主文 被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中470日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実) 被告人は、A(当時80歳。以下「被害者」という。)を殺害して現金を強取しようと考え、平成28年1月14日午後5時20分頃から同日午後5時51分頃までの間に、北海道釧路市(住所省略)所在の被害者方において、殺意をもって、その頭部等を鈍体様のもので数十回殴り、よって、その頃、被害者方において、被害者を脳挫傷により死亡させて殺害した上、被害者所有の現金(額不詳)を強取した。 (証拠の標目)省略(事実認定の補足説明)第1 争点本件の争点は、①被告人が本件の犯人であるか否か、②殺害行為が現金強取に向けられたものであるか否かである。 第2 争点①(被告人が本件の犯人であるか否か) 1 犯行時間帯⑴ 被害者は、判示の被害者方で単身で生活していたものであるが、平成28年1月15日(以下、月日のみの記載は平成28年を指す。)午後4時頃に被害者方居間で血まみれになった状態で発見された。被害者の遺体を解剖したB医師及び消化 器等を専門とするC医師の証言によれば、被害者の胃の内容物は被害者方台所の鍋の中にあった食材と整合し、胃の内容物は消化がほとんど進んでいなかったことから、被害者は食事を終えてから約20分ないし30分以内に、頭部に激しい力が加わったことによって脳に致死性の重篤な損傷を生じさせていたものと認められる。 そして、その前日である1月14日午後3時50分頃に配達された夕刊が被害者 方居間から発見され、当該夕刊は被害者が取り込んだものであったことから、被害 者はその時間帯には生存していたといえる。被害者の娘であるDによれば、被害者は、早けれ された夕刊が被害者 方居間から発見され、当該夕刊は被害者が取り込んだものであったことから、被害 者はその時間帯には生存していたといえる。被害者の娘であるDによれば、被害者は、早ければ午後4時30分頃から夕食を食べ始め、15分から20分程度の時間をかけて夕食を食べ終えていたことや、食事に使ったと思われる食器等が台所の乾燥機内にあったことなどから、同日の午後5時頃までは生存していたものと認められる。一方で、被害者の親族であるEの証言等によれば、同日午後6時30分頃ま でに被害者方へ電話をかけたが誰も電話に出ることはなく、その後も被害者方にかけられた電話に出る者はいなかったことから、被害者は遅くとも同時刻頃までには受傷していたと考えられる。 ⑵ これに対し、検察官は、Eは午後6時頃までには電話をかけたと主張するが、Eの証言する時間帯には曖昧な部分が残り、公判廷では午後5時頃から焼酎を飲み 始め、1杯当たり30分かけて飲んで3杯飲み終わった頃に被害者に電話をかけた可能性もある旨証言しているため、同人が午後6時頃までに電話をかけていたと断定することはできない。 他方、弁護人は、Eからの電話に誰も出なかったことをもって被害者が受傷していたと考えるのは早計である旨主張する。しかし、被害者が午後3時50分頃に配 達された夕刊を取り込んだ後に外出したことをうかがわせる事情はなく、被害者が外出していないにもかかわらず自宅にかけられた電話に出ないということも考え難いから、弁護人の主張も採用できない。 ⑶ 以上によれば、本件の犯行時間帯は、1月14日午後5時頃から同日午後6時30分頃と認められる。 2 犯人像被害者は、あらかじめ訪問の連絡があったときを除いて普段から玄関ドアを施錠していたが、事件後の被害者方の玄 間帯は、1月14日午後5時頃から同日午後6時30分頃と認められる。 2 犯人像被害者は、あらかじめ訪問の連絡があったときを除いて普段から玄関ドアを施錠していたが、事件後の被害者方の玄関ドアは開錠されており、玄関以外から人が入り込んだ形跡や玄関ドアの鍵がこじ開けられた形跡はなく、土足痕もなかった。そして、被害者は居間の絨毯上で血まみれになって横たわり、周囲には血痕が飛び散 り、被害者が普段履いていたスリッパは被害者が居間で過ごすときに脱いでいた絨 毯のそばの位置にあったことから、犯人は、被害者が鍵を開けた玄関ドアから靴を脱いで立ち入り、居間まで上がり込んだ後に犯行に及んだものと認められる。この事実からは、犯人と被害者が顔見知りであったところまでは推認できないものの、犯人が、被害者から来客として家の中に招き入れられた人物であることが推認される。 3 被告人が1月14日に被害者方を訪れる約束をしていたこと⑴ 被告人は、事件当時、被害者から18万円を借りており、被害者との間で1月13日に通話がされた記録があるところ、被害者の知人であるFの証言やGの検察官調書によれば、被害者は、Fらとカラオケに行く話をした際に、被告人が1月14日に被害者方に来る予定があるから家を空けられない旨話していた事実が認め られる。 ⑵ これに対し、弁護人は、被害者が認知症治療薬を服用しており、手書きのノートには物忘れに関する記載があることを指摘した上で、被害者の認知能力は低下していたことから、被告人が電話口で借金を「近いうちに返しに行く」と発言したことを受けて、被告人が1月14日に来るものと勘違いしたり聞き間違えたりした 可能性がある旨主張する。 しかし、被害者の親族や知人らは、被害者と会話していた際に被害者に認知症 行く」と発言したことを受けて、被告人が1月14日に来るものと勘違いしたり聞き間違えたりした 可能性がある旨主張する。 しかし、被害者の親族や知人らは、被害者と会話していた際に被害者に認知症の症状が出ていたことはないと証言しており、実際、被害者は一人暮らしで問題なく日常生活を営むことができており、その認知能力が低下していたことを示す具体的な事情は見当たらない。また、被告人と被害者との通話の中で具体的な日付が出て いなかったとすれば、1月14日に被告人が家を訪れるなどと被害者が勘違いすることも考え難い。弁護人の主張は抽象的な可能性を指摘するに過ぎない。 ⑶ 以上によれば、被告人は、被害者との間で、1月14日に被害者方を訪れる約束をしていたと認められる。 4 犯行時間帯における被告人の行動 ⑴ 被告人が1月14日に使用していた車両(以下「被告人車両」という。)はセ フィーロA32前期型であったところ、これと類似する車両(以下「類似車両」という。)が、同日午後5時15分頃から同日午後5時18分頃にかけてローソンO店、セイコーマートP店及びセブンイレブンQ店の前の道路を順次通過した後、同日午後5時20分頃、被害者方近くのセブンイレブンR店(以下「本件セブンイレブン」という。)前の道路を通過した(これらのコンビニエンスストアのほか、被害者方及 び被告人方の位置関係は別紙(添付省略)の図面のとおりである。)。これらのコンビニエンスストアの防犯カメラ映像等に基づいて車両識別鑑定を行ったHの証言や、被告人車両に係る車種を製造した会社の社員であるIの証言によれば、被告人車両と類似車両のテールランプやブレーキランプ、ナンバーの取り付け位置、コーナーリングランプとウインカーの位置関係等がほぼ一致することから、類似車両の車種 した会社の社員であるIの証言によれば、被告人車両と類似車両のテールランプやブレーキランプ、ナンバーの取り付け位置、コーナーリングランプとウインカーの位置関係等がほぼ一致することから、類似車両の車種 は、被告人車両と同じセフィーロA32前期型であったと認められる。 これに対して、弁護人は、画像を見比べる方法による自動車の同一性の判断には限界があるなどとして、Hらの証言の信用性を争うが、Hらは両名ともに、車両の各パーツ相互の位置関係等の具体的な根拠を述べて証言しており、両名の証言の信用性に疑義は生じない。 ⑵ そして、本件セブンイレブンの防犯カメラ映像等によれば、類似車両であるセフィーロA32前期型は、1月14日午後5時20分頃、被害者方から約400メートル離れた本件セブンイレブン付近の交差点(以下「本件交差点」という。)を右折して被害者方がある方向へ向かったことが認められる。 この点について、弁護人は、類似車両は本件交差点を右折せずに直進した可能性 があると指摘する。しかし、類似車両は2車線あるうちの右側車線に位置し、類似車両が先頭になって本件交差点で信号待ちをしていたときに後続車が来て停止し、その後、信号が青になり、類似車両が発進した後に後続車も発進したがすぐに後続車が停止した。このような後続車の進行状況や停止位置等も踏まえると、後続車の前にいた類似車両は右折待ちをするために本件交差点直前で一時停止したものとい うべきである。したがって、弁護人の指摘を踏まえても、類似車両が本件交差点を 右折したとの認定は左右されない。 ⑶ そして、セフィーロA32前期型が平成6年8月から平成9年1月にかけて製造されていた車種であり、事件当時は生産が終了してから約19年経過していたことや、被告人が1月14日の夕方頃 右されない。 ⑶ そして、セフィーロA32前期型が平成6年8月から平成9年1月にかけて製造されていた車種であり、事件当時は生産が終了してから約19年経過していたことや、被告人が1月14日の夕方頃に被告人車両を運転して外出し、同日午後5時51分頃に被害者方から直線距離で約1キロメートルの距離にあるセイコーマー トP店前の道路を、被害者方がある方向から被告人方がある方向へ通過していたことを併せ考えれば、類似車両と被告人車両は同一の車両であり、かつ、被告人が運転していたというべきである。 ⑷ 以上によれば、被告人は、被告人車両を運転し、1月14日午後5時20分頃に被害者方から約400メートル離れた本件交差点を右折して被害者方方向に向 かい、その約30分後に被害者方方向から戻ってきたことが認められる。 