平成16年10月15日判決言渡し同日原本領収裁判所書記官平成12年(行ウ)第112号供託金還付請求却下処分取消等請求事件口頭弁論終結日平成16年7月14日判決 主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告らに対し,各2000万円及びこれに対する原告Aについては平成10年3月17日から,その余の原告らについてはいずれも平成11年3月16日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,大韓民国の国籍を有する原告らが,原告らのした供託金還付請求を却下した盛岡地方法務局供託官の処分は違法であり,これにより精神的損害を被ったと主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項の規定に基づき,損害賠償を求めている事案である。 1 法令の定め(1) 日本国との平和条約(昭和27年条約第5号。以下「サン・フランシスコ平和条約」という。)ア同条約によれば,日本国は,朝鮮の独立を承認して,済州島,巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に対するすべての権利,権原及び請求権を放棄するものとされている(2条(a))。 イ同条約によれば,日本国及びその国民の財産で2条に掲げる地域にあるもの並びに日本国及びその国民の請求権(債権を含む。)で現にこれらの地域の施政を行っている当局及びそこの住民(法人を含む。)に対するものの処理並びに日本国におけるこれらの当局及び住民の財産並びに日本国及びその国民に対するこれらの当局及び住民の請求権(債権を含む。)の処理は,日本国とこれらの当局との間の特別取極の主題とするものとされている(4条(a))。 (2) 財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓 び住民の請求権(債権を含む。)の処理は,日本国とこれらの当局との間の特別取極の主題とするものとされている(4条(a))。 (2) 財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和40年条約第27号。以下「日韓請求権協定」という。)ア同協定によれば,両締約国は,両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産,権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が,サン・フランシスコ平和条約4条(a)に規定されたものを含めて,完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認するものとされている(2条1)。 イ同協定によれば,一方の締約国及びその国民の財産,権利及び利益であってこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては,いかなる主張もすることができないものとするとされている(同条3)。 (3) 財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律(昭和40年法律第144号。以下「措置法」という。)同法によれば,次に掲げる大韓民国又はその国民(法人を含む。)の財産権であって,日韓請求権協定2条3の財産,権利及び利益に該当するものは,原則として,昭和40年6月22日において消滅したものとするとされている(1項)。 ア日本国又は日本国民に対する債権(1号)イ担保権であって,日本国又は日本国民の有する物又は債権を目的とするもの(2号) 2 前提となる事実(これらの事実のうち,(1)アb(b)の一部及び(2)アの事実は,各項末尾掲記の証拠によって認められ,その余の事 て,日本国又は日本国民の有する物又は債権を目的とするもの(2号) 2 前提となる事実(これらの事実のうち,(1)アb(b)の一部及び(2)アの事実は,各項末尾掲記の証拠によって認められ,その余の事実は,いずれも当事者間に争いがない。)(1) 当事者等アa 原告ら4名は,いずれも大韓民国の国籍を有する者である。 b(a) 原告Aは,故Gの長男であり,同人の相続人である。 (b) 原告Bは,故Hの次男であり,Hの全相続人より,Hに係る一切の請求権の譲渡を受けた者である(原告BがHの全相続人からHに係る一切の請求権の譲渡を受けたことは,弁論の全趣旨)。 (c) 原告Cは,故Jの長男であり,同人の相続人である。 (d) 原告Dは,故Kの長男であり,同人の相続人である。 (以下,G,H,J及びKを併せて「Gら4名」という。)イaEは,平成9年4月1日から平成10年3月31日まで,盛岡地方法務局供託官の地位にあった者である。 bFは,同年4月1日から平成11年3月31日まで,同地方法務局供託官の地位にあった者である。 (2) 原告らによる供託金還付請求とこれらに対する却下処分に至る経緯ア Gら4名は,いずれも朝鮮(現在の大韓民国)国籍を有していた者であるが,Gは昭和20年2月20日から同年7月14日まで,Hは昭和17年6月5日から昭和20年7月14日まで,Jは昭和17年2月9日から昭和20年7月14日まで,Kは昭和20年2月20日から同年7月14日まで,我が国に徴用されて,日本製鐵株式会社に雇用され,同社釜石製鐵所で稼働していたが,上記Gら4名は,いずれも,昭和20年7月14日,連合軍の艦砲射撃により死亡した。 (甲1,6ないし9,30,原告A本人,原告B本人)イ日本製鐵株式会社釜石製鐵所は,昭和21年12月11日,別紙供託金目録記載のとおり, ,昭和20年7月14日,連合軍の艦砲射撃により死亡した。 (甲1,6ないし9,30,原告A本人,原告B本人)イ日本製鐵株式会社釜石製鐵所は,昭和21年12月11日,別紙供託金目録記載のとおり,Gら4名を被供託者として,民法494条の規定に基づき,同人らの未払賃金等を,盛岡地方法務局に弁済供託した(以下,供託された金員を「本件各供託金」といい,本件各供託金に係る各供託金還付請求権を「本件各供託金還付請求権」という。)。 ウa 原告Aは別紙供託金目録1記載の供託金につき,原告Bは同目録2記載の供託金につき,原告Cは同目録3記載の供託金につき,原告Dは同目録4記載の供託金につき,平成9年12月26日,盛岡地方法務局供託官に対し,それぞれ供託金の還付請求をした。 b 同地方法務局供託官であったEは,平成10年3月17日,原告Aの供託金還付請求を却下する旨の処分をし,同じく同地方法務局供託官であったFは,平成11年3月16日,原告B,原告C及び原告Dの各供託金還付請求をいずれも却下する旨の処分をした(以下,EとFを併せて「本件各供託官」といい,上記各供託金還付請求却下処分を「本件各却下処分」という。)。 本件各却下処分の理由は,本件各供託金還付請求権は,措置法1項の規定により,既に消滅していると認められるというものであった。 3 当事者双方の主張(原告らの主張)(1) 日韓請求権協定は無効であることア日韓請求権協定の本質a 請求権の処理を特別取極の主題とする旨のサン・フランシスコ条約を受けて,日韓請求権協定が締結されたが,同協定は,主にアメリカ合衆国(以下「アメリカ」という。)政府の極東アジア政策,すなわち,日本の植民地支配や戦争政策の責任を曖昧にしてこれを免責しつつ,日韓関係を修復せしめるとともに,日本の経済協力により,当時重要な反 合衆国(以下「アメリカ」という。)政府の極東アジア政策,すなわち,日本の植民地支配や戦争政策の責任を曖昧にしてこれを免責しつつ,日韓関係を修復せしめるとともに,日本の経済協力により,当時重要な反共国家であったところの大韓民国の経済を再建強化し,開発独裁政策を指向する朴正煕軍事独裁政権を安定させるという,軍事的・外交的な戦略の枠を前提に,アメリカの大きな圧力の下で,日本の経済的進出の追求を期して締結されたものである。 b したがって,日韓請求権協定や同協定の締結に至るまでの日韓会談において,本来達成されるべきであった憲法上の理念(日本がなした戦争についての徹底した反省,とりわけアジア各国やその国民への謝罪と権利回復)は,何一つ実現されず,完全に没却されることとなった。 日本政府は,例えば本件各供託金還付請求権に係る資料のような,請求権の根拠となる資料を多数有しているにもかかわらず(現在に至るもなお秘匿したまま明らかにしない。),日韓会談においては,敗戦の混乱で資料が無くなったなどと嘘をつきとおし,また,「請求権方式(個々の請求権の金額を積み上げて支払額を決める方式であり,積上げ方式ともいう。)にこだわれば,金額は甚だ安くなるが,それでもよいのか。」などと述べて恫喝を加え,自己にメリットの大きい経済協力方式(2億ドルの有償供与,3億ドルの無償現物供与)を押しつけた。その過程では,大韓民国国民の被害の実効的回復ということなどは,一顧だにされなかったのである。 c すなわち,日本政府による請求権に関する資料の現存性に関する虚言による詐欺や,日米両政府の恫喝威嚇による圧力の下,韓国政府をして日韓請求権協定の締結に応じさせたのである。 イ条約法に関するウィーン条約(以下「ウィーン条約法条約」という。)の適用による無効a 錯誤による無効(ウィ 府の恫喝威嚇による圧力の下,韓国政府をして日韓請求権協定の締結に応じさせたのである。 