令和4年1月19日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和2年(ワ)第19932号特許権侵害差止請求事件口頭弁論終結日令和3年10月6日判決原告ワーナー-ランバートカンパニー リミテッドライアビリティーカンパニー同訴訟代理人弁護士飯村敏明磯田直也森下梓同訴訟復代理人弁護士永島太郎 同訴訟代理人弁理士泉谷玲子同補佐人弁理士小野新次郎被告株式会社フェルゼンファーマ同訴訟代理人弁護士小池豊櫻井彰人 粟田英一同補佐人弁理士草間攻 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙物件目録記載の医薬品を製造し,販売し,販売の申出をしてはならない。 2 被告は,別紙物件目録記載の医薬品を廃棄せよ。 3 仮執行宣言第2 事案の概要本件は,発明の名称を「イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤」とする発明に係る特許 告は,別紙物件目録記載の医薬品を廃棄せよ。 3 仮執行宣言第2 事案の概要本件は,発明の名称を「イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤」とする発明に係る特許権(特許第3693258号。以下「本件特許権」といい,同特許権に係る特許を「本件特許」という。)を有する原告が,被告 に対し,被告が別紙物件目録記載の医薬品(以下「被告医薬品」という。)の製造,販売及び販売の申出をすることが本件特許権の侵害に当たると主張して,特許法100条1項及び2項に基づき,被告医薬品の製造,販売,販売の申出の差止め及び廃棄を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によ り認定できる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に断らない限り,枝番を含むものとする。)(1) 当事者ア原告は,アメリカ合衆国の法人である。 イ被告は,医薬品の販売等を目的とする会社である。(甲8) (2) 本件特許権原告は,以下の特許権を有している(以下,本件特許の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書等」と,本件特許の優先日を「本件優先日」という。)。原告は,ファイザー株式会社に対して専用実施権を設定し,同社は,神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛の治療薬である先発医薬品 (商品名:リリカカプセル,リリカOD錠)を販売している。(甲1,2,5)発明の名称:イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤特許番号:特許第3693258号出願日:平成9年7月16日(特願平10-507062号) 優先日:平成8年7月24日 優先権主張国:米国登録日:平成17年7月1日(3) 本 出願日:平成9年7月16日(特願平10-507062号) 優先日:平成8年7月24日 優先権主張国:米国登録日:平成17年7月1日(3) 本件特許権の延長登録原告は,別紙延長登録目録記載のとおり,本件特許権について,延長登録の出願をし,その登録を受けた。(甲1) (4) 本件特許権の特許請求の範囲(後記(7)ウ記載の本件訂正前のもの)ア請求項1(以下,同請求項に係る発明を「訂正前発明1」という。)「式I (式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R2 は水素またはメチルであり,R3 は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する痛みの処置における鎮痛剤。」イ請求項2(以下,同請求項に係る発明を「訂正前発明2」という。)「化合物が,式IにおいてR3 およびR2 はいずれも水素であり,R1 は-(C H2)0-2-iC4H9 である化合物の(R),(S),または(R,S)異性体である請求項1記載の鎮痛剤。」ウ請求項3(以下,同請求項に係る発明を「訂正前発明3」という。)「化合物が,(S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸または3−アミノメチル−5−メチルヘキサン酸である請求項1記載の鎮痛剤。」 エ請求項4(以下,同請求項に係る発明を「訂正前発明4」といい,訂正前発明1~3と併せて「訂正前各発明」という。)「痛みが炎症性疼痛,神経障害による痛み,癌による痛み,術後疼痛,幻想肢痛,火傷痛,痛風の痛み,骨関節炎の痛み,三叉神経痛の痛み,急 性ヘルペスおよびヘルペス後の痛み,カウザル )「痛みが炎症性疼痛,神経障害による痛み,癌による痛み,術後疼痛,幻想肢痛,火傷痛,痛風の痛み,骨関節炎の痛み,三叉神経痛の痛み,急 性ヘルペスおよびヘルペス後の痛み,カウザルギーの痛み,特発性の痛み,または線維筋痛症である請求項1記載の鎮痛剤。」(5) 本件特許権の特許請求の範囲(後記(7)ウ記載の本件訂正後のもの。下線部が訂正箇所)ア請求項1(以下,同請求項に係る発明を「本件発明1」という。) 「式I (式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R 2 は水素またはメチルであり,R3 は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もし くはエナンチオマーを含有する,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤。」イ請求項2(以下,同請求項に係る発明を「本件発明2」という。)「式I (式中,R3 およびR2 はいずれも水素であり,R1 は-(CH2)0-2-iC4H9 である)の化合物の(R),(S),または(R,S)異性体を含有する,神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤。」ウ請求項3(以下,同請求項に係る発明を「本件発明3」という。)「(S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸または3−アミノメチ ル−5−メチルヘキサン酸を含有する,炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置における鎮痛剤。」 エ請求項4(以下,同請求項に係る発明を「本件発明4」といい,本件発明1~3と併せて「本件各発明」という。)「式I (式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R2 求項4(以下,同請求項に係る発明を「本件発明4」といい,本件発明1~3と併せて「本件各発明」という。)「式I (式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R2 は水素またはメチルであり,R3 は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する,炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤。」(6) 本件発明1等の構成要件 本件発明1及び訂正前発明1,本件発明2及び訂正前発明2,本件発明3並びに本件発明4を構成要件に分説すると,以下のとおりである(以下,請求項記載の式1の化合物を「本件化合物」という。)。 ア本件発明1及び訂正前発明1(ア) 訂正前発明1 1A 式I (式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R2 は水素またはメチルであり,R3 は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアス テレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する1B´痛みの処置における 1C 鎮痛剤。 (イ) 本件発明11A 式I (式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり, R2 は水素またはメチルであり,R3 は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する,1B 痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における1C 鎮痛剤。 イ本件発明2及び訂正前発明2(ア) 訂正前発明22A オマー,もしくはエナンチオマーを含有する,1B 痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における1C 鎮痛剤。 イ本件発明2及び訂正前発明2(ア) 訂正前発明22A´化合物が,式IにおいてR3 およびR2 はいずれも水素であり,R1 は-(CH2)0-2-iC4H9 である化合物の(R),(S),または(R,S)異性体である請求項1記載の 2C 鎮痛剤。 (イ) 本件発明22A 式I (式中,R3 およびR2 はいずれも水素であり,R1 は-(CH2)0-2-iC4H9 であ る)の化合物の(R),(S),または(R,S)異性体を含有する,2B 神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの 処置における2C 鎮痛剤。 ウ本件発明33A (S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸または3−アミノメチル−5−メチルヘキサン酸を含有する, 3B 炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置における3C 鎮痛剤。 エ本件発明44A 式I (式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R2 は水素またはメチルであり,R3 は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する,4B 炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若 しくは接触異痛の痛みの処置における4C 鎮痛剤。 (7) 本件特許に関する無効審判及び審決取消訴訟ア沢井製薬株式会社は,平成29年1月16日付けで,本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明の特許を無 4C 鎮痛剤。 (7) 本件特許に関する無効審判及び審決取消訴訟ア沢井製薬株式会社は,平成29年1月16日付けで,本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明の特許を無効にすることについて,特 許庁に対し,特許無効審判(無効2017-800003号。以下「本件無効審判」という。)の請求をし,その後,被告ほか14名が,同審判手続に参加した。(甲9)イ特許庁は,平成31年2月28日,訂正前各発明についての特許を無効 にする旨の審決の予告をした(甲21,乙1)。その理由は,①本件明細書等の記載は,訂正前各発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものということができないので,実施可能要件に違反する,②本件明細書等の記載に接した当業者が,訂正前各発明によりその課題を解決できると認識し得ず,サポート要件に違反する,というものであった。 ウ原告は,上記審決の予告を受け,令和元年7月1日付け訂正請求書(甲3)をもって,本件特許に係る特許請求の範囲の記載を,上記(5)のとおり訂正すること(以下「本件訂正」という。なお,本件訂正による本件明細書等の訂正部分はない。)を求める旨の訂正請求を行った。 エ特許庁は,令和2年7月14日付けで審決(以下「本件審決」という。 甲9)をし,新規事項の追加を理由に請求項1及び2に係る訂正を認めず,訂正前発明1及び2は実施可能要件及びサポート要件に違反するとして,同各発明に係る特許を無効とし,請求項3及び4に係る訂正は認めた上で,本件訂正後の本件発明3及び4についての本件無効審判の請求は成り立たないとした。本件審決のうち請求項3及び4に係る部分は確定した。 オ原告は,令和2年11月19日,本件審決の請求項1及び2に係る 本件発明3及び4についての本件無効審判の請求は成り立たないとした。本件審決のうち請求項3及び4に係る部分は確定した。 オ原告は,令和2年11月19日,本件審決の請求項1及び2に係る部分の取消しを求める審決取消訴訟(知財高裁令和2年(行ケ)第10135号)を提起した。 (8) 被告医薬品の構成等ア被告医薬品の構成は,以下のとおりである。 a (S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸(一般名:プレガバリン)を有効成分とし,b 効能・効果を神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛とする,c 疼痛治療剤イ被告は,令和2年8月17日付けで,別紙物件目録記載の販売名の被告 医薬品の製造販売について,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全 性の確保等に関する法律(平成25年法律第84号による改正前の題名は,薬事法。以下,同改正の前後を通じて「医薬品医療機器等法」という。)14条1項に基づき,厚生労働大臣の承認を受けた。(甲12) 2 争点(1) 訂正前発明1及び2 ア被告医薬品が訂正前発明1及び2の技術的範囲に属するか(構成要件1B´,1C及び2Cの充足性)(争点1)イ訂正前発明1及び2に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるか(争点2)(ア) 無効理由1(実施可能要件違反の有無)(争点2-1) (イ) 無効理由2(サポート要件違反の有無)(争点2-2)ウ本件発明1及び2に係る訂正の再抗弁の成否(争点3)(ア) 無効理由の解消の有無(争点3-1)a 無効理由1の解消の有無(争点3-1-1)b 無効理由2の解消の有無(争点3-1-2) (イ) 訂正要件の具備の有無(争点3-2)a (ア) 無効理由の解消の有無(争点3-1)a 無効理由1の解消の有無(争点3-1-1)b 無効理由2の解消の有無(争点3-1-2) (イ) 訂正要件の具備の有無(争点3-2)a 本件発明1の訂正要件の具備の有無(争点3-2-1)b 本件発明2の訂正要件の具備の有無(争点3-2-2)(2) 本件発明3及び4被告医薬品が本件発明3及び4の技術的範囲に属するか(争点4) ア構成要件3B及び3C並びに4B及び4Cの充足性(争点4-1)イ均等侵害の成否(争点4-2)(3) 本件特許権の存続期間の延長登録延長登録により存続期間が延長された本件特許権の効力は被告医薬品に及ぶか(争点5) 第3 争点に関する当事者の主張 争点に関する当事者の主張は,別紙「原告の主張」及び別紙「被告の主張」(当裁判所の提示した争点に従い,当事者がその主張を総括的にまとめた準備書面の記載に基づくもの)に記載されたとおりである。 第4 当裁判所の判断 1 訂正前各発明及び本件各発明の内容 (1) 本件明細書等(甲2)には,以下の記載等が存在する。 ア発明の詳細な説明(ア) 発明の背景「本発明は,痛みの治療において鎮痛/抗痛覚過敏作用を発揮する化合物としてのグルタミン酸およびγ-アミノ酪酸(GABA)の類縁体 の使用である。これらの化合物の使用の利点には,反復使用により耐性を生じないことまたはモルヒネとこれらの化合物の間に交叉耐性がないことの発見が包含される。 本発明の化合物は,てんかん,ハンチントン舞踏病,大脳虚血,パーキンソン病,遅発性ジスキネジアおよび痙性のような中枢神経系疾患に対 する抗発作療法に有用な既知の薬物である。また,これらの 。 本発明の化合物は,てんかん,ハンチントン舞踏病,大脳虚血,パーキンソン病,遅発性ジスキネジアおよび痙性のような中枢神経系疾患に対 する抗発作療法に有用な既知の薬物である。また,これらの化合物は抗うつ剤,抗不安剤および抗精神病剤としても使用できることが示唆されている。WO 92/09560(米国特許出願第618,692 号,1990 年11 月27 日出願)およびWO 93/23383(米国特許出願第886,080 号,1992 年5 月20日出願)参照。」(2頁4~12行目) (イ) 発明の概要「本発明は,以下の式Iの化合物の,痛みの処置とくに慢性の疼痛性障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定されるものではないが炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,三叉神経痛,急性疱疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害, カウザルギー,上腕神経叢捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロ フィー,線維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障害および特発性疼痛症候群が包含される。 化合物は式I (式中,R1 は炭素原子1~6個の直鎖状または分枝状アルキル,フェニル または炭素原子3~6個のシクロアルキルであり,R2 は水素またはメチルであり,R3 は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩である。 式Iの化合物のジアステレオマーおよびエナンチオマーも本発明に包含される。 本発明の好ましい化合物は式Iにおいて,R3 およびR2 は水素であり,R1は-(CH2)0-2-iC4H9 の化合物の(R),(S),または(R,S)異性体である。 本発明のさらに好ましい化合物は(S) の好ましい化合物は式Iにおいて,R3 およびR2 は水素であり,R1は-(CH2)0-2-iC4H9 の化合物の(R),(S),または(R,S)異性体である。 本発明のさらに好ましい化合物は(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸および3-アミノメチル-5-メチルヘキサン酸である。」(2頁14~33行目) イ発明の詳述(ア) 「本発明は,上記式Ⅰの化合物の上に掲げた痛みの処置における鎮痛剤としての使用方法である。痛みにはとくに炎症性疼痛,神経障害の痛み,癌の痛み,術後疼痛,および原因不明の痛みである特発性疼痛たとえば幻想肢痛が包含される。神経障害性の痛みは末梢知覚神経の傷害ま たは感染によって起こる。これには以下に限定されるものではないが,末梢神経の外傷,ヘルペスウイルス感染,糖尿病,カウザルギー,神経 叢捻除,神経腫,四肢切断,および血管炎からの痛みが包含される。神経障害性の痛みはまた,慢性アルコール症,ヒト免疫不全ウイルス感染,甲状腺機能低下症,尿毒症またはビタミン欠乏からの神経障害によっても起こる。神経障害性の痛みには,神経傷害によって起こる痛みに限らず,たとえば糖尿病による痛みも包含される。 上に掲げた状態が,現在市場にある鎮痛剤たとえば麻薬性鎮痛剤または非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)では,不十分な効果または副作用からの限界により不完全な処置しか行われていないことは周知である。」(3頁45行目~4頁6行目)(イ) ラットホルマリン足蹠試験におけるギャバペンチン,CI-1008, および3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸の効果「雄性Sprague-Dawley ラット(70~90g)を試験前に少なくとも15 分間パース ギャバペンチン,CI-1008, および3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸の効果「雄性Sprague-Dawley ラット(70~90g)を試験前に少なくとも15 分間パースペックスの観察チャンバー(24cm×24cm×24cm)に馴化させた。 ホルマリン誘発後肢リッキングおよびバイティングを5%ホルマリン溶液(等張性食塩溶液中5%ホルムアルデヒド)50μl の左後肢の足蹠表面 への皮下注射によって開始させた。ホルマリンの注射直後から,注射した後肢のリッキング/バイティングを60 分間5分毎に評価した。結果はリッキング/バイティングを合わせた平均時間として初期相(0~10分)および後期相(10~45 分)について示す。 ギャバペンチン(10~300mg/kg)またはCI-1008(1~100mg/kg)のホル マリン投与1時間前の皮下投与は,ホルマリン応答の後期相におけるリッキング/バイティング行動を,それぞれ最小有効用量(MED)30 および10mg/kg で用量依存性にブロックした(図1)。しかしながら,いずれの化合物も試験した用量では初期相には影響しなかった。3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸の同様の投与は100mg/kg で後期相の中等 度のブロックを生じたのみであった。」(5頁49行目~6頁10行目) 【図1a】 【図1b】 【図1c】 【図1d】 【図1e】 【図1f】 (図面の簡単な説明)「図1.ギャバペンチン[1-(アミノメチル)-シクロヘキサン酢酸],CI-1008[(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸],および 【図1f】 (図面の簡単な説明)「図1.ギャバペンチン[1-(アミノメチル)-シクロヘキサン酢酸],CI-1008[(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸],および3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸のラット足蹠ホルマリン試 験における効果。 試験化合物は50μl のホルマリンの足蹠内注射の1時間前に皮下投与した。初期および後期相に注射された足蹠のリッキング(舐める行動)/バイティング(咬む行動)に費やされる時間を記録した。結果は各群6~8匹の平均±SEM として示す。*P<0.05 および**P<0.01 はビヒクル(Veh.)処置対照から有意に異なることを示す(ANOVA, Dunnett'st-検 定による)。」(2頁35~42行目)(ウ) ギャバペンチンおよびCI-1008のカラニゲン誘発痛覚過敏に対する効果「試験日にラット(雄性Sprague-Dawley 70~90g)に2~3のベースライン測定を行ったのち,2%カラゲニン100μl を右後肢の足蹠表面 に皮下注射した。痛覚過敏のピークの発症後,動物に試験薬物を投与した。機械的および熱的痛覚過敏に対する試験には別個の動物群を使用した。」(6頁12~15行目)a 機械的痛覚過敏「侵害受容圧閾値を,ラット足蹠加圧試験により鎮痛計(UgoBasile) を用いて測定した。足蹠への傷害を防止するため,250gのカットオフ点を使用した。カラゲニンの足蹠内注射は注射後3~5時間の間侵害受容圧閾値を低下させ,痛覚過敏の誘発を示した。モルヒネ(3mg/kg,皮下)は痛覚過敏の完全なブロックを生じた(図2)。ギャバペンチン(3~300mg/kg,皮下)およびCI- 3~5時間の間侵害受容圧閾値を低下させ,痛覚過敏の誘発を示した。モルヒネ(3mg/kg,皮下)は痛覚過敏の完全なブロックを生じた(図2)。ギャバペンチン(3~300mg/kg,皮下)およびCI-1008(1~100mg/kg,皮下)は用量 依存性に痛覚過敏に拮抗し,MED はそれぞれ10 および3mg/kg であった(図2)。」(6頁17~22行目)【図2a】 【図2b】 (図面の簡単な説明)「図2.ギャンバペンチンおよびCI-1008 のカラゲニン誘発機械的痛覚過敏に対する効果。 侵害受容圧閾値を,足蹠加圧試験を用いてラットで測定した。足蹠内 注射により動物に100μl の2%カラゲニンを投与する前に,ベースライン(BL)の測定を行った。結果は各群について8匹の動物の平均(±SEM)として示す。ギャバペンチン(GP),CI-1008 またはモルヒネ(MOR;3mg/kg)をカラゲニン後3.5 時間に皮下投与した。*P<0.05および**P<0.01 は同時点でのビヒクル対照群と有意に異なる (ANOVA, Dunnett'st-検定による)。」(2頁43~48行目)b 熱痛覚過敏「ベースライン足蹠回避潜時(PWL)を各ラットについてHargreavesモデルを用いて測定した。上述のようにカラゲニンを注射した。カラゲニン投与2時間後に,動物を熱痛覚過敏について試験した。ギャバ ペンチン(10~100mg/kg)またはCI-1008(1~30mg/kg)は,カラゲニン投与後2.5 時間に皮下に投与し,PWL をカラゲニン投与3および4時間後に再評価した。カラゲニンは注射後2,3および4時間に足蹠回避潜時の たはCI-1008(1~30mg/kg)は,カラゲニン投与後2.5 時間に皮下に投与し,PWL をカラゲニン投与3および4時間後に再評価した。カラゲニンは注射後2,3および4時間に足蹠回避潜時の有意な低下を誘発し,熱痛覚過敏の誘発を示した(図3)。 ギャバペンチンおよびCI-1008 は用量依存性に痛覚過敏に拮抗し,MED は30 および3mg/kg を示した(図3)。」(6頁24~30行目) 【図3a】 【図3b】 (図面の簡単な説明)「図3.ギャバペンチンおよびCI-1008 のカラゲニン誘発熱痛覚過敏に対する効果。 侵害受容熱閾値をHargreaves の装置を用いてラットで測定した。足蹠内注射により動物に100μl の2%カラゲニンを投与する前にベースライン(BL)の測定を行った。結果は各群8匹の動物の平均(±SEM)として示す。ギャバペンチン(GP)またはCI-1008 はカラゲニン投与後2.5時間に皮下に投与した。*P<0.05 および**P<0.01 は同時点でのビ ヒクル対照群から有意に異なる(ANOVA, Dunnett'st-検定による)。」(2頁49行目~3頁4行目)c 「これらのデータはギャバペンチンおよびCI-1008 が炎症性疼痛の処置に有効であることを示す。」(6頁31~32行目)(エ) 末梢性神経障害の動物モデル 「BennettG.J.のアッセイはヒトに認められるのと類似の疼痛感覚の障害を生じるラットにおける末梢性単発神経障害の動物モデルを提供する(Pain, 1988; 33: 87-107)。 KimS.H.らのアッセイは,ラットにおける分節脊椎神経の結紮によって生じる末 を生じるラットにおける末梢性単発神経障害の動物モデルを提供する(Pain, 1988; 33: 87-107)。 KimS.H.らのアッセイは,ラットにおける分節脊椎神経の結紮によって生じる末梢神経障害の一つの実験モデルを提供する(Pain, 1990; 50: 355-363)。」(6頁33~36行目) (オ) 術後疼痛のラットモデル「術後疼痛のラットモデルも報告されている(Brennan ら,1996)。それには,後肢足蹠面の皮膚,筋膜および筋肉の切開が包含される。これは数日間続く再現可能かつ定量可能な機械的痛覚過敏の誘発を招く。このモデルはヒトの術後疼痛状態にある種の類似性を示す。本研究におい ては,本発明者らは術後疼痛のこのモデルでギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバの活性を調べ,モルヒネの場合と比較した。」(6頁37~41行目)a 方法「BantinandKingmen(Hull, U.K.)から入手した雄性Sprague- Dawley ラット(250~300g)をすべての実験に使用した。手術の前に動物は6匹の群として飼育ケージに入れ,12 時間明暗サイクル(07 時00分に点灯)下に置いて飼料および水は自由に与えた。動物は手術後,同じ条件下に,空気を含んだセルロースから構成される“Aqua-sorb”床(BetaMedicalandScientific, Sale, U.K.)上に対で収容した。す べての実験は薬物処置に盲検とした観察者により行われた。」(6頁43~48行目)b 手術「動物は2%イソフルオランおよび1.4 O2/NO2 混合物で麻酔し,鼻円錐により手術中を通じて麻酔下に維 検とした観察者により行われた。」(6頁43~48行目)b 手術「動物は2%イソフルオランおよび1.4 O2/NO2 混合物で麻酔し,鼻円錐により手術中を通じて麻酔下に維持した。右後肢足蹠表面を50% エタノールで準備して踵の端から0.5cm に開始し足指の方向に皮膚および筋膜を通して1-cm 縦に切開した。足蹠の筋肉は鉗子によって持ち上げ縦に切開した。傷口を編んだ絹の縫合糸によりFST-02 の針を用いて2個所で閉じた。傷口の部位はテラマイシンスプレーおよびオーロマイシン末で被覆した。手術後,すべての動物において感染の徴 候は認められず,創傷は24 時間後には良好に治癒した。縫合糸は48 時間後に抜糸した。」(6頁50行目~7頁6行目)c 熱痛覚過敏の評価「熱痛覚過敏はラット足蹠試験(UgoBasile, Italy)を用い,Hargreaves らの方法(1988)の改良法に従い評価した。ラットは上方に傾斜したガラステーブル上3個の個々のパースペックスの箱からなる 装置に順化させた。テーブルの下に可動性放射熱源を置き,後肢足蹠に焦点を合わせ足蹠回避潜時(PWL)を記録した。組織の傷害を回避するため,自動カットオフ点を22.5 秒に設定した。各動物の両後肢について2~3回PWL を測定し,その平均を左右後肢のベースラインとした。 装置は約10 秒のPWL が得られるように検量した。PWL(秒)は上述のプ ロトコールに従い術後2,24,48 および72 時間に再評価した。」(7頁8~14行目)d 接触異痛の評価「接触異痛はシーメンス・ワインシュタイン・フォン・フライの毛(Stoelting, Illinois, USA)を用いて 価した。」(7頁8~14行目)d 接触異痛の評価「接触異痛はシーメンス・ワインシュタイン・フォン・フライの毛(Stoelting, Illinois, USA)を用いて測定した。動物は,針金の網の 底のケージに収容して,足蹠に接触できるようにした。動物は実験の開始前に,この環境に順化させた。接触異痛試験は動物の後肢の足蹠表面に,順次力を増大させて(0.7,1.2,1.5,2,3.6,5.5,8.5,11.8,15.1,および29g)フライの毛で触れ,後肢の回避が誘発されるまで試験した。フライの毛はそれぞれ6秒間または反応が起こるまで後肢 に適用した。回避反応が確立されたならば,後肢を次に下降するフライの毛で試験を始めて反応が起こらなくなるまで再試験した。したがって,後肢を上げて反応が誘発される最高の力29gがカットオフ点となった。各動物を,この様式で両後肢について試験した。反応が誘発されるのに必要な最低の力量を回避閾値としてグラムで記録した。化 合物を手術前に投与する場合には,接触痛覚過敏,接触異痛および熱 痛覚過敏に対する薬物効果の試験に同一の動物を使用し,各動物について熱痛覚過敏試験の1時間後に接触異痛の試験を行った。術後にS-(+)-3-イソブチルギャバを投与する場合には,接触異痛および熱痛覚過敏の検査に別個の群の動物を使用した。」(7頁16~28行目) e 統計「熱痛覚過敏試験で得られたデータは一元(分散分析)ANOVA に付し,ついでDunnett'st-検定を実施した。フライの毛で得られた接触異痛の結果は個別のMannWhitneyt-検定に付した。」(7頁30~32行目) f 結果「ラ unnett'st-検定を実施した。フライの毛で得られた接触異痛の結果は個別のMannWhitneyt-検定に付した。」(7頁30~32行目) f 結果「ラット足蹠筋肉の切開は熱痛覚過敏および接触異痛を生じた。いずれの侵害受容反応も手術後1時間以内にピークに達し,3日間維持された。実験期間中,動物はすべて良好な健康状態を維持した。」(7頁34~36行目) g 手術前に投与したギャバペンチン,S-(+)-3-イソブチルギャバおよびモルヒネの熱痛覚過敏に対する効果「手術1時間前におけるギャバペンチンの単回用量投与(3~30mg/kg,皮下)は,用量依存性に熱痛覚過敏の発生を遮断し,MED は30mg/kg であった(図4b)。最大用量のギャバペンチン30mg/kg は痛覚 過敏の反応を24 時間防止した(図4b)。S-(+)-3-イソブチルギャバを同様に投与した場合も用量依存性(3~30mg/kg,皮下)に熱痛覚過敏の発生が遮断され,MED は30mg/kg であった(図4c)。30mg/kg 用量のS-(+)-3-イソブチルギャバは3日まで有効であった(図4c)。