平成15年4月11日判決言渡し同日原本領収裁判所書記官高瀬美喜男平成12年(ワ)第345号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成14年10月11日判決 主文 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して3836万1191円及びこれに対する平成12年4月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告Bに対し,連帯して3836万1191円及びこれに対する平成12年4月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,これを20分し,その1を原告らの負担とし,その余は被告らの負担とする。 5 この判決は,第1,2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して4133万2695円及びこれに対する平成12年4月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告Bに対し,連帯して4133万2695円及びこれに対する平成12年4月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,糖尿病を発症したため被告医療法人高木会(以下「被告法人」という。)の開設する高木病院(以下「被告病院」という。)に入院した亡Cが同病院の医師である被告Dの過失ある診療行為によって死亡した(以下「本件医療事故」という。)として,Cの両親である原告らがそれぞれ,被告Dに対しては,民法709条の不法行為責任に基づき,被告法人に対しては,主位的には同法715条1項の使用者責任,予備的には準委任契約の債務不履行責任に基づき,損害賠償金及びこれに対する上記不法行為後であるCの死亡した日(平成12年4月4日)からの民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である 備的には準委任契約の債務不履行責任に基づき,損害賠償金及びこれに対する上記不法行為後であるCの死亡した日(平成12年4月4日)からの民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。 1 争いのない事実(1)ア原告AはCの父であり,原告BはCの母である。 イ被告法人は肩書地において内科などを診療科目とする被告病院を開設する医療法人であり,被告Dは本件医療事故当時同病院に勤務する医師であった。 (2) Cは,昭和49年9月3日生まれの男子で,群馬県桐生市a町b丁目c所在のアパートで婚約者と同居していたが,平成12年3月16日ころから胃部に不快感やとう痛を生じ,その後徐々に固形物がのどを通らない状態となり,同月28日ころには,呼吸困難,吐き気及び動悸症状が出現した。 Cは,同月29日夜おう吐し,その後翌30日朝にもおう吐し,身体が動かず,ろれつが回らなくなるなどしたため,婚約者の運転する車に乗せられて病院に行くことになり,最終的に被告病院で診察を受けることになった。 (3) Cは,平成12年3月30日午前10時30分ころ,被告病院に到着したが,自力で歩行することができなかったため,原告BらがCを車いすに乗せて移動させ,同病院の医師の診察を受けさせた。 この時点でのCの状況は,顔がむくんで青白く,口唇からは血の気がうせ,目にはくまができ,ろれつが回らず,ぐったりとして意識も明瞭でなく,医師の診察に対してもうまく言葉を発することができないというものであった。そこで,医師によるCの食生活や症状などについての問診に対しては,主として婚約者がCに代わって回答した。 (4) その後,Cは,被告病院において入院治療を受けることとなり,持続点滴のため左鎖骨下から中心静脈注射(IVH)がなされ,排尿バルーンの処置が執られた。この時点で,主治 Cに代わって回答した。 (4) その後,Cは,被告病院において入院治療を受けることとなり,持続点滴のため左鎖骨下から中心静脈注射(IVH)がなされ,排尿バルーンの処置が執られた。この時点で,主治医となった被告Dが,原告Bらに対し,入院診療計画書を示しながら,Cの血糖値が500以上であること,病名は「脱水,糖尿病ケトアシドーシス,消化管通過障害疑い」であること,治療計画は「持続点滴,インスリン投与」であり,2週間程度の入院が必要である旨を告げた。 (5) 平成12年3月30日(木曜日)の状況ア Cは,ひっきりなしに水を欲しがる状況にあったが,原告Bが看護師に対し付添いの必要性について質問したところ,完全看護であるからその必要はないとの回答であった。 イ Cは,午後8時30分ころ,ナースコールをして苦しいと訴え,その後も頻繁にナースコールをした。 ウ Cは,午後10時45分ころ,排尿バルーンを外しIVHも外しかけてベッドのわきに座っている状態になり,その後,午後10時55分ころにはIVHを外してしまった。その報告を受けた被告Dは,自宅から電話で看護師に指示をして,抗精神病剤であるセレネースをCに投与させた。 (6) 平成12年3月31日(金曜日)の状況ア Cは,午前3時ころ,病室の前に座り込んでいた。その後原告B及び原告らの長男であるEがCの病室に出向いたが,Cは,Eがだれであるかも分からない状態であり,ひっきりなしに水を欲しがっていた。また,Cは,その後の就寝中,肩で大きく息をし,口を開けたまま舌が奥に入ってしまうような状態であり,大きないびきをかいていた。 イ原告Bは,午前8時30分ころ,被告病院のホールで朝食をとっていたところ,看護師からCがベッドから降りているのですぐに来てくれと言われ,Cの病室に駆け付けた。その時,Cは既にベッ をかいていた。 イ原告Bは,午前8時30分ころ,被告病院のホールで朝食をとっていたところ,看護師からCがベッドから降りているのですぐに来てくれと言われ,Cの病室に駆け付けた。その時,Cは既にベッドに横たわっていたが,おむつ1枚を付けただけの裸の状態であった。 ウ原告Bは,午前9時30分ころ,Cの国民健康保健扱いの手続を済ませるため被告病院から外出し,午前11時30分ころCの病室に戻ったが,その時のCの状態は昏睡状態のように見えた。Cは何も言わなかったが,原告Bが「お水は。」と問い掛けると,わずかにうなずいた。 エ原告Bらは,午後2時ころ,Cの病室に来た看護師から廊下で待つように言われ,その後更にロビーに行ってほしいと言われたので,これに従った。間もなく,Cの病室の外の廊下に看護師の数が増え,人工呼吸用のバッグを持った看護師が廊下を走っていた。原告Bが直ちにCの病室に駆け付けると,Cはアンビューバッグによる人工呼吸や心臓マッサージを受けていた。 オ Cは,午後3時20分ころ,自発呼吸が出現したことから個室に移された。 (7) Cは,平成12年4月1日(土曜日)午前10時25分ころ,被告病院から群馬県新田郡d町大字ef番地所在の医療法人三思会東邦病院(以下「東邦病院」という。)に転院となり,同病院の集中治療室で治療を受けたが,同月4日午後7時44分ころ,糖尿病ケトアシドーシスに起因する多臓器不全により死亡した。 2 争点(1) 被告病院における治療が不適切なものであったか。具体的には,①輸液,インスリンなどの量が不適切であったか,又は②CがIVHを外した際に不適切な処置をしたかである。 (原告らの主張)糖尿病と診断されるためには,空腹時の静脈血血糖値が1デシリットル中126ミリグラムを超えることが必要であるが,Cの初診時のそれは1デシリ を外した際に不適切な処置をしたかである。 (原告らの主張)糖尿病と診断されるためには,空腹時の静脈血血糖値が1デシリットル中126ミリグラムを超えることが必要であるが,Cの初診時のそれは1デシリットル中580ミリグラムという異常値であった。このような著しい高血糖状態においては,インスリンが極度に不足し,血液中に酸性物質であるケトン体を生じ,健康体では弱アルカリ性である血液が酸性に傾き,脳の働きが妨げられて意識障害(糖尿病性自律神経障害などと呼ばれ,神経衰弱状態,傾眠など)を生じ,昏睡状態(ケトアシドーシス昏睡)に陥ることもある。昏睡の前兆として,だるさ,急激な口渇,吐き気や腹痛などの胃腸症状の出現,大量の尿が頻繁に出るなどの徴候が現れるとされている。また,このような高血糖状態は,放置すると急性脱水症状を起こし,腎臓の機能も低下して急性腎不全,急性心不全に至る危険性がある。現に,被告Dは,Cの初診時の症状につき,「脱水,糖尿病ケトアシドーシス,消化管通過障害疑い」と診断していた。 ケトアシドーシス昏睡(ただし,Cの初診時の症状は,その前兆ないしその初期症状にすぎなかった。)の治療としては,脱水補正,血糖値補正,アシドーシス補正,電解質補正(特にカリウム)がなされるべきであり,それも初期治療が極めて重要であって,発症初期に適切な治療をするか否かが予後を決めるとされている。 しかるに,被告Dを始めとする被告病院の医師らによるCの治療は,以下のとおり不適切であった。 ア輸液,インスリンなどの量の不適切上記のとおり,Cに対しては,脱水補正,血糖値補正,アシドーシス補正,電解質補正(特にカリウム)がなされるべきであったのに,以下のとおり,被告Dによる治療はいずれも不適切なものであった。 (ア) まず,Cの脱水状態の改善のために,生理食塩水の点 正,アシドーシス補正,電解質補正(特にカリウム)がなされるべきであったのに,以下のとおり,被告Dによる治療はいずれも不適切なものであった。 (ア) まず,Cの脱水状態の改善のために,生理食塩水の点滴静脈注射が必要であった。その適切な点滴の速度は,体重1キログラム当たり毎時14ないし20ミリリットルとされているところ,Cの体重は本件医療事故当時130キログラムであったから,Cに対しては,毎時1820ないし2600ミリリットルの点滴が必要だったことになる。 しかし,被告病院がCに対し平成12年3月30日午前11時から同年4月1日午前零時までの約37時間の間に施した輸液量は,入院注射指示簿によれば合計でわずか2000ミリリットル,診療報酬明細書によっても合計で3000ミリリットルにすぎず,上記必要量を大幅に下回っている。しかも,Cは,後記イのとおり途中でIVHを外してしまったから,そのIVHが外れている間に施用されたに輸液ついては無駄になっており,Cに施用された輸液量は更に少なかったことになる。 また,被告Dは,輸液としてソリタT3を使用したが,ソリタT3には糖が含まれているため,前記のとおり異常な高血糖状態にあったCにこれを使用したことは不適切である。 (イ) 血糖値の補正のためには,速効性インスリンの静脈注射(体重1キログラム当たり0.2単位)及び筋肉注射(体重1キログラム当たり0.1単位)をした上,至急専門医のいる医療機関に移送すべきこととされている。Cの体重は本件医療事故当時130キログラムであったから,速効性インスリンの26単位の静脈注射と13単位の筋肉注射が必要であった。しかるに本件では,被告Dが,血糖値の補正につき,どのような方針を立てたのか明らかでなく,速効性インスリンの投与についても,診療報酬明細書,診療録,看護記録の記 と13単位の筋肉注射が必要であった。しかるに本件では,被告Dが,血糖値の補正につき,どのような方針を立てたのか明らかでなく,速効性インスリンの投与についても,診療報酬明細書,診療録,看護記録の記載を総合すると,平成12年3月30日のIVH抜去直後の8単位及び同月31日の心停止直前の12単位の皮下注射のみが明らかとなっており,上記必要量に比べ著しく少ないものにとどまっている。 (ウ) 電解質の補正についても,血清カリウム値については被告病院に入院後むしろ低下してしまっており,血清ナトリウム値も改善されなかった。これらの数値にかんがみると,被告Dが適正な電解質補正をせず,Cの脱水症状を悪化させたことがうかがわれる。 イ CがIVHを外した際の不適切な処置Cは,被告病院に入院した当日である平成12年3月30日午前11時15分ころにIVHを挿入されたが,その約30分後には「苦しい。酸素とっていい。」と発言し,同日午後6時ころには「今日で入院して3日目となるんですけど,管はとってもらえませんか。」と意味不明の発言をし,その後頻繁にナースコールを行い,同日午後9時ころには酸素マスクを外し,同日午後10時45分ころにはIVHを外しかけてベッドのわきに座り,頻繁にナースコールをした。そして,Cは,同日午後10時55分ころにはIVHを外してしまった。 このように,Cの症状は改善しておらず,IVHを自ら外してしまうような状況にあったにもかかわらず,被告Dは,セレネース2分の1アンプルの投与を指示した(なお,セレネースは,昏睡状態の患者には禁忌とされている。)だけであった。その後も上記アに記載のとおり,輸液及びインスリンの量が不足したことが原因で,同月31日午後2時20分ころ,Cは心停止の状態になった。 また,被告Dは,Cが上記心停止から回復した後の同日午後 あった。その後も上記アに記載のとおり,輸液及びインスリンの量が不足したことが原因で,同月31日午後2時20分ころ,Cは心停止の状態になった。 また,被告Dは,Cが上記心停止から回復した後の同日午後5時20分ころ,原告BからCの尿が出ていないことを指摘されて利尿剤を用いたが,脱水症状が原因で尿が出なくなっているCに対し,脱水症状の改善を試みずに利尿剤を用いることは不適切である。 (被告らの主張)被告病院におけるCに対する治療は,以下のとおり適切なものであったから,被告らに責任はない。 ア被告Dは,Cの入院の際の血液検査により糖尿病ケトアシドーシスと診断し,高血糖状態に対する処置として,インスリンを適時に注射した。ただし,急激な血糖値の改善を行うと脳浮腫を起こす危険があり,Cの状態は正にその危険のある状態であった。そこで,被告Dは,Cの血糖値について当面300を目標とし,血糖値をチェックする関係から適時採血を行った。 また,消化管通過障害を疑い,内視鏡の検査も視野に入れて慎重な診療を行った。さらに,平成12年3月31日朝のCの血糖値は345であったが,同日午前11時30分には499,同日午後5時30分には578と血糖値が急速に上がっており,このことからケトアシドーシスの増悪と急性循環不全が考えられ,輸液,昇圧剤などを適切に処置した。 原告らは,脱水治療の初期段階で,毎時1820ミリリットルないし2600ミリリットルもの輸液をする必要がある旨主張するが,そのような大量の輸液がなされることはなく,500ないし1000ミリリットルを最初の1時間で,その後三,四時間は200ないし500ミリリットル毎時の速度で輸液を行うのが通常である。