平成27(ワ)36667 商標権侵害行為差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成28年12月21日 東京地方裁判所
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平成28年12月21日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成27年(ワ)第36667号商標権侵害行為差止等請求事件口頭弁論終結日平成28年11月2日判決原告 A同訴訟代理人弁護士平松明同補佐人弁理士吉原朋重被告株式会社B製麺所同訴訟代理人弁護士大谷部雅典 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,飲食店に関する宣伝用の看板,電光看板,価格表,チラシ,のれん,箸袋に「新高揚」の標章を付して,展示又は頒布してはならない。 2 被告は,「新高揚」の標章を付した飲食店に関する宣伝用の看板,電光看板,価格表,チラシ,のれん,箸袋を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対し,802万5600円及びこれに対する平成28年1月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は被告の負担とする。 5 仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件は,別紙商標権目録記載の商標権(以下「原告商標権」といい,原告商標権に係る商標を「原告商標」という。)の商標権者である原告が,被告に対し,被告が経営する飲食店において「新高揚」という標章(以下「被告標章」 という。)を使用することは,原告商標権を侵害すると主張して,商標法36条1項・2項に基づき,被告標章の使用の差止及び被告標章を付した看板等の廃棄を求めるとともに,民法709条・商標法38条3項に基づく損害賠償金として,平成25年3月26日(原告商標の商 ,商標法36条1項・2項に基づき,被告標章の使用の差止及び被告標章を付した看板等の廃棄を求めるとともに,民法709条・商標法38条3項に基づく損害賠償金として,平成25年3月26日(原告商標の商標公報発行日)から平成27年11月25日までの間の原告商標の使用料相当額及び弁護士費用合計802万5600円並びにこれに対する不法行為の後の日である平成28年1月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)(1) 当事者ア原告は,昭和47年,東京都中野区の中野新橋において「新高揚」という名称のラーメン店(以下「中野店」という。)を開店した。 原告は,昭和56年8月29日,有限会社新高揚(以下「訴外会社」という。)を設立し,その代表取締役に就任した。訴外会社は,その後,現在の被告所在地において「新高揚」という名称のラーメン店(以下,後記(3)の営業譲渡の前後を通じて「本件店舗」という。)を開店した。 なお,中野店はその後閉店した。(甲5)イ被告は,その所在地において,「新高揚」という名称のラーメン店(本件店舗)を経営する株式会社である。 被告代表者であるB(以下「B」という。)は,平成3年頃,訴外会社に採用され,平成23年頃からは訴外会社従業員として本件店舗の店長を務めていた。 (2) 原告商標原告は,別紙商標権目録記載のとおり,平成24年9月24日に原告商標を出願し,同商標権は平成25年2月22日に商標登録を受け,現に保有し ている。なお,原告商標権に係る商標公報は,平成25年3月26日に発行された。(甲1,2)(3) 営業譲渡 告商標を出願し,同商標権は平成25年2月22日に商標登録を受け,現に保有し ている。なお,原告商標権に係る商標公報は,平成25年3月26日に発行された。(甲1,2)(3) 営業譲渡ア訴外会社と,当時設立中の被告の発起人であったB及び訴外C(以下「C」という。)との間で,平成24年11月12日,「営業譲渡契約締結に関する同意書」(乙2。以下「本件同意書」という。)