手術0.5 時間前のモルヒネの投与は,用量依存性(1~6 mg/kg,皮下)は熱痛覚過敏の発生に拮抗し,MED は1mg/kg であった (図4a)。この作用は24 時間維持された(図4a)。」(7頁39~46行目)【図4a】 【図4b】 【図4c】 (図面の簡単な説明)「図4.ラット術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏に対する(a)モルヒネ,(b)ギャバペンチン,および(c)S-(+)- 【図4c】 (図面の簡単な説明)「図4.ラット術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏に対する(a)モルヒネ,(b)ギャバペンチン,および(c)S-(+)-3-イソブチルギャバの効果。 ギャバペンチンまたはS-(+)-3-イソブチルギャバは術前1時間に投与した。モルヒネは術前0.5 時間に投与した。ラット足蹠試験を用いて同側および対側足蹠の両者について熱足蹠回避潜時(PWL)を測定した。明瞭にするため薬物処置動物の対側足蹠のデータは示していない。術前にベースライン(BL)の測定を行い,術後2,24,48 および 72 時間にPWL を再評価した。結果は各群につき8~10 匹の動物の平 均PWL(秒,縦線は±SEM を示す)として表す。*P<0.05,**P<0.01は各時点で薬物処置群の同側足蹠をビヒクル処置群の同側足蹠と比較して有意に異なる(ANOVA. Dunnett'st-検定による)。図中,図4aでは,-●-はビヒクル対側,-○-はビヒクル同側,-△-,-□-および-◇-はそれぞれモルヒネ1,3および6mg/kg である。図 4bでは,-△-は3,-□-は10 および-◇-は30mg/kg のギャバペンチンである。図4cでは-△-は3,-□-は10 および-◇-は30mg/kg のS-(+)-3-イソブチルギャバである。」(3頁5~17行目)h 手術前に投与したギャバペンチン,S-(+)-3-イソブチルギ ャバおよびモルヒネの接触異痛に対する効果「接触異痛の発生に対する薬物の効果は上述の熱痛覚過敏に用いたのと同じ動物で測定した。熱痛覚過敏試験と接触異痛試験の間には1時間の間隔を置いた。ギャバペンチンは,用量依存性に接触異痛の発 する効果「接触異痛の発生に対する薬物の効果は上述の熱痛覚過敏に用いたのと同じ動物で測定した。熱痛覚過敏試験と接触異痛試験の間には1時間の間隔を置いた。ギャバペンチンは,用量依存性に接触異痛の発生を防止し,MED は10mg/kg であった。ギャバペンチン10 および30mg /kg の用量はそれぞれ25 および49 時間有効であった(図5b)。S-(+)-3-イソブチルギャバも同様に用量依存性(3~30mg/kg)に接触異痛の発生を遮断し,MED は10mg/kg であった(図5c)。この侵害受容応答の遮断は30mg/kg 用量のS-(+)-3-イソブチルギャバにより3日間維持された(図5c)。これに反して,モルヒネ(1~6mg /kg)は,6mg/kg の最大用量で術後3時間,接触異痛の発生を防止したのみであった(図5a)。」(7頁49行目~8行目6行目)【図5a】 【図5b】 【図5c】 (図面の簡単な説明)「図5.ラット術後疼痛モデルにおける接触異痛に対する(a)モル ヒネ,(b)ギャバペンチン,および(c)S-(+)-3-イソブチルギャバの効果。 ギャバペンチンまたはS-(+)-3-イソブチルギャバは術前1時間に投与した。モルヒネは術前0.5 時間に投与した。フライ毛フィラメントに対する足蹠回避閾値を同側および対側足蹠の両者について測定 した。明瞭にするため,薬物処置動物の対側足蹠のデータは示していない。術前にベースライン(BL)の測定を行い,術後3,25,49 および 73 時間に回避閾値を再評価した。結果は,各群について8~10 匹の動物の足蹠回避を誘発するのに要した中間力(g)として表す( い。術前にベースライン(BL)の測定を行い,術後3,25,49 および 73 時間に回避閾値を再評価した。結果は,各群について8~10 匹の動物の足蹠回避を誘発するのに要した中間力(g)として表す(縦線は第1および第3四分位を示す)。*P<0.05 は各時点において薬物処置群 の同側足蹠をビヒクル処置群の同側足蹠と比べた有意差である(Mann Whitneyt-検定)。図5中,-●-はビヒクル対側,-○-はビヒクル同側である。モルヒネ(図5a)については-△-は1,-□-は3および-◇-は16mg/kg である。 図5b中,ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバについては,-△-は3,-□-は10および-◇-は30mg/kgである。」 (3頁18~30行目)i 手術1時間後に投与したS-(+)-3-イソブチルギャバの接触異痛および熱痛覚過敏に対する効果「接触異痛および熱痛覚過敏はすべての動物で1時間以内にピークに達し,以後5~6時間維持された。30mg/kg のS-(+)-3-イソ ブチルギャバの手術1時間後における皮下投与は接触異痛および熱痛覚過敏の維持を3~4時間ブロックした。この時間後に,侵害受容の両応答はいずれも対照レベルに復し,これは抗熱痛覚過敏および抗接触異痛作用の消失を示す(図6)。 ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバは,すべての 実験で試験された最大用量まで,対側後肢の熱痛覚過敏試験または接触異痛評点におけるPWL に影響しなかった。これに反して,モルヒネ(6mg/kg,皮下)は熱痛覚過敏試験おける対側後肢のPWL を増大させた(データは示していない)。 ここに掲げた結果はラット足蹠筋肉の切開は少なくとも3時間 響しなかった。これに反して,モルヒネ(6mg/kg,皮下)は熱痛覚過敏試験おける対側後肢のPWL を増大させた(データは示していない)。 ここに掲げた結果はラット足蹠筋肉の切開は少なくとも3時間続く熱 痛覚過敏および接触異痛を誘発することを示している。本試験の主要な所見は,ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバがいずれの侵害受容反応の遮断に対しても等しく有効なことである。これに反し,モルヒネは接触異痛よりも熱痛覚過敏に有効であることが見出された。さらに,S-(+)-3-イソブチルギャバは接触異痛お よび熱痛覚過敏の誘発および維持を完全に遮断した。」(8頁9~2 3行目)【図6a】 【図6b】 (図面の簡単な説明)「図6.ラット術後疼痛モデルにおける(a)熱痛覚過敏および(b) 接触異痛の維持に対するS-(+)-3-イソブチルギャバの効果。 S-(+)-3-イソブチルギャバ[S-(+)-IBG]は術後1時間に投与した。熱足蹠回避潜時はラット足蹠試験を用いて測定し,フライ毛フィラメントに対する足蹠回避閾値は同側および対側足蹠の両者について別個の群で測定した。明瞭にするために,同側足蹠のデータのみ を示す。術前にベースライン(BL)の測定を行い,術後6時間まで回避閾値を再評価した。熱痛覚過敏については,結果は各群について6匹の動物の平均PWL(秒)として表す(縦線は±SEM を示す)。*P<0.05,**P<0.01 は各時点で薬物処置群の同側足蹠をビヒクル(Veh-○-)処置群の同側足蹠と比較した有意差を示す(対のないt-検定)。接触 異痛については,結果は各群について6匹の動物の足蹠回避を誘発するのに要 時点で薬物処置群の同側足蹠をビヒクル(Veh-○-)処置群の同側足蹠と比較した有意差を示す(対のないt-検定)。接触 異痛については,結果は各群について6匹の動物の足蹠回避を誘発するのに要した中間力(g)として表す(縦線は,第1および第3四分位を示す)。*P<0.05 は各時点において薬物処置群の同側足蹠をビヒクル処置群の同側足蹠と比較した場合の有意差である(MannWhitneyt-検定)。-●-はS-(+)-IBG 30mg/kg。」(3頁31~43行目) (2) 本件特許の特許請求の範囲及び上記(1)の記載によれば,訂正前各発明及 び本件各発明は,本件特許出願当時に市場にある鎮痛剤,例えば麻薬性鎮痛剤又は非ステロイド性抗炎症薬ではその効果が不十分であり,又は副作用からの限界により痛みの処置が不完全であるとの課題を解決するため,てんかん等の中枢神経系疾患に対する抗発作療法に有用であるとされていた既知の薬物である本件化合物が,各請求項に記載の痛みの治療において,反復使用 による耐性やモルヒネとの交叉耐性が生じることなく,鎮痛,抗痛覚過敏作用を発揮することを新たに見出したことにより,本件化合物を包含する鎮痛剤の提供を可能にした医薬の用途発明であると認められる。 2 争点2-1(無効理由1(実施可能要件違反の有無))について事案に鑑み,争点2-1から判断する(なお,以下,証拠の摘示に当たって は,本件無効審判手続で提出された証拠を「審判甲1」などとして並記する。)。 (1) 判断基準特許法36条4項(平成14年法律第24号による改正前のもの。以下同じ。)は,発明の詳細な説明の記載が,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確 特許法36条4項(平成14年法律第24号による改正前のもの。以下同じ。)は,発明の詳細な説明の記載が,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分 に,記載しなければならない」と定めるところ,この規定にいう「実施」とは,物の発明においては,当該発明にかかる物の生産,使用等をいうものであるから,実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明の記載が,当業者が当該発明に係る物を生産し,使用することができる程度のものでなければならないと解される。 そして,医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示されることのみによっては,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を予測することは困難であり,当該医薬を当該用途に使用することができないから,医薬用途発明において実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明は,その医薬を製造することができるだけでなく,出願時 の技術常識に照らして,医薬としての有用性を当業者が理解できるように記 載される必要がある。 (2) 本件明細書等の記載内容ア訂正前発明1の構成要件1B´及び1Cは,「痛みの処置における鎮痛剤」であり,訂正前発明2は訂正前発明1に係る請求項を引用するものであるところ,これらの発明に係る請求項には,構成要件1B´の「痛み」の種 類や原因を限定する記載はない。 そして,本件明細書等には,本件化合物を含む鎮痛剤が使用される痛みについて,「本発明は,…痛みの処置とくに慢性の疼痛性障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定されるものではないが,炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,三叉神経痛, 急性疱疹性およ の処置とくに慢性の疼痛性障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定されるものではないが,炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,三叉神経痛, 急性疱疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー,上腕神経叢捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー,線維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障害および特発性疼痛症候群が包含される。」(2頁14~19行目),「痛みにはとくに炎症性疼痛,神経障害の痛み,癌の痛み,術後疼痛,および原因不明の痛み である特発性疼痛たとえば幻想肢痛が包含される。神経障害性の痛みは末梢知覚神経の傷害または感染によって起こる。これには以下に限定されるものではないが,末梢神経の外傷,ヘルペスウイルス感染,糖尿病,カウザルギー,神経叢捻除,神経腫,四肢切断,および血管炎からの痛みが包含される。」(3頁46~50行目)との記載がある。 これらの記載によれば,構成要件1B´の「痛み」には,本件明細書等に記載された上記の様々な痛みが全て包含されるものと解される。 イ証拠(甲78・乙6〔審判甲3〕,甲79・乙7〔審判甲4〕,甲80・乙8〔審判甲5〕,甲81〔審判甲6〕,甲88・乙14〔審判甲14〕,甲90〔審判甲18〕,甲91〔審判甲19〕,乙31,36,37)に よれば,痛みには,様々なものがあり,その発生原因に応じ,①侵害受容 性疼痛(組織損傷による侵害受容体への過剰刺激や炎症により発痛増強物質等が同受容体を刺激することにより発生する痛み。炎症性疼痛や術後疼痛等がこれに該当する。),②神経障害性疼痛(末梢神経や中枢神経の損傷に起因して発生する痛み。三叉神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー,帯状疱疹後 激することにより発生する痛み。炎症性疼痛や術後疼痛等がこれに該当する。),②神経障害性疼痛(末梢神経や中枢神経の損傷に起因して発生する痛み。三叉神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー,帯状疱疹後神経痛等がこれに該当する。),③心因性疼痛(精密検査 を行っても原因となるような器質的病変ないし病態生理的機序が見出されないにもかかわらず訴えられる疼痛,また,器質的病変が存在する場合であっても,その身体的所見から予期される以上の強さの疼痛の訴えがあり,背景に心理的要因が関与していると考えられるもの。線維筋痛症等がこれに該当する。)に区分されるものと認められる。 ウ本件特許請求の範囲の請求項2に記載された化合物は請求項1記載の化合物(本件化合物)を特定したものであり,請求項3に記載した化合物は請求項2記載の化合物を特定したものであるところ,本件明細書等には,薬理試験結果のデータとして,①CI-1008((S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸。請求項3記載の化合物)及び3-アミノメチ ル-5-メチル-ヘキサン酸(同請求項記載の化合物)等を用いたラットホルマリン足蹠試験結果,②CI-1008を用いたカラゲニン痛覚過敏に対する試験結果,③本件化合物に該当するS-(+)-3-イソブチルギャバ(先発医薬品の名称や化学構造(甲5)に照らし,CI-1008と同一であると認められる。)を用いたラット術後疼痛モデルにおける熱痛 覚過敏及び接触異痛に対する試験結果が記載されている。 (ア) このうち,術後疼痛が侵害受容性疼痛に当たることは上記イのとおりであり,当業者は,上記③の試験を侵害受容性疼痛に対する医薬品等の効果を評価するための動物実験であると認識すると考えられる。 (イ) 次に,本件明細書等には,カ 容性疼痛に当たることは上記イのとおりであり,当業者は,上記③の試験を侵害受容性疼痛に対する医薬品等の効果を評価するための動物実験であると認識すると考えられる。 (イ) 次に,本件明細書等には,カラゲニン痛覚過敏に対する試験結果につ いて,「これらのデータは…CI-1008 が炎症性疼痛の処置に有効である ことを示す。」(6頁31,32行目)と記載されており,本件特許出願前に公表された甲57〔審判乙34〕(「Alterationsinneuronalexcitabilityandthepotencyofspinalmu, deltaandkappaopioidsaftercarrageenan-inducedinflammation」351頁左欄11,12行目。平成4年公表。なお,文献については著者名,出版社又は雑誌 の名称・号数等の記載は省略する。以下同様。)にも「カラゲニンは,炎症及び痛覚過敏を誘発するために広く使用されている。」などの記載が存在する。これらによれば,当業者は,上記試験を,侵害受容性疼痛に属する炎症性疼痛に対する医薬品等の効果を評価するための試験であると認識するものと認められる。 (ウ) さらに,ラットホルマリン足蹠試験について,本件特許出願前に公表された甲27〔審判乙4〕(「Effectsoflocalanaesthesiaonformalin-inducedFosexpressionintheratdorsalhorn」2301頁序論左欄1,2行目。平成7年公表)には,「ホルマリン試験は,動物における侵害刺激のモデルとして使用されてきている。」との記載が, 甲45〔審判乙22〕(「Theformalintest: 論左欄1,2行目。平成7年公表)には,「ホルマリン試験は,動物における侵害刺激のモデルとして使用されてきている。」との記載が, 甲45〔審判乙22〕(「Theformalintest: anevaluationofthemethod」)13頁左欄末行~右欄2行目。平成4年公表)には,「ホルマリン試験は…侵害受容の標準的動物モデルの1つと考えるべきである。」との記載が存在する。これによれば,当業者は,上記試験を,炎症性の痛み,すなわち侵害受容性疼痛に対する医薬品等の効果を評価するため の試験であると認識するものと認められる。 (エ) 以上によれば,本件明細書等に記載された三つの薬理試験は,いずれも,本件化合物が侵害受容性疼痛に対して鎮痛効果を有することを確認したものであり,当業者もそのように認識するものと考えられる。 エ他方,神経障害性疼痛については,本件明細書等に「BennettG.J.のア ッセイはヒトに認められるのと類似の疼痛感覚の障害を生じるラットに おける末梢性単発神経障害の動物モデルを提供する(Pain, 1988; 33:-107)。KimS.H.らのアッセイは,ラットにおける分節脊椎神経の結紮によって生じる末梢神経障害の一つの実験モデルを提供する(Pain, 1990;50: 355-363)。」(6頁33~36行目)との記載が存在するにとどまり,本件化合物が神経障害性疼痛又は心因性疼痛による痛覚過敏又は接触異 痛の痛みの治療に有効であることを示す薬理試験結果は,動物実験の結果も含め,何ら開示されていない。 医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示されることのみによっては,当該用途の有用性を予測することは困難であり,当該 理試験結果は,動物実験の結果も含め,何ら開示されていない。 医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示されることのみによっては,当該用途の有用性を予測することは困難であり,当該医薬を当該用途に使用することができないから,医薬の用途発明において 実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明にその医薬の有用性を当業者が理解できるような薬理試験結果を記載する必要があるが,前記判示のとおり,本件明細書等には,本件化合物が神経障害性疼痛又は心因性疼痛による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの治療に有効であると当業者が理解し得るような薬理試験結果の記載は存在しない。 (3) 本件特許出願当時の技術常識ア本件明細書等には,本件化合物が侵害受容性疼痛による痛覚過敏又は接触異痛に対して有効であれば,神経障害又は心因性による痛覚過敏又は接触異痛についての薬理試験を要することなく治療効果が予測されることを明示又は示唆する技術常識の記載は存在しない。また,侵害受容性疼痛, 神経障害性疼痛,心因性疼痛などの種類を問わず,痛覚過敏又は接触異痛などの痛みの発症原因や機序が同一であり,いずれかの種類の痛みに対して有効な医薬品であれば,他の種類の痛みに対しても有効であることが本件特許出願当時の当業者に知られていたなどの記載もない。 イ本件特許出願前に公表された文献である甲79・乙7〔審判甲4〕(「病 態生理よりみた内科学」652頁2~18行目,653頁7~13行目。 平成8年公表)には「慢性疼痛は極めて多彩な特徴を持ち,その基礎となる病態生理に著しい差違がある」とした上で,①侵害受容性疼痛について,侵害受容神経路に進行しつつある侵害刺激による痛みであり,その痛みの質は「体性であ 慢性疼痛は極めて多彩な特徴を持ち,その基礎となる病態生理に著しい差違がある」とした上で,①侵害受容性疼痛について,侵害受容神経路に進行しつつある侵害刺激による痛みであり,その痛みの質は「体性であればチクチクする,脈打つような,あるいは差し込むような痛みであり,内臓性なら鈍いあるいは絞るような痛み」であって,「鎮 痛薬としてのモルヒネは有効である」,②神経障害性疼痛について,求心路遮断性,交感神経依存性及び末梢性の三つの亜型に分類され,その痛みは,「神経損傷により急激に現れ,臨床的には,異常感覚…,感覚異常…,あるいは神経学的障害または局在性自律神経障害のような特徴を合併」し,神経障害性疼痛のうち交感神経依存性疼痛と求心路遮断性疼痛には「モル ヒネは無効で」ある,③心因性疼痛について,「この痛みは,器質性病変を伴うものと伴わないものとがあ」り,「この種の痛みを特徴付けるのは困難で」,「診断には器質的要因と心理的要因とがどの程度疼痛経験に寄与しているかを識別する必要があり,問題はしばしば複雑となる」などと記載されている。 同様に,甲80・乙8〔審判甲5〕(「最新脳神経外科学」200頁左欄3~19行目。平成8年公表)には,侵害受容性疼痛について,「組織損傷による機械的な侵害レセプターへの過剰刺激や炎症による内因性発痛物質や発痛増強物質がレセプターを刺激することにより発生する痛み」であり,「刺激となる組織障害に対処し,抗炎症療法を施行し,それらが 効果をみる前には,モルフィンなどの鎮痛薬で対処することが可能であ」り,神経性疼痛について,「末梢神経に対する圧迫や絞扼によって発生するもので,脱髄や虚血のために異常知覚が発生したり,細系線維と太系線維との間でエファプス伝達…が発生したり,細経(判決注:ママ)線 り,神経性疼痛について,「末梢神経に対する圧迫や絞扼によって発生するもので,脱髄や虚血のために異常知覚が発生したり,細系線維と太系線維との間でエファプス伝達…が発生したり,細経(判決注:ママ)線維に過剰興奮を惹起させたりして,脊髄後角へ有害刺激の信号を大量に送り込 み,脊髄視床路を介して,激しい痛みとして認識される」などと記載され ている。 さらに,甲84・乙11〔審判甲9〕(「神経内科 QuickReference 第2版新しい神経学の進歩をふまえた診療の実際-診察から治療まで-」199頁下から4行目~200頁7行目。平成7年公表)には,心因性疼痛について,「中枢神経系に器質的病変がなく,直接末梢からの侵害刺激 がないにもかかわらず存在する痛みで,通常慢性疼痛の形をとるもの」であって,痛む部位は「精神的な影響を受けやす」く,「常に1個所に固定しているのでなく,他の部位に移動しやすく,しばしば同時に2個所以上に痛みが存在し,しかもそれぞれが互いに関連のない部位であることも特徴的」であり,痛みの強さは「一般にあまり強くなく,痛みの内容も漠然 としており」,治療は「精神安定薬,抗うつ薬の投与や精神療法が行われるが,一般になかなか治りにくい」などと記載されている。 上記各文献は,本件の技術分野に属する専門家により執筆されたものであり,その当時の技術常識を反映した文献であるというべきところ,上記に摘示した各記載によれば,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛及び心因性 疼痛は,その発症原因,痛みの態様・程度及び治療方法がそれぞれ異なるというのが本件特許出願当時の技術常識であり,痛みの種類を問わず,痛覚過敏又は接触異痛などの痛みの発症原因や機序は同一であり,いずれかの種類の痛みに対 ,痛みの態様・程度及び治療方法がそれぞれ異なるというのが本件特許出願当時の技術常識であり,痛みの種類を問わず,痛覚過敏又は接触異痛などの痛みの発症原因や機序は同一であり,いずれかの種類の痛みに対して有効な医薬品であれば,他の種類の痛みに対しても有効であるとの技術常識が存在したということはできない。 ウ以上によれば,本件化合物が神経障害又は心因性による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの治療に有効であることを示す薬理試験結果の記載もなく,本件明細書等の記載に接した当業者が,本件化合物がこれらの痛みの治療に有効であると認識し得たとは考えられない。 (4) したがって,本件明細書等の記載は訂正前発明1及び2を当業者が実施で きる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできず,実施可 能要件を充足しない。 (5) 原告の主張についてこれに対し,原告は,本件特許出願当時,慢性疼痛は,それが侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛又は心因性疼痛のいずれによるものであっても,末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛 の痛みであるとの技術常識が存在したので,当業者は,本件明細書等の記載及び同明細書等に記載された薬理試験から,本件化合物が同明細書等に記載された各種の痛みに有用であると認識することができたと主張する。 アその理由として,原告は,本件特許出願当時,ホルマリン試験等を用いた研究により,組織損傷や炎症の後に,興奮性アミノ酸を伝達物質とする NMDAレセプター作動性の中枢性感作を生ずることが知られ(甲39,46,47,49等),カラゲニンの炎症や,術後疼痛における感作についても,これと同様の機序であると理解されていた上(甲15の1,甲50,52,57,133,1 性感作を生ずることが知られ(甲39,46,47,49等),カラゲニンの炎症や,術後疼痛における感作についても,これと同様の機序であると理解されていた上(甲15の1,甲50,52,57,133,146等),神経損傷の後にも,同様にNMDAレセプター作動性の中枢性感作を生ずることが知られていたこと(甲4 1,42,46,55,59,80,86,128~130,134等)などを指摘する。 (ア) 確かに,傷害後疼痛過敏に関し,例えば,甲39〔審判乙16〕(「TheinductionandmaintenanceofcentralsensitizationisdependentonN-methyl-D-asparticacidreceptoractivation; implicatio nsforthetreatmentofpost-injurypainhypersensitivitystates」293頁要約14,15行目,序論左欄1~6行目。平成3年公表)には,「中枢感作はヒトにおける損傷後疼痛過敏状態の原因となる可能性がある」,「末梢組織の損傷に続いて生じる痛覚過敏は,損傷付近の一次求心性侵害受容器の感受性の増大(末梢性感作)…および,脊髄に おけるニューロンの興奮性の増大(中枢性感作)の結果生じる」との記 載が,甲46〔審判乙23〕(「EvidenceforspinalN-methyl-D-aspartatereceptorinvolvementinprolongedchemicalnociceptionintherat」218頁要約下から3行目~末行。平成2年公表)には「ホルマリンによって生成される求心性集中砲火(が)…比較的に短いタイ longedchemicalnociceptionintherat」218頁要約下から3行目~末行。平成2年公表)には「ホルマリンによって生成される求心性集中砲火(が)…比較的に短いタイムスパンでNMDA介在性の中枢性活性を誘発し,この誘発された活性 が長期間の痛みの状態における侵害受容とその調節の変化の一つの基礎となっている可能性がある」との記載が,甲49〔審判乙26〕(「TheRoleofNMDAReceptor-operatedCalciumChannelsinPersistentNociceptionafterFormalin-inducedTissueInjury」3671頁左欄の要約部分下から6行目〜末行。平成4年公表)には「この結果は, ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作および持続性侵害受容は,主にNMDA受容体作動性(比較的程度は低いが電位依存性の)カルシウムチャネルを介したカルシウム流入に依存することを示す。」との記載が存在する。 (イ) また,術後疼痛に関し,例えば,甲15の1〔審判丙四6〕(「Char acterizationofaratmodelofincisionalpain」500頁左欄36~39行目。平成8年公表)には,「著者らは,傷の上10cmの位置での疼痛閾値の減少を検出し,これが中枢性感作による二次痛覚過敏であったことを示した。」との記載が,甲50〔審判乙27〕(「SpinalnitricoxidesynthesisinhibitionblocksNMDA-inducedtherma lhyperalgesiaandproducesantinociceptionintheformali inhibitionblocksNMDA-inducedtherma lhyperalgesiaandproducesantinociceptionintheformalintestinrats」291頁要約下から3行目~末行,299頁左欄2~6行目。平成5年公表)には「この痛覚過敏要素は,脊髄のNMDA受容体の活性化によって開始され,それはNO 生成を介して求心性インプットの実際の増大処理および続く疼痛行動の関連する痛覚過敏要素に導 く。」,「ヒトの術後疼痛状態は,…長引く求心性の活動や脊髄のNM DAレセプターを用いた動物モデルやシステムと少なからず類似している」との記載が,甲146(「IntrathecalAmitriptylineActsasanN-Methyl-D-AspartateReceptorAntagonistinthePresenceofInflammatoryHyperalgesiainRats」1046頁右欄13〜19行目。 平成7年公表)には「神経損傷と炎症のモデルは,結果として得られる 痛覚過敏の脊椎での薬理学及び生理学に一般的に違いはない。両方の種類のモデルにおいて,介入から維持される有害な感覚入力は,脊椎でのN−メチル−D−アスパルテート(NMDA)レセプターの活動に依存して痛覚過敏を生ずるという強い証拠がある。」との記載がある。 (ウ) さらに,神経障害性疼痛に関し,甲42〔審判乙19〕(「Response ofchronicneuropathicpainsyndromestoketamine: apreliminarystudy」56頁左欄26~35行目。平成6年公表)には「動物の神経障害性 hronicneuropathicpainsyndromestoketamine: apreliminarystudy」56頁左欄26~35行目。平成6年公表)には「動物の神経障害性疼痛モデルにおいて示唆されるように…,痛覚過敏はNMDA受容体によって介在される「ワインドアップ現象」の提示である可能性がある。これに関して神経障害性疼痛症候群における痛覚過敏はホルマ リン誘発性の痛みの第二相…に類似する。これらはすべて,NMDA受容体介在性の中枢性促通による脊髄レベルでのワインドアップ現象によって生じると思われる。」との記載が,前掲甲46〔審判乙23〕(218頁序論1~15行目)には「持続したあるいは慢性的な痛みに関連する多くの問題の一つは,長く持続する痛みのある種の形態を緩和する 難しさにあり,これは特に,神経損傷に関連する形態についてである。 …動物についての様々な研究は,末梢の侵害受容繊維(判決注:ママ)の感作が発生し得ること…を明らかに示し,さらに最近では,マイナー入力に対する後角の侵害受容的システムの反応を顕著に促進する,急速に誘発された中枢性過敏についての証拠が蓄積している。このようなメ カニズムは,痛みを増幅し,持続する痛みの状態の問題に貢献する可能 性がある。」との記載がある。 (エ) 他方,前記(3)イ判示のとおり,甲79・乙7〔審判甲4〕,甲80・乙8〔審判甲5〕,甲84・乙11〔審判甲9〕等によれば,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛及び心因性疼痛は,その発生原因,発現する痛みの態様や程度,治療方法等が異なるものと認められ,さらに,本件特 許出願前に公表された甲41〔審判乙18〕(「Nociceptormodulatedcentralsensitizatio みの態様や程度,治療方法等が異なるものと認められ,さらに,本件特 許出願前に公表された甲41〔審判乙18〕(「Nociceptormodulatedcentralsensitizationcausesmechanicalhyperalgesiainacutechemogenicandchronicneuropathicpain」588頁右欄32~43行目。