平成29(行ウ)541 生活保護廃止決定処分取消請求事件,費用徴収決定処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和元年9月12日 東京地方裁判所
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判決文本文29,435 文字)

令和元年9月12日判決言渡平成29年(行ウ)第541号生活保護廃止決定処分取消請求事件(第1事件)平成29年(行ウ)第543号費用徴収決定処分取消請求事件(第2事件)主文 1 処分行政庁が原告に対して平成28年7月27日付けでした費用徴収決定を 取り消す。 2 処分行政庁が原告に対して平成28年7月27日付けでした生活保護廃止決定を取り消す。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求 1 第1事件主文2項と同旨 2 第2事件主文1項と同旨 第2 事案の概要本件は,生活保護を受けていた原告が,処分行政庁から,原告の預金口座に多額の入金がありながら,これを申告せず,不実の申請その他不正な手段により保護を受けたとして,生活保護法(以下「法」という。)78条1項に基づき,316万1825円の費用徴収決定(以下「本件徴収決定」という。)を受ける とともに,本件徴収決定後の繰越金と原告の就労収入を考慮すると,原告は保護を必要としなくなったとして,生活保護廃止決定(以下「本件保護廃止決定」といい,本件徴収決定と併せて「本件各決定」という。)を受けたのに対し,本件各決定は違法であるとして,これらの取消しを求める事案である。 1 関係法令等の定め 関係法令等の定めは,別紙2関係法令等の定めに記載のとおりである。 2 前提事実(証拠等を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)(1) 処分行政庁は,港区長から法に基づく保護の決定及び実施並びに費用の徴収に関する権限の委任を受けている。 (2) 処分行政庁は,平成14年7月22日,原告(当時,原告は,長女と同居していた。)に対し,生活保護開始決定をした。処分行政庁は,その際,原告 から 徴収に関する権限の委任を受けている。 (2) 処分行政庁は,平成14年7月22日,原告(当時,原告は,長女と同居していた。)に対し,生活保護開始決定をした。処分行政庁は,その際,原告 から,みずほ銀行及びD信用金庫の預金口座並びに郵便貯金がある旨記載された資産申告書及びこれらの口座の通帳の写しの提出を受けた。 (3) 処分行政庁の所管課である港区芝浦港南地区総合支所区民課生活福祉係の職員は,平成25年6月21日,原告に対し,「福祉事務所からの重要事項の説明・確認書」(以下「本件説明確認書」という。)の記載内容を読み上げ た上で,原告が署名押印した本件説明確認書の原本を収受し,写しを原告に手渡した。本件確認書には,「1 届出について以下のような変動があったときに届出をします。(中略)収入があったり無くなったりしたとき,増えたり減ったりしたとき(高校生のアルバイト収入など,世帯にいる人に収入のあった場合は,すべて申告する必要があります。)(働いて得た収入だけでなく, 年金,手当,仕送り,保険金,補償金,見舞金,借入金など,収入はすべて申告する必要があります。)」と記載されていた(乙5)。 (4) 処分行政庁は,平成27年10月20日頃,原告に対し,申告期限を平成28年1月29日として,保有する資産について申告を求めた。処分行政庁は,同月22日,原告から,資産申告書の提出により,原告名義の預貯金口 座は,①E信用組合F支店の普通預金口座(残高500円。以下「E信組原告口座」という。),②三井住友銀行G支店の普通預金口座(残高672円。 以下「三井住友原告口座」という。)及び③ゆうちょ銀行の通常貯金口座(残高1480円。以下「ゆうちょ原告口座」という。)である旨の申告を受けた(乙7)。しかしながら,原告は,当 口座(残高672円。 以下「三井住友原告口座」という。)及び③ゆうちょ銀行の通常貯金口座(残高1480円。以下「ゆうちょ原告口座」という。)である旨の申告を受けた(乙7)。しかしながら,原告は,当時,申告した以外に三菱東京UFJ銀行 H支店に普通預金口座(以下「本件口座」という。)を有していた。その入出 金状況は,別紙3のとおり(なお,金額の単位は円である。)である(乙14)。 (5) 処分行政庁は,平成28年5月31日,匿名の者から原告に多額の資産があり,生活保護受給資格がない旨の投書を受け,真偽を確認するため,法29条1項に基づく金融機関に対する調査に着手した(乙12)。 (6) 処分行政庁は,平成28年7月8日までに,本件口座の存在及び平成26 年1月7日以降の本件口座の取引状況を把握した(乙13,弁論の全趣旨)。 (7) 処分行政庁は,原告から,本件口座及びその入金を申告しなかったことについて理由を聴取した上で,原告に対して,平成28年7月27日付けで,原告の預金口座に多額の入金がありながら,これを申告せず生活保護を受給したとして,法78条1項に基づき,316万1825円の費用徴収決定(本 件徴収決定)をするとともに,本件徴収決定に係る徴収金額決定後の繰越金と就労収入により,保護を受ける必要がなくなったとして,同年8月1日をもって生活保護を廃止する旨の決定(本件保護廃止決定)をした(甲10,17)。 (8) 原告は,平成28年9月16日,本件保護廃止決定を不服として,東京都 知事に対して審査請求をしたが,同知事は,平成29年5月23日付けで同審査請求を棄却する旨の裁決をした。 (9) 原告は,平成28年9月30日,本件徴収決定を不服として,港区長に対して審査請求をしたが,同区長は, をしたが,同知事は,平成29年5月23日付けで同審査請求を棄却する旨の裁決をした。 (9) 原告は,平成28年9月30日,本件徴収決定を不服として,港区長に対して審査請求をしたが,同区長は,平成29年10月17日付けで同審査請求を棄却する旨の裁決をした。 (10) 原告は,平成29年11月24日,第1事件及び第2事件に係る各訴えをそれぞれ提起した(顕著な事実)。 3 争点(1) 本件徴収決定が法78条1項の要件を満たすものとして適法か否か(2) 本件保護廃止決定が適法か否か(原告が保護を要しなくなったか否か) 4 争点に関する当事者の主張 (1) 本件徴収決定が法78条1項の要件を満たすものとして適法か否か(争点(1))について(被告の主張)ア(ア) 本件口座に入金された金員が,法4条1項の「利用し得る資産」であり,収入認定されるべき収入に当たること 法4条1項及び2項は,保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われるものであり,民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律で定める扶助は,全てこの法律による保護に優先して行われるものとする旨定めている。ここでいう「資産,能力その 他あらゆるもの」は,それが「利用し得る」ものである限り,その具体的内容については何ら制限されておらず,扶養義務者からの援助も当然に含まれるものである。 本件口座の名義人は原告であり,本件口座の通帳,印鑑及び暗証番号は原告が管理しており,原告が,預金契約上の債務者である銀行との関 係において,本件口座に係る預金債権を処分し得る地位を有していたことは明らかである。したがって,平成2 通帳,印鑑及び暗証番号は原告が管理しており,原告が,預金契約上の債務者である銀行との関 係において,本件口座に係る預金債権を処分し得る地位を有していたことは明らかである。したがって,平成26年1月7日から平成28年2月22日までの間に本件口座に入金された482万3839円のうち,少なくとも411万8139円(以下「本件金員」という。)は,原則として原告に帰属するものであり,収入認定されるべき収入に該当すると いうべきである。 (イ)a これに対し,原告は,本件金員の原資は,原告の父であるI名義の口座から引き出した金員その他の「Iの遺産」に当たる金員であり,本件金員も原告がIから依頼を受けて預かっていた「Iの遺産」であって,原告はこれを費消する権限を有していなかったから,収入認定 されるべき収入には当たらない旨主張する。 b しかしながら,原告の上記aの主張は,以下のとおり具体的な事実関係に整合しない主張であり,失当である。 (a) 原告は,ゆうちょ原告口座で,電気,ガス,水道等の生活費の決済を行っていたが,その決済資金の主な原資は,E信組原告口座に振り込まれる保護費及び児童扶養手当並びに三井住友原告口座に 振り込まれる給与収入であった。