平成13(ネ)1029 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成15年3月12日 名古屋高等裁判所 名古屋地方裁判所 平成8(ワ)4931
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判決文本文28,371 文字)

主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人ら(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人らは,控訴人らそれぞれに対し,各自金7269万0356円及びこれに対する平成6年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 (4) (2)につき,仮執行宣言 2 被控訴人ら主文と同旨第2 事案の概要 1 本件は,大学の山岳部員として登山中滑落事故により死亡した学生の両親である控訴人らが,山行のリーダーを務めた被控訴人A,緊急連絡先を務めた被控訴人B及び山岳部のOBで登山本部を務めた被控訴人Cに対しては,債務不履行又は不法行為に基づき,大学の設置者である被控訴人国に対しては,安全配慮義務違反に基づき,損害の賠償を求めた事案であるが,原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却した。 2 当事者の主張は,以下のとおり原判決を付加訂正し,当審主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」の「第2 事実関係」に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 原判決の付加訂正(1) 原判決9頁11行目の「守っていこう」を「守っていこうと」と,同10頁7行目の「ウ(ア),(イ)」を「ウ,エ」と,それぞれ改める。 (2) 同10頁9行目の「原告らは,」の後に「被控訴人A,同B及び同Cに対しては債務不履行又は不法行為に基づき,被控訴人国に対しては安全配慮義務違反に基づき,」を加える。 4 控訴人らの当審主張(1) 本件ルートの危険性ア原判決は,本件滑落現場にフィックスロープが張られていたこと,及び,同所は,メンバーが前日登ったばかりの場所であり,その際,すれ違った他のパーティーが,フィックスロープにシュリンゲ,カラビナ等で確保 原判決は,本件滑落現場にフィックスロープが張られていたこと,及び,同所は,メンバーが前日登ったばかりの場所であり,その際,すれ違った他のパーティーが,フィックスロープにシュリンゲ,カラビナ等で確保しながら1人ずつ慎重に降りている様子を,亡Dを含めて本件山行のパーティー(以下「本件パーティー」という。)のメンバー全員が見ていたことを認めている。 これらの事実からいえることは,本件滑落現場はロープの使用が必要な危険個所であるということである。 イ飛騨山岳会会員であるEの陳述書(乙13・6頁以下)によれば,飛騨山岳会会員のEたちは,プルージック結びによって確保しつつ,蒲田富士直下の本件滑落現場を下りたが,本件事故現場とまったく同一の場所で,プルージックで確保しながら下りた者でも,なお足を滑らせた登山者が現実に存在した。 この飛騨山岳会のケースから明らかなように,シュリンゲを使用した安全確保の必要のある本件滑落現場は,プルージック結びによる確保手段を適切に実行できるリーダーがいて,初めて通過することのできる危険度の高いコースなのである。 ウ原審で提出された証拠には,次のようなものもある。 (ア) 飛騨山岳会のEの陳述書(乙13)の6頁によれば,「その場所の傾斜は45~50度くらいの急斜面だった」とされている。 (イ) この斜度については,乙11・写真報告書の写真3及びその写真の下に書かれたコメントに「雪面の傾斜は45度(国土地理院1/25,000地形図より計測)と記されているところと符合する。 (ウ) そして,同じ写真3の被写体として写されている被控訴人Cは,「独自のロープを使っている」と記されている。 (エ) この現場は,「山と渓谷」1994年2月号の写真(乙3・5丁表の右下の写真,「蒲田富士直下に現れる岩稜帯。不安を感じたら,ためらわずに 訴人Cは,「独自のロープを使っている」と記されている。 (エ) この現場は,「山と渓谷」1994年2月号の写真(乙3・5丁表の右下の写真,「蒲田富士直下に現れる岩稜帯。不安を感じたら,ためらわずにロープを出そう」とのキャプションがつけられているもの。)にも写されている。 (オ) 「日本冬山登山ルート集」(甲5)の16頁によれば,技術度・体力度ともに星が4つ付けられており,上級者向きのコースと評価されている。 そして,同16頁では,「蒲田富士直下のルンゼと,荒井沢のコルからのルンゼが急峻で,状況に応じロープが必要。」とされ,さらに同17頁の最後では,「下山は同じルートを戻るが,荒井沢のコルへの下降と蒲田富士からのルンゼの下降が,登り以上に難しくなる。」とされている。 (カ) 以上の証拠によれば,本件ルートは上級者向きの危険なコースであり,本件滑落場所等においてロープ(ザイル)が必要となることを十分に認定しうる。 エ原判決は,これらの明白な証拠があるにもかかわらず,積雪期の奧穂高岳往復という本件ルートの危険性を全く考慮せず,亡Dの滑落現場における過失が,本件事故の原因であると判断した。 しかし,本件ルートの危険性についての認定判断は,事前訓練不十分の過失,ルート選択の過失,装備不十分の過失に直接関係するものであって,その認定判断は,判決結果に重大な影響を及ぼすものであること明らかである。 (2) 本件パーティーの力量とルート選択についての過失ア冬山登山においては,目的とする冬山の難易度を具体的に把握し,そのルートにパーティーの個々のメンバーが堪えられるかどうかの実質的吟味をしなければならない。 吟味の内容として,自分たちのパーティーのうち最も経験の浅い者がこの冬山コースを踏破できるかという点に基準を置いて,体力,雪上技術,滑落停 が堪えられるかどうかの実質的吟味をしなければならない。 吟味の内容として,自分たちのパーティーのうち最も経験の浅い者がこの冬山コースを踏破できるかという点に基準を置いて,体力,雪上技術,滑落停止技術,ロープワーク(ザイルワーク)の技術をメンバーが有しているかどうかをチェックし,目指すルート中の具体的危険箇所をこのパーティー全員が昇り降りできるかを確認しなければならない。 イそして本件ルートにおいては,ロープを必要とする難所があり,本件ルートは危険なコースであることは事前の調査で簡単に分かることであって,まず,現場における身体動作の過失を論ずる以前に,事前準備の段階で過失がなかったかを吟味しなければならない。 ウ控訴人らが原審係属中に,日本国内の主要山岳団体をサンプルとして行ったアンケートに対し,回答を寄せたほとんど全ての山岳関係者は,事前準備,特にロープの必要性を認めている。 なぜ,ロープが必要となるかといえば,危険箇所の通過の際,飛騨山岳会のEのいうように(乙13),フィックスロープに短いロープ(シュリンゲ)をプルージック結びで結びつけ,これを掴んで降りることで滑落が防げることと,フィックスロープがない場合に2名がロープで確保しながら下降することで,滑落を防げるためである。 エロープによる確保(固定ロープとシュリンゲ,カラビナを使う方法と,スタカットの確保技術を使う方法の双方)は,登山者が3点確保をとりにくい場所や,初心者が3点確保しにくい場合に備えて,用いられるものである。 すなわち,ロープの使用は,3点確保以前に考慮され,実行されなければならないものなのである。 本件では,3点確保の失敗以前にとらなければならない結果回避行為(ロープの使用)があったのに,本件パーティーは,その結果回避のための準備もなく,かつ結果 実行されなければならないものなのである。 本件では,3点確保の失敗以前にとらなければならない結果回避行為(ロープの使用)があったのに,本件パーティーは,その結果回避のための準備もなく,かつ結果を回避するだけの能力を涵養していなかったのである。 