平成12年(ワ)第27776号商標権侵害差止等請求事件(口頭弁論終結日平成13年7月24日)判決原告北陸アルミニウム株式会社訴訟代理人弁護士飯田秀郷同栗宇一樹同早稲本和徳同秋野卓生同七字賢彦同鈴木英之補佐人弁理士佐藤正年同佐藤年哉被告日本ヘンケルス株式会社訴訟代理人弁護士山上和則同西山宏昭補佐人弁理士池内寛幸同中山光子 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙被告標章目録記載の標章を付したなべ類を輸入し,販売し,又は販売のために展示し,並びにその容器,包装紙及び広告に同標章を使用し 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙被告標章目録記載の標章を付したなべ類を輸入し,販売し,又は販売のために展示し,並びにその容器,包装紙及び広告に同標章を使用してはならない。 2 被告は,その占有する前項記載のなべ類を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対し,金781万2000円及びこれに対する平成13年1月6日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,別紙商標目録記載の商標について商標権を有する原告が,被告に対し,被告が同商標に類似する別紙被告標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)を付したなべ類を輸入販売して原告の商標権を侵害していると主張して,被告標章を使用することの差止め等を求めるとともに,不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。 1 争いのない事実(1) 原告は,次の商標権(以下「本件商標権」といい,この登録商標を「本件商標」という。)を有している。 登録番号第1275796号の2出願日昭和49年11月15日(商願昭49-150785号)登録日昭和52年6月10日更新登録平成9年6月10日商品の区分第19類指定商品なべ類,湯沸かし類,加熱器,流し台,調理台商標別紙商標目録記載のとおり(2) 被告は,平成12年7月ころから,被告標章を付したなべ類(以下「被告商品」という。)を輸入し,日本全国の少なくとも31店舗において販売している。 (3) 本件商標は のとおり(2) 被告は,平成12年7月ころから,被告標章を付したなべ類(以下「被告商品」という。)を輸入し,日本全国の少なくとも31店舗において販売している。 (3) 本件商標は,片仮名で「キャスト」と横書きして構成した文字商標であり,「キャスト」の称呼を生じる。 被告標章は,欧文字で「TWINCast」と横書きして構成した文字標章であり,「TWIN」と「Cast」の間には空白が設けられている。被告標章のうち,「TWIN」は大文字のみで構成され,「Cast」は「C」のみが大文字で,これに続く「ast」が小文字で構成されている。 2 争点(1) 被告標章は,本件商標と類似しているか。 (2) 被告の行為が,本件商標権を侵害するか。 (3) 損害の発生及び額 3 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)について【原告の主張】ア被告標章は,「TWIN」と「Cast」の間には空白が設けられていること,「TWIN」は大文字のみで構成され,「Cast」は「C」のみが大文字で,これに続く「ast」が小文字で構成されていること,「TWIN」が,我が国においてなべ類について著名性も周知性もないのに対し,原告の本件商標は,我が国において,これが付されたなべ類は原告の製品であると認識される識別力を有していることからすると,被告標章は,独立して認識される「TWIN」と「Cast」という少なくとも強弱のない同等な二つの要部からなる結合標章であって,全体としての一体性はない。 一体性のない結合標章(A+B)は,標章A,標章B,標章A+Bと同様の構成を有するA+X,B+Xとそれぞれ類似するから,本件商標と称呼が同一の「Cast」を含む被告標章は, 体性はない。 一体性のない結合標章(A+B)は,標章A,標章B,標章A+Bと同様の構成を有するA+X,B+Xとそれぞれ類似するから,本件商標と称呼が同一の「Cast」を含む被告標章は,本件商標と類似するというべきである。 