平成30(ワ)76 国家賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和元年5月28日 仙台地方裁判所 棄却
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判決文本文23,326 文字)

主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 主位的請求 被告は,原告Aに対し,3300万円及びこれに対する平成19年3月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Bに対し,3850万円及びこれに対する平成19年3月25 日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 予備的請求被告は,原告Aに対し,3300万円及びこれに対する■■■■■■■■■■■から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Bに対し,3850万円及びこれに対する■■■■■■■■■■から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は被告の負担とする。 第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は,原告らが,平成8年法律第105号による改正前の優生保護法(昭和23年法律第156号。以下「旧優生保護法」という。)に基づき不妊手術(以下「本件優生手術」という。)を受けたところ,旧優生保護法第2章,第4章及び第5章の各規定(以下「本件規定」という。)は違憲無効であり子を産み育てるかどうかを意思決定する権利(以下「リプロダクティブ権」という。)を一方的に侵害 されて損害を被ったと主張して,被告に対し,主位的に,国会が当該損害を賠償 する立法措置を執らなかった立法不作為(以下「本件立法不作為」という。)又は厚生労働大臣が当該損害を賠償する立法等の施策を執らなかった行為(以下「本件施策不作為」という。)の各違法を理由に,予備的に,国家賠償法4条により適用される民法724条後段の除斥期間の規定を本件に適用することが違憲 該損害を賠償する立法等の施策を執らなかった行為(以下「本件施策不作為」という。)の各違法を理由に,予備的に,国家賠償法4条により適用される民法724条後段の除斥期間の規定を本件に適用することが違憲となると主張して,当時の厚生大臣が本件優生手術を防止することを怠った行為(以 下「本件防止懈怠行為」という。)の違法を理由に,国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求める事案である。 2 前提事実⑴ 旧優生保護法の概要旧優生保護法は,昭和23年に,優生上の見地から不良な子孫の出生を防止 するとともに,母性の生命健康を保護することを目的として制定されたものである(1条)。その概要は,次のとおりである。(甲A1ないしA3,乙A1の1・2)ア優生手術(旧優生保護法第2章)(ア) 本人等の同意による優生手術(旧優生保護法3条) 本人若しくは配偶者が遺伝性精神病質,遺伝性身体疾患若しくは遺伝性奇形を有し,又は配偶者が精神病若しくは精神薄弱を有している場合(3条1項1号),本人又は配偶者の4親等以内の血族関係にある者が,遺伝性精神病,遺伝性精神薄弱,遺伝性精神病質,遺伝性身体疾患又は遺伝性畸形を有している場合(3条1項2号),本人又は配偶者が,癩(らい)疾 患に罹り,かつ,子孫にこれが伝染するおそれのある場合(3条1項3号)には,本人の同意及び配偶者があるときはその同意を得て,優生手術を行うことができる。ただし,未成年者,精神病者又は精神薄弱者については,この限りではない。 (イ) 審査を要件とする優生手術 a 医師は,診断の結果,精神分裂病,そううつ病,てんかん,遺伝性精 神薄弱等の疾患に罹っていることを確認した場合において,その者に対し,その疾患の遺伝を防止する 件とする優生手術 a 医師は,診断の結果,精神分裂病,そううつ病,てんかん,遺伝性精 神薄弱等の疾患に罹っていることを確認した場合において,その者に対し,その疾患の遺伝を防止するため優生手術を行うことが公益上必要であると認めるときは,都道府県優生保護審査会に優生手術を行うことの適否に関する審査を申請しなければならない(4条)。 b 都道府県優生保護審査会は,上記申請を受けたときは,優生手術を受 けるべき者にその旨を通知するとともに,上記に規定する要件を具えているかどうかを審査の上,優生手術を行うことの適否を決定して,その結果を,申請者及び優生手術を受けるべき者に通知する(5条)。 c 都道府県優生保護審査会による優生手術を行うことが適当である旨の決定に異議がないとき又はその決定若しくはこれに関する判決が確 定したときは,都道府県優生保護審査会の指定した医師が,優生手術を行う(10条)。 d 医師は,精神分裂病,そううつ病,てんかん及び遺伝性精神薄弱以外の精神病又は精神薄弱に罹っている者について,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)20条(後見人,配 偶者,親権を行う者又は扶養義務者が保護者となる場合)又は同法21条(市町村長が保護者となる場合)に規定する保護者の同意があった場合には,都道府県優生保護審査会に優生手術を行うことの適否に関する審査を申請することができる(12条)。 e 都道府県優生保護審査会は,上記申請を受けたときは,本人が上記に 規定する精神病又は精神薄弱に罹っているかどうか及び優生手術を行うことが本人保護のために必要であるかどうかを審査の上,優生手術を行うことの適否を決定して,その結果を,申請者及び上記の同意者に通知する(13条1項)。 f 弱に罹っているかどうか及び優生手術を行うことが本人保護のために必要であるかどうかを審査の上,優生手術を行うことの適否を決定して,その結果を,申請者及び上記の同意者に通知する(13条1項)。 f 医師は,都道府県優生保護審査会により優生手術を行うことが適当で ある旨の決定があったときは,優生手術を行うことができる(13条2 項)。 イ優生保護審査会(旧優生保護法第4章)(ア) 優生手術に関する適否の審査を行うため,都道府県知事の監督に属する都道府県優生保護審査会を置く(16条)。 (イ) 優生保護審査会は,委員10人以内で組織する(18条1項)。 ウ優生保護相談所(旧優生保護法第5章)(ア) 優生保護の見地から結婚の相談に応じ遺伝その他優生保護上必要な知識の普及向上を図るとともに,受胎調節に関する適正な方法の普及指導をするため,優生保護相談所を設置する(20条)。 (イ) 都道府県及び保健所を設置する市及び特別区は,優生保護相談所を設置 しなければならない(21条1項)。 