オ被控訴人Aのルート選択に関する過失(ア) 原判決は,「メンバーが安全に山行することが不可能又は困難なルートであった」旨の控訴人らの主張に対し,「また,日頃からロープワークの訓練を重ね,これに習熟していればこそ,現場においてその本来の効用を全うさせることができるものと解されるところ,被控訴人Aや亡Dの平成5年中の活動状況やF,Gの訓練内容をみる限り,同人らがロープワークに習熟していたとは認められないことに照らせば,上記装備があれば本件の滑落を防止することができた蓋然性があるとは認められず,従って,装備の不備と本件事故との間に相当因果関係は認められない。」旨判断した。 (イ) しかし,本件ルートには前記のとおり「ロープが必要な箇所」があり,特に,初心者であるF,Gを同行している本件パーティーにとって,蒲田富士直下の本件滑落現場を下るとき,ロープが必要となるのである。このような危険箇所において,フィックスロープとシュリンゲによる確保,若しくは2名によるロープワーク(確保技術)を身につけていない者は,そもそも,このルートに入ってはいけないのである。 「ロープを持っていっても使う技術がない」という認定から導かれる論理的帰結は,生命・身体の安全のために,本件パーティーはこのルートに入ってはならないという結論でなければならない。 (ウ) ロープを使えない者に真冬の奧穂高岳を往復させるということそのものが,本件ルートの危険性に堪える能力のない者の生命・身体をこのルートの危険にさらすということであり,そ 論でなければならない。 (ウ) ロープを使えない者に真冬の奧穂高岳を往復させるということそのものが,本件ルートの危険性に堪える能力のない者の生命・身体をこのルートの危険にさらすということであり,そのこと自体が違法なのである。 ロープワークのできないパーティーは本件ルートに入ってはならないのである。 (エ) 冬山の訓練不十分で,滑落事故を防ぐロープワークを身につけていない本件パーティーが,ロープの使用が必要な箇所のある上級者向きの危険な本件ルートに入るという計画を立てたことそのものに,被控訴人Aの「ルート選択上の過失」がある。 (3) ロープを携行しなかったことと本件事故との間の相当因果関係の存在アロープによる滑落防止方法としては,フィックスロープ(固定ロープ)としてロープを使用する方法と,スタカット(隔時登攀)というロープワークを用いる方法とがある。 これらの滑落防止技術を,まず冬山登山のリーダーがマスターし,次にリーダーが中心となって,サブリーダー以下のメンバーに雪上訓練を行い,これらのロープワークに習熟させておくことが必要不可欠である。 イ上記のような方法でロープを使用することによって,滑落は簡単に防ぐことができるのであって,ロープ使用によって本件事故が防止されることの因果関係は明白に存在するのである。 ウ原判決の「相当因果関係」の判断基準の誤り(ア) 原判決は,相当因果関係を否定する理由として,本件パーティーのメンバーはロープワークに習熟しておらず,ロープを持っていたとしても事故を防げる蓋然性があるとはいえないことを判示している。 この見解は,ロープワークのできない技量未熟な本件パーティーを基準として相当因果関係の存在を否定するものであり,行為者標準説をとるものである。 (イ) しかし,民事の損害賠償責任論における因 。 この見解は,ロープワークのできない技量未熟な本件パーティーを基準として相当因果関係の存在を否定するものであり,行為者標準説をとるものである。 (イ) しかし,民事の損害賠償責任論における因果関係について,判例は相当因果関係説を採用しており,相当因果関係における原因と結果との間の関係は,一般人を標準として,通常Ⅰという原因があれば,通常Ⅱという結果が生じるとき,ⅠⅡ間の相当因果関係の存在が認められるのである。 (ウ) 本件についてこれをみれば,冬山登山における「一般人」を標準とし,本件事故現場において,ロープを使用した場合には通常滑落を防ぐことができるといえるならば,ロープ使用と滑落防止の間の相当因果関係が肯定されるのである。 (エ) ここで判断の標準とされるべきは,「冬山登山の通常の経験を有する平均人」である。訓練,知識,体力,ピッケル・アイゼン等の雪上技術,ロープワークなどについて,平均的な経験と能力を有する者を標準としなければならない。経験と能力の劣る初心者や無知の登山者を標準として,相当因果関係の存否を論ずることは許されない。 現実には,抽象的な平均人は架空の存在であって現存しないから,山岳関係者の経験則に照らして,どのように判断されるかということに帰着する。そして,この点につき,山岳関係者は,ロープを使って確保して本件事故現場を下降していれば,事故は防げたとの結論で一致している。 (オ) そうすると,本件において冬山登山における一般人を標準として相当因果関係の存在について判断した場合,ロープの不携帯と本件事故との間に相当因果関係があるといわなければならない。 (4) 引率登山とリーダーの責任ア 「危険引き受けの法理」の基礎(パーティーの実態の実質的把握)本件登山が引率登山か自主登山かの問題について論ずるに際し,まず 関係があるといわなければならない。 (4) 引率登山とリーダーの責任ア 「危険引き受けの法理」の基礎(パーティーの実態の実質的把握)本件登山が引率登山か自主登山かの問題について論ずるに際し,まず最初に考慮されなければならないことは,本件パーティーの実態に関する実質的検討である。本件パーティーが全員大学生であるからという外形的,形式的理由によって本件登山の性格を決定することは,事故の原因追及そのものを形式化させるとともに,保護法益である生命・身体の唯一無二性を全く看過するものであって,形式的判断にとどまることは許されない。 けだし,この登山の性格は,本件山行に参加したメンバーが自己の生命に対する危険を自ら引き受けたといえるか否かの重要な法的判断にかかわり,「仮に,この山行で自分の生命が失われることがあってもその責任は自分自身が負うものであって,他者に帰責しない」という「危険引き受けの法理」を本件に適用しうるかどうかの判断に際し,信義公平の原則に照らし,生命についての危険を全て行為者自身が引き受けることを是認するに足りる前提事実が,現実に存在したかどうかを実質的に検討しなければならないからである。 自己の生命という究極の法益を失ってもそれは全て自己の責任であるという合意ないし規範が妥当するためには,生命の唯一無二性に照らし,生命の危険を引き受けることを正当化するに足りる事情が必要である。単に,メンバーが大学生であるから,生命の危険についても自己決定したのだと短絡することは,生命というかけがえのない法益の性格を無視するもので許されない。 そもそも「危険引き受けの法理」そのものが,当事者の公平の観点から,危険をメンバー間に分担する趣旨の理論であり,その根底には信義公平の原則が厳然として存在するのである。この信義公平の原則は形式的公平を排 そも「危険引き受けの法理」そのものが,当事者の公平の観点から,危険をメンバー間に分担する趣旨の理論であり,その根底には信義公平の原則が厳然として存在するのである。この信義公平の原則は形式的公平を排し,実質的公平を求めるものである。 また,ここにいう「危険」について,文部省登山研修所発行の「高みへのステップ」によれば,「登山者が状況を判断し適確に対応できる能力を持っていてもなお,予測不可能な荒天,落雷,雪崩,落石,転滑落など多分に不可抗力的な危険,能力の限界を超え避けることのできない危険を意味する」とされ(甲7・34頁),「引き受けた危険」の内容は「登山者の判断力」と「現実対応力」の能力を実質的に検討しなければ,具体的に論定できない性質のものなのである。 よって,本件登山が引率登山か自主登山かを決するには,まず本件パーティーの実態について,実質的な分析,把握をすることが必要不可欠である。 イ原判決の形式主義(ア) 原判決は,第1に,亡Dがサブリーダーという立場にあるという形式的理由により,リーダーの被控訴人Aの亡Dに対する注意義務を否定している。 第2に,たった1回だけの冬山経験,しかも難易度が本件ルートと全く異なる冬山入門コースの経験しかない亡Dを,「冬山登山の経験のある被告Aと亡Dと」と,あたかも被控訴人Aと同程度の冬山経験があるかのごとく形式的に並記し,その冬山経験の内実の違いを全く無視している。 第3に,「亡Dは,客観的にみてそれだけの経験と能力を有していたか否かはともかく」といい,実質的検討を完全に放棄している。 