- 1 -令和5年12月15日東京地方裁判所刑事第7部宣告令和4年合第210号殺人被告事件 主文 被告人を懲役17年に処する。 未決勾留日数中340日をその刑に算入する。 理由 【犯行に至る経緯】被告人は、令和4年6月から、東京都北区ab丁目c番d号所在の特別養護老人ホームA(本件施設)で介護職員として夜間勤務を行うようになり、翌7月から、左半身に麻痺があり、自力で立位、座位のとれないB(被害者)の介護を担当するよう になったが、被害者から、しばしば蹴られたり小便をかけてやるなどと言われたりするようになり腹を立てていたところ、犯行当日の同年9月15日午後10時頃からも、気分を乱した様子の被害者の介護に当たっていた際、被害者から、ばかだから分からないんだなどと繰り返し言われ、これに怒りを覚えて被害者の頭をたたいた。 【犯罪事実】被告人(当時、身長約179㎝、体重約85㎏の50歳の男性)は、令和4年9月15日午後10時頃から翌16日午前1時頃までの間に、本件施設1階東1-2号室被害者の利用居室において、ベッド上にいた被害者(当時、身長約144㎝、体重36㎏余りの92歳の女性)から、たたいたな、覚えているからなと言われ、 一層強い怒りを覚え、強い殺意をもって、その顔面等を拳で多数回殴り、その髪の毛を手でつかみベッド上で引きずり回し、その勢いで頭部から床に転落させるなどの暴行を加え、その頃、同所において、被害者を頸髄・脳幹損傷により死亡させて殺害した。 【量刑の理由】 本件は、特別養護老人ホームにおいて、介護職員が利用者を殺害した事案である。 - 2 -量刑事情として重視したのは、犯行態様の残虐さ、被告人及び被害者の立場の違いから指摘で 理由】 本件は、特別養護老人ホームにおいて、介護職員が利用者を殺害した事案である。 - 2 -量刑事情として重視したのは、犯行態様の残虐さ、被告人及び被害者の立場の違いから指摘できる非難の度合いの高さである。 すなわち、犯行態様は、判示のとおり被害者とはかなりの体格差がある被告人が、日常生活の多くに介助を要し抵抗できない高齢の被害者に対し、怒りに任せて手加減することなく、その顔面や胸部を多数回殴り、そのため多くの肋骨が折れるなど し、髪の毛を手でつかんでベッド上で乱暴に引きずり回し、その勢いで頭部から床に転落させただけでなく、両方の腕を折って左腕を骨折、右肘を脱臼させるなどした上、わざわざ別の部屋に電気ポットを取りに行って顔面や胸部に熱湯をかけるなどしたというものであるから、残虐というほかない。この犯行態様から被告人に強い殺意があったことも明らかであって、弁護人がいうように殺意が低いということ はない。 しかも、安心して生活できるはずの本件施設において、けがなどをさせないように気を付けながら適切に利用者を介護すべき立場にあった被告人が、介護を担当していた利用者を殺害したのであるから、その意思決定は非常に強く非難されなければならない。確かに、被告人が、自分だけに繰り返される被害者の言動に悩み、上 司や同僚に相談するなどしていたのに本件施設側が何も対応しなかったところに同情の余地がないとはいえない。しかし、もともと要介護度の高い高齢者が生活する特別養護老人ホームにおいては、介護職員としては、認知症の影響等による利用者の理不尽な言動をある程度は受け止め、感情的になっても自分を抑える心構えが求められており、被害者の言動がその程度を上回るほどのものとはいえない。更にい えば、被告人としては、他のフロ る利用者の理不尽な言動をある程度は受け止め、感情的になっても自分を抑える心構えが求められており、被害者の言動がその程度を上回るほどのものとはいえない。更にい えば、被告人としては、他のフロアの介護職員に応援を仰いだり、被告人が少し前に実践したように、感情的になった被害者とは距離を置いて見守るだけにしたりすることなどもできたのであるから、同情の余地があっても相当限定的である。このほか、弁護人が非難の度合いを下げるものとして援用する情状鑑定は、被告人の成育歴等が本件犯行に与えた影響をいう。しかし、被告人の幼少期における最愛の実 母の失踪やその後実父から受けた過酷な虐待経験は同情できるが、情状鑑定は、被- 3 -告人が心の傷を抱えながらも自立後30年以上にわたり様々な問題に対処して社会逸脱行動をとらずに生きてきたことへの検討がされておらず、採用できない。 そして、何よりも人一人の命を奪った結果が重大であることはいうまでもない。 被害者の受けた苦しみ、無念さは察するに余りあり、愛する母親を失った遺族らの処罰感情が厳しいのも当然である。 以上の犯情からすれば、被告人の刑事責任は誠に重い。したがって、検察官及び弁護人が示す量刑傾向の中で重い部類に位置付けるべきである。 他方、被告人は、当初から罪を認め、身柄拘束中に実母との再会を果たしたことで自らしたことの重大さへの理解を一層深めるなどして反省の態度を示した。これまで長らく真面目に社会生活を営んできた被告人には、この実母の存在や高校時代 の同級生との交流を通じて、更生していくことが期待できる。 これら被告人のために酌むべき事情によってその責任が幾らか軽減されることも踏まえ、主文のとおり量刑した。 (求刑:懲役18年、弁護人の科刑意見:10年)令和5年12月1 いくことが期待できる。これら被告人のために酌むべき事情によってその責任が幾らか軽減されることも踏まえ、主文のとおり量刑した。(求刑:懲役18年、弁護人の科刑意見:10年)令和5年12月15日 主文 東京地方裁判所刑事第7部 裁判長裁判官浅香竜太 裁判官内山裕史 裁判官村上亜優
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