平成30年9月25日宣告平成29年(わ)第401号,同第474号器物損壊,建造物等以外放火被告事件判決 主文 被告人を懲役2年4月に処する。 未決勾留日数中360日をその刑に算入する。 札幌地方検察庁で保管中のライター1個(平成29年領第763号符号1)を没収する。 本件公訴事実中,平成29年6月9日付け起訴状記載の公訴事実については,被告人は無罪。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成29年5月13日午後9時14分頃から同日午後9時16分頃までの間,札幌市a区bc条d丁目e番f号A方南西側敷地内において,同人方南西側壁から約80センチメートルの距離に設置されていた同人所有の灯油タンクの配管を折り曲げるなどして破損させ,同タンク内の灯油を同タンク直下に置かれていた同人所有のプランター内等に漏出させ続けるなどした上,所持していた紙片にライター(平成29年領第763号符号1)で点火し,その紙片を同プランター内に投げ入れて火を放ち,同プランター等を焼損させ,よって,そのまま放置すれば同人方家屋等に延焼するおそれのある状態を発生させ,もって公共の危険を生じさせた。 (証拠の標目)(略)(事実認定の補足説明) 1 本件の争点弁護人は,建造物等以外放火被告事件(平成29年6月30日付け追起訴状記 載の公訴事実)について,被告人が犯人ではないと主張し,被告人も同旨の供述をするので,被告人と犯人との同一性について,以下補足して説明を加える。 2 証拠から認められる犯行の態様,日時等建造物等以外放火(以下「本件放火行為」という。)の公訴事実に関し,本件放火行為の態様,本件放火行為が行われた日時等について検討する。 ⑴ 本件放火行為の態様 ら認められる犯行の態様,日時等建造物等以外放火(以下「本件放火行為」という。)の公訴事実に関し,本件放火行為の態様,本件放火行為が行われた日時等について検討する。 ⑴ 本件放火行為の態様本件放火行為による火災発生が明確に認知されたのは,平成29年5月13日(以下,特記ない限り,「平成29年」の表記を省略する。)午後9時18分17秒頃,A方南西側敷地内(以下「本件火災現場」という。)において,灯油タンク(以下「本件タンク」という。)下に置かれていたプランター(以下「本件プランター」という。)等から火の手が上がっていたことを消防吏員が発見したことによるものである。 また,本件タンクの配管は破損しており,破損部分から灯油が漏出し,本件プランター内には灯油が溜まっていたところである。 そして,本件タンクの配管の破損が自然に劣化して生じたものではなく,人為的なものによること,本件火災現場において配管の破損のほかに特段の着火装置等の痕跡は見当たらないこと,本件灯油配管の破損をたまたま発見した者が配管の破損を利用して放火行為に及ぶなど本件灯油配管を破損させた者と本件放火行為に及んだ者とが異なるとは考えにくいこと等からすれば,何者かが,本件タンクの配管を破損させ,その破損部分から本件プランター内に灯油を漏出させ続けるなどした上,この灯油に媒介物を通じるなどして火を放った(本件放火行為)と認めることができる。 ⑵ 本件放火行為が行われた時刻次に,本件放火行為が行われた時刻について検討する。 消防吏員は,5月13日午後9時12分頃本件火災現場を巡回したが,その際出火や不審人物といった異常はなかった旨供述する。消防吏員は, 同日以前に,本件火災現場の近隣において,灯油配管が壊されて出火するなどした事案が発生していたことか 災現場を巡回したが,その際出火や不審人物といった異常はなかった旨供述する。消防吏員は, 同日以前に,本件火災現場の近隣において,灯油配管が壊されて出火するなどした事案が発生していたことから警戒を強化することとなり,同日も本件火災現場付近を警戒していたのであるから,不審火の有無については特に注意深く見ていたと考えられる。そうすると,本件放火行為は,同日午後9時12分頃までには行われていなかったと認められる。 また,本件火災現場付近において,本件タンクの北西側を撮影範囲とする防犯カメラ(以下「本件防犯カメラ」という。)が設置されていたところ,同日午後9時18分4秒頃,本件防犯カメラの映像において,撮影範囲から南東方向に当たる本件タンク方向が明るくなり,その約13秒後である午後9時18分17秒頃,消防吏員により,本件プランター等から火の手が上がっており,火は地上から約80センチメートルの高さまで立ち上っていたことが目撃されている。 