- 1 -平成27年(う)第1521号強盗殺人(認定窃盗),傷害,窃盗,覚せい剤取締法違反被告事件平成28年8月10日東京高等裁判所第5刑事部 主文 原判決を破棄する。 本件を千葉地方裁判所に差し戻す。 理由 検察官の控訴趣意は,本件各公訴事実中の強盗殺人の公訴事実についての訴訟手続の法令違反及び事実誤認の主張であり,弁護人高橋俊彦の答弁は,原審の訴訟手続に法令違反はなく,判決に影響を及ぼす事実誤認もないというものである(以下,略称等は,特に断らない限り,原判決のそれと同様である。)。 1 強盗殺人の公訴事実本件各公訴事実中強盗殺人の公訴事実の要旨は,被告人が,普通乗用自動車を窃取しようと考え,A及びBと共謀の上,平成25年2月22日午前6時54分頃,千葉県乙市内の月極駐車場において,同所に駐車していたC(当時31歳)所有の普通乗用自動車(時価約65万6000円相当)を窃取し,運転走行した際,これを発見して同車の前方に立ちふさがった同人に対し,同車を取り返されることを防ぐとともに,逮捕を免れるため,殺意をもって,同車を前進させて同人に衝突させて同人をボンネット上に乗り上げさせ,さらに,同車にしがみついていた同人を転落させるため,その頃,約55メートルを走行する間に,時速約11キロメートルから時速約40キロメートルまで急加速した後,急制動して急減速し,前記Cをボンネット上から同車前方の路上に放出する暴行を加えてその後頭部等を路面に衝突させ,よって,▲月▲▲日午前1時頃,甲病院において,同人を頸髄損傷により死亡させて殺害したが,その際,A及びBは,窃盗の犯意を有するにとどまっていた,というものである。 - 2 - 2 事案の概要と原審における争点(1) 本件強盗殺人の事案の 人を頸髄損傷により死亡させて殺害したが,その際,A及びBは,窃盗の犯意を有するにとどまっていた,というものである。 - 2 - 2 事案の概要と原審における争点(1) 本件強盗殺人の事案の概要被告人及びAは,Bから本件車両の情報を得て,これを盗むことを企て,同人と共謀の上,自動車(帯同車両)を運転して現場に赴き,付近でBと合流し,3名のうち2名が帯同車両の運転席と助手席で待機し,1名が駐車中の本件車両に乗り込み,そのエンジンを始動させ,運転して現場を離れようとした際,これを発見し,阻止しようとした本件車両の所有者であるCを死亡させるという事件が発生した。 被告人は,本件強盗殺人の被疑事実による勾留中は黙秘を続けたが,起訴から2か月余りが経過した平成26年3月18日,自ら申し出て検察官の任意の取調べを受け,殺意を否認しつつ,被告人が本件車両を運転していたことを認める供述(以下「本件自白」という。)を行ったものの,原審公判期日では否認に転じ,本件自白は虚偽であったとの供述をした。 (2) 原審における争点本件車両の運転者は被告人であったとする前記公訴事実に対し,原審弁護人は,被告人の原審公判供述に基づき,その運転者はAであり,被告人は帯同車両の助手席に乗車していたにすぎないから,強盗殺人の刑責を負わない旨の主張をした。 3 原判決の概要原判決は,被告人が本件車両を運転していたということが常識的にみて間違いないと認められるほどの証明はされていない,として被告人には窃盗罪の共同正犯(原判示第3)が成立するにとどまる旨の判断をし,その他の窃盗2件(同第1,2),覚せい剤取締法違反1件(同第4)及び傷害1件(同第5)との併合罪として,被告人を懲役6年に処した(検察官の求刑は無期懲役)。 すなわち,原判決は,被告人が本件 ,その他の窃盗2件(同第1,2),覚せい剤取締法違反1件(同第4)及び傷害1件(同第5)との併合罪として,被告人を懲役6年に処した(検察官の求刑は無期懲役)。 すなわち,原判決は,被告人が本件車両を運転していたことを裏付ける客観的証拠はなく,現場にいたA及びB並びに後に同人らから本件の話を聞いたDの各- 3 -供述は,いずれも本件車両を運転していたのが被告人であるという点で合致しているものの,B及びDについては,Aからの働き掛けを受けて虚偽供述をしている可能性を否定しきれず,Aについては,本件車両を運転していたのが同人である場合,自己の犯罪を被告人に押し付けるために虚偽の供述をする十分な動機がある上,自己の刑責が重くならないよう被告人に働き掛けをしており,その供述態度は真摯なものとは認めがたく,供述内容に不自然な点が認められ,被告人が本件車両を運転していたのでなければ説明できないような内容は含まれておらず,A自身が本件車両の運転席から見た光景をあたかも帯同車両の助手席から見ていたように供述したとしても不自然とはいえない,などとして,いずれもその内容どおり信用することはできないとした。 また,本件車両を運転していたのはAである旨の被告人の原審公判供述は,格別不自然なものではなく,弁護士を通じて差し入れられた2通の手紙(原審弁5,6号証)によるAからの圧力等で,一旦は虚偽の自白をしたものの,その後,同人に裏切られたと気付き供述を変更することとした,などとする被告人の供述の変遷に対する説明は,全面的に信用できないとするようなものではなく,被告人の自白の内容は帯同車両の助手席から見た光景をあたかも本件車両の運転席から見たように話せば足りる内容であり,被告人が犯人でなければ供述し得ないような内容を含むものではないとした。 4 訴訟手続 告人の自白の内容は帯同車両の助手席から見た光景をあたかも本件車両の運転席から見たように話せば足りる内容であり,被告人が犯人でなければ供述し得ないような内容を含むものではないとした。 4 訴訟手続の法令違反の主張について(1) 所論は,被告人が本件自白をした取調べの録音録画記録媒体(以下「本件記録媒体」という。)の取調べ請求を却下した原裁判所の判断には,証拠の採否に関する裁量を逸脱した法令違反があるという。 すなわち,所論は,被告人が本件車両の運転者であったことに関する客観的な証拠がない本件では,証拠構造上,本件自白は犯人性立証の柱の一つであるが,その内容は被告人の原審公判供述のみでは明らかになったとはいえず,本件記録媒体に係る録音・録画状況等報告書謄本(原審乙19号証)を取り調べて被告人- 4 -の供述態度も併せて確認することにより本件自白の信用性を容易に判断することができるから,その取調べ請求を却下した原裁判所は,必要性の判断を誤り,証拠の採否に関する裁量を逸脱したものであり,本件記録媒体を取り調べたならば,被告人が本件車両を運転していたことを優に認定できたはずであるから,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである,というのである。 これに対し,弁護人は,原審検察官は本件自白が犯人性立証の柱の一つであると主張していなかった上,本件自白の内容そのものは被告人質問で原審公判に顕出されていて,本件記録媒体の取調べにより重ねて顕出する必要はなかったものであるから,原審検察官は,本件自白の内容そのものよりも,むしろ被告人の取調べ中の供述態度を明らかにすることによって,その信用性を基礎付けようとすることに重点を置いていたと理解されるが,供述態度による信用性判断は困難であって,供述時の外見的徴表を重視すべきではなく,しかも,被告人は, 度を明らかにすることによって,その信用性を基礎付けようとすることに重点を置いていたと理解されるが,供述態度による信用性判断は困難であって,供述時の外見的徴表を重視すべきではなく,しかも,被告人は,あえて意識して虚偽を述べたということであるから,被告人の供述態度を見て信用性を判断するのは容易ではないのであって,本件記録媒体を証拠として採用する必要性も低く,その取調べ請求を却下した原裁判所は裁量を逸脱したものではないという。 (2) 当裁判所は,本件事案の下で,実質証拠として請求された本件記録媒体について,取調べの必要性がないとして請求を却下した原裁判所の判断は,証拠の採否に関する裁判所の合理的な裁量を逸脱したものとは認められないと判断した。 以下,その理由を説明する。 (3) 原審記録及び検察官作成の求釈明に対する回答書(平成28年7月1日付け)によれば,本件記録媒体の取調べ請求の却下に至る経過は,以下のようなものであったと認められる。 ア原審検察官は,平成26年1月24日付け証明予定事実記載書において,本件犯行状況に関する証明予定事実を主張し,証拠として,現場の状況等に関す- 5 -る客観的な証拠のほか,B及びDの各検察官調書を援用した。 