- 1 -令和7年(行ケ)第1号選挙無効請求事件令和7年11月6日仙台高等裁判所秋田支部判決 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求令和7年7月20日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の秋田県選挙区における選挙を無効とする。 第2 事案の概要本件は、令和7年7月20日に行われた参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。)について、秋田県選挙区の選挙人である原告が、公職選挙法14条1項、別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下、数次の改正の前後を通じ、平成6年法律第2号による改正前の別表第2を含め、「定数配 分規定」という。)は憲法に違反し無効であるから、これに基づき行われた本件選挙の上記選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。 1 前提事実(争いのない事実、顕著な事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 原告は、本件選挙における秋田県選挙区の選挙人である。 (2) 本件選挙は、平成30年法律第75号(以下「平成30年改正法」という。)による改正(以下「平成30年改正」という。)後の公職選挙法14条1項、別表第3の参議院(選挙区選出)議員の定数配分規定(以下「本件定数配分規定」という。)の下で、令和7年7月20日に行われた。 (3) 本件選挙の選挙区ごとの選挙当日有権者数、議員定数、議員1人当たり人口 - 2 -及び較差は、別紙「参議院選挙区別人口、定数、較差」に記載のとおりであり、選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差(以下、各選挙当時の「選挙区間の最大較差」という 人口 - 2 -及び較差は、別紙「参議院選挙区別人口、定数、較差」に記載のとおりであり、選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差(以下、各選挙当時の「選挙区間の最大較差」というときは、この選挙人数の最大較差をいう。)は、最小の福井県選挙区を1とすると、神奈川県選挙区及び東京都選挙区が最大の3.13倍(以下、較差に関する数値は、いずれも小数点第3位以下を四 捨五入した概数である。)であった。なお、福井県選挙区と、原告が選挙人である秋田県選挙区との較差は1.29倍であった。(乙1) 2 争点及び争点に対する当事者の主張本件の争点は、本件定数配分規定の合憲性であり、争点に対する当事者の主張は以下のとおりである。 (1) 原告の主張ア 「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める」とする憲法47条は、その解釈基準である憲法前文第1項第2文の趣旨を踏まえて解釈すべきである。すなわち、憲法前文第1項第2文からは、国政を信託された国民の代表者は、受益者である国民に対する忠実 義務を負い、また、国政から生じる福利は委託者兼受益者である国民が享受するものであって、受託者である国民の代表者が享受する余地はないといえる。選挙区割規定の立法は議員の身分に直接関わる事柄であるから、国民の代表者が、投票価値の較差の変更を伴う選挙区割規定を立法することは、国民の利益より自らの利益を図り、忠実義務に反するものであるし、国政から 生じる福利(投票価値の較差から生じる利益)を享受するものである。以上に照らすと、憲法47条の適用について、国会が広範な立法裁量権を有すると解釈すべきではない。 イ憲法56条2項、1条及び前文第1項第1文後段、前文第1項第1文前段、43条1項は、主権(国 。以上に照らすと、憲法47条の適用について、国会が広範な立法裁量権を有すると解釈すべきではない。 イ憲法56条2項、1条及び前文第1項第1文後段、前文第1項第1文前段、43条1項は、主権(国家のあり方を最終的に決定する力)を有する国民を 代表する議員の過半数によって両議院の議事を決することを規定している。 - 3 -そして、主権者の過半数が国家のあり方を最終的に決定するためには、各議員が同じ人数の主権を有する国民から算出されることが求められる。これは、人口比例選挙によってのみ実現可能であるから、これらの規定は、国会議員が人口比例選挙によって正当に選挙されることを要求している。 憲法の要求する人口比例選挙は、実務上、合理的に実施可能な限りでの人 口比例選挙であれば足りると考えられる。しかし、その合理性の主張・立証責任は被告にある。また、各選挙区の選挙人数又は人口数と配分議員定数との比例の平等が最も重要かつ基本的な基準とされるべきことが当然であり、被告が主張する地域性に係る問題のために、殊更にある地域(都道府県)の選挙人と他の地域(都道府県)の選挙人との間に投票価値の不平等を生じさ せるだけの合理性があるとはいい難く、さらに、二院制に係る憲法の趣旨や半数改選などの参議院の定数配分に当たり考慮を要する固有の要素を勘案しても、参議院議員選挙について直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。 以上から、本件選挙時における選挙区間の最大較差1対3.13は、合理 性を欠いており、1人1票を要求する人口比例選挙とはいえないから、本件定数配分規定は違憲である。 ウ最高裁令和5年(行ツ)第54号同年10月18日大法廷判決・民集77巻7号1654頁(以下「令和5年大法廷判決」という。)は、 する人口比例選挙とはいえないから、本件定数配分規定は違憲である。 ウ最高裁令和5年(行ツ)第54号同年10月18日大法廷判決・民集77巻7号1654頁(以下「令和5年大法廷判決」という。)は、国会に対し、較差の更なる是正、選挙制度の仕組み自体の抜本的見直しを要請したにもか かわらず、国会は、これに応ずることなく、本件選挙は、前回及び前々回選挙と同一の選挙区割り規定の下で行われた結果、本件選挙当時の選挙区間の最大較差1対3.13は、令和元年7月21日に行われた前々回の参議院議員通常選挙(以下「令和元年選挙」といい、参議院議員通常選挙のことを単に「通常選挙」という。)当時の3.00及び令和4年7月10日に行われ た前回の通常選挙(以下「令和4年選挙」という。)当時の3.03から著 - 4 -しく後退した。このような事情の下では、裁判所は、憲法81条に基づき、本件選挙を直ちに違憲と判断すべきである。 (2) 被告の主張ア定数配分規定が憲法14条等の規定に違反して違憲とされるのは、参議院の独自性や他の正当に考慮できる政策的目的・理由を考慮しても、投票価値 の平等の見地からみて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあり、かつ、当該選挙までの合理的期間内にその是正措置を講じなかったことが国会の裁量権の限界を超える場合に限られる。 イ以下の事情によれば、本件選挙当時、本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態 に至っていたとは認められない。 (ア) 都道府県の歴史的、政治的、経済的、社会的及び文化的な意義、役割や国民の都道府県への帰属意識、選挙区割の恣意性の回避の利益からすると、都道府県を単位とする選挙区割りをすることには合理性があるし、地方公 道府県の歴史的、政治的、経済的、社会的及び文化的な意義、役割や国民の都道府県への帰属意識、選挙区割の恣意性の回避の利益からすると、都道府県を単位とする選挙区割りをすることには合理性があるし、地方公共団体等は、都道府県単位の選挙区割の存続を強く望み、平成27年12 月実施の世論調査においても、合区を支持する意見は少なく、都道府県単位で代表を選ぶことを優先する意見の割合が最多であって、これを大きく変えることは、国民の投票意識に悪影響を与えるなどのおそれもある。また、参議院が、衆議院における市町村の単位を基本とする小選挙区制度と異なる都道府県を基本的な単位とする選挙区選挙制度を維持することに より、両議院の選挙制度全体として多角的な民意の反映が可能になる。加えて、過疎化により地方の疲弊が進行した今日の社会的状況下においては、地方に住む少数派の国民の意見も十分に国政に届くような定数配分規定を定めることの重要性が増している。これらの事情を考慮することは、国会による裁量権の行使として合理性を有する。 (イ) 国会は、最高裁平成23年(行ツ)第51号同24年10月17日大法 - 5 -廷判決・民集66巻10号3357頁(以下「平成24年大法廷判決」という。)及び最高裁平成26年(行ツ)第155号、第156号同年11月26日大法廷判決・民集68巻9号1363頁(以下「平成26年大法廷判決」という。)の趣旨に沿い、4県2合区の創設を含む10増10減等を内容とする平成27年法律第60号(以下「平成27年改正法」とい う。)による公職選挙法の改正(以下「平成27年改正」という。)を行い、4.77倍の最大較差を2.97倍に縮小させて投票価値の平等の見地からみて違憲の問題が生じる程度の著しい不平等状態を解消し、同改正後の定数 公職選挙法の改正(以下「平成27年改正」という。)を行い、4.77倍の最大較差を2.97倍に縮小させて投票価値の平等の見地からみて違憲の問題が生じる程度の著しい不平等状態を解消し、同改正後の定数配分規定に基づき実施された平成28年参議院議員選挙当時、最大較差は3.08倍となっていたが、最高裁平成29年(行ツ)第47号 同年9月27日大法廷判決・民集71巻7号1139頁(以下「平成29年大法廷判決」という。)は、前記定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないと判示した。 国会は、その後、合区による弊害や合区解消を強く望む意見を認識しつつ、同大法廷判決の趣旨を踏まえて平成27年改正後の選挙区割を踏襲し、 埼玉県選挙区の定数を2増加し、比例代表選出議員の選挙に特定枠の制度を導入する平成30年改正法により、較差の更なる是正を行い、最大較差は、平成27年国勢調査によれば1対2.99、令和元年選挙当時で1対3.00となった。これらの改正は、前記アのとおり国会において正当に考慮することができる政策目的・理由に基づき合理性を有するものである。 本件選挙は、平成30年改正後の本件選挙区割により行われたものであるところ、その最大較差は1対3.13、較差3倍以上となった選挙区は3つにとどまっており、平成30年改正による改善後は較差がほとんど拡大しておらず、平成27年改正より前の5倍前後の較差に戻る傾向は認められない。 (ウ) 参議院は、憲法上、3年ごとに議員の半数を改選するとされるため(4 - 6 -6条)、選挙区選出議員148名、改選対象74名(いずれも平成30年改正法による人数)を各選挙区に配分する必要があり、この定員の大幅な増加は事実上困難であるという技術的制約がある。また、合区を導入したことにより、 出議員148名、改選対象74名(いずれも平成30年改正法による人数)を各選挙区に配分する必要があり、この定員の大幅な増加は事実上困難であるという技術的制約がある。また、合区を導入したことにより、意見集約上の困難さや投票率の低下等、選挙権行使に対する心理的悪影響等の様々な問題が指摘されており、合区に対する反対意見が 強く存在する。このように、参議院の選挙制度の改革には困難を伴い、都道府県単位を基本とする選挙区を見直すことには、代表民主制の下で国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させる観点から慎重に検討すべき課題が依然として存在するといえ、国会が較差の是正のための検討等に時間を要したとしてもやむを得ないものといえる。このような状況下 において、国会は、平成27年改正及び平成30年改正を行い、その後も、参議院の各会派代表による参議院改革協議会等を設置して選挙制度改革等について議論を継続している。そして、令和4年選挙後も、令和3年設置の参議院改革協議会の報告書に従って、すぐに令和4年に参議院改革協議会を設置し、その下に設置された専門委員会が、16回にわたって選挙 制度の在り方等について調査検討を行い、現行の合区は解消すべきとの意見が大勢であるが、具体的な選挙制度の枠組みについては、都道府県単位の選挙区を維持すべきとの意見とブロック制を導入すべきとの意見に分かれる状況であることを報告し、同協議会は、その報告を受けた意見交換を2回行った。同協議会においては、なお意見の集約は困難な状況であっ たため、成案は得られなかったが、令和10年の通常選挙に向けて、本件選挙後、協議の場を速やかに設け、選挙制度改革の方向性を見いだすべく協議が引き継がれることを希望する旨の報告書を作成し、全ての会派が、本件選挙後にも選挙制度の改 、令和10年の通常選挙に向けて、本件選挙後、協議の場を速やかに設け、選挙制度改革の方向性を見いだすべく協議が引き継がれることを希望する旨の報告書を作成し、全ての会派が、本件選挙後にも選挙制度の改革に関する議論を継続することを表明し、複数の会派が令和10年の通常選挙に向けた制度改正を明示するなどして おり、国会の取り組みが不適切であるとはいえない。 - 7 -ウ前述のとおり、国会は、平成27年改正により投票価値の著しい不平等状態を解消し、平成30年改正によりこれをさらに改善させ、本件選挙時の最大較差は1対3.13倍と、平成27年改正より前の最大較差を大幅に下回り、最高裁大法廷判決により合憲と判断された令和元年選挙及び令和4年選挙における最大較差と大きく異なるものではなかったから、本件選挙当時、 投票価値の不均衡が違憲状態にあるとおよそ考え難い状況にあった。 