平成25年2月20日判決言渡平成24年(行ケ)第10151号審決取消請求事件平成24年12月25日口頭弁論終結判決 原告 JFEスチール株式会社 訴訟代理人弁理士松本悟同奥井正樹 被告新日鐵住金株式会社(審決上の名称新日本製鐵株式会社) 訴訟代理人弁護士増井和夫同橋口尚幸同齋藤誠二郎 主文 1 特許庁が無効2011-800219号事件について平成24年3月22日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び 理由 第1 請求主文同旨第2 当事者間に争いのない事実 1 特許庁における手続の経緯等被告は,発明の名称を「高強度高延性容器用鋼板およびその製造方法」とする発 明について,平成10年5月26日に特許出願をし,平成14年7月5日に設定登録がされた(特許第3324074号。請求項の数4。以下,「本件特許」という。)。 原告は,平成23年10月28日,特許庁に対し,本件特許について無効審判請求(無効2011-800219号)をし,被告は,平成24年3月15日付けで訂正請求をした(以下「本件訂正」といい,本件訂正後の明細書を「訂正明細書」という。本件訂正後の請求項の数1,発明の名称「高強度高延性容器用鋼板」)。これに対し,特許庁は,平成24年3月22日付けで,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同月29日原告に送達された。 2 特許請求の範囲の記載本件訂正後 れに対し,特許庁は,平成24年3月22日付けで,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同月29日原告に送達された。 2 特許請求の範囲の記載本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下「本件訂正発明」という。)。 「【請求項1】重量%で,C:0.005~0.040%を含有し,JIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力が430MPa以上,全伸びが15%以下で,10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下で,引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上であることを特徴とする板厚0.4mm 以下の高強度高延性容器用鋼板。」 3 審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,①本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,鋼板の成分及び全伸びのいずれについても,特許法36条6項1号(サポート要件),同項2号(明確性要件)に適合し,②本件訂正発明は,特開平10-110244号公報(甲1)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)と同一ではなく,同法29条1項3号に該当しないから,無効とされるべきものではない,というものである。 審決が認定した甲1発明の内容は,「重量%で,C:0.01~0.04%を含有し,板厚0.22mm以下の高強度高延性溶接缶用薄鋼板」というものである。 第3 当事者の主張 1 取消事由に関する原告の主張(1) 取消事由1(サポート要件に関する判断の誤り①-鋼板の成分)審決は,本件訂正発明は,「高強度」の解決を「元素の添加」ではなく,「主として2CRによる加工硬化」によって求めようとする技術的思想が開示されているとした上,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の 審決は,本件訂正発明は,「高強度」の解決を「元素の添加」ではなく,「主として2CRによる加工硬化」によって求めようとする技術的思想が開示されているとした上,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比すれば,特許請求の範囲に記載された発明が,Si,Mn,P,S,Al及びNの含有量について特定がないとしても,発明の詳細な説明に記載された発明であって,発明の詳細な説明に記載された課題を解決することができると認識し得ると判断する。 しかし,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載には,容器用鋼板を高強度とする手段を限定する記載はなく,元素の添加ではなく,主として2CRによる加工硬化によって高強度とする技術思想であると限定して解釈することはできない。また,本件訂正発明に係る特許請求の範囲には,C以外の元素の含有量が特定されていないから,鋼板の強度を向上させる元素であるSi,Mn,P,Nなどの添加によるものを含むところ,発明の詳細な説明には,Si,Mn,P,Nなどの添加により鋼板の強度を向上させることは記載されていない。さらに,鋼板の強度を向上させる元素であるSi,Mn,P,Nなどの添加により高強度とする場合には高い2CRを施す必要がなく,他方,Si,Mn,P,Nなどを多量に添加した鋼板に高い2CRを施した場合には,良好な延性が得られなくなり,高い2CRを施した場合にも良好な延性を持った鋼板を提供するとの課題を解決することができなくなる。なお,審決は,本件訂正発明に係る特許請求の範囲にNの含有量の上限が限定されていないことが,特許法36条6項1号(サポート要件)に違反するとの原告の主張について,判断を遺脱している。 以上のとおり,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,鋼板の成分に関し,特許法36条6項1 ことが,特許法36条6項1号(サポート要件)に違反するとの原告の主張について,判断を遺脱している。 