令和4(わ)1617 詐欺

裁判年月日・裁判所
令和5年10月25日 名古屋地方裁判所
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判決文本文14,178 文字)

- 1 - 主文 被告人は無罪。 理由 第1 本件公訴事実の内容被告人は、企業経営コンサルティング業務等を業とするA株式会社の代表取締役として同社の業務全般を統括するものであるが、株式会社B代表取締役Cから、融資金名目で現金3000万円をだまし取ろうと考え、 1 主位的訴因平成30年5月15日、名古屋市a 区b 町c 丁目d 番e 号株式会社B事務所において、Cに対し、真実は、A株式会社はD株式会社に対して売掛債権を有していないのに、同債権を融資の担保とするかのように装い、同債権に係るA株式会社からD株式会社に宛てた内容虚偽の請求書等(以下「本件虚偽請求書等」という。)を呈示するなどして融資を申し込み、Cに、A株式会社がD株式会社に対して売掛債権を有しており、同債権を融資の担保とすることができる旨誤信させて、同人をして被告人に対する3000万円の融資を決定させ、よって、その頃、株式会社B事務所において、Cから現金3000万円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させたものである。 2 予備的訴因平成30年5月10日から同月15日までの間に、名古屋市内又はその周辺にいた株式会社B顧問弁護士Eに対し、3000万円の融資を申し込み、Eから融資の担保を求められるや、真実は、A株式会社がD株式会社に対して売掛債権を有していないのに、同債権を融資の担保とするかのように装い、本件虚偽請求書等をEが代表を務める名古屋市f区gh丁目i番j号Fビル2階所在のG法律事務所にファックス送信するなどして、E及びEを介してCに、A株式会社がD- 2 -株式会社に対して売掛債権を有しており、同債権を融資の担保とすることができる旨誤信させ 号Fビル2階所在のG法律事務所にファックス送信するなどして、E及びEを介してCに、A株式会社がD- 2 -株式会社に対して売掛債権を有しており、同債権を融資の担保とすることができる旨誤信させ、E及びCをして被告人に対する3000万円の融資を決定させ、よって、同月15日、名古屋市内において、E又はCから現金3000万円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させたものである。 第2 本件の審理経過と当審における当事者の主張 1 差戻前第一審(以下「前一審」という。)被告人は、前記主位的訴因を公訴事実として起訴された。前一審は、C、E、H、I及びJの各公判供述等に基づき、株式会社B事務所における欺罔行為について、本件虚偽請求書等を直接Cに対してではなく、情を知らないEを介して呈示するなどして融資を申し込んだと認定替えをしたものの、その余については訴因として掲げられた事実を認定して、被告人に対して有罪判決を言い渡した。 2 控訴審弁護人が控訴したところ、検察官は、予備的訴因を追加する旨の訴因変更を請求し、控訴審はこれを許可した。 控訴審は、控訴審で取り調べたEとCのLINEのトーク履歴等によれば、Eらが通謀して証拠を捏造したり、証人尋問前の打合せをするなどしていたことが認められ、E及びCの前一審における公判供述についていずれも多くの部分にわたって信用性が乏しいとし、少なくとも、前一審がこれら供述の信用性を肯定した上でこれらに基づいて行った、①株式会社Bに帰属する現金3000万円がCからA株式会社側に交付されたという事実、②本件虚偽請求書等の呈示や現金3000万円の交付が株式会社B事務所において行われたという事実については、事実の誤認があるとして前一審判決を破棄し、予備的訴因を含む公訴事実について、E及び う事実、②本件虚偽請求書等の呈示や現金3000万円の交付が株式会社B事務所において行われたという事実については、事実の誤認があるとして前一審判決を破棄し、予備的訴因を含む公訴事実について、E及びCの再度の証人尋問を行うなどして更に審理を尽くさせるため、本件を名古屋地方裁判所に差し戻した。 