5 被告人が1月14日午後6時35分頃に現金20万8000円をATMに入金したこと⑴ 被告人の当時の経済状況についてア被告人は、本件当時、実家である被告人方で母親と同居しつつ、被告人方付 近にあるラーメン店(以下「本件飲食店」という。)で勤務し、仕事がない時間帯はパチンコ店に通い、数時間にわたって滞在することも多かった。 本件飲食店には、手数料540円を負担することで、1週間の勤務実績の50パーセントを上限として給与の一部の前払を受けることができる制度があった(以下、この制度を「給与前払サービス」といい、これにより支払われる金銭を「前払金」 という。)。被告人は、遅くとも平成27年7月以降、ほぼ毎週にわたって給与前払サービスを利用し、手数料540円を負担して概ね1万円ないし3万円程度の前払金の振込を受け、これを直ちに出金するということを繰り返していた。そして、前払金が控除された後の月額7万円ないし11万円程度の ービスを利用し、手数料540円を負担して概ね1万円ないし3万円程度の前払金の振込を受け、これを直ちに出金するということを繰り返していた。そして、前払金が控除された後の月額7万円ないし11万円程度の給与についても、振込を受けると直ちに出金することがほとんどであったため、被告人の預金口座の残高は、 給与等の振込があった直後を除いて、常時1000円未満であった。 イ被告人は、平成27年9月には、いとこであるLから2回にわたって合計20万円を借り、同年10月13日には本件飲食店の同僚から紹介されたJから1か月の利息2万円の約束で10万円を借り、同月15日には知人のK(以下「K」という。)からも5万円を借りるなどしていた。そして、被告人は、平成27年10月26日、没交渉の状態にあった自身の伯母である被害者を突然訪ね、被害者から1 0万円を借りるとともに、借用書を作成して被害者に差し入れた。 その後も、被告人は、知人や親戚に対して借金を返済しては新たに借り入れることを繰り返し、平成27年12月21日には、滞納していた市道民税に関して、1月15日までに被告人から納付額の連絡がなかった場合には給与を差し押さえることが通告され、平成27年12月25日には、携帯電話の料金1万6359円の未 納を理由に携帯電話の利用が停止され、本件飲食店の上司から借りた2万円でこれを支払うに至った。被害者に対しても、一度は2万円を返済したが、平成27年12月25日には再度被害者方を訪れ、さらに10万円を借りた。 ウ被告人は、平成27年12月25日から1月12日までの間、被害者から借りた10万円のほかに、前払金及び給与として、合計13万8000円の収入を得 る一方で、交際相手のいるⅤ町へ向かうためのレンタカー代として合計2万2840円を 1月12日までの間、被害者から借りた10万円のほかに、前払金及び給与として、合計13万8000円の収入を得 る一方で、交際相手のいるⅤ町へ向かうためのレンタカー代として合計2万2840円を支出したり、本件飲食店の上司に対し、携帯電話の料金を支払うために借りた2万円を返済したりしたほか、5回ほどパチスロで遊興した。 エ被告人は、1月13日、前払金1万8000円の振込を受け、その日のうちに預金口座から同額を出金し、その結果、被告人の預金口座の残高は134円とな った。その後、被告人は、出金した現金1万8000円をパチスロで費消した後、同日午後6時2分頃、コンビニエンスストアでたばこを購入したが、その際、被告人の財布内には紙幣が入っていなかった。 オ被告人の借財は、1月14日時点で、Lから20万円、親戚であるMから5万円、被害者から18万円、Jから14万円、Kから5万円にのぼり、そのほかに も、市道民税25万2100円を滞納し、闇金業者との和解交渉を依頼した法律事 務所(以下「本件法律事務所」という。)に対して4万9000円の報酬支払債務を負っており、これらの借金や滞納の総額は92万1100円であった。 ⑵ 1月14日の犯行時間帯以降の被告人の言動ア被告人は、1月14日午後5時54分頃、被害者方から直線距離で約1.3キロメートルの距離にあるローソンO店でたばこと缶コーヒーを購入し、五千円札 で支払をした。その後、同日午後6時29分頃には、Jに対して1月15日に7万円を返済する旨の電話をした。 イ被告人は、1月14日午後6時35分頃、セブンイレブンS店において、216円の手数料を支払ってATMに20万8000円を入金した(以下、これを「本件入金」という。)。その約8分後である同日午後6時43分頃 は、1月14日午後6時35分頃、セブンイレブンS店において、216円の手数料を支払ってATMに20万8000円を入金した(以下、これを「本件入金」という。)。