令和5(行ウ)3 遺族補償年金等不支給処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年3月26日 名古屋地方裁判所
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判決文本文32,833 文字)

令和7年3月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和5年(行ウ)第3号遺族補償年金等不支給処分取消請求事件口頭弁論終結日令和6年12月2日判決当事者の表示別紙1(省略)当事者目録記載のとおり 主文 1 豊田労働基準監督署長が令和2年2月21日付けで原告に対してした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分をいずれも取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文と同旨第2 事案の概要本件は、原告が、その夫であるKが、アイシン高丘株式会社(以下「本件会 社」又は「本社」という。)に勤務していたところ、その業務に起因して精神障害を発病し、これにより自死した旨の主張をし、処分行政庁に対し、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ、処分行政庁から、令和2年2月21日付けでこれらを支給しない旨の各処分(以下「本件各処分」という。)を受けたため、 その取消しを求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか後掲各証拠により容易に認められる事実)(1) 当事者等ア本件会社は、自動車部品を主体とする鋳造・機械加工、塑性加工、音響製品の製造・販売等を目的とする株式会社であり、その本社が愛知県豊田 市内にある。 イエイティー九州株式会社(以下「ATK」という。)は、本件会社の子会社であり、熊本県玉名郡αに工場を有する(乙1の1・170、709頁)。 ウ株式会社ヒロテック(以下「ヒロテック社」という。)は、本 ティー九州株式会社(以下「ATK」という。)は、本件会社の子会社であり、熊本県玉名郡αに工場を有する(乙1の1・170、709頁)。 ウ株式会社ヒロテック(以下「ヒロテック社」という。)は、本件会社の取引先の一つであり、大分県豊後高田市βに工場を有する(乙1の1・1 71、698頁)。 エ Kは、昭和44年生まれの男性であり、平成5年4月1日に本件会社に入社した。 オ原告は、Kの妻である。 (2) ダイクエンチ及び本件会社におけるダイクエンチチームについて アダイクエンチ(乙1の1・95、696、709頁、乙23・2、証人P・1、2頁)ダイクエンチとは、900度に加熱したブランク(鉄板)をプレス加工する工法であり、同工法により、高強度な部品を生産することができる。 同工法による生産ラインの準備(生産準備)の流れは、①ダイクエンチ 用の金型製作、②暫定ブランクでのダイクエンチ用金型の調整(DVC(試作)対応・ブランク展開形状出し)、③ブランクプレス用の金型製作、④本ブランクの試作(PP)、⑤成熟度向上、⑥量産である。 上記②暫定ブランクでのダイクエンチ用金型の調整においては、上記①ダイクエンチ用の金型製作で使用した金型を使用して、図面どおりに製品 を生産できるよう、実際のラインを使って金型やブランクの調整をする作業(トライ)が複数回行われる。上記調整作業を複数行う必要がある点において、一般的な冷間工法と比べて、難しい工法である。 イダイクエンチチーム(乙1の1・91頁、153頁、184頁)ダイクエンチチームとは、本件会社の加工・塑性生技部の塑性加工グル ープに属する2チームのうちの一つであり、平成29年11月頃の当時、 チームリーダーのL、スタッフリーダーのM、K、N ンチチームとは、本件会社の加工・塑性生技部の塑性加工グル ープに属する2チームのうちの一つであり、平成29年11月頃の当時、 チームリーダーのL、スタッフリーダーのM、K、N、O、Pらが所属していた。同チームの業務内容は、ダイクエンチの国内外生産拠点の新規生産準備、生産設備・型の維持管理、品質向上と合理化推進であった。 (3) 本件会社の労働時間の管理の方法について本件会社では、自己申告による勤怠管理システムとゲートの入退門の時刻 によって従業員の労働時間を管理していた。具体的には、①各従業員は、入退門時にIDカードをかざすことで入門・退門記録(入退門出退勤差異明細(乙1の1・843~852頁)の「入門」欄及び「退門」欄記載の記録。 以下記録それ自体をそれぞれ「入門記録」及び「退門記録」といい、各記録記載の時刻をそれぞれ「入門時刻」及び「退門時刻」という。)が記録され る、②始業及び終業時に自身のパソコンの勤怠管理システムにチェックを行うことで、出勤・退勤時刻が記録される(同明細の「出勤」欄及び「退勤」欄の記録。以下各記録記載の時刻をそれぞれ「出勤時刻」及び「退勤時刻」という。)、③上記①及び②に基づき、個人別勤怠月報(乙1の1・837~842頁。以下「勤怠月報」という。)が作成される、④勤怠管理システ ム上に入力された退勤時刻と退門時刻との間に30分以上かい離がある場合には、その従業員にかい離の状況、その内容及び理由を確認するという形で労働時間を管理していた。(乙23・4頁)(4) 本件の経過ア Kは、平成28年1月1日、ダイクエンチチームに配属された。 イダイクエンチチームは、平成29年10月(以下、年の記載がない月日は全て平成29年とする。)、構成員の担当業務を見直すこと ア Kは、平成28年1月1日、ダイクエンチチームに配属された。 イダイクエンチチームは、平成29年10月(以下、年の記載がない月日は全て平成29年とする。)、構成員の担当業務を見直すこととなり(以下「本件担当業務見直し」という。)、Kは、本件担当業務見直しにより、①本社生産ドアビーム(J59C)(以下「本社J59C」という。)の生産準備、②ATK生産ドアビーム(J59C)(以下「ATKJ59C」 という。)の生産準備、③本社工場AT3号ライン(以下「本社3号ライ ン」という。)のプレス機の設備対応(花開き対応)、④本社工場の安全・環境・BCP(事業継続計画)の推進、⑤レーザー・アーク溶接機の原単位改善・向上及びATKから原単位改善・向上について問合せがあった場合の対応等の業務の担当となった(乙21)。 ウ Kは、11月23日から同月27日まで、Pとともに、ATKに出張を した(乙1の1・170、736、875、883、884頁)。 エ Kは、11月30日から12月3日まで、ATKに出張した(乙1の1・172~177、875頁)。 オ Kは、12月7日及び同月8日、ヒロテック社に出張した(乙1の1・171、698、875頁)。 カ Kは、12月9日及び同月10日、本社3号ラインのプレス機の改造工事に立ち会った。その後の同月13日、同プレス機の配管が破裂して、油が漏れる事故(以下「本件事故」という。)が発生した。(甲A12、乙23・12頁)キ Kは、12月14日から同月17日まで、Nとともに、ATKに出張し た(乙1の1・708、714、876、882頁)。 ク Kは、12月18日、自宅において、遺書を残し、縊頸により自死した(甲A1、乙1の1・20~23、135~139頁)。 TKに出張し た(乙1の1・708、714、876、882頁)。 ク Kは、12月18日、自宅において、遺書を残し、縊頸により自死した(甲A1、乙1の1・20~23、135~139頁)。 (5) 労災請求等ア原告は、Kが業務に起因して精神障害を発病し、これにより自死したと して、令和元年8月29日、処分行政庁に対し、労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ、処分行政庁は、Kの精神障害の発病及び死亡は業務上の疾病とは認められないとして、令和2年2月21日付けでこれらを支給しない旨の本件各処分をした(乙1の1・8~11頁)。 イ原告は、本件各処分を不服として、令和2年3月24日、愛知労働者災 害補償保険審査官に対し、審査請求をしたが、同審査官は、令和3年6月30日付けでこれを棄却する旨の決定をした(甲C2、乙1の1・1042、1043頁)。 ウ原告は、上記イの決定を不服として、令和3年8月6日、労働保険審査会に対し、再審査請求をしたが、同審査会は、令和4年7月11日付けで、 これを棄却する旨の裁決をした(甲C3、乙1の1・1、2頁)。 エ原告は、令和5年1月10日、本件訴えを提起した。 (6) 「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(甲C18、19、乙2~11)厚生労働省労働基準局長は、精神障害についての業務起因性の認定基準と して、平成23年12月26日付けで「心理的負荷による精神障害の認定基準について」を示し、令和2年5月29日付けでこれを一部改め、さらに、令和5年9月1日付けでこれを廃止し、新たに認定基準を定めた(以下、これを「認定基準」という。)。 認定基準は、①対象疾病を発病していること、②対象疾病の発病前おおむ ね6か月 め、さらに、令和5年9月1日付けでこれを廃止し、新たに認定基準を定めた(以下、これを「認定基準」という。)。 認定基準は、①対象疾病を発病していること、②対象疾病の発病前おおむ ね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること、③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないことのいずれの要件も満たす対象疾病は、労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する業務上の疾病として取り扱うものとしている。