患者の心機能を考慮すると,体重が平均的な人の2倍あるから2倍もの速度で輸液を行うことができるというものではない。 後三,四時間は200ないし500ミリリットル毎時の速度で輸液を行うのが通常である。患者の心機能を考慮すると,体重が平均的な人の2倍あるから2倍もの速度で輸液を行うことができるというものではない。入院時,Cの既往病歴や病態(心疾患,内分泌疾患,腎疾患の有無)が不明であったため,糖尿病ケトアシドーシスの脱水治療の初めに500ないし1000ミリリットルもの輸液を行うと急性心不全や肺水腫を起こす可能性もあったことから,多量の輸液を行うことができなかったのである。 これらの経過にかんがみると,被告病院に運び込まれた時点ではCは既に手遅れの状態であったのであり,被告Dによる治療が不適切であったとはいえない。 イ IVHによる治療はCの自己抜去によって不可能な状態であり,Cが本件医療事故当時体重130キログラムの若年高等度肥満であったことから,Cの不穏状態が長じればIVHの再挿入は不可能であった。このような状況下でIVHを繰り返せば気胸が生じる可能性があり,かえって危険であった。 被告Dがセレネースの筋肉注射を指示したのは,Cが不穏状態であったためその鎮静化を目的としたものであり,適正であった。 (2) 上記(1)において,被告病院における治療が不適切であったとして,このこととCの死亡との間に因果関係があるか。 (原告らの主張)Cが平成12年3月30日に被告病院に入院した際,すなわち初診時のCの症状は,上記(1)(原告らの主張)に記載のとおり,ケトアシドーシス昏睡の前兆ないしその初期症状にすぎなかった。そもそも,Cは,被告病院に入院する2週間前までは異常がなかった。したがって,被告病院が適切な治療を施していれば,特に大きな問題を残すことなく日常生活を送ることができたはずである。糖尿病を早期に発見して適切な治療を続ければ糖尿病患者が健康に長生きできる なかった。したがって,被告病院が適切な治療を施していれば,特に大きな問題を残すことなく日常生活を送ることができたはずである。糖尿病を早期に発見して適切な治療を続ければ糖尿病患者が健康に長生きできることは,公知の事実といってよい。 したがって,上記(1)(原告らの主張)記載の被告Dらによる被告病院における不適切な治療とCの死亡との間には因果関係がある。 (被告らの主張)そもそもCは,被告病院に入院時,既に糖尿病の急性合併症である重度の糖尿病ケトアシドーシス状態にあり,少なくとも昏睡状態に近い状態にあったから,短期の治療では改善できないほどの重篤な状態,すなわち手遅れの状態であったといえる。 Cの心停止の原因は,平成12年3月30日の血液検査で感染症を示す所見があること,同月31日の血液検査で筋肉の崩壊を示すCPK値が異常な上昇を示していることなどからすれば,高度のアシドーシスに感染が加わり,敗血症性ショック(細菌が血液中に入り込み,体中に細菌がばらまかれる状態)ないしトキシックショック(細菌の出す毒素による細胞,組織の障害),横紋筋融解症を来し,これにより多臓器不全を併発したためと推測される。 そもそもCがこれだけ悪化して来院したこと自体,C及びその家族に問題があったのであり,被告らの治療とCの死亡との間に因果関係は認められない。 (3) 原告らが本件により被った損害(原告らの主張)Cは死亡時満25歳の男子であり,その死亡による損害は以下のとおり合計8266万5390円であるところ,原告らはCの両親であり,ほかにCの相続人はいない。 ア葬儀費 120万円イ逸失利益 5196万5390円Cは上記のとおり死亡時満25歳の男子であり,その逸失利益を算定するに 120万円イ逸失利益 5196万5390円Cは上記のとおり死亡時満25歳の男子であり,その逸失利益を算定するについては,賃金センサス平成10年第1巻第1表の産業計,企業規模計,男子労働者中卒の全年令平均の賃金額年収497万0900円を基礎とし,就労可能期間を満67歳までの42年間とし,この間の中間利息をライプニッツ係数17.4232を乗じることにより控除し,生活費控除割合を4割(Cは独身であったが,婚約者と同居し同女と内縁関係にあったから,損害の公平な分担の見地から被扶養者1名の場合に準じた。)として計算すると,5196万5390円となる。 ウ慰謝料 2200万円被告Dの過失は初歩的かつ重大なものであり,これによりいまだ満25歳であったCを死亡させたのであるから,その慰謝料額は2200万円とするのが相当である。 エ弁護士費用 750万円本件は,医療過誤を理由とする損害賠償請求訴訟であり,事案の性質上,原告らは,訴訟の提起及び追行を弁護士に委任せざるを得なかった。したがって,被告らは,弁護士費用として上記金額を負担すべきである。 (被告らの主張)争う。 Cは,重度の糖尿病にり患していたから,仮に生命が助かったとしても,常時治療を余儀なくされ,健常人と同程度の稼働は見込めなかった。また,原告らは,相続人は原告ら以外にはいないとしながら,生活費控除割合の算定に当たっては被扶養者1名の場合に準ずる旨主張するが,両者は矛盾しており,失当である。 (4) 過失相殺(被告らの主張)Cは,自己の健康管理が非常に不適切であったため,被告病院に入院時,血糖値が580(正常値は7 者1名の場合に準ずる旨主張するが,両者は矛盾しており,失当である。 (4) 過失相殺(被告らの主張)Cは,自己の健康管理が非常に不適切であったため,被告病院に入院時,血糖値が580(正常値は70ないし110)と異常に高くなっており,既に高血糖状態が何日も持続していたことから,様々な身体症状が出現した。すなわち,ここまで症状が悪化し,食事や入浴もままならない状態が続いていたにもかかわらず,平成12年3月30日に至るまで適切な医療機関で治療を受けなかったことが,Cの死亡の最大の原因である。 加えて,被告DがCを診断した時点において,Cは,上記のような状態にあったため自己の病状や生活状況を全く説明できず,また,周囲にいた原告Bや婚約者らも,Cの症状を正確に伝えることができなかった。それにより,被告Dを始めとする被告病院の医師らがCに対する適切な診断をすることを困難にさせた。 これらの事情にかんがみると,仮に被告らに本件に関する賠償責任が生ずるとしても,原告ら側にも過失が認められるから,本件においては,大幅な過失相殺がなされるべきである。 (原告らの主張)争う。 被告らの主張は,治療機関の診療契約上の義務を否定するものである。Cが被告病院に入院後自らの責任で被告らの指示に従わなかったというのであれば,Cの過失を問題とする余地もあるが,本件はそのような事案ではない。また,被告らの主張を,既に病状が進行し手遅れであった旨の主張と理解するとしても,Cの入院時の治療計画,検査内容などにかんがみると,被告DらがCの症状を被告ら主張のような重篤なものと考えていなかったことは明らかである。したがって,いずれにしても,被告らの過失相殺の主張は失当である。 第3 当裁判所の判断 1 ケトアシドーシス及びその治療法について(1) ケトアシドーシスについて(南山 なかったことは明らかである。したがって,いずれにしても,被告らの過失相殺の主張は失当である。 第3 当裁判所の判断 1 ケトアシドーシス及びその治療法について(1) ケトアシドーシスについて(南山堂医学大辞典参照)ケトアシドーシスとは,体内で脂肪酸の不完全代謝によって生じるケトン体(アセト酢酸及びこれから生ずるβ-ヒドロキシ酪酸やアセトンの総称)の貯留(ケトーシス)によって起こされる酸性症(アシドーシス)をいう。