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主文 1 被告は,原告らに対し,各金750万円及びこれに対する平成7年2月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。3 訴訟費用は,これを5分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。事実及び理由 第1 請求被告は,原告らに対し,各金2309万7140円及びこれに対する平成7年2月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2 事案の内容 1 概要本件は,Dが,平成5年2月,E病院で,鼻腔ないし副鼻腔原発の横紋筋肉腫と診断され,同病院において同年3月10日から同年4月26日まで,合計30回にわたって放射線治療を受け,その後,平成7年2月8日に死亡したところ,Dの両親である原告らが,Dの死亡は脳幹部に過剰な放射線が照射されたことによるものでE病院の担当医師らの過失に基づくとして,被告に対して,診療契約の債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償を請求した事案である。2 前提となる事実(証拠等の記載のない事実は争いがない事実であり,証拠等の記載のある事実は主に当該証拠等により直接認められる事実である。書証の成立は弁論の全趣旨により認められる。)(1) 当事者等ア 原告Aは,Dの父であり,原告Bは,Dの母である。Dは,昭和42年10月5日生まれの女性で,死亡した平成7年2月8日当時27歳であり,株式会社横浜高島屋の従業員であった(Dの勤務先につき乙25)。イ 被告は,診療業務を行う社会福祉法人であり,横浜市(以下略)にE病院を開設している。被告は,F医師及び放射線技師らを,その事業のため,E病院に勤務させていた。Fは,昭和41年に医師となった後,長年放 診療業務を行う社会福祉法人であり,横浜市(以下略)にE病院を開設している。被告は,F医師及び放射線技師らを,その事業のため,E病院に勤務させていた。 高島屋の従業員であった(Dの勤務先につき乙25)。イ 被告は,診療業務を行う社会福祉法人であり,横浜市(以下略)にE病院を開設している。被告は,F医師及び放射線技師らを,その事業のため,E病院に勤務させていた。Fは,昭和41年に医師となった後,長年放 診療業務を行う社会福祉法人であり,横浜市(以下略)にE病院を開設している。被告は,F医師及び放射線技師らを,その事業のため,E病院に勤務させていた。Fは,昭和41年に医師となった後,長年放射線治療を行ってきた同治療の専門医であり,昭和58年6月にE病院の放射線科部長に着任し,その後,平成6年2月にはE病院副院長となった者であって,平成5年3月当時において,E病院の放射線科の責任者の地位にあった(乙40,弁論の全趣旨)。(2) 診療契約の成立被告は,平成4年12月25日,Dとの間で,同人の左頸部腫瘍の疾患を診断し,これを治癒させるための適切な診療行為を施すことを内容とする診療契約を締結した。(3) 診療の経過ア E病院における治療経緯の概要Dは,左頸部の腫瘤に気づき,平成4年12月24日に勤務先の診療所で超音波検査を受けたところ,左頸部に腫瘤が認められ,同診療所からE病院を紹介され,翌25日,E病院外科外来を訪れ,被告との間に(2)のとおりの診療契約を締結した。Dは,平成5年1月E病院で鼻腔悪性腫瘍の疑いがあると診断されたため,同年2月15日E病院に入院し,同月16日病理組織の検査(生検)のために頸部リンパ節摘出手術を受け,さらに,左鼻腔及び上咽頭の生検を受けた。E病院は,上記生検等の結果,Dの腫瘍が鼻腔ないし副鼻腔(以下,区別せずに「鼻腔」という。)原発の横紋筋肉腫(悪性腫瘍)であると診断した。そして,E病院は,Dに対して,同年3月6日から同年5月17日までの間,15回にわたって,オンコビン,コスメゲン,ファルモルビシン,エンドキサンなどの投与による化学療法を実施するとともに,後記イのとおり,E病院に勤務するF及び放射線技師らにおいて,同年3月10日から同年4月26日までの間,放射線治療を行った。(以上ア全体に エンドキサンなどの投与による化学療法を実施するとともに,後記イのとおり,E病院に勤務するF及び放射線技師らにおいて,同年3月10日から同年4月26日までの間,放射線治療を行った。(以上ア全体につき,乙19,23,弁論の全趣旨)イ放射線治療の内容E病院は,Dに対して,平成5年3月10日から同年4月6日までの間,①鼻腔について照射野(照射範囲)を別紙「照射図1」のとおりに設定して前方一門照射の方法(以下「鼻腔前方一門照射」のようにいうことがある。 とともに,後記イのとおり,E病院に勤務するF及び放射線技師らにおいて,同年3月10日から同年4月26日までの間,放射線治療を行った。(以上ア全体につき,乙19,23,弁論の全趣旨)イ放射線治療の内容E病院は,Dに対して,平成5年3月10日から同年4月6日までの間,①鼻腔について照射野(照射範囲)を別紙「照射図1」のとおりに設定して前方一門照射の方法(以下「鼻腔前方一門照射」のようにいうことがある。)により,1回あたり1.8グレイで16回照射し(以下「照射①」という。),②頸部について照射野を別紙「照射図2」のとおりに設定して左右対向二門照射の方法により,左右交互に1回あたり1.8グレイで16回照射した(以下「照射②」という。なお,照射①と照射②とを併せて「前期照射」という。)。さらに,E病院は,同月7日から26日までの間,③鼻腔について照射野を別紙「照射図1」のとおりに設定して前方一門照射の方法により,1回あたり1.8グレイで14回照射し(以下「照射③」という。),④頸部について照射野を別紙「照射図3」のとおりに設定して前方一門照射の方法により,1回あたり1.8グレイで14回照射した(以下「照射④」という。なお,照射③と照射④とを併せて「後期照射」といい,前期照射と後期照射とを併せて「本件照射」という。)。「グレイ」とは,放射線の吸収線量の単位である。身体の各部位が何グレイの照射を受けるかは,線源からの距離や途中に放射線を吸収する物体があるかどうか等によって変わる。「1回当たり1.8グレイ」という場合の数値は,治療の対象となる部位(患部)が受ける放射線量である。したがって,患部よりも線源に遠い組織はより少ない線量を受けることになる。ウ E病院退院後の経過Dは,平成5年6 グレイ」という場合の数値は,治療の対象となる部位(患部)が受ける放射線量である。したがって,患部よりも線源に遠い組織はより少ない線量を受けることになる。ウ E病院退院後の経過Dは,平成5年6月2日にE病院を退院した後,同年9月27日まで,同病院に通院したが,同月8日から,慶応義塾大学病院(以下「慶応病院」という。)の耳鼻咽喉科に入通院し,横紋筋肉腫に対して3工程にわたって化学療法を受けるなどの治療を受けた。化学療法後の平成6年2月28日,Dは,慶応病院を退院し,その後は経過観察のため同病院に通院していた。 い組織はより少ない線量を受けることになる。ウ E病院退院後の経過Dは,平成5年6月2日にE病院を退院した後,同年9月27日まで,同病院に通院したが,同月8日から,慶応義塾大学病院(以下「慶応病院」という。)の耳鼻咽喉科に入通院し,横紋筋肉腫に対して3工程にわたって化学療法を受けるなどの治療を受けた。化学療法後の平成6年2月28日,Dは,慶応病院を退院し,その後は経過観察のため同病院に通院していた。Dは,同年5月ころから,左手指のしびれ,ふらつき,しゃべりにくさを感じたため,同年5月28日に慶応病院神経内科で診察を受けた。そして,上記症状の原因を鑑別するため,同年6月1日MRI検査を受けたところ,脳橋を中心とする脳幹部に広範囲に及ぶ病変(以下「本件病変」ということがある。)が確認され,これがしびれ等の症状の原因であることが確認された。その後,Dの上記しびれは増大し,さらに知覚障害,麻痺,歩行障害等へと進行した。Dは,同年6月4日,慶応病院に再入院して,治療・リハビリテーション等を行ったが,症状は次第に悪化し,脳幹部の呼吸中枢の障害が直接の原因となって,平成7年2月8日,E病院において呼吸停止により死亡した。(以上ウ全体につき,甲1,14,15,16,31の2・3,32,弁論の全趣旨) 3 主な争点及び争点に対する当事者の主張(1) 過失の有無(争点1)(原告らの主張)ア脳幹部の耐容線量(ア) 放射線治療は,放射線の照射によって腫瘍細胞を破壊することを目的とするところ,同時に周辺の正常細胞をも破壊する危険性がある。したがって,放射線治療の際は,必要のない部位へ照射することは可及的に避けるべきであり,周辺の正常組 によって腫瘍細胞を破壊することを目的とするところ,同時に周辺の正常細胞をも破壊する危険性がある。したがって,放射線治療の際は,必要のない部位へ照射することは可及的に避けるべきであり,周辺の正常組織に障害が発生しないように照射線量,照射法,照射部位を決定しなければならない。(イ) 放射線感受性は組織によって異なり,耐容線量(正常組織の障害発生が急増する直前の放射線の線量をいう。)も組織によって異なるところ,脳幹部全体に放射線を照射する場合の最小耐容線量(5年以内に2ないし5パーセントの頻度で障害が起こる線量をいう。)は50グレイ,最大耐容線量(5年以内に25ないし50パーセントの頻度で障害が起こる線量をいう。 ように照射線量,照射法,照射部位を決定しなければならない。(イ) 放射線感受性は組織によって異なり,耐容線量(正常組織の障害発生が急増する直前の放射線の線量をいう。)も組織によって異なるところ,脳幹部全体に放射線を照射する場合の最小耐容線量(5年以内に2ないし5パーセントの頻度で障害が起こる線量をいう。)は50グレイ,最大耐容線量(5年以内に25ないし50パーセントの頻度で障害が起こる線量をいう。)は65グレイである。したがって,頭頸部に対する放射線照射を行う場合には,脳幹部に対して,最小耐容線量を超える照射がされないように注意しなければならない。特に脳幹部はその損傷が死に直結する最重要な部位であるから,癌細胞が存在するか否か確定できない状況において,放射線障害が生じる危険性を冒す治療上の必要性はあり得ない。イ本件における脳幹部への照射量(ア) 前期照射では,別紙「照射図4」のとおり,照射①と照射②とで照射野に広い重なり合いが生じており,脳幹部がその重なり合う部位(以下「重複照射部位」ということがある。)に含まれていた。重複照射部位に照射された線量は,1回あたり3.6グレイとなる。さらに,後期照射でも照射③によって,重複照射部位に1回当たり1.8グレイ照射されていたから,本件照射を通じて重複照射部位には合計82.8グレイの照射がされたことになる。