イ条約法に関するウィーン条約(以下「ウィーン条約法条約」という。)の適用による無効a 錯誤による無効(ウィーン条約法条約48条)(a) ウィーン条約法条約48条によれば,条約締結に際して,一定事実について錯誤が存在し,かつ,この事実が,当該国の与えた同意の重要な基礎をなすものである場合には,当該条約は無効である。 (b) 日韓請求権協定についてみると,上記アのとおり,請求権の根拠となる資料の存在の有無は同協定締結の重要な基礎をなす事実であり,韓国政府が「請求権の根拠になる資料は存在していない。」との錯誤に陥っていた以上,同協定は,ウィーン条約法条約48条により無効である。 b 詐欺による無効(ウィーン条約法条約49条)(a) ウィーン条約法条約49条によれば,条約の相手国による詐欺行為があった場合には,当該条約は無効である。 (b) 日本政府は,日韓請求権協定の交渉過程で,上記アのとおり,韓国政府に対して嘘をつき,同政府を錯誤に陥れたものであるから,同協定は,詐欺行為によるものとして無効である。 c 政治的・経済的な圧力による無効(ウィーン条約法条約52条)(a) ウィーン条約法条約52条は,「国際連合憲章に規定する国際法の諸原則に違反する武力による威嚇又は武力の行使の結果締結された条約は,無効である。」と規定し,同条約の最終議定書において,「軍事的,政治的または経済的強制の禁止に関する宣言」が併せて確認されている。 すなわち,最終議定書において,条約が一定の政治的・経済的強制の下に締結された場合は,締結国に対する意思の強制があったのであるから,武力による威嚇等があった場合と同じく,当該条約が無効になることが確認されている。 (b) 上記アのとお 定の政治的・経済的強制の下に締結された場合は,締結国に対する意思の強制があったのであるから,武力による威嚇等があった場合と同じく,当該条約が無効になることが確認されている。 (b) 上記アのとおり,日韓請求権協定の締結に至る経過等にかんがみれば,同協定は日本の経済的な圧力によって締結せしめたものというほかない。 また,日韓請求権協定の成立経過において,アメリカが強力な影響力を行使し,その決定的な介入によって初めて協定成立に至ったものであるから,同協定は政治的な圧力によって締結せしめられたものである。 したがって,日韓請求権協定は,ウィーン条約法条約52条により無効である。 d 被告の主張に対する反論(a) 被告は,ウィーン条約法条約は日韓請求権協定締結後に日本について効力が生じたものであるから,遡及適用されない旨主張する。 しかし,ウィーン条約法条約は,長年にわたる国家間の慣行や学説の発展を踏まえて,条約の無効・終了原因についてこれを体系的に整理し,それらを網羅的に列挙したものであるが,自由意思による同意の原則及び信義誠実の原則は,同条約前文もこれを明らかにしているとおり,同条約採択前から普遍的に認められている国際慣習法である。したがって,同条約48条,49条及び52条の各規定は,自由意思による同意の原則を表すものとして,同条約4条にかかわらず,国際慣習法としての効力を持つのである。 殊に,同条約52条は,「国際連合憲章に規定する国際法の諸原則に違反する」と規定しており,同条約4条にかかわらず,少なくとも国際連合憲章成立時までは遡って適用されるものと解するのが相当である。 (b) 被告は,韓国政府が錯誤又は詐欺を理由に日韓請求権協定の無効を唱えたことはない旨主張する。 確かに,韓国政府による錯誤無効あるいは詐欺無効の援用はな て適用されるものと解するのが相当である。 (b) 被告は,韓国政府が錯誤又は詐欺を理由に日韓請求権協定の無効を唱えたことはない旨主張する。 確かに,韓国政府による錯誤無効あるいは詐欺無効の援用はないが,援用は錯誤に陥ったあるいは詐欺にあった当事国を保護するためのものであって,錯誤の原因を作ったあるいは詐欺行為を行った国がその不援用を論難するのは,ウィーン条約法条約前文が確認する信義誠実の原則に照らして妥当でない。 ウ憲法前文違反憲法前文は,国際協調主義,平和主義を宣明しているところ,日韓請求権協定に至る過程において,日本政府は韓国政府に対して,許される外交上の駆け引きの範囲を大きく逸脱した欺罔行為を行ったものであるから,国際協調主義等に反するものである。 このように,日韓請求権協定は,日本政府が憲法に違反する態様で締結したものであるから,無効というべきである。 エ条理上無効(本件への不適用)仮に日韓請求権協定が一般的には有効であるとしても,本件の原告らに対する関係では,条理上無効である。 すなわち,日韓請求権協定は,上記アのとおり,請求権の根拠となる資料がないことを前提に,各請求権の積上げ方式によるよりは,経済協力方式のほうがより現実的であるとの考え方が日本政府より提示され,その趣旨に沿って内容が決められたものである。 そうであるならば,日韓請求権協定2条3の規定は,現実に請求権の資料が存在しているというようなケースについてまで,妥当性を有するものとは到底いえない。ましてや,日本政府は自らこの資料を保管しているのであるから,当然その存在を確知していたものであって,それにもかかわらず,これを秘匿し続け,更には積極的に資料が無いなどと欺罔行為を行ったのであるから,なおさらである。 そして,本件においては,請求権の根拠となる最も確実な を確知していたものであって,それにもかかわらず,これを秘匿し続け,更には積極的に資料が無いなどと欺罔行為を行ったのであるから,なおさらである。 そして,本件においては,請求権の根拠となる最も確実な資料が存在しているのであるから,これを日韓請求権協定2条3の適用の対象として考える必要性も,合理性も全く存在していないから,本件に関しては,同項は効力がないものというべきである。 オ以上のとおり,日韓請求権協定は無効であるから,これに基づいて制定された措置法も無効であって,本件各供託金還付請求権が措置法1項の規定により消滅したことを理由とする本件各却下処分は違法である。 (2) 措置法は憲法に違反するものであることア憲法前文(国際協調主義,平和主義)違反憲法前文は,国際協調主義,平和主義を宣言している。 しかしながら,過去における植民地支配下の強制連行,強制労働によって被った被害の補償なくして,日本国憲法前文にいう「専制と隷従,圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において,名誉ある地位を占め」ることなどありえないのであって,何らの補償もなしに原告らの本件各供託金還付請求権を消滅させる措置法は,憲法前文の精神に反する。 イ憲法29条違反本件各供託金還付請求権が憲法第29条にいう「財産権」に含まれることは,疑問の余地がない。 そして,同条1項は,「財産権は,これを侵してはならない。」と規定したうえ,同条3項において,「私有財産は,正当な補償の下に,これを公共のために用ひることができる。」としているから,正当な補償がされないまま,財産権が剥奪又は制限されることは,同条1項及び3項に違反することになる。 ところで,憲法における財産権の保障は,前国家的な権利として存在する財産権を確認したものであって,財産権は,憲法が新たに創設し 産権が剥奪又は制限されることは,同条1項及び3項に違反することになる。 ところで,憲法における財産権の保障は,前国家的な権利として存在する財産権を確認したものであって,財産権は,憲法が新たに創設し,付与した後国家的な権利ではないから,憲法が施行された昭和22年5月3日以前に存在した個々の具体的な財産が,憲法による保障を受けないというものではない。また,外国人の有する財産についても,憲法29条の財産権の保障が及ぶものと解すべきである。 したがって,原告らの有する本件各供託金還付請求権を昭和40年6月22日において消滅させるという措置は,「正当な補償」なしには憲法上許されないと解すべきところ,措置法は,かかる正当な補償のないまま本件各供託金還付請求権を消滅させるものであるから,憲法29条1項及び3項に違反する。 ウ憲法13条違反憲法13条は,人格権を保障する。人格権とは,個人の人格価値に関わるものであって,それを侵害されない包括的権利である。 ところで,原告らは,平成5年に至って,日本に強制連行された原告らの父に支払われるべき未払金が供託されていることを知り,供託金の還付を受けるために何度も来日し,供託金還付請求に必要な書類を用意して,同請求をしたが,これは,供託金が原告らにとって単なる金銭以上の切実な意味を持ち,強制的に連行され,悲惨な犠牲を強要された肉親につながる唯一のよすがであったからにほかならない。 このような,原告らにとってのよすがである供託金の還付を拒むことは,原告らが肉親を思う人格的利益を否定するに等しいから,本件各供託金還付請求権に措置法を適用して本件各却下処分をすることは,原告らの人格的価値を侵害するものであって,憲法13条に違反する。 エ憲法14条違反大韓民国の国籍を有する韓国人は,措置法によって日本政府から請求を 権に措置法を適用して本件各却下処分をすることは,原告らの人格的価値を侵害するものであって,憲法13条に違反する。 エ憲法14条違反大韓民国の国籍を有する韓国人は,措置法によって日本政府から請求を拒まれることになるが,米国籍の韓国人に対しては,日本政府も補償等を拒めないことになる。 