イ我が国のなべ業界において,原告の本件商標は,上記のとおり特別顕著性を有しているところ,被告が被告標章を使用すれば混同が生じ,本件商標に化体した原告の信用が希釈してしまうから,このような被告標章は,本件商標と類似するというべきである。 【被告の主張】被告標章は,一体不可分の結合標章であり,その称呼は「ツインキャスト」であり,「二つのキャスト」又は「双子のキャスト」のように全体として一つの観念を生じる。 「キャスト」又は「Cast」は,「鋳造物」又は「鋳造する」という意味であり,なべ類の生産方法を示す語句であるから,商標法3条1項3号のいわゆる記述的表示であって,それ自体に識別力はないし,原告は,本件商標そのものを付したなべ類を販売していないから,原告の使用によって本件商標がこれを付したなべ類は原告の製品であると認識される識別力を有するに至ったということもない。 被告は,日本全国の有名デパートを始めとする約600の店舗で「TWIN」マークを付した商品を販売してきたから,「TWIN」は,刃物類はもとより,なべ類についても,高い識別力を有している。 したがって, 被告標章は,本件商標と類似しない。 (2) 争点(2)について【原告の主張】被告が被告標章を付した商品はなべ類であるから,本件商標権の指定商品と同一である。 したがって,被告標章を付したなべ類を輸入販売する被告の行為は,本件商標 【原告の主張】被告が被告標章を付した商品はなべ類であるから,本件商標権の指定商品と同一である。 したがって,被告標章を付したなべ類を輸入販売する被告の行為は,本件商標権を侵害するものとみなされる。 【被告の主張】ア被告標章の一部である「Cast」は,「鋳造物」を意味する普通名称又は「鋳造する」という意味の生産方法であるから,商標法26条1項2号により,被告標章には本件商標権の効力が及ばない。 イ原告は,本件商標を継続して3年以上使用しておらず,本件商標権は不使用取消審判によって取り消される可能性が高いから,原告の本件商標権に基づく請求は,権利濫用であって許されない。 【被告の主張に対する原告の反論】ア 「キャスト」又は「Cast」は,なべ類の需用者である一般主婦層において,普通名詞又は生産方法を示す語句と理解されることはないから,普通名称とも生産方法ともいうことはできない。 仮に,「キャスト」又は「Cast」が普通名詞又は生産方法であったとしても,被告は被告標章を識別標識たる商標として使用しているから,商標法26条1項2号を適用することはできない。 イ原告は,カタログ上に「キャスト」が原告の登録商標であることを記載するとともに,欧文字の「CAST」を図案化したマークを記載している。この「CAST」マークは,原告が製造販売するなべ製品(以下「原告商品」という。)の包装にも使用している。 原告は,原告商品に,「ピュアキャスト」,「トップキャスト」などの名称を付して販売している。 (3) 争点(3)について【原告の主張】被告は,平成12年7月から同年12月ま 商品に,「ピュアキャスト」,「トップキャスト」などの名称を付して販売している。 (3) 争点(3)について【原告の主張】被告は,平成12年7月から同年12月までの6か月間に,少なくとも31店舗で被告商品を販売した。 被告は,被告商品の販売によって,各商品の標準小売価格の少なくとも30パーセントの利益を得ている。 被告は,被告商品の販売によって,1店舗当たり,1か月間に少なくとも4万2000円の利益を得たから,上記期間に被告が得た利益の合計は,781万2000円を下らない。 したがって,原告は,781万2000円を,自己が受けた損害の額として請求することができる。 【被告の主張】原告の主張を争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)について(1) 前記争いのない事実に証拠(甲第2ないし第5,第14,第16ないし第23号証,乙第1,第5ないし第9号証,第10及び第11号証の各1,2,第12号証,第13号証の1,2,第15,第29,第30号証)と弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。 