しかし,ゆうちょ原告口座は,平成26年5月7日時点で,残高がマイナスの状態,すなわち,通常貯金の残高を超える払戻しの請求があったときに,総合口座で管理する担保定額貯金や担保定期貯金を担保として,不足分が自動的に貸し付けられている状態となっていた。 (b) 原告は,平成26年4月29日から同年5月15日にかけて,ゆうちょ銀行のI名義の口座(以下「ゆうちょI口座」という。)から合計355万8000円を引き出し,本件口座に305万5800円を預け入れた。ま は,平成26年4月29日から同年5月15日にかけて,ゆうちょ銀行のI名義の口座(以下「ゆうちょI口座」という。)から合計355万8000円を引き出し,本件口座に305万5800円を預け入れた。また,原告は,同月9日,上記355万8000円の中から47万円をゆうちょ原告口座に預け入れた。その結果, 同口座は,マイナスの状態が解消され,同日時点で,残高は40万1691円となった。 その後,ゆうちょ原告口座は,しばしばマイナスの状態となったが,同年11月25日,原告の長女の奨学金199万6326円が振り込まれると,残高は大幅にプラスの状態となり,原告は,その 中から,同月27日,133万1390円をJ専門学校(以下「専門学校」という。)に長女の学費として振り込み,同年12月17日,50万円を引き出し,同額を本件口座に預け入れ,同月18日,17万円を引き出し,20万3779円を本件口座に預け入れた。その結果,同日時点で,ゆうちょ原告口座の残高は6万5310円と なった。 その後の原告の生活費の支払によりゆうちょ原告口座の残高は減少し,平成27年1月5日時点で再びマイナスの状態となったが,原告は,平成26年12月24日に姉から預かった「Iの遺産」とする,みずほ銀行K支店の原告名義の普通預金口座(以下「みずほ原告口座」という。)に同日預け入れられた34万7518円を原資 とする34万7000円を,平成27年1月14日,ゆうちょ原告口座に預け入れ,同口座のマイナスの状態は解消され,残高は31万7794円となり,そこから原告の生活費が支払われた。 (c) 原告は,平成26年10月28日,本件口座から20万円を引き出し,原告の長女の専門学校の入学金の支払に充てた。 (d) 原告は,平成27年5月28日, ら原告の生活費が支払われた。 (c) 原告は,平成26年10月28日,本件口座から20万円を引き出し,原告の長女の専門学校の入学金の支払に充てた。 (d) 原告は,平成27年5月28日,証書貸付を受けた金員の一部及び手持ちの現金等を合わせて本件口座に34万9000円を預け入れた。 (e) 原告は,平成27年6月26日,本件口座から50万円を引き出して生活費等に費消し,同年8月21日,本件口座から20万円を 引き出し,これを原資として,ゆうちょ原告口座に,同日及び同月26日,それぞれ16万円,4万円を入金した。 (f) 前記(a)から(e)までのとおり,原告は,ゆうちょI口座から引き出した金員及び姉から預かったとする「Iの遺産」を,本件口座,原告の決済口座であるゆうちょ原告口座等に預け入れ,各口座の残 高や自己の資金需要を勘案して各口座間で自由に資金を移動し,自己の収入及び資産と「Iの遺産」とする資産を混在させ,その全体を「利用し得る資産」として,これらを一体的に管理運用し,自らの生活費(借入金の返済を含む。)や長女の学費に充てていたことは明らかである。しかも,原告は,Iの生前から,ゆうちょI口座か ら引き出した金員を自己の生活費に充てていたのである。 したがって,原告は,原告が「Iの遺産」であるとする金員について,最終的に返済する義務があったか否かは不明であるが,少なくとも一時的に利用する権限は有していたとみるのが自然である。 そして,法にいう「利用し得る資産」には,借金等の返済義務があるものも含め,あらゆるものが含まれる以上,一時的にであれ利用 することが許されていた本件金員が「利用し得る資産」に当たることは明らかである。 (ウ)a 仮に,原告の主張するとおり,原告が本件金員を費消する権 らゆるものが含まれる以上,一時的にであれ利用 することが許されていた本件金員が「利用し得る資産」に当たることは明らかである。 (ウ)a 仮に,原告の主張するとおり,原告が本件金員を費消する権限を有しなかったのであれば,原告は,委託の趣旨に背いて,寄託された金員を権限なく費消したということになるのであるから,かかる行為 は法的には横領と評価される。 そして,原告が平成26年4月29日に最初にゆうちょI口座から50万円を引き出してから,ゆうちょ原告口座に預け入れるまでの期間は僅か10日前後であり,原告は,少なくとも自動貸付けの返済のために一時流用したことを認めていることなどからすれば,原告は, ゆうちょI口座から金員を引き出した時点で,ゆうちょ原告口座のマイナス状態を解消することその他必要に応じて本件口座から一時流用することを想定していたとみるのが自然である。 したがって,原告の主張を前提としても,ゆうちょI口座から金員を引き出した時点又は遅くとも原告名義の預貯金口座に入金した時点 で,原告は当該金員を領得したといえる。 b また,元がどのような性質の金員であっても,口座から引き出された金員は個性のない金員となるから,本件口座に預け入れられた金員の原資がI名義の口座から引き出されたものであることは,本件徴収決定の正当性に影響はしない。原告がその主張において援用する東京 都福祉保健局作成の生活保護運用事例集(以下,単に「運用事例集」 という。)が前提とするのは,I名義の預貯金通帳を原告が所持していた場合のことであり,I名義の預貯金が一旦引き出されて原告名義の口座に預け入れられ,原告がそれを活用した以上,原告の資力として扱われるべきものである。 (エ) なお,原告は, 帳を原告が所持していた場合のことであり,I名義の預貯金が一旦引き出されて原告名義の口座に預け入れられ,原告がそれを活用した以上,原告の資力として扱われるべきものである。 (エ) なお,原告は,本件金員が相続財産であることを前提として,資力 の発生時点は,遺産分割協議が終了した時点である旨主張する。 しかしながら,原告の主張を前提とすれば,被保護者が遺産を相続した場合,遺産を一時流用して費消したとしても,遺産分割を終わらせない限り,当該金員については収入認定されないことから,生活保護を受けながら,保護基準を上回る生活を享受することが可能となり,妥当で はない。本件は,未分割の遺産をそのままの状態で単に預かっていたという場合とは異なり,原告が本件金員を自己の収入及び資産と混在させ,その全体を「利用し得る資産」として,これらを一体的に管理運用し,自らの生活費等に充ててきたという実態がある以上,遅くとも本件金員を本件口座に預け入れた時点では資力が発生したとみるべきであ る。 (オ) よって,原告の本件金員の取得原因がいかなるものであれ,本件金員はその全体が「利用し得る資産」であり,収入認定されるべき収入に当たることは明らかである。 イ原告が法78条1項の「不実の申請その他不正な手段により」保護を受 けた者といえること(ア) 保護を適正に実施するためには,保護の実施機関が被保護者の生計の状況等を的確に把握する必要があることから,法61条は,被保護者に収入,支出その他生計の状況についての変動等の申告義務を課している。そして,被保護者の生計の状況等を的確に把握するためには,収入 の実態を把握することが必要不可欠であり,同条に基づき収入申告すべ き「収入」は,収入認定されない収入も含めたあらゆる収入で 。そして,被保護者の生計の状況等を的確に把握するためには,収入 の実態を把握することが必要不可欠であり,同条に基づき収入申告すべ き「収入」は,収入認定されない収入も含めたあらゆる収入であると解される。したがって,結果として収入認定されない収入であったとしても,当該収入を得た被保護者が,同条に基づく申告義務を免れるわけではない。 (イ) 処分行政庁は,平成25年6月21日,原告に対し,収入の発生, 消滅又は増減があったときに届出をする必要がある旨本件説明確認書に基づいて説明し,原告が署名押印した本件説明確認書を収受した。さらに,処分行政庁は,平成27年10月20日頃,原告に対し,申告期限を平成28年1月29日とし,保有する資産について申告を求めたところ,原告は,同月22日付けで資産申告書を提出したが,本件口座は 申告しなかった。結局,原告は,処分行政庁が同年7月8日に本件口座の保有を指摘するまで,本件口座を申告せず,本件金員について何ら申告していなかった。 