令和7年(ラ)第10003号仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件(原審・東京地方裁判所令和6年(ヨ)第30028号)決定 抗告人サムスンバイオエピスカンパニーリミテッド 同代理人弁護士大野聖二多田宏文 盛 田 真智子同代理人弁理士佐藤眞紀同補佐人弁理士大木信人 相手方リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド 同代理人弁護士阿部隆徳落合 馨 浦井久蔵同補佐人弁理士松井仁志主文 1 本件抗告を棄却する。 2 抗告費用は抗告人の負担とする。 3 抗告人のため、この決定に対する特別抗告及び許可 抗告の申立てのための付加期間を30日と定める。 理由 第1 抗告の趣旨及び理由 1 抗告の趣旨(1) 原決定を取り消す。 (2) 相手方は、厚生労働省及び独立行政法人医薬品医療機器総合機構に対し、抗告人の製造販売承認申請に係る医薬品であるアフリベルセプトBS硝子体内注射液40mg/mL「GRP」(「SB15」)の製造販売行為が特許第6855480号及び特許第7233754号を侵害する旨を告知してはならない。 (3) 手続費用は、原審、抗告審を通じて、相手方の負担とする。 2 抗告の理由本件抗告の理由は、抗告理由書に記載のとおりであり、これに対する相手方の反論は、答弁書及び相手方第1主張書面に各記載のとおりであるから、これらを引用する。 第2 事案の概要等(略語は原決定の例による。)本件は、抗告人が、原決定別紙特許権目録記載の各特許権(本件特許権)を有する 相手 第1主張書面に各記載のとおりであるから、これらを引用する。 第2 事案の概要等(略語は原決定の例による。)本件は、抗告人が、原決定別紙特許権目録記載の各特許権(本件特許権)を有する 相手方に対し、相手方が厚生労働省(厚労省)及び独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA。厚労省と併せて「厚労省等」)に対して抗告人が原決定別紙債務者製品目録記載の製品(債務者製品)のバイオ後続品である原決定別紙債権者製品目録記載の製品(債権者製品)をその添付文書に「中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性」を適応症と記載して製造販売する行為は本件特許権を侵害する旨を告知する ことは、不正競争防止法(不競法)2条1項21号所定の不正競争に当たるとし、同法3条1項に基づく同告知行為の差止請求権を被保全権利として、同告知行為を差し止める仮処分命令の申立てをする事案である。 原審は、相手方による厚労省等に対する情報提供は、パテントリンケージ制度に基づく医薬品特許情報提供の趣旨に照らして相当性を有するものと認められ、正当な行 為として違法性が阻却されるから不正競争に当たるとはいえず、また、他に抗告人の 営業上の利益が侵害されるおそれや保全の必要性があるともいえないとして、抗告人の申立てを却下したため、抗告人がこれを不服として本件抗告をした。 第3 当裁判所の判断 1 本件に関連する事実関係は、原決定の「理由の要旨」の第2の2(2頁21行目~6頁20行目)及び第3の1(7頁24行目~12頁1行目)に各記載のとおり であるからこれらを引用する。 2(1) 不競法2条1項21号は、「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」が不正競争に当たる旨規定している。そして、不競法は、営業の自由の保障の下 する。 2(1) 不競法2条1項21号は、「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」が不正競争に当たる旨規定している。そして、不競法は、営業の自由の保障の下で自由競争が行われる取引社会を前提に、経済活動を行う事業者間の競争が自由競争の範囲を逸脱して濫用的に行われ、あるいは、社会 全体の公正な競争秩序を破壊するものである場合に、これを不正競争として防止しようとするものであること(最高裁平成17年(受)第575号同18年1月20日第二小法廷判決・民集60巻1号137頁参照)に照らすと、不競法2条1項21号にいう「営業上の信用」とは、取引社会における事業者の経済的価値に対する社会的評価であって、当該事業者と取引を行うかの意思決定に影響を与え得るものをいうと解 するのが相当である。 