると,第1版添付文書や第3版添付文書において,上記使用 限定がされなかったことはやむを得ないものというべきである。 以上によれば,第1版添付文書や第3版添付文書において上記使用限定がされなかったことにより,イレッサが,製造物責任法上,医薬品として通常有すべき安全性を欠いていたということはできない。 (以下余白) 第7 被告会社の不法行為責任について 1 イレッサを販売したことによる過失責任について(1) 有用性の主張立証責任についてア原告らは,被告会 とはできない。 (以下余白) 第7 被告会社の不法行為責任について 1 イレッサを販売したことによる過失責任について(1) 有用性の主張立証責任についてア原告らは,被告会社は,有用性についての多くの情報を独占的に保有し,原告らとの間には情報量や調査能力において格段の差があることや,当該医薬品の輸入承認を受けている以上,本来,有用性を立証する資料を十分に有しているべきであることなどからすれば,公平の観点から,有用性の主張・立証責任は被告会社が負い,当該医薬品に有用性が認められることが違法性阻却事由に当たる旨主張する。そして,原告らにおいて,被告会社の安全性確保義務違反(注意義務違反)として,被告会社がイレッサにより重篤な間質性肺炎等の急性肺障害の発症又はそれによる死亡という損害が発生することを予見し得たにもかかわらずイレッサを販売し,これにより上記副作用被害が生じたことを主張立証した場合には,被告会社において,当該医薬品に有用性があったことを主張立証した場合にのみ違法性が阻却されると主張する。 しかし,民法の不法行為に基づく損害賠償請求権の発生原因事実については被害者が主張立証責任を負い,被害者において,損害の発生に加え,損害の発生につき加害者に故意又は過失があることについても主張立証責任を負うとされている。医薬品は何らかの副作用が発生する危険が不可避的に伴うものであり,製薬会社が医薬品について副作用の発生を予見し得た場合であっても,効果,効能と副作用とを比較考量した結果,なお有用性を肯定し得る場合には,当該医薬品を販売してはならないとの不作為義務を負うものではない。 したがって,本件においても,イレッサを販売したことによる被告会社の過失責任を問うためには,原告らにおいて,イレッサが医薬品として有 を販売してはならないとの不作為義務を負うものではない。 したがって,本件においても,イレッサを販売したことによる被告会社の過失責任を問うためには,原告らにおいて,イレッサが医薬品として有 用性を欠くこと及びイレッサにより副作用被害を生じさせることを,被告会社が予見し得たにもかかわらずこれを販売したことについて,主張立証する責任を負うものと解するのが相当であるから,原告らの前記主張を採用することはできない。 イ原告らは,東京地方裁判所平成19年3月23日判決・判例時報1975号52頁(C型肝炎東京訴訟判決)が,有用性の主張立証責任につき,事実上の推定により,実質的にその主張立証責任を被告側に求める考え方を採っているとした上,仮に,有用性がないことの立証責任を原告らが負担するとしても,(ア)「有効性がないこと」の立証の内容は,有効性が科学的に証明されていないことで足りるというべきであるし,また,(イ)「有用性がないこと」の立証は,①被告の調査・研究が適切かつ十分なものではなかったこと,②被告の調査・研究から有効性を上回る危険性がないと判断することが科学的に妥当ではないことの証明で足りる旨主張する。 前記第6の1(1)の認定・判断のとおり,非小細胞肺がんの抗がん剤は,その性質上,死亡を含む重篤な副作用の危険を伴う薬剤であるといわざるを得ない。しかし,医薬品の有用性は,その効果,効能と副作用との比較考量によって判断されるのであるから,副作用の発症やその程度が重篤なものであることをもって,直ちに当該抗がん剤の有用性の欠如,すなわち製造物の欠陥の存在を推認し得るとの経験則の存在を認めることはできないことには,論理上疑問の余地はない。したがって,効果,効能を手術不能又は再発非小細胞肺がんとする抗がん剤の不法行為に基づく損害賠 ち製造物の欠陥の存在を推認し得るとの経験則の存在を認めることはできないことには,論理上疑問の余地はない。したがって,効果,効能を手術不能又は再発非小細胞肺がんとする抗がん剤の不法行為に基づく損害賠償の過失の判断において,急性肺障害や間質性肺炎の副作用が発症し,その副作用の程度が重篤であるとの事実から,直ちに当該抗がん剤が有用性を欠くことを事実上推認することはできない。 また,被告会社のイレッサを販売したことによる不法行為責任を問うに は,原告らにおいて,平成14年7月時点(イレッサの販売時)を基準に,イレッサの有用性を欠くことを主張立証する必要があるところ,平成14年7月時点におけるイレッサの有用性の判断は前記第6の2(1)イ(ア)のとおりであって,平成14年7月当時の医学的,薬学的知見を基準に,旧ガイドラインのⅡ相承認の制度を前提に,一般臨床試験によって腫瘍縮小効果(抗腫瘍効果)を代替評価項目として有効性を評価し,著しく有害な副作用がないかを比較考量して判断するべきものであるから,原告らの前記主張を採用することはできない。 (2) 有用性を欠く医薬品を販売したことによる過失責任について前記(1)のとおり,被告会社のイレッサを販売したことによる過失責任については,原告らにおいて,平成14年7月当時,イレッサが医薬品としての有用性を欠くこと及び被告会社においてイレッサが医薬品としての有用性を欠き,副作用被害を生じさせることを予見しながら販売したことについて主張立証する責任を負うところ,前記第6の2(2)イのとおり,平成14年7月時点において,イレッサは,セカンドライン治療のみならずファーストライン治療においても有用性が認められるから,原告らの,イレッサを販売したことによる過失責任についての主張は,その余の点について判 7月時点において,イレッサは,セカンドライン治療のみならずファーストライン治療においても有用性が認められるから,原告らの,イレッサを販売したことによる過失責任についての主張は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 2 安全性確保措置を怠ったことによる過失責任について(1) 原告らは,安全性確保措置を怠ったことによる過失責任として,被告会社に,製造物責任法上の責任として,①指示・警告上の欠陥,②適応拡大による欠陥,③広告宣伝上の欠陥,④販売指示上の欠陥(使用限定を怠ったこと)があることを前提に,上記責任が認められる以上,当然に,不法行為としての,①指示・警告を怠ったことによる過失責任,②適応拡大による過失責任,③広告宣伝による過失責任,④販売上の指示(使用限定)を怠ったこ とによる過失責任が認められる旨主張する。 (2) 指示・警告を怠ったことによる過失責任についてア前記第6の4のとおり,第1版添付文書とともに流通におかれたイレッサについては,販売時において,指示・警告の内容が不十分なまま販売されたことが製造物責任法上の指示・警告上の欠陥に当たるものと認められる。 亡M,亡N,原告Lとの関係においては,上記のとおり,イレッサが指示・警告上の内容が不十分なまま販売されたことが製造物責任法上の指示・警告上の欠陥に当たるものとして,被告会社に製造物責任が認められる以上,販売時において指示・警告を怠ったことによる不法行為責任について,判断する必要はない。 イ亡Oについてみると,前記第3章第2の3,第5章第5の6(3)のとおり,亡Oに対してイレッサを投与することが決まったのは平成14年10月15日であり,同日,緊急安全性情報が出されるとともに,イレッサの第3版添付文書の内容が改訂され,同日中に,被告会社の 3)のとおり,亡Oに対してイレッサを投与することが決まったのは平成14年10月15日であり,同日,緊急安全性情報が出されるとともに,イレッサの第3版添付文書の内容が改訂され,同日中に,被告会社の担当のMRは,亡Oが治療を受けていた国立h病院の薬剤部,呼吸器科,内科を訪問して緊急安全性情報について説明し,亡Oはその後の同月23日からイレッサの服用を始めたというのである。したがって,亡Oとの関係においては,第3版添付文書とともに流通におかれたイレッサの指示・警告上の欠陥の存否が問題になるところ,前記第6の4(5)のとおり,第3版添付文書とともに流通におかれたイレッサは,製造物責任法上の指示・警告上の欠陥があったものと認めるに足りない。 そして,前記第6の4(5)のとおり,第3版添付文書とともに流通におかれたイレッサは,同月15日時点において,医療現場の医師等が場合によっては重篤な間質性肺炎が発症する可能性があることを誤解なく理解することが可能となっていたものと認められ,医療現場の医師等に対して危 険性の認識の程度に齟齬が生じない程度の適切な注意喚起がされたものというべきであるから,被告会社が,亡Oとの関係において,第3版添付文書とともに流通におかれたイレッサにつき必要な指示・警告を怠ったものと認めるに足りず,指示・警告を怠ったことによる過失があったということはできない。 (3) その他の過失責任について前記第6の3,5,6(2)のとおり,被告会社には,製造物責任法上の責任として,②適応拡大による欠陥,③広告宣伝上の欠陥,④販売指示上の欠陥(使用限定を怠ったこと)はいずれも認められないから,原告らの,②適応拡大による過失責任,③広告宣伝による過失責任,④販売上の指示(使用限定)を怠ったことによる過失責任に関する主張は 売指示上の欠陥(使用限定を怠ったこと)はいずれも認められないから,原告らの,②適応拡大による過失責任,③広告宣伝による過失責任,④販売上の指示(使用限定)を怠ったことによる過失責任に関する主張は,その前提を欠き,いずれも理由がない。 3 イレッサ販売開始後の過失責任について(1) 原告らは,被告会社のイレッサ販売後の不法行為責任として,被告会社は,医療機関等から迅速に情報を収集した上,添付文書の改訂,緊急安全性情報の配布,その周知徹底などの安全性確保のための手段・方法を講じるべき義務を負っていたにもかかわらず,これに違反し,平成14年10月15日まで緊急安全性情報を発することなく,間質性肺炎等による死亡被害を拡大させた旨主張する。 (2)ア亡M,亡N,原告Lとの関係においては,前記第6の4のとおり,イレッサが指示・警告上の内容が不十分なまま販売されたことが製造物責任法上の指示・警告上の欠陥に当たるものとして,被告会社に製造物責任が認められる以上,このような製造物責任とは別に,同責任に加えて,販売後において必要な警告等を怠ったという不作為について不法行為責任を負うということはできない。 したがって,亡M,亡N,原告Lとの関係において,被告会社のイレッ サ販売開始後の過失責任について,判断する必要はない。 イ亡Oとの関係においては,前記2(2)イのとおり,第3版添付文書とともに流通におかれたイレッサは,必要な指示・警告を怠ったものと認めるに足りない。 そして,前記2(2)イのとおり,第3版添付文書とともに流通におかれたイレッサは,平成14年10月15日時点において,医療現場の医師等に対して危険性の認識の程度に齟齬が生じない程度の適切な注意喚起がされたものというべきであるから,被告会社が,亡Oとの関係において, たイレッサは,平成14年10月15日時点において,医療現場の医師等に対して危険性の認識の程度に齟齬が生じない程度の適切な注意喚起がされたものというべきであるから,被告会社が,亡Oとの関係において,イレッサの販売が開始された同年7月以降,添付文書の改訂,緊急安全性情報の配布,その周知徹底などの安全性確保のための手段・方法を講じるべき義務を怠ったものと認めるに足りず,イレッサ販売開始後の過失があったものということはできない。 (以下余白) 第8 被告国の責任について 1 承認時の義務違反について(1) 承認の違法についてア承認の違法に関する判断枠組み(ア) 有効性,有用性の主張立証責任a 原告らは,被告国が,医薬品の有効性,安全性にかかる情報を独占するとともに,薬事法により課された責任を遂行するだけの専門的・技術的知見を有する一方,原告らが,情報や専門性を有していないことから,被告会社に対する不法行為責任において述べたのと同様に,被告国が医薬品に有用性が存在することについて主張立証責任を負う旨主張する。そして,その主張は,原告らにおいて,被告国の安全性確保義務違反として,被告国がイレッサによる間質性肺炎等の急性肺障害の発症又はそれによる死亡という損害が発生することを予見し得たにもかかわらずイレッサを承認し,これにより上記副作用被害が生じたことを主張立証した場合には,被告国において,当該医薬品に有用性があったことを主張立証した場合にのみ違法性が阻却される旨の主張であると解される。 b しかし,原告らは,厚生労働大臣がイレッサを承認した行為が国家賠償法上違法であるとして,同法1条1項に基づく損害賠償責任を主張するものであり,同項所定の損害賠償請求権の発生原因事実については原告らが主張立証責任を負うと 労働大臣がイレッサを承認した行為が国家賠償法上違法であるとして,同法1条1項に基づく損害賠償責任を主張するものであり,同項所定の損害賠償請求権の発生原因事実については原告らが主張立証責任を負うと解されるから,原告らにおいて,公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたことを主張立証する責任を負うというべきである。 そして,前記第4の1(3)のとおり,厚生労働大臣がしたイレッサの承認行為が,医薬品の有用性を欠くという観点から国家賠償法上違法 であるというためには,厚生労働大臣が,薬事法所定の輸入承認権限の行使において,承認をしてはならない法的義務に違反したこと,すなわち同法14条2項1号ないし2号所定の承認拒否事由があるにもかかわらず,これを承認したと認められることが必要である。 なお,医薬品の承認は,厚生労働大臣の高度の専門的裁量にゆだねられており,厚生労働大臣は,同法14条2項各号以外にも承認を与えない場合がある。通達上,そのような場合として,例えば,(1)医薬品等の名称,形状等が他の医薬品や食品等との誤用,混同を招くおそれがあるとき,(2)有効成分を2以上含有する医薬品(配合剤)であって,その使用目的に照らし,配合の合理的理由が認められないとき,(3)添付資料に不備があり,相当の期間内にその不備が補正されないとき又は添付資料に虚偽の記載があるときが挙げられているが(「薬事法の一部を改正する法律の施行について」昭和55年4月10日薬発第483号厚生省薬務局長通知・乙D24〔第1の1〕),これらは,市販された場合に医療現場に混乱をもたらすと考えられるものや,薬事法所定の承認手続を遵守する意思がないと考えられるものであって,医薬品の有用性の評価判断にかかわるものではない。 c 以 これらは,市販された場合に医療現場に混乱をもたらすと考えられるものや,薬事法所定の承認手続を遵守する意思がないと考えられるものであって,医薬品の有用性の評価判断にかかわるものではない。 c 以上によれば,イレッサの承認行為が,医薬品の有用性を欠くために国家賠償法上違法であるというためには,原告らにおいて,イレッサの輸入承認が,平成14年7月当時の医学的,薬学的知見の下で,客観的に見て,①当該医薬品が効能,効果を有すると認められないこと,又は,②効能,効果に比して著しい有害作用があるため使用価値がないと認められることを主張立証する責任を負うものと解するのが相当である。 (イ) 医薬品の承認審査における基準及び国の裁量a 原告らは,医薬品の承認審査における有用性の有無は,判断時にお ける最高の学問水準に照らして客観的に定まる性質のものであり,また,医薬品の有効性及び安全性を確保し,もって国民の生命及び健康を保護するという薬事法の趣旨にかんがみても,承認行為及びその前提となる有用性の審査につき行政裁量はない旨主張する。 b 前記第3章第6の1及び2のとおり,薬事法上,厚生労働大臣は,医薬品の承認権限を有し(同法23条,14条1項),承認拒否事由(同法14条2項各号)が法定されているほか,承認審査資料(14条3項前段)が法定され,これを審査する専門家によって構成される組織(医薬品機構,審査センター)並びに厚生労働大臣の諮問機関(薬事・食品衛生審議会)が設置され,厚生労働大臣は,これらの組織による調査結果や,必要に応じて得る諮問機関からの答申を得た後,承認の可否を決定するとされている(同法14条4項,6項,14条の2,同法施行令1条の5)。 このような薬事法の諸規定は,厚生労働大臣による医薬品の承認が専門的裁量に 諮問機関からの答申を得た後,承認の可否を決定するとされている(同法14条4項,6項,14条の2,同法施行令1条の5)。 このような薬事法の諸規定は,厚生労働大臣による医薬品の承認が専門的裁量によるものであることを前提に,その評価方法について要件を明示するとともに,審査資料の信頼性を確保し,審査手続に専門性を有する組織・機関を関与させることにより,厚生労働大臣による承認の判断の合理性を確保したものと解するのが相当である。 このように,厚生労働大臣による医薬品の承認は,専門性を有する組織・機関による技術的な評価判断を基にしてされるものである上,薬事法14条2項2号所定の医薬品の有用性の判断は,疾病の種類,代替可能な他の治療薬や治療方法の存在等をも考慮し,当該医薬品の効能,効果に比して著しい有害作用があるため使用価値がないと認められるか否かを判断するものであって,その効能,効果と副作用との比較考量による専門的,総合的判断であるから,同号所定の要件の判断は,厚生労働大臣の専門技術的裁量にゆだねられているものという べきである。 したがって,厚生労働大臣がした薬事法14条2項所定の承認拒否事由に当たらないとの判断の適否は,その判断に不合理な点があったか否かという観点から評価されるべきである。