平成27(行ウ)432 検査済証交付処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成28年1月22日 東京地方裁判所 その他
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判決文本文19,388 文字)

平成28年1月22日判決言渡平成27年(行ウ)第432号検査済証交付処分取消請求事件 主文 1 本件訴えを却下する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告が平成27年6月27日付け第○号をもってした検査済証交付処分を取り消す。 第2 事案の概要本件は,原告らが,指定確認検査機関である被告に対し,原告らの居住地の近隣に建築された建築物には,建築基準関係規定に適合しない点などがあるにもかかわらず,被告が検査済証を交付する処分をしたことは違法であると主張して,同処分の取消しを求める事案である。 1 関係法令の定め(1) 建築基準法ア建築確認(ア) 建築基準法6条1項前段は,建築主は,同項1号から3号までに掲げる建築物(以下「法定建築物」という。)を建築しようとする場合においては,当該工事に着手する前に,その計画が建築基準関係規定(同法並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の規定」という。)その他建築物の敷地,構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることについて,確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け,確認済証の交付を受けなければならない旨を規定し,同 項後段は,当該確認を受けた建築物の計画の変更(国土交通省令で定める軽微な変更を除く。)をして,法定建築物を建築しようとする場合も同様とする旨を規定し,同項1号及び3号は,以下の内容を規定している(2号は,木造の建築物に関する規定であり,省略する。)。 一別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物で,その用途に供する部分の床面積の合計が100平方メートルを超えるもの 規定している(2号は,木造の建築物に関する規定であり,省略する。)。 一別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物で,その用途に供する部分の床面積の合計が100平方メートルを超えるもの(なお,同法別表第一には,(二)号中(い)の用途欄に共同住宅が掲げられている。)三木造以外の建築物で2以上の階数を有し,又は延べ面積が200平方メートルを超えるもの(イ) 建築基準法6条の2第1項は,建築主事において確認の申請書を受理することができない場合に該当する計画を除き,同法6条1項各号に掲げる建築物の計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて,同法77条の18から77条の21までの規定の定めるところにより国土交通大臣又は都道府県知事が指定した者(指定確認検査機関)の確認を受け,国土交通省令で定めるところにより確認済証の交付を受けたときは,当該確認は同法6条1項の規定による確認と,当該確認済証は同項の確認済証とみなす旨を規定している。 イ完了検査(ア) 建築基準法7条1項は,建築主は同法6条1項の規定による工事を完了したときは,国土交通省令で定めるところにより,建築主事の検査を申請しなければならない旨を規定し,同法7条2項は,その申請は,国土交通省令で定めるやむを得ない理由があ るときを除き,その工事が完了した日から4日以内に建築主事に到達するように,しなければならない旨を規定している。 同条4項は,建築主事が同条1項の規定による申請を受理した場合においては,建築主事又はその委任を受けた当該市町村若しくは都道府県の職員(以下「建築主事等」という。)は,その申請を受理した日から7日以内に,当該工事に係る建築物及びその敷地が建築基準関係規定に適合しているかどうかを検査しなければならない旨を規 しくは都道府県の職員(以下「建築主事等」という。)は,その申請を受理した日から7日以内に,当該工事に係る建築物及びその敷地が建築基準関係規定に適合しているかどうかを検査しなければならない旨を規定し,同条5項は,建築主事等は,同条4項の規定による検査をした場合において,当該建築物及びその敷地が建築基準関係規定に適合していることを認めたときは,国土交通省令で定めるところにより,当該建築物の建築主に対して検査済証を交付しなければならない旨を規定している。 (イ) 建築基準法7条の2第1項は,指定確認検査機関が,同法6条1項の規定による工事の完了の日から4日が経過する日までに,当該工事に係る建築物及びその敷地が建築基準関係規定に適合しているかどうかの検査を引き受けた場合において,当該検査の引受けに係る工事が完了したときについては,同法7条1項から3項までの規定は,適用しない旨を規定している。 同法7条の2第4項は,指定確認検査機関は,同条1項の規定による検査(以下,同法7条4項の検査と合わせて「完了検査」という。)の引受けを行ったときは,当該検査の引受けを行った同法6条1項の規定による工事が完了した日又は当該検査の引受けを行った日のいずれか遅い日から7日以内に完了検査をしなければならない旨を規定し,同法7条の2第5項は,指定確認検査機関は,完了検査をした建築物及びその敷地が建築基準関係規定に適合していることを認めたときは,国土交通省令で定める ところにより,当該建築物の建築主に対して検査済証を交付しなければならず,この場合において,当該検査済証は同法7条5項の検査済証とみなす旨を規定している。 