令和3年5月10日判決言渡同日原本交付裁判所書記官武田学平成31年第716号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和3年2月26日判決主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求被告は,原告に対し,330万円及びこれに対する平成30年10月12日 から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要内閣府公益認定等委員会に対し,公益財団法人日本レスリング協会(以下「レスリング協会」という。)の強化本部長であった原告が,女子レスリング選手らに対してパワー・ハラスメント(以下「パワハラ」という。)を行ったこと などを内容とする告発状がA弁護士によって提出された。 本件は,原告が,レスリング日本代表男子チーム等のコーチを務めていた被告に対し,被告がA弁護士を介して,出版社及び新聞社に虚偽の内容を含む上記告発状提出の事実をリークしたことにより,週刊誌及び新聞に虚偽の事実が掲載されて原告の名誉を毀損されたと主張して,不法行為による損害賠償請求 権に基づき,慰謝料及び弁護士費用相当額合計330万円並びにこれに対する不法行為の後であり本件訴状の送達の日の翌日である平成30年10月12日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨に より容易に認められる事実) ⑴ 当事者ア原告は,平成20年にはレスリング協会の女子強化委員長に,平成26年にはレスリング協会の強化本部長に就任したが,平成30年4月6日付けで,女子レスリング選手 事実) ⑴ 当事者ア原告は,平成20年にはレスリング協会の女子強化委員長に,平成26年にはレスリング協会の強化本部長に就任したが,平成30年4月6日付けで,女子レスリング選手等に対するパワハラ問題の責任を取って強化本部長を辞任し,同年6月,レスリング協会の常務理事を解任された[甲1 8]。 イ被告は,平成28年9月頃までレスリング日本代表男子チームのコーチを務めており,平成30年当時,警視庁のレスリングチームのコーチを務めていた者である[甲2,被告本人1,5頁]。 ⑵ 本件の経緯 ア A弁護士は,平成30年1月18日付けで,内閣府公益認定等委員会に対し,レスリング協会の現幹部らによって,選手らに対するパワハラや,人事及び会計処理について不適切な行為が行われており,重傷を負った選手への補償もされていないことなどを指摘する内容の告発状(以下「本件告発状」という。)を提出した(以下,この本件告発状の提出を「本件告 発」という。)[甲1]。 イ平成30年3月初め,株式会社文藝春秋が刊行する週刊誌週刊文春(以下,当該週刊誌及びその編集部を併せて「週刊文春」という。)の誌面上及び新聞各社の紙面上に,レスリング協会の幹部がBの練習環境を不当に妨害した,当時男子フリースタイルのナショナルチームのコーチであった 被告に対してBに指導をしないよう不当に圧力をかけたなど本件告発状の内容に関する記事が掲載された[甲8から13まで]。 ウレスリング協会は,平成30年3月9日,上記の週刊文春の記事の掲載を受けて,原告による被告,Bその他の者に対するパワハラの有無等につき,より客観性及び信頼性の高い調査を行うため,第三者委員会を設置し た[甲2]。 エ内閣府公益認定等委員会は,平成30 ,原告による被告,Bその他の者に対するパワハラの有無等につき,より客観性及び信頼性の高い調査を行うため,第三者委員会を設置し た[甲2]。 エ内閣府公益認定等委員会は,平成30年3月12日頃,本件告発状の内容に関して関係者に対する聞き取り調査を行った[甲14,15]。 オ第三者委員会は,平成30年4月5日,調査報告書を公表した。同報告書において,原告の被告又はBに対するパワハラについては,原告がBに対し平成22年2月の合宿中に暴言を吐いたこと,原告が強化委員長を務 める女子強化委員会が同年11月開催のアジア競技大会の代表選手の選考基準を満たしていたにもかかわらず,十分な説明をせずに他の選手を代表選手に選んだこと,原告が被告に対し,平成22年9月開催の世界選手権大会中及び11月の合宿中にBに対する指導をするなと発言したこと,原告が被告を平成27年2月の合宿中に罵倒したことが,それぞれパワハラ に該当すると認定された一方,その他の告発に係るパワハラを認めるに足りる証拠はないとされた。[甲2]カ原告は,平成30年4月6日,第三者委員会により上記オのパワハラが認定された責任を取り,レスリング協会の強化本部長を辞任した[甲18,19]。 レスリング協会は,平成30年6月,第三者委員会により上記オのパワハラが認定されたことを受けて,原告をレスリング協会の常務理事から解任した[甲20,21]。 