すなわち,承認当時(平成14年7月時点)における医学的,薬学的知見を前提に,審査基準やその審査の過程に不合理な点があった場合には,これを基に行われた厚生労働大臣の判断は,国家賠償法上違法であると判断されると解するのが相当である。 c ところで,前記第6及び第7のとおり,製造物責任法上の欠陥の有無に係る当該医薬品の有用性,あるいは不法行為に基づく損害賠償請求における過失の前提としての当該医薬品の有用性の判断は,平成14年7月時点 ころで,前記第6及び第7のとおり,製造物責任法上の欠陥の有無に係る当該医薬品の有用性,あるいは不法行為に基づく損害賠償請求における過失の前提としての当該医薬品の有用性の判断は,平成14年7月時点(販売時点)における医学的,薬学的知見を基準とした客観的な判断であり,疾病の種類,代替可能な他の治療薬や治療方法の存在等をも考慮し,当該医薬品の有効性と安全性とを比較考量したものである(なお,現時点における医学的,薬学的知見を基準とした有用性が認められることは,平成14年7月時点における有用性を推認する間接事実になる。)。 そして,平成14年7月時点(承認時点)において,同時点における医学的,薬学的知見を基準に,当該医薬品に客観的に有用性が認められる場合には,厚生労働大臣がした当該医薬品が薬事法14条2項所定の承認拒否事由に当たらないとの判断は,厚生労働大臣の専門技術的裁量を考慮するまでもなく適法であって,当該医薬品の承認行為が国家賠償法上違法とはいえないというべきである。 イ承認の違法(不作為義務違反)について(ア) 有用性を欠く承認の違法についてa 原告らは,平成14年7月当時,旧ガイドラインにおける腫瘍縮小 効果を代替評価項目として有効性を評価することを前提とした承認制度において,イレッサは,IDEAL各試験の結果等による有効性の見込みと危険性とを比較すれば,有効性が欠如し又は危険性が有効性を上回るものであり,また,イレッサ承認後の事情から平成14年7月当時におけるイレッサの有用性を評価し,承認後における有効性及び安全性に関する諸事情を考慮すれば,イレッサは,少なくとも「手術不能又は再発非小細胞肺がん」という適応との関係では,有効性が欠如し又は危険性が有効性を上回るものであるから,有用性があるとはいえない旨 全性に関する諸事情を考慮すれば,イレッサは,少なくとも「手術不能又は再発非小細胞肺がん」という適応との関係では,有効性が欠如し又は危険性が有効性を上回るものであるから,有用性があるとはいえない旨主張する。 しかし,前記第4の3(1)ウのとおり,イレッサは,承認時点(平成14年7月時点)において,副作用として間質性肺炎を発症する危険があり,症例によっては致死的となる可能性は否定できないものの,その重篤度が従来の抗がん剤一般を超えるとはいえない状況にあったというのであり,また,イレッサは,セカンドライン治療においては,従来の非小細胞肺がんの抗がん剤と同等の有効性があり,従来の化学療法で治療効果を得られなかった患者に対しても治療効果を得ることができることがあっただけでなく,従来の殺細胞性抗がん剤において多くみられた血液毒性などの重大な副作用がみられないこと等から新たな治療の選択肢となるものであったというのである。 また,前記第4の3(2)のとおり,現時点においても,イレッサには有用性が認められるところ,イレッサは,承認時から現時点までの間,医薬品の客観的性状に変化がないのであるから,現時点におけるイレッサの有用性により承認時におけるイレッサの有効性を推認することができる。 以上によれば,イレッサは,承認時点(平成14年7月時点)において,当時の医学的,薬学的知見を基準に,客観的に有用性が認めら れるから,厚生労働大臣がしたイレッサが薬事法14条2項所定の承認拒否事由に当たらないとの判断は,その余の点について判断するまでもなく,国家賠償法上違法であるということはできない。 b 原告らは,イレッサの承認審査について,Ⅱ相承認の必要性の観点から,①第Ⅲ相試験の結果が出るまでに相当の時間がかかると見込まれること,②承認時ま 国家賠償法上違法であるということはできない。 b 原告らは,イレッサの承認審査について,Ⅱ相承認の必要性の観点から,①第Ⅲ相試験の結果が出るまでに相当の時間がかかると見込まれること,②承認時までに第Ⅲ相試験に関する適切な臨床試験計画が具体的に存在し実施計画書(プロトコール)が提出されていることという要件が必要であり,また,許容性の観点から,③その時点までの諸情報を総合的に検討して,有効性が肯定される相当の見込みがあり,延命効果に関する否定的な情報がないこと,④当該抗がん剤に高度の安全性が認められることという要件が必要であり,これらの要件の1つでも欠く場合には,Ⅱ相承認は許容されないとした上,イレッサについては,上記①ないし④のいずれの要件も満たさないから,被告国には,イレッサが有用性を欠く(Ⅱ相承認の要件を欠く)のに承認した違法がある旨主張する。 しかし,前記第2の2(3)のとおり,平成14年7月当時,抗がん剤の承認審査については,Ⅱ相承認は,その必要性が高く,その内容も当時の医学的,薬学的知見に照らして合理性があったというべきであり,旧ガイドラインのⅡ相承認の考え方を基準に,当時の医学的,薬学的知見に基づき,一般臨床試験によって腫瘍縮小効果を代替評価項目として有効性を評価し,有効性と安全性とを比較考量して総合評価して有用性を評価することには,合理性があったというべきである。 そうすると,原告らが主張する上記①ないし④のⅡ相承認の要件が必要であるとする積極的理由はないから,旧ガイドラインとは異なる独自の要件を設定する原告らの主張を採用することはできない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの上 記主張には理由がない。 (イ) 適応拡大(ファーストラインにおける使用,他剤あるいは放射線治療と することはできない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの上 記主張には理由がない。 (イ) 適応拡大(ファーストラインにおける使用,他剤あるいは放射線治療との併用療法)による承認の違法についてa 原告らは,ファーストラインにおける使用,他剤あるいは放射線治療との併用療法について,治験の選択基準に該当せずあるいは除外基準に該当するから,承認時において,治験によってこれらの有用性は確認されていなかったにもかかわらず,適応を「非小細胞肺がん(手術不能又は再発例)」と定めて,ファーストラインでの使用や,他剤や放射線治療との併用使用をも適用範囲としたことは,有用性を欠き違法である旨主張する。 b しかし,放射線治療との併用使用に関する原告らの主張は,前記第6の3(1)のとおり,本件患者らの中に放射線療法との併用療法を受けた者はいないことなどから,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 また,ファーストラインでの使用については,前記第6の3(2)のとおり,平成14年7月当時,ファーストライン治療におけるイレッサの有用性については臨床試験で直接検証されておらず,ファーストライン治療において積極的に使用すべき状況にはなかったが,IDEAL1試験の結果は,ファーストライン治療における奏効率の高さを予測させるものであったこと等に加え,承認後の第Ⅲ相試験(IPASS試験及びNEJ002試験)において,無増悪生存期間に関して,ファーストライン治療においても標準的治療法である併用療法に対する優越性が示され,延命効果があることが推認されたこと等から,承認時においても,ファーストライン治療における有用性を推認することができる。 以上によれば,イレッサは,平成14年7月当時,ファーストライ ,延命効果があることが推認されたこと等から,承認時においても,ファーストライン治療における有用性を推認することができる。 以上によれば,イレッサは,平成14年7月当時,ファーストライ ン治療においても客観的に有用性はあったものというべきであるから,原告らの上記主張には理由がない。 (2) 安全確保義務懈怠による承認と規制権限不行使の違法についてア判断枠組みについて(ア) 安全確保義務懈怠による承認の違法(第1次的主張・不作為義務違反)についてa 原告らは,厚生労働大臣が,イレッサの承認に際し,①添付文書の指示・警告に関する記載内容を指導しないまま承認した行為,②市販後全例調査(全例調査)を義務付けないまま承認した行為,③使用限定(入院ないしそれに準じる管理下での使用,肺がん化学療法に十分な経験を持つ医師による使用,投与に際して緊急時に十分に措置できる医療機関での使用等の使用限定)を付さないまま承認した行為を問題とし,これらはいずれも薬事法14条の承認行為における有用性の判断の誤りであって,承認行為の違法性の問題であるから,同法79条所定の承認条件の問題や規制権限不行使の問題ではなく,裁量権の消極的濫用論が問題になる場面ではない旨主張する。 b しかし,前記①(添付文書の指示・警告に関する記載内容を指導しないまま承認した行為)については,医薬品の承認審査における有用性の評価は,薬事法上,評価方法や承認拒否事由が明示され(同法14条1項,2項),承認審査資料が法定されるとともに(同法14条3項,同法施行規則18条の3第1項1号),承認審査の手続に審査手続に専門性を有する機関を関与させること等の手続が規定されており(同法14条4項,6項,14条の2,同法施行令1条の5),前記第5の4(1)のとおり,承認審 の3第1項1号),承認審査の手続に審査手続に専門性を有する機関を関与させること等の手続が規定されており(同法14条4項,6項,14条の2,同法施行令1条の5),前記第5の4(1)のとおり,承認審査資料には,医薬品の添付文書あるいは添付文書(案)は含まれていない。昭和54年10月1日法律第56号による薬事法の改正において,承認拒否事由とともに承認審査 資料が法定される際に,添付文書の記載内容が承認の対象とされなかったのは,添付文書の記載内容を承認の対象とすると,その改訂につき承認の取り直しが必要となり,新しい情報に即した機敏な対応ができなくなることから,添付文書の記載内容は承認の際にその内容を指導することとしたとされている(第87回国会衆議院社会労働委員会議事録第15号(昭和54年5月9日)・U政府委員答弁)。 そうすると,医薬品の承認における有用性の判断は,化学物質としての医薬品の有効性と安全性を比較考量して判断されるものであって,薬事法上,添付文書の記載内容を有用性の判断の要素として考慮することは予定されていないというほかなく,厚生労働大臣が,添付文書の内容の適正について関与するとしても,薬事法14条に基づく医薬品の承認行為とは別に,承認の際に,同法52条ないし54条に基づき行政指導を行なうことが予定されているにとどまるというべきである。 なお,以上のような薬事法上の有用性の評価判断の枠組みは,製造物責任法上,指示・警告上の欠陥が,医薬品そのものの有効性と安全性との比較考量による有用性の評価に加え,添付文書に記載された指示・警告による情報をも含めて,当該医薬品の欠陥の有無(通常有すべき安全性を欠くか否か)を評価判断することが予定されていることとは異なるものであるが,製造物責任法が,製造業者等の危険責任,報 た指示・警告による情報をも含めて,当該医薬品の欠陥の有無(通常有すべき安全性を欠くか否か)を評価判断することが予定されていることとは異なるものであるが,製造物責任法が,製造業者等の危険責任,報償責任及び消費者保護の観点から,欠陥のある医薬品を販売した製造業者等に厳格な第一次的責任を負わせるものであるのに対し,薬事法は,製造業者等が医薬品の安全性確保について第一次的責任を負うことを前提に,国が医薬品の有効性及び安全性の確保のために薬事行政上必要な規制を行うことを目的とするものである点において,製造物責任法とは目的を異にするものであるから,薬事法が予定する医薬 品の承認における有用性の判断のための制度の枠組みが,製造物責任法上の医薬品の欠陥の判断枠組みと異なることが不合理であるということはできない。 また,前記②(全例調査を義務付けないまま承認した行為)については,前記第5の5(1)及び(2)の認定事実のとおり,全例調査は,市販後調査としての使用成績調査の一つの方法であり,使用成績調査の結果は承認後一定期間を経た後に再審査を受ける際の再審査の申請資料となることが予定されているものであって,未知の副作用,医薬品の使用実態下における副作用の発生状況の把握,安全性又は有効性等に影響を与えると考えられる要因を把握することを目的として行われるものであるから(薬事法14条の4第4,6項,77条の3第1項),承認後に使用成績調査を行うか否かということが,承認時における同法14条1項,2項に基づく有用性の評価の要素として予定されているということはできない。なお,厚生労働大臣は,承認時に全例調査の指示を行うことも可能であり,その場合,同法79条所定の承認条件とすることや行政指導を行うことが考えられるが,これらは同法14条所定の承認行 ことはできない。なお,厚生労働大臣は,承認時に全例調査の指示を行うことも可能であり,その場合,同法79条所定の承認条件とすることや行政指導を行うことが考えられるが,これらは同法14条所定の承認行為とは異なる法的根拠に基づくものである。 さらに,前記③(使用限定を付さないまま承認した行為)については,入院ないしそれに準じる管理下での使用,肺がん化学療法に十分な経験を持つ医師による使用,投与に際して緊急時に十分に措置できる医療機関での使用等の使用限定は,薬事法上に根拠があるものではない。前記(1)ア(イ)の認定・判断のとおり,医薬品の承認行為については,薬事法14条1項,2項において,評価方法や承認拒否事由が明示され,医薬品の承認における有用性の判断は,当該医薬品の薬剤そのものについての有効性と安全性を比較考量して判断されるものであるから,前記の使用限定を行うか否かは,承認時における同法14 条1項,2項に基づく有用性の評価の要素として予定されていないというべきである。なお,厚生労働大臣が,これらの指示を行うとすれば,同法79条所定の承認条件とすることや行政指導を行うことが考えられるが,これらが同法14条所定の承認行為とは異なる根拠に基づくものであることは,前記②の場合と同様である。 c 以上によれば,原告らの前記主張は,いずれも採用することはできない。 (イ) 副作用による被害を回避するために必要な規制権限の不行使の違法(第2次的主張・作為義務違反)についてa 厚生労働大臣の規制権限を行使すべき義務について(a) 原告らは,厚生労働大臣が,医薬品の承認等に関して安全性確保義務を負うことから,①添付文書の指示・警告に関する記載内容を指導しなかったこと,②全例調査を義務付けなかったこと,③使用限定(入院ないし 原告らは,厚生労働大臣が,医薬品の承認等に関して安全性確保義務を負うことから,①添付文書の指示・警告に関する記載内容を指導しなかったこと,②全例調査を義務付けなかったこと,③使用限定(入院ないしそれに準じる管理下での使用,肺がん化学療法に十分な経験を持つ医師による使用,投与に際して緊急時に十分に措置できる医療機関での使用等の使用限定)を付さなかったことについて,副作用による被害を回避するために必要な規制権限を行使しなかった違法があった旨主張する。 そして,国民の生命健康という重大な法益の保護を目的とする規制権限については,その行使に関する裁量の幅は狭く捉えられるべきであるから,権限の不行使が許容限度を逸脱しているか否かは,ⅰ)被侵害法益が重要であること,ⅱ)行政庁が危険を予見することが可能であること,ⅲ)当該権限の行使によって危険を回避し得ること,ⅳ)当該権限の行使が国民から期待されることとの観点から総合的に判断するのが相当であるとするとして,国民の生命健康という重大な法益侵害を予見することができ,上記権限を行使すればその 結果を回避することが可能で,その権限を行使することが期待された状況であれば,その権限の不行使に合理性を認めることはできず,厚生労働大臣は上記権限を行使すべき義務があり,その不行使は国家賠償法上違法となる旨主張する。 (b) しかし,国家賠償法1条1項にいう公務員の行為の違法とは,公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反することをいうものと解するのが相当であるところ,公務員による規制権限の不行使という不作為が国家賠償法上違法であるというためには,当該規制権限の不行使によって損害を受けたと主張する個別の国民との関係において,当該公務員に規制権限を行使すべき作為義務が認められ,当該 の不行使という不作為が国家賠償法上違法であるというためには,当該規制権限の不行使によって損害を受けたと主張する個別の国民との関係において,当該公務員に規制権限を行使すべき作為義務が認められ,当該公務員が上記作為義務に違反したと認められることが必要である。 本件において,原告らが主張する厚生労働大臣の上記規制権限についてみると,厚生労働大臣は,使用限定の指示は,薬事法14条,79条に基づき,承認条件として,又は行政指導として行うことができ,全例調査の指示は,同法14条の4第4及び第6項,77条の3第1項,79条に基づき,承認条件として,又は行政指導として行うことができ,添付文書の記載内容の指示は,同法52条ないし54条に基づき行政指導として行うことができるものと解される。そして,承認条件を付すことは承認という行政処分の附款であり,薬事法上,一定の要件が法定されているが,裁量が認められるものと解され,また,行政指導についてみると,厚生労働大臣が行政指導を行う根拠となり得る条文はあるが,具体的にどのような場合に行政指導を行うかについては,薬事法上要件は法定されておらず,厚生労働大臣の広い裁量にゆだねられているものと解される。