そして,被控訴人Aと亡Dの能力の違いについて「自分より経験・力量とも劣るとはいえ」として,亡Dの能力が劣っていることを認めながら,亡Dの実質的経験度と能力を全く考慮することなく,サブリーダーという形式的肩書 訴人Aと亡Dの能力の違いについて「自分より経験・力量とも劣るとはいえ」として,亡Dの能力が劣っていることを認めながら,亡Dの実質的経験度と能力を全く考慮することなく,サブリーダーという形式的肩書き一つによって,生命についての危険を未熟な亡Dに負わせているのである。 (イ) ここに現れている原判決の態度は,生命軽視,年功序列の形式主義以外の何者でもなく,「危険引き受けの法理」の適用の前提であるメンバーの能力等の実質的分析を全く欠いているものであって,その判示の不合理であることは一見して明らかである。 ウ本件パーティーの能力の実態(ア) 上級者・中級者・初級者の区別の標準H意見書(甲24)によれば,上級者・中級者・初心者は,以下のように区別され,この区別の基準は,登山界において一般的に承認されている。 a 上級者とは,登山の基本的な事項のほか,ロープワーク,アイゼンとピッケルワークに習熟し,救急医療,怪我人救助の技術,状況判断や統率力についても十分な経験的裏付けのある者のことb 中級者とは,初級者の段階をこえて,ロープワーク,アイゼン歩行,ピッケルワークの訓練を受け,自分で滑落停止ができる者のことc 初級者とは,基礎的体力の涵養がなされている者のこと(イ) 本件パーティーの各メンバーのランクこの基準に従って,本件パーティーのメンバーのランクを認定すれば,以下のとおりである。 a 新人のF,Gは,冬山初体験であり,初級者である。 b 被控訴人Aは,冬山の危険性についての認識を全く欠落しているほか,メンバーの力量にあったルートを選択しなかった点で,上級者とはいえない。特に春のシーズンの下りで本件ルートを通ったときの体験のみに基づいて,真冬の本件ルートにロープが不要であると考えた点は著しい判断ミスであり,本件ルートの危険箇所についての 点で,上級者とはいえない。特に春のシーズンの下りで本件ルートを通ったときの体験のみに基づいて,真冬の本件ルートにロープが不要であると考えた点は著しい判断ミスであり,本件ルートの危険箇所についての知識・対策ともに有していなかったのであり,初級者への配慮を完全に欠いた態度は,到底上級者とはいえない。被控訴人Aは,冬山2シーズン,春山2シーズンの経験しかない事実からみて,中級者にとどまる。 c 亡Dは,冬山の経験が1回(平成4年12月26日から平成5年1月1日までの北アルプス燕岳・常念ケ岳・蝶ケ岳の縦走)あるのみであり,このコースは北アルプスの入門コースであって,本件のルートの困難さとは比較にならない。亡Dは,滑落停止等の雪上技術を修得しておらず,冬山経験のランクとしては初級者の域を出ないものである。 (ウ) サブリーダーは上級者から選ぶのが登山界の常識次に,サブリーダーの役割とその役割に堪える能力について検討する。 前記H意見書(6頁)によれば,本来,サブリーダーはリーダーに事故があったときにリーダーの役を果たすべき役割の者であり,サブリーダーは上級者から選ぶのが常識であるとされている。そして,同意見書は,亡Dはサブリーダーだったと事故報告書に書かれているが,学年が上から2番目だからということで,経験未熟な亡Dをサブリーダーとしたのであれば,それは著しい誤りであると批判している。 控訴人は,原審において,亡Dの「サブリーダー」性を争ったが,これは運動部の「タテ社会」の中で,経験も技量もないのに学年の順にしたがって,与えられたサブリーダーの名称に実体が伴わないことを主張したものである。経験も技量もないのに,学年がF,Gより上であるというだけで,指導者の地位にまつり上げられ,客観的能力を無視した過大な注意義務を負わされるのは,生命とい 称に実体が伴わないことを主張したものである。経験も技量もないのに,学年がF,Gより上であるというだけで,指導者の地位にまつり上げられ,客観的能力を無視した過大な注意義務を負わされるのは,生命という最重要な法益に照らし,著しい信義公平の原則違反といわなければならない。 学年が上という形式的理由のみに基づき亡Dにサブリーダーのラベルを張り,ロープ不携行という杜撰な山行計画を提案して省みなかった被控訴人Aの注意義務を否定した原判決は,「危険引き受けの法理」の根底にある公平の大原則に正面から反するものであって,その誤謬は歴然としている。 亡Dはサブリーダーのレッテルを張られてこそいるが,その実質的能力は初級者なのであって,引率する側でなく,被控訴人Aに引率される側のメンバーである。 (エ) 以上の検討から,亡D,F,Gは冬山の体験が1度ないしゼロという経験しかない初級者なのであり,「危険引き受けの法理」を適用する前提である経験と能力を欠いている。したがって,本件パーティーに「危険引き受けの法理」の適用はなく,「引率者」である被控訴人Aの亡Dの生命の安全に関する注意義務を免責することは到底許されないものである。 エ本件山行が引率登山であること本件パーティーの実質的能力を個々のメンバーについて検討したとき,本件は「危険引き受けの法理」の適用基礎を欠いており,到底自主登山と認めることはできない。 特に,本件ルートの経験があるのは,春山の下山でここを通った被控訴人Aのみであり,その被控訴人Aが前の通過経験に基づいて「ここはロープ不要である」と述べたのに対して,亡D以下の後輩らは,被控訴人Aの言うことを信じるしかなく,これを覆すことはできなかったのである。 オ被控訴人Aの責任(ア) リーダーの法的責任リーダーは自分より経験も少なく,体 たのに対して,亡D以下の後輩らは,被控訴人Aの言うことを信じるしかなく,これを覆すことはできなかったのである。 オ被控訴人Aの責任(ア) リーダーの法的責任リーダーは自分より経験も少なく,体力,判断力ともに劣るメンバーが安全に登山を遂行し,帰還するためのあらゆる配慮をすべき法的責任がある。 ただし,遭難者自身の落ち度によって事故を招いた自己過失の場合,リーダーには責任はないと考えられる。 (イ) ロープ不携行決定の著しい落ち度本件パーティーがロープを持参し,かつ,本件事故現場でロープを用いた確保手段をとっていれば,本件事故はたやすく防げたものであるのに,このロープ不携行の提案をし,被控訴人Bの「ロープを持参せよ」との反論を退けて不携行を決定させたのは,他でもない被控訴人Aである。 リーダーとして,このロープ不携行を決めた落ち度は,重過失にも該当しうるものであり,このロープ不携行を決定した被控訴人Aの落ち度は,亡Dの現場での身体活動の不適切に比し,極めて重大である。 (ウ) 事前訓練の指導懈怠被控訴人Aは,亡D,F及びGの事前訓練にも参加せず,これらのメンバーの中で冬山経験が多い先輩として,メンバーに雪上技術,滑落停止技術,ロープワーク等の事故防止訓練を実施させるべき立場にありながら,冬山入門コースの経験1度のみでこれらの事故防止技術を修得していない亡Dに,事前訓練を全てまかせ,自ら直接メンバー指導することを怠ったのである。 (エ) パーティーの能力を把握せず,踏破不能のルートを選択した誤りこのようにして,亡D,F及びGは,冬山登山の基本的技術を修得できぬまま,本件ルートについての危険性の認識を全く欠いた被控訴人Aに引率されて,本件山域に入山させられたのである。 ここにおいて,被控訴人Aは,本来,本件ルートの難度に堪える 山の基本的技術を修得できぬまま,本件ルートについての危険性の認識を全く欠いた被控訴人Aに引率されて,本件山域に入山させられたのである。 ここにおいて,被控訴人Aは,本来,本件ルートの難度に堪える力を有しない亡D,F及びGを,涸沢岳西尾根経由・奧穂高岳往復という上級者向きコースへと引率したのである。 そもそも,被控訴人Aをはじめとして,本件パーティーの力量では,このルートの踏破は不可能なのであり,被控訴人Aは他のメンバーをこの山域に入れてはならなかったのである。 (オ) 本件事故の本質は,現場以前の山行計画立案と準備及びロープ不携行で本件ルートに入山したことにあるのである。この決断について,リーダーであった被控訴人Aが最も主導的な地位にあり,実質的に初級者の経験と技量しか有さない亡Dは被控訴人Aの指示に素直に従うほかはなく,亡Dには本件山行を中止させられるだけの立場も,発言力も,能力もなかったのである。 