これに対し、医薬品の製造販売の承認は、厚生労働大臣が、医薬品等の品質、有効性及び安全性の確保並びにこれらの使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止のために必要な規制として、薬機法により与えられた権限と責任に基づいてする行政処分であって、自由競争が行われる取引社会における取引とは明らかに性質が異 なる。そして、厚労省等が、医療用後発医薬品(バイオ後続品を含む。以下「後発医薬品」という。)の承認審査に当たり、既承認の医療用医薬品(先行バイオ医薬品を含む。以下「先発医薬品」という。)と後発医薬品との特許抵触の有無を確認するため、先発医薬品の有効成分に係る物質特許又は用途特許の特許権者等(以下「先発医薬品の特許権者等」という。)に対して、医薬品特許情報報告票をPMDAに提出す るよう求めるほか、具体的な承認審査の場面において、必要に応じて、先発医薬品の 特許権者等に補足説明を求めることは、厚生 」という。)に対して、医薬品特許情報報告票をPMDAに提出す るよう求めるほか、具体的な承認審査の場面において、必要に応じて、先発医薬品の 特許権者等に補足説明を求めることは、厚生労働大臣がその権限を適切に行使する前提としての行政処分に先立つ情報収集行為である。そこでは、厚労省等において、後発医薬品の申請者の経済的価値に対する社会的評価を形成することが想定されているとはうかがわれない。また、厚生労働大臣は、後発医薬品の承認審査において、先発医薬品の特許権者等からの提供情報だけでなく、諸般の事情を総合考慮し、自らの 権限と責任においてその判断をするものである上に、先発医薬品の特許権者等から提供される情報は一般に公開しないとされているのであるから、同情報が市場に伝ぱして取引社会における申請者の経済的価値に関する社会的評価が低下するおそれがあるということもできない。 以上によると、先発医薬品の特許権者等が、厚労省等に対し、後発医薬品の製造販 売等が特許権を侵害する旨の情報提供をすることは、不競法2条1項21号の「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知」することには当たらないと解するのが相当である。 したがって、相手方の行為は、不競法2条1項21号の不正競争に当たらないから、抗告人が、同法3条1項に基づく差止請求権を有するということもできない。 (2) 抗告人は、債権者製品が有効な特許権を侵害する旨を相手方が厚労省等に告知することは、これにより、厚労省等に承認後に債権者製品が安定的に供給されるかどうか等に関して不安を抱かせるものであること等において、抗告人の営業上の信用を害するものであると主張する。 しかし、前記のとおり、医薬品の製造販売の承認は、自由競争が行われる取引社会 における取引とは性質 不安を抱かせるものであること等において、抗告人の営業上の信用を害するものであると主張する。 しかし、前記のとおり、医薬品の製造販売の承認は、自由競争が行われる取引社会 における取引とは性質が異なり、薬機法に基づき、厚生労働大臣が有する権限と責任においてされる行政処分であるところ、取引社会における公正な競争秩序を保護するための不競法の規律を、行政処分に先立つ情報収集手続にまで押し及ぼすことは、不競法が当然には予定するところではないというべきである。そして、後発医薬品の承認審査に当たり、厚労省等が、後発医薬品の申請者の経済的価値に対する社会的評価 を形成することが想定されているとはうかがわれず、また、先発医薬品の特許権者等 から厚労省等に対して提供される情報は一般に公開しないとされていることなどからして、同情報の提供をもって、申請者の経済的価値に関する社会的評価が低下するおそれがあるともいえないことは、前記のとおりである。 抗告人の主張は採用することができない。 3 よって、本件申立てには理由がなく、これを却下した原決定は結論において相 当であり、本件抗告には理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり決定する。 令和7年8月13日知的財産高等裁判所第1部裁判長裁判官本多知成 裁判官伊藤清隆 裁判官天野研司
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