平成20(わ)67 業務上横領

裁判年月日・裁判所
平成20年9月19日 函館地方裁判所
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判決文本文19,331 文字)

- 1 -主文被告人は無罪。 理由 第1公訴事実本件公訴事実は,下記のとおり,薬局で出納帳作成等の業務に従事していた被告人が,その売上金の一部を前後4回にわたって横領したというものである。 平成20年3月17日付起訴状の公訴事実被告人は,北海道甲郡a町b町c番地のd所在のA株式会社B薬局に従業員として勤務し,同薬局の売上金の保管,出納帳の作成等の業務に従事していたものであるが,平成18年5月8日,同薬局において同日の売上金を同会社のため業務上預かり保管中,そのころ同所において,同売上金の一部である現金2万0880円を,ほしいままに,自己の用途にあてるため,着服して横領したものである。 平成20年4月9日付起訴状の公訴事実被告人は,北海道甲郡a町b町c番地のd所在のA株式会社B薬局に従業員として勤務し,同薬局の売上金の保管,出納帳の作成等の業務に従事していたものであるが,(1)平成17年6月27日,同薬局において同日の売上金を同会社のため業務上預かり保管中,そのころ同所において,同売上金の一部である現金1万9350円を,(2)同月28日,同薬局において同日の売上金を同会社のため業務上預かり保管中,そのころ同所において,同売上金の一部である現金1万9400円を,いずれも,ほしいままに,自己の用途にあてるため着服して横領したものである。 平成20年5月16日付起訴状の公訴事実- 2 -被告人は,北海道甲郡a町b町c番地のd所在のA株式会社B薬局に従業員として勤務し,同薬局の売上金の保管,出納帳の作成等の業務に従事していたものであるが,平成17年4月20日,同薬局において同日の売上金を同会社のため業務上預かり保管中,そのころ同所において,同売上金の一部である現金1万8220円を,ほしいままに,自己の用途にあ ていたものであるが,平成17年4月20日,同薬局において同日の売上金を同会社のため業務上預かり保管中,そのころ同所において,同売上金の一部である現金1万8220円を,ほしいままに,自己の用途にあてるため,着服して横領したものである。 第2争点の概要本件では,被告人が上記のB薬局(以下,「本件薬局」という。)で勤務していたこと,各公訴事実記載の日に,本件薬局の業務データ上,患者へ返金処理を行ったという架空のデータを作出する処理がなされ,その前後に,返金処理額に相当する現金が本件薬局の売上金から着服されていたことは当事者に争いがなく,証拠上も明らかである(以下では,これらの横領事件を,上記の公訴事実の順に従って,「第1事件」ないし「第4事件」と各々記載するほか,この4件を「本件各横領事件」と総称することがある。)。 検察官は,上記の各不正処理及び売上金の着服を行ったのは被告人であると指摘し,被告人が本件各横領事件の犯人であると主張する。 一方で,被告人及び弁護人は,被告人は当該不正処理を行っておらず,本件薬局の売上金を着服したことも一切ないと主張する。 したがって,本件の争点は,被告人が本件各横領事件の犯人と認められるか否かということになるが,その判断に際しては,上記各不正処理を行ったのが被告人であると認められるかが,主要な問題となる。 第3当裁判所の判断 前提となる事実本件各証拠によれば,以下の事実が明らかに認められる。 (1)被告人は平成11年4月から平成18年5月中旬頃まで本件薬局で勤務し,この間,処方箋の入力,市販薬の販売,各営業日における売上金の確認- 3 -及び出納帳の作成等の業務を担当してきた。 なお,本件薬局においては,上記の期間,被告人以外にも,薬剤師である店長以下数名の従業員が稼働していた。 (2)本件薬局 日における売上金の確認- 3 -及び出納帳の作成等の業務を担当してきた。 なお,本件薬局においては,上記の期間,被告人以外にも,薬剤師である店長以下数名の従業員が稼働していた。 (2)本件薬局では,平成18年5月8日,平成17年6月27日,同月28日及び同年4月20日の各日,いずれも,本件薬局を利用した患者の保険負担割合を3割から0割へ変更し,それにより生じた差額を事後的に当該患者へ返金したという業務データが作出され(以下,この手順による業務データの操作を,「本件不正処理」という。),かつ,それらの返金処理がなされたことを前提にした出納帳も作成されたが,実際は,その対象とされた患者は全く返金を受けていなかった。 本件不正処理は,機械の故障等ではなく人為的な操作によるものであって,これらの事情に照らせば,第1事件ないし第4事件の事件性は明らかである。 (3)なお,本件薬局では,上記の4件以外にも同様の手口による業務データの不正操作が行われており,その回数は,平成15年7月31日から平成18年5月8日まで,合計1218回,529箇日に上っている(以下,これら多数回のデータ操作を,「一連の不正処理」と総称することがある。)。 検察官による立証の構造上記のとおり,本件各横領事件が現実に発生したことは明らかであるものの,被告人は,捜査段階から一貫してその犯人であることを否認しており,これら4件の横領事件について,犯人が被告人であることを直接的に示す証拠はない。 