(3.6グレイ×16回(前期)+1.8グレイ×14回(後期)=82.8グレイ)そして,線源からの距離,線源に近い組織による吸収を考慮すると,脳幹部が受けた総線量は,65 照射がされたことになる。(3.6グレイ×16回(前期)+1.8グレイ×14回(後期)=82.8グレイ)そして,線源からの距離,線源に近い組織による吸収を考慮すると,脳幹部が受けた総線量は,65.4ないし68.4グレイとなる。(イ) また,総線量が同じであっても1回当たりの線量(以下「分割線量」ということがある。)が多ければ,放射線照射による障害発生の危険性は高まる。前期照射で,重複照射部位に対する分割線量は,3.6グレイとなっており,脳幹部では,2.9ないし3.2グレイとなっている。そして,標準的な分割線量である2グレイで照射した場合にBED法という換算方法によって(ア)の放射線量を評価すると,合計で71.8グレイないし76.4グレイの照射量となる(このようにBED法によって換算した照射量を,以下「2グレイ換算照射量」という。 による障害発生の危険性は高まる。前期照射で,重複照射部位に対する分割線量は,3.6グレイとなっており,脳幹部では,2.9ないし3.2グレイとなっている。そして,標準的な分割線量である2グレイで照射した場合にBED法という換算方法によって(ア)の放射線量を評価すると,合計で71.8グレイないし76.4グレイの照射量となる(このようにBED法によって換算した照射量を,以下「2グレイ換算照射量」という。)。ウ Fらの過失(ア) 脳幹部へ照射をした過失医師が放射線治療を行うに際してどの程度の照射線量の放射線を照射することが許されるかは,照射の必要性の高さと照射による障害発生の可能性の高さの相関関係によって判断される。したがって,放射線治療を行う医師は,放射線照射による障害が生じるおそれのある臓器及び照射する必要がない部位への照射を避けて照射計画を作成する注意義務がある。本件において,Dの悪性腫瘍が確認されているのはその鼻腔周辺及び頸部リンパ節(以下「本件腫瘍部位」ということがある。)にとどまる。E病院は,上記の悪性腫瘍が脳幹部に転移したか否かについて髄液検査等をせず,これを確認しなかったのであるから,脳幹部に放射線照射を行う必要性は認められない。したがって,Fは脳幹部への放射線照射を可及的に避けるように照射計画を作成する注意義務があり,具体的には,前期照射において,(a)照射①と照射②とで照射野に重 に放射線照射を行う必要性は認められない。したがって,Fは脳幹部への放射線照射を可及的に避けるように照射計画を作成する注意義務があり,具体的には,前期照射において,(a)照射①と照射②とで照射野に重なり合いが生じないように設定するか,(b)仮に重なり合いが生じることが避けられない場合には,照射②について,鉛又は鉛合金ブロック(以下,単に「ブロック」という。)を用いて,重なり合いが生じる脳幹部への照射を避けるようにすべき注意義務があった。もし,Fが照射②についてブロックを用いていれば,本件腫瘍部位に対する治療効果を損なわずに,脳幹部への照射線量の総量を39ないし42グレイ(2グレイ換算照射量はさらに低い数値となる。)という低い照射線量に抑えることができ,しかもそのような措置をとるのは容易であった。ところが,同医師は,ブロックを用いずに漫然と照射し,前記のとおり,2グレイ換算照射量において脳幹部の最大耐容線量を上回る照射を行った過失がある。 が照射②についてブロックを用いていれば,本件腫瘍部位に対する治療効果を損なわずに,脳幹部への照射線量の総量を39ないし42グレイ(2グレイ換算照射量はさらに低い数値となる。)という低い照射線量に抑えることができ,しかもそのような措置をとるのは容易であった。ところが,同医師は,ブロックを用いずに漫然と照射し,前記のとおり,2グレイ換算照射量において脳幹部の最大耐容線量を上回る照射を行った過失がある。(イ) 不要な予防的照射をした過失a 被告は,脳幹部に悪性腫瘍の存在を確認していないことを認めつつ,Dの脳に腫瘍が存在(転移)していることについて高度の蓋然性があったから脳幹部に放射線照射を行った旨主張する。しかしながら,既に脳に転移している可能性があるために予防的な照射をするというのであれば,より転移の可能性の高い脊髄・頭蓋底等を照射対象とする必要があるのに,本件では脳幹部に限局して照射している。したがって,本件照射が,予防的な目的での照射であると考えることは困難である。b また,仮に,本件で脳幹部に対して予防的な照射をすることが許されるとしても,予防的な照射は,悪性腫瘍の存在が確認されている場合と比べると照射の必要性がはるかに低いことから,少ない照射線量でも十分に効果がある。したがって, に対して予防的な照射をすることが許されるとしても,予防的な照射は,悪性腫瘍の存在が確認されている場合と比べると照射の必要性がはるかに低いことから,少ない照射線量でも十分に効果がある。したがって,障害発生の危険性がある程度高い態様による予防的な放射線照射は許されず,予防的照射は,最小耐容線量を超えないよう注意すべき義務がある。c 以上のとおり,Fには,不要な予防的照射をし,また予防的照射としては過大な量の照射をした過失がある。(被告の主張)ア脳幹部の耐容線量(ア) 原告らの主張アは争う。(イ) 脳に放射線を照射する場合,脳全体を照射範囲とする場合には,最小耐容線量が60グレイ,最大耐容線量が70グレイであるが,脳全体の25パーセントを照射範囲とする場合は,最小耐容線量が70グレイ,最大耐容線量が80グレイである。本件照射で脳に放射線が照射された範囲は,脳幹部に限局しており,脳の25パーセント程度が照射範囲とされているから,後者の耐容線量が適用されるべきである。原告らが主張する脳幹部の耐容線量が報告された文献(甲20)は,平成10年に公刊されたものであるところ,注意義務の基準となるのは本件の診療当時(平成5年3月)の臨床医学の実践における医療水準であって,平成10年の医療水準ではない。 量が80グレイである。本件照射で脳に放射線が照射された範囲は,脳幹部に限局しており,脳の25パーセント程度が照射範囲とされているから,後者の耐容線量が適用されるべきである。原告らが主張する脳幹部の耐容線量が報告された文献(甲20)は,平成10年に公刊されたものであるところ,注意義務の基準となるのは本件の診療当時(平成5年3月)の臨床医学の実践における医療水準であって,平成10年の医療水準ではない。平成5年3月当時,脳幹部に照射する場合の耐容線量については,上記のように理解されていたのであり,Fが最大耐容線量を80グレイと考えたことに過失はない。イ脳幹部への照射量(ア) 原告らの主張イは認める。(イ) 前記のように,脳の最大耐容線量は80グレイであるところ,2グレイ換算照射量で最大76.4となる本件照射は,脳の最大耐容線量を超えていないから,危険性はそれほど高くはない。ウ本件照射の必要性(ア) 原告らの主張ウは争う。(イ) レイであるところ,2グレイ換算照射量で最大76.4となる本件照射は,脳の最大耐容線量を超えていないから,危険性はそれほど高くはない。ウ本件照射の必要性(ア) 原告らの主張ウは争う。(イ) Dの病状は,鼻腔を原発とした横紋筋肉腫であり,既に頸部リンパ節へ転移していたから,進行した予後の悪い横紋筋肉腫に分類された。また,組織学的にも,最も予後が悪い胞巣型に分類された。傍髄膜型の横紋筋肉腫は,他のものと比べて治療成績と予後が悪く,頭蓋底を経由して脳脊髄液腔から中枢神経系へ直接,浸潤して転移しやすく,仮に中枢神経へ転移した場合は致命的になる。したがって,Dに対する治療としては,横紋筋肉腫の腫瘍を局所制御することが最も重要であった。一般に,放射線治療では癌の原発部位に対する照射野を広く設定する必要があり,局所制御のための照射線量は75グレイ前後が必要であるとされているから,治療の効果を上げるために,原発部位周辺へ照射する放射線線量は多くならざるを得ない。(ウ) E病院では,両眼・鼻腔を照射範囲に入れて,縦8㎝・横8㎝の照射野を設定し,両眼は白内障予防のためブロックを用いて制御した。さらに,Dには側後咽頭リンパ節に転移が認められ両側の頸部リンパ節にも転移する可能性が高いことから頸部全体を広く照射する必要があり,照射野を両側頸部とも縦16㎝,横8㎝とし,対向二門の照射とした。 効果を上げるために,原発部位周辺へ照射する放射線線量は多くならざるを得ない。(ウ) E病院では,両眼・鼻腔を照射範囲に入れて,縦8㎝・横8㎝の照射野を設定し,両眼は白内障予防のためブロックを用いて制御した。さらに,Dには側後咽頭リンパ節に転移が認められ両側の頸部リンパ節にも転移する可能性が高いことから頸部全体を広く照射する必要があり,照射野を両側頸部とも縦16㎝,横8㎝とし,対向二門の照射とした。そして,(イ)のDの病状に照らせば,横紋筋肉腫が転移して,脳及び脊髄に腫瘍が存在(転移)したことが高度の蓋然性をもって予見できたため,E病院では,脳幹部(脳脊髄)にある程度の量の放射線が照射されることになってもそれが最大耐容線量に達しない程度の量であればやむを得ない,むしろ照射された方が良いと考えて,照射計画を作成した。ただし,脳及び脊髄への癌細胞の転移を確認して 度の量の放射線が照射されることになってもそれが最大耐容線量に達しない程度の量であればやむを得ない,むしろ照射された方が良いと考えて,照射計画を作成した。ただし,脳及び脊髄への癌細胞の転移を確認してその癌細胞に対して意識的に照射すべく計画したものではない。なお,重複照射部位にブロックを用いて照射を遮断することは技術的には可能であるが,治療が不十分となるので行わなかった。したがって,Fには,原告らが主張するようなブロックを用いるなどの措置をとるべき義務があったとはいえない。(2) 因果関係(争点2)(原告らの主張)ア前記(1)のとおり,Dの脳幹部には最大耐容線量を超える放射線が照射されているから,放射線脳障害の起こる可能性は極めて高く,①本件病変部位が高線量の放射線が照射された重複照射部位と一致すること,②晩発性障害は,放射線治療後6か月以降に発生するところ,Dの場合,放射線治療の1年後以降に病変が発生しており,時期的にも一致すること,③本件病変部位は,平成6年5月28日のMRI検査で初めて確認されたときから既に広範囲に及んでおり,その後,一時的にステロイド剤に反応したとみられる縮小が認められるが,その後は大きさに変化がないことなどに照らせば,本件病変の原因が放射線脳障害である蓋然性が高い。仮に,鼻腔の横紋筋肉腫が転移した結果,脳幹部に本件病変が発生したものであるとすると,その転移の経路は,①血液を介しての血行性転移と,②脊髄液を介して髄膜湿潤を来す転移が考えられる。 