令和4(ワ)24934 動産引渡請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年3月13日 東京地方裁判所
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判決文本文21,951 文字)

令和6年3月13日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和4年(ワ)第24934号動産引渡請求事件口頭弁論終結日令和5年12月13日判決当事者の表示別紙1当事者目録記載のとおり 主文 1 被告は、原告に対し、別紙2物件目録記載の物件を引き渡せ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 主文同旨第2 事案の概要本件は、故人である麻原彰晃こと松本智津夫(以下「本件故人」という。)の二女であり、祭祀承継者に指定された原告が、本件故人の遺骨及び遺髪(別紙2物件目録記載の物件。以下「本件動産」という。)を保管する被告に対し、 本件動産の所有権に基づく返還請求権として、本件動産の引渡しを求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実及び後掲証拠等により容易に認められる事実。なお、証拠等を掲記しない事実は当事者間に争いがない。枝番号を記載しない書証は全ての枝番号を含む。以下同じ。) ⑴ 本件故人及び原告本件故人は、オウム真理教の教祖であり、教団代表者であった。本件故人とその妻との間には、順に、長女、二女である原告、三女、四女、長男及び二男がいる(以下、断りなく「妻」などというときは、本件故人のそれを指す。)。(甲1、乙3) ⑵ 本件故人に対する刑事裁判 東京地方裁判所は、平成16年2月27日、殺人、殺人未遂、死体損壊、逮捕監禁致死、武器等製造法違反、殺人予備被告事件(当庁平成7年(合わ)第141号、同第187号、同第254号、同第282号、同第329号、同第380号、同第417号、同第443号、平成8年(合わ)第31号、同第75 製造法違反、殺人予備被告事件(当庁平成7年(合わ)第141号、同第187号、同第254号、同第282号、同第329号、同第380号、同第417号、同第443号、平成8年(合わ)第31号、同第75号。いわゆるオウム真理教関連事件)において、被告人である本件 故人を死刑に処する旨の有罪判決を言い渡した。同判決においては、本件故人が、多数の弟子を得てオウム真理教を設立し、自らの思い描いた計画の妨げになるとみなした者は教団の内外を問わずこれを敵対視し、その悪業をこれ以上積ませないように殺害するという身勝手な教義の解釈の下に、その命を奪ってまでも排斥しようと考え、オウム真理教の構成員らと共謀の上、7 名に対する殺人及び3名に対する殺人未遂を犯し、また松本市内においてサリンを散布して住民7名を殺害するとともに住民4名にサリン中毒症の傷害を負わせ(いわゆる松本サリン事件)、さらに東京都内の地下鉄の電車内等にサリンを発散させて乗客、駅員ら12名を殺害するとともに14名にサリン中毒症の傷害を負わせた(いわゆる地下鉄サリン事件)などの事実が認定 されている。上記判決に対しては控訴がされたが、東京高等裁判所は、平成18年3月27日、控訴棄却決定をし、本件故人への死刑を宣告した上記判決は、同年9月に確定した。(乙3、弁論の全趣旨)⑶ 無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律に基づく観察処分公安審査委員会は、平成12年1月28日、本件故人を教祖・創始者とす るオウム真理教の教義を広め、これを実現することを目的とし、同人が主宰し、同人及び同教義に従う者によって構成される団体(以下「本団体」という。)に対する規制処分請求事件について、無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律5条1項に基づき、公安調査庁長官の 主宰し、同人及び同教義に従う者によって構成される団体(以下「本団体」という。)に対する規制処分請求事件について、無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律5条1項に基づき、公安調査庁長官の観察に付する旨の処分(以下「観察処分」という。)を決定した。同処分は、現在に至るま で、同条4項に基づき、3年ごとに更新されている。(乙4~11、弁論の 全趣旨)⑷ 本件故人に対する死刑執行等被告は、平成30年7月6日、本件故人を拘置する東京拘置所において、本件故人に対する死刑を執行し、その後、本件故人の遺体を火葬した。被告は、現在に至るまで、当該火葬により遺留された遺骨及び遺髪である本件動 産を保管している。(乙30、42、弁論の全趣旨)⑸ 本件故人の祭祀承継者指定の審判東京家庭裁判所は、四女及び原告がそれぞれ申し立てた本件故人における祭祀承継者指定申立事件(同裁判所平成30年(家)第8825号、令和元年(家)第4057号)において、令和2年9月17日、祭祀承継者につい ては、本件故人による祭祀を主宰すべき者の指定があった事実は認められず、また祭祀を主宰すべき者に関する慣習の存在も認められないとした上で、本件故人と最も親和的な関係にあったということができ、本件故人が生存していればおそらく自己の祭祀を主宰すべきものと指定していたであろう者のうち、自らも祭祀承継者として指定を受けることを希望している原告を、本件 故人の祭祀承継物(遺骨・遺髪)の取得者と定める旨の審判をした。これに対して、四女、妻及び二男は、それぞれ同審判に対する抗告をしたが、東京高等裁判所は、令和3年3月10日、各抗告をいずれも棄却する旨の決定をした(同裁判所令和2年(ラ)第1830号)。同人らは、それぞれ同決 、四女、妻及び二男は、それぞれ同審判に対する抗告をしたが、東京高等裁判所は、令和3年3月10日、各抗告をいずれも棄却する旨の決定をした(同裁判所令和2年(ラ)第1830号)。同人らは、それぞれ同決定に対する許可抗告申立て及び特別抗告をしたが、同裁判所は、同年4月5日、 各許可抗告申立てについて抗告を許可しない旨の決定をし(同裁判所令和3年(ラ許)第113号、同第114号)、最高裁判所は、同年7月2日、各特別抗告を棄却する旨の決定をした(同裁判所令和3年(ク)第432号、同第433号)(以下、これら祭祀承継者指定に関する一連の家事事件を併せて「本件家事事件」という。)