なお,弁護人は,警察官が本件防犯カメラを設置した際に,その時刻を正確に合わせたとする警察官Bの供述は信用できず,本件防犯カメラの映像の時刻も正確ではないと主張し,本件防犯カメラの映像で本件タンク方向が明るくなっているのは,付近を走行する車両のライト等による影響が考えられ,本件放火行為による影響ではない可能性がある旨指摘する。 しかしながら,BはCの時報と本件防犯カメラの時刻との間にずれがないように確認した旨供述しているところ,弁護人が主張する点を踏まえても,この供述の信用性を否定する事情はうかがわれない。そして,本件防犯カメラの映像において,本件タンク方向が明るくなり,またその明るさが強まったり弱まったりする状況が映り込んでおり,火によって照らされている状況が映り込んだと考えられること,そ ない。そして,本件防犯カメラの映像において,本件タンク方向が明るくなり,またその明るさが強まったり弱まったりする状況が映り込んでおり,火によって照らされている状況が映り込んだと考えられること,そのように本件防犯カメラ上で本件タンク方向が明るくなった時刻と,消防吏員が本件プランター等から火の手が上がっていることを発見した時刻とが極めて近接していることからすれば,Bの供述は十分信用することができ,本件防犯カメラの時刻 はほぼ正確であると認められる。そうすると,本件防犯カメラの映像において明るくなっていたのは,本件放火行為により生じた火により周囲が明るく照らされた状態が映り込んでいたことによるものであり,その時刻は午後9時18分4秒頃であると認められる。 本件火災現場を再現し,上記⑴の本件放火行為と類似の方法で火をつけた実況見分(以下「本件実況見分」という。)によれば,着火から約47秒後に火の高さがプランターの高さ(約27センチメートル)を超え,着火から約57秒後に火の高さが灯油タンクの底(地面から約95センチメートル)に到達した。 もっとも,本件放火行為において用いられた媒介物の種類や放火の具体的方法は明らかではなく,また,本件放火行為の時点での天候が薄曇であるのに対し,本件実況見分の時点の天候が雨である上,その他の気象条件も異なり得るところであるから,本件放火行為と本件実況見分とでは,完全に同一の燃え上がり方をしたと認定することはできない。 しかしながら,本件放火行為と本件実況見分との間に,具体的態様・方法や気象条件が異なることを考慮に入れても,本件実況見分時の放火の方法が灯油配管を破損した上で火を放つ方法としてそれほど特異な方法ではないこと等からすれば,本件被害時においても,本件実況見分と大差のない燃え上がり なることを考慮に入れても,本件実況見分時の放火の方法が灯油配管を破損した上で火を放つ方法としてそれほど特異な方法ではないこと等からすれば,本件被害時においても,本件実況見分と大差のない燃え上がり方をしたと考えられる。そうすると,消防吏員が発見した時の燃焼状況(地面から約80センチメートル火が立ち上っていた状況)に至るには,着火から数十秒ないし,多く見積もっても数分(二,三分)程度であると考えるのが合理的である。 ウこれらの検討によれば,本件放火行為は,同日午後9時14分頃から午後9時17分頃の間に行われたと認められる(この時間帯の中でも,本件実況見分に整合的であるのは後半部分である可能性が高い。)。 3 被告人の行動 本件防犯カメラの映像等によれば,被告人が次の行動に及んでいたことが認められる。 ア被告人は,同日午後9時13分42秒頃,被告人宅から外出し,本件防犯カメラの撮影範囲を,北西方向から南東方向へ向かって歩き,午後9時14分6秒頃,撮影範囲から南東方向に出た。 イ被告人は,同日午後9時16分52秒頃,南東方向から本件防犯カメラの撮影範囲に入り,北西方向の被告人方へ小走りで向かい,午後9時17分4秒頃に被告人方玄関前で立ち止まった後,午後9時17分14秒頃帰宅した。 上記2及び3れる二,三分間とほぼ一致する時間に,被告人方を出て本件タンク付近を通りかかり,被告人方に戻ったことになるから,本件放火行為を行うことが可能であったと言える。また,被告人がこの際に本件放火行為に及んだと考えれば,消防吏員に炎が発見された際の時間及び炎の大きさと整合的である。そうすると,上記の被告人の行動は,被告人についてのみ本件放火行為に及ぶ具体的な可能性があったという意味で,被告人が犯人であることを強く推認させる。加えて, た際の時間及び炎の大きさと整合的である。そうすると,上記の被告人の行動は,被告人についてのみ本件放火行為に及ぶ具体的な可能性があったという意味で,被告人が犯人であることを強く推認させる。