しかし,歴史的な前提事実をほとんど同一にしながら,その国籍いかんによって,このような大きな差が生ずることは問題であり,そこには何らの合理性も存在しないが,このような差別が生じた原因は,ひとえに大韓民国の韓国人に対して措置法を適用していることにある。 そして,憲法14条の規定の趣旨は外国人にも類推されると解されているが,外国人の間において,大韓民国国籍であるか米国籍であるかによって,このような大きな差異が生じることについて,合理的根拠は存在しないから,本件各供託金還付請求権に対し措置法を適用して本件各却下処分をすることは,憲法14条に違反する。 オ被告の主張に対する反論被告は,日韓請求権協定の締結及び措置法の制定は現行憲法秩序の枠外にあるものというほかなく,憲法違反の問題を生じる余地はない旨主張する。 しかし,上記主張は,憲法の最高法規性や根本規範性に照らすと,到底許容され得るものではない。すなわち,条約に基づき国内法が制定された場合,現行憲法秩序に照らしてその条約や国内法の合憲性が判断されるべきは当然であり(憲法優位説),措置法が現行憲法秩序の枠外に置かれる理由はない。 カ以上のとおり,措置法は憲法に違反する無効なものであるから,本件各供託金還付請求権が措置法1項の規定により消滅したことを理由とする本件各却下処分は違憲かつ違法である。 (3) 本件各供託金還付請求権には措置法の適用がないことア措置法は大韓民国国民の有する財産権を消滅させる効力を有し 法1項の規定により消滅したことを理由とする本件各却下処分は違憲かつ違法である。 (3) 本件各供託金還付請求権には措置法の適用がないことア措置法は大韓民国国民の有する財産権を消滅させる効力を有しないことa 日韓請求権協定2条3は,「・・・いかなる主張もすることができないものとする。」と規定しているが,この場合,主張することができない主体は,同条1が「両締約国は,」と規定していることからして,日韓両政府であることは明白であり,それゆえ,「・・・いかなる主張もすることができない」という拘束を受けるのは,大韓民国の場合であれば,韓国政府であって,個々の大韓民国国民はこれに含まれない。 すなわち,日韓請求権協定2条3は,あくまで国家レベルにおいて,外交保護権を放棄するにとどまるものであって,国民個人の実体的権利を消滅させるものではない。 b それゆえ,措置法が,日韓請求権協定2条3で定めた外交保護権を放棄するという趣旨を超えて,国民個人の有する実体的権利そのものまでを奪うということはあり得ず,また,そのような解釈が行われてはならないのである。 すなわち,措置法は,韓国政府が外交保護権を放棄する財産等の範囲,具体的には,今後韓国政府自らが請求しないことはもとより,個々の大韓民国国民が自ら日本人等に対して一定の請求をすることがあっても,韓国政府としてはそれについて一切保護支援の施策はとらないこととなるが,その範囲を定めたものである。 c 以上のとおり,措置法は,大韓民国国民が個別に有している財産等について,その実体的権利性を消滅させる効力は,一切有していない。 イ本件各供託金還付請求権は日韓請求権協定2条3,措置法1項の「財産,権利及び利益」に含まれないことa 本件各供託金ないし本件各供託金還付請求権は,原告ら遺族にとっては,単なる経済的 ていない。 イ本件各供託金還付請求権は日韓請求権協定2条3,措置法1項の「財産,権利及び利益」に含まれないことa 本件各供託金ないし本件各供託金還付請求権は,原告ら遺族にとっては,単なる経済的利益にとどまらず,それをはるかに超える特別の意義を有しているものであって,それは,故人の人間としての存在・人格が化体された象徴としての意味である。 すなわち,原告らは,父が強制連行(徴用)された当時,原告Dのようにまだ生まれていなかったか,原告Aのように幼少であったため,犠牲となった父の顔すら知らない場合も少なくない。このような遺族にとって,本件各供託金は,形見ともいうべき故人を偲ぶ唯一のよすがであって,単なる経済的利益ではないのである。つまり,本件各供託金は,異国に連行され,遠い釜石の土地において,苦しい強制労働に使役され,果ては艦砲射撃の恐怖の中で悲惨な死を遂げせしめられた父の人格が化体された,形有るもの,自分が確かめられることのできる唯一のものなのである。 このような本件各供託金の還付を受けるということは,単に未払賃金等の支給を,遅まきながら得るなどということにとどまるものではなく,植民地支配及び戦後も存した「半島人」差別により,不当理不尽に否認され,おとしめられた故人の人格を回復するということであり,また,それによって,いわれなき辛酸をなめさせられ続けた原告ら自身の半生について,これに意味を付与することなのである。 b このように,本件各供託金ないし本件各供託金還付請求権は単なる経済的な利益にとどまるものではなく,故人の人格が化体したものとみなされるべきであり,また,原告ら遺族にとっては,故人のよすがを偲ぶべき,唯一の遺品ないし形見としての意味を有するものである。 そうであるならば,本件各供託金還付請求権は,措置法が予定し,消滅し みなされるべきであり,また,原告ら遺族にとっては,故人のよすがを偲ぶべき,唯一の遺品ないし形見としての意味を有するものである。 そうであるならば,本件各供託金還付請求権は,措置法が予定し,消滅したものとするとしている経済的な利益にとどまるものではなく,日韓請求権協定2条3,措置法1項の規定する「財産,権利及び利益」には含まれないものと解すべきであるから,措置法によって消滅することはない。 ウ請求権の根拠資料がある場合は措置法は適用されないことa 上記(1)エのとおり,日韓請求権協定において,積上げ方式が採用されず,経済協力方式が採用されたのは,請求権の根拠となる資料がないことを前提としたためであるから,本件のように請求権の根拠となる具体的な資料がある場合については,同協定が予定しないものというべきである。 b したがって,日韓請求権協定に根拠をもつ措置法も,本件のように請求権の根拠となる具体的な資料の存在する財産等については,適用されないものというべきである。 エ権利濫用a 被告は,原告らの父を,国民徴用令等を根拠に国策として強制連行し,強制労働に従事せしめ,その過程において国策として行った戦争の結果として連合艦隊による艦砲射撃によって死亡させたのである。 このような行為を行った被告が,死亡した原告らの父に対して支払われるべき未払賃金,遺族に対する弔慰金を,遺族に通知することもなく供託するように指導し,遺族である原告らへの連絡が可能であったにもかかわらず通知もせず,その結果,父らの消息につき何ら情報を持たない遺族が還付請求をする機会を奪い続けてきたものである。 b したがって,自らそのような行為を行ってきた被告が,措置法によって本件各供託金還付請求権が消滅したと主張することは,権利の濫用というべきであるから,本件各供託金還付請 奪い続けてきたものである。 b したがって,自らそのような行為を行ってきた被告が,措置法によって本件各供託金還付請求権が消滅したと主張することは,権利の濫用というべきであるから,本件各供託金還付請求権に措置法を適用することはできないというべきである。 オ以上のとおり,本件各供託金還付請求権は措置法によって消滅するものではないから,これが措置法1項の規定により消滅したことを理由とする本件各却下処分は違法である。 (4) 国家賠償法上の違法及び損害上記のとおり本件各却下処分は違法であり,本件各供託官が本件各却下処分をしたことは,国家賠償法上も違法である。 そして,原告らは,違法な本件各却下処分により,精神的苦痛を被ったが,これを慰謝するための相当額は,各原告につき2000万円が相当である。 (被告の主張)(1) 本件各供託金還付請求権が措置法1項の規定により既に消滅していることア日韓請求権協定の締結に至る経緯等a 我が国は,連合国との間において,我が国と連合国との間の戦争状態を終了させ,また,戦争状態の結果存在していた問題を解決するために,サン・フランシスコ平和条約を締結したが,その内容は,前記「法令の定め」(1)のとおりである。 b 我が国は,サン・フランシスコ平和条約の署名に先立って,昭和26年10月20日に韓国政府と予備会談を開催し,その翌年である昭和27年2月15日から,同平和条約発効までに国交正常化等の交渉を妥結することを双方が共通の目標として第1次会談を開いた。ところが,韓国政府がその直前にいわゆる「李ライン宣言」なるものを発表し,また,同会談において,韓国側が請求権を始めとする多くの問題について,日本側の立場と相容れない主張をするに至って,短期交渉の見通しは完全に失われるに至った。その後,我が国は,韓国政府と何度も会談 ,また,同会談において,韓国側が請求権を始めとする多くの問題について,日本側の立場と相容れない主張をするに至って,短期交渉の見通しは完全に失われるに至った。その後,我が国は,韓国政府と何度も会談を行い,予備会談開始以来13年8か月を経て,昭和40年12月に,日韓基本条約,日韓請求権協定を始めとする1条約,4協定,1交換公文を締結するに至った。 c このうち,請求権問題が日韓両国が国交を正常化するに当たって解決すべき諸懸案のうちで,最も重要かつ困難な交渉案件であった。