主文 原判決を破棄する。 被告人を懲役2年6月に処する。 原審における未決勾留日数中120日をその刑に算入する。 理由 本件控訴の趣意は,弁護人椎木緑司作成の控訴趣意書及び控訴趣意書補充書に記載されているとおりであるから,これらを引用する。 第1 因果関係に関する事実誤認の主張について所論は,要するに,原判決は,被告人の暴行により被害者に肝臓破裂並びに腸間膜及びすい臓損傷の傷害を負わせ,上記傷害に基づく失血により同人を死亡させた,と認定したが,被害者は,当時,大量に飲酒しており血中アルコール濃度が高かったため,肝臓やすい臓に予想外の破裂を生じた可能性があり,被告人には,死の結果はもとより傷害を負わせることの予見も予見可能性もなかったし,通常人の社会通念に照らしてみても致死の結果が発生したことは思いもよらないことであって,被告人の暴行行為と被害者の死亡との間には相当因果関係を欠くから,原判決には事実の誤認がある,というのである。 そこで,検討すると,被告人の暴行行為と被害者の死亡との間の因果関係を肯定した原判決の事実認定は,結論において,当裁判所も正当なものとしてこれを是認することができる。以下,所論にかんがみ,付言する。 1 関係証拠によれば,本件犯行に至った経過及び犯行状況として,次のような事実が認められる。 (1) 被告人は,海上自衛隊に所属する自衛官であり,本件当時,掃海艇Aの掃海長の地位にあった。B(当時53歳。以下,「被害者」という。)は,かつては被告人の上官であったが,本件当時は,被告人の部下であり,掃海艇Aに掃海員長として乗務し,乗組員のまとめ役をしていた。 (2) 被告人及び被害者を含む掃海艇Aの乗組 「被害者」という。)は,かつては被告人の上官であったが,本件当時は,被告人の部下であり,掃海艇Aに掃海員長として乗務し,乗組員のまとめ役をしていた。 (2) 被告人及び被害者を含む掃海艇Aの乗組員らは,平成14年8月30日夜,歓送迎会及びその2次会で飲酒し,さらに,被告人及び被害者は,翌31日午前零時ころから,本件ドックハウス内の食堂において,前任の船務長を含む3名で飲酒した。被告人は,被害者が船務長に対し,当直態勢に関する不満を述べているのを見て,口を挟んだところ,被害者は矛先を被告人に向けて,被告人の仕事上の失態を責め始めた。両者の言い合いが落ち着いたと判断した船務長は,そのころ,中座した。被告人は,被害者に対し,事情を説明したが,言い訳としか受け取ってもらえず,低姿勢な態度をとっても,被害者から,見下されるようなことを言われたため,気分を害し,「それじゃあ,Bさんは何でも正しいんですか。」と言い返すと,被害者から,「もうこれからはお前には協力しない。みんなにも協力させない。一人でやっていけ。」と大声で怒鳴られた。被告人は,乗組員のまとめ役である被害者に協力を拒まれたら,自己の任務を全うすることができず,掃海長としての資質を問われることになりかねないと危惧し,椅子から立ち上がって,「仕事なんですから,命令には従ってもらいます。」と言い返したところ,腹を立てた被害者も椅子から立ち上がり,「貴様,何様のつもりか。」などと怒鳴りながら,被告人の顔面めがけて手拳で殴り付けてきた。 (3) 被告人は,同日午前2時50分ころ,被害者に左側頭部や顔面を手拳で四,五回立て続けに殴られた。その際,被告人が掛けていた眼鏡が外れ,右側のレンズが落ちた。 (4) 被告人は,反撃して,互いに数発ずつ顔面を殴り,両腕をつかみ合い,膝や下腹部等を蹴り合い, 手拳で四,五回立て続けに殴られた。その際,被告人が掛けていた眼鏡が外れ,右側のレンズが落ちた。 (4) 被告人は,反撃して,互いに数発ずつ顔面を殴り,両腕をつかみ合い,膝や下腹部等を蹴り合い,さらに,被告人が被害者の顔面を1回強く殴打したところ,被害者は仰向けに倒れた(原判決のいう「第1暴行」)。 (5) 被告人は,その場にあった椅子に座って呼吸を整えた後,仰向けに倒れたままの被害者の腕をつかんで引き起こし,「謝って下さい。」