ケトン体の産生が体内で盛んに起こっても尿中に排泄されていれば酸性症は起こらないが,産生に比べて排泄が少なくなると次第に体内貯留を起こし,H2CO3に比べてHCO3-(予備アルカリ)が減少し酸性症を起こす。ケトン体は陰イオンとなり,この排泄には陽イオンが共に排泄されなくてはならない。このために腎でアンモニアイオンがつくられるが,これら陽イオンがケトン体由来の陰イオンに対して不足してくると排泄が悪くなる。このような現象は重症糖尿病にみられ致命的となる。 (2) 治療のポイントはインスリンの持続投与と生理食塩水を中心とした大量の輸液であるところ(甲B1,乙B3,4),糖尿病ケトアシドーシスの治療における輸液量について,医学文献には以下のような記載が存在する。 ア平成12年5月17日発行の社団法人日本糖尿病学会編著「糖尿病治療ガイド2000」(甲B1)「直ちに生理食塩水を1000m?/hr(14~20m?/kg/hr)の速度で点滴静注を開始,ただし,高齢者と小児の場合は7~10m?/kg/hrとする。」イ日本臨牀55巻・1997年増刊号に登載された論文「ケトアシドーシス性昏睡」(乙B3)「0~1時間目血圧が正常で尿量も十分なときは生理食塩水を500~1000m?/時のスピードで投与する。 1~2時間目生理食塩水を500m?/時 載された論文「ケトアシドーシス性昏睡」(乙B3)「0~1時間目血圧が正常で尿量も十分なときは生理食塩水を500~1000m?/時のスピードで投与する。 1~2時間目生理食塩水を500m?/時で継続する。 2~4時間目1~2時間目の治療を継続。 4~8時間目生理食塩水投与を250m?/時に変更する。血糖が270mg/d?まで下がっていれば生理食塩水にグルコース(最終5%)を加え,500m?/時で投与する。 8~24時間目グルコース(2.5~5.0%)を含む0.45%食塩水で引き続き補正が必要。」ウ日本内科学会雑誌第88巻第12号・平成11年12月10日に登載された論文「糖尿病性昏睡」(乙B4)「生理的食塩水 500m? 1回点滴静注【投与法】①500m?/時間のスピードで輸液を開始する。ただし収縮期血圧80mmHg以下,頻脈(脈拍120/分以下)の場合は,心機能が良さそうなら1000m?/時間で開始。 ②最初の3~4時間は200~500m?/時間で輸液。 【ポイント】・一般に輸液量が4?/㎡/日以下では脳浮腫はおこらない。 ・高浸透圧(>350mOsm/?)の状態でも,初期治療に生理的食塩水を用いる。生理食塩水の浸透圧は308mOsm/?であり,患者の高い血漿よりは低張である。むしろ低張食塩水の投与のほうが脳浮腫の危険性が増大する。」 2 争点(1)(被告病院における治療が不適切であったか。)について(1) 被告Dらによる診療の経過等について前記争いのない事実,甲A2ないし5,7の1及び2,甲A12,甲B2,乙A1,3の1,乙A8,12,14,原告B本人,被告D本人及び弁論の全趣旨によれば,被告Dらによる診療の経過等について以下の事実が認められる(なお,以下,平成12年3月30日のことを単に「30日」と,同月31日のこ A8,12,14,原告B本人,被告D本人及び弁論の全趣旨によれば,被告Dらによる診療の経過等について以下の事実が認められる(なお,以下,平成12年3月30日のことを単に「30日」と,同月31日のことを単に「31日」と,同年4月1日のことを単に「1日」と,それぞれ簡略化していうことがある。)。 ア Cは,遅くとも30日に被告病院に入院するまでに,糖尿病ケトアシドーシスにり患した。 イ Cの主治医となった被告Dが30日にCを最初に診察した際,Cは被告Dの質問に対して十分に説明をすることができず,Cには既に意識障害があった。 被告Dは,Cの入院時に行った血液検査(乙A8)と尿検査(乙A12)の結果などから,Cの病名を「脱水,糖尿病ケトアシドーシス,消化管通過障害疑い」と診断した。また,Cの意識障害についても糖尿病ケトアシドーシスの影響によるものであろうと判断した。 ウ被告Dは,Cに水分を補給することにより酸性物質であるケトン体を尿中に排出させて酸性に傾いた血液を本来の弱アルカリ性の方向に改善させるため,Cに輸液を行うことにし,30日午前11時15分ころ,Cの左鎖骨下にIVHを挿入して輸液を開始した。 被告Dは,上記輸液の開始時点から31日午前零時までの間に,Cに対しIVHによって約2リットルの輸液を行う方針を決め,その旨看護師に指示した。 エ被告Dは,30日午後6時ころ,被告病院を退勤したが,その際,Cのことについて当直医に申し送りをしなかった。 オ Cは,30日午後6時ころ,意識障害が高じて,看護師に対し,「今日で入院して3日目になるんですけど,管は取ってもらえませんか。」などと要領を得ない発言をした。また,Cは,同日午後8時30分ころ,呼吸困難な状態になり,同日午後9時20分ころには,水分を摂取した際,おう吐する動作をした。 カ Cは,糖尿 取ってもらえませんか。」などと要領を得ない発言をした。また,Cは,同日午後8時30分ころ,呼吸困難な状態になり,同日午後9時20分ころには,水分を摂取した際,おう吐する動作をした。 カ Cは,糖尿病ケトアシドーシスの影響による意識障害のため,30日午後10時45分ころ,自ら排尿バルーンを外し,IVHも外しかけて,ベッドのわきに座った状態になった。そこで,看護師は,被告Dに電話でCの状況を伝え,被告Dから指示を受けてCに対しセレネースを投与した。 その後もCの意識障害は続き,同日午後10時55分ころ,Cは自らIVHを外してしまった。Cが不穏な状態であったため,当直医はIVHの再挿入をすることができなかった。Cの状況を看護師から再度電話で伝えられた被告Dは,自分が翌31日午後2時ころ被告病院に出勤するまではIVHの再挿入を断念することに決め,「仕方ないでしょう。」と回答して,輸液を再開する指示をしないまま,看護師に対し,Cにセレネースを投与するよう指示した。 キ Cは,31日午前11時ころ,呼吸困難になり,のどの渇きを訴えたが,意識障害が悪化したため自力で水分をとることができない状態となった。そこで,Cの祖父の要望により,看護師がCの右上腕正中から針を挿入して持続点滴を開始した。 ク被告Dは,31日午後2時20分ころ,Cを診察した。被告DがCにIVHを挿入しようとしたところ,Cの呼吸が停止し,その後,心停止状態となった。その時点でCの意識レベルは痛み刺激に全く反応しないレベル(ジャパンコーマスケール300)であった。被告Dらが人工呼吸の処置を執るとともに昇圧剤を使用した結果,5分ほどでCの呼吸と脈は再開した。しかし,その後,Cの意識レベルが回復することはなく,Cは糖尿病性昏睡の状態になった。 ケ 31日午後3時30分ころ,Cに対して排尿バル ともに昇圧剤を使用した結果,5分ほどでCの呼吸と脈は再開した。しかし,その後,Cの意識レベルが回復することはなく,Cは糖尿病性昏睡の状態になった。 ケ 31日午後3時30分ころ,Cに対して排尿バルーンの処置が執られた。被告Dは,同日午後5時20分ころ,Cの家族から指摘されてCの尿が出ていないことに気付き,Cに対し利尿剤を投与した。その時点から同日午後11時ころまでの間,Cは175ミリリットルしか排尿しなかった。Cは,その後も1日午前5時ころまでに20ミリリットルしか排尿しなかった。 