したがって、仮に本件定数配分規定が違憲状態であったとしても、国会が違憲状態にあったことを認識し得た時期が開始していたとはいえないし、是正のための立法措置に必要となる手続等を考慮すれば、本件選挙までの期間内に本件定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権逸脱になると はいえない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実等(争いのない事実、顕著な事実及び後掲各証拠により認められる事実)(1) 参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は、参議院議員の選挙につい て、参議院議員の総定数250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し、全国選出議員については、全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方、地方選出議員については、その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め、都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとし 議員については、全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方、地方選出議員については、その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め、都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとした。そして、選挙区ごとの議員定数については、憲法が参議院議員に つき3年ごとにその半数を改選する旨定めていることに応じて、各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることとなるように配慮し、定数を偶数として最小2人を配分する方針の下に、昭和21年当時の人口に基づき、各選挙区の人口に比例する形で、2人ないし8人の偶数の議員定数を配分した。昭和25年に制定された公職選挙法の定数配分規定は、上記の参議院議員選挙法の議 員定数配分規定をそのまま引き継いだものであり、その後に沖縄県選挙区の議 - 8 -員定数2人が付加されたほかは、平成6年法律第47号による公職選挙法の改正(以下「平成6年改正」という。)まで、上記定数配分規定に変更はなかった。なお、昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正(以下「昭和57年改正」という。)により、参議院議員252人は各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに 選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになったが、この選挙区選出議員は、従来の地方選出議員の名称が変更されたものである。その後、平成12年法律118号による公職選挙法の改正(以下「平成12年改正」という。)により、参議院議員の総定数が242人とされ、比例代表選出議員96人及び選挙区選出議員146人とされた。(乙9、10) (2) 参議院議員選挙法制定当時、選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差(以下、各立法当時の「選挙区間の最大較差」というときは、この人口の最 議員146人とされた。(乙9、10) (2) 参議院議員選挙法制定当時、選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差(以下、各立法当時の「選挙区間の最大較差」というときは、この人口の最大較差をいう。)は2.62倍であったが、人口変動により次第に拡大を続け、平成4年に行われた通常選挙当時、選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差が6.59倍に達した後、平成6年改正における7選挙区の 定数を8増8減とする措置により、同2年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は4.81倍に縮小した。その後、平成12年改正における3選挙区の定数を6減とする措置及び平成18年法律第52号による公職選挙法の改正(以下「平成18年改正」という。)における4選挙区の定数を4増4減とする措置の前後を通じて、同7年から同19年までに行 われた各通常選挙当時の選挙区間の最大較差は5倍前後で推移した。(乙3、9、10)しかるところ、最高裁判所大法廷は、定数配分規定の合憲性に関し、平成4年に行われた通常選挙について、違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていた旨判示したが(最高裁平成6年(行ツ)第59号同8 年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁)、平成6年改正後の定 - 9 -数配分規定の下で行われた2回の通常選挙については、上記の不平等状態に至っていたとはいえない旨判示した(最高裁平成9年(行ツ)第104号同10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁、最高裁平成11年(行ツ)第241号同12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁)。その後、平成12年改正後の定数配分規定の下で行われた2回の通常選挙及び平成 18年改正後の定数配分規定の下で同19年に行わ )第241号同12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁)。その後、平成12年改正後の定数配分規定の下で行われた2回の通常選挙及び平成 18年改正後の定数配分規定の下で同19年に行われた通常選挙のいずれについても、最高裁判所大法廷は、結論において当該各定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨の判断を示した(最高裁平成15年(行ツ)第24号同16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁、最高裁平成17年(行ツ)第247号同18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2 696頁、最高裁平成20年(行ツ)第209号同21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁)。もっとも、上記最高裁平成18年10月4日大法廷判決においては、投票価値の平等の重要性を考慮すると投票価値の不平等の是正について国会における不断の努力が望まれる旨の、上記最高裁同21年9月30日大法廷判決においては、当時の較差が投票価値の平等という観 点からはなお大きな不平等が存する状態であって、最大較差の大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨の指摘がそれぞれされるなど、選挙区間の最大較差が5倍前後で常態化する中で、較差の状況について投票価値の平等という観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになっていた。 (3) 平成22年7月11日、選挙区間の最大較差が5.00倍の状況において行われた通常選挙につき、平成24年大法廷判決は、結論において同選挙当時の定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの、長年にわたる制度及び社会状況の変化として、①参議院議員の選挙制度と衆議院議員の選挙制度が同質的なものとなってきているとともに、急速に変化する社会 の情勢の下で、議員 はいえないとしたものの、長年にわたる制度及び社会状況の変化として、①参議院議員の選挙制度と衆議院議員の選挙制度が同質的なものとなってきているとともに、急速に変化する社会 の情勢の下で、議員の長い任期を背景に国政の運営における参議院の役割はこ - 10 -れまでにも増して大きくなってきていること、②衆議院については、投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として、選挙区間の人口の較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていること等を挙げた上で、参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難く、都道府県が政治的に一つのまとま りを有する単位として捉え得ること等の事情は数十年間にもわたり投票価値の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっており、都道府県間の人口較差の拡大が続き、総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で、都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の要求に応えていくことはもはや著しく困難な状況 に至っているなどとし、上記通常選挙当時の最大較差が示す投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった旨判示するとともに、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ、できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる上記の不平等状態を解消する 必要がある旨を指摘した。 (4) 平成24年大法廷判決の言渡し後、平成24年11月16日に公職選挙法の一部を改正する法律(同年法律第94号。以下「平成24年改正法」という。)が成立し、同月26日に施行された。同法は、選挙区選出 ) 平成24年大法廷判決の言渡し後、平成24年11月16日に公職選挙法の一部を改正する法律(同年法律第94号。以下「平成24年改正法」という。)が成立し、同月26日に施行された。同法は、選挙区選出議員について4選挙区で定数を4増4減とすることを内容とするものであった。(乙9、10、1 1の1)(5) 平成25年7月21日、平成24年改正法による改正後の定数配分規定の下での通常選挙(以下「平成25年選挙」という。)が行われた。同選挙当時の選挙区間の最大較差は4.77倍であった。(乙3)平成26年大法廷判決は、結論において平成25年選挙当時の定数配分規定 が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの、平成24年大法廷 - 11 -判決の判断に沿って、平成24年改正法による上記4増4減の措置は、都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり、現に選挙区間の最大較差については上記の改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたのであるから、同法による上記措置を経た後も、選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の 著しい不平等状態にあった旨判示するとともに、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ、できるだけ速やかに、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって上記の不平等状態が解消される必要がある旨を指摘した。 (6) 平成27年7月28日、平成27年改正法が成立し、同年11月5日に施行された。同法による平成27年改正の結果、平成22年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は2.97倍となった。平成27年改 日、平成27年改正法が成立し、同年11月5日に施行された。同法による平成27年改正の結果、平成22年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は2.97倍となった。平成27年改正法は、選挙区選出議員の選挙区及び定数について、鳥取県及び島根県、徳島県及び高知県をそれぞれ合区して定数2人の選挙区とするとともに、3選 挙区の定員を2人ずつ減員し、5選挙区の定数を2人ずつ増員することなどを内容とするものであり、その附則7条には、平成31年に行われる通常選挙に向けて、参議院の在り方を踏まえて、選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得るものとするとの規定が置かれていた。(乙3、11 の1、2)(7) 平成28年7月10日、平成27年改正後の定数配分規定の下での通常選挙(以下「平成28年選挙」という。)が行われた。同選挙当時の選挙区間の最大較差は3.08倍であった。(乙3)平成29年大法廷判決は、平成27年改正法につき、単に一部の選挙区の定 数を増減するにとどまらず、参議院創設以来初めての合区を行うことにより、 - 12 -長期間にわたり投票価値の大きな較差が継続する要因となっていた都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを見直すことをも内容とするものであり、これによって、数十年間にもわたり5倍前後で推移してきた選挙区間の最大較差は2.97倍(選挙当時は3.08倍)まで縮小するに至ったのであるから、平成24年大法廷判決等の趣旨に沿って較差の是正を図ったものと みることができるとし、また、その附則において、前記(6)のとおり規定され、今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示 決等の趣旨に沿って較差の是正を図ったものと みることができるとし、また、その附則において、前記(6)のとおり規定され、今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されるとともに、再び大きな較差を生じさせることのないよう配慮されているものということができるなどとして、平成28年選挙当時の定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著 しい不平等状態にあったものとはいえないとした。 (8) 平成28年選挙において、合区の対象となった4県のうち島根県を除く3県では、投票率が低下して当時における過去最低の投票率となったほか、無効投票率が全国平均を上回り、高知県での無効投票率は全国最高となった。