その約8分後である同日午後6時43分頃には、イオンT店に 移動し、108円の手数料を支払って本件入金をした被告人の預金口座から2万7000円を出金し、同日午後6時46分頃から同日午後8時1分頃までの間パチンコ店に滞在した。 ウ被告人は、1月15日午前10時5分頃、上記預金口座から13万円を出金するとともに、本件法律事務所に対し、当時支払期限が到来していた報酬の分割金 の合計額3万円を送金した。そして、同日午前11時頃には、Jに対して7万円を返済するとともに、釧路市役所担当者に電話をかけ、1月納付分として1万円なら市道民税を納付できると伝えた。 ⑶ 被告人が入金した20万8000円の原資についてア被告人は、平成27年12月25日の時点で、1万6359円の携帯電話の 料金を支払えずに携帯電話を利用停止とされ、借金をしてその支払をするほど経済的に困窮していたのであり、仮に被告人が財布や預金口座以外の方法で現金を保管していたとしても、同日の時点で、その全財産は数千円程度であったと考えられる。 そして、そのような状況に陥るまでの経緯についてみても、被告人は、平成27年9月から同年12月25日に携帯電話の料金が支払えなくなるまでの間、親族や 知人から総額として数十万円の借財をした一方、それらの借入れに対する返済とし ては、被害者に対して2万円、Jに対して12万円を返済したにとどまっており、その借金の総額を増加させる一方であった。加えて、被告人は、従前から滞納していた市道民税の滞納分についても支払うことができていなかったほか、本件法律事務所に対する 2万円を返済したにとどまっており、その借金の総額を増加させる一方であった。加えて、被告人は、従前から滞納していた市道民税の滞納分についても支払うことができていなかったほか、本件法律事務所に対する報酬支払債務についても、初回の5000円を支払ったのみで、2回目以降の分割金は支払えていなかったのであるから、被告人において、平成27年 12月25日以降から急に蓄財ができるようになったとはにわかに考え難い。 さらに、被告人は、平成27年12月25日から本件入金に至るまでの間も、手数料を負担してまで給与前払サービスを利用したり、本件法律事務所に対する分割金の支払やKに対する借金の返済について、その猶予を求めたりしており、一定額の現金を保管している者にそぐわない行動をとっている。 以上に加え、1月13日の時点で被告人の預金口座の残高は134円であり、同日に引き出した前払金1万8000円もすぐにパチスロで全額費消し、その直後には財布の中に紙幣はなく、そのほかに被告人に見るべき資産がなかったことを踏まえると、仮に被告人において財布や預金口座以外の管理方法で自宅に現金を保管していたとしても、その額は多く見積もってもせいぜい数万円程度にとどまると考え られ、1月13日の時点で被告人がそれ以上の現金を所持していたとは考えられない。 イさらに、被告人は、これまで前払金や給与が預金口座に振り込まれた後すぐに全額に近い金額を引き出すなど、預金口座で所持金を管理することは行っていなかったにもかかわらず、1月14日になって急に20万8000円もの大金をAT Mに入金し、その約8分後には、あえて別の店舗のATMに移動してからその一部を引き出すなど不審な行動をとっている。このような入出金の経過からも、被告人が入金した20万8000円は、1月 AT Mに入金し、その約8分後には、あえて別の店舗のATMに移動してからその一部を引き出すなど不審な行動をとっている。このような入出金の経過からも、被告人が入金した20万8000円は、1月13日までの間に被告人が貯蓄したものではなく、1月14日当日に何らかの方法でその大部分をまとめて取得し、取得後直ちにその全額をATMに入金したことが強くうかがわれる。 ウそうすると、被告人が入金した20万8000円のうちの全部又は少なくと も十数万円は、被告人において、1月14日当日(本件飲食店での夜勤を終えて帰宅した同日午前9時過ぎ頃から本件入金をした同日午後6時35分頃までの間)に給与以外の何らかの方法で新たに入手した現金に由来するものといえる。したがって、被告人は、1月14日当日に何らかの方法で少なくとも十数万円の現金を入手したと認められる。 ⑷ 弁護人の主張についてアこれに対して、弁護人は、本件入金に係る現金20万8000円は、平成27年12月25日から1月12日までの間に振り込まれた被告人の前払金や給与の合計である13万8000円と、被害者からの借入金10万円、そして、平成27年12月29日にパチスロで勝ったことにより得た7万3000円とそれ以外の日 にパチスロで勝ったことにより得た1万円を原資として被告人方で管理していた現金であると主張し、被告人もこれに沿う供述をする。 しかし、弁護人が主張する平成27年12月29日のパチスロの直後において、被告人はKに対し借金の返済の猶予を求める連絡をしているのであり、臨時で7万3000円もの収入を得た者とは思えない行動をとっている。