ア本件商標は,片仮名で「キャスト」と横書きして構成した文字商標であり,「キャスト」の称呼を生じる。 本件商標は,英単語の「cast」に由来するところ,英単語の「cast」には,「鋳造物」又は「鋳造する」という意味がある。 イ被告標章は,欧文字で「TWINCast」と横書きした文字標章であり,「TWIN」と「Cast」の間には,さほど大きくない空白が設けられている。被告標章のうち,「TWIN」は大文字のみで構成され,「Cast」は「C」のみが大文字で,これに続く「ast」が小文字で構 ,「TWIN」と「Cast」の間には,さほど大きくない空白が設けられている。被告標章のうち,「TWIN」は大文字のみで構成され,「Cast」は「C」のみが大文字で,これに続く「ast」が小文字で構成されている。「TWINCast」の書体は,すべての文字について同一であり,大文字と小文字の差を除くと,文字の大きさはほぼ均一である。 被告標章の「TWIN」の部分からは,「ツイン」の,「Cast」の部分からは,「キャスト」の称呼を生じる。 被告標章は,英語としては,「双子の鋳造物」という意味がある。 ウ被告は,被告標章を使用するに当たり,「TWIN」と「Cast」を常に一体として表記しており,「TWIN」を分離,省略して「Cast」のみを表記したり,「Cast」の文字を強調して用いることはない。 エ① 原告は,アルミニウム製品の製造業者であり,アルミ鋳造製品の国内市場における原告のシェアは,平成12年度には36.3パーセントであった。 ② 原告は,原告商品を「アルミキャスト《鋳造》製厚手調理器」と称し,商品の包装やカタログに,「アルミキャスト《鋳造》製厚手調理器」,「アルミキャスト《鋳造》製」,「キャスト製」などと表示するとともに,原告が別途商標登録している,「CAST」を図案化したマークを表示している。原告商品の名称の中には,「キャステージ」,「ピュアキャスト」,「トップキャスト」,「キャストロ」というものがあるが,「キャスト」自体が名称となっているものはない。 ③ 原告商品のカタログには,1頁目に「キャスト」と表示し,その下に小さく「キャストは当社の登録商標です。」と記載しているものがあるが,26頁に及ぶそのカタログのその余の部分には,「キャスト」を単独で使 原告商品のカタログには,1頁目に「キャスト」と表示し,その下に小さく「キャストは当社の登録商標です。」と記載しているものがあるが,26頁に及ぶそのカタログのその余の部分には,「キャスト」を単独で使用した記載はなく,上記②のような記載がされているのみである。その他,原告商品の包装,カタログなどに「キャスト」を単独で使用した記載はない。 オ被告の親会社であるツヴイリング・ヨット・アー・ヘンケルス・アクチエンゲゼルシヤフト(以下「ヘンケルス本社」という。)は,日本を含む世界各国で「TWIN」の商標を付した商品を販売している。日本においては,被告が,昭和48年に設立されて以来,各地のデパート等の販売店で,包丁を始めとする台所用品に「TWIN」,「Twin」,「ツイン」又は双子のマークを付して販売している。被告は,被告標章を,被告が販売する「TWIN」シリーズのアルミ鋳造なべの商標として使用している。 ヘンケルス本社は,日本においても,刃物類を含む指定商品について,「i」が双子のマークでデザイン化された「Twin」について商標権を有している。 また,ヘンケルス本社が出願していた被告標章は,平成13年6月29日,なべ類を含む指定商品について,商標登録された。 (2)ア原告は,被告標章は,「TWIN」と「Cast」という少なくとも強弱のない同等な二つの要部からなると主張するので,まず,「TWIN」と「Cast」の識別力について検討する。 