韓国政府は,日韓交渉の第1次会談からこの問題を提起し,その後も,我が国は,韓国政府と交渉し,当初は請求権の法的根拠や事実関係について交渉が行われていたが,法的根拠についての理解の対立,証拠資料の散逸等の問題から個々の問題の積上げ方式による解決が不可能であることが判明するに至った。 しかし,請求権問題のために,日韓両国間の友好関係の確立をいつまでも遅らせることは,大局的見地からみて適当でなく,また,将来における両国間の友好関係の発展という見地からも,この際大韓民国の民生の安定,経済の発展に貢献することを目的として,我が国の財政事情や大韓民国の経済開発計画のための資金の必要性をも勘案したうえ,我が国が大韓民国に対して,3億ドルの無償供与及び2億ドルの長期低利の貸付けという膨大な金額の資金供与を行うこととし(昭和40年12月当時,我が国の外貨準備高は約21億ドル・財政金融統計月報176号(大蔵省編)),これと並行して請求権問題を最終的に解決することとして,日韓請求権協定が締結されたのである。 d この全体的な問題解決の方法の一つとして,日韓請求権協定2条1において,前記「法令の定め」(2)アのとおり,両締約国は,両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産,権利及び利益並びに両締 ある。 d この全体的な問題解決の方法の一つとして,日韓請求権協定2条1において,前記「法令の定め」(2)アのとおり,両締約国は,両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産,権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が,サン・フランシスコ平和条約4条(a)に規定されたものを含めて,完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する旨が規定されたのである。 大韓民国は,これを受けて,昭和41年(1966年)2月に,「請求権資金の運用及び管理に関する法律」を制定した。同法は,我が国からの経済協力として導入される無償供与,借款及びそれらの使用から発生するウォン資金を「請求権資金」と定義し,「大韓民国国民が持っている1945年8月15日以前までの日本国に対する民間請求権は,本法で定める請求権資金中で補償しなければならない。」(同法5条1項)とした。次に,昭和46年(1971年)1月に,「対日民間請求権申告に関する法律」が制定され,申告の対象となる「対日民間請求権」の範囲及び申告に係る請求権を審査する委員会の設置が定められた。申告対象の範囲は,日本国債,日本の金融機関に対する預金,日本政府機関に寄託した寄託金,郵便貯金等のいわゆる確定債務のほか,人的被害に関しては,「被徴用死亡者」(日本国によって,軍人,軍属又は労務者として,召集され又は徴用され1945年8月15日以前に死亡した者)のみが申告対象とされた(同法2条)。そして,昭和49年(1974年)12月に,「対日民間請求権補償に関する法律」が制定され,同法は,日本国通貨1円に対して大韓民国通貨30ウォン,被徴用死亡者に対して1人30万ウォンを補償することとした(同法4条)。 イ日韓請求権協定2条による「財産,権利及び利益」と「請求権」の処理a 「財産,権利及び利益」 して大韓民国通貨30ウォン,被徴用死亡者に対して1人30万ウォンを補償することとした(同法4条)。 イ日韓請求権協定2条による「財産,権利及び利益」と「請求権」の処理a 「財産,権利及び利益」と「請求権」の意義について日韓請求権協定2条にいう「財産,権利及び利益」と「請求権」の意義に関しては,「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定についての合意された議事録」(昭和40年12月18日外務省告示第256号。以下「合意議事録」という。)2(a),(g)に規定されている。 すなわち,日韓請求権協定及び合意議事録は,「財産,権利及び利益」(日韓請求権協定2条2(a),合意議事録2(a),(g))とそれ以外の「請求権」(合意議事録2(g))とを分けて規定しているところ,「財産,権利及び利益」とは,合意議事録2(a)により,「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利」をいうものとされている。したがって,「請求権」とは,これに当たらないあらゆる権利又は請求を含む概念であると解される。 b 「財産,権利及び利益」と「請求権」の各処理について(a) 日韓請求権協定では,「財産,権利及び利益」については,一定の分類を行い,その内容に応じて処理方法を定めた。 すなわち,日韓請求権協定2条2は,在日韓国人の財産等及び終戦後の「通常の接触の過程」において取得された財産等には,日韓請求権協定2条の規定の影響が及ばないことを定め,これを処理の対象から除外した。 次に,これ以外の「財産,権利及び利益」については,日韓請求権協定2条3において,前記「法令の定め」(2)イのとおり,これらに対する措置についていかなる主張もすることができないものとしている。この規定を受けて,我が国では,大韓 び利益」については,日韓請求権協定2条3において,前記「法令の定め」(2)イのとおり,これらに対する措置についていかなる主張もすることができないものとしている。この規定を受けて,我が国では,大韓民国国民の財産,権利及び利益を処理するために,措置法が制定され,日韓請求権協定に明記される一部の例外を除き,前記「法令の定め」(3)のとおり,大韓民国国民の日本国又は日本国民に対する債権,担保権は消滅させられ(1項),大韓民国国民の物(動産又は不動産)は保管者に帰属したものとされた(2項)。 (b) これに対し,「財産,権利及び利益」に当たらない日韓請求権協定2条の「請求権」については,前記「法令の定め」(2)イのとおり,日韓請求権協定2条3において,一律に「いかなる主張もすることができないものとする」とされており,同協定2条1において,「請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決されたこととなる」ことが確認されている。 この「財産,権利及び利益」に対する措置及びその他の「請求権」について,いかなる主張もすることができず,完全かつ最終的に解決したとは,大韓民国及びその国民が,どのような根拠に基づいて我が国及びその国民に請求しようとも,我が国及びその国民はこれに応じる法的義務はないという意味である。 (c) したがって,本件各供託金還付請求権が,「財産,権利及び利益」に当たる場合であっても,それ以外の「請求権」に当たる場合であっても,いずれにせよ原告らの本件各供託金の還付請求に対して,被告がこれに応じる法的義務はない。 ウ本件へのあてはめ以上を本件についてみると,本件各供託金還付請求権は,法律上の根拠に基づき財産的価値が認められる実体的権利であり,日韓請求権協定の署名の日(昭和40年6月22日)に我が国の管轄の下にあったものであって,同協定 ついてみると,本件各供託金還付請求権は,法律上の根拠に基づき財産的価値が認められる実体的権利であり,日韓請求権協定の署名の日(昭和40年6月22日)に我が国の管轄の下にあったものであって,同協定2条3の「財産,権利及び利益」に該当するから,措置法1項により,昭和40年6月22日において消滅したものである。 なお,原告らは,本件各供託金は被徴用者に関するものであると主張するところ,被徴用韓国人の未収金及び補償金については,合意議事録2(g)からも,日韓請求権協定2条3の対象となっていることが明らかである。すなわち,合意議事録2(g)は,「同条1にいう完全かつ最終的に解決されたこととなる両国及びその国民の財産,権利及び利益並びに両国及びその国民の間の請求権に関する問題には,日韓会談において韓国側から提出された「韓国の対日請求要綱」(いわゆる八項目)の範囲に属するすべての請求が含まれており,したがって,同対日請求要綱に関しては,いかなる主張もなしえないこととなることが確認された。」としている。そして,韓国の対日請求要綱(いわゆる八項目)は,その5項において,「韓国法人又は韓国自然人の日本国又は日本国民に対する日本国債,公債,日本銀行券,被徴用韓人の未収金,補償金及びその他の請求権の弁済を請求する。本項の一部は下記の事項を含む。(一部略)(3)被徴用韓人未収金 (4)戦争による被徴用者の被害に対する補償」としている。 このように,本件各供託金還付請求権は,日韓請求権協定2条3の「財産,権利及び利益」に該当し,措置法1項により既に消滅している。 したがって,これを理由として原告らの本件各供託金の還付請求を却下した本件各却下処分は適法であり,本件各供託官の行為に国家賠償法1条1項の違法がないことは明らかである。 (2) 原告らの主張に対する反論 って,これを理由として原告らの本件各供託金の還付請求を却下した本件各却下処分は適法であり,本件各供託官の行為に国家賠償法1条1項の違法がないことは明らかである。 (2) 原告らの主張に対する反論ア日韓請求権協定は無効である旨の主張についてa 日韓請求権協定はウィーン条約法条約の適用により無効である旨の主張について(a) ウィーン条約法条約は遡及適用されないこと条約の時間的適用範囲については,締約国の自由な決定にゆだねられるものの,別段の合意がなければ,当該条約が当事国間において発効して以降であるとされている。