- 1 -平成18年(ワ)第18号求償金請求事件平成19年1月15日判決言渡主文 被告は,原告に対し,4073万7162円及びこれに対する平成15年6月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は被告の負担とする。 この判決は仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求主文同旨第2事案の概要本件は,国有地に被告が出現させた池に幼児が転落して溺死した事故に関して原告である国(以下,「国」ということがある。)が所有者責任に基づいて支払った損害賠償金について,原告が,被告に対し,民法717条3項に基づいて求償するとともに,求償金に対する原告が損害賠償金を支払った日の翌日から民法所定の遅延損害金の支払を求める事案である。 争いのない事実等(1) 原告である国(所管庁・九州森林管理局)は,沖縄県a郡b町字c内に所在する不要存置林野(国の所有に属する森林原野であって,国民の福祉のための考慮に基づき森林経営の用に供されなくなり,国有財産法3条3項の普通財産となっているもの・国有林野の管理経営に関する法律2条2号)を所有管理している。 (2) 被告は,平成7年4月ころ,前記不要存置林野内の湿地帯から土砂を採取した。その後,採取跡に雨水が溜まって,池が出現した(以下,出現した池のことを「本件池」という。)。 (3) 沖縄県は,平成8年9月ころから,本件池の北側に近接して通る旧沖縄県- 2 -道g線(旧県道h号線,以下,「本件県道」という。)の拡幅工事を行った。 (4) 平成9年5月29日,A(男・当時5歳)及びB(男・当時4歳)が,本件池に転落して溺死した(以下,この両名を「被害者ら」,両名の財産上の地位を承継した被害者らの両親を「被害者側」,この事故のことを「本件事故」という。)。 ・当時5歳)及びB(男・当時4歳)が,本件池に転落して溺死した(以下,この両名を「被害者ら」,両名の財産上の地位を承継した被害者らの両親を「被害者側」,この事故のことを「本件事故」という。)。 (5) 被害者側は,平成10年2月27日,国を被告として,損害賠償請求の訴えを提起した(以下,「前訴」ということがある。)。 (6) 平成15年5月22日,福岡高等裁判所那覇支部は,国に対し,民法717条1項の所有者責任に基づき,被害者側に損害賠償金3123万7532円及び遅延損害金の支払を命じる判決を言い渡し,この判決は,同年6月9日,確定した。 (7) 国は,被害者側に対し,同月27日,損害賠償金及び遅延損害金の合計4073万7162円を支払った。 争点…被告は,本件事故によって生じた損害の原因について責任を負うべき者にあたるか,仮にあたる場合には過失相殺をすべき事情が原告にあるか(原告の主張)(1) 被告は,本件事故によって生じた損害の原因について責任を負うべき者である。 ア本件池は,本件事故当時,東西方向の辺が約17メートル,南北方向の長辺が約25メートルのほぼ三角形をしており,水深3メートルほどで,水底はすり鉢状になっていた。よって,本件池は,一旦人が転落すると,大人でも自力ではい上がることは困難な形状であった。 イ本件池付近は,被害者Bが居住していたe団地から約40メートル程度しか離れていないが,もともと雑灌木類の植生する湿地帯で,周囲はハブやアシナガバチなどの危険な生物が存する場所であり,普段から人が踏み入るような場所ではなかった。 - 3 -しかしながら,被告が,土砂の採取に用いるユンボ,ダンプ等を入れるため,近くの県道から本件池に至る崖付近の雑木を伐採して幅約3メートルの進入路を造ったため,本件県道から本件池に近づく 。 - 3 -しかしながら,被告が,土砂の採取に用いるユンボ,ダンプ等を入れるため,近くの県道から本件池に至る崖付近の雑木を伐採して幅約3メートルの進入路を造ったため,本件県道から本件池に近づくことが容易になった。 ウ被告は,前記ア記載のような危険性を有する本件池を出現させ,本件池への進入を容易にしたのであるから,本件池を埋め戻すなどの安全措置をとり転落事故の発生を未然に防止すべき義務があったにもかかわらず,本件池を危険な状態のまま放置した過失により本件事故を発生させたものである。 (2) 本件事故によって生じた損害の原因について原告には責任はない。 ア沖縄営林署d森林事務所森林官が,被告に対して土砂を採取することを許可した事実はない。 