そこで検察官は,本件各横領事件がいずれも被告人の犯行であることを立証するため,まず,Ⅰ:各事件が発生した4期日において,不正処理がなされた時刻に,被告人以外の従業員全員が通常の業務に従事しており当該不正処理を行い得なかったことを立証する,すなわち,被告人以外の従業員全員に広義のア :各事件が発生した4期日において,不正処理がなされた時刻に,被告人以外の従業員全員が通常の業務に従事しており当該不正処理を行い得なかったことを立証する,すなわち,被告人以外の従業員全員に広義のアリバイが成立することを証明することで,いわば消去法的に,被告人が本件不正処理を行ったことを立証しようとした。 - 4 -次いで,Ⅱ:一連の不正処理につき,その全部が被告人の行為によるものであると間接証拠から証明することにより,全体の一部である本件各横領事件も被告人の犯行であることを立証しようとした。 以下では,これらの立証方法について,順に検討を加えることとする。 立証方法Ⅰ:他の従業員らのアリバイによる消去法的立証について(1)前提問題等ア本件不正処理は,それにより生じた差額を着服する以外の目的を有しているとは考えられないから,単独犯か複数犯かの点はともかく,本件不正処理を行った者が本件各横領事件の犯人であると推認するのが相当である。 そして,証拠(証人C,甲4,71)によれば,本件不正処理は,本件薬局内のコンピューターを操作して行われたものと認められる。なお,弁護人は,他の支店等からアクセスされた可能性を指摘するが,本件不正処理に対応する出納帳が本件薬局で作成され,現実に本件薬局から現金が着服されていることに照らせば,そのような可能性は現実的とは言えない。 よって,本件各横領事件の犯行日に,被告人を含む本件薬局で勤務した従業員を特定することができ,かつ,被告人以外の者全員について,本件不正処理を行うことが不可能といえる事情があったのであれば,被告人を本件各横領事件の犯人と推認することもできることになるから,こうした立証方法を一概に否定することは相当でない。 但し,この方法で被告人の犯人性を立証するには,単に,被告人以外の各従業員が行 被告人を本件各横領事件の犯人と推認することもできることになるから,こうした立証方法を一概に否定することは相当でない。 但し,この方法で被告人の犯人性を立証するには,単に,被告人以外の各従業員が行っていた業務内容を推知するだけでは足りず,それらの者に本件不正処理を行う機会がなかったことを証明する必要がある。本件不正処理は短時間でも遂行し得る操作であって(甲80,81等),従業員が何らかの業務に従事していても,その最中に不正処理を行い得る場合には,アリバイとしては不十分ということになるからである。 要するに,本件で検察官が立証すべきアリバイは,犯行の現場における- 5 -不在証明という本来の意味のものとは異なり,犯行現場である本件薬局にいた者に,特定の時刻において,特定の操作を行う機会がなかったという命題なのであり,その立証にはかなりの精密さが必要とされる。 イところで,本件不正処理については,これを行った日時が自動的に記録されており,その正確性に疑問を生じる要素も見当たらない。 他方,本件各横領事件の犯行日における出勤の有無と,本件不正処理の行われた時刻における各従業員の業務状況については,本件薬局における業務の過程でコンピューターに入力されてきたデータ(以下,「本件業務データ」と総称する。)が中心的な証拠とされている。 この本件業務データは,従業員が調剤・鑑査・指導等の業務を行った際,その従業員が,各人に割り振られたIDを用いて,当該業務を行った旨を入力すべきものであるが,後述のとおり,実際には他人のIDを利用して入力されることがあり,また,各種の業務についても,その始期と終期が自動的に記録されるわけではないから,本件業務データのみで各従業員の出勤の有無や勤務状況を正確に知ることはできず,その点については他の証拠によって補完される ,各種の業務についても,その始期と終期が自動的に記録されるわけではないから,本件業務データのみで各従業員の出勤の有無や勤務状況を正確に知ることはできず,その点については他の証拠によって補完される必要がある。 ウ本件業務データには,「調剤」「鑑査」「指導」等の業務が入力される。 このうち「調剤」は,患者に処方する薬剤の調合作業を意味するものであるが,その入力は,実際の調剤業務がなされた際ではなく,「鑑査」の入力をする際に併せて行われることが常態化していた(甲24)。 「鑑査」は,調剤作業が正しく行われたことをチェックする業務である。 その入力は,基本的には鑑査業務の終了直後になされるが,場合によって,「鑑査」を入力した後に実際の鑑査業務を行うこともあった(Dの公判供述)。 「指導」は,薬剤を患者に渡す際に,その服薬方法を指導し,会計等を行う業務である。その入力は,業務の後に行われることも,前に行われる- 6 -ことも,最中に行われることもあった。 以上の入力は,基本的には実際の業務を行った者が自分のIDで行っていたが,「調剤」については,「鑑査」を担当した者が調剤業務担当者のIDを使用して入力するという関係にあった。 また,本件薬局では他の薬局から薬剤師が派遣されて業務を行うことがあったが,その場合,自身のIDではなく,本件薬局に常勤する薬剤師のIDを用いて各種の入力がなされていた(甲22,23等)。 更に,本件薬局では,被告人を含め,薬剤師以外の従業員が調剤を行うことがあったが,その場合,実際には業務を行っていない薬剤師のIDで「調剤」の入力がなされ,薬剤師が調剤業務を行ったとする虚偽の記録が作成されていた(Dの公判供述等)。本件薬局における調剤のうち,いずれが薬剤師以外の従業員によるものかを正確に特定できる証拠はない。 加えて,本件薬 なされ,薬剤師が調剤業務を行ったとする虚偽の記録が作成されていた(Dの公判供述等)。本件薬局における調剤のうち,いずれが薬剤師以外の従業員によるものかを正確に特定できる証拠はない。 