原審弁護人は,同年6月16日付け予定主張記載書2で,本件車両の運転者が被告人であることを認める主張をした。 原審検察官は,同年8月21日,立証趣旨を「犯行状況(一部弁解状況)等」として,本件自白の内容を録取した被告人の検察官に対する供述調書(原審乙18号証。以下「本件供述調書」という。)の取調べを請求した。 イ原審弁護人は,平成26年11月25日付け予定主張記載書(3)により,前記予定主張記載書2に記載された主張を撤回し,被告人は,本件車両の運転者ではない旨の主張をした。 原審検察 を請求した。 イ原審弁護人は,平成26年11月25日付け予定主張記載書(3)により,前記予定主張記載書2に記載された主張を撤回し,被告人は,本件車両の運転者ではない旨の主張をした。 原審検察官は,同年12月1日の第6回公判前整理手続期日において,犯人性に関する追加の証明予定は今のところ提出しない見込みであると述べた。 原審弁護人は,同月8日付け証拠意見書3において,本件供述調書の取調べに不同意とし,その任意性及び信用性を争うと主張した。 原審検察官は,平成27年4月16日,立証趣旨を「被告人が犯人であること等」として,本件記録媒体の取調べを請求した。 原審弁護人は,同年5月19日の第11回公判前整理手続期日において,本件供述調書の任意性は争わないとする意見に改め,併せて,本件記録媒体につき,不同意,必要性なしとの意見を述べた。 原裁判所は,同年6月15日,本件供述調書及び本件記録媒体の採否を留保した状態で公判前整理手続を終了させた。 ウ原審検察官は,平成27年6月29日の原審第7回公判期日において,罪体に関する被告人質問の終了後に,刑訴法322条1項に基づき「3月18日に被告人が供述した内容そのものを実質証拠として,かつ,その供述態度をみてもらうことにより,その供述の信用性を判断してもらうため」として,本件記録媒体の取調べを請求した。 原裁判所は,必要性がないとする原審弁護人の意見を聴いた上,上記請求を却- 6 -下した(以下「本件証拠決定」という。)。 原審検察官は,本件証拠決定に異議を申し立てたが,原裁判所は,異議には理由がないとする原審弁護人の意見を聴いた上,同申立てを棄却した。 これを受け,原審検察官は,本件供述調書の取調べ請求を撤回した。 (4) 本件証拠決定の理由は,要旨,次のとおりである。 ア 3月18 がないとする原審弁護人の意見を聴いた上,同申立てを棄却した。 これを受け,原審検察官は,本件供述調書の取調べ請求を撤回した。 (4) 本件証拠決定の理由は,要旨,次のとおりである。 ア 3月18日の被告人の供述内容は,被告人の公判廷での供述から明らかになっている。 イ被告人が強盗殺人の犯人であるかどうかは,共犯者あるいは関係者の供述が検察官の立証の大きな柱になっており,それらがどこまで信用できるかという点が大きなポイントであり,自白の信用性が根本的な結論をもたらすのではない。 ウ被告人が真実を話したか,虚偽を真実であるかのように話したかを,その供述態度だけを見て判断するのは容易ではない。 (5) 以上を踏まえ,本件証拠決定が,証拠の採否に関する裁判所の合理的な裁量を逸脱したものと認められるかどうか検討する。 ア本件証拠決定の理由のうち前記(4)アの点について検討する。 犯行時における本件車両の運転者が被告人であったと認められるかどうかという点に関する証拠関係をみると,現場に所在したA及びBは被告人が運転者であったと供述し,これに沿うDの供述がある一方,被告人は,運転者はAであったと原審公判で供述するもので,本件車両の運転者に関する客観的な証拠は見当たらない。 原審検察官は,A,B及びDの各証人尋問等を経た後の原審第7回公判期日の被告人質問において,本件自白の内容について質問している。その際,原審検察官の質問に対し,被告人が黙秘権を行使して供述を拒み,あるいは本件自白の存在や内容につき否認したことはなく,本件自白に関する原審検察官の発問に原審弁護人から異議が述べられ,あるいはその質問が原裁判所により制限されたこと- 7 -もなく,本件自白の概要は,原審公判に顕出されている。 このように,原審において,原審検察官が被告人 の発問に原審弁護人から異議が述べられ,あるいはその質問が原裁判所により制限されたこと- 7 -もなく,本件自白の概要は,原審公判に顕出されている。 このように,原審において,原審検察官が被告人質問によって本件自白の内容を公判に顕出する上で特に障害があったと認めるべき事情はなく,被告人質問の結果,実際に本件自白の概要が明らかになっていることに照らせば,本件証拠決定の理由のうち,「3月18日の被告人の供述内容は,被告人の公判廷での供述から明らかになっている」とする点は,合理的と認められる。 ちなみに,刑訴法上,供述証拠については,公判期日における供述によるのを原則とすることから(刑訴法320条1項),とりわけ裁判員の参加する刑事裁判の審理において,被告事件に関する被告人の供述は,捜査段階で述べた内容を含め,被告人質問によって公判に顕出するのが通例となっている。そして,被告人質問の実施後,公判前整理手続で請求された被告人の供述調書等は,検察官において撤回するか,あるいは裁判所により却下される例が多い。 本件では,前記のとおり,被告人質問の実施後,原審検察官は,本件記録媒体の取調べを求めたが,原裁判所により却下され,次いで,本件供述調書の取調べ請求を撤回したものである。 イ次に,本件証拠決定の理由のうち前記(4)イの点について検討する。 原審記録によれば,原審検察官は,被告人が本件車両の運転者であったことを立証するための証拠として,証明予定事実記載書においてはB及びDの各供述を,冒頭陳述においては証人B及び同Aの各供述をそれぞれ援用しているが,本件自白についてはいずれにおいても援用していない。これは,原審検察官においても,被告人の犯人性の立証について共犯者等の供述を重視していたことを示すものと認められる。少なくとも,上記冒頭陳述を受 ,本件自白についてはいずれにおいても援用していない。これは,原審検察官においても,被告人の犯人性の立証について共犯者等の供述を重視していたことを示すものと認められる。少なくとも,上記冒頭陳述を受け,証拠調べに臨んだ原審の裁判体は,裁判員を含め,被告人の犯人性を判断する上では,共犯者の供述の信用性を検討することが重要であるとの認識であったはずである。 したがって,「被告人が強盗殺人の犯人であるかどうかは,共犯者あるいは関係者の供述が検察官の立証の大きな柱になっており,それらがどこまで信用でき- 8 -るかという点が大きなポイントであり,自白の信用性が根本的な結論をもたらすのではない」とする本件証拠決定の理由には,本件の審理経過とりわけ原審検察官の冒頭陳述における主張に照らし,合理性が認められる。ちなみに,「証拠構造上,本件自白は犯人性立証の柱の一つである」との検察官の主張は,控訴趣意書において初めて現れたものである。 なお,一般的に考えても,信用性に争いのある自白供述とそれ以外の証拠がある場合,自白供述の存在が心証に及ぼす影響の強さや虚偽自白の危険性を考慮し,また,裁判が自白に過度に依存したものとなれば,自白の獲得に向けた不適切な取調べを助長するなどの弊害もあるから,裁判所として,自白供述以外の証拠による事実認定に留意し,自白供述に過度に依存しない判断を心掛けることは,合理的な裁量によるものということができる。そのような観点に照らしても,前記理由には,合理性が認められる。 ウさらに,本件証拠決定の理由のうち前記(4)ウの点について検討すると,被告人は,原審において,Aの手紙による指示を受け,利害得失を考えて自分の判断で虚偽の自白をした旨の供述をしており,検察官の誘導や圧迫等により虚偽の自白を余儀なくされたなどと主張するわけでは ると,被告人は,原審において,Aの手紙による指示を受け,利害得失を考えて自分の判断で虚偽の自白をした旨の供述をしており,検察官の誘導や圧迫等により虚偽の自白を余儀なくされたなどと主張するわけではない。しかも,被告人が本件の現場にいたことに争いはなく,後に原判決で判示されたように,被告人が本件車両の運転者でなかったとしても,犯行状況を具体的に説明できる可能性は否定できない状況があった。 そうすると,仮に,被告人が,本件自白をした際に,すらすらと具体的に犯行状況等について供述していたとしても,そのことを理由に信用性を肯定することには慎重である必要があったといえる。