ウ検査済証の交付を受けるまでの建築物の使用制限建築基準法7条の6第1項は,法定建築物を新築する場合においては,当該建築 て,当該検査済証は同法7条5項の検査済証とみなす旨を規定している。 ウ検査済証の交付を受けるまでの建築物の使用制限建築基準法7条の6第1項は,法定建築物を新築する場合においては,当該建築物の建築主は,同法7条5項の検査済証の交付を受けた後でなければ,当該新築に係る建築物を使用し,又は使用させてはならず,ただし,次の各号のいずれかに該当する場合には,検査済証の交付を受ける前においても,仮に,当該建築物を使用し,又は使用させること(以下「仮の使用」という。)ができる旨を規定し,同各号は,以下の内容を規定している。 一特定行政庁が,安全上,防火上及び避難上支障がないと認めたとき。 二建築主事又は指定確認検査機関が,安全上,防火上及び避難上支障がないものとして国土交通大臣が定める基準に適合していることを認めたとき。 三同法7条1項の規定による申請が受理された日(指定確認検査機関が完了検査の引受けを行った場合にあっては,当該検査の引受けに係る工事が完了した日又は当該検査の引受けを行った日のいずれか遅い日)から7日を経過したとき。 エ容積率建築基準法52条2項2号は,前面道路(前面道路が二以上あるときは,その幅員の最大のもの。以下同じ。)の幅員が12メートル未満である建築物の容積率(建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合をいう(同条1項)。以下同じ。)は,第一種中高層住居専用地域においては,特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経 て指定する区域内の建築物を除き,当該前面道路の幅員のメートルの数値に10分の4を乗じたもの以下でなければならない旨を規定している。 なお,同条6項は,同条2項の建築物の容積率の算定の基礎となる延べ面積には,共同住宅の共用の廊下又は階段の用に供する部分の床面積は,算入しな 乗じたもの以下でなければならない旨を規定している。 なお,同条6項は,同条2項の建築物の容積率の算定の基礎となる延べ面積には,共同住宅の共用の廊下又は階段の用に供する部分の床面積は,算入しないものとする旨を規定している。 オ審査請求前置主義建築基準法94条1項は,建築基準法令の規定による指定確認検査機関の処分に不服がある者は,建築審査会に対して審査請求をすることができる旨を規定し,同法96条は,同法94条1項に規定する処分の取消しの訴えは,当該処分についての審査請求に対する建築審査会の裁決を経た後でなければ,提起することができない旨を規定している。 (2) 東京都建築安全条例東京都建築安全条例4条1項,2項は,延べ面積が3000平方メートルを超え,かつ,建築物の高さが15メートルを超える建築物の敷地は,長さ10メートル以上幅員6メートル以上の道路に接しなければならない旨を規定している(甲44)。 (3) 都市計画法等都市計画法29条1項本文,ただし書1号,同法施行令19条1項本文,2項は,特別区の存する都の区域について市街化区域内において開発行為をしようとする者は,その規模が500平方メートル未満であるものを除き,あらかじめ,国土交通省令で定めるところにより,都道府県知事の許可(以下「開発許可」という。)を受けなければならない旨を規定し,同法4条12項は,同法において「開発行為」とは,主として建築物の建築又は特定工作物の建設の 用に供する目的で行う土地の区画形質の変更をいう旨を規定している。 なお,地方自治法252条の17の2第1項は,都道府県は,都道府県知事の権限に属する事務の一部を,条例の定めるところにより,市町村が処理することとすることができ,この場合においては,当該市町村が処理する 地方自治法252条の17の2第1項は,都道府県は,都道府県知事の権限に属する事務の一部を,条例の定めるところにより,市町村が処理することとすることができ,この場合においては,当該市町村が処理することとされた事務は,当該市町村の長が管理し及び執行するものとする旨を規定し,同法281条2項は,特別区は,法律又はこれに基づく政令により都が処理することとされているものを除き,地域における事務並びにその他の事務で法律又はこれに基づく政令により市が処理することとされるもの及び法律又はこれに基づく政令により特別区が処理することとされるものを処理する旨を規定しているところ,東京都の「特別区における東京都の事務処理の特例に関する条例」2条7号イは,都市計画法に基づく事務のうち,開発行為等の規制に関する開発許可の事務は,各特別区が処理することとしている。地方自治法283条2項は,他の法令の市に関する規定中法律又はこれに基づく政令により市が処理することとされている事務で同法281条2項の規定により特別区が処理することとされているものに関するものは,特別区にこれを適用する旨を規定している。 2 前提事実(後掲各証拠のほか,弁論の全趣旨により認められる。)(1) 本件建築物等a株式会社(以下「a」という。)は,都市計画法上の第一種中高層住居専用地域内である東京都港区α ×番地6ほかの3764. 46平方メートルの敷地(以下「本件敷地」という。)上に,鉄筋コンクリート造地上5階建ての共同住宅1棟(通称「b」。以下「本件建築物」という。)を新築し,平成27年6月下旬頃,その工事 を完了した(工事完了の具体的な日付については,後記3(6)のとおり,争いがある。)。 本件敷地は,その西側と南側を幅員4メートルの道路,東側を幅員5メートルの 年6月下旬頃,その工事 を完了した(工事完了の具体的な日付については,後記3(6)のとおり,争いがある。)