平成30(ワ)29341 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和4年4月7日 東京地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-91373.txt

判決文本文29,160 文字)

- 1 - 令和4年4月7日判決言渡し同日原本領収裁判所書記官平成30年(ワ)第29341号損害賠償請求事件口頭弁論終結の日令和3年12月23日判決 主文 1 被告は、原告に対し、106万円及びこれに対する平成30年10月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、これを3分し、その2を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求被告は、原告に対し、330万円及びこれに対する平成30年10月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は、被告と労働契約(以下「本件契約」という。)を締結し、D大学(以下「本件大学」という。)の心理学部教授として就労していた原告が、①本件契約において原告が週4コマ以上の授業を担当する旨の条項があるにもか かわらず、被告が原告に授業を担当させなかったことが債務不履行に該当すると主張し、被告に対し、慰謝料及び弁護士費用合計220万円並びにこれに対する訴状送達日の翌日である平成30年10月6日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、②原告が、被告のハラスメント防止・対策専門部会 (以下「本件部会」という。)に対し、被告が原告に授業を担当させなかった- 2 - こと、教授会において原告の発言を禁止するなど不当な取扱いをしたこと及び本件大学のC総 ・対策専門部会 (以下「本件部会」という。)に対し、被告が原告に授業を担当させなかった- 2 - こと、教授会において原告の発言を禁止するなど不当な取扱いをしたこと及び本件大学のC総長らのハラスメントによって多くの教職員が退職したことについて相談したにもかかわらず、長期間にわたり放置された後に審議不能であるとして何ら改善策を講じなかったことが、本件契約上の安全配慮義務に違反し債務不履行に該当すると主張し、慰謝料及び弁護士費用の合計110万円並び にこれに対する前同様の遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実以下の事実は、当事者間に争いがないか、括弧内において掲記する証拠(枝番があるものは枝番を含む。以下同じ。)又は弁論の全趣旨によって容易に認めることができる。 ⑴ 当事者等ア被告被告は、教育基本法及び学校教育法に従い学校教育を行うことを目的とする学校法人であり、D大学(本件大学)及びD大学大学院等を設置及び運営している。 (争いがない。)イ原告原告は、被告との間で労働契約を締結し、本件大学の心理学部教授として就労してきた者である。なお、原告は、平成30年3月31日、被告を定年退職した。 (争いがない。)⑵ 原告と被告との間における従前の紛争の経緯ア原告は、平成16年2月26日、被告との間で、期間を同年4月1日から平成17年3月31日までの1年間とする労働契約を締結し、これ以降、期間を1年間として労働契約を更新し続けた。 (争いがない。)- 3 - イ被告は、平成23年10月6日、原告に対し、原告との間の労働契約が平成24年3月31日の期間満了をもって終了する旨を通知した。原告は、当該雇止めが無効であると主張し、原告が被告に 3 - イ被告は、平成23年10月6日、原告に対し、原告との間の労働契約が平成24年3月31日の期間満了をもって終了する旨を通知した。原告は、当該雇止めが無効であると主張し、原告が被告に対して労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び未払給与等の支払を求める訴えを提起した(東京地方裁判所平成24年(ワ)第1761号。以下「第一次訴訟」 という。)。 被告は、第一次訴訟の係属中である同年3月16日、原告による本件大学の学生に対するハラスメント行為が被告における懲戒解雇事由に該当するとして、原告に対し懲戒解雇の意思表示をした。原告は、これを踏まえ、第一次訴訟において、当該懲戒解雇が無効であることを前提に、労働契約 上の権利を有する地位にあることの確認等の請求を追加する訴えの追加的変更をした。 東京地方裁判所は、平成26年2月18日、地位確認請求を認容し、金銭請求の一部を認容する判決を言い渡した。被告が当該判決に対し控訴したところ(東京高等裁判所平成26年(ネ)第1561号)、同裁判所は、 原判決のうち金銭請求部分を変更したものの、地位確認請求部分については原判決を維持し、同判決は、平成27年1月29日に確定した。これを受けて、原告は、同年2月3日から本件大学の心理学部専任教授として復職した。 (争いがない。) ウ原告は、平成27年8月19日、被告に対し、原告が本件大学の心理学部専任教授として1コマ90分の授業を週4コマ行う雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求める訴えを提起した(東京地方裁判所平成27年(ワ)第19831号。以下「第二次訴訟」という。)。 第二次訴訟は、平成28年3月29日、訴訟上の和解(以下「本件和解」 といい、その和解条項を「本件和解条項」と、 京地方裁判所平成27年(ワ)第19831号。以下「第二次訴訟」という。)。 第二次訴訟は、平成28年3月29日、訴訟上の和解(以下「本件和解」 といい、その和解条項を「本件和解条項」と、本件和解条項8項記載の- 4 - ホームページを「原告ホームページ」という。)により終了した。本件和解の内容は、別紙1「第4回弁論準備手続調書(和解)」の「第3 和解条項」のとおりである。 なお、本件和解条項8項の「第2項別紙1の事件」は第一次訴訟を、「第11項の事件」は当時原告が第二次訴訟とは別途被告に対して提起し ていた訴訟(東京地方裁判所平成27年(ワ)第32078号)を、「本件訴訟」は第二次訴訟をそれぞれ指す。 (甲60、乙1)⑶ 本件契約の内容原告及び被告は、平成28年4月20日、本件和解条項5項を踏まえ、労 働契約(本件契約)を締結した。本件契約の内容は、別紙2「契約書」のとおりである(以下、本件契約の契約条項を「本件契約条項」という。)。 (甲1)⑷ 原告ホームページにおける掲載行為原告は、平成28年5月17日頃、原告ホームページに、「D大学事件の その後(和解後の状況のご報告)」との標題の下、第二次訴訟に至る経緯の概要や、第二次訴訟は原告サイトの内容を取り下げるのと引き換えに被告が原告の要求を一定程度認めるという条件で和解が成立した旨などの記載がある自らの意見陳述書(以下「本件意見陳述書」という。)を掲載した(以下「本件掲載行為」という。)。 (乙2)⑸ 授業の不担当被告は、平成28年度秋学期以降の授業を原告に担当させなかった。 (争いがない。)⑹ 本件部会への申告及び本件部会の対応等 ア被告は、本件大学の専任教員及び事務局職員等から組織されるハラス は、平成28年度秋学期以降の授業を原告に担当させなかった。 (争いがない。)⑹ 本件部会への申告及び本件部会の対応等 ア被告は、本件大学の専任教員及び事務局職員等から組織されるハラスメ- 5 - ント防止・対策専門部会(本件部会)を本件大学全学総務委員会に設置している。 本件部会については、「D大学全学総務委員会に置くハラスメント防止・対策専門部会規程」(以下「本件部会規程」という。)が、その必要事項を定めており、本件部会は、ハラスメントの防止及び排除のための措 置、対策等のほか、ハラスメントの苦情相談の受入れ及び対応並びにその事実確認に関する事項等を審議、実施し(5条)、本件部会の議事結果は、全学総務委員会へ報告するものとされ(6条7項)、本件部会が必要と認めたときは、部会員以外の者を出席させ、意見又は説明を聴くことができるとされている(7条)。 (甲62、乙9)イ原告は、平成28年11月24日、本件部会に対し、次の各事項(以下「本件申告事項」と総称する。)が被告の原告に対するパワーハラスメントに該当するとのメールを送信した(以下「原告相談メール①」という。)。 