3 差戻後第一審差戻後第一審である当審において、検察官の請求に基づき、刑訴法157条の- 3 -2の免責を決定した上でEの証人尋問を行ったが、検察官は、Cについては、召喚に応じる見込みが低いとして同人の証人尋問を請求しなかった。 その上で、検察官は、主位的訴因について、前一審におけるE及びCの証言は客観証拠等と整合するものではなく、Eも当審で前一審では事実と異なる証言をした旨証言をしたことなどから認め難いとした上で、予備的訴因について、①被告人が本件虚偽請求書等を作成できる機会を有していること、被告人が本件虚偽請求書等をファックス送信したと推認できることからすれば、本件虚偽請求書等を虚偽と認識しながら送信したこと(欺罔行為(単なる行為を指すのではなく、詐欺の内心に基づいた行為をいう。以下同じ。))が推認される、②EとCのLINEのやり取り等からすれば、EとCは被告人がファックス送信した本件虚偽請求書等によって担保となる売掛債権があるものと誤信したこと(錯誤)、被告人がEとCが半額ずつ拠出し合って準備した現金3000万円の交付を受けたこと(現金の交付)が推認され、当審におけるE証言はこれらの推認を裏付けているとして、公訴事実が認められると主張する。 これに対し、弁護人は、①欺罔行為に関し、㋐被告人が本件虚偽請求書等の作成やファックス送信を行っていない合理的な疑いがある、㋑Eについては、自分からもうけ話に勝手に引っかかった と主張する。 これに対し、弁護人は、①欺罔行為に関し、㋐被告人が本件虚偽請求書等の作成やファックス送信を行っていない合理的な疑いがある、㋑Eについては、自分からもうけ話に勝手に引っかかっただけであり、Cについても、本件虚偽請求書等の内容が伝達されていないのであって、いずれにしても欺罔行為が認められない、②錯誤に関し、Cについては、貸付に至るEとのやり取りの経過等からして、A株式会社のD株式会社に対する債権の内容など気に掛けずに貸付に応じた可能性があり、Eについても、内心では被告人に3000万円を貸し付ける方針を決めていたにもかかわらず、一旦これを拒否して見せる、一種のパフォーマンスを行っていたのであって、貸付に供したと推認される、不正に入手した1億円以上の犯罪収益について、慎重に扱うことなく浪費することも考えられ、A株式会社のD株式会社に対する債権を担保にとることにこだわっていたのか疑問があり、いずれも錯誤に陥っていたことについて合理的な疑いが残る、③現金の交付- 4 -に関し、本件当日、Eは、株式会社B事務所に行っておらず、自身の保管していた犯罪収益から3000万円を拠出した可能性があり、Cが1500万円を拠出したことについて合理的な疑いが残ると主張する。なお、弁護人は、予備的に、検察官は、前一審におけるE及びCの公判供述と同人らのLINEのトーク履歴が矛盾することが判明していたにもかかわらず、同人らの公判供述に基づいた事実関係を主張して有罪判決を騙取したもので、職務規範違反等に該当するから、公訴を棄却すべきであると主張する。 第3 当裁判所の判断 1 関係各証拠によれば、以下の事実を認めることができる。なお、前一審で取り調べられた証拠は単に「甲1」「弁1」などと記載し、控訴審において取り調べられた証拠は「控 第3 当裁判所の判断 1 関係各証拠によれば、以下の事実を認めることができる。なお、前一審で取り調べられた証拠は単に「甲1」「弁1」などと記載し、控訴審において取り調べられた証拠は「控訴審検1」「控訴審弁1」、当審で取り調べた証拠は「差戻審弁1」などと記載する。 ⑴ 本件関係者について(甲22、C、E、H、I、J)平成30年5月頃、被告人はA株式会社の代表取締役、I及びJは同社の取締役、Jは同社の経理担当、Cは株式会社Bの代表取締役、EはG法律事務所の経営者であり、A株式会社及び株式会社Bの顧問弁護士、HはG法律事務所の事務員であった。 ⑵ K株式会社について(甲10、22、I、J)K株式会社は、被告人がIを事務局兼ドライバーとして誘うなどして立ち上げられた会社で、平成30年5月頃、Iが代表取締役、被告人がK株式会社の財務、経理担当の執行役員を務め、Jが同社の経理を担当しており、A株式会社の関連会社という位置付けであった。