が締結された。本件同意書には,①訴外会社が,同年12月31日をもって,設立後の被告に対し,本件店舗の「営業権」を譲渡することを予定し,被告はこれを譲り受けることを予定すること,②「営業権」とは,店舗に現存するのれん,訴外会社名義の電話加入権,店舗造作全部,外看板,得意先及び仕入先に対する権利,店舗の賃貸借権を含めた一切の権利をいうこと及び③譲渡対価は1700万円とする旨の記載がある。 イ B及びC(以下,「被告代表者ら」ということがある。)は,同年11月22日,被告を設立した。(乙2,3)ウ訴外会社と被告は,同年11月29日,訴外会社が,同年12月31日をもって,被告に対し,1700万円で本件店舗の営業を譲渡する旨合意し,営業譲渡契約書(乙1)を作成した(以下,同契約書を「本件営業譲渡契約書」,同契約書による合意を「本件営業譲渡契約」といい,同契約に基づく営業譲渡を「本件営業譲渡」という。)。(乙1)エ本件営業譲渡契約において,訴外会社から被告に譲渡される財産は,「商品,貯蔵品,店舗造作,器具備品,その他営業物品」各一式とされていた。 また,同年12月21日以降に仕入れた商品の代金は被告が負担する旨及び訴外会社が退去する際に造作の償却部分が発生して造作費の15%が請求された場合には,被告が負担する旨が合意されていた。(甲6,乙1)オ原告は,本 日以降に仕入れた商品の代金は被告が負担する旨及び訴外会社が退去する際に造作の償却部分が発生して造作費の15%が請求された場合には,被告が負担する旨が合意されていた。(甲6,乙1)オ原告は,本件営業譲渡前に,被告に対し,自ら原告商標を出願している旨を伝えたことはない。 (4) 被告による被告標章の使用訴外会社は,平成24年12月31日,被告に対し,本件店舗を引き渡し,被告は,以後,被告標章を用いてラーメン店である本件店舗を営業している。 被告標章は原告商標と同一であり,被告が被告標章を使用する役務は原告商標の指定役務(飲食物の提供)と同一である。 3 争点(1) 信義則違反ないし権利濫用の成否(2) 損害発生の有無及びその額第3 当事者の主張 1 争点(1)(信義則違反ないし権利濫用の成否)について〔被告の主張〕(1) 被告は,平成24年11月29日,原告が代表取締役を務めていた訴外会社から,本件店舗の営業を譲り受けた。その際,被告が「新高揚」の名称を使用しないことは前提とはされていなかったし,被告代表者らが原告に対し,「新高揚」の店名を用いないと明言したこともなかった。 被告が,「新高揚」の名称を使用しないことを前提とするのであれば,譲渡される営業権の中に,「のれん」や「外看板」を含める必要はなかったはずであるし,そもそも,「新高揚ラーメン」である本件店舗の営業を譲り受けるのであるから,被告代表者らが「新高揚」の名称や店名を用いないなどと言うわけがない。 (2) 被告は,訴外会社から,「新高揚ラーメン」である本件店舗の営業を譲り受けているのであるから,被告が,以後,「新高揚」の名称を使って営業活動を行うことは当然であり,そのことについて合理的な期待が生じていた。 一方,原告は,訴外会社の ーメン」である本件店舗の営業を譲り受けているのであるから,被告が,以後,「新高揚」の名称を使って営業活動を行うことは当然であり,そのことについて合理的な期待が生じていた。 一方,原告は,訴外会社の代表取締役であったのであるから,営業譲渡に当事者として深く関与していた。そして,被告は,現在に至るまで「新高揚」の名称を使って本件店舗の営業を継続しているところ,被告標章の使用を差 し止められると多大な損害が生じる。 このような事情に鑑みると,原告が,原告商標権の登録を有していることを奇貨として,被告に対して,その使用の差止めや損害賠償を請求することは,甚だしく矛盾した態度によって被告に多大な損害を生ぜしめるものというべきであるから,信義則(民法1条2項)に反し,また権利濫用(同条3項)に当たる。 (3) 原告の主張に対する反論本件営業譲渡契約の前後を通じて,原告が,「新高揚の名前は使わせない。」などと発言したことはないし,原告と被告代表者らとの間で,「のれん」に関するやりとりは全くなかった。