加えて,被告人が,被告人方を出る際とは異なり,被告人方に戻る際には小走りになっていることも,本件放火行為に及んだ後現場から急いで離れようとしていることによるものと考えることもできる。 4 被告人以外に本件放火行為に及んだ者がいた可能性以上を前提として,被告人が,上記のとおり同日午後9時13分頃から午後9時16分頃にかけて,本件放火行為とは関係なくたまたま本件タンク付近に居合わせ,かつ,被告人以外の者が,同日午後9時14分頃から午後9時17分頃にかけて,被告人の本件タンク付近の通行の時間に前後して,本件放火行為に及んでいた可能性を検討する。 まず,被告人以外の者(本件放火行為の犯人)が午後9時14分頃から午後9時17分頃に本件火災現場付近に所在していたと仮定して,その者の行動に ついて検討する。 本件防犯カメラの撮影範囲からすれば,犯人が北西方面から本件火災現場に出入りした場合,本件防犯カメラに犯人の姿が映り込むはずであるが,本件防犯カメラには被告人以外の者は映り込んでいない。また,A方の北西側に所在するDと称する共同住宅の灯油タンク上にはセンサーライトが2基設置されていたが,上記の時間帯において,被告人が通過する2度の機会以外には点灯することがなかった。これらからすると,犯人が北西方面から本件火災現場に出入りした可能性は否定される。同様に,犯人が南西方面から本件火災現場に出入りした場合,本件防犯カメラに犯人の姿が映り込むはずであるが,本件防犯カメラには被告人以外の者は映り込んでいないため,犯人が南西方面から本件火災現場 る。同様に,犯人が南西方面から本件火災現場に出入りした場合,本件防犯カメラに犯人の姿が映り込むはずであるが,本件防犯カメラには被告人以外の者は映り込んでいないため,犯人が南西方面から本件火災現場に出入りした可能性も否定される。 次に,犯人が北東方面から本件火災現場に出入りした可能性について検討すると,A方とその北側に位置する「E」と称されている共同住宅との間を通行しない限り,本件防犯カメラに犯人の姿が映り込むはずであるが,本件防犯カメラには被告人以外の者は映り込んでいない。そして,A方とEの間は建物と建物の間が最短で約1.6メートルであり,またはしご等も立てかけられるなど障害物により建物と建物の間はより狭まり,通行し難いものとなっており,かえって通行に際してこれらの障害物に接触するなどして音を生じさせ得ることも容易に想定できるから,犯人があえてここを通行した可能性も低いと言える。 また,犯人が南東方面から本件火災現場に出入りした可能性について検討すると,消防吏員が午後9時12分頃及び午後9時18分頃の2回にわたり本件火災現場付近(A方の南側道路)を警戒のため車で巡回していたのであるから,犯人はA方の南東方向において警戒中の消防吏員に発見される可能性があるが,消防吏員によればA方の南東付近において人影は全く発見されていない。 さらに,本件火災現場の周辺には,それ以前に同様の被害が連続して発生し ていたことを受けて,消防吏員のほかにも警戒していた者が少なからず所在していたのであるが,それにもかかわらず,不審な人物や本件火災現場付近に所在した人物は発見されていない。 ⑵ 加えて,上記の時間帯(午後9時14分頃から午後9時17分頃まで)に被告人以外の者が本件火災現場付近に所在したことを仮定した場合,この者は,午後9 現場付近に所在した人物は発見されていない。 ⑵ 加えて,上記の時間帯(午後9時14分頃から午後9時17分頃まで)に被告人以外の者が本件火災現場付近に所在したことを仮定した場合,この者は,午後9時14分6秒を少し過ぎた頃,及び午後9時16分52秒の少し前頃に本件火災現場付近を通りかかった被告人に気付く可能性が高かったところであり,このように被告人の通行に気付きながらもあえてそのような状況下で放火に及ぶとは考え難い。 ⑶ そうすると,被告人以外の者が本件放火行為に及んだ可能性は,現実的には想定し難い抽象的なものにとどまると言える。 5 小括上記の検討により,本件放火行為が行われた時間帯が極めて狭く限られている中,被告人がまさにこの時間帯に本件火災現場付近を通りかかるなどしていた行動は,被告人が犯人であることを強く推認させるものであり,また,被告人以外の者が本件放火行為に及んだ可能性は現実的には想定し難い抽象的なものにとどまると言える。したがって,これまで検討した証拠関係を前提にすると,具体的な方法までは確定できないとしても,被告人が本件放火行為に及んだと認めることができる。 