コ Cは,1日午前10時25分ころ,救急車で被告病院から東邦病院に搬送された。東邦病院のF医師は,Cの病名を糖尿病ケトアシドーシスに起因する糖尿病性昏睡と診断した。その時点で,Cの病態は,最悪レベルの意識障害があり,ケトン体の増殖による急激な血液の酸性化(アシドーシス)や脱水の進行により急性腎不全を発症していた。 Cは,その後,同病院の集中治療室で治療を受けていたが,平成12年4月4日午後7時44分ころ,糖尿病ケトアシドーシスに起因する多臓器不全により死亡した。 (2) 被告病院においてCに試みた輸液量についてア診療報酬明細書(甲A5)には,被告病院においてCに投与するために使用したとされる輸液量が,以下のとおり記載されている。 (ア) 平成12年3月分ソリタ-T3号 500m? 3瓶ソリタ「シミズ」 500m? 1瓶生食 100m? 1瓶ソリタ-T3号 500m? 1瓶生食溶解液キットH 100m? 1式生食 20m? 1Aソリタ「シミズ」 500m? 1瓶生食 20m? 1A生食 20m? 1A(イ) 平成12年4月分ソリタ-T3号 500m? 2瓶生食溶解液キ ? 1Aソリタ「シミズ」 500m? 1瓶生食 20m? 1A生食 20m? 1A(イ) 平成12年4月分ソリタ-T3号 500m? 2瓶生食溶解液キットH 100m? 1式イまた,入院注射指示簿(甲A7の1及び2)には,被告病院の看護師がCに行った輸液量が,以下のとおり記載されている。 (ア) 平成12年3月30日ST3(ソリタT3) 1500m? ソリタ 500m? 生食 100m? (イ) 平成12年3月31日ST3(ソリタT3) 500m? 生食キット 100m? 生食ソリタ 500m? (ウ) 平成12年4月1日ST3(ソリタT3) 1000m? 生食キット 100m?×2ウさらに,看護記録(乙A3の1)には,被告病院の看護師がCに行った輸液量が,以下のとおり記載されている。 (ア) 平成12年3月30日午後10時45分生食 100m? (イ) 平成12年3月31日午後2時47分生食 20m? エ上記アないしウによれば,被告病院においてCに試みた輸液量は,総量で多くても4420ミリリットルであったと認められる。 (3) 上記(1),(2)の外,前記1で認定した事実に基づき,以下のとおり判断する。 ア前記1によれば,本件医療事故当時の医療水準として,糖尿病ケトアシドーシスにり患した通常の患者については,症状の大幅な改善が認められない限り,1日当たり少なくとも5000ミリリットル程度の輸液量が求められており,本件医療事故当時体重が約130キログラムの肥満体であった(被告D本人)Cについては,上記の量を更に上回る量の輸液が必要であったということができる。 しかるに,被告Dが,Cに対 量が求められており,本件医療事故当時体重が約130キログラムの肥満体であった(被告D本人)Cについては,上記の量を更に上回る量の輸液が必要であったということができる。 しかるに,被告Dが,Cに対して試みた輸液の総量は,Cに対してIVHを挿入して輸液を開始したとき(30日午前11時15分ころ)からCが被告病院を退院したとき(1日午前10時25分ころ)までの47時間余りで,上記(2)エのとおり,多くても4420ミリリットルにすぎず,上記の必要とされる輸液量を大幅に下回っていたものと評価せざるを得ない。しかも,30日午後10時55分ころにCがIVHを自ら外してから31日午前11時ころに看護師によって輸液が再開されるまでの約12時間は輸液が全く行われなかった(IVHが外れている間の輸液が無駄になった)のであるから,Cに実際に行われた輸液量は上記の4420ミリリットルを更に下回っていたといえる。 したがって,被告DがCに対して行った輸液量はそもそも大幅に不足していたのであるから,この点で被告Dの判断及び処置に誤りがあったものといわざるを得ない。 イまた,前記(1)のとおり,被告Dは,看護師からCがIVHを自ら外した旨の電話連絡を受けた時点では,既にCの意識障害について糖尿病ケトアシドーシスの影響によるものと判断しており,また,看護師からの報告によりCの意識障害が悪化していることを容易に認識することができたにもかかわらず,当直医ないし看護師に対し,輸液を再開するよう指示をすることなく,輸液をしないまま放置した。 しかしながら,CがIVHを外した時点では,前記(1)によれば,糖尿病ケトアシドーシスの影響によるCの意識障害の程度は被告病院に入院した当初よりも悪化しており,そのことについて被告Dは容易に認識することができたものということができるから ,前記(1)によれば,糖尿病ケトアシドーシスの影響によるCの意識障害の程度は被告病院に入院した当初よりも悪化しており,そのことについて被告Dは容易に認識することができたものということができるから,被告Dとしては,上記時点において,輸液を継続,強化する処置を執ることによって,酸性物質であるケトン体を可能な限り尿中に排出して血液の酸性化を防ぎ,Cが糖尿病性昏睡や急性腎不全,急性心不全になるのを防止すべき注意義務があったものというべきである(甲B2)。 しかるに,上記のとおり,被告Dは,CがIVHを外したとの連絡を受けた時点で,輸液を再開するよう指示することなく,輸液がなされない状態を漫然と放置したのであるから,この点においても,被告Dの判断及び処置に誤りがあったものといわざるを得ない。 (4) 被告らの反論についてア被告らは,Cの被告病院への入院時,Cの既往病歴や病態が不明であったため,治療の当初に1時間当たり500ないし1000ミリリットルもの輸液を行うと急性心不全や肺水腫を起こす可能性もあったことから,多量の輸液を行うことができなかったと主張する。 しかしながら,前記1(2)によれば,治療当初に1時間当たり500ミリリットル程度の輸液を行っても急性心不全や肺水腫を起こす可能性はほとんどないということができるところ,前記(2)によれば,被告Dは,治療初日の30日において,Cに対し輸液を1時間当たり160ミリリットル程度しか試みていないのであるから,急性心不全や肺水腫を起こす危険性を考慮に入れても,被告Dの試みた輸液量は明らかに少なかったと評価せざるを得ず,上記危険性は被告Dの試みた輸液量の少なさを正当化する根拠とはならないものというべきである。また,Cの既往病歴や病態が不明であったとする点についても,確かに,前記争いのない事実(3) せざるを得ず,上記危険性は被告Dの試みた輸液量の少なさを正当化する根拠とはならないものというべきである。また,Cの既往病歴や病態が不明であったとする点についても,確かに,前記争いのない事実(3)のとおり,Cは,被告病院への入院時において,うまく言葉を発することができず,主としてCの婚約者がCに代わって医師の問診に回答したのであるが,その回答により,被告Dらは,Cの既往歴として,交通事故によるろっ骨骨折の疑いがあること,Cの症状経過として,平成12年3月中旬から胃痛及び食欲低下の症状が出現し,食事をとることができず,ジュースなどの水分をとることができるのみの状態であったこと,同月28日から動けなくなったことなどの情報を得たのであるから(乙A3の5),糖尿病の治療を開始するに当たって情報が不足していたということはできず,Cの既往病歴や病態が不明であったことを理由に輸液量を少なくしたことを正当化することはできないといわざるを得ない。