被告が、原告に対し、本件契約に反して平成28年度秋学期の授業を全く担当させないこと被告は、平成27年2月3日以降、原告に対し、「インターネット学内情報からの遮断、研究室の電話がどこへも通じない、他の教職員との会話(挨拶)を妨害される、研究室の前の名札の不設置、身分証・名刺 の不交付、教授会及び全体ミーティングでの発言禁止、発言すれば不規則発言とみなし懲戒処分にするとのG事務局長による通告、教授会へ出席しても議事録に出席教員としての名前を掲載されない、トイレに行く際にも研究室を出る都度の報告義務を課される、 言禁止、発言すれば不規則発言とみなし懲戒処分にするとのG事務局長による通告、教授会へ出席しても議事録に出席教員としての名前を掲載されない、トイレに行く際にも研究室を出る都度の報告義務を課される、研究室のカギを自己管理させず朝夕総務課での受け渡しを求められる、(裁量労働制を取って いるはずの)教員の中では唯一人朝9時夕方6時に総務課でタイムカー- 6 - ドの打刻を求められる、H心理学部長・I心理学研究科長・J臨床心理相談室長の連名による原告を準教授に降格すべしとの書類の提出、H心理学部長及びI心理学研究科長による協力教員呼出しという弾圧(協力教職員は遠隔地への異動を恐れるに至った)、給与5分の2にカット、賞与なし、研究費なし」とのパワーハラスメントを行ったこと 本件大学の前身であるE専門学校時代から、C総長らによるパワーハラスメント及びセクシュアルハラスメントにより多くの教職員が被告を退職していること(甲2、乙36の1)ウ本件部会は、平成28年12月5日、被告のG法人事務局長(平成29 年2月以降は法人事務局長補佐、令和2年11月24日以降は事務局長。 以下、当時の職位に従い「G局長」又は「G補佐」といい、時期を問わずに呼称するときは「G補佐」という。)に対し、原告相談メール①を転送し、本件部会のK部会長は、同月初旬頃、G局長に対し、原告相談メール①について、「裁判中の案件でもあるため、部会での対応を保留したい」 などと申し入れ、G局長はこれを了承した。 (乙33、44)エ原告は、平成29年3月21日、本件部会に対し、原告相談メール①と同内容のメールを再度送信した(以下「原告相談メール②」という。)。 (甲2、乙36の2) オ K部会長は、平成29年4月頃、G補佐に対し、原告 月21日、本件部会に対し、原告相談メール①と同内容のメールを再度送信した(以下「原告相談メール②」という。)。 (甲2、乙36の2) オ K部会長は、平成29年4月頃、G補佐に対し、原告相談メール②について、部会として対応を保留することを申し入れた。 (弁論の全趣旨)カ G補佐は、平成29年6月中旬頃、K部会長に対し、本件申告事項について、本件部会で審議するよう指示した。 (弁論の全趣旨)- 7 - キ本件部会は、平成29年7月6日開催の定例会議(平成29年度第2回ハラスメント防止・対策専門部会)において、本件申告事項について、審議不能との結論に至った。 (甲62、乙33)ク被告(G補佐)は、平成30年3月16日、原告が所属する労働組合で あるL(以下「原告所属組合」という。)に対し、本件申告事項について、本件部会の検討の結果、審議不能との結論に至った旨を通知した。 (甲12) 3 原告の担当授業に関する債務不履行に基づく損害賠償請求における当事者の主張 ⑴ 原告の主張ア原告は授業を担当する権利を有すること大学教員にとって、教授が学生に対する講義を担当することは、単なる大学教員の義務にとどまらず、権利であると考えられている。すなわち、大学教員は、自身が担当する講義について学生を教授及び指導する特別の 権利を有する。 原告は、本件和解の内容を踏まえ、平成28年4月20日、被告との間で本件契約を締結した。本件契約では、原告の出勤日を週2日とし、授業時間は週4コマ(1コマ90分授業)を下らないものとし、カリキュラム編成上の都合により原告の授業担当時期を平成28年度秋学期からとする こととし、原告の勤務場所をFキャンパスとし、原告の勤務時間、授業時間割などの 90分授業)を下らないものとし、カリキュラム編成上の都合により原告の授業担当時期を平成28年度秋学期からとする こととし、原告の勤務場所をFキャンパスとし、原告の勤務時間、授業時間割などの職務分担その他の勤務条件については本件大学の規則及び被告の指示を守るべきことなどが定められている。以上のとおり、本件契約は、原告が本件大学において授業を担当することを前提とする内容となっており、原告が本件大学において授業を担当するにあたり取決めが必要な具体 的内容を定めるものであることに照らせば、被告は、原告に対し、平成2- 8 - 8年度秋学期から、週4コマ以上の授業を担当させる具体的な債務を負っている。 本件契約には、授業に関して原告が述べた意見を被告が採用するかどうかは被告の都合によると定められているものの、この規定は、授業を実施する具体的な曜日、時間帯、場所、担当科目等の具体的な内容に関して被 告に裁量があることを規定したものであって、原告が授業を担当することについて被告に拒絶する権利があることを定めたものではない。 以上のとおり、本件契約は、被告が原告に授業をさせることを債務として合意したものであるから、被告が原告に授業を担当させないことは、本件契約の債務不履行に該当する。 イ被告の主張について被告は、原告に授業を担当させなかった理由として、原告が本件和解条項に違反したことを主張する。 しかし、そもそも、原告が本件和解条項に違反した場合に、被告が原告に授業を担当させることを拒絶できるとの条項は存在しないから、原 告が本件和解条項に違反したからといって、被告が原告に授業を担当させることを拒絶してよいことにはならない。 また、本件和解条項8項は、①和解成立後直ちに、原告ホームページか ないから、原 告が本件和解条項に違反したからといって、被告が原告に授業を担当させることを拒絶してよいことにはならない。 また、本件和解条項8項は、①和解成立後直ちに、原告ホームページから、原告と被告との間の紛争に関する一切の記事等を削除すること、②上記①により原告ホームページから削除された記事等を再び掲載しな いことの2点を約束するものである。つまり、本件和解条項8項は、和解成立時点において原告ホームページに掲載されている記事等を削除し、削除した記事等を再び掲載しないことを約束するものであって、原告と被告との間の上記紛争に関する記事等の掲載を一律に禁ずるものではない。そして、原告は、和解成立後、原告ホームページに掲載されていた 上記紛争に関する一切の記事等を削除し、その後、削除した記事等を再- 9 - び掲載していないのであるから、本件和解条項8項に違反する行為を行っていない。 本件和解条項8項が、被告の主張するように、上記紛争に関する一切の記事等を掲載しないことを約束するというものであれば、それは原告に対して正当な表現活動や組合活動を制限するものであるから、原告が そのような条項を受け入れるはずがない。また、仮に、本件和解条項8項を被告の主張するとおりに解釈したとしても、原告は、C総長から提起された損害賠償請求訴訟に関する報告に必要な限度で原告ホームページに記事を掲載したのであって、原告に授業を担当させないことを正当化するほど違法性の高い行為と評価することはできない。 被告は、原告に授業を担当させなかった理由として、原告が本件大学の学生に対しハラスメントを行ったことを主張する。 しかし、原告が本件大学の学生に対しハラスメントを行った事実はない。そもそも、被告は、原告に対して平成2 当させなかった理由として、原告が本件大学の学生に対しハラスメントを行ったことを主張する。 しかし、原告が本件大学の学生に対しハラスメントを行った事実はない。そもそも、被告は、原告に対して平成24年3月31日をもって雇止めすることを通知した際も、原告によるハラスメント行為を理由とし て挙げておらず、原告を懲戒解雇する段階で、懲戒解雇を有効とするために、原告によるハラスメント行為を捏造したものである。被告が原告に授業を担当させない理由として挙げている、原告に対する「ハラスメントの告発」なるものは、以上の経緯に照らせば、全く信用性がないというべきである。実際、第一次訴訟において、原告が本件大学の学生に 対しハラスメント行為をした事実は認定されていない。 また、被告は、原告が本件和解成立後も被告やC総長に対する名誉毀損的及び批判的な言動を繰り返しており、授業においても同様の批判を繰り広げ、それに同調しない学生に対してハラスメントを行うおそれがあった旨を主張するが、原告は正当な組合活動の一環として被告やC総 長を批判するビラを配るなどしていたのであり、それをもって原告が授- 10 - 業中に被告やC総長の批判を繰り広げるというのは論理の飛躍がある。 