平成6年公表)には,神経障害性疼痛について,「神経因性疼痛を有する患者が異種性であることは,以前に指摘されており…本研究に より確認された。調査により,異なる型の痛覚過敏が個々の患者に同時に存在し得ること,および単一の感覚異常が必ずしも他の感覚機能障害と関連するわけではないことが明らかとなった。また,機械的疼痛閾値の低下などの1つの症状が,同じ患者においても,異なる神経メカニズムによって媒介され得ることも指摘されている。」との記載がある。 また,心因性疼痛に分類される線維筋痛症について,甲60〔審判乙37〕(「BecomingFamiliarwithFibromyalgia」33頁左欄5~7行目,右欄下から18行目~末行。平成8年公表)には,「線維筋痛症は,睡眠障害に関連していると思われる筋肉の微小外傷によって引き起こされる可能性があることも示唆されている。…神経伝達物質の不均衡もこ の疾患の原因として調査されている。…これらの不均衡に対する遺伝的素因があるかもしれない…身体的外傷,心理社会的外傷,または感染が症状の発現を引き起こす可能性がある」,「原因は謎のままである。線維筋痛症に対する治療法はない。」との記載がある。 (オ) 以上によれば,上記(ア)~(ウ)の各記載から,侵害受容性疼痛,神経障 害性疼痛等で出現する痛 性がある」,「原因は謎のままである。線維筋痛症に対する治療法はない。」との記載がある。 (オ) 以上によれば,上記(ア)~(ウ)の各記載から,侵害受容性疼痛,神経障 害性疼痛等で出現する痛覚過敏と,脊髄のNMDA受容体の活性化によ る中枢性感作との間に関連性があるといい得るとしても,本件特許出願当時,本件明細書等に記載された侵害受容性疼痛(炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,痛風,火傷痛等)や神経障害性疼痛(三叉神経痛,急性疱疹性神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー等)により出現する痛覚過敏がすべて末梢や中枢の神経細胞の感作という 神経の機能異常により生じるとの技術常識が存在したとは認め難く,まして,これらの記載から,当業者が,薬理試験結果の記載もなく,本件化合物が神経障害性疼痛の治療に有効であると認識し得たということはできない。 イ原告は,甲129,乙12等を根拠に,組織損傷や炎症により神経を損 傷し,逆に神経損傷により炎症を生じるなどして,神経細胞の感作を生じて痛覚過敏や接触異痛を生ずることから,痛みを組織損傷,炎症,神経損傷,心因性の要因などの原因では明確に区別することはできず,炎症性疼痛や術後疼痛と神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛とは,相互に重複する痛みであると理解されていたと主張する。 (ア) しかし,本件特許出願当時の技術常識として,痛みは,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,心因性疼痛に区分され,それぞれの区分により,痛みの態様や程度が異なると認められることは,前記判示のとおりであり,乙12〔審判甲11〕(「ペインクリニック療法の実際-痛みをもつ患者への集学的アプローチ-」15頁等。平成8年公表)にも,末梢 組織・末梢神経に起因する痛 れることは,前記判示のとおりであり,乙12〔審判甲11〕(「ペインクリニック療法の実際-痛みをもつ患者への集学的アプローチ-」15頁等。平成8年公表)にも,末梢 組織・末梢神経に起因する痛みを「組織の損傷や炎症」により生じるものと,「末梢神経自体の損傷により起こる痛み」とを分けて論じており,甲129(「Painduetonervedamage: Areinflammatorymediatorsinvolved?」平成7年公表)にも,痛みを組織損傷,炎症,神経損傷,心因性の要因などの原因で明確に区別することはできない旨の記載は 存在しない。 そうすると,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,心因性疼痛に共通して痛覚過敏や接触異痛の症状がみられるとしても,それは痛みの症状をいうにすぎず,このことをもって,それぞれの痛みの発症機序(原因)が同一であるということはできず,また,炎症性疼痛,術後疼痛,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛とが相互に重複する痛みであると当 業者から理解されていたということもできない。 (イ) 原告は,痛みを原因では明確に区別できず,各種の疼痛が相互に重複する痛みであると理解されていた例として,神経障害性疼痛を生ずる椎間板ヘルニアや手術後に神経障害性疼痛を生ずる複合性局所疼痛症候群において,炎症により神経細胞の感作を生ずることが知られ(甲12 8,130),神経損傷の後にも神経細胞の感作を生ずることが知られていたことを挙げるが,甲128は神経根の炎症,甲130は反射神経の炎症によりそれぞれ生じた痛みであり,組織の損傷というよりも,神経の損傷に起因して発生する痛みというべきものであるので,これらの証拠から,本件特許出願当時,痛みを原因では明確に区別できず,各種 の炎症によりそれぞれ生じた痛みであり,組織の損傷というよりも,神経の損傷に起因して発生する痛みというべきものであるので,これらの証拠から,本件特許出願当時,痛みを原因では明確に区別できず,各種 の疼痛が相互に重複する痛みであると当業者から理解されていたということはできない。 また,原告は,糖尿病性神経障害においては神経損傷により直ちに疼痛を生ずるわけではなく,また,複合性局所疼痛症候群は神経損傷だけでなく組織損傷によっても神経障害性疼痛を生ずる疾患とされていたな どと主張するが,仮に原告の主張するとおりであるとしても,そのことは,むしろ,痛みの発生する機序や態様等が多様であり,本件化合物の効果を確認するためには薬理試験が必要であることを示唆するものというべきである。 実際のところ,糖尿病性神経障害については,甲87(「糖尿病学」 783頁右欄下から9~8行目)に「糖尿病神経障害の疼痛に関する病 態生理学的な基礎は確立していない」との記載があり,この記載に照らしても,本件化合物の神経障害性疼痛に対する効果を確認するためには薬理試験が必要であったというべきである。 ウ原告は,本件明細書等に記載された「炎症性疼痛」は,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛による痛みであり,侵害受容性疼痛を意味しな いとした上で,ホルマリン試験は,後期相が痛覚過敏や接触異痛の原因である中枢性感作を反映したものであることが知られ,神経障害性疼痛治療薬の研究に用いられており,本件明細書等においても,本件化合物が,ホルマリンの侵害刺激を反映した前期相には効果を奏さず,痛覚過敏や接触異痛の直接の原因である中枢性感作を反映した後期相に効果を奏するこ とが確認されていると主張する。 (ア) しかし, ルマリンの侵害刺激を反映した前期相には効果を奏さず,痛覚過敏や接触異痛の直接の原因である中枢性感作を反映した後期相に効果を奏するこ とが確認されていると主張する。 (ア) しかし,炎症性疼痛が侵害受容性疼痛に該当することは,前掲甲80・乙8〔審判甲5〕(199頁右欄下から9~7行目)に「炎症や組織損傷による痛覚レセプターを異常に刺激することにより,痛覚求心系を激しく興奮させる侵害受容性疼痛」と記載されていることなどからも明ら かであり,本件明細書等における「炎症性疼痛」が侵害受容性疼痛以外に該当するとの原告の主張は採用し得ない。 (イ) また,前記判示のとおり,本件特許出願前に公表された前掲甲27〔審判乙4〕には,「ホルマリン試験は,動物における侵害刺激のモデルとして使用されてきている。」との記載が,前掲甲45〔審判乙22〕に は,「ホルマリン試験は…侵害受容の標準的動物モデルの1つと考えるべきである。」との記載があることに加え,前掲乙12〔審判甲11〕(18頁10~13行目)には,「ホルマリンをラットの足底に注入したときの痛みの発現は,疼痛回避行動の解析からearlyphase(10分以内)とlatephase(刺激後15~45分)の2相性を示すことはよく 知られている。前者はホルマリンそのものが痛覚受容器を刺激すること による痛みで,後者は二次的に起こる炎症性の痛みであると考えられており」との記載が,乙25〔審判甲22〕(「医薬品の開発」106頁22~25行目。平成2年公表)には,「侵害受容反応は希釈ホルマリン注射直後より発現し(第1相)5~10分後にいったん収まったのち,15分前後から再度発現し始め30~40分間持続する(第2相)。第 1相の反応はホルムアルデ には,「侵害受容反応は希釈ホルマリン注射直後より発現し(第1相)5~10分後にいったん収まったのち,15分前後から再度発現し始め30~40分間持続する(第2相)。第 1相の反応はホルムアルデヒドにより侵害受容線維が直接刺激されて発現し,第2相は炎症性反応でプロスタグランジンの生成が関与していると考えられている。」との記載が存在する。これらの記載によれば,本件特許出願当時,ホルマリン試験は,侵害受容性疼痛に属する炎症性疼痛に対する医薬品等の効果を評価する上で有用なモデルと当業者か ら認識されていたと認めるのが相当である。 (ウ) これに対し,原告は,ホルマリン試験は,その後期相が痛覚過敏や接触異痛の原因である中枢性感作を反映したものであることは当業者に知られていたため,神経障害性疼痛治療薬の研究に用いられていたと主張する。 この点について,例えば,甲47〔審判乙24〕(「TheContributionofExcitatoryAminoAcidstoCentralSensitizationandPersistentNociceptionafterFormalin-inducedTissueInjury」3665頁右欄1~16行目。平成4年公表)には「我々は以前…損傷に誘導される中枢性感作の行動モデルとして,ホルマリン試験を用いた。…こ れは,ホルマリン応答の初期相の間に生じた神経作用が中枢神経系の機能の変化(すなわち,中枢性感作)を引き起こし,それが次いで後期相の間の処理に影響すること,をもたらし得ることを示唆する。」との記載が,前掲甲49〔審判乙26〕(3671頁左欄要約1~26行目。 平成4年公表)には,「ラットにおける組織損傷に対する応答である中 枢 理に影響すること,をもたらし得ることを示唆する。」との記載が,前掲甲49〔審判乙26〕(3671頁左欄要約1~26行目。 平成4年公表)には,「ラットにおける組織損傷に対する応答である中 枢性感作および持続性侵害受容への細胞内カルシウムの貢献が,後肢へ のホルマリンの皮下注射の後に調べられた。…この結果は,ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作および持続性侵害受容は,主にNMDA受容体作動性…カルシウムチャネルを介したカルシウム流入に依存することを示す」との記載があり,甲49~51〔審判乙26~28〕の各文献には,ホルマリン試験の後期相を抑制する効果の ある化合物が痛覚過敏を抑制したことが記載されている。 上記各記載等によれば,ホルマリン試験による組織損傷に対する応答として中枢性感作が生じ,これが同試験の後期相の発現に影響を及ぼしている可能性があるとはいい得るが,上記各記載等をもって,同試験の後期相が中枢性感作の反映であるという技術常識が存在したとまでは 認められず,また,ホルマリン試験が,本件特許出願当時,神経障害性疼痛治療薬の研究に用いられていたと認めるに足りる証拠は存在しない。 さらに,本件化合物と異なる上記の化合物がホルマリン試験の後期相を抑制したことがあり,また,同試験により神経障害性疼痛治療薬の効 果が検討されることがあったとしても,そのことから,本件化合物が薬理試験もなく神経障害性疼痛や心因性疼痛に効果があると当業者が認識したとは考えられない。 エ原告は,当業者にカラゲニン試験が侵害受容性疼痛の試験と理解されることはないとした上で,同試験は,神経細胞の感作を反映したものとして 知られ,神経障害性疼痛治療薬の研究にも用いられており,本件明 告は,当業者にカラゲニン試験が侵害受容性疼痛の試験と理解されることはないとした上で,同試験は,神経細胞の感作を反映したものとして 知られ,神経障害性疼痛治療薬の研究にも用いられており,本件明細書等においても,神経細胞の感作で生じた痛覚過敏に対する本件化合物の効果が確認されていると主張する。 (ア) しかし,本件明細書等には,カラゲニン痛覚過敏に対する試験結果について,「これらのデータは…CI-1008 が炎症性疼痛の処置に有効であ ることを示す。」(6頁31,32行目)と記載されている上,本件特 許出願前に公表された甲44〔審判乙21〕(「Anewandsensitivemethodformeasuringthermalnociceptionincutaneoushyperalgesia」77頁要約3,4行目。昭和63年公表)には「カラゲニンに誘発された炎症は,食塩水で処置した足と比較して有意に短い足回避潜時をもたらし,そしてこれらの潜時変化は熱侵害受容閾値の低下に対応し た。」との記載が,前掲甲57〔審判乙34〕(351頁左欄11~17行目)には,「カラゲニンは,炎症と痛覚過敏を誘発するために広く使用されている。カラゲニンで処理された動物における多くの行動試験は,炎症状態によって引き起こされる変化およびこれらの変化に対する様々な薬物の効果を決定するために,侵害性の圧力(足圧力試験)およ び侵害性の熱に対する足蹠回避を使用してきた。」との記載が存在する。 これらによれば,カラゲニン試験は,本件特許出願当時,侵害受容性疼痛に属する炎症性疼痛に対する医薬品等の効果を評価するものとして,当業者に広く知られていたものと認められる。 (イ) これに対し,原告は,本件 ラゲニン試験は,本件特許出願当時,侵害受容性疼痛に属する炎症性疼痛に対する医薬品等の効果を評価するものとして,当業者に広く知られていたものと認められる。 (イ) これに対し,原告は,本件特許出願当時,カラゲニン試験が侵害受容 性疼痛の試験と理解されることはなく,同試験により出現する疼痛は,神経細胞の感作を反映したものとして知られ,神経障害性疼痛治療薬の研究にも用いられていたと主張する。 しかし,カラゲニン試験が侵害受容性疼痛の試験として知られていたことは前記判示のとおりであり,原告の挙げる証拠(甲56,57,1 46等。なお甲72は本件特許出願後に公表された文献である。)を総合しても,同試験により出現する疼痛が神経細胞の感作を反映したものとして当業者に認識されていたと認めることはできず,また,同試験が神経障害性疼痛の治療薬の研究に用いられていたとの事実を認めるに足りる証拠もない。 さらに,カラゲニン試験において,神経障害性疼痛治療薬の効果が研 究されることがあったとしても,そのことから,本件化合物が薬理試験もなく神経障害性疼痛や心因性疼痛に効果があると当業者が認識したということはできない。 オ原告は,術後疼痛試験は,神経細胞の感作を反映したものであることが知られており,本件明細書等においても,術後疼痛試験により,切開創の 治癒後も持続する,神経細胞の感作で生じた痛覚過敏や接触異痛に対する本件化合物の効果が確認されていると主張する。 (ア) しかし,術後疼痛が侵害受容性疼痛に該当することは,甲81〔審判甲6〕(「TheMassachusettsGeneralHospitalHandbookofPainManagement」32 ,術後疼痛が侵害受容性疼痛に該当することは,甲81〔審判甲6〕(「TheMassachusettsGeneralHospitalHandbookofPainManagement」32頁末行。平成8年公表)に「術後疼痛」が侵害受容性疼 痛に該当するものとして例示されているとおりであり,当業者であれば,「術後疼痛」を,切開による侵害受容器の活性化を通じた「侵害受容性疼痛」であると認識するものというべきである。 (イ) これに対し,原告は,甲15の1,甲58等を挙げ,動物の皮膚を切開することにより,神経細胞の感作が起こり,痛覚過敏などの神経の機 能異常による症状が生ずることが知られており,これを痛覚過敏等の研究に使用することが技術常識であったと主張するが,原告の挙げる証拠のうち,例えば,甲15の1には「このモデルにより,手術を原因として生じた感作の機序を理解すること,及びヒトの術後疼痛に対する新たな治療の研究が可能になる。」(493頁要約下から2行目~末行)と の記載があるにとどまり,これらの証拠から,術後疼痛が神経細胞の感作を反映したものであるとの技術常識があったということはできない。 また,原告は,カプサイシン試験やマスタードオイル試験について記載された証拠(甲41等)も根拠に挙げるが,これらの試験は本件明細書等に記載された試験ではなく,術後疼痛試験が侵害受容性疼痛に対す る医薬品等の効果を評価するためのものとして知られていたとの上記結 論を左右するものではない。 カ原告は,本件化合物は,本件明細書等において中枢神経疾患である「てんかん」に対して効果を有する既知の化合物であることが記載され,更に神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛の全体に対し,抗痛覚過敏作 告は,本件化合物は,本件明細書等において中枢神経疾患である「てんかん」に対して効果を有する既知の化合物であることが記載され,更に神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛の全体に対し,抗痛覚過敏作用を有することにより効果を奏することが明示されていたと主張する。 しかし,本件明細書等には「本発明の化合物は,てんかん…のような中枢神経系疾患に対する抗発作療法に有用な既知の薬物である。」(2頁8~10行目)と記載されているとおり,抗発作作用を有することが既知であったにすぎず,当業者が,同記載から,本件化合物が神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む痛み全体に対し鎮痛効果を有すると認識するとは考え られない。 キ原告は,甲26,42,46,52〜55,70等に基づき,ホルマリン試験で中枢性感作を抑制することが確認されたケタミンが,広く神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛に効果を奏することも知られていたと主張する。 しかし,ケタミンが侵害受容性疼痛及び神経障害性疼痛等による痛覚過敏や接触異痛に効果を奏するとしても,本件化合物とは異なる化合物であり,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛及び心因性疼痛により出現する痛覚過敏や接触異痛がすべて末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常により生じるとの技術常識が存在したとは認められないことにも照 らすと,本件特許出願当時の当業者が,ケタミンに関する知見に基づき,薬理試験結果の記載もなく,本件化合物が神経障害性疼痛や心因性疼痛の治療に有効であると認識し得たとは考えられない。 ク原告は,本件明細書等において,組織損傷や炎症による通常の痛みに対して効果のあるモルヒネを比較例としていることから,当業者は,本件化 合物が,組織損傷や炎症による侵害刺激で生ずる通常の痛みではな 告は,本件明細書等において,組織損傷や炎症による通常の痛みに対して効果のあるモルヒネを比較例としていることから,当業者は,本件化 合物が,組織損傷や炎症による侵害刺激で生ずる通常の痛みではなく,神 経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛に直接効果を奏すると理解すると主張する。 しかし,本件明細書等の薬理試験においては,ラットホルマリン足蹠試験についてギャバペンチンが,カラゲニン試験についてモルヒネ及びギャバペンチンが,術後疼痛試験についてモルヒネ及びギャバペンチンが,そ れぞれ比較例として使用されているところ,本件明細書等にはモルヒネを比較例として使用した理由の記載はなく,侵害受容性疼痛に対する効果を確認する試験においてモルヒネを比較例として使用したからといって,そのことから,本件化合物が侵害受容性疼痛以外の痛みに効果があると当業者が認識するとは考えられない。 また,原告は,本件明細書等では,慢性疼痛である神経障害性疼痛に有効なギャバペンチンを比較例としてより優れた効果を有することも確認していることからすると,本件化合物は神経障害性疼痛にも効果があると当業者は認識すると主張する。 しかし,モルヒネと同様に,本件明細書等にはこれらの化合物を比較例 として使用した理由の記載はなく,侵害受容性疼痛に対する効果を確認する試験においてギャバペンチンを比較例として使用したからといって,そのことから,本件化合物が侵害受容性疼痛以外の痛みに効果があると当業者が認識するとは考えられない。 ケ原告は,本件明細書等において,当時まだ一般的に用いられていなかっ た動物モデルであるチャングモデルやベネットモデルがあることについても紹介しており,当業者はこれらの動物モデルにより容易に追試が可能であったと主 において,当時まだ一般的に用いられていなかっ た動物モデルであるチャングモデルやベネットモデルがあることについても紹介しており,当業者はこれらの動物モデルにより容易に追試が可能であったと主張する。 しかし,本件明細書等に「BennettG.J.のアッセイはヒトに認められるのと類似の疼痛感覚の障害を生じるラットにおける末梢性単発神経障害の 動物モデルを提供する…。KimS.H.らのアッセイは,ラットにおける分節 脊椎神経の結紮によって生じる末梢神経障害の一つの実験モデルを提供する」(6頁33~36行目)との記載が存在するにとどまることは前記判示のとおりであり,他に,本件特許出願当時,本件化合物が侵害受容性疼痛以外の痛みに有効であることを上記動物モデル等により明らかにしたデータや資料等は存在しない。 かえって,乙13〔審判甲12〕(「InterventionalPainManagement」27頁表3-3。平成8年公表)には,NSAID(Cyclooxygenaseinhibitor)がホルマリン後期相には薬効があるが,チャングモデルやベネットモデル(神経障害性疼痛モデル)では薬効を示さないことが開示されており,かかる証拠に照らしても,当業者が薬理試験なく本件化合物が神経障 害性疼痛にも効果があると認識するとは考えられない。 (6) 以上によれば,本件明細書等の記載は訂正前発明1及び2を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではなく,同各発明に係る特許は特許法36条4項の規定に違反してされたものであるので,特許法123条1項4号に基づき特許無効審判により無効にされるべきものである。 3 争点2-2(無効理由2(サポート要件違反の有無))について 4項の規定に違反してされたものであるので,特許法123条1項4号に基づき特許無効審判により無効にされるべきものである。 3 争点2-2(無効理由2(サポート要件違反の有無))について(1) 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲の ものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁平成17年(行ケ)第10042号同年11月11日判決・判タ1192号164頁参照)。 (2) これを本件についてみると,前記1及び2で判示したとおり,訂正前発明 1及び2が解決しようとする課題は,本件明細書等記載の神経障害性疼痛や 心因性疼痛を含む様々な痛みの処置に有効な鎮痛剤を提供することにあるところ,本件明細書等には,本件化合物が侵害受容性疼痛に対して効果を有することは記載されているものの,本件特許出願当時の技術常識を斟酌しても,それ以外の疼痛に対して効果を有すると当業者が認識することはできない。 そうすると,本件明細書等の記載に接した当業者が訂正前発明1及び2に より,上記の課題を解決できると認識できるということはできない。 (3) したがって,訂正前発明1及び2に係る特許は,サポート要件に違反する。 4 争点3-1(無効理由の解消の有無)及び争点3-2(訂正要件の具備の有無)について(1) 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は 明1及び2に係る特許は,サポート要件に違反する。 4 争点3-1(無効理由の解消の有無)及び争点3-2(訂正要件の具備の有無)について(1) 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正は,その記載した 事項の範囲内においてしなければならない(特許法134条の2第9項,126条5項)。ここでいう「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内」とは,当業者によって,明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであることをいう。 (2) これを本件についてみると,本件訂正は,本件訂正請求前の請求項1及び2に記載された鎮痛剤の処置対象を,それぞれ,「痛み」から「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に(構成要件1B),「…である請求項1記載の鎮痛剤」から「…を含有する,神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」(構成要件2A~2C)に訂正しようとす るものである。 前記2で判示したとおり,本件明細書等には,本件化合物が侵害受容性疼痛に対して効果を有することは記載されているものの,本件特許出願当時の技術常識を斟酌しても,それ以外の疼痛に対して効果を有すると当業者が認識することはできない。 このように,本件明細書等には,神経障害又は線維筋痛症を含む侵害受容 性疼痛以外の疼痛により生じた痛覚過敏や接触異痛について本件化合物が効果を有すると認識し得るだけの記載はないところ,請求項1を「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に訂正することは,本件明細書等からはその効果を認識し得ない,侵害受容性疼痛以外の疼痛により生じた痛覚過敏や接触異痛の痛みの処置を請求項1に導入するものであり,また を「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に訂正することは,本件明細書等からはその効果を認識し得ない,侵害受容性疼痛以外の疼痛により生じた痛覚過敏や接触異痛の痛みの処置を請求項1に導入するものであり,また,請求項2に「神経障害又 は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」を加えることも,同様に,本件明細書等からはその効果を認識し得ない,侵害受容性疼痛以外の疼痛である神経障害や線維筋痛症により生じた痛覚過敏や接触異痛の痛みの処置を請求項2に特定して導入するものであるということができる。 (3) そうすると,請求項1及び2に係る上記訂正は,いずれも,本件明細書等 の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであるというべきであり,訂正要件を具備しない。 (4) 仮に,請求項1及び2に係る本件訂正が訂正要件を具備するとしても,前記2で判示したとおり,本件明細書等には,神経障害又は線維筋痛症を含む 侵害受容性疼痛以外の疼痛により生じた痛覚過敏や接触異痛について本件化合物が効果を有すると認識し得るだけの記載はないので,同明細書等は,当業者が本件発明1及び2を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められず,また,当業者がその記載により同各発明の課題を解決できると認識し得たとも認められない。 したがって,訂正前発明1及び2に係る特許の無効理由は本件訂正により解消されるものではなく,本件発明1及び2に係る特許は実施可能要件及びサポート要件に反し,特許無効審判により無効にされるべきものである。 5 争点4-1(構成要件3B及び3C並びに4B及び4Cの充足性)について(1) 本件発明3に係る構成要件3Bは「炎症を原因とする痛み,又は手術を原 因とする 無効にされるべきものである。 5 争点4-1(構成要件3B及び3C並びに4B及び4Cの充足性)について(1) 本件発明3に係る構成要件3Bは「炎症を原因とする痛み,又は手術を原 因とする痛みの処置における」というものであり,本件発明4に係る構成要 件4Bは「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における」というものである。 上記各発明に係る請求項の訂正の趣旨について,原告は,本件訂正の際に原告が特許庁に提出した上申書(甲18)において,「訂正発明3及び4において,鎮痛剤の処置対象である痛みを,審決の予告において実施可能要件 及びサポート要件を満たすと判断された『炎症を原因とする痛み(炎症性疼痛)』及び『手術を原因とする痛み(術後疼痛)』に限定した。」(9頁)などと説明しているところ,前記第4の2(2)イのとおり,構成要件3Bの「炎症を原因とする痛み」,「手術を原因とする痛み」及び構成要件4Bの「炎症性疼痛」,「術後疼痛」は,いずれも,侵害受容性疼痛に分類される 炎症性疼痛や術後疼痛を意味し,神経障害性疼痛や線維筋痛症は含まれないものと解するのが相当である。 (2) 被告医薬品の充足性について前記前提事実(8)アによれば,被告医薬品は「効能・効果を神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛とする」ものであり,「炎症を原因とする痛み」, 「手術を原因とする痛み」,「炎症性疼痛」又は「術後疼痛」を処置対象とするものではないから,構成要件3B及び4Bを充足しない。 (3) 原告の主張について原告は,慢性疼痛は,原因にかかわらず,神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずることが知られていたことや,痛みを原因で区別することはで きず, を充足しない。 (3) 原告の主張について原告は,慢性疼痛は,原因にかかわらず,神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずることが知られていたことや,痛みを原因で区別することはで きず,炎症性疼痛や術後疼痛と,神経障害性疼痛や線維筋痛症とは,相互に重複することが理解されていたことなどを根拠として,構成要件3B及び4Bの充足性を否定するが,原告のかかる主張が採用し得ないことは前記2で判示したとおりである。 また,原告は,炎症や手術による組織損傷から神経細胞の感作という神経 の機能異常を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずることなどを理由に,神経障 害性疼痛を効能,効果とする被告医薬品は,炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みを用途とするものであると主張するが,侵害受容性疼痛において神経細胞の感作が生じることがあるとしても,そのことから,「神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛」を効能・効果とする被告医薬品の用途が炎症を原因とする痛み又は手術を原因とする痛み等であるということ はできない。 さらに,原告は,痛みは患者の主観的心理状態であるから,混合性疼痛において,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛とは,同一の患者において生ずる一つの痛みであり,両者を区別できないなどと主張するが,実際の臨床の場において患者の訴える痛みがいかなる種類の疼痛に当たるかの判断が困難な 場合があるとしても,そのことは,構成要件充足性に関する上記結論を左右しない。 (4) したがって,被告医薬品が本件発明3及び4の技術的範囲に属するということはできない。 6 争点4-2(均等侵害の成否)について 原告は,被告医薬品が構成要件3B及び4Bの文言を充足しない場合であっても,均等侵害が成立すると主張する。 するということはできない。 6 争点4-2(均等侵害の成否)について 原告は,被告医薬品が構成要件3B及び4Bの文言を充足しない場合であっても,均等侵害が成立すると主張する。 