以上のとおり,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,鋼板の成分に関し,特許法36条6項1号(サポート要件)に適合しない。 (2) 取消事由2(明確性要件に関する判断の誤り①-鋼板の成分)審決は,本件特許出願当時における当業者の技術常識を基礎として,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載を考慮すると,本件訂正発明に係る鋼板が容器用鋼板として,当業者が想定し得る範囲内の組成のものであると理解できるから,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載が第三者に不測の損害を及ぼすほどに不明確であるとはいえないと判断する。 しかし,本件訂正発明に係る特許請求の範囲には,「重量%で,C:0.005~0.040%を含有」する容器用鋼板という記載があるだけであり,本件訂正発明に係る鋼板が,当業者が想定し得る範囲内の組成のものであるとはいえない。また,甲1~4やブリキ製品についての標準的な規格であるASTM(「AmericanSocietyforTestingandMaterials」の略称)規格A623M-1992「StandardSpecificationforTinMillProducts, GeneralRequirements」(以下,単に「ASTM規格」という。)における鋼板の組成範囲にはばらつきがあり,訂正明細書の発明の詳細な説明に記載された成分量とも相違するから,容器用鋼板に含有されるSi,Mn,P,S,Al,N等の組成範囲が当業者の技術常識であるということはできない。 したがって,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,鋼板の成分に関し,特許法36条6項2号(明確性要件)に適合しない。 (3) の組成範囲が当業者の技術常識であるということはできない。 したがって,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,鋼板の成分に関し,特許法36条6項2号(明確性要件)に適合しない。 (3) 取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り②-鋼板の全伸び)審決は,本件訂正発明の「全伸び」については,一様伸びと局部伸びの和であって(JISG 0202(1987)),これらの伸びが一方向であるのに対し,フランジ成形時の伸びは多方向の伸びであり,両者が同じ伸びということはできないのが出願時の技術常識であるから,「高強度」と「高延性」のバランスを評価した「判定」のうち,「高延性」は,「全伸び」によって評価されるものの,鋼板の全伸びだけで評価されるものではなく,したがって,全伸びの下限を厳密に限定する必要はないから,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載において,「全伸びが1 5%以下」とするだけで,全伸びの下限が限定されていないとしても,特許法36条6項1号(サポート要件)に適合すると判断する。 しかし,訂正明細書の発明の詳細な説明には,全伸び以外に高延性(フランジ成形性が良好であること)を評価する基準は示されていない。むしろ,訂正明細書の段落【0023】によれば,高延性(フランジ成形性が良好であること)は,鋼板の全伸びによって評価されているから,全伸びの下限を示す必要がある。また,訂正明細書の発明の詳細な説明には,実施例として,全伸びが10%以上であるフランジ成形性の良好な鋼板が開示されているが,特許請求の範囲に記載された,その他の要件を満たしつつ,全伸びが10%を下回るフランジ成形性の良好な鋼板は開示されていない。 したがって,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,鋼板の全伸びに関し,特許法36条6項1号(サポート要件) を満たしつつ,全伸びが10%を下回るフランジ成形性の良好な鋼板は開示されていない。 したがって,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,鋼板の全伸びに関し,特許法36条6項1号(サポート要件)に適合しない。 (4) 取消事由4(明確性要件に関する判断の誤り②-鋼板の全伸び)審決は,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載のうち「全伸びが15%以下」は,鋼板の全伸びが15%を超えるものを含まないことを明確に表現しており,全伸びの技術的意義も技術常識であるとして,特許法36条6項2号(明確性要件)に適合すると判断する。 しかし,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載においては,鋼板の全伸びの下限が限定されていないから,全伸びがどの程度であれば,フランジ成形性が良好といえるのかが明確でない。 したがって,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,鋼板の全伸びに関し,特許法36条6項2号(明確性要件)に適合しない。 (5) 取消事由5(新規性判断の誤り)審決は,本件訂正発明の特性は,「600℃から200℃までの平均冷却速度を20℃/sec 以上とする」こと,望ましくは更に「600℃から200℃の温度範囲の任意の温度での冷却速度の最大値を40℃/sec 以上とする」ことにより得られる ものと解されるところ,本件訂正発明と甲1発明は,少なくとも「冷却速度20℃/sec以上」とする温度範囲が一致しているとはいえず,また,本件訂正発明は,実施例として,熱延のスラブ加熱温度を1200℃,仕上温度を890℃とし,巻取温度を600℃,630℃,720℃のいずれかとするものであるが(訂正明細書の【表2】),甲1にはこれらの製造条件に係る記載はないから,両者は製造方法や特性が一致するとはいえず,本件訂正発明は,甲1発明と同一であると 30℃,720℃のいずれかとするものであるが(訂正明細書の【表2】),甲1にはこれらの製造条件に係る記載はないから,両者は製造方法や特性が一致するとはいえず,本件訂正発明は,甲1発明と同一であるとはいえないと判断する。 しかし,本件訂正発明と甲1発明は,鋼板の製造条件が実質的に一致する。すなわち,冷却速度は,通常,平均冷却速度を意味するところ,甲1において,連続焼鈍の均熱温度が653℃,663℃であるから,冷却はほぼこの付近の温度から始められるものと解され,焼鈍の影響下にある高温のうちに冷却速度を緩和することはないから,甲1発明においても,「600℃から200℃までの平均冷却速度を20℃/sec 以上」とすることは明らかである。 また,甲1に記載された熱延の加熱温度は1148℃,1140℃であるが,「連続鋳造鋼片を素材とし,これを1150℃以上に加熱して熱間圧延して熱延鋼板」にするとの記載があるから,本件訂正発明の圧延のスラブ加熱温度である1200℃と実質的に相違するとはいえない。 さらに,甲1には,熱延の仕上温度についての記載はないが,熱延の仕上温度を850℃~900℃の温度範囲とすることは周知の技術事項であり,甲1発明においても,上記の温度範囲の仕上温度を採用していることは明らかである。 そして,本件訂正発明は,熱延後の巻取温度を600℃,630℃,720℃のいずれかとするものであり(訂正明細書の【表2】),600℃~720℃で同様の効果を奏するものと解されるのに対し,甲1発明は,熱延後の巻取温度を719℃,650℃とするものであるから,両者は実質的に一致する。 したがって,本件訂正発明は,甲1に記載された発明と同一である。 2 被告の反論 (1) 取消事由1(サポート要件に関する判断の誤り①-鋼板の成 であるから,両者は実質的に一致する。 したがって,本件訂正発明は,甲1に記載された発明と同一である。 2 被告の反論 (1) 取消事由1(サポート要件に関する判断の誤り①-鋼板の成分)に対して本件訂正発明は,各構成要件によって物の特性を特定した,高強度高延性容器用鋼板という「物」の発明であるから,それを製造する方法が特許請求の範囲に記載されている必要はない。また,審決は,本件訂正発明の課題や技術思想,高強度と高延性の関係について,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して説明したにすぎず,発明の詳細な説明の記載により本件訂正発明を限定解釈したものではない。 本件訂正発明にどのような「物」が含まれるかは,特許法70条の請求項の権利範囲の解釈の問題であり,サポート要件違反があるか否かは,請求項に記載される要件が明細書に記載されているか否かだけで判断すべきである。訂正明細書には,本件訂正発明のすべての構成要件を充足する鋼板の実施例が,その製造方法も含めて開示されているのであり,請求項に記載される要件が明細書にすべて記載されている。 さらに,訂正明細書の発明の詳細な説明には,通常の容器用鋼板に何の成分も添加せずに,特許請求の範囲に記載された全ての構成要件を充足する高強度高延性容器用鋼板を製造する方法が開示されており,当業者であれば,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比すれば,特許請求の範囲の記載においてSi,Mn,P,Al及びNの含有量について特定がないとしても,本件訂正発明が発明の詳細な説明に記載された課題を解決することができると認識し得る。 したがって,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,鋼板の成分に関し,特許法36条6項1号(サポート要件)に適合する。 (2) 取消事由2(明確性要件に関す 決することができると認識し得る。 したがって,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,鋼板の成分に関し,特許法36条6項1号(サポート要件)に適合する。 (2) 取消事由2(明確性要件に関する判断の誤り①-鋼板の成分)に対して甲1~4,ASTM規格の各成分量と訂正明細書の発明の詳細な説明に記載された成分量は,大きく相違するものではなく,大部分において重なっている。また,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は,一般的な容器用鋼板に含有される各元素のおおよその量を説明したものにすぎず,本件訂正発明に係る鋼板の成分を限定す る意味を持つものではないところ,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載と若干異なった元素量を有する容器用鋼板が他の文献に記載されているからといって,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載が不明確となるものではない。 したがって,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,鋼板の成分に関し,特許法36条6項2号(明確性要件)に適合する。 (3) 取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り②-鋼板の全伸び)に対して本件訂正発明における高延性の評価基準は,10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下であること,引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上であることである。また,鋼板の全伸びとフランジ成形時の伸びとは同じ伸びではないから,鋼板の全伸びだけで高延性が評価されるものではない。さらに,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,本件訂正発明は,鋼板の全伸びが15%以下であってもフランジ成形性が良好な容器用鋼板であるものと容易に理解することができる。 以上によれば,本件訂正発明における高延性は,特許請求の範囲に記載された構成要件の数値が充足されていれば満た 以下であってもフランジ成形性が良好な容器用鋼板であるものと容易に理解することができる。 以上によれば,本件訂正発明における高延性は,特許請求の範囲に記載された構成要件の数値が充足されていれば満たされるものであり,鋼板の全伸びの下限について,特許請求の範囲に記載する必要はない。 したがって,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,鋼板の全伸びに関し,特許法36条6項1号(サポート要件)に適合する。 (4) 取消事由4(明確性要件に関する判断の誤り②-鋼板の全伸び)に対して上記のとおり,本件訂正発明において,鋼板の全伸びは15%以下であればよく,その他の特許請求の範囲に記載された構成要件を全て充足していれば,フランジ成形性が良好な高強度高延性容器用鋼板となる。 したがって,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,鋼板の全伸びに関し,特許法36条6項2号(明確性要件)に適合する。 (5) 取消事由5(新規性判断の誤り)に対して 甲1には,「冷却速度20℃/sec 以上」の急冷が「600℃から200℃までの平均速度」であることが開示されていない上,缶用鋼板の焼鈍工程において,「冷却速度20℃/sec 以上」の急冷は,過時効処理帯を備える連続焼鈍設備の場合,均熱温度から400℃程度まで適用されると理解するのが本件特許出願時の技術常識であるから,甲1発明と本件訂正発明の製造方法が同一であるとはいえない。 また,甲1発明は,C,Al及びNの含有量,並びに固溶N及びCの合計量をある特定の範囲に限定し,YPEL(降伏点伸び)を2%以上にすることで,フランジ成形性に優れた缶用鋼板を得るものであり,甲1には,焼鈍工程の熱サイクルを調整し,2CRで高い強度を得ることで,C以外の成分の調整を行わずとも強度とフランジ成形性を両立させた容器 ることで,フランジ成形性に優れた缶用鋼板を得るものであり,甲1には,焼鈍工程の熱サイクルを調整し,2CRで高い強度を得ることで,C以外の成分の調整を行わずとも強度とフランジ成形性を両立させた容器用鋼板を得ることは開示されていない。 したがって,本件訂正発明は,甲1に記載された発明と同一とはいえない。 第4 当裁判所の判断当裁判所は,審決には,鋼板の成分及び全伸びに関する特許法36条6項1号(サポート要件)の判断に誤りがあり,これを取り消すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。 1 事実認定(1) 本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2記載のとおりである。 (2) また,訂正明細書には,以下の記載がある。 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は飲料缶などの金属容器に利用される鋼板に関するものである。 【0002】【従来の技術】缶飲料,食品缶などに代表される容器用鋼板については,缶コスト削減のため,素材の薄手化が求められている。この時,薄手化に伴う缶強度の低下を補うため鋼 板自体を高強度化することが必要である。一般には高強度材はSi,Mn,P,Nb,Tiなどの添加により製造されるが,容器用鋼板は,飲料缶,食品缶などにも使用されることや,低コスト化の観点から元素の添加は好ましくない。 【0003】また薄手材では,焼鈍工程においてヒートバックルと呼ばれる鋼板の腰折れのため生産効率が阻害される場合があるが,この対策としては鋼板の焼鈍温度を低く抑えることや通板板厚を厚くすることが有効であり,再結晶の観点から焼鈍温度を高く設定せざるを得ない状況下,焼鈍時には目的の板厚より厚い鋼板を通板し,その後再冷延(2CR)を施し,目的とする板厚を得る方法が実用化されている。この方法は 有効であり,再結晶の観点から焼鈍温度を高く設定せざるを得ない状況下,焼鈍時には目的の板厚より厚い鋼板を通板し,その後再冷延(2CR)を施し,目的とする板厚を得る方法が実用化されている。この方法は缶強度を確保する観点で,極薄材の適用による強度低下分を加工硬化により補うので都合のよい製造法である。 【0004】しかし,鋼板の薄手化が進行する中で,2CR率の上昇は必然となり,材料の硬質化に伴う延性劣化が新たな問題となりつつある。代表的には缶胴と缶底または缶蓋を巻き締める際に,缶胴端部の径を広げる加工(フランジ成形)における割れが問題となる。」「【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明は,焼鈍工程での腰折れによる生産性の低下およびフランジ成形時の加工性劣化を回避した,高い2CRを施した場合にも良好な延性を持った鋼板を提供するものである。 