本件記録媒体で被告人の供述態度を見て,本件自白の信用性を判断するとすれば,原裁判所としては,被告人が虚偽の自白をした理由として説明する内容を念頭に置きながら,上記のような本件の特徴を踏まえつつ検討することになるが,それは容易ではないものと考えられる。 したがって,被告人が真実を話したか,虚偽を真実であるかのように話したか- 9 -を,本件記録媒体で再生される被告人の供述態度だけを見て判断するのは容易ではない,とする本件証拠決定の理由には合理性が認められる。 これに対し,所論は,供述の信用性判断は,供述内容の具体性・迫真性・合理性・自然性や供述態度等を総合して判断されるものであり,公判廷における証人尋問や被告人質問も,供述者の供述内容や供述態度から真実を話しているのかどうかを判断しているのであるから,録音録画記録媒体に記録された供述の信用性判断との間に差異はなく,原審公判における被告人の供述態度と本件記録媒体に記録された被告人の供述態度を比較することも重要であり,そもそも裁判員が法廷で行う供述の信用性判断は,日常生活で行っている供述の信用性判断と変わらず,供述内容とともに供述 の供述態度と本件記録媒体に記録された被告人の供述態度を比較することも重要であり,そもそも裁判員が法廷で行う供述の信用性判断は,日常生活で行っている供述の信用性判断と変わらず,供述内容とともに供述態度も重要な情報なのであるから,裁判員裁判である本件審理において,前記(4)ウのような理由で,本件記録媒体の取調べの必要性を否定した原裁判所の判断は不合理であるという。 しかし,内心が表情や言動に現れる態様や程度には個人差があり,初対面の人物の個性を直ちに識別することは通常困難であるから,公判廷における供述であっても,裁判所が,供述者の表情等から内心を判断することが容易であるとはいえない。そして,供述態度の評価に重きを置いた信用性の判断は,直感的で主観的なものとなる危険性があり,そのような判断は客観的な検証を困難とするものといえるから,供述の信用性判断において,供述態度の評価が果たすべき役割は,他の信用性の判断指標に比べ,補充的な位置付けとなると考えられる。 しかも,本件で問題となるのは捜査機関の管理下で行われた取調べにおける被告人の供述であるから,供述態度による信用性の判断は更に困難と考えられる。 すなわち,公判廷における被告人質問は,法廷という公開の場で,裁判体の面前において,弁護人も同席する中で,交互質問という手順を踏んで行われるもので,証人尋問の場合と同様に,裁判体は,被告人の供述態度を単に受け身で見るものではなく,必要に応じ,随時,自ら問いを発して答えを得ることもできる。 供述証拠について公判期日における供述によるのを原則とするのは,以上のよう- 10 -な条件が公判廷における供述には備わっているからであると考えられるし,そのような環境で,裁判体の面前で行われる供述であるからこそ,供述内容に加え,供述態度が信用性の判断指標となってい - 10 -な条件が公判廷における供述には備わっているからであると考えられるし,そのような環境で,裁判体の面前で行われる供述であるからこそ,供述内容に加え,供述態度が信用性の判断指標となっているものといえる。ところが,捜査機関の管理下において,弁護人の同席もない環境で行われる被疑者等の取調べでは,以上のような条件は備わっていないのであり,その際の供述態度を受動的に見ることにより,直観的で主観的な判断に陥る危険性は,公判供述の場合より大きなものがあると思われる。 さらに,身柄を拘束された被疑者等が自己に不利益な供述をする場合,その動機としては様々なものが想定されるが,取調べ中の供述態度から識別することができる事情には限りがある。それにもかかわらず,取調べ中の供述態度を見ることが裁判体に強い印象を残すことも考えられ,その場合には,信用性の慎重な評価に不適切な影響を及ぼすこととなる可能性も否定できないと思われる。 したがって,公判廷における被告人質問(あるいは証人尋問)の際に,供述内容とともに供述態度を見て信用性を判断するからといって,前提が根本的に異なる捜査機関の管理下での取調べについて,その際の供述態度を見て信用性を判断することの必要性,相当性が当然に導かれるものではないし,前提が基本的に異なる公判供述と取調べにおける供述について,供述態度を比較してそれぞれの信用性を判断すべきものともいえない。このことは,裁判員の参加する手続であると否とで異ならないというべきであり,所論は,本件証拠決定の合理性を何ら左右するものではない。 エ所論は,本件自白のように核心部分について客観的証拠の裏付けがない自白の信用性を判断するには,これを記録した本件記録媒体を精査することが極めて重要で,これは正に直接主義の要請するところであるともいう。 し 本件自白のように核心部分について客観的証拠の裏付けがない自白の信用性を判断するには,これを記録した本件記録媒体を精査することが極めて重要で,これは正に直接主義の要請するところであるともいう。 しかし,核心部分に客観的な裏付けがない自白供述であれば,そのことを前提として信用性を検討すべきであり,客観的な裏付けがないことを,取調べ時の供述態度から受ける印象で補おうとすれば,信用性の判断を誤る危険性があるもの- 11 -と考えられる。また,直接主義とは,判断者である裁判体の面前で証人尋問や被告人質問を行うことをいうものであって,取調べの結果として作成される供述調書や,供述調書が作成された取調べの録音録画記録媒体は,直接主義の例外として,証拠とすることの許容性が問題となるものにすぎない。所論は,直接主義の意味を正解しないものであって,失当である。 オ所論は,原裁判所が,Aらの証人尋問を行い,それらの供述には十分な信用性が認められないとの心証を抱き,さらに,被告人質問を終えて,強盗殺人の犯人性を否定する被告人の公判供述を排斥できない可能性があると判断したのであれば,立証責任を負う検察官が,強盗殺人の犯人性を立証し得る手元に残された証拠として,本件記録媒体の取調べを請求したのであるから,真実発見の見地から,これを採用すべき法令上の義務が生じることは明らかであり,これを却下した本件証拠決定には,刑罰法令を適正に適用実現すべき刑訴法の基本原則に違背し,証拠採用に関する合理的な裁量の範囲を逸脱した点で,訴訟手続に関する法令違反があるという。 しかし,裁判員の参加する手続においては,実際に評議を行うまでは裁判体としての心証はいずれとも決し難く,裁判体としての一定の心証を前提として証拠の採否を決定することは困難なのであり,かといって,裁判体の一部に 判員の参加する手続においては,実際に評議を行うまでは裁判体としての心証はいずれとも決し難く,裁判体としての一定の心証を前提として証拠の採否を決定することは困難なのであり,かといって,裁判体の一部に過ぎない構成裁判官のみの心証を前提に証拠の採否を決することが相当ともいえないから,所論のいうような前提は成り立たない。 また,この点は一応措くとしても,証拠の採否は裁判所の合理的な裁量によるのであるから,裁量権の濫用となるような極端な場合でなければ,検察官の請求証拠を却下した裁判所の措置が,証拠採用に関する法令上の義務の違反となることはないというべきである。 本件事案においては,公訴提起後にたまたま被告人からの申し出により本件自白が得られ,本件記録媒体と本件供述調書が作成されてはいるが,そもそも,本件強盗殺人の容疑で勾留され取調べを受けていた間,被告人は黙秘を続けていた- 12 -のであるから,公訴提起を決めた検察官においては,共犯者の供述等で強盗殺人の立証が可能と判断していたはずである。原審検察官の証明予定事実記載書及び冒頭陳述における主張においても,そのことは明らかであり,原審検察官は,公判前整理手続の途中から強盗殺人の犯人性が争われることとなり,主張変更の理由等につき原審弁護人から具体的な主張がされて以降も,Bに加えてAの証人尋問を請求することとしたものの,両名の供述やそれに沿うDの供述に基づいて被告人の犯人性を立証する方針であったもので,被告人の犯人性に関して新たな証明予定事実記載書を提出することもなかった。また,原審公判においても,原審検察官は,冒頭陳述で被告人の犯人性を立証するための証拠として証人B及び同Aの各供述を援用したが,本件自白を援用することはなく,共犯者等の証人尋問及び被告人質問を経た後に,本件記録媒体の証拠調べ請 検察官は,冒頭陳述で被告人の犯人性を立証するための証拠として証人B及び同Aの各供述を援用したが,本件自白を援用することはなく,共犯者等の証人尋問及び被告人質問を経た後に,本件記録媒体の証拠調べ請求が却下されると,直ちに,本件供述調書の請求を撤回しているのである。