RI検査で初めて確認されたときから既に広範囲に及んでおり,その後,一時的にステロイド剤に反応したとみられる縮小が認められるが,その後は大きさに変化がないことなどに照らせば,本件病変の原因が放射線脳障害である蓋然性が高い。仮に,鼻腔の横紋筋肉腫が転移した結果,脳幹部に本件病変が発生したものであるとすると,その転移の経路は,①血液を介しての血行性転移と,②脊髄液を介して髄膜湿潤を来す転移が考えられる。本件病変部位は細長い形状をしているから,仮に腫瘍の転移であれば,複数の転移巣が増殖してつながったとみるのが自然である。しかしながら,まず,通常鼻腔癌から血行性転移を起こしやすい肺や肝に転移せず,脳の他の部位にも転移していないので,脳幹部にのみ血行性の転移が生じた 転移巣が増殖してつながったとみるのが自然である。しかしながら,まず,通常鼻腔癌から血行性転移を起こしやすい肺や肝に転移せず,脳の他の部位にも転移していないので,脳幹部にのみ血行性の転移が生じたとは考えにくい。また,脊髄液を介した転移の場合,脳幹部の前に頭蓋底及び脳底部に転移するはずであるが,本件では確認されていないので,髄膜湿潤による転移の可能性もない。なお,脳に原発する腫瘍は,15歳以下の小児に好発するが,大人では少ない。イ以上からすると,本件病変は,E病院による放射線照射(本件照射)による晩発性障害であったと判断される。そして,Dは,本件照射の結果,平成6年5月はじめころから,脳幹部障害に起因する左手のしびれ,ふらつき,しゃべりにくさなどを訴えるようになり,その後,感覚障害,麻痺,平衡障害,歩行障害,嚥下障害,両手機能障害等その症状は急激に拡大,進行,悪化して行き,呼吸中枢障害による呼吸停止により死亡したものである。Dの鼻腔の腫瘍については,E病院を退院後,慶応病院で化学療法を受けて順調に推移しており,その再発が確認されたのは,死亡直前の平成7年1月11日の生検の結果である。したがって,放射線による脳幹部障害が発生していなければ,鼻腔腫瘍の再発が原因となって同時期に死亡したという可能性はない。すなわち,Dは,本件照射の結果発生した放射線脳障害により,平成7年2月8日に死亡したものである。(被告の主張)ア原告らの主張は,すべて争う。イ横紋筋肉腫による死亡(1)ウで主張したように,Dの症状は進行した傍髄膜型の横紋筋肉腫であるところ,一般に横紋筋肉腫の2年生存率は6割ないし7割,5年生存率は5割とされているが,Dのような進行した症例については,2年生存率が5割ないし6割,5年生存率は3割ないし4割というべきで 照射の結果発生した放射線脳障害により,平成7年2月8日に死亡したものである。(被告の主張)ア原告らの主張は,すべて争う。イ横紋筋肉腫による死亡(1)ウで主張したように,Dの症状は進行した傍髄膜型の横紋筋肉腫であるところ,一般に横紋筋肉腫の2年生存率は6割ないし7割,5年生存率は5割とされているが,Dのような進行した症例については,2年生存率が5割ないし6割,5年生存率は3割ないし4割というべきで 腫であるところ,一般に横紋筋肉腫の2年生存率は6割ないし7割,5年生存率は5割とされているが,Dのような進行した症例については,2年生存率が5割ないし6割,5年生存率は3割ないし4割というべきである。また,治療により原発巣の制御に成功した場合と失敗した場合とでは,その後の転移の頻度が明らかに異なるところ,本件ではE病院による放射線治療及び化学療法並びに慶応病院による化学療法後に腫瘍の残存が確認されている。したがって,より転移の頻度が高いということができ,脳幹部に転移した可能性が十分にある。以上からすると,Dは,横紋筋肉腫が中枢神経系へ転移したことにより,呼吸不全を来して死亡した蓋然性が高いというべきである。ウ原告らの主張に対する反論原告らは,病変が起きた脳橋の部分が,照射野と一致することから,本件放射線治療によって病変が発生したと主張するが,腫瘍が転移した部位と放射線の照射範囲が一致することは考えられるので,それだけで放射線脳障害と判定することはできない。一般に,CT,MRIによる画像診断では,放射線壊死と再発又は転移性腫瘍との鑑別は困難とされており,現在の医療水準では確実に放射線障害と腫瘍とを区別する検査方法はなく,仮にあったとしても,本件では実施されていない。また,慶応病院が実施した検査では,脳幹部以外の他の部分に腫瘍が転移していない事実を確定的に診断することはできない。なお,ステロイドによって悪性腫瘍の周囲の炎症や浮腫は軽減され,画像上の陰影が縮小することもあり得るから,ステロイド投与による縮小が認められたことから放射線脳障害と判断するべきではない。(3) 損害(争点3)(原告らの主張)ア逸失利益各1024万7140円(ア) Dは,死亡当時27歳で,高等学校卒業後,1年間専門学校に進学し,株式会社高 射線脳障害と判断するべきではない。(3) 損害(争点3)(原告らの主張)ア逸失利益各1024万7140円(ア) Dは,死亡当時27歳で,高等学校卒業後,1年間専門学校に進学し,株式会社高島屋に勤務していた。 から放射線脳障害と判断するべきではない。(3) 損害(争点3)(原告らの主張)ア逸失利益各1024万7140円(ア) Dは,死亡当時27歳で,高等学校卒業後,1年間専門学校に進学し,株式会社高 射線脳障害と判断するべきではない。(3) 損害(争点3)(原告らの主張)ア逸失利益各1024万7140円(ア) Dは,死亡当時27歳で,高等学校卒業後,1年間専門学校に進学し,株式会社高島屋に勤務していた。27歳の女性が67歳までの40年間に得べかりし利益の現価は,年収を341万2500円(賃金センサス,平成7年女子労働者,年齢階級25歳ないし29歳による。),生活費を3割控除として,ライプニッツ式計算法による中間利息控除を行うと,4098万8561円となる。3,412,500×17.1590×(1-0.3)=40,988,561(イ) Dは,平成6年3月時点では,鼻腔の横紋筋肉腫が消滅し,順調な回復をしていたこと,同疾病の5年生存率は,治療方法の進歩により50パーセント程度にまで向上していたことなどに照らすと,Dの疾患を考慮しても少なくとも上記損害額の50パーセントにあたる2049万4280円が逸失利益とされるべきであり,原告らは,それぞれその2分の1を相続したものである。なお,死亡直前の平成7年1月11日の生検の結果,横紋筋肉腫の再発が確認されているが,このことは,放射線脳障害による全身状態の悪化によって,従前からされていた再発防止のための抗癌剤の投与が中止されたことにも原因があり,放射線脳障害が発症せず,通常の抗癌剤投与等の治療が継続されていれば,再発することもなかったと考えられる。イ慰謝料(ア) 原告ら固有の慰謝料各3000万円原告らは,本件の医療事故によって,娘であるDを失い,多大な精神的苦痛を被ったのであって,その慰謝料額はそれぞれ3000万円を下らない。(イ) Dの慰謝料(相続) 各1000万円原告ら固有の慰謝料が認められない場合であっても,Dの死亡による同人の慰謝料は,少なくとも2000万円 て,その慰謝料額はそれぞれ3000万円を下らない。(イ) Dの慰謝料(相続) 各1000万円原告ら固有の慰謝料が認められない場合であっても,Dの死亡による同人の慰謝料は,少なくとも2000万円であり,原告らはそれぞれその2分の1を相続した。ウ葬儀費用各75万円原告らは,Dの葬儀費用として,150万円を下らない出捐をした。 られない場合であっても,Dの死亡による同人の慰謝料は,少なくとも2000万円 て,その慰謝料額はそれぞれ3000万円を下らない。(イ) Dの慰謝料(相続) 各1000万円原告ら固有の慰謝料が認められない場合であっても,Dの死亡による同人の慰謝料は,少なくとも2000万円であり,原告らはそれぞれその2分の1を相続した。ウ葬儀費用各75万円原告らは,Dの葬儀費用として,150万円を下らない出捐をした。エ弁護士費用各210万円原告らは,本件訴訟の提起,追行を弁護士に委任することを余儀なくされ,原告ら訴訟代理人を委任したものであり,被告が負担すべき本件の医療事故と相当因果関係にある弁護士費用の損害は,原告らについて各210万円を下らない。オ合計よって,原告らは,被告に対し,上記アないしエの合計金額のうち,各2309万7140円の支払を求める。(被告の主張)ア逸失利益本件照射により,Dの死亡時期が早まったとすれば,その損害の算定については,延命期間を具体的に算定するべきであり,これをせずにDが67歳まで生存することを想定した逸失利益の5割をもって損害とする原告らの主張は根拠がない。また,本件患者は給与所得者であったから,死亡前の収入を基礎として算出すべきである。イ慰謝料延命利益の侵害についての慰謝料は,定説がないが,いわゆる期待権侵害を認めた場合の裁判例を参考にすれば,慰謝料の額は,数十万円から600万円ほどである。ウ葬儀費用本件の場合は,放射線脳障害がなかったとしても,横紋筋肉腫による死亡時期が近かったというべきであるから,その死亡による葬儀費用を原告らが負担することになる。したがって,葬儀費用は損害に含まれない。エ弁護士費用本件紛争は,交通事故訴訟などと異なり,被告が不当に抗争しているものではなく,被告の過失が歴然としている事案でもないから,原告らの負担すべ 。したがって,葬儀費用は損害に含まれない。エ弁護士費用本件紛争は,交通事故訴訟などと異なり,被告が不当に抗争しているものではなく,被告の過失が歴然としている事案でもないから,原告らの負担すべき弁護士費用を被告が負担する理由はない。第3 争点に対する判断(証拠により直接認定する事実は,当該事実の前後に適宜,主な証拠を略記する。争いのない事実及び一度認定した事実は,原則としてその旨を断らない。書証の成立は弁論の全趣旨により認められる。 れない。エ弁護士費用本件紛争は,交通事故訴訟などと異なり,被告が不当に抗争しているものではなく,被告の過失が歴然としている事案でもないから,原告らの負担すべき弁護士費用を被告が負担する理由はない。第3 争点に対する判断(証拠により直接認定する事実は,当該事実の前後に適宜,主な証拠を略記する。争いのない事実及び一度認定した事実は,原則としてその旨を断らない。書証の成立は弁論の全趣旨により認められる。) 1 争点1(過失の有無)について(1) 放射線治療における注意義務ア耐容線量の把握の必要性癌の治療には,外科的手術,化学療法,放射線治療,免疫療法等があるが,放射線治療は,手術と同様に局所療法であって,腫瘍細胞の増殖システムに対して放射線の電離作用でその分裂,増殖を阻止してこれを死滅させようとするものである。