そして、上記②の要件に係る心理的負荷の評価に当たっては、発病前おおむね6か月の間 に、対象疾病の発病に関与したと考えられるどのような出来事があり、また、その後の状況がどのようなものであったのかを具体的に把握し、その心理的負荷の強度はどの程度であるかについて、別紙2(省略)の「別表1 業務による心理的負荷評価表」(以下「別表1」という。)を指標とし、別表1の特別な出来事以外の出来事を、別表1の具体的出来事以下の表のとおり 「強」、「中」、「弱」の3段階に区分し、その総合評価が「強」と判断さ れる場合には、上記②の要件を満たすものとしている。(甲C19・2~4頁)また、精神障害を発病して治療が必要な状態にあるものは、一般に、病的状態に起因した思考から自責的・自罰的になり、ささいな心理的負荷に過大に反応するため、悪化の原因は必ずしも大きな心理的負荷によるものとは限 らないこと、また、自然経過によって悪化する過程においてたまたま業務による心理的負荷が重なっていたにすぎない場合もあることから、業務起因性が認められない精神障害の悪化の前に強い心理的負荷となる業務による出来事が認められても、直ちにそれが当該悪化の原因であると判断することはできない。ただし、別表1の特別な出 もあることから、業務起因性が認められない精神障害の悪化の前に強い心理的負荷となる業務による出来事が認められても、直ちにそれが当該悪化の原因であると判断することはできない。ただし、別表1の特別な出来事があり、その後おおむね6か月以内 に対象疾病が自然経過を超えて著しく悪化したと医学的に認められる場合には、当該特別な出来事による心理的負荷が悪化の原因であると推認し、悪化した部分について業務起因性を認める。また、特別な出来事がなくとも、悪化の前に業務による強い心理的負荷が認められる場合には、当該業務による強い心理的負荷、本人の個体側要因(悪化前の精神障害の状況)と業務以外 の心理的負荷、悪化の態様やこれに至る経緯(悪化後の症状やその程度、出来事と悪化との近接性、発病から悪化までの期間など)等を十分に検討し、業務による強い心理的負荷によって精神障害が自然経過を超えて著しく悪化したものと精神医学的に判断されるときは、悪化した部分について業務起因性を認める。なお、既存の精神障害が悪化したといえるか否かについては、 個別事案ごとに医学専門家による判断が必要であるとする。(甲C19・8頁) 2 争点(1) Kの精神障害の発病時期(争点1)(2) Kの精神障害の悪化の有無(争点2) (3) Kの精神障害の発病及び死亡が業務に起因するものと認められるか(争点 3) 3 争点に対する当事者の主張(1) 争点1(Kの精神障害の発病時期)(原告の主張)Kは、遅くとも自死の日である12月18日までにうつ病エピソードを発 病した。 (被告の主張)愛知労働局地方労災医員協議会精神障害専門部会の意見のとおり、Kは、11月頃(遅くとも11月30日まで)、うつ病エピソードを発病した。 (2 つ病エピソードを発 病した。 (被告の主張)愛知労働局地方労災医員協議会精神障害専門部会の意見のとおり、Kは、11月頃(遅くとも11月30日まで)、うつ病エピソードを発病した。 (2) 争点2(Kの精神障害の悪化の有無) (原告の主張)仮に、Kの精神障害の発病時期が11月頃であったとしても、その後12月18日に自死するまでの間、20日の連続勤務や度重なる出張等の業務による強い心理的負荷が原因で、精神障害が悪化した。 (被告の主張) Kは、11月頃にうつ病エピソードを発病し、その初期段階に相当する12月18日に死亡したのであるから、Kが自死するに至ったのは、当該精神障害の症状の現れ、又はその自然経過の範囲内のものといえ、当該精神障害が自然経過を超えて著しく悪化したと精神医学的に判断することはできないし、その悪化を医学的に裏付ける証拠もないから、Kの精神障害の悪化は認 められない。 (3) 争点3(Kの精神障害の発病及び死亡が業務に起因するものと認められるか)ア判断基準について(原告の主張) 労働者災害補償保険制度は、被災労働者とその家族(遺族)の生活の保 障を目的とするものであるから、労務を提供している労働者本人を基準にして業務上外の認定における心理的負荷の強度を判断するべきである。また、相当因果関係の有無については、業務が他原因と共働して発病に至ったことで足りると解すべきである。認定基準は、あくまで行政内部の解釈基準であり、裁判所を拘束するものではないし、因果関係の範囲を厳しく 絞っており不当であるため、認定基準に該当しないことをもって、業務起因性を否定すべきではない。 (被告の主張)精神障害の発病につき業務起因性を判断するに際しては、近時の精神 の範囲を厳しく 絞っており不当であるため、認定基準に該当しないことをもって、業務起因性を否定すべきではない。 (被告の主張)精神障害の発病につき業務起因性を判断するに際しては、近時の精神医学的・心理学的知見を踏まえて作成された認定基準に依拠するのが相当で ある。 イ時間外労働時間数について(原告の主張)後記(ア)ないし(エ)によれば、Kの時間外労働時間数は、12月17日を起点とすると、発病前1か月が131時間、発病前2か月が80時間、発 病前3か月が39時間となる。また、11月末を起点とすると、発病前1か月が117時間、発病前2か月が35時間となる。 (ア) 始業時刻a 入門記録がある日についてKは、本件会社の時間外労働時間の上限規制内に収まるように勤怠 月報上の始業時刻を操作していたから、勤怠月報は、Kの労働実態が正しく反映されたものではない。したがって、入門記録がある日については、原則、入門時刻を基に始業時刻を認定すべきである。そして、本件会社の正門からダイクエンチチームの事務所までは、徒歩で3分ないし5分程度であるため、準備の時間も考慮し、入門時刻から10 分後を始業時刻とすべきである。 なお、メールを作成するのに通常少なくとも5分は要することを考慮し、メール送信の5分前が入門時刻から10分後よりも早い場合には、メール送信時刻の5分前を始業時刻とすべきである。 b 入門記録がない日について7月31日及び8月15日は、上記aと同様に、メール送信時刻の 5分前を始業時刻とすべきである。11月29日は、勤怠月報に記載のとおりの始業時刻とすべきである。12月6日は、Kが、本来有給休暇であるにもかかわらず出社していること、当時やりきれないほどの業務を抱 分前を始業時刻とすべきである。11月29日は、勤怠月報に記載のとおりの始業時刻とすべきである。12月6日は、Kが、本来有給休暇であるにもかかわらず出社していること、当時やりきれないほどの業務を抱えていたこと、いつもどおり朝起きて出勤したことに照らし、午後から出勤したとは考え難く、午前8時を始業時刻とすべきで ある。 (イ) 終業時刻a 退門記録がある日について上記(ア)の始業時刻と同様、勤怠月報上の終業時刻は、本件会社の時間外労働時間の上限規制内に収まるように操作されたものであり、K の労働実態が正しく反映されたものではない。したがって、退門記録がある日については、退門記録を基に終業時刻を認定すべきであり、上記(ア)aと同様に、退門時刻の10分前を終業時刻とすべきである。 なお、退門時刻の10分前よりも後にメールを送信している日(9月2日)は、少なくともその時間までは業務に従事していたのである から、メール送信時刻(午後7時30分)をもって終業時刻とすべきである。また、退門時刻の10分前よりも後の時間にパソコンのログオフの記録がある日(7月5日、7月8日)は、それぞれログオフの時刻(午後5時49分、午後9時17分)を終業時刻とすべきである。 b 退門記録がない日について (a) 11月13日 Oは、11月13日午後9時26分、Kに対し、「帰れる?」とのメールを送信し、これに対し、Kは「かえるどこ?」と返信しているところ、Kは、少なくとも同時刻まで社内で仕事をしていたといえるから、同時刻を終業時刻とすべきである。 (b) 11月22日 Kは、11月22日午後6時25分、原告宛てに「遅くなる。」とのメールを送信し、その後、同日午後11時07分に「帰れない。 洗濯た ら、同時刻を終業時刻とすべきである。 (b) 11月22日 Kは、11月22日午後6時25分、原告宛てに「遅くなる。」とのメールを送信し、その後、同日午後11時07分に「帰れない。 洗濯たのむごめん」とのメールを送信し、その後すぐに帰れるような状況は窺われないため、少なくとも、午後11時30分頃までは仕事をしていたはずであるから、11月22日の終業時刻は同時刻 とすべきである。 (c) 12月13日Kは、日常的に、仕事から帰る際に自宅や原告のスマートフォンにワンコールを入れるようにしていたところ、12月13日午後10時36分、原告に対し、ワンコールをしていることから、同日の 終業時刻は同時刻とすべきである。 (d) それ以外の日Kを含むダイクエンチチームの従業員らは、退門の際、ゲートにIDカードをかざさずに通過してエラーにしておき、実際の終業時刻よりも早い終業時刻を勤怠管理システムに入力し、労働時間を過 少に申告していた。退門時刻が記録されていない日は労働時間を過少に申告している日である。そして、平成29年下期(平成29年10月から平成30年3月までの間。以下同じ。)の退門記録がない日は、平均して午後11時まで仕事をしていたから、同時刻を終業時刻とすべきである。 (ウ) 休憩時間 Kを含むダイクエンチチームの従業員らは、少なくとも繁忙であった平成29年下期における11月及び12月において、平均1時間の休憩時間をとることができたとは考え難いから、平均して40分とするのが相当である。 (エ) 出張時の状況 a 出張中の移動時間も、労働時間として認めるべきである。 b ATKでの始業時刻及び終業時刻についてATKでの始業時刻及び終業時刻については、ATKで ある。 (エ) 出張時の状況 a 出張中の移動時間も、労働時間として認めるべきである。 b ATKでの始業時刻及び終業時刻についてATKでの始業時刻及び終業時刻については、ATKでの入出庫記録(乙1の1・885~906頁)に基づいて認定すべきである。具体的には、Kは、ATKに到着後、業務に取り掛かるまで10分もか かっていなかったし、全ての仕事が終わった後にはすぐに帰っていたから、始業時刻を入庫時刻の10分後、終業時刻を出庫時刻の10分前とすべきである。 c 休憩時間本社とは異なり、出張中は、原則1時間の休憩が取れていたと考え られる。しかし、12月3日は、Kが昼休憩をとっていない可能性が高く、同日の休憩時間は0分とすべきである。また、同月14日は、夕食休憩の30分のみが休憩時間である。 (被告の主張)後記(ア)ないし(ウ)によれば、Kの時間外労働時間数は、発病前1か月が 67時間16分、発病前2か月が27時間43分、発病前3か月が13時間33分となる。 (ア) 始業時刻及び終業時刻Kは始業時刻及び終業時刻をおおむね正確に申告していたことが推認されるから、勤怠月報の記録に基づいて始業時刻及び終業時刻を認定す ることを基本とすべきであり、メール送信時刻及びパソコンのログオフ 記録による客観的裏付けがある部分に限り、勤怠月報の記録を修正すべきである。 (イ) 休憩時間Kが常態として昼休憩中に業務を行っていたことを裏付ける客観的な証拠はないから、発病前6か月及びKの死亡前日までの期間における労 働時間については、休憩時間を1時間取得していたものとして推計すべきである。 (ウ) ATKでの労働時間について本件会社における勤怠月報上の始業時刻及び終業時 死亡前日までの期間における労 働時間については、休憩時間を1時間取得していたものとして推計すべきである。 (ウ) ATKでの労働時間について本件会社における勤怠月報上の始業時刻及び終業時刻の記録は15分単位であり、また、入退門の時刻と始業時刻及び終業時刻の差は30分 以内とされている。ATKでの業務の始業時刻及び終業時刻は、車両入出庫状況の入庫時刻及び出庫時刻の記録に基づいて、本件会社における勤怠打刻基準に準じ、始業時刻については入庫時刻直後の30分以内で毎時15分単位の時刻と推認し、終業時刻については出庫時刻直前の30分以内で毎時15分単位の時刻と推認すべきである。 ウ仕事内容・仕事量の変化(原告の主張)後記(ア)ないし(エ)の各事情によれば、本件担当業務見直し後のKの担当業務は、Kにとって経験のない新規の業務であった。また、上記イの原告の主張のとおり、Kの時間外労働時間数は、発病前1か月が131時間、 発病前2か月が80時間、発病前3か月が39時間となっており、本件担当業務見直し前の時間外労働時間数の3倍以上にまで増加している。そうすると、Kの担当業務について、過去に経験したことがない仕事内容、能力・経験に比して質的に高度かつ困難な仕事内容等に変更となり、常時緊張を強いられる状態となった又はその後の業務に多大な労力を費やしたも の、若しくは仕事量が著しく増加して時間外労働も大幅に増えたものとい え、その遂行に多大な労力を費やしたといえるから、その心理的負荷の強度は「強」である。 (ア) ATKでの業務についてa ATKJ59Cの生産準備業務についてKは、従前、主にトヨタの部品を扱うトヨタ系の生産ライン(本社 9号ラインないし11号ライン)を担当しており る。 (ア) ATKでの業務についてa ATKJ59Cの生産準備業務についてKは、従前、主にトヨタの部品を扱うトヨタ系の生産ライン(本社 9号ラインないし11号ライン)を担当しており、ATKの生産ラインは初めて扱うものであった上に、トヨタ系の生産ラインとその他の生産ラインは構造が大きく異なり、Kにとって、新規性のある業務であった。また、納期も短期であり、余裕がなかった。しかも、部品の数が4個と多く、1回の出張で複数のトライが必要となり、トライを 計画的に行う必要があった。そのため、何度ものやり直しがきかず、緊張を伴う労働密度が高い難しい業務であった。さらに、別会社であるATKの従業員に協力してもらいながらの作業となり、難しい業務となった。 b ATK生産ドアビーム(D20L)(以下「D20L」という。) についてKは、D20Lについて、トライ、メモ取り、Pとの相談、ブランク材の発注、今後の予定の検討を行い、一定の準備の上で部品検討会に参加しており、Pの業務の補佐を行っていた。 c その他 Kは、ATKの溶接機の担当をしていた。 (イ) 本社J59Cの生産準備業務及び本社3号ラインの設備対応について上記(ア)aと同様に、Kにとって、本社3号ラインの担当は、新規性のある業務であった。また、同ラインで追加で生産予定であった2型は、製品の形状が「花開き」のような形状で、非常に難しい形状であり、本 件会社にとっても初の技術を用いた取組みであった。さらに、他のアイ テムより生産準備が遅れていた。 (ウ) 本社工場の安全・環境・BCPの推進業務についてKは、本件担当業務見直しにより、新たに安全対策の担当となった。 この中に、BCP(事業継続計画)があり、具体的な対応を行っ 備が遅れていた。 (ウ) 本社工場の安全・環境・BCPの推進業務についてKは、本件担当業務見直しにより、新たに安全対策の担当となった。 この中に、BCP(事業継続計画)があり、具体的な対応を行っていたところ、初めての業務である上に、前任の担当者もいない新規の業務で あったが、Kは、11月10日に関連企業との会議を開催する段取りをつけるなどの準備をしていた。 (エ) その他の業務についてa Kは、本社9号ラインないし11号ラインについて、Oとともに、その品質維持・改善等を担当していた。これを含む維持管理の業務は、 突発的なことが起こると対応せざるを得ないものであり、時間のコントロールが難しい業務であった。 b AI(アイシン)ルーフ3型カローラ(152B)、RAV4(310B)、レクサスRX(423B)の3つの車種のルーフの生産準備の業務がAIルーフ3型で あるところ、この業務は、平成29年度下期については、Oの担当であり、Kが支援することとなっていた。しかし、実際には、Kは、Oと同等に近い工数をこなしていた。 c 溶接機に関連した業務本社3号ラインで生産していた200Bについて、スポットがはが れたため、QとKとで対応した。Kらは、8月から12月まで上記不具合の対策を行い、同月中旬に完了の会議が行われた。また、Kは、10月まで、Pが担当するINTATのスポット溶接機の業務を補助していた。 (被告の主張) 後記(ア)ないし(カ)の各事情によれば、Kが、本件担当業務見直し後に担 当した業務について、生産準備という業務内容に大きな変化はなく、その能力及びこれまでの経験や出張時のATKの担当者による支援体制を考慮すると、過去に経験したことがない仕事内容に変更となった、 当した業務について、生産準備という業務内容に大きな変化はなく、その能力及びこれまでの経験や出張時のATKの担当者による支援体制を考慮すると、過去に経験したことがない仕事内容に変更となった、又は常時緊張を強いられている状態になったとまではいえず、本件担当業務見直しに伴う心理的負荷の強度は、「中」とするのが相当である。 (ア) 業務量についてダイクエンチチームでは、毎年半期ごとに担当業務を見直しており、本件担当業務見直しの前後でKの業務量が著しく増加したとは直ちにいえない。一般に、労働時間は、業務量に比例して長くなるものと考えられるから、Kの業務量については、時間外労働時間数の推移を検討する のが相当である。そして、上記イの被告の主張のとおり、Kの発病前2か月の時間外労働時間数は27時間43分、発病前1か月の時間外労働時間数は67時間16分であったところ、これは、認定基準の別表1にいう「時間外労働時間数としてはおおむね20時間以上増加し、1月当たりおおむね45時間以上となる」には該当するが「おおむね倍以上に 増加し、1か月当たりおおむね100時間以上となる」には該当しない。 (イ) ATKでの業務についてKがATKでの業務を担当することになったのは、ダイクエンチチーム内で協議した上でKの意向を踏まえたものであったから、Kにとって緊急に取り組むことになった業務ではない。また、ダイクエンチは、一 般的な冷間工法と生産準備業務の流れや各工程での作業内容はほぼ同一であるところ、Kは、約10年間生産準備業務の経験を積んでおり、常時緊張を強いられる状態にあったとまではいえないし、ATKでトライを行う際にはATKの担当者が設備の作動を行って支援する体制であったから、KがATKの生産ラインに不慣れであったとして 積んでおり、常時緊張を強いられる状態にあったとまではいえないし、ATKでトライを行う際にはATKの担当者が設備の作動を行って支援する体制であったから、KがATKの生産ラインに不慣れであったとしても、常時緊張 を強いられる状態であったとはいえない。さらに、Kの精神障害の発病 の前に、ATKにおいて実質的に業務を行ったのは、11月24日から同月27日までの4日間のみである。したがって、KにとってATKでの業務が困難であったとはいえない。 