そうすると,上記各規制権限の存在から,直ちに,厚生労働大 臣が上記各規制権限を行使すべき作為義務が生じるということはできない。 (c) したがって,厚生労働大臣の裁量が認められる上記各規制権限の不行使については,原則として,作為義務は発生せず,当時の医学的,薬学的知見の下において,上記権限の性質等に照らし,当該規制権限を行使しないことが許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合には,これを行使すべき作為義務が認められ,その不行使は国家賠償法上違法となるものと解される(クロロキン判 当該規制権限を行使しないことが許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合には,これを行使すべき作為義務が認められ,その不行使は国家賠償法上違法となるものと解される(クロロキン判決参照)。 (d) なお,厚生労働大臣は,薬事法1条に基づき医薬品につき安全性確保義務を負うということはできるが,薬事法上,同法1条は目的規定であって,厚生労働大臣が具体的な各種規制権限を行使するための根拠となり得る条文は,前記(b)のとおり個別に定められているのであるから,上記目的規定に基づく安全性確保義務は抽象的な義務にとどまるというほかなく,このような抽象的義務から直ちに具体的な作為義務が生ずるということはできない。 また,本件では,前記第6の1(1)のとおり,非小細胞肺がんの抗がん剤は,その性質上,一定の死亡を含む重篤な副作用の危険を伴う薬剤であるといわざるを得ないが,前記第8の1(1)アのとおり,非小細胞肺がんの抗がん剤の承認等についても,薬事法上,厚生労働大臣には専門技術的裁量が認められるのであるから,このような性質を有する抗がん剤に係る規制権限の不行使が問題になる場面において,原告らの上記主張のように,国民の生命健康という重大な法益の保護を目的とする規制権限が問題とされていることをもって,直ちに厚生労働大臣の規制権限の行使に関する裁量が収縮すると解することはできない。 b 規制権限不行使の違法に関する主張立証の内容について(a) 原告らは,薬害事件において,国家賠償法上の違法を判断するに際し,職務行為基準説(国家賠償法上の違法とは,公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務違反であるとの見解)の適用はないとし,仮に職務行為基準説の適用があるとしても,一般に,公務員が職務上通常尽くすべき注意義務 家賠償法上の違法とは,公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務違反であるとの見解)の適用はないとし,仮に職務行為基準説の適用があるとしても,一般に,公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と行為をした場合には当該行為は違法と評価されるべきであるから,本件において,原告らは,厚生労働大臣がイレッサ使用の安全性を確保するために通常尽くすべき注意義務を尽くしていなかったこと,本来採るべき措置を採っていなかったことを主張立証すれば足りる旨主張する。 (b) しかし,前記aのとおり,厚生労働大臣の薬事法に基づく規制権限の不行使が問題となる国家賠償請求における国家賠償法上の違法の解釈において,国家賠償法1条1項にいう公務員の行為の違法とは,公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反することをいうものと解する見解が否定されるべき理由はない。 そして,前記aのとおり,薬事法は,医薬品の安全性の確保をも目的としているものであるから(同法1条),同法に基づく各種規制権限の行使により国民が受ける利益は,反射的利益ではなく法的保護に値する利益であると認められる。そうすると,厚生労働大臣に規制権限の不行使につき作為義務違反が認められる場合には,当該行為は国家賠償法上違法になるところ,上記作為義務の発生について厚生労働大臣の裁量が問題になり,当該規制権限を行使しないことが著しく合理性を欠くと認められる場合には,規制権限を行使すべき作為義務が認められ,その不行使は国家賠償法上違法となるものと解すべきであって,原告らの主張する上記判断枠組みを採用 することはできない。 イ添付文書の指示・警告に関する義務違反について(ア) 原告らは,厚生労働大臣は,承認時において,致死的な間質性肺炎の副作用が起きる る上記判断枠組みを採用 することはできない。 イ添付文書の指示・警告に関する義務違反について(ア) 原告らは,厚生労働大臣は,承認時において,致死的な間質性肺炎の副作用が起きることを認識しており,イレッサの副作用としての間質性肺炎は,使用上の注意通達の基準によれば,警告欄において明らかにすべきであったにもかかわらず,イレッサの添付文書に不十分な記載しかなかったことにつき何ら指導をしなかったことについて,規制権限の不行使の違法がある旨主張する。 (イ)a しかし,前記ア(ア)bのとおり,薬事法上,医薬品の添付文書は承認審査資料でもなく,医薬品の添付文書の記載内容は,承認審査の対象とはされておらず,承認の際に必要に応じて行政指導をすることが予定されているにとどまる。そして,医薬品の添付文書の記載内容に関して厚生労働大臣が行う行政指導は,薬事法上,医薬品の添付文書の記載事項,記載上の留意事項,記載禁止事項が法定されており(同法52条ないし54条),これらの規定により厚生労働大臣に上記行政指導を行う権限が与えられているということができるが,これらの規定は厚生労働大臣が上記行政指導をすべき要件を具体的に定めたものではない。加えて,医薬品の添付文書とは,医薬品の提供を受ける患者の安全を確保し適正使用を図るため,その時点において得られた情報と医学的,薬学的水準に照らし,医師等に対して必要な情報を提供するものであって,これにどのような記載をすべきかの判断には専門的技術的判断が必要であることからすれば,厚生労働大臣が添付文書の記載内容につき具体的な行政指導を行うべき時期,内容,程度等は,厚生労働大臣の自由裁量にゆだねられているものというべきである。 したがって,前記ア(イ)aのとおり,医薬品の添付文書の記載内容に につき具体的な行政指導を行うべき時期,内容,程度等は,厚生労働大臣の自由裁量にゆだねられているものというべきである。 したがって,前記ア(イ)aのとおり,医薬品の添付文書の記載内容に 関して厚生労働大臣が行う行政指導につき,厚生労働大臣の作為義務違反の問題が生ずるのは,裁量権の逸脱濫用に当たる場合,すなわち行政指導をしなかったことが当時の医学的,薬学的知見の下において,その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合に限られるものと解するのが相当である。 b 本件においては,前記第5の4(2)認定のとおり,被告会社が,承認申請時に提出した添付文書案に副作用として間質性肺炎に関する記載をしなかったのに対し,厚生労働大臣は,被告会社に対し,承認時までに,添付文書の「重大な副作用」欄に間質性肺炎を記載するよう実際に行政指導を行った。 したがって,本件において問題となるのは,厚生労働大臣が既に行った行政指導の内容が,その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるといえるか,すなわち,厚生労働大臣が,承認時において,被告会社に対し,イレッサによる間質性肺炎を「重大な副作用」欄に記載するよう求めた行政指導が,その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる程度に不十分であり,厚生労働大臣に,イレッサによる間質性肺炎を「警告」欄に記載するよう行政指導すべき作為義務が生じていたといえるかである。 (ウ)a 前記第5の4(2)イの認定事実によれば,承認審査の過程において,被告会社は,審査センターの求めに応じて,平成14年2月8日から同年4月4日までの間に,間質性肺炎等と診断された副作用報告例として,国内臨床試験の3症例(国内臨床試験3症例)及び海外の7症例(海外7症例)を報告し,審査センタ めに応じて,平成14年2月8日から同年4月4日までの間に,間質性肺炎等と診断された副作用報告例として,国内臨床試験の3症例(国内臨床試験3症例)及び海外の7症例(海外7症例)を報告し,審査センターは,国内臨床試験3症例の臨床経過を確認した結果,いずれも症状が軽快した後に死亡した症例であるものの,間質性肺炎の発症にイレッサが関与し,症例によっては致死的となる可能性は否定できないと判断し,また,海外7症 例については,その証拠価値をも考慮した上,承認用量(250㎎/日)で間質性肺炎が発症し,症例によっては致死的となる可能性は否定できず,少なくとも既存の抗がん剤と同程度の間質性肺炎が発症する可能性はあると判断したものと認められる。 そして,前記第1の3(1)及び第5の4(2)イの認定によれば,審査センターは,イレッサが,その副作用が従来の抗がん剤と比べると軽微な薬剤であり,比較的安易に用いられることが懸念される経口薬であると認識しており,イレッサによる間質性肺炎を副作用として添付文書において指摘し,医師等に対して注意喚起する必要があると判断したものと認められる。 これに対し,前記第1の3(1)及び第5の4(2)イの認定のとおり,被告会社は,承認申請時に審査センターに提出した添付文書案には間質性肺炎についての記載をせず,審査センターからのイレッサと間質性肺炎との関連性に関する意見照会に対しても,国内3症例等を挙げ,間質性肺炎の報告は病勢進行に伴うもので,イレッサが間質性肺炎を誘導する可能性は低いとの回答を行ったもので,間質性肺炎をイレッサの副作用として添付文書に記載すること自体について消極的な意見を有していたものと推認される。そして,被告会社は,承認前に,厚生労働大臣の行政指導により間質性肺炎を「重大な副作用」欄に記載 イレッサの副作用として添付文書に記載すること自体について消極的な意見を有していたものと推認される。そして,被告会社は,承認前に,厚生労働大臣の行政指導により間質性肺炎を「重大な副作用」欄に記載することには応じたものの,本件訴訟においても,承認時において,イレッサによる間質性肺炎を,添付文書の「警告」欄に記載する必要はなかったもので,「重大な副作用」欄に記載することで十分であった旨主張している。 また,前記第5の1(3)及び4(2)イの認定によれば,使用上の注意通達上,医薬品の添付文書の「重大な副作用」欄に記載する副作用は,重篤度分類通知のグレード3(患者の体質や発現時の状態等によ っては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの。)に相当する副作用が想定されていたことから,厚生労働大臣は,イレッサによる間質性肺炎の上記副作用情報は,通達に定められた添付文書の記載内容を前提とする限り,使用上の注意通達にいう「重大な副作用」に相当するものであって,同通達にいう「警告」(致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合,又は副作用が発現する結果極めて重大な事故につながる可能性があって,特に注意を喚起する必要がある場合)として記載する必要はないものと判断した結果,被告会社に対し,間質性肺炎を添付文書の「重大な副作用」欄に記載するよう行政指導をしたものと認められる。 なお,前記第3の2(2)イ(ウ)及び前記第5の1(6)の認定のとおり,既存の抗がん剤であるイリノテカン,ドセタキセル,パクリタキセル,ゲムシタビン,ビノレルビン,アムルビシンは,いずれも副作用として間質性肺炎が発症することが判明しており(国内治験における発症率は,1.0ないし4.9%),イリノテカン,ドセタキセル,パ キセル,ゲムシタビン,ビノレルビン,アムルビシンは,いずれも副作用として間質性肺炎が発症することが判明しており(国内治験における発症率は,1.0ないし4.9%),イリノテカン,ドセタキセル,パクリタキセル等では,市販後に間質性肺炎による死亡例が報告されている。上記抗がん剤のうち添付文書の警告欄に間質性肺炎の記載があるものは,イリノテカン(第3版添付文書),ゲムシタビン(第1版添付文書),アムルビシン(第1版添付文書)であり,ドセタキセル(第6版添付文書),パクリタキセル(第1版添付文書),ビノレルビン(平成11年11月改訂の添付文書)の各添付文書の警告欄には間質性肺炎の記載はない。 b 製造物責任上の指示・警告上の欠陥の判断においては,前記第6の4(1)のとおり,添付文書の記載内容に加え,医薬品の販売時の,間質性肺炎に関する医学的,薬学的知見の内容,医療現場の医師等に対 して提供されていた情報の内容,医療現場の医師等の認識をも併せ考慮し,当該医薬品を安全かつ適正に使用するために必要な情報が提供されていたか否かが判断されるべきである。そして,これを前提にすると,前記第6の4(4)のとおり,承認時までの副作用報告において,イレッサとの関連性が否定できない間質性肺炎を発症し,致死的な転帰をたどる例が報告されていたとの事実や同事実から認識すべき危険性を医療現場の医師等に対して正確に伝えるためには,イレッサについては,間質性肺炎を第1版添付文書の重大な副作用欄に記載し,重要なものとして最初に記載するとともに,イレッサとの関連性が否定できない間質性肺炎が致死的な転帰をたどることについても警告欄に記載して注意喚起を図るのが相当であり,このような注意喚起が図られないまま販売されたことは,抗がん剤として通常有すべき安全性を欠い 否定できない間質性肺炎が致死的な転帰をたどることについても警告欄に記載して注意喚起を図るのが相当であり,このような注意喚起が図られないまま販売されたことは,抗がん剤として通常有すべき安全性を欠いていたものといわざるを得ず,指示・警告上の欠陥があるものと認められる。 そして,このような判断によれば,厚生労働大臣が,承認時において,被告会社に対し,イレッサによる間質性肺炎を「重大な副作用」欄に記載するよう行政指導したにとどまったことは,添付文書に関する行政指導という規制権限行使の内容において,必ずしも万全なものであったとはいい難いというべきである。 c しかし,国家賠償法上の違法性の判断においては,厚生労働大臣に,承認時において,イレッサによる間質性肺炎を「警告」欄に記載するよう行政指導すべき作為義務が生じていたといえるか否かを,前記(イ)の判断枠組みから検討する必要がある。 前記aの事情,特に,イレッサによる間質性肺炎は,症例によっては致死的となる可能性は否定できないが,少なくとも既存の抗がん剤と同程度の間質性肺炎が発症する可能性があるにとどまると判断され ていたこと,副作用として間質性肺炎が発症することが判明している既存の抗がん剤の添付文書には,警告欄に間質性肺炎の記載があるものとないものとがあったこと,使用上の注意通達によれば,医薬品の添付文書の「重大な副作用」欄に記載する副作用としては,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡に至る副作用が想定されており,これにより,医療現場の医師等の適切な配慮により副作用の被害防止を図ることができるとの見解も存在し得たこと等からすれば,厚生労働大臣が,イレッサによる間質性肺炎を「重大な副作用」欄に記載しただけでは,イレッサが,医療現場の医師等により,間質性肺炎に関する 防止を図ることができるとの見解も存在し得たこと等からすれば,厚生労働大臣が,イレッサによる間質性肺炎を「重大な副作用」欄に記載しただけでは,イレッサが,医療現場の医師等により,間質性肺炎に関する警戒がないまま広く用いられ,その結果,死亡を含む重篤な副作用が発症するという危険が現実化するおそれがあるということを,高度の蓋然性をもって認識することができたとまでいうことはできない。 また,行政指導は,法的拘束力を有するものではなく,あくまで相手方の任意,自発的な協力,同意を期待して行われるものであるところ,前記aのとおりの被告会社の消極的対応に鑑みれば,承認時において,厚生労働大臣が間質性肺炎を「警告」欄に記載するよう行政指導したとしても,被告会社が任意にはこれに応じなかったであろうことを推認することができ,そうすると,厚生労働大臣が,間質性肺炎を「警告」欄に記載するよう行政指導したとしても,イレッサが,間質性肺炎に関する警戒がないまま広く用いられ,死亡を含む重篤な副作用が発症するという結果を回避することができたということはできない。 d 前記第6の4(1)のとおり,製造物責任上の指示・警告上の欠陥の判断においては,添付文書の記載に加え,医薬品の販売時の,間質性肺炎に関する医学的,薬学的知見の内容,医療現場の医師等に対して 提供されていた情報の内容,医療現場の医師等の認識をも併せ考慮し,当該医薬品を安全かつ適正に使用するために必要な情報が提供されていたか否かが判断されるべきである。 これに対し,厚生労働大臣が行う添付文書の記載に関する行政指導については,上記の製造物責任法における解釈と同様に解する考え方もあり得る一方で,医薬品の添付文書の記載内容については製造業者等が厳格な第一次的責任を負うことを前提に,薬事法令上 載に関する行政指導については,上記の製造物責任法における解釈と同様に解する考え方もあり得る一方で,医薬品の添付文書の記載内容については製造業者等が厳格な第一次的責任を負うことを前提に,薬事法令上の添付文書の規定との適合性を審査し,後見的に指導を行うにとどまるものであるから,上記の製造物責任法上の指示・警告上の欠陥の判断方法とは異なり,添付文書の記載内容と薬事法令及び使用上の注意通達等との適合性のみを判断する方法を採るべきであるとの考え方もあり得るものというべきである。 