。(甲1~3) 本件家事事件により、本件動産の所有権は原告に帰属したというべきであ る(最高裁平成元年7月18日第三小法廷判決・家庭裁判月報41巻10号128頁参照。なお、被告も、本件動産の所有権が原告に帰属すること自体については特段の主張をしていない。)。 ⑹ 原告による仮処分申立て原告は、令和4年3月11日付けで、東京地方裁判所に、被告を債務者と して、主位的に本件動産の仮の引渡しを、予備的に本件動産の占有移転禁止及び処分禁止を求める仮処分の申立てをした(同裁判所令和4年(ヨ)第692号、以下「本件保全事件」という。甲4、弁論の全趣旨)。 同裁判所は、同年7月11日、原告は被告に対し所有権に基づき本件動産の引渡請求権を有するものの、被告が本件動産を処分等する具体的なおそれ があるとはいえず、本案事件の判断を待っていては事後の損害賠償等では回復することが不可能な損害が生じるとまでは認められないから、保全の必要性があるとはいえないとして、原告の仮処分の申立てをいずれも却下する旨の決定をした(甲4)。 ⑺ 本訴の提起 賠償等では回復することが不可能な損害が生じるとまでは認められないから、保全の必要性があるとはいえないとして、原告の仮処分の申立てをいずれも却下する旨の決定をした(甲4)。 ⑺ 本訴の提起 原告は、令和4年10月2日、本訴を提起した(裁判所に顕著な事実)。 2 争点及びこれに関する当事者の主張本件の争点は、原告の本訴請求が権利の濫用に当たるといえるかである。 ⑴ 被告の主張被告は、原告に対して本件動産を引き渡すことは、これによって得られる 原告の利益と比較しても公共に与える危険が極めて大きく、公共の安全、社会秩序が強く害されるといえるから、原告が所有権に基づく引渡請求権の行使として本件動産の引渡しを求めることは、私権の本質である社会性、公共性に反し、権利の濫用に当たるから許されないと主張し、そのようにいえる事情として、要旨次のとおり主張している。 ア本団体の状況 オウム真理教は、殺人を勧める内容や結果のためには手段を選ばないとする内容を含む危険な教義を行動原理としていた。また、かつてオウム真理教内では、教祖である本件故人の毛髪や体液等は、教祖の霊的エネルギーが注入されたものとして取り扱われ、教祖である本件故人への絶対的帰依を確実にするものとして、さらにはオウム真理教の人的・金銭 的拡大とともに組織力を強化するものとして用いられ、その求心力の強化に利用されてきた。その結果、オウム真理教は、その教祖たる本件故人を首謀者として、組織的に、無差別大量殺人行為を含む多数かつ大規模な、我が国の犯罪史上類を見ない凶行に及んだ。 本団体は、本件故人の死刑が執行された現在もなお、オウム真理教から 名を変えつつも、「Aleph」の名称を用い 行為を含む多数かつ大規模な、我が国の犯罪史上類を見ない凶行に及んだ。 本団体は、本件故人の死刑が執行された現在もなお、オウム真理教から 名を変えつつも、「Aleph」の名称を用いる団体(以下、単に「Aleph」という。)、「山田らの集団」、「ひかりの輪」の名称を用いる団体などに分派して存在し、本件故人の説く殺人を勧める内容を含む危険な教義を堅持し、本件故人に絶対的に帰依する信者から構成される、従前と同様の閉鎖的組織を維持しつつ、新規構成員や活動資金等の 獲得のために本件故人によるオウム真理教の教義等を利用して活動を続けており、無差別大量殺人行為に及ぶ危険性があると認められる団体である。 イ原告に対する本件動産の引渡しにより生じる公共の安全に対する危険性(ア) 本団体ないし信者によって公共の安全や社会秩序が害されること 本件動産は、本団体の信者にとって絶対的帰依の対象である本件故人のかけがえのない身体の一部であるから、現在においても崇拝の対象になることは明らかである。そのため、本件動産は、本団体にとっては、信者の獲得やその信仰の深化、組織力の強化、経済的な基盤や資力の強化に資する極めて重要なものであり、それ故に、本団体ないし信者間に おいて争奪の対象となったり、その所在が抗争を生じさせるといった、 紛争の原因となり、さらに犯罪行為を引き起こしたりするものであり、社会不安を招き、治安を脅かすものである。そして、本団体において、本件動産が教祖である本件故人への絶対的帰依を強固にするために利用され、犯罪の根幹となった教義の考え方が助長されることとなれば、重大犯罪につながる危険性を高め、公共の安全や社会秩序を害することに もなる。 (イ) 本件動産が を強固にするために利用され、犯罪の根幹となった教義の考え方が助長されることとなれば、重大犯罪につながる危険性を高め、公共の安全や社会秩序を害することに もなる。 (イ) 本件動産が原告から第三者の手に渡るなどの可能性a 本件故人の親族は、多かれ少なかれ本団体との関係性を有している。 すなわち、原告を含む本件故人の子らは、オウム真理教の教祖の子として生まれ、本件故人からオウム真理教の宗教名(ホーリーネーム) を与えられた。本件故人は、長男及び二男については、「最終解脱を生まれながらに果たしている」として、特別な地位にあるものとし、妻及び三女について、本件故人に次ぐ位階である「正大師」の地位につけた。妻は、平成14年の出所後、Alephの人事に関する意思決定に関与し続けるとともに、Alephから実質的に資金援助を受 け続けており、三女は、少なくとも平成12年から平成26年までの間、Alephに指示を出すなどして強い影響力を行使していた。また、三女は、その著書において、オウム真理教の教義やその中心となる本件故人への帰依について、それを否定せず、その危険性への危惧を示すわけでもなく、むしろ理解を示す立場であることを表している。 さらに、平成8年に本件故人が長男及び二男を本件故人に代わる本団体の教祖に据えるよう指示したのに従い、Alephは二男の誕生日を祝うイベントを実施し、Alephの幹部構成員らは、本件故人の後継者として二男の復帰を求める発言をしている。 原告は、本件故人の死刑執行前後を通じて、本件故人の親族ととも に、本件故人の遺体を妻に引き渡すように求めるなど、本件故人の遺 体の引受けについて妻、三女、長男などの親族と協力・協調関係にあった。また、原告は、現在 通じて、本件故人の親族ととも に、本件故人の遺体を妻に引き渡すように求めるなど、本件故人の遺 体の引受けについて妻、三女、長男などの親族と協力・協調関係にあった。