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。 イまた,被告らは,被告DがCによるIVHの抜去の連絡を受けたにもかかわらずIVHの再挿入を指示しなかったことについて,Cが本件医療事故当時体重130キログラムの若年高等度肥満であったため,Cの不穏状態が長じればIVHの再挿入は不可能であったこと,Cが不穏な状況下でIVHを繰り返せば気胸が生じる可能性がありかえって危険であったことを理由に,やむを得ない処置であったと主張する。 しかしながら,Cが不穏な状況にあったという点については,Cが,IVHの抜去後,31日午前3時過ぎに寝入っている(前記争いのない事実(6)ア)ところ,被告D自身が,本人尋問において,Cが寝ている状態であればIVHを挿入することは可能であったと供述していることからすると,Cが寝入った時点 3時過ぎに寝入っている(前記争いのない事実(6)ア)ところ,被告D自身が,本人尋問において,Cが寝ている状態であればIVHを挿入することは可能であったと供述していることからすると,Cが寝入った時点でCに対しIVHを挿入することは可能であったと認められる。そうすると,Cが不穏な状況にあったためIVHの再挿入が不可能であったとは必ずしもいえず,被告Dは,Cが寝入るなどして鎮静化した時点で直ちにIVHの再挿入をするよう看護師らに指示すべきであったといえる。 また,IVHを繰り返せば気胸が生じる可能性がありかえって危険であったとする点についても,抗精神病剤であるセレネースなどを適切に投与することにより,Cの不穏状態を制御してCによるIVHの抜去,IVHの再挿入の繰り返しをある程度回避することができたものと考えられるから,被告らの主張する上記の点は当たらない。仮に,IVHの繰り返しによりCに気胸が生じる可能性があったとしても,被告DがCによるIVHの抜去の連絡を受けた時点では,前記(1)のとおり,Cにおいて糖尿病ケトアシドーシスの影響による意識障害が悪化していたのであり,そのまま放置すれば,Cが糖尿病性昏睡や急性腎不全,急性心不全になり死亡する危険があったものということができるから(甲B2),Cに気胸が生じる可能性を考慮に入れても,IVHによる輸液を再開するための処置を優先して行うべきであったといえる。 したがって,いずれにしても,IVHの再挿入を指示しなかったことに関する被告らの上記主張も採用することができない。 (5) 以上によれば,Cに対する輸液に関し,CによるIVHの抜去後看護師らに対しIVHの再挿入を指示せずに放置した点,そして,その結果Cに試みた輸液量が総量として不足していた点で,被告Dには過失があったものといわざるを得ない。 3 関し,CによるIVHの抜去後看護師らに対しIVHの再挿入を指示せずに放置した点,そして,その結果Cに試みた輸液量が総量として不足していた点で,被告Dには過失があったものといわざるを得ない。 3 争点(2)(被告病院における治療とCの死亡との間の因果関係の有無)について(1) 糖尿病性昏睡について(甲B2,被告D本人)糖尿病性昏睡は,以下のような段階を追って典型的な予兆症状が現れる。 ① 多量の尿が頻繁に出る。水を飲んでものどが渇く。激しい脱水状態になる。 ② 疲労感,だるさが増す。皮膚や粘膜が乾燥する。体重が減少する。 ③ 吐き気,おう吐,腹痛(胃腸症状)の症状が出てくる。極度の食欲不振で水分も受け付けなくなる。 ④ 大きな息をする。血圧や体温が低下し,脈拍が弱くなる。 ⑤ 尿が出なくなり,意識が薄れ始める。 ⑥ 昏睡状態になる。 糖尿病性昏睡は,血液中における極度のインスリン不足によって起こるものであり,インスリンの不足により脂肪から分解した強い酸性物質であるケトン体が生じて血液を酸性にし(アシドーシス),その状態が脳の働きを抑制して昏睡を引き起こすことになる。 そこで,糖尿病性昏睡になるのを防ぐためには,インスリンを投与してケトン体の発生を抑制するとともに,輸液を行って既に発生したケトン体を尿中に排出することが必要である。 そして,糖尿病性昏睡は,いったん発症してしまっても,病院に急行して直ちに応急処置(インスリン注入)を受ければ,ほとんどの場合治癒するが,放置すると急性脱水症状を起こし,腎臓の機能も低下して,急性腎不全,急性心不全を起こして死亡する場合もある。 (2) 30日ないし1日に行ったCの血液生化学検査の結果は,以下のとおりである(乙A9ないし11)。 30日 31日 1日基準値アミラーゼ 113 する場合もある。 (2) 30日ないし1日に行ったCの血液生化学検査の結果は,以下のとおりである(乙A9ないし11)。 30日 31日 1日基準値アミラーゼ 113 75 289 (26.5~83.5)BUN 21.1 35.1 59.0 (9~20)クレアチニン 1.18 2.73 5.88 (0.3~1.3)糖 580 481 619 (70~110)Na 116 119 128 (135~147)K 5.1 4.4 3.6 (3.6~5.0)C? 81 87 83 (103~115)GOT 20 30 33 (10~27)GPT 36 24 24 (5~33)LDH 188 303 211 (180~460)CPK 106 1083 645 (24~188)CRP 0.6 14.3 22.6 (0.5以下)(3) 前記争いのない事実,前記1,2及び前記(1)で認定した事実並びに上記(2)の血液生化学検査の結果に基づき,前記2で認定した被告Dの過失とCの死亡との間の因果関係の有無について,以下検討する。 ア Cは,被告病院への入院時,腹痛,吐き気,おう吐などの症状が出ており,意識が明瞭でないなど,既に糖尿病性昏睡への予兆症状が現れていた。 しかし,他方,30日の血液生化学検査の結果は,血糖値以外はほぼ正常であり,また,同日の被告病院への入院時から午後3時までの間,Cは1600ミリリットルもの排尿をしており(乙A3の1,被告D本人),さらに,Cは,被告病院に入院した当時,意識は明瞭ではなかったものの,31日午後2時20分ころに呼吸停止,心停止状態となって痛み刺激に全く反 ミリリットルもの排尿をしており(乙A3の1,被告D本人),さらに,Cは,被告病院に入院した当時,意識は明瞭ではなかったものの,31日午後2時20分ころに呼吸停止,心停止状態となって痛み刺激に全く反応しない意識レベルになるまでは,昏睡状態になることはなく,それ以前の同日午前3時50分ころ,付添いをしていた家族に対して「何でここにいるの。ここはどこ。」などと問い掛けたり(乙A3の1),同日午前11時30分ころ,原告Bの問い掛けにうなずいたりするなどしていた(前記争いのない事実(6)ウ)。 以上のCの状況を前記(1)の糖尿病性昏睡の予兆症状の段階に基づいて考察すると,被告病院への入院時のCの症状は,いまだ糖尿病性昏睡の初期症状の段階にとどまっていたものということができる。 イところが,30日から31日にかけてCに対する輸液が中断された後,Cの意識レベルが悪化し,31日午後2時20分ころには,呼吸停止,心停止状態となった。 また,Cは,同日午前3時50分ころ,100ミリリットルの排尿をしたものの,その後はほとんど排尿しておらず,同日午後5時20分ころCに対して利尿剤が投与された後も同様の状態であったことからすると,上記の利尿剤投与時までにCが急性腎不全を発症したものと認められる。 