エその他優生手術を受けた者は,婚姻しようとするときは,その相手方に対して,優生手術を受けた旨を通知しなければならない(26条)。 ⑵ 旧優生保護法に基づく優生手術の実施 旧優生保護法に基づく優生手術は,昭和24年から平成8年までの間,次の各号に定める区分に応じ,全国各地で当該各号に定める件数分実施された(甲A4)。 ア本人等の同意による遺伝性疾患を理由とするもの 6967件イハンセン病を理由とするもの 1551件 ウ審査による遺伝性疾患を理由とするもの 1万4566件エ非遺伝性疾患を理由とするもの 1909件⑶ 旧優生保護法の改正旧優生保護法の を理由とするもの 1551件 ウ審査による遺伝性疾患を理由とするもの 1万4566件エ非遺伝性疾患を理由とするもの 1909件⑶ 旧優生保護法の改正旧優生保護法の目的規定(1条)その他規定のうち,不良な子孫の出生を防止するという優生思想に基づく部分が障がい者に対する差別となっているこ とに鑑み,優生保護法の一部を改正する法律(平成8年法律第105号)が平 成8年6月17日に成立した。同改正法により,旧優生保護法の題名が母体保護法に改められるとともに,旧優生保護法4条ないし13条及び16条ないし24条その他優生思想に基づく部分が削除された。 3 争点本件立法不作為又は本件施策不作為に基づく損害賠償請求権の成否(争点1) 本件防止懈怠行為に基づく損害賠償請求権の成否(争点2) 民法724条後段(除斥期間)の適用の可否(争点3)損害額(争点4)第3 原告らの主張 1 争点1について リプロダクティブ権の性質及び被害の重大性子どもを持つか持たないかを自ら決定する権利(リプロダクティブ権)は,個人の人生における重要事項の一つであり,人格的生存に不可欠な事項であるから,憲法13条により,憲法上の基本的権利として保障されるものである。 そのため,国家がリプロダクティブ権に干渉することは,人間の存在そのもの を否定することになるから,リプロダクティブ権は,その権利の性質上,国家による干渉を一切許さない絶対的なものであり,当該権利を侵害する法律は違憲無効となる。それにもかかわらず,原告らは,本件優生手術が本人の同意なく強制的に実施されたことにより,原告らのリプロダクティブ権が国家により永久に侵奪された。そして,本件優生手術は,特定の疾患 違憲無効となる。それにもかかわらず,原告らは,本件優生手術が本人の同意なく強制的に実施されたことにより,原告らのリプロダクティブ権が国家により永久に侵奪された。そして,本件優生手術は,特定の疾患や障がいを有してい ることを理由として,その人を「不良」であるとみなして実施されたものであり,平等原則(憲法14条1項)に違反することも明らかである。 したがって,原告らの精神的苦痛は生涯にわたって続くものであり,その被害は,極めて深刻かつ重大である。 ⑵ リプロダクティブ権侵害に基づく損害賠償請求権の行使の可否 国家賠償法4条の規定により適用される民法724条後段(以下,単に「除 斥期間」という。)の経過前にあっては,旧優生保護法が廃止されるまで法律として現に存在しており,その間,旧優生保護法が違憲であると指摘した裁判例はなく,旧優生保護法を違憲とする学説が広く認知されていた状態でもなかった。これらの事情の下においては,旧優生保護法の廃止前に,不良な者又は社会生活上他人より劣る者として差別されてきた被害者やその家族らが,優生手 術が違法であったと認識し,更に国家賠償請求訴訟を提起して,リプロダクティブ権侵害に基づく損害賠償請求権を行使することは,現実的には困難であった。旧優生保護法が改正された平成8年の時点においては,原告らのリプロダクティブ権侵害に基づく損害賠償請求権は,除斥期間の経過により,既に消滅していたから,原告らは,この時点でも,リプロダクティブ権侵害に基づく損 害賠償請求権を行使することは,事実上不可能であった。 ⑶ 本件立法不作為の違法原告らは,リプロダクティブ権侵害に基づく損害賠償請求権を有しており,上記のとおり,国家賠償法によっては原告らの救済は不十分であるから,当該請求権を行使 可能であった。 ⑶ 本件立法不作為の違法原告らは,リプロダクティブ権侵害に基づく損害賠償請求権を有しており,上記のとおり,国家賠償法によっては原告らの救済は不十分であるから,当該請求権を行使するための立法措置が必要不可欠であり,かつ,それは明白であ る。また,原告らには,憲法13条に基づく特別犠牲を強制されない権利を侵害されたことにより,補償請求権が発生しているところ,当該補償請求権を行使するための立法措置が必要不可欠であり,かつ,それは明白である。とりわけ,本件は,絶対的少数者の憲法上の権利が侵害された事案であり,上記のような特別の事情があることに照らすと,立法府の立法裁量は減縮されるべきで ある。そうすると,上記の各立法措置を執ることがより一層必要不可欠であるというべきである。 それにもかかわらず,国会は,平成16年3月に当時のC厚生労働大臣(以下「C大臣」という。)が補償立法を含めた救済を行うべき国の責務があると認識していたにもかかわらず,現在に至るまで補償立法をしていない。 したがって,国会は,正当な理由なく長期にわたって上記各立法措置を怠っ ているといえる。 ⑷ 本件施策不作為の違法厚生労働省は,旧優生保護法に基づく強制不妊手術に関し最高責任者としての立場にあったのであるから,厚生労働省には,遅くともC大臣の発言があった平成16年3月の時点で,被害者に対する補償に関する制度を設け,又は補 償のための予算案を作成するなど,被害回復のための適切な措置を執るべき作為義務があった。 それにもかかわらず,厚生労働省は,現在まで救済制度を作ることなく漫然と放置し,被害救済の前提となる実態調査すらも行わず,何ら被害者の救済又は補償に向けた取組を行っていない。そうすると,厚生労働省は,上記の かかわらず,厚生労働省は,現在まで救済制度を作ることなく漫然と放置し,被害救済の前提となる実態調査すらも行わず,何ら被害者の救済又は補償に向けた取組を行っていない。そうすると,厚生労働省は,上記の時点 から調査又は政策遂行に必要な合理的期間である3年が経過した平成19年3月の時点には,何ら救済制度を作ることなく放置したことについて法的責任を負うというべきである。 したがって,厚生労働省を統括する厚生労働大臣が上記措置を執らなかった本件施策不作為は,国家賠償法1条1項の適用上違法となる。 2 争点2について厚生大臣は,憲法99条に基づき,憲法を尊重し擁護する義務を負うとともに,厚生省を統括する立場にあったのであるから(国家行政組織法5条1項及び10条参照),違憲な優生手術を行わせないように通達若しくは指導し,又は旧優生保護法の改正案を内閣に提出して閣議決定を経て国会にこれを提出するなどし て,優生手術を防止する義務を負っていた。それにもかかわらず,当時の各厚生大臣は,昭和23年7月13日(旧優生保護法の制定日)から,原告Aにあっては■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■までの間,上記義務を怠った。