また、原告は、現在、いわゆる地下鉄サリン事件の当時にオウム真理教の信者であった者が所有するマンションにおいて、三女及び長男と同居している。 b 原告は、本件家事事件において、自らが本件故人の祭祀承継者とな った場合、本件故人を悼む他の家族の意思を尊重して取り計らう意向があると述べていた。また、原告は、本件保全事件を担当する裁判所から、本件動産を本団体に引き渡したり、特別な場所とされるような祀り方をしたりすることはないことなどの誓約を検討するよう求められたのに対し、誓約できない旨明言し、被告との協議においても、本 件動産の特殊性に起因する配慮の必要性に理解を示すことすらなかった。 c 前記a及びbの事情によれば、原告が本件動産の引渡し後に公共の安全を脅かすことのないような態様で保管することを念頭に置いているとは到底思われず、むしろ、本件故人の親族から遺骨の提供や分骨 を求められた場合には原告がこれを受け入れることも十分想定されるし、原告が、直接又は妻などの親族に分骨することなどを通じて、本団体に本件動産を渡し、あるいは利用させる可能性も想定せざるを得ない状況にある。 さらには、本団体が原告から強引に本件動産を収奪する危険性もあ るし、そこまでせずとも、本団体が本件動産を手に入れたなどの虚偽を流布することも考えられる。 ウ本件動産の引渡しにより生じるその他の弊害本団体の拠点施設は、少なくとも15都道府県に30か所あるところ、その所在地域の住民らは、当該地域の安全に不安を感じており えられる。 ウ本件動産の引渡しにより生じるその他の弊害本団体の拠点施設は、少なくとも15都道府県に30か所あるところ、その所在地域の住民らは、当該地域の安全に不安を感じており、本件動 産が原告に引き渡されることで、それが本団体に渡って新規信者及び資 金の獲得に悪用されたり、その所在場所が聖地化されたりするなどして、本団体がその危険性を増大させ、地域住民ひいては社会に不安を生じさせる事態に発展することを懸念している。 本件動産が、被告の保管を離れ一般社会に出たとした場合、その保管場所が明らかになれば、その近辺の住民に不安を与え、保管場所の近辺に おいて警備や警戒を行うことが不可欠になるし、そのような警戒感を背景に近隣の資産価値にも影響を及ぼすなど、周囲の生活や通常の活動の平穏を害することとなる。他方、本件動産の保管場所が不明であるとしても、本団体の活動場所の周辺においてより一層警戒を余儀なくされるし、本物かどうかが明確でないものが本件故人の遺骨として扱われ、不 当な取引の対象とされたり、これが本物であるなどと虚偽の風説が流布されたり、本物がどれかなどといった紛争を生じさせたりするなど、無用の混乱や不安を生じさせる。 エ本件動産の引渡しにより得られる原告の利益について他方、原告が本件故人の死を悼むことそのものは制限されていないし、 原告が本件動産の引渡しを受けずとも本件故人の供養を行い悼むことは可能である。したがって、原告が本件動産の引渡しを受けられないとしても、故人の死を悲しみ悔やむという心情が本質である「死を悼む」という情緒的な利益を損なう程度は一定の限度に留まる。当該利益は、本件動産が安全に保管されている現状を変更して、本件動産の所持に伴う も、故人の死を悲しみ悔やむという心情が本質である「死を悼む」という情緒的な利益を損なう程度は一定の限度に留まる。当該利益は、本件動産が安全に保管されている現状を変更して、本件動産の所持に伴う 上記の危険性を生じさせてまで、実現されなければならないものとまではいえない。 ⑵ 原告の主張ア原告は、本件家事事件において本件故人の祭祀承継者として指定され、本件動産の所有権を取得した者として、所有権に基づく引渡請求権を行 使しようとしているにすぎず、正当な利益を有している。原告がこの権 利を行使することによって得られる利益は、祭祀承継者として、父の遺骨・遺髪等を自ら管理し、故人を悼むという、通常であれば誰であっても当たり前に認められているものである。当該利益は、金銭による保障や、他の何物によっても代替することができず、本件動産の引渡しを受けることによってしか得られない。 イ原告は、本件動産を悪用して他者を加害しようとする意思や目的は何ら有していないし、本団体を含む他者が本件故人を崇め奉ったり自らの立場を強化したりする目的で、本件動産を宗教的又は政治的に利用することを断じて許容するつもりはなく、本件動産を取得した後、本団体に自らこれを渡す可能性は絶無である。 なお、原告自身は、本件故人によってオウム真理教の正大師等に指定されたことなどはなく、原告並びに原告と同居する三女及び長男は、現在、本団体との間に何らの関係性も有さない。被告が主張する長男、二男及び三女についての事情は、同人らの意思が反映されない幼少時のことであるし、原告、三女及び長男と現在同居している人物は、20年以上前 に脱会しており、現在はオウム真理教や本団体とは何らの関係もない。 また、被告は、 意思が反映されない幼少時のことであるし、原告、三女及び長男と現在同居している人物は、20年以上前 に脱会しており、現在はオウム真理教や本団体とは何らの関係もない。 また、被告は、原告が本件家事事件において、自らが本件故人の祭祀承継者となった場合、本件故人を悼む他の家族の意思を尊重して取り計らう意向があると述べていたと指摘するが、原告がそのような意向を示していたのは本件家事事件の第1審においてであり、妻及び二男は、その 抗告審において、突如として本件故人が長男及び二男をオウム真理教の後継者として指名したことにより祭祀を承継している旨を主張し始めたのであって、原告は、妻及び二男に本件故人の遺骨を分骨したり、その意思を尊重して取り計らうつもりはない。 原告は、本件家事事件において本件故人の祭祀承継者として指定され、 本件動産の所有権を取得した者として、法務省との間で本件動産の引取 方法や時期について協議を重ねてきたのであり、信義則に反するような交渉をしていない。当該協議において、原告が譲歩を重ね具体的な提案を求めたことはあっても、被告は何ら提案することなく言を左右にして翻弄する態度を示したのであって、かえって被告の交渉態様こそ信義則に反するというべきである。 ウ被告の指摘する公共への危険性は、いくつもの仮定が重ねられ、しかもそれらは全て原告とは無関係の本団体という第三者の行為が関与してのものであって、極めて抽象的で間接的なものにすぎない。被告の指摘する社会不安についても、曖昧模糊とした実態のない不安であって、原告の私権の制限を正当化し得るものではない。 