また、1月18日の 取調べの際に、被告人が捜査機関に対して「正直最近パチンコで勝ったことはない」と供述したこととも矛盾す 、臨時で7万3000円もの収入を得た者とは思えない行動をとっている。また、1月18日の 取調べの際に、被告人が捜査機関に対して「正直最近パチンコで勝ったことはない」と供述したこととも矛盾するものである。このような事情からすれば、この期間にパチスロで8万円以上もの現金を得たとする被告人の供述を鵜呑みにすることはできないというべきである。 イまた、弁護人は、被告人は手元の現金の多寡に関係なく、毎週のように給与 前払サービスを利用していたのであるから、給与前払サービスを利用していることは被告人の手元に現金がないことを推認させるものではなく、Kや本件法律事務所に対する支払猶予の申入れについても、被告人にとって優先順位の低い返済について後回しにしていただけで、現金がなかったことを推認させる事情ではない旨主張する。 しかし、証拠上、被告人が毎週のように給与前払サービスを利用していた時期は いずれも、滞納していた市道民税の督促を受けたり闇金業者とも関わり続けていたりした時期であり、被告人はその当時から経済的に困窮していたとうかがわれるから、毎週のように給与前払サービスを利用していたことは、むしろ常に経済的に困窮していたことを推認させるものであり、手元の現金の多寡にかかわらず利用していたとは直ちに認められず、被告人が経済的に困窮していたとする前記推認を妨げ る力は強くない。また、被告人にとって優先順位の低い借入れを後回しにしていたとする点についても、弁護人の主張を前提にすると、Kに借金の支払の猶予を申し込んだ時点で被告人の所持金は18万円以上に及んでいたというのであるから、優先順位を考慮したとしても、Kに対して支払の猶予を申し入れたことについての不自然さを完全に拭えるものではなく、この点も、被告人が経済的に困窮 人の所持金は18万円以上に及んでいたというのであるから、優先順位を考慮したとしても、Kに対して支払の猶予を申し入れたことについての不自然さを完全に拭えるものではなく、この点も、被告人が経済的に困窮していたと する前記推認を妨げる力は強くないものといえる。 ⑸ 以上のとおり、本件入金に係る現金20万8000円は被告人が貯蓄したものであるとする弁護人の主張は採用できず、これに沿う被告人の供述も信用できない。したがって、前記認定のとおり、被告人が入金した20万8000円のうちの全部又は少なくとも十数万円は、被告人が1月14日当日に何らかの方法で入手し たものと認められる。 6 犯行時間帯後の不審なインターネット検索について⑴ 「イビキをかいたら」、「イビキをかくとき」と検索したことア脳神経外科を専門とするN医師及び解剖医のB医師の証言によれば、被害者は受傷後に舌根沈下が生じ、いびき様の音を発していたと認められる。そして、被 害者方で行われたルミノール化学発光試験(血液に陽性反応を示すもの)によれば、被害者方の複数個所から足跡型のルミノール反応が検出されており、これは犯人に由来するものと推認される。そうすると、犯人は、被害者に対する暴行の後、被害者方にとどまって一定時間被害者方を物色していたと考えられ、その際に被害者が発するいびき様の音を聞いていたと認められる。 そして、被告人は、犯行時間帯の直後である1月14日午後8時33分頃には、 自身のスマートフォンで「イビキをかいたら」、「イビキをかくとき」との語句でインターネット検索をし、U病院呼吸器科の「激しいイビキの方は要注意!!」というホームページを閲覧し、犯行時間帯のすぐ後に本件犯行と関連する内容のインターネット検索を行っていた。 イこの点に でインターネット検索をし、U病院呼吸器科の「激しいイビキの方は要注意!!」というホームページを閲覧し、犯行時間帯のすぐ後に本件犯行と関連する内容のインターネット検索を行っていた。 イこの点について、弁護人は、被告人が1月8日に被告人の母親と交際相手と の顔合わせに同席した際に、自身がいびきをかいていることが話題に出たため、そのことが気になって検索を行ったにすぎない旨主張し、被告人もこれに沿う供述をする。 しかし、約1週間前に話題になったことをこのタイミングで検索するのは不自然である感は拭えない上、自身のいびきを気にしたのであればいびきの原因やその止 め方を調べるのが通常であると考えられるが、前記の被告人の検索の語句はそれにはそぐわない。弁護人の主張は採用できない。 ⑵ 「足紋」と検索したことア前記のとおり、被害者方の複数個所から犯人に由来するものと推認される足跡型のルミノール反応が検出されているところ、犯人が土足で侵入した形跡がない ことから、足跡型のルミノール反応は、犯人が靴を脱いだ状態で血を踏むなどし、その状態で被害者方内を歩き回った際に血液がついたために検出されたものと考えられる。 