加えて,本件薬局では,処方箋の受付日よりも前に薬剤を作り置きしていたこともあり,この場合も,処方箋受付の当日に調剤をした旨,実態に反する入力がなされていた。本件薬局における調剤のうち,いずれが作り置きであったかを正確に特定できる証拠はない。 (2)第1事件(平成18年5月8日)についてア出勤状況(ア)被告人被告人は,当日に出勤した記憶がある旨公判廷で供述しており,特にその信用性を疑うべき事情はない。 被告人は,当日,本件薬局に出勤していたと認められる。 (イ)他の従業員本件業務データ等によれば,当日出勤していた被告人以外の従業員は,D,E,F,Gの4名であると一応推測できる。 イ各従業員のアリバイ- 7 -証拠(甲11)によれば,当日の不正処理が行われたのは,午前10時47分48秒,10時48分10秒の2回であるから,この時刻におけるアリバイの有無が問題となる。 (ア)D本件業務データ(甲15)上,DのIDで,午前10時46分48秒に「指導」の入力がなされていることは認められる。 しかし,同人は,実際の指導業務を終えてから「指導」の入力をすることもあったというのであるから(Dの公判供述参照),当日も「指導」入力後に現実の業務が行われたとは断定できず,上記の記録を以てアリバイと見ることはできない。なお,この「指導」入力の直前に「調剤」の入力もなされているが,作り置きがあり当日には調剤業務がなされていない可能性を排除できないから,この点も「指導」入力後にその業務がなされていたことの確実な証拠とはならない。 また,仮に「指導」入力の後に業務が行 ているが,作り置きがあり当日には調剤業務がなされていない可能性を排除できないから,この点も「指導」入力後にその業務がなされていたことの確実な証拠とはならない。 また,仮に「指導」入力の後に業務が行われたとしても,その業務が本件不正処理の前に終了した可能性は否定できない。この点についてはDによる再現実験があり,業務に1分16秒を要したというのであるが(甲105),それを前提にしても1回目の不正処理とは20秒程度の重なりがあるに過ぎず,誤差の範囲と見ることもできる。 そして,Dは,本件薬局の店長として本件業務データと実際の業務との関係を最も詳しく説明できる立場にあり,現に捜査機関に対し,繰り返しその関係を詳細に説明してきたのである(甲10,24,62,91)が,その際,「調剤は薬剤師が行う作業で,その入力も薬剤師が行っていたので,薬剤師以外の従業員が薬剤師のIDで入力することはない」などと明らかな虚偽を述べていた上(甲24),法廷においても,検察官の尋問に対して「調剤の担当者と調剤の入力IDとは間違いなく一致する」と事実に反する証言をし,更に,薬剤の作り置きをしていた- 8 -時期があったことについても,当公判廷で弁護人から追及されるまでは全く説明していなかったのである。つまり,Dは本件業務データから業務状況を再現することが被告人の刑事責任を判断する上で重要であることを承知しながら,再現の信頼性に直結する問題について虚偽の説明をし,或いは虚偽の証言をし,或いは殊更に秘匿していたのであり,かかる不誠実な姿勢に照らせば,再現実験の中立性,正確性にも相当の疑問を感じざるを得ない。 よって,Dにアリバイが成立すると見ることはできない。 (イ)E本件業務データ(甲15)上,EのIDで,午前10時53分03秒,午前10時53分13秒に「調剤」 も相当の疑問を感じざるを得ない。 よって,Dにアリバイが成立すると見ることはできない。 (イ)E本件業務データ(甲15)上,EのIDで,午前10時53分03秒,午前10時53分13秒に「調剤」の入力がなされていること,その患者については,午前10時37分15秒,午前10時38分02秒に処方箋が入力されており,この日に調剤がなされたとすれば,その作業は上記処方箋入力の後であったこと,Eによる再現実験等によれば,当該調剤作業には最短でも約11分26秒を要するとの結果が出たこと(甲101ないし103)が認められる。 しかし,その調剤についても,作り置きがあり当日には実際の作業を行っていなかった可能性は排除できない。Dは,平成18年には作り置きをしていなかった旨証言するが,先に指摘した説明の経緯等に照らし,容易に信用することができない。 その調剤が当日に行われていたとしても,上記再現実験は複数回実施されているところ,その中には最長で34分37秒を要したものもあり,秒単位のアリバイを検討する材料とできる正確性を有しているのか甚だ疑問であるし,Eも,調剤は薬剤師の仕事であって薬剤師以外の従業員が薬剤師のIDで入力することはない旨虚偽の供述をしていた上(甲92),薬剤を作り置きしていた事実も公判の段階に至って初めて説明し- 9 -たもので,当時の勤務状況を公平中立な姿勢で再現しているのか懸念せざるを得ず,本件不正処理の時刻に調剤が行われていたと断じることはできない。 更に,本件不正処理の時刻に調剤業務が行われていたとしても,本件不正処理自体は短時間で可能な作業であり(甲80,81),調剤業務の最中にこれを行うことも可能であるから,十分なアリバイと見ることはできない(甲100によれば,調剤作業中に,他の作業が行われていた例もあることが認めら で可能な作業であり(甲80,81),調剤業務の最中にこれを行うことも可能であるから,十分なアリバイと見ることはできない(甲100によれば,調剤作業中に,他の作業が行われていた例もあることが認められる。)。 よって,Eにも,アリバイが成立すると見ることはできない。 (ウ)F本件業務データ(甲15)上,DのIDで,午前10時53分06秒,午前10時53分16秒に「鑑査」の入力がなされていること,この入力とそれに対応する鑑査業務は,実際にはFが行っていたこと,同人による再現実験では,その業務と入力に併せて6分23秒を要したことは,証拠(甲18,23,26)から認めることができる。 