。 本件敷地は,その西側と南側を幅員4メートルの道路,東側を幅員5メートルの道路,北側を幅員4.85メートルないし5.36メートルの道路に囲まれた略長方形の土地である(甲7,19,20,25,43,乙1,29。以下,本件敷地を囲むそれぞれの道路を,本件敷地から見た方角に従い「西側道路」のようにいう。)。 本件建築物の最終的な延べ面積は8716.40平方メートル,住宅の部分の延べ面積は7243.95平方メートルであり(甲3),前記1(1)エの規定により,その容積率は約192.43パーセント(7243.95㎡÷3764.46㎡)である。 (2) 当事者等ア原告c,原告d及び原告eは,本件敷地の西側道路を隔てた土地上に居住する者らであり,原告f,原告g,原告h及び原告iは,同じく北側道路を隔てた土地上に居住する者らである(甲4)。 イ被告は,国土交通大臣から建築基準法77条の18第1項の指定を受けた指定確認検査機関である。 (3) 本件建築物に関する建築確認等ア本件建築物は,前記1(1)ア(ア)の建築基準法6条1項1号及び3号の規定による法定建築物であり,aは,その新築の計画及び計画の変更について,工事の完了前の平成26年1月14日から平成27年6月15日まで前後5回にわたり,被告から確認を受け(以下,このうち最後の計画変更に係る同日付けの確認を「本件建築確認」といい,その1回前の計画変更に係る平成26年12月12日付けの確認を「前建築確認」という。),その確認済証の交付を受けた。 イ原告らは,本件建築物に係る前建築確認までの4回の建築確認について審査請求をしたが,港区建築審査会は,平成 12日付けの確認を「前建築確認」という。),その確認済証の交付を受けた。 イ原告らは,本件建築物に係る前建築確認までの4回の建築確認について審査請求をしたが,港区建築審査会は,平成27年2月16日付けで前建築確認についての審査請求を棄却し,その余の建築確認についての審査請求を却下する旨の裁決をした(甲5)。 ウそこで,原告らは,東京地方裁判所に前建築確認及び上記裁決の取消訴訟を提起し,本件建築確認後,前建築確認の取消しを求めていた訴え部分を本件建築確認の取消しを求めるものに変更した。 東京地方裁判所は,平成27年11月24日に,同訴えを却下する旨の判決を言い渡した。 (4) 本件建築物に関する完了検査等ア被告は,本件建築物の完了検査を引き受けて,平成27年6月26日から同月27日にかけて本件建築物を検査し(以下「本件完了検査」という。),建築基準法7条の2第5項に基づき,aに対し,同日付け第○号をもってその検査済証(甲1)を交付した(以下「本件処分」という。)。 イ原告らは,本件処分についての審査請求に対する港区建築審査会の裁決を経ることなく,本件処分の取消しを求める本件訴えを提起した。 3 主な争点と当事者の主張本件の主な争点は,(1) 本件訴えの適否に関し,①本件処分の取消しを求める訴えの利益の有無(争点1)及び②本件処分についての審査請求に対する裁決を経ないことにつき正当な理由があるか否か(争点2),並びに(2) 本件処分の適否に関し,①本件建築物が容積率制限に適合しているか否か(争点3),②本件建築物の高さが接道要件を充足する範囲内のものか否か(争点4),③本件建築物について開発許可を要しないものとして本件処分をしたことの適否(争点5)及 び④本件建築物の工事完了前に完了検査をし 築物の高さが接道要件を充足する範囲内のものか否か(争点4),③本件建築物について開発許可を要しないものとして本件処分をしたことの適否(争点5)及 び④本件建築物の工事完了前に完了検査をしたか否か(争点6)である。 これらに関する当事者の主張は,以下のとおりである。 (1) 本件処分の取消しを求める訴えの利益の有無(争点1)(原告らの主張)ア本件処分に基づいて使用が開始される本件建築物の火災及び倒壊,日照阻害,通風阻害によって,原告らの生命,身体,健康,精神及び生活に関する基本的権利並びに有効な生活環境を享受する権利を侵害されるおそれがあり,特に,本件建築物の使用が開始されると,居住者の使用による火災等のリスクが高まり,延焼等によって周辺住民の生命等が侵害されるおそれがある。この点,建築基準法上の道路には避難路としての機能が求められ,接道要件を下回る道路幅員の場合には,円滑な避難が困難となり,火災に巻き込まれ,煙を吸い込む,地震時に建築物の倒壊に巻き込まれる,狭い道路に人が殺到することによる転倒など,様々な危険が考えられ,これらの危険による権利侵害の可能性は,建築物の使用が開始されて多数の住民が生活するようになると,高まることになるから,本件処分の取消しを求めることにつき,原告らに訴えの利益がある。 被告は,建築物の使用開始によって放火のリスクが下がる旨主張するが,この関係が論理必然に成り立つとは考え難く,むしろ,使用開始前のマンションであれば,人が出入りすること自体が目立ってしまうため,放火の対象となりづらいと考える方が自然である。 また,マンションの出入口及び各居室は,使用が開始されるまでは常時施錠されているため,マンションに入ることはもちろん,その上居室内に入ることなど通常は考えられない。さらに,火災 える方が自然である。 また,マンションの出入口及び各居室は,使用が開始されるまでは常時施錠されているため,マンションに入ることはもちろん,その上居室内に入ることなど通常は考えられない。さらに,火災の原因のうち放火が占める割合はわずか10パーセント程度であり,その 他の大多数はたばこの不始末やコンロ等の居住者が生活することに起因するものである。このように,建築物の使用が開始されることによって放火のリスクが減少することはなく,居住者による出火のリスクが大幅に増加する。 