と言ったところ,立ち上がった被害者から再び胸や肩を数回殴られたため,その顔面や上半身を手拳で数回殴打し,抱きついてきた同人の腹部付近を膝で一,二回蹴り上げ,力が抜けた被害者に対し,更に腹部付近を一,二回膝蹴りした(原判決のいう「第2暴行」)。被害者は,床に横向きに倒れ,しばらくすると,大きないびきをかいて意識不明の状態となった。被告人は,士官の寝室で寝ていた処分士を起こして状況を説明し,一緒に食堂に戻ると,被害者は既に死亡していた。 (6) 司法解剖の結果,被害者の胸腹部と背面に皮下出血及び表皮剥奪が,胸骨と肋骨に骨折が,肝臓に大きな裂創が,腸間膜及びすい臓に挫滅がそれぞれあり,後腹膜腔に強い出血があり,腹腔内に多量の出血があったこと,顔面に挫裂創が,頭部,顔面及び四肢に表皮剥奪及び皮下出血があったことが確認された。そして,胸腹部の傷害は,鈍体によって成傷されたものであり,死因については,胸腹部,背面の損傷による肝臓破裂及び腸間膜,すい臓損傷からの出血に基づく失血死であることが判明した。 2 以上の認定にかかる被告人の被害者に対する暴行の態様,回数,その部位,傷害の成傷原因,そして胸腹部に加えた暴行は,胸骨や肋骨の骨折を生じさせるほど強度のものであったことなどを併せ考慮すれば,被告人が被害者に加えた一連の暴行 の被害者に対する暴行の態様,回数,その部位,傷害の成傷原因,そして胸腹部に加えた暴行は,胸骨や肋骨の骨折を生じさせるほど強度のものであったことなどを併せ考慮すれば,被告人が被害者に加えた一連の暴行と被害者の死亡の結果との間の因果関係は,優に認めることができ,これが欠けることはない。 この点,原判決は,(弁護人の主張に対する判断)の項において,第1暴行と第2暴行とを区別して,致命傷となった肝臓破裂等の傷害は,第2暴行から生じたことが明らかであると説示している。しかし,後に述べるとおり,第1暴行と第2暴行は時間的・場所的に接着している上,第1暴行によっても,被害者の腹部に足蹴りが加えられているし,被害者は顔面を強打されて床に仰向けに転倒しているところ,その足蹴りや転倒の衝撃により臓器に何らかの損傷が生じ,第2暴行によってそれが拡大して大量出血を引き起こした可能性も否定できないから,上記致命傷が第2暴行からのみ生じたことが明らかであるという原判決の上記説示には賛成することができない。ただし,原判決も,被告人の暴行行為と被害者の死亡との間の因果関係を肯定しているのであるから,この事実の誤認は,判決に影響を及ぼすものではない。 なお,傷害致死罪は,暴行罪の結果的加重犯であり,重い結果の発生についての予見可能性を必要とするものではない。 そうすると,所論は,結局のところ,理由がない。 第2 正当防衛又は過剰防衛に関する事実誤認ないし法令適用の誤りの主張について所論は,要するに,原判決は,過剰防衛の成立を認定しなかったが,被告人は,被害者から暴行を受けて,自己の身体を守るため,また,自衛隊内部の統制と服務規律を維持するために,やむなく防衛手段として反撃したものであるから,正当防衛が成立し,仮にそうでないとしても,過剰防衛が成立す 者から暴行を受けて,自己の身体を守るため,また,自衛隊内部の統制と服務規律を維持するために,やむなく防衛手段として反撃したものであるから,正当防衛が成立し,仮にそうでないとしても,過剰防衛が成立するから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があり,ひいては,法令適用の誤りがある,というのである。 所論にかんがみ,検討すると,関係証拠によれば,被告人には,過剰防衛が成立すると認められるので,その限度で所論は理由がある。以下,説明を加える。 1 本件犯行に至った経過及び犯行状況は,上記第1の1で認定したとおりである。なお,被告人の負傷については,同年9月2日の時点で,鼻梁部と右頬部に腫脹があり,左内眼角部と上口唇上部に若干の擦過傷があったことは,証拠上明らかである。