被告は、原告に授業を担当させなかった理由としてを挙げるが、被告が原告に授業を担当させなかった真の動機は、C総長の原告に対する報復の意向ないしそれへの忖度である。 授業の担当は学部・学科で決めることが大学自治の原則であり、学校 教育法93条3項は「教授会は、前項に規定するもののほか、学長及び学部長その他の教授会が置かれる組織の長がつかさどる教育研究に関する事項について審議し」と規定している。被告においてもそのように運用されてきた。実際に、原告の授業担当も学 定するもののほか、学長及び学部長その他の教授会が置かれる組織の長がつかさどる教育研究に関する事項について審議し」と規定している。被告においてもそのように運用されてきた。実際に、原告の授業担当も学部・学科で決められていた。 ところが、秋学期の授業開始の前日になって理事長の決定として原告の 授業担当が取り消された。これは大学自治の原則に基づく被告の慣行に反している。このような異例な決定がなされたのは、C総長の原告への報復の意図ないしそれへの忖度の故である。 それは、本来被告の人事に介入してはいけない者の不当な意図に基づくものである。そのことは、被告の主張が成り立たないこと及び原告に 授業を担当させなかったことの違法性を根拠づける事実である。 ウ被告の不当労働行為及びパワーハラスメント原告に授業を担当させない行為は、原告に対する不利益取扱い及び支配介入の不当労働行為であるとともに、原告に対するパワーハラスメントに該当する。よって、被告の上記行為は、憲法28条及び労働組合法7条各 号から導かれる不当労働行為の禁止に違反するとともに、本件契約上の安全配慮義務から導かれるパワーハラスメント防止義務に違反するものであるから、この点においても原告に対する債務不履行に該当する。 エ原告の損害原告は、以上の被告の債務不履行により、心理学部教授としての尊厳を 傷つけられた。原告の精神的苦痛に対する慰謝料は、200万円を下らな- 11 - い。 また、上記の請求に必要な弁護士費用は20万円を下らず、同額も被告の債務不履行による原告の損害というべきである。 ⑵ 被告の主張ア原告は授業を担当する権利を有しないこと 一般論として、大学教員に就労請求権が認められる場合があることは否定しないが、大学 務不履行による原告の損害というべきである。 ⑵ 被告の主張ア原告は授業を担当する権利を有しないこと 一般論として、大学教員に就労請求権が認められる場合があることは否定しないが、大学教員の職務は、大きく分けて教育と研究の2つに区別することができるところ、教育的要素である授業担当については義務的側面が強いことから、原則として大学教員に授業を担当する権利が認められているわけではない。 原告は、第二次訴訟において授業をする権利の確認を求めていたにもかかわらず、本件和解条項及び本件契約条項において、原告と被告が原告の授業をする権利を確認する条項は存在しない。かえって、本件契約条項7条で「乙の勤務時間、授業時間割等職務分担その他の勤務条件については、本学の規則及び甲の指示を守らなければならない。」と規定され、9条で 「乙は担当授業に関し、甲に意見を述べることができる。ただし、意見を採用するかどうかは甲の都合による。」と規定されているから、被告は、原告に授業を担当させるかどうか、いかなる授業を担当させるかについて、広範な裁量を有するというべきである。また、本件契約条項8条は、原告が第二次訴訟において「本件大学の心理学部専任教授として、1コマ90 分の授業を週4コマを超えて行う雇用契約上の義務を負わない地位にあることの確認」を求めていた部分に対応したものであり、原告が担当すべき授業は最大でも週4コマを超えないという趣旨と解すべきである。 このように、本件契約の内容に、原告の就労請求権に関する特別の定めは存在せず、むしろ原告は担当授業について被告の指示を守らなければな らない旨の定めがある以上、原告に授業を担当する権利はないことは明ら- 12 - かである。 イ被告が原告に授業を担当させなかっ しろ原告は担当授業について被告の指示を守らなければな らない旨の定めがある以上、原告に授業を担当する権利はないことは明ら- 12 - かである。 イ被告が原告に授業を担当させなかったことに正当な理由があること原告には、本件和解条項に違反する行為があったほか、本件大学の学生に対するハラスメント行為もあったことから、被告が原告に授業を担当させなかったことには正当な理由があり、本件契約の債務不履行には該当し ない。 原告は、平成28年6月上旬頃、本件和解に違反して、原告ホームページに被告との紛争に関する記事を掲載し始めた。原告は、本件和解において、原告ホームページから被告との紛争に関する一切の記事等を削除し、掲載しないことを約束したにもかかわらず、前提事実⑷のとお り本件掲載行為をしており、被告が掲載の中止を要請しても、これを拒絶した。 本件和解条項8項は、その文言を素直に読めば、原告ホームページから削除された記事等に限定して再掲載しないことを約束したものではなく、これまで掲載されていたものか否かを問わず、原被告間の紛争に関 する一切の記事等を掲載しないことを約束したものと解釈すべきである。 原告が主張するように、同項が原告ホームページから削除された記事等に限り再び掲載しないことを定めるものであれば原被告間の紛争を解決するものではなく、被告がそのような合意に応じるはずがない。 原告は、本件大学の学生に対してハラスメントを行っており、実際、 4人の元大学院生及び教員らが原告によるハラスメントの被害を申告していたことから、そのような中で原告に本件大学の授業を担当させた場合、学生が再び原告によるハラスメントの危険にさらされるおそれがあった。 また、原告は、本件和解成立後も、被告やC総長に対 申告していたことから、そのような中で原告に本件大学の授業を担当させた場合、学生が再び原告によるハラスメントの危険にさらされるおそれがあった。 また、原告は、本件和解成立後も、被告やC総長に対する名誉毀損的 及び批判的な言動を繰り返し、本件大学の評価を貶めている上、原告- 13 - ホームページにC総長の刑事事件に係る判決文を掲載するなど、C総長に対する違法な攻撃も見受けられたことから、このまま原告に対して授業を担当させた場合、授業においても被告やC総長の名誉を毀損させる批判を繰り広げ、それに同調しない学生に対してハラスメントを行うおそれがあった。 被告は、本件大学の授業について、教員の専門性や能力等のほか、円滑な授業運営が可能かどうか、学生の生命・身体・名誉等に危害が加えられるおそれがないかといった学生の安全面についても考慮の上、どの教員にいかなる授業を担当させるかについて広範な裁量権を有している。 被告は、上記の状況を総合的に勘案し、本件大学における学生の安全を 最優先に検討した結果、原告に対して授業を担当させなかったのであって、被告の上記判断は裁量の範囲内のものというべきであり、原告に対する債務不履行とはならない。 他方、被告は、原告に対して就労を一切認めなかったわけではなく、原告に研究室を付与した上で自由に研究することが可能な環境を提供し ており、教授会等への出席も許可していたのであるから、原告に対する就労を拒絶していないばかりか研究に専念することのできる非常に恵まれた環境を配備していたのであって、原告に対する何らの権利侵害は存在しない。 ウ被告の不当労働行為及びパワーハラスメントについて 被告が原告に授業を担当させなかった理由は、上記イのとおりであり、原告による組合 って、原告に対する何らの権利侵害は存在しない。 ウ被告の不当労働行為及びパワーハラスメントについて 被告が原告に授業を担当させなかった理由は、上記イのとおりであり、原告による組合活動とは無関係であるから、不利益的取扱いにも、支配介入にも該当しない。 また、原告に授業を担当する権利が認められない以上、授業を担当させるか否かは被告の判断によるべきものであって、授業を担当させないこと が原告に対するパワーハラスメントに該当することはあり得ない。 - 14 - エ原告の損害について原告主張の損害の発生は否認し、その額は争う。 4 本件部会の対応に関する債務不履行に基づく損害賠償請求における当事者の主張⑴ 原告の主張 ア被告が負う義務の内容被告は、男女雇用機会均等法11条1項、労働契約法5条の規定を踏まえ、本件契約を根拠とするハラスメント防止義務に基づき、原告に対し、本件部会において、原告によるハラスメントの訴えに対して誠実に対応し、ハラスメントを防止するための必要な対策をとらなければならない法的義 務を負っている。