放射線治療は,癌細胞以外の正常組織細胞にも影響を与える危険性が高く,放射線照射による障害としては,照射施行中や照射終了後3か月以内に発生する急性障害,照射終了後3か月以降6か月以内に発生する亜急性障害,照射終了後6か月以降に発生する晩発性障害がある。急性障害及び亜急性障害は,多くの場合一過性の反応であり,薬物療法で制御することが可能であるが,晩発性障害は,ステロイド投与等による治療も一時的な効果しかなく,薬物療法等では制御することが不可能であり,患者に重篤な障害を起こすことが多い。(甲19,29,鑑定人Gによる鑑定の結果ー以下「鑑定結果」という。)ところで,一般に人の生命及び健康を管理する業務に従事する医師は,その業務の性質に照らし,危険防止のため診療上必要とされる最善の注意義務を要求される。したがって,医師としては,患者の病状に十分注意し,その治療方法の内容及び程度等については診 務に従事する医師は,その業務の性質に照らし,危険防止のため診療上必要とされる最善の注意義務を要求される。したがって,医師としては,患者の病状に十分注意し,その治療方法の内容及び程度等については診療当時の医学的知識に基づきその効果と副作用等すべての事情を考慮し,万全の注意を払って,その治療を実施しなければならない(最高裁昭和44年2月6日第一小法廷判決・民集23巻2号195頁参照)。そうすると,放射線治療に携わる医師の場合,その治療を施行する際は,可能な限り病変部位に放射線量を集中し,その他の正常組織にできる限り当たらないようにする注意義務がある。 ,その治療方法の内容及び程度等については診療当時の医学的知識に基づきその効果と副作用等すべての事情を考慮し,万全の注意を払って,その治療を実施しなければならない(最高裁昭和44年2月6日第一小法廷判決・民集23巻2号195頁参照)。そうすると,放射線治療に携わる医師の場合,その治療を施行する際は,可能な限り病変部位に放射線量を集中し,その他の正常組織にできる限り当たらないようにする注意義務がある。そして,放射線に対する感受性は身体の組織によって異なるため,放射線治療を施術する医師は,腫瘍組織及び正常組織の放射線感受性を考慮して,照射対象部位における正常組織の耐容線量を把握し,それを超えないようにする注意義務がある。イ脳幹部の耐容線量(ア) 脳幹部は,脳の下部にあり,中脳,脳橋,延髄の3つの部分から構成される。脳幹部は,すべての運動及び感覚神経の経路が走行する部位であり,呼吸中枢及び循環中枢を有し,全体として脳の中でも呼吸,心臓活動,体温調節など,基本的な生命現象の中枢となっている。したがって,脳幹部の障害は生命に直結する重篤な危険を招くおそれが高く,具体的には,延髄の障害としての運動障害,嚥下障害・構音(構語)障害,感覚障害及び呼吸障害,脳橋の障害としての運動失調,眼振,感覚障害,難聴及び意識障害・呼吸異常,中脳の障害としてのウェーバー症候及び意識障害など種々の障害が生ずることが知られている(甲17,18,19)。脳幹部の放射線耐容線量については,平成3年(1991年)に,アメリカで出版された医学雑誌「J. RadiationOncologyBiol. Phys. Vol ている(甲17,18,19)。脳幹部の放射線耐容線量については,平成3年(1991年)に,アメリカで出版された医学雑誌「J. RadiationOncologyBiol. Phys. Vol.21」において,エマミ(EmamiB.)らが,最小耐容線量が50グレイ,最大耐容線量が65グレイであると報告しており,同報告は,現在の放射線治療における最も権威のある基本的な報告(以下「エマミ報告」という。)であるとされている(甲20,30の1・2,鑑定結果)。(イ) この点に関し,被告は,「脳の25パーセントに放射線を照射した場合の最小耐容線量が70グレイ,最大耐容線量が80グレイであるとされているところ,脳幹部は脳の一部であり,脳全体の25パーセント程度を占めるにすぎないから,脳幹部への照射については,上記耐容線量を参考にすべきである。 おける最も権威のある基本的な報告(以下「エマミ報告」という。)であるとされている(甲20,30の1・2,鑑定結果)。(イ) この点に関し,被告は,「脳の25パーセントに放射線を照射した場合の最小耐容線量が70グレイ,最大耐容線量が80グレイであるとされているところ,脳幹部は脳の一部であり,脳全体の25パーセント程度を占めるにすぎないから,脳幹部への照射については,上記耐容線量を参考にすべきである。」旨主張し,昭和50年(1975年)に,ルビン(RubinP.)及びキャサレット(CasarettG.)が「Adirectionforclinicalradiationpathology」において行った権威のある研究報告(以下「ルビン・キャサレット報告」という。)を引用した国内の医学文献(甲3,乙2,4,5)を援用する。しかしながら,解剖学的見地からすれば,脳のうち左右で補完性のある大脳とは異なり,脳幹部は各種の神経細胞が集中し生命維持の中枢となる器官であり,大脳よりも脊髄に近い性質を有していること,また,ルビン・キャサレット報告の原著には「cerebrum(大脳)」と記述されており,大脳と脳幹部とを区別していたことなどに照らせば,上記耐容線量は大脳に限定されたものであって,脳幹部の耐容線量ではないと理解すべきである(鑑定結果,特に鑑定人尋問調書の12頁)。脳幹部と大脳との差異を無視 部とを区別していたことなどに照らせば,上記耐容線量は大脳に限定されたものであって,脳幹部の耐容線量ではないと理解すべきである(鑑定結果,特に鑑定人尋問調書の12頁)。脳幹部と大脳との差異を無視した被告の上記主張は採用できない。(ウ) したがって,脳幹部の耐容線量としては,(ア)に従い最小耐容線量が50グレイ,最大耐容線量が65グレイとするのが妥当である。ウ脳幹部に対して放射線を照射する場合の注意義務(ア) 前記ア及びイからすると,放射線による晩発性障害が脳幹部に発生した場合は,有効な治療方法がなく,呼吸や循環機能が冒され致命的な事態になる。他方,脳幹部に発生する腫瘍に対しては,最小耐容線量を超えない放射線線量であっても,効果があり,ある程度の確率でその腫瘍を制御することが可能である(鑑定結果)。そうすると,脳幹部に放射線を照射する場合には,少なくとも初回の放射線治療においては,原則として最小耐容線量を超えることは許容できない。 線による晩発性障害が脳幹部に発生した場合は,有効な治療方法がなく,呼吸や循環機能が冒され致命的な事態になる。他方,脳幹部に発生する腫瘍に対しては,最小耐容線量を超えない放射線線量であっても,効果があり,ある程度の確率でその腫瘍を制御することが可能である(鑑定結果)。そうすると,脳幹部に放射線を照射する場合には,少なくとも初回の放射線治療においては,原則として最小耐容線量を超えることは許容できない。ただし,放射線による晩発性障害が照射後6か月以上経過してから発生することから,既に一度,放射線治療を施行した患者に腫瘍が再発し,腫瘍を放置すると生命予後が6か月以内である可能性が高い場合に限って,他に有効な治療方法が考えられなければ,最小耐容線量を超える照射が治療方法として許容されることがあるというべきである。また,最大耐容線量を超える照射は,極めて危険な処置であって,一般的には許容することはできない。特に,初回の治療で最大耐容線量を超える照射をすることは,患者の生命を失う可能性が高い極めて危険な措置であって到底考えられない。したがって,E病院のFらは,以上のような点に留意して,照射範囲,照射回数,照射量等を決定して,Dに放射線治療を施すべき注意義務があった。(イ) この点に関連して,当時国立病 て到底考えられない。したがって,E病院のFらは,以上のような点に留意して,照射範囲,照射回数,照射量等を決定して,Dに放射線治療を施すべき注意義務があった。(イ) この点に関連して,当時国立病院医療センターの放射線科に所属していた御厨修一及び山田常久は,「日本臨牀」1989年増刊号(乙1)で,脊髄に50グレイ相当以上の線量を照射した症例340のうち2例について脊髄障害が発生した旨報告していた(以下「御厨報告」という。特に乙1の949頁)。被告は,御厨報告を引用して,脳幹部に最大耐容線量を超える照射をした場合の晩発性障害の発生率が0.6パーセント程度で,その危険性はそれほど高くないから,本件のような進行した腫瘍に対する治療として許される旨主張し,E病院の院長Hの陳述書(乙40)には同趣旨の記載がある。しかしながら,まず,御厨報告は脊髄に関するものであり,脳幹部への照射についての報告ではないことを考慮する必要がある。また,前記のとおり,晩発性障害は,照射後6か月以上経過してから発症する障害であるところ,照射後10年以上の長期間経過してから発症することも多く,その発生頻度は照射後の生存期間によっても変化すると考えられる(乙4の284頁等参照)。 病院の院長Hの陳述書(乙40)には同趣旨の記載がある。しかしながら,まず,御厨報告は脊髄に関するものであり,脳幹部への照射についての報告ではないことを考慮する必要がある。また,前記のとおり,晩発性障害は,照射後6か月以上経過してから発症する障害であるところ,照射後10年以上の長期間経過してから発症することも多く,その発生頻度は照射後の生存期間によっても変化すると考えられる(乙4の284頁等参照)。ところが,御厨報告での症例中,1年10か月以上生存した症例は40例にすぎず,6か月以内に死亡した例も多い。また,晩発性障害の発生頻度の把握には,長期にわたる注意深い経過観察を要するところ,御厨報告は,経過観察のための期間は長くない。以上からすると,御厨報告は一定数の事例を紹介した報告としての価値はあるが,脊髄の晩発性障害の発生頻度を示すものとしての利用価値は少ないといわざるを得ない。なお,御厨報告には,脊髄の最大耐容線量(ルビン・キャサレット報告によると,脊髄の最小耐容線量は45グレイ,最大 ,脊髄の晩発性障害の発生頻度を示すものとしての利用価値は少ないといわざるを得ない。なお,御厨報告には,脊髄の最大耐容線量(ルビン・キャサレット報告によると,脊髄の最小耐容線量は45グレイ,最大耐容線量は55グレイである。)を超えない照射例も多く含まれ,また,生存患者の多くが最大耐容線量以下の事例である。のみならず,御厨報告では「脊髄に50グレイ以上照射しないよう多門照射法その他照射法を工夫すべきである。」と記載されており,そもそも,同報告は,脊髄に対する最大耐容線量を超える照射を正当化しようとするものではなく,最小耐容線量を超える照射についても,積極的に許容してはいない。以上の事実に照らせば,被告の上記主張及び乙40号証の記載は採用することができない。なお,同号証の作成者Hは,一般外科及び消化器外科が専門であってDに対する治療に直接かかわった事実も認められないので,その点からも同号証の記載は採用することができない。