平成13(ワ)174 国家賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成15年10月16日 大分地方裁判所
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判決文本文18,394 文字)

◆平成15.10.16大分地方裁判所民事第1部平成13年(ワ)第174号国家賠償請求事件警察官らの実力行使によって男性が死亡したとして,男性の遺族が県を相手に国家賠償法1条1項に基づき損害賠償の請求をしたのに対し,警察官らの行為は警察官職務執行法3条1項1号の要件を満たす適法なものであり,また,警察官の行為と男性の死亡との間に相当因果関係が存しないなどとして,遺族の前記請求を認めなかった事例 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告Aに対し,4145万4110円及び内金3845万4110円に対する平成13年1月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を,同Bに対し,3969万0110円及び内金3669万0110円に対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 第2 事案の概要本件は,被告の公務員である警察官らが,①原告らの子をうつ伏せに押し倒して押さえつけ,毛布を巻いてロープで縛るなどの暴行を加えたため,同人が拡張型心筋症による致死的不整脈により死亡した,②警察官らの実力行使によりぐったりとした原告らの子の様態を確認し,病院に搬送すべき義務を怠った過失により,同人を死亡させたと主張して,同人の相続人である原告らが被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,原告らの子の損害及び原告ら固有の損害の賠償並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求める事案である。 1 争いのない事実(1) 当事者原告らは,亡M(死亡当時25歳の男性。)の両親であり,亡Mの相続人であって,その相続分は2分の1ずつである。 (2) 本件の経緯ア亡Mは,平成13年1月23日午前3時すぎころ,N及びOと共に大分市中央町所在のCに入店して食事をした。 イ亡Mは,同 Mの相続人であって,その相続分は2分の1ずつである。 (2) 本件の経緯ア亡Mは,平成13年1月23日午前3時すぎころ,N及びOと共に大分市中央町所在のCに入店して食事をした。 イ亡Mは,同店店員のP及びQとの間で,食事代金をめぐってもめた。同人は,Pに対し,警報器を押すように指示した。 ウ同店に入ってきた警察官らは,亡Mを店外に連れ出してうつ伏せに倒した後,首を押さえたり,腕を曲げて背中に押し当てたり,両足を粘着テープで固定したりした。 エ同人は,頭部及び右大腿部に打撲傷を負った。警察官の一人は,同店からタオルを借りて,亡Mの血を拭いた。警察官らは,亡Mを2枚の毛布でくるみ,その上からロープを掛けて,マイクロバスの車内に乗せて大分中央警察署(以下「中央署」という。)まで運んだ。 オ警察官らは,亡Mを同署の玄関内の床に置いたところ,待機していた上司が駆けつけてきて,亡Mの顔色が悪いことに気づき,同日午前4時25分ころ,救急車を手配し,同31分ころ,救急車が同署に到着したが,同人は心肺停止状態になり,その後死亡した。 カ同人の死因は,拡張型心筋症による致死的不整脈である。 2 争点(1) 警察官らの亡Mに対する行為が警察官職務執行法(以下「警職法」という。)3条1項1号の保護の要件を満たすか否か。 (2) 警察官らの過失の有無(3) 警察官らの上記行為と亡Mの死亡との間の相当因果関係の存否(4) 亡M及び原告らの損害額 3 当事者の主張(原告らの主張)(1) 事実経過についてア亡Mの酔いの程度亡Mの本件当時の酒量は普段と変わらず,酔いの程度もわずかに酔った程度であった。同人は,もともと酒に強いので,普段から酒を多めに飲んでも,なかなか酔っぱらうことはなかった。 イ Cの店員とのトラブル(ア) Cの店員は,飲食料金の計 ず,酔いの程度もわずかに酔った程度であった。同人は,もともと酒に強いので,普段から酒を多めに飲んでも,なかなか酔っぱらうことはなかった。 イ Cの店員とのトラブル(ア) Cの店員は,飲食料金の計算があいまいだった上,客である亡Mに対する態度もよくなかったので,同人が多少大きな声を出して「計算し直せ。」とか「さっきの金額と違うじゃねえか。あいつ(P)を出せ。」などと言った。この時,亡Mは,終始椅子に座ったままであり,店員に殴りかかろうとするなどの様子は一切なかった。 (イ) 亡Mと一緒にいたOやNは,亡Mが早く同店から出るように仕向けるため,Nは先に同店を出て,Oは会計を済ませるなどして,トラブルを収めようとした。 ウ急行した警察官の店内での亡Mに対する暴行(ア) Cに急行した警察官は,店内に入るなり,椅子に座っていた亡Mに対し,「お前か。」と申し向けた。これは,以前から同人のことを知っていたかのような言い方であり,またお前かといった意味合いに受け取れた。この時,警察官らは,店員に事情を聴こうとするなど一切していない。 警察官からいきなり「お前か。」と言われた亡Mは「何か文句あるんか。」と言い返し,立ち上がって警察官の方に歩いて向かった。 (イ) これを見た警察官らは,亡Mの左右から腕を固定するなどして同人を取り押さえた。 同人は,いきなり警察官らに取り押さえられたことから抵抗し,固定された腕を振りほどこうと腕を回転させたが,振りほどくことはできなかった。この時,警察官の眼鏡,帽子が床に飛んだ。 亡Mは,この時点で完全に制圧され,強制的に店外に連れ出された。 (ウ) 警察官らが店内に入ってから亡Mを店外に連れ出すまでの時間はほんのわずかであった。 エ店外における警察官らの暴行(ア) 店外に連行された亡Mは,4人がかりで取り押さえられた 連れ出された。 (ウ) 警察官らが店内に入ってから亡Mを店外に連れ出すまでの時間はほんのわずかであった。 エ店外における警察官らの暴行(ア) 店外に連行された亡Mは,4人がかりで取り押さえられた上,激しくうつ伏せに押し倒された。 (イ) 警察官らは,以上の暴行にも飽き足らず,今度は亡Mを5人がかりで押さえつけた。首,腕,腰,足などの部分を取り押さえられた同人は全く抵抗できなくなり,首を上下させる程度の動きしか取れなかった。 (ウ) この時点で,同人は,ぐったりとして抵抗を止めた。 同人は,鼻ないし口から大量の出血をし,ヒーッ,ヒーッと長めのしゃっくりのような息をしていた。 大量の出血を見た警察官は,Cに入っていき,店員からおしぼり又はタオルを借りて,亡Mの顔の血を拭き取った。 (エ) さらに,警察官らは,亡Mが抵抗を止めていたにもかかわらず,粘着テープを足首に四,五回巻き付けて,足首を固定し,そのままの体勢で10分以上強力に制圧していた。 (オ) NやOが心配し,警察官らに対し,「もういいでしょ。やりすぎでしょ。」と注意を喚起したにもかかわらず,警察官らは制圧を止めなかった。 この時,亡Mは,OやNが話しかけても反応がない状態であった。 オ中央署への連行(ア) 亡Mは,大量の出血をし,多量の汗をかいた状態であった。また,OやNが話しかけても反応がなかったし,動きも全くなくなっていた。さらに,先ほどはあった長めのしゃっくりのような息もなくなっていた。 この状態を見た警察官らは,「寝た,寝た。」「眠ったから警察に連れて行く。」などと言いながら,毛布2枚で亡Mの体をくるみ,ロープで固定した。 (イ) 同人は既にぐったりとしていたにもかかわらず,警察官らが上記(ア)の行為をするのを見たOやNは,二人そろって「もういいじゃないですか。」「やりすぎじ 枚で亡Mの体をくるみ,ロープで固定した。 (イ) 同人は既にぐったりとしていたにもかかわらず,警察官らが上記(ア)の行為をするのを見たOやNは,二人そろって「もういいじゃないですか。」「やりすぎじゃないですか。」と抗議をしたが,警察官らは全く聞き入れなかった。 (ウ) 亡Mは,ワゴン車に乗せられた。同人のことを心配したOは,「ワゴン車に一緒に乗せてください。」と申し入れたが,聞き入れられず,「別のパトカーで来てください。」と言われた。 亡Mは,そのままワゴン車で中央署に搬送された。 カ中央署にて(ア) 中央署に着くと,別の警察官がやって来て,亡Mを見て,「顔色がおかしいやないか。」「毛布を取れ。」とやや慌てて指示をした。 しかし,同人を搬送してきた警察官らに慌てた素振りはなかった。 (イ) この時,亡Mの顔,腹,足先は青紫色で,腹は冷たくなっていた。これを見た警察官は,「うつ伏せにしていたから冷たくなったのでしょう。」などと話していた。 キ O及びNに対する事情聴取等(ア) OやNは,現場で亡Mが制圧されている最中に,ほんのわずかの事情聴取を受けただけである。質問に対しては,真面目に返答していた。 事情聴取をした警察官は,「また何か暴れたのか。」とか「こいつ知っちょん。前も暴れよった。」などと話していた。 (イ) OやNは,中央署到着後も,わずかに話を聴かれた程度である。 (ウ) その後,事情聴取は行われなかった。 (2) 被告の責任についてア警察官の制圧行為開始の違法性警察官らが通報でCに出向いた時点では,亡Mは椅子に座っており,暴れたりした事実もなかったにもかかわらず,警察官から「お前か。」などと声を掛けられ,さらに,警察官が先に亡Mの肩をたたいたか,両腕をわしづかみにして同人に対する実力行使を加えた。 この時点で,同人にはもちろん逮 実もなかったにもかかわらず,警察官から「お前か。」などと声を掛けられ,さらに,警察官が先に亡Mの肩をたたいたか,両腕をわしづかみにして同人に対する実力行使を加えた。 この時点で,同人にはもちろん逮捕の要件もなく,同人が二人を同伴していたこと,Cでは警察官が来るまでは座ったままであり,暴力や暴れるなどの行為には至っていなかったことからすると,警職法3条の保護の要件も存しなかったことは明らかである。警察官らも保護することなど全く口に出していないのであって,亡Mに対して有形力の行使をすべき何らの根拠もなく,違法な有形力の行使といわざるを得ない。 イ警察官らの制圧行為全体の違法性警察官らは,3人で亡MをCの店外に押し出し,うつ伏せに倒した後,4人で首,右手,左手,両足をそれぞれ押さえ込むなどし,また,亡Mがぐったりとして大量の鼻血を出していたにもかかわらず,粘着テープで同人の足を固定し,同人に毛布を巻いて,その上からロープで縛ったものである。さらに,同人をマイクロバスの後部荷台に乗せ,中央署の玄関ホールまで運んだところ,同人がぐったりとしており,顔色もおかしかったことから,救急車を呼んだものである。 