第3 争点に対する判断 1 認定事実前提事実及び後掲証拠並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認め した実態のない不安であって、原告の私権の制限を正当化し得るものではない。 第3 争点に対する判断 1 認定事実前提事実及び後掲証拠並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ⑴ 当事者間における協議の状況 ア原告は、令和3年4月21日付けで、東京拘置所長に対し、本件家事事件が特別抗告審に係属しているが、原告を祭祀承継者として指定する旨の原審の判断が維持される可能性が極めて高いこと、原告としてはAleph等の本団体等を含め、誰にも知られることなく本件故人の遺骨を引き取りたいと考えていること、今後のことについて責任者と話がした いことなどを記載した文書を送付した(乙35)。 イ本件家事事件は、令和3年7月2日に各特別抗告を棄却する旨の決定がなされたことで確定した(前提事実⑸)。 A弁護士(以下「A弁護士」という。)は、原告を代理して、同月4日付けで、東京拘置所長に対し、原告を本件故人の祭祀承継者と指定する 審判が確定したこと、原告としては一日も早く父である本件故人の遺骨、 遺髪等を引き取りたいと考えているが、他方で、オウム真理教との関連で「麻原彰晃」を崇めるのではなく、家族として密やかに本件故人を悼みたいと強く希望しているため、報道機関等に知られることなく秘密裏に本件動産を引き取る必要があること、そのため本件動産の引取り時期や、秘密裏に引き取るための方法等につき、東京拘置所と交渉を行って いくことなどを記載した通知書を送付した(乙37)。 ウ A弁護士は、令和3年8月3日、東京拘置所に架電し、同職員に対し、同月中には本件動産を引き取りたいと考えていること、進行について協議したいことなどを伝えたところ、同職員から本件家事事件における ウ A弁護士は、令和3年8月3日、東京拘置所に架電し、同職員に対し、同月中には本件動産を引き取りたいと考えていること、進行について協議したいことなどを伝えたところ、同職員から本件家事事件における決定書等の送付を求められ、これを了承した。 東京拘置所は、同月4日、A弁護士から、本件家事事件における決定書等の送付を受け、同月5日、A弁護士に対して、当該受領を報告するとともに、本件動産の引取りに関しては法務省が対応する、後日法務省の担当者から連絡する旨を伝えた。 エ法務省職員は、令和3年8月12日にA弁護士に電話で連絡した上、同 月31日、京都市内の法律事務所において、原告及びA弁護士と面談し、東京拘置所において被告が原告に対し本件動産を引き渡すこととする場合の方法や隘路等を協議した。 オ法務省職員は、令和3年9月6日、A弁護士に架電し、東京拘置所において人目に立たずに本件動産の引渡しをすることが困難であること、例 えば法務省において引渡しを実施することが考えられることを伝え、改めて法務省において協議を行うことを打診し、A弁護士は、同月8日、同打診を了承した。 カ A弁護士は、令和3年9月27日、法務省を訪れた。法務省職員は、A弁護士に対し、本団体の関係者が本件動産を奪取したり執拗な接触を試 みたりするなどの行動に及ぶ懸念や、本件動産が団体の活動の活発化に 繋がることなどについての懸念があること、本件動産を引き渡した後の保管についても、保管関係者の安全確保に加え、近隣住民の不安やトラブルを招かないようにする必要があると考えていること、原告において、①本件動産の引渡し後の保管場所・管理態様についての情報提供、②その後の保管状況についての定期的な情報提供、③本件動産の 不安やトラブルを招かないようにする必要があると考えていること、原告において、①本件動産の引渡し後の保管場所・管理態様についての情報提供、②その後の保管状況についての定期的な情報提供、③本件動産の本団体関係 者への引渡しや聖地化するような祀り方をしないことについての誓約という3点に応じることが可能かどうか検討してほしいことを伝えた。これに対し、A弁護士は、原告と協議して検討して連絡する旨を述べた。 キ A弁護士は、令和3年10月15日、法務省職員に架電し、原告と協議した結果、原告としては、法務省から検討を依頼された前記カの3点の 事項について、一切応じないし、誓約書についても原告が既に本件家事事件において提出した陳述書のほかに作成する必要はないと考えている旨を伝えた。 ク法務省職員は、令和3年10月22日、京都市内の法律事務所において、原告及びA弁護士と面談し、改めて前記カの3点の事項について説明し て検討を依頼したが、原告は、いずれの点についても検討も譲歩もしない旨を明言し、A弁護士は、前記カの3点の事項について内容をより具体化し、情報を提供すべき範囲等を明確化したものを書面で示すように求めた。 ケ法務省は、令和3年11月29日、A弁護士に対し、本件動産について は、引渡しや今後の管理、祭祀の方法その他本件動産にかかる対応につき、祭祀承継者やその他関係者の安全が確保されること、観察処分を受けている団体がその危険性を増大させるなどの懸念されるような影響を及ぼさないこと、地域住民との間で懸念される事態を引き起こさないこと、その他犯罪を誘発しないことが確認でき、将来的にもそれが維持さ れるようにすることが求められる旨の書面(乙38)をメールに添付し て送付した(乙38、弁 る事態を引き起こさないこと、その他犯罪を誘発しないことが確認でき、将来的にもそれが維持さ れるようにすることが求められる旨の書面(乙38)をメールに添付し て送付した(乙38、弁論の全趣旨)。 コ法務省職員は、令和3年12月2日、A弁護士からの電話での問合せに対し、上記ケの書面の趣旨について、従前の面談等において、法務省として有している懸念を払しょくするための方策として前記カの3点の事項を例示したものの、原告がこれに一切応じないとの意向を示している 状況下で、一定の前提を仮定して前記カの3点の事項の内容をより具体化するのは困難であること、そのため従前から説明してきた法務省が有している懸念を改めて書面で示した上で、提示した方策以外にこのような懸念を払拭できる対応が可能か、原告において提案してほしい旨依頼したものであることを説明した。 法務省は、同月28日、A弁護士に対し、上記クの書面の趣旨を説明するとともに、様々な懸念への対応について、A弁護士が考えている方策の提案を受けた上で協議をしたい旨記載した書面を送付した(乙39)。 