本件に即していえば、被告は、原告からハラスメントに関する事実関係の調査及び適切な対処を依頼されたのであるから、適正な手続の下、原告のみならずC総長を含む関係者に対して聞取り調査を実施して事実関係を把握するとともに、適切な対処の内容として、更なる事情聴取の上、ハラスメントの有無の判断、相談者である原告への経過説明、 ハラスメント行為者への懲戒処分等の措置の検討、相談者である原告への職場環境回復、不利益回復等の措置、及び被告からの謝罪等の措置をすべき義務を負っているというべきである。 イ本件部会が審議不能との結論を出したことが債務不履行となること原告に授業 る原告への職場環境回復、不利益回復等の措置、及び被告からの謝罪等の措置をすべき義務を負っているというべきである。 イ本件部会が審議不能との結論を出したことが債務不履行となること原告に授業を担当させなかったことについて 被告が原告に授業を担当させなかったことは、上記⑴のとおり本件契約に違反するのみならず、原告に対するパワーハラスメントに該当する。 そして、本件部会は、パワーハラスメントに対する専門的知見をもってしかるべき組織であって、長年授業を担当してきた原告に対して授業の担当を外すことがハラスメントに該当するかどうかを判断することがで きるはずであるし、少なくとも原告の依頼を基に情報収集、事実確認及- 15 - び環境調整を行うことは可能なはずである。 原告の復職後に被告から受けたパワーハラスメントについて被告は、原告が本件部会に申告した復職後のパワーハラスメント被害(前提事実⑹イ)については、いずれも本件和解以前に問題とされたものであり、本件和解によって既に解決済みであると主張する。しかし、 原告が本件部会に依頼したのは、被告における職場環境の改善及び再発防止策の検討であって、教授会や全体ミーティングにおいて発言を禁止されたことや、本件大学内において原告に協力する教職員に対して心理学部長や心理学研究科長が弾圧を加えていることについては、改善も再発防止策の検討もされていない。その余の被害事実については、是正は されたが、そのことについて謝罪や説明はなく再発防止策は検討されていない。 C総長のハラスメントによって多くの教職員が退職したことについてC総長は、総長を退いた後も長年影響力を行使して教職員を退職させるなどし、その脅しのもとに教職員らを委縮させ、職場環境を悪化させ 長のハラスメントによって多くの教職員が退職したことについてC総長は、総長を退いた後も長年影響力を行使して教職員を退職させるなどし、その脅しのもとに教職員らを委縮させ、職場環境を悪化させ てきた。 被告は、原告が当該行為の被害者でない以上、原告に主張適格がないと主張する。しかし、本件部会の役割は、ハラスメントの告発を受けて被告における職場環境を改善することにあるのであって、司法上の権利義務の確定や権利の実現ではないから、原告がハラスメントの直接の対 象者でなくとも本件部会に対して事実の調査等を依頼することができるはずである。また、原告は、C総長からの恫喝によって雇止め及び懲戒解雇処分を受けた者であり、ハラスメントの直接の被害者に該当するというべきである。 ウ原告の依頼を長期間放置したことが債務不履行となること 原告は、平成28年11月23日、前提事実⑹イのとおり原告相談メー- 16 - ル①を送信し、事実関係の調査及び適切な対処を求めた上、平成29年3月21日に原告相談メール②で対応を再度依頼するとともに、同年5月26日及び同年6月6日に原告所属組合を通じて団体交渉で被告の対応を求めた。これに対し、本件部会は、「裁判中の案件でもあるため、G局長へ引き渡し、部会での対応は保留となった。」などと返答した上、同年6月 20日、本件申告事項について本件部会で審議する旨を決定したと連絡しながら、平成30年3月16日まで何ら連絡せず、同日、原告に対して審議不能との結論になった旨を連絡し、それ以上の措置を講じていない。 しかし、ここにいう「裁判中(の案件)」とは、C総長による原告に対する名誉毀損訴訟を指すものと思われるところ、C総長と原告との間で訴 訟が係属しているからといって被告(本件部会)が ない。 しかし、ここにいう「裁判中(の案件)」とは、C総長による原告に対する名誉毀損訴訟を指すものと思われるところ、C総長と原告との間で訴 訟が係属しているからといって被告(本件部会)が原告の依頼に対して審議不能となる理由はないし、審議不能の結論を出す際に参照された資料も、原告からの相談メールの他は裁判資料のみである。結局、被告は、原告がC総長と裁判をしている人物であるという考慮すべきでない事情を考慮し、原告による依頼を受けられないと回答したに等しい。そうすると、被告の 上記対応は、原告の依頼を約22か月もの間引き延ばした上、審議不能とするものであって、原告の依頼に対して適切かつ迅速に解決するよう努めておらず、相談や苦情に適切に対処するものとはいえないから、原告に対して負っているハラスメント防止義務に違反するものであり、原告に対する債務不履行を構成する。 また、被告の上記対応は、組合活動をする原告に対する差別的な対応であるというべきであるから、憲法28条及び本件契約から導かれる不当労働行為禁止義務に違反し、原告に対する債務不履行を構成する。 エ調査手続の適正を欠くことが債務不履行となること本件部会は、被告から独立して事実関係の調査及び適切な対処を適正に 実施し、その過程において、相談者に関するプライバシーを保護すべき立- 17 - 場にあるにもかかわらず、次のとおり、その手続は適正を欠くものであって、原告に対して負っているハラスメント防止義務に違反するものであり、原告に対する債務不履行を構成する。 前提事実⑹ウのとおり、本件部会は、本件申告事項において加害者とされるG局長に原告相談メール①を転送して、原告からハラスメントに 関する相談を受けた事実及び内容を報告し、原告のプライバシ 。 前提事実⑹ウのとおり、本件部会は、本件申告事項において加害者とされるG局長に原告相談メール①を転送して、原告からハラスメントに 関する相談を受けた事実及び内容を報告し、原告のプライバシーを侵害した。 前提事実⑹ウ、オのとおり、K部会長は、G補佐に対し、本件申告事項への対応保留を申し入れ、その了承を得ているところ、当該申入れは、上記のとおりC総長との訴訟が係属しているという本来考慮すべきでな い事情を理由に、本件部会の決定を経ることなくなされている。また、G補佐は、部会の上部機関ではなく、部会の対応保留を了承すべき関係にないばかりか、本件申告事項において加害者とされており、部会の手続に関与してはならない立場である。 前提事実⑹カのとおり、G補佐は、K部会長に対し、本件申告事項に ついて本件部会で審議するよう指示しているところ、部会の対応を部会でなく被告が決定し、のとおり手続に関与すべきでないG補佐がこれを指示している。 本件部会は、原告から直接事情を聴取せず、G補佐からの一方的聞き取りのみで、審議不能の結論に至っており、手続が不公平である。なお、 被告は、K部会長がG補佐に審議不能となったことを報告した旨を主張するが、本件部会規程6条7項によれば、部会の議事結果は全学総務委員会に報告すべきものであって、事務局長補佐にすべきものではない。 オ原告の損害原告は、以上の被告の債務不履行により、人格権を侵害され、本件部会 の手続の遅延、不誠実な対応、審議不能との理不尽な回答を受けたことに- 18 - よる焦燥、怒りなどの精神的苦痛を被った。原告の精神的苦痛に対する慰謝料は、100万円を下らない。 また、上記の請求に必要な弁護士費用は10万円を下らず、同額も被告の債務不履行によ 8 - よる焦燥、怒りなどの精神的苦痛を被った。原告の精神的苦痛に対する慰謝料は、100万円を下らない。 また、上記の請求に必要な弁護士費用は10万円を下らず、同額も被告の債務不履行による原告の損害というべきである。 ⑵ 被告の主張 ア被告が負う義務の内容本件部会の規程には、事実調査の方法や対処の方法について何ら定めが存在しないから、本件部会に事実調査や対処の方法についての裁量が認められることは明らかである。本件部会は、その裁量の範囲内において適当と考える方法により事実調査を行い対処すれば足り、相談者や被害申告者 に対して直接聞き取りを行わなければならないとか、審議不能との結論を下してはならない義務はない。