このような経過からすれば,本件強盗殺人について起訴不起訴を決定する段階から,公判前整理手続,公判審理の各段階を通じて,原審の検察官において,被告人の犯人性の立証に当たり,本件自白を真に重要なものと位置付けていたということには疑問がある。原審検察官の主張,立証活動を具体的にみれば,本件事案において,原裁判所に,本件記録媒体を採用すべき法令上の義務が生ずるものと考える余地はなく,本件証拠決定が,合理的な裁量を逸脱したものともいえず,その旨をいう前記所論は,本件の公訴提起から公判審理に至るまでの経緯や本件事案の実態とおよそ整合しないものである。 カ以上のとおり,本件では,原裁判所に本件記録媒体を採用すべき法令上の義務は認められず,被告人質問により本件自白の存在及びその概要が立証されている中で,原裁判所が,さらに本件記録媒体により本件自白の内容を詳細に調べることや同記録媒体で再現される被告人の供述態度を見て供述の信用性を判断することの必要性,相当性は認め難いが,それらの点に加え,原審検察官が,取調べ状況の録音録画記録媒体を実質証拠として用いようとしたこと自体についても- 13 -考慮すべき点がある。 すなわち,刑訴法は,起訴前の勾留期間を10日間と定め,やむを得ない事由があると認める場合に,検察官の請求により,その期間を最大10日間延長することができるとしており,その間,被疑者に対する取調べが重ねられるのが我が国の捜査の特徴である。我が国では,そのような取調べの結果を要約した 場合に,検察官の請求により,その期間を最大10日間延長することができるとしており,その間,被疑者に対する取調べが重ねられるのが我が国の捜査の特徴である。我が国では,そのような取調べの結果を要約した供述録取書が作成され,刑訴法322条1項の書面として裁判で活用されてきたもので,そのことによって,捜査段階における供述の要点を公判に顕出することを可能としてきたものといえる。ただし,近時の裁判実務では,捜査段階における供述内容も被告人質問で公判に顕出するのが標準的になってきていることは既に判示したとおりである。 また,さきに成立した刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成28年法律第54号。以下「改正法」という。)は,裁判員の参加する裁判の対象となる事件等について,捜査機関に被疑者の取調べ状況の録音録画記録媒体を作成することを義務付けているが,それは,前記のような被疑者の取調べの実務の中で,被疑者に対する強制や圧迫等が生ずる弊害を防止するために導入されたものであることは,公知の事実であり,改正法の規定の構造からしても明らかである。すなわち,改正法では,刑訴法322条1項に基づき請求する書面の任意性に争いがあるときに,当該書面が作成された取調べの録音録画記録媒体の取調べを請求することが検察官に義務付けられている。 ところが,所論のように,改正法で定められた録音録画記録媒体の利用方法を超えて,供述内容とともに供述態度を見て信用性の判断ができるというような理由から,取調べ状況の録音録画記録媒体を実質証拠として一般的に用いた場合には,取調べ中の供述態度を見て信用性評価を行うことの困難性や危険性の問題を別としても,我が国の被疑者の取調べ制度やその運用の実情を前提とする限り,公判審理手続が,捜査機関の管理下において行われた長時間にわたる被疑者の取調べ て信用性評価を行うことの困難性や危険性の問題を別としても,我が国の被疑者の取調べ制度やその運用の実情を前提とする限り,公判審理手続が,捜査機関の管理下において行われた長時間にわたる被疑者の取調べを,記録媒体の再生により視聴し,その適否を審査する手続と化すという懸- 14 -念があり,そのような,直接主義の原則から大きく逸脱し,捜査から独立した手続とはいい難い審理の仕組みを,適正な公判審理手続ということには疑問がある。また,取調べ中の被疑者の供述態度を見て信用性を判断するために,証拠調べ手続において,記録媒体の視聴に多大な時間と労力を費やすとすれば,客観的な証拠その他の本来重視されるべき証拠の取調べと対比して,審理の在り方が,量的,質的にバランスを失したものとなる可能性も否定できず,改正法の背景にある社会的な要請,すなわち取調べや供述調書に過度に依存した捜査・公判から脱却すべきであるとの要請にもそぐわないように思われる。 したがって,被疑者の取調べ状況に関する録音録画記録媒体を実質証拠として用いることの許容性や仮にこれを許容するとした場合の条件等については,適正な公判審理手続の在り方を見据えながら,慎重に検討する必要があるものと考えられる。なお,本件記録媒体は,起訴後における被告人の取調べに係るものであるが,直接主義の原則,公判手続の捜査からの独立性,取調べに対する過度の依存の回避などの点において本質的に異なるものではないし,その取扱いが被疑者の取調べの録音録画記録媒体の取扱いにも波及し得ることに照らせば,被疑者の取調べに準じて考えるのが相当である。 キ結局,原審検察官が,証明予定事実記載書及び冒頭陳述で,争点である被告人の犯人性を共犯者及び関係者の供述により立証すると主張している本件事案において,上記共犯者等の証人尋問を経た後 当である。 キ結局,原審検察官が,証明予定事実記載書及び冒頭陳述で,争点である被告人の犯人性を共犯者及び関係者の供述により立証すると主張している本件事案において,上記共犯者等の証人尋問を経た後に,上記争点につき立証する趣旨で原審検察官から実質証拠として請求された被告人の自白を内容とする本件記録媒体について,これを原裁判所が採用すべき法令上の義務は認められず,その自白の概要が被告人質問により明らかになっていること,争点については共犯者等の供述の信用性が決め手であること,本件記録媒体で再生される被告人の供述態度を見て供述の信用性を判断するのが容易とはいえないことを指摘して,取調べの必要性がないとして請求を却下した本件証拠決定には合理性があり,取調べ状況の録音録画記録媒体を実質証拠として用いることには慎重な検討が必要であるこ- 15 -とに照らしても,本件証拠決定が,証拠の採否における裁判所の合理的な裁量を逸脱したものとは認められず,これに反する所論は採用することができない。 訴訟手続の法令違反をいう論旨は理由がない。 5 事実誤認の主張について(1) 原判決は,前記3のとおり,被告人が本件車両を運転していたと供述するA,B及びDの各証言の信用性には疑問が残るとし,本件車両を運転していたのはAである旨の被告人の原審公判供述は全面的に信用できないとするようなものではないとしたが,その判断に当たり,Aから被告人に対し,弁護士を介して手渡された2通の手紙(原審弁5,6号証。以下,それぞれを「弁5の手紙」,「弁6の手紙」といい,これらをまとめて「本件A書簡」ということがある。)の中に記載された「乙の件,再逮捕の件は,全てX主導で行なった事件であり,私,Aが『実はXの言いなりである。』という旨の供述をすること」との文言に関し,自己の刑責が 本件A書簡」ということがある。)の中に記載された「乙の件,再逮捕の件は,全てX主導で行なった事件であり,私,Aが『実はXの言いなりである。』という旨の供述をすること」との文言に関し,自己の刑責が重くならないよう,被告人に働き掛ける文言であると指摘するとともに,上記文言を含む手紙の趣旨につき,本件車両を運転していたのは被告人であることを確定させろというAからの指示であると受け取った旨の被告人の原審公判供述は,明らかにおかしいと言い切れるものではないなどと説示した。 これに対し,検察官は,控訴趣意書において,原判決は,本件A書簡の趣旨の解釈を誤ったために,A,B及びDの各証言の信用性判断を誤ったほか,被告人の原審公判供述の信用性判断をも誤り,明らかに不合理な事実認定をしたもので,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があると主張し,当審弁論において,当審における事実取調べの結果を踏まえれば,原判決の事実認定が不合理であることは一層明らかであるという。 