その上,原告は,処分行政庁から平成27年10月に保有する資産の申告を求められるや,同年12月1日から同月15日までの間に,本件 口座から合計321万2000円を引き出し,本件口座の残高を786円にした上,平成28年1月22日に提出した資産申告書にも本件口座を記載しなかった。原告は,本件口座の金員の存在が顕在化することを防ぐため,現金化しており,原告自身,「口座に置いておくと誤解を受ける」との理由で引き出した旨説明している。 以上によれば,原告は,資産があるにもかかわらず,消極的に故意に事実を告げなかったことが認められ,「生活保護行政を適正に運営するための手引について」(別紙2の第2)Ⅳ3(2)ウの「(ア) 届出又は申告 によれば,原告は,資産があるにもかかわらず,消極的に故意に事実を告げなかったことが認められ,「生活保護行政を適正に運営するための手引について」(別紙2の第2)Ⅳ3(2)ウの「(ア) 届出又は申告について口頭又は文書による指示をしたにもかかわらずそれに応じなかったとき」及び「(エ) 保護の実施機関の課税調査等により,当該被保 護者が提出した収入申告書等の内容が虚偽であることが判明したとき」 に該当し,法78条にいう「不実の申請」により保護を受けた場合に該当する。なお,仮に,原告が消極的に故意に事実を告げなかったとまではいえなかったとしても,正しく資産及び収入を申告しようとする意思がなかったといわざるを得ず,少なくとも本件口座の存在及び同口座に入金された金員の不申告について重過失があることは明らかであり,同 条にいう「不実の申請」により保護を受けた場合に該当することに変わりはない。 (ウ) 原告は,本件金員は遺産分割未了の相続財産であり,生活のために活用し,処分することができる性質のものではないから申告義務がなく,仮に申告義務があるとしても,原告は上記のように認識していたから, 原告に故意,重過失はない旨主張する。 しかしながら,原告が本件金員を生活のために活用し,処分していたことは前記アのとおりである。また,原告は,L市で生活保護を受けていた際に,一通りの説明を受けていたほか,港区で生活保護が開始された際にも,被告の職員から少なくとも簡単な説明は受けており,さらに, 平成25年6月21日にも,収入等の申告義務について説明を受けていた。その上で,原告は,本件金員を実際に生活のために活用していたのであるから,当然申告義務があることを認識し,又は容易に認識し得たというべきである。したがって 収入等の申告義務について説明を受けていた。その上で,原告は,本件金員を実際に生活のために活用していたのであるから,当然申告義務があることを認識し,又は容易に認識し得たというべきである。したがって,原告の主張は失当である。 ウ以上によれば,本件徴収決定は適法である。 (原告の主張)ア本件金員が法4条1項の「利用し得る資産」に当たらないこと(ア) 法4条1項にいう「利用し得る資産」とは,被保護者が,その最低限度の生活を維持するために活用し,処分することができる一切の財産的価値を有するものをいうと考えられるところ,相続財産は,遺産分割 協議が終了してから初めて「処分することができる」財産となり,遺産 分割協議前の相続財産については,収入認定の対象とはならない。それは,運用事例集において,相続財産は,相続が発生したことに伴い,遺産分割調停等により確定する必要があるものについては,確定した時点で初めて資力が発生したものと扱われることからも明らかである。 (イ) 遺産,すなわち相続財産とは,相続人に包括承継される被相続人の 一切の権利義務をいい,預貯金については,原則として被相続人の死亡時点における同人の預貯金残高とされるが,被相続人が生前預託していた金員や被相続人に無断で引き出された金員も被相続人の遺産となるのは当然である。 Iは,自らの遺言の円滑な執行と自身の死亡後の諸費用の支出を委託 するため,原告に対し,ゆうちょI口座の貯金を本件口座に移した上で保管及び管理することを指示した。そこで,原告は,平成26年4月29日から同年5月15日にかけて,ゆうちょI口座から合計355万8000円を引き出し,同月9日から同年12月17日にかけて本件口座に移し,本件口座でIの遺産とし た。そこで,原告は,平成26年4月29日から同年5月15日にかけて,ゆうちょI口座から合計355万8000円を引き出し,同月9日から同年12月17日にかけて本件口座に移し,本件口座でIの遺産として管理していた。また,原告の姉は, 同月24日,みずほ銀行M支店のI名義の口座(以下「みずほI口座」という。)を解約し,解約した現金34万7518円を原告に預けたことから,原告は,平成27年5月28日,同現金を34万9000円として本件口座に預け入れ,Iの遺産として管理した。さらに,本件口座には,平成26年7月31日,コープみらいからIに対する預託金の返還 金1279円が,平成27年2月17日,横浜市からIに対する後期高齢者医療制度の還付金3650円及び介護保険還付金1600円がそれぞれ振り込まれ,原告は,これもIの遺産として管理していた。そして,Iの遺産分割は未了である。 したがって,本件金員は,Iの遺産分割未了の遺産に当たるから,法 4条1項の「利用し得る資産」に当たらない。そして,処分行政庁が, Iの未分割遺産であるという事情を考慮しないで,本件金員を「利用し得る資産」と認定したことは,権限の逸脱濫用であり,本件徴収決定は違法である。 (ウ)a 被告は,I名義の口座から金員が引き出された時点で個性のない金員となるから,本件金員は「利用し得る資産」に当たる旨主張する。 しかしながら,原告がゆうちょI口座から金員を引き出した行為は,Iから金員の保管を委託された寄託契約に基づく行為であり,原告の引出しにより,引き出した金員が寄託物としての個性を失った金員になるわけではない。また,引き出した金員を本件口座に預け入れたとしても,原告に費消する権限が与えられていない以上,預け入れた金 員 出しにより,引き出した金員が寄託物としての個性を失った金員になるわけではない。また,引き出した金員を本件口座に預け入れたとしても,原告に費消する権限が与えられていない以上,預け入れた金 員が未分割遺産であることに変わりはない。したがって,被告の主張は理由がない。 b なお,原告は,平成26年10月28日に本件口座から20万円を引き出し,原告の長女の専門学校への入学金に流用し,原告の長女の1年時の後期学費47万円を既に支払っていたことを失念し,平成2 7年6月26日に,原告の長女の学費に流用するため,本件口座から50万円を引き出し,同年8月21日,未払の1年次の後期教材費等の支払に流用するため,本件口座から20万円を引き出したが,その後,学費の支払に充てる必要がないことが分かったため,引き出した額については,本件口座に戻している。さらに,被告の指摘するとお り,原告は,平成26年5月9日,ゆうちょ原告口座に47万円を預け入れているが,これに関連して,同年12月17日に50万円を本件口座に入金している。しかしながら,これらの引出しは相続人間で問題にされ,場合によっては横領だと指弾されるということがあったとしても,原告に費消する権限がなかった以上,生活保護との関係で, 一時流用時から残金が「利用し得る資産」に変じるなどということは あり得ない。そして,仮に,本件口座に移した時点で本件金員が「利用し得る資産」になり,本件金員の全額を使い切らなければ生活保護が再開されないとすると,原告としては,相続人から横領という指弾を受け,後に相続人らから不当利得返還請求を受けることになるにもかかわらず,手元にある本件金員を使い続けることになる。これは, 行政庁による横領の強要であり,不合理である。 イ本 という指弾を受け,後に相続人らから不当利得返還請求を受けることになるにもかかわらず,手元にある本件金員を使い続けることになる。これは, 行政庁による横領の強要であり,不合理である。 イ本件金員はIの未分割遺産に当たり,法63条によって処理されるべきであること(ア) 運用事例集は,法63条の趣旨について,「本来生活に充てられるべき資力があるものの,直ちに最低生活のために活用できない事情がある 場合に,とりあえず保護を行い,当該資力が換金されるなどして最低生活に充当できるようになった段階で,既に支給した保護金品との調整を図ろうとするもの」としている。そして,同事例集は,相続においては,相続の発生が被相続人の死亡とされていることから,被相続人の死亡によって相続人が遺産を取得したことにより相続人に資力が発生したとみ なすものの,相続人が遺産を最低生活費に充当できるようになるためには,遺産分割がされて現実に相続人が遺産を取得しなければならないことから,遺産分割協議や調停,裁判を経て遺産分割がされて現実に具体的な遺産を取得して初めて資力が発生するとされているのであり,同条の趣旨に合致した運用となっている。