上記(1)で認定した事実と弁論の全趣旨によると,①被告標章では,「Cast」が「C」のみが大文字で,これに続く「ast」が小文字で構成されているのに対し,「TWIN」はすべて大文字で構成されていることから,外観としては,「TWIN」の方がやや強調さ 標章では,「Cast」が「C」のみが大文字で,これに続く「ast」が小文字で構成されているのに対し,「TWIN」はすべて大文字で構成されていることから,外観としては,「TWIN」の方がやや強調されていること,②「Cast」については,「cast」は「鋳造物」又は「鋳造する」という意味の英単語であるから,なべ類等において,このような意味を持つ「Cast」部分は,出所を識別する機能が弱いといわざるを得ないこと,③原告商品のパンフレットには,1頁目に「キャスト」と表示しているものがあるが,その他に,原告商品の包装,カタログなどに「キャスト」が単独で使用されているものはなく,「CAST」を図案化したマークが付されたり,商品に「キャスト」を含む名称が使用されているのみであり,一方,原告は,「アルミキャスト《鋳造》製」などといった表示をして,「キャスト」を「鋳造」という生産方法を意味するものとしても使用しているから,原告商品のアルミ鋳造製品市場におけるシェアが高いとしても,「キャスト」が原告商品を表すものとして高い識別力を有しているということはできないこと,④「TWIN」については,被告が販売する商品には,「TWIN」,「Twin」,「ツイン」又は双子のマークが付されており,包丁等の刃物類については,「TWIN」が被告の商品を表すものとして広く知られているということができるところ,包丁等の刃物類となべ類は,いずれも台所用品であるから,販売場所及び需用者において重なる部分があること,以上のとおり認められる。 以上を総合すると,被告標章において,「Cast」部分の識別力が高いということはできないのに対し,「TWIN」部分は,「Cast」部分を上回る,一定の識別力を有しているから,被告標章が「TWIN」と「Cast」という強弱のな おいて,「Cast」部分の識別力が高いということはできないのに対し,「TWIN」部分は,「Cast」部分を上回る,一定の識別力を有しているから,被告標章が「TWIN」と「Cast」という強弱のない同等な二つの部分からなっているということはできない。 イ次に,被告標章の外観が全体として一体性を有しているかどうかについて検討する。 前記(1)で認定した事実と弁論の全趣旨によると,被告標章は,「TWIN」と「Cast」の間に空白が設けられているものの,その空白は大きいものではないこと,被告標章は文字の書体が同一であること,文字の大きさが均一であること,被告標章は常に一体として表記され,略称されることがないこと,以上のとおり認められるから,被告標章の外観は,全体として一体性を有していると認められる。 ウそうすると,被告標章は,「TWIN」部分と,それより識別力が劣り,識別力が高いとはいえない「Cast」部分が結合した標章であり,その結合は,外観において一体性を有しており,前記(1)認定のとおり,称呼においても分離,略称されることはないから,全体として一体をなしていると認めることができる。 (3) そこで,被告標章全体を一体として,本件商標と対比すると,以下の各事実が認められる。 ア前記(1)認定のとおり,本件商標は片仮名で「キャスト」と横書きして構成したものであるのに対し,被告標章は欧文字で「TWINCast」と横書きして構成したものであるから,両者の外観は全く異なる。 イ前記(1)認定のとおり,本件商標は「キャスト」の称呼を生じるのに対し,被告標章は「ツインキャスト」の称呼を生じるのであるから,両者の称呼は異なる。 ウ前記(1)認定のとおり,本件商 イ前記(1)認定のとおり,本件商標は「キャスト」の称呼を生じるのに対し,被告標章は「ツインキャスト」の称呼を生じるのであるから,両者の称呼は異なる。 ウ前記(1)認定のとおり,本件商標は,英単語の「cast」に由来し,英単語の「cast」には,「鋳造物」又は「鋳造する」という意味があるから,本件商標は,そのような観念を生じるのに対し,前記(1)認定のとおり,被告標章は,英語としては,「双子の鋳造物」という意味があるから,そのような観念を生じるところ,これらの観念は異なる。「鋳造」という部分は共通するが,「鋳造」はなべの生産方法であるから,このような観念が特に注意を引くということはない。 以上述べたところからすると,本件商標と被告標章が類似するとは認められない。 2 以上によると,その余の点につき判断するまでもなく,原告の本訴請求は,いずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部裁判長裁判官森義之 裁判官内藤裕之 裁判官 男澤聡子 別紙 被告標章目録
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