主文 原判決を破棄する。 被上告人らの控訴をいずれも棄却する。 控訴費用,上告費用及び参加によって生じた訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。 理由 上告代理人内田健の上告受理申立て理由二について 1 本件は,大分県(以下「県」という。)の住民である被上告人らが,第49回全国都道府県議会議員軟式野球大会(以下「本件野球大会」という。)に参加する県議会議員を応援する用務等を目的とする県職員の出張に対して行われた旅費の支出は違法であると主張して,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,①県知事の職にあった上告人A1に対し,同号所定の当該職員に該当するとして旅費総額相当の損害賠償を,② 県総務部長の職にあった上告人A2に対し,同号所定の当該行為に係る相手方に該当するとして同人に支給された旅費相当の損害賠償又は不当利得の返還を,③ 県総務部財政課主幹兼総務係長の職にあった上告人A3に対し,同号所定の当該職員又は当該行為に係る相手方に該当するとして旅費総額相当の損害賠償又は同人に支給された旅費相当の不当利得の返還を,それぞれ求めた事案である。 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 (1) 県総務部は,県議会及び県の行政一般に関する事項等を分掌しており,総務部長は,その統括責任者である。県総務部財政課主幹兼総務係長は,総務部長,議会に関すること等を総括し,また,知事の権限に属する旅費の支出命令を専決するものとされていた。 - 1 -(2) 県においては,平成9年4月1日,大分県職員職務執行基準(平成9年大分県訓令甲第13号。以下「職務執行基準」という。)が制定された。職務執行基準は,職員の基本的心構えや, た。 - 1 -(2) 県においては,平成9年4月1日,大分県職員職務執行基準(平成9年大分県訓令甲第13号。以下「職務執行基準」という。)が制定された。職務執行基準は,職員の基本的心構えや,予算執行,旅行命令,関係業者等との接触等に関する基本的基準を定めるほか,総務部長をもって充てる総括職務執行管理者が,職務執行基準の遵守の徹底を図るため,全庁における厳正な職務執行及び綱紀粛正の推進に関し,所要の措置を講ずるものとする旨を定めている。 (3) 上告人A2は,平成9年4月1日,総務部長に就任し,県外における県の機関のうち,東京事務所においては,同年5月に東京に出張した際,職務執行基準の趣旨の徹底を図るために訓示をしたが,福岡事務所については,格別訓示はしなかった。大阪事務所については,職員数が11名であり,県への企業誘致等の渉外業務も多く,職務執行基準を徹底させる必要性が高いことから,上告人A2は,機会があれば同事務所を訪れて訓示をすべきであると考えていたが,訓示のみを目的として出張することまでは計画しなかった。 (4) 全国都道府県議会議員軟式野球大会(以下「全国野球大会」という。)は,昭和24年から,国民体育大会(以下「国体」という。)に協賛すること等を標ぼうして,その開催地において行われてきた。全国野球大会は,各都道府県議会の対抗形式により行われ,多くの都道府県議会の議員らが参加しており,県議会の野球チームも,同35年以降平成9年まで,同大会に連続して参加してきた。本件野球大会は,全国都道府県議会議長会及び大阪府議会が主催し,「第52回国民体育大会(なみはや国体)に協賛し,あわせて議員相互の親睦とスポーツ精神の高揚を図り,地方自治の発展に寄与する」ことを目的として,同年8月23日から大阪市等で開催され,全国47都道府県議会 2回国民体育大会(なみはや国体)に協賛し,あわせて議員相互の親睦とスポーツ精神の高揚を図り,地方自治の発展に寄与する」ことを目的として,同年8月23日から大阪市等で開催され,全国47都道府県議会の野球チームの議員約1400名,随行員約500名が参加した。 もっとも,なみはや国体実行委員会は,本件野球大会を協賛事業や関連行事とし- 2 -ては位置付けておらず,本件野球大会の日程及び行事計画においては,参加議員と応援職員との交流や意見交換の機会も設けられていなかった。 (5) 上告人A2は,例年,総務部長が全国野球大会に参加する県議会議員の応援に赴いていたことから,総務部財政課主幹兼総務係長であった上告人A3を伴って本件野球大会に参加する県議会議員の応援に行くこととし,その機会を利用して,大阪事務所に立ち寄って訓示をすることにした。上告人A3は,上告人A2の指示を受けて旅行日程等を調整し,平成9年8月22日午後大分市から大阪市に向かい,午後5時から大阪事務所において訓示をし,翌日,本件野球大会の応援をして大分市に帰るという本件出張を計画した。これに基づいて,上告人A2及び同A3(以下,併せて「上告人A2ら」という。)に対し,本件出張に係る旅行命令(以下「本件旅行命令」という。)が発せられた。これを受けて,上告人A3は,本件出張に係る旅費(以下「本件旅費」という。)の支出命令(以下「本件支出命令」という。)を専決により発し,上告人A2らは,本件旅費を受領した。 (6) 上告人A2らは,平成9年8月22日午後,航空機で大分市から大阪市へ向かい,大阪事務所に到着した。上告人A2は,午後5時ころから,大阪事務所において,同事務所の職員全員に対し,約4,5分間,職務執行基準に基づいて服務規律の保持及び綱紀粛正について訓示をした後,所長から同事 大阪事務所に到着した。上告人A2は,午後5時ころから,大阪事務所において,同事務所の職員全員に対し,約4,5分間,職務執行基準に基づいて服務規律の保持及び綱紀粛正について訓示をした後,所長から同事務所の業務について報告を受けた。上告人A2らは,午後6時ころ大阪事務所を退出し,大阪市内に宿泊した。 上告人A2らは,翌23日午前8時30分ころ,本件野球大会の開会式の会場である大阪市内のDに到着し,午前9時ころから約1時間,本件野球大会の開会式を見学した。さらに,上告人A2らは,午後3時ころ,県議会議員の出場する試合会場に到着し,午後4時ころから開始された県議会議員らの試合を30分ほど応援した後,試合途中で退出し,同日中に航空機で大分市への帰路に就いた。 - 3 - 3 原審は,前記事実関係の下において,次のとおり判断し,被上告人らの上告人A1及び同A3に対する損害賠償請求並びに上告人A2に対する不当利得返還請求をいずれも認容すべきものとした。 (1) 本件出張は,本件野球大会に参加する県議会議員を応援する用務及び大阪事務所において訓示をする用務を目的として計画,実施されたものであるところ,本件野球大会に参加する県議会議員を応援する用務を目的とする出張には合理的な必要性が認められず,大阪事務所において訓示をする用務のみを目的として本件出張をするまでの必要性はなく,実行された可能性もないから,本件旅行命令は違法である。 (2) 上告人A1及び同A3は,本件旅費の支出が違法であることを容易に認識し得たにもかかわらず,検討を怠った結果,本件支出命令が発せられるに至ったものであり,上記両名にはいずれも過失があったと認められるから,県に対し,支出された旅費総額相当の損害を賠償すべき責任がある。 (3) 上告人A2は,違法な支出に基づく本件旅費を 発せられるに至ったものであり,上記両名にはいずれも過失があったと認められるから,県に対し,支出された旅費総額相当の損害を賠償すべき責任がある。 (3) 上告人A2は,違法な支出に基づく本件旅費を受領しており,その受領につき法律上の原因を欠くというべきであるから,受領した旅費相当額を不当利得として県に返還すべき義務がある。 4 しかしながら,原審の上記判断のうち(1)は是認することができるが,(2)及び(3)は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1) 本件旅行命令の適否について普通地方公共団体の長は,当該普通地方公共団体の公務を遂行するために合理的な必要性がある場合には,その裁量により,補助機関である職員に対して旅行命令を発することができるが,上記裁量権の行使に逸脱又は濫用があるときは,当該旅行命令は違法となるというべきである。このことは,旅行命令が普通地方公共団体の長から委任を受けるなどしてその権限を有するに至った職員により発せられる場- 4 -合にも,同様に当てはまるものと解される。 そこで,これを本件についてみると,前記事実関係によれば,本件野球大会は,都道府県議会の議員が各議会対抗形式により野球の試合を行うものであって,国体に協賛して議員相互の親睦とスポーツ精神の高揚を図り,地方自治の発展に寄与することを目的として掲げているものの,国体実行委員会から協賛事業や関連行事とされていたものではなく,地方自治の発展に寄与するような相互交流や意見交換の機会も設けられていなかったというのであり,本件野球大会に参加する県議会議員を応援することが県の公務に当たるものということはできない。 また,前記事実関係によれば,大阪事務所において訓示をする用務は,職務執行基準の総括職務執行管理者である総務部長の職務に属するも 議会議員を応援することが県の公務に当たるものということはできない。 また,前記事実関係によれば,大阪事務所において訓示をする用務は,職務執行基準の総括職務執行管理者である総務部長の職務に属するものではあるが,本件出張の付随的な目的にすぎないものであって,そのためにわざわざ大分市から大阪市まで旅行する合理的な必要性があったということはできない。 そうすると,本件野球大会に参加する県議会議員を応援する用務及び大阪事務所において訓示をする用務を目的として発せられた本件旅行命令には,裁量権を逸脱し又は濫用した違法があるというべきである。これと同旨の原審の判断は,是認することができる。 (2) 上告人A3の当該職員としての損害賠償責任についてア財務会計上の行為を行った職員に対して法242条の2第1項4号に基づいて損害賠償責任を問うことができるのは,先行する原因行為に違法事由がある場合であっても,上記原因行為を前提にしてされた当該職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られる(最高裁昭和61年(行ツ)第133号平成4年12月15日第三小法廷判決・民集46巻9号2753頁参照)。 