また,ウィーン条約法条約4条も,同条約の他の条約に対する不遡及を明文で定めている(同条ただし書は,本文に規定されるウィーン条約法条約の適用対象外の条約に対して,一般国際法上存在している規則で,ウィーン条約法条約に定める規則と同一のものがある場合は,一般国際法上存在している規則が同条約と別個に適用されることを確認的に規定したものである。)。 しかるところ,ウィーン条約法条約は,日韓請求権協定締結後に我が国について効力が生じた条約であるから(同条約の我が国についての効力発生は,昭和56年(1981年)8月1日。同条約84条2項参照。),同条約が直接日韓請求権協定の解釈に適用されることはない。 したがって,日韓請求権協定の解釈にウィーン条約法条約が当然適用されることを前提とした原告らの主張は失当である。 (b) 日韓請求権協定にはウィーン条約法条約48条及び49条が適用されるような事情はないことウィーン条約法条約48条及び49条は,条約の締結において,錯誤又は詐欺があった場合に,当事国が自国の同意を無効にする根拠としてこれらを援用できる旨規定しているところ,韓国政府が日韓請求権協定締結後,我が国政府に対して同協定の無効を ,条約の締結において,錯誤又は詐欺があった場合に,当事国が自国の同意を無効にする根拠としてこれらを援用できる旨規定しているところ,韓国政府が日韓請求権協定締結後,我が国政府に対して同協定の無効を唱えたことは一度もないことから明らかなように,日韓請求権協定は国際法上有効であることは明らかである。 (c) 日韓請求権協定にはウィーン条約法条約52条に反するような事情は認められないこと原告らは,ウィーン条約法条約の最終議定書において,「軍事的,政治的または経済的強制の禁止に関する宣言」が確認されているから,条約が一定の政治的・経済的強制の下に締結された場合も,ウィーン条約法条約52条に違反する旨主張する。 しかし,以下のとおり,原告らのウィーン条約法条約52条に関する解釈及び日韓請求権協定が政治的・経済的強制の下で締結されたとの事実認識はいずれも誤りであるから,原告らの主張は失当である。 ⅰ ウィーン条約法条約52条及び最終議定書の解釈が誤っていること① 原告らは,ウィーン条約法条約52条が,「武力による威嚇又は武力の行使による国に対する強制」との表題の下に規定されており,また,同条約の最終議定書において,「軍事的,政治的または経済的強制の禁止に関する宣言」が確認されていることを根拠として,同条約52条の規定する「強制」には,政治的・経済的強制も含まれるとしたうえ,日韓請求権協定は,「経済的な圧力」ないし「政治的な圧力」により締結されたものであるから無効である旨主張するようである。 しかしながら,そもそも,上記(a)のとおり,ウィーン条約法条約は遡及適用されないから,同条約が直接に日韓請求権協定の解釈には適用されないうえ,同条約52条自体の解釈問題として検討しても,同条が条約を無効とする「強制」には,政治的・経済的強制が含まれない 条約は遡及適用されないから,同条約が直接に日韓請求権協定の解釈には適用されないうえ,同条約52条自体の解釈問題として検討しても,同条が条約を無効とする「強制」には,政治的・経済的強制が含まれないから,この点についての原告らの主張もまた失当である。 すなわち,条約の解釈は,一般に文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い,誠実に解釈するものとするとされており(ウィーン条約法条約31条1),かかる条約の解釈原則に従って,同条約52条を解釈すれば,原告らが主張するような「経済的な圧力」及び「政治的な圧力」は,同条が定める「武力による威嚇又は武力の行使」に該当しないことは明らかである。 ② また,このことは,ウィーン条約法条約が採択された際の経緯に照らしても明らかである。 すなわち,同条約を採択した国連条約法会議において,同条約52条の原案とされた国連国際法委員会草案49条は,「国際連合憲章の諸原則に違反する武力による威嚇又は武力の行使の結果締結された条約は,無効である」と規定していた(強制の範囲について,国連憲章2条4項の“thethreatoruseofforce”の語をそのまま用いていた。)ところ,これに対して,アジア,アフリカ諸国を中心とする19か国から,原案の“force”の後に「政治的又は経済的圧力を含む(includingeconomicorpoliticalpressure)」を追加すべきとする修正案が提出された。しかし,上記修正案に対しては,「「政治的及び経済的圧力」の概念は,条約を無効にする根拠として本条約に含めるには,まだ十分に定義されておらず法的に確立していない」とする意見が出されて賛否が分かれたため,結局,賛否両側の妥協として,「条約の締結における軍事的,政治的 約を無効にする根拠として本条約に含めるには,まだ十分に定義されておらず法的に確立していない」とする意見が出されて賛否が分かれたため,結局,賛否両側の妥協として,「条約の締結における軍事的,政治的または経済的強制の禁止に関する宣言」が会議の最終議定書の一部を構成するものとして投票なしで採択され(これは条約本体とは別個のものであって,法的拘束力を有さず,その内容においても,条約の無効に言及するものではない。),上記修正案は表決に付されることなく終わり,ウィーン条約法条約52条が賛成多数で可決された。つまり,同条約52条は「政治的又は経済的圧力を含む(includingeconomicorpoliticalpressure)」という文言が追加されずに可決されたのであるから,仮に原告らが主張するような「経済的な圧力」及び「政治的な圧力」があったとしても,同条に反すると解する余地はないのである。 ⅱ 原告らが主張する政治的・経済的強制が存在しないこと原告らが主張の前提とするような政治的・経済的強制はそもそも存在しないから,原告らの主張はこの点でも失当である。 すなわち,日韓請求権協定は,上記(1)アのとおり,日韓両国間の友好関係の確立,将来における友好関係の発展という見地から,大韓民国の民生の安定,経済の発展に貢献することを目的として,日韓両国間の合意のもと締結されたものであり,「経済的な圧力」が存在した事実はなく,また,我が国が連合軍の占領中に行われた交渉については,アメリカ政府の斡旋によって行われた事実はあるものの,その後14年間の日韓交渉の経過において,アメリカ政府からの圧力,介入あるいは特別な要請があったという事実は存在しないから,同協定締結の経緯に照らしても,原告らの主張は失当である。 この点につき,昭和40年11月 日韓交渉の経過において,アメリカ政府からの圧力,介入あるいは特別な要請があったという事実は存在しないから,同協定締結の経緯に照らしても,原告らの主張は失当である。 この点につき,昭和40年11月27日開催の第50回国会参議院「日韓条約等特別委員会」において,日韓請求権条約に対するアメリカの干渉及び圧力につき,椎名悦三郎外務大臣は,「従来,14年間の日韓交渉の過程において,さようなアメリカのほうからの圧力とか,あるいは介入,あるいは特別の要請というようなものがあったということは全然聞いておりませんし,そういう事実は私は確信を持ってないと申し上げることができると思います。」と答弁しているところである。 b 日韓請求権協定は憲法前文に違反する旨及び原告らに適用する限りにおいて条理上無効である旨の主張について原告らは,被告が詐術・欺罔行為により韓国政府を錯誤に陥れて日韓請求権協定を締結させたものであるとし,この手続が憲法前文の定める国際協調主義等憲法の根本規範に違反するから違憲無効であると主張するもののようである。 しかしながら,日韓請求権協定の締結過程において,被告が詐術・欺罔行為により韓国政府を錯誤に陥れて締結させたために,当事国たる大韓民国の同意に瑕疵があったということはなく,韓国政府が我が国政府に対して同協定の無効を唱えたことが一度もないことからも,同協定は国際法上有効であることは明らかであり,原告らの主張は失当である。 c 以上のとおり,いかなる点からみても,日韓請求権協定の効力に疑問はなく,したがって,同協定に基づき制定された措置法の無効をいう原告らの主張にはいずれも理由がない。 イ措置法は憲法に違反する旨の主張についてa 原告らは,実体的権利を消滅させる措置法は,憲法前文,13条,14条及び29条に違反し無効である旨主 の無効をいう原告らの主張にはいずれも理由がない。 イ措置法は憲法に違反する旨の主張についてa 原告らは,実体的権利を消滅させる措置法は,憲法前文,13条,14条及び29条に違反し無効である旨主張する。 b しかし,日韓請求権協定の締結及び措置法の制定は,朝鮮の独立を承認することに必然的に伴う財産及び請求権の問題を処理するためにサン・フランシスコ平和条約が定めた二国間交渉による特別取極という解決方法に当たるものであり,現行憲法秩序の枠外にあるものというほかなく,憲法違反の問題を生じる余地はないというべきである。 