もっとも,Fは,このときは鑑査業務が終わってから入力の作業を行っていると判断できる旨を供述するが(甲26),その根拠は不明であって,第1事件から2年以上を経過した時点での,細かい業務態様に関する説明であることも考慮すると,業務が入力に先行していたと断定することはできない。 仮に,Fの供述するとおり「鑑査」の入力前に鑑査業務が行われていたとしても,再現実験によれば本件不正処理と重複する時間帯は1分未満である上,その再現実験は,対象日から2年以上を経過した時点でなされたもので,正確性に疑問が残る(なお,Fは,再現実験当日に作成された調書で,被告人を今回の事件の犯人と断定した上で,化粧が濃いとか水商売をしている感じであるとか,調書の趣旨たる業務内容の再現- 10 -とはおよそ関係のない評価を述べており,バイアスが混入している虞も大きい。)。 加えて,そもそも,Fが上記の鑑査の対象とした調剤が,この日に行われていなかった可能性があることも上述のとおりである。 よって,Fにも,アリバイが成立すると見ることはできない。 (エ)G本件薬局の処方箋受付機によって,午前10 査の対象とした調剤が,この日に行われていなかった可能性があることも上述のとおりである。 よって,Fにも,アリバイが成立すると見ることはできない。 (エ)G本件薬局の処方箋受付機によって,午前10時55分に受付の打刻がなされた処方箋が存在すること,その受付機に内蔵されている時計は,平成20年6月の時点で実時刻より8分08秒進んでいることは認めることができる(甲19)。 しかし,処方箋受付を行ったのが被告人ではなくGであると確実に認定できる証拠はない(この点に関する甲27は,Gが,平成20年6月に,平成18年5月8日における本件薬局内の状況や業務内容等を詳細に供述した調書であるが,2年以上前のありふれた場面を具体的に説明していること自体が不自然で信用性に乏しいというべきである。)。 仮にGが上記の処方箋受付を行っていたとしても,受付機の時計が第1事件の当日にどれだけ進んでいたのかを示す証拠はなく,本件不正処理の瞬間に処方箋受付が行われていたか否かは不明である。 よって,Gにも,アリバイが成立すると見ることはできない。 ウ 結論 以上のとおり,第1事件については,被告人以外のいずれの従業員にもアリバイが成立するとは認められないから,この立証方法により被告人の犯人性を認定することはできない。 (3)第2事件(平成17年6月27日)についてア出勤状況(ア)被告人- 11 -証拠(甲37)によれば,この日,被告人が本件薬局に出勤していたものと認めることができる。 (イ)他の従業員証拠(甲35,37)によれば,この日に出勤していた被告人以外の従業員は,E,H,Iの3名であったと推測される。 イ各従業員のアリバイ本件業務データによれば,当日の不正処理が行われたのは,午前11時16分59秒,11時17分27秒の2回であるから,この時刻に 従業員は,E,H,Iの3名であったと推測される。 イ各従業員のアリバイ本件業務データによれば,当日の不正処理が行われたのは,午前11時16分59秒,11時17分27秒の2回であるから,この時刻におけるアリバイの有無が問題となる。 (ア)E本件業務データ(甲37)上,EのIDで午前11時25分21秒に「調剤」,午前11時25分24秒に「鑑査」の入力がなされていること(患者名:J),本人の再現実験によれば,当該作業には合計で約10分を要するとの結果が出たこと(甲95)は認められる。 しかし,その調剤についても,前日までの作り置きがあり,当日には実際の作業が行われていない可能性が否定できない。Eは,この調剤については作り置きをしていないなどと公判で供述したが,証言の経緯等に照らしてにわかに信用できない。 仮に,当日に上記の調剤作業等が行われていたとしても,再現実験の正確性については前記の理由から疑問を差し挟まざるを得ず,本件不正処理の時刻と調剤業務が重複していたと断定することはできない。 なお,検察官は,午前11時25分00秒にはIがEのIDで「調剤」(患者名:K)の入力をしており本件不正処理の時刻にはこの調剤業務も併行して行われていたと主張するが,こちらの調剤についても作り置きでない保証はない上,そもそも,本件薬局では「鑑査」入力の際に「調剤」入力を行う慣行があったから,「調剤」の入力時刻から実際- 12 -の調剤業務がなされた時間帯を推認することはできず,上記の主張は採用できない。 よって,Eにアリバイが成立すると見ることはできない。 (イ)H本件業務データ(甲37)上,DのIDで,午前11時18分13秒,同16秒に,「調剤」,「鑑査」の入力があること(患者名:L),11時19分24秒に「鑑査」の入力があること(患者名:M), イ)H本件業務データ(甲37)上,DのIDで,午前11時18分13秒,同16秒に,「調剤」,「鑑査」の入力があること(患者名:L),11時19分24秒に「鑑査」の入力があること(患者名:M),これらの入力はHが行っていたこと,同人による再現実験では,Lの調剤と鑑査には24秒を,Mの調剤と鑑査には3分23秒をそれぞれ要したことは,証拠(甲42,45)によって認めることができる。 しかし,Lの調剤業務は単純な内容であるから(甲42),実際はHでなく被告人がその作業を行っていた可能性がある。 