キ内閣府公益認定等委員会は,本件告発を契機として,関係者に対する聞き取り調査や上記オの調査報告書の内容を踏まえて,平成30年4月27 日付けで,レスリング協会に対し,公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律27条1項及び59条1項に基づき,本件告発状に記載されているパワハラ等について 踏まえて,平成30年4月27 日付けで,レスリング協会に対し,公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律27条1項及び59条1項に基づき,本件告発状に記載されているパワハラ等についてのレスリング協会の認識等について報告するよう求めた[甲6,16]。 ク内閣府公益認定等委員会は,平成30年6月19日付けで,上記キの報 告要求に基づきレスリング協会から同年5月31日に提出された報告書に おいて,レスリング協会から,上記キの報告要求に当たり,公益法人として事業を実施する上で適切性を欠く疑いがあると考えられると指摘した9件の事例は不適切な事例であり,レスリング協会の理事会,評議員及び監事のそれぞれに責任があったとの認識が示されていること,今後この問題等に対する改善のための取組を進める方向が示されていることについて一 定の評価をするとともに,同取組の具体化などレスリング協会の対応を注視していく必要がある旨の協議結果を示した[甲7]。 2 争点及びこれに関する当事者の主張⑴ 被告がA弁護士を介して週刊文春及び新聞各社に対し本件告発についてリークしたか(争点1) [原告の主張]被告は,A弁護士に依頼して本件告発をさせるとともに,平成30年2月下旬頃までには週刊文春に対し,同年2月28日には新聞各社に対し,A弁護士に依頼して,虚偽の事実が多数含まれた本件告発状を内閣府公益認定等委員会に提出した事実をリークさせた。 [被告の主張]否認する。 被告は,A弁護士に対し,本件告発も,週刊文春又は新聞各社に対し,本件告発についてリークさせることも依頼していない。 ⑵ 本件告発状の内容が原告の社会的評価を低下させるか(争点2) [原告の主張] 本件告発も,週刊文春又は新聞各社に対し,本件告発についてリークさせることも依頼していない。 ⑵ 本件告発状の内容が原告の社会的評価を低下させるか(争点2) [原告の主張]原告は本件告発それ自体が不法行為に当たると主張するものではないものの,本件告発状の内容には多数の虚偽の事実が含まれており,それがA弁護士を介した被告による週刊文春及び新聞各社へのリークにより,週刊文春の誌面上及び新聞各社の紙面上で本件告発状の内容が広く報道された結果,原 告の社会的評価が著しく低下した。 [被告の主張]否認ないし争う。 ⑶ 損害の発生及びその額(争点3)[原告の主張]ア慰謝料 300万円 イ弁護士費用 30万円[被告の主張]否認ないし争う。 第3 争点1(被告がA弁護士を介して週刊文春及び新聞各社に対し本件告発についてリークしたか)に対する当裁判所の判断 1 原告は,被告がA弁護士に依頼して本件告発をさせたことを前提として,被告がA弁護士を介して本件告発の内容を週刊文春又は新聞各社に対しリークしたことが名誉毀損の不法行為に当たると主張する。そして,原告は,その根拠として,以下の事実を挙げている。 ⑴ 本件告発状にはレスリング協会又はレスリング関係者でなければ知り得な い事実が記載されており,被告又は被告の先輩であるCの協力がなければA弁護士単独で本件告発状を作成することはできない。 ⑵ 本件告発状には,被告とCの告発内容であって,被告もCも内閣府公益認定等委員会の調査にいつでも応じる旨の記載がある。 ⑶ 本件告発状には,その内容をレスリング協会の幹部に見せないよう懇請す る趣旨の記載があり,これ の告発内容であって,被告もCも内閣府公益認定等委員会の調査にいつでも応じる旨の記載がある。 ⑶ 本件告発状には,その内容をレスリング協会の幹部に見せないよう懇請す る趣旨の記載があり,これはA弁護士が被告及びCの代理人であるが故に記載したものといえる。 ⑷ A弁護士は,平成30年3月13日,内閣府における被告及びCに対する本件告発状についての聞き取り調査に同席していた。 ⑸ 被告は,令和元年7月に行われた女子レスリングの試合にセコンドとして 参加していた際の暴言について行われたレスリング協会の弁明手続において, A弁護士を代理人として同行させた。 ⑹ 被告は,本件訴訟において,弁護士に委任せず自ら訴訟追行をしているところ,被告提出の準備書面の体裁は弁護士の手によるものと見受けられる。 2 しかし,原告が挙げる前記1⑴から⑹までの事実は,被告がA弁護士に委任して本件告発をさせたことを推認するには足りず,まして,被告がA弁護士を 介して本件告発を週刊文春又は新聞各社にリークさせたことを推認するには足りないというべきである。その理由は,次のとおりである。 ⑴ 前記1⑴及び⑵について原告の供述(甲34,原告本人)中には,前記1⑴に沿うか,沿うように見える部分がある。また,証拠(乙1,証人A)及び弁論の全趣旨によれば, A弁護士が,被告及びCから聴取及び確認した内容を前提として本件告発状を作成しており,その冒頭には,仮名ではあるものの,前記1⑵と同旨の記載がされていることが認められる。 