また、K株式会社の事務作業は、A株式会社と本店所在地を同じくするL株式会社に委託されており、K株式会社の実印、銀行印及び銀行口座の通帳は、名古屋市k区に所在するA株式会社兼L株式会社の本店のJのデスクの隣にある金庫内に保管されていた。被告人及びJは、同金庫の鍵を管理しており、かつ、同金庫の暗証番号を知っていた。ま- 5 -た、この頃、K株式会社が取引をした場合に作成した請求書等は、電子データに変換した上で、コンピュータ上の特定のフォルダ内で管理されており、被告人及びJは、同フォルダにアクセスすることができた。 この頃、Iの意思に反して、実体的な取引関係がないのにK株式会社の資金がA株式会社の銀行口座に移されることがしばしばあり、Iは、被告人及びJに対し、K株式 ルダにアクセスすることができた。 この頃、Iの意思に反して、実体的な取引関係がないのにK株式会社の資金がA株式会社の銀行口座に移されることがしばしばあり、Iは、被告人及びJに対し、K株式会社の資金を勝手に流用しないよう事あるごとに注意していた。平成30年4月2日、K株式会社の口座の残高が775円であったところ、D株式会社から同口座に1728万3857円が振り込まれ、同日、同口座からA株式会社に1720万円が送金された。また、同年5月1日、K株式会社の口座の残高が8万3552円であったところ、D株式会社から同口座に2541万7240円が振り込まれ、同月7日から同月10日にかけて、同口座からA株式会社に1530万円が送金された。 ⑶ 本件以前の融資(甲14、控訴審弁10)本件以前にも、被告人は、EにA株式会社の繋ぎ融資について相談し、何らかの融資を受け、同月2日、Cに同融資の元利金を支払っていた。 ⑷ 繋ぎ融資の依頼(甲14、29)同月10日、被告人は、Eに対し、スマートフォンのメッセージアプリを用いて(以下、被告人とEとの間のメッセージ送受信について同じ。)「さて、大変申し上げにくい事ですが、また、繋ぎ融資をお願いしたいと思いますので、お取り計らいを程、伏して宜しくお願い申し上げます。調達額は3000万円で期間は来週の5/15~7/2迄です。」とのメッセージを送信し、A株式会社を借主、期間を平成30年5月15日から同年7月2日とする3000万円の繋ぎ融資(以下「本件繋ぎ融資」という。)の依頼を持ち掛けた。 ⑸ 本件虚偽請求書等の送信と同送信の連絡(甲8ないし10、14、29、H)何者かが、同年5月14日午後3時50分頃、送信元を「A(株)被告人」とし、G法律事務所に対し「5/15実 ⑸ 本件虚偽請求書等の送信と同送信の連絡(甲8ないし10、14、29、H)何者かが、同年5月14日午後3時50分頃、送信元を「A(株)被告人」とし、G法律事務所に対し「5/15実施予定繋ぎ融資エビデンスの件」と題- 6 -するFAX送信表とその添付資料として、実在する同年4月30日付けK株式会社作成に係るD株式会社宛ての請求書(金額3200万4780円。以下、この請求書に基づく債権を「D株式会社債権」という。)のうち、K株式会社の社名・社印部分をA株式会社の社名・社印等に差し替えた請求書及びA株式会社名義普通預金口座の通帳の口座名義人部分の写しとK株式会社名義普通預金口座の通帳の取引記帳ページ(同年1月以降にD株式会社から振込入金された取引が記帳されたもの。)の写しを組み合わせたもの(本件虚偽請求書等)をファックス送信した。 同年5月14日午後4時1分、被告人は、Eに対し、「先週にご相談させて頂きました、繋ぎ融資のエビデンスを売掛金回収の経緯により、資料を事務所にFAXさせて頂きました。」とのメッセージを送信した。 同日夕方頃、Hは、Eの指示により、G法律事務所において、受信した本件虚偽請求書等を自分の携帯電話で写真撮影し、その画像データをEの携帯電話のアドレスに送信した。 ⑹ 本件虚偽請求書等についての被告人とEのやりとり(甲14、29)Eは、同画像データを確認した上、同日午後6時31分、被告人に対し、「まだ、金主には説明していませんが、D株式会社との契約書四月請求分の支払期限が示されている書類 5月分、6月分の発注書は、少なくとも必要だと考えます。今回は、貸付時にIさんの保証も必要になると考えます。」