平成26(ワ)444

裁判年月日・裁判所
平成27年2月17日 広島地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-85142.txt

判決文本文9,703 文字)

- 1 -主文 1 被告は,原告に対し,7万円を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを7分し,その1を被告の,その余を原告の各負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,50万円を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,原告が,広島刑務所に収容中,同刑務所の職員に対し複数回にわたり花粉症の症状を訴えたにもかかわらず,医師による診察も薬の投与もされないまま35日間放置されたため,症状が悪化し苦痛を受けたと主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料50万円の支払を求める事案である。 2 本件の前提となる事実は,次のとおりである。 (1) 原告の収容の経緯原告は,平成23年4月5日,東京拘置所に収容され,同年8月12日,東京地方裁判所において有罪判決を受け,同年12月29日にその裁判が確定したことにより懲役刑受刑者となった。 原告は,平成24年1月17日,東京拘置所から広島刑務所に移送され,その後,同刑務所に収容されていた(弁論の全趣旨)。 (2) 広島刑務所の医療態勢ア広島刑務所において被収容者の医療を担当する医務部には,平成26年3月当時,常勤医師として,医務部長1名,保健課長1名,医療課長1名及び法務技官医師1名の合計4名が配置され,そのほかに,同部の事務を行う保健課長補佐(看守長)1名,係長1名及び副看守長1名,さらに,法務技官薬剤師2名,法務技官臨床検査技師1名,法務技官看護師9名及- 2 -び准看護師の資格を有する職員3名が配置されていた。なお,准看護師の資格を有する職員は,保健助手(医師の監督を受けながら被収容者に対する医療を補助する者)の指定を受けていた(弁論の全趣旨)。 イ平成18年5月23日付け矯医訓第3293号法務大臣訓令「 准看護師の資格を有する職員は,保健助手(医師の監督を受けながら被収容者に対する医療を補助する者)の指定を受けていた(弁論の全趣旨)。 イ平成18年5月23日付け矯医訓第3293号法務大臣訓令「被収容者の保健衛生及び医療に関する訓令」(乙7)は,刑事施設の長は,被収容者が負傷し,又は疾病にかかっている旨の申出をした場合には,医師がその申出の状況を直ちに把握できる場合を除き,看護師又は准看護師にその状況を把握させ,当該看護師又は准看護師に診察の緊急性等を判断させた上で医師へ報告させるものとし(10条1項),上記報告がされたときは,医師において診察の要否を判断するものとしている(同条2項)。また,昭和52年3月9日付け矯医訓第462号法務大臣訓令「備薬箱の設置及び取扱規程」(乙8)では,保健助手は,必要に応じて備薬等を携行し,被収容者に対して家庭医療程度の応急処置を行うこととされ(3条,1条1項),この処置を行うに当たっては,当該被収容者の心身の状況を観察し,医官の診察を受けさせることが適当と認めたときは,速やかに医官に報告しなければならないものとされている(4条)。 広島刑務所においては,准看護師の資格を有する職員が,週に1回,工場及び居室棟を巡回して,被収容者から直接医療上の主訴を確認し,主訴に応じて家庭医療程度の応急処置に必要な薬剤を投与するとともに,医師の診察を受けさせることが適当と認められた場合にはその旨を医師に報告するなどの業務(以下「備薬巡回」という。)を行っており,備薬巡回の際,被収容者から負傷や疾病等医療上の願い出を受け付け,医師の診察を願い出る者があれば,当該准看護師がその者の身体の状況を確認した上,医師の診察を受けさせることを適当と認めたときは,医師に報告して診察の要否について判断を仰いでいる。また,被収容者 け,医師の診察を願い出る者があれば,当該准看護師がその者の身体の状況を確認した上,医師の診察を受けさせることを適当と認めたときは,医師に報告して診察の要否について判断を仰いでいる。また,被収容者に突発的な身体の不調等を生じた場合は,その都度医師による医療上の措置を実施している- 3 -(弁論の全趣旨)。 (3) 平成24年及び平成25年における原告の花粉症についての診察等ア広島刑務所医務部長法務技官医師C(外科専門。以下「C医師」という。)