また,Hの説明(甲48,49,公判供述)によれば,上記業務は,Lの鑑査業務→Mの鑑査業務→Lの鑑査入力→Mの鑑査入力という順でなされたというのであるが,本件薬局では「鑑査」入力は鑑査業務の終了直後に行われることが通例のはずであり,この日については何故通常と違う取り扱いがなされたと断定できるのか疑問である(なお,仮にHの上記説明が正しいとすれば,それは,鑑査業務の終了直後に「鑑査」の入力がなされるとは限らないということを意味するのであり,検察官の本件におけるアリバイ立証全般の前提が崩れることになる。)。 結局のところ,問題の時間帯におけるHの業務状況は不明確というほかなく,同人にアリバイが成立すると見ることはできない。 (ウ)I本件業務データ(甲37)上,DのIDで,午前11時16分51秒に「指導」の入力があること,この入力と指導業務は,実際にはLが行っていたこと,同人による再現実験では,その指導業務に1分47秒を- 13 -要したことは,証拠(甲41,46,50)から認められる。 Lは,「指導」の入力後に実際の指導業務を行うということであり(甲50),再現実験が必ずしも正確でないとしても,僅か8秒で指導業務が終わるとは思われないこと,業務対象と 46,50)から認められる。 Lは,「指導」の入力後に実際の指導業務を行うということであり(甲50),再現実験が必ずしも正確でないとしても,僅か8秒で指導業務が終わるとは思われないこと,業務対象となる患者が本件薬局内にいなかったことを疑わせる事情はないこと(甲30参照),指導業務の際には患者が面前にいることから,その最中に本件不正処理を行うのは困難であること等を考慮すると,Lには本件不正処理を行う現実的な機会が乏しかったというべきである。 よって,Lについては,アリバイが成立すると見てよい。 ウ 結論 以上のとおり,第2事件については,Lにはアリバイを認められるものの,E及びHの両名には検察官の主張するアリバイがあるとはいえず,この立証方法により被告人の犯人性を認定することはできない。 (4)第3事件(平成17年6月28日)についてア出勤状況(ア)被告人証拠(甲37)によれば,この日,被告人が本件薬局に出勤していたものと認めることができる。 (イ)他の従業員証拠(甲35,37)によれば,この日に出勤していた被告人以外の従業員は,E,I,Gの3名であったと推測される。 イ各従業員のアリバイ本件業務データによれば,当日の不正処理が行われたのは,午前10時58分06秒,10時58分33秒の2回であるから,この時刻におけるアリバイの有無が問題となる。 (ア)E- 14 -本件業務データ(甲37)には,EのIDで午前11時20分46秒に「調剤」の入力があること(患者名:N),再現実験上,その業務には16分51秒を要したこと(甲99)は認められる。 しかし,この調剤についても作り置きの可能性が否定できないことはE本人が公判廷で認めるところであるし,仮に,この日に実際の調剤業務が行われていたとしても,その作業時間帯を正確に把握でき 認められる。 しかし,この調剤についても作り置きの可能性が否定できないことはE本人が公判廷で認めるところであるし,仮に,この日に実際の調剤業務が行われていたとしても,その作業時間帯を正確に把握できる証拠はない。この点,検察官は,Oの調剤業務が先行して行われており,それが終わった午前10時55分40秒ころから引き続きNの調剤業務を始めたと主張するのであるが,Oの調剤業務自体この日に行われたのか不明であり,仮にその調剤業務があったとしても,終了後直ちにNの調剤業務を始めたことを認定できるだけの証拠はない。 更に,本件不正処理の時刻にNの調剤業務が実際に行われていたと仮定しても,その最中に本件不正処理を行うことが不可能とはいえない(現に検察官は,この日,EがOの調剤業務をしている最中にPへの指導業務,その「指導」入力,同人の会計業務を併行して行っていた旨主張している他,後述の第4事件についても,Dが調剤の業務中に他の患者に関する鑑査業務,調剤入力,鑑査入力,指導入力,指導業務,会計業務を次々と行ったとの主張立証をしているのであるから,調剤業務中であっても他の行動をなしえないというわけではないと思われる。)。 よって,Eにアリバイが成立すると見ることはできない。 (イ)I本件業務データ(甲37)上,DのIDで,午前10時58分58秒に「鑑査」の入力があること,この入力と鑑査業務は,実際にはLが行っていたこと,同人による再現実験では,その鑑査業務に2分27秒を要したことは,証拠(甲44,47,50)から認められる。 しかし,Lの供述(甲50)は,鑑査対象となる調剤業務が同日に行- 15 -われたことを前提にしているのであるが,この鑑査は上記Oの調剤業務に関するもので,前記のとおり,同人の調剤業務が当日になされた確証はない。これが作り置きだ 対象となる調剤業務が同日に行- 15 -われたことを前提にしているのであるが,この鑑査は上記Oの調剤業務に関するもので,前記のとおり,同人の調剤業務が当日になされた確証はない。これが作り置きだったとすれば,Lの供述や再現実験は実態に反するものとなっている可能性がある。 よって,Lにアリバイが成立すると見ることはできない。 (ウ)GGは,検察官の主張立証を前提にしても,問題の時間帯にいかなる作業をしていたか特定できず,待機中と推測されるということであって(甲39,52),これがアリバイに当たらないことは明白である。 ウ 結論 以上のとおり,第3事件については,被告人以外のいずれの従業員にもアリバイが成立するとは認められないから,この立証方法により被告人の犯人性を認定することはできない。 (5)第4事件(平成17年4月20日)についてア出勤状況(ア)被告人証拠(甲57,58)によれば,当日,被告人が本件薬局に出勤していたことを一応のところ推認することができる。 (イ)他の従業員証拠(甲57,58)によれば,この日に出勤していた被告人以外の従業員は,D,E,Qの3名であったと推測される。 イ各従業員のアリバイ本件業務データによれば,当日の不正処理が行われたのは,午前10時01分50秒,10時02分19秒,10時02分58秒,10時03分26秒の4回であるから,この時刻におけるアリバイの有無が問題となる。 (ア)D- 16 -本件業務データ(甲58)上,DのIDで,午前10時02分09秒に「鑑査」,同17秒に「指導」の入力が順次なされていること,この入力はD本人が行ったことが認められる。 この鑑査の対象となる調剤については作り置きの可能性を否定できず,鑑査業務の存否についても曖昧さが残るが,指導業務については実際にDが なされていること,この入力はD本人が行ったことが認められる。 この鑑査の対象となる調剤については作り置きの可能性を否定できず,鑑査業務の存否についても曖昧さが残るが,指導業務については実際にDが行ったものと推認できる(甲54参照)。そして,その指導業務が「指導」入力の前後いずれで行われたかは判然としないが,当該「指導」入力の前後30秒以内に本件不正処理(1回目及び2回目)が行われていることからすると,Dは,少なくとも本件不正処理のうち1回目か2回目が行われた時間帯には,指導業務に従事していたと推認できる。 指導業務の最中に本件不正処理を行うのは困難と思われることは,先に述べたとおりである。 よって,Dについては,本件不正処理の一部につきアリバイが成立すると見てよい。 (イ)E本件業務データ(甲58)には,EのIDで午前10時04分43秒に「鑑査」の入力があること,再現実験上,その業務と入力には5分24秒を要したこと(甲60)は認められる。 しかし,その鑑査対象となった調剤については,作り置きの可能性を否定できず,本来の手順による鑑査業務が行われていたかは疑問が残る。 Eは,作り置きをしていた場合でも鑑査の手を抜くことは絶対にないなどと証言するが,作り置きに関する供述を始めた経緯に照らせば容易に信用することができない。 仮に当該鑑査業務が問題の時刻に行われていたとしても,その最中に本件不正処理を行うことが不可能とはいえない。 よって,Eには,アリバイが成立すると見ることはできない。 - 17 -(ウ)Q本件業務データ(甲58)には,QのIDで午前10時03分33秒に処方箋の入力がなされた記録があること,再現実験では,その作業に43秒を要したこと(甲61)は認められる。 これによれば,Qは,本件不正処理の3回目及び4回目がなされた時 で午前10時03分33秒に処方箋の入力がなされた記録があること,再現実験では,その作業に43秒を要したこと(甲61)は認められる。 これによれば,Qは,本件不正処理の3回目及び4回目がなされた時間帯には処方箋の入力作業をしていたものと一応推認できるが,その作業をしている最中でも,画面を切り替える機能を使うことで短時間のうちに本件不正処理を行うことは可能であったし,Qも,その機能について一定の知識と経験を有していた(甲80,81,94)。 よって,Qにも,アリバイが成立すると見ることはできない。 ウ 結論 以上のとおり,第4事件についても,被告人以外の従業員全員に関してアリバイが成立するわけではなく,この立証方法により被告人の犯人性を認定することはできない。 ( )帰結 以上の次第であって,他の従業員らのアリバイによる消去法的な立証では,本件各横領事件のいずれについても被告人を犯人と認定することはできない。 立証方法Ⅱ:一連の不正処理全体に関する立証について( )検察官の指摘する間接事実 検察官は,一連の不正処理が同一犯によるものであることを前提に,その全部が被告人によって行われた旨を主張し,その主要な根拠として,下記の事情を指摘する。 ①一連の不正処理は遅くとも平成15年7月31日に始まり,平成18年5月8日まで継続的に行われていたところ,この期間中,本件薬局に継続勤務していたのは被告人のみであること。 ②本件不正処理が行われた日の全てに被告人が出勤しており,その一方で,- 18 -被告人が欠勤した日には,本件不正処理が一切行われなかったこと。 ③一連の不正処理が行われた期間,その不正処理がなされた時間帯につき,被告人に明確なアリバイがないこと。 ④仮に一連の不正処理を行ったのが被告人でないとすれば,被告人以外の従 われなかったこと。 ③一連の不正処理が行われた期間,その不正処理がなされた時間帯につき,被告人に明確なアリバイがないこと。 ④仮に一連の不正処理を行ったのが被告人でないとすれば,被告人以外の従業員全員が共謀していたと考えるほかないが,経験則から見て,かかる事態はあり得ないこと。 ⑤被告人が本件薬局に就職する以前から同様の犯行が行われていた事実はないこと。 ⑥本件薬局の店長が平成18年5月9日に不正な返金処理の件を被告人に確認したところ,それ以降,同様の不正処理が一切発生しなくなったこと。 ⑦被告人は,当初,本件業務データがおかしいなどと主張するだけで本件各横領事件の発生日のアリバイを合理的に説明できなかった上に,捜査・公判を通じて虚偽の供述をしていること。 ⑧被告人は,本件薬局の出納帳作成者として,返金処理が頻繁になされていることを目にしていながら,これを店長に報告していなかったこと。 ⑨被告人は,本件不正処理を行えるだけの知識と経験を有しており,かつ,犯行の対象とするに好都合な高額医療費の負担者を的確に選び出すことができる立場にあったこと。 ⑩被告人は,一連の不正処理が行われていた期間には,化粧品等に高額の支出をしていた上,その発覚後は,化粧品等の出費が極端に減少したこと。 ( )各間接事実に関する検討 一連の不正処理が同一の手口によっていること,その手口がかなり複雑であること,不正処理が行われた時間帯が概ね共通していることといった点に照らすと,一連の不正処理は同一の人物又は犯行グループによるものと推測するのが合理的であるから,これを前提に以下検討を加える。 ア上記①について- 19 -証拠(甲8等)によれば,一連の不正処理が行われた期間を通じて本件薬局に勤務していたのは,被告人のみであったことが認められる。 この ,これを前提に以下検討を加える。 ア上記①について- 19 -証拠(甲8等)によれば,一連の不正処理が行われた期間を通じて本件薬局に勤務していたのは,被告人のみであったことが認められる。 この一事を以て被告人が一連の不正処理の全部を行ったと断定できるか否かはともかく,かかる事情が,一連の不正処理につき被告人の犯人性を推認させる方向に作用することは確かである。 イ上記②について検察官は,一連の不正処理が行われた期間における被告人の出勤状況と各業務日における不正処理の有無を対照した一覧表を証拠として提出する(甲7。以下「本件一覧表」という。)。これによれば,本件不正処理が行われた日には全て被告人が出勤しており,被告人が欠勤した日には不正処理が一切行われていないことになっている。 しかし,本件一覧表の記載を前提にしたとしても,被告人は本件薬局の営業日には殆ど毎日出勤していたのであるから,その出勤日と不正処理のあった日が合致することが決定的な意味を持つとはいえないし,被告人の欠勤日にのみ不正処理が行われなかったという関係にもない。 そして,本件一覧表は,本件業務データに記録されているIDの有無を基本的な資料とし,他の資料とも照合して作成されたということであるが(検察官の平成20年9月10日付け証拠調べ請求書等),本件薬局では,他者のIDを用いて業務データを入力することや,実際の業務日と異なる日を業務日として入力することが常態化していたのであるから,本件業務データに記録されている被告人のIDがその出勤・欠勤状況を正確に反映していると見てよいか大いに疑問である。Dは,本件業務データに被告人のIDによる入力があれば被告人が出勤していることになる旨供述するが(甲10),同人による業務状況の説明が甚だ誠実さを欠くものであることは先に示したとおり に疑問である。Dは,本件業務データに被告人のIDによる入力があれば被告人が出勤していることになる旨供述するが(甲10),同人による業務状況の説明が甚だ誠実さを欠くものであることは先に示したとおりであるから,軽々に信を措くことができない。 更に,本件薬局の「残業・休日出勤報告書」には,被告人とDが出勤し- 20 -ていた第4事件の当日に,両名が休暇を取ったとの記録が残されているのであり(甲57),これが検察官の参照した「他の資料」であれば勿論問題が大きいし,そうでないとしても,本件薬局における勤務記録が全般的に不正確なのではないかとの疑問を容易に払拭することができない(甲57は,第4事件当日に出勤していた従業員を特定するための証拠であって,その日に被告人とDが休暇を取ったことにされている上記出勤報告書を引用した上で,本件薬局での業務慣行等から見ると実際には両名が出勤していた可能性が高い旨を推測する内容となっているが,本件薬局に正確な勤務記録が存在するのなら,こうした迂遠な方法で出勤者を説明する必要は少しもないのである。しかも,第4事件は数百件にも亘る一連の不正処理の中でも証拠が確実であるとして起訴された4件のうちの一つであり,それについてすらこのように危うい方法でしか出勤者を特定できないことに注目しないわけにはいかない。)。 結局のところ,本件一覧表は被告人の出勤状況を正確に反映していない可能性が相当程度あると言わざるを得ない。 よって,検察官による上記②の主張は前提に疑問が残り,採用できない。 ウ上記③について本件において,一連の不正処理全体につき,被告人が確実なアリバイを立証できていないことは検察官が指摘するとおりである。 しかし,被告人におけるアリバイ立証の不成功が不利益に作用するのは例外的な場合に限られると解すべきところ,本 全体につき,被告人が確実なアリバイを立証できていないことは検察官が指摘するとおりである。 しかし,被告人におけるアリバイ立証の不成功が不利益に作用するのは例外的な場合に限られると解すべきところ,本件では,約2年から5年も前の,ごく日常的な勤務における特定の時刻に関するアリバイを逐一立証できないことはむしろ当然であり,これを不利益な要素と見る余地はない。 よって,上記③の点は,被告人の犯人性を推認させる事情とはいえない。 エ上記④について本件では,被告人が犯人でないことが「被告人以外の従業員全員による- 21 -共犯」に直結する関係はないし,複数の職員間で不正行為が引き継がれることも,経験則上ないわけではない。 検察官は,本件各横領事件以外にも,平成18年4月28日など被告人以外の従業員全員につき不正処理が不可能であった日があると主張するが(甲108),Dについては「指導」の入力前に指導業務を行っている可能性,Eについては調剤が作り置きだった可能性が指摘でき,この点に関する検察官の主張を採用することはできない。 オ上記⑤について被告人は本件薬局にその開局時から勤務していたのであるから(甲8),被告人の就職前には同様の犯行がなかったというのは,あまりにも当然のことである。検察官の指摘に特段の意味を見出すことはできない。 カ上記⑥について検察官の指摘する事実は認められるが,平成18年5月9日には,DやGら被告人以外の従業員においても,不正処理の件が本社に発覚してその調査が始まったことを知るところとなっていたのであるから,この点も,必ずしも被告人の犯人性を推認させる事情とはいえない。 