平成13(行ウ)6 公費出費差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成16年1月23日 長野地方裁判所
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判決文本文7,510 文字)

主文 1 原告らの請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,穂高町に対して,1億1700万円を支払え。 第2 事案の概要 1 本件事案の要旨本件は,原告らが,穂高町によるA記念館の建設は,地方自治法・地方財政法に反し違法であると主張して,既支出の建設事業費につき,同町予算の支出責任者である被告に対し,平成14年法律第4号による改正前の地方自治法242条の2第1項4号に基づき,穂高町への損害賠償を求める事案である。 2 前提事実(証拠を掲記した事実以外は当事者間に争いがないか,当裁判所に顕著であるか,弁論の全趣旨により認められる事実である)(1) 原告らはいずれも穂高町町民である。 (2) 被告は,A記念館建設事業に関わる工事費等事業費を町予算から支出する権限と責任を有している穂高町長の地位にある。 (3) A記念館の概要① A記念館は,漆工芸家Aの漆工芸を展示すること等を目的とする記念館である。 ② 穂高町長は,平成11年1月18日,(仮称)A記念館建設検討委員会の設置要綱を定め(甲13),同年5月,同委員会委員が委嘱され,同委員会は,同年8月5日から平成13年1月16日まで,8回開催された。 ③ A記念館の建設事業費は,当初土地を5091平方メートル買収し,これを含めた事業用地7191平方メートルに735平方メートルの建物を建築することを前提に7億4500万円と想定されていた(甲25の2,26の3,乙1)。 ④ 平成12年3月,Aの生家の土地を贈与される見込みになった結果,買収土地面積が縮小され,建物面積も縮小したことにより,A記念館検討委員会は,同年4月17日付で,事業用地面積6400平方メートル,建物建築面積665平方メートル,事業費を6億4100万円に減額する旨答申した。 ⑤ A記念 建物面積も縮小したことにより,A記念館検討委員会は,同年4月17日付で,事業用地面積6400平方メートル,建物建築面積665平方メートル,事業費を6億4100万円に減額する旨答申した。 ⑤ A記念館検討委員会は,穂高町長に対し,平成12年5月26日付基本計画において,A記念館の年間収支概要として,収入額865万円,支出額3105万円,穂高町の一般財源からの支出予定額2240万円とし,建物建築面積については上記同様665平方メートルとする旨答申した(甲6の1ないし3,29)。 ⑥ 平成12年6月,穂高町は基本計画を策定した。 ⑦ 平成12年9月5日,A記念館の設計者が株式会社プランツアソシエイツ(以下「プランツアソシエイツ」という。)に決定された。 ⑧ プランツアソシエイツは,同年11月10日,基本計画より建築面積を約170平方メートル増加させた基本設計案を立案した。 ⑨ 同月29日,A記念館検討委員会は,プランツアソシエイツの担当者の出席・説明を受けて,上記基本設計案を検討し,同案を了解した(乙2の1)。 ⑩ 穂高町は,平成12年11月30日,議会全員協議会に上記基本設計案を提出し,建物建築面積の変更を前提に,当初の事業費6億4100万円を7億5800万円に増額することを前提とする予算案の承認を求めた。 ⑪ 平成13年1月17日,A記念館検討委員会は,上記基本設計案について,適切な管理と受益者負担を考慮した設定を求めること等を内容とする意見書を穂高町長に提出した(乙2の3)。 ⑫ 穂高町議会は,平成13年3月,上記予算案を承認する議決をした。 ⑬ A記念館の建設事業費7億5800万円の内,起債額が5億9740万円であり,起債額の約50パーセントが返済時点において国からの地方交付税でまかなわれることとされている結果,穂高町の負担は約3億円である。その の建設事業費7億5800万円の内,起債額が5億9740万円であり,起債額の約50パーセントが返済時点において国からの地方交付税でまかなわれることとされている結果,穂高町の負担は約3億円である。その他,事業積立金からの繰り入れが約1億5900万円であり,町財政の一般財源からの繰り入れは160万円である(乙1)。 ⑭ 平成14年12月20日,A記念館の建物工事が完了した。 ⑮ 被告は,穂高町長の立場において,A記念館の建設費事業費として,平成15年4月28日までに,7億5649万3000円を支払い,A記念館建設事業に関する全ての予算の執行を終えた。 (4) 原告らは,平成13年8月6日,穂高町監査委員に対し,監査請求を行い,同監査委員会は,同年10月3日付で,原告らに対し,監査請求を棄却した。 (5) 原告らは,同月22日,本件訴えを当裁判所に提起した。 3 各当事者の主張(1) 原告らア最小経費最大効果原則・合理的最小経費原則・健全財政原則について被告はA記念館建設の計画策定にあたって,建設の場所・建設の規模・管理運営費・入館者数・アクセス道路建設の要否について,様々なケースの比較検討を行い,地方自治法2条14項,232条,地方財政法3条1項,4条の2に各規定されている最小経費最大効果原則,合理的最小経費原則,健全財政原則(以下「最小経費最大効果原則等」という。)の要請を満たすものであるかを検討すべき義務を負う。 イ A記念館検討委員会の答申と最小経費最大効果原則等について被告は,最小経費最大効果原則等の観点から検討されたA記念館検討委員会の平成12年4月17日付・同年5月26日付答申に従わず,自ら従前提案していた事業規模をも超えた。 A記念館建設検討委員会の上記答申からプランツアソシエイツ立案の基本設計案において増加された施設規模の差172 年4月17日付・同年5月26日付答申に従わず,自ら従前提案していた事業規模をも超えた。 A記念館建設検討委員会の上記答申からプランツアソシエイツ立案の基本設計案において増加された施設規模の差172平方メートル,建設事業費の差額1億1700万円は,メディアフォーラム(ビデオとパソコンの検索の部屋)と展望室を増設したことによる。 平成12年5月26日付基本計画においては,展示室3において情報検索装置やビデオなどの映像装置を配置することとなっている(甲29)から,メディアフォーラムを増設する必要はなかった。仮に,有料設備である上記展示室3とは別に,無料設備としてのパソコン検索やビデオなどの映像装置配置が必要であるとしても,財政事情を理由に施設規模を縮小した上記答申の趣旨に沿ってされなければならない。また,無料ゾーンとなっているA生家に空室がある実体に照らせば,生家の活用によって十分に目的が達成できるから,メディアフォーラム増設のために1億1700万円もの支出を増加させる必要はない。 展望室は,施設利用者が自由に上がれるものではなく,周囲の建物等に遮られて展望が全く得られないもので,不要な設備である。 ウ A記念館の建設場所と最小経費最大効果原則等について被告は,平成11年7月から一貫して,A記念館建設予定地をAの生家の隣地を予定しており,全く最小経費最大効果原則等に則した検討をしなかった。 エアクセス道路と最小経費最大効果原則等について被告は,平成12年4月27日付広報において,A記念館は交通アクセスが容易であるとしながら,道路用地の買収及び道路工事費用の必要性については触れておらず,議会においても既存道路を用いてアクセスする旨説明しているが,新たにA記念館のためのアクセス道路を建設するものである。このため,地方交付税措置が見込まれるものとしても の必要性については触れておらず,議会においても既存道路を用いてアクセスする旨説明しているが,新たにA記念館のためのアクセス道路を建設するものである。このため,地方交付税措置が見込まれるものとしても,アクセス道路の建設費1億2870万円の負担が強いられる。 オ A記念館の維持管理運営費についてA記念館建設後の維持管理運営費は毎年最低2435万円の赤字が見込まれている。 カ原告らの主張のまとめ上記のとおり,被告は,A記念館検討委員会の平成12年4月17日付・同年5月26日付答申に反し,建設場所,アクセス道路,維持管理運営費の観点から,前記ア記載の義務にしたがった検討を全くせず,その結果,A記念館事業費を1億1700万円も増加させ,アクセス道路の建設費1億2870万円を含め穂高町に5億8970万円の負担を強い,A記念館建設後の維持管理運営費は毎年最低2435万円の赤字が見込まれている。 したがって,本件事業計画に基づく支出行為は,地方自治法2条14項,232条,地方財政法3条1項,4条の2の各規定に違反する違法なものである。 被告は,故意又は過失により,上記のような違法な支出をし,穂高町に1億1700万円の損害を与えたのであるから,平成14年法律第4号による改正前の地方自治法242条の2第1項4号に基づき,穂高町に対してこれを賠償する義務を負うものである。 (2) 被告ア A記念館検討委員会の答申について最終的にA記念館の建築面積が837.72平方メートルとなり,建築事業費が7億5800万円となったのは,Aの工芸品の展示館に穂高町民の利用の場を付加したことによるものである。原告らの主張は,建物の利用目的とは無関係に単純に建築面積と建築事業費を比較するものに過ぎない。 また,原告らは平成12年5月26日付の答申を最終のものとしているが,被告は,A ことによるものである。原告らの主張は,建物の利用目的とは無関係に単純に建築面積と建築事業費を比較するものに過ぎない。 また,原告らは平成12年5月26日付の答申を最終のものとしているが,被告は,A記念館検討委員会の答申にしたがって策定された基本計画を,同委員会の了承を得て変更し,かつ議会の議決をも得ているのであって,原告らの主張は根拠がない。 イ A記念館の建設場所についてA記念館の建設場所については,A記念館検討委員会が設置される以前から議論がされていたが,他候補地の取得が困難であったこと,土地の価格が高いこと,Aが同人の作品を穂高町に寄贈するに当たって生家の隣接地を希望していたこと,同人の生家隣接地に建設することが,既にAの工芸品を数多く展示している豊田市美術館との関係で意味があると判断されたことから,第一候補地をAの生家隣接地としたものであって,さらに,平成11年10月10日,Aの兄から2100平方メートルの土地の寄贈を受けたこと,第4回A記念館検討委員会においてAの親族から生家と土蔵2棟を含む1427平方メートルの土地の寄贈がなされることとなった結果,建設場所が確定的となったもので,最も適した土地である。 ウアクセス道路について原告の主張するアクセス道路の建設目的は,A記念館建設のためのみならず,高速道路のインターチェンジから工場団地への進入道路が狭く不十分である不都合を解消するためでもある。 エ A記念館の維持管理運営費についてAは穂高町出身であって漆芸の第一人者であり,その第一級の漆工芸品などを展示すること,穂高町民をはじめ多くの人々がAの優れた工芸品に接することにより文化を享受することを目的とするもので,A記念館は,同記念館からの収入から利益を得て収支のバランスを取ることをもともと想定していない。 第3 当裁判所の判断 人々がAの優れた工芸品に接することにより文化を享受することを目的とするもので,A記念館は,同記念館からの収入から利益を得て収支のバランスを取ることをもともと想定していない。 第3 当裁判所の判断 1 原告の援用する地方自治法,地方財政法の各規定は,いずれも地方公共団体がその事務を処理するに当たって準拠すべき一般的,抽象的な原則を定めた規定に過ぎず,これらの規定が直ちに地方公共団体が文化施設等を建設するについての事務処理の適否の判断基準となる具体的な法規範としての性質を有するものと解することは困難であって,地方公共団体が文化施設建設計画を決定するに当たって,建設地の選定及び施設の規模等は,当該地方公共団体の合理的な裁量判断に委ねられているものというほかなく,その判断につき裁量権の逸脱若しくは濫用に当たる特段の事情がある場合を除き,違法であるとされることはないものというべきである。そして,全く必要性のない施設等を建設する場合や,必要性の著しく乏しい施設等を適正な建築費用よりも著しく高額な費用で建設する場合等,社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合には,上記各法条の趣旨に著しく反する行為として,地方公共団体の長が与えられた当該裁量権を逸脱したものとして違法の評価を受けると解すべきである。 2 本件A記念館建設事業について上記事情の有無を以下検討する。 (1) A記念館検討委員会の答申についてA記念館検討委員会は,穂高町長の諮問に対して意見を述べるものではあるが(甲12),同委員会の答申が穂高町長に対して何らかの法的拘束力を有するものとは認められないから,被告が同委員会の答申に従わなかったことが直ちにA記念館建設事業費の支出を違法とするものではない上,A記念館検討委員会の平成12年4月17日付答申,同年5月26日付答申は,前提事実記載の ないから,被告が同委員会の答申に従わなかったことが直ちにA記念館建設事業費の支出を違法とするものではない上,A記念館検討委員会の平成12年4月17日付答申,同年5月26日付答申は,前提事実記載のとおり,同年11月29日に建築面積を約170平方メートル増加させた基本設計案を検討し,了解しているのであるから,原告らの主張は理由がない。 