は,平成24年4月3日に原告を診察した際,原告より1か月前から目のかゆみ及び鼻水の各症状があること並びに8年前から季節性の花粉症であることの申出があり,原告の両側鼻腔に発赤及び鼻汁の症状が認められたため,アレルギー性鼻炎と診断し,抗ヒスタミン剤であるクレマスチンを1日1回朝食後に1錠投与することとし,28日分を処方した(乙1,2,5)。 イ広島刑務所医務部医療課法務技官医師D(以下「D医師」という。)は,平成25年4月9日に原告を診察した際,原告より目のかゆみ,鼻水及び咽頭痛の各症状の申出があり,原告の扁桃腺に排膿はないものの,発赤が認められたため,花粉症と診断し,クレマスチンを1日1回朝食後に1錠投与することとし,28日分を処方した(乙1,2,5)。 (4) 平成26年における原告の花粉症についての診察等ア平成26年3月6日の申出原告が所属する工場においては,毎週木曜日に備薬巡回が行われていたところ,原告は,平成26年3月6日に実施された備薬巡回の際,准看護師の資格を有する広島刑務所医務部医療課矯正処遇官副看守長A(以下「A准看護師」という。)に対し,花粉症,胃もたれ及び唇あれの各症状がある旨の申出(以下「3月6日の申出」という。)をした。A准看護師は,胃もたれ及び唇あ 務所医務部医療課矯正処遇官副看守長A(以下「A准看護師」という。)に対し,花粉症,胃もたれ及び唇あれの各症状がある旨の申出(以下「3月6日の申出」という。)をした。A准看護師は,胃もたれ及び唇あれの各症状に対し,胃痛散及びワセリン軟膏をそれぞれ投与するとともに,花粉症についての原告の症状を確認し,その結果をD医師に報告した。 D医師は,A准看護師の上記報告を受け,原告の花粉症の申出について,直ちに診察を行わなければならないほどの必要性はないと判断し,原告の- 4 -診察を行わなかった(乙1から3まで)。 イ平成26年3月13日の申出原告は,平成26年3月13日に実施された備薬巡回の際,A准看護師に対し,花粉症,胃もたれ及び唇あれの各症状がある旨の申出(以下「3月13日の申出」という。)をした。A准看護師は,胃もたれ及び唇あれの各症状に対し,胃痛散及びワセリン軟膏をそれぞれ投与するとともに,花粉症についての原告の症状を確認した上,D医師に対し,原告の主訴及び症状のほか,原告が平成25年4月に花粉症と診断され,クレマスチンの投薬治療を受けていたことを報告した。 D医師は,A准看護師の上記報告を受け,原告の花粉症の申出について,直ちに診察を行わなければならないほどの必要性はないと判断するとともに,前記(3)アのとおり,原告が季節性の症状である旨を申告していたことから,同イの平成25年における診察と同時期である平成26年4月上旬頃に原告の花粉症についての診察を行うこととし,この時点では原告の診察を行わなかった(乙1から3まで)。 なお,原告は,平成26年3月20日に実施された備薬巡回の際,A准看護師に対し,胃もたれの症状がある旨の申出をし,胃痛散の投与を受けたが,花粉症に関する申出はしなかった(乙1,3)。 ウ平成26年 お,原告は,平成26年3月20日に実施された備薬巡回の際,A准看護師に対し,胃もたれの症状がある旨の申出をし,胃痛散の投与を受けたが,花粉症に関する申出はしなかった(乙1,3)。 ウ平成26年3月27日の申出原告は,平成26年3月27日に実施された備薬巡回の際,A准看護師に対し,花粉症,胃もたれ及び下痢の各症状がある旨の申出(以下「3月27日の申出」という。)をした。A准看護師は,胃もたれ及び下痢の各症状に対し,胃痛散及び整腸散をそれぞれ投与するとともに,原告に花粉症の症状(目及び鼻水の症状)が認められると判断して,C医師にその旨の報告をした。 C医師は,A准看護師の上記報告を受け,前記イのD医師の判断と同様- 5 -の判断をし,具体的な実施日は未定であるが,平成25年における診察と同時期に原告の花粉症についての診察を行うこととし,この時点では原告の診察を行わなかった(乙1から3まで)。 エ平成26年4月3日の申出原告は,平成26年4月3日に実施された備薬巡回の際,A准看護師に対し,花粉症,胃もたれ,下痢及び水虫の各症状がある旨の申出(以下「4月3日の申出」という。)をした。A准看護師は,胃もたれ,下痢及び水虫の各症状に対し,胃痛散,整腸散及びサルチル酸軟膏をそれぞれ投与するとともに,原告に花粉症の症状(目及び鼻水の症状)が認められると判断して,C医師にその旨の報告をした。 C医師は,A准看護師の上記報告を受け,次回の診察日に原告の花粉症についての診察を行うこととした(乙1から3まで)。 オ診察の実施広島刑務所医務部保健課法務技官医師E(外科専門。以下「E医師」という。)