そして、後記のとおり、原告が申告した件については、本件部会において事実調査を実施した上、平成29年7月6日の定例会議において審議の上「審議不能」との結論に至ったのであるから、本件部会の対応について何ら問題はないというべきである。 イ本件部会が審議不能の結論を出したことに何ら違法な点はないこと原告に授業を担当させなかったことについて本件申告事項のうち、原告に対して授業を担当させなかったとする点は、ハラスメントに関する問題ではなく、本件契約の解釈に係る問題であるから、本件部会が取り扱うべき問題ではない。 原告の復職後に被告から受けたパワーハラスメントについて本件申告事項のうち、被告からのパワーハラスメントを述べる点は、いずれも第二次訴訟における和解によって解決済みである。すなわち、本件和解条項の6項は、被告が原告に対して本件大学の教授と同等の就業環境を整備することを約束することを定めたものであるところ、被告 は、この条項に従い、平成28年4月頃、原告のパソコンの学 、本件和解条項の6項は、被告が原告に対して本件大学の教授と同等の就業環境を整備することを約束することを定めたものであるところ、被告 は、この条項に従い、平成28年4月頃、原告のパソコンの学内ネット- 19 - ワーク接続を認めるなど、原告の就業環境の整備を行っている。また、本件和解条項の13項は、原告及び被告間の清算条項を定めたものであるところ、この条項によれば、原告及び被告の間には本件和解条項及び本件契約に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認するものである。 以上の条項及び被告による就業環境の整備によって、原告が本件部会に申告した内容のうち、パワーハラスメントを内容とするものについては、既に解決済みというべきである。 C総長のハラスメント行為によって多くの職員が退職したことについて 本件申告事項のうち、C総長及びその取巻きによるハラスメントによって多くの被告職員が退職したことを指摘する点は、全く具体性を欠くものである上、何を問題としたいのか不明確であるから、本件部会において具体的な審理を行うことは不可能である。また、その申告内容から明らかなとおり、原告を直接の被害者とする申告ではないから、この 点について原告に主張適格はないというべきである。 以上のとおり、本件申告事項は、本件部会による解決になじまない問題であるか、申告時点で既に解決済みのものであるか、原告の単なる被害妄想に過ぎないものであるから、本件部会がこれを審議不能と結論付けたことは、何ら違法なものではなく、原告に対する債務不履行を構成 しない。 ウ本件部会は原告の依頼を放置していないこと本件部会は、平成28年11月23日に原告から事実関係の調査及び適切な対処を依頼された際、原告所属組合と被告 する債務不履行を構成 しない。 ウ本件部会は原告の依頼を放置していないこと本件部会は、平成28年11月23日に原告から事実関係の調査及び適切な対処を依頼された際、原告所属組合と被告との間で不当労働行為救済命令申立て事件が係属していたため、その対応を留保することとし、同年 12月初旬頃、G補佐に対しその旨申し入れ、G補佐もこれを了承してい- 20 - たところ、同事件の終結後である平成29年7月6日開催の定例会議において審議不能との結論を下した。本件部会は、その結論をG補佐に報告し、G補佐において原告又は原告所属組合から催促があればその結果について報告する予定であったところ、平成30年3月7日に原告所属組合から催促を受けたため、G補佐は、同月16日に原告に対して報告している。以 上のとおり、被告は、原告所属組合からの催促後すぐに検討結果を回答しているのであるから、被告の対応に何ら問題はないというべきである。 原告は、C総長と原告との間における名誉毀損訴訟は、本件部会による審議と何ら関係がないと主張するが、本件部会が対応を留保した理由として挙げた裁判は、上記のとおり不当労働行為救済申立て事件を指している のであり、上記名誉毀損訴訟を指しているわけではない。 このように、本件部会は原告の依頼を放置しておらず、不当労働行為救済申立事件が係属していたことなどを理由に一定期間判断を留保していたにすぎないのであって、原告の組合活動を理由に差別的に取り扱ったことはないから、不当労働行為にも該当しない。 エ本件部会の調査手続が適正を欠いていないことプライバシー侵害について原告相談メール①は、被告の総務課職員がK部会長の指示によりG局長に転送したものであるところ、K部会長は、原告相談メール 本件部会の調査手続が適正を欠いていないことプライバシー侵害について原告相談メール①は、被告の総務課職員がK部会長の指示によりG局長に転送したものであるところ、K部会長は、原告相談メール①の内容が大学を訴えている案件のため部会で扱う範疇を超えている上に、裁判 中の案件でもあるため、本件部会のみでは対応しきれない問題と判断し、やむを得ず、被告の法人事務局のトップであるG局長に報告することにしたものであって、単に原告から相談があったことを外部に漏洩したものではない。 また、本件部会規程第7条は、「部会が必要と認めたときは、部会員 以外の者を出席させ、意見又は説明を聴くことができる。」と定めてお- 21 - り、規定上も部会員以外の者が相談内容を知る場合があることを想定しているのであるから、相談内容を部会員以外に者に知らせることが直ちにプライバシー侵害になるものではない。 そもそも、原告は、原告相談メール①の内容をインターネット上で公開しており、これをプライバシーの対象として全く考えていなかった。 考慮すべきでない事項を考慮したとする点についてウのとおり、本件部会が対応を留保した理由として挙げた裁判は、原告所属組合と被告との間の不当労働行為救済申立て事件を指しており、原告とC総長との間の名誉毀損訴訟を指しているわけではない。 また、対応の留保を決定したのは本件部会(K部会長)であり、G補 佐は、原告との紛争全般に関する法人事務局の責任者としての立場から、上記本件部会の決定内容を了承、承知したにすぎず、本件部会の上部機関として振る舞ったものではない。なお、原告に授業を担当させない旨の決定をしたのは理事長であってG補佐ではないから、本件申告事項との関係において、G補佐は「加害者」に当た にすぎず、本件部会の上部機関として振る舞ったものではない。なお、原告に授業を担当させない旨の決定をしたのは理事長であってG補佐ではないから、本件申告事項との関係において、G補佐は「加害者」に当たらない。 部会の決定を欠いているとする点についてK部会長は、平成29年7月6日開催の本件部会の定例会議において、本件申告事項への対応を保留した経緯について事後報告し、部会員からそのことについて特に異議も述べられていないから、K部会長の判断は本件部会の判断と評価することができる。 また、本件部会は、不当労働行為救済申立事件の結論が出たことにより対応を保留する理由がなくなったため、G補佐からの指示を契機として、本件部会で審議することを決定したのであり、本件部会の対応をG補佐が決定したのではない。 手続が不公平であるとする点について 原告から直接事情を聴取しなかったのは、原告の依頼内容、主張内容- 22 - は原告相談メール①及び②を読めば一目瞭然であったため、本件部会として、原告から直接事情を聴取する必要まではないと判断しただけのことである。 また、本件部会規程6条7項は、通常の議事結果の報告について定めたものにすぎず、審議不能というイレギュラーな審議結果の報告につい てまで定めたものではない。全学総務委員会は、企画・広報、情報、危機管理等について審議する委員会であり、雇用契約に関する問題は法人事務局が扱うべきことは、被告の教職員にとって周知の事実である。したがって、K部会長が、審議不能との審議結果を法人事務局の責任者の一人であるG補佐に報告したのは合理的な判断というべきであり、本件 部会規程6条7項に違反するものではない。 オ原告の損害について原告主張の損害の発生は否認し、 を法人事務局の責任者の一人であるG補佐に報告したのは合理的な判断というべきであり、本件 部会規程6条7項に違反するものではない。 