そして、被告人は、1月15日午前10時20分頃、スマートフォンで「あしもん」と入力した上で「足紋」と変換し、当該語句でインターネット検索をしており、 本件犯行に関連すると思われる内容のインターネット検索を行っていた。 イこの点について、弁護人は、被告人において、足のマッサージに関する「あしもみ」や、胃薬の名称である「アシノン」と入力して検索しようとしていたところ、誤って入力した上で変換まで行った可能性を指摘する。しかし、誤入力した上で誤変換までしたとは考え難いというべきであるから、弁護人の主張は採用できず、 ノン」と入力して検索しようとしていたところ、誤って入力した上で変換まで行った可能性を指摘する。しかし、誤入力した上で誤変換までしたとは考え難いというべきであるから、弁護人の主張は採用できず、 被告人は「足紋」に関心があったために意図的にそのワードを検索したものと認め られる。 ⑶ 以上のとおり、被告人は、犯行時間帯の直近である日時に、本件犯行と関連する「イビキ」や「足紋」について検索している。いずれか一方のみであれば本件犯行と関係なく偶然に検索したということも考えられるが、これら二つをいずれも本件犯行のすぐ後に調べるというのは、被告人が本件犯行と関係していないのであ ればあまりに偶然が過ぎるというべきである。したがって、被告人が犯行時間帯のすぐ後に「イビキ」や「足紋」を調べている事実は、被告人が本件犯行に関わっていることを相当に推認させるものといえる。 7 総合評価以上認定した事実のとおり、被告人は、犯行時間帯である1月14日午後5時2 0分頃、被害者方から約400メートル離れた本件交差点を右折して被害者方方向へ向かい、同日午後5時51分頃に被害者方方向から戻ってきているが、あらかじめ被告人が同日に被害者方を訪れる約束をしていたことを踏まえると、これらの事実だけでも、被告人が犯行時間帯に被害者方に行ったことが強くうかがわれる。 そして、被告人が1月14日の犯行時間帯の直後に入金した20万8000円の うちの全部又は十数万円については、被告人が同日中に何らかの方法で入手したものと認められるところ、証拠上、被告人が被害者から入手する以外の方法で十数万円以上の現金をその日に取得したことをうかがわせる事実は見当たらない。その上、被告人は、20万8000円をATMに入金したその約8分後には、あえて別の店舗 告人が被害者から入手する以外の方法で十数万円以上の現金をその日に取得したことをうかがわせる事実は見当たらない。その上、被告人は、20万8000円をATMに入金したその約8分後には、あえて別の店舗のATMに移動してからその一部を引き出すなどの不審な行動をとっていること や、前記のとおり、被告人が犯行時間帯に被害者方に行ったことが強くうかがわれること、また、犯行時間帯の直後に「イビキをかいたら」などと本件犯行に関連がある検索をし、翌15日にも「足紋」と重ねて本件犯行に関連する検索を行うなど、被害者の殺害に関連する不審な行動に及んでいることからすれば、被告人が入金した20万8000円のうちの全部又は少なくとも十数万円は、犯行時間帯に被害者 から入手したものであると考えられ、被告人が本件の犯人であることが強く推認さ れる。 仮に、被告人が犯人でないとすると、被告人は、犯行時間帯において、被害者方を訪問する約束をした上で、被害者方から約400メートル離れた本件交差点を右折して被害者方方向へ向かったものの、約束を反故にして被害者方を訪問せず、被害者から取得する以外の方法で十数万円程度の現金を取得して、これを突如として 預金口座に入金し、その後、前記のような本件犯行に関連する検索をたまたま複数回にわたって行った一方で、偶然にも被告人以外の第三者が犯行時間帯に来客として被害者方を訪れ、被害者を殺害したことになる。しかしながら、このような偶然が重なり合うことはおよそ考えられず、前記のとおり認定した事実関係は、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない、あるいは、少なくと も説明が極めて困難な事実関係というほかない。以上の検討によれば、被告人が本件の犯人であると認められる。 8 被告人の供述の信用性 ならば合理的に説明することができない、あるいは、少なくと も説明が極めて困難な事実関係というほかない。以上の検討によれば、被告人が本件の犯人であると認められる。 8 被告人の供述の信用性被告人は、1月14日に被害者方に行ったことはなく、同日夕方頃に全財産を持って外出したのは、コンビニエンスストアに行くためであったとか、Jに借金を返 済するためであったとしつつ、Jとは事前に約束をしておらず、Jの居宅の近くのコンビニエンスストアに行った後に携帯電話を自宅に忘れてしまったことに気付き、結局、Jには連絡することも会うこともできず、そのまま帰宅したなどと供述する。 