また,被告人は,原審公判廷で,20日間くらい,じわじわと出る鼻血が続き,しばらくの間,鼻の根元が動いたとか,胸や腹にも皮下出血があったと供述しているところ,医師の診察や治療の申し出をしていないことを考慮してみても,前記のとおり,被害者の暴行により,被告人の掛けていた眼鏡が外れて,レンズが落ちるほどの相当強度の打撃を受けていることからすれば,その供述が不自然であるということはできず,鼻血等の負傷もあったと認められる。 2 ところで,原判決は,以上のような認定事実とほぼ同様の事実を前提にしながら,原審弁護人の過剰防衛の主張を排斥した。 その理由の要旨は,次のとおりである。①被害者の致命傷は,第2暴行から生じたことが明らかである,②第2暴行の引き金となった被害者からの攻撃は,被告人の被害者に対する攻撃の程度と比較して,極めて弱いものであったし,第1暴行後の状況によれば,第2暴行の時点では,被告人は被害者に対して極めて優位に立っていたから,上記程度の攻撃を らの攻撃は,被告人の被害者に対する攻撃の程度と比較して,極めて弱いものであったし,第1暴行後の状況によれば,第2暴行の時点では,被告人は被害者に対して極めて優位に立っていたから,上記程度の攻撃を回避することも極めて容易であったにもかかわらず,著しく均衡を欠いた強度の反撃を加えたものであり,もはや防衛の必要性自体が認められない,③被告人は,第2暴行について,被告人自身は殴り合いをやめたいと思って,被害者に手をさしのべて声を掛けたのに,なおも被害者が向かってきたことから,「何で分かってくれないんだろう。」という思いで攻撃した旨供述するにとどまり,第2暴行の際,防衛の意思を有していたと認めることができない,④仮に,第1暴行と第2暴行を一体のものと評価するとしても,本件は,当事者双方が攻撃及び防御を繰り返すけんか闘争であり,その連続的闘争行為の過程において,特段の事情の変化はないから,正当防衛及び過剰防衛を論じる余地がない,というものである。 3 これに対し,所論は,被告人が被害者に加えた暴行を分断することなく,一体のものとして捉えた上,正当防衛及び過剰防衛について検討すべきであるのに,第1暴行と第2暴行とを分断して,第2暴行についてのみ,その要件を検討した原判決は不当である,と主張する。 そこで,検討すると,上記第1の2で説示したとおり,被害者の致命傷が,第2暴行だけから生じたと断定することはできない。そして,被告人と被害者が言い合いを続けていたところ,被告人の「仕事なんですから,命令には従ってもらいます。」という発言に対し,「貴様,何様のつもりか。」などと怒鳴りながら,突然,被告人の左側頭部や顔面を手拳で四,五回立て続けに殴りつけてきた被害者の行為は,被告人の身体に対する「急迫不正の侵害」に該当するというべきである(なお,弁護人は, もりか。」などと怒鳴りながら,突然,被告人の左側頭部や顔面を手拳で四,五回立て続けに殴りつけてきた被害者の行為は,被告人の身体に対する「急迫不正の侵害」に該当するというべきである(なお,弁護人は,自衛隊内部の統制や服務規律に対する急迫不正の侵害もなされたと主張しているが,国家的法益のためにする正当防衛は,国家機関である自衛隊の有効な公的活動を期待することができないような極めて緊迫した場合において,例外的に認められるに過ぎないと解されるところ,本件においては,そのような事情までは認められないから,この点に関する所論は採用できない。)。 加えて,被告人の反撃行為である第1暴行と,その後の第2暴行は,同一の場所において加えられている上,第1暴行終了後,第2暴行開始までの間の時間的間隔については明確な証拠がないものの,被告人が椅子に座って息を整える程度の比較的短い時間であったこと,被害者は,第1暴行終了後,床に仰向けに転倒していたが,被告人から引き起こされて「謝って下さい。」と言われるや,再度,被告人の胸や肩を殴りつけており,加害の意欲はなお強かったことなどを併せ考慮すると,急迫不正の侵害は終了しておらず,むしろ継続していたと認められる。したがって,正当防衛及び過剰防衛の成否を論じるに当たって,第1暴行と第2暴行とを分断して検討するのは相当でない,というべきである。 