そもそも,前述のとおり,警察官らは,亡Mに対し,有形力の行使をすべき何らの正当な理由はなく,先に有形力の行使に及んでおり,同人はそれを振りほどこうとしたのみであり,そのような同人を3人ないし4人がかりで倒したり,押さえつける行為が違法な暴行行為であることは明らかである。 しかも,同人がいかに大柄であるとはいえ,警察官らの上記行為は,仮に保護行為であるとしても,保護の趣旨を逸脱した過剰な有形力の行使を伴う制圧行為といわざるを得ない。 また,警察官らは,自らの実力行使の結果,大量の鼻血を出してぐったりとした亡Mの様態を確認し,直ちに病院に搬送するな しても,保護の趣旨を逸脱した過剰な有形力の行使を伴う制圧行為といわざるを得ない。 また,警察官らは,自らの実力行使の結果,大量の鼻血を出してぐったりとした亡Mの様態を確認し,直ちに病院に搬送するなどの義務を負うが,同人の様態について何らの観察もせず,両足を粘着テープで固定し,毛布2枚とロープで拘束して,介助もせずに車に乗せて運んだ過失により,同人の急変に気づかず,死に至らしめたものである。 ウ警察官らの暴行と被害者死亡結果との間の相当因果関係の有無亡Mの死因は拡張型心筋症による致死的不整脈であり,警察官らの上記暴行による精神的興奮と激しい運動がその引き金になったことは明らかであり,上記行為がなければ亡Mは死亡に至らなかったものであるから,事実的因果関係がある。 本件当時の同人の行動からすれば,同人の運動機能は麻痺しておらず,また,意識も混濁状態ではなかったから,同人の飲酒は死亡の結果発生に寄与していない。したがって,同人の素因について過失相殺の規定を類推適用するとしても,同人の落ち度に類する事柄は見当たらないから,損害額の大幅な減額は認められないというべきである。 エ結論警察官らは被告の公務員であるから,被告は,原告らに対し,国家賠償法1条1項により亡Mの死亡に基づく損害について責任を負う。 (3) 損害についてア亡Mの損害(ア) 診察料,処置料等 3万6416円亡Mの大分中村病院での診察料や処置料に3万1416円を要し,大分医科大学法医学教室に検案書料として5000円を要した。 (イ) 慰謝料 1600万円同人は,警察官らによっていわれなき暴力行為を受け,毛布やロープで拘束されるという扱いを受け,死亡するに至ったもので,慰謝料として1600万円を請求する。 (ウ) 1600万円同人は,警察官らによっていわれなき暴力行為を受け,毛布やロープで拘束されるという扱いを受け,死亡するに至ったもので,慰謝料として1600万円を請求する。 (ウ) 逸失利益 5334万3805円亡Mの最終学歴は高校卒業であり,その後,焼鳥屋を約1年5か月間にわたって経営していたが,平成11年度分の実収入が不明なので,平成10年賃金センサス高卒男子の全年齢平均賃金で計算すると,年収は478万5700円となる。 同人は死亡時25歳であり,就労可能な67歳までの年数42年に対応する新ホフマン係数22.2930を用い,生活費控除率を5割として計算すると,逸失利益は5334万3805円となる。 イ原告らの損害(ア) 亡Mの損害賠償請求権の相続各3469万0110円亡Mの損害賠償請求権は合計6938万0221円になるところ,原告らは,それぞれその2分の1に当たる3469万0110円ずつを相続した。 (イ) 原告ら固有の慰謝料各200万円原告らは亡Mの両親であり,長男を亡くした悲しみは筆舌に尽くし難く,固有の慰謝料として各200万円を請求する。 (ウ) 葬儀費用 176万4000円原告Aは,亡Mの葬儀費用として176万4000円を出捐した。 (エ) 弁護士費用各300万円原告Aの損害額は合計3845万4110円,同Bの損害額は合計3669万0110円になるところ,上記両名とも弁護士費用として各300万円を請求する。 (被告の主張)(1) 本件保護の状況についてア平成13年1月23日午前3時52分ころ,日本連合警備株式会社から大分県警察本部地域課通信指令室に対し,大分市中央町のCの店 00万円を請求する。 (被告の主張)(1) 本件保護の状況についてア平成13年1月23日午前3時52分ころ,日本連合警備株式会社から大分県警察本部地域課通信指令室に対し,大分市中央町のCの店内で酔っぱらいが暴れている旨の110番通報があり,これをモニターしていた同店の管轄警察署である中央署は,直ちに大分市内を移動中のパトロールカー4台に対し,同店に直行するように命じる無線指令を出した。 同日午前3時55分ころ,最初のパトロールカーが同店前のガレリア竹町アーケード内広場に到着し,R巡査,続いてS巡査が同店の南側自動ドアから入店した。 R巡査は,店内中央部の丸椅子に座っていた亡Mの左後方に立ち,カウンター内に立っていた従業員Qに対し,「どうしたのですか。状況を教えてください。」と尋ねたところ,亡Mは,強い酒の臭いを発しながら「俺じゃー。俺がやったんじゃー。文句があるんかー。」などと大声で叫び,突然立ち上がって,同巡査に体当たりして殴りかかり,その際,同巡査の活動帽と眼鏡が床に飛び,眼鏡の右側フレームが破損した。さらに,亡Mは,同巡査の上腕部を両手でつかんで,同巡査の制止にもかかわらず,同巡査を店内の壁に数回にわたり強く押しつけた。S巡査は,「やめんか。」と大声で警告し,同巡査と後に入店したT巡査は,亡Mの背部から抱きついて同人をR巡査から引き離そうとした。そして,T巡査は亡Mの右上腕部を取り,S巡査は亡Mの首に右腕をかけ,暴れる同人をR巡査から引き離した。