(2) 担当医師らの過失の有無ア E病院における治療経過E病院においてDが放射線治療を受けた経緯については,前提となる事実記載のほか,証拠(乙14の1・2,19,20,23,24,40,鑑定結果)及び弁論の全趣旨から,次のとおり認められる。(ア) E病院受診時のDの病状は,鼻腔を原発とする傍髄膜型の横紋筋肉腫であり,既にリンパ節転移が陽性であったから,国際横紋筋肉腫研究会(IRS=IntergroupRhabdomyosarcomaStudy)によるとステージⅢ(傍髄膜型で大きさが5㎝以上ありリンパ節転移が陰性のもの,又は傍髄膜型で大きさにかかわりなくリンパ節転移が陽性のもの)に分類され,TNM分類(国際対ガン連合が採用している悪性腫瘍の病気分類である。 Dの病状は,鼻腔を原発とする傍髄膜型の横紋筋肉腫であり,既にリンパ節転移が陽性であったから,国際横紋筋肉腫研究会(IRS=IntergroupRhabdomyosarcomaStudy)によるとステージⅢ(傍髄膜型で大きさが5㎝以上ありリンパ節転移が陰性のもの,又は傍髄膜型で大きさにかかわりなくリンパ節転移が陽性のもの)に分類され,TNM分類(国際対ガン連合が採用している悪性腫瘍の病気分類である。)ではⅢ期と診断され,予後の悪い進行した横紋筋肉腫に該当 ,又は傍髄膜型で大きさにかかわりなくリンパ節転移が陽性のもの)に分類され,TNM分類(国際対ガン連合が採用している悪性腫瘍の病気分類である。)ではⅢ期と診断され,予後の悪い進行した横紋筋肉腫に該当した。なお,E病院は,Dに対して,前提となる事実記載の生検等を行ったに止まり,Dの脳幹部について腫瘍の転移があるか否かについては検査せず,脳幹部に悪性腫瘍が存在するか否かを確認しなかった(争いがない。)。また,本件以前には,Dが癌等の疾病に罹患した経験はなく,放射線の照射を受けた経験もない。(イ) 本件の横紋筋肉腫については,外科的手術が困難であることから,E病院では放射線治療と化学療法を併用した治療を行うことを決定し,平成5年3月9日ころ,E病院放射線外来において,Fを責任者として,放射線照射計画を作成した。当初,Fは,鼻腔の横紋筋肉腫に対しては1回あたりの照射線量(分割線量)を1.8グレイとして鼻腔前方一門照射で総線量20グレイまで照射すること(照射①),左頸部の横紋筋肉腫に対しては分割線量を1.8グレイずつとして頸部左右対向二門照射で左右一門ずつ交互に総線量20グレイまで照射すること(照射②)を予定し,同月10日から週5回,照射を実施した。同月16日に,Dに悪心,嘔吐,食欲不振等の急性障害が現われたことから,Fは,いったん照射を中断し,同月22日に再開させた。その後,同月30日に鼻腔の細胞の生検を行ったところ,横紋筋肉腫と見られる腫瘍の残存が認められたため,総線量を変更して同年4月6日まで照射を継続することとし,照射①及び②ともに,それぞれ合計28.8グレイ(1.8グレイ×16回)の線量を照射した。なお,同日までの照射(前期照射)では,照射野に含まれる両眼については,白内障防止のためにブロックを用いて防御した。しかしながら,照射 月22日に再開させた。その後,同月30日に鼻腔の細胞の生検を行ったところ,横紋筋肉腫と見られる腫瘍の残存が認められたため,総線量を変更して同年4月6日まで照射を継続することとし,照射①及び②ともに,それぞれ合計28.8グレイ(1.8グレイ×16回)の線量を照射した。なお,同日までの照射(前期照射)では,照射野に含まれる両眼については,白内障防止のためにブロックを用いて防御した。しかしながら,照射 れ合計28.8グレイ(1.8グレイ×16回)の線量を照射した。なお,同日までの照射(前期照射)では,照射野に含まれる両眼については,白内障防止のためにブロックを用いて防御した。しかしながら,照射①と照射②とでは,別紙「照射図4」のとおり,脳幹部に照射野の重なり合いが生じているところ,上記重なり合う部位(重複照射部位)については,特にブロックを用いなかった。Fは,同年4月7日に,さらに照射計画を変更して,鼻腔前方一門照射(照射③)及び頸部前方一門照射(照射④)により,それぞれ分割線量1.8グレイとして,同日から同月26日まで14回照射した(後期照射)。ただ,後期照射においては,前期照射の時と同様,両眼部分についてブロックを用いて照射を避けたことに加えて,重複照射部位について,照射④を避けるためにブロックを用いた。イ脳幹部への照射量前期照射で重複照射部位に照射された線量は,1回あたり3.6グレイとなり,16回で合計57.6グレイに達する。さらに,後期照射でも,照射①と同様の照射がされたことから,治療期間全体を通じると重複照射部位に合計82.8グレイの照射がされたことになる(争いがない)。(3.6グレイ×16回(前期)+1.8グレイ×14回(後期)=82.8グレイ)そして,線源からの距離,線源に近い組織による吸収を考慮すると,脳幹部が受けた分割線量は,前期照射においては最大3.06グレイ,最小2.80グレイであり,後期照射では,最大1.26グレイ,最小1.15グレイとなり,脳幹部への総線量は,最大65.8グレイ,最小60.4グレイとなる。そして,BED法によって,2グレイ換算照射量を評価すると最大73.0グレイ,最小64.5グレイの照射線量となる。(鑑定結果)上記照射線量は,脳幹部の最小耐容線量である50グレイを大きく上回り 。そして,BED法によって,2グレイ換算照射量を評価すると最大73.0グレイ,最小64.5グレイの照射線量となる。 ,最小1.15グレイとなり,脳幹部への総線量は,最大65.8グレイ,最小60.4グレイとなる。そして,BED法によって,2グレイ換算照射量を評価すると最大73.0グレイ,最小64.5グレイの照射線量となる。(鑑定結果)上記照射線量は,脳幹部の最小耐容線量である50グレイを大きく上回り 。そして,BED法によって,2グレイ換算照射量を評価すると最大73.0グレイ,最小64.5グレイの照射線量となる。(鑑定結果)上記照射線量は,脳幹部の最小耐容線量である50グレイを大きく上回り,最大耐容線量である65グレイと同程度以上の照射量であり,極めて危険な線量の照射であったと評価することができる。ウ担当医師らの過失の有無(ア) 前記アのとおり,Fも後期照射では,重複照射部位(脳幹部)についてブロックを用いて過剰照射を回避しており,照射を避けるためにブロックを用いること自体は,極めて常識的かつ容易な処置であって高度な知識・技術を伴うことではない(甲1,鑑定結果,弁論の全趣旨)。そして,前期照射でブロックを用いたとしても,本件腫瘍部位に対する必要な放射線量を照射することは可能であったのであり,そのような処置をすれば,照射②による重複照射部位(脳幹部)への照射を遮蔽することができ,総線量を最小耐容線量以下の最大37.8グレイから最小34.5グレイに抑えることが可能であった(鑑定結果)。また,前記アのとおり,Dの脳幹部には悪性腫瘍が確認されていないのであるから,ことさら脳幹部に対して放射線を照射する必要性を認めることはできない。したがって,このような状況下で,鼻腔及び頸部リンパ節に放射線を照射する計画を作成して照射を実施する医師は,(1)ウ(ア)のとおり,脳幹部に対して放射線を照射した場合には,生命に対する重篤な危険を生じる蓋然性が高いので,これを可及的に避ける措置をとるべき注意義務があったというべきである。したがって,Fが,前期照射において,上記ブロック等の措置をとらずに放射線照射計画を作成し,Dの脳幹部に対して最小耐容線量を大きく超えた放射線を照射した点については,放射線治療における基本的な処置を怠った極めて重大な過 期照射において,上記ブロック等の措置をとらずに放射線照射計画を作成し,Dの脳幹部に対して最小耐容線量を大きく超えた放射線を照射した点については,放射線治療における基本的な処置を怠った極めて重大な過失があったといわざるを得ない。 ック等の措置をとらずに放射線照射計画を作成し,Dの脳幹部に対して最小耐容線量を大きく超えた放射線を照射した点については,放射線治療における基本的な処置を怠った極めて重大な過 期照射において,上記ブロック等の措置をとらずに放射線照射計画を作成し,Dの脳幹部に対して最小耐容線量を大きく超えた放射線を照射した点については,放射線治療における基本的な処置を怠った極めて重大な過失があったといわざるを得ない。(イ) この点について,被告は,ブロックを用いた場合には治療が不十分になる,局所制御に必要な線量を必要な範囲に照射するためにブロックを用いなかった旨主張するが,(ア)のとおり,照射②についてブロックを用いたとしても,本件腫瘍部位に対する照射を妨げることはなかったのであり,前期照射に限ってブロックを用いなかったことについて,合理的な理由を認めるに足りる証拠はない。したがって,被告の上記主張は採用できない。また,被告は,Fは,ブロックを用いるか否かについて非常に難しい決断をしており,漫然と照射したのではない旨主張する。この点,E病院耳鼻咽喉科のカルテ(乙24)の平成5年3月10日の欄には「前から一門,左右二門となってしまい,咽頭部重なりが出来てしまう。咽頭炎が強くなると考えられるので,1回照射線量を1.8グレイとし,20グレイで照射法を変更し,重なりを除く。今から除くと頸部の最も腫瘍の大きい部分が入らなくなる。いずれにせよ,照射野が非常に大きくなってしまう。」旨の記載があり,照射野の重なり合いについて認識した上で,照射計画を作成していたことが認められる。しかしながら,上記証拠からは,Fが脳幹部に照射野の重なり合いが生じてしまうことについて認識していたと推認することはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。また,Fは,実際には,前期照射途中,20グレイの照射を終えた時点でブロックを用いるなど照射法を変更して重なり合う部分を除外するといった措置をとっておらず,そうしない理由も不明である。したがって,いずれにせ は,実際には,前期照射途中,20グレイの照射を終えた時点でブロックを用いるなど照射法を変更して重なり合う部分を除外するといった措置をとっておらず,そうしない理由も不明である。したがって,いずれにせよ,Fの過失は,明白であって,被告の主張は採用できない。エ被告の主張に対する判断(ア) 予防的照射の適否被告は,Dの脳及び脊髄に腫瘍が存在(転移)していることについて高度の蓋然性があったから,脳幹部に放射線照射を行ったのであって,そのような予防的な照射として本件照射が許容される旨主張する。 変更して重なり合う部分を除外するといった措置をとっておらず,そうしない理由も不明である。したがって,いずれにせよ,Fの過失は,明白であって,被告の主張は採用できない。