この点に関し,韓国人元軍属の未払給与債権を消滅させた措置法が憲法14条,29条3項及び98条に違反するものであるか否かが争われた事案につき,最高裁平成13年11月22日第一小法廷判決・裁判所時報1304号8頁は,「我が国は,第二次世界大戦の敗戦に伴う平和条約によって,朝鮮の独立を承認し,日本国及び日本国民に対する朝鮮の施政を行っている当局及びその住民の請求権の処理等は,日本国と同当局との間の特別取極の主題とするものとされたことを受けて韓国との間で締結した協定に基づき,韓国の国民の一定の財産権等を消滅させるとする措置法を制定したものであるところ,このような敗戦に伴う国家間の財産処理といった事項は,本来憲法の予定していないところであり,そのための処理に関して損害が生じたとしても,戦争損害と同様に,その損害に対する補償は憲法の前記各条項の予想しないものといわざるを得ない。したがって,措置法が憲法の上記各条項に違反するということはできない。」と判示している。 原告らの主張は,措置法に憲法の適用があることを前提とするものであるが,上記のとおり,措置法による財産権の消滅措置については,そもそも憲法の適用は予想されていないのであるから 。」と判示している。 原告らの主張は,措置法に憲法の適用があることを前提とするものであるが,上記のとおり,措置法による財産権の消滅措置については,そもそも憲法の適用は予想されていないのであるから,原告らの主張は,前提において失当というほかない。 ウ本件各供託金還付請求権には措置法の適用がない旨の主張についてa 原告らは,措置法は,韓国政府が日韓請求権協定2条3によって外交保護権を放棄することになる財産等の範囲を具体的に定めたものであり,大韓民国国民が有する個々の財産権を実体的に失効させる効力まで有するものではない旨主張する。 上記(1)イaのとおり,日韓請求権協定2条1に規定する「財産,権利及び利益」とは,合意議事録2(a)により,法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうものとされている。 日韓請求権協定では,かかる「財産,権利及び利益」について,一定の分類を行い,その内容に応じて処理方法を定めた。すなわち,同協定2条2は,在日韓国人の財産等及び終戦後の「通常の接触の過程」において取得された財産等には,同協定2条の規定の影響が及ばないことを規定し,これを処理の対象から除外した。次に,これ以外の「財産,権利及び利益」については,同協定2条3において,これらに対する措置についていかなる主張もすることができないものとした。 この日韓請求権協定2条3にいう「財産,権利及び利益」に対する措置について,いかなる主張もすることができず,完全かつ最終的に解決した(同条1)とは,大韓民国及びその国民が,どのような根拠に基づいて,我が国及びその国民に請求しようとも,我が国及びその国民はこれに応じる法的義務はないという意味である。 そこで,我が国は,日韓請求権協定の署名の時点で,法律上の根拠に基づき財産的価値が認 づいて,我が国及びその国民に請求しようとも,我が国及びその国民はこれに応じる法的義務はないという意味である。 そこで,我が国は,日韓請求権協定の署名の時点で,法律上の根拠に基づき財産的価値が認められている実体的権利を消滅させるために,措置法を制定し,同法1項は,日韓請求権協定「第2条3の財産,権利及び利益に該当するものは,次項の規定の適用があるものを除き,昭和40年6月22日において消滅したものとする。」と定めた。 以上のとおり,措置法は日韓請求権協定を受けて制定され,同協定2条3の「財産,権利及び利益」を消滅させるために制定されたものであることは明らかであって,措置法によって大韓民国国民の実体的権利を消滅させることは同協定の趣旨を逸脱する旨の原告らの主張は失当である。 b 原告らは,日韓請求権協定は請求権を根拠づける資料が存在しないことを前提にして締結されたものであるから,上記資料が存在している本件各供託金還付請求権についてまで,措置法を適用することは誤りである旨主張する。 しかしながら,日韓請求権協定及び措置法の文言からも明らかなとおり,これらに基づく法律効果が,請求権を根拠づける資料の有無によって左右されるものではないし,仮に左右されるとすると,大韓民国国民が主張する権利について,これを根拠づける資料が存在するという場合,これについては未解決ということになるが,このような解釈は,財産,権利及び利益並びに請求権の問題を完全かつ最終的に解決するという日韓請求権協定の目的に合致せず,到底是認できるものではない。 したがって,原告らの上記主張も失当である。 c 原告らは,措置法によって消滅したのは純然たる財産権であって,形見としての意味を持つ本件各供託金還付請求権はその対象外であり,また,被告の措置法の適用がある旨の主張は権利濫 記主張も失当である。 c 原告らは,措置法によって消滅したのは純然たる財産権であって,形見としての意味を持つ本件各供託金還付請求権はその対象外であり,また,被告の措置法の適用がある旨の主張は権利濫用である旨主張する。 しかしながら,本件各供託金還付請求権が財産権であることは明らかであり,また,権利濫用の主張は,結局のところ,措置法の違憲無効を前提とするものであって,これが失当であることは上記イのとおりであるから,原告らの主張は理由がない。 4 争点以上によれば,本件の争点は,次のとおりである。 (1) 日韓請求権協定は,ウィーン条約法条約の適用により又は憲法前文に違反するものとして無効と解すべきか否か。また,同協定は,原告らに適用する限りにおいて条理上無効と解すべきか否か。 (争点1)(2) 措置法は憲法前文,13条,14条,29条に違反するか否か。 (争点2)(3) 本件各供託金還付請求権には措置法の適用がないと解すべきか否か。 (争点3)第3 争点に対する判断 1 争点1について(1) 日韓請求権協定はウィーン条約法条約の適用により無効となるか否か。 ア日韓請求権協定の締結に至る経緯等証拠(甲20,乙3,4,6ないし 8)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 a 我が国は,連合国との間において,我が国と連合国との間の戦争状態を終了させ,また,戦争状態の結果として今なお未解決の問題を解決するために,サン・フランシスコ平和条約を締結したが,同条約により,我が国における朝鮮地域の施政を行っている当局及びその住民の財産や,我が国に対する同当局及びその住民の請求権(債権を含む。)等の処理は,我が国と同当局との間の特別取極の主題とするものとされた(4条(a))。 b 我が国は,サン・フラ ている当局及びその住民の財産や,我が国に対する同当局及びその住民の請求権(債権を含む。)等の処理は,我が国と同当局との間の特別取極の主題とするものとされた(4条(a))。 b 我が国は,サン・フランシスコ平和条約の署名に先立って,昭和26年10月20日に韓国政府と予備会談を開催し,その翌年には,同平和条約発効までに国交正常化等の交渉を妥結することを双方が共通の目標として第1次会談を開いた。ところが,韓国政府がその直前にいわゆる「李ライン宣言」を発表し,また,同会談において,韓国側が請求権を始めとする多くの問題について,日本側の立場と相容れない主張をするに至り,短期交渉の見通しは失われることとなった。 その後,第2次会談から第6次会談までの約10年間は,様々な曲折を経ながらさしたる進展もなく推移したが,昭和37年末にいわゆる「大平・金了解」の成立によって,請求権問題について大筋の妥結をみることができ,さらに,昭和39年には同じく懸案であった漁業問題が大幅な進展を示したことから,両国の間に交渉妥結に対する気運が盛り上がるようになった。 その結果,昭和39年春からの第7次会談で折衝が重ねられ,昭和40年2月には基本関係条約の仮調印,4月には漁業,請求権,経済協力,法的地位についての合意事項の確認がされ,同年6月22日に,日韓基本条約,日韓請求権協定を始めとする1条約,4協定,1交換公文及び附属文書の署名がされるに至った。 c 請求権問題は,日韓両国が国交を正常化するに当たって解決すべき諸懸案のうちで,最も重要かつ困難な交渉案件の一つであった。 韓国政府は,第1次会談からこの問題を提起し,その後,主として第5次,第6次会談において,「韓国の対日請求要綱」(いわゆる八項目)を示して我が国政府と論議を重ねてきた。 これらの会談で,我が国は, 韓国政府は,第1次会談からこの問題を提起し,その後,主として第5次,第6次会談において,「韓国の対日請求要綱」(いわゆる八項目)を示して我が国政府と論議を重ねてきた。 これらの会談で,我が国は,韓国側の請求項目に対し,その法的根拠があり,かつ,事実関係の十分に立証されたものについてのみ支払を認める(積上げ方式)という前提に立って交渉を進めてきたが,討議の結果,法的根拠の有無に関する両者間の見解には大きな隔たりがあり,また,戦後十数年を経過し,特に朝鮮動乱を経た後にあっては,資料の散逸などにより,事実関係を正確に立証することは極めて困難なことが判明するに至った。 しかし,このような日韓両国間の対立を放置し,日韓国交正常化の実現をいつまでも遅らせることは,大局的見地からみて適当でなく,また,将来における両国間の友好関係の発展という見地からも,この際大韓民国の民生の安定,経済の発展に貢献することを目的として,我が国の財政事情や,大韓民国の経済開発計画のための資金の必要性をも勘案したうえで,我が国が大韓民国に対して経済協力を行い,これと並行して,日韓間の請求権問題が解決し,もはや存在しないこととするという解決方法が考え出され,これが日韓請求権協定に取り込まれた。 