しかし,相手方が製造等をする製品(対象製品)が,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属すると認められるためには,当該対象製品が特許請求の範囲に記載された構成と異なる部分が特 許発明の本質的部分ではないことを要する(第1要件)。 本件発明3及び4と被告医薬品との相違部分は,その用途にあるところ,同各発明は,既知の薬物である本件化合物が,侵害受容性疼痛の治療に有効であることを新たに見出したことにあるので,その用途が同各発明の本質的部分を構成することは明らかである。 したがって,被告医薬品は,第1要件を充足しないので,均等侵害は成立し ない。 7 まとめ以上によれば,訂正前発明1及び2に係る特許は,実施可能要件及びサポート要件の各違反を理由に特許無効審判により無効にされるべきものであり,本件訂正は訂正要件を具備せず,同訂正によっても上記各無効理由が解消されな い。また,被告医薬品は,本件発明3及び4の技術的範囲に属しない。 したがって,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。 第5 結論よって,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも 理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 佐藤達文 裁判官 判所民事第40部 裁判長裁判官 佐藤達文 裁判官 小田誉太郎 裁判官 齊藤敦 (別紙)物件目録 (S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸(一般名:プレガバリン)を有効成分とし,「効能又は効果」として「神経障害性疼痛」又は「線維筋痛症に伴う 疼痛」を含む医薬品(商品名が以下のものを含む。)・プレガバリンOD錠25mg「フェルゼン」・プレガバリンOD錠75mg「フェルゼン」・プレガバリンOD錠150mg「フェルゼン」以上 (別紙)延長登録目録 1 出願年月日平成22年6月25日出願番号 2010-700105号 延長の期間 4年9月14日登録年月日平成22年11月24日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分薬事法第14条第1項に規定する医薬品に係る同項の承認 (2) 処分を特定する番号承認番号 22200AMX00297000(3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル25mg)(4) 処分の対象となった物について特定された用途 帯状疱疹後神経痛 2 出願年月日平成22年6月25日出願番号 2010-700106号延長の期間 4年9月14日 いて特定された用途 帯状疱疹後神経痛 2 出願年月日平成22年6月25日出願番号 2010-700106号延長の期間 4年9月14日 登録年月日平成22年11月24日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分薬事法第14条第1項に規定する医薬品に係る同項の承認(2) 処分を特定する番号 承認番号 22200AMX00298000 (3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル75mg)(4) 処分の対象となった物について特定された用途帯状疱疹後神経痛 3 出願年月日平成22年6月25日出願番号 2010-700107号延長の期間 4年9月14日登録年月日平成22年11月24日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容 (1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分薬事法第14条第1項に規定する医薬品に係る同項の承認(2) 処分を特定する番号承認番号 22200AMX00299000(3) 処分の対象となった物 プレガバリン(販売名:リリカカプセル150mg)(4) 処分の対象となった物について特定された用途帯状疱疹後神経痛 4 出願年月日平成23年1月14日 出願番号 2011-700002号延長の期間 5年登録年月日平成24年2月15日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1) 特許権の存続期間の延長理由となる処 号 2011-700002号延長の期間 5年登録年月日平成24年2月15日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分 薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認 (2) 処分を特定する番号承認番号 22200AMX00297000(3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル25mg)(4) 処分の対象となった物について特定された用途 末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛を除く) 5 出願年月日平成23年1月14日出願番号 2011-700003号延長の期間 5年 登録年月日平成24年2月15日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認(2) 処分を特定する番号 承認番号 22200AMX00298000(3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル75mg)(4) 処分の対象となった物について特定された用途末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛を除く) 6 出願年月日平成23年1月14日出願番号 2011-700004号延長の期間 5年登録年月日平成24年2月15日 特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容 (1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同 年2月15日 特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容 (1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認(2) 処分を特定する番号承認番号 22200AMX00299000(3) 処分の対象となった物 プレガバリン(販売名:リリカカプセル150mg)(4) 処分の対象となった物について特定された用途末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛を除く) 7 出願年月日平成24年8月30日 出願番号 2012-700107号延長の期間 5年登録年月日平成25年10月23日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分 薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認(2) 処分を特定する番号承認番号 22200AMX00297000(3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル25mg) (4) 処分の対象となった物について特定された用途線維筋痛症に伴う疼痛 8 出願年月日平成24年8月30日出願番号 2012-700108号 延長の期間 5年 登録年月日平成25年10月23日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認(2) 処分を特定する番号 承認番号 22200AMX00298000 特許権の存続期間の延長理由となる処分薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認(2) 処分を特定する番号 承認番号 22200AMX00298000(3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル75mg)(4) 処分の対象となった物について特定された用途線維筋痛症に伴う疼痛 9 出願年月日平成24年8月30日出願番号 2012-700109号延長の期間 5年登録年月日平成25年10月23日 特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認(2) 処分を特定する番号承認番号 22200AMX00299000 (3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル150mg)(4) 処分の対象となった物について特定された用途線維筋痛症に伴う疼痛 10 出願年月日平成25年4月26日 出願番号 2013-700062号延長の期間 5年登録年月日平成26年4月23日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分 薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認(2) 処分を特定する番号承認番号 22200AMX00297000(3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル25mg) (4 2) 処分を特定する番号承認番号 22200AMX00297000(3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル25mg) (4) 処分の対象となった物について特定された用途神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛(末梢性神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛を除く) 11 出願年月日平成25年4月26日 出願番号 2013-700063号延長の期間 5年登録年月日平成26年4月23日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分 薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認(2) 処分を特定する番号承認番号 22200AMX00298000(3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル75mg) (4) 処分の対象となった物について特定された用途 神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛(末梢性神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛を除く) 12 出願年月日平成25年4月26日出願番号 2013-700064号 延長の期間 5年登録年月日平成26年4月23日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認 (2) 処分を特定する番号承認番号 22200AMX00299000(3) 処分の対象となった物プレガ 4条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認 (2) 処分を特定する番号承認番号 22200AMX00299000(3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル150mg)(4) 処分の対象となった物について特定された用途 神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛(末梢性神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛を除く)以上 (別紙)原告の主張 第1 訂正前発明1及び2 1 被告医薬品が訂正前発明1及び2の技術的範囲に属するか(構成要件1B´, 1C及び2Cの充足性)(争点1)(1) 訂正前発明1及び2は,本件化合物を鎮痛剤として「痛み」の処置に用いるものであるところ,被告医薬品の有効成分であるプレガバリンは本件化合物に該当し,被告医薬品は,「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛」を効能,効果とすることから,これを鎮痛剤として痛みの処置に用いるもので ある(訴状)。 したがって,被告医薬品は,訂正前発明1及び2の技術的範囲に属する。 (2) 被告は,訂正前発明1及び2の構成要件は,技術常識に基づけば,侵害受容性疼痛に限定解釈すべきであると主張するが(被告第1準備書面〔11〜14頁〕),被告の主張は実施可能要件及びサポート要件において検討すべ き問題であるし,被告が限定解釈の根拠とする技術常識も,後記「第1の2(1)ア~テのとおり誤りである(原告第7準備書面「第2の1」)。 2 訂正前発明1及び2に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるか(争点2)(1) 無効理由1(実施可能要件違反の有無)(争点2-1) ア記載要件は必要以上に厳格に適用されるべきでないこ び2に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるか(争点2)(1) 無効理由1(実施可能要件違反の有無)(争点2-1) ア記載要件は必要以上に厳格に適用されるべきでないこと本件各発明(及び訂正前各発明)は,これまで有効な治療法の存在しなかった,神経障害性疼痛や線維筋痛症の画期的治療薬であり,多額の研究開発投資を重ねて生まれたパイオニア発明である(訴状。甲123,125)。また,本件優先日当時,疼痛分野の技術発展は目覚ましく,本件各 発明(及び訂正前各発明)は,本件優先日直前である1990年代中頃ま でに,組織損傷や炎症の侵害刺激から生ずる通常の痛みと区別された,神経の機能異常による慢性疼痛の存在が理解され,ホルマリン試験等を用いて感作のメカニズムの理解が進んだことにより(甲68,69,124),中枢神経系に作用する既知の薬剤の疼痛治療効果が再検討され,その中から,本件化合物が感作を抑制することを見出してなされたものである(甲 5)。 本件明細書等は,本件優先日当時の技術常識に照らして可能な限りの記載がなされているから,記載要件は必要以上に厳格に適用されるべきではない(原告第4準備書面「第2の1」,原告第8準備書面「第1」。甲101)。痛みの詳細なメカニズムを論ずるまでもなく,通常の痛みと区別 された慢性疼痛のうち,ホルマリン,カラゲニン,術後の痛みに効果を奏したことで,記載要件としては十分である。 イ原因にかかわらず,神経細胞の感作で痛覚過敏や接触異痛を生ずること訂正前発明1及び2の痛みは,本件明細書等を参照すると,麻薬性鎮痛剤やNSAID(非ステロイド性抗炎症薬)では効果が不十分な慢性疼痛 と解釈できる(原告第4準備書面「第7」)。 慢性疼痛は,組織損傷 明1及び2の痛みは,本件明細書等を参照すると,麻薬性鎮痛剤やNSAID(非ステロイド性抗炎症薬)では効果が不十分な慢性疼痛 と解釈できる(原告第4準備書面「第7」)。 慢性疼痛は,組織損傷や炎症の侵害刺激による通常の痛みとは異なり,原因にかかわらず,組織損傷や炎症によるものであっても,神経損傷その他神経の障害によるものであっても,心因性の要因によるものであっても,神経障害性疼痛や線維筋痛症におけるものであっても,いずれも末梢や中 枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛の痛みである(原告第3準備書面「第1」,「第2」,原告第8準備書面「第2の3」,原告第9準備書面「第1の5」,「第2の1~6及び8(5)」等)。かかる痛覚過敏や接触異痛の痛みに対しては,ケタミン等の研究により,その直接の原因である神経細胞の感作を抑制することで,原因にか かわらず痛みを治療できることが知られていた(原告第3準備書面「第6」, 原告第9準備書面「第1の8」,「第2の11」)。 具体的には,慢性疼痛に共通する痛覚過敏や接触異痛の機序として,ホルマリン試験等を用いた研究により,組織損傷や炎症の後に,興奮性アミノ酸を伝達物質とするNMDAレセプター作動性の中枢性感作を生ずることが知られており(甲39,46,47,49等),カラゲニンの炎症 や,術後疼痛における感作も,これと同様の機序であると理解されていた(甲15の1,甲50,52,57,133,146等)。 「この結果は,ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作および持続性侵害受容は,主にNMDA受容体作動性(比較的程度は低いが電位依存性の)カルシウムチャネルを介したカルシウム 流入に依存することを示す。」(甲49〔3671 組織損傷後の中枢性感作および持続性侵害受容は,主にNMDA受容体作動性(比較的程度は低いが電位依存性の)カルシウムチャネルを介したカルシウム 流入に依存することを示す。」(甲49〔3671頁左欄Summary 下から6行目〜末行〕)「モデルは急増しているけれども,神経損傷と炎症のモデルは,結果として得られる痛覚過敏の脊椎での薬理学及び生理学に一般的に違いはない。両方の種類のモデルにおいて,介入から維持される有害な 感覚入力は,脊椎でのN−メチルーD−アスパルテート(NMDA)レセプターの活動に依存するという強い証拠がある。そのため,NMDAレセプターアンタゴニストのクモ膜下腔内注射は,かかるモデルにおいて痛覚過敏を妨げ,元に戻すのであり,さらにNMDAレセプターアンタゴニストのクモ膜下腔内注射により長く続く神経障害性疼痛 の患者の痛覚過敏や異痛が減少するという事実は,これらのモデルが臨床と関係することを示す。」(甲146〔1046頁右欄12〜25行目〕)一方,神経損傷の後にも,同様にNMDAレセプター作動性の中枢性感作を生ずることが知られていた(甲41,42,46,55,59,80, 86,128~130,134等)。 「興奮性アミノ酸(EAA)は,神経系における侵害受容情報の伝達に関与する。N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体は,EAAグルタミン酸の受容体サブタイプの1 つであり,神経傷害疼痛の発症において重要な役割を果たすと考えられる(概説については,Coderre ら,1993 を参照されたい)。中枢性NMDA受容体の遮 断は,神経傷害によって引き起こされる侵害受容挙動を低減し(Seltzer ら,1991),一次求心性C線維の刺激の延長によって引 re ら,1993 を参照されたい)。中枢性NMDA受容体の遮 断は,神経傷害によって引き起こされる侵害受容挙動を低減し(Seltzer ら,1991),一次求心性C線維の刺激の延長によって引き起こされる侵害受容細胞における過剰興奮性を減少させる(Davies およびLodge 1987; Dickenson およびSullivan 1987)。」(甲55〔221頁左欄2行目〜右欄2行目〕) 「過興奮の認められる痛覚求心路では,興奮性アミノ酸を伝達物質とするNMDAレセプターが著しく増加し(図5.46),その拮抗薬であるMK−801の投与で,過興奮を60%以上,用量依存性に抑制できることが判明した。」(甲80〔202頁左欄下から3行目〜右欄2行目〕) 「障害部位での過放電とそれより上位の痛覚求心系を異常興奮させて除神経性疼痛を発生せしめるものと考えられる。」(甲80〔202頁右欄11〜13行目〕)そのため当業者は,原因にかかわらず,痛覚過敏や接触異痛を生ずる感作の機序は同一であると考えており(甲146等),組織損傷や炎症の疼 痛モデルの結果を用いて,神経障害性疼痛や線維筋痛症等の慢性疼痛が研究されていた(甲26,41~43,46,59,64,69,73等)。 そして,ホルマリン試験で中枢性感作を抑制することが確認されたケタミンが(甲46),広く神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛に効果を奏することも知られていた(甲26,42,52〜55,70等)。 ウ痛みを原因で区別できず,炎症性疼痛や術後疼痛と神経障害性疼痛や線 維筋痛症とは相互に重複することまた,本件優先日当時,上記のように原因にかかわらず神経細胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生ずることに加え(原告第3準 疼痛と神経障害性疼痛や線 維筋痛症とは相互に重複することまた,本件優先日当時,上記のように原因にかかわらず神経細胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生ずることに加え(原告第3準備書面「第2」),組織損傷や炎症により神経を損傷し,逆に神経損傷により炎症を生じ,更にはストレスで侵害刺激を生じ,侵害刺激がストレスで増幅され, これらの原因で神経細胞の感作を生じて痛覚過敏や接触異痛を生ずることから,痛みを組織損傷,炎症,神経損傷,心因性の要因といった原因では明確に区別できず,炎症性疼痛や術後疼痛と神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛とは,相互に重複する痛みであることが理解されていた(原告第8準備書面「第2の2」,「第3」,原告第7準備書面「第2の2(1)」, 原告第9準備書面「第1の1」,「第6の2及び3」,原告第10準備書面「第2」)。 例えば,優先日当時,神経障害性疼痛を生ずる椎間板ヘルニアは,筋肉や関節等の末梢組織の損傷と,神経の圧迫等の両方から,炎症により神経細胞の感作を生ずることが知られており(甲128),神経障害性疼痛を 生ずる複合性局所疼痛症候群(反射性交感神経性ジストロフィーを含む。)も,炎症により神経細胞の感作を生ずることが知られていた(甲130)。 また,本件優先日当時,組織損傷や炎症の痛みにおいて,マクロファージや交感神経が作用し,プロスタグランジン(PG)E2及びPGI2,IL−1β,IL−6,IL−8,TNFα,NOなどの物質を生じ,これらが 神経細胞の感作を生ずることが知られていた(乙12)。 「BKはまた,他の細胞や交感神経終末からPGE2やPGI2などのプロスタノイドを放出させ,マクロファージからはIL−1やTNF−αなどのサイトカインを放出させる。(中略)T いた(乙12)。 「BKはまた,他の細胞や交感神経終末からPGE2やPGI2などのプロスタノイドを放出させ,マクロファージからはIL−1やTNF−αなどのサイトカインを放出させる。(中略)TNF−αや,IL−1β,IL−6,IL−8などのサイトカインも,プロスタノイドの産生 を刺激し,交感神経終末を興奮させることにより,炎症時のhyperalg esia の形成に関与している。マクロファージから産生されたこれらのサイトカインは,再びマクロファージに働いてNOSを活性化させる。 NOもhyperalgesia の形成に一役買っていると考えられる。」(乙12〔16頁22行目〜末行〕)「このような末梢の知覚神経終末の興奮は,脊髄後角に伝播され, 後角ニューロンを興奮させる。」(乙12〔17頁下から3〜2行目〕)一方,神経損傷の後にも全く同様に,マクロファージや交感神経が作用し,PGE2及びPGI2,IL−1β,IL−6,IL−8,TNFα,NOなどの物質を生じ,神経細胞の感作を生ずることが知られていた(甲129)。 「末梢神経は在住マクロファージを含有し,ラットの坐骨神経細胞の1〜4%を構成する[37]。末梢神経が損傷すると,マクロファージが傷害された神経に集まり[38,39],縮退した軸索とミエリン鞘を除去するのに貢献する[40]。マクロファージは,幅広い範囲の物質を分泌し[41],そのいくつかは直接又は間接に侵害受 容器を活性化する。これらの物質は,プロスタグランジンE2及びI2を含み,一次求心性入力を感作させる[19,23]。マクロファージはまた,サイトカインであるIL1−β,IL−6,IL−8及びTNFα,更にロイコトリエンLTB4を放出する[41,42]。上記のサ を含み,一次求心性入力を感作させる[19,23]。マクロファージはまた,サイトカインであるIL1−β,IL−6,IL−8及びTNFα,更にロイコトリエンLTB4を放出する[41,42]。上記のサイトカインは全て,痛覚過敏を生じるが[24],この場合には間 接作用を有する。IL1−β及びIL−6の場合には痛覚過敏の効果はプロスタグランジンの合成により媒介される[24]。ロイコトリエンB4もまたおそらく間接的なメカニズムにより痛覚過敏を生じ[31],多形核ロイコサイトの活性化を伴う(後記)。マクロファージはまた,一酸化窒素を放出し[43],これは末梢の痛覚過敏に寄与 し得る[44,45]。それ故に,Frisenにより提案されてい るとおり[38],神経傷害で生ずる痛覚過敏にマクロファージが寄与するというのがもっともであろう。」(甲129〔408頁左欄27行目〜右欄4行目〕)「節後交感神経ニューロンは,それ故に,炎症に役割を果たし得る。 交感神経切除によるこれらのニューロンの除去により,末梢神経障害 の動物モデルにおいて[5,52,53],そしてカウザルギーの患者においても[2]痛覚過敏が緩和された。」(甲129〔409頁左欄27〜31行目〕)「この考えに従うと,ノルアドレナリンは,交感神経終末に位置するアデノレセプターに作用する[22]。この作用により,プロスタ グランジンE2及びI2の合成が促進され[54,55],そしてこれらのプロスタグランジンの放出は痛覚過敏を生じ,交感神経切除により緩和する。それ故に,神経障害による痛覚過敏は,インドメタシン等のプロスタグランジン合成阻害剤によって緩和されるべきであると予期される。これは,神経傷害の2つの動物モデルで示されている[5, 22] 。それ故に,神経障害による痛覚過敏は,インドメタシン等のプロスタグランジン合成阻害剤によって緩和されるべきであると予期される。これは,神経傷害の2つの動物モデルで示されている[5, 22]。」(甲129〔409頁左欄42〜51行目〕)このように,原因にかかわらず,痛覚過敏や接触異痛は,等しく神経細胞の感作で生ずることに加え(上記イ),感作に至るまでの炎症性メディエーターの動作等を含めて同様のものであり,区別できないことが理解されていた。そのため,神経障害性疼痛に対し,抗炎症薬であるステロイド の投与による治療も行われていた(甲137,138)。 さらに,手術で末梢神経損傷に至らない場合でも,皮神経終末を損傷するし(甲123,125,126),糖尿病性神経障害の例から明らかなように,神経損傷により直ちに疼痛を生ずるわけではない(甲123,131,132)。また,複合性局所疼痛症候群(反射性交感神経性ジスト ロフィーを含む。)は,手術後に神経障害性疼痛を生ずるところ,神経損 傷だけでなく組織損傷によっても神経障害性疼痛を生ずる疾患とされていた(甲62,134)。したがって,手術により神経を損傷したか否かにより,術後疼痛と神経障害性疼痛とを区別できないことも明らかであった。 エ当業者は,痛みの症状に着目して動物モデルを用いていたこと そのため,当業者は,既に述べたとおり,実験的疼痛状態を生じさせる動物またはヒトの疼痛モデルの症状に着目し,炎症や組織損傷により痛覚過敏や接触異痛を生じさせるモデルを利用して,神経障害性疼痛や線維筋痛症等の慢性疼痛の研究を行っていた(原告第3準備書面「第3」,「第4」,原告第7準備書面「第3の2」,原告第9準備書面「第1の2」, 「第2の8」)。 例え 用して,神経障害性疼痛や線維筋痛症等の慢性疼痛の研究を行っていた(原告第3準備書面「第3」,「第4」,原告第7準備書面「第3の2」,原告第9準備書面「第1の2」, 「第2の8」)。 例えば,ホルマリン試験により神経障害性疼痛治療薬であるケタミン,MK−801,オピオイド,その他中枢神経系抑制薬の効果が検討され(甲46,47,49,64),中枢性感作の機序が研究されていた(甲45~51)。また,カラゲニン試験でも,神経障害性疼痛治療薬であるアミ トリプチリン,オピオイド等の効果が検討され(甲56,146),神経細胞の感作の機序も研究されていた(甲57,72)。術後疼痛試験も,神経細胞の感作を研究する動物モデルとして生み出された(甲15の1)。 さらに,カプサイシン試験やマスタードオイル試験により,神経細胞の感作で生ずるヒトの神経障害性疼痛に対する薬剤の効果及び機序が研究さ れていた(甲26,39,41,59,73)。 疼痛治療薬の分野だけでなく,抗がん剤や糖尿病治療薬,認知症治療薬,うつ病治療薬等の隣接分野でも,同様の理由から当業者は症状に着目して動物モデルを用いていた(原告第4準備書面「第6の8」。甲14,31~37)。疼痛の動物モデルは,人工的に痛みを生じさせるモデルであり, かつヒトではなく動物のモデルであることから,ヒトの具体的な疾患とは 原因や病態生理が異なり,動物モデルでは効果のあった薬剤が,ヒトの治療薬として認められないことがあるが,そのことにより,動物モデルが疼痛治療薬のスクリーニングに利用できないということにはならない(原告第4準備書面「第5の3(3)」,原告第9準備書面「第1の6」)。仮に動物モデルによりヒトの疾患の病態生理を正確に模倣することを要求した 場合,その グに利用できないということにはならない(原告第4準備書面「第5の3(3)」,原告第9準備書面「第1の6」)。仮に動物モデルによりヒトの疾患の病態生理を正確に模倣することを要求した 場合,そのような動物モデルなど存在しないことから,特許の取得は不可能となる(原告第9準備書面「第1の6」)。 オベネットモデルやチャングモデルの存在は,ホルマリン試験等により慢性疼痛の研究ができないことを意味しないこと本件優先日当時,ベネットモデルやチャングモデルなどの神経障害によ って痛みを生じさせる動物モデルは開発途上であり,広く用いられていなかった(原告第8準備書面「第1」,原告第10準備書面「第1」。甲2,85)。 神経細胞の感作の機序が共通するのであるから,ベネットモデルやチャングモデルが存在したからといって,ホルマリン試験,カラゲニン試験, 術後疼痛試験を用いて慢性疼痛の研究ができないということにはならない(原告第9準備書面「第2の8(6)」)。 カ本件化合物は中枢神経系に作用する既知の化合物であり,慢性疼痛に対して抗痛覚過敏作用を有するとされていること本件化合物は,本件明細書等において,中枢神経系に作用するGABA 類縁体であり,中枢神経の過活動により生ずる疾患である「てんかん」に対して効果を有する既知の化合物であることが述べられ,更に神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛の全体に対し,抗痛覚過敏作用を有することにより効果を奏することが明示されている。 キホルマリン試験は中枢性感作の試験であること ホルマリン試験は,慢性疼痛の試験として誕生し,後期相が痛覚過敏や 接触異痛の原因である中枢性感作を反映したものであることが知られていたため,神経障害性疼痛治療薬の研究に用いられてい ルマリン試験は,慢性疼痛の試験として誕生し,後期相が痛覚過敏や 接触異痛の原因である中枢性感作を反映したものであることが知られていたため,神経障害性疼痛治療薬の研究に用いられていた(原告第3準備書面「第3」,「第6」,原告第7準備書面「第2の2(2)ア」,原告第9準備書面「第2の7」。甲45~51,64,86)。本件明細書等では,ホルマリンの侵害刺激を反映した前期相には効果を奏さず,痛覚過敏や接 触異痛の直接の原因である中枢性感作を反映した後期相に本件化合物が効果を奏することを確認している。 クカラゲニン試験は神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛の試験であることカラゲニン試験は,痛覚過敏の試験として適合されており,神経細胞の 感作を反映したものであることも知られており,神経障害性疼痛治療薬の研究に用いられていた(原告第3準備書面「第4」,原告第8準備書面「第2の4」,原告第7準備書面「第2の2(2)イ」,原告第9準備書面「第2の8(2)」。甲56,57,72,146)。本件明細書等のカラゲニン試験では,神経細胞の感作で生じた痛覚過敏に対する本件化合物の効果を確 認している。 ケ術後疼痛試験は神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛の試験であること術後疼痛試験は,神経細胞の感作を反映したものであることが知られており,感作のメカニズムを研究する動物モデルである(原告第3準備書面 「第4」,原告第7準備書面「第2の2(2)ウ」。甲15の1)。本件明細書等では,術後疼痛試験により,切開創の治癒後も持続する,神経細胞の感作で生じた痛覚過敏や接触異痛に対する本件化合物の効果を確認している。 