そして,原判決は,上記④のとおり,本件は,けんか闘争であるとして正当防衛や過剰防衛の成立する余地はない旨説示している。 しかしながら,本件は,当初から双方がともに闘争の意図をもって臨み,ほぼ同時に攻撃を開始し合うような典型的なけんか闘争ではないし,本件前の言い合いの内容や状況を考慮してみても,被告人の側から,殊更,けんかを誘発したとか,被害者を挑発したとはいえない をもって臨み,ほぼ同時に攻撃を開始し合うような典型的なけんか闘争ではないし,本件前の言い合いの内容や状況を考慮してみても,被告人の側から,殊更,けんかを誘発したとか,被害者を挑発したとはいえないし,逆に,被害者の挑発に乗って,被告人が積極的な加害意思をもって攻撃したような事情もない。そうすると,本件がけんか闘争に当たるとして,正当防衛や過剰防衛の余地がないとした原判決の説示は相当でない。 4 そこで,第1暴行と第2暴行を一体のものとして捉え,さらに,検討すると,関係証拠によれば,被告人の反撃行為は,攻撃の意思と防衛の意思とが併存する状態においてなされたものと認めることができる。 被告人は,本件犯行当時の心境について,捜査段階では,殴りつけられて,我慢できずに応戦し,我を見失い,見境がつかないようになり,被害者が倒れるまで手拳で殴りつけたり,膝蹴りする等の暴行を振るった,第1暴行について,けんかに負けてしまうと,ますます自分の立場が惨めになってしまうなどと考え,被害者をやりこめて,被害者の言葉を撤回させようと考えて応戦した,第2暴行について,被害者を引っ張り起こしたら,また殴りつけてきたため,情けなさというか怒りを覚え,両手拳で応戦し,何で分かってくれないのか悔しいという気持ちで,力一杯殴りつけた,両腕で抱きついてきたので膝蹴りしたなどと供述している。また,原審公判廷では,第1暴行について,被害者がすごく強かったので,何くそと思い,倒されたくないという気持ちがあった,やり込める気はなかった,おなかの中から熱いものが上がってきて,パニックというか,真っ白になって,訳が分からなくなり攻撃した,第2暴行について,また被害者が殴ってきたので,流れとして対応した,非常に情けなくて,なんで分かってくれないのだろうという気持ちがあったと供述して うか,真っ白になって,訳が分からなくなり攻撃した,第2暴行について,また被害者が殴ってきたので,流れとして対応した,非常に情けなくて,なんで分かってくれないのだろうという気持ちがあったと供述している。 これらの供述内容については,若干の変遷があるものの,被告人は,もともと被害者の後輩に当たり,年齢も3歳年下であって,勤務場所が一緒になったときには被害者に面倒を見てもらったこともあり,被害者を慕っていたところ,本件当時は,職場における上下関係が逆転し,掃海長として被害者の上司であったが,不慣れな仕事であり,乗組員のまとめ役であった被害者の協力を得ることができなければ,掃海長としての任務をまともに遂行することができないという微妙な立場にあり,酒席の上とはいえ,被害者から仕事上の失態を指摘されて言い合いとなり,今後の協力を拒否する旨言われた上,部下である被害者に殴られたのであるから,上下の規律が特に重んじられる自衛隊において,上官として,部下である被害者を従わせなければならないという思いや憤激,興奮など様々な気持ちが加わり,反撃行為に出たというのは自然である。 しかしながら,被告人が,このような感情を抱いて本件行為に及んだからといって,そのことから直ちに,本件行為が専ら積極的な攻撃意思に基づいてなされたものとはいえない。被告人は,口での言い合いが続いていたに過ぎない時に,突然,被害者から左側頭部や顔面を手拳で立て続けに四,五回殴打され,眼鏡も外れてしまい,近視のため視界がぼんやりとした状態に陥ったこと,第1暴行の結果,被害者が転倒するや攻撃をやめ,息を整えた後,被害者の腕をつかんで引き起こし,「謝って下さい。」と声を掛けたが,またもや殴られたため,再度反撃したことなどの事情を総合すると,被告人は,被害者から予期していない暴行を受け をやめ,息を整えた後,被害者の腕をつかんで引き起こし,「謝って下さい。」