は,平成26年4月10日,原告を診察し,原告より目のかゆみ及び鼻閉の各症状が毎年出るとの申出を受け,花粉症と診断した上,ヒスタミンH1受 部保健課法務技官医師E(外科専門。以下「E医師」という。)は,平成26年4月10日,原告を診察し,原告より目のかゆみ及び鼻閉の各症状が毎年出るとの申出を受け,花粉症と診断した上,ヒスタミンH1受容体拮抗剤であるエバスチン10mgを1日1回夕食後に1錠投与することとし,28日分を処方した(乙1,2,6)。 3 争点及びこれに関する当事者の主張(1) 原告による花粉症の症状の申出に対し,平成26年4月10日まで診察や薬の投与が行われなかったことが,国家賠償法上違法であるか(争点1)。 (原告の主張)原告には花粉症の持病があり,広島刑務所に収容中の平成24年4月及び平成25年4月には,花粉症の症状を申し出た翌日に医師の診察が行われ,薬が投与された。 しかし,平成26年においては,3月6日の申出の際,原告に花粉症の症- 6 -状が現れていたにもかかわらず,広島刑務所の医師は,花粉症の症状の有無や軽重を判断できないA准看護師の見立てに依存して,原告を直接診察することなく経過観察とした。そして,原告がその後3回にわたり医師の診察を求め,A准看護師も花粉症の症状が認められる旨の報告をしたにもかかわらず,広島刑務所の医師は,花粉症は季節性のものであり前年と同時期に診察を行えば足りるとの不合理な判断に基づき,平成26年4月10日まで原告の診察を行わなかった。 このように,広島刑務所の医師が35日間にわたり原告の診察をすることなく放置したため,原告の花粉症の症状は重篤なものとなったのであり,上記のような対応は,国家賠償法上違法である。 (被告の主張)ア 3月6日の申出の際,原告に花粉症の症状は全く認められず,3月13日の申出の際も原告には鼻水をすする程度の状況しかなかったため,A准看護師からその旨の報告を受けたD医師は,診察の必要性 主張)ア 3月6日の申出の際,原告に花粉症の症状は全く認められず,3月13日の申出の際も原告には鼻水をすする程度の状況しかなかったため,A准看護師からその旨の報告を受けたD医師は,診察の必要性はないと判断する一方,A准看護師に指示をして,原告にマスクの着用等の花粉症予防を徹底するよう指導させた。 イ 3月27日の申出の際には,原告に目の充血等の症状は見受けられない一方で,鼻声であったが,A准看護師からその旨の報告を受けたC医師は,鼻声となる程度の鼻水の出現が認められるだけではまだ花粉症と診断して薬物療法を実施すべき段階には至っていないとして,引き続き経過観察をすることとした。 そして,4月3日の申出の際,原告には目の周りに手でこすった跡のような発赤及び鼻水による鼻閉症状が認められ,花粉症の初期症状と同様の症状が確認されたため,A准看護師は,C医師にその旨を報告したところ,C医師は,直ちに診察を要する症状ではないが,初期症状のうちに薬物療法を開始することが適当であると判断して,A准看護師に診察日程を調整- 7 -するよう指示し,同月10日に原告の診察が行われることとなった。 ウ E医師が平成26年4月10日に原告を診察したところ,原告には目の周りに手でこすった跡のような発赤及び鼻水による鼻閉症状が認められ,花粉症の初期症状と推認される程度のものであったが,今後,花粉の飛散状況によってはアレルギー症状が強まることも予想されたことから,予防的に28日分のエバスチン錠を処方した。 エこのように,原告に花粉症によるアレルギー症状が出現したと認め得るのは,平成26年4月3日から同月10日頃であり,同日の診察後,その症状は軽快しているから,広島刑務所の医師の判断及び診療は的確であったというべきであり,少なくとも,医師に認められた医 たと認め得るのは,平成26年4月3日から同月10日頃であり,同日の診察後,その症状は軽快しているから,広島刑務所の医師の判断及び診療は的確であったというべきであり,少なくとも,医師に認められた医学的な裁量を逸脱しているとはいえない。 (2) 原告の損害額(争点2)(原告の主張)医師の診察や薬の投与が行われなかったため,原告は,鼻水が出るたびに鼻をかむことで鼻の粘膜をやられたほか,眉間に鈍痛が起こるようになった。また,夜間に鼻をかむことで同房者に迷惑をかけないようにするため,鼻にちり紙を詰めて寝ていたが,口で呼吸をするために慢性扁桃腺炎の持病が悪化した。 原告が4回にわたり診察をするよう求めたにもかかわらず,35日間も放置されたことで,原告は,上記のような苦痛を受けたから,その慰謝料としては50万円が相当である。 (被告の主張)損害額に関する原告の主張は争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(平成26年4月10日まで原告の診察や薬の投与が行われなかったことの違法性)について- 8 -(1) 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律は,刑事施設においては,被収容者の心身の状況を把握することに努め,被収容者の健康及び刑事施設内の衛生を保持するため,社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとし(56条),刑事施設の長は,被収容者が疾病にかかっているとき,又はその疑いがあるときには,速やかに,刑事施設の職員である医師等による診療を行い,その他必要な医療上の措置を執るものとしている(62条1項1号)。そして,被収容者は,自己の意思により自由に刑事施設外の医師の診療を受けることができないことも考慮すれば,刑事施設において被収容者に講じられる医療上の措置は,基本的には,一 いる(62条1項1号)。そして,被収容者は,自己の意思により自由に刑事施設外の医師の診療を受けることができないことも考慮すれば,刑事施設において被収容者に講じられる医療上の措置は,基本的には,一般の国民が受けられる医療行為と同水準のものであることが求められるというべきである。 もっとも,多数の被収容者を抱える刑事施設において,被収容者に対する医療上の措置を講ずるための人的,物的な態勢を整備することには自ずと限界があるから,被収容者から傷病に罹患した旨の申出があっても,直ちに医師による診療を実施することが常に可能であるとは限らず,症状の重篤性や緊急性等に応じて,診療の要否や時期等の判断をせざるを得ない場合もあることは否定し難い。 したがって,被収容者から医師の診察を求める旨の申出があった場合に,医師の診察を行うか否か,また,行うとしていかなる時期に行うかなどの判断については,被収容者の心身の状況やそれについての刑事施設の職員である医師の所見,当該刑事施設の医療態勢等の具体的状況を踏まえた刑事施設の長の合理的な裁量に委ねられているというべきであるが,その判断が裁量権の範囲を逸脱し,又はその濫用に当たる場合には,国家賠償法上違法と評価されるものと解するのが相当である。 (2) 花粉症については,花粉の飛散開始前又は症状のごく軽い時期から薬物を予防的に服用することで,症状の発現を遅らせたり,症状を軽くしたりする- 9 -「初期療法」が有効であるとされ,一般にもそのような治療が多く行われているものと認められるのであり(乙14・9頁,乙15・33頁),その治療内容が刑事施設内で実施することに困難を伴うようなものであるなどの事情もうかがわれない。 そうすると,刑事施設において,被収容者が花粉症の症状を訴え,その治療を求めている場合には 3頁),その治療内容が刑事施設内で実施することに困難を伴うようなものであるなどの事情もうかがわれない。 そうすると,刑事施設において,被収容者が花粉症の症状を訴え,その治療を求めている場合には,早期に医師による診察を行って初期療法の実施を検討することが,一般的な医療行為の水準に適う医療上の措置であるということができ,業務上の支障があるなどの特段の事情がない限り,速やかに上記措置を講ずることが求められるというべきである。 (3)ア平成26年における原告の花粉症の症状の申出及びこれに対する広島刑務所の医師等の対応に関する経緯は,前記第2の2(4)のとおりであるところ,原告が初めてA准看護師に花粉症の自覚症状を訴え出た3月6日の申出の時点で,原告の外見上花粉症の症状と見受けられるような状況があったかどうかについては必ずしも明らかではないが,原告は,次の備薬巡回に際し再度同様の申出(3月13日の申出)をし,また,A准看護師も原告に鼻水をすする状況があることを確認している(乙13)のであり,原告が平成24年及び平成25年にも花粉症を発症し治療を受けていることにも照らせば,この時点で,原告には少なくとも花粉症を発症する兆候が見られたということができる。 なお,被告は,平成26年3月20日に実施された備薬巡回の際には原告が花粉症に関する申出をしていないことを指摘するが,原告によれば,3月13日の申出に対し,既に診察の予約を入れているから待つようA准看護師に言われたため申出をしなかったというのであり,現に3月13日の申出を受けて同年4月上旬頃の診察が予定されていたこと(前記第2の2(4)イ)に鑑みれば,そのような事情があったことも十分に考えられる。 したがって,原告が同年3月20日の備薬巡回に際し花粉症に関する申出- 10 -をしなかっ が予定されていたこと(前記第2の2(4)イ)に鑑みれば,そのような事情があったことも十分に考えられる。 