よって,被控訴人Aの本件滑落事故原因を作り出した者としての責任は重大であり,かりに亡Dの現場での動作に落ち度があったとしても,被控訴人Aが本件ルートより難度の低いルートを提案していれば本件事故は生じなかったのであり,被控訴人Aのリーダーとしての結果回避義務違反の責任が免責されるものではない。 (5) 被控訴人B及び同Cの法的責任ア被控訴人B及び同Cの真冬の奧穂高岳・涸沢岳西尾根の山行経験弘前大学医学部山岳部の機関誌「シュカプラ」15号(乙4の3)に,メンバーが滑落しかかった実例が記載されているが,この時のパーティーに被控訴人Bと同Cは参加していた。 この時の山行ルートは,前穂高岳から奧穂高岳経由,涸沢岳西尾根というコースの縦走であったが,この時のパーティー(リーダーIのほか,被控訴人B及び同C)の3名は,決行前の9月からこ は参加していた。 この時の山行ルートは,前穂高岳から奧穂高岳経由,涸沢岳西尾根というコースの縦走であったが,この時のパーティー(リーダーIのほか,被控訴人B及び同C)の3名は,決行前の9月からこのルート踏破のためのトレーニングを重ねてきた。 そしてこのパーティーは,フィックスロープ,シュリンゲを携行し,12月29日にはⅢ峰へ向かう途中でフィックスロープの敷設を行っている。翌30日は吹雪で,前穂高岳のピークを過ぎ,パーティーは強風の中をロープでつなぎあって前進した。31日も猛吹雪でテントに待機した。この日,穂高,剣岳では遭難が相次ぎ,このパーティーも遭難の一歩手前にあった。翌1月1日,奧穂高岳のピークを目指す途中,リーダーのIは雪庇を踏み抜き,滑落しそうになった。 この後,本件ルートと重なる涸沢岳西尾根を通るが,強風を被控訴人Cが四つん這いで堪え,被控訴人Bも同様であった。その後,涸沢岳経由で新穂高温泉に至るまでの間,ロープの使用の有無については記されていない。 イ山岳部先輩としての助言義務被控訴人B及び同Cは,上記山行の際,吹雪に降り込められて遭難寸前となり,パーティーのメンバーが死んだ夢を見るなど,冬山の怖さを肌で実感したのである。そして,リーダーのIが雪庇を踏みぬいて滑落寸前となったのを熟知しているのであり,この冬の奧穂高のコースの恐ろしさを十二分に知っていたものである。 大学山岳部の冬山山行は,このパーティーが経験したような死と隣り合わせの世界なのであり,山岳部の先輩は後輩に対して,生命の危険を少しでも減らすような助言をすべき法的義務があるというべきである。 この助言義務は,生命の危険を有するスポーツを共にする者の集団に妥当する生命尊重の普遍的条理に基づいて生じると解され,生命を全うするための経験と技術を後輩に受け継が 的義務があるというべきである。 この助言義務は,生命の危険を有するスポーツを共にする者の集団に妥当する生命尊重の普遍的条理に基づいて生じると解され,生命を全うするための経験と技術を後輩に受け継がせることをその内容とする。 原判決は,先輩には「指導・助言を与えるような慣行もなかった」ことを責任否定の根拠としているが,これは生命という究極の法益を軽視すること甚だしい見解であって,ネグレクトという違法行為を放任するものである。 ウ被控訴人Bの法的責任被控訴人Bは,前記山行で生命の危険を体験した先輩として,自分が踏破したコースを被控訴人Aがリーダーとして山行しようとするに際し,前記山行時のリーダーIが「シュカプラ」に記載した「積雪期の過去の記録がいかにあてにならないか」という冬山の経験則に基づき,被控訴人Aがロープ不携行を主張したときに,その著しい危険性を指摘し,ルート変更を助言しなければならない。また,被控訴人Aがルートの変更をしない場合,ロープを装備品に加える変更をさせた上で,ロープワークや雪上技術の十分な訓練を行うよう指導しなければならない法的義務がある。 エ被控訴人Cの責任被控訴人Cも,同Bと同様,前記山行で吹雪に吹かれ,眼鏡を飛ばされ,露営中,パーティーが死ぬ夢を見るなど,文字通り死と隣り合わせの冬山山行を経験したものである。しかも,そのルートは奧穂高岳以降は本件ルートと共通である。 そうすると,被控訴人Cは,生命の危険のあるスポーツを行う山岳部OBとして,生命尊重という普遍的条理に基づき,後輩の山行計画書をチェックし,ルート,行程,装備等について不適切な点はないか,指導助言をすべき法的義務を負うものである。 特に,自らが,前記の山行で死と直面した経験を有する者として,その経験を正しく後輩に伝えると共に,冬の穂高連峰 ,行程,装備等について不適切な点はないか,指導助言をすべき法的義務を負うものである。 特に,自らが,前記の山行で死と直面した経験を有する者として,その経験を正しく後輩に伝えると共に,冬の穂高連峰へロープなしで入山することの無謀性を事前に察知し,計画を断念又は変更するように指導すべき義務がある。 (6) 被控訴人国(大学)の安全配慮義務違反ア山行計画書の提出と事故防止の間の相当因果関係弘前大学が,山岳部を通じて,一見して無謀とわかる登山計画の中止又は計画の変更をさせていれば,本件事故は簡単に防げたのであって,山行計画書の提出と本件事故防止の間に相当因果関係があることは明らかである。 イ被控訴人国(大学)の安全配慮義務と指導責任(ア) 被控訴人国(大学)は教育機関として,在学契約に基づき,学生の安全について配慮すべき法的義務を負う。この安全配慮の内容として,施設の管理が通常問題となるが,学生の活動が本人又は第三者の生命,身体,名誉,財産に対し,明白かつ現在の危険を及ぼすときは,被控訴人国(大学)は教育機関として学生の健全な成長を指導する者の責任に基づき,その行為の制止,中止,変更,改善等の指導をすべき法的義務を負うものと解さなければならない。 (イ) 通常,学生の自主的企画に大学が干渉することは,自己決定権との関係で排除されるのが原則であるが,侵害されるおそれのある法益が重大で,かつ,その行為の危険性が「一見して明白である」場合,その指導を怠ることは裁量権を越えた違法な不作為(ネグレクト)であって,損害賠償請求権が生じると解される。 (ウ) 特に,冬山登山の場合,無謀な計画を黙認してこれを実施させた場合,参加する学生の生命に直接の危険が及ぶことが十二分に考えられるのである。この冬山登山は高校生に対しては文部省通達によって禁止され ウ) 特に,冬山登山の場合,無謀な計画を黙認してこれを実施させた場合,参加する学生の生命に直接の危険が及ぶことが十二分に考えられるのである。この冬山登山は高校生に対しては文部省通達によって禁止されており,この趣旨は大学生の冬山登山においても十分に斟酌されなければならない。 (エ) 大学生の場合,在学中に一定の判断力と基礎体力,技術と経験が涵養されるので,事故防止について正当に考慮され,事前訓練が実施され,自分たちの能力にかなったルートが選択され,そしてそのルートの踏破のために必要な装備が用意された上,適格性を有する正当なリーダーの下で山行することは,もとより自己決定権の範囲内の自主登山であるといいうる。このような場合,先輩やOBらの適切な指導がなされ,現役学生の山行計画を事前に先輩,OBがチェックし,指導助言がなされる。 (オ) しかし,このような先輩,OBの指導体制がととのっていない大学では,経験不足の無知な現役上級生が,自分たちの客観的能力を把握せず,ルートの調査も事前訓練も行わず,冬山の高度の危険性に関して全く無頓着で,冬山登山に必須のアイゼン歩行,ピッケルの技術,滑落停止技術,ロープによる確保技術等の基礎訓練を全く行うことなく,事故防止に必要な装備すら持たずに難度の高い冬の高山地帯に入ろうとすることがありうるのである。 本件は正にそのような事案であったが,このような,一見して明白に遭難の危険がある冬山山行を野放しにすることは,教育機関の負う安全配慮義務に正面から背馳するものといわなければならない。 ウ遭難の危険が「一見して明白」な無謀登山への指導(ア) 課外クラブから届け出されたクラブの構成や活動計画に一見して明らかな安全対策上の不備があり,そのクラブ活動の実施において危険が予想される場合には,大学として適切な指導をする 無謀登山への指導(ア) 課外クラブから届け出されたクラブの構成や活動計画に一見して明らかな安全対策上の不備があり,そのクラブ活動の実施において危険が予想される場合には,大学として適切な指導をする責任がある。 