したがって,被保護者の相続は, 法63条の適用される場面である。 (イ) 本件金員がIの遺産分割未了の遺産に当たることは,前記ア(イ)のとおりである。 そして,本件では,原告とその姉に遺産を2分の1ずつ相続させる旨のIの遺言はあるものの,原告及びその姉は,Iの長男を怖れて遺言ど おりの遺産分割をすることを見合わせており,Iの妻の後見人からは, 当該遺言の効力を争うことが明示されていた。そのため,原告は,平成28年11月,東京家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てたが,処分行政庁との間で遺産をめぐ 合わせており,Iの妻の後見人からは, 当該遺言の効力を争うことが明示されていた。そのため,原告は,平成28年11月,東京家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てたが,処分行政庁との間で遺産をめぐって争いがあることを理由に取下げを余儀なくされ,遺産分割が一切進まない状態になっている。本件金員の帰属については,正に,訴訟,調停,和解等により確定しなければならず,係争 の結果を待たなければ原告が資力を得るかどうか分からない状態になっており,Iの遺産は,原告の活用することができる資産とはなっていない。 このように,本件は,本来法63条によって処理されるべき場面であるところ,処分行政庁が法78条で処理したことは,処分行政庁が事実 誤認に基づき考慮すべき事項を考慮しなかったことによるものであるから,本件徴収決定には裁量権の範囲の逸脱又は濫用がある。 ウ不実の申請その他不正な手段により保護を受けたとはいえないこと(ア) 現に保護を受けている者に,収入,支出その他生計の状況について変動があったときなどに,保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨の 届出を義務付ける法61条の趣旨は,生活の実態を保護の実施機関に告知することにあることに鑑みれば,同条にいう「収入,支出その他生計の状況」は,被保護者がその生活のために活用し,処分することができる性質のものに限定されるべきである。 本件金員は,遺産分割未了前の相続財産であり,生活のために活用し, 処分することができるものではないから,原告には,本件金員について申告する義務がない。 (イ) また,原告が仮に何らかの申告をすべきであったとしても,遺産は調査を経なければ全体が明らかにならないのであるから,Iの死亡の事実以外は申告のしようがない。遺産分割協議等が進 がない。 (イ) また,原告が仮に何らかの申告をすべきであったとしても,遺産は調査を経なければ全体が明らかにならないのであるから,Iの死亡の事実以外は申告のしようがない。遺産分割協議等が進まなかったことによ り原告の具体的取得分を確定することができなかったのであるから,原 告が処分行政庁への申告を速やかに行わなかったことについては,やむを得ない理由がある。さらに,原告は,平成19年9月10日,本件口座を開設したことを口頭で伝えているし,また,少なくとも給与については原告が届け出ている以上,処分行政庁としても,給与の振込先について確認しているはずであるから,給与が振り込まれていた本件口座の 存在を把握していたはずである。その後,原告は,処分行政庁から本件口座の通帳の写しの提出を求められたことはなく,平成27年10月頃,資産の申告を求められたが,その時点では,原告は,本件口座をIの未分割遺産の管理用口座として使用していたため,届け出るべきものとは考えていなかった。したがって,仮に原告に本件金員の申告義務があっ たとしても,申告をしなかったことについて故意又は重過失は認められない。 そうすると,原告は,不実の申請その他不正な手段により保護を受けたとは認められない。 エ法78条を適用すべき生活保護制度の悪用とはいえないこと 法78条の趣旨は,保護の不正受給を防止し,生活保護制度が悪用されることを防止しようとすることにあることなどから,同条1項は,被保護者の収入未申告等の行為が,生活保護制度の悪用と評価することができる行為に当たる場合にのみ適用すべきであり,そうでない場合には,法63条を適用すべきである。 確かに,原告は,本件金員を本件口座に入金した時点及び平成28年1 と評価することができる行為に当たる場合にのみ適用すべきであり,そうでない場合には,法63条を適用すべきである。 確かに,原告は,本件金員を本件口座に入金した時点及び平成28年1月22日付けで資産申告書を提出した時点において,処分行政庁に対し,本件金員を申告しなかった。しかし,原告がゆうちょI口座から金員を引き出したのはIの指示に基づくものであり,総額355万8000円に上る大金を自宅に保管することは危険であることから,本件口座に預け入れ て保管していたにすぎない。また,原告は,処分行政庁から平成28年7 月8日付けで本件口座を資産申告書に記載しなかった理由及び申告しなかった理由を申立書に記載するよう求められた際には,Iの指示により,本件口座をIの未分割遺産の管理口座として使用しており,申告をする必要がないと考えていたことを説明し,遺産分割手続の終了後には本件金員につき収入申告することを約束している。これらの事情に鑑みれば,原告に は,本件金員について故意に隠蔽し,保護を不正に受給する意図があったと認めることができず,原告が本件金員を申告しなかったことが法78条1項を適用すべき生活保護制度の悪用と評価することができる行為ということはできない。 オ以上のとおり,本件徴収決定は違法である。 (2) 本件保護廃止決定が適法か否か(争点(2))について(被告の主張)ア保護の実施機関は,被保護者が保護を必要としなくなったときは,速やかに,保護の停止又は廃止を決定し,書面をもって,これを被保護者に通知しなければならない(法26条)ところ,「保護を要しなくなったとき」 とは,当該世帯における収入の臨時的な増加等により,以後おおむね6か月を超えて保護を要しない状態が継続すると 被保護者に通知しなければならない(法26条)ところ,「保護を要しなくなったとき」 とは,当該世帯における収入の臨時的な増加等により,以後おおむね6か月を超えて保護を要しない状態が継続すると認められるときがこれに当たる(「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」の「第10 保護の決定」問12の答の「2 保護を廃止すべき場合」。別紙2の第4)。 そして,保護の要否は,当該世帯につき認定した最低生活費と認定した収 入との対比によって決定する(「生活保護法による保護の実施要領について」の「第10 保護の決定」。別紙2の第3)。 イ処分行政庁は,原告の最低生活費を,生活扶助及び住宅扶助10万2560円+国民健康保険料1600円+医療費(5月参考)2万6910円=13万1070円(A),原告の収入充当額を,原告給与10万5700 円-基礎控除1万6460円-交通費1694円=8万7546円(B) とし,そして本件徴収決定による返還額決定後の繰越額を,411万8139円(本件金員)-316万1825円(本件徴収決定に基づく返還額)=95万6314円(C)と算出し,(A)<(B)+(C)となっていることから,収入充当額(及び繰越額)が最低生活費を上回るとして廃止決定を行った。 なお,冬季加算及び期末一時扶助を加え要否判定を行った計算においても,以下のとおり,収入充当額が最低生活費を上回っている。 (ア) 原告の要否判定に係る6か月分の最低生活費は,10万2560円(一月の最低生活費)×6か月分+2580円(冬季加算)×3か月分+1万3890円(期末一時扶助)+1600円(国民健康保険料)× 6か月分+2万6910円(医療費)×6か月分=80万8050円となる。 (イ) 処分 580円(冬季加算)×3か月分+1万3890円(期末一時扶助)+1600円(国民健康保険料)× 6か月分+2万6910円(医療費)×6か月分=80万8050円となる。 (イ) 処分行政庁は,①原告の1年間の稼働収入の平均額を用いる案,②原告の直近3か月の稼働収入の平均額を用いる案の2案を採用し,原告の要否判定を行った。 ①原告の1年間の稼働収入の平均額は,60万2925円(平成27年8月~平成28年7月分)÷12か月=5万0243円であり,原告の1年間の稼働収入の平均必要経費は,1万6846円(平成27年8月~平成28年7月分)÷12=1403円である。 