コ NSAIDや麻薬性鎮痛剤では効果の不十分な神経細胞の感作による痛 覚過敏や接触異痛に対す も持続する,神経細胞の感作で生じた痛覚過敏や接触異痛に対する本件化合物の効果を確認している。 コ NSAIDや麻薬性鎮痛剤では効果の不十分な神経細胞の感作による痛 覚過敏や接触異痛に対する効果が直接確かめられていること さらに,本件明細書等では,組織損傷や炎症による通常の痛みに対して効果を奏し,慢性疼痛に効果の不十分な麻薬性鎮痛剤であるモルヒネ(甲80,84,90,91)を比較例として,本件化合物の効果を確認している。例えば術後疼痛試験では,本件化合物がモルヒネの効かない痛覚過敏や接触異痛に有効であることや,モルヒネと異なり対側後肢のPWLに 影響を与えないことが示されている。 「上に掲げた状態が,現在市場にある鎮痛剤たとえば麻薬性鎮痛剤または非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)では,不十分な効果または副作用からの限界により不完全な処置しか行われていないことは周知である。」(甲2〔4頁4〜6行目〕) 「S−(+)−3−イソブチルギャバも同様に用量依存性(3〜30mg/kg)に接触異痛の発生を遮断し,MEDは10mg/kgであった(図5c)。この侵害受容応答の遮断は30mg/kg用量のS−(+)−3−イソブチルギャバにより3日間維持された(図5c)。これに反して,モルヒネ(1〜6mg/kg)は,6mg/kgの最大 用量で術後3時間,接触異痛の発生を防止したのみであった(図5a)。」(甲2〔8頁2〜6行目〕)「ギャバペンチンおよびS−(+)−3−イソブチルギャバは,すべての実験で試験された最大用量まで,対側後肢の熱痛覚過敏試験または接触異痛評点におけるPWLに影響しなかった。これに反して,モル ヒネ(6mg/kg,皮下)は熱痛覚過敏試験おける対側後肢のP ての実験で試験された最大用量まで,対側後肢の熱痛覚過敏試験または接触異痛評点におけるPWLに影響しなかった。これに反して,モル ヒネ(6mg/kg,皮下)は熱痛覚過敏試験おける対側後肢のPWLを増大させた(データは示していない)。」(甲2〔8頁14〜17行目〕)そのため,本件化合物が,麻薬性鎮痛剤やNSAIDの有効な,組織損傷や炎症による侵害刺激で生ずる通常の痛みではなく,神経細胞の感作に よる痛覚過敏や接触異痛に直接効果を奏することが明らかであるし,麻薬 性鎮痛剤と同じオピオイド作用や,NSAIDと同じ抗炎症作用を有すると理解することもない(原告第9準備書面「第1の2」,「第2の8(1)」,原告第10準備書面「第1」)。 サ神経障害性疼痛に効果のあるギャバペンチンと同じく用量依存性で優れた効果を奏すること 本件明細書等では,慢性疼痛である神経障害性疼痛に有効なギャバペンチン(甲61,136)を比較例として,これと同じ作用により,より優れた効果を有することも確認している。ギャバペンチンも本件化合物も,ともにホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼痛試験の全てにおいて用量依存性で痛覚過敏や接触異痛に拮抗しており,機序の同一性が明らかで ある(原告第8準備書面「第1の2」,原告第9準備書面「第1の2」)。 シベネットモデルやチャングモデルの追試が可能であること加えて,本件明細書等では,当時まだ一般的に用いられていなかった動物モデルであるチャングモデルやベネットモデルがあることについても紹介しており,当業者はこれらの動物モデルにより容易に追試が可能であ る(原告第4準備書面「第2」)。 ス小括上記ア~シの理由により,当業者は,本件化合物が慢性疼痛に有用であることを十分に しており,当業者はこれらの動物モデルにより容易に追試が可能であ る(原告第4準備書面「第2」)。 ス小括上記ア~シの理由により,当業者は,本件化合物が慢性疼痛に有用であることを十分に理解する。 (被告の主張への反論) セこれに対し,被告は,痛みが侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,心因性疼痛に分類され,侵害受容性疼痛の痛覚過敏や接触異痛,神経障害性疼痛の痛覚過敏や接触異痛,心因性疼痛の痛覚過敏や接触異痛が存在すると主張する(被告第2準備書面〔4〜8,12〜16,22〜23頁〕,被告第7準備書面〔5〜7頁〕)。しかし,痛みが侵害受容性疼痛,神経障害 性疼痛,線維筋痛症に分類されるという事実は,原因にかかわらず,神経 細胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生じ,神経細胞の感作を抑制することで鎮痛できることを否定するものではない(原告第9準備書面「第1の1」,原告第10準備書面「第1」)。 ソ神経障害性疼痛に上腕神経叢捻除,帯状疱疹後神経痛,幻肢痛,視床痛,カウザルギー,三叉神経痛,糖尿病性神経障害等の様々な疾患が含まれる としても,それらは結局のところ神経障害性疼痛に分類され,求心路遮断性,交感神経依存性,末梢性といった分類にかかわらず(上腕神経叢捻除,帯状疱疹後神経痛,幻肢痛,視床痛は求心路遮断痛であり,カウザルギーは交感神経依存性疼痛であり,三叉神経痛,糖尿病性神経障害は末梢性疼痛である。甲79~81等),ホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼 痛試験におけるものと同様,神経細胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生ずる。 例えば,求心路遮断痛は,上記イで述べたとおり,中枢性感作の痛みであると理解されていた(甲80)。また,交感神経依存性疼痛も,中枢性感作の痛みであることが理 により痛覚過敏や接触異痛を生ずる。 例えば,求心路遮断痛は,上記イで述べたとおり,中枢性感作の痛みであると理解されていた(甲80)。また,交感神経依存性疼痛も,中枢性感作の痛みであることが理解されていた(甲134)。 「機械的受容器が交感神経依存性疼痛(SMP)の接触誘起痛の原因であり,この入力への中枢の侵害受容ニューロンの感作が生じていることの十分な証拠が存在する。」(甲134〔618頁20〜22行目〕)さらに,末梢性疼痛も,例えば椎間板ヘルニアについて(甲80),組 織や神経の炎症で生ずる,中枢性感作の痛みであることが理解されていた(甲128)。 「疼痛の状況が末梢組織で生ずると,侵害信号の脊髄への継続的なバラージにより後角における体性感覚ニューロンを感作させ得る。これらの感作されたニューロンは,慢性疼痛状態に寄与し得る。」(甲 128〔1808頁右欄14〜18行目〕) 心因性疼痛も,結局のところ,心因性の要因で侵害刺激が生じ,又は器質的病変が心理的要因で増幅され,神経細胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生ずる(原告第7準備書面「第3の2」)。心因性疼痛に分類されることもある線維筋痛症も,中枢性感作の痛みとされている(甲26,65,88)。 「これらの結果は,NMDA 受容体が線維筋痛症の疼痛機構に関与するという仮説を支持する。これらの知見から,FM に中枢性感作があること,および圧痛点が二次痛覚過敏を示すことも示唆される。」(甲26〔360頁Summary7行目〜末行〕)タ被告は,動物モデルは原因により使い分けられていたところ,炎症や手 術を原因とする痛み(炎症性疼痛,術後疼痛)は侵害受容性疼痛であるから,ホルマリン試験,カラゲニン試験,術後 〜末行〕)タ被告は,動物モデルは原因により使い分けられていたところ,炎症や手 術を原因とする痛み(炎症性疼痛,術後疼痛)は侵害受容性疼痛であるから,ホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼痛試験は侵害受容性疼痛の試験であるとも主張する(被告第1準備書面〔30〜46頁〕,被告第2準備書面〔8〜11,16〜18,23〜26,32〜34,41〜48,50〜57頁〕,被告第7準備書面〔7〜9,14〜16,18〜20頁〕 等)。しかし,上記イのとおり,原因にかかわらず,神経細胞の感作により,神経障害性疼痛や線維筋痛症に共通する痛覚過敏や接触異痛を生ずる。 これに対して,侵害受容性疼痛は,侵害受容器への刺激により生じ,侵害刺激に比例する通常の痛みであると理解されており(甲79,80),ホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼痛試験において,神経細胞の感作 により生ずる痛覚過敏や接触異痛等の病的な慢性疼痛を含まない(原告第9準備書面「第1の1及び3」。甲2,43,46,146等)。本件明細書等に記載された「炎症性疼痛」や「術後疼痛」も,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛の痛みであり,侵害受容性疼痛を意味しない。そのため,本件明細書等のホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼痛試験 が侵害受容性疼痛の試験と理解されることはない。「侵害受容」といった 用語は,ホルマリン試験等が侵害受容性疼痛であることを意味しない(原告第9準備書面「第2の7(3)」,「第6の4」)。 チ被告は,ホルマリン試験の後期相と中枢性感作との関係や,痛覚過敏や接触異痛に対する中枢性感作の寄与は仮説や推測であるなどと主張するが(被告第2準備書面〔26〜30,34〜41,52〜55頁〕),上記 イ,エ及びキのとおり,原因にかかわら の関係や,痛覚過敏や接触異痛に対する中枢性感作の寄与は仮説や推測であるなどと主張するが(被告第2準備書面〔26〜30,34〜41,52〜55頁〕),上記 イ,エ及びキのとおり,原因にかかわらず,ホルマリン試験においても,中枢性感作により痛覚過敏や接触異痛を生ずることが知られていた。例えば,先行技術文献に「示唆されている」といった断定形でない記載があるのは,実験結果を論ずる際の作法であり,動物モデルにおける薬剤の作用からヒトの疾患の機序を述べる必要があること等によるものであり,神経 細胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生ずること,ホルマリン試験が中枢性感作を反映したものであること,ケタミンが中枢性感作を抑制し,神経障害性疼痛や線維筋痛症に効果を奏すること等が仮説であることを意味しない(原告第9準備書面「第2の7及び11」等)。 ツ被告は,動物モデル間でNSAID等の薬剤の効果が異なるから,原因 により痛覚過敏や接触異痛の病態は異なるとも主張するが(被告第2準備書面〔48〜50頁〕,被告第7準備書面〔16〜18頁〕),上記エのとおり,薬剤の効果が異なることにより動物モデルが疼痛治療薬のスクリーニングに利用できないということにはならないし,上記コのとおり,本件明細書等の記載からは,本件化合物がNSAIDと同じ抗炎症作用では なく,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛に直接効果を奏するものであることが明らかである。 テ被告は,ケタミンは薬理学的機序が不明であり,ケタミンの結果を異なる化学構造を有する本件化合物に一般化できないと主張するが(被告第2準備書面〔19〜20,61〜66頁〕),上記イのとおり,ケタミンは, 感作を抑制することで,原因にかかわらず痛覚過敏や接触異痛に効果を奏 す できないと主張するが(被告第2準備書面〔19〜20,61〜66頁〕),上記イのとおり,ケタミンは, 感作を抑制することで,原因にかかわらず痛覚過敏や接触異痛に効果を奏 することが知られており,上記コのとおり,当業者は本件明細書等の記載から,本件化合物がケタミンと同様に,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛に直接効果を奏したことを理解する。 (2) 無効理由2(サポート要件違反の有無)(争点2-2)上記第1の1(1)ア~テにおいて述べたことと同様の理由により,当業者 は,本件化合物が慢性疼痛に効果を奏することを十分に理解する。 3 本件発明1及び2に係る訂正の再抗弁の成否(争点3)(1) 無効理由の解消の有無(争点3-1)ア無効理由1の解消の有無(争点3-1-1)(ア) 上記第1の2(1)ア~テにおいて述べたとおり,当業者は,痛みの原因 にかかわらず,本件化合物が痛覚過敏や接触異痛に効果を奏することを十分に理解する。 (イ) また,本件発明1及び2では,処置対象となる痛みが,慢性疼痛のうち「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に明確に限定されている。これは,ホルマリン試験の後期相に反映された中枢性感作で生じる痛みであり (甲27,86等),本件明細書等のカラゲニン試験及び術後疼痛試験において,本件化合物の効果が明示的に確かめられた痛みである(原告第3準備書面「第2」~「第4」,原告第8準備書面「第2の4」)。 (ウ) 本件発明2では,処置対象となる痛みが更に「神経障害又は線維筋痛症による」痛覚過敏又は接触異痛に限定されている。本件優先日当時, 神経障害性疼痛は,一次的な神経損傷又は神経の機能異常の痛みとして定義されており(原告第3準備書面「第5」,原告第9準備書面「第1の4及び 過敏又は接触異痛に限定されている。本件優先日当時, 神経障害性疼痛は,一次的な神経損傷又は神経の機能異常の痛みとして定義されており(原告第3準備書面「第5」,原告第9準備書面「第1の4及び7」,「第2の2及び9」。甲77),炎症や組織損傷だけでなく,神経損傷によっても神経細胞の感作という神経の機能異常を生じて,神経障害性疼痛における痛覚過敏や接触異痛を生ずることが知られ ていた(原告第3準備書面「第2」。甲41,42,46,55,59, 80,86,128~130,134等)。また,線維筋痛症も,痛覚過敏を伴う慢性疼痛症候群として定義されており(原告第3準備書面「第5」,原告第9準備書面「第2の10」),中枢性感作により痛覚過敏や接触異痛を生ずることが知られていた(原告第3準備書面「第2」。 甲26,65,88)。すなわち,神経障害又は線維筋痛症による痛覚 過敏や接触異痛は,神経細胞の感作で生じたものであることがますます明らかである。本件明細書等では,上記のように,本件優先日当時に神経障害又は線維筋痛症の痛みであると理解されていた,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛に対する本件化合物の効果が確かめられている。 (エ) 上記(ア)~(ウ)の理由により,当業者は,本件化合物が痛覚過敏又は接触異痛の痛み,並びに神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みに有用であることを十分に理解する。 (オ) 被告は,「神経の機能異常」は曖昧であり,神経細胞の異常により神経系ネットワークに異常が生ずるという意味であると主張するが(被告 第2準備書面〔18〜19,57〜60頁〕,被告第7準備書面〔9〜14頁〕),神経の機能異常をそのように限定して理解する根拠はないし,仮にそうだとしても神経 いう意味であると主張するが(被告 第2準備書面〔18〜19,57〜60頁〕,被告第7準備書面〔9〜14頁〕),神経の機能異常をそのように限定して理解する根拠はないし,仮にそうだとしても神経細胞の感作が神経の機能異常に含まれることは明らかである(原告第9準備書面「第1の7」,「第2の9」)。 (カ) 被告は,線維筋痛症は原因不明であると主張するが(被告第2準備書 面〔61頁〕),上記(ウ)のとおり,線維筋痛症においても,中枢性感作により痛覚過敏や接触異痛を生ずることが知られていた(原告第9準備書面「第2の10」)。 イ無効理由2の解消の有無(争点3-1-2)上記第1の3(1)ア(ア)~(ウ)において述べたことと同様の理由により, 当業者は,本件化合物が痛覚過敏又は接触異痛の痛み,及び神経障害又は 線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みに効果を奏することを十分に理解する。 (2) 訂正要件の具備の有無(争点3-2)ア本件発明1の訂正要件の具備の有無(争点3-2-1)(ア) 本件明細書等のカラゲニン試験では,機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏 に対する本件化合物の効果が確認されており,術後疼痛試験では,熱痛覚過敏及び接触異痛に対する本件化合物の効果が確認されているから,痛覚過敏又は接触異痛の痛みに対して本件化合物を用いることが開示されている。痛覚過敏や接触異痛は痛みの症状を示す用語であり(甲77),痛みの原因に応じて複数の痛覚過敏や複数の接触異痛が存在する わけではない。 (イ) さらに,上記第1の2(1)ア~テにおいて述べたとおり,当業者は,痛みの原因にかかわらず,痛覚過敏や接触異痛が神経細胞の感作によって生じ,本件化合物が効果を奏することを十分に理解する。このことからも, に,上記第1の2(1)ア~テにおいて述べたとおり,当業者は,痛みの原因にかかわらず,痛覚過敏や接触異痛が神経細胞の感作によって生じ,本件化合物が効果を奏することを十分に理解する。このことからも,原因に応じて複数の痛覚過敏や接触異痛が存在するわけではないこ とが明らかである。 (ウ) したがって,構成要件1Bは,本件明細書等に記載した事項の範囲内で訂正されたものであり,新規事項の追加に該当しない。訂正の目的が痛みの減縮であり,訂正により拡張変更に該当しないことは明らかである(以上,原告第4準備書面「第1の2(1)」)。 (エ) なお,訂正要件は,訂正事項が明細書等を総合することにより導かれる技術的事項であるか否かによって判断され,本件化合物が痛覚過敏や接触異痛に有用であり,或いは効果を奏することが本件明細書等から理解できるかどうかは,実施可能要件又はサポート要件の問題である(原告第4準備書面「第4」,原告第9準備書面「第3の1」)。仮にそう でないとしても,上記第1の3(1)で述べたことにより訂正要件を満た す。 イ本件発明2の訂正要件の具備の有無(争点2-2-2)(ア) 上記第1の3(2)ア(ア)~(ウ)において述べたとおり,構成要件2Bのうち,「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」については,訂正要件を満たす。 (イ) また,本件明細書等には,本件化合物の処置対象となる慢性疼痛に含 まれる痛みとして,神経障害の痛み,線維筋痛症が記載されている(原告第4準備書面「第1の2(2)ウ」)。 (ウ) さらに,上記第1の2(1)イにおいて述べたとおり,神経障害の痛みや,線維筋痛症において痛覚過敏や接触異痛を生ずることは,本件優先日当時の技術常識である(原告第3準備書面「第2」,「第5」)。 らに,上記第1の2(1)イにおいて述べたとおり,神経障害の痛みや,線維筋痛症において痛覚過敏や接触異痛を生ずることは,本件優先日当時の技術常識である(原告第3準備書面「第2」,「第5」)。 (エ) したがって,構成要件2Bは,本件明細書等に記載した事項の範囲内で訂正されたものであり,新規事項の追加に該当しない。訂正の目的が引用関係の解消及び痛みの減縮であり,訂正により拡張変更に該当しないことは明らかである(以上,原告第4準備書面「第1の2(2)」)。 なお,適用されるべき訂正要件の規範は,上記第1の3(2)ア(エ)のと おりである。 第2 本件発明3及び4被告医薬品が本件発明3及び4の技術的範囲に属するか(争点4) 1 構成要件3B及び3C並びに4B及び4Cの充足性(争点4-1)(1) 本件発明3について(構成要件3B及び3Cの充足性) ア神経障害性疼痛が炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みであること(クレーム解釈)(ア) 本件発明3の処置対象となる痛みは,「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」である。 (イ) 「炎症を原因とする痛み」は,本件明細書等のカラゲニン試験の痛み であり,「手術を原因とする痛み」は,術後疼痛試験の痛みである。これらの試験では,炎症や手術から神経細胞の感作を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずるまでの機序は限定されていない。 (ウ) 本件明細書等では,炎症性疼痛や術後疼痛が,神経障害性疼痛や線維筋痛症と並んで,麻薬性鎮痛剤やNSAIDでは不十分なことのある慢 性疼痛として記載されており,カラゲニン試験や術後疼痛試験がかかる慢性疼痛の試験であることが明らかである(原告第5準備書面「第3の1」)。 (エ) そして,上記第1 では不十分なことのある慢 性疼痛として記載されており,カラゲニン試験や術後疼痛試験がかかる慢性疼痛の試験であることが明らかである(原告第5準備書面「第3の1」)。 (エ) そして,上記第1の2(1)イで述べたとおり,慢性疼痛は,原因にかかわらず,神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずることが知られて おり,神経細胞の感作を抑制することで,原因にかかわらず痛みを治療できることも知られていた。 (オ) また,上記第1の2(1)ウで述べたとおり,本件優先日当時,炎症で神経の病変や疾患を生じ,手術で末梢神経や神経終末を損傷し,神経の損傷によっても炎症が生ずることなどから,痛みを原因で区別できず,炎 症性疼痛や術後疼痛と,神経障害性疼痛や線維筋痛症とは,相互に重複することが理解されていた。 (カ) そのため,上記第1の2(1)エ~ケで述べたとおり,当業者は,痛みの症状に着目して動物モデルを用いており,カラゲニン試験や術後疼痛試験は,神経細胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生じさせる動物モデ ルとして,神経障害性疼痛治療薬の探索や,感作のメカニズムの研究に利用されていた。 (キ) したがって,上記第1の2(1)ク~サで述べたとおり,本件明細書等のカラゲニン試験や術後疼痛試験は,神経細胞の感作により生ずる,神経障害性疼痛や線維筋痛症などの慢性疼痛に共通する痛覚過敏や接触異痛 に対する効果を見たものであることが明らかである。 (ク) 上記(ア)~(キ)の理由により,本件発明3の技術的範囲には,神経の病変,疾患,損傷が関与するか否かにかかわらず,炎症や手術によって生ずる痛覚過敏や接触異痛の全てが含まれる(原告第5準備書面「第3」,原告第7準備書面「第2の2(5)」,原告第9準備書面「第4の2( 変,疾患,損傷が関与するか否かにかかわらず,炎症や手術によって生ずる痛覚過敏や接触異痛の全てが含まれる(原告第5準備書面「第3」,原告第7準備書面「第2の2(5)」,原告第9準備書面「第4の2(1)」)。 (被告医薬品の充足性) (ケ) 被告医薬品は,変形性関節症,リウマチ性関節炎,癌性疼痛,帯状疱疹後神経痛,アレルギー性肉芽腫性血管炎,結合組織病(血管炎),結節性多発動脈炎,多発性単神経炎,神経叢炎,炎症性脱髄性多発性神経障害,有痛性糖尿病性神経障害,尿毒症性ニューロパチー,椎間板ヘルニア,反射性交感神経性ジストロフィー,手根管症候群,自己免疫疾患 等において,炎症を原因として生じた神経障害性疼痛を用途とする(訴状,原告第5準備書面「第2」,原告第8準備書面「第2の2」,「第3の2」。甲6,11,17,92,95~97,99,126~130,137~139等)。 (コ) また,被告医薬品は,術後遷延性疼痛,開胸術後疼痛症候群,外傷後 後遺症,手術後後遺症,乳房切除術後痛,ヘルニア縫合術後痛,複合性局所疼痛症候群,手根管症候群,橈骨遠位端骨折,デュプイトラン拘縮,CM関節症,股関節置換術等において,手術を原因として生じた神経障害性疼痛を用途とする(訴状,原告第5準備書面「第2」,原告第8準備書面「第2の2」,「第3の3」。甲6,23,93,98,125, 139,142等)。 (サ) 上記第1の2(1)イで述べたとおり,上記(ケ)及び(コ)で挙げた神経障害性疼痛の疾患において,炎症や手術による組織損傷から神経細胞の感作という神経の機能異常を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずる(原告第3準備書面「第1の1及び2」,原告7準備書面「第2の2(5)」,原告 第8準備書面「第2の3」)。それだけでなく,上記 胞の感作という神経の機能異常を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずる(原告第3準備書面「第1の1及び2」,原告7準備書面「第2の2(5)」,原告 第8準備書面「第2の3」)。それだけでなく,上記第1の2(1)ウで述 べたとおり,炎症により神経の病変や疾患を生じ,手術により神経を損傷し,これらの神経の病変,疾患,損傷により神経細胞の感作を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずる。さらに,神経の病変,疾患,損傷により,組織や神経の炎症を生じ,炎症により神経細胞の感作を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずる(以上,原告第8準備書面「第2の2」,「第3」, 原告第9準備書面「第4の3」)。 例えば,帯状疱疹後神経痛は,帯状疱疹ウイルスによる炎症が原因で,神経が変性してしまったことによる痛みである(甲11)。これは,炎症で神経の病変や疾患を生ずる例である。また,手術により末梢神経や神経終末を損傷することは当然である(原告第8準備書面「第3」)。 逆に,上記第1の2(1)ウで述べたとおり,椎間板ヘルニア等の腰部神経根症において,神経の圧迫により組織や神経の炎症を生じ,抗炎症薬が投与されていたし(甲128,137,138),複合性局所疼痛症候群(反射性交感神経性ジストロフィーを含む。)も,神経の炎症の痛みである(甲129,130)。さらに,神経損傷による炎症の機序は, 組織損傷の場合と全く同じである(甲129,130,乙12)。これらの疾患において,炎症を原因として神経細胞の感作を生じ(甲128~130,134),神経障害性疼痛となる。 (シ) さらに,明確に神経の病変や疾患が見出されない場合でも,痛覚過敏や接触異痛といった,神経細胞の感作で生ずる症状により,神経障害性 疼痛と診断され,先発医薬品や被告医薬品が投与 なる。 (シ) さらに,明確に神経の病変や疾患が見出されない場合でも,痛覚過敏や接触異痛といった,神経細胞の感作で生ずる症状により,神経障害性 疼痛と診断され,先発医薬品や被告医薬品が投与される(原告第3準備書面「第5」,原告第8準備書面「第2の2,3及び5」,「第3」)。 そのため,神経障害性疼痛を神経の病変,疾患,損傷が明確な態様に限定することは誤りである。 例えば,有痛性糖尿病性神経障害は神経損傷が原因とされていないし (甲2,81,87,131,132),椎間板ヘルニアや複合性局所 疼痛症候群は,神経損傷のみならず,組織損傷で神経障害性疼痛を生ずる疾患である(甲23,128,129,134,142)。このように,神経損傷から痛みを生じていることが明らかでない場合や,そもそも神経の病変,疾患の有無が不明な場合にも,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛を基準として被告医薬品が用いられる(甲6,93, 125~127,135,142)。 (ス) 上記(ア)~(シ)の理由により,被告医薬品の効能,効果である「神経障害性疼痛」は,本件発明3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」に該当する。 (被告の主張への反論) (セ) 被告は,訂正前の請求項4や本件明細書等において,神経障害性疼痛や線維筋痛症と,炎症性疼痛や術後疼痛とが区別されていたし,本件明細書等に記載の試験も炎症性疼痛や術後疼痛の試験であるから,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛を含まないと主張する(被告第1準備書面〔14〜20,25〜26頁〕,被告第4準備書面〔9〜11頁〕)。 しかし,上記(オ)のとおり,本件優先日当時,痛みを原因で区別できず,炎症性疼痛や術後疼痛と,神経障害性疼痛や線維筋痛症とは,相互 4〜20,25〜26頁〕,被告第4準備書面〔9〜11頁〕)。 しかし,上記(オ)のとおり,本件優先日当時,痛みを原因で区別できず,炎症性疼痛や術後疼痛と,神経障害性疼痛や線維筋痛症とは,相互に重複することが理解されていたし,上記(カ)のとおり,カラゲニン試験や術後疼痛試験は,神経細胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生じさせる動物モデルである。 (ソ) 被告は,炎症性疼痛や術後疼痛は侵害受容性疼痛であるから,本件発明3の技術的範囲に神経障害性疼痛や線維筋痛症は含まれないと主張するが(被告第1準備書面〔22〜25,29〜30頁〕,被告第4準備書面〔9〜11頁〕),上記(ア)~(ク)のとおり,本件発明3の技術的範囲には,炎症や手術によって生ずる痛覚過敏や接触異痛の全てが含まれ る。 イ神経障害性疼痛を効能,効果とする被告医薬品が,炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みを用途とすること(ア) 上記第2の1(1)ア(サ)で述べたとおり,炎症や手術で神経細胞の感作を生ずるし,炎症により神経の病変や疾患を生じ,手術により神経を損傷し,神経の病変や疾患,損傷により,神経細胞の感作を生ずる。さら に,神経の病変や疾患,神経損傷により,組織の炎症や神経の炎症を生じ,炎症により神経細胞の感作を生ずる。そして,これらは全て神経障害性疼痛を生ずる。そのため,神経障害性疼痛は,侵害受容性疼痛との混合性疼痛とされている(原告第5準備書面「第2の2(2)」,原告第7準備書面「第2の2(5)」)。 例えば,腰痛,変形性関節症,リウマチ性関節炎,癌性疼痛,術後遷延性疼痛は,いずれも侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛との混合性疼痛とされている(甲92~98)。 (イ) 痛みは患者の主観的心理状態であるか ,腰痛,変形性関節症,リウマチ性関節炎,癌性疼痛,術後遷延性疼痛は,いずれも侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛との混合性疼痛とされている(甲92~98)。 (イ) 痛みは患者の主観的心理状態であるから,混合性疼痛において,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛とは,同一の患者において生ずる一つの痛 みであり,両者を区別できない(原告第5準備書面「第2の2(1)」,原告第9準備書面「第4の2(2)及び(3)」。甲77,92,93)。 (ウ) 先発医薬品は,適応症に用いられることにより,かかる混合性疼痛を生ずる患者の痛みの処置に用いられて効果を奏しており(原告第8準備書面「第3」。甲126。なお,本件発明3の痛みが侵害受容性疼痛で あると判断された場合に,本件化合物がかかる痛みに効果を奏することは,本件明細書等の実施例から明らかである。),被告医薬品も,同じ効能,効果を有するジェネリックとして,混合性疼痛を生じた患者の痛みの処置に用いられる(原告第5準備書面「第2の2(3)及び3」,原告第9準備書面「第4の2(3)」)。 (エ) 上記(ア)~(ウ)の理由により,被告医薬品の用途は,神経障害性疼痛と 侵害受容性疼痛との混合性疼痛の処置を含むものである(原告第5準備書面「第2」)。 (オ) したがって,本件発明3の技術的範囲が侵害受容性疼痛に限られるか否かにかかわらず,また,侵害受容性疼痛の定義とは無関係に(仮に,カラゲニン試験や術後疼痛試験によって確かめられた炎症や手術を原因 として生ずる痛覚過敏や接触異痛が侵害受容性疼痛であると認定されたとしても,なお(原告第10準備書面「第3」)),神経障害性疼痛を効能,効果とする被告医薬品の処置用途は,本件発明3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」 受容性疼痛であると認定されたとしても,なお(原告第10準備書面「第3」)),神経障害性疼痛を効能,効果とする被告医薬品の処置用途は,本件発明3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」に該当する。 (被告の主張への反論) (カ) 被告は,被告医薬品は神経障害性疼痛に処方されるのであり,侵害受容性疼痛を伴う疾患に処方することを意図して製造販売されるのではないと主張するが(被告第4準備書面〔5〜8頁〕),上記(ア)のとおり,神経障害性疼痛は,侵害受容性疼痛との混合性疼痛とされているから,添付文書で神経障害性疼痛を謳うことは,混合性疼痛への処方を意図す るものである。 (キ) 被告は,混合性疼痛に投与される場合でも,被告医薬品は併存する侵害受容性疼痛を対象として投与されるわけではないとも主張するが(被告第4準備書面〔5〜6頁〕),上記(イ)のとおり,混合性疼痛において,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛とを区別できない(以上,原告第9準 備書面「第4の2」)。 ウ線維筋痛症が炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みであること(ア) 上記第2の1(1)ア(ア)~(ク)の理由により,本件発明3の技術的範囲には,線維筋痛症に伴って生ずるか否かにかかわらず,炎症や手術によ って生ずる痛覚過敏や接触異痛の全てが含まれる。 (イ) 被告医薬品は,関節炎,胃炎,アレルギー炎症,リウマチ等の炎症性疾患から生ずる線維筋痛症に伴う疼痛を用途とする(原告第5準備書面「第2の2(2)」,原告第8準備書面「第3の2」。甲7,22)。また,線維筋痛症は腱付着部炎を生ずる疾患であり,腱付着部炎を生じた線維筋痛症に伴う疼痛は,被告医薬品の保険診療上の適応症である(原告第 8準備書面「第3の2」。 面「第3の2」。甲7,22)。また,線維筋痛症は腱付着部炎を生ずる疾患であり,腱付着部炎を生じた線維筋痛症に伴う疼痛は,被告医薬品の保険診療上の適応症である(原告第 8準備書面「第3の2」。甲127,140)。 (ウ) 同様に,被告医薬品は,手術により生ずる線維筋痛症に伴う疼痛を用途とする(原告第5準備書面「第2の2(2)」。甲7,22)。 (エ) 上記(イ)及び(ウ)で挙げた線維筋痛症に伴う疼痛において,炎症や手術を原因として神経細胞の感作を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずる(原 告第3準備書面「第2」)。 (オ) 上記(ア)~(エ)の理由により,被告医薬品の効能,効果である「線維筋痛症に伴う疼痛」は,本件発明3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」に該当する。 エ線維筋痛症に伴う疼痛を効能,効果とする被告医薬品が,炎症を原因と する痛み,又は手術を原因とする痛みを用途とすること(ア) 上記第2の1(1)ウ(イ)及び(ウ)で述べたとおり,線維筋痛症は,炎症性疾患や手術により生じ,更に炎症を生ずる疾患であるので,線維筋痛症に伴う疼痛は,侵害受容性疼痛との混合性疼痛である。 (イ) そして,上記第2の1(1)イ(イ)~(エ)の理由により,被告医薬品の用 途は,線維筋痛症に伴う疼痛と侵害受容性疼痛との混合性疼痛の処置を含むものである。このことは,線維筋痛症「に伴う疼痛」との効能,効果の記載からも明らかである。 (ウ) したがって,本件発明3の技術的範囲が侵害受容性疼痛に限られるか否かにかかわらず,また,侵害受容性疼痛の定義とは無関係に,線維筋 痛症に伴う疼痛を効能,効果とする被告医薬品の処置用途は,本件発明 3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」に該当す ,侵害受容性疼痛の定義とは無関係に,線維筋 痛症に伴う疼痛を効能,効果とする被告医薬品の処置用途は,本件発明 3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」に該当する。 オ神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が訂正により除外されていないこと(ア) 禁反言の法理(無効審判における訂正の経緯に基づき,発明の技術的範囲を限定するような他の法理を含む。)は,原告が無効審判と本件訴 訟とで矛盾挙動を取ったような場合に生ずる可能性があるが,原告は,訂正の前後にかかわらず,本件発明3の訂正の根拠となったカラゲニン試験や術後疼痛試験により,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛に対する本件化合物の効果を確認できることを一貫して主張しており,矛盾挙動はない(甲18,19)。実際に,参加人1名は,訂正後の本件 発明3に侵害受容性疼痛以外の痛みが含まれていると主張し,原告もこれを争った(原告第5準備書面「第4の1及び2」。甲19,20)。 また,訂正後になされた審決の判断により,禁反言の法理が成立する余地はない(原告第5準備書面「第4の1」)。さらに,審判請求人が,本件発明3の技術的範囲に神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛が 含まれるかどうかを争わなかったことにより,禁反言の法理が成立することもない。 (イ) 本件訂正前になされた審決の予告は,カラゲニン試験や術後疼痛試験により本件化合物の効果が確かめられた,炎症や手術を原因とする痛み以外の部分について,本件化合物の効果を確認することができないと述 べているにすぎず,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛のうち,カラゲニン試験や術後疼痛試験の痛みに含まれる部分についてまで本件化合物の効果を確認することができないとは判断していないし,カラゲニン試 ているにすぎず,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛のうち,カラゲニン試験や術後疼痛試験の痛みに含まれる部分についてまで本件化合物の効果を確認することができないとは判断していないし,カラゲニン試験や術後疼痛試験の痛みが,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛と重複しないという判断もしていない(原告第5準備書面「第4の 2」,原告第7準備書面「第3の2」。甲21)。したがって,審決の 予告の判断に基づき,禁反言の法理が成立する余地はない。 (ウ) さらに,本件発明4に関し,原告は本件訂正において,訂正前の請求項4から「神経障害による痛み」及び「線維筋痛症」との記載を削除したが,上記第1の2(1)ウで述べたとおり,訂正前の請求項4に係る請求項の痛みは相互に重複するものであるから,かかる訂正により,神経障 害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛が本件発明4の技術的範囲から除外されることはない(原告第5準備書面「第4の3」,原告第7準備書面「第2の2(4)」,原告第9準備書面「第4の4」)。 (エ) また,上記(ウ)の事情は,本件発明3とは関係がない(原告第5準備書面「第4の3」)。 (オ) 上記(ア)~(エ)の理由により,本件発明3の技術的範囲から,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が除外されることはない。 (カ) なお,上記第2の1(1)イ及びエに係る混合性疼痛の主張は,本件発明3の技術的範囲が侵害受容性疼痛に限られるか否かにかかわらず成り立つ主張であるから,訂正の経緯にかかわらず,被告医薬品の用途は,本 件発明3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」に該当する(原告第10準備書面「第3」)。 (被告の主張への反論。本件発明4についても同様)(キ) 被告は,原告が,本件訂正により, 件発明3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」に該当する(原告第10準備書面「第3」)。 (被告の主張への反論。本件発明4についても同様)(キ) 被告は,原告が,本件訂正により,本件発明3及び4の技術的範囲を炎症性疼痛や術後疼痛に限定したと主張するが(被告第1準備書面〔2 0〜22,26〜29頁〕,被告第4準備書面〔11〜16頁〕),上記(ウ)のとおり,炎症性疼痛や術後疼痛と,神経障害性疼痛や線維筋痛症とは相互に重複する痛みであるから,本件訂正により神経障害性疼痛や線維筋痛症を除外したことにはならない。 (ク) 被告は,炎症性疼痛や術後疼痛と,神経障害性疼痛や線維筋痛症とは 重複しないと主張するが(被告第4準備書面〔16〜18頁〕),上記 第1の2(1)ウで述べたとおり誤りである。 (2) 本件発明4について(本件発明4B及び4Cの充足性)ア神経障害性疼痛が炎症性疼痛,術後疼痛に該当すること(ア) 本件発明4の処置対象となる痛みは,「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」である。 (イ) 上記第2の1(1)ア(ア)~(ス)の理由により,被告医薬品の効能,効果である「神経障害性疼痛」は,本件発明4の「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」に該当する。 (ウ) 本件発明4で特定された炎症性疼痛や術後疼痛は,神経障害性疼痛を 含む混合性疼痛として定義されている(原告第5準備書面「第2の2(2)」。甲95,96,98等)。これも,被告医薬品の用途が本件発明4の痛みに該当することを裏付ける。 イ神経障害性疼痛を効能,効果とする被告医薬品が,炎症性疼痛,術後疼痛を用途とすること )」。甲95,96,98等)。これも,被告医薬品の用途が本件発明4の痛みに該当することを裏付ける。 イ神経障害性疼痛を効能,効果とする被告医薬品が,炎症性疼痛,術後疼痛を用途とすること 上記第2の1(1)イ(ア)~(オ)の理由により,本件発明4の技術的範囲が侵害受容性疼痛に限られるか否かにかかわらず,神経障害性疼痛を効能,効果とする被告医薬品の処置用途は,本件発明4の「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」に該当する。 ウ線維筋痛症が炎症性疼痛,術後疼痛に該当すること上記第2の1(1)ウ(ア)~(オ)の理由により,被告医薬品の効能,効果である「線維筋痛症に伴う疼痛」は,本件発明4の「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」に該当する。 エ線維筋痛症に伴う疼痛を効能,効果とする被告医薬品が,炎症性疼痛, 術後疼痛を用途とすること上記第2の1(1)エ(ア)~(ウ)の理由により,本件発明4の技術的範囲が侵害受容性疼痛に限られるか否かにかかわらず,線維筋痛症に伴う疼痛を効能,効果とする被告医薬品の処置用途は,本件発明4の「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛 み」に該当する。 オ神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が訂正により除外されていないこと上記第2の1(1)オ(ア)~(ウ),(オ)及び(カ)の理由により,本件発明4の技術的範囲から,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が除外されること はない。 2 均等侵害の成否(争点4-2)(1) 被告医薬品は本件発明3の構成と均等であることア第1要件に関し,本件発明3は,本件化合物を慢性 線維筋痛症に伴う疼痛が除外されること はない。 2 均等侵害の成否(争点4-2)(1) 被告医薬品は本件発明3の構成と均等であることア第1要件に関し,本件発明3は,本件化合物を慢性疼痛である炎症を原因とする痛み,手術を原因とする痛みの処置に用いることを本質的部分と しており,処置対象となる痛みが侵害受容性疼痛であるか,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛であるかは,本質的部分ではない(原告第5準備書面「第5の1及び2」)。本件優先日当時,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛に対しては有効な治療薬がなく,本件化合物を慢性疼痛の処置に用いることも知られていなかったから(訴状,原告第5準備書面「第 1」,原告第8準備書面「第1」。甲123,125),技術常識を参酌して,本件発明3の本質的部分を侵害受容性疼痛に限定すべき事情もない(原告第9準備書面「第4の5(1)」)。 イ第2要件に関し,本件発明3は,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛の処置に用いても,効果を奏する(原告第5準備書面「第5の2」。甲 5)。 ウ第3要件に関し,本件化合物を神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛の処置に用いることは,被告医薬品の実施時において容易想到である(原告第5準備書面「第5の2」。甲5)。 エ第4要件に関し,本件優先日当時,本件化合物を痛みの処置に用いることは全く知られておらず,本件優先日当時の公知技術から容易に推考でき ない(原告第5準備書面「第5の2」)。 オ第5要件に関し,上記第2の1(1)オ(ア)~(カ)の理由により,本件発明3の技術的範囲から,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が除外されることはない(原告第5準備書面「第5の2」)。 カ上記ア~オの理由により,仮に本件発 1)オ(ア)~(カ)の理由により,本件発明3の技術的範囲から,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が除外されることはない(原告第5準備書面「第5の2」)。 カ上記ア~オの理由により,仮に本件発明3の「炎症を原因とする痛み, 又は手術を原因とする痛み」が侵害受容性疼痛であると解釈された場合であっても,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛のうち,炎症や手術を原因として生ずる痛みについては,本件発明3の均等の範囲に含まれる。 キ被告は,第1要件に関し,慢性疼痛は発症機序により侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,心因性疼痛に分けられるから,本件発明3の技術的範囲 を発症機序や治療法の異なる神経障害性疼痛や線維筋痛症に拡大することはできないと主張するが(被告第4準備書面〔18〜19頁〕),上記アのとおり,技術常識を参酌して本件発明3の本質的部分を限定すべき事情はない。 ク被告は,第5要件に関し,訂正の経緯に鑑みれば,本件発明3の技術的 範囲から神経障害性疼痛や線維筋痛症は意識的に除外されたと主張するが(被告第4準備書面〔19〜20頁〕),上記オのとおり理由がない。 (2) 被告医薬品は本件発明4の構成と均等であること上記第2の2(1)ア~オの理由により,仮に本件発明4の「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」 が侵害受容性疼痛であると解釈された場合であっても,神経障害性疼痛や線 維筋痛症に伴う疼痛における痛覚過敏や接触異痛のうち,炎症性疼痛や術後疼痛については,本件発明4の均等の範囲に含まれる。 第3 本件特許権の存続期間の延長登録延長登録により存続期間が延長された本件特許権の効力は被告医薬品に及ぶか(争点5) 以下のとおり,延長登 は,本件発明4の均等の範囲に含まれる。 第3 本件特許権の存続期間の延長登録延長登録により存続期間が延長された本件特許権の効力は被告医薬品に及ぶか(争点5) 以下のとおり,延長登録に係る本件特許権の効力は被告医薬品に及ぶ。 1 被告医薬品は処分対象物と実質同一であること(1) 実質同一性は,「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」に関し,特許発明の内容に基づき,その内容との関連で,技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して判断すべきであり,処分対象物と被告医薬品との差異が, 技術的特徴や作用効果に関わるものでなければ,実質同一性が肯定される(原告第2準備書面「第1」,原告第6準備書面「第1」,「第2の1」,原告第9準備書面「第5の5」)。 また,有効成分を特徴とする特許において,添加物について政令処分申請時の周知慣用技術に基づき成分を付加,転換等した場合には,実質同一性が 推認される(原告第2準備書面「第1の1」,原告第6準備書面「第2の3」,原告第9準備書面「第5の7(2)」)。そして,周知慣用技術の基準時は被告医薬品の政令処分申請時であると解すべきであるし,仮に周知慣用技術でないとしても,実質同一性は妨げられない(原告第6準備書面「第2の3」。 甲102の12)。 (2) 剤形は実質同一性の考慮要素でないから,剤形の違いは実質同一性に影響を及ぼさない(原告第9準備書面「第5の1~4」。甲102の19) 。延長登録の制度趣旨からも,カプセルに係る延長登録の効力範囲を市場の競合するOD錠に及ぼさなければ,先発医薬品が保護されない(原告第6準備書面「第2の4」,原告第7準備書面「第1の2」,原告第9準備書面「第5 の8及び10」。甲102の13,14)。また,延長登録の要件と延長登 れば,先発医薬品が保護されない(原告第6準備書面「第2の4」,原告第7準備書面「第1の2」,原告第9準備書面「第5 の8及び10」。甲102の13,14)。また,延長登録の要件と延長登 録の効力範囲とは別個の問題であるから(甲102の15),カプセルとOD錠とでそれぞれ登録が可能であるとしても,カプセルの延長登録の効力範囲はOD錠に及ぶ(原告第6準備書面「第3」,原告第7準備書面「第1の3」,原告第9準備書面「第5の7(1)」,「第6の1」)。 (3) 本件各発明(及び訂正前各発明)は,有効成分である本件化合物を,痛み の処置に用いることを見出したものであり,添加物は本件各発明(及び訂正前各発明)の技術的特徴とは無関係であり,添加物の違いにより痛みの処置に関する作用効果に影響はない(原告第2準備書面「第1の1」,原告第6準備書面「第2の2」,原告第7準備書面「第1の2」,原告第9準備書面「第5の6及び7(1)」。甲102の2) 。 また,被告医薬品に用いられている添加物は全て処分対象物の政令処分申請時の周知慣用技術に基づく付加,転換等であるから(甲102の3~11,17,18),実質同一性が推認される(原告第6準備書面「第2の3」,原告第7準備書面「第1の1」)。 (4) さらに,処分対象物と被告医薬品とは,分量,用法,用量,効能及び効果 が同一である(原告第2準備書面「第1の2~4」,原告第6準備書面「第1」。甲5,13,102の1の1~3) 。 (5) したがって,処分対象物と被告医薬品とは実質同一であり,被告医薬品は,延長後の本件各発明(及び訂正前各発明)の効力範囲に含まれる。 (6)アこれに対し,被告は,処分対象物はカプセルであるところ,被告医薬品 はOD錠であって剤 質同一であり,被告医薬品は,延長後の本件各発明(及び訂正前各発明)の効力範囲に含まれる。 (6)アこれに対し,被告は,処分対象物はカプセルであるところ,被告医薬品 はOD錠であって剤形が異なるし,剤形の相違に関連して成分も大きく異なるから,延長登録の効力範囲外であり,実質同一ではないと主張するが(被告第1準備書面〔6〜7頁〕,被告第5準備書面〔4〜24,29〜30頁〕),上記(2)のとおり,剤形は実質同一性の考慮要素ではないし,上記(3)のとおり,OD錠への変更に伴う添加物の違いは本件各発明の技 術的特徴とは無関係であり,作用効果にも影響はない。また,上記(3)のと おり,被告医薬品に用いられている添加物は全て周知慣用技術に基づく付加,転換等である(原告第7準備書面「第1の2」,原告第9準備書面「第5」)。 イ被告は,延長登録の要件と延長登録の効力範囲とは関連付けて理解すべきであり,OD錠はカプセル剤とは別個の製造販売承認及び延長登録出願 が可能であることから,OD錠に係る被告医薬品は処分対象物と実質同一ではないとも主張するが(被告第1準備書面〔7〜11頁〕,被告第5準備書面〔4〜13,30〜31,35〜36頁〕),上記(2)のとおり,延長登録の要件と延長登録の効力範囲とは別個の問題である(原告第7準備書面「第1の3」,原告第9準備書面「第5」)。原告は,カプセルに係 る先発医薬品を販売しており,その独占的実施を確保するため,OD錠である被告医薬品に効力を及ぼす必要性がある。 ウ被告は,カプセルについての延長登録の効力範囲をOD錠に及ぼすと,特許登録原簿の公示機能を害すると主張するが(被告第5準備書面〔6〜7頁,23〜24頁〕),第三者は,特許公報に基づき,特許発明の内容 カプセルについての延長登録の効力範囲をOD錠に及ぼすと,特許登録原簿の公示機能を害すると主張するが(被告第5準備書面〔6〜7頁,23〜24頁〕),第三者は,特許公報に基づき,特許発明の内容 との関連で,実質同一性を検討することができる(原告第9準備書面「第5の2及び8」)。 エ被告は,処分対象物と被告医薬品との差異が,僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異でなければ実質同一でなく,剤形に直接関係する成分の差異は顕著な差異であると主張するが(被告第5準備書面〔28〜30, 32〜35頁〕),上記(1)のとおり,実質同一性は,特許発明の内容に基づき,その内容との関連で,技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して判断されるのであり,かかる規範によれば,上記(3)のとおり処分対象物と被告医薬品とは実質同一である(原告第9準備書面「第5の7(1)」)。 2 本件発明3及び4が規定する用途についての延長登録があること 上記第2において述べたとおり,本件発明3及び4は,被告医薬品をその技 術的範囲に含むものである。処分対象物は,被告医薬品と効能,効果が同一であるから,被告医薬品と同様の理由により,処分対象物は,本件発明3及び4の技術的範囲に含まれる。 したがって,本件発明3及び4に係る特許権の存続期間は,延長されている。 (別紙)被告の主張 第1 訂正前発明1及び2 1 被告医薬品が訂正前発明1及び2の技術的範囲に属するか(構成要件1B´, 1C及び2Cの充足性)(争点1)(1) 訂正前発明1についての被告の主張ア訂正前発明1は,構成要件1Aの化合物(本件化合物)が「痛みの処置における鎮痛剤」(構成要件1B´,1C)という全ての痛 Cの充足性)(争点1)(1) 訂正前発明1についての被告の主張ア訂正前発明1は,構成要件1Aの化合物(本件化合物)が「痛みの処置における鎮痛剤」(構成要件1B´,1C)という全ての痛みの鎮痛剤としての効果を有する医薬用途発明とされている。 イしかし,本件明細書等の発明の詳細な説明には,特定の痛みの処置しか記載されておらず,特許請求の範囲記載の本件化合物の用途の範囲は,発明の詳細な説明記載の用途に比べ広範囲なものとなっている。 ところで,特許制度は,特許明細書において開示した発明に対して,発明の開示の代償として一定期間の特許独占を認める制度であるから,特許 独占による保護の範囲は,特許明細書において当業者に開示した技術の範囲を超えることはないのであって,特許独占の対象となる医薬用途発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載のみから抽象的に把握されるのではなく,特許明細書に開示された発明(技術思想)によって,特許請求の範囲の文言を解釈することにより確定されなければならず,訂正前発明1に おいても本件明細書等で開示された発明により特許請求の範囲の文言を解釈することになる。 この点,本件のような医薬用途発明と同じく物の機能や作用等によって表現された機能的クレームの技術的範囲の解釈において,知財高裁平成24年(ネ)第10094号同25年6月6日判決は,特許明細書の発明の 詳細な説明に開示された具体的構成に示されている技術思想に基づいて 発明の技術的範囲を確定すべきとしており,医薬用途発明である訂正前発明1においても機能的クレームの権利解釈と同様に解釈すべきである。このことは,本件特許のように,特定の用途と公知物質を結び付けて特許発明としての有用性を発現させ しており,医薬用途発明である訂正前発明1においても機能的クレームの権利解釈と同様に解釈すべきである。このことは,本件特許のように,特定の用途と公知物質を結び付けて特許発明としての有用性を発現させている技術思想について,明細書に記載されている事項を基に当業者が通常実現し得るものと評価され得る範囲まで は特許請求の範囲に包含し得るべく,当該用途に係る構成要件を解釈することが特許法36条の記載要件充足の基準とバランスの取れた合理的な解釈であると認められる。 ウそこで,本件明細書等の発明の詳細な説明をみると,発明の詳細な説明には,本件化合物が,訂正前の請求項4に記載の痛みのうち「炎症性疼痛」 及び「術後疼痛」の処置における鎮痛効果を有することが記載されている。 エさらに,本件優先日当時において,下記の事実が当業者の技術常識として存在していた。これらの事実は現在でも当業者の技術常識である。 ① 乙6~14に記載のように,痛みには,訂正前の請求項4に記載の各痛みを含む種々の種類のものがあり,その原因や病態生理も様々で, 治療法も異なり,鎮痛剤であればあらゆる種類の痛みに有効であるというわけではない(被告第1準備書面〔13頁12~16行目〕,乙1〔39頁下2行目~40頁18行目〕)。 ② 痛みは,発生機序(原因)により「侵害受容性疼痛」,「神経障害性疼痛」,「心因性疼痛」の3つに大別される(甲16,乙7,8, 24,31,36,37)。一方で,「痛覚過敏」及び「接触異痛」は,単に痛みの症状を表す用語であるため,痛みの発生機序(原因)ごとに,それぞれの痛覚過敏等が理解でき,例えば,「侵害受容性疼痛の痛覚過敏及び接触異痛」,「神経障害性疼痛の痛覚過敏及び接触異痛」,「心因性疼痛の痛覚過敏 す用語であるため,痛みの発生機序(原因)ごとに,それぞれの痛覚過敏等が理解でき,例えば,「侵害受容性疼痛の痛覚過敏及び接触異痛」,「神経障害性疼痛の痛覚過敏及び接触異痛」,「心因性疼痛の痛覚過敏及び接触異痛」がそれぞれ理解でき る(被告第2準備書面「第2」,被告第7準備書面「第1の1」)。 ③ 痛みの治療において,疼痛の原因に着目して治療法が選択されるのは当業者の一致した見解であり,そのため,疼痛の治療薬を評価するための動物モデルも原因に応じて使い分けられており,侵害受容性疼痛の動物モデルと神経障害性疼痛の動物モデルがそれぞれ別に存在し,かつ,それぞれ利用できると理解されていた(乙22,23,31。 被告第2準備書面「第8」,被告第7準備書面「第1の2」)。 上記の本件優先日当時における当業者の技術常識からすると,発明の詳細な説明には,本件化合物に侵害受容性疼痛である「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」の処置における鎮痛効果を有することのみが記載されていることが明らかであり,当業者は,本件化合物が侵害受容性疼痛である上記「炎 症性疼痛」及び「術後疼痛」以外の訂正前の請求項4に記載の各痛みの処置における鎮痛効果を有することを本件明細書等に開示された発明に関する記述の内容から実施し得る構成と読み取ることはできない。 オしたがって,訂正前発明1の構成要件1B´及び1Cは,構成要件1Aの化合物が侵害受容性疼痛である「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」の処置 における鎮痛剤を意味するものと限定解釈するのが相当である。 これに対し,被告医薬品は,構成要件1Aの化合物であるが,神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う疼痛の処置における鎮痛剤であり,侵害受容性疼痛である「炎症性疼痛」 定解釈するのが相当である。 これに対し,被告医薬品は,構成要件1Aの化合物であるが,神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う疼痛の処置における鎮痛剤であり,侵害受容性疼痛である「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」の処置における鎮痛剤ではないから,構成要件1B´,1Cを充足しない。 以上のとおり,被告医薬品は,訂正前発明1の技術的範囲に属さない(被告第1準備書面「第3の1」参照)。 (2) 訂正前発明2についての被告の主張訂正前発明2も,訂正前発明1と同じく,特許請求の範囲記載の発明が発明の詳細な説明に記載された発明より広範囲なものであるから,上記(1)で 主張した機能的クレームの権利範囲の解釈と同様に判断すべきであり,訂正 前発明2の構成要件2Cは,構成要件2Aの化合物が侵害受容性疼痛である「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」の処置における鎮痛剤を意味するものと限定解釈するのが相当である。 被告医薬品は,構成要件2Aの化合物であるが,神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う疼痛の処置における鎮痛剤であり,侵害受容性疼痛である「炎 症性疼痛」及び「術後疼痛」の処置における鎮痛剤ではないから,構成要件2Cを充足しない。 したがって,被告医薬品は,訂正前発明2の技術的範囲に属さない(被告第1準備書面「第3の2」参照)。 2 訂正前発明1及び2に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきも のであるか(争点2)(1) 無効理由1(実施可能要件違反の有無)(争点2-1)ア被告の主張(ア) 特許法36条4項1号はいわゆる実施可能要件を規定するところ,発明の詳細な説明の記載が,物の発明について,実施可能要件を満たすた めには,その発明の技術 ア被告の主張(ア) 特許法36条4項1号はいわゆる実施可能要件を規定するところ,発明の詳細な説明の記載が,物の発明について,実施可能要件を満たすた めには,その発明の技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)がその物の使用をすることができる程度のものである必要がある。 そして,上記物の発明が,ある物質の未知の属性に基づき当該物質の新たな医薬用途を提供しようとする物の発明(いわゆる医薬用途発明)である場合について検討すると,医薬の技術分野においては,現在でも, 物質の名称や化学構造だけからその未知の医薬用途を予測することは困難であり,何らかの薬理試験結果によらなければその物質の新たな医薬用途を認識することができないという事情が存在する。したがって,医薬の技術分野における上記事情に鑑みれば,発明の詳細な説明の記載が,医薬用途発明を使用することができる程度のものであるといえるために は,薬理試験結果によらずともその未知の医薬用途を予測することがで きる物質を用いているなどの特段の事情でもない限り,発明の詳細な説明に,当該物質が実際にその医薬用途の対象疾患に対して治療効果を有することを当業者が認識することができるに足る薬理試験結果を記載する必要がある。 本件における訂正前各発明は,いずれも,鎮痛剤の発明であり,本件 化合物の未知の属性に基づき当該化合物の新たな医薬用途を提供しようとする物の発明(いわゆる医薬用途発明)である。そして,本件化合物に,薬理試験結果によらずとも,その未知の医薬用途を予測することができる物質であるといった特段の事情は見出せないから,本件明細書等の発明の詳細な説明の記載が訂正前各発明を使用することができる程度 のものであ によらずとも,その未知の医薬用途を予測することができる物質であるといった特段の事情は見出せないから,本件明細書等の発明の詳細な説明の記載が訂正前各発明を使用することができる程度 のものであるといえるためには,本件明細書等の発明の詳細な説明に,本件化合物が,少なくとも訂正前の請求項4記載の各痛みの処置における鎮痛効果を有することを,当業者が認識することができるに足る薬理試験結果を記載する必要がある。 そこで,本件明細書等の上記薬理試験結果の記載について検討するに, 当該薬理試験が,医薬用途発明における医薬用途の対象疾患を有する患者に対して行った臨床試験であり,当該疾患に対する治療効果が認められる試験結果が得られたというのであれば,当業者は,当該医薬用途発明が実際にその医薬用途の対象疾患に対して治療効果を有することを認識することができる。また,当該薬理試験が,動物実験や試験管内実験 といった非臨床試験であっても,当業者が技術常識を踏まえてその結果を見ると,医薬用途発明における医薬用途の対象疾患に対する治療効果があると認識することができる試験であれば足りる。ここで,上記技術常識は,発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすか否かを検討すべき特許出願の出願時(本件では本件優先日当時)のものである。 (イ) 上記(ア)を前提に,本件明細書等の発明の詳細な説明の記載について, 上記第1の1で主張した本件優先日当時の技術常識を踏まえて検討すると,以下のとおりである。 a 本件明細書等(甲2)5頁35~46行目によれば,発明の詳細な説明には,訂正前各発明の鎮痛剤の有効量,投与方法,製剤化のための事項が記載されている。加えて,同5頁47行目~6頁32行目に よれば, 明細書等(甲2)5頁35~46行目によれば,発明の詳細な説明には,訂正前各発明の鎮痛剤の有効量,投与方法,製剤化のための事項が記載されている。加えて,同5頁47行目~6頁32行目に よれば,本件化合物を用いたラットホルマリン足蹠試験結果及びラットカラゲニン痛覚過敏に対する試験結果が記載され,同6頁37行目~8頁23行目によれば,本件化合物を用いたラット足蹠筋肉切開により生じた熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験結果が記載されている。そして,その他の記載事項を併せみるに,本件明細書等の発明の 詳細な説明の記載は,上記3種の薬理試験結果に基づき,本件化合物が訂正前の請求項4に記載の各痛みをはじめとする手術の痛みの治療に有効であることを当業者に認識させようとするものであるといえる。 訂正前の請求項1には,痛みとの記載があるにとどまり,当該痛み に関して具体的な記載はなされていない。一方,訂正前の請求項4には,「痛みが炎症性疼痛,神経障害による痛み,癌による痛み,術後疼痛,幻想肢痛,火傷痛,痛風の痛み,骨関節炎の痛み,三叉神経痛の痛み,急性ヘルペスおよびヘルペス後の痛み,カウザルギーの痛み,特発性の痛み,または線維筋痛症である請求項1記載の鎮痛剤」と記 載されている。訂正前の請求項4は訂正前の請求項1を引用するから,訂正前の請求項1の痛みは,具体例として,少なくとも,訂正前の請求項4に記載されている各痛みを包含するものである。そこで,まず,訂正前の請求項4に記載の各痛みに対する治療効果について検討する。 b 本件明細書等5頁47行目~6頁32行目によれば,本件明細書等 の発明の詳細な説明には,ラットホルマリン足蹠試験において,本件化合物がホルマリン応答の後期相に b 本件明細書等5頁47行目~6頁32行目によれば,本件明細書等 の発明の詳細な説明には,ラットホルマリン足蹠試験において,本件化合物がホルマリン応答の後期相におけるリッキング/バイティング行動をブロックしたこと及び本件化合物がカラゲニンにより誘発されたラットの機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に拮抗したことが記載されている。 ホルマリンやカラゲニンを動物に注射することにより侵害受容性疼痛かつ急性痛の炎症性疼痛を起こさせることは本件優先日当時の技術常識であり(他方で本モデルを用いても神経障害性疼痛や線維筋痛症については評価できない。詳細は,被告第1準備書面〔17頁下から9行目~19頁下から12行目〕,被告第2準備書面〔8頁下から1 0行目~10頁8行目〕,被告第7準備書面〔14頁4行目~16頁末行〕参照),しかも,本件明細書等6頁23~32行目の「B.熱痛覚過敏」欄末尾の「これらのデータはギャバペンチンおよびCI-1008が炎症性疼痛の処置に有効であることを示す。」の記載(同6頁31~32行目)によれば,上記試験結果が,本件化合物が炎症 性疼痛の処置に有効であることを示すデータであるとの説明も記載されている。 そうすると,上記薬理試験の記載を見た当業者は,本件化合物が鎮痛効果を示すのは,訂正前の請求項4に記載された各痛みのうち,侵害受容性疼痛である「炎症性疼痛」の処置における場合のみであると 認識する。 c また,本件明細書等6頁37行目~8頁23行目によれば,本件明細書等の発明の詳細な説明には,術後疼痛ラットモデル試験において,ラットの後肢足蹠面の皮膚,筋膜および筋肉を切開することにより生じた,熱痛覚過敏及び接触異痛に対し,手術前の本件化合物の単回用 書等の発明の詳細な説明には,術後疼痛ラットモデル試験において,ラットの後肢足蹠面の皮膚,筋膜および筋肉を切開することにより生じた,熱痛覚過敏及び接触異痛に対し,手術前の本件化合物の単回用 量投与,及び,手術後の本件化合物の単回用量投与のいずれもが有効 であることを確認したことが記載されている。そして,同6頁37~40行目にも記載されているように,当該動物モデルが「術後疼痛」のラットモデルであって,ヒトの術後疼痛状態にある種の類似性を示すこと及び切開により侵害受容性疼痛かつ急性痛の術後疼痛を起こさせることは,本件優先日当時の技術常識である(他方で本モデルを用 いても神経障害性疼痛や線維筋痛症については評価できない。被告第1準備書面〔19頁下から11行目~20頁8行目〕,被告第2準備書面〔10頁9行目~11頁9行目〕,被告第7準備書面〔14頁4行目~16頁末行及び14頁脚注8〕参照)。 そうすると,上記薬理試験の記載を見た当業者は,本件化合物が鎮 痛効果を示すのは,訂正前の請求項4に記載された各痛みのうち,侵害受容性疼痛である「術後疼痛」の処置における場合のみであると認識する。 d 続いて,侵害受容性疼痛である上記「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」以外の訂正前の請求項4に記載の各痛みについて検討するに,まず, 痛みには,訂正前の請求項4に記載の各痛みを含む種々の種類のものがあり,その原因や病態生理も様々で,治療法も異なることが,乙6~14に記載されている。そうすると,痛みには,訂正前の請求項4に記載の各痛みを含む種々の種類のものがあり,その原因や病態生理も様々であること及び痛みの種類や原因によって治療法が異なり,鎮 痛剤であればあらゆる種類の痛みに有効であるというわけではないこ に記載の各痛みを含む種々の種類のものがあり,その原因や病態生理も様々であること及び痛みの種類や原因によって治療法が異なり,鎮 痛剤であればあらゆる種類の痛みに有効であるというわけではないことは,本件優先日当時の技術常識であったものと認められる(被告第1準備書面〔13頁12~16行目〕,被告第2準備書面「第2」,被告第7準備書面「第1の1」参照)。 そして,本件優先日当時に,上記3種の薬理試験において,本件明 細書等で開示されている上記結果が得られれば,「炎症性疼痛」及び 「術後疼痛」以外の訂正前の請求項4に記載の各痛みの治療に有効であるという,本件優先日当時の技術常識は見出せない(被告第1準備書面〔44頁1行目~末行〕,被告第7準備書面「第1の6」)参照)。 e したがって,当業者は,本件明細書等の発明の詳細な説明に記載の上記3種の薬理試験結果の記載に接しても,本件発明に係る鎮痛剤が, 「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」以外の訂正前の請求項4に記載の各痛みの処置における鎮痛効果を有することを認識することができない。 よって,本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は,訂正前発明1及び2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したもので あるとはいえない。訂正前発明1及び2は実施可能要件を充足しておらず無効である(被告第1準備書面「第4の1」,被告第2準備書面「第3」,被告第7準備書面「第1の4」参照)。 イ原告の主張に対する反論原告は,本件明細書等記載のホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼 痛試験により「神経障害性疼痛や線維筋痛症に共通する,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛等の慢性疼痛に対する効果を確認できる」旨主 本件明細書等記載のホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼 痛試験により「神経障害性疼痛や線維筋痛症に共通する,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛等の慢性疼痛に対する効果を確認できる」旨主張して,訂正前発明1及び2は実施可能要件を満たすと主張する。 しかし,上記3つの薬理試験は,いずれも,侵害受容性疼痛,急性痛及び誘発痛に関する試験であり,これらの試験では,「神経障害性疼痛や線 維筋痛症に共通する,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛等の慢性疼痛」に対する効果を確認することなどできない(被告第6準備書面「第3の1」参照)。 そして,上記の本件明細書等記載の3種の薬理試験は,急性の侵害受容性疼痛である炎症性疼痛と術後疼痛に関する試験であって,原告がいう 「神経障害性疼痛や線維筋痛症に共通する神経細胞の感作による痛覚過 敏や接触異痛に対する本件化合物の効果を確認できる」試験ではない(被告第2準備書面「第3」,被告第7準備書面「第1の4」参照)。 (2) 無効理由2(サポート要件違反の有無)(争点2-2)特許請求の範囲の記載が,特許法36条6項1号に規定する要件,いわゆるサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲と発明の詳細な説 明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時(本件では本件優先日当時)の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである か否かを検討して判断すべきものである。 本件明細書等の発明の詳細な説明の記載からみて,訂正前発明1及び2が解決しようとする 識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである か否かを検討して判断すべきものである。 本件明細書等の発明の詳細な説明の記載からみて,訂正前発明1及び2が解決しようとする課題は,訂正前の請求項4に記載の各痛みを含む痛みの処置をする鎮痛剤を提供することであるが,前記(1)で主張したとおり,当業者は,本件優先日当時の技術常識を参酌しても,訂正前発明1及び2 に係る鎮痛剤が,侵害受容性疼痛である「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」以外の訂正前の請求項4に記載の各痛みの処置における鎮痛効果を有することを認識することができないのであるから,本件明細書等の発明の詳細な説明に接した当業者は,訂正前発明1及び2により上記課題を解決できると認識できるとはいえない。 したがって,訂正前発明1及び2は,本件明細書等の発明の詳細な説明に記載したものではない。訂正前発明1及び2はサポート要件を充足しておらず無効である(被告第1準備書面「第4の2」参照)。 3 本件発明1及び2に係る訂正の再抗弁の成否(争点3)(1) 無効理由の解消の有無(争点3-1) ア無効理由1の解消の有無(争点3-1-1) 請求項1及び2に係る訂正はいずれも訂正要件違反であるが,仮に上記訂正が認められたとしても,上記訂正により本件発明1及び2の実施可能要件違反(無効理由1)は解消されていない。 本件発明1は本件化合物を「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」に用いる鎮痛剤の医薬用途発明であり,本件発明2は本件化合物を「神経障害 又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」に用いる鎮痛剤の医薬用途発明である。 前記第1の2(1)アで主張したとおり,本件は,作用・効果の予測性が低い医薬 化合物を「神経障害 又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」に用いる鎮痛剤の医薬用途発明である。 前記第1の2(1)アで主張したとおり,本件は,作用・効果の予測性が低い医薬用途発明であるから,医薬用途発明が実施可能要件を充足するためには,その医薬用途の対象疾患に対して治療効果を有することを認識でき るに足りる薬理試験の結果,すなわち実施例等の具体的な薬理試験の結果の記載が必要である。 さらに,前記第1の2(1)アで主張したとおり,本件明細書等には,本件化合物が,発症機序(原因)により異なる「痛覚過敏又は接触異痛」や「神経障害性疼痛」及び「線維筋痛症」の痛みに対して効果を有することを当 業者が認識できるに足りる具体的な記載は存在しない。 したがって,本件発明1及び2は,実施可能要件を充足しない(被告第3準備書面「第3の1」,被告第7準備書面「第1の6」参照)。 イ無効理由2の解消の有無(争点3-1-2)本件訂正により本件発明1及び2のサポート要件違反(無効理由2)は 解消されていない。 サポート要件を充足するには,明細書に,明細書に接した当業者が「特許請求の範囲に記載された発明が明細書に記載されていると合理的に認識でき」る記載があること及び当業者において「技術常識も踏まえて課題が解決できるであろうとの合理的な期待が得られる程度の記載」があるこ とが必要である。 すなわち,本件発明1及び2がサポート要件を充足しているといえるためには,発症機序(原因)により異なる「痛覚過敏又は接触異痛」,「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」に効果を有することを示す薬理試験(動物モデル)の結果等が本件明細書等に記載されていること )により異なる「痛覚過敏又は接触異痛」,「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」に効果を有することを示す薬理試験(動物モデル)の結果等が本件明細書等に記載されていることが必要である。 本件明細書等には,発症機序(原因)により異なる「痛覚過敏又は接触異痛」,「神経障害性疼痛」や「線維筋痛症」の痛みに対して本件化合物が効果を奏することを示す記載は存在しない。 したがって,本件明細書等には,本件発明1及び2の課題が解決できるであろうとの合理的な期待が得られる程度の記載が存在しないから,本件 発明1及び2は,サポート要件を充足しない(被告第3準備書面「第3の2」,被告第7準備書面「第1の6」参照)。 (2) 訂正要件の具備の有無(争点3-2)ア本件発明1の訂正要件の具備の有無(争点3-2-1)請求項1に係る訂正事項は,訂正前の請求項1の「痛みの処置における 鎮痛剤」との記載を,「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」との記載に訂正するものである。 「痛覚過敏」や「接触異痛」は,各疾患に伴って生じる痛みの症状を表す用語であり,各疾患は発症機序(原因)により病態生理が異なるものであるから,痛覚過敏や接触異痛もその発症機序(原因)により異なる病態 に区別され,「侵害受容性疼痛の痛覚過敏及び接触異痛」と「神経障害性疼痛の痛覚過敏及び接触異痛」とが,それぞれ別に理解できる。原告は,「痛覚過敏は一つである」と主張するが,本件優先日当時,痛みの原因(炎症・手術・神経障害(損傷)・線維筋痛症など)を考慮せずに,痛覚過敏や接触異痛が「神経細胞の感作」という全共通のメカニズム(機序)によ り生起するとして一括りにし,「同一の痛み」などと理解する技術常識は ・線維筋痛症など)を考慮せずに,痛覚過敏や接触異痛が「神経細胞の感作」という全共通のメカニズム(機序)によ り生起するとして一括りにし,「同一の痛み」などと理解する技術常識は 存在しない(被告第7準備書面「第2の4(2)」参照)。 本件明細書等の記載には,請求項1に係る訂正事項の記載はなく,本件優先日当時,当業者にとって請求項1に係る訂正事項が記載されているに等しいといった技術常識も存在しない(詳細は,被告第3準備書面〔4頁下から8行目~6頁下から3行目〕参照)。 また,下記イで主張するとおり,請求項2に係る訂正が認められないことにより,訂正後の請求項2についての別の訂正単位とする求めも認められず,訂正前の請求項2と共に一群の請求項を構成する訂正前の請求項1について求める訂正は,一体的に認められない(被告第3準備書面「第2の2(1)」,被告第7準備書面「第2の4(2)」参照)。 イ本件発明2の訂正要件の具備の有無(争点3-2-2)請求項2に係る訂正事項は,請求項2を独立項とするとともに,処置対象の「痛み」を「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛み」との記載に訂正するものである。 ところで,補正における補正事項が新規事項の追加に当たるか否かの判 断は,「当初明細書等に記載した事項」との関係において,新たな技術的事項を導入するものであるか否かにより,その補正が新規事項を追加する補正であるか否かを判断すべきものであり,訂正においても同様の判断が適用される。そして,「当初明細書に記載した事項」とは,「当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術 的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において て,「当初明細書に記載した事項」とは,「当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術 的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,『明細書又は図面に記載した事項の範囲内において』するものということができる」とされている(知財高裁平成18年(行ケ)第10563号同20年5月30日特別部判決)。 そうすると,本件特許のような医薬用途発明においては,所定の化合物 (本件化合物)が請求項2に係る訂正にいう特定の用途(神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置)について効果を有することが本件明細書等に記載されているか否かを総合的に判断すべきである。 本件明細書等において,本件化合物の効果の確認のために行った試験と して開示されているのは,ホルマリン試験,カラゲニン試験及び術後疼痛試験であるところ,これらの試験は,いずれも,神経障害性疼痛や線維筋痛症における痛覚過敏や接触異痛の処置に本件化合物を使用した試験ではない。 また,本件明細書等には,末梢性単発神経障害の動物モデルであるベネ ットモデル等についての言及があるのみであって,神経障害性疼痛の処置への薬理効果の確認における神経障害の動物モデルを用いた本件化合物の効果を確認した旨の記載は一切ない。 すなわち,本件明細書等においては,本件化合物を「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」とし て使用することの記載はない。 さらに,本件明細書等には,そもそも神経障害性疼痛や線維筋痛症における痛覚過敏や接触異痛の る,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」とし て使用することの記載はない。 さらに,本件明細書等には,そもそも神経障害性疼痛や線維筋痛症における痛覚過敏や接触異痛の処置に本件化合物が効果を奏することについての開示がないのであるから,本件化合物が「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」として有効で あることが記載されているに等しいと当業者が理解することができない。 加えて,本件優先日当時,上記の本件明細書等記載の3種の薬理試験において効果が認められるのであれば,神経障害性疼痛や線維筋痛症における痛覚過敏や接触異痛に効果があるといった技術常識も存在しない。 したがって,請求項2に係る訂正は,本件明細書等に実質的に何ら記載 されていない新たな技術的事項を追加するものとして,訂正要件に違反す る(被告第3準備書面「第2の2(2)」参照)。 第2 本件発明3及び4 1 被告医薬品が本件発明3及び4の技術的範囲に属するか(争点4)(1) 構成要件3B及び3C並びに4B及び4Cの充足性(争点4-1)ア被告の主張 (ア) 本件発明3についてa 特許請求の範囲からの解釈特許請求の範囲(本件発明3に係る請求項)には,鎮痛剤による処置の対象となる痛みとして,「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置における鎮痛剤。」と記載されている。 他方で,訂正前の請求項4には,「炎症性疼痛,神経障害による痛み,癌による痛み,術後疼痛,幻想肢痛,火傷痛,痛風の痛み,骨関節炎の痛み,三叉神経痛の痛み,急性ヘルペスおよびヘルペス後の痛み,カウザルギーの痛み,特発 求項4には,「炎症性疼痛,神経障害による痛み,癌による痛み,術後疼痛,幻想肢痛,火傷痛,痛風の痛み,骨関節炎の痛み,三叉神経痛の痛み,急性ヘルペスおよびヘルペス後の痛み,カウザルギーの痛み,特発性の痛み,または線維筋痛症」として各痛みが並列列挙され,「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」が他の痛み と区別されている。 したがって,特許請求の範囲の記載から,「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」(構成要件3B)は,「神経障害による痛み」及び「三叉神経痛の痛み」(神経障害性疼痛)や「線維筋痛症」(線維筋痛症に伴う疼痛)を含まないことが明白である。 b 発明の詳細な説明からの解釈本件明細書等(甲2)の発明の詳細な説明には,「炎症性疼痛」,「術後疼痛」と,他の痛みが個々別々のものとして記載されている(甲2〔2頁4~5,14~19行目,3頁45行目~4頁3行目〕)。 したがって,「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」は,被告医薬品の効 能・効果である「神経障害性疼痛」,「線維筋痛症に伴う疼痛」と, 痛みとして別個のものと記載されている。 また,発明の詳細な説明に記載されている,ラットホルマリン足蹠試験,ラットカラゲニン誘発痛覚過敏に対する試験(ラットカラゲニン試験),ラット足蹠筋肉切開により生じた熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験(ラット術後疼痛試験)という3つの薬理試験は,本件 明細書等(甲2)に「炎症性疼痛」(6頁31行目)または「術後疼痛」(6頁37行目)との記載があるとおり,いずれも侵害受容性疼痛に対する被験化合物の鎮痛効果を評価する試験にすぎず,当該試験において所定の結果が得られたからといって,当該化合物が「神経障害性疼痛,線維筋痛 37行目)との記載があるとおり,いずれも侵害受容性疼痛に対する被験化合物の鎮痛効果を評価する試験にすぎず,当該試験において所定の結果が得られたからといって,当該化合物が「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛」の処置に有効であることを示すも のではない。このことは,本件明細書等の発明の詳細な説明において,上記3つの薬理試験ではない,神経障害の動物モデルが別に存在することを明記していることからも裏付けられる(本件明細書等6頁33~36行目参照)。 したがって,発明の詳細な説明の記載からも,構成要件3Bの「炎 症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」は,「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う痛み」とは明確に区別される侵害受容性疼痛である痛みを指し,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う痛みを含むものでない。 c 本件優先日当時の技術常識 本件優先日当時の技術常識としては,「炎症による内因性発痛物質や発痛増強物質がレセプターを刺激することにより発生する痛み」(すなわち炎症性疼痛)は「侵害受容性疼痛」であり(乙8(200頁左欄5~6行目)),「術後疼痛」も「侵害受容性疼痛」である(甲81(32頁下から7行目~末行))。 また,本件優先日当時の技術常識としても,本件明細書等に記載さ れた3種の薬理試験は,急性の侵害受容性疼痛である炎症性疼痛と術後疼痛に関する試験であって,原告がいう「神経障害性疼痛や線維筋痛症に共通する神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛に対する本件化合物の効果を確認できる」試験ではない(被告第2準備書面「第3」,被告第7準備書面「第1の4」参照)。痛みの治療において, 原因に着目して治療法が選択されるのは当業者の一致した見解であり,そのため,動物モデル できる」試験ではない(被告第2準備書面「第3」,被告第7準備書面「第1の4」参照)。痛みの治療において, 原因に着目して治療法が選択されるのは当業者の一致した見解であり,そのため,動物モデルも原因に応じて使い分けられるのであるから,本件明細書等には,プレガバリンが神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う痛みの治療剤として使用できる程度に発明の詳細な説明が記載されているとはいえない(被告第7準備書面「第1の6」参照)。 したがって,本件優先日当時の技術常識に照らしても,構成要件3Bの「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」は,「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う痛み」とは明確に区別される侵害受容性疼痛である痛みを指し,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う痛みを含むものでない。 d 訂正前の請求項3に対する訂正請求の経緯からの解釈原告は,本件無効審判手続において,特許庁から訂正前の請求項1~4は実施可能要件違反及びサポート要件違反により無効である旨の審決の予告を受け,訂正前の請求項3に構成要件3Bを追加する訂正請求を行い(甲4添付の訂正請求書),審決の予告で実施可能要件及 びサポート要件を満たすと判断された「炎症を原因とする痛み(炎症性疼痛)」及び「手術と原因とする痛み(術後疼痛)」に限定する旨を明言した(被告第1準備書面「第3の3及び4」,被告第6準備書面「第2項の2(7)」参照)。 e 小括 以上のとおり,特許請求の範囲(本件発明3に係る請求項)及び発 明の詳細な説明の記載からの解釈,本件優先日当時の技術常識,並びに,訂正前の請求項3に対する訂正請求における原告の主張からして,構成要件3Bの「炎症を原因とする痛み,又は手術を原 明の詳細な説明の記載からの解釈,本件優先日当時の技術常識,並びに,訂正前の請求項3に対する訂正請求における原告の主張からして,構成要件3Bの「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」は,訂正前の請求項4に記載された各種の痛みのうち侵害受容性疼痛である「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」に限定したものであり,当然 に「神経障害性疼痛」「線維筋痛症に伴う疼痛」とは区別される痛みである。 f 被告医薬品は本件発明3の構成要件3B及び3Cを充足しない。 本件発明3の構成要件3B及び3Cは,「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置における」「鎮痛剤」であるところ, 構成要件3Bの「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」は,訂正前の請求項4に記載された「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」以外の痛みとは異なるものであり,被告医薬品における「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛」の処置における鎮痛剤と明確に区別される。 したがって,被告医薬品は,本件発明3の構成要件3B及び3Cを充足せず,本件発明3の技術的範囲に属さない(被告第1準備書面「第3の3(1)~(3)」,被告第5準備書面「第1部第5」参照。)(イ) 本件発明4についてa 特許請求の範囲からの解釈 特許請求の範囲(本件発明4に係る請求項)には,鎮痛剤による処置の対象となる痛みとして,「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤。」と記載されている。 他方で,訂正前の請求項4には,上記(ア)aのとおり「炎症性疼痛, 神経障害による痛み,…または線維筋痛症」として各痛みが並列列挙 ける鎮痛剤。」と記載されている。 他方で,訂正前の請求項4には,上記(ア)aのとおり「炎症性疼痛, 神経障害による痛み,…または線維筋痛症」として各痛みが並列列挙 されていたことからすると,構成要件4Bは,訂正前の請求項4に記載された各痛みのうち,「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」と「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」に限定したものである。 したがって,特許請求の範囲の記載から,「炎症性疼痛による痛覚 過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」(構成要件4B)は,「神経障害による痛み」及び「三叉神経痛の痛み」(神経障害性疼痛)や「線維筋痛症」(線維筋痛症に伴う疼痛)を含まない。 b 発明の詳細な説明からの解釈 上記(ア)bで主張したとおり,構成要件4Bの「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」は,「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う痛み」とは明確に区別される痛みであり,これらの痛みを含むものでないことが認められる。 c 本件優先日当時の技術常識 上記(ア)cで主張したとおり,本件優先日当時の技術常識としては,「炎症性疼痛」と「術後疼痛」は,神経障害性疼痛とは別個の「侵害受容性疼痛」と認識されるものである。 d 訂正前の請求項4に対する訂正請求の経緯からの解釈原告は,本件無効審判手続において,特許庁から訂正前の請求項1 ~4は実施可能要件違反及びサポート要件違反により無効である旨の審決の予告を受け,訂正前の請求項4記載の各痛みを構成要件4Bの痛みに訂正する訂正請求を行い(甲4添 特許庁から訂正前の請求項1 ~4は実施可能要件違反及びサポート要件違反により無効である旨の審決の予告を受け,訂正前の請求項4記載の各痛みを構成要件4Bの痛みに訂正する訂正請求を行い(甲4添付の訂正請求書),その際,審決の予告で実施可能要件及びサポート要件を満たすと判断された「炎症を原因とする痛み(炎症性疼痛)」及び「手術と原因とする痛 み(術後疼痛)」を,更に「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」及び 「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」に限定する旨を明言している。 e 小括以上のとおり,特許請求の範囲(本件発明4に係る請求項)及び発明の詳細な説明の記載からの解釈,本件優先日当時の技術常識,並び に,訂正前の請求項4に対する訂正請求における原告の主張からして,構成要件4Bの「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」は,訂正前の請求項4に記載された各種の痛みのうち侵害受容性疼痛である「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」を更に限定したものであり,当然に「神経障害性疼痛」「線 維筋痛症に伴う疼痛」とは区別される痛みである。 f 被告医薬品は本件発明4の構成要件4B及び4Cを充足しない。 本件発明4の構成要件4B及び4Cは,「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における」「鎮痛剤」であるところ,構成要件4Bの「炎症性疼痛 による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」は,訂正前の請求項4に記載された痛みのうち「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」に限定したうえで,更に「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」及び「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触 敏若しくは接触異痛の痛み」は,訂正前の請求項4に記載された痛みのうち「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」に限定したうえで,更に「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」及び「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」に限定したものであり,被告医薬品における「神経障害性疼痛, 線維筋痛症に伴う疼痛」の処置における鎮痛剤と明確に区別される。 