【0007】【課題を解決するための手段】本発明者らは,特に2CR率が10%以上で製造される板厚0.4mm 以下の鋼板の成分,熱延条件および焼鈍条件と材質との関係を検討するうち,成分,特にC量を特定範囲に限定し,焼鈍時のOAを制御した鋼板では2CR率が上昇しても従来 鋼ほど延性が劣化しないことを知見し,高温巻取,OA省略型の技術に関する発明を特願平9-42041号で出願した。さらに,熱延条件,冷延後の焼鈍条件についてさらなる検討を加え,10%以上の高2CR率で容器用鋼板を製造するにあたり,焼鈍工程での冷却条件を制御し,特定の0.2%耐力,全伸び,加工硬化を示す鋼板が,熱延条件によらず同じ2CR率でも非常に良好なフランジ成形性を示すことを知見し,本発明を達成したものである。」「【0010】【発明の実施の形態】以下,本発明を詳細に説明する。まず,成分について説明する らず同じ2CR率でも非常に良好なフランジ成形性を示すことを知見し,本発明を達成したものである。」「【0010】【発明の実施の形態】以下,本発明を詳細に説明する。まず,成分について説明する。成分は全て重量%である。Cは,本発明での熱延条件の制限によって軟質化効果を得られる0.005%から0.040%とする。C量がこの範囲にない場合には本発明の効果が得られない。特にCが0.040%に近い場合には,熱延条件の影響が大きく現れ,低温巻取ではフランジ成形性が劣る場合もあるので上限を0.040%とした。望ましくは0.03%以下とするのがよい。 【0011】通常の鋼板に不可避的に含有されるSi,Mn,P,S,Al,N等は一般に容器用に用いられる鋼板に含有される程度に含有される。その範囲は,Si:0.001~0.1%,Mn:0.01~0.5%,P:0.002~0.04%,S:0.002~0.04%,Al:0.010~0.100%,N:0.0005~0.0060%である。 【0012】鋼板の0.2%耐力は本発明鋼では430MPa以上に限定する。これは,原板でこれ以下の0.2%耐力であれば本発明によらなくともフランジ成形性の良好な鋼板が製造可能なためである。 【0013】鋼板の全伸びは本発明鋼では15%以下に限定する。これは,原板の全伸びがこ れ以上であれば本発明によらなくともフランジ成形性の良好な鋼板が製造可能なためである。 【0014】鋼板の加工硬化挙動の限定は本発明の重要な要件の一つである。加工硬化挙動は一般には引張試験の応力-歪曲線における加工硬化指数,いわゆるn値で表される場合が多いが,本発明鋼が対象としているフランジ成形性の指標にはならない。本発明で限定すべき加工硬化挙動の指標および限定範囲は,引張強度と 験の応力-歪曲線における加工硬化指数,いわゆるn値で表される場合が多いが,本発明鋼が対象としているフランジ成形性の指標にはならない。本発明で限定すべき加工硬化挙動の指標および限定範囲は,引張強度と0.2%耐力の差を20MPa以上,または鋼板に10%の冷間圧延を施した場合の0.2%耐力の上昇量を120MPa以下とすることである。 【0015】・・・加工硬化挙動がこの範囲にない場合は,製缶工程でのフランジ成形性が顕著に劣化する。 【0016】・・・板厚は本発明鋼の用途を考え,0.4mm 以下と限定する。 【0017】鋼板の0.2%耐力,全伸びは,成分,熱延,焼鈍,2CR条件により変化し,従来鋼と同様に材質調整されるが,本発明の特徴である加工硬化挙動および時効特性を制御するには焼鈍工程での冷却時の熱履歴が重要で,600℃から200℃までの平均冷却速度を20℃/sec 以上とするのが有効であり,600℃から200℃の温度範囲の任意の温度での冷却速度の最大値を40℃/sec 以上とすることも効果がある。 【0018】特にこれらの平均冷却速度を40℃/sec 以上,最大冷却速度を60℃/sec 以上とすればより顕著な効果を得ることができる。これらに加え,熱延条件,焼鈍条件,再冷延条件を調整することで達成できる。・・・【0019】 本発明では鋼板の強度はSi,Mn,Pなどの添加によらず,主として2CRによる加工硬化を想定している。この時の2CR率は10~50%の範囲で本発明の効果を十分に得ることができる。」「【0021】また,本発明鋼を溶接により缶同部を製造する3ピース缶用素材として用いる場合には,溶接部が硬化し,熱影響部が軟化するためフランジ成形時に熱影響部に歪が集中し,フランジ成形性が鋼板延性のみならず溶 また,本発明鋼を溶接により缶同部を製造する3ピース缶用素材として用いる場合には,溶接部が硬化し,熱影響部が軟化するためフランジ成形時に熱影響部に歪が集中し,フランジ成形性が鋼板延性のみならず溶接部および熱影響部の特性に影響される場合がある。溶接部および熱影響部の硬度制御のため,B,Nbなどが添加される場合があるが,これらの微量元素を添加しても本発明の効果が失われるものではない。」「【0023】【実施例】本発明ではフランジ成形性は鋼板の全伸びによって評価した。3ピース缶用途での板取り方向や2P用途でのしごき方向との兼ね合いを考え,素材の圧延方向と90°の方向の引張試験値を使用する。 【0024】表1に示す各成分の鋼について熱間圧延,冷間圧延,焼鈍後,2CRを施して鋼板を製造し,引張試験により材質を測定した。熱延のスラブ加熱温度は1200℃,仕上げ温度890℃とした。 【0025】これらの鋼について製造条件および材質を表2に示す。加工硬化挙動および時効特性を本発明のように制御することで,熱延条件によらず良好な延性が得られていることが確認できる。また,加工硬化挙動および時効特性に加え,焼鈍工程の冷却条件は本発明内に制御することでさらなる延性向上が達成される。 【0026】【表1】(別紙表1のとおり) 【0027】【表2】(別紙表2のとおり)【0028】【発明の効果】以上述べたごとく本発明によれば,焼鈍時の生産性を改善できる高2CR率によってもフランジ成形性が良好な極薄容器用鋼板を得ることができる。」 