- 1 -主文原判決を破棄する。 本件を大阪高等裁判所に差し戻す。 理由 上告代理人吉田哲也ほかの上告受理申立て理由第2について 本件は,尼崎市(以下「市」という。)の住民である上告人らが,市が発注したごみ焼却施設の建設工事の指名競争入札において,被上告人Y(以下「被上 告人Y」という。)を除く被上告人ら(以下「被上告人5社」という。)が被上 告人Y(以下「被上告人Y」という。)を受注予定者とする談合をし,被上告人 Yもそれに協力した結果,被上告人Yを構成員とする共同企業体(以下「本件共 同企業体」という。)が正常な想定落札価格と比較して不当に高い価格で落札し上記工事を受注したため,市が損害を被ったにもかかわらず,尼崎市長(以下「市長」という。)が被上告人らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を違法に怠っていると主張して,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,市に代位して,怠る事実に係る相手方である被上告人らに対し,損害賠償を求める事案である。 原審の確定した事実関係の概要及び訴訟の経緯等は,次のとおりである。 (1)市は,平成8年,次の内容のごみ焼却施設の建設工事(以下「本件工事」という。)を指名競争入札の方法により発注することとし,被上告人らがそれぞれ形成した各共同企業体を入札参加者として指名した。 件名尼崎市美化環境局第二機械炉第二期整備工事焼却方式全連続燃焼式ストーカ炉- 2 -(2)市は,平成8年8月19日,本件工事につき指名競争入札(以下「本件入札」という。)を実施し,その結果,本件共同企業体が落札した。なお,本件入札において,入札予定価格を下回ったのは本件共同企業体のみであり,落札率(入札予定価格に対する落札価 名競争入札(以下「本件入札」という。)を実施し,その結果,本件共同企業体が落札した。なお,本件入札において,入札予定価格を下回ったのは本件共同企業体のみであり,落札率(入札予定価格に対する落札価格の割合)は99.17%であった。 市は,同年9月30日付けで,本件共同企業体との間において,代金額を106億0900万円とする請負契約を締結し,同12年4月30日までに代金の支払を完了した。 (3)公正取引委員会(以下「公取委」という。)は,平成10年9月17日,ごみ焼却施設の入札について,メーカーが談合を繰り返していた疑いがあるとして,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下,後記の各改正の前後を通じ「独禁法」という。)に基づき立入検査をし,同11年8月13日,被上告人5社に対し,独禁法3条に違反するとして,独禁法(平成14年法律第47号による改正前のもの)48条2項に基づき排除勧告をした。 被上告人5社は,この排除勧告の応諾を拒否したため,公取委は,同11年9月8日,独禁法(平成17年法律第35号による改正前のもの)49条に基づき審判開始決定をした(以下,これにより開始された事件を「別件審判事件」という。)。 (4)公取委は,別件審判事件につき,平成18年6月27日,被上告人5社が遅くとも同6年4月以降,地方公共団体が発注するストーカ炉の新設等の工事について談合を行っていたとの事実を認定した上で,被上告人5社に対し排除措置を命ずる審決(以下「別件審決」という。)をした。 被上告人5社は,別件審決の取消しを求める訴訟を東京高等裁判所に提起し,同- 3 -訴訟は,本件訴訟の原審口頭弁論終結時において,同裁判所に係属中であった。 (5)平成18年11月16日に言い渡された本件訴訟の第1審判決は,被上告人5社が,談合に関する基本的な し,同- 3 -訴訟は,本件訴訟の原審口頭弁論終結時において,同裁判所に係属中であった。 (5)平成18年11月16日に言い渡された本件訴訟の第1審判決は,被上告人5社が,談合に関する基本的な合意をし,その合意に基づき本件入札までに本件共同企業体を受注予定者とする個別談合を行い,被上告人Yもこれに協力するこ とにより,被上告人らは,本件入札において健全な自由競争により形成される想定落札価格を上回る入札価格で本件共同企業体に落札させ,本件工事を受注させるという共同不法行為を行ったと認定し,損害については,民訴法248条により上記入札価格の5%相当額と算定した上,市長は不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を違法に怠っているとして,上告人らの請求を一部認容した。 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり述べて,市長が不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しないことが,当該債権の管理を違法に怠る事実に当たるとは認められないと判断し,上告人らの請求を棄却すべきものとした。 上告人ら主張の被上告人らによる不法行為は,談合による不公正な価格形成を行ったというものであるところ,談合は秘密裏にされ客観的な証拠がほとんど残されていないのが通常であるから,その主張,立証は複雑かつ困難であり,市の被上告人らに対する損害賠償請求権は,客観的にも明らかな債権であるとか,容易に主張,立証が可能な債権というものではなく,そもそも不法行為を構成するか否かについて評価が分かれる余地が多分にある。また,本件のように,怠る事実の対象となる債権が独禁法違反を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権の場合には,独禁法25条に基づく損害賠償請求権の行使も可能である。このようなことなどを踏まえると,市長において,別件審決の確定を待って,独禁法25条に基づく損害賠償請 法行為に基づく損害賠償請求権の場合には,独禁法25条に基づく損害賠償請求権の行使も可能である。このようなことなどを踏まえると,市長において,別件審決の確定を待って,独禁法25条に基づく損害賠償請求権ないし不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することを選択し,原審- 4 -口頭弁論終結時まで,被上告人らに対し,不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しなかったとしても,それは客観的に存在する債権を理由もなく放置したり免除したりするものではなく,その判断には合理性があるというべきであるから,当該債権の不行使を違法な怠る事実と認めることはできない。 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1)地方公共団体が有する債権の管理について定める法240条,地方自治法施行令171条から171条の7までの規定によれば,客観的に存在する債権を理由もなく放置したり免除したりすることは許されず,原則として,地方公共団体の長にその行使又は不行使についての裁量はない(最高裁平成12年(行ヒ)第246号同16年4月23日第二小法廷判決・民集58巻4号892頁参照)。 