その後,同巡査は,亡Mの右手首をつかみ,上記3名の警察官らは,亡Mを店外に押し出した。 イ上記3名の警察官らは,同店前広場において,暴れる亡Mを制止しようとしたが,同人は,泥酔の上,巨体で極めて力が強かった。同人は,大声で吠えながら体を揺すったり,両腕を前後左右に振り払ったり,足 イ上記3名の警察官らは,同店前広場において,暴れる亡Mを制止しようとしたが,同人は,泥酔の上,巨体で極めて力が強かった。同人は,大声で吠えながら体を揺すったり,両腕を前後左右に振り払ったり,足をバタバタさせたりするなどして暴れ,警察官らは振り回されて制止できなかった。そこで,S巡査は,亡Mを立位のままでは制止できないと考え,右膝を同人の左足の膝の裏側に押し当てて,同人をうつ伏せに倒した。同人が左腕を体の下に敷き込む形でうつ伏せに倒れたことから,T巡査は亡Mの右側に位置して右側に出ていた左手を押さえ,S巡査は亡Mの左側に座り込んで右腕で同人の首を押さえ,U巡査部長(以下「U部長」という。)は亡Mの右側から同人の右手を背中に回して固定しようとしたが,同人が足をバタバタさせてパトロールカーを蹴っていたので,すぐにR巡査と替わり,両手で足を押さえた。しかし,亡Mの力は強く,各警察官は何度も振りほどかれた。亡Mは特に両足の力が強く,同部長は,亡Mの両足を押さえきれなかったのでこれを固定する必要があると思い,赤白ロープ(直径約1㎝,長さ25.4mのポリエチレンロープ)を同人の近くまで持ってきたが,同人は七分丈のスウェットパンツを着ていたことから,素肌にロープを巻けば体を傷つけると思い,その時は使用しなかった。S巡査は,「暴れるな。暴れなければこんなことをしない。」と亡Mの耳元で告げたが,同人は聞き入れず,暴れ続けた。同部長は,4名では亡Mを制圧できないと考え,無線で他のパトロールカーに応援を要請した後,再度同人の両足を押さえた。 ウ応援のパトロールカーが到着し,なお激しく足をばたつかせて暴れていた同人を制圧するため,V巡査はU部長と交替して亡Mの頭の方向に向いて両太ももにまたがって乗り,両手で両膝の裏側を押さえ,W巡査部長は亡Mの右横か ルカーが到着し,なお激しく足をばたつかせて暴れていた同人を制圧するため,V巡査はU部長と交替して亡Mの頭の方向に向いて両太ももにまたがって乗り,両手で両膝の裏側を押さえ,W巡査部長は亡Mの右横から腰部付近を押さえた。後続の応援のパトロールカーが到着し,X巡査は同部長と交替して,亡Mの右腕をR巡査と共同で押さえた。なお,Y巡査は,制圧には加わらず,亡Mの近くに位置していた。 エそのころ,U部長は,亡Mを同署で保護するため,無線でマイクロバスと毛布を要請した。同部長が毛布を要請したのは,亡Mを搬送するためのロープを掛ける際,体を傷つけないようにするとともに,1月下旬の非常に寒い時期の午前4時ころ(気温3.8度であった。)で,上衣は半袖Tシャツの上にウインドブレーカー,下衣はパンツの上に七分丈のスウェットパンツ,足は素足にサンダル履きという軽装の同人の保温を考えたためであった。また,そのころ,W部長も,マイクロバスを要請した。これらの要請に対し,同署の当直は,現場にいるパトロールカー1台が毛布とマイクロバスを取りに帰るように指示した。 U部長は,亡Mが依然として足をバタバタさせていたので,同人の両足首に素足を傷つけない粘着テープ(幅5㎝,布製)を1回半くらい巻いた。 オ X巡査とY巡査は,パトロールカーで同署にマイクロバスと毛布を取りに帰った。そのころ,亡Mが暴れなくなったが,各警察官は,亡Mが再度暴れ出すと手がつけられなくなると考え,従前の位置,姿勢を維持したまま力を抜いた。 その際,同人の連れのNが近寄ってきて,亡Mの顔をのぞき込みながら「寝たんかな。」と言ったので,S巡査等が亡Mの様子を見ると,「スー,スー」と寝息のような音がしていたことから,酒の酔いが回って寝たものと思った。同人の顔色は普通で,口や鼻から血は出ていなかった。 カ X巡 かな。」と言ったので,S巡査等が亡Mの様子を見ると,「スー,スー」と寝息のような音がしていたことから,酒の酔いが回って寝たものと思った。同人の顔色は普通で,口や鼻から血は出ていなかった。 カ X巡査とY巡査がマイクロバスに毛布2枚(幅1.7m,長さ2.2m,ウール製)を積んで,本件現場に戻り,1枚の毛布を二つ折りにし,V巡査と共に,これを亡Mの腰から足に掛けて,毛布の端を足の下に敷き込んだ。もう1枚は,X巡査がR巡査と共に,亡Mの脇から下半身に掛けたが,巨体であることから同人の体の下には敷き込めなかった。 U部長が「寝ているうちに運ぼう。」と指示し,自ら亡Mの両足に巻いた毛布の上から足首の下にロープを通し,足と結び目の間にこぶし2つくらいの空間をあけ,結束部より先はロープが締まらないようにするための結び方である「モヤイ結び」により結束を作った。その上で,余裕をもってロープを「チェーン編み」(ロープの一方を引っ張ると一気に「モヤイ結び」をした結束部までほどける結び方)のように掛けた。これは,同人の体重が重いため,ある程度体を固定してマイクロバスに運ぶためであった。R巡査とX巡査が亡Mの脚部に掛けたロープの残りの部分を同人の上半身に2回程度ゆるく掛けたが,これを結ばなかった。 キ 6名の警察官らは,亡Mを同署で保護するため,同人をマイクロバスに乗せた。