エ被告の主張に対する判断(ア) 予防的照射の適否被告は,Dの脳及び脊髄に腫瘍が存在(転移)していることについて高度の蓋然性があったから,脳幹部に放射線照射を行ったのであって,そのような予防的な照射として本件照射が許容される旨主張する。そこで検討するに,通常の検査によって腫瘍が検知できなかった場合でも,顕微鏡的な癌病巣が存在し,それが将来的に腫瘍の再発・転移として現出してくる可能性が大きいという場合には,当該部位に対して予防的に放射線を照射することが許容される。しかしながら,予防的な照射の場合は,癌病巣が極めて微細であることから,肉眼的に確認できた病巣部位に対する照射よりも低い照射線量で十分な効果を上げることが可能であり,40グレイ程度の照射で十分であるとされている。(鑑定結果)そして本件のような傍髄膜型の横紋筋肉腫では,腫瘍細胞が頭蓋底の孔を介して髄膜浸潤を来たし,脊髄から脳実質全体へと転移していくことが知られている。したがって,転移経路となる頭蓋底若しくは脊髄又は脳全体に対して,40グレイ程度の予防的な照射を行うのであれば実効性がある(鑑定結果)。しかしながら,本件照射では,最も効果的である頭蓋底に対して照射されずに,脳幹部に限定して照射されており,しかも,癌病巣が確実に存在する本件腫瘍部位に対する照射量より多い線量の放射線が照射され,その線量は40グレイをはるかに超えていた。したがって,E病院での脳幹部に対する照射が,予防的照射を意図した照射であると考えるのは不可能で 本件腫瘍部位に対する照射量より多い線量の放射線が照射され,その線量は40グレイをはるかに超えていた。したがって,E病院での脳幹部に対する照射が,予防的照射を意図した照射であると考えるのは不可能であり,仮にそのように意図していたとすると,予防的照射としての適切性を著しく欠いていたというべきであり,この点に関する被告の主張は採用できない。(イ) 本件照射当時の医療水準と過失の有無また,被告は,本件照射を行った平成5年3月当時の医療水準を前提とすると,脳幹部の最小耐容線量50グレイ,最大耐容線量65グレイという知識は未だ一般的には知られておらず,少なくとも国内では報告されていなかったから,ルビン・キャサレット報告の脳の耐容線量を基準として,照射計画を作成したFらには過失がない旨主張し,乙40号証には同趣旨の記載がある。 採用できない。(イ) 本件照射当時の医療水準と過失の有無また,被告は,本件照射を行った平成5年3月当時の医療水準を前提とすると,脳幹部の最小耐容線量50グレイ,最大耐容線量65グレイという知識は未だ一般的には知られておらず,少なくとも国内では報告されていなかったから,ルビン・キャサレット報告の脳の耐容線量を基準として,照射計画を作成したFらには過失がない旨主張し,乙40号証には同趣旨の記載がある。しかしながら,前記1(1)のとおり,放射線照射による治療は正常な身体の組織に対して重篤な障害を起こす危険性を内包したものであるから,その施行に当たっては,その危険の制御に十分注意する必要があり,施行による利益(腫瘍制御)を得る確率が施行により生起する不利益(晩発性障害等)の起こる確率と比較して,十分に大きいと予想される場合に施行すべきである(鑑定結果)。したがって,Fには,身体の組織別の最小耐容線量の数的大きさを正確に知らなくても,脳幹部に不用意に照射がされないように注意する基本的義務があったことは明らかである。すなわち,治療対象以外の正常組織に対してはできる限り放射線を照射しないようにする注意義務があるというべきであり,過剰な照射をしたとしても耐容線量を超えなければ過失がないということにはならない。また,放射線治療については,そもそも国内の文献が少なく,特に海外の研究報告に頼らざるを得ない面が強いところ,放射線治 な照射をしたとしても耐容線量を超えなければ過失がないということにはならない。また,放射線治療については,そもそも国内の文献が少なく,特に海外の研究報告に頼らざるを得ない面が強いところ,放射線治療が持つ副作用の重篤性・危険性に照らせば,放射線治療を施術する医師は,海外の文献についてもそれが基本的なものについては,何らかの方法,例えば研究会等を通じる等して,知識としては会得している必要があるというべきである。前記1(1)イのとおり,脳幹部の耐容線量については,アメリカで平成3年(1991年)に,エマミ報告が発表されており,同報告は,現在の放射線治療における最も権威のある基本的な報告とされている。Fが放射線治療の専門医であって,E病院の放射線科の責任者であることに照らせば,平成5年3月当時,同報告を知らなかったことに過失がないということはできない。さらに,既に,昭和60年ころから脳幹部の耐容線量は,大脳と脊髄の間くらいであることが一般に指摘されており,国内における放射線治療の教科書的な扱いを受けていた「新版癌・放射線療法」(昭和62年出版)にも「部位的に脳幹部の耐容線量は低いとされ,脊髄ではさらに低い。 の専門医であって,E病院の放射線科の責任者であることに照らせば,平成5年3月当時,同報告を知らなかったことに過失がないということはできない。さらに,既に,昭和60年ころから脳幹部の耐容線量は,大脳と脊髄の間くらいであることが一般に指摘されており,国内における放射線治療の教科書的な扱いを受けていた「新版癌・放射線療法」(昭和62年出版)にも「部位的に脳幹部の耐容線量は低いとされ,脊髄ではさらに低い。」と記載されていた(甲29,鑑定結果)。したがって,仮にFがエマミ報告を知らなかったとしても,脳幹部の耐容線量を,ルビン・キャサレット報告における脳(大脳)の耐容線量と混同したことについては,過失を肯定せざるを得ない。したがって,いずれにせよ,被告の上記主張及び乙40号証の記載は採用できない。なお,乙40号証の記載が採用できないことについては,1(1)ウ(イ)末尾の理由も加味できる。オまとめ以上から,E病院の担当医師であるFには,Dに対して放射線治療を計画・実施するにあたって,重大な過失があったというべきである。2 ついては,1(1)ウ(イ)末尾の理由も加味できる。オまとめ以上から,E病院の担当医師であるFには,Dに対して放射線治療を計画・実施するにあたって,重大な過失があったというべきである。2 争点2(因果関係)について(1) 本件照射後の経過本件照射後の治療経過については,前提となる事実並びに証拠(甲1,9,10の1・2,11の1ないし5,甲14,15,16,31の2・3,32,乙22,23,鑑定結果)及び弁論の趣旨から,次の事実が認められる。ア Dは,E病院において平成5年5月17日まで化学療法を受け,同年6月2日に同病院を退院し,その後,同年9月27日まで同病院に通院した。E病院は,放射線治療中の同年3月30日,及び放射線治療終了後の同年5月19日にMRI検査を実施したところ,鼻腔の原発腫瘍は縮小しつつも残存したこと,リンパ節への転移巣が消失したことが確認された。さらに,同年6月21日のファイバースコープ検査で,左中鼻道に腫瘍の存在が認められ,同年8月16日の左鼻腔の生検により横紋筋肉腫の存在が証明された。その後,Dは,同年9月28日からは慶応病院の耳鼻咽喉科に入通院した。慶応病院では,同年10月の鼻腔の生検で,横紋筋肉腫の存在が証明されたが,同月より,エンドキサン,エトポシド,THPアドリアマイシン,シスプラチンを用いた多剤併用療法を行った結果,同年11月9日,12月2日,12月11日,平成6年2月17日及び同年4月27日に行った鼻腔の生検では腫瘍細胞が証明されなくなった。 肉腫の存在が証明された。その後,Dは,同年9月28日からは慶応病院の耳鼻咽喉科に入通院した。慶応病院では,同年10月の鼻腔の生検で,横紋筋肉腫の存在が証明されたが,同月より,エンドキサン,エトポシド,THPアドリアマイシン,シスプラチンを用いた多剤併用療法を行った結果,同年11月9日,12月2日,12月11日,平成6年2月17日及び同年4月27日に行った鼻腔の生検では腫瘍細胞が証明されなくなった。イ平成6年2月28日,Dは,慶応病院を退院し,その後は経過観察のため同病院に通院していたが,同年4月20日ころから構音障害,同年5月ころから左手指の感覚異常が発生したため,同年5月28日に慶応病院神経内科で診察を受けた。そして,上記症状の原因を 後は経過観察のため同病院に通院していたが,同年4月20日ころから構音障害,同年5月ころから左手指の感覚異常が発生したため,同年5月28日に慶応病院神経内科で診察を受けた。そして,上記症状の原因を鑑別するため,同年6月1日にMRI検査を受けたところ,脳橋を中心とする脳幹部に広範囲な病変(本件病変)が存在し,これが構音障害等の症状の原因であることが確認された。Dは,平成6年6月4日,本件病変の原因を鑑別し,治療・リハビリテーションを受けるために,慶応病院に再入院した。慶応病院は,同月17日ころ,E病院から本件照射の記録等を取り寄せたところ,放射線照射範囲が本件病変の部位と一致していることが判明した。ただし,E病院耳鼻科のI医師は平成5年3月10日から同年4月7日までの具体的な照射量等の記録については見当たらないとして慶応病院に送付しなかった。慶応病院は,平成6年6月10日に上腹部(肝臓・腎臓等)の超音波断層検査,同月28日に体部CTスキャンを行ったが,他の臓器について,腫瘍細胞の転移は認められなかった。また,同月21日,脊髄液検査を行ったところ,脊髄液中に腫瘍細胞を発見することはできなかった。また,同月23日以降,Dにステロイドを投与したことによって,一時的に本件病変は縮減した。慶応病院では,上記の事実関係から,本件病変部位について放射線の後遺症である可能性が高いとして,原告ら及びDにもそのように告げていた。なお,同月20日の鼻腔生検によって,異形細胞の存在が証明されたが,同年7月以降,オンコビン,コスメゲン,エンドキサン,THPアドリアマイシン,インフォマイドを用いた多剤併用療法の結果,同年9月の生検では再び腫瘍細胞は証明されなくなった。 て,一時的に本件病変は縮減した。慶応病院では,上記の事実関係から,本件病変部位について放射線の後遺症である可能性が高いとして,原告ら及びDにもそのように告げていた。なお,同月20日の鼻腔生検によって,異形細胞の存在が証明されたが,同年7月以降,オンコビン,コスメゲン,エンドキサン,THPアドリアマイシン,インフォマイドを用いた多剤併用療法の結果,同年9月の生検では再び腫瘍細胞は証明されなくなった。そして,しびれ等の進行に伴い,同月ころから鼻腔の横紋筋肉腫に対する治療(抗癌剤の投与等)は マイシン,インフォマイドを用いた多剤併用療法の結果,同年9月の生検では再び腫瘍細胞は証明されなくなった。そして,しびれ等の進行に伴い,同月ころから鼻腔の横紋筋肉腫に対する治療(抗癌剤の投与等)は中断された。