サ A弁護士は、令和4年1月20日付けで、法務省に対し、法務省の求める上記カの3点の事項に代えて、①本件家事事件において最高裁判所に 提出した上申書の写しを同封すること、②当初の保管場所については、ダミーを含む複数の場所を被告に開示すること、③その後の保管状況については開示できないこと、④これらの条件に法務省が納得できないのであれば具体的な対案を同年2月4日までに示すべきことを記載した書面を送付し、併せて本団体に本件故人の遺骨を渡すつもりはない旨の記 載を含む、原告の署名押印のある最高裁判所宛て上申書の写しを同封した(乙40)。 シ法 でに示すべきことを記載した書面を送付し、併せて本団体に本件故人の遺骨を渡すつもりはない旨の記 載を含む、原告の署名押印のある最高裁判所宛て上申書の写しを同封した(乙40)。 シ法務省は、令和4年2月4日付けで、A弁護士に対し、今度どのような方策により対応できるのか協議をする必要があると認識していることを記載した書面を送付した(乙41)。 ⑵ 本件保全事件における当事者間の協議の状況 ア本件保全事件を担当する裁判所は、令和4年4月12日の第1回審尋期日において、原告に対し、従前に法務省がその懸念に対処する方策の例示として示していた前記⑴カの3点の事項について検討して報告するように求め、被告に対し、原告からの当該報告を踏まえて対応を検討するように求めた(弁論の全趣旨)。 イ原告は、令和4年4月22日付けで、本件動産を引き渡すに当たり、被告の懸念を払しょくするための具体的条件が提示されれば検討する用意があるから、被告において具体的条件を提示されたいとの報告書を提出した(乙43)。 ウこれに対し、被告は、令和4年5月11日付けで、上記イの報告書では、 本件動産を引き渡した場合の、公共の安全や社会秩序の維持という公益の観点からの計り知れない不利益が生じるおそれに適切に対処される見込みが全く明らかではない、本件動産については関係者の安全の確保や様々な懸念に対する対応が必要なものであることから、本件保全事件を担当する裁判所においてもそのことを理解した上で事件を進行してほし いとの上申書を提出した(乙44)。 エ原告は、令和4年5月30日付けで、本件動産の引渡しを受けた後、相当期間は原告の自宅で保管する予定であること、警備会社との契約を検討していること いとの上申書を提出した(乙44)。 エ原告は、令和4年5月30日付けで、本件動産の引渡しを受けた後、相当期間は原告の自宅で保管する予定であること、警備会社との契約を検討していること、さらに被告から情報提供等に関する具体的要望が提示されるのであれば原告として検討する用意があること、そこで被告から 具体的要望を提示してほしいことを記載した報告書及び原告の陳述書を提出した(乙45、46)。 オ本件保全事件を担当する裁判所は、令和4年5月31日の第2回審尋期日において、原告に対して再検討を求めた(弁論の全趣旨)。 カ原告は、令和4年6月14日、これまでに被告は原告から具体的な条件 を出さなければ引渡しの可否を検討できないとし、了解できる条件を提 示することもしないといった態度であることからすれば、仮に原告が条件を提示したとしても、今後も被告はより具体化するように求め、本件動産の引渡しを拒否し続けると考えられるため、被告から具体的条件の提示があればなお検討するが、それ以上に原告から条件提示することはない旨の主張書面を提出した(乙47、弁論の全趣旨)。 キ令和4年6月23日の本件保全事件の第3回審尋期日において、被告は、原告の前記主張書面の内容からすると和解協議を継続することは難しいと考えている旨を述べ、本件保全事件を担当する裁判所は、本件保全事件の審理を終結した(弁論の全趣旨)。 2 検討 ⑴ 本件家事事件により、本件動産の所有権が原告に帰属したのは前提事実⑸のとおりである。 他方、被告が本件動産を保管しているのは、本件故人を死刑確定者として東京拘置所に拘置し、前提事実⑷のとおり、同所において本件故人に対する死刑を執行し、同拘置所の長が主体となり同人の遺体 りである。 他方、被告が本件動産を保管しているのは、本件故人を死刑確定者として東京拘置所に拘置し、前提事実⑷のとおり、同所において本件故人に対する死刑を執行し、同拘置所の長が主体となり同人の遺体の火葬を行ったためそ の焼骨等の遺留物である本件動産を占有するに至ったものである。 ここで、刑事施設の長が刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則(以下「刑事収容施設規則」という。)94条2項に基づき被収容者の焼骨の管理を行うものとされるのは、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)177条1項に基づく被収容者の死体 の火葬を行った場合、すなわち被収容者が死亡した場合において、その死体の火葬を行う者がないときに限られる。そうすると、同規則94条2項は、被収容者の焼骨を引き取る者がいない場合又は引き取られるまでの間、その焼骨を管理する者を定める必要があるから、刑事施設の長にその管理をさせることとした趣旨の規定であると解される。この趣旨からすれば、当該焼骨 を保管する刑事施設の長は、民法897条により被収容者の遺骨、遺髪等の 祭祀承継物の所有権を取得した者から当該焼骨の引渡請求を受けた場合には、これを引き渡さなければならず、引き続き占有管理する権原はないと解するのが相当である。 被告は、前記第2の2⑴において主張する事情から、原告の本件動産の引渡請求を拒んでいる。しかし、刑事収容施設法、刑事収容施設規則等の関係 法令を通覧しても、刑事施設の長がその保管する被収容者の焼骨について、これを所有する権利がある者からの返還を拒むことができるとする根拠規定は見当たらない。また、同規則94条2項の趣旨に照らしても、前記説示のとおり、刑事施設の長が被収容者の焼骨を保管する目 について、これを所有する権利がある者からの返還を拒むことができるとする根拠規定は見当たらない。また、同規則94条2項の趣旨に照らしても、前記説示のとおり、刑事施設の長が被収容者の焼骨を保管する目的が、公共の安全や社会秩序の維持、社会の混乱や不安の防止といった公益にあるとは解されない から、正当な所有権者から被収容者の焼骨等の遺留物の返還請求があるにもかかわらず刑事施設の長が被告指摘のような諸事情を主張してその保管を継続することは、同法又は同規則上は想定されていないと解される。 