また,被告は,建築物の使用開始によって早期発見と初期消火が可能となると主張するが,これらが可能となることについて客観的な証拠は一切なく,むしろ大きな火災が起きた場合,マンションから避難することに必死になるため,初期消火活動を行う余裕などあり得ない。現実にマンションやホテルにおいて大規模な火災はたびたび起きている。 さらに,被告は,行政事件訴訟法9条2項を引用し,狭義の訴えの利益においても損害の態様や程度を勘案すべきと主張するが,原告適格と混同するものであり,その主張には全く根拠がない。訴えの利益は,当該訴訟が原告の権利利益の救済に資するかという観点で検討されるものであり,取消判決によって制限を受ける反対利益を考慮すべきではないし,被告において所有権が制限されると主張する点についても,完了検査によって適法性が認められない限り法定建築物については使用できないとされていることから,違法な建築物を使用する権利などない。被告は,原告らの主張する違法事由によって原告らの利益が著しく害される関係にはないため訴えの利益がないとも主張するが,そもそも「著しく」害されるという要件は不要であるし,当該主張は取消訴訟における主張制限(行政事件訴訟法10条1項)の問題であり 利益が著しく害される関係にはないため訴えの利益がないとも主張するが,そもそも「著しく」害されるという要件は不要であるし,当該主張は取消訴訟における主張制限(行政事件訴訟法10条1項)の問題であり,訴えの利益の問題ではない。 イ本件建築物に入居者が住み始めて使用が開始されていること自体,立証されていないが,仮に入居者が住み始めていたとしても,訴えの利益は失われない。 すなわち,建築基準法7条の6第1項によれば,検査済証の交付を受けるまでは法定建築物の使用は一律禁止されており,検査済証交付処分の効果は,使用禁止を解除するもので,解除条件である。 これが取消訴訟によって取り消された場合,当該処分は遡って失効し,その効力は第三者に及び,解除条件の成就は当初からなかったことになり,条件成就前の使用禁止状態に戻ることになる。そのため,取消判決がされれば,当該建築物は使用できなくなるのであり,訴えの利益が失われるはずがない。 このことは,建築確認処分における訴えの利益の問題と統一的に解釈されるべきものであり,建築確認処分取消訴訟の訴えの利益が失われるのが「工事の完了」時であるとすれば,検査済証交付処分取消訴訟の訴えの利益が失われるのは「使用の終了」時となるはずである。 また,同法は,使用が開始された後においては,専ら是正措置命令により是正することを予定しているわけではない。同法9条1項は,特定行政庁等が違法な検査を行うことを前提とするものではなく,同項が適用されるのは,完了検査が適法に行われた後に違法な増改築等があった場合等である。是正措置命令と検査済証交付処分取消訴訟とでは,そもそも制度趣旨が異なっており,是正措置命令制度の存在は,周辺住民等が検査済証交付処分の取消訴訟を提起することを排斥するものではない。 等である。是正措置命令と検査済証交付処分取消訴訟とでは,そもそも制度趣旨が異なっており,是正措置命令制度の存在は,周辺住民等が検査済証交付処分の取消訴訟を提起することを排斥するものではない。 さらに,仮の使用制度があったとしても,訴えの利益には影響しない。すなわち,仮の使用については,その法的権原や使用できる期間等については明文の規定がないが,少なくとも検査済証の交付が取消訴訟において取り消された場合にまで仮の使用を認めるのであれば,それは「仮の」という文言と乖離したものである上, 実質的に完了検査を経なくとも建築物の使用が認められることになるため,著しく不合理な結論になる。したがって,その取消判決後においても仮の使用が認められるとは解釈できない。また,同法7条の6第1項3号は申請の受理等から7日が経過しても検査が行われない場合を想定しているのであり,検査済証取消訴訟において取消判決が出た場合にまで,同号による仮の使用が認められるわけではない。 (被告の主張)ア検査済証の交付の取消訴訟に訴えの利益が認められるためには,その具体的な必要性が認められなければならないが,本件建築物の使用開始によって延焼のおそれが高くなるものとはいえないから,原告らに訴えの利益は認められない。 すなわち,無人の建築物の場合,放火犯が居室内に侵入する等して火災を発生させるリスクは居住者がいる場合と比して高いばかりでなく,火災が発生したとしても,発見及び通報は住民がいる場合と比して遅く,初期消火は不可能であるのに対して,本件建築物に人が入居した場合,各住戸に設置された火災報知器の作動に対し住民(ないし管理人及びコンシェルジュ)が早期に反応して通報等の措置が可能であるほか,屋内の各所に設置された消火器での消火や,屋内水槽から送水 入居した場合,各住戸に設置された火災報知器の作動に対し住民(ないし管理人及びコンシェルジュ)が早期に反応して通報等の措置が可能であるほか,屋内の各所に設置された消火器での消火や,屋内水槽から送水管を経由しての初期消火が可能であり,延焼可能性が建築物の使用開始前より高くなることはないものである。 この点,実質的に考えても,検査済証交付処分の取消訴訟は,既に完成した建築物について,その所有者の使用を禁止することを求める訴訟であり,所有権に対する強度の制限を課す効果を持つものである(なお,検査済証の存在は,当該不動産の担保価値に関わるものであり,住宅ローンの前提条件となる場合が多い。)ところ, 延焼の抽象的な可能性を指摘するだけで原告らの訴えの利益が肯定されると解することは相当でない。原告適格について「当該処分… がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案」される(行政事件訴訟法9条2項)のと同様,狭義の訴えの利益の判断においても,これらは勘案されると解すべきである。