a ATKJ59Cの生産準備業務についてPが10月以降も引き続きATKJ59Cの生産準備業務を担当し、 Kと分担してATKに出張してトライを行うとともに、1回目のATKへの出張時にはKに同行して引継ぎを行っているから、Kの負担は相当程度軽減していた。 b D20Lについて本件担当業務見直しにより、D20Lの生産準備業務の担当は、N となったが、同人は当時平成29年度上期(4月から9月までの間。 以下同じ。)からの別の業務に追われていたため、前任のPがATKに出張してトライを行った。Kは、D20Lについては、1回目のATK出張の際にトライを手伝い、ヒロテック社での部品検討会に出席し、材料の発注を行ったにすぎず、困難な業務ではなかった。 (ウ) 本社J59Cの生産準備業務について本社J59Cについて、10月頃はまだ金型の製作段階にあり、12月に金型が完成した。金型は本社の試作工機部門で製作されるところ、その形状の特殊性は、10月時点におけるKの業務の困難性に影響を及ぼさない。また、本社J59Cの生産準備における課題については、前 任のPの方が事情に通じていたことから、同人が主導して関係者と連絡をとり対応に当たっており、Kにとって常時緊張を強い 影響を及ぼさない。また、本社J59Cの生産準備における課題については、前 任のPの方が事情に通じていたことから、同人が主導して関係者と連絡をとり対応に当たっており、Kにとって常時緊張を強いられる程度の負荷がかかったとは言えない。 (エ) 本社3号ラインのプレス機の設備対応業務について本社3号ラインのプレス機の改造業務については、10月頃までに前 任のPが電気(配線及び回路)に関する工事まで完了しており、Kが従 事した業務は、それ以降の油圧配管工事への立会い及び工事後のプレス機の動作確認のみであったから、常時緊張を強いられる程度のものではなかった。 (オ) 本社工場の安全・環境・BCPの推進業務についてKが設定したツカサ機工株式会社との打合せは、日程が合わず行われ なかったし、仮に同打合せが行われていたとしても、通常の業務の範囲内であり、常時緊張を強いられる程度のものではなかった。 (カ) その他の業務についてKは、Oの担当であった2つのルーフの生産準備業務の補佐、及び、同僚の後藤誠の担当であった3つの生産ラインの維持管理業務の補佐に 従事していたところ、その内容は明らかでなく、通常業務の範囲内であり、常時緊張を強いられる程度のものではなかった。 エ出張の多い業務への変更(原告の主張)Kは、平成29年下期の担当変更がされた結果、九州への泊まりの出張 が多い業務に変更となるなど、勤務形態にも大きな変化があった。このこと自体が認定基準の別表1にいう「勤務形態、作業速度、作業環境等の変化や不規則な勤務があった」に該当し、その心理的負荷の強度は「中」である。 また、このような担当変更は、上記ウの仕事内容・仕事量の大きな変化 を生じさせる出来事についての心理的負荷を評 の変化や不規則な勤務があった」に該当し、その心理的負荷の強度は「中」である。 また、このような担当変更は、上記ウの仕事内容・仕事量の大きな変化 を生じさせる出来事についての心理的負荷を評価するに当たって、仕事内容等の変更の事情、あるいは仕事量が増加した事情として考慮されるべきである。 (被告の主張)心理的負荷の強度の評価の対象となる出来事は、精神障害を発病する前 の出来事であるところ、KがATKへ宿泊を伴う出張をしたのは、1回目 のATKへの出張時の11月23日から同月27日までの4日と、2回目のATKへの出張時の同月30日の1日のみであり、合計5日にすぎなかった。したがって、それまで宿泊付きの出張がほとんどなかったとしても、宿泊付きの出張が急増したとはいえず、その心理的負荷の強度は強いものではなかった。 オ 12月1日から12月18日までの出来事について(原告の主張)後記(ア)ないし(ウ)の出来事により、Kの精神障害が悪化したから、Kの死亡には業務起因性が認められる。 (ア) 連続勤務 Kは、11月22日から12月11日までの20日間にわたり、連続勤務をしている。このこと自体が、認定基準の別表1にいう「2週間以上にわたって休日のない連続勤務を行った」との出来事に該当し、その心理的負荷は「強」に近い「中」である。 また、4週連続で土日勤務をしており、休日を確保できなかった状況 は、上記ウの仕事内容・仕事量の大きな変化が生じさせる出来事についての心理的負荷を評価するに当たって、仕事量が増加している事情として考慮されるべきである。 (イ) 本件事故についてKは、本社3号ラインの改造業務の担当となった後、本件事故が発生 し、担当者として、非常に大きな責任を感 て、仕事量が増加している事情として考慮されるべきである。 (イ) 本件事故についてKは、本社3号ラインの改造業務の担当となった後、本件事故が発生 し、担当者として、非常に大きな責任を感じていた。 (ウ) ATKでのミスについてKは、12月14日から同月17日までのATKへの出張期間中、金型の調整の方向を間違えるミスをした。失敗できないようなタイトな日程であったため、このミスによりこの週のトライが丸々無駄になり、1 週間分の遅れが生ずる可能性があった。 (被告の主張)仮に、Kの自死が精神障害の悪化によるものであるとしても、後記(ア)ないし(エ)の各事情によれば、Kにおいて11月頃に精神障害を発病してから12月18日に自殺するまでの間に存在した出来事に係る心理的負荷の強度は「中」にとどまるというべきであるから、同悪化についての業務起 因性は認められない。 (ア) 連続勤務確かに、Kは、11月22日から12月11日までの20日間にわたって連続勤務をしているが、①深夜時間帯に及ぶ時間外労働がなかったこと、②11月23日、同月27日、同月30日、12月3日、同月7 日、同月8日については移動時間が長く、実質的労働時間は短いものであったこと、③11月29日は午前有給休暇取得日、12月6日は全日有給休暇取得日であり、両日とも午後のみの出勤であったことからすれば、上記20日間における業務による心理的負荷は強いものではなかった。 (イ) 本件事故について本件事故の発生及びその後の状況について、①その発生の原因は工事業者のミスであり、Kのミスではなかったこと、②プレス機の修理についてはダイクエンチチームとは別部署である本社工場の担当員が責任者として行ったものであり、事後対応と について、①その発生の原因は工事業者のミスであり、Kのミスではなかったこと、②プレス機の修理についてはダイクエンチチームとは別部署である本社工場の担当員が責任者として行ったものであり、事後対応としてKが同プレス機の修理作業 に関与することはなかったこと、③修理作業は午前8時40分に開始して午後2時30分に終了し、実修理時間は120分、ラインの停止時間は135分であり、ライン停止による納入遅延は起きなかったことに照らし、その心理的負荷は強いものではなかった。 (ウ) ATKでのミスについて Kの作業自体に間違いはなく、Kが責任を負うべきものではなかった。 また、これによる型精度不足の発生及びそれに伴う計画遅延という出来事は、重大なものではなかった。 (エ) 宿泊付きの出張が多い業務への変更についてKは、本件担当業務見直しまで宿泊付きの出張がほとんどなかったにもかかわらず約1か月間に11日の宿泊付きの出張をすることになった という事実はあるが、他方で、生産準備という業務内容に大きな変化はなく、Kの能力及びこれまでの経験や出張時のATKの担当者による支援体制を考慮すると、過去に経験したことのない仕事内容へ変更した、あるいは常時緊張を強いられる状態になったとはなおいい難く、この出来事についての心理的負荷の強度は「中」にとどまる。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(Kの精神障害の発病時期)についてKの精神障害(うつ病エピソード)の発病時期について、原告は、遅くとも自死の日である12月18日までに発病したものと主張し、他方で、被告は、11月頃(遅くとも11月30日まで)に発病した旨の主張をする。 この点について検討するに、証拠(乙1の1・1028~1030頁)によれば、愛知労働局 発病したものと主張し、他方で、被告は、11月頃(遅くとも11月30日まで)に発病した旨の主張をする。 この点について検討するに、証拠(乙1の1・1028~1030頁)によれば、愛知労働局地方労災医員協議会精神障害専門部会は、原告の申述やKの遺書の内容等から、5月から6月頃より集中力と注意力の減退や自己評価と自信の低下がうかがわれ、11月頃には不眠や希死念慮が出現していたと推察され、精神障害に関連する受診歴がないため断定はできないが、同月頃にはうつ 病エピソードを発病していたと推察するとの意見を述べたことが認められる。 証拠(乙1の1・122~130頁、原告本人・7、9~12頁)によれば、Kについて、①平成29年春頃から、旅行等について乗り気でなく、ぼーっとした様子であったこと、②7月、8月頃になると、自室にこもるようになったこと、③10月頃、旅行中、眠そうにしており、疲れている様子であったこと、 ④11月頃、不眠の症状を訴えていたことがそれぞれ認められる。また、Kの 遺書(乙1の1・131~139頁)の「ここ半年以上集中し考えることができない」、「ここ半年前から鬱病状態」、「1~2ケ月くらい前に夜中Rに気づかれびっくりしたけど寝室でみんなの寝顔みて夜中~朝方迄に車に飛び込み自殺しようかと思ってたんだ」などの記載からすれば、Kが、6月頃から集中できないなどの症状があり、遅くとも11月頃には希死念慮を有していたこと が認められる。