一方,弁護人は,答弁書において,原判決の判断については,本件A書簡の被告人の理解に関する部分にも,A,B及びDの各証言の信用性判断にも,さらには,被告人の原審公判供述の信用性判断にも,何ら論理則・経験則違反はなく,- 16 -被告人が本件車両を運転していたとの証明はなされていないとした原判決の事実認定に誤りはないと主張し,当審弁論において,当審における事実取調べの結果を踏まえると,原判決の事実認定には何ら論理則・経験則違反はないことが一層明らかになったという。 (2) 当裁判所は,本件に関する捜査・公判等の手続経緯等と本件A書簡が作成,発出された時期,内容を照らし合わせて検討し,さらに,本件A書簡に対する返信として作成,発出された被告人の手紙(当審検10,11号証)等を当審におい する捜査・公判等の手続経緯等と本件A書簡が作成,発出された時期,内容を照らし合わせて検討し,さらに,本件A書簡に対する返信として作成,発出された被告人の手紙(当審検10,11号証)等を当審において取り調べた結果によれば,本件A書簡の趣旨やこれに対する被告人の認識に関する原判決の認定には明らかな事実誤認があるといわざるを得ず,Aからの働き掛けによりB及びDが虚偽供述をし,Aが自己の犯罪を被告人に押し付けた可能性をいう点も,上記手続経緯や本件A書簡の内容と矛盾する明らかに不合理な認定であって,これらの誤りを是正すれば,B及びAの各供述並びにこれに沿うDの供述には高い信用性が認められ,これらによれば,本件車両を運転していたのは被告人であるとの事実が優に認められ,これに反する被告人の原審公判供述は信用することができず,上記認定を左右しないものと判断した。 以下,その理由を説明する。 (3) A・被告人間の手紙によるやり取りについてア捜査・公判等の手続経緯等原審関係証拠によれば,本件A書簡が作成された前後における本件に関する捜査・公判等の手続経緯並びにその間の被告人及び共犯者等の供述状況等について,以下の事実が認められる。 (ア) 平成25年11月19日,別件で逮捕・勾留されていたBは,検察官に対し,被告人及びAと共に本件に関与したことや,その際,本件車両を運転したのは被告人であることを供述した。 (イ) 同年12月8日,本件について,被告人が強盗殺人の被疑事実で,A及びBが窃盗の被疑事実でそれぞれ勾留され,同月9日,Dが,本件車両の運搬に- 17 -ついて,盗品等運搬の被疑事実で勾留された。 (ウ) 同月27日,被告人,A,B及びDは,それぞれ上記(イ)の各被疑事実と同一罪名で起訴された。 (エ) 被告人及びAは,本件につ に- 17 -ついて,盗品等運搬の被疑事実で勾留された。 (ウ) 同月27日,被告人,A,B及びDは,それぞれ上記(イ)の各被疑事実と同一罪名で起訴された。 (エ) 被告人及びAは,本件について,逮捕から起訴に至るまで黙秘を続け,いずれも供述調書が作成されることはなかった。 (オ) 平成26年2月13日,Aは,自身の第1回公判期日において,本件に関する窃盗の公訴事実を認めた。 Aは,自身の公判において,本件車両の運転者は被告人である旨供述しつつ,主犯格と認定されることを回避すべく,報酬の分配等について事実と異なる供述をした。 (カ) 同月14日,被告人及びAは,それぞれ別件自動車窃盗(原判示第1,第2)等の各被疑事実で勾留され,同年3月5日,それぞれ各被疑事実と同一罪名で起訴された。 上記各被疑事実に関する取調べにおいて,被告人は,事実を認め,同年2月28日付けで自白調書が作成された。なお,被告人は,取調べにおいて,Aをかばうべく,自動車を盗み出す実行行為は自分がしたものであり,Aは盗みに行くことすら知らなかったなどと供述した。 (キ) 被告人は,上記別件自動車窃盗の事実を認めてからも,本件に関する供述はしていなかったが,同年3月18日,自ら検察官に申し出て,本件につき任意の取調べを受け,本件自白をし,本件供述調書が作成された。 (ク) 同年5月29日,Aは,千葉地方裁判所において,本件を含む複数の事実について有罪と認定され,懲役5年に処せられた。 なお,Aは,その後,同判決に控訴を申し立てたが,同年9月4日,控訴は棄却され,同判決がそのまま確定した。 (ケ) 一方,被告人の関係では,原審弁護人は,同年5月9日の第1回公判前整理手続期日において,本件についての認否を留保し,同年6月18日,本件車- 18 -両の運転 判決がそのまま確定した。 (ケ) 一方,被告人の関係では,原審弁護人は,同年5月9日の第1回公判前整理手続期日において,本件についての認否を留保し,同年6月18日,本件車- 18 -両の運転者が被告人であったことは認め,殺意を否認する旨の予定主張記載書面を提出したが,同年11月25日,この予定主張を撤回し,被告人は本件車両を運転していないとする新たな予定主張記載書面を提出した。 イ A・被告人間での手紙のやり取りの経緯,順序等本件A書簡は,その記載内容や作成日付に照らし,Aが自身の第1回公判期日を終え(前記ア(オ)),別件自動車窃盗等の事実について逮捕・勾留されて(同(カ))間もない平成26年2月中旬頃から同月下旬頃に作成され,その頃,弁護士を通じて,被告人が受け取ったものと認められる。そして,原審関係証拠及び当審における事実取調べの結果によれば,被告人は,本件A書簡のうち,まず,弁5の手紙に対する返信として当審検10号証(以下「検10の手紙」という。)を作成し,その作成後に受領した弁6の手紙に対する返信として当審検11号証(以下「検11の手紙」という。)を作成し,それぞれ弁護士を介して,Aに送付したことが認められる。 ウ各手紙の趣旨と被告人の理解の状況等(ア) 弁5の手紙及びその返信である検10の手紙について弁5の手紙には「乙の件,再逮捕の件は,全てX主導で行なった事件であり,私,Aが『実はXの言いなりである』という旨の供述をすること。※Xはどうしても長期刑を避けられないので,せめて私が少しでも早く出て,サポートに回れるように,という合理的な判断をしてほしい」「乙の件に関しては,Bの供述の中に“秘密の暴露”が有り,“Dの供述”もあるので,私も公判では認めざるを得ませんでした。なので,Xも無期だけは避けられるよう“不 うに,という合理的な判断をしてほしい」「乙の件に関しては,Bの供述の中に“秘密の暴露”が有り,“Dの供述”もあるので,私も公判では認めざるを得ませんでした。なので,Xも無期だけは避けられるよう“不運な事故”であるという主張を公判ではしてほしい」との記載がある。 その趣旨について,その作成者であるAは,原審証人尋問において,本件車両を運転していた被告人は長期刑を避けられないとの前提に立ちつつ,被告人に対し,一連の自動車窃盗の首謀者としての責任をかぶるよう働き掛ける趣旨である旨説明しているところ,その説明は,上記文面に沿うものである上,作成当時の- 19 -手続状況等にもよく符合する自然な内容である。 すなわち,弁5の手紙は,前記のとおり,Aが自身の第1回公判期日を終え(前記ア(オ)),別件自動車窃盗等の事実について逮捕・勾留されて(同(カ))間もない時期に作成されたものであって,「乙の件」「再逮捕の件」とあるのは,それぞれ,乙市内で敢行した本件と上記別件自動車窃盗を指すものと認められる。これを前提とすれば,「乙の件に関しては(中略)私も公判では認めざるを得ませんでした」との記載は,Aが,本件について,捜査段階では黙秘を貫きつつ,自身の第1回公判期日において窃盗の公訴事実を認めた経緯(同(エ),(オ))に完全に符合するといえる上,「乙の件」に関し,「Xも無期だけは避けられるよう“不運な事故”であるという主張を公判ではしてほしい」との記載は,被告人が,本件につき,強盗殺人の罪名で既に起訴されている状況の下,少なくとも強盗致死の刑責は免れないとの前提で,無期懲役だけは回避できるよう,公判で殺意を否認することを勧める趣旨と理解することができる。 また,Aは,弁5の手紙を作成した当時,本件車両の窃盗について起訴され,自身の第1回公判において 前提で,無期懲役だけは回避できるよう,公判で殺意を否認することを勧める趣旨と理解することができる。 また,Aは,弁5の手紙を作成した当時,本件車両の窃盗について起訴され,自身の第1回公判において公訴事実を認めており,さらに別件自動車窃盗の容疑で勾留されていて,中心的な関心事は,量刑を左右するであろう一連の自動車窃盗事件の追起訴見込みや,それらにおける立場,役割であったと考えられる。そのような状況の下,本件車両の窃盗や未だ捜査中である別件自動車窃盗事件について,被告人に首謀者としての責任をかぶるよう働き掛けるのは,Aの立場として不自然なことではないし,現に,Aは,自身の公判で,本件車両の窃盗について,主犯格と認定されることを回避すべく,事実に反して,被告人に報酬を渡した旨供述するなどしていたともいうのであって(同(オ)),「X主導で行なった」云々という記載に関するAの説明は,A自身の公判における供述内容等によっても裏付けられている。