ウその後,Dの上記症状は,知覚障害,麻痺・しびれの増大,歩行障害などへと進行していったため,平成6年11月10日,Dは,リハビリテーションの継続目的で慶応病院からE病院理学診療(リハビリテーション)科外来に紹介され,同月19日に慶応病院を退院した。Dのリハビリテーションを担当したE病院理学診療科外来カルテには,慶応大学からの紹介状(甲10の1・2)がつづられており,Dの傷病名は横紋筋肉腫のほかに放射線脳障害と記載され,鼻腔の横紋筋肉腫については「腫瘍は肉眼的に消失している」と記載されていた。その後,Dは,E病院の同科で,放射線脳障害であることを前提に,発音訓練,書字訓練及び歩行訓練等のリハビリテーションを行った。その後,Dの症状は急速に悪化し,脳幹部の呼吸中枢の障害が直接の原因となって,平成7年2月8日,呼吸停止により死亡した。なお,同年1月11日の生検でも横紋筋肉腫の存在が証明され,E病院が作成した死亡診断書(甲1)の「直接死因」欄には「鼻・副鼻腔腫瘍(横紋筋肉腫)」と記載された。(2) 放射線脳障害による死亡ア Dの死亡の直接の原因は,脳幹部の障害により,呼吸中枢が破壊され,呼吸が抑制されたことである(乙25,鑑定結果,弁論の全趣旨)。イ前記1(2)のとおり,Dの脳幹部には最大耐容線量に相当する放射線が照射されており,放射線障害の起こる可能性は極めて高いというべきである。また,放射線の晩発性障害は,前記1(1)のとおり,放射線治療後6か月以降に発生するところ,本件では,放射線治療から1年が経過した平成6年4月ころ 直接の原因は,脳幹部の障害により,呼吸中枢が破壊され,呼吸が抑制されたことである(乙25,鑑定結果,弁論の全趣旨)。イ前記1(2)のとおり,Dの脳幹部には最大耐容線量に相当する放射線が照射されており,放射線障害の起こる可能性は極めて高いというべきである。また,放射線の晩発性障害は,前記1(1)のとおり,放射線治療後6か月以降に発生するところ,本件では,放射線治療から1年が経過した平成6年4月ころ 射線障害の起こる可能性は極めて高いというべきである。また,放射線の晩発性障害は,前記1(1)のとおり,放射線治療後6か月以降に発生するところ,本件では,放射線治療から1年が経過した平成6年4月ころに病変が発生しており,晩発性障害と仮定すると時期的に一致する。さらに,晩発性障害に対しては,ステロイド投与による治療が一時的に効果的であるとされているが,前記(1)のとおり,慶応病院によるステロイド投与により本件病変が一時的に縮減した。以上から,本件病変が放射線による晩発性障害によるものである蓋然性が高い。ウ本件病変部位は,平成6年6月1日に慶応病院で行われたMRI検査で確認され,その時点で既に広範囲に及んでいたところ,それ以前で最も近い時期に行われた同年2月8日のMRI検査では,脳幹部に異常を認めることができない(甲25の1ないし5,鑑定結果)。そうすると,本件病変は,その4か月程度の短期間に発生したと考えられるが,通常の原発性の脳腫瘍であれば,そのような突然の発生を示すことはなく,上記の日のMRI検査においても発生途上の腫瘍として把握できる可能性が高い。そのようなことがない以上,本件病変が原発性の脳腫瘍である可能性は低い。エ次に,鼻腔の横紋筋肉腫が転移した可能性について検討するに,前記1(2)エのとおり,鼻腔・頸部リンパ節の横紋筋肉腫は頭蓋底の孔を通って髄膜湿潤を来たし,脳実質全体に転移することがあるが,脳実質への転移は髄膜湿潤が前提となり,髄膜湿潤を来した場合には外眼筋麻痺による複視,顔面神経麻痺などの脳神経麻痺,ないし項部硬直・頭痛などの髄膜刺激症状が発生するところ,Dについてそのような症状が発生したことを認めるに足りる証拠はない。さらに,慶応病院において,平成6年6月21日に行われた脊髄検査でも,脊髄液中に腫瘍細胞を認める どの髄膜刺激症状が発生するところ,Dについてそのような症状が発生したことを認めるに足りる証拠はない。 なり,髄膜湿潤を来した場合には外眼筋麻痺による複視,顔面神経麻痺などの脳神経麻痺,ないし項部硬直・頭痛などの髄膜刺激症状が発生するところ,Dについてそのような症状が発生したことを認めるに足りる証拠はない。さらに,慶応病院において,平成6年6月21日に行われた脊髄検査でも,脊髄液中に腫瘍細胞を認める どの髄膜刺激症状が発生するところ,Dについてそのような症状が発生したことを認めるに足りる証拠はない。さらに,慶応病院において,平成6年6月21日に行われた脊髄検査でも,脊髄液中に腫瘍細胞を認めることはできず,他に髄膜湿潤の存在を認めるに足りる証拠はない。なお,癌細胞の転移については,一般には,血液を介した血行性転移が考えられるが,通常,鼻腔癌は肺や肝に血行性転移を起こしやすいとされているところ,本件については,そのような転移を認めることはできず(甲15),また脳の他の部位にも転移したことを認めるに足りる証拠はない。鼻腔癌が他の部位には全く転移せず,脳幹部にのみ転移したという可能性は極めて低いというべきであって,血行性転移の可能性は考えにくい(鑑定結果,特に鑑定人尋問調書4頁以下)。そうすると,本件病変が横紋筋肉腫の転移であると考えることもできない。Dについては,前記(1)のとおり,死亡直前の平成7年1月11日の生検でも横紋筋肉腫が再発したことが認められるが,死亡時点である同年2月8日の時点において,Dの生死を左右するほど進行していたことを認めるに足りる証拠はない。オ以上を総合考慮すれば,本件病変は本件照射の晩発性障害として発生したものであると認めることができる。そして,本件照射に基づく放射線の晩発性障害が発生しなければ,平成7年2月8日の時点においては,Dはなお生存していたと認めることができるから,本件放射線治療と同人の死亡との間には因果関係を認めることができる(最高裁平成11年2月25日第一小法廷判決・民集53巻2号235頁参照)。すなわち,放射線障害によってDの脳幹部が壊死し,それがDの死因となったと認めるのが相当である。(3) 被告の主張に対する判断死因に関し,被告は,放射線脳障害による病変と脳腫瘍による病変につい 。すなわち,放射線障害によってDの脳幹部が壊死し,それがDの死因となったと認めるのが相当である。(3) 被告の主張に対する判断死因に関し,被告は,放射線脳障害による病変と脳腫瘍による病変については,MRI検査等で鑑別することが困難であり,Dについては,放射線治療後も,横紋筋肉腫の残存が確認されていることから,横紋筋肉腫が脳幹部に転移したことも否定できない旨主張し,乙40号証には同旨の記載がある。 。すなわち,放射線障害によってDの脳幹部が壊死し,それがDの死因となったと認めるのが相当である。(3) 被告の主張に対する判断死因に関し,被告は,放射線脳障害による病変と脳腫瘍による病変については,MRI検査等で鑑別することが困難であり,Dについては,放射線治療後も,横紋筋肉腫の残存が確認されていることから,横紋筋肉腫が脳幹部に転移したことも否定できない旨主張し,乙40号証には同旨の記載がある。しかしながら,訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし,かつ,それで足りるものであって(最高裁昭和50年10月24日第二小法廷判決・民集29巻9号1417頁参照),必ずしも病理学的な確定的な裏付けまで必要とすることはない。上記(2)の事実に照らせば,本件病変が本件照射による晩発性障害であることについての高度な蓋然性を認めることができ,これを覆すに足りる証拠はない。したがって,被告の上記主張及び乙40号証の記載は理由がなく,これを採用することはできない。なお,乙40号証の記載が採用できないことについては,1(1)ウ(イ)末尾の理由も加味できる。3 争点3(損害)について(1) 逸失利益及び葬儀費用の損害該当性前記2(1)のとおり,E病院が行った放射線治療後にDに横紋筋肉腫が残存したこと,E病院及び慶応病院が複数回にわたって行った化学療法によっていったん腫瘍を制御した後も,そのたびに同人に横紋筋肉腫が再発したことが認められる。一般に,横紋筋肉腫の予後については,再発後の5年生存率が20パーセント以 院が複数回にわたって行った化学療法によっていったん腫瘍を制御した後も,そのたびに同人に横紋筋肉腫が再発したことが認められる。一般に,横紋筋肉腫の予後については,再発後の5年生存率が20パーセント以下とされている(鑑定結果)が,本件のように重ねて行われた化学療法にもかかわらず,繰り返し再発したような場合については,生存率はさらに低いというべきであって,仮にDに放射線による晩発性障害が発生しなかったとしても,最終的に横紋筋肉腫が治癒する可能性は低く,同人は,横紋筋肉腫によって死亡する可能性が非常に高かったといわざるを得ない。 般に,横紋筋肉腫の予後については,再発後の5年生存率が20パーセント以下とされている(鑑定結果)が,本件のように重ねて行われた化学療法にもかかわらず,繰り返し再発したような場合については,生存率はさらに低いというべきであって,仮にDに放射線による晩発性障害が発生しなかったとしても,最終的に横紋筋肉腫が治癒する可能性は低く,同人は,横紋筋肉腫によって死亡する可能性が非常に高かったといわざるを得ない。したがって,Dの死亡による逸失利益及び葬儀費用については,本件の過失行為による死亡の損害として個別に評価することは相当ではなく,別途後記(2)の慰謝料の算定の中で一体的に考慮すべきである。なお,後記のように,Dについては少なくとも約6か月程度の延命が可能であったと認められるが,前記のような横紋筋肉腫の再発状況に照らせば,その延命期間中に勤めに出て給与の支給を受けた蓋然性までを認めることは相当でない。(2) 慰謝料額ア前記(1)のとおり,Dは,放射線による晩発性障害が発生しなかったとしても,同人は横紋筋肉腫により死亡する可能性が極めて高かったというべきであるが,平成6年9月ころ以降,横紋筋肉腫に対する抗癌治療が施行されていなかったにもかかわらず,死亡時点において臨床的に把握されていた横紋筋肉腫は左鼻腔にとどまっていたこと,死亡当時の同人の劣悪な全身状態はすべて脳幹部障害に起因したものであり,横紋筋肉腫の症状は鼻出血程度であったこと,及び同人には化学療法の適応が認められることなどに照らせば,治癒には至らないものの数か月単位で横紋筋肉腫の発育を遅らせることは可能であったといえ,少なくとも6か月程度の延命は十分に可 であったこと,及び同人には化学療法の適応が認められることなどに照らせば,治癒には至らないものの数か月単位で横紋筋肉腫の発育を遅らせることは可能であったといえ,少なくとも6か月程度の延命は十分に可能であったということができ,それ以上の延命の可能性がないとはいえない(鑑定結果,特に鑑定人尋問調書の15,24頁)。