そうすると,厚生労働大臣が後者の考え方を前提に,前記のとおり,イレッサにより間質性肺炎を発症し,症例によっては死に至る可能性があることを否定できず,少なくとも既存の抗がん剤と同程度の間質性肺炎が発症する可能性はあるとの情報を提供するためには,「警告」欄に記載する必要はなく,「重大な副作用」に記載することで足りると判断し,被告会社に対し,イレッサによる間質性肺炎を「重大な副作用」欄に記載するよう行政指導をしたことは,当時の医学的,薬学的知見の下においては,一応の合理性を有するものということができ,その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くということはできない。 (エ) 以上によれば,承認時において,厚生労働大臣に,イレッサによる間質性肺炎を「警告」欄に記載するよう行政指導すべき作為義務が生じていたものと認めるに足りないから,原告らの添付文書の指示・警告に関する規制権限の不行使の違法の主張は,その余の点について判断するま でもなく,理由がない。 ウ使用限定に関する義務違反について(ア) 原告らは,厚生労働大臣が,承認時において,致死性の間質性肺炎を含む肺障害という重篤な有害事象の発生が予測されていたことや,通院治療が可能な経口薬であったこと 限定に関する義務違反について(ア) 原告らは,厚生労働大臣が,承認時において,致死性の間質性肺炎を含む肺障害という重篤な有害事象の発生が予測されていたことや,通院治療が可能な経口薬であったこと等からすれば,他の薬剤の例と比較しても,「抗がん剤についての十分な知識と経験を持つ医師・病院による投与」,「一定期間の入院管理」等のような使用限定を付すべきであったのに,これを付さなかったことについて,規制権限の不行使の違法がある旨主張する。 (イ) しかし,前記第6の6(2)のとおり,平成14年12月までの副作用報告を受けて,安全性検討会における検討をした結果,承認当時の予想をはるかに超える市販後の間質性肺炎の発症があり,イレッサによる間質性肺炎の特徴として,普通の抗がん剤による肺障害とは異なり,審査時には発現していなかった投与初期(2~3週間目)に発現し,致死的な転帰をたどる例が多いこと等が明らかになったものであって,これらを踏まえて上記使用限定の必要性があることが判明したものと認められる。すなわち,同年7月の承認時においては,上記使用限定の必要性を判断するために必要な前提事実としての上記間質性肺炎の特徴は,未だ判明していなかったものといわざるを得ない。 (ウ) そうすると,厚生労働大臣が,承認に際し,上記使用限定を付さなかったことが,当時の医学的,薬学的知見の下において,その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものと認めるに足りない。 エ全例調査に関する義務違反について(ア) 原告らは,イレッサは,①承認前の臨床試験における安全性に関する日本人データは133例しかなかったことから,承認の前提となった臨床試験の日本人データが少ない場合に該当し,また,②そのドラッグデ ザインから肺毒性が予測され,非臨床試験の段 性に関する日本人データは133例しかなかったことから,承認の前提となった臨床試験の日本人データが少ない場合に該当し,また,②そのドラッグデ ザインから肺毒性が予測され,非臨床試験の段階からその毒性は示され,臨床試験やEAPにおける症例では現実に間質性肺炎の症例が死亡例までもが何例も確認されていたことに加え,日本が世界初の承認であって,それまでの抗がん剤と異なって先行する海外での市販後の知見も一切なかったこと等から,重篤な副作用が予測される等の場合に該当したこと等からすれば,厚生労働大臣は,承認時において,イレッサの効果と安全性を確認するため,全例調査を義務付けるべきであったにもかかわらず,これを行わなかったことについて,規制権限の不行使の違法がある旨主張する。 (イ) しかし,前記第6の6(1)の認定・判断のとおり,医療機関に対し確実な情報提供,注意喚起等を行い,適正使用に関する理解を促すとともに,重篤な副作用等の情報を迅速に収集し,必要な安全対策を実施することを主たる目的とした制度は,市販後調査のうちの市販直後調査であって,イレッサは,市販直後調査が承認条件の一つとされ,実際に行われていたのであるから,このような事情からも,市販直後調査に加え又はこれに代えて使用成績調査としての全例調査を行う必要性があったものと認めるに足りない。 また,使用成績調査の主たる目的は,副作用情報等の安全性に関する情報を中心に適正使用情報を収集するというものであって,医療機関に対する情報提供による適正使用の理解を促し,安全性を確保することは,その副次的な効果にとどまるというべきであるから,厚生労働大臣に,上記のような副次的な効果を上げることを目的として,使用成績調査としての全例調査を行うことを義務付けるべき作為義務が発生するというこ その副次的な効果にとどまるというべきであるから,厚生労働大臣に,上記のような副次的な効果を上げることを目的として,使用成績調査としての全例調査を行うことを義務付けるべき作為義務が発生するということはできない。 (ウ) したがって,厚生労働大臣が,承認に際し,全例調査を義務付けなかったことが,当時の医学的,薬学的知見の下において,その許容される 限度を逸脱して著しく合理性を欠くものと認めるに足りない。 2 承認後の安全性確保義務違反(規制権限の不行使)について(1) 判断枠組みについてア原告らは,厚生労働大臣は,医薬品の承認後においても,医薬品の副作用情報を収集する等して医薬品の安全性を確保するために適切な措置を講じ,あるいは製薬業者に安全性確保のための適切な措置を講じさせるべき職務上の義務を負っており,承認後の安全性確保義務として,副作用情報を収集すべき義務及びこれを前提に添付文書の改訂,緊急安全性情報の配布等の安全性確保のための手段・方法を講じる義務を負っていたにもかかわらず,上記規制権限を行使しなかった違法がある旨主張する。 そして,国民の生命健康という重大な法益の保護を目的とする規制権限については,その行使に関する裁量の幅は狭く捉えられるべきであるから,権限の不行使が許容限度を逸脱しているか否かは,ⅰ)被侵害法益が重要であること,ⅱ)行政庁が危険を予見することが可能であること,ⅲ)当該権限の行使によって危険を回避し得ること,ⅳ)当該権限の行使が国民から期待されることとの観点から総合的に判断するのが相当であるとするとして,国民の生命健康という重大な法益侵害を予見することができ,上記権限を行使すればその結果を回避することが可能で,その権限を行使することが期待された状況であれば,その権限の不行使に合理性を認め るとして,国民の生命健康という重大な法益侵害を予見することができ,上記権限を行使すればその結果を回避することが可能で,その権限を行使することが期待された状況であれば,その権限の不行使に合理性を認めることはできず,厚生労働大臣は上記権限を行使すべき義務があり,その不行使は国家賠償法上違法となる旨主張する。 イ前記1(2)ア(イ)のとおり,国家賠償法上,公務員による規制権限の不行使という不作為が国家賠償法上違法であるというためには,当該規制権限の不行使によって損害を受けたと主張する個別の国民との関係において,当該公務員に規制権限を行使すべき作為義務が認められ,当該公務員が上 記作為義務に違反したと認められることが必要である。 本件において,医薬品の承認後における厚生労働大臣の規制権限としては,前記第5の5の認定のとおり,副作用報告制度,医薬品等安全情報報告制度,市販後調査制度等により副作用情報を収集するとともに,これらの副作用情報を医療現場に提供するため,添付文書の改訂(使用上の注意の改訂),緊急安全性情報の配布による情報提供等が予定されており,厚生労働大臣は,行政指導によりこれらの方法で情報提供を行わせることができるほか,緊急命令によりこれを行わせることができる(薬事法69条の2)。 しかし,このような厚生労働大臣の薬事法上の権限行使の性質を考慮すると,厚生労働大臣は,問題となった副作用の種類,発現率及び予防方法等を考慮した上,随時,相当と認められる措置を講じるべきであるということはできるが,その種類,時期等の判断は,性質上,高度の専門技術的判断を伴うものであるから,厚生労働大臣の当該時点における医学的,薬学的知見に基づく広い裁量にゆだねられているというべきである。 したがって,厚生労働大臣による上記各規制権限の不 ,高度の専門技術的判断を伴うものであるから,厚生労働大臣の当該時点における医学的,薬学的知見に基づく広い裁量にゆだねられているというべきである。 したがって,厚生労働大臣による上記各規制権限の不行使については,作為義務が生じないのが原則であって,当時の医学的,薬学的知見の下において,上記権限の性質等に照らし,その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合に,規制権限を行使すべき作為義務が認められ,その不行使は国家賠償法上違法となるものと解するのが相当である(クロロキン判決参照)から,原告らの主張は失当である。 また,前記1(2)ア(イ)のとおり,その性質上,一定の死亡を含む重篤な副作用の危険を伴う薬剤である抗がん剤に係る規制権限の不行使が問題になる場面において,原告らの上記主張のように,国民の生命健康という重大な法益の保護を目的とする規制権限が問題とされていることをもって,直ちに厚生労働大臣の規制権限の行使に関する裁量が収縮するものと解す ることはできない。 (2) 承認後の安全性確保義務違反についてア平成14年8月6日の死亡例の報告に基づく安全性確保義務及びその違反(ア) 原告らは,厚生労働大臣は,①平成14年8月6日にイレッサによる急性肺障害・間質性肺炎による死亡例(症例②)の報告を受けた時点で,直ちに添付文書の改訂,緊急安全性情報の配布,その周知徹底等の安全性確保のための手段・措置を講ずべき義務があった,又は②同日時点で,(ア)被告会社に他に報告されている副作用症例(特に死亡症例)の有無等を問い合わせ,(イ)症例報告につき情報が不足していると判断する場合には,被告会社に対して報告医療機関から追加情報を入手して報告するよう指示し,(ウ)他の医療機関に対して同様の副作用症例(特に死亡例) い合わせ,(イ)症例報告につき情報が不足していると判断する場合には,被告会社に対して報告医療機関から追加情報を入手して報告するよう指示し,(ウ)他の医療機関に対して同様の副作用症例(特に死亡例)の有無等を問い合わせるなどして情報収集をした上,上記情報を入手することができた時点において,添付文書の改訂,緊急安全性情報の配布,その周知徹底等の安全性確保のための手段・措置を講ずべき義務があった旨主張する。 (イ) しかし,前記第5の5認定のとおり,厚生労働大臣が,平成14年8月6日までに,被告会社から副作用報告を受けていた症例は,別紙38【承認後の副作用報告症例経過表(平成14年9月2日の時点で被告国に報告された内容)】記載の症例①ないし⑦及び⑨の合計8例(うち死亡例は2例)であり,症例経過の詳細な追加報告がされていたものはなかったというのである。そして,症例②については,第1報として,イレッサの投与を受けた患者が,投与開始から8日目に急性肺障害を発症し,その後死亡したとの報告がされていたにとどまり,詳細な経過は不明であり,その一定期間後には副作用報告制度が予定する追加報告が予定されていたというのであるから,上記追加報告を待って当該症例を分 析検討するとの判断が合理性を欠いていたということはできない。また,承認時には,イレッサにより症例によっては致死的となる間質性肺炎を発症する可能性は否定できないものの,既存の抗がん剤を超えると考える根拠はないとの知見が存在しており,また,前記第3の2(2)アの認定事実によれば,承認当時,既存の非小細胞肺がんの抗がん剤(ビノレルビン,ドセタキセル,イリノテカン,ゲムシタビン,パクリタキセル,シスプラチン等)の副作用死亡率は1ないし2%前後であるとされていたというのであるから,イレッサの投 小細胞肺がんの抗がん剤(ビノレルビン,ドセタキセル,イリノテカン,ゲムシタビン,パクリタキセル,シスプラチン等)の副作用死亡率は1ないし2%前後であるとされていたというのであるから,イレッサの投与後に患者が死亡したとされる症例1例が生じたとの事実は,上記承認時の医学的,薬学的知見と異なるものではなかったというべきである。 (ウ) 以上によれば,厚生労働大臣が,イレッサの承認後に,イレッサの投与後に患者が死亡したとされる症例1例(症例②)の報告を受けた平成14年8月6日時点において,直ちに添付文書の改訂,緊急安全性情報の配布,その周知徹底等の安全性確保のための手段・措置を講じなかったことや,同日時点において原告が主張する前記情報収集をするための措置を講じなかったことが,当時の医学的,薬学的知見の下において,厚生労働大臣に与えられた権限の性質等に照らし,その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものと認めるに足りない。 イ平成14年9月2日の死亡例の報告に基づく安全性確保義務及びその違反(ア) 原告らは,遅くとも,症例②の追加報告を受けた平成14年9月2日時点では,安全性検討会においてイレッサによる死亡例と判断された症例報告書(丙K1[枝番号14])と同じ内容の情報を得ていたのであるから,添付文書の改訂,緊急安全性情報の配布,その周知徹底等の安全性確保のための手段・措置を講ずべき義務があった旨主張する。 (イ) しかし,前記第5の6(1)ア(ウ)認定のとおり,厚生労働大臣が,同日までに,被告会社から副作用報告を受けていた症例は,別紙38【承認 後の副作用報告症例経過表(平成14年9月2日の時点で被告国に報告された内容)】記載の症例①ないし症例⑩のとおり,合計10例(うち死亡例は6例)で,そのうち症例経過の詳細な 38【承認 後の副作用報告症例経過表(平成14年9月2日の時点で被告国に報告された内容)】記載の症例①ないし症例⑩のとおり,合計10例(うち死亡例は6例)で,そのうち症例経過の詳細な追加報告がされていたものは2例(症例②,症例⑨)のみであり,他の症例はその後一定期間内に副作用報告制度が予定する追加報告が予定されていたというのであるから,上記追加報告を待って上記他の症例を分析検討するとの判断には,一応の合理性があったというべきである。なお,平成14年8月29日までに被告会社が入手していた症例は,別紙37【承認後の副作用報告症例経過表(平成14年8月29日の時点で被告会社に報告された内容)】記載のとおりであって,前記の被告会社の被告国に対する副作用報告の内容と大きく異なるものではない。また,厚生労働大臣は,症例の詳細な経過報告を受けた場合であっても,これらの症例を,当時の医学的,薬学的知見に照らして分析検討する必要があるから,その検討結果を踏まえて,安全性確保のための措置を採る必要性の有無,時期,内容等について意思決定をするためには,一定の期間を要するものというべきである。 その後,前記第5の6(3)エ認定のとおり,審査センターは,被告会社等からの副作用報告を受け,平成14年9月30日,被告会社に対し,間質性肺炎の全症例リストを提出するよう指示し,厚生労働大臣は,同年10月15日,被告会社に対し,添付文書の改訂を行うとともに,緊急安全性情報を配布するよう行政指導を行ったというのである。 (ウ) 以上によれば,厚生労働大臣が,症例②の追加報告を受けた平成14年9月2日時点において,直ちに添付文書の改訂,緊急安全性情報の配布,その周知徹底等の安全性確保のための手段・措置を講じなかったこと,さらに,同年10月15日に緊急安 例②の追加報告を受けた平成14年9月2日時点において,直ちに添付文書の改訂,緊急安全性情報の配布,その周知徹底等の安全性確保のための手段・措置を講じなかったこと,さらに,同年10月15日に緊急安全性情報を配布するよう被告会社に対して行政指導を行ったことが,その時期及び内容において,厚生 労働大臣に与えられた権限の性質等に照らし,その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものであったと認めるに足りない。 ウその他の原告らの主張(ア) 原告らは,イレッサは,承認時において,既に重篤かつ致死的な急性肺障害・間質性肺炎の副作用が明らかになり,副作用症例も相当程度蓄積されるなど安全性の欠如が明らかになっていたことに加え,イレッサは,Ⅱ相承認であって,承認時には延命効果が証明されておらず,安全性については厳格な評価が必要であったことを併せ考慮すると,被告国は,承認後に前記ア(ア)及びイ(ア)のとおりの間質性肺炎による死亡例の報告を受けた場合には,承認時に既に判明していた安全性の欠如をも併せ考慮し,直ちに緊急安全性情報等による注意喚起を行うべきであった旨主張する。 (イ) しかし,前記第6の4(4)ア(ア)認定のとおり,イレッサについては,承認時において,症例によっては致死的となる間質性肺炎を発症する可能性は否定できず,少なくとも既存の抗がん剤と同程度の間質性肺炎が発症する可能性はあるとの知見が存在していたにとどまるから,承認時において既にイレッサの安全性の欠如が明らかになっていたとの上記主張は採用することができない。 また,前記1(2)イ認定のとおり,厚生労働大臣は,承認時に,上記知見に基づいて,被告会社に対し,間質性肺炎を添付文書の「重大な副作用」欄に記載するよう行政指導しており,上記承認時における厚生労働大臣 ,前記1(2)イ認定のとおり,厚生労働大臣は,承認時に,上記知見に基づいて,被告会社に対し,間質性肺炎を添付文書の「重大な副作用」欄に記載するよう行政指導しており,上記承認時における厚生労働大臣の対応は,当時の医学的,薬学的知見の下において,厚生労働大臣に与えられた権限の性質等に照らし,その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものであったと認めるに足りない。 