さらに,上記の輸液中断後の31日の血液生化学検査において,BUN,CPK,CRPといった数値が急速に悪化した。 ウそして,1日に被告病院から東邦病院に搬送された時点でのCの症状の程度,状況などからすると,その時点では,既にCの糖尿病性昏睡の症状は治癒の不可能な状態であり,死亡が避けられない状況にあったものということができる。 エ以上のアないしウを総合すると,前記2の被告Dの輸液に関する過失,とりわけCによるIVHの抜去後看護師らに対しIVHの再挿入を指示せずに放置 亡が避けられない状況にあったものということができる。 エ以上のアないしウを総合すると,前記2の被告Dの輸液に関する過失,とりわけCによるIVHの抜去後看護師らに対しIVHの再挿入を指示せずに放置した過失と,Cが糖尿病性昏睡に陥ったこと,ひいてはCが死亡したこととの間には,因果関係があるものと認められる。 (4) 被告らの反論についてア被告らは,被告病院への入院時,Cが糖尿病の急性合併症である重度の糖尿病ケトアシドーシス状態にあり,少なくとも昏睡状態に近い状態にあったから,既に手遅れの状態にあったといえ,被告らの治療とCの死亡との間に因果関係は認められないと主張する。 しかしながら,前記(1)のとおり,糖尿病性昏睡は,いったん発症しても,直ちに応急処置を受ければ,ほとんどの場合治癒するものであるところ,①上記(3)アのとおり,被告病院への入院時のCの症状は,いまだ糖尿病性昏睡の初期症状の段階にとどまっていたものということができること,②被告Dは,被告病院入院当日の30日にCを診断した際,原告Bらに対し,Cの血糖値が500以上であること,病名は「脱水,糖尿病ケトアシドーシス,消化管通過障害疑い」であること,治療計画は「持続点滴,インスリン投与」であり,2週間程度の入院が必要である旨を告げたのみであり,Cの糖尿病ケトアシドーシスの状態が生命の危険のあるものであることを前提とする説明を全く行っておらず(前記争いのない事実(4)),また,同日午後6時ころ被告病院を退勤する際,Cのことについて当直医に申し送りをしていない(前記2(1)エ)など,Cの被告病院への入院当初,Cの症状が生命の危険のある重篤なものであることを前提とする対応を全くとっていないこと,③被告D自身,本人尋問において,Cの症状について,完治することが難しかったとは言い切れな 告病院への入院当初,Cの症状が生命の危険のある重篤なものであることを前提とする対応を全くとっていないこと,③被告D自身,本人尋問において,Cの症状について,完治することが難しかったとは言い切れないと供述していることなどを併せ考えると,被告病院への入院時,Cが既に手遅れの状態であったとは到底認められない。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。 イまた,被告らは,Cの心停止の原因は,高度のアシドーシスに感染が加わり,敗血症性ショック(細菌が血液中に入り込み,体中に細菌がばらまかれる状態)ないしトキシックショック(細菌の出す毒素による細胞,組織の障害),横紋筋融解症を来し,これにより多臓器不全を併発したことにあると推測されると主張する。かかる主張は,Cの死亡は,被告Dの診療行為に基づかないところの細菌感染が原因であるとする趣旨であると思われるが,その主張する事実を裏付ける確たる証拠はない。 したがって,被告らの上記主張も採用することができない。 (5) 以上によれば,その余の点(原告らが主張する被告病院におけるその余の不適切な診療行為の有無など)について判断するまでもなく,被告Dの過失ある診療行為によってCの死亡の結果が生じたものということができるので,被告Dは,不法行為責任(民法709条)に基づき,Cの死亡によって生じた損害について,原告らに対し賠償する責任を負うものというべきである。また,被告法人も,その事業である診療行為についての被用者である被告Dの不法行為に関して使用者責任(同法715条1項)を負うことを免れず,Cの死亡によって生じた損害について,被告Dと連帯して,原告らに対し賠償する責任を負うものというべきである。 4 争点(3)(原告らの被った損害)について(1) Cの損害についてア逸失利益 よって生じた損害について,被告Dと連帯して,原告らに対し賠償する責任を負うものというべきである。 4 争点(3)(原告らの被った損害)について(1) Cの損害についてア逸失利益 4652万2383円(ア) Cの収入について前記争いのない事実,甲A12,原告B本人によれば,Cは,昭和49年9月3日生まれ(死亡当時25歳)の男子であり,中学を卒業した後定時制高校に進学したが,同高校を1年生の時に中退したこと,同高校中退後は,スイミングクラブのインストラクターや生協のアルバイト,工場勤務の仕事などをしていたが,平成11年4月以降本件医療事故当時までは無職であったこと,本件医療事故の直前の時期は婚約者と同居しながら公共職業安定所などで求職活動をしていたことが認められる。そして,婚約者と同居していること,求職活動をしていたことなどを考慮すると,Cについて将来にわたって無職の状態が継続することや中卒男性労働者の平均賃金を得ることができないとまでいうことはできない。加えて,Cの失業前の収入額を認めるに足りる証拠がないことも併せ考えると,Cの逸失利益額を算定するに当たっては,当裁判所に顕著な事実である平成12年度賃金センサスによる全男性中卒労働者の平均賃金年額485万4800円をCの年収と見なして算定すべきである。 この点,被告らは,Cは重度の糖尿病にり患していたから,仮に生命が助かったとしても,常時治療を余儀なくされ,健常人と同程度の稼働は見込めなかったと主張する。しかしながら,前記3(1)及び3(3)アのとおり,①被告病院への入院時のCの症状はいまだ糖尿病性昏睡の初期症状の段階にとどまっていたこと,②糖尿病性昏睡は,いったん発症してしまっても,直ちに応急処置を受ければほとんどの場合治癒することなどにかん ①被告病院への入院時のCの症状はいまだ糖尿病性昏睡の初期症状の段階にとどまっていたこと,②糖尿病性昏睡は,いったん発症してしまっても,直ちに応急処置を受ければほとんどの場合治癒することなどにかんがみると,被告病院入院時のCの糖尿病の症状の程度からは,本件医療事故がなかった場合,Cが健常人と同程度に稼働することが見込めなかったものとは認められない。したがって,被告らの上記主張は採用することができない。 (イ) 生活費控除率について前記争いのない事実,甲A12によれば,Cは,本件医療事故当時,Gと婚約しており,平成11年ころから同人と同居を開始し,それ以降本件医療事故当時まで同人と二人で生活をしていたことが認められる。他方で,Cは,Gと同居を開始して以降は,原告らと同居しておらず,また,原告らの生活の援助をしていた事実も認められず,本件医療事故がなかったとしても,近い将来,原告らの生活を援助したであろう蓋然性は認められない。以上の事実を総合考慮すると,Cの逸失利益額を算定するに当たっては,生活費控除率を45パーセントとして算定すべきである。 (ウ) Cの逸失利益額を算定するに当たっては,就労可能年数をCの死亡時の年齢である25歳から67歳までの42年間として算定するのが相当である。 そうすると,Cの逸失利益額は,前記(ア)の年収額485万4800円から上記(イ)の生活費控除率45パーセント分の金額を控除した金額に42年分のライプニッツ係数である17.4232を乗じた4652万2383円となる。 