6 被告人の捜査段階の供述被告人は,捜査段階である6月10日,警察官による取調べにおいて,本件放火行為に及んだこと,及びその動機,放火の具体的態様・手段・状況等について供述をし,その後の同月12日から同月29日までにかけての検察官による取調べにおいても,同内容の供述をしており,これらの内容がそれぞれ供述調書に録取されているところである。 この点について,弁護人は,6月10日に本件放火行為に及んだことを認め る供述調書が作成される前に,被告人は取調官からカメラのない部屋に連れて行かれ,証拠は全て揃っているから何を言おうが勝ち目はない,素直 ,弁護人は,6月10日に本件放火行為に及んだことを認め る供述調書が作成される前に,被告人は取調官からカメラのない部屋に連れて行かれ,証拠は全て揃っているから何を言おうが勝ち目はない,素直に認めれば刑が軽くなるなどと言われたことが影響して同日午後に本件放火行為に及んだことを認める供述をし,以後もそれを維持したなどと主張し,被告人の捜査段階の供述が取調官の偽計による任意性を欠くものである旨主張する。 しかしながら,弁護人が指摘する被告人の特性を考慮してもなお,取調べ状況に関する被告人の公判供述はそれ自体曖昧かつ要領を得ないものと言わざるを得ない。そして,6月10日午後の取調べに係る録音録画媒体によりその取調べの状況を検討しても,被告人は,自ら本件放火行為の態様,動機等について詳細に供述しているのであって,警察官による不当な誘導等や,弁護人が主張する影響があったものとはうかがわれない。 その他,被告人の捜査段階の供述の任意性に合理的疑いを差し挟む事情は認められない。 よって,被告人の捜査段階の供述について任意性が認められる。 ⑶ 弁護人は,被告人の捜査段階の供述には信用性も認められないと主張するので,検討する。 ア被告人の供述は,本件防犯カメラの映像等から被告人が本件放火行為に及んだと認められることとよく整合しており,信用性が高い。放火の態様に関する供述についても,客観的証拠から推認できる本件放火行為の態様と整合し,これをさらに具体的に述べるものであるといえる。 イ弁護人が,被告人の捜査段階の供述には信用性が認められないと主張する理由について,念のため検討を加えておく。 まず,弁護人は,被告人の記憶が他の事件との間で混同している可能性がある旨指摘する。この点,被告人は本件放火行為を認めるのみならず,周辺で いと主張する理由について,念のため検討を加えておく。 まず,弁護人は,被告人の記憶が他の事件との間で混同している可能性がある旨指摘する。この点,被告人は本件放火行為を認めるのみならず,周辺で発生した配管破損事件,放火事件のいくつかも併せて認める供述をしているところ,供述の過程では多少の混同があったことがうかがわれる。 しかしながら,被告人は,図面に配管破損をした場所と放火をした場所を自ら書き込むなど他の事件と区別ができていることが明らかであり,供述調書上もその点を明確にして録取されているところであるから,最終的に供述調書に録取されている範囲内では,被告人の記憶が他の事件と混同しているとはうかがわれない。 次に,弁護人は,被告人が,留置施設における仲の良い同室者から,被疑事実を犯した旨早く認めてこんなところを出たほうがよいと言われたことにより捜査官に迎合した可能性があり,被告人の捜査段階の供述には信用性がない旨指摘する。しかしながら,被告人は,同室者から,犯行に及んだのであれば及んだ旨早く認めて出た方がよい,及んでいないのであれば及んでいない旨述べればよい旨を言われた旨供述しているのであって,被告人の公判供述を前提としても,早く出た方がよいというのは,早期にしかるべき刑事手続を経て社会復帰をした方がよいとの趣旨と解され,虚偽を述べてまで出たほうがよいとの働き掛けではない。被告人が述べるとおりの助言を得たのであれば,虚偽の自白をすることについて取調官に迎合するとは考え難い(付言すると,被告人には6月14日に国選弁護人が選任されており,弁護人との接見があったはずであるにもかかわらず,被告人が述べるような同室者の言動を信じることを優先して,虚偽の自白を継続していたとも考え難い。)。また,弁護人は,被告人が脳の機能障害等の ており,弁護人との接見があったはずであるにもかかわらず,被告人が述べるような同室者の言動を信じることを優先して,虚偽の自白を継続していたとも考え難い。)。また,弁護人は,被告人が脳の機能障害等の影響で迎合的に自白を行った可能性がある旨指摘するが,公判廷における被告人の供述態度等もみると,被告人が迎合的に供述する傾向にあるとはうかがわれない。 その他,弁護人が指摘する点を検討しても,上記信用性の判断に影響を与えるものはない。 ⑷ そうすると,被告人の捜査段階の供述について,任意性に関する疑いがなく,かつ信用性が認められるというべきであり,前記5までの検討に加え,被告人 の捜査段階の供述をも考慮すれば,被告人は,本件放火行為の犯人であり,その犯行の具体的な方法としては,捜査段階の供述のとおり,本件タンクの配管を折り曲げるなどして破損させ,本件タンク内の灯油を本件タンク直下に置かれていた本件プランター内等に漏出させ続けるなどした上,所持していた紙片にライターで点火し,その紙片を本件プランター内に投げ入れて火を放ったものであると認められる。 7 被告人の公判供述被告人は,公判廷において,自分は本件放火行為に及んだものではなく,前記3の外出はごみを捨てに行くためのものであったとし,また犯人の可能性がある人物として,ごみステーションへの往路で,近所では見かけない二十二,三歳の男とすれ違っており,帰宅の際にも,この男がA方のそばにいるのを見た旨述べる。 しかしながら,前記の検討のとおり,仮にその男が犯人であれば,防犯カメラに映るか,不審人物として消防吏員等に発見される可能性が相当程度高いが,防犯カメラへの映り込みはなく,また消防吏員等に発見されてもいないから,被告人の公判供述は客観的証拠関係と整合的でない。 ま 映るか,不審人物として消防吏員等に発見される可能性が相当程度高いが,防犯カメラへの映り込みはなく,また消防吏員等に発見されてもいないから,被告人の公判供述は客観的証拠関係と整合的でない。 また,被告人は,そのような男を見ていたのであれば,犯人であると疑われている状況にあった捜査段階からその旨を供述することもできたのに,捜査段階においてそのような供述をせず,公判段階に至って突如供述するに至ったとみられ,供述するに至った経緯に疑問が残る。更に,この男を見た場所や自宅とごみステーションとの経路についての供述も不明確で曖昧なものであるといえる。 よって,被告人の公判供述は,上記6までの認定に合理的疑いを差し挟むものではない。 8 結論以上により,被告人の行動は,被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明 することができないか,説明が極めて困難なものであるといえ,被告人以外の者が本件放火行為に及んだ現実的な可能性は認め難い。被告人の捜査段階の供述もこれに整合するものである。したがって,被告人が本件放火行為に及んだものであると認められ,その具体的態様も被告人の捜査段階の供述により判示のとおり認められる。 (累犯前科) 1 事実⑴ 平成23年6月1日札幌地方裁判所宣告暴行,窃盗未遂の罪により懲役2年8月平成26年1月31日刑執行終了⑵ 平成26年10月31日札幌地方裁判所宣告 建造物損壊の罪により懲役2年6月平成29年3月30日刑執行終了 2 証拠(略)(法令の適用)罰 条刑法110条1項累犯加重刑法59条,56条1項,57条(3犯の加重)未決勾留日数の算入刑法21条没収刑法19条1項2号, 用)罰 条刑法110条1項累犯加重刑法59条,56条1項,57条(3犯の加重)未決勾留日数の算入刑法21条没収刑法19条1項2号,2項本文(札幌地方検察庁で保管中のライター1個〔平成29年領第763号符号1〕は判示建造物等以外放火の用に供した物で被告人以外の者に属しない。)訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(一部無罪の理由) 1 公訴事実の要旨 平成29年6月9日付け起訴状記載の公訴事実の要旨は,被告人が,5月19日午後11時14分頃,札幌市a区bc条d丁目g番h号F北西側敷地内において,同建物に設置された灯油配管(以下「本件灯油配管」という。)1本を折り曲げるなどして損壊した,というものである。 2 犯人性について本件器物損壊事件においても,被告人と本件灯油配管を損壊した犯人との同一性が争点である。 なお,検察官は,論告において,5月1日から同月19日までの19日間に,近接した場所で,本件建造物等以外放火事件及び本件器物損壊事件を含む5件の配管破損等の事件が発生しているところ,複数の者が偶然に近接した場所で同様の犯行に及ぶことは考え難く,これらの5件の犯行は同一犯人によるものと認めるのが合理的であると主張した上,これらはいずれも被告人がFi号に居住するようになった後に発生し,被告人が逮捕された後は同種の事件が発生していないことを根拠に,これらの犯行のいずれについても被告人が犯人である疑いが濃厚であると言える旨主張する。 