そして,前記第3の4(6)アの認定のとおり,承認後,平成14年10月14日までに得られた被告会社からの副作用報告及び医療機関から の医薬品等安全性情報報告によっても,副作用報告が28例,うち死亡例が13例であり(別紙33【承認後の副作用報告情報入手日一覧表】参照),これらの症例を全体としてみると,投与開始後早期に症状が発現し,発症すると比較的早期に進行してステロイド投与にも反応せず重篤化して死亡に至るものが多いという傾向がうかがわれたというのであって,同日までに得られた副作用情報等を総合して初めて,イレッサによる副作用の傾向が,前記の承認時における医学的,薬学的知見とは異なることを認識できる可能性が生じたというべきであり,厚生労働大臣は,同日までに得られた副作用情報等を検討した結果,同月15日,被告会社に対し,添付文書の改訂を行うとともに,緊急安全性情報を配布するよう行政指導を行ったものと認められる。 したがって,平成14年10月15日時点において,厚生労働大臣が,上記規制権限を行使したことには,その時期及び内容において,一応の合理性があったものというべきであり,14日までの時点において,厚生労働大臣が,緊急安全性情報の配布等の措置を採らなかったことが,厚生労働大臣に与えられた権限の性質等に照らし,その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものと認め 14日までの時点において,厚生労働大臣が,緊急安全性情報の配布等の措置を採らなかったことが,厚生労働大臣に与えられた権限の性質等に照らし,その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものと認めるに足りない。 (以下余白) 第9 本件患者らとの関係における因果関係及び損害 1 はじめに既に述べたとおり,平成14年7月(イレッサ承認)時において,亡M,亡N及び原告Lとの関係では,イレッサの警告表示上の欠陥が認められる。 被告会社に対する損害賠償責任が認められるためには,イレッサの警告表示上の欠陥と本件患者らの損害との間に因果関係が認められることが必要である。本件においては,被告会社が適切な警告をせずにイレッサを販売したことと結果(亡M及び亡Nについては間質性肺炎の発症ないし既存の肺線維症の増悪による死亡,原告Lについては間質性肺炎の発症)との間の因果関係が問題となることから,両者の間に因果関係があるというためには,①亡M及び亡Nについては,イレッサを投与されなかったとすれば,間質性肺炎等の発症ないし既存の特発性肺線維症の増悪が生じることはなく,これらによって死亡することはなかったこと,①’原告Lについては,イレッサを投与されなかったとすれば,間質性肺炎等を発症することはなかったこと,②被告会社による指示・警告がなされていれば,本件患者らに対してイレッサが投与されなかったことという要件が満たされる必要がある。 そこで,以下では本件患者らとの関係において,①亡M及び亡Nに関しては,イレッサを投与されたことにより,間質性肺炎等を発症した又は既存の特発性肺線維症等の増悪が生じて,これらにより死亡したか,①’原告Lに関しては,イレッサを投与されたことにより,間質性肺炎等又は既存の特発性肺線維症等の増悪が生じたか(第1要件 を発症した又は既存の特発性肺線維症等の増悪が生じて,これらにより死亡したか,①’原告Lに関しては,イレッサを投与されたことにより,間質性肺炎等又は既存の特発性肺線維症等の増悪が生じたか(第1要件),②被告会社による指示・警告がなされていれば,イレッサが投与されなかったか(第2要件)を検討する。 2 因果関係の判断枠組み(1) 第1要件の判断枠組みア前提事実 (ア) イレッサによる間質性肺炎発症及び既存の間質性肺炎の増悪の危険性a イレッサによる間質性肺炎発症の危険性前記第3の4(6)認定のとおり,プロスペクティブ調査,WJTOG研究報告及びコホート内ケース・コントロール・スタディの結果等を総合すると,イレッサによる間質性肺炎の発症頻度は5%前後であったとされており,間質性肺炎を発症した患者の30~40%は死に至ったとされている。 また,イレッサによる間質性肺炎は,投与後早期に発症する例が多く,中でも投与から2週間以内に発症する早期発症例では,間質性肺炎発症から死亡までの日数が特に短く,投与から2~4週間までに発症する間質性肺炎による致死率も高いとされている(コホート内ケース・コントロール・スタディの結果では,イレッサにおける間質性肺炎発症の危険性は,他の化学療法群に比べて,治療開始後4週間以内で高かったとされており(甲C4,丙E34[枝番号9],46,61),また専門家会議における最終報告では,早期発症例では41例中26例が死亡しており(63.4%),そのうち13例(50%)は発症後1週間以内に死亡しているのに対して,イレッサ投与開始から間質性肺炎発症までの期間が2週間を越える遅発例では111例中45例が死亡し(40.5%),そのうち8例(17.8%)は発症後1週間以内に死亡した。(丙L2〔13, のに対して,イレッサ投与開始から間質性肺炎発症までの期間が2週間を越える遅発例では111例中45例が死亡し(40.5%),そのうち8例(17.8%)は発症後1週間以内に死亡した。(丙L2〔13,14頁〕))。他方で,イレッサによって発症しうる間質性肺炎には,急性間質性肺炎のみならず,器質化肺炎COP様所見,急性好酸球性肺炎AEP様所見及び過敏性肺炎HP・過敏性反応HRパターンを呈するものがあるとされており,早期発症や短期間に急激に悪化するものに限られるものではないとされている。 b イレッサによる既存の間質性肺炎の増悪の危険性 前記第3の4(6)エないしキ認定のとおり,プロスペクティブ調査,WJTOG研究報告及びコホート内ケース・コントロール・スタディの結果等のいずれにおいても,イレッサによる間質性肺炎の発症危険因子として間質性肺炎の併発や既存の間質性肺炎が挙げられており,専門家会議の最終報告において,イレッサ投与以前に特発性肺線維症等の間質性肺炎の合併の有無について発症前後の検討が可能な症例29例のうち,イレッサ投与以前の特発性肺線維症等の間質性肺炎がある症例17例中死亡例が3例であった(死亡率17.6%)のに対し,イレッサ投与以前の特発性肺線維症等の間質性肺炎がなかった症例12例中死亡例が7例であった(死亡率58.6%)(丙L2〔19頁〕)。 (イ) 他の化学療法及び放射線治療による間質性肺炎発症等の危険性前記第3の2(2)認定のとおり,新規抗がん剤に関する間質性肺炎の発症頻度は,実地医療においては(括弧内は,それぞれの第Ⅱ相試験における間質性肺炎発症頻度),ビノレルビンで1.4~2.5%(3. 0%),ゲムシタビンで1.2~1.4%(2.5%),イリノテカンで0.9%(4.9%),ドセタキセルで0.6% れぞれの第Ⅱ相試験における間質性肺炎発症頻度),ビノレルビンで1.4~2.5%(3. 0%),ゲムシタビンで1.2~1.4%(2.5%),イリノテカンで0.9%(4.9%),ドセタキセルで0.6%(1.0%),パクリタキセルで0.5%(3.7%)とされており,コホート内ケース・コントロール・スタディの結果では,イレッサ以外の化学療法群(様々な抗がん剤を含むが,多かったのはタキサン系抗がん剤とプラチナ製剤の併用療法,ゲムシタビンとビノレルビンの併用療法であった。)における間質性肺炎発症率は2.09%であり,治療法間の患者背景の偏りを調整した上でのイレッサによる間質性肺炎発症の相対リスクはその他の化学療法の約3.23倍であったとされている(甲C4,丙E34[枝番号9],46,61)。 また,放射線治療を受けた患者の8%程度が自覚症状を伴う間質性肺 炎を発症するとされている(乙H20)。 (ウ) 病勢進行その他の原因による間質性肺炎発症の危険性前記第3章第4の2(2)イのとおり,間質性肺炎は,原因不明の特発性間質性肺炎とそれ以外のもの(原因が判明している間質性肺炎)とに分類され,後者は全体の3分の1にすぎず,原因の判明している間質性肺炎においても薬剤性間質性肺炎のみならず,放射線性や膠原病性など様々な原因によって生じうる。 また,既存の特発性肺線維症を有する患者は,肺がんを併発しやすく(がんの合併は,経過で10数%に及ぶ。),肺線維症の急性増悪として間質性肺炎を発症することもある(甲H32,丙Eイ2[枝番号4],丙H12)。 イ判断枠組み前記ア認定の事実のとおり,イレッサによる間質性肺炎の発症頻度自体は5%前後であり,他の抗がん剤よりも高く,イレッサによる間質性肺炎は,他の抗がん剤と比較しても,投与開始から早期 イ判断枠組み前記ア認定の事実のとおり,イレッサによる間質性肺炎の発症頻度自体は5%前後であり,他の抗がん剤よりも高く,イレッサによる間質性肺炎は,他の抗がん剤と比較しても,投与開始から早期に発症することが多い。しかし,間質性肺炎は,肺がんの病勢進行やその他様々な原因によっても発症する可能性があり,他の原因(病勢進行や放射線治療など)に比して発症頻度が高いとまではいえない。よって,イレッサと間質性肺炎との結びつきが強固であるとまではいえず,イレッサの投与の事実のみによって間質性肺炎の発症との因果関係が直ちに推認されるとはいえない。 また,イレッサは,特発性肺線維症等の基礎疾患を有する患者と同疾患を有しない患者とを比較した場合には,同疾患を有する患者に対しては,同疾患を有しない患者よりも間質性肺炎の発症又は既存の間質性肺炎の増悪の危険性が高いが,同疾患を有する患者に対して投与した場合を想定した場合には,増悪の原因がイレッサに限らず,他の増悪原因に比べて,増悪の危険が高いとまではいえない。よって,イレッサと特発性肺線維症等 の増悪との結びつきが強固であるとまではいえず,イレッサの投与の事実のみによって既存の特発性肺線維症の増悪との因果関係が直ちに推認されるとはいえない。 以上により,イレッサの投与の事実によって,本件患者らが間質性肺炎等の発症ないし既存の特発性肺線維症の増悪を生じたこととの因果関係が直ちに推認されるものではないのであるから,イレッサの投与によって,本件患者らが間質性肺炎等を発症した又は既存の間質性肺炎若しくは特発性肺線維症が増悪されたといえるか否かは,上記のイレッサによる間質性肺炎発症及び既存の間質性肺炎の増悪の危険性の程度を勘案して,イレッサの投与から本件患者らの間質性肺炎の発症又は既存の間質性肺 特発性肺線維症が増悪されたといえるか否かは,上記のイレッサによる間質性肺炎発症及び既存の間質性肺炎の増悪の危険性の程度を勘案して,イレッサの投与から本件患者らの間質性肺炎の発症又は既存の間質性肺炎等の増悪の経過から,個別に判断されなければならない。 なお,原告らは,集団的観察によって,イレッサ投与と間質性肺炎等の発症との間に疫学的因果関係が認められた場合には,そのこと自体が,イレッサ投与歴のある患者の間質性肺炎等の発症とイレッサ投与との因果関係が推定され,特段の事情がない限り,本件患者らにおけるイレッサ投与と間質性肺炎等の発症との法的因果関係が認められるべきであると主張する。 なるほど,疫学的手法によるデータ資料の集積とそれによって得られる結論は少なくとも経験則による推認を基礎付ける一事実としての意義があると評価を受けるものであるといえるが,前記のとおり,間質性肺炎等の疾患はイレッサ以外の他の様々な要因によって発症しうるものであり,その結びつきが強固とまではいえず,個別的に判断せざるをえないのであるから,イレッサ投与と間質性肺炎等の発症との間に疫学的手法により一定の関連性が認められるとしても,そのことのみにより法的因果関係が推認されるということはできない。 (2) 第2要件の判断枠組み 前記第4及び第6の4の認定・判断のとおり,イレッサの販売が開始された平成14年7月当時においては,1970年代後半以降の化学療法の進展に伴い,手術不能又は再発の非小細胞肺がん患者に対してもプラチナ製剤や新規抗がん剤により一定の治療効果を得られるようになっていたが,従来の化学療法のうち最も効果の高いプラチナ製剤と新規抗がん剤との併用療法によった場合でも,奏功率は30~40%であったが,生存期間を2か月程度延長させるにとどまるもの 得られるようになっていたが,従来の化学療法のうち最も効果の高いプラチナ製剤と新規抗がん剤との併用療法によった場合でも,奏功率は30~40%であったが,生存期間を2か月程度延長させるにとどまるものであった。従来の化学療法の副作用の面からみても,殺細胞性抗がん剤の副作用のうち最も重篤とされていた白血球減少についても治療薬の進展に伴い,従来の化学療法が従前に比べれば安全に実施できるようになってきたが,血液毒性の危険性がなくなるものではなく,その他にも多様な副作用の併発による危険性(副作用のために治療を中止することによるがんの進行も含む。)や,副作用によっては死に至る危険性が否定できない状況にあった。そのため,手術不能又は再発の非小細胞肺がん患者は,従来の化学療法による治療を受けることはできたものの,多様な副作用による危険性や副作用により死に至る危険性が一定程度伴う状況に置かれていた。 他方で,イレッサは,従来の化学療法における殺細胞性抗がん剤とは作用機序が異なる分子標的治療薬とされ,その作用機序には未解明な部分があり,臨床試験によりファーストライン治療における有効性及び安全性が直接確認されておらず,実際には間質性肺炎という致死的な転帰をたどりうる重篤な副作用があったにもかかわらず,多数の研究報告等によって,医療現場においては,殺細胞性抗がん剤と比べて副作用が少ない抗がん剤として,特に白血球減少などの血液毒性による副作用がなく,QOLを害する消化器毒性などの副作用も軽微であり,主な副作用が皮疹等であると認識されるに至っており,このような期待の下で,経口投与により投与可能であることからも広範に用いられる危険性があった。 そうすると,平成14年7月当時においては,手術不能又は再発の非小細胞肺がんにおいては十分とはいえないまで で,経口投与により投与可能であることからも広範に用いられる危険性があった。 そうすると,平成14年7月当時においては,手術不能又は再発の非小細胞肺がんにおいては十分とはいえないまでも治療上の選択肢があり,イレッサの使用される症例としては,主として,従来の化学療法におけるいずれの抗がん剤によっても治療上の効果を得ることができないと予測される症例,従来の化学療法による治療が困難な症例(全身状態が悪化している症例及び高齢者の症例など)などが想定されていたというべきであり,他方で,イレッサの副作用たる間質性肺炎は,従来の抗がん剤と同様に,致死的な転帰をたどりうる重篤なものであり,消化器毒性などより重篤な副作用報告が多かったにもかかわらず,イレッサの添付文書第1版の「重大な副作用」欄では,症状の程度が軽度とされていた消化器毒性などが上位に記載され,間質性肺炎は最後に記載されたにすぎないというのであるから,このことについて指示・警告がなされていれば,医師は少なくとも従来の化学療法よりも優先してイレッサの投与を勧めたりはせず,また患者もイレッサの投与を同意することはなく,イレッサは上記のような重篤な症例以外には使用されることはなかったと推認することができる。 3 個別の因果関係を判断する上での医学的,薬学的知見(1) 亡M関係の因果関係を判断する上での医学的,薬学的知見(特発性肺線維症の急性増悪)特発性肺線維症の急性増悪に関する医学的知見は,証拠(丙Eイ1)及び弁論の全趣旨によれば,次のとおり認められる。 特発性肺線維症は,通常慢性に経過するが,経過中に感冒り患をはじめ手術,放射線療法,化学療法等の様々な侵襲を契機として急激に呼吸困難を増悪し,胸部X線画像上の陰影の増悪等が認められることがある。このうち肺炎や心不全等の明 性に経過するが,経過中に感冒り患をはじめ手術,放射線療法,化学療法等の様々な侵襲を契機として急激に呼吸困難を増悪し,胸部X線画像上の陰影の増悪等が認められることがある。このうち肺炎や心不全等の明らかな原因が除外されたものが特発性肺線維症の急性増悪であり,この場合には,臨床検査値であるKL-6やSP-Dの上昇がみられることが多く,胸部CT画像上では両側びまん性に濃度上昇域の増加が認 められる。 (2) 亡N関係の因果関係を判断する上での医学的,薬学的知見(気胸)気胸に関する医学的知見は,証拠(甲E92[枝番号4,5],丙Eイ1〔8頁〕,2[枝番号6,7])及び弁論の全趣旨によれば,次のとおり認められる。 ア気胸の症状気胸は,胸膜腔に空気が流入した状態である。 気胸による症状は,胸部違和感から胸痛,咳,呼吸困難に至るまで症状が多彩である。肺に基礎疾患を有する患者における気胸(続発性気胸,後記イ)は,原発性気胸に比べて残存肺機能が不良で呼吸不全を生じやすく,重症であり,より早急で適切な処置が要求される。 肺のう胞が破裂し大量に空気が漏れた場合,肺は急速に虚脱し呼吸不全となる。また空気漏れが軽度であっても肺機能が低ければ呼吸不全となりやすい。 イ気胸の原因気胸には,明らかな外傷を伴わない自然気胸,胸部の外傷に基づく外傷性気胸と医原性気胸(診断や治療のための鎖骨下静脈カテーテル挿入,経皮肺生検,経気管支肺生検,人工呼吸などに伴う気胸)などがある。 自然気胸には,限局性にのう胞(ブラやブレブ)を認める他は健常な肺の患者に発症する気胸を原発性気胸といい,肺に基礎疾患を有するものを続発性気胸という。 続発性気胸の原因疾患としては,慢性閉塞性肺疾患(肺気腫,ぜん息,気管支拡張症など),肺感染症(肺結核など),肺線維 に発症する気胸を原発性気胸といい,肺に基礎疾患を有するものを続発性気胸という。 