そして,一見して明らかな安全対策上の不備がある無謀な登山計画が実行されていないか否かを把握するための必要最小限の方法として,山行計画書の提出指導をしなければならず,弘前大学は,この山行計画書の提出指導を怠っていた点で,その不作為は違法である。 (イ) 課外クラブの活動を,「通常の場合」と,「一見して安全対策上の不備があって活動実施に危険が予想される場合」の二類型に分け,後者の場合に,大学としての指導義務を認めるのは,自己決定権の範囲内の自由と,自己決定権の乱用・踰越の場合の教育機関の安全配慮義務を調和するもので,極めて合理的である。 そして,真冬の奧穂高岳へ,ロープも持たずに,事前訓練も十分に積んでおらず,ロープワークもできない未熟なメンバーを率いてゆく山行は,正に一見して明らかな安全対策上の不備があるクラブ活動の実施そのものであり,被告国(大学)は安全配慮義務に基づき,この無謀な冬山登山の中止を勧告すべき法的責任があるものといわなければならない。 そして,被控訴人国(大学)がこの無謀登山を中止させられなかったのは,ひとえに,文部省体育局長が提出させるよう各大学に指導している山行計画書の提出指導を怠ったためである。 (7) 本件事故現場の具体的状況下において,亡Dが3点確保の方法で安全に下降できたか。 アまず,亡Dに,冬山の傾斜45度の岩稜帯の斜面である本件事故現場で,3点確保によって移動する能力があったかどうかを検討する。 イ本件ルートを想定した事前訓練の欠如冬山登山の事前準備において特に重要なことは,入山するルート 度の岩稜帯の斜面である本件事故現場で,3点確保によって移動する能力があったかどうかを検討する。 イ本件ルートを想定した事前訓練の欠如冬山登山の事前準備において特に重要なことは,入山するルートに存在する難所(地形,地質や傾斜)を前提としたトレーニングが事前になされていることである。特に,アイゼンをつけ,本番と同様の条件での雪上訓練をしておくことが必要不可欠のことがらである。 本件山行に先立つ岩木山での事前訓練において,本件事故現場を想定した事前訓練は一切行われていない。もちろん,積雪期の45度の傾斜がある岩稜帯を,3点確保で下りる実地訓練も行われていない。 ウ冬山と夏山との決定的相違山岳部員である以上,一般論として,3点確保については知識として学びもし,夏山その他で3点確保での移動を経験していることは当然あってしかるべきことである。 しかし,冬山における3点確保は,夏山のそれとは全く状況が異なる。特に,手にはピッケルを持ち,足にはアイゼンを履いているのであり,移動の物理的感覚が全く異なる。 そのアイゼンについても,雪面を歩く時と岩稜帯を歩く時とでは歩き方が異なり,アイゼンの爪に体重をかける部分を変えなければならない(甲9・J意見書1頁にいう「フラットフット」,「フロントポイント」)。このアイゼンの歩き方一つをとっても,夏山とは全く別個のトレーニングが必要になる。また,いずれかの手にピッケルを握っていると,1つの手がピッケルに取られてしまい,3点確保にならない場合がある。この場合,ピッケルのバンドを腕に固定して,ピッケルを手から離すことが必要となるが(甲96・75頁ないし76頁),このような基礎的な事柄からして,冬山での3点確保は夏山のそれとは全く異なる。 さらに,傾斜45度の相当にきつい角度の斜面を下りる時,手 手から離すことが必要となるが(甲96・75頁ないし76頁),このような基礎的な事柄からして,冬山での3点確保は夏山のそれとは全く異なる。 さらに,傾斜45度の相当にきつい角度の斜面を下りる時,手に持ったピッケルを手から離して,3点確保をしつつ,アイゼンを体やその他の有形物に引っかけずに移動するのには,相当の訓練が必要である。 エ亡Dの登山歴と冬山の傾斜45度の岩稜帯における確保能力このように,本件ルートの難所を想定した訓練,なかんずく,アイゼンを履いての急傾斜の岩稜帯での3点確保や,滑落停止などの雪上訓練は行われなかったのであるから,亡Dには,本件事故現場での具体的状況下において,3点確保によって安全にこの場所を通過する十分な能力があったということはできない。 亡Dの登山歴をみても,過去の夏山合宿2回と,冬山入門コースの蝶ケ岳のみであり,本件ルートの難所通過に役立つ訓練は全く受けていない。 乙2・14頁のKの記述によれば,「彼は雪の斜面や岩場には苦手意識を持っていて,特に岩登りでは息詰まって立ち尽くしてしまうことがしばしばあった。」とされている。 オ以上のとおり,亡Dの登山歴,本件ルートを想定した事前訓練の欠如,事故前年までの亡Dの山岳部への参加状況等に照らせば,亡Dは,急傾斜の岩稜帯である本件事故現場を,ロープによる確保なしに,3点確保だけで安全に下りる能力はなかったものである。 カなお,J意見書(甲97)の指摘から明らかなとおり,本件現場の傾斜や3点確保(両手両足又は乙11の写真4のようなピッケル使用)をした場合に,前傾がきつくなって行動しにくい状況が生じ,かえってアイゼンをスパッツなどの着衣に引っかけたりしやすくなるのであり,この場所では,3点確保をすること自体,円滑な身体の動きを阻害することとなって,かえって きつくなって行動しにくい状況が生じ,かえってアイゼンをスパッツなどの着衣に引っかけたりしやすくなるのであり,この場所では,3点確保をすること自体,円滑な身体の動きを阻害することとなって,かえって滑落の危険を増すことになる。 (8) 亡Dがフイックスロープを掴まなかったことに落ち度はないことア 「他人の張ったフィックスロープは使用すべからず」という山の経験則亡Dが本件滑落現場でフィックスロープを掴まなかったのは,「他人の張ったフィックスロープをあてにするべからず」という山の経験則に従ったものである。 山の技術の基本的教科書である文部省登山研修所編集の「高みへのステップ-登山と技術」には,「ロープは消耗品である。登はん用にせよ,固定ロープにせよ,使用するだけで何らかの力を受け,新品の能力は損なわれている。1箇所の損傷でも致命的である。よく点検するとともに,使用に当たっては細心の注意を払わなければならない。傷ついたものや,一度でも衝撃を受けたものは,躊躇なく廃棄する。」との指摘があり,確保用具の完全性の要請から,「他人の張ったフィックスロープは使用すべからず」という山の経験則が帰結される。 イ明治大学山岳部パーティーの敷設したフィックスロープについて本件事故現場に張られていたフィックスロープは,すでに現実に使用されていることがありうるのであり,「高みへのステップ」が指摘しているような最適の状態を保っているか,他者の即断を許さぬものである。 したがって,他人が使用した可能性が否定できない他者の敷設したフィックスロープは使ってはならないのである。 ウ他者の張ったフィックスロープを使用して滑落死したケース他者の張ったロープを使用して,現実に滑落死した事故が存在する。 このケースの登山者は,「他者の張ったロープを使用すべからず」とい ある。 ウ他者の張ったフィックスロープを使用して滑落死したケース他者の張ったロープを使用して,現実に滑落死した事故が存在する。 このケースの登山者は,「他者の張ったロープを使用すべからず」という山の経験則に違反し,残置ロープに頼ったため,不慮の死を遂げたものである。 この1つのケースだけからでも,「他者の張ったロープを使用すべからず」という経験則の効用が明らかに看取されるものである。 5 被控訴人A,同B及び同Cの当審主張(1) 控訴人らの当審主張は,争う。 (2) 控訴人らの当審主張(1)(本件ルートの危険性)について標高3000メートル級の北アルプスなどにおける冬山登山が危険を伴っていることを否定するものではないが,本件事故の原因及び被控訴人らの過失・義務違反の有無を判断するために,冬山登山の危険性や本件ルートの危険度の判断が必要との主張は争う。 被控訴人らの法律上の過失責任・義務違反の有無を判断するためには,本件事故に対する直接的かつ具体的原因を審理すれば足りる。原判決は,亡Dの滑落原因を,「専ら亡Dの3点確保の行わない軽率な足運びと足下の不注意にある」と,同人の「自己過失」であったと判断しており,さらに,判決結果に影響を及ぼさない「遠因ないし背景事情」に過ぎない冬山登山の危険性や本件ルートの危険度の判断は必要ではない。控訴人らの主張は失当である。 (3) 同(2)(本件パーティーの力量とルート選択についての過失)は,争う。 本件事故は,ルート上の危険な箇所で起こったのではなかった。