したがって,被告医薬品は,本件発明4の構成要件4B及び4Cを充足せず,本件発明4の技術的範囲に属さない(被告第1準備書面「第3の4(1)~(3)」,被告第5準備書面「第1部第5」参照)。 イ原告の主張に対する反論 (ア) 原告は,被告医薬品の構成b(神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼 痛)が,本件発明3の構成要件3B(炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置における)に属する根拠として,①神経障害性疼痛がヘルペスに伴う炎症を原因として生ずる帯状疱疹後神経痛を含むこと,②神経障害性疼痛が手術を原因として生じる開胸術後疼痛症候群,外傷後後遺症,手術後後遺症を含むこと,③線維筋痛症は外科的手術を 原因として発症することがあると主張する。 しかし,上記の帯状疱疹後神経痛,開胸術後疼痛症候群,外傷後後遺症,手術後後遺症及び線維筋痛症は,いずれも,炎症性疼痛及び術後疼痛とは区別される痛みであり,本件発明3及び4の鎮痛の対象となる痛みではない(被告第1準備書面「第3の3(4),被告第6準備書面「第2 の2(7)」,被告第8準備書面「第4の2~5」参照)。 すなわち,被告の反論の要点は,下記のとおりである。 a 「帯状疱疹後神経痛」は,皮膚と神経の炎症が治まった後も続く神経障害性疼痛であり「炎症を原因とする」痛みではない。 b 「開胸術,外 )。 すなわち,被告の反論の要点は,下記のとおりである。 a 「帯状疱疹後神経痛」は,皮膚と神経の炎症が治まった後も続く神経障害性疼痛であり「炎症を原因とする」痛みではない。 b 「開胸術,外傷,手術」により「痛覚求心系,特に末梢神経での圧 迫や絞扼」が生じた場合には神経障害性疼痛を発症することはあり得るが,単に「手術を原因とする痛み」という場合には,当業者であれば,切開による侵害受容器の活性化を通じた「侵害受容性疼痛」であると認識し,開胸術後疼痛症候群等を含めない。 c 外科手術による疼痛が,線維筋痛症に伴う疼痛とこれを含むとの技 術常識はなく,一方で,線維筋痛症に伴う疼痛は,侵害受容性の痛みではなく,病巣が特定されない神経障害性様の中枢性疼痛とされていることから,当業者であれば,「手術を原因とする痛み」に線維筋痛症に伴う疼痛を含めない。 (イ) 原告は,本件発明4について,①痛覚過敏及び接触異痛は神経障害性 疼痛及び線維筋痛症の主症状であること,②神経障害性疼痛及び線維筋 痛症は炎症又は手術を原因とする疼痛を含むと主張する。 しかし,「痛覚過敏」及び「接触異痛」は,単に痛みの症状を表す用語であるため,痛みの発生機序(原因)ごとに,それぞれの痛覚過敏等が理解でき,例えば,「侵害受容性疼痛の痛覚過敏及び接触異痛」,「神経障害性疼痛の痛覚過敏及び接触異痛」,及び「心因性疼痛の痛覚過敏 及び接触異痛」がそれぞれ理解できる。そして,神経障害性疼痛においては,常に痛覚過敏や接触異痛が生じるわけでなく,自発痛を含め多種多様な痛みの症状を呈するのであるから,痛覚過敏という症状を呈したことのみをもって,その痛みを神経障害性疼痛と分類するわけではない。 この点,本件発明4の構成要件4Bは, けでなく,自発痛を含め多種多様な痛みの症状を呈するのであるから,痛覚過敏という症状を呈したことのみをもって,その痛みを神経障害性疼痛と分類するわけではない。 この点,本件発明4の構成要件4Bは,「炎症性疼痛による痛覚過敏 の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における」とあり,「炎症性疼痛」や「術後疼痛」といった疼痛の原因ごとに,それぞれの痛覚過敏等が理解できることを正面から示している。 これと同様に,「侵害受容性疼痛の痛覚過敏及び接触異痛」と「神経障害性疼痛の痛覚過敏及び接触異痛」とが,それぞれ別に理解できるのは 至極当然である(被告第7準備書面「第1の1」参照)。 加えて,前記第2の1(1)アで主張したとおり,当業者であれば,本件発明3の構成要件3Bの「炎症を原因とする痛み」や「手術を原因とする痛み」との記載は,神経障害性疼痛等とは別の「侵害受容性疼痛」であると認識するのが,当時から現在に至るまでの広く知られた技術常識 である(被告第2準備書面「第2」,被告第7準備書面〔14頁脚注8〕参照)。そして,本件発明4の構成要件4Bの「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」は,本件発明3の「炎症を原因とする痛み」(炎症性疼痛)及び「手術を原因とする痛み」(術後疼痛)を更に限定したものであり,いずれも「侵 害受容性疼痛」であって,「神経障害性疼痛」等とは別個に捉えるべき 痛みであり,「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛」を含むものではない。 さらに,前記第2の1(1)アで主張したとおり,原告は「急性疱疹性及び治療後神経痛」や「線維筋痛症」をその権利範囲から積極的に除外したのであるから,上記①②の原告の主張は,上記の原告の構 はない。 さらに,前記第2の1(1)アで主張したとおり,原告は「急性疱疹性及び治療後神経痛」や「線維筋痛症」をその権利範囲から積極的に除外したのであるから,上記①②の原告の主張は,上記の原告の構成要件該当 の主張の理由になり得ない(被告第1準備書面「第3の4(4)」,被告第7準備書面「第1の1」参照)。 (ウ) 原告は,「原因にかかわらず,神経細胞の感作により,神経障害性疼痛や線維筋痛症に共通する痛覚過敏や接触異痛を生ずる」とか,「本件明細書等のホルマリン試験,カラゲニン試験及び術後疼痛試験によって 効果が確かめられた痛覚過敏や接触異痛と,神経障害性疼痛や線維筋痛症の痛覚過敏や接触異痛が神経細胞の感作による同一の痛みであることを示す」などと主張し,本件発明3及び4の本件化合物の処置用途が侵害受容性疼痛に限られないと主張する。 これらの原告の主張は,甲77に記載された神経障害性疼痛の定義「神 経障害性疼痛神経系の一次的な損傷,あるいはその機能異常が原因となって生じた疼痛」を根拠とし,要するに,神経細胞の感作によって痛覚過敏や接触異痛が生じれば,その全ては神経障害性疼痛に定義づけられるというものである。 しかし,単に神経細胞が感作するという現象だけでは,甲77の神経 障害性疼痛の定義で記載された「その(神経系の)機能異常」には含まれず,その痛みを神経障害性疼痛に分類しない(被告第7準備書面「第1の3」参照)。 既に繰り返し述べているように,組織損傷や炎症による痛みは侵害受容性疼痛であり,神経系の一次的な損傷による痛みは神経障害性疼痛で ある。本件発明3及び4の用途は,侵害受容性疼痛の一種である炎症性 疼痛又は術後疼痛の痛みの処置であり,それ以外の疼痛を含むものではなく, 傷による痛みは神経障害性疼痛で ある。本件発明3及び4の用途は,侵害受容性疼痛の一種である炎症性 疼痛又は術後疼痛の痛みの処置であり,それ以外の疼痛を含むものではなく,全く発症機序の異なる神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛は含まれない。 (エ) 原告は,「神経障害性疼痛は侵害受容性疼痛とオーバーラップする痛み」であることを理由に,「被告医薬品は侵害受容性疼痛を伴う疾患に 処方することを用途として含んでいる」であるとか,「本件優先日当時,当業者が痛みを原因によって区別することができないと考えていた」等と主張する。 しかし,本件優先日当時から,現在に至るまで,神経障害性疼痛や線維筋痛症は,「侵害受容性疼痛とオーバーラップする痛み」などとは定 義されていない。炎症や手術により神経を変性,損傷し,或いは神経損傷で炎症を生じる場合は,「神経系の一次的な損傷」が疼痛の原因であるから,いずれも神経障害性疼痛に分類される。一方,神経系の損傷がなく,神経細胞の感作が生じるのみであれば,神経障害性疼痛には分類されない(被告第7準備書面「第1の3」参照)。神経障害性疼痛と侵 害受容性疼痛とが,病態としてオーバーラップすることはあるが(混合性疼痛),それは「原因によって区別することができない」ということではないし,それぞれの病態に応じた薬物療法が求められる(甲93〔24頁〕)。要するに,一部の症状としては,神経障害性疼痛や線維筋痛症は,侵害受容性疼痛と同様の症状を呈することがあるとしても,異な る発生機序(原因)によって生じた痛みを一括りにして「同一の痛み」と捉えるような技術常識は存在しない(被告第7準備書面「第3の1」,被告第8準備書面「第2の2」参照)。 このように,原因によって痛みを区別するこ 因)によって生じた痛みを一括りにして「同一の痛み」と捉えるような技術常識は存在しない(被告第7準備書面「第3の1」,被告第8準備書面「第2の2」参照)。 このように,原因によって痛みを区別することは可能であるし,現に,本件優先日当時の技術常識であった(被告第7準備書面「第3の1(2)参 照)。神経障害性疼痛と侵害受容性疼痛が併存する混合性疼痛の患者の 場合でも,被告医薬品の対象となっている痛みは,現に,添付文書にも記載されているとおり,承認を取得している「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛」であり(甲13),併存している侵害受容性疼痛に対して処方されるわけではない。個々の患者によっては混合性疼痛を呈している場合があろうとも,そのことと,被告医薬品が本件発明3及び4 の技術的範囲に属するかどうかとは,何ら関係がない(被告第4準備書面「第2の2(2)ウ」,被告第8準備書面「第2の2(2)ウ」参照)。 (オ) 原告は,「痛みを生ずる原因がなんであれ,痛覚過敏や接触異痛という症状にかわりはないから,これが末梢性感作や中枢性感作という共通の仕組みで生ずる」,「疼痛の原因が炎症や腫瘍といったものであって も,痛覚過敏や接触異痛などの痛みを生ずる場合には,これを神経障害性疼痛と判断して治療することを求めている」と主張する。 しかし,痛覚過敏や接触異痛は,原因にかかわらず,侵害受容性疼痛においても神経障害性疼痛においても生じ得るものではあるが,同一の症状であれば,異なる原因の疼痛を同一視するような技術常識は存在し ないし,痛覚過敏は一つとみなす技術常識も存在しない。痛覚過敏という症状が生じても,痛みの原因によって,全く別の病態であり,現に,治療法も原因によって選択されている(被告第7準備書面「 在し ないし,痛覚過敏は一つとみなす技術常識も存在しない。痛覚過敏という症状が生じても,痛みの原因によって,全く別の病態であり,現に,治療法も原因によって選択されている(被告第7準備書面「第1の1及び2」,「第2の1(4)」,「第3の4」参照)。 (カ) 原告は,「当業者は,ある動物モデル試験によって痛覚過敏や接触異 痛に対して薬剤が効果を奏することを確認できれば,その動物モデルにおける原因とは別の原因によって生じた痛覚過敏や接触異痛に対しても,同様に効果を奏するものと理解した」と主張する。 原告が主張するように,ある動物モデルによって痛覚過敏や接触異痛に対する効果を奏すれば他の動物モデルにおける効果も理解できるの であれば,ある化合物においてホルマリン試験で効果を奏すれば,他の モデル(神経障害性疼痛モデル)でも効果が見られるはずである。 しかし,乙13の27頁表3-3から明らかなように,ホルマリン試験等の侵害受容性疼痛モデルで有効とされていたNSAID(表中最下行)は,チャングモデルやベネットモデル(神経障害性疼痛モデル)では薬効を示さない。加えて,NSAIDであるインドメタシンは,ホル マリン試験やカラゲニン誘発試験等でも有効とされていた(甲44,45)。 すなわち,侵害受容性疼痛モデルに有効なNSAIDが神経障害性疼痛や線維筋痛症に効果を奏しないのと同様に,ある化合物がホルマリン試験やカラゲニン試験等に効果を奏するからといって,その化合物が神 経障害性疼痛や線維筋痛症に有効であるとは予想できないし,理解もできない(被告第2準備書面「第8の1ウ」〔48頁14行目~50頁下から9行目〕,被告第7準備書面「第1の5」〔17頁1行目~18頁8行目〕参照)。 本件優先日当時,当 とは予想できないし,理解もできない(被告第2準備書面「第8の1ウ」〔48頁14行目~50頁下から9行目〕,被告第7準備書面「第1の5」〔17頁1行目~18頁8行目〕参照)。 本件優先日当時,当業者は,「痛みの原因」に着目して動物モデルを 用いており(被告第7準備書面「第1の1及び2」),本件明細書等6頁33~36行目においても,ある化合物の神経障害性疼痛に対する効果を確認するにあたり,本件優先日当時の技術常識に照らせば,ベネットモデルやチャングモデル(神経障害性疼痛モデル)で評価する必要があったことが読み取れる。にもかかわらず,本件明細書等にはこれら動 物モデルの薬理試験の結果が一切記載されておらず,考察もされていない(被告第1準備書面「第3の3(2))イ」,被告第7準備書面「第1の6(2)参照)。 そして,そもそも,本件明細書等には,「神経細胞の感作」という用語の記載はなく,本件明細書等に記載された3種の薬理試験が「神経障 害性疼痛の痛覚過敏や接触異痛」あるいは「線維筋痛症の痛覚過敏や接 触異痛」に関するものであるとの記載もない。 (キ) 原告は,本件訂正の経緯に禁反言を検討するような事情はない旨主張する。 しかし,本件訂正請求を経て技術的範囲を限定した本件発明3について,「炎症や手術による神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛を含む」 などと主張することは当然に禁反言に該当し,本件発明3に基づく原告の権利行使は信義則上許されない。 すなわち,原告は,訂正前各発明に係る請求項が実施可能要件及びサポート要件違反により無効であるとの審決の予告(乙1)を受け,上記の無効理由を回避するために,審決の予告の判断を容認する形で,「炎 症を原因とする痛み(炎症性疼痛)」及び「手術を 能要件及びサポート要件違反により無効であるとの審決の予告(乙1)を受け,上記の無効理由を回避するために,審決の予告の判断を容認する形で,「炎 症を原因とする痛み(炎症性疼痛)」及び「手術を原因とする痛み(術後疼痛)」に限定する訂正を行った。このことは,訂正請求書(甲4に添付)の記載内容に加えて,訂正請求書と同日に提出された上申書(甲18)の記載内容からも明らかである。 以上のとおり,特許請求の範囲,発明の詳細な説明の記載,本件優先 日当時の技術常識,本件訂正請求の経緯から,原告が,訂正前の請求項4で列記した各種の痛みから,炎症性疼痛と術後疼痛の痛みだけを残し,神経障害による痛みや線維筋痛症を含むその他の痛みを除外して,本件発明3及び4へと訂正したことが明らかである。 したがって,原告の主張は,特許請求の範囲,発明の詳細な説明の記 載に反し,本件訂正請求における自己の言動にも矛盾する主張であり,失当である(被告第4準備書面「第2の4」,被告第6準備書面「第2の2(6)」,被告第8準備書面「第2の4」参照)。 (ク) 原告は,本件明細書等記載のカラゲニン試験や術後疼痛試験は痛みを生ずるまでの機序は限定されておらず,訂正された本件発明3及び4に は文言上炎症や手術を原因として生ずる痛覚過敏や接触異痛の全てが含 まれると主張する。 しかし,本件明細書等記載の薬理試験について,痛みを生ずるまでの発生機序(原因)は,「炎症性疼痛」や「術後疼痛」などと,「侵害受容性疼痛」に特定されているのであるから,原告の「痛覚過敏や接触異痛の全てが含まれる」との主張は根拠がない(被告第8準備書面「第2 の2」参照)。 また,本件明細書等記載の3つの薬理試験は,いずれも,神経障害性疼 いるのであるから,原告の「痛覚過敏や接触異痛の全てが含まれる」との主張は根拠がない(被告第8準備書面「第2 の2」参照)。 また,本件明細書等記載の3つの薬理試験は,いずれも,神経障害性疼痛や線維筋痛症を生じておらず,本件明細書等からは,本件化合物の神経障害性疼痛や線維筋痛症に対する鎮痛効果は全く不明であり,現に本件明細書等中にも「炎症性疼痛」と「術後疼痛」に対する効果を示し た旨は記載されているが,神経障害性疼痛や線維筋痛症に対する本件化合物の効果は記載されていない(被告第2準備書面「第3」,被告第7準備書面「第1の4」参照)。 したがって,本件発明3及び4の「痛み」について,本件明細書等を参酌すれば神経障害性疼痛や線維筋痛症による痛みを含むと解する余地 はない。 さらに,本件優先日当時の技術常識を参酌しても,本件明細書等記載の3つの薬理試験の記載をもって,本件発明3及び4の化合物が,「神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛」の処置に鎮痛剤として有効であることが記載されているに等しいと当業者は理解できない。 以上のとおり,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛は,炎症や手術を原因とする痛みとは全く異なるものであるから,被告医薬品は本件発明3及び4の技術的範囲に属しない(被告第8準備書面「第2の2(1)」参照)。 (2) 均等侵害の成否(争点4-2) ア均等の第1要件(発明の本質的部分ではないこと)について 本件化合物は既知の薬物であり,本件発明3及び4において,本質的部分すなわち特許発明特有の課題解決のための手段を基礎付ける中核的,特徴的な部分は,本件化合物を「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置における鎮痛剤」ないし「炎症性疼痛による 本質的部分すなわち特許発明特有の課題解決のための手段を基礎付ける中核的,特徴的な部分は,本件化合物を「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置における鎮痛剤」ないし「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における 鎮痛剤」として用いる点である。 これに対し,被告医薬品は,本件化合物を「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛」に対する疼痛治療薬として用いるものであるから,本件発明3及び4の本質的部分において相違しており,均等の第1要件を充足しない(被告第4準備書面「第2の5(2)」参照)。 イ均等の第5要件(意識的除外に当たらないこと)について本件発明3及び4の訂正の経緯に鑑みれば,原告は,被告医薬品が対象とする神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛を本件発明3及び4の特許請求の範囲から意識的に除外したものと認められるから,均等の第5要件を充足しない(被告第4準備書面「第2の5(3)」参照)。 第3 本件特許権の存続期間の延長登録延長登録により存続期間が延長された本件特許権の効力は被告医薬品に及ぶか(争点5)以下のとおり,延長登録に係る本件特許権の効力は被告医薬品に及ばない。 1 被告医薬品と処分対象物は実質同一でないこと (1) 被告の主張ア被告医薬品は政令で定める処分の対象となった物(延長登録医薬品)と実質同一ではない。 被告医薬品の実施行為が本件特許権を侵害するか否かについては,特許法68条の2に基づき,延長登録を受けた本件特許権の効力が及ぶ範囲内 か否かについて判断しなければならない。同条は,延長登録された特許権 の効力範囲は,特許発明の実施行為のうち,同法67 基づき,延長登録を受けた本件特許権の効力が及ぶ範囲内 か否かについて判断しなければならない。同条は,延長登録された特許権 の効力範囲は,特許発明の実施行為のうち,同法67条4項(平成28年法律第108号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)67条2項)所定の「政令で定める処分の対象となった物」についての当該特許発明の実施行為以外の行為には及ばないと明定する。 本件において,同項所定の「政令で定める処分の対象となった物」(処 分対象物又は延長登録医薬品)は,「リリカカプセル25mg」「リリカカプセル75mg」「リリカカプセル150mg」で特定され,当該「リリカカプセル25mg」等が表記された添付文書(甲102の1の1)で「組成・性状」,「効能・効果」,「用法・用量」が特定された延長登録医薬品(カプセル剤)である。 これに対し,被告医薬品は,OD錠であり,カプセル剤である延長登録医薬品とは,成分及び剤形が相違し,その相違が両者の作用,特徴の顕著な相違に直接関係している。 ところで,本件特許権は,存続期間の延長登録を受けているが,医薬品医療機器等法の政令処分(製造販売承認)の対象となった医薬品(処分対 象医薬品)と対象製品(相手方が製造等する製品)とが,具体的な政令処分で定められた「成分,分量,用法,効能及び効果」において異なる部分が存在する場合には,対象製品は,存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属するということはできないというのが原則である。この前提の下,延長登録を受けた特許権は,政令処分で定められた「成分,分量, 用法,用量,性能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず,これと医薬品として実質同一なものについての「当該特許発明の実 録を受けた特許権は,政令処分で定められた「成分,分量, 用法,用量,性能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず,これと医薬品として実質同一なものについての「当該特許発明の実施」の範囲で効力が及ぶ。そして,政令処分で定められた前記構成中に対象製品(相手方が製造等する製品)と異なる部分が存在する場合には延長登録を受けた特許権の効力は及ばないが,異なる部分が僅かな差異又は全 体的にみて形式的な差異にすぎないときは,対象製品は,医薬品として政 令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれ,存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属することになる(知財高裁平成28年(ネ)第10046号同29年1月20日特別部判決。以下「大合議判決」という。)。 被告医薬品は,処分対象物である延長登録医薬品の成分においてプレガ バリンとタルクを除く全ての成分で顕著に相違し,また,両者の剤形(OD錠とカプセル剤)も相違することにより作用,特徴において顕著に相違しており,「僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異」とは到底認められないから実質同一ではない。 したがって,被告医薬品は延長登録医薬品と実質同一ではなく,延長登 録を受けた本件特許権の効力は及ばない。 イ被告医薬品は,延長登録医薬品とはOD錠とカプセル剤という剤形の相違によりこれら医薬品を製造販売するには別個の政令処分(製造販売承認)を受ける必要があることから別個の「物」(医薬品)にほかならない。 医薬品医療機器等法14条1項には,「医薬品…の製造販売をしようと する者は,品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければならない。」と規定され,「品目ごとに」製造販売承認を受ける必要があるとしており,剤形 医薬品…の製造販売をしようと する者は,品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければならない。」と規定され,「品目ごとに」製造販売承認を受ける必要があるとしており,剤形追加に係る医薬品(カプセル剤にOD錠を追加する場合)を製造販売するには,既に有効成分を含むカプセル剤の製造販売承認がなされていても,カプセル剤と「成分」が異なることから新た にOD錠に対する製造販売承認を受けなければならず(乙3),現に,ファイザー株式会社はリリカカプセル剤の製造販売承認を受けているにもかかわらず,リリカOD錠の製造販売をするに当たり新たにリリカOD錠の製造販売承認を受けている(甲5)から,剤形の異なる延長登録医薬品と被告医薬品とは別個の物(医薬品)とみるべきである。 そして,旧特許法67条2項における特許権の存続期間の延長登録の制 度趣旨が,特許権者が政令で定める処分を受けるために,その特許発明を実施する意思及び能力を有していてもなお,特許発明の実施をすることができなかった期間があったときは,5年を限度として,その期間の延長を認めるというものであるところ,剤形追加に係る医薬品に新たな製造販売承認が必要であることからすると,特許法68条の2の「政令で定める処 分の対象となった物」との関係で,カプセル剤とOD錠とは実質同一か否かを判断するまでもなく,別個の物(医薬品)というべきである。 ウ特許登録原簿には,延長登録の対象として「リリカカプセル」としてカプセル剤のみが記載され,OD錠の記載がない。 特許登録原簿(甲1)には,延長登録特許の対象として「リリカカプセ ル」としたカプセル剤のみが記載されていて,OD錠は記載されていない。 特許権の延長登録の有無・延長登録特許権の存続期間 い。 特許登録原簿(甲1)には,延長登録特許の対象として「リリカカプセ ル」としたカプセル剤のみが記載されていて,OD錠は記載されていない。 特許権の延長登録の有無・延長登録特許権の存続期間や効力範囲(すなわち処分対象物)を特許登録原簿によって明示するという特許権の公示性の観点からも,被告医薬品は,延長登録特許の対象外であり,延長登録を受けた本件特許権の効力範囲外であることは明白である。 エ以上のとおり,被告医薬品は,処分対象物である延長登録医薬品の成分及び剤形において顕著に相違しているから実質同一ではなく,また,被告医薬品は延長登録医薬品とはOD錠とカプセル剤という剤形の相違によりこれら医薬品を製造販売するには別個に政令処分(製造販売承認)を受ける必要があることから別個の「物」(医薬品)というべきであり,しか も特許登録原簿には延長登録特許の対象として「リリカカプセル」としたカプセル剤のみが記載されてOD錠が記載されていないから,被告医薬品に延長登録を受けた本件特許権の効力は及ばない(被告第1準備書面「第2の1及び2」,被告第5準備書面「第1部第1~第4」,被告第8準備書面「第3」参照)。 (2) 原告の主張に対する反論 原告は,大要以下のとおり主張して,延長登録に係る本件特許権の効力が被告医薬品にも及ぶことを主張するが,いずれも失当である。 ア原告は,処分対象物と被告医薬品とは添加物が異なることを認める一方で,特許法68条の2の処分対象物との実質同一性は特許発明の内容に基づきその内容との関連で技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討し て判断すべきであり,有効成分を特徴とする特許において,有効成分ではない成分に関して,周知慣用技術に基づき異なる成分を付加,転換 づきその内容との関連で技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討し て判断すべきであり,有効成分を特徴とする特許において,有効成分ではない成分に関して,周知慣用技術に基づき異なる成分を付加,転換等しているような場合には実質同一であることが推認される旨を主張する。 しかし,延長登録医薬品と被告医薬品は「成分」が大きく異なり,「成分」の顕著な相違は剤形,作用,特徴の顕著な相違に直接関係し,剤形追 加に対しては「成分」が異なることから別個に政令処分(製造販売承認)を受ける必要があること,さらには異なる剤形ごとに特許権の延長登録出願がなされ,特許登録原簿において異なる剤形ごとに特許権の延長登録がされていることから(甲1,乙4,5),本件は,そもそも大合議判決のいう一般的基準たる「僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異かどうか」 を問題にする場合に該当しない。さらに,本件は大合議判決のいう具体的基準たる4類型にも該当しない。 また,原告は本件が大合議判決の第1類型に該当するかのごとく主張するが,本件特許に係る発明は医薬用途発明であり有効成分のみを特徴とする発明ではないから,そもそも大合議判決の第1類型の「医薬品の有効成 分のみを特徴とする特許発明に関する延長登録された特許発明において,有効成分ではない『成分』に関して,対象製品が,政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき,一部において異なる成分を付加,転換等しているような場合」に該当しない。 特許法67条4項(旧特許法67条2項)における特許権の存続期間の 延長登録の制度趣旨が,特許権者が政令で定める処分を受けるために,そ の特許発明を実施する意思及び能力を有していてもなお,特許発明の実施をすることができなかった期間があったときは, 長登録の制度趣旨が,特許権者が政令で定める処分を受けるために,そ の特許発明を実施する意思及び能力を有していてもなお,特許発明の実施をすることができなかった期間があったときは,5年を限度として,その期間の延長を認めるというものであるところ,剤形追加に係る医薬品に新たな製造販売承認が必要であることからして,特許法68条の2の「政令で定める処分の対象となった物」との関係で,カプセル剤とOD錠とは実 質同一のものではないことは明白である(被告第1準備書面「第2の3」,被告第5準備書面「第2部第2」,被告第6準備書面「第1の1及び2」,被告第8準備書面「第3」参照)。 イ原告は,カプセルとOD錠とで別の延長登録が可能であるか否かは,延長登録の効力範囲とは関係がない旨主張する。 しかし,延長登録の要件とその効力範囲は無関係の問題ではない。すなわち,特許法68条の2は,延長登録後の特許権の効力範囲につき,特許権の延長登録の要件に関する規定である「特許法67条4項の政令で定める処分の対象となった物」の特許発明の実施行為以外の行為には及ばないと規定しており,延長登録の要件と延長登録後の効力範囲とは,相互に不 可分の関係にある。延長登録の効力範囲は,同法68条の2の規定に従い,「延長登録の理由となった第67条4項の政令で定める処分の対象となった物」についての当該特許発明の実施行為に限られるのであって,そのことは,大合議判決も判示するところである(被告第5準備書面「第2部第3」,被告第6準備書面「第1の3」,被告第8準備書面「第3項の7 (1)」参照)。 2 本件発明3及び4が規定する用途についての延長登録がないこと本件発明3及び4が規定する用途(炎症性疼痛,術後疼痛)について延長登録がな 被告第8準備書面「第3項の7 (1)」参照)。 2 本件発明3及び4が規定する用途についての延長登録がないこと本件発明3及び4が規定する用途(炎症性疼痛,術後疼痛)について延長登録がなされていないから,本件発明3及び4との関係で本件特許権の効力は既に消滅している。 本件特許権の存続期間は平成29年7月16日までであったところ,訂正前 各発明の請求項のうち,リリカカプセル25mg,リリカカプセル75mg,リリカカプセル150mgの各カプセル剤に対し,用途を「帯状疱疹後神経痛」,「末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛を除く)」,「線維筋痛症に伴う疼痛」及び「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛(末梢性神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛)とする物(医薬品)について延長登録がなされたので あるから,請求項記載の発明のうち,延長登録の対象となった上記用途とする医薬品の製造,販売等の実施についてのみ本件特許権の効力が及ぶことになり,同用途と異なる本件発明3及び4についての本件特許権の効力は,本件特許の出願から20年を経過した平成29年7月16日に消滅しており,本件発明3及び4についての本件特許権の権利行使は不可能である(被告第4準備書面〔3 頁15行目~4頁2行目〕),被告第5準備書面「第1部第5」,被告第6準備書面〔15頁5~11行目〕,被告第8準備書面〔9頁12~23行目〕参照)。
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