しかしながら,本件建造物等以外放火事件及び本件器物損壊事件のいずれについても,特殊な手段,方法による犯罪とは言えず,その類似性もさほど大きくない上,一方の事件の犯人であることが他方の事件の しかしながら,本件建造物等以外放火事件及び本件器物損壊事件のいずれについても,特殊な手段,方法による犯罪とは言えず,その類似性もさほど大きくない上,一方の事件の犯人であることが他方の事件の犯人であることを根拠付けたり,動機形成に影響したりするなど相互に関連するものでもないのであって,その関連性自体が希薄である。このことは検察官が主張する他の3件を併せ考えても同様である。そうすると,本件建造物等以外放火事件及び本件器物損壊事件を含む5件の犯行が同一犯人によるものとの前提から,被告人と各事件の犯人との同一性を推認していくことは,経験則に基づく合理的なものであるとは言えない。 また,検察官はこれら5件の事件の発生と被告人の居住,逮捕の時期とを結び付けて,いずれも被告人が犯人である疑いが濃厚であるとも主張しているが,同様に,前提となる事件の相互の関連性が希薄である以上,合理的な主張とは言えな い(なお,検察官は,冒頭陳述等においてこのような立証構造を示していたものでもなく,証拠調べもこのような立証趣旨(公訴事実の別)に基づいてされたものではないから,このような推認過程を採用することはできない。)。 そこで,以下では,本件器物損壊事件について,証拠から被告人と犯人との同一性を検討することとする。 ⑴ 証拠上明らかに認められる事実まず,5月18日午前零時頃(なお,Gの供述調書の一部には「午後零時頃」との記載もあるが,その全体の文脈からすると,この記載は「午前零時頃」の誤記であると考えられる。),本件灯油配管に異常はなかったものの,翌19日午後11時17分頃に警察官Hが本件灯油配管付近からの灯油の流出を確認し,その状況を動画で撮影した。 加えて,被告人は,5月19日午後11時13分に自宅を出て北西方向(本件灯油配管が の,翌19日午後11時17分頃に警察官Hが本件灯油配管付近からの灯油の流出を確認し,その状況を動画で撮影した。 加えて,被告人は,5月19日午後11時13分に自宅を出て北西方向(本件灯油配管が所在する方向)に向かって歩き出し,午後11時15分に北西方向から歩いて帰宅したことも防犯カメラの映像から明らかに認められる。 検察官の主張の検討ア検察官は,①本件灯油配管が人為的に損壊されたものであることを前提に,②警察官により本件灯油配管から灯油が漏出していることが発見され,5月19日午後11時17分頃にその状況が撮影されているところ,その状況によれば灯油の漏出開始からさほど時間が経過していないと認められること,③本件灯油配管から灯油が漏出していることが撮影された時刻と近接した時刻に被告人が本件灯油配管付近にいたことから,被告人が本件器物損壊の犯行の犯人であると主張する。 イまず,本件灯油配管が人為的に損壊されたものであること(上記①)は,証人Iの供述から認められる。 ウ検察官の上記②の主張について検討する。 検察官は,長時間にわたって灯油が漏出していたと思われるほどに地面に 灯油がたまっているとは言い難く,むしろ漏出開始から警察官が動画撮影するまでにはさほど時間が経過していないと認めるのが合理的である旨主張する。なるほど警察官が5月19日午後11時17分頃に撮影した動画からすると,漏出した灯油は多少しぶきを飛ばしながら筋となって落ちており,それなりの勢いで漏出していると言える。一方,地面に大量に灯油がたまっている状況にはない。 しかしながら,本件灯油配管から漏出した灯油は直下の地面にしみ込んでいくと考えられる(現場を確認したH及び警察官Jはいずれも灯油が地面にしみ込んでいる状況であった旨供述している。) にはない。 しかしながら,本件灯油配管から漏出した灯油は直下の地面にしみ込んでいくと考えられる(現場を確認したH及び警察官Jはいずれも灯油が地面にしみ込んでいる状況であった旨供述している。)ところ,動画撮影された灯油の漏出状況及び直下の地面の状況その他の証拠によっても,一定時間当たり本件灯油配管からどの程度灯油が漏出していたか,また一定時間当たり灯油が直下の地面にどの程度しみ込むものなのかなどの事情が明らかになっているとまでは言い難い。直下の地面に吸収される灯油の量にも限界があるとも考えられるが,正確なところは証拠によって明らかにされているものでもない。したがって,漏出開始から動画撮影までに経過した時間を証拠から推認することは困難であると言うほかないから,5月19日午後11時17分頃から遡ってどの程度前に本件灯油配管が損壊されたかを判断することは困難であり,被告人の行動とは無関係の時間帯(あえて一例を挙げるとするならば数十分ないし一,二時間前。)