なお、平成25年選挙においては、無効投票率が全国平均を上回っていたのは、上記 4県のうち高知県のみであった。(乙11の4ないし6)全国知事会は、平成28年7月29日、平成28年選挙において投票率の著しい低下など様々な弊害が顕在化したなどとして、合区の早急な解消を求める決議を行った。また、全国都道府県議会議長会や全国市長会等においても、合区の早急な解消に向けた決議等が行われた。(乙29、30の2ないし6、乙 31の1ないし6、乙32の1ないし3、乙33の1ないし5、乙34の3ないし6、乙35の2ないし4、乙36〔枝番を含む。〕、37の5、16、18ないし20、25ないし38、40、42ないし57、59、92ないし124)平成29年2月、参議院の各会派代表による参議院改革協議会が設置され、 同年4月、同協議会の下に参議院選挙制度改革について集中的に調査を行う - 13 -「選挙制度に関する専門委員会」が設けられた。同委員会は、参議院選挙制度改革に対する 議会が設置され、 同年4月、同協議会の下に参議院選挙制度改革について集中的に調査を行う - 13 -「選挙制度に関する専門委員会」が設けられた。同委員会は、参議院選挙制度改革に対する考え方について、一票の較差、選挙制度の枠組みとそれに基づく議員定数の在り方、選挙区の枠組み等について協議を行った上で、選挙区選出議員について、全ての都道府県から少なくとも1人の議員が選出される都道府県を単位とする選挙区とすること、一部合区を含む都道府県を単位とする選挙 区とすること、又は選挙区の単位を都道府県に代えてより広域のものとすることの各案について検討を行ったほか、選挙区選出議員及び比例代表選出議員の二本立てとしない場合を含めた選挙制度の在り方等についても議論を行った。 しかしながら、これらの議論を経た上で各会派から示された選挙制度改革の具体的な方向性についての意見の内容は、選挙区の単位、合区の存廃、議員定数 の増減等の点において大きな隔たりがある状況であった。(乙12ないし18〔乙17は枝番を含む。〕)平成30年6月、参議院改革協議会において、自由民主党から、選挙区の単位を都道府県とすること及び平成27年改正による4県2合区は維持した上で、選挙区選出議員の定数を2人増員して埼玉県選挙区に配分するとともに、 比例代表選出議員の定数を4人増員し、政党等が優先的に当選人となるべき候補者を定めることができる特定枠制度を導入するとの案が示された。その後、協議が行われるなどしたものの、各会派間の意見の隔たりがある状況であったため、各会派が参議院に法律案を提出し、参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会において議論が進められることとなり、上記の自由民主党 の提案内容に沿った法律案のほか、現在の選挙区選出議員の選挙及 が参議院に法律案を提出し、参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会において議論が進められることとなり、上記の自由民主党 の提案内容に沿った法律案のほか、現在の選挙区選出議員の選挙及び比例代表選出議員の選挙に代えてより広域の選挙区による選挙を導入することを内容とする法律案等が提出された。同年7月11日、上記特別委員会において、上記の自由民主党の提案内容に沿った公職選挙法の一部を改正する法律案が可決すべきものとされ、その際、「今後の参議院選挙制度改革については、憲法 の趣旨にのっとり、参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行うこと」 - 14 -との附帯決議がされた。(乙19〔枝番を含む。〕ないし23)平成30年7月18日、上記法律案通りの平成30年改正法が成立し、同年10月25日に施行された。平成30年改正の結果、平成27年10月実施の国勢調査結果による日本国民人口に基づく選挙区間の最大較差は2.99倍となった。(乙3) (9) 令和元年7月21日、本件定数配分規定の下での初めての通常選挙である令和元年選挙が行われた。同選挙当時の選挙区間の最大較差は3.00倍であった。(乙5の1)最高裁令和2年(行ツ)第78号同年11月18日大法廷判決・民集74巻8号2111頁(以下「令和2年大法廷判決」という。)は、立法府において は、今後も不断に人口変動が生ずることが見込まれる中で、較差の更なる是正を図るとともに、これを再び拡大させずに持続していくために必要となる方策等について議論し、取組を進めることが求められているところ、平成30年改正において、こうした取組が大きな進展を見せているとはいえないとしながらも、平成30年改正法につき、数十年間にわたって5倍前後で推移してきた最 大較差を3倍 求められているところ、平成30年改正において、こうした取組が大きな進展を見せているとはいえないとしながらも、平成30年改正法につき、数十年間にわたって5倍前後で推移してきた最 大較差を3倍程度まで縮小させた平成27年改正法における方向性を維持するよう配慮したものであるということができ、また、参議院選挙制度の改革に際しては、事柄の性質上、慎重な考慮を要することに鑑み、その実現は漸進的にならざるを得ない面があることからすると、立法府の検討過程において較差の是正を指向する姿勢が失われるに至ったと断ずることはできないなどとし て、令和元年選挙当時の本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえないとした。 (10) 令和元年選挙において、合区の対象となった徳島県での投票率は全国最低となり、鳥取県及び島根県の投票率もそれぞれ過去最低となった。また、合区 の対象となった4県での無効投票率はいずれも全国平均を上回り、徳島県では - 15 -全国最高となった。(乙5の2、3、乙40の9)令和元年選挙の後も、全国知事会等において、合区の解消を求める決議等が行われている(乙30の7ないし9、乙31の7ないし9、乙32の4ないし9、乙33の6ないし11、乙34の7ないし14、乙35の5ないし9、乙37の2、125ないし147)。 令和3年5月、参議院の各会派代表による参議院改革協議会が改めて設置され、参議院の組織及び運営の改革に関する検討項目の一つとして、較差の是正を含む選挙制度改革についての議論がされた。合区については、何らかの形で解消することを目指す意見が多かったものの、都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを維持するか、選挙区の単位 較差の是正を含む選挙制度改革についての議論がされた。合区については、何らかの形で解消することを目指す意見が多かったものの、都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを維持するか、選挙区の単位を都道府県に代えてより広域 のものとするか、議員の総定数を増やすか等の点について意見の隔たりがあり、最終的に、参議院選挙制度改革の具体的な方向性についての各会派の意見が一致するには至らなかった。令和4年5月及び同年6月に開かれた参議院憲法審査会における参議院選挙制度改革をめぐる議論の状況も、上記と同様であった。 (乙24、25〔枝番を含む。〕) (11) 令和4年7月10日、本件定数配分規定の下での2回目の通常選挙である令和4年選挙が行われた。