したがって,原告が同年3月20日の備薬巡回に際し花粉症に関する申出- 10 -をしなかったことをもって,この頃までに原告に花粉症の症状又はその兆候が出現していた事実がなかったということはできない。 イ前記(2)のとおり,花粉症に対しては初期療法が有効とされているところ,花粉の飛散開始の時期は毎年一定であるとは限らず(乙16の1から3まで),また,症状の発現時期にも個人差があるものと考えられるのであるから,D医師が,3月13日の申出に当たり原告に鼻水をすする状況が見られたことや,原告が平成25年にも花粉症の症状を訴えて治療を受けていることの報告をA准看護師から受けながら,同年における診察と同時期である平成26年4月上旬頃に診察を行えば足りると判断したことの合理性には,疑問があるものといわざるを得ない。 ウそして,3月27日の申出の際には,A准看護師も原告に花粉症の症状(目及び鼻水の症状)が認められると判断して,C医師にその旨の報告をしたもので,上記のとおり原告が平成25年にも花粉症の治療を受けていることや,平成26年においても3月6日の申出以降既に複数回にわたり花粉症の症状を訴え出ていることも踏まえれば,C医師は,この時点で,少なくとも,原告を直接診察してその症状の有無や程度を確認し,薬の投与等の初期療法を実施することの要否について判断することが相当であったというべきである。 しかし,C医師は,なおも原告を直接診察することなく,前記イのD医師の判断と同様に,平成25年における診察と同時期に原告の診察を行えば足りるとしたもので,その判断に合理性を認めることは困難である。 エ被告は,少数の医師によって多数の被収容者の医療需 記イのD医師の判断と同様に,平成25年における診察と同時期に原告の診察を行えば足りるとしたもので,その判断に合理性を認めることは困難である。 エ被告は,少数の医師によって多数の被収容者の医療需要に対応しなければならない我が国の矯正医療全般に関する実情を指摘した上,平成26年3月頃の広島刑務所における医療態勢も同様であったと主張するが,花粉症に関する原告の一連の申出に対して直ちに医師の診察を受けさせることができなかった具体的な事情は何ら示されておらず,また,原告の診察- 11 -を直ちには行わないとのD医師及びC医師の判断に際し,上記事情が考慮された様子もうかがわれないから,一般的に上記のような実情があるとしても,これをもって本件におけるD医師及びC医師の上記各判断の合理性を基礎付けるものであるということはできない。 (4) 原告は,平成26年4月10日に行われたE医師の診察において,花粉症と診断され,薬の投与を受けたものであるが,花粉症に対しては症状のごく軽い時期から薬物を予防的に服用する初期療法が有効であるとされていること,また,同年3月13日頃までには原告に花粉症の症状又はその兆候が出現していたことは,前記のとおりであり,原告がより早期に医師の診察及び薬の投与等の治療を受けていた場合には,症状を軽減したり,症状の悪化を防いだりすることができた蓋然性が高いということができる。 (5) 以上のことに照らせば,平成25年における診察と同時期である平成26年4月上旬頃に診察を行えば足りるとしたD医師又はC医師の判断に基づき,同月10日まで原告の花粉症について医師による診察や治療を行わせなかった広島刑務所長の判断には,合理性が認められず,その裁量権の範囲を逸脱したものとして,国家賠償法上違法の評価を免れないというべきである。 まで原告の花粉症について医師による診察や治療を行わせなかった広島刑務所長の判断には,合理性が認められず,その裁量権の範囲を逸脱したものとして,国家賠償法上違法の評価を免れないというべきである。 2 争点2(原告の損害額)について弁論の全趣旨によれば,原告は,平成26年4月10日まで花粉症についての医師の診察や治療を受けられなかったことで,目のかゆみや鼻水等に悩まされた上,頻繁に鼻をかむことによる痛みが生じるなどしたことが認められ,また,このような症状があることを繰り返し訴えて医師による診察を求めたにもかかわらず,長期間にわたりこれを容れられないままの状態に置かれたことで,精神的苦痛を受けたものということができ,これに対する慰謝料としては,7万円が相当である。 3 結論- 12 -よって,主文のとおり判決する。なお,認容部分についての仮執行宣言は,事案に鑑み,これを付さないこととする。 広島地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官梅 本 圭一郎 裁判官財賀理行 裁判官内藤陽子

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る