2 判断(1) 取消事由1(サポート要件に関する判断の誤り①-鋼板の成分)について審決は,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比すれば,特許請求の範囲 」 2 判断(1) 取消事由1(サポート要件に関する判断の誤り①-鋼板の成分)について審決は,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比すれば,特許請求の範囲に記載された発明が,Si,Mn,P,S,Al及びNの含有量について特定がないとしても,発明の詳細な説明に記載された発明であって,発明の詳細な説明に記載された課題を解決することができると認識し得ると判断する。 しかし,審決の上記判断には,以下のとおり,誤りがある。 ア本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2記載のとおりであるところ,鋼板の成分について,「C:0.005~0.040%を含有」すること以外,何ら特定していないから,C以外の様々な成分を様々な組合せ・含有量で含有する鋼を包含するものといえる。また,本件訂正発明は,鋼板の用途を「容器用」とするものであるが,これにより具体的にどのような成分及び組成範囲を有する鋼板であるのか,一義的に定まるともいえない(本件訂正発明に係る「容器」には,飲料缶,食品缶のほか,各種の容器が包含されるものと解され,ブリキ製品はこのような容器の一例にすぎないから,ブリキ製品についての標準的な規格であるASTM規格によって,成分及び組成範囲が一義的に定まるともいえない。)。 したがって,本件訂正発明に係る容器用鋼板は,C:0.005~0.040%を含有し,容器に用いられるものである限り,各種の成分及び組成範囲を有する鋼板を包含するものと解される。 イ他方,訂正明細書の発明の詳細な説明には,上記のとおり,①素材の薄手化に伴う缶強度の低下を補うため,鋼板自体を高強度化することが必要であるが,Si,Mn,P,Nb,Tiなどの元素の添加は好ましくないこと(段落【0002】),②焼鈍時には目 記のとおり,①素材の薄手化に伴う缶強度の低下を補うため,鋼板自体を高強度化することが必要であるが,Si,Mn,P,Nb,Tiなどの元素の添加は好ましくないこと(段落【0002】),②焼鈍時には目的の板厚より厚い鋼板を通板し,その後再冷延(2CR)を施し,目的とする板厚を得る方法は,缶強度を確保する観点で,極薄材の適用による強度低下分を加工硬化により補うので都合のよい製造法であること(段落【0003】),③本件訂正発明では,鋼板の強度は,Si,Mn,Pなどの添加によらず,主として2CRによる加工硬化を想定していること(段落【0019】)が記載されている。 また,訂正明細書の発明の詳細な説明には,具体的な鋼板の成分として,C:0. 005~0.040%のほか,Si:0.001~0.1%,Mn:0.01~0. 5%,P:0.002~0.04%,S:0.002~0.04%,Al:0.010~0.100%,N:0.0005~0.0060%を含有するものが開示され(段落【0010】,【0011】),6種の鋼(表1のaないしf)を用いて,所定の製造方法(段落【0009】,【0017】,【0018】,【0024】)により鋼板を製造したところ,「JIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力が430MPa以上,全伸びが15%以下」及び「10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下で,引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上」を満たし,鋼板のフランジ成形性が良好なものが複数あったことが記載されている(表2)。 以上のとおり,訂正明細書の発明の詳細な説明には,添加が好ましくないSi,Mn,P,Nb,Tiなどの元素の添加によらず,主として2CRによる加工硬化により高強度化を達成することを前提として,C: 以上のとおり,訂正明細書の発明の詳細な説明には,添加が好ましくないSi,Mn,P,Nb,Tiなどの元素の添加によらず,主として2CRによる加工硬化により高強度化を達成することを前提として,C:0.005~0.040%,Si:0.001~0.1%,Mn:0.01~0.5%,P:0.002~0.04%,S:0.002~0.04%,Al:0.010~0.100%,N:0. 0005~0.0060%を含有する(残部はFe及び不可避的不純物である)鋼を用いて,所定の製造方法により鋼板を製造すること,製造された鋼板が,「JIS 5号試験片による引張試験における0.2%耐力が430MPa以上,全伸びが15%以下」及び「10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下で,引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上」を満たし,良好なフランジ成形性を有するものであることが開示されていると認められる。 ウ以上によれば,本件訂正発明に係る特許請求の範囲に記載された鋼板は,上記アのとおり,C:0.005~0.040%を含有し,容器に用いられるものである限り,各種の成分及び組成範囲を有する鋼板を包含するものであるのに対し,訂正明細書の発明の詳細な説明には,上記イ以外の成分及び組成範囲を有する鋼(例えば,上記の鋼に,更にCr,Cu,Ni等を添加したものなど)を用いて製造された鋼板が,「JIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力が430MPa以上,全伸びが15%以下」及び「10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下で,引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上」を満たし,良好なフランジ成形性を有することについては,何ら開示されていない。 