そして,旧優生保護法が違憲無効であるこ とは一見して明らかであるから,当時の各厚生大臣には,本件優生手術を防止す るための措置を執らなかったことにつき,故意又は過失があったものといえる。 したがって,当時の各厚生大臣による本件防止懈怠行為は,国家賠償法1条1項の適用上違法となる。 3 争点3について原告らのリプロダクティブ権侵害に基づく損害賠償請求権は,除斥期間の経過 によって消滅するこ 各厚生大臣による本件防止懈怠行為は,国家賠償法1条1項の適用上違法となる。 3 争点3について原告らのリプロダクティブ権侵害に基づく損害賠償請求権は,除斥期間の経過 によって消滅することになるから,国家賠償法4条は,憲法17条によって発生する国家賠償請求権を制限する規定である。しかしながら,本件優生手術は,人道に反し,厳しく非難されなければならない人権侵害であり,被害態様もその結果も重大であり,これを回復することは著しく困難である。さらに,原告らには,前記1⑵のとおり,除斥期間内に上記損害賠償請求権を行使することができなか ったことにつき,真にやむを得ない事情がある。それにもかかわらず,本件について除斥期間を画一的に適用することは,国家による人権侵害に基づく被害の回復を全面的に否定する結果を生むことになり,除斥期間に係る制度の目的達成手段としての合理性及び必要性を欠くことになる。 したがって,国家賠償法4条は,除斥期間の規定を本件に適用する限度で,違 憲無効である。 4 争点4について 本件立法不作為及び本件施策不作為と,原告らが本件優生手術によって生殖機能を喪失したことその他の原告ら主張に係る個別事情による損害との間には,相当因果関係がある。本件で制定すべき法律は,少なくとも除斥期間のな い優生手術による損害の賠償立法であるから,優生手術による損害と立法不作為による損害は,同一である。 原告らの慰謝料を算定するに当たっては,少なくとも,①交通事故における損害賠償基準をそのまま当てはめるべきではないこと,②同損害賠償基準を当てはめるとしても,本件については,両睾丸摘出事案の慰謝料である1000 万円を上回るものであることを当然とし,死亡事故における被害者の死亡慰謝 料額を参 いこと,②同損害賠償基準を当てはめるとしても,本件については,両睾丸摘出事案の慰謝料である1000 万円を上回るものであることを当然とし,死亡事故における被害者の死亡慰謝 料額を参照すべきであること,③原告らには慰謝料増額事由が存在すること,④いわゆるハンセン病訴訟における損害額を基準とすべきではないこと,以上の点について留意すべきである。 第4 被告の反論 1 争点1について 本件立法不作為の違法について原告らは,本件優生手術による損害を賠償する立法措置を執らなかったという国会議員の立法不作為の違法性を主張しているところ,立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法となるには,憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白 であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合に当たることが必要である。 そして,原告らは,上記違法性を主張する前提として,旧優生保護法に基づく優生手術が国家賠償法上違法であったと主張しているところ,被告の不法行為により国民が被害を受けた場合にその被害を金銭的に回復する制度を定め る法律としては,国家賠償法が存在している。憲法17条は,国又は公共団体が公務員の行為による不法行為責任を負うことを原則とした上,公務員のどのような行為によりいかなる要件で損害賠償責任を負うかを立法府の政策判断に委ねたところ,国家賠償法は,憲法17条の上記の要請に従って,これを具体化する法律として制定されたものであって,公務員の不法行為により損害を 受けた者が国又は公共団体に対して有することとなる損害賠償請求権の成立要件及び効果等を具体的に規定したものである。 そうすると,国家賠償法によって憲法17条 て,公務員の不法行為により損害を 受けた者が国又は公共団体に対して有することとなる損害賠償請求権の成立要件及び効果等を具体的に規定したものである。 そうすると,国家賠償法によって憲法17条が予定する国家賠償請求権を行使する機会が確保されているのであるから,憲法17条が,国家賠償法の他に別途の国家賠償制度に関する法律の制定を国会に課しているとは解し得ない。 したがって,原告らの主張を前提としても,旧優生保護法が廃止された後に 同法に基づく優生手術の被害に対して金銭補償をする制度を立法することが,本件優生手術による損害を金銭的に回復するために必要不可欠であったとはいえない。 もとより,原告らが主張する諸事情に応じて国家賠償法により整備された上記のような国家賠償制度を改めて,被害回復の範囲を広げるという立法政策を 採用することが憲法上禁止されているとはいえないとしても,その政策の立案や立法作業に際しては,請求者の範囲,責任原因,損害の内容その他の実体法上の仕組みが再検討されなければならず,また,請求権の行使方法等の訴訟法的な見地からの検討も必要になる。そうすると,このような種々様々な事情をどの範囲まで考慮し,制度ないし法律として反映させるかという立法技術的な 事柄は,正に立法府による広汎な裁量に委ねられるべき事柄である。 したがって,原告らの主張は,理由がない。 本件施策不作為の違法について仮に,原告らの主張するところを前提としても,昭和22年以降,国家賠償法が存在していたことからすると,原告らには損害賠償請求権を行使する機会 が確保されていたのであるから,国会議員に国家賠償法とは別の制度として,原告らが主張する制度や特別措置法を制定する立法義務があったとはいえない。そうすると,厚生 損害賠償請求権を行使する機会 が確保されていたのであるから,国会議員に国家賠償法とは別の制度として,原告らが主張する制度や特別措置法を制定する立法義務があったとはいえない。そうすると,厚生労働大臣においても,原告らが主張する法案の提出を行い,その施策を執るべき法律上の職務義務を負っていたということはできない。 したがって,原告らの主張は,理由がない。 2 争点2について原告らが主張する本件防止懈怠行為に基づく損害賠償請求権は,国家賠償法4条により適用される除斥期間の規定に基づき,既に消滅している。 したがって,原告らの主張は,理由がない。 3 争点3について 憲法17条は,公務員の行為の態様やその違法性の強弱等といった個別事情に 応じて,異なった規律を設けることまで要請するものではない。そのため,仮に原告らが指摘するような事情があったとしても,それらが憲法17条適合性という憲法判断に影響を与える余地はない。そうすると,本件については,国家賠償法4条及び民法724条後段の憲法17条適合性について,一般的な法令違憲の審査を行えば足り,原告らの主張するような適用違憲の審査を別途行う必要はな い。