もっとも、被告は、前記第2の2⑴において主張する事情から原告の本訴請求が権利の濫用に当たる旨を主張しているので、後記のとおり検討するが、 先に説示したとおり、被告は、本件動産に対する特段の権利を有する者ではなく、刑法、刑事訴訟法及び刑事収容施設法に基づき、本件故人を死刑執行に至るまで拘置した上で本件故人に対する死刑を執行し、刑事収容施設法及び刑事収容施設規則に基づき、本件故人の死体を火葬したことにより、その焼骨を保管することとされたにすぎないから、この点を念頭に置いて慎重に 検討する必要がある。すなわち、結局のところ、被告は、行政主体としての立場から、前記第2の2⑴のとおり公共の安全や社会秩序の維持、社会の混乱や不安の防止といった公益を掲げ、同法、同規則等の関係法令に根拠規定を欠くにもかかわらず所有権者からの返還請求を拒んでいるのであり、これを安易に認めれば、実質的には法律によらず私人の財産権を制約することに 等しく、法律による行政の原理を脅かすことにも繋がりかねない。 ⑵ 以上を踏まえて被告の主張を検討する。 ア被告は、前記第2の2⑴イのとおり、原告に対する本件動産の引渡しによって公共の安全に対する 原理を脅かすことにも繋がりかねない。 ⑵ 以上を踏まえて被告の主張を検討する。 ア被告は、前記第2の2⑴イのとおり、原告に対する本件動産の引渡しによって公共の安全に対する危険が生じる旨を主張する。 (ア) しかしながら、そもそも遺骨や遺髪自体は法禁物ではなく、また遺骨や遺髪自体に何らかの物理的危険が存するわけでもない。被告の主張す るところは、要するに、本団体ないしその信者が本件動産又はその存在を利用する可能性が生じることで重大犯罪の危険が高まる、本件動産が信者間の抗争の原因となり得るというものであるが(前記第2の2⑴イ(ア))、後記説示のとおり、本件記録上、原告が、現在、本団体と関係を有していることを裏付ける的確な証拠も、原告自身に本件動産を悪用 する意図があることを裏付ける的確な証拠もないにもかかわらず、本件動産が被告の管理下から離れて社会に出ることによって、他者が本件動産を利用する可能性が生じるからといって、祭祀承継者である原告に本件動産を引き渡すこと自体を制限することが直ちに正当化できるとは解されない。 (イ) この点を措いても、原告に引き渡された本件動産が本団体ないしその信者の下に渡る可能性があるという主張(前記第2の2⑴イ(イ))も、次のとおり、本件全証拠によっても、抽象的な可能性を指摘するにすぎないといわざるを得ない。 a 被告は、原告が直接に本団体に本件動産を渡し、あるいは利用させ る可能性がある旨を主張する。 しかしながら、原告は、本件家事事件の第1審において提出した令和2年7月29日付け陳述書において本件故人の遺骨を本団体関係者を含め悪用されたくないと強く願っている旨の記載をし(乙167〔15頁〕)、本件家事事件の特別 、本件家事事件の第1審において提出した令和2年7月29日付け陳述書において本件故人の遺骨を本団体関係者を含め悪用されたくないと強く願っている旨の記載をし(乙167〔15頁〕)、本件家事事件の特別抗告審において提出した令和3年 5月30日付け上申書において本団体が嫌いであり本団体に遺骨を渡 すつもりも利用させるつもりもない旨の記載をし(乙40〔添付の上申書4、5頁〕)、東京拘置所ないし法務省との交渉において、本団体等に知られることなく本件動産を引き取り、本団体の教祖として崇めるのではなく、家族として密やかに本件故人を悼みたいと強く希望している旨を示しており(認定事実⑴ア、イ)、本件保全事件におい て提出した令和4年5月30日付け陳述書において本件動産を本団体に宗教的・政治的に利用されることを許すつもりはない旨の記載をし(乙46)、本件全証拠によっても、これらの記載ないし発言の信用性を疑わせる事情は見当たらず、そうすると原告が本件動産の引渡しを受けた後にこれを本団体に渡し、あるいは利用させる可能性は抽象 的なものといわざるを得ない。この点、被告は、原告がかつてオウム真理教の教祖の子として生まれ、本件故人からオウム真理教の宗教名を与えられたこと、原告が地下鉄サリン事件の当時にオウム真理教の信者であった者が所有するマンションに居住していることを指摘するが、仮にそのような事情があったとしても、原告と本団体が現在も関 係を有していることや、原告が本団体に本件動産を渡す意図を有していることを推認させるものとはいえない。 なお、被告は、本団体が原告から強引に本件動産を収奪する危険性も指摘するが、本件記録上、本団体の構成員がそのような犯罪行為を企図していることを具体的にうかがわせる証拠も、原告の住所 なお、被告は、本団体が原告から強引に本件動産を収奪する危険性も指摘するが、本件記録上、本団体の構成員がそのような犯罪行為を企図していることを具体的にうかがわせる証拠も、原告の住所を既に 把握するなどしてそのような犯罪行為を具体的に実行することが可能であることをうかがわせる証拠もない。仮に、本団体の構成員が原告から本件動産を収奪する具体的な危険があるのであれば、その実行を防止するのが本来であって、本件不動産が収奪される抽象的な危険をもって所有権者である原告の権利行使を制限することを直ちに正当化 し得るとは解されない。 b 被告は、原告が本団体と関係を有する親族に本件動産を分骨することなどを通じて、本団体に本件動産を渡し、あるいは利用させる可能性がある旨を主張する。 ① 妻や二男を通じて本団体に利用される可能性について証拠(甲1~3)によれば、妻及び二男は、本件家事事件の第1 審では妻が本件故人の祭祀を主宰すべき者として適格である旨を主張して原告、三女及び長男の主張と対立し、東京家庭裁判所が原告を本件故人の祭祀承継物の取得者と定めると、妻及び二男は同審判を不服として抗告し、抗告審において、本件故人が平成8年に長男及び二男をオウム真理教の2代目教祖と指名したことにより同人ら が本件故人の祭祀を承継しているなどと主張し、同抗告が棄却されると、同決定を不服として許可抗告申立て及び特別抗告をしたことが認められる。