しかし、コンビニエンスストアに行くために20万円以上の全財産を持っていくことは不合理である。また、Jに対して返済期限よりも前に返済することにしたに もかかわらず、あらかじめ連絡することなく、約束もしないまま、急にJの居宅の近くのコンビニエンスストアに借金の返済に向かったなどという内容自体およそ不合理なものである。その余の被告人の供述も、本件から8年後の供述であることを踏まえても、場当たり的なものばかりで全体として信用性に欠けるといわざるを得ない。 以上によれば、被告人の供述は信用できない。 9 弁護人の主張⑴ 弁護人は、被告人が犯人であるとすると、被告人は1月14日午後5時20分頃から同日午後5時51分頃までの間に、本件セブンイレブン付近から被害者方に移動し、被害者と居間でやりとりをした後に被害者を鈍体様のもので数十回殴って殺害し、被害者方内を物色して現金を強取し、返り血を台所で洗うなどした後、 ローソンO店まで移動したことになるが、それは時間的に不可能に近い旨主張する。 しかし、犯人の合理的な行動としては、犯行発覚を免れるために長 物色して現金を強取し、返り血を台所で洗うなどした後、 ローソンO店まで移動したことになるが、それは時間的に不可能に近い旨主張する。 しかし、犯人の合理的な行動としては、犯行発覚を免れるために長時間にわたって犯行現場に留まることを嫌い、急いで行動したということも十分に考えられるし、本件犯行前の被害者とのやりとりもごく短時間であった可能性は残るのであるから、弁護人の指摘する点を踏まえ検討しても、被告人が犯行時間帯に本件犯行を行うこ とが不可能であったとの合理的な疑いは生じず、被告人が犯人であるとの前記認定は左右されない。 ⑵ また、弁護人は、本件犯行当時、被害者方に存在した現金は確実に20万円を下回っていたのであるから、本件入金に係る20万8000円が被害者方から入手したものであるとは認められない旨主張する。 しかし、被害者が自宅で管理していた現金の総額は証拠上必ずしも明らかにはなっておらず、生活費として支出していた金額も定かではないから、被害者方に存在した現金が確実に20万円を下回っていたなどと断定することはできない。かえって、被害者は、被告人が平成27年10月に突然被害者方を訪れた際には、その場で10万円を渡すことができたことに照らせば、自宅内に相応の蓄えを有していた ことがうかがわれる。本件犯行後、被害者方からは、紙幣については缶の中の封筒に入った千円札3枚しか発見されなかったほか、被害者が普段使っていた財布からも現金が1円しか発見されなかったのであり、今後必要となる生活費や2日後には被害者が友人とカラオケに行く約束をしていたことを踏まえると、犯人が被害者の財布の中に在中していたであろう紙幣等を持ち去ったと考えるのが自然である。 ⑶ 次に、弁護人は、平成25年頃には、被告人は闇金業者から勤務先を退職 束をしていたことを踏まえると、犯人が被害者の財布の中に在中していたであろう紙幣等を持ち去ったと考えるのが自然である。 ⑶ 次に、弁護人は、平成25年頃には、被告人は闇金業者から勤務先を退職せ ざるを得ない程の嫌がらせを受けており、そのときも多額の借金を抱えて滞納を繰り返していたところ、そのような時期と比べれば、本件犯行当時の被告人はさして窮境にあったとはいえず、また、借金をきちんと返そうとするような人物でもなかったことから、殺人を犯してまで現金を工面しなければいけない程に追い詰められていたとは考え難いと主張するものと解される。 しかし、被告人は、平成27年12月25日には携帯電話料金すら支払えない状況に陥っていた中、市道民税の滞納に関して給与を差し押さえられる可能性があることを伝えられ、唯一の収入源である給与を失いかねない状況に追い込まれていた。 加えて、闇金業者からも多数回の電話があり、被告人の方からも闇金業者に電話していたことから、本件当時は相当に経済的にひっ迫し、追い詰められていたものと いえる。そして、平成25年当時も同様かそれ以上に経済的に困窮していたとしても、その当時における人間関係や精神状態まで本件当時と同じであったとはうかがわれず、多くの要因が交錯する中で被告人が被害者を殺害して現金を入手する動機を形成していったとしても何ら不自然ではない。弁護人の主張する点は、被告人が本件犯行を行った犯人であるとの認定を左右するに足る事情とはいえない。 ⑷ その他弁護人が主張するところを子細に検討しても、被告人が本件の犯人であるとの認定に合理的な疑いは生じない。 第3 争点②(殺害行為が現金強取に向けられたものであるか否か)被告人は、前記のとおり、本件当時、経済的に相当ひっ迫していたと認められ 告人が本件の犯人であるとの認定に合理的な疑いは生じない。 