そして,国家賠償法4条及び民法724条後段は,国家賠償法1条,2条及び4条という一連の規律と併せて一つの国家賠償制度を構成しており,このような国家賠償制度の規定は,憲法17条の要請を満たすものである。 したがって,国家賠償法4条及び民法724条後段は,国家賠償法に基づく損害賠償請求権の制限規定ではなく,むしろ,憲法17条が立法政策に委ねた趣旨 を反映したものであって,同条所定の法律そのものといえるから,国家賠償法4条や民法724条後段が憲法17条に違反し無効であるなどとはいえない。 なく,むしろ,憲法17条が立法政策に委ねた趣旨 を反映したものであって,同条所定の法律そのものといえるから,国家賠償法4条や民法724条後段が憲法17条に違反し無効であるなどとはいえない。 仮に,国家賠償法4条及び民法724条後段が国家賠償法に基づく損害賠償請求権の行使を制限する制約立法であると解したとしても,その目的の正当性及び手段の合理性に照らせば,合理的な制限であるといえるから,これらの規定が憲 法17条に違反するとはいえない。 したがって,原告らの主張は,理由がない。 4 争点4について平成19年3月以降の国会議員の立法不作為(本件立法不作為)や厚生労働大臣の法案提出等の権限不行使(本件施策不作為)と,原告らが本件優生手術によ って生殖機能を喪失したことによる損害との間には,相当因果関係がない。また,それ以外の原告らが個別事情として主張する各事情も,平成19年3月より前に生じたもの,又は同月より前から継続していた事情であるほか,国の公務員が関与していない事情であるから,いずれも原告ら主張に係る違法事由との間に相当因果関係がない。 また,原告Aについて,情報開示請求によって開示された記録が乏しく,本件 優生手術に関する資料の多くが廃棄されていたことや,原告Bについて,D学園に入所させられたこと及び本件優生手術に関する資料が廃棄されたことは,本件優生手術の実施とは関係のない事柄であり,その他原告ら主張に係る事情をもって,原告ら主張に係る損害と本件防止懈怠行為との間に相当因果関係を認めることはできない。 したがって,原告らの主張は,理由がない。 第5 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実に証拠(後掲各証拠のほか,証人■■の証言,原告B本人尋問の を認めることはできない。 したがって,原告らの主張は,理由がない。 第5 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実に証拠(後掲各証拠のほか,証人■■の証言,原告B本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。 ⑴ 旧優生保護法に基づく優生手術の実施等旧優生保護法は,昭和23年に,優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに,母性の生命健康を保護することを目的として制定されたものであり,本件規定は,平成8年6月17日に成立した優生保護法の一部を改正する法律(平成8年法律第105号)により優生思想に基づく部分が削除される までの間,法的効力を有していた。そして,旧優生保護法に基づく優生手術は,昭和24年から平成8年までの間,次の各号に定める区分に応じ,全国各地で当該各号に定める件数分実施された(甲A4)。 ア本人等の同意による遺伝性疾患を理由とするもの 6967件イハンセン病を理由とするもの 1551件 ウ審査による遺伝性疾患を理由とするもの 1万4566件エ非遺伝性疾患を理由とするもの 1909件⑵ 原告らに対する本件優生手術の実施等ア原告Aについて(甲1B6,甲1B7)(ア) 原告Aは,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■手術を受けた。この 直後から,原告Aは,当該手術の麻酔等の影響により,以前のように言葉を発することができなくなった(甲1B5)。 (イ) 原告Aは,医師により遺伝性精神薄弱と診断され,旧優生保護法4条に基づき宮城県優生保護審査会の審査に付された。そして,原告Aは,■■■■■■■■■■■■■■■■■■宮城県優生保 1B5)。 (イ) 原告Aは,医師により遺伝性精神薄弱と診断され,旧優生保護法4条に基づき宮城県優生保護審査会の審査に付された。そして,原告Aは,■■■■■■■■■■■■■■■■■■宮城県優生保護審査会から優生手術 を行うことが適当である旨の決定を受け,当該決定に基づき,本件優生手術を受けた。そのため,原告Aは,子どもを産むことができなくなった。 (甲1B4)(ウ) 原告Aは,昭和54年頃,近所の男性との間で縁談話を持ちかけられたものの,相手方に優生手術を受けたことが知られたため,縁談話は破談に なった。 (エ) 原告Aは,本件優生手術を受けた後,度々腹痛を訴えるようになった。 また,原告Aは,昭和62年頃には,特にその頻度が多くなり,病院を受診したところ,卵巣嚢腫と診断されて右卵巣の摘出手術を受けた。 (オ) 原告Aは,平成29年,宮城県に対し,本件優生手術に関する個人情報 の開示請求を行ったことから,原告Aに関する優生手術台帳の開示を受けた。これによって初めて,原告Aは,本件優生手術に関する客観的な証拠を入手した。(甲1B4,甲1B6,証人■■の証言)なお,原告Aの腹部には,未だ本件優生手術による手術痕が長さ約8センチメートルの傷跡として残っている(甲1B6,証人■■の証言)。 イ原告Bについて(甲2B17,甲2B21)(ア) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■(イ) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■(ウ) 上記(イ)のとおり判定されたことから,原告Bの父は,■■■■■■■■■■■■■■■■■の原告Bに対し優生手術を受けさせることに同意するよう求められ,優生手術への同意書に署名押印した。そして,原告B は,事情を知らされることなく優生手術を専門とする診療所に連れて行かれ,手術の内容すら知らされることなく,旧優生保護法に基づく本件優生手術を受けた。そのため,原告Bは,子どもを産むことができなくなった。 そして,原告Bは,本件優生手術を受けた後,生理痛が酷く身体の不調を来すようになり,十分に働くことすらできなくなった。(甲2B4,甲2B 5,甲2B17,甲2B21,原告B本人)なお,原告Bの腹部には,未だ本件優生手術による手術痕が残っている(甲2B3,甲2B17,甲2B21,原告B本人)。 (エ) 原告Bは, 昭和42年6月,結婚をしたところ,婚姻中に子宮外妊娠をし,緊急手術を受けた。その後,原告Bは,子どもを諦めきれず,昭和 46年,夫に内緒で子をもらい,実子として届け出た。その後,夫が原告Bとの間に子どもができないことを不満に思うなどして,昭和 をし,緊急手術を受けた。