たしかに,原告の妻から,Cに対し,商標登録証の写しが送られたことはあったが,その際も原告は何ら権利主張はしていなかった。原告が,被告に対して,商標権侵害の主張をしたのは,平成27年9月17日付けの本訴補佐人弁理士からの通知書が初めてである。 A家の家紋に関する平成25年1月23日付け念書(甲7。以下「本件念書」という。)は,原告の強い要請があったことからやむなく原告に渡したものであって,被告が積極的に差し入れたものではない。原告は,家紋については念書を強く求めたにもかかわらず,「新高揚」の名称の使用については念書を求めていない。これは,原告が,被告に対し,これまで「新高揚」の名称の使用について何ら主張をしてこなかったことの 家紋については念書を強く求めたにもかかわらず,「新高揚」の名称の使用については念書を求めていない。これは,原告が,被告に対し,これまで「新高揚」の名称の使用について何ら主張をしてこなかったことの証左である。 また,本件営業譲渡契約においては,「のれん」等を含めて一切の権利を含む「営業権」が譲渡され,被告が「新高揚」の名称を継続して使用することとなっていたのであるから,本件営業譲渡契約締結当時,原告が原告商標の出願をしていたのであれば,原告には,その事実を被告に対して告知する信義則上の義務があったというべきである。 〔原告の主張〕(1) 次の経緯から,本件営業譲渡契約においては,被告が「新高揚」の名称を使用しないことが前提となっていたことは明らかである。 ア原告及びその妻は,平成24年10月中旬,本件店舗の店長であったBから,訴外D(以下「D」という。)を紹介された。原告及びその妻は,数日後,DからCを紹介された。 イ Cは,同年11月2日,原告に対し,2250万円で本件店舗を買い取る旨の申し出をし,原告は,その条件で話を進めてよいと回答した。 ウところが,Cは,B同席のもとで,同月11日,原告及びその妻に対し,Dが抜け,CとBの2人で本件店舗を購入することとなったことから,買い取り金額を1500万円くらいに減額してほしいと申し入れた。原告が,「そんなに安い金額となってしまうのであれば新高揚の名前は使わせない,それでいいのであれば,1700万円で売っても構わない」と述べたところ,Cは,「新高揚の名前は使わないということでかまわない,直ぐには変えられないので1年くらいですかね」と言った。そこで,原告とC及びBは,本件店舗の営業譲渡に向けて,話を進めることとなった。 エその後,Cが本件同意書の案を作成したが ことでかまわない,直ぐには変えられないので1年くらいですかね」と言った。そこで,原告とC及びBは,本件店舗の営業譲渡に向けて,話を進めることとなった。 エその後,Cが本件同意書の案を作成したが,その第2条に,譲渡される予定の営業権の内容として「店舗に現存する商品,営業用動産,のれん,甲(判決注・訴外会社)名義の電話加入権,店舗造作全部,外看板,得意先及び仕入先に対する権利,店舗の賃貸借権を含めた一切の権利」と記載されていた。原告は,Cに対し,上記記載から「商品」,「営業用動産」及び「のれん」を削除するよう求めたが,Cは,「商品」及び「営業用動産」は削除するが,「のれん」は削除しないと述べた。原告は,営業権を意味するいわゆる「のれん」が譲渡されると,「新高揚」の名称の使用が含まれてしまうと考え,Cに対し,「のれん」の譲渡が含まれるのであれば契約できないと伝えたところ,Cは,本契約の時に削除するので問題は ないと説明したことから,原告はそれならば構わないと考え,原告の妻が代筆して本件同意書に署名・押印した。本件同意書では,外看板も譲渡対象とされていたものの,外看板はそもそも家主の所有分であることなどから,原告は,特に気にしなかった。 オ訴外会社と被告は,同月29日,本件営業譲渡契約を締結した。本件営業譲渡契約書は,本件同意書とは内容が異なっており,「のれん」の記載がなかった。このとき,原告が,Cに対し,「新高揚」の名称は使用できないことを強調して伝えたところ,Cは,資金繰りや準備に時間がかかるので,1年くらいの猶予をくださいと述べた。訴外会社と被告は,1年以内には本件店舗の名称を変更する旨合意した。 