本件で原告らが主張する違法事由は,本件建築物の耐火性の有無等ではなく,地盤面の取り方や避難する際の通路と道路との段差等であり,本件建築物の使用開始によって原告らの利益が著しく害される関係にあるものとはいえないことが明らかである。 イまた,検査済証の交付は,建築物の使用開始が認められるという一定の法的効果を持つものである一方で,その取消しは,既に使用が開始されている建築物について,建築物の使用を禁止させる法的効果を有するものではない(それは建築基準法9条の是正措置命令によるというのが同法の仕組みである。)。 本件建築物については,平成27年9月に入居者に対する鍵の引渡しがされ, 用を禁止させる法的効果を有するものではない(それは建築基準法9条の是正措置命令によるというのが同法の仕組みである。)。 本件建築物については,平成27年9月に入居者に対する鍵の引渡しがされ,その使用が開始されたから,本件処分の取消しを求める訴えの利益は失われた。 (2) 本件処分についての審査請求に対する裁決を経ないことにつき正当な理由があるか否か(争点2)(原告らの主張)原告らが本件処分について審査請求を経てから取消訴訟を行う時間的余裕はなく,審査請求を経ることなく取消訴訟を提起する必要がある。 また,本件処分の違法事由は,原告らが前建築確認について審査請求したものと同一であり,本件処分について再度の審査請求をし ても,裁決内容に差異を来さず,同様の不服申立ての手続に期待を寄せることができないところ,被告からしても,本件の違法事由については検討済みであり,審査請求を経なくとも手続的に不利益を被ることはない。 (被告の主張)原告らは,本件処分について,審査請求を前置しておらず,本件訴えは不適法である。 この点,原告らは,本件処分について審査請求を経てから取消訴訟を行う時間的余裕はないから正当な理由がある旨主張するが,審査請求に対する裁決は,法律上1か月以内に行うこととされており(建築基準法94条2項),これを経過しても裁決がない場合は正当な理由があると思料されるのに,原告らは審査請求をしていない。 また,原告らは,本件処分の違法事由は,原告らが前建築確認について審査請求したものと同一である旨主張するが,当然ながら,本件完了検査を実施したか等に係る原告らの主張について,審査請求手続で審理された事実はない。 (3) 本件建築物が容積率制限に適合しているか否か(争点3)(原告らの主張) るが,当然ながら,本件完了検査を実施したか等に係る原告らの主張について,審査請求手続で審理された事実はない。 (3) 本件建築物が容積率制限に適合しているか否か(争点3)(原告らの主張)本件処分は,本件建築物の容積率が,幅員4.85メートルの北側道路又は幅員5メートルの東側道路を本件建築物の「前面道路」として,そのメートルの数値に10分の4を乗じた法定容積率(建築基準法52条2項)である少なくとも194パーセントの範囲内であるとするが,同項における「前面道路」に該当するには同法43条の接道要件を満たす「道路」である必要があり,敷地に接道していない「道路」を,当該敷地に対する規制において「道路」と扱うのは不合理である。 すなわち,本件敷地と西側道路以外の周辺の道との間には,少なくとも高さ1メートル程度の周壁が存在し,通常の歩行では昇り降りできない高低差があるから,階段等を設置しない限り接道しているとはいえない。このような状態においては,災害時等に避難経路として西側道路以外の道を利用することは困難であり,接道要件を満たす「道路」とは認められないから,当然「前面道路」にもなり得ない。西側道路のみが本件建築物の前面道路に該当するところ,その幅員は4メートルであり,本件建築物は建築基準法52条2項に違反する。 (被告の主張)本件建築物は幅員5メートルの東側道路に接しており,この道路は,建築基準法43条の接道要件を満たす道路であると同時に同法52条2項の前面道路でもある。 すなわち,本件建築物からは,東側道路に向けても階段と扉が存在しているところ,この階段及び扉の間口の大きさは2メートルに満たないが,そもそも接道の長さは,敷地が道路と接触する長さをいうのであって,必ずしも出入口が2メートル以上開かれてい けても階段と扉が存在しているところ,この階段及び扉の間口の大きさは2メートルに満たないが,そもそも接道の長さは,敷地が道路と接触する長さをいうのであって,必ずしも出入口が2メートル以上開かれている必要はない。本件敷地は,東側道路と約91メートルにわたり接しており,東側道路が幅員最大の前面道路なのであるから,本件建築物は建築基準法52条2項による容積率の範囲内で計画されているといえる。 (4) 本件建築物の高さが接道要件を充足する範囲内のものか否か(争点4)(原告らの主張)本件建築物の高さは建築計画概要書では14.95メートルとなっているが,この高さ計測の基準は,本件建築物のバルコニーや外 壁面直下にあるテラス状のドライエリア周壁が接する植栽の天端をもって平均地盤面(建築物が周囲の地面と接する位置)としており,計算の基礎を誤っている。 すなわち,地下階を作る際,その地下階居室に必要な採光,換気等を確保するため,当該居室が面する土地の部分を掘り下げて設ける空間である「からぼり」については,掘り下げる前と同じ高さとなる周壁が接する位置を周囲の地面と接する位置とすることが許されるが,本件建築物にはそもそも地下階が存在しないため,ドライエリアが「からぼり」に該当するはずがない。むしろ,ドライエリア面のほとんどが周囲の道より高いか同程度の高さであり,掘り下げたというよりも周壁を高く設置したという表現の方が正しい(ドライエリアは単なる庭であり,周壁は目隠しの壁にしかすぎない。)。 