その後,原告Bは,子どもを諦めきれず,昭和 46年,夫に内緒で子をもらい,実子として届け出た。その後,夫が原告Bとの間に子どもができないことを不満に思うなどして,昭和50年,原告Bは夫と離婚した。 (オ) 原告Bは,昭和50年代に子宮筋腫の手術を受けたところ,その際,医師から,本件優生手術による癒着があるなどと告げられ,子宮及び左卵巣 を摘出する手術を受けた。 (カ) 原告Bは,平成2年6月,再婚したところ,夫は,結婚とともに原告Bの子を養子にした。原告Bは,人生を共にする伴侶をようやく得たと思い,夫を信頼していたことから,本件優生手術を受けたことを打ち明けた。そうすると,夫と周囲の者の態度が一変し,周囲の者が原告Bを責めるようになり,夫は家から出て行った。(甲2B17,甲2B21,原告B本人) (キ) 原告Bは,本件優生手術を受けた後,複数の医師の診察を受けたところ,いずれの医師も,原告Bには本件優生手術の理由とされた知的障がい等があることを否定した。(甲2B17,原告B本人)(ク) 昭和38年度以降の優生手術台帳には,原告Bの氏名が記載されていないものの,宮城県知事は,平成30年2月19日,定例記者会見において, 原告Bが本件優生手術を受けたことを認める旨表明した。原告Bは,これによって初めて,本件優生手術を受けたことにつき,公的に確認することができた(甲2B15の1・2,甲2B17,原告B本人)。 ⑶ 優生手術の被害者の救済をめぐる国内外の動向等ア日本における動向等 (ア) 優生手術に対する謝罪を求める会が,平成9年9月に結成され,その頃から,厚生労働省との間で面談を続けるなどの活動をしている。 (イ) 国連人権(自由 ア日本における動向等 (ア) 優生手術に対する謝罪を求める会が,平成9年9月に結成され,その頃から,厚生労働省との間で面談を続けるなどの活動をしている。 (イ) 国連人権(自由権)規約委員会は,日本政府に対し,平成10年11月,優生手術の対象とされた人たちの補償を受ける権利を法律で規定するよう勧告するとともに,平成20年10月,当該勧告を実施することを再び 勧告し,さらに,平成26年8月,上記勧告を実施するよう重ねて勧告した。 (ウ) 熊本地方裁判所平成13年5月11日判決は,ハンセン病患者の隔離政策が国家賠償法上違法であると判断するとともに,夫婦のハンセン病患者の施設入居条件として,優生手術が半ば強制されていたことを指摘した。 (エ) C大臣は,平成16年3月24日,参議院厚生労働委員会において,旧 優生保護法に基づく優生手術等につき,「こういう歴史的な経緯がこの中にあったことだけは,これはもう,ほかに言いようのない,事実でございますから,そうした事実を今後どうしていくかということは,今後私たちも考えていきたいと思っています。」と述べた。 もっとも,日本政府は,平成18年12月,旧優生保護法に基づき適法 に行われた手術について,過去に遡って補償することは考えていないという見解を示した。 (オ) 日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)は,平成19年12月,上記(エ)の日本政府の見解について,日本国内では,女性の意に反しての強制不妊措置が女性の性的意思決定権の重要な一部であるリプロダクティ ブ・ライツに対する重大な侵害であるということへの認識が未だ不十分であると指摘した上で,障がいを持つ女性に対する強制不妊措置について,政府としての包括的な調査と補 な一部であるリプロダクティ ブ・ライツに対する重大な侵害であるということへの認識が未だ不十分であると指摘した上で,障がいを持つ女性に対する強制不妊措置について,政府としての包括的な調査と補償を実施する計画を,早急に明らかにすべきであり,今後の同種被害の発生防止のため,リプロダクティブ・ライツを含む女性の性的意思決定を尊重するための人権教育等を随時実施すべ きであるなどと提言した。 (カ) 日本政府の障がい者制度改革推進会議において,平成22年7月,複数の委員から「強制不妊手術の実態調査と補償の必要性,障がい者の性と生殖に関する権利の確立」が提起された。 (キ) 日弁連は,平成27年3月,「女性差別撤廃条約に基づく第7回及び第 8回日本政府報告書に対する日本弁護士連合会の報告書~会期前作業部会によって作成される質問表に盛り込まれるべき事項とその背景事情について~」において,旧優生保護法により強制不妊手術の対象とされた人たちに対する補償について,未だ何らの施策が取られていないことを指摘し,また,国際人権(自由権)規約委員会による上記勧告によって示され た課題が進展していないことについても指摘した。また,上記日弁連の報 告書を補足する「第7回及び第8回締約国報告に対する女性差別撤廃委員会からの課題リストに対するアップデイト報告」(平成27年12月17日)において,旧優生保護法に基づく強制不妊手術について事実解明も謝罪も賠償もされていないことなどが指摘された。 (ク) 国連女性差別撤廃委員会は,平成28年3月7日,日本政府に対し,強 制的な優生手術を受けた全ての被害者に支援の手を差し伸べ,被害者が法的救済を受け,補償とリハビリテーションの措置の提供を受けられるように 別撤廃委員会は,平成28年3月7日,日本政府に対し,強 制的な優生手術を受けた全ての被害者に支援の手を差し伸べ,被害者が法的救済を受け,補償とリハビリテーションの措置の提供を受けられるようにするため,具体的な取組を行うことなどを勧告した。 (ケ) 日弁連は,平成29年2月16日,「旧優生保護法下において実施された優生思想に基づく優生手術及び人工妊娠中絶に対する補償等の適切な 措置を求める意見書」を発表し,日本政府は,旧優生保護法下において実施された優生思想に基づく優生手術等が,対象者の自己決定権及びリプロダクティブ・ヘルス/ライツを侵害し,遺伝性疾患,ハンセン病,精神障がい等を理由とする差別であったことを認め,被害者に対する謝罪,補償等の適切な措置を速やかに実施すべきであり,また,旧優生保護法下にお いて実施された優生手術等に関連する資料を保全し,その実態調査を速やかに行うべきであるとの意見を表明した。 (コ) 厚生労働省は,平成30年3月28日,都道府県,保健所設置市及び特別区に対し,旧優生保護法に基づく優生手術の関係資料等について,その保全を依頼した上,同年4月25日,医療機関等に同資料の保全を依頼す るとともに,都道府県,保健所設置市及び特別区の同資料等の保管状況に関する調査を開始した。 イスウェーデンの対応(甲A5)スウェーデンでは,昭和10年から昭和50年までの間に,昭和9年に制定された「特定の精神病者,精神薄弱者又は精神障害者の不妊手術に関する 法律」及び昭和16年に制定された「不妊手術に関する法律」に基づき,約 6万3000人が不妊手術を受けさせられた。 これに対し,スウェーデンは,平成11年5月18日,不妊手術を受けさせられた者に対する補償として1 された「不妊手術に関する法律」に基づき,約 6万3000人が不妊手術を受けさせられた。 