そうすると、愛知労働局地方労災医員協議会精神障害専門部会の上記意見は、上記で認定した客観的事実に基づき、医学的知見を踏まえてKの精神障害の発病及びその時期を判断したものということができ、その内容は十分合理性を有する。 以上によれば、Kが認定基準の対象疾病であるうつ病エ で認定した客観的事実に基づき、医学的知見を踏まえてKの精神障害の発病及びその時期を判断したものということができ、その内容は十分合理性を有する。 以上によれば、Kが認定基準の対象疾病であるうつ病エピソードを発病した 時期は、11月頃(遅くとも11月30日まで)であると認めるのが相当である。 2 争点2(Kの精神障害の悪化の有無)について原告は、仮に、Kの精神障害の発病時期が11月頃であったとしても、その後12月18日に自殺するまでの間、20日の連続勤務や度重なる出張等の業 務による強い心理的負荷が原因で、精神障害が悪化した旨の主張をする。 しかし、12月1日から同月18日までの間に、Kの精神障害が悪化したとの医学的な根拠を認めるに足りる的確な証拠はないし、また、上記1で認定及び判断をしたとおり、Kは遅くとも11月の時点で既に希死念慮を有していたことが認められ、自死をしたこと自体をもって、その悪化を推認することもで きない。よって、原告の上記の主張は採用することができない。 3 争点3(Kの精神障害の発病及び死亡が業務に起因するものと認められるか)について(1) 判断枠組み等ア労働者の疾病等を業務上のものと認めるためには、業務と疾病等との間 に相当因果関係が認められることが必要である(最高裁昭和51年11月 12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)。そして、労働者災害補償保険制度が、労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば、上記の相当因果関係を認めるためには、当該疾病等の結果が、当該業務に内在又は通常随伴する危険が現実化したものと評価し得ることが必要である(最高裁平成8 年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事17 記の相当因果関係を認めるためには、当該疾病等の結果が、当該業務に内在又は通常随伴する危険が現実化したものと評価し得ることが必要である(最高裁平成8 年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁、最高裁平成8年3月5日第三小法廷判決・裁判集民事178号621頁参照)。 イ現在の医学的知見によれば、精神障害発病の機序について、環境由来の心理的負荷(ストレス)と、個体側の反応性、脆弱性との関係で決まるという考え方(ストレス-脆弱性理論)が合理的であるというべきところ、 ストレス-脆弱性理論によれば、環境由来のストレスが非常に強ければ、個体側の脆弱性が小さくても精神障害を発病するし、逆に、個体側の脆弱性が大きければ、ストレスが小さくても破綻が生じるとされる(甲C18・10頁)。 ウこのようなストレス-脆弱性理論を前提とすれば、精神障害の業務起因 性の判断においては、環境由来のストレスと個体側の反応性・脆弱性とを総合考慮し、業務による心理的負荷が、当該労働者と同程度の年齢、経験を有する同僚労働者又は同種労働者であって、日常業務を支障なく遂行することができる者(平均的労働者)を基準として、社会通念上客観的にみて、精神障害を発病させる程度に強度であるといえる場合に、当該業務に 内在又は通常随伴する危険が現実化したものとして、当該業務と精神障害との間に相当因果関係を認めるのが相当である。 エそして、前記前提事実⑹及び証拠(甲C18、19、乙2~11)によれば、厚生労働省労働基準局長は、精神障害の業務起因性を判断するための基準として認定基準を策定しているところ、認定基準は、行政処分の迅 速かつ画一的な処理を目的として定められたものであり、裁判所を法的に 拘束するものではないものの、精神 めの基準として認定基準を策定しているところ、認定基準は、行政処分の迅 速かつ画一的な処理を目的として定められたものであり、裁判所を法的に 拘束するものではないものの、精神医学及び法律学等の専門家により作成された令和5年7月付け「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」(甲C18)等に基づき策定されたものであって、その作成経緯及び内容等に照らしても合理性を有するものといえる。そうすると、精神障害に係る業務起因性の有無については、認定基準の内容を参考にしつつ、 個別具体的な事情を総合的に考慮して判断するのが相当である。 (2) 認定事実前記前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。 アダイクエンチチームの業務及び人員体制について (ア) ダイクエンチチームでは、一年度を4月から9月までの上期と10月から翌年3月までの下期とに分け、期ごとに担当業務の見直しを行っていた。 (イ) ダイクエンチチームの人員は、平成29年度上期までは、チームリーダーのLを含めて9名であり、スタッフリーダーがMとなっていた。し かし、平成29年度下期における本件担当業務見直しの際、平成30年1月からMが中国に出向することとなったにもかかわらず、人員の増員がなかったため、ダイクエンチチームの人員が8名に減少することとなり、個々の担当業務を大幅に見直す必要があった。なお、Mの上記出向に伴い、スタッフリーダーはPとなった。(乙1の1・697頁、乙2 3・3頁、証人P・3、4頁)特に、11月頃は、新規の部品の生産準備が入っており、ダイクエンチチーム全体としての業務量が多くなっていたこともあり、上記の減員と併せて、個々の業務量が増加することとなった(甲A51・3 、4頁)特に、11月頃は、新規の部品の生産準備が入っており、ダイクエンチチーム全体としての業務量が多くなっていたこともあり、上記の減員と併せて、個々の業務量が増加することとなった(甲A51・3頁、乙1の1・697、710頁、証人P・3、4頁、証人N・4頁)。 イ Kの担当業務について (ア) 本件担当業務見直し前の業務についてKは、従前より、主にトヨタの部品を扱うトヨタ系の生産ライン(本社9号ラインないし11号ライン)を担当しており、その他の生産ラインの経験はなかった。トヨタ系の生産ラインは、通電加熱方式(加熱炉がなく、材料の両端を電極で挟み、高電流を流して加熱する方式)であ ったが、他方、その他の生産ラインは、雰囲気加熱方式(900℃以上に保持された加熱炉に材料を投入して加熱する方式)であるとの違いがあった。また、プレスの方法についても、トヨタ系の生産ラインとその他の生産ラインとの違いがあった。(甲A51・5頁、乙1の1・91、874頁、証人P・25、26頁) (イ) 本件担当業務見直し後の業務(10月以降)についてKは、Pが担当していたATKの業務を担当することとなり、本社J59Cの生産準備、ATKJ59Cの生産準備、本社3号ラインのプレス機の設備対応、本社工場の安全・環境・BPC(事業継続計画)の推進及びレーザー・アーク溶接機の原単位改善・向上及びATKから原単 位改善・向上について問合せがあった場合の対応に係る業務を行った(乙1の1・697頁、乙21、23の6、7頁)。 なお、本社J59Cの生産準備、ATKJ59Cの生産準備、本社3号ラインのプレス機の設備対応及び本社工場の安全・環境・BCP(事業継続計画)の推進の具体的な内容については、後記aないしcのとお お、本社J59Cの生産準備、ATKJ59Cの生産準備、本社3号ラインのプレス機の設備対応及び本社工場の安全・環境・BCP(事業継続計画)の推進の具体的な内容については、後記aないしcのとお りである。 a ドアビーム(J59C)についてドアビーム(J59C)は、3月頃の情報では、4個の部品(金型)であり、当初はATKで全て生産する予定であった(甲A18)。しかし、6月頃、部品が増えて6個の部品になるとの情報があり、AT Kで全量生産するとその生産ラインの負荷が高くなってしまうことや、 追加された2個の部品の形状が特殊(花が開いたような形状のため「花開き」と呼ばれていた。乙17・2頁)であり、本件会社として初の技術を用いるための設備上の制約があったことから、増加分の2個の部品は、7月又は8月頃、本社工場で生産し(本社J59C)、当初の4部品については、ATKで生産する(ATKJ59C)という計 画となった(甲A15・4頁、乙22・1頁)。 (a) ATKJ59CATKJ59Cは、前任のPの下で金型を製作する工程を終了し、金型の調整の工程にあり、Kは、同工程の途中から、その生産準備を担当するようになった。ただし、Pも、12月まで引き続き同業 務を担当したため、Kが死亡するまで、引継ぎを兼ねて共に同業務を行った。ATKJ59Cの生産準備業務は、4個の部品(金型)を対象とするもので、通常よりも数が多かった。また、量産開始が平成30年9月の計画であり、通常よりも納期が短かった。(乙21、23・7、8頁、証人P・7、17、18頁、証人N19頁) (b) 本社J59C本社J59Cは、10月の段階で、まだ金型の製作の工程にあり、金型の調整(トライ)の段階になかった。なお、この生産拠点 8頁、証人P・7、17、18頁、証人N19頁) (b) 本社J59C本社J59Cは、10月の段階で、まだ金型の製作の工程にあり、金型の調整(トライ)の段階になかった。なお、この生産拠点をどこにするかに係る決定が遅れたため、その生産準備は遅れていた。 (甲A17・6頁、A34~36、乙23・6頁、証人P・23、 24頁)b 本社3号ラインのプレス機の設備対応について本社3号ラインにおいては、10月頃までに、前任のPが、設備仕様を検討し、設備メーカーとの打合せを行い、油圧配管を改造する工事の日程を調整し、電気(配線及び回路)に関する工事まで完了して いた。そこで、Kは、油圧配管改造工事への立会い及び同工事後のプ レス機の動作確認を担当することになった。(乙23・12頁)Kは、12月9日及び10日に実施された油圧配管取り回し変更工事に立ち会った(甲A12、乙23・12頁)。 c 本社工場の安全・環境・BCP(事業継続計画)について同業務は、設備処置時に残圧が残らないようにする安全対策のため の設備改造(A1化)に関するものであった。本件会社は、当時、BCP(事業継続計画)を推進しており、その流れがダイクエンチチームにも広がってきたため、Kが、本件担当業務見直しにより、その業務の担当に割り当てられた。Kは、同業務として、ツカサ機工株式会社に連絡を取り、11月10日に打合せをしたい旨の依頼をしたが、 日程が合わず、実施されなかった。(甲A13、14、乙1の1・700頁、23・6頁、証人P・38、39頁)ウ本件会社における時間外労働時間の規制について(ア) 本件会社では、1日当たりの時間外労働時間の上限が4時間、月間の時間外労働時間の上限が45時間とされており、これら時 人P・38、39頁)ウ本件会社における時間外労働時間の規制について(ア) 本件会社では、1日当たりの時間外労働時間の上限が4時間、月間の時間外労働時間の上限が45時間とされており、これら時間外労働時間 を超過する場合には、労働組合との事前協議が必要とされていた。また、当該事前協議があったとしても、月間の時間外労働時間の上限が55時間と定められており、原則としてこれを超過することは禁止されており、これを超過する時間外労働は、想定不能でやむを得ない事情がある場合であり、かつ労働組合(専従執行委員)との事前協議の上で決定されな い限りできないこととなっていた。加えて、月間の時間外労働時間が55時間を超過する者又は45時間を連続して超過する者については、健康診断の受診も義務付けられていた。(乙1の1・767~769頁)(イ) ダイクエンチチーム所属の従業員は、上記(ア)の労働時間規制を免れるため、勤怠管理システムに退勤のチェックを入れた後、IDカードをか ざさずにゲートを通るなどして退門記録を残さないなどの方法で、労働 時間について過少申告をしていた(甲A51・7、8頁、乙1の1・720、721頁、23・4、5頁、証人P・5、6頁、証人N・4、5頁)。 (3) 業務起因性の判断上記(1)の認定基準を踏まえて、Kが精神障害を発病した11月頃(遅くと も11月30日)までの出来事に係る心理的負荷の強度について、検討する。 ア時間外労働時間数について(ア) 本社における始業時刻a 原則(入門記録がある場合)原告は、原則として、入門時刻から10分後を始業時刻とすべきで ある旨の主張をし、他方で、被告は、原則として、勤怠月報によるべきである旨の主張をする。 この点について検 門記録がある場合)原告は、原則として、入門時刻から10分後を始業時刻とすべきで ある旨の主張をし、他方で、被告は、原則として、勤怠月報によるべきである旨の主張をする。 この点について検討するに、①ダイクエンチチームは本件担当業務見直し後の11月及び12月にかけて個々の業務量が大幅に増加し、特に繁忙であったこと(認定事実ア(イ))、他方で、②本件会社は月4 5時間又は月55時間以上の時間外労働を原則禁止していたこと(認定事実ウ(ア))、③Kを含むダイクエンチチーム所属の従業員らは、労働時間の過少申告をしていたこと(認定事実ウ(イ))、④Kの勤怠月報による残業時間は、8月55時間、9月45時間、10月45時間、11月55時間となっており、一貫して、上記の時間外労働時間規制 と全く同じ時間となっていること(乙1の1・92頁)がそれぞれ認められる。これらの事実によれば、ダイクエンチチームでは、業務量が大幅に増加した11月頃の前後を通じて、時間外労働を余儀なくされる程度に繁忙な状況にあり、Kは、本件会社の時間外労働時間の上限規制内に抑えるために、自らの労働時間を過少に申告していたこと が推認されるから、Kの始業時刻につき、勤怠月報の記載によって、 直ちに認定することはできない。 次に、出勤直後におけるKの勤務状況に関し、Pは、Kがダイクエンチチームの事務所に到着後すぐに仕事に取り掛かっていた旨の証言をし(証人P・34頁)、Oも、Kは朝早くに本件会社に出社して20分、30分と何もせずに過ごしていたことはあり得ず、仕事ができ る準備が整えば、仕事をしていたはずである旨の陳述をしているところ(甲A51・8頁)、これらの証言及び陳述は、前記にみた事実関係、すなわち、当時ダイクエンチチームは繁忙期 あり得ず、仕事ができ る準備が整えば、仕事をしていたはずである旨の陳述をしているところ(甲A51・8頁)、これらの証言及び陳述は、前記にみた事実関係、すなわち、当時ダイクエンチチームは繁忙期でありかつ個々人の業務量がかなり多かったことと整合しているということができ、上記の証言及び陳述のとおり、Kは、出勤してから可能な限り速やかに業 務を開始していたと認められる。また、入門時刻が記録される本件会社の正門からダイクエンチチームの事務所までの移動所要時間は徒歩約3分ないし5分程度であること(証人P・34頁、証人N・10頁、甲A51・8頁)が認められる。これらを総合すると、Kは、入門時刻から10分後には業務を開始していたと推認することができる。 よって、Kの始業時刻については、原則として、入門時刻の10分後とするのが相当である。 b メールによる修正(7月22日、同月31日、8月15日、9月4日、同月29日、10月27日)Kは、後記(a)ないし(f)の時刻において、メールを送信したことが 認められるところ、原告は、メールの作成には通常少なくとも5分を要するとして、メール送信時刻の5分前が入門時刻の10分後よりも早い場合又は入門時刻の記録がない場合には、当該メール送信時刻の5分前を始業時刻とすべきであると主張する。 Kが送信した各メールに関しては、送信先に対し発注を依頼するも ののほか、それ自体が短文となっているものについては、Kがこれら に先立って受信したメールを受けて送信したものであって(後記(a)ないし(f)掲記の各証拠)、受信メールの閲読や検討に要する時間があったものと考えられること、メールの送信に先立つパソコンやアプリケーションの起動に要する時間があることも考え併せると、原 後記(a)ないし(f)掲記の各証拠)、受信メールの閲読や検討に要する時間があったものと考えられること、メールの送信に先立つパソコンやアプリケーションの起動に要する時間があることも考え併せると、原告の主張のとおり、いずれについても、メールの送信に際しては少なくとも5 分を要するとみるのが合理的であり、メール送信時刻の5分前には業務を開始していたものと推認される。したがって、メール送信時刻の5分前が入門時刻の10分後よりも早い場合又は入門時刻の記録がない場合には、当該メール送信時刻の5分前を始業時刻とするのが相当である。 (a) 7月22日午前7時44分(乙1の1・454頁)(b) 7月31日午前11時25分(乙1の1・464頁)(c) 8月15日午前7時17分(乙1の1・493頁)(d) 9月4日午前7時22分(乙1の1・522頁)(e) 9月29日午前7時36分(乙1の1・566頁) (f) 10月27日午前7時43分(乙1の1・603頁)c その他の日(11月29日)11月29日については、入門記録もメール送信もないことからすれば、出勤時刻に記載のとおり、午後0時45分を始業時刻とするのが相当である。 (イ) 本社における終業時刻a 原則(退門記録がある場合)原告は、退門時刻の10分前を終業時刻とすべき旨の主張をし、他方で、被告は、原則として勤怠月報の記載によるべき旨の主張をする。 この点について、N及びOは、退勤時刻を付けた後に、退門までの 間に、仕事をすることがあった旨を陳述する(乙1の1・720頁、 733頁)。上記(ア)aと同様、勤怠管理システムにおける退勤時刻の記録を直ちに信用することができないことに加えて、実際に、Kが勤怠 とがあった旨を陳述する(乙1の1・720頁、 733頁)。上記(ア)aと同様、勤怠管理システムにおける退勤時刻の記録を直ちに信用することができないことに加えて、実際に、Kが勤怠月報における退勤時刻の後にメールを送信していたこと(乙1の1・463、473、489、510、517、528、558、565、579、590、610頁)が認められることに照らし、退門時刻の 直前まで可能な限りの業務を行っていたと認めるのが合理的であり、上記の陳述は信用することができる。同陳述に加え、上記(ア)aと同様、入門記録及び退門記録がされる本件会社の正門からダイクエンチチームの事務所までの移動所要時間が徒歩約3分ないし5分程度であることを総合すると、原則として退門時刻の10分前を終業時刻と認める のが相当である。 b メールの送信時刻による修正(9月2日)Kが、退門時刻の10分前よりも後の午後7時30分にメールを送信していること(乙1の1・521頁)から、同時刻を終業時刻と認めるのが相当である。 