仮にこれが「からぼり」に該当するとしても,例外的に周壁が接する位置を周囲の地面と接する位置としてよいのは,建築物と一体の「からぼり」の場合であり,必要不可欠とはいえない「からぼり」については,原則どおり「からぼり」面が周囲の地面と接する 例外的に周壁が接する位置を周囲の地面と接する位置としてよいのは,建築物と一体の「からぼり」の場合であり,必要不可欠とはいえない「からぼり」については,原則どおり「からぼり」面が周囲の地面と接する位置となるところ,本件建築物のドライエリアは,必要不可欠な「からぼり」であるとはいえず,本件建築物と一体の「からぼり」には該当しない。 また,周囲の地面と接する位置とは,当該建築物を支える基礎となるべき地面を指すため,地震等によって上下動ないし崩れ落ちることが想定される地面は,地盤面とはいえないところ,植栽部分を支える外側の擁壁が本件建築物と独立しているタイプのドライエリアの構造部では,植栽部分を支える力が弱く,計画された地盤面の位置を維持することが困難となり,地盤面が地震等で崩れ落ちることが想定されるから,このような不安定な地面を地盤面として設定 することは誤っている。そもそも面積と高さが大きな建築物につき,接道幅員要件を加重する趣旨は,そのような建築物で火災等の災害が起きた際,消火活動を円滑に行うのに不可欠なはしご車やポンプ車の出入りを可能にするためであるところ,植栽の天端を基準にしてよく,高い植栽を設けることで地盤面を上げ,建築物の高さ規制を潜脱し,接道義務を免れられるようなことがあれば,周辺住民や居住者の生命,身体及び財産等を保護しようとする法の趣旨に著しく反する。本件建築物の植栽は,周囲の道路と比べて高く作られており,それ自体不自然さがあり,この植栽の天端を平均地盤面とみなさなければ,本件建築物の高さは15メートルを超えてしまうことから,形式的に高さ規制に適合することを専ら又は主たる目的とすることは明らかである。 植栽の天端を周囲の地面と接する位置として計算した本件建築物の高さ14.95メートルは不当に低く てしまうことから,形式的に高さ規制に適合することを専ら又は主たる目的とすることは明らかである。 植栽の天端を周囲の地面と接する位置として計算した本件建築物の高さ14.95メートルは不当に低く算定されており,また,本件完了検査時に本件建築物の高さは実測されておらず,本件建築物の高さは15メートルを超えるから,本件敷地は幅員6メートル以上の道路に接する必要があるところ,前面道路の幅員は4メートルしかなく,明らかに東京都建築安全条例4条の接道義務に違反している。 (被告の主張)建築物の高さ制限(建築基準法55条1項)における「建築物の高さ」は,「地盤面からの高さ」による(同法92条,同法施行令2条1項6号本文)ところ,その「地盤面」とは,「建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面をいい,その接する位置の高低差が3メートルを超える場合においては,その高低差3メートル以内ごとの平均の高さにおける水平面をいう」(同条2 項)。そして,地盤面設定の基準となる「建築物が周囲の地面と接する位置」とは,その文理からすれば,建築物が完成時において物理的に地表面と接する位置をいうものと解するのが自然であって,盛土後の地面をもってとらえるのが原則とされている。もとより盛土は,憲法29条1項により保障された建築の自由の範ちゅうに属する事柄であって,建築基準関係規定においてこれを制限する規定はない。むしろ,盛土については,建築基準法19条において,建築物の敷地は,これに接する道の境より高くなければならず,建築物の地盤面は,これに接する周囲の土地より高くなければならないとされ(同条1項本文),湿潤な土地,出水のおそれの多い土地又はごみその他これに類するもので埋め立てられた土地に建築物を建築する場合においては,盛土,地盤 に接する周囲の土地より高くなければならないとされ(同条1項本文),湿潤な土地,出水のおそれの多い土地又はごみその他これに類するもので埋め立てられた土地に建築物を建築する場合においては,盛土,地盤の改良その他衛生上又は安全上必要な措置を講じなければならない(同条2項)とされているのである。 もちろん,上記の原則を貫徹し,建築物の周囲に自由に盛土をすることによって「当該建築物が周囲の地面と接する位置」をいくらでも上昇させるようなことが認められるとすれば,それによって高さ等の規制の実効性が骨抜きとなりかねない。そこで,盛土が専ら又は主として地盤面のかさ上げを目的として行われ,地盤面に係る各規制を潜脱する目的の盛土が行われていると合理的に判断できる場合には,法はそのような盛土を許容しないものとして,当該盛土は存在しないとの前提で,周囲の地面と接する位置の認定を行うべきなどと解される場合がある。しかし,このような一般的な問題点を踏まえた上で,本件建築物の建築計画は,従前地の地盤面の高さをほぼそのまま踏襲するものであって,そもそも意図的な地盤面のかさ上げが行われている事例ではない。 原告らは,ドライエリアの底盤で地盤面を取るべきであると主張するが,その主張は,建築基準関係規定に存在しない「からぼり」,「ドライエリア」という言葉の定義に縛られた議論にすぎず,法令解釈として失当である。一般に,からぼりないしドライエリアの周囲の地盤が地盤面として認められる理由は,そこに地下室が存在するからではなく,からぼり等が建築物の一部である結果として,からぼり等が周囲の地面と接する位置が「建築物が周囲の地面と接する位置」となるからにすぎず,地下室があったとしても,からぼり等が建築物の一部であるといえない場合には,からぼり等の底盤を「建 して,からぼり等が周囲の地面と接する位置が「建築物が周囲の地面と接する位置」となるからにすぎず,地下室があったとしても,からぼり等が建築物の一部であるといえない場合には,からぼり等の底盤を「建築物が周囲の地面と接する位置」とみることとするのが多くの自治体で採られている運用である。