カ原告は,同年12月下旬,取引業者に対し,本件店舗が閉店する旨の挨拶状を送った。原告は,同月31日,本件店舗から,40 べた。訴外会社と被告は,1年以内には本件店舗の名称を変更する旨合意した。 カ原告は,同年12月下旬,取引業者に対し,本件店舗が閉店する旨の挨拶状を送った。原告は,同月31日,本件店舗から,40年間の経歴・功績などを綴った看板,「新高揚」の名前入りのマッチ・売上伝票・旗など,厨房の入り口に掲げていた「のれん」(夏用)を回収した。冬用ののれんは,間仕切りとして必要であり,また,古く汚れていたので,回収しなかった。Cは,本件営業譲渡契約書の別紙として,訴外会社から被告に譲渡される財産は,「商品,貯蔵品,店舗造作,器具備品,その他営業物品」各一式である旨が記載された目録を持参していたが,「のれん」は記載されていなかったので,原告は,そのまま書面を取り交わした。 キ被告は,平成25年1月以降,「新高揚」の名前だけではなく,原告の家紋(A家の家紋)もそのまま使用していたことから,原告が被告に対し苦情を述べたところ,被告は,原告に対し,A家の家紋を一切使用しない旨を約束し,今後,名刺やシールなどの販促品や看板等にA家の家紋を使用した場合には,罰則として100万円を支払う旨記載した本件念書(甲7)を差し入れた。 ク原告の妻は,同年3月,C及びBに対し,「新高揚」の商標が登録され た旨伝えた。原告の妻は,その後何度も,C及びBに対し,「新高揚」という名称の使用を中止するよう催促した。 (2) 「新高揚」の名称は原告である「Aの店」としてラーメン業界で知られており,原告は,「新高揚」の名称は,ラーメン職人としての原告の人生そのもの,生きてきた証であると考えたことから,原告個人名義で原告商標の出願をした。原告が,被告側から譲渡の話を持ちかけられた時点では,原告商標が登録されるか否かは不確実であったから,許諾可能な権利は発生していなか た証であると考えたことから,原告個人名義で原告商標の出願をした。原告が,被告側から譲渡の話を持ちかけられた時点では,原告商標が登録されるか否かは不確実であったから,許諾可能な権利は発生していなかったし,また,出願の事実を告知する義務もなく,そもそも,本件営業譲渡契約において,被告が「新高揚」の名称を使用することは前提となっていなかった。したがって,原告は,本件営業譲渡契約の前後を通じて何ら矛盾した態度をとっておらず,非難されるべき点はない。 (3) そもそも,被告がこれまで「新高揚」の名称を使って営業を継続していること自体が不当である。また,「新高揚」の名称には高い周知性はなく,それほど大きな顧客吸引力もないから,被告が「新高揚」の名称を継続使用する利益は,原告の財産権保護の利益よりも小さい。さらに,被告は,本件営業譲渡契約締結前に,原告商標が出願されていることを確認することもできたのにそれをしなかったというにすぎず(公開商標公報は平成24年10月18日公開である。),本件における被告の主張は,自らの落ち度を原告に転嫁するものである。 (4) したがって,本件請求は,何ら信義則に反するものではないし,権利濫用にも当たらない。 2 争点(2)(損害発生の有無及びその額)について〔原告の主張〕(1) 使用料相当額(商標法38条3項)被告の売上げは月額600万円を下らないから,被告は,平成25年3月26日から平成27年11月25日までの32か月間に,少なくとも1億9 200万円を売り上げた。 そして,原告商標権の使用に対し,権利者である原告が受けるべき金銭の額に相当する額は,上記売上額の3.8%に当たる729万6000円である。 (2) 弁護士費用原告は,本訴の追行を原告訴訟代理人弁護士に委任した。そして し,権利者である原告が受けるべき金銭の額に相当する額は,上記売上額の3.8%に当たる729万6000円である。 (2) 弁護士費用原告は,本訴の追行を原告訴訟代理人弁護士に委任した。そして,被告の商標権侵害の不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は72万9600円である。 (3) 合計額 802万5600円〔被告の主張〕争う。 