原判決が,本件事故当時における現場付近は,比較的下降しやすい状況であり,亡D自身,余裕のある様子で快調に下降していたという具体的事情に照らせば,当時,本件事故現場が亡Dにとって格別歩行が困難で危険な場所であったとは認められないと判示している 的下降しやすい状況であり,亡D自身,余裕のある様子で快調に下降していたという具体的事情に照らせば,当時,本件事故現場が亡Dにとって格別歩行が困難で危険な場所であったとは認められないと判示しているとおり,「なんでもないところ」で起こっているのである。 もとより,本件ルートの選定と本件事故との間に相当因果関係があるとは認められないのであり,被控訴人Aにはルート選択に関する過失など認められない。 (4) 同(3)(ロープを携行しなかったことと本件事故との相当因果関係の存在)について亡Dの滑落の原因は,亡D自身の不注意に起因しており,「自己過失」であったのであるから,装備の不備と本件事故との間に相当因果関係は認められないのであって,控訴人らの主張は失当である。 (5) 同(4)(引率登山とリーダーの責任)について本件山行は,「大学のクラブの仲間同士で登る」登山だったのであり,本多勝一氏の定義や例示を当てはめると「自主登山」に位置付けられる。したがって,その中での事故は,そもそも「裁判になじまない」事柄なのである。 また,原判決が判示するように,本件事故は,亡Dの現場における具体的な過失に起因するものであり,同人が本件ルートの危険性について一般的に認識不足であったことや,山行前の訓練が不足していたことは,本件事故の遠因ないし背景事情ではあっても,本件事故と相当因果関係を有するものと認められないのである。 また,遭難者自身の落ち度によって事故を招いた「自己過失」の場合に該当するから,控訴人らの主張を前提としても被控訴人Aに法的責任はない。 (6) 同(5)(被控訴人B及び同Cの法的責任)について本件事故は,亡Dの現場における具体的な過失に起因するものであったということ,すなわち,遭難者自身の落ち度によって事故を招いた「自己過失」だった ) 同(5)(被控訴人B及び同Cの法的責任)について本件事故は,亡Dの現場における具体的な過失に起因するものであったということ,すなわち,遭難者自身の落ち度によって事故を招いた「自己過失」だったのであるから,本件山行計画の当否を問題とするまでもなく,被控訴人B及び同Cが法的責任を負うことにはならない。 また,被控訴人Bが緊急連絡先となり,また同Cは登B部を引き受けていたが,そのことと亡Dとの死亡には相当因果関係は認められないのであるから,それらのことのゆえに同人らが法的責任を負うものでもない。 6 被控訴人国の当審主張(1) 控訴人らの当審主張は,争う。 (2) 冬山登山の危険性については,一般論としては認める。また冬山が,春・夏のシーズンと比較して峻厳な自然環境になることがあることも一般論としては認めるが,本件事故当日は,天候は快晴で,風もなくなり,視界は極めて良好で,雪質は,前日の降雪により,やや湿った新雪であった。冬山登山が「死」と隣り合わせという控訴人らの主張は,冬山登山の危険性を誇張する極論にすぎず,亡Dの過失で起こった本件事故は,控訴人らのいう出会い頭の交通事故と何ら本質を異にするものではない。 (3) 大学には山行計画書を提出させる法的義務はないが,仮に,本件山行において弘前大学に山行計画書が提出されていたとしても,その山行計画書には「一見して明らかな安全対策上の不備がある」とはいえない。 加えて,山行計画書は,原判決に判示されているとおり,特に遭難時の捜索救助活動の円滑を図るという観点から,第一次には登山地域の警察署や登山指導センターに提出すべきものとされ,学校は,むしろ関係者を安心させるための付随的な提出先と位置づけられているものであり,また,文部科学省スポーツ青少年局が発送する「冬山登山の事故防止について」にお 導センターに提出すべきものとされ,学校は,むしろ関係者を安心させるための付随的な提出先と位置づけられているものであり,また,文部科学省スポーツ青少年局が発送する「冬山登山の事故防止について」においても,「冬山登山の警告」の周知徹底という以外に何ら具体的方策が示されていない。 (4) 本件事故の原因について控訴人らは,本件事故は,①本件ルートにおける冬山登山の危険性について,メンバー全員の認識が不足していたため,メンバーの力量に合わないルートが選定されたこと,②ロープ,シュリンゲ,カラビナ等の装備がなかったこと,③山行前の訓練が不十分であったこと,④山行前の山行計画を第三者に提出して安全のチェックを受けなかったことが原因で発生した旨主張する。 しかし,控訴人らの上記主張は,いずれも本件事故の遠因ないし背景事情を述べたものにすぎない。この点に関して原判決は,本件事故との間の相当因果関係を否定し,本件事故の原因については,「本件事故現場は,比較的急な斜面ではあるが,本件事故当時は気象条件に恵まれ,また,ルート上にはトレースがはっきりとついており,まだ新しい複数本のフィックスロープが残置されていた上,亡Dの体調も良好であったこと,また,同人は,残置ロープを掴むことなく,後続のGにも同ロープを掴まないで降りるように指示を出すなど,余裕があり,快調なペースで下降していたことから判断すると,亡Dは,Gに指示を出して再び下降を始める際,足下に対する注意をおろそかにしたことにより,トレースを踏み外したこと,あるいは露出した岩にアイゼンを引っかけてつまづいたことをきっかけとし,3点確保の姿勢をとっていなかったこともあって滑落したものと認めるのが相当である。」として,具体的事実に基づきその直接原因を判断したものであり,正当な判断といえる。 (5) 国 ことをきっかけとし,3点確保の姿勢をとっていなかったこともあって滑落したものと認めるのが相当である。」として,具体的事実に基づきその直接原因を判断したものであり,正当な判断といえる。 (5) 国の安全配慮義務について控訴人らは,国の安全配慮義務についてるる主張しているが,要するに文部省体育局長から各大学長宛に送付された「冬山登山の事故防止について」と題する通知及びこれに添付された山岳遭難対策中央協議会より出された「冬山登山の警告」と題する文書の存在を国の安全配慮義務の唯一の根拠としているのである。 しかし,原判決が認定するごとく,文部省体育局長の通知は,「冬山登山の警告」の周知徹底という以外に何ら具体的な方策を示したものではなく,かえって,「冬山の警告」には危険回避が登山者の自己責任であると明記されているのである。控訴人らは,文部省体育局長通知が高校生の登山を禁止していることをもって,大学生の冬山登山においても十分に斟酌されるべき旨主張するが,まだ体力や判断能力において未熟な上,現在においては義務教育に準ずる教育を受けているともいえる高校生と,自らの行為につき適正な判断能力を有する大学生の能力を同一視すべき理由はなく,現に亡Dが高校生と同一レベルの判断能力しかなかったとする根拠は全くないのである。 第3 当裁判所の判断当裁判所も,控訴人らの本訴請求は,いずれも理由がないから棄却すべきものと判断するが,その理由は以下のとおりである。 1 本件事故に至る経緯この点に関する争いのない事実及び認定事実は,原判決「事実及び理由」の「第 3 当裁判所の判断」の1(原判決13頁7行目冒頭から18頁24行目末尾まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決15頁10行目の「あったいう記憶」を「あったという記憶」と改める。 裁判所の判断」の1(原判決13頁7行目冒頭から18頁24行目末尾まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決15頁10行目の「あったいう記憶」を「あったという記憶」と改める。 2 本件事故の直接的な原因1の事実(引用にかかる原判示)によれば,亡Dは,本件事故現場から滑落する途中,岩などで頭を強く打って死亡したものと認められ,同人の滑落の原因について検討すると,本件事故現場は,比較的急な斜面ではあるが,本件事故当時は気象条件に恵まれ,また,ルート上にはトレースがはっきりとついており,まだ新しい複数本のフィックスロープが残置されていた上,亡Dの体調も良好であったこと,また,同人は,残置ロープを掴むことなく,後続のGにも同ロープを掴まないで降りるよう指示を出すなど,余裕があり,快調なペースで下降していたことから判断すると,亡Dは,Gに指示を出して再び下降を始める際,足下に対する注意をおろそかにしていたことにより,トレースを踏み外したか,あるいは露出した岩にアイゼンを引っかけてつまづいたことをきっかけとし,滑落したものと認めるのが相当である。 