同人の左右に3名ずつ位置し,同人の頭付近に位置した2名の警察官らはそれぞれ左右の両腕を抱え,他の4名の警察官らはロープや毛布を持って,亡Mをうつ伏せにしたまま,マイクロバスの後部荷台に運んだ。X巡査,T巡査及びV巡査が一緒にマイクロバスに乗り,Y巡査が同車を運転した。 クマイクロバスが同署の玄関に到着し,同車に同乗の3名の警察官らと運転の警察官計4名は,亡Mを同玄関に抱え降ろした。そして,同 T巡査及びV巡査が一緒にマイクロバスに乗り,Y巡査が同車を運転した。 クマイクロバスが同署の玄関に到着し,同車に同乗の3名の警察官らと運転の警察官計4名は,亡Mを同玄関に抱え降ろした。そして,同人を玄関ホールまで運び,粘着テープと同人の膝付近から下にゆるんでからまっていたロープを外し,着衣がめくれて露出していた腹部に毛布を掛けた。その際,同夜の当直監督であったZ課長が亡Mを見たところ,同人はぐったりとしており,様子が通常の酔っぱらいと違う印象を受けたことから,直ちに他の当直員に対し,「様子がおかしいぞ。救急車を呼べ。」と言った。同日午前4時25分ころ,大分市消防局に通報された。 そして,同31分ころ,救急車が到着し,警察官らも救急隊員に協力して亡Mを担架に乗せ,救急車に運び込んだ。救急車には,T巡査及びX巡査が同乗し,同37分ころ出発し,同39分ころ中村病院に到着し,救命措置が施されたが,同日午前5時47分ころ,亡Mの死亡が確認された。 ケ 3台目のパトロールカーが本件現場に到着したころ,W部長はC店内で亡Mの連れと思われるO及びNに対し,亡Mとの関係について聴取したが,両名とも何も答えず,Nがニヤニヤしていただけであった。 また,亡Mの足首に粘着テープを巻いたころ,R巡査は,同店前に立っていたOに対し,「いつもこんなに暴れるんですか。」等と問いかけたところ,同人は「酒を飲むといつもこんな調子で困っている。」というようなことを言った。 亡Mの連れであったO及びNは,亡Mが暴れ続けているにもかかわらず,同人に対し,乱暴をやめるようにとの説得すらもせず,ただ傍観しているのみであった。 (2) 本件職務執行の適法性について中央署の警察官らは,警職法3条1項1号により亡Mをでい酔者として保護したものであり,これは,次のとおり保護の要件を充足し せず,ただ傍観しているのみであった。 (2) 本件職務執行の適法性について中央署の警察官らは,警職法3条1項1号により亡Mをでい酔者として保護したものであり,これは,次のとおり保護の要件を充足しているから,適法である。 すなわち,同人は,C店内において酔っぱらいが暴れている旨の通報がされ,警察官らの現場到着時において強い酒の臭いを発していたこと,店員に事情聴取をした警察官に対し,いきなり体当たりして殴りかかり,警察官の警告,制止も聞かず,警察官の両腕を押さえ,店内の壁に何度も押さえつけてやめようとしなかったこと,店外でも,警察官の制止にもかかわらず,大声を出して吠えながら暴れ続けたこと等,常軌を逸した異常な挙動に出ており,上記挙動はでい酔状態に起因し,自己又は他人の身体,財産に危害を及ぼす虞が認められた(なお,亡Mの血中アルコール濃度は0.258%であった。)。 また,当時は深夜で相当に冷え込んでおり,同人が暴れなくなって以降(警察官らは,亡Mが深酔いのため寝込んでいたと認識していた。),そのまま本件現場である広場に同人を放置した場合,同人の生命,身体に対する危険があったこと,本件現場は,深夜とはいえ,交通量の多い中央通りに面していることから,同人を放置しておけば,同人は中央通りを徘徊して,交通事故の被害者となる危険もあったこと等,同人には応急の救護が必要であった。 同人の連れのN及びOは,上記(1)ケのとおり,責任ある知人とはいえず,さらに,亡Mはでい酔しており,巨体であることから,N及びOでは亡Mを引き取って連れて帰ることができないと判断された。 上記の事情から,警察官らは,とりあえず警察署において亡Mを保護することとしたものである。 また,警察官らが亡Mを保護する際,同人が抵抗したため,必要かつ相当と認められる限度で抵抗を排除した れた。 上記の事情から,警察官らは,とりあえず警察署において亡Mを保護することとしたものである。 また,警察官らが亡Mを保護する際,同人が抵抗したため,必要かつ相当と認められる限度で抵抗を排除した。粘着テープの使用は,同人の尋常ではない暴れ方からみると,やむを得ないものであった。ロープの使用は,同署までの搬送の手段であり,制圧のためではなかった。 (3) 警察官らの過失について亡Mの死因は,拡張型心筋症による致死的不整脈を起こしたことであり,これは突然死である。 同人は,身長174㎝,体重135㎏の体格のよい本件当時25歳の青年男子であり,警察官3名でもすぐに制止できずに振り回されるほど腕力が強く,また,路上にうつ伏せに制圧されてからも,制圧している警察官の腕を振りほどいたり,足をバタバタさせ,パトロールカーを蹴ったりして暴れており,過去においても酒に酔った上大暴れしたことがあることを一部の警察官は知っており,まさか死亡するかもしれないと予見するのは困難であった。 亡Mは,本件現場において,何か生命の危険があるような重篤な病に罹患しているとの外見的徴候はなかった。多量の鼻血が出ていた事実はない。また,同人がおとなしくなっていびきをかいたことについては,警察官らが何らかの病気の症状と考えず,酒に酔って暴れて疲れて寝たものと考えたことは自然で合理的である。 