オ原告の損害について原告主張の損害の発生は否認し、その額は争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 前提事実及び争いのない事実に加え、掲記証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ⑴ C総長による訴訟提起C総長は、原告及び原告所属組合が、平成27年11月から平成28年5月にかけて、原告の運営するウェブサイト上にC総長の前科に関する記載を 含む記事等を掲載したことが名誉毀損ないしプライバシー侵害に当たるとして、原告及び原告所属組合に対し、慰謝料等約5500万円の連帯支払を求める訴訟(以下「別件名誉毀損訴訟」という。)を提起し、その訴状は、平成28年4月5日、原告に送達された。 (甲19、111) ⑵ 本件掲載行為- 23 - 原告は、平成28年5月17日頃、原告サイトに本件意見陳述書を掲載した(本件掲載行為)。本件意見陳述書は、原告が別件名誉毀損訴訟において書証として提出したものであり、別件名誉毀損訴訟の提起は到底受け入れ難いものであり、この4年余りにわたって続いた訴訟との全体の関連性を明らかにする旨、第一次訴訟の経過の概要、第二次訴訟に至る経緯の概要、第二 次訴訟は原告のホームページの内容を取り下げるのと引き換えに被告が原告の要求を一定程度認めるという条件で和解が成立した旨などの記載がある。 (乙2)⑶ 不当労働行為救済申立て原告所属組合は、平成28年10月6日、群馬県労働委員会に対し、被告 が原告の平成28年度秋学期の授業のコマ数を決定すること及び本件雇用契約を有期から無期とすることに係る団体交渉の要求を拒否 原告所属組合は、平成28年10月6日、群馬県労働委員会に対し、被告 が原告の平成28年度秋学期の授業のコマ数を決定すること及び本件雇用契約を有期から無期とすることに係る団体交渉の要求を拒否しているとして、不当労働行為救済申立て(以下「別件不当労働行為救済申立事件」という。)を行った。 群馬県労働委員会は、平成29年4月7日、上記団体交渉の拒否が不当労 働行為に当たるとして、救済命令を発した。 (乙27、甲84)⑷ 本件申告事項に係る被告と原告所属組合との事前交渉経過ア原告所属組合は、平成29年5月26日の団体交渉において、被告に対し、本件申告事項に対する対応について質問した。 これに対し、被告(法人事務局)は、同年6月2日付け回答書において、原告相談メール①ないし②の送信時点で別件不当労働行為救済申立事件が係属していたことから、本件部会の対応又は判断が同事件の審議等に何らかの影響を与える可能性が懸念されたため、対応を留保していた旨を回答した。 (甲6)- 24 - イ原告所属組合は、同月6日付けの書面において、被告(法人事務局)に対し、本件申告事項に対する対処方針を書面で明らかにし、審議結果を原告に回答することを求めた。 (甲7)ウ被告(法人事務局)は、原告所属組合に対し、同月14日付けの連絡書 において、上記イにつき対応を検討中であり近日中に連絡する旨を、同月20日付けの回答書において、本件申告事項について本件部会にて審議することとしたこと及び詳細は追って原告に連絡する旨を回答した。 (甲8、9)⑸ 定例会議議事録の記載 本件部会は、平成29年7月6日開催の定例会議において、本件申告事項について審議不能との結論に至った。 上記定例会議の議事録に を回答した。 (甲8、9)⑸ 定例会議議事録の記載 本件部会は、平成29年7月6日開催の定例会議において、本件申告事項について審議不能との結論に至った。 上記定例会議の議事録には、「2016年11月24日、本部会宛てにA先生より相談メールが届いたが、内容が大学を訴えている案件のため部会で扱う範疇を超えている上に、裁判中の案件でもあるため、G事務局長(当時) へ引き渡し、部会での対応は保留となった。しかしながらこのたび裁判が終了したため、G事務局長補佐より本部会にて協議するよう指示があり、本日の案件となった。」、「M教授より、既に弁護士とも話をしており、部会が関与する枠を超えているので、本部会で扱う案件ではなく、本部会ができることはない、との発言があった。」、「N教授より、本部会は教職員間のハ ラスメントは扱わないと理解していたが、その辺りの線引きはどうなっているのか質問があったが、現状は扱う範囲が曖昧になっている旨部会長より回答された。法的に論争している中、口を挟めることはなく、解雇など雇用管理に関することはハラスメントを超えており、法的訴訟にまでなっている問題を本部会は意見する立場にはない、との発言があった。」、「結果、本件 については、法律に委ねるべきで本部会で扱う範疇を超えているため、G事- 25 - 務局長補佐へお返しすることで、全員一致した。」旨の記載がある。 (乙33)⑹ 本件申告事項に係る被告と原告所属組合との事後交渉経過ア原告所属組合は、平成29年9月9日付けの書面において、被告(法人事務局)に対し、上記⑷ウの書面には詳細は追って連絡する旨の記載があ るのに何の連絡もないとして、早急に原告及び原告所属組合に対し書面で回答するよう求めた。 (甲10)イ原告 被告(法人事務局)に対し、上記⑷ウの書面には詳細は追って連絡する旨の記載があ るのに何の連絡もないとして、早急に原告及び原告所属組合に対し書面で回答するよう求めた。 (甲10)イ原告所属組合は、平成30年3月7日付けの書面において、被告(法人事務局)に対し、未だ何の回答もないことに強く抗議するとして、改めて 本件申告事項につき同月16日までに書面で回答することを求めた。 (甲11)ウ被告(法人事務局)は、同月16日付けの書面において、原告所属組合に対し、本件申告事項については、慎重に検討した結果、「審議不能」との結論となったと本件部会から報告を受けている旨を回答した。 (甲12)⑺ 別件名誉毀損訴訟の判決この間の平成29年12月15日、東京地方裁判所は、別件名誉毀損訴訟につき、C総長の請求を一部認容する判決を言い渡した。 (甲19) ⑻ 原告の定年退職原告は、平成30年3月31日、被告を定年退職した。 2 原告の担当授業に関する債務不履行に基づく損害賠償請求について⑴ 一般に、労働契約における労務の提供は労働者の義務であって、原則として、使用者はこれを受領する義務(労働者を就労させる義務)を負うもので はない。もっとも、大学の教員が講義等において学生に教授する行為は、労- 26 - 務提供義務の履行にとどまらず、自らの研究成果を発表し、学生との意見交換等を通じて学問研究を深化・発展させるものであって、当該教員の権利としての側面を有する。したがって、被告が原告に対し本件和解及び本件契約に基づき授業を担当させる義務を負うか否かを判断するに当たっては、以上のような大学教員が行う講義等の特質を考慮する必要がある。 そこで検討すると、証拠(甲60)によれば、原告は 及び本件契約に基づき授業を担当させる義務を負うか否かを判断するに当たっては、以上のような大学教員が行う講義等の特質を考慮する必要がある。 そこで検討すると、証拠(甲60)によれば、原告は、第二次訴訟において、第一次訴訟の控訴審判決言渡し後に被告から提案された新たな雇用契約書の案文には研究室において研究活動に専念することが原則であるかのような記載があり、被告は、本件大学の心理学部専任教授として復職した原告に対し、従前より多くの出勤を要求する一方で授業の予定を立てようとしない などと主張して、①原告が、本件大学の心理学部専任教授として、1コマ90分の授業を週4コマを超えて行う雇用契約上の義務を負わない地位にあることの確認及び②原告が、本件大学の心理学部専任教授として、1コマ90分の授業を週4コマ行う権利のあることの確認等を求めていたものと認められる。このように、原告が、まさに1コマ90分の授業を週4コマ行うこと を求めて提起した第二次訴訟において、原告及び被告は、本件和解をし、本件和解条項5項で、平成28年度雇用契約の内容を本件契約のとおりとすることを相互に確認したものであるところ、本件契約の8条1項には、「出勤日は週2日、授業時間は週4コマ(1コマ90分授業)をそれぞれ下らないものとする。」と具体的な担当授業数が明記され、同項ただし書には、担当 科目が割り振り等により変更となり、その担当コマ数が4コマに満たないこととなる場合には、内規により換算したコマ数の通信教育課程の科目を担当する旨、実質的に週4コマを確保する手だてが記載されている一方、実質的にも週4コマを下回ることが許される例外的な条件等について何らの言及もない。以上の経緯等を踏まえれば、当事者の合理的意思解釈として、原告と 被告は、本件和解及 だてが記載されている一方、実質的にも週4コマを下回ることが許される例外的な条件等について何らの言及もない。