イd森林事務所の森林官らは,f島に存在する広大な国有林のうち1万3551ヘクタールの区域を担当してこれを管理していること,森林官らは,本件池とは反対側の林野の境界標を確認したり,来客等の案内やその用務のために平均して月1回程度本件県道を自動車で走行することがあったにとどまること,本件事故の発生まで,被告からもe団地の住民等からも,本件池の存在について報告を受けたりその危険性を指摘されたりしたことはなかったこと,本件池の水深や水底の状況は外見からは明らかではないことからすれば,森林官らにおいて,仮に自動車で走行中に本件池が視野に入ることがあったとしても,その危険性を認識して本件池の埋め戻しや防護柵の設置等を行うべき義務を負っていたということはできない。 (被告の主張)(1) 本件事故によって生じた損害の原因について被告には責任はない。 ア本件池の大きさは,長さ及び幅はいずれも8ないし10メートル,深さは2.5メートル程度であった。 - 4 -イ被告が造った進入路は,本件県道から迂回して本件池 原因について被告には責任はない。 ア本件池の大きさは,長さ及び幅はいずれも8ないし10メートル,深さは2.5メートル程度であった。 - 4 -イ被告が造った進入路は,本件県道から迂回して本件池に進入するもので,本件拡幅工事がなされるまで,本件県道から本件池を視認することはできなかった。 ウ被告は,本件池及びその周辺から土砂を採取した後,進入路の出入口を,高さ約1メートル,長さ約3.5メートルの土手を造って全面的に塞ぎ,その上にカラーコーン3本を立ててそれらを横棒で連結して,その出入口から本件池へ接近することを阻止する措置をとった。 エ本件拡幅工事の際,沖縄県は,本件県道と本件池との間に密生して繁茂していた雑木や雑草類を全て除去し,被告が接近を阻止するために設置したカラーコーンを撤去した。そのため,本件池への接近が容易になって,本件池が具体的危険性を有することとなった。 被告が土砂採取をして本件池を出現させただけでは,本件池の具体的危険性は存していなかった。 オ本件池は,国有地内に存し,その管理権限を有するのは原告であるから,被告には管理権限はなく,管理する立場にもない。被告は,原告から,本件池を埋め戻す指示を受けたことはなく,指示がない以上,原告の管理する本件池について,被告が容喙することはできない。 (2) 本件事故によって生じた損害について責任を負うべき者は原告であり,仮に被告にも責任があるとされる場合には,過失相殺をすべきである。 ア被告は,平成7年4月ころ,土砂の採掘をするにあたり,d森林事務所のC森林官に直接面談して,土砂を採取することの許可を申し入れたところ,Cからは,本件池周辺一帯は不要存置となっているので,土砂を採取しても特に問題はなく,許可は不要であると言われた。 イ被告は,土砂の採取が終了した翌日,d森林 採取することの許可を申し入れたところ,Cからは,本件池周辺一帯は不要存置となっているので,土砂を採取しても特に問題はなく,許可は不要であると言われた。 イ被告は,土砂の採取が終了した翌日,d森林事務所を訪れ,Cに対して,土砂採取が終わった旨を告げるとともに,ユンボの出入口には人の出入りができないように土手を造りカラーコーンを置いたので,確認してほしい- 5 -と要請した。被告の要請を受け,Cは現場を確認した。 ウd森林事務所の森林官は,本件池の存在を知っていたCから引き継ぎを受けたことにより,本件池の存在及びその危険性を認識していた。 また,仮にCが本件池の存在を知らず,または知っていたにもかかわらず引き継ぎがなされていなかったとしても,本件拡幅工事終了後は,本件県道から本件池が容易に視認できるようになり,森林官は本件県道を通過する際に本件池の存在を認識することができた。 エ本件池は,国有地内に存し,その管理権限を有するのは原告であるから,被告には管理権限はなく,管理する立場にもない。本件池が具体的危険性を有するようになった以降は,原告は,その危険性を認識していたか,または容易に認識することができたのであるから,管理者として,転落事故を防止するため,自ら,または被告に指示するなどして,本件池を埋め戻すなどの安全対策を講じることにより,本件事故を未然に防止すべき注意義務を負っていた。 ところが,原告は,本件池を危険な状態のまま放置していた。 第3争点に対する判断 前記(争いのない事実等)欄記載の事実並びに証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 被告は,平成7年4月ころ,本件県道から周囲に植生していた低木や雑草を伐開して,現在,本件池が存在する付近の不要存置林野内の湿地帯にユンボを乗り入れて,土砂を れば,以下の事実が認められる。 (1) 被告は,平成7年4月ころ,本件県道から周囲に植生していた低木や雑草を伐開して,現在,本件池が存在する付近の不要存置林野内の湿地帯にユンボを乗り入れて,土砂を採取した。その際,被告は,ユンボを通すための進入路を造ったが,その進入路から本件池を見通すことは可能であった。 土砂を採取した後,被告は,土砂を採掘した跡地が危険であると考え,進入路の入口付近に高さ約1メートル程度の土手を造った。 (2) 本件池付近は湿地帯であり,多量の降雨があると広範囲に水が溜まることがあり,土砂の採取跡にも水が溜まり,本件池が出現した。 - 6 -土砂の採取から時が経ち周囲の雑木が生い茂ってきたため,徐々に進入路はふさがった状態になっていき,本件拡幅工事ころには,本件県道からは注意しないと本件池が見えない状態になっていた。また,子どもでは,本件県道から本件池に容易に近づくことはできなくなっていた。 (3) 沖縄県は,平成8年9月28日から平成9年3月26日にかけて本件拡幅工事を実施した。工事の内容は,本件事故現場付近の本件県道の幅員を,南側(本件池側)に約5メートル拡幅するというものであった。 本件拡幅工事の際,本件池と本件県道との間を遮る雑木の伐開が行われ,その結果,本件県道から本件池を見通すことが可能になった。また,被告が進入路入口に築いた土手も撤去された。 (4) 被告は,本件拡幅工事に伴う伐開が行われた後,本件県道を自動車で通行した際,本件池が存在し,容易に近づくことができることを認識していた。 また,周辺住民の中にも,本件池の存在に気づいていた者がいた。 被告は,本件池が危険ではないかという認識を持っていたが,本件池の埋め戻しなど,危険防止措置をとりたいとの申し出をすることはなく,本件拡幅工事の際に被告が設置した土手を 存在に気づいていた者がいた。 被告は,本件池が危険ではないかという認識を持っていたが,本件池の埋め戻しなど,危険防止措置をとりたいとの申し出をすることはなく,本件拡幅工事の際に被告が設置した土手を撤去する工事を行わせた沖縄県に対して,土手に代わる安全措置をとるよう要請したこともなかった。 また,本件池の存在に気づいた住民から,d森林事務所その他の公的機関に対して,本件池が危険であるとの指摘はなされなかった。 (5) 本件事故当時における本件池の形状は,ほぼ三角形で,東西方向の辺が約17メートル,南北方向の長辺が約25メートルであった。また,水深は約3メートルであったが,水が濁っていたため,水底は視認できなかった。水底の形状はすり鉢状であり,所によっては,大人でも自力ではい上がることは困難であった。本件池は,三角形の一角が本件県道の路肩から約12メートルの位置に,水面が道路面から約2.5メートル程度低い位置にあり,本件県道と本件池との間は凹凸がある緩やかな斜面になっている。本件池に面- 7 -した本件県道にはガードレールは設置されておらず,本件池の周りに転落を防止するための措置はとられていない。 (6) 本件池付近の林野は,被告が土砂を採取した当時も本件事故当時も,不要存置林野であり,d森林事務所が管理を行っていた。同事務所が管理する国有林の面積は,平成7年11月30日の時点で1万3562.16ヘクタールであった。同事務所の森林官らは,本件県道を平均して月1回程度,林野巡視や来客の案内その他の用務で,本件県道を通行していた。なお,本件県道は旧道であり,平行して距離が短い新道があったため,本件県道を頻繁に通行することはなかった。 平成8年2月か3月ころ,本件事故現場付近の不要存置林野の境界確定が行われて同事務所所属の森林官も立ち会ったが, であり,平行して距離が短い新道があったため,本件県道を頻繁に通行することはなかった。 平成8年2月か3月ころ,本件事故現場付近の不要存置林野の境界確定が行われて同事務所所属の森林官も立ち会ったが,本件拡幅工事前であり,また,境界標が本件池とは本件県道を隔てた反対側に存在していたため,森林官は本件池の存在に気づかなかった。 Cの後任の森林官らは,本件池の存在について前任者から引き継ぎを受けていなかった。 (7) ところで,被告は,土砂の採取にあたりd森林事務所の森林官であるCから口頭で許可を受け,また,土砂採取終了後,Cが現場を確認したと主張し,前訴の当事者尋問において同旨の供述をする。 