すなわち,日韓請求権協定により,我が国は大韓民国に対し,3億ドルの無償供与及び2億ドルの長期低利の貸付けを行うこととし(1条),これと並行して,前記「法令の定め」(2)のとおり,両締約国は,両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産,権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が,サン・フランシスコ平和条約4条(a)に規定されたものを含めて,完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認すること(2条1),一方の締約国及びその国民の財産,権利及び利益であってこ 関する問題が,サン・フランシスコ平和条約4条(a)に規定されたものを含めて,完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認すること(2条1),一方の締約国及びその国民の財産,権利及び利益であってこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては,いかなる主張もすることができないものとすること(同条3)が,協定された。 d 大韓民国は,日韓請求権協定を受けて,昭和41年(1966年)2月に,「請求権資金の運用及び管理に関する法律」(乙6)を制定し,我が国からの経済協力として導入される資金を「請求権資金」と定義し,「大韓民国国民が持っている1945年8月15日以前までの日本国に対する民間請求権は,本法で定める請求権資金中で補償しなければならない。」(5条1項)と定めた。 次に,昭和46年(1971年)1月に,「対日民間請求権申告に関する法律」(乙7)が制定され,申告の対象となる「対日民間請求権」の範囲が定められたほか,申告に伴う業務を処理するための委員会を設置することが定められた。 そして,申告対象の範囲は,日本国債,日本の金融機関に対する預金,日本政府機関に寄託した寄託金,郵便貯金等のいわゆる確定債務のほか,人的被害に関しては,「被徴用死亡者」(日本国によって,軍人,軍属又は労務者として,召集され又は徴用され1945年8月15日以前に死亡した者)のみが申告対象と定められた(同法2条)。 そして,昭和49年(1974年)12月に,「対日民間請求権補償に関する法律」(乙8)が制定され,補償金額は日本国通貨1円に対して大韓民国通貨30ウォンと定められ,また,被徴用死亡者に対して1人30万ウォンを補償する (1974年)12月に,「対日民間請求権補償に関する法律」(乙8)が制定され,補償金額は日本国通貨1円に対して大韓民国通貨30ウォンと定められ,また,被徴用死亡者に対して1人30万ウォンを補償することが定められた(同法4条)。 イ原告らの主張についてa 日韓請求権協定の締結に至る経緯等は上記アのとおりであり,韓国政府が,我が国政府に対し,錯誤又は詐欺により同協定を締結したものであるから同協定は無効であるとか,同協定の締結に当たり我が国やアメリカから政治的・経済的な圧力を受けたなどと主張したことはなく,かえって,同協定が締結されたことを前提に,「請求権資金の運用及び管理に関する法律」,「対日民間請求権申告に関する法律」及び「対日民間請求権補償に関する法律」等の国内法を制定しているのであって,かかる事実経過に照らすと,同協定締結に当たり,韓国政府がウィーン条約法条約48条の規定により条約の無効を来すような錯誤に陥っていたとか,我が国政府が同条約49条の規定する詐欺行為を行ったと認めることはできないし,また,韓国政府が我が国の経済的な圧力又はアメリカの政治的な圧力によって同協定を締結させられたと認めることはできず,かかる事実を認めるに足りる証拠もない。 b また,ウィーン条約法条約が採択された際の経緯が「被告の主張」(2)アa(c)ⅰ②のとおりであることは公知の事実であり,これらの経緯及びウィーン条約法条約52条の文言に照らせば,同条の規定する「武力による威嚇又は武力の行使」には「経済的・政治的な圧力」が含まれないことは明らかである。 c したがって,日韓請求権協定はウィーン条約法条約の適用により無効である旨の原告らの主張は理由がない。 (2) 憲法前文違反の有無上記(1)のとおり,我が国政府が日韓請求権協定締結の過程で,許される外交上 って,日韓請求権協定はウィーン条約法条約の適用により無効である旨の原告らの主張は理由がない。 (2) 憲法前文違反の有無上記(1)のとおり,我が国政府が日韓請求権協定締結の過程で,許される外交上の駆け引きの範囲を大きく逸脱した欺罔行為を行ったと認めることはできないから,原告らの主張は理由がない。 (3) 日韓請求権協定は原告らに適用する限りにおいて条理上無効と解すべきか否か。 ア日韓請求権協定2条の内容は,前記「法令の定め」(2)のとおりであるが,同条にいう「財産,権利及び利益」の意義に関し,合意議事録2(a)により,「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利」を指すものであることが了解され,また,合意議事録2(g)及び「韓国の対日請求要綱」(いわゆる八項目)により,同条1にいう完全かつ最終的に解決されたこととなる両締約国及びその国民の財産等に関する問題には,大韓民国国民の我が国に対する被徴用韓人の未収金や補償金(具体的には,被徴用韓人未収金,戦争による被徴用者の被害に対する補償)も含まれることが確認された。 そして,日韓請求権協定2条3の規定する「措置」として,我が国においては,大韓民国国民の財産,権利及び利益を処理するために,前記「法令の定め」(3)のとおり,大韓民国又はその国民(法人を含む。)が有する日本国若しくは日本国民に対する債権(1号)又は担保権であって,日本国若しくは日本国民の有する物若しくは債権を目的とするもの(2号)のうち,日韓請求権協定2条3の財産,権利及び利益に該当するものは,原則として,昭和40年6月22日において消滅したものとする(1項)ことを内容とする措置法が制定された。 以上のような日韓請求権協定及び措置法を本件に適用すると,本件各供託金還付請求権は,法律上の根拠に基づき財産 40年6月22日において消滅したものとする(1項)ことを内容とする措置法が制定された。 以上のような日韓請求権協定及び措置法を本件に適用すると,本件各供託金還付請求権は,法律上の根拠に基づき財産的価値が認められる実体的権利であり,日韓請求権協定の署名の日(昭和40年6月22日)に我が国の管轄の下にあったものであるから,同協定2条3の「財産,権利及び利益」に該当するので,措置法1項の規定により,昭和40年6月22日において消滅したこととなる。 イところで,原告らは,日韓請求権協定は請求権を根拠づける資料が存在している本件各供託金還付請求権については効力を有しない旨主張する。 しかし,日韓請求権協定2条の文言をみても,同条が請求権を根拠づける資料の存否によってその適用の有無を区別したうえで,同条は専ら請求権を根拠づける資料が存在しない財産等のみを対象としていると解することはできないのみならず,仮に,原告ら主張のように,同条が請求権を根拠づける資料が存在する財産等を対象としていないとすると,財産等の問題を完全かつ最終的に解決するという日韓請求権協定の目的(2条1)を達成することができないこととなり,不合理な結果をもたらすことになる。 したがって,原告らの上記主張は理由がないものといわざるを得ない。 2 争点2について原告らは,措置法は,憲法前文,13条,14条,29条に違反すると主張する。 しかしながら,上記1(1)アのとおり,我が国と連合国との間の第2次世界大戦の戦争状態を終了させ,戦争状態の結果として今なお未解決の問題を解決するために,サン・フランシスコ平和条約が締結されたが,同条約により,我が国は朝鮮の独立を承認するとともに,我が国における朝鮮地域の施政を行っている当局及びその住民の財産や,我が国に対する同当局及びその住民の請求 ン・フランシスコ平和条約が締結されたが,同条約により,我が国は朝鮮の独立を承認するとともに,我が国における朝鮮地域の施政を行っている当局及びその住民の財産や,我が国に対する同当局及びその住民の請求権(債権を含む。)等の処理は,我が国と同当局との間の特別取極の主題とするものとされ,その後,同条約を受けて大韓民国との間で日韓請求権協定が締結され,さらに,同協定に基づいて,大韓民国国民の一定の財産権を消滅させる内容の措置法が制定されたものである。 このように,措置法は,我が国の敗戦に伴う国家間の財産処理を目的として制定されたものであるところ,敗戦に伴う国家間の財産処理といった事項は,本来憲法の予定していないところであって,そのための処理に関して損害が生じたとしても,戦争損害と同様に,その損害に対する補償は原告らが指摘する憲法前文や各条項の予想しないものといわざるを得ないから,措置法が憲法の上記各条項等に違反するということはできないと解するのが相当である(前掲最高裁平成13年11月22日第一小法廷判決参照)。 したがって,原告らの主張は理由がない。 3 争点3について(1) 措置法は大韓民国国民の有する財産権を消滅させる効力を有しないと解すべきか否か。 