また,以上の状況を踏まえれば,当時のAが,被告人に対し,自己の身代わりとして,本件車両の運転者であると供述するように要求する必要性や動機を想定することは困難というべきである。 - 20 -次に,弁5の手紙の返信として作成された検10の手紙の記載をみると,「主犯は俺であり,Aの話も断れるとずい分前から俺は言ってます。なので少し事実は置いといて(中略)主犯は私で自分は使われていただけと主張して下さい」との記載は,その内容に照らし,前記弁5の手紙の「X主導で行なった」云々に対応するものと認められるところ,その前後の文脈をも併せ考慮すれば,一連の自動車窃盗事件について自分が主犯であると以前から供述していることを意味するものと認めるのが相当である。現に,被告人は,検10の手紙を作成したのとほぼ同時期に,前記ア(カ をも併せ考慮すれば,一連の自動車窃盗事件について自分が主犯であると以前から供述していることを意味するものと認めるのが相当である。現に,被告人は,検10の手紙を作成したのとほぼ同時期に,前記ア(カ)のとおり,勾留中であった別件自動車窃盗の事実を認め,その際,Aをかばうような供述をしていたのであって,上記認定は,このような被告人の供述経過とも符合する。また,同じく検10の手紙中に「一番長期刑を免ぬがれない私」とあるのは,Aが,弁5の手紙で「Xはどうしても長期刑を避けられないので」などと記載したことを受け,被告人自身も,本件の関係で,共犯者の中で最も長い刑を避けられないと認識していることを端的に表現したものと理解することができる。 (イ) 弁6の手紙及びその返信である検11の手紙について弁6の手紙は,弁5の手紙の作成後,間もなく作成されたものである上,その冒頭に「先日の手紙についてお前の考えを聞かせろよ」と記載されていることからしても,被告人からの返信である検10の手紙をAが受領する前に,弁5の手紙による提案についての被告人の意見を求めるために作成されたものであることが明らかである。 そして,弁6の手紙中の「乙のa の件も,Bの“秘密の暴露”に加えて,Dの野郎まで何か証言してやがる(内容は確認中)だからどの道,勝ち目は無えな・・・。Xも公判では徹底して殺意を否認して,何とか有期になるよう,話した方が賢明だな」「今回,こうなった以上は,もうXを悪者にして,俺だけでも早く出れる方向にした方が賢こい選択だろ・・・?俺が変な男気出して,無駄に長く務めたって,誰も得しないよ。そんなら,俺が早く出て,Xに早いとこエロ本で- 21 -も送った方がいいだろ?切り替えるしかねえよ」とある記載は,それぞれ弁5の手紙中の記載と,表現ぶりや内容において近 めたって,誰も得しないよ。そんなら,俺が早く出て,Xに早いとこエロ本で- 21 -も送った方がいいだろ?切り替えるしかねえよ」とある記載は,それぞれ弁5の手紙中の記載と,表現ぶりや内容において近似しており,その記載内容については,文脈や前記(ア)に認定したところに即して理解すべきものと考えられる。そうすると,弁6の手紙中の上記各記載は,乙市内でa を盗んだ本件については,Bの秘密の暴露に加え,Dも供述しており,有罪を免れることは難しいとの見通しを示しつつ,被告人が本件について長期の刑となることは免れないとの前提に立って,本件車両の運転そのものは認めた上で,徹底的に殺意を否認して何とか有期懲役になるようにしたほうが賢明であるとアドバイスするとともに,そのような状況になった以上は,一連の自動車窃盗の首謀者としての責任は被告人にかぶってもらい,Aだけでも早期に刑期を終えて社会復帰し,被告人のサポートに回れるようにした方が賢明ではないかと提案するもので,弁5の手紙で行った働き掛けを再度繰り返したものと理解することができる。A自身,弁6の手紙の記載の趣旨について,これに沿う説明をしているし,上記のような理解は,前記(ア)で指摘したのと同様,弁6の手紙の作成当時の状況等にもよく符合するところである。 次に,弁6の手紙の返信として被告人が作成した検11の手紙の記載中の「私は言われた条件をきちんとやりました」「A先輩は俺が男義出して長いこと行っても誰も得はしないと言いますが(中略)それで私が1年か2年か分かりませんが長く行く分にはどうでもいいと言う事ですか?」との記載は,その内容や表現ぶりから,弁5の手紙の「合理的な判断をしてほしい」及び弁6の手紙の「俺が変な男気出して,無駄に長く務めたって,誰も得しないよ」との各記載等を受けたものであることが か?」との記載は,その内容や表現ぶりから,弁5の手紙の「合理的な判断をしてほしい」及び弁6の手紙の「俺が変な男気出して,無駄に長く務めたって,誰も得しないよ」との各記載等を受けたものであることが明らかである。そして,その文面を素直に読むと,被告人が,自分としてはAからの指示をきちんと果たしたことを伝える一方,そのことで自分が一,二年長く服役することになってもどうでもよいのかと不満を漏らしたものと理解することができる。そして,上記「言われた条件」の具体的な内容については,検11の手紙の作成時期には,前記別件自動車窃盗事件について,- 22 -被告人が事実を認め,Aをかばうような供述をする一方(前記ア(カ)),本件については,未だ本件自白をする前で,供述をしていない状況にあったこと(同(キ))等の事情に照らせば,一連の自動車窃盗における首謀者としての責任をかぶることを意味すると認められる。また,被告人は,本件による逮捕当時から,強盗殺人罪の法定刑を知っており,その罪名で有罪になれば無期懲役は免れないと考えていたというのであって,強盗殺人の犯人の身代わりであれば,刑期が一,二年長くなる程度では到底済まないことは十分理解していたと考えられるから,「それで私が1年か2年か分かりませんが長く行く分にはどうでもいいと言う事ですか?」との記載も,上記認定を補強するものである。 また,検11の手紙中の「それと近日中に任意での検事調べに行きます。最初の弁護方進(ママ)は自供してようとしなかろうが公判で話せば最悪致死には下げれるとの見通しで,その前に一応犯人性も争ってみるつもりでしたが共犯者のうち2人が喋ってしまった今となっては犯人性を争うのは厳しいので自供し情状をよくしようとの方進に変わりました(中略)一番のキーマンであったA先輩には喋らないで下さ も争ってみるつもりでしたが共犯者のうち2人が喋ってしまった今となっては犯人性を争うのは厳しいので自供し情状をよくしようとの方進に変わりました(中略)一番のキーマンであったA先輩には喋らないで下さいと再三お願いしていました。けどそれも叶わぬ今となっては何か1つでも得るものを得てではないと自供も出来ませんので共犯者等の接禁を取れる限り取ってやる事を第一条件に申し出ています」との記載については,本件に関し,当初,犯人性を争うつもりだったが,一番のキーマンであったAを含む共犯者2人が既に供述してしまった今となっては,犯人性を争うのは厳しいので,本件車両を運転していたことは自供して,情状を良くしようとの方針に変えたことを告げる趣旨と理解することができ,それ以外の趣旨に理解することは困難である。 (ウ) 本件A書簡の趣旨と被告人の理解以上の検討によれば,Aが,本件A書簡を作成,送付したのは,被告人に対し,本件車両の運転者として身代わりをするよう働き掛けるためではなく,一連の自動車窃盗について首謀者としての責任をかぶるよう働き掛けるためであった- 23 -ことは明らかである。 また,本件A書簡が作成された当時の状況や背景事情をも併せ考慮すれば,被告人への働き掛けに関する記載は,それ自体,趣旨が明瞭なものであり,被告人に誤解を生じさせるようなものではなかったといえる上,被告人の返信である2通の手紙(検10,11の各手紙)の記載からすれば,実際に,被告人が,本件A書簡の趣旨をAの意図どおりに理解し,これに応答していたことが明らかである。特に,検11の手紙中における本件自白をするに至った理由に関する記載は,当時の現状認識を踏まえ,被告人自らが,その利害得失を判断し,自発的かつ積極的な選択として,あえて本件について,起訴後に任意の取調べを申し出て 手紙中における本件自白をするに至った理由に関する記載は,当時の現状認識を踏まえ,被告人自らが,その利害得失を判断し,自発的かつ積極的な選択として,あえて本件について,起訴後に任意の取調べを申し出て本件自白をすることとした趣旨が明示されており,Aから本件車両の運転者として身代わりを求められたことも,被告人がそのような認識をしたことも,およそなかったことを如実に表わしているというべきである。 