第4 当裁判所の判断 1 前記第2,2の前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められ,同認定を覆すに足りる的確な証拠はない。 (1) 原告及び訴外会社による本件店舗の営業ア訴外会社は,平成3年頃,Bを採用し,Bは,平成23年頃から,本件店舗の店長を務めていた。 イ原告は,60歳となった平成20年頃には,自ら本件店舗の店頭に出てラーメンを作ることはなくなり,Bに対し,原告の跡を継ぎ,本件店舗を購入するよう持ちかけていた。このとき,原告は,Bに対し,「新高揚」という店名も含めて本件店舗を売却する意向を有していた。 (原告本人[1,36])ウ原告は,平成24年9月24日,原告商標について,商標出願をした。 (甲1,2,原告本人[2])(2) 本件営業譲渡に係る事実経緯ア Bは,平成24年10月中旬,原告に対し,本件店舗を購入したいとい う知人がいると述べ,Dを紹介した。Dは,原告に対し,知人のCがスポンサーとしてお金を出すと説明した。(原告本人[2])イ原告は,当初,Cに対し,本件店舗を2500万円で売却する旨提案した。この額は,原告が,出資額の5倍が一般的な価格であると知人から聞いて算出した額であった。一方,Cは,当初,500万円での購入を考えていた。このとき,原告並びにB及びCは,店名,スタッフ,ラーメンの味,店舗の設備をまとめ 額の5倍が一般的な価格であると知人から聞いて算出した額であった。一方,Cは,当初,500万円での購入を考えていた。このとき,原告並びにB及びCは,店名,スタッフ,ラーメンの味,店舗の設備をまとめて譲渡することを前提としていた。(証人C[4],原告本人[32,36])ウその後,原告とCの間で交渉がされ,B及びCの2名が本件店舗を1700万円で購入するという内容で合意した。 エ訴外会社は,同年11月12日,被告の発起人であるB及びCとの間で,本件同意書(乙2)を作成した。Cが作成した本件同意書の原案においては,譲渡対象の営業権は,「店舗に現存する商品,営業用動産,のれん,甲(判決注・訴外会社)名義の電話加入権,店舗造作全部,外看板,得意先及び仕入先に対する権利,店舗の賃貸借権を含めた一切の権利」である旨記載されていたが,原告の要望を受けて,本件同意書においては,「(店舗に現存する)商品」及び「営業用動産」が譲渡対象の営業権の内容から削除された。また,原告の要望を受けて,本件同意書には,第2条に「商品代金の引き継ぎに関しては,甲が,2012年12月21日から仕入れた商品代金は乙(判決注・被告)の負担とする。」と追記され,第8条の訴外会社の決算書及び税務申告書を被告が閲覧し写しを入手できる旨の記載が削除され,また,第12条に「甲が退去の際に造作の償却部分が発生して造作費の15%が請求された場合,支払いは乙の負担とする。」という条項が追記された。 C及びBは,原告に対し,譲渡代金として,1700万円を現金で支払った。この代金の約8割をCが,約2割をBが負担した。(乙2,3, 証人C[1])オ同年11月22日,B及びCを取締役として,被告が設立された。 カ訴外会社は,同年11月29日,被告との間で,同年12月3 Cが,約2割をBが負担した。(乙2,3, 証人C[1])オ同年11月22日,B及びCを取締役として,被告が設立された。 カ訴外会社は,同年11月29日,被告との間で,同年12月31日をもって訴外会社が被告に本件店舗の営業を譲渡する旨合意し,本件営業譲渡契約書(乙1)が作成された。 被告は,本件営業譲渡に伴い,本件店舗内に設置されていた動産類,賃貸借契約の契約上の地位,電話加入権及び訴外会社が同年12月21日以降に仕入れ先から購入した商品の代金支払債務などを引き継いだ。 (乙1)キ原告は,Cを同行し,同月下旬頃,取引先3,4軒に対し,挨拶回りをし,今後はBがメインとしてやっていく旨伝えた。また,訴外会社は,同月下旬,取引先に対し,同月31日をもって「らーめん店新高揚」を閉店すること及び取引を同日で終了する旨を通知した。(甲9〔枝番含む。