以上の経緯等を踏まえれば、当事者の合理的意思解釈として、原告と 被告は、本件和解及び本件契約において、被告が原告に対し少なくとも週4- 27 - コマ(1コマ90分授業)の授業を担当させることを合意したものであって、上記のような大学教員が行う講義等の特質を考え併せると、被告は原告に対し少なくとも週4コマ(1コマ90分授業)の授業を担当させる具体的義務を負うものと解すべきである。 被告は、本件契約条項7条及び9条には、原告の授業担当については被告 の都合により決定されるものであることが明確に定められており、原告に授業を担当させるか否か、いかなる授業を担当させるかについて被告は広範な裁量を有するというべきであるから、被告は原告に対し、授業を担当させる義務を負っていない旨を主張する。しかし、①本件契約条項7条は、原告が、勤務時間その他の勤務条件については本件大学の規則及び被告の指示を守ら なければならないとする一般的な規定であるところ、同8条がこれとは独立して担当授業数を具体的に定めていること、②本件契約条項9条は、「担当授業」に関し、原告が意見を述べることができるが、それを採用するかは被告の都合によるとするものであるところ、同8条と異なり「授業時間」との用語を用いていないことからすれば、同7条及び9条が、原告の担当授業数 についても被告の都合により決定されるものであることを定めたものは解することができず、被告の主張は採用することができない。 また、被告は、本件契約条項8条は、原告が第二次訴訟において「本件大学の心理学部専任教授として、1コマ90分の授業を週4コマを超えて行う雇用契約上の義務を負わな の主張は採用することができない。 また、被告は、本件契約条項8条は、原告が第二次訴訟において「本件大学の心理学部専任教授として、1コマ90分の授業を週4コマを超えて行う雇用契約上の義務を負わない地位にあることの確認」を求めていた部分に対 応したものであり、原告が担当すべき授業は最大でも週4コマを超えないという趣旨であるとも主張するが、同条の文言上、そのような解釈は困難である。 したがって、被告は、原告に対し、本件和解及び本件契約に基づき、少なくとも週4コマ(1コマ90分授業)の授業を担当させる義務を負っていた というべきである。 - 28 - ⑵ア被告は、原告による本件掲載行為は本件和解条項8項に違反するから、被告が原告に授業を担当させなかったことには正当な理由があると主張する。 しかし、労働契約である本件契約に基づく被告の使用者としての義務と、もっぱら現被告間の紛争を解決するために定められたものと認められる本 件和解条項8条に基づく原告の義務との間に対価的関連性があるとはいえず、このことは本件契約が本件和解に基づき合意されたものであったとしても左右されるものではない。そうすると、原告が本件和解条項8条に違反したとしても、被告が原告に授業を担当させる義務の履行を拒絶することを正当化するものではないから、被告の上記主張は失当である。 イまた、被告は、原告に本件大学の学生等に対するハラスメント行為があり、そのような中で原告に本件大学の授業を担当させた場合、学生が再び原告によるハラスメントの危険にさらされるおそれがあったから、原告に授業を担当させなかったことには正当な理由があると主張し、その具体例として、①元大学院生である匿名女性のセクハラ・アカハラ被害、②元大 学院生であるOのアカハ されるおそれがあったから、原告に授業を担当させなかったことには正当な理由があると主張し、その具体例として、①元大学院生である匿名女性のセクハラ・アカハラ被害、②元大 学院生であるOのアカハラ被害、③教員であるPのパワハラ被害、④元大学院生であるQのアカハラ被害、⑤元大学院生であるRのアカハラ被害を指摘する。 しかし、①及び②は、被告が第一次訴訟の第一審で原告の懲戒解雇事由として主張していた事実であり(甲21の1・4~5頁)、③から⑤まで の証拠であるとする当該人物らの陳述書(乙19~21)はいずれも平成26年に作成されたものであって、被告が主張する事実について、本件和解後に判明したものは見当たらない。そうすると、被告は、これらの事実を知りながら本件和解をしたものであるから、これらの事実を理由に本件和解に基づく義務の履行を拒むことは許されない。被告の上記主張も失当 である。 - 29 - ⑶ 以上によれば、被告が原告に授業を担当させなかったことは債務不履行に該当する。 ⑷ 次に、原告は、被告が原告に授業を担当させない行為が不当労働行為に該当するとともに、パワーハラスメントであって安全配慮義務違反の債務不履行に該当すると主張する。 しかし、被告が原告に授業を担当させなかったことが、原告が労働組合の組合員であることを理由としたものであることを認めるに足りる証拠はなく、当該行為が原告に対する不当労働行為に当たるとは認められない。 また、本来、被告はどの教員にいかなる授業を担当させるかについて裁量権を有している以上、原告に授業を担当させない行為が本件契約における個 別の合意に基づく債務の不履行に当たるからといって、直ちに当該行為が労働契約上の安全配慮義務に反するということはできず、当該行為が安 いる以上、原告に授業を担当させない行為が本件契約における個 別の合意に基づく債務の不履行に当たるからといって、直ちに当該行為が労働契約上の安全配慮義務に反するということはできず、当該行為が安全配慮義務違反に反することを基礎付ける具体的事実の主張立証はない。 したがって、上記原告の主張は採用できない。 ⑸ 原告の損害 ア上記のとおり、大学の教員が講義等において学生に教授する行為は、自らの研究成果を発表し、学生との意見交換等を通じて学問研究を深化・発展させる場となるものであって、原告が本件和解及び本件契約に基づき授業を担当する権利は原告の研究活動においても重要なものといえること、被告が裁判上の和解において原告に対し授業を担当させることを約してお り、その履行に対する原告の期待は大きかったと考えられること、原告は1年半にわたり授業を担当することができないまま定年退職に至ったこと等を考慮すると、被告の当該債務不履行による原告の精神的苦痛に対する慰謝料は、100万円をもって相当と認める。 なお、被告が原告の授業担当を拒んだことについては、原告が本件投稿 行為に及んだことが契機となっていることがうかがわれるところ、少なく- 30 - とも形式上、本件投稿行為が本件和解条項8項に抵触するものであることは否定できない(原告は、同項が本件和解当時原告サイトに掲載されていた記事及び資料について掲載を禁止したにとどまる旨を主張するが、同項の文理上、かかる解釈は無理がある。)。もっとも、本件投稿行為はC総長による別件名誉毀損訴訟の提起を受けてなされたものであるところ、本 件和解条項8項は本件和解により原告の本件大学における就労を巡る紛争を解決することを目的とするものであって、別件名誉毀損訴訟の提起によりかかる 損訴訟の提起を受けてなされたものであるところ、本 件和解条項8項は本件和解により原告の本件大学における就労を巡る紛争を解決することを目的とするものであって、別件名誉毀損訴訟の提起によりかかる紛争が再燃したことは否めないから、本件投稿行為の存在を慰謝料額の算定に当たり重要視することは相当でないというべきである。 イ弁護士費用は被告の債務不履行と相当因果関係のある損害と認めること はできない。 3 本件部会の対応に関する債務不履行に基づく損害賠償請求について⑴ 労働契約における使用者は、労働者に対し、労務の提供に関して良好な環境の維持確保に配慮すべき義務を負い、ハラスメントなど従業員の職場環境を侵害する事案が発生した場合、事実関係を調査し、事案に誠実かつ適正に 対処し、適切な時期に申告者に報告する義務を負っているというべきである。 ⑵ 原告は、本件部会が審議不能との結論を出したことが債務不履行であると主張する。 しかし、証拠(甲60、乙1)によれば、原告は、第二次訴訟において、平成27年2月3日の復職以降、研究室を出る都度チェックされること、他 の教職員との会話を妨害されること、教授会や全体ミーティングで発言を阻止されること、電話回線が不接続であること、パソコンが不設置であること、名札が不設置であること、身分証及び名刺を交付しないこと等が職場環境配慮義務違反である旨を主張しており、本件申告事項のうち復職後のパワーハラスメントをいう点のほとんどが上記主張に網羅されているところ、これを 受けて、本件和解条項6項において、被告が原告に対して本件大学の教授と- 31 - 同等の就業環境を整備する旨が合意されたものと認められる。