これに対し,スウェーデンは,平成11年5月18日,不妊手術を受けさせられた者に対する補償として1人当たり17万5000クローナ(約200万円)の補償金を支給することなどを内容とする「不妊手術患者への補償に関する法律」を成立させた。 ウドイツの対応(甲A5,甲A6)ドイツでは,ナチス政権下の昭和9年から昭和20年までの間に,昭和8年に制定された「遺伝性疾患子孫予防法」に基づき,約40万人が不妊手術を受けさせられた。 これに対し,ドイツ(当時のいわゆる西ドイツをいう。以下同じ。)は,昭 和55年,強制的に不妊手術を受けさせられたことを証明できた人に対し,補償金として1人当たり5000マルク(約60万円)を支給した。さらに,ドイツは,昭和63年,強制不妊手術の被害者に対し,生活が困窮している場合には,上記補償金の他に,持続的な補償金として月額100マルク(約1万2000円)以上の支給を開始し,その後,上記補償金は,段階的に引 き上げられ,平成30年時点で月額352ユーロに増額されている。 ⑷ リプロダクティブ権をめぐる裁判例,学説等の状況旧優生保護法に基づき不妊手術を受けたと主張して損害賠償を求める訴訟が提起された事案は,本件が全国で初めてのものであり,旧優生保護法の本件規定及び本件立法不作為につき憲法違反の問題が生ずるという司法判断は,今 までされてこなかった。そして,いわゆるリプロダクティブ・ライツという概念は,性と生殖に関する権利をいうものとして国際的には広く普及しつつあるものの,我が国においては上記のような事情もあり,リプロダクティブ権をめぐる法的議論の蓄積が少なく,上記概念が必ずしも十分 う概念は,性と生殖に関する権利をいうものとして国際的には広く普及しつつあるものの,我が国においては上記のような事情もあり,リプロダクティブ権をめぐる法的議論の蓄積が少なく,上記概念が必ずしも十分に社会に定着しているとはいえない。 2 争点1について 国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個々の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであるところ,国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う職 務上の法的義務に違反したかどうかの問題であり,立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきものである。そして,上記行動についての評価は原則として国民の政治的判断に委ねられるべき事柄であって,仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反するものであるとしても,そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるもので はない。 もっとも,法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保す るために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などにおいては,国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして,例外的に,その立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定 らず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などにおいては,国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして,例外的に,その立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けることがあるというべきである(最高裁昭和53年(オ) 第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁,最高裁平成13年(行ツ)第82号,第83号,同年(行ヒ)第76号,第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁,最高裁平成25年(オ)第1079号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁参照)。 そこで,本件立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける か否かについて検討する。 ア人が幸福を追求しようとする権利の重みは,たとえその者が心身にいかなる障がいを背負う場合であっても何ら変わるものではない。子を産み育てるかどうかを意思決定する権利は,これを希望する者にとって幸福の源泉となり得ることなどに鑑みると,人格的生存の根源に関わるものであり,上記の 幸福追求権を保障する憲法13条の法意に照らし,人格権の一内容を構成する権利として尊重されるべきものである。 しかしながら,旧優生保護法は,優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するなどという理由で不妊手術を強制し,子を産み育てる意思を有していた者にとってその幸福の可能性を一方的に奪い去り,個人の尊厳を踏みにじ るものであって,誠に悲惨というほかない。何人にとっても,リプロダクティブ権を奪うことが許されないのはいうまでもなく,本件規定に合理性があるというのは困難である。 そうすると,本件規定は,憲法13条に違反し,無効であるというべきである。 したがっ ダクティブ権を奪うことが許されないのはいうまでもなく,本件規定に合理性があるというのは困難である。 そうすると,本件規定は,憲法13条に違反し,無効であるというべきである。 したがって,本件優生手術を受けた者は,リプロダクティブ権を侵害されたものとして,国家賠償法1条1項に基づき,国又は公共団体にその賠償を求めることができる。もっとも,本件優生手術から20年が経過している場合には,国家賠償法4条の規定により適用される民法724条後段(以下,単に「除斥期間」という。)の規定により,当該賠償請求権は消滅することに なるため,上記の者は,特別の規定が設けられない限り,国又は公共団体に対し当該賠償請求権を行使することができなくなる。 イところで,憲法17条は,「何人も,公務員の不法行為により,損害を受けたときは,法律の定めるところにより,国又は公共団体に,その賠償を求めることができる。」と規定し,その保障する国又は公共団体に対し損害賠償 を求める権利については,法律による具体化を予定している。