要否判定の際に稼働収入として充当する額は,(上記5万0243円 -1万0650円〔基礎控除〕-上記1403円)×6か月=22万9140円である。 要否判定の際に収入として充当する合計額は,上記22万9140円+95万6314円(繰越額)=118万5454円である。 したがって,80万8050円(上記(ア))を上回る。 ②原告の直近3か月の稼働収入の平均額は,18万7200円(平成 28年5月~同年7月分)÷3か月=6万2400円であり,原告の直近3か月の稼働収入の平均必要経費は,4466円(同年5月~同年7月分)÷3か月=1488円である。 要否判定の際に稼働収入として充当する額は,(上記6万2400円-1万2100円(基礎控除)-上記1488円)×6か月=29万2 872円である。 要否判定の際に収入として充当する合計額は,上記29万2872円+95万6314円(繰越額)=124万9186円である。 したがって,80万8050円(上記(ア))を上回 る。 要否判定の際に収入として充当する合計額は,上記29万2872円+95万6314円(繰越額)=124万9186円である。 したがって,80万8050円(上記(ア))を上回る。 ウ以上によれば,本件保護廃止決定は適法である。 (原告の主張)ア本件徴収決定は違法であり,本件徴収決定後の繰越金である95万6314円はそもそも生じない。 イ上記アを前提に,本件保護廃止決定の当時の原告の「最低生活費+国民健康保険料+医療費」と「給与-基礎控除-交通費」とを比較すると, ①最低生活費10万2560円+国民健康保険料1600円+医療費(5月参考)2万6910円=13万1070円②原告給与10万5700円-基礎控除1万6460円-交通費1694円=8万7546円したがって,①>②となるから,本件保護廃止決定は,根拠がなく,違 法である。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実,関係証拠等によれば,以下の事実が認められる。 (1) 原告の父であるIは,平成24年3月7日,Iの所有する預貯金その他一 切の財産を長女のN及び二女の原告に2分の1ずつ相続させる旨の自筆証 書遺言(以下「本件遺言」という。)をした(甲3の1~3の6)。 (2) Iは,平成26年6月3日,死亡した(甲36,原告本人,弁論の全趣旨)。 Iの法定相続人は,妻であるO,長男であるP,長女であるN及び二女である原告であった(甲6,12,弁論の全趣旨)。 (3) 原告は,ゆうちょI口座から,平成26年4月29日,50万円を,同月 30日,50万円を,同年5月1日,50万円を,同月2日,50万円を,同月9日,50万円を,同月12日,50万円を,同月13 原告は,ゆうちょI口座から,平成26年4月29日,50万円を,同月 30日,50万円を,同年5月1日,50万円を,同月2日,50万円を,同月9日,50万円を,同月12日,50万円を,同月13日,50万円を,同月15日,5万8000円をそれぞれ引き出し,引き出した現金の中から,本件口座に,同月9日,200万円を,同月13日,50万円を,同月15日,55万8000円をそれぞれ預け入れ,ゆうちょ原告口座に,同月9日, 47万円を預け入れた(前提事実(4),甲1,乙19,原告本人)。ゆうちょ原告口座は,原告の住宅費用,水道光熱費,電話料金等の引落しがされていたが,上記47万円が入金される前においては,通常貯金の残高を超える払戻しの請求があったときにその不足分が担保定額貯金や担保定期貯金を担保として自動的に貸し付けられている状態となっており,残高はマイナス6 万7233円であったところ,原告は,マイナス状態を解消するため,上記47万円をゆうちょ原告口座に預け入れた(乙19,26,原告本人)。 (4) 原告は,平成26年10月28日,本件口座から20万円を引き出し,原告の長女の専門学校の入学金の支払に充てた(前提事実(4),甲20の1・2,36)。 (5) ゆうちょ原告口座は,引出しや水道光熱費,電話料金等の自動引落しにより,平成26年9月30日以降,残高がマイナスの状態となることが繰り返されていたが,同年11月25日,原告の長女の奨学金199万6326円が振り込まれるなどし,残高が196万1217円となった。その後,原告は,同月27日,同口座から原告の長女の専門学校の学費の支払として13 3万1390円を振り込んだ。また,原告は,同年12月17日,同口座か ら50万円を引き出し,これを本件口座に預け は,同月27日,同口座から原告の長女の専門学校の学費の支払として13 3万1390円を振り込んだ。また,原告は,同年12月17日,同口座か ら50万円を引き出し,これを本件口座に預け入れ,同月18日,ゆうちょ原告口座から17万円を引き出し,これと手持ちの現金等を合わせて,本件口座に20万3779円を預け入れた(以上につき,前提事実(4),甲36,乙19,原告本人,弁論の全趣旨)。 (6) Nは,平成26年12月24日,みずほI口座を解約し,払戻しを受けた 34万7518円を原告に預け,原告は,これをみずほ原告口座に預け入れた後,平成27年1月13日,これを引き出し,翌14日,そのうち34万7000円を,同月5日以降残高が再びマイナスの状態となっていたゆうちょ原告口座に預け入れた(甲2,36,乙19,22,原告本人,弁論の全趣旨)。 (7) 原告は,平成27年5月28日,E信組原告口座に証書貸付けにより29万9600円の振込みを受け,同口座から29万7693円を引き出し,これと手持ちの現金等を合わせて,本件口座に34万9000円を預け入れた(前提事実(4),乙21)。 (8) Nは,平成27年5月30日付けで,Iの遺産一覧表を作成した。同一覧 表においては,預金や年金等の収入から入院費・医療費や葬儀費用等の支出を控除した残額が414万6661円であり,その内訳は通帳391万2513円,現金23万4148円である旨記載されていた。同日時点の本件口座の残高は,391万2513円であった(以上につき,前提事実(4),甲5)。 (9) 原告は,本件口座から,平成27年6月26日,50万円を,同年8月2 1日,20万円をそれぞれ引き出し,同年10月2日,本件口座に70万円を預け入れた(前提事実( (4),甲5)。 (9) 原告は,本件口座から,平成27年6月26日,50万円を,同年8月2 1日,20万円をそれぞれ引き出し,同年10月2日,本件口座に70万円を預け入れた(前提事実(4))。 (10) ゆうちょ原告口座の残高は,平成27年6月29日以降一貫して残高がマイナスの状態が継続していたが,原告は,同年8月21日,同口座に16万円を預け入れ,残高がマイナスの状態が解消した。また,原告は,同月2 6日にも,同口座に4万円を預け入れた。その後,自動引落し等により,同 月31日には,同口座の残高は再びマイナスの状態となった(以上につき,乙19)。 (11) Iの死後,本件口座には,平成26年7月31日,コープみらいからのIに対する預託金の返還金1279円が,平成27年2月17日,横浜市からのIに対する後期高齢者医療制度の還付金3650円及び介護保険還付 金1600円がそれぞれ振り込まれた(前提事実(4),弁論の全趣旨)。 (12) 原告は,平成27年10月13日から同年12月15日にかけて,本件口座から合計391万2000円を引き出し,自宅で保管した後,平成29年1月11日,これをIの遺産であるとして,原告訴訟代理人の口座に振り込んだ(前提事実(4),甲5,乙12,弁論の全趣旨)。 (13) 原告は,平成28年11月30日,東京家庭裁判所にIの遺産に係る遺産分割調停を申し立てたが,処分行政庁が本件金員を原告の「利用し得る資産」と認定していることが問題となり,遺産分割調停は進まず,原告は,同申立てを取り下げた(甲12,36)。 (14) Oの後見人(弁護士である。)及びPは,本件遺言の効力を争っている(甲 13の1・2)。 2 本件徴収決定が法78条1項の要件を満たすものとして てを取り下げた(甲12,36)。 (14) Oの後見人(弁護士である。)及びPは,本件遺言の効力を争っている(甲 13の1・2)。 2 本件徴収決定が法78条1項の要件を満たすものとして適法か否か(争点(1))について(1) 本件金員の性質についてア本件金員(411万8139円)は,平成26年1月7日から平成28 年2月22日までの間に本件口座に入金された金員のうち,原告の長女の古本・古着の売却代金等や,近接する時期に払い戻された平成27年10月2日の70万円の預入れ分を除いたものと認められる(甲16,乙14,弁論の全趣旨)。 