同選挙当時の選挙区間の最大較差は、最小の福井県選挙区を1とすると、神奈川県選挙区の3.03倍であり、宮城県選挙区及び東京都選挙区においても較差が3倍を超えた(乙6の1)。 令和5年大法廷判決は、令和4年選挙までの間に、立法府に求められた較差 の更なる是正のための法改正の実現に向けた具体的な検討が進展しているとはいい難いとしながらも、平成27年改正により、数十年間にもわたり5倍前後で推移してきた最大較差を3倍程度まで縮小させ、その後令和4年選挙までの約7年間、4県2合区が維持され、最大較差は3倍程度で推移していて有意な拡大傾向にあるともいえない中、都道府県より広域の選挙区を設けるなどの 方策や、議員定数の見直しなどの方策について議論されてきたが、上記是正に - 16 -向けた取組みを進めていくには、更に議論を積み重ねる中で種々の方策の実効性や課題等を慎重に見極めつつ、広く国民の理解も得ていく必要があると考えられ、合理的な成案に達するにはなお一定の時間を要することが見込まれる を進めていくには、更に議論を積み重ねる中で種々の方策の実効性や課題等を慎重に見極めつつ、広く国民の理解も得ていく必要があると考えられ、合理的な成案に達するにはなお一定の時間を要することが見込まれる状況にあり、立法府が、参議院議員の選挙制度の改革に向けた議論を継続する中で、較差の拡大の防止等にも配慮して本件定数規定を維持したという経緯に鑑 みれば、具体的な方策を新たに講ずるに至らなかったことを考慮しても、令和4年選挙当時の本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえないとした。なお、令和5年大法廷判決は、較差の更なる是正を図ること等は喫緊の課題というべきであり、立法府で議論がされてきた種々の方策に課題や制約 があり、事柄の性質上慎重な考慮を要するにせよ、立法府においては、現行の選挙制度の仕組みの抜本的な見直しも含め、較差の更なる是正等の方策について具体的に検討したうえで、広く国民の理解も得られるような立法的措置を講じていくことが求められると付言した。 (12) 令和4年選挙において、合区の対象となった鳥取県での投票率は、令和元 年選挙時を更に下回って過去最低を更新し、また、徳島県での投票率は、令和元年選挙時より上昇したものの、なお全国最低であった。合区の対象となった4県での無効投票率は、いずれも全国平均を上回った。令和4年選挙の後も、全国知事会等において、合区の解消を求める決議等が行われている。(乙6の2、3、乙38〔枝番を含む。〕) 令和4年11月、参議院の各会派代表による参議院改革協議会が改めて設置され、参議院の組織及び運営の改革に関する検討項目の一つとして、較差の是正を含む選挙制度改革についての議論がされた。合区については、解消 年11月、参議院の各会派代表による参議院改革協議会が改めて設置され、参議院の組織及び運営の改革に関する検討項目の一つとして、較差の是正を含む選挙制度改革についての議論がされた。合区については、解消すべきとの意見が大勢であったものの、都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを維持すべきとの意見と、選挙区の単位を都道府県に代えてより広域の ものとすべきとの意見に分かれる状況であり、最終的に、参議院選挙制度改革 - 17 -の具体的な方向性についての各会派の意見が一致するには至らず、令和10年の通常選挙に向けて、本件選挙後に協議の場を速やかに設けて協議を継続することなどを切望するものとされた。令和4年12月から令和5年11月までに5回開かれた参議院憲法審査会における参議院選挙制度改革をめぐる議論の状況も、上記と同様であった。(乙26、27〔枝番を含む。〕) (13) 令和7年7月20日、本件定数配分規定の下での3回目の通常選挙である本件選挙が行われた。同選挙当時の選挙区間の最大較差は、最小の福井県選挙区を1とすると、神奈川県選挙区及び東京都選挙区の3.13倍であり、宮城県選挙区においても較差が3倍を超えた(乙1)。 令和4年選挙において、合区の対象となった4県の投票率は、いずれも令和 4年選挙時より上昇したものの、3県において全国平均を下回り、徳島県での投票率は全国最低であり、無効投票率は、3県において全国平均を上回り、徳島県での無効投票率は全国最高であった(乙2)。 2 判断の枠組み憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投 票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等を要求していると解される。 他方、憲法は、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選 換言すれば、議員の選出における各選挙人の投 票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等を要求していると解される。 他方、憲法は、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのような制度にするかの決定を国会の裁量に委ねているのであって、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連 において調和的に実現されるべきものである。それゆえ、国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り、それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても、憲法に違反するとはいえない。 憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設け ている趣旨は、それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって、国 - 18 -会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解される。前記1(1)の参議院議員の選挙制度の仕組みは、このような観点から、参議院議員について、全国選出議員(昭和57年改正後は比例代表選出議員)と地方選出議員(同改正後は選挙区選出議員)に分け、前者については全国(全都道府県)の区域を通じて選挙するものとし、後者については都道府県を各選挙区 の単位としたものである。昭和22年の参議院議員選挙法及び同25年の公職選挙法の制定当時において、このような選挙制度の仕組みを定めたことが、国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。しかしながら、社会的、経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果、上記の仕組みの下で投票価値の著しい不平等状態が生じ、かつ、そ れ 囲を超えるものであったということはできない。