そうすると、本件申告事項のうち復職後のパワーハラスメントをいう点について、本 において、被告が原告に対して本件大学の教授と- 31 - 同等の就業環境を整備する旨が合意されたものと認められる。そうすると、本件申告事項のうち復職後のパワーハラスメントをいう点について、本件部会が本件和解により解決済みであると考えたことに合理性があるといえる。 また、本件申告事項のうち原告に授業を担当させなかったことをいう点は、ハラスメントに関する問題ではないとまでいえるかはさておき、原告と被告 との間で、第一次訴訟、第二次訴訟と訴訟が繰り返されている状況下においては、第二次訴訟における本件和解の履行に関する問題についても、本件大学の専任教員及び事務局職員等から組織される本件部会(前提事実⑹ア)が取り扱う範疇を超えていると判断したことは無理からぬものがある。 そして、本件申告事項のうちC総長らによるパワーハラスメント及びセク シュアルハラスメントにより多くの教職員が被告を退職していることをいう点は、長期間にわたる極めて抽象的な申告内容であって、審議不能とされたとしてもやむを得ないものというべきである。 したがって、本件部会が本件申告事項について審議不能との結論を出したこと自体は、安全配慮義務に反する債務不履行であるとはいえない。 ⑶ 原告の依頼を長期間放置したことが債務不履行となるかア審議結果の回答について本件部会が本件申告事項について審議不能との結論を出した平成29年7月6日から、G補佐が原告所属組合に対してその旨を回答した平成30年3月16日までに、8か月余りが経過しているところ、回答までにかか る期間を要したことについて、被告から合理的理由の主張立証はない。被告は、労働契約上の安全配慮義務及び信義則上、原告の申告に対し本件部会が出した結論の内容如何を問わず、これを遅滞なく原告に る期間を要したことについて、被告から合理的理由の主張立証はない。被告は、労働契約上の安全配慮義務及び信義則上、原告の申告に対し本件部会が出した結論の内容如何を問わず、これを遅滞なく原告に告知する義務を負うものというべきであって、上記のような合理的理由のない回答遅延は債務不履行を構成すると認められる。 この点に関し、証人Gは、本件部会の事務局と法人事務局とは別の組織- 32 - であり、本件部会が本件申告事項について審議不能という結論を出したことは、本件部会から原告に対し連絡するものと認識していた旨を供述するが、本件部会の事務局も法人事務局も被告の部局であることに変わりはなく、上記回答遅延についていずれが責を負うかは被告による債務不履行の成否の判断を何ら左右するものではない。 イ審議の保留について原告は、本件部会が「裁判中の案件でもある」として対応を保留とした措置について、ここでいう「裁判中の案件」とは別件名誉毀損訴訟を指すものであり、原告がC総長と裁判をしている人物であるという考慮すべきでない事情を考慮しており不当であると主張する。 しかし、①本件部会が対応を保留中であった平成29年6月2日付けの被告の回答書には、別件不当労働行為救済申立事件が係属しており、本件部会の対応又は判断が同事件の審議等に影響を与える懸念があったために対応を留保していた旨の記載があること(認定事実⑷ア)、②本件部会が審議不能との結論を出した同年7月6日の定例会議の議事録には、「裁判 中の案件でもあるため、G事務局長(当時)へ引き渡し、部会での対応は保留となった。しかしながらこのたび裁判が終了したため、G事務局長補佐より本部会にて協議するよう指示があり、本日の案件となった。」との記載があるところ、同時 務局長(当時)へ引き渡し、部会での対応は保留となった。しかしながらこのたび裁判が終了したため、G事務局長補佐より本部会にて協議するよう指示があり、本日の案件となった。」との記載があるところ、同時点では、別件不当労働行為救済申立事件に係る労働委員会の救済命令が発出されていたのに対し、別件名誉毀損訴訟は第一 審の係属中であったこと(認定事実⑶、⑸、⑺)からすれば、上記「裁判中の案件」は別件不当労働行為救済申立事件を指すものと認められるから、原告の上記主張は採用することができない。 ウその他の主張について原告は、被告が原告の依頼を長期間放置したことが不当労働行為に当た ると主張するが、被告の上記対応が、原告が労働組合の組合員であること- 33 - を理由としたものであると認めるに足りる証拠はなく、原告の上記主張も採用することができない。 ⑷ 調査手続の適正を欠き債務不履行となるかア原告は、本件部会が原告相談メール①をG局長に転送したことが、本件申告事項において加害者とされる者に対して原告のハラスメント相談の事 実及び内容を報告した点でプライバシーの侵害に当たると主張する。 しかし、証拠(乙7、甲6~17)によれば、原告は、原告相談メール①と同内容である原告相談メール②の全文をインターネット上に公開し、原告所属組合を通じて被告と団体交渉を行うなどしていたと認められるから、原告が、原告相談メール①の内容を他者に開示されないことを期待し ていたとは認められず、本件部会が原告相談メール①をG局長に転送した行為が原告のプライバシーを侵害するとはいえない。 イ原告は、K部会長が本件申告事項に対する対応を保留したことが、C総長との間に別件名誉毀損訴訟が係属しているという本来考慮すべきでない事情を理由にし が原告のプライバシーを侵害するとはいえない。 イ原告は、K部会長が本件申告事項に対する対応を保留したことが、C総長との間に別件名誉毀損訴訟が係属しているという本来考慮すべきでない事情を理由にしている点で問題があると主張するが、対応を保留した理由 が別件名誉訴訟とは認められないことは、上記⑶イで認定のとおりである。 ウ原告は、K部会長が、G補佐に対し、本件申告事項に対する対応を保留することを申し入れ、また、G補佐がK部会長に対し、本件申告事項の審議をするよう指示したことが、本件部会の上部機関でないばかりか、本件申告事項において加害者とされており手続に関与すべきでないG補佐が本 件部会の対応を決定している点で問題があると主張する。 しかし、G補佐は、被告の法人事務局を掌理する立場にあったものと認められるから、K部会長が本件部会で扱う範疇を超えていると判断した本件申告事項の取扱いに関して、K部会長とその対処方針等について連携を取る必要性があったといえる上、G補佐が本件部会の対応を「決定」した と認めるには足りないから、上記対応が不適切であるとはいえない。 - 34 - エ原告は、本件部会が本件申告事項について、原告から事情聴取をせずに審議不能の結論に至ったことが不公平であるとも主張する。 しかし、事実調査の方法については本件部会規程に特段の定めがなく、事案に応じて判断されるべきものと解される。そして、上記⑵のとおり、本件部会が本件申告事項を審議不能と判断したことはやむを得ないもので あったといえ、原告から事情聴取をしていればその判断が変わっていたとも容易に考えられないことからすれば、本件において原告から事情聴取をしなかったことが手続上の不備であるとはいえない。 ⑸ 損害額以上によれば、被告が 情聴取をしていればその判断が変わっていたとも容易に考えられないことからすれば、本件において原告から事情聴取をしなかったことが手続上の不備であるとはいえない。 ⑸ 損害額以上によれば、被告が本件部会の審議結果を8か月余りにわたり原告に告 知せずにいた点(上記⑶)は債務不履行を構成するものであり、当該債務不履行による原告の精神的苦痛に対する慰謝料の額は、5万円をもって相当と認める。 そして、原告が出捐した弁護士費用のうち1万円を上記債務不履行と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。 4 結論よって、原告の授業担当に関する損害賠償請求は慰謝料100万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、本件部会の対応に関する損害賠償請求は慰謝料5万円及び弁護士費用1万円並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求はいずれ も理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第36部 裁判長裁判官布施雄士 - 35 - 裁判官井上善樹 裁判官崎川静香 - 36 - 別紙1及び別紙2は記載省略

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る