イ(ア) 前記1(3)のとおり,原告は,平成26年4月29日から同年5月9 日までの間に,ゆうちょI口座から引き出した合計250万円のうち4 7万円を,同日,残高がマイナスの状態であったゆうちょ原告口座に預け入れ,同口座の残高はプラスの状態となったが,その後,同口座からの引出しや原告の生活費の自動引落しにより,同年9月30日には,その残高は再びマイナスの状態となっている。これらのことからすれば,原告は,上記47万円を,自己の借金返済や生活費等に充てたものと認 められる。 (イ) 次に,前記1(4)のとおり,原告は,平成26年10月28日,本件口座の20万円を原告の長女の専門学校の入学金の支払に充てている。 (ウ) また,前記1(6)のとおり,原告は,Nから預かったみずほI口座の解約金34万7518円をみずほ原告口座に預け入れたが,その後,う ち34万7000円を残高がマイナスの状態となっていたゆうちょ原告口座に移しており,また,同口座においては,その後,原告の生活費の自動引落しがされるなどしていることから,原告は,上記34万700 ち34万7000円を残高がマイナスの状態となっていたゆうちょ原告口座に移しており,また,同口座においては,その後,原告の生活費の自動引落しがされるなどしていることから,原告は,上記34万7000円を自己の借金の返済や生活費に充てたものと認められる。 (エ)a 前記1(9)のとおり,原告は,本件口座から,平成27年6月26 日に50万円を引き出し,同年8月21日に20万円を引き出している。 b また,前記1(10)のとおり,本件口座から上記aの20万円が引き出されたのと同日にゆうちょ原告口座に16万円が預け入れられ,その5日後にゆうちょ原告口座に4万円が預け入れられている。生活保 護を受けていた原告がゆうちょ原告口座にこのような預入れをすることができる収入があったとは考え難いことからすれば,上記ゆうちょ原告口座への合計20万円の預入れは,原告が本件口座から引き出した上記aの20万円を原資とするものであると認められる。そして,上記ゆうちょ原告口座への預入れにより同口座の残高がマイナスの状 態が解消されたこと,自動引落し等により平成27年8月31日には 同口座の残高が再びマイナスの状態になっていることからすれば,原告は,本件口座から引き出した20万円を自己の借金の返済や生活費に充てたものと認めるのが相当である。 なお,原告は,上記aの20万円引出しについて,原告の長女の学費等の支払のために引き出したが,支払の必要がないと分かり,その まま本件口座に戻した旨供述する(甲36)ものの,上記認定に反するものであり,信用することができない。 c さらに,平成27年10月2日,本件口座に前記aの各引出しの合計額に相当する70万円が預けられているものの,上記aの50万円の引出しから3か月以上経 であり,信用することができない。 c さらに,平成27年10月2日,本件口座に前記aの各引出しの合計額に相当する70万円が預けられているものの,上記aの50万円の引出しから3か月以上経過しており,原告が本件口座から引き出し た他の金員を自己の借金の返済や生活費に充てていることからすれば,上記aのとおり引き出された50万円についても,原告の生活費等に充てられた可能性があることは否定し難い。 (オ) 以上のとおり,原告は,Iの財産である預貯金を原資とする金員を自己の預貯金口座に移し替えた後,その一部を自己の借金の返済や生活 費に充てていることが認められる。 ウ(ア) しかしながら,原告は,概要「Iから,同人が死亡したら貯金が動かせなくなるから引き出して原告の口座に移しておくよう言われ,ゆうちょI口座から現金を引き出し,Nと相談して,Iに対する還付金等も含め,Iの遺産は本件口座に預け入れて管理をすることとし,一時流用 したこともあったが,最終的に本件口座に戻した,Iの遺産が自分の金であるという認識はなかった,平成27年10月以降,本件口座からIの遺産として管理していた預金を引き出したのは,友人から,原告名義の口座にお金が入っていると誤解を招くから,引き出した方が良いといわれたためである」旨供述している(甲36,原告本人)。そこで,原告 の上記供述の信用性について,以下検討する。 (イ)a 本件口座への平成26年5月9日の200万円,同月13日の50万円及び同月15日の55万8000円の各入金は,原告がゆうちょI口座から引き出した現金を預け入れたものであり,また,Iの死後,本件口座には,コープみらいからのIに対する預託金の返還金並びに横浜市からのIに対する後期高齢者医療制度の還付金及び介 原告がゆうちょI口座から引き出した現金を預け入れたものであり,また,Iの死後,本件口座には,コープみらいからのIに対する預託金の返還金並びに横浜市からのIに対する後期高齢者医療制度の還付金及び介護保 険還付金がそれぞれ振り込まれている。 b 一方,原告は,平成26年4月29日から同年5月9日にかけて,ゆうちょI口座から引き出した合計250万円のうち50万円を速やかに本件口座に預け入れず,同日,そのうち47万円をゆうちょ原告口座に預け入れているものの,原告は,同口座にある程度の残高がで きると,同年12月17日には,ゆうちょI口座からの金員を預け入れたのと同額の50万円をゆうちょ原告口座から引き出し,本件口座にそれを預け入れている。また,原告は,同年10月28日,本件口座から20万円を引き出し,原告の長女の専門学校の入学金の支払に充てているものの,同年12月18日,本件口座にこれを僅かに上回 る20万3779円を預け入れている。さらに,原告は,同月24日,NからみずほI口座の解約金34万7518円を預かり,これをみずほ原告口座に預け入れ,平成27年1月13日,これを引き出し,翌14日,そのうち34万7000円をゆうちょ原告口座に預け入れているものの,同年5月28日には,本件口座に上記Nから預かった金 額を僅かに上回る34万9000円を預け入れている。その上,原告は,本件口座から,同年6月26日に50万円を,同年8月21日に20万円をそれぞれ引き出しているものの,同年10月2日には本件口座に70万円を預け入れている。 これらのことからすれば,原告は,Iの財産を原資とする金員を自 己のために使用するなどしたことがあったものの,最終的には,使用 するなどした額に相当する金員を本件口座に預け入れて これらのことからすれば,原告は,Iの財産を原資とする金員を自 己のために使用するなどしたことがあったものの,最終的には,使用 するなどした額に相当する金員を本件口座に預け入れているということができる。 c 加えて,原告の姉であるNが平成27年5月30日付けで作成したIの遺産一覧表(甲5)においては,収入から支出を控除した残額が414万6661円であり,その内訳は通帳391万2513円,現 金23万4148円である旨記載されていたところ,同日時点の本件口座の残高(その時点では,原告によるIの財産を原資とする金員の使用分相当額も全て本件口座に預け入れられた状態であった。)は同一覧表の通帳の残額と一致しており,さらに,原告は,平成29年1月11日,391万2513円を原告訴訟代理人の口座にIの遺産とし て振り込んでいる。 (ウ) 上記(イ)の事実は,上記(ア)の原告の供述と整合するものであり,また,前記イ(エ)bのとおり,原告は,本件口座から引き出した金員を自己の借金返済や生活費に充てたことの一部について,合理性なく否定するなどしてはいるものの,上記(ア)の原告の供述の根幹部分には格別 不自然不合理な点も見当たらないことからすれば,上記原告の供述はその根幹部分において信用することができる。 したがって,原告は,ゆうちょI口座から引き出した金員,Nから預けられたみずほI口座の解約金及び本件口座に振り込まれたIに対する還付金等をIの遺産として管理すべきものと認識し,一部流用すること はあったものの,最終的には流用額に相当する金員を本件口座に預け入れ,Iの遺産の預貯金等相当額をIの遺産として本件口座で管理していたものと認めることができる。 エ(ア) 次に,前記1の事実によれば,Iの遺産につ 的には流用額に相当する金員を本件口座に預け入れ,Iの遺産の預貯金等相当額をIの遺産として本件口座で管理していたものと認めることができる。 エ(ア) 次に,前記1の事実によれば,Iの遺産について,遺産分割協議等が成立していないことは明らかである。