しかし,証拠(甲1,乙1,2,証人A,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,大学のレスリング部の先輩であるCに対し,平成22年頃 から様々なことについて相談する中で,本件告発状に記載された事実について話した ,2,証人A,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,大学のレスリング部の先輩であるCに対し,平成22年頃 から様々なことについて相談する中で,本件告発状に記載された事実について話したこと,CがA弁護士に対し,平成29年11月下旬頃以降,Cの友人が指導するレスリング選手が,日本代表チームの合宿中に重傷を負ったものの補償を受けられないことについて協力を依頼し,その過程で,本件告発に関する事実についても話したこと,A弁護士は,被告及びCの代理人名義 ではなく自己名義で本件告発状を作成したことが認められ,上記認定を覆すに足りる証拠はない。 上記認定の事実関係に照らすと,本件告発状に被告しか知り得ない事実が記載されていたとしても,被告がA弁護士に本件告発や,その内容を週刊文春や新聞各社にリークすることを依頼したと推認することはできない。 また,A弁護士は,本件告発状を作成するに当たり,被告から依頼を受け たことはなく,本件告発状の作成に当たって情報を提供したのは主にCであって,被告に対しては,本件告発状の内容が間違いないか確認したにとどまる旨供述している(乙1,証人A3,4頁)。Cから聴取した本件告発に関する事実関係の真偽を確認するためには,その内容を知る被告にも直接話を聴く必要があり,本件告発を受けた内閣府公益認定等委員会において調査す るに当たり,その調査に協力が得られることを明確にする趣旨で,被告のことを本件告発状に記載したとしても特に不自然ではないことに照らすと,前記1⑵の記載があることをもって,被告がA弁護士に本件告発を依頼したと推認することは困難であって,これらの記載があるからといってA弁護士の上記供述を排斥することはできない。 ⑵ 前記1⑶及び⑷について証拠(甲1,証人A) A弁護士に本件告発を依頼したと推認することは困難であって,これらの記載があるからといってA弁護士の上記供述を排斥することはできない。 ⑵ 前記1⑶及び⑷について証拠(甲1,証人A)及び弁論の全趣旨によれば,本件告発状の冒頭には,前記1⑶に係る記載が存在することが認められる。 しかし,A弁護士が,本件告発に当たって事実関係の確認を求めた被告に何らかの不利益が及ぶことを危惧して上記のような懇請をしたとしても何ら 不自然ではないから,上記記載の存在をもってA弁護士が本件告発につき被告の代理人であったと推認することはできない。 また,内閣府が本件告発に関連して被告に対して行った聞き取り調査にA弁護士が同席していたことは当事者間に争いがないものの,A弁護士は,内閣府から,告発者として被告とCに対する聞き取り調査に同席してもらいた いと要請されたため同席した旨供述しているところ(乙1,証人A6頁),A弁護士が本件告発を行った者であることに鑑みると(前提事実⑵ア,前記⑴),A弁護士の上記供述に特段不自然不合理な点はなく,上記供述に係る事実が認められる。そうすると,聞き取り調査に同席したことをもってA弁護士が被告の代理人であったと推認することはできない。 ⑶ 前記1⑸について 令和元年7 月6日に開催されたレスリングの試合中に,セコンドとして参加していた被告が暴言を吐いたことにより退場処分を受けたことにつき,同年8月8日にレスリング協会が弁明手続を開催したところ,A弁護士が被告の代理人としてこれに同行したことは当事者間に争いがない。 しかし,平成30年1月中旬に生じた本件告発の問題と上記の被告の退場 処分に関する問題は,時期を異にしており,後者についてA弁護士が被告の代理人を務めたからと したことは当事者間に争いがない。 しかし,平成30年1月中旬に生じた本件告発の問題と上記の被告の退場 処分に関する問題は,時期を異にしており,後者についてA弁護士が被告の代理人を務めたからといって,当然に本件告発についても被告の代理人であったと推認することはできない。 ⑷ 前記1⑹について被告の準備書面の体裁から直ちにこれを弁護士が作成したものと認めるこ とはできない。 3 以上の次第で,原告の主張する各事実によっては,また,これらの事実を総合しても,被告がA弁護士を代理人として本件告発をさせたこと及びそのことを前提として被告がA弁護士を介して本件告発の内容を週刊文春又は新聞各社に対しリークしたことを推認するに足りず,他に原告の主張を認めるに足りる 証拠はない。 第4 結論よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求には理由がないから,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第12部 裁判長裁判官成田晋司 裁判官末廣祐輔 裁判官満田悟は,転補につき,署名押印することができない。 裁判長裁判官成田晋司
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