のみなら 片による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下で,引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上」を満たし,良好なフランジ成形性を有することについては,何ら開示されていない。 のみならず,そもそも,合金は,通常,その構成(成分及び組成範囲等)から,どのような特性を有するか予測することは困難であり,また,ある成分の含有量を増減したり,その他の成分を更に添加したりすると,その特性が大きく変わるものであって,合金の成分及び組成範囲が異なれば,同じ製造方法により製造したとしても,その特性は異なることが通常であると解される。そして,訂正明細書の発明の詳細な説明に開示された鋼の組成についてみると,含有する成分として,C:0. 005~0.040%のほか,Si:0.001~0.1%,Mn:0.01~0. 5%,P:0.002~0.04%,S:0.002~0.04%,Al:0.010~0.100%,N:0.0005~0.0060%と特定しているところ,上記以外の成分及び組成範囲を有する鋼を用いる場合においても,上記の所定の製造方法により製造された鋼板が,良好なフランジ成形性を有するものであるとは, 当業者が認識することはできないというべきであり,また,そのように認識することができると認めるに足りる証拠もない。 そうすると,鋼の組成について,「C:0.005~0.040%を含有」することを特定するのみで,C以外の成分について何ら特定していない本件訂正発明は,訂正明細書の発明の詳細な説明に開示された技術事項を超える広い特許請求の範囲を記載していることになるから,訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 エこれに対し,被告は,本件訂正発明にどのような「物」が含まれるかは,特許法70条の請求項の権利範囲の解釈の問題であり ことになるから,訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 エこれに対し,被告は,本件訂正発明にどのような「物」が含まれるかは,特許法70条の請求項の権利範囲の解釈の問題であり,サポート要件違反があるか否かは,請求項に記載される要件が明細書に記載されているか否かだけで判断すべきであるとした上,訂正明細書の発明の詳細な説明には,通常の容器用鋼板に何の成分も添加せず,本件訂正発明の全ての構成要件を充足する高強度高延性容器用鋼板の実施例及びその製造方法が開示されており,当業者であれば,特許請求の範囲においてSi,Mn,P,S,Al及びNの含有量について特定がないとしても,本件訂正発明は発明の詳細な説明に記載された課題を解決することができると認識し得るから,本件訂正発明は,発明の詳細な説明に記載したものであると主張する。 しかし,本件事案においては,上記のとおり,訂正明細書の発明の詳細な説明には,本件訂正発明に係る容器用鋼板のうち,一部の成分及び組成範囲を有するものが開示されているにすぎない。本件訂正発明は,鋼の組成について,「C:0.005~0.040%を含有」することを特定するのみで,C以外の成分について何ら特定していないから,訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。 なお,審決は,本件訂正発明においては,「高強度」の解決を「元素の添加」ではなく,「主として2CRによる加工硬化」によって求めようとする技術的思想が開示されていると判断している。しかし,そうであるとしても,既に説示したとおり, 訂正明細書の発明の詳細な説明に開示された鋼の成分及び組成範囲以外の成分及び組成範囲を有する鋼を用いる場合においても,所定の製造方法により製造され ,そうであるとしても,既に説示したとおり, 訂正明細書の発明の詳細な説明に開示された鋼の成分及び組成範囲以外の成分及び組成範囲を有する鋼を用いる場合においても,所定の製造方法により製造された鋼板が良好なフランジ成形性を有するものであるとまでは認識できないから,審決の論理によっても,被告の主張を裏付けるには足りない。 オ以上のとおり,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,鋼板の成分に関し,特許法36条6項1号(サポート要件)に適合しない。 (2) 取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り②-鋼板の全伸び)について審決は,本件訂正発明において,高延性は全伸びだけで評価されるものではなく,全伸びの下限を厳密に限定する必要もないから,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,鋼板の全伸びに関し,特許法36条6項1号(サポート要件)に適合すると判断する。 しかし,審決の上記判断には,以下のとおり,誤りがある。 ア本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2記載のとおりであるところ,全伸びについて,「15%以下」と特定するものであり,その下限値を特定しないものである。 他方,上記のとおり,訂正明細書の発明の詳細な説明には,「鋼板の全伸びは本発明鋼では15%以下に限定する。