とのメッセージを送信した。また、翌15日午前9時1分、Eは、被告人に対し、 れている書類 5月分、6月分の発注書は、少なくとも必要だと考えます。今回は、貸付時にIさんの保証も必要になると考えます。」とのメッセージを送信した。また、翌15日午前9時1分、Eは、被告人に対し、「多分金主は、他に支払いがあるのに、なぜD株式会社からの売掛回収額を金主への返済のためにプールできるのか、必ず質問すると思います。そこの説明も考えておいて下さい。」とのメッセージを送信した。 これに対し被告人は、同日午前9時36分、Eに対し、「D株式会社さんとの契約書ですが、取引を頂いて十数年経過しており、契約書を作成していないと思います。5月の暫定受注分はある程度解りますが、6月の受注はまだ解り- 7 -ません。さて、本来なら私どもに2ヶ月から3カ月分の運転資金(5~6千万)に余裕があれば、何も問題ないはずですが、ご承知の通り、厳し資金繰りにて推移しており、特に、3月、4月は繁忙期にて、売掛金が増大し、当方からの下払いが先行する形で大口からの回収を待つことになります。6月末には正常に戻りますが、この経過と経緯を銀行に説明して、運転資金の調達を実施してもらうように動いております。」とのメッセージを送信した。 ⑺ 本件繋ぎ融資のいったんの謝絶(甲14、29)同日午前10時29分、Eは、被告人に対し、「電話で金主と話しました。 今回は、だめだそうです。理由は、いくつかありましたが、最大の理由は、前回の貸借の際、Iさんの保証書が、届かなかったことだそうです。」とのメッセージを送信した。 ⑻ Cへの共同融資の持ち掛け(控訴審検1、同弁10)同日午前11時55分、Eは、Cに対し、LINEのトーク機能を用いて(以下、EとCとの間のメッセージ送受信について同じ。)「被告人が3000万、1.5か月貸してとまた言っ 検1、同弁10)同日午前11時55分、Eは、Cに対し、LINEのトーク機能を用いて(以下、EとCとの間のメッセージ送受信について同じ。)「被告人が3000万、1.5か月貸してとまた言ってきたけど、半分のる???」「債権の保全はできそう。」とのメッセージを送信した。これに対し、Cは、同日午後零時21分、Eに対し、「了解です」とのスタンプを送信した。これに対し、Eは、同日午後零時33分、Cに対し、「少し手間だけど、会社の印鑑証明を取っておいて。実印も、明日一緒に持って来て。債権保全の登記を法務局にするのに必要。被告人の会社の債権約3000万円を担保に取る。」とのメッセージを送信した。 ⑼ 被告人への必要書類の指示(甲14、29)同日午後零時39分、Eは、被告人に対し、「会社の資格証明書も、取っておいて下さい。」とのメッセージを送信した。 ⑽ 3000万円の交付(甲5、6、7、14、29)被告人は、同日午後2時37分、Eから、「Mの近くで待ってます。」との- 8 -メッセージを受信し、M珈琲店N店の近くでEと待ち合わせ、本件繋ぎ融資の貸付金としてEから現金3000万円を受け取り、同日午後3時8分、O銀行本店において、現金3000万円をA株式会社名義の同銀行普通預金口座に入金した。 ⑾ 内容虚偽の一覧表等の送信と同書類についての説明(甲8、9、H)何者かが、同日午後6時20分頃、送信元を「A(株)被告人」とし、G法律事務所に対し「D株式会社さま請求内容の件」と題するFAX送信表とその添付資料として、実在する同年4月30日付けK株式会社作成に係るD株式会社宛ての会社別統括請求一覧表(D株式会社債権の請求額の内訳等が記載されたもの。)のうち、K株式会社の社名・社印部分をA株式会社の社 資料として、実在する同年4月30日付けK株式会社作成に係るD株式会社宛ての会社別統括請求一覧表(D株式会社債権の請求額の内訳等が記載されたもの。)のうち、K株式会社の社名・社印部分をA株式会社の社名・社印等に差し替えたもの(以下、これらを併せて「本件虚偽一覧表等」という。)をファックス送信した。 同年5月16日朝、Hは、被告人に架電し、D株式会社債権の支払日等を尋ね、その回答内容を受信した本件虚偽一覧表等のうちの会社別統括請求一覧表に手書きで記載した。 ⑿ 債権譲渡登記(甲21、H)同年6月6日、原債権者をA株式会社、債務者をD株式会社、債権の種類を売掛債権、発生年月日の始期を同年4月30日、終期を平成31年1月31日とする債権(集合債権)について、平成30年5月15日付け売買を原因としてA株式会社から株式会社Bに譲渡する旨の債権譲渡登記がされた。同登記手続までの間に、A株式会社側からG法律事務所に対して、譲渡人欄にA株式会社の代表取締役の記名押印がされた白紙委任状が渡されており、これを利用して同手続がされた。 ⒀ 本件繋ぎ融資の返済(甲14、控訴審検1、同弁10)被告人は、Cに対し、同年7月2日、本件繋ぎ融資の元利金を支払った。これに先立ち、EとCは、同元利金につき利息を折半する旨のLINEトークの- 9 -やりとりをしていた。 ⒁ 平成30年7月の融資(甲6、32、I、J)被告人は、同月10日、E及びCの関与により3000万円の融資を受けた。 Jは、同日頃、株式会社Bを貸主、A株式会社を借主、貸金額を3000万円とする同日付の金銭消費貸借契約書の連帯保証人欄に、Iの住所と氏名を手書きで記載した。Iはこのことを知らなかった。 2 H供述の検討Hは、前一審において、同 式会社を借主、貸金額を3000万円とする同日付の金銭消費貸借契約書の連帯保証人欄に、Iの住所と氏名を手書きで記載した。Iはこのことを知らなかった。 2 H供述の検討Hは、前一審において、同年5月15日午後2時頃、被告人がG法律事務所を来訪し、債権譲渡登記に係る委任状の用紙の譲渡人欄にA株式会社の代表取締役の記名押印をしたと供述する。しかし、被告人が同日午後2時頃にG法律事務所を来訪したことをうかがわせる他の裏付け証拠は存在しない。また、被告人は、同日午後零時39分に債権譲渡登記に使用されると思われる会社の資格証明書の準備を指示されたばかりであり、実際にもその債権譲渡登記は同年6月6日まで行われていないのに、同年5月15日午後2時頃に委任状の作成だけが行われることになった理由が定かでない。その上、同委任状には、登記に用いられた際には同月10日の日付が記載されていたところ、仮に同月15日に委任状が作成されたのであれば同日の日付を記載することに特段問題があるとは考えられず、不自然である。加えて、Hは、同日昼過ぎにEから連絡があり、その連絡どおり被告人がG法律事務所を訪れた旨供述するところ、当審においてEは、同日午後1時半から午後2時頃の間に株式会社B事務所に行って被告人を待っており、午後2時を過ぎても来ないので被告人に電話をした旨供述しており、被告人にG法律事務所への来訪を誰が指示したのかについて両者の供述に整合性がない。さらに言えば、前一審におけるE及びCの証言は、客観的事実と明らかに異なるだけでなく、真実と異なる筋書きに基づいて口裏を合わせて行われた疑いがあるところ、HはEに約20年間雇用されてきたという関係性がある。前一審で審判の対象とされていた主位的訴因では、株式会社B事務所における本件虚偽請求書等の呈示- 10 -行 わせて行われた疑いがあるところ、HはEに約20年間雇用されてきたという関係性がある。前一審で審判の対象とされていた主位的訴因では、株式会社B事務所における本件虚偽請求書等の呈示- 10 -行為が欺罔行為とされており、それ以前に被告人が委任状を作成したという事実は、欺罔行為時における被告人の認識を強く裏付ける事実であったことを考慮すると、これについても真実と異なる筋書きに基づいて作出されたのではないかとの疑念を否定しきれない。以上からすると、H供述は、被告人が債権譲渡登記にかかる委任状に記名押印した際、委任状の日付、譲受人、債権譲渡の原因は記載されていなかった旨述べるなど、必ずしも被告人に不利な供述をしていない部分はあるものの、被告人が同日午後2時頃にG法律事務所を来訪したとする部分を直ちに信用することはできない。 3 E供述の検討⑴ Eは、当審において、以下のとおり供述する。 ア本件繋ぎ融資の依頼があった後、P駅付近に止めた車の中で被告人と会い、本件繋ぎ融資に担保となる債権が必要である旨の話をした。その日時について、前一審では同月11日であると供述したが、真実は、同月12日又は同月14日の午前中である。また、前一審では、Cから担保を求められたので、被告人に担保が必要であると伝えたと供述したが、真実は、Cに確認することなく、自分の考えとして伝えた。 