エ弁護人の主張について(ア) 当審における手紙等の採用決定について弁護人は,当審で新たに採用した検10,11号証の各証拠については,そもそも,公判前整理手続の終了前ないし第一審の弁論終結前に取調べを請求することができなかった「やむを得ない事由」が存在せず,しかも,取調べの必要もないから,これらを採用した証拠決定には,刑訴法316条の32第2項,393条1項,320条,憲法31条の解釈適用を誤った違法がある旨主張する。なお,弁護人は,上記各証拠のほか,当審において新たに採用した検13,14,29,30,31及び39の各号証に共通するものとして,上記主張をしているので,これらの証拠も併せて検討することとする(以下,当審で採用した証拠の全体を「当審証拠」という。)。 当審証拠は,いずれも,Aが所持し,原判決後に検察官に任意提出した被告人作成の手紙や,弁護士を介してこれを受領した際の封筒や送付文書であるところ,当裁判所は,以下の理由から,公判前整理手続の終了前ないし第一審の弁論- 24 -終結前に取調べ請求をすることができなかった「やむを得ない事由」があり,かつ,取調べの必要性があるものと判断した。 すなわち,一件記録によれば,原審検察官は,公判前整理手続の段階において,原審弁護人から原審弁5,6号証が請求,開示され,その内容を把握した後 あり,かつ,取調べの必要性があるものと判断した。 すなわち,一件記録によれば,原審検察官は,公判前整理手続の段階において,原審弁護人から原審弁5,6号証が請求,開示され,その内容を把握した後,受刑中であったAと面会し,本件A書簡以外にも,被告人とAとの間で,弁護士を介して,多数の手紙のやり取りがされていることを把握し,また,Aの証人尋問の直前には,Aに面談して,その保管する手紙のうちの一部を短時間で一覧することを許されていたことが認められる。 しかし,Aが保管する手紙は,弁護士を通じて授受されたもので,任意に提出することをAが拒んでおり,接見交通権に対する配慮という点でも,重要証人であるAの証人尋問を有効に実現する上でも,Aの意思に反して差押えにより強制的にこれらを押収する手段を選択することには支障があったもので,原判決後になって,その内容を知ったAから,初めて任意提出が得られるに至ったものであることが認められる。 以上のような証拠内容に関する検察官の認識の程度,証拠の所在,強制的に押収する手段を選択するとした場合の障害等を考慮すると,検察官において,公判前整理手続の終了前ないし第一審の弁論終結前に当審証拠の取調べ請求をすることができなかったことには「やむを得ない事由」があると認めるのが相当である。 また,検察官は,控訴趣意書において,原判決が本件A書簡の趣旨の解釈を誤ったために,A及びBらの各証言の信用性判断を誤ったほか,被告人の原審公判供述の信用性判断を誤ったなどと主張するところ,その当否を判断する上で,本件A書簡への返信として被告人が作成した手紙等の内容やその送信時期等を特定する資料は高度の関連性を有し,重要といえるから,当審証拠には,いずれも取調べの必要性が認められる。 以上の次第で,弁護人の主張は採用することが 被告人が作成した手紙等の内容やその送信時期等を特定する資料は高度の関連性を有し,重要といえるから,当審証拠には,いずれも取調べの必要性が認められる。 以上の次第で,弁護人の主張は採用することができない。 - 25 -(イ) 手紙の趣旨,被告人の理解についてまた,弁護人は,本件A書簡及び検10,11の各手紙を含め,被告人とAとの間のやり取りは,両者の身柄拘束中に行われたものであって,被告人及びAは,いずれも留置担当者の目に触れる可能性を認識した上で,これら手紙を作成したものと考えられるから,作成者の真意や受け手側の理解を推測するためには,表面的な文面を検討するだけでは足りないと主張し,被告人も,Aと手紙のやり取りをする際には,検察官を含む第三者の目に入る可能性も考えつつ,真実と異なる記載をしたこともある旨供述している。 確かに,本件A書簡及び検10,11の各手紙がやり取りされた状況に照らせば,それらの手紙の中に,表面的な字義とは異なる,あるいは,それにとどまらないメッセージが隠されていたり,そうでなくとも,受け手側において字義とは異なる解釈をしたりする可能性があること自体は否定し得ない。しかし,弁護士を介したやり取りであることからか,これらの手紙の中には,互いの把握した捜査状況に関する記載や,捜査対象の事件に関する通謀・口裏合わせであることが明らかな記載等が少なからず含まれており,その内容が捜査機関に発覚することを特に懸念することなく記載されていたことがうかがわれる。また,被告人自身,被告人とAとの間で,身柄拘束される前に,手紙でのやり取りを想定して,2人だけの間で通じる比喩や暗号をあらかじめ決めておいたこともない旨自認している。そうである以上,仮に,手紙の作成者が比喩や暗号を用い,かつ,そのことに受け手が気付いたとしても, り取りを想定して,2人だけの間で通じる比喩や暗号をあらかじめ決めておいたこともない旨自認している。そうである以上,仮に,手紙の作成者が比喩や暗号を用い,かつ,そのことに受け手が気付いたとしても,受け手の解釈が作成者の意図と一致している保証はなく,受け手としては,再度,作成者にその意図を確認するはずであるが,本件A書簡及び検10,11の各手紙のやり取りの中では,そのような意図を確認するための記載は見当たらない。 むしろ,本件A書簡及び検10,11の各手紙のやり取りについては,前記ウのとおり,記載された文面を,字義どおり,素直に読んで理解できるように記載され,かつ,相手方においても,字義どおりに理解していたものと認めるのが相- 26 -当であり,上記弁護人の主張は,前記認定を左右するものではない。 (4) B,D及びAの各原審証言についてア B,D及びAの各供述の経緯まず,Bの供述の経緯等をみると,同人は,前記(3)ア(ア)のとおり,平成25年11月19日,被告人及びAと共に本件に関与したことや,その際,本件車両を運転したのは被告人であることを供述し,以降,自身の公判や原審公判においても一貫して同趣旨の供述をしていることが認められる。これに対し,Aは,Bが本件への関与を認めた後である同年12月8日に本件の容疑で勾留され,同月27日に窃盗の罪名で起訴されたが,その間,本件について黙秘を続け,平成26年2月13日,自身の第1回公判期日で初めて本件への関与を認める供述をしたものである(同(イ)ないし(オ))。 以上の供述経緯に加え,Aが,上記期日後間もなく作成した弁5の手紙中に,本件に関し,Bが「秘密の暴露」を含む供述をし,Dも供述をしたため,自身も公判で認めざるを得なくなったとの経緯を被告人に説明していることからすれば,Aは,本 記期日後間もなく作成した弁5の手紙中に,本件に関し,Bが「秘密の暴露」を含む供述をし,Dも供述をしたため,自身も公判で認めざるを得なくなったとの経緯を被告人に説明していることからすれば,Aは,本件の捜査段階においては,あわよくば,本件の責任そのものを逃れたいと考えていたが,BとDが供述していることを知り,有罪は免れないと考えたことから,自身の公判において本件への関与を認める供述をするに至ったものと合理的に推認することができる。 ところで,本件から間もない時期に,A,被告人及びBの間で,架空の外国人が本件車両を運転していたことにする旨の口裏合わせ工作が行われていたことは,これら3名が一致して供述するところである。Bはそれを反故にして前記供述をしており,Aは,弁5の手紙中において,Bを本件に関与させたことを自分の人選ミスとして被告人に謝罪するとともに,Bに対する報復をほのめかすような記載をしており,弁6の手紙中にも,「Dの野郎まで何か証言してやがる(内容は確認中)」と記載していることからすれば,BやDが本件について供述したことは,Aにとって,想定外の,腹立たしい裏切り行為であったことは明らかで- 27 -ある。 以上のような各人の供述経緯や本件につき供述したB及びDに対するAの反応等に照らせば,B及びDの原審公判における各証言やこれに先立つ同趣旨の供述が,Aの働き掛けによるものと考えることはできない。B及びDは,それぞれ自身の認識,判断に基づいて,本件につき供述し,証言したものと認められる。 