〕,証人C[12],原告本人[35])ク原告は,被告代表者らに対し,本件営業譲渡前に,原告商標を出願中であることを伝えていない。原告と被告代表者らは,本件営業譲渡後の本件店舗の店名について話をしたことがない。また,原告は本件店舗の所在する部屋の賃貸借契約の貸主に対して,店名が変更になることから外看板が変更になる旨を伝えたことはない。(原告本人[35,37])ケ被告は,平成25年1月,本件店舗の営業を開始した。被告は,営業開始に伴って,原告の家紋が記載された販売促進用のシールやスタッフ用のTシャツを作成した。また,被告が訴外会社から引き継いだ動産のうち,ゆで麺機,製氷機,エアコンなどに不具合があり,被告は,これらの買い換えのために300万円程度を要した。なお,本件店舗には,Bが常駐してラーメンを作っている。(証人C[6])コ被告は,その後,原告から原告の家紋を アコンなどに不具合があり,被告は,これらの買い換えのために300万円程度を要した。なお,本件店舗には,Bが常駐してラーメンを作っている。(証人C[6])コ被告は,その後,原告から原告の家紋を使用しないよう要請を受け, 同月23日,訴外会社に対し,被告が「A家の家紋」を使用しないこと及び今後,名刺やシールなどの販促物や看板等に上記家紋を使用した場合には,100万円を支払うことを約束する内容の本件念書(甲7)を差し入れた。 サ原告商標は,同年2月22日,登録された。その後,原告の妻は,原告商標の登録証及び「サクラサク」と記載した紙を被告に送付したが,送付した理由を説明する文書等は同封しなかった。(甲1,2,証人C[25,26],原告本人[26])シ原告は,平成27年9月,本訴補佐人弁理士を通じて,被告に対し,被告標章の使用が原告商標の侵害に当たる旨の手紙を送付した。(証人C[14])ス原告は,原告商標を,現在に至るまで自ら使用していないし,将来においてこれを使用するための店舗の営業等の具体的な計画を有しているわけでもない。(原告本人[26,27])(3) 被告による被告標章の使用ア被告は,本件店舗において,「手打ちらーめん新高揚」「地下1階新高揚」「開業昭和57年新宿自家製らーめん新高揚新宿本店」などと記載された看板を,本件店舗が地下一階において営業するビルの外面に設置し,「新高揚」と記載された看板を,本件店舗に向かう階段の入り口に設置している。(甲3の1ないし3)イ被告は,本件店舗において,「新宿自家製らーめん新高揚」の記載があるメニュー及び「新高揚」の記載があるメニューを使用している。(甲3の4・5)ウ被告は,本件店舗において,「新高揚」と記載されたのれん及び箸袋を使用し 「新宿自家製らーめん新高揚」の記載があるメニュー及び「新高揚」の記載があるメニューを使用している。(甲3の4・5)ウ被告は,本件店舗において,「新高揚」と記載されたのれん及び箸袋を使用している。(甲3の6・7) 2 争点(1)(信義則違反ないし権利濫用の成否)について (1) 前記1の各事実によれば,原告は,被告に対し,本件店舗の設備のみならず,第三者との関係における契約上の地位や権利義務なども含めて店舗の営業一切を譲渡していること,本件同意書において,原告と被告の発起人であるB及びCとの間で,「のれん」や「新高揚」との店名が記載された外看板も含めて本件店舗を譲渡する旨合意していること,ここでいう「のれん」には「新高揚」の店名が含まれると考えられること,原告は,家紋を使用しないことについては,被告に本件念書を差入れさせ,違約金についてまで約束をさせたにもかかわらず,本件店舗の名称の使用については何ら文書を作成し又は作成させていないことが認められ,これらを総合考慮すると,本件営業譲渡契約は,被告が「新高揚」の名称を使用することを前提として締結されたものであると認めるのが相当である。 (2) この点に関して原告は,本件営業譲渡の交渉時に,「新高揚」の名称を使用しないことを条件に減額に応じたとか,本件同意書の原案について,Cに対し,「のれん」を削除するようにいったところ,Cから契約書のときに書き換えればよいといわれて削除されなかったなどと主張し,それに沿う供述をしている。 