以上によれば,警察官らの行為により亡Mが死亡することの予見可能性,回避可能性は存せず,警察官らに過失はない。 (4) 相当因果関係について亡Mの死因は上記(3)のとおりであり,急性アルコール中毒は同人の死亡を助長したものである。同人の保護中に生じた同人の頭部及び右大腿部の打撲傷は軽症で,死因とはなり得ない。 したがって,本件職務行為と同人の死亡との間に相当因果関係は存しない。 (5) 損 は同人の死亡を助長したものである。同人の保護中に生じた同人の頭部及び右大腿部の打撲傷は軽症で,死因とはなり得ない。 したがって,本件職務行為と同人の死亡との間に相当因果関係は存しない。 (5) 損害について争う。 第3 当裁判所の判断 1 本件の経緯について上記争いのない事実並びに証拠(甲2,6ないし9,乙1ないし8,証人N,同O,同R,同S,同W,同Q,同P)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 これに反する証拠は採用することができず,他にこれを覆すに足りる証拠はない。 (1) 亡M(死亡当時25歳の男性,身長174㎝,体重135㎏)は,平成13年1月22日午後11時ころ,同人の知人であるNが当時勤めていたバーを訪れ,生ビールをジョッキで1杯,焼酎をロックグラスで約10杯飲んだ。亡Mと交際していたOは,同月23日午前零時50分ころ,同店を訪れた。 (2) 亡Mは,同日午前3時すぎころ,N及びOと共に同店を出て,大分市中央町所在のCに入店して食事をした。亡Mは,その際,同店店員のPからビールは提供できないと断られたにもかかわらず,何度かビールを出すよう要求したり,ショーケースのふたを開けてカウンターの上に置いたりし,同40分すぎころ,P及びQとの間で食事代金をめぐってもめ,大声を出すなどし,Qに対し,表に出ろなどと言い,収まる気配がなかったため,同人は,Pに対し,警報器を押すように指示し,同人は警報器を押した。また,亡Mは,吸っていたたばこをQの横方向に投げつけた。Pが警報器を押してから約5分後,警備会社の担当者から同店に電話がかかり,Pは,同担当者に対し,店内で酔った客が暴れているので110番通報をしてほしい旨を伝えた。同担当者は,同52分ころ,その旨の110番通報をした。 (3) R巡査は,パトロールカーを運転して がかかり,Pは,同担当者に対し,店内で酔った客が暴れているので110番通報をしてほしい旨を伝えた。同担当者は,同52分ころ,その旨の110番通報をした。 (3) R巡査は,パトロールカーを運転して,S巡査と共に警ら中であったが,同53分ころ,Cで男が暴れているので現場に行くようにとの無線指令を受け,同55分ころ,同店前に到着し,両巡査が同店の南側自動ドアから店内に入った。S巡査は,酒に酔った亡Mが平成12年5月16日にタクシー運転手に因縁をつけて暴れたことを知っていたことから,カウンター席に座っている男が亡Mであることに気づき,今回も同人が暴れたのだろうと考えた。R巡査は,Qに対し,「どうしましたか。」と尋ねたところ,カウンター席に座っていた亡Mは,「俺じゃ。」などと言いながら立ち上がった。その時,同巡査は亡Mに酒のにおいを強く感じた。同巡査が亡Mをなだめるように同人の肩付近を軽くたたいたところ,同人は,同巡査に向けて両腕を振り回し,その右手が同巡査の左前額部をかすり,同巡査が着用していた眼鏡と帽子が脱落した。次いで,亡Mは,同巡査の両腕付近をつかんで押し,そのまま同巡査を同店南側自動ドア付近の壁に押しつけた。S巡査が亡Mの背中に抱きつき,同人をR巡査から引き離そうとしたが,亡Mの力が強くて引き離すことはできなかった。 同56分ころ,上記の無線指令を受けたU部長とT巡査が同店前に到着し,同巡査が店内に入った。そして,S巡査が左手で亡Mの左上腕部を持って,右手を同人のあごに掛け,T巡査が亡Mの右腕を引っ張って同人をR巡査から引き離した。その時までにS巡査及びT巡査は亡Mに酒のにおいを強く感じた。 同人から離れたR巡査は直ちに亡Mの右腕をつかみ,上記警察官3名は両腕を振って抵抗する亡Mを店外に連れ出した。 (4) 亡Mは,同店前にお 時までにS巡査及びT巡査は亡Mに酒のにおいを強く感じた。 同人から離れたR巡査は直ちに亡Mの右腕をつかみ,上記警察官3名は両腕を振って抵抗する亡Mを店外に連れ出した。 (4) 亡Mは,同店前において,大声を出し,両腕を振り回すなどして激しく暴れ続けたため,R巡査が亡Mを倒すように指示し,上記警察官3名が亡Mを前方に倒したところ,同人は一旦膝をついてから地面にうつ伏せに倒れた。S巡査は亡Mの左側に座り込んで右腕で同人の頭を抱え込み,T巡査は亡Mの右側にしゃがんで同人の体の下から右側に出ていた左腕を押さえつけた。U部長は当初両手で亡Mの右腕を押さえつけていたが,同人が警察官らをはね除けて起き上がろうとしていたため,R巡査に替わるように指示し,同巡査は亡Mの右腕を背中に回して押さえ付けたが,同人は,何度も警察官らの手を振りほどいた。亡Mは近くに止めてあったパトロールカーを繰り返し蹴ったため,同部長は両手で亡Mの両足を上から押さえたが,同人は足を動かして暴れ続けた。同部長は,警察官4名では亡Mを制圧することができないと考え,他のパトロールカーに無線で応援を要請した。 (5) 亡Mがうつ伏せに倒れてから約5分後,W部長及びV巡査が同店前に到着し,同部長は両手で亡Mの右腰と右太ももを押さえ,同巡査はU部長と交替して亡Mの両足の上に乗りかかり,両手で両膝の裏を押さえた。