アa 上記1(1)アのとおり,サン・フランシスコ平和条約により,我が国は朝鮮の独立を承認するとともに,我が国における朝鮮地域の施政を行っている当局及びその住民の財産や,我が国に対する同当局及びその住民の請求権(債権を含む。)の処理は,我が国と同当局との間の特別取極の主題とすることとされた(4条(a))。 これを受けて締結された日韓請求権協定により,一方の締約国及びその国民の財産,権利及び利益であってこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置に関しては,いかなる主張も ))。 これを受けて締結された日韓請求権協定により,一方の締約国及びその国民の財産,権利及び利益であってこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置に関しては,いかなる主張もすることができないものとされ(2条3),両締約国は,両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産,権利及び利益に関する問題が,サン・フランシスコ平和条約4条(a)に規定されたものを含めて,完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認するものとされた(同条1)。そして,合意議事録2(a)により,日韓請求権協定2条にいう「財産,権利及び利益」とは「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利」をいうものであることが了解された。 さらに,日韓請求権協定2条3の規定する「措置」として,措置法が制定され,大韓民国国民(法人を含む。)の財産権(これには,日本国又はその国民に対する債権が含まれる。)であって,日韓請求権協定2条3の財産,権利及び利益に該当するものは,昭和40年6月22日において消滅したものとするとされた(1項)。 b 大韓民国では,上記1(1)アdのとおり,日韓請求権協定を受けて,「請求権資金の運用及び管理に関する法律」が制定され,我が国からの経済協力として導入される「請求権資金」によって,大韓民国国民が持っている昭和20年(1945年)8月15日以前までの日本国に対する民間請求権を補償すべきものとされ,次いで,「対日民間請求権申告に関する法律」により,申告の対象となる「対日民間請求権」の範囲等が定められたが,申告対象の範囲は,日本政府機関に寄託した寄託金や,人的被害に関しては「被徴用死亡者」が申告対象とされ,さらに,「対日民間請求権補償に関する法律」により,具体的な補償金額が定められた。 c 以上のような措置法が は,日本政府機関に寄託した寄託金や,人的被害に関しては「被徴用死亡者」が申告対象とされ,さらに,「対日民間請求権補償に関する法律」により,具体的な補償金額が定められた。 c 以上のような措置法が締結されるまでの経緯,同法制定の目的及び同法1項が大韓民国国民(法人を含む。)の財産権は消滅したものとすると明確に規定していることからすれば,措置法は,大韓民国国民の有する財産権を消滅させる効力を有するものであることは明らかであり,このことは,大韓民国においても,日韓請求権協定を受けて前記のような内容の立法上の各措置がとられていることからも裏付けられるというべきである。 イこれに対し,原告らは,日韓請求権協定2条3で「・・・いかなる主張もすることができない」という拘束を受けるのは,韓国政府であって,個々の大韓民国国民はこれに含まれず,同項は国家レベルにおいて,外交保護権を放棄したことを意味するにとどまるものであって,大韓民国国民個人の実体的権利を消滅させるものではないから,措置法が同国民個人の有する実体的権利そのものまでを奪うということはあり得ず,同法は韓国政府が外交保護権を放棄する財産等の範囲を定めたものにすぎない旨主張する。 しかし,日韓請求権協定では,我が国が大韓民国に対し,3億ドルの無償供与及び2億ドルの長期低利の貸付けを行い(1条。なお,大韓民国では,これらの資金によって,大韓民国国民の有する日本国に対する民間請求権の補償がされたことは,上記のとおりである。),これと並行して,日韓間の請求権問題が完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認するものとされ(2条1),具体的には,一方の締約国及びその国民の財産,権利及び利益であってこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置に関しては,いかなる主張もすることが 確認するものとされ(2条1),具体的には,一方の締約国及びその国民の財産,権利及び利益であってこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置に関しては,いかなる主張もすることができないものとするとされた(同条3)。そして,同条3の「・・・いかなる主張もすることができない」とは,国が国際法上有する外交保護権を行使しないことを約束するということであり,これを協定署名の日に我が国の管轄の下にある大韓民国国民の有する財産権についてみれば,我が国はかかる大韓民国国民の財産権の処分を自由に決定することができ,これについて,大韓民国は我が国に国家責任を追及することはしないということであって,同項は,我が国が同項の規定する措置として,我が国の管轄下にある大韓民国国民の有する財産権を消滅させる内容の法律を制定することを何ら禁止するものではなく,措置法が憲法前文及び憲法13条,14条,29条に違反するものでないことは既に2で述べたとおりであるから,措置法が大韓民国国民個人の有する実体的権利を奪うということはあり得ないとする原告らの上記主張は理由がない。 ウ以上のとおりであるから,措置法は大韓民国国民の有する財産権を消滅させる効力を有しない旨の原告らの主張は理由がない。 (2) 本件各供託金還付請求権は日韓請求権協定2条3,措置法1項の「財産,権利及び利益」に含まれないと解すべきか否か。 原告らが本件各供託金ないし本件各供託金還付請求権に対し,単なる経済的利益を超えた格別の思いを抱いていることは推察に難くなく,原告ら4名作成の陳述書(甲6ないし9,30)並びに原告A及び原告Bの各本人尋問の結果によってもこれを認めることができるが,そのことによって,本件各供託金還付請求権の権利としての性質が変わるものではなく,これが日韓請求権協定2条3 し9,30)並びに原告A及び原告Bの各本人尋問の結果によってもこれを認めることができるが,そのことによって,本件各供託金還付請求権の権利としての性質が変わるものではなく,これが日韓請求権協定2条3,措置法1項の規定する「財産,権利及び利益」に当たるものであることは明らかであるから,原告らの主張は理由がない。 (3) 請求権の根拠資料がある場合は措置法は適用されないと解すべきか否か。 上記1(3)のとおり,日韓請求権協定法は,請求権を根拠づける資料の有無によって,これらが適用されるか否かを区別しているものではなく,これは措置法についても,その文言等に照らせば,同様に解されるところであって,上記資料がある場合をも予定したものというべきであるから,原告らの主張は理由がない。 (4) 被告の主張は権利濫用となるか否か。 上記1(1)ア,2のとおり,措置法は敗戦に伴う国家間の財産処理のために制定されたものであることに照らすと,仮に原告らの主張するような事情があったとしても,被告が本訴において,本件各供託金還付請求権は措置法1項の規定により消滅したと主張することが権利濫用に当たるということはできないから,原告らの主張は理由がない。 4 本件各却下処分の違法性の有無以上のとおり,日韓請求権協定及び措置法はいずれも無効であるとはいえないし,また,本件各供託金還付請求権に措置法の適用がないと解すべき根拠もない。 そうであるとすれば,本件各供託金還付請求権は,措置法1項の規定により昭和40年6月22日において消滅したというべきであるから(上記1(3)ア),原告らによる本件各供託金の還付請求を却下した本件各却下処分に違法はない。 したがって,本件各供託官が本件各却下処分をしたことに,国家賠償法上の違法はないから,その余の点について判断するまでもなく,原 らによる本件各供託金の還付請求を却下した本件各却下処分に違法はない。 したがって,本件各供託官が本件各却下処分をしたことに,国家賠償法上の違法はないから,その余の点について判断するまでもなく,原告らの主張は理由がない。 第4 結論以上によれば,原告らの請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部裁判長裁判官市村陽典裁判官石井浩裁判官関口剛弘(別紙)供託金目録供託所はいずれも盛岡地方法務局 1 供託番号昭和21年金第101号供託年月日昭和21年12月11日被供託者 G供託金額 2399円09銭 2 供託番号昭和21年金第101号供託年月日昭和21年12月11日被供託者 H供託金額 3197円25銭 3 供託番号昭和21年金第101号供託年月日昭和21年12月11日被供託者 J供託金額 1660円 4 供託番号昭和21年金第101号供託年月日昭和21年12月11日被供託者 K供託金額 2293円93銭
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