これは,公務 員の行為が権力的な作用に属するものから非権力的な作用に属するものにまで及び,公務員の行為の国民へのかかわり方には種々多様なものがあり得ることから,国又は公共団体が公務員の行為による不法行為責任を負うことを原則とした上,公務員のどのような行為によりいかなる要件で損害賠償責任を負うかを立法府の政策判断に委ねたものであって,立法府に無制限の裁 量権を付与するといった法律に対する白紙委任を認めているものではない(最高裁平成11年(オ)第1767号同14年9月11日大法廷判決・民集56巻7号1439頁参照)。 そして,憲法13条は,国民一人ひとりが幸福を追求し,その生きがいが最大限尊重されることによって, 最高裁平成11年(オ)第1767号同14年9月11日大法廷判決・民集56巻7号1439頁参照)。 そして,憲法13条は,国民一人ひとりが幸福を追求し,その生きがいが最大限尊重されることによって,それぞれが人格的に生存できることを保障 しているところ,前記のとおり,リプロダクティブ権は,子を産み育てることを希望する者にとって幸福の源泉となり得ることなどに鑑みると,人格的生存の根源に関わるものであり,憲法上保障される個人の基本的権利である。 それにもかかわらず,旧優生保護法に基づく不妊手術は,不良な子孫の出生を防止するなどという不合理な理由により,子を望む者にとっての幸福を一 方的に奪うものである。本件優生手術を受けた者は,もはやその幸福を追求する可能性を奪われて生きがいを失い,一生涯にわたり救いなく心身ともに苦痛を被り続けるのであるから,その権利侵害の程度は,極めて甚大である。 そうすると,リプロダクティブ権を侵害された者については,憲法13条の法意に照らし,その侵害に基づく損害賠償請求権を行使する機会を確保する 必要性が極めて高いものと認められる。 他方,前記認定事実によれば,本件優生手術は,優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するといういわゆる優生思想により,旧優生保護法という法の名の下で全国的に広く行われたものであることからすれば,旧優生保護法という法の存在自体が,リプロダクティブ権侵害に基づく損害賠償請求権 を行使する機会を妨げるものであったといえる。そして,旧優生保護法は, 優生思想に基づく部分が障がい者に対する差別になっているとして平成8年に改正されるまで,長年にわたり存続したため,同法が広く推し進めた優生思想は,我が国において社会に根強く残っていたものと認められる。しかも,前記認定事実 がい者に対する差別になっているとして平成8年に改正されるまで,長年にわたり存続したため,同法が広く推し進めた優生思想は,我が国において社会に根強く残っていたものと認められる。しかも,前記認定事実によれば,いわゆるリプロダクティブ・ライツという概念は,性と生殖に関する権利をいうものとして国際的には広く普及しつつある ものの,我が国においてはリプロダクティブ権をめぐる法的議論の蓄積が少なく,本件規定及び本件立法不作為につき憲法違反の問題が生ずるとの司法判断が今までされてこなかったことが認められる。のみならず,本件優生手術に係る情報は,同じく憲法13条の法意に照らし,人格権に由来するプライバシー権によって保護される個人情報であって,個人のプライバシーのう ちでも最も他人に知られたくないものの一つであり,本人がこれを裏付ける客観的証拠を入手すること自体も相当困難であったといえる。現に,本件優生手術を理由として損害賠償を求める訴訟は,本件が全国で初めてのものであり,旧優生保護法が平成8年に改正されてから既に20年以上も経過していることが認められる。 そうすると,これらの事情の下においては,本件優生手術を受けた者が,本件優生手術の時から20年経過する前にリプロダクティブ権侵害に基づく損害賠償請求権を行使することは,現実的には困難であったと評価するのが相当である。 したがって,本件優生手術を受けた者が除斥期間の規定の適用によりリプ ロダクティブ権侵害に基づく損害賠償請求権を行使することができなくなった場合に,上記の特別の事情の下においては,その権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であると認めるのが相当である。 ウもっとも,上記権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執る場 下においては,その権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であると認めるのが相当である。 ウもっとも,上記権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執る場 合において,いかなる要件でいかなる額を賠償するのが適切であるかなどに ついては,憲法13条及び憲法17条の法意から憲法上一義的に定まるものではなく,憲法秩序の下における司法権と立法権との関係に照らすと,その具体的な賠償制度の構築は,第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねられている事柄である。そして,前記認定事実によれば,我が国においてはリプロダクティブ権をめぐる法的議論の蓄積が少なく本件規定及び本件立法 不作為につき憲法違反の問題が生ずるとの司法判断が今までされてこなかったことが認められる。 そうすると,このような事情の下においては,少なくとも現時点では,上記のような立法措置を執ることが必要不可欠であることが,国会にとって明白であったということは困難である。 したがって,本件優生手術を受けた者が除斥期間の規定の適用によりリプロダクティブ権侵害に基づく損害賠償請求権を行使することができなくなった場合に,我が国においてはリプロダクティブ権をめぐる法的議論の蓄積が少なく本件規定及び本件立法不作為につき憲法違反の問題が生ずるとの司法判断が今までされてこなかった事情の下においては,少なくとも現時点 では,その権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であることが明白であったとはいえない。 エそして,上記の理は,原告ら主張に係る憲法13条等に基づく補償請求権が上記にいうリプロダクティブ権と同一のものではないとしても,異なるところはなく,また,本件施策不作為に上記と同様の憲法違反の問題が生ずる ,上記の理は,原告ら主張に係る憲法13条等に基づく補償請求権が上記にいうリプロダクティブ権と同一のものではないとしても,異なるところはなく,また,本件施策不作為に上記と同様の憲法違反の問題が生ずる としても,上記において説示する事情を踏まえると,厚生労働大臣が職務上の法的義務に違反したものと認めることはできない。 オ以上によれば,本件立法不作為又は本件施策不作為は,いずれも国家賠償法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けるものではない。 