さらに,少なくとも一般には,再発後の横紋筋肉腫の予後について,5年生存率が20パーセント以下とされており,平成7年1月11日に確認された横紋筋肉腫の再発については,放射線による晩発性障害の発症によって横紋筋肉腫に対する治療(抗癌剤の投与等)が中断されたことによる影響がないとはいえないから,適切な治療が行われていれば,横紋筋肉腫が完全に治癒していた可能性も皆無ではなかったというべきである。 24頁)。さらに,少なくとも一般には,再発後の横紋筋肉腫の予後について,5年生存率が20パーセント以下とされており,平成7年1月11日に確認された横紋筋肉腫の再発については,放射線による晩発性障害の発症によって横紋筋肉腫に対する治療(抗癌剤の投与等)が中断されたことによる影響がないとはいえないから,適切な治療が行われていれば,横紋筋肉腫が完全に治癒していた可能性も皆無ではなかったというべきである。イ他方,脳幹部の晩発性障害は,前記1(2)のとおり,有効な治療方法がなく,致命的な事態になるとされている。Dは,平成6年5月に脳幹部に病変が発生し,慶応病院から放射線の後遺症がある旨の説明を受けた後も,その予後が絶望的であることについて知らされることはなく,予後についての不安を抱きつつも,症状が改善するものと信じて懸命にリハビリテーションに励んだが,構音(構語)障害,感覚異常,知覚異常,運動失調・歩行障害,聴覚脳幹反応遅延などの障害が徐々に拡大・進行していき,やがて,歩行も起立もできず,排尿も自力でできない状況になり,言葉を発することもできなくなり,呼吸不全により,死亡に至ったものである(甲16,31の2・3,32,原告A)。その間に受けたDの精神的・肉体的苦痛は,極めて大きかったといわざるを得ない。原告らは,平成6年6月ころ,慶応病院の担当医から,Dの病変について放射線による晩発性障害の可能性が高いと告げられ,その予後が絶望的であること ・肉体的苦痛は,極めて大きかったといわざるを得ない。原告らは,平成6年6月ころ,慶応病院の担当医から,Dの病変について放射線による晩発性障害の可能性が高いと告げられ,その予後が絶望的であることの説明を受けた。原告らは,E病院においてFらから本件照射の具体的な内容の説明を受けていなかったため,脳幹部に放射線が照射されたことをこのとき初めて知った。原告らは,Dに予後が絶望的であることを告知することはできず,同人が後遺症の解消を目標として懸命にリハビリテーションに取り組むのを励まし続けた。その後,現実にDの病状が徐々に悪化していき,歩行も,起立も,排尿も,そして原告らとの会話までも困難になっていく状況になすすべもなく,見守らざるを得なかった。(甲15,16,32,原告A)27歳の娘を上記のような絶望的な状況において失わざるを得なかった両親の精神的苦痛は大きい。 が絶望的であることを告知することはできず,同人が後遺症の解消を目標として懸命にリハビリテーションに取り組むのを励まし続けた。その後,現実にDの病状が徐々に悪化していき,歩行も,起立も,排尿も,そして原告らとの会話までも困難になっていく状況になすすべもなく,見守らざるを得なかった。(甲15,16,32,原告A)27歳の娘を上記のような絶望的な状況において失わざるを得なかった両親の精神的苦痛は大きい。ウ次に,Fらの過失の程度をみるに,前記1(2)ウのとおり,Fらは脳幹部への放射線照射を安全な線量に容易に抑えることができたにもかかわらずこれを怠ったものであり,その過失の程度は極めて重大である。このことは,原告らの苦痛を増大させる要因として慰謝料額の算定において考慮すべきである。エさらに,被告の本件に関する協力度について,次のような事情が見られる。まず,前記3(1)のとおり,慶応病院は,Dの本件病変の原因を鑑別するため,被告に対して,本件照射の治療記録の提供を求めたが,E病院は,平成5年3月10日から同年4月7日までの照射(前期照射)記録について,見当たらない旨の理由でこれを送付しなかった。この点,平成9年1月16日横浜簡易裁判所が行った証拠保全の結果では,前期照射記録は後期照射記録と共に綴じ込まれて提示されており,本訴においても,被告から同様に提出されているところ,被 付しなかった。この点,平成9年1月16日横浜簡易裁判所が行った証拠保全の結果では,前期照射記録は後期照射記録と共に綴じ込まれて提示されており,本訴においても,被告から同様に提出されているところ,被告は,本訴前に慶応病院の要請に応じて慶応病院へ送付することをしなかったことについて合理的な説明をしたことを認めるに足りる証拠はない。また,平成6年11月10日のE病院への再入院後,E病院の理学診療(リハビリテーション)科では,Dの本件病変を放射線脳障害によるものとして扱っており,慶応病院からも放射線脳障害の病名で引き継いでいたが,E病院が作成したDの死亡診断書ではこのことについて触れず,横紋筋肉腫を死因として記載した。さらに,平成7年5月25日に原告らがE病院長らと面談し,Dに対する本件照射の内容について説明を求めた際も,ブロックを用いて脳幹部への照射を抑制することは真実は可能であったにもかかわらず,これが不可能であるかのように説明していることが認められる(甲28の1・2,原告A)。 も放射線脳障害の病名で引き継いでいたが,E病院が作成したDの死亡診断書ではこのことについて触れず,横紋筋肉腫を死因として記載した。さらに,平成7年5月25日に原告らがE病院長らと面談し,Dに対する本件照射の内容について説明を求めた際も,ブロックを用いて脳幹部への照射を抑制することは真実は可能であったにもかかわらず,これが不可能であるかのように説明していることが認められる(甲28の1・2,原告A)。このように,E病院の医師らは,理由は明らかではないものの本件病変の原因の解明に必要な医療情報を合理的な理由なく他の医療機関に提供せず,また,Dの死亡後,原告ら両親に対して本件照射の内容についてあえて誤った説明をした。このようなことも,原告らの苦痛を増大させる要因である。オ上記事情を総合的に判断すれば,被告の不法行為(使用者責任)に基づくD本人の慰謝料は1000万円が相当であり,原告らの固有の慰謝料は,Dの上記慰謝料を相続する関係にあることも考慮して,それぞれ150万円が相当である。そして,Dの死亡により,原告らは,D本人の慰謝料をそれぞれ500万円ずつ相続したものである。この点について,被告は,弁論終結後に提出した書面に,医療過誤については,延命利益 万円が相当である。そして,Dの死亡により,原告らは,D本人の慰謝料をそれぞれ500万円ずつ相続したものである。この点について,被告は,弁論終結後に提出した書面に,医療過誤については,延命利益を侵害したとか,延命期待権や救命期待権を侵害したことによる損害という概念は認められるべきではない旨を記載するが,独自のものであって採用できない。なお,被告が弁論終結後に上記書面を提出したのは,被告が審理中からたびたび準備が間に合わず,上記書面も予定された終結日に用意できなかったために終結が先行したということによるものである。また,前記2のとおり,本件は,過失行為と死亡との間に因果関係が認められる事案であって,患者の延命ないし救命に対する期待のみが侵害された事案ではない。(3) 弁護士費用の損害該当性の有無・程度本件事案の内容,審理の経過,認容額等の諸事情を総合的に考慮して,被告の不法行為と相当因果関係にある損害として,被告が負担すべき弁護士費用は,原告らにつき,それぞれ100万円が相当である。この点について,被告は,本訴は被告が不当に抗争しているものではなく,被告の過失が歴然としている事案でもないから,原告らの負担する弁護士費用を被告が負担する根拠はない旨主張するが,前記認定事実に照らせば,被告の過失は歴然としており,後記のように被告の応訴態度も誠実なものということはできない。 為と相当因果関係にある損害として,被告が負担すべき弁護士費用は,原告らにつき,それぞれ100万円が相当である。この点について,被告は,本訴は被告が不当に抗争しているものではなく,被告の過失が歴然としている事案でもないから,原告らの負担する弁護士費用を被告が負担する根拠はない旨主張するが,前記認定事実に照らせば,被告の過失は歴然としており,後記のように被告の応訴態度も誠実なものということはできない。したがって,被告の主張は採用できない。4 訴訟費用の負担割合について訴訟費用の負担について,職権により判断するに,訴訟費用は,当事者が敗訴部分に応じて割合的に負担するのが原則である。本件では,請求額と対比すると原告らの認容額はその一部分ではある。ただし,不法行為における逸失利益,慰謝料額等は,裁判所の採用する基準次第で変わるのが通常で,貸金関係のように確定的に のが原則である。本件では,請求額と対比すると原告らの認容額はその一部分ではある。ただし,不法行為における逸失利益,慰謝料額等は,裁判所の採用する基準次第で変わるのが通常で,貸金関係のように確定的に定まった認容額を当初から予測することが困難なものである。したがって,そのような不確定要因による棄却部分を除くと,本件において,原告らは被告に対して実質的に全部勝訴したといい得る面がある。また,被告は,前記のとおり,審理中の訴訟行為の準備が間に合わない等のほか,一旦約束した資料の提供の撤回,和解期日の空転,予定した被告側意見書の不提出等の不熱心な対応があった。これらは,必然的に本訴の審理の遅延につながったものであり,出頭の増加等訴訟に関する費用の増大に結びつく。以上のような諸事情及び本件の訴訟費用の構成要素を総合考慮すると,本件の訴訟費用については,その5分の4を被告の負担とし,残りを原告らの負担とするのが相当である。第4 結論そうすると,原告らの請求は,被告に対し,不法行為責任に基づき,各金750万円及びこれに対するDの死亡日である平成7年2月8日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担については前記第3の4のとおり民訴法64条を,仮執行宣言につき同法259条を適用して,主文のとおり判決する。横浜地方裁判所第1民事部裁判長裁判官岡光民雄裁判官窪木稔裁判官家原尚秀 ,各金750万円及びこれに対するDの死亡日である平成7年2月8日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担については前記第3の4のとおり民訴法64条を,仮執行宣言につき同法259条を適用して,主文のとおり判決する。横浜地方裁判所第1民事部裁判長裁判官岡光民雄裁判官窪木稔裁判官家原尚秀 裁判官 家原尚秀
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