キ上記⑦について前記のとおり,日常業務における特定時刻のアリバイが説明できないとしても何ら不自然なことではないし,本件業務データには業務実態と合致し 告人の犯人性を推認させる事情とはいえない。 キ上記⑦について前記のとおり,日常業務における特定時刻のアリバイが説明できないとしても何ら不自然なことではないし,本件業務データには業務実態と合致しない記録が多々含まれているのだから,これをおかしいと指摘するのはむしろ至極正当な反論である。 また,検察官が被告人の虚偽供述として挙げるところは,本社の監査が入ると知ったのは平成17年6月中か同年7月5日かとか,Dから本件不正処理について聴かれたのは平成18年5月9日の午前9時ころか同日の夕方かなど,平成20年の現時点では記憶の混乱や変容があっても仕方のない細かいエピソードであり,被告人が敢えて虚偽の供述をしたと見るに- 22 -は疑問もあるし,仮に,被告人が一部で記憶に反する供述をしたとしても,それは,被告人の供述の信用性を減殺させる事情となるに過ぎず,犯人性に関する検察官の立証を強化するわけではない。 結局,上記⑦の点も被告人の犯人性を推認させる要素とは認められない。 ク上記⑧について証拠(Dの公判供述)によれば検察官指摘の事実は認められるが,他方,被告人は,返金処理がなされていたことを隠していたわけではなく,主に被告人が作成していた出納帳には,返金処理の有無と額が明記されていたのである。そして,日々の出納帳については,Dが本件薬局の店長として「承認」していたが(甲12等),同人は,平成18年5月に至るまで返金処理を全く問題にしていなかったし,平成17年7月に実施された社内監査(甲4)の際にも特段の指摘などはなかったのであるから,被告人が返金処理の点を特に疑問視して店長等に報告しなかったとしても,別段不自然とはいえない。 よって,上記⑧の事情も被告人の犯人性を格別推認させるものではない。 ケ上記⑨について被告人の勤務歴や職務内容から 処理の点を特に疑問視して店長等に報告しなかったとしても,別段不自然とはいえない。 よって,上記⑧の事情も被告人の犯人性を格別推認させるものではない。 ケ上記⑨について被告人の勤務歴や職務内容からすれば検察官指摘の事情は認められるが,それは,被告人を本件不正処理の実行者と見ても矛盾しないという程度の間接事実に過ぎない。本件薬局には,被告人以外にも同様の知識や能力を持つ従業員がいるのであるから,この事情は,被告人の犯人性を積極的に推認させるものとはいえない。 コ上記⑩について証拠(甲68)によれば,一連の不正処理が生じていた期間,被告人が化粧品や衣料品等に比較的高額の支出をした月があったことは認められる。 しかし,その額は最大でも15万円程度であり(最高で35万円以上とする甲69の捜査報告書は,根拠とした資料等が不明で信用できない。),- 23 -家計の状況(乙1によれば被告人夫婦の月収は50万円以上である。)に照らしても,異常な高額とまでは言えない。 そもそも,一連の不正処理全体で領得された金額は1000万円以上になるというのであり(甲7),この巨額の着服を化粧品代程度の支出から推認しようとすることには無理があると言わざるを得ない。 よって,上記⑩の点も,被告人の犯人性を推認させる事情とはいえない。 ( )間接事実の総合評価 以上によれば,被告人と一連の不正処理全体の結びつきを肯定する事情と見てよいのは上記①の点のみということになるが,これは,それなりに注目すべき間接事実と評価することもできる。 しかし,検察官の立証方法Ⅱは一連の不正処理が全て被告人によるものと立証することで本件各横領事件の犯人が被告人であることを証明するものであるから,一連の不正処理のうちに,被告人の行為と考えるには疑問が残る事件が1つでもあれば,その立証は成 が全て被告人によるものと立証することで本件各横領事件の犯人が被告人であることを証明するものであるから,一連の不正処理のうちに,被告人の行為と考えるには疑問が残る事件が1つでもあれば,その立証は成り立たないことになる。 然るに,上記②で示したところからすれば,被告人が欠勤した日に1回も不正処理が行われていないという断定はできない。また,個別に観察しても,平成15年10月3日,同月10日等,被告人が本件業務データに入力した数秒後に不正処理がなされている日が複数ある(弁4。本件不正処理は最短4秒で可能という証拠もあるので厳密なアリバイとは言えないが,検察官も,被告人以外の従業員に関しては,本件業務データへの入力から数秒後に不正処理を行うのは不可能ないし困難と指摘しているのであって,データ入力と不正処理との間隔が数秒であることは,その者がその不正処理をしたことに疑問を生じさせる事情であるとは言えよう。)。これらの点を念頭に置くと,一連の不正処理が行われた期間を通じて本件薬局に勤務していたのは被告人のみであったという一事を以て,被告人がその不正処理の全てを実行したと認定するには,なお合理的な疑いが残るというべきである。 - 24 -故に,この立証方法によっても,被告人を本件各横領事件の犯人であると認めることはできない。 結論 よって,本件の各公訴事実については,いずれについても犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により,被告人に無罪の言い渡しをする。 (求刑-懲役2年)平成20年9月19日函館地方裁判所刑事部裁判官岡田龍太郎 太郎

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