しかしながら,不要存置林野か否かにかかわらず,国有林野を借り受け,または使用収益しようとする者は,所定の申請書に当該国有林野の位置図及び実測図を添えて,森林管理署長に提出しなければならない(国有林野の管理経営に関する法律施行規則14条参照)ところ,そのような手続がとられた形跡はなく,また,そのような手続をとらなかった合理的理由もない。Cから後任者への引き継ぎ資料にも,被告に対する許可についての記載はない。 前訴における被告の陳述書には,Cの経歴や言動について具体的な記載があり,また,被告はCの名刺も受領しているものであるが,被告がCと会っ- 8 -て話をしたことがある,というところまでは認定することができても,Cによる口頭の許可があった事実まで認定するのは飛躍があるといわざるを得ない。 よって,被告の供述は信用することができず,その他,被告の主張を認めるに足りる証拠はない。 争点について(1) まず,本件事故によって生じた損害の原因に対する被告の責任について検討する。 ア本件池は,前記1(5)のとおり,客観的に見れば,その構造上,人が転落すれば る証拠はない。 争点について(1) まず,本件事故によって生じた損害の原因に対する被告の責任について検討する。 ア本件池は,前記1(5)のとおり,客観的に見れば,その構造上,人が転落すれば生命,身体に重大な危険を生じさせるものであり,被告は,本件拡幅工事が終わった後,本件池が本件県道から容易に近づける状態になっていることも認識し,しかも,本件池の危険性についての認識がなかったものではないのであるから,少なくとも,被告には,本件拡幅工事が終了した時点においては,本件池を出現させた者として,本件池を埋め戻すか,本件池に人が近づけないようにするための危険防止措置をとるべき義務があったものと認められる。 しかしながら,被告がその義務を怠り,本件池の危険性を放置したことにより,本件事故が発生したものと認められるから,本件事故によって生じた損害の原因について被告は責任を負うべき者であると認められる。 イなお,被告は,被告に責任がないことを基礎づける事実の一つとして,本件池は国有地内にあるため,被告には管理権限がなく,管理する立場にないことを挙げる。 しかしながら,本件池を出現させたのは被告なのであるから,本件池の埋め戻しその他の危険防止措置は被告自身が行うのが当然であり,仮に,国有林の管理権限との関係で被告自身が行うことに疑義があるのであれば,d森林事務所と協議すれば済む問題である。また,被告は,本件池が危険- 9 -なのではないかという認識を持っていなかったわけではなかったのであるから,少なくとも,自らが出現させた池の危険性について管理者であるd森林事務所に指摘すべきであった。 にもかかわらず,被告は,自ら危険防止措置をとることも,d森林事務所に対して協議を申し入れたり,危険性を指摘することもなかったのであるから,被告に管理権限がな るd森林事務所に指摘すべきであった。 にもかかわらず,被告は,自ら危険防止措置をとることも,d森林事務所に対して協議を申し入れたり,危険性を指摘することもなかったのであるから,被告に管理権限がないことは,何ら被告を免責すべき事情とはならない。 (2) 他方,本件事故によって生じた損害の原因に対する原告の責任についても検討するに,d森林事務所の森林官らが管理する責任を負う国有地は,1万3000ヘクタールを超える広大なものであることや,森林官らは,本件県道を平均月1回程度通行する程度で,また,本件池の存在について引き継ぎ等で知らされておらず,被告からも周辺住民からも,本件池の存在について報告を受けたりその危険性を指摘されたりしたことはなかったことからすれば,森林官らにおいて,仮に本件県道を走行中に本件池が視野に入ることがあったとしても,その危険性を認識して本件池の埋め戻しその他の危険防止設置を行うべき義務を負っていたということはできず,本件池付近を頻繁に通行する周辺住民が本件池に気づいていた場合とは事情を異にするといわざるを得ない。 (3) そうすると,本件事故によって生じた損害の原因について責任を負うのはもっぱら被告であるから,原告は,民法717条3項に基づき,被害者側に支払った損害賠償金の全額について,被告に対して求償することができる。 第4 結論 よって,原告の請求は理由があるから認容する。 那覇地方裁判所民事第1部裁判官加藤靖
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