イ Cに本件繋ぎ融資のことを初めて伝えたのは、前一審では本件繋ぎ融資の依頼を受けた直後(少なくとも被告人に担保を求めた同月11日までの間)と述べたが、真実は、同月15日のお昼前の「半分乗る?」というLINEメッセージにおいてである。 ウ被告人に交付した3000万円について、前一審では、株式会社B事務所に被告人が来て3000万円を渡したと述べたが、真実は、M珈琲店N店で待ち 乗る?」というLINEメッセージにおいてである。 ウ被告人に交付した3000万円について、前一審では、株式会社B事務所に被告人が来て3000万円を渡したと述べたが、真実は、M珈琲店N店で待ち合わせ、同所で被告人に渡した。また、被告人に交付した3000万円の出捐者につき、前一審では全額株式会社Bと供述していたが、真実は、自分とC個人がそれぞれ1500万円を出捐したものである。自分の出捐部分の原資は、①業務上横領により平成30年5月7日に得た1000万円、②- 11 -同年3月にCと折半で被告人に貸して返済された300万円の半分の150万円、③その他かき集めた350万円であり、自宅に保管されていた。なお、①は同年5月8日にCと折半することになっていたが、Eに予定が入り渡しそびれていたものである。同月15日の1時半から2時頃の間に自宅に保管していた現金1500万円を株式会社B事務所に持参し、そこでCから受け取った1500万円と合わせて本件繋ぎ融資の融資金とした。その際、Cに本件虚偽請求書等の画像データを見せたところ、Cは、「ああ、そう。」と言っており納得した様子だった。 エ前一審で真実と異なる供述をした理由について、3000万円の出捐者に関する部分は原資が犯罪行為により得た資金であることを隠す必要があったこと、依頼者であるA株式会社に対して金を貸すことが弁護士法上問題があると考えたことから故意に虚偽の供述をしたが、現在はこの犯罪行為が既に発覚しているし、弁護士も辞めているので、隠す必要がなく、真実を話すこととした。その余は勘違いや記憶違いである。 ⑵ 信用性の検討ア前記供述のうち、EとC個人がそれぞれ1500万円ずつを出捐する形にしたという部分については、両者のLINEのやり取りの内容と整合しているから、信用するこ 違いである。 ⑵ 信用性の検討ア前記供述のうち、EとC個人がそれぞれ1500万円ずつを出捐する形にしたという部分については、両者のLINEのやり取りの内容と整合しているから、信用することができる。しかし、現実にC個人が出捐したこと、すなわちEがCから1500万円の交付を受けたことについては、Eの出捐原資のうちの500万円についてはCの持ち分であるはずなのに、これとは別に1500万円をCから受領したという点はいささか不自然である上、EとCのLINEトーク履歴からすると、当日に会う約束をしたり実際会ったような形跡はなく、むしろ、同日のCと会ったとされる時間の前に「会社の印鑑証明を取っておいて。実印も、明日一緒に持って来て。」などと翌日に会って本件繋ぎ融資に関する書類を授受する旨のやりとりをしていることや、実際に翌日会ったと見受けられるやりとりをしていることからすると、本件- 12 -繋ぎ融資当日にEとCが直接会ったことそのものに疑問が生じるのであって、直ちに信用することができない。 イ前記供述のその余の部分についてみると、被告人に担保を求めることとした理由・経緯、Cに本件繋ぎ融資の依頼があったことを伝えた経緯、Cに対して本件虚偽請求書等が呈示された方法、株式会社B事務所で被告人に現金3000万円が交付されたとする場面における関係者のやり取りなどの相違について、勘違いや記憶違いだけで生じるものとは考えられない。それだけでなく、Eが記憶違い等を理由として否定する前一審におけるE供述の大枠は、前一審でのCの供述と符合しているところ、偶然同じような記憶違い等をしたとは考えにくく、真実と異なる筋書きに基づいて口裏を合わせて行われた疑いがある。このような経過がある中で、当審においても供述の変遷について合理的な説明をせず、この期に 偶然同じような記憶違い等をしたとは考えにくく、真実と異なる筋書きに基づいて口裏を合わせて行われた疑いがある。