続発性気胸の原因疾患としては,慢性閉塞性肺疾患(肺気腫,ぜん息,気管支拡張症など),肺感染症(肺結核など),肺線維症(特発性肺線維症,サルコイドーシス,リンパ管筋腫症),遺伝性疾患,月経随伴性気胸や肺悪性腫瘍(肺がんなど)がある。イレッサ投与中に気胸を発現した症例も報告されている。また,複数の原因が重なることにより,気胸が発現 しやすくなると考えられている。 4 本件患者らに関する判断(1) 亡Mア亡Mの症状経過等亡Mに関する症状経過等について,後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実は次のとおりである。 (ア) 亡Mは,昭和8年4月27日に生まれ,昭和37年10月6日に原告Bと婚姻した。 亡Mは,高校卒業後,当時の甲社に入社して35年間勤務し,電気設備を担当するα電気設備区の主席助役になり,53歳で早期退職した。 その後,亡Mは,乙社の電気設備の保守・点検を行う丙社に再就職し,定年の60歳まで勤め,退職後は,旅行,グランドゴルフや畑仕事をするなどして過ごしていた。 亡Mには3人の子(原告C,原告D及び原告E)がいたが,原告C,原告D及び原告Eはそれぞれ婚姻し,原告Dと原告Eは亡Mと同居はしていなかった。亡Mが肺がんと診断されてからは,原告Bは,亡Mを看病し,また身の回りの世話をしていた。 亡Mが肺がんの治療のために入院した平成14年4月から同年7月ころの間には,原告Eらは,2週間に1回くらいの割合で亡Mを見舞いに行った。 【甲Pイ1,2[枝番号1~10],丙Mイ3〔14頁〕,原告E本人〔1,5,13頁〕】(イ) 亡Mは,平成13年11月末ころから咳や体調不良を訴えるようになり,老人健診において右下肺野に異常陰影 【甲Pイ1,2[枝番号1~10],丙Mイ3〔14頁〕,原告E本人〔1,5,13頁〕】(イ) 亡Mは,平成13年11月末ころから咳や体調不良を訴えるようになり,老人健診において右下肺野に異常陰影がみられると指摘され,同年12月に京都府舞鶴市所在のa共済病院で検査を受けたところ,肺がんと診断された。 亡Mは,a共済病院で外科療法(手術)を受けることを拒み,m市民病院で検査を受けたところ,肺がんではないと診断された。 【甲Pイ1,丙Mイ2〔10,15頁〕,3〔3頁〕】(ウ) 亡Mは,平成14年2月26日,京都府舞鶴市所在の医療法人社団b医院(b医院)にて受診したところ,肺がんの疑いと診断され,b医院の紹介で受診した京都府綾部市所在のc市立病院における生検(細胞針検査)の結果,細胞検査士は右肺の大細胞がんと考えられるとし,同年3月15日に亡Mは縦隔リンパ節への転移を伴う肺がん(大細胞がん)と診断された。 亡Mは,b医院の紹介で京都市所在のd大学附属病院に入院することとなったが,4月8日まで入院待ちの状態であり,その間にb医院にてシスプラチンと5FU(5-フルオロウラシル)の投与を受けた。 【甲Pイ1,丙M イ1〔2~7,13,18,19,28,32,33,36,39頁〕,2〔10,53頁〕,3〔3頁〕】(エ) 亡Mは,平成14年4月9日から同年7月29日までの間,d大学附属病院に入院し,肺がんの病期につきⅢB期(T2N3M0)と診断され,抗がん剤投与(シスプラチン40mg/㎡/2週,ドセタキセル40mg/㎡/2週),同時放射線療法(計60Gy)などの治療を6クール受けた結果,右上下葉区(S6)の径2㎝大のがんが1㎝弱に縮小したのをはじめ,縦隔リンパ節についても著明な縮小が認められるなど大幅に肺がんが縮小した(部 放射線療法(計60Gy)などの治療を6クール受けた結果,右上下葉区(S6)の径2㎝大のがんが1㎝弱に縮小したのをはじめ,縦隔リンパ節についても著明な縮小が認められるなど大幅に肺がんが縮小した(部分奏功(PR)と判定された)。上記経過中に亡Mに発症した副作用としては,骨髄抑制及び放射線療法による食道潰瘍等があったが,いずれも重篤なものではなかった。亡Mは,同年4月25日にはカルボプラチンとパクリタキセルの併用療法を開始して以降,倦怠感,気分不快,食欲不振,嘔気などの副作用が生じ,同年5月5日には脱毛も生じ,放射線療法開始後には,咽頭痛,照射部熱感,発赤,表 皮剥離,水疱,嚥下困難や浮腫なども生じており,これらは入院中には完全に治癒することはなく,体力に不安があったものの,同年7月5日には外泊できるようになり,その後も外泊が許可されていた。 亡Mは,同年7月22日,担当医から,化学療法による追加の治療を受けるよう勧められたが,翌23日には,「あと2回受けて10年生きられるんならいいですけど。もうこれも運命ですし,いいですわ。」と伝え,追加の治療を拒否し,同年29日にd大学附属病院を退院した。 退院時においても,亡Mには右下肺野に間質性陰影がみられており(特発性肺線維症),入院時と比べ著しい変化はなかった(なお,同年6月14日の血液検査の結果では,KL-6が728U/ml であった(基準値500未満))。d大学附属病院での入院期間中の亡MのSpO2(経皮的動脈血酸素飽和度,平常値95%)は94~98%程度であった。 【甲E92[枝番号1],甲Mイ1[枝番号1],丙Eイ1,丙Mイ1〔40,42頁〕,3〔3,263,429~460,520~524,533~536頁〕】(オ) 亡Mは,d大学附属病院を退院した後はb医院で治療を 号1],甲Mイ1[枝番号1],丙Eイ1,丙Mイ1〔40,42頁〕,3〔3,263,429~460,520~524,533~536頁〕】(オ) 亡Mは,d大学附属病院を退院した後はb医院で治療を継続していたところ,平成14年8月13日に画像所見により肺臓炎と診断された。 亡Mは,このころから,b医院にて化学療法による治療として5FUの投与を受けた。 同月23日には,亡Mは発熱し,亡Mは,同月31日から同年9月2日まで外来にて1日につき酸素1L(リットル)を吸入した(SpO2は,同月31日には81%,同年9月1日には78%,同月2日には84%であった)。 【丙Mイ1〔45~47,52,53頁〕】(カ) その後,亡Mは,b医院で,「肺がんに効く非常によい薬があり,9月になれば保険がきく。」などイレッサの服用を勧められたことから,亡Mは,平成14年9月2日以降毎日,1日1錠イレッサの服用を開始 した。なお,b医院では,イレッサに重篤な副作用があるなどの説明はされなかった。 同日,亡Mはb医院にて呼吸困難を訴え,同月5日にb医院で受診して酸素1Lを吸入し(SpO2 が87%であった。),同月6日にも酸素1Lを吸入した(SpO2 が77%であった。)。 亡Mは,同月7日にb医院で,呼吸困難を訴えて受診し酸素1Lを吸入し(SpO2 が74~78%であった。),同月8日にもb医院で受診し,呼吸困難を強く訴え,酸素1Lを吸入した。 同月9日,亡Mは,b医院の紹介により京都府舞鶴市所在の国立e病院(当時)に入院し,原因不明又は薬剤性による間質性肺炎と診断され,担当医の指示によりイレッサの服用を中止した。 同月10日から14日までの間,亡Mは,ステロイドパルス療法(ソルメドール1g/日)を受け,同日の胸部X線検査の結果,間質 による間質性肺炎と診断され,担当医の指示によりイレッサの服用を中止した。 同月10日から14日までの間,亡Mは,ステロイドパルス療法(ソルメドール1g/日)を受け,同日の胸部X線検査の結果,間質性陰影のわずかな改善がみられたが,同月19日には間質性陰影が悪化した。 同月10日の血液検査の結果では,KL-6が1596U/ml であった(基準値500未満)。 亡Mは,同日ステロイドパルス療法を再度受けたが,治療の効果が表れず,同年10月2日に死亡した。なお,死亡診断書によると,亡Mの直接の死因は間質性肺炎,間質性肺炎の発症から死亡までの期間は1か月とされており,また直接には死因に関係しないが死因に関する傷病経過に影響を及ぼした傷病等として肺がんが挙げられていた。 【甲Mイ1[枝番号2],2[枝番号1~6],甲Pイ1,丙Mイ1〔53,56~62頁〕,4〔1,6~9,12~18,56,86頁〕,原告E本人〔6頁〕】イ因果関係の判断(ア) 第1要件 a イレッサと既存の間質性肺炎又は肺線維症の増悪との因果関係について前記3(1)及び前記ア認定の事実によれば,亡Mは,平成14年4月9日にd大学附属病院に入院した当時から特発性肺線維症にり患していた(前記ア(エ))が,同年7月29日に同病院を退院した当時においても著しい変化はなく,SpO2 の値も94~98%程度であり,正常なものであった。 亡Mは,同年8月13日にはb医院において画像所見で肺臓炎と診断され,同月23日に発熱,同月31日ころからSpO2 が低下し始め,低酸素血症を発現しており,SpO2 は78~87%で推移していたが,イレッサの投与開始後5日目である同年9月6日にはSpO2が77%に,同月7日にはSpO2 が74~78%となり,呼吸困難が悪化した 素血症を発現しており,SpO2 は78~87%で推移していたが,イレッサの投与開始後5日目である同年9月6日にはSpO2が77%に,同月7日にはSpO2 が74~78%となり,呼吸困難が悪化した。その後,イレッサの投与が中止され,ステロイドパルス療法によりわずかに間質性陰影の改善がみられたものの,再度のステロイドパルス療法による効果がみられず,死に至ったというのであり,国立e病院の担当医は,イレッサと呼吸困難との関連性があるとみていたというのである。 そうすると,亡Mは,イレッサ投与前に既存の特発性肺線維症が悪化し始めていたと認められるものの,SpO2 の値は低下しながらも一定の値で推移していたが,イレッサ投与後にさらに低下し始め,呼吸困難の悪化はイレッサ投与後により一層進んでいったとみることができ,亡Mが年齢55歳以上,喫煙歴あり(丙M イ3〔3頁〕),既存の間質性肺炎ありという危険因子を有する患者であったことと,イレッサは既存の間質性肺炎や肺線維症を増悪させることがありうることをも併せ考慮すると,イレッサと既存の特発性肺線維症の増悪との因果関係があると推認され,前記ア(カ)のとおり国立e病院の担当医 もイレッサと呼吸困難との関連性があるとみていたのであるから,イレッサと既存の特発性肺線維症の増悪との因果関係があると認めるのが相当である(国立e病院の診療録には,既存の特発性肺線維症に関する記載がなく,担当医はb病院での臨床経過を十分に把握していなかったことがうかがわれるが,特発性肺線維症の急性増悪と診断していなかったことから,直ちにイレッサと呼吸困難との関連性に関する判断までも誤りであるということはできない。)。 なお,被告らは,イレッサ投与前に特発性肺線維症の急性増悪が生じており,イレッサ投与開始日の食事はお から,直ちにイレッサと呼吸困難との関連性に関する判断までも誤りであるということはできない。)。 なお,被告らは,イレッサ投与前に特発性肺線維症の急性増悪が生じており,イレッサ投与開始日の食事はおかゆのみとなる程に症状が悪化していたのであるから,イレッサとの時間的な関連性がないと主張する。 しかし,イレッサ投与前後で特発性肺線維症の増悪の程度が異なると認められるのであるから,イレッサ投与前から低酸素血症や呼吸困難を発症していることとイレッサが特発性肺線維症の増悪に影響を与えることとは矛盾するものではない。したがって,被告らの上記主張は採用できない。 b イレッサによる既存の間質性肺炎又は肺線維症の増悪と死亡との因果関係について前記ア認定の事実及び前記aの認定・判断によれば,亡Mは,平成14年8月31日ころからSpO2 が低下し始め,低酸素血症を発現しており,既存の特発性肺線維症の増悪がみられ始めたが,イレッサの投与開始後5日目である同年9月6日ころからさらに悪化し,呼吸困難も強くなってきたところ,同月9日にはイレッサの投与が中止され,ステロイドパルス療法によりわずかに間質性陰影の改善がみられたものの,再度のステロイドパルス療法による効果がみられず,さらに間質性陰影が悪化し,同年10月2日に死に至ったというのであ り,担当医も死因は間質性肺炎と述べている。 そうすると,既存の特発性肺線維症の急性増悪によって亡Mは死に至ったと認められ,イレッサによる既存の特発性肺線維症の増悪と死亡との因果関係を認めるのが相当である。 (イ) 第2要件前記ア認定の事実によれば,亡Mは,平成14年4月9日から同年7月29日までシスプラチンとドセタキセルの併用療法により治療を受けて,部分奏功(PR)と判定されており,上記併用療法に イ) 第2要件前記ア認定の事実によれば,亡Mは,平成14年4月9日から同年7月29日までシスプラチンとドセタキセルの併用療法により治療を受けて,部分奏功(PR)と判定されており,上記併用療法による治療中に発症した多数の副作用はいずれも重篤ではなかったが,治療期間中からの体力の低下や今後の治療期間などを考慮して,医師から勧められた追加治療を断っているが,同年9月2日にイレッサ投与を開始するまでに,退院後も従来の抗がん剤(5FU)投与を受けていたというのである。 そうすると,亡Mは,実際に従来の化学療法による治療で奏功を得ており,従来の化学療法により治療の効果が期待できないという状況ではないといえるだけでなく,また退院後も従来の化学療法による治療を受けており,従来の化学療法による治療が困難であるほどに全身状態が悪化していたとまではいえないのであるから,前記2(2)のとおり,適切な指示・警告がされていれば,医師は従来の化学療法よりも優先してイレッサの投与を勧めることはなく,亡Mはイレッサの服用に同意することもなかったと認めるのが相当である。 ウ損害(ア) 亡Mの損害並びに原告B,原告C,原告D及び原告Eの固有の損害a 亡Mに関しては,本件における製造物の欠陥の結果はイレッサによる間質性肺炎の発症又は既存の肺線維症の増悪によって死亡したことであり,本件における製造物の欠陥の結果により生じた損害は生命侵 害による損害である。 前記認定したすべての事情及び本件記録にあらわれた一切の事実を総合考慮し,被告会社の義務違反の程度,亡Mと原告Bらとの関係,亡Mのイレッサ投与に至る経緯,亡Mのイレッサ投与前の状態,症状経過,がん患者の被る精神的苦痛は余命の長短によって軽重がないこと,肺がんは余命が短いとされており,肺がん患 ,亡Mと原告Bらとの関係,亡Mのイレッサ投与に至る経緯,亡Mのイレッサ投与前の状態,症状経過,がん患者の被る精神的苦痛は余命の長短によって軽重がないこと,肺がんは余命が短いとされており,肺がん患者に残された命の期間は本人と家族にとって極めて貴重な時間であるにもかかわらず,予想もしなかった副作用によりその期間が奪われたことにより本人及び家族が被る精神的苦痛は大きいといえること等を総合考慮すると,亡Mの死亡を慰謝するには,2700万円が相当である。 b 以上によれば,亡Mの死亡による損害額は,合計2700万円となり,原告Bは,その2分の1に相当する1350万円の,原告C,原告D及び原告Eは,それぞれ6分の1に相当する450万円の損害賠償請求権を相続したことになる。 (イ) 原告らの弁護士費用について本件事案の性質等を考慮すると,弁護士費用として,それぞれ認容額の1割を認めるのが相当である。 したがって,弁護士費用は,原告Bが135万円,原告C,原告D及び原告Eが各45万円が相当である。 (2) 亡Nア亡Nの症状経過等亡Nに関する症状経過等について,後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実は次のとおりである。 (ア) 亡Nは,大正14年11月15日に生まれ,昭和24年3月29日に原告Fと婚姻した。 亡Nは,家の側の作業場で建具,木工及び内装の仕事をし,また田畑 で農作業も行っていた。田畑の広さは,1町5反ほどで,家族も農作業を手伝っていた。農作業は,田植えや竹の子採り,菜花摘みなどをしていた。 亡Nには3人の子(原告G,原告H及び原告I)がいたが,原告Gは昭和47年に,原告Hは昭和48年に,原告Iは昭和63年にそれぞれ婚姻し,原告Gと原告Hは亡Nと同居はしておらず,原告I夫婦と亡N夫婦は同居してい の子(原告G,原告H及び原告I)がいたが,原告Gは昭和47年に,原告Hは昭和48年に,原告Iは昭和63年にそれぞれ婚姻し,原告Gと原告Hは亡Nと同居はしておらず,原告I夫婦と亡N夫婦は同居していた。亡Nが肺がんと診断され入院してからは,原告Fが,毎日亡Nの看病,身の回りの世話をし,原告Iは,原告Fを,毎朝病院に送り,夜には迎えに行っていた。 【甲Pロ1,2[枝番号1~9],丙Mロ1〔189頁〕,原告I本人〔9頁〕】(イ) 亡Nは,平成13年5月23日に発熱及び咳を訴えて,n医院で診察を受け,同月30日に,n医院の紹介により三重県松阪市所在の三重県厚生農業協同組合連合会f中央総合病院で診察を受けたところ肺炎と診断され,その際撮影したCT画像で,両肺の肺気腫及び蜂窩肺を伴う間質性変化(特発性肺線維症)と左肺に腫瘤が認められ,右肺尖部に肺のう胞が認められた。 亡Nは,平成14年4月5日にf中央総合病院で肺がんと診断され,同月10日まで胸部異常陰影精査の目的で同病院に入院し,生検により肺がん(扁平上皮がん,T3N2M0)の診断なされたが,本人には告知されず,自覚症状がなかったために退院した。 原告Fは,同年5月10日に同病院にて亡Nの病名を告知されて,外科療法(手術)が困難であることも伝えられ,亡Nは,同月中旬ころまでに病名を告知されて,同月27日には再入院した。同月29日から化学療法(パクリタキセルとカルボプラチンの併用療法)が開始され,同年7月3日には上記化学療法2クールが終了したが,改善がみられなか った。亡Nは,同月9日に再入院することを予定して,一旦退院した。 【甲E92[枝番号1],97,甲Mロ1,丙Eイ1,丙Mロ1〔2,3,6,7,14~17,96~99,133,154頁〕,弁論の全趣旨】(ウ) 平 日に再入院することを予定して,一旦退院した。 