このように、妻及び二男は、本件動産の帰属を巡って原告と対立状態にあり、本件家事事件の審理においてオウム真理教と関連付けた主張も繰り広げていたのであり、前記認定のとおり 原告が本団体を嫌い、本件動産を本団体関係者に悪用されたくないと強 て原告と対立状態にあり、本件家事事件の審理においてオウム真理教と関連付けた主張も繰り広げていたのであり、前記認定のとおり 原告が本団体を嫌い、本件動産を本団体関係者に悪用されたくないと強く願っていること、原告は本訴の準備書面において、妻及び二男は真に家族として本件故人を密やかに悼む家族とはいえないから、同人らに本件動産を分骨するつもりはなく、その意思を尊重して取り計らう意向もない旨明確に主張していること(原告準備書面3 〔5頁〕)も踏まえると、妻及び二男が原告の親族であるからといって、原告が妻や二男に本件動産を分骨する具体的な危険性があるとは認められない。なお、本件記録上、妻や二男が、原告から手に入れた本件動産を本団体の構成員に譲渡する意向があることを裏付ける的確な証拠もない。 これに対し、被告は、原告が、本件故人の死刑執行前後を通じて、 本件故人の親族とともに、本件故人の遺体を妻に引き渡すように求めるなど、本件故人の遺体の引受けについて妻などの親族と協力・協調関係にあったことを指摘する。しかしながら、本件故人に対する死刑が執行されたのは平成30年7月6日であり(前提事実⑷)、原告が妻などの親族と協力・協調関係にあったというのも、被告指 摘の証拠(乙23、24、27~29、31)によれば本件家事事件より以前の平成24年から平成30年までの出来事を指しているにすぎず、上記の事情は、現時点において原告と妻及び二男が協力・協調関係にあること、あるいは現時点において原告が妻や二男に本件動産を分骨する意図を有していることを推認させるものでは ない。 また、被告は、原告が本件家事事件の第1審において提出した令和2年7月29日付け陳述書(乙167)に「わたしは、家族全員で父を悼み 分骨する意図を有していることを推認させるものでは ない。 また、被告は、原告が本件家事事件の第1審において提出した令和2年7月29日付け陳述書(乙167)に「わたしは、家族全員で父を悼みたいと考えています。それが家族を愛した父の願いだと感じているからです。それぞれの悼み方が違う場合、わたしは祭祀 承継者として、例えば公平に分骨など、〔裁判所注:中略〕全員が家族として悼み弔う権利を持てるようにしたいと考えています。」と記載されていることを指摘し、原告が妻及び二男に対する分骨の意思を明確に示していると主張する。しかしながら、同陳述書は令和2年当時に作成されたものであって、同陳述書における考えが必 ずしも現時点におけるそれと同一であるとは認められない上、前記認定説示のとおり、原告は本件家事事件の第1審において同陳述書を提出したが、妻及び二男はその抗告審においてオウム真理教と関連付けた主張を繰り広げるようになったという経緯(甲1、2、弁論の全趣旨)に照らせば、原告の意向が前記第2の2⑵イの原告の 主張のとおり変化したことも十分考えられる。したがって、被告の 指摘する事情は、原告が妻や二男に本件動産を分骨する現実的可能性があることを推認するに足りない。 ② 三女や長男を通じて本団体に利用される可能性についてまず、被告は、三女及び長男について、同人らがオウム真理教の教祖の子として生まれ、本件故人からオウム真理教の宗教名を与え られたこと、かつて本件故人が三女及び長男をオウム真理教内の特別な地位につけたこと、平成8年に本件故人が長男を二男とともに本件故人に代わる本団体の教祖に据えるよう指示したという事情を指摘する。しかし、これらの事情は、相当程度過去の出来事であり、いず 内の特別な地位につけたこと、平成8年に本件故人が長男を二男とともに本件故人に代わる本団体の教祖に据えるよう指示したという事情を指摘する。しかし、これらの事情は、相当程度過去の出来事であり、いずれも三女及び長男の意思に基づく出来事ではないと考えられる のであって、三女及び長男が現時点でも本団体と関係を有していること、あるいは三女及び長男が本団体に本件動産を渡す意図を有していることを推認させるものではない。 また、被告は、三女が、少なくとも平成12年から平成26年までの間、Alephに指示を出し強い影響力を行使していた旨を指 摘するが、本件口頭弁論終結時において少なくとも10年近く前の出来事であって、三女が現時点においても本団体と関係を有していること、あるいは三女が本団体に本件動産を渡す意図を有していることを推認させるものではない。 さらに、被告は、三女が、その著書(乙142)において、オウ ム真理教の教義やその中心となる本件故人への帰依について、それを否定せず、その危険性への危惧を示すわけでもなく、むしろ理解を示す立場であることを表していることを指摘するが、仮にその著作中に被告の指摘するような記載内容が認められるとしても、上記著書の作成当時(平成27年3月)の三女の考えを示すにすぎず、 三女と本団体が現時点において関係を有していること、あるいは三 女が本団体に本件動産を渡す意図を有していることを推認させるものではない。かえって、証拠(乙21、22)及び弁論の全趣旨によれば、三女は、平成26年にAlephに対する損害賠償請求訴訟を提起し、平成30年に請求棄却判決が言い渡されると、同判決を不服として控訴した事実が認められ、三女は平成26年以降Al ephと対立していることも指摘できる。 以 hに対する損害賠償請求訴訟を提起し、平成30年に請求棄却判決が言い渡されると、同判決を不服として控訴した事実が認められ、三女は平成26年以降Al ephと対立していることも指摘できる。 以上によれば、仮に被告の指摘する事情が存在するとしても、三女及び長男が現時点において本団体と関係を有していること、あるいは本団体に本件動産を渡す意図を有していることを認めるに足りないから、被告の主張する原告が三女や長男といった本団体と関係 を有する親族に本件動産を分骨することなどを通じて、本団体に本件動産を渡し、あるいは利用させる可能性も抽象的なものにとどまるといわざるを得ない。 c 加えて、被告は、原告が、本件動産の特殊性に起因する配慮の必要性に理解を示すことがなかった旨指摘する。この点、本件動産が原告 に引き渡されたとして、これを本団体に渡し、あるいは利用させる可能性は抽象的なものといわざるを得ないことは前記(イ)a認定説示のとおりであるところ、被告のいう原告の無理解に起因して、どのような危険が具体的に生じるのかについては判然としない。そもそも、前記⑴に説示したとおり、本件動産の所有者である原告が本件動産の返 還を求めたとすれば、被告が関係法令上それを拒むことができるとする根拠規定は見当たらないことに照らせば、本件は、原告が被告に大幅な譲歩ないし配慮を示すことが当然であるというべき事案ではない。 