また,原告は,Iの遺産として 管理していた金員を複数回流用しているものの,流用した金員はIの遺 産として預金を管理していた本件口座に全額戻していること,原告とIの長男Pの仲は悪かったこと(原告本人),Iの法定相続人の1人であるOには弁護士が後見人に選任されており,一定の相続分を確保するよう努めるべき後見人の職責に照らし,同後見人が原告によるIの遺産の生活費等への流用を容易に容認するとは考え難いことなどからすれば,原 告は,Iの相続人全員から,Iの遺産として管理していた預金等を一時的に利用することにつき同意を得ていなかったものと認められる。 したがって,Iの財産を原資とする本件金員は,原告名義の本件口座の預金となっており,金融機関との関係では原告が引き出すことが可能なものではあったものの,Iの相続人との関係では,遺産の性質を有す るものであり,原告において活用することができないものであったというべきである。 (イ) なお,Iの相続については,Nと原告にIの遺産を2分の1ずつ相続させる旨の本件遺言が存在するものの,Oの後見人及びPは本件遺言の効力を争っており,N及び原告も,本件遺言に沿った遺産分割をしよ うとしていないこと(甲36,原告本人)からすれば,本件遺言の存在は,上記(ア)の認定を左右するものではない。 (2) 本件金員が原告の「利用し得る資産」に当たるか否かについて上記(1)で検討した本件金員の性質を前提として,本件金員が原告の「利用し 言の存在は,上記(ア)の認定を左右するものではない。 (2) 本件金員が原告の「利用し得る資産」に当たるか否かについて上記(1)で検討した本件金員の性質を前提として,本件金員が原告の「利用し得る資産」(法4条1項)に当たるか否かについて検討する。 ア保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われるものであるが(法4条1項),一方で,法は,同項の規定にかかわらず,急迫した事由がある場合に,必要な保護を行うことを妨げるものではないとしており(同条3項),これは,同条1項にいう利用し得る資産等 がある者であっても,それを現実に活用することができないなどの理由に より,保護の必要が急迫していると認められる場合には,本来的な保護の受給資格を有するとはいえないものの,例外的に,保護を受けることができることとしたものと解されることからすれば,同項にいう「利用し得る資産」には,現金等直ちに活用することが可能な資産はもとより,その性質上直ちに処分することが事実上困難であったり,その存否及び範囲が争 われるなどの理由により,直ちに現実に活用することが困難であったりする資産も含まれるというべきである。 そして,未分割遺産の預貯金について,生活保護を受けている相続人は,計算上具体的相続分が存在する限り,権利を放棄しなければ一定の遺産を相続することができるのであるから,その限度では,法4条1項の「利用 し得る資産」を有するものといわざるを得ない。 そうすると,本件遺言の効力を措くとしても,原告には,Iの相続について,計算上一定の具体的相続分はあるものと考えられ,少なくともその限度においては,Iの死亡日において,「利用し得る資 るを得ない。 そうすると,本件遺言の効力を措くとしても,原告には,Iの相続について,計算上一定の具体的相続分はあるものと考えられ,少なくともその限度においては,Iの死亡日において,「利用し得る資産」を有するに至ったというべきである。 イ被告は,さらに,本件口座に入金された金員である本件金員について,原則として原告に帰属するものであり,少なくとも一時的には利用することが許されていた金員であるとして,その全体が「利用し得る資産」に当たると主張するので,以下検討する。 (ア) 被告は,原告が本件金員を費消する権限を有しなかったのであれ ば,原告は寄託された金員を委託の趣旨に背いて権限なく費消したことになるのであるから,かかる行為は法的には横領と評価されるところ,原告は,ゆうちょI口座から金員を引き出した時点で,ゆうちょ原告口座のマイナス状態を解消することその他必要に応じて本件口座から一時流用することを想定していたとみるのが自然であり,ゆうちょI口座か ら金員を引き出した時点又は遅くとも原告名義の預貯金口座に入金した 時点で,原告は当該金員を領得したといえる旨主張する。 しかしながら,原告が本件金員を流用しても,Iの相続人との関係で,本件金員の利用権限が発生するわけではない。そして,原告は,複数回にわたり本件金員を流用しているものの,流用した金員に相当する額をIの遺産として預金を管理していた本件口座に戻していることも考慮す れば,原告が流用した金員をもって,原告が現実に活用することができる「利用し得る資産」に当たると解するのは相当ではなく,被告の主張は理由がない。 (イ) また,被告は,原告の主張を前提とすれば,被保護者が遺産を相続した場合,遺産を一時流用して費消したとしても,遺産分割を終わら 」に当たると解するのは相当ではなく,被告の主張は理由がない。 (イ) また,被告は,原告の主張を前提とすれば,被保護者が遺産を相続した場合,遺産を一時流用して費消したとしても,遺産分割を終わらせ ない限り,当該金員については収入認定されないことから,生活保護を受けながら保護基準を上回る生活を享受することが可能となり,妥当ではない旨主張する。 しかしながら,原告は,Iの遺産として管理していた金員を一部流用しているものの,最長でも7か月以内には流用した額に相当する金員を Iの遺産として預金を管理していた本件口座に預け入れており,その金額,使途等を考慮すると,全体としてみれば,原告が保護基準を上回る生活を享受したということはできないから,被告の主張は理由がない。 (ウ) 以上のとおり,本件金員が原則として原告に帰属するものであり,少なくとも一時的には利用することが許されていた金員であるとして, その全体が原告の「利用し得る資産」に当たるとする被告の主張は理由がなく,本件金員は,原告の具体的相続分の限度においてのみ,原告の「利用し得る資産」に当たるものであったと認めるのが相当である。 (3) 原告が法78条1項の要件を満たすか否かについてア法61条は,被保護者に対し,収入等の変動等について保護の実施機関 等への届出義務を課している。同条がこのような届出義務を定めているの は,保護の実施機関が被保護者の生計の状況等を把握し,保護の適正を図るためと解され,被保護者の収入の届出は,保護の実施機関が被保護者の収入をありのままに把握できる内容であることが必要であるからである。 したがって,被保護者が同条に基づき届出義務を負う収入とは,現実に増加している金銭等であれば,その種類や原因は一切問わず 被保護者の収入をありのままに把握できる内容であることが必要であるからである。 したがって,被保護者が同条に基づき届出義務を負う収入とは,現実に増加している金銭等であれば,その種類や原因は一切問わず,後日,保護の 実施機関が収入認定の対象にしないもの及び控除の対象となるものをも含むものと解すべきである。 そうすると,本件金員を含め,Iの財産を原資として本件口座に入金された金員は,被保護者である原告が法61条に基づき届出義務を負う収入に当たるといわざるを得ない(なお,遺産については,調査を要し,詳細 が判明していないこともあり得るが,判明している限度で届出をすれば足りるものと解されるとしても,このことは上記判断を左右しない。)。しかるに,原告は,処分行政庁から本件口座について調査を受ける前に,処分行政庁に対し,Iの未分割遺産である預貯金を原資とする本件口座への入金について,何ら届出をしていないから,法61条の届出義務を果たして いないことになる。 イしかしながら,Iの財産を原資とする本件金員は,金融機関との関係では原告が引き出すことが可能な預金ではあったものの,Iの相続人との関係では遺産の性質を有するものであったことは,前記(1)エ(ア)のとおりである。 そして,未分割遺産の預貯金は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるものではなく,遺産分割の対象となるものであるから,相続人全員の合意がない限り,払戻しをすることもできないし,相続人の1人が活用することもできないものである。そうすると,未分割遺産の性質を有する預貯金があり,それを現実に活用することができれば,生活保護を 受けている相続人の保護が廃止されるべき場合であっても,相続人全員の 合意が得られないときは,生活保護を受け の性質を有する預貯金があり,それを現実に活用することができれば,生活保護を 受けている相続人の保護が廃止されるべき場合であっても,相続人全員の 合意が得られないときは,生活保護を受けている相続人が当該預貯金を現実に活用することができない場合に当たるものというべきである。 