これに対し,原告らは,前記認定事実1⑶記載の優生手術の被害者の救済を めぐる国内外の動向等によれば,少なくともC大臣の言及から調査又は政策遂 行に必要な合理的期間である3年が経過した平成19年3月には,リプロダクティブ権侵害に基づく損害賠償請求権を行使する機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であることが明白であった旨主張する。 しかしながら,上記救済の必要性が一定程度認識されていたとしても,上記において説示するとおり,我が国においてはリプロダクティブ権をめぐる法的 議論の蓄積が少なく本件規定及び本件立法不作為につき憲法違反の問題が生ずるとの司法判断が今までされてこなかった事情の下においては,その余の点について判断するまでもなく,上記立法措置を執ることが必要不可欠であることが,国会にとって明白であったということは困難である。その他に,原告らの準備書面における各主張及び提出証拠を改めて検討しても,上記判断を左右 するものではない。 したがって,原告らの主張は,採用することができない。 よって,その余の争点について判断するまでもなく,主位的請求はいずれも理由がない。 3 争点3について 憲法17条は,「何人も,公務員の不法行為 らの主張は,採用することができない。 よって,その余の争点について判断するまでもなく,主位的請求はいずれも理由がない。 3 争点3について 憲法17条は,「何人も,公務員の不法行為により,損害を受けたときは,法律の定めるところにより,国又は公共団体に,その賠償を求めることができる。」と規定し,その保障する国又は公共団体に対し損害賠償を求める権利については,法律による具体化を予定している。これは,公務員の行為が権力的な作用に属するものから非権力的な作用に属するものにまで及び,公務員の行為の国 民へのかかわり方には種々多様なものがあり得ることから,国又は公共団体が公務員の行為による不法行為責任を負うことを原則とした上,公務員のどのような行為によりいかなる要件で損害賠償責任を負うかを立法府の政策判断に委ねたものであって,立法府に無制限の裁量権を付与するといった法律に対する白紙委任を認めているものではない。そして,国家賠償法4条が適用する除 斥期間の規定は,リプロダクティブ権を侵害した公務員の不法行為による国の 損害賠償請求権を消滅させるものであるところ,除斥期間の規定が憲法17条に適合するものとして是認されるものであるかどうかは,当該行為の態様,これによって侵害される法的利益の種類及び侵害の程度,免責又は責任制限の範囲及び程度等に応じ,当該規定の目的の正当性並びにその目的達成の手段として免責又は責任制限を認めることの合理性及び必要性を総合的に考慮して判 断すべきである(最高裁平成11年(オ)第1767号同14年9月11日大法廷判決・民集56巻7号1439頁参照)。 そして,国家賠償法4条が適用する除斥期間の規定は,不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を図るため,20年の期間は被害者側の認識のい 4年9月11日大法廷判決・民集56巻7号1439頁参照)。 そして,国家賠償法4条が適用する除斥期間の規定は,不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を図るため,20年の期間は被害者側の認識のいかんを問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間 を画一的に定めたものである(最高裁昭和59年(オ)第1477号平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2209頁参照)。そうすると,法律関係を速やかに確定することの重要性に鑑みれば,このような立法目的は正当なものであり,その目的達成の手段として上記請求権の存続期間を制限することは,当該期間が20年と長期であることを踏まえれば,上記立法目 的との関連において合理性及び必要性を有するものということができる。 したがって,除斥期間の規定には,目的の正当性並びに合理性及び必要性が認められることを考慮すれば,その余の点について判断するまでもなく,本件において,リプロダクティブ権侵害に基づく損害賠償請求権に対して除斥期間の規定を適用することが,憲法17条に違反することになるものではない。 これに対し,原告らは,本件について除斥期間を画一的に適用することは,国家による人権侵害に基づく被害の回復を全面的に否定する結果を生むことになり,除斥期間に係る制度の目的達成手段としての合理性及び必要性を欠くことになるから,国家賠償法4条は,除斥期間の規定を本件に適用する限度で,違憲無効である旨主張する。しかしながら,除斥期間の規定を前提としても, 原告ら主張に係る被害の回復を全面的に否定することは,憲法13条及び憲法 17条の法意に照らし,是認されるべきものではなく,本件において前記所要の立法措置を執ることが必要不可欠であることは,前記において る被害の回復を全面的に否定することは,憲法13条及び憲法 17条の法意に照らし,是認されるべきものではなく,本件において前記所要の立法措置を執ることが必要不可欠であることは,前記において説示したとおりである。そうすると,上記のとおり,除斥期間の規定自体には目的の正当性並びに合理性及び必要性が認められることに鑑みれば,原告らの主張を踏まえても,除斥期間の規定を本件に適用することが憲法17条に違反することにな るものではない。その他に,原告らの準備書面における各主張及び提出証拠を改めて検討しても,上記判断を左右するものではない。 したがって,原告らの主張は,採用することができない。 よって,その余の争点について判断するまでもなく,予備的請求は理由がない。 4 その他その他に,当事者双方の準備書面における各主張及び提出証拠を改めて検討しても,上記判断を左右するに至らない。 なお,本件事案に鑑み,憲法13条及び憲法14条にいう普遍的な価値に照らし,平成の時代まで根強く残っていた優生思想が正しく克服され,新たな令和の 時代においては,何人も差別なく幸福を追求することができ,国民一人ひとりの生きがいが真に尊重される社会となり得るように,最後に付言する。 第6 結論よって,原告らの請求はいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 仙台地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官中島基至 裁判官川 越 裕季子 裁判官佐藤卓は,転補のため署名押印することができない。 裁判官川越裕季子 裁判官佐藤卓は,転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官中島基至

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