これは,原板の全伸びがこれ以上であれば本発明によらなくともフランジ成形性の良好な鋼板が製造可能なためである。」(段落【0013】)との記載があるところ,かかる記載は,鋼板の全伸びが15%以下であっても,「10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下」及び「引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上」の各要件を満たすことにより,フランジ成形性が良好となることを意味するものと解される。 による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下」及び「引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上」の各要件を満たすことにより,フランジ成形性が良好となることを意味するものと解される。 しかし,一般に,鋼板の延性が低いほど加工性が劣ることは,当業者にとって自明の事項であるから,全伸びが相当程度小さい場合には,フランジ成形性は相当程度劣るものと解されるところ,「10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引 張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下」との要件は,加工硬化の程度が小さく,フランジ成形性があまり劣化しないということを意味するものにすぎず,上記要件を満たしたとしても,それによりフランジ成形性が向上するものとは解されない。また,「引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上」との要件は,引張強度と0.2%耐力の差が大きいほど,弾性変形の限界を超えて塑性変形する量が大きくなることを意味するものと解されるが,その量は全伸びを超えることはないから,全伸びが小さい場合には,塑性変形する量も相当程度小さいものになると解され,上記要件を満たしたとしても,フランジ成形性が相当程度劣ることに変わりはない。 さらに,訂正明細書の発明の詳細な説明には,鋼板の全伸びが10%以上で,「10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下」及び「引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上」の各要件を満たし,フランジ成形性が良好である実施例(表1,2)が開示されているが,鋼板の全伸びが10%未満で,上記の各要件を満たし,フランジ成形性が良好である実施例は開示されていない。そうすると,鋼板の全伸びが10%未満でも,上記の各要件を満たすことによりフランジ成形性が良好となるか否かは,発明の 未満で,上記の各要件を満たし,フランジ成形性が良好である実施例は開示されていない。そうすると,鋼板の全伸びが10%未満でも,上記の各要件を満たすことによりフランジ成形性が良好となるか否かは,発明の詳細な説明の記載からは不明であり,本件特許出願時の技術常識を考慮しても,当業者がそのようなことを理解できるともいえない。 以上によれば,訂正明細書の発明の詳細な説明には,鋼板の全伸びが10%未満でも,「10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下」及び「引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上」の各要件を満たすことによりフランジ成形性が良好となることが開示されているとはいえないところ,本件訂正発明は,鋼板の全伸びについて,「15%以下」と特定するのみで,その下限値を特定せず,10%未満である場合をも包含するものであるから,発明の詳細な説明に開示されたものとはいえない。 イこれに対し,被告は,本件訂正発明において,鋼板の全伸びが15%以下で あっても,「10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引張試験における0. 2%耐力の差が120MPa以下」及び「引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上」の各要件の数値が充足されていれば,フランジ成形性は良好となると主張する。 しかし,上記のとおり,鋼板の全伸びが相当程度小さい場合においても,上記の各要件を満たすことによりフランジ成形性が良好になるとはいえず,そのような発明が,訂正明細書の発明の詳細な説明に開示されていると解することもできないから,被告の上記主張は,採用の限りでない。 ウ以上のとおり,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,鋼板の全伸びに関しても,特許法36条6項1号(サポート要件)に適合しない。 3 結論以 ら,被告の上記主張は,採用の限りでない。 ウ以上のとおり,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,鋼板の全伸びに関しても,特許法36条6項1号(サポート要件)に適合しない。 3 結論 以上のとおり,原告が主張する取消事由1,3には理由があるから,その余の点について判断するまでもなく,審決は取消しを免れない。その他,被告は,縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官芝田俊文 裁判官西理香 裁判官知野明 (別紙) 【表1】
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