c パソコンのログオフ時刻による修正次の(a)及び(b)の各日においては、Kは退門時刻の10分前よりも後にパソコンのログオフをしているところ、Kを含むダイクエンチチーム所属の従業員らが残業時間規制を潜脱する方法で時間外労働に従事するほど繁忙であったという本件における事実関係をも総合すると、 Kはパソコンのログオフ時刻までは業務に従事していたことが推認できるから、これらの各時刻を終業時刻とするのが相当である(乙1の1・879、880頁)。 (a) 7月5日午後5時49分(b) 7月8日午後9時17分 d 退門記録がない日について(出張中を除く。) (a) 11月13日 1・879、880頁)。 (a) 7月5日午後5時49分(b) 7月8日午後9時17分 d 退門記録がない日について(出張中を除く。) (a) 11月13日①Oは、11月13日、社外での業務を行い、そのまま帰宅する予定であったが、設備不具合が発生したため、本社に帰社したこと(甲A45、46、51・1~2頁)、②Oは、同日午後9時26分、Kに対し、「帰れる?」とメールを送信し、同時刻に、Kは、 「かえるどこ?」と返信したこと(甲A2)がそれぞれ認められ、これらの事実によれば、上記メッセージは、Oが、会社に残っていたKに対し、一緒に退社できるかを尋ね、Kがこれに応じたものであるものと推認することができ、Kは、少なくとも同時刻まで、業務を行っていたと認められる。 したがって、同日の終業時刻は、午後9時26分とするのが相当である。 (b) 11月22日証拠(甲A3)によれば、Kは、11月22日午後11時07分、原告に対し、「帰れない。洗濯たのむごめん」とメールを送信して いることが認められる。Kは、日常的に、仕事から帰る際に、自宅や原告のスマートフォンにワンコールを入れることにしていた(乙1の1・686頁、原告本人4、5頁)にもかかわらず、同日においてワンコールを行った事実やその時間は明らかでないことからすると、Kは、少なくとも同日11時30分頃までは、業務に従事し ていたと推認することができる。 したがって、11月22日の終業時刻は、午後11時30分とするのが相当である。 (c) その他の日(6月5日、7月18日、同月31日、8月31日、9月5日、10月31日、11月2日、同月16日、同月17日、 同月20日、同月23日、同月28日) (c) その他の日(6月5日、7月18日、同月31日、8月31日、9月5日、10月31日、11月2日、同月16日、同月17日、 同月20日、同月23日、同月28日) 原告は、11月以降、退門記録がない日の終業時刻は平均して午後11時とすべき旨の主張をする。他方で、被告は、勤怠月報の記載によるべき旨の主張をする。 確かに、上記(ア)aと同様に、勤怠月報の退勤時刻の記載を直ちに信用することはできない。しかし、Nは、午後11時を超えたり、 日をまたいで午前3時頃まで仕事をしたりしたこともあった旨の証言をし(証人N・8~10頁)、Pも午前0時を回ったことがある旨の証言をする(証人P・30頁)一方で、両者とも、Kも同様に仕事をしていたことがあったか否かについては、明確に証言や供述をしていない。その他、Kが、退門記録がない日において平均して 午後11時頃まで仕事をしていたことを認めるに足りる客観的かつ的確な証拠はない。そうすると、退門記録がない日におけるKの終業時刻が平均して午後11時であったことを認めるには足りない。 他方で、ダイクエンチチームは、退門記録を残さないようにして、労働時間を過少に申告していたこと(認定事実ウ(イ))に加え、Kの 退門時刻のデータが不正となっている日について、10月は1回であったが、繁忙となった11月には7回と明らかに増加していること(乙1の1・852頁)からすれば、Kは、退門時刻のデータ不正となっている日において、勤怠月報の退勤時刻よりも相当時間長く業務に従事していたことが推認される。そして、この点について、 Pは、退門記録を通さずに帰った日には、勤怠月報の退勤時刻から2時間から4時間程度仕事をしていたと証言する(証人P・29~30頁)ところ、このPの証 とが推認される。そして、この点について、 Pは、退門記録を通さずに帰った日には、勤怠月報の退勤時刻から2時間から4時間程度仕事をしていたと証言する(証人P・29~30頁)ところ、このPの証言は、上記のとおり推認される事実関係と整合するものといえる。そうすると、Pが上記の退勤時刻のような勤務状況に関し、ダイクエンチチームの他のメンバーも同様の 方法で過少申告をしていたがKも同様であったかについてははっき りとは言えない旨の証言(証人P・29~30頁)をしていることを踏まえて控えめに換算しても、Kは、勤怠月報の退勤時刻から少なくとも2時間は業務に従事していたとみるのが合理的であり、その時刻を終業時刻とするのが相当である。 (ウ) 本社における休憩時間について 休憩時間について、原告は平均して40分とすべき旨の主張をし、他方で、被告は、1時間とすべき旨の主張をする。 この点について、証拠(乙1の1・756頁)によれば、所定就業時間における休憩時間は、午前11時45分から午後0時45分までの1時間とされているところ、Kが、上記1時間の休憩時間に業務を行って いたことを認めるに足りる的確かつ客観的な証拠は見当たらないから、原告の上記の主張は採用することができない。 したがって、休憩時間は、所定の1時間と認めるのが相当である。 (エ) ATKに出張中の労働時間についてa 11月23日(1回目の出張の初日) 証拠(乙1の1・170、852、881、883頁、17)によれば、Kは、いったん本社に出社し(入門時刻午前7時40分)、中部国際空港午後4時50分発の飛行機に搭乗し、福岡空港に午後6時15分に到着後、同行するPが福岡空港からレンタカーを運転し、宿泊先のホテルへ移動したことが認めら 出社し(入門時刻午前7時40分)、中部国際空港午後4時50分発の飛行機に搭乗し、福岡空港に午後6時15分に到着後、同行するPが福岡空港からレンタカーを運転し、宿泊先のホテルへ移動したことが認められる。 始業時刻については、上記ア(ア)と同様、入門時刻の10分後と認めるのが相当である。また、終業時刻については、勤怠管理システムにおける退勤時刻は午後5時とされているところ、同時刻までを労働時間とすることに争いはないから、午後5時を終業時刻と認めるのが相当である。 これに対し、原告は、出張期間中の移動時間も労働時間と認めるの が相当であり、ホテルに到着した時間と考えられる午後8時39分を終業時刻とすべきである旨の主張をする。しかし、出張先に赴く際に、公共交通機関を利用する場合や他者が運転する自動車に乗車した場合には、これらの移動に係る時間をどのように利用するかは原則として自由であり、労働からの解放が保障されているから、労働時間とは認 められないというべきであるところ、上記のとおり、Kは、11月23日午後5時以降、公共交通機関やPの運転する車に同乗していたものであり、その間使用者の指揮命令下にあったというべき事情もうかがわれないから、労働時間とは認められず、原告の上記の主張は採用することができない。 b 11月24日から同月26日まで原告は、ATKにおける入庫時刻の10分後及び出庫時刻の10分前を、それぞれ始業時刻及び終業時刻とすべきである旨の主張をする。 他方で、被告は、本件会社における勤怠打刻基準に準じ、入庫時刻直後の30分以内で毎時15分単位の時刻と推認し、終業時刻について は出庫時刻直前の30分以内で、毎時15分単位の時刻とすべき旨の主張をする。 この点について検討す 打刻基準に準じ、入庫時刻直後の30分以内で毎時15分単位の時刻と推認し、終業時刻について は出庫時刻直前の30分以内で、毎時15分単位の時刻とすべき旨の主張をする。 この点について検討するに、Pは、入門時に入庫時刻を記入してから実際に作業に取り掛かるまでの時間及び作業を終えてから退門時に出庫時刻を記入するまでの時間について大体15分と証言し(証人P・ 22頁)、Nは、ATKへの出張において、到着後10分もかからず業務に取り掛かったことや、Pの証言との時間の差異について、誤差であると思う、時計を見ていたわけではなく、体感でそれくらいであった旨の証言をしているところ(証人N・12、27頁)、それぞれの証言はほぼ同一であり、その信用性を疑わせる事情も見当たらない から、上記の各証言は信用することができる。Pの上記証言に加え、 Pが、KとともにATKに出張していたことからすれば、Kが入庫時刻から作業を始めるまでと、作業を終えてから出庫時刻までの時間は、それぞれ15分であったと推認することができる。したがって、ATKにおける入庫時刻の15分後を始業時刻と、出庫時刻の15分前を終業時刻と認めるのが相当である。他方で、労働時間は労働実態等を 客観的に検討し判断すべきものであり、本件会社における勤怠打刻基準を基に判断すべきものではないから、被告の上記の主張は採用することはできない。 そうすると、Kの11月24日から同月26日までの入庫時刻及び出庫時刻並びに始業時刻及び終業時刻は、次の(a)及び(c)のとおりで ある。 (a) 11月24日(乙1の1・886頁)入庫時刻午前7時33分、出庫時刻午後7時14分始業時刻午前7時48分、終業時刻午後6時59分(b) 11月25日(乙1の1・88 ある。 (a) 11月24日(乙1の1・886頁)入庫時刻午前7時33分、出庫時刻午後7時14分始業時刻午前7時48分、終業時刻午後6時59分(b) 11月25日(乙1の1・888頁) 入庫時刻午前7時38分、出庫時刻午後6時21分始業時刻午前7時53分、終業時刻午後6時06分(c) 11月26日(乙1の1・889頁)入庫時刻午前7時35分、出庫時刻午後5時18分始業時刻午前7時50分、終業時刻午後5時03分 c 11月27日(出張最終日)Kは、ATKに出社し(入庫記録午前8時13分、出庫記録午前9時20分)、午後2時40分発の飛行機で福岡空港を出発し、中部国際空港に午後4時に到着したこと(乙1の1・881、883、890頁)が認められ、その始業時刻は、上記bと同様、午前8時28分 とすべきである。