【甲E92[枝番号1],97,甲Mロ1,丙Eイ1,丙Mロ1〔2,3,6,7,14~17,96~99,133,154頁〕,弁論の全趣旨】(ウ) 平成14年7月9日,亡Nは化学療法の目的で再入院し,同月11日から化学療法(ビノレルビンとネダプラチン)が開始され,同年8月2日からも2クール目の化学療法(ビノレルビンとネダプラチン)が行われ,同月28日からイリノテカン単剤の投与が行われた。 この結果,腫瘍マーカー(SCC抗原)が同年7月25日の時点で70.7であったものが,同年8月28日には14.1まで改善し,画像上もがんの縮小が認められた(不変(NC)~部分奏功(PR)と判定された。)。 なお,上記治療中である同月1日以降,亡Nは発熱を起こし,同月5日には閉塞性肺炎の疑いがあると診断された。 【甲Mロ1,丙Mロ1〔26,193,194,203,204,221,222頁〕】(エ) 平成14年9月10日,亡Nは,抗生剤を投与されても解熱しないことや急に手術不能の肺がんであると告げられたことなどから,治療等に関する不安があったため外泊届けを提出せずに帰宅した。担当医が,亡Nの家族に,本人の納得が得られれば入院を継続し,入院を拒否されるようであれば通院により化学療法を実施する,ただし,肺炎合併のため危険があることを説明したところ,亡Nは家族と相談し同日の夜に帰院した。その後も発熱は続いていたが,亡Nは同月14日には外泊をした。 原告Fは,医師から,「薬を変えます。これは新薬で,副作用もなく,体調さえよければ通院が可能ですから。また飲み薬なので朝1錠で よい。」などイレッサの服用を勧められたため,同月18日から,亡Nは,1日1錠イレッサを服用することを開始した。 【甲Mロ1 調さえよければ通院が可能ですから。また飲み薬なので朝1錠で よい。」などイレッサの服用を勧められたため,同月18日から,亡Nは,1日1錠イレッサを服用することを開始した。 【甲Mロ1,甲Pロ1,丙Mロ1〔207,208,275頁〕,原告I〔6,7頁〕】(オ) 平成14年9月24日,亡Nの胸部レントゲン写真上で,両肺に硬化が認められ,右下葉・左舌区のすりガラス影がびまん性に認められ,同月28日にはイレッサの投与が中止され,同月30日には呼吸困難が発現したため,酸素4L下で吸引が行われ,SpO2 が91%となった。 CT検査による所見では,すりガラス影所見については薬剤性を含む間質性肺炎,呼吸窮迫症候群などが,両肺の硬化については閉塞性細気管支炎を伴う器質化肺炎(BOOP)や間質性肺炎の増悪が,それぞれ鑑別診断として挙がることが指摘されていた。 その後,亡Nの病状は,発熱が改善せず,呼吸機能も悪化傾向となり,亡Nは,同年10月7日に三重県久居市所在の国立g病院へ転院され,その後酸素吸入を受けた。同月10日に胸部CT検査が行われたが,両肺のすりガラス状の陰影が認められ,肺のう胞は従前よりも大きくなり,増加していた。 なお,亡Nは,同病院では,肺結核症,肺がん,特発性間質性肺炎の傷病名にて治療を受けており,同年9月28日にイレッサの投与が中止された後には,イレッサを服用していない。 【甲E92[枝番号1]〔10頁〕,97〔4頁〕,甲Mロ1,丙Mロ1〔10,208,209,230,257頁〕,2〔6,71,85~95頁〕,弁論の全趣旨】(カ) 平成14年10月18日,同病院の担当医は,原告Fに対し,「化学療法前のCTでは間質性肺炎を認めており,今回の間質性肺炎は以前からの間質性肺炎が化学療法により増悪した可能性がある。 趣旨】(カ) 平成14年10月18日,同病院の担当医は,原告Fに対し,「化学療法前のCTでは間質性肺炎を認めており,今回の間質性肺炎は以前からの間質性肺炎が化学療法により増悪した可能性がある。薬剤性の間質 性肺炎ならば,ステロイドにて軽快することが多いが,そうではないため,間質性肺炎がよくなる可能性は低く,さらに増悪すれば,数日~2週間程で呼吸不全で死亡する。また,間質性肺炎の増悪がなくても肺がんがあるため,せいぜい半年程しか生きられないと考えられる。どちらにしろ予後は非常に不良である。」と説明した。 【丙Mロ2〔7頁〕】(キ) 平成14年10月19日には,亡Nに対してステロイドパルス療法(ソルメドール500mg/日)が行われた(同日以前にもステロイド薬(デカドロン)の投与はされており,同月14日にはデカドロンの用量が8錠から4錠に,同月19日には4錠から2錠に,同月26日には2錠から1錠に減量された。)が,同月22日の胸部レントゲン写真では,すりガラス状陰影の範囲に変化はないが,線状陰影・粒状陰影が増加し,線維化が進行していた。 同年11月1日の胸部X線写真ではすりガラス状陰影には改善傾向がみられ,同月6日の胸部CT検査の所見では,含気腔の線維化像は全体的に不明瞭となっていたが,蜂巣像や器質化像は隔壁の菲薄化と肥厚を伴う部分の混在,器質化の吸収と亢進を伴う部分の混在が認められ,有意な改善には至っていないとされていた。 同月19日の胸部X線写真では,すりガラス状陰影が依然としてこれまでと同程度残存していた(当時のSpO2 は98%程度で維持されていた。)が,気胸による陰影は認められなかった。同日の診療録には,「状態落ち着いてきたが,排菌○+のため,来月○-となれば,CBDCA(カルボプラチン)単剤などでch O2 は98%程度で維持されていた。)が,気胸による陰影は認められなかった。同日の診療録には,「状態落ち着いてきたが,排菌○+のため,来月○-となれば,CBDCA(カルボプラチン)単剤などでchemo(化学療法)考慮すべきか」と記載されていた。 同年10月中旬から11月中旬ころの間,亡Nは安静時には呼吸困難がみられず,労作時には少し息苦しいと訴えていた程度であった(な お,同年10月29日の看護記録には,「出来ればO2減量して,呼吸リハビリ」と記載があった。)。しかし,同年11月22日に,亡Nは強い呼吸困難を訴えた(同日のSpO2 は97%で,同月30日は97~99%であったが,同年12月19日は91~93%となった。同年11月19,20,25~28及び30日,同年12月3~20日は,いずれも酸素吸入が行われた。同年11月22日には,酸素吸入の酸素量が3Lに増やされた。)。 【丙Eイ1,丙Mロ2〔7,12~15,22,70,108,91~207頁〕,弁論の全趣旨】(ク) 平成14年12月4日及び同月19日の胸部レントゲン写真ではすりガラス状陰影,線維化変化には大きな変化はなく存在していた。同月4日の胸部X線画像上では気胸が認められ,同月19日の画像上では気胸の増強が認められ,その他には左肺肺がんの増悪や胸水貯留等も認められた。 同月19日,亡Nに急激な呼吸困難が発現し,翌20日に亡Nは死亡した。なお,同病院の担当医は,入院時からの通常型間質性肺炎が悪化し,呼吸不全があり,同月19日からの通常型間質性肺炎の再増悪及び肺がんの進行が原因と考えられる呼吸不全増悪が生じ,死亡するに至ったと判断していた。 【甲E92[枝番号1],甲Mロ1,丙Eイ1,弁論の全趣旨】イ因果関係の判断(ア) 第1要件a イレッ がんの進行が原因と考えられる呼吸不全増悪が生じ,死亡するに至ったと判断していた。 【甲E92[枝番号1],甲Mロ1,丙Eイ1,弁論の全趣旨】イ因果関係の判断(ア) 第1要件a イレッサと間質性肺炎の発症ないし既存の肺線維症の増悪との因果関係について前記ア認定の事実によれば,亡Nは,平成13年5月当時から肺線維症を発症しており(前記ア(イ)),平成14年8月5日当時におい ても肺線維症には大きな変化がなく,同年9月18日にイレッサの投与を開始したが,同月24日には胸部レントゲン写真により,両肺に間質性陰影であるすりガラス陰影が認められ,同月28日にはイレッサの投与を中止しており,国立g病院の担当医は発症した間質性肺炎が既存の肺線維症の増悪の可能性が高いが,薬剤性の間質性肺炎の疑いもあるとみていた。前治療は同年5月29日から同年6月19日までのカルボプラチンとパクリタキセルの併用療法,同年7月10日から同月31日までのビノレルビンとネダプラチンとの併用療法,同年8月28日からのイリノテカン単剤であった。前記2(1)アのとおり,イレッサによる間質性肺炎は,イレッサ投与後早期に発症することが多く,すりガラス陰影がみられる急性間質性肺炎の型をとることがある。 また,亡Nの担当医は,パクリタキセル及びデカドロンによる間質性肺炎の増悪と考えていたことがうかがわれるが,金谷医師だけでなく証人工藤も亡Nに関してはイレッサと間質性肺炎の発症ないし既存の肺線維症の増悪との因果関係が否定できないと述べている(甲E92[枝番号1],丙Eイ1)。 そうすると,イレッサ投与以前からの特発性肺線維症は,イレッサ投与よりも1年以上前から発症しているものの,それ自体としては線維化に大きな変化のないままであったのであるから,既存の肺線 丙Eイ1)。 そうすると,イレッサ投与以前からの特発性肺線維症は,イレッサ投与よりも1年以上前から発症しているものの,それ自体としては線維化に大きな変化のないままであったのであるから,既存の肺線維症の増悪は,薬剤との関連性が強いといえる。既存の肺線維症の増悪は,前記ア(ウ)のとおりイレッサ以外の薬剤の投与終了後からは約1か月以上の期間が空いており,前記ア(オ)のとおりイレッサの投与から約1週間後に生じているのであるから,イレッサによる間質性肺炎の発症等の特徴(早期発症など)に鑑みれば,イレッサと既存の肺線維症の増悪との因果関係があると推認され,また専門家の意見にも沿 うものである。したがって,イレッサと既存の肺線維症の増悪との因果関係があると認めるのが相当である。 b イレッサによる既存の肺線維症の増悪と死亡との因果関係について(a) 国立g病院の担当医の意見によれば,亡Nの死因は通常型の間質性肺炎の増悪及び肺がんの進行とされているが,症状経過によれば,平成14年12月4日の胸部X線画像上では気胸が認められ,同月19日の胸部X線画像上では気胸の増悪が認められているにもかかわらず,気胸に対して何の対処もされておらず,翌20日に死亡しており,また原告ら及び被告会社から提出された各専門家の意見書においても,死因が気胸にあることが共通して指摘されていることから,死因は気胸の増悪によるものであることが認められる。 同年11月19日の胸部X線写真では気胸が認められていないこと及び同年12月4日の胸部X線写真では気胸が認められることには当事者間に争いがなく,前記ア認定の事実によれば,同年11月22日には再び強い呼吸困難が発現し,担当医は,呼吸困難の原因として間質性肺炎の再増悪又はがんの進行を疑っていたが,同年12月4日の胸 は当事者間に争いがなく,前記ア認定の事実によれば,同年11月22日には再び強い呼吸困難が発現し,担当医は,呼吸困難の原因として間質性肺炎の再増悪又はがんの進行を疑っていたが,同年12月4日の胸部X線写真上では,気胸の所見を除いては線維化像には大きな変化はみられなかったというのであるから,呼吸困難の原因は間質性肺炎の再増悪とはいえず,またがんの進行も急速な呼吸困難につながるものとはいえないものであり(丙Eイ1〔9頁〕),その他に呼吸困難の原因として考えられるものはない。よって,気胸の発現は同年11月22日ころであると推認される。 そこで,以下ではイレッサとの因果関係が認められる既存の肺線維症の増悪と気胸の発現との間に因果関係が認められるかを検討する。 (b) 前記ア認定の事実によれば,亡Nは,平成13年5月当時から肺 線維症を発症しており,平成14年8月5日当時においても肺線維症には大きな変化がなく,イレッサ投与開始後である平成14年9月24日に,胸部レントゲン写真には両肺に間質性陰影であるすりガラス陰影が認められ,同月28日にはイレッサの投与を中止したが,同月30日に呼吸困難が発現し,その後,酸素吸入やステロイドパルス療法などが行われ,徐々にステロイド薬の量が減量され,同年10月29日には酸素吸入の酸素量減量により呼吸リハビリへの移行が検討されており,同年11月1日の胸部X線写真では間質性陰影に従前よりは改善傾向がみられ,同月19日にはSpO2 も98%程度が維持され,化学療法の実施が検討され始めていたものの,同年11月6日の胸部CT画像所見では,線維化像は依然として有意な改善には至っていないとされており,肺のう胞はイレッサ投与前よりも増悪し,同月19日の胸部X線写真においても間質性肺炎を示すすりガラス状陰影 月6日の胸部CT画像所見では,線維化像は依然として有意な改善には至っていないとされており,肺のう胞はイレッサ投与前よりも増悪し,同月19日の胸部X線写真においても間質性肺炎を示すすりガラス状陰影が残存していたというのである。 前記3(2)及び前記ア認定の事実によれば,気胸は,様々な原因により発現し,肺のう胞が破裂し,大量の空気が漏れた場合には肺が急速に虚脱し呼吸不全となる疾病であり,複数の条件が重なることで発現しやすくなるところ,亡Nは肺がん,肺線維症という気胸発現の原因となる基礎疾患を抱えていたものである。また,工藤意見書(丙Eイ3)では,亡Nに関して,イレッサによる間質性病変の悪化やステロイド薬投与が気胸発現の危険性を高めた可能性まで完全に否定するわけではないとされている。 そうすると,イレッサの投与中止,酸素吸入及びステロイドパルス療法により酸素化能力が改善傾向にあったものの,間質性陰影は有意な改善には至っておらず,イレッサによる既存の肺線維症が増悪した状態は依然として残存していたというべきであり,これに伴 いイレッサ投与後には肺のう胞の状態はイレッサ投与前に比べて増加し大きくなっており(前記ア(イ)ないし(オ)),気胸は肺のう胞の破裂によって生じうるものであるから,イレッサによる肺線維症の増悪は気胸の発現に影響を与えたものとみるべきであり,イレッサによる既存の肺線維症の増悪と気胸の発現との間に因果関係があると認めるのが相当である。したがって,上記のとおり,亡Nの死因は気胸の増悪によるものといえるのであるから,イレッサによる既存の肺線維症の増悪と死亡との因果関係があると認めるのが相当である。 なお,被告らは,亡Nが,イレッサ投与前から既存の肺線維症を発症しており,他にも肺がんという基礎疾患を有しており,気 サによる既存の肺線維症の増悪と死亡との因果関係があると認めるのが相当である。 なお,被告らは,亡Nが,イレッサ投与前から既存の肺線維症を発症しており,他にも肺がんという基礎疾患を有しており,気胸を発現しやすい条件が既に整っていたのであるから,気胸の発現とイレッサとの関連性は見いだせない旨主張する。 しかし,イレッサ投与前に存在した肺線維症は,イレッサ投与までは大きな変化をすることはなく,平成13年5月当時から肺のう胞は1年以上も存在していたのに特に変化がなく,イレッサ投与後に,肺線維症が増悪してこれに伴い肺のう胞も増悪していったというのであり,その後ステロイドパルス療法により改善傾向がみられたものの,改善には至っていなかったというのであるから,気胸の発現の原因をイレッサ投与前の肺線維症に求めることは相当ではなく,イレッサによる肺線維症の増悪の影響がなかったということはできない。 また,亡Nには,他にも肺がんという気胸発現の要因となりうる基礎疾患があり,平成14年12月19日の胸部X線写真によれば肺がんの進行がうかがわれるが,気胸発現当時(同年11月22日ころ)に肺がんの進行はうかがわれず,またその進行も急速なもの ではなく(丙Eイ1),気胸の発現に影響を与えた要因の一つとはなりうるにすぎないのであるから,いずれにしてもイレッサによる肺線維症の増悪による肺のう胞の影響を排除するものではない。 したがって,被告らの上記主張は採用できない。 (イ) 第2要件前記ア認定の事実によれば,亡Nは,平成14年7月9日からの入院中にビノレルビンとネダプラチンの併用療法,イリノテカン単剤により治療を受けて,不変(NC)~部分奏功(PR)と判定されており,治療中には発熱が続き,閉塞性肺炎の疑いがあったものの,その他に重篤な 中にビノレルビンとネダプラチンの併用療法,イリノテカン単剤により治療を受けて,不変(NC)~部分奏功(PR)と判定されており,治療中には発熱が続き,閉塞性肺炎の疑いがあったものの,その他に重篤な副作用はなく,同年9月18日からイレッサの投与を開始したが,開始前には入院による従来の化学療法の実施も検討されていたというのである。 そうすると,亡Nは,実際に従来の化学療法による治療で奏功を得ており,従来の化学療法により治療の効果が期待できないという状況ではないといえるだけでなく,また従来の化学療法による治療が困難であるほどに全身状態が悪化していたとまではいえないのであるから,前記2(2)のとおり,適切な指示・警告がされていれば,医師は従来の化学療法よりも優先してイレッサの投与を勧めることはなく,亡Nはイレッサの投与を同意することもなかったと認めるのが相当である。 ウ損害(ア) 亡Nの損害a 亡Nに関しては,本件における製造物の欠陥の結果はイレッサによる既存の肺線維症の増悪が要因となって発現した気胸による死亡であり,本件における製造物の欠陥の結果により生じた損害は生命侵害による損害である。 前記認定したすべての事情及び本件記録にあらわれた一切の事実を 総合考慮し,被告会社の義務違反の程度,亡Nと原告Fらとの関係,亡Nのイレッサ投与に至る経緯,亡Nのイレッサ投与前の状態,症状経過,がん患者の被る精神的苦痛は余命の長短によって軽重がないこと,肺がんは余命が短いとされており,肺がん患者に残された命の期間は本人と家族にとって極めて貴重な時間であるにもかかわらず,予想もしなかった副作用によりその期間が奪われたことにより本人及び家族が被る精神的苦痛は大きいといえること等を考慮すると,亡Nの死亡を慰謝するには,2700万円が て貴重な時間であるにもかかわらず,予想もしなかった副作用によりその期間が奪われたことにより本人及び家族が被る精神的苦痛は大きいといえること等を考慮すると,亡Nの死亡を慰謝するには,2700万円が相当である。 