また,Aにおいても,前記(3)ウ(ウ)で説示したとおり,被告人に対し,一連の自動車窃盗の首謀者としての責任をかぶるように働き掛けたことはあったものの,本件車両の運転者として身代わりになるように働き掛けたような事実はなく,むしろ,被告人が本件車 とおり,被告人に対し,一連の自動車窃盗の首謀者としての責任をかぶるように働き掛けたことはあったものの,本件車両の運転者として身代わりになるように働き掛けたような事実はなく,むしろ,被告人が本件車両の運転者であることを前提に,本件A書簡及び検10,11の各手紙を含むやり取りをしていたものと認められる。Aの原審における証言中には,なるほど,具体的な目撃内容等について不自然な点も見受けられ,全面的に信用することができるとまではいえないとしても,本件車両を被告人が運転していたとする点については,自己の犯罪を被告人に押し付けるために虚偽の供述をした疑いはなく,自己の認識のままに供述したものと認められる。 イ被告人による自認被告人は,平成26年7月17日頃にAに宛てて作成した手紙(検29号証)に,「俺が車を取った後に人が出て来て飛び乗って来たわけです。なので云うなれば命を捨ててまで車を守りたかったのかとC氏を非難するべきだと思うのですがね。」「私は何としても殺意を取り致死に下げ15年以内で帰ります。」などと記載している。 この記載は,内容そのものに照らし,被告人が本件車両を運転していたことや,その行為について少なくとも強盗致死罪が成立し得ることを自認するものであることは明らかである。そして,既に判示したとおり,Aは,平成26年5月に本件を含む罪により懲役5年の判決を受け,その後,控訴を申し立ててはいたが,上記手紙の作成の時点では,もはや本件について強盗殺人罪に問われる現実的な可能性は想定されない状況にあったから,Aに対する手紙で,被告人が運転- 28 -者であったとする内容虚偽の記載をする必要はなかったものと認められる。 検10の手紙中の「一番長期刑を免ぬがれない私」との記載をはじめ,検10や11の各手紙には,被告人が,本件車両を運 28 -者であったとする内容虚偽の記載をする必要はなかったものと認められる。 検10の手紙中の「一番長期刑を免ぬがれない私」との記載をはじめ,検10や11の各手紙には,被告人が,本件車両を運転していたのは自分であり,長期刑を避けられないとの認識を有していたことを示す記載が認められることは既に指摘したとおりであり,このように被告人は,Aとのやり取りの中で,自分が本件車両を運転していたことを自認する記載を繰り返し行っていたものである。 ウ B,D及びAの各原審証言の信用性以上によれば,B及びDは,Aが本件への関与を全く認めていなかった段階から,自らの認識,判断により,本件車両を運転していたのが被告人であり,あるいは,被告人であると聞いていた旨の供述をし,原審公判においても同様の証言をしたもので,その供述の過程には,Aからの働き掛けは介在していなかったと認められる。また,Aも,当初は本件への関与を全面的に否認して責任を回避する意図であったにもかかわらず,BやDが本件について供述していることを知り,もはや責任追及を免れないと判断したことなどから,自身の公判において,本件への関与を認めることとし,本件車両の運転者を含め事実を供述するようになり,原審公判においても同様の証言をしているものと認められる。そして,これらの三者が各自の認識,判断に基づいてした証言の内容は,被告人が本件車両の運転者であったとする点において一致しており,互いに信用性を補強している上,本件A書簡及び検10,11の各手紙や被告人による前記自認の文言によっても裏付けられている。 結局,B,D及びAの各原審証言のうち,本件車両の運転者が被告人であったとする核心部分には高い信用性が認められ,それらによれば,本件車両の運転者は被告人であったとの事実を優に認定することができる 結局,B,D及びAの各原審証言のうち,本件車両の運転者が被告人であったとする核心部分には高い信用性が認められ,それらによれば,本件車両の運転者は被告人であったとの事実を優に認定することができる。 エ弁護人の主張に対する判断これに対し,弁護人は,答弁書において,Aには虚偽供述の動機がある上,B及びDは,いずれもAから働き掛けを受けて証言をしたという疑いを払拭するこ- 29 -とができないから,A,B及びDの各証言の信用性を肯定することはできないとした原判決に経験則,論理則違背は存在しない,と主張する。 しかし,BやDに対するAの働き掛けが存在しなかったことは既に説示したとおりであり,Aについても,一連の自動車窃盗についての自己の刑事責任を軽くすべく被告人に働き掛けた事実は認められるものの,被告人とのやり取りでも,本件車両の運転者が被告人であったことを前提にしていたことが明らかであるから,弁護人の主張は採用し得ない。 また,弁護人は,前記イで引用した検29号証中の被告人による記載について,「あくまでも自分が犯人である体で書いた」との被告人の当審公判における供述に依拠して,既に本件車両を運転していたとの自白をし,強盗殺人の犯人の罪をかぶるつもりであった被告人が,Aに対し,そのことを念押しするためにあえて真実に反して記載をしたものである,という。 しかし,既に指摘したとおり,上記手紙は,もはやAが本件について強盗殺人罪に問われる現実的な可能性は想定されない時点で作成,発出されたものと認められ,そもそも,被告人が,真実に反し,本件車両を運転していたかのような記載をする必要はなかったというべきであるし,被告人の説明は,検29号証の記載内容に照らしても不自然というほかなく,弁護人の主張は採用し得ない。 (5) 被告人の原審公判供述に 転していたかのような記載をする必要はなかったというべきであるし,被告人の説明は,検29号証の記載内容に照らしても不自然というほかなく,弁護人の主張は採用し得ない。 (5) 被告人の原審公判供述について被告人は,原審公判において,本件自白をしたのは,本件A書簡によりAから働き掛けられたことによるところが大きく,それがなければ,虚偽の自白をすることはなかった旨述べている。しかし,既に判示したとおり,本件A書簡は,被告人に対し,Aの身代わりとして本件車両の運転者であったとするように働き掛けるものではなく,かつ,被告人自身そのことを明確に認識していたものと認められる。被告人が,起訴後2か月半以上経過してから,あえて検察官に取調べを申し出て本件自白をしたのは,被告人自身による現状認識及びこれを踏まえた利害得失の判断に基づく自発的な選択であることは,検11の手紙からも明らかで- 30 -ある。 本件車両の運転者がAであったとする被告人の原審公判供述は信用することができず,その運転者は被告人であったとする前記認定は何ら左右されない。 (6) 以上によれば,本件車両を運転していたのは被告人であると認められ,この点において原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるから,事実誤認の論旨には理由があり,原判決は破棄を免れない。また,原判決は,被告人が本件車両を運転していたことの証明がないとし,殺意の有無については判断を示していないので,本件については,殺意の有無につき判断した上で量刑をする必要があるところ,原審は裁判員の参加した手続であるから,事件を原裁判所に差し戻し,再度,裁判員の参加した手続による審理を経ることが相当と思料される。 6 結論以上のとおり,本件記録媒体の取調べ請求を却下した原審の訴訟手続に法令違反は認め から,事件を原裁判所に差し戻し,再度,裁判員の参加した手続による審理を経ることが相当と思料される。 6 結論以上のとおり,本件記録媒体の取調べ請求を却下した原審の訴訟手続に法令違反は認められないが,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があり,結局,原判決は破棄を免れないので,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条本文により本件を千葉地方裁判所に差し戻すこととして,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官藤井敏明裁判官大西直樹裁判官諸徳寺聡子)
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