第3 争点②(殺害行為が現金強取に向けられたものであるか否か)被告人は、前記のとおり、本件当時、経済的に相当ひっ迫していたと認められるところ、被害者を殺害した後、限られた時間の中で直ちに被害者方の居間、和室、 寝室、洋室、ウォークインクローゼットという比較的広範囲を物色しており、その手際の良さや実際に現金を入手していることからすれば、被告人においてあらかじめ現金を奪うことを想定していたことが強く推認される。 また、B医師の証言によれば、被告人は、金槌かハンマーのようなものを凶器として用いたと考えられ、更には、被害者方のカラーボックス等には、被害者方に存 在した手袋によるものとは異なる手袋痕が存在したところ、短時間のうちに被害者 方からこのような凶器や手袋を探し出して本件犯行やその後の物色に用いたとは考え難く、被告人は、あらかじめ凶器や手袋を持参した上で本件犯行に及んだと考えるのが自然である。そうすると、被告人が被害者を殺害し、家の中を物色して現金を入手することも、事前に想定していたとみるのが合理的である。 以上の事情に加え、本件犯行後、被告人が入手した現金を用いて直ちに借金の返 済等に向けて動いたことや、被告人が、専ら被害者を殺害する目的のみで本件犯行に及んだことをうかがわせる事情がないことも踏まえると、被害者に対する殺害行為が現金強取に向けられたものであったことは明らかである。 よって、被告人は、現金強取の目的で判示の殺害行為を行ったものと認められる。 第4 被害額について 検察官は、被告人が本件犯行の直後に20万8000円を入金したことや、入金の直前にコンビニエンスストアにおいて五千円札で支払をし、千円札4枚と硬貨を受け取っ る。 第4 被害額について 検察官は、被告人が本件犯行の直後に20万8000円を入金したことや、入金の直前にコンビニエンスストアにおいて五千円札で支払をし、千円札4枚と硬貨を受け取っていたことを踏まえ、被告人は被害者から20万9000円を強取したと主張する。しかし、前記第2で検討したとおり、被告人が被害者方で取得した現金については、少なくとも十数万円程度という以上に具体的な認定をすることは困難 であるから、被害額については判示の限りの認定にとどまり、検察官の主張を採用することはできない。 第5 結論以上のとおり、被告人が本件の犯人であり、現金強取に向けて被害者の殺害行為に及んだと認められるから、被告人の行為に対しては判示の強盗殺人罪が成立する。 (確定裁判)被告人は、平成29年1月25日釧路地方裁判所で詐欺、犯罪による収益の移転防止に関する法律違反の罪により懲役2年(3年間執行猶予)に処せられ、その裁判は同年2月9日確定したものであって、この事実は検察官作成の統合捜査報告書(乙10)によって認める。 (法令の適用) 罰条刑法240条後段刑種の選択無期懲役刑を選択併合罪の処理刑法45条後段、50条(判示の強盗殺人罪と前記確定裁判があった罪とは併合罪の関係にあるから、まだ確定裁判を経ていない判示の強盗殺人罪について更に処断) 未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の処理刑訴法181条1項ただし書(不負担)(量刑の理由)被告人は、被害者の頭部をあらかじめ持参した金槌かハンマーのようなもので40回以上殴って被害者を殺害しており、犯行態様は執拗かつ残虐で、強固な殺意に 基づく犯行で、計画性も認められる。被害者は、 告人は、被害者の頭部をあらかじめ持参した金槌かハンマーのようなもので40回以上殴って被害者を殺害しており、犯行態様は執拗かつ残虐で、強固な殺意に 基づく犯行で、計画性も認められる。被害者は、友人とカラオケに行ったり、家族との旅行を楽しんだりして日々生活していたところ、被告人から理不尽に襲われ、その尊い命を奪われたのであり、その苦痛や無念は計り知れず、結果はもとより重大である。被害者と過ごせたであろう時間を無残な形で奪われた遺族の悲しみは深く、厳罰を望むのも至極当然といえる。被告人は、パチスロで遊興するなどして経 済的に困窮した末、親切心から金銭を貸してくれていた被害者に対して本件犯行に及んだものであり、その動機や経緯は身勝手というほかなく、酌むべき余地はない。 そして、被告人は不合理な弁解に終始しており、反省の態度はまったく見られない。 以上を踏まえ、同種事案(単独犯による凶器を使用した強盗殺人罪1件で、処断罪名と異なる主要な罪なし。)の量刑傾向も考慮すれば、本件では無期懲役刑を選択 するのが相当であり、酌量減軽すべき事情があるとは認められないから、被告人を主文の刑に処することとした。 (求刑:無期懲役、被害者参加人の科刑意見:強盗殺人罪の中で最大の刑罰)令和6年3月6日釧路地方裁判所刑事部 裁判長裁判官井草健太 裁判官松村光泰 裁判官川邊朝隆
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