に損壊されていた可能性も否定し難いところである。 また,H及びJは,被告人が本件灯油配管に近付いていたことを発見し,本件灯油配管の損壊に及んだのではないかと疑ったことを契機として,その直後に本件灯油配管を見分したものであって,被告人が本件灯油配管に近付いたことと無関係に本件灯油配管の損壊を発見したものではない。よって,被告人が本件灯油配管に近付いていた時刻と本件灯油配管の損壊が発見された時刻との近接性を強調して,本件灯油配管の損壊を発見した直前に本件灯 油配管に近付いていた被告人が損壊したものと推認することは必ずしも適切ではない。 そうすると,本件灯油配管の損壊は人為的なものであるが,本件関係証拠からは,被告人以外の何者かが本件灯油配管に近づき損壊させた可能性を否 人が損壊したものと推認することは必ずしも適切ではない。 そうすると,本件灯油配管の損壊は人為的なものであるが,本件関係証拠からは,被告人以外の何者かが本件灯油配管に近づき損壊させた可能性を否定することも困難である。なお,検察官は,被告人が近づいた時刻に本件灯油配管が損壊されたとすれば,G方でのストーブの使用状況とも整合するとも主張するが,G方でのストーブの使用状況に関する証拠を検討しても,灯油の残量やストーブの使用状況等の明確な事実関係は判明しておらず,上記の検討結果を左右するものではない。 エ検察官主張の上記③の点について検討する。 Jは,被告人が,5月19日午後11時13分頃外出して本件灯油配管付近に向かった状況を目撃している。そして,Jは,その際,被告人が,本件灯油配管付近において,その場で本件灯油配管に向かってしゃがみ込んでおり,その際,グッグッという音がしていた旨供述する。この供述について弁護人は信用できないと主張するが,Jがこの目撃状況から被告人が灯油配管を損壊していると推測したことの当否はともかく,Jが実際に見聞した状況を供述している内容に特に信用性に疑問を差し挟む事情は見当たらない。 もっとも,灯油の配管の修理,交換等の経験の長いIの供述によれば,同種の灯油配管を折る際に音は出ないということであり,Jの供述するような音がしたとしても被告人が本件灯油配管を損壊していたことを推認させるものであるとは言えない。 以上によれば,Jの供述から,被告人が本件灯油配管に向かってしゃがみ込んでいた事実を認定することはできるが,そのことと被告人が本件灯油配管を損壊したとの事実を推認することとの間には飛躍があり,この事実について被告人と犯人との同一性を推認する力が強いとは言えない。 なお, ことはできるが,そのことと被告人が本件灯油配管を損壊したとの事実を推認することとの間には飛躍があり,この事実について被告人と犯人との同一性を推認する力が強いとは言えない。 なお,被告人は,自宅を出て本件灯油配管付近に行き,自宅に戻る行動をとっていたところである。そして,被告人は,その供述するところからしても,本件灯油配管が損壊されたことを認識していたと認められるが,その際,自宅を含む他の家屋の灯油配管を一切確認することもなく,また,本件灯油配管に係る家屋の住人若しくは賃貸人(所有者)又は警察に本件灯油配管の損壊や灯油の漏出を連絡することもしていない。 検察官が論告において明白に指摘するところではないが,なお念のため,被告人のこのような行動又は態度について,不合理なものとして,被告人と犯人との同一性を推認させるものであるか否かについても検討しておく(なお,上記のとおり,本件灯油配管に向かってしゃがみ込んでいたことの持つ推認力はもともとさほど強くないところ,被告人の行動が不合理であると考えたとしても,そもそもその推認力をさらに大きく強めるものではないとも言える。)。 この点,本件灯油配管に接続する灯油タンクに隣接して別の灯油タンクが存在していたことが証拠上も認められるから,灯油配管が壊される事態を懸念したのであれば自宅を含む他の家屋の灯油配管を確認することも通常人として取り得る行動であるとも言えるところ,被告人は一切このような行動に出ないまま帰宅していることになる。もっとも,被告人の供述によれば,自宅からG宅の方向へ向かう人の気配がしたことから,当時近隣で頻発していた灯油配管の損壊の犯人が通りかかった可能性があると考え,しかもG宅が従前被害に遭っていたことからG宅のみを念頭に置いて,外出して本件灯油配管を確認しに 人の気配がしたことから,当時近隣で頻発していた灯油配管の損壊の犯人が通りかかった可能性があると考え,しかもG宅が従前被害に遭っていたことからG宅のみを念頭に置いて,外出して本件灯油配管を確認しに行ったというのである。