もっとも,地方公共団体の長が債権の存在をおよそ認識し得ないような場合にまでその行使を義務付けることはできない上,不法行為に基づく損害賠償請求権は,債権の存否自体が必ずしも明らかではない場合が多いことからすると,その不行使が違法な怠る事実に当たるというためには,少なくとも,客観的に見て不法行為の成立を認定するに足りる証拠資料を地方公共団体の長が入手し,又は入手し得たことを要するものというべきである。 なお,独禁法違反の行為によって自己の法的利益を害された者は,当該行為が民法上の不法行為に該当する限り,公取委による審決の有無にかかわらず,不法行為に基づく損 たことを要するものというべきである。 なお,独禁法違反の行為によって自己の法的利益を害された者は,当該行為が民法上の不法行為に該当する限り,公取委による審決の有無にかかわらず,不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することを妨げられないのであり(最高裁昭和60年(オ)第933号,第1162号平成元年12月8日第二小法廷判決・民集43巻11号1259頁参照),審決が確定するまで同請求権を行使しないこととする- 5 -と,地方公共団体が被った損害の回復が遅れることとなる上,同請求権につき民法724条所定の消滅時効が完成するなどのおそれもあるから,仮に,独禁法違反の事実を認める審決がされ,将来的にその審決が確定した場合には独禁法25条に基づく損害賠償請求権を行使することが可能になる(そして,同請求権を行使する場合,不法行為に基づく損害賠償請求権を行使する場合と比べ,主張,立証の負担が軽減される)としても,そのことだけでは,当然に不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しないことを正当化する理由となるものではないというべきである。 (2)前記事実関係等によれば,本件訴訟の第1審判決前に公取委がした別件審決は,被上告人5社が遅くとも平成6年4月以降,地方公共団体が発注するストーカ炉の新設等の工事について談合を行っていたとの事実を認定した上で,被上告人5社に対し排除措置を命ずるものであったというのであり(なお,記録によれば,別件審決において,本件工事が,具体的な証拠から被上告人5社が受注予定者を決定したと推認される工事の一つとして挙げられていることがうかがわれる。),また,本件訴訟の第1審判決は,被上告人5社が談合に関する基本合意に基づき本件入札までに本件共同企業体を受注予定者とする個別談合を行い,被上告人Yもこ れに協力したという共同不法行為の れる。),また,本件訴訟の第1審判決は,被上告人5社が談合に関する基本合意に基づき本件入札までに本件共同企業体を受注予定者とする個別談合を行い,被上告人Yもこ れに協力したという共同不法行為の事実を認定した上で,被上告人らに対する損害賠償請求を一部認容するものであった。さらに,市長が本件訴訟の第1審において当初被告とされていたことは記録上明らかであるから,市長は,本件訴訟が原審に係属していたことを知っていたものということができ,本件訴訟において証拠として提出された別件審判事件の資料や別件審決の審決書等の証拠資料を容易に入手することができたものと考えられる。 そうすると,仮に,本件訴訟において提出された証拠により,被上告人らによる- 6 -上記不法行為の事実が認定され得るのであれば,市長は,客観的に見て上記不法行為の成立を認定するに足りる証拠資料を入手し得たものということができるのであり,そうであるとすれば,遅くとも本件訴訟の第1審判決の時点では,市長において,不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することにつき,格別の支障がなかったものと一応判断されるのである。 ところが,原審は,上記のような事情につき何ら触れることなく,別件審決の確定まで不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しないことに合理性があると判断したのであって,その主たる根拠として挙げているのも,談合による不法行為に基づく損害賠償請求権が容易に主張,立証が可能な債権というものではないなどといった一般的,形式的な理由にすぎず,本件訴訟に提出された証拠の具体的内容等を十分に検討した上でそのような判断をしたものではない。市長が独禁法25条に基づく損害賠償請求権を行使することも可能であることは原審の説示するとおりであるが,そのような理由だけで直ちに不法行為に基づく損害賠償請求権の不 そのような判断をしたものではない。市長が独禁法25条に基づく損害賠償請求権を行使することも可能であることは原審の説示するとおりであるが,そのような理由だけで直ちに不法行為に基づく損害賠償請求権の不行使を正当化することができないことは,前記(1)で述べたとおりである。なお,原審は,別件審決が確定した時点を不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点と解することができるとして,この点を同請求権の不行使を正当化する理由の一つとして挙げているが,前記の事情の下では,市長は,被上告人らに対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害及び加害者を知ったものということができるから,別件審決が確定していないことは,上記請求権の消滅時効の進行を妨げるものではないというべきである(最高裁昭和45年(オ)第628号同48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照)。 - 7 -(3)以上によれば,被上告人らによる不法行為の成立を認定するに足りる証拠資料の有無等につき本件訴訟に提出された証拠の内容,別件審決の存在・内容等を具体的に検討することなく,かつ,前記のような理由のほかに不法行為に基づく損害賠償請求権の不行使を正当とするような事情が存在することについて首肯すべき説示をすることなく,同請求権の不行使が違法な怠る事実に当たらないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。 以上のとおりであるから,論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官田原睦夫裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官那須弘平裁判官近藤崇晴) 主文 差し戻すこととする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官田原睦夫裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官那須弘平裁判官近藤崇晴)
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