しかるに,法63条は,被保護者が,急迫の場合等において資力があるにもかかわらず,保護を受けたときは,その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならな いとするところ,これは,法4条3項により急迫した事由がある場合に必要な保護を受けた被保護者がその資力を現実に活用することができる状態になった場合には,当該被保護者に対し,その受けた保護につき費用返還義務を課すことにしたものであり,法63条にいう「資力」とは,法4条1項にいう「利用し得る資産」と基本的には同義と解される。そして, 生活保護を受けている相続人である原告は,前記のとおり,未分割の遺産の性質を有する本件金員のうち具体的相続分に当たる「利用し得る資産」を有していたものの,これを現実に活用することができない状況にあったものであるから,遺産分割協議等が成立するなどしてこれを現実に活用することができるようになった時点で,法63条により費用返還義務を課さ れ得ることになるものと解すべきである。 ウ以上のとおり,原告は,Iの未分割遺産の性質を有する財産につき,一定の「利用し得る資産」を有していたものの,これは直ちに活用することのできるものではなく,原告は本来的には法4条3項により急迫した事由がある場合に必要な保護が行われるべき状況にあり,遺産分割協議等が成 立するなどしてこれを現実に活用し得るようになった時点で法63条により費用返還義務 は本来的には法4条3項により急迫した事由がある場合に必要な保護が行われるべき状況にあり,遺産分割協議等が成 立するなどしてこれを現実に活用し得るようになった時点で法63条により費用返還義務を課され得るにすぎないものというべきである。このことに加えて,他に特に増加した資産も見当たらないことを併せて考慮すれば,Iの未分割遺産の性質を有する財産の存在によって,原告の保護の受給の可否に影響が生じるものではないといえる。 そうすると,原告は,処分行政庁に対し,Iの未分割遺産に係る「利用 し得る資産」について届出をしていないものの,このことをもって,法78条1項にいう「不実の申請その他不正な手段」により保護を受けたということはできないと解するのが相当である。 (4) 小括以上によれば,法78条1項に基づく本件徴収決定は,違法というべきで ある。 3 本件保護廃止決定が適法か否か(争点(2))について(1) 法26条は,保護の実施機関は,被保護者が保護を必要としなくなったときは,速やかに保護の停止又は廃止を決定することを義務付けている。 そして,「生活保護法による保護の実施要領について」(別紙2の第3)で は,保護の要否及び程度は,原則として,当該世帯につき認定した最低生活費と収入充当額との対比によって決定するとされているところ,この定めは合理的なものということができる。 (2) 処分行政庁は,原告について,最低生活費を,生活扶助及び住宅扶助10万2560円+国民健康保険料1600円+医療費(5月参考)2万691 0円=13万1070円(A),収入充当額を,原告給与10万5700円-基礎控除1万6460円-交通費1694円=8万7546円(B)とし,本件徴収決定による返還額決定後の繰 考)2万691 0円=13万1070円(A),収入充当額を,原告給与10万5700円-基礎控除1万6460円-交通費1694円=8万7546円(B)とし,本件徴収決定による返還額決定後の繰越額を,411万8139円(本件金員)-316万1825円(本件徴収決定に基づく返還額)=95万6314円(C)と算出し,(A)<(B)+(C)であることから,収入充当額(及 び繰越額)が最低生活費を上回るとして本件保護廃止決定を行ったものである(弁論の全趣旨)。 しかしながら,上記2のとおり,本件徴収決定は違法であり,本件徴収決定による返還額決定後の繰越額(上記(C))は存在しない。そして,被告は,上記(B)及び(C)以外に原告の収入について主張しておらず,原告世帯 については,(A)>(B),すなわち,収入充当額が最低生活費を下回るこ とになる。 したがって,原告は,保護を必要としなくなったということはできないから,本件保護廃止決定は違法である。 4 結論以上によれば,原告の請求はいずれも理由があるから,これらを認容するこ ととし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官森英明 裁判官小川弘持 裁判官三貫納有子(別紙1省略)(別紙2省略) (別紙2)関係法令等の定め第1 法 1 4条(保護の補足性)(1) 1項 保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。 (2) 3項前2項の (1) 1項 保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。 (2) 3項前2項の規定は,急迫した事由がある場合に,必要な保護を行うことを妨 げるものではない。 2 26条(保護の停止及び廃止)保護の実施機関は,被保護者が保護を必要としなくなったときは,速やかに,保護の停止又は廃止を決定し,書面をもって,これを被保護者に通知しなければならない。28条5項又は62条3項の規定により保護の停止又は廃止をす るときも,同様とする。 3 61条(届出の義務)被保護者は,収入,支出その他生計の状況について変動があったとき,又は居住地若しくは世帯の構成に異動があったときは,すみやかに,保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。 4 63条(費用返還義務)被保護者が,急迫の場合等において資力があるにもかかわらず,保護を受けたときは,保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して,すみやかに,その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。 5 78条1項 不実の申請その他不正な手段により保護を受け,又は他人をして受けさせた者があるときは,保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は,その費用の額の全部又は一部を,その者から徴収するほか,その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。 第2 生活保護行政を適正に運営するための手引について(平成18年3月30日 社援保発第0330001号厚生労働省社会・援護局保護課長通知。乙24)Ⅳ 費用返還(徴収)及び告訴等の対応 第2 生活保護行政を適正に運営するための手引について(平成18年3月30日 社援保発第0330001号厚生労働省社会・援護局保護課長通知。乙24)Ⅳ 費用返還(徴収)及び告訴等の対応 3 法78条の適用の判断(2) 法78条の適用ウ法78条によることが妥当であると考えられるものは,具体的には以下 の状況が認められるような場合である。 (ア) 届出又は申告について口頭又は文書による指示をしたにもかかわらずそれに応じなかったとき(イ),(ウ) (略)(エ) 保護の実施機関の課税調査等により,当該被保護者が提出した収入 申告書等の内容が虚偽であることが判明したとき第3 生活保護法による保護の実施要領について(昭和36年4月1日厚生省発社第123号各都道府県知事・各指定都市市長宛厚生事務次官通知。乙25)「第10 保護の決定」保護の要否及び程度は,原則として,当該世帯につき認定した最低生活費と, 第8によって認定した収入(以下「収入充当額」という。)との対比によって決定すること。(以下略)第4 生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて(昭和38年4月1日社保第34号各都道府県・各指定都市民生主管部(局)長宛厚生省社会局保護課長通知。乙25) 「第10 保護の決定」問12の答の「2 保護を廃止すべき場合」 (1) 当該世帯における定期収入の恒常的な増加,最低生活費の恒常的な減少等により,以後特別な事由が生じないかぎり,保護を再開する必要がないと認められるとき。 (2) 当該世帯における収入の臨時的な増加,最低生活費の臨時的な減少等により,以後おおむね6か月を超えて保護を要しない状態が継続すると認めら れる 再開する必要がないと認められるとき。 (2) 当該世帯における収入の臨時的な増加,最低生活費の臨時的な減少等により,以後おおむね6か月を超えて保護を要しない状態が継続すると認められるとき。 (以下略)以上

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