と声を掛けたが,またもや殴られたため,再度反撃したことなどの事情を総合すると,被告人は,被害者から予期していない暴行を受けて,反射的にあるいは本能的に,その侵害に対応して,それを排除するために反撃行為に出たことも合理的に推認することができる。 なお,被告人は,当審公判廷において,第1暴行に至った状況の詳細について,被害者から顔面めがけて殴りつけられた際,左手を出しながら横を向いてよけようとしたが,被害者の手が左側頭部に当たった,四,五発目くらいまで,両手を出して防ごうとしたが,止めることができず,被害者のパンチが被告人の顔面に当たった,何くそと思い反撃したなどと供述しているところ,犯行状況を再現した実況見分調書(原審検16号証)の内容と照らしてみても,概ね符合しており,特にその信用性を否定すべき事情は見当たらないから,この供述は上記推認を裏付ける。 そうすると,被告人の本件一連の反撃行為は,専ら攻撃意思に基づいてなされたものではなく,防衛の意思が併存していたと認めることができる。 これに対し,原判決は,上記③のとおり,第2暴行のみを取り上げて防衛の意思を否定しているが,第1暴行を含む一連の反撃行為として検討してみると,緊急状態に陥った際の心情に関する評価として十分なものではない。 5 次に,防衛行為の相当性について検討すると,被害者による侵害行為は,一部足蹴りによるものもあるが,主として手拳で被告人の顔面や胸部,肩などを殴りつけるというものであり,通常であれば,死亡や重大な傷害の結果を生じさせる危険までは認められない程度の侵害行為であるし,第2暴行開始の時点で,被告人は,かなり優位な立場にあったし,被害者から被告人に加えられた暴行の程度は,当初の暴行 ば,死亡や重大な傷害の結果を生じさせる危険までは認められない程度の侵害行為であるし,第2暴行開始の時点で,被告人は,かなり優位な立場にあったし,被害者から被告人に加えられた暴行の程度は,当初の暴行と比較してさほど強いものではなかった。そして,被告人の負傷は,顔面に腫脹や擦過傷を生じ,鼻血が出たり,鼻の根元が動く程度に留まっている。これに対し,被告人の反撃行為は,第1暴行も被害者を仰向けに転倒させるほど強力なものであり,殊に,第2暴行については,被害者の顔面や上半身を手拳で数回殴打しただけでなく,抱きついてきた被害者の腹部付近を膝で数回にわたり蹴り上げているところ,客観的にみて,胸腹部には生命を維持するための重要な臓器があり,強力な暴行が加えられれば,内臓破裂等の重大な傷害を負わせることになる危険性が高いものであった。実際,被告人の一連の反撃行為により,被害者の胸骨や肋骨が骨折し,肝臓破裂,腸間膜及びすい臓の挫滅等の重篤な傷害を生じさせて,被害者を即死に近い状態で失血死させている。そうすると,被告人の本件反撃行為は,被害者の侵害行為に比して,その権衡を失する強力な有形力の行使であったといわざるを得ない。 したがって,被告人の本件反撃行為は,全体として,被害者の急迫不正の侵害に対する防衛行為であるが,その相当性を逸脱していることが明らかであるから,被告人には,正当防衛は成立せず,過剰防衛が成立するにとどまる。 6 以上によれば,過剰防衛の成立を否定した原判決には,事実の誤認があり,この誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかである。 論旨は,その限度で理由がある。 よって,量刑不当の論旨に対する判断をするまでもなく,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書に従い,当裁判所において,更に判決することとす ,その限度で理由がある。 よって,量刑不当の論旨に対する判断をするまでもなく,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書に従い,当裁判所において,更に判決することとする。 第3 自判(犯行に至る経緯)原判決が(犯行に至る経緯)の項で認定したとおりである。 (罪となるべき事実)被告人は,平成14年8月31日午前2時50分ころ,広島県安芸郡a町(以下,省略)所在のC株式会社D造船所E工場にある第一ドックハウス内の食堂において,B(当時53歳)が手拳で被告人に殴りかかってきたことから,憤激するとともに身の危険を感じ,同人の顔面を手拳で数回殴打し,両手をつかみながら,その膝や下腹部を蹴り,その顔面を手拳で1回強打する暴行を加えて仰向けに転倒させ,しばらくの間,呼吸を整えた後,倒れたままのBの腕をつかんで引き起こし,「謝って下さい。」と言ったところ,再度,Bが被告人に殴りかかってきたため,前同様,腹立ちを覚えるとともに身の危険を感じ,その顔面や胸部を手拳で数回殴打し,腹部を数回膝で蹴り上げるなどの暴行を加え,一連の暴行により,同人に肝臓破裂並びに腸間膜及びすい臓損傷の傷害を負わせ,同所において,そのころ,上記傷害に基づく失血により同人を死亡させた。 なお,被告人の上記一連の暴行は,急迫不正の侵害に対し,自己の身体を防衛するためやむを得ず行ったものであるが,防衛の程度を超えたものである。 (証拠の標目)被告人の当審公判廷における供述,被告人作成の手紙2通(当審弁3,4号証)を付加するほか,原判決が(証拠の標目)欄に挙示する証拠と同一である。 (弁護人の主張に対する判断)被告人に正当防衛が成立しないことは,上記第2に説示したとおりであるから,これを引用する。 (法令の適用)罰条刑法205条未決 する証拠と同一である。 (弁護人の主張に対する判断)被告人に正当防衛が成立しないことは,上記第2に説示したとおりであるから,これを引用する。 (法令の適用)罰条刑法205条未決勾留日数刑法21条(原審における未決勾留日数中120日を刑に算入する。)訴訟費用刑訴法181条1項ただし書(原審分及び当審分について,被告人に負担させない。)(量刑の理由)本件は,海上自衛隊に勤務する被告人が,部下である被害者から殴りかかられたため,憤激するとともに,自己の身体を防衛するために反撃したが,防衛の程度を超える暴行を加えて,被害者を死亡させた,という事案である。 被告人は,防衛行為としてではあるが,腹部を膝蹴りするなど強力で激しい暴行を加えて,被害者を死亡させており,犯行態様は芳しくなく,結果は誠に重大である。被害者は,海上自衛隊に長く勤務していたが,定年を目前にして,家族を残したまま,命を落としたのであって,その無念さは計り知れない。また,一家の支えを失った遺族の悲嘆の思いや怒りの気持ちは強く,今後の生活に及ぼす影響も大きい。被告人側からの被害弁償は,原審の時点で現金11万円が支払われたにとどまり,慰謝の措置も不十分であり,遺族の処罰感情が厳しいのもやむを得ない。 そうすると,本件の犯情はよくなく,被告人の刑事責任は重いというべきである。 しかしながら,既に検討したように,被告人の行為は,過剰防衛に当たること,被害者から先に被告人に対し,暴行が加えられたものであり,被害者の言動にもかなり問題があったこと(この点は,過剰防衛の成否に関する法的評価を離れてみても,「被害者に見るべき落ち度があった訳ではない」と説示した原判決の量刑理由は,量刑事情の評価を誤っているといわざるを得ない。),本件は,飲酒の上での偶発的な 剰防衛の成否に関する法的評価を離れてみても,「被害者に見るべき落ち度があった訳ではない」と説示した原判決の量刑理由は,量刑事情の評価を誤っているといわざるを得ない。),本件は,飲酒の上での偶発的な犯行であること,被告人は,反省の態度を示しており,退職金が支給されれば,被害弁償に当てる旨述べるとともに,防衛庁共済組合による埋葬料等の立替払いの手続に応じていること,罰金刑以外に前科がないことなど被告人のために酌むべき事情も認められるので,これらの事情を総合考慮して,主文のとおり刑を定める。 よって,主文のとおり判決する。 平成15年10月9日広島高等裁判所第一部裁判長裁判官久保眞人 裁判官芦高源裁判官島田一
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