前記事実関係の下においては,知事の権限に属する旅費の支出命令につき専決を任された総務部財政課主幹兼総務係長である上告人A3は,知事又は知事から権限- 5 -の委任を受けるなどしてその権限を有するに至った職員が発した旅行命令を是正する権限を有していたとはいえず,本件旅行命令が著しく合理性を欠き,そのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があるときでない限り,これを尊重し,その内容に応じた財務会計上の措置を執る義務があるというべきである。そして,前記事実関係によれば,県においては,総務部長が例年全国野球大会に参加する県議会 い瑕疵があるときでない限り,これを尊重し,その内容に応じた財務会計上の措置を執る義務があるというべきである。そして,前記事実関係によれば,県においては,総務部長が例年全国野球大会に参加する県議会議員の応援に赴いていたのであり,本件出張では,その応援に赴く用務のほか,県の機関において職務執行基準の遵守を徹底するために訓示するという総務部長の職務に属する用務もその目的の一つとされていたというのである。このような事情に照らすと,本件旅行命令が著しく合理性を欠き,そのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があるということはできないから,上告人A3としては,本件旅行命令を前提としてこれに伴う所要の財務会計上の措置を執る義務があるものというべきである。そうすると,本件支出命令が財務会計法規上の義務に違反してされた違法なものであるということはできない。 イまた,普通地方公共団体の支出命令を行う権限を有する職員については,故意又は重大な過失により法令の規定に違反して当該行為をした場合に限り損害賠償責任を負うものとされている(法243条の2第1項,9項)。しかるに,原審は,上告人A3に重大な過失があることを確定しないで同上告人の損害賠償責任を肯定したものであるから,同条の解釈適用を誤るものといわざるを得ない。そして,前記事実関係の下では,上告人A3が本件支出命令を行ったことにつき故意又は重大な過失があったということはできない。 ウしたがって,上告人A3は,県に対し,当該職員としての損害賠償責任を負わないというべきである。 (3) 上告人A1の損害賠償責任について本件支出命令は,違法な本件旅行命令を前提としてされたものであるが,前記事- 6 -実関係の下においては,知事である上告人A1が,旅費の支出命令を専決する権限を有する補助 の損害賠償責任について本件支出命令は,違法な本件旅行命令を前提としてされたものであるが,前記事- 6 -実関係の下においては,知事である上告人A1が,旅費の支出命令を専決する権限を有する補助職員である上告人A3が本件支出命令を発することを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失によりこれを阻止しなかったということはできない。 したがって,上告人A1は,県に対し,損害賠償責任を負わないというべきである。 (4) 上告人A2らの当該行為に係る相手方としての損害賠償責任等について普通地方公共団体の職員は,職務命令である旅行命令に従って旅行をした場合に,旅行命令に重大かつ明白な瑕疵がない限り,当該旅行に対して旅費の支給を受けることができ,支給された旅費が不当利得となるものではない(最高裁平成12年(行ツ)第369号,同年(行ヒ)第352号同15年1月17日第二小法廷判決・民集57巻1号1頁参照)。 これを本件についてみると,上告人A2らは,職務命令である本件旅行命令に従って本件出張をしたものであるところ,前記事実関係の下においては,本件旅行命令に重大かつ明白な瑕疵があったということはできない。そうすると,上告人A2らに支給された旅費は不当利得とはならない。また,上告人A2において本件出張が違法であることを認識していたなどの事情が存在するともいえない本件においては,上告人A2らが本件旅費を受領したことにつき不法行為が成立するということもできない。 5 結論以上によれば,上告人A1及び同A3の損害賠償責任並びに上告人A2の不当利得返還義務を肯定した原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,前記説示によれば,被上告人らの請求はいずれも理由がなく 得返還義務を肯定した原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,前記説示によれば,被上告人らの請求はいずれも理由がなく,これを棄却した第1審判決は- 7 -結論において正当であるから,被上告人らの控訴を棄却すべきである。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官才口千晴裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官泉徳治裁判官島田仁郎)- 8 -
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