しかしながら、社会的、経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果、上記の仕組みの下で投票価値の著しい不平等状態が生じ、かつ、そ れが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが、国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には、当該定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。 以上は、最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁以降の参議院議員(地方選出議員ないし選挙区選出議員) 選挙に関する累次の最高裁大法廷判決の趣旨とするところであり、当裁判所も、基本的な判断枠組みとしてこれを採用することが相当であると判断する。これと異なり、国会が広範な立法裁量権を有すると解釈すべきではないとする原告の主張は、採用できない。 3 本件選挙当時、投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状 態(違憲状態)に至っていたか(1) 平成27年改正以降、それまで数十年間にわたって5倍前後で推移してきた選挙区間の最大較差は、平成28年選挙当時、3.08倍まで縮小し、平成30年改正後の令和元年選挙当時、3.00倍となったが、その後、定数配分規定の改正は行われず、選挙区間の最大較差は、令和4年選挙当時は3.03倍、 本件選挙当時は3.13倍となった。選挙権の憲法上の基本権としての重要性 - 19 -及びそこから導かれる投票価値の平等という憲法の要求からすれば、二院制に係る憲法の趣旨や、半数改選などの参議院の議員定数配分に当たり考慮を要する固有の要素を勘案しても、参議院議員選挙について直ちに投票価値の平等の要請が後退してもよいと解すべき理由は見いだし難く、上記のように選挙区間の最 数改選などの参議院の議員定数配分に当たり考慮を要する固有の要素を勘案しても、参議院議員選挙について直ちに投票価値の平等の要請が後退してもよいと解すべき理由は見いだし難く、上記のように選挙区間の最大較差が3倍程度という状況は、それだけで、国権の最高機関たる国会の 構成員が、全国民を代表する正当に選挙された議員(憲法前文、43条)といいうるかについて疑問を生じさせるものである。平成29年大法廷判決、令和2年大法廷判決及び令和5年大法廷判決が、各選挙当時の本件定数配分規定の下での投票価値の不均衡を違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえないとしたのは、三権分立の観点から、立法府の平成27年 改正及び平成30年改正等における投票価値の格差是正の方策を尊重するとともに、引き続き較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されたことや更なる較差是正のための合理的な成案に達するには一定の時間を要することなどを踏まえたものであって、選挙区間の最大較差が3倍程度という状況をもって較差が是正されたとしてこれを是認したものではない。したがっ て、立法府においては、今後も不断に人口変動が生ずることが見込まれる中で、上記3倍程度の較差の更なる是正を図るとともに、これを再び拡大させずに持続していくために必要となる方策等について議論し、取組を進めることが求められているというべきである。 (2) この点について、被告は、都道府県を単位とする選挙区割りをすることの合 理性や、半数改選などの参議院固有の要素を挙げ、これらを考慮することは国会よる裁量権の行使として合理性を有するものであると主張する。しかし、具体的な選挙制度の仕組みを決定するに当たり、一定の地域の住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味する ることは国会よる裁量権の行使として合理性を有するものであると主張する。しかし、具体的な選挙制度の仕組みを決定するに当たり、一定の地域の住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味する観点から、政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮 することや、参議院についての上記固有の要素を考慮すること自体に合理性が - 20 -あるとしても、これらを考慮することは、投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて許されるものである。そして、平成27年改正前には、総定数増加が困難であるなどの参議院固有の要素の下で、都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを採用していたことが要因となって、不断に生じる人口変動により選挙区間の最大較差が5倍前後となり、上記仕組みをしかるべき形で改 めることが求められていたところ、平成27年改正後も、4県2合区が導入されたほかは都道府県を各選挙区の基本的な単位とする仕組みが維持され、選挙区間の最大較差はなお3倍程度存在するのであるから、被告の主張する点を考慮しても、立法府は、較差の更なる是正を図るとともに、継続する人口変動によって較差が拡大しないよう取り組むことが求められているというべきであ る。 (3) そこで、前記(1)の観点から検討すると、平成27年改正法附則7条は、平成31年に行われる通常選挙に向けて、投票区間の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得るものとするとしたが、平成30年改正をみても較差の更なる是正等の取組が大きな 進展をみせたとはいえない状況にある。その後、令和3年に設置された参議院改革協議会等において、参議院議員の選挙制度の改革につき、各会派の間で一定の議論がされ 較差の更なる是正等の取組が大きな 進展をみせたとはいえない状況にある。その後、令和3年に設置された参議院改革協議会等において、参議院議員の選挙制度の改革につき、各会派の間で一定の議論がされたものの、較差の更なる是正のための法改正の見通しが立つに至っていないのはもとより、その実現に向けた具体的な検討が進展しているともいい難く、この状況は、上記是正に向けた取組を進めていくことが喫緊の課 題であると付言した令和5年大法廷判決後の参議院改革協議会等における議論を経ても変わっていない。一方、平成27年改正以降、人口の都市部への集中に伴い、令和元年選挙から本件選挙までの間、選挙区間の最大較差は同じ選挙区間で連続して拡大するとともに、選挙区間の最大較差が3倍以上となる選挙区は平成元年選挙当時の1選挙区から令和4年選挙及び本件選挙当時は3 選挙区に増加している。これらによれば、選挙区間の最大較差は緩やかながら - 21 -拡大傾向にあるといわざるを得ず、今後も本件定数配分規定を維持すれば、最大較差が更に拡大することが懸念される。このような状況の中で、平成27年改正以後本件選挙までに約10年が経過し、令和5年大法廷判決が上記是正に向けた取組を進めていくことが喫緊の課題であると付言した令和4年選挙からさらに3年が経過したが、その間の参議院での議論において具体的な検討が 進展しているとはいい難いことに照らすと、本件選挙当時の本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態(違憲状態)にあったと評価せざるを得ない。 (4) これに対し、被告は、合区に対する反対意見が強く存在するなど、都道府県単位を基本とする選挙区を見直すことには、代表民主制の下で国民の利害や意 見を公正 にあったと評価せざるを得ない。 (4) これに対し、被告は、合区に対する反対意見が強く存在するなど、都道府県単位を基本とする選挙区を見直すことには、代表民主制の下で国民の利害や意 見を公正かつ効果的に国政に反映させる観点から慎重に検討すべき課題が依然として存在するから、国会が較差の是正のための検討等に時間を要したとしてもやむを得ないものといえること、国会は、平成27年改正及び平成30年改正を行い、その後も、参議院改革協議会等を設置して選挙制度改革等について議論を継続しており、今後も議論の継続が見込まれることなどから、国会の 取り組みが不適切であるとはいえないと主張する。 しかし、合区に対する反対意見が存在することは、立法府の是正等の取組により成案に達するまで一定の期間が必要であることを基礎付ける事情であるものの、客観的にみれば、平成28年選挙以後、継続的に存在する事情であって、立法府においては、平成27年改正後の約10年間にわたって、当該意見 を含めて議論を積み重ねる中で、種々の方策の実効性や課題等を慎重に見極めつつ広く国民の理解も得ていくべきであったことを考慮すると、前記(3)の判断を左右するに足りるものとはいえない。また、立法府における議論において具体的な検討が進展しているとはいい難いことは前記(3)のとおりであって、議論を実施したこと自体や、今後の実施予定に照らしても、客観的にみれば、 立法府における較差の是正等の取組により合理的期間内に成案に達する見通 - 22 -しは立っていないものといわざるを得ず、被告の主張は採用できない。 4 本件選挙までの期間内に当該違憲状態の是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるか(1) 憲法秩序の下における司法権と立法権との関係に照らすと、選挙区間に 被告の主張は採用できない。 4 本件選挙までの期間内に当該違憲状態の是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるか(1) 憲法秩序の下における司法権と立法権との関係に照らすと、選挙区間における投票価値の不均衡が違憲状態に至っている場合に、当該選挙までの期間内に その是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かを判断するに当たっては、単に期間の長短のみならず、是正のために採るべき措置の内容、そのために検討を要する事項、実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して、国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものであったといえ るか否かという観点に立って評価すべきものと解される(最高裁平成25年(行ツ)第209号、第210号、第211号同年11月20日大法廷判決・民集67巻8号1503頁、平成26年大法廷判決参照)。 (2) そこで、本件において、本件選挙までに違憲状態の是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かについて検討する。 平成27年改正後の定数配分規定について、平成29年大法廷判決、令和2年大法廷判決及び令和5年大法廷判決は、いずれも、結論として、各選挙当時の選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲状態にあったとはいえないと判断したものである。これらの判決を踏まえると、国会において、本件選挙までの間に、本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が、違 憲状態にあったと認識することは困難であったというべきである。また、平成27年改正後、合区の対象となった4県の選挙区における投票率や無効票の割合に照らすと、有権者において、都道府県ごとに地域の実情に通じた国会議員を選出するとの考えが あったというべきである。また、平成27年改正後、合区の対象となった4県の選挙区における投票率や無効票の割合に照らすと、有権者において、都道府県ごとに地域の実情に通じた国会議員を選出するとの考えがなお強いことがうかがわれ、また、参議院改革協議会等においても、選挙区の単位として都道府県を維持するか、都道府県に代えてよ り広域のものとするか、議員の総定数を増やすか等の点について各会派間に意 - 23 -見の隔たりがあることなどから、上記違憲状態を解消するためには、都道府県より広域の選挙区を設けるなどの方策や、議員定数の見直しなどの方策について更に議論を積み重ねる中で種々の方策の実効性や課題等を慎重に見極めつつ、広く国民の理解も得ていく必要があり、このような高度に政治的な判断や多くの課題の検討を経て改正の方向性や制度設計の方針を策定し、具体的な改 正案の立案と法改正の手続と作業を了することは、前述のような国会の認識からして実現の困難な事柄であったものといわざるを得ない。 これらの事情の下では、上記各大法廷判決が、その理由中で、立法府において、今後も不断に人口変動が生ずることが見込まれる中で、較差の更なる是正を図るとともに、これを再び拡大させずに持続していくために必要となる方策 等について議論し、取組を進めることが求められていると説示したことや、令和5年大法廷判決が、較差の更なる是正を図ること等は喫緊の課題であると付言したことを踏まえても、本件選挙が行われる前に本件定数配分規定の改正がなされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとまではいえない。 (3) これに対し、原告は、令和5年大法廷判決の説示にもかかわらず、国会が本 件定数配分規定を改正せず、選挙区間の最大較差を拡大させたとして、本件選挙は直ちに違憲 るものとまではいえない。 (3) これに対し、原告は、令和5年大法廷判決の説示にもかかわらず、国会が本 件定数配分規定を改正せず、選挙区間の最大較差を拡大させたとして、本件選挙は直ちに違憲と判断すべき旨主張するが、令和5年大法廷判決が、結論としては本件定数配分規定が違憲状態にないとしたことなどの前記(2)に説示した事情に照らし、原告の主張は採用できない。 5 結論 以上によれば、本件選挙当時、投票価値の不均衡は違憲状態にあったといえるが、その是正をしなかったことが国会の裁量の限界を超えるとはいえないから、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいうことはできない。よって、原告の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 仙台高等裁判所秋田支部 - 24 - 裁判長裁判官小川直人 裁判官村木洋二 裁判官児島章朋 - 25 -
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