そして、認定事実⑴のとおり、原告は、本団体に知られることなく本件動産を引き取りたい、オウム真理教との関連で本件故人を崇めるの ではなく、家族として密やかに本件故人を悼みたいと希望し、東京拘 置所の職員に対し、本件動産の引取りの時期や方法等につき交渉や協議を行いたいと申し入れ、法務省職員とも協議を行い、 ではなく、家族として密やかに本件故人を悼みたいと希望し、東京拘 置所の職員に対し、本件動産の引取りの時期や方法等につき交渉や協議を行いたいと申し入れ、法務省職員とも協議を行い、その過程で被告側の提案を考慮し一定の譲歩を提案している(認定事実⑴サ)。また、認定事実⑵のとおり、原告は、本件保全事件においても、裁判所から被告が懸念を示していた事項について検討するように求められ、 被告が本件動産についての懸念を払しょくするための具体的な条件を提示すれば検討する用意がある旨の回答をしていること(認定事実⑵イ)、被告がこれを困難として原告が検討している方策の説明を受けてから協議したいとしたのに対し、限定的ではあるものの、本件動産が引き渡された後の保管方法の検討状況について報告をしていること (同⑵エ)に照らせば、被告の懸念に対して、原告が全く無配慮及び無理解であったとは評価することができないし、上記認定のような原告の対応から、原告が直接又はその親族に分骨することなどを通じて、本団体に本件動産を渡し、あるいは利用させる具体的な危険があること、あるいは原告にそのような意図があることを推認することもでき ない。 d 以上によれば、被告の指摘する諸事情を考慮しても、原告が、直接又はその親族に分骨することなどを通じて、本団体に本件動産を渡し、あるいは利用させる可能性は、証拠による裏付けを伴わない、抽象的な可能性の域を出ないというべきである。 イ被告は、前記第2の2⑴ウのとおり、本件動産が原告に引き渡されることで、本団体の拠点施設の所在地域の住民らなど社会における不安が生じる旨を主張する。この点、被告らの主張するような社会における不安が生じる可能性は否定できないが、上記アで認定説示したとお 渡されることで、本団体の拠点施設の所在地域の住民らなど社会における不安が生じる旨を主張する。この点、被告らの主張するような社会における不安が生じる可能性は否定できないが、上記アで認定説示したとおり、本団体に本件動産が渡る可能性が抽象的なものにとどまる以上、本件動産の 所有権者である原告の権利行使を制約してまで社会における不安の防止 を重視すべきとはいい難い。その他に前記第2の2⑴ウで被告が指摘する事情も、同様に、いずれも所有権者である原告の権利行使を制限することを直ちに正当化し得るものとは解されない。 ウ他方で、証拠(甲6、乙40、167)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、父である本件故人の死を悼む目的で本件動産の引渡しを受けよう としていることが認められ、この認定を覆す事情又は原告がその他にも目的を有していることをうかがわせる事情は、本件全証拠によっても認められない。そして、前記目的は、まさに民法897条が祭祀承継者に祭祀財産の所有権を与える趣旨に沿うものであって、同条の想定する正当な人格的利益であるというべきである。 被告は、原告が本件動産の引渡しを受けずとも本件故人の供養を行い悼むことは可能であるなどと主張するが、仮にそうであろうとも、原告が本件故人の死を悼むために本件動産の引渡しを受けることの正当性を否定するものではない。 したがって、原告による本件動産の引渡請求は、通常想定される権利行 使であって、社会観念上正当とされる範囲を逸脱して権利を行使するものとは認められない。 エ以上のとおり、原告が本件動産の引渡しによって実現しようとする利益は法の想定する正当な人格的利益であるのに対し、当該引渡しによって生じると被告の指摘する公共の安全や社会秩序を害す ない。 エ以上のとおり、原告が本件動産の引渡しによって実現しようとする利益は法の想定する正当な人格的利益であるのに対し、当該引渡しによって生じると被告の指摘する公共の安全や社会秩序を害する危険は、いずれ も、抽象的な可能性を指摘するにすぎないか、所有権の行使を制限することを正当化する根拠としては不十分であるといわざるを得ない。 確かに、万が一にも本件動産が他者の手に渡るなどして、公共の安全や社会秩序が害される結果になれば、その影響は甚大であるから、被告がこの点を懸念するのも理解できるところではある。そして、そのような 事態に至る可能性が抽象的にすぎないとしても、万が一にも現実化した 際の社会的な影響の大きさを重視して、本件動産の所有権の行使に制約を加えるという政策判断も理解できなくはない。しかしながら、そのような政策判断は、国会において当該政策の内容及び当否並びに憲法適合性を十分に審議した上で、立法により解決がなされるべき事柄であって、民法1条3項といった一般条項にその解決を求めるべきものではない。 とりわけ、本件では、本件故人に対する死刑判決の言渡しより既に約20年近くが経過し(前提事実⑵)、本件故人に対する死刑執行より既に5年以上が経過していること(前提事実⑷)からしても、前記のような政策の審議検討をする時間がないために応急的に民法1条3項を適用しなければならないという状況にはない。当裁判所としては、原告の本件 動産の引渡請求権の行使によって現実的、具体的な危険が生じるとまで立証されていない本件において、前記のように法令上の根拠を欠くにもかかわらず、権利濫用法理を安易に適用して私権の行使を制限することには、同法理の濫用となる危険があると考えざるを得ないのである。 オ ていない本件において、前記のように法令上の根拠を欠くにもかかわらず、権利濫用法理を安易に適用して私権の行使を制限することには、同法理の濫用となる危険があると考えざるを得ないのである。オしたがって、被告の主張は採用できない。 主文 以上によれば、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。 理由 東京地方裁判所民事第5部 裁判長裁判官小池あゆみ 裁判官松原経正及び同溝口翔太は、転補のため、署名押印することができない。 裁判長裁判官小池あゆみ (別紙1)当事者目録省略 (別紙2)物件目録 故松本智津夫(平成30年7月6日東京拘置所において死刑執行により死去)の遺骨及び遺髪 以上

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