その後,やや遅れて同店前にY巡査と到着したX巡査は,W部長と交替して亡Mの腰部を押さえた。 同部長は,同店内に入り,O及びNに話しかけた。亡Mは,何度もつばを吐いていたが,S巡査は,つばに血が混じっていることに気づき,また,Oから亡Mが出血している旨を聞いて同人の出血を確認したため,同店内に入ってQから濡れたタオルを借り,亡Mの鼻や口から出ていた血を拭いた。U部長とW部長はそれぞれ が混じっていることに気づき,また,Oから亡Mが出血している旨を聞いて同人の出血を確認したため,同店内に入ってQから濡れたタオルを借り,亡Mの鼻や口から出ていた血を拭いた。U部長とW部長はそれぞれ相前後して無線で中央署にマイクロバスと毛布を要請したが,現場のパトロールカーのうちの1台が同署にこれらを取りに戻るように指示されたので,Y巡査及びX巡査がパトロールカーで同署に戻った。そのころ,U部長は,亡Mの両足に二回り程度粘着テープを巻いた。W部長は,再び亡Mの腰部を押さえていた。 (6) 亡Mは,うつ伏せに倒れてから10分ないし15分程度暴れ続けていたが,次第におとなしくなり,ガーガーといういびきのような音を立て,しばらくしてからはスースーという音を立てていた。警察官らは,その様子を見て,亡Mが眠っていると判断した。その後,Y巡査及びX巡査は,毛布を積んだマイクロバスに乗って,同店前に戻った。警察官らは,亡Mの体を保護しつつ運搬するため,同人を2枚の毛布でくるみ,その上を同人の体を締め付けないような結び方を用いてロープで結び,マイクロバスの車内に運んだ。Y巡査がマイクロバスを運転し,T巡査,V巡査及びX巡査がそれに同乗して,亡Mを同署に連れて行った。S巡査及びR巡査も,パトロールカーで同署に戻った。また,U部長も,パトロールカーにN及びOを乗せて,同署に戻った。 (7) 警察官らは,平成13年1月23日午前4時20分すぎころ,亡Mを同署の玄関内に運んで床に置いたところ,当直監督であったZ課長は,亡Mの顔色が悪いことに気づき,救急車を呼ぶように指示し,当直員は,同26分ころ,救急車を手配した。同31分ころに救急車が同署に到着し,大分市大手町の大分中村病院に亡Mが搬送されたが,同病院に到着した時には心肺停止状態であり,拡張型心筋症による致死的 ,当直員は,同26分ころ,救急車を手配した。同31分ころに救急車が同署に到着し,大分市大手町の大分中村病院に亡Mが搬送されたが,同病院に到着した時には心肺停止状態であり,拡張型心筋症による致死的不整脈により死亡したが,死亡時刻については救急車が同署を出発した同37分ころと推定されている。(以下,上記(1)から(7)までの事実の経過をまとめて「本件事件」という。)この点,Oは,Cに警察官が入ってきた後の状況について,陳述書及び証人尋問において,警察官の1人が亡Mに向かっていきなり「お前か。」と言ったのに対し,同人が怒って立ち上がり,警察官の方に向かって歩き,「何か文句あるんか。」と言ったところ,2人の警察官が左右からそれぞれ亡Mの脇を抱えて腕をつかんだため,同人がつかまれた腕をほどこうとして抵抗したと供述しているが,次の理由により信用することができない。すなわち,Cの店員であるQは,証人尋問において,概ね上記認定に沿う証言をしており,同人が,本件事件直後の平成13年1月28日,亡Mの経営していた店の従業員から事情を聴取された際にも同趣旨の供述をしていた(甲9)ことからすると,Qが証人尋問において警察官らに有利となるよう記憶に反する証言をしているとは認め難く,同証言は信用できる。他方,Oは,本件事件当時,亡Mと交際中の女性であり,警察官らが駆け付けるまでの亡Mの言動について明らかに同人を庇う供述態度が見受けられること,陳述書においてCに入ってきた警察官の人数を当初から4人であると供述し,記憶に曖昧な点があることなどからすると,Oの供述をたやすく採用することはできない。 2 警察官らの行為の違法性等について(1) 警職法3条1項1号の保護の要件について上記のとおり,Cに駆け付けたR巡査が同店の店員に事情を尋ねようとしたのに対し やすく採用することはできない。 2 警察官らの行為の違法性等について(1) 警職法3条1項1号の保護の要件について上記のとおり,Cに駆け付けたR巡査が同店の店員に事情を尋ねようとしたのに対し,亡Mが,突然立ち上がって,同巡査に向けて両腕を振り回し,T巡査とS巡査が二人がかりで引き離すまで同店南側の壁にR巡査を押しつける行動に及び,亡Mが警察官らに店外に連れ出された後も大声を出し,両腕を振り回すなどして激しく暴れ続けたこと,亡Mは知人が勤めていた店で上記量の酒を飲んでCに来店したため,R巡査らが亡Mを店外に連れ出す前に同人に酒のにおいを強く感じていたこと,本件事件の起きたのが真冬1月の深夜であったことから合理的に判断すると,本件事件当時,同人はでい酔のため,上記のような異常かつ危険な挙動に及んだもので,警察官ら他人の身体に危害を及ぼす虞のある者に該当することが明らかであり,且つ,応急の救護を要すると信ずるに足りる相当な理由があった(警職法3条1項1号)と認めることができる。なお,同人は,N及びOの面前で上記挙動に及び,これら両名が亡Mをいさめる行動をとったこともうかがわれない上,同人の体格,抵抗の態様,程度に照らすと,同人の保護をN及びOにゆだねることができなかったことは明らかである。 (2) 保護の手段としての有形力行使の相当性について警察官は,警職法3条1項1号所定の被保護者に該当する者を保護するに当たっては,とりあえず警察署等の適当な場所において,これを保護しなければならず,そのために必要な最小の限度において強制力を用いることも許される(同法1条2項参照)。警察官らは,Cの店内で上記挙動に出た亡MをR巡査から引き離して店外に連れ出し,店外においても亡Mが上記のように暴れ続けたことから同人をうつ伏せに倒して押さえつけたとこ される(同法1条2項参照)。警察官らは,Cの店内で上記挙動に出た亡MをR巡査から引き離して店外に連れ出し,店外においても亡Mが上記のように暴れ続けたことから同人をうつ伏せに倒して押さえつけたところ,同人が警察官らをはね除けて起き上がろうとしたり,何度も警察官らの手を振りほどいたり,パトロールカーを繰り返し蹴るなどして激しく暴れ続けたため,最大5名で亡Mの頭部,両手,腰部及び両足を押さえつけ,同人の両足に粘着テープを巻いて制圧し,その後,同人を毛布でくるみ,その上を同人の体を締め付けないような結び方を用いてロープで結んでから中央署に搬送したと認めることができ,これは同人を警察署に連行して保護する前提としてその動きを封じ,また,同人の体を保護しつつ運搬するための行為であって,同人の抵抗の程度や同人の体格などからすると,客観的には同法3条1項1号所定の保護の手段として是認しうる必要最小限度の有形力の行使ということができ,本件で上記措置をもって違法な有形力の行使と評価することはできない。 この点,R巡査は,上記のとおり,亡Mが立ち上がった後,なだめるように同人の肩付近を軽くたたいたことが認められるが,その態様・程度からすると違法な有形力の行使ということはできず,それによって保護の要件を欠くことにもならない。また,証拠(乙3ないし5,証人R,同S)によると,少なくとも警察官らがCの店外に亡Mを連れ出した時点では,警察官らに同項により亡Mを保護するという意思があったとは認め難いが,警察官らが亡Mについてその時点までに保護の必要性を基礎付ける具体的事情について十分認識していたこと,その後の措置を含めて客観的にも保護の手段として是認しうる内容の措置を講じたことからすると,警察官らが亡MをR巡査から引き離して店外に連れ出した行為も実質的にみて同項 について十分認識していたこと,その後の措置を含めて客観的にも保護の手段として是認しうる内容の措置を講じたことからすると,警察官らが亡MをR巡査から引き離して店外に連れ出した行為も実質的にみて同項の保護のための行為ということができ,違法と評価することはできないというべきである。 (3) 警察官らが亡Mの様態を確認し,病院に搬送すべき義務を怠ったという点について原告らは,警察官らが自らの実力行使の結果,大量の鼻血を出してぐったりとした亡Mの様態について何らの観察もせず,直ちに病院に搬送することなく,両足を粘着テープで固定し,毛布2枚とロープで拘束して,介助もせずに車に乗せて運んだ過失により,同人の急変に気づかず,死に至らしめたものであると主張する。 上記のとおり,同人がうつ伏せに倒れてから10分ないし15分程度暴れ続けた後,次第におとなしくなり,ガーガーといういびきのような音を立て,しばらくしてからはスースーという音を立てたことが認められる。確かに,いびきのような音を立てて意識が消失している時には一刻を争う危険な事態に陥っていることも予測でき,警察官らが亡Mに対して上記程度の制圧を加えたことからすると,酒に酔った同人がいびきのような音を立てたからといって,警察官らが短絡的に亡Mが眠りに入ったと判断したことは相当でないとの誹りを免れないが,以下に述べることからすると,その時点において,仮に警察官らが直ちに亡Mを病院に搬送していたとしても,同人を救命することができたとはいえない。 すなわち,上記認定のとおり,同人の死因は拡張型心筋症による致死的不整脈であるが,拡張型心筋症は突然死の頻度が高く,これが死亡例の約半数を占めること(乙7ないし9),同人がいびきのような音を立てていた時点において既に致死的不整脈を発症していた可能性があり(証人a) 脈であるが,拡張型心筋症は突然死の頻度が高く,これが死亡例の約半数を占めること(乙7ないし9),同人がいびきのような音を立てていた時点において既に致死的不整脈を発症していた可能性があり(証人a),発症していたとすれば,心室頻拍が数分続くと,心室細動に移行し,心臓は血液を送り出すことができなくなって心臓停止と同じ状態となり(乙8),その後,数分で死亡すること(同証人),心室細動に対する確実な治療方法は電気的除細動しか存在しないこと(乙9,同証人),Cから近い距離にあると推認される中央署への救急車の到着に手配後約5分を要していることなどを総合すると,警察官らが上記時点において直ちに救急車を手配するなどして亡Mを病院に搬送することにより,同人に対し,速やかに適切な診断のもとで電気的除細動の治療が加えられて同人を救命することができたがい然性を認めることはできないから,警察官らの不作為と亡Mの死との間に因果関係があったことを認めるに足りない。 第4 結語よって,原告らの本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。 大分地方裁判所民事第1部裁判長裁判官須田啓之裁判官細野高広裁判官増田純平

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