また,A記念館の建物建築面積が約170平方メートル増加した理由の一つは,展望室及びメディアフォーラム(情報端末機や美術書籍,DVD投影によりA芸術について学ぶことを目的とする設備。乙4)を建築するように変更したことにあると認められる(証人Bの証言)。A記念館の展望室からの展望は,建物等に遮られて良好とはいえないこと,展望室としては有効に活用されているともいえないこと(証人Bの証言)から,展望室の必要性は比較的低いものと認められる。しかし,A記念館全体の利用計画を検討するに当たって,会議室等,展望を得ること以外の利用方法も考えられるし,一室余裕をもって設備を建設することが著しく不当であるともいいがたいから,展望室が全く必要性のない施設であるとまでは認められない。メディアフォーラムは,展示室3とほぼ同様の目的を持つ部屋であるが,展示室3は有料展示ゾーンにある一方,①メディアフォーラムは無料展示ゾーンにあること(甲41の2),②同様の目的を持つ部屋が複数あること自体から直ちに不要な設備であると認めることはできないことから,これも全く必要性のない施設であるとまでは認められない。なお,A記念館の中のAの生家を利用することによって,建築面積を増加させずにメディアフォーラムと同様の目的の部屋を無料展示ゾーンに設けることが不可能であるとは認められないが,A記念館がAの漆工芸を展示することを目的とする施設であって同人にゆかりのある 建築面積を増加させずにメディアフォーラムと同様の目的の部屋を無料展示ゾーンに設けることが不可能であるとは認められないが,A記念館がAの漆工芸を展示することを目的とする施設であって同人にゆかりのある物については特別に扱うことも十分考えられること及び同人の生家が江戸時代中期に建築されたものであること(甲4)を合わせて考慮すると,A記念館を管理する者には,同人の生家の利用方法決定について,極めて広汎な裁量が与えられているものと認められ,メディアフォーラムと同様の目的に利用しないことがこの裁量を逸脱するものとは評価し得ず,したがって,メディアフォーラム自体が全く不要な施設であるとも認められない。 上記のとおり,展望室もメディアフォーラムも全く不要な施設とまでは認められないから,上記建築面積増加分については,増加部分についての建設費用が適正価額と比較して不当に高額である旨の具体的な主張立証はない本件においては,建築面積を増加させたことが裁量の逸脱若しくは濫用に当たるとは認められない。 (2) A記念館の建設場所及びアクセス道路建設についてA記念館の建設場所の選定については前記のとおり被告の合理的な裁量に委ねられているところ,A記念館がAの漆工芸品を展示する目的であることに照らすと,同人の生家隣接地を建設地として選択したことにつき,アクセス道路建設の要否の点を含め,裁量の逸脱若しくは濫用と評価すべき特段の事情を認めることはできない。また,A記念館建設に当たってそのアクセス道路を建設することにより,穂高町の支出額が増加するが,原告は,アクセス道路建設費用につき適正な価格を超えている旨の具体的な主張立証をしないので,アクセス道路建設の要否の説明の有無を含め,上記特段の事情を認めることはできない。したがって,原告らの主張は失当である。 (3) 維持管理運営費 正な価格を超えている旨の具体的な主張立証をしないので,アクセス道路建設の要否の説明の有無を含め,上記特段の事情を認めることはできない。したがって,原告らの主張は失当である。 (3) 維持管理運営費についてさらに,上記(2)のようなA記念館の施設目的に照らすと,施設収支の計算自体に明らかな誤りがある場合は格別,恒常的に赤字が見込まれること自体から直ちに裁量権の逸脱若しくは濫用に当たると評価すべき事情があるものと認めることはできない。なお,原告らはA記念館の毎年の赤字額が2435万円である旨主張するが,被告が前提とした2240万円が誤りであると明らかに認めるに足りる証拠はない。したがって,原告らの主張は理由がない。 3 結論上記のとおり,原告らの主張はいずれも失当であるか,理由がないから,原告らの請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 長野地方裁判所民事部 裁判長裁判官辻次郎 裁判官杉本宏之 裁判官進藤光慶

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