この点,控訴人らは,本件事故の目撃者はG1人であり,一瞬の出来事である上,同人の記憶は曖昧であり,また,被控訴人らに責任が及ばないようにしたいとの思惑に影響されているから,Gの原審における証言等は信用できない旨主張するが,同人の原審における証言等は,事故状況の概略部分において一貫しており,現場の状況等に照らしても不自然,不合理な点はなく,また,控訴人らの主張するような思惑に影響されていることも認められないから,信用するに足りるものである。 上記のとおり,本件事故の直接的な原因は,亡Dが下降をする際に足下に対する注意をおろそかにしたことであると認められる。 3 被控訴人Aの注意義務に も認められないから,信用するに足りるものである。 上記のとおり,本件事故の直接的な原因は,亡Dが下降をする際に足下に対する注意をおろそかにしたことであると認められる。 3 被控訴人Aの注意義務について(1) 控訴人らは,被控訴人Aの契約上の注意義務を主張するが,被控訴人Aと亡Dとの間に,控訴人らの主張する契約関係が存在したことを認めるに足りる証拠はない。 そこで,以下においては,被控訴人Aの不法行為責任について検討する。 (2) 控訴人らは,「被控訴人Aは,本件山行のリーダーであり,山行計画の策定から実行まで,常に主導的に行動していた者として,合意関係又は信義則に基づき,亡Dに対し,①事前にルートの状況,危険箇所,気象状況,地形等について,十分な調査を行い,山行中に考えられるあらゆる事態を予測,認識した上,これらに対処してメンバーを安全に山行させ得る計画を策定し,②適切な装備,事前訓練等の準備をし,③本件山行中には,パーティーを把握,統率し,適切な指示を出し,本件事故現場においては,他のメンバーに密着して行動し,自らが先に下降した上,メンバーに足場や下降方法を指示し,もって,メンバーである亡Dの安全を確保すべき義務を負っていた。」旨主張する。 (3) そこで,検討するに,大学生の課外活動としての登山において,これに参加する者は,その年齢に照らすと,通常,安全に登山をするために必要な体力及び判断力を有するものと認められるから,原則として,自らの責任において,ルートの危険性等を調査して計画を策定し,必要な装備の決定及び事前訓練の実施等をし,かつ,山行中にも危険を回避する措置を講じるべきものといわなければならない。そうすると,大学生の課外活動としての登山におけるパーティーのリーダーは,そのメンバーに対し,たとえば,特定の箇所を通過するには ,山行中にも危険を回避する措置を講じるべきものといわなければならない。そうすると,大学生の課外活動としての登山におけるパーティーのリーダーは,そのメンバーに対し,たとえば,特定の箇所を通過するには特定の技術が必要であるのに,当該メンバーがその技術を習得していないなど,事故の発生が具体的に予見できる場合は格別,そうでなければ,原則として,山行の計画の策定,装備の決定,事前訓練の実施及び山行中の危険回避措置について,メンバーの安全を確保すべき法律上の注意義務を負うものではなく,例外的に,メンバーが初心者等であって,その自律的判断を期待することができないような者である場合に限って,上記の事柄についてメンバーの安全を確保すべき法律上の注意義務を負うものと解するのが相当である。 (4) これを本件についてみるに,まず,被控訴人Aにおいて,本件事故の発生が具体的に予見可能であったと認めることはできない。すなわち,上記認定のとおり,本件事故の直接的な原因は,亡Dが下降をする際に足下に対する注意をおろそかにしたことであるが,このような不注意による滑落事故が,本件山行の出発前の段階で具体的に予見可能であったとは認められず,また,本件事故現場において,冬季に滑落事故が度々発生していたことを認めるに足りる証拠はないから,本件山行の出発前に,本件事故現場で滑落事故が発生することが具体的に予見できたともいえない。また,上記認定事実(引用にかかる原判示)によれば,本件パーティーが本件事故現場にさしかかった際の天候や付近の斜面の状態からも,亡Dの体調からも,具体的に同人の滑落が危惧されるような状況ではなかったものというべきであるから,本件事故の直前においても,本件事故の発生が具体的に予見可能であったとは認められない。 次に,亡Dが初心者等であってその自律的判断を 滑落が危惧されるような状況ではなかったものというべきであるから,本件事故の直前においても,本件事故の発生が具体的に予見可能であったとは認められない。 次に,亡Dが初心者等であってその自律的判断を期待することができないような者であったとも認めることはできない。なぜなら,上記争いのない事実及び認定事実(引用にかかる原判示)によれば,亡Dは,弘前大学医学部専門課程2年生に在籍し,山岳部に入部して3年目であり,夏山合宿に2回,冬山合宿に1回参加した経験があるのであって,冬山の経験は乏しかったものの,山岳部在籍の期間や山行の経験回数等に照らすと,自ら本件山行の危険性等について判断し,その力量に合わせてその計画策定や装備の決定等を行うことが当然であったというべきであって,到底その自律的判断を期待することができない者であったと認めることはできないからである。 以上のとおりであるから,被控訴人Aは,亡Dに対し,山行の計画の策定,装備の決定,事前訓練の実施及び山行中の危険回避措置について,その安全を確保すべき法的義務を負っていたものということはできない。 (5) 次に,控訴人らは,被控訴人Aは,亡Dに対し,山行計画書を弘前大学に提出してそのチェックを受けるべき義務を負っていた旨主張する。 しかし,仮に,山行計画書を弘前大学に提出してそのチェックを受けることが,亡Dの安全確保の一手段として役立ちうるものであったと仮定しても,上記のとおり,被控訴人Aは,亡Dに対し,山行の計画の策定,装備の決定,事前訓練の実施及び山行中の危険回避措置について,その安全を確保すべき法的義務を負っていたものということはできないから,被控訴人Aが,亡Dに対し,その安全確保のために山行計画書を弘前大学に提出してそのチェックを受けるべき法的義務があったということはできない。 (6 法的義務を負っていたものということはできないから,被控訴人Aが,亡Dに対し,その安全確保のために山行計画書を弘前大学に提出してそのチェックを受けるべき法的義務があったということはできない。 (6) 次に,控訴人らは,冬山の訓練不十分で,滑落事故を防ぐロープワークを身につけていない本件パーティーが,ロープの使用が必要な箇所のある上級者向きの危険な本件ルートに入るという計画を立てたことそのものに,被控訴人Aの「ルート選択上の過失」がある旨主張する(当審主張(2)オ)。 たしかに,証拠(甲24,29,30,31の1ないし55,甲33,62,63,93の1ないし3,甲102,原審証人H)によれば,冬季における本件ルートでは,安全確保等のためにロープの使用が必要となることがあるから,本件ルートに入るには,ロープを携行することが必要であり,また,山行前にロープワークの訓練を実施するのが相当であることが認められ,ロープワークに習熟していない亡D,F及びGをメンバーとする本件パーティーが本件ルートに入るという計画は,同人らの力量を超えるもので,安全に対する配慮が乏しいものと評価せざるをえない。 しかし,前記のとおり,被控訴人Aは,亡Dに対し,その安全を確保すべき法律上の注意義務を負うものではないから,上記計画の立案に主導的に関与したからといって,被控訴人Aに法律上の注意義務違反の問題は生じない。 (7) さらに,控訴人らは,登山のパーティーのリーダーは,メンバーが安全に登山を遂行し,帰還するためのあらゆる配慮をすべき法的責任がある旨主張する(当審主張(4)オ)が,上記主張は,上記(2)の説示に照らして,採用できない。 (8) なお,控訴人らは,当審主張(1)のとおり,本件ルートの危険性について主張するが,本件ルートが上・中級者向けの冬山ルートであること )が,上記主張は,上記(2)の説示に照らして,採用できない。 (8) なお,控訴人らは,当審主張(1)のとおり,本件ルートの危険性について主張するが,本件ルートが上・中級者向けの冬山ルートであること(甲5,24),冬季における本件ルートでは,安全確保のためにロープの使用が必要となることがあること(上記(5))は,控訴人らの主張するとおりであるが,これらのことは,被控訴人Aは,亡Dに対し,その安全を確保すべき法律上の注意義務を負うものではないとの上記認定判断を左右するものではない。 4 被控訴人B,同Cの注意義務について(1) 控訴人らは,被控訴人B及び同Cの契約上の注意義務を主張するが,同被控訴人らと亡Dとの間に,控訴人らの主張する契約関係が存在したことを認めるに足りる証拠はない。 そこで,以下においては,被控訴人B及び同Cの不法行為責任について検討する。 (2) 控訴人らは,被控訴人Bは本件山行の立案に参加し,本件ルートを提案した者として,被控訴人Cは,本件山行の登山本部を務めた者として,本件山行の計画が,内容において一見して明らかに安全上の問題がある場合には,計画の変更,修正を指導,助言する法的義務がある旨主張する。 (3) そこで,検討するに,前記1の事実(引用にかかる原判示)のとおり,被控訴人Bは,大学生の課外活動としての登山である本件山行に,山岳部員の上級生としてその計画立案に参加し,被控訴人Cは,同山行において,山岳部OBとして登山本部を務めた者である。 ところで,大学生の課外活動としての登山に参加する者は,原則として,自らの責任において,ルートの危険性等を調査して計画を策定し,必要な装備の決定及び事前訓練の実施等をし,かつ,山行中にも危険を回避する措置を講じるべきものであるから,パーティーのメンバー以外でその登山に関与し において,ルートの危険性等を調査して計画を策定し,必要な装備の決定及び事前訓練の実施等をし,かつ,山行中にも危険を回避する措置を講じるべきものであるから,パーティーのメンバー以外でその登山に関与した者は,たとえ,山岳部員の上級生やOBであっても,事故の発生が具体的に予見できた場合は格別,そうでなければ,山行の計画の策定,装備の決定,事前訓練の実施について,メンバーの安全を確保すべき法律上の注意義務を負うものではないものと解するのが相当である。 控訴人らは,「一見明らかに安全上の問題がある場合」には,指導等の義務がある旨主張するが,たとえ,安全に対する配慮が「一見明らかに」不足していたとしても,本来自律的に判断し行動することが予定されているパーティーのメンバーに対し,そのメンバー以外の者がたやすく不法行為責任を負うと解するのは相当ではなく,ただ,事故の発生が具体的に予見できた場合には,それを指摘するだけでメンバーにおいて事故の発生を回避する措置を講じることが予想されるから,そのように容易に事故の回避が期待されるような場合に限って,メンバー以外の関与者の法律上の注意義務を認めるのが相当である。 (4) そして,被控訴人B及び同Cにおいて,本件山行の出発前に,本件事故の発生が具体的に予見可能であったと認めることはできないことは,前記3(4)で被控訴人Aについて述べたのと同様である。 そうすると,被控訴人B及び同Cには,本件山行の計画について変更,修正を指導,助言すべき法律上の注意義務があったとは認められない。 (5) 控訴人らは,当審主張(5)ア,イのとおり主張し,証拠(乙4の3)によれば,同アの事実が認められるが,被控訴人B及び同Cが,同認定のような体験をしたからといって,亡Dら本件パーティーのメンバーに対する上記法律上の注意義務が加重 イのとおり主張し,証拠(乙4の3)によれば,同アの事実が認められるが,被控訴人B及び同Cが,同認定のような体験をしたからといって,亡Dら本件パーティーのメンバーに対する上記法律上の注意義務が加重されるとは解されないのであって,同イの主張は採用できない。 5 被告国の安全配慮義務について(1) 本件山行の山行計画書が弘前大学へ提出されなかったことは,当事者間に争いがないところ,控訴人らは,被控訴人国(大学)において,山岳部から山行計画書を提出させ,提出されない場合には,山行の中止を勧告し,また,提出された場合に,山行計画内容に一見して明らかな安全対策上の不備があり,山行の実施による危険が予測されるときは,学生らにこれを指摘して注意を喚起し,それでも改善されないときは,大学当局自ら安全対策を講ずるか,山行の中止を勧告する義務がある旨主張する。 (2) そこで,検討するに,大学における課外活動は,学生による自律的な判断に基づき行われるべきであって,大学当局はこの判断を尊重すべきものである。もっとも,実施が予定されている課外活動について,学生の生命身体に危険が生じることが具体的に予想され,かつ,大学当局においてこれを認識し又は容易に認識し得た場合には,大学当局は,学生に対する安全配慮義務の内容として,課外活動を実施しようとする学生に対し,活動計画書の提出を求めた上で,活動内容を変更させ,あるいは活動計画を中止させるなどの指導・助言をするべき義務があると解するのが相当である。 (3) これを本件についてみるに,本件山行につき,本件パーティーのメンバーの生命身体に危険が生じることが具体的に予想されたと認めるに足りる証拠はなく,仮にこれが認められたとしても,弘前大学当局が,上記危険の存在を認識し又は容易に認識し得たことを認めるに足りる証拠はない。 命身体に危険が生じることが具体的に予想されたと認めるに足りる証拠はなく,仮にこれが認められたとしても,弘前大学当局が,上記危険の存在を認識し又は容易に認識し得たことを認めるに足りる証拠はない。 したがって,弘前大学当局において,山岳部に対し本件山行の山行計画書の提出を求めるべき法律上の義務はない。 (4) なお,控訴人らは,毎年,文部省体育局長から各大学長宛てに送付される「冬山登山の事故防止について」と題する通知及びこれに添付された山岳遭難対策中央協議会より出される「冬山登山の警告」と題する文書を根拠に,弘前大学は山岳部の課外活動としての本件山行について,事前に山行計画書を提出させて安全性をチェックし,問題点を指摘したり,自ら安全対策を講じたり,あるいは山行の中止を勧告すべき法的義務がある旨主張するが,証拠(丙2,11ないし13)によれば,上記「冬山登山の事故防止について」には,大学長等に求める事故防止策としては,「冬山登山の警告」の趣旨の周知徹底という以外に何ら具体的方策が示されていない上,上記「冬山登山の警告」には,危険回避は自己責任である旨が明記され,山行計画書の提出,装備等の点検は,すべて登山者が自主的に行うべきことが強調されており,また,山行計画書は,上記「冬山登山の警告」においては,特に遭難時の捜索救助活動の円滑を図るという観点から,第一次的には登山地域の警察署や登山指導センターに提出すべきものとされ,学校は,むしろ関係者を安心させるための付随的な提出先として位置づけられていること(このことは,山行計画書が,実際には登山の安全確保,事故防止の機能を果たしていること(甲24,98)とは,別の問題である。)が認められ,これらに照らせば,上記の通知等が控訴人らの主張する義務の存在を認める根拠となるものとは認められず,他にこれ 保,事故防止の機能を果たしていること(甲24,98)とは,別の問題である。)が認められ,これらに照らせば,上記の通知等が控訴人らの主張する義務の存在を認める根拠となるものとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 なお,証拠(丙11,原審証人L)によれば,本件山行当時,弘前大学は,上記「冬山登山の警告」を山岳部に配付していたものと認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。 6 控訴人らの当審におけるその余の主張は,以上の認定判断を左右するに足りない。 7 そうすると,その余の点について判断するまでもなく,控訴人らの本訴請求は,いずれも理由がない。 第4 結論よって,原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第3部裁判長裁判官青山邦夫裁判官藤田敏裁判官倉田慎也

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