イ慰謝料 2200万円前記のとおりのCの身上,経歴や本件医療事故の態様,それによって生じた結果など一切の事情を総合考慮すると,本件医療事故によりCの被った精神的苦痛に対する慰謝料額は,2200万円と 2200万円前記のとおりのCの身上,経歴や本件医療事故の態様,それによって生じた結果など一切の事情を総合考慮すると,本件医療事故によりCの被った精神的苦痛に対する慰謝料額は,2200万円とするのが相当である。 ウ上記ア,イによれば,被告Dの不法行為によるCの損害額は6852万2383円となる。 そして,原告AがCの父であり,原告BがCの母であることは,当事者間に争いがないから,原告らはそれぞれ,Cの死亡により,上記損害額の2分の1である3426万1191円の各損害賠償債権を相続したものということができる。 (2) 原告ら固有の損害についてア葬儀費各60万円死亡したCの葬儀費が120万円掛かったことについては,当事者間に争いがなく,弁論の全趣旨によれば,原告らがそれぞれ葬儀費を60万円ずつ支払ったものと認められる。 イ弁護士費用各350万円原告らが本訴追行のために訴訟代理人として弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著な事実であり,上記の認定損害額,本件事案の内容,本訴の審理経過などの一切の事情を勘案すると,被告らが負担すべき弁護士費用は700万円とするのが相当であり,原告らはそれぞれ350万円ずつを請求することができるものというべきである。 (3) 以上によれば,原告らはそれぞれ,被告Dに対しては民法709条の不法行為責任に基づき,被告法人に対しては同法715条1項の使用者責任に基づき,3836万1191円及びこれに対する被告Dの不法行為後であることが明らかな平成12年4月4日(Cの死亡した日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求めることができる。 5 争点(4)(過失相殺)について(1) 被告ら ことが明らかな平成12年4月4日(Cの死亡した日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求めることができる。 5 争点(4)(過失相殺)について(1) 被告らは,C自身の健康管理が非常に不適切であったため,被告病院に入院時既にCの高血糖状態が何日も持続し,Cに様々な身体症状が出現したのであり,ここまで症状が悪化し,食事や入浴もままならない状態が続いていたにもかかわらず,平成12年3月30日に至るまで適切な医療機関で治療を受けなかったことが,Cの死亡の最大の原因であるから,原告ら側に過失が認められ,本件では過失相殺がなされるべきであると主張する。 しかしながら,被告病院への入院時のCの症状がいまだ糖尿病性昏睡の初期症状の段階にとどまっていたことは,既に繰り返し述べているとおりであり,被告病院への入院時のCの症状が重かったことを前提とする被告らの上記主張は,そもそもその前提を欠くものといわざるを得ない。また,確かに,前記争いのない事実(2)のとおり,Cは,同月16日ころから胃部に不快感やとう痛を生じ,その後徐々に固形物がのどを通らない状態となり,同月28日ころには,呼吸困難,吐き気及び動悸症状が出現し,同月29日夜おう吐し,その後翌30日朝にもおう吐し,身体が動かず,ろれつが回らなくなるなどした段階で,被告病院で診察を受けることになったものであるが,他方,Cが糖尿病について専門的知識を有せず糖尿病の既往歴もなかったこと(弁論の全趣旨),同月半ばころから市販の胃薬を服用して自己の症状について自分なりに対処しようとしていたこと(甲A12)などに照らすと,上記の症状の段階でCが医療機関の診察を受けることにしたことが,糖尿病に関して専門的知識を有しないCを基準にすると,著しく遅れたものと評価することはできない していたこと(甲A12)などに照らすと,上記の症状の段階でCが医療機関の診察を受けることにしたことが,糖尿病に関して専門的知識を有しないCを基準にすると,著しく遅れたものと評価することはできないというべきである。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。 (2) また,被告らは,被告DがCを診断した時点において,Cは既に糖尿病の症状が悪化していたため,自己の病状や生活状況を全く説明できず,また,周囲にいた原告Bや婚約者であるGらも,Cの症状を正確に伝えることができなかったことから,被告Dを始めとする被告病院の医師らがCに対する適切な診断をすることを困難にさせたのであり,この点で原告ら側に過失が認められるから,過失相殺がなされるべきであるとも主張する。 しかしながら,前記2(4)アのとおり,確かに,Cは,被告病院への入院時,うまく言葉を発することができず,主としてGがCに代わって医師の問診に回答したのであるが,その回答により,被告Dらは,Cの既往歴として,交通事故によるろっ骨骨折の疑いがあること,Cの症状経過として,平成12年3月中旬から胃痛及び食欲低下の症状が出現し,食事をとることができず,ジュースなどの水分をとることができるのみの状態であったこと,同月28日から動けなくなったことなどの情報を得たのであるから,糖尿病の治療を開始するに当たって情報が不足していたとはいえず,原告ら側の説明不足により被告Dを始めとする被告病院の医師らがCに対する適切な診断をすることを困難にさせたとまでいうことはできない。また,そもそも,被告Dらが,原告ら側から提供されるCの治療に必要な情報が不足しているためCに対する適切な診断をすることが困難であると認識したのであれば,医療の専門家である被告Dらは,その後のCの症状や状態の推移を注意深く観察し ら側から提供されるCの治療に必要な情報が不足しているためCに対する適切な診断をすることが困難であると認識したのであれば,医療の専門家である被告Dらは,その後のCの症状や状態の推移を注意深く観察しなければならないはずであるが,被告Dは,30日午後6時ころ被告病院を退勤した際,Cのことについて当直医に申し送りをせず,同日CがIVHを外したとの連絡を受けた時にCの尿量を確認しなかった(被告D本人)などの事実に照らすと,被告DらがCの症状や状態の推移を注意深く観察していたとは到底いえないから,原告ら側の情報提供の不足を理由に過失相殺をすることは,損害の公平な分担という過失相殺の趣旨に照らしても,認められるべきではない。 したがって,被告らの上記主張も採用することはできない。 (3) そうすると,過失相殺をすべきであるとの被告らの上記主張には理由がなく,本件では過失相殺をすることは相当でない。 第4 結論以上によれば,原告A及び原告Bの各本訴請求はいずれも,被告らに対し,3836万1191円及びこれに対する平成12年4月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるからこれらを認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 前橋地方裁判所民事第2部裁判長裁判官東條宏裁判官原克也裁判官高橋正幸
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