このような経過がある中で、当審においても供述の変遷について合理的な説明をせず、この期に及んでも不自然な供述を続けているのであるから、これを信用することはできない。 4 欺罔行為について⑴ 前記第2の3記載のとおり、検察官は、被告人が本件虚偽請求書等を作成できる機会を有していること、被告人が本件虚偽請求書等をファックス送信したと推認できることからすれば、本件虚偽請求書等を虚偽と認識しながら送信したことが推認されると主張する。検察官の主張に係る間接事実のうち、被告人が本件虚偽請求書等を作成できる機会を有していたということについては、これが被告人による欺罔行為の存在及びその前提となる本件虚偽請求書等に関する虚偽性の認識の存在を推認させる積極的な間接事実になるわけではない。 そこで、被告人が本件虚偽請求書等をファックス送信したかどうかが問題となる。これについて、検察官は、①本件虚偽請求書等がG法律事務所にファックス送信されてから被告人がEに本件繋ぎ融資に関する資料をファックス送信した旨のメッセージを送信するまで約11分間しかないこと、②ファックス送信に係る文書の文面において被告人以外の者がファックス送信した形跡がな- 13 -いこと、③本件虚偽請求書等がファックス送信されてから同月15日に掛けて、被告人とEとの間で、Eが被告人に対し、A株式会社がD株式会社との間で交わしたはずの契約書の準備を求めたり、A株式会社が株式会社Bに対して優先弁済できる根拠を説明できるよう準備を求めていたこと、④これに対し、A株式会社とD株式会社との間の契約関係や売掛債権が存在することを前提とするメッセージを被告人がやり取りしていることからすると、被 先弁済できる根拠を説明できるよう準備を求めていたこと、④これに対し、A株式会社とD株式会社との間の契約関係や売掛債権が存在することを前提とするメッセージを被告人がやり取りしていることからすると、被告人が、同月14日までのいずれかの時期に、Eに対し、A株式会社がD株式会社に対して売掛債権を有しているとの情報を与え、同債権の存在を裏付けるかのような本件虚偽請求書等をG法律事務所に送信したことが推認されると主張する。 ⑵ しかし、①については、約11分間という時間の間隔は、何者かが本件虚偽請求書等をファックス送信し、被告人がこの何者かからファックス送信済みである旨の連絡を受けた上でEにメッセージ送信したと考えても矛盾はないものであるから、同事実をもって被告人の送信行為を推認することには限界があると言わざるを得ない。②については、関係各証拠から被告人以外の者がファックス送信した形跡を認めることはできないが、同時に被告人が送信した確たる形跡もないのであって、同事情は他の事実による推認を妨げないという程度のものでしかない。本件虚偽請求書等のファックス送信表のメモ欄には「先週ご相談いたしました、売掛金の回収における期ずれによる繋ぎ融資実行のお願いの件ですが」などとの記載があるから、相談した主体である被告人がこのメモを作成したように思えなくもないが、書類のファックス送信を指示するような場合に、送付状の記載内容を含めて指示することもあり得るから、その推認力にも限界があると言わざるを得ない。③、④については、被告人がファックス送信したことあるいは本件虚偽請求書等の虚偽性を認識していたことと整合する事後的な事情が存在するという趣旨であると考えられるが、後に述べるところからすれば、被告人がファックス送信をしておらず、本件虚偽請求書等の虚偽性を認識していな 等の虚偽性を認識していたことと整合する事後的な事情が存在するという趣旨であると考えられるが、後に述べるところからすれば、被告人がファックス送信をしておらず、本件虚偽請求書等の虚偽性を認識していないとしても、合理的に説明することが可能であるか- 14 -ら、その推認力にはやはり限界があると言わざるを得ない。 ⑶ K株式会社はA株式会社の代表取締役である被告人がIを誘うなどして立ち上げた会社であり、IがA株式会社の取締役であり被告人がK株式会社の執行役員であって、JがA株式会社とK株式会社の会計をともに担当し、被告人やJがK株式会社の請求書等や預金通帳に容易にアクセスできたなど、両社は、人的にも実際の業務の上でも密接に重なり合っており、K株式会社の資金がA株式会社に流用されることが度々行われ、Iが被告人やJに注意しても止まらず、本件の直近でも、2度にわたり、D株式会社からの入金の直後に1000万円を超える資金流用が行われていたことなどからすれば、被告人としては、K株式会社とA株式会社は同じグループの会社であり、両社間での財産の分別を厳密に捉えていなかった可能性は否定できない。 また、本件虚偽請求書等は、本件繋ぎ融資のエビデンスとしてファックス送信されており、A株式会社に対する融資が行われた場合の融資金の返済可能性を示す資料として送信されたものであることは明らかであるが、その前後の被告人とEとのやりとりにおいても、D株式会社債権の法的な帰属主体に関する話は出ていない。Eから融資に応じる前提でCに共同融資の持ち掛けがなされた際に、初めて債権譲渡登記に関する話がCや被告人との間でなされていることなどからすると、本件虚偽請求書等のファックス送信の段階で、これに対する法的担保を直ちに講じる前提があったというには疑問が残る。したがって、こ 譲渡登記に関する話がCや被告人との間でなされていることなどからすると、本件虚偽請求書等のファックス送信の段階で、これに対する法的担保を直ちに講じる前提があったというには疑問が残る。したがって、この段階において、被告人がD株式会社債権の法的な帰属主体をどこまで厳密に考えていたのかについても疑問が残る。 事後的な事情の中には、前記認定事実⑾のとおり、本件虚偽一覧表等のファックス送信後、被告人が、Hに対してD株式会社債権に関する説明を行っているという事情がある。しかし、Hが本件虚偽一覧表等に書き込んだ内容からすれば、D株式会社債権の発生原因となる業務の種類、期間、支払期日に過ぎないのであって、送信された本件虚偽一覧表等が手元になくても説明可能と思わ- 15 -れる内容であり、かつ、債権の帰属主体が問題となるような内容ではない。 弁護人は、従前からK株式会社の財産をA株式会社のために利用していた被告人が、K株式会社のD株式会社に対する売掛債権をA株式会社の融資のために利用しようと考え、その資料の送付をJに指示したところ、Iの反発を危惧したJが、Iを巻き込まないため、自身の判断で本件虚偽請求書等を作成し、送信した可能性を指摘する。以上で述べたことからすると、Jが自身の判断で本件虚偽請求書等を作成し、送信した合理的疑いが否定できないというべきである。 なお、これに対し、Jは、本件繋ぎ融資については関与していない旨供述しており、また、Iは、Jが単独・独断でD株式会社債権を担保に金を借りようとする可能性はない旨供述している。この点、Iの前記供述はIのJに対する評価を述べるものにすぎない上、前記弁護人の指摘は、Jが被告人の指示を受けた上で、同指示を遂行するに際してIを巻き込まないよう独自に配慮したというものであるから、前記I供述とは必ず はIのJに対する評価を述べるものにすぎない上、前記弁護人の指摘は、Jが被告人の指示を受けた上で、同指示を遂行するに際してIを巻き込まないよう独自に配慮したというものであるから、前記I供述とは必ずしも矛盾しない。また、Jの前記供述は、本件繋ぎ融資への一切の関与を否定するものであるが、特に具体的な事実が指摘されているわけでもないことからすれば、前記検討に基づく合理的疑いを払拭するまでの信用性は認め難い。 ⑷ 以上からすれば、被告人が本件虚偽請求書等を虚偽と認識しながら送信した、あるいは、送信させたということを認めることはできない。 5 結論よって、その余の争点について判断するまでもなく、本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから、刑訴法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。 (検察官中林睦夫、私選弁護人金岡繁裕[主任]、同吉川哲治各出席)(求刑懲役2年6月)令和5年10月25日- 16 -名古屋地方裁判所刑事第6部裁判長裁判官平城文啓 裁判官村瀬恵 裁判官藤田陽平

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