このような理由について疑問を生じさせる余地があるが,さりとておよそ不合理とまで断定することはできず,被告人の行動が犯人であるからこそのものであるとまでも言えないから,被告人と犯人との同一性を推認する間接事実となるには至らない。 また,本件灯油配管が損壊され,灯油が漏出していることを発見したのであれば,その家屋の住人若しくは賃貸人(所有者)又は警察に本件灯油配管の損壊や灯油の漏出を連絡するというのが通常人として取り得る行動であるとも言えるところ,被告人は一切このような行動に出ていない。もっとも,被告人は5月20日午前零時頃に賃貸人の妻に消防士が到着していることを電話で伝えているようである。また,被告人が供述するように,かつて警察や賃貸人に連絡した際に怒られたことがあるとの理由から正確ないし詳細な連絡をしないこともあり得ないことではないし,被告人が帰宅してから間もなくして複数名の警察官が現場付近に臨場しているのであって,被告人がこの様子を見て通報を要しないと考えるのも格別不自然なものではない。そうすると,このような被告人の態度が一概に不合理であるとも言い切れず,被告人の態度が犯人であるからこそのものであるとまでも言えないから,やはり,被告人と犯人との同一性を推認する間接事実となるには至らない。 そうすると,被告人の行動又は態度について,被告人と犯人との同一性を推認させるものであるとは言えない。 オ以上のとおり,本件の関係証拠を精査しても,本件灯油配管が損壊された時間が,被告人が本件灯油配管に近付 被告人の行動又は態度について,被告人と犯人との同一性を推認させるものであるとは言えない。 オ以上のとおり,本件の関係証拠を精査しても,本件灯油配管が損壊された時間が,被告人が本件灯油配管に近付いた時間と近接するとは言い切れず,被告人が本件灯油配管に近付いた以前に本件灯油配管が損壊されていた可能性が否定し切れるものではない。また,被告人が本件灯油配管に近付いた際の行動又は態度をみても,被告人が本件灯油配管を損壊したと推認させるものとまで言い切ることはできない。 結論 以上によれば,結局のところ,被告人が犯人であると考えると整合的である事情は存在するものの,これらを総合しても,被告人が犯人ではないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは,少なくとも説明が極めて困 難である)ような事実関係までは立証されていないと言わざるを得ないから,検察官が主張する推認過程を採用することはできないことになる。 そこで,被告人が本件器物損壊の犯人であると認定するには合理的な疑いが残ると言わざるを得ないので,無罪の言渡しをすることとする。 (量刑の理由)被告人は,住宅が密集する中に所在する灯油配管を破損させ,灯油を漏出させ続けるなどした上で媒介物を用いて火を放っており,その態様は,多量の燃料が供給されながら燃焼範囲が広がるとともに,自然に鎮火するまでに時間を要すると見込まれるものであって,人命に対するものを含む甚大な被害が予想される危険なものであるといえる。もっとも,警戒中の者にたまたま早期に消火されたことにより,結果としてはプランター等が燃えたに過ぎず,大きな被害までは生じていない。 被告人は,平成26年10月,火を用いた建造物損壊事件により懲役2年6月に処せられ,平成29年3月30日にその刑の執行が終了していたとこ ランター等が燃えたに過ぎず,大きな被害までは生じていない。 被告人は,平成26年10月,火を用いた建造物損壊事件により懲役2年6月に処せられ,平成29年3月30日にその刑の執行が終了していたところ,その後2か月もしない間に本件建造物等以外放火の犯行に及んでいるのであって,被告人が,これまでの服役を通じても自らを省みることのないまま,再び火を用いて上記のとおり危険な行為に及んだことについては,強い非難に値する。 そして,建造物等以外放火事案1件の量刑分布について,懲役2年を超え,懲役3年以下とされているものが比較的多い傾向に照らし,本件の犯情が,これらの中で重いものとは言えないが,軽いものと見ることもできないから,主文のとおり刑を定めることとした。 (検察官大友隆,国選弁護人椎名泰文(主任),福田直之各出席)(求刑懲役4年,ライターの没収)平成30年9月27日札幌地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官島戸 純 裁判官平 手 健太郎 裁判官亀井直子
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