令和6(わ)979 殺人未遂

裁判年月日・裁判所
令和7年2月13日 名古屋地方裁判所
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判決文本文2,475 文字)

主文 被告人を懲役3年に処する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予し、その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。 理由 (犯罪事実)被告人は、令和5年12月1日午後5時43分頃、名古屋市(住所省略)先路上において、徒歩で通行中のA(当時22歳)に対し、殺意をもって、その頭部等をバット様のもので多数回殴るなどしたが、同人に逃走されたため、同人に加療約1か月間の後頭骨骨折、急性硬膜外血腫の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げなかった。 (量刑の理由)被告人は、人気のない路上で、被害者の頭部をいきなり背後からバット(正確にはバット様のものであるが、以下単に「バット」という。)で殴り付け、倒れこんだ被害者をさらに多数回にわたり一方的に殴った。犯行態様は危険であり、殺意も強い。 被害者は、加療約1か月間の後頭骨骨折、急性硬膜外血腫という死に至る危険もある重い傷害を負った。幸いにして生命に別条はなく、具体的な後遺症も見込まれてはいないが、犯行態様からすれば、それも幸運な偶然というべきである。 被告人と被害者との間には何らの関係もない。そして、被告人は本件犯行の記憶がないと述べており、動機には必ずしも明らかではない点もある。もっとも、捜査段階の鑑定医の意見や犯行前後の状況に関する被告人の供述等からすると、本件の経緯・動機は次のようなものであったと考えられる。 被告人は、高校に通い、医学部進学を目指していたが、特定の同級生から受けたいじめをきっかけに離人症を発症した。大学入学共通テストの際には、試験会場で別の同級生から受けた発言に動揺して試験日程の途中で帰宅し、その年の大学受験に失敗した。一浪して一旦は別の学部に進学したものの、医学部進学の目標を捨て切れ 。大学入学共通テストの際には、試験会場で別の同級生から受けた発言に動揺して試験日程の途中で帰宅し、その年の大学受験に失敗した。一浪して一旦は別の学部に進学したものの、医学部進学の目標を捨て切れ ず、令和5年夏頃以降、再度医学部受験を目指すことになった。他方、被告人は、本件犯行前には統合失調症を発症し、再度の医学部受験が近づいてきた令和5年10月頃からは幻聴の症状も生じていた。幻聴の内容は、自分をいじめていた特定の同級生が誰かに命じて自分に危害を加えようとしていると思わせるものであった。被告人は、自分が思い描いていたような人生を送ることができていないのは、すべてその同級生のせいだと感じ、人生を狂わせたいわば象徴的な存在と受け止めていたと考えられる。 こうした経緯を経て、被告人は、再度の受験を迎えて現実的なストレスが高まる中、幻聴をはじめとする統合失調症の影響も手伝って、その同級生に対する怒りと憎しみが一層増幅され、強い殺意を抱いた。そして、バットを準備し、東京都内の自宅から深夜バスに乗り、その同級生が高校生の頃に利用していた名古屋市内の駅近くで待ち伏せした上で、犯行に及んだ。もっとも、当時の心理状態もあって、偶然通りかかった背格好の近い被害者を同級生と取り違えてしまったと考えられる。 本件は、このように無関係の第三者が被害者となった理不尽な犯行であり、その犯行自体の危険性に加え、結果もかなり重いことからすると、行為に見合う刑罰としては実刑が相応しいとも考えられる事案である。 もっとも、被告人は、同級生に対する怒りと憎しみから犯行に及んだものであり、無差別・通り魔的な犯行とは区別される上、被告人に粗暴な傾向はなく、その怒りと憎しみも、統合失調症による幻聴等によって増幅された面があることを踏まえる必要がある。 そして、被害者 だものであり、無差別・通り魔的な犯行とは区別される上、被告人に粗暴な傾向はなく、その怒りと憎しみも、統合失調症による幻聴等によって増幅された面があることを踏まえる必要がある。 そして、被害者は、理不尽な犯行により重大な被害を受けながらも、こうした経緯と被告人の病状を理解した上で、被告人の謝罪を受け入れている。それどころか、二度と自分のような被害者を生まないようにするためにも、被告人には治療を受け、早期に統合失調症から回復して他人を傷つけないような人間になって社会復帰してほしいとまで述べており、被告人の両親が500万円を支払って示談が成立している。 被告人については、保釈後の入院先で薬物治療が続いている。父親も、被告人を監督 し、主治医と相談しながら今後も治療を全面的に支援していくと述べている。被告人自身も、重傷を負ったにもかかわらず謝罪を受け入れ治療を許してくれた被害者に感謝の言葉を述べるとともに、すべてを同級生のせいにしてきた考えは誤りであり、自らにも問題があったことを受け入れて治療に向き合おうとしており、更生への意欲も見て取れる。被告人は若く、前科もない。未だ治療途中であり、同級生への怒りも残っているとも述べているが、家族の支援を受けながら治療を受け続け、自身の病気や事件に対する理解を深めていくことで更生していくことが期待でき、被告人の再犯防止にもつながる。 そこで、この裁判を通じて判明したこれらの具体的事情も踏まえ、被告人に対しては、刑の執行猶予を付して社会内更生の機会を与えることとした。ただし、本件犯行の重大性を明らかにするとともに、被告人の再犯防止に向けた治療の体制をより強固なものとするため、法律上許される最長の刑期と猶予期間を定めた上で保護観察に付し、公的機関による指導と監督に服させることが相当である。 (検 るとともに、被告人の再犯防止に向けた治療の体制をより強固なものとするため、法律上許される最長の刑期と猶予期間を定めた上で保護観察に付し、公的機関による指導と監督に服させることが相当である。 (検察官の求刑-懲役6年弁護人の科刑意見-執行猶予付き判決)令和7年2月14日名古屋地方裁判所刑事第3部 裁判長裁判官吉田智宏 裁判官須田健嗣 裁判官荒田航希

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