また、11月27日は所定労働日であることに鑑み、 就業時間は、勤怠管理システムにおける退勤時刻の記載のとおり午後5時と認めるのが相当である。 d 11月30日(2回目の出張の初日)①Kは、いったん本社に出社し(入門時刻午前7時37分)、午後4時50分発の飛行機で中部国際空港を出発し、福岡空港に午後6時 15分に到着後、同空港から自らレンタカーを運転して宿泊先ホテル(HOTELAZ熊本和水店)に移動したこと(甲A7、乙1の1・852、881頁)、②同空港からホテルまでの所要時間は1時間6分とされていること(甲A6)がそれぞれ認められる。そうすると、前記ア(ア)a及び上記bと同様に、始業時刻は入門時刻の10分後であ る午前7時47分とし、終業時刻は自ら自動車を運転してホテルに到着したと推認される午後7時21分と認めるのが相当である。 e なお、出張 び上記bと同様に、始業時刻は入門時刻の10分後であ る午前7時47分とし、終業時刻は自ら自動車を運転してホテルに到着したと推認される午後7時21分と認めるのが相当である。 e なお、出張中の休憩時間は、1時間とする(当事者間に争いがない。)。 (オ) 小括以上によれば、Kの始業時刻及び終業時刻は、別紙3(省略)の労働 時間集計表に記載のとおりであり、その時間外労働時間数は、発病前1か月が85時間32分、発病前2か月が30時間47分、発病前3か月が17時間38分、発病前4か月が43時間44分、発病前5か月が47時間33分、発病前6か月が12時間51分となる。 イ仕事内容の変化について 原告は、Kが、本件担当業務見直しにより、過去に経験したことのない仕事内容、能力・経験に比して質的に高度かつ困難な仕事内容等に変更となり、常時緊張を強いられ、又はその後の業務に多大な労力を費やした旨の主張をする。他方で、被告は、Kの生産準備という業務内容に大きな変化はなかった旨の主張をする。 以下、本件担当業務見直し後のKの担当業務について検討する。 (ア) ATKJ59Cの生産準備についてKは、本件担当業務見直しにより、ATKJ59Cを担当することになったところ、①Kは、従前よりトヨタ系の生産ラインである本社9号ラインないし11号ラインの担当を行ってきており、その他の生産ラインの経験がなかったこと(認定事実イ(ア))、②本社9号ラインないし1 1号ラインは、ATKJ59Cを含むその他の生産ラインとは異なり、加熱方式やプレス方法が異なるものであったこと(認定事実イ(ア))がそれぞれ認められる。また、上司のLは、Kは「本社でトヨタ系の仕事をずっとしていたので、本人にとってはほかのラインでの仕 は異なり、加熱方式やプレス方法が異なるものであったこと(認定事実イ(ア))がそれぞれ認められる。また、上司のLは、Kは「本社でトヨタ系の仕事をずっとしていたので、本人にとってはほかのラインでの仕事が初めてで、そういう部分でいうと慣れていないということはあったと思います」と 陳述し(乙1の1・699頁)、また、同僚のPは、上記の担当業務がKにとって新しい業務であったと思う旨の証言をしている(証人P・45、46頁)。上記の業務内容の変化並びに上司及び同僚の証言等を総合すると、Kがダイクエンチについて経験を有していたことを踏まえても、ATKJ59Cの担当業務は、Kにとって、過去に経験したことの ない新しい業務であり、不慣れであったことにより、心理的負荷が高いものであったと認められる。また、ATKJ59Cが通常よりも生産する部品の個数が多い上に納期が短かったこと(認定事実イ(イ)a(a))による心理的な負荷も重なっていたことがうかがわれる。 他方で、被告は、ダイクエンチにおける金型やブランクの調整作業(ト ライ)は経験を積むことにより習熟するので、身体的・心理的負荷が軽減していくところ、Kはダイクエンチについての経験を有していたことから、ATKJ59Cの業務は、Kにとって心理的負荷が高いものとはいえない旨の主張をする。 確かに、Pは、トライの作業について習熟すれば回数を減らすことが できる可能性があり、また、トライ中に考えることを端的に考えられる ようになるため心理的負荷が軽減する旨の証言をする(証人P・2頁)。 しかし、他方で、Nは、経験を積んでもトライの回数や悩みが減るものではない旨の証言をしており(証人N・23、24頁)、経験の多寡が必ずしもトライの回数に反映されるとは限らないことがうかが ・2頁)。 しかし、他方で、Nは、経験を積んでもトライの回数や悩みが減るものではない旨の証言をしており(証人N・23、24頁)、経験の多寡が必ずしもトライの回数に反映されるとは限らないことがうかがわれるし、また、上記のとおり、KにとってATKJ59Cの生産業務は経験のな い新しい業務であることを踏まえると、Kのダイクエンチに係る経験をもって、その心理的負荷が低いものであったということはできない。 これに加えて、Kは、本件担当業務見直しの前において出張業務がほとんどなかったことに争いはないところ、その後、11月30日までの間に限っても、約1週間の間に2回出張したことになり、その勤務形態、 作業環境(使用する設備)等の変化があったことを考慮すると、ATKにおける仕事は、Kにとって大きな変化であったというべきである。 (イ) 本社J59CについてKは、本件担当業務見直しにより、本社J59Cを担当することになったことが認められるところ、これは、上記(ア)と同様に、Kにとって、 経験のない業務であったことが認められる。これに加えて、①製品の形状が、「花開き」という特殊な形状であって、本件会社でも初めて生産するものであったこと(認定事実イ(イ)a)、②これにより、生産拠点をどこにするかの決定が遅れたために、その生産準備が遅れていたこと(認定事実イ(イ)a(b))がそれぞれ認められ、Kにとって新規性のある業 務であり、かつ、困難な業務であったことがうかがわれる上に、生産準備の遅れによる心理的な負荷があったというべきである。 他方で、被告は、生産準備の遅れについて、取引先との折衝等についてはPが担当していたから、Kにとってこれによる心理的負荷は高いものではない旨の主張をするが、仮に取引先との折衝を担当していなかっ 方で、被告は、生産準備の遅れについて、取引先との折衝等についてはPが担当していたから、Kにとってこれによる心理的負荷は高いものではない旨の主張をするが、仮に取引先との折衝を担当していなかっ たとしても、担当者としてのプレッシャーになること自体は否定し難い。 (ウ) 本社工場の安全・環境・BCP(事業継続計画)の推進業務について認定事実イ(イ)cによれば、①本件会社は、当時、BCP(事業継続計画)を推進しており、その流れがダイクエンチチームにも広がってきたため、Kが、本件担当業務見直しの際に、その担当に割り当てられたこと、②Kは、その業務の一環として、関連企業であるツカサ機工株式会 社との間で、11月10日に会議を開催する段取りをつけていたが、日程が合わず、実施されなかったことがそれぞれ認められる。これらの事実に照らせば、Kは、新規の取組みの担当となり、実現こそしなかったものの、会議の段取りを組む等、過去に経験したことがない仕事内容に労力を割いていたことが認められる。 (4) 仕事内容・仕事量の変化に係る評価について上記(3)アで認定したとおり、Kの時間外労働時間数は、発病前2か月(10月)では30時間47分であったが、発病前1か月(11月)では約3倍に相当する85時間32分となっており、このような労働時間の大幅な増加は、それ自体、相当程度の心理的負荷がかかるものであったといえる。そし て、このように時間外労働時間が大幅に増加したKの業務の内容をみても、上記(3)イで認定及び判断をしたところによれば、Kには、従前経験したことのない不慣れな業務や困難な業務を複数行うことになったことや、生産準備が遅れていたことによる心理的な負荷が重なっていたと認められる。これらのことに加え、従前はあまり よれば、Kには、従前経験したことのない不慣れな業務や困難な業務を複数行うことになったことや、生産準備が遅れていたことによる心理的な負荷が重なっていたと認められる。これらのことに加え、従前はあまり経験のなかった遠方への宿泊付きの出張も重な るようになったこと、このような宿泊付きの出張業務に従事する中で11月22日から同月30日までの9日間、土日祝日における休日もなく連日の勤務を余儀なくされていたことを総合的に勘案すれば、その仕事内容・仕事量の変化に係る心理的負荷の強度は、「強」と認めるのが相当である。 (5) したがって、Kの精神障害の発病及び死亡は業務に起因するものと認める のが相当である。 4 小括上記3で認定及び判断をしたところによれば、原告による労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の請求に対して、Kの精神障害の発病及び死亡に業務起因性が認められないとして、これらを支給しないこととした本件各処分はいずれも違法であるから、取り消されるべきである。 第4 結論以上の次第で、原告の請求はいずれも理由があるから、これらを認容することとして、主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官五十嵐章裕 裁判官雨宮隆介 裁判官竹内峻

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