しかし,上記各主張を認めるべき客観的証拠はないばかりか,前記1(2)エのとおり,Cは,本件同意書について,原告の要望を受けて複数の修正に応じていたのであるから,被告が「新高揚」の名称を使用しないことを前提として本件営業譲渡に係る交渉がされて ばかりか,前記1(2)エのとおり,Cは,本件同意書について,原告の要望を受けて複数の修正に応じていたのであるから,被告が「新高揚」の名称を使用しないことを前提として本件営業譲渡に係る交渉がされていたとすれば,Cが「のれん」についてのみ本件同意書の記載の修正に応じないとはおよそ考えられない。また,原告は,原告本人尋問において,本件営業譲渡契約書には「のれん」の記載がなかったのでよろしいと思っていたなどとも供述するが,本件営業譲渡契約締結時には,本件営業譲渡契約書には「引き継ぐ財産」が記載された別紙が添付されておらず,本件営業譲渡契約書をみても「のれん」が譲渡対象となっているか否かが明らかとなるものではないし,さらに,本件店舗の引渡 時に作成された本件営業譲渡契約書の別紙(甲6)には,本件店舗内に存在していた物品である「商品,貯蔵品,店舗造作,器具備品,その他営業物品」について「一式」と記載されているにすぎず,現に本件営業譲渡により引き継がれた契約上の地位や債権債務は記載されていないから,上記別紙の記載をもっても,本件営業譲渡の対象に「新高揚」の名称ないし「のれん」が含まれていないということはできない。 また,本件同意書において譲渡される営業権の内容として「外看板」が記載されていることについて,原告は,原告本人尋問において,外看板は本件店舗が所在する部屋の賃貸借契約の貸主である大家のものであり,壊すこともできないから気にしなかったなどと供述するが,前記1(2)クのとおり,原告は大家に対し,被告が店舗の名称を変更する予定であり外看板の変更が必要である旨を告げたこともなく,被告代表者らとの間で被告がどのような名称を使用するかについて話をしたこともないというのであり,さらには,原告本人尋問によれば,Cから「名称をおいおい変更 板の変更が必要である旨を告げたこともなく,被告代表者らとの間で被告がどのような名称を使用するかについて話をしたこともないというのであり,さらには,原告本人尋問によれば,Cから「名称をおいおい変更する」と言われたもののそれが具体的にいつなのかの確認もしていないというのであるから,原告が,C又はBとの間で,「新高揚」の名称を使用しないことを条件として本件営業譲渡に係る交渉をしていたと認めることはできない。 (3) そして,原告は,当初,Bに対し,原告の跡を継ぎ本件店舗を購入するよう持ちかけ,「新高揚」という店名も含めて本件店舗を売却する意向を示し,平成24年10月中旬以降,B及びCと本件店舗の譲渡に関し交渉を始めたにもかかわらず,その直前である同年9月24日に原告自ら個人として原告商標権の商標登録出願をしていた事実をB及びCに一切告げないまま,同人らがその事実を知らない状況で,本件営業譲渡契約を締結して1700万円もの譲渡代金を受領した後,自らは原告商標を全く使用しておらず,将来においてこれを使用するための店舗の営業等の具体的な計画を有しているわけでもないのに,被告に対し,被告標章の使用の差止めと損害賠償を求め ていることが認められる。 そうすると,「新高揚」の名称を使用できるものと信頼して本件営業譲渡契約を締結した被告に対し,本件営業譲渡の当事者である訴外会社の代表者であった原告が原告商標権を行使することは,民法1条3項所定の権利濫用に当たり許されないと認めるのが相当である。 3 以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 東海林保 裁判官 却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 東海林保 裁判官 瀬孝 裁判官 勝又来未子 (別紙)商標権目録 登録番号第5559313号 出願日平成24年9月24日 登録日平成25年2月22日 登録商標(標準文字)新高揚 商品及び役務の区分第43類 指定役務飲食物の提供

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