b 以上によれば,亡Nの死亡による損害額は,合計2700万円となり,原告Fは,その2分の1に相当する1350万円の,原告G,原告H及び原告Iはそれぞれ6分の1に相当する450万円の損害賠償請求権を相続したことになる。 (イ) 原告らの弁護士費用について本件事案の性質等を考慮すると,弁護士費用として,それぞれ認容額の1割を認めるのが相当である。 したがって,弁護士費用は,原告Fが135万円,原告G,原告H及び原告Iが各45万円が相当である。 (3) 原告Lア原告Lの症状経過等原告Lに関する症状経過等について,後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実は次のとおりである。 (ア) 原告Lは,昭和30年10月14日に生まれ,昭和49年3月に高校を卒業し,同年4月から丁社に勤務した。 原告Lは,昭和53年11月に婚姻し,昭和55年12月に長男が,昭和59年2月に長女が,平成6年12月には孫が生まれた。【甲Pニ1】 (イ) 原告Lは,平成13年9月に三重県四日市市所在のi内科循環器科クリニックにて胸部に異常陰影が認められ,同クリニックの紹介を受けて受診した同市所在のj総合医療センターにて肺がん(大細胞がん)と診断された。原告Lは同年11月1日から同月23日まで同医療センターに入院し,同年11月5日に右肺上葉切除術を受け,経過は良好であった。 原告Lは,平成14年7月ころ,同医療センターにて縦隔リンパ節のがんの再発を指摘され,余命半年であると告げられた。原告Lは,i内科循環器科クリニックにセカンドオ 除術を受け,経過は良好であった。 原告Lは,平成14年7月ころ,同医療センターにて縦隔リンパ節のがんの再発を指摘され,余命半年であると告げられた。原告Lは,i内科循環器科クリニックにセカンドオピニオンを希望したところ,名古屋市所在のkがんセンターを紹介され,同がんセンターで診察を受けた。 同センターの呼吸器科医からもがんの再発を告げられて,放射線治療やイレッサの話を聞いた。その際,原告Lは,同医師から,イレッサのパンフレット(甲A10)を手渡された。なお,同パンフレットには,臨床試験では約半数の患者でがんの進行が止まるなどの効果が見られ,全体の約20%の患者で腫瘍の縮小が見られたこと,ほとんどの副作用は軽度又は中度で,重度の副作用が認められたのは約8%であり,重大な副作用としては,ひどい下痢や皮膚のただれ,水疱・全身に広がる紅斑,肝臓の障害,肺の炎症によるかぜのような症状(呼吸がしにくいなど)が生じることがあること,副作用は,イレッサの投与を中止したり,他の薬剤による治療により回復すること,1日1回1錠を服用するだけでよいことなどが記載されていた。 原告Lは,同年8月5日から9月10日までj総合医療センターに入院して放射線治療を受けた。放射線治療の結果,約78%の腫瘍縮小となった。 【甲A10,甲Pニ1,丙Mニ1〔24~38,45,46,180,190~192,202,204~206頁〕,2〔11,12 頁〕,原告L本人〔18頁〕】(ウ) 平成14年9月2日,原告Lは,退院後の治療方針を決めるにあたり,同医療センターの担当医から,化学療法の標準的治療薬(シスプラチン)による治療の説明を受けたが,衰弱,幻覚,幻聴,嘔吐,食欲がないなどの重篤かつ多様な副作用が長期間続くことには抵抗があり,標準的治療薬による治療を 担当医から,化学療法の標準的治療薬(シスプラチン)による治療の説明を受けたが,衰弱,幻覚,幻聴,嘔吐,食欲がないなどの重篤かつ多様な副作用が長期間続くことには抵抗があり,標準的治療薬による治療を承諾しなかったため,「承認されたばかりの新薬でイレッサという薬があります。この薬は分子標的治療薬といってがん細胞だけをやっつけてくれる薬で,副作用は,下痢,発疹,ごくまれに肺炎があるだけです。家で1日1錠飲むだけですよ。」とイレッサを勧められた。その際には,原告Lは,医師に,向精神薬とイレッサの組み合わせにより副作用が発症するかを尋ねたが,相互作用はないと言われた。 原告Lは,同月4日にはイレッサの服用を希望するに至ったため,イレッサを処方された。原告Lは,同月11日,同医療センターを退院し,医師の指示で放射線治療による体への影響を考慮して,同月26日から1日1錠イレッサの服用を始めた。 【甲Pニ1,丙Mニ1〔196,202,220,346,489頁〕,原告L本人〔20,34,35,38頁〕】(エ) 原告Lは,イレッサを飲み始めてから1週間が経過したころから,1日4回ほどの軟便が生じたが,平成14年10月10日に同医療センターを受診した際,医師から異常無しと診察された。胸部CT画像上,肺野には異常陰影は認められなかった。 原告Lは,平成14年10月20日ころから発熱が生じ,同月21日には体温が38度9分まで上昇し,咳と激しい下痢が生じたため,同医療センターの救急外来及びi内科循環器科クリニックで診察を受け,解熱剤の投与や点滴を受けるなどした。 原告Lの体温は解熱剤を投与した際に一時的に下がったが,発熱は継続したままであった。 【甲E92[枝番号1],丙Mニ1〔359,360,424頁〕,2〔15頁〕】(オ) 原 。 原告Lの体温は解熱剤を投与した際に一時的に下がったが,発熱は継続したままであった。 【甲E92[枝番号1],丙Mニ1〔359,360,424頁〕,2〔15頁〕】(オ) 原告Lは,平成14年10月23日,再度,j総合医療センターで受診し,医師からイレッサの服用を中止するように指示されたため,イレッサの服用を中止した。 同月23日以降も,原告Lの体温は38度を超え,同月25日ころから喉の奥からむせ返るような重い咳が出て,原告Lは咳などのために食事をとることができなくなり,また睡眠をとることも困難となった。翌26日も状況は変わらず,同月27日も高熱と咳が続いた。 【甲Pニ1,丙Mニ1〔361,362,426頁〕,原告L本人〔9~11頁〕】(カ) 平成14年10月27日,原告Lの妻は,原告Lを車に乗せて同医療センターに行き,診察を受けさせた。原告Lは衰弱と呼吸困難で自力で歩くこともできない状態に陥っており,ストレッチャーで運ばれ,救急治療を受けた後,入院となった。同日の胸部CT検査及び翌28日の胸部X線写真では,両肺に淡いすりガラス陰影が認められ,原告Lは間質性肺炎と診断された。同日から同年11月5日まで酸素吸入が行われ,また同年10月28日から11月10日までステロイド剤による治療が行われた。この間の原告LのSpO2 は,同年10月27日が90~91%(同日のPaO2 は58.6mmHg であった。),同月28日が92~99%,同月29日が96~99%,同月30日が97~98%,同月31日が95~98%,同年11月1日が93~98%,同月2日及び3日が98%であり,同月4日には酸素吸入をはずすとSpO2 が93%となったが,酸素吸入を装着するとSpO2 が98%となり,同月 5日には酸素吸入中 1日が93~98%,同月2日及び3日が98%であり,同月4日には酸素吸入をはずすとSpO2 が93%となったが,酸素吸入を装着するとSpO2 が98%となり,同月 5日には酸素吸入中止後も息苦しさがなくSpO2 が96%であり,その後はSpO2 が97%前後であった。なお,看護記録では,同年10月29日の午後3時の欄(丙Mニ1〔384頁〕)には,「面会者あり,床上に坐り,談話中,表情良く」と,同年11月4日の午前10時の欄(丙Mニ1〔398頁〕)には,「もう治ってると思うんやけどなあ。まだたばこ吸ったらあかんか。」との記載がある。 原告Lは,同医療センターにおいて入院治療を受けていたが,平成14年11月15日,症状が改善して退院が許された。 【甲E92[枝番号1],甲Pニ1,丙Eイ1,丙Mニ1〔349~352,362~366,375~420,427,428頁〕,原告L本人〔11~13頁〕】(キ) 平成15年6月23日,原告Lは,同医療センターにて右鎖骨上又はリンパ節にがんの再発が指摘され,同年7月3日から同年8月8日まで放射線治療を受けた。上記治療の際に,原告Lは,担当医から放射線による局所治療と化学療法(カルボプラチンとドセタキセルの併用療法)の併用を勧められたが,化学療法による治療には同意しなかった。 原告Lは,放射線療法による治療のみを受けて,その後は免疫細胞療法による治療を受けた。 【丙Mニ1〔489,491,498,499,501頁〕,原告L本人〔40頁〕】(ク) 原告Lは,平成14年3月1日からo心身クリニックで受診しており,パニック障害及び鬱病として治療を受けていた。原告Lは,同年4月18日から平成15年5月16日までデプロメール,ソラナックス及びムコスタを処方されていた。平成17年12月20 ニックで受診しており,パニック障害及び鬱病として治療を受けていた。原告Lは,同年4月18日から平成15年5月16日までデプロメール,ソラナックス及びムコスタを処方されていた。平成17年12月20日当時,原告Lは微量の向精神薬を服用し通院していたが,完治に近い状態であった。 【丙Mニ4】 イ因果関係の判断(ア) 第1要件(イレッサと間質性肺炎の発症との因果関係について)前記ア認定の事実によれば,原告Lは,平成13年9月に胸部異常陰影が認められた後,同年11月に大細胞肺がんと診断され,右肺上葉切除術を受けたが,平成14年7月の胸部CT検査の結果,リンパ節転移(縦隔リンパ節腫張)が認められたため,同年8月から縦隔リンパ節への放射線療法による治療を受けた後,同年9月26日からイレッサの服用を開始した。 ところが,同年10月20日ころから発熱が生じ,同月23日には,原告Lは,医師から,イレッサによる副作用又は放射線による肺臓炎の疑いがあるとして,イレッサの服用を中止するよう指示されて服用を中止したが,同月27日には間質性肺炎と診断されて入院するに至り,同日及び翌28日の画像所見では,両肺に淡いすりガラス陰影が認められたというのである。 また,金谷医師だけでなく証人工藤も原告Lに関してはイレッサによる間質性肺炎の発症とみて矛盾しないと述べている(甲E92[枝番号1],丙Eイ1)。 そうすると,原告Lはイレッサ投与開始から4週間以内に間質性肺炎を発症している早期発症例であり,画像所見においてもイレッサによる間質性肺炎の画像と整合するものであり,専門家の意見とも合致するのであるから,上記間質性陰影はイレッサの間質性肺炎によるものと認められ,イレッサと間質性肺炎の発症との間に因果関係があると認めるのが相当である。 な 整合するものであり,専門家の意見とも合致するのであるから,上記間質性陰影はイレッサの間質性肺炎によるものと認められ,イレッサと間質性肺炎の発症との間に因果関係があると認めるのが相当である。 なお,原告Lは,重篤な間質性肺炎を発症し,臨死体験をした旨主張し,金谷医師の意見書(甲E92[枝番号1])では,平成14年10月27日のPaO2(動脈血酸素分圧)が58.6mmHg であったことな どを根拠として,原告Lに発症した間質性肺炎が重篤であったことと述べられている。これに対して,被告らは,原告Lの発症した間質性肺炎が過敏性反応型の間質性肺炎であり,予後も良好であるため,重篤なものではなかった旨主張し,工藤意見書(丙Eイ1)でもこれに沿う意見が述べられている。 なるほど,PaO2 の値は,SpO2 の値に換算することが可能であり,PaO2(58.6mmHg)はSpO2(約89%)であり,ステロイドパルス療法により10日間ほどで概ね改善されているから,呼吸困難の程度としては,亡Mらと比べると軽度であるとはいえる。 しかし,原告Lは,平成14年10月25日ころから咳などが出始めて呼吸困難となり,食事も困難となっていたのであり,同月27日に病院に連れてこられた時には,原告Lは既に歩けない状態でストレッチャーにより運ばれたのであり,その当時の症状としては決して重篤な症状ではなかったといえるものではない。 したがって,被告らの上記主張は採用できない。 (イ) 第2要件前記ア認定の事実によれば,原告Lは,平成14年8月5日から同年9月10日まで放射線治療を受けて,約78%の腫瘍縮小効果が得られ,退院後の治療方針を決めるにあたって,従来の化学療法による副作用を懸念して,医師から勧められた従来の化学療法による治療を断り,同月26 10日まで放射線治療を受けて,約78%の腫瘍縮小効果が得られ,退院後の治療方針を決めるにあたって,従来の化学療法による副作用を懸念して,医師から勧められた従来の化学療法による治療を断り,同月26日からイレッサの服用を開始したというのである。 そうすると,原告Lは,放射線療法により腫瘍縮小効果を得ており,従来の化学療法による治療を受けておらず,従来の化学療法により治療の効果が期待できないという状況ではなかったといえるだけでなく,また従来の化学療法による治療が困難であるほどに全身状態が悪化していたとはいえないことが明らかであるから,前記2(2)のとおり,適切な 指示・警告がされていれば,医師は従来の化学療法よりも優先してイレッサの投与を勧めることはなく,原告Lはイレッサの投与を同意することもなかったと認めるのが相当である。 ウ損害(ア) 原告Lの損害原告Lに関しては,本件における製造物の欠陥の結果はイレッサによって間質性肺炎を発症したことであるから,本件における製造物の欠陥の結果により生じた損害は身体侵害による損害である。 前記認定したすべての事情及び本件記録にあらわれた一切の事実を総合考慮し,被告会社の義務違反の程度,原告Lのイレッサ投与に至る経緯,原告Lのイレッサ投与前の状態及び症状経過等を考慮すると,原告Lが被った精神的苦痛等を慰謝するには,100万円が相当である。 (イ) 原告Lの弁護士費用について本件事案の性質,認容額等を考慮すると,弁護士費用として,10万円を認めるのが相当である。 (4) 亡Oア前記第5章第7の2及び3のとおり,亡Oとの関係においては,第3版添付文書とともに流通におかれたイレッサの指示・警告上の欠陥の存否が問題になるところ,第3版添付文書とともに流通におかれたイレッサは, 前記第5章第7の2及び3のとおり,亡Oとの関係においては,第3版添付文書とともに流通におかれたイレッサの指示・警告上の欠陥の存否が問題になるところ,第3版添付文書とともに流通におかれたイレッサは,必要な指示・警告を怠ったものと認めるに足りず,被告会社に製造物責任法上の責任があるということはできない。 また,第3版添付文書とともに流通におかれたイレッサは,平成14年10月15日時点において,医療現場の医師等に対して危険性の認識の程度に齟齬が生じない程度の適切な注意喚起がされたものというべきであるから,被告会社が,亡Oとの関係において,第3版添付文書とともに流通におかれたイレッサにつき,必要な指示・警告を怠ったものと認めるに足 りず,さらに,原告らの,適応拡大による過失責任,広告宣伝による過失責任,販売上の指示(使用限定)を怠ったことによる過失責任に関する主張は,いずれも理由がないから,被告会社に安全性確保措置を怠った過失による不法行為責任があるということはできない。 さらに,被告会社が,亡Oとの関係において,イレッサの販売が開始された同年7月以降,添付文書の改訂,緊急安全性情報の配布,その周知徹底などの安全性確保のための手段・方法を講じるべき義務を怠ったものと認めるに足りず,被告会社にイレッサ販売開始後の過失による不法行為責任があるということはできない。 イ前記第5章第8の1及び2のとおり,被告国に関しては,承認時の義務違反による違法(承認の違法,規制権限不行使の違法)は認められず,承認後の安全性確保義務違反による違法(規制権限不行使の違法)も認められないから,国家賠償法上の責任があるということはできない。 ウ以上によれば,亡Oとの関係につき,原告J及び原告Kの請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がな 権限不行使の違法)も認められないから,国家賠償法上の責任があるということはできない。 ウ以上によれば,亡Oとの関係につき,原告J及び原告Kの請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 第10 結語 1 以上検討したところによれば,原告らの請求を認容する部分(被告会社が製造物責任に基づき負担すべき損害賠償義務の内容)は,以下のとおりである。 (1) 原告Bに対し,損害賠償金1485万円,原告C,原告D及び原告Eのそれぞれに対し,同495万円並びに各金員に対する平成14年10月2日(損害発生日,すなわちMの死亡の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金(2) 原告Fに対し,損害賠償金1485万円,原告G,原告H及び原告Iのそれぞれに対し,同495万円並びに各金員に対する平成14年12月20日(損害発生日,すなわち亡Nの死亡の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金 (3) 被告会社は,原告Lに対し,損害賠償金110万円及びこれに対する損害発生時(間質性肺炎発生時)以降の日である平成14年11月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金 2 原告らの請求を棄却する部分は,以下のとおりである。 (1) 原告J及び原告K被告らに対する請求(2) 原告Lア被告会社に対するその余の請求イ被告国に対する請求(3) その余の原告らア被告会社に対するその余の請求イ被告国に対する請求 3 よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第12民事部 裁判長裁判官髙橋文淸 裁判官横田典子 裁判官神谷善英 所第12民事部 裁判長裁判官髙橋文淸 裁判官横田典子 裁判官神谷善英
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