この点,ある工作物等が建築物の一部であるか否かは,外観上,構造上及び機能上の一体性から社会通念に則って総合的に判断せざるを得ないとする考え方が一般的であるところ,本件建築物のタイプAのからぼりないしドライエリアは,住戸部分からコンクリートスラブによって立ち上がり部分まで一体の構造であり,タイル張りもすることとされ,各住戸間には,緊急時には破壊できる扉が設置されることとされており,ベランダやルーフバルコニーと同様,社会通念に照らし外観上も建築物と明らかに一体であるといえ,緊急時において避難する際の通路の役割を果たす点において,本件建築物と機能上の一体性も認められるから,本件建築物の一部である。 本件建築物の建築計画の地盤面の取り方は適法であり,むしろ,一般的に見て地盤面を低めに取る保守的な方法であって,原告らの主張は失当である。 (5) 本件建築物について開発許可を要しないものとして本件処分をしたことの適否(争点5) (原告らの主張)本件敷地は,北西角を最も高い地盤とし,南東角の最も低い地盤との高低差は少なくとも1.6メートル以上あり,本件建築物は,斜面地に建つ共同住宅といってよい。港区においては,建築物の敷地のために50センチメートルを超える切土,盛土を行う行為は,土地の形質の変更に当たるところ,本件敷地東側及び南側敷地境界線では,土留めを兼ねた植栽のあるコンクリート擁壁が築造され,擁壁部分は明らかに1メートルを超えた盛土に当 超える切土,盛土を行う行為は,土地の形質の変更に当たるところ,本件敷地東側及び南側敷地境界線では,土留めを兼ねた植栽のあるコンクリート擁壁が築造され,擁壁部分は明らかに1メートルを超えた盛土に当たり,現地地盤の形質を著しく変更している。また,形質の変更とは,切土若しくは盛土を行う造成行為又は宅地以外の土地を宅地とする行為をいい,建築物の建築自体と不可分な一体の工事と認められる基礎打ち,土地の掘削等の行為は対象から除かれるが,本件敷地北側の敷地境界付近に計画されている機械式駐車場は工作物であり,本件建築物として申請されていない可分なものであるから,機械式駐車場を計画するに当たって行われる切土は形質の変更に該当する。 これらは都市計画法4条12項の開発行為であり,開発区域の面積は本件敷地面積3764.46平方メートルであるから,これを行う本件建築物の建築に際しては港区長の開発許可が必要なところ,開発許可がされておらず,都市計画法29条1項に違反する。 なお,開発許可が必要であるにもかかわらず,何らの処分がされていない場合,それ自体を争う手段がないところ,開発許可は,周囲の住民の生命等をも保護法益とするものであり,その要否について周辺住民が争えないというのは許されるものでない。周辺住民は建築関係訴訟で違法事由として主張できると解すべきである。 (被告の主張)指定確認検査機関である被告は,建築基準法77条の32第1項 に基づき,前建築確認時に特定行政庁である港区長に対する照会を行い,その建築確認申請に係る建築計画は,都市計画法29条の規定に基づく開発行為に該当しない旨の報告を受け,それを形式的に審査した(なお,その後の本件建築確認は,フェンスの高さ変更による天空率の再計算をしたにとどまる。)。 また,念のため 画法29条の規定に基づく開発行為に該当しない旨の報告を受け,それを形式的に審査した(なお,その後の本件建築確認は,フェンスの高さ変更による天空率の再計算をしたにとどまる。)。 また,念のため述べておくと,本件建築物は現況地盤を尊重した計画であり,レベル図を見ても,計画地盤と現況地盤の差であるところの盛土切土が50センチメートル未満に収まっていることは明らかである。 (6) 本件建築物の工事完了前に完了検査をしたか否か(争点6)(原告らの主張)本件完了検査の報告書によれば,本件建築物の工事は平成27年6月25日に完了したことになっているが,同日を過ぎた後も工事は行われていた。 完了検査は工事完了後に行われるものであるところ,工事が完了していないにもかかわらず完了検査が行われたとすれば,重大な手続違反である。 (被告の主張)完了検査は建築基準関係規定に係る工事が完了していることを確認するものであるから,これに関わりのない工事(外構工事等)が完了検査後に行われることは何ら珍しいことではない。また,分譲マンションの場合,完了検査後に施主のチェックが入り,さらに,購入者による内覧があることから,そこで指摘された瑕疵について対応することが一般であり,工事関係者が出入りすることには何らの問題もない。原告らの主張が,作業員が多数出入りしているから工事未了のまま本件完了検査が実施されたとの指摘であれば,的外 れである。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件処分の取消しを求める訴えの利益の有無)について(1) 行政処分の取消訴訟における訴えの利益の有無は,処分がその公定力によって有効なものとして存在しているために生じている法的効果を除去することによって,回復すべき権利又は法律上の利益が存在しているか否かと 処分の取消訴訟における訴えの利益の有無は,処分がその公定力によって有効なものとして存在しているために生じている法的効果を除去することによって,回復すべき権利又は法律上の利益が存在しているか否かという観点から検討すべきであると解される。 (2) これを検査済証交付処分についてみると,建築物が建築基準関係規定に違反することを理由として検査済証交付処分が判決により取り消された場合においては,建築基準法法9条1項に基づき,特定行政庁が,建築主等に対し,建築基準法令の規定に違反した建築物について,建築物の除却,修繕,その他違反を是正するために必要な措置をとることを命じること(是正措置命令)があり得るが,その要否及び内容に関しては,裁量が認められており,建築基準法令の規定といっても,その内容は様々であり,その違反について是正措置を命ずるべきであるか否か,命ずるとしていかなる是正措置を命ずるべきかは,違反の態様,程度によって一義的には定まらないと考えられることから,その判断及び選択は特定行政庁に委ねられていると解される。 そうすると,検査済証交付処分が判決により取り消されたからといって,直ちに,上記の是正措置命令,とりわけその中でも重い除却や修繕等の命令がされることにはならず,仮に当該判決を契機としてこれらの命令がされる可能性があったとしても,それは,判決の法的効力に基づくものとはいえず,事実上の効果にとどまるものである。したがって,是正措置命令がされ得ることをもって検査済証交付処分を取り消す判決を求めるための法律上の利益に当たると 解することはできない。 また,指定確認検査機関が完了検査を行い,建築主に対して検査済証を交付したとしても,特定行政庁は,当該建築物等が建築基準関係規定に適合しないと認めるときは,建築基準法9 解することはできない。 また,指定確認検査機関が完了検査を行い,建築主に対して検査済証を交付したとしても,特定行政庁は,当該建築物等が建築基準関係規定に適合しないと認めるときは,建築基準法9条1項又は7項の規定による是正措置命令その他必要な措置を講ずるものとされていること(同法7条の2第7項)からすると,指定確認検査機関による検査済証交付処分の存在は,上記の是正措置命令をする上で法的障害となるものでもないから,同処分を判決により取り消してその法的効果を除去しなければ,是正措置命令による国民の権利又は法律上の利益の回復を図ることができないといった場合にも当たらない。 以上によれば,検査済証交付処分の取消しを求める訴訟は,その対象建築物について除却その他の是正措置命令を求める観点からみて,訴えの利益があるとはいえない。 (3) 原告らは,本件処分に基づいて使用が開始されると,災害時の避難の困難さや,本件建築物からの火災による延焼のリスクが高まり,周辺住民の生命等が侵害されるおそれがあるところ,本件処分につき取消判決がされれば,本件建築物は使用できなくなるのであるから,本件処分の取消しを求める訴えの利益がある旨主張する。 この点,検査済証交付処分が判決により取り消されれば,建築主は当該建築物を使用し,又は使用させることができなくなり(建築基準法7条の6第1項),また,同項の趣旨に鑑みれば,仮の使用もできなくなると解する余地もないではないものの,この建築物の使用又は仮の使用ができなくなるという法的効果を受けるのは,直接には建築主であり,それにより当該建築物の周辺住民が受ける影響は,間接的なものにすぎない。そして,建築物が使用されなけれ ば,当該建築物の周辺住民は,単に当該建築物が存在するにすぎない場合と比較して あり,それにより当該建築物の周辺住民が受ける影響は,間接的なものにすぎない。そして,建築物が使用されなけれ ば,当該建築物の周辺住民は,単に当該建築物が存在するにすぎない場合と比較して,災害時の避難の困難さや当該建築物からの火災による延焼のリスクの点で,原告らが主張する不利益の増大を免れる可能性を考え得るとしても,もとより建築基準法が工事の完了後一定の期間を経過すれば検査済証の交付を受けないままで仮の使用を許していることにも鑑みれば,同法が,周辺住民においてそのような不利益を免れることを,検査済証の交付の処分を介在させることによって,個別具体的に保護しようとしているとまでは解されないものである。結局,違法建築物による危険を抜本的に解決するためには,除却命令その他の是正措置を待たなければならないと考えられるものであり,検査済証交付処分が取り消された場合における,上記のような不利益の増大を免れる可能性についての周辺住民の利益は,法律上保護された利益とはいえない反射的利益にとどまると解さざるを得ない。 以上によれば,検査済証交付処分の取消しを求める訴訟は,当該建築物の使用を止めることを求める観点からみても,訴えの利益があるとはいえない。 上記と異なる原告らの主張は,採用することができない。 (4) 以上に判示したところによれば,本件建築物の周辺住民である原告らには,検査済証交付処分たる本件処分を判決により取り消してその法的効果を除去することによって回復すべき権利又は法律上の利益が存在しているとはいえないから,本件処分を取り消す訴えの利益はないというべきである(最高裁判所平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号4955頁参照。なお,この判決は,建築物の使用が開始された後における建築物及びその敷地の検査済証 消す訴えの利益はないというべきである(最高裁判所平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号4955頁参照。なお,この判決は,建築物の使用が開始された後における建築物及びその敷地の検査済証の交付の取消しを求める訴えの部分についても,訴えの利益がな いとした原審の判断を正当として是認したものである。)。 2 結論よって,本件訴えは,その余の点につき判断するまでもなく,不適法であるから,これを却下することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法65条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第38部 裁判長裁判官谷口豊 裁判官平山馨 裁判官馬場潤

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